55次元 丗の意思ト神の遺志詠われし先は交われどⅡ
さぁバトルバトルバトルな後半戦!
特にラストのバトルは結構意外性があるかも知れません。書いていて滅茶苦茶楽しかったので。
今回は龍が沢山出ますが、相手になると矢っ張り厄介なんですね。
突然降って湧いた世界の危機に、如何立ち向かうか・・・書いている最中自分もハラハラでした、其の感覚を一緒に体感出来たらと思います!
「・・・おー派手にやってるね。」
枴に跨って飃は燃えている街を見下ろした。
先刻迄屹度綺麗な街だっただろうに、見事に破壊されてしまっている。
此が龍の仕業なら、龍も魔物と変わらないじゃないか。
化物も皆如何して誰かから奪うのが好きなんだろう。
見ていると自然と口端が上がる、でも瞳は鋭さを増して行って。
赦せない、然うでしょ?こんな事する権利なんて誰にも無いじゃないか。
矢っ張りこんな事する奴は殺すしかないと僕は思うけどね。
今は反省しているとか、罪滅ぼしをしているとかもさ、関係ないよ。
僕達が持ってしまった此の怨みを、如何して皆当たり前の顔して呑み込めるんだ。
僕には出来ない、復讐して同じ目に遭わせないと。
じゃないと、死んで行った奴等が報われないじゃないか。
其の為に僕は殺す。化物も皆、理不尽を振り撒く奴は殺してやる。
彼の化け物だって、昔は色々された然うだけど、今では立派な加害者側だよ。今更人喰い如きで迷っている方が意外だった。
一丁前に仲間の前では良い神振ってるのか・・・僕には良く分からないね。
裏であんなに殺している癖に。既にもう其の時点で彼奴は相当狂ってるよ。
だからあんな普通の振りをするのが逆に不気味だけどね・・・何か、企んでいるみたいで。
まぁ良いよ。今は化物より龍退治だ。
此の街はもう駄目然うだけど、龍は色んな所へ行けるし、一寸でも止めないと。
獲物を捜して枴を走らせていると何人か生き残りらしき人は見えた。
まぁ彼なら放って置いても火事だとかには巻き込まれないだろうけど。
見るからに、急に襲われたって感じだね。確かにギルドとかあっても此じゃあ厳しいな。
異次元、とか。想像も出来ないし、未知の魔物となると苦労する。
一寸ギルドの事を懐かしむ、楓夏が居ればこんな時一緒に対応していたけど。
・・・うん、懐かしむ事が出来る程度には僕も、落ち着けてはいるのかもね。
まぁ其の分殺意も沸くけど。矢っ張り彼奴は生かして置けない。
―活きの良い餌、見付けた!―
突如街を包む焔の中から大きな影が飃目掛けて飛び掛かって来た。
「へぇ、其方から来てくれるなら楽で良いや。」
久し振りに暴れられそうだ。
烈風を纏わせて一気に飃は加速する。
そして突進を避け際に朏の刃を大量にばら撒いた。
まぁ此に当たって死んじゃったら其は別に正当防衛でしょ。
加減なんて殆どしないよ。そんなので此方が怪我したら馬鹿らしいし。
飃の撒いたトラップに其は真っ向から突っ込んだ。
だが凱風は直ぐに落ち着いてしまう。全くの手応えの無さに飃は一つ息を付いた。
ま、飛んで来たんだし耐性位はあるだろうね。
其の隙に時空の穴を開け、スカウターを取り出す。
情報は多い方が良い。此奴が何か調べて置こうか。
飃の前に現れたのは全長3m程の龍だった。
全身金属質っぽく、一見鉄の船の様だ。
蜥蜴っぽいけど目は無く、長く伸びた髭が前鰭の様に棚引いている。
躯の左右から尾に沿って鋭い刃が真直ぐ生え、尾が舵を切る様に高々と掲げられている。
・・・名はダダリスティ、うげ、同じ谺属性の龍か。
然も狂暴で、暴食、動く物を見ると直ぐ追い掛けて捕らえてしまう。
自身の周囲の凱風を止める力がある・・・此が一番厄介だね。
抵抗が無いからこそ、あんな速く飛び回れる訳か。
まぁ僕の事、餌って言っていたし・・・此奴普通に退治して良い気もするけど。
明らかに人間に害あるでしょ。幾ら死にたくってもこんな奴に貪り喰われるのは御免でしょ。
其にしても、見れば見る程僕と相性が悪い相手だ。然う言うのは一寸関わりたくないけれど。
―速い、面倒な・・・っ!未だ餌、ある!―
ダダリスティは空っぽの旻を噛み、鼻息を荒くした。
そして眼下の焔を見遣って舌舐りをする。
挨拶代わりとは言え、先の一撃がまるで効いていない様だ。
ふーん・・・碧樹とか細切れに出来る位の威力はあったのに、本当に無効化されているみたいだ。
其にしても僕を無視して見てるのってまさか、
ダダリスティは飃に一瞥呉れる事なく又地に向け突っ込んだ。
本当に、目の前にある奴しか見ていないらしい。目はないみたいだけど、面倒だな。
然も彼の先は・・・逃げ遅れた奴を目標にしたのか。
僕を無視するのは気に入らないね。せめて此方を向かせてやろうか。
凱風の刃を幾つも放って置く。
奴も速くはあるけど、未だ僕の方がずっと速い。
先回りした凱風は地面の瓦礫を派手に吹き飛ばした。
「コルルルルルフィオォオォオ‼」
ダダリスティが咆哮を上げて急ブレーキする。
其の眼下に居た人々も地面がぐらついたのか手を突いたりして体勢を崩していた。
「な、何だ此奴・・・、」
「うわっ、く、喰わないでっ‼」
目の前で吼えるダダリスティに足が震えて止まる。
確かに、彼じゃあ格好の餌だろうね。
「もう・・・足止めしてやったんだから早く逃げてよ。」
此の僕が人助けとか然うしないよ?
然うやってぼさっと突っ立たれたら、喰われたいのかって勘違いするじゃないか。
飃が近付くとダダリスティは今度は飃に向けて吼えた。
邪魔をされたのが酷く気に入らないのだろう。
「あ、有難う・・・、」
ダダリスティの視線が逸れたからだろう、街人達は何とか立ち上がると駆け出して行った。
うん、其で良い。礼とかこそばゆい物は良いから邪魔しないで欲しいな。
―邪魔する、嫌だ。御前から・・・喰う。―
「良いよ、掛かって来なよ。」
此は、説得とか無理でしょ。餌の話とか聞かないだろうし。
今が霄で本当良かった。此のステージは僕じゃないと務まらない。
枴を振るい、烈風を奴の辺りに手当たり次第にぶつけて行った。
其は瓦礫を舞い上げ、ダダリスティに激突する。
でも・・・矢張り凱風自体は直ぐ掻き消されてしまう様だ。目に分かる程不自然に無風になる。
見ていて気持悪い。バリアみたいに全身覆っている様だね。
其でも瓦礫を防ぐ事迄は出来ない。
無風になった丈で逆方向に凱風が出ている訳では無いのだ。勢いの儘に瓦礫が彼の全身を容赦なく打つ。
其でもダダリスティの甲には傷一つ付かなかった。見た目以上に堅そうだ。
無傷でもこんな風に攻撃されるのは気になるらしく、唸り声を上げてダダリスティは少し後退した。
でも此が効かないとばれると面倒そうだ。
凱風が効かないってのは・・・可也厄介だ。
自分の凱風なら、鋼位斬り裂ける自信がある。だから相手をそんなに選ばなかったけれど。
無効にする上に堅いとなると、正直考えたくないな。
「コルルルフィォオ!」
吼え声を上げ、ダダリスティは飃へ飛び掛かって来た。
相変わらずの一直線、躱す事自体は容易だけれども。
ギリギリの所で一気に旻へ逃れる。
追い付けずにダダリスティは民家に突っ込み、二軒程貫通して押し崩した。
其でも頭を一つ二つ振った程度で又浮かび上がる。
土埃に塗れてしまったが、其でも傷付いては無さそうだ。
「うわ・・・本当に堅いね。面倒だなぁ。」
如何しようか。此じゃあ自滅もしないだろうし。
こんな時は何時も楓夏に頼っていたけれども、態々一人で相手しないんだよね。
未だ試せる手はあるけど、痛いしなぁ・・・。
一寸考え込んでいるとそんな飃に向け、弾が何発が飛んで来た。
翠に輝く其はエネルギー弾の様で、一寸距離感が掴み難い。
枴を傾けて難なく躱すが、一体何処から来たんだろう。
もう一寸丈高度を上げてみる。
ダダリスティが又突っ込んで来そうだし、其迄に特定したいけど。
弾が来た方角に目を凝らすと、何やら灰色に輝く物が目に付いた。
砲台にも見えるけど・・・一寸違う様な。
遠くて此処からじゃあ見え難い。でも明らかに自分を狙っていたし、確かめて置こうか。
眼下のダダリスティが此方に向け顎門を開けたのを確認し、飃は其処へ向け一気に加速した。
凱風を纏って速く速く。
風切音に全ての音が奪われる程に。
近付く飃に向け、又何発か弾が迫る。
矢張り狙って撃ってるみたいだ。水を注すなんて良い度胸だ。
纏う凱風を勁めると、弾は勝手に逸れて行く。
自分が飛び易い様に前方へ突き抜ける様に放っている凱風に流されているのだ。
其の儘真直ぐ止まる事なく飃は其の砲台の傍迄詰め寄った。
此は・・・如何やら別の龍みたいだ。
其の姿は全長2m程、灰色の龍の落とし子に多少似ているだろうか。
長く尖った口の先は長い帯になっており、其処が仄かに翠に輝いている。
後方に伸ばされた腕は二つに分かれ、先に鋭い鉤爪が備わっていた。
そして足と言う物は無く、床に吸盤の様にぴったりと引っ付いている。
一体ではなく、五体程周りの建物の屋根に付いている様だ。
一目なのでもっと居るのかも知れない、全員自分に砲台を向けている。
只飃に全く当たらなかった事を気にしているのか、警戒する様にじっと動かない。
ダダリスティも追って来ているけど未だ少し距離がある。
今の内にと再び時空の穴からスカウターを取り出した。
・・・戍幡龍(シュハンリュウ)、うん、矢っ張り龍か。
複数でのコロニーを作り、縄張と決めた所を中心に等間隔に根を張って留まる性質がある。
近付く者には基本的にエネルギー弾を発射して追い払う。反動が大きいので根で支えているらしい。
嵒属性か・・・此方も相性としては良くないけど、後ろの奴よりましかな。
行き成り仕掛けて来たし、敵って事で良いでしょ。生憎此方に余裕はそんな無いし。
取り敢えず目前の一頭に朏型の凱風の刃を投げる。
「ギュピィイイ!」
凱風の刃は易々と戍幡龍の鰭を斬り裂き、碧の体液を流し始めた。
其の一撃で可也ダメージを負ったらしく、戍幡龍は俯いて大人しくなった。
うん、此の位しっかり効いてくれたら楽なんだけどね。
他の戍幡龍が警戒も顕わに鳴き交わす。
そして一斉に飃に向けて弾を発射し始めた。
見計らう様に飃は旻高くへ飛び立った。
すると其の直ぐ背後からダダリスティが猛進する。
そんな彼に向け、容赦なく戍幡龍の弾が降り注がれた。
「コルルルルフィォオ‼」
激しい炸裂音を響かせ、ダダリスティは身を捩った。
狙い通り命中はしている・・・でも、
其でもダダリスティの甲には傷一つ付いていない。
ダダリスティは攻撃して来た事が矢張り気に入らないらしく、戍幡龍に向け吼え始めた。
本当に手当たり次第だね、其でも純粋に堅くて速いなんて狡い。
まぁ其の頑丈さに自信があるからあんな馬鹿みたいに突っ込んで来るんだろうけど。
力業で押している訳だ。面白くない。
「ギュ、ギュルル‼」
捕まえられない飃よりも戍幡龍の方がずっと相手し易いのかダダリスティは戍幡龍の喉笛に咬み付いて其の儘引き千斬った。
翠の液体が飛び散り、淡く光る。
一応・・・仲間の筈なんだけど。
然う言う意識は余りないっぽいね。此方にとっては楽で良い。
使えるかなと思ったけど、何の道奴にダメージが通らなかったし。
喰い千斬られた戍幡龍をダダリスティはあっさりと呑み込んだ。
余り味が気に入らなかったのか千斬れた上体丈食べ、地に付いた部分は其の儘だ。
切断面が生々しい、見ていて良い物じゃない。
豪快さは買うけど、もっと綺麗に食べて欲しい所だね。
「ギュルル、ルル。」
残った戍幡龍達は口早に告げると直ぐ様姿を消した。
流石に不味いと思ったんだろう。ま、消えてくれたら十分だ。
恐らく直ぐには動かない筈。あんな風に仲間をあっさり殺されちゃあ。
―後は・・・御前、丈。―
「後も何も喰われる気は無いよ。」
満足はしていないみたいで舌舐りをしている。
魔物に喰われるのは御免だ、絶対に。
奴が暢気に食べている間は一応魔力に集中させて貰った。此を次は仕掛けてみようか。
飃の足元に小さな嵐が起こる。
覚悟を決め、飃は枴から降り、其の嵐に足を乗せた。
すると飃の躯は其の儘浮かび上がり、落下は免れる。
だが直ぐ様彼の足は裂傷が走った。
幾重も割かれて血が嵐に飛び散る。
思わず軽く呻き声を上げてしまう。
分かっていても、此の技って可也痛いんだよね・・・。
疑似的に飛の真似事だけど、効率は良くない。
でも此なら両手が空く。飛び乍ら戦う手段なんだ。
旻を蹴り、飃は凱風を纏ってダダリスティに迫った。
奴は正面からしか来ない。だから小賢しい事はもうしない。全力で叩き込んでやる。
此の枴の片側は刃になっている。釼より無骨で持ち手も太いのでそんなに威力は乗らないけれども。
斬れ味は、保証出来る。凱風は避けられても勢いは殺せない。
ダダリスティの目前迄迫ると不意に足元の嵐は掻き消えた。
間合いは分かっている。完全に消される前に思い切り蹴って跳び上がる。
其の儘重力に乗せて、枴を振るう。
狙うは全体的に細い頸だ。其処へ刃が掛かる。
全体重を掛け、躊躇いなく斬り裂いた。
でも・・・手応えが浅い。此は、良くない。
鋭い金属音が高く響いたかと思うと、ダダリスティは飃に向け顎門を開いていた。
此の儘喰われて堪るかよ。
枴を振るい、マズルに突き立てるが全く手応えが無い。
堅過ぎる、怯みもしないか。
ダダリスティの牙が飃の腹部に掛かった。
閉じられる、その前にっ、
慌てて枴を前に突き出した。
そしてダダリスティの開かれた口の隙間に其を刺し込む。
「コルルルルッ‼」
流石に口内は其処迄堅くはないらしく、刃が刺さってダダリスティは顔を上げた。
でも刃が刺さらない様に瞬時にダダリスティは枴に咬み付く。
「っぐ、離せよ!」
引き抜こうとするが引っ掛かって取れない。
目があれば潰してやれたのに此奴には無いし、本当面倒だ。
ダダリスティの頬に足を掛けて引っ張るが中々抜けない。
そんな中、ダダリスティは急に地面を見詰めて其の儘突っ込んだ。
余りの風圧に息が詰まりそうになる。
此奴まさか・・・自爆覚悟で突っ込む気か。
でも枴を手放す訳には行かない。何の道此が無いと飛べないんだ。
枴を捻ると少し隙間が出来た。其処から無理矢理引き抜く。
「・・・ッコルル‼」
途端ダダリスティが首を振るい、飃を弾き飛ばした。
枴は戻った、でも此じゃあ、
枴に魔力を送るが間に合わない!
多少の浮力は付いたが、勢いを殺し切る事は出来ず、飃は瓦礫の山に突っ込んだ。
一応、自身の背に嵐を纏っていたので瓦礫が刺さる事は免れた。
でも背を強く打ち、肺の空気が空になる。
此奴・・・やってくれたな。
投げ飛ばされなかったらギリギリ避けられたけど、瞬時に吹っ飛ばされた。
致命傷は避けたけど、背中に嵐を作った所為で傷だらけだ。
御負けに・・・脇腹をやられた。
咬み千斬られるのは防げたけど、牙が刺さってしまった様だ。
血が出て、力が入らない・・・。
こんな一方的にやられるなんて、らしくない。
斯う言う大物、相手にする時は必ず誰か組んでたもんな・・・。
一人でごり押しなんてしなかった。効率が悪い手段は必要性が無かったから。
如何しても相性と言うのもあるし・・・でも僕は分かっていても逃げるのは嫌で、其で組んでたんだよね。
・・・楓夏と居れば、こんな奴何でもなかったのに。
脇腹が痛む。こんな弱音、吐いたら駄目だ。自分らしくない。
自分が彼女を見捨てた結果が今なんだから、今更思い返したって意味ないじゃないか。
此は、自分で選んだ道、自分で決めた未来だろ。
・・・だったら如何する。正直今ので大分手は尽くしたと思うけど。
彼も効かないんじゃあ・・・粘る丈無駄じゃないか。
撤退、と言う二文字が頭を過る。でも・・・其じゃあ、
ちらと迷いが浮かんでいるとダダリスティが此方に向け、突進を繰り出した。
奴は正面から地面に激突したけれども、ダメージにはならなかった様だ。
矢っ張り、効いていない訳だ。弱ったな、本当。
何かを利用出来る様な環境でもないし、一対一で此は、
今迄の自身の経験から、逃げる可きだと告げられる。
此の勘は、正しい。今迄此に従って来たからこそ生き延びたんだ。
逃げる事は、出来るだろう。次元を移ってしまえば、直ぐには追えない筈。
だったら直ぐにでも然うすれば良いのに・・・動けない。
ダダリスティの牙が迫る。其の牙に僅かに自分の血が掛かっていた。
再び彼を喰らったら、次は助からないだろうね。
嵐を纏わせ、瓦礫を飛ばす。
其をダダリスティに向けて放った。
奴は顎門を開けた儘突っ込んでくる。其の口内に瓦礫は入るのだが、
其でも止まらず突っ込んで来る様だ。
「本当、小細工一切効かないなんて最悪だよ。」
全て力業丈で押し切って来る。当たり前の顔して奪いに来る。
御前も、彼の火の蜥蜴も、化物も、皆々僕は赦せない。
御前みたいなのが、世界を壊すんだ。
力があるからって好き勝手暴れやがって。
既の所で枴に跨り、後方へと飛び退いた。
痛みで少しふら付く。術に集中出来ない。
ダダリスティは瓦礫も気にせずに真直ぐだ。家屋を咬み砕いて猶猛進する。
少しでも勢いを減らせればと敢えて上に逃げずに下がったけれども、効果は薄い様だ。
家の隙間に逃げても勢いの儘に飛び込んで来る。
ダダリスティの通った跡が瓦礫の山となって残る。疲れ知らずなのか其でも怯まない。
背後に迫っていたダダリスティが邪魔な家を咬み砕いた瞬間、其の家屋が爆発した。
「・・・っ、ぐあぁあ‼」
諸爆風を喰らって吹っ飛ばされる。そして地面に突っ伏し、しこたま躯をぶつけてしまう。
受け身も取れなかったので躯中擦り傷だらけだ。痛みだらけで躯が馬鹿になって来る。
何だよ一体・・・衝撃で中の何かが爆発したっぽかったけれども・・・。
予想外過ぎたダメージに少し放心し掛ける、今は堪えないと。
其に・・・しても、
ちらとダダリスティを見遣るが、流石に奴も爆発には驚いた様で止まっていた。
でも、其丈だ。多少焼け焦げた様には見えるが、怪我らしい怪我は負っていない。
彼で無傷って・・・無茶苦茶だ。もう相手するのも嫌になって来た。
此方は結構追加でダメージ負ってるのに・・・一撃も入れられない訳?
