57次元 銀界ヨリ輝く調べは褪せもせず
今日は!んーサクサクペース!
と言っても今回は滅茶苦茶短いですからね。こんな物でしょう。
今回はぼちぼち入れたいなぁと思っていたビッグイベント。最近ビッグイベント多くないですか・・・?
銀色と言ったら誰の事でしょうか?他にも色々な出会いがある短いなりにビッグな回です。
入れたいイベントが山盛りなので今後もどんどん消化したい所、フフ・・・味方は増やして損はないですからね。
此以上うっかり口が滑ってもいけないので早々と本編に来ましょう!ゴー!
私が、貴方の御身を護りましょう
例え、世界の果てへ堕ちようとも
此の身を流るる血が変わろうとも
だから如何か姫よ、忘れないでください
此の銀の鎧を、此は貴方のティアラと同じ輝石から造られた物
離れれば奏でましょう、近付けば輝きましょう
だから如何か・・・顔を上げてくださいね
・・・・・
「や、やっと振り切れたぞ。」
一つ息を付き、セレは大きく波紋を広げた。
・・・うん、大丈夫だろう。いや、中々大変だった。
リュウと話をし、帰ろうとしたんだが龍達がどんどん集まって来て遊びにせがまれたのだ。
勿論自分も付き合いたい、特に龍達は今大変だし、とは思ったが今回は無理なのだ。
自分には未だ行く所がある。恐らく大丈夫だとは思うけれども。
用が終わったら遊ぶからと約束して何とか解放して貰ったのだ。
・・・十日位遊び通さないといけないんじゃないかと思う位約束した気がするが、まぁ良いだろう。
後は・・・すんなり行けるかだけれども。
「丗闇、一寸良いか?」
念の為フードを目深に被る。
陽はそんなに出ていないが、次元の迫間の天気や天候は変わり易いからな。
―・・・何だ。―
ん、今日は機嫌が良さそうだな。此丈付き合いもあれば分かる。
何となく沈黙が優しいと言うか、そんな気分なのだろう。
「キュルル?」
レインが伸び上がって見下ろす様に自分を見詰める。
そっと手を挙げると頭を摺り寄せて来た。
「今から鏡界に、母さんの所へ行こうかと思うんだ。落龍の詠もあったし、一応様子を見ようかと。」
―成程、彼処は入れば出られない所だ。一体如何なっているかは我も窺い知る事は出来ない。変化があるかも知れないな。―
「噫、恐らく行く事自体は出来る筈だ。母さんが出してくれるだろうし。只危ない所には変わりないだろうから、彼だったら丗闇とレインは此処に残るかと思ってな。」
万が一があるし、出られても時間関係とか如何なるか分からないしな。
自分も閉じ込められちゃったら嫌だけれども・・・会わない訳には行かないし。
―・・・然うか。・・・いや、我も行こう。出られるのなら問題ない。―
「え、あ、良いのか。」
一寸意外だった。前行った時も相当慌てていたのに。
―・・・我が居たら困るのか。―
「いやいや、危ない所だって教えてくれたのは丗闇だから一寸意外だと思って。」
一気に不機嫌になってしまった・・・此の辺りの管理は大変である。
丗闇は深読みしちゃうからな。別に一緒に居て困る訳ないじゃないか。
寧ろ居なくなったら胸に穴が開いたみたいで落ち着かなくなるし。
―別に、奴に会うのなら、我も少し興味があると言う丈だ。―
「そっか、じゃあレイン丈帰って貰おうかな。」
「キュムル、ル。」
手に巻き付いたりと遊んでいるけれども、流石に此の子は連れて行けない。
と言うより真の姿に成ってしまっているしな。恐らく鏡界にも行けないだろう。
「・・・ん、お、丁度良かった。丗闇、行く前に少し丈寄り道するぞ。」
波紋に写る影があったのだ。向こうも此方に気付いているな。
タン、と地を蹴り、巨体が駆け寄る。
あっと言う間に自分の視界一杯に銀の輝きが灯った。
―久シイナセレヨ。変ワリハ無イカ?―
「噫銀騎獅、私は元気だよ。」
然う、現れたのはガイの銀騎獅だった。
相変わらず半身が傷だらけ、もう半身は刃に覆われている。
痛々しくは見えるが、此が彼の姿なのだ。
只、今回は一寸見慣れないと言うか・・・そんな彼の肩に何かが乗っていたのだ。
其は・・・一柱の神の様だった。
背は自分より少し高い位だろうか。人型であるが、細部が色々と異なっている。
顔立ちは鼠っぽく、鼻が高い。絳い瞳は鋭く、利発そうな印象を与える。
長い髪は後ろにポニーテールの様に纏められ、凱風に揺れていた。
全体的に皓っぽく、髪の先や、胸元に大きくある朏の様な模様丈が黔く、惹き込まれる様だ。
柔らかい布一枚で全身を覆っていて其以上は見えないが・・・目新しい種だな。
其の神はじっとセレを見遣ると慌てた様に何やら銀騎獅に耳打ちした。
其に対して彼が頷くと、直ぐ様其の肩から降りる。
四肢で着地したのは一瞬で、直ぐ二足で立ち上がると真直ぐ自分の前へ出た。
其の後ろ足は跣だったが、まるでハイヒールの様に指が一本後方で支える様に伸びており、蹄が高い音を立てる。
「御初に御目に掛かりますわセレ神さん。コチはカレン=KGN(カグノ)と申しますの。」
「あ、噫初めまして。知ってはいるみたいだが、私は次元龍屋の店主、セレ・ハクリューだ。後此の子は私の仲間でレインだ。」
カレンは胸元に手を置くと、片足丈下げた。
挨拶、なのだろうか。自分も見様見真似でしてみると、小さく笑い声が漏れた。
少し丈、彼女の口端が上がり、笑っているのが見て取れる。
「フフ、確かに銀騎獅さんの仰る通り、普通の神なのですね。」
「其って如何言う事だ?」
一寸失礼な言い方な気もするが・・・銀騎獅さん、と言う呼び名は何処か親しみがある気がした。
彼女は一体・・・態度からして好意的な様だが。
「いえ、コチが予々聞き及んでいた噂とは違って随分と近しい方だったので。」
「其の評価を下すのは未だ早いと思うぞ。」
ちらと牙を覗かせると彼女は目を瞬かせて微笑んだ。
「其は・・・楽しみですわ。」
脅す気はなかったが其の様子・・・此の神、結構肝が坐っているな。
其にしても一体如何して銀騎獅と一緒に・・・?
自分の事を知っている然うなのに真直ぐ挨拶して来たりしたので、其に少し驚いたのはある。
二柱が挨拶し終えたのを見て、そっと銀騎獅は顔を覗かせた。
―実ハ少シ前ニ、彼女ガ棲ンデイタ村ガライネス国ノ者ニ襲ワレテナ。其デ彼女丈助カッタノダ。―
「ライネス国にか?」
少し榔の話と似ているだろうか。まぁ彼は攫われて囚われてしまった訳だが・・・。
「えぇ、コチが一柱戦っていた所、銀騎獅さんに助けて貰いましたの。未だ戦えましたが・・・もう其の時にはコチしか残っていなくて、村は・・・滅びましたわ。」
「・・・そんな事があったのか。一柱とは言え、良く生き延びたな。」
全て失ってしまったのか・・・其は何程の悲しみと辛さがあるだろうか。
想像も出来ないから、言葉なんて掛けられない、其に自分は奪う側だから。
奪われない為に、奪って許りでいる化物だから。
でも銀騎獅が助けた、か。そんな事もあるんだな。
まぁ彼は優しいし、現場を見たなら然うするかも知れないが、彼はガイでもある。
斯うして此の世界に首を突っ込むとは思わなかった。
彼女が顔を伏せたのは少しの間で、直ぐ此方を真直ぐ見詰めた。
其の瞳は勁い輝きが激しく散る様で・・・挫けてはいないと訴える。
「勿論ですわ。コチは絶対に忘れません。必ず、皆の仇を討つと決めたのですわ。痛みは痛みを以って返すのがコチ達、KGNの一族の誇りですの。」
「成程な。其の志は私も嫌いじゃないぞ。」
分かり易い復讐心だ。自分は全力で応援しよう。
其を宥めたり、諌めたりなんてのはしない。自分にはそんな物、持ち合わせてはいないのだから。
―ムム・・・矢張リ貴殿モ然ウ思ッテシマウカ・・・。―
銀騎獅は一柱困った様に頭を下げたが、直ぐ上げた。そしてちらとカレンを見遣る。
「コチも、然う言って貰えて嬉しいですわ。コチ、セレ神さんがオンルイオ国やライネス国と引けを取らない戦いを続けていると聞いて、是非御会いしたかったんですわ。まさか銀騎獅さんの朋友とも知らなかったので。」
「ん、まぁ然うか。向こうから勝手にやって来るんだがな。」
勝手に憧れても困るが、然う言う事か。
此だと立場は完全にテロリストだな・・・いやもうなってるか?
「キュルム、ムルル。」
レインはカレンの傍へ少し寄っては直ぐ自分の所へ戻るを繰り返していた。
気にはなるらしいが、腕にキュッと巻き付いてしまう。
「何を言いますか、先日の活躍も聞きましたわ!落龍の詠、彼も貴方の手腕だとか。ライネス国建国以来最大の事件と伺いましたの!」
おぉ・・・大事になってしまっている。
そ、然うか。然うだったな、然う言う風に受け取られる事もある訳か。
悪意と言うか、敵意を向けられるのは一向に構わなかったが、彼を手柄の様に言われるのは一寸・・・。
安易に訂正も出来ないのが何とも・・・まぁ銀騎獅も居るし、言い触らしそうではないから言って置こうか。
「その・・・悪いが其の話は少し違ってだな。私は落龍の詠を止める手助けをした丈で、彼を起こした訳ではないんだ。」
「え、如何言う事ですの⁉其じゃあ真逆じゃないですの!」
すっかり驚いてしまってカレンが声を荒げると。ポニーテールが一気に逆立った。
鋭い針が一気に広がってつい身構えてしまう。レインも驚いて自分の後ろに隠れてしまった。
―・・・カレン、針ガ出テイルゾ。―
「あ・・・噫済みません皆さん。ま、未だ飛ばしてないのでセーフですわね。」
飛ぶの⁉其の逆立った奴全部飛ぶの⁉
其の様を想像すると少し背が震えた。
此は危険察知である。実際そんな事になったら恐過ぎる。
「簡単に言うと、落龍の詠の原因は未だ分かっていないんだ。龍が何かに操られていたらしいが、はっきりはしない。只其の儘だと龍達が狩られてしまうから、私が起こしたと言う事にしたんだ。」
した、と言うよりさせられたんだけれども。
「私は既に黔日夢の次元も起こしているし、違和感はないだろう。其の方がライネス国も対処し易いだろうし、そんな形で落ち着いたって所だな。」
―フム・・・然ウダッタカ。貴殿ラシイト言ウカ、又何トモ言エナイ役ヲ背負ワサレテイルナ。―
「別に此位何でもないだろう。今迄と大差ないしな。只、一応余り周りには言わないでくれ。訂正したい訳じゃないからな。」
「然うだったんですの。・・・良く分かりましたわ。其でも、其を背負うとなると可也の覚悟ですわね。」
「覚悟って・・・然う言う物でもないだろう。寧ろ止めてくれて英雄だとか言われてライネス国に招かれるよりずっと良い。」
「フフッ、確かに其も然うですわね。」
彼女は一頻り笑うと、しっかりと再びセレを見詰めた。
隠している筈の晒の下を暴くかの様に。
そんな真直ぐな瞳で正面から見られるのは苦手だけれども、意思は良く伝わって来る。
「あの、セレ神さん、一つ御願いがあるのですが。」
「御願いか、まぁ依頼は受け付けているが。」
然う答えると又彼女は何がおかしいのか微笑した。
「はい、コチを。次元龍屋に入れて欲しいんですの。」
「おっとまさかの入店希望だったか。」
自ら門を叩くとは珍しい。碌な口コミは無かった筈だが。
今の話でも事件の事許りな訳だし、一体何が切欠だ?
