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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
85/140

59次元 秘密の6次元 螺旋ノ詠は絳く嫋やかに

今日は!番外編へようこそ!

 サブタイトルは嘘をきません。今回はアカい御話です。

 前に別パターン書きたいなぁと思っていた時からあった構想を早速出しました。

 今回は短くなり過ぎたなぁと思ったけれども、案外前とそんな変わらないですね。

 でも短いなりに色々詰めてみました。

 今回も後書きで語りたいので 早目に切り上げよう。

 例のゴト一寸チョット難解になったので、頭を柔らかくして読んでくださいね。

 (クラ)い底で僕は目醒めた。

 命の芽生えない、息遣いが途絶えた地の底だ。

 僕は其処で初めて己を知覚する。

 そして同時に知る。僕は出来損いなんだと。

 僕は・・・欠片だ。零れ落ちた欠片。

 此の(ママ)目を閉じても開いても何ら此の世界に影響しない。そんな何でもない存在。

 じゃあ・・・如何しようか。考える丈無駄なら此の(ママ)止めて、全てを閉じてしまおうか。

 此の(ママ)、世界に溶けてしまおう。其でも良い、其で僕の物語が終わって行く。

 一つ二つ息を吸って目を閉じる。でも瞼の上で光る物が見えた。ちらつく明かりが僕の瞼を叩いて行く。

 ・・・此じゃあ眠れないよ。一体誰なんだろう。

 いっそ僕を取り込んで行って良いよ。僕は動かないから。

 薄く目を開けると大きな金のベールが僕を包んでいた。

 一転した景色に思わず僕は飛び起きる。

 其処で(クロ)い鏡が僕を覗き込んでいるのに気付いた。

 其は大きな目だと分かり、僕は視界を広げる。

 僕の目の前に居たのは巨大な金魚だった。でっぷりと大きな光る腹を抱えた(アカ)い金魚だ。

 其の金魚は尾丈が金色で、窓掛(カーテン)の様に閃かせた其を僕に被せていたのだ。

 チリン、と鈴の鳴る音がする。尾に付いた鈴が小さく揺れた。

 視覚、聴覚と一気に僕は冴え渡る。此じゃあもう寝てられないな。

 金魚はそっと鰭をひらめかせると僕の周りを泳ぎ始めた。其の後を小さな(アカ)い金魚の群が追う。

「姉さん、僕を起こしてくれたの?」

返事の代わりに鰭で頭を撫でられた。ひんやりとした其の感触に思わず首を(スク)めてしまう。

 然う言う事なら僕も行かないと。其にこんなに明るく光ってくれるなら良く見える。

 立ち上がり、僕は初めて自分の躯を知覚した。

 鳥の様な、でも躯のサイズと比べて随分と小さな翼が生えている。二本の太くて大きな長い足と、其を支える様に、(ツッカ)えの様に生えている細い前足が一つ。

 足を一歩出すと大きく傾いてしまう。かと言って翼を羽搏(ハバタ)かせても飛べる様子じゃあない。

 噫矢っ張り、欠片丈あって不便だなぁ。

 不完全に中途半端に混ざって落とされてしまったんだ。歩き難い。

 低く(ソラ)を泳ぐ金魚の背に手を掛けて、僕はぐるりと辺りを見渡した。

 真冥(マックラ)な地平が続いている丈だと思っていたけれども、良く見ると直ぐ傍で大きな穴が開いていた。

 果て迄見えない大きな穴だ。穴自体も大きいから向こう側が霞んで見える程。

 ・・・此処へ堕ちたら、あっと言う間に僕は終われるんだろうけれど、

 でもじっと穴を見ていると、(アカ)い小さな欠片が出て来ている事に気付いた。

 玻璃片(ガラスヘン)みたいな其は仄かに輝き乍ら(ソラ)へ昇って行く。

 僕は、酷く其に惹かれた。心を奪われた。

 何て綺麗なんだろう、僕も連れて行って欲しい。

 然う穴を覗き込んでいると不意に金魚が僕の前を遮る様に(ヨギ)った。

「大丈夫だよ姉さん、僕は堕ちないよ。でも・・・何処に連れて行ってくれるの?」

まるで手を引かれる様に、金魚は何度も振り返りつつ泳いで行く。

 僕もそろそろと足を出した。大丈夫、(ユック)りなら歩けるから。

 金魚は穴の周りを漂う様に泳いでいたけれども、其の先に階段が見えて来た。

 其は宙に浮いた螺旋階段。正に穴の上へ誘う様に出来ていた。

 (アレ)なら欠片と一緒に行けるのかも・・・っ!

