42次元 瞳の化物と夷滅の信仰の次元
今日は、最近コンスタンスな-Sare-です。
今回は一寸新しい事に挑戦しました。
読んでみると一寸彼の匂がするな、と分かる方は勘付くかも知れません。もうね、挿絵が挿絵だもん。
やっと少し物書きには優しい季節がやって来ました。と言っても春は春で体調崩し巻くリングできついんですけれどね。
そんな今回、悲しきもがなモフモフが一体卒業してしまいます。まぁ仕方ない、流石にもう引っ張れない。
誰の事かは御察しの筈、此で後々書きたい話とか出来たら如何しよう、とか思っていますが現状問題無いでしょう。
ではでは引きは御早目に、今回は何方かと言うと後書きでがっつり語りたい気分なので又御会いしましょう。
あ゛あぁあやってしまった見てしまった彼の悪魔の目を彼の目は全ての罪を晒す俺の心を覗き込む何故彼奴は目しかないのか良く分かった必要ないんだ目を見れば奴の心が流れ込む俺の心も読まれる会話なんて必要ない死より冷たい冷気が悪魔の吐息に混ざって俺の心毎凍らされるあぁ嫌だ死にたくないあああ如何すれば赦してくれますか如何すれば赦してくれすか如何すれ赦してくれますか如何れば赦しくれますか
あぁ私は死にたいです悪魔様
・・・・・
静まり返り、暗闇に包まれた室内。
唯一揺れ動いているのは布団で、其に包まってガルダが眠っていた。
飃が店を出ている御蔭でぐっすり眠る事が出来る。
今日も一日セレの世話で終わってしまった。でも明日も頑張らないと。
明日は何の料理を彼女に作ろうか、魚とかも食べさせた方が良いかな。
そんな風に色々と考え乍らガルダは小さな黔獣となってしまったセレを抱いて眠りに就いたのだ。
だが深霄頃、何か物音を聞いた気がして自然とガルダは目を覚ました。
最近はセレが霄起きて鳴いてしまう事もあったのですっかり音に敏感になってしまった。
ベッドで眠る様にはなったが、うっかり彼女を潰してしまってもいけない。如何しても慎重になる。
起きはしたが、如何やらセレは寝た儘だった。ピッタリとガルダにくっ付いて寝ている背が何とも愛らしい。
そっとガルダが其の小さな背を撫でた時だった。
ざわ、と手の中で毛が蠢いたのだ。
不自然に隆起した様な・・・一体、
ガルダが不審に思ったのも束の間、セレの躯は見る間に変化を始めた。
黔い体毛は抜け落ち、背が一気に伸びて骨格も音を立てて大きく変化する。
翼が新たに生え乍ら大きく生え揃い、毛の代わりに銀の髪が生え、常人の其だった手足は直ぐ血塗れになって鱗状に硬質化する。
・・・何だ此は、一体何が起きているんだ。
口をぽかんと開け、ガルダは固まってしまう。たった数瞬で、セレの姿は又もや大きく変わってしまったのだ。
然うして終には・・・良く見慣れた面が其処にはあった。
六つになってしまった瞳、反面が黔い鱗の様な物で覆われてしまっている。
其でも、昔から、前世から自分の傍に居てくれた、大切な・・・、
「っセレ、」
思わず目元が潤んで、其の名を知らず零した。
彼女は・・・眠った儘だ。でも見る限り元のセレに戻った様だった。
魔力が戻ったと言う事だろうか。こんなあっさり急に戻るとは思わなかったけれど。
でも良かった。魔力が戻れば治るとは聞いていたけれども、初めての事だったから。
此で目を醒ませば・・・もう大丈夫な筈。
そっと少し丈、銀髪に触れてみる。・・・居る、ちゃんと彼女は此処に居るんだ。
良かった、本当に。やっと、やっと、
安心すると同時に一つの考えが頭を擡げて来た。
・・・あれ、俺じゃあ今セレと寝てるのか⁉
干渉力の御蔭なのか、セレは服を着た儘だった。小さくなった時も服丈無くなっていたから然う言う物なんだろうけれど。
う、あ、で、でもセレと、ひ、一つのベッドで、
忽ちガルダの頭はパニックに陥った。
そりゃあ前世は寒かったし、一緒に寝ていたけれども彼はベッドと言うか布が一枚しかなかったし、獣になってからはペットに近い感覚だったので温めようと寝ていたけれども。
今は不味い、今は駄目だって!そ、そんな、こんなのって、
ガルダの顔が赤くなったり青くなったりと忙しい。兎に角動く事も出来ずに固まってしまった。
其の時大きくセレの背が動いた。起こしちゃ悪いと思っていたが、起きてしまったのなら其でも良いだろう、自分の部屋に戻って貰わないと。
そんな風に思考を巡らせていたガルダだが、セレはひし、とそんなガルダに抱き付いた。
まるで抱き枕の様な扱いである。遠慮もなく、しっかりと抱き締められてしまう。
思わず大きくガルダの背が震えたが、彼女が起きる様子はない。
・・・所かゴロゴロと喉を鳴らしている様である。うぅ、斯うなったら彼女、基本起きないんだよな・・・。
躯が冷たいから温かい自分に抱き付いたって事だろうけれど、如何しよう此、何が正解なんだ。
如何しようもない、が答えなんだろうけれど、此じゃあ指一本動かせないし、抑眠れないっ!
一瞬起きたんじゃないかって希望を抱いたのにっ!と言うか起きてたよね彼!如何してこんな事になってるんだ!
ピッタリ固まってしまったガルダを他所に、セレはぐっすり熟睡を決め込むのだった。
・・・・・
「ん、御早うガルダ。」
「噫・・・御早うセレ。」
其から数時間後、完全復活を果たしたセレは何事も無かったかの様に目を醒ました。
一緒に寝ていたと言うのに特に気にしていない様だ。元気そうで尾もしっかり振られている。
「何だガルダ、一寸元気がなさそうだな。」
「そんな事無いって、セレが元気そうで本当良かったよ。」
結局彼から一睡も出来なかったので、すっかり躯が固まってしまったガルダである。
目元に隈も出来てしまったので大きく伸びをして躯を解して行く。
「・・・?ん、あれ、ガ、ガルダ、丗闇は何処だ?私の中に居ないみたいだが。」
胸元を抑えてきょろきょろと辺りを見始めた。波紋もある筈なのに、可也驚いてしまった様だ。
「丗闇はセレの部屋に居るよ。前は・・・その、セレの中に入れなかったからな。」
「ん、此処はガルダの部屋なのか・・・?おかしいな、昨日の記憶が殆どなくて・・・。済まないガルダ、昨日は何があったんだ?」
「其の様子だと、此処数日の記憶も無いかもな。」
其は少し覚悟していたから何となく分かっていた。
BDE‐01がおかしくなった時も記憶が飛んでいたし、多分躯の変化に頭が追い付いていないんじゃないだろうか。
抑が彼の小さな獣だった訳だし、知性は余り期待出来なかったから、然う言う事だろう。
其にしても彼のセレとは段々コミュニケーションも取れて来ていたから一寸もの寂しいけれども。
自分の心の癒しになっていたのは事実だからもう会えないと思うと、矢っ張り一寸切ない。
「此処数日・・・?・・・確かに、何だろう此、何か、良い夢をずっと見ていた様な・・・不思議な感覚だ。」
良い夢か。だったらまぁ良かったかな。
前みたいに彼女のトラウマになっていないのなら良い。
「えっと、先ずはセレの部屋に行こうか。積もる話もあるしな。」
「うん、分かった。・・・只、私は何か又やらかしていたりするか?」
何だか急に不安そうに縮こまるセレである。・・・野生の勘だろうか?
「如何してそんな風に思うんだよ。」
「・・・丗闇に説教をされる未来が見えた気がしてな。」
「あー其は・・・頑張れ。」
其の一言で全て察したらしく、彼女は俯き乍らも自室へと向かった。
「お、御邪魔します・・・。」
自分の部屋だと言うのに、中に暗殺対象でも居るかの様に慎重に入る彼女だった。
ガルダも心配になってそっと続くと、早速闇の神様から鋭い眼光を貰う事になる。
「やっと元に戻ったのか此の愚か者め。」
「や、やぁ丗闇、何だか一寸久し振りだね。」
行き成り罵倒である。此は不味い。
挨拶しつつも又もや現状を理解出来ていない風の彼女だったので、そっとガルダは時空の穴からある物を取り出した。
「・・・?何だ此はガルダ、素敵なモフモフが写った写真だな。」
セレに見せてみたがフラッシュバックする訳ではないらしい。確かに、自分じゃ自分の姿見えないもんな。
「此が此処数日間のセレの姿だったって言ったら、信じる?」
「・・・・・。」
すっかり固まってしまった。考える事を拒否してしまっている。
事前にロードからカメラを預かっていて良かった。記念に撮っていたけれども役に立つとは。
「・・・御前まさか、又忘れたのか!失態丈忘れるとは何とも良く出来た脳だな!」
「う、嘘だ!流石に私だってこんな姿には!」
其処でセレは突然頭を抱えると暫し固まった。
何か聞いてはいけない物でも聞こえているのか、尖った耳がピコピコと動いている。
「う・・・あ、な、何だ此の記憶・・・ガルダの手から・・・御飯を貰ってる?・・・、猫じゃらしを、目の前で振られたり、な、撫でられたり、擽られたり・・・っふ、風呂に入ったり・・・、」
「や、止めろセレ!其以上言語化するな!」
ガルダが止めるも既に丗闇は冷ややかな視線を彼に注いでいた。
「我が見ていない所で・・・そんな趣味があったとはな。」
「い、いや違うって!普通に世話してた丈だって!」
今のセレが言うから違和感があるって丈で、何も普通の事だ。
寧ろちゃんと世話をしたんだって事を褒めて欲しい。
「あ・・・あ、ガ、ガルダ、私、何て言ったら良いか・・・。」
先迄寧ろ何処か満足そうな様子の機嫌が良いセレだったのに、今ではすっかり狼狽してしまっている。
まぁ・・・信じられないよな。あんな姿になってたなんて。
言葉が見付からずにわたわたしているセレは中々珍しい。一気に不安そうな表情をするので放って置けない。
「ま、先ず、何日も面倒を掛けてしまって本当に済まなかった。すっかり助けられてしまったな。ガルダが居なかったら多分私は・・・、助けてくれて有難う、恩に着る。」