噫、本当嫌になる。何より其でも逃げようとしない自分に腹が立つ。
何変な意地張ってんだよ、逃げなきゃ死ぬぞ。
でも・・・、
「噫もう本っ当!好い加減にしろよ!」
堪らず飃は叫んだ。
自分の中に閉じ込めた懐いが溢れる。
神だからなんだ、死神だからなんだ。
僕はもう懲り懲りだ、御前達に振り回されるのは。
己の内の嵐が渦巻く。
楓夏、君が死んでから僕は、如何生きたら良いか分からない。
だから死んだのに、変わらず君の言葉が僕を縛るんだ。
責任、取ってくれよ。勝手に僕を独りにして。
確かに僕は一人で逃げた。でも君だって一人で死んだじゃないか。
死神になっても未だ力が足りないって言うなら、僕は何を差し出せば良い。犠牲にすれば良いんだよ。
何丈、僕達から奪う気だ。
僕は・・・僕は、
嫌いだ、こんな世界なんて。全部全部僕の嵐で消し飛んでしまえば良いのに。
激しい嵐が僕を中心に取り巻く。
其の中で何故だか・・・化物が咲っている気がした。
何だよ、何咲ってるんだよ。
あんな啖呵切って置いて未だに殺せない僕を嗤っているのか。
・・・いや、違う。
直感的に分かった。違う、此奴が咲っているのは、
―そんなに力が欲しいなら、くれてやる。―
然う、告げられた様な気がした。
不意に気持が凪いで、取り巻く嵐が弱まる。
そんな僕に向け、ダダリスティの牙が迫った。
「ッコルルルッ!」
だがそんな彼の頬を皓銀の曦が駆け抜けた。
そして今迄傷付けられなかった筈の彼の頬を裂き、血が流れ出す。
突然の事にダダリスティは吼え声を上げて急ブレーキを掛けた。
何が起きているか理解出来ずにいる飃の前で其の曦は留まる。
「此・・・まさか、」
僕は其の曦に浮かぶシルエットに酷く見覚えがあった。
そして懐かしさも、込み上げて来て、
其は一振りの刀、否剥き身の刃。
少し先の反った曇りなき刃、持ち手の所に翼を象った様な装飾がある、シンプルな刀だ。
でも・・・如何して此が、
知らず手を伸ばし、手に取ると曦は刀に収束して行った。
此の刀は・・・間違いない、楓夏の物だ。
名は確か『我宮魄殲滅剣璽(ガエイハクノセンメツノケンジ)』、僕の持つ枴、我至尊断截枴と対を成す刀。
扱える者がいなかったからとギルドで貰った物だったけど。
然う言えば常に一緒にある可き代物とかって言われていたっけ。すっかり忘れていた。
其でもまさか離れていたら戻って来るなんて知らなかったけれど。
・・・いや其とも、若しかしたら彼の化物の力とか・・・?
まぁ問い質すのは後でも出来る。今は有り難く使わせて貰おう。
楓夏だって・・・屹度僕に託してくれる。此が彼女なりの責任の取り方なんだろ?
だったら此で生き延びてやる。化物も此の刀で屠ってみせるよ。
楓夏が死んだ後行方知れずになっていたけど・・・うん、まさか又見えるとは思ってなかった。
此の刀は今の僕にとって喉から手が出る程欲した物だ。
時々使わせて貰ったから扱い方は心得ている。
手に持つ感触が懐かしい、余り力むと手が斬れてしまうんだよね。
でも問題ない、此の刀は握力で振るう物じゃないから。
一つ、息を付く。大丈夫、僕は未だやれるから。
右手に刀を、左手に枴を携え、慎重に飃は魔力を流した。
逃げずに立ち止まった飃に向け、再びダダリスティは飛び掛かった。
先傷付けられたのに、其でも正面から来るか。
舐められた物だね。じゃあ・・・御手並み拝見と行こうか。
枴がダダリスティを真正面に捉え、水平に浮かび上がる。
其の背へ、飃は飛び乗り、刀を構えた。
嵐を纏わせ、枴は一気に駆け抜ける。正面のダダリスティから少し逸れて脇を抜ける様に。
・・・踏ん張らないと飛ばされそうだ。
只でさえ不安定な足場だし、如何しても此の飛び方、一寸怖いんだよね。
力も大して入らないし、こんな状況で戦うのは普通じゃあ有り得ないけど。
此の刀の使い方って屹度、此が正しいんだよね。
枴が大きく高度を変えてダダリスティの頬を掠める様飛行する。
少し屈んで風圧を去なす。ダダリスティに近付き、其の凱風は全て掻き消えた。
慣性の儘に枴は飛ぶ、突進は避けられる。
そして構えていた刀を振るう、魔力を込め、横薙ぎに。
刀身が手元から黔に染め上げられる。
ダダリスティに添える様に、斬り上げた。
「コルルルルフィィイィイイッ‼」
其迄とは違う叫びにも似た声をダダリスティは上げた。
途端に彼の半身に鈍色の筋が入り、血が噴き出したのだ。
其の冥い血が地面に散って何かの暗示の様に広がる。
「へぇ、相変わらず斬れ味最高だね。」
刀身に付いた血を払う。
ダダリスティは其迄の比じゃないダメージに激しくのたうった。
動けば動く程血に塗れてしまうのに御構いなしだ。
屹度痛みより怒りが勝っているのだろう、怯む所か飃を睨む様に顔を向ける。
形勢逆転したのに逃げないのは愚直じゃないかな。
・・・まぁ先迄の僕も似た様な物だったけど。
此の刀、我宮魄殲滅剣璽の性質は極めてシンプルだ。
込めた魔力の量で、斬れ味が変化する。
魔力がなければ只の金属の棒、鈍だ。
でも魔力さえあればどんな物だって斬れる代物に成れる。
楓夏は良く此で自分が創り上げた水を斬り、奇襲を掛けていた。
そんな奇抜な戦闘スタイルを生み出せる武器なんだ。
矢っ張り使い勝手良いね。元々此、僕のだし。
最初に枴と一緒に譲り受けた時、彼女と揉めたんだっけ・・・。
そしたら楓夏が枴に乗れない程乗り物音痴だって分かって、僕が妥協したんだよね。
ま、枴も枴で勿論勁いけれど、此方も捨て難い。
力が要らない分、斯うやって足場が不安定な所でも十分戦えるしね。
「コルルルルフィィィ‼」
ダダリスティが怒りも顕わに顎門を開けて飛び掛かる。
・・・其の逃げない所は評価してあげるよ。
殺し易くて手間が省けるからさ。
枴を一気に浮上させて飃は真上へ飛び上がる。
既の所でダダリスティの牙が掠めて行く。
そして枴から飛び降り、刀を下に構えて落下した。
然うして刀は皓銀から黔へと輝きを変える。
狙うは一点のみ・・・此でけりを付ける。
空振りしたダダリスティの脳天に真直ぐ突き刺さる。
易々と甲も肉も貫いて、瞬時にダダリスティは動きを止めた。
其の一撃に完璧な急所を持って行かれたのだ。
急に静かになったダダリスティは其の儘ゆるゆると地面に突っ伏した。
もうピクリとも動かない、完全に命の尽きた肉の塊だ。
少し様子を見ていたが、此迄の経験から判断出来る。確実に仕留められたと。
そっと刀を引き抜き、ダダリスティの頭から降りる。
如何にか・・・なったみたいだ。
まさかこんな良い物が手に入るとは思わなかったけど。
そっと刀を掲げると、皓銀の刀身に自分の顔が写り込む。
此の力があれば彼の化物も或いは・・・。
・・・まぁ直前に彼奴が頭を過ったのが気になるけどね。
取り敢えず此の次元はもう問題ない筈、だったら次の獲物を探す丈だ。
「・・・又、宜しくね楓夏。」
そっと刀に呼び掛けて枴に跨る。
此の刀は一旦時空の穴に仕舞って置こう。いざと言う時の切り札として。
手にした此の新たな力を・・・僕は最大限に利用しよう。
蒼く輝く水鏡を背に一陣の嵐が旻へ駆け抜けて行くのだった。
・・・・・
「・・・っ、龍が、多過ぎる!」
―おい未だへばんなよ!シャキッとしろ龍の番神!―
釼龍の言葉に頷きつつ、リュウは釼を構えた。
彼からガルダと一緒に街を回っているけれども、何処も彼処も似た様な有様だ。
本当に種々様々な龍が暴れ回っているのだ。
目に焼き付く程見ているのに、未だに信じられない。一体何が彼等をこんなに変えてしまったのか。
「ガウゥウウッ‼」
つい立ち止まってしまうリュウに向け、近くの龍が吼えて近寄った。
違う、此の子もこんな狂暴な種じゃない、其なのに如何して、
―っおい、ぼさっとすんなよ来るぞ!―
突如リュウの目前で皓い閃光が爆ぜた。
其に驚いて龍は及び腰で逃げて行く。
「リュウ、大丈夫か⁉」
「ガ、ガルダ、済みません、有難う御座います。」
先から彼に助けて貰って許りだ。こんなんじゃいけないって分かってるけど。
「余思い詰めるなよ。リュウの所為って訳じゃないんだし、寧ろ此を止められるのはリュウ丈かも知れないしさ。」
上旻を旋回してガルダは降りて来た。
余りにもリュウの顔色が悪くて気になって来たのだろう。
実際彼は可也疲れている様に見えた。
「其でも・・・僕は、原因の特定も出来ないし、龍達の声が、聞こえるんです。辛そうで・・・苦しい・・・。」
然う言うとリュウは胸元を押さえて少し屈んだ。
息も荒い、明らかに様子がおかしい。
「リュウ⁉お、おい何処か怪我でもしたか?」
―いや多分此は・・・龍の番神だからな。俺達とリンクしている所為で苦しんでやがる。―
―弱ったな、多分此奴もう戦えねぇぞ。―
「リンクって・・・若しかして龍が死んだりしてるからか?」
多分、此処がこんな有様だったら、次元も可也酷い筈。
そっとリュの背を摩るが、余りにも辛そうだ。
「うぅ・・・多分、然うですね。龍達が苦しんでいるから僕も・・・辛い。僕が頑張らないといけないのに。」
「いやそんな、無理に動くなよ。今は周りに龍も居ないし、少し休んだ方が良いぜ。」
セレの事も気になるけど、今はリュウだ。
まるで病気にでも罹ってしまった様に一気に具合が悪くなってしまった。
次元龍ってのは未だ見付からないし・・・時間許り過ぎてしまう。
「やっと見付けたぞリュウよ!」
「っ⁉新手か!」
急いで振り向くと随分と小型の龍が此方に向けて突進して来た。
小型と言えども何をするか分からない、今のリュウには近付けない様にしないと。
「あ⁉まさか先代ですか!」
はっと顔を上げたリュウの目が輝く。
知らず広げた両手に其の龍は飛び込んで来た。
「え、あ、えっと其の龍は・・・大丈夫、なのか?」
敵意は感じなかったので様子を見ちゃったけど、此の感じは問題なさそうだ。
「うむ、如何にも。儂が千代ぞよ。」
一寸胸を反らし、其の龍はふわりと浮かび上がった。
「千代・・・?」
何だか一寸不思議な響きだ。
其の龍は全長20㎝程、細長い蛇の様な体躯で、陽に翠に、陰に蒼と鮮やかに色が変わる。
頭から背に掛け、独特な形の絳い角が生え、途中から蒼の鬣へ変わる。
尾はふわっふわな巻き毛で、セレが大変喜びそうだ。
大きな黄の瞳をクリクリと回して其の龍はガルダ達を見遣った。
「ま、まさかこんな所で会えるなんて!会いたかったですー!先代―!」
「うむ、儂も会いたかったぞい!」
胸を張る龍にひしとリュウは抱き付く。
何だか凄く気に入っている様だ。若しかして凄く勁い龍なのかな。
態度がでかい丈で然うは思えないけど・・・一寸調べちゃおうかな。
そっと時空の穴からスカウターを取り出し、掛けてみる。
・・・?あれ、反応しないや。え、じゃあ龍じゃないのか?
「うむ、ほうほう其は若しや龍古来見聞録ではないか?いやぁ懐かしいのう。して、儂は何と書いてあるぞよ。嘸かしかっこ良く・・・、」
「い、いや何も・・・出ないんだけど。」
胸を張ってる所悪いけど、うんともすんとも言わない。無反応だ。
矢っ張り龍なんだよな・・・?如何言う意味なんだろ。
ガルダが首を捻っていると見る見る其の龍はプルプルと震え出した。
そして突然リュウに頭突きを繰り出した。
「此の馬鹿者!未だ儂の頁を書いておらなんだか!」
「ご、御免なさい~・・・。」
頭突きと言っても顎に命中したので何度かリュウは摩った。
一寸は元気になってくれたみたいだけど・・・今一状況が読めない。
「噫えっとガルダ、此の龍は先代、えっと・・・前の龍の番神なんです。黔日夢の次元で行方不明になってたんですけど、やっと会えて良かった・・・。」
「うむ然うぞよ、儂こそ先代の龍の番神であり、千代目の龍の番神でもあるぞよ!」
然う言って又もや彼は胸を張る。胸元の毛が良く膨らんでいた。
「え⁉前の龍の番神って龍だったのか⁉」
「あ、えっと・・・まぁ店の皆さんなら言っても大丈夫ですね。実は龍の番神は代替わりすると新種の龍に生まれ変わるんです。唯一と言っても良い位、新種が生まれる方法なんです。」
「な、成程・・・其で此奴が其の先代と。」
新種かぁ・・・セレに見せたら喜びそうだなぁ。
其に先代って事は龍の知識も豊富だろうし、何か力があるかも。
「うむ!だが此奴は未だ儂の事を龍古来見聞録に書いておらなんだ!嘆かわしい事ぞよ!」
「だ、だって先代の事書こうとしても上手く纏められなくて・・・かっこよくて素敵で可愛くて、」
「うむ!其の気持は分からんでもないがの!」
かっこよくて素敵で可愛い・・・?
何て言うか・・・うーん、只飛べる一寸態度のデカい蛇って感じだけど。
何か年寄り臭いし、凄そうじゃないって言うか・・・。
「えっと・・・其の千代って何か出来たりすのか?」
再会を喜ぶのも良いけど、其より此の事態を如何にかしないと。
見付けたって言ってくれたって事は捜してくれていたんだろうしさ。
「まぁ元龍の番神だから知識は凄いぞぃ!」
「あ、う、うん然うなんだ・・・。」
・・・・・。
・・・あれ、黙っちゃったけど。
知識丈?其龍古来見聞録増えた丈なんだけど。
ガルダの困惑する顔を見遣ってか慌ててリュウが尋ねた。
「と、所で先代!来てくれたと言う事は何か助言をくれるんですか⁉」
「然うぞよ、何か大変な事が起こってる様なのでな。様子を見に来たぞよ。」
様子を見に来たと・・・そして?
「其にしても、一体此は如何言う事なのだリュウよ!」
「いや知らなかったのかよ!」
思わず突っ込んじゃったじゃないか!
え、何、只の野次馬って事?其なら要らないよ?
「え、えーっと・・・その、急に龍達が人間を襲い始めたんですよ。先代は何か心当たりとか無いですか?僕も原因を探っている所で・・・、」
「成程、然うのう・・・うむ・・・むむ・・・。」
考えてくれているけど、此絶対何も分からない奴だ・・・。
如何しよう、此に付き合ってる暇あったら俺、別の事したいんだけど。
今緊急事態な訳だしさ・・・駄目かな、最後迄聞かないと。
「一応、他の龍に聞いて、何か声がするとか言ってたんですよ。壊さなきゃいけないとか、人を殺さなきゃとかって。」
「っ!其なら儂も聞いた気がするぞい!」
「へぇ・・・龍なら聞こえるのかな?」
―まぁ俺も声丈は聞えたしな。―
―ま、俺達は自分じゃ動けないから意味ないけどな。―
「あ、流石先代です!其って何なんですか?」
「うむむ・・・難しいぞい。成程のぅ、其に従った者が斯うも暴れておる訳か。此は声と言うより、意思、に近いぞよ。」
「・・・意志?其って何の事なんだ?」
「うむ、儂等龍の皆に伝わっているのなら、個々の意志の事ではない、恐らくは世界の、」
「世界の意志?」
思わずリュウと異口同音してしまう。
全く馴染みのない言葉だ。意味も良く分からない。
「説明し難いぞい・・・兎に角、然う言う空気が漂っている気がするぞい。龍は世界を愛する故に、世界の意を汲み易い。此は然う言う事やも知れぬぞい。」
「ま、益々分かんなくなって来た・・・つまりは首謀者と言うか、然う言うのが居ないって事か?」
世界に意思って・・・犯人と言うか然う言うのが居ないって事だろ?
でもじゃあ如何すれば良いんだ?如何止めたら良い?
