3次元 幻妖の塔 搦めの楔に繋がれし次元
皆さん如何も今日は。時間もあるし、書き溜めていたのもあるしで、予定より可也早い三話目の投稿です。
今日色んなジャンルの本を計10冊程購入してずっと読み続けていた為色々触発されたんでしょうね。急に漲るパワー。やっぱ話を書くのは楽しい。此丈で幸せ。此書いてて一番幸せなのは筆者本人だもん。自分が一番求めていて、一番好きな展開になって、一番最初の読者になれて・・・。
我乍ら自分の趣味が物書きで本当によかった。グロ系しか書かないけれどね。
噫、又こんな適当な事を書いて行が増えている・・・そろそろ内容に踏み込まないと。
さて、早速もう二話目で主神公、セレさんが御臨終なさったけれども、ええ、はい。此はファンタジーです。此から如何なるかは皆さん御分かりですね?(行き成り最悪なネタバレだ・・・)
ってな訳でどうぞ三話目。・・・そろそろ新しい仲間、増えないかなぁ。(フラグ)
ゆらりゆらりと浮幻よ
汝が抱くは真の主
千の眠りに繋がれし真は只己の瞳を閉ざすのみ
主は待つだろう
己を解き放つ幻を見乍ら
己の幻に包まれし彼は何を見る
幻影よ、幻影よ、閉ざせ、彼の地を
真を隠す様に
主の目を醒まさぬ様に
・・・・・
「ん・・・。」
目を開く。少し躯が怠い。背に掛かっている毛布が温かい。掛けて貰って、未だ余り時間が経っていないのかも知れない。
上体を起こすと毛布がずり落ちてしまったので、手で掻き抱く。何となく肌寒い。もう少し温もりたかった。安心して居たかった。
「・・・おっ、目覚めたか?」
視線を彷徨わせる。けれど、何も見えない。漆黔の闇だ。何か前も同じ事があった様な・・・デジャビュ?
「おい如何したよ、寝惚けて忘れたか?馬鹿は死んでも治らないとか言うけど、死んだら惚けるとか聞いた事無いぜ。ほら、波紋だよ。波紋。」
噫波紋。・・・すっかり忘れていたな。えっと・・・波紋、超音波を放つイメージで・・・。
「噫、ガルダか。」
此方を覗き込む様にしてガルダが自分を見ていた。
近い・・・こんなに近くに居たのか。気配とか分からなかった。へ、変な顔してないか?そんな近くに来られたら何て言うか・・・その、恥ずかしい・・・。
少し毛布を抱いて後ろに下がる。其処でやっと此処がガルダの部屋だと分かった。又ベッドに寝かされていた様だ。道理で既見感あるよ。あり捲りだもん。つい一週間か其処等位前の事だもん。其に今は余り記憶がないからか、彼の時の事、鮮烈に憶えていた。自分が此処に居て良いと・・・認められた日。彼に受け入れて貰えた日だ。
「大丈夫か?ほら、此は何だと思う?」
言ってガルダは饅頭の様な物を取り出した。
饅頭・・・だよな?何か変なサングラスしてるし、ニヤッてしているけど、饅頭だよな?
「・・・饅頭?」
「おー正解だ。ほら、食べ。」
饅頭を差し出された。
狗じゃねぇっつうの。誰が食うんだこんな方法で。確かに気絶か何かした所為で又尾とか翼が出ているけれど、獣ではない。
「お、待てか?偉いなー。」
なでなですんな。全く嬉しくねぇよ。彼の丘で撫でて貰った時は悪くないかもって思ったけれど、今は悪いよ、凄く嫌だ。
尾で其の手を払う。相手にするのも面倒なので毛布を掛け直して少し横になった。
「あれ、食べないの?じゃあ。」
然う思うなら食べられる様渡してくれ。
ガルダは饅頭を親指と食指で持ち、目の前で振って見せた。
あー此見続けていたら寝るかも知れないな・・・と思った所でぱくついてしまう。やってしまったと思った時には遅かった。いやーね、別に空腹だった訳じゃないんだよ?でも目前であんなの振られたらね、うん。仕方ない。此が本能なのだ。
もぐもぐもぐ・・・。
暫し無言で見詰め合う。情熱も何も其には籠っていなかった。
何だ此の饅頭。黒蜜と抹茶が入っているのか中々美味だった。食べて良かったと思う反面、やっちゃったなぁという後悔が湧き起こる。
「・・・食べた。」
「御馳走様。」
言って其の場に蹲る。尾で毛布を掻き集め、翼でそっと覆った。
ふう、此だと結構温かいな。一寸うとうとしてしまう。えっと・・・然う言えば自分は気絶する前に何をしていたっけ・・・。えーっと確か・・・っ然うだ!
「スゲー食べた!食べてくれたよー!やったー!ねー母さん来てよー!セレが御飯食べたー!」
「私は手負いの獣か!」
牙を剥く。全く失礼にも程がある。もう一寸で懐い出せると思ったのに、何て事をしてくれるんだ。然もドアを開けて大声で居ない筈の母を呼ぶ名演技付きだ。何なんだ。自分は一体何という設定で劇をしているのだ。狗か?猫か?カナリアか?
あー・・・然うだ。懐い出した。自分は勇の家に居た筈だ。・・・で、朝餉を食べていた所で地震が起きて・・・そして・・・、外へ出て、魔術を使うと変なのに呑まれて・・・。
「って何で生きてるんだぁ‼」
うわー凄い吃驚したー!今迄で一番吃驚だ。坂を転がった以上だ!・・・噫、余り凄く吃驚した感がしないな、此の比較。
「スゲー喋った!喋ったよ、ねー母さん!早く来てよー!セレが喋ったんだー!」
「ええぃもう止めろ!何で私は生きているんだ。答えが知りたい。」
「えー面白かったのに。」
ガルダは再び開けたドアを閉め、椅子に腰かけた。
「いやーさ、一寸して言い忘れてたなーとは思ったんだよ。でもまさか死んじゃうとは思わなかったからさー。まぁ仕事に其処迄熱を入れてくれてたんだと思うと嬉しいけど。まさかねー、死んじゃうとかさ。・・・一発目で。」
グサッ。そんな音が心の底でした気がするが、此処は無視する。
「あのさ、俺達神族は次元に行く時、躯の方、魄は此方に置いていて、言わば魂、精神丈で彼方に行くんだよ。だから向こうで死んでも帰って来れる訳。」
「然うなのか。じゃあフスタも此方に来ているのか?」
「あー否。本気になったら矢っ張精神丈じゃ駄目みたいで、本体も其処に行っちまう。ってか彼奴は使命を全うしたし、もう・・・居ないよ。」
「然う・・・か。」
然う上手く事は進まないか。会える事ならもう一度会って色々聞きたかったんだけれどな。
「だからって命を粗末にしちゃ駄目だぞ。確かに死んだら戻ってくるが、稀に戻って来れない奴もいる。魄毎消されてな。此の後其奴等が如何なったかは一切不明だけど。・・・其に一寸干渉力の話になるけど、此方で目醒めた時、怪我はなくても何処か痛んだりするし、同じ次元には、もう行けない。」
「え?然うなのか?」
今生の別れだとは思っていたが、本当に然うなんだと自覚すると悲しい物があった。そっか、もう勇には会えないのか。彼奴の本、読みたかったんだけど。
「行けなくはないんだけど、ほら最初行く時は主導者の所へーって思って行くだろ。で、二度目は彼の時の彼の場所へーとか目的が少々変わっている。然うしたら自分の干渉力で少し変わってしまった次元に行く事になるんだ。パラレルワールドって言うか、そんな可能性のある次元へ。違和感も何も感じないかも知れない。でも細かい事を言うと、其処はもう最初とは別の次元になってしまうのさ。其に、暗黙の了解って感じだけど、余り神様は一つの次元に干渉しない方が良いんだよな。私利私欲に塗れるって言うか・・・そんな次元何か嫌だろ。」
「・・・何か複雑なんだな。」
便利丈が神様じゃない様だ。まぁ全知でも全能でもないもんな。
「まぁな。あ、然う言えば朗報だ。御前が死んじゃった後、彼の次元に留まってたんだけど、戦争は無事終わったぜ。出来過ぎって位に。誰かが無理に戦争させてたんじゃないかって思う位に。迚も初心者とは思えない働きだった。御見事。其処は素直に拍手を送らせてくれ、良く頑張ったな。」
