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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
66/140

45次元 火口丘を囲むは語業の檻の次元

 今日は、御元気でしょうか?

 今回は何だ彼だ妙に書き終わるのに時間が掛かってしまいました。

 何だろう、一日に書いている量は一定なんですけれどね、気持的に筆遅でした。

 気持と言うより書いているスピード自体が遅かったんですね、だから何時もと同じ分量でも掛けている時間は1.4倍みたいな。

 理由は分かっています、何か久し振りにわーって書いたからなんですよね。

 別の趣味とか、リアルの所為にしたくはないんですが、何かと最近忙し過ぎて心に余裕が無いという・・・。

 然う言う時はぼんやりした話になり勝ちです。プロだったら此は没だ!と切り捨てるんでしょうが、頭空っぽの筆者は其の儘出します。・・・一応大事な部分あるしね。

 人生常に何かある物ですねぇ、此の問題を乗り越えたら次こそ、とは思っているんですが、さて如何でしょう。

 そんな今回はすらっと読む位が丁度良いだろう御話です。一寸珍しいメンツなので御楽しみに。

異なる物は興味を呼ぶ

興味は空気を伝わって人を呼ぶ

人は口を使って人を呼ぶ

人が集まる、私を知る為に

あぁ見ないで、見ないで

普通じゃない事は、そんなにおかしい事なのかい

   ・・・・・

「あー・・・落ち付くな。」

―そーかい、ま、ネーちゃんに喜んで貰えりゃ良いけどよ。―

火鼠で暖を取りつつ、セレは暖炉に手を翳していた。

 時々火の中に触れて彼等を撫でてみる。

 焔の躯の所為で何処迄も手が沈み込む。

 撫でられているか正直分かり難いが、彼等は気持良さそうに目を細めていた。

 何て素晴しい暖炉だ。心も躯も温めてくれる。

 前の次元で色々ごたごたがあり、余り気分は晴れていなかったが、少し和らいだ気がする。

 仕事が失敗すると言うのは如何しても凹む物なのだ。

 何処迄行っても自分は壊す事しか能がないんだと思わされる。

 実際、自ら望んでいる事でもあるだろう、生き残るのには此の道しかないと、自分で狭めたのだから。

 然う都合良くは行かない、変わると言う事は然うだろう。

―ネーちゃん何か御疲れか?―

「いや、大丈夫だよ。」

そっと手に金平糖を落として彼等に差し出す。

 棘だらけの手なのに顔を突っ込んで火鼠は美味しそうに食べてくれた。

 はぁ・・・最高の癒しだ。

―美味ぇ、御飯貰えるなんて幸せだぜ。―

「御前達も苦労しているな。」

金平糖に交じってゼリービーンズが出て来た。

 然う言えばドルウェルの子は元気かな。

 実は一回ガルダに頼んでゼリービーンズを届けた事があるのだ。

 ・・・うん、偉い目に遭ったけれども。

 龍達に囲まれてもみくちゃにされた記憶しか無い。

 龍は不思議なシンパシーでも使えるのだろうか、あれよあれよと龍達が集まって来たのでしっかり癒されてしまった。

 ・・・癒されて(バカ)りだな自分は。そんなに病んでいるつもりは無いけれども。

 又食べたいって言っていたし、持って行きたいけれども。

 只ガルダに此以上頼むのもな。

 前世の事を懐い出してからは猶の事、もう一寸(チョット)自立したいとは思っている。

 金の面倒を全部彼に託してしまっているのだ、此じゃあ昔と変わらない。

 一応食べなくても良い躯になったんだし、衣服等の生活必需品のみで終わる位なんだ。自分も何かしたいな。

 店をしたいと言う我儘(ワガママ)を通してしまっているのだし・・・偶には自分の事以外にも時間を使わないと。

 と言っても出来る事と言えば、昔していたみたいに特殊な店に自分の爪だとかを売り付けるか、大道芸でもするかの二択だ。

 ・・・一応殺し屋に戻るのもあるか、其の三択だな。

 でも大道芸だと魔力達や龍達に協力して貰ったら凄いのが出来る気がする。

 そして多分客の中にライネス国だとかの兵が紛れ込んでいて、街中でドンパチする様になるんだろうな。

 容易に其の未来が見えて案は直ぐに立ち消える。

 一緒に皆と芸をすると言うのは一寸(チョット)楽しそうだと思ったけれど、リスクも大きいな。

 となると・・・うーん、(ソモソモ)ガルダは如何やって稼いでいるんだろう。

 前一応勤めていた事になっていた鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)は自分で倒産させちゃった訳だし。

 謎だ・・・ガルダの三大謎の一つだろう。

 うーん、矢っ張り簡単な事じゃないな。

 昔ガルダに神は御金要らないんだよーと言われたが、あって困る事はない。

 其の位の価値の物だから猶の事、難しいのかも知れないが。

 実際T&Tからの購入はそれなりにしている筈だけど、支払いは如何しているんだろう・・・何だか店を支援するとか言っていたけれど。

 ()う言う事を考えると、神として本当に自分はひよっこだ。分からない事、知らない事が多過ぎる。

 かと言って気軽に外に出て良い身の上じゃないしな、まぁロード、ガルダに又聞いてみよう。

「っおっと、セレこんな所に居たのか。」

部屋から出たガルダは足元で座っていたセレに驚いて少し避ける。

 噂をすれば影が差す、か。

「噫、火鼠達に一寸(チョット)癒されていたんだ。」

「そっか、先の次元、大変だったんだろ?ドレミ達が急にセレが消えたって慌ててたぞ。」

「ん・・・然うか、確かに。私は御茶を飲んでいたのに急に飛ばされたものな。」

すっかり忘れていた、然うだ。ドレミと次元の彼此(アレコレ)話していたら急に。

 壟枉の儀式で呼ばれたんだろうけれど、脈絡が無くて驚いたな。

「何だか不安定だな。そんなに次元と近かったのかな・・・。まぁ兎に角しっかり休めよ。折角だし、御茶の続きでもするか?」

「ん、良いのか?良かったらまぁ・・・御願いしようかな。」

「俺も暇だったし、丁度良いな。じゃあ一寸(チョット)待っててくれよ。」

然う言うとガルダは足早にキッチンへ向かってしまう。

 つい彼には甘えてしまうな、昔からの癖だ。

 何と言うか、ガルダは気負いさせないと言うか、気楽に頼り易い空気を作ってくれるんだ。

 気を遣う、とか然うじゃなくて・・・だからつい流されてしまう。

「・・・何処かでけじめを付けないといけないんだがな。」

―ん?まぁ何だその、頑張れよ。―

「噫、有難う。」

火鼠達をもう一撫でする。

 本当に安らぐ、焦る気持だとかが流れて行く様だ。

「良し、と。おーいセレー。」

「ん、早いな。有難う、一寸(チョット)頂くか。」

席に着くともうすっかり準備が整っていた。

 ・・・其にしても早くないか?ガルダのハウスキーパーとしての腕が上がって来ている気がする。

 何だか甘酸っぱい華の香りがする御茶に、大皿に乗ったクッキー。

 見ている丈でワクワクして来る、流石ガルダだ。

 出していた尾が躍り出さない様そっと宥めて置く。

「丁度此のクッキーをリュウから貰ってさ。作り過ぎたから御裾分けだって龍達が持って来てくれたんだよ。」

「然うなのか。御礼、言って置かないとな。」

菓子を見ると如何しても未だアティスレイの夢がちらつくが・・・(アカ)くない、大丈夫だ。

「セレが御礼言いに行ったら又御裾分け貰いそうだけどな。其持って来た龍達面白かったぜ。リュウから頼まれたんだって嬉しそうだったよ。」

「其の時出られれば良かったな・・・。そんな可愛い御客さんなら大歓迎だ。」

少し紅茶を冷まして出してくれたので直ぐ飲める。

 クッキーも一個貰った。ゴロゴロした一見石みたいな丸っこい焼き菓子だが・・・。

「ほぅ、中に此は果物か・・・?茱萸(グミ)みたいな物が入っているな。」

弾力があるので一個で結構長持ちする。丸っこい果物は仄かに甘くて食感を楽しむタイプみたいだ。

「だな、初めて食べたけど、何の実なんだろうな。」

矢っ張りガルダとの食事が安心するな。

 壟枉達みたいに祝われる事自体が然う然うないけれど、此方の方がずっと落ち着いて、味も良く分かる。

「ふぅ、で、如何だったんだ先行った次元。何かあったんだろ、一寸(チョット)元気ないからさ。」

「ん、そんなつもりはなかったが・・・目聡いなガルダは。流石だ。」

続けて話そうとした所で視界の端にぴょこんと触角が写る。

 紅茶の香りに誘われて地下から出て来たのだろうか。

「スーも加わるか?御茶なら未だあると思うが。」

「え、ひゃぁあ!セ、セレしゃんそんな・・・え、えと、何か、良い匂がして、き、来ちゃった丈なのでぇ、そ、その・・・、」

「お、スーも居るのか?折角だし一緒に飲もうぜ。」

実は少し丈セレとスーは相性が良くないんだろうなぁ、とガルダは思いつつあった。

 スーは恐がりだから如何してもセレを恐がってしまう。然う、前世でセレを(イジ)めていた奴等を一寸(チョット)懐い出してしまうのだ。

 俺としては、出来ればセレが今の、晒の無い姿でも気にせず生活出来る様なスペースを与えたい。

 記憶が無かったとはいえ、俺はセレと会った時、彼女に晒をしてしまった。

 其がずっと・・・負い目になっている。

 其はつまり、セレの姿は恐ろしい物だと、俺が認めた様な物だから。

 当時の俺はそんな風に思っていた訳じゃない。只、俺以外の次元の者はセレが黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)を起こした事を知っている。だから少しでも隠そうとした、其丈なんだけれども。

 屹度セレの中で、自分の姿は恐ろしい物なのだと植え付けてしまったのは()の時なんだ。

 セレ自身も当初は如何してこんな姿なのかと一寸(チョット)困惑していたけれども、其も含めて、気にしなくて良いと俺は教えてやる可きだったんだ。

 そんな後悔が、ずっと俺の中にはある。

 其のセレがスーを気遣ってくれるのは・・・俺に対する気遣いでもあるのかも知れないけれど、一寸(チョット)嬉しかった。

 彼女が呼んだのならスーを此処に招いても良いと言う事だろう。此で少しでも親睦を深めたい。

 (ソモソモ)セレは前世の記憶が無い時はハリーやドレミを次々メンバーに加えて行っていた訳だし、彼女は自分が思った以上に社交的なのかも知れない。

 前世は俺と基本二柱だったから、セレが他者と如何接するのかは自分の中でも疑問だったのだ。

 良い事、だとは思う。仲間が増えれば其丈、セレが安心出来るスペースが増えれば。

 ・・・セレが其をプレッシャーにしなければだけれども。自分が護らないとって直ぐ気負ってしまうから。

 スーは怖ず怖ずとだが姿を現した。

 ソファーの裏から出て来て何だか罰が悪そうな顔をしている。

「あ、あの、ご、御免なさい、二柱の御邪魔をする気は・・・無かったんです・・・。」

「別に邪魔だなんて思っていない。土産もあるし、(ユック)りしたら良い。」

ちょこんとガルダの隣にスーは腰掛けた。

 自分は晒を取っているのにこんな近くに来れるなんて、成長しているんじゃあないだろうか。

 ガルダが御茶を入れると嬉しそうに直ぐ口を付けた。

 ガルダには矢っ張り随分懐いているな。()のガルダの大らかさは見習いたい物だ。

 前の次元は結構色々起こったし、自分も整理したい。しっかりガルダ達に聞いて貰おう。

   ・・・・・

「何か・・・セレが動くと色々起きるよな、本当。」

「噫、良く言われる。」

話し終える頃には机の上は土産で一杯になっていた。

 土器やら菓子やら装飾品と種類は豊富だ。

 海牛達が惜しげもなくくれた訳だけれども・・・まさか()の次元の証がたった此丈になるなんてな。

 早速スーと火鼠達に菓子を分けてみた。

自分が持って来たのは薄くて白っぽいクッキーだ。

あげると同時に自分も口にしてみる。

 ・・・ん、中々堅いが、面白い味だ。

 クッキーなのにピリッと辛い。胡椒が可也しっかり効いているな。

 クッキーと言えば甘いのが相場だが、此も良いな。つい手が進む。

「おっと結構スパイシーだな。初めて食べたけれど、セレは大丈夫か?」

「噫舌を丸めていればそんなに辛くないな。」

「そっか、細いからそんな事も出来ちゃうもんな。・・・うん、御茶と合うな。」

「み、皆ひゃんは・・・お、御強いんれすね、」

スーは慌てて紅茶を飲んでいる・・・少し悪い事をしたな。

 対して火鼠達は新たな刺激に驚いているのかパチパチと今迄に見ないタイプの爆ぜ方をしていた。

 けれども紅茶を口に含んでスーは直ぐ様土器を見遣る。

 然う、意外と言うか何と言うか・・・スーは海牛達の土器に偉く興味を持っている様だった。

 土器、壺は表面上(シロ)っぽくて無骨で、何らかの模様が彫られている丈の物だ。

 只中は然うではなく、色玻璃(イロガラス)みたいな物を不規則に敷き詰められている為、光源があるとまるで万華鏡の様に輝くのだ。

 不思議そうにスーはペタペタと土器に触れている。こんなに彼が恐がらずに触れているのは珍しいのではないだろうか。

「・・・良かったら其の壺あげるぞ。」

「え、えっ⁉あ、で、でもそんな、」

だって興味津々過ぎて顔突っ込んでいるんだもん・・・絶対気に入っているのだろう。

「別に遠慮しなくても良い、私だと時空の穴(バニティー)に入れっ放しにするかも知れないし、置いて貰える方が喜ぶだろう。」

「・・・っ、じゃ、じゃあ貰います・・・。あ、有難う、御座いますっ!」

ペコペコと何度も頭を下げるので頭の触角がフラフラ揺れる。

 ・・・見ていると何だか捕まえたくなるな。

「因みに其の正しい使い方は()うだ。()うやって(ヒカリ)に当てて、」

そっと壺を横にし、少し丈火鼠達の方へ向ける。

 すると(ヒカリ)が中で反射して壺から色んな色の(ヒカリ)が溢れ出て来たのだ。

「わ、わわっ!す、凄く綺麗・・・、凄い、凄いです!」

「へぇ、何だか面白い土産だな。」

「噫、中に物を入れるんじゃなくて、見て楽しむ物だそうだ。」

気付くとスーはぎゅっと壺を抱き抱えていた。余っ程気に入ってくれたんだな。

 直ぐ様地下の自室へと持って行ってしまう。彼のあんな積極的な姿、初めて見た。

 でもスーの部屋って・・・凄く(クラ)かった気がする、ガルダが明かりを入れようとしたら断られたって。

 ・・・頭の触角でも光らせて見てみるのかな。

「パン以上に食い付きが良いな。」

ガルダも吃驚した様で、そっと横目でスーの部屋を見ていた。

 まぁ喜んでくれたのなら良かった。遺品みたいな物だからな。

「んー・・・でも話は戻すけどさ。先ず次元の、依頼の件は御疲れ様。慣れない事で大変だったと思うけどさ。」

「噫、もう二つ名は勘弁願いたいな。」

「ハハッ、そんなセレが気にするなんて、益々何て呼ばれたのか気になるけどな。」

絶対に教えない、と言うか名乗りたくないので黙秘する。

「其でもまさか次元が壊れるなんてな・・・そんなの想像もしてないだろ。目の当たりにしたなんて、恐かったな。」

「ガルダも見た事があるのか?」

紅茶に口を付け、少しの間彼は考え込んだ。

「一応あるかな。黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の後直ぐとかはちょくちょく。」

「然うか、ガルダは見ていたもんな。」

「多分最初の頃とかに話したかな・・・、ほら黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)で環境とか変わっちゃって、神が沢山死んじゃったってさ。(アレ)とかが正に其かな。」

「成程な。次元が壊れれば、其に影響を受けている此処も、変化が出るのか。」

「然う言う事。でも俺は其の妙な奴に会った事はないけどさ。」

「ん、一度もか?」

「あーまぁ絶対、とは言い切れないけどさ。()の時は俺、セレの事しか見ていなかったし、壊れた次元にセレは興味なさそうだったからさ、俺も然うしたよ。」

言い乍ら段々ガルダの声は小さくなる。心做(ココロナ)し少し顔が赤い様な・・・。

「あ、えっと・・・へ、変な意味じゃないからな。只フォードの命令って丈で、」

「然うか、丗闇が初めてじゃない筈って言っていたのは其の事か。」

確かに黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)で次元を破壊した記憶自体は(ホボ)無い。

 彼丈(アレダケ)暴れたのだから壊れるのも当然だろうが、確かに意図的に壊していないからか、憶えがないのだ。

 ・・・憶えてないで済まされるか、と怒られるだろうがな。

「あ、あの、セレしゃん、あ、有難う、御座いましたっ、」

スーが戻って来てちょこんと腰掛けた。御茶の続きを楽しむみたいだ。

「噫、喜んで貰えて私も嬉しいよ。」

残った紅茶に口を付ける。・・・結構話し込んでしまったな、ガルダ相手だとつい要らない事迄話してしまう。

 懐った事とか、気になった事とか・・・私の感情の話なんて一銭の価値も無いのにな。

「うーん・・・何かでも先の引っ掛かるよな。ほら前ロード達と話しただろ、コロシの事だとかで、若しかしたら誰かがセレに罪を(ナス)り付けようとしているかも知れないんだ。黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)と言えばセレだから、何かしても其方に尾鰭が付くってさ。」

「噫、そんな話もあったな。」

自分としては別に構わない、まぁ偽物なんて気分は良くないし、見付けたら消えて貰うけれども。自分の悪名がより広まれば、自分は其が力になる。

 店はしているけれども、償いをした所で(ユル)して貰えないのは当然だ。

 善神にはもう成れないし、なる気も無いのだから、広めるとしたら悪名になるだろう。

「ま、セレに(アヤカ)ろうとする奴は如何しても出るだろうなと思ってたけどさ。こんな形は嫌だよな。でも世界の核?其を集めて何になるんだろうな。」

「然う、其の目的が分からなくて、納得が行かないんだ。核なんて・・・(ツヨ)そうだしな。」

ガルダは少し腕を組んで考えていたが、ちらと此方を見た。

「気になるだろうけれど・・・食べるなよ、セレ。」

「私はそんな悪食じゃない。」

如何してガルダも丗闇も自分を狗みたいに扱うんだ。

 そりゃあ確かに焔とかチップとか食べたけれども其の位だ。

―・・・(ソモソモ)そんな代物狗も食わないがな。―

もう、そんな細かい所一々気にしていたら心臓が持たないぞ。

―マスターは心臓すら無いから持っているんですモノネ。―

噫もう外野は静かに!

