58次元 義尊き兵を導く皓き双子塔が聳える次元
今日は皆さん。どうも、早々に書き上げていたのにうっかり投稿を忘れていました筆者です。
最近ずっと昔の書いた分を校正したり、纏めたりしているんですが、其の際に此の話が無い事に気付いて慌てて投稿しました(笑)。
ま、まぁ頻度としては早いし、良いよね・・・?
結構短めの話でもあるし、あっさりテイストで読めると思います!
何より今回は色々勉強になりました。其の辺りは後書きで語りたい。
因みに現在の見直しレベルは六分の一ですね、未だ未だだ。斯うして振り返ると可也長いですねぇ・・・自分でも吃驚です。
一日みっちり読んだら読み終わるだろうと思ったら何の其の、全然進みません。
まぁ只読むんなら可也早く済むんですけれどね、問題は複線だとか漏れている設定だとかを一つずつ抽出しているから相当時間が掛かるのです。
もっと早くにすれば良かったと猛反省しています。今回できっちりやり切ります!
序でにどんどん誤字も直しています。昔と今の書き方も変わっているので直し難いですね。色々、然う言う意味でも勉強になったり。
今年中には綺麗にしたいなぁと目標を立てつつ、新たな世界の幕開けでございます!
我等の女王は地の奥深く
子よ、地上を目指せ、女王の為に働くのだ
翠の帆を棚引かせ、長蛇の列を崩さずに
女王への貢ぎ物を一生賭けて運び切れ
此の身は全て女王の為に、永劫に終わらぬ営みを
・・・・・
「ンー!次元着いたヨ!」
「こ、此処が次元ですの?」
両手を挙げてZ1-Θは飛び跳ねるが、カレンは少し様子を見ている様だ。
「若しかして次元に来るのは初めてかな?」
「然うですわね。矢っ張り感覚が違いますわ。」
「うむ、新神はしっかり我に付いて行くのだ。」
何を表現するつもりだったのか分からないが、ハリーが両手を挙げて羽搏く様なポーズを取るとカレンとZ1-Θが真似をする。
Z1-Θの上で丸くなっていたL⊝ ▼▲/も首を伸ばして何となく雰囲気を出そうとしている様だ。
微笑ましい光景だ。新神達には頑張って貰おう。
さて、今回着いた次元なんだが・・・。
波紋を放ってみると色々な情報が入って来る。
此処は蕭森の中なのだろうか、随分と背の高い碧樹が立ち並んでいる。
御蔭で差し込む陽は疎らだ。柔らかい日溜りが所々に出来ている。
足元は此の木々の葉が落ち、腐って積もったのだろう。ふかふかと柔らかい。
でも此の葉、随分と大きいな。
改めて旻を見ると良く分かる。周りの木々は巨大な、其こそ10m近くはありそうな葉を二枚丈付けていたのだ。
まるで巨大化した双葉だ。と言うより此だと自分達が小さくなった様にも錯覚するな。
「セレちゃん、向こうに何か大きいのが居るみたいなんだけど・・・。」
「然うだな。話せるか如何か怪しい所だが。」
ドレミが指差した所は碧樹の上だ。其処には皓と灰の大きな何かが葉を齧っていたのだ。
見た所、蟻の様に見えるが如何せん大きい。5m近くはあるだろうか。
長く伸びた細長い顎と、短く鋭い顎の二つを器用に使って葉を齧っている様だが。
あんな齧り方だと葉が落ちてしまうだろう。蟻は執拗に葉の根元を狙っていたのだ。
声を掛ける可きか様子を見ていると、終に葉の支えは無くなったらしい。
斬り落とされた葉は少し丈薫風に乗り、自分達の目の前へと落ちて来た。
「ッ⁉な、何此、吃驚した!」
「ぬを!た、立てなくなったのだ、」
勢い込んでいた彼等には不意打ちだったらしく、驚いて小さな騒ぎになってしまう。
転けてしまったハリーにカレンは手を貸して立たせてくれていた。優しい後輩である。
―・・・如何やら上に何か居るみたいですね。―
L⊝ ▼▲/が首を上げて見上げると、如何やら向こうと目が合った様だ。
―やや、大丈夫ですか。一寸御待ちを。―
脳内に直接聞こえる声。聞き覚えのない声に一瞬困惑する。
今のはまさか、蟻のテレパシーだろうか。
考えている間に其の蟻はするすると碧樹を降りて来た。
近付くにつれ、其の大きさに圧倒される。全員で背中に乗れそうな程大きいな。
顎も頑丈そうだし、あんなので挟まれたら堪った物じゃないだろう。
―見た事もない生物ですね。一体貴方達は何なのです?―
降りて来た蟻は意外にも友好的然うに見えた。触角を激しく動かし、恐る恐る確かめている様である。
其に矢張りテレパシーを使っているな・・・コミュニケーションが取れるなら良かった。
「えっと、ドレミ達は色んな所を旅してて、其で此処を通り掛かったんだけど・・・。」
友好的と言っても大きな相手は恐ろしい物である。其に昆虫相手なので表情も分かり難い。唾を呑み込んでドレミは声を掛けてみた。
でも蟻は首を傾げる様に触角を振る丈である。
「んー・・・、反応、無いかな?」
―若しかしたら同じテレパシーの方が伝わるのかも知れませんよ。―
L⊝ ▼▲/が声を掛けると明らかに蟻に変化があった。しっかりとL⊝ ▼▲/の方を向いたのだ。確かに届いている様だな。
ドレミは少し丈目を瞑ると小さく一つ頷いた。
―テレパシーって・・・此だよね?えっと蟻さん、ドレミ達は旅をしていて、此処を通り掛かったの。―
―ほぉ、貴方達はドレミと言うんですね。初めまして。―
―え、えっと、ドレミってその、私の・・名前の事で、えっと・・・、―
「ドレミさん、頑張ってください!」
何て答えようか悩むドレミにそっとカレンは声援を送る。
神と名乗る訳にも行かないし、如何しようか。
悩んでいると突然蟻は腹を立たせて震わせた。
すると近くの碧樹からわらわらと蟻達が降りて集まって来たのだ。
「こ、こんなに居たのー⁉」
「囲まれたな。敵意は無さそうだけれども。」
―ですが一寸、緊張しますね。―
集まって来た蟻達は皆触角を合わせたり振ったりして自分達の事を調べている様だった。
恐ろしく写るが・・・何だか動いたり騒いだりしたら咬まれそうである。大人しくした方が良さそうだ。
―ドレミって言うのか。―
―見た事ない種類だ。―
―敵じゃない?安全ですか?―
「・・・蟻って肉食のイメージがあるんだが、此大丈夫か?」
「肉食って何?」
「御前以外が食べられそうって意味だ。」
「い、いざとなったら我が変化して助けるのだ。」
「いえコチだって戦えますわ!」
皆が然う構えていると一頭の蟻が近付いて来た。
先迄話して来た奴だと思うが、斯うも数が多くなると分からなくなるな。
―ドレミは私達と御話出来ますか?戦ったり、しませんか?―
―た、戦わない戦わないよ!だ、だから攻撃しないでね!―
慌ててドレミもテレパシーを返すと蟻達は騒めいた。
銘々に触角を合わせて何か話している様だが・・・。
―じゃあ良かったです。最近敵が多いから警戒していたんです。―
理解は得られたみたいで、蟻のテレパシーは明るくなった様に感じられた。
表情が読めないのは心配になるな。一応未だ敵ではなくても餌にはなる可能性もあったりするが・・・。
―其の敵って一体・・・、―
近くの蟻が一頭歩み出た。触角を高々と上げて自分達を見ている。
―若し良かったら僕達の事を話そう。何か名案が出るかもだし。―
―名案って、今何か困ってる事があるのかな?―
―えぇ、然うなんです。良かったら少し聞いてくれますか?―
「・・・聞いてみようよ!屹度此が仕事だよ!」
「え、あ、然うですの?此が此の次元の問題と言いますか、然う言った件なんですの?」
「其の可能性は高いな。私達が其の目的で来ている以上、干渉力の方もしっかりと働いていると思うが・・・。」
「干渉力、然うでしたわね。成程・・・勉強になりますわ。」
―うん、じゃあ話してくれるかな?―
ちらと皆の話を聞き、ドレミは蟻へ声を掛けた。
―分かりました。では皆さんは仕事に戻ってください。私が預かります。―
集まり、輪になっていた蟻達は直ぐ散り散りになってしまった。
樹々に上り、皆葉を齧り始めている。如何やら彼が彼等の仕事の様だ。
―では、君達は私に乗ってください。私達の巣へ案内しましょう。―
―うん、御願いするね。―
「巣って何?」
「奴等の家だな、仲間が沢山居るだろうが。」
其処へ案内してくれるのか・・・見てみたい様な、恐ろしい様な気もするな。
まぁ騙す気とかは無いだろうし、大丈夫そうだな。
蟻は後ろ足を折り、腹を地に付けた。
背の毛に掴まれば、何とか登れそうである。
「皆で乗っても大丈夫かな・・・。取り敢えずドレミが乗ってみるね。」
ドレミが蟻の背に乗ったが、別段変化はない様である。
―えっと、重くないかな、大丈夫かな。―
―此位へっちゃらです。さぁどうぞ皆さん。―
流石は蟻だ。可也の力持ちなんだな。
「ぬ・・・ぬぬ、難しいのだ・・・。」
「ほらハリー君!ドレミの手を取って!」
―背中押しますよ。―
案の定、ハリーが乗るのは中々手が掛かり、上からはドレミが、下からはL⊝ ▼▲/が手助けをしてくれた。
一同が見守る中、何とか彼は登る事が出来てほっとする。
―ではしっかり掴まっていてください。巣は直ぐ近くなので。―
然う言うと蟻は先程自分が落とした大きな葉を銜えて歩き出した。
大した力だ、未だそんな余裕があったとは。
立てられた葉がまるで帆の様に見える。真直ぐ其を立たせて歩くのだ。
歩いている道中、近くの樹々を蟻達が上っているのが良く見えた。
「何とか、話は出来そうだね。」
「流石ですわドレミさん!そんな風に交渉すれば良いんですわね。」
「でも多分此、ドレミ達の事一寸勘違いされちゃってるね・・・。ドレミって種族だって思われてるよ絶対。」
「まぁ蟻だから其の辺りの認識とかが抑違うかも知れないぞ。此奴の名も聞いてないしな。」
「凄く速いね!乗るの楽しい。」
―Z1-Θさん!落ちない様気を付けてくださいね。あ、ハ、ハリーさんも、―
L⊝ ▼▲/はハリーが落ちない様彼の背に付いて支えていた。
不用意に触手を伸ばすZ1-Θを見て気が気じゃない様だ。
「其にしても次元の主導者の気配が弱いな・・・。」
先からずっと探っているが、何だか漠然としていると言うか・・・。
成行きで蟻に連れられているが、一体何処に居るのだろうか。
「あ、然うでしたわね。コチは未だ良く分からないですけど、皆さんは如何ですの?」
「うん、ドレミも其が気になってたの。何となく下から感じるけど・・・。」
「然うだな。地中に居るなら矢張り蟻関連とは思うんだが。」
ドレミも分からないか。出来る丈早くは見付けたいけどな。
蟻の言っている問題も気になるし、調べる事が山積みだな。
「うーん、只乗ってるのも悪いし、ドレミ一寸御喋りしてみるね。」
ドレミは少し上の方へ移動して蟻の目指しているであろう先を見遣った。
―あの、貴方の名前は何て言うのかな。ドレミ達聞いていなかったから。―
―名前、ですか。然う言った物は私達には無いので何とも・・・。―
「えぇ⁉名前が無いと不便だよ。何て・・・あ、そっか、」
思わず喋ってしまい、ドレミは一度口を噤んだ。
うぅ・・・矢っ張りテレパシーって慣れない。
―えっと、名前が無いなら、仲間は如何やって呼んでるの?不便じゃないの?―
―私達はフェロモンで仲間を呼べるんですよ。先も呼んでいたでしょう?―
―そ、然うだけど、然うじゃなくて・・・あ、ほら、じゃ彼処の子丈を呼ぶのは如何するの?―
ドレミに然う言われて蟻は顔を上げた。
確かに近くの樹に上っている蟻は居るが・・・。
―ん・・・特に然う言う状況が無いので何とも・・・私達がするのは基本、誰か来て欲しい。離れて、位なので。―
―えぇ、其丈で良いの?不思議・・じゃあ、ドレミ達が君を呼ぶ時は何て呼べば良いの?―
―其だったら近くに居る誰でも声掛けてくれたら良いですよ。案内とかは出来ます。―
―んー・・・何て言うんだろ。其だと別の子になっちゃうし、ね。折角こんな話しているから、又君と話してみたいの。其だったら如何探したら良いの?―
其を聞かれて蟻は困ったのか触角を激しく上下に振り始めた。
考えた事も無かったのだろう、実際彼等にそんな物は必要なかったのだ。
考え過ぎてつい葉を取り落としそうになる。慌てて顎でしっかりと持ち直した。