「そ、そんな御礼言わなくても良いぜ。」
真正面からそんな言われちゃあ・・・気恥ずかしくなってしまう。
良かった、此処数日の頑張りは無駄にはならなかったんだ。
然う思うと何だか胸元がじわじわと温かくなって行く。
・・・いや抑、俺の所為でセレはあんな怪我をして現在に至るのだから褒められる様な事じゃないけれども。
「後は・・・ええっと・・・、」
可也言い難そうに、ちらっと、本当にちらっと丈セレは丗闇を見遣った。
相当緊張しているのか尾が忙しなく動いている。・・・頑張れ、セレ。
丗闇は小動物位なら殺せそうな程の眼光を放っている。其の対象が俺じゃなくて良かったと、咄嗟に思ってしまう程の眼力だ。
「丗闇、今回は非常に見苦しい姿を晒してしまったな。反省は十分、十二分にするので説教丈は・・・、」
「済まない、良く聞こえなかったな。我にも聞こえる様はっきりと言ってくれ。我を宿して置き乍ら自分の力量も分からず、我の声も聞かずに勝手に一柱暴走して結局皆に迷惑を掛けた憐れで愚かな半神前の神が、我に一体何の用なんだ。」
「あ・・・う、そ、・・・あ、あの。」
悲鳴を呑み込んで本能的にセレは小さく丸まってしまう。
思わず傍に居たガルダもびくついてしまう。
・・・何だろう、最近の丗闇は自分の真似でもしているのか嫌味を良く言う様になった気がする。
然も飛び切り酷い奴だ。ジョークとしても全く笑えない。
もう全く、自分みたいな悪神の真似なんて優しい丗闇がしちゃあ駄目じゃないか。其、冗談抜きで恐いから。
あ、いや冗談じゃない?あー・・・えーっと其は・・・は、ははっ、
「セ、丗闇様の時間を頂いてしまって申し訳ありませんが、如何か愚かな私めに御説教を受けさせて頂く権利を頂けないでしょうか。」
「権利じゃない、義務だ。」
「は、はいぃ・・・。」
情けない声を出してセレが土下座を始めた。
セレがこんな卑屈な態度を取るのも初めて見た。
セレは多少傍若無人な気質があったから・・・まぁ丗闇相手には流石に然うなるな。
前喰らった許りなのに又説教ってのも可哀相だけど・・・。
「・・・今直ぐしてやっても良いが、流石に現状把握の時間が必要だろう。我も英気を養って置く。其の間しっかりと自分の愚かさを学ぶが良い。」
「わ、わわ、分かりまし、」
「返事。」
「はいぃっ‼」
尻尾が滅茶苦茶に荒ぶっている・・・。
分かる、気持は分かるよ。恐いもんな丗闇、尻尾の事なんて気にしてる暇ないよな。
すっかり怯えてしまったセレの前で丗闇の姿は掻き消える。
丗闇の姿が消え、初めてセレの肩がガタガタと震え始めた。
今になって恐怖が追い付いたのだろう、心配になってそっと近付くと、俺の足にひしっとしがみ付いて来た。
「セ、セレ、あの・・・大丈夫か?」
「あ、噫、な、なな・・・何も、問題なんて・・・あ、ありは、」
「・・・・・。」
元に戻った筈なのに可哀相な生物の儘だった。
見ていられないので落ち着く様に何度か肩を叩いてやる。
然うだな、恐かったよな。何だか幸せな夢を見ていた筈なのに気付けばあんな神様に睨み付けられて。
説教と言う未来は変わらないだろうけれど、せめて少しでも楽になれる様色々手を尽くそう。
「・・・ふぅ、有難うガルダ。うん・・・うん、もう大丈夫だ。先ずはその、色々と教えてくれるか?知りたい事が山程あるからな。」
暫くして何とかセレは自力で起き上がった。
顔は真っ青だが、彼女が然う言うのなら大丈夫だろう。
「然うだな。色々あったし、あ、先ずは、」
そっとガルダがセレのベッドを指差した。
其の先を追って、一瞬セレの躯が固まる。そして次の瞬間セレはベッドに飛び付いた。
「えっと、其、全快祝いのプレゼントって事で、如何かな?」
ベッドには一つの縫い包みが置かれていた。
其はT&T製の縫い包み、見た目は一寸manjuに似ている。可愛らしいモッフモフな縫い包みだ。
包まれる様に尻尾の様な物が付いており、中には炎石が入っていてぽかぽかと温かい。
静電気処理もしてあるし、抗菌、汚れ難い加工済み、頭に穴が開いているが、其処から心安らぐアロマの香りが漂う。
神呼んで神を堕落させるmanju。愛称ファフー縫い包みである。
セレが獣状態だった時に、寝ると潰しそうだったので一匹で眠れる様頼んでいたのだ。
でも結局セレはぴったり俺にくっ付いていたから使えなかったけれど。
セレは見た瞬間に本能的に其の使い方を心得た様でファフーの尻尾に自分のを巻き付けてすっかり抱き付いていた。
しっかりと子コアラが母親に抱き付く様に引っ付いている。
抱き付いた途端、ゴロゴロとセレは喉を鳴らし始めて何とも幸せそうだ。
多分放って置いたら二度寝しそうではある。
「如何だセレ、其気に入ったか?」
何度も何度も頷いてくれる。如何やら御満悦の様だ。
「・・・?ロードが帰って来たのか?」
暫くセレの自由にさせて置こうと見守っていたガルダだが、急にセレの耳が立ち、起き上がった。
こんな時でもしっかりと見てくれてはいた様だ。
「噫仕事行ってたからもう帰って来たんだな。まぁタイミング良かったな。」
丁度セレも戻ってるし、良かった。此で飃への心配が一寸減る。
「色々報告する事もあるし、朝御飯でも作るかな。セレも来てくれるか?」
「噫分かった。一緒に行こう。」
セレは今一度ギュッとファフーを抱き締めると名残惜しそうに部屋を出た。
・・・余戯れていると丗闇に何て言われるか、分かった物じゃないからな。
リビングに出ると何か違和感を覚えて思わずセレの鼻が動いた。
何だ此・・・何かに見られている様な・・・?
「あ、セレ、何だか久し振りですね。元に戻って何よりです。」
「おぉ!セレよ戻ったのか!我は今し方仕事を終えて来たのだ!」
「元気、一番、良かった。」
数日会えていなかったので皆の声が弾む。
思わず苦笑を漏らしてセレは軽く手を振った。
「何だか随分心配させてしまったな。此の通り、もう元通りだ。御疲れ様。」
「なぁんだ。もう戻っちゃったんだ。」
言葉の割には飃はそんな残念そうに思っていない様で、あっけからんとしていた。
「彼の御兄さんには感謝しとくんだね。守護者として良く仕事してるよ。」
ん・・・御兄さんとはガルダの事だろうか。
「御帰り、若し良かったら今から御飯作るけど、一緒に如何だ?」
ヒョコッとガルダがキッチンから顔を出した。
飃と目が合った気がするが、ふいと何方ともなく視線を逸らした。
噫成程、一悶着位はあったかも知れないな。
「あら、良いのかしら、じゃあ頂くわ。」
「あー僕はパスで、先休んでるよ。」
ロード達が席に着く中、飃丈さっさと自室へ引き上げてしまった。
「何だ、てっきり情けない死神だとかってからかわれると思ったのにな。」
「セレ、弄られ待ちだったのか?」
何だか物足りなさそうな顔だ。二柱の関係が良く分からない・・・。
「・・・一寸先の次元で色々あったのよ。積もる話もあるし、御馳走になるわね。」
「少し、面倒そうな話だな。」
何となく楽しい話ではない様だ。まぁ良い、しっかり休ませて貰った分巻き返さないと。
「じゃ俺作るけど、あ、セレ一寸此持ってくれるか?」
ガルダに促され暖炉の前へ。
火の問題で使われずにインテリア化した暖炉だ。使っていない割に手入れはされていて埃は無い。
スーがしてくれたのだろうか、今は・・・床下に籠もってる様だけれども。
そしてガルダは時空の穴から小さな袋を取り出した。
「ん、何だ此は。」
開けてみると金平糖や飴、ゼリービーンズが沢山入っていた。小さな御菓子袋だ。
ドレミが似た物を持っていたけれども此は一体・・・。御飯前の間食だろうか。
「じゃ、一寸待ってくれよ。」
然う言いガルダは知らぬ間に暖炉に取り付けられていた小さな呼び鈴を鳴らした。
何かの儀式だろうか、暖炉も外に繋がるから精霊の来訪を伝えるとかそんなの。
理解が出来ず首を傾げるセレの前でガルダは忍び笑いを漏らした。
すると・・・突然家の四方八方から何か小さな者が這い出て来たのだ。
其は小さな絳っぽい鼠の様で、何十匹も出て来ては暖炉へと集結する。
「さ、セレ、其の御菓子をばら蒔いてくれるか?」
「あ、噫分かった。」
言われる儘に袋の中身をそっと鼠達に蒔いてみた。
鼠達は器用にも金平糖をキャッチすると皆で齧り始める。其の躯は段々と毛が逆立ち、まるで焔の様に揺らめいた。
然うして終に鼠達は一つの塊となって狗か猫位の焔の獣へと変化した。
焔の塊に首と紐の様な細い手足、紅玉の装飾が付いた様な姿だ。まるで奇術でも見せられたかの様な光景だが、此は・・・、
「っ!然うか、御前達は火鼠か。」
少し記憶を取り戻して来た気がする。確か次元で、群緑達と一緒に会った気が・・・。
其から丗曦と会って・・・何か、血腥い事があった気がするけれど・・・良く、懐い出せない。
―よぉ姐御、元気になって良かったぜ!今更だけれども此から宜しくな。―
「ん、あ、噫宜しく・・・?」
今一状況が分からない儘、火鼠が手を出して来たのでそっと握手をする。
流れで少し火鼠の背を撫でてみた。彼等の性質は確か、集まれば一つになって巨大化出来る事、そして焔の躯の体温は自由に変えられるので、触れる事も出来る。
そして其の手触りは・・・、
「はわわわわぁあぁああ・・・。」
一撫でで全ての感覚、情報が左手に集約される。
何だ此はっ、単体の時と面積が変わる丈でこんなに変わる物なのかっ!
正に焔を撫でていると言うか、柔らかさより先に温かさが伝わる。
指先と言うより全体に。沈み込んで取り込まれているんじゃないかって位に。
噫駄目だ。撫でる手を止められない、もう其以外考えられない。此の子を撫でる為に自分は神になったんだと錯覚する程に。
此は・・・良き!非常に良き!
