62次元 玉兎よ見果てぬ夢と遐想に咲く次元
今晩は!間に合いましたね、やったぜ!
と言う事で早くも更新です。今回は私が夢で見た物語を御裾分けいたします。
一寸珍しいパーティですが、もっと皆の友好関係を広げたいなぁと思う此の頃。
ストーリーは可也シンプルだと思います、其の分空白に意味を見付けられたり・・・?
最初で余り語るのも無粋なのでどうぞ本編へ!
数多の夢が眠る幸福の地
其処から旻を目指す影は誰ぞ
手を伸ばそうが届かぬ鏡よ
其処に写す陰こそ正に
我が夢、遠き日の憧憬だ
・・・・・
幽風丈が歩き去る街中へ幾つかの影が差した。
其は徐々に形を持ち、此の世界へと顕現する。
「ん、着きましたわね!」
ポニーテールが薫風に吹かれ、カレンはそっと手で押さえた。そして街を一瞥して息を付く。
意気揚々と来たのは良いが、周りの景観が御気に召さなかった様だ。
彼女の目に写ったのは正に荒廃とした街と言った体だった。昔人か何か住んでいたであろうが・・・今は俤しか残されていない。
幾つも地から生えて伸びているビル群、罅割れた地瀝青が続いて行く。
電子機器か、機械らしき金属の塊が転がっているが、動く様子はなさそうだ。
見た事が無いから何とも気になるのに。如何やら壊れているらしい、勿体無い許りだ。
「カレン、何か見付けた?」
後ろからZ1-Θが浮かび乍らやって来た。彼女の視線の先にある機械に彼も気付いたみたいだ。
「ア!ロボット、ロボットがあるよ!」
「えぇ、ちょっぴりZ1-Θさんと似てますわね。」
「ダイヤァ、次元着きましたよ、ね?」
「ん・・・わ、わぁ新しい所だ。」
遅れてダイヤ、ベール、リーシャンが背後に現れる。ダイヤの肩に留まったリーシャンは心配そうに彼女に嘴を寄せた。
だが彼女の表情は晴れない。ベールも心配そうに彼女を見遣った。振り返ったカレンも重い空気に息を付く。
今回は結構大神数で次元へ来たのだ。と言うのも先日の事件が原因だったりする。
正直聞いた許りでカレン自身も余り事態を呑み込めていないのだが、何でもダイヤさんと飃さんが、セレさんを襲撃したんだとか。
未だ決闘とかであれば理解出来たのだが、其が暗殺だったと聞いて心底驚いたのだ。
店に来て日の浅い彼女だが、彼の店の居心地の良さに大分慣れて来た。
皆仲も良いし、神の集まりにしては随分と活気があると思っていたのに、まさかそんな恐ろしい事が起こっていたなんて。
何日かセレさんとガルダさんが店を空けていたが、先日戻って来て皆に話して聞かせてくれたのだ。
最初は黙って置くつもりだったみたいだけれども、流石に然うと言ってられなくなったのだ。明らかにダイヤさんの様子がおかしいし、何処か店の空気が悪かったから。
でもセレさんは別に彼女を除名だとかはしないらしい。
其は心が広いと言うか何と言うか、良くある事と聞いた時は猶の事驚いたけれども。
でも其なら彼の勁さも納得は出来る様で、天晴とコチは言いたい。
己の中に敵を飼うとは。黔日夢の次元を起こした丈はあると言う所か。
そんなこんなで戻って来たセレさん自身は迚もあっけらかんとしていた。下手したら此処へ戻って来られなかった可能性も勿論あったのにまるで他神事だ。
只反対にダイヤさんは酷く落ち込んだ儘だった。どうもセレさんを襲った事を後悔しているのだとか。
込み入った事情迄は聞かなかったけれども、どうも私怨の類とは又違ったみたいだ。
其処でセレさん本神から御願いされたのだ。ダイヤさんを連れ出して欲しいと。
要は気晴らしだ。仕事が気晴らしと言うのも彼だが。
彼は終わった事なのだからもう気負って欲しくないと頼まれたのだ。
だったら行かない訳には行かない。正直ダイヤさんとは余り話した事なかったけれども。
良い機会だ、色々と話したり交流してみたいと思う。
然う話していると今連れている様に他の皆さんも付いて行きたいと言って此のパーティが完成したのだ。
でも着いた次元はこんなにも荒廃としていて、一寸物足りなく思ってしまう。
まぁ先ずは歩いてみないと、何か発見出来る物があるかも知れないし。
「ウーン・・・皆壊れちゃってるね。御話ししたかったなぁ。」
「然うですわね。でも若しかしたら別の所に居るかも知れませんわ。行ってみましょう!」
「・・・元気ね、見ていて暑苦しいわ。」
気付けばジト目でダイヤさんに見詰められていた。
一応セレさんが無事帰って来た事で少し丈気を持ち直した様だけれども。
其でも矢張り明らかに元気が無い。
声に覇気が無いと言うか、仕事には来てくれたけれども。
其に伴ってかベールさんも少し元気が無い。と言っても彼のは少し分かり難いけれども。
何でもダイヤさんに折檻されないと調子が狂うとか・・・んん、矢っ張り良く分からない・・・。
抑何時もそんな事されていたの、と驚きなのだが、屹度コチの知らない世界なのだろう。
「折角の次元なので元気出しましょうよダイヤさん!コチ、一緒に行くの初めてだから楽しみなんですよ!」
「然う、随分物好きね。私と行きたいだなんて。」
「もぅダイヤァ、私だって楽しいですよぅ。捻くれちゃ駄目ですぅ。」
リーシャンはずっと彼女に付きっ切りだ。
途中からとは言え、事の現場を見た彼としては何とかダイヤに元に戻って欲しいのだ。
ボスも不問にすると言ってくれた。此迄通りの日々を望んでくれたのだ。其の好意に甘えたい。
ダイヤがボスを襲ったと知った時は信じられなかったけれども、理由を知って理解は出来たのだから。
彼女は・・・ベールの為に動いていたんだと。
彼女らしい理由で、ある意味不謹慎だが安心したのだ。
ダイヤは我儘な所があるけれども、其の分しっかり筋を通そうとする我が強い所がある。
自分の所為で誰かが被害を被るのを嫌うんだ。屹度端から見たら意外に見えるだろうけれど、ずっと一緒に居た自分は知っている。
怪我をして彼の神殿へ落ちた自分をずっと看病してくれた彼女を。
翼が治ったら何度も神殿から追い出そうとした彼女の優しさを。
そしてベールの事も、彼の時有耶無耶になってしまったけれども彼女は見捨てていなかった事を。
当たりは強いけれども、でも何時もダイヤは彼の事を気に掛けていて、黔日夢の次元の時、自分一人丈を犠牲にしようとした彼女を庇って彼が呪いを受けた事を、ずっと憶えていたのだ。
其を解く為にボスの首が必要と言われて酷く彼女は悩んだ事だろう。
・・・今なら何となく予兆は分かる。然う、落龍の詠の時だ。
彼の時彼女は一柱で何処かの次元へ行っていたけれども、其処で例の精霊に会ったのだ。
そして取引を持ち掛けられたんだ。彼の呪いを解く為にボスを殺せと。
彼女は一応、彼の後話してくれたから。せめて彼の場に居た自分達には話さないといけないと。
抑呪いを掛けたのはボスだ。だから此は因果応報、自業自得だと然う無理矢理理由を付けて彼女はボスと対峙した。
其でベールの呪いが本当に解けたら・・・良かったんだけど。
結果は二柱共呪われた儘だ。と言うのも其の精霊では解く事が出来なかったのだ。
けれども糸口は見付かった。元より二柱の呪いは互いの干渉力に因る物が強いのだと言う。
此には自分も驚いた。でも確かに神の力でもある干渉力がより力を高めると言う例は多々ある。
実際自分もダイヤと過ごしていて彼女の呪いが勁まって行くのを実感していた。彼女が恨めば恨む程冷気は刺す様に鋭くなった。
でも其がベールの方へも向いていたなんて。
ベールも同じ様にダイヤを懐っていたのだ。だから彼も真直ぐダイヤの所へ来た。
互いにずっと懐っていたから、呪いが結び付いて消えずに残り続けたのだ。
其の事実が、一番ダイヤを傷付けてしまった事だろう。
はっきりと自分の所為だって分かったから。自分が彼を呪ったのだから。
呪いがあったから今迄消えずに存在出来たんだって言われても。
・・・納得は出来ないだろう。自分は何をやっていたんだろうと頭を抱えてしまったのだ。
其もあって今彼女はボスとも、ベールとも距離を取ってしまっている。何だか見ていて居た堪れなかった。
「ダ、ダイヤ大丈夫?皆向こうへ行ってるよ?」
「煩い、貴方なんかに言われなくても分かってるわ。」
ふいと外方を向いてダイヤはカレン達の方へと行ってしまう。
何時もと同じ様な塩対応に見えるのだが・・・何処か顔を伏せた様子でベールも彼女の後に続くのだった。
「・・・ア!動いてるの居たよ!」
少し先を浮遊していたZ1-Θが急にスピードを上げる。
「え、あ、ちょっZ1-Θさん!」
無闇に然う駆け出すのは危ない。慌ててカレンも後に続く。
如何して街がこんな風に空っぽなのか、其の理由も何も分からないのに。
「ちょっ、何よ急に。待ちなさい!」
渋々と言った体でダイヤが足を早める。
確かに視線の先には一つの動きがあった。
其はロボットの様で、一部錆びてはいるが動いている様だ。
形状としては近くに転がっていた金属塊と似ていて縦長の台形をしていたが、地に接している方が広く大きい。
其処からボールが六つ付いており、其が回転する事で移動している様だ。
大きさは丁度Z1-Θと同じ位で、四方へ色んな曦を放っている。
ロボ相手だと敵意だとかの感情は読めない。慎重にカレンは様子を見る事にした。
何をしているのだろうか、何やら触角の様な物を伸ばして辺りの物に触れて回っている様だが。
「今日は!初めまして!」
近付くなりZ1-Θは無邪気にロボットに話し掛ける。
すると声は届いた様で、其のロボットはZ1-Θへと向き直った。そして触角の先を鮮やかに光らせる。
「ハ、初めまして、ヨウコソ、ソノハの街へ!」
然う合成音声が流れてロボは軽快なメロディを流し始めた。
「此は・・・歓迎してくれているみたいですわね。」
一つ息を付いてカレンも近付いてみる。見た所武器らしき物も無いし、安全だろうか。
「凄い喋ったよ!ネ、僕はZ1-Θって言うの、君は誰?」
「今日はZ1-Θ、私はコルコル、此の街の清掃等を行っています。何なりと御申付けを。」
「コルコル、宜しくね!」
二つのロボットが曦を放ち乍ら会話をしていると何処か和む気がする。
ついカレンが目を細めているとずかずかとダイヤが割って入った。
「清掃ロボなの。其の割には汚い街ね。」
「ちょっダイヤ!そんな事言っちゃ駄目ですよぅ!」
確かに景観は良くないが、此のコルコルと言うロボの出来る範囲を超えているだろう。
汚いと言うよりは然う、整備されていないのだ。
正に捨てられた街と言う可きか。文明が全く違うがダイヤの居た次元も風化だとかで街は荒れ果ててしまっていた。
住む人が居なければ如何しても然うなってしまうのだろう。
今の街から活気なんて感じられない。抑人気もないのだ。壊れたであろうロボットも散見したし、捨てられて随分経った様に思う。
「済みません。私は小型清掃を基準に設計されているので、大型芥は他の仲間の手伝いが必要なのです。」
「他にも仲間が居るの?」
「今稼働しているのは六機のみ。只大型の殆どは耐久性に問題があり、現在は動いていません。」
「あ、あの人間の方は・・・居るんです?」
恐る恐ると言った体でベールがコルコルに近付いてみる。
此の街では何かが起こっている。其の情報を一つでも欲しい。
「人間、私が最後に見た記録は二百六十四年前の十三月六日、午前三時四十二分。老衰に因って亡くなられたレニー・バウロ氏です。」
「に、二百年・・・。」
思わずベールは固まってしまう。
此のロボットは清掃用なのだから街の色々な所へ行っているだろうし、然う考えると、
余り希望を持てそうもない。良くない答え許り出て来る、時の流れは残酷だ。
「じゃあ君は二百年以上掃除してるんだ、凄い!」
喜んでいるのはZ1-Θ位である。くるりと一回転して上部を輝かせた。
「因みに行ってない丈で人間の居る所を知ってるとか・・・ないですか?」
此のエリアに居ない丈かも知れないし、避難所があれば或いは、
一応次元の主導者の気配は此の街の近くからしている。少し先のエリアの様だけど、だったら其処に何かはある筈だ。
「人間の居る所、観光地はありますが、現在の利用者数零。有名店も全て閉店しており、更新がありません。現在街の入居者数は零人です。」
「此の街にはもう誰も居ないんですわね。因みに街の外は分かるんですの?」
少し予想は付いていたが、本当に誰も居ない様だ。一体如何して此の街は滅んだのだろうか。
セレさんの、黔日夢の次元の所為かは未だはっきりしないけれども。
でも街の壊れ具合は風化に因る物が多い気がする。
破壊されたとか、然う行った争いの爪跡が感じられないのだ。
