48次元 幽霊は新月にユメを見る
今日は!更新頻度がバグっていますね!
と言う事でまさかの週一投稿、凄い勢いで入力していました。
要は入力を如何にやり続けられるかの集中力の勝負でしたからね、いやぁやり切りました。
御蔭で今凄くテンション高いです!複数の創作活動をしているので、今度は其方をゴリゴリに頑張るぞ!とやる気に満ち溢れている所です。
そんな今回は大分大きい話!本来は此処書く予定じゃなかった筈なのに、如何して斯うなった。
其が本当自分でも分からないですよね・・・バトルさせる気、一切なかったんですが。
屹度セレの虫の居所が悪かったのでしょう、南無三。
と言う事で、今回はタイトルの法則で次元には行きません!
今回はザ・バトル回なので、動きます!動き捲ります!
ではでは血みどろな戦のスタートです!
消えろ、消え去れ幻の塔
どんな高い塔なれど、どんな立派な塔なれど
地割れ崩れれば只の砂
砂に還れ偽りの塔
そんな物で、私の歩みを止められると信じるなら
・・・・・
一陣の凱風が荒廃した遺跡を吹き抜ける。
遺跡は全体的に薄紫色の石を用いて造られたらしく、所々曦を放っていた。
もう罅割れ、一部崩落している様だが、未だ力は残っているのだろうか。
大きな入口から三叉路に分かれ、小部屋に続いていると言った構造の遺跡。
蕭森の中にひっそりと建つ其は、もう忘れ去られて等しく思われた。
だがそんな遺跡の中から何者かが姿を現した。
其は全身が金属か石で出来た様な四つ足の生物だった。
四本の足には刺青が彫られ、生きているかの様に時折曦を放つ。
そして若干宙に浮いているのか、足を動かさずとも移動する事が出来る様だった。
伸ばされた少し長い頸は瓊を数珠繋ぎにする様にして構成されており、瓊は常に回転して曦を反射していた。
其の瓊からは金属製の翼の様な物が生え、滑らかに輝く。
「ルー・・・ルルルー。」
何かを探す様に其は首を伸ばして辺りを見遣っていた。
少し遺跡から顔を出して行く。
「ん、遅くなったか、待たせたな。」
近くの茂みが揺れ、セレが姿を現した。
軽く手を上げると其はそっと彼女に近付いて頭を寄せる。
つるつるとした表皮は撫でるとひんやりとし、心地良い。モフモフではないが、此は此でありだな。
「キレンツカイナ、そろそろ行こうか。」
「ルルルー・・・。」
キレンツカイナ、其が此の龍の名だ。
此の遺跡に住んでいたのを見付け、其からは時々会いに来ている。
最近は特に時間を見付けては来る様にしていた。
キレンツカイナは縄張意識が強い龍だ。
此の遺跡が彼の縄張だそうで、基本此処から彼は動かない。
でも此処にはもう彼の餌になる様な物は殆ど無いのだ。此処に残った所で餓死してしまう。
実際龍古来見聞録でも彼等の死因は餓死が多い、其程迄に縄張から離れたがらないのだ。
長命で中々勁い龍なのに、随分あっさりした最期だ。自分が見付けた時も彼は死に掛けていて、こんなに元気ではなかった。
だから自分は何とか彼を動かそうとした。リュウの所にも行きたがらないし、かと言って餌を持って来る事も出来ない。
でも、自分の特性を喜ぶ可きなのだろうか、彼は随分と自分に懐いてくれていたのだ。
帰ろうとすると付いて行きたそうにしていたので、何とか散歩位は出来る様になったのだ。
此で散歩序でに彼の食糧確保も出来る訳である。・・・折角の龍を見す見す死なせずに済んで良かった。
リュウに此の事を報告すると、“散歩するキレンツカイナだって⁉”と其こそ目玉が飛び出さん位に驚いた事だが。
まぁ然う言う個体もいるのだろう、此で彼が延命出来るのなら丁度良い。
「ルルー・・・ルル、」
自分が蕭森へ向け歩き出すと、緩りキレンツカイナも付いて来た。
彼は浮遊しているので足音はしない、彼の電子音みたいな独特な声で所在を把握するのだ。
自分じゃあ彼の餌を見付けられないので、適当に歩いて回る事にする。見付ければ自分で食べてくれる筈だ。
「ルールルルー。」
「ん、此処に村があったのか?」
彼は時々自分にテレパシーやイメージを伝えてくれる。
今伝えてくれたのは少人数の人々が暮らしている村のイメージだった。
所々、名残と思われる柱や石片がある、本当らしいな。
成程、何で滅んだかは知らないが、此処に村があったからキレンツカイナは彼処を縄張にしていたのか。
・・・滅びたら共に滅んでしまう、悲しい性だな。
「御前はもう縄張を変える気はないのか?此処に居続けるのも限界だろう?」
「ル、ルル。」
「もう十分生きた、か。矢っ張り龍族の考えは違うな。」
自分は多分生きた丈じゃあそんな風に満足しない。
・・・抑、如何したって満足しないかも知れない、底知れない欲望があるから。
満足は諦めだって、逃げだって思ってしまうんだ。
「・・・若し私が生きて欲しいと御願いしたら動いてくれるのか?」
「・・・ル、・・・ルル、」
「ククッ、済まない、意地悪を言ったな。」
龍の性を捻じ曲げるだなんて、一介の神がして良い事じゃあないだろう。
じゃあ最後位もう少し付き合って置きたいな。
・・・本当、龍族と一緒に居ると心が楽になる。彼等位の距離が一番自分に合っているんだ。
仄かにキレンツカイナの頸の瓊が光っている、食事にあり付けた様だ。
今日は此の儘一回りしようか・・・ちゃんと見回りもしないとな。
「ル、ルルル。」
突然キレンツカイナがある方に向け足を速めた。
此の方角は知っている。彼は何時も此方へ行きたがるんだ。
此の先には正に村の成れの果てと言うか、残骸が多く残っている。彼にとっての餌も多くあるのかも知れないな。
其方へ足を踏み入れると直ぐ其と分かる物が目に付いた。
崩れる前とは言え、何とか家の体裁を保っているのが幾つかある。
井戸に柵、小屋の様な物や、墓地も見受けられた。
「・・・御前は如何して此の村が滅んだのか知っているのか?」
「ル、ルルル、ルー。」
「ん、然うなのか。何だか意外な理由だな。」
如何やら此処に住んでいたであろう神々は、皆使命を全うして消えたらしい。
神に子供なんて然う生まれないだろうし、新たに増える事も無ければ然うか、其の儘滅びるのか。
こんな様子の村を見ると何とも言えない気持になるが、案外幸せな村だったのかも知れないな。
皆、使命を果たせたのか。・・・然うか。
廃墟とは言え、何度か訪れた事があるからある程度地理等は把握している。
だから小さな変化も、気付かない事もなかった。
例えば自分達以外の足跡が増えていたり、折られた枝なんかを見ると・・・な。
「ル・・・ル?」
キレンツカイナがある廃屋に近付いた。
家の中が気になるのか鼻先を向ける。
「っキレンツカイナ、下がってくれ!」
急いで声を上げ、彼の前へ出る様に手を伸ばした。
其の瞬間、廃屋の影から金属製のロープが突然伸びて来たのだ。
其はしっかりとセレの腕に絡まり、ぎりぎりと締め付けて来る。
「ル・・・ル!」
「大丈夫だ、こんなの大した事ないよ。」
気を抜くと腕を引き千斬られそうな程の力だが、分かっていれば問題ない。
甲で覆われた腕なのも良かった。怪我にはならないだろう。
「おやおや、珍獣かと思ったら害虫が掛かりましたか。」
少し離れた廃屋の影からソルドとノロノロが姿を現した。
嫌な声だが、聞きたかった声でもある。待っていた甲斐があったと言う事だ。
相変わらず直前迄波紋で姿を見る事は出来なかったが、今なら絡繰が分かる。
無だ。無を己の近くで張る事で自分の波紋を吸収してしまったんだ。
フォードは単に物や術を消す事に彼を使っていたが、此奴は少し応用を利かせているんだな。
むかつく嫌な奴ではあるが、魔術の才はあるのだろうな。集中して無を創り続けるなんて中々の労力だ。一歩間違えれば自滅し兼ねない。
でも分かってしまえば・・・此方の物だ。対応出来る、少なくとも対策は打てる。
だから、待っていたんだよ。舞台を作って奴が来てくれるのを。
現れた奴の顔は相変わらずの酷い笑みで、でも引き攣れた様な痛々しい傷跡がしっかりと刻まれていた。
其の瞳は嗤ってい乍らも残酷な色を宿している。
「おやおや、何とも個性的な面構えだな。今オンルイオ国では其が流行っているのか?」
「挑発のつもりですか鼠が。」
「其の鼠に気を取られて自ら罠に掛かりに来てくれた間抜けな猫には言われたくないな。」
「罠だと・・・っ、はったりめ。」
彼の笑みは崩れない。でも必要以上自分には近付かない様だ。
此奴は自分に油断している。だから堂々と姿を晒すし、屈辱を与えようと必死だ。
・・・舐めるなよ、相手は嫌な奴程きっちり殺した方が良い。
とは言っても口丈で近付かないのは前回の反省かもな。
傷跡が疼くのかも知れない。熟前回殺せなかったのが悔やまれるな。
まぁ良い、今回しっかり相手すれば良いんだ。向こうも其のつもりで来てくれたんだろう。
対峙していると何だかノロノロの元気が無い事に気付いた。俯いてちらちらと此方を見ている様だ。
奴を此処へ連れて来たのはノロノロの情報なのだろう、だからってそんな後ろめたくは思わないで欲しいな。
生活にルーチンを作るなんて無防備な事、意味もなくやる訳が無いのだから。
「如何したんだノロノロさん、今日は記念す可き奴隷解放記念日だぞ。もっと喜ばないと。」
「ノ、ノロノロ~、で、でもノロ、」
如何やらノロノロには自分がはったりをかましている風に見えるらしいな。其は面白くない。
「おや、記念日の種類を間違えているみたいですねぇ。今日は化物、貴方の其の腐った醜い肉の殻を捨てられる日ですよ。」
「其は楽しみだな。じゃあ今回は逃げないんだな。」
「・・・何時迄其の無駄口叩くんですかねぇ。」
ちらとソルドがノロノロを見遣った。
慌ててノロノロがフードの下から握っていたロープを引っ張る。
するとドスンと何かが倒れる大きな音が響いた、同時にロープの先が顕になる。
ロープの先には一頭の龍がグルグル巻きにされていたのだ。
如何やら又もや奴の術で姿を隠されていたのだろう、龍はしっかり上から下迄ロープで巻かれ、身動きが取れない様だった。
「ルルル・・・。」
キレンツカイナが威嚇の声を上げる、見知った龍丈に彼も怒りを覚えた様だ。
其の龍は自分も見覚えがあった、アイカムロエア、リュウの所で会った龍だったのだ。
最近は彼も此の蕭森へ来ていたんだが、成程、姿が見えなかったのは奴に捕まってしまっていたのか。
怪我とかはしていないみたいだな、人質ならぬ龍質のつもりだろうか。
奴の部下も似た様な手を使っていたが・・・下種め。
「セ、セレ済まねぇ、油断しちまった。まさか罠があるなんてよぉ。」
此方の姿を認め、アイカムロエアは口を開いた。
目は無いので表情は読めないが、何とも済まなさそうな声音だ。
ノロノロも何度も此方を見ては目を伏せていた。
「いや、御前が謝る事は無い。此方こそ来て貰って悪かったな。・・・大丈夫か?何もされてないか?」
彼を呼んだのは自分だ。巻き込んでしまったのは自分なのだから・・・。
「・・・今の所は。何もされてねぇけどよ。」
「フフッ、本当に龍には甘っちょろいですねぇ。今は未だ何もしていませんよ。何をするのかは貴方次第ですけどねぇ。」
クツクツと喉の奥でソルドが嗤うと、アイカムロエアも威嚇の声を上げた。
だが彼は気にはしていない様だった。
「・・・分かった。じゃあ私が何をしたら其奴を放してくれるんだ。余り他の者を巻き込まないで欲しいな。」
「然うですねぇ、先ずは其の暑そうな上着を脱いだら逃がしてやっても良いですよ。」
成程、奴は余っ程自分を腐らせたいらしい。
此処は蕭森の中とは言え、所々陽が差し込んでいる。オーバーコートなんて脱いだら自殺行為に他ならない。
「ル、ルッ、」
「落ち着いてくれ、大丈夫だから。」
そっとキレンツカイナが暴走しない様宥める。
「遊んでいる暇は無いですよ。ほら、此奴が如何なっても構わないんですか?」
ソルドが手を出すと黔い火の玉の様な物が現れた。
でも其は火の玉より儚気で、波紋でも正しく見る事は出来ない。
「其は・・・何だ。」
見た事のない術だ。魔力の類じゃない。
「ル、ルル、ルー。」