 ・・・何だか疲れてしまったので小さく溜息を付くとガルダに笑われてしまった。

 気に入らないので紅茶の御代わりを出して貰う。

「只セレ、気になるのは良いけどさ、(アンマリ)変な奴には近付くなよ。何か誘拐されそうでさ。」

「誘拐?私がか?」

何だか意外な言葉だ。そんな(ヤワ)ではないと思っていたが。

「だって次元の核なんて変な物集める様な奴だろ、セレを見たら珍しいからって捕まえるかも知れないだろ。」

「其は捕獲が近いな。前世で何度か遭ったし。」

捕まった後は本当に(ロク)でもない事が待っている。

 大抵は剥製にされ掛けたり、素材、良くて見世物小屋か貴族のペットだ。

 噫ハンティングってのもあったな。本当人間は色んな事を思い付く。

 ・・・懐い出したら何だか胃がむかむかして来た。菓子を食べて紛らわそう。

 怒りに合わせて尾も荒ぶっている。そっと手で軽く宥める事にする。

 ・・・然うだな、もし今なら次元で下手に捕まって如何しようも無くなったら自殺するかもな。

 抗いたいとは思うけれども、其が只の悪足搔きになるなら面白くない。

 一回態勢を整えて、再起を図った方が良いだろう。

「一応ガルダも昔は天使だなんて呼ばれていたんだし、気を付ける可きなのは同じだぞ。」

「へ、へぇ~、凄いですガルダ!天使だなんて・・・、」

「いやぁ天使が俺って(ムシ)ろ幻滅しそうだけど・・・し、(シカ)も其ってずっと昔の話だろ。俺、別に天使じゃないしさ。」

天使だったのはフォードだよな。

 ・・・うーん、彼方(アッチ)彼方(アッチ)で天使のイメージ打ち壊しだよな。

「・・・あら、随分と楽しそうな事してるじゃない。」

「ん、ダイヤか。御茶していた所だが混ざるか?」

「誰が貴方の淹れた御茶なんて、」

「ハイハーイ!私もぅ御茶したいですぅー!」

見せ付ける様に溜息を付いたダイヤの脇をリーシャンが飛んで潜って来た。

 其の(ママ)トン、とテーブルの上に留まり、上目遣いに此方を見遣る・・・噫堪らない!

 理性が飛ぶのを必死で堪えてセレはリーシャンにクッキーの欠片を渡した。

「んっ・・・っ、ほぅ、此は中々、行けますねぇ!」

クッキーを一口(ツイバ)んでリーシャンは目を輝かせた。其の(ママ)小鳥らしく嘴を突っ込んで来る様は何とも愛らしい。

 噫、こんな小さな嘴だったら全く恐くない、只々可愛いのだ。

「・・・・・。」

何だかダイヤから無口の恐ろしい圧力を感じた気がするが、無視して餌やりを続行する。

 多分目を合わせてはいけない奴だ、呪いか何か掛けられてしまう。

「・・・はぁ、リーが御邪魔するから仕方なくよ。本当行儀が悪いんだから。」

彼女が席に着くと、慌ててガルダは紅茶を差し出した。

 彼女は常に不機嫌だ。何が火種になるか分からないからな。

「ふーん、味は悪くないじゃない。」

第一関門突破出来たみたいだ。

「クッキーもあるが、如何だ?」

リーシャンが結構な勢いでがっついているので大分減っているけれども・・・。

 ダイヤはぱっと机の菓子を眺めて少し目を細めた。

 御嬢様は矢張り一筋縄には行かないらしい。

「私甘いのは苦手なのよね。」

「然うなのか。此方は辛目のクッキーだが。」

「あら然うなの・・・因みに此、提供したのは誰かしら。」

勧めた菓子に手を出し掛けてちらとダイヤは此方を見遣る。

「ん、私の貰い物だ。前行った次元のな。」

「・・・・・。」

凄い苦い顔をされてしまった・・・・別に毒なんて入っていないぞ。

 其の警戒心は嫌いじゃないが、もう少しリーシャンを見習って欲しい。

 未だクッキーを突っ突いている・・・もう六枚目である、()の小さい躯の何処に入っているのだろうか。

 多分晩御飯感覚で食べているよな、御中一杯になったらもっとモフモフになりそうなので此方は歓迎だけれども。

「はぁ、仕方ないから頂くわ。」

渋々ダイヤは自分のクッキーを取ると齧り始めた。

 味は良いだろうが、絶対に顔には出さないんだろうな、面白い位ぶすっとしている。

 そんなダイヤの気配を敏感に察してかスーは幾分委縮してしまった・・・。まぁ相性は悪いだろうな。

「何だか・・・賑やかになったなぁ。」

「何よ其、如何言う意味よ。」

「ククッ、まぁ然うだな、賑やかになったな。」

ダイヤが噛み付いて来たけれども自分もつい笑ってしまう。

 前世でも基本二柱だったから、()う言うのは新鮮だ。

「はぁ~幸せでしたぁ~。」

遂に満足したみたいでリーシャンが大きく翼を広げた。

 さて何丈(ドレダケ)モフモフが成長したか見てやろう、そっと両手で包み込む様にリーシャンを持ってみる。

 う、うわぁ・・・何だ此、モッフモフだぁ。

 然うか、モフモフは本体の機嫌とかも比例するのかも知れない。毛艶が良くなるみたいな(アレ)かも知れない。

 何というか羽毛が(トロ)けて沈み込む様なのだ。此は素晴しい一品だ。

 新しい発見に感動していると、スーが怖ず怖ずと此方を見て来た。

 どれ、幸せの御裾分けをしようか。

 そっとリーシャンを近付けるとスーは戸惑う様に両手を出して来た。

 リーシャンも大人しくしているので大丈夫だろう。其の(ママ)彼の両手に乗せてやる。

「う、うわぁ・・・す、凄いです、モフモフって此の事なんですね。」

「然うだろう凄いだろう、私は此が大好きなんだ。」

一寸(チョット)、リーで遊ばないで頂戴。」

遊んでいるんじゃない、此も大事なコミュニケーションだ。

 スーが撫で慣れていないからだろう、少しリーシャンは戸惑っていたが、良い子にしている。

 ダイヤがクッキーを食べる手が少し乱暴になって来ている・・・そろそろ返した方が良いだろうか。

 思案していると突然外への扉が開き、蛍ノ鈴(クリスリング)が軽やかに来訪者を告げた。

 然うやって来た彼は大の字になって床に仰向けに転がった。

 何とも分かり易く弱っている、うっかり仕留めたくなるな。

「う・・・ぅあ、や、やっと・・・帰れ・・・、」

今にも力付きそうである。波紋でも現れる迄映らなかったから何処かの次元から来たみたいだ。

 スーはそんな死体同然の彼にもビビったらしく、早くもソファーの後ろに隠れて触角を揺らしていた。

 ・・・いや受付係が何をしているんだ、(シカ)も仲間にこんなビビっちゃあ・・・、

 然う、現れたのは不幸の申し子ベールだった。

 何があったのか分からないが其の全身はガタガタ震えている様だ。

「な・・・何だか、甘い、匂・・・若しかして此処って・・・天国?」

「何寝惚けてるの、此処は地獄よ。でも優しい私が菓子を恵んであげるわ。」

席を立つとダイヤはベールの前迄行って彼の頭上で両手を(ハタ)いた。

「え、何此の粉・・・っ⁉か、辛っ!え!甘くなっ!っ⁉」

ガバッと飛び起きたベールは慌てて顔を振った。

 クッキーの(カス)だなんて可哀相にと思ったが、同じクッキーでも自分の持って来た方だったみたいだ。

 気付けと思えば・・・其でも酷いけどな。

「私が態々(ワザワザ)起こしに来てやったんだから感謝して欲しいわね。」

「あ・・・あぁああっ‼ダ、ダイヤ!あ、有難う!ぼ、僕なんかの為に、」

全身で非常事態を察したらしく先迄瀕死だったのに急に身構え始めた。

 凄い脊髄反射だ。其の(ママ)ダイヤに付いて席に着く。

 屹度()うやって彼は教育されて来てしまったんだろうな。

「えっと・・・御帰りなのかなベール。あれ、外出てたんだな。」

「・・・えと、僕も何が起きたのか分からなくて・・・部屋に居た筈なのに気付いたら極寒の地にいて、歩き回って倒れたら此処に・・・、」

其恐らく一回次元に行って死んで帰って来ているな・・・。

 何となく想像が付いて何も言えなくなる一同である。唯一ダイヤ丈気にせず紅茶を楽しんでいる。

「多分セレと一緒かな、急に次元に引き摺られたんだろうな、御疲れ様。」

「な、成程、てっきり酷い悪夢だと思っていたら、」

神知(ヒトシ)れず彼もひっそりと大冒険をして来たみたいだ。

 恐らく何も収穫がないあたり彼の不幸さが爆発している。

 其の薄着で一柱極寒の地なんて可哀相過ぎる。

「随分と災難だったな、ほら此でも飲んで温まると良い。」

そっと紅茶を差し出した。流石に見ていられないからな。

「あら、皆優しくて良かったわねベール、一柱手振らで帰って来たのに誰も責めないなんて。」

「う、す、済みません、次はちゃんと仕事しますので!」

いやそんな状況なら何も出来なくて当然だと思う。

 何より彼は結構な薄着だし、使える術も宙だ。其の上の不幸体質なのだから。

「そ、そんな寒い所だったんですか・・・?」

「実は突然次元に行った時に瀛海(ウミ)に落ちちゃって・・・何とか岸に付いたと思ったら足から段々動かなくなって、全身が痛いって思った時には・・・、」

聞いている内にスーもガタガタと震え始めた。

 何とも可哀相な話である、彼は良く次元に着いた直後に事件に巻き込まれる。

 瀛海(ウミ)スタートだったら自分も助かるか分からない、寒さには強くないからな。

 ベールの話を聞いて不憫に思ったのか火鼠達がこそっと火力を上げていた。

 皆に憐れまれているが、未だ心配して貰える内が良いのかも知れない。

「うっ・・・うっ、紅茶とクッキーが、こんなにも美味しいだなんてっ、」

遂には嬉し涙を流す始末である。なんて可哀相な生物なのだろう。

「もう、ベールは大袈裟ね。一寸(チョット)寒かった位で。」

「まぁダイヤの涼も冷たいですからねぇ・・・。でも次元に行ったのは偉いですよぅ。」

行ったと言うより、無理矢理だがな。

「何よリー、まるで私がぐうたらみたいに言うじゃない、只飯食らいだって。」

「そんな事は言ってないですけどぉ、ダイヤはもう一寸(チョット)仕事をする可きだとは思いますよぅ。」

中々はっきり言うリーシャンである。伊達に彼女と過ごしていないと言う事か。

「やっと神殿から出て来てくれたと思ったら今度は部屋に引き籠っているし・・・私も外に出たいですぅ。」

翼をパタパタ羽搏(ハバタ)かせてリーシャンは強気だ。保護者として業を煮やしていたのかも知れない。

対してダイヤは酷く不満そうな顔をしてじっとリーシャンを睨んでいる。本当に冰の様な眼差しだ。

「言うじゃないリー、まさか私をそんな風に思っていたなんて・・・解せないわ。良いわよ、仕事、行ってあげるわ。」

「うんうん、ダイヤはちゃんとやれば出来る子なんですよぅ!」

・・・思ったよりあっさりと落ち着いた。

 絶対行かない、意地でも行かないと渋ると思ったのに可也意外だ。

 此には幼馴染のベールも驚いたらしく、目をぱちくりさせていた。

「其の代わり帰ったら其の翼氷漬けにしてやるわ。」

「っ⁉何で私がそんな酷い目に遭わないといけないんですぅ!」

「自分の身の程を弁えないからよ。言って置くけど私だってそろそろ仕事に行こうと思っていたわ。でもリーが其処に水を差したのよ。」

否絶対嘘だろう・・・。

 色々思うけれども折角行く気になってくれているのは良い事だ。

 若し本当にリーシャンが凍らされる事があれば助けないといけないけれども。

「じゃあ此を片付けたら行くか?・・・然うだな、私も一緒に行って良いか?」

彼女の(ツヨ)さはもう少し間近で見てみたい、鎮魂の卒塔婆(レクイエムストゥーバ)でも頑張っていたと聞くし。

「フン、監視と言う訳ね。良いわよ、受けて立つわ。」

何だか随分やる気な御様子だ。

 彼女のやる気が凍らない内に早々に御茶会は御開きになったのだった。

   ・・・・・

「さてと、そろそろ行くか。準備は良いか?」

「別に準備なんて要らないわよ。其より足が疲れるから早くして頂戴。」

「噫分かったけれども、」

ドアを開けようとしてはたと気付く。

 おかしい、明らかに神数(ニンズウ)が多い。

 自分とガルダと、ダイヤとリーシャン、ガルダのポケットに隠れているケルディ、そして・・・、

「・・・御前も一緒に行くのか?」

「え?は、はいっ、」

「あらベール、暗に足手(マト)いだから来るなって言われているの、気付かないのかしら。」

「え、あ、ご・・・御免なさい。」

しゅんと小さくなってしまった、慌てて両手を振る。

「いやそんな意味じゃなくて、疲れているだろう。先迄次元に居たんだし休んでも、」

「私には仕事をしろと言った癖にベールには優しいのね貴方。」

えー然う取っちゃうの・・・一寸(チョット)面倒だな。

「セレさん!僕なら大丈夫です!ダイヤが、僕なんかを誘ってくれたんですよ!頑張りますから!」

「そ、然うか。まぁ分かった。」

相変わらず不思議な絆だ。然う言うなら(ツヨ)く生きて欲しい。

「然う言う事よ。さっさと開けなさい。」

まぁ当神(トウニン)が嫌じゃないのならもう聞くまい。

 セレは一つ息を付くと、扉を一気に開け放ったのだった。

   ・・・・・

「・・・ふぅ、無事に着いたわね。」

「何だか平和そうな所で良かったねダイヤ。」

「貴方と行って平和だった時なんてあったかしら。」

着いたのは何処ぞの街中だった。

 表面が滑らかで(シロ)い、陶器の様な手触りの家々が並んでいる。

 其の(ドレ)もが見上げる程に高く、柔らかく上部が曲がっていたりと規則性がない。

 窓が沢山付いているが、一見巨大な芋虫型の怪獣みたいだ。

 そんな家が通路を挟んで続いている、中々大きな街みたいだ。

 (ソラ)が明るいので昼間なのだろうか、只家々が上へ行く程曲がっているので絶妙に(ソラ)が隠れてしまっている。

「何とも趣味の悪い家ね。」

「ちょ、一寸(チョット)ダイヤ、一応人様のだから・・・ね?」

街な事もあり、通行人は結構多い。

 街並みは変わっているが、住んでいるのは自分達と良く似た人間みたいだった。

 先ずは次元の主導者(コマンダー)から探さないといけないのだけれども、此の通路の先だろうか。

何とはなしにダイヤが見上げた時だった。

「わー‼ちょ、道、開けてくださいー!」

そんな声を張り上げ乍ら一人の少女が此方に駆けて来ていたのだ。

 でも少女・・・で正しいのだろうか、何だか蟷螂の鎌の様な両手に、蹄のある二本の脚、顔も家鴨(アヒル)の様な平べったい嘴が付き、長い金魚の様な派手な尾が大きく振られていた。