「・・・・・。」
何て事を、セレは思い乍ら撫でているのだろうか。
此の儘撫で神に成ってもいけないのでそっと肩を叩くと、驚いた様にぱっと振り返る。
まるで此の世界に自分とモフモフ以外居たんだと言わん許りの顔だ。
「あ、ガ、ガルダ、何と言うかだな、言葉に出来ないんだけど良いんだ!」
「分かるよ、全身で表現してくれているし。」
セレがこんな分かり易く感情を表すのはモフモフ位の物だ。
昔はもう一寸クールなイメージだったんだけれども・・・まぁ十分喜んでくれているんだし、良い事だ。
「ぬうぅ・・・新参の癖に生意気なのだ。」
「ハリーも幻覚でモフモフになったら良いんじゃないか?」
すっかり火鼠の虜になってしまった彼女を見て不満そうなハリーである。
セレが元に戻る迄凄く心配していたもんな。ちゃんと仕事もして来たんだし、褒めて欲しいんだろうけど。
「其は駄目なのだ。何と言うか・・・モフモフで釣っている様で嫌なのだ。」
何とも健気な理由だった。何時かちゃんとセレに伝われば良いんだけど。
因みにロードはそんなセレが可笑しいらしく、そっと見守っている。鏡は何処で入手したのか炭を黙々と食べていた。
「じゃ、俺作って来るから皆緩りしといてくれよ。」
「あ、私手伝いますよ。」
「気遣いは嬉しいけど、大丈夫だって。」
と言うよりロードに入られたら厨房自体が料理される。
―相変わらず変な姉さんだなぁ。此の姿の時は大体威嚇なんだぞ?―
「然う言われてもモフモフである事は変わらないぞ。・・・と言うより、何で家に居るんだ?」
そんな当たり前の疑問を口に出すのに随分掛かってしまった。
火鼠は其の場に腰を下ろして真直ぐセレを見詰める。
丁度暖炉の火になって座りが良く、温かい。
―姐御が言ったんじゃねぇか。持ち帰りたいって。俺達も家は欲しいし、好かれるんなら其方の方が良いだろ?―
「そ、そんな私なんかの為にっ、」
感動したのか言葉を失うセレだった。目覚めてからの喜怒哀楽が激し過ぎる。
特に龍族は良くセレに尽くすから・・・彼女にとって新鮮なのだろう。
因みに彼等を招き入れるに当たって、ちゃっかり店を防火改修していたりする。暖炉も使えるし、悪い話じゃあなかったのだ。
―じゃ、俺達は呼んだら何時でも此処温めてやるからさ。好きに温まって行けよ。―
「・・・若しかして部屋に金平糖を撒いたら来てくれるのか?」
―そんな事しなくても行くけど、ま、撒いてくれたら一寸したパーティみたいになりそうだな。―
「モフモフパーティ・・・。」
良し、直ぐに決行しよう、此処が楽園だったのか。
「セレよ、躯はもう本当に大丈夫なのか?」
「ん、噫悪いハリー、大丈夫だ。もう問題無い。」
最後にもう一撫で丈してセレはそっと席に着いた。
ハリーが何処か羨ましそうに火鼠を見ている・・。幻覚で創る気なのだろうか。
「其なら良かったわ。丁度セレに聞きたい話もあったし。」
「・・・何だか、私が居ない間に色々あったみたいだな。」
すっかり迷惑を掛けてしまった。ロードの顔を見る限り、何やら厄介事もあったみたいだし。
同時に三柱は頷くと順番にセレに先の次元の顛末を伝えるのだった。
・・・・・
「コロシの一族・・・か。」
独り言の様に呟いて、セレはサラダにフォークを突き立てた。
「そんな恐ろしい名前の存在がいるなんてな。正に名が体を現す、か。皆無事に帰って来てくれて本当良かった。」
其の儘もぐもぐとサラダを頬張る。
うん、ガルダの味付けだ。安心して食べられるので自然と頬が緩む。美味しそうに食べる彼女を見てガルダも満足気だ。
「あの・・・セレ、考えるのは食べ終わってからでも良いわよ。私から話した事だけれども。」
思っていたより数段ガルダの手際が良く、話し中に食事が運ばれて来たのだ。
せめて食べる前に報告は終わらせたかったけれども、すっかり雪崩れ込んでしまった。
コロシの話は如何しても不吉な物なので出来れば食事中にしたくはないのだが・・・セレは余り気にしない様だ。
「ロード、大丈夫だ。私はもう元に戻ったんだから。別に食べ乍らでも話は出来る。折角の情報なんだ。良く精査しないと。」
彼女が然う言うのであれば・・・続けた方が良いだろうか。
「分かったわ。じゃあ一応確認だけれども、セレは今迄彼等に会った事が無いのね?」
「噫、前はハリーが其の辺り話してくれたし、覚えている限り黔日夢の次元でも会った事は無いな。」
「俺が見たのはトキコロシだったな・・・あんなやばいのが何体もいるのか。」
「うむ、何も強力だったのだ。全員で一つになって始めて追い払えるか如何かだったのだ。」
「そんなのが次元に居るとなるとおちおち仕事も出来ないな。・・・ん、此美味しいな。」
「お、然うか。前も好きって言ってくれたからさ、気に入ってくれて良かったぜ。」
彼女は何とも嬉しそうに厚焼き卵を頬張っていた。
コロシが一体どんな者なのか想像出来ない彼女じゃあないと思うけれど、何と言うか・・・肝が坐っている。
でもセレと初めて対面した時に食事や料理は命を加工した物だ、とか話していたし、彼女は抵抗ないのかも知れない。
「今の所、ハリーは皆勤賞と言うか、一番奴等と会ってるんだな。じゃあハリーと行けば私も会えたりしてな。」
「うむ、でもセレの方が勁いのだ。奴等なんて目じゃないのだ。」
ハリーのセレ神信仰は知っていたけれども、強ち間違いでもないのかも知れない。
彼女の力は未知数だから・・・有り得なくもない。
「斃す、というより話してみたいって言うのが本音だけどな。」
「でも先も言った通り大した話は出来ないと思うわ。主の呪いか何かでね。」
「然うか・・・半殺しにしたら口を割ると思ったんだが。」
さらっと恐ろしい事を呟く彼女だった。
彼女にとって話し合いとは半殺しの上で初めて成立するらしい。
「ガイとも話せたんだし、案外行けると思うがな。化物にだって口はある。」
「ガ、ガイ?セレ、ガイには会った事があるんですか?」
「噫、友と呼べるのが一柱居るぞ。」
彼女と話すと必ず一回は驚かされる。
友・・・彼のガイと?抑近付くのですら困難なのに。
「益々、貴方の事が気になって来ましたよセレ。」
「然うか?私は偶然何回か会った丈だぞ。多分・・・近くにいるんじゃないかな。そんな気がする。」
「友達沢山、良い事。」
「さて、私にとっては良い事だが、世間的には如何思うだろうな。」
意地悪く笑って彼女はスープに口を付けた。
熱いのか一口飲んで直ぐフーフーと息を吹き掛ける。
・・・結構冷ましたつもりだったんだけど、未だ彼女にとっては熱湯だったみたいだ。
「話と言えば、丗曦とも途中で終わったしな。然うだガルダ、彼から丗曦、何かあったか?」
「いや、凄く静かだけど。・・・反省、してくれたら良いんだけどな。」
と言うより多分丗曦が今出て来たら俺が正気じゃ済まないかも知れない。
あんなになる迄彼女を傷付けたんだ。誰であろうと赦せる訳がない。
「然うか、一瞬何か懐い出した様な気がしたんだがな。態と私の攻撃を受けていたし、正々堂々遣り合ってくれたし。」
・・・何だか記憶が美化されている気がする。獣になる直前の事だからだろうか。
一応丗闇から彼の時の血腥い戦いの全貌は聞いている。迚も、そんなあっさり語れる様な有り様じゃあなかったけれど。
「・・・若しかして、私の知らない所で彼奴に会いに行ったとかないよな?」
セレが俺の目を覗き込んで来た。顔に出てしまっていた様だ。
「其は無いけどさ。若しかして又会うつもりなのかと思ってさ。」
「出来れば然うしたいんだがな。矢っ張り未来の話は気になるよ。其に協力してくれれば助かるし。」
只直ぐには無理だけれども。又争いになったらあっさりやられてしまう。
未だ策も無いし、万全とは言い難いからな。
「未来・・・確か丗曦さんは未来から来たガルダなんですよね?」
「みたいだけど、正直俺は余信じてないぜ。」
「まぁ未来からの情報を一つも提示出来ないとなると、信じ難いな。」
其にしてもあんな綺麗さっぱり忘れるなんて。もう一寸憶えてくれてても良いのに。
そんな風に思う質ではないと、すんなり受け入れられると思ったのに。
ガルダに忘れ去られていたと言うのは、存外ショックだった。
未来の事が知りたいと言うよりは・・・懐い出して欲しいのかも知れないな。
「何か、懐い出したとは思うんだがな。独り言言っていたし。」
「懐い出した所で、味方になるとは限らないぞ。」
「まぁ確かに負けず嫌いっぽかったから直ぐ仲間になってくれるって訳は無いだろうけど。」
其に彼奴は、自分にはっきり言ったんだ。
敵じゃない、と。其の続きは聞き取れなかったけれど。
「でも不意打ちとは言え、彼の丗闇様に手を出せたなら、相当の実力者ですね。其に私はそんな名前の神存じて無いから・・・本当に未来から来たのかも・・・知れないわね。」
「因みに時間旅行って出来る物なのか?丗闇は無理っぽく言ってたけど。」
「然うね・・・出来る次元はあるけれども。世界で言えば不可能の筈よ。丗の神の啓示にも記されていない筈。世界が滅茶苦茶になってしまう概念だもの。」
「丗の神の啓示は確か・・・クリエーターが創ったルールと言うか・・・世界の未来とか、然う言うのだったか?」
然う言った知識は余り自分は持ち合わせていないからな。
如何しても教育を受けていないと斯う言う所に差が出てしまうな。
「えぇ、神の使命も其で決まってるわ。世界の指針って所かしらね。」
「うーん、其を超えて来たのか・・・。」
矢っ張り丗曦は何らかの鍵にはなりそうだな。自分にとって可也重要な。
・・・もう少し、御近付きになりたいな。
「然う言えば神龍って言う種も居たんだったな。成程な、世界の歴史は深いと。」
「あら、随分珍しい一族を知っているのね。」
「俺、聞いた事無いな。何なんだ其。」
「ん、いや丗の神の啓示で消えた一族がいるってのを偶々リュウから聞いたからな。クリエーターが死んで直ぐ滅んだって聞いたから本当大昔からあるんだと思ったんだ。」
「確か、神のプロトタイプで、真の姿と偽の姿を自由に行き来出来たのよ。で、クリエーターの事が大好きだったから、クリエーターが滅んだのと一緒に彼等も姿を消したのよ。」
「ううむ、其の様な者がいたのだな。我の幻術の様なのだ。」
「何だかクリエーターに時限爆弾を仕掛けられたみたいで不憫には思うんだがな。まぁそんな種もいたんだ。別のがいてもおかしくはないと思うが。」
「ふーん・・・神龍か、其、リュウから聞いたのか?」
「噫、龍の番神丈あって知識は中々だな。私は神でも新参者だから然う言った知識は非常に助かるな。」
焼き魚を切り分ける。・・・魚なんて何処で入手したんだろう。
実はガルダの食糧事情は結構謎だったりする。
魚を見ていると・・・彼の黔猫を懐い出すな、如何しても。
ガルダの料理は勿論美味しいけれども、もう一回、彼奴と魚でも食べたいな。
「ぬ、若しかしたらセレが其の神龍なのではないか?変身はセレも出来るのだ。」
「残念乍ら違ったよ。私も最初てっきり然うかと思ったけれども、変身と言っても今回は魔力不足でなったんだしな。」
抑自分、クリエーターとか好きじゃないし、其の時点で異物だな。
「フフ、随分可愛らしい姿だったわね。彼が真の姿だったら・・・なんて。」
「其は御免だな。切り札だと思ったのにあんな無力な存在になるなんて。媚びて助かろうだなんて、私じゃあ先ず無理だろう。」
「あ、然うだセレ、言い忘れてたけど、セレが小さかった時、一回飃が、」
言い掛けた口を噤む。然うだった、ハリーには言ってないんだった。
「噫大体何があったか分かるよ。大丈夫だ、有難うな、ガルダ。」
小さく微笑むとセレは魚を何切れか口に運んだ。
尾の先が嬉しそうに揺れている。・・・そっか、なら良かった。
「でも、今回は無事だったが此でソルドの所の奴とか来ていたら不味かったな。・・・うん、来てないんだよな?」
「噫、比較的平和だったと思うぜ。」
だから飃の襲撃にあんな吃驚したんだけど。
「ソルド、と言うのは虚器惟神の楼閣の主のソルドですか?」