キレンツカイナの頸の瓊が光り始めた。・・・成程、然う言う事か。
「フフ、別に初めて見た訳じゃないでしょう。・・・まぁ前のも貴方に邪魔されたんですよねぇ。本当腹立たしいですねぇ。」
見た事がある、そして自分が邪魔をしたのは・・・。
覚えがあるなぁ、恐らく其はヒョウの事ではないだろうか。
昔レイと一緒に居た彼の大鷲の龍、彼は本来皓色だったが、黔い鷲へと変化していた。
其の黔と彼の持つ火の玉は良く、似ている。
「気付いた様ですねぇ。然う、此は私が操る魂の一つ、随分と悪さをする奴だったので一際狂暴になるでしょうねぇ。早速憑かせてみせましょうか。」
「っ止めろ、其奴は関係ないだろう。」
ヒョウが言っていた、恐ろしい技だと。彼はずっと其に苦しめられていた。
其と同じ事が、又起こってしまう。
自分の焦る顔が面白いのかソルドは焦らす様に魂を揺らめかせた。
アイカムロエアの鼻先が右へ左へと揺れ、其の軌跡を追う。
「じゃあさっさとフードを取ったら如何です?序でに晒も取って其の顔良く見せてくださいよ。出来ないですよねぇ、自分の方が大切なんだから、自分の命を優先しますよねぇ!」
「っセ、セレ、」
「・・・・・。」
フードを取れる訳がない、そんな事をしたらもう勝機は無い。
かと言って此の儘彼を見殺しにも出来ない、自分はレイの様な解呪の力なんてない、自分じゃあ助けられないのだ。
「噫可哀相な龍さん、大好きな彼女は助けてくれないみたいですねぇ。」
「良く言うぜ、龍質にして置いて、」
「抑向こうが手を出したのがいけないんですよ。フォードの狗如きが私に咬み付いて。身の程を知る良い機会ですよ。」
ずい、とソルドは魂をアイカムロエアに近付けた。
「さぁ私に見せてくださいよ。仲間同士の殺し合い。フフッ、貴方の事だから容赦なく彼の首を落とすのでしょう?」
「っ・・・。」
歯噛みする丈で近付けないセレに笑みを返し、ソルドは魂をアイカムロエアへと、
「・・・・・。」
だが、アイカムロエアは大人しい儘だった。別に姿が変わっていない。と言うより・・・、
モグモグモグモグ・・・。
忙しなく口を動かしていた。まるで・・・咀嚼しているかの様に。
「っ、ど、如何して。」
「其奴を龍質にしたのは誤りだったみたいだなソルド。」
硬直したソルドに向け、セレが手を向ける。
「っあ゛あ゛ぁ゛ぁああ‼」
其とソルドが絶叫するのは同時だった。
突然ソルドの目の前の地面から蒼い零星が彼目掛けて飛び掛かって来たのだ。
咄嗟に彼は両手を前に出したが、そんな事で止まる零星ではない。
其の儘彼の左腕を引き千斬り、零星は飛んで行ったのだ。
片腕を無くした事で彼は地を転がって急いで止血しようとした。
彼の注意が離れた隙に急いでセレは腕の縄を甲で引き千斬る。
同時に零星に動いて貰って序でにアイカムロエアのロープも斬って貰った。
「ふぅ、助かったぜ。」
一つ身震いしてアイカムロエアは立ち上がった。
ちらと丈ソルドを見遣ると直ぐセレの元へと向かう。
「セレ、有難な。うっかり捕まっちまって。」
「私が呼んだんだから感謝される謂れはないよ。其に御前の御蔭で助かった。」
礼を言われてアイカムロエアはそっと鼻の頭を掻いた。
実際彼の御蔭で奴は油断したんだ。此は可也大きい。
「っぐ、如何して・・・又貴方の訳の分からない加護ですか。」
何とか術で止血出来たらしいソルドが上体を起こした。
噫、怒りに燃えた目だ。悪くない。
追撃しても良いんだけれど、出方を見てみるか。
「加護なんて使う迄もないな。知りたかったら、私の隣の奴にも試したら如何だ。」
「何処迄も舐めた態度を、」
ソルドの全身を例の焔が包んだ。
だが同時にキレンツカイナの頸の瓊も又、光り始めたのだ。
「ル、ルルルッ、」
「っ・・・力が、抜けて行く。」
ソルドの顔が段々と青くなる・・・やっと彼の理解が追い付いた様だ。
「分かって貰えたかな。此処に居る二頭の龍は何方も霊を主食とする龍だ。初めから御前の支配の力なんて効かないな。」
霊を操る奴と言う情報は散々聞いていたからな。
でも自分じゃあ霊を如何斯う出来ないし、専門家を使おうと思ったのだ。
ドレミ達が前アイカムロエアと言う龍と接触したと言っていたからリュウに予め話を付け、此処で出会ったキレンツカイナとも仲良くさせて貰っていた。
何方も霊に耐性のある少々珍しい龍だ。協力を仰いで貰っていたのだ。
唯一アイカムロエアは悪い魂しか喰らわないと聞いていたが、奴がヒョウを操った時に使った霊は悪霊だった。
同じ手を使ってくれるなら、アイカムロエアが見逃す筈もなかったのだ。
「霊を・・・喰らうだと。」
奴も、もう分かったのだろう。
自分が罠を張って待っていた事を、此処で何時も龍達に会っていた意味を。
今回、何時も来てくれていたアイカムロエアが来ていない事から何となくは察していたが、こんな分かり易く掛かるなんてな。
「・・・此の程度で私が怯むと思わないでくださいね。」
「噫其で良い、今回許りは絶対逃しはしないからな。」
此処で・・・今度こそソルドと決着を付ける。
最近何やらこそこそ嗅ぎ回っていたしな。何か手を打たれる前に止めてやろうと思っていたんだ。
別に塔を鎮める必要はない。長である此奴が居なくなれば勝手に虚器惟神の楼閣は崩れるのだから。
終わらせてやる、もう何も奪われたくない。壊される位なら、私の邪魔をする奴は皆壊してやる。
「むかつく目ですねぇ相変わらず。其に私の力は霊丈じゃあないですよ。」
「キレンツカイナ、アイカムロエア!二柱共一寸下がってくれ!」
空間が歪む。其が現れるより先に大きく地を蹴った。
分かる、波紋が一部分丈届かない、彼処に無がある。
「ル、ルル。」
「二柱共有難う、後は離れていてくれ。キレンツカイナ、御前の住処を荒らしたくはないんだが・・・。」
「ルールルル、ルッ。」
「・・・有難う、じゃあ御言葉に甘えて一暴れするぞ。」
無には流石の龍達も対応出来ない。でも十分だ、此奴の使う力を無一つに制限出来たなら。
霊を操るだとか言う不可思議な力は、自分に対処出来る物ではなかった。でも・・・無なら分かる。奴が使っていた彼の謎の力は、フォードと同じ無に他ならなかったのだ。
只使い方を少し工夫した丈、でも絡繰が分かってしまえば此方の物だ。
相手を知る事、其が戦いに於いて最も大切な事だ。其で言えば地の利は自分にある。
奴は知らない筈だ。自分の操る零星の事を、魔力達の事を。
多少はノロノロから情報を得ているだろうが、自分はノロノロにすら全てを見せていない。奴の知らない手の内は幾つかある。
さぁ、しっかりと御前と向き合う為に準備して来たんだ。全て晒して見せてみろ。
下がる拍子に晒を全て取り、隠していた尾や翼を出す。
此処に来る様な酔狂な神なんて然う居ないだろう。若し居れば・・・斬り捨てなければいけなくなるが。
少し羽搏いてもう一寸丈距離を稼ぐ。
二頭の龍も大分離れてくれた様だ。居てさえくれれば奴の力の一部を防げるし、十分だ。
「未だ話している最中だったんだが?随分と手癖が悪いな。」
「本の挨拶ですよ。此位、避けて貰わないと困ります。」
片腕が無くても十分戦えるか。顔色は悪いが怒りが勝っているからか引く気は一切ないらしい。
出来る事ならもう少し怒らせてみるか、長の割には此奴短気だしな。
つい、と手を動かして零星を自分の元へ寄せる。
其の零星の先には先引き千斬った奴の左腕が付いていた。
未だ血が出ている其を見ていると牙が疼く、こんな腕、要らないだろう。
―見付ケタカラ持ッテ来タヨ。―
―有難う、丁度必要だったんだ。―
―残念、玩具ニシヨウト思ッテタノニ。―
熟自分は周りに救われている。自分の隣に居る者達の力は大きい。
対して奴は如何だろう、無理矢理使役している妖精と、使えない部下丈だ。
魔力達も集まってくれた。舞台は整ったな。
「さてと、」
腕を受け取り、軽く捻ってみる。こんな腕でやられるんだ、常人の腕じゃあ耐えらえない。
奴の目の前であっさり腕は折れ、甲の所為で傷塗れの血塗れになる。
肉の塊となった其を奴の足元へと放った。
「じゃあ私も挨拶しないとな。其と瓜二つの姿にしてやるから覚悟しろ。」
噫、久し振りの黔い感情だ。
何かを壊した時に何時も抱く物だけれど、今回は特に悍い。
悪意か、此は。
奴の全てを壊したくて堪らない、奴の全てを踏み躙りたくて仕方ない。
全部全部、否定してやりたくなる。
・・・こんな顔、ガルダ達には見せられないよ。
仮面の剥がれた化物の顔なんて、醜くて仕様がない。
こんなに気が楽なんだって知れば、自分は容易に戻れなくなる。未だ、踏み外すなよ。
今回は此奴を壊す丈、其以上は無しだ。
大きく息を吸って然う自分に言い聞かせる。
化物らしく殺してやるから、覚悟しろ。
一瞬、奴の目が怯んだ気がしたが、足は動かなかった。
「・・・認めてあげますよ。私を此処迄虚仮にしたのは貴方が初めてです。決めました、貴方を殺したら私のコレクションの一つにしてあげますよ。死んでいる暇もない位に酷使してあげるので覚悟してくださいね。」
「其迄に御前の四肢は何本無事だろうな。」
一歩足を出す、途端に辺りの地が震え出した。
ソルドも何か感じたらしく早くも警戒を顕にする。
・・・腕を無くしても其の程度か。意外に動けるな。
奴の前に投げて寄越した腕だった物は見向きもされない。
要らないのだろうか?奴の術だったら未だ再生出来そうだが。まぁ生えて来るのかも知れないな。
又一歩、確かめる様に足を出す。
全て繋げて、舞え、踊れ!
途端地中の至る所から無数の零星が飛び出して来た。
其は縦横無尽に駆け、飛び回っている。
奴が来る為の準備は前から少しずつ行っていたんだ。
少しずつ零星を埋め、力を蓄えていた。後は其の全てを操る。
奴も先の一撃で地中からの攻撃は特に気にしていたのだろう、無を張る事で更なる追撃は免れていた。
無数の零星が舞うが、全てが全て操れる訳ではない。目を一つ潰せば話は変わるだろうが、未だ其の手は明かしたくないな。
操り切れない残りは魔力達に手伝って貰う。此で、自分の見えない武器は完成する。
「・・・っ。」
ソルドも事態を察したらしい、思ったよりも状況が良くないと気付いたのだろう。
でも御前のプライドが引かせまい、先手を打たれているのなら猶の事。
「ノ、ノロノロ、こんなのを準備していたなんて吃驚ノロ。」
「・・・危ないからノロノロさんも出来れば離れて欲しいな。」
口を開けてノロノロは一面の零星を見詰めていた。
其の目にもう先迄の焦りはない、一つ大きく頷いて彼も下がって行く。
「exa「redas「elkcis「efink」
思い付く儘に武器を紡ぐ。零星には事欠かないからな。
最近一寸試していた事があるんだ。其を実行する良い機会だ。
詠んだ幾つもの武器の星座を自分の背に這わせる。
まるで武器の翼だ。背から生えた様に星座を伸ばして行く。
元は自分の魔力だ。思えば思った通りに動いてくれる筈、リーチを伸ばせるし、両手が空く。
翼をイメージすれば動かし易いし、単純に手数が増やせるな。後は・・・、
「・・・フン、一体どんな大道芸を見せてくれるのか知りませんが、私の力の前に無力なのは悟ったのでは?」
前も零星を消せたからだろう、彼は未だ余裕然うだ。
・・・後は彼が何丈自分の情報を掴んでいるかだ。自分はフォードを殺している。
つまりは彼の無に対抗出来たと言う事。
其を何の程度、理解しているのか、だ。・・・一応彼の場にノロノロが居ない事は確認済みだが。
空いた両手にそっと魔力を込める。術は弱くて良い、唱える必要もない。
只未だ扱い切れないからな・・・しっかりと両手に集中しないと。
右手には闇を、左手には光をそっと生み出し、そして・・・、
奴に向け、其の儘駆け出した。
大丈夫、波紋で見えている。奴の無は、奴を囲む形で存在するのだろう。
フォードは投げる様にして武器として此の力を主に使っていたが、奴は己を囲むシェルターとして主に使っている節がある。
攻防共に優れているだろう、近付けば消されるし、攻撃も届かない。
でも其の均衡はそんな堅牢な物だろうか。だって扱っているのは彼の不安定な無だぞ?