ポンポンと軽く頭を叩かれる。悪い気がしないのは自分が褒め言葉に弱いからだろう。慣れてないんだ。褒められる事は。
「そ、然うか。其は良かった。」
彼の作戦が成功するかは一か八だったからな。若しかしたら彼の青年の神が何かしたのかも知れないけれど成功して本当良かった。・・・勇はちゃんと書いてくれたかな。
「・・・ん?セレ、ポケットから何か食み出してるけど、何なんだよ其。」
ガルダが指差す。何かと思いポケットに手を入れてみた。直ぐ其と分かる物に触れる。冷たい、滑らかな感触が広がって行く。
「噫、此は月精の囀りだ。勇が教えてくれて・・・創ったんだ。」
取り出してガルダに見せる。形は・・・大丈夫な様だな。崩れてないし。
「へーオカリナみたいだな。じゃあ今聞かせれくれるんだな。」
「あ、否、今度な。何時かな。」
然う言い直ぐポケットに戻す。噫、勇が小説を見せたがらなかった気持ちが良く分かった。すっごい恥ずかしいな、此。
「へヘッ、良い土産を貰ったんだな。あ、然うだセレ。」
ガルダの目が細くなる。何か気になる事でもあったのだろうか。
「丗闇漆黎龍に会ったって言ったよな。俺も挨拶したいな・・・なんて。」
「ん、丗闇の事か?呼んで出てくれたら良いんだが・・・。」
―断る。―
ですよねー。うん、多分然うなると思ってた。
―でも私の前には出てくれたじゃないか。初対面の時に。―
―御前は宿主だからだ。何かと世話になるかも知れないからな。でも他の奴等等、如何でも良い。悪いが断る。―
―・・・でもガルダは自分の恩神なんだぞ?言い換えれば丗闇の恩神にはならないか?―
怒られるかな・・・流石に此は。
―・・・はぁ。此の遣り取りの方が面倒だ。分かった。少し丈だぞ。用が済んだら直ぐ帰る。―
―うん。助かる。―
ずっとテレパシーを使ってた所為だろう、ガルダが今か今かと待っていた所に黔い渦が生じて丗闇が顕現した。眼光が鋭い。結構不機嫌そうだ。対するガルダの瞳も鋭くなって行く。心做し緊張している気がした。
「おぉ、本物だな。御初に御目に掛かります。闇神、丗闇漆黎龍さん。俺はガルダ、ガルダリューって言うんだ。宜しく。」
ガルダが手を出す。彼のガルダが少し丁寧に話しているんだ。若しかしたら本当に丗闇は名のある神なのかも知れない。・・・噫、駄目だ。然う思うと此方も緊張して来た。
「馴れ合うつもりはない。」
外方を向く。ツンツンしている。可也、不機嫌そうだ。
丗闇は地面から少し浮遊しているので、自分より少し背が高い様に見える。だからそんなポーズを取ると否応なしにより突慳貪に見えてしまう。視線が高いと自分なんかより上位の存在の様に見えるのだから不思議だ。
「じゃあ御近付きの印に。」
次にガルダは彼の饅頭を取り出した。例の時空の穴を使って取り出しているのだろうが、まるで手品の様な鮮やかな手付きだ。つい見入ってしまう。
「・・・要らん。」
丗闇の目が半目になる。もっと不機嫌になった様だ。供物を受け取って貰えないって、何丈嫌われているんだガルダ。
「え・・・と、じゃあ。」
次にガルダは自分にもした様に饅頭を左右に振った。一寸反応しそうになる。
駄目だ、彼は丗闇のだぞ。そんな意地穢い真似はしちゃ駄目だ。
でも凄いなガルダ。知らないぞー丗闇を怒らせても。叩かれるぞー彼の爪って痛いんだぞー。血が出るじゃ済まないんだぞー。
「・・・・・。」
完全無視。丗闇はもう目を閉じ、あらぬ方を見ていた。梃子でも受け取る気はないらしい。
流石にガルダは諦めたか、饅頭を彼の手際で消すと、手を組んだ。挨拶は終わったらしい。
「一寸聞いて良いか?」
少し上目遣いに丗闇を見遣る。もう丁寧に言うのも止めた様だ。
「如何してセレの魂に印されてるんだ?」
確かに其は気になる事だろうなと思った。しかし丗闇は何か勘付いたのか、僅かに目を見開き、ガルダに向き直った。目の険が相変わらず鋭い。跡になるのではないか、とセレはそんな事を心配していた。
「知らない。我は何も憶えてないのでな。」
ガルダは其の答えを考えあぐねている様だった。目を眇める。暫しの沈黙を保ち、ガルダは口を開いた。
「知らない事も憶えてない事もないだろ?何より、御前はセレの敵じゃないのか?」
「一寸ガルダ何を・・・。」
「敵・・・如何して然う思う。」
又敵か味方か・・・か。うんざりしてるのではと思ったが、特に意に介した風もなく、丗闇は促した。
「だって御前だってしたい事、あるだろ。セレと御友達ってなら分からなくもないけど、然うでないなら御前は敵になる筈さ。だって恐らくだが、セレが死ねば御前は解放されるんだから。」
「ほ、本当かガルダ!」
「噫、確証はないけど丗闇漆黎龍はセレを要に印されている。じゃあ要を斬ってしまえば御前は自由になれる。・・・然うだろ?」
「・・・興味ないな。」
丗闇は片目を眇め、嘆息した。
其は・・・本当なのだろうか。
「興味ない事はないだろ。御前自身に関わる事だ。使命とかだってあるんだろ。」
ガルダが丗闇に詰め寄る。・・・もう見てられなかった。
「一寸待ってくれ、ガルダ。そんな責める様な事を言わないでくれ。丗闇は敵じゃない、然う私に言ってくれたんだから。」
突然セレが二柱の間に割り込み、ガルダは軽く目を張った。丗闇も僅かに動揺したのか瞳が揺れた。
「セレ、言葉丈じゃ如何しようもないんだ。若し嘘だったら如何する。危ないのはセレなんだぞ。何時も俺が傍にいる訳じゃない。若し御前に何かあったら・・・。」
「・・・心配しれくれて有難う。でも大丈夫だから。本当に・・・大丈夫だから。」
丗闇は敵なんかじゃない。直感にも近い所でセレは然う感じていた。如何してかは分からない。何でかも又然りだ。只、何処かで彼女の事を知っている様な、そんな気がした。
「・・・でも。」
「其の男の言う通りだ。」
ガルダが言いあぐねていると、其迄黙って見ていた丗闇が然う切り出した。
「言葉は信じるな、疑え。何故御前が我を庇っているのか知らないが、其奴の言っている事の方がずっと我には理解出来るし、正しいと思う。変な同情で意味もなく我の前に立つな。・・・我は帰る。もう・・・構うな。」
然う言い残し、丗闇の姿は掻き消えた。
同情・・・か。然う取られても仕方がないか。
「えと・・・御免、セレ。一寸・・・言い過ぎた。丗闇漆黎龍にも後で謝っといてくれないか。」
「分かった。私も済まなかったな。心配してくれたのに責めるなんて言って。」
「いや、気にすんな。其も又御前らしさなんだろ。今回は面白いのも見れたしな。」
「?・・・然うか。」
面白い物って何なのだろうか。まぁ後は丗闇の御機嫌取りだな。構うなとか言っていたけれど、ガルダの言伝もある。適当な折に声を掛けよう。
「あーセレ、其の上で御願いするのも悪いけど、一寸行って来て欲しい所があるんだ。死に戻りで心苦しくはあるが・・・。」
ガルダは手を合わせた。死に戻りって言われても只少し寝てた丈みたいな、そんな感覚なんだけどな。少し怠い位だ。
「別に良いぞ。御遣いだな。やっと私の為可き事をするのだな。御遣い位しか私に出来る事もないからな。良し、任せてくれ。」
胸を張る。然う言えば次元の迫間を未だちゃんと歩いていない。初めての御遣いと言う事だ。此は心して行かねば。
「戦争止めた奴が何言ってんだよ。場所はとある次元なんだけど・・・。」
「御免下さーい!セレさんって神、いらっしゃいますかー。」
玄関から声がする。初めての客じゃないだろうか。でも、何故自分の名を?
