46次元 秘密の5次元 筋肉天使は微笑まない
今日は、やっっっっと!出せました!
活動報告の方を見ていただけたら嬉しいのですが、投稿前にパソコンが壊れてしまい、ずっと入力が出来ない状態だったのです。
紙の方はもう遥か昔に此の話を書き終わり、此の後ストックが二話もある状態です。今から此を入力して行くのかと震える許りですね!
加えてパソコンを治すのに当たって色んな問題が出てしまい、止む無く使用していたWordタイプが逆行してしまい、2007版を現在使っていますが、此が難しいのなんのって。
膨大にある辞書登録も宛ら、使える漢字や書体も変わってしまってと中々苦労しています。
一番困っているのは変換ボタンで漢字に変換されない事でしょうか・・・。何故か一々網掛けしてスペースを押さないと変換出来ないのです。今迄マウスを殆ど使わずに入力していたので此が面倒臭いのなんのって。
だから若しもパソコンに詳しい方!治し方を御存じだったら教えてください!
・・・とまぁ愚痴とか色々言い訳は其の位にして、今回は番外編です!ストーリー自体は結構個人的に気に入っています。久し振りなギャグパートです。・・・まぁ此の後割とシリアス?と言うか黒いのが続くのでね。
そんなこんなで恐らくタイトルから誰の御話か分かる筈!それでは行って参りましょう!
「ガルダ、私はもっと勁くなりたいんだ。」
「お、おぉう、そ、然うなのかセレ。」
或る日の昼下がり、セレからそんな決意表明を聞かされ、ガルダは困惑していた。
彼女に一緒に昼食を取ろうと誘い、席に着いたのだが、其の時に唐突に投げられた一言だったのだ。
彼女は俺に何を期待したのだろう、あんな生返事しか出来なかったけれど。
何て言うか、彼女の言った事の意図が今一掴めない。
セレは元々勁くなりたいって思っているんじゃないのか?今更言う迄もなく。
だからちょくちょく特訓しているのも知っているし、色んな新技だとかを考えている。何時も其等に俺は驚かされて許りだけれど。
生き残るには勁くならないといけない、彼女が前世で良く言っていた事だ。
其を改めて今更言うと言う事は・・・何か考えがある筈。
屹度やりたい事があるんだ。そして其は恐らく、危ない事。
此丈付き合って来ていたら嫌でも分かる、俺に相談するのは大抵然う言う物だ。
で、俺が其を断るのも大体理解しているから、彼女は既に何らかの手を打っている筈。
・・・今回は負けないからな。
「で、如何やって勁くなりたいんだ?」
ガーリックトーストを口に運ぶ・・・うん、良い出来だ。
先ずは落ち着いて、出方を見てみようかな。
「其なんだが、ほら私は前の次元で役立たずだっただろう?」
「えっと、魔力が無い所だったよな。別に役立たずって事も無かっただろ?」
そんな卑屈にならないで欲しい、得手不得手位あっても良いじゃないか。
其とも彼女は完璧になりたいのだろうか。
「でも、彼の時は良かったが、若し敵が居たら大変な事になっていたぞ。今迄培って来た物が殆ど使えなくなっていたからな。」
「敵、まぁ塔の奴等とかか。まぁ居たとしても向こうも術は使えなかっただろうけどさ。」
「其でも銃とか、何か飛び道具を持って来ていたら其丈で十分脅威だっただろう。此方は素手だったからな。」
「そっか。じゃあ武器が欲しいのか?セレ色々使えるもんな。一応manjuの所で買えるけど。」
「彼処は何でも売っているんだな、武器も手に入るなんて手広いな。」
manjuに手は無いけれども、然う言って彼女は一柱笑った。
・・・何だか機嫌が良いみたいだ。そんな彼女を見ていると此方も嬉しくなって来る。
「まぁ武器も欲しい、欲しいんだが、其より今私は別の物に興味があるんだ。」
「へぇ、魔力の次は一体何に興味があるんだ?」
「うん、肉体改造だ。」
「・・・・・。」
何だろう、今背筋がゾワッとしたぞ。
え、肉体改造って言った?何するの?一体何を施すの?
セレの躯って元々独特な訳だけど、其を更に改良するのか?
でもするにしたって如何やって・・・まさか彼の医者に頼むのだろうか。
駄目駄目駄目駄目!絶対真っ当な事ならないから!出来たとしても屹度、勁いけれど日常生活で困難を来す躯とかにされちゃうよ!
良く分からない生物の手足付けちゃったり、薬入れたり、そんな改造だろどうせ!
「だ、駄目だセレ!其丈は許可出来ない!セレがそんな風に変わっちゃうなんて!」
ガバッとガルダがセレの両肩に手を置く。
彼女にとっては予想外の反応だったみたいで、目をぱちくりさせていた。
「だ、駄目なのか?そんな悪い事じゃあないと思うが。一寸でもか?」
「ちょ、一寸って其処からどんどんエスカレートするだろ、因みに具体的には何処をする気なんだ?」
「まぁ無難に両腕か?」
「全然一寸じゃない!セレ良く考えてくれよ、手って大事な所だろ。そんな易々としちゃあ、」
下手したら一番不便になったら困る所じゃないか。如何するんだ此で蟹の爪みたいにされちゃったら。
「然うか・・・。先偶々ロードが走り込みに行ったのを見掛けたから丁度良いと思ったんだが。」
しゅんと明らかにセレは項垂れてしまった・・・そんなに変わりたい物だろうか。
と言うより意外だ。セレ、変化って嫌う方だと・・・あれ、ロード?
