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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
79/140

55次元 丗の意思ト神の遺志詠われし先は交われどⅠ

 今日は、一寸チョット久し振りな感じです!

 と言っても今は何とも、微妙に複雑な心地で・・・うーん。

 本音を言うと、思っていたより短くなりました。

 けれども其は、書いている途中で余りにも長くなったシーンがあったので、あるバトルを省こう!と思い書き進めた後から思いがけず早く書き終わりました。

 予想よりも二週間も早かったんですよ・・・もう吃驚。

 じゃあ結局省いた所入れたら良いじゃん!とも思うのですが、現実は然うも行かず、既に省いた前提で書いたので今更加筆も出来ず。

 其の御蔭と言いますか、ギリギリ二部構成で終わりました。省かなかったら確実に三部構成ですね、フー!

 まぁ省いた奴は別の所にぶち込みます、良かったね、ある子が此で延命出来ました。

 おや、延命だなんて不穏な言葉・・・然う、今回は結構苦しい御話しです。

 書き乍ら結構悩みました、分かっていても辛い物は辛いのね。(けれど楽しい。)

 其でも今は書き終わった事を褒めよう、頑張った私。さぁ地獄は此処からだぞ。

 と言う訳で、波乱万丈な今回をお楽しみください。

声に、我等は呼ばれた

永い眠りから起こされる様に

古の血が其に応う

噫我等其の声を、忘れた事はなかろうよ

世界を愛する様に我等は汝を愛するのだから

其の為なら此の愛す可き世界だって、

壊せると、誓おう

   ・・・・・

「あ、セレ神さん、人肉食だって御存知なかったんですねぇ。」

然う言ってAはペラペラとカルテらしき紙の束を捲った。

 あっけからんと彼が言うのに対してセレは何とか震えそうな足を堪えるのに必死だった。

 ガルダもそんな彼女を不憫に思ってそっと肩を叩いてやっている。

 然う此処はニコニコ医院、セレ達は次元から戻って来た其の(ママ)の足で此処へやって来たのだ。

 突然の来訪だったが、Aは大歓迎だった様で直ぐ対応してくれた。

 勢いで来たものの・・・矢張り此処は恐い。着くなり脊髄反射でセレは震え始めてしまう。

 来たくなかった、二度と来たくなかったよ。

 でも然うも言ってられない、此処には来ないといけないのだ。

 他にも聞きたい事があったんだし、丁度良い。然う、丁度良いんだ。

 然う何度か言い聞かせて息を吸う。さてと、何を言われたかな。

「えっと・・・其の言い方だと、御前は初めから知っていたのか?」

「まぁそりゃあ。セレ神さんのクローンとか居ますし。」

「い、居るのか・・・然うか。」

さらっと恐い事(オッシャ)る。

 まぁ血とか色々提供したからな。でもじゃあ其のクローンは此処に棲んでいるのか、可哀相に・・・。

 つい同情してしまう、何されているか知らないが、此奴から御飯を貰って飼われているのは複雑な気持だろう。

「まさか自身の食性を分かっていないとは思いませんでしたねぇ、其処迄自分の事知らなかったんですか。」

「噫まぁ・・・然うだな。でも前世は確かに違ったんだ。」

前世は何方(ドチラ)かと言うと食べられる物を探す、が近かったが。

 其でも人肉に手を出したのは本の数度丈だ。全く美味しくなかった。

 其のイメージがずっと奥深く迄こびり付いていたのに。

 急に其があんなに美味しくなって、主食と化すなんて考えられない。

 ・・・いや一応前世の最後、化物に成り果てた時にも人は喰ったが・・・其でも()の時は味なんて(ホトン)ど無かったからな。

「へぇ其は其は。じゃあ其は変化の一つなんですなぁ。食性が変わるのは間々(ママ)ある事ですし、でも其の様子だと、今回のは望んだ変化じゃないみたいですねぇ。」

「噫、こんな事私は・・・(チッ)とも思っていなかったんだ。」

伏し目勝ちになるセレに、ガルダは声を掛けられずにいた。

 今迄の変化で一番堪えている気がする。そんなにもショックだったんだ。

 何方かと言うとセレが危惧しているのは店の事だろうけど。

 仲間を喰うかも知れない、自分より他者が傷付く事を恐れる彼女だ。此が重く()し掛かっているんだろう。

 此迄は何とか自分の力でやって来れた。でも此に関しては対処の仕様がない。だから残った選択肢が、(アレ)になってしまったんだ。

「ふーむ、干渉力に因る変化ではないと、だとしたら元々の種としての食性かもですねぇ。だからそんな人間っぽい姿に擬態しているのかも。其か、一番其が効率が良い方法だと躯が判断したのか。」

「効率・・・か?」

「えぇ、だってセレ神さんは殺しの精霊でしょ?願いを聞いて、契約して、其を叶えたら相手の命を奪う。同じ奪うなら、丸毎の方が良い。魂と存在、肉を全て奪えば。」

「・・・成程、然うだな。確かに其が一番、効率が良い。」

心情を加味しなければ、確かに。

 でも、其でも、其を下したのがつまりは自分自身と言う事で。

 其が如何にも納得出来ない。其とも何をしてでも生き延びる、然う誓った願いが一番優先されてしまったのだろうか。

 そんな感情は枷になるから捨てろと、然う言われた気がした。

 クリエーターみたいにハートレスに成れってか、でも其じゃあ全て全て、無意味になるじゃないか。

 だから其の道は選べない。何丈(ドレダケ)内の声が、仲間だなんて肉の塊だと告げようが、非常食と、壁だって訴えようが、私は否定する。

 其の一線を越えてはいけないよ。理由は私が一番良く分かっている筈だ。

 例え利用している丈の仲だとしても、其は違うのだと。

「おやぁセレ神さんともあろう方が、若しかして戸惑ってるのですかな。別に人肉食は珍しくないですよ。」

「然う、かも知れないが、私の仲間達の(ホトン)どは人間なんだよ。」

正確には人型の物が多いが。

 けれども此迄の経過を見るに、人型だったら自分の捕食対象になってしまう。

 人間、と言う定義が色々あるからだろう。自分からしたら(ドレ)も等しく人間なんだ。

 餌として、認識してしまうんだ。

「噫然う言う事ですか。んじゃ今のセレ神さんの望みは?」

「・・・可能なら食性を変えたい。せめて此の衝動を抑えたい。でないと私は、」

「んー衝動ってのは、急に食べたくなっちゃうんですかね?」

「噫見境なくなってしまう。其の時が来たら私はどんな手を使っても相手を殺して、喰らってしまうんだ。」

「其で御仲間さんですねぇ。ま、目醒めたら目の前に仲間の死体があったら嫌ですもんねぇ。ま、神は死体なんて残らないんですけど!」

悪趣味な奴だ・・・つい目が坐ってしまう。

 下手したらA、御前も喰らってしまうかも知れないんだぞ。現に一寸(チョット)美味しそうだと思い始めている自分がいる・・・。

 ・・・そろそろ、食べないと不味いかも。

 そんな考えが頭を(ヨギ)ってげんなりする。嫌だ、又ああなりたくない。

「素直に言うと、食性を変えるのは無理ですよ。セレ神さんの干渉力で変えられないのなら(ホボ)無理ですねぇ。只衝動は、恐らく飢餓状態から来るんでしょう。其ならちゃんと定期的に食べていたら大丈夫だと思いますけどねぇ。」

「定期的に・・・。」

つまりはずっとガルダを食べ続けないといけないと言う事か。

 そんな事、したくない。でも止める手立てもなくて。

 明らかにセレの顔色が曇っているのを見遣り、ガルダは小さく溜息を付いた。

 彼女の性格上、頼るのは嫌なんだろうけど、仕方ない。

「一応T&Tとかでも人肉、買えますけど余り御勧めしないですねぇ。セレ神さんが食べるのは飽く迄自身の存在を保つ為、となれば生きている者を殺す。其の過程が一番大事な筈なので、まぁ狩らなきゃいけないと言う訳です。」

「・・・其しかないのか。」

と言うよりT&Tで買えるんだな・・・まぁ然うか。他の肉と同じか。

「でもセレ、俺が居るからさ。俺を喰っていれば大丈夫なんだろ?」

「大丈夫だろうから嫌なんだよ。」

苦笑してセレは長く息を付いた。何とか覚悟を決めようとしてくれているみたいだけど。

「お、然うでした。前はガルダ神さんを食べて(シノ)いだんですよね。確かに其なら上手く行きそうですが、良かったら一応ガルダ神さんの血肉、調べてみます?」

「え、調べるって、セレに合うか、とかか?」

「えぇ然うです。確か光属性の方ですし、其の再生力の高さも気になります。如何でしょう?」

単に俺の事調べたい丈なんじゃあ・・・とつい思ってしまうが、確かに其は大事かも。

 俺の躯に何かしらのセレにとっての毒とかあったらいけないし、調べるのは重要だよな・・・。

 うぅ、今迄何だ()だで拒否していたけど、此は乗るしかないかも知れない。

「・・・然う、だよな。うん、分かった。じゃあ御願いするぜ。」

「はいはいっ!と、後もう一つ、セレ神さん捕食時に姿が変わるっぽい事、先(オッシャ)ってましたよねぇ、其も一応見せて貰っても良いですか?肉体的に何らかの変化があるかもですし、一緒に調べましょ。」

「ん、然うか・・・確かに変わってるん、だよな。」

今一自分じゃあ分からないけれど、()の時大抵意識(ホトン)ど無いし。

 だからなろうとしても然うなれる物じゃないし、今なったらなったで意識が飛びそうで恐いが。

「・・・自然となってしまっているから意識して行うのは難しいな。」

「あ、じゃあ此処に輸血パックあるんで、其撒いちゃいましょうか。盛大に撒いたら良いです?」

言いつつAは傍の箱から(アカ)いパックを取り出した。

 (オモムロ)に出されたのでドキッとしてしまう。

 血・・・血だ。見ている丈で喉が鳴る。

 牙が出そうになって慌てて口を塞いだ。

 目を逸らす事も出来ずに息が荒くなる彼女の背を、そっとガルダは撫でた。

「わぉ、すっごい喰い付きですねぇ。今結構御中空いてます?」

「ま、待ってくれ、こんな所で撒かれたら・・・、暴走したら嫌だ、何か、拘束を、」

「こ、拘束ってセレ、大丈夫なのか?」

明らかに様子が変わってしまったセレを気遣う様にガルダは目線を合わせた。

 凄く辛そうだ。こんなに抑えていたなんて。

 でもそんなガルダの目からもセレは逸らす。

 今は・・・駄目だ。ガルダを見ていると、又()の味を懐い出す。

 ガルダのは・・・美味し過ぎたから、其処等の人間のより余っ程。

 美味し過ぎて行けない。あんな血丈じゃ満足出来なくなる。

 あんな風に我を無くしたくない。忘れ・・・ないと、

「ん~拘束って言うと首輪とかならありますけど・・・。」

「其で良い、何か繋いでくれないと、不安だ。」

「セ、セレそんな、其処迄しなくて良いだろ。何だったら俺の血でも、」

「駄目だ、今ガルダを食べたら・・・止まれなくなる。私は・・・食べたくない、本当は食べたくなんか、で、でも、どんなに口で言っても、止まって・・・くれなくて、」

・・・っ、一度()うなったら中々鎮まらない。

 気が急いで駄目だ。ちゃんと、言わないといけないのに。

 いや、もう良い、行動で示せば良い丈だ。

「・・・と、あ、ありましたよー。首輪と言うか、何個かありますけど。」

「貸してくれ、早く、」

Aの手に握られていた鉄の輪を引っ手繰る様に取る。

 一寸(チョット)心許ないけれど、数があるなら未だ良いか・・・?

 一つを迷いなく頸に嵌めると、何だか懐かしい感覚がした。

 まるで前世に戻って来たみたいだ。妙な落ち着きが戻る。

「おや、気が早いですねぇ。そんな趣味無いでしょうに。ま、良いでしょ。」

のしのしと歩いてAは鎖を部屋の奥の格子に掛けた。

 此なら、流石に直ぐは壊れないな。

 他にも手足に掛けて置く、飛び掛かるのは防げる筈。

「手慣れていますねぇ。じゃ、準備良かったら言ってくださいよ~此撒いちゃうんで。」

Aが持っている輸血パックを振る丈で喉がひくつく。

 ・・・意識した途端此か、何丈(ドレダケ)飢えているんだ自分は。

 食べたくて仕方ない。考えの全てが其に支配される。

「良い・・・もう、大丈夫だ。」

飢えている、とは言っても前の次元でガルダを食べさせて貰ったからか、未だ多少は理性が残っている。

 自覚したんだ、少しはましな筈だ。

「良いですねぇ、じゃ撒いちゃいましょうか!」

自分の病院を汚す事になるのに、何の躊躇いもなくAは輸血パックを千切って中身を打ちまけた。

 血が飛び散って広がる。周りに散乱し、一気に鮮やかになった。

 一見、Aが何かを襲った風に見えて中々恐ろし気である。

「セレ、む、無理はしなくて良いからな。」

「大丈夫、大丈夫だ・・・今は、落ち着いてる。」

直ぐ其の(アカ)から目が離せなくなった。

 知らず足が動いて、頸の鎖に引っ張られる。

 姿、姿を変えないと(アレ)には届かない。食べられない。

 喉が渇く。早く(アレ)を、

 骨が軋む様な音を立てて、セレの顔は変わり始めた。

 鼻周りが伸び、半面丈だった(クロ)い甲が顔を覆う。

 マズルを形成し、牙がぞろりと生えて尖る。

 六つ目の配置がずれ、鋭く銀に睨んだ。

 でも顔丈変化しても血には届かない、そんな彼女の背で尾が激しく鞭打つ様に振られた。

 其の衝撃で尾は無数に分かれて伸び上がる。

 まるで漆黔(シッコク)の蛇みたいに、尾で繋がれた彼等は舌を出して這い回った。

「ほぅ!其が捕食体型ですか!」

普通なら恐れる様な姿への変化だが、此でも彼は大喜びである。

 急いで紙の束に何かを書き込んで行っていた。

「フムフム・・・()の顔は若しやロドマリアの地域の・・・成程ですねぇ、尾は未だ断定出来ませんが・・・ふむ、セレ神さん、因みに近付いても大丈夫ですかぁ?」

「っ・・・近付くのは、駄目だ。恐らく・・・喰われる、ぞ。」

喋る丈の意識を残すのがやっとなんだ・・・此以上は。

 姿がこんな変わるなんてはっきり自覚したのも初めてなのだから。

 此以上、刺激しないで欲しい。鎖があるから今は、未だ・・・耐えられているけれど。

「うーん、其は残念ですねぇ。」

Aは猶も書類か何か書いて行く。其の傍でセレの尾の蛇達は血に向けて首を伸ばした。

 寄って(タカ)って血を舐め合う。少しずつ床や、周りに散ったのを余す事なく全て。

「お・・・ほぅ、其も取れちゃうんですかぁ。」

Aの傍迄来ていた蛇が、彼の服に掛かっていた血を舐め取る。

「っ・・・ぐ・・・、」

止めないと・・・気を抜いたら咬み付きそうだ。

 抑えて・・・大人しくして、其奴は襲ってはいけない、

「セレ・・・。」

心配そうにガルダはじっと見守ってくれていた。

 其の目に少し丈、自分は安心する。

 大丈夫・・・やれる、未だ理性はある。

「・・・っぐぅ!」

Aの近くに寄っていた蛇の首を、別の蛇が咬み斬った。

 あっさりと首は落ちて動かなくなる。首を無くした蛇の躯は直ぐ自分の元へ戻った。

「其で・・・如何だ。役に、立つか。」

「えぇ!御協力感謝しますよぅ!」

「っ、セレもう良い。戻ってくれ、そんな無理するな!」

ガルダの声に一つ頷いて意識を集中する。

 確かに此以上は・・・危うい、戻らないと。

 血は舐め取ったんだ。未だ腹を空かせた彼等が何を次の狙いにするかは明白だ。

 だから首を一つ落とした訳が、其でも衝動は収まらない。

 荒く息を付き乍らも集中する。

 もう此処に餌はない・・・帰るんだ。

 顔が戻るのと同時に蛇達は絡まり合って二本の尾に戻って行った。

 うん・・・うん、元に戻った、大丈夫だ。

 長く息を付く、意識がはっきりして来た。・・・矢っ張り呑まれ掛けていたんだな。

 Aはそっと残された蛇の首に触れると、急いで奥からゲージを取り出した。

「そんなの後で良いから鍵くれよ。」

「鍵?噫此ですね。」

Aから鍵を受け取り、急いでガルダはセレの傍へやって来た。

「・・・って、セレ、もう近付いても大丈夫か?」

「ガルダ・・・うん、大丈夫だ。」

「良く頑張ったな、ほら外すから一寸(チョット)待ってくれよ。」

急いでガルダは首輪から順に外してくれた。

 自由になれて首を回す。・・・ふぅ、やっと落ち着けた。

「良かった・・・如何にかなって。暴れそうで心配だったが。」

「うん、矢っ張りちゃんと食べたら自制出来る様になるかもな。頑張ったよセレ。」

何だか一寸(チョット)気恥ずかしい。

 苦笑してセレはそっと尾を一つ振った。

「此は中々・・・いやぁ良い検体が手に入りましたなぁ。」

Aは嬉しそうにケージに入れた蛇の首を見詰めていた。

 あんなので喜ぶ辺り、本当悪趣味だなぁ。

「あ、然うだよセレ、尾痛くないか?あんな千斬っちゃって、」

「ん、甲が少し欠けた位だから大丈夫だ。」

何方かと言うと(アレ)は、Aを襲わない様痛みで意識を戻した丈。

 甲と・・・肉を一部(エグ)られた感触があったけれど、血が補填したのか案外痛みとかは無いんだよな。

 そっとケージの中の蛇を見遣る。

 ()うしてちゃんと見るのは初めてだから、不思議な感覚だ。

 此は・・・蛇と言うより鑓だとかの武器の先端の様な形だな。

 全身(クロ)の甲に覆われている様に見えるが、此は全てが(ソモソモ)甲のみで出来ているのだ。

 肉が無い、単純に甲が形質を変化させて此の形を取っているんだ。

 其の甲の噛み合わせを変えて、動かしている。甲一つ一つが動いていたからまるで生きているかの様に動いた訳だ。

 目の様に見える所もあるが、此も丸くなった甲だ。此で血とかを判別したりしたのだろうか・・・?

