50次元 数多の累時と景象の次元Ⅰ
御久しぶりです今日は!
活動報告でも書かせて貰いましたが、矢張り新年になってしまいました。
正確には元旦に此の話は書き終わりました。
いやぁ長かったですね!けれども宣言通り一日に書く量を倍にしたら凄く早くなりました。
けれども未だ未だ慣れないです、此の量も余裕で書ける様になりたいなぁ、集中力が欲しい。
と言う事でニューストーリー、あるシーンを書き足した為にすんごく長くなりました。
書いた後で、あ、矢っ張り要らなかったんじゃ、とも思ったのですが、矢張りタイミングが此処しか無かったのでぶっこみました。
何の部分かは見ていれば直ぐ分かります、正確に言うと後半部分が全部其の部分に当たります。
久々の前書きで書きたい事は色々ある訳ですが、ネタバレ祭りなので後半に取って置きましょう!
其では今回は何と言うか色々ややこしい次元、無事彼等は攻略出来るでしょうか・・・。(出来なきゃ困るんだけれどね!)
時は流れて行く、一方向に滄江の様に
背を、脇を、手を、目を通り過ぎて行く
触れても、見ても感じても気付かない
追いかけても掴んでも見詰めていても消える物
時は止まらない、只進む丈
噫でも其の縷に触れる手は、
・・・・・
「・・・セレちゃーん、生きてるー?」
そろーっと扉を開けてドレミが顔を出した。
彼女が又大怪我をして何日か、自分は会えず仕舞いだったのだ。
せめて見舞いに行こうと思ったのに、常にガルダや丗闇が居て入れる雰囲気じゃあなかった。
屹度独りで戦いに行っちゃったからこっぴどくガルダ達に怒られたのであろう事は想像に難くないけれど。
怪我している時に御説教は何だか可哀相だ。だから自分も思う事があるとは言え、もうセレを怒らないと心に決めていた。
と言うより今は早く元気なセレに会いたい、相変わらず無理しちゃったんだし、見て置きたいのだ。
セレは・・・ベッドの上に居た。
未だ体調が優れないのかと思ったが、如何やらベッドに置いてある縫い包み、ファフーに抱き付いている様だ。
しっかり尾で巻き付いて熱い抱擁をしている。頭を擦り付けてゴロゴロと喉を鳴らしていた。
元気そうではある、あんなに神目も憚らず甘えている彼女を見ると、つい可愛いと思ってしまう。
警戒心の一切を捨ててしまっている今の彼女に近付くのは容易い、部屋に入ってもバレないレベルだ。
折角だしもう少し幸せを増やしてあげよう。
「ロー君、ゴー!」
そっと後ろから付いて来ていたローズの背を叩く。
其で全てを察したらしいローズは一直線にセレのベッドへ飛び掛かった。
「ファ⁉ロ、ローズ‼」
セレの声が上擦り、ギュッと縫い包み毎ローズを抱き締めた。
もう幸せの絶頂って顔をしている、彼女が幸せで良かった。
ローズもすっかり此の扱いに慣れている所か寧ろ歓迎している様だ。彼も嬉しそうに耳をパタパタ振っていた。
「あぁ・・・世界全てがモフモフに成れば良いのに。」
如何やら此の破壊神、中々の世界征服を企んでいる様である。
其ならやっても良いかも、と思う一方、彼女なら本気で遣り兼ねないので恐ろしい所だ。
来てはみたけれど、折角セレ幸せそうだし、此の儘五日位放って置こうかな。
然う思っていた矢先、パタとセレの目と合った。
「ドレミ、如何した。何かあって来たんじゃないのか?」
「あ、うん。えっと、怪我とか、大丈夫かな~って思って。」
以外にも意識はしっかりしている様である。モフモフに乗っ取られてはいない様だ。
「怪我はもう大丈夫だ。心配掛けて済まなかったな。足も指も元通りだ。若しかして・・・仕事か!」
ピョン、とローズを抱いた儘セレはベッドの上で跳ねる。
不思議な体勢で飛ばされるのでローズはすっかり目を大きく開いて固まってしまった。
「うん、仕事行こうかなって思ったけど、本当に大丈夫なのセレちゃん。」
大怪我だったとしか聞いていないけれども、足、指と言う言い方は可也不穏だ。
其が治っちゃうんだから彼女も彼女なんだけれど・・・。
見た所確かに大丈夫そうだ。丗闇もガルダも居ないならOKと言う事なのだろう。
・・・前は騙されたからね、次からは斯う言う時、ちゃんと許可を貰うって決めているのだ。
何より大丈夫の意味合いが違う所も加点要素だね。
たっぷり悩んだけれども、多分屹度大丈夫なんだろう。本当に大丈夫なんだろう。彼女と次元に行きたいのは本望だし、一緒に行こう。
「・・・うん、分かったよセレちゃん、一緒に行こうね。後はハリー君とかも居た筈だし。」
「やった!有難うドレミ、ローズ、大好きだ!一緒に行こう!」
此の部屋から出たかったのだろうか。随分彼女は喜んでそんなあられもない事を言っていた。
モフモフ接触中の彼女は大体こんな感じだ。
「じゃあ何柱か声掛けて、準備出来たら直ぐ行くね。」
「おー!」
ローズを抱いた儘何とも愉快そうに彼女は返事をするのだった。
・・・・・
「さぁようこそいらっしゃいました!」
然うして集められたセレ、ドレミ、ローズ、ハリー、ソルはある次元、ある民家の玄関先に突っ立っていた。
一同が着いた途端目の前の民家のドアベルが鳴り響き、一人の青年が顔を出して来たのだ。
そして元気良く挨拶をされた訳だが、現在進行で一同の頭はフル回転をしていた。
え、何、何此の状況。
意気揚々と来たものの、行き成りな事態にセレは晒の下で目を瞬かせた。
一応ローズは勾玉に戻していたんだが、其は良かったとして。
行き成り過ぎる、いやまぁ来たら不法侵入だった、よりはましだけれども。
でも良くない状況には変わりない。だって目の前の出迎えてくれた青年こそが、次元の主導者なのだから。
変な対応をすれば今後に響く・・・さて如何しようか。
青年はひょろりと背が高く、可也の猫背だった。
跳ね捲る髪は黔の、所々銀髪が混じる。中途半端に整えられた其は背に掛かる程の長髪だった。
パッチワークの白衣の様な、何とも変わった衣装を纏い、伸ばされた腕から覗く手はマネキンの様に球状の関節があった。
そして良く見ると上着の内側から何本か手が覗いていた。内側から服を掴んではたけない様にしているのだ。
パッと見、六本だろうか、数は多い。偉く背が高いと思ったが、其の手故だろう。
そんな凡そ自分の知る人とは懸け離れた姿をした彼に最も惹き付けられたのは其の複眼にも似た翠玉の目だった。
何方かと言うと人と虫のキメラみたいだ。けれども青年は姿の異なる自分達を見ても特に大きな反応は見せなかった。
歓迎すると許りに両手を広げて嬉しそうだ。
「・・・えと、初めまして。私はセレだ。」
軽く一同の自己紹介をして行く。其の間にざっと外観を波紋で見て行く。
一見、普通の民家だ。小さな洞窟を木造の家の様に装飾して造った具合の。
不思議な形にも見えるが、彼が一部屋毎に区切られていたりするのなら納得だ。
一応周りにも転々とだが似た家が並んでいる。此処は彼等の集落なのだろう。
けれどもそんな、次元の主導者とは言え、一般の家がこんな出迎えをしてくれる物だろうか。
敵意の類は感じられないが、変な具合だ。
「ははぁ丁寧に如何も!僕は知っているとは思うけれどもAL(アル)って言うんだ。宜しくねぇ助手さん達!」
「助手・・・?」
思わず言ってしまったと許りにドレミが軽く己の口を塞ぐ。
「そうそ!ん、あぁ~でも助手は一寸違うねぇ、良し訂正!同志として改めて歓迎するよ!宜しくね!」
カラカラ笑うALに敵意や悪意はなさそうだった。
けれども助手、同志、彼は如何言うつもりでいるのだろうか。
「一応、確認をさせて貰っても良いか?」
何て声を掛けようか逡巡したが、彼はそれなりに御喋りの様だ。だったら聞き易い。
「ん、確認?良いけど君達は彼でしょ?ZN(ゾニ)に頼まれて来てくれた人達でしょ?む、立ち話もなんだし、中入りなよ!茶位出させてくれ。」
元気よく一声笑うとALは其の儘家の中へ入ってしまう。
何て警戒心の無い奴だ・・・見ず知らずの然も大人数をそんなあっさり入れるなんて。
まぁ此方としては助かる許りだけれども。
ちらとドレミ達に目配せすると、セレは家の中へ足を踏み入れた。
家の中は割かし家庭的な感じがした。
土の質感の残る壁は鍋や写真や温度計、時計、色んな物が所狭しと掛けられてすっかりごちゃ付いている。
其の御蔭で彩があるとも言えるが。
使い方も分からない、見た事も無い物が多いが、何となく其々の部屋の用途は分かる気がした。
ざっと波紋を広げるが、此の家は彼一人の様だ。
居間と思われる所へ通され、座る様に促される。
椅子はシャボン玉の様で、座ってみると大きく形を変えて馴染んだ。モフモフではないが、此もありだな。
ALは茶を入れる為か奥へ引っ込んでしまうが、別段怪しい動きもなさそうだ。
「んん、セレちゃん大丈夫?何か顔色悪いけど・・・。」
ドレミに指摘され、初めて自分が緊張していた事に気付いた。
つい警戒をしてしまった様だ。恐らく其はALの見た目が余りにも・・・彼だからだろう。
「大丈夫だ。一寸彼が、その、研究員みたいに見えてな。」
此じゃあ白衣アレルギーだ。自然と身構えてしまう。
―研究員?確かに助手とかって言うてたね。悪い人やなさそうやけど。―
「鎮魂の卒塔婆みたいな感じかな。何だか似た匂するよね。」
然う、其はあると思う。如何しても反応してしまうんだ。
其でなくても最近はAにも会ってるし、恐い思いをする機会が多かったから頭を過ってしまう。
・・・此じゃあいけないな、仕事だ。切り替えないと。
「プハッ!何か変な匂するね。此処何処?」
突然セレのポケットからケルディが出て来た。
「はわぁああぁ⁉」
其の瞬間にセレの理性が爆発し、全身の力が抜けたかの様に脱力してしまう。
モフモフを見る事で全ての苦悩から解放されてしまった様だ。
「ま、まま、まさかそんな・・・所に、」
全然気付かなかった。けれども・・・悔いはない。
「ぬ、あざといのだ!因りに因ってセレを狙う等!」
一柱椅子にも座れずひっそり格闘していたハリーが噛み付いて来た。
其でもケルディはあざとくちょこんとセレのポケットに隠れてしまっている。耳が入り切れていないのでバレバレだ。
「あれ、ケルディ君付いて来てたんだね。」
「ウン!ボクも頑張るよ!」
「ぬぅう・・・、」
唸るハリーは正に獣の其だ。急に獣化しない事を祈ろう。
「はぁ~い、御待たせしましたぁ~と。ほい御茶ですよ。」
然うしていると奥からALが盆を持ってやって来た。
其をテーブルに乗せ、不図セレの方を見遣る。
「おや、おやおやおやおや~!」
そして其の複眼の御蔭か一瞬でケルディを見付け、長い手を伸ばして来たのだ。
だが同時にセレも手を伸ばし、ケルディをしっかり抱き上げて胸元迄持って来る。
しっかりホールドされたケルディは縫い包みの様に大人しくしていた。
「・・・・・。」
其から暫し無言の攻防が繰り広げられる事になる。
ケルディへ伸ばされる手を、セレは全力で回避した。
最初は上下左右への移動位だったが、段々激しさを増して行く。
終にはセレは立ち上がり、ケルディを連れての逃走が始まった。
しっかり彼を抱いた儘、走るには手狭な室内を駆けるが、存外ALも素早い。
ALも段々追い掛ける熱が籠って来た様で、急にガバッと白衣を翻した。
すると其処には・・・無数の腕が隠されていた。六対はありそうな長い腕がセレを追い掛ける。
「・・・っ!」
其の光景を波紋で的確に捉えていたセレは思わず息を呑んだ。
如何しよう恐い!人の手が一杯ある!
突然現した正体につい背が震える。前世で培った恐怖心が芽を出す。
恐い恐い恐い!でもモフモフを手放す訳にはっ!
ギュッとケルディを抱くセレだったが、遂には壁際迄追い詰められてしまった。
ALは両手を広げているので逃げ場はない。じりじりと追い詰められてしまう。
「え、えっとALさん!此方にも居るよ!」
背後からのドレミの声に思わずALは首丈を巡らせた。・・・今の内に脇を通りたいが、思ったより隙が無い。
「お、おお!此は此はっ!」
ALはすっかり背後に気を取られ、セレを解放してテーブルに戻って行く。
だがセレも安心は出来ない。彼が向かう先に何があるか見えていたからだ。
「ロ、ローズッ!」
然うだ、見兼ねたドレミがローズを犠牲に召還したのだ。
出て来たローズも、え、え?と言いた気にキョロキョロしている。
ま、不味い、自分の所為でローズ迄も危険に晒されてしまう。
力強く床を蹴り、セレは一気にALの前へ躍り出た。
二人の間に入る様急に現れたのでALも慌ててブレーキを掛ける。
「モ、モフモフは渡さないぞ。」
正面から見ると其の無数の腕は矢張り恐ろしい。
人間、ぽくないがパーツが一寸ずつ似ているのだ。何とも嫌な心地だ。
セレの一寸震え声にALは目を瞬かせた。
「モフモフ?ほぅモフモフと!」
ALは全ての腕を畳んで組んで行った。まるで機械か何かの動きみたいで整って見える。
「もう、他に御客さん居るなら言ってくださいよぅ。モフモフさんは何です?ミルクが良いんですかね?」
―あ、えっと御願いします。―
「ボクもミルクが良い!」
「フフ、、分かりましたよ!じゃあもう少々御待ちを!」
然う言うとALはそそくさとキッチンに戻って行ってしまった。
「・・・・・。」
無言で一同の視線が絡まった。
「えっとセレちゃん、今の何だったの?」
―ねぇドレミ、しれっと僕を犠牲にしたよね?―
「今のはモフモフの熱い攻防戦だ。危ない所だった・・・。」
―危ない所やったんや。―
一体彼女が何と戦っているのか理解し兼ねる一同だった。
「ぬぅ、セレが助ける事も無かったのだ。モ、モフモフは放っても大丈夫なのだ。」
何とかセレの手からケルディを下ろしたいみたいだが、物理的に叩き落す事すらハリーは出来ない。
「一応セレちゃんの勝ちって所なのかな?」
必死でローズから視線を外しつつニコニコとドレミが聞いて来る。
モフモフが理由ならば彼女が奇行に走るのは間々ある事だ。此の程度じゃあ動じない。
「然うだな。中々手強い相手だった。」
―手が一杯やったもんね。あんなの初めて見たわ。十分手足りそうやのに。―
「うむ、良く扱えるのだ。二本丈でも大変なのに・・・。」
ハリーは足も大変だからな。
「其にしても、何だかドレミ達が来る事前提みたいな空気になってるけど、何やらされるんだろうね。」
―彼、誰かと勘違いしとるとかない?だったら申し訳ないんやけど。―
「多分其は大丈夫だろう。次元に然うなる様仕向けられた感があるしな。」
「ウンウン、全て予定調和だから大丈夫だよ!」
只懐には入れたが、何をするのかは確かに気になる。簡単な事だと良いが、複雑な事だと此の次元の知識もさっぱりだから難しいぞ。
まぁでも、モフモフに大丈夫って言われたから大丈夫かな!
「ね、セレちゃん。因みに先研究とかの話出たけれど、然う言う部屋って実際あるのかな。」
「ん、見た所無さそうだがな。案外普通の家の様に見えるぞ。只一ヶ所、床に扉みたいな物が付いている部屋があるが、其の先は流石に分からないな。」
隣の部屋、空き部屋の様だが床に取っ手の様な物が付いているのだ。只の地下シェルターか保存庫かも知れないが、後分からないのは其の下丈だ。
―若しかしたら場所自体移るかも知れないし、未だ分からないね。―
「はーい!皆さん御待たせしましたぁ~。」
そんな話をしているとミルクが入った皿を持ってALが戻って来た。
「わーいありがとー!」
ピョーンとあっさりセレの手から飛び出して、遠慮もなくケルディはミルクを飲み始めた。
其の様をALはニコニコと見詰めている。モフモフは幸せを運ぶのだ。
「さてと、はいじゃあ皆さんビジネスの話をしましょうか。今回は私の仕事の手伝いをしてくれると言う事で有難う御座います!」
全く疑ったりはしてなさそうだ。後はどんな仕事なのかが気になる所だな。
「一応先言ったZN、から私達の事は聞いているのか?」
勿論ZNなんて自分達は知らない。
此で本物の依頼人か何かが来たら恐ろしい事になるんだが、其の辺りも心配だな。
恐らく次元の迫間から直で来たのだから大丈夫な気もするが・・・。
「えぇ想像以上に面白い方達が来たので大歓迎ですけどねぇ!確かに貴方達なら何とかしてくれそうだ。ZNからは行き詰っている私の研究を如何にかしてくれる人達を派遣するって聞きましたよ!其以上は御楽しみにってね!」
ALの複眼が此でもかと許りに輝いている。口も目も良く喋る様だ。
其にはっきり研究と言ったな・・・一体自分達に何をさせるつもりなのだろう。
「成程な、良く分かった。探る様な言い方をして悪かったな。何分、私達も御前の事を余り聞いていなかったからな。」
つまりは、十分自分達でも成り代われると言う事だ。今の内にしっかり内部に入ってしまおう。
其のZNって奴が無責任なのか何なのか良く分からないが、折角のチャンスだ。屹度次元からの思し召しなのだろう。
「クゥ!流石ZN、随分粋な事しますねぇ、良いでしょ!其じゃあ早速皆さんを秘密の研究所へ御案内しましょうか!」
何とも御機嫌な様子でALは立ち上がると戯けた様に一礼した。
如何やら彼はじっとしているのが苦手らしい。くるくるとダンスでも踊るかの様な足取りである一室に向かう。
其処は先目を付けていた・・・例の地下室があるらしき部屋だった。
「さ、さ、開けますよ~行きますよぅ!ALの不思議な楽しい研究所へ!」
然う言ってALは服の下に隠れていた腕を伸ばして扉と思われる把手の付いた板を思いっ切り開いた。
重々しい音を立てて開いた先は無限とも思われる闇が広がっている。
「・・・・・。」
思わずセレの喉が鳴った。
如何して一々研究所ってこんなおどろおどろしい所なんだ。
もう完全にニコニコ医院である。行ったら駄目な気がする。
家も雰囲気も明るいから此処は違うんじゃ、と思ったが何も変わらなかった!
―・・・セレ大丈夫なん?固まっとるけど。―
「だ、大丈夫だ。一寸圧倒されていた丈で。」
「セレちゃん良かったらドレミが先行くよ。大丈夫だから、ね。」
そんな風に優しくされるとじんと来てしまう。
まぁ別に中で襲われるなんて事もないだろう。此処は素直に甘えて、彼女の後に続く事にした。
・・・何方かと言うと最後尾のハリーの御守だ。彼が転けたら雪崩になって大事故になってしまうからな。
「さ、ハリー。私と一緒に降りるぞ。」
「ぬ、う、うむ。一緒に行くのだセレ、助かるのだ。」
セレの申し出には何でも素直に応じるハリーである。
冥い下りの階段が続いているので猶更だ。半ば強引にハリーの手を取り、緩り下りる事にした。
無骨な階段を、硬質な音を立て乍ら一同は緩りと下りて行く。
如何して何処の研究所もこんな、不安を煽る構造をしているのだろうか。
人間は嫌いだけれども、中でも特に研究者丈は本当に苦手だ。
しっかりハリーの手を取って階段を下りた先には・・・、
「ようこそぅ!此処が私のホームですぅ!」
そんな元気で明るいALの声と共にパッと照明が付き、眩む程に室内の隅々迄照らし始めた。
其と同時に床から複数のクラッカーが突然現れ、一気に弾け飛ぶ。更にバルーンも飛び上がり、上からはミラーボールと共に紙吹雪が舞い散った。
何だ此、すっごいチカチカするっ!
