47次元 陰地を別つ涙珠の滄江流れる次元
今日は~!自分の目標達成の速度で投稿出来ました!
三日位必死で入力しました、此の挫けぬ意思を自分で褒め称えたい。(此入力している内に次の話書き終わったけれどね!)
パソコンが初期化されちゃっている訳ですけれど、すっごく難しいですね・・・。
先ず百以上ある辞書登録からスタート、登録後もWord自体が変わっちゃったので悪戦苦闘・・・。
未だに変換ボタンで変換されない謎の現象に悩まされています。誰か御存じだったら治し方教えてください、此の所為で本当にストレス溜まるのです。
実は現在の自分、凄く人生の岐路みたいな大事な時期なんですけれどね。(此奴いっつも人生の岐路に立ってるな。)
其でも何とか趣味が続けられているのは凄く恵まれている事!感謝!
そんな今回は何と挿絵が大量投下されました。
と言うのも凄く暗闇の中を彷徨う話だから、せめて彩ろうと筆を取った訳で。
何だか暗闇系の話多いですね、びょ、描写が面倒臭いから真黔で良いや、とかそんな下心は無いですよ・・・?
其でも御気に入りの子が沢山出て来た、思い入れの多い話なので良かったらどうぞ!
女の頬を涙が伝う
幾重も幾重も流れた涙は何処へ行く
地の底の、冥府の谷迄下るだろうよ
噫汝の涙を拭いたいが其は叶わん
流れし涙は悠久の時を経て滄江となった
死者を阻む滄江よ、現世と彼の世を分かつ滄江なのだから
・・・・・
―・・・御免なさい、御免なさい。―
又・・・彼の子が謝っている。
―私の所為で貴方は・・・全てを失った。私が、私が来なければ、―
彼女の悲痛な声が胸を打つ。
涕かないで欲しい、謝ってなんて欲しくない。
俺は只、其の涙を止めたくて、
―私が貴方を巻き込んだ。私が丗に嫌われているのは分かっていたのに、貴方に手を伸ばしてしまったから。―
其の手を取った事を後悔した事は一度もないのに。
でも・・・彼女はずっと、後悔しているのだろうか。
―御免なさい、本当に。如何すれば良い?如何すれば私は貴方に償えるの?御願い、如何か・・・如何か彼に曦を。―
彼女は涕き続ける、俺の声なんて届かずに。
其とも、此は俺への罰なのだろうか。
御前の所為だと、彼女が涕き続けるのは、御前が無力だからだと。
俺に・・・教えているのだろうか。
―私は、本当はもう如何なっても良いの、もう十分貴方から幸せを貰った。でも、此の罪悪感は耐えられない、だから、せめて消えてしまう前に、―
消えないで、消えないでくれ。
其丈は嫌だ、彼女を失うなんて、其こそ俺が耐えられない。
独りにはもう、なりたくないんだ。
彼女が消えない様に、離れてしまわない様に、俺は必死に手を伸ばした。
言葉が届かないならせめて、行動で。
でも無情にも伸ばした手はあっさり彼女を貫通し、其の姿はボロボロと崩れてなくなって行く。
嫌だ、嫌だっ、行かないでくれ。消えないでくれ。
崩れて行く彼女を抱く。でも触れる度に余計崩れてしまって・・・、
―・・・さ・・・よう、なら。―
・・・・・
「っ待ってくれ‼」
慌てて飛び起きる、其と同時に完全に彼女の幻影は消えてしまった。
でも俺の伸ばした手は確かに何かを掴んでいた。
黔く滑らかで、でも逆刺だらけの、此は・・・、
「・・・えっと、何処にも行かないが?」
俺の目の前には少し小首を傾げたセレが居た。
そんな彼女の腕を、がっしり俺は掴んでいたのだ。
構わず掴んだので俺の掌は血塗れだ。でも、そんな事、気にしていられない。
えっと・・・今、何が起きてるんだ?
傷が治る間にじっくり考える。セレも・・・待ってくれているみたいだし。
先ず此処は俺の部屋だ。俺の、次元龍屋にある、俺の部屋。
彼処じゃない・・・うん、此処は彼処よりずっと温かい。
で、俺が居るのはベッド、其処から今飛び起きたと。
・・・成程な、先のは夢だったのか。
安堵とも何とも付かない息を付く。
妙にリアルだから全く分からなかった、もう其の儘記憶の焼き増しみたいで。
夢だと実感した途端、どっと冷や汗が出て来た。ずっと緊張していたんだ。
「っと、ご、御免セレ!」
慌てて彼女の手を離して少し下がった。と言ってもベッドの上なので余り距離は取れない。
「別に気にしなくても良いけれど、其より手の怪我は大丈夫か?何だか魘されていたみたいだから毛布を掛け直そうかと思ったんだが、余計な御世話だったみたいだな。」
彼女は苦笑してベッドの端に腰掛けた。
「手は・・・全然、でも、えっと魘されて?・・・そっか、一寸酷い夢を見てさ。あーもう・・・、」
最近夢見が悪いな、まぁ丗曦と会ったのは夢だったのか今一分からなかったけど。
「珍しいな。でも昔も時々見ていたな。同じ夢なのか?」
昔・・・然う、前世でも俺は時々悪夢を見ていた。
悪夢と言うか、彼は後悔と言うか、納得していないと言うか。
其でも見る回数は大分減ったと思うけどな。だから久し振りでこんなにリアルに見たのかも。
「同じ、だな。一寸、言い難いけど。」
「別に無理に懐い出さなくて良いだろう、言ったら正夢になっても嫌だしな。」
「うん・・・。でも来てくれて有難な、セレ。大分落ち着いたよ。」
目の前にセレが居てくれて、本当に安心する。俺は未だ失っていないって実感出来るから。
失うのは矢っ張り恐いよ。神でも何でも一緒だろうな。
「さてと、起きないと。悪いなセレ、今から朝御飯作るから一寸遅くなるけど。」
「別にガルダの当番って訳でもないし、必ず食べないといけないって訳じゃないだろう。偶には緩りしていても良いんじゃないか?」
「とは言われても、何か習慣みたいな物だしさ。」
「然うか。じゃあ私も手伝おう、其位はしないとな。じゃあ先に出ているぞ。」
微笑を残してさっさとセレは部屋を出て行ってしまった。
さっさと俺も身支度しないと。余彼女に気を使わせてもいけないだろう。
其に日常通り過ごせば、彼の夢も早く忘れられるだろう。今の俺にはセレが居るんだし、ちゃんと彼女の事を見て置かないとな。
・・・・・
「ノロノロ~ン、御早うノロ~。」
「っえ、あ、お、御早うノロノロさん。」
吃驚した・・・リビングに出ると当たり前の顔してノロノロが席に着いていた。
何だか会うの久し振りだなぁ、でも何で店に来ているんだろう。
ノロノロは手持無沙汰そうに足をぶらぶらさせて座って居た。
ノロノロが来ているとなると、セレが呼んだのだろうか?彼女はキッチンに居るし、少し聞いてみよう。
「セレ、悪い遅くなっちゃって。」
「ん、別に大して経ってないぞ。私もそんなに出来ていないし。」
セレは何やらスープを作ってくれているみたいだった。
其とクラッカーが並べられている。此に何かトッピングしようかな。
「じゃ俺も参戦っと。」
「ガルダ、出来れば味見をしてくれるか?余り自信がないんだ。」
スープ、熱いもんな。一口分貰って、じっくり寝起きの頭を起こして行く。
「ん、一寸塩を・・・否、ブラックペッパーが良いかな。もう少しピリッとさせた方が合いそうだし。」
さっと調味料を足して行く。manjuの所で揃えているので品揃えは豊富だ。
「なぁセレ、ノロノロさん来てたんだな。」
「噫一寸話したい事があってな。折角だから朝食も、と思って。」
「そっか。ま、仲良いのは良い事だな。」
一応ノロノロは敵の、虚器惟神の楼閣の者だから一寸そわそわしちゃうけれども。
セレと契約もしているし、何と言うか難しい関係だ。
「悪いなガルダ。彼奴には大事な役目があるんだ。だから少しやり難いと思うけれども。」
「別にそんなんじゃないって。向こうも大変だと思うし、御飯位良いよ。」
何だかセレが目敏い、何時もより気を使ってくれていると言うか。
俺が夢を見た事、気にしてくれているのかも知れないな。俺も気合入れないと。
切り分けたトマトやチーズをクラッカーに乗せてみる。
・・・うん、良い感じだ。客に出すには十分な出来だろう。
・・・・・
「うん、矢っ張りガルダの料理が美味しいな。」
「セレが手伝ってくれたから早く出来たし、俺は一寸手を加えた丈だよ。」
朝餉が運ばれて一同は朝食にあり付いた。
もう陽も結構昇っているので随分遅い朝餉だ。御蔭で自分とガルダ、ノロノロを入れての三柱しかいない。
ノロノロも普通の食事が摂れるのか少し心配だったが、杞憂の様だ。
普段は余り出さないフードの下から手を出してもぐもぐ食べている。
テーブルマナーも上々だ。難しそうな腕に見えて普通に器用である。
「ノロ~二柱は仲良しさんノロネ。」
「まぁ仲良しと言うよりは・・・幼馴染だからな。一緒に居る期間も一番長いし。」
「ま、まぁ然うだな、うん。」
何だかガルダの顔が赤い・・・何だろう、夢の事とか、何か思い出したのだろうか。
ノロノロも気付いたのか口を不思議な形に歪めている。・・・見ていて何かむかつく顔だ。
「・・・爆発しちゃえば良いノロ。」
「ほぅ、随分物騒な事を言うな。」
「何でもないノロヨ~。」
然う言ってノロノロは手を振るが、何故か余計ガルダの顔は赤くなっていた。本当に大丈夫だろうか。
「然うだガルダ。悪いが今後又彼の医者の所に連れて行ってくれるか?」
「え、ニコニコ医院か?い、良いけど如何した?何処か悪いのか?」
「いや少し教えて欲しい事がある丈だ。彼奴も色々調べてくれているだろうし、恐がっても居られないだろう。」
「然う・・・だよなぁ、分かったぜ。食べ終わったら行くか?」
「急ぎじゃあないんだ。気分としては次元に行きたいし、其の後でも構わない。」
「あ、じゃあ俺も行こうかな。一寸躯動かしたいし。」
「噫良いんじゃないか?・・・ん、如何したノロノロさん。」
波紋の端でノロノロが何やらもじもじと足を動かしていた。
何だか罰が悪そうだ。別に御手洗いに行きたいとかじゃないと思うけれど。
話に入れないとか?いや此位の日常会話はさせて欲しい物だが。
「ノ、ノロ~その、セレ神がノロノロを信頼してくれているのは嬉しいノロヨ。でもこんな堂々とノロノロの目の前で情報を流すのは如何かと思うノロ。」
ビクッとガルダの背も伸びる。
すっかり忘れていた、然うだ。此奴のポジションって敵か味方か、俺は良く分かっていないんだ。
一応虚器惟神の楼閣の奴って頭には入れていたけれど、セレが余りにも普通だったから普通に話しちゃった。
ちらと彼女を見遣ったが、別段、普段通りにクラッカーを一枚頬張っていた。
「其は此方の台詞かな。如何してノロノロさんを呼んだのか逆に考えて欲しいんだが。」
「ノロ?彼奴に教えちゃっても良いノロカ?」
「だって御前は彼奴の奴隷妖精でもあるんだろう?だったらちゃんと役目を果たさないと駄目じゃないか。」
「セレ神が然う言うなら、良いノロケド。」
彼女は何とも嬉しそうに笑っていた、不思議と凄む様な雰囲気のある笑顔で。
「私に変な負い目なんて感じなくて良いぞ。其に私だってちゃんと準備はしているから、気にしなくても良い。」
「ノロノロ~だったら安心ノロ。」
準備?一体何をしているんだろう。危ない事じゃないと良いけれど・・・。
「さて、此の話は一旦此処で御終いだ。彼奴絡みの話はそんなにしたくないからな。」
然う言うと彼女は朝餉を再開した。
・・・追求為可きか悩んでいると一つのドアが緩り開いた。
えっと、確か彼の部屋は、
「あ、セレちゃん!皆御早う!えっと、御客さん、かな?」
ドレミが元気良く出て来た。欠混じりにローズも出てくる。
「ノロ!ノロノロノロ!ノロノロさんと呼ぶノロヨ!ノロノロは大妖精ノロ!」
「へぇ妖精さんなんだ!ドレミ初めて見たよ!」
―・・・大人になっても見えるんだね。―
ちらっとドレミはローズを軽く睨み付けた。
ドレミの純粋な反応に、ノロノロも何処か嬉しそうだ。
「然うノロ!珍しいノロヨ!呪いとか呪いとか御得意ノロ!御任せノロヨ。」
「でも如何して妖精さんが店に来てるのかな?何か御仕事とか?」
―御飯一緒に食べている丈に見えるけど。―
「然うだな。ノロノロさんは私と契約をしているんだ。今回はまぁ一寸、御飯に誘ったって所だな。」
「凄いよセレちゃん!妖精さんの知り合いもいるんだね。」
「な、何か負けた気がするノロ。」
羨望の眼差しが今度はセレに注がれた。此処ぞと許りに彼女は胸を張る。
「所でドレミ、何処かに出掛ける所だったのか?」