―ん・・・ん・・・思い付きません、では反対にドレミ達は如何してるのですか?皆同じドレミなのでしょう。―
―あ、矢っ張り然う思ってたんだね。ドレミ達はね、皆名前が違うんだよ。ドレミはドレミで、ロー君とか、ジー君とか、皆別々の名前があるの。―
―別々の名前・・・?―
蟻は何度も首を傾げていた。そろそろ彼の理解出来る範囲を超える話になって来たのかも知れない。
「ドレミ、余苛めてやらない方が良いんじゃないか?」
「あ、セレちゃん。でも気になっちゃって、」
同じく上って来たセレに振り向いたドレミは一寸困った顔を浮かべていた。
「彼等の中丈でコミュニティが築かれたのなら名前なんて無いだろうし、なくて不便なんて事も無いから今迄やって来ているんだろう。」
「うーん・・・ドレミは凄く不便そうに思っちゃうけどね。セレちゃん丈と斯うして御喋りとか出来ないって事でしょ?」
「然うだけれども、言い換えたら誰でも来てくれるし、誰でも手伝ってくれるって事だろう?呼んだら来てくれるのは其丈嬉しいと私は思うぞ。」
個が無いなら、差は無いと言う事だろうし。
助けを求めたら誰かが来てくれるなんて素敵な事じゃないか。
化物の声は届かない、化物は居る丈で害悪だ。
そんな風に思われないのは、迚も素敵な様に思える。
まぁ劣等感が無くなると同時に個性も消える可能性は否めないけどな。
「成程、然うだね。誰でも助けてくれるのは良いね。そっか、うん分かったよ。」
ドレミは又少し丈蟻の背に攀じ登った。
―混乱させちゃって御免ね。もう名前の事は大丈夫だよ。―
―そ、然うですか。まぁその・・・私は近くに居ますので何かあったら呼んでください。―
―うん有難う!然うするね。―
ドレミの返答に安心したのか蟻は触角を高く上げていた。
「・・・所で、私も一つ聞いてみたいんだが、ドレミ、話を変わっても良いか?」
「え?うん勿論良いよセレちゃん。」
ドレミが下がり、皆の所へ戻って行く。波紋を放つと見えるが、巣迄はもう少しだな。
―私も一寸話したいんだが、今大丈夫か?―
―勿論、構いませんよ。どうぞ。―
―先、最近敵が多いって言っていたな。具体的にもう少し聞きたいと思ってな。―
―然うですね。皆さんは旅をしていると言っていたし、奴等に会ったら襲われるかも知れません。御話ししましょう。―
蟻は其から道すがら色々と情報を話してくれた。
如何も敵と言っているのは彼等と似た別の蟻の事らしい。
其の蟻は真黔で彼等より大きく、見付けた途端襲って来るんだとか。
意思疎通も出来ないし、困っているとの事だった。
―先言った困り事って其の事なのか?―
正直、其を解決させるのは旅の者に重荷だぞ。
全滅させれば良いって話でもないし、抑向こうの話も聞かずにやるのは良くないだろう。
・・・前の次元でもやらかしたからな。ちゃんと話を聞きたいとは思うんだ。
次元の主導者が向こうの勢力かも知れないしな。
―其もありますが、少し別の事ですね。其も巣に着けば説明出来るかと。―
―ん、巣の方に問題があるのか?―
―巣と言うより、巣から行けるんですよ。汚染されて来て困っているんです。―
―汚染・・・か。―
何となく引っ掛かるワードだな・・・。
確かに其なら自分達の出番かも知れない。黔日夢の次元の痕跡かもな。
―あ、ほら巣が見えて来ましたよ皆さん!彼が私達の巣です!―
「ワッ!凄い!大きいね!」
「・・・美味しそうですわね。」
「だ、駄目だよカレンちゃん!そんな事したら食べられちゃうのは屹度ドレミ達の方だよ!」
続いていた樹々が一気に晴れ、視界一杯に土の塔が現れた。
見上げる程に巨大な塔である。美しい螺旋を描いており、幾つか開いた窓から蟻達が顔を覗かせていた。
自分が想像していた蟻の巣とは随分違っていた。此は蟻塚と言う物なのだろうか。
其にしても凄く整っていて綺麗だ。歴史的建築物だと言われたら信じてしまうだろう。
此を蟻達が造ったのか・・・噫確かに、良く見ると壁や上部に蟻達が集まっている。
彼の大きな顎で土や泥を付け、均している様だ。成程、あんな細かな作業を繰り返して造り上げたのか。
ついじっくり観察したくなるな、結構装飾とかも凝ってるし・・・。
―凄く立派な塔だな。まるで旻迄届きそうだ。―
―もう四百年程経っていますからね。どんどん太く高くしているので案外中は複雑ですよ。―
―四百年!其は中々壮大ですね。―
「蟻の巣っててっきり地中にあるのかと思ってたよ。」
「然うですわね。築四百年の味・・・気になりますわ。」
―折角なので此の儘中へ案内しますね。此を届けないといけないので。―
蟻は少し丈葉を持ち上げると其の儘塔の中へ入って行く。
門番なのだろうか、入り口に何頭か蟻が待ち構えている。
互いに触角を合わせて何やら話している様だ。
如何やら彼等はテレパシー以外にも其の触覚で話が出来るんだな。
―ようこそ我等が城へ!歓迎しよう旅の方。―
―只落ちると危ないので気を付けてくれたまえ。―
―うん、有難う!―
ドレミが手を振ると挨拶代わりに彼等も触角を振る。
中に入ると、其処は異様な光景が広がっていた。
先複雑だと聞いてはいたが、正に其の通りだったのだ。
幾つもの螺旋が塔内部に出来上がっている。中心に大きなのが一つ。其処から枝分かれするかの様に大小様々な螺旋の塔が出来ている。
まるで街の様だ。尖り屋根が沢山立ち並ぶ街の様に見えるのだ。
若しくは崖に並ぶ様に聳え立つ家か・・・でも其の崖すら家になっていて、
見れば見る程不思議だ。目で追っていると混乱してしまう。
彼の螺旋の一つ一つが家なり倉庫だったりするんだろうか・・・いやはや、立派だ。
見ていて迷子になりそうな光景だが、数多の蟻達が列を成して其々の塔へ入って行っている。全体を見ると一つの機械の様に正確だ。
「い、一体何が如何なってるんですの?」
「ぬぅ、幻覚でもこんな緻密な物は然う造れないのだ。」
「一杯御家があるね。凄く綺麗!」
皆が圧巻されている中、蟻は中心の塔へ入って行く。気付けば周りの蟻達も皆葉を銜えている様である。
今更だが、此の葉を一体何に使うんだろうか。
餌、なのだろうか・・・彼等は草食系なのか?
てっきり塔を上るのだと思っていたが、蟻達は地下に向けて進んでいた。
螺旋の塔内部は上下に向けて道が造られていたのだ。
何処迄も続きそうな大きな穴が口を開けているが・・・此の中へ入るのか。
―此処から少し急になるので気を付けてくださいね。―
「ぬ・・・うぅ、頑張るのだ。」
―ハリーさん、私が巻き付いて置きますね。―
L⊝ ▼▲/がハリーの胴に巻き付く事で、何とか彼を背に縛り付ける。
Z1-Θも其を真似て触手を伸ばしていた。
「ん・・・おぉ、地下はこんな風になっていたのか。」
「此って若しかして茸、なのかな?」
可也下った所でやっと平地になる。其処は一面薄暗い空洞が広がっていた。
けれども案外視界は良好だ。と言うのは周りに無数に生えていた茸が薄翠に曦を放っていたからだ。
其の御蔭で洞窟全体が深さの割に明るく見える。全体的に淡く曦を放って何とも幻想的だ。
洞窟中に生えている茸は何も大きく、自分達の背よりずっと高い。蟻達は其の茸の根元に葉を置いて行っている様だ。
―ね、此って一体何をしてるの?―
―はい、私達は此処で此の茸を育てているのです。葉を置いて行くとどんどん育つんですよ。―
「成程、葉を腐らせて栄養にしているのか・・・。」
―十分に育った茸は食糧庫へ運んで行きます。私達は此を食べているのです。―
―凄い!じゃあ此処は畑なんだ!―
「まるで自給自足ですわね。素晴しいですわ。」
「中々面白い生活スタイルだな。」
まさかそんな独自の文化で生きていたとは。中々に面白いな。
―・・・そして、問題があるのは此の奥なんですが、皆さん行きますか?―
―噫、先言っていた奴だな。連れて行ってくれ。―
―はい、分かりました。―
蟻は葉を置くと、更に洞窟の中を進み始めた。
―此の先には女王様の部屋と、外への抜け道があるんです。―
―女王!どんなのかな、会ってみたい!―
―・・・残念ですが、女王様に私は会えなくて。迚も深い所におられるので、熱くて行けないのです。―
―そんな深い所に居るのか?―
段々と生えていた茸が疎らになり、洞窟は冥くなって行く。
すると隣に辛うじてぽっかりと大きく空いた穴を見付けた。
―はい、此の先が然うですが、世話をする特別な者でないと、辿り着けなくなっているのです。―
―此は・・・確かに可也深いな。―
波紋が中々返って来ない・・・数㎞規模だと言うのか。
殆ど垂直だし、熱いってまさか本当にそんな深さに居るんだろうか。
女王・・・見てみたい気もするけれども、其こそ地殻レベルの深さに居たら笑えないな。
如何しても皓の女王やヲル、と何かと女王絡みで何事かあったりはするんだが・・・。
まぁ、蟻の女王なんだし、別に良いか。
「如何セレちゃん。セレちゃんだったら見えるかな?」
「いや、深過ぎて全くだ。只ずっと穴が続いているな。」
「?今更ですけど、セレ神さんって一体如何見えてるんですの?晒してますけど・・・。」
「ん、噫超音波みたいな物で見ているんだ。其でも分からないとなると、数㎞以上は深いな。」
「超音波⁉だ、だからコチの攻撃が丸見えだったんですわね。」
「うむ!セレは凄いのだぞ!世界の裏側迄見えるのだ。」
「・・・流石に其は盛り過ぎだからな。」
口元に手を当て、正に驚愕と言う表情をカレンは浮かべていた。
何だか新鮮だな、最近然う言う反応をする奴って然う居なかったし。
其にしてもハリーの持ち上げ方が恐い、其、何処でも吹聴していないだろうな・・・。
―あ、丁度御付きの者が戻って来ましたね。御勤め御苦労様です。―
蟻が触角を揺らしていると、穴から大きな蟻が飛び出して来た。
其の蟻は自分達を乗せてくれている者より一回り大きく、背に大きな翅が生えていた。
大きい分、何だか甲が厳つく厚くなっているが、彼で熱から身を護っているのだろうか。
其にしても随分と早く飛べる物だ。波紋で見えてはいたが、あっと言う間に此処迄上って来た様だ。
―御疲れ様です。噫、早く如何にかせねば。女王は業を煮やしています。―
―もうそんなに浸食されているのですか。―
―えぇ、此の儘では女王自ら赴くとの事で・・・危険なので止めたいのですが。―
飛んで来た蟻は何度も触角を震わせていた。そして不意に背に乗っていた自分達に気付いた様である。
―おや、此の者達は一体、見た事のない種ですね。―
―はい、ドレミと言う然うで、折角なので例の物を見て貰って何か知恵を得られればと思ったんです。―
―成程、其で此処へ・・・。噫良ければ貴方達が何か新たな凱風を吹かす事を祈っています。―
蟻は然う言うと茸畑の方へ飛んで行ってしまった。
其の背を見送ってから蟻は又進み始める。
―・・・何やら随分大事みたいなんだな。―
―はい、女王は身重ですし、母が動く前に我々で如何にかしたいのですが。―
進むにつれ、道幅は段々と狭くなり、通り掛かる蟻の姿もなくなった。
此の様子だと、普段は使われていないのだろう、茸も無くなったので足元は一気に冥くなる。
其でも終に出口に近付いて来た様で、目指す先に曦が灯っていた。
「ぬ、もう出口が近そうなのだ。」
「何があるかな、楽しみ!」
―反対側も蕭森・・・と言う訳には行かなさそうですけどね。―
―然うですね・・・ほら、もう着きますよ。―
少し狭くなっていた穴から何とか身を乗り出し、蟻は這い出した。
其の先に広がる光景は何とも異様な物だった。
くっきりと地面が黔一色に染め上げられてしまっていたのだ。
草木も無く、只黔い地平が続いている。
現実の物とは思えない、平面にも見える景色は宛ら絵の様である。
何となく見ていて良くない物だろう事は分かる、近付いてはいけない様な。
「う・・・此の土は不味そうですわね。」
「火事、とかじゃないよね、なんだろ此。」
「・・・・・。」
何となく、察してしまうのが嫌だな。確実に此は自分が起こした事だろう。
黔日夢の次元の影響だ。だからなのか何となく自分の魔力を感じる。
