60次元 翠翼よ空白の神殿に囚われし次元
まずまずの更新頻度で今日は!
おぉ、終に此の話迄来たかって感じです。最近こんな事しか言っていない気がする。
個人的には大分佳境に入り気味なんですよ。って此も数年言い続けそう。ずっと佳境です、凄惨な人生過ぎる。
過去作の誤字修正と並行して書いていますが、最近割と反省しています。
と言うのも、其方を疎かにした許りに若干(?)不都合が起きていまして。
単にド忘れなんですけれども、不味ったなぁと思ってちょくちょく修正しています。大きな違いはないんですが、言ってしまえばキャラ同士の呼び名が勝手に変わっちゃってるんですね。
前は名前で呼んでいたのに急に役職名で呼び始めたみたいな、敢えてしてる場合もあるけれども普通に誤りもあったので修正中です。てへ!
今後はちゃんと何の子が何を如何呼ぶかもメモろうと誓いました。十年以上書いて初めて痛感しました。
と言う訳で、現在全体の三分の一位見直しました。セレの過去編が長かった・・・。
けれども未だ鎮魂の卒塔婆迄行っていません。彼処が第二の山だと思っています。ひ、怯むな進めー!
そんなこんなで今回は割と大詰めな御話です!どうぞ御楽しみに!
詠っておくれ翠の鳥よ
其の声は霄を呼ぶ、水鏡を浴びて飛び立て
其の静けさは其方の物、其方の詠を響かせる為に
噫だから詠っておくれ翠の鳥よ
でないと、此の地を染める血が、顕になってしまうだろう
・・・・・
「こんな所で良いのかセレ。」
「噫、余り離れ過ぎるのも心配になるから。」
此処は次元の迫間にある次元龍屋、其の近くで鬱蒼と繁った蕭森の中だ。
水鏡も無い霄なので粗真黔だ。蕭森に入る時なんて、まるで巨大な怪物に喰われるかの様だったけれども。
二柱で入る分には何も怖くはなかった。先導するセレには全て見えていたのだから。
其の彼女が不意に立ち止まる。本の少し、人一人がやっと座れる様な狭い地だけれども。
此の地点は店から多少離れている程度だ。此処から自分は見えはしないけれども、彼女には手に取る様に分かるのだろう。
静かな蕭森だった。生物の気配が殆どしない。碧樹許りで創られた黔い蕭森。
二柱丈で斯うして外に出ると、まるで前世に二柱で瀛海を見に行った事を懐い出す。
懐かしい、セレは如何思うんだろう。少なくとも俺にとっては咲って語れる懐い出だけれども。
「なぁセレ、何だか一寸懐かしい感じがするな。瀛海に行った時、あったろ。」
「・・・噫、私も同じ事を考えていたよ。」
振り向いた彼女は苦笑して口元に手を当てた。
闇の中の彼女は良く映えている気がして、俺は少し丈緊張してしまう。
「でも、今回は観光じゃあないからな。」
「まぁ然うなんだけど、偶には斯う言う風に散歩しても良いなって思ったんだよ。」
「散歩か・・・うん、其は悪くない。」
彼女は咲ってくれるけれども、でも其の笑みに何処か影がある気がした。
後ろめたい様な、今更そんな気を使わなくても良いのに。
「じゃそろそろ始めるか。一寸待ってくれよ。上脱ぐから。」
彼女が黙って頷いたので俺はさっさとシャツを時空の穴へ抛る。
其の間に彼女も手足の晒を外して行く。血は付けたくないもんな。
何処からか濃い果実の様な薫が漂って来た。自覚した途端に少し丈上体がぐらついた。
俺は、もう如何しようもなく此の毒の虜になってしまっている。求めてしまう、そんな優しい毒で。
胸一杯に吸うと一気に瞼が重くなった。微睡む様に心が穏やかになる。
「・・・痛かったら直ぐ言ってくれ。」
トン、と胸元に彼女の手が置かれる。
其丈で俺の足は砕ける。あっさりと膝を着いて大人しくなってしまう。
其から抗えない儘に、誘われる儘に彼女に押し倒されてしまう。
もう俺は見ている事しか出来ない。されるが儘に全てを受け入れる。
彼女の瞳が鋭く煌めいた。水鏡の代わりに澄んで行く様で。
彼女の牙が近付いて俺の頸筋に吐息が掛かる。其を擽ったいと思った刹那、牙が突き刺さった。
でももう痛みはない、血を吸われて行く感覚も大分慣れて来たと思う。
何時も彼女は最初に血を飲む。前菜みたいな物なのだろうか。
確かに行き成り肉にがっつくのよりは良いのかも知れない。俺には分らない感覚なので色々聞いてみたいけれども。
嫌がる・・・のかなぁ。シンプルに興味がある丈なのに。好きな食べ物の話をする感覚で。
然うやって慣らせば彼女ももっと罪悪感なく食べてくれそうだけれども、如何だろう。
こんなに近いのに、俺は未だそんな距離感も分からなくて。
長く一緒に居ると思っているのに、分からない事だらけだ。此の蕭森の闇よりも深い。
俺は今一度彼女を見遣った。其の流れる銀髪にそっと手を掛けて。
でも、屹度大丈夫。触れられる距離に居る内は。此の温度を忘れないで。
薄く目を閉じると俺は小さく息を付いた。
甘い、何処迄も求めてしまうそんな甘さが喉を通る。
駄目だ。牙を立てたらもう止められない、只彼のみを求めてしまう。
こんなに美味しい物を自分は知らない。こんなに夢中にさせてしまう物なんて。
無意識に牙で傷を広げてしまう。
少しでも彼が呻けば直ぐ抜くのに、彼の息はずっと穏やかで。
自分は止められなかった、理由が見付けられない。
此の背徳感がより甘みを強めてしまうのだろうか。自分は別に甘党だとかでもないのに。
ずっと斯うしていたくなる程、自分は虜になってしまっている。
其でも忘れず波紋で店の事は見ていた。
誰も出て来ない様に、誰も来させない様に。
見護っていると口実を付けて其の実やっている事は彼の独占だ。
獲物を誰にもばれない様に隠して、逃がさない様にしているんだ。
こんな化物になりたかった訳じゃあなかったのに。其でも彼を求める事が止められないなら受け入れているのと一緒だ。
此の罪悪感毎、喰らっているんだ。だからこんなにも甘い。
最近一寸、彼の血を飲む事をさぼってしまっていた。だからこんな付けが回って来てしまった。
一応血の入った小瓶は貰っているけれども、一つでも飲めばもう抑えられなくなる気がして、気後れしてしまうんだ。
案外気軽に飲めないしな・・・飲んで暫くは実際結構気が昂ってしまう。
自分にとっての酒みたいな物になってしまっているのかも知れない。攻撃的になってしまうから、其の牙を仲間に向けないか恐れてしまう。
でも其もずっと飲んでいれば、何時かは慣れるだろうか。自分でコントロール出来る様になるだろうか。
喉が鳴る、甘い雫が落ちて行く。
つい強請る様に舌を乗せてしまう。牙が疼いて大きく傷を付ける。
・・・こんなの、慣れる訳がない。
分かってしまう、だってこんなにもガルダは美味しくて。
何度確かめたって劣らない。比べられない程常に美味しくて。
寧ろ、更に味が深くなって行っている様な・・・食べれば食べる程、美味しくなっている様で。
止められる、訳がない。自分は屹度ずっと此の儘だ。
如何仕様もない現実に、知らず涙が出てしまった。
自分でも驚きを隠せない。でも止まらなくて。
恐らく、食べている時の自分は色々と顕になってしまっている。
感情だとか理性とか、其が剥き出しになる様で。
だから恐い。此以上晒したくないのに。
「・・・っ、セレ、如何した。何処か痛いとか?」
はっとした様にガルダが視線を合わせて来る。
一度牙を抜いた際に顔を見られた様だ。でも拭っている余裕はなくて。
・・・痛いのはガルダの方なのに。
「違う、その・・・如何してガルダを喰わないといけないかと思って、」
話すと、少し丈落ち着く。彼に甘えてしまう形になるけれども、其でも。
今回も、姿は変わりたくない。尾位で済ませられる様にしたいけれども。
「今更、そんな事で未だ悩んでるのか。」
彼は苦笑するけれども、何がおかしいのか些とも分からなかった。
今更でも、そんな事でもない、全然違う事だよガルダ。
出掛かった言葉を飲み込んで、堪らず彼の頸筋に噛み付いた。
もう少し、血が欲しい。喉の渇きが消える迄。
「俺は痛くもなんともないし、気にしなくて良いって何時も言ってるだろ。」
言ってくれるよ。でも、
「そんな簡単に・・・割り切れる訳ないじゃないか。」
「うーん、俺としては味の研究とかしたい位の心地なんだけどな。」
「味の、研究って、」
とんでもない言葉につい牙を放してしまう。
然う言えば前も何処が美味しいかとか聞いて来たっけ。
気になる・・・のか?まぁ自分の躯なのか。
でも何と言うか・・・答え難い。
「例えば俺の躯で料理とかしたら、セレも食べ易くて良いかなとかって。」
「・・・ガルダ、自分で何を言っているのか分かってるのか。」
自分で自分を料理するなんて正気の沙汰じゃない。
・・・仲間の肉を食べている自分が言えた事じゃあないけれど。
「頭が回ってないんなら寝た方が良いぞ。」
流石に一寸心配になって来る。此の時のガルダは何時も一寸変なんだ。
変と言うか・・・普段言わなそうな事をポンポン平気で言う。
此も自分の毒の所為なのだろうか、自白剤みたいな。
「頭は・・・確かに余り回ってないけどさ。結構本気だぜ?料理の事。」
優しく彼は咲ってくれる。喰われているのにそんな顔が出来るなんて。
少し丈牙を向けるのを躊躇した。今の彼の腹を裂く気にはなれない。
喉が鳴るのを何とか堪えて首を振る。
「俺が何時も作ってる奴みたいに出したらさ。セレも其の方が良いのかなってさ。まぁその・・・直の方が美味しいのかも知れないけど。」
撫でる為なのか伸ばされた手を見て、もう堪え切れなかった。
思わず齧り付く。骨迄削りそうな程牙を立てて。
引っ張ると簡単に腱が千斬れてしまう。
口中に広がる何とも言えない味に、自然口が早くなってしまう。
一寸硬いけれども弾力があって、噛めば噛む程味が出て来て。
・・・、何考えているんだ。こんな風に味わいたい訳じゃあないのに。
何度か頭に浮かぶ其を振り切っていると、ガルダが忍び笑いを漏らした。
気になるけれども、其でも食べる事を止められない。呑み込んで直ぐ又腕に喰らい付く。
掌の方が肉厚そうで美味しそうだ。膨らんだ肉に牙を立て、手首毎引き千斬る。
指は・・・骨が多いけれども噛み砕けない事もない。刺さらない様気を付けて一本ずつ千斬って行く。
爪が歯の隙間に入った為、少し丈顔を上げた。爪を差し込んで取って行く。
不図、未だ彼が咲っているのが目に付いた。
・・・狂ってしまっていないだろうか、本気で心配になって来る。
「いや、そんな美味しそうに食べてくれたらさ。俺も嬉しいよ。・・・料理する迄もないかな。」
「・・・そんなに料理したいのか。」
「まぁ一寸インスピレーションが沸いてさ。やる気はあるけど。」
「絶対作ってる途中で吐くと思うぞ。」
手の残りに噛み付く。然うしている間にも彼の手は元に戻っていた。
骨の中の、髄を啜って、少しずつ削って行く。
「あー確かに。うーん、じゃあ最初熟成肉とかからかな・・・。」
「最初って、」
思ったよりも計画的にするつもりなのか。そんな具合で神肉専門になられてもと思うんだが。
とんでもない事を本当に、思わず答えてしまうじゃないか。
其を美味しそうかも知れないと思い掛ける自分に、本当に吐き気がしているのに。
・・・其ともガルダは違うのか。
美味しそうに食べている姿で喜ぶのなら、思いっ切り食べた方が良いとでも言うのだろうか。
そんな恐ろしい事を彼は肯定してしまうのか。
考えつつ、牙は彼の腹に掛かる。
薄皮なんて裂いて、其の下の筋肉も噛み千斬る。
もう少し下迄牙を差し込んで、膜を引き千斬れば内臓にあり付けるから。
彼の絳を求めてしまう。此じゃあアティスレイと変わらない。
彼女が綺麗と言った絳を、今の自分は理解出来てしまうから。
綺麗なんだ、綺麗なんだよガルダ。
ガルダの中にある絳が、血が、内臓が如何しようもなく。
綺麗で美しくて、美味しくて。
懐い出す丈で喉がひくついて牙を立ててしまう。
目当ての物を見付けて喜ばん許りに自然と尾が振られて。
尾が裂けて無数の蛇の頭へ転じる。まるで八岐大蛇みたいに意思を持つ。
蛇達は周りに散った血を回収して行く。自分と彼を世界から隠す様に取り囲んで行く。
彼等と味覚は共有していないのか、味は分からない。でも満たされて行くのは通じて来る。血が流れて来るのだ。
つい溜息が漏れる。でも未だ足りない、もっと浴びる様に。
曝け出された彼の腸に齧り付く。
噛めば口中に一気に広がる甘さに少し酔ってしまう。
矢っ張り、前より甘くなっている気がする。明らかに味が濃くなっている。
其なのに不思議と胸焼けとかはしなくて、喰らい尽くしてしまう。
腸は長いので爪で押さえて引き千斬る。両手で抱く様に持って、余す事なく端から平らげて行く。
此の噛み心地が何とも言えず、良い具合なんだ。柔らかくて、でも弾力性があって。
ガルダの内臓だと思うと、背が凍えてしまう程恐ろしく感じるのに、加えて其の怪我を負わせたのが自分だと自覚すると狂いそうな程悍ましく思うのに。
其でも只此の渇望の方が勝ってしまう・・・本当に何て浅ましい化物なんだ。
分からないよガルダ、如何して御前はこんな化物を如何仕様もなく受け入れてしまえるのか。
何故逃げない、何故そんな嬉しそうにするんだ。こんなの間違っているって。
・・・いけない、全てを彼の所為にしようとしている。自分の事なのに。
止まれないのは、牙を立てているのは紛れもない自分の意思じゃないか。
如何しても彼を食べている時は思考がぐちゃぐちゃになる。
嫌って程後悔して嫌悪感を抱いているのに。抗えない、こんなにも自分は弱かったのか。
確かにこんな事気にせず彼を食べられたら凄く、良いだろうな。
本当に永遠に喰らい続けられそうだ。一種の理想とも思えるかも知れない。
其を・・・彼が望んでいるとでも言うのだろうか、本当にそんな事を。
頓自分の罪悪感を拭い去ろうと文字通り身も心も全て捧げる彼が。
其は甘い誘惑だ。本心だったとしてもでも、其に乗る事は出来ないんだ。
自分は手放してはいけない、此の罪を。でないと屹度。
真の姿より、黔の化物より、もっと恐ろしい物に自分は成ってしまうから。
分かってしまう、干渉力が荒ぶっているのを。
此に従ったら只の欲望の獣となる。其丈は本当に嫌なんだ、そんな風に堕ちたくない。
何の道堕ちるしか道がないならせめて、
・・・・・。
無理矢理思考に蓋をして次の内臓に噛み付く。
心臓に丈は気を付けて。絶対に傷付けない様に。
不図ガルダを見遣ると、彼は薄く目を閉じていた。
耳を澄ますと小さく寝息が聞こえて来る様で。
眠って・・・しまったらしい。毒にすっかり侵された所為だろう。今は霄なのもあるだろうし。
穏やかな寝顔だ。喰われているとは思えない程の。
・・・確かに寝られるのなら痛みは殆ど無いんだろうな。
そんなに此の毒は勁くなってしまっているのだろうか。其ともガルダだから、再生出来てしまう彼だからこそ、長く染み渡っているのかも知れない。
自由にする、離れるよう言いつつも、結局自分が縛っているんじゃないか。
こんな黔い蕭森に誘い込んで、動けなくして、全て奪って。
再生し切った腸に又噛み付く。どんなに否定しても止まらない。
此の温かさに知らず安堵してしまう、気を抜けば自分も寝てしまうかも知れない。
噛み千斬るが、彼は身じろぎ一つしない。
何度も其の寝顔を確認してしまう。まるで前世を懐い出す様だ。
・・・彼の時は霄も忙しかったからこんなじっくり彼の事なんて見られなかったけれども。
こんな自分の前で無防備で眠れるなんて、ある意味凄いな。
そんな彼の頬に小さく血が付いているのが目に付いた。
彼の皓過ぎる頬に其の絳は良く映えている様で。でも同時に穏やかに眠る彼の其とは不釣り合いな気がして。
そっと自分は其の血を舐め取った。
彼の吐息が直ぐ傍でする。少し丈自分は苦笑を浮かべてしまった。
せめて、夢の中は綺麗に。こんな血腥い現実を忘れられる位に。
壊れた化物は血に塗れた小さな祈りを囁くのだった。
・・・・・
玻璃の割れる音で目を醒ました。
途端に広がるは鏡の様な世界で、曦が四方で乱反射する。
突如波紋が写した景色に思わずセレはフードを目深に被った。
僅かに光の魔力を感じる。恐ろしい曦だ。
恐らく陽を反射しての曦だからだろう。直接程の力はないにしても力は秘めている。浴びない様気を付けないと。
此の短時間でもダメージになってしまった様で腕が少しひりついた。
しっかりとオーバーコートを着込み、より波紋を広げて行く。
「うわぁ・・・凄い綺麗な所だね!」
―うん、魔力も高いのかな、気持良いや。―
「然うね。自然の力が強い次元みたいだわ。・・・セレ?大丈夫かしら。」
目敏くもロードにばれてしまう。自分がしっかりとオーバーコートを着ている事に気付いたのだ。
「噫、一寸此の曦は私に良くないみたいだな。斯うしていれば問題ないから大丈夫だ。」
「え、じゃあセレちゃん場所変える?無理は良くないよ。」
「いや、此位は如何って事ないから良いが、ソル、ソルの方こそ大丈夫か?」
先からソルが一歩も動かず呆然としていたのが気になっていたんだ。
L⊝ ▼▲/も心配していた様で彼女の周りを漂っている。
そっと彼女の肩を叩くと弾かれた様に顔を上げた。
―う、あ、えっと・・・?ご、御免一寸ぼーっとしとったみたいで。―
「本当ね。若しかして具合が悪いのかしら。休んでも良いのよ。」
―そんな事ないんよ!大丈夫、只その、何か安心すると言うか・・・変な感じで。―
「うん然うだね。何だか温かい感じするもんね。変わった所だし、ドレミ楽しみだよ。」
実際ソルは体調が悪い訳ではないらしく、パッと表情を明るくさせた。
皆重畳なら良い事だ。自分丈気を付ければ良い。
セレ達が着いた次元は水精で出来た蕭森の様な所だった。
少し曇った石竹色の水精が至る所にある。水精の中は液体なのか反射する曦は常に形を変えた。
そして其の水精達は形が多少独特だった。茸や笹の様な一見植物の様な形を取っている。
実際薫風にも揺れているみたいで不思議な感覚だ。
甲の様に水精同士が折り重なって曲がっているのだ。もう一種の芸術作品みたいで、見れば見る程其の精巧さに見入ってしまう。
然うして見ると案外陽自体は入り込んでいない様だった。旻はどんよりと靄が掛かっているかの様にはっきりしない。旻全体が僅かに明るいと言った程度だ。
只此の水精の樹々が其の僅かな曦を反射させて輝いているのだ。
ん・・・近くに人が居るな、でも近付く可きか・・・武装している様だが。
―あの、良かったら私が少し日除けになりますよ。―
悩んでいる姿を別に取られたらしくL⊝ ▼▲/が寄って来る。
なんて気遣いの出来る良い子なんだ、有難く甘えさせて貰おう。
早速L⊝ ▼▲/の胴に手を回し、頸に巻く。あー落ち着く。
―あ、あの此じゃあ余り意味ないと思うんですけど。―
「いやぁ素晴しい日除けだ。本当に有難うL⊝ ▼▲/。」
―あ、じゃあ僕のモフモフも卒業だね。―
「ッ⁉ま、待ってくれローズそんな事は!見捨てないで、私を捨てないでくれ!」
L⊝ ▼▲/を頸に巻きつつローズの背を押さえようとするセレに思わずドレミは吹き出した。
ローズは絶対態と揶揄っているんだ。悪いけど、でも止めようとは思わなかった。
―セレ、其は欲張りセット過ぎるで。―
「そんな、此位赦される可きだろう。」
「でもセレ、そろそろ行かないと。一度モフモフに目覚めたら霄になってしまうわ。」
ロードに優しく諭され、セレの手が止まる。彼女には逆らえないのだ。
「う・・・然う、だな。一応向こうに人が居るみたいだし、其方からか。」
―然うですね。でも何か変な感じがするんです。皆さん注意した方が良いかも知れません。―
然う言ってL⊝ ▼▲/は首を少し上げて空気の匂を嗅いでいる様だった。
「変な感じって?ロー君は如何かな?」
―うーん、僕も何か感じるよ。でも不思議と懐かしい感じがするんだよね。―
此は如何やら一筋縄には行かない様だ。自分は特に其の類は感じないのだが・・・。
「じゃあ如何する?人が居るとは言ったが武装している兵っぽいからな。自分も悩んでいるんだが。」
「兵⁉ちょっ、一寸何処なん⁉」
「え、グリちゃん⁉如何したの、安心して。此処には居ないよ。」
―えっと、うち、一寸会ってみたいんよ。何か予感がすると言うか。―
突如大声を出したりもじもじしたりと彼女は明らかに普通じゃあなかった。
何だろう、何が彼女達を然うさせているのだろうか。
「場所は分かるが・・・良いのか?行っても。」
「行きましょう。でも直ぐ接触はせず、少し様子は見た方が良いかも知れないわ。」
「うん、其でも良いかなグリちゃん。」
―分かった。うん、大丈夫。其の間にうちももう一寸落ち着くわ。―
一つ息を付いて彼女は顔を上げた。
少し戸惑っている様な色が見える。其でも何とか落ち着けようと何度か息を吐いた。
「じゃあ此方だ。そんなに離れてはないと思うが。」
そろそろと足を出していると不意に玻璃が砕ける様な音がした。
然う言えば此の次元に着いて直ぐもそんな音がしていた気がする。
でも振り返り掛けて止めた。波紋が先に伝えてくれたからだ。
其の音は水精が割れた音だったのだ。其処等中にある樹々が割れた音、只其丈。
只一つ普通でない事と言ったら、其が人為的に為された事位で。
「あら、案外脆いのね。此土産にしようかしら。」
「あ・・・う、うん、良いんじゃないかなローちゃん。」
そんな会話が聞こえてしまえば何が起こったか明白だろう。
其にしても彼女、樹一本持ち帰ろうとしているんだけど、入るの、其・・・あ、入るんだ。
時空の穴の中へしっかりと仕舞い込んだ彼女は満足気だ。まさか樹を丸毎土産にするとは・・・。
因みに自分も甲で樹の表面を叩いてみたが・・・罅すら入らない。うん、成程な。
―?セレさん何してるんです?―
「L⊝ ▼▲/、良い事を教えてあげよう。絶対ロードの手には掴まるなよ。」
彼は彼の恐ろしき暴力を知らないのだろう。自分の警告も良く分からなかったみたいで首を傾げていた。
其にしても何とも綺麗な次元だ。全ての景色が其の儘絵になりそうな。
じっくり見てはいるが、黔日夢の次元の事は懐い出せないな。来ている筈なんだが。
此の景色が壊されていないのは良い事だが、一体自分は何を壊してしまったんだろう。
―セレ、因みに次元の主導者って、其の兵の方からだったりするん?―
「噫然うかも知れないな。何だか力は弱いが、同じ方向からするな。」
―あ、じゃあセレも分かり難いんやね。何だかうちもはっきりしないなと思って。―
ソルの言う通りだった。此の次元の主導者が中々はっきりしないのだ。
彼の兵の一人とかだったり持物であればもう分かっても良い筈なのに。何となく弱い力を感じる程度だ。
又候土の中か?いや、そんな具合でもないな。兵である事は間違いなさそうなのに。
「然うなんだ。じゃあ向こうなんだね。でも何だかふわっとした感じだね。」
―うーん?其って次元の主導者が複数居て散らばってるって事?―
「然うではないわね。居はするのよ一人丈。でも私も断定出来ない位弱いわ。」
「皆そんな様子だったのか。此は益々兵を見ないとな。」
話している内に大分近付いて来た。隠れられそうな物陰を探す。
兵は五人居る様だった。一人隊長なのか前に出て指示をしている様に思う。
彼を聞けば此の次元の事がもう少し分かるかも知れないな。
ソルは耳が良かった筈だし、此の距離でも彼女に頼めば・・・、
「え、えぇ⁉」
然う思い振り返った瞬間に彼女が大声を上げていた。
正に驚愕と言わん許りに、此方が声を出して如何するんだ。
「ん、誰だ⁉」
当然兵達には即ばれてしまった様で、一斉に振り返る。もう隠れるなんて無理だ。
「ちょ、一寸グリちゃん⁉」
「此は・・・もう出るしかないわね。」
隠れ掛けていたドレミ達も姿を現す。
兵達は一同を見遣ると隊長と思しき者を何度か見遣った。緊張はしているが襲っては来ない様だ。
其の兵達は目が冴える様な美しい翠の鎧を纏っていた。
鎧と言っても宛て物のみが水精等でで出来ており、殆どは布製だ。
只随分と凝った刺繍がしてあったりと芸術的な仕上がりの様だ。
そして隊長と思しき者は兜をしているので見えないが、他の兵の顔立ちは人間の其だった。
只皆伸ばされた長髪は鎧と同じ翠色で何とも美しい。
向けられた瞳も同じ色で、静かに凪いでいる気がした。
「・・・っ、村の子、か?でも違う者も居る様だな。」
不図一度躯を震わせると隊長は然う声を掛けて来た。
敵意はない様に感じる。村は知らないが、然う勘違いして貰うと有難いな。
でも村の子と思われているのは誰だろう・・・ん、一応ドレミとソルが多少彼等に似ているか?