「うん!一寸仕事行こうかと思って。あ!セレちゃん達も行く?」
「食べ終わったら俺達も行く予定だったし、丁度良いな。」
「噫、悪いけれどドレミ、ローズ、一寸待ってくれるか?」
―問題ないよ。僕も一寸妖精が気になると言うか・・・。―
ローズの好奇心が爆発してか、彼は頻りにノロノロの匂を嗅ぎ始めた。
・・・自分も彼をモフモフし捲りたいが、今は我慢しよう。機を待つのだ。
「ノ、ノロ~何かむずむずするノロ~。は、早く二柱共食べ終わるノロヨ~。」
慣れていないのだろう、ノロノロの急かす声につい微笑し乍ら、セレはクラッカーを口に運ぶのだった。
・・・・・
どんよりと闇に覆われた旻。
所々罅割れた地は灰色で、草木の影すらない。
吹く幽風は何処か生暖かく、巨大な化物の吐息の様だ。
一見時が流れていない様にも見える世界だが、唯一目の前の滄江が流れていた。
水は澄んでいて迚も冷たそうだ。見ていて不思議と穏やかな気持になる。
―・・・何だか、寂しい所だね。―
水面を見遣っていたローズは少し丈足を下げた。
何となく水を飲むのは止めたらしい、嫌な気でも感じたのかも知れない。
「う~・・・何か此の感じ、前もあった様な・・・。」
「ん、こんな次元来た事があるのか?」
寒気を覚えたのかローブを着込むドレミとは対照的にセレは涼しそうだ。
此処は陽が無いので腐る心配をしなくて済むのだ、其が有難い。
「えっとあの・・・死者の国って言うか、そんな所で。」
「じ、地獄って事か・・・?」
セレ、ガルダ、ドレミ、ローズの四柱が着いたのはそんな殺風景な次元だった。
確かに他に誰かが居る気配もない、地獄と言われて納得はしそうだ。
でも滄江の一方から次元の主導者の気配がしている、其処に何かあるかも知れない。
―其にしても変な滄江だね。下から上がって来てると言うか。―
飲まないにしてもちらちらと滄江を見遣っていたローズが鼻を向ける。
確かに次元の主導者を感じるのは緩やかな坂になっている川滄江の下流の方からだ。
でも水は其の下流から上流に向けて流れている。自分の知っている物理法則と大分違う様だ。
「逆向きの滄江か。一体如何なっているんだろうな。」
見れば見る程不思議だ。常識が邪魔をして、変な気分になる。
「兎に角次元の主導者目指してみるか?セレ、他に何も見えないんだろ?」
不思議と陽が無いのに暗闇に包まれている訳ではない。
足元だとか、皆の顔は見える、其処迄不便ではないけれど、彼女の目に頼らせて貰おう。
「然うだな・・・特に目ぼしい物も無いし、対岸も誰も居ないな。此の儘次元の主導者の所迄下るのが良いだろう。」
「対岸があるんだね。」
「ん、噫然うか。可也離れているがな。20m、位か。」
「へぇ、随分な滄江だな。でも、水も綺麗だけど、一寸不気味なんだよな・・・。」
物理法則に逆らっているのもあるけれど、何か其以上に嫌な、不吉な予感がする。
―何も無いなら、早く先に行こうよ。―
然う言い駆け出したローズに続いて一同も足を出す。
只生温い幽風丈が、後に残されるのだった。
・・・・・
彼から半刻程歩いたが、一向に景色は変わらない。
頓滄江に沿って歩いている訳だが、何も目ぼしい物は見えて来なかった。
「うーん、今回の次元の主導者さんって結構遠いいんだね。」
―でも滄江は何だか急になって来てるよ。もう少しなんじゃないかな。―
「だな。川幅も少しずつだが狭くなっているし。」
「お、然うなのか?何だろうな、瀧とかがあって其が次元の主導者だったりしてな。」
「あそっか。別に人って限らないんだよね。でも水はずっと逆流してるし、瀧も逆なんじゃないかな。」
―逆流してる瀧って一寸面白そうだね。―
考えてみると俄然興味が出て来た、自然ローズの足が少し早くなる。
「・・・ん、なぁセレ、先からずっと滄江見てる気がするけど、何かあったか?」
先から余り話に入って来ないし、少し緊張している気もする。
ちらと自分も滄江を見てみたけれど、変わらず魚一匹居ない様だった。
「流石ガルダだな、気にしない様にはしていたんだが。」
苦笑して彼女はガルダの顔を見遣った。
まぁ、付き合いも長いし、此位はな。
「実は対岸に沢山人が居るんだ。だからつい気になって。」
「教えて⁉何でそんな大事な事黙ってたの⁉」
つい足を止めてしまった。其、気になる所じゃない重要事項だよ!
「え?人一杯居るの?じゃあ話した方が良いんじゃないかな?」
今一度対岸を見遣るけれども、流石に未だ見えない。
でも沢山人が居るって、街か何かあるのだろうか。
―人が居る、にしては静かだけどね。―
「噫、何だか皆俯いて歩いているし、自分達に気付いているのか少しずつ集まっている気もするんだ。其でも一言も話さないから少し気味悪くてな。」
「いや確かに其は気持悪いけど、一応其でも俺達にきちっと話してくれな。」
「無暗に恐がらせまいとする努力だったんだが、無用だったかな。」
悪戯をしたかの様に彼女はケラケラ笑っている、斯う言う所は質が悪いな。
「そ、そんなのが一杯付いて来てるの・・・?うぅ、じゃあ矢っ張り此処って。」
「死者の国だろうな。屹度皆魂とか肉体が欲しくて付いて来ているんだろう。ドレミも盗られない様気を付けないとな。」
「や、矢っ張り⁉又ドレミ恐い次元に来ちゃったの⁉」
「御前が恐がらせて如何するんだよ。」
セレは結構犬歯も鋭いし、舌が蛇みたいなので、凄まれると雰囲気もあって中々様になって来る。
完全にドレミは怯え切ってしまってローズの尾を掴んでいた。
「死者って断定も出来ないし、一応どんな人なんだ?」
「ふぅ、ガルダ、其だと面白みがないぞ。然うだな、正に一般人って所だ。ラフな服、でも皆ボロボロのを着ているな。齢も子供から年寄り迄バラバラだ。」
「其が集団で何も言わずに付いて来てるのか?」
想像したら普通に恐かった。・・・知らなくても良かったかも知れない。
「だな。まぁ死者と決め付けずに一応声を掛けてみるか。親切に道を教えてくれるかも知れないしな。」
―道・・・ね、絶対良くない道だと思うけど。―
「っおーい!誰か居るのかー!」
一呼吸置いて声を張り上げてみる。
まぁ敵だとしても此の距離なら何もして来ないだろう。自分しか見えていないのは問題だが。
「ど、如何なのセレちゃん・・・。」
「完全に無視されているな。残念だ、神様には興味が無いらしい。」
「よ、良かった・・・。じゃあ只歩いてる丈なんだね。」
「噫、でも皆同じ方向へ向かっているな。私達と目的地が一緒かも知れないな。」
「もうセレちゃん!そんな事言わないでよ!」
流石に怒られてしまった。別に全てが全て冗談って訳でもなかったんだがな。
―ん、待って此方の先にも何か居るよね?―
ローズが鼻をひくつかせて少し駆け出した。
流石だ、波紋が無くても匂で分かるんだな。
「おっと、彼は・・・近付いても大丈夫な奴なのか?」
ローズが向かった先、滄江の下流には丸太の様な物が横たわっていた。
もぞもぞと動いている其は生物の様だ。
―僕の仲間っぽいね。今は寝てるのかな。―
行く手を阻む其は全長20m程の巨体の龍だった。
黔と紫紺の細長い胴体、節榑立った手には鋭く長い鉤爪が備わっている。
蝙蝠と鴉のを併せた様な翼を大っぴらに広げ、尾の先は揺らめき、曦の粒の様な物を散らしていた。
面も細長く、長い髭が棚引いている。良く眠っている様だが・・・。
「可也邪魔だな。大きく迂回するか。」
「起こさない様にしないとね。何だか此の子、一寸勁そうだよ。」
「此奴の縄張りだったら襲われるかも知れないしな、慎重に行こうぜ。」
もう一応接触扱いになるだろうし、態と起こす事も無いだろうと緩りドレミ達は進路を変えた。
「・・・別にそんな危険な龍じゃない筈だが。」
「あ、然うなのか。じゃあセレ、此奴って何て名前なんだ?」
「名前は堕龍だな。」
特徴も一致する筈、間違いないだろう。
「いや堕天は勁いだろ。ほらフォードとか堕天使だったし、見た感じ、闇の龍っぽいしさ。」
「確かに闇属性だが堕天の方ではなくてだな。」
言い掛けた所で突如突風が吹き抜けた。
上から叩き付ける様な凱風だ、飛ばされない様急いで身を屈める。
「も、若しかして起こしちゃった⁉」
「いや違う、此は上からだ。」
見上げると巨大な影が緩りと上旻から迫って来るのが見えた。
彼は・・・一寸厄介なのが来たかも知れないな。
「此は又・・・随分な大物だな。」
じりじりと一同が後退する。
堕龍とセレ達の間に其の巨体は降り立った。
―んあ、おぉ珍しいな!神様の御登場とはよ。―
凄む様な地を震わせるテレパシーに竦みそうになる。
やって来たのは一頭の巨大な龍だった。
全長30m程で、一見空飛ぶ戦艦みたいだ。
全身金属と樹を併せた様な変わった甲に覆われており、額から長く二本の角が縦に生えている。
首からはまるで髪か旗の様に黔と蒼の毛が棚引いている。
並ぶ歯は鋭くギザギザで、絳黔い瞳と相俟って残忍な形相を示す。
一見前足丈生えた蜥蜴の様とでも言おうか、前足には鋭く長い爪が備わっており、僅かに地を擦った。
背には小さな火山の様に複雑に絡まって甲が並び、黔い焔の様な物を噴き出していた。
其の巨大な龍は一同を見遣り、ガバッと口を開いた。
―歓迎するぞ、こんな地獄の底迄一体何の用か知らんがな、ガハハッ。―
「じ、地獄⁉今地獄って言ったよ!」
「然うらしいな。御前は一体こんな所で何をしているんだ?」
―ん、何だ俺のやる事に興味でもあるのか?ほら、向こうを見てみろよ。―
前足で龍は対岸の方を示した。
俯き行き交う人々を指して。
―彼はみーんな死者なんだぜ?何でも滄江を渡りたくて集まってるらしい。飛べないなんて人間は本当不便な生き物だよな。―
何がおかしいのか大きな笑い声を立てて龍は続けた。
―でもよ、如何やら滄江の此方側、ずっと進むと生者の国があるんだとさ。皆生き返りてぇ訳だ。じゃあ一寸乗せてやっても良いかと思ったんだが。―
「・・・未だ誰も乗せてないのか?」
―おぉよ、人間なんか乗せたくもねぇし。ま、何か面白い物とか、金目の物持ってたら乗せてやろうかと思ったが誰も持っちゃいねぇ。つまんねぇなと思ったら、誰か来たから態々俺から来てやったって訳だ。―
「金目の物って、結構物欲のある奴だな・・・。多分龍族、だよな?」
ちらとガルダが此方を見遣る。
「噫、シャル・ドゥ・ナヴィンと言う龍族だ。闇と飛属性だったな。」
「何だか一寸難しい名前だね。でもじゃあ死者を甦らそうとしてるのかな?・・・良い子なのかも。」
「良い子か如何かは何ともだな。」
別に蘇生が良い事とは思えない。結局能力は使い方次第で良くも悪くも化けるのだから。
其に此奴の力はそんな物でもないし、此は只の余興みたいな物なのだろう。
―へぇ、俺の事知ってる奴が居るのか。良いぜ、其ならナヴィンって呼ぶ事を許可してやる。―
「然うか、ナヴィン初めましてだな。私は次元龍屋のセレだ。」
ナヴィンはセレの方に近付くと何度か匂を嗅いでいる様だった。
揺らめいていた尾から焔が勢い良く噴き出る。
―ホゥ、セレ神って彼のセレ神かよ!会えて嬉しいぜ。まさか其でこんな地獄迄堕ちて来たのか?―
「ん、知って貰えているのは嬉しいな。」
―当然だろ⁉あんなバッサリ世界壊してさぁ!痛快だったぜ!な、な、次は何時すんだよ!其の時は俺も一暴れしたいぜ!―
「あー知ってるって其方の方か。」
まぁ其も然うか。知名度で言えば断トツだろう。
「な、何言ってるの駄目だよ!質が悪いにも程があるよ!」
「流石に然うだな。」
威勢が良いと思ったけれど、何だか意地悪そうな龍だな・・・。
セレの事、好いてくれているのかも知れないけれど、此のタイプの手助けは要らないもんな。
「悪いけれど今の私は暴れる気が無いんだ。其より次元の主導者の所へ行きたいんだが。」
―あ?次元の主導者?噫其奴ぶっ殺しても次元終わるもんなぁ、其の手もあるな。―
「無いぞ。私は壊しに来たんじゃないんだ。」
其の一言を聞いて、其迄何処か嬉し気だったナヴィンの顔色が変わった。
―何つまんねー事言ってんだよ!なぁ俺も此で此の次元からおさらば出来るし、連れてってくれよ。俺と一緒に楽しい事しようぜ!―
「暴れたりしないんなら遊んでやりたいんだがな。」
「ちょ、一寸セレ、余相手しない方が良いんじゃないか?」