「姉さん有難う。僕も其方に行くよ。」

何とか足を少しでも早く動かす。姉さんは僕を待ってくれているけれど、其でも急ぎたい。

 階段なんて地面よりもっと不安定だ。何とか倒れない様に気を付けて足を置く。

 一段一段しっかりと。然うしている間にもどんどん欠片は上へ昇って行った。

 目で追おうとすると直ぐ金魚達が群がる。小さな群が僕を(クスグ)る様に寄って来るんだ。

 金魚の御蔭で、何も無い筈の僕でも前が見える。良かった、姉さん達が居て。

 一息付いていると不意に幽風(カゼ)を感じた。

 同時に穴の方から何かギシギシと金属が(コス)れる様な異様な音が響く。

 其が穴に反響する様で何重も響き渡った。

 一体何の音だろうか、そろそろ穴の方を見遣ると大きな影が飛び立つのが見えた。

 其は錆びた機械仕掛けの巨大な鳥。無数の歯車が折り重なって動いていた。

 左右で異なる形の翼を生やしており、其を羽搏(ハバタ)かせる度にあんな音が鳴るんだ。

 全身錆び切っているのでもう地の色も分からない。そんな鳥は不安定乍らも何とか飛び続けていた。

 頸を伸ばすと左翼と尾が上がり、頸を縮めると右翼と足が伸びる。

 そんな風に絡繰で動く鳥は穴から飛び立ち、上へと垂直に上がって行く。

「噫兄さん、いや其とも兄さんの片割れかい?」

目をぎょろぎょろ動かして鳥は嘴を開いた。僕に合わせる為か羽搏(ハバタ)きが少し(ユック)りになる。

「然うだよ。君も上へ行くのかい?」

「行きたかったけれど、もう此の翼は飛べないよ。飛ぶのが遅過ぎた。孵化が遅過ぎた。」

生まれた(バカ)りの弟は其処でまじまじと僕を見た。僕のより大きな翼なのにもう飛べないなんて。

「兄さんの方が長生きしそうだな。ほら脚をあげるよ、此で生きなよ兄さん。」

少し丈強目に羽搏(ハバタ)いたかと思うと、ポロリと鳥の左足が落ちて来た。

 其を金魚達が背に乗せてキャッチする。落とさない様慎重に並んで運んでくれた。

 錆だらけだけれども其でもしっかりとした棒だ。此なら杖になるかも知れない。

 早速金魚達から其を受け取ると、開いている指の部分を肩に掛けた。

 指を曲げて行けば・・・うん。しっかり肩の所で固定が出来る。

 錆びている分、固定したら動かないのは良い事だ。

 伸ばされた足と自分のを重ねて前に出す。そしてそろそろと数歩動かしてみた。

 噫、安定感が全然違う、凄く歩き易い。

「凄い、凄く楽になったよ有難う!」

「噫、兄さんに喜んで貰えて良かったな。途中迄でも、飛べて・・・良かっ・・・た、」

段々と其の声は途切れ途切れになり、羽搏(ハバタ)く翼も痺れた様に時折動かなくなった。

 錆びた羽根が抜け落ちて(コス)れる音が激しくなる。

 其から見護る事なく弟は墜落してしまった。

 堕ち乍らも羽搏(ハバタ)いて、其の音が見送る様に遠くなる。

 然うして遂にはガシャン、と何かが潰れた音がして静かになってしまった。

「・・・貰った足、大事にするからね。」

杖を支えにして僕は歩き出す。

 未だ螺旋階段は続いているんだ。どんどん進まないと。

 然うしている間にも(アカ)の欠片は上へ上へと昇って行く。

 (アレ)は屹度姉さんなのだろう。でも普通の姉さんとは違う気がした。

 だから僕は惹かれている。共に其の先を望もうと欠片なりに歩いている。

 ()の姉さんは恐らく()を見て来たんだ。だからあんなに(アカ)が輝いている、僕達に無い色をしている。

 (アレ)こそ正に僕が求めていた物なんじゃないかと思ってしまう程の、そんな鮮烈な(アカ)

 其の(ママ)暫く杖を突いて歩いていると、不意に前を泳いでいた金魚が立ち止まった。

 そっと其の背に触れて並んでみる。もう其処に(クロ)い階段は無かった。

 ふつりと途切れてしまっているのだ。此以上は進めない。

 (アカ)い欠片はもっと上へ行っているのに、僕の足じゃあ此処迄なのか。

 此の世界は夢にもなり切れない不完全な物だから、()う言う事もあるんだろう。創り掛けて閉じてしまった世界。

「姉さん、此処からは姉さん丈で行きなよ。此処迄有難う。僕は此処から彼女を見ているよ。」

金魚の背を撫でていると、小さな群が僕の脇を何度も潜り抜けた。

 中々姉さん達は離れてくれなかった。こんな所で僕を待たなくても良いのに。

「大丈夫だよ姉さん、僕は大丈夫だから。」

然う声を掛けていると六花(ユキ)が降って来た。

 (クロ)六花(ユキ)が静かに揺らめき乍ら降って来る。

 寒くはない。けれども何処か安心する様な不思議な六花(ユキ)