光と闇の匙加減を間違えれば・・・あっさりと其は牙を剥く。
此奴は知っているのだろうか、自分が其の無の創り方を知っていると言う事を。
其に因って戦い方が変わって来るが・・・。
空いた両手に重ねた光と闇を奴に向けて投じる。
僅かでも小さくても良い。一つの切っ掛けで其は崩れるのだから。
二つの無が重なった瞬間、魔力が弾け飛んだ。
来る、無が暴れて、
咄嗟に身を屈め、より奴に近付く。無の壁は直ぐになくなる、其の隙に、
自分の頭上を無が駆けて行くのを感じる、二つの無が合わさって力が暴れているんだ。
弾かれた無の後に奴を護る物は無い。其処へ零星の鎌を振るった。
「・・・矢張り此を突破しましたか。」
苦々しく歪む奴の顔を見た刹那、鎌を構成していた零星の一部が消えた。
不味い、此は、奴は対応出来ているのか、
此の可能性を初めから考慮した上で、
此の儘突っ込むのは不味いと翼を曲げ、着地点をずらす。
其でも迫って来る、直ぐ真横に無が、駆け抜けて行く。
此奴、自分が創った穴から又無を放って来ているのか。
突っ込んだら消されていた・・・斯う言う勘は変わらず優れた奴なんだな。
今のは自分の読みも甘かった。避け切れずに翼の一翼、広げていた蝙蝠の翼が消されてしまう。
上体がぐらつく、吹き出す血ですら無に呑まれてしまうのだ。
此じゃあ零星を届かせる事は出来ない。でも・・・、
勁く地を蹴って飛び上がる、奴を跳び越す様に上へ。
そして奴の頭上から自分も無を放つ。
生憎、自分はフォード、奴みたく上手く無を扱い切る事は出来ない、光と闇の加減が難し過ぎるのだ。
だから一度にそんな大きいのは創らない。創るとしても只の切っ掛け、綻びを作る程度の。
上迄意識を瞬時には持って行けないのだろう、奴が遅れて見上げた時には無に穴が出来ていた。
でも別に其処へ零星は投じない、そんなの奴の反応だと直ぐ消されるからな。
だから自分は別段何もしなかった。只翼から血が溢れ出る丈で、何もせず其の儘着地した。
「成程、一応此の原理は理解しているみたいですねぇ。フォードの入れ知恵ですか。」
「いや、ちゃんと自分で見付けたぞ。」
「そんな高度な知能が獣にあるとは思いませんでしたよ。まぁ扱えるか如何かは別の話ですがねぇ。」
「然うだな。じゃあ御前の躯で試してみようか。」
獣・・・ね、良いよ。まるで前世に帰ったみたいだ。
彼の最低最悪な前世、其が過って・・・頭がどんどんクリアになる。
噫此奴を殺さないとって、牙や爪が勝手に研がれて鋭利になる。
殺さないと、此奴は敵なんだ。生かしても碌な事にならないよ。
誰かが語り掛けて来る、其の声に従うのはとっても簡単だ。
屹度此の自分が、最も自分らしくて、自分其の物なんだって思えて来て・・・。
・・・全て、壊したくなる。
未だ血が出続ける翼を羽搏かせてセレはソルドの脇を駆けた。
余り近付いてもいけない、奴の無の瞬発力は中々だし、其処を舐めたら偉い目に遭ってしまうだろう。
馬鹿にしても良いが、油断はするなよ。生き残りたいなら相手から目を逸らすな。
此奴は、自分が無を多少なりとも扱える事を理解している。
けれども分かっていない事もある筈だ。例えば・・・Aの所で知った自分の特異体質とか。
其等を利用すれば、未だ出来る事がある筈だ。
奴は常に自身を包む檻の様に無を纏っている。
正直自分は彼の創り方自体は分からない、真似をしても自分が動けば直ぐ自滅し兼ねないが。
彼を突破するには矢張り先みたいに無には無をぶつけて、出来た穴に零星を投じるしかない。
然うなったらいっそ無丈で押しても良い気がするが、奴も同じ力を扱う以上、向こうに利はある。其が何とも言えないな。
一番良いのは奴の無の装甲自体を完全に剥がす、其なら零星がある此方が一気に有利になる。
空いた両手は只無を創るのに使おう、集中しないと、自分も危ういからな・・・。
翼を一部畳んで地を蹴る、一気に加速して無を放つ。
未だ翼は傷むが、気にしている余裕はない。其より奴に変に手を打たれる前に攻める。
弱い無でも、ぶつけてしまえば十分だ。一気に広がって一時的に奴の防御を奪う。
ソルドだって何時迄も壊される無に頼ってはいられない筈だ。こんな直ぐ壊されちゃあ魔力の消耗も酷い筈。かと言って霊も一応封じられているし、連れているノロノロは自分と契約を結んでいる。
・・・出来うる限り、手は断った筈なんだがな、後は奴が何をして来るかだ。
意固地になって挑んでいる丈なのか、未だ奥の手があるのか。
一応塔を任されているんだし、慎重に見ないとな。
壊れた無に向けて零星の刃を振るう。其に纏わり付かせる様に無をもう一つ放つ。
零星を一つ犠牲にするが、無に零星を吸わせれば少しの間思い通りに動かす事が出来るのだ。
零星の残影に沿って無が発生すると言うか、だから其に乗せて一緒に仕向ける。
遂に零星の釼が奴のテリトリー内に入った。
壊れた無を修復するのに間に合わなかったのだろう、其の儘釼を振るって奴に斬り掛かる。
・・・一歩でも間違えたら消されてしまうからな、より波紋を放ってちゃんと見ないと、
「っぐぅ‼」
刃が終にソルドを捕らえ、右脚を大きく斬り裂いた。
裂かれた足からは止め処なく血が溢れ、思わず奴は片膝を着く。
「腕が無いと辛そうだな。」
追い打ちを掛けようと釼を構え直す、だが突然視界を塞がれた。
此は・・・無、其の儘ぶつけて来たか。
零星に付けていた無とぶつけて相殺し、大きく下がる。
無が迫っている、もっと下がらないと。
もう一歩下がった所で上体が一気に頽れた。
っ・・・やられた、無だ、右脚の膝から下が・・・無くなっている。
自分が下がるのを見越して、先に足元に張っていた様だ。
無は波紋では正しく見えない、だから前面の無に警戒し過ぎて足元が御留守になっていた様だ。
気付くのと同時に一気に血が噴き出し、地を真黔に染めてしまう。
遅れて激痛にも襲われる、声が出そうになるのを何とか堪えた。
此奴の前では、そんな姿晒したくない。どうせ先の仕返しみたいな物だろう。
あんな堅牢な甲に覆われていても消えるのは一瞬だ。
其に消えてしまっては、自分の例の治癒力が使えない。一部でも残っていれば血で無理矢理くっ付ける事が可能なのに。
・・・片足を失ったのは大きいな、機動力を一気に奪われてしまった。
流石に此の儘では戦えない、痛いが彼の方法しかないか。
纏わせていた零星を幾つか手繰り寄せる、だが其処で不穏な影が波紋に写った。
無が複数・・・一気に来る、
痛がっている暇はない。地を蹴り、翼で何とか距離を稼ぐ。
一瞬、奴の不快な笑みと搗ち合った。
足を無くした所を見られたのだろう、こんな隙、奴が見逃す筈がない。
大まかに自分を狙った無が幾つも放たれる。爪の先や髪に触れるが仕方ない、今は堪えないと。
下がり乍ら零星を編んで行く、そして其を右足の膝の先へ突き刺した。
其の儘慎重に地面へ降り立つ。
「ーっ!」
覚悟はしていたが、可也の激痛が足から流れ込んで来た。
足に刺した零星が、骨に沿って奥迄入って来たのだ。
斯うなれば、抜けはしないだろう。即席の義足にはなる。
でも零星を無理矢理足に刺して支えている丈だから刃が刺さる・・・。
一歩出す事に激痛が走るだろう、でもそんなの構ってられない。
「お、おいおいセレ大丈夫かよ⁉」
随分と下がり過ぎていた様だ。後ろの瓊林からにゅっとアイカムロエアが顔を出した。
下がってろとは言ったが、心配になって顔を出しに来たのかも知れない。
「此位なら未だ大丈夫だ。悪いがもう一寸下がってくれ。此は相当暴れるぞ。」
「お、おう、でも何かあったら直ぐ呼べよ。あんな魂沢山縛り付けて・・・俺も解放してやりてぇんだよ。」
口早に答えるとアイカムロエアはさっさと茂みに戻って行った。
成程、霊達の為か。彼は霊を導く龍族でもあるからな。
ソルドのやり方が気に食わないんだろう。熟、良い奴だな。
「おや、確かに足を消し飛ばした筈ですが、何だか不格好なのが付いてますねぇ。」
無で嫩草を消し乍らソルドがやって来た。
余り見晴らし良くされても困るな。折角の波紋の利便性が失われてしまう。
足もやられてしまったし、空中戦の方が良いだろうか。
「必要とあれば御前の左腕にも付けてやるぞ。」
「ハッ誰が化物の創ったセンスの欠片も無い義手を付けるんですか。」
ずっと売り言葉に買い言葉だなぁ、まぁ自分も他神の事言えないえないけれども。
気に入らない者同士、此の方がずっとコミュニケーションが取り易いだなんて、出会いたくなかったな。そんな奴に。
―アレ、見ナイ間ニキラキラシテル!―
―ん、一体何処に行ってたんだ?―
余り周りに居ないなと思っていたが、やっと帰って来たらしい。
零星の一部は彼等魔力達に渡しているのだから余り目の届かない所に行って欲しくはないのだけれども。
―エヘヘ、御免一寸遊ンジャッタ。―
―!足モ、羽モ光ッテル、良イナァ、僕達見エナイモノ。―
零星は魔力で創った物だからか、割と魔力達は気に入る傾向がある。
似た物で構成されているからなのか、彼等は知覚し易いのだそうだ。
姿が見えない、か。確かに其の意味では魔力も無も似ているのかもな。
自分が零星を纏っているのを羨ましがっていたが、然うか。然う言う願望があったりするのか。
見られたい、触れられたい、世界に影響したい。使われて許りの彼等のささやかな願い。
自分にとっては命を賭けた戦いなんだけれども、彼等からしたら此も遊びの一環だ。
だったらしたい事をさせてみようか。・・・彼等の願いを叶える事が果たして良い事かは分からないがな。
ある仮定は立てていたんだ。只此を実行するのはもっと先の予定だったけれども。
試してみるか、奴も未だ未だ足掻きそうだし、此処で一手を切るのはありか。
―・・・分かった。じゃあ持って行け、好きに使うと良い。―
痛む足を庇って地を蹴る。零星達が自分の後を追う。
ソルドが構えたが、自分の狙いが奴ではない事に多少勘付いた様だ。
目の険が深くなる。次は何を仕出かす気なのか探る為に。
構わず自分は零星を縦横無尽に走らせる。
今此は斬り裂く為なんかじゃない、形創る為に踊っている。
波紋をもっと密にして、しっかり捉えろ。御前達は何を創りたい?
翼を羽搏かせると幽風に因って零星が微かに揺らいだ。
・・・零星が質量を持ち始めている。此の世界に干渉しようとしているみたいに。
自分の手から・・・離れて行く。
十分に無が無い事を確かめて自分は弧を描いて戻った。
すると星々が勝手に繋がり、出鱈目な星座を紡ごうとしていた所だった。
「・・・本当にセンスの欠片も無い、化物をもう一体創る気ですか。」
「さて彼等が創りたかった姿が化物か如何か、確かめてみたら良いじゃないか。」
次第に零星の動きは緩やかになり、ある者の形を示して来る。
一見、出鱈目な只の線なのだろう。でも自分の波紋でははっきり分かる。
・・・此が、魔力の形だと。
魔力に形を与えたならば、屹度こんな姿なのだろうと。
一見鹿の角を手足に生やした木馬、鱗が花弁舞う華と化した龍の落とし子、翼の代わりにモノリスを埋め込まれた鳥・・・噫、自分ですら、正しく彼等を見る事は出来ない。
今迄彼等が見て来た世界や、使われた術だとかに影響を受けているのだろうか、絶えず姿が少しずつ描き変わり、違った印象を与えて来る。
屹度今迄自分が見て来た物で彼等を表現しようとするから難しいのだろう、こんな姿をしているだなんて、終ぞ知らなかったのだから。
此が、形無き者の形、意思を伝えられる様になって、形を、視認出来る様になって。
自分達は、何処へ向かっているのだろうか。
―其が、御前達の姿か。―
―見エル?見エルノ?―
―噫、私にも、奴にも見えているぞ。―
―ワァ凄イ!本当ダ触レル!―
無邪気な声が怪物から放たれる。怪物は周りの木々に恐る恐る触れ、楽しそうだった。
今回、形を与えたのは一つの魔力に丈だ。一匹、一頭と呼ぶ可きかは難しい所だな。
只今眼前に居るのは10m近くはありそうな怪物だ。頭や手足が正直何処にあるのか良く分からない。
一頭でこんな大きかったなんて、自分は常に二、三体の魔力と常に居たけれども、凄い絵面だったのかもな。
―有難ウ!矢ッ張リ貴方ト居ルト楽シイネ。コンナ事初メテ!―
随分と魔力は喜んでくれた様で常に零星を動かして形を変えていた。
・・・本当は未だ、彼等に形を与えるつもりはなかったんだがな、未知数だったから。
此の大きな混乱が如何動くのかは見物だな。
―喜んでくれるのは嬉しいが、私の手助けを御願いしても良いか?―
―勿論!頑張ルヨ!―
良い返事だ。
「術か・・・でもまるで意思がある様に動きますねぇ。」
ソルドにとっては完全に未知の存在だろう。可也慎重に出方を見ている様だった。
行き成り現れた星座の化物、先ずは此が何なのか、から始まるものな。
―ヨーシ行クヨ!―
突然魔力はソルドに向けて突進を繰り出した。
未だ形を得た許りの彼等だ。爪や尾なんて武器は使えないだろう。一応釼を持たせてみたりと物に触れる練習はさせてはいたが。
先ずは自由に動いて貰って構わない、奴を動揺させられれば十分だ。
当然ソルドは無を纏っているので、此の儘では魔力が消滅してしまう。
だから早目に自分も無を放ち、奴のシェルターを破壊した。
二方向から魔力と一緒に攻めてみよう。其丈で戦力に幅が出る。
「っ本当に御遊戯でも見せられている気分ですよ。」
「じゃあもう少し楽しんだら如何だ。」
無防備な奴に向け、零星の釼を投じる。
其を防ごうとした所で魔力が全身を使って体当たりをして来た。
「っぐぅ、」
余りの質量の塊にソルドの躯が吹き飛ばされる。
其の着地点に向け、ナイフを幾つも投じた。
予想はされていたのだろう殆どは避けられてしまうが、奴の全身に傷を付けて行く事には成功する。
其処へ更に魔力が突進を仕掛けて来た。
此なら・・・奴は今の自分の弱点である足を狙う事等、出来はしないだろう。
魔力と自分は意思疎通が取れているが、戦い方や感覚がまるで違う。
こんな風にまるで違う攻め方を互いからされたら可也厄介な筈だ。
ソルドは自分みたいな厭らしい戦術には直ぐ対応していた。
奴も同じ様な戦い方をしているから特に読まれ易かったのかもしれない。
けれども其処へ真正面から魔力が加わったら?