何か嫌な空気だ。此奴は恐らく、然う言うタイプの龍なんだ。
―・・・うん、余仲良く出来なさそうだよね。―
―あ゛ぁ゛ーもうつまんねぇな!此処の奴等はしけてるし、セレ神も隠居かよ!しゃーねぇから俺が代わりに其の力奪って暴れてやるよ!―
ぐわっと口を開くと突然ナヴィンはセレに向かって突進を繰り出した。
「っ皆離れろ!」
瞬間的に翼を出し、一気に飛び上がる。
話し合いは無理か・・・何とか通して欲しい丈だったんだが。
「もぅ!行き成り乱暴だよ!」
ローズの背に飛び乗って事無きを得たドレミはポケットから小瓶を取り出した。
「花火!」
静電気が小瓶に走り、ビンが砕けて中身が顕になる。
飛び散った火薬が火花を散らし、瞬いた。
―っぐが!眩しいだろうが畜生!―
激しい轟音を立てて地面に激突したナヴィンは何度も頭を振る。
すっかり視界を花火で絶たれ、吼え声を上げ始めた。
「グルルルル・・・、」
「う、こ、此の声ってまさか、」
逃げるのが少し遅れたので、ガルダの背には幾つか衝撃で飛んで来た岩にぶつかった傷が出来ていた。
でもそんなのに構っている暇はない、此位直ぐ治るんだ。只問題は・・・、
ガルダの目の前で眠っていた堕龍が目を開けた。背が凍える様な真蒼な瞳に射抜かれる。
「起きちまったのか。」
「グルル・・・グオォオォオッ!」
大口を開け、堕龍が一声吼えたので慌ててガルダは大きく下がった。
―お、やっと手前も起きたのか。おい手伝え!此奴等が手前の眠りを邪魔した侵入者だ!―
「もう!勝手な事言わないでよ!」
ナヴィンが乱暴に前足で堕龍の背を突く。
面倒そうに堕龍は起き上がると一同を見遣った。
「二頭相手か。面倒になるな。」
「いや、恐らく大丈夫だ。」
急いでセレは堕龍の前迄駆け寄った。拗れる前に先手を打ちたい。
「堕龍、向こうの方が良く眠れるぞ。此方は当分騒がしくなるから。」
「グルルル・・・。」
堕龍の視線がセレに留まる。暫く其の喉から唸り声が漏れるが、
「グォオ、グォオォ!」
突如翼を広げると、堕龍は飛び立ち、セレが指差した方向へ飛んで行った。
其の先には小高い丘があり、其の頂上へ堕龍は降り立った。
そして其の儘堕龍は其の場で丸くなってしまう・・・如何やら寝てしまった様だ。
―あ、彼奴、何暢気に寝てんだよ!―
「堕龍は自堕落な龍って言うのが名前の由来だ。確かに勁い力を持っているが、余りにも自堕落過ぎて堕天した様な龍だから、大して脅威にはならないと踏んだんだ。」
「成程な、道理でセレは初めから余り動じなかったのか。」
「又起こしても何処かに飛び去る丈だろうし、滅多な事が無いと力は使わないだろう。私達はナヴィン丈に気を付ければ良い。」
―クソッ!何て野郎だ、まぁ良い!精々俺も暴れさせて貰うぜ!―
「・・・なぁセレ、彼奴は一体どんな龍なんだ。偉く短気じゃないか?」
「噫、ナヴィンは次元にも因るが、実は悪魔と同義とされる事の多い龍なんだ。傍若無人で悪事を好む傾向にある。良く仲間内でも揉めるから大抵一頭でいるな。先の話も、死人を生者にしたら混乱が起こって面白そうだとか、其の程度の気持だったんじゃないか?」
「あ、そんな下心があったんだね・・・。」
死者を生き返らせるなんて凄い事してると思ったのに、何だか残念だ。
「でも悪魔って凄いな。そっか、別に良い奴ばっかりじゃあないよな。」
最近セレに友好的な龍族しか見ていなかったから勘違いしそうだけど然うだよな。
皆が皆手助けしてくれるとも限らないし、こんな奴も居るか。
「別に良い奴、悪い奴で判断する事も無いとは思うがな。今回は私達にとって都合が悪いって丈だろう。」
―口じゃあ分からないのは面倒だけどね。―
「まぁ相手して、此方が勁いと分かれば大人しく引いてくれるだろう。」
―何ゴチャゴチャ喋ってんだよぉ!―
ナヴィンがセレに向け、黔いブレスを吐き出した。
「良し、先ずは格の違いを分からせてやる。」
対してセレも良く似た漆黔のブレスを吐き出した。
二つのブレスが正面からぶつかり合い、激しい轟音を立てて爆発する。
一気に砂煙が辺りに飛び散った。
―JM=18X―
其の間ローズが唱えると其の身は黔一色に染め上がり、辺りの闇に溶ける。
背も伸び、目付きも鋭くなって、伸びた鬣が棚引いた。
額と胸元に金属で出来た様な当て物がされ、胴を一巡する様に水色の輪が掛かる。
「モ、モフモフか⁉」
「わーい、久し振りのイケメンロー君だね。」
―イケメンって・・・此、闇の鎧なんだけれど。―
尾をピシリと振って、彼はすっと背を伸ばした。
・・・噫、闇の中浮かぶ極上のモフモフ、触りたいっ!
ついつい意識を持って行かれそうになるが何とか堪える。今はナヴィンに集中しないと。
「ヴォオオォオォオオ‼」
地を揺るがす程の吼え声をナヴィンは上げる。
恐らく、砂埃に因って一同の姿を見失ったのだろう、其の声には怒りが込められていた。
―小癪な手を!ブレス一発丈かよ!―
「世界を壊した神だぞ?卑怯な手の一つ二つ位使うさ。」
背後から声がし、ナヴィンが振り向こうとした所で大きな衝撃が彼の背に走った。
「ッ⁉ガァアアァアア‼」
完全な不意打ちだったらしく、ナヴィンは大きく躯をノの字に反らして地にぶつかる。
思い切りぶつかった為、又大きな地響きが一同を襲う。
―此の、ちょこまかと、―
「ほら余抵抗すると飛べなくなるぞ。」
セレの周りには即席で創った零星が瞬いていた。
其の一つをナヴィンの背へと投じる。
零星は余りに鋭いナイフだ、当たる丈で傷付ける。
先の衝撃も此の零星をぶつけた物だ。たった一つ丈でも威力は十分だな。
只余り強力過ぎると奴の背を貫通し兼ねない、少し鈍らせないと。
二回の激突で奴の背の甲が一部欠け、焔が出なくなっていた。
確か龍古来見聞録にあった筈、奴の飛行能力は背の焔に因る物だ。
中々頑丈そうな甲だが、案外零星で如何にかなりそうだな。
―ぐぅう・・・飛び道具なんて狡いだろ。―
「御前にもブレスがあるだろう。私迄届けばだが。」
予め奴の生態を知っているのはメリットが大きいな。
ナヴィンの主な攻撃は口からのブレスや長過ぎる爪、背の焔位だ。
だから斯うして上を取ってしまえば、奴は手出しなんて出来ない。
「おっと、此はセレの圧勝かな。」
「セレちゃん一寸怒ってるし、全然遠慮もなかったもんね。」
「別に怒ってる訳じゃないけれども、一回しっかりと格の違いを見せてやろうかと思ってな。」
―折角僕此の鎧になったのに、なり損だよ。―
「いや、ローズは其の儘で居てくれ。私に其の新しいモフモフを堪能させてくれ。」
一同の此の危機感のない会話に、ナヴィンは次第に唸り声を大きくして行く。
・・・此以上唸るなら一度黙らせても良いんだが。
―巫山戯やがって!俺を馬鹿にしてそんなに楽しいか!クソ、せめて其の翼一枚咬み千斬ってやる!―
「恐い事言うなぁ。もう少し仲良く出来るかと思ったんだが。」
ナヴィンは只唸り声を返す丈だ。
うーん、幾ら自分が龍に好かれ易い性格や体質?と言っても限度があるか。
ナヴィンとも普通に悪友位の感覚で近付ければと思ったが、難しそうだな。
―そんな上から押さえ付けて置いて良く言うぜ。全く先から、―
―煩いぞ、貴様等。―
何処からか響くテレパシーに思わず背が伸びる。
此の声、誰だ。闇の魔力を孕んでいる様だが。
波紋にも中々写らない・・・否、まさか此の揺らめきは、
「・・・如何やら、未だ終わらないみたいだな。」
息を付く間もなく、急にじんわりと空気が重くなった。
息がし辛い、其に翼も重い。此は明らかに、誰かに何かをされている。
絡み付く様な闇を感じる、実体の無い筈の闇なのに、一体此は何だ。
「っぐぅっ⁉」
慎重に探ろうとした時だった。
闇が突然激しい質量を持って伸し掛かって来たのだ。
翼程度では支え切れない其に呆気無く自分は潰され、其の儘地面へと叩き付けられる。
―ハハッ!何だ飛ぶの下手糞なのかぁ?―
「ち、違う、此は・・・、」
俯せの儘起き上がる事も出来ない。
地面を掻くが、上体は上がらない。ピッタリ地面に縫い付けられてしまっている。
まるで金縛りに遭ってしまったかの様に、一切動けないのだ。
「お、おいセレ!如何した⁉」
「来るな!何かが・・・私の上に居る!」
何とか肺に力を込めて其丈応えた。
然うでもしないと闇に押し潰されそうなのだ。手の支えも限界で、ぺシャリと自分は地面に叩き付けられてしまう。
―っ、本当だ何か居る。皆一寸離れて、―
「何かって・・・あ!彼の事⁉」
ドレミが自分のずっと頭上を指差す。
すると其処から確かに何かが浮かび上がって来た。
闇から突然現れた何かは鳥の頭蓋骨の様だった。
其丈でも5mはあるだろうか、玻璃で出来たかの様に其の頭蓋骨は淡い水色に透き通っている。
そして其を知覚した瞬間、段々と頭、胸、翼、と奴の全体像が浮かび上がって来たのだ。
其奴は巨大な鴉の様だった。翼は六翼もあり、長い尾を優雅に棚引かせている。
30mは優にあるだろうか、そんな巨鳥の蒼く骨張った足の先で、セレは捕らえられていたのだ。
こんな巨体に上から踏まれたのなら、潰れるのも当然だ。只奴の姿が見えていなかった丈なのだ。
でも驚いた、まさか波紋に写らない程に完璧な闇へと変化出来るだなんて。
―おおっと、手前の所為だったのか。ヘッ、良い気味だぜ。―
「ちょ、一寸セレちゃんを返してよ鳥さん!」
―余が煩いと言ったのが聞こえなかったのか小娘。―
「っぐぅ、」
「セ、セレッ、」
巨鳥が足に力を込めたので肺が圧迫されて苦しくなる。
い、息が・・・出来ない。此の儘握り潰す事も辞さないつもりか。
此又厄介なのに絡まれた、争う気なんて一切なかったのに。
此奴は・・・上位の龍、カルデナ=デュライト、闇より出ずる黔鴉、闇が彼であり、彼こそが闇である。
闇其の物に同化する事が出来、様々な次元の闇霄を駆ける翼。
若し霄、声を上げるなら彼に聞かれない様に。
静寂を好む彼は、其を乱す者を赦さない。音が止む迄、息の音すら止まる迄執拗に攻撃を繰り返す。
自分の好きな闇だから、少しでも御近付きになりたい龍だと思っていたが、こんな形で出会うなんてな。
此の儘じゃあ彼の童話の様に頭を啄まれてしまう。
―やっと静かになったか。其で良い、闇に音は不要なのだ。―
―おい!其奴其の儘押さえとけよ。俺の背をこんなにしやがって、喰い千斬ってやるっ!―
ナヴィンが此見よがしに牙を剥き、大口を開けて迫る。
零星は・・・未だある。二頭共一緒に吹き飛ばしてやろうか。
「っぐえ⁉」
隙を探っていると突然ナヴィンは後方へと吹き飛ばされた。
地面が抉られている、可也の突風だった様だ。
―手前!何しやがるっ!―
―図体許りでかい騒音が。貴様も同罪だ。心の音迄止めるが良い。―
予想はしていたが、不味い形になったな。
三つ巴だ、カルデナ=デュライトはナヴィンを敵と見做したのだ。
斯うなったら完全に、暴力のみで治めるしかないか・・・?こんな形にはなりたくなかったが。
「・・・セレを放せ、」
「ヒュウゥウウゥオォオオ!」
突然響く轟音と震動、慌てて波紋を放つとカルデナ=デュライトが大きく上体をぐらつかせていた。
押さえ付けられていた足に隙間が出来る。急ぎ、其処から脱出した。
―未だ、貴様の処罰は終わっていない。―
「っぐぁあっ!」
上体を低くして抜け出した刹那、カルデナ=デュライトが翼を下ろし、其の先へ備わっていた手で自分を握り締めた。
其の儘掴まれて奴は翼を羽搏かせて上昇する。自分を掴んでいる翼丈制止させ、頭蓋の前迄持ち上げられる。
くっ・・・自分丈は絶対逃がさないつもりか。こんな徹底的に狙われたら中々抜け出せない。
加えて奴は力加減を知らないのかしっかりと握られてしまって躯中の骨がミシミシと音を立てる。
翼が、折れそうだ。先から息が満足に出来ない所為で頭が真面に働かない。
手に備わる爪も巨大で鋭いので躯中に斬り傷が少しずつ増えていく。
「だから、セレを放せっつってるだろ!」
「フヒュウゥウウゥウウウウッ!」
続く轟音に激しく揺さ振られる。
旻中で大きく揺らされるので一気に酔いが来て気分が悪くなってしまう。
先から、一体何が起きているんだ。
慎重に波紋を広げ直して皆の様子を見る。
被害を受けているのは自分丈の筈・・・いや、何か違う?