 つい見詰めていると、六花(ユキ)は地に迄落ちずに溶けて消えた。

 まるで見えない床でもあるかの様に僕の前で六花(ユキ)は溶けて行く。

 若しかして此って、

 息を止めて慎重に杖を前に出す。溶けた六花(ユキ)と同じ方へ。

 するとコツンと何かが当たる感覚があった。玻璃(ガラス)の様に澄んだ音を立てる。

 六花(ユキ)はどんどん溶けて水溜りを作っていた。

 其処に僕と金魚の影が写る。(サザナミ)一つ立たない水面に。

 其処で初めて金魚達は泳ぎ出した。僕も釣られて足を進める。

 歩ける、進める。水溜りの上を踏み締めて。

 六花(ユキ)が止む前に進まないと。杖を焦らず、でも手早く動かして行く。玻璃(ガラス)の音が何度も響いた。

 然うしていると水溜りに(クロ)い羽根が浮かんでいる事に僕は気付く。

 柔らかな羽根は沈む事なく船の様に弧を描いていた。

―アラアラ可愛い弟と妹ね。―

―どうぞ御先へ進みなさいな。―

何重にも取り囲む声、足を止めずに目丈を彷徨(サマヨ)わせた。

 金魚の明かりに照らされて写るは無数の(カササギ)達だった。

 (アカ)い輪をした彼等は皆一輪の華を(クワ)えている。

 僕の好きな華だ。手を振る様に華は揺れる。

 然うして集った(カササギ)達は僕の足元で翼を広げて留まった。

 まるで崩れ掛けの橋の様に。朧気だけれども(ソラ)へ続く橋。

―さぁ私達の背へ。―

―行きたいのでしょう?(ソラ)への果て。―

「うん、有難う姉さん達。」

僕はいっそ慎重に杖を(カササギ)の背に乗せた。

 続けて足も、(カササギ)達は微動だにしないから思ったより安定する。

 然うして僕は(カササギ)の背と六花(ユキ)の板を交互に歩いて進んだ。

 僕の前には金魚が、僕の後ろには(カササギ)が。

 一見奇妙な此の行進は、何だか温かく僕には思えた。

 皆で行こうよ()の先へ、欠片達に追い付く様に。

 螺旋階段の続きの様に。少しずつ回り乍ら僕達は進んで行く。 

 僕丈が飛べない中、姉さん達は導いてくれた。

 屹度此の六花(ユキ)も僕の兄弟なんだろうな。

 欠片である僕を皆で導いてくれる。今更僕の足は止まれなかった。

 噫でも願うなら、飛ぶ事を(ユル)されたい。僕も此の翼で飛べたら今頃は。

 羨ましさと感謝を半々に、僕はやっとの思いで上り切った。

 足が着いたのは宙に浮かぶ真絳(マッカ)な絨毯。

 其は丸い、けれども中心がぽっかり空いていて、只静かに浮いていた。

 刺繍された模様は(ドレ)()の華を模した物だ。何て艶やかなんだろう。

 額に浮かんでいた汗を拭う。何時の間にこんな、すっかり息が上がってしまった。

 大きく肩で息を付いて其の場にへたり込んだ。

 少し位は休んでも良いだろう。

 鳥の弟の御蔭で可也歩き易くなったけれど、其の分此の杖は重過ぎた。

 肩にずっしりと来た為、少し丈足を休める事にする。

 座っていると姉さん達は僕の眼下で弧を描いて飛んでいた。

「姉さん達は来ないの?僕は一寸(チョット)此処で休むけど。」

ずっと飛んでいるのも疲れるだろう。手を伸ばしたけれども(カササギ)達は留まらなかった。