「あー居ますよー。ほらセレ、客神だ。」
ガルダが部屋を出て行く。後に付いて居間へ。あ、然う言えば改装したんだっけ。中々綺麗な、良い部屋になっている。改装した許りだからか未だ碧樹の良い香りがした。
「お、居たぞ!彼の方だリュウ。」
「え、本当?あの、僕はリュウって言います。龍の番神です。初めまして。」
リュウと言う名の少年は然う言い頭を下げた。黔色の瞳。肩より少し許り長い皓髪。其の髪の所為だろう。少年は大人びていると言うより、もう可也年老いている様な、そんな印象を受けた。
だがそんな事より自分が注目したのは・・・。
「モフモフ!」
彼が彼のモフモフ、月冠龍を抱き抱えていたのだ。噫、ずっと御前に会いたかったんだ!
セレは我を忘れてリュウに駆け寄ると月冠龍を強奪し、ソファーに腰掛けた。
「噫ー気持ち良い・・・ずっと斯うして居たい・・・。」
頬擦りをすると沈み込んでしまうかの様な柔らかさだ。月冠龍も嫌では無いのか多少驚きつつもされるが儘になっている。中ぶらりん状態だからか月冠龍が手持無沙汰に尾を振っているので自分も一寸真似してみる。
・・・あ、然う言えば客神の前で此の姿、大丈夫だったかな。如何もリュウと言う少年は神族の様だが果たして、
ちらっと上目遣いに見る。するとガルダとリュウ、二柱が愕然とした表情を浮かべていた。
「いやーセレ、モフモフは良いけど、盗っちゃ駄目だぞ、盗っちゃ。」
苦笑いを浮かべ、ガルダは席に付く。ガルダは身振りでリュウにも席を勧めた。
「す、凄い・・・彼の月冠龍が他神に心を赦すなんて・・・。姿の所為じゃ・・・無さそうだね、うん。何とも面白い。」
感慨深気にリュウは頷くと席に付き、微笑を浮かべた。
姿の方は大丈夫そうだ。良かった・・・。
「久しいなセレ殿。私も其方に会いたかったぞ。・・・リュウよ、私の言った通りだろう。店もあったし、頼んでみては如何だ?」
「いや・・・うん。疑ってた訳じゃないけど、屋って字の入ってる店って言われて見付けるのは矢っ張大変だって。」
うん。其は大変だと思う。・・・ってか此の子、憶えて無かったの?龍が入っているから良いとか如何斯う言ってたじゃん。
「屋?・・・あ、然うだセレ。店名考えてくれたんだな。ま、彼で良いんじゃないの。『次元龍屋』。もう看板掛かってるからな。」
ほら、と言ってガルダは窓を開けた。開けたと言っても、勿論其処から看板が見える訳ではない。波紋を使ってそっと外の様子を見る。大きな木の看板と、小さな立て看板が見えた。店の内装にも合ったシックな看板だ。中々良い仕上がりだ。店っぽく見える。何となく誇らしくなった。ちゃんとした仕事をしているんだ。店を・・・背負っている。
「良いじゃないか、綺麗で。私は好きだな。・・・ん?でも何で出来ているんだ?ガルダに言い忘れていたなーとは思っていたが。」
「思ってたんなら言えよ。・・・其なんだけど、干渉力でさ。どっかの次元の奴に店の名とか言っちゃうと、彼の神様がいるのは彼の神殿みたいな感じで勝手に世界に認識されるんだ。未だ未だ無名の神だけど、調べたら何とか其の名が出る程度の神だけど、でも店の存在はもう確立されたからな。彼奴等も其を聞き付け、看板を作ってくれたんだろうし。次元の奴等に宣伝も不要っと。」
「おぉ、何か便利そうだな。つまりは彼か、言った事が次々と起こる言霊みたいな感じか。」
「ん、何か違うけど、ま、そんな感じだ。」
「然うか。ではもう其の人・・・神達は帰ってしまったんだな。礼位言いたかったのだが。」
中々巧みな業だ。見た丈で分かる。幾らしたか分からないが、結構高かったのではないだろうか。匠の神様だったのかも知れない。所々にしている細工が何処となく神殿っぽいし、煖炉やファン、燭台や呼鈴等、アンティークも多い。
「良い良い礼なんて。結構世話になるから其の時にでも一言言えば良いさ。」
そんなに?匠を呼ぶ機会ってそんなにあるっけ?若しかして匠以外もしているのだろうか・・・。
「のぅ、私等は仕事の話をしに来たのだ。一つ頼まれてくれんかのう?」
セレに抱かれて縫い包み状態になっていた月冠龍が然う切り出す。
確かに話が脱線してしまったな。初依頼なのに此は宜しくない。
「噫、スマンスマン。然う言えば俺名乗ってなかったな。ガルダってんだ。宜しく。さて、依頼内容は何だ?」
ガルダが軽く手を上げる。其を認め、リュウは僅かに頷いた。
「はい、依頼は龍族を探して欲しい、です。少し説明しますと・・・えと、龍族は元から此の地に棲まう者・・・と言う事は知ってますよね?」
月冠龍が自分を見上げる。自分は其に頷く。其の事は前、月冠龍から聞いていた。
「・・・で、前あった黔日夢の次元で龍族は危険を察知し、皆各々の次元に逃げて行きました。でも如何も其処でリンク・・・繋がりを此の迫間と切られたみたいで、彼等は次元の擦れ違い様に次元同士の行き来が出来ても、此処には帰れなくなったんです。」
「私達は次元へ本体で、魄や魂に分かれずに行く事が出来る、次元の迫間に棲まう者・・・と言う括りで龍族と呼ばれているからな。死んで此処に戻ると言った神の技は使えぬのだ。」
月冠龍はちらっとセレを見、頭を擦り付けた。喉の奥でくぐもった声がしている。
「其で御願いがあるのは次元に行く時、彼等を探して欲しいのです。若し見付けたら、龍族は次元の迫間とのリンクを持った者に会えば帰り道が分かる様になります。だからどんどん見付けて欲しいのです。彼等も帰りたがっていると思いますので、神が次元に来たと感じたらリンクを取りにやって来るので、自ずと会うと思います。他の依頼の序ででも良いので・・・御願い出来ますか?」
最初は迚も優し気な目で月冠龍を見ていたリュウだが、頼む時は懇願する様に、上目遣いに此方を見た。
噫、然う言う事か。やっと合点が行った。月冠龍が前助かったと言っていたのは此の事だったのだろう。会う事で道が分かり、次元の迫間・・・リュウの所へ帰れたのだ。
「・・・良いんじゃないのか?ガルダ。」
「ん、然うだな。引き受けるぜ、リュウ。」
「本当ですか!有難う御座います。あの、料金は御高いですよね・・・。」
少し考え込む様にリュウは言う。手持ち、少なそうだもんな。
でも金って何に使うんだろう。衣食住は干渉力で如何にかなりそうだし・・・娯楽、嗜好品用だろうか。
「あー忘れてたな。じゃあ初回特典で何と只だ!」
おぉ、太っ腹だ。大赤字だ。相談も無しに何て事を言うんだ。・・・まぁ相談されても御金の価値も分かっていない自分だ。アドバイスも何も出来ない訳だけれど。でもガルダの言い方からしても御金って余り大事じゃなさそうだ。ビバ神様社会。俗世に塗れる人間界よ、サラバ!