ガルダだ、ガルダの姿が皓銀に輝いているのだ。
八翼の翼に長くうねる尾、手足が獣の様に毛に覆われ、髪も皓髪混じりになる。
ガルダが変化したのか・・・彼の姿、少し久し振りに見たな。
然うか、恐らくガルダがカルデナ=デュライトに何らかの術を放ったのだ。
カルデナ=デュライトは生粋の闇属性、光属性の彼の攻撃は可也手痛い筈。
「セレ、一寸待ってろよ。今直ぐ其奴ぶっ潰してやるからっ!」
「ヒュウゥウウゥウウ‼」
冬の身を斬る凱風の様な音を上げてカルデナ=デュライトは翼を広げる。
う・・・き、気持悪い。そんなガンガン揺らさないで欲しいのだが。
―余に楯突く有象無象共め、皆消し去ってくれる。―
不味い、奴のターゲットが自分から移ってしまったか。
此奴に対抗するのは容易な事じゃあない、早くしないと。
―手伝ウヨ!何シタラ良イ?―
―彼奴ヤッツケチャウ?殺シチャウ?―
突如魔力達の声が頭に流れ込んで来た。近くで見護っていたのが寄って来てくれたんだろう。
―殺しては駄目だが手伝って欲しい事がある。前したみたいにガルダの魔力の真似出来るか?光魔術だ。―
都合が良い、だったら彼等の手も借りよう。
カルデナ=デュライトは闇に変化する龍、闇になった彼を捕らえる事は不可能だ。
でも魔力の力があれば、大方の動きは分かる筈。
―光、光ニ成レバ良インダネ?―
―噫、可能な限り大きく広がって欲しいんだ。私の波紋でもしっかり写る様に。―
―分カッタ!一寸待ッテテネ!―
声が遠ざかり、代わりに波紋に変化が訪れる。
魔力の形が変わった。周りに魔力達が集まってくれているのだ。
良し、自分もそろそろ動くぞ、何時迄も捕まった儘じゃあいられない。
―クソッよくもやりやがったなぁ!―
飛ばされて様子を見ていたシャル・ドゥ・ナヴィンが牙を剥いて襲い掛かって来た。
近付く龍が皆手助けしてくれないので嫌気でも差したのだろう。
カルデナ=デュライトは躯の半分を闇に溶かす事で、衝突を免れた。
でも自分を掴む手迄は消えてくれない。だったら自分も動く迄だ。
低浮上していた零星達を一気に自分の元迄引き寄せる。
其の儘自分目掛けて突っ込んで貰う。鋭い鋒がカルデナ=デュライトの手を刺し、斬り付けた。
「フィイイィイイィイイイオォオオ‼」
闇の中から声丈が響く。彼からの追撃が来る前に零星を纏って地に降りた。
「セレ!大丈夫か!」
「ゲホッ、ガルダ・・・危ないから少し離れてくれ。」
やっと息が出来るので深呼吸を数回して置く。
喉が焼ける様に痛いし、躯が軋む様だけれど、無事な内だろう。
「だから然うも言ってられないって。其に無理するな、顔色悪いぞ。」
そっと彼が肩に手を置き、叩いてくれた。
其丈で、幾分気持が落ち着くのだから不思議だ。
「セレちゃん大丈夫?怪我はない?」
「噫、何とか。ケホッ・・・只、困ったな、嫌な奴に目を付けられた。」
「行き成りやる気満々だったもんな。セレの友達にはなってくれそうもないのか?」
「友達って・・・其は厳しいな。如何やら私がブレスやら何やら飛ばして暴れたのが気に喰わないらしい。」
心配そうに近寄って来たローズの頭をそっと撫でる。
あ・・・良い!此の手触り、何時ものと違ってサラサラして、でもしっかりと包み込んでくれる。何て甲乙付け難いモフモフだ!
しれっと闇の鎧のローズをモフモフさせて貰うと言うタスクを熟せてセレは御満悦の様だった。
―彼って僕と同族だよね?どんな龍なの?―
「ん、名はカルデナ=デュライトと言ってな、闇に成れる上位の龍だ。只煩いのが嫌いで、一度敵と認めると可也しつこく狙われてしまうんだ。」
「成程、其で先二頭が互いに戦ってたんだね。」
「闇に成れるのか、だったら俺の光が効きそうだな。」
「効く、だろうが難しいな。闇に成って暴れられると厄介だ。だから出来る丈離れたいんだが。」
皆自分の所へ来てしまったな・・・離れてって言っても全然聞いてくれないし。
―じゃあ僕も光の鎧になった方が良いかな?流石に二頭を此の儘にはしないんでしょ?―
「まぁ逃げた所で、今度は次元の主導者を巻き込み兼ねないからな。出来れば此処で決着を着けたいが・・・然うだな、ローズは其の闇の鎧の儘で居てくれ。一応手はある。」
―・・・まさかモフモフ要因じゃあないよね?―
「其もあるが、もっと大事な役目だ。私としては奴をもう、闇に化けさせない様にする必要があると思うんだ。」
「あ、モフモフも要るんだね。」
ドレミが苦笑しているが黙殺した。モフモフは何時だって必要だぞ。
丁度今カルデナ=デュライトの注意はナヴィンへ向いている様だ。
ナヴィンが何も無い闇に向け咬み付いたりして暴れている。今の内に作戦とかを立てて置きたいな。
「幾つかパターンは考えているが、何が具体的に奴に有効なのか分かっていない。だから其々の方法で攻めたいと思っているんだが。」
「そっか。良しセレ、其の作戦に乗るぜ。俺は何をしたら良いんだ?」
全員に手短に指示を出す。此は自分一柱じゃあ絶対出来ない方法だ。手を合わせるしかない。
―っやりやがったな!見えねぇなんて、狡いぞ!―
「っわわ!急に降って来たよ!」
ナヴィンが一同の目の前で地面に突っ伏す。
カルデナ=デュライトに良い様にされた様だな。闇に紛れる彼に手も足も出ないだろう。
「グルルル・・・ガァアアァア‼」
セレ達が目に付いた途端、ナヴィンは此方に向けて牙を剥いた。
自分達ならやれると思ったのだろうか、もう自棄だな。
ナヴィンが飛び掛かって来た所で一同は散り散りになった。奇しくも此が作戦開始の合図となった。
「光暁!」
翼をはためかせ、一気にガルダは上昇すると旻に向かって吼えた。
そんな彼を中心に眩い曦が闇を一気に晴らして広がって行く。
そっとオーバーコートのフードを目深に被った。
うっかり照らされるとあっさり焼け死んでしまう、光源の無い不思議な曦だから何処から発しているのか判別し難いのだ。
感覚だと空間其の物が曦を放っている様に取れる。
先魔力達にガルダの魔力を真似て欲しいと頼んだからだろう、想像以上に曦は広がり何処もかしこも明るくなる。
―其じゃあ行くよ!―
ローズの胸元の輝石が輝き、今度は彼の全身から闇が放たれた。
其が曦を駆ける黔龍の様に、皓のキャンパスに打ちまけられて行く。
「ほら私は此方だぞ!」
首尾は上々か。後は奴等の注意を此方に引いて置かないと。
ナヴィンは未だしもカルデナ=デュライトが不味い、気付かれたら邪魔されそうだ。
―クソッ、咬み殺してやる!―
予想通りあっさりナヴィンは挑発に乗って、自分へ向けて突進して来た。
只、奴の猛攻を避け続ける丈の余力が今の自分には無い、先迄のカルデナ=デュライトの攻撃の所為で翼が上手く動かないのだ。
此、折れていないにしても、骨に罅位は入ってそうだな・・・飛ばずに滑空するのが精一杯かも知れない。
尾を奴の目の前で振って注意を引く。何とかナヴィンは其の先に咬み付こうと自分を追って来た。
「っぐぅ、」
何度か上体が押し潰されそうな圧迫感に襲われる、恐らくカルデナ=デュライトも自分を狙っているのだ。
龍族に好かれ易い体質かも、とリュウだとかは言っていたが、此の様子だと悪意を集めるのも得意なんじゃないだろうか。
何と言うか執着されている気分、固執されて狙われ続けている気がする。
でもまぁ今日に限り、囮として動けるのは都合が良い。然うやって分かり易く動いてくれると此方も助かる。
と言っても矢張り自力で逃げ切るのは今の所難しいな。今の所魔力達の御蔭で、実はカルデナ=デュライトの位置が多少は分かる。
闇に化ける彼だ。光の魔力に近付いた彼等と明らかに異なる魔力が流れるのだ。此で波紋に奴の姿が写し出される。
「ガァアアァア‼」
距離が縮まって来た所でナヴィンが大きく顎門を開いて迫って来た。
奴の吐息が背中を撫でて行く。
「独楽回し!」
既の所で自分とナヴィンの間に静電気の縷が張り巡らされた。
其の上をビー玉が埋め込まれた金属製の円盤が流れて行く。円盤は小さな雷を纏った龍巻の様に、火花を散らして回り始めた。
「ッ⁉ガァアア!」
突然の強い曦に思わずナヴィンは大きく躯を仰け反らした。
そんな彼に向け、静電気の縷は伸びてグルグルに巻き付けて行く。
―イテッ!イテェ!何しやがる此の!―
躯の彼方此方から電気が走り、ナヴィンは縷を咬み斬ろうとして口を開いた。
だが縷其の物が電気の為、口に含んだ瞬間衝撃が走る。
「ちょっ、大人しくして!動かなかったら痛くないから!」
「グルルルル・・・、」
ドレミに牙を剥いて唸るが彼女は怯む様子はなかった。
「ほら暴れちゃ駄目!ドレミ達はナヴィン君達を助ける為に来たんだよ!」
―助ける、だと?―
暴れるのを止めて訝し気にナヴィンはドレミを見遣った。
此で彼奴は大丈夫か?
「ガァアアァアアア‼」
だが突然ナヴィンは吼え声を上げてのた打ち回った。
躯が縷に触れて熱を放つ、だが奴は意に介していない様だった。
「一寸ナヴィン君!危ないよ!」
「ドレミ、違う、奴の所為だ!」
急いで羽搏き、ナヴィンの頭上へ行く。
波紋を密にして見遣ると、ナヴィンの尾にカルデナ=デュライトが咬み付いていたのだ。
頭の部分丈実体化させているのか、だったら、
零星を投じ、奴の頭蓋骨を幾らか削ってやる。
「フィィイイィイイォオォオ!」
するとあっさりカルデナ=デュライトはナヴィンを放した。動きが止まったから襲った丈なのだろう。
闇が周りに散らばる、カルデナ=デュライトの全身が闇に溶けたのだ。
後は奴丈か、必要以上に傷付けたくないので諦めて欲しいのだが。
大きく飛び退いて、セレはガルダの傍に並んだ。
此処なら彼の光で近付けまい。
「おっと、セ、セレ、気を付けてくれよ、俺の光に当たっちゃったら、」
「ん、噫其位。ほら、しっかりフードを被っているから大丈夫だ。」
ちらと彼の方を見遣った。
大丈夫、そんなへまはしない。そんな事で傷付けたくはないから。
ガルダを中心に光はどんどん広がって行く。
此丈闇が晴れてしまえば奴が溶け込む余地がない。
あるとすれば一ヶ所丈、そして場所さえ絞れれば、
闇を纏うローズの頭上で影が躍る。
其が少しずつ、翼や尾を形成して行くのが見て取れた。
「・・・良し、彼処だ。」
一点の闇に向け、零星を投じる。
囲む様に散らすと、宛ら星空の様だ。
「ッフィィイイィイイ‼」
数瞬後、闇からカルデナ=デュライトの足が顕現した。其がローズを踏み潰さんと迫って来る。
其の足に向けて零星を一気にぶつけて行った。
撒菱を踏んだかの様に、カルデナ=デュライトの足に無数の斬り傷が付き、蒼い血が流れ出す。
痛みに思わずカルデナ=デュライトの姿は又闇に溶けた。
「カルデナ=デュライト、此処迄だ。御前はもう私達に近付けないし、又姿を現したら先と同じのを其処に投じる丈だ。だから此以上争うのを止めないか?」
―・・・・・。―
闇は蟠る丈で答えない。窺う様な気配は感じるが。
「騒がせてしまったのは謝る。もう私達も戦ったりしない、此処を直ぐ離れるから。・・・如何だ?」
―・・・其は真だな。―
「噫、私達は仕事で此の次元に来た丈だ。先に進みたい丈だから、通してくれないか。」
―・・・分かった。騒がないと言うのなら余も譲歩してやろう。―
・・・良かった、何とか話は通じた様だ。
此で急な掌返しはしないだろう。然う言った騙す様な行為を嫌う龍だからな。
―皆有難う、無事終わったみたいだ。―
―ア、然ウナンダ、良カッタネ。―
零星を解くと同時に魔力達も開放する。
セレが術を解いたのに倣い、ガルダも元の姿に戻って行った。
又、闇丈が此の地を支配するのだ。
―オイ、俺も早く解放してくれよ。―
ナヴィンが恨めしそうに静電気の檻を睨んだ。
―・・・貴様の事は未だ赦してないぞ。―
―はぁ⁉何でだよ。俺何もしてねぇだろうが!―
―元はと言えば貴様が騒いだ所為だ。違うか?―
―ぐ、ぐぅうう・・・、―
歯に物が挟まったかの様に唸るナヴィン、カルデナ=デュライトに敵わないと、頭では分かっているのだろう。
「ほら!ちゃんと御免なさいしなさい!じゃないとドレミも放してあげないよ。」
―っああもう!謝りゃ良いんだろ!悪かったって暴れてよう!―
外方を向き乍らでもナヴィンは振り絞る様な声で謝った。
ドレミの静電気が同時に切れ、ナヴィンは自由になった。
―フウゥ、偉い目に遭ったぜ。―
「其は御前が行き成り襲って来たのが悪いんだからな。」
―だあってぇ!っ・・・、折角セレ神に会えたならスカーッてする位暴れられると思ったのに・・・。―
ちらちらとカルデナ=デュライトを見遣りながらナヴィンは声を落とす。
・・・テレパシーなら問題ないと思うが、良いか。
「まぁ悪いが大人しくしてくれ。カルデナ=デュライトも、此で次元移動出来るだろう、私達は此の次元の次元の主導者に会わないといけないからもう少しやる事があるが。」
―成程、次元を正す活動か。なら良い。余は此の闇を好んでいるが、其が無くなるのは本望ではない。言われた通り次元も渡れるし、暫し此の地を離れてやろう。―
何とか、和解は出来そうだ。彼に理解があって良かった。
―此で一応大丈夫かな?―
「噫、私達は先に・・・っはぁああぁあ!」
するりとセレの腕にローズが顔を押し付けたのでセレの理性が飛ぶ。
こ、此が!闇のモフモフ!確かに此の手触りは闇市に出されてしまう!
