43次元 角觝の音よ汀濘に吹き荒ぶ次元
遅れて済みませんでしたー‼(土下座)
と言う事で皆さん今日は。
・・・いや、書き終わったら投稿する形なので遅れるも何もないんですけれどね、本当は。
と言うのも実は二週間位前に此の話書き終わっています。
何なら次の話も書き終わっています。だから次の投稿は滅茶苦茶早いです。其で勘弁してください。
何をそんなに下に出ているのかと言うと、校正がやりたくなさ過ぎて書けていたのに放置しちゃってたんですね・・・てへっ!
別で創作活動?もしているので其の余波も来ていたりします。
自分は毎日何かしら活動をしていないと気が済まないタイプで、例えば昨日の一日が何事もなく消え去っても困らない、そんな生活は嫌だなぁと何故か焦ってしまうのです。(何処かで書いた様な既視感・・・。)
御蔭で活動は順調ですが、正直自由は無いです。
皆さんはこんな風になっちゃ駄目ですよ。
そんなこんなで遅れました。でも先も書いた通り投稿が遅れている丈なのでペースは継続中です。
だからオールオッケー!
さぁ言訳タイムは終わりです。少し久し振りな前書きだったのでノリノリですね。
今回はまぁ・・・ふわっと書いた御話です。あるオチを書きたいが為に書いた話なので少し雑感があったら申し訳ないです・・・。
そろそろ此の話も書かなきゃなぁと思って、又新たな伏線を鏤めてみました。
ではでは、次は後書きで御会いしましょう!
願いを叶えてくれると聞いた
どんな願いも一つ丈
どんな無理な願いでも、たった一人の願いの為に現れてくれる然うだ
只、対価は必要になるけれども
でも、其の位の代償で良いのなら、
私は・・・私は、
・・・・・
「・・・ん、」
瞬きの間に世界が一変した。
おかしいな、自分は先迄ドレミ達と御茶をしていた筈だ。
次元の迫間に帰って、化物が居て恐かったなーとか話して、
ドレミ達にアティスレイの事を聞こうとして・・・そして、
話していた・・・筈なのに。
セレの目の前に広がる景色は店の其では無かった。
冥い石畳の、地下室を思わせる様な狭い部屋、見た事も無い草花が壁に干されている。
そして自分の足元には・・・血で描いた様な魔法陣らしき物、規則的に床に並べれた蝋燭に因って何か輪郭が浮かび上がるが、更に怪しさを増している。
まさか又彼の地下室か、と一瞬身構えたが決定的に彼処と違う所があった。
其は・・・自分の前で跪いている彼の存在だった。
彼は何という種族なのだろうか、人間ではない様だが。
姿は、黔っぽい人間が背中に鮮やかな海牛を背負った様な姿だった。
全体的に蒼く、橙のリボンの様な触角の生えた海牛だ。自ら発光しているのか其の背は輝いて見える。
青年は只々頭を下げて跪いている丈だ。そして彼から馴染みのある気配がする。
然う、次元の主導者の気配だ。
と言う事は何だ。自分は突然次元へ行ってしまったのか。
でも話し中に?そんな急に?
自分の干渉力の所為では無い筈だ。ちらとも次元に行きたいだなんて思っていなかったのだから。
だとすると・・・急な仕事?依頼か?次元の主導者である彼に呼ばれたのだろうか。
・・・考えても埒が明かないな。仕方ない、彼に聞いてみるか。
存外人間っぽくないからかそんな抵抗は無い。
「あの・・・一寸良いか?」
控え目に声を掛けたつもりだったのだが、青年はガバリと顔を上げた。
其の表情は驚きに満ちている。真黔な瞳孔が広がって行く様が良く分かった。
「あ・・・あ、ほ、本当に、」
そしてわなわなと震え出す。
此の反応、何だか前の次元を彷彿させるなぁ。
如何やら自分は彼に呼ばれたと言う事で間違いはない様だ。
「・・・あ、」
つい間抜けな声を出してしまった。
と言うのも、波紋なのに気付くのが遅れてしまったが、自分の背には大きな翼がはためいていたのだ。
手足や、目にさえ晒が無い、次元を渡る時に外れたりしてしまったのだろうか。
いけないな、こんな姿を見て然う震えるのは当然だ。
けれども今更隠した所で・・・彼も海牛っぽいし、何とか仲間だと誤魔化せないだろうか。
ほら翼も見様に因っては鰭に・・・流石に無理か。
さて如何しようか、自分がリードしないと困るよな・・・。
「お、御前が私を呼んだのか。」
慣れない事はする物じゃないな。
声が詰まる様だ。斯う言った対等でない関係は然う生まれないから。
今の所次元の主導者の反応や状況証拠からして、自分は彼より上位の扱いをされている風がある。
陣を使って神を降ろしたみたいな・・・まんま先の次元だ。
まぁ彼処は呼んで置き乍ら閉じ込めたり、操ろうとしたけれども。
あんな物みたいな扱い丈は嫌だなぁ・・・然も人間なんかに使役されちゃあ。
今迄だって殆ど・・・特に前世では正に其の扱いだった。常に自分は下で、世界が上だった。
虐げられ続けて来たんだ。牙位剥いたって良いだろう。
でも今更だが自分は如何やって呼ばれたんだろう。
神ってこんな風に召喚とかってされる物なのか。そんなイメージも殆ど無かったし、呼ばれたからには何をする可きなのだろうか。
呼ばれたのだから手伝え、とか助けろって言われたら正直そんなにしたくない。如何して自分が見ず知らずの奴を助けなきゃいけないんだ。
・・・いや元々自分の黔日夢の次元の所為で彼、次元の主導者は困っているのかも知れないがな。其の償い位はしたいけれども。
でも召還するにしても何にしても、自分の下ろし方が次元に伝わっているのは何だか不思議だ。
神の中からランダムで呼ばれた可能性もあるけれど・・・其でも候補にはなるんだな。
自分は完全に邪神だと思っているので、碌な要件じゃあなさそうだけれども、如何だろうな。
「はい、私が貴方様を呼び付けました、霄と水鏡と殺しの破壊神様。」
・・・ん⁉
え、今変な名前で呼ばれなかったか⁉と言うより彼は名前なのか⁉
だ、駄目だ。今一瞬で頭がショートしてしまった。何其の、何て言うんだ、痛いと言うか盛り過ぎて拗らせてしまった名前は。
けれども青年は至って冷静其の物で、別に恥ずかしがっても巫山戯ている風でもなかった。
恥ずかしがっているのは・・・自分だ。耳迄赤くなってしまっている。
顔の半分が折角甲で隠れているのに此だと全く意味がない。
え、えー其自分で名乗らないといけないのか、何の罰ゲームなんだ・・・。
「御願いがあります。如何か私めと契約を・・・御願いします。」
いやいやいや其の儘話進めないで!
いや頭も下げるな!此方は取り込み中なんだ!
ん、でも契約・・・契約って・・・、
顔丈赤くなり乍らも何とかセレは思考を巡らせて解決の糸口を探した。
ポーカーフェイス丈は崩すなよ・・・今自分は恐らく優位に居るんだ。此の関係は徒に崩す可きじゃない。
契約・・・二つ名、然うだ彼奴だ。
―ノロノロさん!今直ぐ私の所へ来られるか⁉―
―勿論ノロヨ~。―
一気にテレパシーを放つと届いた様だ。
良し!大妖精様なら此の場を丸く収めてくれる筈だ!彼を頼ろう!
「少し待て、仲介を呼んで来るから。」
「分かりました。霄と水鏡と殺しの破壊神様。」
うん・・・うん、毎回其の名前言うの止めようか、其が自分のだって認めたくないんだよ。
あ、いや若しかしたら丗闇の二つ名の可能性も、
―ある訳ないだろうそんな低俗な名前。―
あ、はい済みません。闇の神様でしたものね・・・。
「御待たせしたノロ~。」
永遠とも言える一瞬の後に自分の隣で不自然な魔力が流れた。
空間に切れ目でも入った様に線が入り、中から二枚の帯が生え、線を抉じ開ける様にはためくと、中からノロノロが現れた。
青年は突然の事に一瞬身を強張らせて、小さな感嘆の声を上げた。
そんな彼と自分を交互に見遣ってノロノロは首を傾げた。
「で、今度はどんな状況で呼んでくれたノロカ?」
―実は此奴から何やら契約を持ち掛けられてな・・・。行き成り次元から呼ばれて私も困惑しているし、初めての事だから如何して良いか分からなくてな。―
―成程ノロネ~。遂にセレ神も呼ばれる様になったノロカ。其は何とも目出度い事ノロ!―
ガバッと口を開けるノロノロ、表情が変わらないので分かり難いが、喜んでくれている様だ。
聞かせられない話だったので、テレパシーに合わせて貰えたのも助かる。
―じゃあ此のノロノロに任せるノロヨ!大妖精の力を見せてあげるノロ!―
正直二つ名の事とか色々聞きたい事はあるが・・・先ずは目先の問題だな。
「ノロノロ~。セレ神と契約したいそうノロネー。ノロノロに取り仕切らせて貰うノロヨ。名前は何て言うノロ?」
「ノ、ノロノロさんって彼のっ⁉す、凄いそんな方をこんな簡単に呼ぶなんて・・・は、はい、私は壟枉(ロウオウ)、と申します。」
彼、壟枉は然う告げ、益々深く頭を下げた。
おぉ~、ノロノロ効果凄いな。奴隷妖精なんて扱い受けているよ、と言われたら彼吃驚するんじゃないかな。
大妖精と言うのは伊達じゃあなかったか・・・まぁあんな恐ろしい術をポンポン使えるものな。
「壟枉ノロネ~。じゃあ先ずは願いを言うノロヨ~。其を叶えるかはセレ神次第ノロ~。」
あ、其のジャッジは自分でするんだ・・・。
願い、願いねぇ・・・一体自分なんかに何を願うのだろう。
「はい、私の願いは、侵略者の長である巉罫(サンガ)の死です。」
「成程な、誰かの死を私に願うのか。」
殺しの精霊だものな、矢っ張りそんな願いか。
侵略者となると・・・其奴を殺せば此の次元は其で救われたりするのだろうか。
昔、前世のギルドを懐い出すな。彼処の依頼みたいだ。
「まぁそんな所だろうノロネ~。如何するノロ?受けるノロカ?」
―受けるも何も此の次元の現状も何も知らないからな。其処を一応聞いて置きたいんだが。―
次元の主導者の願いなんだから其を叶えれば良いんだろうけれど、念の為な。
体良く使われるのは余り好かないしな、成る可く自分の意思で決めたい。
―然うノロネ。セレ神も来た許りノロヨネ?じゃあ聞いてみるノロ。―
何度かノロノロは頷いて壟枉を見遣った。
彼は・・・今か今かと緊張感を漂わせて座っている。
自分の願いが叶うか如何かの瀬戸際だもの、緊張位するな。一生の分岐点だ。
「分かったノロ。じゃあ確認するノロヨ?誰かの死は随分大きな願いノロ。だからちゃんと世界の現状が自分で認識出来ているかの確認で話してみるノロヨ。誰かを殺す事で何が起きるか良く考えるノロ。如何して然う願うのか、其の経緯をちゃんと話すノロヨ!あ、嘘は駄目ノロヨ。嘘吐いたら直ぐ帰っちゃうノロヨ。」
明らかにセレがノロノロを見る目が変わった瞬間だった。
素晴しい、此方の威厳も護りつつ情報を引き出すか。
然も何だか試練っぽくなってる、流石大妖精、こんな契約を何度も経験しているのだろう。場数が違う。
彼を咄嗟に呼んだのは正解だったみたいだ。・・・でも彼の二つ名については良く聞かないとな。
「はっ、分かりました。では私達の一族の話をさせてください。」
壟枉はまるで物語を朗読するかの様に、緩りと語り始めた。
・・・・・
私達一族は遥か古から此の湿地帯で生きていた。
だが其処へ奴等が来た。侵略者だ。
奴等は私達より数は少ないが、躯が大きく素早い。
似た角を持っていると言うのに、奴等の足は大地を蹴る物だ。
奴等が来た所為で湿地は減りつつある。奴等は乾いた大地を好むのだ。
彼の足で踏み固めてしまうと潤いの消えた大地になってしまう。
戦えはするのだ、数では勝っているのだから。
只、奴等の長である巉罫が問題だった。
奴が一声雄叫びを上げると皆急に力が増し、其迄以上に暴れて手が付けられなくなるのだ。
彼の長さえいなければ、奴等を陸地の奥へと追い返せるだろうに。
彼の蹄の音を聞かなくても済むだろうに。
・・・・・
成程、大体の経緯は分かった。
と、そっと心の中で頷いて置く。然うか、斯うやって情報を引き出す事が出来るんだな。
侵略者か、確かに彼等からすれば悪だろうな、平和を脅かす存在だ。
でも若しかしたら彼等も何かに追われて此処迄逃げて来たのかも知れない、追い返せば滅んでしまうのかも知れない。
要は視点次第だ。かと言って共存の道は面倒だろうな。
まぁ良い、次元の主導者が望むのなら其の道を護る迄だ。
「良く分かったノロヨ~。ちゃんと理解は出来ているノロネ。じゃあセレ神に御願いするのは、其の巉罫の殺害って事で良いノロネ?」
「はい、如何か宜しく御願いしますっ!」
熱意も誠意も感じられる声音だ。信じても良さそうではあるな。
「セレ神は如何するノロ?今の叶えたいノロカ?」
「噫、其位なら。出来る限り手を尽くそう。」
其の巉罫って奴を見ていないので何とも言えないが、全く手も足も出ないと言う事は無いだろう。
さっさと無でも何でもぶつけて、終わらせる事は出来るだろう。
「あ、有難う御座いますっ!」
壟枉は何度も何度も頭を下げて何やら祝詞を唱えていた。
まぁこんなに喜ばれたら悪い気がしないな。其に信仰の御蔭か力が少し増している気もする。
神って身分は本当に便利だな。
「後は、対価、代償ノロネ。セレ神に動いて貰うんだから無料って訳には行かないノロヨ。」
「勿論心得ております。」
あ、然うなんだ。そんなの要るんだ。
自分を呼ぶ丈でも何やら怪しげな儀式が必要だっただろうに。呼べた丈じゃあ駄目なんだな。
代償かぁ・・・何くれるんだろう。別に此の次元の物って金とか要らないしな。
・・・うん、美味しい食べ物でもあれば持って帰りたいかな、位だが。あ、勿論モフモフでも良いぞ。
「私の命を捧げます。ですのでどうか。」
「ノロノロ~妥当ノロネ~。」
えーっ‼‼‼
一柱心底狼狽えるセレだった。
ポーカーフェイスが保てている丈でも立派だろう。褒めて欲しい位だ。
―ちょっノロノロさん駄目だ。そんなの貰っても嬉しくないし、第一次元の主導者が死ねば元も子もないぞ!―
壟枉には聞こえないよう、しっかりテレパシーで。
セレの慌てっぷりが面白かったのかノロノロはガバッと大口を開けた。
―でも人を呪わば穴二つノロヨ?此位の対価は妥当だと思うノロ。其ともセレ神は無償で殺してくれる優しい神ノロ?―
此奴・・・揶揄っているな。
分かっているけれども如何仕様もない、彼の方が永く生きて聡いのは事実なんだ。
―私は別に優しくないし、死ぬなら勝手にしろとは思ってる。でも次元の主導者は困るだろう。其だと元々の私の目的が達成されないじゃないか。―
ノロノロも知らない訳がない筈だ。店の情報位掴んでいるだろう。