「んん、何でロードなんだ?何が丁度良いんだ?」
「何がって、多分トレーニングに行ったんだろうし、同じメニューを自分もしてみれば、効果はありそうだと思ったんだ。」
「あ・・・あー然う言う事か。御免セレ、やっと意味が分かったぜ。」
肉体改造って彼か、もっとマッチョになりたいって意味か。
いやー良かった。そ、そっか、まぁ然うだよな、躯作りか。
思っていたよりも随分健康的な方法だった。すっかり早とちりしてしまったな。
「何か凄く安心しているな・・・一体何だと思ったんだ?」
「いや改造なんて言うからさ、てっきり医者の所で変な手術でもされに行くのかと。」
途端にセレは一気に苦い顔をした。流石に料理に対してじゃないだろう。
露とも考えていなかった様で良かったけど。
「然う言う事か。でも其は無いな。蟹の両手なんて付けられたら堪った物じゃないし。」
うん、彼女も俺と全く同じ感覚を持っていてくれて良かったよ。
「勘違いして悪かったな。ま、トレーニングなら良いんじゃないのか?健康的って言うか。でも・・・ロードを師にするのは一寸、その・・・、」
御勧めはしないかな。彼女は色々と超越してしまっている。
常神である俺達には先ず無理だろう。
だって一体どんなトレーニングをしたらあんな肉体になるか想像付かないし、もう多分種族の差の気もする。
「ん?何か気になる事でもあるのか?」
「いやほらロードの筋力って凄いからさ。見えない丈でマッチョレベルが凄いだろ?だから俺達なんかに真似出来るのかと思ってさ。」
「まぁ然うだろうな。でも若しかしたら私達の知らないコツがあるかも知れないし、勉強にはなると思うぞ。」
「然うだな。俺も然う言うタイプのトレーニングした事ないし、何か掴めるかもな。」
「噫、其に私には干渉力がある。マッチョになりたいと思って頑張れば屹度成れる筈だ。」
「・・・マッチョになりたいのか?」
何だろう、結構皆ロードのマッチョに憧れるんだよな。
圧倒的な力だからなのかな、何か惹かれる物があるのかも知れない。
「はっきりなりたい訳ではないけれど、あって困る事はないだろう?」
何だか彼女はすっかりやる気みたいだ。
こんな事でやる気を出してくれるのは良い事なんじゃないだろうか。
「うん、良いと思うぜ。只危ないと思ったら直ぐ止めるんだぞ。」
「噫分かった。じゃあ早速行って来る。」
すっかり燃えて来たみたいで彼女はさっさとロードを捜しに外へ出て行った。
帰って来るのを待てば良いのに態々陽が出ている所へ自分から行くなんて、余っ程トレーニングに興味があるのだろう。
まぁセレは元々運動神経良いし、大丈夫かな。一体どんな特訓をしたのか、後で教えて貰おう。
昼食の片付けをし乍らガルダはそんな未来の想像に耽るのだった。
・・・・・
「今帰った。」
「あ、御帰りセレ、思ったより早く帰ったな。」
スーとリビングの掃除をしているとセレが帰って来た。
未だそんなに時間は経っていない。ロードを見付けられなかったのだろうか。
「セ、セレさん何処か行ってたんですか?」
暖炉の煤を払い乍らスーが顔を出した。頭の触角以外黔く染まってしまっている。
「噫、ロードを一寸捜しにな。一応見付かったんだが、ウォーミングアップから大切だから、明日きっちり教えてあげると言われてな、帰って来たんだ。」
「ウォーミングアップ?セレさん運動するんですか?」
「少し躯を鍛えてみようと思ってな。私も案外軟弱だから此の際な。」
「セ、セレしゃんが軟弱だなんて、お、思った事無いです。」
何故かスーは暖炉に隠れて小さく躯を震わせていた。
彼女がより勁くなると思って早くも怯えているのだろうか。
魔力が無くなったら此処最近身に付けたり、出来る様になった事一切を失うのだから軟弱以外何物でもないけれど、其を言ったらスーは魔術も使えないからな。
彼からしたら其がデフォルトなのだろうが、爪や牙しか使えないと言うのは矢っ張り不便だろう。
「そっか。じゃあ明日は結構早いのかな。」
ロードが何時からトレーニングを開始しているのかは知らないけれど、少なくとも俺が起きるよりは早い。
セレは霄起きている分、晁は結構遅いんだ。前世の癖なんだろうけれど、一寸不健康な習慣だ。
「然うだな。今日位は早く休むか。折角教えてくれるんだし、万全にしないとな。」
何だかやる気十分な彼女を見ると、自然とガルダは笑みを返すのだった。
頑張って欲しいな、無駄には屹度ならないだろうし。
・・・後はロードが加減を知っているか如何かなんだけれども。
・・・・・
「さ、セレ。私のトレーニングに付き合ってくれて嬉しいわ。一緒に頑張りましょうね。」
此処は店から少し離れた曠野。
霄型のセレもロードの生活習慣は余り掴んでいなかった。
だから早いと言っても何時トレーニングに行くのだろうと長い間テレパシーを張っていたのだが。
其でも随分早かった。未だ鳥達も寝ている時間だ。
突然ロードが起きたので慌ててセレも続いたが、少し早過ぎる・・・眠いな。
目元を擦って少し伸びをする。対するロードは元気一杯な様子だ。
頬の輝石も石竹色に煌いていて血色が良さそうである。
「此方こそ、今日は宜しく頼むぞコーチ。」
「コーチ!」
両手を自分の頬に添え、声高にロードは叫ぶ。
・・・本当に元気だな、リアクションからも良く伝わって来る。
「良い、良いわ其!然うよ、此のシチュエーション『恋愛&変態 四十三巻〜俺の情熱は無限大!〜』と同じ!此の特訓で互いの絆を育み、確かめ合うのよ!」
「そ、然うなのか。」
良く分からないけれども彼女がやる気十分なのは良く分かった。
「其にしてもロードは晁早いな。こんな早くからしているなんて感心だな。」
「だって今から始めないとガルダが作ってくれる朝餉を食べ損なってしまうわ。其ってとっても勿体無いでしょ?」
ん?朝餉は三時後位じゃないか?時間感覚が狂って来るけれども。
・・・え、今からそんなみっちりするのか?い、いやまさかな、休憩とか入れて、だよな。
「じゃあ早速始めましょうか。先ずはウォーミングアップ、ダイナミックストレッチよ。此を先にしないと躯を痛めてしまうからじっくりね。」
言いつつロードは軽い柔軟運動を始めた。
成程、ダイナミックストレッチか、勉強になるな。自分も真似から入ろう。
ロードと一緒に自分も足を延ばしたり、膝を上げたりする。
斯う言う運動、自分は教えて貰った事なんて勿論ないし、我流だったから余り慣れていない。
普段しない動き許りだからしっかり見ていないと。
「じゃあ今度は土踏まずが見える位足を曲げて、リズミカルにね。体幹を鍛えるわよ。」
「体幹か。余り聞かないが、其処を鍛えると如何なるんだ?」
「然うね、躯が引き締まるし、怪我の防止にもなるわ。セレみたいに素早く動き回るには体勢を直ぐ整える為にも必要なんじゃないかしら。」
「成程な、一寸意識してみるか。」
ロードは結構教え方が上手いな。其に理に適っている。
安心して受けられると言うか、立派な先生だ。彼女を師に選んで良かったな。
「さ、柔軟ももう十分ね。所でセレ、確認が漏れていたけれども、具体的に何処を鍛えたいのかしら?」
「特に此と言ったのは無いんだが、然うだな。ロードの普段のメニューと同じにしてくれ。」
彼女は全身鍛え上げられている。付いて行けばオールで鍛えられるだろう。
「分かったわ。じゃあ先ずは走り込みね。遅れた分を取り戻すから一寸ペースを上げるけれど、着いて来て頂戴ね。」
「噫望む所だ。」
足には自信がある。特に気を付ける事も無いし簡単だな。
「折角だし、私の御気に入りのコースを案内するわ。じゃスタート!」
言うや否や瞬きの後にロードは遥か彼方を走っている。
慌てて我に返って後を追う。一寸待て、一寸ペース上げるって言っていたけれど、此って全力疾走じゃないか!