「噫、私と良く似た卑怯者だから何かの折に私が弱体化しているって聞いてしまえば無理にでも狩りに来ていただろうな。」
恐ろしい、あんな奴に媚びた所で寧ろ拷問されそうだ。
魔力が回復しない儘永遠と傷付けられ続けたら・・・軽く地獄だな。
「む、セレは卑怯者ではないのだ。賢い戦い方を選んでいる丈なのだ。」
「ハリー、世の中には狡賢いと言う言葉があってだな・・・。」
別に自分は卑怯なのを悪とは思っていない。だからそんな風に庇う必要も無いんだけど。
ハリーの目には然う別の物に映っているのは一寸問題かな・・・。
「ソルド、会った事無い。他の神、余り知らない。」
静かに炭を頬張っていた鏡だが、話はちゃんと聞いていたらしい。
口が煤で真っ黒になってしまっているが、屹度彼にとって幸せの象徴なのだろう。
「確かに然うだな。只・・・私が居るからな。余り他の神と知り合うってのは一寸難しいかも知れないな。只ソルドは関わらなくて良いぞ。悪い奴だからな。」
「然うね、私ももう勘弁だわ・・・。」
セレとソルドの戦いを見てしまったから・・・自分は震えて見ている事しか出来なかった。
今でも懐い出すと・・・少し、気分が悪くなる。食事中なのでさっさと忘れよう。
「悪い奴・・・敵居ない方、良い。」
「だから私は戦ってるんだよ。」
分かっている。鏡は優しい神だ。だから自分の考え方と全く違う。
自分の敵は全て滅ぼしてしまえば良い、如何なったって知った事じゃあない。
そんな考え方が、自分には浸み込んでいる。生き方と一緒に。
間違っている?間違っているだろうな。でも其を正そうとは思わないよ。
正しい事をしなければいけないなんて、そんな事は無いだろう。其なら私は何をしたって間違いだったって事になるのだから。
そんなの・・・絶対に認めない。
「セレ、フォーク、止まってるけど大丈夫か?御中一杯か?」
「ん、いや焼き魚が余りにも美味しかったから一寸感動していたんだ。」
「いやいやそんなオーバーな。」
苦笑を漏らす彼にそっと微笑む。
大丈夫だ。私が間違えている限り、此の温かさが続くのなら。
ガルダが止めてくれる迄、演じ続けてみようか。
・・・・・
一通り報告会も終わり、食後の片付けも終わった。
何だか久し振りな気もするし、仕事に行きたい、と俺に勢い込んでいたセレは現在、部屋に監禁されている。
理由は丗闇である。
セレが店を出ようとした瞬間、ひとりでに彼女の部屋が開いたのだ。
そして其処から闇が溢れ出した。曦を一切通さない闇だった。
其の闇はガシッとセレの肩を掴んだのだ。
“敵前逃亡とは良い度胸だな。”
そんな凍える様な声がしたかと思うと、隣にセレの姿はなく、気付けば扉は閉まっていた。
・・・其から丸一日、セレは部屋から出ていない・・・。
完璧な怪談である。彼が丗闇だったと気付くのに結構掛かってしまった。
流石は闇の神と言うか、自身をあんな風に闇に同化させる事が出来るらしい。
―おう兄さん、もう姐御は大丈夫みたいだぜ。―
部屋の隅に居た火鼠がチチ、と鳴いた。
如何やらセレの部屋に潜り込んでくれた様だ。
基本丗闇の説教は静かに畳み掛けて圧を掛けて来る物だ。外からじゃあ分からなかったので助かった。
「そっか、教えてくれて有難な。」
―いやー其にしても彼の神様は恐ろしいねぇ。何処から入り込んでも直ぐ俺達に気付くし。―
寧ろ彼の恐ろしい丗闇に何度も近付いたのが凄い。見物でもしていたのだろうか。
―ま、しっかり慰めてやれよ。じゃな、―
火鼠が部屋の隙間に入るのと同時に扉を開いた。
「・・・セレ、もう・・・大丈夫か?」
「・・・噫ガルダ、会う度に久し振りな気がするな・・・。」
セレはベッドでしっかりとファフーに抱き付いていた。
まるで蛇が獲物を仕留める様に尾でぐるぐる巻きにしている。引き離すのは難しそうだ。
「まさか、一日丸々使われるとは・・・もう懲り懲りだ。あんな姿にはならんぞ。」
「じゃあもう無茶しないって事だな。」
其なら其で俺は安心するけれども。
丗闇の説教が実を結んだと言う訳だ。
「いや、要は命の鬩ぎ合いみたいな事をしなきゃ良いのだろう?だから余裕然うなら其の儘戦い、拮抗しそうなら自害すれば良い丈だ。」
「何も解決していない⁉」
何で然うなる、何で零か十でしか物事を考えられないの⁉
如何して志の高い騎士みたいな、凄い選択になってしまうんだ。
「でも若し又彼の姿になって敵に囚われたら其こそ御先真っ暗だぞ?確実に拷問行きだ。」
「そ、然うだけど、でももう一寸頑張って生きようぜ。ほら、俺が助けに行くからさ。」
俺が然う勢い込むと不思議と彼女はきょとんとした顔を浮かべた。
「ククッ、然うか。いや揶揄ってしまって済まないな、流石に冗談だ。生き汚いのが私なんだから自害なんてしないよ。」
「そ、そっか、なら良いけど。」
又死にたがり病でも発症したのかと。余り、驚かせないで欲しいな・・・。
「こんな事話していたら又丗闇に怒られてしまうな。如何だガルダ、若し良かったら私と次元に行ってくれるか?すっかり躯が鈍った気がしてな。」
「噫良いけど、流石に休んだ方が良いんじゃないか?疲れただろ。」
一日監禁されたのだから風呂と睡眠と食事が少なくとも必要だ。
「そんな事、神に成ってから余り必要性を感じないんだ。まぁ準備は少しするけれども、こんな事で集中力が切れたりはしないよ。」
其は前世での経験もあったりするのかな。
ま、無理して獣になった直後なんだし、そんな虚勢を張ったりはしないだろう。彼女を信じよう。
「分かった、じゃあ準備が出来たら呼んでくれよ。ドレミ達も行きたがってたからさ。」
「ドレミか、賑やかになりそうだな。じゃあ一寸待っててくれ、直ぐ済ますから。」
一応、丗闇の説教はもう吹っ切れたらしい。
其か、無理して笑ってくれているのかも知れないけれど、何の道彼女も此の説教部屋に長居はしたくないだろう。
ドレミに一言言って、時空の穴の準備でもしようかな。そろそろ整理しないと、何でも入るから忘れ勝ちなんだよな。
セレもやる気が出たのか慌ただしく準備し始めたので、そっと俺は彼女の部屋を後にするのだった。
・・・・・
「ん・・・久し振りに次元に来たって感じだ。」
伸びをしようとして直ぐ手を止める。
頭上では紅鏡が輝いている。気を付けないと。
「今のセレにとっては全部久し振りな感覚なのか?」
着いた次元は荒れ果てた曠野だった。
何らかの遺跡の様な物がちらほらと建っている。只何も可也崩れていて何だったのかは定かではない。
「何だか本当に長い夢を見ていた様だったからな・・・。起きていると言う感覚すら久し振りかもな。」
「其の表現初めて聞いたぞ・・・。」
まぁでもセレは謂わば魔力が戻る迄冬眠をしていた様な物だし、そんな感覚なのかも知れない。
「うん。ドレミも久し振りな気がするよ。ちゃんと戻れて本当良かったね。」
「噫、皆の御蔭だな。」
ドレミも自分の世話をしてくれたと聞いている。ローズをあんな立派なモフモフに育て上げた彼女だ。経験豊富だろう。
何処かで御礼をしないとな・・・考えて置かないと。
―うーん・・・何だろう此、気になる。―
談笑していた一同とは少し離れてローズは石柱の匂を頻りに嗅いでいた。
彼の御目に敵うのなら素敵な遺物の様だ。
「可也古い遺跡の様に見えるかな。」
曠野に散乱する石や岩。
黔っぽい其は表面が滑らかだったり削られていたりと人工的だ。
文字らしき物もあるが・・・もう此は判別出来ないな、相当古い物なのだろう。
・・・多分自分が滅ぼした文明、とかではないと思うけれど。
―次元に因ってもあるから一概には言えないだろうけれど、何か大きな争いがあった気がするんだ。崩れ過ぎていると言うか、風化って言うより荒々しい気がして。―
「うん、ドレミも然う思うな。其の柱も折れたって言うより斬られた感じだし、何か凄い大きな魔物と戦ってたのかも・・・。」
流石は元トレジャーハンターと言った所か。自分は何の情報も読み取れなかったのに、そんな風に汲み取れたのか。
其にしても魔物・・・魔物かぁ。如何しよう、益々自分説が出て来ているけれど。
・・・と、そんな事を思っていたら遠くから誰か来たな。
人、だ。きょろきょろし乍ら此方へ近付いている。敵意は無さそうだが。
そっとフードを目深に被る。警戒されちゃあ敵わないからな。
「誰か此方へ向かっているな。敵、ではなさそうだが、此の次元の者だろうな。」
「じゃ話聞いてみたいね。此の遺跡の事も分かるかもだし。」
「噫・・・奥には団体が居るみたいだな。何の集まりかは分からないが。」
二十人其処等、波紋を広げると見えて来た。
急に人集りが見えたので思わず身震いしてしまう。如何しても構えてしまうのだ。
只姿は常人の様だが服装だとかはばらばらだ。全員、向こうにも続いている遺跡群を見ている様だが一体・・・。
別に家とか、住んでいる跡は無いんだが、何をしに来ているのだろうか。
まぁ然う言う意味では自分達もばらばらな集まりなんだし、良い具合に混ざれそうではあるな。
「あ、もう御客さんこんな所迄来ていたんですか。」
倒れた柱の影から一人の青年が現れた。
金と黔のオッドアイで、短い金髪に細身と、何とも身軽そうな服装。
只、何て答えたら良いのだろう、向こうはまるで面識があるかの様な態度だが、当然そんな物はない。
別に不審がられている訳ではない様だが、話に乗ると向こうの集団に合流するのだろうか。
「滅多に来られない遺跡なので嬉しいのも分かりますけどね。でもツアー中は僕から離れないでください。此の遺跡は・・・色々と曰くがありますからね。」
何とも含みのある言い方だ。何処か意地悪く笑って青年は続けた。
・・・勝手に話してくれる分は助かる。今の内に状況を整理しようか。
「此処は昔、ある教団が神を降ろすのに使っていた儀式の間なんですよ。フフ、此、パンフレットにも載っていないレア情報です。」
「へぇ・・・何だか一寸恐い話だね。」
「おや、然うですか?非現実的でゾクゾクしませんか?本当に、そんな存在を呼べたかと思うと。」
「でも神様ってすっごく勁いでしょ?そんな存在を人間が呼んじゃったら・・・色々起こると言うか。」
言い淀むドレミの隣でローズが何度も頷く。
人前なので一応喋らない様にしているみたいだが、思う所はある様だ。
まぁ然うだな、そんなので自分が呼ばれたりしたら目も当てられない。
非現実を求める、か。如何にも平和に飽きてそうな奴の台詞だな。
「・・・確かに、色々起きるでしょうね。」
でも青年は気分を害する事も無く、手を合わせて薄く笑った。
此の青年、恐らくツアーのガイドの様な物なのだろう。
ツアーと言うと旅行か何かか・・・今迄縁が無かったがこんな形で参加する事になるとは。
只ガイドにしては此の青年・・・何か臭うぞ。
信用する可きじゃないと本能が告げている。まぁ元より人間なんか信用しないけれども。
晒越しとは言え、こんな睨んでいるのにカラカラ笑っている様な奴は危険だと相場が決まっているんだ。
「んー御客さん達矢っ張り面白いですねぇ、いやぁ普通の人とは違う様なオーラって言うんですかね?其を感じる気がしまして。」
青年は招く様に手を広げた。
「然うだ。折角ですし、ツアーのセットには入っていないのですが、御客さん丈特別に。」
然う言って青年は遺跡の一つへ近付いて行く。
無視する訳にも行かないだろう、どんなに怪しくったって。
だって・・・彼こそが次元の主導者なのだから。
警戒し乍ら付いて行くと可也入り込んだ所へと彼は誘う。
外からじゃあ分からないだろう。壁の隙間、瓦礫に半分沈んだ様な建物。
其の中の隠し扉の様な門を抜け、其の隅の一室へ。
まるで方向感覚を失いそうな不思議な造りだ。
自分は波紋があるから未だましだが、目視丈だとちゃんと帰り道が分からないかも知れない。
「おい、一体何処へ案内しようとしているんだ。」
「もう着きましたよ、ほら此処です。」
一寸凄んでみたんだが全く怯まなかった。
・・・此処迄来ると本当に人間なのか疑うレベルだな。其とも危機察知能力が著しく低いのか?