「やったー!」
「良かったのぅ、リュウ。」
リュウが諸手を挙げて万歳する。凄く嬉しそうだ。只なのを疑わない辺り、矢張り御金って大事じゃない様だな。・・・じゃあ自分が御遣いに行く事もないかも知れない。何だ少し残念だな。
「なぁリュウ。御前は龍の番神だと言ったな。其って何なんだ?御前の使命なのか?」
やっと良心的な神に会えたんだ。少し話をしてみたかった。此処の常識とか知りたいし。
「えぇ、はい。龍の番神を次の代に引き継ぐ事、其が僕の使命です。龍の番神とは龍を管理する事を生業とした神の事なんです。だから僕は其の証、龍の青刺が彫ってあるんですよ。其によって色々と龍達をサポートします。」
「然うか。中々大変そうだな。」
「そんな事ないですよ。僕龍好きだし、皆良い子だから。楽しいですよ。・・・あ、セレさん。月冠龍の事、有難う御座いました。珍しいですよ、月冠龍が他神を好くの。帰って来て貴方の事を純情可憐で純真無垢。清廉潔白であり、胆大心小。加えて天空海闊であり、天真爛漫。解語の華とは正に此の事。傾国所か傾丗の美神で沈魚落雁、閉月羞花が全く言い得ていると其はもう凄い誉め様で・・・。」
えぇ、そんなに褒めてたの?流石は龍。語彙が豊富だ。でも恥ずかしい、全然そんな事無いよ。こんな手足や瞳をして・・・全然綺麗じゃない、歪だ。
何より此方は御前の事、マフラーに丁度良いとしか言ってないんだぞ。何か釣り合わないなぁ。自分も褒めなきゃいけないかな。然う、例えば御前のモフモフさは言葉には言い表せない。其の上で敢えて言うならば其の毛皮は韋柔であり、繊柔で、光沢を残し乍らも控え目に只流れる天の河の様。其は外見丈に及ばず、温柔で穏やかな心の持ち主でもある。・・・此で良いだろうか。
「御褒めに与り光栄だな。でもリュウ、別に私の事は呼び捨てにして良いぞ。」
自分だって依頼主に対して中々失礼な物言いだからな。月冠龍のは癖っぽいから敢えて言わないが。
「えぇ、然うします。何だか少し丈、月冠龍が貴方に懐いた理由が分かった気がします。」
ね、とリュウは月冠龍に声を掛ける。達観した様な声音。屹度彼は自分の何十倍もの時を生きている。何となく、然う思わせる威厳の様な物が彼には備わっていた。思う所があったのかも知れない。
「クルルル・・・。」
月冠龍が頭を擦り付けて来る。其の頭をわしゃわしゃと撫でる事で応じた。
噫もう病的なレベルで気持ち良い。撫でる手を止めれば恋しさに狂って死んでしまう位に。かと言って撫で続ければ悶え死ぬ位に。如何しよう、此の子連れて行こうかな。でも勇の所みたいな次元に行ったら死んでしまう可能性もある。命に代えても護るつもりだが、其で次元の主導者が死んだら元も子もない。置いて行く可きか・・・むぅ。
「そだセレ。先言い掛けた事なんだけど・・・。」
「噫、御遣いだな。全力で、否死力を尽くして頑張って行こう。取り敢えずは何だ?割り箸か?輪ゴムか?其とも葉蘭か?」
「否、要らねーよ。何だ其、弁当グッズ許り集めてさ。行って来て欲しい所があるんだよ。遠足じゃないぞ。ある次元にある塔の恐らく最上階付近にある石を取って来て欲しいんだ。早速行ってくれるか?俺の干渉力で道は出来ているから。」
「然うだな。行って来るか。」
立ち上がり、月冠龍をそっとリュウに返す。
「私等ももう少ししたら帰ろうかの。ではセレ殿、気を付けて行かれよ。」
「御気遣い如何も。では行って来る。」
ドアノブに手を伸ばす。
然う言えば此処を開けるのは二度目だが、外へ出た事は一度もないんだよな。
開けて足を一歩踏み出す。
次は死なない程度に頑張ろう。
「頼んだぞセレ。頑張ってくれよ。」
眩む視界の中。そんなガルダの声が幽かに、でも確かに聞こえた。
・・・・・
「着いたっと・・・おぉー。」
一面の荒野。其の徒広い中に一基の塔が聳え立っていた。底面が正方形の高い、高い塔だ。丁度彼の勇の街の門、壁と同じ造りの様で、塔は重々しい灰色だった。
「最上階か・・・。」
上るのは大変そうだ。トラップ満載な気がする。人の家・・・とかじゃないよな。
波紋を飛ばす。中は・・・うーん、全部階段っぽい。凡そ六十階か、高いなぁ。何でこんなの建てたの。宗教か?何か祀っているのかも。
然う言えばガルダは取って来いって言ったけれど、其って盗んで来いって事だよなぁ・・・。ゲームのダンジョンじゃないし、宝物の中身は自分の物・・・とはいかないよな。思いっ切り人工物の匂がするダンジョンだもん。ま、其言ったら宝箱も人工物だけれど。盗ったら怒られちゃうよ。牢屋に入っちゃうよ。そしたら面子は丸潰れ、イメージダウンになっちゃう。
人間世界の体裁を気にする神が此処にいた。
「んー窓は一応あるな、最上階近くにもあるな。飛んで行こうかな。一寸小さいけれど頑張れば・・・。」
いやでも其は駄目か。頑張るって事は壊すって事だ。相当古そうだし、其の気になったら窓枠に手を掛けた丈で崩れるかも知れない。最悪ドミノ式に全壊だ。避難経路も確保されていない欠陥建築だ。なくはない。
若し倒壊させては石がどんなのかも分からないんだ。見分けるのは困難だろう。多分ガルダが盗って来いと言った石だ。魔力か何かが籠っているだろうけれど、悪名高い神にはなりたくない。折角先英雄っぽい事をして来たんだ。此の後も功績を増やしたいものだ。良い事はやっぱ気分が良いからな、うん。
塔に向け、歩き出す。すると塔の入り口の床に一枚の石板が埋まっていた。所々罅割れているが、何とか読めそうだ。
―全てに惑わされるな。真実は常に塔の中心に。―
「然う言えば字が読めるのも干渉力だったりするのかな・・・。じゃあ何処かの次元の外国とかに行ったら読めなかったりしてな。」
何となく気になった。でも実際其で読めなかったりしたら其の国の神様みたいだよなぁ。皇神、地神や国護神みたいな。じゃあ矢張り読めたり話せたり出来るのかも知れない。迫間の神であって次元の神ではないからな。神は皆の物だ。仲良く使おう。
「でも中心・・・か。」
もう一度塔を見る。中心と言うと三十階位だろうか。取り敢えず其処迄行ってみよう。
セレは足の爪が出てないか確認して塔の中へ足を踏み入れた。
・・・・・
床を踏み抜かない様に慎重に蹴る。其の勢いで一気に四、五段を飛ばして行く。
出来れば両手で着地したいが、何分足場が悪い。老朽化だろう、少し足に力を入れた丈で石段に罅が入るのだ。既に階段の所々は崩れており、加えて其の階段自体狭くて急な物だった。体重は殆どないと言うのに、放って置いても此の塔、勝手に崩れるのではないだろうか。
いっその事翼を出そうかと思ったが、翼が大き過ぎて壁に閊えてしまう事が想定出来た。下手したら羽搏く丈で壁が壊れてしまうかも知れない。
実の所セレは人前でなくても、此の姿は隠して置こうと思っていた。酷く醜い此の姿を隠したかった。だが勇と会い、少し其の考えを変えた。動くのなら良いじゃないかと、勇は此の手を取って言ってくれた。此が自分、自分自身。実際手足の晒を取り、翼や尾を出して、ちゃんと自分の瞳で見る方が楽だった。二足は他人の振りだ。まぁ今は足場等の問題で仕方なく素直に二足で走っている訳だが。自分らしく、隠さないでいるのは良い事だった。気が楽だった。
だって常に世界から隠れ、偽っているのだ。姿位晒したいじゃないか。息抜き、したいじゃないか。
自分は世界に嫌われているのだから。
呪いの様な言葉、忘れもしない言葉。自分は此を屹度永遠に刻み付けて行くんだ。罪の様に・・・罰の様に。
「さて、そろそろ三十階だが・・・。」
考えを打ち消す為、そんな事を口にして立ち止まる。少し息が上がっていた。二足は何となく走り難いのだ。
「・・・変わり映えしないな。」
辺りを見る。一応塔の中心の筈だが、他の階と同じく只階段が前後に続いている丈だ。
「ん・・・。」
違和感を覚えて少し強目に波紋を飛ばす。其は崩れ掛けていた塔の隙間から外へ出て、外の景色を見せてくれる。