具体的に何をしたのかが懐い出せないが、此は自分の証だろう。
―此が今私達を悩ませている問題なのです。此の黔い地が日に日に広がって行っているのです。―
―広がってるって、じゃあ何時かは巣に届いちゃうかもなの?―
―はい、加えて地中の方が浸食が早いみたいで、其で女王は如何にかしようと・・・。―
―成程な。因みに発端とか、何か分かるか?―
―然うですね。・・・初めは、こんな事無かったのです。只行き成り此の辺りに別の巣が出来ていまして、其処の者が酷く好戦的だったので争っていた時代がありました。―
―別の巣か・・・其で?―
―余りにも危険だったので、私達は奴等を滅ぼす戦いを仕掛けました。其に因り可也数を減らし、奴等の女王も斃したのです。―
「女王が居たって事は向こうも蟻だったのかな・・・。」
―ですが、其の女王の心臓が突然黔い血を噴き出して・・・其が大地をこんな風に変えてしまったのです。―
「心臓って何?」
「ん、まぁ・・・人体で言う所の中心にある内臓の事だが・・・急所だな。」
心臓から黔い血か・・・うーん。
―じゃあ其の心臓が無くなれば、此以上広がらなくて済むんだよね?―
―はい、恐らくは。只其も一筋縄には行かないのです。此以上近付くと、奴等が出て来てしまうんです。―
―奴等って、其の凶暴な敵か。―
―はい、無数に出て来るので中々進攻出来なくて、作戦も失敗続きなんです。―
―成程な・・・。―
其の敵って奴を良く見ないと何とも言えないが、恐らく此の地を染めている魔力なりから生み出されているんだろうな。
自分の使う加護みたいな形で。其の心臓を護っている。
―女王様は彼の心臓を“セレの心臓”と呼んでいました。災厄の源と。だから破壊しないといけないのです。―
「・・・ん?」
今何か不思議な単語を聞いたな。
自然と一同の視線が自分に刺さる。
「え、セレちゃんの心臓なの?」
「そんなまさか、流石に心臓無いと死んじゃいますよドレミさん。」
「まぁ心臓は無いけれども。」
「⁉え、無い?」
「うむ、セレは凄いから心臓等無くとも良いのだ!」
新神を揶揄いたい訳じゃあないが、此のやり取りは何か癖になるな。
「僕も心臓、あるのかな?」
「ん、んー・・・コアならあると思うんだが。」
其にしても心臓か、そんな物置いて行った覚えは無いけれども。
―セレさん、黔日夢の次元の時に心臓置いて行ったんですか?―
L⊝ ▼▲/が自分の元へ飛んで来た。中々面白い質問だ。
「いや、心臓を落っことした記憶は無いな。流石に別物だろうが。」
「うーん・・・もう一寸聞いてみたいね。」
蟻は皆が話し込み始めたのを察してか、只黙って触角を振る丈だった。
―ね、其のえっと・・・セレの心臓って物が何なのかとかって聞いてるのかな?―
―然うですね・・・抑奴等は旻から来たと女王様は仰っていました。霄の闇が雫となって堕ちた者、其の心臓で世界を霄に変えるのだと。―
「霄か・・・恐らく黔日夢の次元の情報なりが此方に流れて来た形なんだろうな。」
「然うなんですの?何だか不思議ですわね・・・。」
―神の伝承だとかは干渉力で伝わりますからね。斯うやって伝説や言い伝えになるんですよ。―
話している隙にそっとL⊝ ▼▲/を捕獲して頸に巻いた。・・・うん、流石のモフモフだ。
L⊝ ▼▲/も此の扱いに慣れて来たのか大人しくしてくれている。
「良く分かりましたけど、セレ神さん其は何なんですの?」
「気にしないでくれ。斯うすると落ち着くんだ。」
「場合に因っては興奮しちゃうけどね。」
まぁでも話は良く分かった。彼の心臓を如何にかすれば良いのなら話は早いだろう。
―良し、じゃあ一寸此方に任せてくれるか?彼が壊せるかやってみよう。―
―ほ、本当ですか⁉でも気を付けて、無理はしないでくださいね。―
然う言うと蟻は腹を地に付けた。彼の背を伝って何とか地に足を付ける。
「壊せば良いなら簡単だね。」
「うむ、目標が分かったのは良い事なのだ。」
「因みにセレちゃんは何か憶えてないの?心臓じゃなくても別の物を落としたとか。」
「恐らく・・・血、いや甲の一つを落としたんじゃないかと思うんだ。似た事例はあったし・・・。」
「一つって、其で次元がこんな風になってしまうんですの?」
「然うなのだ。セレの魔力は凄いのだ。」
「此の場合は此処迄凄くなくて良かったんだがな。」
「まぁ心臓を壊せば良いと言う丈なら簡単ですけど、具体的に何処か分かるんですの?」
「然うだな、Z1-Θ如何だ?魔力なんだし、然う言うの分かったりしないか?」
「ウーン・・・何か変な感じがする所はあるよ、其方かも。」
「変なとは失礼だな・・・でも、其っぽいな。」
「其じゃあ早速行きましょう!・・・入っても、大丈夫ですわよね?」
―あ、直ぐ奴等が出るので気を付けてくださいね!―
蟻が心配そうに触角を振って見送る。
そんな中、一歩丈カレンは黔い地へ足を踏み入れた。すると・・・、
ぞろりと、地面が波打った気がした。
そして泡立つ様に揺らめくと、まるで影を其の儘立たせたかの様に黔い塊が起き上がる。
「早速御出座しか。」
「カレンちゃん気を付けて!多分一気に来るよ。」
「えぇ、分かってますわ。」
身構えていると其の塊は蟻に似た形を取った。
後ろで見護ってくれている奴とは違い、真黔だ。
出て来た蟻は一、二頭所ではなく、何十と這い出て来る。
良く見ると少し丈形が違うだろうか?蟻には詳しくないので何となくだが。
腹を上げた格好で蟻達は躙り寄って来る。
敵意は剥き出しだ。表情は相変わらず読めないのに、同じ蟻でも斯うも違うんだな。
カレンはちらと一度丈此方を見遣ると力強く地を蹴った。
そして目の前で顎を広げていた蟻に踵落としを喰らわせる。
頭に命中した蟻は地面に減り込んでしまう、余りの勢いに頭が埋もれてしまったのだ。
大きく頭が拉げている・・・大した威力だ。
ってかこんな恐ろしい物を彼の時自分に放ってたの?容赦なさ過ぎないか?
「意外に柔らかいですわね。此なら針も刺さりそうですわ。」
「ヨーシ!じゃあ僕もやるよ!」
突如Z1-Θの中心が淡く光り、ビームが地平真直ぐに放たれた。
其は数頭の蟻を巻き込んで頭から貫通する。
「う・・・うむ、此の卵は容赦がないのだ・・・。」
音もなく崩れ去って行く蟻達を見て数歩ハリーは下がってしまった。
自分も同じ心地である。多分彼って光属性だしな、凄い嫌悪感がある。
矢っ張りZ1-Θは恐ろしい存在だな。絶対怒らせない様にしないと。
自分は殆ど魔力で出来ている様な物なんだし、彼奴等みたいに蒸発する可能性があるぞ。
「消えちゃったね・・・。死んだら消えるタイプなのかな。」
「其でも全く怯みませんわね。其の心意気は嫌いじゃないですわ。」
蟻はどんどん増えて群がって来る。限がなさそうだ。
確かに此じゃあ進むのは一苦労だな。単純に数が多過ぎる。
―如何ですセレさん、何か分かりますか?―
「噫、粗間違いなく私の力だろうな。此奴等は私の甲を護る為に出て来ているんだ。」
術の形と言うか、本能に近い所で分かる。
然う言う意図が、漂う魔力から感じる。今の自分は大分彼の時と変わってしまったので術も変容している様に見えるが、此は間違いなく自分の物だ。
―ではセレさんの力で止められませんか?術者なら解除も出来そうですが。―
「其が案外然うでもないんだ。別に私の命令を聞くって訳でもない。今迄の経験でも、黔日夢の次元のは余り扱えなんだよな。」
時々自分を術者と理解して還る時もあるが、大抵はそんな事も無いな。
独立した術として、動いてしまっている。
「セレちゃんが暴れちゃった時のだもんね。ドレミも然う言う事あるよ。怒って使った術って案外制御とか出来なくなっちゃうの。」
「加えて、恐らく殆どの形が加護に近いんだと思うな。加護は私の意に反して発動しているらしいし。」
「加護って、セレ神さんの加護は蟻、なんですの?」
近付く蟻に対してカレンは足蹴りを何度も喰らわせる。
相手の方が大きな顎だとかを有しているのに良く素手でやり合えるな。
「いや、そんな事はないが、色々なパターンがあるな。其こそ状況によりけりだ。」
「然うだね。魔物みたいなのも多いけど、特に決まってないもんね。」
「・・・其、本当に加護ですの?コチが知っているのと随分違いますけど。」
ドレミが辺り一片に雷を降らすと、一気に蟻達は消滅した。
脆くはあるんだな。まぁ此丈量産しているし、数あればと言うやり方なんだろう。
ドレミの一手で少し手持無沙汰になった為、カレンは息を付いた。さては未だ暴れ足りないな。
―然うですね。加護と言うと・・・大体魔力が上がったり、力が増したりだとかそんな具合で、此処迄具体的ではない筈ですけど・・・。―
「うむ!其がセレの凄い所なのだぞ!」
幻覚の冰を辺り一面にばら撒いてハリーは何処か誇らし気だ。
元気があるのは良い事だな。一々もう照れていられないぞ。
次々と焔や岩なんかも降らせる彼の暴れっ振りに、カレンは目を張っていた。
「具体的な所為で、全く扱えないのが問題なんだけどな。」
確か前飃も何処ぞで加護と会ったっぽい事を言っていたな。
具体的内容を言わなかったのが気になるが、如何やら自分の分身みたいな物が出たとか。
其が本当に加護なら気になる所だ。一体何が何処迄出来るのかと言うのは興味がある。
―扱えないのは良くないですね。・・・あの、後私ずっと此処に居るんですが・・・。―
「噫、L⊝ ▼▲/は其の儘が良いんだ。しっかり私を護ってくれ。」
―護ってると言うか・・・うーん。―
ずっと頸に巻かれている所為で彼自身は何も出来ていない。
「うむぅ、セレは護って貰う必要もないのだ。屹度マフラーが無い方が動けるのだ。」
「いやモフモフは必要だぞ。此丈で私の戦闘力上昇が二倍は下らんな。」
「モフモフ・・・って何ですの?」
「上がってるなら戦ってよー!」
む、失礼な。自分だって只愛でている訳じゃあないのに。
一応術位は軽く放ってはいる。只ドレミ達が激しいから余り必要ないんだよな。
此の儘蹴散らして行けば、目的地には行けそうだ。只確かに限がないし、時間が掛かるだろう。
どんな相手かも分かったし、そろそろ一気に攻めるか。
「皆存分にやっている所悪いが、飛んで行かないか?一気に中心に行ってしまおうと思うんだが。」
見た所飛べそうな種もいなさそうだし、問題はないだろう。
「うん、然うだね。ドレミも其で良いと思うよ。」
「まぁ・・・然うですわね。分かりましたわ。でも飛ぶって、」
「我に任せるのだ!」
意気揚々とハリーが両手を挙げると其の姿はどんどんと膨れ上がり、人の形を保てなくなる。
然うして胴が伸び尾が生え、全体的に縹色へ転じると、一頭の龍が胸を反らして立っていた。
「あ、有難うハリー君、乗せて貰うね。」
「ぬぅ・・・まぁ仕方ないのだ。」
「え、龍だったんですの⁉道理で不器用ですわ・・・。」
「我だって少しは器用になってるのだぞ!」
焔を吐いて蟻達を蹴散らして行くハリーの背に、ドレミとカレンが乗る。
一瞬ハリーが呻いた気がするが、二柱が限界なのかな。
自分は翼があるし、大丈夫だ。後は・・・、
「ってZ1-Θ、御前飛べたのか。」
気付けばZ1-Θは触手をぐるぐると回して低空飛行をしていた。まさかそんな形態があったとは。
「へへ、実は此、僕丈の力なんだよ!魔力で飛んでるんだ!」
「ん、然うか。元々Z1-Θには飛行能力なんて無かったよな・・・自力で編み出したのか?」
「ウン、未だ一寸苦手だけど、一応飛べるよ!」
其は凄い、魔力の為せる技か。
魔力としてZ1-Θを動かしつつ、其の一部を利用して自ら術を放っていると。
そんな事も出来るのか、明らかな進化だ。魔力が魔術を使っていると。
不思議な感覚だ。完全に個を確立させたな。
まぁでも良かった。Z1-Θ重いから如何しようか一寸考えてはいたんだ。
最悪L⊝ ▼▲/の背中に乗せられるかなと思ったが、自分で飛べるなら素晴しい。
・・・然うか、元々魔力其の物なんだし、何の術でも使う事は出来ると言う事か。
でも術者も無しで飛属性になれる物なのか?