加えてロードの脚力を少し舐めていた・・・速い、純粋に速過ぎる。
もう足が漫画みたいにぐるぐる回っているし、波紋があるから辛うじて見失っていない丈で、瞬きで地平線迄走って行っているのだ。
まるでテレポートだ。彼女はあらゆる科学の夢を、己の肉体のみで叶えたと言うのか。
秒速3kmか?いやもっと早い、こんなの追い付ける訳がない。
彼女が何処迄行くか分からないし、普通に足だと絶対無理なので、仕方なく四肢で走る事にする。
此方の方が断然速い。此で少しずつ距離を詰めるぞ。
セレは獲物を狩るチーターの様に、荒野を只々駆けるのだった。
・・・・・
「・・・ゼハッ、ッ、ハ、ハッ、」
荒い呼吸を繰り返し、何とかセレは走り続けた。
ずっと全力疾走なんて躯が持たない、もう一刻は走っているのに一向に彼女はスピードを緩めてくれないのだ。
もっと斯う・・・軽いランニングみたいな物を想像していたのに、一体何何だ此は。
何度か転けそうになるのを気力で耐える。最早遠くのロードは蜃気楼なんじゃないかと思えて来た。
此の儘じゃあ、こんな何処とも知れぬ荒野で力尽きてしまう。其丈は避けないと。
・・・仕方ないか。
止む無くセレは翼を羽搏かせて飛び上がった。
そして地擦れ擦れを滑空し、地を蹴って一気に加速する。
流石に此なら追い付ける。と言うより斯うでもしないと追い付けないってどんな脚力だ。
何とかロードに近付いたが、彼女は涼しい顔で走っていた。
汗一つ掻いていないのかも知れない・・・此が本物の化物か。
相変わらず彼女の足は漫画とかで見る様なぐるぐる回転をしていて、最早早過ぎて波紋で追えない。
加えてまさかとは思っていたが、余りの脚力に僅かに地が震えている様だった。
小刻みに激しく、こんな近付いたら良く分かる。
・・・飛んでいて良かった、如何やら先から何度も転けそうになっていたのは此の所為の様だ。
走るのに必死で気付いていなかったが、足を取られてしまっていたのだろう。
「あらセレ、並走出来て嬉しいわ。」
「・・・何か狡をしているみたいで悪いな。」
でもじっと観察していても彼女のフォームは真似出来る物じゃあない、もう出来る気がしないのだ。
「然う言えばセレは飛べる物ね。翼のトレーニングも必要だと思うし、別に良いんじゃないかしら?」
彼女が寛容な心の持ち主で良かった。狡だから没収ね!とか言われて翼毟られなくて良かった。
「でも私、飛行のトレーニングは分からないわ。御免なさい、其処は我流になっちゃうけれども。」
「いや別に、こんなスピードを出して飛ぶ丈でも十分だ。」
抑翼の無い彼女が知っている方が恐い。今は只飛んでも鍛えられるだろう。
「然うね・・・あ、見えて来たわ!さ、此処からが走り込みの本番よ。」
走り続ける二柱の前には一つの火山があった。
何処ぞの次元の死火山なんて比じゃない、滅茶苦茶に噴火している。
「・・・ん、ロード、其処は流石に危なくないか?もう少し迂回しないと。」
もう噴煙とか火球とか降り注いでいるのが見える。だのにロードの足は止まらず、曲がりもしない。
「迂回したらトレーニングにならないわ。此の儘彼の中を突っ切って周回するわよ。」
突っ切って周回⁉
言葉の意味が理解出来ずに思わずセレは彼女を見遣った。
・・・何だか嫌な予感がする。少し下がって彼女の出方を見よう。
少し丈高度とスピードを下げ、見失わない程度に後を追う。
そんな彼女に向け、次々と岩が降って来ていた。
一瞬零星を出し掛けたがぐっと堪える。魔力達も動かないで貰おう。
本来なら絶体絶命の大ピンチ、だが、屹度彼女の筋肉なら・・・応えてくれるのだろう。
ロードはちらと丈旻を仰ぐとステップで岩を躱して行った。
衝撃で地が割れても何のその、より大きな衝撃を与えて相殺している。
彼女の脚力は岩石より勁いのか・・・成程。
だが可也の数の岩だ、全てが全て避け切れる物でも無い。
其でも真っ直ぐ彼女を狙っていた筈の岩は気付けば消滅していた。
・・・彼女が実は無の使い手だった、何て事はない。魔力なんて変わらず感じていない。
彼女は迫り来る岩を突き一つで塵に還元していたのだ。
・・・いや、言語化したけれど意味は今一分かっていない。え、岩を一体如何したんだ?
突き一つで岩を塵に?いや其は一体如何言った理論なんだ。
彼か、余りの力に岩の方が耐えられなくなって壊れたのか?
・・・・・。
如何しよう、脳が受け入れるのを拒否している。彼のマッチョを許容出来ていないのだ。
だってそんな事現実で出来るか?物理法則としてあり得るのか?
どんな奇術よりも奇術めいている、岩があんな消えるなんて。
何とか其処迄理解した所で知らず躯が震え始めた。
此は武者震いなんかじゃない、久しく感じていなかった恐怖だ。
自分は、理解してしまったのだ。若しもロードと戦えば、恐らく彼の突き一つで死ぬのだと。
魔力とか干渉力とか関係ない、だって塵にされたら、幾ら細胞一つ一つが単独行動出来たって意味が無いのだ。
無をぶつけられるのに等しいか、其を只の腕力でやってしまうなんて・・・。
矢っ張り欲しい彼の力、彼こそが正に自分の求めていた物だ!
だって魔力も無しに無を放てるんだぞ、最強じゃないか!
まさかマッチョが此処迄末恐ろしい物だったとは・・・自分は随分と舐めていた様だ。
店で最強なのは屹度彼女だ。其丈の力を彼の拳は秘めている。
其が分かった丈でも可也の収穫だ。彼女の勁さを再認識する事が出来た。
熟、良くアティスレイはこんなのと戦った物だ。彼女は真の勇者か、本当に只の愚か者だったのかも知れない。
自分は当然同じ芸当なんて出来ないので頓岩を避けて行く丈だが、其でも可也の数だ。
「セレも、付いて来れているのね。じゃあ此の儘ペース上げるわよ!」
え、此以上如何するって言うんですか?
一回此方を見遣ったかと思うと、ロードは火山に向け、何度か突きを繰り出した。
只の正拳突きにしか見えなかったが・・・まさか、
セレが唾を呑んだ瞬間、火山が一際噴火をした。
其迄の比じゃなく、最早火砕流を起こし乍ら焔を噴き出している。
「さ、此の儘もう一周頑張りましょ。」
「・・・・・。」
う、うわー丗の神の皆さん!此の方、突き丈で火山を噴火させちゃいましたよー!