「何だ?思ったより低い?未だ十階位しか行ってないのか?」
数え間違いか?其にしては間違いの幅が広過ぎる。何か手品を見せられた様だ。
暫く首を振って考えていると手を付いた壁に石板が埋まっているのが見て取れた。先は無かったのに・・・。益々手品に陥って行く感じだ。
―水面に波紋が映れば底は見えぬ。幻に波瀾が宿れば真実は見えぬ。―
「真実・・・か。」
何とはなく背後の、左へ折れている階段を見る。此の塔は螺旋階段みたいな構造で、只其が円状ではなく、正方形な丈。何か特別な感じはしないが・・・。
「ん・・・何だ此は。」
前後を振り返って見る。其処でやっと違和感の正体に気付いた。其迄只の正方形、つまりは前後の階段の長さが同じだと思っていたのに、実際は前方の階段の方が長くなっていたのだ。
「つまりは長方形の塔・・・って事か?」
頭を振る。やっと合点が行った。如何言う構造なのかは分からないが、此の塔、実際は長方形だった様だ。其の為見当違いして走った距離が少しずつずれ、こんな差異を生んでしまったのだろう。波紋を使っていたから騙し絵的な物は効かないと思っていたのだが・・・。干渉力の所為かなぁ・・・。目で見てる様に見える様ちょいちょい修正している所為で目で見えるのと同じ様に騙されているのかも知れない。気を付けないと、過信は禁物だ。
「じゃあ本当の塔の中心は未だ結構先だな。」
分かった所で正直良い事は無い。寧ろ距離が増えてがっかりした。でも落ち込んでも仕方ない。
セレは足を踏み外さない様、塔を上り続けた。
・・・・・
「三十・・・階・・・。」
息を付く。疲れた・・・。怠さが相俟って足が鉛の様に重い。死に戻りって思ったより響くなぁ。未だ同じ階数を上らないといけないのか。休み休み行かないと持たないだろうな。だが此の疲れは単純に体力に因る物丈では無かった。
三十階に行けば真実が分かるとあった。何の真実かは分からないが、其は他の階との差異を示していると踏んでいた。でも実際は他の階と変わり映えしない、只石段が続く丈だ。数段の誤差を考え波紋を飛ばすが、前後数段も別に大きな違いはない。鏡と鏡を合わせた様に皆一様に同じ景色だ。
「はぁ・・・少し休憩だな。」
壁に凭れ、額を拭う。僅かに汗が滲んでいた。前方の壁を見て気付く。何の変哲もない壁だと思っていたのだが、良く見ると又石板が埋まっていた。
―真実に気付け。中心とは外側から見えない物だ。―
「・・・・・。」
何か違う。思っていた事が書かれていなかった。寧ろ謎が募る許りだ。其許りか何か少し此の塔の設計者に苛ついた。だって此のタイミングで此の石板だ。如何にも中心を三十階と読み間違え、実際に到着して何も無いとショックを受け、休んでいたら例の石板だ。若しや・・・と思ったらはい残念、違います、だ。おちょくっているのか。若し然うなら壊すぞ此の塔。意味もなく高くしやがって。馬鹿は大概高い所へ上るのを知ってるか?若し此の異様な高さが紅鏡や氷鏡に近付く為、敢えて然うしているのなら其は愚の骨頂だ。彼の塔の様に神の怒りで崩れてしまえば良いのだ。其の建築費と労働力、時間をもっと良く考えて使って欲しい。
「・・・真実か。見た目じゃないって事か?」
上っ面と本心は違うと言いたいのだろうか。何とも深い言葉だが、こんな所に書かれても有難味も何もない。悟りではなく、怒りを開きそうだ。やっぱ壊そうかな、此の塔。
―物騒な奴だな。御前の頭は頭突き用か。―
あれ・・・構うなって言ってなかったっけ。まぁ機嫌が直ったのなら良っか。
「丗闇も走ってみるか?良い運動になるぞ。物騒な事しか考えられない位に。後ガルダからの言伝。先は御免ってさ。」
―謝られる理由が見えない。後彼奴に言って置け。我の名は略して良い。一々本名で言われると嫌がらせの様だからな。―
ん・・・其は赦してくれたと取って良いのかな?
「随分と悍いハートの持ち主な事で。」
足を動かす。取り敢えず落ち着いたので上を目指そう。真実は後回しだ。
―・・・進むのか。精々死ぬな。御前が死ぬと我迄死んだ事になるのだからな。―
「え、其って如何言う・・・。」
まるで此から危険な事が起こる様な。
「塔を上りし者に霧より出ずる幻の龍の裁きが下るだろう。」
突然轟く声。何処からともなく谺する其の重い声は塔と共鳴して響く。
「な、何か・・・、」
言い掛け反射的に前へ飛び退く。瞬く間に大きな岩が先程迄セレがいた所に落ちて来た。其を引き金に揺れが起こり、大小様々な落石がセレを襲う。
「んな・・・ちょっ!」
尾を出し、バランスを取って左右へ避け乍ら上がる。狭いが此処は致し方ない。生き埋めよりずっとマシだ。
爪が色々な所を削り、抉って行くが、然う斯う言ってられない。
「ってか何だ。倒壊しているのか?じゃあ上らない方が良いのか。でもおかしい、上れると言う事は上の階は崩れていないと言う事・・・だよな。」
口に出して上を見る。其処で合点が行った。此の岩は幻覚だ。上の階は罅こそ入っているものの、崩れてはいなかったのだ。嵒魔力も感じないしな。間違いなく呪術の類だろう。
「な、何だ良かった。只の見掛け倒しか。じゃあ休み乍ら行って・・・っ⁉」
尾に衝撃が走る。見ると岩に押し潰されていた。頑丈な尾ではあるが、潰されると流石に痛い。
「え、何・・・此は本物?」
尾を振って岩を退ける。すると次は右肩に熱が走った。
「何だ此、一部は本物の落石なのか?」
では矢張り躱さないといけない。然も本物と幻覚の見分けが付かないから全部避けないと不味い。
「休みはなしか・・・きついなぁ。」
尾を振り払い、周囲の岩を弾き飛ばす。
セレは波紋を綿密に飛ばし、駆け上がった。
・・・・・
「セーフッ!」
跳躍し、床に突っ伏す。やっと着いた六十階。背後の階段がガラガラと崩れて行く。
まさか残り数段と言う所で床も崩れ出すとは思わなかった。然も相変わらず一部は本物、残りは幻覚だ。落ちるのではと何度もひやっとさせられた。折角落石が収まったと思い休もうとしていたのに・・・。嫌がらせの好きな塔だ。そんなに崩れたいなら本当に全壊させるぞ。
でも良かった。最上階は特に仕掛けがないのか、何も起こらなかった。
息を整える。不図先丗闇に聞きそびれた事を思い出した。時間もある。此処は一つ聞いてみよう。
「セ・・・丗闇、・・・彼の先・・・っ、言ってた・・・。」
―・・・話すのならせめてもっと休んでから喋れ。聞き取れん。其かテレパシーを使え。―
うん。然うだね。今すっごい息し難いもん。死ぬなって言われたから死ぬ気で頑張ったんだ。じっくり休もう。生を実感しようじゃないか。テレパシーより実際喋る方が個人的に好きだし。
「はーやっと落ち着いた・・・。なぁ丗闇、先言っていた私が死んだら丗闇も死ぬって如何言う意味だ?私が死んだら解放されるってガルダは言っていたぞ。てっきり私は、前の次元で私が死んだからヤッフィィィイィィ!って喜んでいると思ったのに。」
―誰だ其は。後、前の次元で死んだと言っても其は完全な死ではないだろう。其の程度なら我は解放されぬ。・・・死ぬなと言ったのは普通に後味悪いだろう。目の前で死なれたら。―
「そ、然うか・・・。」
じゃあ丗闇さん、一生否永遠に解放されないよ。綺麗事なんか言っていて良いの?闇の神様でしょ?然う言ってくれるのは嬉しいけれど。
―もう十分だろう。さっさと例の物を取れ、やられるぞ。―
「あ、はい。」
忘れていた。さっさと石をゲットして此処を去らねば。嫌な予感しかしないからな。丗闇の言う通りだ。
顔を上げる。其処には台座と、其の上に石塊が一つあった。
用心に用心を重ね、石を取る。・・・何も起きない。
「此が例の石か?ダミーじゃなくて?・・・何か只の石塊の様だが・・・。」
特に魔力も何も感じない。まさか此の石が怪し気な新興宗教の御神体とかではないのだろうか。何でこんな所に。最大の嫌がらせか?