「噫、私達は旅の者で、案内をして貰っていたんだ。此の辺りの事は全然知らないからな。」
取り敢えず自分は除外だと思われるので何とか話を合わせてみる。
兵達も自分には警戒をしている様だし、まぁ・・・形が形だからな。
「然うか、其で此の儀式の間迄来てしまったのか・・・。」
隊長は何か考え込んでいるのか黙ってしまう。信じてはくれた様だが。
「こら、駄目じゃないか。今此処は忙しいから来たら駄目なんだぞ。」
「案内するなら陸橋の方が・・・まぁでも此処も景色が良いからなぁ。」
兵達も安心してしまったのか直ぐ警戒を解く。そしてドレミとソルの方へそんな風に声を掛けていた。
矢張り然うか、彼等は二柱を村の子だと信じている。
こんな直ぐ警戒心を解いてくれるなら、大きな事は起こっていない様だが、気になる言葉が出て来たな。
「良かったら教えて欲しいんだが、儀式の間って何だ?此処に何があるんだ?」
「ん、其も説明せずに連れて来たのか。此の先に神殿がある。其処で今、皇女の継承の儀を行っているのだ。だから本来余り立ち入ってはいけなんだが・・・。」
隊長は然う答えるとじっとソル達を見遣っていた。
皇女の継承・・・中々大事の様だ。此処は自分が聞いて行かないと不審がられるな。
「其は本当に、随分と大きな行事みたいだな。今正に行われているのか?」
「噫、然うだな・・・。時間もあるし、良かったら旅の者、暫し付き合ってくれないか?折角此処迄来たのだから。」
「え、あ、良いんですか親兵長、こんな時にそんな連れて、」
思わぬ提案につい閉口してしまう。
願ってもいない申し出だ。此は非常に有難いが・・・。
何だか不思議な感じだ。辺りの兵がおろおろする様に、意外過ぎる提案だったのだろう。
「構わない。そんな直ぐに事は起こらんよ。如何かな、旅の者。」
「勿論、是非教えてくれ。見た事のない物許りで凄く興味があるんだ。」
何時の間にか隣に来ていたローズも鼻息荒く頷いている。余程楽しみな様だ。
「其なら私達は今巡回中だ。其の道すがらで話をしよう。」
「御仕事中にそんな、有難う御座います。騎士さんは何て仰るんですの?私はロードと申します。」
其から一同の自己紹介を流れる様に続けてくれる。
其を聞いて隊長は大きく頷いた。
「丁寧に如何もロード嬢、では私も名乗らねばならんな。」
然う言い兜を外してくれる。其処でやっと顔が顕になった。
声が中性的だったので判別し難かったが、如何やら男性の様だ。
只他の兵達とは違い、彼の長い髪は灰色だった。
灰と皓の、まるで鱗の様な模様が入った特徴的な髪色だ。
そして向けられた瞳は灰と翠のオッドアイだ。其の対比に因り翠が輝いて見える。
其でも目付きは穏やかな物で、優しく微笑む様は吸い込まれそうだ。
「私はファイアース・イルバレン=リリアスだ。リリアスと呼んでくれて構わない。君達は私に付いて来てくれ。皆は此の辺りを重点に見て置いてくれ。」
「で、でも親兵長其は・・・。私も一緒に回ります。」
「いや、本当に大丈夫だ。私が最後迄送り届けよう。」
戸惑う兵達に片手を挙げて制すると、リリアスは少し丈先を歩き始めた。
此は・・・何だろう、露骨な誘導な気もするけれども。
ロードの紹介は非常に有り難かったが、此のリリアスと言う兵、何か引っ掛かる。
此の引っ掛かりは、此の状況が余りにも自分達に有利だから然う思うんだろう。
何故なら、彼こそが次元の主導者だ。
・・・とは言ってもこんな近くに居るのに断定し難いレベルだがな。
何とも気配が弱い。何だろう此は。
ついロード達と顔を見合わせてしまうが、でも行かざるを得ないだろう。
「・・・ソル?如何した、行くぞ。」
ソル一柱が出遅れてしまっている。ぼーっと突っ立ってしまっていたのだ。
呼ばれて彼女は慌てて付いてくるが、此は重症だな。
―・・・ソル、無理はしなくて良いぞ。―
そっとテレパシーを送ると彼女の背が伸びる。そして苦笑して頭を掻いた。
―い、いややわぁ皆に心配して貰って・・・。―
如何やら全員でテレパシーを送ってしまったらしい。気付いてドレミやロードが小さく吹き出した。
―その・・・うん、もう一寸丈整理させて、後で話すから。此の次元は・・・矢っ張りおかしいわ。―
―分かった。じゃあ取り敢えずは行こうか。―
大きく頷いて彼女は付いて来る。
此の反応、如何やら此の次元はソルに繋がりがある然うだ。
其にしてもはっきりとおかしい、か。此は彼女が話してくれる迄待った方が良さそうだ。
皆も大方察してはいたらしい。気遣う者は居ても急かす様な真似はしない。
リリアスに連れられ、一同はより水精の蕭森を進む事となった。
彼は兜を外した儘だ。其の方が話し易いが、任務としては如何なんだろう。
他の兵が心配した様に、今の様子丈見ると彼の任務に対する姿勢は余り宜しくない様に思う。
此じゃあまるで自分達の護衛だ。此では巡回もしっかりとは出来ないだろう。
まぁ自分も手伝いはするけれども、一体何が狙いなのか。
只話す為に連れている訳ではない様に思う。他意を感じそうだが。
でも其をはっきり聞くのもな・・・。今暫くは付き合う丈にした方が良いか。
そんな風に考え込んでいると少しリリアスの歩調は緩やかになった。
そして振り返りつつ一同を見遣る。
「では儀式の話でもしようか、旅の皆様方。此の先の神殿で正に今、皇女の継承の儀が行われているんだ。此の翠の大陸を統べる偉大な皇女が新たに誕生する。」
大陸・・・此は何とも大きい。そんな大事な時に自分達は来たのか。
「・・・若しかして君達は外の大陸の者か?見慣れない装いをしているが。」
「えぇ然うよ。此処には来た許りなの。」
「成程、ではもう少し細かく話した方が良さそうだ。」
リリアスは一度辺りを見渡すと暫し顎に手を添える。
「私は反対に外を殆ど知らないから難しいが・・・此処は代々皇女が統べているんだ。皇族は其はもう本当に美しい翡翠の羽根をされていて、御見えすれば二度と忘れられないだろう。」
でも、と続けてちらとリリアスはソルを見遣った。
緩りと瞬きを繰り返して頷いている。
「グリス、君の髪は皇族と劣りもしない程美しいな。驚く許りだ、本当に。」
「・・・え、あ・・・と、有難う。」
俯いてしまった小さくソルは応えた。何時もの元気さが欠片も見えない。
「然うだね。グリちゃんの髪とっても綺麗だもん。触るとふわっふわなんだよ!」
「フワフワッ⁉」
つい反応してしまう、触った事があるのかドレミ⁉
自分もずっと気になって、でも髪だから遠慮していたのに⁉
―えっと・・・セレも触る?―
「良いのか⁉良いのがソル!」
―本当に見境なくなるんだね。―
早速セレはソルの傍迄行き、恐々と慎重に其の髪に触れた。
「わ・・・凄い、何此、うわ、モフモフだ。え、信じられない、此が髪だと言うのか、おぉ・・・。」
―晒してても分かるんやね。―
然う言いソルは苦笑を零す。其を見てリリアスも微笑んだ。
「・・・仲が良い様で何よりだ。私としては旅の話も聞いてみたいが、先ずは此方だな。」
「えぇ、皇女の話の途中よね。」
「噫、因みに伝説とかは御好きで?」
―好き!大好き!―
突然のローズのテレパシーについ彼はびくついた。でも大きく頷いて応えてくれる。
「然うか。そんなに好きなら大層此の話は喜ぶかも知れないな。」
ローズやL⊝ ▼▲/を見ても大して驚いていない風だったし、如何やら此の次元は然う言った魔物の類に関する偏見だとかの件は然うないみたいだ。
其よりも尾を激しく振って喜んでくれるローズに気を良くしたのかリリアスの声は少し明るくなった。
「皇族は其はもう力も勁い事で知られている。遥か古の時代に相容れる筈のない翡翠と梟の魔物が番となり、生まれた其の合いの子が全ての始まりとされているな。」
「っ、元々は魔物さんだったの?」
「元々も何も私達は皆同じ存在だろう。区別する事も憚られてしまうよ。」
「然う・・・まぁ、然うだよね。」
ドレミはポンとローズの背を叩いた。彼も尾を一つ振る事で其に応える。
「実際其の時代には他にも多くの合いの子等が居た然うだ。しかし、彼等は共通して互いの種の性質を引き継ぎ乍らも大旻を舞う力丈は等しく失われてしまっていたのだ。」
―昔は皆飛べたんだ?―
「噫然うだとも。私とて時鳥と翡翠の生まれだよ。飛べない者達は生きて行く術を得られず、苦しんでいたと言う。でも其処で皇族が現れたんだ。」
真剣に聞いていると分かる大きな紅玉の瞳を見遣ってリリアスの声はやおら大きくなる。
「彼等は其の美しい翡翠の翼で他の子等の目印となった。そして逸れる者が居ないか良く耳を澄まし、梟の大いなる知恵で導いたとされている。然うして今日の様に繁栄へ導いてくれたんだ。」
「其じゃあ皇族は救世主でもあるのね。」
「噫其の通りだ。彼等が見捨てなかったからこそ、今の私達があるんだ。其は本当に素晴しい事だ。私もそんな皇女の護りが出来て光栄だと思っている。」
彼は然う熱っぽく語ってくれたが、だとすると矢っ張り行動と少々噛み合ってていない気がした。
そんな嬉しそうに語るなら先の兵達みたいにちゃんと護った方が良いと思うんだが。こんな時に皇女が襲われてもしたら如何するつもりなのだろう。
其か、まぁ救世主だから襲われる訳がない、飾りの警備とでも思っているのだろうか。いや、そんなに甘くないぞ。誰しも怨みの一つや二つは買う物なんだから。
確かに急に押し掛けて来たのは自分達だが、一寸丈気になってしまう。
其か外の者である自分達にしっかりと語るのも勤めの一つだからか。
然う言う理由も分からなくもないけれども・・・うーん。
其処其処歩いて来たので徐々に景色は変わって来ていた。
具体的には植生が変わったと言うか、背の高い樹々が増えて来た様にも思う。
其に因って益々曦は入らなくなり、段々と影が濃くなって来た。
水精の色も変わって来たのか薄紫に染まって行く。此は此で幻想的で綺麗だな。
―美しい物ですね。私、此処好きですよ。―
「噫、じゃあ其の儘此処に居て良いからなL⊝ ▼▲/。」
―まぁ此処、居心地は良いですけど。―
然う苦笑する彼が何とも愛らしくてギュッと首元のL⊝ ▼▲/を引き寄せる。
噫、ずっと斯うしていたい。此のマフラー最高過ぎる。正に着させて貰っているって感覚だ。
「今其の皇女の儀式中なのよね?どんなのか聞いても?」
「勿論、儀式は此の奥の神殿で行われている。其処で一日、皇女は神獣の卵と相対するのだ。」
―神獣?そんなのが居るの?―
「でも卵なの?一体どんなのだろう・・・。」
「噫、其の卵も謂れが色々とあってな。其の神獣も古の時代に皇族に好意を寄せた然うだ。貴方達になら我等が王を託せると、卵を残されて行ったんだとか。」
「其は神獣の王、と言う事か?何だかとんでもなく高貴だな。」
王の中の王と言うか、選ばれた存在感が凄い。
一体何丈皇族は素晴らしいんだろう。
「其の通り。皇女は心も広いからな。其の儘卵を預かり、今日迄ずっと奉っているのだ。只どんな神獣だったのかは済まない。私も良く知りはしないんだ。何せ神殿内には入れないからな。」
「あら・・・親兵でも入れないとなると余っ程厳重なのね。」
「はは、実は神殿自体、皇族でなければ入れない特殊な仕掛けがあるんだ。皇族の血と詠声にのみ反応して開く仕組みで、だから入りたくても入れないんだ。」
「成程、然う言う事だったか。じゃあどんな祭事かもはっきりはしないんだな。」
「口伝丈、と言って置こうか。一応神獣の事も其でなら私も知っているよ。金色の美しい毛並を纏った姿をしていたと。」
「金色の・・・モフモフッ⁉」
何其凄い、神獣凄い!
神獣って事は神のモフモフじゃん、モフモフオブモフモフじゃん!あ、逢いたい!
―セレさんもセレさんで其しか頭に残っていませんね。―
「然も卵だからねセレちゃん。多分探すのは大変だと思うよ。」
「じゃあ卵を孵してあげようじゃないか!然うしたら至高のモフモフの爆誕だ!」
「あ、あの、無理だとは思うが神殿内には入らないでくれよ・・・。」
リリアスから数歩距離を取られてしまうが構わない。だって神獣だぞ⁉
如何にか、如何にかして逢いたいな・・・此は神殿に入る方法を考えないと。
セレが良からぬ思考をしている事に一同は薄々気付いたが、一度は見守る事にした。
流石に彼女も一線は超えない筈だ。そんな理由で神殿を壊したりはしないだろう。
仮にやってしまえば・・・もう店主として見られないかも知れない。其位の信用失墜行為だ。
「えー・・・然うだな。話を戻そうか。儀式も聞いている物で良ければ、一日中に籠って卵を見護るのだ然うだ。代々伝わる卵だから、今も変わらず護っていると言う誓いを立てて初めて新しい皇女と成れるのだ。」
「卵はずっと卵の儘なのか?生まれたりしていないのか?」
中々歴史がありそうだが、じゃあ其の卵は未だちゃんと生きているのだろうか、心配になる。
「セレちゃんもう卵にしか興味なくなってるよ・・・。」
「良いじゃない、愛があるって素敵な事よ。」
―うーん、其の愛も又別の様な・・・。―
「神獣は時が来れば目醒めると言われているからな。未だ其の時ではないのだろう。」
「此はワンチャンありか?」
―あ、あのないですからね?ワンチャンとか言わないでくださいね?―
「大丈夫だ。時が来れば目醒めるんだろう?」
―少なくとも今じゃないですからね。―
反応を返してくれるL⊝ ▼▲/は本当に可愛いなぁ。心配には及ばないよ、大丈夫。
「では今正に其の皇女が神獣の卵の所に居るのね。一日経ったらもう其で儀式は終わりなのかしら。」
「一日、経てば・・・な。」
「・・・ん、あれ、何か居るよ。」
其迄喋れずじっとしていたドレミが声を上げる。
下手に話せば村の子じゃないとばれてしまうのを危惧していたのだろう。
ドレミが指差した方には水精の樹々が鬱蒼と生えている。
薫風に揺れ動く其に合わせて見慣れない物が一つあったのだ。
其は四足の獣の様で、樹の根を齧っている様に見える。
齧ったり爪で引っ掻いたりと熱中している様で此方には気付いていない。
其の獣にセレは既視感を覚える。
彼は・・・レミレストだったか。
其の獣は全長2.5メートル程、橙色の蜥蜴に似た面をしているが、金属板の様な装甲が左右に付いている。でも其の金属板は存外滑らかで、長く伸びて後方でリボンの様に揺れているのだ。
手足も黔い似た様な装甲が付いており、背に長く棚引く帯が生えている。
其をひらめかせて立つ姿は趣があって何とも言えない美しさがあるが、今は如何だろうか。
―同族っぽいね。如何?知ってる?―
「噫、レミレストって言う龍族だ。穏やかな性格だから縄張に無理に入ったりしなければ大丈夫だと思うが・・・。」
「じゃあ今は縄張作りでもしているのかしら?ね、リリアスさん彼は、」
言い掛けてロードが彼を顧みると、すっかり彼は固まってしまっていた。
時が止まってしまったかの様に動かない、可也驚いてしまった様だ。
「・・・あ、あの・・・大丈夫、なん?」
見兼ねたソルが少し丈声を掛けると一気に彼の背が伸びた。
「え、え、えっと・・・だ、大丈夫だ。でも彼は一体、」
「そんな固まっていたら埒が明かないぞ。何時もは居ないのか?」
親兵長だろうに、其だと簡単に虚を衝かれるぞ。
前世だったら真先に狩られる奴だ。次元の主導者だから猶の事心配になってしまう。
まぁ龍族だから、自分達が来た事で此処迄来てくれたのかも知れない。其にしても固まり過ぎだ。
「何時も、と言うより此処に居た事なんて・・・。取り敢えず神殿に近いし、出て行って貰わないといけないな。」
―如何でしょう、テレパシーが通じると良いんですが・・・。―
「一寸声を掛けてみてくれるかL⊝ ▼▲/。」
―えぇ、試してみましょう。少し御待ちを。―
然う言いL⊝ ▼▲/は少し丈首を持ち上げる。飛んで行かないか一瞬びくついてしまった。
―今日は、少し御話宜しいでしょうか?―
L⊝ ▼▲/に声を掛けられてレミレストは視線を此方に寄越す。
だが直ぐに四足で踏ん張り、不満そうに一声上げた。
―う・・・此は、嫌われてしまいましたかね・・・。―
「一寸機嫌が悪いのかも知れないな。」
「セレちゃんの龍さん好き好きパワーでも駄目かな?」
「そんな物を会得した覚えはないな。」
其のネーミングだと多分一頭も集まりそうにないし。
「何、此処は下がってなさい。私が追い払いましょう。」
リリアスが前に出て手を翳すと腕に巻かれた飾り瓊が目に付いた。
「RC=HΦC」
そして唱を一つ添えると其の瓊は一気に巨大化し、地に埋まる。
余りの重さに陥没してしまったのだ。巨大なフレイルへ化した其の瓊は不思議な刺青が刻まれている。
「え、え・・・?何で⁉」
其を見て思わずドレミは大声を上げた。其の声についロードが駆け寄る。
「ど、如何しちゃったのドレミ、って言うより彼は、」
「然うだよローちゃん、ドレミの持ってるのと同じ武器なの!」
「ん、本当かドレミ。何と言うか凄い偶然だな。」
ドレミ、あんな武器を使うのか?ん、いや、然う言えば見た事ある様な・・・?