コルコルの見た最後の人間が老衰で亡くなっているし、其処から少し見え方が変わりそうだが。
「街の外、ソノハの街の外は似た状況と思われます。其迄ネットワークが繋がっていましたが、徐々に回線が切られ、孤立状態です。只最後の記録は何の街も耐久年数を経過した事に因る通信不良で途切れてしまっています。回復した通信も一つもありません。」
「ん、ん、難しいですけど、兎に角殆ど人は居ないって事みたいですわね。」
悲しいが仕方ないだろう。未だ斯うして教えてくれる存在が残っていた幸運を喜ぶ可きか。
「ウーン残念だね。皆如何するの?次元の主導者探すの?」
Z1-Θは元々魔力の事もあり、神の干渉力等に因る力は使えない。
機能は徐々に慣れて来たのでテレパシーは使える様になったが、次元の主導者の気配の察知だとかは出来ないのだ。
「住人が居ようが居まいが関係ないわ。さっさと目的地に行けば良いじゃない。」
「まぁ然うですかねぇ。因みに如何ですぅ?次元の主導者は近いんですかぁ?」
「恐らく此の通りを抜けた先じゃないかな。今回は何なんだろう・・・。」
「皆サン、何か御探しですか?」
コルコルが触角を上げ、グラデーションの様に色合いを変えて行く。
其の様が面白かった様でZ1-Θも真似して光ってみた。
「折角だから案内して貰ったら良いかも知れませんわね。」
でも何て聞こう、次元の主導者だなんて伝わらないだろうし。
「案内、出来ますよ。任せてください。ガイドモードも搭載されています。」
心做しコルコルは気合が入っている様で声が大きくなった。
仕事が貰えそうだから喜んでいる風にも見える。
「じゃあ付いて来て貰って其が何かとか教えて貰えば良いじゃない。どうせ暇してるんでしょ。」
「分カリマシタ!付いて行きます!」
「ヤッタ、一緒に行こうねコルコル。」
如何やらZ1-Θは偉くコルコルを気に入ったらしく、彼に並走した。
「・・・付いて来るなら其の音楽煩いから止めて頂戴。後歩き疲れたから乗せなさいよ。」
「の、乗るのは一寸無理じゃないかな。」
コルコルは直ぐに音楽を止めた。けれども矢張りダイヤを乗せて走るのは無理があるのだろう。触角を揺らして考えている風にも見えるが。
「分かりましたよぅダイヤ。私が乗せて行きますぅ。」
人が居ないのなら大丈夫だろう。然う踏んでリーシャンは幻を解いて元の大きさに戻った。
一気に巨大化したのでベールが少し跳び退いてしまう。未だリーシャンのサイズ感に慣れていないのだ。
「え、あ、リーシャンさんそんな大きく成れるんですの?」
此にはカレンも吃驚だ。ついまじまじと見てしまう。
「大きく成ると言うよりぃ、私は元々此の大きさですよぅ。ハリーの幻で小さくして貰ってるんですぅ。」
「凄いですわ!こんな大きいならコチも乗れそうですわね!」
「僕も乗ってみたい!」
「駄目よ。此処は私の特等席なんだから。」
リーシャンが肩を下げるとちょこんとダイヤは其処へ乗った。
そしてほっと彼は胸を撫で下ろす。丁度ハリーから、カレンもZ1-Θも滅茶苦茶重いから乗せて飛ぶのは控えた方が良いと助言を貰っていたのだ。
「残念ですわ・・・。でも又の機会にチャレンジしますわ!」
「お、御手柔らかに御願いしますぅ。」
其の儘ダイヤを肩に乗せ、のしのしとリーシャンは歩き始めた。
只歩く丈ではなく肩が動かない様に足取りは慎重だ。
何が彼女の逆鱗に触れるか分からない。やり過ぎに越した事はないのだ。
彼女が飽いで降りてしまったら次は針鼠か卵を運ばないといけなくなる。其丈は防がないと。
「其じゃあさっさと目的地迄運びなさい。呉々も丁重にね。」
「イエッサァー!」
小さく囀るとリーシャンは先導してくれるカレンの後ろを付いて行った。
端から見たら一寸面白い集団には見えるだろうか。
Z1-Θが未練でもあるのか妙に近くを飛び回っている。コルコルを真似てか鮮やかに光り続けていた。
「ウーン・・・ア、僕も頑張ったら誰か乗せられるかも。ネーネーベール!」
急に方向転換をするとZ1-Θはベールへ急接近した。
「な、何かな・・・?」
「僕の上に乗ってみて!」
「えぇ~。」
困惑はしたものの、チャレンジはしてくれるらしい。ベールはZ1-Θの上の出っ張りを掴んで試しに乗ってみた。
只Z1-Θはふわふわと浮いているので中々乗り難い。御負けに卵型なので安定しないのだ。
「・・・あ、の、乗れ、っひぃ!」
「動き難いよぅ、もっと頭の所持ってよ!」
「頭?頭って何の辺ですか⁉」
案の定と言う可きか何と言うか、中々上手く行かないらしく不安定にZ1-Θは揺れ始め、乗ってしまったベールは落ちない様必死にしがみ付いた。
二柱が無意味に慌てているので一つのパントマイムかショーみたいになって仕舞っている。
「う、あ、ちょっ、お、落ちるっ⁉」
「ダ、大丈夫ですか!危ない!気を付けて!」
コルコルも心配そうにうろうろする許りだ。
「・・・何勝手に不幸巻き起こしてんのよ。」
呆れたと許りに彼女は外方を向いてしまう。だが余りに哀れな光景だったのでそっとリーシャンは翼を傾けてベールへ寄せた。
「あ、あっ・・・ふぅ、助かりましたリーシャンさん!」
ひしと翼にしがみ付き、何とかベールを救助する。
「ベールさんは体幹が無いんですわね。」
「ソーダヨ!もっと鍛えないとね!」
「め、面目ないですぅ・・・。」
果たして此はベールの所為なのだろうかと疑問を持ちつつも、ダイヤからの冷ややかな視線を感じたので急いでリーシャンは彼を下ろした。
「ジャー次カレンね!」
「えぇ、受けて立ちますわ!」
喜び勇んでカレンはZ1-Θへ跳び乗ったが、彼女の余りの重さにZ1-Θが支え切れず、埋没してしまったのは別の話。
・・・・・
「っあ!何か見えて来たよダイヤ!」
「分かってるわよ暑苦しいわね。」
暫く進んだ所でまるで走り回る狗の様にベールが寄って来たが、軽くダイヤに一蹴されてしまう。
抑彼女はリーシャンに乗っているので視点が高いのだ。ずっと前から目当てであろう物は見えている。
「彼は如何やら・・・工場、みたいですわ。」
相変わらず街は荒れ果てており、特に此と言った物は見付からなかった。
だが今一同の前にはより無骨な工場群が立ち並んでいたのだ。
四角の箱の様な黔っぽい建物が続くのみで、他の物を寄せ付けない雰囲気がある。
辺りはフェンスも貼られている様で、街中なのに孤立感が漂っていた。
けれども次元の主導者は此の中から感じる気がする。一体何なのだろうか。
「コルコル、彼は何なの?」
此の道中もずっとZ1-Θはコルコルを質問攻めにしていた。其の度にコルコルは丁寧に答えてくれるのでZ1-Θは彼にべったりだ。
目ぼしい情報だとかは特に無かったが、Z1-Θは何とも満足気だ。心做しコルコルも彼に付いて行っている様に思う。
「彼は、ソラミテクノ工場です!主にロケットを造っている所ですね。」
「ロケット!宇宙に行けるの⁉」
「・・・行くなら一柱で行きなさいよ。」
「うーん、ロケット工場ですかぁ。・・・何だか一寸意外ですねぇ。」
一体此処で何をするんだろう、まさかロケットを掴んで飛べとは言われないと思うけれども。
此の次元と如何向き合う可きかが未だに掴めない。
「も、若しかして此の零星はもう駄目だから別の所へ飛んで行くとか・・・?」
「其は随分大層な話になりましたねぇ。」
何の道自分達で対処出来る気がしないが、さて如何した物か。
「皆サン、工場見学されますか?」
「然うですわね。取り敢えず中には入りたいですわ。」
「承リマシタ!では案内対応機と交代しましょう。暫し御待ちを。」
然う言うとコルトルは通信をする為か触角を上へと伸ばし始めた。
「コルコルは一緒に来ないの?」
「私は其方のエリアへの侵入を制限されています。」
「然うなの・・・もっと一緒に居たかったけど。」
「有難う御座います。私も一緒に居られて楽しかったですよ!」
定型文だと思われたが、何だか然う片付けるには其の言葉には重みがある気がした。
Z1-Θがコルコルを真似て光っていると、突然コルコルは触角を振り上げた。
「ホラ!彼が来ましたよ。此処の事は彼の方が詳しいです!」
確かに工場の方からロボットが此方へやって来ているのが見えた。
其は少し人型に近く、錆が酷いのか耳障りな音が混ざった。
頭を七色に光らせて音楽を奏でるが、其も何処かぎこちない。
「・・・随分ぼろいのが迎えに来たわね。」
「ヨ・・・コソォ、ソラミィテ・・・テノ、・・・こうじょ、へ。」
コルコルと似た合成音声を流してくれるが、其も何処か耳障りだ。ノイズが多くて聞き取り難い。
「此方の皆サンを案内して欲しいのですが。」
「あな・・・っ、ジ、ヨ、ヨウコ、ソ、ヨ、」
其丈呟くとロボットは明滅を繰り返して固まってしまった。
「此は・・・壊れてしまった様ですわね。」
「壊れた?動かないの?」
そっとZ1-Θが突くが反応がない。コルコルもロボに向け触角を伸ばした。
「・・・点検不足に因る動作不良ですね。済ミマセン少々御待ちを。」
其からコルコルは色々と光らせ方を変えたり新たな触角を生やしたりしたが、ロボットは全く動かなかった。
「他の案内対応機に呼び掛けていますが、反応がありません。管理不届きが見受けられます。安全を考慮して見学の見送りを提案しますが。」
「でも、如何しても中に入らないといけないんです。」
「然うね。別に良いわよ。此の儘入った所で怒られないでしょ。」
「分カリマシタ。では私は一時的に情報をダウンロードし、臨時案内対応機になります!」
「そ、そんな事が出来るんですの?」
良くは分からないが凄そうだ。引き続き彼が案内してくれたら助かるけれども。
「御任セクダサイ!直ぐにデータ処理しますね!」
言うや否やコルコルは動かなくなったロボットに向け触角を挿入した。
そしてコルコルから軽快なメロディが流れ出す。明るくランプも光り出した所で彼は直ぐ音楽を切った。
ダイヤの視線に気付いたのだろうか、賢いロボットだ。
「ハイ、臨時案内役を頂きました。改めましてコルコルです。宜しく御願いしますね皆サン!」
「ヤッタァ、宜しくコルコル!」
優秀なロボットが居てくれて良かった。此は探索が捗りそうだ。
「ダイヤァ、中へ入るのでそろそろ降りてくださいぃ。」
入口の方を見ていたが、如何やら今のリーシャンのサイズでは入れない様だ。
困った様に彼は嘴を合わせて音を立てる。
「もう分かったわよ。そんな面倒そうに言わないで頂戴。私を乗せられるなんて光栄な事なんだから。」
「大丈夫デスヨ!今車を手配しました。此方に御乗りください。」
確かに工場の方から一台椅子にタイヤの付いた様な物が走って来ていた。
多少此方も錆びている様だが、何とか動きそうだ。
「あら、気が利くじゃない。少しは見直してあげるわ。」
椅子も座り心地が良さそうなクッション性で、意気揚々と彼女が乗り込むと自動で動き始める。
「凄い!車だね。」
「こんな物も此の次元にあるんですわね。」
次元の迫間でも時々見ていたが、仕組みも何一つ分からない。此処は随分と科学が進んでいる様だ。
ダイヤも満更ではないらしく、何処か機嫌が良い。
「ふぅ、心遣い有難う御座いますぅコルコルさん。」
直ぐ様小さくなったリーシャンはZ1-Θの頭に留まった。
先迄のベールやカレンのやり取りが気になっていた様だ。少し足を滑らせ乍らも何とか留まる事に成功する。
「ハイ!では一緒に参りましょう。」
そっと動かなくなったロボットを端に寄せ、コルコルは一同を先導し始めた。
フェンスを抜け工場に近付いて来ると、何やら音が聞こえて来る。
此の街は何処も静かで、動く物は然うなかった。其の為此の音は異様に耳に残る。
工場、と言ったが確かに今も稼働している様だ。モーター音や金属音が絶えず響いていた。
「・・・動いてるんですね。先みたいに壊れなきゃ良いけど。」
「一寸止めなさいよ。貴方が言ったら洒落にならないわ。」
「爆発したりして。」
「其だとコチ達には如何仕様もなくなってしまいますわ。」
工場爆発なんて笑えない。確かに案内ロボットでさえ壊れていたんだ。ちゃんと稼働しているかは可也怪しいだろう。
中で惨状が起こっていても不思議じゃあない訳だ。一つ息を付いて中へと一同は踏み込んで行く。
「お、御邪魔しまーす・・・。」
扉が自動で動き、正面からソラミテクノ工場へ入って行く。
中は思ったより綺麗だった。建物内だから風化を免れたのだろうか。埃が積もっている位で閑散としている。
只、矢張り人は居ない様だ。最近使われた形跡もない。
受付と思しきカウンターには何も置かれておらず、幾つかの照明も消えてしまっている。