世界を変えるってそんな大それた事、やり方も何も分からないし。
「うぅ・・・此は若しかしたら次元龍よりもっと大きい者が関わってるかも知れません。龍丈の問題じゃなくて、もっと大きな・・・。」
「世界規模になると例えば・・・クリエーターとかか?」
丗の創造神・・・まぁずっと昔に亡くなってるけど。
思い当たるとしたら其の位かな。
「でもクリエーターなんて今更、噫、僕も分からなくなって来た・・・。」
頭を抱えてリュウは大きな溜息を付く。其の頭を千代は尾で叩いた。
「こら、落ち込むのは後じゃ。儂も龍の番神の間にこんな大事は起きた事が無かったから不安も分かるが、其でも屹度手はあるぞい!」
リュウは何度か頷いて顔を上げた。
顔色は相変わらず悪いが意志は堅くなった様に思う。
「してリュウよ、此処に来たのには何か訳があるのではないか?何をする所だったのだ?」
「次元龍を、探してたんです。恐らく襲っている龍達を今迄匿っていたのは彼なので。彼に聞けば或いはと。」
「ふむ、彼奴か。悪くはないと思うが、如何とも・・・。」
千代は唸って目を閉じる。
先代としての知識と経験が活かされると良いが・・・。
「彼奴は確かに力が勁いぞい。だがもっと鎮めるのに適した者を探した方が良いのではないか?」
「鎮める・・・?噫其方側の龍ですか・・・。」
「うむ、原因を探るのも大切だが、今は一刻を争う。であれば少々強引だが無理に鎮めて貰うのも手ぞい。」
「そんな事が出来る龍が居るのか?」
鎮めるってのは戦意を無くすって事かな。其が出来たら確かに良いけど。
「はい、何頭か。只規模が大き過ぎるので全部を鎮めるのは大変だと思いますが。」
「其の声を掻き消す程の力を使えるかと言うのもあるし、簡単ではないぞい。でも手がない訳では無いぞい。」
「然う・・・ですね。流石先代!有難う御座います!早速其の子達に声を掛けてみます。」
一応、目標は定まった様だ。一つでも手があるなら良い。
「あ、じゃあ此処出るか?流石に此処には居ないだろ?」
「いや、次元龍が此処に居るのなら其も探した方が良いぞい。力があるのは確かだし、奴ならより効率的に鎮める手助けをしてくれるかも知れぬぞい。」
「はい、龍達へのコンタクトは僕がテレパシーで取って行くので、次元龍探しは続行しましょう。」
「良し分かった。じゃあリュウは其方に集中してくれよ。護りは俺に任せろ。」
リュウの目が其迄とは違い、曦を持って輝いた気がした。
うん、其の目なら大丈夫然うだな。頑張れる、やる事を見付けられたから真直ぐに。
力強く頷くと、リュウは遠くを見遣り、目を閉じた。
如何か、君達の力を借りたい。一緒に止めるのを手伝って欲しいと強く願って。
・・・・・
「行っくぞぉおお‼」
雄叫びを上げて皐牙は目前の龍に躍り掛かった。
両の爪が燃え猛り、空気が熱を持って爆ぜる。
―効かぬっ!―
だが龍の鋭く放った一閃に打ち負け、皐牙は大きく後退してしまう。
一寸腕、斬れちまった・・・痛ぇ。
血が滲むが構っていられない。此奴・・・勁過ぎるだろ。
皐牙が龍と対峙したのはとある次元の、村の中心地だった。
此の龍が攻めて来たのと粗同時に自分も来たらしく、被害は未だ小さい。
村人達には急いで逃げて貰った。オレとの一対一に此奴が付き合ってくれて良かったゼ。
一応村は護れたけれど、此奴を大人しくさせないと意味が無いんだよな。
オレも店に来て少しは勁くなったと思ったけど、此奴も十分勁い。
其の龍の特長だとかはもう分かっている。でもオレ、考えて戦うとか苦手だからな・・・。
―ふむ、迷いのない一撃は良いが、如何せん素直過ぎるな。―
「御前は先からオレの師匠のつもりかよ!」
ずっと駄目出し許りしやがって。
・・・分かってる事だから余計に嫌と言うか。
皐牙の前に立つ龍は全長2.5m程、二足歩行の恐竜の様に皐牙は思った。
全体的に紫紺色で、背骨が其の儘表面を覆っている様な甲をしている。
両手は其の甲のみで出来ており、先はまるで刀の様に鋭く長く尖った爪が備わっている。
先からずっと其で斬り付けて来るが、其が此の龍の戦闘スタイルの様だ。
尾はまるで三叉の槍の様になっており、此処も硬質で曦を反射している。
頭も又、鋭い甲が兜の様になって覆っており、中を窺い知る事は出来ない。
其の兜の下方から触手が何本か伸ばされ、揺れているのが少し不気味だ。
・・・いや、其よりもっと、其奴の目は其の兜の下方、地面位しか見えないであろう所と、首の後ろに大きいのが一つあった。此方の方がずっとインパクトがあって不気味に写るかも知れない。
其の龍の名は剴鶻(ガイコツ)、切り立った山奥等に隠れ住み、こんな所に居るような龍ではない。
基本温厚、と言うよりは周りの物事に無頓着で、己が全身の甲を研いで鋭くさせるのが常。
其でも其の力を使う事が無いようにと願う様な龍だ。こんな風に斬れ味を試す様な事はしない。
頭から覗く触手で敵の気配だとかを察知してるのだとか。だから目で見えなくとも反応出来るのだ。
―御節介だったか。自ら対峙して来た者には礼を尽くさねばならんと思ってした丈だが。―
「礼って、じゃあ帰ってくれよ。其が一番の礼になるからさ。」
―其は出来ぬ。私にはやる可き事があるのだ。―
「其のやる可き事が人殺しかよ!」
両爪に焔を纏い、皐牙が迫るがそんな彼を貫く様に剴鶻の刃が振られた。
「っぶね!」
駆け抜けた刃に自身の顔が写り、思わず唾を呑む。
其の儘刃を振るって焔を浴びせるが、あっさり躱されてしまう。
くそ、こんなにも当たんねぇものかよ。正面から来てるのに。
思わず焔を吐き出す。
視界を埋め尽くす程の火焔だったが剴鶻は身軽にも皐牙を跳び越えて彼の背後に降り立った。
そして首の後ろにある大きな目でじっと彼を見る。
「・・・っ、速いな本当。」
デカブツの割には身の熟しが軽い。
焔で捉えられなかったらきついな・・・。
剴鶻の尾が少し引いたかと思うと皐牙に向けて突き出された。
「っぐあ‼」
目にも止まらぬスピードに尾の先の刃が腕や肩を傷付ける。
甲迄削られたので可也の鋭さだ。
余りの勢いに尻餅を着いてしまう。
い、痛え、血が止まらないし、こんな容赦なくやるかよ。
痛がっている間もなく尾の先が自分を捉える。
次は串刺しかよ!そんな終わり嫌だぞ!
慌てて焔を吹き、急いで地面を転がる。
焔に一瞬躊躇した様だが、遅れて地面に尾が刺さった。
一寸火力が足りなかったか、一応目眩ましにはなるけどさ。
彼奴には後ろに大きな目があるし、彼が厄介なんだよな。
死角があるとすれば・・・目の位置からして真上、奴の上面斜め上位か?
いや厳しいだろ、こんな巨体な奴の上、如何すれば良いんだよ。
―ふむ、逃げて許りでは埒が明かないぞ。―
「煩ぇ、大人しく焼かれろ!」
振り向いた奴に向け大きく息を吸い、特大の焔を吐き掛けた。
奴が焔に隠れた隙に立ち上がる。斯うなったら目を狙った方が良いか?
ちらと考えていると突然其の焔は大きく真っ二つに割れた。
剴鶻が、焔を斬り付けて飛び込んで来たのだ。
「ッ!オイオイ曲芸師かよ!」
縦に割れた焔から飛び掛かる姿は猛々しく、一瞬怯んでしまう。
彼奴、彼の鋭い刃で焔も斬れるのか、風圧で消しやがった。
咄嗟に皐牙は剴鶻に向け転がり込む。
剴鶻の足元を潜り抜け、何とか激突は免れた。
刃が深々と地面に刺さるが、いとも容易く剴鶻は其を引き抜いた。
いやいやいやいや・・・っ!
彼奴勁過ぎるだろ、一体如何立ち向かえって言うんだよ。
だ、誰か呼ぶか?オレ一柱じゃあ・・・、
―ふむ、もう少し出来ると思ったが、逃げる丈ならもう手加減はせぬぞ。―
「っ・・・、」
奴の目が、変わった。
今迄様子見だったのかよ、畜生。
咄嗟に買い言葉も叩けなかった。
不味いだろ、彼奴の方がずっと大きいし、堅いし、速い。如何すれば良いんだよ。
ちらりと胸の奥で皓い焔が爆ぜた気がした。
焔なら幾らでも、もっと焼き尽くせるじゃないか。
・・・嫌だ、そんなのに頼りたくねぇよ。
頭の中で声ががなる様で頭痛がする。
違う、気の所為だ。オレはオレの力丈で戦う。
思い出せよ、オレだって何もして来なかった訳じゃないだろ!
剴鶻が爪を大きく振るい、横薙ぎに払い乍ら駆け抜ける。
其の一閃が皐牙の頸に掛かる直前、
皐牙は大きく跳び上がった。
そして一瞬剴鶻の爪に足を掛け、更に跳び上がる。
先迄の比じゃないスピードに剴鶻の目が泳ぐ。
何より剴鶻の正面上旻は彼にとって死角だった。
跳び上がる皐牙の両足の裏、両肘からはジェットエンジンの様に炎が噴き出していた。
其の爆発で一気に加速する。
「此で、沈みやがれ!」
肘の炎が腕を覆い尽くし、まるで火球の様に焔の塊へ転じる。
其を思い切り振り被り、皐牙は剴鶻の頭を殴り付けた。
焔で強化された拳の威力は半端なかっただろう。
大きく剴鶻の頭は沈み込み、前のめる。
其の儘動かない剴鶻に向け、息を思い切り吸って焔を浴びせた。
「っうわ⁉」
突然皐牙の足に紐の様な物が絡まった。
そして思い切り引っ張られる。
旻中じゃあ自由に動けない、此じゃあ、
其の紐は剴鶻の口の触手だった。
其に絡まれて皐牙は宙吊りにされてしまう。
「お、おい離せって!く、喰うなよ!オレは旨くねぇぞ!」
―ふむ、最後のは中々良かったぞ、ではな。―
思い切り殴った筈なのに甲が多少凹んだ程度だった。
焔で何処か焦げ臭い臭はするが、未だ十分動ける様だ。
喰う気はなさそうだが何の道此では格好の獲物である。
両爪が迫り、鋭く曦を照らす。もう直ぐ彼で・・・。
「った、助けてくれー‼」
皐牙が叫ぶのと同時だった。
彼の全身から蔦が生え始めたのだ。
其は剴鶻の触手を押し退けて行く。
蔦に因って何とか皐牙も身動きが取れる様になり、慌てて彼は他の触手を斬って脱出した。
地面に転がり込むと蔦は忽ち枯れてしまう。でも此の魔力をオレは良く知っていた。
―カーディ大丈夫なん⁉―
「おぅグリス、助かったゼ!」
近くの家屋の陰からグリスが姿を現した。
彼女がちらと剴鶻を見遣ると彼の背の目もじっと見詰める。
―ほ、ほんとに龍が襲っとるんやね・・・。―
―ほぅ、御仲間か。良い折に助けに来たな。―
剴鶻に警戒しつつもグリスは皐牙の傍に寄った。
「でも御前何で此方に。仕事中だったんじゃねぇのかよ。」
彼の会議中には居なかった筈だけれども、まさか此処で仕事をしていたなんて偶然も無いだろうし。
―先セレから連絡入ったんよ。気を付ける様に言われとったんやけど、うちもう殆ど仕事終わってたから手伝いに来たんよ。取り敢えず未だよう分かっとらんから誰かの所行こう思ったんやけど。―
「其でオレか・・・いやぁ助かった、マジで助かったゼ、サンキュ。」
素直に礼の言葉が出る。本当に死ぬかと思った・・・。
まぁでも助かったとは言え、何の道如何にかしないと共倒れだ。気を付けねぇと。
―えっと先ずは此の龍、大人しくさせたら良いん?―
「噫、滅茶苦茶勁いから気を付けろよ!」
―・・・話は終わったか?―
剴鶻が二柱を交互に見遣る。
「いや、律義に待ってくれたのかよ・・・。」
大人しいなとは思ったけどさ。
然う言う融通効くならもう一寸穏便にして欲しい。
「彼奴の躯、滅茶苦茶堅いし、デカい割りに速いからな。」
―分かった。じゃあ攻めてみるで。―
グリスを中心に葉の細長い百合に似た華が咲いて行く。
其はどんどん成長し、直ぐ彼女の姿を包み込んだ。
翠は・・・様々な草花を呼べるからな。どんなのか一見分からねぇのって良いよな。
剴鶻も少し丈様子見てくれてるみたいだし、斯う言う読めない一手ってのしたいんだけど・・・。
―・・・どれ、試してみようぞ。―
剴鶻が刀の様な爪を伸ばし、グリスへ斬り掛かった。
そして一閃で草葉を横薙ぎに一気に斬り付ける。
だが斬り払われ、平らになってしまった華の影に彼女はいない。
剴鶻が不審に思うのも束の間、彼の両足を茨が巻き付いた。
其の儘地面へ縫い付けられてしまい、足が動かなくなる。
良く見ると其の茨は鋼鉄で出来ているかの様に鈍色で、輝いていた。
―斯様な手等・・・む、―
斬り裂こうと爪を掛けたが中々斬る事が出来ない。見た目以上に堅いのだろうか。
然うしている内に剴鶻の周りを鬱金香に似た華が囲う。
「行くぞおぉお‼」
的が動かないならやり易い、最大火力を御見舞いしてやる。
皐牙が口を開くと激しく中の焔が輝いた。
其を躊躇いなく鬱金香に向け吐き出す。
剴鶻の全身が燃え盛ると同時に周りの華からマシンガンの様に種が吐き出される。
焔と合わさり、其は更に激しく燃え上がった。爆発する音も断続的に続き、焔が荒れ狂う。
慎重に出方を見る。正面から喰らったんだ。只じゃあ済まねぇ筈だけど。
焔の中で影が蠢くが・・・、
―・・・見付けたぞ。―
「ッ⁉きゃぁあ‼」
剴鶻は突然地面に爪を差し込むと一本の根を引っ張り出した。
其に掴まって地中からグリスが出て来たのだ。
「グ、グリス‼」
剴鶻の全身を包む焔に当てられて彼女の顔が歪む。
此奴、こんな焼かれているのに構わず攻めに出たのかよ。
グリスを如何にかすれば嫩草が消えるからか、オレより其方を狙うのかよ。
彼女に駆け寄るも、奴の爪の方が早い。グリスに向けて何度も刃が振るわれる。
だが彼女も其の儘大人しく斬られる訳ではなく、自身から先の百合の様な嫩草を咲かせていた。
まるで服の様に其が全身を覆い尽くす。
然うして腕に迄生えた葉はあっさり根を斬り、彼女を自由にさせた。
「グリス!大丈夫か!」
落ちて来た彼女は直ぐに立ち上がった。
彼奴に斬られた様に見えたけど、大丈夫だったのか・・・?
一目だと彼女を覆う葉の所為で良く見えない。でも僅かに血が付いている葉があった。
其が雫になって伝っている。
―未だ動けるよ。だから離れて!―
彼女の前に立っていたが慌てて後ろに下がる。
グリスも血の跡を残し乍らも何とか離れた。
―うぅ、まさかばれるなんて思わんかったわ。―
「わ、わりぃオレの所為で・・・。」
―いや元々此が作戦だったし、良かったと思うよ。―
グリスを包んでいた葉が枯れる。
思い切り斬られた割には軽傷だが、其でも腕や足に幾つか大きな斬り傷があった。
―ぬぅ、やってくれたな小娘よ。―
剴鶻の声に僅かに怒気が籠っている気がした。
見ると奴の両手の爪は可也刃毀れしていた。
何時の間に・・・いやまさか先から生えていた此の嫩草って、此自体も刃だったのか。
其で彼女も無事だったのか・・・最初の一閃で結構削られていたんだな。
一応火焔でそれなりにダメージは入ったと思うが、未だ立っている。
何より、気配が変わった・・・やる気だ、怒ってやがる。
自慢の爪をぼろぼろにしたからか、引いてくれそうもない。
―・・・、あんな怪我をしても未だ戦うなんて、本気やね。―
彼女の算段だと、戦う丈無駄だと引いてくれると思ったんだろう。
彼女が見て来た龍達は温厚なのが多かったから・・・如何しても踏み切れなかったのだ。
其に戦いは好きじゃないし、得意でもない。今のだってやり過ぎだと思った位なのに。
「・・・っ、グリス下がってろよ。」
足を怪我しちゃあ此奴から逃げ回り乍ら戦うのは無理だ。
先の葉でも良い。せめて自分を護って貰わないと。
―・・・分かった、うちはサポートするから頼んだよカーディ。―
「おぅ。」
見せ付ける様に全身に焔を纏う。
奴の注意を此方に引き付けないといけないんだ。もう一度デカいの御見舞いしてやるよ!
駆け寄る皐牙に剴鶻は真直ぐ爪を振るう。
刃毀れしているとは言え、斬られたら一溜りもない。油断丈はしない様にしないと。
焔を吐き、奴の視界を封じる。
其の儘奴の下へ潜り込む。
甲を殴っても効かないのなら急所を狙ってやる。
先思いっ切り喰らっても大した事ないと思ったんだろ?じゃあ反応は鈍くなる筈。
瞬時に皐牙の両肘に火が灯り、其の勢い丈で跳び上がる。
狙うのは目だ。見えなきゃもう暴れられねぇだろ。
悪く思うなよ、御前が先に手を出したんだから。
案の定、焔を突き破って跳んで来た皐牙に、剴鶻は反応が遅れた。
後数瞬、奴が瞬きをした。其が開かれた時には、
皐牙が拳を振るった所で剴鶻は大きく身を翻した。
避けられる、いや、もう一歩踏み出せば、
魔力を込め、より炎を猛らせた瞬間、視界の端で光る物が目に付いた。
其が何か気付いた時には既に遅く、横薙ぎに皐牙は剴鶻の尾で払われた。
「っくそ、尻尾か。」
忘れていた、彼も立派な武器なんだった。
叩き付ける様に払われたから未だ良かったものの・・・。
思わず脇腹を押さえる。
其でも結構深く斬られたな・・・血が滲んで痛む。
「カーディ‼」
色を無くしたグリスが思わず叫ぶがそんな彼女の目の前に剴鶻が立つ。
百合が自在に動いて剴鶻を斬り付けようとするが、絶妙に距離を取られてしまう。
加えてグリスはすっかり皐牙に意識を奪われてしまっていた。
其が剴鶻に大きな隙を与える。
剴鶻の尾が持ち上げられ、目にも止まらぬ速さで突き出された。
尾は嫩草を薙ぎ払い、真っ直ぐグリスを捕らえる。
「ッキャァアア‼」
斬り付けられた儘に押し倒され、グリスを捕らえた尾は地面に突き刺さった。
一応三叉の隙間に躯が収まったので串刺し丈は免れた。
でも肩を大きく斬られてしまい、血が溢れてしまう。加えて身動きも取れない。
「お、おいグリス!」
「・・・っ、穿蔓芽!」
唱えた途端、グリスを中心に地面が陥没し、大きな穴が開いて行く。
地中に仕込んだ種が一気に伸びたのだ。其が地中を走り回り、地面が蠢く。
地面が崩れた事で尾から逃れたグリスだったが、中へ逃げようとすると其を阻む様に剴鶻が爪を刺し込んだ。
―此の儘逃がしはしない。―
何とか蔦に掴まって移動するグリスを何度も爪が過る。
「くそっグリス‼」
オレの焔なんかよりグリス狙いなのかよ。
彼じゃあ逃げ場が無いのは一目瞭然だ。
クソ、クソッ、オレの目の目で殺させてやるかよ!