・・・鎮魂の卒塔婆で使っていたっけ、随分昔だ。確か・・・黔日夢の次元が起こる前の。
何となく見た事がある気がするな・・・成程。
でも確かに彼女の腕にも似た瓊が付いている。同じ魔法具なのか。
「因みに詠唱も同じか?」
「う、うん。だからあれって思ってたんだけど、まさか同じなんて。」
―然うだね。ドレミの以外で僕も初めてみたよ。そっか、武器持ってたんだね。―
「ドレミ、確か貴方のってフレスと・・・貴方の姉さんと一緒に見付けた物よね?」
「うん、遺跡にあった奴だけど、吃驚した・・・。」
本当に吃驚した様でドレミは目をぱちくりとさせていた。
「さぁ、彼方へ行った!」
リリアスがフレイルをレミレストの傍へ投げる。
軽々と振るっているが、見た目通りの重さらしく、大きくフレイルは地面を陥没させた。
「ギャミ、ギュルルル!」
真横へ突き刺さった其を見てレミレストは威嚇の声を強くする。
向こうも引く気はないのか樹に掛けられた爪が一層樹に食い込んだ。
「うーん、大人しい子の筈、何だよねセレちゃん。」
「噫其の筈なんだが・・・随分と気が立っているな。」
「そんな危険な奴でないなら余り傷付けたくはないんだが、もう一度するか。」
「ん、其だったら一寸待った方が、」
セレが声を掛けた途端、レミレストは其迄より鋭い威嚇の声を上げた。
けれども其の声は今迄のと少し違う様で、遠吠えの様に辺りに響いて行く。
すると其の声を聞き付けてか周りの樹々から続々とレミレストが顔を覗かせて来たのだ。
其の数は優に二十は超える。一同を取り囲む様に地に降り立ち、威嚇の声を上げた。
「え、え、こんなに居たの⁉」
「・・・だから余り刺激したくなかったんだが。」
―気付いてたなら先に言って置こうね。―
噫然うか、自分は波紋だから丸分かりだったけれども、結構紛れ込んでいたし、目視じゃあ見付け難いか。
其にしても皆気が立っている。龍古来見聞録と随分違うな。大人しいとあったから警戒していなかったのに。
「如何してこんなに・・・。神殿に来るなんて。」
―こ、此は流石に無事じゃあ済まないかも・・・。―
「ねぇセレちゃん、もう一寸詳しくどんな子なのか教えてくれる?何だか少し違う子も混ざってるし。」
皆身構えているが、向こうもじりじりと近寄って来る。
正に一触即発だ。動いたら戦いは避けられそうにない。
ドレミが言っているのは彼奴の事だろうな。確かに何頭か少し似ているが二足歩行している者も居る。前足は短く、棚引いている背の鬣や甲の形状が少し違う。
「違う様に見えるのは雌雄の差だな、一応立っている方が雄になるが。属性は宙、集団で狩りをする事があるが、雑食だからな。積極的に狩りをする様な奴じゃないんだ。」
「じゃあ家族なのかな。色々混ざってるみたいだし、ドレミ達、気付かない内に縄張に入ったのかな。」
縄張・・・そんな風には思わなかったんだが。
確かレミレストの縄張は、他の者が入らない様分かり易い目印等があった気がするんだが、見逃したか?
彼等の纏う甲や棚引く様な鬣を樹とかに括り付けたりするんだが。
・・・記憶違いかも知れないな。兎にも角にも苛立っているなら何とか鎮めないと。
「L⊝ ▼▲/、リリアスを頼めるか?追い払う丈だから怪我はしないと思うが。」
―酷く吃驚してましたものね・・・。分かりました。―
モフモフが去るのは悲しいが、致し方ない。少しの間我慢しよう。
―驚かせたら逃げてくれるんかな。―
「じゃあドレミに任せて!」
右手を高く挙げるとドレミの瞳は金に輝いた。
中で雷が火花を散らす。其を其の儘顕現させる。
「咲き誇って電閃舞!」
ドレミの上旻で雷が輪を描き、火花を散らして激しく明滅する。
突然の曦に目を奪われたのかレミレスト達は小さく鳴き交わして後退した。
ダメージはないだろうが、見栄えには十分だ。斯う言う威嚇には雷が秀でているな。
けれども下がる丈で未だ逃げる気はないらしい。取り囲まれた儘だ。
―EC=9E ―
ローズの姿が変化し、鬣が硬い一枚岩の様になる。
土塊色に染まり、胸元に茶の瓊が光った。
岩の鎧を纏ったローズは自分達とレミレストを隔てる様に岩を隆起させた。
岩の壁が幾つも立ち、レミレストの姿が少し見え難くなる。
「流石遠く旅をして来た者達だ。まさかこんな高等魔術を扱うとは。」
―私も手助けしますよ。少し、リリアスさんが早く動ける様にしますね。―
「速く・・・?おぉ、此は何とも珍妙な術だな!」
時の、加速の力を掛けたのだろう、リリアスは不思議そうに両手を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「ギュルル、ルルッ!」
レミレストの一頭が跳び上がり、岩を跳び越えて一同の傍へ寄って来た。
苛立たし気に地を掻いている。目の前で威嚇の唸り声を上げるローズに応える様に吼えた。
「・・・余り、調子の乗ってくれるなよ。」
詰め寄り過ぎたレミレストに向け、爪を伸ばす。
晒は外せないし、陽は避けないといけないが、多少は動ける。
レミレストの鼻先を斬り付けると慌ててレミレストは大きく数歩下がった。
本の少ししか斬っていないが此の反応、絡みはするが、向こうも可也警戒しているな。
加減を間違えそうだから直ぐ引いて欲しいんだが。
「ギャミ、ギャルル、ガルッ!」
レミレストが吼えると他にも数頭此方へ跳び込んで来た。
リリアスがフレイルを振り回すと距離を取るが、しつこく迫って来る。
「もう!そろそろ雷当てちゃうよ!」
「ガウルル!」
リリアスの前へ更に一頭のレミレストが跳び掛かった。巧みにフレイルを避け、留守になった手元を狙って駆け寄って来る。
―縫い留めて蔓巻繁!―
レミレストの足元から蔓が伸び始め、しっかりと巻き付いてしまう。
身動きが取れなくなったレミレストは何とか蔓を引き裂こうと咬み付くが、千斬れても新しいのが直ぐ生えて来る。
「グリスのか、助かったぞ。」
―う、うん気ぃ付けて。未だ来るよ。―
他のレミレストも蔓から仲間を解放する手伝いを始めたみたいで、蔓を引き裂こうと必死だった。
其の間にロードは時空の穴から小さなガベル、黔皓盤の覇道槌を取り出した。
驚かせる丈だったら此の武器で十分だ。
「罪状、無抵抗な者に対する威嚇、及び攻撃を加えた事。」
ガベルは一気に大きくなり、10m程の巨大な槌となる。
余りのも大き過ぎる得物をロードは軽々と片手で持っていた。
「お、おぉ、彼は武器なのか?然う言えば・・・、」
皐牙が前随分と興奮した様に言っていた気がするな。筋肉天使の武器やばいって。
全然説明になっていなかったので何となく聞き流してしまったが、成程彼の事か。
流石ロードだな、あんな大きな得物、彼女にしか扱えないだろう。
―・・・御前も良く頭おかしい武器を創るがな。―
頭おかしいは余計です闇の神様。
「皆一寸離れて頂戴、行くわよ!」
大きくガベルを振り上げて何もない地へ其を叩き付ける。
其の一撃で大きく地が揺れ、ガベルを中心に大きく穴が開く。
うん、見た目通りの威力だ。陥没させたガベルを、其でも軽々とロードは持ち上げる。
先の一撃は皆の注目を集めるのには十分だった。状況把握も儘ならないだろう、皆固まってしまう。
レミレスト達も鼻を上げたりして注意深くロードの一挙一動を見詰めていた。もう威嚇する事も忘れている。
ロードも集まる視線をしっかりと意識して一歩レミレスト達へ近付いた。
そして又ガベルを振り下ろす。未だレミレスト達と距離はあるが、其でも衝撃は十分に届くだろう。
何頭かのレミレストが思わず飛び跳ねてしまう。そして慌てた様に蔓を齧り始めた。
囚われてしまった一頭を何とか助け出そうとしているのだろう。
其でも無慈悲にロードは更に一歩近付いてガベルを振り下ろす。
・・・こ、恐い。ロードさん何て方法を取っているんだ。
其の真意を理解して小さくセレの背は震えてしまう。
じりじりと、脅しているのだ。一歩ずつ確実に近付いて、死の恐怖を刻み付けようとしている。
レミレスト達はもう恐怖で胸が一杯だろう。彼で咬み付いたら大した物だ。
早く逃げないと彼のガベルで潰されてしまう。でも未だ仲間が囚われた儘だ、無視も出来ない。
慌てて蔓を咬むが、其方の術も無慈悲な物で、まるで道連れにするかの様に蔓は生え続ける。
もうガベル迄二、三歩と言う所迄近付いてしまった。刻限が迫る。
ガベルを振るうロードは只淡々とまるで作業の様に其を繰り返している丈で、其の無表情が寧ろ恐怖を加速させる。
ロード以外もう誰も動けなかった。レミレスト達が一体如何するのか其の一点のみが気掛かりだ。
更に一歩ロードが近付くと明らかに彼等は震え始めた。
其でも逃げずに仲間を助けようとしている様は立派だ。もう何方が悪か分からなくなる。
囚われてしまった一頭は諦めてしまったのか震えて小さく縮こまり、悲し気な声を上げていた。
涙でも浮かべているのではと思う悲痛な声だ。龍好きな自分としては割と堪える。
不図間に入って止めたくなってしまう衝動に駆られてしまう。
い、いや大丈夫な筈だ。ロードを信じろ、彼女なら引き際を分かっている筈だ。
彼女がガベルを振り下ろすと其の衝撃でレミレスト達は跳んでしまう。
そしてついに一同は命乞いにも似た声を上げ始めた。
悲し気に身を低くしてロードに鳴き続ける。
―・・・も、もう良いよね?―
ちらとソルはロードを見遣ると翠の術を解いた。
途端に蔓は枯れ、レミレストは自由の身となる。
立ち上がったレミレストは慌てて仲間達と一緒に蕭森の奥へと走り去ってしまった。
「ふぅ、ちゃんと逃げてくれて良かったわ。」
見る間にガベルは小さくなり、ロードの手に収まる。
一寸遣り過ぎな感もあったが、一応良しとしようか。
走って逃げて行ったが、ちゃんと彼等は次元の迫間へ帰るだろうか。其丈気掛かりだが。
―流石やね、だった一柱で追っ払っちゃった・・・。―
「あら、グリスの御蔭でもあるわよ。動けなかったからこそ彼の脅しが効いたんだから。」
―う・・・んー、何か一寸悪い事しちゃったなって思うけどね。―
―あんなの喰らっちゃったらぺちゃんこだからね。―
―えぇ、本当に恐ろしい力です。彼の腕力は一体何処から・・・。―
心做し皆が少しロードから距離を取っている様な。まぁ・・・仕方ないかな。
「いや、本当に助かったぞロード嬢、素晴しい手際だった。皆も手を貸してくれて感謝する。」
リリアスはフレイルを飾り瓊に戻すと手を胸元に置いて片膝を立てた。
「そんな畏まらないで、少し手を貸した丈ですよ。」
少し、少しかぁ・・・彼女の感覚なら屹度然うなんだろうな。
「あんなのが出て来ると、うかうかしていられないな。良し、先に進もうか。」
今一度辺りを見渡すとリリアスが歩き始めたので後に続く。
「なぁロード、先のが御前の武器なのか。」
「えぇ、大神様から折角頂いた物だから、時には使ってあげないとと思って。」
然う言って彼女は手の内でガベルを転がした。
「成程、大神からか。じゃあ中々貴重そうだな。」
「然うね。色々伝説があるそうだけれども。黔皓盤の覇道槌と言って、相手の罪状に合わせて大きくなるのよ。」
「罪状、正に神のアイテムと言った具合だな。ククッ、其を私に振るったら一体何程大きくなるんだろうな。」
「フフッ、残念だけど此の魔法具は可也特殊だから然うは行かないのよ。私が罪と判断した物しか裁けないから。」
「ん、如何言う事だ?ロードの匙加減と言う事か?」
加減も何も極刑しかないと思うんだが。
「未だセレのは判事中だから無理って事よ。抑仲間に此のガベルは振るわないわ。」
「判事中、か。余悠長にしていたらもっと罪が増えるぞ。」
「私が持てなくなる位大きくならない事を祈る許りね。」
彼女は優しく咲った儘ガベルを時空の穴へ仕舞った。
彼女も彼女で強情だな・・・。
でも中々面白い物は見られた。然う言う武器もあるんだな、興味深い。
罪だなんて抽象的な物を武器に出来るのか・・・此、何か応用出来ないかな。
零星に然う言った要素をプラスしたい、そろそろ進化させたいとは思ってるんだが。
考える丈では手持無沙汰なので傍に居たローズの背を撫でる事にした。
噫癒される、流石モフモフだ・・・大きい分、此の包容力が堪らない。
「其にしても武器と言えばリリアスさんのも一寸気になるのよね・・・。」
「ドレミも。此珍しいと思ってたから。矢っ張り次元って広いんだね。」
―ドレミも同じなん?先一寸話しとったけど。―
其迄リリアスの背を追っていたソルが此方に加わって来た。
そんな彼女にドレミは腕を捲って其処に付いている飾り瓊を見せてやる。
「ほら此、先のとそっくりでしょ。発動の仕方も一緒だし。」
―本当や。・・・其ってドレミの居た次元にあったん?―
「うん、此は間違いないよ。姉ちゃんと一緒に見付けたんだし。折角だから如何使うか良く見たかったな、ドレミの我流だし。」
「ん、じゃあ今聞いてみたら如何だ?其の位の余裕はあるだろう。」
「然うしたいんだけど・・・ほら、ドレミ多分子供だって思われてるから・・・。」
不満そうに口を尖らせて小声で耳打ちをされた。
然うか、確かに村の子だと思われているだろうに根掘り葉掘り聞けないか。
其じゃあ持って行き方を変えてみるか。別のアプローチだってあるんだし。
「リリアス、良かったらドレミに先の武器の事詳しく教えてくれないか?親兵長ともなると矢張り憧れもあるみたいでな。練習してみたいんだそうだ。」
「噫勿論だ。然う見られる物じゃあないだろうし、しっかり見ると良い。」
「セレちゃんありがと!一寸見て来るね。」
パッと表情を輝かせるとドレミはリリアスの傍へ行く。
歩き乍らではあるがリリアスは先の飾り瓊をドレミに見せてやっていた。ドレミが熱心に頷くので教え甲斐があるのだろう。
そしてのんびりと辺りを漂っていたL⊝ ▼▲/を捕獲して頸に巻く。うん、此が落ち着くな。
―セレさん、先の事ですけど、如何してレミレストさん達は怒ってしまったんでしょう。ちゃんと話したかったんですが。―
少し落ち込んでしまったのか巻かれたL⊝ ▼▲/は大人しかった。
モフモフが悲しんでいると此方も悲しくなってしまう、宥める様に其の背を撫でた。
「然うだな。私も話を聞きたかったんだが・・・一応見るか。」
時空の穴からスカウターを取り出す。
自分は覚えているので使う事は粗ないが、念の為リュウから貰ったのだ。
其を掛けてレミレストの欄を見てみるが・・・。
「ん・・・矢張り温厚とあるな。あんな風には襲って来そうにないんだが・・・。」
―じゃあ矢張り何か気に障ったんでしょうか?―
「L⊝ ▼▲/が気にする様な点はなさそうだが。怒らせる要因もなさそうだし、抑縄張に入っていなかったからな。」
「其にしてはしつこかったけど、若しかして御中が空いていたのかしら。」
―あ、然うかもね。樹齧っていたし。・・・此、美味しいのかな。―
試しにローズは近くの樹を少し噛んでみた。
か、堅い・・・ロードは軽く圧し折っていたけれども矢っ張りか!