いや何かズドンと重い衝撃が来たけれども、まさか其を火山に直接当てるなんて。
とんでもない大災害だ。彼女、自分の為にこんな恐ろしい事をしていたのか!
噴火って、地下のプレートを己の拳で彼是したと言う事か?そんな事がたった一柱の正女に可能なのか?
恐怖で翼が固まり掛けたが何とか羽搏いた。
今此を止めたら死んでしまう、今大災害の真っ只中なのだから。
彼女は変わらず走り乍ら岩を砕き、噴煙を退け、火砕流を拳圧で牽制していた。
す、凄い、当たり前の顔して天変地異起こしてるよ・・・何が凄いって、何ら超常的な力を使わず、己が拳丈で此を成していると言う事だ。
純粋な腕力丈に止め様がない。此、自分とロードがバトルする事になったら、自分は如何戦えば良いんだ?
今後然う言った敵が出た時の為にシミュレーション為可きだな。
実際本当に魔力の無い所でこんな奴と遣り合ったら勝ち目がない。
・・・うん、冗談抜きで負ける気がする。
然うか、こんな所に自分の弱点があったとは・・・此はしっかり考えないとな。
突然降って来た岩を既で躱す。
此位なら何とか出来るが、自分も反撃と言うか、少し手を加えてみるか。
続けて来た岩に向け、爪を振るう。
う・・・飛んで来る物を狙うのは難しいな、命中はしたが力が上手く入らず少し押されてしまう。
斬り裂く事は出来なかったので尾で思い切り押し返す。其で何とか事無きを得たが、腕を少し痛めてしまった。
・・・成程、此も良い訓練になりそうだ。慣れる迄暫く続けてみよう。
スピードは変わらずなので、何とか置いて行かれない様警戒しつつ、セレは眼前の岩と対峙し続けるのだった。
・・・・・
「そろそろ火山も落ち着いたわね。」
何周か繰り返し、やっと火山は火球を吐かなくなった。
「あ・・・噫・・・そ、然う・・・だな。」
ロードが足を緩めてくれたので何とか追い付ける。
セレは完全にばて切っていた。気力で行くのももう限界だ。
まさかこんなハードだったなんて・・・もう今晁丈で何度死に掛けた事だろう。
翼も痺れて来たし、判断力も鈍くなって来た・・・魔力疲れじゃなく、体力消耗なんて何時振りだろう。
「あらセレ元気が無いわね。・・・あ、御中が空いたのかしら。フフ、流石に朝餉にするのは未だ早いわよ。」
飯より今は寝たいかな・・・。
今寝たら半日はぐっすり眠れそうだ。モフモフがあったら丸一日だ。
火山も落ち着いてくれたので少し気が楽になる。ロードも進路を変え始めた。今から家路に着くのだろう。
「・・・ロードは、何時も本当に、頑張って・・・るんだな。」
「フフ、如何したのセレ。頑張るも何も躯作りは私の趣味よ。其にセレの御蔭で私は斯うして外へ出て、新しいトレーニングを確立したのよ。迚も楽しませて貰ってるわ。」
頬の輝石が仄かに絳く輝く彼女の笑顔は何とも素敵だった。
何というか眩しい。心からの曦と言うか、自分には絶対出来ない顔だ。
そんな風に礼を言われると何か歯痒い、悪い気はしないけれども。
「然うか。私も嬉しいよ。只・・・あの、えっとロード、」
出来れば此の穏やかな空気の儘で居たかったが、然うも言ってられなくなって来た。
「如何して・・・火山を登っているんだ?」
帰る為に回れ右したのかと思ったが絶対違う。
彼女の脚力が衰えなかったので直ぐには気付けなかったが、明らかに斜面を登っている。
「如何してって、次のトレーニングが待っているからよ。」
「っ・・・次、だと、」
熱気が一気に押し寄せ、少しふら付いてしまう。
でも此のふら付きは熱さの所為丈じゃあない。
次?次って言った?あ、そっか、未だ走った丈なんだっけ・・・。
でも走り乍ら火山を噴火させたし、彼の大災害から生きて帰って来た。もう十分過ぎる経験は積んでいるんじゃないだろうか。
実の所、翼の先とか髪とか肩とか、所々少し焼けてしまっている・・・全てを防ぐのは波紋でも無理だったのだ。
まさかトレーニングでこんな怪我するなんて思っていなかったのだ。正直、柔軟体操と関係ない怪我許りだし。
でも山登りって・・・今から一体何をすると言うんだ。
悶々と考えていると山頂に着いてしまった。
其処からの眺めは正に地獄に等しい。
火口から覗けば活きの良い岩漿がごぼごぼと音を立てて跳ねている。
まるで此の中で巨大な生物が眠っているかの様だ、火山って生きているんだな。
黔日夢の次元を除けば生で見たのは初めてじゃあないだろうか。
此処からでも熱さが伝わって来る・・・溶けてしまいそうな程の熱気だ。
此が観光とかならもっとじっくり見たかったが、今はトレーニング中である。
一体此からどんなトレーニングが成されるのか、其の事でセレの頭は一杯になっていた。
「・・・ロード、一体今からどんなトレーニングをするんだ?」
機嫌を窺う様に恐々尋ねてみる、こんなに緊張したのは何時振りだろうか。
「えぇ、先ずは飛び込むわよ。」
「・・・・・。」
理解出来ずに思考停止するセレの目の前で、ロードは大きくジャンプして火口へ飛び込んだ。
プールやベッドにダイブする感覚だ。はっとセレが我に返った時には彼女の両足は地から離れていた。
「っロードッ‼」
目の前で仲間の自死等見過ごせる筈もなく、慌ててセレはロードに飛び掛かった。
こんな、こんな所であっさり御別れなんてしてみろ、大神に確実にぶっ殺されるぞ!