「若しかして・・・もう手は足りているんですの?何だか歯切れが悪そうですが。」
「いやそんな事は全く。大歓迎ではあるけど、一体如何してこんな怪しい店に入りたいと思ったのか気になってな。」
―怪シイト自ラ言ウカ・・・一応私ガ勧メタンダガ・・・。―
銀騎獅も困った様に顔を覗かせる。結構彼は心配性な様だ。
「ん、然うだったのか。いや、店の仕事を知っているなら問題ないけれども、御前の本当にしたい事とずれてしまうんじゃないかと思ってな。」
「コチの・・・やりたい事ですか。」
「噫、今の話丈を聞くと何ともな。ライネス国とやり合うのは私達の本望じゃあないんだ。まぁ・・・私が居るから敵にはなってしまうが、彼処は既に敵も多いだろうし、其自体が御望みなら別の組織の方が手っ取り早いだろう。」
彼女の目的が復讐なら、御勧めはしない。
店としては関わらないのが一番だ。ライネス国の事は自分が決着を着ける丈なのだから。
絡まれはするだろうが、飽く迄平行線だ。鎮魂の卒塔婆みたいにやり合う気はない。
「成程、コチの事を思って言ってくださってるんですわね。其でしたら心配要りませんわ。コチはちゃんと次元龍屋の仕事も理解した上で御願いしていますから。」
変わらず、じっと此方を見詰めて彼女は微笑んだ。
自分には出来ない、意志を持った真直ぐな瞳。
少し、ドレミと重ねてしまうけれども、其よりも彼女は刺す様な鋭さを感じた。
ドレミのが見透かし、捉えんとする瞳なら、彼女のは射貫き、逃さんとする眼光だ。
「確かにコチの真なる目的は、ライネス国への復讐ですわ。でも其は直ぐ遂げられるとは思ってませんの。だからセレ神さん達の店で経験を積みたいんですわ。」
「経験?戦闘経験だとかか?」
「其もありますが、コチは銀騎獅さんに助けられて色んな所を廻りましたわ。実は・・・村を出たのは初めての事だったんですの。だから知らない事許りで。」
ちらと彼女が銀騎獅を見遣ると、彼は大きく頷いた。
「だから、もっと此の世界に関わりたいんですの。店の仕事は、次元を正す事でしょう?其で世界に関わらないなんて事ありませんわ。もっとコチは此の世界を知る可きだと思ったんですの。然うした経験が、もっとコチを悍くしますわ。」
「・・・成程な、良く分かった。其の志も立派だと私は思うよ。」
只己が敵丈を見ず、見聞を広めると言うのはありだろう。
自分だって、前世の経験があるからこそ生き残り、今がある。
然うした経験は一つとして無駄にはならないだろう。
銀騎獅が勧めたのも然う言う事か。彼はガイだし、世界を巡りはするが、然う関わる事は出来ないだろう。
だから自分達に託すと言う訳か・・・其は一寸した重圧だけれども。
「後は・・・売込みとしては、自分で言うのも彼ですけど、コチ、腕には多少自身がありましてよ!護衛とかは任せて欲しいですわ。」
―私カラモ口添エシヨウ。カレンハ中々戦闘センスガアルト私モ思ウ。即戦力ニハナルダロウ。―
「確かに其は魅力的だな。」
悪くはない、寧ろ適任かも知れないな。
しっかり自分で考えての行動なら、店に入るリスクも心得ているだろうし・・・良し。
「分かった。カレン=KGN、御前を歓迎しよう。唯一つ丈テストをするぞ。」
「テスト・・・ですの。勿論構いませんわよ!」
一歩も引かず、正面から受ける潔さは見ていて心地良い。
けれども自分は歪んでいるので、一寸付き合って貰おう。
「テストは、私と一戦交えてくれ。御前の力量を見てみたい。店の皆も強者が多いからな。」
「コチの得意種目ですわね!受けて立ちますわ。」
―此処デスルノカ?ソンナ直グニ、―
「周りはもう見えているから大丈夫だ。勿論銀騎獅は手を出さないでくれ。カレンもしっかり手を抜かず悔いなく来てくれ。」
此処は見晴らしの良い荒野だ。存分にやり合えるだろう。
実を言うと・・・未だ右腕は完治していないので万全ではないが。
まぁ実力を見る丈だ。じっくり見させて貰おう。
―分カッタ。デハ二柱共、怪我ニ丈ハ気ヲ付ケルノダゾ。―
然う言い残して銀騎獅は少し離れた所へ駆けて行った。
そんなに距離を取るか・・・見た所彼はカレンの戦い方を知っている様だったが。
レインも状況を察して直ぐ様地面へ潜る。
「もう、銀騎獅さんは心配性なんだから。やるからには、怪我じゃあ済ませませんわ。」
・・・ん?
今何か恐ろしい言い方をしなかったか?前後の文が繋がっていなかった様な。
「ではセレ神さん、行きますわよっ‼」
此方をしっかりと見据え、カレンは一気に駆け出した。
正面から来るか。彼女は無手の様だが一体如何戦うのだろうか。
身構えていると彼女は大きく地を蹴り、回し蹴りを繰り出して来た。
体術か。流石にロードみたいな怪力ではないだろうが。
一度様子見で少し下がる。無をぶつけるなんて無粋な事はしない。
空振った足を彼女は勢いの儘地に打ち付けた。
蹄の足が鋭く地を抉る。地が割れて欠片が飛び散った。
大した威力だ。一応散った欠片はオーバーコートで軽く去なす。
今は陽も出ているからな・・・動き難い。
動いても良いけれど、自分は軽いし、体術にそんな力が乗らないのがな。
カレンの目は逃さずじっと自分を狙っていた。
一撃が外れた所で構わず殴り掛かって来る。
動きは十分目に追える。軽く左で受け流し、次の一手を見る。
すると瞬く間に膝蹴りが飛んで来た。
結構躯が動くな。手と足を交互に使うか。
視点もぶれるし、目視であったなら死角を突かれ易いかも知れない。
でも自分には波紋がある。見えない様に見えて、背後や眼下の動き位なら対応出来るな。
又一歩下がり、其も躱した。
彼女が地に足を付ける度、地が割れて行く。
・・・そんな割れる物なのか?脆い様には見えなかったが。
足がハイヒールみたいになっている分、威力が乗っているのかも知れない。当たれば貫かれるかもな・・・。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
自分の詠唱にはっとカレンは顔を上げた。
「慈紲星座。」
自分を中心に蒼の零星が散る。
其に併せてカレンも大きく下がった。
着地の衝撃で又地が罅割れている。零星に対して随分警戒している様だ。
其でも双の絳目はじっと自分一柱を見詰めている。逃す気は一切無いらしい。
こんな零星を纏ってしまっては先みたいに体術は厳しいと思うが、如何だろうか。
取り敢えず星座を作らずに居ると、カレンは跳躍して自分を踏み付ける様に飛び掛かって来た。
其に対し、出鱈目に星座を編んで行く。少し丈魔力を崩し、線が刻まれて行く。
彼女も此の危険性は理解したみたいで直ぐ様躯を捻り、回避した。
着地点をずらし、ギリギリ星座の檻の隙間へ降り立つ。
僅かに腕に掠り傷が出来てしまった様だが、構わず彼女は蹴りを繰り出した。
彼女が跳んで来た事で地が割れ、砂埃と共に破片が散る。
目眩ましの意が強いんだろうな。其の上での蹴りか。
でも砂なら見える、其の向こうでの動きも手に取る様に。
軽く左へ避ける為、一歩踏み出した。
其の時はっきりと、彼女の目が自分を捉えた。
目では追えている様だ。でも捕らえ切れないか、零星を警戒しているのか。
此の儘武器化して応戦しても良いけれども・・・。
然う思った刹那、彼女の髪が騒ついた。
瞬く間に逆立ち、そして・・・、
彼女が振り向き様に飛び散ったのだ。
まるで無数の針の様に、毛先が固まって此方目掛けて飛んで来る。
「dleihe!」
慌てて盾を形成した。
まさかとは思ったがこんな風に飛んで来るとは。先聞いていなかったら危なかったな・・・。
全身に穴が開く所だった。想像した丈でも痛々しい。
「っ余計な事、話してしまいましたわね。」
其の盾の隙間からカレンは拳を叩き込む。
身を引いて躱すが、揺れた彼女のポニーテールから又針が飛び出した。
「いやまさかこんな飛び道具を持っていたなんてな。」
成程、放つ前にあんな髪を振り乱して勢いを付けていたのか。
不意打ちにこんな追撃を喰らうと体勢を崩されるな。
若しかしたら銀騎獅も此を喰らったのかも知れない、彼女の針を宥めた位だし。
「いえ、飛び道具丈ではありませんわよ!」
言うや否や彼女は自身の髪を数本引き抜いた。
と思う間もなく其は肥大化して棒の様になり、歪に曲がって行く。
其を突き立てる様にカレンは振るって来た。
避けた所から地に刺さり、穴を開けて行く。
「面白い体質だな。髪が武器になるのか。」
自分の血みたいな物か。成程、似た使い方は出来るかも知れない。
髪から生まれた彼は、槍みたいな物なのだろう。無手だと思っていたが、十分武器はあったんだな。
「未だ行きますわよ!」
大きく一歩踏み出し、カレンが迫る。
・・・凄い気迫だ。こんな周りに零星を散らしているのに飛び込むか。
此の危険性は彼女も分かっている筈だが、的確に避け、猛進して来る。
怯まないのは勁いな。突っ込むからと小細工をして来たが、多少の技は強引に突破して来るか。
「raeps」
自分も星座を編み、槍を形成する。
互いの獲物を搗ち合わせ、火花を散らして弾いた。
・・・僅かに此方が押されている、力で負けてしまっているか。
其にしても硬いな、星座の鋭さは折り紙付きなんだが。
一気にカレンは踏み込んで槍を繰り出してくる。
パワーで押してくる気か、去なす事は出来るけれども。
槍を重ね、火花が散った瞬間、狙い澄ましたかの様に針が飛んで来た。
「ッ⁉ぐっ、」
歪に伸びた槍は至る所から針を生やしていた。