加えて味は宜しくない・・・砂を食べているみたいでじゃりじゃりする・・・。
「・・・可也不味そうだな。まぁレミレストの味覚は知らないから何とも言えないが。」
「後で念の為にリュウさんに聞いてみたら良いかも知れないわね。」
「然うだな。先ずは此の次元だ。」
未だ次元の主導者をしっかり見付けられていないのも痛い。力が弱過ぎる。
若しかしたら今後リリアスが何かに目醒める可能性もあるかも知れないが・・・。
ちらと傍のソルを見遣ると何だか気落ちしている様だった。
今回はずっとそんな面持だな・・・何とか顔を上げて欲しいけれども。
「ソル・・・大丈夫か?」
―うん、只未だ一寸混乱してて。・・・あの、えっと彼の人に聞いて欲しい事があるんやけど。―
「リリアスの事か?一体何を聞いたら良いんだ?」
―今の皇女が誰か聞いて欲しいんよ。流石にうちが聞いたら不味いやろ?―
「然うだな、分かった。一寸聞いてみるか。」
ドレミ達も話し終わったのかリリアスはフレイルを仕舞っている。きちんとレクチャーを受けられたのか彼女は満足気だ。
「リリアス、済まないが一つ聞いても良いか?今の皇女は一体どんな奴なんだ?会うのは厳しいだろうが折角だし名位は聞きたくてな。」
「今と言うと儀式中の皇女か・・・。然うだな、名前なら勿論。ソルナート・霸皇・イルヴァレン=グリアレス様だ。」
「・・・え、あれ、グリスと同じ名前、かしら。」
思わず口を突いてしまう。でも其の名前は間違いなく。
「噫若しかしたら旅人には珍しく写るかも知れないな。村では皇女の名に肖って同じ名を付ける者が多いのだよ。だから同名は間々ある事なんだ。」
「皇女は村の皆から愛されているのね。」
「噫勿論だとも!まぁだから当然村では同名が多くて少し混乱してしまう事もあるが・・・でも、其丈皆が名を紡ぐのは良い事だと私は思う。」
リリアスの話を聞き、ソルは強く唇を噛み締めた。
血が出るんじゃないかと思う程強く噛むので、そっとドレミが彼女の背を撫でた。
「実は・・・いや、此を言うと皆に笑われてしまうんだが、実は私の妹が其の皇女なんだ。」
「あら、妹さんが?凄いじゃない、じゃあリリアスさんは皇族、なのかしら。」
彼ははにかみつつ頭を掻いた。隠し切れていなくて口元が笑ってしまう。
でも皇族・・・其って翡翠と梟の一族だとか言わなかっただろうか。
寧ろ彼は他の者とは違う灰の髪をしているし、てっきり全く違う者だと思っていたが。
「残念乍ら私は皇族ではないよ。そんな畏れ多いとも。だから皇女と血も繋がっていない。でも皇女は・・・先代、と言う可きか、皇女は私を実の息子の様に育ててくれたんだ。本当に・・・慈しみ深い方々だよ。」
育ててくれたと語る彼の声は迚も弾んでいて、
クォーツの様に瞳を輝かせて熱っぽく語ってくれた。
「親の顔も知らないが・・・まぁ元が時鳥だからな。幼子を家先に置く事は良くある。只其の置かれた所がまさか神殿だったなんて、御蔭で随分と数奇な道を辿って来たよ。」
―時鳥だからって、そんな事する鳥なの?―
「ん、噫えっと・・・他の者に育児を任せる事が多い鳥なんだ。代々とは言え悲しい性だよ。」
「でも其も立派な生存作戦だろうし、其は其で良いんじゃないか?そんな過去があっても御前は今親兵長だなんて大役を負っているんだろう?十分じゃないか。」
「そんな考え方もあるか。・・・成程、確かに私には勿体無い位の大役だ。」
然う彼は何とも誇らし気に声を大にしたが、不図ソルの顔色が悪い事に気付き急ぎ寄って来た。
「グリス、如何した大丈夫か?具合が悪いなら少し休んだ方が良いぞ。」
「え、えっと・・・大丈、」
「大丈夫な訳あるか。・・・良し、私は少し上から見張りたいから此処で休憩だ。皆も良いだろうか?」
「勿論だ。提案して貰って助かる。」
「うんドレミも。ねグリちゃん一寸休も。」
小さくソルが頷くとリリアスは近くの樹を上り始めた。
上からは然う言う事か。素早いし、慣れているのだろう。まぁ此の距離なら多少離れても大丈夫か。
ソルも近くの碧樹の傍へ腰掛けた。心配そうにローズが頬を舐めると小さく笑う。
―大丈夫、大丈夫なんよ本当に。只その、うん、今が良い機会かも知れん、一寸うちの話聞いてくれる?―
「其は良いが、今でないと駄目か?もっと休んでからでも。」
本当に彼女は具合が悪そうだった。顔は青いし、冷汗なのか薄ら滲んでいる。
でもゆるゆると彼女は首を左右に振った。
―いや、絶対早い内が良いよ。此以上は・・・不味い気がする。此の次元、絶対おかしいから。―
「矢っ張りグリちゃん此の次元知ってるんだね。」
皆がソルの傍へ坐ると彼女は一つ息を付いた。
―・・・うん、此処は・・・うちの前世の次元なんや。然も過去に戻ってる。―
「こ、此処が⁉じゃあグリちゃんの故郷なんだね。」
何となく予感は皆していたのだろう。でも過去となると、
―時間の流れが変わっているのですか・・・。でも次元ならなくはないですね。―
「然うね。パラレルワールドの感覚で別の時間軸に行く事があるわ。でも其を知ってるって事は・・・グリスは未来の事を知ってるのかしら。」
―然う、だから話しとこうと思ったんよ。此以上はもう黙っとけんし。―
「でも其は・・・良いのか?無理には話さなくて良いぞ。やる事さえ分かれば如何にか出来るだろうし。」
こんなに彼女が言い淀んでいるんだ。良からぬ事が起こるのは明白だ。
其に若しかしたら其は・・・自分の所為かも知れないし。
―其の決心が付いたから話すんよ。いや、聞いて欲しい。話して、其で若し未来が変えられるなら絶対其の方が良いんよ。あんな事は、もう十分やから。―
「分かったよグリちゃん。緩りで良いからドレミ達に教えてくれる?」
そっとドレミが彼女の手を握るとパッとソルの瞳が翠玉に輝いた。
―恐らく、此の次元は黔日夢の次元が起こる直前。もう直ぐ、大量の魔獣に襲われて村も此処も、全てなくなってしまうんや。―
誰彼ともなく息を呑むのが伝わった。
黔日夢の次元がもう直ぐ起きてしまう。
其の恐ろしさを肌で感じた事のある全員の瞳が凍り付く。
―・・・うちも、其の時に死んで神になってる。・・・うん、今なら良く分かるんよ。彼の時は何が起きたか分からんかったけど、斯うして外の事とか見ていて、やっと確信が持てた。だから、―
「・・・時間が欲しいと言ったのは然う言う事だったんだな。っ、ソル、」
―いや、セレ、何も言わんで良いよ。無理しないで。うちは本当に大丈夫やから。何があったか分かって、やっと寧ろ一寸、整理が付いたんよ。―
先手を打たれてしまって何も言えなくなってしまう。でもこんなのって・・・。
自分が、ソルを殺したのか。彼女も犠牲者で、そんな神の一柱だったのか。
―其で、その、うち、多分先ので気付いた思うけど、うちは其の・・・皇女、なんよ。だから多分、今神殿に居るのは過去のうちって事になると思う。―
―凄い!だから所作とか、綺麗だったんだね。良い所の出だろうなって思ってたけど。―
―え⁉そんな所見てたん⁉な、何か恥ずかしくなって来たわ・・・。と、兎に角、然うなんよ。だから先のリリアスは・・・うちの兄なんよ、うん。―
「成程ね。・・・其にしては案外リリアスさん普通ね。妹と瓜二つの子に会ったらあんな平然でいられなさそうだけど。加えてこんな可愛い妹なんて・・・。」
―か、可愛いは兎も角っ!うん、うちも其が一寸引っ掛かってて・・・言っても兄やん可也無理してる感あったけど、大分不自然やし。―
「不自然か。妹の目は誤魔化せなかったんだな。」
―ん・・・まぁあの、本当はもっと凄い人なんよ、本当に。あんな・・・後れを取る様なんじゃないんよ。―
「然うか、其なら一寸悪い事言ったな。当然と言えば当然か。でも敢えて向こうは深堀をして来ないんだな。」
所か自分達を案内してくれている訳だし、読めない所だな。
「でも其だと神殿に行くの、少し心配になって来るわね・・・。タイムパラドックスは起きないと思うけど。」
「タイ・・・パ?ねぇローちゃん其何?」
「タイムパラドックスよ。若し此処が本当に過去の世界なら、此処で過去を変えると今此処に居る、謂わば未来のグリスが変わってしまう可能性があるのよ。彼女丈じゃなくて関係を持った私達も例外じゃないわ。」
―然うですね。然う言うのもあります。時間はデリケートなので・・・。―
「そっか。言い方悪いけど、グリちゃんが神に成らなかったら店には来ないもんね。だからえっと・・・う、考え出したら混乱しそう。」
「何て言っても次元だから絶対そうとは言えないけれどね。可能性があるって丈で、同じ次元でも厳密には此の次元のグリスと貴方は違う存在よ。だから止めたりはしないわ。やりたいようにやるのには反対しない。」
―気掛かりなのは此の次元、何だか不思議な力が流れている所ですけどね・・・。―
「過去とも言ってるし、其の辺りかも知れないって事か?L⊝ ▼▲/」
―然う・・・かも知れません。とは言っても矢張り次元なので過去の世界に単純に行く事もありますし・・・何だか、モヤモヤしているんです・・・。―
宙を睨む様に彼は目を細めた。胴に掛かった輪が回転をして行く。
―兎に角魔獣が出るなら其を止めないと、だよね。兄さんは多分行っちゃうんでしょ?―
―うん、然うなんよ。うちの事は良いんよ。其より、兄やんを助けたい。其なら先の、パラドックスやっけ、其も多少は大丈夫やないかなって思って・・・。―
「矢っ張り兄さんも・・・なんだね。」
フレスの事が過り、何とも言えずドレミの瞳は潤んでしまう。
同じ、同じだ。黔日夢の次元で大切な家族を失った痛みは。
小さく鳴いたローズの背をそっとドレミは撫でた。
―うん・・・。兄やんはもう直ぐ、死んでしまう。然もうちの所為で。うちが馬鹿やったから・・・。だから御願い、兄やんを助けて欲しいんよ。―
「グリス、そんなに自分を責めちゃ駄目よ。大丈夫、其丈話してくれたら十分よ。其以上は私聞かないわ。」
「・・・然うだな。話してくれて有難うソル。其の意に添えられる様尽力しよう。」
―うちこそ、聞いてくれて有難ね。然うと決まったら動かんとね。―
ソルは一つ息を付いて立ち上がった。顔色は十分良くなった様に見える。
―兄やんは今から神殿に向かう筈。そしたら魔獣が襲って来るから、其さえ護り切れれば、―
「でも先村も襲われたって言ってたよね。じゃあ何処から魔獣さんが来るかとか分かるかな?地理が分かれば先手を打てるかも知れないよ。」
―其が・・・うち、ずっと中に居たから、外の様子知らんのよ。村の事も、兄やんが教えてくれたから・・・あ、―
―其だと若しかしたらリリアスさん、村に一回行ってるんじゃないかな?其で大変な事になってたから神殿迄走って来たとか。―
―!然うや、えっとじゃあ如何しよ・・・取り敢えず村に行ったら良いんかな・・・。―
「・・・セレ、一寸聞き難いですけど、如何ですか?憶えていませんか?」
「噫、私も先から考えていたんだが・・・粗憶えていない、と言うより恐らく一瞬しか来ていないな。魔獣を嗾けた丈かも知れないな・・・。」
「じゃあもうどんどん倒しちゃえば良いんだよね?先みたいに追っ払っちゃえば大丈夫だよ!」
―抑今は私達に会っているので既に行動が変わってるんですよね?其処も考慮しないと・・・。―
「・・・ん、待ってくれ。向こうに何か居るな。此方に来ているのか?」
「え、若しかしてもう来たの⁉」
「グリス、皆大丈夫か、少し不味い事になった!」
リリアスが碧樹から飛び降り、一同の前に降り立つ。
「此方に向けて大きな魔獣が来ている様だ、直ぐ隠れてくれ!」
「・・・隠れる暇はなさそうね。」
リリアスの背後に巨大な影が降り立つ。
慌てた様に彼は振り返って天を仰いだ。
現れた魔獣は全長15m程、扇の様な鰭を左右に伸ばして浮かんでいる龍だった。
黔く硬質そうな嘴、棚引く鰭が何重にも重なって飛ぶ姿は優美だが。
向けられた瞳は鋭く苛烈で、敵意が滲み出ている。
瓊が掛かった、布の様に重ねては離れてを繰り返す尾をピシリと振る。
「此の子・・・若しかして龍っぽい?」
―う、うん然うやと思う。うちが見たんと違う。―
「此奴は漾蛉龍(ヨウレイリュウ)・・・の筈だが。」
又だ・・・確信が持てない。
自分が知っている龍古来見聞録と如何しても合わない点があるのだ。
何だ此の違和感・・・確かに何かおかしいぞ。
―筈って・・・如何したの?龍なら未だ良かったけど。―
「漾蛉龍は守護の龍だ。神殿だとか宝とか、護る懐いに惹かれて其の地を護る守護龍なんだ。だから此処を護っていたのかも知れないが。」
「其じゃあドレミ達の事、伝えたら大丈夫じゃないかな。屹度侵入者か何かだと思ってるっぽいよね。」
「いや、守護と言っても特異なんだ。相手の戦意だとかを失わせる曦を放って大人しくさせ、悟らせて帰す。然う言った力を持った龍で、争い事を最も嫌うんだ。」
―で、でも此の子の様子・・・すっごく敵意があるっぽいけど・・・。―
―じゃあ僕が今度は話してみるよ。敵じゃないって分かれば、―
トコトコとローズが二、三歩漾蛉龍に近付いて行く。
「キュオォオーン!」
だが近付いた丈で其の様に吼えられてしまう。尾も其迄以上に苛立たし気に振られた。
―あれ、若しかして此チャンスも貰えない感じかな。―
「一体何があったんだ・・・。怒らせた覚えはないんだが。」
然も今回は向こうの方から来たよな。如何して態々喧嘩を売って来るんだ。
「何で今回はこんなに、こんな魔獣見た事がないぞ。」
リリアスが口を開いた途端、漾蛉龍は鋭い嘴を彼に向けた。
そして息付く間もなく其を突き立てて来る。
「ッ!兄やん!」
思わず口を突いて慌ててソルは噤んだ。
既の所で彼は其を避けて飾り瓊を掲げる。そんな彼の傍にL⊝ ▼▲/が漂っていた。
「た、助かった・・・何とも有難い術だな。」
―御役に立てたなら良かったです。―
予めL⊝ ▼▲/がリリアスに術を掛けてくれていた様だ。御蔭で直撃は避けられ、代わりに先迄上っていた碧樹が根元からぽっきり折れてしまう。
余りの威力につい生唾を呑む。何とも殺意の籠った一撃だ。
「こんな危険な魔獣が居たなんて、此は放って置けないな。直ぐ迎え撃つぞ!」
「キュオォー!」
応える様に漾蛉龍が一声鳴くと尾の瓊が輝き始めた。
「っ不味い、其の曦から離れろ!動けなくなるぞ!」
「離れろと言われても、」
リリアスは何とか飛び退いたが曦の範囲なんて分かり様もない。
ふらと上体が傾いでリリアスは片膝を着いてしまった。
―リリアスさん!しっかり!―
「ぐ・・・力が抜ける、此が奴の力か。」
―其の儘動くな。一撃で仕留めよう。―
漾蛉龍の嘴が伸ばされる。勢いを付ける為か広げられた鰭が畳まれて行った。
だが漾蛉龍が動き出した所で彼の周りを蒼い瞬きが過り、爆発した。
其に煽られて大きく上体が傾ぐ。
「・・・手は出したくなかったんだが。」
ギリギリで零星を出したが何とか間に合ったらしい。
唱も添えずに創ったので精度は低いが、まぁ止められたなら良かっただろう。
「こんな行き成り、如何しちゃったの⁉こんな事する子じゃないんだよね?」
「噫、勿論だ。漾蛉龍、何があった。此方に争う意思はないぞ。」
―神族か・・・貴様等に用はない。我が手を煩わせないで貰おうか。―
「用がないなら何をするつもりだったんですか。」
じろりと漾蛉龍はロードを睨んだが其の視線は直ぐリリアスへ向けられる。
まさか次元の主導者が狙いか?選りに選って何故其方なんだ。
迂闊に話せないのもあってやり難い。こんなに敵意を向けられるなんて。
此処迄来るともう別種だ。先入観は早目に捨てた方が良い。
―我は秩序を護っている丈、怪しき力は滅する丈だ。―
「RC=HΦC」
漾蛉龍が嘴を伸ばすと其の鼻先へリリアスはフレイルを叩き込んだ。
未だ力は入らないらしく、軽く去なす事しか出来ない。漾蛉龍は激しく鰭をひらめかせた。
「行かせないわよ。此でも喰らいなさい!」
倒されてしまった碧樹を担ぐとロードは其を大きく振り被って投げ付けた。
大木は漾蛉龍の胴を掠め、小さく傷を付けるが未だ怯まない。
あんな恐ろしい物を目前に突き刺したのに・・・随分と御怒りの様だ。
―何故邪魔をするか。貴様等は前迄居なかったであろうが。こんな最果てで抗う等。―
―・・・一体、何の話をしてるの?―
漾蛉龍は大きく旻を泳ぎ、ドレミ達の前へ移動した。
―良かろう。皆我に頭を垂れるが良い。然うすれば間もなく全てが終わる。―
―JM=18X―
尾の瓊が曦を発し始めるのと同時にローズの姿も変化する。
一回り大きくなり、全身黔の毛皮へと生え変わる。胴に旻色の輪が掛かり、胸元に黔い輝石が備わった。
姿が変わりつつもローズは術を展開していたらしく、彼と漾蛉龍を隔てる様に漆黔の壁が生える。
―小癪な、こんなので我の力を阻んだつもりか。―
「其で十分だよ。轟いて、雷来陣!」
目にも止まらぬ速さで旻を掛けた雷が漾蛉龍へ降り注ぐ。
尾に命中した様で布の様な其は幾らか裂かれてしまうが、瓊は輝いた儘だった。
「うーん、もう一寸!」
―うちも行くよ、捕えて蔓満咲!―
漾蛉龍へ畳み掛ける様に四方から蔓が迫って来る。
だが彼に巻き付く前に萎れる様に地を這う丈だ。
―う、嘘まさか彼の曦、術も効くん⁉―
「翠だからあるかも知れないわね・・・。私も多分少し喰らっているわ。」
―私も力を貸します。何とか、何とか立ってくださいロードさん!―
L⊝ ▼▲/が忙しそうに輪を描いて泳ぐ。何とか曦に因って弱められた力を時で押し留めようとしているらしかった。
「っ此で沈め!」
碧樹に隠れてリリアスがフレイルを投擲する。其は漾蛉龍の鰭に命中し、地を揺らして漾蛉龍を堕とした。
―貴様丈は、逃がしはせぬぞ!―
だが漾蛉龍は直ぐ様其のフレイルの鎖に咬み付き、一気に引っ張り上げる。
「efink」
偉く好戦的だな。だったらもう無理にでも止めるしかない。
大量にばら撒いた零星のナイフを投擲する。急所は狙わない。でも手加減はもう出来ないぞ。
執拗に次元の主導者に執着している風でもあるしな。
「キュオォーン‼」
零星が刺さり、激しく漾蛉龍はのたうった。
・・・はぁ、やりたくない相手とするのは本当に気が滅入る。
全力を出す方がずっと楽だ。如何すれば仕留められるのか、そんな事が直ぐ頭を過るから。
考えなくても躯が動く。だから楽で、ずっとやり易いのに。
斯う言う止め方は本当苦手だ。痛いなら、頼むから止めてくれ。
互いにメリットなんか無い筈だ。目的の見えない争いなんて。
―く・・・神族であろう⁉何故邪魔をする!―
「其は此方の台詞だ。横槍入れて来たのは御前だからな。」
零星を纏わせる。未だ武器はあるぞ。こんな明らかに脅しているんだ、そろそろ引いてくれても良いだろう。
―何を、我の方が先だ。やっと此奴を殺す決心が付いたと言うのに!―
決心・・・やりたくてしている訳ではないのか。
でも言い換えればはっきりと狙っている、か。単に暴れている訳じゃない。
・・・何だ、何が目的だ。
漾蛉龍がセレに吼えた瞬間、彼が銜えていたフレイルが爆発した。
リリアスが何か唱えたんだろう。飾り瓊に戻った為、彼は龍から距離を取った。
「あ、然う言う風に使えるんだ・・・。」
ドレミが興味深そうに頷いている、ローズも尾を立てて見ていた。
元々戦う様な龍族でもないし、此の数相手に捌き切れないだろう。
悔しそうに一同を見遣って喉の奥で唸る。
―・・・此は貴様等の為でもあるのだぞ。此奴に巻き込まれている方の身にもなれ!―
「っまさか此の魔獣、」
―矢張り心当たりがあるな!―
リリアスが呟いたのを聞き逃さず、漾蛉龍は躯毎向き直る。
駄目だ、奴の注意を此方に逸らせないと。
零星を走らせようとして突如轟音が響いた。
地が震えて僅かに上体が下がる。何だ此は、少し離れているのか波紋でははっきり見えないが。
・・・いや何だ影が大量に?