Ψだったら、僕を使えば良いじゃないか。Ψ
皓い陰が、オレの中で燻った。
こんなはっきり声なんて聞こえる訳がない、此は幻聴に違いない筈なのに。
其の声は懐かしくて、オレの胸を掴んで離さなかった。
焔の揺らぎが、爆ぜる音が、彼奴の声に変わる。
怒りが其の儘焔に化けて、オレの全身を包む。
でも其の焔の中に僅かに曦が混じっていて、
使う・・・のか?使えるのか?
確かに力に、焔に罪は無いだろう。
でもオレは此の力を使ってはいけない、使う可きじゃない。
然う誓って神に成ったって言うのに、
Ψじゃあそんなちっぽけなプライドを護って、彼女を見捨てれば良い。Ψ
出来ない、そんな事は絶対に。
Ψ・・・然うだよね、優しい皐牙はそんな事、出来ないよね。Ψ
煩い、煩い煩い煩い。
・・・良いさ、分かったよ。使えば良いんだろ。
でも此はオレの意思だ、オレが使うんだ。
だから今度は、敵を間違えるなよ。オレが燃やしたいのは彼奴丈だ!
悍く悍く願う。オレから離れようとする焔を鎮める為。
もう過ぎた事は如何にもならない。
だからせめて重ねない様に。
オレが完璧に操ってやる!
思いの儘に皐牙が焔を吐くと、其は皓く変化していた。
先迄の絳々と燃える物ではなく、皓く、冷たく熱く燃える。そんな不可思議な焔に。
でも其の変化を剴鶻はさして気にしてはいなかった。
此の焔が先迄のとはまるで違う事に、焼かれる迄気付かない。
此はオレが使っている丈でオレの焔じゃない。
だから油断したんだろう。先迄のが全て、此の焔の為の引き立て役だったなんて思う訳がない。
「ッギャウゥウウ‼」
焔に触れた剴鶻は初めて叫び声を上げた。
皓い焔に包まれて苦しそうに身を捩る。
もうグリスの事を気にする余裕はない。焔を消そうと必死に転がりだす。
其の隙に何とかグリスは穴から脱出した。
全身傷だらけで土と血に塗れている。激しく肩で息を吸うと頽れてしまった。
「っグリス、おい!」
奴から目を離さない様にして彼女に駆け寄った。
―有難・・・助かっちゃったね。―
上体丈起こして彼女は苦笑した。
其の顔を見ると何とも言えなくて、
―でもカーディ、彼の焔は・・・、―
自身の怪我も酷いのに、彼女は其の事を気にしてくれていた。
少し丈、話してるからな。オレが持ってる此の焔について。
「大丈夫、だと思う。御前には触れさせねぇからさ。」
剴鶻は苦しそうに踠いていたが、不意に其の焔は消えた。
全身が焼け焦げてしまい、甲も融け掛かって酷い有様だ。
でも焼き切るよりマシだ。此の焔は・・・命を燃やしてしまうから。
此以上燃やしたら本当に、全て焼き尽くされてしまう。
―ぐぅう・・・見事、小さき者と見縊っていた様だ。―
数歩下がり、剴鶻は二柱を見遣った。
先迄の刺す様な敵意は感じない・・・諦めてくれたのか?
「もう気は済んだかよ。」
―うむ、斯うも刃を駄目にされては戦えまい。大人しく引こう。―
「全く、もっと早くに然うしてくれよ・・・。」
互いに大ダメージだ。御負けに力も使っちまったし。
其でも・・・勝てたから良かった。オレもやる事、ちゃんとやれたゼ。
―怪我をさせてしまったのは済まない。早く次元を去るが良いだろう。―
急に態度が軟化したな・・・矢っ張り話の分かる奴だったんだ。
長く息を付くと皐牙も座り込んだ。
流石に疲れた・・・一寸位休んでも怒られねぇだろ。
―ど、如何して急にこんな事をしたん・・・?―
未だに信じ切れないらしくグリスは怖ず怖ずと剴鶻に声を掛けた。
―此が、丗の意思だった故に。何とか叶えてやりたかったが、私では力不足だった様だ。無念だが、良い勝負だったぞ。―
―丗の意志・・・?―
互いに顔を見合わせるが知らない言葉だ。
―でも御前達神が邪魔をしに来たと言う事は、丗の意思は完全ではないらしい。―
「オ、オイ何の話をしてるんだ・・・?」
其が分かれば、もっと何か手を打てそうだ。店主にも報告出来そうなのに。
―・・・声を聞かぬ者達には説明は難しいな・・・。悪いが私は帰らせて貰おう。ではな、勁き神達よ。―
自身の怪我も重たかったのだろう。少しふら付き乍らも剴鶻は次元を去って行ってしまった。
「何だったんだよ一体。」
―でも、うち等で解決は出来たよ。此の調子で他の次元も護らな。―
「あー・・・然うだな。取り敢えず助かったゼグリス。」
―御互い様やね。かっこ良かったよカーディ。―
「フ、フン。まぁ此位はな。本当のオレは凄ぇんだって事だよ。」
胸を張る皐牙に思わずグリスは吹き出してしまう。
でもそんな嫌な気がしないのは屹度、今二柱で此処に居られているからだと、皐牙は思うのだった。
・・・・・
此処は・・・一体何処だろうか。
まるで夢の中に居るかの様に頭が鈍い。
重くて・・・考えないといけないのに、纏まらない。
思考が散らばってしまう、こんなんじゃいけない。やらないといけない事が自分には・・・。
やらなきゃいけない事・・・あった筈・・・然う、確かに。
「ようこそ、セレ。此処に居たら君は来てくれると思ってたよ!」
此の声・・・は・・・、
何処かで確かに聞いた声だ。龍の・・・然うだ。
「・・・、若しかして・・・フリューレンス、か?」
声は・・・出せる。
でも波紋が不明瞭だ。
四方を靄に包まれたみたいに、定かじゃない。
重力も無い様で宙に浮いた様な不思議な感覚が抜けない。
・・・直前に何があったか、思い出せない・・・。
「然うだよ。憶えていてくれて光栄だね。虹の欠片を君に差し出したい気分だよ。」
前方の靄を掻き分ける様にして、フリューレンスが姿を現した。
彼しか・・・見えない。一体何が起こってるんだ。
彼の中心の瓊が擽る様に明滅する。
フリューレンスも又、現実感の無い姿をしている為、何とも捉えられない。
「若しかして、一寸辛いかな・・・?何だかぼんやりしてるね。此の僕の前でそんな無防備に心を晒して・・・。魔力に酔ってしまったかな?此処は特別だから。」
「魔力・・・こ、此処は何処なんだ。」
スッとフリューレンスは咲った気がした。
其の目は・・・いけない、分かっているのに動けなくて。
「知らない?そんな訳ないよね。フフッ、君は此処を目指して来た筈だよ。態々敵陣に突っ込んで迄探してくれたじゃあないか。」
噫・・・思い出して来た。
自分は楪と戦って・・・奴を殺してそして、
其の直後に何かに喰われたんだ。
彼が探していた物だって?じゃあ此処はまさか・・・。
少しずつ辺りの靄が晴れて行く。
波紋の輪を広げて行くと、信じられない光景が広がっていた。
数多の龍が、自分達を取り囲んでいたのだ。本当に沢山の・・・。
興味津々と言った体で見ている、此の龍達は、
「次元龍の・・・中か。」
「然う!歓迎するよ。君は此処を探してたんでしょ?」
然うか・・・此処が既に奴の次元の中なのか。
不思議な感覚だ・・・魔力に酔う、恐らくは然うなんだろうな。
可也高濃度なんだろう、慣れて来れば自分も楽になるんだろうけど・・・。
今は未だ動くのも儘ならない・・・此、不味いな。
此処が例の龍の集まりなんだろう。こんな所へ手ぶらで来たとなっては・・・。
加えて目の前にいるのは心を操る龍だ。
見知っている奴とは言え、此処で会うのは不味い。
手を貸してはくれるだろうが、此の状況は・・・、
最悪の事態が、起きてしまう可能性もある。
息が詰まるかと思った。
然うなってしまったら自分は、もう自分じゃなくて。
此奴の傀儡にされてしまう、其丈はいけない。
此奴に呑まれない様にしないと、ちゃんと話して、理解して貰う。
目的は何か、自分を待っていた訳を。恐らく此奴はとんでもない勘違いをしている筈だから。
其は勘違いなんだと、御前の見ている心は私のじゃないと伝えないと。
「噫、探していたんだ。でもフリューレンス、屹度御前の見ている物は違う。」
「へぇ、如何違うって言うの?」
フリューレンスは近寄って甘える様な声を出した。
力が勁過ぎる故に、此の龍は扱い難い。
正しく伝えないと、とんでもない事になる。誤らない様にしないと。
「御前の目的は恐らく、私の心が欲しいんだろう。欲しくて、こんな所に居たんだろう。」
一寸ずつ頭が回って来た。
実は薄々、此奴が関わっているんじゃないかと予感はあったんだ。
だってこんな心が動く事態を、此奴が見逃す筈がない。
其に数多の龍を束ねるなんて、次元龍でも厳しいだろう。でも此奴が居れば、心を一つに出来る。
でもフリューレンスは前、然う飃と一緒に水鏡ノ鯨と対峙した時に会って、余り此の集まり自体には好感を持っていなかった。所か自分に気を付けるよう警告したんだ。
だから一緒に行動する事はないと思ったが・・・。
今目の前にして、考えたくなかった一つの可能性が出て来たのだ。
此奴が此処に居る目的は屹度・・・自分の為。
アプローチを変えて来たんだ。自分の願いを引き出そうと、心を開かせようと。
「うん、君の心が欲しい。君には聞こえなかった?届かなかった?丗の意思が。こんな事初めてだよ。クリエーターのとも違う、丗が僕達に語り掛けた!人間を殺せって凄く俗物的だ。」
「丗の意志・・・其って何なんだ。」
声が聞こえると何の龍も言っていたが、其自体は此奴の仕業じゃあなかったのか。
じゃあ一体・・・何を彼等は聞いているんだ。
声って・・・まさか、
―壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ―
・・・胸の内から時折湧き出る此の声か?
いや、流石に其は飛躍し過ぎか。
此は自分が存在を保つ為に必要な行為だと本能が唱えている丈。
世界の声なんて、自分が聞ける訳がない。世界に嫌われた自分が。
其に本当に其の声は人間を襲えと言ったのか?何と言うか・・・世界の割に小さいと言うか。
・・・何か違和感、人間なんて世界の規模で見れば小さいだろう。如何してそんなに拘る?
まぁだから自分が起こしたと思われたりしている訳か。其は其で此の際構わないと言うか、何方でも良いが。
「あれ?本当に聞こえていない?君なら、届く気がしたんだけど・・・。まぁ良いや。だって其って君の心でもあるんじゃないかな?」
矢張り、然う思っていたか。
初めて会った時に此奴は私の心に触れた。だから其を信じているんだろう。
・・・彼の時は随分と自分も熱くなってしまったからな、こんな仇になってしまうとは。
面倒だが、ちゃんと伝えて置かないと。此の龍を暴走させてはいけない。
「違う、其は私の願いじゃない。私は御前達を止めに来たんだ。」
此処の龍全てを敵にするのではと思い恐れたが、言わない訳には行かない。
此奴は此の集まりの中でも可也力が勁い筈、此奴さえ如何にか出来れば良いんだ。
如何やら周りに居る龍達は様子を見ている丈だし、一見戦闘に向いていないのが多い。
恐らく此処で待機していたんだろう。次元龍は待機場所として使われている様だな。
「・・・止めに?ハハッ!面白い事言うなぁ。そんな事、些とも思ってないでしょ?此処には仲間しかいないよ?隠さなきゃいけない本心も、騙さなきゃいけない相手もいないんだよ!」
本当に可笑しそうにフリューレンスは笑って身をしならせた。
違う・・・本当に違うんだよ。如何したら御前に正しく伝わるんだ。
其の心も又、間違いはないんだろう。でも・・・私は此のやり方を、認めたくないんだ。
「フリューレンス、私の心じゃなくて、声を聞いてくれ。こんなやり方じゃあいけない。私は只御前達に戦って欲しくないんだ。今は人間の事とか神だとかは関係ない、只其丈だ。」
「・・・・・。」
彼が・・・黙った。
じっと・・・自分の言葉を聞いてくれただろうか。
心を見ている丈じゃあ、伝わらない。本心丈に目を向けては駄目だ。
丗の意思とか、私には聞こえない。分からない。
そんな物は如何しようもないけれど、若しかしたらフリューレンスなら、
強引だろうが、自分は一つの解決策を見付けていた。其に如何にか協力して貰わないと。
「戦って欲しくないか・・・。人間より、僕達を見てくれているんだね、嬉しいなぁ。でも良いの?本当に止めちゃって。だって此、一番のチャンスなんだよ?もう一寸で夢が叶うかも知れないよ?」
「・・・夢じゃないよ其は。実際然うなったらすっきりするだろうな。其は否定しないよ。」
実際何らかの自然災害とかで然うなれば、只自分は笑っただろうよ。
でも其処に御前達が関わって欲しくないんだ。
自分は我儘だから・・・御前達も、手放したくないんだよ。
「でも、其で御前達が殺されるのは・・・嫌だ。だって此は御前達が本心で起こした事じゃないだろう。其こそ心じゃあないんだろう、じゃあして欲しくない。そんな訳分からない声に従うな。」
「・・・噫、嫌だ、か。やっと君の中が少し見えたなぁ・・・。」
無い筈の心臓が跳ねた気がした。
・・・何か、見られている。いけない、此は・・・絶対にっ、
「嬉しいなぁ、君に然う思って貰えるなんて。大嫌いな人間よりも僕達を選んでくれるなんて。フフッ、其が君の声なんだね、確かに聞いたよ。」
フリューレンスの伸ばされた鰭がそっと頬に触れる。
優しく撫でる様に、其の形をなぞる様に。
止めて、見ないで、御前に其以上踏み込まれたら、
フリューレンスの瞳に、しっかりと自分の姿が鏡の様に写る。
段々と・・・恐怖に染まる自分の顔を、ありありと見せ付けられている様で。
嫌だ・・・来るな、見るな、其以上私を見るなっ!
刹那、時間が止まった気がした。
不自然に針が止まって、熱も色も無くした様に。
然うして自分の周りに彼の罅が生えていた。
▽ォオォオオオオオオ‼△
何処からか空気を伝って旻の悲鳴が聞こえて来た。
フリューレンスの鰭も罅が入ってしまい、千斬れてしまう。
其を静かに引き寄せて、其でも彼は咲っていた。
全てを退ける罅を慈しむ様に。
「フフッ、凄い拒絶の力だね。矢っ張り君も壊したいんじゃないか。まさか次元龍に迄ダメージが通るなんてね。其の力が、君なんじゃないかな?君の本心の形では。」
もう、真面に答える事も、今の自分には出来なかった。
只フリューレンスを見ている事しか出来ない。指の一本も動かせず、抜け殻の様に動けない。
其は屹度彼の言葉が私の心に刺さったからだ。
今迄隠し続けていたベールを、彼は全て取り払ってしまう。
「ね、だったら一つ迚も素敵な提案があるよ。君の力を僕達に貸して欲しい。黔日夢の次元だって引き起こせた君の力だ。其さえあれば、僕達は完全に人間を滅ぼせるよ。龍も死なず、人間丈居なくなる。如何?此以上ない素敵な条件でしょう?」
世界の音が失われ、彼の声しか聞こえなくなる。
色も形も失って、思考が段々と緩やかになって・・・、
もう、考えらえない、受け入れる事しか、出来なくなる。
「噫良い、凄く今の君の瞳は・・・綺麗だね。安心してよセレ、君は何もしなくて良い。後は全部僕に任せて。君の心を解放してあげる。次君が目醒めた時には、昊露の様な美しい世界が待っているから・・・ね?」
もう其の声は揺籃歌の様にセレに響いていた。
然うして微睡む様に彼女の意識は途切れたのだった。
・・・・・
何処迄も続く様な虚にも似た穴。
輝石の様にも見える雫が幾つも散り、巨大な螺旋を描いて奥へ誘う。
闇も曦も此処には無い、時折現れる罅が空間を徒に傷付ける。
其処から漏れた曦が空間と共に欠片となって漂う。幽風も重力もなく漂って、澄んだ音を鳴らす。
鈴の様な其の音に呼応して雫は螺旋の傾きを変えて行く。
何者にも邪魔されず、静かに其の世界は構成されていた。
其処へ一つの影が舞い降りる。
輝く瓊から幾つも幾何学的模様が生まれる其の姿は、フリューレンスだった。
「・・・やっと、君は僕を此処に招いてくれたね。」
然う、此処はセレの心の中。
とは言っても未だ其の外周だ。中心の核へ行かないと。
其にしても・・・見た事のない心だ。
誰しも心の中には一つの世界があり、色々な景色を写して僕を楽しませてくれるけれども。
其の何もと此は違う。一体何だろう此の心は。
僕は知らない、理解出来ない世界だ。
僕は彼女の心が酷く歪み過ぎて形を変えたと思っていたけれども此は・・・。
違う、然う言う事じゃない、此の心は初めから何かが違う。
言うならば・・・心の真似をした何か。見様見真似で作られたちぐはぐさが目立つ。
でも其は荒でもなく、ちぐはぐさ同士がちゃんと噛み合っているんだ。一体如何やって創ったんだろう。
此は、心と呼べるのだろうか・・・こんな心の龍である僕が動揺するなんて。
まぁでも其でも核に行ってしまえば此方の物だ。取り敢えずは其処へ向かおうか。
螺旋の雫に導かれる様にフリューレンスは奥を目指す。
核迄は一寸遠そうだけど、入ってしまえばもう僕を止める事は出来ない。
もう直ぐだからねセレ、もう直ぐ君の心を手に入れられるよ。
然うしたら屹度僕も・・・満たされる気がする。
君の心を満たしてあげる、然うすれば屹度君は・・・、
思わず笑みが零れる。こんな楽しいのは初めてかも知れない。
クリエーターが居なくなってずっと僕は孤独だったけど、君を見付けて僕は又息を吹き返したんだ。
大丈夫だよ、心配しないで。恐がらなくて良い、僕は君の味方だ。
壊したいなら壊せば良いよ。素直になりなよ、こんな奥に心を隠さないで。
泳ぎ続けるフリューレンスの前で、不意に絳い欠片が漂った。
罅の中から漏れ出た様だが、其丈が色を持っていて、ついフリューレンスの興味を引いた。
此は一体・・・何か異質な感じがするけれども。
心の中で、僕に分からない物があるなんて珍しい、何なんだろうか。
其の欠片はどんどん集まり、輪の形に並べられて行く。
そして其の輪が収縮したり広がると、音が流れて来たのだ。
―今日は、今日は、こんな所へ良く来たわね。貴方はだぁれ?―
「僕はフリューレンスだよ。君こそ誰だい?セレの心にまさか先客がいるなんて。」
―私?私はね。アティスレイって言うのよ。貴方の事知ってるわ。目が無いから分からなかったけど・・・心の龍ね。―
「アティスレイ?僕は初めて聞いたなぁ。」
・・・何なんだろう本当、心が読めない?