一対一なら何の問題も無かっただろうが、此の組み合わせなら如何だ?
「一々、猪口才な、」
ソルドが魔力と対峙する様に構えたので直ぐ様無を奴へ放つ。
其で張られていた無は相殺出来る。追撃は勝手に魔力がしてくれる。
「っ面倒な、」
無の膜が破られた事に直ぐ気付いたのだろう、一瞬奴の視線が此方へ向いた。
でも、如何する事も出来まい、ほら早くしないと魔力に呑まれるぞ。
迫り来る魔力は其の儘ソルドへ体当たりした。
其の星座其の物は奴を潜り抜けるが、通り抜ける様に零星が奴の全身を斬り付けて行く。
―良い具合だ。其の儘奴を追い詰めよう。―
―ウン!私モチャーント戦エルヨ!―
零星が瞬いて構成を変えて行く。
少しずつ、魔力の形に合わせているのだろう。未だ捉え所のない星座だが、此の儘だと何れ、
波紋が掻き消えると思考が中断される。奴の無だ、消さないと。
魔力に無丈はぶつけてはならない、消される訳には行かないからな。
其に無を放つ事丈に集中出来るなら、ソルドとそれなりにやり合える。
此の儘相殺続けて何も出来なくさせてやる。
「っく、ノロノロ、命令ですよ、聞きなさい。」
「ノ、ノロノロ!何ノロカ?」
恐る恐る、と言った体でノロノロが茂みから現れた。
ちらちらとセレ達の方を見遣って心苦しそうではある。
「彼の妙な化物は何ですか。情報位、掴んでいるでしょう。」
「ノロノロ!分からないノロ!ノロノロも初めて見たノロヨ!」
「此の期に及んで化物の肩を持ちますか。」
ソルドに睨まれてノロノロの背は縮こまる。
・・・こんな弱々しい姿のノロノロなんて、初めて見た。本当に酷い扱いをされて来たのだろう。
「いや、此はノロノロさんにも見せていない新技だ。知らなくて当然だよ。」
頭上からの声に思わずソルドが見上げると、セレが翼と零星を広げて羽搏いていた。
「因みに私も良く分かっていないからな、何が起こるか見物だな。」
「相変わらず滅茶苦茶な存在だから腹が立つんですよねぇ・・・。」
然う褒められると嬉しいなぁ。
口端がにやけない様にそっと隠す、隠した所で透けているだろうが。
分からない物は恐ろしいだろう、信じられないだろう何事も。
次は何をして来る?思考も行動も読めない。
恐いから殺したくなる、然うだろう。人間って然う言う奴だよな。
仲良く出来ないなら消した方が早いよな。
無口で口を開く、口内が熱を持って行くのが分かる。
さて、御前は何時消えてくれるんだ?
激しく曦を放ってブレスが放たれた。
瞬間的に放たれる其に思わずソルドの上体はびくつき、慌てて大きく回避した。
無を放つ余裕も無くなって来ただろう、インパクトじゃあ負けていないからな。
「ノ、ノロ~セレ神!ノロノロも狙ってるノロ~⁉」
「・・・まぁ此位は出来れば躱して欲しいかな。」
「相変わらずスパルタノロ~!」
ま、代わりが居ると言われるよりはましノロケド、然う言ってノロノロは転がり込む様にブレスを避けて行った。
―行ックヨー!―
ブレスが消えて直ぐ、魔力の怪物が二柱に向けて突進を繰り出す。
ソルドは何時も無を創っているが、使わなくても身の熟しは軽い様だ。
軌道が読める分直ぐ躱してしまう、問題はノロノロだった。
「ノ、ノロ~!ノロノロは食べちゃ駄目ノロヨー!」
―ア、此方ノ方ガ鈍クテ捕マエラレソウ。―
―駄目だぞ、ノロノロは仲間だから狙わないでくれ。―
すっかり魔力達が狙いを付けていたので直ぐ窘める。
妖精だろうが何だろうが関係ないみたいだな。
―チェッ、此方ナラ捕マエラレソウナノニ、ジャア向コウノ奴ヤッツケル!―
―・・・無茶丈はしない様にな。―
一つ身を震わせると魔力はソルドにじりじりと近付いて行った。
「ノ、ノロ~危なかったノロ。」
「敵じゃないって教えたからもう大丈夫だとは思うが。」
ノロノロにはもっと離れて貰いたいが、ソルドが其を赦さないよな。
ノロノロは此方に気付くとガバッと口を開けた。
「セレ神は凄いノロ!あんな良く分からない物迄操るなんて。」
「噫、後で彼の正体は教えるよ。今は只、集中しないとな。」
彼が何か分からないって丈で、やっている事は普通なんだ。
普通に、戦っている。肉を得た許りの怪物って丈で。
だから彼が実は全くの脅威ではないと分かれば、簡単に消されてしまうだろう。
まぁ中に入っているのも、構成しているのも魔力なのだからばらすのは簡単だがな。何方かと言うと何度もばらして再構成する事で瞬間移動に近い事が出来るのが売りだろうか。
只姿を今回得た許りの彼等じゃあ然う簡単には出来ないだろう、今回は的になって貰う丈で十分かな。
―ネーネー!彼何?凄ク楽シソウ!―
―彼、僕モヤッテミタイ!―
其迄様子を見ていたのだろうか、他の魔力達もやって来た様だ。
・・・此の反応は予想出来ていた、絶対楽しそうだろうなぁと。
意識が逸れ掛けた瞬間、無が飛んで来たので羽搏いて躱して行く。
離れてはいるが、しっかりマークはされているみたいだな。
―悪いけれども今回は一柱丈だ。終わったら創ってあげるから。―
正直あんなのが何体も増えたら管理が出来なくなる。
零星も可也渡しているから消耗も激しいしな。
―エェー、デモー・・・。―
―我儘駄目ダヨ!今戦ッテル、危ナイカラチャント順番待トウ?―
―セレ負ケタラモウ創ッテ貰エナクナル、其、楽シクナイヨ。―
―・・・分カッタヨ、僕モ手伝ウ。ソシテ、早ク彼デ遊ブ!―
魔力達の声が頭上で流れて行く。
・・・驚いた、まさか魔力同士であんな会話するなんて。
魔力が他の魔力に窘められていた、こんなのは記憶している限り初だ。
其に何気に自分の名前呼んだな。
個別にちゃんと認識していると言う事か。自我も芽生えた訳だし、そろそろかとは思ったが。
其でも何と言うか、進化が早いな。喜ぶ可きか又悩む所だ。
仲間内での相談を覚えちゃうと、何時しか自分から離れそうなんだよな。其が恐い。
少し、零星を与えるのは控えた方が良いか?其共いっそ自由にさせて付き合い方の方を変えるか。
・・・考える事は山積みだな。
―ウゥ、中々当タラナイヨー。―
零星の躯を持った魔力から泣き言が漏れた。
他の魔力達が彼の事を応援していたが、其でも厳しいみたいだ。
まぁ然うだろうな。ソルドは此方へ無を放つ余裕を持っている。魔力の只の突進なんて大した脅威でもないだろう。
一応、ソルドには魔力の声が聞こえないみたいだな。魔力を繋いでいないからだろうが、あんな泣き言聞かれてしまったら喜びそうだ。
―其の儘で大丈夫だ。奴を休ませないのもちゃんとした作戦になるからな。―
―ウン・・・デモ当テタイヨー。―
やる気があるのは十分だけれども、矢っ張り魔力は血気盛んだなぁ。
命や存在に疎いから然う見えるんだろうけれども、殺意は無い癖に殺す気はあるんだ。
死を結果としてではなく状態と見ていると言うか、遊んだら死んじゃった、そんな認識だろうか。
「大層な見た目の割に、大した事はないみたいですねぇ。」
奴の目が・・・変わった。
逃げの姿勢から攻めの姿勢へ。
奴にとって、零星の化物は脅威でないと、判断されてしまったらしい。
其は・・・厳しいな、其に思ったより早い。
分かってしまえば奴は真っ先に零星を壊すだろう。
―おい、狙われているぞ。―
―エ、何ノコ・・・ウワァアア⁉コ、壊レチャッタ!―
零星の一部が奴の放った無に因って消される。
ソルドが自分の周り丈でなく、全体に向けて無を放って来たのだ。
元々、波紋にも写らない物だ。あんな風に散撒かれたら自分も防ぎ様がない。
零星、元い躯の一部を消されて、魔力は驚いたのか激しく身をくねらせた。
―如何シヨウ、壊レチャッタヨ。ネェ、治シテクレル?―
―あ、噫、でも後だな。今は分けてやれる零星が無いんだ。―
―後・・・ウン、分カッタノ。―
魔力の化物は悄気てしまった様で少しセレから離れて行った。
意外だった、魔力が物に執着するだなんて。
今迄だって零星で創った釼とかあげても、飽きたら投げていたのに。
躯・・・か?躯を疑似的とは言え得たから然う言う心が芽生えたのか?
人並、と言うか、自分達肉を持つ者みたいに。
・・・思ったより、魔力の成長が進んでいるな。拘りを持つ事は如何だろう、良いとも悪いとも言い難いな。
正直今の姿の構造が全然分からないから一体何の部分が消されたのかも分からないがな。
魔力がソルドを襲うのを少し気後れしているみたいだ。其は余り宜しくはないけれど。
此だと本当の見掛け倒しになってしまう、自分と違う思考を持って動けると言うのが売りなんだがな。
だったら其の分自分が攻めるか、姿勢を低くし、翼を広げて一気に近付く。
其の瞬間、ソルドの目と搗ち合った気がした。嫌な予感が膨れ上がる。
「ノロノロ!奴に縛術を使いなさい。」
「ノ、ノロ~・・・。」
ノロノロは可也困った顔を浮かべたが、主の命には逆らえない様だった。
ノロノロの纏うローブに見た事のない術式が書かれて行く。
彼、喰らって大丈夫かな。ノロノロの術なんて然う言えば良く知らなかったな。
追跡とか隠密行動がメインで得意と聞いていたが、こんな戦闘時に使えるのがあるのか?
術の属性等は分からないが、何か兆しがあれば無をぶつければ良い筈、一体何を打ち込む気だ?