「っ不味いもうそんな時間か!旅の者、済まないが私は行かねば!」
「え、に、兄やん待ってや!」
突如リリアスは顔を上げると音のした方へと走り去ってしまう。
弾かれた様に走り出した彼は何か確信めいた物でもあったのか余りにも速く、直ぐ見失ってしまう。
―く、間に合わなかったか!其でも諦めぬぞ!―
漾蛉龍も直ぐ様後を追って行ってしまう。突然の出来事の連続に一同は固まってしまっていた。
「何が起きているんだ。兎に角追うぞ、彼奴を野放しにするのは不味い!」
「う、うん然うだね!でも何の音だったんだろ・・・。」
―何だかリリアスさん知ってそうだったけど、可也焦っていたね。―
「っ!何か来てるわね!」
追い掛け始めた一同の傍で影が揺れる。
ロードの声に慌てて視線を散らすと確かに見慣れぬ影が無数に集っていた。
其は水精を背負った鹿の様な生物で、碧樹の傍から這い出る様に現れたのだ。
其の数は余りにも多くて、気付いた時には囲まれてしまう。
―何時の間に⁉え、何時から居たんですか!―
「妙だな。先迄は絶対に居なかったぞ。」
こんな数、波紋に写らない訳がない。まるで今迄見えていなかったのが急に見える様になったかの様な現れ方じゃないか。
然うだ、正に視線を外した隙に現れたと言うか・・・其位隙が無かった。
「セレちゃん如何?若しかして龍さんかな?」
「いや、違う。此奴等は此処の魔獣か?」
魔獣は感情の読めない四つの瞳でじっとセレ達を見詰めていた。
でも此の張り詰めた空気、只で通してくれる訳では無いらしい。
「!グリス、大丈夫かしら?如何したの。」
ロードがそっとソルの背に手を回す。彼女は顔面蒼白となって小さく震えていた。
「あ・・・あ。駄目、うち、知ってる・・・此の魔獣は、」
「・・・彼等が村や神殿を襲ったのね。」
小さくソルは頷く。そして震えを止めようと己を抱いた。
成程リリアスは奴等に気付いたのか。其にしてもいやに反応が早かったな。其迄比べ物にならない位に。
と言う事は彼等が向かったのは神殿だろうな。猶の事急がないと。
「今度は、加減をしないぞ。」
セレを中心に零星が渦を巻く。
其を見ると魔獣達は一歩後ろへ下がった。
「あれ・・・若しかして引いてくれるのかな?」
「恐らく元々黔日夢の次元で暴れた丈だろうし、私の言う事を聞くのかも知れないな。」
自分が嗾けたのだから。彼等は其に従った丈なんだ。
力の一片を見せた丈で彼等の敵意は消えてしまった様だった。そして角を震わせて鳴き始める。
其はまるで詠の様だった。長く伸びて重なり、導く様な。
角の水精に反響し、澄んで響いて広がって行く。
つい聞き惚れてしまう様な、そんな詠声が満ちて行く。
此の詠は一体、何を伝えようとしているんだ。
詠に応える様に一歩セレが近付いた時だった。ソルが強く頭を押さえて呻き始めたのだ。
「グ、グリちゃん如何したの⁉」
「顔色が悪いわ・・・。此は術でも治せないわね。」
「駄目・・・駄目、此の声・・・うっ・・・うぐ・・・早く、早く行かないと、」
「此奴等はもう無力化しただろう。今なら行けるぞ。」
「分かったわ。じゃあグリス、一気に行くわよ!」
「え、ひゃあぁあああ‼」
ロードはさっとソルを御姫様抱っこすると地を蹴って跳んで行く。
余りの力に一帯に砂塵が舞い、残された一同は思わず顔を伏せた。
目が慣れた頃にはもう影も形もない。一体何が起きたのか理解に頭が追い付かなかった。
跳んだ?跳んだのか?一瞬遠ざかるソルの悲鳴が聞こえた気がしたが。
あ、地面に小さなクレーターが出来ている・・・然うか、然う言う事か。
ソル、吐いていないと良いが。あんな体調で此のジェットコースターは無理があるぞ。
「え、えっとセレちゃん、ドレミ達も神殿に行こう!」
「噫然うだな。皆急ぐぞ。」
魔獣達も向かっているのか走り出す。其の後を追う様にセレ達は駆け出した。
―凄い数だね。此全部集まっちゃうのか。―
―セレさんの気配、無かったですけどね。こんな急に始まってしまうのですか。―
「・・・私が憶えていないと言う事は然うなんだろうな。本当に、立ち寄った丈で。」
其で此の惨事だなんて、天災にも程がある。
其の結果で自分は何を得た?等しく世界を壊した後に届いたのは何だ。
・・・嗤えないよな、其の結末がこんな化物なら。
詠が・・・先より大きくなった気がする。神殿の方から聞こえるのか?
詠自体に魔力は乗っていない。只静かに地を満たして行く。
「其にしても此の詠は何なんだろうな。」
「詠?セレちゃん何か聞こえるの?」
「ん、ほら此奴等が詠っているじゃないか。」
近くを走る魔獣達を見遣る。
時に立ち止まり、声を上げて行くので途切れる事はない。高く低く伸び上がっては続いて行く。
―詠、ですか。私は一寸恐いと思っていたので然う捉えられていなかったですね。―
―う、うん僕も不気味と言うか・・・まぁでも聞えなくもないかな。―
皆視線を少し下げてしまったが、然うか?意外だ。そんな風に思っていたか。
此は自分が操っていたからそんな風に思うのか?折角こんな綺麗に聞こえるのに。
「っ不味いな。神殿が囲まれている。」
波紋が伝えてくれた情報は余り芳しくない。
数多の魔獣が神殿を取り囲んでおり、其の入口でロードとソル、リリアスが護っていた。
先に行った漾蛉龍の姿もあるが、魔獣を警戒しているのか少し離れている様だ。
其にしても彼の魔獣、周りに居るのと随分姿が違うな。何と言うか・・・混ざっているのか?
混沌とした、正に様々な生物を滅茶苦茶に混ぜて煮詰めたかの様な、不気味な魔獣が蔓延っている。
スライムの様で、可也大きい。其こそ神殿を丸呑み出来そうな規模だ。
其から触手やら腕が何本も生えている。余りの悍しさに流石のロードもソルも、引いている様だった。
只一人リリアス丈がフレイルを掲げ、正面から対峙している。一歩も引かず、得物を振るっていた。
「な、何彼・・・っ、彼が皆を襲ったの。」
ドレミも其の姿を目撃して少し足が弱まる。
魔獣の背には無数の水精と目が生えていた。其が迫り来るドレミ達に気付き、見開かれる。
―的が大きいならやる丈だよ、行くよ!―
闇の鎧を纏った儘だったローズは漆黔のブレスを吐き出した。
すると魔獣は其の姿から想像も付かない程身軽に動き、あっさりと躱してしまう。無数の手で躯を支えて跳ぶ様に避けたのだ。
其処へ透かさずリリアスはフレイルを投じたが、器用にも腕の一つがしっかりと掴んで止めてしまう。
細腕の様だが、力は可也ある様だ。
―面倒な・・・一筋縄には行かない様だね。―
「貫いて、陣雷驟!」
刹那旻が光ったかと思えば雷が真直ぐ魔獣を貫いた。
然も一本ではなく続けて何本も。容赦のない攻撃の連続に少し足が引いてしまう。
魔獣は雷に因って大きく穴が穿たれていた。そして其処から彼の詠が流れて来た。
詠う様な其の声に応える様に辺りの魔獣達も詠う。
「も、若しかして効いてないの⁉」
―彼は、可也厄介そうですね・・・私はリリアスさんの所へ行きます!―
言うや否やL⊝ ▼▲/は直ぐ様彼の傍へ寄る。リリアスも自分達が来た事に気付いた様だ。
「皆さん!此処は駄目だ!直ぐグリスを連れて離れてくれ!」
―然うも言ってられません!皆戦いますよ!―
「然うよ、グリスが一番に行こうとしてくれたのよ。」
「っしかし・・・、」
リリアスはソルを見遣って暫し顔を伏せた。
彼はもう兜をしているので其の面は見えないが、相当迷っているのが見て取れる。
実際ソルは魔獣を前に可也震えていた。何とか立つのがやっとと言う様な有様だ。
「グリス、矢っ張り彼の魔獣が、」
―違う、あんなの・・・あんな化物なんかじゃ、何が起きてるん。―
―グリスさん?違うって、では彼の魔獣は知らないのですか?―
―見た事ない、矢っ張り何かおかしいわ。うちは見てない、知らないんよ。―
「兎に角、此奴を如何にかするぞ。」
零星をちらつかせるが、引く気はない様だ。周りの魔獣達は詠う丈なのに。
確かに此奴丈何処か異質だ。見ていると感覚が狂うと言うか。
纏う魔力、存在、全てが何処かずれている様な違和感を覚える。
何だ一体、神や龍の類ではなさそうなのにソルの言う通り何処か変だ。
此奴等の目的は何だ。神殿に集まっているのだから矢張りソルを狙っているのか?
其の儘崩して零星を投じる。スライム状の躯を引き裂いて行く。
幾ら素早くても斯うも無数に降らされては避けられないだろう。
でも痛みを感じないのか其では魔獣は止まらない、詠を詠い乍ら腕を振るう。
其処へ黔の釼山が地面から生え揃い、腕を貫いて行った。
力なく腕は垂れて溶け出す。だが又新たな腕が生えて薙ぎ払った。
―効いてないのかな?散らしても戻ってるね。―
「再生か・・・ドレミの雷も効かないとなると。」
面倒だな。此で護り乍ら戦うのは厳しいか。
「聖も駄目ね。殴った所で反応がないわ。」
耐性が高過ぎるのか・・・ってロードの筋肉も通用しないとかどんな奴だ。
何気ロードの口から殴っても効かないと聞いたのは可也衝撃だったんだが、だったら、
幾らか零星を奴に埋め込んでみる。突き破らずに其処へ留めてみた。
すばしっこいが此処迄囲まれると逃げ回るのは無理だろう。かと言って喰らっても効いていないのがな。
一気に零星達を爆発させる。魔獣の躯は脆く、簡単に吹き飛んだ。
上体が飛び散って黔や絳のしぶきが散る。まるで色んな絵の具をぶちまけた様な色合いだ。
「え、何⁉もうセレちゃんやるなら言ってよ!」
「ん、噫済まない。効くか如何か怪しかったからな。」
突然敵が爆発したので攻撃だと思ってしまったらしい。配慮が欠けていたな、申し訳ない。
液が掛かってしまったので何とか払って行く。
変な臭とか付きそうで嫌だな・・・。其にしても半身吹き飛んだなら流石に。
油断なく波紋を送るが、散った液が動く様子はない。
残された半身も固まってしまった様だ。此は・・仕留められたのだろうか。
案外内側の攻撃には耐性が無かったのか?
其にしても遣り過ぎたか。加減は難しいな、殺す気はなかったんだが。
自分が起こして置いて殺すなんて、そんな始末の付け方は余だろう。
見た目なんて関係ない、此奴だって謂わば自分の被害者だったろうに。
小さく息を付く。皆も少しずつ警戒を解いて行っている様だった。
「ま・・・まさか倒したのか?」
「遠慮なくやってしまったな。皆汚れてしまったか、済まない。」
詠も止んでしまった。周りの魔獣が黙って此方を見詰めている。
去る気はないが、攻め入る気配もない。見届けているのだろうか。
「いや、今回は特に不味そうだった・・・皆が居たからこそ、初めて相手出来たんだ。」
―今回のはって、何時もこんなのが来ちゃうの?―
「ん、ん・・・まぁ然うなんだ。其にしても今回は異例が多過ぎる。」
小さく息を付いてリリアスはソルを見遣った。彼女も少し落ち着いて来たのか口を噤んで立っている。
―大丈夫ですかグリスさん、―
―う、うん御免。うちが来たいゆったのに何も出来んで。―
「此許りは仕方ないわ。其より怪我がなくて良かったわよ。」
―いや、未だ全部終わった訳じゃあなさそうだけど。―
ローズが一歩前に出て唸り声を上げる。其の視線の先には漾蛉龍が居た。
ずっと陰に隠れていたので気になっていたのだろう。ローズの声を受け、向こうも眼光が鋭くなる。
「漾蛉龍、未だやる気か?今のを見ただろう。加減を間違えると御前も斯うなってしまうぞ。」
―フン、此で解決したと思っているんならば、其は余りにも早計だぞ。―
「然う言うなら話してくれないか。御前は何を知っているんだ。私は御前の話を聞きたいんだ。」
漾蛉龍は少し唸って尾を揺らしていた。
其の仕草は怒っていると言うより困っている風に見える。
―話した所で、正しく伝えられる自信もなければ、そんな暇もないと思うぞ。―
突如漾蛉龍の傍の樹が音を立てて折れ曲がった。
途端に彼は大きく下がって行ってしまう。見ると近くの他の樹々も同様だった。
折れては捩じれ伸びて行く。其はまるで生きているみたいで。
「ま、不味くない此⁉」
―何か来るのでしょうか・・・?―
皆が警戒する中、又彼の詠が響いた。
其は折れてしまった樹から、空洞となっていた虚から響いてくる。
其を合図にまるで樹は蛇のようにうねり始めた。根が盛り上がり、地中を突き破って行く。
「此も・・・魔獣だったのか⁉」
地中から姿を現したのは樹々を背負った亀に似た魔獣だった。
先のより更に大きい・・・加えて三体も姿を現したのだ。
又出て来た衝撃で地が可也揺れる。上体も整わない内に次々と彼等は這い出て来る。
「え、え、此って如何言う事⁉此の子達ずっと居たの⁉」
「そんな馬鹿な、今迄こんな事、」
「っく、あぁ‼」
蛇と化した樹が怯んだロードに咬み付いた。
其の儘彼女を持ち上げてしまう。
「ロードッ!待ってろ直ぐ其奴を、」
「大丈夫よセレ!此位だったら、」
蛇の頬へ思い切りロードは肘打ちを喰らわせた。
すると其処を起点に蛇の全身へ細かな罅が入って行く。
瞬く間に蛇は動きを止めた。そして一瞬身を震わせる。
其の衝撃丈で蛇は崩れ去ってしまった。初めから其処には居なかったかの様に砕け散って何も残らない。
ロードは難なく地へ着地すると自身に聖の術を掛けた。咬まれてしまった傷も浅かった様で直ぐ完治する。
「大丈夫かロード。」
「えぇ寧ろ狙い易かったから殴れて良かったわ。結構脆いみたいだし。」
人知れずローズがごくりと生唾を呑んだのでつい笑ってしまう。
然うだな、自分達じゃあ腕力の脱出は無理だろうしな。
「う、うちも動かんと。皆頑張っとるんよ。」
小さく呟いてソルは一度強く目を閉じた。
自分が中に籠っている間、兄やんは斯うして戦ってたんだから。
繰り返しちゃいけない、只護られている丈の姫だなんて。
魔獣達が呼んでいる、うちを外へ誘おうと。
其の声に応えてはいけないんだ。
―咲き咲って、瓊葩琉―
ソルが唱えると残っていた樹々から曦が零れて漂う。
水精の中を渦が巻き、曦の葉脈を走らせてうねりだした。
「此・・・は、」
身を斬る此の空気、大地全てに息吹を感じる。
此処に居てはいけないような・・・諭されている、此処に在る可きではないと。
御前は此の世界の者ではない、存在しない者。
在る可きではない、還らないといけない。
何処へ?・・・———。
・・・・・。
景色が色を失った様で息が出来なくなる。
嫌だ、恐い、こんなのって、
―・・・おい、大丈夫か。―
「あ、噫丗闇・・・うん、大丈夫だよ。」
意識が、堕ち掛けていた。
いけない、自分をしっかり持て。こんな声にはもう慣れただろう?
「不思議な感じだけど・・・セレちゃん?若しかして具合悪いの?」
「・・・一寸、私も効いているな。でも其だったら奴等にも有効だろう。」
顔色が悪くなってしまったので直ぐばれてしまったが、でも術自体は可也良いと思う。
不思議な感覚だ。此は翠なのか?でも何だか少し違う様な。
ドレミ達は問題なさそうだし、自分や魔獣に丈効いているのだろう。
亀に似た魔獣達は大きく後退していた。動きも鈍り、呻く様な声を漏らす。
―まさか此は・・・精霊を操っているのか。―
「精霊?此の翠がか?」
気付けば漾蛉龍が傍に寄って来ていた。
術を良く見たいのか目を見開いてじっとソルを見詰めている。
―左様、何とも稀有な力だ。翠の力を此処迄昇華させる等。此の力に、我は惹かれたのか・・・。―
「精霊・・・然う言う事ね。翠は元来召還術が基礎となっている。でも大抵は自我の無い者しか呼べないから植物等に限定され勝ちなんだけれども。」
「召還術?翠がか?初耳だが。」
「えぇ、実は宙に類似した力なのよ。けれども大きな力を使うから植物に許り使われて、今ではすっかりイメージも付いたから。こんな本来の使い方が出来るのは稀だわ。其で精霊を呼んで魔を遠ざけているの。だからその・・・セレ、同じ精霊なら貴方、可也きついんじゃなくて?」
気遣う様にロードが顔色を覗うが、未だ大丈夫だ。此位なら。
でも召還術か、想像もしていなかったな。まさかそんな初まりがあったのか。
曦でなくとも自分が此処迄喰らうのは精霊だからか。成程、然う言う要因もあるんだな。
少し頭痛に似た痛みを覚えて目を閉じる。此は堪えないと、ソルの術を受け止めないと。
「大丈夫、未だ動ける・・・。兎も角此で助かったなら良かった。」
此丈力で満ちていれば、幾ら黔日夢の次元と言えどもやっては来れまい。
「噫、まるで・・・導いてくれている様だ。」
惚けた様にリリアスは漂う曦を見詰めていた。暖かな曦につい目を閉じる。
―凄いよグリス、僕こんな魔術見た事ない!―
―う・・・ん、良かった。何とか出来て。故郷やからかな、凄くやり易かったんよ。でも精霊なん?此。―
「此の地を共に護ってくれているんだろう。凄いぞグリス!」
パッとリリアスは彼女に向き直ったが慌てて顔を逸らす。
でもじっとソルはそんな彼を見詰めていた。
「あ・・・あの、リ、リリアス・・・さん、いや、にぃ、」
然う切り出した途端、又彼女は頭を抱えて蹲ってしまった。
―だ、大丈夫ですかグリスさん!力の使い過ぎでは!―
「グリス⁉駄目だ無茶しては!」
―ち、違う・・・又、聞こえる。―
「聞こえるって若しかして鳴き声の事?」
気付けば下がっていた魔獣達は又鳴き始めていた。
亀も蛇も鹿も、喉を震わせて鳴き続ける。
恐ろしい呻き声にも似た声、でもグリスが然うなってしまう程不快には思わないけれども。
「だったら奴等を蹴散らしてやろう。」
亀の魔獣に向けリリアスはフレイルを投擲する。
無慈悲な金属の塊は亀の背にぶち当たり、大きく甲を砕いて行く。
背負っていた水精の蛇が何匹か砕けて抜け落ち、亀はのたうった。
攻撃をされて怒った亀はリリアスに向け突進する。只術の所為か可也動きは鈍かった。
対してリリアスにはL⊝ ▼▲/の時の術が掛けられている。羽根の様に軽々と動く事が出来るのだ。
「ほら、此以上留まると甲羅が無くなってしまうぞ!」
リリアスのフレイルに曝され、亀達は詠うのを止めて一斉に彼を襲う。
彼を襲わせる訳には行かない。残した零星を走らせて牽制する。
更に其処へドレミの雷も降り注いだ。詠を途絶えさせるには十分の衝撃だ。
魔獣達は重なる攻撃に参って来た様で詠う事を止めて駆け回り出した。
混乱しているのだろう。此方を正しく狙えている訳でもなく、只攻撃を避けようとてんでバラバラに暴れ始めたのだ。
―此の儘押し切れそうだね。―
「ん・・・だと良いんだが。」
何だか妙だ。波紋が騒ついている。
何か居る様な・・・?霞の様に良く分からない。見えていない訳ではないのに。
来る、大きな気配を感じる。でも、何処からだ?