「ちょ、一寸セレ危ないわよ。」
後一寸でロードの手が取れそうな程近付いたセレをそっとロードはやんわりと断った。
其のやんわりと払われた手であっさりセレは吹き飛ばされてしまい、火口の壁にぶち当たってしまう。
余りの事に軽い脳震盪を起こし掛けたが何とか持ち直す。
あ、危なかった、彼の儘落ちていたら今頃死んでいたぞ。
荒い呼吸をして羽搏き、何とか岩漿ダイブは免れる。だが、
ロードを一柱、逝かせてしまった。危ないって、確かに此の手は傷付けてしまうだろうが、全身溶けるよりはましだっただろうに。
動揺で息が乱れる。酷い熱気の所為で肺毎燃えそうだ。
せめて何か残っていないか、いや岩漿ダイブしたのだから無理か。
此の儘此処に居ては自分も焼かれる、せめて避難しないと。
熱さと疲れの所為か頭も働かない・・・其の所為かぼうっと幻覚迄見えて来た様だ。
岩漿の上をロードが走っているのだ。元気良く足を素早く動かして。
でもそんなのには騙されないぞ、岩漿の上なんて歩ける筈もない。筋肉なんて関係ない、溶けてしまうのだから。
彼を見続けたら自分も誘われて飛び込みそうだ。・・・いや、こんな所では終われない、前を見ないと。
「あら、セレも早く来なさい!こんなの今しか出来ないのよ!」
噫、ロードの声がする。彼の幻が呼んでいるのだろう。
でも振り返る訳には行かない。だってロードはもう、
「セーレー!一寸何処行こうとしてるの!来ないなら・・・一寸強行手段取るわよ!」
いやにはっきり声が聞こえるな・・・。
流石に幻とは言え煩わしくなって来た。そんなに自分も溶かしたいのか。
「もう好い加減に・・・っ⁉」
振り返ろうとして波紋に違和感、岩漿の塊が此方へ飛び掛かって来ていたのだ。
当たったら死ぬ!当たったら死ぬ!当たったら死ぬ‼
目前に迫った死ぬの二文字に慌ててセレは羽搏いて其を去なす。
あ、危なかった・・・こ、こんな所でこんな目に遭うなんて。
何で自分は自然災害に殺され掛けているんだ。火山舐めていました、だから帰らせてください。
「ほら避ける元気があれば大丈夫よ。さ、セレ!」
「・・・・・。」
あれ、何か此の幻、今自分を殺そうとして来たのか?
波紋で見る限り、此の幻が走り乍ら岩漿を蹴って此方へ彼の岩漿の塊を投げて寄越した気がするが・・・。
えぇ、幻ってそんな事するのか?此奴はハリーの幻みたいに意思があるのか?
「ちょ・・・セレ、本当に如何したの。見てる丈じゃあトレーニングにならないわよ?」
「此がトレーニングだって言うのか・・・。」
つい幻に応えてしまった。だって余りにも先迄居たロードそっくりだったから。
己の後悔が生んだ幻にしては・・・良く出来ている気がする。
「然うよ。完全に焼かれる前に走り抜けるの。聖で治し乍ら行けば如何にかなるわ。」
「え・・・じゃあ生きてるのか?」
「生きてるって、大袈裟よセレ。私只走ってる丈じゃない。」
「・・・よ、良かった。」
ほっと息を付く。
大丈夫、大丈夫だろう。此処迄しっかり話せたならロードに違いない。
何より此の訳分かんない行動をトレーニングと言っているんだ。自分の想像力の外を行くなら間違いないだろう。
「まさか其もトレーニングだなんて、てっきり岩漿ダイブしてしまったのかと思って私は、」
知らず流れていた冷汗を何度も拭う。
本当良かった、無い心臓に悪過ぎる。
こんなあっさり仲間を失うのかと思った・・・。まぁ前世では割と良くある事だったけれど、奴等と今の仲間は思い入れが全然違う。
「フフ、セレに心配して貰えるなんて一寸嬉しいわね。」
「いや然う言う事じゃなくて・・・いやもう良いけれども。」
こんなに心乱されるなんて、確かに我に返ると少し恥ずかしくなって来た。
其でもロードに軽く小突かれた丈で吹っ飛ばされた事、一撃死する所だった岩漿を此方に投げ付けて来た事は忘れないからな。
「ほらセレ、無駄話も其位にしないと。何の為に此処迄来たの、冷える前にやっちゃいましょ。」
「いや多分私が其のトレーニングをしたら死ぬからな。」
何気先彼女、とんでもない事言っていたよな。
躯が焼ける前に聖で治して走り抜ける・・・だっけ、いや如何考えても頭おかしいよ。
ガルダなら・・・再生力丈で言ったら可能かも知れないけれど、生命力がある丈の自分なら間違いなく死ぬ。
何方かと言うと苦しんで苦しんで死ぬパターンだ、最悪だ。
「そんなの大袈裟よ。見た目程熱くないし、大丈夫よ。」
言いつつロードはグルグルと火口内を走り回っている。
本当かなぁ・・・確かに案外近くに居ても燃えない様だけれども。
試しに自分の手の甲を一つ取って落としてみた。
黔い甲は真直ぐ落ちて行って・・・ジュッと音を立てて消えた。
・・・・・。
今何百もの自分が焼け死んだって事だよな。幾ら堅い甲だからって、自分の血だし、溶かされる様だ。
・・・全然大丈夫じゃないですよロードさん⁉
「ロード、悪いが此のトレーニングは私はパスだ。私はそんな速く走れないし、燃えてしまうからな。」
「・・・あら、其処迄言うなら分かったわ。火山も大分冷えて来たし、次の所へ行きましょ。」
言うや否やロードは思い切り岩漿を蹴って飛び上がった。
「ッ⁉ガァアアァア‼」
其の拍子に大量の岩漿が噴き出す、やらなくて済んだ安心感で、セレは完全に油断していた。
何とか全身は無事だったが尾の先に岩漿が掛かってしまう、そして案の定其処が焼けて溶けてなくなった。
余りの痛みに思わずセレは飛び上がってそっと尾の先をオーバーコートの中に隠す。
血は焼き切れてしまったので出ていないが、酷い目に遭った・・・矢っ張り火山は危険だったんだ。
薄く涙を堪えるセレを他所に、ロードは直ぐ様走り出して、もう遥か彼方だった。
何というスパルタ・・・昊から自分は何度彼女に殺され掛けたか。
何より当神に其の自覚もない、如何して飃よりこんなに命の危機を感じるんだ。
正直もうトレーニング所ではないのだが、言い出したのは自分である、此処で投げ出す訳には・・・。
深い溜息を付くと直ぐ様セレはロードの後を追うのだった。
・・・せめて次はもう少し優しい所でありたいが。
・・・・・
「お・・・おぉ、此処は。」
次に着いたのは崖だった。
切り立った崖の先からは広大な瀛海が見える。
一面翠の瀛海・・・前世で霄、ガルダと見に行ったのを懐い出すな。
でも如何してか心が晴れない、シチュエーションって大事だな。
こんな素敵な景色なのに自分にとっては只々恐怖でしかない。
一体此処でどんな拷問を行うというのか。
・・・まぁ岩漿よりは大分ましだけれどな。
「さ、セレ、霄明けも近いわ。此処でもう一寸頑張りましょう。」
「噫、此処なら頑張れそうだな。」
陽が出掛かっているのは気になるが、先程の生命の危機は感じない、大丈夫だろう。
然う勢い込んでいると突然ロードは時空の穴からロープを取り出した。
そして一瞬で簀巻きにされた・・・えぇ⁉
「ロ、ロード、此は一体如何言うつもりなんだ。」
さも当たり前の様に縛られてしまった・・・完全に油断してしまっていた。
翼毎しっかり巻かれてしまっている・・・神質になった気分だ。
というか結構な力だ。全然抜けないっ!