コルコルも先の口振りから入るのは初めてなのだろう。少し辺りを窺う様に見遣っている気配があった。
若しかしたら先貰ったデータか何かと確かめているのかも知れない。辺りの荒れ果て具合に戸惑っている風にも見えた。
一体此処がちゃんと稼働していた時はどんな様子だったのだろうか。思わずカレンは一つ息を付いた。
玻璃みたいに滑らかで淡く光る床、壁に幾つも掛かった真黔な景色丈を写すモニター、其等は何も傷付いている風ではない分、奇妙に写る。
コルコルがこんな音を出したり光ったりするんだ。屹度此処も色々と仕掛けやらがあったろうに、残念だ。
「・・・本当に、人丈居ないんですわね。」
「一体何処に行ったんだろう。襲われたりとかしてなさそうなのに。」
如何やらベールも其処が気になって来たらしく、色々と辺りを見遣っているみたいだ。
そして不図蹴躓いて盛大にフロアを転がってしまう。
「っとに何やってんのよベール。埃塗れじゃない、汚らわしいわ。」
「大丈夫ですか⁉御怪我は無いでしょうか?」
「う、うん大丈夫だよ。その、驚かせちゃって御免ね。」
然う言い立ち上がったベールは埃で真皓になってしまっていた。
余りにも埃っぽくなってしまい、つい咳き込んでしまう。
「先ずは何処からぁ案内してくれるんですぅ?」
「ハイ、此方、ロケットの部品製造所から行きましょう。」
「ロケットの部品、凄そう!」
「・・・ロケットって、若しかして今も飛んでるんですの?」
頓造り続ける事も無いだろうし、一体如何使ってるのだろう。
何の為に飛ばしているのかも気になるけれども。
「ハイ勿論。最後は其方も見学出来ますよ。」
「ロケットは見た事ないな・・・。」
「僕とっても楽しみ!」
今回集った一同は誰も実物を見た事が無かった。
だから其が一体どんな風に打ち上げられるのか、期待と不安で一杯になる。
一同は其の儘コルコルに連れられ、受付から真っ直ぐ伸びる廊下へ差し掛かった。
少し奥へ進んで行くと、幾らか動かなくなったロボットが目に付く。
先入口迄来てくれた彼のロボに似ているが、此方も壊れてしまっている様だ。
ずっとコルコルを間近に見ている分、動かなくなった彼等に何とも言えない感情が沸き起こる。
可哀相と言うか、同情とは少し違って淋しい様な心地。
Z1-Θも水鉄砲を掛けたりとちょっかいを出してはいたが、無駄だと分かると直ぐコルコルの後に付いて行った。
廊下を進んで行くと段々と音が近付いて来た。腹の底に響きそうなモーター音が鳴り響く。
「皆サンどうぞ此方を御覧ください。」
然う言ってコルコルは一つの窓を指差した。
「ン・・・ワァ!一杯居るよ!」
「す、凄い。此が工場なんだ。」
つい窓にべったり張り付いてベールは感嘆の声を漏らした。
Z1-Θも良く見ようと何時もより高目に浮遊している。
其処からの景色は正に工場の全貌が見て取れたのだ。
何処からかレーンに乗せられて運ばれて来る部品。其をプレス機で変形させたり、選別されているのかレーンが分かれたりする。
其処へコルコルの様な触角が伸びて手を加えている様だった。
螺旋が付けられたりと、運ばれ乍ら少しずつ形が変わって行く。
他にも他にも見ている丈では具体的には分からないが、何やら光る石を取り付けたり、レーザーに晒されたりと、正に分からないけれども兎に角凄いと言った感想が漏れる光景が繰り広げられていたのだ。
工場見学なんて味気ない物かと思ったが、此は中々楽しめ然うだ。
一同はすっかり其方に目を奪われ、只々レーンの行方を追って行っていた。
「ア!コルコルとそっくりなのが居るよ!」
思わずZ1-Θは帯の手を伸ばして指差した。
確かに規則正しく動くレーンの中で、ちょこまかと動き回っている者が居る。
金属の箱から手足の様に触手を伸ばす様はコルコルと似てなくもない。
「彼等は主に点検作業を行っております。レーンに不調がないか等を見て回っているのです。」
「此、全部ロボット丈でしているんですの?誰か何処かで管理しているとか・・・。」
カレンからしたら人の手も借りずに魔力や電気だとかの力のみで動いているのが不思議で仕方がなかった。
命や意思がある訳でもなく動き回るロボットと言うのは何とも奇妙だ。
・・・中でも実は一番Z1-Θが不思議な存在なんだけれどもと、カレンは思わずにはいられなかった。
元々セレさんを殺す為に創ったロボットの中に意思を持った魔力が入って動かしているんだとか。
・・・駄目だ、考えても些とも分からない。まるで御伽話みたいな内容だ。
一歩外の世界へ出たらまさかこんな未知で溢れているなんて。
「勿論!ソラミテクノ工場は全自動です。全てロボットが管理しています。」
「其の割には結構壊れてるのね。」
早くも一寸飽きて来たらしいダイヤが視線を窓から外してしまう。
近くを転がるロボットの残骸の所為で、車は少し動き難いのだ。勝手に避けたりしてくれているけれども。
「本来なら他の施設から新しいロボットが送られるんですが、其方は止まってしまっている様です。」
「其でも屹度何百年も動いているんなら十分じゃないかな。」
自分は只塔に居た丈なのに、彼等はずっと斯うして頑張ってるんだ。
何だか休みなく動き続ける彼等を見ていると知らず涙が零れそうになる。
実際、此処のロボットも無理をしているんだろう。良く見ると調和が取れている様に見えて、時々レーンはちゃんと動いていない様に見えた。
錆びているのか、油が切れたのか、アームが軋んでずれが生じたり、遅れが出たりしている。
果たしてこんな調子で造られたロケットがちゃんと飛ぶのだろうか。
「・・・何時迄見てんのよ。次元の主導者は未だ先でしょ。さっさと行くわよ。」
「あ、待ってよダイヤー!」
次元の主導者の気配は工場内とは言え、もっと奥の方からだ。
こんなじっくり見ていたら日も暮れてしまうだろう。観光で来た訳でもないんだから。
小さく息を付く彼女を、そっとリーシャンは見詰めているのだった。
・・・・・
其からダイヤの判断は正解で、工場見学は中々見応えのある、濃密な内容になって来た。
あんなじっくり見ていたら、下手したら一回で回れなかったかも知れない。
其からはロケットの翼だったり、燃料の合成機だとか、エンジン部分等、コルコルは臨時とは思えない程じっくり丁寧に教えてくれたのだ。
すっかり見学も楽しんでしまったので本来の目的を忘れそうである。未だロケット本体は見ていないが、俄然期待が膨らんだ。
其でも何のエリアも動いているのがやっとと言う具合が見て取れた。何処か罅が入っていたり、歪みがあったりと、老朽化が如実に出ていたのだ。
只そんな工場群を抜け、一同は別の棟へ案内された。
此方は先迄と違って機械音だとかは殆どしない。静けさ丈が満ちている。
「サァ、此の先が農場です!」
「え、の、農場?」
聞き間違いかとベールが首を傾げた所で扉が開かれる。
すると其処は確かに農場だった。
其迄辺りをしっかり壁に守られているので一片も見えなかったが、中は広大な畑だった。
何処迄も広がるかと思われる青々とした葉を付けた植物が、規則正しく根を張って植えられている。
少しレタスに似た植物だ。何も一抱えはありそうな程大きく、立派に育っている。
遅れて土の匂が一杯に広がって来た。空気も温かく、小さく眠気を覚えてしまう。
「あら、凄く立派な畑ですわ。でも如何して。」
カレンの一族は土や石を食べているので斯う言った畑等は縁がなかった。
だから知識としてある丈だ。大事な土の養分を取ってしまうので、其の植物を寧ろ生やすと言うのは変な具合に写ってしまう。
一応銀騎獅と色々回った時に他にも畑なる物は見たが、此処迄立派なのは初めて見た。
何より建物内である。其でも育つ物なのだろうか。
洞窟内では茸許りだったのに、不思議だ。
でもこんな立派な畑がロケットに必要とは思えない。一体何に使うんだろうか。
・・・若しかしてロボットの御飯だったり?
「如何して畑なんてあるのよ。」
「ハイ、此処は気温、水質、照明の管理が行き届いた事に因り、年中ゼルニア草を収穫する事が可能になったエリアです。日々検査をする事で病気にも直ぐ対処出来、又奥の研究所では品種改良が積極的に為されています。」
「す、凄い・・・建物の中で食べられるなんて。」
「ハイ!良かったら一枚ドウゾ。」
器用にもコルコルは触角を擦り合わせて一枚の葉を毟り取った。
大きくて瑞々しい。千切った際もパリッと音が鳴り、新鮮そうだ。
「あ、有難う御座います。わ、凄い大きい・・・。」
其の葉を一枚手渡されて一口ベールは口に運ぶ。
生だが、しっかり甘みがあって歯応えもある。何だか安心する味だ。
「あ・・・美味しい、美味しいですねコルコルさん。」
「ハイ、良かったです!」
「ね、僕も一寸食べてみたい!」
「え、た、食べられるのかな・・・えと、はい。」
葉の一部を千切ってベールはそっとZ1-Θへ差し出した。
すると卵が割れる様に中心が開かれる。思わずベールは葉を取り落としそうになったが何とか堪えた。
上に乗っていたリーシャンも突然の事だったので慌てて羽搏いて飛び上がる。
Z1-Θがこんな風に開くのは給水の時位なので然う見られない光景なのだ。
そして曦の帯の手を伸ばし、そっとベールの手の葉を受け取ると、其の中へ押し込んだ。
思わぬ変形を前に一同が固唾を呑んで見守る中、Z1-Θの殻は閉じられ、まるで咀嚼する様に暫く揺れ動いた。
「ウ、ウーン・・・変な感じ。」
「Z1-Θさんって食べたり出来るんですの?」
水を飲むのは知っていたけれども、初耳だ。
「出来ないよ。だから練習してるんだけど・・・多分斯うじゃないや。一寸気持悪いかも・・・。」
「じゃあ直ぐ出した方が良いですよぅ!私が代わりに食べますから。」
「ウン、ソースルネ。ハイ。」
Z1-Θは又殻を開けて先の葉を取り出すと頭の上へ掲げた。
直ぐ様リーシャンが啄んで平らげてしまう。美味しかったみたいで満足そうに胸毛を膨らませた。
「食べる練習だなんて何だか新鮮ですわ。」
「ウン、此の方法も駄目なんだね。」
「・・・一枚の葉をそんな風に分け合って何だかみすぼらしいわ。」
「で、でも美味しかったですよぅ。ね。ベールさん!」
「うん、御馳走様でした。」
「喜んで貰えて良かったです!」
「で、何で畑があるのよ。案内ロボならちゃんと答えなさい。」
「え、其は此処の何か凄いテクノロジーだって先、」
「だから、其方じゃなくて存在理由よ。何の為に畑があるのよ。」
「然うですわね。コチも気になっていましたわ。」
「其でしたらどうぞ此方へ。次のフロアを見れば一目瞭然です!」
畑を抜け、コルコルは次の扉へと直ぐ様向かう。
「何よ。答えてくれないのね。」
「まぁダイヤァ、楽しみじゃないですかぁ。」
一目瞭然と言う事は・・・何があるんだろう。
寧ろ一体何を見たら此の畑の意味が分かるだろうか。
畑は広大でずっと奥迄続いている様だったが、確かに隅に一つ扉がある。
其処へ向かうと待っていましたと許りに扉が開かれた。
優しい曦が溢れ、其処には・・・、
「う、兎⁉」
見事に一同の声がハモる。
然う、其処には沢山の皓兎が居たのだ。
建物内だと言うのに広い原っぱが続いている。
其処で思い思いに兎達が跳ね回っていたのだ。
何処から如何見ても兎だ。普通の兎に見えるが。
成程、じゃあ先の畑は此の兎達の為の御飯なのだろう。
何十、何百羽と居るのだ。彼の畑で賄うのなら、彼位は大きくないと。
理由は分かった。分かったのだが・・・。
新たな疑問が次々と沸き起こって来る。正直解決なんてしていない。
「な、何で兎が居るの・・・?」
其の疑問も最もだ。兎なんて其こそ、ロケットに必要ないだろう。
「ワァ、皓くてフワフワして可愛いね!」
Z1-Θ一体は暢気にそんな事を言ってまじまじと兎達を見詰めていた。
兎も慣れているのか特に驚いたり逃げたりせず大人しくしている。
「まぁその・・・セレさんが居たら大喜びだったでしょうね。」
モフモフランドだ、想像に難くなかった。下手したら永住してしまうかも知れない。
でも其処ではない、其処ではないのだ。
「如何でしょう。ソラミテクノ工場自慢の兎達です!」
「自慢はロケットの方じゃないんだ・・・。」
「本当に何の為ですの?」
「其は勿論、ロケットに乗せる為ですよ。」
「打ち上げちゃうの⁉」
思わず声が上擦ってしまう。まさかそんな役目を負っていたなんて。
じゃあ此の子達は次々と打ち上げられてしまうのだろうか。
何とも言えない心地になってついカレンは兎達を見詰めた。
兎は絳い目を此以上ない位丸くさせてじっと見詰め返す丈だ。
如何見ても・・・普通の兎の様だ。