 何だろう()の姿、明らかに異質だ。

 キメラ、と言うより取って付けた感があって一見仮装にも見える。

 そして()の謎生物から次元の主導者(コマンダー)の気配がするのである。

 うわぁ関わりたくない。

 心底ダイヤは然う思った、何故なら少女は屈強な男達に追われていたからだ。

 良し、此の(ママ)道を開けてあげて遣り過ごそう、然う直感したダイヤはすっと道の脇へ逸れた。

 そんな彼女の前を少女が通り過ぎる。そして・・・、

「っ⁉どわーっ‼」

ベールが撥ねられた。

 暢気に街を見ていたからだろう、屈強な男達に撥ねられてしまい、大きく()けてしまった。

「・・・ん、おい待て皆、」

男の一人がベールに目を付けた様だ、其も其の筈、

 ベールの全身は何故か黄金に輝いていたのだ。

「な、何だ此の男、急に金に光り始めたぞ!」

「王が言っていたのは此方かも知れんな。」

「動きも鈍いぞ、チャンスだ!」

男達は混乱して動けないでいたベールをあっさりと捕まえ、簡易式の檻を組み立て始めた。

 見る間に檻は完成し、ベールは中へと投げ込まれる。

「・・・()の馬鹿。」

呆れて物も言えず、助ける気にもなれなかったダイヤは見物する事にした。

 恐らく今ベールがあんなド派手に金に光っているのは、男にぶつかった弾みで宙の術を使ったからだろう。

 其で起きたのが、自身が金に輝く効果・・・只の阿呆である。

 さっさと術を解けば良いのに彼は未だ状況が良く分かっていないみたいだ。

 其の(ママ)檻は閉じられ、あっさりとベールは男達に連れて行かれてしまった。

「ダ、ダイヤー助けてー!」

「自業自得だわ。何で私が助けないといけないのよ面倒臭い。」

何とも冷たく突き放す。

 宙の術を解けば元に戻って開放されただろうに、抜けている所を見るとつい苛々(イライラ)してしまう。

 ベールを担いだ男達は其の(ママ)走り去り、どんどん小さくなって行く。

 彼等が居なければ通りは静かな物だ。

 本当、着いた途端に此なのだから彼と一緒だと疲れる。

「あ、あの・・・済みません、私の所為で、」

こそっとダイヤの後ろの塀から姿を現したのは先のキメラ少女だった。

 何だか随分済まなさそうにしている。姿は晒したがきょろきょろ落ち着きがなく辺りを見ていた。

 心底面倒だけれども次元の主導者(コマンダー)なのだから相手をしないといけない。

 ・・・と言うより一緒に行った全員何処に行ってしまったのだろうか、別れたにしても何で自分がベールと一緒だったのかが解せない。

 そんなダイヤの内側の鬱屈が染み出ていたのだろう、少女は勝手に委縮してしまう。

 其が更に彼女の冷たさを増している事なんて分かる由も無かった。

「フン、別に(ウルサ)いのが居なくなって清々したわ。」

「え、あれ、御仲間じゃあなかったんですか?」

「あんなのと同列に見られるなんて不快だわ。其とも何かしら、仲間だって言ったら貴方が代わりに捕まりに行くのかしら、此処迄逃げて来た癖に。」

「だって突然追い掛けられて・・・。捕まりたくはないですけど、助ける手助けとかはしたいと思って、」

「然う、其の心意気丈は買ってあげるわ。」

向こうが勝手に負い目を感じている分は丁度良いかも知れない。

 精々其の繋がり、利用させて貰うわ。

「助けるにしても他のと合流する可きだわ。面倒だけれども一寸(チョット)歩くわよ。」

「っ!は、はい!」

又あんなのに追われても面倒だし、目立つ街中は避ける可きだろう。

 ()の店主なら全て見えている筈だし、適当に歩けば出会える筈。

 全く、先輩としてリードして貰いたいのに誰も居ないなんて呆れた先輩達だ。

 深い溜息を吐くとダイヤは適当な路地を歩き始めるのだった。

   ・・・・・

「っ⁉何ですかぁ貴方達はぁー!」

「・・・え、あれリーシャン!」

はっと気付いた時にはガルダの目の前でリーシャンは屈強な男達の手に因って小さな鳥籠に収められていた。

 此処は・・・新しい次元か、突然の事で頭が働かない。

 街中みたいだけど、何だ此、何が起きているんだ。

 兎にも角にもリーシャンが見知らぬ男達に誘拐され掛けている、助けないと。

「うわぁあぁ‼ガ、ガルダァ助けてっ!」

突然の声にビクッと背を震わせる。そんな筈は、此処で其の声が、

 振り返ると檻に入れられたスーが涙目で此方を見ていた。

 同じ様に複数の男達が檻を持ち上げている。

「ス、スー⁉な、何で御前が、」

他神(タニン)の空似、何て事はない。確かに俺の名前を呼んだんだ。

「珍しい喋る小鳥に半魚人・・・王へ連れて行かなくては。」

「ぼ、僕半魚人じゃないですー!」

「王って献上品ですかぁ⁉」

成程、一緒に来た筈の俺が何もされていないのは、俺が彼等と似た人間の外見をしているからか。

 でもこんな直ぐ捕まえるって、まるで準備されていたみたいだけれど、

「プハッ、ガルダ、一寸(チョット)待ってくれる?」

気付くとポケットからケルディが出て来た。

 何時の間にかちゃっかり付いて来ていたみたいだ。

 ケルディも彼等に見付かったら連れて行かれるかも知れない、俺はそっと両手で隠した。

「如何したケルディ、今大変な、」

「街中で騒ぎを起こすのは良くないと思うよ。ボク、スーの所行って、様子見てみるよ。城だなんて、此の次元のヒントがありそうだし。」

「確かに然うだけど危ないかもだし、」

「いざって時はボクが中から助けるよ。リーシャンも力を使えば大きくなれるし、ガルダはセレ達と合流して調べてみてよ。」

じゃ決定、と言い残すとケルディはガルダのポケットに潜って行った。

 そしてこっそりとスーのポケットから鼻先を出す。

 何て鮮やかな手口だ。しれっと高度な術を見せてくれるな。

 スーは突然現れたケルディに驚いている様だったが、先と同様の説明を聞いたのだろう、不安そうに頷いてぎゅっとケルディをポケット毎握る。

 スーを巻き込む形になったが来てしまった以上協力して貰おう・・・確かに此処で暴れるのは良くないだろう。

 リーシャンも目聡くスーのポケットに居るケルディに気付いたみたいだ。

 状況も察したらしく、大人しくしている。彼の正体は巨鳥なのだし、其の気になったら直ぐ出られるからだろう。

「良し、では連れて行くぞ。」

あっさりとした物で男達はさっさとケルディ達を連れて行ってしまった。

 最早只見送る事しか出来ない。

 呆然と突っ立つガルダの前で檻はどんどん小さくなり、見えなくなってしまった。

 最後ケルディが愛嬌たっぷりに手を振ってくれたが・・・心配だ。

 屹度大丈夫だとは思うけれど、早く皆と合流して助けに行こう。

 (ソモソモ)一緒に来た筈のセレとダイヤとベールは何処に行ったんだろう。

 来なかった筈のスーが来ちゃったし、何だか嫌な予感がする。

―セレー!ダイヤ、皆何処なんだー!―

テレパシーを思い切り放ってみる・・・でも返事がない。

 と言うよりちゃんと送れているのかも不安だ。少し此の次元、何となくだけれども不安定な気がする。

 近くにいる事を願って歩くしかない様だ。唯一離れた所から次元の主導者(コマンダー)の気配がするし、其を目指そう。

 幸先悪いけれど、立ち止まる訳には行かない。早速ガルダは小走りで向かったのだった。

   ・・・・・

「おっと、やっと見付かったぜ。」

「もう遅いわよ。私を何丈(ドレダケ)歩かせる気なの。」

静かに睨まれて一気にガルダの背が冷える。

 先迄走っていたから少し汗を掻いていたのに直ぐ引っ込んだ。

「えっと、其方の子は、」

「あ、はい今日は。」

「あぁえっと・・・今日は。」

ダイヤと一緒に居たのは見知らぬ少女だ。

 何だか常人と違うみたいで嘴がある。・・・布を被さっているので良く分からないけれども。

 そして次元の主導者(コマンダー)の気配だ。何だかダイヤと一緒に行動していたみたいだし、仕事が早い。

「何暢気に挨拶しているのよ、名前も言えないのかしら。」

「あ、然うですね。私はロアです、訳あってダイヤさんと一緒に行動していて、」

「噫然うなんだ・・・宜しくロアさん、俺はガルダだ。ダイヤの仲間なんだけど一寸(チョット)(ハグ)れててさ。」

見た所ダイヤは一柱か・・・他の皆は未だ捜さないといけないらしい。

「然うよ。貴方が(ハグ)れている間に此方はベールが変な奴等に攫われて大変だったのよ。」

「あ、ベールも連れて行かれちゃったのか・・・。」

うん、何となく予想はしていた。

 でも如何してだろう、俺が見た限りだと人間じゃない、と言うか、珍しい奴を連れて行っているみたいだった。

 王が如何の、と言っていたし、(ソモソモ)人攫いなんてそんな頻発しないだろう、同じ目的だとは思うけれど。

 ベールは何で選ばれたんだ?・・・不幸が珍しかったのかな。

「“も”って何よ“も”って。まさか其方でも連れて行かれたなんて言わないでしょうね。」

「其が・・・リーシャンとスーとケルディが連れて行かれちゃって、」

「貴方しか残ってないじゃない!何してたのよ!」

・・・返す言葉もありません。

 いや一応ケルディが行ったのは自発的だし、助けなかった訳じゃないからな。然う言う作戦と言うか・・・。

 此の(ママ)ではダイヤに氷漬けにされ兼ねない空気だったので急いでガルダは事情を掻い摘んで説明した。

「ふーん、其で?だから俺は何もやってない訳じゃないよーとでも言いたいのかしら。」

「まぁ然う・・・だけど。」

「然う、良いわ。然う言う事にしてあげる。少なくとも()の店主よりは仕事をしているもの。」

「然うセレだよ、何処行ってるんだろうな・・・。」

セレは(アンマリ)此の次元が好きじゃないかも知れないな。

 人間が多いし、外見は違うけれど、閉塞感が何だか()の街と似ている。

 何だか人外は片っ端から捕まえて王の所へ持って行っているみたいだし・・・嫌でも彼女は懐い出すだろう。

 前仕事を失敗したから、と落ち込んでいたのに此の次元じゃあ一寸(チョット)可哀相だ。

 セレなら然う捕まらないとは思うけれども、敢えて捕まっている可能性はあるよな。

 兎にも角にもテレパシーが届かない内は情報収集も(ママ)ならない。

 如何やら此の次元は俺の目当て通り、テレパシーが使えないらしい。

 テレパシーと言うより術全般か。可也不安定で効果も(ホトン)どない。

 一度試しにダイヤにテレパシーを至近距離で送ったが無視された。

 彼女が敢えて然うしている訳でもないだろう、可也の回数試したから。

 其に何時も何となく聞こえていた魔力達の声もしない、大抵は一体?と言うか何個体かはそっと俺に付いて来たりしているのに。

 俺と直接話すって訳じゃないけど、近くに居た其の気配すらしない。

 だから彼等は来れていないのだろう、でも魔力が使えないとなると可也不便だよな・・・。

「・・・まぁ凡その事情は分かったわ。後は此処の話ね。」

ちらとダイヤがロアを見遣ると、彼女の背が伸びた。

 ・・・此の短時間でしっかり教育されてしまった様だ。

「ダイヤさん達も旅行者だとか、私と同じで此の国に来た(バか)りなんですよね。」

「あー然う然う、まさか入国して直ぐ捕まえてくるなんて思わなかったけどさ。」

成程、ダイヤは自分達の事を然う説明したのか。

 確かに然う通した方が楽だな。

「あぅ・・・其は若しかしたら私の所為かも知れません・・・。私隣の国に棲んでいるんです。で、此の国って凄く奥まっていると言うか、死火山の中心に出来ているから外からじゃあ見えないと言うか。」

おぉ・・・然うだったのか、何とも特殊な立地だ。

 じゃあ周りは壁みたいになって囲まれているのかも知れない、天然の檻の様だ。

「でも此の国に私達みたいに尾とか蹄とか嘴の無い変わった人間と言う種族が棲んでるって聞いて私一目見てみたかったんです。そんな不便な躯でどんな生活しているんだろうと思って。」

うーん、俺達と彼女の常識は少し違うみたいだな。

 まぁでも然うだよな、仲間が居るのなら自分達の種族が当たり前って思うよな。

 別に()の次元も、()の姿を人間と断定している訳じゃあないんだ。

 所変われば常識も変わる、然うだな。

「昔は此処とも交流があったと聞いていたんで、私一寸(チョット)飛んで来たんですよ。然うしたら思っていたよりずっと立派な街があって・・・吃驚したんです。」

「因みに此の子は此の尾で飛べる然うよ。」

「や、止めてくださいよぅダイヤさんっ!」

急にダイヤが遠慮なく彼女のひらひらの尾を掴んだので跳び上がってしまう。

 御蔭で彼女の想像以上に人外な姿を目撃し、一瞬言葉を失ってしまう。

 気にはなっていたけれども、うん、離してあげようか。

「と、兎に角、もっと街を見ようと近付いたら・・・兵士さん達を吃驚させちゃったみたいで、私を街に案内してくれたんですよ。」

「そしてノコノコ付いて行った訳ね。」

「う、あ・・・まぁ然うです、」

全く疑う事を知らなかったロアは小さく頷く。

 昔良くセレが言っていたな、人間は恐ろしい存在だから呼ばれても付いて行くなって。

 セレに言われる迄はパンを貰えたりしていたから何も考えずに俺は付いて行っていたけれど。

 世の中には恐ろしい奴が五万と居るって知った今なら、其が何程(ドレホド)恐ろしい事か良く分かる。

「然う、で、付いて行って如何なったのかしら。」

「えと、王宮って言うんですっけ、偉い人が住んでいる所に連れて行って貰えたんです。広くて大きくて綺麗で、本当に凄い所でした!」

「お、おぉ其は良かったな。」

目を輝かせて言っているけれども中々恐ろしい話だ。

 王宮って、其絶対何か良からぬ事起きてるじゃん、普通じゃないぞそんなの。

 でも珍しいから連れて来たとかそんな理由なのかな・・・?其にしてもリーシャン達迄連れて行かれたのは良く分からないな。

「そして王様、一番偉い人間に会わせて貰ったんです。まさかそんな所に連れて行って貰えるなんて思っていなかったので吃驚しちゃって、挨拶したら王様が色々教えてくれたんですよ。」

「其の色々が、如何やら私達にも関係している然うよ。」

ロアは静かに頷くと話を続けた。

「古い文献に、亜人は幸せの象徴だってある然うなんです。亜人と言うより、人語を解する別の生物が。で、今此の国は大きな問題を抱えているみたいなんです。其処で亜人を集めようって話になったみたいで、」

「・・・ん?何か一寸(チョット)話が飛躍していないか?」

幸せの象徴だから亜人を捕まえて王の所へ持って行っているって事か?

 何と言うか其は話が通らない気がする。幸せの象徴が直接問題を解決出来るとは思えない。

 どんな問題があるにしろ、神頼みに近いレベルだよな。

「何でも大昔、亜人が此の国へ来た御蔭で此の国は滅びずに済んだそうです。だから又助けて貰いたいみたいで。」

「助けて貰いたいって言う割には無理矢理捕まえるのね。」

「うーん、其でリーシャン達が捕まったのか?」

「うぅ、私恐くなって王宮から逃げちゃったんです。そしたらどんどん追い掛けられちゃって・・・。」

「確かに其は逃げたくもなるな。」

行き成りあんな檻に閉じ込めます、なんて言われたら当然だ。

 其にしても此の国、街じゃなくて一つの小さな国だったみたいだけど、セレが心底嫌うタイプだよな・・・。

 人間の幸せの為に捕まえるなんて、幸せの象徴って言っているけどやっている事は()の次元と同じだ。

 ・・・益々彼女の事が心配になって来た。本当に何処に行ってしまったんだろう。

「でも、私の所為で皆さんにも迷惑を・・・うぅ、」

目まぐるしく色々起こったからだろう、ロアは可也精神的に弱ってしまっている様だ。

 其でも彼女は次元の主導者(コマンダー)、此の国を救う可能性が大いにあると言うのは一種の皮肉だろうか。

「迷惑だなんてそんな、ロアさんが来なかったら捕まってたのは俺達だろうし、そんな気にしなくても良いですよ。」

彼女の所為でないのは事実だ。単に運がなかった丈で。

「只王宮には行かないとな。皆の事返して貰わないと。」

其の問題ってのを解決してやれれば穏便に済みそうだけど、如何だろうなぁ。

 何だか神質(ヒトジチ)にされているみたいで嫌だけどやるしかない。

「はぁ・・・全く、リーも捕まっているなら私も行かないといけないじゃない。」

心底面倒そうに溜息を吐くが、彼女も来てくれるらしい。やる気を出してくれて良かった。

「然う言えばスーも何故か捕まっちゃったんだよな、何で一緒に来ていたか分からないけど。」

別にスーは行こうとしていなかった筈、リビングには居たけど其丈で。

 矢っ張り次元が不安定だったりするのかな、セレも前然うだったもんな。

 次元で俺達と一緒に仕事をするって言うのはスーにとって良い刺激にはなるかも知れないけれど、来て直ぐ捕まっちゃあ余りに可哀相だ。余計引き籠りになってしまうかも知れない。

 此は早く行ってあげないとトラウマになり兼ねないな。

「プハッ!フゥ、戻って来たよガルダ!」

突然ポケットが膨らんでケルディが顔を出した。

 ケルディの得意技の虚焔(ウツセビ)だ。出来る事は知っていたけれど、顔を見ると安心する。

 大丈夫、だとは思うけど其でもな。

「ケルディ御帰り、大丈夫だったか?」

「ウン!あれ、何か増えてるね。其に此処は何処なの?」

可愛らしく小首を傾げている。セレならイチコロだ。

 只突然の事に二柱は固まってしまった。まぁ傍から見たらイリュージョンだもんな。

「え⁉そ、其の子は一体・・・初めから其処に居たんですかっ⁉」

「・・・・・。」

ダイヤからの無言の圧を感じたのかケルディは鼻先をポケットに隠した。

「ボクはケルディだよ!捕まっちゃったけれど、ボクは手品が得意だから此処迄瞬間移動して来ちゃったの。」

「凄い!小さくても凄い能力を持っているんですね!手品って初めて見ました!」

ま、まぁ魔術は手品みたいな物だし・・・然う純粋に見てくれた方が楽で良いかな。

「手品は如何でも良いけれど、其でリーも連れて来れないかしら。」

「うーん御免ね、此が出来るの、ボク丈なんだ。其に此処、何だか魔力が薄いから(アンマリ)移動出来ないし。」

いやリーシャン以外も皆助けるからな?