波紋を研ぎ澄ましていると彼の詠が響いた。
其は頭上から。然も複数だ。音が重なり合って一つの曲として完成する。
皆弾かれた様に旻を見て初めて気付いた。何と神殿の上に一頭の魔獣が居たのだ。
其の魔獣も複数の生物が合わさったかの様な姿をしていた。一見蜥蜴の様だが顔は蝶の様に色鮮やかな翼が開かれ、中心に水精の嘴を備えている。長く伸ばされた細い手は人の様で、一部の指が刃の様に突き出ている。
後ろ足の代わりに宛ら百足の様に無数の足が生え、其の背には穴が幾つも開いていた。
其の穴から詠が聞えるのだ。凱風が吹く度に其々の穴が違う音を立て、一つの詠になって行く。
其の魔獣は神殿の上に座り込んでおり、長い手を伸ばしてソルに向けた。
まるで誘う様に、差し出される。
「・・・っ、い、いや、来ないで!う、うちはもう、」
「っやっと御出座しか!此方だ化物!」
迷わずリリアスはフレイルを其の魔獣へ投じる。
其に対して魔獣は水精の嘴を搗ち合わせ、フレイルを弾き飛ばした。
「ぐ、相変わらず堅いな・・・。」
―御出で、御出で御出で。―
不図聞こえて来た声にはっとしてソルはより強く耳を塞ぐ。
塞いでも塞いでも聞こえて来る。彼の声は、
―君の詠が聞きたいな。僕と一緒に詠おうよ。―
「グリス、しっかりして。少し離れた方が良いわ。」
―ラララ~ラララ~ほら蕭森の友達も集めたよ。皆で一緒に。―
聞こえる、彼の詠は・・・屹度自分にしか聞こえないんだ。
神殿の外からずっとうちを呼んでいた声。優しくて甘くて、うちは其の正体を知らなかった。
兄やんに言われていたのに。絶対に出るなって。
護ってくれていたのに、うちの事・・・死ぬ迄、護ってくれていたのに。
―御出で御出で。君の小鳥の声を聞かせてよ。―
魔獣は背を震わせて詠い続けた。
傍から聞けば、其は只の鳴き声で、不気味にも美しくも聞こえるだろう。
でも其の音は鳥の語を解する者達を誘う詠にもなる。
美しい音色で、其がまさかこんな化物が奏でていたとは思えない程の。
「・・・此以上誑かすな化物め。」
リリアスは大きく一歩前に出てフレイルを振り回す。
対して魔獣は彼を狙って腕を突き刺して来た。
備わった刃を突き立てて来る。其の鋭い一撃を彼は既で躱して、空振った刃は目前に刺さる。
其の刃にフレイルの鎖が絡まり、遅れてフレイルが押し潰す様に降って来た。
余りの衝撃に刃も耐え切れずに折れてしまう。刃を地に刺した儘魔獣は腕を引っ込めた。
「・・・先ずは一撃。」
―遊ぼうよ。其とも御喋りが御好き?僕素敵な話知ってるよ!―
詠い乍ら魔獣は顔の膜を広げた。
まるで翅を広げた蝶の様に仄かな曦が満ちて行く。
「っ不味い、皆目を伏せろ!奴の曦は意識を持って行かれる!」
ちらと丈リリアスは此方を振り返ると顔を伏せる。
粗同時に魔獣の膜は皓く輝き出し、世界を一色に染め上げる。
「・・・っ、」
セレは波紋に因り世界を見ているので目眩まし等関係ない。
だが曦には僅かに光の魔力が込められていた。聖が主体の様だが少しでもきつい。
正面からの曦は防ぎ様がなく、顔や腕が焼かれてしまう。
只でさえソルの術で地道に削られていたのに、一気に腐ってしまう。
―⁉セレさん大丈夫ですか!―
ちらと丈L⊝ ▼▲/が目を開け、直ぐに飛んで来てくれた。
鼻血が出て止まらない・・・やられたな、随分焼かれてしまったか。鼻自体無くなっている気がする。
波紋で余り自分の顔を見ない方が良いか。晒をしていたから未だ助かったけれどももっと捲かないと駄目か。
「何とか。動く分には大丈夫だ。只私と奴の相性は悪いな。」
「セレは控えて、私が行くわ!」
ロードは地面に刺さった儘になっていた魔獣の爪を引っこ抜いた。
そして迷う事なく其を投擲する。
鋭い一撃は詠い続ける魔獣の鰭に刺さり、一枚を引き千斬って行った。
―綺麗だよ。外は何て美しいんだ。一緒に踊ろう、詠おうよ。―
「っ、痛みを感じないのかしら。」
―でも向こうも余り攻めて来ないね。―
魔獣は神殿の上から動かない。未だ背伸びする様にして凱風を受けている。
「いや、詠う事こそが奴の目的だ。だから彼を止めないと。」
「彼奴の事、良く知ってるな。此の辺で良く出る魔獣なのか?」
時空の穴から晒を出し、念入りに顔に巻いて置く。
・・・もう完全に不審者だけれども、もう致し方ないだろう。
「・・・噫、良く、出るな。彼奴がボスみたいな物だ。」
うわ、本気か其。此の次元で生きて行ける気がしないんだが。
こんな恐ろしい奴が再々来て曦丈放って去って行ったら嫌過ぎる。
詠声の綺麗さは認めるけれども光、本当に駄目になったなぁ。
「じゃあ弱点とかは知ってるか?良く出るのなら、良く追い払ってもいるんだろう?」
「其が・・・済まないが弱点迄は。兎に角攻撃を加えて詠を止めないと。」
「然うか。・・・っ、」
不味い、ぐらっと来た。此の感覚は。
血、血を・・・求めてしまう此の飢餓感は。
一度にダメージを負い過ぎたんだ。食べて来た許りなのに又こんなに。
いけない、リリアスに牙を向けては。如何する可きか、一度下がるか。
でもこんな状況で下がれる筈もない。何とか抑えないと。
其でなくても毒を、放ってしまう。息が毒を含んで、
駄目だ。此の毒は皆にも影響してしまう。動けなくなったら其こそ終わりだ。
手があるとしたら・・・一か八かやってみるか?
―・・・丗闇今から一寸危険な手に出てみる。若し其で暴走する様な真似をしたら殺してくれるか?―
―御前、其処迄力を使わないといけないのか。―
―いや、何の道此の儘だと人間を食べたくなって、見境が無くなりそうだ。―
―・・・分かった。だが余り我の手を煩わすな。―
―ククッ、善処はするよ。―
此で保険は掛けられた。しっかり暴れるとしようか。
人間を喰らいたくて仕方ないのなら、対象を変えれば良い。
只やった事がないから不安だけど・・・やるしかない。
そっと時空の穴から一つの小瓶を取り出す。
中の踊る絳い液体を見た丈で喉が鳴る。
其を握り締めて地を蹴った。魔獣の元迄一気に跳ぶ。
御前が悪くない事を知っているよ。でももう駄目なんだ。
此の傷の分、きっちり返させて貰うぞ。
瓶の中身を奴に投げ付ける。
絳い、鮮やかな血が振り撒かれ、奴の上体を染めた。
「セ、セレちゃん何をっ⁉」
「噫・・・喰い応えありそうだな。」
纏っていた零星達が黔く煌めく。
零星の性質が変わってしまったのだ。其迄の斬り裂く流星ではなく、
・・・喰らい付く凶星へ。
零星の軌跡が変わる。四方から魔獣を取り囲む様に迫り来る。
そんな零星に向け魔獣は手を払った。残った刃を叩き込む。
だが零星は砕けず、代わりに刃はぼろぼろになってしまう。凹凸が目立つ酷い刃毀れだ。
―此の景色を君にも見せたいな。ねぇ、綺麗だよ?―
未だ詠う魔獣の背にセレは降り立った。
音の鳴る穴へ爪を差し込むと零星達も駆け巡る。
絳い、絳い血が、欲しい、早く飲み干したい。
ぐっと衝動を堪えて、でも目は絳から逸らさずに引き裂いた。
可也甲は堅い様で一撃では、欠けた丈では砕けない。でも其処に向け零星が滑り込む。
然うだ、喰らい尽くせ。こんな物じゃあ足りない。もっと血を、死を、絳を。
零星は魔獣の中を引き裂き、甲を突き破って走り回った。
血が溢れて掛かる。其をドレスの様に纏って零星は廻る。
背に大きな穴が開き、魔獣はのたうちだした。尾を激しく叩き付けて来たのでセレも後退する。
・・・此以上は、歯止めが効く内に下がらないと。
神殿から降りると、魔獣は暴れた衝撃で粗同時に落ちて来た。
零星を回収して下がる。黔く輝く星々は自分の中へと消えて行った。
―今の、可也効いた様ですよ!―
「・・・セレちゃん、一寸無理したでしょ。」
隣のドレミに軽く睨まれてしまうので少し顔を背ける。
そ、そんな事は・・・、抑此は仕方のない事だったので。
零星が戻った途端、視界が広くなった。息が楽になった。
上手くは、行ったみたいだな。そんな応用が出来るとは。
―・・・零星に代わりに喰わせたのか。―
―お、流石丗闇御慧眼。―
然う、今のは自分の代わりに零星達に奴を食べて貰ったのだ。
尾が変化した蛇みたく、零星自体が肉を喰らい、血を蓄えた。
其を今斯うして自分へ戻したんだが、此の様子だと自分の捕食衝動も抑えられたらしい。
良かった。喰らう丈喰らって満たされなかったらやり損だったからな。
不思議な感覚だけれども、自分では食べていないのに満足感丈ある。
確か精霊って実体とかより感覚に近い所が大事なんだよな。
自分の場合は食べたという実践、人肉を・・・ガルダを食べたと言う感覚が必要。
だから奴の中を大分抉ったけれども、実質ガルダの血の小瓶一つ程度しか満たされてはいない。後のは只の嗜好品に近い形となるんだろう。
一時とは言え、零星の性質すら変えてしまう捕食衝動か・・・精霊らしいと言えばらしいが。
―零星が食べた分もちゃんと自分に戻って来て良かったよ。―
―御前は精霊寄りだからな。魔力も血や肉と同等の御前の一部と取る可きなんだろう。―
―血肉・・・成程、其は分かり易いな。―
然うか。血だって抑魔力で心臓の代わりに動かしているんだし、寧ろ一番大元か。
魔力が全て、魔力が主体、其が今の自分なんだ。
でも此の方法、矢張りガルダには使えないな。
絶対痛い。此の魔獣ですらこんな痛がっているし。
小さな歯で削ぎ取られて行く感覚なのだろう。・・・うん、想像したら普通に痛そうだった。
まぁ痛くなかったらガルダにして良いのかと言ったら全く別の話なんだけれども。
何だか最近一寸、良くないと言うか・・・あろう事かガルダの方が食べられたがっている様な気がする。
い、いや、流石に気の所為だとは思う。下手したら其は自分に都合の良い幻想の様じゃないか。
此の罪悪感を減らす為の・・・汚い、化物らしいやり方だ。
嫌に決まってる。嫌々やらされているんだ。自分を生かす為に、彼が生きろと願いを掛けたから其を果たす為に。
然うでないなら結局、自分の毒の所為だ。毒で彼を変えてしまった。自分好みの・・・食べ易い餌として飼い殺す為の。
其に、嫌だとどんなに否定しても其を拭えずにいるんだ。食べたくて仕方ない此の感覚。
彼を、縛ろうとしている。無自覚に、否自覚しても猶。
だから猶の事、此の零星の力は使えないんだ。だって・・・自分で食べた方が美味しかったから。
魔獣に血を掛けて喰らった事を、惜しいと後悔する程に、自分は求めてしまっている。
噫、折角の血をこんな風に使ってしまうなんてと、耳の奥から声がする。
おかしい、自分はこんな、何かに執着する様な質じゃなかったのに。
気持悪い、こんな感覚を持ってしまった事が。吐きそうな程、耐えられない現実だ。
・・・もっと別の手段、考えないとな。
―モット声を出して、響かせて、奏デようよ。―
魔獣は地に落ちたが未だ詠う事を止めなかった。
穴が欠けた為、詠は可也歪になってしまったが、其でも懸命に詠い続ける。
「良し、引き摺り落とせたか。もう少しだ!」
リリアスがフレイルを投じると大きく魔獣は後退した。
もう武器らしい武器は水精の嘴位しかないからだろう。去なせなければ避けるしかない。
其にしても案外機敏だな。百足の足だったか其でもフレイルを見て躱せる程には素早い。
いやでも奴も奴で未だ引かないか。勝ち目なんてもうないし、目的が良く分からない。
リリアスは詠う事と言ったが、果たして其は如何言う事だ。詠った所で何の意味がある。
別に魔力だとかも乗っていないし、其に逆転の目は無いと思うが。
―・・・妙な魔力が漂っているな。―
―ん、丗闇何か分かるのか?―
気付いていない丈で何かされているのか?
―先から空間全体に漂っている。明らかに異質だ。―
―具体的にどんな風か分かったりするのか?―
言われて改めて波紋を澄ますが・・・うーん、はっきりしないな。
余り聞き過ぎると精進しろと怒られてしまうだろうが赦して欲しい。
―次元を歪ませていると言うか、此の現象は稀にあるが。恐らく過干渉だな。御前は経験していないから分からないんだろうが。―
過干渉?余り聞き慣れない言葉だな。
―干渉って・・・ん、若しかして私達の所為とかか?神が次元に干渉しているとかって。―
何だかガルダが昔似た様な話をした様な・・・余り干渉をしたらいけないみたいな、暗黙のルールっぽく彼は語った気がするけれども。
―・・・いや、御前達程度の干渉で此処迄影響が出るとは考え難いが。・・・呉々も用心する事だな。―
―ん、分かった。忠告有難う丗闇。―
態々丗闇が教えてくれたとなると、いよいよ不味そうだな・・・。
思ったよりも事態は宜しくないのかも知れない。漾蛉龍の件もあるしな。
只此の魔獣を倒せば良いとか、そんな訳じゃないのか。
―・・・一つ丈言うとすれば、今相手している奴は先御前が爆死させた奴と同じだぞ。―
―ん、同じ・・・?同じって何がだ?―
―全てだ。姿は違えど、存在其の物は同じだ。此の次元に於て先の亀も同じく。御前達はずっと同じ奴を相手にしているぞ。―
―何だ其、散らしたと思っても又再生してるってのか?―
何だか一寸アティスレイみたいだけど、でも何だ其、然う言う生物なのか?
―・・・だから我も気を付けろと言っている。我も正確に其奴を計れん。―
―未知との戦いは気が抜けないな。―
此は相当覚悟を決めないと。
同じ奴を相手しているだなんて普通じゃない。然もこんな全くの別種に成るだなんて。
此奴の正体もちゃんと突き止めないと、下手したら永遠に続くって事だろう?
彼の詠に意味があるとか・・?其とももっと根本的な別の物か?
思考を引き裂く様に雷が駆け巡る。
ドレミの物だ、先程からずっと正確に狙っている。
命中してはいるが、余り効いてなさそうだな。多少怯む程度だ。
かと言って自分が零星で爆発させたのも結局生きていたって訳だし、有効打は分からない儘だ。
「もう、耐性でもあるのかな。」
「直接攻撃の方が効きそうね。」
―直・・・接?―
L⊝ ▼▲/が首を傾げているとロードは薙ぎ倒されていた樹を拾い上げた。
軽々と肩に担ぐ様を見てリリアスが目を剥く。先からちょくちょくしていたが、恐らく理解が追い付いていなかったのだろう。
「・・・え、ロ、ロード嬢、何を、」
「私も加勢するわリリアスさん。二人で攻めれば向こうとて対処出来ない筈よ!」
はっとした様にリリアスがフレイルを回すと其に併せてロードも樹を振り回す。
魔獣も二つ同時に来るとは思っていなかったらしく、樹に注意を向けたのか嘴を其方に向ける。
だが迫って来たフレイルに気付いた時には遅く、頸に鎖が巻き付いた。
然うして動けなくなった魔獣に向け、樹が叩き付けられる。
鰭を二枚程引き千斬られ、魔獣は随分と見すぼらしい姿になった。
残った鰭もドレミの度重なる雷で黔ずんでいる。
「・・・此ならもう彼の妙な技は使えないわね。」
「噫助かるロード。只一つ相談良いか?」
「あら、何かしらセレ。」
ロードは大神の所に居たし、知識が一番深いだろう。彼女の知恵を借りよう。
樹を抱えた儘振り返られるとついドキッとしてしまうが、大丈夫、彼女は無暗に他者を傷付ける様な神じゃない。
・・・まぁ恐らく故意じゃなくて無自覚にやってしまうんだろうけれど。
手短に丗闇のくれた情報を共有する。
魔獣の相手はローズ達もしてくれる。其の内に少しでも詰めたい。
「丗闇様がそんな事を・・・。過干渉、然うね。私も分かるわ。成程、此の違和感は然うだったのね。」
「分かる物なのか?因みに具体的に如何言った具合になるんだ?」
「神には干渉力があるでしょう。其がずっと一つの次元に作用し過ぎると、次元其の物が歪曲してしまう事があるの。其の神の都合の良い世界に。其は支配に繋がるから、基本的に良しとされていないの。」
「次元を・・・支配してしまうのか。」
然うか。仮に前世と同じ次元に其の神が行ったら結構好き勝手出来るのか。
勝手も分かっているだろうし・・・とは言っても神になる位の奴なら然うそんな手は取らないと思うが。
いやソルドの様な奴も居るか。然う言えば自分が最初に行った次元、勇の所ではソルドの所為で戦争が続いていたし、彼も過干渉の一つだったのかも知れないな。
「実は私、大神様の宮処で然う言ったのが起きていないか監視する役目も担っていたのよ。私は大体外から手を加えて作用を止めていたから実際斯うして中に入って対処するのは初めてだけれど、こんな具合なのね。」
「然うだったのか。作用を止めるって、じゃあ来ている神やらを追い払うなりすれば良いのか?」
「大体は然うね。セレ程の干渉力なら支配し返す事も出来そうだけど・・・。」
「多分其したら碌な事にならないと思うぞ・・・。」
只でさえ今は黔日夢の次元で大変な事になっているのに。此以上此の次元を引っ掻き回したくない。
何よりソルの故郷だ。此以上トラウマを増やして如何するんだ。
「でも問題もあるのよ。其の肝心の神が、」
「分からない、か。然うだな。気配もしないし。」
原因が分かっても対処が、と言う事か。丗闇が言い渋ったのも此の事だな。
又候じゃあソルドみたいな神が居るのか?誰が此の状況を創り出している?