 我乍ら不思議な構造だ。こんなに自分の細胞と言うか、其は変われるんだな。

 新たな可能性を見た気がする。つまり此が、己が躯が考えた一つの形な訳だ。

 顔が変わったのも其の関係だろうな。中々興味深い。

 あんなに理性が飛ばなきゃもう一寸(チョット)自分でも調べられるんだが・・・。

「フフ、如何やらセレ神さんも自分の躯に興味出て来ましたか?」

「妙な言い方をするな。只今後の参考になりそうだなと思った迄だ。」

「ま、然うですねぇ~いやぁ私も面白かったですよぅ。一目でも矢張り、見覚えのあるパーツがありました。先の顔、ロドマリア地域と言う所限定の生物の特徴が良く出ていました。模倣の引き出しが多いんですなぁ。」

()う直ぐ何か見付けられる所は本当優秀だな。何かと惜しい闇医者だ。

「其ってどんな奴なんだ?」

「おや、ガルダ神さんも気になりますかぁ?フフ、(シカ)も其処を聞いちゃうなんて。彼処はですねぇ、正に人喰いの巣窟だなんて呼ばれていますよ。其処の生物みーんな人間が大好物!だから罪人とかが送られる所なんですなぁ。皆好きなので奪い合いとかになり、生きた(ママ)躯をバラバラに引っ張り合ったりとかしちゃうのでむごーい罰の一つとして有名ですねぇ。」

「う・・・あ、そんな所があるのか。」

知りたくなかった、其処、俺行ったら地獄じゃん。

 セレになら未だしも、他の生物とかにずっと喰われる訳だろ?引っ張り合いの奪い合いに巻き込まれて・・・絶対痛い奴だ。

「成程、其処の奴等と先の私は似てたのか。」

「えぇ!人を喰い殺すのに特化した大顎、牙の並びが良く似ていましたよ。うんうん、良い所に目を付けましたなぁ。」

Aは嬉しそうに、いやいっそ愛おしむ様にゲージを撫でた。

「そして何よりの収穫は此方!此の尾は私見た事無いかも知れません!一体如何なっているんでしょうか!」

「恐らく甲が変わった奴っぽいが其以上は私も良く分からないな。」

「見た所、血を吸収して回収していました。そして其々の尾が感覚、知覚器官を有しているのかちゃんと血を目指していましたねぇ。と言う事は一部血に変換し直して構築しているとか・・・?()の道此の形は見た事がありません!私、興奮して来ました!」

嬉しそうで何よりだが、自分の躯で興奮されるのは一寸(チョット)恐いです・・・。

 何とも言えない気持だ。彼位だろうけれどな、あんなに喜ぶのは。

 大事そうに両手でゲージを持って嘗め回す様に眺めているけれども、餌を前に舌舐りしている獰猛な獣にしか見えない。

 彼自身大型なので余計だ。見た目で判断されるのは嫌だろうが、奴は中身もだからなぁ。

 とは言っても奴自身然う言うの気にしなさそうだし、別に良いか。純粋に恐がっていよう。

「あの・・・其早く仕舞ってくれよ。見て良い物じゃないし。」

「おぉっと!もう直ぐガルダ神さんは怒るんだから!分かりましたよ、代わりにガルダ神さんの事調べちゃいますね!」

不機嫌そうにしていた彼の顔が見る見る変わる。

 だが彼が身構えるより先にAはガルダの腕を掴むと、地下へ続く階段を駆け下りた。

「え、あ、ガ、ガルダ⁉」

余りの早さに反応が遅れてしまった。

 自分を出し抜くとは、やるな()の蜥蜴。

 何と言うか行動力が凄い、油断してた隙に持って行かれた。

 ガルダも完全に反応が遅れていた、一瞬で地下へ連行されてしまう。

 慌てて地下へ続く階段へ一歩踏み出す。

 でも其処で得体の知れない恐怖が背を駆けた。

 う・・・こ、此の下は、で、でもガルダを助けないと、

「あ、セレ神さんは休んでてくださいね~!プライベートだから降りちゃ駄目ですよー!後、御中空いたら其処の輸血パックとか飲んでて良いのでー。」

そんな声が階下から聞こえて来た。

「・・・っ、ゎ、分かった。でもガルダ、何かあったら直ぐ呼ぶんだぞ!」

彼に届く様に大声を掛ける。

 然う言われてしまったら降りられない・・・前の逆になってしまったか。

 心配だ、ガルダもあんな事やこんな事をされてしまうのだろうか・・・思い出す丈で身震いしてしまう。

 (シカ)もガルダが検査するのは自分の為だ。自分がガルダを食べても大丈夫か確かめる為で。

 ・・・何だか迚も申し訳ない、何度謝っても彼は大丈夫だと、心配するなと(ワラ)ってくれるけれども。

 大きく溜息を付いて部屋に戻る。

 ・・・やり切れないなあ。

 何で自分は()うなんだろう、如何して望んでいなかった形に変わってしまったんだろう。

 此の気持は偽物じゃないって信じているのに。

「血・・・(アレ)丈じゃ足りなかったか。」

喉が渇く。

 欲しい、血が、肉が・・・ガルダのが、

 急いで頭を振り、其の考えを追い遣る。

 噫、駄目だ。一度彼の味を知ってしまってから、自分はおかしい。

 今迄は肉でさえあれば良かったのに、誰のでも良かったのに。

 あんなにも・・・ガルダ丈が、美味しかったんだ。

 他のと全く違う、ずっと()うしていたいと思う程熱くて甘くて、

 こんな事は初めてだ。ヲルに抱かれた時にも似た様な考えが(ヨギ)ったが、其とは全く違う。

 こんなにも、何かに執着してしまうのは初めてだ。

 離れよう、離れようとして来た筈なのに、其の止めが此だなんて。

 此じゃあ・・・離れられない。彼を自由にさせてあげられない。

 因りに因って私の所為で、彼を縛る事になるなんて。

 (シカ)も必死なのは血肉丈・・・そんな役目、彼じゃなくても良かったじゃないか。

 誰でも代われる筈の役目だった。私の踏み台になるだなんて。

 噫、一度でも彼が否定してくれたら良かったのに。

 あろう事か彼は其の役目を甘受した。良いんだと、何処か幸せそうに。

 でもガルダ、其は間違っているよ。

 此が最善だなんて思っちゃいけない。

 再生出来るから良かったなんて、そんな事ない。

 再生出来るから、御前がずっと誰かの代わりに贄になっている丈だ。

 犠牲(イケニエ)だなんて、そんな役を嫌ったのは彼の筈なのに。

 せめて此の衝動さえなければ・・・ガルダ以外を食べて行けたのに。

 此以上罪が増えても良かった。ガルダは忘れているんだ。

 自分が食べたくない筆頭が、彼だと言う事を。

 深く溜息を付いた。

 けれども幾ら否定していたって此の目は、牙は、求めてしまう。

 ずっと・・・余韻が消えないんだ。

 ガルダの肉の味を・・・くそ。

 御中が空いていようが関係ない、ずっと食べていたい程の甘美な蜜。

 中でも内臓の味は格別で、煮詰めて濃縮させた様な薫がより駆り立てて、

 温かくて柔らかくて、如何にも忘れ難くて、

 嫌だ・・・こんな、追及したくない。

 食べたくないと思う程に、感覚が鋭くなる様で。

 喉が鳴り、堪らず傍の箱を開けた。

 此は・・・保冷庫みたいな物か?中に幾つか輸血パックが入っていた。

 其の一つを手に取る。

 命の味を、早く取り込まないと。

 彼の味を掻き消す程に、もっと求めないと。

 冷たいだなんて文句は言えない。

 遠慮なく牙を突き立てた。

 一気に飲み込む、甘い味に酔う様に。

 ・・・美味しい、けれど、

 飲めば飲む程彼の方が美味しいと再認識してしまって。

 知らず頬が濡れるのも無視して、私は其を飲み続けるのだった。

   ・・・・・

「お、終わった・・・。」

「ガルダ!大丈夫か、何処か痛いとか、何もないか。」

上がって来たガルダにしがみつかん(バカ)りの勢いでセレがやって来た。

 何だか・・・彼に隈が出来ている気がする。

 再生し続ける筈の彼に、疲労の色が濃く出ていた。

 目に力が無いし、何だかふら付いている。相当疲れている様だ。

「噫セレ、大丈夫、ちゃんと無事終わったぜ。其にしても、前セレも(アレ)、やったんだよな。本当御疲れ様。」

そんな(ネギラ)いの言葉を掛けられ、二の句が継げなくなる。

 兎に角、今は休ませないと。

 椅子を勧めると彼は直ぐ席に着いた。

 (ユック)り肩を回したりとリラックスしようとしている様だ。

「いやぁ~御待たせしました!」

そんな声と共にひょっこりAが階下から顔を出したので二柱して少し飛び上がってしまう。

 すっかり二柱共トラウマになってしまっている。地下に連れられた者は皆()うなるのだ。

 変な事はされていない・・・されていないと思うけれども、兎に角入念にするから本当、疲れるんだな・・・。

「フフフッ!いやぁ良いですねぇガルダ神さん!まさかこんな物を隠していたなんて・・・。セレ神さん並に特異なんじゃないですか貴方も!」

「そ、そりゃどーも・・・。」

余りガルダ自身、其の評価は嬉しくなさそうである。ぶっきらぼうに返す彼に、でもAは特に気にしていない様だった。

 其の(ママ)Aは二柱の前に座り、パラパラと新たなカルテを見遣って行く。

 ・・・屹度其のカルテ分実験とかされたんだろうな・・・本当に疲れ様、ガルダ。

「正直・・・ガルダ神さんの種も良く分からないですねぇ、不思議です。こんなに私の見た事のない検体で溢れているなんて。正に奇跡ですなぁ!」

すっかりAは上機嫌である。

 奇跡と言うならもう一寸(チョット)丁重に扱って欲しい所ではある。

「いや、俺は普通の神だし、その一寸(チョット)、魔力が高い丈で。」

「其の特徴が一番普通じゃないんじゃないですかぁ。矢張り其の再生力は異常ですよ。普通は光属性でも、ちゃんと術として掛けなければ、再生なんてしませんよ。其なのに貴方は常に其が発動している。如何やら其はガルダ神さんの本当の姿と何か関係がありそうですねぇ。」

「本当の姿?・・・何だ其は。」

ガルダの話なら、気になる。長い事待たされてたんだ。良く教えて貰わないと。

「噫其は、彼、再生力とかが高まると翼とか尾とか出ちゃうでしょ?セレ神さんと似てるし、変わってるなーと思ったんですが、(アレ)が何なのか今一、説明出来なくてですねぇ。」

「別に変身出来る神位五万と居るだろ・・・?」

「然うだな。私が知っている伝承とか物語とかでも然う言うのは多いし、別段珍しいとは思わないが。」

「んー私が一切見た事のない型って言うのが味噌なんですけどねぇ。結構永く生きた自覚はあったんですが、不思議な感じですよ。細胞とかもちゃんと調べましたが、セレ神さんみたいに何かの近似種ですら該当しない、取っ掛かりがないんですなぁ、いやぁ此は珍しい。」

ガルダの種・・・か。

 然う言えば前自分がヲルについて彼に話した時にも少し其に触れたな。

 はぐらかされたが、ガルダにも家族が居た事、兄が居たとか・・・言っていたな。

 若しかしたら其の辺りから分かるかも知れないけれど・・・。

 何だか、ガルダが余り気乗りしていない気がするんだな。

 前から、触れられたくないと言うか。

 思い出せば前世の自分は、ヲルの手から零れ落ちて()の次元へ堕ちた。

 じゃあガルダも、何か然う言った、自分に出逢う前の何かがあってもおかしくない。

 家族が居たのにあんな所に置き去りにされたと言うのは何だか考え難いし、他にも彼が何か・・・言っていた様な。

 ・・・あんな所、然う、あんな所には戻らなくて良いとかそんな風の事。

 然うだ。自分のルーツを知りたいと彼に尋ねたら、そんな不思議な答えが返って来たんだ。

 知らない筈なのに、自分の事。其とも彼自身の何かに触れたか。

「えっと、俺知りたいの、其方じゃないんだけど・・・。」

「ん、然うだな。私の為に調べてくれたんだもんな。」

「為にって・・・俺が好きでやったんだよ。」

彼が触れたくなさそうだったからやんわり逸らしたが、ガルダは自分の目を見て微笑んでくれた。

 別に、ガルダが嫌がるなら無理して聞かないよ。嫌っているのは分かっているから。

 触れたくない所には触れない、踏み込んで壊したくない。

「えー・・・まぁ此方で勝手にやってますし、其も然うですねぇ。じゃあ単調直入に言うと、ガルダ神さんの血肉は、セレ神さんにとって高級食材になるっぽいんですねぇ。」

「って事は・・・食べても大丈夫って事か?」

「はい、(ムシ)ろ食べた方が良いですなぁ。此方は、詳しく聞いてくれます?」

「・・・噫、聞こうか。」

何だか複雑な気持だけれど。

 高級食材って、そんな言い方しないで欲しい。どんな形でもガルダはガルダなのに。

 Aは待っていましたと(バカ)りに口端を上げ、舌舐りをした。

「何て言うか、出来過ぎるって位に二柱の性質は合ってる様ですなぁ。ガルダ神さんの其の余りある生命力は、食べられても継続します。だからセレ神さんの中で再生を最後迄繰り返しているんです。」

「つまり如何言う事だ?」

「つまり、ガルダ神さんの肉片一欠で、人間十数人分に相当するって事ですよ!すっごく効率が良い御肉なんです!」

「・・・余りガルダの事、肉って言わないでくれないか。」

「然う言われましても・・・食べちゃうんでしょ?」

「セレ、気にすんなって。悪い話じゃないだろ。」

悪い話だよ、凄く。

 往生際が悪いって言われても、自分は然う訴えるよ。

 何処迄行っても一番良いのは私が消える事なのに。

 此方の道の方が良いと、皆手を引っ張ってしまうんだ。

 安心させる様に触れてくれる彼の手が、私は何処迄も切なかった。

「・・・悪い、続けてくれ。」

「はい!(シカ)もですよ、大事なのは此処から!確かガルダ神さんはセレ神さんの守護神、なんですよねぇ。」

「ま、まぁ然うだけど。」

「だからでしょうなぁ。結構良いんですよねぇ、数値。ガルダ神さんの信仰心。」

「信仰心・・・?」

何だか・・・聞き慣れないと言うか、場に合わない様な言葉が出て来た。

 ガルダも今一意味が分からない様で、二柱して首を傾げている。

「おや、今一伝わってないですか?ほら、神を敬う心で信仰心ですよ。すっかり神格化されて来ていますねぇ。」

「ん・・・ん?ガルダが私に、か?」

「えぇで然うですよ。セレ神さんに必要なのは餌ではなく、存在。でしたら、其を認める信仰心は大きな力になるでしょ?流石にセレ神さんだって御存知でしょうに。次元とかで自分の宗教が出来たら力が増すでしょ?セレ神さんなら既に一つ二つはあるでしょ。」

邪教でしょうけどね、とAは笑っていた。

 うん・・・信仰心って矢っ張り然う言う意味だよな。

 でも、ガルダが私に?其が如何にも良く分からない。

 自分からしたら友と言うか、幼馴染と言うか・・・家族、とかそんな大事な物であって、信仰とは又違った感情だと思うけれども。

 信仰心が高いならハリーだろう。うん、其の方が理解出来る。

 少なくともガルダが其の類の目で自分を見ていないと思うが・・・。

「ガルダは私の事、そんな風に見てたのか?」

「え?いや其は一寸(チョット)違うだろ流石に!そりゃあセレの事はその・・・大切、だけど。」

何かごにょられてしまう。でも矢っ張り違うよな。

「幼馴染とか、家族、とかそんな具合だと思っていたが。」

「う、うん其!俺も正に其だって!ずっと一緒に居たんだから然うだろ。」

矢っ張り然うだよな。

 うんうんと二柱で頷いていると、Aは何やらニヤニヤと嫌な笑みを浮かべていた。

 何か腹の立つ顔である。一口位咬み付いてやろうか。

「じゃ、然う言う事にして置きましょうか。まぁ恐らくは、ガルダ神さんって自らセレさんの生餌になってる訳でしょ?自分を捧げると言う行為其の物が信仰として充てられているんじゃないですかねぇ。」

「あ、然う言う事か・・・何だよ吃驚した。」

其なら何となく理解出来る。

 犠牲(イケニエ)として自分を捧げたからって事か。役目だとか思ったから。

 でも俺のそんな想いが、セレの為になるのならこんなに嬉しい事はない。

 然う言う意味では特に相性が良かったんだな俺達。

 ・・・然うは言っても屹度セレは全く嬉しくないんだろうけど。

「其が信仰心・・・か。」

()の味が、其の表れなんだとしたら。

 何とも悲しい、しっかりと自分は其を受け取ってしまっているから。

「一応セレ神さんのクローン達にも与えてみましたが、可也食い付きが良かったですねぇ。本能を強めた個体で然うだったので、一番合ってるんでしょ。」

「あ・・・(アレ)、セレのクローンだったんだ・・・。」

ガルダが口に手を当てて目を見開いていた。一体地下でどんな物を見たのだろう。

 本能が強い個体と言うワードも気になる。一体何体地下に居るんだ。

「私の毒も、其の為にあったんだろうな。動けない様弱らせて、何も考えられない様にする。」

「然うですね。気化し易いから直ぐ広がって、痛みを快楽に変えると言いますか。そして思考を鈍らせて誘い込む。本当に媚薬みたいですねぇ。疑似的な信仰心を作っていた訳です。若し一度でも毒に当てられたらもう駄目でしょうなぁ。中毒になって、少しずつ精神を侵します。最終的には食べられたくなって、セレ神さんの所へ戻って来るでしょうねぇ。」

「っじゃあガルダはまさか、」

「ん、噫毒には侵されましたけれどももう大丈夫ですよ。きっちり抜けていました。流石の再生力ですねぇ。」

「よ、良かった・・・。」

小さく息を付く。まさか其処迄の効果があったなんて。

 完全に、人を狩る為の毒と化している。疑似的な信仰心とは良く言った物だ。

 思考を奪い、心を書き換えて従わせるだなんてとんだ邪神だ。

 そんな風に、私はなりたかったのか?

 壊れた願いが、捩じれた進化を促していないか?

 でも、分かった所で今更止められない。

 此の変化を、受け入れるしかないんだ。

「毒って・・・そんな風になってたんだな。」

其じゃああんなに効く訳だ。

 毒漬けにされている時は、俺の再生力に勝っていた。

 でも御蔭で痛みはない、そして俺の信仰心とやらが高められた。

 本当に不思議だ。欠けたピース同士がしっかり噛み合う様な生態。

 二柱で初めて動かせられる様な。

 ・・・縛られて雁字搦めにされる様な、予感があった。

 俺は其でも、良いけれどもな。

 いっそ離れてしまう位なら、其の方が良いと思うんだよ。

()の道、食べないといけないんだな。」

「えぇ一日()の位要るかはちゃんと調べないと難しいですが、しっかり御飯は食べないとといけませんよぉ。」

「然う言えばガルダの肉片一つで数十人分と言ったな。じゃあ若しかして結構な量を食べないといけないか?」

となると人間での換算は如何だ・・・軽く百人以上じゃないか。

 前日からも結構食べていた筈なのに・・・明らかに量が多過ぎる。

「噫其は、一寸(チョット)考え方が違うかもですねぇ。私も先御飯と言っちゃいましたけど、正確には存在の足しに充てる訳でしょ。其の様子だと恐らくセレ神さんは長い事、可也の少食で来た筈です。本当の必要最低限、いや其以下で。其でどんどん存在が欠けて行った。」

ペラペラと紙の束を見つつAは視線を寄越した。

「其が限界に来たから()うなったんでしょ?つまり普通の食事とかとは違って、食い溜めみたいな事が出来るんですよ。例えば、百人食べたら十日は何も食べなくて良いみたいな。そりゃあ毎日一寸(チョット)ずつでも取った方が持ちが良くなるでしょうけど。要は総量次第です。其の時は(ホトン)ど其が空になっていたから食べ尽くしたので、(ムシ)ろガルダ神さんをそんな食べるのは最大値って所ですなぁ。」

「あ、じゃあ普段は其処迄食べなくても良いって事だよな。良かったなセレ。」

「まぁ・・・良い、方か。」

只、暫く食べなかったりしたら又ああなる訳だ。

 気を付けないと・・・いけないな。

「ま、今後如何成長するか次第で量も変わるでしょうけどね。一応目安としては私が今日迄セレ神さんのクローン達にあげた肉の量からして、んーガルダ神さんのなら、然うですねぇ。一日小瓶程度の血を飲めば可也安定すると思いますよ。只其でも偶には肉もちゃんと食べてくださいね。」

「血・・・か。分かった。其から調整したら良いんだな。」

「良かった・・・じゃあ時空の穴(バニティー)でも管理し易いな。次元とか行く前に幾つか渡して置いてさ。足りなくなったら補充したら良いし。」

「・・・然う、だな。」

此で店も続けられると、言外に言われた気がした。

 然うなんだろう、一気に状況は変わったと思う。

 其でも完全には払拭出来ないけれども。

 恐い、けれどもやってみないと。

 此処迄連れ出してくれた彼にも悪い。歩かないといけないんだ。

 兎にも角にも、落ち着く事は出来ただろうか。此の辺りが落とし所だろう。

「・・・二柱共有難う。御蔭で良く分かった。」

「ははぁ、此の私に礼とは律儀ですなぁ。私は只調べたい事を調べてる丈ですよ。ま、何かあったら是非とも教えてくださいね。」

ちらと舌を覗かせてAは肩を震わせて笑っていた。

 ガルダは優しく笑ってくれる丈なのに、此の差である。

「其で、少し話は変わるけれども(ツイ)でに聞いても良いか?魔力抑制剤についてなんだが。」

「あ、然う言えばそんな薬?あったんだっけ。嫌だなぁ其。」

「噫其でしたらもう調べてますよぅ。未だ途中経過ですが、(ツイ)でに聞いて行きます?」

「早いな。じゃあ御願いしようか。」

一応少し前にテレパシーで軽く聞いていたのだ。

 魔力抑制剤と言う物については知っている様だったが。

「物を渡してなかったな、此だ。」

時空の穴(バニティー)から一つ取り出してみる。

 橙色の水精(スイショウ)、一見綺麗だけれどもとんでもない代物だ。

 此に刺されたら死んでしまうからな、嫌に持つ手に力が入る。

「どれどれ・・・ふむ、矢張り私の持っているのと同じですねぇ。一応貰っときますね。」

「持ってたのか。此、珍しい物だと思ったが。」

「私T&Tとは仲良くさせて貰ってるのでね。()う言う物は結構手に入るんですよ。いやぁでも危ない所でしたねセレ神さん。」

「あんなあっさり終われたら・・・後悔も何もないな。」

楽、と言い掛けて直ぐ引っ込めた。

 そんな事口走ってしまえばガルダに睨まれる。

 然うは言っても其の御蔭で鏡界のヲルに逢えたから複雑な気持だ。

 其にしても・・・T&Tで売ってるって事か。

 買占めとかは・・・難しいだろうな。脅して発売停止にさせるのも厳しそうだ。

 何て言うか()のmanjuと争いたくない、可也のやり手だからな。

「此はまぁ御察しの通り、セレ神さんは刺されたら直ぐ終わりですねぇ。」

「っ此、此方で喰らっても矢っ張り駄目なんだよな。」

「えぇ、加えて対策も可也難しいですねぇ。」

ガルダが息を呑むのが分かった。

 覚悟は出来ていたが、然うか。

 防げないのが痛いな。近付く奴皆持物検査をしたくなる。

 抑制所か致死だからな・・・こんな物が出て来るなんて。

 やるとしたら無をぶつけるしかないか。

 でも其が出来たら苦労しないな。

 其か、魔力達に何とか御願い出来ないか。

 ()の薬の名前にガッツリなっているし、分かるかも知れない。

 とは言ってもガッチリ水精(スイショウ)に守られている。波紋ですら多少魔力を感じる程度で変な感じはしないから厳しいか。

 うーん・・・考えても厄介な代物だ。

「セレ神さんも色々考えていますねぇ。其でも此は可也厳しいと思いますよぅ。セレ神さん其の物が魔力と言っても差し支えない位、貴方は依存してますからねぇ。」

「然うか・・・。一応、実験とかしたのか?」

まぁ自分で喰らった訳だけど、他の反応もあるかも知れないしな。

「えぇ勿論。クローン達に掛けてみましたよ。言う迄もなく皆即死しちゃいました。」

「クローンって分かってても其一寸(チョット)嫌な実験だな。」

ガルダの声が一寸(チョット)低くなった。ちらと見遣ると小さく溜息を付く。

「まぁ私の一部が代わりに犠牲になってくれているんだから、其は分かり切って貰わないと。」

其にしても悲しい。

 即死か・・・何にも手立てはなかったか。

「一応血の結晶化したのだとか、少しずつ入れてみて確かめましたけれども、如何も駄目ですねぇ。跡形もなく消え去ります。存在が保てないんですなぁ。まぁ元々クローンとかは本神(ホンニン)と違ってBDE‐01、でしたっけ、然う言うのも付いていないので猶の事弱いですが。」