敵襲かと思い、すっかり身構えていたが其以上の事はなかった。
只壁に備え付けられていた扇風機に因って落ち掛けていた紙吹雪は又舞い上げられ、永遠と吹雪いている。
「・・・・・。」
皆が呆然と其の様を見ていた。只一人中心で踊るALを除いては。
「さぁあ皆さん!そんな入口で固まってないで!どうぞどうぞ中へ!」
・・・入りたくねぇ。
皆の心が一致し、誰も動けずにいた。
何だ此処、何だ此の異常空間。
研究所ですらない此処は一体・・・。
「わー凄い!とっても綺麗だね!」
そんな無邪気な事を呟いてケルディがセレのポケットから出て来た。
そしててくてくと広場の中心へ向かって行く。
何て命知らずな奴なんだと思った瞬間、ケルディが歩いた傍から床が光り、クラッカーが又鳴らされる。
無駄に高い技術の使い道が此である。何なんだろう、此。
「ま、まぁ行ってみようかな。ね、皆。」
恐る恐る、と言った様子でドレミも足を踏み出すと、先と同じ様に床が光り、クラッカーが鳴り出した。
一々歓迎が煩い。只敵意は無さそうだし、此が此処に入る際の通過儀礼の様なので仕方がない。
続いて一同も通り、同じ洗礼を受けて行くのだった。
「ウンウン皆さん良く来られましたぁー!私嬉しくて、大歓迎ですよぅ!」
「あ、有難うね、ALさん、こんな歓迎してくれて。」
「いえいえ~喜んで頂けたなら本望です。其じゃあどうぞ此方へ!」
然う言ってALは一同を奥へ招いた。
先大々的に歓迎された訳だが、其丈あって研究所である地下は可也広かった。
走り回れる位はあるが、所狭しと色んな器具が置かれ、余り触れては危なそうだ。
上階で見た通りと言うか、此処にある物も見た事も無い物が多く、鎮魂の卒塔婆とは又違った研究所だった。
一同が歩き始めるとミラーボールは輝くのを止め、舞っていた紙吹雪も掃除器の様な物で一気に回収される。
無駄の無い無駄なシステムだ。一体此処は何なのだろう。
研究所と言う抵抗感が薄れる様な、将又別の不信感が芽生える様な、変な心地だ。
其でも奥へ進むと、いよいよと言うかやっとと言うか、研究所らしい風貌にはなって来た。
壁や床はサイケデリックな石竹色やライトグリーンで鮮やかだが、見慣れぬ機器が増えて来たのだ。
相変わらず見た事の無い物許りだ。
知恵の輪みたいな付いては離れる金属、危なげなく鞦韆の様な機器に乗せられた鳥の羽根、一回転する度に絳い電気が走る瓊。
用途も何も分からない不思議な物々が所狭しと並んでいた。
ハリーが触りたそうにしているが何とか止める。其、壊したら直せる自信は全くないんだ、止めて欲しい。
何より床には大量に水精玉が何故か転がされていたので其にも気を付けないといけない。
「何だか楽しそうな所だね!」
ちゃっかりソルの頭に乗っていたケルディが鼻をひくつかせる。
研究所と言うより博物館みたい、見て回るのは楽しそうだ。
―然うやね。何て言うか・・・芸術品みたいな。―
「おぉ!御目が高いですねぇグリスさん!」
ALは終始ニコニコで、少し背を伸ばして皆が付いて来ているか確認した。
「さぁて、じゃあ私の一押しを紹介しましょう。貴方達を呼んだのは他でもない此の為ですからねぇ。」
然う言い彼は研究所の奥に鎮座していた一つの瓊を指差した。
其は、斯う言ってはなんだが他のに比べて地味な様に感じた。
皓い台座に乗せられた其の瓊は鈍色で宙に浮かんでいる。
大きさで言うと握り拳より少し大きい位。そして良く見ると瓊は完璧な球ではなく、例えるなら玻璃玉に鈍色の液体を九分目迄入れた様な、上部が少し曖昧で蠢いている様だった。
「え、こ、此・・・?」
繁々とドレミが近付き見遣るが、釈然としない様だった。
此も例の如く何か分からないのだが、此で呼ばれたと言う点が一番理解出来なかった。
自分も釈然とはしなかった。だって気になるのは此の瓊なんかより・・・、
「そ!完成したのは良いんですけれどねぇ、いざ作動させて様子を見て見たら、何やら動きがおかしいんですよ。其処でZNに相談したら頼りになる方を呼んで来るって言われて、貴方達が来たんですよぅ!」
成程分からん。
此は・・・思ったより難しそうだぞ。自分達で良かったのだろうかと不安になる。
抑依頼があった訳じゃないしな、次元に導かれて此処迄来た丈だ。
其処で改めて考える。此の依頼は自分達に出来るのか、何をすれば良いのだろうか。
―ね、此は一体どんな道具なの?―
目をキラキラさせてローズは何とも嬉しそうだ。見た事も無い物が多過ぎて気になって仕方が無いのだろう。
何気に一番燥いでいる様で色んな物に近付いては匂を嗅いでいる様だった。
「フフ、良くぞ聞いてくださいましたローズさん!何と此は時間を質量へ変換出来る装置なのですよ。」
―時間を・・・質量に?―
今一意味が分からず首を傾げてしまう。
「時間って、目には見えないけれども確かにある物でしょう?昨日は何食べたーとか、来週の予定とか。私も過去に色んな物を創った!だから過去から私は存在した証明もある。」
頷いていると床から突然泡の塊が噴き出し、上階で見た様な椅子になった。
身振りで座る様ALに流されるので従う事にする。
一同が座ると中心にテーブルが迫り出し、又茶の入ったカップが出て来た。
此は・・・話が長くなると言う事だろうか。又しても謎な歓迎用発明品である。
「で、御前が言いたいのは時間と言う存在を証明したいと言う事か?」
考えた事も無いので今一要領を得ないが。
でも、此が自分達を呼んだ原因なのだろう?じゃあ理解しないといけない訳だ。
・・・理解、出来るのか?学はそんなにないぞ。
「然うなんですよ。イデアの構造式とか色々原理やら説明したい事は山盛りですが、今回は其処を省きましょうか。今のでも一杯一杯って感じです物ねぇ?取り敢えず時間が経てば重くなる物だと思ってください。」
いや分かり易いけれども。
頑張って創ったんだろうにそんな説明で良いのだろうか。
「正直言うと説明するの一寸面倒なんですよね。私、創るのが好きなので、出来たら其はもう自由なんですよ。」
「でも其、ドレミ達に如何にか出来るのかな。一体何をすれば良いの?抑どんな状態なのかな。」
「オ、早速本題入ってくれちゃいますか!其がですね。此を動かすと、私の見立てではどんどん質量は増す筈なんですよ。時間は減らない。増えて行く物なのだから!時間に重さを与える此の装置なら、どんどん重くなる筈なんです。」
―時間が其の儘変わるなら、然うなんだろうね。―
「えぇですが、最近私気付いたんです。此の質量が、ある時間から減ってしまっているんですよ。今はこんなに一杯なのに、もう暫くしたら一気に減ってしまうのです。」
「減る?えっとつまりは・・・時間が戻っているのか?」
でも其は其で変じゃないか?本当に時間が戻るなんて事があるならば、抑彼も知覚出来ないだろう。
其に実際周りは如何なっているんだ。戻っているのか?でも戻るのなら其の間何をしても、無かった事になってしまうのか?
・・・う、頭が痛くなりそうだ。考えるのも難しい。
「然う!戻っているんですよ!半日分程。又昊が来て、何事もなく一日が始まってしまうのです!」
「御前は・・・戻らないのか?時間が本当に巻き戻っているのなら御前だって戻ってしまうんじゃないのか?」
そんな記憶丈残るなんて都合の良い事、ないとは思うが。
「・・・えぇ、其が不思議な事に。若しかしたら此を創ったのが何らかの原因っぽいんですけれどね。」
然う言って彼は鈍の瓊を見遣るのだった。
声を一段落とす辺りは神妙さが伝わって来る。
「私は・・・ずっと此の半日に囚われている。だから貴方達の助けが必要だったのですよ。」
ニッコリと彼は微笑んだ。
「貴方達は繰り返している筈の此の世界で私に会いに来た。其丈で十分過ぎる位の可能性を秘めているのですよ。」
彼の複眼全部に、自分達ははっきりと写っていた。
然うか、然う言う事か。
如何して斯うも彼は歓迎してくれるのだろうと思っていたけれども、其で全て納得が行った。
若し本当に此の次元が繰り返し続けているのならば、自分達が来る事なんて有り得ないのだ。
其は彼にとって一つの救いの可能性になる。時間を元に戻せるかも知れないと。
ずっと、と言うのが果たして何位なのか分からないが、彼が世界と言う言葉を使うと言う事は、其丈調べる余地があったのだろう。
然うして、止まっていると、動いていないと知った時間の中で彼は何程待ち続けたのか。
・・・下手したら十分狂っている可能性もあるな。
何故彼丈が例外で済んだのか、其の理由に気付いていると良いが。
次元の主導者だったから、丈では如何やらなさそうだからな。
「え・・・と、時間を繰り返してるって、如何言う事なの?半日って言うのは分かったけれど。その・・・世界ぜーんぶって言い方が正しいのかな・・・全部全部戻っているのかな?」
ドレミなりに何とか理解しようと頭を絞ってくれているみたいである。
確かに其処の摺合せは大切だな。分かっている事が正しいかも分からないし。
「成程、世界の定義は色々ありますしね!私が確認した限りだと、何度電話を掛けても開口一番久し振り!で始まる友人に、毎回同じ朝刊、雲華の動き迄寸分違わぬ天気・・・此等の情報で世界は止まっていると私は判断しましたが・・・。」
ALは何度も頷き乍ら近くを転がしていた水精を何個か手に取った。
「おやおや~然う言えば、私の主観だらけですねぇ、いけません其は!若しかしたら私の触れられる近く丈、時が戻っているのかも知れません!私が過去へ遡り続けているのかも知れません!くぅう、如何して今迄其の発想に至れなかったんでしょう、ムムム・・・。」
「そ、然うなんだ・・・。」
分かり易い説明を求めたらより困難になってしまった。
彼の思考は止まる事を知らずグルグルと回る様で、手にしている水精を何度も回していた。
てっきり遊んでいるのかと思ったが、水精の中に何か刻まれて行く様で複雑な模様が増えて行く。若しかしたら彼が此の次元での文字かも知れない。
「てっきり私は三桁を超えた辺りから、自分は何らかが原因で自殺をして、同じ日を繰り返す責め苦を受けているのかと思ったのですが、其にしては自殺の原因が掴めなくて行き詰まっていたのですよ。だから次は其を調べ直そうかと計画していたのですが。」
ALの複眼が自ら発光しているかの様に輝いた。
そんな目で見られうとつい委縮してしまう自分だが、まぁ其丈、期待されていると言う事なのだろう。
「貴方達が私を連れ出しに来た死神でないのであれば!私は謂れなき死を未だ遂げてはいないと言う事なのでしょう!いやぁー嬉しいですねぇ!」
流石に“残念!死神じゃなくて破壊神でしたー!”何て言ったらドレミから雷を落とされそうだ。
でもさらっと出た情報だが三桁か・・・長いな。此の次元での一日や一年を知らないが、其でも半日を其丈繰り返したら十分だろう。
彼がZNとか言う者に頼んで自分達が来る迄何位経ったか分からないが、彼にとって待ちに待った来訪者と言う訳だ。
―何だか突飛な次元に来ちゃったね。話は分かったけど、如何しよう?―
―然うやねぇ、時間って其こそ神の所業やろ?うちらで如何斯う出来ん気がするわ。―
テレパシー勢がこそこそと相談しているが、実際問題御手上げだろう。
文字通り、何を如何すれば良いのか分からないのだ。
寧ろ時間に関しては自分達よりALに聞いた方がずっと詳しいだろう。
「只、死神でないとするならば、私達は一般人になってしまうな。だからもう少ししっかり話を聞かないと、何が出来るかも分からない所だな。」
―御前が一般人、だと・・・?―
―丗闇さん其処は笑顔でスルーで御願いしますよ。―
言いつつ丗闇の笑顔を想像すると吹き出しそうになったので早々に止めた。
・・・バレてないよな?バレたら多分命毎自分の時を止められてしまう気がする。
「成程、然うですねぇ。と言っても実は私も舞い上がっちゃってぇ~。と言うのも、最初は私の時丈が、戻っていないと思っていたんですよ。」
「ん、其の言い方は・・・他にも然う言う物が何かあったのか?」
「えぇ!試しにこんな風に文字を残してもですねぇ。此は消えなかったんですよ!だから私は最初、私が触れた物は残るのかと思いました。」
然う言って彼は手にしていた水精を器用に幾つもクルクルと回して見せた。
矢張り彼が此の次元での記憶媒体の様だ。
でも其の説、先自らで否定していた様な・・・?
其が本当なら彼が此処で閉じ籠る理由もない。間違いなく別の理由だ。
「でも、其は違ったと言う事なのだな。」
「えぇはい!偶々私は此を外へ持ち出していたんです。色々調べなくてはと思いまして!けれども不思議な事に私、外に出た記憶が一切残ってないんですよ。」
「ぬぬ・・・記憶がないのか?」
少し分かったかと思えば又逆戻り・・・ハリーは何度も首を傾げてしまった。
「私も妙な話とは思ったんですけどねぇ。何度やっても、家に戻った所で気付くんですよ。確かに出ていた筈なのに。其処で私は一つの仮説を立てたのですよ。」
話すのが楽しくて仕方ないと許りに彼の声はだんだんと生き生きとしていた。
後は・・・自分達がちゃんと理解出来るか如何かだ。
「若しかしたら時間が巻き戻っているのは私、個人ではなく、此の家、なのではないかと!」
「えぇ?家が凄いの?」
てっきり次元の主導者の力だと位に考えていたのだろう、ケルディが少し大きな声を上げた。
でも強ち、彼の推理は外れてはいないだろう、自分も・・・見当が付いて来た所だ。
「つい私達は自分と言う物を特別と思うのか、正しく判断材料の一つとして見られないのです。私も非常に勉強になりました。私は偶然観察する事の出来る立場に立てた丈で、何も其処に特別性はなかったのですよ。」
深々と反省する彼は此処何度も繰り返した時間の中で悟った様だった。
「そして・・・はい、私も此の研究所の何処かに問題があると気付きました。でも、其処からが難航しましてねぇ・・・。」
ALは又別の水精を近くの棚から取り出してクルクルと回し始めた。
何か一点を見付け、大きく目が開かれる。
「確かに私は其を発明して幾らか経ってから此の異常事態に気付きました。じゃあ其の次は?原因、根拠、理由、対処、何一つ見えて来なかったのです。でも、そんな日々も徐々に変化が出て来ました。」
―変わっていない筈なのに?変化があったんだ。―
「正に其の通り!でも御蔭で私は一つの答えを見付けられたのですよ。」
普通に話せば良いと思うのだが、彼は其の場をクルクル回ったり、大っぴらに手を挙げたりと中々楽しませてくれた。
「此の研究所も又、特別では無かったのです!少しずつですが、例えば先御招きした上階なんかの殆どは、もう巻き戻ってしまいました。」
大袈裟に悲しんで見せるAL、実際は中々恐ろしい話だと思うのだが、そんな風にされると寧ろ危機感が減ってしまいそうだ。
「だから、皆さんを早く此の地下へ招きたかったのです。巻き戻しに遭ってしまったら、皆さんは兎も角、私も記憶を無くして吃驚してしまうでしょう。不法侵入だってね。」
戯けた様に彼は笑うが、本当に然うならなくて良かった・・・。
恐らく、彼も其の間の記憶が戻ってしまうのだから定かではないだろうが、ALも又、此処を出てしまった儘其の巻き戻しに遭うと、記憶迄すっぱり戻り、同じ半日を繰り返す状態になってしまうのだろう。
今迄何とか戻って来れたのも、時間が戻っていると言う知識があり、戻らされても何とか時間内に戻って来ていたからだろう。
でないと、結局は皆と同じ様に取り込まれ、日常を繰り返す事になる。半日完全に外に居てしまったら、戻って来るのはもう難しいだろう。
何とも恐ろしい話だ。もう然うなってしまったら屹度永遠に繰り返している事に気付けないのだろう。若し此処も安全でなくなれば、自分達は此の会話や思考を同じ時間、同じタイミングで永遠としなければいけなくなるのだ。
其に当人達が気付けないって言うのが一番恐い、助かる見込みもなくなるからな。
―こ、此処は無事なん?下手したら此処も、その、巻き戻ってしまうって事やろ。―
ソルの髪がフヨフヨと小刻みに震える。事の深刻さがじわじわと伝わって来たみたいだ。
「然うですね。でも今の所、此の辺りなら問題ないです。・・・と言っても巻き戻らない場所は徐々に減っていますけれどね。」
「・・・其の中心地が、此処と言う訳か。」
ちらと鈍の瓊へ視線を向ける。
するとALは隠していた手を一気に上に広げて万歳をした。
「然う然うなんですよ!いやー素晴しい!良く分かりましたね!」
「え、セレちゃん如何言う事?」
「正確には其の台座だな。其の御蔭で今迄御前は無事だったんだ。」
台座は上の瓊を目立たせる為か可也シンプルな構造だった。
一見少し装飾をされた丈の大理石の台みたいで、皓さが際立つ。
良く見ると何かを入力する為かボタンの様な物数個と、中心に貝を張り付けた様な細工がされていた。
其の貝の様な細工に、非常に見覚えがあったのだ。
恐らく彼こそが、此の装置の肝・・・其丈の代物だ。
「・・・おやぁ、若しかして此の事、御存じだったりしますか?」
彼が台座のボタンを幾つか押すと、突然鈍の瓊は弾け飛んでしまった。
そして代わりに其の細工が少し浮き、取り外せる様になった。
「此・・・実は天然の物でしたね。此を手に入れたから私は時間の研究を始めたと言っても過言じゃないんです。」
ALは其を取り外すと何度も裏表にひっくり返した。
其の度に其の細工は曦を受け、鈍色に透き通る様に輝く。
「見せて貰っても良いか?」
「えぇ勿論、只貴重品なので気を付けてくださいね。」
然う言い手渡してくれたが、余りの軽さに持っている感覚が無かった。
近くで見ると玻璃で出来ているかの様だ。滑らかな分、其の鋒で怪我をしそうではある。
良く自分の波紋を反射するな、魔力が込められているのだろうか。
・・・?いや、此は・・・、
「綺麗だけど・・・此って一体何なの?」
「其はですね。ある日旻がぐわわって歪んで落ちて来たんですよ。此処の近くでしたし、偶々見ていたので其の儘回収したんです。其で持ち帰ったら色んな器具が狂いまくっちゃって、明らかに其がおかしな物だって分かったんですよ。」
―此、そんな凄い物なんやね。―
ドレミ達が興味津々でセレの手にある其を見遣った。
「・・・っ、」
突然セレの躯がびくつき、思わず細工を取り落としそうになった。
慌てて両手で包み込み、そっと握る。手が手なので強くは持てない。
「わっと!気を付けてね、割れちゃう所だったよ!」