然う、自分は殺しの精霊なんぞになっている然うだが、している事は次元の主導者の保護なのだ。
確かに此の契約を結べば自分はより勁くなれるだろう。契約も出来て、殺しと言う存在証明も出来て、最高の形だ。
けれども自分が生き残り勁くなる為に次元を蔑ろにしちゃあ・・・駄目だろう。本音と建前がごちゃごちゃになってしまう。
自分が居るのは飽く迄もガルダの為、ガルダと店を一緒にする為、じゃあ店の方針は絶対だ。其を曲げる事は出来ない。
・・・まぁ屹度、いざとなったら自分が生き残れば今以上に次元を救える、なんて汚い言訳をして次元を犠牲にする事もあるだろうが・・・今は其の時ではない。其は飽く迄も最終手段だ。
「・・・少し、此奴と話したい事がある。悪いが席を空けて貰っても良いか。」
自分とノロノロにはテレパシーがあるが、斯うも目の前で無言で居たら、居難いだろう。
自分も気になるし、彼には一度下がって貰おう。
「分かりました。どうぞ、何かありましたら呼び付けてください。霄と水鏡と殺しの破壊神様、ノロノロさん。」
壟枉は今一度深く頭を下げると部屋を出て行った。
矢張り此処は地下室の様で、闇の奥にあった扉から、彼は上階へと行ってしまう。
「ノロノロノロ~。セレ神は勁くても未だ若い神だったノロネ~。折角だから次元の事、少し教えてあげるノロ~。」
「と言う事は一応彼の次元の主導者を殺しても、支障は無いと言う事だな。」
「然うノロ。次元に因るノロケレドモ、セレ神はこんな話聞いた事が無いノロカ?次元の主導者は遺伝する事もあるノロ。でないともっと次元は沢山滅んでしまっているノロヨ。」
「噫、聞いた事があるな。でもてっきり彼は子へと受け継がれただとか、然う言う繋がりがある場合かと思っていたんだが。今回みたいに私が手を下しちゃあ其は純粋に次元の主導者の消滅にならないのか?」
と言うより其で終わらないと寧ろ、次元は案外壊れないと言う事になる。
自分が黔日夢の次元を起こした様に、もっと世界は脆い物だと思っていたが。
一応次元の主導者が受け継がれたと言うのはガルダとハリーが体験していた筈だ。
碧樹・・・だったと聞いている。彼も、親から子への継承だ。
「然うノロネ、基本は然うノロヨ。でも次元に因っては特異な進化や変化をして、其の限りじゃない次元もあるノロヨ。次元の主導者を次々乗り換える次元もあるノロ。」
―・・・此奴は外の事を余り知らん。しっかりと説明してやってくれ。―
「お、おぉ丗闇漆黎龍様分かったノロ!しっかり教えるノロヨ!」
「如何か宜しく頼む。」
丗闇の口添えもあってかノロノロは一度咳払いをした。
「次元の主導者が代わると言っても、死んでしまったり、壊れてから誰にしようかな、なんて選ぶ事は出来ないノロヨ。次元の主導者が誰も居ない、なんて状態が一瞬でも生まれたら其の次元は御終いノロ。」
「然うか、其の辺りの基本は一緒なんだな。」
だとしたら矢張り脆いと言う考えは間違ってないか。
絶妙な均衡で世界は成り立っているんだな。
「ノロノロ~ン。だから大体次元は、次の次元の主導者を誰にするかは決めているノロヨ。証が自動で移るんだノロ。ずっと先の未来迄決まっているノロヨ。」
「確か其は丗の神の啓示か?」
「然うノロ!クリエーター様が次元を創る時に一緒に決めたんだノロ。」
「成程な。大体は分かったぞ。でも、じゃあ先に次の次元の主導者が死んでしまったら如何なるんだ?別の者が成るのか?」
「其は・・・本来起らない筈だから予測になるノロケド、恐らく次元が滅ぶノロ。丗の神の啓示と違う未来になってしまったら次元は持たないノロ。」
―・・・だろうな、我も同じ考えだ。―
「然うか。次元の主導者がコロコロ変わるから良いと言う訳でもないんだな。」
でも全て決まったレールの上と言うのは少し味気ないな。まぁ然う言う物と言う事みたいだが。
―因みに先の話に補足するが、次元の主導者が次々代わるのは代替わり以外のパターンも存在する。次元に度々其の次元を滅ぼす存在が生まれるので、其の時の次元の主導者が其の存在と命を賭けて其を食い止める場合だ。対消滅、とも言えるだろうな。然うやって保つ次元も存在する。―
「対消滅か、何処ぞで聞いた英雄譚だとかも其の類だったりするかもな。面白い進化だな、次元も奥が深い。」
「然うノロネ、ノロノロも忘れていたノロ。流石丗闇漆黎龍様ノロ!」
―・・・っ、其奴の知識が中途半端だと後々我が困るから説明した迄だ。―
あ、照れてる。
只今其に突っ掛かるのは止めて置こう・・・ノロノロも居るし、何をされるか分からない。
・・・思ったより彼の説教が躯中に染み付いているんだよ。
「所で先さり気無く聞いただろうが、妙な二つ名みたいなのが私に付いていたが、何か覚えはあるか?」
「ノローン?どんな物ノロカ?」
「よ・・・霄と・・・、お、御前も聞いただろうっ!」
つい声を荒げてしまった・・・あんな名前言えるか。
ノロノロはにやついている・・・分かるぞ。表情に乏しくても此位は。
「ノロノロ!ちゃんと聞いているノロヨ。霄と水鏡と殺しの破壊神様~。」
「ほぅ、其の蛮勇さは買ってやろう。」
たった一回聞いた丈じゃあ然う覚えられない筈だ。
其を空で言えたと言う事はつまり、
「じょ、冗談ノロヨ~。其にノロノロはかっこいいと思っているノロケド、気に入らないノロカ?」
「何もこんなにくっ付かなくても良かったのに・・・。」
単体なら未だしも、全部乗せは一寸ない。
「然う落ち込まないで欲しいノロ。別々で語っていた筈なのに次元を超えて統合しているのは凄い事ノロヨ?つまりは其丈の力をセレ神は持ったと言う事ノロ。ノロノロも鼻が高いノロ~。」
「御前達の力を舐めていたな。其処は素直に礼を言うけれども。」
勁くなるのは願ってもない事だ。後は此の羞恥に耐える丈。
・・・序でに心も悍くなれたら良かったんだけれどな。
「取り敢えずは分かった。彼の名前は如何やら私の物で、御前達の仕業だと言う事がな。後の問題は契約だ。」
「未だ心配ノロ?」
「と言うより私が正しい方法を知らないんだ。」
今の所、契約をする、と口にすれば出来ているけれども、でも其は皓の女王だったりライバスとかのある種一方的な契約のみだ。
こんな風に態々陣を描いて呼ばれたのは初めてだ。呼ばれたからには応えたいだろう。
「んー契約に正しいやり方も無いノロケドネ。前少し話した通りノロヨ。互いが其の条件で納得するか如何かノロ。儀式も形も、より契約を強固にする丈の外装ノロ。まぁ名前を言い合って契約内容をしっかり言えば問題無いノロヨ。約束は破れるけれども、精霊の契約はそんな生半可な物じゃないノロ。」
「成程な、良く分かったよ。」
「大丈夫ノロヨ。今回はノロノロも一緒ノロ。だったら安心出来るノロ?」
「ん、一緒って、一緒に此の次元に居てくれるのか?」
其は非常に助かるけれども、ソルドの事とか諸々は大丈夫だろうか。
「然うノロ。後輩精霊を見るのも大妖精の務めノロ。一柱位大丈夫ノロヨ。其にノロノロも一度一緒に此方の仕事してみたいノロ。」
「然う言ってくれるなら・・・じゃあ御願いしようか。一先ずは・・・彼奴を呼ぶか。」
話は纏まった。ノロノロも居てくれるなら不測の事態になっても安心だろう。
「はっ、御呼びでしょうか霄と水鏡と殺しの破壊神様!」
そっとテレパシーで呼んでみると実に元気良くやって来てくれた。
大きく扉を開いて壟枉はやって来る。直ぐ様膝を着くのは忠犬の様だ。
「話が纏まった。壟枉、御前の命を対価にして、奴、巉罫の命を奪おう。其で良いな?」
例の二つ名で呼ばれる事は分かっていたのでしっかり心の整理を付けていた。
もう其の程度じゃあ揺らがないぞ。
「はい、間違いありません霄と水鏡と殺しの破壊神様!」
「良し、契約成立だ。」
呟くと胸の中に重しを乗せられた様な感覚が蟠る。
力が、魔力が、存在が増すのを感じる。矢張り殺しだとかの存在が絡む契約をすると効果が大きいみたいだな。
「此で御前と同士になった訳だが、早速一つ良いか?」
「はい、何なりと霄と水鏡と殺しの破壊神様。」
「その・・・私の二つ名なんだが、長ったらしいから変えて欲しいんだ。私の名前はセレ、セレ・ハクリューで良いから。」
だから御願いです止めてください。
自分の心の声でも聞こえているのかノロノロの忍び笑いが聞こえた。
くっ・・・ノロノロはノロノロさんなんだから楽で良いよな。
「そんな!真名なんて恐れ多いです!」
「ま、真名と言う程じゃあ、ほら、束の間の出会いなんだし、私が良いと言っているんだ。ほら試しに一回呼べば楽になるかも知れないぞ。」
「何としても呼ばせようって気が凄いノロ。」
煩い此も大事な契約事項だ。
「わ、分かりました・・・セ、セレ神様。」
「うん、其方の方が良いな。」
様も要らないけれど、そんな苦しそうな顔をするなら良いよ。
けれどもこんな敬ってくれるなんて・・・自分黔日夢の次元を起こして迷惑掛けているだろうし、そんな低くならなくて良いだろうに。
只の化物を崇めるなんて、他所から見たら狂信者だぞ。
まぁ自分の力になるのだから無理に如何斯う言いはしないけれども。
「さてと、じゃあさっさと其奴の所へ行くか?其とも名残りでも惜しんで来るか?」
あっさり投げ出しているとは言え、今迄生きていた積み重ねがあるだろう。
最初から犠牲に命を選んでいるのだから、もう準備は済ませているかも知れないが。
「はい、今直ぐ、と言いたい所は山々ですが、実は今霄合戦を控えていまして・・・其の時に御願いしても良いでしょうか。時間を少し頂きますので申し訳ないですが。」
「ん、合戦時が良いのか?まぁ時間の事は気にするな。私は何時でも構わないし。」
「じゃあ折角だし、此の次元を見て回るノロ?何か面白い物が見られるかも知れないノロヨ。」
「噫其が良いな。如何だ、未だ時間があるなら街か村でも見て回って良いか?別に歓迎も何も要らない。只の観光だ。」
「わ、我等の村を見て貰えるだなんて光栄の極み!さぁどうぞセレ神様、此方が出口です。」
壟枉は舞い上がってしまったみたいで何度も頭を下げると背の海牛が次第に紅潮して行った。
何とも鮮やかで分かり易い変化だ。
彼は急いで出口へ向かうとさっと扉を開けた。
先も彼が出て行った扉だ。もう一度波紋を飛ばして先に観察する。
今は・・・夕刻なのだろうか、次元にも因るだろうから良く分からないが、碧の冥い旻が広がっている様だ。
未だ完全な闇ではないし、紅鏡か零星が幾つか輝いている。一応しっかりとフードをしよう。
「ノロノロ~ン、楽しみノロネ。ノロノロも久し振りに純粋に観光出来るノロヨ。」
オーバーコートから食み出していないかしっかり見る。
今から暗殺をするって言うのに暢気な妖精だ。
自分が勝つと信じて止まないみたいだが、自分だってしっかり気を張っている。
行くにしてももっとしっかり彼から情報を貰わないと。命を貰うと言った手前、中途半端な事は出来ない。
何よりこんなに期待されていて失敗するとか・・・ノロノロにも呆れられるだろう、其丈は避けないと。
扉を潜ると上へ続く階段が伸びていた。
此を上ればもう外だ。此処はこんな儀式をする為丈の部屋らしいな。
「若し赦されるのであれば、私は村の者達に話を通します。御手数ですが案内は後程、戻ってからでも宜しいでしょうか。」
「噫構わないぞ、村を見たいのは観光って丈なんだから。」
「有難う御座います、ではっ!」
今一度深く頭を下げると壟枉は駆け足で階段を上って行った。
ん・・・お、おぉう。
先は旻だとかしか見ていなかったが、良く見るととんでもない光景が広がっていた。
壟枉が出た先、其処には沢山の壟枉の仲間が控えていたのだ。
皆彼と同じ様に海牛の様な鰭だとかを背負っており、固まってじっとしていた為に、風景と同化していた様だ。
加えて背の色はある程度変えられるらしい、壟枉が出て来る迄冥い灰色だった筈だが、彼が現れた瞬間、鮮やかな色が波紋の様に一瞬広がった。
感情に左右されて光るのだろう、広大なイルミネーションの様で其の様は美しい。
美しい・・・のだが、同時にこんな数が集まっていたのかと思うと・・・。
百、所じゃないのだ。恐らく村中の海牛が集まっているのだろう。
遠くから微かに壟枉の声がする・・・自分と契約した事を言ったのだろうか。
「おぉ・・・凄いな。」
「?セレ神は一体何を見ているノロ?」
「ん、噫一足先に外を見ていたが、凄い事になっているぞ。奴の仲間が何百と集まって上で待っているみたいだ。」
「ノロノロ~其は一寸恐いノロネ。」
斯うしている間でも地上では何とも美しいイルミネーションが展開されている。
皆喜んでいるのか随分と鮮やかな色に背が輝いているのだ。
「ささ、御二柱共御待たせしました。早速村へ、御案内します。」
又駆け足で壟枉が戻って来た。
あ、皆が待っている所へ行くのか・・・一寸緊張するな。
―・・・翼とかあるけど大丈夫かな。―
―今更そんな事気にするノロカ?其の姿の方が邪神っぽくて良いノロヨ。―
邪神、邪神ね・・・まぁ良いけれども。
此方とら群れているのは苦手なんだよ。集団が恐いと言うか・・・然も其が見ているのが自分だなんて。
まぁ確かに今更考えても遅いのだろう。勿体振らずに出た方が良さそうだ。
セレ達は壟枉に付いて階段を上って行った。
そして最後の一段を上ると・・・、
待っていたのは大歓声だった。
わっと一斉に出迎えてくれた村人達が声を上げたのだ。
こんな歓迎、慣れてはいないので思わずセレはびくついてしまう。
大きな声だなんてそんなの、非難でしか聞いた事がなかったのだから。
彼は威嚇なのだと学んで来たから。
まさか其が自分に向けられた好意だなんて・・・考えた事もなかった。
ぱっと地下へ隠れたくなる衝動に駆られるが、ぐっと堪える。
そんな姿晒しちゃあ呼ばれた神として失格だ。毅然としなくては。
「凄いノロネー!ノロノロ、こんな歓迎初めてノロヨ!」
「・・・其丈、殺して欲しい奴なんだろうな。」
自分が死ぬ時は此の比じゃない歓声が飛ぶのだろうな。
「済みませんセレ神様、皆如何しても一目御会いしたかったみたいで・・・此では見て回れませんね。直ぐ散らしますので。」
「あ、噫でもそんな乱暴にしなくて良いからな。」
元々こんな扱いを受ける身分でもないのだし、少しやり難い。
何より・・・、
「霄と水鏡と殺しの破壊神様!霄と水鏡と殺しの破壊神様!霄と水鏡と殺しの破壊神様!」
此の合唱が耐えられない!