「噫然うか・・・其処迄駄目になるって、分かっていてもきついな。」

「でも少しは分かった事もありますよ。ま、良い事でもないですけどね。実は可也量が少ないと、耐える事は出来るみたいですよ。」

「量、か。然うか、若しかして全身に回る前に侵されている部分を切り取るとかか?」

「うわー(エグ)い手段だな、其。」

「あぁー其の手もあるかもですねぇ。そんな大きなクローンは創ってないので確かめてはいないですが、本の一寸(チョット)丈なら、消える迄には至らなかったんですよ。其でもダメージは大きいですけどね。魔力を止められるので、活動が一気に停滞し、謂わば抜け殻みたいになります。」

「駄目じゃないか・・・。」

(ホボ)意味ないから。

 其処から動けなきゃ結局一緒である。

 本当に一寸(チョット)延命した丈だから。

 ()の道弱っている状態だろうし、直ぐ殺されてしまう。

 思考を奪われたら勝ち目がない。一体どんな一手を打てると言うんだ。

「だから良い事じゃないって言ったでしょ。」

「・・・(ムシ)ろ悪いな。其の時に色々手を打たれたら、尋問や拷問をし放題じゃないか。」

後から意識が戻ったとしても地獄だ。生殺しが待っているのだから。

 弱点がばれているのだから一寸(チョット)でも抵抗する素振りを見せたら魔力抑制剤を打たれる丈だし、反撃は厳しい。

 そんな絶望的な状況からのリンチや拷問は御免である。流石に自死を選ぶ。

 もう散々恨みも買っているし、嫌な未来しか見えない。

「然うですねぇ、もう()うなったら、打たれる位なら死ぬ!って勢いでいた方が良いでしょうなぁ。」

「此処迄打つ手無いのは最悪だ。一応未だばれてはないだろうけれども・・・。」

ヲルの御蔭で無傷で転生したみたいになったし、使える一手だったか如何か、考える筈だ。

 鏡界に行く位なら未だ良いんだが・・・うん、喰らわないに越した事はないな。

「一応ねぇ、本物の精霊とかなら信仰心で甦ったりするって、言いますけどねぇ。ま、其で甦った個体が、前のと同じとは限りませんけど。」

「ん、そんな事があるのか。」

ある種の不死性か。ノロノロとかも然うだったのだろうか。

「信仰心が付近の魔力を歪めるって奴ですよ。でも此ねぇ、信仰心に由来するから都合の良い存在として生まれ変わりそうじゃないです?(ホボ)伝承レベルの話なので躯丈に似た別個体が引き寄せられる丈ですよ。」

「噫然う言う事か。確かにノロノロも沢山居ると言っていたし。」

代わりが沢山いるって事か。何だか種が分かると悲しい。

「何か道具に頼られると厄介だな。そんな物、T&Tとか作っちゃうのか。」

「本来は医療用なんですよ?魔力過敏な方のを穏やかにさせたりするのに使うんですなぁ。ま、其で死ぬ方がレアって奴ですよ。」

「医療用なのか(アレ)、正に毒にも薬にもなるな。・・・分かった、知りたい事も知れたし、今回は此の位だな。」

「おや、対策、一切なしで大丈夫なんです?」

「対策出来ないって事が分かった丈で良しとするよ。」

本命は自分の食性についてだったし、十分だ。

 生きると決めたから、魔力抑制剤について聞いた訳だし。

 其方で死んでしまうのはもう仕方ない。勿論ぎりぎり迄抗うけれども、足掻いた上での死なら、自分には十分だ。

「ふーん、然うですかぁ。でもま、今回も有難う御座いました。此方も良い物が手に入ったので楽しみですよぅ。又何時でも来てくださいね。」

噫、蛇の頭の事か・・・(アレ)も多分自分の一部なんだけど、頑張れと心の中で応援して置こう。

「分かった。何かあったら直ぐ来よう。ガルダ、帰るぞ。」

「え、うん。じゃあえっと・・・有難う御座いました。」

何だか渋々と言った体でガルダは小さく御礼を言うと急いで立ち上がった。

 一応気を付けて扉を開ける。地下から波紋を飛ばしたが、辺りには誰も居ない様だ。

「良し・・・後は帰って、皆に話さないとな。」

「然うだな。でも大丈夫だって、ちゃんと話せば皆分かってくれるって。」

心配そうにしていたのを悟られただろうか。

 苦笑を彼に返し、歩みを進める。

「無理に理解しろとは言わないから。離れてくれても良いがな。皆の気持を尊重したい、絶対はないからな。」

「う・・・んー、折角皆で一緒に居るのに、然うなるのは悲しいけどな。」

「然うだな。まさかこんな大きくなるとは思ってもいなかった。」

片手所か両手でも数え切れない仲間に恵まれるなんて、考えられなかった事だ。

「だからまぁ・・・十分な夢を見られたんだ。だから今後は変わっても私は大丈夫だよ。」

「然う・・・かなぁ、うん・・・。」

折角セレの事、理解してくれて仲間が増えたのに矢っ張り決別するのは俺、やるせない気がするんけどな。

「其に如何なったってガルダは居てくれるんだろう?じゃあ十分だ。私には勿体無い。」

「っそ、然うだけど、その・・・しょ、正面から言われると、」

口籠る彼に思わずセレは噴き出した。

 何だか少し、気が楽になって来た。流石ガルダだ。

「昔から一緒に居るのに何を今更気にする事があるんだ?其に、ガルダも去るなら其こそ私は死ぬよ。後腐れもない、終わらせるには悪くない所だ。」

「だ、駄目だって。そんな事、間違ってもするなよ。」

「ククッ、まぁガルダはそんなに気負わなくて良いよ。私を死なせない為に居るとか、そんな風に考えて欲しくない。離れられなくなってしまったけれど、其でも自由ではありたいだろう。」

「そんな難しい言い方しなくても・・・。まぁ分かったよ、セレが店に居てくれるなら其で良いって。」

彼女は満足そうに(ワラ)っていた。其の顔を見るのは久し振りだ。

 良かった・・・少しずつ、受け入れてはくれている様だ。

「・・・一応、店、帰る前に一寸(チョット)食べとくか?」

「・・・・・。」

でも然う切り出すと少し困った様に顔を伏せてしまった。

 もう一寸(チョット)気軽に、なれば良いけどな。

「先結構辛そうにしてただろ。其じゃあ店帰るの、不安なんじゃないか?」

「然う・・・だな。正直一寸(チョット)・・・空いているとは思う。」

Aの所でそれなりに食べたけれども全然足りていない。

 矢っ張り・・・ガルダのじゃないと、いけないのかな。

 屹度(アレ)丈血を啜ってもガルダの一滴にすら敵わない、然う言う代物なんだ。

 現に()うして二柱丈で居ると・・・牙が疼いてしまう。

 確かに今店に戻るのは少し恐い、其に嫌だ。仲間をそんな目で見るのは。

 見えてしまう、と言う事実が一番堪える。

「じゃあ、ほら丁度向こう、神気(ヒトケ)が無さそうだし、彼処行こうぜ。」

ガルダが指差すと、其処には草木に包まれた石造の建物の残骸があった。

 廃墟の様だ。確かに彼処なら隠れられるだろう。

 ・・・気は乗らないけれども、仕方ないか。

「・・・然うだな。彼処が良いだろう。」

言うや否や確認の為かガルダが先行する。

 其処其処古びて壊れているが陽は入らなさそうだな。

 草木に隠されていて・・・何処か安心する。

「う・・・ん、一寸(チョット)汚いけど、良いかな、セレ。良く考えたらこんな所で御飯食べたくないか。」

「大丈夫だ気にしない。其に家よりは未だ良いだろう。」

家でする方が余っ程不安だ。何の弾みで事が起こるか分からないし。

「然うだな。えとじゃあ上は脱ぐか。その・・・下は一応聞くけど、良いよな、別に。」

「ん、何方でも構わないぞ。足でも何処でも食べられるから。」

「う、うん、そっか。」

俺丈気にしてるの・・・何か馬鹿みたいだなぁ。

 ま、セレにとっては食べる丈、死活問題と言うか、生活の当たり前の一部な訳で。

 ・・・別にそんな深い意味ないもんな、うん。

 元々セレ、然う言うの余り気にする(タチ)じゃないし。と言うかそんな事気にする余裕がないと言うか。

 其でも、下半身の方が美味しいから好きとか、そんな風に言われなくて良かったかも。

 其言われちゃったら俺、羞恥とずっと戦う事になってたもんな・・・。うん、良かった。

 シャツを脱いで時空の穴(バニティー)(ホウ)る。

 一寸(チョット)肌寒い、そんな俺の目の前でセレの尾が振られる。

 そっと触れると其丈で甲が俺の手を傷付け、血が零れる。

 すると目の前で突然尾が華の様に分かれた。そして俺を包み込む様に(マト)わり付いて来る。

 頬を撫でられて首を(スク)める。

 触れる丈で、傷をどんどん付けられてしまう、入る(アカ)い線に寄り添う。

 尾の先は例の蛇の様な頭になっていて、丁寧に俺の血を掬って行く。

 未だ一寸(チョット)痛い、小さく刺す痛みに目を逸らした。

 甘い馨が、広がる。噫此だ、此の薫は、

 目線を動かし、セレのと合わせた。

 一言も話さないと思っていたら、彼女の目は何処か虚ろで、じっと俺を見詰めていた。

 頬は上気していて吐息が甘い、もう耐えられなかったのだろう。

 こんな風に強請(ネダ)る彼女は見られないから、何処か新鮮で(クスグ)ったくて。

 こんなの、抗える訳ないじゃないか。

「・・・良いよ、セレ。」

呟くと彼女の牙が迫って。

 優しく俺は床へ押し倒された。

 尾が誘導する様に這って寝かされる。

 まるで盛り付けられた皿の上みたいに。

 こんなに存在と本能に操られてしまう彼女は、矢張り辛そうに見えた。

 今はこんなに、いっそ幸せそうな顔をしているけれども此は彼女の望んだ道じゃなくて。

 俺も頼られて、役に立てて嬉しいけれど、彼女が見ているのは俺じゃなくて。

 然う思うと何処か切ない。其でも馨は甘くて、奥へ誘い込むみたいで。

 俺達、一体何処へ行くんだろうな。

 甘い馨をしっかり胸一杯に吸って置く。

 此でもう牙も痛くない、毒が俺を満たして行く。

 二回目だけど分かる、もう俺はすっかり此の毒の虜だ、中毒になってしまっている。

 自分から求めている、欲しがっているんだ。

 此の毒丈が、俺に唯一刻まれる物だから。他の物じゃあ直ぐ治るのに。

 彼女の毒は渇いた俺に良く染み渡る。

 早速彼女の牙が俺の腹部に突き立てられた。

 血が溢れるが、直ぐ蛇達が舐め取ってしまう。

 もう痛くはない、(ムシ)ろ・・・心地良くて。

 こんな神気(ヒトケ)が無いからと選んだけれど、廃墟で彼女に悪いかと思ったけれども。

 そんな事もう如何でも良かった。二柱が居れば其丈で。

「御免ガルダ・・・本当に、でも、止められなくて、」

肉に齧り付き、呑み込んだ所で彼女は口を開いた。

 顔を上げずに、じっと剥き出しになったであろう俺の中を見詰めて。

 まさか話せるとは思っていなかったから、少しびくついてしまう。

 すっかり頭が惚けていたから・・・一瞬理解が追い付かなかった。

「謝るなよ、もっとがっついたって良いからさ。」

其の声が余りにも辛そうで、だから俺は成る可く優しく声を掛けた。

 彼女も早く理性を手放した方が良いだろうに。

 いやでも・・・俺は余韻を味わいたいのかも知れない、然う悪い事じゃないからさ。

 小さく頷いて彼女は俺の内臓に喰らい付く。

 否定しても、拒絶しても、矢張り抗えないんだろうな。

 顔を上げた彼女は何処か涕きそうな顔で、でも手は、口は、止められない様だった。

 噛み千斬っては(ユック)りと呑み込む。味わう様に舌舐りして。

「・・・矢っ張り、内臓が美味しいのかな。」

ぽつりと呟くと彼女の耳が動いた。

「うん・・・一番、美味しいと思う・・・御免、こんな味わって、」

「ハハッ、何だそりゃ。味わってくれるなら(ムシ)ろ良いよ、どうせなら美味しく食べられたいし。」

「美味しい、美味しいよ。信じられない位に。」

だから止められなくて、

 彼女が又俺の腹の中を探る。

 そっか・・・美味しい、か。

 良いじゃないか其で。俺は凄く嬉しいよ。

 嫌でも、食べたくなくてもがっついちまうんだろ?そんなにセレを夢中にさせられるんだろ?

 ・・・うん、良いよ。悪くない、悪くない心地なんだ。

 ()う言う懐いが信仰心になって行くのかな・・・。

 ぼんやりと、霞掛かり始めた頭で考える。

 若しかして、再生力をもっと上げた方が美味しかったりするのかな。

 不図そんな考えが頭を(ヨギ)った。他にする事も無いんだし、試してみるか?

 意識を少しずつ全身へ流す様に、魔力に任せる様に。

 手足が皓銀(ハクギン)の毛に覆われて行く。

 髪が伸びて少し目に掛かった。

 (シロ)混じりになっているけど此、実は毛なんだよな、手触り違うし。

 一寸(チョット)、邪魔だな、此じゃあ彼女が良く見えない。

 軽く左手で払うと、其の腕を彼女が掴んだ。

 何かあるのかと思う(マニマ)に牙が食い込む。

 毛が増えた分、喰い甲斐がありそうに見えただろうか。

 あ、でも今度は毛が邪魔かな。剥かなきゃいけないだろうし、如何だろう。

 彼女の牙が沿う様に入り込み、一気に引き抜かれる。

 其の反動で皮がごっそり剥れ、肉が覗いた。

 生々しく脈打つ肉だ、今は再生力を上げている分、より新鮮に感じる。

 血も止まらないし、どんどん溢れて毛に染み込んで行く。

 彼女も其の(アカ)に誘われる様に牙を突き立て、(エグ)り取った。

 蛇が毛に染みた血すら舐め取って行く。直ぐ様皓銀(ハクギン)の毛並に戻った。

 毛は流石に邪魔だったみたいで、蛇達が集まって剥いで行く。彼女が食べ易い様に、準備を整えて行く。

 然うして出来た肉の塊に彼女は(カブ)り付いた。

 味わう様に噛み千斬らず、其の(ママ)咀嚼されている。美味しいのか勢いがある。

 肉が摺り潰され、千斬れる音が内側で響いた。

 もう俺には、其の音しか聞こえなかった。

 謂わば自分が食べられている音なんだけど・・・何でこんなに心地良いのだろう。

 不思議と心穏やかだ。ずっと聞いていたい様な。

 暫し目を閉じて、其の音に耳を傾ける。

 生々しく、残酷な音が、まるで揺籃歌の様に俺を満たして行く。

 此は毒の所為?こんなにも彼女の全てを受け入れてしまえるのは。

 異常な事、なんだろう。こんな廃墟で彼女に食べられて。

 喰い殺される、其は余りに非日常な事なんだろうけど。

 然うである可きだと、やっとある可き形に戻ったのだと諭される様な静寂が、此処にある。

 薄ら目を開けると、俺の左腕は(ホトン)ど無くなっていた。

 一気に食べ切ってしまったらしい。又彼女は内臓を食べようと腹を裂いていた。

「・・・其方の方が、美味しいか?」

何の気なしに聞いて、彼女は少し丈顔を上げた。

 口周りに散った血を丁寧に舐め取っている。

 どうせ直ぐ又汚れると思うけれど、(アレ)(アレ)で味わっているのかな。

一寸(チョット)、再生力、変えたから・・・如何かと、思ってさ。」

頭が鈍い、余りもうちゃんと考えられない。

 ・・・もう一寸(チョット)で寝ちゃうかもな、此の様子だと。

「・・・何方も違った美味しさがあるから、難しいな。」

「毛が邪魔かなって、思ったんだけど。」

「其は問題ない、大丈夫だよ。」

少し丈彼女は(ワラ)ってくれた。

 血の掛かった其の顔も、綺麗だと何処か俺は思った。

 彼女には(アカ)が良く似合う、俺の血だとしても、良く映える。

 そっか・・・そんなに味の差とかってないのかな。

 然う言えば味の良し悪し迄はAの所で聞けなかった。何が関係してるかとか一寸(チョット)気になるかも。

 其か・・・信仰心、とか?

 俺丈を、こんな美味しいと言ってくれるなら、若しかしたら其の差だったりするのだろうか。

 存在の味、と言うか然う言った概念とか然う言うの。

 俺には全く分からないけれど、今のセレには敏感に分かるのかも知れない。

「・・・今回は顔、変わらないんだな。」

然う言えばずっと彼女の(ママ)だ。

 一寸(チョット)食べ難いんじゃないかと思うけど、血が掛かって何度か目を閉じているし。

「ん・・・余り、変えたくないから。」

短く答えて彼女は腸に噛み付いた。

 矢っ張り一寸(チョット)千斬り難そうだけど、然う言う気分なのかな。

 今の所彼女が話せるのも、理性が残っているからか。

 うん、前より落ち着いているのは良い事だと思う。其丈セレには足りてる、余裕があるって事だもんな。

 確かに此の様子だったら血で如何にかなるかも知れない。

 彼女が傷付かなくて済むなら、其の方が良いよな。

 暫し任せていると不意に彼女は顔を上げた。

 何だか・・・目に大分力が籠っている気がする、頬の赤みもなくなっていた。

「もう大丈夫・・・大丈夫だよガルダ。」

「・・・え、あ、然うか?」

意外な言葉に思わず目を(シバタ)かせてしまう。

 思ったよりずっと早かった、無理してないかな。

「遠慮は要らないけど、大丈夫か?」

「うん、凄く落ち着いた。有難う。」

然う言う彼女は確かに、可也楽そうに見えた。

 現に未だ血は付いているのに目の色を変える事はない。

 こんな風に一気に元に戻るんだな。

「そっか。今回は随分早かったな。」

「前ので大分楽になったからな。・・・凄く、良い。衝動が無くなったら凄く楽だ。」

然う言って彼女は(ワラ)っていた。

 元に戻れた事が本当に嬉しい様だ。直ぐ尾も残りの血を舐め取って元に戻る。

「でも、本当に痛くないかガルダ。今回は大分意識があったけれども・・・こんなに傷付けて、」

一転しゅんと項垂れてしまったが、そんな彼女の肩をそっと叩いた。

「だから大丈夫だって。毒が凄く効いてるみたいでさ。・・・ほら、此でもう大丈夫だろ?」

もう怪我は完治している。早く済んだ分、再生も早い。

 時空の穴(バニティー)からシャツを取り出して着る。・・・うん、此で完全に元通りだ。

「うん・・・分かっていても、如何してもがっついてしまうな。・・・内臓(バカ)りなんて、一番辛いだろう、もっと何か・・・あれば良いけれども。」

「別に俺からしたら何処も一緒だけどな。セレが食べたい所を食べたら良いんだよ。」

其に今後は血で如何にかなるっぽいし、其なら・・・彼女の罪悪感も少しは減るかも知れない。

「・・・有難う。さ、もう帰ろうガルダ。ガルダの御蔭で私は店に戻れるんだから。」

「然うだな。うん、帰ろうぜ。」

立ち上がり、廃墟を後にする。

 全てから隠された所でしか行われない二柱丈の給餌。

 其の背徳感とも何とも言えない気持が・・・そっと俺の中で蟠っていた。

   ・・・・・

「ふーん・・・元々化物だったんだし、今更じゃない?」

静まり返っていた次元龍屋で、そんな声が一つ残った。

 声の主である飃は椅子に座りつつもぶらぶらと椅子を揺らしており、そんなあっさりと言って除けたのだ。

 先迄、セレとガルダ、二柱に因り、実はセレが人を食べないといけなくなったのだと説明をしていたのだ。

 そして、既に幾らか犠牲者が出ている事も。

 気付いていなかった・・・いや、気付かない振りをし続けていた事を。

 勿論先迄の、Aの話も一緒にだ。

 ガルダの協力があって、可也其は収まった事、今後もケア出来る事。

 けれども・・・どんなに注意しても事は起こるかも知れない、だから皆に話すのだと。

 何度か言い淀み乍らも何とか言い終えた。

 喉が渇くが、此は例の渇きじゃなくて、単純に緊張しているのだと分かって。

 恐かった・・・皆に話すのが、まるで前世に戻った気分で。

 一体どんな目を向けられるのか、何を考えるのか、其の全てが恐ろしかった。

 自分は変わらず恐がりだから・・・身を固くする事しか出来ない。

 店には全員が居た訳ではなかった。ソルやベール、鏡が居なかったが仕方ない。少しでも早く言おうと今居る奴丈集めたのだ。

 そしてやっと・・・話し終えた訳だけれども、矢っ張り皆表情を引き締め、黙ってしまった。

 其も然うだろう、まさか仲間だと思った奴が天敵だったなんて考えもしない。

 加えて何時か自分達を襲うかも知れない、そんな存在と居るなんて。

 静寂は痛かったが、其を一番に破ったのは飃だった。

 た、確かに彼の元来の目的を考えたら、然うだろうか。

()の道殺す気だったし、其なら其で都合良いじゃん。(ムシ)ろ良かったし、殺したら人類が滅ぶとか言われなくて。」

(ヨル)の彼は何とも自由で、同意を求める様にちらと見渡した。

「え、何、そんな深刻な事?僕は別に違和感なかったけど。大災害起こした時に摘み食いしてましたって言われても普通に信じられるじゃん。」

「・・・っ、ちょ、一寸(チョット)ドレミ吃驚した丈だもん。でもドレミだって大丈夫だよセレちゃん。其でもセレちゃんはドレミ達の事、助けたり、護ったりしてくれてるでしょ。じゃあ大丈夫だよ。」