―悪いけれども私達は此処迄なのよ。―

―其処は高いわ。高過ぎる。―

―空気が重くて飛べないのよ。―

「空気が?あ、だからこんなに息苦しいのか。」

やっと理解が追い付いた。でも翼があっても飛べない事なんてあるのか。

 折角此処迄、皆で来たのに。

 其は如何やら金魚も同様らしく、何時もみたいに僕の傍迄来てくれなかった。

 御蔭で少し丈(クラ)い。明かりが遠ざかって行く。

―其じゃあね。可愛い弟、貴方は其の足でもっと高く行きなさい。―

―私達は導く者、此処迄一緒で楽しかったわ。―

「うん僕も・・・有難う。」

もう手を振る事しか出来なくて、挨拶代わりか一度丈旋回すると(カササギ)達は戻って行ってしまった。

 其に金魚達も続こうとする。思わず手を伸ばして落ちそうになった。

 僕を起こしてくれた姉さん。此処迄ずっと一緒に導いてくれた姉さんが。

 ()の鏡の様な瞳に一度丈僕を映して、彼女も去ってしまった。

 金魚の群が後を追う。鈴の音と共に(ヒカリ)が消えて行く。

 其の後には闇しかなかった。穴なんて()うに見えず、僕が此処迄来た道ですら全てが闇に呑まれている。

 もう六花(ユキ)もない、(クロ)しかない世界は(サナガ)ら初まりの時みたいで。

 こんなに歩いて来たのに、僕は又独りになってしまった。其の切なさに息が辛くなる。

 ・・・もう行かないと、折角此処迄皆で導いてくれたんだから。

 意を決し、立ち上がって辺りを見た。

 ()の欠片に少しでも近付こう。もう明かりは無いけれども先見た景色は覚えている。

 落ちない様気を付けないといけないなと頭を(ヨギ)った所で灯っている物があった。

 もう一つも無いと思っていたのに、一つ丈明かりが見えたのだ。

 其は絨毯の中心の穴の近く、姉さん達のとは違う明かり。

 其方に僕は誘われる様に足を向ける。近付くに連れて其の姿がはっきり見えて来た。

 僕の目指した明かりは蝋燭の物だった。燭台に乗せられて輝く焔。

 でも其の蝋燭は異様に大きくて、優に僕の腕より長く太い。

 そして更に近付いて、はっきりと其の姿を捉える事が出来た。燭台の下は人の躯だったのだ。

 頭が其の(ママ)蝋燭に摩り替わった具合で、タキシードを着た燭台は所在無さ気に座っていた。

 足を下ろしてぶらぶらさせて、僕に背を向けて座っていたのだ。

 そんな彼の視線を追うと、()(アカ)い欠片が見えた。

 彼の明かりに照らされて、其迄より輝いていて。僕は息を忘れてしまう程に惹き込まれる。

 噫何て美しい、僕は其を目指して来たんだ。

「おや、こんな所迄御苦労様。」

僕に気付いて蝋燭は振り返る。

 表情は蝋の其だから分からないけれども、焔が不規則に跳ねたり揺らめいて、爆ぜる音が声になって届いた。

 若しかしたら()の焔が顔なのかも知れない。絶えず揺れて焔は舞う。

「兄さん、兄さんなの?僕ずっと()の欠片を追って来たんだ。」

「然うだろうね。いや其の躯で良く頑張った物だ。ほら此処に御並び、良く見えるよ。」

然う言い兄さんはそっと絨毯の隣を叩く。