止めて、そんな綺麗に声を重ねて張り上げないで、呼んで欲しくない、自分はそんなのじゃない。
―・・・ほら呼ばれてるぞ破壊神。―
―穴に入りたい・・・もう嫌だ、―
―今度は地面を破壊するノロ?―
煩い、返事の代わりに頭を小突いてやった。
然うしている間に壟枉が駆け回って皆を元の日常へと帰して行った。
統率は可也取れている様であっと言う間に道が開ける。
目が減って明らかにセレは肩の力を抜いた。
耳鳴りの様に例の合唱が聞こえるが、屹度気の所為だろう。
「さぁ御待たせしましたセレ神様!ノロノロさん!村を案内しますのでどうぞ此方へ。」
壟枉は先導する様にそっと足を踏み出した。
自分も続こうと思ったが、地面が可也泥濘んでいる様だ。湿地と言っていたし、こんな物だろう。
靴を汚したくもないので少し丈羽搏いて浮く事にする。調整は難しいが・・・暫くすれば慣れるだろう。
ノロノロは元から浮ける様で、気付けば二枚の帯をひらひらさせて浮かんでいた。
「おぉ、流石神様、其の様にして常に少し上の目線で我等を見ておられるのですね。」
御免、靴汚したくない丈なんだ。御前達を見たのも初めてだし。
そっと心の中で答えて置く。・・・懐かしいな、倭みたいな奴だ。
一々訂正するのも面倒なので、其の儘にして置こう。
・・・うーん、でも思ったより調整は難しいかも知れないな。ホバリングに意識を集中してしまう。
―ジャア私手伝ウヨ!―
知らず傍に居た魔力達が応えてくれた様だ。
背に魔力が集まるのを感じる。然うか、薫風じゃなくても此なら乗れそうだ。
自分の翼は一対が魔力で出来た物になっている。其なら薫風の代わりに魔力で飛べる。
魔力達の御蔭で可也安定して飛べる様になった。翼も殆ど動かさなくて良いので相当楽だ。
「では御二方どうぞ、此方が大通りです。」
自分達の前にはずっと真直ぐに続く一本道があった。
其の両脇にぎっしりと店か家々が並んでいる。
如何やら自分達が呼ばれた地下室は、此の大通りの行き止まりにあった様だ。
背後には巨大な謎のオブジェがある。
皓い石で出来ている様で、布に捲かれた瓊が堕ちて行く様な、そんな不思議な造形だ。
こんなのが置いてあると言う事は、恐らく彼の地下は召喚の間だとか言う大事な所だったのかも知れない。
成程な、随分と高く買って貰えたみたいだ。こんな所で召喚されたのかと思うと、其丈で箔が付き然うだ。
まぁ邪神も神は神だし、呼ばれる事もある・・・のかな。
「ノロノロ~ン、中々綺麗な村ノロネ。」
「あ、有難う御座います!」
「本当に、良く整った村だな。」
波紋で見るとより良く分かる。
此の辺りが恐らく村のメイン通りで、此処から何ヶ所か小さな脇道がある様だ。
只其の通りも整備されており、宛ら煉瓦塀の継ぎ目の様な造りになっているのだ。
所々泥濘るんでいなければ歩いて回りたい位だな。前世の彼の無秩序な街とは全く違う。
泥で出来た家々は四角や五角形、丸っぽいのだとかてんでばらばらだが、何もきっちり隙間なく並んでいた。
乾かない様にか屋根の代わりに雨水の様な物を貯めた皿型の物が坐っていた。
皿の中には玻璃でも敷いてあるのか水が曦を乱射して輝いている。
旻が冥くても此なら可也明るくなるな。
家自体は割と開放的で、まるで一見出店の様だ。
窓が大き過ぎて家の上半分が無い状態、と言う可きか。
自由過ぎるなぁ・・・陽が駄目な自分には絶対住めない家だ。
村人達は壟枉の言い付けを守り家の中へ入っているが、ちらちらと此方を見る視線は隠せない。
気になるけれども堂々としていよう、神らしくしないと。
壟枉に連れられて緩り大通りを見て行く。
村は・・・静かとも賑やかとも言えない空気だ。
話し声だとか、歓迎のつもりだろうか、何処からか楽器の様な音色が流れて来る。
でも何も緊張している様な、張り詰めた気配があった。
戦の前だから・・・丈では無いだろう。其丈自分が期待されていると思うと、少し荷が重いな。
「壟枉、行き乍らで良いから巉罫について特徴だとかを教えてくれるか?」
破壊神と呼ばれても自分は只の化物だ。
想像の中の神みたいに、指を鳴らせば好きな奴の命が奪えるとか、そんな権限も力も無い。
正面からぶつかって、通常通り首を狙う、其丈だ。
「はい、奴は他の侵入者より遥かに強大で巨大です。皆我等の三倍程大きいですが、奴は五倍か、其以上あります。」
五倍・・・大分大きいな。頸を斬るのも一苦労かもな。
「奴等は我等やセレ神様と異なり、六つ足です。只前の二本丈少し器用らしく、大きな斧を振るって突進するのが得意です。一丸となって突っ込まれると私達には打つ手がありません。」
想像以上に特異な一族だな、其の侵略者は。
手が六本か・・・まぁ自分も翼を含めれば手足は十二本になるけれども・・・翼はノーカウントなのだろうか。数えてみると案外多いな。
「成程な。じゃあ御前達の、」
「霄と水鏡と殺しの破壊神様!どうか此方を御納めください!」
突如民家の一つから四人程村人が駆け寄って来た。
其の手には竹串に刺さった焼いた肉みたいな物が何本か握られている。
肉・・・と言うより此、がっつり兎だな、恐らく。
「セレ神様、此方は我等一族の、戦の前に食べる特別な物でして、兎焼と言います。」
噫、矢っ張り兎なんだな。
皮が無い丈の姿焼きなので中々インパクトのある見た目だが、今焼いて来たのだろう、良い匂がする。
「然うか、有難う、頂こうか。」
一本ノロノロに渡して、腹の辺りから噛んでみた。
肉は案外柔らかくて臭みも無い、何か香辛料を掛けているのだろうか。
味が少し濃いいかと思ったが、中から蒸した野菜が出て来た。
成程、一緒に食べると中々良い味だ。
「うん、初めて食べたが美味しいな。」
「ノロノロ~ン、悪くないノロネ。」
ノロノロも満足そうに頷いている。・・・因みにノロノロは一見手が無い訳だが、串を渡すと一口で一気に丸呑みにされてしまった。
無い心臓が止まるかと思った・・・自分の手迄食われるのかと身構えてしまった。
序でに壟枉にも渡そうとしたが、彼は既に食べてしまった様だ。
戦の前、と言っていたし、もう準備は済ませてしまったのだろう。
セレ達の反応を見て村人達は一気に背を輝かせた。
其迄くすんだ碧や石竹色だったのだが・・・表情が変わるのと同時に彩度が変わったのだ。
非常に感情が分かり易いと言うか、面白い生態だ。
まぁ・・・食べる丈でそんな喜んでくれるなら嬉しいけれど。
けれど此、見た目通りと言うか、可也食べ難い。
骨も案外柔らかくて食べられるのだが、何より全身、丸毎なのだ。
何処迄食べるのが正解なのだろう。頭も食べられるのだろうか。
自分が食べている様を皆が見守っているのもあって非常に食べ難い。
「セレ神様、宜しければ歩き乍ら召し上がっても、」
「噫其が良いな、じゃあ此、貰って行くぞ。」
助け船には即乗った。
食べ歩きが許されるなら是非然うしたい、一応・・・時間は限られているしな。
落とさない様慎重に持ち替えて足を進める。
見送る村人達がずっと手を振り送ってくれた。其の背が煌めく零星の様に黄色く照っていた。
「えっと・・・話が途中だったな。」
「私達の事情で足を止めさせてしまい、申し訳ありません。」
「いやこんな歓迎された事無いし、素直に嬉しいよ。頭を上げてくれ。」
そんな畏まる必要はない、そんな大それた存在でもないのだから。
只呼ばれて、殺して、報酬を貰う丈、日雇いの殺し屋とやっている事は同じだ。
話し乍ら兎の頭に齧り付く・・・うん、全部食べられそうだな、良かった。
此の兎だって、こんな邪神に喰われるとは思ってもいなかっただろうし、まぁ然う言う物だ。
「然うだ。御前達の戦い方を知りたい。一体如何奴等と戦って来たんだ?」
「はい、其でしたら・・・丁度良い所に、此方を御覧になってください。」
壟枉がある家屋の壁を指差す。
其処には色の違う泥でも塗ったのか何やら絵が描かれていた。
「私達は屡々記念事があれば斯うして絵にして各々の家に刻むのです。此は丁度、少し前の戦の様子です。」
「成程な、良く見せて貰おうか。」
家の中から住人達が御祈りをする様な面で見守っている・・・一寸申し訳ないな。
絵は左側に色鮮やかな人の様な者、右側に牛の様な者が対峙する様に複数描かれていた。
恐らく此の人っぽいのが彼等海牛の一族で、相手をしているのが例の侵略者なのだろう。
言葉でしか聞いていなかったのでイメージし難かったのだが、絵で見ると非常に分かり易いな。
正に六本足の牛、と言った姿だ。随分と大きく、一部の者は手に武器を持っている。
其は海牛側も同じで、細長い棒や弓の様な物を携えていた。
「私達は主に鑓と弓矢を使います。攻め込まれる前に泥濘を大量に作って置き、毒を流して置くのです。奴等は基本真っ直ぐでしか攻めて来ないので此の罠に良く掛かります。」
「成程、そして動けなくなった所で、矢と鑓で仕留める訳か。」
良い作戦だ。と言うより聞いている分だと明らかに彼等が有利だ。
早期に決着が着きそうな位、安全な戦い方である。
「其の通りです。只最初は我等の方が有利なのですが、巉罫が現れると話が変わります。奴が現れ、一声鳴くと皆泥濘から暴れて脱出出来る程に剛腕になるのです。」
「そんな偸閑に変わるのか、鼓舞と言うより最早魔術だな。」
精神論で戦う様な奴等なのか分からないけれど、面白い戦術だ。
「ノロノロ~。セレ神を召還したのも、其の一声さえ如何にか出来れば良いと考えたノロカラネ。」
「けれども声丈なら何とか奴丈を潰す事は出来なかったのか?そんな命を対価にしなくても。」
矢っ張り次元の主導者を殺すのには抵抗がある。変な焦燥感と言うか・・・。
もう契約した以上覆す気は無いけれども・・・。
「恥ずかし乍ら、巉罫、奴丈は何をしても太刀打ちが出来ないのです。圧倒的な力でやられて仕舞います。」
然うか、其処迄其奴は強敵なのか。
作戦も聞いている限りじゃあ悪くない、でもそんな小手先すら通じない圧倒的な力・・・。
・・・あれ、自分今から其奴と戦うんだよな?大丈夫なのか此。
いや自分が弱気になっちゃあ干渉力で勝てる物も勝てなくなるので自信は持つ様にしているけれども。
此処迄御膳立てされてあっさり負けたら・・・其こそ奴の突進一突きでやられたら笑えないぞ。
恐らく一気に神としてのレベルも下がりそうだ。期待って恐い。
「其なら何としてでも勝たないとな。」
「ノロ~ン!其の意気ノロヨ!」
でも自分、人間の暗殺とかは良くしていたから勝手が分かるけれど、斯う別の種とかになると訳が違って来るぞ。
同じ人間と言っても首が無くても歩ける種とかいるかも知れないし、一概には言えない。
「セレ神様が相手であれば、何も恐れる事はありません。改めて宜しく御願いします。」
「噫・・・期待に応えられる様頑張るよ。」
其処迄何一つ疑っていませんと許りにキラキラした目を向けられても困るかな。
背も激しく絳く輝いている。・・・然う言えばロードの頬にもこんな具合で光る石が付いていたな。
何の気なしに旻を見遣っていると少し白んでいる気がした。
・・・ん、霄が明けるのか?其とも星明りか?何にしても少し明るいな。
うーん、此の次元の地理について壟枉に聞くのは一寸おかしい気がするな。
神だから村単体の事は知らない、と言うのは未だ分かるが、流石に世界の事を知らないとなると無知にも程があるんじゃないだろうか。
・・・抑村についてもノロノロの采配で知っている体で此処迄来ているしな。
となると使える手段は・・・、
―今聞いても良いか?―
―ア、御話スル?良イヨー。―
魔力が応えた。背に凱風を送ってくれている子だ。
此の子は最近良く近くに居てくれる奴だな。
話し好きの子だから丁度良い。魔力なら次元の事、良く知っているだろう。
―此の次元の旻だとかって如何なのか知りたいんだが、天気とか知ってるか?―
―分カルヨ!光ト闇ノ魔力デ分カレテルカラ!―
―然うか。良かったら今からどんな旻になるか教えてくれるか?―
知っていると言っても海牛の文化だとか迄は無理だろう。地理情報から判断しないと。
―今カラ光ノ魔力ガ増エルカラドンドン明ルクナルヨ。―
―紅鏡ガ後三ツ位昇ルノ!―
他の魔力達も集まって来てくれた様だ。信憑性が高い分、嫌な情報だな。
―待ってくれ、今からそんな明るくなるのか?―
―ウン・・・ア、光嫌イダッケ?―
―ジャア大変ダ、隠レタ方ガ良インジャナイノ?―
いや恐らく今から合戦なんだけれど・・・。
わぁ、霄に戦なんて珍しい気がするけど、好都合だなぁと思っていたのに。
矢っ張り晁じゃないか!然も物凄い晴天らしい。
壟枉の言い方からして、其の明るい霄に戦うのだろう。まぁ仕方ない、文化も歴史も何もかも違うのだから斯う言う物なのだろう。
「ノロ?セレ神如何かしたノロカ?」
「あ、噫、如何やら戦は晴れ舞台で行うみたいだからな。覚悟を決めていた所だよ。」
「あ、然うなのノロネ~。霄と水鏡と殺しの破壊神なのに晁戦うノロカ~。」
呑気にそんな事を言っていたノロノロだが、妙な殺気を感じて背が伸びるのだった。
「ノ、ノロノロ?今恐い感じがしたノロヨ?え、セレ神は違うノロヨネ。態々助けて貰う為に呼んで置いてノロノロに酷い事しないノロヨネ?」
「噫然うだな。奴隷としては十分使えそうだが。」
「⁉妖精の話を聞いてないノロ!ノロノロの事、もっと大事にするノロヨ!」
「大丈夫だ。非常食位大事にはする。」
「こ、此が神々のブラックジョークですか・・・。」
一人壟枉が何とか話に入ろうと頑張っていた。
頑張って機嫌を取ろうとしている様は一寸微笑ましかったりする。・・・神が悪いか。
「ん、噫済まない。あんなのは軽いジョークだ。観光案内中に雑談して悪かったな。」
「っ!いえいえそんな。どうぞリラックスしてください。じっくり村を見て貰えれば。」
「然うか、じゃあ又案内を頼んでも良いか?後は実際の戦場を見て置きたいんだ。奴等が攻めて来るのは何処からなんだ?」
「はい、其でしたら此方です。どうぞ付いて来てください。」
大通りの出口へと壟枉は一同を招いた。
実は場所自体は波紋で見当は付いている。
村の外れ、丁度此の大通りの出口当たりだ。
只一応彼に案内はして貰って置こう。何か仕掛けでもあるだろうし。