「然うね。食性だとかは生まれ持った物でしょうし、変えられないわ。気付いて、気を付けられるのなら良いんじゃないかしら。私も然う言う方に会うの、初めてじゃあないですし。」

「うむ、我もなのだ。セレが話してくれた事は嬉しいが、だからって我は変わらないのだ。今迄通りなのだ。」

其から次々と皆は口を開き、肯定してくれた。

 こんな、人殺しの化物を受け入れると。

 皆気付いているだろうに。其は異常な事だと。

 こんな形は美しくもなんともなく、歪で、禍々しいのだと。

 けれども自分は何処か・・・何処かで此の可能性に勘付いてはいた。

 普段の彼等を見ていれば若しや、こんな道に繋がってしまうのではないかと。

 其が現実になって・・・正直複雑な気持だ。

 嬉しい、勿論嬉しいよ。でも・・・。

 此の道から矢張り逃れられないのかと声が、何処からかする様で。

 いけない、こんなんじゃ。皆勇気を出して言ってくれているのに。

 其を蔑ろにしちゃあいけないじゃないか。

「・・・何なの此の同調圧力。私は嫌よ、普通に恐いじゃない。」

ダイヤの其の一言に、一同の背が震えた。

 そんな中、一柱ダイヤは溜息を付いた。

「ダ、ダイヤァ、でも私は、」

「リー、貴方は鳥だし、私は霊だから大丈夫でしょうよ。けれども、全てが然うとは言えないわ。如何考えたって、友情とか?そんなのがあっても所詮は餌よ。」

「でも気を付けるつってるだろ。今迄だって無事だったんだし。」

「私達が無事な代わりに誰かが犠牲になってるって事でしょ。」

「でもそんなの、セレに限った話じゃないわ。人間や、神だって然うじゃない。人間だから殺してはいけない、食べてはいけないなんて言う権利は誰にも無いわ。」

「流石、偉大な神様だね。そんな見方出来るんだ。」

・・・何だか、嫌な空気の流れを見て、背を冷汗が伝った。

 嫌だ、私は、こんなのを望んじゃいなくて。

 矢っ張り、こんな筈じゃなかったんだよ。こんな道を選ぶ気は、

 其でも止まれない、私の所為で皆が・・・店が、壊れてしまう。

 其は、其丈は、

「止めてくれ。私が話したかった、其丈だから・・・如何するかは、皆の自由だ。」

 はっと顔を上げてガルダが自分を見遣る。

 少し悲しそうな、そんな目を・・・見たくはなかった。

「正しいとか、正しくないとか、其は何方でも良い。只今後如何するか、決めてくれたら良いから。私が言いたかったのは其丈だ。」

「セ、セレちゃん御免、そんなつもりじゃ、」

「良いよ、有難う。私は、気持丈は、変わらないつもりだ。此の(ママ)でありたい。でも化物なのも確かなんだ。店を去っても勿論良い。何をするか、如何するかは自由だ。」

「・・・・・。」

誰ともなく、口を噤んで又静寂に包まれた。

 Z1-Θ丈、不思議そうに皆の顔色を窺っていたが、空気を読んでか黙ってくれていた。

 でも此の空気が・・・私は堪らなく嫌いだ。

―っおいセレ神さん聞こえてるか⁉―

其を打ち破ったのは一つのテレパシーだった。

 思わずびくついてしまう・・・此の声は、マスターのか。

 珍しい、と言うより可也切羽詰まっている。一体何だ。

―聞えている。如何した、やけに焦っているみたいだが。―

―そりゃ然うだろ!今、緊急で入った情報なんだが、りゅ、龍共が、次元を襲いやがった!―

―え・・・如何言う事だ、詳しく教えてくれ。―

今は大事な話中だったけれども、此は無視出来ない。

 龍が次元を・・・?(シカ)も此の焦り様は、

―俺の管理しているギルドから連絡がどんどん来てんだよ。色んな龍が敵意を持って襲って来てやがる。(シカ)も狙いは(ドレ)も街だ。俺達を狙ってやがる!―

―龍が人を・・・?そんな事、―

(ニワカ)には信じ難い。龍達の性質から其は有り得ない筈だが。

 色んな龍と言う事は、単に反撃とかじゃあなさそうだ。でも如何してこんな事、

―何とかギルドの方で追っ払ってるけれども、結構死人が出て来てる。一斉に襲われたからやられちまった・・・。クソッ、何か妙な事してやがると思ったらまさか襲って来るなんて。―

―色んな龍が一斉に・・・?―

若しかして其、前から話丈聞いていた例の龍の集団か?

 確か人間と敵対しているとか何とか・・・龍の生態からしてない筈だから違和感があり、余り確かめられなかったが。

 まさか其が行動を起こしたと・・・?

「あ、あの済みません!」

突然店の扉が大きく開け放たれ、一柱の青年が飛び込んで来た。

 波紋で写るか如何かのスピードで突っ込んで来た様だ。髪は乱れ、息も激しい。

 服の乱れも気にせず、そんな有様でやって来たのはリュウだった。

―・・・リュウが店に来た。恐らくは、―

―リュウって・・・噫、龍の番神(ドラディアン)か。此の件だろうな、丁度良い。詳しいだろうし、其方で聞いてくれ。―

―情報有難う。話を聞いたら直ぐ私達も動く。―

―其奴は助かる、じゃあな。―

「ど、如何しましたかそんな急いで。」

ロードが椅子を勧めると、やんわりと彼は断った。相当急いでいる様だ。

「た、大変なんです。あの、龍達が、ライネス国を襲ってるって。」

「ライネス国、だと。」

マスターの話と少し違う?次元丈じゃなくて此方も襲っているのか?

「はい、急に襲撃したみたいで、でもそんな事今迄一回も・・・数が多過ぎて僕丈じゃあ手が回らないんです、だから、」

「分かった。直ぐ手を回そう。丁度今私も其の情報を聞いていた所だ。」

「聞いていたってセレ、一体何の事だ?」

「本当に今々先迄マスターからテレパシーでだ。龍達が色んな次元の人間を襲っているらしい。止めに行かないと。」

「ど、如何してそんな事に⁉龍さん優しい子ばっかりなのに。」

「恐らく最近していた例の活動の所為ですね・・・。僕がもっとしっかりしていたら、」

「人間に傷付けられた龍が集まっているって奴だな。」

思わずガルダが視線を寄越した。皆噂丈聞いていたのだ。

「はい、でもまさかこんな大規模だったなんて、早く、手を打たないと大変な事になってしまいます。」

「次元に行ったりして防ぐ事は出来るだろうけれども・・・他に手立てはあるか?」

龍の番神(ドラディアン)である彼ならもう一寸(チョット)分かる事があるかも知れない。

「こんな大きな集まりだったら恐らく、群のリーダー格が居ると思うんです。だから其の子を如何にか出来れば、直ぐに収束すると思うんですが・・・。」

「思い当たる龍は居るか?恐らく様子からして次元移動が出来ているなら、御前とリンクが取れていると思うが。」

「はい・・・恐らくは、次元龍と呼ばれる龍です。」

其の名に思わず息を呑む。

「え、あれ、店の名前と一緒?」

()の店名、モチーフ居たんだな・・・。」

「いや私も存在を後から知ったからパクった訳じゃない。」

問題は其処じゃあなくて、其奴はとんでもない大物だ。

 まさか選りに選ってこんな行動を取らなさそうな龍なのに。

「ね、其の子ってどんな龍さんなの?」

「次元龍は、存在其の物が一つの次元になっている龍です。あらゆる物を己の中にある次元へ取り込み、次元間を揺蕩う太古の龍です。」

「次元其の物って事か・・・?何か難しいな。」

「私も龍古来見聞録(カリグローズ)にあったが今一読んでもはっきりしなかった。でも思い当たる所があるんだな?」

「はい、(ソモソモ)如何して今迄彼等が見付からなかったのか不思議だったんです。こんな大勢居たなら、前からもっと噂になっていた筈。僕のリンクにも特に不審な点はありませんでした。」

「成程、龍達は皆、其の次元龍の中に居たと。」

「えぇ、其なら納得出来ます。そして一気に方々の次元へ一斉に襲撃したのなら。」

「へぇ、やけに計画的だね。何をしたいのか良く分からないけど、魔物と一緒だね。」

「むぅ、魔物では無いのだ。屹度何か理由があるのだ。」

「然うだな。原因と言うか、何が彼等に起こったのか知りたいが、其はリュウも謎なんだな。」

「はい・・・先代が居れば、何か分かったかも知れないのに・・・。」

リュウは随分と、落ち込んでしまっている様だった。

 龍達の反乱とも言える今回の騒動、既に傷は深い。

 何か・・・根底にある気がするが、見えないな、今は。

「リュウ、落ち込む暇はないぞ。先ずは一刻も早く彼等を止める。其も御前の務めだろう。勿論協力はするから今は耐えてくれ。」

「有難う御座います。然うですね・・・御願いします。」

「因みにリンクが取れているなら次元龍が何処に居るのか分かったりしないか?」

次元龍、一頭丈じゃあないだろうが、明らかにおかしな動きをしている奴が一頭位は居る筈だ。

「はい、其が・・・如何やらライネス国に居るみたいで。」

「う、選りに選って其方か・・・。」

(シカ)も明らかに場違いだな。良し、其奴に目星を付けるか。」

早速フェリナのゲート、使う時が来たみたいだな。

 行くのがまさかライネス国を助けに行くだなんて、全く予想していなかったが。

 でも護る為じゃない、龍達の無用な争いを止める為だ。

 龍達を敵だと思われてしまったら殲滅され兼ねない、何とか止めないと。

「僕も其方へ向かうつもりでしたが、一柱だと一寸(チョット)心許なくて・・・だから先に此方へ寄ってみたんです。」

「然うだな。龍達が暴れている所へ行くんだ、然う甘くはないだろう。分かった、じゃあ私が同行しよう。」

「え、でもセレ、ライネス国には一寸(チョット)・・・敵地、みたいな物だろ。」

「然うだが、だからと言って行かない案は無いだろう。丁度ゲートもあるし、どうせ混乱状態だろう。さっさと終わらせて帰る丈だ。」

「僕も・・・出来ればセレが来てくれたら心強いです。セレは龍達に凄く好かれていますし、若しかしたら言う事を聞くかも知れません。」

「んー・・・然う、だよなぁ。じゃあ俺も行くぜ。二柱丈じゃ危ないだろ。護るのとかなら得意だし。」

「あ、じゃあドレミも、直ぐ行けるよ。」

直ぐ様ドレミが手を上げた。聞いている内に居ても立っても居られなくなったのだろう。

 同意する様にローズも尾を大きく一度振った。

「噫助かる。だが余り多いとばれそうだし、危険な所には変わりないからな・・・出来ればドレミ達は色んな次元へ行って、少しでも被害を食い止めてくれないか?」

「そっか・・・うん、其も然うだね。若しかしたら他の手もあるかもだし。」

「然うね。次元の方がいざと言う時も大丈夫ね。」

「行けそうだったら皆其々次元を護って欲しい。手は多いに越した事はないからな。」

「皆さん・・・心強いです。有難う御座います。」

「因みにもう襲って来る奴はぶった斬っても良いんだよね?」

「其は・・・出来れば避けて欲しいがな。難しいだろうが、何か裏がある様に思うんだ。勿論命に関わる事態なら其の限りじゃないが。」

ちらとリュウを見遣ると、そっと彼は目を伏せた。

「傷付けたくはないですが・・・其で皆さんが死んでしまったら大変です。最悪の場合は殺すのも、仕方ないと思います。屹度彼等も本心じゃないと信じているので。」

「甘い様だけど、仕事だし、然う言われちゃあ仕方ないか。」

「若しかしたら話せる子も居るかも知れないし、うん、其で良いと思うよ。」

「良し、じゃあ一旦解散するぞ。皆何かあったら直ぐテレパシーで、無茶丈はしないでくれ。」

一同は大きく頷き合うと、直ぐ様席を立つのだった。

   ・・・・・

「まさかセレ達がライネス国へ入れるとは思いませんでした。」

リュウは不思議そうにレリーシャ=ガーデンを見上げた。

「入れると言うより侵入だがな。私も行くの事態は初めてだ。」

頭を一撫ですると、直ぐ様レインは地面へ潜って行った。

 此処迄の移動は彼女に任せてみたが、矢張り速い。

 名残惜しむ様な声で鳴いたが、直ぐ分かってくれたのか戻ってくれた。

 もうフェリナにはテレパシーを送っている。ゲートの使用許可を貰おうとしたが、榔を助けて欲しいと安請け合いしてくれた。

 (ムシ)ろ頼られてしまった勢いだ。

 皆こんな邪神頼ってくれるけれども、其で良いのだろうか・・・。

 つい余計な心配をしてしまう。期待されるのは苦手なんだ。

「其でもこんな伝手があるなんて吃驚ですよ。僕も()の国には入れなかったので困っていましたが、頼って良かったです。」

「感謝するには未だ早いだろうけれども、兎に角急ぐぞ。()の塔の上迄一気に飛べるか?」

「はい、御蔭様で結構龍の力、取り戻して来たんですよ。」

然う言うとリュウは仄かに蒼皓(アオジロ)く光り、目にも止まらぬ速さで塔の上部迄飛び上がった。

 後に残るのは(シロ)い線のみだ。成程、店迄()うやって来たのか。

「え、は、速!テレポートか?」

「今のは恐らくレイオンド龍の力か?雷の様に駆けるとあったけれども。」

自分は会っていないが、何処かでリンクが取れていたのだろう。色んな龍の力を使えると言うのは可也強力だな。

 自分達が遅れる訳にも行かない。セレとガルダ、二柱は急ぎ翼を出して飛び立った。

「あ、ララ皆さん御待ちしておりました!」

扉を潜るとフェリナが先に待っていてくれていた。

 ゲートが淡く光っている。何時でも潜れそうだな。

 暗闇の中仄かに光る水と、其を写す玻璃板(ガラスイタ)

 見ていて何処か幻想的に落ち着く様な心地だが、空気が張り詰める様な。

 其は焦るフェリナの顔の為だろうか。事態は思ったより深刻の様だ。

「フェリナ、じゃあ約束通りゲートを使わせて貰うぞ。」

「はい、如何か皆さん気を付けて、ルル榔も直ぐ向こうで待っています。」

ちらと二柱を見遣り、互いに頷き合う。

 覚悟を決め、ゲートへ一歩、踏み出した。

   ・・・・・

「っと、此処がクレイド§スフィアか?」

ゲートの向こう側は(クロ)一色に染められた部屋。

 だが背後から輝く影が動いた。

「然うだ。クレイド§スフィアへようこそ、歓迎するぞ。」

(ヒカリ)の狼が一同の前へ躍り出る。

 途端部屋は輝きに溢れ、神々しさを増す。

 余りの変化に目が潰れそうだ。

「でも余り時間がない。然うだろう?」

「残念乍らな。クレイド§スフィアに被害は余りないが、外が不味い事になっているんだ。」

「成程、狙われているのは神でも、元人間とかかも知れないな。」

種族のみで判断しているのも変な話だが、龍にしては偉く差別的だ。

「っ然う言う事だったのか。君達だったら龍の暴走も止められるかも知れないんだろう。じゃあ此処は良い、早く行くんだ。」

「・・・騒動を止めても良いんだな。」

「此の国は好きじゃあないが、一般神(イッパンジン)が巻き込まれて良い道理は無いだろう。」

まぁ其も然うか。自分も別に龍に襲わせて利を取りたくはない。

 クレイド§スフィア自体は無事な様だが、外、か。

 此方に来たのは初めてだが、矢張り波紋が少し広がり難い様だ。外の様子迄は分からない。

 窓も無い様だし・・・少し形は違うが鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)を思い出す。

 波紋が届かないのは若しかしたら何らかの術でも掛けて封じられているのか。

 成程、一見綺麗だが、まるで牢獄みたいな所だな。

 此じゃあ榔も形丈の長で、此処の装飾品の一つみたいに思うだろう。

 其位此処は・・・寒々しい。

「セレ、早く行きましょう。出口は何処ですか!」

「此方だ。今は兵も出払っている。見付からずに抜けられる筈だ。」

駆け出した榔の後を付けて廊下へ。

 廊下も真っ暗で、彼が居なければ何も見えなかったかも知れない。

 明かりが瞬時に灯っては消えて行く。其の輝きは確かに美しいけれども。

「・・・こんな堂々と走っていて大丈夫かな。」

「問題ない、(ソモソモ)此処は兵も少ないんだ。形丈の塔だ。」

爪の音を鳴らして(ヒタスラ)榔は駆ける。

「状況は如何なんだ?具体的には。」

「今、6890(ベルフリー・ア・):鐘楼(ルガヤ)やクルスティード尖塔の奴等が鎮圧しているが、拮抗しているな。只何丈(ドレダケ)龍を落としても又直ぐ新しいのが来ている様だ。此の(ママ)だと国が敗れるか、若しかしたら王が・・・動くかもな。」

其を聞いて明らかにリュウとガルダの顔が強張った。

「・・・矢張り龍も、沢山、やられているんですね。・・・此の胸の痛みは屹度、」

「・・・詳しくは聞いていないが其方は龍の専門家とかか?」

首を巡らし、榔はリュウを見遣った。

 真っ先に龍の心配をする彼が気になるのだろう。

「あ、挨拶が遅れました。僕は龍の番神(ドラディアン)です。僕丈じゃあライネス国に入れなかったのでセレ達に連れて来て貰ったんです。」

「成程、龍には龍か。確かに其処等の兵とかより余っ程頼りになりそうだ。其にしても融通が利かない奴等だな。助けすら拒むか。」

「其のやり方で此処迄大きくなったんだろうし、然うだろうな。でも王が動いたら面倒そうだし、早くけりを付けるに越した事はないな。」

「王って矢っ張り凄いのか?」

王だから(ツヨ)い!とは限らないと思うが、どんなのかは気になる。

 城も普通は入れない然うだし、謁見は並大抵じゃあないな。

「・・・えっと、俺は良く知らないけど、確かクリエーターから光を貰っているから凄いんじゃないか?多分。」

「確かに然う言われると凄そうだ。」

「丗を包み込める程の光を持つ者と伝わっているな。其が本当なら龍を一掃出来るかも知れないが。」

「っ!そんな事になったら!早く止めないといけないですね!」

「噫、何よりライネス国と龍が敵対しているのが不味いな。」

「・・・然うか、根絶やしもする様な奴等だからな。君達の(ツツガ)ない成功を祈っている。」

話している内に誰一柱出会わない(ママ)一同は突き当たりに出た。

「此の下の円の中に入るんだ。外の少し離れた所にテレポート出来る。帰る時は其処に来てくれれば俺が連れ帰る。」

「こんな物が・・・此ならばれずに行けそうだな。」

「俺が用もなく通れば直ぐ警報が鳴ってしまうがな・・・。手を貸す事も出来なくて済まないが、皆を頼む。」

(ソモソモ)御前達の協力がないと此の国に入って来れなかったんだ。手を貸すには十分過ぎるだろう。」

「ふーん・・・移送の陣なのかな。良し、じゃあ行こうぜセレ、リュウ。」

床に刻まれた幾何学的模様の陣は力が籠っているのか時折仄かに蒼皓(アオジロ)く光る。

 見た事も無い神だが、今更疑う事も無いだろう。三柱が乗ると直ぐ様其の姿は掻き消えて行った。

   ・・・・・

 もう・・・止めてください、違うんです私は、

 此以上何を話せば良いんですか、如何すれば(ユル)して貰えるのですか。

 痛いんです、辛いんです。如何か、如何か・・・。

 私が反逆したと、然う(オッシャ)るのですか。

 違います。私はずっと、只真実に従って・・・。

 嘘は()いていません、誓えます。

 私は断じてそんな事はしていません!

 考えてもいません、違うんです。

 だから反逆等では・・・あぁああぁああ‼

 止めてください、止めてください、此以上はもう、

 此が、罰だと言うのですか、こんな事が償いになると。

 でも違う、こんなのは、私は如何して、

 っ!も、もう、もう止め、あ゛ぁ゛あぁあああぁあっ‼

 信じてください信じてください、私に偽りはないと。

 私は本物を信じた為、真実をより確かめる為に。

 其が誤りだったと貴方は言うのですか。

 疑う事は良くないのでしょう、でも、

 其の御蔭で私はより信じられるようになったと思うのです。

 此の信仰も、忠誠もまやかしですか。

 信じて・・・下さらないのですか。

 ・・・・・。

 其じゃあ・・・貴方も同罪だ。

 疑う事しかせず、私の言う事を信じようともしない。

 其の上で与えてくれるのは痛み丈、欲しくも無い物(バカ)り。

 如何して私の忠誠心を歪ませる様な事をなさるのです。

 私ももう、信じられない。

 貴方の事を、此の国の事を、此の世界の事を。

 疑う事が悪と言うのなら、何故此の目を開かせたのです。

 知らなきゃ良かった、知らなかったら私は盲目でいられたのに。

 でも其以上に私は歪んでしまった世界を憎む。

 誰が壊したのか、何が歪ませたのか、原初の世界は屹度綺麗だったのに。

 私は其をずっと、信じていたのに。

 貴方が、気付かせてくれたんじゃないですか。

 其とも此の疑問に答えでも呉れますか。

 噫もう・・・何も無いじゃないですか。

 空っぽだ、空虚だ、無駄、此が世界の形だなんて。

 私が護りたかった物は何処に行ったのですか。初めから無かったとでも?