 僕も彼に倣って其処に座った。するとより激しく蝋燭が燃え上がる。

 其の輝きは何て現したら良いだろうか。(ヒカリ)を反射した(アカ)は辺りに其の煌めきを残し、刻み乍らより高みを目指す。

 反射を繰り返して(ヒカリ)の塔が形成されて行った。僕の視界全てが其に覆われる。

 溜息も忘れる位の美しさ。其に僕は只圧倒されていた。

「・・・凄く、綺麗だよ兄さん。・・・あ、でもこんなに燃えたら兄さん早く終わってしまうよ。」

隣の兄を見遣ると、既に少し其の蝋は見て分かる位欠けていた。

 溶けて、雫が伝って行く。でも焔は変わらず灯っていた。

「良いさ。独りで見ていてもつまらないし、そんなに喜んでくれるなら。」

「兄さんは・・・ずっと此処に居るの?」

「噫、ずっと此処に居る。俺の出番が来る其の時迄。俺には役目があるから。」

役目・・・僕のとは違う兄さんは只其の時を待っているんだ。

 此の(アカ)の欠片みたいに、自分の役目を。

 ・・・僕にも出来る事、あったらな。

「其にしても、此処迄来たのは君と此の妹丈だよ。何だか嬉しいなぁ。」

「然うなんだ。ねぇ兄さん、姉さんの役目は何なの?如何して上へ行ってるの?」

「噫、其も知らずに此処迄来たのかい?」

焔の揺らめきが変わり、兄さんは首を傾げた。

「うん、綺麗だったから、姉さん達の御蔭で来れたの。」

「然うか。()の子の役目は、俺達とは一寸(チョット)違うんだよ。()の子は自分の役目を放棄した。」

「え、放棄って何?姉さんに何があったの?」

()の子は只消える丈の出来損いだったんだよ。でも事情が変わった。()の子は彼女のピンチに気付いて、勝手に外に出たんだ。そして、別の奴に憑り付いた。」

兄さんの話は僕の理解の全く及ばない所で。

 理解するのに僕は可也頭を働かせなければいけなかった。

「けれども其の後、奇跡的にも又彼女に会えてね。其で戻って来たんだよ。まさか帰って来るとはねぇ。」

「・・・そんな話、直ぐには信じられないよ兄さん。」

全てが想定外だった。何より姉さんの行動力に吃驚だ。

 勝手に外に出るだなんて、マザーに其処迄逆らおうとするなんて。

 マザーは絶対だ。(ソモソモ)、逆らう理由も意味も分からない。結局僕達は一つなのに。

 何より戻って来れたと言う事は・・・其って、

「ねぇ兄さん。姉さんはじゃあ・・・彼女に認められたの?だから戻って来られたの?」

「ん、然うだろうね。其が凄い事さ。こんな事になるとはなぁ。」

焔に照らされて欠片は踊る。

 其の輝きは屹度外を見て来たから。僕達とは違う物を、見て来たから。

 見様に因っては重大な裏切り行為だろうけれど、でも僕は・・・、

 僕は其でも姉さんを綺麗だと思ったんだ。

「凄いな、姉さんは。僕は此処に来る丈で精一杯なのに。」

「凄いも何もないさ。皆頑張ってるなら其で良いだろ。俺達は同じ目的の為に動いているんだから。」

其にしても、と兄さんは少し丈焔を弱めて僕を見遣った。

「君は否定しないんだな妹の事。俺の話も信じてくれたみたいだし。」

「え、・・・うん、だって・・・綺麗だし。」