カルデナ=デュライトから殺気を感じるが、気にしている暇はない。セレはそっとローズに抱き付いた。
「そ、然うだガルダ、ほら向こうを見てくれないか?」
「んん?・・・あー成程な。」
セレが指差した所を見遣ると、堕龍が遠くで眠っていた。
あんな騒ぎがあったと言うのに、すっかり寝入っていた様だ。
腹を上にして寝る様は何とも幸せそうである。
「・・・確かに彼じゃあ恐くないな。」
「然う言う事だ。あ、後ナヴィン、」
モフモフに全意識が持って行かれそうになるが、何とか堪えた。
まさか未だ用があるとは思っていなかったらしいナヴィンは僅かに首を傾げる。
未だ話すのかと察したカルデナ=デュライトは人知れず闇に溶けて去ってしまった。
「此の次元の死者と会っていたんだよな。何か変わった事とかあったか?出来れば教えて欲しいんだが。」
―あーんー・・・皆滄江が邪魔だって言ってた位だな。流れる水は清いから死者には渡れないってさ。―
「然うか。良し、分かった。情報をどうも有難うな。」
―・・・別に大した事じゃねーけど。ケッ、次はもっと面白い事させろよ!今回は負けたから引いてやるけどさ。―
ナヴィンは両手の長い爪を上げると一つ吼えた。
其の儘尾を振ると其の姿は霞み、消えて行った。
「ふぅ、やっと終わったって所かな?」
「中々、激しいのに絡まれたな。」
「セレが居るから皆穏便に、とは流石にならなかったな。」
「別に危害を加えられたら向こうも怒るだろうよ。私が如何かは余り関係がないだろう。でも、如何にかなって良かった。皆の御蔭だな。」
一柱だってあんなシチュエーションは作れなかった、皆が上手く囮になったりして連れ出せたな。
相手も相手だったので只黙らせる訳にも行かなかったし、大した被害も無く終わったのは良い事だろう。
―エ、モウ終ワッタノ?―
―噫、御前達も手伝って貰って有難な。―
今回は多くの魔力達が来てくれたいたみたいだ。
続々集まって来ているな、全部知覚出来ているか怪しいぞ・・・。
―アンナ大キイノ、アッサリ倒シチャッタ、凄イ!―
―私達丈デモ出来ル様ニナル?―
―ナルカモナルカモ。―
―なるかも知れないが、出来ればやらないで貰えると助かるな。―
急に空間から攻撃されたら面食らってしまうだろう。
と言うより魔力が操れなくなるのは可也の恐怖だと思う。
・・・矢っ張り彼等が意識を獲得したのって、可也リスキーな事なのかな、今更だけれど。
「うん!皆の御蔭だね!」
しれっとローズが元の姿に戻り、其の背にドレミが跨った。
う、羨ましい・・・。
「まぁ滄江に被害も無かったみたいだし、此の儘目指すか。」
急な邪魔が入ったが、次元の主導者は未だ先の筈だ。
滄江の流れは逆方向に、未だ辿らないと駄目そうだな。
―・・・今更だけれど、水自体は凄く澄んでるんだよね。矢っ張り飲んじゃ駄目なのかな。―
戦って一息付きたいのかボーっとローズが滄江の水を眺めていた。
「冥府の物を食べると帰れなくなると聞いた事があるぞ。其の好奇心は一寸心配だな。」
「ロー君好きな物とか気になる事はとことん調べちゃうから・・・ほら、飲んだら駄目だって。」
―うーん、三途の川の水飲んだって言ったら箔が付きそうなんだけどね。―
箔・・・?付くのだろうか。今一分からないけれど。
―ん・・・?あ、ねぇでも魚が居るみたいだよ。―
「え、魚って・・・死んだ魚って事?」
「確かに先から時々何か跳ねていたな、そっか魚だったのか。」
そっとガルダも滄江に近付くと、小さな何かが水面を叩いた。
「其・・・本当に魚か?」
波紋でちゃんと見ていなかったな。でも一寸信じ難い。
三途の川を泳ぐ魚って何なんだ?
―・・・ヲ、・・・アゲル。―
ん、此は・・・、
何処かで聞いた声に思わず耳が動く。
「此は龍、ナキリュウだ。」
「へぇ!此のちっちゃいのも龍ちゃんなんだ。」
ナキリュウ達はドレミ達の事等気にせず滄江を自由に泳いでいた。
確か彼等は皓の女王の次元で会ったか、何だか懐かしいな。
彼の時に会った個体と同じかは定かじゃあないが、如何してこんな所に。
「一応余り触れない方が良いぞ。其の龍は悲しみを食べてしまうからな。」
「え?其って如何言う事なの?」
―君ノ代ワリニ涕イテアゲル。―
―君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。―
―う、うわ、何だか近付いて来たよドレミ!―
慌ててローズは二、三歩下がった。
彼等もドレミ達の存在に気付いた様だ。
―君ノ代ワリニ詠ッテアゲル。―
「お、おー随分大きいのも居るんだな。」
「噫、彼方はナゲキリュウだ。性質は似ているが別種だな。」
「へぇ・・・先みたいな悪い奴じゃあないんだよな?」
「まぁ触れなければ問題ないな。悲しい記憶を食べて減らしてくれる龍なんだ。」
滄江の中腹からガバッとナゲキリュウ達が顔を出した。
四頭程頸を伸ばしてドレミ達を見遣っている。
「悲しい記憶かぁ。うーん、でも無くしたくないから食べられると一寸困っちゃうかもね。」
―うん僕も。少し離れて置こうか。―
ドレミ達が滄江から離れると彼等は深追いしなかった。
そして静かに声を合わせて詠い始める。
―君ノ悲シミ、其ハ此ノ滄江ノ様ニ果テシナイ。―
―逢イタイ人ガ居タンデス、デモ何処ニモ居ナイノデス。―
―死ハ終ワリダト思ッタノニ、未ダ続クナンテ。―
―彼ノ人ガ居ナイナラ、モウ何モ意味ハナイノニ。―
―噫デモ僕達ハ此ノ滄江ヲ飲ミ干ス事モ出来ナイ。―
―彼ノ人ニナッテアゲル事モ出来ナイ。―
―ダカラ僕達ハ此処ニ居ル・・・。―
滔々と詠っていた彼等は急に口を噤むと滄江の中へと沈んで行った。
「今のって・・・一体何なの?」
「噫、恐らく彼等はもう誰かに憑いているんだろう。其の誰かの悲しみをああやって詠って和らげようとしているんだ。」
「ふーん、優しい子達なんだね。」
「だな。地獄なんだし、彼等を必要としている者は多いだろうな。」
「じゃ、俺達は俺達を必要としている奴の所迄行かないとな。」
一つ頷くとセレは足を滄江から離したのだった。
・・・・・
「・・・本当に此処って地獄、なんだね。」
ドレミがこそっとセレに耳打ちをする。
と言うのも、もう既に滄江は可也狭くなり、対岸の様子が良く見える様になって来たのだ。
相変わらず此方側には何も無いが、対岸ではぞろぞろと人らしき者が歩いている。
荒屋みたいな我楽多が多数積み重ねられ、其の間を縫う様にして死人が歩いているのだ。
―斯うして見ると確かに生きてるって感じがしないね。―
「噫、空っぽみたいだよな。」
別に此方を気にしている風ではないが、あんなうろうろされると気になってしまう。
「でももう直ぐ滄江の始まりだ。次元の主導者も近いな。」
実の所波紋でもう見えているんだが・・・中々特異な状態だ。実際皆に見て貰ってからにしよう。
「然うなんだ?何だか先より冥くなってる気がしたから・・・じゃあ瀧が次元の主導者だったりして。」
―其だと僕達何して良いか分かんないよ。―
うーん、当たらずとも遠からずだから何とも言えないな。
「お、一気に川幅が狭くなったぞ。・・・え、」
見る間に滄江は細くなり、唐突に途絶えた。
そして其の終点には、一人の正女が座って居たのだ。
正女は一見、周りの死者達とそんなに変わらない様だった。
銀色のぼさぼさの長髪に、服もボロボロで、布切れ同然だ。
足は跣ですっかり土で汚れてしまっており、如何にもみすぼらしい。
そして其の面は・・・窺い知る事は出来ない。彼女は俯いて両手で顔を覆い、涕き続けていたのだ。
流れた涙は地を濡らし、もう随分長い事然うしているのだろう、地に十分染み込んだ其は一筋の滄江を創っていたのだ。
「ま、まさか滄江って、此の御姉さんの涙なの⁉」
「有り得ないって言いたいけれど、然うとしか見えないな・・・。」
「ふむ、矢っ張り皆にも然う写るか。私の見間違いではないんだな。」
一体どんな理屈か分からないが、彼女の涙は坂を上り、水量を増して流れて行っている様だ。
まぁ此処は他次元で、然も地獄だ。自分達の知る常識は通じないだろうが。
其でも、見れば見る程不思議な光景だな。
直ぐ傍で自分達が声を上げたのに、正女は気付いていない様で変わらず涕き続けていた。
さて如何した物か、彼女が次元の主導者だと分かったが。
・・・何と言うか触れると呪われそうなんだよな。女の死霊って何だか一寸恐いじゃないか。
呪いは魔術とは別系統だろうし、対処法が分からないってのは結構恐い。
ちらと一同が互いに視線を合わせた。
・・・まぁ恐いと思ってもやるしかないよな、うん。
そっとセレが彼女の肩へ手を伸ばすとやんわりとガルダが其を制した。
首を傾げる彼女の前で、そっと彼は正女の肩に手を置く。
「な、なぁこんな所で如何したんだ?」
「っ⁉え、あ、貴方は、」
途端弾かれた様に彼女は顔を上げ、驚いてガルダに振り返った。
其の面立ちは整っていたが、ずっと涕いていた所為だろう、目元がすっかり腫れてしまっている。
瞳は絳く、吸い込まれそうな程綺麗で、つい見入ってしまう。
此の様子だと・・・敵意とかはなさそうだな。
「えっと、俺はガルダって言うんだ。その、此処にいる皆で歩いて回っていたんだけど・・・、」
旅って言うのもなぁ、此処地獄だし、良く考えたら俺達の集まりって不審者以外何物でもないよな。
年齢も種もバラバラ、明らかに他の死者と様子が違うし・・・怪しまれるかも。
とは言っても、目の前の正女も又、少し変わっている気がした。
次元の主導者だからなのだろうか、何て言うか自我がしっかりしているって感じだ。
一応他の死者は周りに居ないし、話すなら今かな。
「ガルダさんと言うんですね。あの、私はラフローレン、と申します。」
然う言い乍らも彼女は涙を流し続けていた。彼女は其を拭おうともしない。
「ど、如何してそんな涕いているのかな、何かあったなら話を聞くよ?」
しゃがんだドレミがローブの裾で彼女の目元を拭った。其でも直ぐ次の涙が溢れて来る。
こんなに涕いては直ぐ乾涸びてしまいそうだ、元より此の滄江は彼女の涙に因る物らしいが。
「あ、有難う御座います。でも良いんです。私、もう何年も涕き続けているので、今更止め方が分からないのです。」
「な、なな、何年も⁉そ、そんな、其こそ心配だよラフちゃん、あ、ドレミって言うの。」
其処から軽く一同は自己紹介をした。
彼女は怯えたり怪しんだりせず、只聞いていた。
まぁ自分達の登場なんかより、涕いている原因の方が重く、大切なのだろう。
・・・地獄に居る涕いている女性か。余り理由も話したくないだろうし、外堀から埋めた方が良いだろうか。
「私達は此の滄江を下って来たんだが、御前が此を創っていたのか?」
「滄江・・・?私は何も、していませんわ。只此処に居る丈です。」
自覚なし、か。此の滄江の御蔭か所為か、死者は此方側には来れないんだがな。
一体此の次元の主導者に何をしてやれば良いのだろうか。
「あの、皆さんは如何して此処へ?私なんかに声を掛けたのです?」
ラフローレンは少し小首を傾げて一同を見遣った。
「うーんと、其は・・・、」
困った様にちらちらとドレミが自分を見遣る。
確かに難しいな、地獄って事は何か生前に悪い事をして堕とされたのだろうが。
今一此の次元の事も知らないので悪とかの基準も分からない。
自分は生前も生後も悪事しかしていないので此処に居て当然だが、地獄に堕ちた様な奴が元気に散歩していたら怪しいよな。
うーん、地獄に居ても怪しまれないとしたら・・・。
突然セレの背から八翼の翼が放たれた。
自由に伸ばされた其は闇の中でもはっきりと黔く映る。
「え、ちょっセ、セレ⁉」
慌てるガルダをやんわり制してセレは一歩ラフローレンに近付いた。
彼女も又、自分の翼を見てあんぐり口を開けてしまっている。
其でも涙が止まらないのは流石と言うか何と言うか。
「実は私は悪魔なんだ。此の辺りを見回っていたら変わった魂を何人か見付けたのでな、少し付いて廻っていたのだ。」
腕を組み、声高に胸を反らす。
大丈夫、大丈夫だ。自信さえあれば何とかなる!