「セレちゃん?大丈夫?何かあった?」
「・・・あ、いや、・・・何でも無い。」
細工をちゃんと持ち直すのを、ALは其の複眼でちらと眺めていた。
「・・・ま、結果其が時間其の物を狂わせているからだって分かりまして。研究対象を変えた次第ですよ。其でやっと此の装置が出来たと思ったら、今度は時間が止まってしまうとは。」
「成程、良く此が時間を狂わせていると分かったな。」
其の特定が一番大変だっただろう。余りにも突飛な話だろうし。
「えぇまぁ。でも先の言い方だと、まさかまさか其の正体、御存じだったりしますか!」
ガバッとALが近付いて来たので思わず下がってしまった。
恐い恐い、両手で逃げられない様囲わないで欲しい。無いが心臓に悪いだろう。
ハリーが何だか鼻をひくつかせているが、若しかしたら勘付いたのかも知れないな。
「一応、知っているが本物を見たのは初めてだ。此はL⊝ ▼▲/と言う、時間を操る力を持った龍の鱗だ。」
「ぬを、だからこんな匂がするのか。合点が行ったのだ。」
「え、龍さんの鱗なの?鱗丈でも凄い力なんだね。」
「はて龍?聞き慣れませんね、済みませんが如何言った存在なのですか?」
ALに見られない様そっと後ろ手で時空の穴からスカウターを取り出した。
普段自分は覚えているから使わないが、斯う言う時は役に立つ。
龍ではあるが・・・彼に話しても良いだろう。知りたいだろうしな。
「可也珍しい生物だ。時間を操ると言った漠然とした力を持っている事が有名で、其許りが先行して他の情報は余りないんだが・・・。」
スカウターのプロジェクト機能を付けると、中空辺りに一頭の像が映し出された。
其の龍の姿は皓銀の蛇の様で、額には長く大きい角、背には鬣の様な物が生え、尾は甲に覆われてか蕾の様に膨らんでいる。
そして長い胴には二本の金の輪が掛けられており、宙に浮いている様に見えた。
「ほぅ!其奴の鱗なのだな!」
興奮し切った様にハリーが像へと手を伸ばす。
矢張り同族、思う所はあるのだろうか。加えて実は彼も三大伝説龍の一頭、ハリー、リーシャンと続いての最後の一頭なのだ。
「なな、何と!こんな生物がいるのですか!何と奇怪な・・・っ、」
驚きの余りか口を開けてALは両手を広げて固まった。
「フーム、まさか生物とは・・・鱗だなんて、そんな不思議な力を持つ者がいるとは。でも一体如何やって干渉を・・・?観測するのも一苦労なのに、ふむむぅ・・・。」
すっかり研究魂に火が付いた様だ。まぁ異次元の存在だから説明が付く処へ落ち込められるかは謎なのだが。
「時間って凄いね。龍さんってそんな事も出来るんだ。」
―属性もさっぱりやね。宙・・・とかやないやろうし。―
然う、彼は、彼にしか操れない時、と言う属性を持っている。
確かに其丈聞いたら最強の能力の様にも見えるだろうが、龍古来見聞録にはそんなとんでも能力ではないとはっきり書かれていた。
曰く、時を少し遅らせたり、進めたり出来る力、巻き戻す能力があるとは書かれていなかったが・・・。
でも余り詳しく話すとALに突っ込まれそうだし、程々にしないと。
抑彼の力で考えたら次元を斯う巻き戻したりは出来ない筈、何方かと言うと次元の主導者を助けてくれた方が近いか。
彼が他の神だとかに会っていなければ未だ此の次元に居るかも知れないが、如何だろうな・・・。
「・・・で、話を戻すが此を中心に、時間は正常に流れていると、然う言う事なんだな。」
「え、あ、はい然うです!いやぁでも納得ですね。そんな不思議な生物の鱗・・・うぅ、実験したくなりますねっ!」
―んー実験は後の方が良いんやないかな・・・その、時間がおかしくなっても恐いし。―
確かに然うだな、時が止まりこそしたら其こそ恐い。
気付けばALは凄い勢いで複数の水精を手の中で回していた。
如何もL⊝ ▼▲/を書き残している様だ・・・終わる迄スカウターを仕舞うのは止めて置こうか。
「でも其の鱗の正体を知ったからって解決はしないよね・・・?其とも其の龍さんが外で何かしているからこんな事になってるのかな?」
「いや、L⊝ ▼▲/には其程の力は無い筈だ。もっと違う事だと思うが・・・。」
抑自分達は其の巻き戻しを体感していないから何とも言えないがな。
「ぬぅ、でも其奴が此の次元の何処かに居るのなら一寸探してみたいのだ。」
「然うだな。彼のモフモフは立派だ。」
途端ハリーの目が少し据わった気がするが気の所為だろう。モフモフに罪はない。
「ネーネ、セレは其の龍の事詳しくないの?もっと何か知らないかな?」
「んん、難しいな。元々自由気儘な気質だ。けれども悪さをするとか然う言う話は一切無かったんだ。だから此の龍から探りを入れるのも難しいと思うが・・・。」
「良し・・・と、はい描けましたよ!有難う御座います!」
ALは満足そうに水精を回し続けているが、一体彼には如何見えるのだろうか。
本とか紙の代わりなのだろうが、彼は何かを記しては其を放って行く。
球だから転がって行って邪魔なんじゃないかと思うけれども、彼は歩き乍らひょいひょいと水精を拾っては回して行く。
彼等の種族にとっては此が効率的みたいだ。
「・・・で、状況は大体分かったが、具体的に御前は如何したいんだ?其の鱗の正体が分かって満足、とは行かないだろう。」
「然うですね。割かし満足してるとも言えるんですが・・・次なる研究対象も見付かって。只でも然うも言っていられません。私の時迄戻り始めたら一種の終焉ですよぅ。」
「然うだな、時間を戻さないといけないだろうな。」
矢張り其の道を探るしかないか・・・此は中々骨が折れそうだぞ。
「でも如何したら良いかな・・・ね、ALさんは如何かな。何か思い当たる事って無いかな?」
鱗の力の御蔭で助かっているのなら思ったより時間は無いかも知れない。
此に込められた魔力が尽きれば・・・終わりだろう。
一応然うならないよう魔力を込めて置いても良いが、其でちゃんと動作するかも分からないし、有限と思っていた方が良いだろう。
「んんー然うですねぇ・・・私の自分の研究許りしていたから外の事は今一だったりするんですよ。」
唸り乍らALは棚からもどんどん水精を取り出し始めた。彼も記憶を手当たり次第見て行っている様だ。
―勿論、先の龍は見た事無いんよね?―
「無いですねぇ、抑手足が無いだなんて・・・おぉう、」
「うむぅ、昔話とか、御伽噺でもないのかのう。しれっと紛れていたりする物だが。」
「んんーん!全く分かりません!」
「何か最近・・・巻き戻る前に怪しい奴を見たとか、何か起きたとかも無いか?大分前の記憶になるかも知れないが。」
「無かったとは思いますね。」
中々取っ掛かりに出会わない。難航の色が見て取れた。
此処迄情報が無いと、制限もある中動き難いし如何しようか。
「変な研究所とかって・・・まぁ此処以外ないか。」
「あっ!ありますよ近くに研究所。時間の研究をしてるんですよ!」
「其処じゃん⁉」
全員の声が見事に揃った瞬間だった。
いや、次元其の物が時間毎巻き戻っているのなら、まぁ近所とは限らないよなぁと思いつつの探りだったのに。
いやもう何て言うか・・・まさかあるとは思っていなかったからその、何て反応して良いのか分からない。
と言うよりそんな明らかに怪しい所があったのなら、彼は今迄何をしていたのだろうか。そんなあっさりありますよって言える辺りも凄い。
「おぉ、皆さん元気ですねぇ。」
「いや然うじゃなくて、その・・・其処には行ってみたのか?」
「ん、いえ、そんな簡単に入れる所ではないですからね。向こうも同じ実験を繰り返しているのかと思ったら、何とも可哀相で・・・。」
心配するのは其処じゃない。
何だろう・・・此ははっきり言ってあげる可きか悩む所だ。
でもまぁ勿論違う可能性もあるからな、もう一寸良く聞いてから判断しよう。
「因みに其処の研究所とは如何だ。何か関係があったりとか、繋がりとか・・・何かあったりしないのか?」
「然うですねぇ、良くはして貰ってますよ。えぇまぁ斯うなってからは勿論会えていませんが、前は度々私の研究所へ来てくれていたんですよ!」
ニコッとはにかむ彼に他意は無さそうだった。・・・うーん、
「来てくれたのは御手伝いとか?」
「何方かと言うと、私の研究が見たいって事で、何を創ったのかとか、論文を見せて欲しいと良く来られて、交流があったのですよ。向こうの研究も、其を元に色々していたみたいで。」
「其は・・・盗用、とか言う奴になるんじゃないのか?」
何だか聞いている丈だと、ALが良い様に使われているとしか思えなかった。
まぁ次元毎のルールとかもあるだろうし、研究なんてのは自分は全く詳しくはないけれどもな。
「んん、然うですか?でも向こうは私の研究を応用したりしているのであってパクっている訳じゃあないですよ。向こうは施設も大きくて立派ですからね!私のアイデアからヒントを得ているんでしょう。」
「そ、其でも良いのか御前はっ、」
其完全に盗作だろう!
違うのか?いやでも聞き出してそんな・・・金の力に言わせると言うか、ありなのか其は。
「良いも何も、新しい事が分かるのは良い事じゃないですか!私は知りたい事が知れたら十分ですからね。いや仲良くさせて貰ってますよ。」
な、何か納得が行かないが・・・本人が良いと言っているのなら口を挟む可きではないんだろうな。納得は行かないけど。
「まぁ分かった。因みに其処が最近何かしたとか、研究してる、とかは聞いてるか?」
「えぇ覚えていますよ。私が丁度此を創った時、是非見てみたいと言われたので、此処に招いたんですよ。色々話をして、大変満足しちゃって帰られましたよ。」
「・・・其って時間が巻き戻り始めた何日前の事だ?」
「んー・・・4、5日、位でしたかねぇ。新しい研究を始めた許りみたいで、頑張っているなぁと思った矢先だったので。」
「・・・・・。」
絶対何かしてるじゃん。
もう一回言おう、絶対何かしてるよ其処!
え、見付けてくださいって言ってる様な物じゃん!
明らか過ぎて最早罠にも見えなくもないが、其処で解決出来るかも知れないと言うのは大きな希望だ。
其だったら未だ理解出来る。自分達が此の次元に来た意味を、為可き事を。
行くのが又別の研究所と言うのは切ないが、覚悟は決めないといけないかもな・・・。
「因みにAL、御前は向こうの研究所に入れるのか?」
「其が、部外者なので無理ですね。色んな実験とかもしているので危ないですしね。」
「入れないのか・・・其は一寸面倒だが。」
其にしても利用され過ぎじゃないのか?何だかなぁ・・・。
「うん、セレちゃんの言いたい事は分かるよ。其ならドレミも手伝えそう!」
「我の力も役立つのだ。」
「ボクも!隠れるのは得意だよ!」
「??皆さん如何したんですか?・・・まさか何か分かったのですか!」
逆に何で自分は分からないんだ、と心の中丈で言って置こう。
ALは複眼を目一杯に大きく広げるので、手にしていた水精も相俟ってより輝いて見えた。
「只の予測でしかないが、恐らく其の研究所に何か問題があるだろう。何とか中に入りたい物だな。」
「え・・・えぇ⁉な、何故然う思うんですか!時間の巻き戻りと研究所に何の関係が⁉」
―うーん、確かに予測でしかないけどね。僕も行くのは賛成だよ。―
―然うやね、他に手掛かり無いんやから良いと思うで。―
「最悪時間は巻き戻っているんだろう?だったら猶の事動き易いな。」
「・・・何だか犯罪やってる時のセレちゃん生き生きしてるね。」
「然う褒められると照れてしまうな。」
「照れるセレちゃんは見てみたいけど其処は照れちゃ駄目だよ!」
然う言いつつ反対意見は一つも出ないのだから、肝が座っていると言うか何と言うか。
「然う言う事だからAL、其の研究所へ案内してくれ。様子を見てから作戦を立てたいからな。」
「えっとあの・・・皆さん改めて聞きますけど、如何するつもりなんですか?」
「如何するって、其の儘だ。研究所に侵入して、中を物色し、今回の件と関係がありそうな物を見付けたら、盗むなり破壊なりをして万事解決と言う訳だ。」
「何で然う説明が露骨なのセレちゃん・・・。」
―わ、分かり易いけどね。―
下手に隠す方が信用を失うだろう。此処ははっきり言わないとな。
「な、何て野蛮な!ZNは何で貴方達を呼んだんですか本当に!」
おかしいな、信用が減った気がするぞ。
抑ZNなんて自分達は知らないし、最初から信用も無いのかも知れないけれども。
「で、でも考え方に因っては・・・私の考えもしなかった方法な訳で・・・う、うぬぅ、」
何だか酷く悩んでらっしゃる様だ。どうせ選択肢なんて物は無いのだから諦めれば良いのに。
時間が戻るだなんて最高だ。何でも出来るじゃないか!
「・・・分かりました。先は失礼な事を言ってしまい済みません。先方には悪いですが、其の方法を試してみましょうか。」
遂に諦めた様にALは息を付いた。彼にもしっかり覚悟を決めて貰いたいな。
「其でも、一先ず交渉位はさせてくださいね。私良くして貰っているので・・・時間の為とは言え、そんな暴力的な事は、」
「ま、良いんじゃないのか?試してみて、駄目だったら直ぐ潜入するからな。」
潜入する気しかないんだろうなぁ。
一同はそんな未来を想起するのだった。恐らく其位の手段を取らないと、何の道無理な気もする。
「でもその・・・潜入ってのは皆さん如何するつもりですか?」
「噫、出来れば研究に詳しい御前にも同行して貰いたいが、大丈夫か?」
壊せば良い丈なら楽だが、壊した所で人が居れば又創れてしまう。
かと言って皆殺しは流石に怒られるだろうし、次元の主導者であり、研究者でもある彼も同行してくれれば今後の被害は防げるだろう。
彼を護衛しつつと言うのは難しいが、向こうで研究員を脅して聞き出すよりは良いだろう。
「・・・っ、然うですよね。頼んだのは私です。分かりました、其の時は一緒に行きます。」
「良し、然うと決まれば・・・行くのは時間が一度戻ってからか?」
「後数分で戻りますからね、はい然うしましょう。」
ALは落ち着く為か茶を一気飲みし、大きく息を付いた。
屹度こんな荒事、人生で然う体験して来なかったのだろう。貴重な経験だな。
「だったら、若し時間があれば少しでも其の研究所を見せて貰えるか?外見丈でも良い、少しでも情報が欲しい。」
「然うだねセレちゃん、見て置くのは大事だと思うよ。」
「見る丈だったら・・・じゃあどうぞ此方へ。」
ALは鈍の瓊を起動し直すと、階段を上って地上へ戻って行った。
此処を出ると・・・時間が戻る可能性も出て来るのか。
分かると少し丈恐くなるな。こんな所で取り込まれたくはない。
「さ、ほら直ぐ其処に見えますよ!」
一同が上がり切るのを見て、ALは部屋の窓を指差した。
「ん・・・成程な。」
窓丈だと波紋が頼りな自分には今一見えない。窓に近付いて、そっと少し丈開けてみた。
軽く押し、出来た隙間から波紋を投じる。
外には建物が殆どなく、彼が言っているのであろう物が直ぐ分かった。
土の壁に囲まれた、正に洞窟と言った体だ。彼の研究所も地下にあるみたいだな。
外観は何とも武骨で、窓だとかはなく、剥き出しの土壁に金属の板が所々覗いている。
入口は・・・正面、のみみたいだ。何やら電子音を立てている扉でがっちりと塞がれている。
窓も無いとなると如何やって入ろうか。一寸悩ましい所だな。
セキュリティも其処其処あるみたいだし、緊急用の出入り口とかは無いのだろうか。
「此は中々、面倒そうだな。」
「でしょう!止めた方が良いですよぅ。」
「まぁ待て、私はプロだからあんなのでも楽勝だ。佳麗に侵入してみせよう。」
「うむ、流石セレなのだ!」
―危ない事はしちゃ駄目だからね?―
―まぁセレなら、出来然うやね。―
「皆さんが慣れ切ってる感じなのが気になるんですが。」
とことん平和主義らしいALは心配そうに研究所を見遣っていた。
・・・扉がきっちり閉まっている所為か、波紋でも此以上は分からないな。
斯うなっては実際に確かめるしかなさ然うだ。
「あ、では皆さん、一度戻りましょう。そろそろ時間が戻ってしまいます。」
ALに連れられ、一同は又地下の研究所へ戻った。
外は明るかったが、成程。本当に半日で戻ってしまう様だ。
「何だか変な感じだね。時間が戻るってどんな感じ何だろう・・・。」
「おや、然う言えば皆さんが此処に来る迄はどんな感じだったんです?如何やって来たのかも謎ですが。」
思わず息が詰まる、其を聞かれるのが厄介だったんだ。
自分達は彼の持つ様な鱗はない、異次元から来たとも言えないし、如何すれば。
変に間を持たせるのもいけないが、考えも纏まらない。良い着地点を考えないと、
―えっと、僕達時間が戻っている事も知らなかったから、はっきりとはしないけれど。今日は何だか早く行きたくって、走って出て来たんだけど、其が良かったのかな~とか。―
何とも苦しい言訳を彼は試みた。
正直説も余り良く分からないが・・・ALは暫し悩んでいる様だった。
「若しかしたら思考の揺らぎがあるとか・・・?基本は予定調和だけれども、少しのずれで軽い思考位変わるとか。・・・面白い!然う言うパターンもある訳ですか!今日は一寸走ろうかなとか、そんな考え一つで世界は変わる可能性があると言うのですか!」
何だか彼のハートに火が付いたらしく、狂った様に彼は水精を又床から拾い上げて行った。
ま、まぁ信じてくれたなら良かった。彼は基本、疑う事を知らない様だな。
「むぅう・・・成程、自然法則は変わらずとも電気信号は・・・むむ、其だと此の仮説が、おぉ!何とも不思議!新たな可能性ですねぇ!」
―そ、然うだね。新たな可能性だね。―
適当な事を言って話を繋ぐローズ、彼も中々のやり手である。
「うぅっ!もう一寸考えたいですが、今は大事な御客様が居ますからね。後に致しましょう!良い事が聞けました、有難う御座います!」
余り考えてくれなくて本当良かった。
・・・まぁ若しかしたら考えた上で其は些細な問題だと片付けられたのかも知れないが。
考えないと言いつつも彼はどんどん水精を床から拾い上げては何かを刻んで放って行った。
彼が読めれば未だ分かるんだが・・・仕方ないな。
「さーて、そろそろ時間ですねぇ。」
ALがちらと鈍の瓊を見遣る。
複眼の所為で瞳一杯に其は映った。只浮かぶ其に、彼はそっと笑みを返した。
「・・・あれ、セレちゃん如何したの?」
何やら彼女が頭を押さえて首を振ったので少し気になった。