「あの、ケルディさん初めまして、私はロアと申します。あの・・・王宮に連れて行かれていたんですよね?彼方は如何でしたか?」

「えっとね、今は大丈夫かな。何だか檻を集めて、一部屋貰ったんだ。部屋からは出られないけれど、食べ物とかくれて悪くない感じだよ。」

「何よ、案外好待遇なんじゃない。」

「其ならまぁ良かったかな、多分客人みたいな扱いだとは思うし、居るのはケルディ達丈か?」

本当良かった・・・ま、幸せの象徴ならそんな悪い事しないよな。・・・ベールは不幸の象徴なんだけど。

「えっとね、ボクと、リーシャンとスーと、ベールと、後は初めて会った龍が居たよ。」

「成程な、(ホトン)ど俺達の仲間か。セレは?セレは見なかったか?」

「んー見てないよ。」

「そっか。うーん・・・本当何処行ったんだろうなぁ。」

此処迄会えないと言うのも何だか変な話だ。

 何かに巻き込まれていないと良いけれど・・・心配だな。

「ダイヤさん達の御仲間って色んな方がいたんですか?そんな捕まってしまうなんて。」

「まぁな、色んな所を旅して増えて行ったからな。其にしても付いてないな・・・。」

「然うだったんですね、其は災難でしたね。」

「でも美味しい物貰って王宮でのんびりしているんでしょう?良いじゃない、私も行きたい位だわ。」

「因みに王に何か言われたりだとか、そんな事はないか?」

「えっとね、何か人口が増え過ぎて困ってるって言ってた気がするよ。食べ物が足りなくなっちゃうんだって。でも何でか、ボク達みたいな人じゃないのが急に一杯見付かったから屹度何か良い事が起こる兆しだって言ってたよ。」

「・・・其の王、阿呆なんじゃないかしら。」

何とも冷酷な一言が彼女から発せられた。

 街中で何て恐ろしい事を言うんだ。此処は人通りが少ないから良いけど、一歩出れば大通りだぞ。

「オォーはっきり言うね。」

「だって然うでしょう?食べ物が無いなら客に振る舞っちゃ駄目でしょ。折角捕らえたんだから其方を食べて足しにする方が、」

「ストーップ!何恐ろしい事言ってんだって!」

慌てて彼女を止めに入った。

 でもロアとケルディにはしっかり聞こえてしまった様で二柱はぶるぶる震え始めた。

「ボクは食べちゃ駄目だからね。狐は美味しくないんだよ。」

「・・・ダイヤさんが王様じゃなくて良かったです。」

「あら、少なくとも私が王ならそんな単純な事で国を困らせたりはしないわよ。」

何だか自信満々に言っているけど、多分其の政策は食い扶持を減らす、なんだろうなぁ。

 どんどん使えない国民を処刑して、下手したら其の処刑したのを食べて生き永らえるのだろう。

 恐ろしい暗黒国家の誕生だ。

「ね、ガルダ。ボクは如何したら良いかな?取り敢えずもう少し待機した方が良いかな?」

「噫然うだな。若し何かあったら知らせてくれ。其迄龍とかに話をしたりして待ってくれるか?」

「ウン!分かったよ。」

ケルディは胸毛を更に膨らませると一気にポケットの中へ潜って行った。

「さてと、()うなったらもう王宮へ向かうしかないのかな。」

話位は出来るだろう。問題の解決法は・・・さっぱりだけど。

「矢っ張り然うですね。其しかなさそうですね。」

「まぁけど、ロアさんは如何するんだ?」

「当然一緒に行くでしょ。屹度貴方を見付ける迄王も止まらないでしょうし。」

話している間にも兵らしき者は何人か見た。

 確かに最初に目撃されたのであろうロアが見付かる迄は此の(ママ)だろうな。

「はい、私も行きます。急に逃げて来ちゃったし・・・矢っ張り話はちゃんと聞きたいです。」

「そっか、ま、余り無理はしないでくれよ。」

此以上セレを待っても余り効果はなさそうだし、行くしかない。

 本当に何処に行ってしまったのか・・・出来れば王宮の事は早く片付けて、捜しに行った方が良さそうだ。

 然う結論付けると、ガルダはロアの案内を元に歩き始めるのだった。

   ・・・・・

 ・・・駄目だ。

 先から意識が(マト)まらない・・・頭に靄が掛かったみたいだ。

 思考も進まなくて、水の中で(モガ)いている様で。

 いけない、こんなんじゃあ行けないのに、早く行かないと。

 行く?一体何処へ、目的なんてそんな物・・・。

 噫駄目だ、今は只手を動かして、進んで、然うすれば、

―っおい!おい聞こえているのか!―

突然頭に響いた声にハッと意識が戻る。

 其と同時に(アカ)い液体が一気に自分へと降り掛かった。

 此は・・・温かくて何処か粘り気のある・・・血、血だ。

 其が全身に掛かっている、返り血だ。自分の何かではなく。

 如何して、何が一体、

―・・・聞こえたか。―

はたと手が止まる、目の前で首の無い死体が(クズオ)れた。

 此処は一体、いや、何が起きたんだ。

 急いで辺りを見たが、見た事の無い街の只中だ。家々が並んでいて、(ソラ)が見えない。

 そして足元には無数の死体・・・人間の死体だ。

 皆首が無い、転がっている頭を何個か見る。

 此は・・・自分でしたのか?でも確かに手の感触は残っている、肉を裂いた感覚。

 周りに生きている人はいないが、如何やら逃げているみたいだ。息を切らして走っているのが何人か波紋の先に写る。

 一瞬牙が出そうになったので口を押さえた。

 此は一体・・・全く身に覚えがない、でも。

 でも自分は気付かない内に何十人も・・・殺してしまったのか?

 いや幾ら人間が嫌いだからってそんな、見境なくはしない。

 見た所此処は次元か?・・・駄目だ、直前の事が如何しても懐い出せない。

「・・・丗闇、何があったか、教えてくれるか?」

(ハダ)けていたオーバーコートを着直す。

 血に濡れてしまったが、霄色(ヨルイロ)のコートは案外目立たない。

 晒も取れてしまっている、巻き直さないと。

―何も憶えていないのか?―

「・・・断片的に、フラッシュバック程度でしか憶えていないな。正直未だ理解も、出来ていなくて、」

―てっきり例の(アカ)い化物に操られたのかと思ったが。―

「いや、違うと思う。アティスレイの気配は感じていない、でも、」

でも、自分がやった覚えも無くて。

 正直戸惑っている。自分でも分からないのだ。

 暫し沈黙が続いたが、掻い摘んで丗闇は事の成り行きを説明してくれた。

 先ず、如何やら自分は一柱で次元に来たらしい、近くにガルダ達は居なかった。

 そして此の晒だらけの躯が目立った様で、近くを通り掛った兵が、自分に声を掛けた然うだ。

 其の晒の下に隠しているのは何だ、と。

 其の時の自分は、多少惚けている様ではあったが、話せる程度の理性はあった様で、酷い火傷の跡を隠していると場当たりな嘘をいたのだ。

 だが其で兵は納得してくれなかったらしい、亜人かも知れないから付いて来てくれないかと頼んで来たのだ。

 亜人、人ならざる者、人が勝手に他と区別した呼び方だ。

 目元迄晒をしているので、疑われるのは仕方ないだろう、只其の言い方に少し不満を持ちはした。

 そして他の兵が簡易的な檻、恐らく自分を入れる用だったのだろうが、其を組み立て始めて・・・。

 其の時自分は酷く頭が痛かった気がする、ぼーっとして定まらず、何だか苛々(イライラ)して。

 然う、段々懐い出して来た。然うだ、然うなんだ。

 檻なんて正に前世の事を懐い出すみたいで、絶対に入りたくないと思った。

 捕まったら(ロク)な事が無い、逃げないといけない。

 其の考えに頭が奪われて・・・。

 気付いたら殺していた。

 目の前の兵を、檻を作っていた他の兵を。

 悲鳴を上げた野次馬も、逃げる母子も、驚き立ち尽くしていた初老の男も。

 晒の下の爪で頭を掻っ斬った。あっと言う間だった。

 抵抗も何もなくあっさりと、死屍累々の完成だった。

 一方的に、意識も無く、あっさりと、淡々に。

 私は・・・人を殺していた。

 そして好い加減に殺した所で初めて自分は意識を取り戻した。そんな具合だったのだ。

 丗闇に言われて自分も少しずつ懐い出して行った。

 然うだ、手足が機械的に然う動いた丈で、其処に自分の意志は無かった。

 一体如何してこんな事が・・・全く分からない。

「・・・っ、魔力達も居ないのか。」

頭に響く音が無いと思ったら彼等は居ないのか。

 普段なら勝手に付いて行くのだから此は・・・次元が拒んだのだろうか。

 其に意識が戻ったと言っても躯が何故か重い、動くのも億劫(オックウ)だ。

 何て言うか息がし辛い、魔力が可也薄い気がする。

 足を出そうとして大きくふら付いたので慌てて腰を下ろした。

 ・・・何だろう、具合が悪い、酷く気持悪い様な。

 荒い息を何度か吐いて整える。

 明らかに自分の体調が(カンバ)しくない事に、丗闇はじっと黙って考えている様だった。

 血と一緒に冷汗も拭って行く。

 何だか此の感覚覚えがあるな。

 然うだ、昔、丗闇が自分の存在を保つ為に力を貸してくれた時、()の時と似ている。

 ()の時は力が出なくなって、いよいよ死ぬかと思ったけれども・・・。

 今は死にたいとは懐っていない、懐っていない筈なんだ。

 じゃあ何だ、干渉力以外の何が自分に関与している。

―・・・魔力か。―

ぽつりと漏れた声に思わず耳が動く。

「魔力と、此の死体の山に関係があるのか。」

目の前の死体の山、見ていると自然と前世を懐い出す様でげんなりする。

 でも未だ立てる丈の気力がない、もう少し此の(ママ)・・・。

 自分が何をしたのかはもうはっきり懐い出した。でも、理由が分からない(ママ)だ。

―恐らく御前が其奴等を見境なく殺したのは、魔力が足りないからだ。―

「魔力が?・・・済まない丗闇、今余り頭も回らなくて、説明してくれるか?」

此の丗闇のテレパシーも聞き取り難いし、波紋も不調な(ママ)だ。

 此も関係があるのか、

―御前は精霊に近付き過ぎたと言う事だ。神の資本は魂だ。だが御前は自身の干渉力で精霊に近付いて行った。象徴を持つ程の存在となってしまった。そんな精霊の資本は魔力だ。流石にもう分かるだろう。―

「魔力・・・噫然う言う事か。此の次元は魔力が少な過ぎて、私の生存には向かないと言う事か。」

Aの所でも診て貰ったな、魔力で血を流し、干渉力で己を保っている。

 つまり其の土台の魔力を失えば、自分と言う存在は保てなくなるのだ。

「じゃあ殺したのは、精霊としての性か。」

何をするにも魔力を使う、だのにそんな貴重な魔力を使って迄殺したのは。

 自分が・・・殺しの精霊だからだ。

 殺す事で存在を得るのだから、殺すしかない。殺す事で、自分は欠けた魔力を補ったのだ。

 恐らく今意識が戻ったのも、此丈殺してやっと理性が本能に勝ったからだ。

 精霊に成ると言うのは然う言う事、メリットもデメリットも当然あるよな。

 彼女が無言なのは肯定と言う事だろう。自分は、自分の為に殺したのだ。

 自覚をした為か少し息が楽になる、(ツクヅク)酷い存在だな。

 喰う為でも怨みでもなく、只殺さなければいけないから殺すんだ。

 誰でも良い、強いて言えば近くに居たからだ。

 幸い次元の主導者(コマンダー)を殺した()の嫌な感覚はない。

 仲間も、手に掛けてはいない筈だ。・・・少なくとも記憶にない。

 ・・・はぁ、()うでも確認しないと遣り兼ねない自分がいると言うのがもう嫌だ。

 殺す可能性があるって、例え其が万に一つでもあるなら最低だ。

 少し落ち着いては来たので(ユック)り立ち上がる。

 今はもう大丈夫だろうが、其が何時迄保つか分からない。

 波紋も術も使えない、躯も動かないとなるといよいよ自分は御荷物だな。

 まさか魔力が欠けた丈で此処迄弊害が出るとは、此は今後気を付けないと弱点として大き過ぎる。

 本当だったら直ぐにでも狭間に戻った方が良いだろう。

 死んだ彼等には申し訳ないし、罪を背負った(ママ)逃げる事になるけれど、此以上厄介事を作る位なら去った方が良い。

 只ガルダ達と合流出来ていないのは良くないな。勝手に戻ればガルダの事だ。屹度心配して捜してしまう。

 先ずは皆を捜すか、そんな離れていない筈だ。晒を巻き直したら直ぐに、

「あ、い、居たぞ!」

背後から声がし、見ると四、五人の兵が集まっていた。

 何やら檻の様な物が後ろに見えるな、そんなに自分を捕まえたいのだろうか。

 兵達は近くの死体に可也怯えている様だった。其の様子だと戦えないだろうが。

「御前達は私を捕まえて如何する気なんだ。」

今は・・・大丈夫。無闇に殺さない。

 ガルダ達を捜すにしても情報が欲しい、話位はしないと。

「お、王の所へ連れて行く。その・・・悪い様にはしない。」

おどおどしてはいるが答えてくれた。

 ・・・未だ話が通じる分はましだな。

「王?こんな、人殺しの化物なのに連れて行くのか?身の安全は保証出来ないぞ。」

一体何が目的だろうか。檻なんて持っているのだから(アラカジ)め準備していたのだろう、其にしても。

 只自分の脅しとも取れる言葉に兵達はすっかり困ってしまった様だった。

「如何する?確かに危険だ、でも・・・、」

「亜人は全員連れて来いって言われているしな。」

「・・・一応話は出来そうだが。」

自分が直ぐ襲って来ない事に、少し安心はして来ている様だ。

 未だ瞬き程の時間で全員狩れる位は動けるけれども・・・大人しくして置こう。

「亜人か・・・既に誰か捕まっているのか?」

「確か話せる(アカ)い小鳥に、黄金に成れる男、半魚人と(クロ)い馬に、」

・・・何だか一部、自分も知っているのがある様だ。

 亜人、と言っていたが、珍しい動物も含むのだろうか、多分小鳥は・・・リーシャンじゃあないだろうか。

 金の男とかは若しかしたら次元の主導者(コマンダー)や、龍とかも居るかも知れないな。

 ・・・此の(ママ)闇雲に歩き回るより連れて行って貰った方が賢明だろうか。

 と言うよりあんな殺した事は咎めないのだろうか、其とも止められないのか。

 人間に捕まるなんて、考えた丈でも萎えそうだけれど、今回(バカ)りは仕方ない。

 只何時又魔力が足りなくなって暴れるか分からないのが恐い所だけれど・・・。

「私に話があるなら付いて行っても良い。でも・・・然うだな、私は時々理性を無くす時があるんだ。其の時は如何なるか分からないが、其でも良いなら。」

「っ、良し、連れて行こう。あんな力を持っているなら若しかしたら、」

「分かった。じゃあ私は他の隊に現場の事を伝えて置くから、」

細々と話が続き、兵達は慌ただしく動き始めた。

「ではどうぞ此方の中へ。王宮迄連れて行きます。」

「・・・分かった。」

少し重い足を引き摺って自ら檻の中に。

 神に成った所で扱いは一緒だな。世界が変わっても、次元が変わっても結局、

 戻るのは・・・此処なんだ。

 檻の中で適当に座ると、兵達は檻を持ち上げて歩き始めた。余りにも自分が軽いので不思議そうに顔を見合わせ乍ら。

「・・・丗闇、一寸(チョット)良いか?」

―・・・何だ。―

こっそり兵に聞かれない様に小声で呟く。

 テレパシーは使えないし、魔力を使えば此処で暴れ兼ねないからな。

「若し又私が理性を無くしたら止めて欲しいんだけれど、頼まれてくれないか?」

―・・・・・。―

可也悩んでいる様だ。丗闇なら躊躇なく、どんな手でも良いから止めてくれると思ったけれど。

―・・・如何やら今我も表に出る事は出来ない、其丈此の次元は魔力を遮断しているのだ。―

「丗闇も出られないのか、何か手は無いか?此の(ママ)だと自分でも可也不安なんだ。」

―テレパシーをするのもやっとだが・・・いや、一つあるか。恐らく無理矢理止める事は出来るが・・・可也痛いぞ。―

痛い、か。矢っ張り彼女は優しいな。

「もう殺してくれても良いよ。其丈の事はしているし、魔力が無いなら私の生命力も大した事無いかも知れないしな。」

―・・・良いんだな、本当に。―

「噫、丗闇がしてくれるなら安心だよ。頼んでも良いか?」

―全く、世話丈は本当掛かる奴だな。―

「独りじゃ何も出来ないんだから頼むよ。」

少し肩の荷が下りた。

 丗闇なら大丈夫だ。過ちを犯す前に止めてくれるだろう。

 其にしても又しても自分が役に立たなさそうな次元だ。

 出来る事が増えた分、代償も大きい様で此のギャップが只々悲しい。

 屹度何でも出来る様になる、と言うのは程遠いい話なんだ。出来る事が制限されちゃうのだから。

 魔力・・・魔力かぁ、自分で創れる様になれたら手っ取り早いんだろうけれど。

 今は波紋ですら魔力を消耗してしまう、少し頻度と範囲を狭めよう。

 さて、悪いようにはしないと言われたが、王宮で何をされるのだろうか。

 其でなくても人殺しである。普通に災害だ。

 ・・・矢っ張り剥製とかにされちゃうのかな。

 昔され掛けて滅茶苦茶痛かったからもう嫌だけれど、其をされる位なら狭間に帰ろう。

 まさか自分の剥製が次元を救うなんて事はないだろう。・・・いやまぁ救われる奴は多いだろうけれど。

 でも何方(ドチラ)かと言えば剥製すら壊した方が喜ばれそうだ。そんなエンターティンメントに加担する気はないので手は引くけれども。

 ()の道、殺される位なら最期にガルダに会いたいな。

 何となくだけれども其で安心出来るから、楽で良いんだ。

 こんな檻の中だからだろうか、独りは矢っ張り・・・淋しくて。

 退屈だ。早く着けば良いのに。

 そんな事を懐い乍ら、セレの入った檻は大きな門を超えて行くのだった。

   ・・・・・

「ほら来てやったんだからさっさと入れなさいよ。」

「いやしかし一般人を王宮には、」

「私を一般人と呼ぶなんて目が腐り果てているみたいね。其以上酷くならないよう凍らせてやろうかしら。」

(アレ)から数刻後、王宮の入り口でダイヤが兵と揉めていた。

 王宮に着くなりずかずかとダイヤは乗り込んだけれども流石に無理がある。

 何か上手い事を言うのかと思ったら正面突破だ。彼女は常に我が道を進んでいる。

「えっとあの・・・私の事覚えていますか?」

見兼ねたロアがそっと近寄ると、其迄困っていた兵の顔がぱっと輝いた。

「っ!貴方は!戻られたのですね。さ、王が御待ちです。」

一寸(チョット)何で此の子丈顔パスなのよ信じられないわ。」

「・・・(ムシ)ろ何で自分は通れると思ったんだ。」

彼女だったら手とか凍らせて氷人間!とか言えば通して貰えそうだけど、絶対助言出来ないもんな・・・。

 まぁ今(ホトン)ど術も使えないから其も厳しいけれど。

「私は此奴等と、貴方達が勝手に連れ去った奴等の飼い主よ。主の了解も得ずに連れ去るなんて一体どんな料簡(リョウケン)かしら。此処迄手間掛けさせた分の御礼はきっちり貰うわよ。」