「ハハッ、何だそりゃ。でも君となら話し易いし、良いな。君が来てくれて嬉しいよ。実は俺も結構此の子の事好きなんだよ。良く護ったって言ってやりたくってさ。」

「うん、僕、如何しようかな。僕も何か姉さんにしてあげたいな・・・。」

「じゃあ其処で考えとけよ。俺は一寸(チョット)仕事でもするか。」

其処で初めて兄さんは立ち上がった。光源が動くので輝きが変わって来る。

「仕事って、何なの兄さん?」

「御前は動くなよ。・・・厄介な妹達が来やがった。」

兄さんの焔が再び激しく燃え盛ると、辺りを羽搏(ハバタ)く無数の影が目に付いた。

「え、あれ、姉さん達も来たの⁉」

其は先僕を導いてくれた(カササギ)達。

 高過ぎて飛べないと言っていたけれど、届いたんだ。

 でも喜ぶ僕と違って、兄さんは只黙って姉さん達を見ていた。

 然う言えば一寸(チョット)丈姉さん達の見た目が変わっている。(クワ)えていた華は落としていて、代わりに(アカ)い歯車を頸に掛けていた。

 でも其の歯車は全て欠けてしまっている。一体何処であんな物を。

 姉さん達は僕達を取り囲む様に飛び回っていた。

「・・・動くなよ。(アレ)はもう君の姉さんじゃあないぜ。」

「?如何して、っ⁉」

不意に突風が渦を巻き、思わず僕は首を(スク)める。

 すると眼下からけたたましい叫び声を上げ乍ら巨鳥がやって来たのだ。

 其は巨大化した(カササギ)、若しかして姉さん達が合体でもしたのだろうか。

 激しく鳴き叫び乍らやって来た其の鳥から、何処か耳に馴染んだ音が重なる。

 此は・・・鈴の音?此の懐かしさは、

 思わず耳を澄まし音を聞き分けていると、飛び上がった巨鳥は何かを吐き出した。

 其は、淡く光る肉塊の様で。

 具合でも悪いのだろうかと思ったけれども違った。此は、此の肉は、

「そんな・・・姉さん・・・っ、」

金魚だ。金魚の躯だ。

 ()の鈴の音を、()の金のベールを、僕は忘れていなかった。

 寸々(ズタズタ)にされて見る影もなくなった金魚は、紛れもなく僕の姉で。

 (カササギ)がせせら嗤った気がした。

「何で、何で姉さんがっ、」

如何して姉さんを姉さんが殺すんだ。如何して其を僕に見せ付ける。

 ()の叫び声は誰のだろう。其の歯車は何処に繋がっているのか。

 分からない、分かりたくなくて僕は小さくなってしまう。

「・・・狂っちまったか。()うなる前に終われたら良かっただろうにな。」

突如兄さんの手に同じ(アカ)い焔が灯った。

 其を躊躇なく(カササギ)達へ投じる。

 瞬く間に次々と(カササギ)達は火に包まれて黔焦(クロコ)げになってしまった。

 動かない翼はもう(ソラ)を掻けない、無残に地へ堕ちて行く。

「俺の役目は狂った可哀相な妹達を彼女の所へ行かせない為さ。」

焔を(マト)う兄さんは其迄より輝いていて、無数の(カササギ)に怯みもしなかった。

 (カササギ)達も兄さんに狙いを付けたのか飛び掛かって来る。でも兄さんの焔は強力で、正確に一羽ずつ焼き尽くされて行った。

「・・・姉さんを恨んでやるなよ。好きでああなっちまった訳じゃない。壊れちまったんだ。自分が分からなくなってしまって。」