「如何してロケットに乗せちゃうんですぅ?そんな事したら・・・。」
何となく想像してリーシャンは小さく震えた。
其の際に一気に羽毛が膨らんだので、宥める様に少し毛繕いをする。
「其は、元々此処が其の為の施設だからです。」
少し答え難いのか今一要領の得ない答えがコルコルから返された。
「兎を乗せたロケットを飛ばす所って事?」
「ハイ!水鏡へ向けて発射するのです!」
「水鏡っ⁉其又大層な・・・。」
「えっと、水鏡って多分他の零星の事、ですわよね。其処へ連れて行くって事ですの?」
「然うです。ですが実は・・・失敗続きなんです。」
「失敗・・・。」
何だか少し恐い話になって来た。普通のロケット工場だと思っていたのに。
文明が進んでいても、目的が見えなかったら不気味に写る物だ。
「ん、ほら、御探しの物があったじゃない。」
ダイヤが奥を見遣ると一体のロボットが此方に向けてやって来るのが見えた。
其のロボは多少錆び付いているが動ける様で、先程ロケットの部品工場で見たのと似た形状をしていた。
触手を伸ばし、兎達に触れて行っては軽快な音を奏でて光っている。
「あ・・・若しかして彼が次元の主導者ですの?」
まさかロボットとは思っていなかった。確かに兎達に囲まれている其の機体から感じる物はあるが。
「本当だ・・・やっと見付けたね。」
「皆がちんたらしてるからよ。ほら適当に挨拶でもなさい。」
「然うですわね。コルコルさん、彼は一体何ですの?」
「はい、彼は兎管理用機です。ああして一羽一羽の健康状態を確認しているのです。」
「兎管理専用なんですわね。」
其が次元の主導者と言うのは何だか不思議だ。一体如何すれば良いのだろうか。
「えっと・・・こ、今日は!」
取り敢えずベールが声を張り上げると、流石に吃驚したのか辺りの兎達が走り出した。
「ハイ、今日は。ヨゥコソ、兎園へ!」
少し不安定だったが、そんな合成音声が流れ、ロボットは此方へやって来た。
そんな彼の後を何羽もの兎達が付いて行っている。如何やら此のロボットに懐いている様だ。
「今日ハ、彼等は見学者です。宜しく御願いします。」
「其で此方迄?嬉しぃです。私は、ツミンと申します。ソロソロロケットへ乗せる為、兎達を運びます。良かったら見学されますか?」
「え、えと、然うしようかな。」
「えぇ、取り敢えずは話をしたいですわ。」
ツミンと名乗った其のロボットは一見他のロボットと変わらない様に見えた。
でもこんな沢山の兎を彼一体で見ているのだろうか、凄い数だ。
其にしても、彼が次元の主導者として一体何が出来るんだろう、修理とかだと絶望的だが。
いや、自分達が次元へ来た時は、確か互いに呼び合って惹かれているんだ。無理な問題を押し付けられる事はない筈。
出来る事の筈なんだ。後は其を見極める丈だ。
ツミンの中心の箱が開き、中から小さなボールが幾つも出て来た。
其を取り出すと瞬く間にボールは大きくなり、パカッと二つに割れてしまう。
そしてツミンは近くに居た兎達にライトを次々当てて行った。
暫くライトを当てるとツミンは兎に近付き、其の開いたボールに兎を詰めて閉じてしまったのだ。
其をそっと彼は自身の後ろへ付けた。すると尾の様にボールは彼にくっ付いている。
中に居る兎は大人しくしていた。慣れているのか丸くなっている。
然うしてツミンは次々と兎達をボールの中に入れ、後ろへ付けて行った。
十数羽も捕まえて行くので彼に付いたボールは長くなり、蛇の様にどんどん繋がって行く。
あんなに沢山兎が居るのに手慣れた物で次々と彼は兎を捕まえて行った。手際が良い、あっと言う間だ。
彼の兎達がロケットに入れられてしまうのだろうか。そんな風に考えていると不意にツミンは手を止めて固まってしまった。
まさか壊れてしまったのかと焦ったが、如何やら違う様だ。彼の前には一羽の兎が、真ん丸に目を開けてじっとしていたのだ。
「其の兎が如何かしたのー?」
「・・・ハイ、何だか、此の子を連れて行きたくなくて。」
「じゃあ連れて行かなきゃ良いじゃないの。」
「イェ、今日は此の子を連れて行かないといけない日なのです。」
然う言いつつもツミンは動けないのか固まった儘だ。兎も気になるのか少し背伸びして彼を見ていた。
「皆さん凄く懐いていて可愛いですものねぇ。」
「可愛ィ・・・。」
然う鸚鵡返しに繰り返したツミンだが、そっと兎をボールに詰めて手に取った。
でも矢張り其の動きはぎこちない様で、先迄の機敏さはない。
「ツミン?如何したの?」
ツンツンとZ1-Θが手にあるボールを突いた。
すると少し丈彼は触手を下げる。彼は中々其のボールを背に付けようとはしなかった。
「えと、其の儘連れて行ったら如何ですか?」
「っ、然うします。」
ツミンはちらとベールの方を見遣るとボールを大事そうに抱え込んだ。
何だろう此の反応は。何だかツミンは其の兎に偉く執着している様だが。
一見他の兎と同じ様に見える。元気の良い、少し丸っとした兎だ。
「ハイ、御待たせしました。此の子達をロケット発射場へ輸送します。」
「デハ皆サンも一緒に行きましょう!今回は貴重な打ち上げが見られますよ!」
「・・・えぇ、御願いしますわ。」
次元の主導者は見付けた。でも一体何をすれば良いのだろうか。
小さな違和感を覚え乍らも、一同は二体のロボットに連れられ兎フロアを後にするのだった。
・・・・・
長い廊下を暫く歩き続けた一同だが、当然新たに加わったツミンに興味を惹かれ、幾らか声を掛けてみていた。
ツミンはコルコルと比べ、多少ぼろが出ているのか、少し動きや言動はぎこちない。でもしっかりと受け答え等は出来る様だ。
人間はいないのに兎はあんなに沢山育てられているなんて、何だか複雑な心地だ。
「兎、とっても可愛いね!」
「ハィ、此の子は特に可愛イデス。」
如何やらツミンは可愛いと言う言葉を迚も気に入ったらしく、何度も繰り返して呟いていた。
満更でもないのか兎も大人しい儘だ。鼻をひくつかせ辺りの景色を見ている様でもある。
「・・・其にしても、矢っ張り不思議ですわ。如何して兎をロケットに乗せるんですの?」
考えても分からない。水鏡に何かあるのだろうか。
何と言うか・・・折角の技術力の無駄使いの様な気がしてしまうのだ。
「水鏡に行ってもぅ・・・兎は兎、ですよねぇ?」
「水鏡に何かあるんじゃないの。知らないけど。」
「うーん、其は何かかっこいいけど。」
「如何やら皆サン、此方のプロジェクトは御存知ないでしょうか?」
其迄静かに一同の事を見遣っていたコルコルは触角の先からレーザーの様な物を飛ばし始めた。
其は壁を照らし、一つの映像を映し出す。
其処にはコミカルなイラストで、水鏡と兎が描かれていた。
水鏡に居る兎達は飛んだり跳ねたり、何とも楽しそうだ。
「此の下手糞なイラストが何だって言うのよ。」
「え、絵心はあるとコチは思いましてよ?少し変わった絵ですけど。」
「皆サン、聞いた事がありませんか?水鏡には兎が棲んでいると言う御伽噺!」
「僕知らなーい。」
「水鏡に兎・・・?僕は聞いた事ないけど。」
「そんな訳ないじゃない。」
「えと・・・水鏡には蟹が居る、ならコチは聞きましたが・・・。」
「あらぁ、皆バラバラですねぇ。」
と言いつつリーシャンも知らないので首を傾げる事しか出来ない。元より彼が人と関わったのはダイヤが初なので、然う言った話は殆ど聞いた事がないのだ。
「・・・っ!成程、此は失礼しました。然うですか皆サン屹度色んな所から来られたのですね。分カリマシタ、案内させてください。」
コルコルの他の触角の先が明るく明滅した。コミカルな動きを真似たいのかZ1-Θも似た風に帯の手を揺らす。
「此の国には水鏡に兎が居ると言う迷信があるのです。ですが、其が信じられていたのは遥か昔。探査機の普及で、水鏡に生物がいない事が分かっています。」
「水鏡に兎居ないの?残念だね。」
「然うですZ1-Θサン!だから夢を実現させようとソラミテクノ工場は造られたのです。今の技術力なら実現は可能ですから。」
然う言ってコルコルは映像を次々と切り替えて行く。
ロケットに乗せられた兎が飛び立ち、水鏡に着陸すると飛び跳ねて行く絵だ。
相変わらずコミカルな絵柄の所為もあって中々受け入れ難い。
「其ってつまり・・・何ですの。其の逸話を本物にさせる為丈に、此処は造られたんですの?」
「ハイ、其の通りです。此も幻想実現プロジェクトの一環なのです。」
「えぇ・・・其の幻想実現プロジェクト?ってぇ、もっと詳しく御願い出来ますかぁ?」
「其の名の通りです!各地に散らばった空想や言い伝え、伝説を次々実現させる国家プロジェクトです。他のエリアでは旻飛ぶ島を造ったり、獅鷲獣を生み出したり、タイムトラベルも実現しました。」
「凄イ!色んな物を創ってるんだね!」
「確かに凄い技術ですわ。でも・・・。」
何だろうか、此の違和感とも付かない不気味な感覚は。
次元が違うのだ。考え方も何もかも違うのは分かっているけれども。
其でも、夢を追い続けた結果が此の世界なのだろうか。
セレさんが此の次元で何をしたのかは分からない。其でも此の抜け殻みたいな街がより淋しく見えて。
然う、まるで滅ぶ可くして滅んだ様な有様だ。夢の残骸が転がっているのだから。
何となくカレンは此の次元から人間が消えた訳が分かった気がした。
皆も純粋に喜んだり称えたりはせず、何とも言えない気まずい空気に包まれていた。
「あのコルコルさん、因みに其の後は如何する計画だったんですの?」
「其の後、と言いますと?」
「計画の事は良く分かりましたわ。水鏡へ兎を運ぶプロジェクトの事は。でも、じゃあ実際に水鏡へ兎を届けたら、其の後は如何するんですの?」
「其の後は・・・アリマセン。届けたら御仕舞いです。其が此のプロジェクトの全てですから。」
「然う・・・なんですのね。分かりましたわ。教えて頂き感謝しますわ。」
其の先が無いのは、考える人間が居ないからなのか、元から其処で終わる計画だったのか。
此のプロジェクトに意味はない。然う、意味が無いのだ。
ロケットが飛ぼうが飛ぶまいが、兎が居ようが居まいが、全て。
「・・・?皆サン如何されましたか?」
気遣う様に照明を落としてコルコルは一同の顔を見遣ったが、終に答えは出なかった。
ツミンが兎を見て可愛ィ、可愛ィと繰り返す声丈が聞こえて来る。
此の次元で一体自分達は何を為可きなのか。
何度目かの問いだ。でも考え方は変わって来ていた。
コルコル、ツミン、他の壊れたロボット達や、兎も、彼等を生み出した存在はもう居ないのだろう。
其の夢も形丈が残って、願った者は何処にも居ない。
其の中で自分達の為可き事は何なのだろうか。
寧ろ今更する可き事なんて、あるのだろうか。
自分達が目を向ける可きなのは誰なのだろうか。
「・・・一応聞くけれど、何でこんなに人間が居なくなったか、其も案内してくれるものなの。」
車の上で手持無沙汰そうにダイヤは伸びをした。そんな彼女の肩へリーシャンは留まった。
此処迄幾らかコルコルと話して来たが、此のロボは自分達が思っていたよりずっとコミュニケーションが取れる様だ。
当たり前の用意された答え丈を出すのではなく、其の先の意思を読む事がある。まるで思考に近い物を持っている様に思うのだ。
だから斯う言った質問も、案外対応出来るのではないか然う狙っての質問だった。
こんな質問をすると自分達の素性を怪しまれるだろうが、怪しまれた所で問題もないだろう。此処には彼等しか居ないのだから。
「人間が居なくなった訳は、皆老衰で亡くなったからです。」
簡潔に、然うコルコルは答えた。
はっきりと事実丈突き付けられると重みがある様で少し息苦しくなってしまう。
「老衰は、その、悪い事ではないでしょうけど・・・増えたりとかなかったんですの?」
病や怪我ではない。天寿を全うしたのなら良い事だろう。
けれど此の街は、否此の世界は続かなかった。其の儘人間は滅んでしまっている。
「増える、イエ、六百年程前から人口減少が顕著となり、問題視されました。其の為、より良く生きる為には如何為可きかに焦点を当て、国の方針は変わって行ったのです。」
「より良く生きるぅ・・・?其って具体的に如何言う事なんですぅ?」
「ハイ、人口が減っても街の機能を低下させない為、事前に全てプログラムし、シミュレーションさせたのです。其の結果、最後の住人迄人生満足度99%を維持した儘計測は終わりました。」
「其ってつまりは・・・増やそうとかせず、其の儘減り続けて終わったと、然う見て良いんですわね。」
「ハイ、其の通りです。」