抑此に心はあるのかな?妙な違和感がある。
仮初の心と言うか・・・いやでも此を偽物と呼ぶ可きか。
何だか僕の知る心とは違う物みたい・・・?見れば見る程不思議だ。
一つじゃなくて散らばっている感じ。
一寸セレのと似ている気もしたけど・・・良く、読めないな。
―此処が、貴方は無論何処か分かって来てるんでしょう?じゃあ屹度目的は一つよね。―
絳い輪は広がったり縮んだりを繰り返す。
若しかして此は口のつもりなのだろうか・・・うーん、不思議だ。
「然うだよ。彼女の心が欲しいんだ。彼女を自由にさせてあげるんだよ。彼女は全てを壊したがっている。不思議と其を隠そうとするけど、僕には分かるよ。だから彼女の心を満たしてあげるんだ。」
―壊す・・・ね。―
含みのあるアティスレイの言い方にフリューレンスは首を傾げた。
―果たして其は何処迄本心なのかしら。私もね、似た願いを聞いたのよ。だから望みを叶えようと思った。でも彼女は変わってしまった。もう誰か分からない位に。其なのに誰も気付いてくれないの。・・・いや、気付いて、其でも黙ってる奴はいるけど。―
「君は何の話をしているんだい?」
心が読めないから聞くしかない。
こんな事があるなんて・・・益々気になって来た。
―私も、彼女の為に壊そうと思った。でも其は拒絶された。分かるかしら?貴方がしている事は其と同じ。だから貴方も否定される。彼女は真に其を望んではいないから。―
「・・・如何して、分からないよ。願いを叶えたら心は満たされるでしょう?其なのに。」
今迄だって全て然うだった。如何すれば心は動くのか、如何染まるのか、僕は熟知したつもりだった。
でも此迄と同じやり方なら失敗する。然うはっきりアティスレイは言ったのだ。
彼女が先言っていたのって此の事?でも僕の勘違いって何?
龍に死んで欲しくないからってのが理由なら、先僕は提案したじゃないか。
彼女の力を借りれば、犠牲も出ないって。
其なのに・・・駄目なの?違うと言うの?
―彼女が真に求めている事はもっと別の事。私は其を理解した。でも私は其を本当の意味で叶えてあげられない。だから私達は迷走している。マザーも、ちぐはぐな命許りを出している。―
「真に・・・求めている事?」
心とは別にって事?何其、
そんな物があるって言うの?
すっかり進むのを止め、フリューレンスはアティスレイを見詰めるが、彼女は只漂う丈だった。
―理解したと言っても、直接聞いた訳じゃない。見て来て、判断したの。彼の時の約束は今も有効か。私達は道を違えたのではないかって。願いも心もね、時が流れてしまうのよ。―
「時・・・じゃあもう彼女の願いは変わってしまったって事?ね、じゃあ君が聞いた願いって何だったの?僕よりずっと前から彼女を見て来たって事でしょ?」
でもアティスレイは黙ってしまう。其の口の閉ざし方は焦らす様で、悲し気に咲っている気がした。
―其は秘密よ、私と彼女丈の。其が私の全てだから。私は託されたのよ、彼女の為に。だから教えてあげない。―
心も見えないから、其の裏を読む事も出来ない。
焦れったくなって来たフリューレンスは鰭を揺さ振った。
「じゃあ良いよ。僕は今から彼女の心へ行くんだから。直接見て来るよ、其の奥を。僕には其が出来るんだから。」
―然う、貴方には其が出来る。だから私は此処に来たのよ。こんなぼろぼろの死に体で。―
突然絳い分から黔い蔓の様な物が幾本も生えて来た。
其は輪を中心に四方へ伸ばされて行く。
遠慮なく伸ばされる其に思わずフリューレンスは下がった。
其の蔓には幾つもの蕾が規則的に付いていた。其が一斉に開き、満開を迎える。
華は雫型の瓊を乗せ、周りの雫に合わせて輝いていた。
綺麗にも見える半面、規則的に並ぶ其は無数の目の様に見えて不気味にも写る。
こんな大きくなられちゃあ先に行けない、まさか邪魔をする気なのだろうか。
「ねぇ、其処を退いてよ。君だって彼女の為に動きたいなら僕を通してよ。」
―通す訳ないじゃない。こんなチャンス、もう二度と私には来ないんだから。―
蔓がじりじりとフリューレンスに迫る。嫌な予感がして又彼は少し下がった。
心の中でこんな動ける奴は然ういない。一体此は何なんだ、彼女の中に居た此は。
「チャンスって・・・僕の邪魔をする事が?そんなの無意味だよ。意図も分からない。」
―てんで見当外れだわ。まぁ最終的には貴方を邪魔する形にはなるけれど、でも見方に因れば私は貴方の成す事を成功させてあげるの。―
「はっきり言いなよ。心の見えない君の話は分かり難過ぎる。時間の無駄だよ。」
―じゃあ教えてあげる。私はもう直ぐ死んでしまう。だからせめて御前を喰い殺すわ。然うすれば其の力をマザーに渡せるかも知れない。マザーにこそ、彼女の心を見て、判断して欲しいのよ。こんな無意味な事止めろって。―
「・・・っ、其が目的か。」
急いで離れようとしたが、其より早くアティスレイの蔓がフリューレンスの瓊に絡み付いた。
然うして檻の様に彼を取り囲む。
「っ離せ!君なんかに力は渡さない、心すらない君なんかに彼女の事が分かる訳ないだろう!」
―じゃあ御前の心も貰うわ。御前がしているのは彼女の為なんかじゃない。全て自己満足よ。自分の身すら差し出せない奴が彼女を語るな。―
「っぐぅう・・・。」
蔦が締まり、苦しそうにフリューレンスは呻いた。
振り解く事が出来ない。どんどん蔦が絡まって行く。
彼女の心から出られない。此奴の所為なのか?
おかしい・・・心の中だったら自在な筈なのに、此の僕が何も出来ないなんて。
―私は自分で考えて此の結論を出した。でも私達は其を禁止されている。考えたら分かる事よ。其丈彼女と居たんだもの。でも、そんな私ももう直ぐ消えてしまう。分かっていても如何しようも出来ないならせめて、可愛い妹弟達の為に。―
蔦に引き摺られ、フリューレンスは絳の輪の前迄連れられる。
其の中へ、放り込む気か。中には何も無い、只の輪に見えるけれども。
彼女になら未だしも、こんな得体の知れない奴なんかに殺されたくはない。
必死に踠くが、一切力は弱らず、成す術もなく緩りと・・・、
だが其処で黔い一閃が両者の間に走った。
忽ち蔦は両断され、フリューレンスは自由になる。
急ぎフリューレンスはアティスレイから距離を取った。
然うして振り返ると見知らぬ影が立っていたのだ。
其はセレと良く似ていて、でも全く別の心を持っていた。
其の心に、不思議とフリューレンスは安堵する。何故だか安心する様な・・・。
「き、君は・・・、」
「・・・闇の神、丗闇漆黎龍だ。」
目を眇め、ちらと丈丗闇はフリューレンスを見遣ると、直ぐアティスレイへ向き直った。
彼女と似た俤なのに其の目は随分と違っていた。
―・・・貴方、本当に何時も邪魔をするのね。彼女の意に沿わない事をする其奴を助けるの?―
「助けた訳じゃない。此以上御前が力を付けると面倒だと思った迄だ。」
―成程、貴方が言うのなら、其も然うなんでしょうね。―
いやに聞き分けの良い返事に丗闇の目は細くなる。
此処に来られたのは恐らく奴の力の影響だ。
夢の中なら何でも創る事が出来る・・・其が心の中であっても。
其の力は強力で、良くない物だ。こんな所迄無遠慮に入る奴等、
―確かにマザーの判断次第では取り返しが付かなくなるかも。其は良くないわ。私が引金を引くなんて。―
「今回の奴は聞き訳が良いな。じゃあさっさと去ね。」
―言われなくてももう直ぐ死ぬわ。彼奴から彼女の心を護れたら十分、最低限の役目を果たしたわ。私はね、貴方の事、結構評価してるのよ。だから言う通りにしてあげる。―
アティスレイの蔓に咲く華は見る見る枯れて行った。
朽ちて行く中、絳い口も色を失っていく。
―でも若し、又こんな所へ来ようとしたら、次の私が容赦しないわ。其の時は本気で食べちゃうから、覚悟なさいよ。―
絳の欠片はどんどん崩れて行き、最後の一つになった。
もう輝きすら失った其は、でも少し丈瞬いた気がした。
―・・・然うだわ。私、姉に呼ばれて起きたのよ。多分近くに来ているから、会ったら宜しくね。・・・道は、創って置くから。―
「姉・・・だと。」
不穏な一言を残してアティスレイは今度こそ完全に崩れ去った。
警戒していたが・・・何も起きない。本当に滅したのだろう。
「あの、有難う丗闇漆黎龍、君の事は古き神で知っていたけど、まさかこんな心を持っていたなんて知らなかったよ。」
セレの中に封印されているって言うのは風の噂で聞いていたけど、話せる神とは思っていなかった。
抑心ってあったんだ・・・殆ど物の様な神だと昔は思っていたけど。
心も時が流れるって・・・斯う言う事なのかな?
「・・・先も言ったが、助けたつもりはない。只此以上御前の自由にも出来ないのは事実だ。さっさと此奴を解放しろ。」
「・・・うん、分かったよ。食べられたくないし、彼女の心は・・・諦めるよ。此の心は、僕の手に負えない。」
こんな事は初めてだ。まさか此の僕の範疇を超える心に会えるなんて。
少し丈、アティスレイの言った事。分かった気がする。段々と噛み砕いて飲み干して。
恐らく此の心を手に入れたとて、僕は彼女に拒絶されてしまうんだろう。
扱う事も、操る事も出来ず、屹度・・・駄目にしてしまう。
其は・・・嫌だよ。僕はそんな事をしたくない。
「・・・君の心も面白いから話してみたいけど、そんな時間は無いね。若し又会えたら一寸丈でも如何かな。」
「・・・・・。」
丗闇は暫し目を閉じた。口を開き掛け、又噤む。
「・・・良いだろう。分かったらさっさと行け。」
「うん!有難う、其じゃあね。」
ゆるゆるとフリューレンスは元来た道を戻って行った。
音が消えた世界は元の平穏を取り戻して行く。
螺旋の雫が緩やかに輪を描き、見送る様に瞬くのだった。
・・・・・
緩りフリューレンスが目を開けると、目の前でセレは苦しそうに胸に手を付いていた。
息が荒く、汗が幾つも伝う。
すっかり顔色は悪くなり、震えてしまいそうな程青くなっていた。
そんな彼女は何処か恨めしそうにフリューレンスの事を見ている様で、
「・・・御免、セレ。その・・・、御免なさい。」
少し丈彼女から離れる。こんな筈じゃあなかったのに。
「君を傷付けるつもりなんかなかったんだよ。・・・御免なさい。」
「・・・・・。」
荒い息の儘、セレは目を伏せた。
そして如何にか息を付き、深く吸った。
「・・・見たのか、私の心を。」
「いや、途中で引き返したよ。アティスレイってのに会って、邪魔されちゃって・・・何となく、言われた事、分かったから。」
伏し目勝ちにフリューレンスはセレを見遣る。
本当に申し訳なさそうで、其でも気になって離れられない様な。
そんな彼を見て、セレは一つ溜息を付き、額の汗を拭った。
「アティスレイ・・・?彼奴に会ったのか?」
「うん、食べられそうになったけど、丗闇漆黎龍が助けてくれたんだ。」
丗闇とアティスレイが・・・?
何だ、知らない間に随分と激しく事が起こっているな。
抑彼奴に心に入るなんて事が出来たのか。
いや、其より・・・邪魔したって事は、自分を助けてくれたのだろうか。
丗闇も丗闇でフリューレンスを助けたのか・・・少し意外だ。
其でも二柱の御蔭で、事無きを得たと言う事か・・・助かった。
フリューレンスに心を奪われていたら、大惨事は免れなかっただろう。
其こそ、滅ぶ迄戦いが続く可能性だってあった。其の為の力になるの丈は嫌だったんだ。
只の力になって利用されるなんて、真っ平御免だ。
アティスレイに礼の一つ言いたいけど、多分死んでいるんだろうな・・・。
せめて次に会った奴に言って置こうか。
―丗闇、助かったよ有難う。―
―・・・我は直接御前に何もしていない。其より何ともないのか。―
―うん、御蔭様で。犠牲を出さずに済んだのは一番良い結果だよ。頼りになるなぁ丗闇は。―
―だから御前の為じゃなくて、―
何かぐちぐち彼女は怒っているが、まぁ良しとしよう。
助かったのは本当だ。理由が如何であれだ。
自分じゃあ本当に如何しようもなかった・・・まさかあんな風にやられるとは思わなかったんだ。
助かった・・・けれども大本命は未だか。良し、此処からは流石に自分が動かないと。
「じゃあフリューレンス、もう私の心は取ったりしないな?」
「・・・うん、本当に悪かったって思ってるよ。」
こんなに反省しているとなると、一体アティスレイは何て言ったんだろう。一寸気にはなるが・・・。
まぁでも恐らく、悪気が無かったのは本当だろうし、只テンションが上がったというか、周りの空気に当てられてしまったのもあるのだろう。
・・・分かっていても、直ぐには赦せない自分がいるけれども、でも未遂で終わったなら良しとしよう。
言葉が足りなかった自分にも非はあるし・・・な、然う呑み込んでくれ。
湧き上がって来る黔い懐いを何とか呑み過ごす。
赦せないとかさ、何の口が言うんだよ。自分に其の資格は無いだろう?
じゃあ受け入れろ、何時もみたいに。其にフリューレンスは大切なピースだ。
目的を忘れちゃあいけない・・・然うだろう?