着いたのは石造りの小部屋だった。
天井が低く、ガルダは腰を一寸屈めないと入る事が出来ない。
窓も照明も無く薄暗い室内は何処か冷気を孕んでいる様だった。
「此の部屋が一体如何したんだ?」
「此処は、先言った教団が神を降ろすのに使っていた部屋なんですよ。いや正確には神を降ろした後、必要になったんですけどね。」
「先から思っていたんだが、神を降ろして、如何なったんだ?」
青年は黙って薄く笑っていた。
そしてそっと部屋の出口へ向かう。
「其は直接、神様に御訊ねするのが良いかと思いますよ。」
振り返った青年がそっと石壁を軽く二回ノックした。
其の瞬間、部屋の出口に黔の格子が生えて来たのだ。
まるで青年と自分達を隔てる様に。自分達を・・・逃がさない様に。
「っ⁉何するの!」
ドレミが慌てて格子を掴むがびくともしない。
爪で壊してやろうかと構えていると突然床が光り始めた。
其は規則的で円を描き、まるで魔法陣の様になって・・・。
「では、粗相が無い様に御願いしますね。」
其迄と変わらない笑顔で青年は然う告げた。
そして・・・自分達の視界は不思議な曦に包まれて行く。
・・・・・
「っ・・・何だ此処は、」
曦を嫌って目を閉じたが、一瞬で景色は様変わりしていた。
部屋は可也大きくなったが、格子は其の儘だった。
ただ・・・其の格子の向こうで巨大な化物が此方を見詰めていたのだ。
化物は見上げる程に大きく、ざわざわと蠢く無数の鱗と触手に覆われていた。
鱗は何らかの粘液を垂らしており、所々目が生えていて躯中無数の瞳があった。
其の何もが自分達を見ている。
逸らしてはいけないと許りにじっと。
化物は牙の生えた嘴に牛か鹿の様な曲がった角、無数の細長く関節が曖昧な手が生えていた。
此方を見て長い舌を舌舐りするかの様に揺らし、涎を垂らしている。
迚も・・・友好的な様子は見えない。其の姿は如何見ても他者を傷付ける物だ。
そして血走っている目は只獲物だと言っているのみ。
「・・・・・。」
動いたらやられる。
テレパシーを使わずとも一同の心は一つになっていた。
四柱一度に丸呑みに出来る程の巨大だ。緊張もする。
一応檻の御蔭で此方に来れなそうではあるが・・・。
「・・・えっと、今日は、」
「ギャウゥウ!ガガ、ギュオォオオォオォオオオ‼」
そっとセレが片手を挙げると化物は奇声を発して檻に体当たりを繰り出した。
「お、おいセレッ!」
「全員左の部屋に入れっ!」
波紋で部屋の様子は見えている。
一応左右共に通路があるが、右側のより、左の部屋の方が扉もあるので良いだろう。
慌てて一同は左の部屋へと向かう。
化物は逃がすまいと格子から爪を伸ばして来た。
「っぐぅ!」
何とか己の爪で応戦したが、向こうのが余りにも巨大なので受け切れない。
肩を少し裂かれたが、何とか其処で奴の手を振り切った。
「ギュオォオオォオォオオ‼ガガガガッ、ギュル、ガガガ‼」
化物の不満そうな声を背後に、一同は何とか部屋へと逃げ込めた。
部屋に入り、直ぐ扉を閉める。
一応扉は老朽化の為か少し隙間が空いているので、此処から化物の様子は見えるだろう。
「っきゃっ!」
短い悲鳴を上げてドレミが飛び付いて来た。
思わずつんのめったが何とか踏み止まる。
「っ・・噫彼か。」
早速合点が行く。
部屋には先客が居たのだ。先客と言っても椅子に座った儘机に突っ伏した、ミイラ化した死体だが。
すっかり乾き切っているな、何年も放置されていたのか。
逃げ込んだ部屋に死体があったらそりゃあ驚きもするだろう。
只、何で死んだのかは調べないとな。
部屋は自分のとどっこいな位シンプルな物だった。死体の座る机と椅子に、何やら本が多数仕舞われている本棚、奥にベッドが三つあり、角にはトイレも設けてあった。
独房の様とも言うが、此の中丈で生活が完結する様にはなってるな。
そしてもう一方の角には何故か一つ丈離れてベッドが置かれていた。
他は空なのに彼処丈妙な膨らみがあるが・・・。
「え、セ、セレちゃん?」
ベッドに近付くセレを心配そうにドレミが付いて来る。
しっかりと服を掴んでいるけれども・・・自分こそが一番恐ろしい存在だと言うのを彼女は忘れているのだろうか。
埃の積もった毛布に手を伸ばし、一気に捲った。
すると其処には又一体のミイラが寝かされていた。
皓衣を着ており、安らかに眠っている様で、両手を胸の前で組んでいる。
・・・何だか儀式めいているな。ベッドに不審な染みも無いし、外傷に因る死ではなさそうだが・・・。
「ま、又死体っ⁉な、何なの此処、ドレミ達、何処に来ちゃったんだろ・・・。」
「恐らく先の小部屋から此処迄テレポートでもしたんじゃないか?初めての体験だったけれども中々の技術だな。」
「良い体験・・・とは一寸言い難いけどさ。」
ガルダも気味悪そうに死体を見遣って少し唸った。
只文句を言っても仕方ないだろう、先の化物と一緒に居るよりましだ。
「少し、状況が分かる迄此処に居ざるを得ないだろうな。彼等には悪いが少し御邪魔しようか。」
―若しかして先の遺跡の地下、とかなのかな・・・。―
「ん、如何したローズ、何か見付けたのか?」
ローズは可也先の化物を警戒している様だった。
・・・今の所、大人しくしているな。思ったより頑丈な檻の様だ。
―うーん、見付けたって言うより、先の遺跡、矢鱈目のマークが描いてある気がしたんだよ。そしたら先の化物は異様に目が一杯あったし、関係あるのかなって。―
「成程な、彼処から飛ばされたんだし、なくはないだろうな。」
其にしても先の彼は何だったんだろう。
彼のテレポートは予期されていた物なのだろうか。まさか彼の次元の主導者、ガイドが罠に嵌めたとか・・・?
初対面の自分達を罠に嵌める理由は分からないがな。
・・・人間如きにしてやられたか。
苛立っても仕方ない、現状を改善させる事に尽力しよう。
「セレ、向こうの化物が如何してるかとかって分かるのか?」
「噫、大人しくしているな。檻を破る気は無さそうだ。」
只・・・うーん、言う可きかな。死体見た丈でドレミがこんな恐がっているし、今追い打ちを掛ける可きじゃないか。
奴が・・・檻の中にあった別の死体を貪り喰らっているから大人しくしているって。
「そっか。行き成り声掛けたから吃驚したけどな。」
「まぁ見た目で判断出来る立場じゃあないしと声を掛けたが、下手に刺激してしまったみたいだな。悪い事したな。」
「仕方ないんじゃないか?ってセレ肩怪我してんじゃんか!ほら此繃帯、せめて此しないと、」
慌ててガルダは時空の穴から繃帯を出して手渡した。
血もオーバーコートも黔いから気付かれないと思っていたのに。中々目聡い。
「噫有難う。大した事無いんだが、一応巻いて置こうか。」
「あ、じゃあドレミ服持ってるよ。」
そっとドレミにオーバーコートを渡して軽く巻いて置く。
肩口にしっかりと三本爪の跡が残ってしまっている。魔力の膜みたいな物で保護されているけれどもダメージはあるな。
「良しと、先ずは此の部屋を調べようか。何かヒントがあれば良いが。」
「セレ、因みに先の所、反対に進んだら出口か何かはあるのか?」
何とか冷静になろうとしているが、焦りが如何しても出てしまう。
少し逸る声を何とか抑えた。
「・・・多分無いな。反対側は何と言うか礼拝堂に繋がっているな。だから行き止まりだ。若しかしたら先転送されたみたいにテレポートでもあるかも知れないがな。」
「と、閉じ込められちゃったんだね・・・うん、分かったよ。ドレミも調べてみるね。」
「・・・私は向こうの死体も見て置くか。」
「セ、セレ一応気を付けろよ。何と言うか・・・俺達、可也不味い何かに巻き込まれた気がするし。」
「だな。だから今は一つでも情報が欲しいな。」
そっと机に伏せっている死体に近付くとガルダも付いて来た。
死体は何方も常人の様に見える。ミイラ化してしまっているので次元の主導者達と同じ人種かは断定出来ないが。
こんな姿にはなりたくないし、何があったのか一つでも情報が欲しいな。
此方の死体も皓衣を着ているが、彼等は研究者か何かだろうか。
一瞬脳裏にAの姿が過る・・・只でさえ医者に良い懐い出は無いのに。
そっと死体に触れて揺らすとポケットに妙な膨らみがあった。
調べてみると小さな水色の鍵の様だ。金属製だが何処のだろうか。
一応、持って置こうか。後は・・・机の引き出しか。
「セレ、良く触れるな・・・。」
「まぁ慣れているしな。一々驚いてもいられないだろう。此方は何だ?」
幸い引き出しは何もすんなり開く様だ。三つもあるし、上から見て置こうか。
「此は・・・名札、か?」
三つ程プラスチックの容器に入った様な名札が入っていた。
一つ手に取ってみたが、特に此と言った特徴は無いな。
・・・此処の死体二体の名前かも知れないがな。
「えっと・・・ソナート=シャロン、フレイリー=アロナ・・・フィート=アーナス・・・か?一応読めるな。」
「神の力は本当便利だな。初めて見る文字なのに。」
一応引き出しから出して机の上に並べる。さて次は・・・、
「おぉ、此は良い物が入っていたぞ。」
「い、いや全然嬉しくないぞ・・・。」
二段目の引き出しには一丁の拳銃が入っていた。
前世の御蔭で少し丈造詣がある。此は確かトップブレイク・リボルバー、中折れ式の物だ。
まぁ一般的な拳銃だな。仕組みも自分が知っているのと良く似ている・・・弾は一発丈か。
只指の問題で自分は上手に扱えない。丗曦みたいに特注で創れば良いだろうが、其処迄して欲しくないな。
「何か・・・セレが持つと様になるな。」
「然うか?でも残念乍ら私は銃が苦手でな。一応貰うが使わないだろうな。」
だってガルダを殺した武器だ。
こんな物、好きになる訳ないだろう。
一応時空の穴へ入れて置く。まぁ一見只の銃だったし、特別な弾にも見えなかった。
彼の化物を殺せる訳でも無いだろうし、要らないだろう。
残るは一番下か、さて何が入っている事やら。
「え、あ・・・其丈か?」
中には二つの小瓶が入っている丈だった。
濃い紫色の粉末が入っているが、中身は何だろうか。
瓶なんて物は密閉されているので少し丈開けてみないと波紋でも中身迄は分からない。
慎重に開けてはみたが、異臭もしない様だ。
「・・・流石に見た丈じゃあ何か分からないな。」
「毒・・・とかだったりして。」
「・・・・・。」
否定は出来ないな、安易に飲んだりする可きじゃあないだろうが。
「因みにガルダは毒が効くのか?人間が死ぬ様な毒を喰らうと如何なるんだ?」
「えーっと、昔フォードと其試したな・・・えっと、多分大丈夫、な筈だぜ。凄く苦しくなるけど直ぐ治るし、相当きついのでも大丈夫だけど。・・・何で今其を聞くんだセレ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
何だか信用の無い視線を感じたので小瓶丈そっと其の儘机に仕舞った。
「ドレミ、其方の様子は如何だ?何か見付かったか?」
ぱっと机から離れて彼女達の元へ向かう。
「あ、セレちゃん。うん、何とか読めそうなのが何冊かあったよ。如何かな?」
隣のローズが四冊の本を銜えて渡してくれた。
序でに耳の所に二枚紙も挟んである。
「後は難しいかも・・・何だか古いみたいで殆ど読めなくなっちゃってるみたい。」
「・・・確かに、可也劣化が激しいな。辛うじて後半の一部が読めると言った所か。」
四冊の本は其々蒼、絳、翠、紫色をしており、色が違う丈で似通った本だ。
本は手書きの様で表紙と後半の殆どは読めない。
「一寸回し乍ら読もうか。はいガルダ。」
「噫えっと・・・ん、何だ此の本、本って言うより・・・日記、みたいだな。」
「恐らくな。若しかしたら其処等の死体のかもな。」
早速セレは蒼の日記から読み始める事にした。
日記なら都合が良い。何が起きたか一番分かり易いからな。
・・・・・
1882.2.4
私が化物を召還しなければ皆を巻き込まなかったのに。
屹度此の研究を神が咎めたのです。私達は神に近付き過ぎた。
でないとこんな、災厄の様な悪魔が来ないでしょう。
如何か神よ、私の命を捧げるので皆の魂を救って下さい。
・・・・・
読めたのは其のたった数行丈だった。
現在の日付等が分からないので此が一体何位前の事なのかは分からないが、此の文体・・・。
最後の書き方からして自殺を選んで然うだ。日記と言うより、此は遺書の気もして来た。
此を書いた本人が化物を召還したと・・・化物と言うと矢張り隣の部屋に居る奴だろうか。
化物と言ったり神と言ったり悪魔と言ったりと、何が何を指すのかは正直分からない。
一応彼のガイドも神を降ろすだの言っていたな・・・関係はありそうだ。
只、若しも此等の呼び名が全て同一の存在を指すのなら・・・。
己の都合に因って勝手に呼び名を変える人間は矢っ張り人間なんだなって思う許りだ。
さてと、次は絳の本を読むか、先のより情報があれば良いが。
・・・・・
1882.2.4
本当に彼奴等、俺を閉じ込めやがった。最悪だ。本当に最悪な気分。俺は只の研究員だってのに何で此奴等と一緒に死ななきゃいけないんだ。
此は絶対口封じだ。召還する所に立ち会ったからだ。でなければこんな役に立たない術しか作れない宗教なんて滅んじまえ。
シャロンが誘わなければ今頃、くそ。
でも俺は絶対死なない。こんな所で死んで堪るか。俺は他の奴みたく受け入れたりなんてしない。其の為にずっと準備していたんだ。生き残るのは俺だ。此処を出たら彼のカルト宗教と縁を切ってやる。