「セレ神様、此処です。奴等は彼の丘の向こうからやって来ます。今回も然うなるかと。」
「成程な。良く見せて貰おうか。」
村の外には小高い丘が迫っていた。村は丁度盆地みたいになっている所へ造られているのだろう。
戦場は既に何人かの兵がおり、鑓だとかの手入れをしたり、弓矢の練習をしている者がいた。
見付からない様にしたかったのだが、目聡く気付いた彼等は急に表情を強張らせる。
小さな囲いが村と外を隔てる様に作られ、外は村以上に泥濘が多い様だった。
「此処で奴等を足止めします。もう少ししたら動きを鈍らせる毒を撒きます。」
「毒か・・・向こうの奴等は大丈夫なのか?」
と言うのも実は其の泥濘の中に何頭かの龍族の姿を見掛けたのだ。
彼等には退いて貰わないと・・・巻き込む訳には行かない。
「実は毒は彼等のを利用しています。鑓を見せれば撒いてくれるので。」
「話は?した事無いのか?」
「話と言いましても・・・獣と交わせる言葉を我等は持ち合わせていないので・・・。」
「然うか、分かった。少し此処に居てくれるか。聞いてみたい事があるからな。」
「っ!御気を付けて!」
まさか自分が話しに行くとは思っていなかった様で壟枉は慌てた様子だったが、スッと背を伸ばして待ってくれた。
「シスカマスカ・・・だったか、初めまして。」
そっと泥濘に近付く。
其処には二本の触角丈が生えていた。
「クイイ?」
そして一匹の龍が顔を覗かせた。
碧の鰐の様な細長い口先を伸ばしている。瞳は泥の中でも澄んでいて水鏡の様だった。
シスカマスカ、と呼ばれる其の龍は首を少し傾げてセレを見遣る。
彼等は全長40cm位で水を弾く鱗に覆われている。尾は大きな鰭になっており、後ろ脚は爬虫類に近い。
前足に似た物はあるが、実は其は髭であり、彼を地面に当てて獲物を探したり、危険を察知するのだ。
背には独特の形の鰭があり、其を漂わせる事で仲間とコミュニケーションを取るのだそう。
そんな彼等は可也人懐こい性格だ。
「クイイ、クイイ、キュー。」
「何だか元気そうだな。」
見ていると他にも数匹のシスカマスカが増えて来た。
集まって興味津々と言った体だ。モフモフでなくても愛らしい。
そっと手を出すと素直に撫でさせてくれた。
濡れていてツルツルしている。けれども嬉しそうに目を細めていた。
「もう直ぐ此処は戦場になるから隠れるなり、次元を動いた方が良いぞ。」
「クィ、キュクィ!」
すると一匹のシスカマスカが潜って行った。
中は波紋じゃあ見えないな、魔力達に見て貰おう。
沼に手を付け、魔力達に続いて貰う・・・如何やら下に岩で出来た洞穴があるみたいだ。
「成程な、皆其処で遣り過ごしているのか。」
「・・・ノロー。セレ神、ナチュラルに龍と話すので置いてきぼりノロヨ。」
「ん、別に私も話せてはいないぞ。大体然うかな、と思ってる位だ。」
シスカマスカはテレパシーも使えないし、仕方ないな。
「ノロー然う言うコミュニケーションもあるノロネ。ノロノロー。」
「でも毒を出す様な龍じゃない筈だ。となると、」
ちらと奥を見遣ると、別種の大きな龍が堂々と眠っていた。
全長6m程、でっぷりとした大きな腹を抱える様に座っている。
全体的に石竹色で、幅の広い顔、頭の角からは立派な触角が翼の様に広がり、緩りと揺れていた。
長く伸ばされた尾は夢でも見ているのかパタパタと動いている。
「此は中々、大物ノロネ~。」
「噫、弁氾龍(ベンハンリュウ)と呼ばれる龍族だ。彼の触手・・・と言う可きか、彼が発達していて、空気の微妙な変化もキャッチ出来るんだ。」
大人しい龍の筈なのでそっと近付いてみる。
すると微かに聞こえていた鼻息が止み、弁氾龍は緩りと目を開けた。
何処か未だ眠そうな目で暫く宙を見ていたかと思うと、不図視線がセレ達を捉えた。
「噫済まない、起こす気はなかったんだが。」
思ったより其の触手は敏感だった様だ。
弁氾龍は大きな欠伸を一つしてそっと鼻の頭を掻いた。
―神だなんて久し振りだなぁ・・・えーっと・・ようこそ、何も無いけど緩りしてねー。―
何とものほほんとしたテレパシーが返って来た。
だが此の龍、のんびりとした性格とは裏腹、尾にある分泌腺から毒を出す事が知られているのだ。
毒は麻痺毒だ。恐らく壟枉が言っていた龍は彼の事だろう。鑓を向けて、毒を出して貰い、泥濘に撒くのだ。
でもそんなやり方、弁氾龍は迷惑に思っているかも知れないし、折角だし話してみようか。
「心遣い有難う。折角なら・・・一つ教えて貰っても良いか?此処に御前達は棲んでいるんだろうが、其処の村の者達に追われたりとかしなかったか?」
―あー・・・最近多いねぇ。何だか尖った物を近付けるから吃驚して毒を出しちゃうんだよねー。―
矢っ張り彼の毒だったのか。
でも戦の度にそんな扱いされちゃあ嫌だろうな。
「然うか。実は此処は彼等の戦場らしくてな。御前の毒を利用して戦っていたみたいなんだ。随分と手荒な真似をしてしまったな。」
―あ、然うなんだー。てっきり此処は危ないよーって追い払ってくれているのかと思ったよ。決まって其の後何だか騒がしかったし。毒が出ちゃうから迷惑かなーって思ってたけれど、役に立ってるんなら良かったー。―
弁氾龍は一度目を丸くしたが、又直ぐ半目に戻った。
・・・何て言うか、随分と御人好しな龍みたいだ。そんな風に解釈していたとは。
「私とリンクが出来たからもう次元も渡れると思うけれども、今回で戦は終わらせる気だ。もう少ししたら又戦が始まるけれども、其迄辛抱して貰っても良いか?」
―良いよー其位、此方こそ有難うねー。じゃあもう少ししたら僕は毒を撒いて少し離れて置けば良いのかな?―
「噫然うして貰えると有難いな。」
―分かったよー。何だか神も大変だねぇ、頑張ってねー。―
弁氾龍は軽く手を振ると又目を瞑った。
矢っ張り龍族は話し易くて良いな。実にすんなりと終わった。
「ノロ~。セレ神は龍には優しいノロカ~?」
「優しい、と言うより話が分かり易いから上手く行っている丈だ。大体彼等が友好的過ぎるんだな。」
「然うノロ?ノロノロは余り喋った事が無いから知らなかったノロヨ~。」
「へぇ、ノロノロさんも知らない事があるんだな。」
「ノロノロ!セレ神には何時も新しい驚きを貰っているノロヨ。でも如何ノロ?他にも見たい所とかあるノロカ?」
聞かれて今一度周りを見遣った。
地形はもう把握した。弁氾龍とも交流出来たし、下見は大丈夫かな。
「噫、大丈夫だ。後は壟枉に今の事、伝えて置かないとな。」
「はい!御呼びでしょうかセレ神様!」
突然ひょっこりと壟枉が隣に出て来たので無言で驚いてしまった。
如何やら先迄泥濘の中にいたらしく、所々泥が付いている。・・・成程、潜っていたら波紋でも見えないな。矢っ張り水中は苦手だ。
「えっと、彼方の魔物なんだが、話を付けて置いた。後は勝手に奴が毒を撒いて隠れる筈だ。」
「す、素晴しい。そんな風に言葉を交わしていたとは・・・っ、分かりました。兵にも伝えて置きます。」
「噫、先に言って置いても良いぞ。私が行きたい所は粗方終わったしな。」
「心遣い、感謝します。では入れ違いがあってもいけませんので・・・失礼します。」
然う言い残すと壟枉はさっさと周りの兵達の所へ駆けて行った。
如何やら彼等一族は沼地を好む分、足が遅い様だ。意気込みの割に中々仲間の元迄辿り着けない。
だから其の分、弓矢や槍等の遠距離武器を使うんだろうな。
「ノロ~ン、後は其の時を待つ丈ノロネ。」
カラカラ笑うノロノロに、セレは一つ頷くのだった。
・・・・・
「さぁセレ神様どうぞ此方に。」
「・・・噫、もっと自然体で良いからな?」
「此以上は迚も迚も・・・気にせずどうぞ。」
彼から数刻、しっかりと村を観光させて貰い、遂に合戦の時がやって来た。
彼等海牛一族は自分が居ればもう大丈夫だとでも思ったのか案外村の空気は平穏其の物だった。
士気が高いと言うか・・・正に不安は無いと言った様子だったのだ。
だからか村を廻っていると色々土産物を貰ってしまった。食べ物とか民芸品である。
店に持って帰れば皆喜ぶかも知れないが、一寸悪いな。
仕事が終われば帰る自分なんかより、命を使っている壟枉に然う言う持て成しはして欲しい。
・・・そんな事を思ってしまう位、自分は余りにも好待遇なのだ。
もう慕われ過ぎて魔力とか存在感が増して行くのを感じる位。
邪神って・・・分かってるよな?其とも彼等は闇の眷属だったりするのだろうか。
そんな現実逃避ももう終わり、自分は海牛達の群の中心に立たされていた。
何やら御立ち台みたいな物が拵えられていて、ノロノロと一緒に座らされている。
海牛達のリーダーらしい者も・・・壟枉とは別で居るのだが、彼よりもずっと上の位置である。
此処で戦を見守って欲しいらしい。そして頃合いを見て、巉罫と戦って欲しいのだそうだ。
暗殺位してやるのに、律儀と言うか、戦は戦中に終わらせないといけないらしい。
其は向こうも同じらしく、必要以上に襲っては来ない然うだ。
向かって来る兵は斃すが、他の村人等には手を出さないと言う。
だから戦いが長引いたりしている訳だけれども・・・彼等が然う言う生き方をしていると言うのなら、其に従わないとな。
合戦迄もう余り時間が無い。其の中でも彼等海牛はじっと自分の傍に控えて見守っていた。
・・・流石にそろそろ此の視線にも慣れて来た。自分が片手を動かす丈で、尾を揺らす丈で、彼等の背は光るのだ。
然うしていると村の外れ、丘の上が騒がしくなって来た。
波紋を飛ばすと・・・終に奴等の御出ましか。
波紋で捉えた奴等の姿は存外牛に近かった。
正に六足の牛と言った具合だ。一部の者は前の二足を上げて斧の様な武器を構えている。
面が少し人間っぽく鼻が低くて、銀の鬣が生えた皓い体躯である事位が特徴だろうか。
確かに数は多くない、ずっと海牛達の方が多い。長く戦って来たからか両者傷付いている者の姿がちらほら見える。
奴等は突進する気らしく、じっと此方を見詰めている様だった。吼え声を上げ、地を踏み鳴らしている。
対して海牛達はもう準備が出来ている。毒を混ぜた沼を幾つも作り、弓兵が並んで待ち構えているのだ。
準備は万端だ。只・・・、
奴等の中に一際巨大なのが一体現れた。
周りの奴等より二回り位は大きい、毛艶が良いのか全身銀に輝いており、石で出来た無骨な斧を両手に持っていた。
背には色取り取りの布と、金属板が宛がわれていて、明らかに他と風貌が違った。
奴が・・・宿敵巉罫なのだろう。
普通に大型の魔物退治みたいだな、此は中々骨が折れそうだ。
まぁ無を放てば勝てるとは思うんだが、初手は様子を見る可きか。
「セレ神様、良ければ何か一言頂いても宜しいでしょうか。」
壟枉が膝を折って頭を下げて来た。
周りの兵も其に倣う。
「え、」
つい間抜けな声が漏れてしまった。
然うか、然うだよな。こんな高台に置かれたんだ。其位の役は任されるか。
自分としては影乍ら動く暗殺者位の気持だったけれど、皆にとっては大将みたいな物か。
急いで咳払いする、ノロノロがにやにや意地悪く笑っている気がした・・・後で覚えてろよ。
然うだな、何て言おう・・・取り敢えず当たり障りのない事でも、
「皆、今日迄良く頑張ったな。今日は私も見ている。今回で最後の戦いとなる様、私も手を貸そう。だから今一度、力を合わせて一緒に戦って欲しい。」
言い終わると同時に雄叫びが其処彼処で起こり、思わずびくつていしまう。
一同の背が燃える様に真絳になり、一気に蒼く煌めき出したのだ。
あ、まずった、此やられる奴だ。
然う思考が一瞬で巡る中、壟枉が顔を上げた。
「何て・・・何て有難き言葉!有難う御座います!有難う御座います!」
「あ、噫喜んでいたのか・・・じゃあまぁ良かったよ。」
あー恐かった。
統率が取れ過ぎている所為で逆に恐いよ君達。
何だろう、力では勝っているだろうに、数の暴力って苦手なんだよな。如何しても臆してしまう。
―ノロノローン、其処は大転けしてくれた方が面白かったノロヨ。―
「じゃあノロノロさんも何か言ってみるか?」
―遠慮するノロヨ、ノロノロが話したら蛇足になるノロヨ。其にもう時間も無いノロ。―
此奴逃げやがったな・・・待ってろよ、勝った暁に締めの言葉を喋らせてやる・・・。
一通り声を上げると兵達はバラバラと慌ただしく動き始めた。
然うして予め決められていたのだろう配置に付いて行く。
点呼を取っているのか其々の一団の背が順次色取り取りに光る。
粗方準備が整った所で突然丘の上からも雄叫びが上がった。
如何やら彼等も、此方の準備が終わるのを待っていたのだろうか、其か何時もと雰囲気が違うので窺っているのか。
何の道律義な奴等だな。兎も角、此で御互いに準備が整ったと言う訳か。
牛族が丘を降り始めた。
一段となり、地面をしっかりと踏み付けて駆け下りて来る。
速い、其に中々の迫力だ。ああやって敵の戦意を削ぎつつ一気に畳み掛けるのだろう。
だが海牛達も負けてはいない、奴等の突進に怯みもせず、黙った儘弓を番えていた。
然うして放たれた矢は的確に奴等の足を狙う。何体かが痛みに耐え切れずに倒れ込んだ。
更に進行を続ける奴等の前には今度は泥濘が待っている。
避ける事もせず、無理に突っ込んで来た。・・・本当に愚直に真っ直ぐ攻めて来るんだな。
泥に足を取られて一気に牛族の動きが悪くなる。
其処へ矢の雨が降るのだが、奴等の躯は可也頑丈らしく、矢を殆ど通さない様だった。
然うしていると次に槍兵達が駆けて行く。そして四方から頸や頭を狙って鑓を突き立てるのだ。
矢張り統率が良く取れている。流れは完璧で、負ける様子は無い。
鑓であれば海牛達も対抗出来るらしく、深々と刺さって何体かの牛兵が沈黙する。
時々近付き過ぎた海牛が捕まってしまい、斧で返り討ちにあってしまったが、其でも相打ちと思えば十分だろう。
自分の出番が無くても終わるんじゃないだろうか、そんな風に思った時だった。
「ブォオオォオオオ‼」
突然丘の上から凄まじい雄叫びが聞こえた。
地が震える様な声量、間違いない、彼は、
丘の上にて巉罫が姿を現した。
堂々と立つ姿は迫力がある。そして・・・一気に戦況が変わった。
突如牛兵達も雄叫びを上げ、目を血走らせて暴れ始めたのだ。