「ん、外の景色を見ていたんだが・・・何とも言えないな。言えているのに見えないと言うか。」
不思議な感覚だ。波紋がぶっつり途切れていると言うか。
今正に上では時間が巻き戻っているのだろうか。何度波紋を送っても帰って来ないのだ。
上と言うより正確には・・・此の鈍色の瓊を中心に数mの所迄しか見えない。
自分が波紋でしか見えないからだろうか。皆には一体如何見えているのだろうか。
「セレちゃん見えないの?大丈夫かな?」
「噫見えないのは外だとかだ。只、然うだな。ドレミ、向こうの先ミラーボールとか見えていた所は如何見えるんだ?」
「え?何も変わらないけれど、其の距離も見えなくなっちゃったの?」
成程、視覚情報でこんなに変わるのか。見る手段と言うのが違うとこんな差が出るんだな。
―ね、ね。此急に動き出したけれど、如何したの?―
ローズが鼻先を鈍の瓊にぶつける。
瓊は大きく形を変え始めていた。一気に形を崩し、棘を生やしたり分裂したりし始めたのだ。
先迄はこんな激しい動きしなかったのに、確かに時間と関係があるみたいだな。
「ぬを、急に元気になったのだ・・・不思議なのだ。」
「然う。其が正に私の困り事でしてねぇ・・・。」
鈍の其は螺旋を描いたかと思うと一気に小さくなって行った。
そして爪位のサイズとなり、落ち着いたのか動かなくなった。
「・・・終わりましたね。と言う事で改めまして皆さん!新たな同じ一日へようこそ!」
ALが複数の手で叩くとゆらりと鈍の瓊は揺れた。
瓊は少しずつ大きくなっている様だ。・・・成程、斯うやって時間を計っているのか。
―ん~実感沸かないけど、もう巻き戻ったん?―
「えぇ、自覚なかったでしょうが戻っていますよ。皆さんだったら・・・陽を見たら一発かな。さ、時間も惜しいですし、早く上へ行きましょう。」
随分と彼はあっさりしているが、こんな事を繰り返し続けていたのかと思うと正気を疑うな。
一応波紋はもう正常に戻っている。ちゃんと外の景色も見える様になった。
先そっと窓を開けた儘にしていた訳だが・・・元の景色を知らないので判別が難しいな。
陽と言われても・・・自分は元々ちゃんと見えない訳だしな、ううん・・・。ある意味、窓自体が自動で閉まってしまったので其処から戻ったと取れなくはないが。
兎にも角にも一同は又上階へと戻って行った。
一見殆ど変化はないように思うが、皆如何だろうか。椅子が動いているとかの間違い探しレベルかもな。
―あ、陽の色が変わっとるね。先迄橙色やったのに今翠色やわ。―
「成程、そんな変化があったのか。」
色は・・・分からなかったな。然う言う変化もあるのか。
「フフ、面白い言い方しますねぇ。ま、昊になったって事ですよ。ね、此なら一寸は信じられるでしょ?」
「ウン!然うだね。気付いたら昊になっちゃった。」
「然うなんですよぅ、だから私も理解する迄大分掛かりました。最初は陽が接近したりして変わったのかと・・・天変地異かと思って驚きましたが、まさか世界其の物が変わるとはね。」
言いつつALは準備の為か色んな部屋を行き来し始めた。
研究所は・・・変化がなさそうだ。
待っている間に自分はしっかりとフードを被った。手足もしっかり点検する。
うん、腐る事はないだろう。一時だがしっかり気を付けないとな。
今から行くのは・・・敵の根城かも知れないんだし。
「ね、セレちゃん。行くのは皆が一緒の方が良いのかな?ぞろぞろしちゃうよね。」
「うむ、逆に多いと怪しまれる気もするのだ。」
「然うだな。最初はAL丈で良いんじゃないか?入って良かったら私達も入れて貰うと言う事で。」
「だね!どうせ怪しいからボク達正面から入れないだろうしね!」
「も、もう~皆さん冗談きついですよぅ。」
準備を終えたのかALが戻って来た。
手ぶらそうではあるが、彼の手である。服の中に何か仕込んでいるかもな。
「さぁて、じゃあ行ってみましょうか。私も何回も繰り返した今日ですが、初めての事にワクワクしてますからね!」
ALはそそくさと扉を開けると躊躇なく研究所へと向かう。
「⁉お、おい偉く元気良く行くな。」
当たり前の様に出て行ったので慌てて追い掛けた。
何だ、消極的なのかと思ったら行動的過ぎてビビってしまった。
慌てて出たけれども・・・焼けないな、良し大丈夫だ。
―ちょっALさん何か計画とかあるん?勢い丈じゃあ!―
皆もバタバタと家を飛び出した。鍵も掛けない辺り彼の自由さも凄い。
・・・あ、然うか。然う言えば時間が戻っているから・・・だから彼はこんな大胆なのだろうか。
もう恐い物は無いと言うか、彼にとって身近で起こる事は大体体験し尽くしてしまっているのかも知れない。
其は何とも心強いと言うか、中々恐ろしい物でもあるな。
「え?只の御近所ですよ大丈夫です!あ、皆さんは一度下がられるんですよね?じゃ私一寸行って来ますね!」
本当に一切の躊躇もなくALは研究所の門を潜ってしまう。
「・・・・・。」
「?セレは行かぬのか?」
一番に出たものの、其以上足を動かさないセレにハリーは首を傾げた。
「・・・済まないが先に行っていてくれるか?一寸用事がある。」
言うや否やセレは又ALの家に引っ込んでしまった。
「ぬ、ぬ⁉う、うむ分かったのだ。」
何も分かってはいないがハリーは見送る事にした。
何の道、ALが交渉している間は待たないといけないのだ。問題はないだろう。
「あれ、セレちゃん?何だろ、外に出ちゃうから準備とかかな?」
一瞬出ていたと思うけれど、まぁ気にする程の事も無いのかな。
其よりALの事を見て置かないと。彼は気楽そうに行ったけれども・・・。
研究所の塀で一同は其の儘待ってみる事にした。
窓から見た通り、何とも武骨な造りで、明らかに怪しさが満ちている。
偏見は駄目だろうけれど、此処で悪い事研究してるよって言われたら素直に信じそうだ。
セレは研究所とか然う言うの苦手だって言っていたけれど、確かに自分も苦手かも・・・。
一応ALに危害は加えられていないか少しずつ様子を見てみる。
ALが入口のスイッチやらを押すと、中からALに似た長身の女性が出て来た。
彼の姿は此の次元では一般的なのだろう。複眼に、黄のフード付きの寛とした衣装を纏っていたが、恐らく中に腕が複数仕舞われているのだろう。
ALは自分達を見ても何も言わなかったけれど、珍しいと言うか、存在しない種なのかも知れない。
其を思うと彼がすんなり自分達を受け入れたのは中々の事だと思うけれど・・・ローズやケルディとか、テレパシーで喋るグリスも居たんだけどね。
彼の大らかさは凄いけれど、其も含めて何だか心配になっちゃうね・・・。
声迄は聞えないが、ALと其の女性は何やら話し込んでいる様だった。
ALは相変わらず身振り手振りが大きく、にこやかに話している様である。対する研究員も手を叩いたり何か呟いてはいる様だが、足が動く様子はなかった。
暫く彼等が話し込んでいるとセレが戻って来た。
何とも心配そうにパタパタとオーバーコートを上から叩いている。矢っ張り陽の事が心配だったのだろう。
色も違うから何処迄照っているのかとか分からないもんね。
―あ、御帰りやでセレ。―
「噫待たせたな。様子は如何だ?」
「ウン、何だか難しそうだね。ずっと話してるよ。」
「世間話ではないだろうが、ALも何とか交渉しているだろうな。失敗したら強硬手段だしな、ククッ。」
「だね、其を全力で止めようとしているんだろうけど・・・。」
ちらと見てみたが未だ入れて貰えていない。此は穏便には行かなさそうだ。
―余りしつこいと其は其で困るかもね・・・。―
「だな、変に勘繰られたくないし、そろそろ引き上げて欲しい所だが・・・。」
何の道今は扉が開いているのでそっと波紋を投じてみる事にした。
中は・・・完全に洞窟だな。ALの所みたいに壁に色んな物を貼ったりして何ともカラフルだ。
大まかな形丈でも分かれば・・・侵入は出来る筈。今の内にしっかり見るんだ。
只波紋でも万能ではない。研究所内部は扉が幾つかあるみたいで何度も防がれてしまう。
配管等でもう少し見えるか・・・?此の地理、頭に叩き込めるのか?
此処、見た目よりずっと大きいぞ。地表に出ているのは正に氷山の一角だ。
其に研究員も多い、皆ALみたいな姿をした人だ。色々と謎の機器を操作したり、水精をクルクル回している。
・・・いや良く見ると床にも水精が幾らか転がっているな。もう御家芸みたいだ。AL丈の特徴じゃない様だ。
自分が見た丈では何がどんな機械だとかも分からないので何とも言えないが、見えている限り怪しい物は無さそうだ。
扉の先、もっと見えない奥になら何かあるだろうか・・・。
うぅ、此頭使うな、結構疲れる。
侵入出来れば如何にかなると思ったが、此の様子だと厳しいな。
「うぅ・・・皆さん駄目でしたぁ。」
暫くしてトボトボとALが戻って来た。
何やら手には菓子折りがある。此で手を引けと言われたのだろうか。
「矢っ張り入れて貰えなかったか。」
「はい、今研究している物が出来たら持って来てくれると約束してくれましたが、流石に半日では無理でしょうね。」
「其じゃあ入るしかないな、ALも其で良いな。」
「・・・っ、行きましょう。一応聞いてはみたのですが、向こうは今、時間の逆行性について調べている然うです。だから・・・強ち皆さんの推理は外れてないのかも知れません。」
ALも何やら引っ掛かる物が出て来た様だ。
折角やる気になってくれているので、此の機にやらない手はないな。
「良し、じゃあ場所を移そう。皆付いて来てくれるか?」
波紋で得た情報を頼りに先目星を付けた所へ向かう。
其処は研究所から少し離れた、一見只の空き地の様だった。
「こんな所に若しかして入口があるの?」
「噫配管が通っている。恐らく空気の通り道だ。それなりに大きいから此処なら入れると思う。」
「はわーセレさん!一体何時の間に調べ上げたんですか?」
ALは目を丸くしたが、確かに空き地に小さな格子の付いた筒の様な物がある。
此、其の儘置いているのは中々不用心な気もするが、まぁ然う言った争いのない次元なのかも知れないな。
「プロだと言っただろう。此位御茶の子さいさいだ。」
一寸見栄を張って置こう、波紋を放つのも少し疲れたしな。
「頑張ったねセレちゃん。じゃあ後は此の入口を壊して中に入る丈だね。」
「噫、一応後大まかだが地図も分かった。・・・と、地面に書くか。」
テレパシーでも良いが一応ALが居るからな。
ソル達のテレパシーを何気当たり前の顔して聞いているけれども、流石に図面が行き成り頭に浮かんでは驚くだろう。
晒越しに爪で地面に簡単に地図を書いて行く。
頭のイメージを其の儘に・・・中々頭を使うな。
多少大きさにずれ等が出て来ているだろうが、此位は許してくれるだろう。立体を平面にするのは難しい。
―はわー、流石セレやね、こんな事も分かるん?―
「セレなら当然なのだ。もう目星も付いているし、恐らく敵の配置も完璧なのだ。」
御免、自分そんなハイテクじゃない。
心の中で謝り乍ら何とか地図は書けた。・・・うん、我乍ら上出来だろう。
「結構大きい感じだね。此の下が斯うなってるんだ・・・。」
「ほぅ!成程、流石ですねぇ大きいです!」
「見えたと言っても一部だからな。未だ分からない部分は沢山あるだろうし、其の中に目当ての物があるかもな」
―此、因みに僕達は今から何処に入るの?―
「然うだな。此の位置になるから・・・私としては出来れば二手に分かれたいんだ。」
ある通路の中心を指差す。
丁度二方向には分かれている。別行動は取り易いが。
「え?二手に?確かに効率は良いだろうだろうけれど、大丈夫かなセレちゃん。」
「恐らく此処から入った所で直ぐばれるだろう。だから陽動とかで別れようかと思ったんだ。」
「えぇ⁉そんな大事起こしちゃう気だったんですか!」
「うーん、でもボクも其が良いと思うな。セレが暴れてくれるんでしょ?」
「噫、私が適当に動いて、其の間AL達が探してくれたら良いとは思わないか?」
抑こんな大人数でぞろぞろ動くのは厳しいだろう。だったらさっさと別れて動いた方が良い。
ケルディに指名はされたけれどもまぁ、自分は陽動側だろう。今から此処も派手に壊すしな。
「然う・・・だね、セレちゃんに其の役頼むのは悪いけど。」
―大丈夫だよ僕も手伝うよ。僕も其方側するよ。―
「うむ!我も行くのだ。我の幻覚なら可也目立つのだ。」
「ドレミやソルはALと居た方が良いだろう。ソルは耳も良いし、早目に隠れたりとか出来るだろう。」
―う、うちも頑張るわ!―
グッと両手を握ってソルも頷いた。・・・うん、やる気は十分だ。
「うぬぬ・・・もう!如何にでもなれですね、私もやりますよぅ!」
ALは早速書いた地図を自らの水精に書き込み始めた。
正直作戦と言ってもALの手に掛かっているんだ。
ALが十分に探索し、何か見付けるか、完全な白かを見てくれないと話にならない。
此処を壊した所で時間が戻るとも限らないしな。
ALが言う通り、此処が完全に白だったらとんだとばっちりだが、其の時は時間を巻き戻してなかった事にさせて貰おう。
・・・自分としては是非とも此処で何か見付けて欲しいんだがな。
「其じゃあチーム分けはそんな所で。ドレミ達は出来れば此の辺りを見て欲しい。此の先は私でも分からなかったんだ。今分かっている所じゃあ怪しい所も無かったしな。」
「分からないって事は扉とかがあったのかな?」
「噫、密閉されているから其から先は一切不明だな。」
―ALさんが頼りやね、屹度何か見付けてな!―
「分かりました!頑張ります!」
しっかり水精に書き残せた様で、ALは大きく頷いた。
・・・良し、彼の決意が揺らがない様に始めよう。
「脱出は可能であれば入口から出たいが、調べて他に見付かったら連絡する。一先ず其で行こうか。」
「良いね!突撃って感じで!」
ケルディが応援する様に両手を叩く。
か、可愛い。何てあざと可愛いんだ・・・。
モフりたくなるがぐっと堪える。自分にはやる事があるんだ。
―えっとじゃあ侵入は・・・セレが開けてくれるん?―
「噫、開けたら直ぐ飛び込んで別れるぞ。」
配管と言っても格子は堅いし、一柱ずつ潜るのも大変だろう。
だから・・・一寸大胆に行くぞ。
一度大きく息を吸う・・・胸の奥が凍える様な、塊を自覚して。
セレがブレスを吐き出すと、あっさり配管は潰れて大きな穴が開いた。
我乍ら見事な出来だ。ちゃんと下迄貫通している。
「ちょおぉ⁉セレさん何したんですか!」
「すっかり十八番になってるけど・・・一応注意はしようねセレちゃん。」
「流石セレなのだ。此は何ともス、スマートな潜入なのだ。」
「褒めても何も出ないぞ。さ、皆行くぞ。」
早速中へ飛び込んでみる。高さはあるが此位なら皆大丈夫だろう。
波紋で先に見ていたが研究員も近くに居なかった。殆ど音もしなかったし、大丈夫だろう。
後恐いのは警報の類だが・・・静かだな、バレて無さそうだ。
「大丈夫セレちゃん!・・・わぁあ、変わった所だね。」
続いて来たドレミが一声上げた。
屹度壁一面に張られている様々なパーツが気になるのだろう。
土壁、なんだろうが見慣れない金属片や機器、水精等が所狭しと埋め込まれている。
床の隅にも水精玉が幾つか転がしてあった。多少様相は違えどALの研究所と似ているな。
此の次元の住人は何とも面白い建築技術を持っているのだろう。・・・巧辺りが喜びそうだなぁ。
でも悠長に眺めている暇もない、早く行動しないと。
「は、入ってしまった・・・うぅ、行くしかないんですね。」
―うわー凄い!此処も面白い所だね。―
―迷子になり然うやね、気を付けないと。―
一応皆無事に入って来れた様だ。
「じゃあセレちゃん、ドレミ達行くね!」
「噫、何かあったら直ぐテレパシーをくれ。」
―セレも皆も気を付けて!―
「うむ、我がしっかりセレを護るのだ。」
銘々に挨拶を交わし、ドレミとソル、ALは通路を進んで行った。
心配そうな顔色だったが、しっかりとALは頷いてくれたので屹度大丈夫だろう。
―じゃあボク達は暴れるんだよね!―
「まぁ白かも知れないし、程々にと言いたい所だが・・・っ、」
頭に乗ったケルディをモフろうと手を伸ばした所で躯が硬直した。
何か・・・変だ。何か、違和感と言うか。
「ぬ、セレ本当に大丈夫なのか?何やら先から顔色が悪い気がするのだ。」
気遣わし気にハリーが寄るが、手が動かない、冷汗が滲む。
此の感じ、えっと・・・倭の所で感じたのと似ている気がする。
腹の底から凍える様な、冷汗許り掻いて動けなくなるのは。
で、でも彼の時は存在が保てていないとかだった訳で、今は全くそんな事無い筈なのに、
こんな、今から大事って時に何してるんだ自分。
何度も何度も頭の中で声が散らばる。
「あ・・・ハッ・・・っ、」
何とか声を絞り出そうとした所で違和感が正体を現した。
自分の手足が膨張する様な、血が一気に流れて甲がざわざわと波打つ。
巻いていた晒を裂き、蠢く手足が現れる。
其を見る迄もなく、頸が伸びて視点が高くなって行く。少しずつ皮膚が黔く変色し、甲と毛が生え揃って行く。
面も細長く伸びて、目の位置ですら変わって行く。
牙も音を立てて伸び、尖った口は四つに裂けた。
消していた尾も翼も何時の間にか生えている。そんな翼も捻じ曲がって、八翼もあったのが無理矢理混ざって一対に変化して行く。
頭が痛んだと思うと大きな捩じれた角が二本生えて来た。
な・・・何だ此、此は・・・夢なのか?
思考が追い付く間もなく、変化は続いて行く。
粗方変わったと思ったが、終には躯自体も大きくなり始めた。
元から二倍程大きくなった所で服が裂けてしまう。だがもう其の下の肌は皓くはなく、全身黔の毛と甲で覆われていた。
「グ、ギュルルルウォ。」
何とか出せた声はそんな、最早声とは呼べない濁った化物の物で。
すっかり自分は黔い化物に成り代わって仕舞っていた。
理解出来ずに固まるしかない、辛うじてオーバーコートは変化の途中で脱げたらしく、背に乗っかってはいた。
だがもう自分は四肢でしか安定しない、完全に巨大な蜥蜴か何かの化物になってしまっていた。
「グ、ギャリオン、グギャ。」
何とか言葉を紡ごうとしてもそんな鳴き声しか出せない。口の構造が変わってしまったので喋れないのだ。
信じられずに手を動かすが、ちゃんと化物の腕は動いた。カツカツと床を擦る音は間違いなく自分が立てている音だ。
波紋は変わらず使えるが、何度見ても同じ。先迄の俤なんて一つも無い。
・・・何が起きたんだ?