1882.2.5
・・・フレイリーが死んだ。彼奴も俺と同じ研究員だっただろ?何で自殺なんかしたんだ。俺達は死ななきゃいけないのか?いや、こんな事ある筈はない。俺は只、新種の生物の研究が出来るって言われたから来たのに。悪い事なんか一つもしてねぇ、カルト教の為に死ぬとかマジありえない。
もう明日にでも此処を出るんだ。彼奴等が死のうと関係ない。此処で彼奴を召還した時に立ち合った知識が役に立つなんて。其の所為でこんな所にいる訳だけど。俺の瞬間記憶が無事働いて本当良かった。
彼処は彼の狂信者の御祈りだとかが聞こえてげんなりするのが玉に瑕だけど、俺を救ってくれる唯一の場所だ。俺の聖地なんだ。幾ら此処が迚も頑丈な作りの部屋だって言っても彼の悪魔の隣に居るなんて御免だ。彼の部屋を出た時何時も彼の鹿みたいな神か何かが指差して嗤っているみたいでムカツクが、彼奴を見るのも明日で最後だ。
然う言えば彼の狂信者の呼び出し、食らってるんだっけ。何で彼奴に命令されなきゃいけねぇんだ。でも無視したら又ヒステリック起こしそうで面倒だし、さっさと終わらせよう。
・・・・・
「ほう、此方の方が読み物としては面白いな。」
「セレ、読んどいて彼だけど、人の日記を面白いと評価するのは如何かと思うぞ。」
「いやぁ人間臭くて恨みや憎しみの籠った日記だったからな。続きが気になる所だったのに。」
こんな中途半端にパタッと止まっているだなんて。一体何があったのだろうか。
でも文中にあったシャロンとフレイリーと言う名は聞き覚えがある。先机の引き出しにあった名札だ。
となると、日記が名札の持ち主と一致するのは間違いなさそうだ。・・・そして恐らく其処等の死体も。
自殺、とあったが何方かがフレイリーなのだろうか。
粗暴な様子の良く出た日記だったのではっきり名詞で書かれていないのが弱いな。状況証拠でしか探れない様だ。
カルト教と言うのは矢張り先ガイドして貰った遺跡の宗教と同じなのだろうか。
後半は書いている内容が今一読み取れなかった。若しかしたら檻の向こう側の部屋の事を指しているのかもな。
後で何とか行ってみないと、何か引っ掛かると言うか・・・気になる。
後二冊か。翠のを手に取ってみたが、可也書き込まれているらしく、頁の殆どが文字で埋め尽くされている。
其でも読めるのは後ろの数頁丈だ。
本を傷付けない様そっとセレは広げて見遣るのだった。
・・・・・
1882.2.4
遂に裁きが実行された。彼の我等が呼びだした悪魔様と此処に眠らないといけない。でも何も四人も残らなくても良かったのではないか。ジョーダンは迚も不服だったし、皆少なからず罪の意識やら理不尽さを抱えている。此処に居る時点で言える事ではないが。迚も安らかな最期は望めそうもない。責任を取って私一人が残っても良かった筈だ。少なくとも私は後悔していない。彼の悪魔様を制御出来なかったのも、彼を封じる魔法陣が内側からでないと完成させられない欠陥を持っている事も、私達の祈りが足りない所為なのだから。でもジョーダンやアロナは只の研究員だ。教えを乞うている訳でもない。若しも何かが起きた時用で観察者として二人も置くのは幾ら教祖様の判断だとしても余ではないだろうか。
本当なら封印が無事出来次第全員此の毒で自害す可きだけれども、皆に毒を渡す勇気が如何しても持てない・・・。無駄だとしてももう少し丈生きては駄目だろうか。然うすれば若しかしたら悪魔様が赦してくれるかも知れない。自ら帰ってくれるかも知れないんだ。帰った所で私達にはもう地上へ帰る術はないが、でも赦される丈マシだろう。
ジョーダンが何か企んでいるとアーナスから報告を受けた。今更何が出来るのか分からないが、出来ればもう少し、穏やかに過ごせない物だろうか。此処は静かで良いが、礼拝堂が時折悪魔様の起こす地響きで嫌な音を立てる事がある。崩れ出しそうで少し心配だ。何となく音が反響する気がするが疲れているのだろうか。廊下への扉は完全な防音の筈なのに。
1882.2.5
アロナが自殺した。霄の内に毒を飲んでいたらしい。確かに彼女は自分が彼の悪魔様の召還式を作った事を迚も悔いていたが、まさか其処迄思い詰めていたなんて。見抜けなかったのが悔やまれる。管理長失格だ。ずっと苦しかったのだろう。一研究員であった彼女は本当に真面目で、誠実で。彼女が全責任を自ら負う必要はなかったのに。
せめてもの償いとして、彼女のベットを整えて、場所を変えた。如何か我等が悪魔様が此の哀れな女性の魂を温めて下さる様に。
今日は本当に疲れた。直ぐに寝て、明日又考えよう。
1882.2.6
何て事だ。まさかあんな悲劇が起きてしまうなんて。昨日アロナの事があって反省した許りなのに。
まさかジョーダンが殺されてしまうなんて。もっと彼と話し合う可きだった。二人限にしてはいけなかったのだ。
アーナスは本当に信心深い子だ。悪魔様の為なら、裏切り者に制裁を加える等、訳なかったのだ。確かにジョーダンの行為は赦されざる物だった。彼は如何にかして処分しなければいけない物だが、正直死人に鞭打つ様な真似はしたくない。彼は其の死で十分に罪は償われた。悪魔様も見てくれている筈だ。少なくとも此処から解放された彼の躯を動かすなんて事はしたくない。其にもう彼の部屋を見る必要もないだろう。脱走しようだなんて私達は少なくとも思っていないのだから。何方かと言うとジョーダンのしようとした事は脱出と言うよりは破滅だろう。転送魔術なんてそんな都合の良い物、出来ていないのだから。屹度此の数日の悪夢は私が生きたいと思ってしまったからだろう。其の罰なんだ。悪魔様は見ていたのだ、私達を。だったらもう生きている意味なんて無い。
・・・・・
今回のは比較的読み易かったな。
と言うより可也補完されたと言うか、非常に分かり易かった。
成程な。此で何となく此の日記の主達の関係が分かった気がする。彼等に何が起こったのかも順を追う事が出来るだろう。
悪魔様の召還式・・・か。あんなのを呼んで一体何をするつもりだったのだろうか。
人間の考える事は分からないな。こんな狂暴なら不利益しか生まない気がするが。
でも毒・・・か、恐らく引き出しにあった小瓶が然うだったんじゃないだろうか。
飲ませなくて良かった、自決用だったのか。
今回得られた情報が多いな。
書き振りからしても此の中で纏め役の地位に居たのかも知れない。
さぁ最後は紫の本か。一番読み応えはあり然うだが此は・・・、
少し、危ない臭がするな。
肩の傷が疼く中、そっと自分は頁を捲ってみた。
・・・・・
1882.2.4
あぁ、遂に此の時が来た。何て名誉な事だろう。悪魔様の御許で死ねるなんて。只一つ気に食わないのは何で彼奴も一緒かって事。信仰心の欠片も無いし、挙句凄く嫌そうな顔して。何より怪しいわ。彼奴は良く礼拝堂へ行くけれど、彼奴が祈ってる所なんて見た事ないもの。何か良からぬ事をしようとしてるんじゃないかしら。絶対そんな事、させないわ。悪魔様の代わりに私が裁く。
1882.2.5
矢っ張りだったわ!彼奴は裏切り者だった。まさかあんな所に隠れて、此は重大な背信行為よ。だから私はやってやったわ。もう礼拝堂には行けなくなってしまったけれども抑此処には悪魔様が御座している!彼に直接祈らないと。裏切り者も殺した事、報告しないと。
此処に戻る際、悪魔様は冷気を吐いて私の火照りを冷ましてくれたわ。挨拶も忘れてしまった、礼を欠いた私に対して何て慈悲深い方なの。
悪魔様は私と眠るの。自由にするには未だ未だ生贄が必要だから。
悪魔様は私達人間を愛してくれている。だから例え腐ってしまっていても食べてくれるし、私達が生贄にならなくても、資料室にいるのを分かっていても怒ったりはしないわ。他の生贄を差し出せば彼は大人しくしてくれるの。目の前に一人でも居れば其の生贄の事丈を見てくれるの。一人なんかじゃあ全然物足りないのに何て御優しい方なの。
だから若し生贄が居なければ彼はこんな地下室、直ぐ壊せる丈の力がある。彼の裏切り者を野放しにしていれば生贄にされていたのは私達だったわ。彼は目に入った者を逃しはしないから。
あぁ悪魔様は耳も鼻も失った代りにあんな素晴しい目を御持ちになったのね。何時迄も見ていたいわ。
1882.2.6
私は罪を犯した。私は罪を犯した。私は罪を犯した。
如何して?こんなにも悪魔様を想っていたのに最後の最後で其の期待に応えられなかった。昨日の霄、管理長に一緒に死のうと言われた。薬も渡されたのに。私は何故だか飲めなかった。
死ぬのが恐くなった訳ではないけれど、でも私が居なくなってしまえば悪魔様は一柱限になってしまうわ。此方が呼んで置いてこんな所に閉じ込めるなんて。ならいっその事、私が解放してあげれば・・・管理長は昨日の儘、机に伏せっているし、鍵なんて直ぐに・・・。あぁ悪魔様も言っている、地上に行きたいと、解放すれば導いてあげるって。
・・・いや、然うすれば皆の死が無駄になる。私も死なないと。
あぁ悪魔様が呼んでいる。如何して?此の施設は全ての部屋が完全な防音扉の筈。いや、悪魔様が私の心に語り掛けているんだ。私の事、ずっと見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた見ていた
あぁ然う言う事、私必要とされていたのね。あぁ何て喜ばしい事。直ぐ、直ぐ行きますから。
・・・・・
「・・・・・。」
此は不味い。此は読んじゃあ駄目な奴だ。
読む前から多少覚悟はしていたけれども然うか、此は狂人の日記だったのか。
然も団体行動中に混ざっていたなんて、悪い予感しかしない。
・・・正直、斯う言った狂信者の類は苦手だ。御し難くてトラブルしか起こさない。
思考も読めないし、相手には極力したくないな。
前世で、然う言った奴とは何度か接触しているが、碌な事にならなかった。人間が恐ろしいと思う様になった要因の一つだな。
只悪魔様・・・と言うのが屹度例の化物なのだろうが、良く見てくれている御蔭か特徴が多く書かれているな。
此は役に立つだろう、情報は特に大切だ。
其でも最後の日は・・・可也精神がやられてしまっている。下手に深追いすると発狂しそうだ。
続きが無いとなると・・・此を書いた当人は化物の元へ向かったのだろうか。
そして我が身を捧げた・・・そんな終わりが想像出来る。
別に奴から声なんてしなかったがな。テレパシーでも使えるのだろうか。
でも今の所、悪い方向でしか予感が当たってないな。
波紋で見る限り、化物は大人しい。
只其はじっとしてると言う訳ではなく、ある事に熱中しているからだ。
・・・ドレミ達に言う可きか未だ悩んでいる。奴は、人を喰らって暇を持て余しているのだ。
奴の檻には何人かの死体があったのだ。其を骨毎バリバリと、喰らい尽くしている。
気持の良い食べっ振りだ。人間が好物なのだろう。
先の日記に照らし合わせるなら・・・彼の死体全て平らげたら奴は暴れるんじゃないだろうか。
彼の死体は日記の主では無いだろう、其にしては死体は未だ新しい方だった。
じゃあ其の死体は何処から来たんだと言われたら・・・考えたくないな。
奴の情報は少しずつ掴んだが、肝心の対処法が分からないな。もう少しヒントが欲しい。
ローズの耳元に乗せていた紙切れを拾う。日記とは別で何かの資料の様だが、
・・・・・
彼の悪魔は際限なく生贄を求める
何人喰らおうが人を見付ければ直ぐに追い掛けて来る
視界と言っても凡そ300度位は見えている様だが其処に人さえいれば其が例え死体であっても強い興味を持ち、貪り食らう
又常に空腹なのか生贄が無い時は此方の動向をしっかりと憶えており、探し出して喰らう事もある
結局彼の悪魔を誘導するにしても何にしても生贄が必要と言う事だ
でないと自らが生贄になる
・・・・・
うーん、絶望丈が膨らむな。
知能も高いのか彼の化物。其でも意思の疎通が取れないのは痛いな・・・。
野蛮、と言う可きか、狂信者の日記の優しさは当てにならないしな。
外に出たら沢山人間食べられるよ、と持ち掛けた所で自分達が喰われ、脱出して次元の主導者も喰われるのが落ちか。
じゃあ此処で如何にかしないとな。余り化物だからって理由でやりたくはないのだが、話し合えないのなら仕方がない。
後、残る紙切れは一枚丈だが、
・・・・・
封魔陣について
召還した対象者を封じるには古の陣が必要になる。其は古より封魔陣と呼ばれていたが、此の陣には大きな欠陥があり、対象者を封じ込めるには術者も其の陣の中に居なければならない。陣は飽く迄も対象者と術者がある一定範囲外へ出るのを防ぐ物である。陣の中に対象者を閉じ込め、対象者と術者の間に境界を作る事で御互いの干渉を防ぐ。
だが年月と共に其の境界は曖昧になり易く、又陣を解くのも容易な為、注意が必要。陣を解くには陣の要を封じ込めた玻璃板を割る事で可能。
しかし此処で更に一つ問題があり、若し同じ印を真似た玻璃板が作られると、其方を割っても陣が解かれてしまう。其の為術者は陣を見られないよう玻璃板を箱等に入れ、見えない様にする必要がある。
・・・・・
「ほぅ・・・。」
中々興味深い内容だ。
純粋に魔術関係なら興味がある。
此の次元独特の術式なのだろうか。でも此は・・・。
屹度此の術は今も働いているのだろう。恐らく彼の化物が檻から出られないのは此の御蔭な気がする。
でも其なら・・・今の自分達の状況、不味くないか?