念の為台座を見る。すると其処には彼の石板があった。
―力を得るには智慧と冷静さも必要だ。未だ真実に気付いてなければ幻の傀儡と化すだろう。気付いたならば漆黔の奈落の底へ行けるだろう。―
「・・・・・。」
うわー見ちゃったよ。見付けちゃったよ。此って何て言うんだっけ。フラグが立つ?何方も不吉だしなぁ。頑張ったねーの一言もないの?サディストか?此の塔の主は飴の代わりに唐辛子をくれる奴なのか?
此処から迫間に帰ってやろうかと思ったが、如何も建物内から迫間へ行くイメージが掴めない。中々道が開けない。自分のイメージとしては飛んで行ったら次元に着く感じだからな。何とも乏しい想像力だ。ワープとかを考えられると良いのだろうけれど、其の経験もないしな・・・。如何せんもどかしい。
「頑張って降りるか。」
石を時空の穴に入れる。階下を見ると、崩れていた階段は元に戻っていた。行きはよいよい帰りは怖いと言う言葉がある。心して行こう。
・・・・・
「噫もう!矢っ張りだ!こんな塔、大っ嫌いだぁ‼」
五、六段を一気に飛び越す。だが着地点の床が崩れて行ったので慌てて横へ転がる様に倒れる。背中には一応機械が付いているので背はぶつけたくはないのだが、仕方ない。壊れない事を祈ろう。勇の次元でも大丈夫だったんだ。屹度頑丈に出来ている。
避けた所に続けて落石に次ぐ落石。尾で叩き割って駆け降りた。
案の定下りは落石と床崩れのオンパレードだった。
何度も岩に当たって擦れたり、足を取られたりして、セレは傷だらけだった。魔術で盾でも作ろうと思うのだが、避けるのに忙し過ぎて集中出来ない。又転がる様に階段を降りる。
「グォォオォォオ‼」
「ま・・・さか・・・。」
振り返る。すると塔の内側の壁が崩れ、中から龍神だろうか。大きく顎門を開いた龍が此方を見ていた。
「・・・・・。」
敵っぽいなぁ。でも屹度龍族だよなぁ。彼のモフモフの御友達だよなぁ・・・。
「グォォオォ‼」
龍の咆哮が響き、セレを捕まえんと迫って来る。セレは何とか其を遣り過ごし、足場になりそうな所を探した。階下は殆ど崩れている。降りられなくなってはいけないとセレは跳躍した。其処へ龍の爪が迫る。
「敵じゃない!私は敵じゃない!」
言って身を低くし、何とか躱す。対峙する龍は殆ど無反応な様で、殺意が減る様子はない。若しかして此の龍も幻覚だろうか。
節榑立った龍の爪が思い切り塔の壁を打ち砕く。其の破片をセレはオーバーコートで去なした。
否々々、違うよ。本物だよ此奴。彼の爪に当たったら腕の一本位持って行かれそうだ。
リュウはリンクを取る為、龍が寄って来ると言っていた。なら少なからず其の龍族って襲って来ないんじゃないのか。少し位仲良くしても良いじゃん。何でこんなにノリノリなんだ。
又少し降りた所で龍が壁を突き破り先回りする。
今更だけど此奴がこんなに暴れているのなら自分も翼とか出して良いんじゃないかな。どうせもう此の塔崩れるだろう。
龍が身をくねらせ、尾を振り降ろす。其をバク転で躱したセレは壁に空いた穴を見た。違和感があったからだ。
其の穴は内側の壁が龍によって穿れた物だ。今迄一体龍が何処に潜んでいたのかは別として、つまり其の壁の穴は向こう側の階段へ続く一枚壁の筈だった。だが其の穴が映すは闇、何も無い空間だ。
「・・・っ、然う言う事か!」
進路を変更する。階下へ向かう足を止め、セレはひらりと、其の穴の中へ飛び込んだ。
穴の中は只の壁によって四方を閉ざされている筒状の空間だった。闇が広がり、一体何の位の深さか想像が付かない。
それなりの広さがあった為、セレは翼を出して宙に留まった。落石は止んでいる。此処が答え、真実、塔の中心だったのだ。
「まさか塔の芯に当たる所が中心だったとはな。」
本当に酷い欠陥しかない塔だな。
でも此で彼の石板に綴られていた文字達の意味が分かった。今迄此の空間が只の壁だと思っていたのは最初の塔の仕掛け同様、幻覚と錯覚を駆使していたのだろう。全く、手の込んだ事を。真実は何の階にも隠されていたのだ。一枚の壁に遮られて。本当、良い趣味をしている。
「此処が奈落、真実なら、残るは・・・。」
彼の穴を開けた者、此処にいる可き者。
「真実に気付いたか。中々見所のある奴ではないか。」
自分が入って来た穴を見る。其処から彼の龍が顔を出し、弧を描いて中に入って来た。
其の龍は全長10m以上。躯は半透明で、所々蒼皓い色が混ざり、様々な模様に変わって行った。・・・まるで幻影の様に。瞳は潤み色をし、其の瞳を美しき縹色をした焔の様な物が包んでいた。手足にも同じ物が灯り、背には水精の様な物が棚引く様に揺れていた。
「御前が此処の幻覚を?」
「如何にも。」
尾を一つ振り、龍は嘲笑った。
「我が名は幻霧龍。ハルスリー・ション。我を斃し、石を持ち帰ってみせよ!」
幻霧龍の周りに絳く灯る焔が現れ、放たれる。
一部が幻覚である其は頬やオーバーコートを掠め、僅かに焦げ跡を残して行く。
「何だ矢張り龍族じゃないか。私は無闇な闘いはしたくない。ほらリュウの所へ帰った帰った。」
「リュウ?其の様な者は知らぬ。我は初めから此処にいるのだ。誰かと会うのも、其方が初めてよ。此処に来る迄に多くの者は命を落とすからのう。」
えぇーリュウ知らないの?龍の番神なのに?番神の癖に顔合わせた事もないの?