理解が一切追い付かないが、其は周りに居たハリー達も同じだった。
皆口を開いて固まってしまっている。時間が止まってしまった様だ。
「えっとぉ・・・セレ、なの?」
遠慮勝ちに口を開いたのはケルディだった。
早々にセレの頭から避難はしていた様で、今はローズの背に乗っている。
「ギャウル、・・・ガル。」
だ、駄目だ。喋れない。テレパシーを使うしかなさそうだ。
―そ、然うだ私だ。その・・・何が起きたか分からないが。―
テレパシーはちゃんと使えたらしい。一同は多少安心した様で目を瞬いた。
「ぬぅう、急なので驚いたのだ。因みに何処か痛いとか無いのか?」
―噫、もう何とも無いけれども。―
戻ろうと思っても戻れない。切っ掛けも一切見えないのだ。
正に頭を抱えたい心地なのだが、躯の構造上、手を上げる事も儘ならない。
何て切り出そうか考えていると突然目の前に暗闇が現れた。
影も質量も何も無い其は一気に形を崩して人の形を取ろうとする。
見守っていると見知った、でも可也目付きの悪い元の自分に良く似た人型になった。
丗闇だ、丗闇様である。
―セ、丗闇!助けてくれ、何故か急にこんな姿にっ!―
少し詰め寄るつもり程度だったが、躯がすっかり大きくなってしまったので思ったより近付いてしまう。
指物丗闇も少し驚いた様で、仰け反ってまじまじと自分を見ていた。
・・・丗闇を見下ろせるなんて珍しい事だ。本当に随分と自分は大きくなってしまったらしい。
頸を伸ばせば余裕で天井に届くのだから然うか。・・・本当何なんだ。
「御前、一体如何した。真の姿ではなさそうだが。」
―丗闇も分からないのかっ!―
絶望的な言葉である。彼女は何でも知っているスーパーウルトラ神伝説が崩壊してしまった。
丗闇を余り見た事が無い獣一同は静かに様子を窺う事にした。
彼女なら屹度現状を打破してくれると誰もが信じていたのだ。
其の期待を彼女も察したらしい、目を眇めて息を付く。
「何だか随分と居心地が悪くなったと思って出てみれば・・・面倒な事になったな。魔力の波長が変わった様相は分かるが・・・。」
―魔力の波長って、そんな事で姿が変わる物なのか⁉―
「・・・普通波長は変わらないし、姿も変わらない。だから訳が分からないんだ。」
丗闇もすっかり困ってしまっている様である。
うぅ・・・丗闇も分からないなんて終わりじゃないか。仕事所じゃなくなったぞ。
此の姿の方が暴れ易いだろうが、然う言う問題でもない。
何と言うか此じゃあ駆除されてしまい然うだ。話が通じても多分駄目だ。
ってか此、次元の迫間に帰ったら戻るのか?せめて戻ってくれるよな?一生四つん這いは嫌だぞ!
そんな風に考えていると突然セレの腹の辺りが光り始めた。
―ん・・・んん?何か光ってる、何だ此、―
目視では一切見えない位置だろうが、自分の下腹部が淡く光っている様だ。
ローズ達も其の不思議な曦に釘付けになった。
何があるのか波紋で見てみると、何処か見覚えのある黔曜石が付いていた。
此って・・・確か、
考えている間に黔曜石の辺りから幾つか欠片が落ちて来た。
壊れたのかと思ったが、其の欠片は浮遊し、丗闇の隣へと集まって行く。
途端丗闇の顔が渋くなった、如何やら何か察したらしい。
まぁ彼女が歓迎する客と言うのも然ういないのだが、何やら其の欠片は金属片の様だった。
浮遊する金属片って・・・まさか、
金属片は集まっては離れてを繰り返し、終には其々曦を発し始めた。
そして其の曦が集まって・・・、
―おや、何とも獣臭い姿をしてイマスネ、終に其処迄知能を落としましたかマスター。―
―もう何と罵ってくれても良いので助けてくださいBDE‐01様。―
然うしてホログラムとして現れたのはBDE‐01だった。
少し久しい気がするが彼女は変わりない様だ。寧ろ絶好調である。
けれどもまさか、何時も背にあった筈のBDE‐01が腹に移動しているとは、そんな変形する物なのか。
「又御前の仕業か。良いからさっさと直せポンコツ。」
―アー今のでやる気を失いマシタヨ亡霊サン。アイもう直したくないデス。―
―う、あ、セ、丗闇御願いだ。私は元に戻して貰わないと。―
非常に苦々しい顔で丗闇は自分を見た。
でも仕方がないじゃないか。彼女こそが頼みの綱かも知れないのだから。
―御願いなので直してくださいBDE‐01様・・・、―
―無様デスネマスター、プライドは無いのデスカ?―
頑張って頭を下げているのにBDE‐01は何処吹く風である。
あの、御願いだから現状丈でも如何にかしてください、話進まないので。
―せめて可愛ければ同情の余地位出ると言うのに・・・醜いと言うのは何とも不便デスネ。―
「ギュルルゥ・・・。」
精神的ダメージから漏れ出た声はそんな獣の其で。
大きくなってしまった躯を何とか小さくする事しか出来なかった。
「ぬぅ・・・黙っていれば散々な言い方なのだ!何の料簡があって斯様な無礼を働くのだ!」
遂にハリーの堪忍袋の尾が切れたらしい、怒りの余りか近寄る度に地響きが僅かにした。
BDE‐01の前で吼える様に口を開くが、相変わらず彼女は気にしない様だ。
まぁホログラムなのだから実質無敵だもんな、良い身分だ。
―あら、可愛い蜥蜴サンデスネ。こんなマスターの為に手助けに来るなんて。・・・良いでショウ。アイが分かり易く現状を御伝えしまショウ。―
やっと話してくれる気になったらしい。一応侵入中なので早く事を進めないと皆困るからな。
―此処おかしな電波が全体的に流れてイマス。魔力の流れを乱すタイプデスネ。術も多少使い難いかと。其がアイにも効果的でシテ、凡そ半分迄動きが制限されてしまってイマス。―
半分・・・そんな恐ろしい事が起こっていたのか。
忘れた頃におかしくなるのがBDE‐01の特徴だけれども、此は又何とも・・・。
その、壊れ方にも幾つかパターンがあるんだな。
―其処でアイは考えマシタ。生命維持と、存在安定何方を取る可きか。其で今回は存在安定を捨てた訳デス。すると干渉力が溢れてこんな化物になってしまった訳デスネ。―
―おぉ・・・じゃあ此の姿にならなきゃ死んでいたと言える訳か。―
大方倭の次元のと似た感じか。彼の時は物理的にBDE‐01が壊れて、生命維持を切ってしまったからあんな内臓が腐って大変な事になったんだ。
其と比べれば・・・未だましなのかも?
「成程、今では我の魔力が存在の安定に使われているから何とか保てていると言う事か。其にしても奇怪な・・・。」
―然う言う事デス。恨むなら自身の干渉力を。元に戻りたいのなら此の次元を去るか、電波を壊してクダサイ。分かったらさっさと動きやがれクダサイ。―
―わ、分かりました頑張ります。―
ペコペコ頭を下げていると満足したのかBDE‐01のホログラムは消えて行った。
思ったより制裁は優しい気がしたけれど、其丈彼女も今頑張っていて、此方に余り構っていられないのかも知れないな。
「一応事情は分かったか。我も戻るぞ、後は自分で何とかしろ。」
―噫分かった。その、出てくれて有難う。―
原因が分かって安心したのか丗闇も直ぐに消えてしまった。
後に残るのは獣達である。ハリー達と目が合ってセレは少し瞬いた。
―・・・と、言う訳みたいだ。暫くは此の儘だな。―
「うむ、其にしても先の奴は失礼過ぎたのだ。セレはどんな姿になっても変わらないのだ!」
ハリーが可愛い事を言ってくれるのでそっと頭を寄せた。
今の手では撫でる事等出来ないのだ、戻った暁には一杯わしゃわしゃしてあげよう。
―何だか災難だね。まぁでもやる事は一緒かな?―
―噫、斯うなったらしっかり暴れてやる。―
其の変な電波が何処から出ているか知らないが、全部壊せば良いんだろう?
元はと言えばこんな所の所為で自分は化物になっててんやわんやしているんだ。
よーし、暴れてやるぞ!
殆ど八つ当たりに近い心地で突然セレは近くの壁を殴った。
大きく鋭くなった爪の御蔭で、たった一撃で壁に大穴が空いてしまう。
存外柔らかい土だ。パラパラと壁に付いていた物が剥がれる。
「おぉ、流石セレなのだ。より勁くなっているのだ!」
―此・・・結構楽しいな。―
今度は大口を開けて壁を齧ってみた。
口が大きく変形したので華の様に四つに開く。
牙もぞろりと隙間なく生えているので、一度咬み付いたら千斬れない限り離れないだろう。
又もや壁に大穴が開く。口に引っ掛かる部品等は吐き出した。
こんな簡単に穴が開くと楽しいな、何と言うかストレス発散みたいで。
「良いなぁ、ボクもやりたい!」
ケルディは自身に向け、蒼い焔を吐き出した。
其の焔に包まれて一気に彼の躯も大きくなり、全長2m程の大きな黔狐になった。
「・・・行くぞ。」
六つに分かれた尾に焔が灯り、火焔を一気に吐き出して行く。
壁に付いていた部品が照らされ、音を立てては溶けて行く。
余りに激しい焔に研究所の一角は様相を変え始めていた。
―二柱共激しいね。じゃあ僕もしようかな。―
「うむ、皆自由にしたら良いのだ。」
気付けばハリーも龍身に戻っていた。皆が大きな獣に変化したので可也狭くなって来た。
―TB=12F―
ローズの胸元に翠の輝石が埋め込まれ、体毛も其の色へと変化して行く。
羽耳はより長くなり、四肢の先から翠の凱風が渦を巻く。
背の鬣は棚引く程に長くなり、下腹部が独特な模様の毛並へ変わって行く。
谺属性を纏った彼は一歩歩く丈で回りを傷付ける強風を巻き散らした。
此丈騒げば気付かれるのも当然で、通路の先から研究員が何人か姿を現した。
「先から一体何の音・・・っぎゃぁああぁ‼」
「な、なな・・・何なんだ一体、」
ぎょっとして固まったかと思えば慌てて引き返して行く。
まぁ然うだろう、行き成り通路が詰まる程の大型の化物が何体も現れたら逃げる一択だな。
そして・・・逃げる者は追いたくなる物。
誰か何か言った訳でもなく、一同は研究員を追い掛け始めた。
「つ、付いて来てるぞ!誰か、彼が何か聞いてないか!」
「まさか彼処じゃないか?最近何か見付けたとかって・・・、」
「噫SO-7ね!もう何してんのよ!」
其の話、もっと詳しく。
逃げる研究員達が何やら大事そうな話をし始めた。
もう一寸追い掛け回そうか、もっと情報が出るかも知れない。
研究員達は少し大き目の部屋へと入り込んで行った。
ALも中々足が速いと思っていたが、彼等も例に漏れずだ。先に全員部屋に入ってしまい、扉を閉められてしまった。
「何だ、面倒な事するな・・・。」
―あれ、ケルディ性格変わったか?―
扉に向け、唸り声を上げるケルディ、心做し背の毛が逆立っている。
・・・と言うか、大きなモフモフだ!何だ此!彼のモフ気持良い尾が二倍に増えている⁉何で⁉
抱き付きたくなるが此の手である・・・明らかに傷付けてしまいそうだ。
うぅ、何とか翼に付いてる手でも・・・いや其も危ない、クゥ!何で、自分の躯の癖にもどかしい。
「ぬぅ、珍しくセレがモフモフに関心を示さないと思ったら気の所為だったのだ。」
セレの熱の籠った目を見て察したらしい、ハリーが少し鼻を鳴らした。
―先はほら、自分の事が色々あったから、でもまさか、―
余っ程焦っていたんだな自分、こんな宝を見逃していたなんて。・・・反省。
「性格っつうか俺抑別の狐だしな。あんた、狐火詳しいんだろ。」
―噫成程、本体は火なんだし、別の狐の躯を持っていたのか。そんな事出来るんだな。―
何気高等テクニックな気がする。複数の狐を操る狐火とは珍しい。
其にしてもそんな素敵なモフモフを隠し持っていたとは・・・性格がトゲトゲしている分、素晴しいモフモフだ!
然う言えば確かに前、ケルディが大きくなれると言っていたが、斯う言う事だったのか。
今丈は自分の方が大きいが、其でもモフモフの愛らしさが良く伝わって来た。
「何か油売ってるけどもう良いだろ。俺がさっさと壊してやるぜ。」
ケルディが一度大きく息を吸うと巨大な火焔を吐き始めた。
―っちち、もうやるならやるって言いなよ。―
只でさえ通路は狭いので閊えてしまう、熱気が凄まじいが、其でも気にする事なくケルディは火を吐き続けた。
すると見る間に金属製だった扉が溶け始めた。蒼い焔に照らされて、いっそ壁毎溶かされてしまっている。
「ほら、さっさと入れよ。」
「うむ、では我からなのだ。」
少し浮かぶ様にして部屋内へとハリーが躍り出た。
自分は大き過ぎるのでもう少し温度が下がってから入る事にする。
研究員達もまさか破られるとは思っていなかったらしく、部屋の隅で震えていた。
「お、おい入って来たぞ、連絡はしたんだな?」
「えぇ、もう直ぐ来てくれる筈。」
「報告は⁉一体何処から出て来たんだっ!」
「其が・・・SO-7は違うらしいぞ。恐らく侵入者だ!」
「いや侵入って言うか、何で此処に来たんだよ!」
見事に混乱してらっしゃる。
其の、先から出ているSO-7が何なのかとか聞きたいが喋って良いか怪しいな。
もういっそ此の儘化物として暴れた方が楽かも知れない・・・。
入った部屋も部屋で、明らかな研究施設らしく、見慣れない機器が大量に置いてある。
此の何かが怪電波を流しているかも知れないし、良し壊そう。
「ガゥウァア‼」
大口を開けて目に付いた金属の塊に咬み付いてみた。
銜えて根元から引き千斬ってみる。案外あっさりとコードが斬れた。
「ひゃあぁああ!抽出中だったのにぃ!」
「お、落ち着け、近付いたら喰われるぞ!」
「おー豪快にやるねぇ。」
良いじゃん、と一つ尾を振ってケルディは口端を上げた。
そして又焔を辺りにばら撒いて行く。
ローズは自分が壊した物を巻き上げ、ハリーは幻術で氷やらを創り出し、一帯は正に混沌と化した。
一応研究員は傷付けずに暴れてみる。飽く迄も陽動だからな。
只先何かを呼んだらしいから動きが気になるが・・・。
「済みません助けに来るのが遅れました!」
「皆さん此方へ避難を!」
粗方壊していると、そんな声が聞こえて来た。
見るともう一方の入り口から続々と人が入って来ている。
彼等は明らかに研究員達と別の者で、武器を携えていたりと準備がされていた。
居るとは思っていたが、警備員みたいだ。
只、何か違和感がある・・・と良く見ると彼等はAL達とは又違った種族の様だった。
手が多い者、複眼の者も居るが、全く同じと言う訳でもない、翼があったり尾が生えていたり、其々が違っていたのだ。
其に彼等が纏う空気・・・若しかして、
警備員達は、セレ達を見遣って響動めきだした。只其も研究員達の反応とも又違う気がした。
其でもちゃんと研究員達を部屋から出し、距離を取って此方を覗っていた。退く気はない様である。
「・・・如何して此処が分かった、此奴等恐らく、」
「噫間違いない。終末の化物だっ!」
―此は・・・思った以上の収穫がありそうだな。―
終末の化物なんて、如何にもな名前じゃあないか。
そんな名称が出ると言う事は、つまりは此奴等は、
―・・・何だか神族っぽいね。―
手を出して良い物か、ちらとローズが此方を見遣る。
まさかこんな所で会うと思ってもなかったのだ、神だったら・・・敵対するだろうなぁ。
―噫、恐らくはライネス国の奴だろう。一体如何してこんな所に居るのか聞いてみたい所だな。―
何の塔の所属かは分からないがな、御丁寧に此の次元の奴等に合わせてある。
まさか自分達以外にも斯うして次元に馴染んでいるとは、AL達の種族は結構多種族に寛容なんだな。
でも警備していると言う事は、恐らく仕事だろうな。
此は益々、きな臭くなって来たぞ・・・。
神なら・・・容赦は要らないな。
セレは大口を開けると呑み込まん許りに兵達に向け突進を繰り出した。
兵は今の所六柱、一気に襲って怯ませてやる。
「ギャウゥオォ‼」
「う、うわぁ、来たぞ!」
持っていた槍の様な物を突いて来たので大きく身を躱して避ける。
其の儘横合いから咬み付いた。
「はっ、放せ!此のっ、」
四つに開いた口はしっかりと獲物を掴んで放さない。
思ったより身に纏っている鎧は堅く、呑み込もうかと思ったが喉に閊えそうだ。
兵は滅茶苦茶に暴れて口元を槍で何度も刺して来たが、其が地味に痛い。
―御前達が何処から来たのか話してくれたら放してやるぞ、―
「此の化物め、卑怯な手を、」
「っぐ、6890:鐘楼だっ、さっさと放せ!」
成程彼処か、一寸意外だな。警備と言うとクルスティード尖塔かと思ったが。
さて一体こんな所で何してるんだろうな。
でも6890:鐘楼は口が堅い、一先ず此奴は解放してやるか。
口に銜えていた兵を壁に叩き付けてやる。
思ったより力が入ってしまった様で、壁に大きな罅が入ってしまう。
此処の壁も例に漏れず色々と埋め込まれているのでダメージが高そうだ。
叩き付けられた奴は其の一撃で伸びてしまったらしく、動かなくなってしまった。
―6890:鐘楼って、もう倒しちゃって良いのかな?―
―口が堅い事には定評がある奴だからな。さっさと倒してドレミ達に任せた方が良いかもな。―
「うむ!先ずは倒せば良いのだな!」
まぁ分かり易くて良いな。
もう手を出してしまっているので今更止める訳にも行かない。此処でしっかり暴れさせて貰おう。
ケルディが突然巨大な炎を吐き、兵達を圧倒する。
怯んだ所へローズが飛び込んで来た。今の彼は近付く丈で、傷を負う強烈な烈風が吹いているので突撃に向いているのだ。
向こうは武装して来ていたが、あっさりパニックに陥ってしまう。
「っぐぅ・・・如何する、此の儘じゃあ押されるぞ。」
「大丈夫だ。向こうに連絡は入れてある、準備に時間掛かっているんだろ。」
「何でこんな大事な時に。」
次々と兵を薙ぎ倒して行くが、中々反撃されない。
何方かと言うと耐えようとしている風だ、明らかに何かを待っている。
如何しようか、まんまと策に乗っても良い気はする。飽く迄も陽動が目的だったしな。
其でも本当に此処、何をしているんだろう。こんな準備が良いなんて、矢っ張り怪しいよな。
然うなって来ると次元の主導者を連れて来たのはミスかも知れない、こんな危ない所だったとは。
「ガゥアァア‼」
大きく吼えると其丈で伸びたので、爪で適当に吹き飛ばす。
そんな風にしていると少しずつ辺りが騒がしくなっている気がした。
周りと言っても波紋の中だ。皆此の異常事態に気付いたのだろう。
此の儘注目を集めて置くのは悪くないな。
いやでも・・・何か此方に来ているな。
波紋に妙な反応がある。此方に向かう奴の中に違和感があった。
此方に向かっているって事は兵か何かなんだろうが此は・・・卵?
「ぬをー!我の幻術を喰らうのだ!」
然うしている間にハリーの幻術、氷に因って兵は凍り付いてしまい、戦闘は終了してしまっていた。
あっさりした物である。誰も怪我をしていない、完璧な仕事振りだ。
―良い具合だな。皆此の調子で次も頼むぞ。―
「此位余裕だな。」
―僕一寸此の機械見てるね。―
興味津々と許りにローズが壁の機械を見始めた。
フワッフワな尾が振られるのを眺めるのは良い物だ。
―でも次のももう近く迄来ているな。此の儘迎え撃つぞ。―
部屋も此処が広いし丁度良いだろう。向こうから足止めに来てくれるのなら大分楽だ。
終末の化物、なんて呼ばれたが成程。奴等の思い描く通りの姿に今自分はなっているのだろう。
だったら御望み通り暴れてやる!