「セレ神、御免ノロ!」
謝りつつも陣が完成した様で、ノロノロのローブは曦を失う。
来る、一体何処から、
「っ⁉」
突然上体が重くなる、地に縫い付けられた様に動けなくなる。
上から巨大な者に押さえ付けられた様に段々と二足で立つのが辛くなって来た。
片足が無い事も相俟ってか自然と四足の姿になる。
此・・・は、想像以上の力だ。流石大妖精。
凄いな、此の力寧ろ自分が欲しい。
―ア、大丈夫?痛イノ?動ケナイノ?―
―私は大丈夫だから其方は頼むよ。―
にしても本当指一本動かせられない、此の儘じゃあ、
「やっと止まりましたが小蠅が。」
冷汗が伝う、こんな隙、奴が見逃す筈がない。
無が、目の前にある。焦らす様に只其処に。
「ノロー!セレ神!早くノロノロを殺すノロ!然うしたら術は解けるノロ!」
「・・・もっと他の解決法を聞きたいな。」
ノロノロは沢山居るから一柱位って事なんだろうけれども。
此処でノロノロを殺しちゃったら其の後の関係は無いだろう、今回の技を見て益々自分は御前を手放せなくなったんだ、其の手段は取れないな。
まぁ確かに此の儘じゃあ此の無にあっさり消される、其は嫌だ。消える位なら確かにノロノロを殺す可きだ。
でも未だ手があるのなら、打つ可きだろう。諦めていないのだから。
「さて、貴方の魂は如何しましょうかねぇ。本当なら躯と一緒に消滅させてやりたい所ですが、無力な魂を飼うって言うのも、中々悪くないんですよねぇ。」
「へぇ、こんな化物の魂でも欲しがってくれるのか。」
油断・・・している、自ら姿を現して、意味も無く喋るだなんて。
まぁ確かに自分は動けない、目の前には無があって絶望的ではある。
自分が軽口を叩くのも、時間稼ぎか強がりだと思っているのだろう、そして其を楽しんでいる。
・・・良いさ、じゃあもう一寸付き合ってくれ。
「良く吠えますねぇ、魂丈になってしまえば正に生き地獄ですよ。私の奴隷として永遠に働くんです。其の力位は、多少評価しても良いですからね。先は働かせてやると言いましたが、他にも利用法はありそうです。」
「次の職迄見付けてくれているのか、其は有難い事だな。」
「・・・まさか何か手でも考えているんですかねぇ。一応言って置きますが、ノロノロに手出しは出来ませんよ。彼には私の霊を一体付けています。先の小賢しい龍は離れていますし、解放は出来ませんよ。」
「成程、然うやって無理矢理大妖精様を操っているのか、罰当たりな奴だな。」
悪いが自分の狙いはノロノロなんかじゃない。
「・・・目が気に入りませんねぇ、もう良いです。消えてください。」
自分の狙いは、最初から御前丈だよソルド。
此の儘大人しく殺されて堪るか。
御前が自分を殺す様に、自分も御前を壊そう。
意識を集中させる、過去に一度出来ているんだ。もう一度、彼の感覚を。
無がセレを捕らえ、消さんと伸ばされた時だった。
突然、ソルドの足元が爆発した。
爆発と言うよりは突然質量が増したと言う可きか。
彼の足元から黔の水精が次々と生えて来たのだ。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛っ‼な、何だ此、はっ、」
黔水精は鋭い鋒を持っている。釼山の様に現れた其に因ってソルドの全身に斬り傷が、裂傷が入って行く。
只其丈では留まらず、終には奴の衣服からも生えて来た。
其は残った服を裂き、肩口からも生えて奴の右目に突き刺さった。
絶叫を迸らせて転がる様にソルドは跳び退く。
でも奴の服から生えた水精は其の儘だ。動く度に奴の全身に傷を増やして行く。
加えて跳び退いた先の地面からも次々と水精は生えて来た。
無で幾らか消えるが、靴毎奴の足を貫いて行く。
「っ・・・如何だ、化物に咬み付かれた感想は。」
息が切れる、上手く行った・・・が、完全じゃない。
痛み分け、と言った所か。奴の気を逸らす為にギリギリで展開させたが、御蔭で無の一部を受ける事になった。
痛みで多少軌道は逸らせたが、其でも脇腹をがっつり持って行かれ、右手の指も何本か消されてしまった。
指は零星で代用出来る、血が零れる脇腹は急いで晒を時空の穴から取り出して巻いた。
内臓迄行ったな、此。本当に指一本動かせられなかったから仕方ないか。
ふら付く程の吐き気に襲われるが、未だ倒れる訳には行かない。
大丈夫、大丈夫だ。動ける、血が膜を張って護ってくれている。
然う、奴に向けたのは自分の血だ。
折良く最初から暴れてくれた御蔭で負傷した。自然に血が散撒かれる程の怪我を負わせてくれた。
翼や片足が無いなんて丁度良い。地面にトラップを敷き放題だ。
だから敢えて止血は余りしなかったけれども。
丗曦にした様に、上手く行って良かった。
自分の躯から離れたとしても、血が意思を持つ事は分かっている。テレパシーに近しい物なんだろう。ソルドを敵と判断した瞬間、血は・・・暴走した。
せめてもの抵抗として、此の手足の甲と同質の釼へと化けてくれた。
此には流石の奴も対応出来まい。まさか御前だって想像出来なかっただろう、御前の服に血が散った瞬間、自分は勝利を確信していたんだと。
奴は自身の周りに無の膜を張っている。だから外からの攻撃は粗防がれてしまう。
でも其の釼其の物が無の内側に居たら・・・?
御前は、如何やって防ぐ?
「っぐ・・・そ、・・・ば、化物がっ・・・、」
血を吐き乍ら何とかソルドは立ち上がった。
凄いな、未だ吼えるか。もう助からないであろう大怪我なのに。
光魔術を掛けさせる隙も、与えない。そんな躯で何が出来る。
大量の黔水精の釼に晒された為に、手足は骨が覗ける程に抉られ、服も襤褸切れ同然となっていた。
右目は潰され、全身己の血で真絳だ。恐らく被っていた帽子にも血が付いていたのであろう、頭にも傷が可也ある様で、絶えず血が流れ出ていた。
「ノ、ノロ・・・い、今のは、」
流石のノロノロも此の情報は掴んで無かった様だ。一応意図的に隠していた奥の手だからな。
Aの所迄嗅ぎ回ったのは良かったが、奴とは既に契約を果たしていたからな。無駄足となった訳だ。
ノロノロはガバッと口を開けて固まってしまっていた。
己が主の、こんな無様な姿が見られるなんて終ぞ思っていなかったのだろう。
もうノロノロの術も解けている。一時的に動きを止める丈の技だったらしい、自分もちゃんと歩けるか少し足を動かした。
―凄イ!キラキラシテルネ!―
魔力が黔水精に近付く。
彼等と媒体は同じなのだし、ダメージは負わなかったのだ。
零星と血は、相性が良い。
―ネ、今ナラ攻撃当タルカナ?―
「当たるだろうが、余り近寄らない方が良いかもな。」
死に掛けが一番恐ろしい事を自分は知っている。
たった一刹那で立場が此処迄逆転したんだ。未だ完全ではない、奴が死ぬ迄・・・油断はするな。
奴から無を取り上げた訳じゃない。此処から我武者羅に無を飛ばして来たりしたら、其丈でも可也の脅威だ。
「化物・・・風情が、此の私にっ・・・、」
「遺言は其で良いか?」
態々此奴に秘密を明かす事も無いだろう。
追い詰める様に一歩、近付く。
波紋を・・・探れ、気配を。空気を察知しろ。
正直、今が一番緊張しているんだ。
「・・・っ、」
諦めてはいないが失いつつある瞳の曦。
隙無く、息を詰めて追い詰めよう。然う更に一歩出した所で奴の目が泳いだ。
・・・そして、何かを見付けたのか大きく開かれる。
恐らく、見ているのは彼か。自分も先波紋で察知して零星を近付けているが・・・。
「っセルフィカ!今直ぐ王に!増援を、私は未だ、こんな所でっ、」
セルフィカ、と呼ばれた其は少し丈茂みから姿を現した。
其は・・・何と形容す可きだろうか。
小さな紫紺の水精を中心に、上には王冠の様な曦、左右には鰭とも翼にも似た曦、上下に凱風の流れる様に曦の縷が伸びている。
下が尾、上が首と思えば、何処となく龍の落とし子を連想させる姿をしていたのだ。
全体でも10数㎝程の其は生きている様で、只浮かんでいた。
少し前から茂みに隠れて様子を見ていた様だが・・・彼は一体何だ。
一見、魔法生物とも、妖精とも取れる。
でもセルフィカ・・・其の名は覚えがあった。
ガルダが教えてくれた名、其はオンルイオ国、王を護る塔の一つ、アルマ・カルマの牢獄の・・・長の名。
でもまさか、此奴が然うだと言うのか。
となるとソルドの仲間か、此は不味い。此処での連戦は避けたい。
正直、もう自分に力はそんなに残っていない。加えて技を見られた、不意打ちはもう出来ない。
アルマ・カルマの牢獄は、ガルダも名前以外は良く知らないと言っていた。
何の為の機関かも不明で、基本は王に仕えて色々な雑務を行っているらしいが。
見た事も会った事も無いと言っていた、けれどもまさかこんな姿をしていたなんて。
―ソルド、今の己の姿を、王に報告しても宜しいのですか?―
静かにテレパシー丈が流れて来る。澄んだ泉に石を投じて生じた波紋の様に、静かな音。
先手を打とうと思ったが、一瞬丈、セルフィカに睨まれた気がした。
其丈で・・・背が伸びる思いがした。何だ此奴、上位と言うか、存在が違う気がする。
・・・暫く様子を見た方が良いだろうか。
「・・・っ、致し方ありません。此の儘塔を壊される位なら私は、」
―王は、貴方の事なんて助けませんよ。―
静かに告げられた非情な言葉に、ソルドは大きく目を見開いた。
セルフィカの曦の羽搏き丈が、時間を感じさせる。
―貴方は余りにも多くの者を蔑ろにして来た。其の報いの時が来た丈です。此処で、朽ち果てるが定めだと、貴方の宿命は、決まってしまった。―
「何を、私は、お、王の為に、何百年捧げたと。彼の方の為丈に、私はっ、」
信じられないと許りに足を蹌踉めかせてソルドは知らず、セルフィカに近付いた。
・・・今の奴ならやれそうな気がするが、監視の目が恐ろしい。待つしかないか。
―良くもまぁ、王が其を望んでいたとでも?貴方は王の為と銘打って、多くの者を手に掛けた。秩序を乱し、調和を崩した。そんな輩を見逃すとでも?―
「・・・っ、」
予想と違う流れに知らずセレは唾を飲んだ。
ソルドの過去だとかは知らないが、凡そは想像が付く。
でも、仮にも塔の長なのに、こんなあっさり切り捨てるのか。
いや、口振りからして王は奴を切りたがっていたのか?
今一闇の王と言うのが何をしているのかは知らないが、其の意にソルドは沿わなかった様だ。
当の本神は全くそんな事、思っていなかった様だがな。
・・・まぁセルフィカが嘘を吐いている可能性も、全く否定は出来ないがな。
「う・・・嘘だ嘘だ。王はそんな事、い、良いから早く報告を、其は・・・っ、勝手な御前の意見です。王は屹度、」
―行きませんよ。私は只、貴方を見届けに来た丈。罰を受ける姿を、確と捉える為に。―
「・・・っ、こ、此の腐れ害虫がぁ‼」
突如激昂したソルドが吼え猛った。
そして複数の無が一気に放たれる。
だが傷付いた躯で滅茶苦茶に放った其を、セルフィカは難なく躱して行った。
奴の勁さは其の冷静さから来る無慈悲な攻撃だった。
其が無い今、去なすのは容易い。
―・・・来ますよ。気を付けてください。―
ちらとセルフィカに見詰められた気がした。
まさか声を掛けられるとは思っていなかったな。
返事をするより先に、セルフィカは下がって行ってしまう。
来る、来ると言うのは恐らく・・・。
「せめて化物、御前丈でも道連れにしてやりますよっ‼」
怒声は段々と吼え声の様になり、気付けば彼の姿は大きく変わろうとしていた。
全身が縹色になって溶け、頸が長く伸びて行く。
手だった物は翼の様に広げられ、ぞろりと鋭く長い爪が其の下に備わる。
身は細長くなり、下方で黔い瓊が形成されて回り始めた。
其処から無数の半透明な蛇の様な首が生えて来る。
又其処から尾の様な羽根も何枚か生え、緩りと瓊と一緒に回転を始めた。
化物と化したソルドの周りを陣の様な物が描かれて行く。
瓊から出て来る蛇は少しずつ其の陣に加わっている様だった。
「フエェエエエェエエッ‼」
頭を覆う布袋みたいな物が形成されたかと思うと一気に裂け、悲鳴にも似た叫び声が谺する。
其の裂かれた頭の中から複数の絳い曦が目の様に灯っていた。
「其が、御前の真の姿か。」
人間の欠片なんてあってない物じゃないか。