巨鳥は兄さんを警戒しつつも(アカ)い欠片を気にし始めたみたいだった。嘴を開いたり閉じたりしている。

「っいけない!ねぇ兄さん!」

「噫、妹の邪魔はさせねぇぞ!」

焔を投じられ、巨長は叫び乍ら羽搏(ハバタ)いた。

「クソッ!焔丈じゃあ届かないか。」

「・・・あ、兄さん此、何か使えないかな。」

僕は肩に掛けていた杖を外した。

 此は弟の鳥の足、錆びてはいるけれども長さはある。

「良いのか?大事な杖なんだろう?」

「良いよ。僕も貰った物だから、兄さんが使って。」

一つ頷くと兄さんは杖を受け取ってくれた。

 途端に先端の三本の足の指から火が灯る。まるで燭台の様に。

 其の焔から命を吹き返した様に、焔に照らされた指先丈錆が取れて行った。

 銀色の鈍い輝きが灯る。其が焔をより煌々と戴き、煌めく。

 噫、()の弟の本当の姿は此の銀だったんだろう。

 全身此の銀で満たされたなら、何て其の姿は美しかっただろう。

 (ヒカリ)すらなかった()の穴の底で。銀の陽として羽搏(ハバタ)けただろうに。

「悪いが、眠って貰うぞ。」

しっかりと杖を握り締め、兄さんは巨鳥に向けて投擲した。

 巨鳥はじっと其の灯を見詰めていた。でも、逃げようとはしていないみたいで。

 まるで、分かっていたかの様に。胸に深々と杖は刺さった。

 内側を(エグ)る様に刺し貫いた焔は瞬く間に巨鳥を包み込む。

 燃え盛る様は(サナガ)ら火の鳥みたいで、巨鳥は一度丈大きく羽搏(ハバタ)いた。

 其の羽搏(ハバタ)きで僕等の頭上を軽々と超す。(ソラ)(タカ)く叫び声を響かせた。

 飛べない代わりに声を届けて、其の衝撃で刺さっていた杖は抜け落ちた。

 でも巨鳥を包む焔は消えない。焔を抱いた(ママ)巨鳥は終に堕ちて行った。

 其に併せて他の(カササギ)達も堕ちて行く。

 悲しそうな叫び声丈を残して、皆穴の底へと堕ちて行ってしまった。

「・・・姉さん。」

気付けばもう金魚の骸も溶けたのか無くなってしまっていた。

 先迄と同じ静けさが戻って来たのに、不思議と先より淋しく思ってしまう。

「いや、御蔭で助かったぜ。ほい此、」

杖を拾って来てくれた兄さんは、穴を見詰めていた僕に差し出した。

 でも僕は其をやんわりと断る。もう重い足は必要なかった。

「大丈夫だよ兄さん。其は良かったら兄さんが持ってて。」

「でも此が無いと困るだろ。まさかもう諦めたのか?もっと上へ行きたくないのか?」

「・・・ねぇ兄さん。屹度姉さんはマザーの所へ行くんだよね?」

僕は視線をそろそろと上げる。(アカ)い欠片は無事だったみたいで何事もなく昇り続けていた。

「何だよ藪から棒に。噫然うだろうよ。マザーに伝えに行くんだ。自分が認められた理由を伝えに。」

「然うだったんだね。じゃあ僕矢っ張り其の御手伝いしたいな。」

「其なら猶の事足は要るだろ。若しかしたら何処か上がれる所があるかも知れないし、一緒に探してやるぜ。」

「うん有難う兄さん。でももう大丈夫なんだ。僕は道を見付けたから。」

振り返って兄さんに(ワラ)い掛けた。