「あ・・・悪魔だなんて、時々飛び回っているのは見ましたが、は、初めて御話ししました。」
少し青くなり乍らも何とかラフローレンは声を出す。
良し、信じて貰えた様だ。此の姿も時には役に立つ。
御望みとあれば尾だとか目とかも見せたのだが、もう十分だろう。
でも矢っ張り居るんだな、悪魔・・・いや先のナヴィン達かも知れないけれど。
「其でしたら・・・然うですね。此処は貴方の庭の様な物なのだから、歩き回られても不思議ではないですね。」
ラフローレンは何とか落ち着こうと必死な様だった。
うん、此の様子なら色々話が出来そうだな、疑われるよりずっと良い。
「セ、セレちゃんそんな役で良いの?其って何だか・・・悪いよ。」
「然うだぜ。何も其処迄しなくても、」
「でも此の方が話がし易くなるなら楽じゃないか。」
あっけからんとセレに返され、二柱は二の句が継げなくなる。
何だか損な役目だけれど、楽になるのは確かなのだから何か歯痒い。
「で、だ。随分長い事、御前は此処で涕いている様だな。一体如何したのかと興味が出たから聞いてみたんだが。」
「は、はぁ然うですね。私の事ですか・・・。」
ラフローレンは困った様に考え込む。
まぁ地獄に堕ちる様な事があったならおいそれと話せはしないだろう。
でも悪魔だったら・・・?何かの切っ掛けになるかも知れないし、話してくれそうだな。
「私に話してくれたら、若しかしたら何らかの手は出すかも知れないぞ。して欲しい事でもあったらな。」
―・・・何か・・・其っぽい。―
感心するように見遣るローズに胸を反らす。
今もモフモフに触れたら一気に堕落するからな、其丈が恐いので彼に触れるのは御褒美と考えよう。
「して欲しい事・・・其は悪魔の契約と言う事ですか?」
「ん、そんな固く考えなくて良い。只の気紛れだ。」
下手に契約なんてしたら、又自分は次元の主導者を殺し兼ねないからな・・・。
只勝手に悪魔を名乗っているけれども此、本物に聞かれたら不味いかもな。其処は慎重にした方が良さそうだ。
ナヴィン達との一件から、地味に自分はダメージを受けている、此以上ドンパチはしたくない。
無理でもしよう物ならガルダとドレミが居るからな、何をされるか分からない。
「・・・然う、ですね。悪魔なら、私の願いを叶えてくれるかも知れません。其でしたら、」
考えつつも彼女は涙を止める事はない。
こんな何年も何年も、涕き続ける理由だなんて。
「私には、大切な幼馴染、ロイドが居たんです。」
彼女は目を閉じ、生前の記憶を呼び起こした。
「彼は両親に先立たれ、天涯孤独だった私を唯一支えてくれました。彼は明るくて優しくて、本当に・・・私には勿体無い位良い人だったんです。」
過去形である事に虚しさを覚える、彼女の慕う彼は今、
「でも彼はあっさりと病に倒れて、其の儘亡くなりました。本当に・・・急で、倒れたと聞いて其の日の内に見舞いに行った時には既に・・・。」
「然う・・・だったんだね。大切な人と別れるのは何時でも辛いね。」
ドレミの言葉に目を伏せつつも、彼女の涙は止まらない。いや、より激しくなっているだろうか。
声には出さない物の、其の肩は大きく震えていた。
・・・けれど、今のは彼の話であって、彼女の話ではない。彼女が地獄に居るのは別の理由だと思うが。
「其で私、もう生きている意味も無いと思って、直ぐ自殺をしました。ちゃんと・・・出来た筈、だったのに。」
「自殺・・・か。其で此処に堕とされたのか?」
「・・・はい、自分と言えども殺しは殺しです。自分を殺したからと、私は地獄へ堕とされたのです。」
「成程な。其で彼に逢いたいと涕いていたのか?」
正直其だと困るな・・・其の彼も地獄に居たら手っ取り早いが、彼女の口振りだと絶対彼は堕ちていないと思っているだろう。
でも地獄に堕ちた奴って天国に行けるのか?今更無理じゃないか?
抑此の次元に天国があるか分からないが・・・悪魔でも分からないぞ。
頭の中で然うグルグルと考えていた訳だが、彼女はゆるゆると首を振った。
「死は終わりです。安らかに眠った彼を起こして迄逢いたいとは思っていません。私には・・・そんな我儘出来ない。」
「ん、然うか。じゃあ後悔で涕いているのか?」
「後悔・・・ある意味、然うかも知れないです。私は只もう消えてしまいたかったのです。彼が居ないという現実をもう考えたくなかった。だから自殺したのに・・・地獄なんて堕ちて、未だ私は居る。消えたいのに、消えられないのです。」
消えたい。
そんな儚い願いに自分は少し眩暈を覚える。
噫其は・・・自分が一時願っていた事じゃないか。
前世を懐い出す前、黔日夢の次元を自分で起こしたと知って。
自分はずっと、消えたかったじゃないか。
丗闇に諭され、一度頸を斬られ・・・自分は其でも生き永らえている。
そっと首筋に触れる。小さく跡になってしまった其の傷が疼いた気がした。
「消えたいのに、消えられない。」
緩りと其の言葉を繰り返して。
噫、自分は若しかしたら彼女の気持が痛い位分かってしまうかも知れない。
消えたいのに消えられない、誰も殺してくれない。本当の願いを聞いてくれない。
助けも救いも要らない、只終わりが欲しい丈なのに。
昔抱いた黔い影が近付いて来そうでそっとセレは其の考えに蓋をした。
今はもう、然う思っていないよ。
自分には掛けられた願いがある。だから其に報いる為に自分は存在するのだから。
でも其は其で如何彼女を助ける可きだろうか。
奇しくも契約してしまえばあっさり終わりそうな事案ではある。彼女の首を刈れば良いのだ。
只、彼の次元みたく又滅んだら・・・?
次元の主導者に手を出すのは、正直言って恐ろしい。
まぁ地獄に堕ちた者が首を刈った程度で死ぬのかは不明だがな。試す可きではないだろう。
「然うです。悪魔ならこんな願い、直ぐに叶えられないでしょうか!此の際拷問されたって構いません、消えられるなら其で、」
「いや勘違いしないでくれ。私は別に殺したい訳でも拷問したい訳でもないんだ。」
如何やら其が彼女の悪魔のイメージなんだろうか、然う詰められると結構恐かった。
何と言うか殺して欲しいって請われる事なんて無いじゃないか。だから戸惑ってしまうんだ。
死からは逃れる物だと思い込んでいたのに、其を願うなんて異端で、普通じゃない。
其も又次元の主導者からだし・・・何だ此、自分が引き寄せてしまっているのだろうか。
死にたい次元の主導者集まれーみたいな、嫌だよ其。
「う・・・矢張り生きて永遠に此の苦しみを味わえと、然う言う事ですね・・・。」
ラフローレンは俯いてしまい、より大粒の涙を流し始めた。
全員の視線が自分に刺さる。・・・そんな目で見ないでくれ。
「・・・セレちゃん、然う言う苛めは良くないと思うよ。」
「希望を与える丈ってのもな。」
―出来るんだったらせめて助けてあげないと。―
「分かってる分かってる!そんなに私を責めないでくれ。只、実際問題如何するんだ。」
悪魔と名乗った手前、はい然うですか、では頑張ってくださいと去る訳にも行かない。
悪魔なら喜んで彼女を拷問に掛けるのだろうか。でもなぁ、其もなぁ。
幸いラフローレンはショックで又塞ぎ込んでしまっている。申し訳ないけれども此の間に話を進めて置こう。
―殺すのは簡単だが、其が正解とは私は思えないぞ。・・・まぁ殺したら素直に死ぬのかも疑問だが。―
念の為テレパシーで意見を求める。相手は次元の主導者だからな・・・。
―うーん然うだよね。ラフちゃんが死んじゃったら次元が直るってのも良く分からないもんね。―
―此の次元で何が起こったのかも分からないしね。―
―其も然うだな。じゃあ反対に彼女が死ねば何が起こるか考えた方が良いか?―
次元の主導者が死んだら其迄の可能性も勿論あるけれど、彼女が何らかのキーになっている筈だ。
―えっと・・・あ、先の龍も言ってたよな。死者は滄江が邪魔だって言ってたけれど、其の滄江が無くなるよな。―
確かに、此の滄江はラフローレンの涙から出来ている。
黔日夢の次元で何が起きたのかは分からないが、若し其で彼女の大切な人、ロイドが亡くなったのだとしたら・・・。
其処から此の滄江が生まれたのかも知れないな。丁度地獄を分かつ三途の川の様に。
―でも滄江が無くなったら・・・死者さんが生き返るって事?其も一寸恐いけど。―
―ナヴィンが言っていたな、面白い事になるって。って事は恐らく良からぬ事になるんだろうな。死者蘇生って聞こえは良いが、生者と死者が溢れてパンデミックになりそうだぞ。―
―だな、俺も良い事とは思えないぜ。だったら抑彼女が居なかった時の地獄は如何管理してたのか気になるけどさ。―
其も然うだな。昔は自由に死者も現世に帰れたのだろうか。
・・・いや、其だとラフローレンが自殺した理由が見えない。待てば彼が帰って来るのなら、後追い自殺なんてする必要が無いだろう。
まぁ死者が現世に行く迄恐ろしく時間が掛かるって言うのもあるかも知れないが・・・いや、其もおかしいか。
少なくとも彼女は死は終わりだと言ったんだ。じゃあ生き返るなんてある訳ない、其では終われないからな。
矢っ張り昔も死者は死者の儘、地獄に居たのだろう。何らかの手段で彼等を留めていたのかもな。
若しくは本当に悪魔だとかが飛び回って居て頑張って食い止めていたのか、可能性はあるな。
―若しかしたら私が地獄に死者を留める何らかの力を破壊してしまったのかも知れないな。其で代わりじゃないが彼女の滄江の御蔭で今も死者を留めているとか。―
―成程ね。じゃあラフちゃんを如何にかするのは良くないって事なのかな。でも消えられずにずっと涕き続けるのも酷だと思うよ。―
―うん、一人に全部任せるのは一寸、余だよね。―
―じゃあ何か死者を留める代案を見付けてから彼女を楽にさせてやれば良いのか?―
―楽にって、まぁ然うかも知れないけどさ。―
渋々と言った体だが、でも此は彼女が願っている事だぞ。
次元を残しつつ、彼女丈消せれば其で良いんだ。
―然うだな。じゃあもう少し彼女に話を聞いてみるか。何か他に手掛かりがあるかも知れないし。―
残念乍ら自分達は此の次元や地獄に明るくない、今はもう少し情報が欲しいな。
「・・・ラフローレン、悪いがもう少し丈話をさせてくれないか?もっと聞いてから・・・、」
「其の女に干渉してはならぬ!」
地が震える様な轟音と共に野太い声が響いた。
地震と見紛う程の其に思わずラフローレンは一瞬涙を止めたが、又さめざめと涕き始めた。
「っ又何処ぞの龍か!」
―いや、仲間の匂はしないっぽいけど。―
顔を見合わせていると何処からか突風が吹き抜けて行った。
其は次第に上から叩き付けるかの様な凱風となり、見上げた時には既に巨体が此方目掛けて下降して来ていた。
「其の女への干渉は赦されぬ!直ぐ離れるのだ!」
然う制し乍ら降りて来た其は、鰐の手足が蝙蝠に転じた様な姿をしていた。
全身を覆う鱗は良く見ると黔い蛇一匹一匹であり、長い尾の先には牛の角の様な物が絡まり合って生えている。
開かれた瞳は闇に映える真紅で、焔の様に燃えていた。
否、実際燃えている様だ。時折激しく燃えて目から火炎を放っている。
此は又、嫌な客が乱入して来たな。恐らく此奴は・・・、
「ッヒィ!」
ラフローレンは大きく躯を震わせて縮こまったが、現れた魔物は彼女に一瞥くれる事なくセレ達を睨み付けていた。
すっかり魔物の背で彼女が隠れてしまう。此の反応、まるで守っているみたいだな。
―なぁセレ、彼って何て龍なんだ?―
―・・・いや、龍族じゃない。―
セレの返答に僅かにガルダの背が強張る。
龍ではない此の次元の魔物、そして此処は地獄だ。つまり・・・、
「我は悪魔テルカナ=オーランド。我が領域内で勝手は赦さぬぞ。」
「オ、オーランドって・・・っ、」
ラフローレン一人が呟いてより躯を縮こませる。
彼女には馴染みがある名なんだとすれば、本物なんだろうな・・・。
噫何て間が悪い、名を騙ったのがばれただろうか。余りにも上旻に居たようで見逃してしまっていた。
オーランドは全身を覆う蛇達をざわつかせ、威嚇をしている様だったが、直ぐ手は出してこない様だった。
先の言動からしてラフローレンを監視しているのか?でも悪魔が何の為に?