手当たり次第に攻撃している様で、突進しては斧を振り回す。
沼に填っていた者達も次々と暴れて抜け出し、近くにいた海牛達を襲い始めた。
泥濘から出てしまうと圧倒的に海牛が不利だ。鑓なんて物ともせずに襲われてしまう。
斧で叩っ斬られて戦場に海牛達の血が混ざる。
沼は色を変え、腥い臭が漂って来た。
「セレ神様、御願いします!」
其処で始めて壟枉から合図が出た。
遅い気もするが、彼等の戦いを見て欲しいと言う思いからだろう。
「分かった、直ぐ行こう。」
翼を広げて一気に飛び立つ。
旻は・・・もうすっかり晴れてしまった。
しっかり晁だ。魔力達が言っていた様に紅鏡が三つもあるから慎重に飛ばないと。
オーバーコートの御蔭で然う焼けないが、宙返りなんてしたら・・・恐ろしい。
然うして今正に丘を下ろうとした巉罫の前にセレは着地した。
あんな戦いを見せられたんだ。一応自分も正面から行こう。
不利にはなったが、自分が此奴を仕留めれば、海牛達は勝てるのだ。
セレの登場に巉罫は足を止め、窺う様にセレを見遣った。
斯うして対峙すると・・・余りの体格差に臆してしまい然うだ。
視界では入り切らない程だ。彼の足で踏まれてしまえば容易に全身の骨が砕けるだろう。
手にしている巨大な斧も、自分を両断するには十分だ。
一撃でも貰えば・・・致命傷は免れない。
嫌な汗が伝う・・・正面からだとこんなに恐ろしいとは。
「ノロー!頑張るノロヨー!」
少し離れた所からノロノロは応援をしている。
今回ノロノロの手は借りない、飽く迄自分への依頼だからな。
「見た事無い顔だ。貴方は彼等の切り札と見える。」
頭上から振る声、其の澄んだ声が巉罫の物だと分かるのに時間が掛かってしまった。
如何やら海牛達と同じ言語らしい、一寸意外だ。
「然うだな。御初に御目に掛かるよ。」
「彼等も其丈、本気と言う事ですね。良いでしょう、受けて立ちます!」
容姿とのギャップを感じるが、彼等は随分と礼儀正しい一族の様だ。
でも戦は戦だ。自分は此奴の首を持ち帰らないといけない。特に憾みは無いが、此処で終わらせる。
「ブォオオォオオオ‼」
又巉罫が旻へ吼えると周りの者達も雄叫びを上げた。
だが此方に手出しをする気は無い様だ。一対一は守るらしく、丘の上に他に兵の姿は無い。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
正面から戦うとなれば零星だろう、自分に馴染んだ獲物だ。
「慈紲星座。」
蒼の零星が自分を中心に散って行く。
魔術は如何やら存在しない次元らしい。いや、正確には魔力は存在するのだから、彼等が使い方を知らないと言う可きか。
自分しか使えないとなると、未知の力を前に流石に彼女等も臆するだろう。
此の儘零星を流星の様に降らせて全身を刻む事も出来るけれども・・・今は止めて置こうか。
「drows」
無難に釼で、近くにも数本浮かせて置く事で護りに使う。
さぁ如何出る、未知を前に。
巉罫は怯む事なく突然駆け出した。
前の二本の腕を振り上げ、四本の足で堂々と地を蹴る。
彼の石斧でなくても其の足丈で簡単に自分を殺せそうだな。踏まれたら終わりだ。
自分の生命力なら一回踏まれた位じゃあ死なないだろうが、足踏みなんてされたら地獄だ。
頭をやられたら・・・流石にきついだろうしな。
向かって来る姿は何とも迫力があった。
睨め付けて放さない眼光、轢き殺さんとする勢い。
地響きも酷く、足を取られそうになる。
同じ一対一でも此は明らかに・・・一部隊を相手にしている気分だ。
翼があって良かった。でないと此の突進で逃げ切れずに終わるな。
一気に羽搏いて巉罫の頭上へ。
地を這う海牛と許り戦った所為で、上からの攻撃には疎い筈だ。
旻へ逃れた自分を捕まえんと許りに斧が振られる。
武器が大き過ぎるな。間合いを間違えない様にしないと。
一撃だって真面に喰らってはいけない、集中しろ。
遅れて飛び立つ零星が巉罫の脇を抜ける。
煌めき乍ら揺れ動く其は可也鬱陶しいだろう、巉罫は大きく前足を上げて立ち上がると四方に零星は散って行った。
其の零星に目を奪われている隙に、自分も釼を掲げる。
そして・・・投げ込んだ。無防備な奴の背に。
「グォオォオオオオ‼」
剱は巉罫の頸にしっかりと刺さった。
血が吹き出し、彼女の背を絳く染める。
銀の毛皮が、色取り取りの布が汚されて行く。
今迄、他者の血で染め続けて来たのだろう、其の絳が美しくて・・・牙が疼く。
如何しても其の色を見ると喉が渇く・・・アティスレイは、別に出ていないよな。
だが、流石と言う可きか、次元の主導者が命を賭ける丈はある。
一突きでは彼の零星でも彼女の頸を斬り落とす事は出来なかった。
血は大量に出ているが、躯が大きい分、致命傷に至ってはいないだろう。
斬れ味には自信があったんだが・・・勢いが足りなかったか。
「っぐぅう・・・天晴、中々の相手と見た。」
巉罫は後ろも見ずに石斧の一本を旻へ投げ飛ばした。
「っ危ないな。」
余りにも自然な動作で投げられた其の質量の塊は真直ぐに自分を狙っており、危うく命中する所だった。
何とか既の所で躱し、尾の先の甲が少し欠けた丈で事なきを得る。
本当に危ないな・・・命中していたら半身吹っ飛ばされていたぞ。
自分が釼を取ると踏んでいたのか、良い判断力だ。対応が早い。
石斧は遥か彼方へ吹き飛んでしまった・・・ロードと良い勝負が出来そうな筋力だ。
屹度自分を足止めして、其の隙に釼を抜く算段だったみたいだ。
巉罫は背に手を回していたが、零星の掴み所の無さに苦戦している様だった。
零星は剥き身の刃だ。自分以外が触れる事は容易ではない筈。抑が自分の魔力だから他者を受け入れないのだ。
だからまぁ・・・実は一度BDE-01が自分の零星を利用した時は驚いたけどな。
掴もうとした巉罫の手其の物を零星の刃は斬り裂いてしまう。柄も全てが刃なのだ。
「ほら抜いてやるから暴れるな。」
其の間に巉罫の背に自分は着地した。
十分広い背だ。巉罫の手が離れた隙に自分は刺さっていた釼に足を掛けた。
勢いが足りないのなら・・・補えば良い。
セレは思い切り釼を踏み付けた。剱は深々と巉罫の頸に刺さり、肉を掻き分けて行く。
そして終に頸を貫通して血塗れになった釼は地に突き刺さった。
零星の刃は可也鋭利だ。少し手を加えれば後は自ずと斬ってくれる。
「グォオ゛オ゛ォ゛オオ‼」
血が溜まったのか声が濁る。
痛みに因る絶叫が迸り、余りの声量に思わずセレは首を竦める。
すると巉罫はセレに向け両手を伸ばして来たので慌てて背から降りた。
もう少しで掴まれる所だった・・・痛みへの耐性は可也ある様だな。こんな直ぐ反撃に出られるなんて。
降りたセレを踏み付けようと今度は足が何度も振り降ろされる。
ギリギリで旻へ、見ていない筈なのに中々的確だ。
ある程度離れて見遣ると、巉罫は頸に纏っていた布を巻いていた。
彼の間に止血もしたか・・・判断力も優れているな。
そして・・・未だ諦めていない目、逃げると言う選択肢も無く、怒りに燃えている訳でもない。
只々戦う者の目だ。臆してしまう程の曦を持っている。
ああ言うのを英雄の器と言うんだろうな、海牛達が敵わない訳だ。
旻を飛び、零星を持っている自分の方が圧倒的に有利なのに、然う思わせない意思の力を感じる。
・・・何だか、勇者に殺される魔王の気分だ。正義の様な物を彼女から感じるな。
彼女を殺して神にでもなられたら不味い気もするけれど・・・まぁ戦いで死ねたら未練は無いかもな。
頸を斬りはしたが、余り効いている様子は無いな。蹌踉いたりもしていない。
一応海牛達の戦いで、彼女等の耐久性と言うのは見ている。そんな取り分け生命力に優れていると言う訳ではなかったが。
此も正しく、意思の力なのかもな。
だが肉は堅くても斬れはするのだ。変わらず狙えば何時か斃れる筈。
周りに浮かべていた釼を取ると、巉罫は突然砂を掻き、投げ付けて来た。
大きな掌丈あって視界一杯に砂が弾幕の様に広がる。
石斧を一つ失った分、然うか。でも自分には波紋がある、目眩ましは効かないな。
「っぐぅ、」
軽くオーバーコートで砂を去なそうとしたが、流石の剛力、相当の力で砂を投げていたらしく、当たった砂は軽く自分を飛ばす丈の威力はあった。
吹き飛び掛けて何とか留まる。
諸に当たっていたら骨位折れるかもな。
一息付くのも束の間、巉罫は次々と砂や石を手当たり次第に投げて来た。
天変地異かと思う様な有り様だ。地面が飛ぶなんて。
波紋中に次々と砂や石が写り、目まぐるしい。
避け切るのも厳しい、旻ですら逃げ場が無くなるなんて考えた事も無かった。
加えて今は晴れている、余り大胆に避ける事も出来ない。
出来れば・・・頼りたくなかったが、
目の前に自分が通れる位の無を創り出す。
光と闇を、術は何でも良い。瞬時に合わせて、前へ放つ。
どんな剛力だろうと関係ない、無は次々に砂を呑み込んで行った。
・・・流石に無は吹き飛ばないな、其の力すらも消し去るから。
此で飛ばされたら又自分は自殺を決める所だったな。
自分の力と言う訳ではない、其の性質を利用している丈なのだから相応のリスクは自分にもある。
だから本当のいざって時しか使いたくはないな。
多少砂が当たってしまい、翼が痛むが問題無い。未だ飛べる。
只こんな猛攻だと釼を投げても届かないな、此方に返って来そうだ。
直接、仕掛けるか。一気に片付けてやる。
翼を畳んで一気に急降下する。
無で砂を吸収しつつ、地に降り立つ。
そして一呼吸置かずに巉罫へと駆け出した。
大きく地を蹴って少し丈翼を広げる。低空飛行で一気に近付く。
巉罫は石斧を構えると四肢で激しく地を踏み固めた。
足を付けずに、其の儘接近する。
頭を狙いたくても地上では厳しい、旻も封じられるなら此の手しかないな。
「此で・・・如何だっ!」
勢いの儘に釼を振るい、四肢の一つを斬り付けた。
足は頸よりも細い。此で、向こうの地の利を削る。
骨が存外硬くて斬れなかったが、大きく肉を抉る事は出来た。
血が吹き出し、奴の上体がぐらつく。
只返しと許りに振り下ろされた足の衝撃で少し吹き飛ばされてしまった。
受け身を取って地を転がる。
手応えはあった、此で、
「いっ⁉」
体勢を立て直そうとした瞬間、恐ろしい物が波紋に写った。
其は視界一杯に広がる巉罫。
彼奴が自分を踏み潰さんと許りに足を振り上げて、
如何して奴は急にでかくなったんだ。・・・いや、でかくなったんじゃない。
其丈、自分に接近していると言う事だ。
判断が遅れるも何とか奴の足の間を潜る。
自分を吹き飛ばして直ぐ突進を繰り出して来たのだ。
自分を狙い、突っ込む様の気迫は凄まじい、そんな奴の足元へ潜り込むのには勇気が必要だった。
何て判断力だ、奴は未だ一片も諦めてなんていない、波紋が無かったら轢かれていただろう。
旻へ逃げたって無駄だ。だったら一番接近時間が短くて済む此方の選択を選びたい。
自分の考えは読まれただろうか、巉罫は石斧を振り回し、自分の進路を防いで来た。
でも未だ自分の方が速い、完全に振り下ろされる前に何とか潜り抜ける。
長い方の尾の先が石斧に叩き斬られる。肉が無理やり叩き潰される感覚、悲鳴を呑み込んで、更に前へ。
余りの衝撃に、彼の硬い甲で覆われた尾も、無事では済まなかったのだ。
でも千斬れる分は未だ良い。寧ろ下手に押し潰される丈なら、動けずに踏まれる所だったのだから。
・・・考えた丈でも恐ろし過ぎる。一瞬で殺されて、下手したら鏡界に行って、又丗闇に殺され掛けそうだ。
千斬れてしまった尾を痛がる暇はない。
奴の懐迄来れた此のチャンスを逃してはいけない。
零星をしっかりと構える。
足と足の間、胴の下を潜るイメージで、
踏まれたら何の道御終いだ、でも躱せれば足は無防備になる。
振り下ろされた前足をしっかりと見て躱す、そして去り際に零星で斬り付ける。
後ろ足も同様だ、折ったり切断は出来なくても傷付ければ、
翼を畳んで一気に駆け抜け、距離を取る。
だが奴は直ぐに突進をしては来なかった。
四肢で未だ立ってはいるが、立つ丈で辛いのだろう。
血が四肢からどんどん流れ出ている。少し動かす度に吹き出すのだ。
「っく・・・ぐ、」
何とか巉罫は向きを変え、自分と対峙する。
走る力ももう無いだろうが、突っ込まないのは賢明だな。
あんな機動力が落ちれば、先ず自分には当たらない。突進されても又足を斬れば良い丈だ。
巉罫は距離を取った儘、石斧を振り上げた。
得物で勝負する気か、未だ腕前は分からないが。
突進迄はせずとも巉罫は牽制するかの様に石斧を振り回した。
中々早い・・・離れていても凱風を感じる。得物が大きい分、迫力は凄まじい。
でも正面はしっかり護れている様だが、後ろは如何だろうか、今なら狙えそうだな。
地を蹴り、又翼を畳む様にして、地擦れ擦れに飛び掛かる。
大きく円を描く様に回り込む。彼の足だったら追い付けまい。
視界をぎりぎり外れる所迄駆け、一気に飛び込む。
「egrebmalf」
零星を一度崩し、全て集める。そして巨大な一振りの釼へと再構築する。
狙うは奴の後ろ脚、此で一気に片を付ける。
セレが懐に入り込もうとした瞬間、巉罫は見えない筈のセレに向け、石斧を叩き込んだ。
大釼を前にして何とか直撃を防ぐ。でも、
「・・・っ、重いな。」
片手で石斧を叩き付けて来た丈の筈なのに何だ此の重さは。
零星の釼は壊れないにしても、其を支える自分の手がやられてしまう。
一瞬、釼が地に着く、痺れる様な痛みが走った。
恐らく、腕の骨に罅が入った。でも構ってられない。
甲だとかが頑丈な分、然う言う脆さが目立つな。
其の儘足を止めずに踏み込む。
釼を逸らす、然うして石斧をずらして躱す。
石斧の重さが無くなった瞬間に、一気に釼を振り上げる。
然うして一思いに巉罫の足を斬り付けた。
骨を大きく削り、自重に耐え切れずに後ろ足が折れる。
沈み込む上体を潜って何とか腹の下へ、釼を横薙ぎに払って前足も斬り付ける。
対角になる様、今度は右前足を。
もうあんな素早く動けないんだ。踏まれる心配はない。
力任せに釼を振るい、前足の膝辺りを狙った。
先よりも血が溢れて一気に足が曲がる。
支えが無くなれば奴は倒れる筈、押し潰される前に逃れないと。