だがまさか其が飛んで来るとは思わず、咄嗟に大きく仰け反ってしまう。
直撃は避けた。だが其でも僅かに頬を斬られてしまった。
落ちた一滴の血が・・・二柱の間に滑り込む。
其が地に染みた瞬間、小さな黔水精へと姿を変えた。
「っ此は⁉」
逸早く気付いたカレンが大きく下がる。
でも付いた血は其の雫のみだ。其以上結晶は広がらず咲いていた。
「貴方も、随分と変わった力を持っていますね、流石ですわ。」
「此は今披露する気はなかったんだがな・・・。」
今の血で反応してしまったか・・・如何やら思わぬ所から攻撃を喰らった所為で突発的に出てしまったらしい。
反射に近い分、如何しようもないのだろうが・・・然う言う事もあるんだな。
今後、気を付けよう。こんな形で隠し玉が出ても困るからな。
今の出方じゃあ血だとばれてはいないだろうが、妙な力がある事は悟らせてしまったな。
其でも一応彼女を引かせられたのは良しとしようか。彼の針は危なかった・・・つい戦慄してしまった。
何にしても彼女の武器は中々面白いな。
髪が無くならないか心配だが・・・此の戦い方は意表を突けそうだ。
術等に頼るのではなく、然う言った種での戦い方に幅があるのは可也勁いと思う。
自分が霄な霄な始末しているクルスティード尖塔だとかの兵よりは遥かに勁いだろう。一柱で戦っていた丈はあるな。
うっかり首を落とされない様にしないと。観察に集中し過ぎるとやられるぞ、此。
一つ息を付く間もなく、カレンは槍を構えた儘走り寄って来た。
舞う様な足捌きで道中の零星は避けられて行く。加えて髪を振る事で先に針を飛ばして来るのだ。
御蔭で其の場から動けず、零星の槍で針を落として行く事しか出来ない。
此の儘追い詰められたら槍の一撃を喰らってしまうな・・・。
戦い方としては案外暗殺者と近い所がある。
正面から来る姿から懸け離れている様にも見えるが、暗殺者が隙を生まない様、又相手の体勢を崩す為にナイフを使用する事は間々(ママ)ある。
大型な得物を扱う事で相手の意識を其方に集中させ、本命のサブウェポン、ナイフで詰めて行くやり方だ。
手先の器用な暗殺者が良く行っていた、此も前世の経験だな。
其にしても、其の得物を両手が塞がる槍にした奴は初めて見たがな。
髪だからこそ、両手が完全に槍に集中出来ている。純粋に手数が多い訳だ。
槍じゃあ間合いを詰め難いし、離れ過ぎたら針が来るし・・・成程、攻守共に優れている戦い方だな。
でも手数なら負けてはいない。此方には零星があるのだ。
実質此なら手の数なんて関係ない、彼女の針の様に攻め入ろうか。
避けてはいるみたいだが、其は零星単体の話、星座にしてしまうと複雑さが一気に増す。
カレンは力強く地を蹴って駆け寄って来た。
其に併せて一気に星座を作り出す。
滅茶苦茶に、自分でも追えない位出鱈目な線が刻まれて行く。
「っ・・・此は中々厄介ですわね。」
目の前に突如現れた星座に向け彼女は槍を振るったが、そんな一撃では壊れない。
槍が弾かれてしまい、彼女の足が僅かに止まった。
こんな堅牢な星座が眼前に無数にあるのだ。
飛び込めば躯が斬られてしまう、不可思議な蒼い零星。
セレに近付くには随分と大回りをしないといけないだろう、此の零星の中を潜り抜けるなんて。
其に零星は絶えず動いて線を変えて行く。此方の対処丈で目が回りそうだ。
其でも迷った様に見えたのは一瞬で、カレンは槍を握り直して飛び込んで来た。
此処で拮抗するなら此のテストは止めようと思ったんだが、如何やら未だ彼女は諦めていない様だ。
星座の隙間を掻い潜り、少しずつ此方へ近付いて来る。
加えて針を飛ばす事も忘れてはいない。御蔭で変わらず動けず仕舞いだ。
まぁ此丈零星を寄せていれば先みたいに盾として機能はするので、針は次々近くの星座に刺さって行く。
此でも攻めに来る其の勇ましさ、切らさない集中力は流石だ。
ずっと自分を離さない其の鋭い瞳も・・・可也の悍さを感じる。
とは言っても流石に此処はもう引いた方が良いとは思うが。今回は本気ではないので自分は動いていない丈で、其の気になれば此処から術でも無でも放つ事は出来る。
其こそ先みたいな血でも良い。つまりは手持無沙汰になっている訳だ。
陽が出ているから猶の事動いていない丈で。だからこんな状況になれば、其の儘敵の策に突っ込まず、出方を変えるか、引いた方が無難な気もする。
然うして近付く彼女を見ていると、不意に髪の色が変わっている事に気付いた。
美しい皓と黔の髪が、淡く黄に光っている様な・・・。
ロードの輝石みたいに感情だとかで色が変わるのだろうか、中々鮮やかだ。
其に因り飛んで来る針の色も黄に光り、陽を激しく反射させる。
其にしてもやけに光っている様な・・・っ、いや此は、
波紋の先でカレンの口端が上がる。同時に自分は大きく彼女から後退した。
針が腕を掠めたが関係ない、此の直感を信じる。
セレが下がったのと同時に零星に刺さっていた針は一気に爆発した。
其に数瞬遅れて零星達も次々爆発する。
突然沸いた爆音に思わず耳を伏せた。
危なかった・・・まさか未だこんな手があったなんて。
最初只の針と思わせていたのはブラフか。まんまとやられた。
こんな一手があったなら、諦めないな。自分が盾を作ったので彼女は突っ込んだ訳だ。
嫌な予感がしたので零星を幾らか爆発させたが、まさか同じ系統だったとは。
一応彼女が零星の迷路の中に居たので加減はしてある。
順序に爆発させたのは其の為だ。彼の身の熟しなら十分躱せるだろう。
激しく立ち込める砂煙をじっと見詰める。
彼女なら或いは・・・。
「っはぁああああ‼」
雄叫びと共に一気に砂煙は晴れ、カレンが大きく地を蹴って跳び上がっていた。
其の髪が激しく黄に輝いている。宛ら流星の様に。
矢張り引く訳でもなく、向かって来るか。
其の絳眼はずっと自分を捉えていた、煙の中でもじっと。
槍を構えているが、狙いは間違いなく特攻か。
其の髪全部が爆発すれば流石にとんでもないダメージにはなるだろうが・・・。
―・・・ストップ。―
「え・・・、」
ひょいと、カレンは槍を構えた儘宙吊りになる。
背後に駆け寄っていた銀騎獅が彼女の布を銜えたのだ。
突然の横槍に彼女は目をぱちくりさせ、固まってしまう。
―モウ十分デアロウ二柱共。―
「噫、然うだな。仲裁してくれて有難う銀騎獅。」
確かに一寸やり過ぎたかな。実力を測るには十分だろう。
だが心做し彼の声が少々怒っている様な・・・。
「キュムリィ。」
「ん、レイン大丈夫だ。終わったぞ。」
地面から顔を出したレインは直ぐ様セレの腕に巻き付いた。
そして目敏くも小さな斬り傷を見付けるとそっと舐めて行く。
嬉しいし、可愛いけれども、自分の血は武器なので其の行為は一寸恐くもある。
「ちょっ、一寸待ちなさいよ!私は未だ・・・、―」
―其ニカレン、其ノ技ハ使ウナト言ッタ筈ダ。―
「う・・・そ、其は然うですけど・・・。」
彼女は不満そうに口を尖らせたが、其でも彼は離す気がないみたいだ。
―ソンナ簡単ニ自滅ヲ呼ンデハイケナイ。命ハ大切ニスル様ニ。―
「わ、分かりましたわよ!もう、」
彼女が息を付くと、そっと銀騎獅は彼女を下ろした。
槍は朽ちて無くなり、髪も黄の儘だが針は無くなる。
次に此方を見詰めた瞳は幾分か穏やかになっていた。
其にしても意外だ。銀騎獅がそんな風に口を出すとは。
まぁガイだし、命の大切さは一番彼が分かっているのかも知れない。
でも何だか微笑ましい光景の様にも見えるな。
―フム、二柱共無茶ヲ仕勝チダカラナ。良ク反省スルノダゾ。―
そんな風に悠長に構えていると彼と目が合った。
まさか自分も含めて言われるとは思わなかったので小さく咳いてしまう。
「え、あ・・・あ、噫、善処する。」
―口で言った所で此奴は反省しないがな。―
煩い闇の神。
「ふぅ・・・何だか不完全燃焼でしたが、テストは如何でしたのセレ神さん。」
「勿論合格だ。其丈の力があれば仕事も問題ないだろう。最初の何回かは誰かと行って貰って、感覚を掴めれば十分だ。」
「フフ、やりましたわよ銀騎獅さん!」
―噫、良カッタ。ダガ、カレン貴殿ハ屡々周リガ見エナクナル事ガアル。気ヲ付ケルノダゾ。―
「もう、最後迄小言なんですわね。」
二柱は互いに溜息を付いた。うん、仲が良いな。
「まぁ実際今後は仲間と行動をして貰うんだし、気を付けるに越した事はないな。其にしても中々面白い戦い方だったな、初めて見たぞ。」
「其は此方の台詞ですけど、でも然うですわね。珍しいとは自負していますわ。」
「今も髪が光っているみたいだが・・・一体如何言った仕組みなんだ?」
実を言うと爆発しそうで恐いんだけれども、針になっていなかったら大丈夫なのかな。
「気付いとってかは分かりませんが、実はコチ、戦い中に土を食べていたんですわよ。」
「ん、土か?炭ではなく?」
「炭は何処から来たんですの・・・?地面を割った時だとかに少しずつ摘み食いしていましたわ。」
然う・・・だったのか。言われてみれば確かに狙っているかの様に地面も含めて攻撃していたが。
其の破片を食べていたと、器用な事をするな。
勿論戦い中となれば只の間食ではないのだろう。
「コチの種族は、食べた土や石に因って身に纏う針の体質が変わるんですの。此の土のは爆発になりましたわ。」
「成程、其は何とも面白いな。そんな風に直ぐ変わるのか。」
じゃあ食べた物で髪の色はどんどん変わるのか・・・鮮やかだな。
其で得た力が爆発か、成程・・・最初から針が爆発しなかったのも然う言う訳か。