悪魔ってのは悪事を生業にしている連中だろう、ラフローレンもそんな口振りだったし、間違っても誰かを護ったりなんて、
・・・まぁ話は出来そうなんだ。慎重に聞き出してみようか、情報も一緒に集めたい。
「初めましてオーランド、私はセレ・ハクリューだ。」
「フン、異国の邪神か。悪いが神であっても我が領域内を荒らして良い道理はないな。」
異国の邪神・・・成程、此の次元での自分の立ち位置は其処か。
黔日夢の次元の影響なのだろうが、名があるのは動き易いな。然うか、自分は悪魔ではなくて邪神だったんだな。
「じゃ、邪神って!セレちゃんはそんなのじゃないよ!勝手な事言わないでよ!」
「いやドレミ、此の上なく適切だから其処は諦めてくれ。」
「で、でも・・・、」
何だかしょんぼりとしてしまったドレミにそっと苦笑を返した。
「別に私は気にしていないし、此はチャンスなんだ。今度は邪神として話してみよう。」
「あ・・・え、セ、セレさんは邪神、だったのですか。」
目の前の怒涛の流れに付いていけないとラフローレンは弱ってしまった様だ。
まぁ屹度涕き続けた数年の中で最も激しい展開なんだろうな。
「本当は此の身分丈は明かしたくなかったんだが、仕方ないな。実は私は邪神なんだ。」
「・・・何かセレ、ノリノリだな。」
「此方の役の方がずっとやり易いからな。」
とは言っても具体的に邪神が何をする存在なのか良く分かってないんだけれども。
「そ、そんな邪神様が一体私に何の用なのでしょうか・・・。」
「フム、確かに。態々此の地迄来て、散歩でもあるまい?詳しく聞かせて貰おうか。」
オーランドが口を開く度、冷気が其処から一気に零れる。
余りの冷たさに息も白くなり掛けるし、僅かに躯が震える。・・・気を付けないと、ビビっていると思われたくないしな。
「然うだな。先ずラフローレン、此の滄江を創っていると言う女に興味を持ったのは事実だ。其処で声を掛けてみたら、御前迄出て来るじゃないか。此はいよいよ、何かあると思ってな。」
考えろ、何とか状況を有利に持って行くんだ。
今は未だ向こうも探りを入れて来ている筈、今の内に此方が上だと分からせろ。
とは言え、恐らく相手は悪魔でも上位の、名の知れた悪魔なのだろう、どんな力を持っているかも分からないし、慎重に行かないとな。
自信満々に声丈は大きく出すと、明らかに不機嫌そうにオーランドは鼻を鳴らした。
「ええい、神々は何とも優雅な暮らしの様だな。余計な事に首を突っ込んで直ぐ玩具にする。」
「別に遊んじゃあいない。神の仕事は世界を良く見る事なんだから、知りたい事には首を突っ込むさ。折角降りて来てくれたんだ。話してくれるんだろう?」
此で怒りに任せて襲って来たら又力で解決をしないといけなくなるが、出来ればもう避けたいな。
何とか此の邪神の権力で上手い事話が出来れば良いんだが。
オーランドは何やら悩んでいる様だった。素直に話したくはないのだろうが、案外理性的でもある様だ。
長く重い溜息を付くと、オーランドは重い口を開いた。
「・・・此の女は何百年も此処で涕き続け、此の滄江を創ったのだ。御蔭で不用意に現世へ行こうとする愚かな魂共を此処に縛り付けて置く事が出来るのだ。」
「何百年って、其は又大層だな。」
「噫、人間にしちゃあ中々にしぶとい。御蔭で一々此処を見張って魂共を連れ戻したりしないで済んだ。中々楽になった物だ。」
「え、わ、私そんな事を・・・?まさか悪魔の手助けをしていたなんて。」
「成程な。其で代わりに女の方を監視していたのか。」
「此の女は未だ使える、だから下手に手を出して涕き止ませても困るってんだ。」
自分抜きで話が進み、ラフローレンはおろおろする許りだ。
まさか涕いている丈で何かの役に立っているだなんて考えてもいなかったのだろう。況してや悪魔のだなんて。
体感年数の差も、其を物語っている。彼女は只、涕いていた丈なのだ。
でも何百年も悲しみを減らさず涕き続けるだなんて余っ程だ。
道理でナゲキリュウ達が集まっていた訳だ。減らせない悲しみに、彼等も一所懸命だったのだろう。
滄江に取り憑き、少しでも悲しみを減らそうと詠っていたのだろう。
実際こんな驚いたり戸惑ったりしているのに、ラフローレンの瞳からは涙が出続けていた。
此の程度の事では数百年の涙は止められないらしい。
「・・・何か其って酷い話だね。悪魔さん達はラフちゃんを利用して仕事をさぼっていたの?」
「さぼっていたのではない!楽な方法を見付けた丈だ!」
「まぁドレミの言う通りだな。私もしっかりさぼっているのを見た訳だし、見回りもせずに女を見張っていたとはな。」
オーランドの鼻息が荒くなる。・・・余り挑発するのもだな。
「・・・まさか主に報告する気か、余所者の癖して。」
「いや、そんな気は更々だ。其より私は此の女が気に入った。如何だオーランド、御前は此の女に恩があるんじゃないか?見返りも求めず滄江を創った彼女に。」
「お、恩だと・・・。」
ちらとオーランドはラフローレンを振り返ったが、彼女は震える許りだった。
「ハッ、悪魔が恩だと。笑わせてくれる。我らは女を利用した丈に過ぎない。涕けと頼んだ覚えもないわ。」
―じゃあ其の人は僕達が連れて行っても良いよね?―
ローズの提案に無言でオーランドは睨め付ける。
流石悪魔だ。どすが効いている、初めて本物を見た訳だけれども、如何にも悪っぽい。
此位真直ぐな奴の方が自分も話し易いな。
「其の通りだ。女が涕き止もうが、何処へ行こうが関係はないだろう。女が偶々此処で涕いて滄江を創ったから、御前達が利用した丈の事。御前達こそ、女に干渉する権利はないと思うが?」
「・・・何が言いたい。」
「若し御前が此の女に恩があると思っているのなら、女の願いの一つ位叶えてやっては如何だ?例えば女の懐っている男が居るそうだが、其奴の所在が分かったりするのか?」
願い、と聞いてラフローレンは顔を上げた。
彼女が自分に願ったのは自身の消滅だが、何となく其は避けたい。
・・・又次元が滅ぶ予感があるのだ。次元の主導者は消えたら終わりだし、余り其の手段を取りたくない。
其に消えたいと願う事こそが、次元崩壊の引き金かも知れないしな。
オーランドは暫し顎に手を当て、じっとラフローレンを見遣った。躯中の蛇達が相談し合うかの様に囁き合っている。
「・・・フン、此の男か。魂の行方位なら造作もない。地獄に来ていないのだから天界へ行ったのだろう。そして時期的に魂の入れ替え時だ。現世に新しく生まれ変わっているだろうよ。」
「転生したって所なのかな。」
「恐らくは然うらしいな。」
転生か、然う言う概念のある次元なんだな。・・・少し、前世と似ている気がする。
確か其の辺りをナレーが話していたな。知識丈で良いのに余計な彼奴の顔迄浮かんでくる。
「彼は・・・ロイドは今、生きているのですか?」
流石に気になって来たのだろう。恐る恐るラフローレンが口を挟んで来た。
幾ら消えたいと願っても、大切な者の話は聞きたい物だろう。食い付いてくれて良かった。
「然うだ、現世で楽しくやっているそうだな。」
「さぁ答えたぞ。もう十分だろう!」
「気が早いな。今のは単に確認だ。御前にして欲しい事は別にあるんだ。」
オーランドの瞳が激しく燃え上がった。
・・・未だ手は出すなよ、こんな所で悪魔と殺し合いなんてしたくない。
下手したら収拾が付かなくなるからな、奴より上位の者が来る前に終わらせたいんだよ。
「して欲しい・・・事だと。」
「噫、必要なら頭も下げる。御前にしか頼めない事なんだよ。」
「ほぅ神が俺に・・・ククッ良いだろう話してみろ。」
少し気を良くしたらしいオーランドはせせら笑った。
「噫、此の女が現世へ行くのを見逃してやってくれ。もう一度丈此奴に生を与えるんだ。」
「え、そ、そんな。そんなのは私の願いではありません!」
「フム、何のつもりだ邪神よ。」
オーランドに遮られ、ラフローレンは口を噤むしかない。
「ほら見てみろオーランド。女は生き返りたくないそうだ。こんな死者、少し珍しいだろう。」
「確かに珍しくはあるが。」
「じゃあ見てみたくないか?死にたい女を無理矢理生き返らせ、彼女の懐い人と出会えるか賭けるんだ。僅かな希望を前に踠く女を見てみたいだろう?」
正直自分は此奴等悪魔の事なんて知らない。だからこんな口上に乗ってくれるかは完全に賭けな訳だが・・・。
「ククッ、確かに其は中々興味があるな。生き地獄、と言う訳か。」
・・・良かった。
オーランドはいたく此の案が御気に召したらしく、肩を震わせていた。
ラフローレンが真っ青になっている物だから猶の事だ。
「っ、だが滄江は如何する。女が居なくなれば、又死者が溢れてしまうだろう。」
早くも気付いたか、出来れば其処は気付かないで欲しかったけれども。
次元の主導者さえ如何にかなれば悪魔なんて、とも思ったが、然うも行かないか。
・・・まぁ悪魔が次元の主導者を連れ去っても困るし、如何にかしないとな。
「然うだな・・・其なんだが、」
懐い出したくないと思いつつも、奴の事を懐い出せたのは僥倖だったのかも知れない。
彼奴が戯れにした授業、教養がまさか今世で役立つとはな。
「魂に、死者達に重さを付ける事は出来ないか?」
「重さ、だと。何の為だ?」
「質問に質問で返さないでくれ。出来るか出来ないかを先ずは教えてくれ。」
「・・・主になら、可能だろうが。」
主と言うのは彼等より上位の悪魔か、自分みたいな邪神だろうか。
だったら良い。重くなれば滄江が無くても渡れないだろうよ。
「っ、何をする気だ!」
気付くのが早い。自分が纏う空気の変化に早くも気付くか。
自分はそっと両手に隠し持っていた零星を纏わせた。
龍達と戦ってから一応持っていたが、崩さなくて良かったな。
「道を一寸整える丈だ。」
長く長く、零星が伸びて一直線の星座を編む。
自分の手から真っ直ぐ天へと、其の節々に魔力を集め乍ら。
―・・・皆、行くぞっ!―
―任セテ!―
―最大出力デ、ブチカマスノ!―
無数の魔力の声が響く中、セレは其の星座を地面へと叩き付けた。
「っうぁあああぁあ‼セ、セレちゃん何してるの!」
凄まじい轟音と地響き、立つのもやっとな揺れにドレミは思わずセレのオーバーコートの裾を掴んだ。
星座は地面、滄江に沿って叩き付けられた訳だが、滄江からも激しい水しぶきが舞い上がる。
「おいセレ危ないだろ。ど、如何したんだよ。」
突然の強行に皆心配そうに見て来るが構わない。
零星は大きく地を抉り、底の見えない崖を作り出していた。
すっかり滄江は中に呑まれているが、幅も大きく広い崖だ。
其が、地平線の彼方迄続いている。
―ヤッタネ、大成功!―
「おぉ・・・思ったより綺麗に出来たなぁ。」
「か、感心してる場合じゃないよ、如何しちゃったのセレちゃん!」
ドレミ達は何とか気が付いて再び自分に詰め寄るが、ラフローレンやオーランドは口を開けて、其の天変地異を見る事しか出来なかった。
フフン、如何だ此が邪神の御業だ。
とは言え流石に説明無しでは只の破壊神なので、ちゃんとしないと。
「此は私が聞いた話なんだが、命に重さを与える事が出来れば、死んだ許りの魂は其の大切さに気付かずこんな崖なんて飛び越えてしまう。でも後に生き返りたいと思った時には、命の重さで飛べなくなってしまうのだ。」
―へぇ~其は一寸面白い話かも・・・。―
モフモフが目を輝かせてくれている・・・何とも良い心地だ。
感心序でにモフらせてくれないかな、矢っ張り邪神じゃあ駄目だろうか。
“お、ちゃんと覚えていて偉いな!”と自分を褒める声が聞こえた気がした・・・嫌な幻聴だ。
知識丈で十分なのだから俤をちらつかせないで欲しい。
当時の自分は命の重さなんて、と鼻で嗤った物だがな。今の自分は如何だろうか、飛べるだろうか、沈むだろうか。
「ほぅ・・・中々、異国の話と言う訳か。面白くはあるな。」
「飛んで現世に帰ろうとする奴なんて居れば其は余っ程の極悪人だろう?御前達も遣り応えがあると思うぞ。然うでなくても飛べないと嘆く死者の姿を高見の見物出来るだろうしな。」