明らかな異形の姿、同一神物とは迚も思えない。
全長20m程で蕭森から優に出てしまうだろう。
「・・・っ、」
奴の近くに居る丈で少し躯が重くなる気がした。
プレッシャー?いや何だ此は、直接的に伸し掛かって来る様だ。
「ノロ!セレ神離れるノロ!何と言うか、良くない気配が沢山するノロ!」
ノロノロが慌ててセレの傍に寄ると、ローブの下からそっと手を出してセレのオーバーコートの裾を掴んだ。
「確かにな。奴の新たな能力か。」
一見全快している様にも見えるし、仕切り直しか。
「うげ・・・此は中々厄介だな。」
「ル、ルルール。」
下がっていると茂みからアイカムロエアとキレンツカイナが姿を現した。
二柱は元ソルドだった化物を見上げ、警戒した様だ。
「奴に近付くと何だか躯が重くなるからな。離れた方が良いぞ。」
「あぁー其は此奴等の所為だな。」
少し背を伸ばしてアイカムロエアは溜息を付いた。
「此は随分と・・・酷い悪霊だぜ。彼奴こんなの何処で拾ったんだろうな。」
「悪霊・・・?此の蛇がか?」
ソルド自身は大して動いていないのだが、奴を中心に例の半透明な蛇が縦横無尽に駆け回っているのだ。
確かに奴等が近付くとより空気が重くなる気がする、此が悪霊なのか。
「今迄奴に酷い殺され方とかされた奴等か、前世からの物なのか・・・年数も経ち過ぎたのか劣化も激しいし、見られた物じゃないぜ。」
「ルー、ルル・・・。」
キレンツカイナの瓊が輝きを放って行く。
其の曦に蛇達は吸い込まれて行く様だった。
「成程な、じゃあ下手したら私も此の仲間入りだったのか。」
「そんな笑えない冗談は止そうぜ・・・。せめて喰ってやるか、存在する丈でも辛いだろうし。」
アイカムロエアも近付く蛇に咬み付き、呑み込んだ。
彼等の近くに居ると少し気分が楽になった。確かに此の蛇が原因みたいだな。
「ノロ~ソルドは色んな事をしているノロ。自ら恨まれる事で霊の力を勁めていたノロ。其の積み重ねノロネ・・・。」
「嫌われ者だったと言う点では自分と良い勝負だろうな。」
恨まれる事が力になる。成程、其ならあんな性格も捻くれてしまうだろう。
自分も似た様な物だし、此は気を付けないとな。
「小賢しい・・・相変わらずのむかつく小蠅が・・・大人しく、呪われろ、取り込まれろ・・・。」
呪詛の声を吐き乍ら緩りとソルドは近寄って来た。
「驚いたな、未だ喋れる丈の知能はあるのか。」
と言う事は完全に霊に取り込まれた訳じゃないのか。
こんな姿になっても使われるだなんて悲しいな。
「二柱共居てくれて本当助かったな。でもそんな食べて大丈夫な物なのか?躯は壊さない様にな。」
「ルール。」
「食べる丈なんだから大丈夫だぜ。其より一寸でも減らしてやりたいしな。」
セレに牙を剥いた蛇をアイカムロエアが銜えた。
二柱の御蔭で被害は殆ど無い。呼んで置いて正解だったな。
霊なんて対処の仕方が分からないし、次元毎に対策も違ったからな。調べる途中で投げてしまったのだ。
後は奴自身を如何するかだな。でも真の姿にさせられたのは可也大きい、此処で一気にけりを付けたい。
―・・・まさか、御前は、―
何処からかか細い声が聞こえた気がした。
聞き覚えのある・・・でも決して聞こえない筈の。
・・・まさか、
「二柱共、少し丈待ってくれるか?若しかしたら、」
「ん?おっと何だ此奴、偉く寄って来るな。」
アイカムロエアが下がると一頭の蛇がセレに近付いて来た。
でも其の霊は他のと違い、大人しく浮かんでいる丈だ。
そして其奴の放つ気配に何処となく懐かしさを覚えていた。
「御前、まさか・・・然うなのか。」
―如何やら気付いてくれたみたいだね。最も、もう会う事はないと思っていたけれども。―
其の声は・・・フォードの物だったのだ。
嘗て鎮魂の卒塔婆の長だった研究者の。
致命傷を負わせて、墓参りを最期にしたいと言ったから見逃したが。
奴の事だから嘘を吐いて迄逃げようとするとも思えず、其を信じた。
塔も崩れたから、宣言通り何処ぞで彼はくたばったのだと思ったが。
本当に、まさかこんな所で会うなんてな。
「ルー、ルルル?」
「噫、私の知り合いなんだ。だから此の霊は今は食べないでくれ。」
少し話をしてみたい、何故奴の霊として囚われているのか、何があったのか。
正直、ソルドと協力しているとは思えない。同じオンルイオ国に仕えてはいたが、方向性が互いに違い過ぎる。
彼は無駄を嫌う傾向があったし、時と場合に因っては何か有益な情報をくれるかも知れない。
「アイカムロエア、キレンツカイナ、悪いが他の霊達を抑えてくれるか?少し時間が欲しい。」
「おう、任せてくれよ。」
二柱は鳴き交わすとずんずんとソルドの方へと向かって行った。
奴は今の所霊を好き勝手にしている丈みたいだが、様子は見た方が良いな。
後は・・・フォードか。
「如何してこんな所に居るんだ。墓参り出来なくて化けて来たのか?」
―霊が墓参りに行くだなんて本質的に如何なんだろうね。―
矢っ張り・・・フォードだよなぁ。
姿も見えない、声丈、気配丈なので確信は得難いが。
雰囲気は完全に彼だ、実験好きの。
けれども今は敵意を感じない気がした。悪霊と言う訳ではなく。
度々見掛けた、彼の実験を楽しんでいた彼の俤を感じる。
―本来こんな所で君と出会う予定はなかった筈だけど・・・折角か、少し話してあげよう。―
今の彼は少し上機嫌そうな気がした。
迚も話せる状況では無いのだけれども、気になるのも事実だしな・・・。
「話してくれるのは嬉しいが、奴の事は大丈夫なのか?」
―・・・構いやしないよ。奴は只己の中に仕舞っていた霊を出す丈になっている。操れているかも怪しいね。まぁ何か動きがあったら教えてあげるよ。―
「今回は随分と優しいな。」
罠、うーん・・・余り考え付かないからもう直球で聞いてしまった。何だか考える丈無駄な気もするしな。
―もう敵対する必要も無いし、抑今の僕には何も出来ないから好きにさせて貰っている丈だよ。―
フォードの霊である蛇は舌をチロリと出して伸び縮みしていた。
本当に只世間話をしたいと言うか、暇を潰したい様だ。
―君の言う通り、僕は墓参りには行ったんだけれど、其処で奴に出会したのが運の尽きさ。あっさり消されて魂を奪われてしまった。自身を使っての体験程、有意義な物はないね。―
「じゃあ今の生活を楽しんでいるのか。」
彼の後ソルドに会っていたのか・・・良かった。奴が其の儘鎮魂の卒塔婆に来なくて。
連戦は流石に無理だからな、フォードが良い身代わりとなったみたいだ。
―まさか、奴に使われるのは我慢ならないね。其処で君に一つ提案をしたいんだ。僕達の利害は一致しているだろうからね。―
「提案か、興味あるな。話してくれ。」
敵は矢っ張り作らない方が良いなぁ、こんな形で共闘されてしまうんだから。
全く自分も他神の事言えないし、難しい所だ。
―僕に君の使っている妙な零星を一つ分けて欲しい。正確には魔力を。其の力で僕は奴の呪いを解く。解析するには十分な時間があったからね。―
「自由になって、如何するつもりだ?」
其の提案は、少し恐いな。
フォードは自分よりずっと賢いし、知っている事も多い、其奴に力を貸すのは・・・。
高が零星一つと言えども、だ。もっと安全に行きたい。
ソルドの味方はしないにしても、自分の味方とは限らないからな。
―どうせ、奴が死ねば僕は解放されて、やっと消えられるんだろうし、いっそ僕も真の姿になるよ。其で奴に一矢位報いてみようかなってね。―
「真の姿にか?今の姿でも成れるのか?」
意外な提案だ、まぁもう消える丈の存在なのだろうが。
―結局霊として縛られていると言っても霊も神も似た様な物だよ。奴の干渉力で縛られている丈、成るの位は簡単だよ。―
フォードを真の姿に・・・確かに其なら良い戦力になるだろうが。
―そんなに疑わなくても良い。と言っても君には難しいか。僕はもう塔だとかの柵が消えたからやりたい事をする丈だけれどね。・・・然うだな、じゃあ斯う言うなら如何だ?もし真の姿になって君を襲っても、君は零星を戻せば良い丈だ。其で何の道僕は消える。僕は最早何かに縋っていないと存在出来ないからね。用済みになれば消せば良いさ。―
成程、然う提案を示してくれた方が自分も選び易いな。
良く・・・分かっているんだろう。自分の事、然うだな。其の条件は悪くない。
其に何だか其の作戦はソルドへの良い意趣返しになりそうだ。自分は嫌いじゃない。
「・・・分かった。御前に賭けてみよう、精々暴れて、奴に恨みを晴らすと良い。」
―然う来なくちゃね。じゃあ此を一つ貰うよ。―
蛇は近くの零星を一つ丸呑みにした。
途端、其の躯は震え、一気に伸び上がって行った。
蛇だった霊の背には巨大な鳥を模した翼が生え始めた。
全部で六翼あり、上から黔、灰色、皓となっている。そして頭であろう所は菱形の板の様な物が生え、何となく頭を形成する。
対する尾の先には歯車の様な物が二つ掛けられた。リボンの様な細い躯、其処から少し離れた空間に丸い穴が幾つか開いて行く。
其処から百足の足の様に鋭い鎌が幾つも出て来た。
全長20mもの大型な姿である。だが古代遺跡の壁画に描かれる様なシンプルな姿は何処か儚さを感じさせた。
―ククッ、此じゃあ天使も化物も変わらないな。―
自嘲気味に笑い、フォードはじっくりと己の姿を見遣った。
そして同じく化物と化したソルドを見遣る。
―・・・終わったら、少し・・・話をしよう。―
然う言い残すとフォードは翼を羽搏かせてソルドへと飛び掛かった。
「っ⁉また新たな化物が!私の邪魔許りしますねぇ!」
―自分で操る霊の事も碌に分からないのか。―
「其の声は・・・っ⁉ま、まさかフォード、」
驚くのも、無理はないだろう。自分の力にしたつもりだったのだろうが、こんな形で反逆されるのだから。
確かにフォードの力は使えるだろうし、利用したいのは分かるが・・・自分は御免だな。
彼は頭が良過ぎる、今回みたいに裏で離反されちゃあ敵わない。
「なぁセレ、先急に出て来た・・・彼の神、なのか?彼奴は放って置いて良いんだよな?」
「噫、未だ霊の儘だろうが其の儘援護に回ってくれ。」
「おう、分かったぜ。」
幾らフォードでも霊迄は厳しいだろう、アイカムロエア達には手伝って貰わないと。
―やぁ君も化物の姿の方が似合うじゃないか。―
「っぐ、死んだ癖に良く喋りますねぇ。」
―其は君も一緒だろう。まぁもう直ぐ、もう一度死ぬ事になるけどね。―
フォードは少しずつソルドに近付き、緩りと彼に巻き付く様に身をくねらせる。
「抑如何して私の意思とは関係なく真の姿に・・・っ化物、御前の所為ですか!」
ソルドが宙に向け、大きく吼えた。可也御立腹の様だ。
真の姿が如何なのか身構えていたが、成程な。生前の姿に近付くのは当然か。
其が元々の姿なのだから、性質は似てしまうか。
「噫、強力な助っ人を有難うソルド。」
「本当御前は私を怒らせる事に掛けては天才的ですねぇ!」
ソルドの瓊からより多くの霊が出て来る。
一体彼は何丈彼を溜め込んでいたのだろうか。
蛇である霊にも彼の怒りが伝わっている様で、先よりは活発に暴れ始めていた。
力を持ち始めたのか辺りの木々を薙ぎ倒している。
「ルー、ルルル‼」
縄張りを荒らされて怒ったのか、キレンツカイナの瓊も光り始め、ビームの様な光線がソルドに向けて放たれた。
其に触れた蛇達は一気に消されて行く。
「ッギュワワワワアァア‼」
同じくソルドも無事では済まなかった様で、苦しそうに身をくねらせた。
効いている、キレンツカイナの浄化の力は強力だな。
霊を操る過程で、奴自身も霊に近付いているのだろう、此なら押せるか。
―少し騒々しいな。もう少し大人しくしてくれ。―
フォードの何本も生えた手足の鎌が伸び、ソルドに巻き付けられて行く。
フォードの鎌は非常に鋭利な様で、触れた丈で裂かれてしまう様だった。
次第にソルドの全身には細かな傷が入り、紫色の体液が溢れ出した。
彼が・・・彼にとっての血なのだろうか、毒液の様でもあり、嫌な臭が漂って来た。
「っぐ・・・が、フ、フォード、如何して私なのですか!貴方を殺したのは彼の化物でしょうが!私なんかより彼方を、」
―分かっていないな君は。僕は何方の味方でもないよ。只君を殺す方が手っ取り早いと判断した迄だ。―