「えぇ、もっと硬くなったり、電気を帯びたり色々変わりますわ。」
「其は戦術に可也幅が出そうだな。臨機応変さが求められるのか。」
一見便利そうだが、場合に因っては不利にもなるだろう。彼女は其をちゃんと理解して戦っている訳だ。
「一応もしもの時の為に幾つか石の備蓄はありますわ。此の術でコチは生き残って来ましたの。」
一寸宙属性に似た物を感じるな。其にしても面白い。
・・・感心していたら自分にも針が出せる様にならないかな。
でも土、土かぁ・・・其を食べるのは一寸抵抗があると言うか。
いやまぁ人間よりはましだろうけど、道程は長そうだ。
「良く分かった。教えてくれて有難う。色々と参考にさせて貰おう。」
「参考、ですの?兎も角私も聞いてみたいですわ。先の彼の不思議な曦は何ですの?」
「曦って・・・噫零星の事か。別に彼は魔力を其の儘放った丈だ。其を崩したりして使っていたんだ。」
「何だか事も無げにとんでもない事を言っている気もしますけど、一応は分かりましたわ。」
―フム、私モ、斯ウハッキリト貴殿ノ戦イ方ヲ見タノハ初メテダッタガ、不思議ナ力ダナ。―
「ん、まぁ珍しくはあるかな・・・。」
兎に角、彼女のテストには十分だったんだ。此は嬉しい報告だな。
早速店に連れ帰りたいけれどもさて・・・。
「如何しようか。此の儘カレン、御前を店に連れて行きたいが、一寸良いか?銀騎獅に聞きたい事があるんだ。」
―ン、私ニカ?―
「あら、コチは構いませんわよ。どうぞ御話しなさってください。」
「噫済まないな。銀騎獅、少し前に私の名前を聞いた時に何やら言っていたよな。由来とか何とか。」
―由来・・・噫“綴ル者”カ。ダガ其ガ如何シタノダ。―
矢張り間違いないか、只の偶然、とは思えないな。
「御前は其を古い言葉だとか言ったが、実際は如何なんだ?具体的に何処の言葉なんだ?」
―ソンナ事ガ気ニナルノカ?・・・一応其ハ、私ガ元々居タ世界ノ言葉トハ思ウガ、何分良ク憶エテナイノデナ。―
「ガイ、ですものね。コチも初めて御会いしましたが、こんな話し易い方達とは思わなかったですわ。」
―其ハ・・・セレノ御蔭ダナ。ガイデモ最早私ハ其トハ少シズレタ者ダロウ。―
「あら、然うなんですの?」
然う言いカレンは首を傾げたが、確かに銀騎獅は少し特殊だろうな。
「然うか・・・其を聞くと矢張り一寸気になるな・・・。銀騎獅はヲルと言うガイを知っているか?」
―ヲル・・・知ラヌ名ダナ。―
「其のガイが実は私の育ての親なんだ。セレと言う名も、其のガイから貰った。其で聞いたんだが・・・如何やら由来は“綴る者”からだ然うなんだ。」
其を聞いた途端、銀騎獅は大きく目を見開いて固まった。
恐らく、自分の言いたい事に合点が行ったのだろう。
只一柱カレンのみが首を傾げていた。親、と聞いて慌てた様だが銀騎獅の様子が気になったのだろう。
―ツマリハ・・・然ウ言ウ事カ、デモ、ソンナ・・・、―
「噫、だから確かめる為にも一緒に会いに行くか?今から行く所だったから丁度良いと思ったんだ。」
自分の知るガイ二柱が其の儘繋がるなんてのは偶然が過ぎるだろうが。
賭けてみる価値はあるだろう、可能性はなくはないのだから。
―・・・成程、御前が丁度良いと言っていたのは此の事か。―
―噫、少し前から気になっていたんだ。先に母さんに聞こうとも思ったが・・・。―
―差シ支エナケレバ、是非連レテ行ッテクレ、セレ。私モ、会ッテミタイ。―
「分かった。鏡界って所なんだが、知ってるか?」
「きょ、鏡界⁉ちょ、一寸セレ神さん!そんな危ない所に行くんですか⁉抑其処って入ったら・・・、」
「噫、普通は出られないそうだな。でも母さんが居れば問題はない、戻って来れる。」
「母さんってえ・・・え?本当にセレ神さん、ガイに育てられたんですの・・・?」
余りの情報の渦に彼女は目をぱちくりとさせていた。
まぁ驚くのも無理ないな。自分も初めて知った時は驚いたし。
「然うだ。其で長い事鏡界にも居たんだが・・・。」
「とんでもない経歴ですわね・・・。道理でと言うか何と言うか、普通の神ではありませんわ。」
―貴殿ガ私ニ好意的ナノモ、ソンナ理由カラカモ知レヌナ。―
「然うだな。と言っても私も最近其の事を知ったんだ。だから行ってみようか。」
ちらとレインを見遣ると大きく頷いた。
「其でもカレンは来ない方が良いだろう。危ない所には変わりないし。だからレインと一緒に一度店に行ってくれるか?終わり次第私も戻るから。」
「然う言う事でしたら分かりましたわ。」
「キュールル!」
レインは地面に潜るとカレンの下から突然飛び出して来た。
そして其の儘彼女を背に乗せて伸び上がる。
「え、キャ、キャァアアア⁉な、なな、何ですの此の子!」
「レイン、流石に其は驚くだろうから止めてやってくれ。」
「ルル、ムルゥ。」
瓊をクルクルと回して彼女は頷くが・・・果たして分かってくれただろうか。
「えっと、レ、レインさんなんですわね。よ、宜しく御願いしますわ。」
「キュッ、ルリィ!」
元気良くレインは鳴くと身をくねらせる。何だか機嫌が良さそうだ。
「じゃあレイン、済まないが店迄カレンを頼むぞ。」
「あ、あ、一寸待ってください!銀騎獅さん、今迄有難う御座いましたぁあああ‼」
慌ててカレンが手を振ったが、勢い良くレインは店に向け戻って行ってしまった。
レインは素早いからな・・・直ぐ見えなくなってしまう。
―フッ、礼等言ウ様ナ事デモナカロウニ。本当ニ良イ娘ダッタナ。―
「良かったら何時でも店に会いに来てやってくれ。其じゃあ行ってみようか。」
―フム、先ノ話ダト鏡界ハ危険ソウナ所ダッタガ大丈夫カ?―
「鏡界は次元と此処、次元の迫間の其の境目にあるんだ。危ないとは言っても其は帰れなくなる事丈だ。」
―・・・十分危ナイト思ウガ、―
「其でも恐らくだが、ガイなら出られるんじゃないか?此の世界の縛りは受けないんだろうし。」
―確かに、前の様子からしても然うだろう。後は御前の罅か。―
―両方あるから、問題は無さそうだな。―
然うと決まったら早速行こう、でも果たして自ら行けるかだな。
―分カッタ、貴殿ニ問題ガ無イノデアレバ行コウ。―
「噫、一寸待ってくれ、今集中しているから。」
自ら鏡界に行く者なんて然う居ないだろうし、神の干渉力で行けるかだな・・・。
大丈夫、大丈夫だ。ヲルの、母さんの所へ行こうと念じれば良いんだ。
「良し、じゃあ行こう。」
大きく一歩を踏み出すと、忽ちセレの波紋は閉じてしまうのだった。
・・・・・
次に波紋が捉えたのは不可思議な空間。
上下左右も分からず、思わず手を伸ばす。
其でも何も掴めない、闇すら無い此の空間。
間違いない、此処が鏡界だ。
―フム・・・此処ガ鏡界ト呼バレル所カ。―
隣には銀騎獅も居たが、何だか現実感がない様に感じられる。
浮いていると言うか・・・矢っ張り不思議な空間だ。
「噫、間違いない。早速ヲルを探そう。」
―噫、懐かしい気配だ・・・。―
不図聞こえて来た声に思わず顔を上げる。
一寸魔力に似ていると思ったが違う。此は・・・此処に居る魂だ。
相変わらず姿は良く見えないな。でも屹度近くに居る。
―如何してこんな所に、君は戻った筈でしょう?―
少女とも老いた様にも聞こえる声。
昼間の飃も・・・斯う言う存在だったんだよな。
「御前は若しかして前助けてくれた奴か?彼の時は有難う、助かったよ。」
此処に来るのは三度目になるからな。・・・まぁ棲んでたんだったか。
最初は本当に右も左も分からなくて困ったからな、本当に助かった。
ずっと御礼を言いたかったし・・・うん。
―御礼なんて、でも其は誰だろう。私じゃないわ。―
―僕達に個はもう無いから・・・皆混ざってしまっている。―
―特定困難・・・でも屹度伝わるよ。―
一寸昔の魔力達みたいな事を言う。
然うか、彼等はもう此処に永い事居過ぎて存在も希薄になったんだったか・・・。
もう個も分からなくなる程溶けて混ざってしまうなんて。
でも幼子だった時にも世話にはなっているだろうし、礼を言って損はないだろう。
・・・自分も出られなかったら斯うなっていたのか、笑えないな。
―・・・セレヨ、此ノ者達ハ一体、―
「噫、此処に囚われて出られなくなった魂や神達だ。害を与えたりする様な者じゃないから安心してくれ。」
―然ウカ・・・囚ワレテシマッテイルノカ。―
少し目を伏せて銀騎獅は見えない筈の彼等の姿を捉えようとしている様だった。
何の道、此処から出した所でもう姿は保てないのだろう、此の儘消えてなくなってしまうのだろう。
「一つ聞いてみたいんだが、ヲルは何処に居るんだ?合わせたい奴がいるんだ。」
―ヲル・・・聞いた様な・・・。―
「ガイなんだが、黔くて手が一杯ある姿をしているんだ。」
―其の形は知っているかも知れない。―
―此方、此の儘進んで・・・。―
声に導かれる儘に足を出す。
正直歩いているのか飛んでいるのかすら良く分からない所だ。
銀騎獅も慎重に後を付いて来る。
此処なら、姿は晒した方が良いかもな。
晒を順に外して翼や尾も伸ばした。陽が無い分、此処は楽だ。
―・・・何ダカ会ウ度ニ貴殿ノ姿ハ変ワッテイルナ。―
「噫然うだな。一体何になろうとしているんだろうな。」
―デモ、変ワレルノハ生キテイル証ダ。変化ヲ大切ニスルト良イ。―
「其も然う・・・だな。次会う時も又変わっているかもな。」
大切に、か。捉え方次第なんだろうけれども。