何だか神の街を見ている様な気分だった。
コチの居た村でも似た傾向はあったけれども、神の間で子が生まれる事は可也珍しい。
抑が前世を持ち、其の後与えられた使命に沿って生きる丈だから、然う言った活動を取る者自体が少ないのだ。
そんな中でもコチは生粋の、生まれ乍らの神になるんだけれども・・・。
其でも何百年に一度生まれるか如何かの具合だった。だから村では凄く温かく育んでくれたけれども。
そんな神の街や村は、此の次元の様に静かに衰退する事が多い。
緩やかに、一柱ずつ使命を終えて消えて行くのだ。
まぁ今は黔日夢の次元の影響で神が増えているので其の限りではもうないけれども。
でも辿る道は同じだ。集団から個へ、焦点が変わった先には只無だ。
静かな終わりが待っている。其を悪いとか如何とかは思わないけれども。
此の次元の人間達は然う割合幸せに眠る様に終わったのだろう。
人間の為丈に造られた此の街を残して。残された街は、彼等コルコル達は如何なるんだろう。
「可愛ィ、此の子は可愛ィです。」
ツミンの呟く声丈が続く。もう直ぐ見守る者も居ない中打ち上げられるロケットへ乗せられる兎を大事に抱えて。
「ネ、後ろの子は可愛くないの?其の子丈なの?」
Z1-Θが近付くとツミンの触手が淡く光った。
「他の子も、勿論可愛ィです。デモ、此の子が一番です。」
「フーン?僕同じに見えるけど・・・。」
ちらちらとZ1-Θは彼の後ろに付いている兎達を見遣った。
正直カレン達も兎の違いは分からない。皆一様に同じに見えるのだ。
でもツミンは一体で育てて来ているんだろうし、彼にしか分からない違いがあるのかも知れない。
「皆違います。此の子は昼寝の時、鼻が凄く膨らむ癖があります。他にも頬辺りを撫でると体重を預ける所や、御飯の時は三回跳ね回る癖もあります。」
「良く、見てるんですねぇ、其の子の事。」
「其が、私の仕事だからです。」
然う言ってツミンはより強く兎の入ったボールを抱いていた。
「其の兎、本当にロケットに乗せるんですの?」
其処迄彼が拘る兎なら別に他の子でも良いだろうに。
ロケットの事だとかは良く分からない。でももう此の工場に意味が無いと分かってしまっては。
何となくツミンが持つ兎に対する執着が、普通ではない気がした。其が次元の主導者たる物だからなのかは分からないが。
何だか見ていられなかったのだ。其の様子はまるで、其の兎に特別な愛情を掛けているように見えなくもなかったから。
抑ロケットを飛ばさなくても良いのではと言う思いもあるが、然うなってしまうとツミンや、先ロケットを造っていたロボット達は如何思うのだろうか。
そんな考えが沸いて来て何とも煮え切らなかった。
「ハイ、乗せます。其の為に此の子は育てて来たのです。」
「然う、でしょうけど・・・。」
何と言う可きか、如何する可きか分からない儘に廊下の終点へ着いてしまう。
一同の目の前には大きな扉が。中から重低音が響き渡る此の先は恐らく、
「サァ皆サン御待たせしました。此の先がロケット発射場です!」
一層声を張り上げ、コルコルが触角を振り上げた。
其を合図に緩りと扉が開かれる。
眩しい曦が飛び込んで来て、思わず一同は目を閉じるのだった。
・・・・・
「御二人共、ルル、態々足を運んで下さって有難う御座います。」
「私からも深く感謝を申し上げる。」
「素直に嬉しいけれども此、凄い図だな。」
此処はレリーシャ=ガーデン、先日フェリナから招かれ、セレとガルダ二柱で足を運んだのだ。
レリーシャ=ガーデンの上階、ゲートの間に通された訳だが、其処には榔も既に待機していた。
まさかの塔の長二柱の御出迎えである。如何やら御茶の準備もされていた様で、香ばしい香が漂っている。
要件と言うと、落龍の詠を鎮めてくれたので其の御礼を直接言いたいのだとか。
出来ればフェリナの方から店へ出向きたかった様だが、榔も同席したいと言う事で、場所を移せなかったらしい。
セレが全快した直後だったので辞退しようかとも思ったが、存外セレが乗る気だったので其の儘来てしまった。
勿論未だ完全に信用している訳でもないで罠の可能性は考えたが・・・警戒をする程度に今は留めている。
着くなり歓迎されてしまったので何とも嫌な笑みをセレは浮かべていた。
王を護る為の塔の主が二柱揃って破壊神の自分を出迎えるのだから、彼女からしたら可笑しくって仕方がないのだろう。
確かに異様な光景だ。少し前迄は想像も出来なかった事だし・・・。
「大変遅くなってしまいましたが、ルララ、此度の騒動を鎮めてくれて、本当に有難う御座いました。感謝してもし切れませんわ。」
然う言ってフェリナはテーブルの上の配膳を済ませて行く。
テーブルと言っても何と言うか・・・噴水だ。其が丁度の高さ迄上がっていて、其の上へ彼女はカップ等を置いて行くのだ。
良く見ると薄く玻璃が乗せてあるのか。曦が散って何とも幻想的だ。
水が散っている筈なのに、不思議と近付いても濡れないな。特殊な加工でもしてあるのだろうか。
「さぁどうぞ、ルラル、其の儘掛けてくださいな。」
「ん、成程然う言う事か。」
此の部屋は床が水になっているが、歩けば玻璃が張られて行くので濡れる事はない。
其の玻璃の端へちょこんと腰掛ける。榔も伏せると丁度良い高さになった。
是非もう一度榔をモフらせて欲しいのだが・・・隣にガルダが座ってガッチリガードされてしまった。
態となのか如何かは分からないが・・・ぐぬぬ。
「其にしてもまさか御茶に誘ってくれるとはな。」
とんでもない裏切り行為だ。まぁ自分は素直に嬉しいけれども。
「せめて此位はしませんと。本当に感謝しておりますわ。ルル、私達は何も出来なかったので。」
「噫其の通りだ。危険を承知でライネス国を救ってくれた。寧ろ塔の長として礼を言いたい。」
「成程、然う取る事も出来るか。」
「救ったって・・・彼は結局セレがやってくれたからな。」
「其を言ったらフリューレンスだよ。彼は龍達が自分で治めてくれたんだから。」
未だフリューレンスには会っていない。元気になっていると良いが。
二柱の様子を見てふっとフェリナの目元が優しくなる。早速茶を淹れて渡してくれた。
直ぐ様ガルダが一口飲んでちらと眴せをくれる。・・・彼に毒味役なんてさせたくないんだが。
一応此方へ来る前に色々ガルダと約束をした事があるのだ。
流石に少し前に死に掛けたのもあるし、今は大人しくしよう。彼の好意を無駄にはしたくない。
今が万全とは言え、だからと言って怪我したい訳じゃないからな。
こんなに直ぐ戻れたのはガルダの御蔭な訳だし、うん。言う事は聞こう。
そっとカップに口を付けるが・・・あ、熱い、全く飲めないじゃないか。
悟られない内にカップを戻す。代わりに焼き菓子に手を出そうか。
此方も早い事にガルダがもう手を付けている。滅茶苦茶がっついている風に見えてしまうな。
つい苦笑して貝の形になった菓子を一つ手に取る。微かにオレンジの香がした。
「ん、初めて食べたが美味しいな。流石塔の長ともなると違うな。」
抑菓子なんて神になって初めて食べたからな。こんな高級食品前世にある訳がないのだ。
「其はマドレーヌと言いますわ。ルラ、御口に合って良かったです。」
「噫、フェルナーデのマドレーヌは世界一だからな。」
然う言って榔もがっついている。屹度何時も御馳走になっているのだろう。
「ロ、榔、そのは、恥ずかしいですわ・・・。」
途端フェリナは両手で顔を覆ってしまう。うん、初々しいな二柱共。
「と、兎に角、今は何方の国も復興に忙しいのである意味こんな大きく動く事が出来ましたわ。ルル、本当はもっと早くに御礼したかったですが。」
「然う言う事か、確かにな。でも私からしたらまさか礼をされるとは思わなかったからな。そんな畏まらなくて良いぞ。」
混乱中に敢えて誘ったと言う事か。まぁ確かに然うだな。
最近は店へ来る不届き者も減ったが、其方へ手を回す余裕がなくなったと言う事なのだろう。
「二柱は忙しくないのか?あんな事があったのに。」
「私達の塔は何方も殆ど被害はありませんでしたので。国の事も、王の兵達が頑張ってくれていますし。」
「王のか・・・セレ、当分ライネス国とか行っちゃ駄目だからな。」
「分かってる。何方の国にも行く予定は無いよ。」
落龍の詠の時にたっぷり観光したし、オンルイオ国の方は暴れてるしな・・・。
当分はちゃんと大人しくするよ、うん。
「其にしても、本当に良く彼を鎮めましたわ。ルル、一体如何されたんですの?」
「ん、別に。襲っていたと言っても龍達もやりたかった訳じゃないからな。止める様に説得した丈だよ。」
「せ、説得・・・、まさかそんな方法だったんですの。」
全く予想していなかった様で彼女は思わず口元に手を当てた。
「話なんて出来たのか。其で鎮められたなら真天晴だ。」
「セレは良く龍に好かれてるもんな。」
「まぁ皆良くしてくれるな。暴力なんかで止めたりはしないよ。」
「噫・・・然うか、然う言えば撫でるのが上手だしな。」
前の事を思い出したのか榔は薄く目を閉じていた。御所望とあれば何時でも撫でるのだが。
「でも其の所為だからか、嘆かわしい事にライネス国は君達が龍を嗾けたと言っているが・・・。」
「っ!そんな、其は余ですわ!」
「お、信じてくれるのか。」
そんな風に言ってくれるとは。まぁじゃないと茶なんて誘わないけれども。
「当然ですわ。ルル、皆さんは直ぐ助けに来て下さった丈であって、何もしなかったのはライネス国の方じゃないですか。」
「う、確かに其は耳に痛いな。」
少し耳を下げ、榔は上目遣いに此方を見遣った。
モフモフの耳が動くのを見ている丈で幸せな心地になれる。
「別に榔、貴方を責めている訳じゃないわルル、只其でも彼の国は閉じ込めたりする許りで、肝心な時護ってくれていないから。」
護る、護るか・・・一応楪が自分を咬み殺そうと頑張っていたがな。
龍も多く死んだし、対応はしていたけれども手が回らなかったんだろう。事が事だったからな。
でも言い換えれば龍は其丈の力を持っているって事だ。其こそ世界を如何斯う出来る丈の力を。
皆優しいから気付いていない丈で、龍族は其丈の力を与えられた存在なんだ。
「一応言って置くけれども、其の噂だとか方針は余り否定しないでくれ。」
「如何してですの、態々汚名を被った儘だなんて。」
フェリナは随分と自分達を気に掛けてくれている様だ。
余り此方に肩入れする可きではないんだが、楪の二の舞になり兼ねないし。
「汚名と言っても私は既に黔日夢の次元があるし、其の御蔭で余り龍達にヘイトは向いていないんだろう?」
「まぁ確かに。直接襲って来た割には討伐だとかの話は出ていないが。」
「ッ⁉ルル、まさか其の為なんですの?」
フェリナは交互に自分とガルダの顔を見遣った。
何と言うか・・・彼女の反応は素だな。元来は本当に争いだとかを好まない穏やかな神であろう事が良く分かる。
「まぁ然う言う事、だよな。セレ。」
「噫、彼の所為で龍が退治されて行く未来丈は避けたかったからな。其の分自分だったら覚悟は出来ている。」
僅かにガルダの面が曇ったが仕方がない。
店の皆にも背負わせるのは申し訳ないけれども、自分は其でも龍達を切り捨てられなかった。
「御前達の方にも被害が出ているから納得は難しいだろうが、出来れば龍を余り責めないでやってくれると助かる。」
「セレさん龍が本当に御好きなんですわね。ルララ、でも然う言えば先龍は襲いたくてした訳じゃないと仰いましたか・・・?」
「然うなんだ。だから説得が通じたのもあるが。」
「では如何してあんな事を。まさか・・・別の者が噛んでいるのか。」
低く榔が唸り声を上げたので、そっとフェリナは彼の喉元を撫でた。
・・・良いな、自分もモフりたい。
「其が此方もはっきりしないんだよな。何だったっけ、えと世界の意思とか・・・?」
「丗の意志だって言っていたな。人間を殺せと声が聞こえると。」
然う尋ねられると言う事は向こうもはっきり例の事件を知らないのか。
自分が起こした物だと断定して調べる事すら放棄してないとは思うが。
自分としてはもう少しライネス国側の話を聞いてみたいな。
「声・・・?矢っ張り誰かなのではないのか?」
「声なんて、何も予兆だとか聞えなかったと思いますが・・・ルル。」
「然うだな。此許りは私も分からない。何でも丗に彼等は近しいから、世界が意思を伝えて来たからとか何とか言っていたが。」
フリューレンスが其の辺り話していたんだが、如何せん彼奴の話は難しいからな。
抽象的過ぎて、感覚に頼った話だと如何しても伝える力が弱くなってしまう。