「ガゥウアァ‼」
部屋に入って来る前に扉を爪で引っ掻いて牽制する。
奥からくぐもった悲鳴にも似た声が聞こえる。良し、効いているな。
其にしても彼の卵形の物は何なのだろう。他の兵と一緒にやって来ているが。
何となく気になる。早く来て貰おうと壁等を手当たり次第に削ってみた。
「っく、我が物顔で暴れおってからに。さぁ早く追い出すぞ。」
何柱かの兵が駆け込む中に例の卵型の何かが現れた。
其は一抱えはある皓銀の其で、半透明なので中心に蒼っぽい瓊があるのが見て取れた。
卵は中心に波形の切れ目が入っており、上部には刺青が、下部には輝石が埋め込まれている。
そんな卵は翼の様に玻璃の板が生えていて、地面に波紋の環を作り乍ら浮いていた。
何だか不思議な物体だ。置物とかに良さそうなアーティファクト感がある。
―ア!其ガ良イ!ネネ、約束チャント護ッテヨ!―
―ん、一体何の話だ?―
急に魔力が話し掛けて来たので驚いてしまった。
何気近くに居たみたいだ。何だか非常に嬉しそうである。
―モウ、本当忘レチャッタノ?先言ッタデショ?ネ、私彼ガ良イ!―
―話は聞いたけれども・・・済まないが其の約束をもう一回教えてくれないか?―
―仕方ナイナァ。私、躯ガ欲シイノヨ!チャント良イヨッテ言ッテクレタヨ、ダカラ彼ガ欲シイノ!―
躯、此は又大層な約束を。
魔力に躯を与えるなんて恐ろしい話で、自分なら絶対理断りそうだが・・・恐らくそんな約束したんだろうなぁ。
自分は全く覚えがない、覚えは無いが・・・したんだろう。
約束は護らないと致し方ない、此処で彼等との関係を壊したくはない。
―分かった。じゃ彼の卵はあげるけれど具体的に如何したら良いんだ?―
―ウン!適当ニ攻撃シテ弱ラセテヨ。然ウシタラ私中ニ入ッテミル!―
ほぅそんな事が。
弱ったら魔力に付け込まれると言う事か・・・恐ろしい話だ。
―!マスター駄目デス!アイは反対デスヨ!―
おぉう、突然BDE‐01の声も聞こえて来た。頭が一寸混乱しそうだ。
―な、何で駄目なんだ、理由は、―
―だっても何も其は・・・、―
卵が此方を向いた気がした。
―滅茶苦茶勁いからデス!―
―勁イカラ気ヲ付ケテネ!―
・・・え、
二つのテレパシーに困惑するのも束の間、突然卵の玻璃の板から皓い刃が飛んで来た。
不意打ち克、自分の躯は躱すには余りにも大きい。何とか身を捩るも翼の付け根と尾に当たってしまった。
「っ!ギャウゥゥ・・・!」
何此滅茶苦茶痛い!
突如走った激痛につい飛び上がりそうになる。
少し触れた程度だと思っていたが黔い血が噴き出してしまう。
おかしい、此の甲を貫ける物なんてそんな無い筈、と言う事は先のは光属性か?
「ぬっ、セレ大丈夫なのか!」
―あ、噫吃驚したけどな・・・。―
ハリーが寄って来たので少し鼻先を寄せた。
此位は大した事ない、でも今巨体だからなぁ、其が不味い。
其にしても・・・、
―何でBDE‐01が止めてくれたんだ?―
自分を助けたいとか然う言う事言う質じゃないだろう。
同時に二つ来たばらばらのテレパシー、でも共通するのは勁いと言う事。
でも何て言うか・・・彼女が絡むのは意外と言うか。
―当然デス、マスターは彼を手元に置こうとしてマスネ!アイと言う優秀なロボットが居乍ら、何と強欲で浅ましい身の程知らずデスネ!―
え、え~・・・。
何其嫉妬?今一良く分からないが。と言うよりBDE‐01はロボットと言う認識で良いのだろうか。
別に優秀なロボットが増えるのは良い事じゃないか。何をそんなに毛嫌いする必要がある。
・・・一寸鎌を掛けてみるか。
―其はつまり御前より彼奴が優秀と言う事か?―
若し本当に然うならフォードが涙目だろうけど、自信作があんな卵に負けるなんて。
―な、なな、何て不遜を!マスターは其でも神の子デスカ!心が無いんデスカ!あ、醜くて醜悪で下劣で下等な化物デシタネ!―
成程然う言う事か。
そんな殆ど同じ意味の罵倒を只繰り返す程焦ると言う事は、事実なのだろう。
違っていれば彼女はきちっと否定する筈だ。
其にしても見た丈で分かるとは、余っ程彼の卵優れているのか。
其なら魔力も欲しくなるよな。
「良し効いているな・・・此の儘押し切ってしまえZ1-Θ(ジーオン)!」
今ので士気が上がったのか兵は卵に任せる気の様だ。
卵・・・Z1-Θと呼んだか?彼は完全に自分をターゲットにしたらしく、又光の波動を飛ばして来る。
何とか其を身をくねらせて躱すが・・・結構ギリギリだ。
でも・・・あれ、待って此不味くないか?
つまり自分は、BDE‐01よりも優秀な光使いの彼の卵を、手加減して倒さないといけないのか?
・・・自分は何て約束を魔力としたんだよ!
身に覚え自体は無いので悔やみようも無いのだが、うーん此は、
「何ボサッと的になってんだ。さっさと壊すぞ。」
ケルディが焔を吐いてZ1-Θに飛び掛かった。
其処に向けZ1-Θは水鉄砲を噴き出し、即席のシールドで焔を防いでしまう。
そして玻璃の先から曦の帯の様な物が生えて来た。
実体は無さそうなのに不思議な物だ。其の一見手の様に見える物は何処迄も伸びる様で、真っ直ぐセレに向けられていた。
届く筈も無いと思ったのに2、3mはあっと言う間に伸びて行く。
・・・捕まえて、一体如何する気なのだろうか。
考えるのも恐ろしいので取り敢えず追い払う事にする。
完全に壊さない様気を付けないと。
少し息を吸い、自分の足元から横凪ぎにブレスを放った。
其は腕を掠めるがまるで斬れない。矢張り彼の手に実体は無いのだ。
とは言え捕まるのも・・・矢っ張り恐い。
ってか何なんだ彼の卵は。
BDE‐01とかの話からロボットだって事は分かったけれど、警備ロボと言った所なのだろうか。
うーん謎だ。神が来ているんだし、次元の迫間の文明で創られたのかも知れないけれども如何なんだろう。
其ともALなら何か分かっただろうか。もう原理も何も彼も謎だ。
何より壊したらいけないと言う縛りがきつい。ロボット相手に如何手加減すれば良いんだ。
一寸壊したら爆発したりとかしないだろうか。何体も居れば試せるんだが、一体だからな。チャンスは一度限りだ。
恐い乍らも何とか手を避けつつZ1-Θに近付いて爪で斬り付けてみた。
周りの兵は無視だ。先ずは此奴を如何にかしないと。
爪は先のケルディの時みたく、あっさり玻璃の壁に防がれてしまう。
か、堅い、想像以上だ。罅も入らないとは。
斯うなったらいっそ吹き飛ばして壁なりにぶつけた方が良いかも知れない。思ったより頑丈だからな。
―頑張レー!其ノ調子!―
御気楽な魔力はそんな応援をしてくれるけれども。
此、そんな簡単な事じゃあないからな・・・。
尾で叩き付けようとした所でZ1-Θから皓いレーザーが出て来た。
「ギュウゥ!」
思わず声が漏れてしまう、当たったら絶対痛い奴だ。
何とか翼を畳んで去なしたのも束の間、角に何か違和感が走った。
今迄角なんて無かったのだから変な感じだが、此は、
気付いた途端、彼の卵が目にも止まらない速さで飛び掛かって来たのだ。
避けようと下がるも、角をしっかりとZ1-Θの例の手に掴まれてしまっている、手を縮める事で一気に迫って来たのだ。
そしてZ1-Θの周りを浮遊する玻璃の板が鋭く回転する。
まるで回転鋸だ。猛スピードでやって来る。
・・・此、不味いんじゃないか?
此の儘飛んで来たら狙うのは・・・頸。
ぞわっと全身の産毛が総毛立つ感覚、死が見える。此は駄目だ。
せめて急所は護らねばと左手を払う。刃と分かっていても仕方がない。
手には実体が無かったが、Z1-Θにはあった様だ。
爪はしっかりとZ1-Θを捉え、力任せに弾き飛ばした。
だが回転刃は躱せる筈も無く、前に出ていた指三本が根元から斬り落とされてしまう。
「ギュグルゥウ・・・。」
喉の奥から声が漏れる。何気指が無くなる感覚は初めてに近い。
前世でも此の甲を貫ける物は無かったからな。
でも彼の卵が斯うもあっさり肉を斬ったと言う事は、彼の刃に宿っていたのは光魔力。
「セレ!手をやられてしまったのか。」
―大丈夫此の位なら直ぐ直る。―
ハリーが気遣わし気に頭を寄せて来た。
其の間に何とか落ちてしまった指をくっ付けてみる。
血が溢れて止まらないが、切断面に付ければ血でくっ付く筈、全て自分其の物なのだから。
痛みは中々引かないが何とか付いた様だ、軽く手を振って確かめる。
其にしても彼の卵・・・ちゃんと自分の弱点を捉えているな・・・。
然うだ、自分は明らかに光魔術に弱い、全く防御力を持たない。
触れたら斬られてしまう。つまりは全身光の魔力に包んでしまえば自分はブレス等の術を頼らない限り打つ手が無くなってしまうのだ。
向こうは突進丈していれば良いのだから楽な物だ。自分が集中力を切らしたらもう其で終わりだ。
加えて護りも堅いとなると・・・滅茶苦茶強敵じゃないか。
如何する、本気で勁いぞ此奴。
―ほら、言わん事無いデスヨ。此以上恥を晒す前に逃げまショウマスター。―
―い、いや逃げるのは一寸、其より名誉挽回のチャンスだぞ、何か対抗策を考えてくれ。―
折角だからBDE‐01に振ってしまおう。・・・まさか考え過ぎてキャパオーバー起こして自分が死ぬなんて事にはなるまい。
ぶん投げた筈なのにZ1-Θは変わらず其処に居るし。
何気手が解けていないのが不味い。又同じのが来たら恐い。
次は確実に首を持って行かれる気がする。
・・・流石に死ぬかな、化物になっちゃってるし大丈夫!って事は無さそうだけれど。
いや、弱気になっちゃいけない。干渉力で頑張れば首無しもワンチャンあるかも知れない!
前は脳天撃たれて死んだって思ったから死んだんだ。首が無くなった程度じゃ死なないと信じれば。
不死の化物、然う、不死の化物になるんだ!
―・・・随分気合を入れているが抑喰らわなければ良いだろう。―
水を注されて仕舞った・・・其はないよ丗闇さん。
頑張って耐えようとしてたんだよ。躱せれば良いとか分かってるよ。
でも無理なんだもん、彼の卵殺意高過ぎるよ。
又刃を回転させているし、そろそろ突っ込んでくるよ彼奴。
―避けられないからいっそ耐えて、不死性をアピールして引いて貰おうと言う作戦だ。―
―ロボット相手には無理だろうな。―
ぐぅう、だろうね!
はったりとか通じないだろうね!
―もう不甲斐ないマスターデス。仕方ないのでアイが少し手助けしてアゲマス。―
噫有難う御座いますBDE‐01さん。
黙殺されたと思ったらちゃんと考えてくれていたらしい、非常に助かる。
―見た所彼の動力は水デス。水を循環させてエネルギーを得ているのデス。―
成程、水だったら凍らせたり出来そうだな。
早くしないともうやって来そうだ。隣のハリーが威嚇の声を上げるが全く効いてくれないし。
―水の動きを止めるなり逆にすればショートを起こせるかも知レマセン。球形の本体以外は全て魔力に因る産物デス。一気に無力化出来マス。―
一気に無力化か、良いな。
そんな弱点があったらやり易いじゃないか。突破口が見えそうだ。
―だからマスター御得意のブレスで消し飛ばしまショウ!―
―おぉい!直球過ぎるでしょ!―
先迄の講釈は如何した!
御前只壊したい丈だろ!却下だ却下。
―じゃあ其の空っぽな首飛ばされるのと死ぬの何方が良いんデスカ。―
―いや一緒だから其!―
やばい、突っ込みが終わらない。
でもZ1-Θも来る、もう絶望だ。
せめて少しでも軽減出来ればと尾を前に出して一心に念じた。
首が無くても自分は動ける、首が無くても自分は動ける、首が無くても自分は動ける。
「ぬをー!セレから離れるのだ!」
だが既の所でハリーが自分とZ1-Θの間に氷の膜を張った。
すると明らかにZ1-Θの動きが鈍くなる。
ハリーの冷気が効いているのだ。
此は・・・有りだ、行ける!
―ハリー!其の儘奴を凍らせてしまえ!―
「うむ、任されたのだ!」
ハリーの周りから氷柱の様な物が次々と生えてZ1-Θへ飛び掛かった。
Z1-Θ自体は矢張り堅いらしく、氷柱が砕けてしまっているが、回転する刃が明らかに鈍くなっている。
い、一応BDE‐01のアドバイスは効いたと言う事だろうか。
其の儘砕かれた氷柱は又互いにくっ付き、Z1-Θをすっかり氷の檻に閉じ込めてしまった。
其の時にはもう刃は止まっており、何より角をずっと掴んでいた手がそろそろと離れて行ったのだ。
そしてZ1-Θは緩りと下へ落ちて行って・・・停止した。
―よ、良し止まったぞ!良くやったハリー!―
「うむ!セレを護るのは我なのだ!」
褒められて得意になったのか嬉しそうにハリーは尾を揺らし、胸を反らした。
良かった!ハリーと一緒に居て本当良かった!
ギューッと抱きしめてあげたいが、其は元の姿に戻ってからにしよう。
いやぁ本当良かった。此が同じ氷使いのダイヤだったら絶対見殺しにされていた。
いっそあっさり自分の首が飛んだのを見て嗤うかも知れない、呆れられるか如何か位しか違いがないだろう。
でも然うも喜んでいられない、兵達がZ1-Θに灯魔術を掛け始めたのだ。
奴等も気付いたのだろう、Z1-Θなら自分に勝てると、完全にサポート役である。
―させるかぁ‼―
必死で兵達に躍り掛かる。もう次動いたら如何料理されるか分かった物じゃない。
尾を振り払っていっそZ1-Θ毎全て弾き飛ばした。
反撃に尾に何本が槍やナイフを突き立てられたが何て事は無い。
一斉に飛ばされた兵達は殆ど伸びてしまって頽れた。
無論卵は無傷だ。此処迄来たら末恐ろしい・・・。
「む、其奴を離すのだ!」
―然うだ其を寄越せ!―
残った一柱の兵がギュッと凍えたZ1-Θを抱き締めて震えていた。
頼みの綱なのだろうが其はもう此方の物だ。
セレとハリー、二柱の獣に詰め寄られ、益々兵はZ1-Θを持つ手に力を込める。
もう面倒なので少し口を開いて肩口辺りを銜えるとぶん投げた。
流石にもう耐えられなかった様で、其の儘伸びてしまう。
そんな兵の手からコロコロとZ1-Θが転がり落ちた。
―此、壊れないね。―
ローズが近付くが烈風でも傷一つ付かない。
「むぅ、面倒な奴なのだ。雷でも落とすのだ。」
何処からか現れた暗雲から雷が降り注がれるが・・・焦げ一つ付かない。
・・・今の内に魔力に交渉して置こう。
―ほら静かにしたぞ。彼じゃあ入れないのか?―
出来ればさっさと入って貰って彼の殺意を減らして欲しい。
―ンー駄目、入レナイヨー。何カネ、モット斯ウ、カパッテ開イタノ。―
う・・・開かないといけないのか。
何が生まれても知らないぞ。一体どんなハンプティ・ダンプティだ。
開かないといけないと言う事は、もう一度作動させないといけないのだろうか。
うーん、嫌だけれど仕方ないか。
―ケルディ、済まないが彼の卵を焼いてくれるか?―
「良いのか?焼いたら多分動くぞ。今は凍ってるから動かないんだろ。」
暴れ足りないみたいでケルディは周りの機器に焔を放っていた。
中々恐ろしい事をする。火花や電気が走って大変な事になっているが。
―実は彼の卵が一寸必要になってな。少し丈壊したいんだ。―
―少し壊すって難しい事言うね。―
―中に私の連れの魔力が入りたい然うだ。其の卵を操作してみたいらしくて。―
―操作ジャナイノ!卵ニナルノ!―
其で良いのか?ロボットだけれども・・・。
―操るってそんな事出来ちゃうんだ・・・。まぁ試したいなら良いんじゃないのかな。―
ローズが少し離れるとケルディは特大の焔を吐き始めた。
卵を真黔にさせんとする勢いだが、多分彼位しないとZ1-Θは傷付かないんだろうな。
もう頑丈さが凄いもん、確かにブレス撃っても壊れないかもな・・・。
Z1-Θには多少焦げ跡が付いていたが矢張り頑丈さは折り紙付きで、壊れては無さそうだ。
うーん、ロボットの躯と侮ってはいたが、確かに性能丈見たら一寸欲しくなる様な・・・。
―アイと言う素敵美麗な物が居乍らそんな事言いマスカ、良イデスヨ。自害して一緒に腐り果ててみたいならマスター。―
―腐るのは痛いので止めて頂きたい。―
BDE‐01が偉く敏感だ。そんなにZ1-Θに嫉妬してるのか。
・・・さて、Z1-Θは滞りなく起動した様で、緩り波紋を放ち乍ら浮かび上がった。
完全に動き出す前に一手出してみるか。
尾を振り回して尖った甲を無数に突き立てる。
序でに尾に刺さっていたナイフも抜けて行った。
人体程度なら軽く貫く甲なのだが、其でも傷は付かない。
じゃあと口を開いてZ1-Θを銜え込んだ。
一気に力を加えてみるが・・・時折ミシミシ音を立てる丈で中々壊れない。
な・・・何て奴だ。此でも壊れないとか如何かしてる。
口を捩じったり引っ掛かる所に深く牙を差し込んだりしたが、開かない。堅過ぎる・・・。
「ギャウッ。」
咬むのに必死になっているとZ1-Θの刃が回転し、口内を斬られる。
舌を斬り落とされてしまい、堪らず血と一緒にZ1-Θを吐き出した。
うぅ・・・痛い、傷が沁みるのでギュッと口を噤むが、口端から血の雫が幾つも零れた。
「セレ、怪我をしたのかっ!」
―如何やったら彼は割れるんだ。全然壊れないぞ!―
―うーん難しいね、もう一寸皆で頑張ってみようよ。―
「じゃあ俺が燃やしてやるよ。」
突然ケルディがZ1-Θの周りを走り出し、尾から焔が溢れ出た。
焔はどんどん大きくなり、熱気で蜃気楼が浮かぶ様だ。
其の儘蒼い焔はドーム状にZ1-Θを包み込み、未だ温度を上げて行く様だった。
其に併せてローズも足を踏み鳴らし、彼を取り巻く烈風がピリリと音を立てた。
凱風なら焔の中だって入れる。
焔に照らされるZ1-Θに向け、颱風に負けず劣らない突風が吹き抜けた。
何だかワイルドな茹で卵を作っている気分になる。
焔の中凱風にクルクルと踊る卵は一寸美味しそうに見えなくもない。
加えて其の中へ氷柱が何本も生えてZ1-Θに突き刺さる。
熱で一気に爆発した氷柱の欠片がZ1-Θへ飛び掛かるが・・・殆ど傷は付かない様だ。
然うしているとZ1-Θから一気に全方向に向けて水鉄砲が発射された。
其に因りケルディの焔は消されてしまう。後は凱風にコロコロ転がされる卵のみだ。
「俺の焔が消えるって事は・・・彼の水も光属性掛かってるな。」
―成程・・・一回本気でブレスを掛けてみるか・・・?―
賭けになりそうだが此の儘だと埒が明かない。
覚悟を決めて息を吸うと遂にZ1-Θに異変が起きた。
波形の模様の所が其の儘ぱっくり割れたのだ。突然の事に一同の手が止まる。
だが開いたのは本の一瞬で、又ぴっちりと閉じられてしまった。
玻璃から皓の刃を、手も何本も出し、攻撃態勢に入る。
今、何が起きた。如何して開いたんだ。って其より、
―魔力は⁉中に入れたか?―
―モウ!モウ一寸開イテタラ入レタノニ!―
んぎぎぎぎっ‼
入れなかったのか、折角のチャンスだったのに。
悔しさで歯噛みすると斬られた口内が痛んだ。
此は如何やら条件を探さないといけないらしい。如何にかすれば開く事は分かったんだ、もう一寸だ。
―皆、先みたいなのをもう一寸頼む!先みたいに開いたら良いんだ!―
「開いたら良いんだって簡単に言うけどさ。」
―ア!来ルヨ来ルヨ!逃ゲロー!―
Z1-Θが自分一柱を狙って飛び掛かって来た。
手を壁や天井に縦横無尽に這わせ、目の様な模様から光弾を発射する。
ヒィイ‼恐過ぎる、確実に先より殺意が高まっている!