魔力の変容を、術者の意思無しで行っている。言い換えれば、魔力の意思で行っていると・・・?
・・・今迄魔力は発動している術を強化したり、引き寄せられたりする程度だった。
其が自ら、自制して扱っているのか?
もう一寸、考えた方が良さそうだな。
Z1-Θは回転させた触角を自身の真下にする事で浮いていた。
只確かに一寸危なっかしい。ふらふらと左右に揺れている様だ。
実際重たいのもあるし、難しいだろうな。体勢を崩さない様傍で見ていないと。
自分が翼を出して飛び立つのに合わせてハリーも浮かび始める。
何だかハリーは一寸不満そうな顔をしているが、若しかして背中に乗って欲しかったのだろうか。
「さぁZ1-Θ、魔力は何処から感じるんだ?御前なら一番分かると思うんだ。」
「ウン、彼方だよ!」
相変わらずふらふらとだがZ1-Θは飛び始めた。
波紋で慎重に辺りを見るが・・・矢張り蟻達は追って来ないみたいだな。
眼下で顎を打ち鳴らしていたが、飛んで来る様子はない。
所か其の儘消えて行ってしまった。成程、範囲内にのみ感知するタイプなのか。
此処迄来たら益々加護っぽいな。斯う言う形でも現れる事があるんだな。
Z1-Θを先頭に一同は黔い地の中心へ向かっていた。
視界一杯に黔の地が広がる。思っていたよりも広大な様だ。
此の全部から彼の蟻が出るのなら確かに厄介だろうな。
「あら、セレ神さん飛べるんですわね。」
「うむ!然うなのだ。セレは何でも出来るのだ!」
「あ、あのハリー、今回は其の位にしてくれるか・・・?」
流石に一寸堪えて来た。今迄素知らぬ顔をして来たけれども。
翼が生えている丈です。何でもは出来ないから赦して欲しい。
今だって陽に当たらないか心配し乍ら飛んでいるんだ。オーバーコートの御蔭で翼は隠せているけれど、一部の羽根は如何しても焼けてしまうんだよな・・・。
「コチも飛べる様になる石はありますけど・・・此処じゃあ無理ですわね。」
「でも食べたら飛べる様になるのは凄いね!ドレミは無理だよ。」
「まぁドレミはローズが居るしな。何時もは乗せて貰ってるんじゃないか?」
「うん然うなの。ロー君なら飛も使えるしね。」
「・・・本当に沢山の種族の方が入ってるんですわね。」
「ア、ネ、セレ、此の辺じゃないかな?如何?」
Z1-Θが触手の一つでとある地を指差す。
確かに其処には岩みたいな物が幾つか転がっていた。
「・・・若しかしたら彼が女王の死体かもな。」
―では彼を壊せば良いのでしょうか?―
「恐らくは然うだな。彼の黔っぽい石の何かだろうし。」
狙えているなら楽だな。的も分かり易いし。
「じゃあ僕に任せてよ!セレのならビームでイチコロだよ!」
「ま、まぁ然うだな・・・。」
イチコロって・・・然うだけど、何だかなぁ。
全く手立てがないのだから悲しいな。御蔭で対処し易いとも言えるが。
「ヨーシ!じゃあ・・・アレ?」
Z1-Θが淡い曦に包まれ、ビームが放たれる瞬間の際の時だった。
突然、地面が大きく振動し始めたのだ。
飛んでいるので自分達に影響はないが、だが激しく揺れ、割れて行く黔い地についZ1-Θは曦を収めてしまう。
石も転がり、罅に入ったらしく狙い辛くなってしまったのだ。
其でも再度Z1-Θが曦を集め出した其の時、
地面を突き破り、巨大な塔が生えて来たのだ。
二本の頂を携えた其の塔は余りにも大きく、自分達よりも旻を目指して伸び上がる。
皓く輝く物が突如現れたので体勢を崩したセレ達は地表近く迄降下してしまった。
「な、何だ此はっ、皆怪我はないか⁉」
地面に落ちた訳ではなさそうだが、慌てて波紋を投じ確認をする。
一応皆無事の様だ。直撃はしなかったが、生じた突風に因り、乱されてしまったんだろう。
「何で行き成り、若しかしてドレミ達に怒ったのかな。」
「加護にしても勁過ぎますわ!」
「・・・イヤ、多分此、何か違うよ。」
「だな、私の力じゃない。此は・・・、」
其の塔は眩い許りに皓かったが、所々汚れの様に黔ずんでいた。
でも良く見ると其の汚れは、彼の蟻達が集まって出来ていたのだ。
塔に群がった蟻達は、執拗に攻撃を加えていたらしく咬み付きを繰り返していた。
彼の蟻達ですら小さく見えてしまう程、此の塔は大き過ぎたのだ。
そして突き出た其の塔は、徐々に動き始めた。
最初に先端の二本の塔が左右に振られ、中部から六本の細長い棒が突き出して来た。
其から緩りと塔は根元から倒れてしまう。六本の棒を下にして、大きく地を揺らし乍ら塔は横薙ぎに倒れたのだ。
余りの光景に只見ている事しか出来ない。一体何が起こっているのか誰も理解出来なかった。
だが・・・、
―女王様ー!御戻りを!―
―危険過ぎます、女王様ー!―
方々からそんなテレパシーが一気に集って来たのだ。
見ると巣穴の方に沢山の蟻達が集まっていた。
蟻塚の窓や出入り口から続々と出ているらしく、蟻の巣自体が皓く輝いている様に見える。
蟻達は皆触角を震わし、テレパシーを送り続けていた。
御蔭で黔い地と蟻塚できっちりと皓黔分かれている。余りの様変わりに目まぐるしい。
「女王って・・・ま、まさか、」
―此が、然うだと言うのですか!―
倒れたと思われていた塔は六本の棒に支えられ、緩りと動き出した。
塔と思われていた二本の大顎が鋭い音を立てて閉じられる。
六本の棒だと思っていた足が広げられ、しっかりと大地を踏み締める。
動き出した巨大な塔、其は女王蟻だったのだ。
余りの大きさに全貌は未だ見えない。
其でも動き出した其は確かに生物の様だ。
いやまぁこんな大きいと生物と言うより兵器っぽいが。
「な、何で女王様が出て来ちゃったの?でも確か此の子は味方だったよね?」
「同じ皓い蟻だし、然うだろうな。其にしてもこんな大きいなんて。」
其処等の街、否国よりも大きいかも知れない。だって彼の顎で空山位掴めそうだ。
―確か怒ってるとかって言ってましたよね?だから出て来ちゃったんですかね?―
「然うか、奴等の侵食に堪え切れなくて・・・何もこんなタイミングで来なくてもな。」
間が悪過ぎる。然も此の気配は・・・、
「ね、セレちゃん。若しかしなくても此の感じ・・・次元の主導者じゃない?」
「え、じょ、女王が、彼の大きいのが次元の主導者ですの⁉」
「然う・・・だな。私も同じ事を思っていたんだ。恐らく地中に居たから気配が薄かったんだな。」
はっきりと今なら分かる。此の気配は次元の主導者の其だ。
やっと繋がった。まさかずっと足元に居たなんて。
女王も恐らく目的は自分達と同じなのだろう。自分の甲を破壊しに来たのだ。
出て来た地点から直撃はしただろうが・・・如何だろうか。
一同が見護る中、女王蟻は突然激しく顎と触角を振り回し始めた。
そして其の躯が段々と・・・黔く、染まって行く。
「ぬ、ぬぅ、此は、絶対良くない事なのだ!」
「ど、如何したの⁉女王は如何なったの?」
徐々に女王の躯は中心から黔く染まって行った。
其は別に彼の黔い蟻達が群がっているからではない。彼女自身が黔くなって行ったのだ。
更に其の骨格すらも捻じ曲がって行く様で・・・。
顎とは別でまるで鼻の様に先が長く伸びて行く。手足もごつくなり、毛の様な物に覆われて行く。
腹も大きく長くなり、全身にフサフサの毛を纏って行った。
此は・・・此の姿は一体何だ?
余りの様変わりに理解が追い付かない、モフモフだけど、彼には飛び込もうとは思わんな。
―あ、あ、ドレミさんー!ドレミさーん!―
眼下で一頭の蟻が触角を振って自分達を見上げていた。
気付けば黔い地は随分と小さく狭くなっていた。まるで女王蟻が吸収したかの様に、彼女を中心にした一部丈になっていたのだ。
だから皓い蟻達は続々と蟻塚から出て来て、女王を囲う様に集まって来ていた。
皆が皆、女王を見遣っている中、其の一頭丈が此方を見上げていたのだ。
全員一度アイコンタクトを取ると、そっと其の蟻の元へと向かう。
只地表は一面蟻で埋まってしまっているので中旻からだ。其でも十分やり取りは出来る。
―君は・・・先の子だよね?―
―然うです!あの、皆さん御願いです。女王様を助けてやってください!―
随分と蟻は動揺している様で、触角を其迄以上に激しく振っていた。
―う、うん勿論手伝うけど、一体如何しちゃったの彼。―
―分かりませんが、あ、でも若しかしたら・・・昔も同じ様に姿が変わった仲間が居たんです。若しかしたら・・・食べちゃったのかも・・・。―
―食べたって、まさか心臓をか?―
―じゃないとだってあんな悍しい姿になんてなるでしょうか⁉噫、御労しい・・・。―
「食べて、取り込まれてしまったって事か。」
―甲って屹度随分小さかったんですよね?彼一つでですか。―
「むぅ、セレの力だから十分あり得るのだ。屹度抗えなかったのだ。」
「然うだな。でもまさか次元の主導者に憑くなんて・・・・。」
最悪だ。他の奴なら殺せば其で済んだだろうが・・・。
相手が相手なので手を出し難い。何とか取り除かないといけないのか。
「的が大きいから僕のビームで貫けそうだけど駄目なの?」
「た、多分其しちゃったら女王様が死んじゃうからね、そんな事なったら何の道次元が終わっちゃうよ。」
「然うでしたわね。此、思ったより面倒な事になりましたわ・・・。」
―如何にかして浄化しないといけないと言う事ですよね?でも、そんな事出来ますか?―
「・・・あるとしたら、取り敢えずは弱らせて、何とか摘出するか。」
「摘出って・・・如何する気ですの?」
一つ、一つ考えがあるが・・・実行するのは恐ろしいな。
「手は、一応ある。先ずは其の甲を探そう。若しかしたら体表にあるかも知れないからな。」
「然うだね。其を壊したら良い事には変わりないし、うん然うしよう。」
―其なら私も手伝います!―
首元でずっとそわそわしていたL⊝ ▼▲/が遂に離れてしまった。
条件反射で尾を掴みそうになるが、ぐっと堪える。
いけない、今は非常事態なんだ、行かせないと・・・うぅ。
離れてしまったL⊝ ▼▲/は直ぐ元の大きさに戻る。一気に巨大化して長く伸びた尾を揺らしていた。
モフモフが・・・っ、あんな大きなモフモフがっ!