 もう良いです。私は、自分で答えを探す。

 私が、私が私が私が私が、

 こんな世界、噛み砕いてやる。






 ふ、ふふふ・・・はは、

 噫、其でも貴方は其を繰り返すのか。

 疑えと、彼等を。

 信じろと、私達を。

 あぁあ・・・もう良いですよ。

 其じゃあ()うしましょう。

 彼等の事は疑いましょう、憎みましょう、嫌いましょう。

 其と同様に、貴方達の事も、疑い、憎み、嫌いましょう。

 其の上で私はもう一度答えを探す。

 噫、今迄一体何で悩んでいたんだか。

 全て壊せば良かった、噫其の通りだ、うんうん、其で間違いない。壊そう壊そう壊そう、はは、ふふふ、あ、あ・・・悪くない、壊そう、壊してしまおう、然うすれば私は答えを見付けられる!

 は、は、ははは、ははっはは、はははははは‼

   ・・・・・

 テレポートした先では地獄が待っていた。

 龍と神の叫び声が谺し、何かが壊れる衝撃音が響いて。

 まさか此処がライネス国だとは誰も信じなかっただろう。

 (ソラ)から飛来した龍が逃げ惑う神々を啄み、攫って行く。

 将又(ハタマタ)焔を吐き乍ら飛び立つ龍、地を揺るがす巨体の龍、次々と神を丸呑みにする龍等、多くの龍が暴れ回っていたのだ。

 只神の中でも応戦する者も多く、龍の屍が積み上げられていた。

 氷漬けにされたり、躯が千斬れていたり、其は凄惨な光景だった。

「・・・っ、此は想像以上に酷いな。」

顔面蒼白になり、堪らずリュウは近くの龍の元へ駆け出した。

「皆止めてください!こんな事、望んでない筈です!」

―ん・・・噫龍の番神(ドラディアン)か。―

突進を繰り出し、近くの家を粉々に砕いていた龍が振り向いた。

 其の龍は見上げる程の巨体で、全身金属で出来ているかの様に銀色に輝く甲が目立つ。

 二足歩行の蜥蜴の様な容姿で、前足は小さいが、支える後ろ足が大きく頑丈そうだ。広げられた翼の様な形の甲迄も金属質で光沢があり、あんな物で突進されたら受け止められる物等無いだろう。

挿絵(By みてみん)

 此の龍は・・・ハイローエンか、此の龍種は可也大人しい筈なのに。

 見た目は厳ついが、傷付かない躯だからこそ他者を傷付けない、然う言った龍だった。

 其でも話せると言う事は理性はある様だ。操られたりはしていない。

 でも、じゃあ此が、彼等の望んだ事なのか。

 一見龍種は多いが、別に皆破壊を好むタイプでもない。

 其なのに・・・自らの手で行っている。

―悪いが、御前の頼みでも聞けねぇ。聞えないのか?()の声が、俺達を導く声が。未だ足りない、こんな物じゃあ・・・。―

「声?其って一体・・・、」

其が龍達にこんな事をさせているのか。

 でも其が一体何の事か(チッ)とも分からない。

―あー・・・駄目だ、御前も、殺さなきゃ。―

突如ハイローエンはリュウに鼻先を向けた。

「・・・え、」

「っ危ない‼」

ハイローエンが一歩動くより先にガルダが飛び込み、リュウを押し退()けた。

 其処へ向けハイローエンは突進を繰り出し、激しく土煙を巻き上げる。

 辛うじて其の一撃からリュウは逃れた。ハイローエンは其の(ママ)別の家屋に激突し、一気に崩壊させる。

「・・・っぐ、此奴等見境なしかよ。」

「ガルダ、リュウ!大丈夫か!」

瓦礫が崩れてしまい、二柱との間に壁が出来てしまう。

 ガルダは突進の衝撃で腕を裂かれていた。でも瞬きの後に綺麗に治る。

「良し・・・と、此方は大丈夫だぜ。」

「あ、有難う御座います、ガルダ。」

礼は言いつつも、リュウは腰が抜けた様に座ってしまっていた。

 今起きた事が信じられないらしい。

「そんなまさか・・・龍が僕を襲うなんて、」

「リュウ、しっかりしろって。矢っ張り何かおかしいぜ。此の様子、ライネス国が何かしたとも思えないし。」

「です・・・よね、僕もちゃんとしないと。」

立ち上ったリュウは一つ大きな溜息を付いた。

 二柱の所へ行きたいが・・・ハイローエンが警戒しているな、他にも周りに気配を感じる・・・。

 敵意と言うより、何だろう此は。彼等の懐いが今一読めない。

「釼龍!僕に力を貸してください!」

リュウの呼び声に応える様に(ソラ)から(アカ)と蒼、二つの流星が飛んで来た。

 其はリュウの両手に集まり、形を成して行く。

―ヨゥ、()うして呼んでくれるのは久し振りじゃねぇか。―

―龍相手だろうが暴れてやるぜ!―

然うテレパシーを発するは二振りの双釼(ソウケン)、リュウの両手に収まっていたのだ。

 其の(ツルギ)はまるで龍の顎門(アギト)みたいで、持ち手に牙が刺さり、長く後方に尾か角の様な帯が棚引く。

 良く見ると目が付いており、好戦的然うにぎらついた。

挿絵(By みてみん)

「まさか(アレ)は釼龍、そんな風に呼べるのか。」

(ツルギ)の様だが(アレ)も立派な龍族だ。

 彼等に認められた者丈扱う事が出来る、大抵は龍の番神(ドラディアン)御用達の武器らしい。

 様々な龍の力を其の刃に宿す事が出来るとか、確かに力の扱いに慣れているリュウに丁度良いだろう。

 持ち手に牙があるので痛そうだが、喋る(ツルギ)と言うのは一寸(チョット)気になるな。

「・・・傷付けたくはなかったですが、」

リュウが一振りすると釼龍の尾の形状が変わり、凱風(カゼ)の鞭の様になって(シナ)った。

「グルルルルル。」

其が足元に当たり、ハイローエンが唸って視線を寄越す。もう話してはくれなさ然うだ。

「セレ、僕は大丈夫です!僕もちゃんと戦えますから!」

「・・・然うだな、ガルダ。一応リュウと居てくれ、何か手立てが見付かるかも知れないし。」

「セレは如何するんだ。固まっていた方が良いんじゃないか?」

「龍が大分集まって来ているからな。一旦私は離れるよ。気を引いてみるから手分けをしよう。」

「お、おい!此処ライネス国だぞ!危ないって!」

「じゃあ任せたぞ。」

危ないのは分かるが、注目を集め過ぎている。こんなんじゃあ次元龍なんて探せないだろう。

 思ったよりも事態は酷いんだ、急がないと。

 セレは二柱に背を向けると翼を広げて一気に飛び立った。

 波紋を広げると良く分かる、其処等中で龍達が暴れている。

 まるで、黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の再来じゃないか。

 本当に一体何が目的だろう、只壊す丈なんて意味はない様に思うが。

 神や人の皆殺し・・・は規模が大き過ぎると言うか、彼等でも無理だろうし。

 声と、気になる事も言っていたな。もっと情報を集めないと。

 ざわざわと多くの龍の視線を感じ乍ら、セレは飛び続けるのだった。

   ・・・・・

「見付けた!コラー!ストップ!」

ドレミが大声を上げると雷が落ち、近くに居た龍達が慌てて後退る。

 此処はとある次元の街の外れみたいだ。来て直ぐに龍に会うなんて。

 確かに街を襲おうとしているみたいで、家に体当たりしたり、吼えて脅かそうとしているみたいだ。

 此処で止めないと大変な事になっちゃう、一柱で来たけど、頑張らなきゃ。

 店に居た皆も其々出向いている。ペアを組もうかとも思ったけど、結局手分けをする事にしたのだ。

 でも一寸(チョット)来るのが遅かったかも知れない、一部の家は何だか氷漬けにされている様で大きな氷塊が所々にある。

 人も・・・巻き込まれているんだよね。大変な事になってしまっている。

「何だよ御前邪魔するなよ!」

「なーんか・・・見た事ある神な気がするけど、」

「良いから早くやっちまうぞ!」

集まって来たのは樹と鳥が合わさったかの様な姿をした龍達だった。

 此処には此の龍達しか居ないのかな・・・数は多いけど、頑張らないと。

「待って!ドレミは戦いたくないの!如何してこんな事するの?止めて欲しいってリュウ君も言っていたよ!」

「リュウって龍の番神(ドラディアン)の坊主か。でもなぁ、彼奴の頼みでも・・・、」

「無理だよ、別に俺達の御主神様(ゴシュジンサマ)とかじゃないし。」

「此方の声の方が大事だよな!」

ギャアギャアと龍達は鳴き交わす。御喋りが好きなのか、此方に集中して手が止まっているのは良い事だけど。

 今の内にとローブからスカウターを取り出して掛ける。えっと此の龍達は・・・。

 カムアノ樹・・・?飛と翠属性なんだ。じゃあ大丈夫そうだね。

 姿は鳥の足の様な一本の樹の上部が鳥の様になっている。翼を広げているが、(アレ)で飛び立って、樹の足で踏み付けるのが得意みたい。

挿絵(By みてみん)

 其でも大きさは私より一寸(チョット)大きい丈だし、うん。対処は出来そうだね。

 でも何だか気になる話もしている。御話し好きなら何とか聞き出せないかな。

「声って・・・何の事?」

「何言ってんの、御前も使ってるじゃん!」

「あ、でも俺達にしか聞こえてないかも・・・。」

カムアノ樹達は互いに見合って嘴を開く。

 此処に居るのが此の龍達丈で良かった。すっかり御喋りに夢中なのか、どんどん集まって来ているのだ。

 あ、でも凍ってる所があるんだよね。じゃあ他の龍も居るのかな・・・気付かれる前に話を付けて置きたいけど。

「んー・・・あ!思い出した!此の神(アレ)だ!次元龍屋って所の神だ!」

「え、ドレミ達の事知ってるの?」

一寸(チョット)意外だ、何だか自分の知らない所で名が出ているのは何かこそばゆいかも。

 有名になってるって事?でも龍相手なんだね・・・。

「知ってるよ!ダチが世話になったなぁ。」

「え、じゃあ良い奴なの?」

「えぇー・・・良い奴ならやりたくないなぁ。」

「一柱位見逃しても良いんじゃない?」

何だか良い方向に話が進んでる気がする。矢っ張りこんな事、したくないんだ。

 店の名前が役に立つとは思わなかったけど、肩書みたいで嬉しいね。

 話せそうなら此処で情報を集めちゃおう。

「ね、良かったら一寸(チョット)教えてくれないかな?其の声って何の事なの?一体誰が皆にこんな事させてるの?本当はしたくないんじゃないかな。」

ドレミに声を掛けられ、カムアノ樹達は何やらうずうずしている様だった。

 話したい、もっと御喋りしたいって気配を感じる。

「仕方ないなぁ、助けられてばっかりじゃ悪いし、ダチの代わりに助けちゃおうかな。」

同意を得ようと一頭のカムアノ樹がちらちらと左右の同胞を見遣る。

 異論は無い様で、他の仲間も嘴を合わせたり毛繕いをし始めた。

「まぁ・・・僕元から(アンマリ)したくなかったし・・・。」

「あ、(ズル)い、俺だって付いて来た丈だぞ。」

「何だよやる気なくなるから然う言う事、言うの止めようって言ったじゃん。」

「やりたくは無かったんだね・・・其丈でも分かって良かったよ。」

ほっとした様に息を付くと、カムアノ樹達は気まずそうに上目遣いでドレミを見遣った。

「う・・・他の奴等には内緒だぞ!絶対だぞ!」

「でも屹度他の龍さんも同じだと思うよ。こんなの何だかおかしいもん。心配しなくても大丈夫だよ。」

「然うかなぁ・・・あ、じゃあ折角だし頼んじゃおうよ、然う言う店でしょ?」

「え、其は流石に不味いだろ、俺は・・・出来ればやってあげたいって思ってるよ。」

「うん然うだよ、だから皆頑張ってるんだろ?」

「ん、何か依頼かな?相談も乗るよ、良かったら話してくれないかな?」

「うーんー・・・俺が助けたいのに助けられちゃってるなぁ、じゃ、じゃあ相談丈だぞ!」

「うん良いよ、話してくれる?」

カムアノ樹は少し首を伸ばして辺りを見遣ると嘴を開いた。

「その・・・声が、聞こえるからさ。俺達色々やってるけど、若しも他の事してくれって言われたんなら勿論喜んで其をするんだよ。嫌いじゃないからさ、大好きだから、叶えたいんだよ。で、でもその、今回のは一寸(チョット)、変わってるって言うか・・・、」

可也言い淀み乍ら何とかカムアノ樹は口を開く。

 仲間達も応援する様に見守っていた。

「あ、じゃあドレミ達が其の声ってのに聞いてみたら如何かな?本当にこんな事させたいのか、何か理由があるのか、とか、如何かな?」

声って言うのが今一分からないけれど、此の言い方だと誰かの事なんだよね。

 龍のボスの其の次元龍なのかは分からないけど、然う言う存在かな?

「お、おう其が良い!御前達の方から話してくれたら有り難いよ。一応・・・な、一応。一寸(チョット)確認する丈だからさ。」

他のカムアノ樹達も頷き合っている。皆思っている事は一緒だったんだね。

「じゃあ改めて、其の声って誰の事なのか教えてくれないかな?直ぐ行って来るよ!」

「そ、然うだな、じゃあ・・・、」

「ッ!キィイイィイイイ‼」

突然近くに居た何頭かのカムアノ樹が叫び声を上げた。

 そして直ぐ散り散りになる。見ると其処には氷漬けになったカムアノ樹が動かなくなっていた。

 其の周りに居たカムアノ樹も翼や足を怪我したのか血を流して(ウズクマ)っている。

「な、何⁉如何したの⁉」

「う・・・あ・・・何だ彼奴、お、おい逃げるぞ!」

「人間の仲間とか・・・?いや、違う、一体何処から、」

カムアノ樹達はすっかり混乱してしまって鳴き交わす。 

 急いでドレミも(ソラ)を見上げた。其処には異質な影があったのだ。

 其は(クロ)の龍の落とし子の様な姿をしていて、生物味を感じなかった。

 長く伸びた口には二重の旻色(ソライロ)の輪が掛かり、頭の後方では角の様に立った鱗から火花の様な物が時折蒼く散っていた。

 少し壊れているのかコードの様な物が何本か垂れ、(クロ)いオイルの様な粘液が流れている。

 胸元には氷で出来た大きな盾の様な物が生え、僅かに透けていた其は内部が光っているからかチカチカと色を変える。

 半身はまるでドレスの様に鱗が重なり合い、対するもう片側は長い帯の様な物が生えていた。

 其の帯には紫の(タマ)が幾つか埋め込まれており、一見綺麗だが不思議と視線の様な物を感じ、気味が悪かった。

 そして通常の龍の落とし子と違い、巻かれた尾は後方へと伸ばされていた。

 加えて其の尾は二本有り、何方も透明の(タマ)を中心に巻いていた。

挿絵(By みてみん)

 まるで兵器の様な、只淡々と自分達を見て。

 そして無数にある砲台を此方へ向けていた。

 此の気配、此の凍える様な、命を命と見ない目を、私は・・・知っている。

 不味い・・・此は、良くない、此は、

「皆直ぐ逃げて!次元を出るの!」

「う・・・お、おう、行くぞ!」

「ま、待ってくれよ!」

他のカムアノ樹達が次元を去る中、怪我をしてしまった二頭のカムアノ樹が翼をばたつかせていた。

 直ぐに次元移動が出来ないのだろう、苦しそうに息を付いている。

 其処へ向け、無情にも龍の落とし子は氷の砲弾を発射した。

「閉ざして!散電華!」

カムアノ樹達の周辺を雷の壁が立ち並ぶ。

 其処へ砲弾は突き刺さり、雷毎凍らせて砕け散った。

「あ・・・有難う、」

「大丈夫だから(ユック)り戻ってね!ドレミが食い止めるから。」

「うぅ、助かる。」

落ち着いたのかカムアノ樹達の姿が霞む。無事逃げられた様だ。

 でも凍らされた龍はもう助からないだろう、先迄話していたのに・・こんな最期だなんて。

 実際氷漬けにされた所為でピクリとも動かない。一応前セレも同じ様に凍らされた事があったけれども、()の時は中迄は凍ってなかったもんね。

 こんな躊躇なく殺してしまうなんて・・・見過ごせない。

「行き成り何するの⁉ドレミ達話してた丈だよ!」

―私はトキコロシ、壊す、凍らせて壊す、其の為にある・・・。―

機械音の様なテレパシーが流れて来た。

 でも何処か其は不安定で、私の声、聞こえているけどちゃんとではないみたいな。

 見た所一寸(チョット)壊れている様にも見えるし、其の所為なのかな。

 其にしても今、トキコロシって・・・。

「其の名前ってまさか・・・コロシの一族とかって言われてる・・・?」

色んな次元を只壊して回ってるって、そんな話は聞いたけど。

 其に龍の落とし子みたいな形なのはガルダに聞いた事がある。名前も一致してるみたいだし。

 何でも凍らせられる力を持ってて、凄く(ツヨ)かったって、話してたよね。

 確かに其処等中凍らされた跡もあったし、私の雷も凍らされていた。

 そんな事が出来るなんて・・・(アレ)って、此奴の仕業だったんだ。

 龍達と協力・・・していた訳ないよね。単に集っちゃったんだ。

 然うだよ、元々龍じゃなくてもこんな酷い事してる奴が居たんだ。

 ・・・如何しよう、皆が言うにはコロシって凄く(ツヨ)いんだよね?