 そして足に力を込める。太くて大きい後ろ足をしっかりと折り曲げて。

「姉さんを護ってくれて有難う。僕、兄さんと話せて楽しかったよ。だから僕は此の懐いを、姉さんと一緒にマザーへ届けるよ。」

「っ!お、おいっ!」

僕は思い切り、(アカ)の欠片に向けてジャンプした。

 小さな翼を平行にして、羽搏(ハバタ)かせず、凱風(カゼ)を受ける様に。

 然うだ。此が僕の飛び方だったんだ。僕の足は此の為にあったんだ。

 足の力は大した物で、僕は軽々と姉さんの所迄到達する。

 其の(ママ)彼女を抱き締める様に両手を伸ばした。

 姉さん御待たせ。僕も一緒に行くよ。

 (アカ)(ヒカリ)の中で、姉さんが微笑んでくれた気がした。

「・・・彼奴まさか妹の片割れだったのか。」

()の子は欠片に触れるなり、幻の様に消えてしまった。

 でも分かる、感じる。(アカ)の欠片が又色を変えたのだと。

 出来損いだった筈の欠片はまるでステンドグラスの様に輝きを変えて合わさり、終には一羽の小鳥となっていた。

 そして其迄とは打って変わり、小さな躯には見合わない程の羽搏(ハバタ)きで(ソラ)へと舞い上がる。

「・・・何だよ、君の方が凄いじゃないか。」

呆然と立ち尽くしてしまった蝋燭は、はたと気付いて又淵に腰掛けた。

 又静かになってしまったなと独り言ちて、蝋燭は一つ息を付く。

 其でも俺は此の役目を全うしよう。愛す可き弟妹達の為に。

 蝋燭の焔は穏やかに、でも確かに闇の中を照らし続けていた。

はい、スレイのバックストーリーパートⅡでした。

 今回は喋るタイプのスレイさんが一杯出たので兄弟把握が難しかったと思います。自分も書き乍らしくじったんぁと一寸チョット反省していました。

 何より彼等は其で会話が通じるから、自分達に分かり易い様言い換えたりなんてしない訳で。だから自分達丈で完結しちゃっているんですよね。

 でもう言ったフワフワした話は大好きなので又やりたいなぁと思ったり。此の場合のスレイさんはアンマリネタバレ発言しないから・・・。

 まぁ前回のとは違って、何らかの作用を及ぼしそうな終わりをしましたけれどもね。の子達はどんな結末を迎えるのでしょうか。

 其にしても短いと校正も楽だなぁ・・・と最初思っていたけれども全然そんな事なかったです(笑)。

 と言うのも今回力を入れてみたのは、言葉の言い換えでした。

 見ていて、妙な言い回しをしているシーンがあったと思われます。何方の意味で言っているんだろう、みたいなシーンが。

 一例を挙げるなら『行きなさい』と『生きなさい』みたいな、何方の意味でも取れる言葉を敢えて多めに入れてみました。

 だから一部のシーンは言い換えると意味が相当異なる内容になります。其がスレイさんなりのネタバレの仕方ですね。(ややこしいわ)

 今回は手早く書き終えましたが、恐らく次回は相当先になります。

 しっかりと息を詰めないと書けない話です。心構えをしっかりして行きたいですね。

 と言う事で御縁がありましたら又御会いしましょう!

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