「ククッ、良し良いだろう。其の話乗ってやる。確かに地獄のシステムを変えるのも偶には面白そうだ。其なら女みたいに利用せずとも出来るだろうよ。」
「じゃあ女は此方で頂いても?」
「噫、煮るなり焼くなり好きにするが良い。仮に生き返るのだとしても其奴は見逃してやろう。何の道何百年も経っているのだ。生き返ると言ってももう元には戻れまい、記憶を失い、転生する丈の事よ。」
「お、随分と物分かりが良いな。助かるけれども。」
オーランドは一気に上機嫌になった様で、瞳の焔も穏やかになった。
こんな地獄が大きく変わる事なんて無かったろうし、案外変化を喜んでいるのかも知れない。
「フン、あんな力見せ付けて置いて良く言うな。・・・何の道其の提案は悪くない。早速主に話を通すぞ。」
本来鰐には出来ない事なのだろうが、絡まる蛇達の微妙な動きでオーランドは口端を釣り上げた。
正に悪魔の笑みと言った所か、其の儘彼は上昇し、闇の中へと消えてしまった。
行動が早い。若しかしたら只女を見張ると言うのも飽いでいたのかもな。
見た目以上に理性がある奴で良かった。自分がした大技を威嚇と取ってくれた様だ。
一応其に近い意図はあったが、汲み取ってくれるかは怪しかったからな。
「セレちゃん凄いね!あんな風に悪魔とやり合えちゃうなんて。」
「今回は相手も良かったな。上手く行って良かったよ。」
―先の地獄の話って、前世とかで聞いたの?―
「噫、随分昔に一度聞いた話だ。嘘か真か知らないが、役に立って良かったよ。」
「へぇ、彼の次元ってそんな伝承があったんだな。」
確かに教会とかあったけど、使ってる人見た事無かったし、其にセレが知っていたって言うのも何だか意外だった。
地獄かぁ・・・まぁ俺も天使だとかって言われちゃってたし、そっか。然う言う認識はあったんだな。
ちらとセレが創った大渓谷を見遣る。
彼奴・・・事も無げに此をしたけれども、一見黔日夢の次元の再来みたいだよな。
間違ってもセレに聞かせられる感想なんかじゃあないけど、やってる事が大災害の其だ。
地獄を分かつ渓谷を創った神なんて、教典とかに載りそうではある。
でもやってる事は破壊っぽいけど、延いては丗の為次元の為になるのなら、まぁ良い事として残るのかな。
力は使い様って所だろうか、強引ではあるけれど、こんなやり方もあるって。
「でもセレ、彼の悪魔が渋ったら如何するつもりだったんだ?こんな大きな事しちゃってさ。」
「噫、正直不味かったよ。だから力を見せ付けて、どうせ勝てないから逆らうなよ、と言ってやりたかったんだ。」
―其でちゃんと怯む相手で良かったね。―
「まぁ見た目はああでも良く考える奴っぽかったから大丈夫だとは思ったけれどな。・・・で、後は、」
ちらとセレは背後で蹲るラフローレンを見遣った。
彼女は度々起こった超常現象に可也参っている様だったが、未だ涕き止んではいなかった。
恐らく此方の話も大して耳に入っていないだろう。理解も大して出来ないだろうし。
後は彼女を何とか動かさないと、其の為に来たんだから。
悪魔はもう居ないのだから、もう邪魔も何もされないしな。
「さてと、邪魔が入ってしまったが、ラフローレン、大丈夫か?」
「わ、私を如何するつ、つもりなんですか・・・。」
可哀相な位すっかり怯えてしまっているな。自分を見て一寸後退りされてしまった。
邪神だし、護ってくれそうだった悪魔には見捨てられるし、目の前で谷なんて創られちゃうし、まぁ当然の反応だろう。
余りにも不憫に写ったのか、そっとドレミとローズが近付いて宥めてくれていた。
モフモフに触れ、少し丈彼女も落ち着きはした様だ。
「別に先の通り如何斯うしようと無理強いはしないけれども、御前の夢は自分の消滅だろう。其を叶えようかと思ってな。」
「セレ、まさか先みたいな力業をするとかじゃないよな?」
こそっと背後からガルダが耳打ちして来た。・・・全く、自分を何だと思っているんだ。
言って置くが、邪神役なら終わったぞ。ん、いや元から邪神だと言われたら否定はしないが。
「そんな事する訳ないだろう。其ならオーランドが来た所で強行すれば良いじゃないか。」
「な、成程・・・なのか?案外アクティブに動くつもりだったんだな御前。」
「私は最善を尽くすつもりな丈だよ。そんな方法じゃなく、別のやり方で、ラフローレン、御前を消そうと思っていたんだ。」
「別の・・・方法ですか、そ、其って、」
流石に此の話題には食い付くらしく、彼女は其以上下がるのを止めた。
・・・良かった、其以上行ったら崖から落ちる所だったからな。
「御前には転生して貰おうと思ってな。先の悪魔も言っていただろう、今から御前が生者に、現世へ行けば御前は転生出来る。然ももう何百年と経っているんだ。今の記憶は壊れ、又零からのリスタートになるだろう。其は謂わば御前自身の消滅とも取れないか?」
「・・・確かに、然うかも知れませんね。」
命を重いと言うならば、彼女の枷は其の記憶の筈。
結局記憶が無くなれば其は他人と同じだろう。・・・受け入れられるかは別にしてだが。
個人なんて物はタイミングと出来事と出会いが創るんだ。其が変われば幾らだって・・・。
・・・まぁ其が変わった所で心底の化物は変わらないだろうがな。
其でも表面上は変われる、少なくとも自分は然う考えるよ。
「其に運が良ければ御前は又、其の懐い人に逢えるかも知れない。逢った所で分からないかも知れないがな。小さな奇跡みたいな物だ。悪くはないだろう?」
「でも、逢えたって又繰り返すかも知れないじゃないですか。其なら私は、」
「其でも、出逢う事が悪かったってドレミは思わないよ!」
「・・・え、」
思わずラフローレンは隣のドレミを見遣った。
こんな地獄では余りにも眩しい其の金の瞳を。
「出逢いを恐れちゃ駄目だよ。確かに凄く嫌な事があって、良い事も全部、無くしたいってなる気持はドレミも分かるけど、」
瞳の中で静かに雷が駆ける。其でも激しく刻む様に。
「でも其の出逢いも全部否定したら可哀相だよ。・・・ね?」
「・・・・・。」
其の時、静かに・・・ラフローレンの涙は止まった。
悪魔が現れても、願いを断った時も、どんな時も止まらなかった涙が。
「然う・・・かも知れないですね。」
ぎこちなく彼女は咲っていた。若しかしたら前世の事を懐い出していたのかも知れない。
谷へと注がれていた滄江だった物も途切れ、水が枯れて行く。
最後の一滴が流れ、谷を下って行った時だった。
詠が、聞こえて来たのだ。
谷底から吹き抜ける幽風の様に、高く低く広がって伸び上がって。
天へ昇る様なそんな詠が、地獄に響き渡った。
「此の声、は・・・、」
谷を見遣ると底から透ける様な黔い柱が立ち上っていた。
詠い乍ら天へ昇るのは・・・ナゲキリュウとナキリュウの群だ。
彼等も、もう気付いたのだろう。ラフローレンの悲しみがもう吐き出され切った事に。
「彼、先会った龍さん達かな?」
―みたいだね。何処か違う次元に行くみたい。―
屹度他の次元にも悲しみが溢れているのだろう。目的地は既に決まっているみたいに真っ直ぐ彼等は旅立った。
そんな彼等に釣られてか、すっとラフローレンは立ち上がった。
「・・・行くのか。」
「はい、私の夢は其で叶いますから。全て忘れて、又、」
何百年振りに然う立ったのだろう、ふら付き乍ら彼女は緩りと歩き出した。
谷から離れ、死者達が居る方とは反対側に。
足取りは重く、遅いが、屹度彼女なら無事現世へ行けるだろう。
其処迄付いて行くのは流石に無粋か。
「・・・?あの、えっと邪神様達、は、」
「ん、私達は元の所に帰るよ。此方で色々出来て楽しかったからな。」
「だな。此方は此方でやる事があるし。」
「然う・・・だったんですか。分かりました。では・・・又、何処かで。」
目を伏せ、其の儘ラフローレンは歩き出した。
屹度転生し、全てを失う前に一つでも多く懐い出そうとしているのだろう。
歩き出した彼女の目に、もう自分達は写ってはいない様だった。
「・・・行っちゃったね。」
「噫、まぁもう大丈夫だろう。ちゃんと歩けているんだ。」
少しずつ彼女が遠く、小さくなって行く。只其の背を見送った。
「其にしても、消えたい、なんて彼女から言われた時は如何なる物かと思ったけどさ。」
―僕も。・・・てっきり本当に消しちゃうのかと思ったよ。―
「全く、皆私を何だと思っているんだ。」
日頃の行いが悪いからとは言え、もう少し顔を立てて欲しい。
消えたい・・・だなんて、うっかり叶えてしまうような願いを私にする物じゃない。
「・・・とは言え、必ずしも転生が良いとは言えないがな。彼女の言う通り又同じ事を繰り返すかも知れないし、もっと酷くなるかも知れないし。其を知っていたから悪魔もすんなり赦したんだろう。」
忘れるんだから良いだろうなんて、其こそ悪魔的考えだ。
「でも消えちゃうよりは希望がある、でしょ?」
「さて如何だかな。次元の主導者だから生かされているだなんて、当人は何て思うかな。」
ちろっと舌を出して笑うとドレミの頬が膨れた。・・・からかい過ぎたらしい。
「もうセレちゃんったら・・・邪神役はもう終わったんだよ。」
「ククッ、悪かったな。まぁ邪神と呼ばれても時と場合に因っては救ったり救われたりする事があるって事だ。一概に言えないって所は勉強になったんじゃないか?」
―うぅ、まぁだから悪魔と手を組めたって言えるもんね。―
若干呆れつつもローズは大きく一つ頷いてくれた。・・・今ならモフらせてくれるだろうか。
「じゃあ兎に角仕事達成って事で。・・・本当の邪神が来てもいけないし、私達は帰るぞ。」
「然うだね。もう地獄は恐いから当分来たくないなぁ。」
「確かにな。ま、神様宜しく頑張ろうぜ。」
一同の姿は次第に霞み、消えて行った。
女の姿も、涙の滄江も、もう其処には残っていない。
あるのは只々深い渓谷が一つ、地獄の底迄穿たれているのみだった。
・・・・・
滄江は涸れ果て何も残らず
代わりに冥府を分かつは深き谷
誰をか呪い、願い、創られたか
涙の滄江は終に終点を見付ける
昇り続けた冥府の果て、涙は旻へと還るのだ
噫、其の様はまるで
遥か古に見た彼の星空と良く似ている
若しかしたら読んでいる内にピンと来た方が居るでしょうか?
実は今回の御話、冥府の滄江の御話はある楽曲が元になっています。
大分本家とは変わりましたが、オマージュと言う事でラフローレンさんの外見と名前が本家の女性に寄せられています。
其の作品はSound Horizon様の『エルの絵本【魔女とラフレンツェ】』、昔大いにハマった楽曲です。
滅茶苦茶御勧めなので良かったら聞いてみてね!世界観にどっぷりハマれるよ!そして沼るよ!
・・・コホン、オタトークが始まる前に切り上げましょうか。後はまぁ龍が一杯出たね!って感じですね。
今回出て来た子達は何の子も結構気に入っています。と言うより抑気に入っていない子は出さないんじゃあ・・・?
画力が足りないのが悔やまれる許りですけれどね、でも此で多少はイメージしやすい筈!
因みに又ナゲキリュウ達が出て来ましたが、便利な子ですね本当。好きな子だし、描きやすいしで利便性が高いです、此からも御世話になります。
後は悪魔も登場しましたね、今回は話の分かる子で助かったけれど、結構セレさん危険な賭けでしたよ・・・?
後先考えずに書くと大変な事になりますね、実は直前迄此の次元の行く末を如何しようか悩んでいました。
滅ぼしても良し、残しても良し・・・まぁ結局作者の思考には抗えないと言う事ですね、恐ろしい世界!
兎にも角にも一応ハッピーエンド?になった訳だし良かったね!そんな次回は前述の通りもう書けています。
けれども投稿のハードルが高いです、挿絵四枚確定だもん、其丈が重荷だったり・・・。
まぁ恐らく今月中には出せるかな、と言った具合です。短いですが、スカーッ!とする大事な御話なので、又御縁があったら御会いしましょう!