歪んだ進化を如何見るか、だな。此の姿を受け入れられるか。
姿と言うよりは内面、か。自分は全てが変わりつつあるから。
生き残る為の変化を、成程確かに生きていないと其は出来ないな。
神として、生きる為の進化なら。
「ん・・・あ、見えて来たぞ。ほら、彼女がヲルだ。」
何も無い筈の空間に銀のティアラが輝く。
其の下へ伸びるベールと無数の黔の手。
間違いない、母さんだ。
―セレ!又逢いに来てくれたのね。―
狐の形になった手が口を開く。
柔らかく優しい声につい目元が穏やかになる。
「噫、その・・・母さん、只今。」
一寸・・・照れ臭いけれども。
悪い気はしない、うん。
ヲルは直ぐ様此方へ近付くと、確かめる様に無数の手で擦り寄って来る。
形をなぞる様に、でも優しく、壊れ物を扱う様に。
少し丈、目を閉じた。此の闇が私は好きなんだ。
―今回は貴方丈なのかしら。もう一柱の貴方は如何したの?―
「もう一柱って・・・丗闇の事かな。」
―・・・ん、我を呼んでいるのか。―
瞬きの後に自分の数歩後ろに丗闇が現れた。
彼女は何だか気まずそうに上目遣いにヲルを見遣っている。
そんな風な彼女は珍しくて、新鮮に思えた。
丗闇の中にも、ヲルとの記憶があるのだろうか。其とも其の闇を好いているのか。
分からないけれども、彼女にも然う言う物があるのは良い事だと思えた。
―あら、そんな所に居たのですね。さぁほらもっと顔を見せて頂戴。―
蛙の形になった手や狐の手が丗闇に近付き、そっと其の頬に触れた。
特に拒む事もせず、只彼女はじっとしていた。
「元気そうなら良かった。最近大きな事件があったけれども、此処は大丈夫だったか?」
直接此処に来た龍自体は居なかったとは思うけれども、次元や次元の迫間が変われば影響を受けると言うし、其が心配だったんだ。
―然うだったの・・・えぇ、私は大丈夫よ。心配してくれて有難う愛しい子。貴方達は、怪我しなかったかしら。―
「ん、噫、問題ない。然うか、だったら良かった。」
案外変化はない物なんだな。まぁ今回が偶々だったのかも知れないけれども。
其にしても此方の心配をするだなんて、彼女らしいな。
此が母、と呼ばれる存在なのだろうか。未だ・・・良く分からない。
知りたいけれども、此の儘進むのも少し恐くて。
・・・いや、今は良いだろう。其より彼を紹介しようか。
「母さん、今回は一寸、会わせたい奴が居て連れて来たんだが・・・。」
其迄後ろで事の成り行きを見守っていた銀騎獅がそっと前に出た。
―あら・・・貴方は私と同族ね。初めまして、私はヲル・・・でも不思議だわ。貴方とは初めてな感覚がしないの。若しかして何処かで会っているかしら・・・。―
―私ハ銀騎獅ダ。私モ・・・初メテノ感ジガシナクテ、―
言葉を詰まらせて銀騎獅は何度も目を瞬かせた。
「母さん、私にセレと言う名をくれたな。其って何処の言葉なんだ?」
―其は・・・不思議と知っていたのよ。此の世界とは別の・・・もっとずっと古の・・・、―
考え込む様にヲルの手は彼方此方を彷徨う。
近い・・・気はする。矢張り母さんは・・・、
「其なら母さん、ガイになる前の事は何か憶えていないか?」
―ガイに・・・成る前・・・。―
複数の頭が同じ言葉を呟く。
然うして身をくねらせる様に手を動かしていた。
悩んでいる・・・矢張りガイに成ると忘れてしまう物なのだろうか。
其でももう一寸何か・・・確証を得られれば、
―ガイニ、昔ヲ問ウノハ難シイ事だ。憶エテイナイノモ無理ハナイ。―
―然う・・・ね。セレ、貴方の事は良く憶えているのよ。―
―寧ろ其しか憶えていない位に。―
―其程ガイは、希薄な存在なの。―
「然う・・・なのか。」
同じ言語を覚えている、其は可也の情報だったけれども。
銀騎獅は小さく頷いていた。余りショックを受けていない様にも見えるが、其は何処かで斯うなる事を分かっていたのだろうか。
―・・・でも、其の銀の鎧みたいな躯は素敵ね。迚も綺麗だわ。―
―ほら、私のティアラとも似ているわ。―
然う言って彼女は自身の中心にあるティアラを無数の手で指差した。
確かに其の銀に輝くティアラは美しくて、色合いが彼と似ている様に思う。
―・・・然ウ、ダナ、―
銀騎獅は顔を上げ、繁々と其のティアラを見詰めた。
彼の顔が写り込む程に其は輝きを放っている。曇り一つない。
―貴方は優しいガイなのね。目を見れば分かるわ。貴方はセレの友達なのかしら。―
―友・・・然ウダナ、私ハ何度モ助ケラレタ。友ダ、紛レモナク。―
銀騎獅が首を巡らせて自分を見た。
そんな臆面もなく言われると気恥ずかしい・・・。
「大袈裟だな助けたなんて。でも然うだな、朋友だと私も思っているよ。」
―然う、良かったわ。―
―じゃあ此からもセレの事、宜しく御願いします。―
―此の子は不思議な力を持っているから。護って頂戴、騎士様。―
―ッ、噫、期待ニ応エラレル様頑張ロウ。―
大きく頷いた銀騎獅の瞳は何処か凪いでいて、
まるで吸い込まれるかの様な色合いに不思議と落ち着いた。
―ヲルヨ、良カッタラ又此処ニ来テモ良イカ?―
―勿論よ。私は何時でも此処に居るから。何時でも顔を見せに来て頂戴。―
―ガイの友達は初めてなの。歓迎するわ。―
―分カッタ・・・有難ウ。今回ハ此デ失礼シヨウ。―
「え、あ、もう戻るのか?」
―噫、今回ハ連レテ来テクレテ有難ウ、デハナ。―
セレの方を見遣り、小さく頷くと銀騎獅は一同に背を向け、歩き去って行ってしまった。
其の後ろ姿は直ぐに見えなくなってしまう。
一応、無事に鏡界から出られた様だが・・・。
「・・・戻るか?」
ついじっと彼の後を見詰めていると丗闇に声を掛けられてしまう。
気付けばヲルも撫でる手を止め、窺う様に此方を見ていた。
「然う・・・だな、良いか丗闇。」
「我は別に構わん。」
「分かった。母さん済まない、来た許りだけれども、」
―えぇ、行ってらっしゃい。友達を大切にしてくれる子に育って嬉しいわ。―
―又何時でも帰って来て良いからね。―
「・・・噫、有難う母さん。又近い内に来るから。」
友達・・・か、そんな風に言われると矢張りむず痒いけれども。
―じゃあ此処を真直ぐに行きなさい。貴方の力を少し当てれば出られるわ。―
「分かった。じゃあ行って来る。」
最後にそっと彼女の狐の手を撫でて背を向ける。
気付けば丗闇は自分の中に戻っていた。
ヲルが指してくれた方向に向けて駆け出す。
罅、罅を・・・集中して、
少し位なら出せる筈、手を伸ばし、其処から広げる様に。
次第に景色が色を持つ。曦が散り、象られて行く様な。
更に大きく一歩踏み出すと世界は歪み、何も見えなくなってしまった。
・・・・・
―ン・・・モウ、戻ッテ来タノカ。―
「あんな急に帰ったら気になるじゃないか。如何したんだ?」
波紋を広げると、目の前に銀騎獅が坐っていた。
傷だらけの半身が目に入り、痛々しい。少し丸められた背も拍車を掛けた。
―噫然ウダッタノカ、其ハ済マナカッタナ。折角母ニ逢ッタト言ウノニ。―
「いや、気にしないでくれ。母さんには何時でも逢えるんだから。其よりも先は・・・その、」
不完全燃焼と言うか何と言うか、
銀騎獅が捜していると言っていた女性、元の世界で彼と一緒に居たのは、ヲルだったのではないかと淡い期待を寄せたのに。
もう一歩、と言う所で途切れてしまった・・・其が遣る瀬無い。
彼に自分は希望を与えてしまった。其の結果が此だなんて。
・・・矢っ張りヲルに一度ちゃんと聞いてみる可きだったか。彼には悪いことをしてしまった。
如何切り出そうか考えあぐねていたが、此方を見遣る彼の瞳は不思議と穏やかだった。
―セレヨ、彼女ニ逢ワセテクレテ感謝スル、本当ニ。―
「でも、御前の捜していた奴じゃあなかったんだろう。」
彼は緩りと瞬きを繰り返した。
―ン・・・噫、言葉ガ足ラズ済マナカッタナ。未ダ私自身気持ノ整理ガ付イテイナクテ、考エタクテ彼女ノ元ヲ去ッタノダ。―
「考えたい事、か?」
―噫然ウダ。然ウカ、ダカラ貴殿ハソンナ風ニ・・・顔ヲ上ゲテクレ。私ハ、今、非常ニ嬉シイノダヨ。―
「ん、嬉しいって如何言う事だ?」
思わず顔を上げた。彼の言葉は何処か薫風の様に軽くて、優しく感じた。
―彼女、ヲルハ・・・正ニ、私ガ捜シテイタ方ダ。間違イナイ。―
「そ、然うなのか⁉母さんが!」
信じられなくてつい声が大きくなってしまう。まさか・・・いや、然うだったのか。
―噫、彼女ニ逢ッテ確信シタ。御蔭デ私ハ色々懐イ出セタヨ。ダカラ今、其ノ事ニツイテ考エテイタノダ。・・・良カッタラ聞イテクレルカ?―
「あ、噫勿論、聞かせてくれるのなら。」
―有難ウ、小サキ友ヨ。私の此ノ姿モ、彼女ノ姿モ、実ハ案外元ノ姿ヲ模シテイタノダ。ヤット私ハ、本来ノ姿ヲ懐イ出セタ。・・・私ハ、騎士ダッタノダ。―
「騎士、其って甲冑を着た様なか?」
―其ノ通リダ。丁度此ノ半身ノ様ニ、銀ノ鎧ヲ常ニ着テイタ。其ハ一人ノ女性ヲ護ル為ダッタノダ。―
「其の相手が・・・ヲル、母さんだと。」
彼の輝く銀の半身、其は確かに鎧の様には見える。
然うか、忘れていた丈で姿は影響を受けるのか。
―然ウ、彼女ハ・・・姫君ダ。彼ノ銀ノティアラ、彼ガ正シク姫タル証。私達ノ世界デハ、銀ハ至高ノ証ダッタノダ。―
「姫⁉そ、そんな凄い奴だったのか・・・。」
確かに高貴の生まれの様な雰囲気は感じてはいたが・・・。
そんな、自分は・・・姫様に育てられたのか⁉
―・・・其の割にはがさつに育ったな。―
煩い闇の神。
あんな前世で上品に育つ訳がないだろう!