必死に理性を抑え込む。衝動を堪えんとする彼女を見遣って、思わずドレミは吹き出してしまった。
「じゃあ皆で手分けして、甲を探したら良いんだね!見付けたら報告して壊す!」
「噫、怪しい魔力が出ているだろうから直ぐ分かる筈だ。一応壊す前にちゃんとテレパシーをする事。何が起こるか分からないからな。」
「暴れられない様、多少は攻撃もした方が良いですわね。フフ、一番に見付けてみせますわ!」
「ぬぅ、乗せて行くのは我なんだが・・・まぁ良いのだ。」
「ジャア解散!」
Z1-Θが飛び上がるのと同時に、セレ、L⊝ ▼▲/、ハリーは其々別方向へと飛び去って行くのだった。
・・・・・
「心臓って大事な物なら屹度腹の下とかに隠してますわ。ハリーさん、下から探しましてよ!」
「ぬ、新神に指図されたくないのだ。」
鼻を鳴らしてハリーは外方を向いてしまう。
「もう、然うやってちんたら飛んでいたら見付かる物も見付かりませんわ!」
「ちんたらとは失礼な。此でも落とさない様慎重に飛んでいるのだ。」
「二柱共ストップ、ね、ハリー君。早く見付けて一番にセレちゃんに報告しようよ。屹度凄く褒めてくれるよ。」
「うむ!勿論なのだ!」
元気良く返事するとハリーは一気に急降下して女王蟻の足の間を潜って行く。
「・・・成程、セレ神さんの名前を出せば良いんですわね。」
「あ、でも乱用は駄目だよカレンちゃん。実際ハリー君凄く頑張ってるんだから。」
二柱が小声で話す中、ハリーは言われた通り来たのは良いものの、少し丈焦り始めていた。
下と言う事は上下からの蟻の攻撃に気を付けないといけないのだ。
実際此処が一番危険地帯であろう事は想像に難くない。
地面から続々生える黔い蟻、そして女王蟻を咬んでいた蟻達、加えて女王蟻も動くのだから景色が目まぐるしい。
自分丈なら幻になる事で何も問題は無かったのだが、二柱も背に乗っているのでそんな事は出来ない。
昔其でうっかりセレを落としてしまっているのだ。其が軽くトラウマになって残っている。
飛んでいるから大丈夫だろうと思っていたのだが・・・。
黔い蟻はもう女王蟻を敵とは見ていないらしく、標的が此方になってしまっている。
腹を振り上げて威嚇している丈だと思ったが、何と其の先から毒液が飛び出して来たのだ。
当たれば恐らく無事では済まない、ハリーは成る可く中旻を保ち乍ら飛んでいた。
「うぬぬ・・・此方は飛ぶのに集中するのだ。心臓とやらは其方で探すのだ。」
「うん御免ねハリー君、ドレミもサポートするからね。」
雷が駆け巡り、飛んで来る毒液は幾分か減らされる。
女王蟻も此で動きを鈍らせたい所だけど、其で暴れられても恐いね・・・。
「うぅ・・・中々、見付からないですわね。」
針から作った鑓を構えてカレンはじっと女王蟻を見詰めていたが・・・成果は上がらない。
不思議な魔力自体は感じる。でも其の一点が見えない。
女王蟻全体から放たれている様な具合だ。此処ではないのだろうか。
邪魔になる蟻達に針を飛ばして散らしているが、終わりの見える気配がない。
「うぬぬ・・・む、前から卵が来るのだ。」
目を凝らすと前方から皓く輝く球体が迫って来た。
可也のスピードだ。自分なんかよりずっと速い、何だか悔しい。
「ア!ネースピード出したら止まれなくなっちゃった!止めて止めてー!」
「え!如何しよ!えっとハリー君止められる?」
「や、やってみるのだ!」
確か卵は滅茶苦茶に重いとセレが言っていた。
正面から行けば恐らく吹き飛ばされる、其なら。
ハリーは力を一気に解放し、目前に巨大なクッションを一つ生成した。
何処となくレインに似た耳の様な触角が生えたクッションである。
「おわー!何此すっごいフワフワ!」
案の定Z1-Θは其のクッションに突っ込み、大きく変形させつつも何とか止まった様だ。
緩りと浮かび上がったZ1-Θは不思議そうにクッションを見遣っている。
「まさか時空の穴に入れていたんですの?」
「我には幻覚があるのだ。此位造作もないのだ。」
「幻覚なんて初めて見ましたわ。不思議な力なんですのね。」
「流石はハリー君だね、凄く可愛いし!」
「う、うむ、然うなのだが・・・。」
実はこっそりとセレに作って見せようと思って考えていた一品だったのだ。だから形にするのは容易い。
でもモフモフで媚びるのは何処となく彼のプライドが赦さなかった様で、今迄出せず仕舞いだったのだ。
本当は一番にセレに見せたかったのに・・・まぁ仕方ない。
「うわぁああぁ~・・・。何だ此、すっごいモフモフだぁ~・・・。」
「ッ⁉セ、セレ、何で此処に居るのだ⁉」
気付けばクッションの中心にセレが飛び込んでいた。
凄く幸せそうな顔をして埋もれてしまっている・・・。
「流石はモフモフの吸引力、セレちゃん一発だったんだね・・・。」
「え、あ、彼、セレ神さんなんですの・・・?」
余りに腑抜けた彼女に、つい存在を疑うカレンである。
「えっと・・・うん、セレちゃんモフモフが大好きだから、ああなっちゃうの。」
「コチ、彼の方に良い様にされていたんですの・・・。」
ショックを隠し切れていないみたいだけど、無理もない・・・のかな?
私はセレの彼の顔見るの好きだけどね。
でも今は其所じゃないのも確かだ。早く正気に戻してあげないと。
「セ、セレ如何なのだ?気に入ってくれているのだ?」
そわそわと両手を組んだり離したりし乍らハリーが近付いた。
彼女は本当に・・・幸せそうな顔を浮かべている。
「え、此ハリーが作ってくれたのか?うわぁ、凄い、天才だ。大好きだよハリー。」
声に力は無くて腑抜けているが、そんなあられもない賛辞を受けてハリーは一度身を震わせた。
「ぬをー!セレ!我も大好きなのだ!そんな喜んで貰えて良かったのだ!」
「アレ?ハリー目から水が出てるよ?」
「そんなに感動したんですわね・・・。」
神目も憚らず、ハリーは感極まってぽろぽろと涙を零していた。
しっかりと今の言葉を噛み締めている様だが、本当に其所じゃない。
「あ、あのハリー君、悪いけど其消さないと・・・蟻君達に攻撃されちゃうよ。セレちゃんも、終わったらモフモフして良いから!」
実際四方から蟻達が毒液を掛けてクッションを壊そうとしているのだ。
微笑ましい光景だけど、今じゃない、然う、今じゃないんだ。
「う、うむぅ・・・然う、然うなのだ。セレよ、悪いが其は一度消すのだ。又後で作るのだ。」
途端彼女は此の世の終わりみたいな顔を浮かべる。まさか其処迄ショックを受けるとは。
「何で・・・何で消しちゃうんだ。寧ろ増やす可きだろう。」
「でもセレちゃん危ないよ。ほら蟻君もどんどん来てるし・・・。」
「ん・・・此奴等の所為なのか。」
セレが顔を上げると、毒液を吐き続けている蟻達が視界一杯に写った。
途端彼女の目が坐る。そして口を開くと・・・、
漆黔のブレスが解き放たれ、横一文字に薙ぎ払われた。
「ズオォオォオオオオォオ‼」
すると地を揺るがす様な重低音が響き渡る。
加えて女王蟻が足を動かしたのか大きく其の躯が鳴動する。空気が震えて飛行が安定しなくなって来た。
「な、何が起きてるんですの⁉」
「セレちゃん女王様攻撃しちゃったでしょ!」
セレのブレスは可也痛い筈、急な攻撃を喰らっちゃったので暴れ出したのだ。
「だってモフモフの敵だし・・・。」
「ハリー君!直ぐ!直ぐ消して!」
「分かったのだ。セレ済まないのだ。」
巨大モフモフクッションが瞬きの後に跡形も無くなる。
セレは一瞬落下し掛けたが、何とか羽搏いて事無きを得た様だ。
「セレちゃん大丈夫?動ける?」
「あ、噫もう大丈夫だ。モフモフの為に私は戦う。」
「結構あっさり元に戻るんですわね。」
先のセレですら幻だったのではと思わずに居られないカレンだった。
彼女のブレスで可也蟻は減ったが、そんなの一時凌ぎにもならない。
続々と新たに生まれて来る辺り、彼の一撃じゃあ心臓も壊せなかった様だ。
「もうセレちゃん、行き成り攻撃しちゃ駄目だよ。吃驚しちゃったよ。」
「噫済まない、一寸興奮しちゃって・・・此処は危ないし、一度上の方に行こう。」
「うむ、分かったのだ!」
「ま、待ってよぅ~!」
女王蟻の脇を潜り抜け、何とか一同は女王蟻よりも更に上の地点迄飛び上がる。
其処には既にL⊝ ▼▲/がおり、一同を見付けて近寄って来た。
―皆さん!如何ですか?何か手掛かりは?―
「いや、私は見付けてないな。其方は如何だ?」
誰も其らしき物は見付けられなかった様だ。此丈手分けしたのだから見逃しはないと思うが・・・。
「・・・じゃあ矢っ張り、然うなのか。」
いよいよ彼を実行せざるを得なくなる訳か。
つい苦い顔になる彼女を不思議そうにZ1-Θは見ていた。
―では次は如何しましょうか?女王を斃す訳にも行きませんし・・・。―
「噫、だからもう残された手は一つしかないとは思うが・・・。」
「!あるなら直ぐする可きですわ!コチもやりましてよ!」
「いや多分・・・セレちゃんの考えている事、分かる気はするけど。」
ドレミは困った様に唸り始めた。此は完全に察したな。
「斯うなったら体内を探すしかないだろう。心臓、なんて呼ばれていたんだし。」
「体内って・・・?如何する気ですの?」
「穴開けて入るの?」
「其は流石に可也痛そうなのだ・・・。」
「別に開ける迄もないだろう。・・・口があるんだから。」
シン、と其の場が静まり返る。
でももう此しかないだろう。恐い、恐いけれども。
「其ってつまり・・・食べられるって事ですの?」
「噫、神は死んだって大丈夫だし、多少・・・な。」
「い、命掛け過ぎますわ・・・。」
流石のカレンも此には直ぐ乗れないらしい。まぁ然うだな。
「だからまぁ、さっと喰われて、怪しい所を攻撃して何とか心臓を壊そう。一寸暴れたら吐き出してくれるだろうし、その・・・まぁ、出られなくなっても一応な。」
―凄い捨て身ですね・・・。確かに其なら中から探せますが・・・。―
誰もが気後れするのも無理もない。
自分だって、言ってはみたもののと言うレベルだ。其でもせざるを得ない。
・・・蟻の体内って如何なってるんだろうな。
「取り敢えず言い出したのは自分だし、私は行くが・・・如何だ?他に案はあるか?」
「う、うーん・・・ドレミも分かんないや。」
考えても答えは出ない、此はもう覚悟を決めるか。
「一寸楽しそう!ネ、僕もやる!」
「え、えぇ・・・楽しくは無いと思うが・・・。」
遠足気分で然う肯定されても困る。危険な手だぞ。
「前から見てみたかったもん!生物の躰の中って如何なってるのか、僕知りたい!」
「然うか。まぁ珍しい機会ではあるだろうけれども・・・。」
まぁZ1-Θなら大丈夫かな、頑丈だし。自分より壊れなさそうだ。
「じゃあ二柱で行くか。危ないし、十分見れるだろうし。皆は離れて置いてくれ。」
「で、でもセレちゃんそんな危ない事させられないよ。」
「うむ、何かあったら如何するのだ。」
「中からテレパシーは送るから。如何にかなるだろう。女王蟻に変化がないかとか見ていてくれ。」
―其位なら出来ますけど・・・。―
「良し、じゃあさっさと行動に移そう。頭の方へ移動するぞ。」
決意が鈍ってもいけないし、手早く喰われてしまおう。
・・・大丈夫、捨て身になんてなっていない。大丈夫さ。
先攻撃してしまったのもあって女王蟻はじたばたと暴れてしまっている。彼の大顎に挟まれない様に丈、気を付けないとな。
丸呑みして貰わないと全身複雑骨折だ。
・・・絶対痛い、然も下手したら死なない可能性があるのが嫌だ。
「・・・あれ、何だか変な動きしていません?」
―然うですね、彼は・・・舌、ですか?―
確かに妙だ。女王蟻は長く伸びた鼻から黔い細長い物を出していた。
其は良く撓るみたいで、自身の手足や地面に迄達している。
舌にしては異様に長いな、だとすると彼は鼻ではなくて口なのか?