何の為にだ。矢っ張り目的が見えない。
「因みに丗闇の言い振りだと如何だ?其の過干渉の所為で時間が戻っているのか?」
「然うね、其の可能性は高いわ。」
ソルもずっとおかしいと言っていたし、然う言う意味か。
多少繋がったが、未だ全てではないな。
「となると・・・其方を如何にかした方が良いか?此の魔獣も恐らく、然う言う事だろう?」
「然うね。まさか同じ相手とは思わなかったわ。彼を斃しても直ぐ別のが来てしまうでしょうね。」
「時間が戻っているのも気になるし・・・成程、確かに歪められているな、此の次元は。」
ソルが過去の事だと言っていたけれども、矢張り違和感は其処にあるんだろう。
干渉力が働いているのだから、普通に考えたら過去に行かない筈なんだ。
次元の主導者を助ける為に自分達が来ているという点丈見れば、黔日夢の次元の時に彼、リリアスを護れれば良いと思い勝ちだが。
でもソルは言っていた。自分は此処で死んで神に成っている。そして次元の主導者であるリリアスも死んでいると。
だったら其の時点で此の次元は・・・終わってしまったんだ。もう次元其の物が無いのなら、戻ってやり直す事なんて出来ない。
卵が先か鶏が先かみたいな物だ。此処に大きな矛盾がある。
大きな違和感の正体は恐らく此だ。
じゃあ残るは・・・誰が、何だが。
リリアスの次元の主導者としての力も不思議とずっと弱いし・・・此も関係しているかもな。
―如何シテ詠ってくレないノ?楽しイよ、君の美シい声が聞きたイナ。―
「っ化物が。此以上好きにさせないぞ。もう止めろ、其以上詠うな!」
リリアスのフレイルから曦の帯が放たれて魔獣を斬り付ける。
ロードの猛攻も相俟って魔獣の動きも可也弱まった。
其でも詠う事は止めない。じっと神殿の方を見遣って詠う丈だ。
だが不意に魔獣は大きく跳び上がった。
百足の足を伸縮させ、神殿迄跳び上がる。
「っひ・・・あ、」
神殿の前にはすっかり動けずにいたソルが居たのだ。彼女の前へ跳び掛かる様に影が迫る。
「っグリス‼」
リリアスが声を荒げると同時に魔獣に絡まっていたフレイルが爆発する。
込められていた魔力を解放したのだろう。其に因り大きく魔獣の着地点がずれる。
辛うじてソルは潰されずに済んだ。けれども目の前に迫った魔獣を前に彼女は竦み上がってしまう。
「グリス!下がるんだ、いけない此以上は!」
急ぎリリアスは彼女の前に立つ。飾り瓊に戻ってしまったフレイルを掲げた。
「う・・・あ・・・兄、やん、」
兄の背を見て、ソルの瞳に一つの情景が過る。
噫終に重なってしまった。彼の日の景色、消したい絳の記憶が。
彼の時も、兄は自分の前に出て、彼の魔獣と対峙して、
出るなって、彼の詠に応えるなって、言われていたのに。
“私が必ず呼びに行くから、其迄は何が聞えても応えてはいけないよ。”
神殿の扉越しに聞こえた兄の声、彼の時の私は何が外で起きているのか一切知らなかった。
兄が教えてくれたけれども信じられなくて、
村はもうなくなった事、兵ももう殆ど居ないと。
其でも私丈は護ってみせると。
“御出でよ。”
不意に心臓が跳ねる。彼の時の声と良く似た終わりの鐘。
“御出でよ御出で。一緒に遊ぼうよ。”
私が詠えば、此の扉は開く。一歩先に声の主が居るんだ。
こんな綺麗な声、聞いた事がない。一体誰なんだろう。
“兄さんも一緒に居るよ。皆で君を待ってるよ。”
「兄やん・・・。」
無意識に私は、応えてしまったんだ。
途端に眩しい曦が差し込んだ。扉が音を立てて緩りと開く。
其処に居たのは・・・真絳に濡れそぼった化物の姿で。
彼の絳は屹度皆の・・・彼の刃に刺さっている塊は屹度・・・。
積み重なった骸の上で化物は詠っていた。
声丈は美しく、まるで揺籃歌の様に。
―ようこそようこそ!さぁ遊ぼうよ。世界が終わる其の時迄。―
「っ⁉如何して出て来たグリス!」
扉に背を向けていた兄が振り返る。
彼はもう血塗れで、左腕は折れたのか少し不自然に下げられていた。
全身傷だらけ、フレイルも砕けてしまって、鎖丈虚しく其の手に握られている。
其の時、私は言葉を失った。
そして自分の愚かさを知った。今更悟った所で遅い。
色を失い、固まってしまった私を庇う様に兄は前に出た。
でもそんな状態で戦える訳が無くて、
「逃げろ、グリス!」
化物の嘴が易々と兄を貫いた。
腹を突き抜け、血の雫が幾つも其の先端を伝う。
もう其の先しか見られない、喉が焼け付いて声なんて出ない。
其でも兄はずっと譫言の様に私の名を呼んでいて、化物丈を見据えていて、
・・・そんな気高かった兄の全てを、私は無駄にした。
―左様なら、又遊ぼうね。―
其の詠を最後に、私の世界は闇へ堕ちた。
「・・・っ、あ、ぐ・・・、」
酷い眩暈を覚えてソルはふら付いた。
駄目、此の儘じゃあ・・・又繰り返す。
私の所為で、私が、馬鹿だった所為で。
兄が、死んでしまう。殺されてしまう。私なんかを護った所為で。
こんな様で何が皇女だ。導けもしない鳥に一体何の価値があると言うの。
化物の詠で止まる様な、そんな皇女だなんて。
ギュッと手を組み、深く息を吸う。
化物の詠に支配される。全てを終わらせようと破滅へ導こうと。
其なら私が・・・連れ戻す。皆を正しく導く。
「此の声・・・は、」
知らず一同の手が止まる。まるで時も止まってしまったかの様に。
空気が変わった。満ちる曦に、寄り添う様に優しく柔らかい物に。
樹々から飛び立っていた曦が螺旋を描いて踊り出す。輝きが増して玻璃を纏う。
統率が取れているかの様に流れる曦達は一つの音を指揮に踊っていた。
全ての中心となる音に、まるで導かれる様に。
「此・・・詠、なの。」
惚けた様に口に出す。音の中心に居たのはソルだった。
薄く目を閉じて、ソルは詠っていた。何時もみたいにテレパシーではなく、己の声で。
其の声は余りにも美しくて、化物の奏でる幽風の音をあっさりと掻き消した。
曦を連れ立って、悟らせてしまう。押し流し、一点の曦となる様に。
「まさか此は・・・精霊歌。」
術の一つ、精霊術の超上級の。
精霊達を召喚し、詠で操り其の力を何倍にも高めると言う。
誰もが言葉を失って見入る。否、魅入られていた。
誰も逆らえない、全てを鎮め、誘い、宥める此の詠こそが。
―噫残念、もう其の詠ハ君ノ物だ。―
終にはふつりと化物は黙り込んでしまった。
そして緩りと溶解する。静かに溶けて流れて。
まるで初めから其処に誰も居なかったかの様に、幽風丈が残されて。
辺りを囲っていた魔獣達も同じだった。一頭残らず、声一つ上げずに溶けて行く。
其から彼女が詠い終わる迄、誰もが静かに見護っていた。
声を上げる事も、瞬きすら阻まれる様で。
彼女の口が閉ざされて初めて時間が動き出した。
「グ、グリス、今のは・・・君の、詠だったのか。」
間近で聞き続けていたリリアスは大きく目を瞬いて彼女を見詰めていた。
彼のオッドアイが向けられてソルは微笑する。
「・・・うん、然うやで兄やん。」
僅かに彼は目を見開き、小さく口元で笑った。
「・・・、矢張り無理があったか。」
「当然よ、ずっと変やったもん。」
「其は私の台詞だよ。本当どんなに驚いた事か。」
二人共知らず含み笑いが漏れ、目元が穏やかになる。
一つ息を付いてリリアスは顔を上げた。
―・・・リリアスさん、一体何処迄御存知なのですか?―
L⊝ ▼▲/が怖ず怖ずと切り出した。
今の彼の反応から少し丈予想が付く。彼女をちゃんと妹のグリスと理解しているのならば。
「おや、まさか私が聞かれる側か。寧ろ私も君達にずっと聞きたかったが、いやでも其より、」
ちらとリリアスは一同を見渡した。そして片膝を立て、胸元に手を置く。
「皆さんの御協力、深く感謝する。御蔭でやっと私は彼奴を打ち斃す事が出来た。」
「そんな事、全てグリスの御蔭よ。可愛くて勁くて、本当凄い妹さんね。」
―や、ややわぁロード先輩・・・。―
直ぐ顔を赤らめてソルはリリアスの背に隠れてしまう。
そんな彼女を見てリリアスは小さく吹き出した。
「確かに、結局妹に全てさせてしまったな。本当に敵わないよ。知らない間に腹話術かな。其を習得しているし。」
―そ、そんな事・・・えっと、後、腹話術ってのは・・・えと、―
すっかり困ってしまった彼女を見て、又彼は微笑した。
「色々話したいが、如何か少し丈待ってくれ。待たせた人が居るんだ。」
そっとリリアスはソルの頭を撫でると神殿の扉に向き直った。
固く閉ざされた扉へ向ける彼の視線は真剣其の物で。
「・・・グリス、随分待たせてしまったな。もう大丈夫だから此処を開けてくれ。」
静かな其の声に呼応する様に緩りと扉は動き出した。
凝っていた空気が外へ流れ出る。
ひやりと冷たい空気についソルは身震いした。
そして恐々と中を見遣る。でも・・・中には誰も居なかった。静けさ丈が広がっていたのだ。
「・・・矢張り、誰も居なかったか。」
自嘲気味に彼は笑った。然うして神殿内へ足を踏み入れる。
「・・・兄やん、」
「如何した、入って良いぞ。皆さんもどうぞ。」
誘われる儘に一同も神殿内へ入って行く。
中は翡翠色に煌めくステンドグラスが至る所に敷き詰められていた。
外見は一見無骨然うな皓い建物だったのに、中の鮮やかさと言ったら。
良く見るとステンドグラスの様に写るのは翡翠の筐が敷き詰められた物だった。
其の筐一つ一つの中心に曦が灯り、優しく辺りに陰を映し出していたのだ。
其の曦は揺らめいて、無数の鳥が飛び立つ様にも、羽根が舞い散る様にも見える。
建物内に居乍ら、宛ら蕭森の中に居る様な不思議な静寂に溢れていたのだ。
「凄い・・・綺麗。」
思わず見惚れてしまう様な景色だ。常に曦は揺れて景色が変わって行く。
「リリアスさん・・・あの、」
「噫、私に説明出来る事ならさせて貰おう。」
彼は愛おしむ様に翠を見遣って静かに瞬いた。
「・・・私はずっと、此の終わりの日を繰り返していたんだ。」
―繰り返しているって、まさか時間が・・・?―
「然う、気付けば私は他の兵達と一緒に巡回していて、程なく化物の軍勢が押し寄せる。其の化物を追って神殿へ辿り着くが、其処で何時も彼の魔獣に殺されてしまう。ずっとそんな世界を繰り返していた。」
―っそんな、ずっとこんな一日を・・・?―
「私は其の度に此の神殿を護ろうとしたんだ。私が死ねばグリスも殺されてしまうだろうから。だからずっとそんな未来を変えようとしたんだ。」
繰り返す世界、其を巡るのは一体何程の苦痛だろうか。
未来は分かっているのに変えられない。其でも諦め切れずに繰り返す。
そんなの、直ぐ気が狂って御仕舞いになってもおかしくないのに。
でもそんな事、噯にも出さずに優しく彼は咲っていた。
「私はずっと、知りたかったんだ。私が殺されてしまった後、彼の子が如何なってしまったのか。そして未だ此処に居るのなら謝りたかった。護れなかった事と、ずっと迎えに来てやれなかった事を。」
「っ!兄やんが謝る事なんて一つもなかよ!抑うちが開けた所為で兄やんは、」
「グリス、君は何も悪くないよ。悪いのは君を唆した化物なのだから。其に結局、君が斃してしまった。矢っ張り・・・皇女の力は偉大だ。そんな君の騎士になれて、私は本当に誇らしいよ。」
困った様に彼女は俯いてしまう。リリアスも少し考えあぐねている様だった。
「・・・此処に君が居ると信じていたから私はずっと繰り返して来られた。如何してこんな事になっているのか、皆を助ける事は出来ないのか。何度も何度も心が折れそうになったよ。でも、やっと此処迄来れた。私が本当に壊れてしまう前に終われて良かったよ。」
「え、あ・・・リリアスさん。」
思わず声が漏れ、固まってしまう。
優しく咲い続ける彼の手には罅が入っていた。
不可解な罅、鎧毎彼を蝕む其は少しずつ広がっている。
何の術かは全く分からない。でも彼を蝕む其が良くない物だと言うのは一目で分かった。
「何時かは斯うなる事も分かっていたよ。繰り返す度に躯がおかしくなっていたから。だからL⊝ ▼▲/殿の支援は本当に有り難かったよ。御蔭で前みたいに動けて、如何にか戦えた。」
さして其の罅を気にする事なくリリアスは静かに咲い続けていた。
翠の曦がそんな彼の横顔を照らして行く。
「屹度私が終われば此の不可解なループも終わるだろう。けれども今回は本当に驚いたよ。何時もと全く違う流れで、知らない魔獣許り出て来るし、旅人なんてやって来るし、加えて其の一行にあろう事か妹も居るとなっては。」
思い出し笑いか苦笑を浮かべ、リリアスは一つ咳払いをした。
彼のオッドアイの双眸が宝石の様に煌めく。其の視線はソルに向けられていた。
「何が起きているか分からなかったけれども、此処迄来る道中で何となく分かったよ。グリス、君は屹度彼の日を生き延びたんだろう。そして彼等に出会った。此処に立ち寄ったのは偶々かも知れないけれど、良い縁があった様で本当に良かった。」
「・・・兄やん・・・うん、うち、今皆で旅と言うか、店、しとるんよ。色んな所に行って、皆を助ける。でも、其の間ずっと兄やんは此処に、居たんやね。」
「ははっ、凄いじゃないかグリス。立派な物だ。良いよ、君が元気にしているなら本当に良かった。私は・・・何も変わっていない。此処で立ち止まっていた丈なのに、然うか。外に・・・出られたんだな。」
自然目が潤んでソルは只頷いた。又優しくリリアスはそんな彼女の頭を撫でた。罅が広がり、指が欠けても気にせずに。
「良いんだよ。もう此処は・・・此の国は終わってしまった。もう君が導く可き民は居ない。だからグリスとして、彼等と歩んでくれ。」
「兄やん・・・もう、駄目なん。兄やんは・・・一緒に、居られんの?」
「済まないグリス、其丈は。もう、殆ど動けないんだ。でも凄く穏やかな心地だ。やっと、君に会えたんだから。君の方から迎えに来てくれたのに、御免ね。」
「・・・・・。」
静かに語る二人に、僅かにセレは口を開いたが、そっとロードに止められてしまった。
でもこんなの、只見ている丈なんて。だって彼が斯うなってしまった原因は、抑の因果は、
「セレ、無理に言わなくても良いのよ。今はグリスに任せましょう。」
「其でも私がした事は、」
まざまざと見て来たんだ。こんな黔日夢の次元の最中に来たのは初めてだったから。
そんな中でリリアスは屹度何十、何百と繰り返したんだろう。もう如何仕様もない未来を知ってい乍ら終わらない地獄を見せられた。
其の元凶が此処に居るのに、黙っているなんて。
「じゃあ然う思うならグリスに時間をあげましょう。二人の為に、其を奪いたくはないでしょうセレ。」
そんな言い方は・・・狡いじゃないか。
然うだ、もう時間がない。屹度もう直ぐ此の世界は終わる。
元の時に戻るんだ。然うなれば屹度、全て・・・。
だったらソルの、二人の邪魔をしてはいけない。其は分かるけれども。
其を理由に、口を噤みたくはないんだ。
リリアスの罅が広がって行く。分かり易く刻限が迫る。
そんな彼を見てソルは翠玉の瞳からはらはらと涙が溢れるのを止められなかった。
口が戦慄いて、触れたいのに、でも触れるともっと壊れてしまい然うで。
「でもうち・・・又、兄やんに逢えるって、思ってなかった・・・。ずっとずっとうちの事、護ってくれて有難う。ずっと・・・此処に残して、うち、」
「有難うグリス。私の事をそんなに想ってくれて。君は本当に・・・母君に似ているよ。彼の方は本当に私を、実の息子の様に育っててくれた。ずっと君の兄として一緒に居させてくれた。どんなに感謝してもし切れないよ。こんな私に、誇りをくれて有難う。私の事を、忘れないでいてくれて。」
合図もなく、二人は互いに抱き締める。固く固く、其迄の時を慰める様に。
「・・・先の詠は屹度、母君からの贈り物だ。ずっと君を見護ってくれるだろう、私と一緒に。」
そっと耳元で囁く様に言う声は何処迄も優しくて。
でももうソルの手に、殆ど彼の感触は分からなかった。
温かさも、息遣いも、手を擦り抜ける様で。
リリアスはちらと視線を一同へ向けた。オッドアイの双眸が異なる輝きを放って煌めく。
「もう皆さんは此処を発った方が良い。如何か此処の懐い出は美しい儘で。あんな現実は知らなくて良い。全て幻に消え去ってしまえば・・・もう屹度、涕かなくて済むから。・・・皆さん、グリスの事、どうか宜しく御願いします。」
「・・・噫、勿論だ。」
最後迄優しくリリアスは微笑んだ儘で。
彼の全身を罅が覆う。そして何処か遠くで一つの囀りが聞こえた気がした。
其を合図に世界は瓦解する。彼と同様に神殿も、旻も、樹々も、何もかもに罅が入る。
瞬きもしない内に一斉に全てが無に帰った。色も温度も薫風も空気も全て失われ、一同の意識も又、閉ざされて行くのだった。
・・・・・
彼から、気付けば一同は店に戻っていた。
目の前にポツンと彳む店を背にしたレインが一声鳴いて初めて気が付いたのだ。
まるで夢でも見ていたかの様な、でも確かな現実で。
色々と気持の整理も必要だろうと其の儘休む事になったのだ。
ソルの事が如何しても気掛かりだったが、彼女は吹っ切れた様に咲ってくれた。
「もう、諦めていた事やから・・・ありがと、又兄やんに引き合わせてくれて。此の店の御蔭やね。」
あろう事か、そんな事を自分に言いに来てくれた。
無理をしていないか、復讐しても良いんだぞと詰め寄ったが、逆に彼女に心配されてしまった。
曰く、必死過ぎて恐いと。
彼女は一切そんな気は無いらしい。其こそ意味が分からない。
彼や此やと言っていたが、結局ロードに止められてしまった。
・・・流石に反省している。詰め寄り過ぎたのは事実だ。
でも矢っ張り納得は出来なくて、もやもやしていると其の儘ロードに話があると誘われたのだ。
ソルの方は先のを伝えられた事で満足したらしく、一区切り付けたが・・・んん。
取り敢えず彼女はドレミ達と次元に行くらしい。元気なのは良いが、如何も気になってしまう。
兎にも角にもロードの話だ。リビングで二柱今、斯うして茶を飲んでいる所である。
何やら彼女からクッキーを出されてしまった。如何やら大神からの餞別らしい。
一体如何言う要領で送られて来たのか非常に気になる所だが、珍しい菓子らしく、折角なので頂く事にした。
・・・御茶が熱過ぎるので暫くはクッキーを齧り続けそうだ。
「ロード、先は有難う。後見苦しい所を見せたな。つい熱くなってしまって・・・。」
「フフ、然う言う割には余り納得してなさそうだけどね。セレ、貴方は相変わらず優し過ぎるのよ。」
彼女の頬の輝石が穏やかな旻色に染まる。
「又其か。私は別に、自分がソルの立場なら如何思うか考えて、其を実行している丈で、」
「其にしても殺してくれても良いって正面から言われたら流石にグリスも困っちゃうわ。抑其も織り込み済みで彼女は此処に来た筈よ。今回私達が勝手に彼女の過去をなぞった丈で。」
「然う・・・だけれども。」
でも自分だったら絶対相手を殺してるぞ。断言出来る。ソルは、其の兄も何も悪い事をしていないじゃないか。其なのにあんな一方的に奪われて、赦せる訳がない。
心の内でモヤモヤしているとまるで全て彼女に見透かされている様で、ロードは一柱忍び笑いを漏らしていた。
「何だか本当、セレ貴方神なのに凄く生き生きしているわ。矢っ張り見ていて面白いわね。そんな貴方だからグリスは此処に来たのよ。そりゃあ出会い方と言うか、縁は凄かったけれども、貴方の事、信じてくれたでしょ?」
「其と此は別の話だろう。罪は罪の儘で。私がどんな奴かなんて関係ない。抑こんな自分を赦せるのがおかしいんだ。何処を切っても悪意しか出ないぞ。」
「然うね、其の罰されたいドM気質な所が治ればもっと素敵でしょうにね。」
「ド、ドM⁉」
何の話だ。ってか何だ其。
絶対何か良からぬワードの気がする・・・斯う、揶揄われていると言うか、むず痒い。
「まぁセレ、取り敢えずは彼の子とは今迄の儘で良いんじゃないかしら。何かあったらグリスの方から言ってくれるわよ。其を待っても良いんじゃないかしら。」
「・・・其も然うだな。綿密な拷問計画を立てても良いし、準備も時間が要るだろうし。」
「・・・だから何でそんな罰されたいのかしら。」
苦笑を漏らして彼女はクッキーを摘んだ。
自分も釣られてカップに手を伸ばすが・・・未だ熱いな。
「でも屹度セレは何も無いのが一番辛いでしょうし・・・分かったわ。少しグリスに聞いてみるから、其迄大人しくしてなさい。」
「・・・わ、分かった。」
ロードが加わるのか・・・如何しよう、彼の拳で殴られたら何丈苦しいんだろう。
血反吐打ちまけてのたうち回る未来が見える。自分が言い出した事とは言え、覚悟を決めないと。
すっかりセレの顔色が悪くなってしまったので又もやロードは苦笑してしまう。本当面白い神だ。
「あっても小言を言われる位だと思うけど。分かってるとは思うけど、勝手に焼身自殺とかしちゃ駄目よ?」
「分かっている。五体満足で、万全の状態で受け入れよう。」
「・・・絶対分かってないわね。」
所で、とロードは切り出して少し丈目を伏せた。
輝石の色が陰り、少し濃くなる。深みを増した蒼に転じたが、其は其で綺麗だった。
「彼の次元、色々分からない事だらけだったでしょう?だから私なりに考えていて、ある程度答えが出たから話そうと思ったのよ。良かったら丗闇様の意見も聞きたいと思って。」
「ん、噫丗闇か。然うだな、一寸聞いてみよう。」
―別に、拒む事はない。我も考えていたが、先ずは聞かせて貰おうか。―
お、快諾だ。丗闇も気になっていたのかも知れないな。
―序でに茶とクッキーは如何だ?―
―・・・遠慮する。―
―じゃあクッキー丈時空の穴に入れるな。―
―・・・・・。―
無言の圧を感じるけれども大丈夫だろう。彼女にも振舞わないと。
「ロード、此のクッキーを少し貰っても良いか?此を供えたら丗闇もOKだ然うだ。」
「勿論よ、どうぞ。喜んで貰えたなら良かったわ。」
―勝手な事をほざくな破壊神!―
「うんうん、今日の丗闇は元気が良いな。此ならどんな相談だって受け付けてくれ然うだな。」
時空の穴へ三枚程クッキーを入れて置く。いやぁ良い事したな。
どうせ表に出る気が無いなら斯うするしかないんだ。此が気遣いだ。
セレが神知れず邪悪な笑みを浮かべているのを見遣ってロードは茶を湿らせる程度に含んだ。
其の一挙一動が面白く写るんだから仕様がない。元気なのは寧ろ彼女の方なのだろう。
「全部状況証拠から繋げた丈だから予測の部分が多いけれども、恐らくリリアスさんは私達と同族だったんだと思うわ。」
「同族、神って事か。」
行き成り確信めいた事を言うな。
其の線は考えられなかった訳じゃない。抑彼は死んでいたんだし。
でも其にしては行動と合わない点があったから悩んだんだが。
「然うね。だから恐らく、彼の次元に過干渉を行っていたのは彼よ。彼の力で彼の次元は歪められていたの。」
「彼奴自身がループを起こしていたとでも言うのか。でもじゃあ如何して、」
丗闇がずっと黙って聞いているな。凡そ彼女の考えとも合致するんだろう。
其にしても、もし彼が起こしていたのなら良く分からなくなる。
ずっと殺され続けるループを起こすなんて、何の意味があるんだ。
「目的は、彼自身が語っていたわ。グリスを迎えに行く為よ。彼は・・・グリスより先に亡くなったのよね。だから彼の子の安否を確かめる為に、約束を果たす為に繰り返したのよ。」
「其処に私達が来たのか。」
「そして無事約束を果たせた。だから彼は満足して消えたのよ。屹度彼には神だった自覚も何も無かったと思うわ。だからあんなに気配が無かったのね。恐らく彼の使命も、グリスに逢うとか其の類だったんじゃないかしら。」
「成程、だったら只々淋しいな。彼奴は空っぽの神殿を護り続けていたのか。」
「えぇ、だから最後に逢えて、本当に良かったわ。彼は其処で救われた。神として、迚も幸せな最期よ。」
今迄、屹度色んな神を見て来たんだろう。彼女の目は何処か遠くて、自分の知らない景色を映している様だった。
「其にしても凄い力だったな。だって次元は疾うに滅んでいたんじゃないか?其をループさせる程の力って、だって彼の魔獣も、謂わばリリアスの力だろう?」
「私も其処が引っ掛かってね。其で少しグリスに確認したんだけれども、彼は時鳥の魔物の生まれって言っていたでしょう?時鳥って次元にも因るけれども、時を司る力がある霊鳥とも言われているのよ。」
「時、まるでL⊝ ▼▲/だな。じゃあ正にループは打って付けだったのか。」
「力の波長が合い易かった可能性があるわ。グリスだってあんな大技したし、彼にも其の力があっても不思議じゃあないわ。其に彼は次元の主導者でもあるでしょ。」
「っ然うだ、だから彼奴が死んだ時点で彼の次元は・・・んん、でも気配は弱かったか。」
駄目だ。矢っ張り此処で混乱してしまう。
同じだ、卵が先か鶏が先か。
リリアスが神ならループは理解出来る。でも其だと次元の主導者が不在になる。
「然う、此処からが特に怪しいけれども。若しかしたら彼はドレミと同じ半人半神だったのかも知れないわね。いえ、正確には違うけれども。」
「次元の主導者あり、神でもあると?」
其って・・・ありなのか?