「じゃあ・・・やるしかないか。」
取り敢えず黙らせてリュウの所へ行ってみよう。
「黔双牙。」
セレの両手に漆黔の双剣が握られる。其は持ち易い様、柄も刀身も含め、歪に曲がっていた。
幻霧龍は幻覚を作る丈で本体は隙だらけだ。一気にけりを付ける。
壁を蹴り、下降する。幽風を斬り裂き、幽風を纏う。セレは幻霧龍の胴を其の黔き牙で切り裂いた。
だが全く手応えが無い。霧を斬った様に刃が旻を掻く。
龍の透けている躯にセレの腕が埋まった。
「っ⁉」
刹那腕が燃え上がり、其は瞬く間に全身を包んだ。焔は燃え盛り、即座に火達磨と化す。
「ッガァアァア‼」
熱い、痛い。嫌な臭が鼻を付く。迸る声も、喉も焼け爛れて熱を帯びる。
セレは翼を大きく翻し、尾で焔を払い除けた。
色々な箇所が焼け焦げている。オーバーコートは原形を留めるのがやっとだし、晒も燃やされた。
焼け爛れた手足と顔が痛い。血は滲む程度で済んだが、此は焼き切れた所為であって、重症には変わりない。
「っ・・・痛いなぁ・・・はぁ。」
声に力が入らない。ヒュウと言った掠れ声が生じる。呼吸が苦しいのは肺が焼けた所為だろう。翼の羽根も可也散ってしまった。壁に手を掛ける事で、翼への負担を減らす。
一体何が起こったんだ。
彼の龍を斬った瞬間に焼かれたが、つまりは彼の龍自身、幻覚なのだろうか。
だとしたら厄介だ。己は幻に出来るのに、実体の攻撃をするなんて。対抗策が見付からない。
「熱いか。では冷ましてやろう。」
壁に四肢を掛けた龍の口端から鋭く尖った冰が覗く。一刹那を置いて放たれた其は真っ直ぐセレを刺し貫いて行った。其は淫雨の様に降り注ぐ。
「っ・・・。」
声はもう殆ど出ない。此の儘串刺しにされ続ければ幾ら生命力が高くても、何時かは尽きてしまう。
血しぶきが舞う中、少し視線を幻霧龍の方へ向けた。
壁に四肢を掛けた所為だろう。壁の破片が奈落の底へ落ちて行く。
然う言えば彼奴は時々実体になっているが、其に何かサイクルなり細工があるのではないだろうか。だとしたら・・・一か八かか。
「闇翳!」
セレの翼の羽根が数枚散り、セレの影に沈む。すると其の影が長く長く伸び、複数に割れる。其は人の形をした黔い影として顕現する。
揺れ動く影。形を何とか保っている丈の、身代りにも分身にも程遠い者。だが数さえあれば事足りる。
「・・・行け。」
主の声で影は各々の刃を、得物を手に幻霧龍に襲い掛かる。
「ぬぅ・・・。」
幽かに幻霧龍は呻き、身を引く。複数の影が其の軌跡を追う。
其処でセレは降り注がれていた冰が幻覚になっている事に気付いた。此なら幾ら刺さっても痛くはない。
「良し・・・上手く行ったか。」
翼はもう駄目だ。僅かにしか動かない。下降するのがやっとだろう。
何とか手で躯を支える。
此奴は幻覚を使う時、己の姿も幻覚にする事が出来る。だが其を実体にするには己も実体にならなければいけない。だったら策はある。
又実体になって串刺しになっては堪らないので、セレは壁を蹴り少し移動した。
後は彼奴が其の策に気付かなければ良いが・・・。
「何とも目障りな奴等よ。」
右へ左へとすばしこく移動する影に嫌気が差す。
幻霧龍は幻覚で遣り過ごしても限が無いと感じたのか実体を使う事にした。
長くうねる尾で影を薙ぎ払い、残った者に焔や冰を浴びせて行く。
粗方片付いた時、一つの影が他の影達を集め、意を決した様に幻霧龍に突進を繰り出した。刃の様な物を携え、目と思しき物は爛々と光っている。
「自棄でも起こしたか。」
嘲笑を浮かべ、幻霧龍は顎門を開いた。燃え盛る焔が其の牙一つ一つに灯っている。
「跡形もなく消え去るが良い。」
幻霧龍が巨大な焔の渦を吐き出す。其は輪を描き、忽ち影を呑み込んでしまう。
其でも影は止まらない。ぼろぼろと其の身を崩し乍らも龍に刃を向ける。
だがそんな抵抗も空しく、影は焔の渦を抜ける直前に崩れ去ってしまった。
「良くやったな。」
焔の渦からそんな犒いの声が聞こえ、幻霧龍は首を傾げる。
今の声は一体・・・影に因る物なのか、其とも・・・。
はっとして周囲を見渡す。居ない、影の主たる彼女は冰の剣山を抜け、何処かに消えている。
其の時渦を突き破り、一つの影が幻霧龍へ躍り掛かった。其は彼の影ではない。其は両の手を交差し、瞳に漆黔を湛えたセレだった。
彼の影達は滅しても猶主を護っていた。オーバーコートが黔く染まる。其が焔を退ける。影に身を包んでいたセレを、羽根を依代に護り通す。
セレの周りを異様な闇の霧が漂う。其は詠唱により高め過ぎた魔力の片鱗が零れ出た物だ。
「乱舞蝶咲‼」
闇の片鱗が花弁と化して舞う。交差した両の手の刃がまるで華の咲く様に開く。翼から散る羽根が疾風に舞い、木の葉の様に龍に舞い降りる。
「此は・・・。」
気付いた時にはもう遅い。
華が、花弁が、葉が幻霧龍を取り巻く様に咲き荒び、玩ぶ様に舞い散る。
セレの両の爪が元に戻った時には、幻霧龍は満身創痍となって地に伏せっていた。
「何とか・・・なったかな。」
賭けに勝って良かった。自分を幻にして且つ実体が操れたら全く勝ち目が無かった。チートだチート。今なら分かるが恐らく其奴は幻覚か実体、何方か一方しか使えないのだろう。同時には使えない。だから自分が一部幻覚だの実体だのと感じていたのは単に此奴が自分が其の幻覚に触れた時に幻覚を実体に切り替えた丈なのだろう。
緩りと下降し、同じ様に床に降りたセレは腰を下ろした。
正直、刺された冰で腹は寸々だ。中身が細切れになった感じ。
立ち眩みが激しいので座りたかった。
「美しい魔術だった。・・・彼の様な物、初めて見たぞ。」
「そーかい。そりゃ良かったな。」
壁に背を預け、肩で息をする。
毎回こんな重症になるのかなぁ。傷に慣れるのは嫌だし、もっと勁くならないと死に捲くりそうだ。
幻霧龍は少し顔を上げてセレを見た。勝負が付いたからかもう其の瞳に敵意は無い。
「見事だ。まさか影に潜んでいたとは。彼の様な身代りの使い方があるとは終ぞ知らなんだ。」
「何だ絡繰分かっているんじゃないか。ああやって意表を突かないと、御前は幻になってしまうからな。」
「ふむ。・・・さぁ我はもう御前の自由にして良い。殺すも生かすも御前次第だ。」
「否、リュウの所に帰れよ。私は仕事で来た丈なんだから。」
行き成り命を預けられても、重い丈だ。
「だから先も言っておる。リュウ等我は知らん。我は此の千年余り此の塔の中で丈過ごしたのだから。」
あれ、龍族なのに次元の迫間が住処じゃない奴もいるのだろうか。珍しい幻の技を使うし、新種かも知れない。うーん、リュウに突き出したら喜びそうだな。
「千年も・・・か。退屈だっただろう。随分と。」
「そんな事は無い。夢を見る丈の日々よ。我は恐らく人の願いより出ずる者だ。此の塔を、石を護りたいと言う人々の願いが我と言う幻を創り出す。」
「そっか・・・。」
でも矢張り其は退屈で、寂しい事ではないだろうか。寝る程暇だと言う事なのだから。こんな陰湿な塔にずっといるのは。
「じゃあ私と一緒に・・・次元の迫間に行くか?此処よりは多分楽しいぞ。」
幻霧龍が一つ尾を振る。思案しているかと思ったが、幻霧龍は其の後、引き攣れた様に笑い出した。
「ほう、我を連れて行くのか。面白い、面白い。其方は神の子か。では一つ我の方から願い出て良いか?其方の仕事とやらを手助けしたい。其の次元の迫間に、ではなく、其方の所に置いて貰えぬか?」
「え・・・良い・・・のかな。」
ガルダに聞かないと何とも。
でも面白い、ね。何だ、私は龍に好かれ易い体質なのだろうか。其とも単に龍族が御神好しなのか。