顔の下を潜る様にして駆け出す。そして去り際に石斧を持っていた左腕を斬り付けた。
体躯の割に手足は細いんだ。少し斬り付けてしまえばもう支えられない筈。
目論見通り巉罫は石斧を取り落とした。
地響きと轟音が重なり合って足を取られそうになる。
でも未だ右腕が無傷だ。握り潰されでもしたら危険だ。
転がる様に距離を取った。今一度釼を構え直す。
巉罫は、もう明らかに重症だった。
手足から大量の血が出てしまい、水溜りの様になってしまっている。
其の上先暴れた所為で全身に返り血が飛び散り、纏っていた布や毛皮が真絳に染まってしまっている。
対する自分も、可也奴の血を被った。全身から血腥い匂がして頭が少しくらくらする。
巉罫は未だ石斧を取ろうとしていたが、もう力が入らないらしく、持ち上げる事が出来なかった。
震える手を見て、溜息を付く。そして終に四つ足を折って座り込んだ。
「見事です、見知らぬ戦士よ。我等が神の加護を持ってしても敵わなかったとは。」
此方を見遣る目にもう敵意は無かった。
血走っていた色は消え、穏やかで静かに凪いでいる。
流石に手足が無くなれば、奴も戦えないと判断した様だ。
そっと自分は零星の釼を解いた。
一応零星は残して置くが・・・もう一撃位しか振るう事はないだろうが。
「私は奴等に呼ばれて来た神だ。加護程度なら破れるだろうな。」
彼女達も又、何らかの儀式をしていたのかも知れない、巉罫の彼の力は其の御蔭なのかもな。
「然うか、然うか。神と手合わせ出来たなんて・・・何て光栄な最期でしょう。」
自分は邪神だから然う喜ぶ可き物ではない気がしたけれども・・・巉罫は本当に嬉しそうで、負けたと言うのに咲っている様だった。
自分には分からない、負けてもそんな風に如何して満足出来るのか、其の感情を知らない。
「こんな終わりで満足なのか?今から首を刈られるのに。」
「ええ、全力で戦えたのだから。・・・確かに、最後に神託は、護れなかったですが。」
「神託?其方の神は何て言っていたんだ?」
油断はせずに、零星を持った儘近付く。
向こうの神は此の次元由来の神だろうか。
「沼を全て平らにせよ。然すらば世界は滅びぬ、と。」
「然うか、其は残念だったな。」
世界、次元が滅びる、か。
其が黔日夢の次元の影響なのだろうか、今一覚えが無いんだよな・・・。
「ええ、残念でしたが、最後に恥じぬ戦いでした。・・・さぁ、」
巉罫は黙って首を差し出して来た。
動かないのなら、幾ら堅くても斬るのは容易い。
「egrebmalf」
せめて彼女の為に、苦しまない様一撃で終わらせようか。
零星を編んで巨釼を創った。
もう全ての零星を集める、斬れ味が増す様繋がりを強くして。
然うして一呼吸を置き、釼を構えた時だった。
・・・躯が、動かないのだ。
奴の為にも、今も未だ戦っている壟枉達の為にも、早く首を持ち帰らないといけないのに。
何故か其の一歩が踏み出せない。
観戦していたノロノロも少し不審に思ったみたいで首を傾げている。
別に巉罫が何かしている訳でもない。もう、只此を振り下ろす丈なのに。
手が、僅かに震える。冷汗が頬を伝う。
おかしい、こんな事は。
だって、私が今更・・・殺す事に躊躇するなんて。
如何して、奴に別に思い入れも無い、殺したくない訳でもない。
良い奴だなんて、人間以外だって、散々殺して来たじゃないか。
だのに・・・如何して、
今一度目を閉じた。
大丈夫、大丈夫だ。何も心配要らない、自分はやれる。
こんな事で、止まる訳がない。
念じて目を開けると、少し釼が軽くなっていた。
今なら・・・出来そうだ。
其の儘釼に力を籠めて、巉罫の頸に刃を入れた。
肉の斬れる重い感触、骨を斬る彼の音、でも今更手を止める事無く斬る。
然うして終に重い音を響かせて巉罫の首が落ちた。
「ゥオオォオオオオ‼」
其を見届けた牛兵が長く遠吠えをする。
終わった・・・やっと、此で依頼達成だ。契約も、ちゃんと果たせた。
其にしても先のは何だったんだ・・・変な、感覚だ。
未だ一寸手が震えている。後悔はない筈なのに。
手を開いたり閉じたりしていると、背後から一気に歓声が聞こえた。
思わずびくつくが、何て事はない。海牛達が勝利の声を上げていたのだ。
皆背が輝くので旻迄七色に染まった様だ。不思議な色合いに溜息を付く。
そんな中、牛兵達は黙って丘の向こうへと駆けて行った。
敗軍は静かに去るらしい。怒りもせず去る姿は、何処迄も己を貫く彼等の生き方なのだろう。
此の様子なら、もう海牛達を襲う事も無いだろう、其に彼等の団結力があれば大丈夫だ。
「御疲れ様ノロ~。良い戦いっ振りだったノロヨ。」
「噫、早く御前の主神も同じ目に遭わせないとな。」
「ノロノロ~頼もしいノロ!」
ノロノロは嬉しそうに頷いている。仕事の出来に、満足して貰えた様だ。
「セレ神様ー!セレ神様!」
一息付いていると壟枉が丘の上迄やって来た。
彼も無事だった様だ。果敢に戦ったみたいで、返り血であろう絳く染まっている。
其でも其の背は紅鏡に負けない位輝いていた。
良かった、一応此の戦中に彼が戦死したら如何しようか考えていたのだ。
何の道自分が殺す事になってしまう訳だけれども、ちゃんと勝利を彼に届けられて良かった。
「敵乍ら、素晴らしい戦士でした。彼女の遺体は此方で祀り上げましょう。」
「噫、然うしてやってくれ。」
壟枉の後からも何人かの海牛達がやって来た。
重くて大変そうだが、何とか彼女を弔って欲しいな。
「セレ神様、契約の件ですが、私の命を捧げた後は直ぐ戻られるのでしょうか。」
「ん、まぁ其のつもりだが。」
別に留まる理由もない、当人から切り出されるとは思わなかったけれども。
「分かりました。若し良ければ数刻丈頂けないでしょうか。最後にセレ神様を宴の席へ案内したいのです。出来れば戻られるのは其の後に。」
「え、いや別に良いぞ私は。私は私の仕事をした迄だ。其よりも御前は最期の晩餐を楽しんだ方が良いんじゃないのか?」
帰るのは何時でも良いけれども、此奴に最後の一時を与える余裕位は自分にもある。
村の為に其の命を捧げた労い位はあって然る可きだろう。
・・・一瞬、殺すのは止めて欲しいと懇願されるのかと思った。自分の知る人間と彼は違うのだから、そんな事、言う訳ないか。
疑ってしまった事、少し申し訳なくなるな。
「有難き御言葉、身に余ります。では・・・セレ神様、ノロノロさんを招いての晩餐会と致しましょう、直ぐ準備に取り掛かります!」
「あ、噫、」
口早に然う言うと壟枉は直ぐ様村へと戻って行った。
他の兵達も一緒である。未だ戦中なのかと思う位、慌ただしく走って行く。
そんなに気を使わなくて良いのに、何とも律義な一族だ。
まぁ走るのはそんな得意な一族ではないみたいなので中々自分と距離は開かないけれども。
生き急いでいるなぁと言う印象だ。皆疲れてへとへとだろうに、良く頑張ってくれている。
兵達が村へ戻ると、報せを聞いたのだろう。村中が一気に色鮮やかに輝き出した。
本当に村が光っているのだ。離れた丘からだと良く見える。
絳や黄や橙・・・鮮やかな暖色だ。
屹度村人皆が喜んで背を光らせているのだろう、家もあんな窓が大きく開放的だったから村が光って見えるのだ。
「ノロ~!順風満帆だったノロネ!流石セレ神ノロ!」
「まぁ相手も中々だったが、如何にかなったな。」
彼の感触が残っている手を何度も振る。
本当に嫌な感覚だ。此の所為で素直に喜べない。
「後は又御祝いされて、帰る丈ノロネ。此で又セレ神の信仰が増すノロ、御手柄ノロ。」
「然うだな、良い事だ。じゃあ村に戻るか。」
少し乱れてしまったフードを被り直して、セレ達も壟枉の後を追うのだった。
・・・・・
結局セレ達は村で一泊する事になった。
と言うのも宴は丸一日使って開かれたからである。
様々な舞や唄や演奏を披露され、料理も次々と運ばれ、劇や大道芸等、御祭り騒ぎだった。
途中から人酔いと気疲れにセレは襲われていた。
元々慣れていないし、元来斯う言う席は落ち着かない。
自分の為にしてくれているのも分かっていたし、壟枉が余りにも楽しそうにしていたので、耐えるしかなかったのだ。
もう十分だよ、有難うと言う言葉を何度呑み込んだか。
言えば壟枉も殺して帰らないといけなくなる。あんなはっちゃけている彼にそんな事、言えなかった。
彼はずっと村の皆と踊っている、沢山声も掛けて貰っている様だ。
彼を邪魔するのは野暮と言う物だろう。
今でこそ自分は只座ってそんな彼等を眺めているけれども、先迄は散々踊りに誘われて大変だった。
踊った事なんて無いし、抑彼等の踊りも知らないし、此処でニコニコ愛想笑いをする丈で精一杯なのに。
何だか戦の時以上に疲れている気がする・・・コミュニケーションって大変だ。
因みにノロノロはすっかり馴染んだみたいで皆と踊っている。
流石大妖精様、けれども何だろう、勿論彼を呼んだのは自分だし、色々助けられたんだけれども、
・・・何か釈然としない、良い所取りされた気分だ。
まぁ良いけれども・・・自分が斯う言う場を苦手にしている丈なんだし。
そんなこんなで紅鏡は沈み、霄、否此の次元で言う所の晁に、やっと宴は終わったのだった。
長かった・・・本当に。皆良く体力が持つな。
海牛達は口々に感謝や礼を述べて家々へと帰って行った。
今からは契約の取り立て、サクッと殺して帰る丈なのでギャラリーは要らない。
良かった・・・又祭壇みたいな所に連れて行かれて、皆が見ている中やってください何て言われたら。
死をエンターテインメントにするのは如何も抵抗がある。・・・前世の、見世物屋の所為かな。
「セレ神様、初めに御会いした儀式の間へ向かいましょう。彼処で御願いします。」
「噫、分かった。」
随分と、あっさりしているな。まぁ元々、其方から持ち掛けた契約だもんな。
斯う言う奴は屹度、自分みたいな神にはならないのだろう、羨ましいと言う可きなのだろうか。
後悔が無いのはどんな気分なのか、私は全く知らないからな。
存在を自覚した時からずっと、私は何かを後悔して、其を糧に存在しているのだから。
壟枉に連れられて、彼の例の石像の所迄やって来た。
地下へと続く階段を迷いなく降りて行く。
少し丈、懐かしい匂がした。此処はまるで時が止まったかの様に静かだ。
未だ一日しか経っていない筈なのに、随分と此処を懐かしく思ってしまう。
斯う言う所の方が、自分には向いているな。
呼ばれて出たのが上の広場じゃなくて本当良かった。此方の方が安心する。
「ではセレ神様、改めまして我等が村を救って頂き、有難う御座いました。感謝してもし切れません、貴方の活躍を、我等は永劫に、忘れません。」
「然うか。まぁ私も、憶えていて貰えた方が嬉しいな。其の懐いが力になる。」
「ノロノロさんも、有難う御座いました。御会い出来て光栄でした。」
「ノロノロ~ン、ノロノロも楽しかったノロヨ。」
本当に然うだろうな。
結局直ぐ宴になっちゃったから締めの言葉を言わせられなかったのが悔しい・・・。
「ではセレ神様、どうぞ。」
すっと膝を折って壟枉は頭を垂れた。
え、いやどうぞと呼ばれても・・・。
若しかして術とかで魂を吸って抜いたり出来ると思っているのだろうか。自分に出来るのは首を狩る事丈だ。
無もあるけれども・・・彼は何と言うか本当の消滅みたいで、余り好かないんだよな。殺した実感が湧かない。
壊す事しか知らないから、綺麗に終わらせる事が出来ないんだ。
「壟枉、一つ良いか?その・・・私のやり方は奴と、巉罫と同じになると思うが良いか?」
「えぇ構いません。後に兵が来て、私の遺体を回収する手筈ですので。」
「噫然うなのか。」
此処を血で汚しても良いんだな。
何と言うか、用意周到だ。ならまぁ良いが。
そっと爪を伸ばす。
零星でなくても良いだろう、此の手でも十分役割は果たせる。
でも・・・然う、先と同じ様な躊躇が、私の中で芽生えつつあるのだ。
如何して・・・今更、
私が殺しを躊躇するなんて、そんなの、アイデンティティーに関わる事じゃあないのか。
殺しの精霊の癖に、然うだろう?自分で望んで得た力だろう?
此は・・・若しかしたら相手が次元の主導者だからなのかも知れない。
次元を救いに来たのに、殺しても良いのか、其の考えが頭から離れないから。
屹度然う、然うだ。
だから自分はこんなに憶病になっているんだ。
壊せば、もう戻せない。其は私が一番良く知っている、だから今一度自分に問うているのだ。
本当に、此奴を壊しても良いのかと。
大丈夫、問題ない。彼を壊した所で、次元は壊れたりしない。
此は然う言う契約だ、だから、
息を付き、もう無心になって手を降ろした。
此の程度の動揺で、手元はぶれたりしない。
爪はしっかりと壟枉の頸に叩き込まれ、易々と斬り裂いた。
巉罫を殺した時とは違う感覚、彼の皮膚は何と言うか、柔らかくて滑っていた。
肉とは違った弾力があったが、何て事はない。あっさりと彼の首が落ちる。
一息に斬ったからだろう、血は余りでない。緩りと彼の上体は頽れた。
爪に付いた血をそっと拭う。
もう生気はない、此で本当に契約は完了したのだ。
「ノロン、本当に御疲れ様ノロ、後は帰る丈ノロヨ。」
静かに死体を見詰めていた自分に、そっとノロノロが近付いた。
「噫、此方こそ有難・・・っ!」
言い掛けて不図言い様の無い不安感に襲われた。
何かをやらかした、はっきり間違えたと警鐘が頭に響く。
嫌な予感、前世でも然う感じた事のない此の気持悪さ。
先から何だ、此の感じ。
少し平衡感覚が狂った様にふら付いて、闇が自分の前に立ち込めた。
此の懐かしい感じ、丗闇だ。丗闇が出て来たのだ。
顕現した丗闇も、何やら焦っている様な、苦々しい顔をしていた。
と言うよりこんな風に丗闇が出て来て良かった試しがない。
異常事態、何か大きな問題が起こったのだ。
「御前、今何をした。」
「何って・・・契約通り壟枉を殺した丈だ。」
「そ、然うノロ!けど、此の感じは、」
ノロノロも何か察したらしい、慌ててきょろきょろ辺りを見渡していた。
凄く・・・嫌な予感がする、こんなのは初めてだ。
具体的な何かは分からない、でも何だか良くない事が起こる予感。
・・・其と同時に、自分の内側で何かが燻っている様な・・・?