「グルルウッ、ガウァ!」
爪を鳴らし、集中する。
躯が変わり過ぎたので中々直ぐ反応出来なかったが、術位なら放てる筈。
Z1-Θを狙って四方八方から黔い釼山が生え揃った。
其等に絶妙に当たらない様Z1-Θは中空を移動する、刃が鋭く光った。
ブレスを吐き、光弾を相殺する。後は手に掴まれない様釼山を背に回り込む。
―此で奴のルートは搾れる筈、何とか狙えないか?―
部屋全体から釼山が出ているのだから自由は効かない筈。
其の上奴は一直線に自分を狙って来ている、避けたりする思考は余りなさそうだ。
「うむ、セレの術を借りるのだ。」
言うや否や釼山の先からミサイルの様に針が飛び出して来た。
針は容赦なくZ1-Θを殴り付ける。其の鋭さから本来は貫いたり、刺さったりするのだろうが、Z1-Θが堅過ぎてぶつかる丈になってしまっている。
其でも甲高い金属音を響かせ乍らZ1-Θへと降り注がれる針の嵐は見ていてダメージがありそうだ。
実際Z1-Θは針の所為で左右へふらふらと揺さ振られていた。御蔭で自分を狙う刃は出鱈目になる。
更にローズの凱風も相俟って中心は酷い嵐の様だ。舞い上げられた針や機器が何度もZ1-Θを狙う。
「此だったら・・・纏めて吹っ飛ばすぞ。」
ケルディが尾を振ると六つの尾の先に灯っていた焔の内、五つが掻き消えた。
そしてケルディの分身だろうか、同じ背格好の狐火が五体現れたのだ。
六体になったケルディは其々Z1-Θを囲む様四方へ移動する。
誰に指示される訳でもなく、同時に各々が特大の焔を吐き始めた。
其の火力は此迄の比じゃない、まるで小さな陽が出来たかの様に、焔の塊が現れた。
余りの高温の焔に機器が爆ぜ、彼方此方で爆発が発生する。
焔の中心へと凱風が吸い込まれて行く様だ。余りの力に身動きが出来なくなる。
凄い・・・此が龍達の力なのか、頼みはしたけれども軽く地獄絵図と化している。
そんな地獄の中心で、今だZ1-Θは自分を狙っていた。
真面に動く事すら儘ならないだろうが、殺意を感じる。未だ致命的なダメージには至っていないのだ。
だが何も彼も溶かす様な焔である、流石に喰らい続けると危ないと判断したのかZ1-Θは水鉄砲を四方に向け放った。
只の水なら焼け石に水だろうが、光の魔力をコーティングされた水である。少しずつ焔の威力は下がって行く。
・・・多分自分、彼の水被ったら溶けるんだろうな・・・。
考えた丈でも恐ろしい、とことん自分への対策がばっちりだ。
正直此処迄来ると・・・自分が来る事を見越したかの様なロボットだ。勘繰り過ぎなのかも知れないけれど、少し気になる。
其にしてもあんな大量の水、彼の小さな躯の何処に仕舞われているのだろう。まさか時空の穴も扱えるのだろうか。
「くっ・・・未だ動くのかよ此っ、」
―いや、此の儘攻めるぞ。―
意識を一段と集中させる。
先からZ1-Θはケルディの焔を何とか消そうとしている節がある。動こうとするのなら、留めてしまえば良い。
・・・試した事は無いけれど、やれるだろう!
部屋中に散っていた自分の血が・・・ざわざわと蠢いた気がした。
波紋で感じる・・・自分が、此の部屋中にある事を。
意思を感じる。自分は、自分丈じゃないと、もっと広く、知覚する。
自分の血も又、自分だ。流れても零れても全て、同じ・・・。
今ですら化物になったんだ。どんな姿だって自分だろう。
悍く悍く悍く願って・・・動け、
其迄騒ついていた、部屋中に散っていた血が遂に動き始めた。
蔦の様な物を方々から伸ばし、Z1-Θに伸び上がる。
然うしてやっとZ1-Θを捕らえた。きつく巻き付いて締め上げる。
こんな物でダメージは負わないだろう。でも留めて置ければ十分だ。
別に此の蔦状の自分だって万能ではないのだろう、だから次々と焔に焼かれて溶けてしまう。Z1-Θの回転する刃にもあっさり斬られてしまう。
其でも蔦の様に細長くなってしまえるのなら、其の隙間に入るのは容易だ。
此でZ1-Θ本体が光魔力を纏っていなくて本当良かった。其をされていたら手出しなんて出来なかった。
幾重もの蔦に絡まれ、終にZ1-Θは身動きが取れなくなる。
そして其の儘玩ばれる様に焔に包まれて行く。
Z1-Θは其でも暫くは水を吐き続けていた。
でも水の量は有限だったらしい。唐突に放水は終わったのだ。
そして・・・卵が殻を破る様に、其の中心部が行き成り開いた。
中心で瓊が輝石の様に煌めく。
―今だっ!行け!―
命じる迄も無く、魔力はもうZ1-Θへと向かっていた様だ。
突然大きく震えたかと思うとZ1-Θは回転刃を止め、何度も殻を開いたり閉じたりし始めた。
明らかに挙動不審だ、此は・・・若しかして、
―ヤッター!私ノ躯ゲット!―
そんな何処かふわりとした音がZ1-Θから発せられた。
―っ皆ストップストップ!―
急いで声を掛けて回る。皆にも今のZ1-Θのテレパシーは聞えていた様で、直ぐ攻撃を止めた。
同時にZ1-Θを絡め捕っていた血の蔦も朽ちてなくなる。
自分の一部がちゃんと役目を終えたのだ。
焔も氷柱も凱風も止み、Z1-Θは緩りと床へ降り立った。
波紋を飛ばしてふわふわと浮かんでいるが、先迄と違い、大分穏やかそうだ。
其でも皆遠巻きにZ1-Θを見詰めていた。
Z1-Θは変わらずカタカタ動いたり回ったり、不審な動きを続けているからだ。其でも攻撃をして来る気配はなかった。
来ないとは言っても、いや寧ろ恐いか。
此処は自分が取り持とう。
―如何だ?躯の感覚は。―
―変ナ感ジ?未ダ馴染ンデナイノ。何カ、私ガ変ワッテク感ジ。―
―んん、魔力がか?―
不思議な言い方をする。変わるなんて、一体如何言う事だろう。
然うは言っても魔力が躯を使うなんて前代未聞だ。然も術者がいない、魔力単独だ。
だから見た事のない反応はあるかも知れない。
機械が意思を持った!程度じゃあ済まないか。
―取り敢えず、思い通りには動くのか?―
―ウン!大丈夫ダヨ!―
暴走する心配がないなら良いか。魔力にはじっくりと堪能して貰おう。
躯を与えるなんて恐ろしい事をしてみた訳だが、案外面倒がって離れてくれるかも知れないな。
飽きたら飽きたで其で良い。元々イレギュラーな提案だったし。
―皆、もう大丈夫だ。御蔭で助かった。―
―凄い、じゃあもう動かせちゃうんだ。―
―ウン!出来ルヨ!―
「むぅ、喋ったのだ。」
急に友好的になったZ1-Θに皆釘付けだ。一気に彼を取り巻く輪も縮まった。
―ん、皆もちゃんと声が聞こえるのか?―
「噫、電子音じゃないんだな。テレパシーに近いか?」
分身を解いてケルディは耳の後ろを掻いた。彼も十分力を使えて満足した様だ。
面白い事が分かったな。躯を得れば、魔力は話せるのか。
今迄は自分みたいに魔力と繋がっている奴しか話せなかったのに。となると魔力にとって可也新しい発見になる訳だ。
魔力事Z1-Θも皆と話せて嬉しいのか、ふわふわと楽し気に浮かんでいる。
一見微笑ましいが・・・個神的に喜べるか如何かは怪しい所だ。
魔力にとっては屹度、良い事だろう。でも斯うなって来ると何れ魔力達は自分の手を離れるかも知れない。
利用している側としては何とも言えないな。勿論何時迄も今の関係の儘と言うのは無理だろうと思ってはいたが。
無論店の皆と仲良くしてくれる分は構わない。只其の外の友好関係と言うと・・・悩ましい所だ。
まぁでも其も仕方ないな。全てコントロール出来ると思わない事だ。相知の関係でいられる様、願う丈だな。
―じゃあ片付いたし、そろそろ移動するか。えっと・・・Z1-Θ、だったか。歩けるか?―
―ウ、ウン。大丈夫ダト、思ウヨ!―
少しふら付き乍らも応えてくれた。
只、少したどたどしい様な、本当に大丈夫だろうか。
―残っていたら兵に見付かった時、如何されるか分からないから出来れば付いて来て欲しいが、無理に戦おうとかしなくて良いからな。―
―ウン、付イテ行ク事丈頑張ルノ。大丈夫、未ダ慣レテナイ丈ダカラ。―
余り心配し過ぎるのも悪いので此位にして置こうか。
其迄の機敏さとは打って変わってしまったが、此の儘彼の自由にさせてみよう。
此の魔力は取り分け御喋りで良く自分に付いて来てくれている奴だった。
だから躯とかには特に興味を持っていたのだろう。今も、何とか置いて行かれまいと頑張っているみたいだ。そっと見守ろう。
「なぁ、他にも兵は居るのか?」
―噫、此の先の部屋を護ってるな。例の電波の部屋かも知れないし、行くぞ。―
休憩は終わりだ、未だ未だ暴れて置かないと。
一同は足音高らかに駆け出すのだった。
・・・・・
一方セレ達と別れたドレミ、ソル、ALは慎重に探索を続けていた。
ソルの御蔭で危険は事前に避けられている。彼女の耳は迚も良いのだ。
何時も以上に慎重に構えているらしく、彼女の髪が時折震えた。
髪が耳とかと連動して震えるのは、何だか一寸ハリーに似ている気もする。
彼女は背伸びをしたかと思うと一寸丈顔を上げた。
如何やらああすると良く音が聞こえるらしい。彼女曰く、此の位の施設だったら廊下での物音は大体聞き取れるらしい。
だから実際前方から誰か来るのに気付けば逸早く伝えて物陰に潜む、非常に安定した状態で全くばれずに進む事が出来た。
因みにドレミはALの御守が主な仕事になってしまった。
事ある毎に彼は目を輝かせて機械やら水精に近付いてしまう。
完全に見学の心地である。“彼は何ですか!”“凄いですねぇ!”と潜入中にも関わらず、感想駄々洩れだった。
其の度にドレミが諫めてを繰り返して来たのである。別の意味でひやひやしてしまった。
一応セレが教えてくれた通りの道を進んでは来ている。既に彼女が書いてくれた地図の向こう側なので、より慎重になって来る。
只此処迄来ると何度も足音が行き交うのがソルには聞こえるらしく、頻りにストップが掛かる様になって来た。
―うーん、何やら慌ただしいわ。皆同じ所行ってるからセレ達かな。―
「だね。屹度セレちゃん達が頑張ってるんだよ。」
「ほ、本当に暴れちゃってるんですか?」
今更になってALも潜入中だった事を思い出したのか声を潜めた。
若しかしたら先迄のは気を紛らわそうとしていたのかも知れない。
―結構暴れてるね。えっと・・・火事とか、起こってるかも。―
「一寸其はやり過ぎじゃないかな。」
何だか心配になって来た。其なら研究員も一杯出て来ちゃうよ。実験所じゃなくなってしまう。
下手したら避難をしている可能性だって出て来る、其の方が都合が良いのは確かだけれど、大丈夫だろうか。
「こんな不慣れな所で火事は危ないですよぅ。」
―あ、凄く離れてるから屹度大丈夫やって、ね?―
「離れてても一酸化炭素は流れて来ますよ!は、早く助けとか、呼んだ方が良いですよ、流石にやり過ぎです!」
御人好しな彼の事である、火事は洒落にならないと、慌て始めてしまった。
ドレミが止めようにも聞く耳持たない様子だ。
「えぇっと・・・あ!彼処に行きましょう!」
―ちょっ!一人で行ったら危ないよ!―
ある一部屋にALは透かさず飛び込んで行く。急いでドレミ達も付いて行ったが、幸い他には誰も居ない様だった。
「皆さん此処なら外部と連絡出来るかも。」
「で、でもALさん、其は・・・大丈夫かな、ドレミ達潜入中だし、」
其にある意味火を付けたのは自分達だし・・・。
「そんな事言ってられませんよ!人命が掛かっているんですっ!」
凄く真っ当な意見を返されちゃった・・・でも確かに然うだよね。
自分達の所為で誰かが死んじゃったら嫌だし、うん。ALが正しいと思う。
・・・其より若しかして自分、一寸ドライ過ぎたかな。セレので斯う言う騒動、慣れちゃったのかも。
どうせ時間が戻るし、とか思わなかった訳じゃあない。
・・・駄目駄目!しっかりしないと!
ALには部屋の物が何なのか大体察しが付くらしく、色々弄ったりしていた。
其の間誰も入って来ないか、ついひやひやしてしまう。
「ぬぬ・・・此は、何故か妨害電波が流れていますね。邪魔なので切って置きましょう。」
「一応動かすのは慎重にね。」
彼の事だから突然爆発したりなんて事はないだろうけれど、用心に越した事はない。
彼は外部に連絡を取りたがっているけれど、内部にばれないとも限らないし。
うーん、矢っ張り止めさせたいけど、如何止めたら良いかも分からないし、うぅ。
「ね、ALさん。そろそろ移動しないと。」
「うぅ・・・此処に通信機は無さそうですねぇ。ロックも掛かってないですし、皆個別で持ってるのかもですね。」
残念がるALだったが、反対にドレミ達は安堵の息を付いた。
下手に触れるのは何の道良くない、危ないかも知れないけれど此の儘先に行こう。
―今は近くに誰も居ないみたいやし、一気に行った方が良いね。―
「分かりました!行ってみましょう。・・・ん、」
ALは近くを転がる水精を徐に拾い上げた。
自分達には只の綺麗な石だが、彼には何が見えるのだろうか。
「此は・・・?一寸拝借しましょうか。行き乍ら読ませてください。」
「うん分かったよ。じゃあ次は此方かな。」
此処の扉の殆どは近付くと勝手に開く電子タイプだ。
余自分は斯う言うの慣れてないからドキドキしちゃうけれど、楽なのは良いね。
只其の扉を開けると何だか一気に熱気がやって来た気がした。
此処丈、妙な言い方だけど時間が生きている感じ。
閉じ込められていた何かが溢れ出す様な。
―っ!ドレミ一寸待って!―
「っ⁉グリちゃ・・・っ、」
声を掛けようとして思わず黙る。
一歩踏み入れた部屋は先のとは大きく変わっていたのだ。
可也大きな一部屋で、沢山の研究員らしき人達が歩き回っている。
此迄も見た事のない機器は沢山あったが、此処の比じゃない。
其処には巨大な、10m以上はあるであろう筒の様な物が床を這っていた。
其にチューブやら何やらが多数取り付けられ、頻りに光ったり音を立てている。
研究者達も其処を中心に色々と動いている様だ。
ドレミ達はそんな部屋の、上部の入口から入って来ていた。二階部分は狭い廊下が一巡している丈で、吹き抜けになっているので下の様子が良く分かる。
助かったのは研究員達は皆下の階におり、此の入口が薄暗く、目立たなかったので如何やらばれてない様だった。
「うわぁ・・・此処に一杯居たんだ。」
恐る恐る部屋に入る。
明らかに此の部屋は他と違う。何と言うか活発だ。
何か大事な事を研究して然うだけれど・・・。
―御免此の部屋、防音やったんやね。御蔭で全く気付かんかったわ。―
「未だばれてないから大丈夫だよグリちゃん。でも此処、何だろうね。」
「ほほぅ、確かに彼の筒は気になりますね。何が入っているのやら・・・。」
恐々ALも覗き込む。好奇心が勝っている様だ。
―ん・・・ねぇドレミ先輩、気の所為かも知れんけど、彼の人等って・・・同族、やないかな。―
「え、何処何処っ、」
そっとソルが指差した所を目で辿る。確かに殆どALと似た種族の様だが、一部明らかに違う者も居た。
其の違う者達の中で取り分け躯の大きい、一見河馬の様な研究員を彼女は指していたのだ。
「あ・・・ホントだ。何か違う気がするね。でも何でこんな所に・・・?」
自分達みたいに次元を助けに、とは違う気がする。
すっかり馴染んでいるみたいだけれども、一緒に何の研究をしているんだろう。
神が手を貸しているとなると、絶対普通の実験じゃない気がする。態々此の次元で・・・一体。
其にしても此処の人達、何か違和感が・・・。
「え、あれ、其より何で此処の人達逃げてないの。」
セレ達が暴れているから他の部屋から続々と研究員達は出て来ていた。
火事も起こっているんだ、避難しなきゃいけないのは明白の筈。
「っ然うですよ、危ないって言わないと、」
「待ってALさん!何か一寸変だよ・・・。」
研究に夢中で気付いていない、何て事はないと思う。
良く見ると研究員達の動きは何処か慌ただしかった。
先の河馬みたいな研究員も、何か大声で指示している気がする。
―若しかしてうち等が来た事、バレとるんやないかな。其で何か準備しとるとか。―
「うーん・・・此処が何の部屋か分かれば良いんだけど。」
「其なら・・・若しかしたら此処が時間操作関係の研究をしているのかも、ですね。」
「え、ALさん其本当⁉」
ちらとドレミが見遣ると、彼は手にしていた水精をクルクル回していた。
「此の辺にある資料、全部そんな事が書いてあるので・・・間違いないと思いますよ。」
「じゃあビンゴだよ!屹度此処で時間を巻き戻してるんだよ。」
そんな研究怪し過ぎる、セレ達を此処へ呼んだ方が良いかもね。
其にしても、肝心の此処の研究員が逃げていないのは一寸困るけど。
―セレちゃん、其っぽい所見付けたよ。ドレミ達の所迄来られるかな?―
―ん・・・んっ、わ、分かった直ぐ行く。―
何やら取り込み中だっただろうか、少し慌てた様な返事だったけれども、来てはくれるみたいだ。
じゃあ合流する迄待機で大丈夫かな。
「ALさん、皆もう直ぐ此方来るけど、如何かな。何か分からないかな。」
「然うですね・・・ん・・・何か気になる事を書いているのは一杯見えるんですよ。何かの・・・捕獲計画、とか。ループの・・・対処法?専用捕獲機Z1-ΘえっとSO-7?・・・何の事でしょう。」
流石、複眼だからか彼には何とかそんな文字が見えている様だ。
紙とかは見当たらないから・・・矢っ張り床に転がされている水精から見ているのだろうか。其にしても、
―・・・完全に此処やね。―
「だね、大当たりだよ。」
二柱して思わず苦笑してしまう、明らか過ぎる。此処で何かしているんだ。
「ALさん、悪いけど矢っ張り此処が怪しいよ。セレちゃん達が来たら一寸調べないと。」
「然う・・・ですねぇ、まさかこんな身近に原因があったなんて。」
少ししょんぼりとした様にALは視線を落としている。でも此ではっきりしたんだ。
「皆、待たせたな。此処が然うなのか?」
扉が開いてセレ達がやって来た。・・・あれ、何か色々と起きたのか変化が一杯だ。
―あれ、知らない子が二柱おるんやけど。―
「ん、噫俺はケルディだぞ。戦い易い姿に変身してる丈だ。」