「か、飼い主、ですか?」

今一理解出来ずに兵が聞き返す。

 うん、俺達も理解出来ていないからな。何時からかダイヤの愉快な仲間達に組み込まれてしまったらしい。

「飼い主って・・・保護者って事ですかね?」

「うーん、でも全部自己責任って返されそうだけどな。」

責任を取るなんて重い事を彼女がするとは思えない。

 と言うより俺も入るのか?俺別に翼とか出してないし、ばれていないと思うけど。

 ・・・じゃあ若しかして紐的扱い?

「飼い主だったら王も見過ごせませんね・・・分かりました、御通りください。」

「フン、初めから其で良かったのよ。」

「あ・・・良いんだ・・・。」

気にせずつかつかとダイヤは王宮に入って行く。

 良くもまぁあんな大胆に行動が出来る。彼女に恐怖は無いのだろうか。

 まぁ入れるのなら其に越した事はない。

 一同は先導する兵に連れられて王宮の中へと入って行く。

 王宮も又変った建物で、一見巨大な茸の様だった。

 入口は小さ目なのだが、上階に連れてどんどん大きくなる。

 中でも屋根は随分大きくて平たい、可也の太陽光を彼処で吸収している様だ。

 若しかしたら死火山の上に出来た国なのだし、限られた土地の活用法として旻中(クウチュウ)を使い始めた末の文化なのかも知れない。

 外見は(シロ)一色で何ともシンプルな王宮だったが、中は様々な調度品で彩られていた。

 飾ってある壺や置物も、(ドレ)も見た事がない形をしている。何と形容すれば良いのか分からない不思議な芸術品(バカ)りだ。

 水面に移る波紋を垂直に(コシラ)えた物や、キューブを複雑に絡めた様な不定形の塊、如何言った力で動いているのか分からない、回り続ける水車。

 其の(ドレ)もが又鮮やかだった。複数の色を加え、混ぜ合わせ、(シロ)い壁に良く映えていた。

 若しかしたら家の中は(ドレ)もこんな風に鮮やかなのかも知れない、初めて入ったのが王宮だから、一寸(チョット)基準が分からないけれども。

 でも()うも見た事の無い物で溢れていると、まるで美術館に来たみたいで見ていても飽きないな。

「矢っ張りガルダさんも見惚れちゃいましたか・・・?私も知らない物(バカ)りで、人間って凄いなぁって思ったんですよ。」

つん、と服の裾を引っ張って小声でロアが声を掛けて来た。

 確かに文明が進んでいるんだと思う、限られた土地で良く此処迄発展したな。

「余りきょろきょろしないで頂戴、まるで田舎者みたいよ。」

相変わらずダイヤは機嫌が悪そうだ。

 果たして此の小さな国に田舎があるのかは不明だが、異次元なのだから珍しい物(バカ)りなのは仕方ない。

 奥へ奥へと進んで行くが、道中幾つもの扉があった。

 ()(ドレ)かにケルディ達が居るのだろうか、物音はしないし、危ない目には遭っていないと思うけれども。

「此の先が王の間です。」

暫く歩くと一つの扉に行く手を阻まれた。

 道中緩やかとは言え上り坂続きなので少し疲れてしまったが、何とか着いた様だ。

「全く、随分手間を掛けさせてくれたわね。其の面拝んでやろうじゃない。」

恐ろしくやる気なダイヤである。彼女に身分や権力は関係無い様だ。

「話は出来るんだから一応穏便にはしてくれよダイヤ。」

「貴方は如何して然う悠長にしてられるのかしら。私達は被害者よ。もっと堂々としなさいよ。此方は勝手に誘拐された身の上なんだから。」

飼い主は相当御立腹だ。此は(ムシ)ろ、自分が王を護らないといけなくなるかも知れない・・・。

 連れて来てくれた兵も一寸(チョット)躊躇してしまっている風に見える・・・彼女は自分で王に会える確率を狭めている事に気付いているのだろうか・・・。

 只ダイヤに睨まれた事で、兵はさっさと扉を開けてしまう。開かれた王の間、そして其処には、

「・・・然うか、だが其だと、」

「セ、セレッ⁉」

王の間にセレが居た。

 あ、いや勿論セレが王になっていたなんてとんでもない事は起きていない。

 俺達の先客としてセレが王と既に対面していたのだ。

「ん、其の声・・・ガルダなのか?」

振り返った彼女は少し疲れた顔をして笑ってくれた。

 翼も尾も・・・晒もせずに出している。

 屹度彼女も亜人として連れて来られていたんだ。

 見付かって良かったと思う反面、切ない心地になってしまう。

 彼女も()の檻に入れられて来たのだろうか。

 王宮なんて人の集まる所に自ら赴くとは思えない、次元の主導者(コマンダー)も俺達と居たんだし。

 此処に連れて来られて、王と話す様頼んだのかもな。

 そっとセレの元迄駆け寄った。彼女の肩に手を置く。

 一瞬彼女は背を震わせたが又王と向き合った。

「おぉ、まさか連れの者達かな。」

王は存外若く、小柄だった。

 男か女か判断し難い中性的な顔立ちである。

「あ、あの王様、先はその、勝手に出て行って済みません。」

怖ず怖ずとロアが前に出ると幾らか王は安心したかの様な表情を見せた。

 セレと何を話していたのかは分からないけれど、二柱限と言うのは互いに緊張していたのだろう。

「此方こそ済みません、手荒な事をしてしまって。何分此方も驚いてしまって・・・。」

うん、話は出来そうだ。最初は如何なる事かと思ったけど、此の空気なら大丈夫そうだな。

「な、セレ、何の話をしていたんだ?」

「ん、一寸(チョット)此方で色々やらかしてしまったからな・・・其の後始末に付いてだ。・・・然うだな、色々説明したいし、私も話を聞きたい。王、少し時間を貰っても良いか?」

「えぇ、私も準備しましょう。良ければ皆さん向こうの部屋で休んでください。」

「は、はい、では・・・失礼します?」

身構えていたので少し意外な言葉だったが、素直に有難い。

 ダイヤも休む事には賛成らしい、仏頂面だが黙ってくれている。

 兵の案内で一同は王の間を出て近くの部屋へと通された。

 そして其処には、

「あ、ガルダだー!」

「皆さんー!来てくれるって信じてましたぁ!」

「うわぁああぁああ‼ダイヤァアア‼」

「あ、あぁ、よ、よよ、良かったぁあ~・・・。」

円型のテーブルを囲む様にして皆座っていたのだ。

 ケルディ、リーシャン、ベール、スー・・・皆居るな。後は三頭もの見知らぬ、恐らく龍達だ。

「ん、なんだ結構捕まっていたのか。只・・・スーの声がしたか?気の所為か?」

皆が自然と集まってワイワイする中、セレは首を傾げた。

「え、あ、そっか。然うなんだよ。何だかスーも一緒に来ちゃってて、何か次元が不安定だったみたいでさ。」

「然うだったのか。其が此の次元だなんて災難だったな。」

何か・・・違和感?

そっとセレの目の前で軽く手を振った。変わらず彼女は首を傾げる丈だ。

「若しかしてセレ、目見えてないのか?」

「噫、此の次元は魔力が使えないからな。」

あっけからんと彼女は然う言った。

「そ、そっか。御免な傍に居なくて。此処迄大変だっただろ。」

「・・・噫、大変だったよ。」

又彼女は困った様に笑っていた。

「セレ、ちゃんと話をしようか。」

そっと彼女の手を引いて席に座らせる。

 分かる、彼女は俺より(ツヨ)いからそんな風に笑う彼女には余っ程の事があったんだ。

 其に見た丈じゃあ分からないけれど、微かに彼女から血の臭もする。

 皆は皆で話し合ってくれているみたいだし、其の間に俺達も話をして置こう。

「・・・じゃあ先ずは私からだな。」

小声でセレは事のあらましを話し始めるのだった。

   ・・・・・

「・・・うんうん、俺からもそんな所かな。」

大体の情報交換は互いに終わった。

 何というか・・・うん、種に因ってこんな待遇に差が出るなんて思わなかった。

 セレは次元に着いた直後から随分な目に遭わされている。

 彼女が殺したくて殺した訳じゃない、其は一番俺が分かっている。

 只、世界が、彼女の性が其を(ユル)さない。殺さないと彼女が死ぬんだ。

 かと言って大多数を占める世界だ。彼女が死ねば良いと、然う切り捨てるのだろう。

 其を拒んだのは俺、俺の勝手なエゴだ。

 生き延びないといけないから彼女は殺す。

 其の道を創ったのは俺なんだ。

「あの・・・セレ、」

「同情だとかは要らないぞガルダ。御前は無条件で私を支持してくれるけれども、私は只の人殺しだ。其に甘えたらいけないからな。」

あっさりと突っ撥ねられてしまった。

 ・・・今の彼女は、俺がどんな顔をしているのか見えているのだろうか。

 甘え、甘えになるのかなぁ・・・俺一柱位、味方がいても良いんじゃないかって思ってしまうけれども。

 味方、と言うより仲間、いや違う、何て言うんだろう・・・只傍に居る、とか然う言うの。

 たった其丈の関係を願うのも、いけない事なのだろうか。

「王にどんな処罰をされても私は受け入れるよ。其丈の事をしてしまった。だから今は同じでも此の後の道は違うだろう。私は今回の次元で不要みたいだからな。」

「不要なんて、そんな悲しい事言うなよ。」

「事実私は面倒な生物だぞ。王も今頃対応を考えている事だろう。私は只、又あんな事が起きない様大人しくしている丈だよ。」

(ソモソモ)ガルダ達に会えた段階で自分の目的は達成した様な物だし。

 然う彼女は締め括った。

 目的・・・何となく嫌な予感がしたので俺は其処に触れない事にした。只一寸(チョット)でも彼女の気を紛らわせた方が良いだろう。

 もう少し、時間を置いた方が良い。

「所で王様は何て言っていたんだ?」

「ん、別に今のと同じ話をしてやったら可也考え込んだ様だったな。私の力を借りたいみたいだけれども、如何する可きかな。今迄こんな事態は無かったんだ然うだ。」

「そっか・・・其次第だな。な、セレ、話は変わるけど、向こうの龍達だと思うんだけど、彼奴等の事知っているのか?」

「龍が居るのか?見えないのは不便だな。少し丈見るか。」

今迄俺丈を知覚して話してくれていたみたいだ。

 其は少しこそばゆい様な気もしたけど、今は其所じゃないな。

 セレは少し背を伸ばして一度辺りを見渡した。

 恐らく今初めて波紋を使った様で、机の上の菓子折りにも気付いたらしく、一つ摘んだ。

「何だ、随分な部屋に通されていたんだな。確かに彼等は龍族だ。挨拶が遅れたが会いに行こうか。」

「噫俺も一緒に行くよ。」

極力魔力は使いたくないだろうし、そっと彼女の手を引いて連れて行く。

 龍達は部屋の隅の方で大人しくしていた。未だ現状が分かっていないと言う事なのだろう。

 少しケルディ達と話していたみたいだが、セレが近付いたので興味が此方へ逸れる。

「ナイト=カレアか。私は次元龍屋のセレだ。初めまして。」

鼻先を寄せて来た龍に、そっとセレは触れてみた。

 其の龍は一見(クロ)い馬の様だった。

 表面は金属質で滑らかで冷たい。髭の様な物がピンと生え、後ろ脚には布が巻き付いて棚引いていた。

挿絵(By みてみん)

―初めましてセレさん。次元龍屋と言う事は、私達を助けに来てくれたのですね。―

「噫、店の事、知っているのか。」

だからこんなに友好的なのか。他の龍達も少し安心した様だ。

 ナイト=カレア、見た所一頭丈の様だが、本来はある龍達と群を作っている筈。

 こんな所に居ると言う事は(ハグ)れてしまったのだろうか。人里離れた平坦な岩場を彼等は好むのだ。

 大人しくて紳士的なのだが、仲間を護る時等は可也狂暴化してしまう龍だ。

―えぇ、存じております。良かった、此で仲間を探しに行けます。―

ベール達も此処には居たのだが、コンタクトは取っていなかったみたいだ。

 ・・・まぁ彼は見慣れていないだろうしな、何より黄金の男が彼だったのが衝撃的過ぎる。

「矢っ張りセレだと話が早いな。」

「然うか?話せるんだから簡単だろう。」

其の間も別の龍が話したそうにうずうずしていた。少し屈んで出来る丈目線を合わせてみる。

「神よ、助けに来てくれたと言う事で、感謝する。」

然う口を開いたのはゾアニルスと言う龍だった。

 全長20㎝程で、長く大きな胴と尾を引き摺り、其の先に小さな手足が付いている。

 手の裏は吸盤になっていて、壁等も自由に這い回る事が出来るのだ。

 頭には耳の代わりに細長い風船みたいな触角が四つ生え、其を震わせて音を発したり、反応を吸収して辺りの様子を窺うのだ。

 首元から生えているフサフサの毛は長く、床を擦っている。

 ・・・触っても良いだろうか。

挿絵(By みてみん)

「此方こそ、加減が良さそうで良かった。・・・その、少し其のモフモフに触れさせて貰っても良いか?」

「モフモフ?まぁ別に構わんぞ。」

フイ、とゾアニルスがモフモフを揺らしたので猫が猫じゃらしに飛び付く様にセレも引き寄せられた。

「う、す、凄い、此はっ!何て滑らかな、こんな、床に擦らすなんて勿体無い、」

可也彼女の御気に召した様だ。

 驚きを隠せない様子でモフモフに釘付けだ。下手すると彼のモフモフを床に下ろさない様持つ係になりそうだ。

 セレがキラキラと目を輝かせている事に満足したらしく、ゾアニルスは得意気だ。

 ・・・下手したら此が一番彼女を慰め、癒してくれるのかも知れない。

「フム、此は中々眺めが良いぞ。」

気付けばセレは慎重に両手にゾアニルスを乗せていた。モフモフが指先に触れる丈でも彼女は幸せそうだ。

「丁度良い。我は其処の果物が食べたいぞ。」

言うや否やササッとセレはゾアニルスを連れてテーブル迄移動する。

 そして次々と出されているフルーツを手に取り、彼に捧げて行った。

「ホッホ!何とも良い身分になった様だぞ。」

「モフモフに喜んで貰えるなら此以上の事はないな。」

完全に足で使われている・・・。

 出来れば止めさせたいけれども、彼女も満足そうなのが何とも言えないな。

 只此の(ママ)彼女をゾアニルスの椅子にするのも・・・他にも龍が居るんだし、其方へ振ってみよう。

「セレ、未だ龍は居るから其方とも話した方が良いんじゃないか?」

「ん、然うだったな。モフモフ丈贔屓してもいけない、龍は平等に、だな。」

部屋の更に隅には随分と大きな龍が居たのだ。

 大き過ぎる為に足を折って座っている。動き難そうなので彼にも果物を持って来よう。

「初めまして堊柳(アルラ)、私は次元龍屋のセレだ。其処だと動き難いだろう、良かったら此でも如何だ?」

堊柳は全長20m程の麒麟の様な姿をしていた。

 長い頸に長い耳、前足は蹄の付いた三本指で、後ろ脚は少し鳥の其と似ている。

 薄蒼の体躯にはペイントされた様な模様があり、背骨の様な装甲もある。

 頭の上には小さな(タマ)が浮かんでいた。(アレ)が堊柳の力の源なのだ。

挿絵(By みてみん)