「何だか難しいな。では具体的な要因は分かっていないと言う事か。又あんな事があっては困るが。」
「まぁ可能性は零じゃないだろうな。」
然う言うと二柱共黙ってしまった。未だ完全に終わっていないからな。
其に、次は自分が攻め込むかも知れないし、とは冗談でも言わないが。
そっと紅茶に口を付けた。・・・うん、やっと飲めそうだ。
口を湿らせる程度に含んで、一つ息を付く。
「少し話を変えたいんだが、榔、聞いても良いか?」
「勿論だ、構わない。」
榔は次なるマドレーヌに狙いを付け、齧り付いていた。
クレイド§スフィアで教わったのか、豪快な様に見えて綺麗に食べている。
欠片も残さず平らげると満足そうに鼻を鳴らしていた。
心做し、全身から放たれる曦が増した様に思う。矢張りモフモフは本神の満足度に比例するのかも知れない。
セレがじっと榔を観察している事に気付き、ガルダとフェリナは知れず苦笑を漏らした。反対に自分が観察されている事にセレは気付いていないのだ。
「風の噂で聞いたんだが、ライネス国にソルニアと言う奴が居なかったか?」
「ソルニア・・・?えっと何か聞いた気がするけど。」
ガルダが首を傾げたが、榔は心当たりでもあったか耳が立った。
「如何して奴の名を、随分と久しいが。」
「流石だ。聞き覚えがあったか。」
「噫だが奴は確か・・・然うだな。クルスティード尖塔の地下深くに幽閉されているとか何とか・・・。」
「捕まってるんですの?ルル、一体どんな方なんです?」
クルスティード尖塔か。選りに選って其方だったか。
若しかしたらアティスレイが入っていた檻よりずっと先に其奴は居たのかも知れないな。
「セレ、其って誰の事なんだ?」
「ん、ほら前Aの所で少し丈聞いたからな。確か、フィロソフニア族の男だったか。ライネス国へ暴れに入って行方知れずになってるって言っていただろう。」
「あ、噫あったなそんな事!・・・そっか、生きてるのか。」
「私も昔聞いた限りだから怪しいが。塔の者に直ぐ捕らえられて其の儘だろう。彼は痛ましい事件だったからな。」
「若しかしてもう何百年も前の例の話ですの?ルララ単身で攻めて来たって言ってましたわね。」
「然うだ。流石に今回の程じゃないが、可也被害はあった筈だ。只其の時はクルスティード尖塔の長が動いたからな。収束も早かったんだ。」
「成程、矢張り勁いんだな彼の塔は。」
落龍の詠で出会していたら不味かっただろうな。・・・うん、ガルダが止めてくれて命拾いしたかもな。
「・・・セレ、絶対行くなよ。」
「ククッ、本当にガルダは心配性だな。」
「目が離せないんだから心配性にもなるって。」
―我も同意見だ。―
其処、結託しない。
「其にしても不憫な奴だ。赦されぬ事をしたとは言え、奴のしたかった事は理解出来るからな。」
「したかった事か。其奴は単にライネス国で暴れた丈じゃないのか。」
他の奴とは違うと己の力を過信して行き、暴れ、そして捕らえられたのだと思ったが。
「私も直接会った訳じゃないから詳しくは知らないが、でも私は奴もライネス国の被害者だっただろうなと思ったんだ。」
「被害者か・・・まぁ彼処敵は多いだろうしな。」
そっとガルダも紅茶に口を付けた。長く息を付いてちらと此方を見遣る。
「フィロソフニア族と言えば、神に力を奪われた事で有名だろう。生き乍らに罪を背負った者とも言われているし。だから彼奴は屹度、自分達一族を貶めた神の代表としてライネス国を襲ったんだと思うんだ。」
「成程、只の無差別テロを起こしに行った訳じゃないんだな。」
「いや、抑襲ったと言っても奴は元々塔のみを恐らくターゲットにしていたからな・・・?」
「ん、噫其は失礼。」
勝手にテロを起こしたと判断してしまっていた。
然う言えば奴は腕試しか知らないが、そんな風だったか。他の一族の者とは違うと。
其であっさり捕まってしまっては矢張り憐れに写るだろうが。
別に一般神を殺し回った所で何の力の証明にもならないだろうし。
ククッ、テロを起こしたのは寧ろ自分だったな。
「其にしてもあっさり捕まったのは悲しい物があるな。」
「でも単身で攻め入った勇気は恐れ入った。私には迚も出来ない事だったからな。」
何だか榔は随分好戦的と言うか、然う言う考えを持っていたりするのか。
彼の国に恨みしかないのは事実だろうが、其でもこんな懐いを抱いた儘ずっと塔の長を務めていたなんて。
いや、此は務めさせられたの誤りかな。
「結局は捕まってしまったから、矢張り無理なのかと思ったが・・・噫色々と懐い出すな。」
「榔、でも駄目よ。ルーララ、自棄になってそんな事したら。」
「噫勿論だフェルナーデ、君の御蔭で私は在るのだから。」
然う言って榔は緩りと尾を振った。
曦の尾が緩り揺れる様を見て、思わずセレの喉がひくつく。
其は、余りにも甘い誘惑だった。
「・・・その、き、今日も撫でて行くか?」
見兼ねた榔がちらとセレに視線をやると、頷くと同時にセレは榔へと飛び掛かった。
「お、おいセレ行儀悪いぞ!」
行儀が悪い所じゃないか、御茶の席で相手に抱き付くなんて。
もう一寸堪えられるかなと思ったけれども、此の辺が限界だったみたいだ。
多少覚悟していたとは言え、こんなアグレッシブに来るとは思っていなかったんだろう。榔は僅かに上体を反らしていたが何の其の、しっかりとセレに抱き付かれてしまう。
此は寧ろ今迄我慢して来た分が爆発した勢いだ。
セレは特に榔のモフモフを気に入っているからな・・・。此は仕方が無かったのかも知れない。
彼女のモフモフ撫ではもう完璧なので間違っても傷付ける様な事はないだろうけれども。
けど良く考えたら恋神であるフェリナの前でその、撫で繰り回される榔を見るのはどんな心境なんだろう。勿論セレにそんな下心ないだろうけど。
実際セレのモファンターとしての手際に因り、頸の後ろをモフモフされて榔は気持良さそうに少し目を細めていた。
晒の下は彼の爪なのに上手い物である。丁度孫の手みたいな、痒い所に手が届いている様な心地なのかな。
セレも迚も幸せそうな顔をしてらっしゃる・・・。モフモフチャージが完了しつつあるんだろう。
其は良い、其は何とも微笑ましそうで良いけれども・・・。
ちらとガルダはフェリナの様子を窺った。一体彼女がどんな表情をしているのか見当も付かないが。
慎重に見た割には、フェリナは実に真剣な目付きで榔の事を見ていた。
中々の眼力だ。彼女、こんな目も出来たのか。
もう変化の一つ余す事なく見詰める釣り師の様な眼光だ。其をじっと注いでいる。
熱意は伝わるが真意が見えない。此は一体如何言う状態なんだろう。
一応セレを止めた方が良いかな・・・。控えて貰った方が或いは・・・、
「セ、セレ神さん、其の撫で方、ルル、私にも伝授してください!」
ぐるぐると悩んでいたガルダの前で然うフェリナは両者へ詰め寄ったのだ。
良く彼の二柱丈となりつつあったモフモフランドへ踏み込んだ物だ。否、其よりも、
伝授?撫で方?あ、あれ、其方なのか?
「ん、勿論私は構わないが、榔は如何だ?」
「噫・・・フェルナーデがしてくれるなら何程・・・、」
すっかり榔は骨抜きにされてしまったのかデレ切っている・・・。
塔の長とは思えない惚け具合だ。正直、本当に彼がクレイド§スフィアの長なのかと疑ってしまう自分がいる。
・・・昔教えて貰った時は凄く獰猛でかっこいい狼なのだと聞いていたけど、現実は斯うも違うか。
何よりそんな狼を膝に乗せてすっかり甘えさせているセレなんて、一種の風景の様にも見える。
何処ぞの聖女の様な・・・こんな事言ったら彼女に笑われてしまうだろうけど。
兎に角凄いテクニックだ。こんなあっさり手玉に取ってしまうとは、モファンター恐る可し。
もう榔は四肢を投げ出して全身をセレに預けてしまっている。其の気になったら何時でもセレは彼を暗殺出来てしまう、そんな距離感だ。
あ、いや、セレは抑モフモフを暗殺なんて出来ないか。然う思うと真に恐ろしいのは榔の方かも知れないけれども。
目の前で恋神がそんな姿を晒してしまい、怒るなり嫉妬するかと思ったけれども、別の選択肢を彼女は取ったのだ。
セレもあっさり許可を出したので、フェリナはそっと榔の元へ近寄った。
其迄彼女は水中から上体を出して席に着いていた訳だが、急に少し沈み込むと勢い良く水から飛び出したのだ。
どっと玻璃の床へ乗り上げた彼女は何とか上体を上げる。
魚の尾なので動き難そうだ。其でも何とかセレのモフモフ術を知りたかったのだろう。
「セレ神さん、一体如何すればそんな風に榔をメロメロに出来るんですか!」
必死な顔で人魚は足の代わりに手付きを乞うた。
此は嫉妬と憧れも混ざっているのだろう。永い付き合いのあった彼女が今迄榔に触れなかった事もないだろうし。
「然うだな、今はもう既に出来上がっているから、最初から手解きしようか。」
セレも何処かノリノリである。モファンターが増えて嬉しいのかも知れない。
其にしても出来上がっているって・・・そっか、手順とかあるんだな。
意外と其のモフモフ撫では奥が深いのかも知れない。一応リュウ伝授の物らしいし。
リュウから教わった技術を更にフェリナへ伝えるのか、何だろう感慨深い。
もうすっかり榔はされるが儘になっていた。セレに手を添えられると大人しく御座りの体勢を取る。
今から撫で繰り回されるのを期待してだろう。少し息が上がっているが、此じゃあ狗と区別が付かなくなってしまう。
「良し、じゃあ先ずは相手に今から触れる意思表示をする為に、目線より少し下辺りで手を広げて見せるんだ。」
「こ、斯うですの・・・?」
見様見真似でフェリナは手を出した。
「然う、武器なんか持っていない事を証明し、先ずは耳の後ろ辺りからだな。」
「ん、おぉ、上手いぞフェルナーデ!」
何とも嬉しそうに榔は尾を振っていた。うん、此狗だ。
何時の間にか狗の躾体験会みたいな様相になってしまった。
まぁ・・・斯う言う時間も大切かな。
御茶会とは全く違う有様となったが、元気良くレクチャーをするセレを見て、満足そうにガルダは茶を飲むのだった。
・・・・・
扉を開けた其処には、一面ロケットが並べられていた。
先端が皓く輝くロケットは寸分の狂いもなく並べられ、今にも飛びそうである。
「ワァ、此がロケットなんだ!」
「ハイ然うです!如何です、初めて見られましたか?」
「然うですわね。何だか、勁そうですわ。」
真直ぐ上へ向けられたロケットは堂々としていて威圧感がある。
幾つかパーツは見ていたが、彼等を組み合わせたらこんな形になるのか。
矢張り此の次元の文明、化学力は本物の様だ。今回廻った工場の集大成が此になる訳だ。
ロケットは上から下迄曇りなく真皓だ。只筒状の胴の中心辺りに丸い窓が一つ設えられていた。
中は反射して良く見えないが、彼処から外の景色を見る事が出来るのだろうか。
大きさ自体は存外小さく、3m位しかないが、其が何十本も並べられている。
其のロケットの周辺でツミンに似たロボットが走り回っていた。
彼等は点検でもしているのだろうか。何だか忙しない。
矢張り此処でも不備が出てしまっているのだろうか。時々躓いたりしているみたいで、少し不安が残る。
「デハ私は此の子達をロケットに乗せて行きマス。」
「行ッテラッシャイ!良い旅を!」
ツミンは兎達を連れてロケットの方へ行く。すると別のロボットが近付いて来て次々と兎を受け取って行った。
本当に彼の兎達が乗せられて行くのか。あんな金属の塊に積まれて水鏡へ。
「今回は成功すると良いね。」
「然う言えば失敗続きって言ってたけど、此処大丈夫なのかしら。」
其に今此処には不幸の使い手が・・・。
「ってベール何してんのよ!」
何だかやけに静かだと思ったらベールは隅の方で蹲っていた。
急いでリーシャンが彼の傍へ飛んで行くが、顔色が悪いみたいだ。
「ど、如何したんですの?体調が優れない様ですわ。」
「な、何かその、当たったみたいで・・・一寸御中の調子が・・・。」
「当たったぁ・・・?も、若しかして彼の葉っぱですぅ?」
間近で食べたのは彼しか思い浮かばない。
「う、そ、然うかも・・・。」
「な・・・もう本当、呆れて何も言えないわ。あんな卑しそうに毒を食べるなんて。」
「皆サン如何されました⁉体調を崩されましたか?」
コルコルが直ぐ様飛んで来てベールへ触角を伸ばす。
「だ、大丈夫大丈夫、一寸休ませて貰ったら治るから・・・。」
然う言って彼は其の場に座り込んでしまった。
「次元も違いますし、若しかしたら体質に合わなかったのかも知れませんわね。」
「然うでした、其を失念してましたぁ・・・。」
「私は大丈夫だったんですけどねぇ・・・。」