「・・・分かった。もう次は絶対するなよ。其が護れるなら今回の事はもう何も言わない。」
「・・・うん、有難う。約束は護るよ、絶対に。」
まぁ嘘は吐かないだろうよ。其の言葉は、信じても良いと思う。
何もかも拒絶するのは簡単だ。でも其じゃあ折り合いが付かないだろう。
「良し、じゃあフリューレンス、もう分かるだろう。私が今して欲しい事は何なのか。手伝ってくれるか?」
「うん、勿論だよ。龍の騒動を止めたいんだよね。だったら手伝えると思う。」
良い返事だ。やっと本題に入れる。
躯も、少し動かせる様にはなって来た。やっと此の空間に馴染んで来た様だ。
「だったら助かるな。具体的に如何するんだ?」
「彼の声を掻き消す位、悍く皆の心に訴えれば大丈夫だとは思うよ。次元龍も皆も声に従っている丈だから止めたいと言われたら止めてくれるよ、屹度。」
「然う言う物なのか。流石心の龍だな。」
然う言うとフリューレンスは何処か罰が悪そうな顔をした。
随分悄気てしまっている様だ。十分反省してくれたら自分はもう良いけれども。
「・・・扱い切れない心を持ってる君に然う言われてもね。」
鰭を焦らす様に揺らすのでそっと手に取った。
遠慮勝ちに彼は視線を合わせる・・・大丈夫、もう心を取ったりしないなら自分は御前を敵と見做さない。
同じ、龍族だ。自分は然う扱うよ。
「僕の事、認めてくれるのは嬉しいけれども、全世界に散らばった龍となると、如何しても厳しいよ。だからその・・・君の力を借りたいけど、良いかな。」
「私の力があれば届くのか?」
「うん、君の願いだ。必ず、届かせてみせるよ。」
「・・・然うか。其の為なら良いぞ。力位貸そう。」
「良かった、じゃあ何か・・・然うだね、彼の声を消したいなら、同じ音が媒体が良いな、何か詠とか、知らないかな?」
「詠・・・か。」
一つある、あるけれども・・・。
・・・彼の詠は駄目だな、願いが悍過ぎる。
そっとオーバーコートのポケットからある物を取り出した。
最近、吹けていなかったが如何だろう。
其は、初めて行った次元で勇からの贈り物。
レプリカだが、懐いは同じだ。自分の純粋な魔力で出来ている。
・・・此の時は魔力をこんな形で使っていたんだったな。
今思うと確かに使い方が変と言うか、特殊過ぎるな・・・。魔力の具現化なんて良くしたものだ。
そっと自分は其の水鏡色の月精の囀りを撫でた。
其を見てフリューレンスは何度も頷く。
「其は笛だよね?うん、其なら十分だ。僕が今から力を使うから、其に併せて吹いて欲しいんだ。」
「吹く丈で良いのか?」
「うん、一応君の願いを込めて欲しいけど、其を僕が届けるよ。」
「分かった、魔力を込めて吹いてみようか。」
最近練習出来ていないから可也不安なんだけれども・・・。
其より今は気持だろう。うん、魔力を込めて吹けば屹度大丈夫な筈。
然う信じてそっと構えるとフリューレンスはゆるゆると浮かび始めた。
周りの龍達は見ている丈だ。特に止める気は無いのだろう。
然う言う所も、龍族らしい性質と言うのだろうか、彼等は純粋なのだ。
「其じゃあ始めるよ。」
フリューレンスの中心の瓊が激しく曦を放つ。
余りの眩しさに景色全てが其の曦に包まれそうだ。
其の曦は不思議と温かく、淡い翠や蒼、石竹色と色を変えて行く。
自分はそっと、月精の囀りに口を寄せる。そして彼の日を懐い出す様に息を、懐いを魔力と吹き込む。
勇と一緒に屋根の上で見た水鏡を、カララ達が一緒に練習してくれた、彼の時を。
懐かしい、此の記憶は迚も穏やかだ。確かに自分の物だ。
口を当てずに、口笛を吹き、指を動かす。
其に併せて月精の囀りは二つの音を奏でて行く。
音が重なり合って響いて行く。何処迄も届かせる様に。
此の穏やかな音を届かせられれば伝わるだろうか、響くだろうか。
もう、戦わないで欲しい。此以上龍達を傷付けたくない。
彼の声を掻き消す様に、私の懐いを如何か届けて。
祈る様に、吹き続ける。
前世で教会に一回丈祈った彼の時が過る。
神に祈ったのなんて彼の一回限だ。
あんな純粋な祈りですら、神は叶えてくれなかった。
其は・・・祈ったのがこんな化物だからだろうが、其でも。
自分は祈る、今の自分は其の神なのだから。
誰かに託す訳でもなく、自分自身で祈って、自分で叶える。
自分は・・・然う言う神としてありたいんだ。
吹いている事に、すっかり夢中になってしまったらしい。
気付けば少しずつ月精の囀りは形を失って行った。
魔力が流れて行っているのだろう、フリューレンスに懐いと共に届けようと。
形を失っても、懐いは、記憶は変わらない・・・だから大丈夫。
勇、御前との懐い出の品は無くなってしまうが・・・私は忘れないから。
月精の囀りは徐々に色を失い、遂には持っている感覚も消え失せた。
然うして完全になくなってしまう。音色丈残して旻へ。
月精の囀りが消えると同時に曦も落ち着いて行く。
曦は全て、フリューレンスの中心の瓊へ戻って行った。
ゆるゆると彼は此方へ戻ってくる。でも其の姿は幾分か変わっていた。
シンプルになったと言うか・・・幾何学模様の様だった躯は随分と細くなり、一見瓊から影の様な線が一本生えている丈の様に見えてしまう。
瓊も鈍色に可也近付き、陰りがある様に見えた。
「・・・御待たせ、恐らくもう大丈夫だよ。外の龍達も此方へ戻る筈だ。」
此方に伸びているのは顔なのだろうか。もう其すら今一分からない様な姿で、思わずセレは手を伸ばした。
其の手に擦り寄って来るが、矢張り現実感が無い様に思う。
「御前、其の姿は・・・、」
「こんなに力を使ったのは初めてだからね。一寸・・・疲れちゃった。」
「っそんな、魔力なら分けられるぞ。其なら治るか?」
まさか此処迄衰弱するなんて・・・随分と無理をさせてしまった。
今にも消えそうで・・・息が詰まってしまう。
自分の身勝手に彼を巻き込んだと、嫌でも自覚させられた。
「心配、してくれるんだ。嬉しいな・・・。」
「・・・っ、」
見ていられなくて、そっと下側の目を一つ抜き取った。
其をフリューレンスに差し出すと、そっと彼が鼻先で触れた。
「此を取り込めば、屹度魔力は回復する筈だ。此処迄無理させていたなんて知らなかったんだ・・・済まない。」
「・・・咲ってよ、セレ。言ったでしょ、僕は君の為なら何でもするんだから。寧ろ僕にしか出来ない事があって嬉しかったよ。君に働いた無礼を、如何か赦して欲しいんだ。」
本当に彼は只の、自分に好意を寄せてくれる龍の一柱なんだろう。
痛い位に、其の懐いは伝わって来た。
自分なんかにそんな物を寄せる奴なんて然ういないから受け入れるのは苦手だけれども。
でも・・・分かってる、本当は分かってるんだよ。
「・・・有難うフリューレンス。」
「如何いたしまして!」
其の声音は本当に嬉しそうで、彼が咲ってくれているであろう事は容易に想像が付いた。
「エヘヘ・・・何だかむず痒いな。初めての感じだよ。折角だし、此のプレゼント、貰って行くね。」
フリューレンスの瓊が曦を放つと、手にあった目は溶けて消えてしまった。
「でも使っちゃうの、一寸勿体無いな・・・初めてのプレゼントなのに。」
「其は何方かと言うと詫びの品だからそんな大事にしないでくれ。」
プレゼントが目玉って普通に嫌だし・・・。
「其でも僕にとっては初めてのプレゼントなんだよ。・・・あ、あの、」
暫く首を振って思案している風だったが、窺う様に此方を見上げた。
「あの・・・良かったら今度、会いに行って良いかな?御話、する丈だから。」
「そんな事、噫、何時でも遊びに来たら良い。」
話す丈なら、只の可愛い龍だ。其を咎める様な自分じゃあないよ。
「・・・っ!やったぁ、うん。じゃあ又ね、セレ。」
純粋に嬉しそうな彼の声を聞くと、胸が少し痛む様で。
屹度、寂しかったんだろう。フリューレンスは頭を寄せて甘え声を上げていた。
自分に会いに来て喜ぶ奴なんて物好きだけれども。
「噫、此処に龍達は戻って来るんだな。」
▽オォオォオォオオオ・・・△
何処か遠くから笛の様な音が谺する。
此の声、何処かで聞いた様な・・・。
「次元龍だよ。龍達を呼んでいるんだ。」
「噫、此の声が・・・然う言えば先怪我させてしまったな、大丈夫か?」
如何話し掛けたら届くのか分からないが・・・でも暫くすると声が返って来た。
▽フォルルルル・・・オォオオオ・・・・△
世界が震える様な声だ、世界其の物が声を上げているんだろう。
「大丈夫、然うだね。龍達を集めて、何処か遠くに行くみたい。人間達に可也迷惑掛けちゃったからね・・・。」
「然うだな。赦して貰うのも無理だろうし、争いの元になってしまうなら其の方が良いかも知れないな。」
罪を償えだの如何斯う奴等は言うだろうが、自分は彼等を逃がそう。
此の儘じゃあ龍達は狩られる許りになるだろうし、熱が冷める迄大人しくしたら良い。
例の声とやらに操られた彼等も被害者だと自分は思う、だから・・・。
「うん、じゃあ君も戻りなよ。もう僕達は大丈夫だから、ね。」
「噫・・・元気でな。」
そっとフリューレンスの頭を撫でると、其の姿は霞んで行った。
いや、彼丈じゃない、周りの龍達も、空間も全て揺らぐ。
次元龍が、自分を次元から出したのだろう。幻の様に景色は滲んで行く。
此処は、謂わば龍達の楽園の様な所だ。
此処にずっと居たい気もするけど・・・自分にはやらないといけない事があるから。
名残惜しいけれども・・・御別れだ。
瞬きの後に、一気に現実感が戻って来る。
此処は・・・見覚えがある、ライネス国の、先楪と戦った所だ。
然うか、次元龍に取り込まれた時の、其の儘の場所に戻って来たのか。
何だか不思議な感じだ。まるで全て夢だったみたいに。
噫、でも分かる。明らかに空気が違う。
ちらと旻を見遣る。殺意だ、何処からともなく漂っていた殺気が消えたんだ。
波紋を広げて行くと至る所から龍達が飛び去って行くのが見えた。
皆、次元龍の所へ向かっている様だ・・・ちゃんと届いたか、良かった。
終わった、止められたのか。こんな自分でも。
肩で大きく息を付く。どっと疲労感が押し寄せて来た。
皆に報告しないと・・・先ずはガルダか。此の国を出ないと不味いだろう。
―ガルダ、今一寸良いか?―
―お、セレ。お、おい今龍達が・・・、―
―矢っ張り然うか。先次元龍達に会って話を付けて来た。恐らくもう大丈夫だと、―
テレパシーを送っていると波紋の端で揺れる物があった。
其は此方へ向かって伸びて来る蔓だ。其の見慣れない黔い蔓に目を奪われる。
蔓には見覚えのある絳い華が咲いていた。彼は・・・確か、
―!然うだったのか!御手柄だぜセレ!じゃあ直ぐ店に戻るか。―
―噫・・・然うしたい所だが、―
蔦は近くの崩れ掛けの建物へ向け、伸びていた。
誘っているのか?然も彼処はまさか・・・。
―・・・悪いガルダ、私は一寸寄る所が出来た。リュウと一緒に先に戻ってくれるか?皆にも連絡を御願いしたいんだが。―
―え、おいセレ!駄目だって、今直ぐ戻ろう。寄り道は危ないぜ!―
―済まない、直ぐ戻るから。―
一方的に会話を切り、蔓を辿る。
崩れ掛けの建物の穴へ伸びているが、其の先は地下の様だった。
・・・此処は確か、楪が出て来た所じゃないか?
奴と戦っている間に、此処に戻って来ていたのか。
と言う事はまさか此処がクルスティード尖塔・・・。
思わず生唾を呑み込む。でも如何して此処へ誘っているんだ・・・?
―・・・奴が言っていたのは此の事か。―
「奴?丗闇何か知っているのか?」
周りに気を付けるが・・・一応、誰も居ないな。
―先絳い奴が言っていた丈だ。姉に呼ばれたとかな。だから最期に道標を残すと。―
絳い奴って・・・アティスレイの事で良いよな。
でもアティスレイに姉なんて居たのか?
然う言えば彼奴は他の自分の事を姉とか妹とかって呼んでいたっけ・・・?
じゃあ他のアティスレイの事か?何の道ピンと来ないけれど。
若しかしてアティスレイのルーツとか何かだったり・・・?
考えても良く分からない。抑自分は彼奴の事を良く知らないしな・・・。
でも気にはなって来る。俄然興味は出て来た。
此処はライネス国で、然も塔の前だなんてとんでもない地雷源なんだが・・・。
うーん・・・如何しよう。
―・・・まさか行くつもりか。其は余りにも愚かだぞ。―
「でも虎穴に入らずんば虎子を得ずとか言うし・・・今が一番のチャンスとも言えるし・・・。」
―虎子を得ても其の後喰い殺されても知らんぞ。―
「鮫の次は虎か。・・・悪くはないな。」
―絶対良くも無いぞ。―
滅茶苦茶丗闇が止めようとしてる・・・分かる、分かるんだよ言いたい事は。
ガルダだって止めようとしたし、うん、其は当然なんだ。
行きたいと思っている自分が馬鹿なのは分かってるんだ。
片腕も目も一つ無いし、万全でもないのに敵の本拠地へ行く。
兵は確かに今の龍騒動で出ているだろうが、全員じゃあないだろう。其なのに準備もなく単身で。
抑アティスレイは仲間と言うか、可也微妙な立ち位置だ。
何方かと言うと敵に近い、其は分かっている・・・けれども・・・。
・・・如何しても、捨て切れない思いがあるのも事実なんだよな。
一応個神的にはそれなりに助けて貰ってるし、最近は特に手を貸してくれる事も多い。
其処にどんな下心があったって、自分はそんな彼奴の事を毛嫌い出来ないんだ。
・・・何の道、此処で帰ってもずっと気になるだろうし。
「丗闇、悪いが私は行くぞ。」
―・・・だろうとは思ったが、如何なっても知らないからな。―
「丗闇に泣き叫んで助けを求める事が無いよう祈るよ。」
―そんな無様晒した瞬間に我が殺してやる。―
おぉ、手厳しい。
其じゃあ気を引き締めて行きましょうか。
奥へと頓伸びて行く蔓は小さな花弁を散らす。
一体何が待っているのか見当も付かないが、素敵な物だと信じてセレは足を向けたのだった。
・・・・・
ある程度蔓を辿るが、未だ終点は見えない。
如何やら蔓が導いていくのは地下らしく、どんどん下って行っていた。
石造りの無骨な壁が続くが、如何やら地下は丸々牢屋になっているらしい。
可也劣化はしているのでそんな使われてはいなさそうだが・・・一応中を見てはいるが、住神は居ない。
まぁ神なら死んだら消えて行ってしまうだろうし、此処が使われているのか如何かは今一分からないな。
加えて幸いな事に兵の一柱にも会わない。其は若しかしたらアティスレイがルート選択をしてくれているのかも知れないが。
其にしても、一体何処へ導いてくれているんだろうか、どんどん奥に向かっているが・・・。
牢なんて嫌な懐い出しかないから早く去りたいんだがな。
何気波紋が少し使い難いのも気になる。此の塔も然う言う防魔の術か何か対策をしているのかも知れない。
捕まって此の中に入れられるの丈は勘弁だな。まぁ自分の場合は其の儘殺されそうだが。
「・・・ん、」
今、波紋の先で何か見えたな。
もうそんなに離れていない、此の次の牢か。
自然駆け足に力が籠る。随分と大きな影が写って来たのだ。
此はまさか・・・でも、そんな事あるのか。
信じられない儘に其の牢へ辿り着く。
蔓は中に伸びていた。丁寧に牢の格子を捻じ曲げて入口を作ってくれている。
入る前に、ちらと中の様子を窺った。
セレが来た事に気付いたのだろう、中の者も動きがあったのだ。
―あら・・・あらあら、まさかとは思ったけど、本当に貴方なの?―
無数の細長い手が伸ばされ、格子を掴む。
其の声に、自分は確かに覚えがあった。
牢の中に居たのは、巨大な化物だった。
全身に無数の瞳を生やした冥い翠の体躯の化物。
其が無数の手で己の首を支え、此方を見詰めていた。
此の化物は・・・前に一度、次元で会っている。
非常に凶暴で、自分に呪いを掛けて来た彼の化け物だ。
でも、今の此奴から其の凶暴性は微塵も感じられない。
其は、化物にアティスレイが憑いているからだ。
確かに彼の時次元から去ったけれども、こんな所で出会うとは全く思っていなかった。
アティスレイの姉って、然う言う事か。然うだよな、確かに可也前に出て来たんだし。
其でもまさか・・・未だ生きていたなんて。
「御前、如何してこんな所に。」
其の瞳は何とも穏やかで、大人しそうではある。
今なら・・・近付いても良いかな。
そっと牢の中へ入る。蔓も見る間に朽ちて行った。
化物の胴は鎖で縛られ、身動きは取れない様だ。其の中で細い手を伸ばして来ている。
セレが近付くと、其の手で優しく頬を撫でられた。
―別に、大した事無いよ。適当な次元に居たら、此処の奴等に捕まった丈、もう目的も何も無いし、なる様になった丈よ。―
「でも、まさか捕まっていたなんて。」
こんな所にずっと繋がれていたのだろうか。
使い捨てだと言いつつも、こんな扱いで本当に良かったのか。
・・・矢張り彼の時、無理にでも御前を止めていれば、良かったんじゃないか。
―どうせ私は直ぐ死ぬつもりだったから、如何でも良かったんだけど・・・まさかこんな長生きするとも、思ってなかったのよね。此奴の魔力で、生かされちゃったみたい。―
化物は全部の目でじっと、余す事なくセレを見詰めていた。
でも不思議と其の目に嫌悪感は抱かず、寧ろ愛しさの様な物を感じる。
化物の捕まっている姿は如何も、前世の自分と繋がる所があって、手を出さずにはいられなかった。
―でもまさか又、貴方に会えるとは思わなかった。貴方と話せず終わるんだろうなってずっと思っていたから、凄く嬉しいわ。良かった・・・今日迄生き延びて良かったわ。―
そんな言葉を、掛けてくれるのか。
アティスレイ、矢っ張り御前は御前なんだな。
如何して自分なんかの為に其処迄全てを捧げられるのかが分からない。
自分は、御前の事を良く知らない。本当の所で分かっていない。
其の異常な迄の愛を、存在意義を、何を求め何を見ているのか、私は知らない。
でも兎に角、こんな所に置いて行く事は出来なかった。
自分の為に犠牲になった彼女を、如何にか救い出したくって。
「先ずは鎖を外そうか。待っててくれ、直ぐ全部壊すから。」
―いや、此の儘で良いわ。貴方には別の事を頼みたいの。―
「別の事、か?」
逃がした所で如何するのか、連れて逃げるつもりなのか。
そんな考えは二の次で只化物に伸ばされた手はやんわりと断られた。
化物の手も声も何処迄も優しくて、つい見入ってしまう。
―此処に貴方が来てくれたのは本当に、とんでもない奇跡と幸運よ。だから私は其を無駄にしたくない。諦めていた物に手が届くなら、私は其を信じましょう。其に丁度、貴方も・・・自覚した様だしね、私が居ない間に随分と成長したのね。―
化物の手にそっと頬を撫でられ、つい首を竦める。
擽ったい、其は手丈じゃあなくて、屹度言葉も含めて。
でも逃げる訳でもなく、やりたい事って何だ?
―・・・私を、食べて頂戴。貴方の中へ戻りたいの。―
「・・・え、食べる、のか、」
思わず繰り返してしまう。
食べる・・・自分が此の化物をか?
―えぇ、然うすれば化物の力も貴方に与えられるし、私も、最期にね。マザーに一寸物申したいのよ。相変わらずみたいだから、やり方を変えるよう説得してみる。―
「そんな事が出来るのか?」
―貴方はこんなにも私を心配してくれている、見てくれている。此の関係は、マザー、貴方が望んだ所に近いんじゃないかと私は思うの。だから其を証明しに行くの。―
「・・・・・。」
其の為の手段が、捕食、と言うのか。
折角会えたのに、終わらせないといけない。
でも、然うだな。其が良いんだろう。其がアティスレイの望みなら叶えた方が良い。
確かにアティスレイの生存時間は大抵短い。こんなに彼女が生きているのは化物の御蔭なんだろう。
でも此の化物は狂暴だ。野放しには出来ない。
だったら大人しい今の内に・・・終わらせてやる可きだ。
其にしてもこんな大きな化物、如何やって喰うのかが問題だけれども。
「・・・分かった。其の通りにしよう。えっと・・・其の儘、御前を食べたら良いんだな?」
―えぇ、御願い。今の貴方なら出来る筈よ。自分で、分かってるんでしょう?―
「分かってるって、何の事だ?」
―・・・人間を食べていた事よ。だから其と同じ要領で食べれば良いわ。―
「わ、分かった。やってみようか。」
本当に出来るか可也怪しいが・・・えぇい!やる丈やってみよう。
彼の時みたく、喰おうと念じてみる。干渉力に身を委ねる。
するとざわざわと、全身の甲が波打つ様な気がした。
そして一気に口元がむず痒くなり、狼の様なマズルが伸びて牙が並ぶ。
巨大化した口は一気に裂けて大きくなり、化物と然う大差なくなった。
あ・・・あ、
自覚と言うのは此の事か、分かり易く自分の姿が変わって行く。
食べ易い様に特化した姿へと、変わって行く。
変異して行く自分を見て、彼女は・・・咲っている気がした。
―噫、まさか貴方の元に帰れるなんて、こんな幸せな事はないわ。・・・さぁ、残さず食べて頂戴。―
然う告げ、優しく手を広げる彼女に向け、自分は牙を突き立てたのだった。
・・・・・
長く息を付き、顔を上げる。
そっと自分の口元や頬に手を添えるが・・・戻っている、何時もの顔だ。
波紋を緩り広げて、ぐるりとセレは一度辺りを見渡した。
大して、時間は経ってはいないと思う。其でも随分と長い事、此処に居た心地だ。
もう、牢には何も居ない。彼の化物は跡形もなく無くなっている。
血の一滴も、目の一つも残ってはいない。
全て全て、自分が喰らい尽くしたんだ。
やってみれば確かに、案外出来てしまう物である。
あんなに大きかったのに、まさか自分の中に納まるなんて。
・・・別に、腹に溜まった感じはしないんだよな、不思議と。
何と言うか、自分が人間を喰らう感覚と、普通の食事とは又違うと言うか・・・。
気持が落ち着くと言うか、満たされる感覚が残る。不思議な心地だ。
恐らく、喰らうの意味合いが違うんだろうな。
確か丗闇とかが教えてくれたけれども、存在を喰らう、と言う事なら其の概念のみに固執しているのだろうし。
身体的に、ではなくて精神的に喰らっている訳だ。
だから幾らでも食べられる感覚なんだろうな。うーん、こんな所で精霊っぽさを感じたくなかったけど。
果たして、こんな方法で本当にアティスレイは自分の中に戻ったのだろうか。
彼で今後出て来るアティスレイがもう一寸大人しくなってくれたら良いんだけど・・・。
協力してくれるなら、可也強力なんだと思うんだよ。何時も過激と言うか、一寸ずれているのがいけないんだよな。
魔力だとかはそんなに上がった気はしないな、まぁそんな物か。
操られていた化物には悪いが、まぁ一度襲われているしな、斯うなる末路も仕方ないだろう。
一応、此で用事は済んだか。早く此処から撤退しないとな。
兵の居ない今の内に・・・いや、
「・・・・・。」
ある考えが頭を過る。
・・・可能か?いや流石にやり過ぎか?