日記から漂って来た絶望感、中に入った者は出られないと言う封印魔術。
まさか此の部屋は・・・化物を閉じ込める為の犠牲の部屋なんじゃあ・・・。
・・・余り一柱で考えるのは良くないな。皆と此の辺りは相談しようか。
其に此処に居た彼等は化物相手に諦めていたけれども、負かす事は出来るんじゃないだろうか。
どうせ檻から出られないのなら外から零星を投げ入れれば良いじゃないか。
戦わなくても良いのなら勿論其の方が良いし、未だ手はあるだろう。
「うーん、ねぇセレちゃん。此ってつまり、ドレミ達って結構不味い状態って事・・・なんだよね?」
努めて冷静になろうとはしてくれているが、不安は隠せないな。
「だろうな。私達は恐らく此の陣の中に閉じ込められている。出るには化物も一緒に出ないとな。」
「先のガイドに嵌められたと思う可きなのかな。」
「次元の主導者にこんな事される謂れはない筈なんだがな。其か黔日夢の次元の仕返しかな。」
目的が分からない以上自分達は脱出して奴に真意を聞く丈だ。
―一応、日記をちゃんと見て、何が起きたか考える必要があるんじゃないかな。思わぬヒントがあるかもよ。―
「然うだな、先ずは・・・、」
そっと机に伏せっている死体を見遣る。
「恐らく、彼奴が此処のリーダーだったシャロンだな。紫の日記にあんな最期が書いてあるし、毒に因る自殺だろう。翠の日記の持ち主だと思うが。」
一度、ノートを床に並べてみる。
名札も一緒に、今一気に情報が集まったんだ。此処で整理しないと。
「・・・だな、多分初め此処に四人居て・・・で、立て続けに事件が起きたみたいだし。」
―彼の化物について知る為にももう少し見ないとね。―
「うーん・・・推理は得意じゃないけど、如何かな・・・?」
「推理と言う程でもないだろう、御丁寧に日記を付けていたんだ。日付順にしたら誰のか直ぐ分かるだろう。」
「先ずは純粋に並べてみようぜ。其の後おかしいと思ったら又考えたら良いんだし。」
飽く迄も化物の動向に気を付けつつ、一同は又日記を捲るのだった。
・・・・・
「良し・・・と、多分此であってるよな?時系列もあってるし。」
蒼の日記にはフレイリー=アロナ、翠の日記にはソナート=シャロン、紫の日記にはフィート=アーナスの名札を置いて。
此で、少しは分かり易くなったかな?
「噫、日記の内容も違和感がないと思う。変な細工をしていなければだが。」
―絳の本はジョーダンさん?のかな。名札は無いけど、如何したんだろうね?―
「噫其は・・・、」
言い掛けて少し悩む。
然うだった、見えているのは自分丈なんだ。だったら別の所から攻めた方が良い。
「恐らく、其奴の名札は向こうの部屋にあるな。だが先ずは情報を整理しよう。只でさえ向こうに行くのは少し危険だ。此処の用事を終わらせてからの方が良い。」
「あ、そっか。セレちゃん見えてるんだね。じゃあ四人の事だけど・・・。」
―多分、此処は例の教団のアジトか何かだよね?で、化物を呼んじゃったから封印したんだ。―
「制御出来なかったとあったしな。だから此の魔法陣を使った。」
残った資料も一緒に床に置かれている。
此の辺りの情報は翠の日記に細かく書かれていたから分かり易かったな。
「でも此は中に入った奴も閉じ込めちまうんだよな。残酷な術だけど、其で此の四人が選ばれたと。」
ちらと丈ガルダはベッドを見遣って直ぐ伏せた。
だからこんな質素な部屋なんだ。どうせ長く生きられないのだから。
「恐らく四人も教団の者だな。狂信者や研究者達、と言った所か。・・・っ、」
「如何したセレ、何か見えたか?」
少し先から彼女の動向が不安だ。
何が変、と言われても答えられないけれど・・・何かそわそわしている?
「・・・いや、何か先から熱くないか?オーバーコートを脱ごうか悩んでな。」
「え?いや寧ろ少し寒い位だけど・・・セレが暑がるのって何か珍しいな。」
大体彼女は寒がりだ。どんなに温かくなっても毛布とかに包まりたがるのに。
―じゃあ僕の背中に置いとく?他は埃積もっちゃってるし。―
「噫大丈夫だ有難う、時空の穴に入れて置こう。」
言うや否やセレはオーバーコートをさっさと時空の穴に入れてしまった。
セレが上着を脱ぐなんて本当珍しい。
何と言うか・・・その、普段着だけれども何時もより露出度が高いので近付き難く感じてしまう・・・。
「さてと・・・後は時系列か。先ずは一日で終わってしまっている蒼の日記、アロナだな。」
―屹度此の人が彼の化物を呼んじゃったんだね。そして・・・例の毒で自殺しちゃたんだ。―
「噫、だからベッドも離されていたんだな。死体と寝るのは嫌だろうし。」
「でも問題は次の日だよ。何だろう・・・多分此のジョーダンさんが何かしちゃったんだよね?」
ジョーダンは絳の日記・・・只、少々読み解き難い所があるな。
「然うだな。日記丈だと分かり難いが、恐らく此奴がしようとした事は・・・、」
―脱出・・・なのかな?―
「俺も然う思うぜ。逃げたがってたし、只何をしていたか今一此丈じゃ分からないけどさ。」
「其を探る事が私達の目標にはなりそうだな。だが其の甲斐空しく此奴はアーナスに殺されてしまったがな。」
アーナスの日記は分かり難いが、シャロンの日記と照らし合わせる事で意味が読めて来る。
只、狂信者の日記だと言う事を念頭に置かないと足を掬われそうだ。
「其の次の日に管理長だったシャロンが毒に因る自殺・・・と。書き振りからして本来は此の死に方だったんだな。」
「うん・・・何て言うか恐い教団だね。仲間を犠牲にして化物を呼んで。結局閉じ込めちゃうだなんて・・・。」
「若しかしたら遺跡があんな壊れていたのも奴の仕業かもな。・・・自分の神殿を壊しちゃう神様ってのも変だけどもさ。」
「然うか、同じ神なら矢っ張り話したりは出来ないのか?先は失敗したけれども彼は真の姿な丈かも知れないし。」
出来れば偏見は無くしたい物だ。私と彼奴の違いなんて、檻の中か外かと言う事位だろう。
同じ神なら・・・まぁ自分は無理でもドレミとかなら話位は出来るかも知れない。
・・・餌と話すのは、別におかしい事じゃあない筈だ。
「いや、其は止めた方が良いと思うぜ。神って言っても多分此の次元での神っぽいし、神が皆良い奴って訳でもないだろ?何より此の日記の主だって・・・。」
そっとガルダは紫の日記に視線を落とした。
然うだ、彼の狂信者は如何なった?