「そんな理由で、此の私に楯突くと、あんな化物が残る方が世界にとって害悪でしょう!私は只貴方の後始末をしてやってるんですよ!」
―誰もそんな事頼んでないけどね。其に此は殆ど僕の個神的な恨みだ。悪霊らしく呪い殺してあげるよ。―
二頭の化物が絡まり合い、激しく戦う様は中々迫力があった。
フォードが拘束しようとするので、ソルドは暴れて彼の躯を引っ掻いていた。
リボンの様な体躯に中々傷は付かないが、其の翼は少しずつ皓さが失われて行っている気がした。
力の差、と言うのは如何なのだろうか、相性が大きいだろうが・・・。
彼の姿になってからは互いに無は使っていない、姿が変わった所為で、其の辺りの戦闘スタイルも変わってしまうのだろう。
―ネー彼ノ大キイノガ敵ナノ?―
こそりと茂みから首を伸ばして来たのは零星を纏った魔力だった。
如何したのだろう、何だか怯えている様に見える。
然う言えばソルドが真の姿になってから手を出していなかったな。
「噫、彼の霊・・・分かるか?彼を沢山出している奴が、先の奴だ。」
―ヘー・・・魔力ノ形ガ変ワッタカラ良ク分カラナカッタヨ。神ッテアンナ変身スルンダネ。―
恐らく意識して見た事が無かったのだろう、魔力の質とかが変わってしまうと彼等も戸惑う様だ。
―ウーン、大キクナッタケド勁ソウダヨ。其ニ何カ巻キ付イテルシ。―
「然うだな。彼方は今私達の仲間だから攻撃はしないでくれよ。」
今の内に零星を集めて置く、彼等丈に戦わせる訳にもいかないからな。
―ウー・・・其ハ一寸難シイカモ。私、ブツカル事シカ出来ナイシ。―
「じゃあ一回零星を返して貰っても良いか?又今度創るから、今は私が戦うから、出来れば見ていて欲しいんだ。」
―本当ハ返シタクナイケド・・・仕方ナイ、ヨネ。負ケタラ嫌ダシ、返スヨ。ダカラ勝ッテネ。―
素直で良かった、少し愛着を持ってくれていたみたいだが、返してくれる様だ。
其にしても意外だ、魔力が自身の身を案じたりするなんて予想外だったのだ。
てっきり突進しかしないと許り、躯を得た事で考え方に変化が訪れたのかも知れない。
手を出すと魔力を象っていた零星が少しずつ崩れて行った。
其が全て自分の元へと帰って来る。此丈あれば躯はぼろぼろでも戦える。
「さぁ、終わらせてやるぞソルド。」
無理矢理翼を羽搏かせて飛び上がる。
動く度に血が零れてしまう。此も武器になるのだから仕方ないな。
零星達にそっと掛け、一気に放つ。もう奴は自分しか狙わないだろう。迂闊には近付けない。
「化物がぁあ!此の私に、此の私にぃ!」
セレの姿を認め、ソルドは吼えたが、近付く零星に気付いてそっとフォードが離れて行った。
奴の飛び道具は其の纏う霊なのだろうが、此方へ来る前に全て去なされてしまう。
斯うなったらもう一方的だ、攻め続ける丈だ。
降り注ぐ零星は忽ちソルドの全身を斬り付け、そして黔水精になって爆発した。
水精が内側を抉る様に咲き、ソルドが全身をくねらせる。
彼の頭を覆う袋が更に大きく裂けて絶叫が迸った。
其の時、一つの黔水精が、彼の瓊を傷付け、罅割れさせた。
其と同時にソルドが躯を仰け反らして硬直してしまう。
瓊に入った罅はどんどん大きく広がって行った。そして・・・、
「ッギャオォオオォオオォオッッンッ!」
瓊が割れるのと同時に彼は叫び声を上げた。まるで断末魔の様に。
周りが不自然に冥くなった気がする。特にソルドを中心にして。
割れた瓊は欠片も残さず蒸発して行き、黔い濃い霧の様な物丈を残していた。
そして不意に其処から彼の霊の蛇が大量に生えて来たのだ。
蛇達は滅茶苦茶に暴れつつ、近くに居たソルドの全身に巻き付いて行った。
若しや又候変化でもするのだろうかと身構えていたが、如何やらソルドは苦しそうに踠いている様だった。
「う・・・ぐ・・・っ、如何して、こんなに思い通りに行かない、化物如きが、私の、邪魔立てをっ!」
蛇達はどんどんソルドに巻き付いて行く。其の目は虚ろだった筈だが、何処か血走っている気がした。
ざわざわと、蕭森全体からうねる様に蛇達が集まって行く。
そしてソルドに巻き付き、手当たり次第に咬み付いて行くのだ。
「此は・・・ひでぇな。」
アイカムロエアがそろそろと、そんなソルドを見遣り乍ら戻って来た。
キレンツカイナも警戒し乍ら下がっている。何か感じる物があるみたいだ。
「アイカムロエア、彼の蛇はもう食べないのか?」
「いやぁ・・・彼を喰うのは一寸な。謂わば彼は魂の残飯みてぇな物なんだ。もう神格とかそんなのは残ってねぇ、恨み丈で動いてやがる。あんなの喰ったら腹壊しちゃうぜ。」
「然うなのか。彼はじゃあ普通の霊じゃあないんだな。」
彼等でも喰えない霊がいるのか、勉強になるな。
如何しても自分は然う言う存在に疎い、今迄体験して来なかったから良くは知らないのだ。
今回はフォードや龍族が居たから如何にかなっているが、矢張り一対一にはしたくない相手だな。
「普通の霊って言うか、劣化だな。随分古い霊だよ。大昔に奴に取り込まれちまって、ずっと恨んでたんだろうなぁ・・・見れた物じゃねぇよ。あんな姿になっても恨んだ奴を只々呪おうとするんだ。」
彼等には別の何かが写っているのだろうか、二柱は余りソルドの惨状を見たがらなかった。
「彼は直、自他諸共消えてなくなるぜ。だから喰うこたぁねぇよ。人を呪わば穴二つって言うし、正に其の通りだろうよ。・・・ってももう穴に入る肉はない訳だけどな。」
「自壊・・・か。」
何とも呆気なく、又悲しい最期だ。
己が操っている筈だった力に、最後は踊らされて消えるか。自分は真っ平御免だな。
奴にはぴったりな終わりだろうが、あんなのじゃあ浮かばれないだろうな・・・。
・・・恨みと言うのは恐ろしいな、自分も此以上貰いたくはないが、無理だろうなぁ。
フォードも其以上は追撃せず、緩りと後退して行った。
皆、分かっていたのだ、もう彼が助からない事を。
ソルドの躯は少しずつ千斬れて行っていた。其でも霊達は彼を放さない。
―一応君達の勝利みたいだね。―
一度弧を描き乍ら飛び、フォードがセレの隣へと降りて来た。
彼の周りにあった穴は閉じられ、手足を失った彼は重力等無いかの様にふわりと降り立った。
そしてじっと、崩れて行くソルドを眺めていた。
―彼が消えれば僕も消えるだろう。礼を言わせてくれ、こんなに早く彼の束縛から解放されるとは思わなかった。―
「解放されたら消える丈だぞ、其でもか?」
―其が僕の願いなのだから十分だよ。―
彼の声は今迄聞いた何時の物よりも穏やかで優しかった。
こんな風に話せるのかと驚く位、彼の時間は穏やかだった。
敵意も一切ない、本当に消えるつもりなのだろう、此の儘、
―・・・・・。―
フォードは此方を見遣り、黙り込んでいた。
形が形丈に、目も無いので何処を見ているのかははっきりしないが、其はまぁ自分も同じか。
「如何した、話したいんじゃなかったのか?」
―いや、僕からは特に無いけれど、君はあるんじゃないかと思ってね。―
噫、然う言う事か。
彼は・・・案外御神好しなのかも知れない。其か悪戯好きというか。
最期の時間を私なんかに使う可きではないだろうに。
「物好きだな、じゃあ・・・今更だが如何して私を創ったんだ?BDE‐01迄創って貰って。」
―本当に今更だな、そんな事を僕に聞くのか?―
忍び笑いが聞こえて来る。本当におかしくて堪らない様で、彼は上体をくねらせた。
―・・・成程ね、然うか。然う言う事か。じゃあ僕は何て答えようかな。―
キョロキョロと辺りを見渡してフォードは一つ小さく頷いた。
―理由をまさか尋ねられるとはね。じゃあ・・・強いて言えば、面白そうだったからだ。―
「面白い?そんな理由か?そんな物に御前は殺されたのか?」
零星を少しずつ解いて行く。手足に代わってくれている分も好い加減痛くなって来た。
零星がなくなれば血も止まるだろう、無理矢理動かしていたしな。
義足の代わりになっていたのを解いたので足元は覚束ない、そっと地面に腰を下ろした。
何時の間にかキレンツカイナが傍に寄って来ており、自分の後ろに留まってくれたので有難く背を借りる事にする。
うん、背中を預けると凄く楽だ。暫し此の儘にさせて貰おう。
―そんな物とは言って欲しくないね。一応百年以上掛けて創ったんだから。―
「何の道そんな手塩に掛けて迄して創った者に殺されちゃあ堪った物じゃないんじゃないか?」
―いや少なくとも僕は満足しているよ、君の出来にね。僕を超えたと思ったら、奴も消してくれた。・・・十分だよ。―
そっとフォードは離れて踠いているソルドを見遣った。
・・・未だ苦しみ続けている様だが、楽にさせてやる気はない様だ。
―奴には僕の仲間達も随分世話なっていたし・・・御似合いの最期さ。―
「天使とは思えない台詞だな。」
何だろう・・・随分と彼の雰囲気が、矢っ張り変わっている気がする。
近い、というか素なのだろうか。
―僕は同族に見捨てられたからね。堕ちもするさ。でも・・・君は天使の本質を知っているかい?―
目なんて無い筈なのに、彼はじっくりと自分を見詰めている気がした。
彼の何時もしていた観察する様な目ではなく、只じっと。
―天使は個の幸せなんて見ていない、目指すのは世界の救済だ。其処を勘違いしてはいけない。―
「世界の・・・救済。」
其は何だ、大義の為に小さな悪は見逃すと言う様な、そんな具合か?
世界・・・彼の見ている世界とは、何なのだろうか。
「じゃあ黔日夢の次元は救済になるのか?」
―ん、其は君がしたかった事だろう?勝手に僕の所為にしないでくれ。―
「まさか然う来たか。」
―そっくり其の儘返したい言葉だね。―
何処とも知れず、忍び笑いが漏れる。
残念、黔日夢の次元の罪は矢張り自分の物らしい、まぁ手放す気もないけれど。
「へぇ、じゃあ私が世界を救済するのか。其は凄いな、将来安泰だ。」
―僕は然う信じているよ。―
思わず目を剥いて彼をまじまじと見てしまった。
冗談にしては断言し過ぎている。
―・・・信じているよ。―
でも繰り返す彼の言葉は覆らなかった。
・・・いや、いやいや、何を言っているんだ、何だ其の言葉。
何だかつまらない話を聞いてしまった。此の件はもう掘り下げない様にしよう。
もう黙っていようかと思ったが、何やら胸騒ぎがする。何だろうな此は、
・・・噫、成程な。
「・・・私からは以上だけれども、如何やら丗闇から話があるみたいだぞ。」
何だかそわそわしている気配だ。何と言うか珍しい、丗闇から干渉するだなんて。
―おや、偉大な闇の神が僕に何の用かな。―
―・・・何時、我が此奴に印されたか、御前は知っているか。―
確かに然うだ、彼なら分かるかも知れない。自分達が忘れている初まりの事を。
丗闇も知りたい事、沢山あるだろう。自分より動けない身の上なんだし。
フォードも何か考えるかの様に暫し首を伸ばしたり縮めたりしていた。
―残念乍ら、僕は知らないな。でも推測するに、前世の君が死んで、此方に来る間はそんな、実は謎の空白があってね。・・・いやでも其の時とも限らないんだよね、何て言うんだろう。確かに闇の神は其の時辺りから姿を消した風だったけれど、其の印はそんな最近の物でもないと思うよ。」
「印って・・・噫丗闇を滅茶苦茶に縛っている此か。」
今少しずつ解いて貰っているけれども、未だ未だあるのだろう。確かに誰が丗闇を印したのかは可也大事な話だ。
フォードがしたのかも、と最初は思っていたが、フォードも丗闇の事、良く知らない風だったもんな。
別の第三者が絡んでいるんだ。其奴は今の丗闇や、自分を見て如何思っているのだろうか。
間違いなく其奴は可也の力の持ち主なんだろうが・・・。
「最近ではないのは如何して然う思ったんだ?若しかしてもう劣化しているから、とかか?」
―いや単純に其丈印をしようとしたら、相当の時間が掛かるからだよ。其に色んな次元の古い呪いやら魔術とかを手当たり次第使っている。印さえ出来れば良かったのか、相互関係だとかも全く考えていない構成だ。こんなの、時間が幾らあっても足りないよ。―
成程、然う言う事か。
確かに丗闇も似た事を言っていたか。
時間が掛かる・・・か、ん、でも、じゃあ自分は其の間如何だったんだ?自分も思い当たる時が無いぞ?