 其迄堊柳は目を閉じてじっとしていたが、薄く目を開けてセレを見遣った。

―初めまして、神よ。心遣い感謝する、一つ頂こう。―

優し気な声音のテレパシーが流れると、セレの持っていた果物が一つ急に浮かび始めた。

 然うしてふわふわと堊柳の口元迄行くと、そっと其の口に収まる。

「念動力・・・なのか?」

「噫、堊柳は()の頭の(タマ)で念動力を使えるんだ。普段は(アレ)で地均し等をして、険しい山岳地帯でも自分で道を作って生息しているんだ。」

「へぇ、でも龍はテレパシーとか、結構力が使えるんだな。魔力こんなに薄いのに。」

「若しかしたら私達神と龍の差なのかもな。魂と魄じゃ違うだろうし。」

自分達は外の魔力を使う代わりに、龍達は・・・例えば自身の魔力を使っているのかも知れない。

 自分の血や眼にも魔力は可也含まれているとAは言っていたが・・・恐らく其等は自分が生存するのに必要な分なのだろう。

 外に頼り過ぎるのも問題だな、環境変化に脆くなってしまう。

「成程な、確かに然うかもな。・・・若しかして此の次元だと龍が最強だったり・・・?」

「有り得るな、正に神の御業の様に見えるだろうし。」

―・・・良い味だった。訳も分からず連れて来られたので。少し・・・落ち付けそうです。―

「良かった。皆大変な目に遭ったな。私達に会えたんだし、もう此の次元に縛られる事は無いと思うけれど。」

―然うですね、折を見て出ようかとは思ってますが。―

「フム、だな。如何する?御前達も連れて来られた身だろう。共に行くか?」

迚も有り難い申し出だ。そんな風に誘われると行きたくなるが・・・。

「然うだな。迚も付いて行きたいが・・・今は仕事中でな。一寸(チョット)此の次元でやる事があるんだ。」

―確か次元の主導者(コマンダー)を護るのが仕事でしたよね?・・・成程、例の少女が然うですか。―

ナイト=カレアがロアの方へ鼻先を向けた。

 本当良く知っている、名が知られていると()う言う時嬉しいな。

「ホゥ、向こうも人間じゃあなさそうだな。だから此処迄・・・フム、となると我等が勝手に帰るのは困るのではないか?」

「まぁ・・・其処は上手く話を合わせれば何とかなると思うけれども。」

テレポーテーションしました、とでも言えば王は信じてくれるんじゃないだろうか。

―別に今困っている訳でもない、問題が片付く迄残りましょうか。―

「噫、我も然う思っていた所だ。」

ナイト=カレアも頷いて同意の為か片足を上げた。

「そんな、私達の仕事だし、悪いだろうそんなの。」

彼等龍族は巻き込まれている丈だ。

 大人しく連れて来られた時点で助かっている、亜人は恐ろしくないと王達が思い、持て成してくれているのは屹度彼等の御蔭だろう。

 問題があるのは自分だ。自分の所為で亜人と人間の関係に(ヒビ)が入りそうなのだから。

「気にするでない。我等は居る丈だ。別に大した事も無い、気にせず仕事に精を出すのだ。」

―えぇ、其に力が必要であれば御貸しします。他の同族も世話になっている様ですから。―

「・・・有難う。其なら甘えようか。本当に助かるよ、若しかしたら私達丈じゃあ手に負えないかも知れないからな。」

「ウム、さぁ我はもう少し何か食べたいぞ。」

電気信号の様にセレはさっさとゾアニルスを連れてテーブルへと戻る。

 本当に龍達には頭が上がらない。

 何時だって無条件に助けてくれるんだ。こんな広い心、自分には無い。

 そっと果物を手に抱くとゾアニルスはもぐもぐと食べ始めた。

 モフモフが揺れているのを見る丈で幸せな気持になる。もうずっと()うしていたい・・・。

「取り敢えず一歩前進って所かな。」

「噫、龍達の助けもあれば心強い、私のミスもカバー出来そうで良かったよ。」

「ミスって、(アレ)は不可抗力だろ。気にするなって・・・まぁ其は無理か。ま、出来る事をして行こうぜ。」

「・・・然うだな、有難うガルダ。」

今回の彼女は随分とダメージを負っている気がする。

 ずっと自分には笑顔を見せてくれるけれども、何時も通りだよって、笑ってくれるけれども。

 其でも、俺には其の裏が少し丈見えてしまうんだよ。

 此以上彼女に、此の次元が何も背負わせないと良いけれども。

「フン、自分の仕事はして来たみたいね。」

ダイヤが椅子に踏ん反り返って座っていた。

 隣でベールが彼女の足を揉んでいる・・・御苦労な事だ。

 ・・・いや自分も両手にゾアニルスを乗せて椅子と化しているから同じだろうか。

 い、いやだって此方はモフモフだぞ!モフモフ相手なら仕方ない、使って貰える丈有難いんだ。

「仕事、と言う程でも無いけれども、龍関係の仕事は一応完了かな。」

波紋を少しずつ閉じて行く。此以上は余り使わない方が良い。

「スー、行き成り飛ばされて大変だったな。後は此方で如何にかするから店に戻っても大丈夫だぞ。」

本当は自分も戻った方が良いんだろうけれど、まぁ其は王の話を聞いてからだな。

「セ、セレしゃん・・・、だ、大丈夫です。僕は、その・・・皆と居ます。僕も、何か出来るかも知れないですし・・・は、初めてなんです、()うして次元に、く、来るのは。」

「然うか、其の心意気は買うが、余り無理はするなよ。」

「然う言うセレは今大丈夫なのか?眩暈がするとかあったら、」

「今の所は大丈夫だ。何か起きたら直ぐ言うよ。」

自分一柱の問題じゃあ済まないかも知れないからな。

「ベールも大丈夫か?来て直ぐ此処に連れて来られたみたいだが。」

「うぅ、皆さんが来てくれたので、もう大丈夫です。もう金には光らないから、僕も此で人間だ。」

「いや幽霊だから。ほらさっさと手を動かしなさい。」

バッサリダイヤに切られてしまい、慌てて彼は足揉みに戻った。

 うーん、現状の其の扱いも含めての大丈夫か?だったのだが、まぁ良いか。

「・・・一応、セレにあった事、皆にも言って置くな。王から其の話もあるだろうし。」

「噫、私からも言おう。聞いていて良い話じゃあないだろうがな。」

又スーを恐がらせてしまい然うだけれども、実際然う言う存在なのだから如何しようもない。

 其からは兵が来る迄、一同の情報交換は続くのだった。

   ・・・・・

「さて、如何かな、其方の話は(マト)まったかな。」

「噫時間を取らせて済まなかったな。」

又セレ達は王の間へと戻って来ていた。

 今度は()の部屋に居た皆、龍達も一緒だ。

 協力してくれるとの事なので、一応亜人として話を聞いて貰っていた。

「構わない。先ずは然うだな、話を幾つか聞きたいのだが、」

「其なら王、最初に一つ答えてくれるか。私がした事は如何処分されるんだ。」

先より亜人が多いからだろうか、周りに控えている兵はぐっと増えている。

 自分みたいな事をする奴が居るかも知れないし、王を護るのだから此位は居ないとな。

 兵達が何やらひそひそ話しているが、仕方ない。先に手を出してしまったんだ。

 だから牙が出てしまわない様、今は堪えないと。

「・・・其なのだが、今回は不問とする。亜人は人に非ず、なら人の法にも触れない筈だ。」

「無罪と言う事か?流石に其は不味いだろう、納得しない者が多いと思うぞ。」

まさかの判決だ。死刑位は覚悟していたのに・・・。

「然うは言われても・・・此の国の救世主になるかも知れない者を無闇に処刑する事は出来ないのだ。思った以上に此の国は深刻な状況になっているからね。」

「・・・成程、じゃあ処刑しない代わりに国を救って欲しいと言う事か。」

「そんな風に脅したい訳ではないけれども。」

王は苦笑していたが、今一セレは納得出来ていない様だった。

 国を救ったからって、其の救う為に取った行動で死者が出たならいざ知れず、別件の事なのだから其の(ママ)処理すれば良いのに。

 ・・・まぁ処刑しても次元の迫間(ディローデン)に帰ってしまう丈なんだが、けじめの問題はあるだろう。

 殺して欲しいって訳ではないが、然う言う特別扱いは好かないのだ。

「そんな不満そうな顔はしないでくれ。何なら君の罪を私が背負っても良い。結局国の長になっても現状を何も改善出来ていないんだ、其位の罰はあっても良い。」

「し、しかし王、」

思わず、だろうか。周りの兵が声を掛けたが、そっと其を王は(イサ)めた。

 本気、という事か。何とも喰えない王だ。

「良いじゃない、貴方のした事を水に流してくれるんでしょう?甘えれば良いじゃない。」

「あっさりしてるな、ダイヤは。」

()の道此処に連れて来られた段階で、其の厄介事を請け負う事になるんでしょ。面倒な事やらされるんだから其の位の報酬は貰う可きだわ。」

「確かに、問題を早く解決した方が互いに良さそうだよな。な、セレ。」

「・・・分かった、其で手を打とう。」

自分一柱が我儘(ワガママ)を言っても仕方ない、其で良しとされるなら、まぁ従おう。

「・・・納得はして貰えたかな。」

「噫、一応は。じゃあ改めて、其の問題とやらを教えてくれるか?」

大まかには先聞いてはいるんだが・・・でもそんな問題、自分には解決出来る気がしないんだが。

 王は大きく頷くとちらとロアを見遣った。

「君にした話と似た話をする事になるけれども良いかな?」

「え、あ、大丈夫です。」

「もうはっきり言いなさいよ、私達に如何して欲しいのか。」

「ダ、ダイヤ、相手は王様だから・・・ね?」

「えと、其方は亜人の飼い主・・・と言う事で宜しいかな。」

「えぇ然うよ、だから早くしなさい。」

「・・・ガルダ、飼い主って何だ?」

「御免俺も良く分からない。」

成程、ダイヤの新しいジョブ(戯れ)と言う事か。

「わ、分かった。然うだな。問題と言うのは、君達は初めて此の国へ来たのかな。」

「は、はい、ガルダさん達もですよね?」

「噫、場所も場所だしな。」

「然うですか。では来られた(バカ)りなので分からなかったかも知れませんが、此の国は可也閉鎖的です。交流もなく、内部丈でやって来ました。」

王は其から一つ一つ確かめる様に話し始めた。

   ・・・・・

 昔、牙も爪も持たない人間は、地上で可也地位が低い種族だった。

 其の為人間は安住の地を求めて旅に出た。

 翼ある者の来られない所、鰭のある者の泳げない所、牙も爪も届かない所へ。

 そして見付けたのが一つの火山、もう衰えて火を噴かなくなった死火山だった。

 彼処の火口であれば、どんな亜人でも来られないだろう。

 人間は火口へ集まり、其処で生きる為に知恵を出し合った。

 然うして百数年経つ頃には人間は其処の土地に適応して行った。

 作物を育て、文明を築き、生き延びて行ったのだ。

 然うして終に人間は安住の地を手にし、繁栄して行った。

 只繁栄の先で一つ問題が起きて来たのだ。

 其は・・・敵が居ない事に因る飽和。

 人口が増え過ぎた事により、住める土地が無くなって来たのだ。

 火口に国を創った所為で他に棲める所も無い、加えて此の(ママ)続くと食糧問題も出て来るのだ。

 そんな時に現れたのが翼を有する亜人。

 (カツ)て人間は彼等を避けて来た訳だが、昔の文献に残っていた記述があった。

 其は、昔人間と亜人には交流があったのだ。

 全ての亜人と言う訳ではないが、彼等の手を借りていたのも事実である。

 だから王は一つの賭けに出た。

 今一度、亜人の力を借りようと思ったのだ。

   ・・・・・

「え・・・ふえぇ、わ、私でもそんな!大それた事!」

結構な責任を感じて今更乍らロアは慌て出した。

 国が抱えている問題・・・と言うのは大方予想通りだったのだが、単純な分解決が難しそうだな。

「別に其方が無理に解決しなくても良いでしょ、こんなの店主一柱で十分だわ。」

随分強気なダイヤの発言に一同の視線が集まる。

「す、凄いですダイヤさん、ぼ、僕全然分からなくて、」

「流石ダイヤ、只飯食べてる丈に見えて実は凄く考えてくれたんだね。」

「・・・悪かったわね只飯食らいで。まさか足首マッサージ機に然う口を出されるとは思わなかったわ。」

ダイヤの(コオリ)の様な眼差しに晒され、ベールは縮こまってしまう。・・・(ツイ)でにスーも。

「私が役に立つなんてな。一体其はどんな素敵な方法なんだ。」

多分と言うか絶対採用されないけれどな。大方予想は付いているんだ。

「簡単よ。要らない街を一つ滅ぼせば良い丈よ。貴方は人間が殺せるし、街もスッキリするし、大得じゃない。責任は全部王が取ってくれるんでしょ。」

「さ、流石に其は・・・ブラックジョークが過ぎるかな。」

王も此にはたじたじだ。当然採用はされないだろう。

「と言うより私の誤解を生む様な言い方は止してくれ。」

別に人間を殺すのが好きなんじゃない、必要だからした迄だ。

「あら、多少の犠牲は付き物でしょうに。皆堅いのね。」

何とも涼しい顔して笑っているダイヤである。絶対()うなる事は分かっていただろうに。

「ダ、ダイヤさん其は一寸(チョット)、大胆過ぎます。」

「じゃあもっと良い案出しなさい、でないと私達帰れないのよ。」

其も然うだ。滅茶苦茶とは言え、未だ意見を言う方がましか。

 と言っても要は土地が居ると言う事で・・・でも此の火口じゃあもう無理だ。

 出るにしても周りは険しい空山(ヤマ)になっている訳だし・・・。

「因みにロアは()の位飛んで此処に来たんだ?結構大変だったか?」

「ん・・・然うですね、距離的には大した事無かったんですが、矢っ張り空山(ヤマ)が大変で・・・半日はずっと飛んでいたと思います。」

「然うか。後は、此の国に飛行技術はあるのか?飛行船とか然う言う物は。」

「飛行船?・・・中々面白い発想をするね。考えた事も無かったな・・・。」

「まぁ、国から出ようと思った事も無いんなら当然だよな。」

問題になって来るのは如何しても空山(ヤマ)か。

 自分達を護る為の物だったのが、何時しか其に苦しめられるとはな。

―・・・話を聞いていると、其の空山(ヤマ)を如何にかしたら良いのですか?―

「ん、ん?今、一体誰が話されたのかな?」

魔術なんて無いんだ。テレパシーなんて初めての経験だろう。

 声の主は堊柳だった。一歩前に出て其の長い頸を伸ばす。

「噫其方の方でしたか。確かに空山(ヤマ)が少し拓ければ・・・土地を広げられるかも知れませんが。」

―其なら私が此の国へ迷い込んだ時に通った道が使えるでしょう。彼処をもう少し均せば問題無いかと。―

「堊柳、力を貸してくれるのか?」

―えぇ、此も何かの縁でしょうし、其位なら。―

力強く彼は頷いてくれた。其処で唯一術を使える彼等に助力を願えるのは有り難い。

「左様か!では直ぐに取り掛かりましょう、亜人達よ、心から感謝申し上げます。」

王は大きく一礼すると、直ぐ様兵達を呼び付けるのだった。

 一応、話は進んだと言う事だろうか。

 空山(ヤマ)を均して其の後如何するかは又考えないとだが、一先ずやれる事をやってみよう。

   ・・・・・

「・・・王も檻に入るんだな。」

其の後一同は又檻に押し込まれての移動となった。

 堊柳に道案内をして貰う為、彼の入った檻が一番前に。

 次の檻に自分達と他の龍達が入り、最後の檻に王が入っていた。

 王は別段居心地が悪そうにもしていない、兵も普段通りっぽいが・・・。

 若しかして此の国、檻が高級な乗り物みたいな具合なんだろうか。

 文化の違いからして有り得るのかも知れない。檻って、中の者を出さないイメージが強いが、裏を返せば外から護る事が出来る。

 最初捕まえに来た時は何て強引な、と思った物だが・・・最初から歓迎する気だったのかも知れない。

 若し然うなら、自分が最初に殺した兵には悪い事をしたな。

 話し掛けて来た訳だし、最初から歓迎する気だったのなら・・・。

 卑下にされたと勝手に差別したのは、(ムシ)ろ自分の方だったんだ。

 ・・・仮に然う分かっていたとしても、人間を嫌悪する気持は然う変わらないけれども。

 自分は只の人殺しなんだな、と改めて自覚する事は出来そうだ。

 ・・・未だ自分の魔力は大丈夫だな。未だ正気だ。

「ん、んー然うだな、此処の移動手段って檻なのかもな。」

「だったらもっと綺麗に飾って欲しいわ。下も堅いし、最悪よ。」

然う言うダイヤの足元ではベールが大の字になって踏まれている・・・。

 今度は彼女のカーペットになる然うだ。御勤め御苦労様です。

 ・・・じゃなくて何とか止めさせようと思ったのだが、何故かベールが幸せそうな顔をしているので近付けなかった。

 踏まれて喜んでいるのだ・・・理解出来ない。

 只其の異様な光景に皆一寸(チョット)距離は取ってしまっていた。

「・・・何よ、何か言いたそうな目ね。言いたい事があるならはっきり言って頂戴。」

「ダ、ダイヤァ、其はその・・・足元の、ベールの事かとぉ・・・。」

「此奴が如何したのよ。只の敷物じゃない。」

「いや、神を敷物にするのは一寸(チョット)、」

「あら貴方って時々吃驚する位優しいのね。だ然うよベール、貴方は敷物の役にも立たないからもう要らないわ、今直ぐ降りなさい。」

「っえ、あ、待って!降りたくないです!ぼ、僕未だ敷物成れるから!見捨てないで!」

其迄恍惚とも取れる笑みを浮かべていた彼はガバッと起き上がり、ダイヤの足に縋り付いた。

 まるで物乞いだ、惨め過ぎる。

「然う言われてもねぇ、だって此は店主の意向だもの。私の知った事じゃあないわ。」

「うわぁあー‼セレ神様御願いですから僕を捨てないでください!楯でも犠牲(イケニエ)でも何でもしますからぁ!」

ダイヤに投げられた憐れな神は、今度はセレの足にしがみ付いた。

 そしてわんわんと大声で泣き出す・・・一体何処で如何して()うなってしまったんだ・・・。

 考えが付いて行けず呆然としているとそっとガルダが小突いて来た。

 流石に此の(ママ)じゃあいけないな、大の大人が泣き出したので兵達も気にし始めているし・・・。

「ベール、誰も捨てたりなんてしないから大丈夫だ。只・・・その、先の仕事は大変そうだったから、他に好きな事をして良いんだって言いたくてな。」

だからそんな捨て狗みたいな顔をしないで欲しい。

 何だか変な罪悪感を覚えてしまうじゃないか。

「す、好きな事・・・?」

キョトンとした彼は良く理解出来ていない様だ。

 可哀相に、ずっと籠の中に居たから飛び方を知らない小鳥の様だ。

 屹度()うでもないとダイヤの圧政に耐えられないのだろう、御疲れ様です。

「然うだぞ。今から何があるか分からないし、休んだりとか、まぁ話をしたりとかな。」

何とか彼に理解させようと口を紡ぐ。

 ダイヤは何とも涼しい顔をしている。今なら彼を助けられるのかも知れないのだ。

「じゃ、じゃあダイヤの敷物になっても良いですか?」

・・・?