でもこんな風にライネス国に来られる機会って然うないぞ。
今なら、此のどさくさに紛れて・・・クルスティード尖塔を潰せるんじゃないか?
長が塔に残っているかは分からないが、何の道塔内部を見られる良い機会なんじゃあ・・・。
内部の事情が分かれば今後色々と対策を立て易い。其に此処とは遠からずぶつかるだろうし。
目障りな塔って事では間違いないんだよな。
でも目と片腕を喪失している、万全って訳じゃあない。
然う思いつつも、其は相手も一緒じゃないかと言う考えが過る。
・・・賭けてみるか?今此の塔を潰せたら可也大きいぞ。
―・・・御前、今良くない事を考えていないか?―
「ん、噫丗闇、まぁ何時も良くない事は考えているけれども。」
そっと牢から出る。
何の道此処には用はない、此の儘上がってみようかな。
「具体的に言ったら、今なら此の塔、上れるんじゃないかと思ってな。」
―見学させて貰える様な身分でもないだろう。―
「然うだな。だからうっかり塔を潰してしまうかもな。」
―・・・・・。―
丗闇が何やら考え込んでいる間にさっさと上階に向けて駆け出す。
兵は・・・本当に居ないな、地下は如何でも良いから出払っているのか?
―御前は冗談を言わない奴だからな。―
「丗闇は私の言った事、直ぐ冗談だと思う所があるな。」
思わず笑ってしまう。
別に意地悪でも何でもないが、何時も然うだ。
其丈、彼女を振り回してしまっているんだよな。其は申し訳ないけれども。
でもやれる事はどんどんやって置かないと、自分みたいなのは生き残るのに必死なんだよ。
―正直、賛成はし兼ねるぞ。此の塔は御前が思っている程甘くはない。―
「でも止めはしないんだよな。丗闇の然う言う所、好きだぞ。」
―・・・、調子の良い事許り言って、今日が命日になっても知らんからな。―
「噫、然うなったらガルダが怒りそうだなぁ・・・。」
此の塔で恐ろしいと言うのは長なんだろうな。
話丈は聞いているが、何とも聖女なんだとか。
聖女と聞くと大神の巫であるロードをつい自分は思い浮かべるが、如何やら可也冷酷で、武術の才があるとか。
・・・いや、ロードも滅茶苦茶勁いけどな、恐らく其とは別の勁さだろう。
楪も真の姿になってしまう程酷い拷問とかに遭ったかも知れないが、若しかしたら其の長が関わっているかもな。
まぁ確かに、そんな奴に捕まったら酷い目には遭いそうだなぁ・・・。
ずっと死ぬ事も出来ずに拷問されるのは嫌だな、直ぐ前世の事を懐い出してしまうだろうし。
・・・然うなると自分は只の弱者に戻ってしまう、恐がりで臆病な自分に。
そんな姿を又晒す位ならさっさと殺して欲しいけれども、如何だろうなぁ。
其でもチャンスなのは間違いないと言うのが何とも・・・。
龍の騒ぎに乗じてと言うのは卑怯だろうなとは思うけれども、どうせ此の塔は此の騒ぎも自分の所為にするんだし。
だったらもう襲っても良いかなと思っちゃったり・・・其位は普通の心境だよな?
もう蔓を辿る事もないので足早に地上迄戻って来た。
楪が開けた例の穴が残っている。
其処から波紋を投じるが、未だ混乱はしている様だな。
一寸ずつ神が街に出ている様だが、被害状況を見ないといけないだろうし、未だ未だ忙しいだろう。
此はチャンスな訳だが・・・何だろう、今絶対見付けたくない気配がある様な・・・。
長く息を付き、少し頭を整理する。
まぁ、する迄もないだろうが此は・・・矢張り然うだろうな。
流石に無視出来なくて足を止める。すると向こうも直ぐ様気付いた様だった。
「セレ!何て所居るんだよ!早く帰るぞ!」
「ガルダ・・・先に戻ってろと言った筈なんだが。」
其処に居たのは・・・紛れもなくガルダだった。
例の穴から此方を見付け、慌てた様に手招きされる。
まさかこんなドンピシャで見付かるなんて・・・波紋が見えていなかったのは痛いな・・・。
其にしても良く此処が分かった物だ。闇雲・・・ではなさそうだけども。
「戻るって、其は此方の台詞だろ。此処が何処か分かってるのか!」
一度辺りを見渡してガルダは穴を潜り、入って来た。
そして恐々と再び辺りを見ている。一応、彼も何処かは分かっていると言う事か。
「分かってるから、早く用事を済ませて帰ろうと思ったんだ。」
「用事って何だよ。此処に居るの見付かっちまったら何されるか分かった物じゃないだろ。」
「・・・・・。」
言ったら・・・怒るんだろうなぁ。
一寸、面倒になってしまった。勿論彼に悪気が無いのは分かっているけれども。
「・・・塔の見学でもして行こうと思ったんだよ。良い機会だからな。」
「っ!駄目だってセレ、御前怪我してるんだろ。其より早く店戻ろうぜ。俺達の仕事は終わったんだからさ。」
「怪我・・・何だか詳しいなガルダ。一体何処で知ったんだ?」
「いや今は其所じゃあ・・・もう、魔力だよ。魔力に色々聞いて、此処に来たんだよ。」
今迄の付き合いから、先に彼女の疑問に答えた方が早いと踏んだみたいだ。
溜息が混ざりつつも口早に然う答えてくれた。
成程、すっかり忘れていたな。確かに魔力と話せるのか、ガルダは。
前、フォードと戦った時に繋いだ弊害が出たな・・・。失念していた。
魔力達はずっと自分の事を見ていただろうし、状況も場所も丸分かりだった訳だ。
「ほらセレ、知りたい事は分かっただろ?早く戻ろう、未だばれてないんだろ?」
「ガルダの御願いでも其は一寸聞けないな・・・少しでも良いんだ。駄目か?」
リュウは恐らく、先に帰したんだろうな。態々残って捜してくれていた訳だ。
若しかしたら彼なら然うするかもな、とは思ったけれども・・・其でも早かった。
彼は最初こそ困った顔をしていた物の、段々と眉尻が上がり始めた。
怒らせたくはないけれども、其でも此は譲りたくない。
「駄目だって。此処は本当にやばいんだからさ、頼むよセレ。」
「じゃあ二柱で、でも駄目か?今見て置かないと何の道困った事になり兼ねないぞ。一寸のリスク位は背負う可きだろう。」
「いや此許りは譲れないぜセレ。其ばっかりは許可出来ない。今直ぐ出るんだ。」
・・・今回はいやに引かないな。
其でも自分も折れるつもりはない、斯うなったら多少強引に行くか。
「悪いがガルダ、矢っ張り私は行くよ。大丈夫、波紋でしっかり見ているし、本の一寸丈だから。」
無理に彼に背を向け、一歩踏み出す。
悪いけれども、此の強引さがあっての自分だ。
ガルダだったら、一柱で帰る事は何の道しないだろうし、何だ彼だ言って付いて来てくれるだろう。
然う思って足を進めた瞬間だった。
背にひやりと冷たい物を感じ、急ぎ横っ飛びに跳び退いた。
すると遅れて床に皓い矢の様な物が刺さる。
今の攻撃ってまさか、
反応が遅れる儘に続けて来た二本の矢に又跳び退いてガルダに向き直った。
思わず四肢で着地する、小さく息を付いた。
「じゃあ悪いけどセレ、俺も無理矢理御前を止めるよ。」
「・・・まさか、其の手に出るか。」
一寸此は想定外だ。いや、一寸所じゃない、可也だ。可也意外だ。
正直未だに信じられない位だ。ガルダが自分を狙って攻撃して来たなんて。
何だ彼だ言って、自分の言う通りにさせてくれたのに此は・・・。
如何、動くのが正解だ。
本当に仲間だと思った奴に向ける刃なんて、自分は知らない。
其の時の立ち回り方を、戦い方を、自分は経験した事が無いんだ。
此は・・・丗曦と戦った時の比じゃないな。
ガルダが、ガルダの意志で、自分と戦っている。
其の事実は案外自分に刺さったみたいで、直ぐには足が動かなかった。
知らない事が・・・恐い。
自分は、如何すれば良い。如何すればガルダを納得させられる?
殺す以外の戦いの終わらせ方って、一体如何すれば良い?
でも戦いの場でそんなじっくり考えられない。
ガルダから放たれた光の矢が次々と床に刺さって行く。
取り敢えずは避けるが、此は・・・良くないな。
当たれば勿論即死と言うのも恐ろしいが、余りガルダに暴れられると何の道兵が来てしまう。
然うか、其が狙いか。其なら嫌でも帰るって。
・・・ガルダらしくない、偉く強引なやり方じゃないか。
何時もは凄く慎重に、自分に光が当たらないか気を使ってくれているのに。
今ではしっかりと自分を見て狙っている、然う言う目も出来るんだ。
少しでも逸らさず狙うのは、下手に逸らした方が当たると思っているからだろうか。自分なら躱せると言う嫌な信頼関係の表れかも知れない。
其丈本気で、連れ帰りたい訳だ。
斯うなったら自分は、一寸でも早くガルダを落ち着かせて納得させないといけなくなる。
・・・傷付けたくないのは本心だけれども、今回は止む無しか?
怪我をさせてしまったら其の分、後で罰を受けようか。其位の覚悟はある。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
はっとガルダが顔を上げ、自分の目と重なる。
「慈紲星座。」
無数の蒼い零星が瞬いた。
此を・・・御前には向けたくなかったよ。
躯を乗っ取った丗曦に対しても嫌だったのに・・・本神に対してだと背が震える様で。
・・・矢っ張り自分は恐がりだ。ガルダ相手に踏み込めない。
其は知っているから。
武器を向ける事の意味を、殺意の正体を。
迷ってしまえばどんな結果を生むのかは痛い程知っている、だからこそ、
一歩を出すのが・・・恐い。
戦いたくないよ、其なのに。如何して御前は向かって来る?
何時もみたいに折れてくれたら良いじゃないか。こんなやり方、嫌いな癖に。
・・・分かってるよ、自分の所為なんだろう。
じゃあ自分が武器を仕舞えば良いだろう、如何して其が出来ない。
当然じゃないか、如何してこんなチャンスを見逃せる。
ガルダこそ分かっていないよ、此処で逃げたって追い付かれる丈なのに。
頭の中で声が鳴り響く。
煩いのに何も振り払う事が出来なくて。
特に形にはせず、其の儘零星を投擲した。
零星の数自体はそんなに多くはない、全てを把握出来る数に留めた。
本気で行く訳じゃあないんだ。ガルダを止めたい丈。
でも彼は傷付けた所で直ぐ再生するし・・・留めるには此しかないか。
只自分を狙う零星を難なくガルダは避けて行く。
正直、自分はガルダが何処迄戦えるのか知らない、フォードの時も自分を気に掛けてくれていたし。
だからやり難い、と言うのもあるが・・・。
―ア、彼ノ零星ニ乗ッテ良イ?―
―駄目だ。ガルダに勝手に喋った罰だ。―
魔力達が集まって来た。矢っ張り見ていたな。
ガルダは未だ様子見なのか矢を放って来る丈だ。其を躱しつつ自分も零星をぶつけて行く。
彼の元へ少しずつ零星を散らして・・・集めて行く。
―エェー・・・ダッテ話シタカッタモン。―
―兎に角、今は二柱丈でやらせてくれ。若し要らない茶々入れたらもう話さないからな。―
―ワ、分カッタヨゥ。―
声が離れて行く。良し、不安材料は減ったか。
不慮の事故丈は避けないと。もうあんな事は起こって欲しくない。
「セレ、逃げてばっかりだったら俺止めないからな。御前が帰る迄俺はやるぞ。」
「ガルダが手を出さなかったら高が観光でこんな手間掛からなかったんだが。」
波紋を強める・・・未だ兵は居ないな。
噫、色んな事が目に付いて面倒だな・・・。
噫嫌だ嫌だ面倒だ・・・。
でも苛立ちに任せちゃあ絶対にいけない、自分が始めてしまったんだから。
然う、ちゃんと手は打ってるさ。大丈夫、自分を取り戻せ。
「其に逃げてる丈なら、こんな面倒掛けないな。」
だから、頼むから、大人しくしてくれ。
零星を一つ、ガルダの頭上に向けて投擲した。
其が瞬いた刹那、
零星が星座を刻む。ガルダの周りに散らばった星々が光り出し、滅茶苦茶に線を繋ぐ。
然うして出来た即席の檻の中にすっぽり彼は収まった。
一瞬彼が身構えてくれて良かった。此の零星を知っているからこそ、動けなかったんだろう。
此の檻じゃあ潜り抜ける事は不可能だ。一応地中にも埋めているし、全方向カバーしている筈。
「そっか、こんな事も出来ちゃうのか・・・。」
「然う言う事だ。ガルダは其処に居てくれ。直ぐ戻って来るから、其の中なら安全だろうし。」
「セレが帰る迄やるって言っただろ。」
言うや否やガルダは檻に向かって突進した。
思わず見入って躯が硬直してしまう。
何を、其の零星は触れてしまえば、
声を出す間もなく、目の前でガルダの四肢は斬り落とされ、血しぶきが散る。
其の儘強引に彼は飛び掛かって来たのだ。
余りの事に開いた口が塞がらない、瞬時に顔が青くなって思わず身震いした。
まさか、突っ込んで来るなんて。
痛くない訳がない、此がどんな代物なのか知らない彼じゃあなかったのに。
自分に向けて彼は皓い毛皮に包まれた腕を伸ばした。
もう再生したのか、其でも、
こんな躊躇なく行動出来るのか彼は、
慌てて跳び退いて彼から距離を取る。遅れてガルダの爪が空を斬った。
「如何したセレ、俺の躯の事、今更知ってるだろ。」
「・・・・・。」
黙った彼女は・・・気付いているだろうか。
ずっと震えている事に、俺から目を逸らせなくなっている事に。
そんな怯えた目をするなんて、初めてなんじゃないか?少なくとも俺に向けるのは。
・・・いや、一回丈あったか。セレが神に成って目醒めてから未だそんな経ってなかった頃。
フォードに黔日夢の次元の記憶を戻して貰い、俺が裏切ったと知った時。
噫・・・嫌だな、矢っ張り戦いは嫌いだよ。如何して俺が御前を傷付けないといけないんだ。
護りたい丈なのに、此以上傷付かない様、傍に居たい丈なのに。
世界は何処迄残酷なんだろうな。
分かってる、セレは本当に諦めが悪いから、俺が止める事は基本ない。
此のしぶとさが、今日迄彼女を生かしているのも知ってる。
何時も俺が手を引くから、今回も然うだと思ったんだろ?
止められるって分かってる、でも如何せ最後はOKしてくれるって。
然う・・・思ってたんだろ?
でも今回赦しちゃ駄目なんだよ、俺は此処の恐ろしさを知っているから。
此処は本当に洒落にならない、御前が相手取った二つの塔とは違うんだよ。
御前が嫌いで、苦手なタイプの、其こそ人間みたいな神がごろごろ居るんだよ。
だから行かせない、絶対此処で止めるんだ。
此処でセレを行かせたら、俺は絶対後悔するから。
セレ、御願いだから分かってくれよ。俺を本気で信じてくれているなら。
御前を失う位なら、傷付けても止めてやる。
俺は知っているから、御前の一番の弱点は、光でも魔力抑制剤でも酒でもない。
・・・俺だ。俺の存在其の物が、御前の弱点なんだよセレ。
再生力を高めて行く、覚悟さえあれば痛みなんて如何って事ない。
セレの零星は、斬る事に特化している。其は俺にとって可也有利だ。
斬られた所でくっ付ければ良い。再生は容易な部類だ。
檻程度じゃ、俺は止められないぞ。然う言う特訓だってやって来たんだからな。
俺の作戦はシンプルだ。屹度セレだって気付いている。
でも、止めようが無い筈だ。今の迷ったセレなら猶更。
彼女に向って飛び掛かる、真っ直ぐ狙っているので直ぐ躱されてしまう。
「光翔。」
飛び掛かった時に散った羽根を媒体に、光を宿した羽根がセレを狙って駆け抜ける。
飽く迄も狙いは真直ぐで。セレなら此位、軽く躱してくれるんだろ。
絶対に当てられないから変な小細工はしないけれども、狙いはする。
俺だって、こんな事はしたくないんだよ。震えるのを止めるのがやっとなんだ。
若し、本当に御前に当たってしまったら?
そんな考えが、頭から離れない。其でも振り切って俺はやる。
ぶれずに狙い続ける。彼女の勘を頼って。
此は、迷ったら負けだ。其こそ彼女を傷付ける。
俺は俺を信じて、やってやるっ!
羽根位なら、あっさりとセレは躱して行く。
でも彼女の顔にも焦りの色が出て来た。
俺が本気だと。理解してくれたみたいだけど・・・一寸遅いな。
何時ものセレは、こんなんじゃあない筈だ。分かり易く力が落ちている。
如何手を出して良いか分からないんだろう、決め手が見付からないんだろう。
殺すのではなく、止める方法を、彼女は知らないんだ。
「輝散!」
反応が遅れている内に追い詰めた方が良い、互いに危険な賭けに出ているんだから。
先散った俺の血肉が爆ぜる。
躯を使った戦い方は、心得てはいる。セレの血の使い方と一寸似てるけど。
其の儘を媒体にして、派手に使わせて貰うぜ。
特に複雑な術になんてしなかったので、其の場で激しく爆発が起こる丈だ。
セレにダメージは勿論ない。でも此ではっきり彼女は察した様だった。
然う、此の儘騒がしくされたら、折角の潜入が台無しだよな。
誰か来るかも知れない・・・然うなったら面白くないな、セレ。
逃げざるを、得なくなる訳だ。互いに見付かるリスクはあるけど、俺は此に賭ける。
そんな意固地では無いのは知ってるよ。セレは利害を取るのを好むから。
さぁセレ、如何だ。此でも先へ行きたいか!