其にまるで撫でる様に蟻達を舐めている様だ。然う見ると舌、なのか。
「ぬぅ、では彼奴は仲間を喰っておるのか?」
「・・・っあ!分かった!皆此食蟻獣だよ!ドレミ此の動物見た事あるよ!」
「食蟻獣って何ですの?」
「食蟻獣は、其の儘蟻を食べちゃう動物なんだよ。ほら、彼の長い舌で巣の中の蟻達を食べるの。」
「ドレミ物知り!僕初めて知ったよ!」
「然うか・・・でも確かに仲間を喰ってるって事になるのか。」
女王蟻の舌は粘着性でも高いのか一舐めで一気に絡め取られて行ってしまう。
でも舐めているのは手足を上る黔い蟻ばっかりだ。皓い蟻達は遠巻きだからか届いていない。
「若しかして攻撃されたから食べて回復しているのかも知れませんわ。」
「うむ、元々全てセレの力なのだし、其の可能性はありそうなのだ。」
―其で先の蟻も悍しい姿と言っていたのですね。天敵の姿なら納得です。―
「ア、ジャア簡単だよ。僕達も舐めて貰ったら簡単に中に入れるよ。」
「一応食蟻獣に歯は無かったと思うから、一寸は安全かも知れないけど・・・。」
「よ、良し行くぞ。近くに行けばしれっと舐めてくれるだろう。」
舐められるのは一寸、否凄く嫌だけど、行くしかない!
「じゃあ皆は待っててくれ。行くぞZ1-Θ!」
「ウン!食蟻獣体内ツアーだ!」
「き、気を付けるのだぞセレ!」
「セレちゃん!ジー君!何かあったら直ぐ逃げてね!」
皆の声援を背に受け乍ら、翼を畳んでセレは一気に急降下する。
Z1-Θも後を付いて来たので伸ばされていた触手を掴む。
逸れたら御仕舞いだ。何があるかも分からないし、慎重に。
女王蟻の視界に入る様目の前を落下してみたが、しっかりと見詰められた視線を感じた。
噫、正面から見ると結構恐いな。絶対的な大きさに差があるし。
自然Z1-Θを掴む手に力が入るが、恐らく彼は全く恐がっていないのだろう。
・・・次は恐怖もしっかり教えないとな。大事な感情だ。
ちらとそんな事を考えていると、終に女王蟻が動いた。
長い舌を、此方に向けて伸ばして来る。其の様はスローモーションに見えて。
咄嗟に避けたいと思ったが、駄目だ。此の儘、只落ちて、
舌が巻き付く様に絡められ、ぞっと背が震える。
思ったより粘性が高い、ぴったり貼り付く様だ。
噫、オーバーコートが汚れるの、妙に傷付く・・・普通の汚れとかよりも何か嫌だ。
生温かいのも相俟って既に後悔し始める。今から一体何をされるのか。
「ヒャッ⁉擽ったいね!」
楽しそうで何よりです。
溜息を付く間もなく、目にも止まらぬ早さで二柱は女王蟻に喰われてしまった。
「あ・・・あ、ホントに食べられちゃった・・・。」
恐々と下を覗いて小さくドレミは身震いした。
セレは勇気があり過ぎる。何て無謀な手段に出たのだろう。
其にしてもまさか女王蟻が食蟻獣になっちゃうなんて。
余りにも種と言うか、何もかも変わり過ぎている。
セレの魔力って不思議だね。甲丈でこんな変わっちゃうならセレがどんどん変わっちゃってるのも納得かも・・・。
食蟻獣だって気付いて見ればより良く分かる。
体中に生えていたのは毛で、蟻の腹が尾になっちゃってたんだ。
何故だか大顎はあるし、足も六本あるけど、概食蟻獣だと思う。
此、体内如何なっちゃってるのかな・・・二種共全く構造が違うと思うけど。
今は只無事を祈って待つしかない。
「・・・セレ神さん。」
カレンは心配そうに眼下を見遣っている。
「カレンちゃん気を付けてね!落ちちゃうよ。」
彼女はハリーの背から可也身を乗り出していたのだ。心配なのは分かるけど・・・。
「・・・ドレミさん、ハリーさん。コチも行って来ますわ!」
「え、ちょっ駄目だよカレンちゃんじっとして!」
「ぬ、う、うおぉ!何してるのだ!」
カレンはハリーの背を蹴って女王蟻の前へと躍り出た。
目に映る物は何でも食べてしまうのだろうか。女王蟻は長い舌をカレンへ伸ばす。
其からは本当に一瞬で、あっと言う間にカレンは舌に巻き込まれて食べられてしまった。
―な、何て事を⁉セレさんに直ぐ伝えないと!―
「うん、でも・・・うぅ、まさか自分から行っちゃうなんて・・・。」
心配の余り、だろうけど此は良くない。
せめて無事に合流出来たら良いんだけど・・・。
祈る様にドレミは何度もセレにテレパシーを送るのだった。
・・・・・
「う・・・何とか中には入れた様ですわね。」
女王蟻の口内へ入ったカレンは何とか舌から脱出をした。
粘性が高くて中々離れなかったので、何とか鑓を突き立てて躯を引き剥がしたのだ。
舌は畳まれる様に収納されたかと思うと又伸び上がる。
其の度に顎が揺れるが、此の動きで長い舌を押し出している様だ。
「一寸狭いですけど、如何にかなりそうですわね。」
身を捩り、カレンは喉の方へと這う様に移動する。
他に喰われた蟻が居る筈だが姿が見えない。けれども道は一つなんだし合っている筈だ。
セレ神ももう先に行ってしまったのだろうか。
此ならもっと早く決断して一緒に行けば良かった。待つなんて自分の性に合わないのだ。
自分丈安全な所に居るなんて堪えられない。出来る事はやりたいんだ。
其にしても思ったより食蟻獣の体内って熱くないみたい。元が蟻だからかは分からないけれど・・・。
後は此の粘っこさと獣臭さ丈如何にか出来れば良いのに。
鼻で息をするのは限界だ。自然と口呼吸になってしまう。
でも体内に入ったからか分かる。此の先に屹度心臓があると。
魔力が格段に高くなったのだ。此を目指せば、
―カレン、カレン!其処に居るのか!―
不図テレパシーが届いたので顔を上げるとセレが此方に向けてやって来ていた。
掻き分けつつ来たみたいで、既に彼女の全身は唾液やらでべとべとだ。
張り付く髪を鬱陶しそうに一度掻き上げて、彼女はカレンの背に触れた。
―あ、セレ神さん。コチも来ましたわ!―
此処では話す事も儘ならない、直ぐ様カレンもテレパシーに切り替えた。
―何してるんだ!ドレミが偉く心配していたぞ。そんな勝手な事をするな!―
はっきりとテレパシーで叱られてつい背が伸びる。
其の様を見てかセレは小さく溜息を付いた。
―う・・・ご、御免なさいですわ。でも、コチ只待ってる丈は嫌だったんですの。―
―まぁ私も余り他神の事言えないから難しいが・・・、兎に角勝手に然う行動されると全体を危険に曝す事もあるんだ。此からは慎んでくれ。来てしまった物は仕方ないし、一緒に行くぞ。―
―わ、分かりましたわ。―
其の儘這う様にしてカレンもセレの後に付いて来た。
Z1-Θは少し先に居る。一応は合流出来たか。
―ドレミ、大丈夫だ。カレンを見付けた、一緒に此の儘行くぞ。―
―良かった・・・御免ねセレちゃん、御願いするね。―
随分とドレミは落ち込んでしまっている様だ。止められなかったのを悔やんでの事だろう。
いや自分も一度拳を交えた訳だし、彼女の行動力の高さは理解しているつもりだったが、甘く見ていたな。
―やる気があるのは十分だけれども、外は外で蟻達を見たりとやる事はあるんだ。其の上で担当を分けているから、そんな焦らなくて良いんだぞ。―
―・・・、然う、ですわね。安易に来た事、反省していますわ・・・。―
うん、ちゃんと反省出来たなら良いだろう。今は兎に角心臓だな。
―まぁ来たからには頑張って貰うぞ。さっさと見付けて壊して、脱出だ。―
―えぇ!望む所ですわ!―
此の中でも然う勢い込める所は素直に良い所だけどな。
「ア、セレほら此方!」
少し先に居たZ1-Θが触手を伸ばして来る。
其を掴んで喉の奥へと落ち込んだ。
―・・・と、やっと広くなって来たな。―
此処は胃だろうか。一気に空間が広がり、立てる丈のスペースが出来た。
足元が柔らかいので覚束ないが、何とか立てる。
・・・其にしても、矢っ張り喰われるのは良い物じゃないな。普通に気持悪い。
臭も生臭いと言うか獣臭い。大きく吸ってしまうと吐きそうだ。
其に妙に生温かいのが何とも。嗅覚がより鋭くなってしまう。
全体が蠢いているのも、鼓動が聞えて来る様でうんざりする。
・・・噫然うか。此の生きている感覚が嫌なんだ。
如何仕様もなく生きていると訴える内臓が、自分は堪らなく嫌いだ。
だから自分は心臓を消したのに・・・全然駄目だ。五感で分かってしまう。
生きている、存在している。此処に居る。忘れないで、消えないで。
噫もう煩い煩い煩い煩い煩い煩い。
そんなんだから、全部壊したくなるんだ。好い加減分かってくれないか。
「セレ?オーイ。」
―ん、噫済まない。一寸考え事をしていた。―
Z1-Θは此の中でも喋れるのか。
・・・まぁ嗅覚とか無さそうだし、然う思うと機械の躯も悪くないかもな。
―コチが言うのも彼ですけど、余り考えている時間はありませんわよ。―
―だな、既に一寸痛いし・・・。―
此、胃酸だろうな。肌がひりひりするし、本格的に動きだしたら不味いな。
「ウーン・・・。もう一寸先っぽいね。其処から気配がするよ。」
―先、う・・・然うですよね。其じゃあ早く進みましょう。―
「・・・・・。」
如何しよう、行かなきゃいけないのは重々分かっているけれども、凄くテンションが下がっちゃってる。
今直ぐ次元の迫間に帰りたい心地。もう全部夢だったら良いのに。
何と言うか・・・凄く生々しい物を見せられて、自分でも驚く位嫌になっているんだよな。
人間の内臓を喰っている時はこんな風に思わないのに・・・いや、考え方次第じゃないか?
然うだ、此処は食蟻獣の体内じゃなくて、無数の人間の内臓がばら撒かれていると思えば・・・。
いや、普通に何方も気持悪いな、駄目だ此。
然も何だ?もっと先に行かないといけないだって・・・?
視線の先には胃の出口と思われる口があるが、しっかり閉まっている。無理に抉じ開けないといけないだろう。
・・・うへぇ。
「ジャア行くよー!」
Z1-Θは何の躊躇いもなく触手を其処へ捻じ込んだ。
そして見る間もなく其の中へ頭を突っ込む。球体だからだろうがスルンと中へ入って行ってしまった。
う、うわぁ凄い、本当に中に入りやがった・・・。
いやまぁ自分が言い出した事なんだし、駄目だこんな態度じゃあ。
新神だって付いて来ちゃったんだし、こんな及び腰じゃあいけないな。
一つ息を吸い、自分も両手を突っ込む。
瞬時に背を虫が這ったかの様にぞわぞわするっ!ぐうぅう!
吐きそうになるが何とか堪えて手に力を込める。
結構固いな・・・柔らかい癖に全然動かないぞ。
もう斯うなったら自棄だ。肘も押し込み無理に捻じ込む。
―セ、セレ神さん大丈夫ですの?―
カレンが心配そうにテレパシーを送るが、答える余裕はない。
無理に頭を突っ込み、我武者羅に手を動かした。
足もばたつかせているのでカレンからしたら相当必死に見える事だろう。
もう一寸、もう一寸だ。
息を止め、足に力を込める。全身すっかり肉壁に包まれてしまっている。
吐くな、未だ吐くなよ。・・・此処が正念場だ。
何とか足を掛け、立ち上がる。
多少内臓を爪で傷付けただろうが、もう構う物か。
―こ、此で如何だカレン、通れるか?―
―あ、そんなコチの為に。済みません、コチも手伝いますわ。―
後ろからカレンも支えてくれたので此で動き易くなる。
少しずつ足を動かしているとZ1-Θの触手が見えて来た。
「此方に又広い所あるよ!然も可也近い!もう直ぐだよ!」
Z1-Θも向こう側から広げようとしてくれているみたいだ。自分も同じ所に手を掛け、一気に広げる。
「っはぁ‼や、やっと出・・・うぇ、」
肉壁を脱出し、突如広くなった空間へ倒れ込む。
思わず止めていた息を再開したが・・・臭がもっときつくなった・・・吐きそうだ。
―ふぅ、大分進みましたわね。・・・セレ神さん大丈夫ですの?―
カレンが優しく背を擦ってくれるけれども・・・御免背中は止めて。
すっかり顔が青くなって背を丸めるセレに、Z1-Θも心配になった様だった。
―だ、大丈夫だ。済まない心配掛けたな。で、Z1-Θ如何だ?―
「ウン、ホラ彼方から感じない?」
Z1-Θが触手で上の方を指すが・・・うーん。
言われたら確かに分かる具合か。いや若しかしたら自分の体調の所為で気付けなくなっているのかもな・・・。
其にしても此処は何処だろうか・・・二つ目の胃とかか?良く分からない。
先に喰われた筈の蟻も一頭も見ないしな・・・。
若しかしたら同じ甲から生まれているんだろうし、溶けて吸収されるのかも知れないな。
・・・自分達も後を追わない様にしないと。
露出した肌はもう血が滲んでしまっている・・・思ったよりずっと強い酸だな。
―上、と言う事は如何しますの?先に進んでも恐らく行けませんわよね。―
―然うだな。そろそろ・・・突っ込んでみるか。―
多少荒っぽいが仕方ないだろう。取り込まれているなら無理矢理摘出する丈だ。
兎に角猛胃液やらに塗れるのは御免だ。此で仕舞いにして欲しい。
「ン?何か動き出したよ!」
―移動しているのか?いや此は、―
壁が激しく震えている。何だろう此の動き。
体内に居ると言う異常状態の為に慎重にならざるを得ない。
まさか自分達に気付いて蟻が出て来るとかそんな事はないよな?