「丗闇、何が起きているんだ。何だか、分からないけれども嫌な予感がするんだ。」
「・・・御前は初めてではないと思うが。まぁ自覚を初めてしたと言う事か。」
「何の話だ丗闇、自覚って、」
外の様子も、何かおかしい。
まるで時が止まった様に、全て固まったかの様に動いていない。
いや、動いていない訳でもないけれども、時々動きを止めたり、早く動く雲華。寝ている筈なのに時々生気が消える村人達、薫風がある筈なのに凍った様に動かない華。
波紋ではっきりと分かる、何かがおかしいのだ。次元其の物に、何かが起きている。
余りのちぐはぐさに、少し酔いの様な物を感じる・・・。
「・・・此の次元は、終わろうとしている。恐らく、次元の主導者が存在しないからだ。」
苦虫を噛み潰した様に、口を歪ませた儘丗闇は続けた。
「もう数刻もしない内に此の次元は消えてしまうだろう。」
「如何してそんな事、終わるってそんな・・・、若しかして、私が壟枉を殺したからか?次元の主導者だった彼を。」
「でも其はおかしいノロヨ!セレ神が殺したのは然う次元の主導者と契約をしたからノロ!契約を持ち掛けたと言う事は、此の次元の主導者は役目を終えた筈ノロ。でないと自ら破滅する様な事を頼まないノロヨ。」
丗闇は黙った儘、考え込んでいる様だった。
彼女にも、はっきり今の事態が分からない様だ。こんな事、起きた事が無いから。
ちらと足元に転がる壟枉の死体を見遣る。
たった彼一人の存在で、こんな事が起きているのか。
今迄次元の主導者と次元の直接の繋がりは分かっていなかった。
理屈丈知っていて、実体は確かめ様もなかったから知らなかったのだ。
でも今ならはっきり分かる。彼が死んだから、次元が壊れたんだ。
私が、次元を壊したんだ。
・・・胸の燻りが大きくなった気がする。
「然うだ。此の次元の主導者は自ら御前を受け入れた。だから問題はないと、我も思っていた。次元の主導者の代替わりだろうと。でも実際、此の次元にもう次元の主導者の気配がしない。其が事実だ。」
「ノ、ノロノロ~訳が分からないノロ、じゃあ次元の望みは崩壊だったノロカ?理屈と合わないノロヨ。」
ノロノロが困った様に足元を見遣るが、パッとセレの方に向き直った。
「ノロ!でも別にセレ神の所為とかじゃないノロ!気負わないで欲しいノロ、セレ神はちゃんと仕事をした丈ノロ、其なのに・・・ノロ~ン、こんな事になるなんて、ノロノロ全然知らなかったノロヨ。」
「其は我も同じだ。・・・我も、其の依頼は問題無いと判断した。知識不足だ、済まない。」
「あ、謝らないでくれ二柱共!私も・・・変な予兆があったんだ。其の時、話せば良かったな。」
今の此の不気味な感覚は、二人を殺した時と似ている。
彼が何かのサインだったのか・・・。
「予兆?何かあったノロカ?」
「・・・珍しく殺す時に躊躇っていたな、彼か。」
丗闇も気付いていたらしい。其程彼の時の自分は異常だったんだ。
実際前世を懐い出してからは特に躊躇なんて無かったし。
殺しは当たり前の日常のルーチンだと、刷り込んでいたのに。
自分のアイデンティティを欠落させる行為、其の重大性。
「其だな。巉罫を殺す時も、壟枉を殺す時も、凄く嫌な予感がした。殺してはいけないなんて思ったのは初めてだ。でも其に逆らったら、こんな事になった。」
嫌な感覚は波紋を通じてどんどん大きくなる。
焦燥感丈が募って行く。
「丗闇、何か手はあるのか?未だ次元は完全には壊れていない。そんな次元の中に私達は居るんだし。」
「・・・無理だな。次元の主導者を失った次元はもう終わりだ。止める事も直す事も出来ない。」
はっきりと言われてしまった。でも何となく予想は出来ていたから、覚悟は出来ていた。
「だから、何が起きたのかを考えないといけないだろう。又同じ事を起こさない様、原因を。」
「然うか、丗闇は切り替えが早いな。」
たった一日だとしても滞在していた此の次元がこんな形で終わるなんて、信じられない。
壟枉が命を賭けてくれたのに、其の結果が此だなんて。
納得なんて、してくれないだろう。此じゃあ本物の邪神だ。
「ノロー・・・でも然うノロネ。こんな事、あっちゃあいけないノロ、神が次元を救いたいと言う意思で来ている以上、其の流れに乗っていたのに失敗するのは本当は有り得ないノロ。理由が分からないと後々困るノロヨ。」
「でも其は、私がした彼の嫌な予感を振り切って迄二人を殺したからじゃないのか?其が世界を救いたいと言う自分の意志に反してたか。」
「其が本当だったら、御前は意志に反する程の殺しの力を持っている事になる。其は其で問題だ。」
「如何・・・問題なんだ?」
丗闇はちらと自分と目を合わせた。
・・・其の目が酷く冷たい気がして、知らず唾を呑む。
「黔日夢の次元を意図的に起こせる可能性があると言う事だ。彼の時は我の躯も使っていたから起こせたと思ったが、今回の様な事が可能なら、御前は一柱でも次元を壊して回れる、然う言う事だ。」
「意図的って私は別にそんな事は些とも考えていないけれども、別に私でなくても次元は壊せるだろう。次元の主導者さえ消えれば良いんだ。」
「理屈はな。だが其は神が次元を壊すつもりで初めからいないと無理だ。御前みたいに嫌な予感に襲われて、動けなくなるからだ。でも御前は其を振り切り、殺しの性を優先する事が出来た。神としての性やシステムの網を抜けられると言う事だ。其丈壊しや殺しに特化しているとも言える。」
「成程な、神としても異端だって言いたいのか。」
然う言うイレギュラーな存在って、神とか世界は嫌うものな。
分かるよ、問題は早い内に潰したいよな、特に自分みたいな化物は。
生かす意味が・・・無いのだから。
然うだろう丗闇、自分を一回殺した御前なら分かっている筈なんだ。
屹度、丗闇の性と私の性は合わない、重なったりはしない。
だからそんなに、私一柱に対して悩んでいるんだ。
「異端・・・然うだな、元から御前は、」
「ノロー!喧嘩なら他所でやって欲しいノロ!兎に角、原因はセレ神の力って事ノロカ?でも同時に此の次元も望んでいたノロ!セレ神が勝手に殺した訳じゃないノロ!」
嫌な空気を感じてかノロノロが二柱の間に割って入って来た。
・・・自分としてはちゃんと丗闇の意見を聞いてみたかったんだけれども・・・まぁ、今ではないか。
「別に口論していた訳ではないが、まぁ良い。其も一理ある。此の次元に留まっている以上、此の次元の話を為可きか。御前は次元の主導者殺す時、嫌な予感がすると言ったな。彼が恐らく、神として、其をすれば次元が壊れると本能的に知っての勘だろう。少なくとも御前は此の次元を救うつもりで来ていたのだから。」
「然う・・・なんだろうな。でも巉罫を殺す時も同じ予感がしたぞ。彼奴は次元の主導者じゃなかった筈だが。」
「ノロ~、二柱共次元の主導者ってパターンはあるけれども如何ノロ?」
「恐らく、其奴が次の次元の主導者だったんじゃないのか。其奴が先に死んだから、代替わり出来ずに終わったんだ。」
「ノロ!確かに其の方がしっくり来るノロ。」
「成程、じゃあ彼等は次元の主導者同士で遣り合っていた様な物なのか。」
「若しかしたら、此の村が敗れる事こそが次元の正しいあり方だったのかも知れない。御前を頼った時点でミスだったのだろう。」
「然うか、私に頼れば二人共死ぬ事になるからな。」
其にしてもこんな形になるなんて・・・死んで行った二人に申し訳なく思う。
斯うなってしまっては結局、自分が二人の共通の敵だったと言う事になってしまう。
そんな気はなかったとしても、まるで二人を利用したみたいだ。甘い言葉を吐いて二人を騙し、物言わぬ死人になってからこんな事をするなんて。
「何にせよ、御前の其の力は少々危険過ぎる。今後は使い方に気を付けなければ又同じ悲劇を呼ぶだろう。今回の事は、糧にするしかないだろうな。」
別に今回の事が無くても、黔日夢の次元に因って既に幾つかの次元は滅んでしまっている。
今回は偶々其を目撃した丈、自らの手で、行った丈の事。
でも何故だろう、自覚したからだろうか。又力が増している気がする。
此の胸の燻りが大きくなっている様な・・・此が破壊の力なのだろうか。
破壊神・・・其の名に相応しい存在へと、なろうとしているのだろうか。
・・・何となく、此の事は丗闇に話したくはないな、何となくだけれども。
「・・・然うだな。今はもう後悔して、反省する事しか出来ないか。悔しいけれども・・・依頼は出来たが、仕事は失敗だな。」
認めたくはなかった其の一言を呟く。
壟枉、巉罫、此の次元の皆、本当に済まない。
私は・・・此の世界を壊した。自分の都合で。
折角あんなに迎えてくれたのにな。
其の気が無くても壊してしまうのは、其が自分の性なのだろうか、其とも・・・、
世界を壊したいと、一片でも懐ってしまったのだろうか。
胸の燻りが更に大きくなる。
喪失感が大きくなるにつれ、此方が広がっているのだ。
屹度此は自分の力、
次元を壊す事でより、自分の存在感が増している。
熟、悪役が御似合いな化物だな。
「ノ、ノロー!始まったノロ!」
ノロノロが心細そうに自分に近付くと、壁や床に罅が入り始めた。
いや、此は・・・空間其の物に入っている?まるで彼の罅を連想しそうだが、彼とは又違う罅だな。
此は次元自体が壊れて行っていると言う事だろう、旻も、人も、生物も、地面も、時間も、何もかもが壊れて行く。
「丗闇、もう此は、次元を出た方が良いか?残っていたら如何なってしまんだ?」
申し訳ないが、此の次元と心中は出来ない、反省はしたのだから次に活かさないと。
丗闇が未来の話をすると言う事は、安全に出られると言う事だ。自分達丈は、助かるんだ。
「いや、動くな。壊れ掛けの次元だから無理に出る方が危険だ。最悪鏡界に行ってしまう。我々は魂丈で来ている神だ。次元が壊れれば自動的に戻れる。」
「ノロノロ、ノロノロも妖精だけれども大丈夫ノロ。壊れるのは飽く迄も次元丈ノロ。」
成程、道理で落ち着いている訳だ。
確かに村人達は次元と一緒に壊れたりしているが、自分達には影響はない。
此の時点で、差別化されていると言う事か。
「一応言って置くが、真の姿になった時は此の限りではない。魄毎次元に持って来ているから、次元が壊れたら一緒に滅びる。」
「然うなのか。然う簡単には矢張り行かないか。」
「・・・馬鹿な事をされる前に言って置いて正解だったみたいだな。」
流石丗闇だ。的確に自分の思考に蓋をして来た。
真の姿になっても、最悪次元を壊せば帰れるかも、と考えたんだが甘かったか。
本当に其を実行する前で良かったよ。此でもう次元で絶対に真の姿になれないな。
自分を真の姿になる迄追い詰めた奴から次元の主導者を護り乍ら戦うのは酷だろう。其処は一回諦めて狭間へ死に戻りした方が良い。
丗闇からアドバイスを貰う中でも罅はどんどん広がって行く。
懐かしさも何も感じられない罅だ。現実感がまるでない。
でも此を忘れてはいけない、自分のした事の意味を、ちゃんと。
そして終に、世界は罅で覆われる。
波紋が余り帰って来ない、滅茶苦茶に空間が壊れてしまった所為だろう。
此が砕けた瞬間に、全て・・・終わる。
瞬きの刹那、一気に次元が瓦解した。
分かる、はっきりと。自分達を先迄取り巻いていた世界が、壊れて行く。
宙に浮いた感覚、色も、匂も、何もない。
只無限に広がる無、空虚。
たった一瞬、こんなあっさりと、次元は終わる物なのか。
昨日も今日も明日も、当たり前の様に続くと思っていた世界が。
・・・未だに信じられない、もう彼の海牛達や、牛族に二度と会えないなんて。
あんな鮮やかだった村は、何処にも無いなんて。
砕けた次元の欠片が塵の様になって消えて行く。
隣に丗闇やノロノロが居るから未だ落ち着いて見られるけれども、独りだったら何て不安になる様な光景だろう。
杞憂、と言う言葉を思い出した。
旻が落ちるかも、と絶対に起こらない事を心配した奴がいたからとか何とか、由来を聞いた事がある。
起こるじゃないか、だって世界はこんなあっさり終わるんだぞ。
旻位落ちたって・・・不思議でも何でもない。
「・・・っ、彼は、」
何も写さないと思っていた波紋の先、何かが・・・ある。
次元が壊れた所で一体何が残るんだ。
「何か見えるのか。」
「噫、先に光る瓊みたいな・・・、」
距離感が今一掴めないが、目視はギリギリ出来るんじゃないだろうか。
何もない空間に現実感が余りないが、瓊の様な物が見えるのだ。
瓊と言うより曦の瓊か。一抱え、あるかないかの。
「ノロ~、ノロノロには見えないノロ。」
「・・・我もだ。ぼんやりとしか、・・・若しかしたら御前に見えているのは次元の核かも知れない。魔力が元だから波紋に写ったのだろう。」
「へぇ、次元にもそんな存在があるんだな。てっきり次元の主導者が然うなのかと思ったが。」
「其も然うだが、今御前に見えている方は恐らくクリエーターが最初に創った次元の元だ。当神が居ない今、貴重ではあるだろうが。」
「クリエーターが創ったのか・・・。」
只見えはしても如何する事も出来ないのだろう、泡の様に消えるのを待つ丈か。
「・・・ん。何だ・・・?なぁ丗闇、その・・・核の所に、誰か居ないか?」
「何だと・・・我々以外の神が居たのか。」
「ノロ?然うだったノロカ?先迄全然気付かなかったノロ。」
ノロノロは首を傾げたが、確かに波紋には写っていた。
核よりもはっきりと、海牛達ともまるっきり違う・・・神の気配だ。
と言っても只の神とも違う様な・・・?