 皆で戦って何とかって良く聞くし、私一柱で、

 でも此処で逃げたら又、同じだ。

 セレの時と。此の次元を見捨てる事になってしまう。

 ・・・うん、大丈夫、私は(ツヨ)くなったよ。

 一柱でも戦える、うん、今迄のは無駄じゃない。

 大丈夫、いざってなったら誰か助けを呼ぶか、最悪此の次元を去れば良い。

 自分の命を最優先に。生きていれば未だ、望みはあるのだから。

 其が、私が最近一番強く学んだ事だから。

―・・・敵性反応。あ・・・あ、有り、応戦、応戦、壊す壊す、主の為に!―

まるで壊れた機械の様にそんな言葉を繰り返してトキコロシは真直ぐドレミを見遣った。

 揺らめく帯の(タマ)が輝いて、私を見ている様で・・・。

 (アレ)が目、なのかな。似た(タマ)が尾にもあったけど。

 何でも凍らせてしまうのなら、RC=HΦC(トキノワメグリノオリ)は使わない方が良いかな。

 先ずは様子を見て、一気に仕掛ける。

 突如トキコロシの口元の砲台から蒼いレーザーが吐き出された。

 其は真っ直ぐドレミを狙っており、慎重に下がる事で去なして行く。

 地面に当たった傍から凍っている様で、氷塊が跡になって続いていた。

 空気も一気に冷え込む様で、息が僅かに(シロ)くなる。

 凄い威力だ。並の涼属性所じゃない。

 (ソモソモ)涼の魔力と一寸(チョット)違う気がするけど、強力なのには変わりない。

 逃げ乍ら幾つか雷を降らしてみる。

 尖った氷塊へ命中した其は氷を砕いて粉々にさせて行く。

 破片が刺さらない様気を付けてドレミは幾重も雷を編んだ。

 一応壊せはするみたい。レーザーにぶつけたら凍ちゃうけれど、凍った後の物自体は普通なんだね。

 でも少しずつでも砕いていないと退路が無くなっちゃう。

 ドレミが避け続ける事に痺れを切らしたのか、突如トキコロシは回転し、鱗の下に隠れていた砲台を曝け出す。

 鱗が逆立つ様に尖り、鋭く氷の様に輝く。

 (アレ)は・・・一寸(チョット)不味そう。

 一応此のローブはある程度の魔術を防げるけど、其の範囲を超えそうだね。

「散らして、雷従鳴!」

ドレミの踏み出した一歩から紫電が走る。

 同時にトキコロシの全身の砲台から陰霖(アメ)の様に弾が打ち出された。

 弾速自体はそんなに早くない、でも数が多過ぎて全面包囲されてしまっている。

 幾つかの被弾覚悟で、でも被害を抑えよう。

 今は隙とパターンを探る。

 雷を自身にマトわせる。ずっと追従させるのは可也の集中が必要だ。注意しないと。

「咲いて、牙飛電。」

術を解かない様紡いで、トキコロシに向けて放つ。

 強めた雷の余波を届かせる様に。火花を散らした雷の欠片が複雑に絡まり合って伸びる。

 彼に届く前に其等は次々と凍らされてしまう。其でも散らされている分相殺は出来る。

 自分の前方の弾丈でも無くす、視界を開いて目標を見詰める。

 圧倒されちゃあいけない、こんな時は一点丈見れば良いの。

 どうせ近付くのは前丈なんだから、無駄打ちさせて消耗させる。

 弾が次々と辺りに着弾し、氷の華を咲かせる。

 地を(エグ)る程に咲き誇り、破片が散って輝く。

 雷を強めて、破片も近付かせない。自分の道丈はしっかり作る。

 此の程度だったら対応出来る。私の雷とも相性が良いね。

 弾が可也減った所で又トキコロシはレーザーを吐き出した。

 ・・・他のパターンって如何なんだろう、離れてる内は此しかないのかな。

 形を変えた丈のレーザーなら対処法が見えて来る。

 雷を(マト)わせた(ママ)更にドレミはトキコロシに近付いた。

 レーザーが雷にぶち当たる。其処で一気に術に集中する。

 魔力を良く見て、全て一撃で持って行かれない様に。

 目の前でレーザーが散るが、怯まずドレミは見詰め続けた。

 雷が凍り付く直前に切り離す。

 掲げた手の先が蒼皓(アオジロ)く輝く。少しでも雷に近付けて、感覚を鋭く。

 凍る一瞬丈切り離し、即座に繋げて行けば、

 最早ドレミは(ホトン)ど動かずにレーザーを対処し始めていた。

 止まらずレーザーは撃ち込まれているのに、其以上浸食出来ないのだ。

 ドレミの辺りには少しずつ氷の壁が出来て行く。凍らされた雷が辛うじて周りの雷と呼応し、繋がる。

 (サナガ)ら其は氷の盾の様に、彼女に付いていたのだ。

 自分の氷にはレーザーが(ホトン)ど通らないみたい。

 完全にレーザーが相殺され、ドレミはやっと一息付いた。

 良かった・・・此なら、正面からでも恐くない。

 又凍らされても切れば良い丈。雷を凍らされた所で、此の速さには付いて行けないのだ。

「羅針盤!」

ローブから小さな鉄の針を一本取り出す。

 先が二手に分かれている部分を上にして地面に突き刺した。

 此処からは一寸(チョット)、攻めに出てみよう。

 可也強めに魔力を送った途端、針を中心に2m程の電気の円が放たれる。

 其は辺りの氷を砕き、そして針の二手に分かれていた一方が激しく輝く。

 ドレミがトキコロシに向け、駆け出した途端に其の先端から電撃が迸り、ドレミの道を照らす様に駆け出した。

 先行した雷は、前方の氷を全て砕き、一本の道を整えて行く。

 トキコロシは変わらずレーザーを当てているが、もうドレミには届かない。氷の盾で全て防がれてしまっている。

「在しませ、雷衝陣!」

手を伸ばし、トキコロシへ向ける。其の指先から(ヒカリ)が迸り、目にも止まらぬ早さで伸び上がる。

 其は真っ直ぐトキコロシの胸元の氷の板へぶち当たった。

 避ける間も与えない鋭い一撃、余りの早さに遅れて轟音が鳴り響く。

―ガ・・・ビ・・・ギ、キギッ、―

トキコロシから不穏な電子音が鳴り出し、胸元の氷が割れた。

 破片が飛び散り、内部が顕になる。

 如何やら()の氷の板は彼にとっての瘡蓋(カサブタ)の様だったらしい。

 中の機械部分が顕になり、(アカ)や蒼のコードが幾つも垂れて(クロ)い液体を垂らす。

 他にも焼け焦げた様な煙や、火花が中から散り、可也のダメージを負っている様に見えた。

 追撃を加わる事も出来るが、ドレミは一度手を止める。

 此の(ママ)、壊す事は出来る。でも本当に其で良いのか。

 懐いが揺らぐ、だって自分は何も知らないから。

 何故彼等はこんな風に暴れ回っているのか。

 何か、理由や意味があるんじゃないか。

 相手だって、敵だって、生きて、考えて、存在しているんだ。其処に無意味なんてありはしない。

 トキコロシは如何やら、既に傷を負っている様にも見えた。

 自分の一撃が効いたのは、元々一寸(チョット)壊れていたからなんだろう。

 壊れているのに、直しもせずに無理して暴れるなんて、普通じゃない。

 生き物とも一寸(チョット)違う不思議な存在、分からない(ママ)に壊して良いのか。

 ・・・然う、セレの時みたいに。

 鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)に行った()の時、セレを殺していれば村は、姉は生きていただろう。

 でもじゃあセレの事を知らない(ママ)で良かったのか。

 知った今、再び()の時に戻れるとして、自分はセレを殺せるか。

 何度も自ら問い掛けた質問、答えを出す迄酷く時間が掛かったけれど。

 私は・・・殺せない。

 彼女が如何言う存在か知った今、改めて思う。

 私は()の道、殺す事なんて出来なかったんだ。

 覚悟とかじゃなくて、此は決心。

 だって殺しちゃったら・・・御終いなんだよ。

 もう話す事も、(ワラ)ったり、聞いたり、出来なくて。

 セレと会って良く分かった。本当に其で良いのかと。

 然う、だからセレを殺す事が前の私の目標だったのなら、

 今は・・・セレが殺すのを止めるのが目標だよ。

 同じ事を繰り返して欲しくない。屹度違う道はあると。

 私が、証明して見せたなら、

「ね、御願い。ドレミはもう攻撃しないから、貴方の事、教えてくれないかな。」

私に攻撃が効かない事が分かれば或いは、

 何を考えてくれたって良い。今は只話したい。

 屹度()の時も、()う出来たら良かったんだよ。だって()の時の彼女は()いていたんだから。

 何がそんなに悲しいのか、如何したのか、如何したかったのか、ちゃんと聞けていれば・・・。

 ・・・なんて、随分昔の事を未だ後悔、しているのだから。

―ガ・・・ビ・・・敵性反応・・・消、滅?―

トキコロシは大きくぐらつき乍らも何とか応えて浮いていた。

 そして帯を縦横無尽に走らせ、(タマ)を光らせる。

 周りの、自身が凍らせた景色の中で立つドレミを見詰めて。

―話、教える。何・・・理解し難い。―

「えっと、何でこんな事をしてるのかとか、教えて欲しいの。ドレミは暴れて欲しくないから、止めたい丈なの。」

ちらと凍り付いてしまったカムアノ樹達を見遣る。

 どんな理由があっても、あんな事は(ユル)されてはいけないと思う。

 だからせめて、理由を知って考えたい。

 幸いトキコロシは一寸(チョット)話が出来そうな気がした。

 壊れ掛けているからか少し分かり難いけれども、話せるのなら。

―理由・・・私の、存在、証明・・・ガ・・・ピッ、―

「あ、若し痛かったりしたら後でも良いよ!御免ね、急だからってこんな攻撃しちゃったから・・・。休んでも大丈夫だよ。」

―休めない、そんな時は・・・無い、主の為に、頑張る丈。―

「主・・・?貴方がしたい訳じゃないの?」

―主は、其の為に私を・・・創った。壊す為、全ての時、凍らせて、壊す為。・・・ビ・・・ギギッ、然う、・・・こわ、壊す、だから、存在、する。―

主って・・・何だろう、此の子を創った存在が居るとか?

 でも皆も似た事話してたかも。他のコロシの一族も主の為、とか言ってたみたいだし。

 じゃあ其の主が壊したい丈?其を此の子達がやってるの?

 何だか其一寸(チョット)、今回の龍達の騒動と似ている様な。

 声が聞こえるから、龍達は襲ってるって言ってた。やりたくもないのに。

 其と何だか似ている気がする・・・?

「じゃあ・・・其の主ってのが止めてって言ったら止めるの?」

―・・・?理解不能、主、死んでも変わらない。やる事、ピ、ガ・・・一つ、丈、壊す、事。―

「ち、違うよ。殺すんじゃなくて、其の主が、もう暴れなくて良いよって言ったら止めてくれる?」

―理解出来ない、理解不能。主の死と同義、でも否?意図不明、処理出来ず。・・・ガ・・・ギギッ、ギ・・・エ、エラー・・・。―

本気でトキコロシは質問の意図を理解出来ていない様だった。

 声音にも何処か困惑の色があるみたいで、嘘とか如何とかではなく、本気で分からないみたいな。

 答えようとはしてくれているし、言葉は理解出来ているのに如何して・・・?

 もう其の主が何を言っても止めないって事?でも何か一寸(チョット)違う気がする。

 絶対主は他の命令をしないと言うか、でも死んでる訳でもない。

 仮の話が出来ないとか?でも主が死んだらって言っていたし、予測は出来ているんだ。

 うーん・・・分からない。何かずれの様な物は感じるけど。

 ガルダ達が話が出来ないって言っていたのは()う言う事かな・・・?

 でも此だと壊すしかなくなっちゃう、何とか其の主の事、もっと知ったり出来たら良いけど。

「えとじゃあ質問を変えるね。その・・・他にやりたい事とか無いのかな。ドレミはね、もうこんな事して欲しくないの。でも戦いたい訳でもないし、貴方も、此以上壊れたくないでしょ?」

一寸(チョット)脅迫染みてしまうけれども仕方ない。一つ一つ確かめてみよう。

―したい事・・・其の問いに意義無し、私は只壊す為に創られた。他の・・・ギ・・・用途、無し。主の命の為丈の、存在。―

然う、トキコロシは繰り返す。

 殺す為に主に創られた。本当に其丈の存在。

 道具と一緒って事・・・其で、本当に良いの?

 何も知らないから然うなのかも知れない、只壊し続けて来たから。

 何とかしてあげたいけど、然う思うのもエゴだとかって思われるのかな。

 其でも私は何方かが居なくなれば良いとか、そんな結論は嫌だよ。

―・・・壊す、壊さ・・・ないと。主、が、待ってる、望みを・・・命、ガ・・・ピ・・・を、―

金属が擦れ合う様な音がしてトキコロシの鱗が波打つ。

 砲台を整えているのか、少しぎこちないが動けはするらしい。

「ま、待って、此の(ママ)戦ったら屹度貴方は壊れちゃうよ!」

―関係、無い、最期迄・・・やる事、一つ、―

もう、話すのは無理なのだろうか、分かり合うのはこんなに難しいの?

 何が違うの、何が間違ってるの、足りないのは一体・・・。

「じゃ、じゃあせめて最後に一つ。主って誰なの?誰が貴方を創ったの?」

―答え、難き問。誰は、個体を指す物・・・名称無き主、表現出来ない。―

「名前が・・・無いって事?じゃあ何処に居るかとか、」

―会えない、会えない会えない。主、今・・・偽りの・・・中、ギ、何処にも、居無い。主、生まれる時、迄、会えない会えない。―

「え・・・生まれる?」

駄目だ、要領を得ない。

 一体如何言う事?

 今其の主は生まれていないから居無いって事?其単体だったら分かるけど。

 でもトキコロシを創ったのは其の主で、其に先主が死ぬとか如何とか言っていたのに。

 矛盾、と言うより何だろう此、意味が分からないと言うか・・・いや、若しかしてトキコロシ自身も、良く分かっていないとか?

 壊す事丈命じられたから。主の事、良く知らないのかな。

 そんな中、只々命令に従ってるとか・・・。

 如何にかしたい、したいけど此じゃあ・・・、

―時間、無い。もっと、もっともっともっともっと!凍らせないと、止めないと、進んでしまう、時間が、ガガッ、()の時へ帰結、結末。―

トキコロシの(マト)う帯が大きく翻る。そしてドレミに向かって突進を繰り出した。

「っ、やるしか、ない!」

もう迷う暇はない、話せるのは此処迄。

 此以上は私も危ない。

 ()うなったら・・・戦うしかないんだ!

 御免ね、後悔してでも私は止めるよ。

 氷の盾を構えると其処に向け、帯が叩き付けられる。

 気付けば帯は所々が凍っているみたいで、鞭の様に(シナ)っては斬り付けて来る。

 其を盾で防ぐ、同じ氷だからか互角だ。

 彼の(マト)うベールの様な鱗も凍り付き、回転様に斬り付けるが、何とか其も去なす。

 胸元に大きく開いた穴から火花が散った。

 屹度もう、ギリギリなんだ。だから()うも一手を変えて来た。

 離れたら先の雷に襲われるから近付いたんだろうけど。

―止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれっ‼―

幾重ものテレパシーを放つが安定せず、只の機械音に紛れる。

 トキコロシの口元が光り、慌てて盾の雷を強めた。

 散った電撃がトキコロシの頬を殴打し、無理矢理首を曲げられた其の砲台からレーザーが飛び出した。

 此の距離で其は危ない、一瞬のミスで全て終わる。

 ()の道、全身から弾が出たら不味いね。もっと盾を厚くしないと。

 長い事同じ術を維持しているので一寸(チョット)厳しいけど、未だやれる。

 雷は留めるのが難しい、でも他の力を加えれば、

「囲って、迅電籠。」

己を中心に、二重螺旋を編む様に電気の檻を創る。

 触れさせない、壊させない、近付く丈で痺れる様な威力だ。

 トキコロシも帯に其が触れ、少し丈後退した。彼を伝った電気が爆ぜ、火花が散る。

―時を・・・止め、ないと、―

コードからオイルの様な液を漏らし続け乍らも何とかトキコロシは飛ぼうとする。

 でも可也無理はしている様だ、ぎこちない。

 ふら付いて、安定していないのだ。此以上戦えば勝手に自滅しそうな程。

「・・・っ、」

でも、もう迷わない、戦うと決めたらやり通す丈だ。

 時間が無いのは此方も同じ、本来ならトキコロシに構ってる暇なんて無かった。龍も、止めないと。

 ほっとけなかったから戦っている丈、決着は早く付けた方が良い。

「道を創って、導いて、雷霆驟!」

伸ばした右手に魔力が集う。

 集中して・・・集中して、此の一撃で一気に決められる様に。

 弱点は分かっている、胸元に開いた()の穴、()の中に叩き込めば。

 近距離なのが幸いしてる、此処で一気に狙えるのだから。

 ドレミの右手に身の丈を余る程巨大な雷の鑓が形成されて行く。

 数多の魔法陣を軸にして、雷を留める。

 激しさの余り、蒼皓(アオジロ)く雷は迸り、早く飛び立ちたいと火花を散らした。

 雷特有の爆音が鳴り響き、余りの鋭さに軽く地が揺れる程。

 待って、未だ暴れないで、届く迄どうか。

 ドレミの瞳の奥で黄玉(トパーズ)が輝きを放つ。魔力の渦が逆巻いて紫電を走らせる。

 全身に滾る熱、四肢を駆ける電気は術者であるドレミですら痛みを覚えた。

 今扱える全力を込めて、後悔の無い様に。

 ・・・実は此の技は、セレに使う予定で編み出した物だ。

 使わなくて、本当に良かった。()の時、殺してしまっていたら、

 強く、歯噛みする。違う、今はそんな事の為に力を使う訳じゃないから。

 ()の時使えなかったのは・・・心の奥底で本の少し丈、迷いがあったから。

 フレスが・・・姉ちゃんが言っていた。話をしてみてと、其の言葉が、今の私を支えているから。

 届けるよ、此の一撃を。折れずに駆け抜けるのが私の雷だ。

 盾にしていた凍らされた雷に魔力を流す。

 内側から爆ぜた盾は氷の破片を撒き散らして飛び散った。

 余りの衝撃にトキコロシは一度動きを止める。

 防御を捨てた此の隙に、叩き込む!

 狙い澄ましてドレミは雷の槍を投擲した。

 其は真直ぐトキコロシの胸元へ。吸い込まれる様に突き刺さる。

 トキコロシの中へと、深々と突き刺さった鑓は強烈な電気を放ち始めた。

 内側から(エグ)る様な感覚についトキコロシは身を()け反らせて震える。

 火花が散って焔が噴き出したかの様だ。トキコロシの全身を雷が駆け巡り、余りの熱量に跡が焼け付く。

 黔煙(コクエン)を砲台の穴と言う穴から噴き出したトキコロシは・・・もう壊れてしまった様で。

 帯の(タマ)も全て弾けて割れてしまう。(クロ)く変わり果ててしまった彼の姿が其処にはあった。

 只其でも槍の雷は消えず、変わらず電撃を彼に浴びせる。

 此の雷が全て散った時には・・・、

 小さく息を付いて、でも油断せずドレミはトキコロシを見続けた。

 後は彼が地に落ちてくれれば安心出来るんだけど。

「ヒュオ「ヒュオオ「ヒュララ「ルールル」

不意にそんな幽風(カゼ)とも笛とも付かない音が辺りに響いた。

 一体其が何の音か、理解が追い付かなくて。

 何処か悲しみが沸き上がる様な、でも同時に不思議と心が晴れる様な音で。

 何・・・此の心を動かされる音は。

 (ソラ)、然う(ソラ)の中に居る様な、広くて、透明で、何処でもない、何処にも居ない様な・・・心地。

 こ・・・此の、音ってまさか。

 手を、動かさないといけないと思った。此を聞き続けるのは不味いと。

 でも分かっていても動けない、時が止まった様に固まってしまって。

 そんな中・・・トキコロシに変化が起きた。

 トキコロシは身を()け反らした(ママ)で、もう動かない様に思えた。でも胸元の大きな穴から・・・(シロ)い突起が覗いたのだ。

 其はどんどん長く伸びて穴から這い出して来た。

 噫、其の姿を何と表現したら良いのだろう。

 まるで縫い包みの中の綿が出て来る様に、蛹から蝶が羽化する様に。

 其は・・・生まれたのだ。

 上部はトキコロシの首を180度回した様に前方に四つ程の筒型の突起があり、後方に一本細長く伸びている。

 胴らしき物はあるが腕だとかは無く、小さな棘が中心を沿う様に並んでいる。

 躯はまるで水か何かを透明の膜で包んで形にした様な具合で、何処か現実味がない。

 内部は透明の中を(シロ)い様な(ヒカリ)が漂っていて、紫の水精が金色に煌めき乍ら揺れていた。

 (アレ)は、割れてしまったトキコロシの帯にあった(タマ)の破片だろうか。

 出て来たのは其の上体丈で、トキコロシ本体自体は抜け殻の様に動かなくなっていた。

挿絵(By みてみん)

 (アレ)は一体、(アレ)がトキコロシの正体、なのだろうか。

 其とも進化か、分からない。分からない事が恐い。

 生きているのか、(ソモソモ)生物なのか、何なのかが規格外過ぎて分からない。

 此は・・・もう、壊した方が良いかも。何て言うか、話せるとかそんなんじゃなくて。

 災害、とか、そんな具合の物で、

「ヒュオオ「フィヨ「フィヨヨ「ローロ」

そして上げられていた四つの突起からそんな音が流れた。

 鳴いている?此の音って彼処から出ていたんだ。

 何をする気なのか、一見意思も何もなさそうに見えるけど。

 雷を、もう一撃打ち込もう。此は、此処で壊しとかなきゃ。

 トキコロシをこんな風にしたのは自分なんだ、始末を付けないと。

「・・・・・。」

ドレミが慎重に構えていると何か、視線の様な物を感じた。

 見られている・・・?じゃあ矢っ張り此は、

「フィロロ「フィーロ「ロウロウ「フィーア」

又笛の音の様な声が響いた瞬間、

 嫌な汗がどっと溢れ、慌ててドレミは大きく後退した。

 するとトキコロシを中心に地面が凍り付き、氷塊が大きくなる。

 いや、地面丈じゃない、空間も・・・?

 空気自体も凍った様な不思議な感覚、でも確かに此の辺り丈違和感があって。

 何、してるの?まさか、音丈で凍ってしまうの?