「斯うは考えられないかしら。人間は躯と魂があるでしょう?神は其の魂のみの存在よ。・・・まぁ厳密には魄も関わるけれども。其で考えたのが、次元の主導者としての力を持った躯が彼の次元に残った。そして神に成ったリリアスさんの魂が其処へ宿り、不安定乍らも力を使った。」
「ん・・・分かった様な・・・難しいな。」
―概我の考えと同じか。恐らく奴が完全に死に切る前に魂丈抜けて神に成ったのだろう。そして肉体が死ぬ迄の間、次元は残り続けた。―
「成程、じゃあ力が弱かったのは死に掛けだったからって事か?本当にギリギリの状態で彼の次元は残っていたと。」
魂と躯の死が別々と言うのは考えていなかったな。其で半人半神か。
死に掛けの人としての躯と、自覚のない神の魂。
其で生まれたのが彼のリリアスだと。
「然うね。其がより正確だわ。流石です丗闇様。」
ポンと手を叩き、ロードははにかんだ。
・・・何だろう、何故か今、丗闇に見下されている気がした。其なのに此の宿主と来たらって見られている気がする。
「そんな状態で力を使って上手く行く訳ないわ。だから現れた魔獣も何処かおかしかったんじゃないかしら。」
「彼の殺しても死なない魔獣達か。然う言えば彼はループの筈なのに、ソルは知らない魔獣だと言っていたな。最後の彼奴以外は知らないと。」
「彼の魔獣達もリリアスさんの干渉で生まれたとすれば、一応説明が付くと思うの。彼の力はもう限界だった。だから歪んだ影響が彼等に現れたんじゃあないかしら。」
「若しかして頓神殿前で詠っていたのもリリアスの干渉だからか?彼奴等も操られていた様な物だったのか。」
「然うかも知れないわね。リリアスさんが後悔したのはグリスの居た神殿の扉が開かれてしまった事。其の一点に集中するなら、彼の障害として現れた魔獣達があんな行動を取ったのもおかしくないわ。」
「然うか。自分で壁を創り、其を何とか超えて未来を変えようとし続けた訳か。」
無意識とは言え、自分では超えられない障害を生んでしまうなんて、何だか淋しいな。
でも神は然う言う物なのかも知れない。今回偶々ソルのは出逢えた丈で、人知れず消える神なんて幾らでも・・・。
然う言う意味で彼の最期を幸せだったと言いたくはないんだが。
「ん、だとしたら彼処に居た龍達が矢鱈好戦的だったのも理由があったりするのか?」
漾蛉龍は神殿の扉が開いた頃には居なくなってしまっていた。
無事次元の迫間へ帰れたと思うが、妙なしこりが残ってしまっている。
彼ならリュウを訪ねて聞いてみようかと思っていたけれども。
「其なんだけれども、屹度彼の龍達はリリアスさんの事に気付いていたんだと思うの。次元の主導者として丈でなくて、神として。」
相槌を打ってそっと自分はカップに口を付けた。
・・・やっと飲めそうだ。茶に広がる波紋を其となく見詰める。
「彼の次元は彼の過干渉に因って歪められていた。でも過干渉って名前の通り、相当力を使うのよ。其の歪みを維持する為に並大抵の力じゃあない筈。となれば、其を乱す恐れがある者は排除したがると思うの。」
「排除・・・まぁ然うだろうな。」
邪魔なんて入られて其で台無しになったら目も当てられない。
でも其と龍が繋がるのか?
「例えば龍達が次元移動をすれば次元は少なからず影響を受けるわ。若しくは、ループなのだから変化があっては困るのよ。だからループに取り込まれていた彼の龍達は、彼の次元から出られなかったのかも知れないわ。」
「ん、リリアスが神なら、リンクは取れている筈なのに、か?」
「えぇ、加えて龍は次元外の者だし、ループ其の物の影響はなかったかも知れないわ。彼も其処迄力があったとは思えないし。でも次元から龍達は出られず、下手したら次元と一緒に心中するかも知れない。其の恐れがあったから襲って来たのかも知れないわ。」
「然うか。何となくリリアス丈狙っている様な気もしていたが、然う言う事か。次元の主導者も終わると勘付いて、でも神の干渉力で出られない。其ならいっそ、壊して出ようと思ったのか。」
漾蛉龍の言いたかった事が今なら分かる。彼も散々悩んだ様な口振りだった。
本来護る筈の龍が襲うなんて事あるのかと思ったが、然う言う事か。
話してもどうせ分からないと言っていたのもループの事だったのだろう。確かにあんな状況じゃあ理解は難しい。
レミレスト達も縄張から出てリリアスを襲いに来ていたんだろう、成程な。
「如何かしら、筋は通っていると思うんだけれども。」
「噫、私も其で納得した。彼の後ちゃんと帰れたと思うが・・・一応会ってみようか。出来たら話も聞いてみよう。」
自衛の為とは言え、傷付けてしまったし、ちゃんと話はしたい。
「其が良いわね。良かったら又聞かせて頂戴。彼等の方が屹度詳しいわ。」
「でも過干渉を邪魔されたくなかったなら、其こそ私達みたいな異物が入って来たのは結構彼にとって不味かっただろうな。」
何となく口を突く。去ろうとした龍達を追うのは分かる。でも其なら来ようとした自分達も拒む可きだ。
でないと内側から壊されてしまうだろう。其こそロードが自分へ提案した様により大きな力で乗っ取られる可能性だってある。
其方の方がより警戒す可き存在の気もするが・・・。
「其は・・・当神でないともう分からないでしょうけど、若しかしたら招かれたのかも知れないわね。グリスも一緒に居た事だし、彼にとっての目的はループ其の物ではなくて、其の先の出口だから。」
「・・・招かれていた、か。」
其で来たのが全ての元凶と、護り続けた、でも死んで神に成ってしまった妹か。
皮肉だな。其とも此が世界の在り方か?
まるで定められた運命みたいに出来過ぎた、でも出来の悪い話だ。
だって其で何を得た?失った物と懐いと、釣り合う物はあったか?
只壊す丈の化物には分かり様も無いかも知れないが。
「ある意味、彼の神殿にグリスが居なくて良かったわ。力が足りなくて其処迄ループに再現出来なかったんでしょうけど、逢ってしまえば彼も察してしまったでしょうしね。」
「何の道、ソルは私の所為で死んでいるんだ。今更真実を偽った所でじゃないか。」
「全部が全部、罰されれば良い何て事はないのよセレ。」
「真実が必ずしも正しい訳じゃあないからな。分かってはいるよ。」
只此は、納得していない丈だから。
分かっていて、其しか方法が無いと知っていて、其が最善だとしても。
矢張り・・・認められないよ。此の矛盾はずっと抱えて生きて行かなきゃあいけないんだ。
伏し目勝ちになってしまう自分を、彼女は見逃さなかった。
頬の輝石が一度曦を発して薄く黄色に染まる。
「然う言えば残念だったわねセレ。あんなに会いたがっていたのに。」
「ん・・・?何の事だ?」
彼の次元の事、もう決着したかなと思ったんだが。
はて・・・何か忘れていた事でもあったか?
「フフ、ほら神獣の卵の事よ。」
ガタッ
無言で立ち上がってしまう。同時に顔から血の気が引いて行く。
「あ・・・あ、何て事だ。い、いや忘れていた訳じゃないんだ。只場が場だったし、神殿内をパッと見た時見付からなかったし・・・でも然うだ。卵だったら動けないんじゃないか。まさか彼の次元と一緒にっ⁉託されていた大事な卵を⁉」
口早に言い乍ら頭は其以上のスピードで加速する。
い、嫌だ、何て事を。考えたくないのに止まれない。
頭の奥で丗闇が溜息を付くが関係ない。貴重なモフモフだったんだぞ⁉
立ち上がってしまった自分を見てロードは口元に手を当てて笑っている。
いやいや、良くこんな状況で笑えるね⁉邪神なのか!
自分が斯うなる事も分かっていて其の話題を振ったのか⁉信じられない!
「フフ、大丈夫よセレ。屹度貴方が想像している程酷い事にはなっていないと思うわ。」
「ほ、本当か?若しかして保護してくれたのか?」
あんな状況でそんな余裕は然うなかったと思うが。
「保護はしていないけれども抑彼の神殿に卵は無かった筈よ。グリスと同じ様な理由ね。其処迄リリアスさんは再現出来なかったの。」
「でも無かったからと言って現実世界に卵はあったんだろう?」
其とも何だ、黔日夢の次元で卵は壊れてしまったから、自分達が行った時にはもう如何仕様もなかったって意味か?其は全く大丈夫じゃあないぞ!
―・・・御前そろそろ黙れ、脳内が煩過ぎる。―
そんな事言われましても・・・。
一応言われた通り茶を飲んで少し落ち着く。
まぁ今じたばたした所でだもんな・・・悲しいけれど。
「実は其の事なんだけれども、グリスと卵について話してやっと私も思い出したのよ。恐らく其の卵をグリス達に預けたのは先代の龍の番神よ。」
「先代?って確か千代目か。」
ぞいぞい言っていた彼の龍だよな、確か。
まさかそんな繋がりが?彼が持って行ったのか?
「然うね。セレはもう会ってるのね。と言っても本当ずっと昔だから、未だ彼が龍の番神として神の使命を全うしていた時ね。」
「へぇ、そんな事があったのか。ロード、其方とも親好があったんだな。」
「そんなでもないわ。私は挨拶程度しか会っていないし。でも彼が無事神獣が孵って良かったって話していたのを思い出したのよ。其が屹度其の卵だったんだわ。」
「孵った?ん、ソルが生まれるのを見てるのか?」
「いえ、其の時は卵もあった然うよ。」
淡々と返されるけれども・・・んん、頭が混乱してしまう。
如何言う事だ?黔日夢の次元が起きたのだから恐らくソルが最後に卵を見ている筈。
其の後は・・・リリアスがループさせていたとは言え、次元の主導者が死んだのだからそんな彼の次元は持たなかった。
まさか其の短期間で生まれたのか?でも生まれた所で周りは地獄じゃないか。
黔日夢の次元の傷も癒えない内だし。迚も無事とは言い難い。
其にしても偉く時代がずれているな。先代の龍の番神が活動していたのはずっと昔の事と思っていたが・・・まぁ其処は次元毎のずれだろうか。
自分がすっかり混乱しているのが手に取る様に分かるのだろう。ロードの輝石が石竹色に輝いて何とも楽しそうだ。
何だか玩ばれている心地だが如何仕様もない。此が神としての差なのか。
こんな形で大神の巫らしさを出されても困るんだが。
「未だ此の辺りの感覚はセレには難しいでしょうね。永い神だと割とすんなり理解されるけれども。」
「然う言う物なのか?・・・駄目だ、さっぱり分からない。」
「然うね。次元って一つ一つ違う様で案外繋がりがあったりするのよ。例えば、想像して頂戴。同じ次元、同じ世界でも、百年、二百年前後なら全く景色が違うでしょう?」
「まぁ然うだろうな。自然や文明も全く違うだろうし。」
余り学が無いので其処迄詳しく分からないが、前世でも街に因って随分と文化が違ったし、そんな物だろう。
「じゃあ其の一つ一つの時代、景色が其の儘別の次元になっている事もあるのよ。」
「ん?同じ土台で時間丈違うのにか?」
時間を切り取るみたいな事か?其でも分かり難い。
パラレルワールドの一種みたいな物だろうか?
「セレが見ているよりも次元って結構曖昧なのよ。概念丈が存在しているの。入る度に干渉力で変わる位だしね。だから先の話に照らすなら、確かにグリス達の先祖は神獣の卵を受け取ったわ。でも其の先の未来は複数ある。だから未来毎に卵の命運は変わるわ。」
本格的にパラレルワールドっぽい話になって来た。此なら少しは分かり易い。
「だから黔日夢の次元を被っても猶無事だった、或いは抑起こらなかった、そんなパターンの次元に分かれる事もあるのよ。其の卵が孵ったんでしょうね。」
「じゃあ神獣は沢山生まれたのか?其は其で凄いな。」
預けた卵は一つだろうに増えたと言う事だよな?其丈未来があるのだから。
別次元のを回収出来るなら此、可也有効な手じゃないか?色々応用出来そうだが。
でも何の道其なら生まれた卵もあるが、自分の所為で死んだ卵もあると言う事だ。其なら矢っ張り悲しい・・・。
「其が然う上手くは行かないのよ。先次元は概念って言ったでしょう?だから考え方も変わってしまうのよ。卵を預かったと言う事実が次元に刻まれる。そして繋がる次元毎に生まれたり、然うじゃなかったりする。そして・・・其等の結果から一つの概念が生まれるのよ。卵は孵ったと言う一つの概念丈が。だから其処へ至る過程は数あれど、結果卵は一つになるわ。」
「んん・・・難しい話になったな。兎に角卵は一つで、其はちゃんと生まれたって事か。」
「フフ、然うね。だから屹度何処かで元気にしているわ。」
何だか難しい話をされてしまったが、まぁでも然うなら良かった。
会ってみたいけどな。神獣って一体どんな奴なんだろうか。
・・・絶対に極上のモフモフだ。此は探し出さなければ。
頭を使ったのでクッキーを一枚齧る。
仄かな甘さの後に何とも言えない香ばしい馨が鼻孔を擽る。不思議な食感だ。
「此で如何かしら?恐らく彼の次元の謎は此で全て解けたかと思うんだけれども。
「然うだな。私は納得したぞ。御蔭で色々と分かった。丗闇は如何だ?」
―矛盾もないだろう。我の仮説ともそんなに差はない。其の認識で誤りはないだろう。―
「其なら良かったわ。気になっていたからやっと落ち着けそうね。」
「おぉ、凄いなロードは。彼の状況からこんな事迄分かってしまうんだな。」
―寧ろ御前が無知過ぎるのだ。無様に土下座する位ならもっと精進しろ。―
「いや、土下座はしていないからな・・・?」
でも精進をしないといけないのは間違いないな・・・。
「ん、然うだ一つ丈、ロードにも確認してみたい事があるんだが。」
「あら、何かしら。」
ロードの頬の輝石の輝きが変わって行く。まるで何か察している様に。
彼女の感情に反応しているっぽいが、中々興味深いな。
「彼の次元が壊れた時、何か見えなかったか?何かと言うより誰かだが。」
「え・・・見えたも何も余りに一瞬だから何とも。直ぐ此処へ戻ったと思ったけれども。」
―矢張り御前しか見ていないみたいだな。―
「んん・・・ロードも見ていれば色々分かりそうだと思ったんだがな。」
「一体何を見たのかしら。リリアスさんって訳じゃあ勿論ないのよね?」
「噫、私も少ししか見ていないから記憶は怪しいが。」
自分が見たのは蒼肌の人に似た神だった。
銀髪に五つもある眼、片足丈の特徴的な姿で。
自分は・・・其の姿に見覚えがあったのだ。
もう随分前の様に思ってしまうが、自分が殺しの精霊として呼ばれた次元、壟枉の次元だ。
彼の次元は自分が次元の主導者であった彼を殺してしまった事で壊れてしまった。でも其の時に、
邂逅したんだ、其と。
彼の時はちらっと見た丈で、何やら次元の核を吸収している様に見えたが、今回は其処迄分からなかったな。
本当に見えた丈、でも次元が壊れる度に現れるのは何か気味が悪い物だ。
話し出したのは自分なので奴の情報を其の儘ロードに伝えたが彼女は首を傾げた儘だった。
「本当に分からないわ。でもそんな者が居たなんて・・・。」
「此奴が何なのかも知らないか?」
ロードは前会った時のイメージを其の儘渡した。見たら然う忘れない形をしていると思うが。
「分からないわ。私も見た事がない。」
「ロードも知らないとなると益々気になるな。」
此だと外の者説が濃厚になるな。何やらアティスレイとも関係ありそうだから気になるんだが。
又次元を壊せば出て来るかも知れないが、そんな事したくはないし。
「セレは波紋もあるし、魔力の扱いも独特だから然う言うのが見えたりしたんでしょうね。」
「でも結局分からなかったからな。まぁ若し何か分かったら教えてくれ。」
「えぇ、矢っ張り世界は自分で触れないと駄目ね。こんなにも知らない物で溢れているなんて。」
彼女は一つ頷いた丈だが・・・実は自分は一つ渡していない情報がある。
此は丗闇にも黙っている事、其は奴が私を知覚したのだ。
はっきりと分かった、見られたと。
◆見付けた。◆
テレパシーともつかない不思議な意思。
声ではなく、色として伝えられて来た其を、私は憶えている。
・・・でも此は何となく話せないと思ってしまった。自分でも余り思い出したいと思わないから。
然う告げられた丈で結局奴は消えたし。一体何の意味があったのか分からないけれども。
「・・・常に変化もあるだろうし、然うだろうな。」
「然うね、セレ貴方何時も変わってるし・・・。」
「其の評価は一寸・・・何とも言えないんだが。」
「フフ、変化出来る神って貴重なのよ?神は停滞の象徴なんだから。」
「ふーん・・・?然うなのか。」
やっと茶を飲み終わった・・・今回のは中々熱かったな。
少し丈舌を火傷したのでそっと口の中で浮かせている。
「死んだ儘の蛇足の生なんて言い方される位だもの。世界を安定させる為の使命も持つ事だし、変化がない、平穏を作るのが主でしょうね。」
「其だと私は随分其から外れた存在になってしまうな。」
「然うね。何も彼も規格外だと思うわ。だから面白いのよ。」
悪怯れもせずに然う言われてしまう。そんなに自分は変わっているのか。
「でも、今回の事は少なくともグリスにとって変化がある事でしょうし・・・然うね、神に成っても変化出来るって素敵な事だと私は思うわよ。彼の出来事を蛇足だなんて言いたくないわ。」
「然うだな。・・・変化か。」
良いか悪いかは自分は何も言わないけれども。
でも・・・然うだな、蛇足だなんて言われたくはないな。
「今の話、ソルにもするのか?」
「えぇ、其のつもりよ。彼の子も知りたがっていたから。絶対正解とは言えないけれども少しでも其で落ち着くなら。」
「然うだな、良いと思うぞ。ソルの事、頼んだぞ。」
そして其の後に自分への復讐が始まる訳だ・・・気をしっかり持とう。
何処か緊張した風に見えるセレを見てロードは又笑みを零した。
彼女を中心に皆少しずつ変化している事を、屹度彼女は気付いていないのだろう。
何時か、其の尊さに彼女自身が気付けば良いんだけれども。
今は只、傍で見護ろう。私も此の変化を楽しみたい。
次は一体どんな景色を見せてくれるのだろうか。
其は屹度、彼女自身も知らない色を照らしているのだろう。
・・・・・
導いておくれ翠の鳥よ
其の声は闇霄に響いて我等の道標に
其の瞳は見えざる未来を見抜いて選択する
其の耳は逸れた民の声を余さず捉える
そして其の翼は永遠の象徴に、
さぁ詠っておくれ翠の鳥よ
我等も貴方の翼を支える薫風として共に行かん
先に後書見たら後悔するよ!(何時もだけど!)
と言う事でソルの過去編でしたー!ヒュー!
矢っ張り過去編書くとワクワクしますね!一応全キャラあるのは勿論あります。けれども書くか如何かは別だったので、斯うして形に成れたソルは良かったですね。(ニッコリ)
又兄弟編かよ!と言われてしまったら申し訳ない。此には色々理由があったりなかったりするのだ・・・今は書けないけれど。
其でも個人的には此の話、割とスッキリ書けたかなと満足しています。満足感がありますね、うん。
如何してもソルの話は今後の色々に関わって来るので書かざるを得なかったのです。もっと早くても良かったかも知れませんね。
最近又セレ無能説が出て来ている気がします。何だ彼だ弱点が多いので詮無いですけれども、うむむ。
其と比べてロードは相当優秀ですね。毎回実績を積み上げている気がします。矢っ張り筋肉は世界を救う。
そんな今回、一寸久し振りに良い感じの誤字が出たので供養しますね。
―縫い留めて鶴巻茂!―
はい、ソルの攻撃です。正しくは『蔓巻繁』ですが、何の道造語なので分かり難いですね。
けれども此、ぱっと見人の名前みたいですよね。実際いらっしゃるかも知れません。
読みとは別で一発変換目指して入力した為『つる まき しげる』で変換したのですが、まさか然う出るとは。
パソコンの語彙力に一寸笑わせて貰いました。元気をくれて有難う。
其では次回、又佳境が来ます(笑)。然も割とレベルの高い方で。
ペースは悪くないので問題なければ近々又御会いしましょう!御縁がありましたら!其迄御元気で!