少し力んだ所で全く効果が無かったので焦ってしまう。
何か・・・途轍もなく嫌な予感がする。
「セレは直ぐ翼に頼る癖があるみたいだったから一寸ね。此処なら私と一緒に走れる筈よ。」
一寸ねって何⁉一寸って何なの⁉
こ、此やばい奴だ。如何して本能はこんなに気付くのが遅れたんだ。
屹度ロードから殺意が全く感じられなかったからなんだろうけれども・・・全く、随分と勘が鈍って来た様だ。
今後気を付けないと又こんな事が起きた時に、
そんな回想をしていると突然ロードに崖から突き飛ばされた。
・・・え、何で?自分達仲間だよね?
そんな思いが頭を過ったのは一瞬の事で、何の抵抗も出来ずセレは入水した。
「ちょっ、っごほっ!え、ロード⁉た、助けっ、」
冷たい寒い沈む、怖いっ!
両手を封じられているので当然泳げない。
何より大量の水は恐い、ってか此のやり方完全にギルドの制裁じゃん!
要らない奴を斯うして沈めて見せしめにするって聞いた事あるぞ。で、でも何で自分が処刑されているんだ。
何とかじたばたするけれどもオーバーコートはどんどん水を吸うので重くなる。
躯も冷えて動きが鈍くなってしまう・・・此の儘じゃあ一気に沈んで溺れてしまう。
「ほらセレ!只の水よ、大丈夫。足を動かして!水面から出るのよ!」
いや其無理だからぁ!
何だ其まさか脚力丈で水から出て水面を走れとでも言うのか、そんなイリュージョン出来るか!
あ、あ、で、でもほら自分躯凄く軽いから上手く行けば浮けるかも・・・良し、此処は下手に暴れずに、
恐い気持を振り切って暫し留まってみる、出来れば仰向けになりたいが・・・。
そっと体位を変えてみて違和感に気付いた。
何だ此・・・躯が重い?いや特に御中の辺りが・・・?
まるで海底から触手か何かで掴まれて引き摺り込まれる感覚。
水中では波紋は使えない、だから何処迄も広がる闇みたいで恐ろしさが倍増する。
然うしている間も躯は沈み始めた、全く浮かぶ気配がない。
「ロ、ロード助けっ!か、躯が沈む!」
「噫先鋼鉄の紐で縛ったから重いと思うわ。でも其位の負荷がないと。」
鋼鉄⁉
道理で解けない筈だよ!そんな物で縛られていたなんて、
抑鋼鉄で縛るって何なんだ。そんな芸当が出来るのは彼女位だろう。
・・・何で時空の穴に鋼鉄を入れていたのかは此の際聞かないけれども。
此だと幾ら自分の躯が軽くても無駄だ。直ぐ躯は沈み込んで息が出来なくなる。
一体何丈の深さがあるか分からないが此の儘では何れ・・・嫌だ、そんな最期は嫌過ぎる。
何とか干渉力で水中でも息が出来る様になれば、未だ勝機はあるかも知れない。
今こそドルウェル達との特訓を思い出すんだ。自分は魚、鰓呼吸が出来るんだ。
慎重に口を開けると一気に肺の空気が抜けた。そして只々息苦しくなる。
・・・いや無理だよ!流石に干渉力が高くてもそんな直ぐは無理です!
こ、斯うなったらもう術を使うしかない、トレーニング所の話じゃないんだ。命が掛かっている。
―憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。―
慎重に、でも手早く、溺れてしまう前に早く、
―慈紲星座!―
自分を囲む様に零星が瞬く。
水中で見え難いが大体の位置は知覚している。
零星なら鋼鉄も斬れる筈!やるしかない!
急いで零星を滑らせて鋼鉄へとぶつける。手の甲だとかが斬れるが構わない、早く自由にならないと。
本格的に息が苦しくなり、眩暈がして来る。・・・う、不味い、甘い死が近付いている。
だが其処で翼が自由になった・・・鋼鉄が斬れたのだ。
もう泳ぐ力も余りない、零星達に無理に躯を押して貰う。
水面迄後少しっ、一気に飛び出せっ!
「っはぁっ!ゲホッ、ガッ、うっ・・・はぁっ、はっ、」
や・・・やっと助かった・・・。
其の儘零星達に足を掛けて宙に留まる。
零星に此処迄連れて行って貰う際に背を少し痛めたが、こんなの怪我の内に入らないだろう。
肺に思い切り水が入ってしまい気持悪い、何とか吐いて少しでも息を吸う。
生きてる、自分は生きているのか。
段々と実感するにつれ、全身に血が通うのを感じる。
生きてる、自分は生きてるぞ!
跳び上がらん許りに嬉しい、生きていて本当良かった!
もう自分を縛る彼の恐ろしい鋼鉄は無いので泳げるのだが・・・暫く水には入らないようにしよう。
唯一救いだったのは此の水が真水だった事か。其でも苦しかった事に変わりはないけれど。
噫辛かった。死ぬにしても溺死はないな、普通に苦しいし。
何だかどっと疲れたので其の儘零星の上に留まる事にする。
ロードは・・・うわぁ、有言実行してる。水の上を元気良く走っていた。
足を高速回転させて重力やら引力やらに勝っている、恐る可き超神だ。
まぁ彼女なら・・・縛られてもああやって助かるんだろうけれど、普通彼は処刑だからな。
彼女が走る影響で漣が大きく掛かる。
もう水には浸かりたくないので少し高い所に残ろう。
「あらセレ、サボりは駄目じゃない。」
「いや、軽く死に掛けたからな。少し休憩させてくれ。」
一寸怒ろうかとも思ったが、彼女は変わらず全く悪意が無い様だった。
彼がサボりだと言われるのは納得行かないが、今彼女に反抗するのも恐い。
まさかあんな強行手段で沈められるとは思っていなかったから・・・次何されるのか分かった物じゃないのだ。
「死に掛けたってそんな・・・あ、然う言えば陽が出ているわね。気付かなくて御免なさい。」
陽の所為じゃあないんだが、もっと直接的要因なのだが、まぁ良いだろう。其の方が都合が良いし。
「此方こそ先に言えば良かったな。まぁ私の事は気にせずトレーニングを続けてくれ。見て学ぶ事も大いにあるからな。」