 トキコロシを中心にどんどん氷は厚くなる。

 (ソラ)へ向け音を奏でる(シロ)い異形は何処か綺麗に写った。

 でも同時に果てしない嫌悪感、そして異物を見ている様な。

 いけない、此は、あっちゃあいけない物だ。

 早く・・・壊さないと、此の(ママ)にしたら若しかしたら次元毎凍ってしまうかも。

 今なら未だ、氷は其処迄厚くない、此以上大きくなる前に。

 屹度此はトキコロシの最期の抵抗、ちゃんと、止めてあげないと。

 ・・・中途半端な火力じゃあ、届かせる前に私が凍っちゃう。

 本気を、全力の本気を叩き込もう。只術を放つ丈じゃ届く前に凍らされてしまうなら。

 ・・・一つ、手があるかも知れない。

 今迄、滅多に使わなかったけど、うん。今が使い時なんだろう。

 ローズしか知らない・・・私の秘密。

 一つ長く息を付き、意識を集中させる。

 私は・・・知っている。

 知ってしまったんだ、本当の事を。

 姉ちゃんが・・・屹度セレも、私に隠してくれていた事。

 其の優しさを裏切りたくないから今迄隠して来たけれど。

 私は・・・自分が神だって事、知ってるよ。

 家の倒壊に巻き込まれて、姉ちゃんとローズの前で死んじゃった事。

 そして其の後全力を注いで、姉ちゃんが私を神として生き返らせてくれた事。

 否、(ソモソモ)私は屹度もっと前に神に成っていたんだよね。

 姉ちゃんの優しさに慣れ過ぎてずっと気付かなかったけれど。

 実は私とローズは本当に永い旅をして来ている、色んな次元に行って、色々見て来たの。

 そして・・・悟ってしまった、自分が如何言う存在なのか。

 其でも私は人間でありたい、然う姉ちゃんが願って、育ててくれたから。

 此の愛は本物だって知っているから。

 ・・・神に成ってでも私の傍に居てくれた姉ちゃんを、私も信じてるから。

 だから姉ちゃんがくれた此の姿を私は・・・大切にしたかったんだ。

 でも其を否定する者が現れたら、私は敵としてちゃんと戦うよ。

 護る為に、信じる為に、私の全てを否定させない為に。

 神の力は干渉力、信じる事が其の(ママ)力になる。

 私は今迄私に関わってくれた皆を信じてる。懐いを、無駄にしたくない。

 だから私が其を証明するよ。

 大きく一つ息を吸う。

 神は本来、魔物みたいな姿をしている然うだ。

 死ぬ前の姿、前世と違う姿に、生まれ変わる。

 でも其を干渉力で抑えているから一見変わらないんだって。

 だから私の此の姿も・・・然う言う訳で。

 其を知った時、じゃあと私は出来心で考えた事があったんだ。

 今迄人と信じて生きて来た神なんだから、成長が止まった此の躯も其の思い込みで成された姿なら、

 進ませる事も、成長させる事も、出来るのではないかと。

 ドレミの背が、音を立てて伸びて行く。

 腕も、指も脚も、全てが作り替わって行く感覚。

 視界がグッと高くなり、長かったローブがフィットする。

 想像する、本来の自分を、大人になった私を、創造する。

 永く生きた旅を振り返れば、其の記憶の重みが現実味を持たせる。

 気を付けないと、ローブ以外の服がきつくなっちゃうから干渉力を絶やさずに。

 成長し切ったドレミの瞳は其迄より黄玉(トパーズ)に煌めいた。

 魔力が高じ過ぎて中で雷が轟く。(マト)う魔力が華が咲く様に散って鮮やかに彩る。

 噫、此の感覚だ。

 凄く、しっくり来る。屹度此が本来の私の姿。

 魔力丈は干渉力でもそんなに変わらないから、子供の姿の(ママ)じゃあ全て扱い切れないのだ。

 でも此の姿なら行ける、私は何にでも()()()

 只余り長くはいられない、此の姿に慣れてしまったら、もう()の子供の姿には恐らく戻れなくなってしまう。

 だから・・・一撃丈、本気の一撃を叩き込む為丈に使う。

 如何、かな。一寸(チョット)は姉ちゃんに似てるかな。

 前ローズが見た時は雰囲気とかが似てて懐かしいって言われたっけ。

 未だ、姉ちゃんは私の中に居るんだと分かって、嬉しくて。

 うん、今なら行けるよ。一緒に行こう。

 途端ドレミの姿は輝き出し、(ヒカリ)に呑まれる。

 否、呑まれているのではなく、彼女自身が(ヒカリ)を放っているのだ。

 其は髪の一本一本、指の先、爪迄全てが輝いて。

 複雑に(ヒカリ)が絡まり合って散る、其は只の(ヒカリ)では無いのだ。

 余りの熱量に熱せられた空気が激しく音を立てる。

 (サナガ)ら其は地に堕ちた雷、駆ける雷は生きている様で。

 四肢を持つ雷は正に雷獣だ。其の荒れ狂う雷の中で静かに瞳は輝く。

 大丈夫、未だ意識はちゃんとある。

 高じ過ぎた魔力を自由に使って、自らを雷へ変換する。

 立っている丈で地が(エグ)れる、雷が暴れて駆け巡る。

 でも(タオ)す可き相手は一体丈、目の前の目標をしっかりと捉える。

 トキコロシは変わらず己を氷で閉ざす様に鳴いている。

 (アレ)に飛び込めば、こんな雷でも即座に凍ってしまうだろう。

 だから先の盾宜しく自分の周りに幾重も雷を編む。

 全て凍り付く前に、駆け抜ける。

 ドレミが地を蹴った瞬間、目には捉えられないであろう速さで、(サナガ)ら瞬間移動したかの様にドレミはトキコロシへ突っ込んだ。

 音が、雷を凍らせて行く。散った傍から凍り、其の氷を別の雷が砕いて行く。

 破片が飛び散り、(ヒカリ)に照らされて乱反射する。(ヒカリ)が大きくなり、全てを包み込む。

 トキコロシを包む氷が一気に砕かれた。

 音で修復されつつも、(ヒカリ)の早さには追い付けない。

 空間をも斬り裂いて雷は更に奥へと駆け抜ける。

「フィロ「ローロロ「ロウフィ「フィロロ」

笛の音が鳴り響くが、其を轟音で掻き消す。

 音迄凍り付いたかの様に、トキコロシの周りは無音だった。でも其処へ雷は突き刺さる。

 此の一撃で、全てを、

 ドレミが右手を振り被ると獣の爪の様に先から火花が散る。

 先が凍り付くが其を上回る雷が砕き、押し通す。

 躊躇う事無く、ドレミは其の手を振り下ろした。雷の爪が完全に(シロ)き異形を捉え、引き裂く。

「フィララララ・・・。」

最後に長く余韻を残して・・・トキコロシの音は止まった。

 途端、氷が全て砕けて弾け飛ぶ。

 千の(ヒカリ)に包まれた様で、其の中でドレミ其の物である雷は輝いた。

 斬り裂かれたトキコロシは透明な液体を散らして震えていた。

「・・・っふ、う・・・はっ・・・はっ、」

激しく息付き、少しずつ雷はドレミの姿に戻る。

 背も低くなり、ローブがぶかぶかになる。

 (マト)っていた雷も散り、(ヒカリ)は急激に色を失う。

 落ち着いて、落ち着いて、もう、戻って良いから。

 何時もの・・・皆の知っているドレミに、戻るの。

 何度も言い聞かせて、遂にドレミの姿は完全に戻った。

 只(マト)っていた雷が大き過ぎた様で腕や頬等に斬り傷や火傷が目立つ。

 此じゃあ(アンマリ)セレの事とか、注意出来なくなるから矢っ張り極力使わない方が良いよね。

 後は・・・相手次第、なんだけれども。

 一応、未だ戦えはする。油断したら負ける。此以上如何出るかだけど。

 戦えるとは言っても、逃げた方が良いかもだけど。自分の手に負えなくなっちゃう。

 応援を呼ばないといけないよね、心構え丈はしていないと。

 トキコロシは、もう一言も発しなくなっていた。

 でも完全には壊れていない様で、僅かに上体は動いている。

 ・・・もう一撃丈でも、入れる可きか。

 慎重に見詰めていると、不意にトキコロシの躯が霞み始めた。

 一瞬、何が起きているのか理解出来なくて。

「・・・っ、ま、まさか!」

他次元へ逃げる気なんだ!

 気付いて慌ててドレミが小規模な雷を降らすも、当たったか如何か。

 トキコロシの姿は、完全に掻き消えてしまった。

「・・・っ、やられた、」

歯噛みし、地を()め付ける。

 恐らく、逃げられた。そんな、此処迄追い詰めたのに。

 あんなにボロボロだったから、逃げた先で壊れたかも知れないけど。

 詰めが甘かった・・・そっか、いざとなったら逃げる事もあったんだ。

 次元移動の事、すっかり忘れていた。悔しい、こんな事になるなんて。

 次の次元が被害に遭ったり、手遅れにならないと良いけれども。

 悔やんでいても仕方ない、今は、出来る事をしないと。

 念の為他の皆の所に行ってないか聞いて、龍達の事も、一寸(チョット)でも止めないと。

 うん、やる事は未だ一杯あるんだ、止まっていられない。

 反省は後で、此がより大きくなる前に、やれる事をしなきゃ。

 然う、何とか息を付きドレミは足早に其の次元を去るのだった。

   ・・・・・

 幽風(カゼ)丈が音を立てる廃墟と化した街の中へ、トキコロシは姿を現した。

 家だったであろう瓦礫は幾つもあるが、(ドレ)も煙を上げていたりと元の姿は今更分からない。

 廃墟になってから未だそんなに経っていない様だが・・・生物の気配は一つも感じられなかった。

 もう余り、高く浮く事すら出来ないトキコロシはのろのろと廃墟の中を進む。

 抜け殻となった躯が何とも邪魔そうで、何度も其の重さにふら付いた。

 大きく穿った穴から透明の液体が滴り続ける。でも止める事も出来なくて。

 せめて休まないと、此の(ママ)朽ちる丈だろう。否、休んだ所で手遅れかも知れないが。

 其でも壊す事しか知らないトキコロシは只飛び続けていた。

 時を・・・止めないと。

 未だこんな所で止まれない。

 自分が止まるのは、全ての時が止まった後で。

 未だこんなに時間で溢れている、此じゃあ・・・。

 家だった廃墟からトキコロシが顔を覗かせた時だった。

 突然(ソラ)から何かが飛び掛かり、トキコロシを押し倒したのだ。

 地面に叩き付けられ、僅かに上体を震わせる。

 気付かなかった、未だ何か居たなんて。

 時を止めないと、いや、でも此は、

 トキコロシが思考する間もなく、其の透明な輝く躯は引き裂かれる。

 滅茶苦茶に、斬り付けられて液体が飛び散った。

 抜け殻となった躯も易々と傷付けられ、鱗が飛び散って砲台が(ヒシャ)げた。

 何を・・・しているのです?

 如何して、だって貴方は、

「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」

然う、其の願いは・・・間違っていない。

 だから、其の刃を向ける可きは、私ではなくて、

「イヤ、間違っていないよ。僕達は、存在してはいけない。殺さないといけない、全て、全て殺さないといけない。」

・・・何?何を・・・言っているのです。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す、君も、僕も、世界も、未来も、過去も、全て全て、」

あ・・・あ、成程。

 理解しました。其なら・・・理解、出来る。

 頸が捩じ切られ、叩き潰される。

 もう原型も分からない。此の(ママ)、溶けて、消えて、

 でも大丈夫、貴方が壊し続けるなら、問題ない。

 私は、貴方の力に、なる。還る、主の所へ。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す早く壊れて、時間、無いの。心が、壊せない、もう一寸(チョット)なのに。」

 えぇ、然うですね・・・。

 あ・・・あ・・・あ、やっと・・・眠れ・・・、

 主、私・・・頑張りましたよ。

 もっと・・・頑張って・・・逢いに、行きた、かった・・・けれど、も、

 で、でも・・・も、もう十分、貰いました、から。

 壊す、丈の私に、心を、意志を、目を、言葉を、与えて、くれ・・・て、有難う、御座い、ました。

 全て・・・返します、ので、如何か・・・、

 如何か、貴方が生まれるに足る存在を、私からの唯一の、贈り、物・・です。

「フィィロロロ・・・。」

幽風(カゼ)に紛れてしまう程か細い音を上げて、トキコロシは砕け散った。

   ・・・・・

 悲鳴と轟音の渦巻く街の中をセレは飛び続けていた。

 こんな状況じゃあ自分を世界を滅ぼした化物だって認識する者は少ない。

 ある意味、こんな風に大っぴらにライネス国を歩けるのは今丈だろうな。

 どんどん神や龍が死んでいるのに、思うのは結局そんな事か。

 多分其は、自分が狂っている所為。

 噫、複雑な心境だ。

 だって自分は、こんな状況で・・・高揚している。

 信じられない位、酷い悪夢を見ている様な景色の中で。

 恐らく原因は・・・自分の存在意義だ。

 自分の定義が不味い方向へ加速している。

 自分は殺しの精霊、だから・・・今の事態で信じられない位力が増しているのが分かる。

 駄目・・・だ、こんなの、こんなのあっちゃあいけない。

 自分は好きだった訳じゃない、殺しは已む無しの手段で。

 楽しんでしたら、終わりだろう。

 然う何度言い聞かせても、口端が自然と釣り上がってしまう。

 此の(ママ)、進んで良いのか?私は何処迄も間違えていないか?

 ガルダを食べないといけなくなった辺りから、おかしい。いやもっと前から私は進み方を間違えていないか?

「・・・っ、」

駄目だ、そんな考えが頭を(ヨギ)った途端、指先が痛んだ。

 多分此の下の(ヒビ)が、広がってしまっている。

 ・・・自己否定は(ユル)されない、か。

 疑問を持ってはいけない、否定してしまえば消えてしまう。

 違う、今は自分の事じゃなくて、龍を止めないと。

 こんな顔、ガルダ達に見せられない。こんなんじゃあ・・・駄目だ。

 私は、私の意志で此の混乱を止める。

 此は・・・其の為の力だ。

 辺りに居た龍達が自分に気付いて吼え声を上げる。

 付いて来ているのも何頭か居るな。何もしていないのに追われるのは一寸(チョット)悲しい。

 最近は特に龍と仲良くやって行けていた具合だったのに。本当に一体何が起きたのだろうか。

 何頭か牽制したりして大人しくさせたが、其でも数が多いし限がない。

 矢張り次元龍を先ずは探したいが、奴は波紋でも分かるか如何かの姿だからな。

 兎に角今は状況を見て・・・、

 ・・・不図、強烈な敵意が肌を刺した。

 此は、此の感覚は、懐かしい様な明確な殺意は、

 狙われている、全身が総毛立つ程の悪寒が走った。

 其と同時に、近くの大きな建物の壁を突き破り、巨大な魔物が自分目掛けて躍り掛かって来たのだ。

 ・・・っ、此奴、は、

 思ってもいなかった横槍に数瞬反応が遅れる。

 まさか建物を突き破って来るとは思っていなかった。波紋外なので直ぐには動けない。

 魔物は真直ぐ自分へ突っ込んでくる。こんな近付かれたら避けるのは間に合わない。

 魔物は大きく顎門(アギト)を開けていた。一直線に丸呑みしに来たのか。

 並ぶ牙は口内にも生え揃っており、鋭く尖って何時でも獲物を待ち構えていた。

 虚の様な口内、あんなので咬まれでもしたら、

 せめてダメージを減らそうと少し丈上旻(ジョウクウ)へ逃れる。逃げるのは無理だ。でも喰われるの丈は避けられる。

「っぐぅ・・・っ!」

魔物の鼻先へ激突し、あっさりと吹っ飛ばされる。

 骨が・・・何本か折れたか。

 右腕と脇腹を激しくど突かれ、聞きたくない鈍い音が響く。

 勢いを殺す事も出来ず、吹き飛ばされたセレは何軒か離れた家屋の残骸に叩き付けられた。

「ギャァア!な、何だ御前、」

近くに居た龍が一頭吼え声を上げる。

 自分が落ちて来たから攻撃と勘違いしたのだろう。

「・・・ぐ・・・ぅ、・・・、」

肺の空気が一気に空になって苦しい。行き成りこんな大ダメージを受けるなんて。

 此・・・肋骨折れてるな。内臓を傷付けられる此の何とも言えない気持悪さは最悪だ。

 痛い、痛いのは・・・嫌いだな。

 堪らなくなって血を吐いた。喘ぐ様に息を付く。

 大丈夫、此の位なら・・・魔力で、応急処置出来る筈。

 只問題は右の翼もやられた事か・・・鳥の翼が折れてしまった。飛べなくはないが、可也スピードが落ちてしまう。

「お、おい御前怪我してるのか?」

一度吼えていた龍だが、セレが苦しそうに息を付いているのを見て近寄って来た。

 気遣わし気な目につい安堵する。如何やら彼は自分を襲う気はない様だ。

 人間認定されなかったと言う訳か。化物で良かったとつい苦笑してしまう。

「大丈夫・・・心配してくれて有難う。只一寸(チョット)離れた方が良い、やばい奴が来るぞ。」

「ゴォオオオォオ‼」

咆哮が(ソラ)に轟く。

 見る迄もなく、先の魔物が此方を見詰めて飛んでいたのだ。

 其の姿は、骨を被った鮫の様だった。

 全長10m以上、(ヨル)の様に(クラ)い蒼の体躯で、零星(ホシ)の様に(シロ)い斑模様が浮かぶ。

 開いた口からぞろりと牙が覗き、其は口内を何重も取り巻いていた。

 骨の後方、隙間から燃える様に(アカ)い鰓と、ケープの様な蒼い鰓が生え、背鰭は刃の様に尖ったのが何本も生えていた。

 其の背鰭から尾に掛けて刃で形成されている様で、でも良く見ると其の尾はもう一つの鮫の頭の様にも見えた。

 牙の並ぶ顎門(アギト)を開けているみたいで、()の尾で叩かれでもしたら引き裂かれてしまうだろう。

 骨の下から覗く目がぎらつき、攻撃的に尖る。

挿絵(By みてみん)

 此奴は・・・龍じゃない、神、其も真の姿の方だ。

 龍との戦いで真の姿に成ったのかと思ったが・・・明確な殺意を感じるな。

 狙いは自分か。一体誰だ此奴は。

 色んな奴に恨まれる事は散々しているから別に驚かないけれども。

 今は、御前に構っている暇はない。

「な、何だ彼奴・・・、逃げた方が良さそうだな。」

龍は一度鼻先を(ソラ)に向けると急いで廃墟を飛び出した。

 自分も彼奴みたいに退散したいが・・・、

 輝く(シロ)い雷が取り囲む様に降り注がれる。

 逃がす気はないと言う事か。

「私に、何の用だ。」

「御前は・・・セレ・ハクリュー、逃がす、訳には行かない。」

名を知られているのか。

 ライネス国の一等兵か何かかと思ったが、一寸(チョット)珍しいと思った。

 自分は会った覚えがない。まぁ姿は変わってしまっているかも知れないが。

 大抵光の奴等は自分を化物と呼ぶ。終末の化物とか、そんな風に。

 だから一寸(チョット)新鮮だ。名を呼び、()う敵意を向けられるのは。

「一応、御前の事を聞いて置こうか。」

躯を起こす、弱っている姿は見せるな。

 ()うなったら相手してさっさと殺してやる。

 御前も、自分の踏み台にしてやる。

「私は・・・クルスティード尖塔の戒兵、楪だ。いざ参る!」

矢張り光の兵か。でも其の名は・・・、

 少し、引っ掛かる物があった。

 翼を少し丈広げて廃墟を抜けて行く。

 (シロ)い雷が地を這い、伸びて行く。

 此は・・・雷、丈じゃないな。僅かに光の魔力を感じる。

 厄介だな。当たったら可也のダメージになりそうだ。

 瓦礫等物ともせず、楪は其の(ママ)突っ込んだ。

 牙で瓦礫を噛み砕き、獲物が居ない事に気付いて咆哮する。

(ネガ)うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」

出し惜しみしている暇はない、時間は無いのだから。

慈紲星座(リキラツノマイ)。」

自分から放たれた零星(ホシ)が四方に散る。

 此で一応、喰おうとしても反撃は出来る。速いが、見えない程じゃないんだ。

 只翼をやられてしまっているので距離を取る。矢っ張り飛び難い、此じゃあ直ぐ追い付かれてしまう。

 其より奴の名が引っ掛かる。

 クルスティード尖塔に知り合いなんていないと思ったが・・・然うだ、一柱丈いた。

 確かガルダやロードが話していた奴だ。

 思い出した所で一気に思考が加速する。

 次元で会ったんだったか、話が分かる神だったと言っていた様な・・・。

 噫・・・然うだ、二柱共言っていた。話が分かる、悪い奴じゃない、でも・・・、

 危うい奴だと、口を揃えて言っていた。

 正しく、真っ直ぐ過ぎるから何時か、取り返しも付かない事になるんじゃないかと。

 話す時、何処か心配そうにしたガルダの顔が頭を(ヨギ)った。

 まさか此奴が・・・然うだと言うのか?

 確証が取れない、其に話が出来たって敵対されたら自分は、

 自分が取る手段は一つに限られてしまう。

 只、今は距離を取って出方を見ろ、

 揺らぎはしない、自分にとっては只の敵なのだから。

『・・・あ・・・ま、未だ、戦っては、いけ、ない。』

か細い声につい振り返る。

 楪はより大きく咆哮した。

(ウルサ)い!全ての元凶は此奴だ!奴を咬み砕け!」

『違う、未だ・・・私はちゃんと見極めないと、』

声が二重に聞こえる・・・?

 いや、良く見ると、か細い方の声は如何やら楪の尾からしている様だった。

 鮫の頭を模した様にも見える尾、其が実際顎門(アギト)を動かして喋っていたのだ。

 尾鰭が喋って動かし難いからだろうか。楪は中々自分へ突進をしない。身を捩って吼えている丈だ。

 迷っていると言うより・・・何だ?多重神格(タジュウジンカク)なのか?

『私は・・・ガルダ達に、もう一度、会いたい。・・・如何か・・・話を、させて、』

「・・・一体何の話だ。」

ガルダ、とはっきり聞こえた。

 矢張り此奴が然うなのか。となると、放って置くのは厳しい。

 一体何が目的なのか、確かめないと。

『間違ってないか、正しいか、誰もが言うのだ。信じてはいけないと、でも私は、私は、』

(ウルサ)い!今更如何しようもない!()の道奴を殺せば皆喜ぶ!」

「其は間違いないな。」

悲しいかな同意してしまう。喜ぶ奴は多かろうな。

 でも・・・確実に喜ばない奴がいるからやられる訳には行かないが。

『御願い、行かせて。彼の所へ。信じたい、私は・・・信じたい。』

「・・・わぁったよ!行きゃあ良いんだろ!其で満足か!」

別々の声を告げる口は、何方が真実か分からない。

 本心で、迷っているのだろうか。だからこんなに中途半端で。

 迷っていれば何も選べず死ぬ丈なのに。其は甘さでしかないのに。

 尾が戦いたくない所為で動けないのは不便だろう。何となく元の楪がどんな奴か分かった気がする。

 屹度ガルダ達が会ったのは尾の方の性格の奴だろう。自分相手に迷う光の奴なんて初めて見たのだから。

 さて、如何しようか。一撃は貰ったが、如何やら彼女は此の(ママ)飛び去ってしまいそうだ。

 戦わずに済むのなら・・・まぁ良いだろう。手痛い一撃を貰い、一発返したい気分だが、時間が惜しいのは事実だし。

 でも・・・、

 でも、其で良いのか?