―然ウダナ、話ヲスルノモ心構エガ必要ダッタ・・・・噫、色々ト、懐イ出スナ・・・。―
彼は暫し目を閉じた。
そんな色々懐い出したら混乱もするだろう。
緩り時間をあげよう、彼にとって何より大切な記憶なのだから。
―姫ハ・・・素晴シイ方ダッタヨ。多クノ者ヲ助ケ、導イタ。聡明デ、全テヲ愛ス様ナ方ダ。―
「・・・私なんかの世話をするんだから、今も然うだろうな。」
―・・・恐ラクガイハ、元ノ姿ト変ワル丈デ、心ハ其ノ儘ナノカモ知レナイ。―
「御前に記憶が戻った様にか。」
躯と記憶と心が、自分が知るのと似た概念であればだけれども。
―然ウ・・・ダナ。噫、懐イ出ス程ニ、彼女ハ正シク姫ダ。マサカ、同ジ世界ニ居タトハ。―
「取り敢えず懐い出せた事と、其の姫を見付けられたのは・・・良かった、事だとは思うが、」
其でも、何とも言えない自分がいた。
自分が思った通り、ヲルと銀騎獅は同じ世界から来たガイだった。
ずっと、ずっと彼は捜していたんだろう。其を見付けられたのに。
何とも言えない蟠りが此の胸にある。
本当に良かったって、心から言えない様な、そんな蟠りが。
嬉しいって彼は言ってくれたけれども果たして、本当に此で良かったのかと。
捜していた相手が憶えていなかったなんてそんな・・・其なら、そんな結末なら、捜し続けていた時の方が希望があったのではないかと思えてしまう。
―・・・?何ヲソンナニ気ニ病ンデイルノダ、セレヨ。貴殿ノ御蔭デ、私ハヤット捜シ者ガ見付ケラレタ。ガイニトッテ、其ハトンデモナイ幸運ダ。本当ナラ・・・彼女ガガイニナッテシマウ前ニ見付ケテアゲラレタラ良カッタガ、其デモ・・・良カッタ、見付ケラレテ。―
「然うは言っても、母さんは御前の事・・・憶えていないって言っていたじゃないか。御前はこんなに捜していたのに、自分の事、前の事を忘れられるなんて。」
自分だったら、何程辛いだろうか。忘れられるなんて・・・そんなの、認めたくない、信じられないだろう。
其の記憶を共有出来なかったら、本当に寂しい事だから。
―・・・別ニ、其ノ事ハ二ノ次ダヨ。今ハ只、逢エテ良カッタト心カラ思ウ。彼女ガ生キテ、存在シテ良カッタ。其ニ楽シソウニシテイタカラ・・・此以上ノ事ハナイ。―
力強くはっきりと然う彼は言っていた。
其はもう、疑い様のない本心だ。然うはっきりと伝わって来て、
其の悍さに自分はすっかり目を奪われていた。
彼の言葉は全て彼女の為。
只彼女を案じ、捜していた。純粋な懐いが其処にある。
羨んでしまう程に美しい懐いだ。
・・・自分にはない、絶対届かない形。
「御前は本当に。ヲルの事が大切だったんだな。そんな風に懐えるなんて、素敵だと思うよ。」
―何ヲ言ウ。セレ、貴殿ノ御蔭ダ。貴殿ト過ゴス事デ彼女ハアンナ楽シソウニ生キラレタノダ。ガイデ、アンナ幸セソウナ者ハ初メテ見タ。本当ニ良カッタ。彼女ノ傍ニ居テクレテ有難ウ。―
「私は育てられた側だから寧ろ礼を言う側なんだが・・・。」
自分自身は何もしていない、彼女の御蔭で自分も在る。
でも、互いが互いの助けになったのなら・・・嬉しいな。
銀騎獅は何処か嬉しそうに口を開いた。
表情は分かり難いが、雰囲気と言うか伝わって来る。
―私モ、時々彼女ニ逢オウ、ガイトシテノ、ヲルトシテノ彼女ト話ヲシテミタイ。―
「噫、然うしてやってくれ。ずっと彼処に居るのは退屈だろうし。」
友が出来るのは良い事だろう。其に彼と話していたらヲルも、何か懐い出すかも知れない。
其が良い事か如何かは今ははっきりしないが、其でも繋がれるのなら、
「然う言えば母さんの姫の話しか出ないが、御前は如何だったんだ?」
―ン?私ノ事カ?―
「噫、騎士、だったんだよな。ずっと母さんを護っていたのか?」
彼女を懐うのも良いけれど、だからって自分を蔑ろにしてはいけないだろう。
もっと彼の事を知りたいと言うのは自分も同じだ。
―然ウダナ、一応私ハ一級騎士トシテ何百年モ仕エテイタ。何時モ傍ニ置イテ貰ッテ、ズット・・・見護ッテイタ。―
「何百って・・・そんな付き合いがあったのか。だったら・・・、」
猶の事、忘れられたのはショックじゃないか・・・。
まぁ忘れたと言うより、自身の姿も分かっていないのだ。だからヲル自身も不憫にも見えて。
―・・・記憶ノ方ナラ、一応望ミハアル。―
じっと銀騎獅は自分の瞳を真正面から見詰めていた。
―彼女ハ私ノ事ヲ騎士ト呼ンデクレタ。ダカラ若シカシタラ、記憶ノ根底ニアルノカモ知レナイナ。其ニ忘レテイテモ彼女ハ彼女ダ。ダカラ、問題ナイ。―
「然う・・・か。御前はそんな風に捉えるか。でも確かに然うだな。御前だって懐い出せたんだ。時間はあるし・・・母さんも懐い出せるかもな。」
確かに彼女は騎士と、銀騎獅の事を呼んでいた。
其に僅かでも可能性があるのなら。
・・・悪くは、ないのかも知れないな。
―改メテ、礼ヲ言オウセレ、貴殿ノ御蔭ダ。今回ハ私ガ恩ヲ返スツモリガ、反対ニ又、助ケラレタナ。―
「そんな、礼を言われる事じゃあないだろう、偶々だ。其に私も、母さんと御前が繋がっていて良かったよ。」
不図銀騎獅は己の背を少し噛み、一枚の甲を引き抜いた。
銀色に輝く其には傷一つなく、一抱え程の大きさだ。
其を銜えて彼は自分へと寄せた。
そっと両手を出して受け取ったが・・・此は一体、
鏡の様に反射するので、しっかり自分の顔が写ってしまう。
―良カッタラ、其ヲ持ッテ置イテクレ。其ガアレバ、私ハ貴殿ノ所ヘ直グ向カエル。何カ困ッタ時ニテレパシーデモクレレバ、直グ駆ケ付ケヨウ。―
「そ、其は有難いけれども。」
ガイの甲って・・・何だか凄く貴重品っぽいな。
何だか一寸不思議な魔力も感じるし、気になる。
Aに渡したら反応凄そうだなぁ・・・まぁあげる気はないけれども。
流石に彼奴もガイの知識はそんな無いだろう。
あ、でも自分もガイの生態は知りたいと言うか・・・ガイになりたい訳じゃないけれど、色々学べそうだ。
―後、貴殿ハ今後モ何カト私達、ガイト繋ガリソウナ予感ガシテナ。貴殿ハ物怖ジシナイシ・・・。―
「まぁ会えたら話とかはしてみたいな。」
―フム、矢張リ然ウダナ。デハ此ノ甲ハシッカリ持ッテ置クト良イ。仲間ノ気配ヲ感ジレバ、彼等モ落チ着クダロウ。―
「成程、其は有難いな。大事に使わせて貰おう。・・・でも、矢張り斯う言う物がないとガイに会うのは厳しいのか?」
―然ウダナ。迫害サレテ来タ者モ少ナクナイ。ダカラ近付ク者ハ全テ敵ダト思ウ者モ居ルノダ。反対ニ異常ニ怯エテシマウ者モ居ル。然ウ言ウ者ト会ウ時ニハ役ニ立ツダロウ。―
然うか・・・其も然うだな。
前世の自分が正に其だ。彼の頃は正に近付く奴は皆敵だった。
だから話す間もなく攻撃を加える事はあるだろう。
怯えると言うのも、寧ろ話し掛けられた方が不気味に写るだろうし、分からなくはない。
ガイと接点を持つと言うのは生半可な事じゃあないんだな。
―其ト・・・ガイノ中ニハ非常ニ危険ナ奴モ居ル。誰彼構ワズ暴レテシマウ凶暴ナ奴ダ。ダカラ良ク良ク気ヲ付ケルノダゾ。然ウ言ウ輩カラハ直グ逃ゲル事ダ。―
「噫、分かっている。然うなってしまう奴も当然出て来るよな。十分気を付けよう。」
狂ってしまうと言うか、不老なんだし然うなってもおかしくはない。
意思疎通出来るヲルや銀騎獅みたいなのが寧ろレアなのだろう。
―後、会イタイカラト言ッテ、カナタニハ出ナイ様ニ。彼処ハ確カニ先ノ鏡界ヤ此処ト多少似テハイルガ、其デモズット危険ナ所ダ。間違ッテモ行ッテハナラナイ。―
「勿論だ。自分がガイになってしまったら世話無いしな。」
・・・何だか、カレンが過保護と言った理由が分かって来た様な。
一つ一つ丁寧に注意されてしまう。彼女と戦っているのを見て、悟らせてしまったのかも知れない。
此奴はちゃんと言って聞かせないと無茶をしてしまうと。
―・・・良シ、其ナラ大丈夫然ウダナ。私ハ少シ、考エ事ヲシヨウ。又色々ト懐イ出シタラ話ニ付キ合ッテクレルカ?―
「噫、何時でも呼んでくれ。店に遊びに来ても良いし。」
銀騎獅は大きく何度も頷いた。
何だか彼が前より生き生きしている様に見える。
うん、良い事だ。彼が満足し、願いを果たせたのなら。
―然ウサセテ貰オウ、デハナ、セレ。次ニ会ウ時ヲ楽シミニシテイルゾ。・・・カレンの事モ、頼ンダゾ。―
然う言い背を向けると銀騎獅は何処かへと駆けて行った。
其の姿は直ぐ見えなくなる。若しかしたらカナタに行ったのだろうか、不思議な揺らぎが見えたが。
彼も昔の事を懐い出せたのなら、元の世界を見付けられるかも知れないな。
外の世界の話も聞いてみたいし・・・うん、自分も楽しみにして置こう。
―・・・彼のガイ、前と随分変わったな。―
「噫、丗闇も然う思うか?懐い出せたからか、元気になったな。」
―・・・いや、其とは少し違うが、前我が見たのと本当に同じガイか?―
「ん、如何言う事なんだ丗闇。」
何だか随分引っ掛かっている様だ。考え込んでいる様な気配がする。