「でも何で手伝いなんて。」
「其方の傍にいたいからだ。幻より美しい物を我は初めて見た。其方の行く末を我は見たい。」
「あーいや、そんな、な、気に入られても・・・。私以外に会った事がないんだろう?私より良い奴なんてごろごろいるぞ。リュウだって悪い奴じゃなさそうだったし、ガルダも・・・。」
自分は誰かに好かれる様な、そんな奴じゃない。自分は歪んでいる。姿以上に心が、傷を傷だと思わない、殺しを殺しだと思わない。自分は歪んだ者。自分で自分が壊れている事に気付いているんだ、其はもう・・・狂ってるだろう。
「然う思うなら思えば良い。だが我は其方に付いて行くぞ。其方と共に行きたいのだ。」
「分かった。じゃあもう・・・言わない。取り敢えず私はセレ・ハクリュー。御前の事はハルスリーだから・・・ハリーとでも呼べば良いか?」
「ま、まぁ良いか。・・・セレだな。良き名だ。うむ。」
ん、余り御気に召さなかったか?ま、良いだろう。他の渾名が浮かばないんだもん。ハルスリーじゃ普通だしな。
「仕事を手伝う・・・ね。仕事は彼だ。次元を正して行く、一応何でも屋。『次元龍屋』を営んでいる。ガルダと言う奴が其処の主神でな。今は二柱で活動しているんだが・・・。」
「次元を正す?何とも変わった仕事やのぅ・・・。」
「ん、詳しくはガルダに聞いてから、如何するかは其処で決めれば良い。・・・じゃあ先ずは此処を出ようか。」
足に力を入れる。だが思ったより火傷が酷いのか、膝が砕けてしまう。歩ける様になるのは当分先か。
「あーいつつ・・・。済まないが此処を出るのはもう少し後にしてくれ。足が動かないんだ。少ししたら治るから。」
傷自体は治癒力が特別高いと言う訳ではないので治る事はないのだが、此の痛みに、感覚に慣れてしまえば動ける様にはなる。
「然うも言ってられぬ。其の怪我は我の所為だ。背に乗れ。取り敢えずは其の次元の迫間とやらに行けば良いのだろう。其処なら其の怪我も治せるだろう?」
ハリーがセレの足元に迄這い寄り、乗り易い様に首を回らせる。
確かに。迫間にさえ行ってしまえば怪我は治るんだ。有り難く乗せてもらおう。ハリーも狭間で治して貰った方が良い。ガルダは光属性だから、恐らく治療に関しては専門だろう。屹度診てくれる筈だ。
首の所に手を回す。結構ツルツルしている。ふさふさモフモフではないのが残念だが、此は此で手触りが良い。
何とか上体を動かしてハリーに跨る。手の爪が痛くない様にと注意を払い、尾をハリーの胴に巻き付ける。
「然う言えばハリー、御前は私の姿を見て何とも思わないのか?何か色々付いてるし、御負けに機械迄。尋常じゃないぞ此の姿。」
「そんな事。我は幻に近い知識で人や神を知っていた丈の事。実際に目にした物が真よ。其方の様な者もいる。其丈だ。見た事がない物は幻と等しいからな。我は只其を受け入れる丈だ。」
「然う・・・か。」
一寸安心した。そんな風にハリーは考えるんだな。自分ももう其処迄、神経質に考えなくて良いのかも知れない。若しかしたら何処かの次元に、自分と似た姿の者が沢山いるかも知れないのだから。然う思おう、其で良いんだ。
「では行くぞ。」
弧を描き、ハリーの躯が宙に浮かぶ。飛ぶと言うより漂う様な優雅な舞だった。
「壁に穴を開けようか?」
一見此処は閉鎖空間だ。魔術でも用いて穴を開けなければ出られないだろう。
此の塔は脆い。本の少しの魔力で事足りると思うが。
「いや、我の幻を解こう。」
ハリーが其の長い尾で壁を擦った。
すると瞬く間に細かい罅が入り、塔を包む。少しして壁が、天井が、塔が崩れ始めた。彼の幻覚の落石よりも少し小さい岩が暗闇の底へ落ちて行く。
「此は・・・。」
綺麗とも取れる景色を見て、セレは呆然と呟いた。
「此の塔はもうずっと昔に崩れておる。其を我の幻覚で補い、形を保っていた丈の事。我の力が無くなれば、此の塔は成すが儘に崩れて行く。」
「そんな力を使い乍らも御前は戦っていたのか。凄いな。其がなかったら負けていたのは私だろうな。」
塔一つ支える力なんて想像も付かない。然も其を何百年も続けていたのだろう。途轍もない力だ。
「否、幻は我にとって息をする事と同義。寧ろ使わなくては我は生きられない位に。只我が幻覚を使う時、其方が塔を壊さないか冷や冷やしたぞ。我が幻を使う時は此の塔の支えは無くなっていたのだからな。少しの衝撃丈で崩れてしまう所だったのだ。」
ハリーが身を捩り、瓦礫を避けて行く。セレを気遣ってだろう。其の動きは緩やかで、殆ど振動は来ない。凱風も僅かに感じる程度だ。
塔だった物から無事脱出し、ハリーは高く高く飛翔する。眼下には相変わらずの荒野だ。
「・・・此処の住人、生き物は如何したんだ?もっと遠くにいるのか?」
「其は知識で知っておる。誰もいない。滅んだのだ。何百年も古に。彼の塔を我に託してな。」
「・・・然うか。」
では此の次元はもう終わってしまっているのだろうか。次元の主導者も、もう残ってはいないのか。其は黔日夢の次元に因る物なのか、元からなのかは分からない。だが其の願う者も、塔を上る者も居ない世界で、彼はずっと護っていたのだろうか。
時空の穴に入れた彼の石を思う。何の力も無い様に思えた。でも、彼は彼を千年も護ったのだ。
でももう其の彼の護る可き塔も石も無いのだ。だから此処に足を向ける事は二度とないだろう。時丈が此の地を統べるのだ。
「荒地と言えど本物は矢張り凄いな。色が鮮やかだ。何もかもが目新しい。此の景色を見れた丈でも其方に感謝せねばならぬ。」
「そんな大袈裟な。其に此からもっと良い景色が見られるぞ。其の儘上へ飛んでくれ。次元の迫間への道位なら私も開ける。」
多分、と言う言葉を呑み込む。思えばやった事なんて一度もなかった。イメージは出来ているから大丈夫だとは思うけれど。
ハリーが少しずつ速度を上げ、上へ上へと飛翔して行く。
セレはじっと天を見詰めた。すると、確かに見えた。天に開けられた、時間も空間も全てを貫いた一つの穴を。
ハリーが其の穴を潜る。
幻の龍は初めて己を憖う世界から飛び立ったのだ。
・・・・・
ゆらりゆらりとゆらゆらり
真の塔は崩れ去り、幻丈が其処にある
幻の世の夢を見る真の主は、其の夢を持ち、丗に放たれる
主の目は醒まされた
其の瞳には何を映す
真の丗を映すのみ
幻は只の幻にあらず、千の真を抱く者なり
真を知る幻よ
其の真を忘るる事無かれ
さて三話目、如何だったでしょうか。仲間増えましたね、良かった良かった。此の話、予定では後十数柱は増えるんですよ。一二神将みたいな。大家族って良いよね。絶対何柱か忘れ去られて空気になる子が出てくる自信あるけれど。
今更ですけれど此、すっごく読み難いですね。何より長い・・・他作品色々読み捲ってみたけれど、一話が長過ぎる。付箋とか出来ないんだから分割の必要あるだろ、心の声に諭されました。うーん・・・如何しようかな、したいけれど、めんど…いや、乗る気じゃないんだよ、うん。何処かの神様が分けろ、戯けが。と言えばするかも知れない。一部が終わったら考えよう。(後二話で終わる予定。)
因みに何故行き成り投稿に踏み切ったか(誰も聞いてないけれど勝手な独白。)それは夢の中である子に、
「おい、何時まで夢抱いてんだよ。行動しないと何にもなんねぇの、まだ気付いてないのかよ、御前の何時かは何時来るんだ?」
と告げられてしまったから。其の日から直ぐ投稿を始めました。ほんと突然だなぁ・・・(夢の中のあの子はもうちょっと先で出ます。)
そんな訳で今回は此処迄。気が向いたら一気に一部完結迄行こうかな・・・。