「然うなの・・・。分かったわ、じゃあ少し待っていて頂戴、直ぐ終わらせるから!」
然う元気良く勢い込むと彼女は走り込みを続けた。
・・・もう帰ろうかと思ったが、待って欲しいと言われたな。
流石にもう朝餉の時間だし、何処にも行かないと思うけれど。
其にしても彼の筋肉は伊達じゃないな・・・こんな厳しいトレーニングの果てで身に付くなんて。
ロードが駆け抜ける様を眺めてみるが、別に学ぶ事はない。凄過ぎて学ぶ事が出来ないのだ。
まぁじっくり生を謳歌し乍ら待つとしよう、其位は許されても良い筈だ。
・・・・・
「ふぅ、矢っ張り此位しないと躯が鈍りそうね。」
「お、御疲れ様ですロードさん。」
崖の上で体育座りをして待っていたセレの所へロードはジャンプ一つでやって来た。
遅れてロードの背後で大きな廻瀾が上がる。・・・彼女が動くと毎回天変地異が起こるな。
まさか水面からジャンプ一つで戻って来られるとは思っていなかったので少し不意打ちを食らった気分だ。
彼女の筋力は計り知れない。力業が凄過ぎるのだ。
結局彼女は全身一滴も濡らす事なく戻って来た。半刻も瀛海に居たとは思えないな。
「えぇ、セレも御疲れ様、退屈させちゃったかしら。」
「いや全く、実に有意義な時間だったよ。」
一寸本気でロードとバトルになった時自分は如何為可きか考えていた。
うん、良いイメージトレーニングになった、勝機は全く見えなかったけれどな。
「然う、じゃあ最後にストレッチ丈して帰りましょうか。」
「噫、其位は私も一緒にしよう。」
せめて締め位はな。トレーニングをしてみたいと言ったのは自分だし。
まぁ案外最初のストレッチも普通だったんだ、最後位じっくりしよう。
「じゃあ先ずは前屈ね。其の儘座って居て良いわよ。そして背を曲げて行って・・・、」
其の場でロードは座り込み、前屈姿勢を取った。
手足の甲や爪の所為でやり難いが、何とか真似してみよう。
「・・・セレ、若しかして斯う言った運動自体初めてかしら。」
「噫、前世でもした事ないからな。」
出来る環境でもなかったしな、生きるので精一杯だった。
「然うなのね、道理で少し動きがぎこちないわ。良かったら姿勢を少し整えるわね。」
「ん、じゃあ御願いしようか。」
見様見真似なので違う所もあるだろうし、此処は折角なので御願いしよう。
・・・ストレッチ位は自分でも出来るしな。
「えぇ、最後のストレッチは躯を伸ばすんだけれど、正しいフォームでしないと効果が薄いわ。折角だし、正しい姿勢を覚えて頂戴。」
「噫分かっ・・・だだだだだだっ⁉」
言うや否やロードに背を思い切り押される。
無理矢理前屈姿勢になるが、しっかりと折り畳まれてしまう。
ま、待って、自分足とか、腕とかこんなのだから!そんな伸びないから!背骨ミシミシ言っているからっ!
息も出来ない位しっかり押されているので声も上げられない。
セレは突如襲って来た全身の苦痛に只耐えるしかなかった。
「あら、翼も一寸硬いわね。此の儘伸ばして行きましょう。」
おおおおおおお・・・、
翼をピンと伸ばされるが、其は余り動かしてはならない方向である。
な、何て言うか翼が捩じ切られるっ、あっ、此方もミシミシ言ってる、い、痛い痛い痛い!
前屈した儘だし、ロードの力は凄まじいので抵抗も出来ない、成すが儘である。
知らず出て来た涙をセレは必死で堪えていたが、
ミシミシミシ・・・ボキッ、
「ッギャァアアアァアア‼」
「ど、如何したのセレ⁉そんな断末魔みたいな声出して、」
折れた!折れました!翼が折れたんです!
蝙蝠みたいな翼が二翼共やられました!折られたの前世以来だから滅茶苦茶痛いっ!
と言うより心配してくれるならせめて手を離してくれ!押さえ付けた儘言われても返事出来ないんだって!
必死の抵抗と許りに残った翼をバタバタと動かす。
尾も降参を示す様に激しく降られて、やっとロードはセレから手を離した。
「もう、そんな暴れられたらちゃんと出来ないわよセレ。」
「も、もう十分だから、ロ、ロードは、自分のをして、いてくれ、」
翼を押さえて荒い息を付く。
痛過ぎてもう起き上がれない、土なんて構わず地面に転がった。
折れてしまった翼は明らかに不自然に曲がってしまっている・・・何て痛々しい。
一応此の翼が無くても未だ飛ぶ事は出来るけれども、早く固定しないと変な癖が付いてしまう。
そっと出していた零星を翼に這わせて置く。当分は此の儘にしないと。
「セレ結構躯が硬いのね。今後はもう少し柔軟運動した方が良いわよ。」
然う言いつつロードは自身の体操に戻って行った。
・・・是非とも聞きたいな、其の骨すら柔らかくなる体操を。
厭味の一つでも言いたいが、生憎自分は先のロードの一撃ですっかり怯えてしまっていた。
前世がフラッシュバックした所為だろう、背中が震えてしまう。
大人しくするのが一番と判断してしまっているのだ、今は本能に従おう。
もう大して動けないので其の儘ロードの体操を見守る事にする。
まさか最後の最後でこんな大怪我するなんて・・・勁くなる所かすっかり弱体化である。
まぁ良い、次は無理なく体操をすれば良いんだ。
「・・・・・。」
然う思って只ロードを見詰めていたが、何か変だ。
ロードは前屈等を信じられない位伸ばす。
足を広げて、右足の先の方迄ぐーっと、もう足の先迄ぐーっと。
あんな人体って伸びるのか、と思った所で、
ぶちっ、
そんな生々しい音が聞こえた。
けれどもロードは意に介する事なく、反対の足にも同じ様に手を伸ばす。
ぶちっ、
「・・・・・。」
絶対腕千切れているよな・・・。
え、何、此の子、柔軟体操する度に躯の何処か千切れる迄するの?