―ガイは本来、避けられる存在だ。だから我等は本来奴等を感じれば感覚的に分かる筈なんだが。―
「然う言えば言っていたな。私は元より分かっていないから何とも言えないけれども・・・。」
銀騎獅と初めて会った時もそんな事を言っていたな。自分が普通にしていたから不思議がられていた。
華が枯れたり、獣が逃げるとも言っていたし、只避けられるのとは違うらしいけれど。
「じゃあ今回、銀騎獅からは其を感じなかったと?」
―然うだ。前は確かに感じていたのに。今は普通だった。彼の女が奴と共に居たのも妙だと思ったが、今の彼奴であれば納得だ。―
「何か心境の変化とかがあったのかもな。」
―・・・心境の変化如きで体質は変わらないと思うが。―
「然うは言っても若しかしたら私みたいに干渉力とか持っているのかも知れないぞ。ガイの事は良く知らないしな。」
―なくはないが・・・。―
如何も腑に落ちないらしい。彼女は徹底的に追求したい質だしな。
「因みに母さんは如何なんだ?丗闇は何か感じるのか?」
―我も其が気になっていたのだ。彼のガイからは・・・殆ど感じなかった。―
「ふーん、じゃあ慣れとかじゃないか?ガイが変わったんじゃなくて、丗闇が変わったとか。」
―我が・・・変わっただと?―
酷く驚いた様な返しが来た。そんな変な事を言ったつもりはないけれども。
―・・・・・。―
「あ、あの丗闇さん?」
何だか沈黙が痛い。すっかり考察モードに入ってしまった様だ。
まぁ其は今に始まった事じゃあないし、別に良いか。
―・・・其だと矢張りおかしな点が・・・いや、今は止そう。何でもない。―
「何でもなくはなさそうだけど、まぁ取り敢えずは分かった。」
一応彼女が納得してくれたら良いか。
其じゃあカレンの事も頼まれたし、自分は店に戻るとしようか。
彼女の様子ならもうちゃっちゃと自己紹介なりすましてくれてそうだしな。
・・・・・
「・・・・・。」
店に戻って来たが、店が遥か先に見える所でセレの足は止まっていた。
何かが見える。店の前に何かが居る。
そして其の何かに随分と神集りが出来ている様だ。
勿論其の神集りは店の仲間達だった訳だが・・・。
・・・彼は一体如何なっているんだろうな。
考えても仕方ないので急ぎセレも駆け寄った。
「キュ、キュムシュリ。」
逸早く気付いたレインが自分に擦り寄って来る。
何か自分に助けを求める様に頭を擦り付けて来る。
「あ、セレちゃん御帰り!」
「セレ、戻って来た!ネ、見て此、風船みたい!」
「あ、噫、此は一体如何したんだ?」
神集りが出来るのも当然だろう。店の前に、丸々とした皓い塊があれば。
風船とZ1-Θは言ったが確かに其っぽい。伸ばした触手で彼は其の塊を突いた。
でも其の塊の正体は・・・、
「あらセレ神さん御戻りになったんですわね。」
先聞いたのより随分低くなってはいたが、其は紛れもなくカレンの物だった。
然う、帰ってみればカレンは店程大きい塊へと変貌してしまっていたのだ。
此は単純に大きくなったと言うより・・・太った?腹部丈一気に肥大化している様な・・・。
腹が大き過ぎる所為で眼下に居る自分が良く見えないらしく、御中を抱えてカレンは何とか上体を起こした。
間違いなく彼女なんだが、明らかに急変している。一体如何してしまったと言うのだろう、此だと店にも入れないぞ。
「カレン、大丈夫か?何があったんだ行き成りこんな、」
「何か土食べたら大きくなったよ!僕も食べたら大きくなれるかなぁ。」
―恐らく壊れちゃうので止めた方が良いですよ。―
Z1-Θの上でL⊝ ▼▲/が塒を巻く。素晴しいモフモフだ。
でも土?戦い中も食べていたが、大きくはならなかったぞ?
「実は一寸此処の土が余りにも美味し過ぎて・・・食べ過ぎてしまいましたわ。」
食べ過ぎ⁉え、じゃあ其の腹の中は全部土なのか⁉
まさか暴食でこんな事になったとは思わなかったので只々驚く許りである。
あ、でも・・・波紋で少し丈見える、確かに不自然な穴が。
彼全部食べたと言う事か⁉いや、まぁ其丈食べたらそんな躯になるか・・・。
「美味しかったのは良かったが、その、大丈夫か体調とかは。」
今にも破裂しそうである。と言うか許容範囲を軽く超えてないのか?
「えぇ頗る元気ですわよ!あ、若しかして店に入りますの?」
「まぁ中で話でもしようと思ったが、別に此の儘でも良いぞ。」
そうか、そんなに大きくなってしまうなら部屋は大きい方が良いだろうか、巧にも連絡しないとな。
「大丈夫でしてよ!直ぐ元に戻りますわ!」
言うや否や、彼女がポンと両手で腹を叩くと、見る間に其の腹は小さくなり、何時もの細身の彼女に戻った。
「え、凄い!まるで手品だよ!」
「うむ、此なら入れそうなのだ。」
彼女を中心に輪が出来るが・・・うん、上手く馴染めそうだな。
「早食いはコチ得意ですわ。一族の特技でしてよ!」
「消化迄を早食いのカテゴリに入れた奴は初めて見たけれどな。」
颯爽と彼女は店へ入って行く。生き残った丈あって逞しいな。
皆が店に入るとレインは店を持ち上げて移動し始めた。
「あ、セレ御帰り。新神連れて来てくれたんだな。今茶とか準備してたんだけど。」
「噫ガルダ有難う。今居る奴丈でも話をするか。」
ガルダとスーが盆に茶を乗せて持って来てくれた。
テーブルに広げて銘々が席に着く。・・・ハリー丈は苦戦中だ。
「さてと、じゃあ軽くしか聞いていないし、自己紹介でも御願いしようかな。」
「えぇ勿論ですわ。コチはカレン=KGNと申しますの。此処へは銀騎獅さんが推薦してくれましたわ。」
「銀騎獅って確かセレの知り合いのガイ、なんだっけ。」
「噫、彼女が棲んでいた村がライネス国に襲われたらしくてな。其処で銀騎獅が彼女を助けたんだ。」
「ふーん・・・ライネス国か。彼処然う言うの好きだなぁ・・・。」
皆が順々に自己紹介する中、そっとガルダと話したが、彼は感慨深そうに何度も頷いた。
「色々と大変だったんだな。俺はガルダリューだ。一応此の店の家主だな、宜しく。」
「えぇ、宜しく御願いしますわ。」
にっこりと微笑する彼女に、ガルダも優しく笑い返した。
「コチは戦闘に自信がありますの。だから荒事は任せて欲しいですわ。」
「噫然うだな。一回私と手合わせしたが、中々勁かったぞ。」
「戦えるの、凄い!僕もやってみたい!」
「凄く心強いね。次の次元、一緒に行ってみようよ!」
「うむ、我も行くのだ。先輩の凄さを見せるのだ!」
ドレミが声を掛けると直ぐハリーは乗って来た。何やらライバル心を持っているらしい。
そんなハリーをそっとL⊝ ▼▲/が支えて何とか彼を椅子に座らせる。
其の細長い体を生かしてサポートした様だが上手いな・・・流れる様に座らせていた。
「カ、カレンさんは一体如何戦うんですか・・・?」
見た所武器らしい武器も見えないし、気になる所だろう。まさかもう見せているなんて思うまい。
「コチは此の髪が武器になりますわ。」
言うや否や彼女の髪が一気に逆立った。
鋭い針が瞬く間に伸びてつい目を奪われる。
隣に座っていたドレミも驚いてつい立ち上がった。
「ちょ、ちょちょカレンちゃん⁉何其⁉」
誰も怪我はしなかった様だが、此には可也驚かされるだろう。
彼女の反応を見てカレンは小さく吹き出していた。
「大丈夫ですわ、針は飛ばしません。でも此で理解頂けたでしょうか。」
「う、うんうん分かったよ。でも吃驚するから急にやらないでね。」
「凄いな。まるで針鼠みたいだ・・・。」
「針鼠⁉凄い!初めて見た!カレン、針鼠!」
「別にコチは針鼠とは違いますわよ。」
少し丈彼女は針を収めてくれたが、Z1-Θが彼女の背後に回って物珍しそうに其の先を見遣っていた。
触手で突いているが、何とも恐い物知らずである。カレンも彼の様な不可思議な存在が気になる様でじっと見詰めていた。
ハリーも気になっているのかうずうずしているが・・・止めた方が良い。怪我をするぞ絶対。
因みに言い出しっぺのスーはテーブルに隠れてしまった。分かってはいたが、如何して聞いたんだろうか。
「Z1-Θさん、でしたわね。何だか卵みたいで不思議ですわ。」
「僕はとっても硬いよ!」
「あら、コチの針と何方が堅いんでしょうね。」
「・・・此処は非戦闘領域だからな。」
店が壊れてしまうので争いは御法度だ。
「じゃあ部屋、造らないとな。希望とかってあるか?」
「希望って・・・えっと・・・急に振られると難しいですわね。空き部屋で構いませんけど。」
「いや、しっかり言って置いた方が良いぞ。洞窟とか瀛海とか空山とか何でも叶うんだぞ。」
「何でチョイスが全部アウトドアなんだよ・・・。」
「ぬ、でも我は高原なのだ。」
―私も瀛海が見える丘にして貰いましたよ。―
「う、うーん・・・おかしいのは俺の方なのか?」
「家主がおかしいって其こそ意味が分からなくなっちゃうよ・・・。」
「・・・洞窟、」
盛り上がって来た所で不意にそんな呟きが聞えた。
見ればカレンは目を輝かせている。・・・ん?