「ん・・・丗闇、良かったら丗闇は何処から憶えているんだ?今の話を聞いてみるに。」
―・・・我も自分の記憶が怪しいから聞きたかったんだがな。我も、丗を見ていた記憶はある。だが急に其がばっさりと途切れて、気付けば御前に印されていたのだ。―
「ふーん・・・此は中々難しそうだな。」
丗闇が気になるのも無理ないけれど、現状此は分からなさそうだ。
・・・何だか、未だ隠れている奴とかが居るらしいのは気分良くないけれどな。
―仕方ないな。分かった、此は又引き続き考える。我が聞きたかったのは其丈だ。―
―ん、然うか。もっと聞いてくれても良いけどね。僕しか知らない事多いだろうけれど。―
話したい、のだろうか。何だか元気が有り余っている様な、そんな感じだ。
「聞くと言ってもな、正直御前が死んだ時点で然う言うのは諦めてしまっていたからな・・・強いて言ったら自分の実験とか研究成果を資料でも何でも良い、教えて欲しいんだが。」
研究者なら喜んで提示してくれるだろう、彼は自身の研究に目が無いからな。
だがフォードは少し身をくねらせると、何か考え込んでいる様だった。
―今更な事許り君は聞いてくるね。・・・まぁ此は先と意味合いが変わってしまうけれども、前は未だ答える気もあった魅力的な質問だけれど、今は難しいな。―
「私をおちょくってそんなに楽しいか?」
―まさか、そんなつもりじゃないよ。只今の君は僕の知っている君とは可也変わってしまった。如何やら別のマッドサイエンティストと組んでいるみたいだし、僕の研究結果は蛇足だと判断した迄だよ。―
「然うか、案外あっさり諦め付いているんだな。」
確かに彼の時よりは大分変わっているか、魔力の事とか血の事とか・・・。
―まぁね、其はもう僕が死んだ時に最初から諦めていたからね。其に彼は自分の欲求の為にした事だ。其が残せなくても何とも思わないよ。何より君が残っているしね。―
「私を処分しようとした割に、そんな事を言うのか。」
フォードは、何と答えようか考えあぐねている様だった。
表情は伺えないが、何度か逡巡し、尾を揺らす。
―・・・何だか、君に然う尋ねられると、何て答えて良いか分からなくなるよ。―
聞こえたのは苦笑だろうか。彼は自分の言葉に何を見たのだろうか。
―・・・僕は分かっていたんだよ、僕には君を処分出来ない事位、其を・・・証明して欲しかった丈。―
首を伸ばし、一つ息を付く。
―僕は君の事を知っていた、ずっと・・・知っていた。だから君に僕の全てを託した。・・・少し丈、ガルダにも話したけれど。彼は理解出来なかっただろうね。いや、彼なら或いは・・・理解する事を拒んだのかも。―
考え込み始めたのかぶつぶつと何か彼は呟いていたが、不図顔を上げた。
―いけないな、悪い癖が出ている。もう十分だろう、君への答えは。もう余り僕を苛めないでくれよ。―
「苛めているつもりはなかったんだが・・・。」
―へぇ然うかい。良い性格しているね。―
ふわり、とフォードの躯が薫風も無いのに上昇し始めた。
穏やかに、でも何処か名残惜しむ様に。
―さて、そろそろ時間だ。御覧、奴はもう存在を残せなくなってしまった。―
ソルドはもう・・・見るに堪えない姿になってしまっていた。
ずっと波紋で見ていたが、もう一切抵抗も出来ない位分解されてしまっている。
「・・・彼が恨みを集めて来た最期か。」
―まるで自分を見ている様かい?―
「否定材料が一つも無いのが辛い所だな。」
誰が自分を殺すのかが変わる位だ。魔力か、神か、人か・・・仲間か。
別に其を考える事は辛くはない、分かっていた事だ。
屹度其の時が来ても自分は笑えるだろう、笑い乍ら最後迄相手を殺そうとするのだろう。
―・・・せめて君はあんな呆気なく死んでくれるなよ。―
「ん、随分優しい言葉を掛けてくれるじゃないか。」
―先も言った通り君丈なんだよ、残ったのは。―
不図、随分懐かしい記憶が過った。
懐かしいと言うのは今世に於いて、店を開いて最初に行った次元。
勇と旅した次元だ。其処でフスタが言っていたな、他にもレイが似た事を言っていたか。
—希望・・・と、こんな自分の事を。
剰え対照の希望、と。
彼等の真の目的は分からない。聞いても答えてはくれないだろう。
でも其が示すのは屹度・・・、
―じゃあ、本当の最期に逢えたのが君で良かったよ。―
ソルドの躯が霧散する。もう断末魔も上げられずに静かに。
恨みの蛇諸共消えてしまった。
今は霊であるフォードも、同じなんだろう。彼の全身は少しずつ透けている様だった。
そしてゆるゆると彼は上昇して行く。
其を自分は只見守った。
自分が殺した二柱の最期を、忘れない様に。
―・・・左様なら、セレ。―
「噫、御別れだ、フォード。」
呟いた言葉は直ぐ薫風に消えた。
後には何も残らない、荒らされてしまった蕭森が残る丈だった。
「ルールル。」
「噫、キレンツカイナも有難な。御前の御蔭で助かった、何とか彼奴を殺せたよ。」
「終わったのか・・・御疲れ様だったな。」
「此方こそ、巻き込んで済まなかったな。二柱共怪我はないか?」
寄って来たアイカムロエアの鼻先を撫でて立ち上がる。
片足が無いのは零星で代用するしかない。一度消したが、又付け直さないと。
噫、こんな姿、ガルダ達に大目玉喰らうんだろうな・・・想像に難くない。
単身でやったし、今から胃が痛くなって来た。
「おう大丈夫だぜ。俺は飯を食った丈だしな。じゃあ今日は帰るぜ。又な、セレ。」
アイカムロエアは一つ喉の奥で鳴くと歩き去って行った。
キレンツカイナも其の後を追う。
「ノロ、セレ神、本当有難うノロ。」
遠慮勝ちにノロノロもやって来た。
ずっと見ていたのだろう、主が霊に喰い殺される様を。
其の表情は晴れ晴れとしている様だった。
「夢みたいノロ、ずっと願っていた事ノロ。誰も助けてくれなかったノロケド、セレ神は違ったノロ、約束を護ってくれたノロ。」
「ククッ、其丈聞くと随分と私は良い奴みたいだな。分かっていると思うけれどノロノロさん、私は只、私のやりたい事をした丈だ。其に御前を利用した丈だよ。」
「其でも・・・助けて貰った事は事実ノロ。ノロノロはずっと、セレ神に付いて行くノロ。一緒に行くノロ。」
「ん、本当にずっと付いて来る気なのか?もう御前は自由になったんだぞ。そんなの主が変わった丈じゃないか。」
契約はしたが、矢張りソルドを共通の敵として打倒する迄の一時的な物と思っていたが。
「ノロ~ン、最初に言ったノロ、セレ神だから付いて行くんだノロ。其の気持は今も変わっていないノロヨ。」
「然うか。じゃあ気兼ねなく今後は馬車馬の様に働かせられると言う事だな、覚悟しろよ。私の背中は容易に刺せないぞ。」
「もうこんな事はしたくないノロヨ・・・。大丈夫ノロ、刺す時はちゃんと言うノロ。」
然う言ってカラカラノロノロは笑っていた。
ノロノロも付いて来てくれる様だ、正直に其は有難い。
外部の協力者は少しでも置いて置きたいからな・・・其を含めても、今回は実りがあった。
「もうソルドは居なくなったんだ。如何だ?虚器惟神の楼閣は倒壊するのか?其処の兵は驚くだろうな、行き成りそんな事態になったら。」
「然うノロネ、もう倒壊は始まって居るノロ。と言っても彼の塔は元々兵はそんな置いていないノロヨ。」
「然う言えば然うだったか。兵の実力はそれなりと聞いていたからソルド丈何とか釣りたかったんだが、今回は上手く行ったな。」
「ノロノロを適当に呼び付けてたのも、其が目的だったノロネ。ずっと存在をちらつかせて敢えて一柱になって。」
「単に御前の事をもう少し知りたいのもあったがな。」
挑発に弱い奴だったから、あんな風に焚き付ければやって来ると踏んでいた。
「其にしても驚いたな、まさかノロノロさんにあんな技があったなんて。」
右手をひらひらと振ってみせる。
指が何本か持って行かれてしまった。あんな硬直の技があるとは知らなかったからな。
「ノロ~・・・其は申し訳なかったノロ。其でセレ神が死んだら如何しようかと思ったノロ・・・。」
「まぁソルドが霊を使って他者を操るのは知っていたからな。でもあんな大技、他にも使えるのか?」
「ノロ、あるけど、余り使いたくはないノロ。彼の類の技は使うとノロノロが一柱犠牲になってしまうんだノロ・・・。」
俯いてしまったノロノロに思わず近付いた。とんでもない事を聞いてしまったな。
「犠牲?彼の技一つでか?」
「然うノロ、だから連発される位なら、セレ神に殺して貰おうと思ったんだノロ。」
「成程、然う言う事だったのか・・・其は悪い事をしたな、最後の最後に一柱欠けてしまったか。」
ノロノロの命を対価にしてしまうとは・・・そんな技だと一寸使えないな。
ソルドはそんな事も構わず大技を繰り返していたから嫌われてしまったのだろう。
「ノロノロ、セレ神が気にする事じゃないノロ。ノロノロは皆、セレ神に感謝しているノロヨ。」
「然う言って貰えたらまぁ有難いが・・・さ、私もそろそろ帰るから御前も休んだら良い。もうこんな仕事、しなくて良いからな。」
「ノロ~、何時でも呼ぶノロヨ、セレ神の声ならちゃんと届くノロヨ!只・・・ノロ、」
ちらとノロノロは背後の茂みを見遣った。其処から窺う一つの気配を。
「セルフィカ神様は、如何するノロ?何かするなら、ノロノロ手伝うノロヨ?」
「ん、其は相手の出方次第かな。」
とは言いつつも、恐らく向こうも手は出さない筈。
出す気ならもっと隙はあった、確かにフォードも龍達も去ったが、彼は只見ていた丈だ。
戦えないのか、只情報が欲しいのか。
―私は別に、何もしませんよ。―
スイ、と茂みからセルフィカが姿を現した。
本当に只ずっと見ていた。まぁ今は争わずに済むなら其が良い。
―私は只、ソルドの最期を見届けた丈、今から其を王に報告しましょう。貴方が何か用があると言うなら少しは付き合いますが。―
敵意はない、見られはしたが悪くはないな。
まぁ此を機に何か対策とかされたら厄介だが、今此の場でもう一戦と言うのは浅はかだろう。
次迄にやる事は未だ沢山あるからな、其より此処に一柱で居る事がばれて仲間を呼ばれる方が不味い。
「いや、用なんて無い。私は只、私の嫌いな奴を殺した丈だ。」
―・・・然うですか。では。―
セルフィカの躯は少しずつ透けて行った。此の儘帰ってくれるみたいだ。
―ではセレ神さん、若し貴方が来られるのなら、我々は歓迎しますよ。―
其丈言い残し、曦を残して消えてしまった。
「歓迎か。其は如何言う意味だろうな。」
遊びに行ったら消し炭にされるんだろうなぁ、噫恐ろしい。
・・・向こうが何もしないなら、自分も動く気は一応ないんだけれどな。
「ふぅ、良かったノロネ。セルフィカ神様は一寸相手にしたくなかったノロヨ・・・。」
「ん、矢っ張り勁いのか?」
見た目丈じゃあ何とも分からないからな。
・・・気配は完全に消えている、大丈夫だろう。
「勁いと言うよりは、相性が悪いノロ・・・。セルフィカ神様は精霊神でもあるノロ、だからノロノロは勿論、今のセレ神だと、階級的に向こうが上になる可能性はあるノロ。」
「おぉ、そんな存在だったのか。」
精霊神、もう其丈で勁そうだ。
然うか、だから一回見られた時、畏怖の様な物を感じたのか。
其の時点で負けてしまっている・・・其は一寸嫌だな。
確かに自分は精霊寄りにはなって来ているけれど、謂わば自分も精霊神みたいな物だ。何とか対等に持って行きたい。
まぁ神としても半人前で、精霊としても成り掛けの中途半端なのは認めるけれどな。
「良し、じゃあノロノロさん。今度は彼奴も調べて欲しいな、奴にも鈴を付けて欲しいのだが。」
「恐ろしい事を言うノロネ・・・。其やった瞬間バレて報復されるノロヨ。」
すっかりノロノロは及び腰である。冗談ではない様だ。
「然うか、残念だ。でも情報が欲しいのは確かだ。無理のない程度で御願い出来るか?」
「出来れば熱が冷める迄大人しくして欲しいノロケド、そんな気はないノロネ。分かったノロ、可能な限りなら頑張るノロ。」
一つ大きく頷くとノロノロのローブが大きく翻り、彼を隠してしまった。
其の儘、姿は掻き消えてしまう。何も無い空間に一つ息を付いた。
やっと・・・終わった、やっとソルドを殺せたのだ。
其の過程でフォードやセルフィカなんてイレギュラーな存在が出て来たが、取り敢えずは。
一旦自分の殺したかった奴は消したが、又増えるだろうなぁ。
今度は光の奴等か、闇の反撃か、将又第三勢力か。
平和には程遠いい・・・早速次の作戦を考えないとな。
早々と魔力達が自分の周りを漂っているのを感じた。
「・・・店に戻る迄に一寸遊ぶか?」
屹度彼等はこんな状況でも、どんな未来でも楽しく遊ぶのだろう。
良いな、其羨ましいな、うっかり自分も其方側に行きそうだ。
只何も考えずに向かって来る奴をやる丈でも・・・。
・・・駄目だ、何考えているんだ。
自分は、私は、そんな事をする為に在るんじゃなくて。
・・・・・。
何かを壊した時は何時も然う、此の妙な昂りに似た感覚を隠さないといけないんだ。
次の一手、然う、其を考えないと。
考えて・・・壊さないと。
役目を終えた黔水精は一つ残らず溶けて行った。
蕭森は何時もの静けさを取り戻す。寧ろ何時もより静かになった薫風丈を吹かせて。
・・・・・
神の威を借った塔は崩れ去った
全て全て、砂に還れ
願いも懐いも詠も全て流れ落ちろ
何も残すな、其は偽りなのだから
砂の山を見た所で、誰も何も感じはしないのだから
いやぁ書けた書けた!と筆者御満悦な回でしたが、如何でしょうか?
やぁーっと彼奴くたばりましたね!うん良かった!
本当に此処で終わらせる予定なかった筈なのに、全く何が起きたんでしょうね?
まぁでも中学の時からずーっと書きたかった所なので満足しています。フォード、もう一回出してあげたかったんですよね。
他にもキレンツカイナもずっと温めていた子なので嬉しいです、うん。
実は魔力の化物の姿も描こうと思っていたのですが、画力及ばず断念しました。正直自分でも良く分かんないもん、寧ろ描いたらこんな姿なのかと固定されそうなので、敢えて描かない事にしました。
今回は割と意味深なシーン?があったり。何度か書き直したシーンも実はあります。
そんな大事なシーンが終わってホッとしています、次回は緩ーく書けるからね。
御蔭でやっとパソコンが壊れた傷跡は修復し終わりました。次の話は2頁位しか未だ書けていないので此から何時ものペースで頑張りますね!
では又御縁があったら御会いしましょう、流石に次回は一寸先になります!
其迄どうぞ御元気で!