―宜シク!私エット・・・名前ハ考エ中!―
「先色々あって仲間になって付いて来ているんだ。」
「然うなんだ、こんな所でも仲間が増えるなんて凄いねセレちゃん。え、あれ、セレちゃん服変えたの?」
気付けばセレはオーバーコートの下に白衣を着ていた。何だか不思議な装いだ。
「噫此は・・・先色々あって服が破けてな。一寸借りているんだ。」
「色々あって服が破けたの⁉」
余りに聞き慣れない言葉につい反芻してしまう。
自分達と別れて一体彼女に何が起きたと言うんだろう。
斯う言っちゃあ悪いけれど、セレは結構身形に頓着はしないから、彼女が着替えると言うのは余っ程の事だ。
一寸破けたとかそんなレベルじゃない筈・・・若しかして、
「あ、若しかして燃えちゃったとか?先火事あったんだよね?」
「火事?いやその・・・何と言うか姿が変わっちゃって、」
もごもごと急に口籠ってしまう、余り言いたくなさそうだ。
「又セレちゃん変身しちゃったんだね。」
正直慣れて来た感が出て来た。其にしても急だけどね。
「噫、多分ドレミ達が何か装置を弄ったんだろう。此処の機械が私に悪影響していたみたいで、先治ったから助かったよ。」
「あ、多分其ALさんだよ。そっか、大変だったね。」
何気先ALが妨害電波が如何とか言っていた気がするし、彼でセレが助かったらしい。
一体どんな姿になっていたのか一寸気になるけれど、まぁ治ったなら良かったね。
再会に喜ぶ一同だが、話し込む訳にも行かない。
何気ケルディの姿が変わった事にソルは大変驚いて撫で捲っているが、今は潜入中である。
「・・・で、此処が怪しいんだったな。」
―そ、然うやった。あの、此処で時間の研究しとるみたいなんよ。―
「其は其は。・・・成程、他にも神が居るな。」
「向こうにも居たの?何だろう、益々怪しいね。」
「うむ、では如何するのだ?此処の奴等は我等が暴れていた事に気付いてなさそうやのぅ。」
暢気に研究を続けているし、此処で暴れたら爽快かも知れないが。
―いや、何か気付いとるっぽいよ。急げって其ばっか言うてるし、若しかして何か武器とか創っとるんかな。―
「其はありそうだな。Z1-Θだって居たし、似た物があるかもな。」
彼の仲間か・・・余り戦いたくないなぁ。
一見此処にはいなさそうだが安心は出来ない。恐ろしい存在だ。
「へ、Z1-Θ?Z1-Θが居たんですか?」
以外にもALが食い付いて来た。少し詰め寄って来たので思わず下がってしまう。
彼の複眼が不自然に煌めいた。
「ん、噫。其処に居るだろう。折角だから貰って来たが。」
魔力も自分の事だと気付いて寄って来た。ALは大きな目を更に丸く大きくさせる。
「こ、此が・・・。如何やら此、何かを捕まえる為に創られたらしくて、余り見慣れない名前でしたが。」
「其、気になるな。一体何をする為の奴なんだ?」
「貴方達の様な、鼠を捕まえる為ですよ。」
突然の声にびくつく、見ると研究員の一柱が此方をじっと見詰めていた。
一見山羊に似た、でも白衣の下から章魚の様な触手を覗かせた神が、じっと。
其の声と同時に周りの研究員達も一斉に此方を見遣った。
そんな・・・ばれていたと言うのか。予備動作なんて一切無かったのに。
「まさか自ら弱点を引っ提げて来るとは。Z1-Θ、其の化物を殺しなさい。」
―エ、ヤダ。―
「・・・・・。」
Z1-Θ、魔力の其の一言で、場は完全に凍り付いた。
近くに居た研究員達も皆固まってしまっている。
唯一規則的な機械の音丈が、辺りに満ちていた。
時間は止まらず戻らず、ちゃんと進んでいるらしい。
「い、今のは・・・ん、Z1-Θに発話機能は無いよなっ⁉」
「な、無いです、はい。」
「・・・っZ1-Θ、もう一度命じるぞ。其の化物を殺すんだ。」
―ダカラ嫌ダッテ。―
「・・・・・。」
彼が一言発する度に静かになる。
何だか面白くなって来た。思わず口元に手を当ててしまう。
こんな風になるつもりはさっぱりだったが・・・ククッ、魔力も粋な事をするな。
「相変わらず妙な事をする化物だ。勝手に私の自信作を改造するなんて、前はあんな事されなかったのに。」
「一寸!黙って聞いてたら神聞き悪いよ!化物化物って連呼しないでよね!」
「うむ、此の卵の方が余っ程悪魔的だったのだ。そんな風に言われる筋合いは無いのだ。」
其迄事の成り行きを見守っていた方々から弥次が飛んで来た。
Z1-Θ事魔力も、まさか自分中心にこんな盛り上がっているとは知らず、不思議そうに揺れている。
「ぐぅう、全く。今はそんな事如何でも良いだろう。」
「噫然うだな。其より大事な話があるからな。」
幾つか、気になる事が出来た。其を聞かないと納得出来ないな。
セレが一歩動くと、山羊の神の目が動く。
・・・一応緊張はしている様だ。
「AL、出来る丈で構わない。此処の研究について調べてくれるか?」
「わ、分かりましたよっ!」
ひらりとセレは二階から飛び降り、階下へ降りた。
其丈で、近くの研究員達は下がって行く。
翼を一気に広げて、威嚇する様に辺りを見遣った。
ALには此の姿、晒していなかったが・・・まぁ彼なら気にしないだろう。然う願おう、此の次元の住人は神に優しいみたいだし。
其にしても確かにドレミ達の言う通りだろう。こんなに神が居るなんて明らかにおかしい。
何の研究をしていたのか、是非ともじっくり聞き出したいな。
「大事な話だと・・・貴様に話す事等、」
「御前、私と初対面か?」
然う尋ねると、彼の目尻が上がった気がした。
「全く、本当に厄介な化物だ。」
そんな返事が聞こえたか如何かだった。
突然肩に激痛が走ったのだ。
「っ此は、」
波紋が一瞬遅れる。気付けば右肩から黔血が出ていたのだ。
そして、目の前の山羊の神の手には拳銃が握られていた。
状況的に撃たれたのだろう、でも何時の間に。
早撃ちか?そんな芸達者な神に見えなかったのに。
寧ろあんな触手の手である、そんな素早く動ける物なのか。
セレの困惑に、山羊の神は少し丈口端を上げる。
もう嬉しさを隠せない様だ、嫌な顔だ。
何はともあれ、次の一手迄に動けば、
飛び掛かろうと尾を伸ばした時だった。
「・・・っ、ガァア⁉」
流石に声が漏れた。瞬きにも満たない間に、今度は脳天と腹から痛みが走る。
まさか又・・・撃たれた?
理解が追い付かない、けれども目に掛かる血が、気持悪くなる様な内臓の疼きが、事実を押し付ける。
何だ、此は。彼の銃が特別な物なのか?
見えない程のスピードで、こんな撃ち抜かれるなんて。
何の弾も、貫通はしていないだろう。嫌な感覚だ。
何より頭をやられている。又候此処を撃たれてしまったか・・・気持が悪い。
大丈夫、今更こんなので死にはしない。けれども、撃たれて一番嫌な所なのは変わらない。
如何しても、前世の影が騒めくのだ。脳天なんて・・・ガルダの姿が、如何しても。
噫、本当に腹立たしい。
だから自分は、御前達の事が嫌いなんだよ。
如何痛みと絶望を与えて殺そうか、其しか考えられなくなるだろうが。
「っ此でも死なないか。」
「え、セ、セレちゃん大丈・・・っきゃ!」
其処で始めてドレミ達もセレが撃たれている事に気付いた。
だがドレミが一歩足を出した所で、彼女の手に銃創が走り、血が滴った。
遅れて、彼女の顔が歪む。思わず手を引いた際に血が零れた。
―っドレミ、撃たれたの⁉―
「なっ、銃ですかっ!」
上階の仲間達も慌ただしくなる。
又、気付かない内に撃たれている。でもそんな事って有り得るのか?
波紋にも写らないなんてそんなの、
否、そんな事より、そんな事なんかより、
「全く、外野は邪魔しないでください。只でさえ面倒なのに。」
ぐるぐると、頭の中で言葉が滑って行く。
思考が黔く沈む。考えが纏まらない。
噫、そんな事より、
此奴は、此奴は、此奴は、
敵だ、自分の敵だ。赦せはしない、必ず殺せ。
そんな黔い声は全て呑み込まれる。
噫、聞きたい事あったのに。
首丈にしたら聞けないじゃないか。
そんな声すら押し流し、黔い化物は、山羊の神丈を見据えて飛び掛かった。
幸い狙うの事態は上手くないんだ。銃の腕は無い、早い丈だ。
只早いと言うよりは、瞬間移動をしている様にも見えたがな。
でももうそんな事は如何でも良い。
御前は、此の爪で、引き裂かないと気が済まないんだ。
「ガァアァア‼」
六つの瞳が神を捉えて離さない。銀と黔の水鏡が瞬く事も忘れて睨め付ける。
自分は、自分が思っている以上に貪欲で、頭に血が上り易い。
・・・最近、新たに知った事だ。
まぁ今回は特に、脳天を撃たれてしまっているから思考が極端に陥り易いのかも知れないが。
仲間が傷付けられた、其の事実丈でこんなに簡単に我を忘れられる。
我乍ら分かり易い、護る事すら出来ない癖に。
奪っても良い口実が出来たら直ぐ此か。
其でも良い、こんな偽善ですら、自分を騙し慰めるから。
私は仲間の為に刃を振るう。
ククッ、何て綺麗で・・・儚い刃だ。
山羊の神は僅かに動じた様だった。同じ様に視線を逸らせなくなる。
でも震えた手はしっかりと銃を握り、セレに銃口を向けていた。
撃てば良い、でも撃つなら自分にしろ。其以外を巻き込むな。
此以上好き勝手されたら、自分ですら如何なるか分からないんだから。
又、瞬き、奴に爪を伸ばした所で全身に違和感。
噫、又撃たれている、着地迄の間に何発も。
右耳、頭、脇腹、左足の付け根、
手足には妙な衝撃が。恐らく此処も撃たれたのだろうが甲で弾かれた様だ。
血が流れる、でもそんなの構ってられない。好きに散らせば良い。
只、只自分は、
御前を殺せたら十分だ。
考える事すら鬱陶しい、早く早く、此の熱を。
何丈撃たれても構わず突っ込む化物は流石に、神でも恐怖を覚えるだろう。
奴が目を見開いた所へ、其の頸に、刃を伸ばした。
後は此を引く丈で、
其で又既視感にも似た瞬き。
そして大きく波紋が変わった。
自分は確かに神の頸を掴んでいた。そして其の儘其を掻っ斬る。
だが落ちたのは・・・べつの奴の首だった。
確か此奴は、奴の隣に居た筈、如何して、
庇う様な形で出て来たのだから再生力持ちと思ったが違った。
神の遺体はあっさり消える。只、目の前の山羊の神は無傷だった。
・・・何をされた?確かに奴の頸に手を掛けた筈、こんな身代わりを作る暇なんて確実に無かったのに。
でも困惑したのはセレ丈ではなかった。他の研究員達も俄に騒ぎ出したのだ。
「お、御前何やって・・・、」
「まさかそんな使い方して赦されると思うなよ!」
「煩い!私が上手く使えているんだ其位、」
山羊の神が近くの研究員達を怒鳴り付けた所で、血が騒いだ。
そして即座に、辺り一帯に黔い水精が釼山の様に生えて来る。
脈絡もなく生えた其は機器を派手に壊し、研究員達を何柱か貫く。
噫、自分の意思に反応してしまったか。
煩いと、奴に撃たれて散らされていた血も思ったらしい。
騒ぐ位なら殺すと。
「っぐぅ、」
此には山羊の神も喰らったらしく、突然現れた水精は右側の触手を激しく斬り裂いていた。
碧い血が水精に掛かり、不思議な曦を照らす。
呻く彼は数歩、セレから離れた。・・・然うか、此の攻撃は喰らったのか。
其にしても、先から何だろうな此の違和感。
「っ!セレさん、分かりましたよ!一個御願いしたい事が、」
ALが声を荒げる、慌てて自分は翼と尾を彼に向けて有りっ丈広げた。
「っ小癪な、」
山羊の神が眉根を寄せる、其の時には自分の翼は穴だらけになってしまっていた。
一体何発ぶち込まれてしまったのか、鳥の翼は殆ど千斬れてしまっている。
血も一気に溢れ、羽根が舞い散った。
けれども・・・後ろの彼には怪我は無い様だ。
成程、仕組みは兎も角、少し丈タイミングが分かって来たな。
「ッヒィ!や、野蛮ですね。」
「良いから早く教えてくれ。」
奴がALを狙ったと言う事は間違いない、ALなら気付ける事だったんだ。
是非とも教えて貰わないと。
「っセレさん、彼の奥の細長い大きな機械あるでしょ!彼を壊してください!」
必死にALが遥か先を指差す。
其の先を波紋で探ると何を指しているのかはっきり分かった。
彼の大きな機械か・・・確かに気になるな。彼からチューブとか出ているし。
一寸大き過ぎて本当に彼なのか少し疑ったが・・・まぁ間違いなさそうだな。
「分かった、一気に攻めるぞ。」
「セレちゃん!ドレミも行くよ!」
言うや否や空気がビリビリと引き締まる気がした。
背筋がゾゾッと凍える様な・・・ううん恐ろしい。
恐らくドレミの魔力だ。未だ術として放っていないのに、魔力が雷属性に釣られている。
彼女の干渉力の賜物だろうな。真っ向から受けたくない力だ。
「あ、待ってください二柱共、優しく!優しくしてくださいね!」
いや優しく壊すって何だよ。
つい心の中で突っ込んでしまった。正直意味が分からない。
苛烈さを増したドレミの魔力も一度途切れてしまう。
「え、ALさん其如何言う事?」
「だってぶっ壊しちゃったら・・・、」
「っ余計な事を、次元の主導者の癖して其方に味方するか。」
「闇盾」
咄嗟に術を展開し、ALの前に黔い盾を創る。
そして出来た瞬間、魔力が少し散らされる感覚が走った。
如何やら又撃たれた様だ・・・予め心構えをしていて良かった。
山羊の神は心底嫌そうに目を細めていたが、其は辺りの研究員達も似た様な物で、向こうの空気は険悪其の物だった。
何やら使う、とか言っていたしな。同意も無く何か此奴が此の妙な力を使っているんだろう。
でもALの言う通り、奥の機械を壊せば止められる、かも知れない。
・・・優しくって言うのが今一分からないが。
若しかしたら無力化して持ち帰り、研究するつもりなのだろうか。
「ハリー、皆を護ってくれ。前方に壁でも創ってくれたら防げる筈だ。」
「うむ、分かったのだ!」
二階に玻璃の壁が一気に張られる。
まるで防弾玻璃だ、イメージとしてはぴったりだな。
其の間に一気に自分は前に出る。
もうすっかり躯は穴だらけだ、流石に十分だろう。
彼の神は殺してやりたいが、優先順位は変えようか。
そんな小細工なんて一切出来なくさせて、其からじっくり相手をすれば良い。
山羊の神も含め、皆一気に道を開ける。
反応は悪いが、まぁ正面から戦おうと言う奴はいないのだろう。
其の程度の意思しかないのなら自分の邪魔なんてするな。
「ガゥアァア‼」
吼え声を上げて牽制しつつ前へ。
「っ駄目だ、奴に触れさせるな!」
「そ、そんな事言われても、」
響動めく研究員達は手一つ出さない。
・・・如何やら彼の妙な瞬きは彼の山羊の神にしか出来ないのか?
銃の腕からしても奴自身そんな戦闘の心得なんて無いだろう、今の内に出し抜く。
片翼が殆ど使い物にならないので、地を思い切り蹴って跳び上がる。
そして例の機械の上へ、其にしても壊すにしたって如何壊せば良いんだ?
尾と爪を角に引っ掛け、何とか引き剥がしに掛かる。
取り敢えずは外装を外してみよう、剥き出しにしてしまえば良いんだ。
然うしていると突然四方に紫電が走った。
思わずびくつくがドレミの物だろう、的確に機器を狙い打っているらしく、黔煙が上がり始める。
更にそんな機器の隙間から翠が伸び始めた。
其は蛇の様に伸び上がり、頭を擡げて広がって行く。
珍しい術に思わず注意が逸れるが、今度はソルの翠の術だ。
植物を操る物とは聞いているが、何とも不思議だな。
意思を持っているかの様に黄の華を咲かせて震える。
其処から散った花弁は一枚一枚が掌程の大きさで、舞い散る様に見えた其は辺りの物を手当たり次第に引き裂いている。
「此、何だ。触るな!危ないぞ!」
「っぐぅ、押し返せない。」
見た目以上に非常に鋭い其の花弁は研究員達にすら刃を向ける。
殺意無き攻撃に被害が広がって行く。何とか抵抗しようと術を放つ研究員も居るが、術毎裂かれてしまっている様だ。
何て威力だ、加えて未知の植物と言うのもあり、出方をつい見てしまうのだろう。御蔭で機械から皆離れて行く。
「ん・・・良し、此処が開くな。」
やっと爪が刺さり、外装を傷付け乍ら捲って行く。
「・・・こんな所で使いたくなかったが、」
其の中、花弁に触手を斬り落とされ乍らも山羊の神が自分に近付いて来ていた。
其の意気丈は認めてやる、こんな状況でも自分に近付くなんてな。
奴は胸ポケットから小さな橙色の水精を取り出した。
先が尖ったナイフの様な水精だ。妙な魔力を彼から感じる。
避けたい、が又彼の瞬きだ。気付いた刹那其はもう自分の右肩に刺さっていた。
相変わらず、見えないな。本当に瞬間移動したかの様だ。
血は殆ど出ないが何をされても恐い、此奴等はZ1-Θを創ったのだ。
さっさと左手で水精を抜いて、其を取り落とした。
不意に力が抜けた様な、思わず手を見るが痺れた様に震えてしまっている。
此は・・・?麻痺毒か、不味い、
い・・・や、其丈じゃなくて、
一気に波紋が狭まる、足が一歩も動かない、力が抜けた様に口を開く。
頭が・・・何も考えられなくなる、何だ此の感覚は、
良くない、此は絶対に良くない感覚だ。分かっているのに・・・動けない。
「な・・・に、を、」
何とか声を紡ごうとした所で彼女の意識は不図闇へ堕ちるのだった。
・・・・・
はい、自分で書いていて彼だけれど、時間ループ物って書くの面倒ね。
矛盾無く書くの滅茶苦茶面倒でした、思い付きでする物では無い・・・。
と言うか矛盾は出て来ちゃっていると思います、ちゃんと説明していない穴があるなぁと後から分かっちゃいました。
まぁ今回の本編とは関係ないし、良いか!とスルーする事にします、セレ達が全部気付ける訳でもないですからね。
因みにセレが変身しちゃったのも完全にノリです。何だか化物出したいなぁと思った結果です。
ぶっちゃけるとZ1-Θもノリです。もう滅茶苦茶、すんごく設定変わりました。抑御前は一体誰なんだ。
此処迄書くと如何にノリ丈で書いているかが分かるでしょう、だから校正に時間が掛かるんだよなぁ。
でも一番大事なのは楽しく書く事だと思っているので此が大正解!と言う事で後半戦も行きますよ!