 おかしい、会話が成り立っていないな。出来る丈丁寧に話したつもりなのに。

「・・・其が御前のやりたい事なのか?」

「はいっ!」

言うや否やベールはダイヤの傍で(ウツブ)せになり、躊躇なくダイヤは彼の背に足を乗せた。

「フフッ、駄犬しては偉いじゃないベール。」

「え、あ、有難うダイヤ!僕頑張るよ!」

「狗は喋らないわよ馬鹿。」

「ワンワン!」

「・・・・・。」

何だ此、何だ此の空間。

 口を挟めずにいるセレを見てダイヤは何処か誇らし気だ。

 此が彼等の絆と言う物だろうか、何故か妙な敗北感が残る・・・。

「・・・え、と、セレ御疲れ。」

ガルダに肩を叩かれたので、もう見ない事にした。屹度自分には理解出来ない新しい世界なのだろう。

「・・・今のはな、何だったんですか・・・?」

スーが小首を傾げたが、そっとセレは目を伏せて首を左右に振った。

 悪いな、自分でも分からないんだ。

「他の国って面白い文化が流行ってるんですね。背中の・・壺押しとかですか?」

「いや、あんな文化は私は知らない。(アレ)は醜い主従関係だから見ない方が良いぞ。」

そっとロアには口止めをして置く。でないと自分達が去った後にあんな文化残して堪るか。

「ま、まぁ(アレ)は置いといてさ。もっと()う・・・明るい話でもしようぜ。」

雑にだがガルダが話を変えて来た。

 うん、其の方が良い。(アレ)は追及してはいけない。

 未だ着きそうもないし、其迄同じ檻の中なのだから。

「然うだな、じゃあ私は・・・良し、準備良いぞ。」

そっと檻の隅へ移動し、手持無沙汰そうにしていたゾアニルスを両手に乗せて戻って来た。

 此で良し、モフモフが手の中にあると酷く落ち着くな。

 ケルディはガルダのポケットに居るし、此方にしよう。

 ゾアニルスも大人しくしているし、さぁモフモフを堪能するぞ。

「さも当たり前の様に其奴を連れて来たな・・・。」

「折角だからモフモフし尽くさないと勿体無いだろう。」

「モ、モフモフなんですか?」

ちらちらとスーが気になるのか視線を寄越す。

 こっそり見ているつもりなんだろうけれど、頭の触角が其の(タビ)に物凄く揺れるので丸分かりだな・・・。

「噫新感覚のモフモフだ。でも此は私のだからスーはケルディで我慢してくれ。」

「あ、聞き捨てならないな。ボクだって立派なモフモフだよ!」

堪らずケルディはガルダのポケットから出ると、スーの前で行儀良く座った。

 此でもかと(バカ)りに胸毛を膨らませている。

 思わず唾を呑んでしまう程の見事なモフモフだ。

 どうぞ手に取ってくださいと言わん(バカ)りに大人しくしてくれているので怖ず怖ずとスーは両手でケルディを掬い上げた。

 途端に目が輝く、彼があんな嬉しそうにするのは中々珍しい。

「う、うわぁ!ほ、本当に凄いモフモフ・・・凄いですねケルディさん!」

フフフ・・・如何やらモフモフの罠に掛かった様だな、此でスーも自分の仲間だ。

「でしょ、ボクは一級品だよ。」

何を張り合っているのか変わらないが、彼は得意気だ。

「ほら、私のモフモフと良い勝負だな。」

「むむ、神よ現を抜かしてはいかんぞ!我をしっかり愛でるのだ。」

「当然だ。モフモフは皆唯一無二だからな。」

あ、(ソモソモ)私のモフモフ扱いでも良いんですねゾアニルスさん・・・。

何だか向こうは向こうで新しい世界へ旅立ちそうである。

 グループが出来て行くみたいで何だか嫌だな。

「モフモフ?を崇めるのは何かの宗教とかだったりするんです?」

こそっとロアがガルダの傍に寄る。

 ()のグループも近寄り難いのだろう、気持は良く分かる。

「まぁ宗教と言うか・・・セレ丈が信仰している悪徳宗教だな。」

「あ、悪徳なんですか⁉」

「んん?何の話をしているんですかぁ?」

思わず声が大きくなったロアの所へリーシャンがやって来た。

そして丁度良いと(バカ)りに空いていたロアの両手に収まる。

 其の瞬間だった。

「ほ、ほわわぁああぁあっ⁉」

電流が全身を駆け巡ったかの様にロアの背がピンと伸びる。

 其でもしっかり両手でリーシャンを乗せていた。

「わ、私分かりましたっ!こ、此が・・・モフモフッ!」

あ、入信しちゃった。

 何だろう、ストレス値が高いとコロッとモフモフに(ホダ)されてしまうのだろうか。

 ロアはすっかりリーシャンにメロメロな様で、彼をモフモフする手が止まらなくなっていた。

 リーシャンも悪い気はしない様で大人しくしている、まぁ其処に居る丈で愛されてるもんな。

 皆モフモフに夢中になっているので一寸(チョット)手持無沙汰だ。こんな檻の中と言う閉鎖空間がいけなかったのだろうか。

 俺も自分の翼とか出したらモフモフ出来るけれども・・・自前のモフモフって何て言うか・・・切ない気がする。

―・・・皆さん何だか楽しそうですね。―

「あ、未だ仲間が居たか。」

てっきり皆入信したのかと思ってたけれども、ガルダの後ろにナイト=カレアがやって来ていた。

 彼はモフモフしていないのでセレの標的にはならなかったのだ。

 互いに独り法師は何だか嫌なので、そっとガルダも彼に近付いた。

―若し時間が良ければ少し御話しても良いでしょうか?―

「え、俺に?まぁ勿論良いけど。」

龍から話し掛けられるなんて滅多にない。一体何の話だろう。

―折角なので御伝えして置こうかと思いまして。何やら傷付いた龍達が集まって徒党を組んでいるらしいのですが、聞いた事がありますか?―

「傷付いた龍?何か聞いた気がするけど・・・うーん、」

(ソモソモ)俺、龍の事とか余り詳しくないしな・・・何かでも聞き覚えが、

「悪いけどもう一寸(チョット)詳しく教えてくれるか?」

龍絡みはセレの方が良いんだろうけれど、今セレ忙しいしな。

 セレ最近、龍にプロポーズされたとか言っていたし、何かと龍達と関わりが深いんだよな。

 無関係とも言い切れないし、情報は欲しい。

―えぇ、如何やら彼等は何者かに心や躯を傷付けられた者達で集まっている様なのです。只の傷の舐め合いかと思っていたのですが・・・、―

一つ溜息を吐き、ナイト=カレアは続けた。

―如何やら最近、余り良い噂は聞かないのです。仲間が集まって来たから戦う可きなんじゃないかと唱える者が出て来ている然うで、争いにならないか心配なのです。―

「成程な。傷付けられたとなると・・・矢っ張りセレの事、敵に思っちゃうのかなぁ。」

龍の皆が皆、セレが好きとは限らないだろう。只でさえ黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)を起こしているし、然う言うのがいてもおかしくはない。

―・・・いえ、敵としてはいないみたいなんです。セレさんは昔人間に酷い目に遭わされたとか。だったら仲間だ、と彼等は考えているみたいで。―

「ゔ・・・又仲間か。」

何だろうなぁ此の既視感。

 うん、然うだ。セレは良く色んな所に歓迎されている。

 黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)を起こしたのだから敵は多いけれど、意外に仲間も多いんだ。

 屹度純粋にセレの力を買っているんだろうなぁ。あんな事を起こせたんだから当然(ツヨ)いって。

 然う言う風にセレを見定めるのは止めて欲しいんだけれども。

 龍とか魔力とか、後・・・ガイ、だっけ。兎に角色んな、謂わば変わり者から好かれ易いんだ。

 其処に来て、傷のある龍族の歓迎か・・・うーん。

 確かにセレは前世で人間に酷い目に遭わされている。今世も、未だ続いていると言えるけれども。

 其が傷の龍達の目に適った、無い話じゃあないと思う。

 セレを見ると龍達も何か気を良くするし、彼等からしたら逸材なのかもな。

 加えて(ツヨ)いし、うん、誘いたい理由は十分あるか。

 でもセレが仲間に成ったら間違いなく、セレは戦いに駆り出されるよな・・・其が嫌だ。

 セレ自身、本当の所は戦うのが好きじゃないんだ。自分から挑んだり、楽しいって言う事もあるけれど・・・好きじゃあない。

 ずっと居たから分かるよ、其にフォードも言っていた。

 彼女が戦うのは、敵を全て滅す為。

 敵と言う存在其の物が無くなれば、平和になる。だから戦う、セレはそんな平和主義者なんだ。

 加えて其が無理だとは思っていない、出来ると信じているから、彼女は(ツヨ)い。

 不完全な神でも、()の力を使えるのは然う言う所だ。

 そんなセレが戦に出ちゃったら、間違いなく店なんてやってられなくなる。 

文字通り人間を皆殺しにする迄、止まらないと思う。

 ・・・人間が如何とか、別にそんな事は思わないけれども、只俺はセレが心配だ。

 彼女に戦って欲しくない、逃げても良いって、選択肢を与えてやりたいんだ。

 俺のエゴだとしても、守護者として然う思いたい。

「じゃあ其奴等は今セレを探してるのか?」

―其は何とも、只然う言う噂を流れの龍に聞きました物で、今回本神(ホンニン)と御会いして理解したのです。―

「理解って・・・何をだ?」

―・・・彼女が手に入れば、私達は何でも出来る。不思議とそんな根拠のない確信があるのです。―

其は不思議な言葉だった。

 一体如何言う意味なんだろう、何でも出来るって一体、

「えっと・・・確かにセレは(ツヨ)いけど、その、何でも出来る超ハイスペックな神じゃあないからな・・・?」

何というか其じゃあ本物の神だ。

 違う、セレは只の・・・俺の幼馴染だ。

 彼女をそんな特別扱いしないで欲しい、良い意味でも勿論悪い意味でも。

 彼女は普通じゃあない事を酷く嫌うから。

―分かっています。でも・・・何なのでしょう此の気持は。彼女の為なら何でもしてあげたい、其の為だったら何でも出来る。そんな懐いを抱いてしまうのです。―

「其は・・・龍の(サガ)とでも言うのかな。」

何だか前から龍達って似た事言ってたよな。何かセレの事が好きなっちゃうって。

 其は良い事なのかなって思っていたけど、セレに其位の幸せがあっても良いって。

 無条件で愛してくれるなんてそんな親みたいな存在、セレには屹度居なかったから。

 だから良いと思っていたけれども・・・()うなって来ると話は変わって来るよな。

 何というか前より酷くなっている?好き以上の感情をセレに求めてしまっている?

 ・・・余り良い事とは言えないよな、行き過ぎた愛って恐いもんな。

 例えばセレを取り合って龍達が争ったりしたら・・・屹度セレは傷付く。

 いや、セレが誰かの物になるってのも想像出来ないけど。

 うん、然う、事丈が大きくなっているんだ。セレは変わらないのに。

 其が何だか急かして来る様で。

―龍の(サガ)?さぁ其は如何でしょう。只私達は懐った事に素直な丈です。だから・・・気を付けてあげてくださいね、守護神さん。―

ちらとガルダは顔を上げてナイト=カレアを見遣った。

 屹度彼等も良く分かっていないんだ。無闇に傷付けたくないのは彼等も同じで。

 でも・・・懐い丈じゃあ如何にもならない時があるから・・・然う言う事なんだろう。

 じゃあ一体セレにそんな力を与えたのは何の(サガ)なんだろう。

「・・・噫分かった、忠告有難な。」

セレの好きな龍族だから何でも受け入れて良いって訳じゃないんだな。 

 まぁ結局はセレの為になるんだし、気を付けるに越した事はないか。

 ・・・後で軽くセレに話して置こうかな、既に接触があったらいけないし。

 今のセレはすっかりモフモフに癒されている・・・そんな中此の話をするのは酷だろう。

 其の傷のある龍達がモフモフだったら・・・良く考えたら不味くないか?