 行かせたら彼女は真直ぐガルダの所へ行くのだろうか・・・。

 ガルダは、今の彼女を見て、如何思うだろうか。

 再会を喜ぶか、其とも・・・。

 ・・・もう一寸(チョット)丈聞いてみるか。

「行く前に待ってくれ。御前其の姿は如何した。行き成り真の姿で現れたらガルダも面食らってしまうだろう。」

『此・・・は・・・、』

途端楪の躯が震えた。

 真紅の瞳が向けられるのを感じる。

『此は・・・罰を受けたから、変わってしまった。変えられてしまった。痛かった。凄く痛かったから・・・。』

「思い出させるな!如何して私があんな目に遭わなきゃいけないだ!私は何度も言ったのに!」

罰・・・然う言えば先、建物から出て来たよな。

 まさか折檻でもされていたか?其で耐え切れずに真の姿に成ったとか。

 皆が信じるなと言ったとも言っていたな・・・皆って誰の事だ。

「若しかして御前、塔の奴等に私達と関わっていた事がばれたのか。」

『ばれた、ばれた。見付かってしまった。でも其はそんなにいけない事?』

「次元だって護ったのに、(アンマリ)だ!」

成程、大体話は分かって来たか。

 じゃあ先の建物は・・・クルスティード尖塔だったのかも知れない。其処から飛び出して来たのか。

 タイミングが悪いと言う可きか・・・いや其とも、自分の前に出て来た事を、良しと取る可きか。

 楪は記憶に苦しめられている様で何度も身を捩っていた。もう痛みはないであろうに吼え声を上げて翻筋斗(モンドリ)打つ。

 光の国の罰なんて、何程(ドレホド)の物だろうか・・・考えるのも(オゾマ)しい。

 ガルダ達もライネス国は恐ろしい所って言っていたし、其の辺のレベルじゃなかっただろう。

 下手したら前世の自分が受けた奴よりもずっと苦しい物だったかも知れない。

 だって神に成った様な奴ですら此処迄追い詰めた。二度目の絶望を与えたのだから。

 其でもクルスティード尖塔は彼女の心を挫く事自体は出来なかったと言う事か。

 尾の方は、未だ信じている様だ。恐らく何度も情報を吐けと責められたり、考えを否定され続けただろうに。

 其でも・・・信じようとしている。

 だから会いたいのか。ガルダに会って、もう一度、間違いなかったと。

 然うだな。ガルダは正しいと思うよ。私も其は保証する。

 話し合えば屹度、彼女も分かってくれるだろう。矢っ張りガルダは間違っていなかったって。

 でも・・・、

 ガルダは如何、思うだろうな。

 謂わば自分の所為でこんな姿にさせられてしまった彼女を見て。

 彼は、傷付いてしまうのではないだろうか。

 話せば分かってくれたってガルダは何処か嬉しそうに言っていたんだ。

 自分は憶えている、其の顔を。

 だけれど、其の結果がこんな未来を生んでしまったなら。

 自分は・・・如何したい、(ドレ)を選ぶ?

 彼の為?自分の為?エゴか正義か、誰の心を見る可きか。

 大きく一つ息を付く。

 私は矢っ張り、此の選択をする。

「じゃあ・・・御前を行かせられないな。」

彼の為と言い乍ら、自分の為にエゴを翳す。

 私は彼に何も返せない。何時も貰ってばっかりだ。

 分かっているのに手も離せず、此処迄連れて来てしまった。

 彼を(ソラ)から突き堕としたのは私なんだ。

 じゃあ何も返せない私は如何すれば良い。

 壊す事しか知らない癖に。何かを返せるだなんて愚かな考えを捨て切れない私は。

 結局・・・壊すんだろう。

 どんなに否定したって、言訳を作ったって結局。

 便利だな、彼の為だなんて。

 噫本当に・・・吐き気がする。

 零星(ホシ)を散らす、見えない線に沿わす様に緩やかに。

 形も与えずに放られた零星(ホシ)は真直ぐ楪の方へ向かい、(イタズラ)に其の鰭を傷付けた。

『如何して、如何して邪魔をする。行かせてくれ、今は、戦いたくない。』

「ゴォオオオオオオ‼構うな、早く行きてぇんだろ!」

吼えて楪は自分に背を向ける。

 意見が(マト)まると随分速く動ける様だ。尾の一振りで一気に加速する。

 逃がすな、行かせるな。

 彼女を、ガルダに会わせてはいけない。

 少なくとも御前の其の姿は、彼を傷付ける。

 彼の選択を否定する事になるのだから。

 再び、分かり合えるかも知れないのに?無為に引き裂く事も無いだろうに。

 此以上彼を縛る気なのか?

 内の声に(カブリ)を振って否定する。

 違う、違うよ。

 自分はもう見ているんだ。

 此奴は一番最初、自分を襲った。

 つまり其はガルダを疑っていると言う事だ。

 店を否定し、自分の在り方を否定し、消し去ろうとした。

 其の一片の揺らぎを(ユル)してはいけない。

 自分だったら、何をされたって信じ貫く。

 疑うなんて、あってはいけない。屹度其の瞬間自分は・・・崩れてしまうだろう。

 ガルダを食べてしまった時に分かった。もう逃げられないって。

 だったらより深く(クロ)く・・・堕ちる丈だ。

 翼を広げて自分も飛び立つ。

 でも内臓のダメージが思ったより効いている。動きが如何にもぎこちない。

 此の(ママ)じゃあ追い付けない。・・・其なら、

 自分には未だ切れるカードがあるだろう。

「・・・確かに、ガルダは間違ってないよ。」

(ホトン)ど呟きにも似た声だ。だが、尾は其を聞き逃さなかった様だ。

 急ブレーキを掛けて止まる。そして自分を見た、認識した。

 縋りたいんだろう?じゃあ誘ってやる。

「っくそ!止まるな、そんな奴の言葉なんて聞くな!」

頭が吼えた所で尾は動かない。虚ろな目で見詰められる。

「ガルダもロード達も皆、良い奴だった、然うだろう?私も、然う思うよ。」

『私も信じたい。でもじゃあ如何してこんな事になったんだ、君達が龍を(ケシカ)けていると言われて、私は、私は、』

成程、もうそんな話が出ているのか。

 まぁ別に違和感ないか。其で龍へ向くべきヘイトが減るなら自分は構わないが。

 今更そんな尾鰭を一々否定しない。

『私が、信じた所為で大勢の人が死んだと・・・私は、そんなの信じたくなくて、だから教えて、此には何の意味があるんだ。どんな訳で、こんな事を、』

「訳か。成程、其で御前は迷っているのか。」

其だったら容易い。此奴の足を止める方法は此しかないだろう。

 良いさ、其の尾鰭を精一杯振ってやる。

「然うだな。確かに此は私の所為だ。私が起こした悲劇だ。・・・他の奴には秘密だぞ、御前に丈教えてやる。」

『まさか本当に・・・ど、如何して、そんな事する様な神達じゃ、』

「理由もシンプルだ。御前達が目障りだから。適当に仕掛けた。特に深い訳も何も無いよ。」

六つの目が細められて嗤う。

 此の目は、()う言う顔をし易いから楽だ。

 相手の目に如何写るか、容易に想像出来るのだから。

「目障り⁉そんな事でこんな命を奪って良いのか!ガルダ達は矢っ張り私を騙してたんだな!此は明らかな悪だ!」

一寸(チョット)早とちりが過ぎるな。確かに理由は然うだが、其は私の理由だ。」

『ど、如何言う事だ、何が言いたいんだ。』

動揺にすっかり思考を奪われ、楪は只じっとセレを見詰めていた。

 大丈夫・・・()う言う話は得意だろう。如何揺さ振りを掛ければ良いか位、分かるだろう。

「優しくて良い奴を騙すのはそれなりの理由が必要だろう?何故か龍が暴れているから止めるのを手伝って欲しい。最悪、邪魔する奴は殺せと。」

「お、御前其でもっ・・・、ガルダ達は其でも、御前を信じていたのに、御前は、」

「ククッ、噫信じてくれるからあっさり私の話も信じてくれるな。私は本当に良い仲間を持ったよ。御蔭で何か私が問題を起こしても直ぐ火消しをしてくれる。便利だよな、仲間って。」

丗の全てを馬鹿にしたかの様に高笑いを響かせる。

 化物らしく、吼え猛った。

 さぁ最悪の化物が目の前に居るぞ。御前が取れる手段は一つ丈だろう。

 疑い様のない悪だ。此なら迷う必要も無いだろう。

「ゴォオォオオオオ‼」

一際鋭い咆哮を上げ、楪はセレに向けて突進を繰り出した。

 尾の意思も一つになったのか先迄より数段速い。目で追うのは厳しいだろう。

 来るであろう事は分かっていた。其でも速い。

 翼を畳んで一気に急降下する。

 迷わず楪は後を追う。家屋も瓦礫も全て噛み砕いて強行突破して来た。

 其丈の力があったのなら、さっさと使えば良かったんだよ。

 下手に迷うから何も手に入らない。失って奪われて(バカ)りで。

 ・・・然うして、神になんてなってしまったんだろう?

 自分はそんな事にはならない。御前とは違う、恨みも痛みも全て正面から受けてやる。

 追い付かれそうになった所で零星(ホシ)を投擲する。

 奴は顎門(アギト)を開けた(ママ)、真っ直ぐに突っ込んで来る。此の(ママ)零星(ホシ)を御見舞いしてやる。

 飛び掛かる零星(ホシ)を一切警戒せず楪は咬み付いて呑み込んだ。

 途端に体内で爆ぜ、血を大量に吐き出した。

 其でも堅牢な牙は折れなかったが、十分ダメージにはなる。

「ゴォオオオオ‼くそ、彼奴を殺せ!皆に解放を、私は、負けられないんだ!」

『一度でも、御前を信じた私が愚かだった。せめて此処で終わらせてやる!』

血を吐き乍らも瞳の鋭さは減らず、構わず楪は猛進して来た。

 勢いも減らないか、捨て身の一撃は流石に不味い。

 スピードで負けてしまうなら、回避をするしかない。零星(ホシ)を何重にも(マト)わせてジグザグに街だった廃墟を駆ける。

 腕が折れているのも痛いな・・・此じゃあ四足で走る事も出来ない。

 奴は自分の血の匂を嗅ぎ取っているのか狙いが正確だ。

 確実に視界に入っていないのに壁毎貫通して飛び掛かって来る。

 瓦礫が散り、躯の節々に当たって痛む。

 無でも放って置けば突っ込みそうだが・・・。

 如何しても・・・其の手段は採れなかった。

 此の(ママ)消し去るの丈は、

 如何して?ガルダの顔がちらつくからか?

 御前の都合で殺すのに今更何考えてんだ。

 殺す事は確定しているのに、迷ってなんていないんだろう。

 零星(ホシ)で殺し切るのも厳しくなって来たな。幾らか散らしているのに的確に避けている。

 学んで避けているのか。反応速度も早いんだな。

「殺してやる殺してやる!御前の所為で皆が苦しんでいるんだ!此処で終わらせてやるぞ化物!」

ククッ、正論は気持良いか。

 其の(ママ)暴れろ、振り翳せ。

「っぐ、ガァア!」

避け切ったつもりだったが、突っ込んだ(ママ)に楪は尾を振るって来た。

 余りの勢いに瓦礫と共に投げ飛ばされてしまう。

 飛ばされると同時に、(シロ)い雷迄追って来た。

「dleihs!」

慌てて唱えて零星(ホシ)を編む。

 目前に現れた星座の楯に雷はぶち当たり、霧散する。

 其と同時に楪自身も突っ込んでおり、大口を開けた顎門(アギト)が楯を銜え込んだ。

「速いな。そんなに私を喰いたいか。」

『御前丈は、(ユル)せない、ガルダやハリー、皆を、私が救う!』

「ククッ・・・其の心掛けは悪くないな。」

楯が咬み砕かれたら其の(ママ)食われてしまいそうな距離だ。

鋭く並ぶ牙に思わず唾を呑む。

「raeps」

残った零星(ホシ)を編んで細長く鑓を形成する。

 そして楯の中心に向けて投擲した。

 同じ魔力で生まれた零星(ホシ)だ。其の(ママ)貫通して楪の口内へ突き刺さる。

「ゴォオオォオオオ‼」

ビリビリと空気が震える程の凄まじい雄叫びを上げて彼女は身を捩る。

 そして自分は後方へと一気に飛び退()いた。同時に鑓は爆発し、魔力が飛び散る。

 零星(ホシ)を集めていたので威力が高い、生じた爆風に土煙が舞い上げられ、一気に視界が悪くなる。

 其の中でも楪は真直ぐ自分を見詰めて飛び掛かって来た。

 怯みもしない、矢張り匂で追って来ているんだろうか。其の執念は凄まじいな。

 口内は焼け爛れ、口も裂けてしまっている。其でも咬み付く事を止めない。

 頑丈と言うよりは其の意志で耐えている様だ。

 零星(ホシ)の爆発を喰らっても戦えるのは中々凄い。懐いは本物だったんだろうな。

 其でも御前を、ガルダに会わせる事は出来ないんだよ。

「ゴォオオォオオオ‼」

楪から放たれた雷が行く手を阻む。

 爆ぜる雷が散って焼け付いた。無理に突破は出来なさそうである。

 逃げ道を塞がれたか、だったら此処で終わらせてやる。

 楪は真直ぐセレに向かって突進を繰り出した。

 血に(マミ)れつつも(シロ)く尖る牙が並ぶ。

 ・・・せめて、勝てないと分かっていても、一咬みはしたいんだろうな。

 其の気概丈は(ツヨ)く感じる。殺意が鋭く刺さって来る。

 セレは激突を避けようと(スンデ)の所で飛び退()いた。

 けれども避け切れはしない。彼女の牙がセレの右腕を捉えていた。

 地面に激突する直前に顎門(アギト)は閉じられる。

 そして激しく地を打つ。地響きが轟き、体勢が狂う。

「・・・っ、此で、満足か。」

セレの右肩から先が無理矢理引き千斬られ、血が一気に溢れた。

 漆黔(シッコク)の其が地に染み込む・・・可也の量に少しふら付いた。

 地面に激突した楪は流石に反動を喰らった様で少し動きが止まった。

 其でも(ユック)りと此方に向き直る。

『「(ユル)さない(ユル)さない!御前丈は絶対に!皆を助ける為に私はっ‼」』

吼え乍ら二つの声が混ざる。

 そして目の前に(タタズ)むセレに牙を向け、飛び掛かった。

 だが其の牙が触れるか如何かの所で彼女の躯はぴたりと中旻(チュウクウ)に留まってしまう。

 楪の目が大きく見開かれ、セレのと交わる。

「矢張り・・・知らなかったんだな。」

「な・・・にを、」

其の一言が引金になったかの様に突然其の口内で(クロ)水精(スイショウ)が飛び散った。

 其は容易く彼女を貫き、貫いた傍から華の様に咲いて散る。

『「あ・・・私は・・・又・・・ガ・・・ルダ、皆・・・ご・・・めんな、さ、」』

最期の一言すら満足に言い切れず、(タチマ)ち其の姿は(クロ)水精(スイショウ)に包まれてしまった。

 巨大な一つの彫像の様になった水精(スイショウ)は途端に砕け散り、後には何も残らない。

「私の血を飲んではいけない事すら教えてくれなかった奴等を、御前は信じたんだよ。」

腕一本喰ってしまうなんて自殺行為だ。

 一応自分を丸毎食べて咬み殺していれば相打ち位にはなったかも知れないが。

 ()の道自分の血に触れてしまえば末路は同じだ。

 此迄も何度かやり合った塔だし、此位の事は知っていただろうに。

 其にしても、態々(ワザワザ)此奴に腕一本やる必要もなかったんじゃないか。

 自分の事乍ら溜息を付く。如何しても・・・此位の罰は、自分も被る可きだと思ったのかも知れない。

 此奴を殺すのは自分だと。ガルダ達と関係を持って、繋がった者を其の手で殺したんだと。

 傷を残したかったのかも知れない、忘れない様に。

 此は明らかに自分の所為で、エゴでしかないから。

 結局はガルダを・・・縛りたかったんだ。

 他の未来や、道が見えたから、そして其処に自分はいないと理解していて。

 自分の我儘(ワガママ)で、殺したんだ。此(バカ)りは理屈とか、そんなのは(ホトン)ど無い。

 いやもっと簡単な、こんな小難しく考える事も無くて、

 自分は・・・いや、私は只、

 彼女がガルダを信じ切れなかった事が、(ユル)せなかったんだ。

 ・・・うん、然うだ。其が一番正直な気持だ。

 ククッ、殺した後に気付くなんて、もう、本当に。

 自分は何処迄も化物だ、自分の事すらちゃんと分からなくなって来ているじゃないか。

 (ユック)り、目を閉じる。

 駄目、駄目だ。もう此以上此の事を考えるな。

 彼女の事は、もう自分の中丈で終わらせろ、もう誰にも話さない。此の(ママ)消えて貰う。

 ガルダ達には、話し合えた、理解し合えた彼女の幻丈を見ていてくれたら良い。

 ・・・此で、良かったんだ。自分の目的は達したのだから。

 長く、息を付く。余り休んでもいられない。

 そろそろ動かないと、未だ問題は山積みなんだ。

 こんな横槍に此以上構っていられない。

 腕は完全に喰われてしまったのでもう戻せない。

 でも片腕が無いのは流石に厳しいな・・・一寸(チョット)零星(ホシ)で代用出来ないだろうか。

 楯の零星(ホシ)しかもう残っていないので其を崩して別の形へ作り替える。

 二、三個の零星(ホシ)で真直ぐ直線を作り、そっと自分の右肩に当てた。

 前、指を一本無くした時みたいに、魔力で代用してみよう。

 零星(ホシ)を其の(ママ)肩の傷口に刺す、痛みが突き抜けるが無理矢理無視する。

 其の(ママ)・・・此の零星(ホシ)を骨だと仮定して・・・、

 (ユック)り息を詰めて集中する。大丈夫、自分は精霊だ、魔力で出来ているんだろう?

 肩から滴る血が少しずつ零星(ホシ)に、星座に(マト)わり付いた。然うして段々と肉を付けて行く。

 血が()うも便利だなんて・・・此じゃあ無駄には出来ないな。

 暫く其の(ママ)にしていると、形丈何とかなった。

 軽く握ったりしてみるが・・・腕だ、違和感は(ホトン)ど無い。

 凄い、疑似的だけど生えて来たぞ!

 切断面は変わらず痛いけれども、一見何時もの腕だ。全部真黔(マックロ)になっているが、まぁ元々大部分が(クロ)いしな。

 強度は流石に一寸(チョット)劣るが、其でも十分だ。

 多分此の(ママ)にして置けば(イズ)れはちゃんと骨や肉、皮が付いて元に戻る筈。良し、此の躯の使い方が分かって来た気がするぞ。

 其にしても血を一寸(チョット)流し過ぎたな・・・腕に充てた分ふら付いてしまう。気を引き締めないと。

 残った零星(ホシ)は折れてしまった翼に添える。此で此方も応急処置位にはなるだろう。

 飛び立とうとして・・・足が止まった。

 何か・・・居る?

 波紋が少し(オロソ)かになっていた様で今更違和感が伝わって来る。

 何と言うか景色が歪んでいる様な・・・?

 眩暈?いや違う、実際に歪んでいる?

 頭が追い付かず、見ている事しか出来ない。下手に手も出せない。

 じっくりと波紋を密にして放ち、意識する。

 此は・・・蝶?

 然う、歪んでいる様に見える景色は良く見ると小さな蝶の集まりにも見えた。

 蝶と言っても幾何学的模様に近くて、生物味は感じない。

 三角形の小さな集まりが揺らめいている様な、そんな感覚。

 自分を取り巻く廃墟丈でなく、地面も、(ソラ)も、空気も、魔力も、自分以外の全てが数多の蝶の群へと変換されて行く。

 何・・・だ、此は、一体何が起こっている。

 其の蝶達が羽搏(ハバタ)いたり、蠢くからこんなにも景色が歪んで見えるのか。

 逃げた方が良いか?でも逃げるなんて何処に、

挿絵(By みてみん)

▽・・・見・・・付け・・・た。△

声が・・・聞えた?

 何もない筈の空間から、辺りを彩る蝶達から。

 まさか此奴は、

 蝶が世界の全てを包み込む。

 世界が、蝶になる。蝶に溶けて飛び去る。

 波紋ですら全て蝶に囲まれた後には、

 セレの姿は、忽然と消え去ってしまっていた。

   ・・・・・

 はい、昔から出ていた子が世界からログアウトすると何だか感慨深いですよね・・・。

 実はの子も、死ぬ時は如何なるかと言うのは登場当初から考えてはいます。

 只何時其の時が来るか、其が行き当たりばったりなんですね。本当にキャラが勝手に動いている感じです。

 其の中でも楪は、何も手が届かず得られないママ失意の内に死ぬと決まっていたので、今回で退場するのはホボ確定でした。

 他にもドレミが頑張ったり、結構激しい一幕がありました。ドレミのの話は如何しても書きたかった物の一つなので非常に満足していますね。

 後強いて言えば・・・今回挿絵が滅茶苦茶多いんですよ、本当に。

 シカもややこしいのが多いので途中泣き乍ら描いていました、毎回作者のバカヤローと未来と過去の自分が戦っています。

 後半は、もっと色々激しく動くので、どうぞ御楽しみに!

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