「済ミマセン皆サン、私の管理不届きで。」
「い、いや大丈夫だよコルコルさん、悪いのは僕だから。」
「然うね。今回はやけに平気然うだと思ったら此だわ。」
そっとダイヤが溜息を付くと、彼は苦笑を返した。
「でも美味しかったのは本当だよ。」
「蘚が好物の奴の言う事なんて信じられないわ。」
「と、兎に角ぅ、ベールさんはしっかり休んでくださいねぇ!」
「め、面目ないです・・・。」
しゅんと彼は座り込んでしまった。彼の不幸体質は相変わらずの様だ。
体調が悪いと言っても吐く程では無いらしい、一応は大丈夫そうだ。
「皆サン今戻りマシタ。」
振り返るとツミンが此方へやって来ていた。
其の手にも、後ろにもボールは一つも無い。全て渡して来てしまった様だ。
「あ・・・そ、然うですのね。御疲れ様ですわ。」
「ア、兎乗ってるよ!」
Z1-Θが指差すと確かにロケットの窓に皓い陰が過る。
丁度窓の所に空間があるのだろう。ちょこんと其処へ彼の兎が顔を出していた。
ロケットに一羽ずつ入れられて行っているみたいで、皓い耳が揺れている。
斯うして実際に乗せられているのを見ると、何とも言えない心地になった。
彼のコルコルが見せてくれたイラストと同じ事が今から始まるのか。
「あんたが好きな兎は何か分かるの?」
「ハイ、可愛ィ彼の子は彼方デス。」
然う言って彼は端の方のロケットを指差した。
自分達からしたら同じ兎が乗っている様に見えるが、彼はじっと其の窓を見詰めていた。
ロケットに乗せられた兎達は大人しくしていた。じっと、只其の時を待つ様に。
「あの、一寸聞き難いんですけど、失敗したのって具体的にどんな風になんですの?」
正直危険な香もするので身構えて置きたい。一体何が今から行われるのか。
「ハイ、最初は兎に負担が少ない様調整をしていた為、浮力不足や、方向機器の狂いで進路がずれた事に因る失敗でした。」
数百年も失敗し続けていると言う此の計画。
文明は進んでいるのに如何して成功しないのか。
ロケットに詳しくない為カレンには良く分からないが、でも見ている限りは此丈の技術を持っているなら、可能だと思ったのだ。
想像も出来ない事、でも手は届くだろうと。
「元の計画では最初期の数十基のデータを基に修正プログラムが働く予定だったのですが、其処が更新されず見送りになっています。」
「修正プログラム・・・一寸難しいですわね。兎に角おかしな儘になってるんですわね。」
「其、管理する人が居なくなったとかじゃないの。流石に打ち上げには人間が関わる物でしょ。」
「ハイ、此処のオーナー兼責任者であるルテッド・ミニリアン氏は最初の打ち上げ以来出勤していません。」
「何よ無責任ね。こんな立派な物を造って放置だなんて。」
「ルテッド・ミニリアン氏は高齢だったので、出勤自体が困難でした。残念です。」
「その、若しかして其から此処は無人なんですの?」
コルコルからは責任者の名前しか出なかった。
人間が殆ど滅んだであろう月日から考えると、なくはない。
一人の為に工場があったのも凄い話だが、此処は人の手も無しに動いているんだ。
粗全自動と言っていたし、無い話ではない。
其が先言ったより良く生きるプロジェクトの為だったら、其の一人の為に為された物としても。
「ハイ、皆サンが初の見学者なのです!」
あっさりとコルコルは事実丈を伝えてくれた。
信じられない、見方に因っては残酷な話なのに、彼等にとって此は当たり前なのだろう。
「呆れた、あんなに案内ロボが居た癖に殆ど役目も終えずに壊れたのね。」
然う思うと最初此の工場へ来た時に出迎えようとしたロボットは未だ良い方だったのかも知れない。少なくとも挨拶は出来たのだから。
でも其は此の工場全体に言える事かも知れない。
ずっと無為に失敗し続けるロケットの打ち上げ、仮に成功しても其の先は無くて。
もう其の夢を追っていた人もいない、誰にも見られずに兎を育て、ロケットを造り、打ち上げ続ける。
・・・失敗するって分かり切っているのに。
何だか随分淋しい次元だとカレンは思った。夢や願いが消えた世界はこんな切ない物だったなんて。
完全に破壊し尽くされた世界よりもある意味残酷かも知れない。少なくともコルコル達が未だ残っているのだから。
彼等残された者達は如何思っているんだろう。何も思っていないかも知れない。でも、
こんな風に色々と考えるのはエゴになるのだろうか。寧ろコルコル達に対して失礼とも言えるだろうか。
分からないけれども、でも何だか遣る瀬無くて。
考えれば考える程分からなくなる。でも、然うだ。
コルコル達も思っている事、あるじゃないか。其をちゃんと見詰める可きなのかも知れない。
次元の主導者であるツミンの懐いを、何とか形に。其が自分達の此の次元で唯一出来る事かも知れない。
「ロケットは彼方の端より順番に打ち上げます。」
然う言ってコルコルは端の方のロケットを指差した。ツミンが見ている兎のと反対側のロケットだ。
「只、気を付けてクダサイ。最近エンジン不良が見られる事があります。」
「エンジン不良?何か良くなさそうだよ?」
「ハイ、製造の段階で不良品が混ざってしまい、抑飛ぶ事すら失敗してしまうロケットが増えているのです。」
「え、そ、其ってど、如何なっちゃうの?」
「爆発します。」
「爆発⁉」
見事に一同の声が出揃ってしまう。
目の前にあったのはロケットではなく爆弾だったのかも知れない。
「一寸!普通に危ないじゃない!嫌よ私こんな所で心中したくないわ!」
「コ、コチだって爆死は嫌ですわ!」
危ないのは兎達丈ではなかった。此処も十分危険だったのだ。
「矢っ張りね。ベールが居ると皆不幸に巻き込まれるのよ。其でもまさか爆発なんて・・・。」
「凄い言掛りですけどぉ、予見は的中ですねぇ。」
流石ダイヤだ。ベールには申し訳ないけれども危険なのは本当だった。
「安心してください!爆発時には防衛機能が働くので、皆サンに被害はありませんから!」
コルコルが触角を振り上げ、注目を集める様に其の先端を光らせた。
「もう被害被ってる奴は居るわよ。」
傍で蹲るベールをちらと丈見てダイヤは息を付いた。
「ネ、爆発って花火じゃないの?皆見たくないの?」
「えっと、違うと思いましてよ。爆発はその、Z1-Θさんも壊れてしまうと思うので避けた方が良いですわ。」
「壊れる⁉嫌ダ、其恐い!」
警戒色のつもりかZ1-Θの上部が絳く光り出した。
セレ神さん言ってましたものね、Z1-Θさんは危険察知能力が低いから教えてやってくれと。
食蟻獣に進んで食べられたりもしましたし、確かに恐い物知らずですわ。
「大丈夫デス、仮に爆発しても此処に防壁が張られますから。」
「其未だにちゃんと機能するんでしょうね・・・。」
まぁ確かに爆発し続けて来た割に此処は綺麗だけれども。
ちらとロケットに乗せられた兎達を見遣った。
爆発なんかしたら勿論此の兎達は・・・。
「其ではそろそろ発射しますよ皆サン!」
「私は可愛ィ彼の子の傍に居ます。」
「傍って言ってもぅ・・・此処から出ちゃ駄目ですよぅ。」
一応其は理解してくれたみたいで、ツミンは例の兎の乗ったロケットの正面へ移動するに留めた。ロケット本体とは距離もあるし、大丈夫だろう。
でも良いのだろうか、此の儘行かせてしまっても。
下手したら可愛がっている彼の子が爆死する瞬間を目撃してしまう事になるのに。
其でも止めた所でか、此の工場の存在理由ですら否定してしまったら彼等の居場所は無くなってしまう。
・・・見届けるしか、ないのだろうか。
「ツミンさん、良いんですの?」
如何仕様もない事は分かっていても確かめたかった。
「ハイ、此が彼の子の役目です。」
「でも、今なら未だ止められましてよ。」
「イエ、此は此の子が生まれた時から決まっている事デス。」
じっと兎を見詰めた儘、淡々とツミンは答えた。
其が役目と言うのなら、ちゃんと水鏡へ向け飛ばす事がせめてもの願いなのだろうか。
ベールも少し落ち着いて来たのか立ち上がって此方へ寄って来た。
「そ、そろそろなんですか・・・?」
「ハイ、発射カウントダウンを開始します!」
辺りで点検をしていたロボット達も下がり始めた。後にはロケットと兎丈が残される。
続けて天井が緩りと開き始めた。スライドして旻が顕になる。
矢張り可也長い間此処へ滞在してしまっていた様だ。気付けば外はもう冥く、陽が落ち切ろうとしていた。
もう半刻もしない内に零星が見えて来る事だろう。
「ア!水鏡が見えるよ!」
Z1-Θが指を差す迄もなく旻には大きな天体が一つ輝いていた。
薄闇から覗く銀色の丸い零星。彼が恐らくは、
「然うです。彼方へロケットを飛ばすのデス!」
「凄い・・・あんな所、届くんですの。」
思わず見入ってしまう。届くも何もなんて離れているんだ。想像すら出来ない。
「彼処へ彼の子は・・・、」
ツミンも思わず旻へ目を向けた。伸ばし掛けていた触手を下げる。
天井が開き切り、一度静寂に包まれた。
間もなく、ロケットが飛び立つのだろう、そんな予感がじんわりと満たして行く。
そして一番端のロケットが轟音と共に光り始めた。
エンジンに点火したのだろう。だが中々飛び立たず、何度か凱風が渦を巻く。
此は・・・余り良くない予感がするけれども。
でも一同がロケットの打ち上げを見るのは初だ。今から如何なるのか全く想像出来ない。
然うして見守っているとロケットは飛び始めた。
緩りと少しずつ浮いて行き、後方から激しく炎を吐く。
距離としてはそんなに離れていないのに熱さを感じない。若しかしたら既に防壁なりが働いているのだろうか。
焔迄も皓く、力勁くロケットを押し出して行く。彼の金属の塊が少しずつ飛び上がるのだ。
ビリビリと震える様な空気が張り詰める中、兎丈は変わらず大人しくしていた。
何でもないかの様に只鼻を動かして、其の大きな瞳で何を見ているんだろう。
だが真直ぐ飛んで行っている様に思えたロケットは急に角度を変えた。
自分達とは反対方向に先端を傾けて行く。
此処からでも分かる、彼の角度では決して水鏡へ行けないのに。
然う思う間にロケットは急に勢い付き、スピードを上げた。そして地表に沿う様な形で飛び立ってしまったのだ。
一同は何も言えずに只固まってしまう。ロケットは確かに飛べた。でも彼では何処かへ墜落してしまうだろう。
見る間にロケットは小さく遠くなってしまったが、余りにも角度が付いていた為に、地平へ隠れて見えなくなってしまった。
ロケットが飛び立った事で又静けさが訪れる。でも其は本の数分で、又新たなロケットに火が付いた。
入れ替わりで、先と同じ様にロケットは飛び立って行く。皓い焔を吐いて上がって行く。
でも今度のは暫く浮いた所で急に力を失った様に緩り落ちて来た。焔は出ているのに少しずつ高度を落としてしまう。
寧ろ焔が出ている所為で回転が掛かってしまったのか、ぐるぐると回り乍らロケットは落ちて来た。
場所自体は逸れていたので離れた地点へと其の儘ロケットは見えなくなってしまう。
其を見届ける間もなく次なるロケットに火が付いた。
噫此を、延々と繰り返しているのかとカレンは一柱静かに思った。
こんな悲しい失敗を誰が見る訳でもなく繰り返されている。
淡々と当たり前の様に、目の前で次々兎達は無為に殺されて行くんだろう。
あんな無残な終わりがあるだろうか。
手も口も出せず、見ている事しか出来なかった。
でも此は余りにも・・・余りにも切なくて淋しい。
此処はロケットと兎達の墓場、否処刑場だ。
目の前で繰り広げられるのは誰も望まない無意味な殺戮だ。
此が黔日夢の次元の後に残された物、夢の残骸がこんな形で息付いていたなんて。
次のロケットに点火される。屹度もう直ぐ彼のロケットも、
然う思う間もなく、其のロケットは突然其の場で爆発をした。
激しく焔を撒き散らせ、煙が広がって視界全てを覆ってしまう。
其迄と違う破裂音が続いて火柱が上がった。
思わず顔を背けるが、確かに防壁とやらは働いているらしく、此方に被害はない。
多少揺れる程度で煙も焔も来ない。
だから猶の事、此の光景を受け入れられないのだろうか。
直ぐ目の前で起きている事なのに現実感がない。目の前で起こっている悲劇も、熱や息遣いすら届かない。
彼の兎は最後どんな目をしていたんだろう、彼の火柱は旻から見えただろうか。そんな思考が散らばって。
煙は直ぐに消えて行った。何やら唸る様なモーター音が奥から聞こえるが、何らかの装置が働いているのだろうか。
そして其処には残骸となってしまった哀れなロケットが残されていた。
真黔に染まってしまい、バラバラになってしまって元の形も思い出せない。