「如何したカレン、希望が見付かったか?」
「・・・っえぇ!此処って本当に洞窟があるんですの⁉」
「・・・ほら。セレが変な事言ったからもう真面な部屋じゃなくなったぞ。」
「いやガルダ、其の偏見は失礼だぞ。若しかしたら洞窟が一般的なのかも知れないぞ。」
「流石に其はないんじゃないかなセレちゃん。」
「兎も角、希望さえあれば洞窟にも出来るぞ。巧なら屹度やってくれるだろう。」
「まぁ多分無理じゃあないだろうな・・・。」
「じゃあ其にしますわ!」
随分乗る気である。此は早く巧に連絡しないとな。
―巧、今良いか?一つ部屋を造りたいんだが。―
―お!セレ氏、其の節は如何も~。良いっすよ、どんなの所望です?―
―洞窟を造りたいんだが。―
―・・・ブフッ⁉―
「じゃあ早速巧に声掛けようかな・・・ってあれ、若しかしてセレもうやってるか?」
「ん、噫、洞窟が欲しいって頼んでみた。」
「随分大胆な依頼だなぁ・・・。」
「あれ・・・え、洞窟って貰う物ですの?」
カレンは状況が呑み込めずに一柱首を傾げていた。
其の声と同時に蛍ノ鈴が鳴り響き、来客を告げる。
「ちーっす!セレ氏!早速来たっすよー!」
やって来たのは巧だった。早い、早過ぎる。
「偉く早いな、そんなに造りたかったのか?」
「其もあるっすけど、前話してた鞍丁度出来たんすよ!其持って来ましたっす。」
「ん・・・ん?えっと・・・確か霧のさざめきだっけ・・・。」
若干其の時の記憶は怪しい・・・でもそんな話した様な、
「然うっすよ。進化した家も見たかったし、丁度良かったっす。鞍の方は先に土師が外でやってるっすよ。」
「噫、其は有難いな。助かる。」
鞍って彼か、レインのか。何だか段々懐い出して来た。
然うだ、レインが家を持ち上げ易い様頼んでたんだった。出来たって、採寸とかせずに作ったのだろうか。
其も気になるが、先はカレンだな。
「カレン、紹介して置こう。彼は巧、御前の部屋を造ってくれる職神だ。」
「T&Tの巧っす、宜しくっす。」
「え、えぇ宜しく御願いしますわ。」
言われるが儘にカレンは席を立って一歩下がり、礼をした。
只未だ釈然としないのだろう、今から何が起こるのか良く分からないのだ。
「ア、僕の部屋造ってくれた神だ!ワーイ!」
―私の部屋も有難う御座いました。―
「・・・何だか随分と・・・まるで専属ですわね。」
「まぁそんな物だ。早速部屋の話だな。」
「然うっすよ。さぁカレン氏、仮で幾つか持って来たんで見て欲しいっす。」
「わ、分かりましたわ。」
此は一寸面白そうな香がする・・・様子を見てみようか。
「じゃあ先ずは此方の扉っすね。」
巧が時空の穴から木材等々を取り出し、あっと言う間に扉を一つ拵えてしまう。
そして其の扉を開けると輝かしい曦が飛び込んで来た。
一体何事かと目を凝らすが、如何やら其は水精の様だった。
然う、扉の先は無限に続くと思われる水精洞窟だったのだ。
黔々とした洞窟だが、壁中にある大きな水精が部屋の曦を反射している様で異様に眩しい。
一抱えはありそうな水精がごろごろとあるが、彼女は如何思うだろうか。
「うーん・・・悪くはないですけど、一寸微妙ですわね。眩し過ぎますわ。」
「確かに。」
其には激しく同意する。
何と言うか落ち着かない。綺麗だけれども。
「其にこんな水精許りだと御中壊しますわ。胃が凭れてしまいますの。」
「然う言う物なんだな。」
彼女の食性を知れるのは良いが、水精、まぁ確かに硬くて食べ難そうではある。
でも腹が凭れるか・・・何となく透明感があるから味は軽そうだが、密度が濃いとかそんな所だろうか。
「んーじゃ次は此っすね。」
あっさり扉を閉めると巧は次の柱を取り出した。
一部を付け替える丈で良いらしい。手品みたいで見ていて面白い。
次に彼が扉を開けると真っ先に熔岩が目に飛び込んだ。
何とも熱そうである。いや、流れて来る熱気は余りにも熱い。
紫色の複数の穴を持つ洞窟の様だ。上下左右と小さな穴が幾つもある。
其の穴の一つから何やら小さな蜥蜴が顔を出していた。
「うわっ・・・何だ此熔岩?とんでもない所に繋がってるな。」
ちらと扉の先を見て思わずガルダは数歩下がった。
洞窟の所々に出来た窪みに溜まった熔岩が時折ぼこりと泡を立てる。
「んん・・・土は美味しそうですけど、流石に此は暑いですわね。」
少し丈手で土を掻き、一口カレンは口に含んでみた。
「美味しい、ですけど危ないですわね。次のを御願いしますわ。」
「了解っす、一寸待ってくださいっす。」
「因みにどんな風に美味しいんだ?」
「どんな風って難しいですわね。しっとりと甘みがあって、後からピリッとスパイシーな刺激が来るんですの。」
「成程、中々興味深い食レポだな。」
「ってセレ!何勝手に其連れて来てんだ⁉」
見るとセレの手には小さな蜥蜴が乗っていた。
5cm程の尾が異様に長い鮮やかな橙色の蜥蜴だ。
居心地良さそうにしているけれど此って・・・、
「ん、いや先の洞窟に居たから連れて来たんだ。」
「其どっかの次元の奴だろ、駄目だって持って帰っちゃあ。」
「・・・セレ神さんってそんなホイホイ持って帰ってしまうんですの?」
其にしても、取ってる所全く気付きませんでしたわ、とカレンは目を瞬いた。
「でも此の子は龍族だぞ。焔蜥精っていう火の蜥蜴だ。」
リンクが取れていたかは分からないが、此でもう大丈夫だろう。
熔岩の中に棲む蜥蜴だな。ポカポカしていて気持良い。
「そ、然うなんだ。でも其如何するんだ?」
「・・・・・。」
そっと手の中に焔蜥精を包んだ儘セレは火鼠達の居る暖炉へ近寄った。
そして彼等の作る焔の中に彼を放す。
「良し、此で良いな。」
「いや良くないよ⁉」
何勝手に棲まわせているんだ!と思いつつもあっと言う間に焔蜥精は火鼠達の中に混ざってしまって馴染んでしまった様に見える。
・・・何か、何だかなぁ。
「じゃあ次は此で如何ですかぁ!」
こんな騒動が起きていたのに巧は作業を続けていたらしい、流石巧だ。
次に現れた洞窟は・・・と言うより水だ、水が真先に目に入った。
此は・・・海底洞窟みたいだな?扉の先は直ぐ穴になっており、水がしっかり張っている。
「此は泳がないと入れませんの?」
「そっすよ。数㎞続く海底洞窟っす。冷たくて良いっすよ。」
「岩は美味しいですが、流石に棲めませんわね。水中は無理ですわ。」
「然うですかぁ・・・分かりました。次行きましょ!」
「因みに今度のはどんな味なんだ?」
「塩分があるのか、程よく塩気があって良いアクセントになってますわ!気軽に食べられますの。」
「・・・此、物件見てるんだよな?」
自分の知る内見と偉く違って来たので流石に気になって来たガルダである。
其にしても巧は凄いな。こんなに良く候補が出て来る物だ。
「ほい!次は此っす。」
「相変わらず早いな。ん、此はTHE洞窟って感じか。」
次の洞窟は正に分かり易い物だった。
蒼い土で出来た洞窟がずっと先迄続いている。
波紋でも中々長い。随分大きな洞窟だな。
「こ、此はっ!」
カレンが目を輝かせ、入り口近くの土を齧ってみた。
齧った直後、其の場所が仄かに蒼皓く光って思わず引いてしまう。
彼女は良く躊躇なく食べられるな・・・此の土、得体が知れないぞ。
と言うより光る物を食べようとは思わないな・・・。
「・・・如何だカレン、其の土は。」
「滅茶苦茶美味しいですっ‼はぁあぁ!幾らでも行けます!」
「じゃ、此の部屋で良いっすかね。」
「えぇ!大変気に入りましたわ!」
「・・・此、内見なんだよな。」
「ククッ、此だと完全に試食会だな。」
カレンは両手を頬に当て、何とも幸せそうに目を輝かせていた。
そんなに食べ物で幸せになれるなら良いんじゃないだろうか。
部屋と言って良いのかは置いといて、彼女が満足しているなら良いだろう。
「じゃ、後は細々としたのを調整しますか。」
「えぇ、御願いしますわ!」
カレンは一度手を振ると、ずんずんと洞窟を進んで行った。
・・・うん、もう此方は大丈夫そうだな。後はレインか。
「キュムリン!」
そっと窓を開けてみると、直ぐレインが顔を覗かせた。
「レイン、鞍、もう付けて貰ったのか?」
「キュ、キュキュ!」
何だか心做し嬉しそうだ。随分身をくねらせているが、此はもう装着されたのかな。
波紋を広げると、店の下に何やら大きな革の板の様な物が付いている。
恐らく此だな。レインは此を見せようと先から躯を動かしている様だ。
見えてはいるんだが・・・外でちゃんと見てやろうか。
扉を開けると、直ぐレインは身を震わせる。そして段々の様な物が形成されて行ったのだ。
此は階段のつもりか?何て器用なんだ。
レインの階段を下りて振り返ると、待っていましたと許りに彼女は背を伸ばす。
此のポーズが彼女にとって決まってるポーズなのだろうか。
鞍に触れてみたが・・・うん、中々の手触りだ。此なら痛くなさそうだな。
「如何だレイン、付け心地は良いか?」
「キュキュキュ!キュームル!」
元気良く瓊を回している。此の様子は随分と気に入ってくれた様だな。
「土師、有難うな。レインも嬉しそうだ。」
外に居た土師に声を掛けるが相変わらず彼は無口だ。
彼もじっとレインを見ていた様だが、納得はした様で頻りに頷いている。
「セレ神さん!」
大声と共に大きく扉を開けてカレンが出て来た。
肩で息をしている様だが、一体何処迄洞窟を進んだんだろうか。
「仕事には何時頃行くんですの!コチは今頗る調子が良くってですよ!」
「ん、然うだな。じゃあ皆の準備が出来次第直ぐに行こうか。」
「えぇ、楽しみにしていますわ!」
元気一杯に快活に笑う彼女についセレは目を細めた。
此は又、一段と賑やかになりそうだ。
「其じゃあ此から宜しくな、カレン。」
「フフ、共に頑張りましょうねセレ神さん。」
何処迄も鋭く貫く様な瞳が、気付けば優しく丸められて。
不図、波紋の端で銀色の流れ星が静かに瞬いているのが見えた。
・・・・・
銀の貴方を見付けました
遥か流れ着いた世界で
彼の頃の姿とは掛け離れましたが
私の鎧も半分疵に覆われましたが
銀の輝きは今も変わらず同じでしょう
私は貴方の騎士でした、其でも今の貴方が望むなら、
どうぞ揺蕩う虚無の果て、彼の者を護ると誓いましょう
仲間が増えました!イェイ!
此の子は完全新キャラです、リメイク前では別の子でしたが、幼き日の創作だった為、完全にある作品の二次創作っぽくなっていたのでさようなら。
個人的に結構気に入っている子です、まぁ気に入っていなかったら本編に出られないからね!
武闘家針鼠は需要あるでしょうか、最近卵とか蛇とか仲間になっていたのでスタイル抜群な子にしましたよ!(然うではない)
他にはガイ関連ストーリーが進みましたね。もう一寸焦らそうかとも思いましたが、物語が渋滞を起こしているので詰め込んでみました。
銀騎獅とヲルが繋がっていたのは初見でも分かるかも知れません。白地に銀色だったからね、仕方ないね。
此の世界の事でも手一杯でしょうが、物語は広がって行く物なので彼等の交流も書きたかったんですよね。思ったよりあっさり目になりましたが、実際は斯う言う物かもなぁと最近思う事があったので納得はしています。
セレに強力な仲間が出来たので良い具合ですね。そろそろ刃もしっかり尖れたんじゃないかな?
・・・さてさてそんな不穏な話は置いて置いて、次は翠豊かな次元の御話です!
とっても平和そうですね!其では御縁がありましたら又御会いしましょう!