駄目だ、良く気配を探ろうにも次元が壊れている所為か上手く波紋が広がらない。
でも、相手は人間に似た神の様だった。
真蒼な肌に銀の長髪、黔の目は顔と額のを合わせて五つあり、足は一本丈だった。
宇宙服、とでも言うのだろうか。謎の金属片とビニール布を合わせた衣服を纏っている。
其の服からすらりと出た長い足の先から波紋みたいな物を放っており、其で浮いている様だった。
初めて見た種族だ。・・・何だろう、今迄は既に黔日夢の次元で会っていたからか然う言う種もいるんだと受け入れられた。
でも彼は違う・・・然う、此の感覚は、銀騎士、ガイに会った時と少し似ている。
初めてなのだ、見た事も聞いた事もない、そんな存在。
何をして来るのか分からない、抑何故こんな所に。
知らず、緊張してしまう。未知の存在とは恐ろしい物だ。
丗闇達も気付いた様で、視線がついと動く。
「丗闇、彼は・・・、」
「我も分からない。恐らく、神ではない何かだ。・・・彼奴は今、次元の核の所に居るのか。」
頷くと彼女の眉間の皺が濃くなった。
干渉する可きではないのかも知れない。其の儘黙っていると、彼は核に向け、両手を伸ばした。
其の手は六本指で、そっと核を包み込む様に添えられる。
すると緩りと彼の肘や肩から水精の様な物が生え、成長して行った。
其の水精の先から波紋の様な物が放たれ、自分のと混ざる。
何を・・・しているんだ。
固唾を飲んで見守っていると、突然自分の足元に影が出来た。
曦も無い筈なのに出来た其の影は不自然に絳い。
其の影は奴の所迄伸びて行き、華を咲かせて行った。
水精の様な瓊を乗せた絳い華。
既視感がある。彼は・・・、
絳の世界、絳の朏、絳の少女・・・。
アティスレイが、付けていた華だ。
突然空間に咲いた色に、彼もやっと此方の存在を知覚した様だ。
そして華を辿り、自分の姿を、其の五つの瞳が捉える。
―君・ハ、―
聞き慣れない音、其がテレパシーだと気付いた刹那、
次元の核が激しく曦を放ち、彼の姿を包み込む。
同時に放つ波紋がより大きく、強くなる。
脈打つ様に流れ、行き渡る。
自分のと混ざった所為で、もう波紋は滅茶苦茶だ。何も写せず、意味のない情報を無限に与えて来る。
此以上は・・・無理だ。
自分は無理矢理波紋を閉ざした。
途端、何もない闇に取り囲まれる。
そんな中を只彷徨っていると・・・、
「おい、見えていないのか。」
肩を軽く小突かれ、慌てて瞬きの様に波紋を飛ばす。
何て事はない、目の前には変わらずノロノロと丗闇が居た。
丗闇が怪訝そうに自分の目を覗き込む。
いけない、すっかり惚けてしまっていた。
先の曦は丗闇達に如何見えていたのだろう、魔力丈で彼が起こっていたのなら何も見えていなかったのかも知れない。
此処は・・・次元の迫間か。良かった、ちゃんと帰って来られたみたいだ。
然うだな、帰って来たのにぼーっとしてちゃあ不審がるのも無理はない。
「噫御免丗闇、見えているよ。先の曦が余りにも眩しくてな。」
「曦・・・?そんな物が見えたのか。」
「何となく、先見た奴が次元の核に何かした様に見えたんだ。吸収・・・みたいな、其で曦が爆発したかの様に溢れて・・・、」
今一、先見た光景が理解出来ない。
彼奴は何者だったんだろうか、其に何故かアティスレイが反応していた様に見えた。
其の所為で奴にばれた様な気がするけれど・・・大丈夫かな。
―アティスレイ、アティスレイ私の声が聞こえるか?―
余り此方からコンタクトを取る事はないけれども・・・返事がないな。
無視しているのか、其とも彼女の根本に関わる事だから話したくないのか。
「ノロ~、一体何だったノロ・・・本当にセレ神と居たら色々起こるノロ。」
「其は喜んで良いのか微妙な所だな。」
「・・・厄介事は勘弁だ。」
丗闇はずっと其に付き合わされているもんな、嫌にもなるだろう。
―ん・・・若しかして呼んだ?―
突然の横槍に思わず背が震える。
口調は又違うけれど、彼女だ。
―噫アティスレイ、良かった。一寸聞きたい事があるんだけれども。―
てっきり無視されたんだと思っていたのに、声からして何だか寝起きみたいだ。
・・・若しかして先ので新しいアティスレイに変わってしまったのだろうか。
―聞きたい事⁉良いよ良いよ!・・・あ、でも多分先の事だよね。―
一寸テンションが高い、話せた丈でこんな喜ばれると此方もむず痒い。
でも自分から話を振るか。うん、其が聞きたいんだ。
―噫、先出て来ていたよな?何か御前の興味を引く物でもあったのかと思ってな。―
―あぁ・・・興味、興味・・・ううん、難しいね。私も先の事、良く分かっていないの。だから整理に時間掛かっちゃって・・・。―
アティスレイ自身分かっていないのか・・・?益々気になるな。
―多分先のは、私が出て来ちゃったって言うより、私の本能が反応しちゃったんだと思うの。私は別に出たくなかったし。―
―奴が何者なのかは知っているのか?―
―・・・・・。―
はっきり聞いてみたが、返って来たのは黙だ。
嘘が吐けない彼女だ。知らなければ知らないと言うだろう。
其を返事が無いと言う事はつまり、知っているけれども話したくはない内容と言う事なのだろう。
だったら最初から無視でも良かったんだが、其が出来ない性分なのだろうか。
―御前の大事な部分の話だから話せない、そんな所か?―
―うーん・・・一寸然う、んん、いや、何て言うんだろう・・・。―
珍しく悩んでいるみたいだ。誠実に答えようとしてくれている所は嬉しいな。
―うん・・・うん、御免ね。一寸マザーに聞いてみたの。えっとね・・・貴方には関係の無い事だから、話せないの。―
関係が無い・・・拒絶されているみたいだな。そんなに彼奴は重要なのか。
―私は御前の事、もっと知りたいと思っているけれども、教えてはくれないのか?―
―あ、あ!し、知りたいってそんな!―
・・・如何やら今回のアティスレイはシャイな子の様だ。
此丈動揺させられればへま位しそうな物だが。
―ど、如何しよう・・・でも関係ないのは本当なの。貴方には気にして欲しくない事と言うか、知った所で何の意味も無い事なの。―
―こんなに気になっているのに駄目なのか。―
―先は私も、本当に偶然動いちゃったの。一応私と関係があるから・・・でも会いたいとも思わないし、話したいとも思っていない、私にとっては貴方丈なの。本当に・・・其丈の関係よ。面識もない位だもの。―
成程、其で本能で動いちゃったと。
不思議な関係だな。面識も無いって言われちゃあ、関係が無いと言うのも其の通りなのだろう。
アティスレイの事、全く分かっていないから具体的に彼の何に反応したのか迄は分からないけれども。
―別に、私の前の主だとか、仲間だって事も無いのか。―
―無いわ、絶対に。向こうに憑く理由がないもの。―
自分にはあるのか、其は其で気になるけれども。
―・・・分かった、悪いな急に呼んじゃって。―
―構わないわ。私は肉すら持たないアティスレイだから、斯うして貴方と話せて楽しかった。まるで電話みたい、フフ、又何かあったら連絡頂戴。―
其限、絳の気配は遠退いた。
・・・実の所、前瞳の化物に彼女が乗っ取ってからコンタクトは取っていなかった。
だから若しかして・・・とも思ったけれども、矢っ張り彼女は自分の中に居るんだな。
大した情報は得られなかったけれども、胸に留めた方が良さそうだ。
「・・・何か言っていたか?」
「ん、何が?」
途端丗闇の目が坐る。・・・いや一応ちゃんと聞かないといけない訳で。
「彼の絳い変な奴と話していたんだろう、でないと何も考えずにぼーっと突っ立っていたと言うなら、一度躾をしてやる。」
「ちゃんと御喋りして来たから躾は勘弁して欲しいな・・・。」
頭を掻いていると首を傾げるノロノロと目が合った。
然うか、ノロノロはアティスレイの事とか全く知らないし・・・無理に話す可きではないかも知れないな。
此処であしらうと先のアティスレイみたいだけれど、仕方ないかな。
「えっと、一先ずノロノロさん、狭間に戻って来られたし、仕事は終わったと見て良いと思う。色々連れ回して悪かったな。でも御蔭で助かった。」
「ノロ~ン、御互い様ノロヨ。最後は一寸残念だったノロケド、御疲れ様ノロ。色々あってノロノロも良く分かってないノロケド。」
ちらとノロノロは丗闇の方を見遣った。
相変わらず、誰に対しても彼女は渋面だ。
「屹度丗闇漆黎龍様なら何か見当が付いて然うノロネ。分かったノロ!若し又分かったら教えて欲しいノロケド、ノロノロは一回戻るノロ、一緒に其方の仕事が出来て楽しかったノロヨ!」
「噫、又宜しくな。」
ノロノロはフードから伸びている布を手の様に振ると、其に包まれる様にして姿を消した。
流石大妖精、中々のイリュージョンだ。
「じゃあ丗闇、アティスレイの話なんだけれども。」
波紋で店の位置を探る。
・・・案外遠くないな、此の儘歩き乍ら一度帰ろうか。
自分が足を進めると、何も言わずに彼女は付いて来てくれた。
「先出て来たのは突発的な物らしい。出たくて出た訳じゃないって。まぁ奴に反応はしたんだろうけれども。」
「奴が何かは分かったのか。」
「其は教えて貰えなかったな。私には関係の無い話だ然うだ。だから教えられないって。」
途端渋面が酷くなる。
まぁ丗闇の気持も分かる、謎丈が増えるのは面倒だ。
「別にアティスレイは奴と会いたい訳でも何でもないって言っていた。其の程度の存在だってな。」
「でも、御前には話せないんだろう。」
「恐らく、アティスレイの大事な部分には、関わっているんだろうな。」
「其を話せないとなると矢っ張り彼奴は信用ならんぞ。」
「まぁ然うだな。」
何だか丗闇が此方サイドにいるみたいな前提で話してくれるので一寸嬉しい。
でも此、悟られたら滅茶苦茶不機嫌になる奴だから言わないけれども。
然う言う丗闇の事は、信用しても良いって事だもんな。
「只、丗闇には奴は如何見えたんだ?」
「・・・神ではなさそうではあったが。」
可也言い淀んでいる。其処迄不確定な情報は口にしたくない彼女だ。
自分の言葉に、責任を感じているんだろうな。
「私は見た事の無い種族みたいだったけれども如何だ?」
「我も知らないな。何処の次元の者かも検討も付かない。」
「丗闇も知らないとなると・・・次元、いや外の世界の者だったりするか?」
「外・・・、外とは如何言う事だ。」
「ほら銀騎士、ガイみたいに。私達が知らない丈で、此の世界の外には別の世界があるんだろう?だから・・・然うだな。次元人、みたいな。」
否次元人だと一寸違うか?世界人とか・・・?でも其だと自分達が世界に居ないみたいだ。
うーん、名称って難しい。
「・・・余り外の話は好きではないが、可能性はあるかも知れないな。」
「ん?好きじゃないのか?私は寧ろワクワクするけれども。」
「此の世界の事ですら一杯一杯なのに其以上は不要だ。」
「成程な、私は此の世界に縛られなくて良いかも、と思うと何だか軽くなった気がするけれども。」
「然う言って外の世界も壊すんじゃないだろうな。世界外逃亡なんて、我は御免だぞ。」
「ククッ、冗談きついな丗闇。そんな事言われたら実現しちゃうぞ。」
いっそ、外で死ねたらガイに成れて、こんな中途半端な自分と左様なら出来るけれども。
今の方が変化を楽しめる分、良いな。
「でもガイに成れず外の世界から来た者だったら侵略者じゃないか。そんな存在、丗闇は赦すのか?」
「・・・良くはない。目的も何も分からない以上危険だが、手掛かりも何も無いとなると。」
確かに。曦が消えた後、奴の姿は何処にも無かった。
何処かの次元へ行ったのか・・・全く分からない、此じゃあな。
「然うだな、一体何が目的なんだか。私には何だか、次元の核を取り込んでいる様に見えたかな。」
「核をか?御前の波紋では然う見えたのか。」
「噫、別に彼の次元にずっと居た感じじゃあなかっただろう、次元が壊れたから来た、そんな風に見えたぞ。」
「・・・確かに然うだな。我も御前が言って初めて気付いた位だ。」
「だから敢えて、次元が壊れたから来たのかなってさ。あんなの集めて何になるか分からないけれど。」
凄い力を持って然うだから何かに利用が出来そうではあるけれどな。
「・・・利用法は我も分からないが、余り良い気はしないな。」
「私もだ。私が壊した次元でああやってずっと御零れを貰っていたのかと思うと、」
「御前は結局自分の事しか考えられないのか。」
「ん、あれ、何だ丗闇は其を気にしてくれた訳じゃないのか。」
「御前、次元が壊れたら自分が核を取り込もうとか、考えているんじゃないだろうな。」
「さて如何だろうな。只新しい道は開けた気がするぞ、丗闇は大変だな。」
知らず丗闇は溜息を付いていた。
早速嫌な役回りにされる事に嫌って程気付いたのだろう。
でも核なんて・・・次元其の物みたいな物だから絶対凄い力を持っている気がする。
ガルダが前くれた黔い焔は一つの次元のあらゆる物を燃やして、彼丈力を付けた。
じゃあ其が世界丸毎だったら・・・?可也の力になる筈。
勿論自ら次元を壊すなんて真似はしない、其だと本末転倒だ。
でも、どうせ壊れると言う事になれば、利用しない手は無いだろう。
まぁ然う簡単に取り込める代物とは思えないがな。
「・・・御前と居るとおちおち眠れもしない。もう一寸波風立てない様には出来ないのか。」
「うーん其は・・・丗闇がもっと図太くなるしかないかも知れないな。」
「次元が壊れても寝ている奴は只の阿呆だ。」
「寝ないで見ていた方が退屈しなくて良いんじゃないか?」
「御前の相手は、本当に疲れる。」
態とらしく大きく溜息を付くと、丗闇の姿は掻き消えてしまった。
気になる事は一先ず済んだ、と言う事だろうか。
少し丈足を早める。店はそろそろ見えて来る筈。
全て、壊してしまったけれども、此の胸に確かな燻りは残った儘だ。
せめて、此は忘れない様に・・・彼等の居た証なのだから。
あんな勝手に壊したんだ。もう自分の身に潔白なんて求められないだろう。
此の道でしかない、此の道で、生きて行く。
只其でも・・・どうせ、信じては貰えないだろうけれども。
彼の二人を殺した時に感じた、彼の拒絶感は、もう二度と味わいたくないとはっきり思う様な物だったんだ。
其丈は、どうか・・・どうか。
・・・・・
其の神は願いを叶えてくれた
どんな願いでも、ありの儘に
其は一と一の関係、契約と対価を伴う物
私達は繋がった、そして今一度別れる
願いを喰らい、神は羽搏く
我等の届かない地へ、此の願いを連れて
どうか、どうか其の果てで又交わらん事を
只・・・願う
・・・はい!はい!不完全燃焼です!
最近斯う言う話多いですね、嫌ですね。でも私は大好きです。だから書きますね。
セレ失敗ルートの御話でした。斯う言う失敗ストーリー心情的に沢山書きたいんですよね。
と言うのも何だか物語の主人公って、凄い成功ルート許り通って行く事が多いじゃないですか。特に流行りのなろう系って俺つえー!みたいなのが多い気がするんですよ。(完全に偏見です、気分を害された方は御免なさい。)
だから、ちゃんと主役も一柱の生き物なのだから失敗もするんだよ!と言うのを前面に書きたい欲が凄いんですよね。
最近のセレは何だか連勝中ですし、そろそろ御灸を添えてやろうかなと思った訳です。(何もしていないのに可哀相)
と言う訳で今後もガンガン負けます。地を這い蹲ってギリギリで足掻いて生き延びて貰う予定です。いや寧ろ数回死んで貰う位の気概です。(彼女が何をしたと言うんだ)
皆が主役なので、彼女丈は勝たせません。もう少し先で大きく挫折させたいと思っていますので其迄御付き合い頂けたらと思います。(二ヤァ)
其では又近い未来、御縁があれば御会いしましょう!