で、何食わぬ顔して聖で治し乍ら続けている・・・もう其柔軟でも何でもないよ、神壊体操だよ。
此なら遅かれ早かれ、自分の躯の何処かしらが折られていただろう。・・・首じゃなかった丈ましと思う可きなのだろうか。
其処迄何とか冷静振って考えていたが、全身は危険を感じてガタガタ震えていた。
な、成程な。此がマッチョの恐ろしさか。噫こんなの、知りたくなかったかも知れない。
こんな勝てないとはっきり感じたのは初めてだ。
フォードや丗闇、丗曦とやり合った時よりも恐ろしい、まるで勝ち筋が無いのだ。
―模擬戦位で我の実力を知った風に言うな。―
―じゃあ丗闇は彼のマッチョに勝てるのか?―
―・・・・・。―
御願い黙らないで、其処は闇の神宜しく、無論だ。と力強く答えて欲しかった。
然う斯うしている内にも彼女は自身の躯を千切っては治している・・・。
伸ばしては千切れた足を付け、回したら砕けた肩を修復して行く。
もう音が蘞いもん、肉を千切ったり骨を砕いたり、折る音が絶えず彼女からしている。
一応彼女は聖属性であって、ガルダみたいに再生能力が高いって訳ではない。
だから彼は一々術を掛けて治している筈なんだけれど・・・屹度無意識にしているんだろうなぁ。
何百年、何千年とこんな事しているんだろうし、此が彼女の当たり前なのだろう。
「ふぅ、セレ、待たせたわね。もう帰りましょうか。今からならガルダの朝餉にも間に合うわ。」
「あ、噫、然うだな。」
やっと彼の拷問紛いの運動は終わったのか。音丈と言っても前世を懐い出す様で一気に気分が悪くなってしまった。
まぁ店に帰る頃には元気になるだろう、自分は慎重に、無事だった翼を広げて飛び立った。
ロードはもう当たり前の様に自分を置いて行ってもう遥か彼方を走っている・・・此の翼だと追い付けないだろうな。
店に向けて自分も大きく羽搏く・・・やっと終わったのだと実感が込み上げて来た。
噫、良く自分は生きて帰れたな。下手したら死体すら残らない可能性もあった、十分だ。
何と言うか鍛えられたと言うより、生存本能が強くなった気がする。生きてるって素晴しい。
其にしても・・・ガルダの言った事は正しかったな。彼女のマッチョはそんじょ其処等の物ではない。
―・・・結局御前はマッチョになりたいのか?―
「・・・あーマッチョになるのと、自分が行方不明になるの、何方が早いか比べた方が明白だろうな。」
羽搏く度に痛む翼に苦笑して、セレは飛び続けるのだった。
・・・・・
「お、御帰りセレ、良く頑張ったな。」
帰るとガルダがドアを開けて出迎えてくれた。
少し前にロードが帰ったからタイミングを見てくれたんだろうけれど、彼の笑顔を見ると一気に色んな感情が溢れ出た。
だから自分は無意識の内にギュッとガルダに抱き付いた。此の反応はモフモフのと良く似ている。
「セ、セレッ⁉ど、ど、ど、如何したんだよ行き成り!」
「生きてた・・・私は生きて帰って来れたよ・・・。」
「あ、あー・・・だから一寸危ないかもって言っただろ。」
「うん、次からはもっと言う事聞きます。」
セレがすっかり弱気になってしまったので、何となく事情を察したガルダだった。
甘えてくれるのは嬉しいけれど、此は相当の事があっただろうな。
ロードが、思った以上にセレが付いて来てくれなかったと少し残念がっていたけれど、追い付こうとした丈でも十分だと思う。
別にセレはサボる様な性格じゃないし、付いて行きたくても屹度行けなかったんだろう。
「じゃ、朝御飯食べるか?今日はもうしっかり休まないとな。」
ポンポンとセレの頭を軽く叩いて席へ促す。
彼女は直ぐに席に着いた。・・・うん、素直で宜しい。
其にしても何か彼女焦げ臭い様な・・・?一体何処で何をしていたんだろう。
出した儘の翼も何だか不思議な折り方しているし、余り調子が良いとは言えないな。疲れているとも一寸違う気がするし。
「ん・・・ロードは居ないのか?」
キョロキョロ見遣る様は何だか小動物みたいだ。
波紋がある筈の彼女が然うする時は大抵恐がっていたり怯えたり、慌てたりしている時なんだよな・・・。
「ロード、言うか皆先に食べちゃったよ。中々セレ戻って来ないから心配したんだぜ。」
「然うか。直ぐには帰れなくてな、心配掛けたな。」
「良いって。ま、ちゃんと帰って来てくれて良かったよ、はい。」
そっと温めて置いたスープを差し出す。少し冷めているかも知れないが、彼女には丁度好い加減だろう。
「っはぁ~・・・。生き返るな、何と言うか凄く躯に染み渡る。」
偉く気に入ってくれた様で彼女は満足気だ。
尾も元気一杯振られている、彼女が此処迄気を抜くのは一寸珍しい。
「どんなトレーニングだったか聞いても大丈夫か?」
途端スープを啜っていた彼女は苦笑した。何とも自虐的だ。
「まぁ・・・然うだな、うん。中々アグレッシブな体験をしたからな。」
其処から彼女は凡そトレーニングとは呼べない拷問の数々を語って聞かせるのだった。
・・・・・
「・・・良く生きて帰って来れたな。」
「噫、自分で自分を褒め称えたい気分だ。」
「十分だと思うぜ。ってか安静にしないとな。まさかそんな大怪我だったなんて。」
生きている丈でも凄いと言う可きか。まさか其処迄死に瀕しているとは思わなかった。
ロードだから或いは・・・とも思ったけれども、まさか彼女が岩漿渡りや四肢分離を毎昊しているとは思っていなかった。
そりゃあ納得だよ、あんな躯になってしまうのもな。
「噫、此を食べたら今日はもう休ませて貰おうと思ってな。まさか骨折するとは思わなかったから。」
「うん、其が良いと思うぜ。」
溺死し掛けたんだし、セレにはトラウマのオンパレードだったろう、今日はしっかり休んで貰いたい。
食べ終わって一息付いていると、元気良く扉を開けてロードがやって来た。
「あらセレ!丁度良かったわ。今から昼迄別のメニューを試すけれども如何かしら。」
「謹んで御断りします。」
非常に晴れやかな笑顔で、さっぱり彼女は筋肉天使の御誘いを断ったのだった。
はい、と言う事でトレーニングの御話でした!此、ずーっと書きたかったので書けて良かったなぁとほっこり。セレさんが終始突っ込み役になっている珍しい回ですね。
本当だともっと色々させる予定で組んでいたのですが、確実にセレさんが途中で投げ出すぞと思い削りました。今回良く見たら走り込みしかしていないので、何れⅡが出せたら良いですね。(ニッコリ)
因みに一寸だけダイナミックストレッチだとか詳しい用語が出ていますが、此は最近自分がリングフィットネスと言うゲーム、体を鍛えるゲームをしているからですね。実は書きたくても書けなかった理由が、自分が斯う言う運動用語とかに疎い事があり、実際トレーニングって何するの?状態だったので、経験を積んでから書こうとしたんですね。
取り敢えずは彼のゲームを100日以上継続プレイしたので、書いてみた次第です。彼方でも走り込みが結局一番効果がある‼みたいに言っていたので、ロードさんのやり方も強ち間違いでなかったり?
けれどもお勧めは絶対しないですし、効果も保証しないのでやるなら自己責任ですね。・・・抑誰も真似出来ないだろうし。
と言う事で今回は此の位、次回はもう書けているので入力出来次第投稿なのですが、此は結構遅くなるかも知れないです・・・。
一応九月中に出したい!と言う目標があるのですが、リアルが色々、正に人生の節目みたいな状態なので流石に其方を優先せざるを得なくて・・・。
只勿論投げ出したりはしないので、気長に御待ちいただけたらと思います。今回のリアルの事情も、ゆくゆくはもっと書く時間を確保する為に頑張る感じだし、何とか勝ち得たいですね!
其では又御縁がありましたら御会いしましょう!