「何かクッションみたいだね。」
―いや遊んでる場合じゃ、ぐぇっ⁉―
突然激しく沈み込んだかと思うと思い切り両壁が狭まって押し潰される。
こんな胃って動く物なのか⁉何て力だ!
―っセレ神さ、―
途切れたと思ったらカレンも降りて来た胃壁に押されてしまった様だ。
激しく動く所為で彼女の姿が時折見えなくなる。
「ワァアア!二柱共大丈夫?」
言いつつZ1-Θも転がされる様に壁に押されて手玉にされている様だった。
何で急にこんな、まさか先一寸暴れたから胃が動き出したのか⁉
胃液もどんどん出ているのか粘り気が酷くなる・・・皓煙を上げそうな程激しい痛みが走った。
う・・・本格的に消化しようとしているのか。一体何が起こっているんだ。
―ドレミ、外の様子は如何だ、何か女王に変化はあるか?―
―此方は特に変化ないよ。ずっと蟻を食べてるけど、何かあったの?大丈夫セレちゃん。―
然うか、中丈動いているのか。暴れている訳じゃあないなら良かったが・・・。
―分かった、大丈夫だ。如何にかする。恐らくもう少しで解決する筈だ。―
テレパシー中も揉まれてしまう・・・、乱れない様にしないと。
―うん、気を付けてね!大丈夫じゃなかったら直ぐ言うんだよ!―
・・・彼女に今の状況を伝えたら何をするだろうな。
雷の一つでも降らせるかも知れないし、良し、自分で何とかしよう。
其にしてもこんな必死に溶かそうとするなんて、自分なんかを喰った所で・・・いや、
ある考えが過った所で不意に滲んでいた血が一気に結晶化した。
鋭い針を持った結晶だ。水精は徒に胃を傷付け、何とか胃壁を遠ざける。
荒く息を付くが、休んでいる間はない。何とか上体を動かしてカレンの方へ向かう。
Z1-Θは、恐らく溶かされないから大丈夫だろう。問題は彼女だ。
―カレン!大丈夫か、動けるか!―
頬から流れた血を拭っては前方へ散らす。
自分から離れた瞬間に血は次々と黔水精へ転じる。其が無理矢理だが道を作ってくれる。
―う・・・セレ神さん、助かりましたわ。此で動けますわ。―
押し潰されてしまっていたカレンは水精に手を掛けて抜け出した。
肩で大きく息をしているが、大事には至っていなかった様だ。
肌が焼けてしまったので痛々しくは写るが、立てるなら良かった。
―驚きましたわ・・・まさか急に動き出すなんて。―
―もう四の五の言ってられないな。無理にでも壊して出るぞ、Z1-Θ!―
「ウン此処に居るよ!」
一柱楽しそうに胃壁に揉まれ乍らやって来た。壊れていないなら良かった。
―Z1-Θ、魔力を感じる所に向けて凄く小さなレーザーを放ってくれ。其処を起点にするぞ。―
「良いね!行くよ!」
Z1-Θの中心が淡く灯り、小さな、指一本位の太さのレーザーを放つ。
此なら流石に死にはしないだろう。痛いだろうが其は御互い様だ。
―恐らく又暴れるだろうから皆直ぐ上へ向かうぞ。―
レーザーが壁に突き刺さり、穴を開けて行く。
胃が一際震えた。先から攻撃許りされてそろそろ苦しいだろう。
未だ吐き出されても困るし、今の内に行くぞ。
血を散らして黔水精を量産する。レーザーで出来た穴にも投じ、無理に抉じ開けた。
「ウー未だ壊せてないみたいだよ。」
―じゃあコチが行きますわ!―
鑓をしっかりと握り、出来た穴に向かってカレンは跳び上がった。
水精を足場に穴の中へ上体を突っ込む。
―っ!見付けましたわ!―
肉壁を掻き分けると其と分かる小さな塊を見付けた。
漆黔の薄い板みたいな・・・確かに彼女の甲と良く似ている。
何より放っている魔力が禍々し過ぎる・・・今の彼女と同じ物とは思えない。
こんな甲一つで、とは思ったが実物を見て納得する。此の魔力は危険だ。
此が・・・黔日夢の次元と其の力の源、此さえ壊せば。
―如何だカレン壊せそうか⁉―
―今からやってみますわ!―
鑓を振り上げ、其の甲へ突き立てる。
甲はしっかりと肉に張り付いているのか根の様な物を張っており、動かないので狙い易い。
勢い良く突き立てた其はガリリと甲を少し削った。
効いてる、でも少しずれたか。もう一寸中心を。
槍を握る手に力を込める。大丈夫、こんな物に負けたりしませんわ。
もう少し丈硬度を上げよう。次の一撃で仕留める。
徐にカレンは時空の穴から小さな石を取り出し、口に含んだ。
今のは金剛石の原石、此で硬度なら負けませんわ。
髪の先が透明に光る。其の一本を引き抜いて鑓に添えた。
途端に鑓が禍々しく捩じれ、鋭利な棘を纏わせる。
内側から曦を発しているかの様に角度で細かく鑓は輝きを変える。
其を振りかぶって、カレンは甲に向け思い切り突き立てた。
玻璃が割れる様な、そんな澄んだ音が響き渡る。
槍はしっかりと甲の中心を捉えていた。其処を中心に万遍隙間なく罅が入って行く。
カレンは更に一歩踏み込む様に力を込めた。
槍が甲の中に減り込む、其の儘女王蟻の体内を傷付ける勢いで。
カレンが鋭く絳目で睨め付けた瞬間だった。
音も無く、甲は一気に弾け飛んで行く。散った破片は見る間に蒸発して消えて行った。
慌てて彼女は鑓を引っ込めた。一寸傷付けてしまった様で血が出てしまっている。
其でもやっと・・・やっと壊せたっ!
「ズォオオォオオオ‼」
地全体が震える程低い遠吠えにも似た音が響き渡る。
同時に肉壁が動き出した。うねる其に取り込まれない様に急いでカレンは後退する。
「・・・っは!こ、壊しましたわ!」
―良し、良くやったカレン。急いで脱出するぞ。―
何とか肉壁から脱出し、出て来たカレンの手をセレが引っ張った。
胃も激しく収縮と膨張を繰り返している。明らかな変化が出て来たのだ。
―そ、然うですけど又彼の中へ入らないといけないんですわね。―
先程通って来た胃や喉を通らないといけないのか、道は遠そうだ。
こんなにも激しく動いているが、此は別に消化しようだとか然う言うのではないだろう。甲が消えた事で起こっているんだ。
食蟻獣から女王蟻へ戻ろうとしているのかも知れない、若し其なら猶の事急がないと不味そうだ。
躯の構造なんて大きく違うだろうし、そんな時に体内に居たら碌な事にならない。
―噫、其ならZ1-Θに頼んである。さ、やってくれ。―
そっとセレがZ1-Θの頭を叩くと、返事の代わりに彼は水を吐き出し始めた。
あんな小さな躯の何処に入っていたんだろうと思う程の大量の水だ。其がどんどんZ1-Θから吐き出される。
卵が真横に割れる様に開いて水が溢れて来たのであっと言う間に水位が上がって来た。
真水の様だが此は一体・・・此の儘じゃあ溺れてしまう!
―セ、セレ神さん!如何言う事ですの⁉―
もう胸元迄来てしまった。思わず手を伸ばして天井に触れる。
―此丈水があれば堪らず女王も吐き出してくれるだろう。今の内に胃液も流して置け、傷に沁みるだろうが。―
―な、成程分かりましたわ。―
肩や手を撫でて粘り気を取って行く。
傷に沁みるが、其よりも只上がる水位の方が気になってしまう。
出来ればもう一寸早めに言って欲しかった・・・コチは水に浮かばないから泳げないって言うのに!
土を主食としている所為か、KGNの一族は水が苦手だ。苦手と言うより体質の所為で浮かぶ事が出来ず、泳げないのだ。
セレは余りにも軽いので反対に浮いて行ってしまっているが、カレンは足を縫い付けられた様に動けない。
此の儘では吐き出される前に溺れてしまう・・・は、早くっ、
カレンの様子がおかしい事に直ぐセレも気が付いた。
あれ、まさか泳げない、否此は浮かばないのか?
踠いている様だが上がって来ない。寧ろ水中でジャンプしてしまっている。
不味い、此は早く吐き出して貰わないと。
急ぎセレは胃壁を蹴り始めた。爪で多少傷付くだろうが、構っていられない。
主に入口を集中して攻撃するとやっと少し口が開いた。
良し、此処から広げてしまえば、
然う思いセレが手を掛けた瞬間だった。
突如其の口が大きく開き、息付く間もなくセレは吸い込まれた。
大量の水に流されて一気に前へ前へと押し流される。水と足場の所為で成す術もなく攫われる。
水流に揉まれ、目が回ってしまう。何より波紋で見ている自分にとって水中は無に等しい。
何も見えない中只運ばれるのは中々恐ろしい物だ。つい抵抗したくなるが。
抗えない儘に流されて終にセレの波紋はある景色を捉えた。
其は・・・広い旻、何処迄も広がる風景、眼下の大量の蟻達、そして・・・、
背後に彳む巨大な純皓の女王蟻だ。
「やったー!外だ!やっと出られたぞ!」
「セレ!我に掴まるのだ!」
女王蟻から吐き出されたセレ目掛けてハリーは一気に急降下した。
吐き出された水を全身で浴びるが気にせず待っていてくれている。
其の背にセレは飛び付き、ギュッと首元を抱き締めた。
「有難うハリー、御蔭で助かったぞ。」
翼もすっかり濡れてしまっていたので飛ぶのは厳しかった。如何やら先迄乗せていたドレミはL⊝ ▼▲/に移した様だな。
「うむ、良く頑張ったのだ。」
くるりと首を巡らせて見遣るハリーは何とも嬉しそうで、激しく尾が振られていた。
「待ってくれ、後二柱ももう直ぐ出ると思うが、」
「ワーイ外だー!」
続けてZ1-Θとカレンも吐き出され、出た途端Z1-Θは触手を回して飛び立った。
カレンはギュッと目を閉じて落下して来る。彼女もハリーに乗せてやろう。・・・ん、あれ、何か忘れている様な・・・。
「ぬ、針鼠も出て、ぬをっ⁉」
落ちて来たカレンを背に乗せた瞬間、大きくハリーの背はくの字に曲がってしまった。
そして其の儘一気に急降下する。・・・え、一体何が起きているんだ⁉
同じく背に乗っていたセレは理解出来ず固まってしまう。い、いや兎に角背から降りて助けないと。
波紋でざっと辺りを見遣るが、不審な影はない。
と言う事は・・・何だ、一体何が起因しているんだ?
分からないが先ずはハリーを持ち上げてみたら良いだろうか、余り考えていられない。
濡れてはいるが、全力で翼を羽搏かせる。
痺れる程目一杯に。散った水滴が曦を放って舞い散る。
そして空いた両手を伸ばしてハリーの背に回す。其の儘力一杯羽搏かせるが・・・、
だ、駄目だ。全く上がる気配がない。抑ハリー自体が重いんだから自分の翼如何斯う丈で飛んだりしないか。
兎に角此の儘だと乗っているカレンも危ない。せめて彼女丈でも、
「カレン!私の尾に掴まれ!」
伸ばした尾を彼女に寄せる。二又の尾でそっと包む様に。
逆刺の甲なので傷付けてしまうだろうが、少しでも痛くさせない様成る可く甲を倒した。
小さく頷いて直ぐ彼女は尾にしがみつく。
そして再び翼をはためかせるが・・・。
・・・ぐ、う。あれ?全く飛べない?