僅かに焔を散らしてはいるが、もう完全に壊れてしまっているのは明らかだった。
只未だロケットは其の先端を旻へ向けていた。まるで未だ飛べると足掻く様に、隣のロケットに寄り掛かる様に立っていたのだ。
もう兎の姿なんて見えない。否、目を逸らしてしまったのかも知れない、そんな惨状だ。
加えて壊れたロケットが散乱した儘だと言うのに次のロケットのエンジンが早くも点火しているのが見て取れた。
飛び散る火花とは違う焔が燃え上がる。あんな状態で飛んだりしたら、
「コ、コルコルさん、直ぐに止めないと彼の儘じゃあ次のも壊れてしまいますわ!」
「一度発射シーケンスに入りましたら後は自動で行われるので止められません。」
「で、でもぅ其じゃあ・・・、」
つい目の前にあるロケットを見てしまう。
ツミンが気にしていた兎だ。此の儘じゃあ飛び立つ以前に、
若しかしたら彼の中は完全防音なのだろうか、隣で仲間が死んでいるなんて気付いていないらしく、兎は鼻をひくつかせる丈だ。
ツミンもじっとそんな兎を見詰めていた。
此じゃあ、仮にロケットがちゃんと出来ていたとしても飛べる訳がない。全て無駄に終わってしまう。
ツミンが彼丈可愛がっていたんだ。役目と言ってもこんな終わりは残酷過ぎる。
でも止められないなんて言われてしまったら如何したら良いだろうか。
ロケットの構造なんて見学した丈で詳しくはないし、かと言って此処を出て止めるのは余りにも危険だ。
何とか止めないといけないのにと、焦り許りが募って行く。
そんな一同の前で案の定、次のロケットは上手く飛ぶ事なんて出来なかった。
先程爆発したロケットの部品に引っ掛かり、飛ぼうと浮いた直後に大きく曲がってしまう。
そして其の儘横倒しに、隣のロケットへ盛大にぶつかった。
其の衝撃でエンジンでも付いたのか焔が立ち昇る。次々とロケットはドミノ倒しになり乍ら爆発と墜落を繰り返していた。
其の先には彼の兎のロケットが、此の儘では巻き込まれてしまうのは明白だ。
流石に兎の方も何か感じ取ったのかそわそわと耳を揺らし始めた。
でも如何する事も出来ないだろう、気付いた所で打ち上げられるしかないのだ。
ツミンも其の変化に気付いたのか僅かに身を乗り出す。
いよいよ其のロケット迄焔の波が届いた時だった。
倒れ掛けていたロケットを包んでいた焔が消え去る。そして傾いだ儘、まるで時が止まったみたいにぴたりと動かなくなった。
辺りに散っていた焔も其以上進行はしない。未発射のロケットは無事な様だ。
此はまさか、
カレンが目を凝らすと、ロケットの表面が其迄と違う輝きを放っている事に気付いた。
鋭く曦を反射して、滑らかな表面が少し直線的になっている様な。
「此若しかして・・・ダイヤの、」
そっとベールが呟くと、ダイヤは小さく溜息を付いた。
「・・・流石に黙って見て置けないでしょ。」
「あ、ダイヤさん確か涼属性でしたわね。」
術を放った様子なんて全く気付けなかった。其にしても高度な術だ。彼の一瞬でロケットを丸毎凍らせてしまうなんて。
加えて焔に全く動じていない。純度も高いので溶かす事すら出来ないのだろう。
「ほら、何ぼさっとしてんのよ。」
ダイヤに突かれ、慌ててリーシャンは羽搏いた。
「え、えっとぉ然うですねぇ。一寸綺麗にしますよぅ!」
ロケットを中心に強風でも吹いているのか散っていた部品が飛んで行き、隅へ遠ざけられる。
ロケット自身には何も起きていないのに辺り丈が見えない手に押されて行く様に片付いて行った。
「凄い!何が起きてるの?変わった魔力だね。」
「然うですわね・・・。此はリーシャンさんですの?」
「然うですぅ、晶なので取り敢えず片付けてみたんですがぁ・・・。」
晶、話は聞いているけれども何とも不思議な力だ。
十二法以外にもあるなんて事、カレンは終ぞ知らなかったので眉唾物だったが、実際目にして分かる。
宙に近い物を感じたが、こんなはっきり事象を起こせる物は他にない。此が晶の力なのだろう。
「其の儘ロケットも飛ばしちゃいなさいよ。」
「さ、流石に其は無理ですぅ。」
何とか此で彼のロケットを邪魔する不安要素は取り除かれただろう。
カレンも如何にか手を貸したかったが、もう出来る事も思い付かない。此の儘見ているしか出来ないのだろうか。
然うして一同が見送る中、終にロケットのエンジンに火が付いた。
一先ずは爆発する事もなく、緩りとロケットは飛び立って行く。
祈る様に見詰めていた一同の前で、だがロケットは僅かに先端が曲がって行っている気がした。
真直ぐ旻を指していたのが少しずつ曲がって、逸れた儘飛び立とうとしている。
「・・・私モ、行きます。」
息を呑んで見守る中、突然ツミンはロケットに向け、大きく跳躍した。
止める間もなかった。僅かに気付いてカレンが手を伸ばそうとしたが、其は余りにも唐突だったのだ。
触手を発条にして跳んだのだろうが、そんな機動力があるなんて思っていなかった。跳んで行ったツミンは其の儘兎目掛けて飛んで行く。
そしてロケットへしっかりと触手を絡ませた。窓の傍へとツミンも貼り付く。
ツミンのぶつかった衝撃でロケットの先端は再び旻を目指していた。
彼の重さが支えとなったのか、其の儘真直ぐロケットは飛んで行く。
其の一瞬の出来事がまるでスローモーションの様に流れて、急に色を取り戻した様にロケットは加速する。
「ツミンさん・・・。」
思わずそんな呟き丈を漏らして、ロケットは飛んで行ってしまった。
其迄のとは違い真直ぐ、旻に掛かる水鏡目掛けて突き進んで行く。
「ツミン、行っちゃったの。」
一同は旻を見詰めた儘、小さくなって行くロケットが完全に旻に溶け込む迄眺めていた。
時が再び止まった様に静けさ丈が残る。そんな中、コルコル丈触角を光らせて揺らしていた。
「飛行安定、無事大気圏突破。軌道に乗ります、軌道に乗ります。」
「コルコル?如何したの?」
「・・・初めて成功しました!終に此のプロジェクトは完遂です!水鏡へ兎を届ける事に成功しました!」
何処か嬉しそうなコルコルの声丈が響く。其でやっと意識が旻から離れた。
「えっと・・・コルコルさん其って、」
「ハイ!終に、終にソラミテクノ工場はプロジェクトを完遂しました!素晴シイ!こんな日に立ち会えるなんて!」
「じゃあ先のロケットは無事、飛んで行ったのね。」
「・・・ツミンさんの御蔭ですねぇ。」
リーシャンはそっとダイヤの肩へ留まった。翼で嘴の先を拭く。
飛んで行った時は如何なる事かと思ったけれども、でも、
如何やら絶妙にツミンの重さが掛かって真直ぐ飛べたのだろう。そして其の儘水鏡へと。
次元の主導者毎、行ってしまって如何した物かと思ったけれども。
分かる、胸に残る此の安堵に似た物は、もう此の次元で成す可き事は済んだと告げている。
「ダイヤ、凄いよ。ダイヤの御蔭でもあるし、」
「貴方は今回も何もしなかったわね。」
「う、其はコチも同じですわ・・・。」
然うだ、ダイヤさんが動いてくれたからロケットは何とか飛ぶ事が出来たんだ。
けれども彼女は何処か浮かない表情を浮かべていた。
「でも飛べた所でどうせ直ぐ死ぬんでしょう。」
分かっている、何もない宇宙で兎一羽が生きられる筈がない。
寿命が本の少し伸びた丈、死因が変わった丈。
此で次元が救われただなんて彼女は思いたくなかったんだろう。
言い換えれば彼等の犠牲で此のプロジェクトは完了したとも言えるのだから。
思わずカレンは目線を下げてしまったが、一歩ベールは前へ出た。
「でも、一緒に終われたなら、其の方が良かったよ。」
「・・・っベール貴方、」
思わずダイヤは視線を上げ、彼と合わせた。
未だ顔色は悪いが、何時もみたいに困った様に咲う彼の視線と搗ち合う。
「僕は然う思うよ。終わりも選べないなんて悲しいし、終わりがないのも辛いし、無為に残る位なら僕は、意味のある終わりを迎えたい。」
然う言って咲う煤竹色の瞳を、ダイヤは何故か逸らせなかった。
其は神となった故の願いか、悪霊としての祈りか。
其の瞳の奥の真意迄は窺い知る事は出来ない、幽閉された儘終わった彼しか知らない物語だ。
「狗の分際で随分生意気言うわね。」
「え、えとまぁその・・・うん。」
口籠ってはにかみ、誤魔化してしまう。そんな彼にダイヤは溜息を返した。
「貴方に思う権利なんて無いわよ。どうせ私に振り回されて終わるんだから。」
「ダイヤァ、其は余ですぅ。」
「・・・うん。」
でもベールは何処か嬉し気で、静かに咲っている丈だった。
「皆サン、如何されますか?本日のソラミテクノ工場の見学は以上になりますが、他に何か御用等がありましたらドウゾ!」
コルコルは触角を振り上げて緩りと揺らした。
「あ、然うですわね。あの、終わったと言う事は、もう此処は閉鎖してしまうんですの?」
然うだ、ロケットが無事飛べたなら、此処の役割は何の道終わるのだろう。
彼から他のロケットも動いていない様子だけれども。
「ハイ、此処は解体されます。無事プロジェクトは完遂しましたので。」
「私達が最初で最後の見学者になっちゃったんですねぇ。」
もうこんなプロジェクトは終わりを迎える。兎が死ぬ事もロケットが落ちる事も。
此で屹度良かったのだろう。先のベールの言う通り、意味のある終わりを迎えられたのなら。
そっとカレンは水鏡を見上げた。
勿論此処から見える訳がない。でも屹度今頃彼処にツミンと兎は居るのだろう。
一緒に終わりを迎えて、水鏡に兎は居る、其の証明として。
最後に彼は自分の意志で跳んで行った様に見えた。
彼がツミンの本心に因る行為なら、其を果たせたなら屹度、
「其じゃあもう終わりましたわね。如何ですの皆さん、何か他にありましたら。」
「何もないわよ。さっさと帰りたいわ。」
「ダイヤ頑張りましたものねぇ。」
「んと・・・僕も特には。」
皆ももう此の次元は大丈夫だと判断したのだろう、互いに頷き合う。
「終わったの?ツミン水鏡へ行ったけど、其で良かったの?」
「えぇ、然うみたいですわ。屹度・・・彼のしたかった事をちゃんと遂げられたなら。」
一時は如何なる事かと思ったけれども、終われたなら良かった。
コチももっと色々活躍したかったけれども、仕方ない。次頑張らねば。
「コルコル!今日は案内してくれて有難うね!僕達そろそろ帰るよ。」
Z1-Θがコルコルを真似て淡く黄色に光り始めた。
コルコルもそんな彼に向けて触角を振る。
「此方こそ、御一緒出来て楽しかったです!デハ出口迄御連れしますよ。」
「あ、其は大丈夫かな。皆此の儘帰るよね?」
「然うですわね。コルコルさん大丈夫ですわ。私達直ぐ帰れますから。今日は本当に助かりましたわ。」
次元の迫間へ帰る所を余り見られる可きではないのだろうが、彼相手なら問題はないだろう。
「然うデスカ、ハイ!喜んで貰えて良かったデス!御元気デ、御気を付けてお帰リクダサイ。」
「ウン、バイバイコルコル!」
一同の姿が其の儘霞の様に消え冴える。
コルコルは彼等が消え去っても触角を振り続けていた。
「・・・私も、最後に役目ヲ・・・終え、レテ、良かった、デス。」
呟きにも似た声が漏れると、緩りとコルコルの照明は消えて行く。
後は静かに工場を照らす玉兎のみが彳むのだった。
・・・・・
数多の願いが旻を舞う
見上げる者の影は絶え
代わりに彼の絳目が君を見据える
永遠の瞳、其こそが
変わらぬ想いを掛ける君を抱く様に
はい、もうサブタイトルが答えの御話でした。
割とビターエンドに終わりましたね。けれども夢で見た際はもっとダークだったので、未だ良い方かなと思います。
此は前も書いたのですが、自分とはしては次元の救い方は案外シンプルにしたいんですね。
今回は正に其で、店の神達は必要だったのか?と言うストーリーだったのですが、必要なのは必要です。彼等が居なけば、加えて一柱でも欠けたら此の未来には行けませんでした。
だから軽く背中を押す、其が本来の店の仕事なんだよって書きたいんですね。神だからって彼等は特別ではないのです。
因みにセレが勁い筈なのに良く死に掛けるのは、彼女が無茶をし勝ちなのもありますが、一番の原因は彼女の干渉力です。
彼女神人がやばい次元を救いたいと言う懐いが強いので、自然然う言った次元が宛がわれてしまいます。(とんだ疫病神だよ・・・。)
こんな未来でも、彼等は何かを掴めた事でしょう。さて、次回は・・・モフモフストーリーです!
未だ書き終わっていませんが、大体半分は書けたので年内に公開出来るかと思います。
恐らく次回が今年最後の投稿になりますね。うぉお!書き上げるぞぉ!
と言う事で又次回、御縁がありましたら御会いしましょう!