 人間が毛皮を捕ろうとして~とか聞かされたらセレは屹度・・・。

 考えていると恐ろしくなって来た。モフモフは世界を滅するかも知れないのだ。

 人間を殺すなとは言わない。・・・いや、肯定もしないけど、でも考え無しに思う(ママ)行動したら(ロク)な事にならない。

 モフモフの事となるとセレの知能は驚く程退化するんだ。此は確かに気を付けないと。

 然う秘かに決意をしたガルダの目の前で、セレはしっかりとモフモフを堪能して行くのだった。

   ・・・・・

 (アレ)から半刻程檻に揺られ、一同はやっと国の端、火山の出口へ辿り着いた。

 其処には確かに、堊柳が通って来たのであろう一本の道がうねり乍ら続いていた。

 見れば見る程不自然な道だ。流石堊柳の念動力、土が隆起したり均されたりして歩き易い平坦な道になっているのだ。

 只堊柳も色んな所を歩いて来たのだろう、道は可也蛇行している。

 其でも(アラカジ)め道がある程度出来上がっているのは良いな。指標があってやり易いだろう。

 兵達や王は、知らぬ間に出来ていた此の道に可也驚いている様だった。

「い、何時の間にこんな道が・・・(シカ)も見事な出来だ。一体如何やってこんな平らな道を・・・、」

日数を掛ければ出来るだろうが、短時間で、加えて一頭で行ったのだから、正しく神業と彼等には写っただろう。

 一見人工物めいて見えるし、手の無い四足の獣が造ったとなると信じられないか。

 実際堊柳には其の類の言い伝えが幾つもある。

 空山(ヤマ)で遭難した旅人が偶然道を見付け、村に繋がっているだろうと辿ると堊柳達の巣に辿り着いた、と言った具合の言い伝えだ。

 まぁ別に堊柳は肉食ではないし、見ての通り温厚な性格なので、ちゃんと旅人を村迄送ってくれていたそうだが。

「はぁ・・・まさかこんな道があったなんて、此処を使えば半日も飛ばずに済んだのかも知れないですね・・・。」

高度も抑えられただろうし、然うだろうな。はっきりと分かる程の道なのだから。

「後は此の道をもう少し拡げたら、色々出来そうか?」

「あ、噫然うだな。交通の便が良くなれば、活路を見出せそうだ。ま、まさかでも、こんな事が、」

すっかり王達は動揺してしまって動けそうも無かった。

 大変だろうが此処は堊柳に任せるしかないだろうか。

―噫・・・確かに此の道ですね。では少しずつやって行きましょうか。―

檻から出た堊柳は(ユック)りと順番に足を伸ばした。

 大変な作業だろうが、頑張って貰わないと。

「噫堊柳、少しずつで良いからな、頼むぞ。」

―えぇ任せてください。―

堊柳はそっと目を伏せると自分で拓いた道へ一歩踏み出した。

 彼の頭上の(タマ)(ヒカリ)を放っている。すると見る見る内に道が拡がり、地が均されて行った。

「お・・・おぉ、」

一同が息を呑む。目の前で起こっている現象が理解出来ないのだ。

 見られていると遣り難いのか堊柳はちらちらと後ろを見遣りつつも一歩一歩踏み締めて行く。

 うん、順調だ。此の様子なら・・・丸一日歩いたら終わるだろうか。

 只堊柳も休ませないといけないし、(ソモソモ)こんな必要以上に道を拡げて行って彼の魔力が持つだろうか。

 此の次元は回復が余り期待出来ない、彼に無理をさせないと良いが。

 堊柳は巨体な分、歩みは遅い。そして一同は薄々勘付いて来ていた。

 彼が歩き終わる迄、手持無沙汰なのである。

 でも任せた手前、王達も帰る訳には行かないのだろう。出来るとしたら彼が休める所を造るか、道の整備だろうか。

 ・・・此の(ママ)では気が遠くなりそうだ。何より自分達が何もしないと言うのは(イササ)か気が引ける。

 かと言って自分も術を使えないし・・・何かないだろうか。

 ・・・いや、一つ出来る事はあるか?此が上手く行けば、堊柳も楽になるかも知れない。

 自分はそっと一同から下がり、慎重に目元の晒を緩めた。

 そっと手を滑り込ませる、そして獣の様に鋭く睨んでいる四つの目の内の一つを・・・、

 (ユック)りと指を入れて・・・抜き取った。

 大丈夫、慎重にやれば痛くはない。

 其に前丗曦と戦った時にも試したけれども血は出なかった。

 此の眼は何処にも繋がっていないのだ。

 只の魔力の結晶体と言う事なのだろう、キャッツアイの様に目の様な模様が入っている丈で、其の機能はない。

 ・・・良し、自分の魔力は乱れて無いな、先此処の住人を殺した御蔭で、存在が保たれているのだ。

 魔力も勿論大切なのだが、神としての名声、知名度も必要なのかも知れない。

―御前、そんな事をして影響は無いのか。―

「・・・大丈夫みたいだ丗闇、今は安定している。」

目が一つ無いのは如何しても違和感があるけれど、波紋も(ホトン)ど使わないし、支障はないだろう。

 只ガルダ達に知られると怒られそうなので、そっと堊柳の傍迄眼を隠して近付いた。

「堊柳、一柱じゃ大変だろう。此を使ってくれるか?」

―ん、此は一体、何ですか?―

彼に眼を差し出すと途端にふわふわと浮かび始めた。

 然うして彼の頭上で浮かばせている(タマ)と並ぶ。

―っ⁉こ、此の魔力は、―

「使い切ってくれても構わない。此で改めて頼む。」

―つ、使い切るんですか、此をっ!―

(イササ)か動揺が隠せない様で堊柳は幾分か慌てていたが、魔力を探る為か暫し目を閉じた。

―・・・途轍もない力です。分かりました、では遠慮なく使わせて貰いますね。―

頷いた堊柳がそっと一歩踏み出した。すると・・・、

 たった一歩で、何10mもの道が一気に整った。

 地が揺れたかと思うと、あっと言う間である。

 突然の事に一同、そして何より堊柳自身が一番驚いていた。

―す、凄いです。此なら直ぐ終わらせられそうです。何だか躯も軽いし、行って来ますね!―

何だか(カエ)って元気になった様で堊柳は其迄とは比べ物にならない位軽快に歩き始めた。

 もう見る間に道が出来て行く、王達はぽかんと見ている事しか出来なかった。

「・・・セレ、若しかして何かしたか?」

満足そうに見ていた自分の肩をガルダが叩き、思わずびくついてしまう。

 波紋が弱いので驚いてしまった・・・何より其の質問が恐い。

「いや、頑張ってくれって励ました丈だ。」

「本当か?・・・まぁセレなら有り得るのかな・・・。」

意外とあっさりそんな適当な答えに納得してくれたガルダだった。

 よ、良かった。てっきり目が無いの、もうばれたのかと。

 ガルダの事だからな、何か不思議な力で勘付かれてしまうのだ。

 次元の迫間(ディローデン)に帰れば治るよって言っても絶対納得してくれなさそうだし、黙って置くのが一番良い。

―・・・我が奴に告げ口をしても良いんだぞ。―

い、嫌だなぁ丗闇、冗談が過ぎるぞ。

―・・・我は本気だぞ。―

御免なさい、調子に乗りました、今後も気を付けるので告げ口丈はしないでください。

 此処の所説教続きなのだから止めて欲しい。まぁ自業自得なんだろうけれど、其でもだ。

 事実此のやり方の方が効率も良いし、多少の犠牲は目を瞑って欲しい。

 堊柳がガンガン進んで行く中、何やらロアと王が話している様だった。

 若しかしたら何か妙案でも浮かんだのかもな。其なら聞いてみたいけれども。

 そんな風に思っていると、突然自分の躯が浮かび始めた。

 飛んだ訳でもないのに此の浮遊感、何だか恐い、自分の意志で動けないなんて。

 慌てて取り敢えず手足をばたつかせてみたが効果はない。ふわふわと、少しずつ上へ上ってしまう。

 な、何だ此、一体何が、

 まさか丗闇の御仕置きか?こんな武力行使するのか?

 そんな風に頭を巡らせているとストンと、自分は堊柳の背に着地した。

 もう()の浮遊感は無い、と言う事は・・・、

―少し驚かせてしまったでしょうか。折角なのでと思ったのですが。―

「あ、噫、堊柳だったのか・・・済まない、今余り目が見えなくてな。一寸(チョット)驚いてしまったな。」

何だか積極的だ。まさかこんな風に連れられるとは思っていなかったけれども。

―然うですか。折角力を貰いましたし、何だか具合も良いので良ければ一緒にと思ったのですが、少し(ハシャ)ぎ過ぎてしまった様ですね・・・。―

「いやそんな事はないぞ。気に入ってくれたなら良かったし・・・然うだな。良かったら此の(ママ)乗せてくれるか?」

乗り心地自体は悪くないし、何よりこんな風に甘えてくれると嬉しくなる物だ。

 折角の御誘いなのだし、自分もしっかり堪能させて貰おう。

―フフ、然う言って貰えれば私も嬉しいです。・・・では、一寸(チョット)頑張りましょうか。―

堊柳は其迄より更に足を速めて、一歩一歩確実に道を広げて行くのだった。

   ・・・・・

「おぉ・・・っ凄い、素晴らしい!此が、国の外かっ!」

王が目を輝かせて道の中心で声を上げていた。

 眼下には空山(ヤマ)の麓が見渡せる。傾いていた陽が沈んで行く様も良く見えた。

 兵達も我先にと集まり、思い思いに景色を楽しんでいる。

 王があんな(ハシャ)ぐのも無理ないだろう、彼等は初めて火山の外を目にしたのだ。

 何処迄も広がる地平線、国より大きな湖に蕭森(モリ)もある。

 近くには聚落だろうか、村の様な物も見渡せた。

「こんな、こんな世界は広かったのか!噫あんな狭い国で私達は悩んでいたのか、」

「あっ、私の村も見えます!此処からなら近いですね。」

知らずかロアの金魚の様なひらひらの尾が揺らめき、ふわふわと彼女の躯が浮かび上がる。

 然うやって此の国迄やって来たのだろう。

「良し、堊柳御疲れ様、本当に此処迄良く頑張ったな。」

―いえ、疲れとかは全く。素晴らしい魔力でした。此は御返ししますね。―

御世辞等ではなく、確かに堊柳は余り疲れている様子がなかった。

 なら良かった。自分の魔力が役に立ったのなら。

「御礼も兼ねて其は預けて置くよ。好きな丈使ったら良い。」

―然う言う訳には行きません。今回は使わせて貰いましたが・・・此は力が(ツヨ)()ぎます。私には過ぎた力です。何か起きてしまう前に御返しします。―

言うや否や堊柳の頭上にあった(タマ)が一つ降りて来た。

 然うして背に乗っていたセレの手に収まる。

 自分の眼だ。色は少しくすんでいる気がした。

「然うか。其処で手を引く事が出来るのが、御前達龍族の良い所なんだろうな。」

自分だったら貪欲に奪うだろう。其の辺りの自己の在り方が違うのだ。

 そっと眼を晒の下から入れて戻す。

 戻すのは簡単だ。眼の縁を少し整えれば・・・大丈夫。

 下りの道もある程度出来たし、大丈夫だろう。

 ・・・噫、眼を戻すと魔力が戻って来るのが分かる。少しずつ調和が取れて行くみたいな。

 魔力はそんな減っていない気がするな。堊柳は力の使い方が上手いのだろう。

「此でもう大丈夫なのか?」

ナイト=カレアの背に乗せて貰っていたゾアニルスが少し首を傾げた。

「噫、大丈・・・っと、」

答え掛けて又浮遊感。セレの躯は軽々と浮かび、(ユック)りと地面に降ろされた。

 毎回驚くな、此。波紋があれば未だ魔力を見られるんだろうけれど、見えなければ見えない手で行き成り掬われた様な心地になる。

「大丈夫だろうな。一応王に話を聞いて置こう。」

―ん・・・矢張り貴方随分軽いんですね。降ろしても全く分からないです。力も元に戻った筈なんですが。―

「まぁな。もう魔力は返して貰ったから加減には気を付けてくれ。」

そっと堊柳の横腹を撫でて置く。

 ずっと背に乗せてくれたが、中々良い乗り心地だった。

 (ソモソモ)龍の背に乗る経験が余りないので新鮮だった。モフモフではなかったが、()(ママ)揺られていたら寝てしまっていたかもな。

 後は王達と話を付けよう、此処からは自分達の出番だ。

 彼には頑張って貰ったし、無駄にはさせたくない。

「セレ御疲れ、何だかすっかり龍達に気に入られてたんだな。」

「噫嬉しい限りだな。御蔭でこんなに早く済んだし、王に話でもと思ってな。」

「まぁ然うだよな。道が出来ても如何するかは王次第だしな。」

目的は道を造る事じゃない、深刻な土地問題なのだ。

 閉じ掛けていた波紋を広げる。如何やら・・・王はロアと話している様だが、

「ロアさん、一寸(チョット)良いか?王様と話がしたいんだけどさ。」

「あ、ガルダさん。あ、あのもう一寸(チョット)丈良いですか?今王様と今後の事について話していまして、」

「其、丁度俺達も聞こうと思ってたんだ。道は出来たけど、如何するのかなってさ。」

ロアと其の事に付いて話していたのか・・・一寸(チョット)意外だ。

 まぁ同じ此の次元に棲んでいる者同士ではあるけれども。

「噫、今ロアさんの国と交易が出来ないか話していてね。若し上手く行き然うなら少し手伝って貰おうと思っている所だ。」

「はい、人間の国は不思議な物が沢山ありましたので、欲しがる仲間は屹度沢山います!棲む所に付いても私達の所は余っているし・・・、」

「成程な。其は良いんじゃないか?隣国同士手を取れればこんな心強い事も無いだろう。」

人間が他種族と手を組むか、複雑な気持だ。

 前世では絶対有り得ない事だった。()のボスでさえも失敗した事だ。

 其を()うもあっさりと・・・まぁ亜人は幸せの象徴と言っていたし、印象の差なのだろうか。

 ガルダも天使と呼ばれて可愛がられていたし・・・見た目とかよりも屹度、先入観なんだろうな。

 ・・・心の何処かでどうせ失敗する、人間と亜人は相容れない、なんて(クロ)い声が絶えずしている。

 上手く行く事を願う可きだし、喜ぶ可き事なのに・・・我乍ら面倒な性格だ。

 別に彼等が上手く行こうと行くまいと、自分には関係が無いのに、他人の不幸を願うのは最低だな。

 分かっていても止まらない懐いにうんざりする。

 ()の十数年は、こんなにも自分を縛り付けているのか、其も嫌なんだけれども。

「さぁ此から忙しくなるな、引き続きロアさん、宜しく御願いするよ。」

「あ、こ、此方こそ。私なんかで良ければ。皆も人間に興味はあるので喜びます。じゃあ早速、」

何だか二柱で話が進んで行っている。

 此が次元の主導者(コマンダー)の為せる業なのだろうか、此の様子なら・・・大丈夫だろうか。

「で、私達は何時迄此処に居るつもりなの。」

後ろからキュッとダイヤがセレのオーバーコートの裾を掴んだ。

 心底不満そうだ。こんな何もない空山(ヤマ)に登らされたのだから彼女の気持も分かる。

 龍達も帰って貰っても良いだろう、此の辺が引き際だろうか。

「然うだな。そろそろ帰っても良いだろう。王に挨拶して、丁度良い位だろうな。」

如何やら王達は一度ロアの国へ行くらしく、其の話へ焦点が移っていた。

 此処迄道を敷いてやったんだ。後は自力で動いてくれそうだな。

「王、済まないが、私達はそろそろ旅の続きに戻ろうと思うんだが、彼等の助けも、もう大丈夫そうだよな?」

「え、あ、もう発ってしまうのか。」

驚いた様にロアと王が顔を上げる。只ロアの国迄となると蛇足だろう。

 此処は神の直感を信じても良い筈だ。もう自分達の力は要らないと。

「フン、(ムシ)ろ此処迄付いて来てくれた事に感謝して欲しい位だわ。」

「ダ、ダイヤ!シーですよぅ!シー!」

「勿論感謝はしているよ。まさかこんなあっさり解決してくれるなんて・・・本当に亜人とは凄い力を持っているのだな。只良ければ此の後歓迎のパーティにも招待したいのだが、」

「面倒だわそんなの。施しは要らないわよ。」

別にダイヤに何か功績があったかと言えば、そんな事も無い気がするが彼女の意見には同意だった。

 パーティは流石に。自分の魔力も一寸(チョット)心配だし。

「まぁ言い方は(アレ)だけど、辞退、かな。俺も大した事してないし、」

「龍達は如何だ?堊柳も頑張ったし、呼ばれても良いんじゃないか?」

見上げると堊柳は少し首を傾げて足を踏み鳴らしていた。

―気持は有り難いですが、私も早く故郷へ帰りたいので、失礼します。―

―私も仲間の所へ戻らないと。―

「我はもう十分歓迎して貰ったから気にしなくて良いぞ。」

何とも謙虚な龍達だった。

 皆から断られるのも残念だろうが、まぁ仕方ないな。

「然うか。・・・分かった、ロアさんは残ってくれるのかな?」

「はい、国に帰る丈なので。」

「では旅の皆様、本当に有難う。御礼が出来ないのは心苦しいが、せめて今日の事は忘れないよう、しっかり記録させて貰おう。若し又此の国へ来た時は、目一杯御祝いさせて欲しい。」

「其なら喜んで。・・・でも本当に良いのか?私が此の(ママ)去っても。」

「構わないよ、大丈夫だ。貴方の誠意も伝わったし、後は私の仕事だ。気にせず旅を続けて欲しい。」

其処迄言われたら引き下がるしかないか・・・。

「あの、皆さん私からも有難う御座いました。次来る時は是非私の国にも来てくださいね!」

王やロア達に見送られ、一同は別の方向から空山(ヤマ)を下る事にした。

 彼等の姿が見えなくなる迄(ユック)り下って行く。

―ではセレさん、御世話になりました。又何処かで会えたら良いですね。ガルダさんも、―

―私も、色々と御世話になりました。では、―

「噫、二柱とも有難う。今回は本当に助かった。」

ナイト=カレアと堊柳の姿が掻き消えて行く。

「・・・あれ、君は帰らないの?」

スーにモフモフされていたケルディが、同じ様にセレにモフモフされていたゾアニルスを見遣る。

「うむ、どうせ次元の迫間(ディローデン)に帰るのであろう?では丁度良いのだ。」

「だな、丁度良いな。」

・・・此の(ママ)飼わないよなセレ、随分懐かれているけど。

 否懐かれているというか隷従しているみたいだ。ゾアニルスが右を向けばセレも然うするだろう。

 一時は如何するかと思ったけれども、()うして合流出来て無事終われたのなら重畳だ。

「・・・スーも御疲れ様、良く頑張ったな。」

「え、えっとで、でも僕、何もしてないですよ・・・。」

「然うね、只飯食らってた丈だもの。」

「ひぅ!」

「いやダイヤ其は言い過ぎだからな。」

其を言ったら俺達だって・・・いや、ネガティブな事は考えてはいけない。

「途中で帰らずに最後迄一緒に行ってくれただろ?其でもう十分だって。仕事、一緒にしてくれて有難な。」

流れで、とは言え引き籠りの彼が此処迄付いて来てくれたのは素直に褒めないと。

「ガ、ガルダや皆さんは、あんな・・・凄い事、い、何時も頑張ってるんですよね。・・・僕も、もっと頑張りますっ。」

如何やら彼にとって今回の事は良い刺激になった様だ。

 うん、然う言って貰えたら、結果としては悪く無かったかな。

「其じゃあ皆御疲れ様って事で。」

一同の姿が掻き消え、静寂に包まれる。

 後に亜人の国と人間の国が交易を通じて成長し、一行の像が造られたり伝記が作られたりなんやかんやするのは又別の話。

   ・・・・・

興味の(イト)を手繰り寄せ

噂を探り、人を見付ける

集まる人に問い質せば面白い物の一つでもあろうよ

噫、私の姿が気になっていたのか

私の姿が興味を、噂を、人を呼んだのかい

只御生憎様、私からしたら喰えもしない噂に(タカ)る君達の方が、

余っ程おかしな生物に映るんだよ

 ね?軽い話でしょ?

 と言う訳で何か亜人とか色々出る話でした。

 ・・・うん、如何しよ、語る事無い・・・。

 まぁ今回は火山の中に街があったら面白そうだなーって思った丈だからね、御免ね。

 でも次回、というよりおまけは結構筆が進んでいます。

 残酷でサイコパスな話も良いんですけれどね、ギャグも書いていて楽しいんですよね。

 自分の所の子がわちゃわちゃしているのが良いというか・・・此は物書きの特権ですね。

 兎に角昔投げっ放しにして忘れ掛けていた伏線も一寸回収出来たので満足です!さぁ何時暴かれるのかな。

 未だ見ぬ世界に舵を切って、縁があれば又御会いしましょう!

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