って言うか痛い!滅茶苦茶尾が痛い!凄い力で引っ張られる⁉
付け根から千斬れてしまいそうな程の痛みに咄嗟に涙が出そうになる。
ま、まさか、否此は、やっと分かったぞ!
カレンだ、カレンが滅茶苦茶に重いんだ!
彼の細身だから全く考えていなかったが、然うだよ。彼女は水の中に沈んでいたじゃないか。
其に土だってあんなに食べていたし、彼で重くない訳がない。
地面がどんどん近くなる。でも不思議と少し其の落下が緩やかな気がした。
其でも落ちている事には変わりないんだ。如何にかしないと。
ハリーも何とか飛ぼうと手足をばたつかせているが、一向に浮けないのだろう。
・・・、一寸でも被害を減らそうか。
「カレン、飛び降りるぞ!受身を取れるか!」
「え⁉ま、まぁ此の位の高さなら。」
良し、言ったな!じゃあ行くぞ!
意を決してセレはハリーの背から飛び降りた。
一応全力で羽搏く、カレンがハリーの背からずり落ちた瞬間一気に引っ張られる。
尾が!尾が千斬れるっ⁉
「っ黔壁!」
何とか頭を働かせて自分達の下に何重もの板を張る。
黔い板は玻璃の様に自分達を反射していた。其の上に着地しようとするが、
カレンの掴まっている尾が触れた瞬間、板は割れてしまった。
木端微塵だ。矢張り強度が足りなかったか。
何枚も同様に割ってはいるが、此で多少は勢いが減っただろう。減ってくれ。
踠き乍らも終に地面に到達する。先に落ちたカレンは上手い事着地出来た様で何事もない様に立ち上がった。
良かったと思うのと同時に自分は地面に叩き付けられる。
尾・・・持った儘だもんね、今更勢い減らせないし。
「あっ!ご、御免なさいセレ神さん!大丈夫ですの!」
「セレ!済まぬのだ。怪我はないのだ⁉」
直ぐに二柱が駆け寄って来てくれる。・・・ハリーは寸前で体勢を整えられたんだな、良かった。
叩き付けられたけれども大した高さじゃない。此位なら怪我の内に入らないだろう。
まぁ胃液で皮膚を少しやられたので沁みるけど、うん。
其より尾の方が痛かった。・・・ひりひりする、変な曲がり方していないよな?
カレンがやっと放してくれたので急いで尾を巻いてそっと付け根に触れた。
「いや私こそ、考えなしにハリーの背に乗せて済まないな。一寸考えたら分かっていたのに。」
「あの・・・何があったんですの?コチ、突然だったので分からなくて。」
彼女はおろおろしているが、如何言おうかな・・・直球で言ったら失礼だよな・・・。
「我もすっかり忘れていたのだ・・・。高い所からだと一気に来てしまうのだな。次は緩り乗ってほしいのだ・・・。」
如何やらハリーは気付いていた様だ。然う言えば先乗せていたもんな。
成程確かに、心構えが違うと落ちてしまいもするだろう。
「えっとその、言い難いんだがカレン、恐らくカレンは凄く密度が高いんだな。」
「?密度、ですの?」
マイルドに言ったけれども伝わらなかったみたいだ。うーん。
ハリーは前にドレミ達を乗せて飛んでいるし、其処其処の重さは気にせず飛べる筈だ。
大して自分は全くと言って良い程体重が無いし・・・と言うと矢っ張りカレン、だよな。
「まぁその、私は粗体重が無いからこんなに飛んだり出来るんだ。只カレンは土とか食べるし、其の分重いんだろうなと。」
「え、あ!然う言う事だったんですわね!」
やっと合点が行ったらしく、カレンは大きく手を打った。
結局言っちゃったけど、そんな気にしていなかったみたいだな、じゃあ良かった。
Z1-Θ並に重かったしな・・・まぁ何方も持ち上げられなかったから正確に何方が重いか分からないけれども。
然う思うと最初彼女を肩に乗せていた銀騎獅や、彼女を乗せて店迄帰ったレインは滅茶苦茶力持ちだったんだな。まぁ家も持ち上げているし、然うか。
凄いなぁ・・・ロードも御姫様抱っこ出来ちゃうんだろうし、然う思うと自分ももっと力付けないとな。
魔力云々丈じゃなくてパワーの方が欲しい。
「皆ー!急に落ちちゃったけど大丈夫⁉」
ドレミを乗せたL⊝ ▼▲/が渦を描いて降りて来た。
向こうは向こうで大事は無かった様だな。
―大丈夫ですか?一応時を遅らせてみたんですが・・・。―
「ん、遅らせたって・・・噫、そんな事をしていたのか!」
やっと合点が行った。然うか、成程其は凄い。
先落ちている間いやに時間がある様に感じたのはL⊝ ▼▲/の力か。
時は可也独特だから分かり難いが、確か対象の時を早めたり遅らせたり出来る。其をハリー達へ掛けた事で時間の流れが緩りになっていたんだ。
加えて自分が然う感じたと言う事は、其の対象から自分丈除外されていた筈。凄い、そんな使い分けが出来るのか。
「然うだね。フィル君凄いんだよ。急に女王様が暴れた時も然うやって緩りにしてたの。セレちゃん達が出て来る迄何とか抑えるって。」
―止めたり戻したり迄は出来ないのでせめて其位はと思った丈ですよ。―
言いつつも、確かにL⊝ ▼▲/の俤は疲労の色が見て取れた。
女王蟻に迄力を使ったのなら相当疲れただろう。
心配そうに近付いて来たので思う存分其の頭を撫で捲る事にする。
「然うだったのか。有難うL⊝ ▼▲/、御蔭で出られたんだ。助かったぞ。」
L⊝ ▼▲/の協力が無かったらこんな直ぐ出られなかったかも知れない。
女王蟻が直ぐに元に戻ってしまって取り込まれていた可能性もある。
何はともあれ、助かった。良かった良かった。
「ぬぅ、でもセレも針鼠も怪我をしてしまっているのだ。我も何か出来たら良かったのだが。」
喉の奥で小さく鳴き乍らハリーも頭を寄せて来る。
噫、可愛過ぎる。愛す可きモフモフ達!
まるで楽園に居る様な心地でセレは二頭の龍を撫で捲った。
こんなの怪我にも何にもならない。今の此の奉仕が最大の癒しだ!
「フフンッ!コチ、頑張ったんですわよ!まぁあの・・・勝手に行ってしまったのは悪かったですけど、でもちゃんと仕事しましたわ。」
「うん、急に行った時は吃驚しちゃったよ・・・。でもちゃんと女王蟻も元に戻ったし、成功したんだね。凄いよカレンちゃん!」
褒められてついカレンは胸を反らす。何とも誇らし気だ。
「然うだな。無事に壊せて良かった。」
すっかり大人しくなった女王蟻を見上げる。
もう黔い食蟻獣の姿なんて何処にも無く、真皓に輝く巨大な蟻の姿が其処にはあった。
女王蟻はじっと触角のみを動かして自分達を見遣っている様に思う。辺りを囲っていた蟻達も女王蟻を取り囲み、銘々触角を振り上げていた。
―如何やら、すっかり皆様の世話になってしまったみたいですわね。御手間掛けました。―
大きな柔らかいテレパシーが届く。
此は・・・女王蟻の物なのだろうか。空気迄震えそうな不思議な感覚だ。
蟻達も一斉に振り返って少し丈体位を低くした。
―手間なんてそんな・・・。兎に角元に戻ったなら良かった。中で一寸暴れてしまったけど、怪我とかないか?―
―コチも鑓を振っちゃったので心配だったんですの。―
―此位、大した物ではありません。其にしてもまさかあんな風に操られてしまうとは思ってもいませんでした。皆さんには感謝しかありません。―
元々自分の所為なので何ともむず痒いが、其でも無事なら良かった。
「全部真皓になっちゃったね!」
長い事飛んでいたZ1-Θが緩りと着地した。
もう黔の地なんて一つも無い。黔日夢の次元の脅威は去ったのだ。
「中入るの楽しかった!又入ってみたい!」
「私はもう二度と御免かな・・・。」
「コチもですわ、確かに貴重な経験でしたけど・・・。」
「まぁその、楽しかったのは良いが、危ないから基本やっちゃ駄目だぞ。壊れちゃうかも知れないからな。」
ちゃんと言って置かないとコロンと行っちゃいそうだからな。大量に水を出して貰ったけど、一応問題はなさそうだ。
―皆さん、本当に有難う御座いました!ドレミさん達に頼んで良かったです。―
然う言い蟻達の輪から外れて一頭の蟻が歩み出た。
表情は分からなくても盛んに触角を振っているので何となく喜んでいるのが伝わって来る。
―あ、若しかしてずっと案内してくれた蟻さんかな?―
―はい、無茶な頼み事でしたのに、何と御礼を申し上げたら良いか・・・。―
―良かったら我々の巣で休んでくださいな。茸料理も御馳走しましょう。―
其を聞いて周りの蟻達が歓声を上げる。随分と歓迎してくれる様だ。
「うーん、此は断るのも悪いかな・・・。セレちゃん達は如何?直ぐ帰った方が良いかな?」
怪我は次元の迫間に帰った方が直ぐ治るが、無下にするのも確かにな。
「コチは構いませんわよ。フフ、こんな喜ばれると英雄みたいですわ。」
「・・・然うだな。一寸御相伴に預かろうか。皆頑張ったしな。」
返事を聞く前に早くも蟻は腹を下ろして待っていてくれた。
其の背に一同が乗り込むと蟻達の大行列は一斉に動き出す。
其の様を見送る女王蟻の姿は正に聳え立つ二本の塔で、陽を受けて其の大顎は永遠の輝きを放っていた。
・・・・・
高く天を貫くは女王の塔
黔と皓は交わらず、互いを食んで巡るだろう
塔を汚すな、穢れを旻へ帰すのだ
女王よ永遠に、我等子は貴方の道を信じ、従いましょう
其の皓を先導の旗として、地の果て迄の行進を
と言う事で食蟻獣と蟻の御話でした。
此を書くに当たり、筆者は知識が乏しかった彼等について図鑑なり色々引っ張り出して調べましたが、中々面白かったです!
蟻の種類の多さは目に余りますし、食蟻獣の生態も良く分かっていなかったので生物の神秘に触れて一人感動していました。
食蟻獣って家で飼えるのかな、とつい調べてみたりと興味の翼が止まらなくなったので其の熱量の儘に書き上げたんですね。
其にしても、勢いで書いたので後悔もあったりします。投稿する時になってようやく忘れていた要素を思い出したりしました。
今回出ていた蟻達は現実の蟻達のキメラになっています。詳しい方は特徴で幾つか見当が付いたかも知れません。
其の中でも自分が一番衝撃を受けて入れたかった蟻が自爆蟻です!皆さんは聞いた事があるでしょうか?
茸を育てる蟻だとか、顎が滅茶苦茶かっこいくて厳つい蟻だとかは知っていたのですが、其の子は初見だったのでてっきり想像上の生物だと思ってしまいました。
名前の通り命の危機に瀕すると腹が爆発して自爆するそうです。其により仲間に危険を知らせたり、粘つく液で敵の動きを封じたり出来るんだとか。
此の要素を如何にか入れようと思っていたんですが、幾ら調べても肝心の自爆蟻の自爆の映像等が手に入らず、断念しました。
イメージで書いても良かったんですが、然うする前にセレ達が食蟻獣に食べられちゃったのでカットされましたね。残念無念。
まぁとんでもないミスを放置していた所があったので直前に其に気付けたのは行幸でした。
具体的に何か言うと(結局ばらしちゃう)、カレンの体重関連の事を忘れていたシーンがちょくちょくあったり、知らない間に一人増えたり(よく起こるけれども恐い)。
其をマイルドに修正したりしました。ふぅ、良かった良かった。
もう一つ言うと此の話、書く前のメモとまるっきり違う話になりました。もう吃驚です。
だからもう一度リメイクするかもなぁと思ったり。けれども其は書き直す訳ではなく、此の同じメモを元に新たな話を構築してみようと勢い込んでいます。
新しい挑戦ですね、一体どんな話になるのやら。(ネタの使い回しと言ってはいけない)
と言う事で、次の話は実はもう書き終わっております。次も凄く短い短編です。
次週には出せると思うので又御縁がありましたら御会いしましょう!