急にセレは躱すのを止め、此方に向けて跳び掛かって来た。
同時に俺の四方の地面から突然零星が飛び出して来た。
其は俺に近付くと爆発して行く。そっか、零星って爆発もするのか。
爆発は・・・普通に痛いんだよな、再生し難いパターンだ。
多少の攻撃には出た訳だ。でも甘い、こんなの躱すのは容易だ。
然うして駆け出した所へ爆風に紛れていたのかセレが跳び掛かって来た。
見えなかったので反応が遅れる、でも斬られた所で、
セレが伸ばして来た爪を、同じく爪で弾き飛ばした。
其でもセレは踏み込んで来る。肉薄する程近くに。
何だ、何でこんなに近付く必要がある。こんな、肌と肌が触れそうな程、
頭が混乱し掛けた時、不意に甘い馨が、鼻孔を擽った。
そしてセレの牙が、俺の首筋にガッツリと掛かったのだ。
思わず躯が跳ねる。行き成り咬み付いて来るなんて、
血を吸われるのかと覚悟したが・・・何やら様子が変だ、と言うより・・・、
力が・・・入らない・・・?
時が緩りになったかの様に俺の躯は緩慢で、瞬時に動けなかった。
ま、まさか此は、
「っ光刃!」
慌てて爪を皓く輝かせ、彼女に振るう。
すると牙は引き抜かれ、彼女は大きく後退した。
彼女の目は・・・先迄と違ってぎらつき、開いた口からは吐息が漏れていた。
まるで獣の様な眼光に思わず上体が固まる、先迄あんなに怯えていたのに。
もう振り切ったって事か。其の切り替えは流石だけれども。
俺を餌と見る事で迷いを断ち切ったのだろうか、俺を喰らう時見せていた彼の罪悪感の色は無い。
只獲物だと訴え、舌舐りしている様で。
背筋が凍える様に震えた。でも同時に例の甘い馨が漂って来る。
いけない、此以上嗅いだら・・・。
毒、然う、彼女の狙いは毒だ。
此の毒で俺を動けない様にして行くつもりか。
彼女が走り寄り、低空飛行で一気に迫る。
未だ爪は術を纏っているので其で追い払おうと振るったが、易々躱されてしまう。
そして爪ではなく、腕其の物に咬み付いた。
「・・・っ、」
はっきり分かる。毒を、入れられている。
一度咬むと彼女は直ぐ離れてしまう。
若しかして躱されているのも、既に俺の動きが遅くなっているからか?
先から彼女は口を開けているが、其の所為で馨がより強くなった様に思う。
う・・・頭が、惚けそうだ。
此の儘喰われたら良いんじゃないかって声が、何処かからする・・・。
駄目だ、彼女に支配はされない様にしないと。再生力を上げれば間に合うか?
全身に皓い毛が混ざって行く。ざわざわと、瞳や爪がより鋭くなって行く。
此・・・思ったよりきついな、算段が甘かった。
セレの諦めの悪さは知っていたけど、まさか此処迄だなんて。
加えて、勁くなっている。俺だって成長しているとは思うけど、其以上に。
此方を見詰める彼女の目が、何処か澄んで、闇の中の静けさを見る様で、
銀の瞳が誘っている様だった・・・いけない、呑まれ掛けている。
抗え、膝を着いたら負けだ。立って、正面から彼女を迎え撃て。
肩で大きく息を付いて顔を上げる。
周りに、甘い馨が立ち込めている。どんどん濃くなっている様だ。
此だと、俺が暴れても兵は来ないかも知れない。近付いた所でセレの毒で骨抜きにされてしまう。
まさかこんな手で押され込まれるとは思わなかった。彼女はもう、新しい力の使い方を心得ているのか。
後何回、咬まれても耐えられるだろう。空気中も毒に侵されているし・・・時間が無いのは俺も同じになってしまった。
「・・・光隠。」
自分を中心に光が地を走る。
何筋も作って入り混じる。
散らばる羽根を吸わせ、激しくランダム性を持たせる。
更に其処に向け、血を振り撒いた。
首元を思い切り爪で裂いたのだ。血を得て、術はより活性化する。
「・・・っ、」
見るとセレは苦しそうに口元を押さえていた。
俺の血に、酔っているのか。
今迄の咬み付きも、毒を入れる丈で血は吸われなかった。
其は恐らく、彼女が自制したんだ。俺を喰らう事を酷く彼女は嫌うから。
俺がセレの毒に弱い様に、彼女も俺の血肉に弱いのか。
こんな血の匂をさせちゃあ・・・御前だって、辛いだろ。
血を含み、強化された術に向け、セレは飛び掛かって来た。
無理にでも咬んで終わらせる気か、此の術を直接彼女に当てる事も出来ないと知って。
耐えられるのか其、何の道此以上咬まれたら戦い所じゃなくなる。
爪を振るうと其に併せて地を這う光が伸び上がる。
其の隙間を縫って、更に彼女は駆け寄って来た。
せめてとギリギリの所で光を自身に纏わせた。
全身が輝くと、流石にセレは一瞬動きを止めて少し下がる。
「ヴゥ゛ヴヴッ・・・。」
低い唸り声に思わず顔を上げる。
セレが顔の半面を押さえて荒く肩で息をしていた。
・・・思ったより、血が堪えているみたいだ。姿が変わろうとしているのを必死で堪えている様だった。
そんな姿を見ていると辛くて、胸が締め付けられる。でも、止める訳には行かないんだ。
・・・御免、セレの弱点を知って居乍らこんな手段を取って。
あんなに涕いて嫌がった姿に、無理矢理俺がさせようとしている。
良いよセレ、俺を喰っても良いから帰ろうよ。
もう、こんな事互いにしたくない筈だ。だから、
心の奥底で祈ったって彼女は止まらない。
彼女に従う零星達が一斉に床に向かって激突した。
床が砕けて砂塵が舞う、一瞬で景色全てが包まれてしまう。
何処だ、何処から来る、
一瞬目前で曦が散った気がし、意識を其方へ向けた刹那、
「っぐぁあ!」
背後から、迫られていた。
後ろから思い切り首筋を咬まれてしまう。
深く深く牙が刺さって、目が回る。
咬まれたんだと、思う。
不味い、もう其すら分からない程毒に侵されているのか。
甘い馨に満たされる、今、目を閉じたら・・・、
高じ過ぎた再生力に因り生えた尾を振り回す。
すると又あっさりと彼女は離れてくれた。
でも・・・此はもう、不味いか・・・?
思わず片膝を着く、直ぐには立てない。
こんな姿見せちまったら、セレが来ちまう。
歯噛みし、何とか顔を上げた。
甘い馨が、何処迄も広がって行く。もう逃げられないと言う様に。
でも構えた割にセレは直ぐには来なかった。数歩離れた所で立ち止まっている。
じっと俺を見て・・・否、彼女が見ているのは・・・、
俺の頸を伝う血か。
一応、食べた許りだと思うけど、又欲してしまっているんだな。
戦って消耗したからだろうか。彼女は衝動と戦っている様に見えた。
姿が変わらない様に、必死に口元を押さえて。
此以上咬めば、食べてしまうかも知れない、其の考えが足を止めているのだとしたら。
此処で兵の一柱でも来たら、喰われちまうかも知れないな。
セレの目は完全に獲物を狙う其で。何とか留めようと必死だった。
苦しそうに呻いて更に数歩下がる。でも、止められないんだろう。
「・・・セレ、」
はっとした様に彼女の目が一瞬大きく開かれたが、直ぐ細められる。
そして一つ大きく息を付いた。
「・・・ガルダ、私の声を聴いてくれ。」
声?声なんて何時も聞いているけれども。
今更説得だろうか。今一彼女の心理が読めなくてつい聞き入ってしまう。
苦しそうな目をしたのは一瞬で、彼女はじっと俺と目を合わせる。
「其の場を動くな、私の邪魔をするな。此は・・・命令だ。」
背筋が伸びる。命令、そんな事言われたって。
聞ける筈がない、筈・・・なのに、
声が発せない、喉がひくついて動かない。
何だ・・・此、毒が回ったのか?
いや其より何か違う、明確に動けない・・・?
動いちゃいけない様な、何だ此、俺は何をされたんだ?
セレを見る事しか出来ない、まさかあんな言葉一つで本当に固まってしまったのか?
考えろ、此は術なんかじゃない。他の手立てがセレにはあったんだ。
彼女は五つの目で見ている丈だ・・・まるで確認する様にじっと見ている。
俺が本当に動けなくなったか、確かめているのか?
言う事を聞けと、逆らってはいけないと頭の中で声がする。
動くな、彼女が戻る迄大人しくしろ、ずっとそんな声が。
此の感じ・・・まさか、
一つ、思い当たる所があった。まるで畏怖の様な此の命令は。
Aが言っていた。セレの毒は、疑似的な信仰心を作ると。
毒で思考を麻痺させる。セレの言葉丈が聞こえる様に、彼女の声しか見えなくなる様に。
媚薬の様に・・・誘い、洗脳すると。
まさか今俺が陥っているのは其か、セレの毒がそんなに回っていたのか。
だから彼女の言葉に逆らえない、こんな風に操り人形になってしまうのか。
でも、未だ完全じゃない。俺が此丈考えらえると言う事は、完全じゃあない筈。
動け・・・動け、俺がしている事は結果彼女の為なんだ。
こんな所で立ち止まっている事じゃない、そんなの、何にもならないんだ。
「ギャォオオォオオオ‼」
眠っていた生命力を解放する。
躯が一回り大きくなり、皓い毛が目立つ。
目がぎらつき、牙が鋭くなる。骨格が無理矢理捻じ曲げられる様な感覚。
未だ、全ては解放するな。此の姿を、完全には捨てたくない。
でも生命力を上げた御蔭で毒は可也薄らいだ。
此なら、動けるか。
俺の雄叫びを聞いて、セレは一つ息を付いた。
「・・・そんなに私を止めたいか。」
「セレだって、そんな手、使うのかよ。」
「斯うなったら仕方ないな。」
瞬時に彼女が駆け寄る。俺の頸を狙って真直ぐに。
又咬まれたら・・・流石に無理かも知れない。
彼女の毒に負けてしまう、其こそ操り人形だ。
だから此の一撃を、喰らう訳には行かないんだ。
セレの牙が伸び、肉薄する。
後、瞬き一つの間に俺は咬まれてしまう、其の刹那、
俺はセレの両肩を掴んだ。
瞬時、彼女の躯が跳ねる。まさか、こんなに未だ動けるなんて思っていなかったんだろう。
彼女の勢いに合わせる様に俺は其の儘仰向けになった。
床を背に、思い切り俺はセレの腹に足を掛ける。
そして勢いの儘彼女を蹴り、投げ飛ばした。
もう斯うなったら手加減とかそんな事は考えられない、毒で力が入らない分全力で。
セレは迚も軽いのであっさりと投げ飛ばす事が出来た。
蹴った感覚も余りなく、気付けば彼女は吹っ飛ばされていて、
目で追うと、彼女は受け身も取らず、其の儘仰向けに倒れた。
「ッ⁉え、セ、セレ⁉」
思わず跳び起きる。セレの事だから何食わぬ顔で起きると思ったら、
やり過ぎてしまっただろうか、何処か怪我させたら如何しよう。
そんな考えが頭の中をぐるぐると駆け巡り、思わず彼女の元迄駆け寄った。
未だ彼女が諦めた訳でも何でもないけど、でも此は、
「セレ・・・大丈夫か?」
彼女は倒れた儘動かず、四肢を投げ出した儘だった。
其が余計気になって、恐々と覗き込む。
「ク・・・クククッ、ハハハハハハハハハハハッ‼」
すると突然堰を切った様に彼女は笑い出したのだ。
顔を真っ赤にして、神目も憚らず思い切り。こんな風に笑う彼女は初めてで。
思わず、惚けた様に見詰めてしまった。本当に斯う言うのは初めての事だった。
彼女は相手を威嚇する時だとかに大笑いする時はあるけれども・・・こんな、笑うなんて。
抑何で笑っているかも分からない、只其でも彼女は笑い続けた。
も、若しかして頭を打ったとか・・・?有り得る、如何しよう、壊れちゃったのか?
「ハハハッ・・・あーぁ、此は負けだな。」
「え・・・セ、セレ?」
不意にぽつりとこんな言葉が放たれた。
未だに理解が追い付かず、彼女を見る事しか出来ない。
其でもせめて聞き逃すまいと数歩ガルダは近寄った。
すると仰向けの儘ちらと彼女は自分を見上げた。・・・もう其の瞳に鋭さは無くて。
先迄の獲物を見る其ではなく、ちゃんと俺を見ていた。
「ククッ、流石だよガルダ。まさか投げ飛ばされるとはな。」
「え、えと・・・大丈夫、なのか?」
「ん、噫問題ないよ。でも此は負けだ。私の負けだよガルダ。」
セレが・・・負けを認めた?
俄には信じられなくて、つい固まってしまう。
だって未だ、動けるだろう。俺が一撃入れた丈。
咬まれたら俺はもう駄目だろうし、未だ未だセレが有利だろうに。
「如何したんだそんな顔して、私を・・・ククッ、笑い死にさせる気か。」
「いや一寸未だ整理出来なくて。」
彼女は腹を押さえてずっと笑っていた。何がそんなに楽しいんだろう。俺、そんな変な顔してたのか?
でも、変な顔にもなるか、だってセレがこんな・・・。
彼女が手を引いたのは、初めての事だったんだ。俺が勝つだなんて。
セレを納得させられた?折る事が出来たのか?
未だに、実感が沸かない。信じられなかった。
「あー・・・ガルダは悍くなったな、本当に。何だか馬鹿みたいだ。自分丈意地張って。」
一頻り笑うと彼女は緩り上体を起こした。
然うして向けられた苦笑は何だか柔らかくて。
「迷惑掛けたなガルダ。直ぐ帰ろうか。」
「う、うん、然うだな。」
ひょっこりと意見を変えられて吃驚する。
本当にもう、良いのだろうか。こんなあっさり手を引くなんて。
彼女は立ち上がると服に付いた埃を払っていた。
もう彼の甘い馨もしない、本当に終わったみたいで。
「さ、敗者は勝者の物だ。何なりと、言う事を聞こう。・・・如何したガルダ。」
彼女は首を傾げるが、俺は直ぐには動けなかった。
そんな俺を見て又彼女は咲う。
「帰ろうと言ったのはガルダだろう?ククッ。」
「然う、だけど。彼、俺の勝ちなのか・・・?」
「勿論。まさか投げられるとは思わなかった。中々面白かったよ。」
彼女はさっさとクルスティード尖塔から出て行く。開いていた穴からさっと身を乗り出した。
俺も其に続く。・・・未だ足元、覚束ないけど。
「私の毒じゃあガルダの意志を挫く事は出来なかった。他の手を私は知らないしな、完敗だよ。」
彼女の言葉を聞き乍ら俺は、只頷く事しか出来なかった。
「こんなに言っても未だ信じられないか?・・・ククッ、まぁこんな晴れやかな心地で負けたのは私も初めてで、不思議と悔しくもないけれども・・・自分が負けた事、こんな語りたくないんだが。」
「う、うん、俺・・・勝ったのか。」
然う呟くと彼女は苦笑を漏らしていた。本当に楽しそうに。
「其にしても、先は・・・悪かったな。命令なんて酷い事をした。もう二度とあんな真似はしないよ。」
「そ、其なら俺だって、先に手を出して御免な。吃驚しただろ。」
「噫其はもう本当にな。あんな風に喧嘩したのは初めてじゃないか?まさかガルダから手を出すとは思わなかったな。」
「始めて・・・然うだな・・・然う、かも。」
怒らせたかと思ったけれども、彼女は気にしていない風だった。
寧ろ何か楽しそうで・・・複雑な気持だ。
俺と戦えて楽しかったとか、そんな理由じゃないと思うけど。
「・・・正直、止めてくれて良かったよ。ガルダの時々然う言う強情な所、私は好きだからな。」
「っえ⁉・・・あ・・・えと、」
固まってしまう俺に、セレはつい吹き出してしまう。
「如何したんだ。まさか自分が普通だって思ってたのか?」
「い、いやえっと・・・。」
「ガルダだって中々強情だぞ。私も我儘なのは認めるが。」
穏やかに咲う彼女は何だか惹き込まれる様で、知らず付いて行ってしまう。
「俺、そんな強情かな。」
結構折れてる方だと思うけど。
まぁ・・・セレに自覚があるのは当然としてもさ。
そんな強情な所、見せてない気がするけど。
「ククッ、こんな化物と一緒に居ようとするんだ。強情で物好きには変わりないよ。・・・さぁ、帰ろう。」
うん、然うだよ。
自分が前世から彼と共に居られるのは此の強情さの御蔭だ。
逃げたくても逃れられない、ずっと繋がれる鎖の様に。
でも息苦しい訳でもなくて、何時の間にか安心している自分がいて。
・・・止めてくれて、有難う。
あんな無理矢理止められるとは流石に思っていなかったが、でも悪くない感じだよ。
本気で止めようとしてくれているのが分かったから、其を写した丈だ。
こんな存在に、そんなに本気になれる奴は然ういないんだよガルダ。
まぁ・・・態に言う事もないか。暫く彼が然うやって慌てている姿でも観察しよう。
自分が折れた事が未だに信じられないらしく、彼は惚けた様になってしまっている。
確かに、斯うして自分が折れたのは初めてだろうが、抑、ガルダが此処迄反対したの自体が初めてだったんだ。
だから、今回は負けだよ。其の強情さに完敗だ。
・・・其に、何やら見られていた気配もあったしな。
何の道、彼以上の潜入は無理だった。引くには十分だろう。
瓦礫の街を進む。
もう龍も去り、少しずつ神が戻って来ている。
未だ混乱の最中なので自分達には気付かないだろう。
街はこんなに崩れて廃墟と化しているのに。
見上げた旻は何処迄も広く高くて、薫風のみが悠々と吹き抜けるのだった。
・・・・・
声は遠退き、我等は翼を広げる
祝福する鐘の音は遠くに
忌む可き叫びは地の底へ道連れに
我等が世界を愛する様に、汝の愛を我等は詠おう
無音の世界が汝の愛を拒むのなら
我等は傍で眠ろう、傷を抱く様に
いやー終わりましたね!御疲れ様です!
こんなに場面色々書いたのは何時振りか、本当に目移りが激しい回でした。
一応解決はしましたが、現状維持と言っても差し支えない状態です。今後も大変だなぁ・・・。
今回は特に、セレの内面が良く出た回かなと思ってます。(心の中に入ったし。)
自己中心的で我儘で破天荒、本当に酷い奴ですね。こんなのが世界を一応救っても良いのだろうか・・・。
まぁ役割と言うのもあるし、今回は此でもありかなって感じですね!当初の予定とは可也変わって後味が良い感じになりました。
元々のはもっと酷い落ちになっていたので・・・でも今後の事とか考えたり、ある省いたバトルの関係上此の様に落ち着きました。
セレとガルダの熱いバトル、書いていて楽しかった!うん、セレがぼこぼこにやられると何故か嬉しい作者です。(人が悪い。)
今度は何時派手にぶちまけてやろうかなと思いつつ、今回は御開きです!
次回は・・・恐らく通常通りに戻ります。一寸色々忙しくなって来たので、少し筆は落ちてしまいましたが、昔より早いのは確かなので此のペースを保ちたい・・・っ!
其では、又御縁がありましたら!