彼の書き方だと・・・最期化物の所へ行って、恐らくは・・・。
「確かに然うだな。こんな怪文章を残しているんだ。近付かないのが一番か。」
―然う言えば其の日記にも何だか出られるって書いてあったよね?別の脱出法だったりしないのかな?―
そっとローズが鼻先で紫の日記を突いた。
「確かに死体から鍵は頂戴したが・・・恐らく外への扉用、とかではないぞ。」
先シャロンのポケットに入っていた小さな水色の鍵だ。
見た所、引き出し等を開けるのに使う気がするが・・・。
「其に抑そんな扉が無さそうだし・・・又転移魔法陣が必要だったりするかもな。」
「そっか、セレちゃん見えてるんだよね?良かったら部屋の外の事、教えてくれるかな?」
「噫、大体はもう把握しているからイメージを送るぞ。」
全員にイメージを送るのは少し久し振りだな。
紙もペンも要らない分、便利な能力だ。
―・・・良し、先ずは先の廊下の事だが、実は途中に小部屋があった様だ。廊下に出っ張りが付いた丈みたいな簡素な物だから扉も無くて奴に丸見えだがな・・・。―
頭の中に地図を描く。
今自分達の居る部屋に、長い廊下、化物の居る檻、其の途中の小さな空間。
此の何もない空間に、ピックアップして行く。
―彼処には机しかなかったな。でも机の上に小さな箱が一つある様だ。鍵みたいな物が付いているから若しかしたら先の鍵で開けられるかもな。―
「何が入っているか迄は分かるかな、セレちゃん。」
―・・・残念乍ら密閉されていると中迄は分からないな。只箱の上に何か書いてあるな。“絶対に触れない事、傷付けない事、又何かあれば管理長に直ちに報告する事”だ然うだ。―
―・・・其、多分絶対開けたら駄目な奴だよね。―
まぁ然うだろうな。紫の日記からして化物を開放し兼ねない。今は触れない方が良いだろう。
―後は、先の廊下の反対側だな。其処には一つ丈部屋があったが、扉が無いな。―
「パッと見、何の部屋か分かるかセレ。」
―然うだな・・・教会、否礼拝堂と言う可きか。椅子が並んでいて、奥の壁に不気味な絵があるな。―
「うぅ、然う言えば先礼拝堂って言ってたよね。例の教団のって事・・・何だよね。」
―歴史的価値はあるだろうから気になるけどね。―
話している間にイメージの地図に書き足して行く。
「礼拝堂だったらそんな物か。もう何も無いのか?」
―いや、何と言うかだな・・・死体がある。余り良い状態とは言えないな。見に行くのは良いが、多少覚悟は要ると思うぞ。―
「日記の一人だろうな・・・まぁ調べない訳にも行かないし、一寸行ってみるか。」
「然うだな。又彼奴の前を通らないといけないし、ドレミ達は此処に残ってくれ。」
何とかイメージを結び終えた。此で皆も部屋のイメージが出来た事だろう。
「え?い、行くよ。皆で行かないと。其方の方が危ないよ。」
「でも別に向こうに出口は無いぞ?調べる丈になるが。」
―絵も見たいし、大丈夫だよ。―
「セレちゃんだって怪我してるんだから無理は駄目だよ。ね?」
「其を言われると痛いな・・・分かった。其なら皆で行こうか。」
「一応途中の小部屋も序でに見とくか?目視なら分かる事もあるかも知れないし。」
「情報は多い方が良いだろうな。私も奴と話してみたいし、行ってみようか。」
「ま、未だ其諦めてなかったんだねセレちゃん。うん、気を付けてね。」
「護光。」
短くガルダが唱えると、見えない魔力の膜に覆われて行く感覚が走った。
「加護って言う程勁くは無いけど、一応な。」
「良し、じゃあ開けたら走るぞ。準備は良いな?」
一同が頷くのを待って、扉を一気に開け放った。
「ッギャォオォオォオオォオオオ‼ガガガガガッガゥアァア!」
途端化物の無数の目が一気に自分達へ注がれた。
怯んでしまう前に足を動かす。
「此処だな、皆入ってくれ。」
廊下の途中の小部屋へと誘導する。
化物は手を出さず、何度か吼え猛っていた。
「あ・・・こんな所があったんだな。」
「しっかり中迄入れば奴の手も届かない筈だ。皆先に中へ入ってくれ。」
「お、おいセレ、殿位俺がするぜ。」
「もう一寸彼奴を調べて置きたいんだ。やらせてくれないか。」
一歩セレが前へ出たので渋々ガルダは下がった。
化物も吼えている丈みたいだし、手を出さないなら・・・まぁ良いだろうか。
「あ、セレちゃんの言っていた箱って此の事かな、鍵が掛かっているみたいだね。」
小部屋には一つの机と其の上に置かれた箱しかなかった。
只、箱は半透明なので中身が見えている。何やら玻璃板が入っている様だ。
「何だろうな此、魔法陣か?」
―何の術か迄は分からない?―
「うーん、見た丈じゃあ厳しいな・・・。」
「如何だ?一体何が入っているんだ?」
「そっか、セレの波紋じゃあ見えないな、此。何か魔法陣が描かれている玻璃板みたいだな。直ぐ壊れそうな位脆そうだぞ。只余透けてないから何の模様が書いてあるかははっきり見えないけどさ。」
「鍵なら私が持っているかも知れないが、開けない方が良いかもな、其。」
化物から目を逸らさずに。
見ていないと・・・いや、目が離せない?・・・そんな事はない筈だ。
「ヴゥ゛・・・ガガガガッ、ギュゥオオオォオオ!」
「う・・・何だか寒くないかな此処、手が震えそう。」
―IF=13I―
見兼ねてローズは灯の鎧を纏うとドレミの足に擦り寄った。
「奴が冷気でも吐いているのかもな・・・セレは大丈夫か?オーバーコート取った方が、」
「いや、不思議とそんな寒さは感じないな・・・魔力の所為か?」
所か先より熱く感じてしまう・・・流石にもう一枚脱ぐのは躊躇するが。
「何の道急いだ方が良いな。でも矢っ張此は開けられないな。上に開けるなってあるし。」
「若しかしたら此、先紙にあった魔封陣?だっけ、其かも知れないもんね。」
―其だったら壊した瞬間化物が出て来ちゃって大変だね。暴れられたら崩れそうだし、生き埋めにはなりたくないな。―
「噫じゃあ一旦放置だな、早く奥に行こうぜ。」
そっとガルダは箱から離れたが、入口をセレに塞がれた儘だった。
向こうが襲って来なかったのは良かったけれど・・・何だろう此の違和感。
「お、おいセレ、此方は終わったから出来れば出たいけれど、其処退いてくれないか?」
「・・・・・。」
声を掛けたけれども無反応。じっと化物を観察している様だ。
そんな見ていたい様な姿じゃない、悍しいし、さっさと此処を離れたいのに。
「セレ、向こうからでも奴は見えるし、先に動いた方が、」
言うや否や力が抜けた様にセレの膝が折れた。
ペタンと座り込んでじっと化物を見ている。人形の様だ、明らかに此はおかしい。
「え、セレちゃん如何したの?」
「セレ、おい聞こえるかっ!」
化物の目が細められた気がし、檻の隙間から招く様に手を差し出して来た。
此奴、まさかセレをっ、
慌ててセレの肩を両手で叩いた。
セレの背が大きく跳ねて視線が絡まる。
「え・・・あ、ガ、ガルダ?」
「セレ、立って!此の儘じゃ危ないっ、」
ローズが牽制で焔を吐くと、少し丈化物をは手を引っ込めた。
捕まる訳には行かない、早く逃げないと。
「ガルダ、その、足がっ・・・う、動かなくて、」
見るとセレの足は震えていた。
じゃあ背負ってでも行くかっ、然うガルダが思考を巡らせていた時だった。
「よっと、」
突然彼女は何でも無いかの様に立ち上がった。
そして面倒そうに目元の晒を外して行く。
其の目は黔でも銀でもなく・・・絳だった。
「ま、まさか御前、アティ、」
「逃げるんでしょ、良いから良いからっ!」
彼女はガルダの手を掴むと廊下を走り抜けた。
「え、ちょっ一寸待ってよー!」
後からドレミとローズも付いて来る。
何とか化物の爪から逃れて一同は廊下の奥、礼拝堂へと転がり込んだ。
「ギュォオォオオオォオ‼ガガガガッガァア、ギャォオオォオオオ‼」
其迄以上に化物の声が大きく、地が震える程轟いた。
怒っている・・・俺達を捕まえ損なったから。
「フー危なかったね。」
ぱっと手を放し、くるりと彼女は一回転をした。
何度見ても・・・其の瞳は絳い。六つの目全てが絳くなっている。
彼女に掴まれた事で手が傷だらけになっちゃったけれども、瞬く間に治って行く。
セレに手を繋がれたのかと一瞬ドキッとしたが、奴なら、話は別だ。
「御前、アティスレイだよな。」
「うんそだよー。」
何ともあっけからんと彼女は答えた。
途端慌てた様にドレミがガルダの背に隠れた。ローズも唸り声を出している。
「そ、其って前セレちゃんに酷い事した奴でしょ!何でこんなっ、も、もう酷い事させないんだからっ!」
「ありゃ、すっかり嫌われてるねぇ。」
セレと同じ姿、同じ声なのに。こんなにも印象は変わる物なのか。
ドレミがこんな警戒している理由も分かるけど、俺は前、此奴がセレを助けてくれた事を知っている。
そして、此奴の特異性も。
確かに、別神だ。
前会った時はこんなじゃなかった。
記憶は蓄積されるらしいけれども、如何なんだろう。
「アティスレイ、今回は何の用で出て来たんだ?」
あっさりセレが乗っ取られているのも気になるけれども、こんな所で出て来た真意が分からない。
「んーいや私暴れるのとか好きじゃないし、さっさと自害して消えちゃおっかなーって思ってたんだけどさ。」
日常会話の延長の様に恐ろしい事をあっさりと言う彼女だった。
信じられないと許りにドレミ達が目を見開く。
「何だか此の子が大変な事になってるなーって思ってさ。あんな化物に大切な此の子、喰わせる訳には行かないしさ。だから一寸手助けした丈だよー。」
「そっか・・・セレ動けなくなってたもんな・・・。」
何故かは分からないけれど、アティスレイが出てくれた御蔭で何とか彼処から動けたのか。
いや、アティスレイがセレに何かした線は否めないけど。彼女が化物相手に怯むとも思えないし・・・。
「そんなの、直ぐには信じられないよ。前あんなに暴れたのに。」
ちらっとアティスレイはドレミを見遣ったが、其の目に嘲りや敵意は不思議と感じられなかった。
「あぁ・・・彼の時の御嬢さんか。んー・・・彼女はもうとち狂って死んじゃったしな。然うだなー私なんかじゃ代わりになれないだろうけれども御免ね。恐がらせちゃって。私達って此の子の事になると見境無くなっちゃう事があって、巻き込んじゃったんだねー。」
「え、う・・・うー・・・。」
謝られるとは全く思っていなかったのだろう、返答に困ってしまったドレミは小さく唸っていた。
ローズも首を傾げてじっとしている。
「若し私が死ねば少しでも気が晴れるって言うなら然うするよー。此処で動けなくなっちゃっても未だ安全だろうし、如何する?」
「ど、如何するってそ、そんな事決められないって。其よりセレに何があったか教えてくれよ。」
彼女と言えども死ねば終わりだ。別神格に生まれ変わってしまう。
其なのにこんなあっさりと、不安定で・・・死にたがりとも取れる性格も存在するんだな。
「然う、然うだねー多分此の子が今掛かってるのは呪いだねー。ざっくり肩やれられちゃったでしょ?」
肩口を彼女は指差したが、其処にはしっかりと彼の化物に付けられた爪跡が残っている。
跡にならなきゃ良いけれど・・・心配だ。晒だから傷の確認は出来ないけど、大丈夫かな・・・。
「呪いってどんなのなんだ?」
「んー詳しくは分からないけどさ。彼の化物を信じちゃうと言うか、受け入れたり、好意を寄せちゃうみたいだねぇ。信仰って言うのかな?嫌な呪いだね。此の子の視線を独り占めするなんてさぁ。」
「其で魅入られちゃって動けなくなったって事か・・・?」
確かに其はあり得る。
妙にセレは化物に会いたがっている様に見えた。怪我を負わせて来た相手なのに、何とか話し合おうとしていた。
化物と決め付けたくない思いもあったんだろうけど、其以上に。
其はまるで・・・日記の狂信者とも近しい物があった。
「・・・確かに、然うかもな。」
「うん、セレちゃん一寸彼の化物の事、気にしてたもんね。」
「後は・・・熱いと寒いって感覚が入れ替わっちゃうんじゃないかなー。今も私凄く熱いし、此の躯其の物が呪われちゃったんだねぇ。」
「熱いってそっか、だから先、」
―脱いで・・・化物に喰わせるのが目的とか・・・かな?化物はずっと冷気を吐いてるみたいだったし、誘っていたよね?―
「然うかも。セレちゃんとっても寒がりの筈なのにってドレミも思っていたし・・・。」
如何やらアティスレイの話に嘘はない気がする。
騙す様な真似はしないとセレも言っていたし・・・信じても良いとは思うけど。
「うーん、こんな熱いんだし、何なら脱いじゃおっか?此の子も脱ぎたがってたし。」
「っ⁉だ、駄目だって!何言ってんだよ!寧ろ寒い事には変わりなんだしオーバーコートも着てくれよ!」
誘う様にアティスレイが服の裾を捲ったので噛み付いてしまった。
駄目だろそんなの、限度がある。死にはしないんだから脱がないでくれ。
「おぉ、此は此は。君ってば可也御堅いねぇ、だから此の子も信じてるんだろうけどさ。」
「・・・うぅ、」
何だか試されているみたいだ。心理テストをやらされているみたいでむずむずする。
「じゃあ我慢するよ。只オーバーコートは私出し方分からないし、此の子に戻った時に着れば良いでしょ?」
「まぁ・・・其なら。でも熱さは感じるのに其の信仰?ってのは御前には効かないのか?」
「私自身は別に感情って言うのかな。余其も無いんだよね。だから効かないのかなー。其に私には此の子がいるし、此の子以外の信仰なんてありえないし、大丈夫じゃないかな。」
「感情が無いの?」
こんな個性豊かなのに変な具合だ。
「んー私説明とか苦手だから難しいねぇ。何て言うのかな、偽物の感情なんだよ私達は。好きって言われたら応えるし、嫌いだったらそれなりの対応をする。AならB、みたいに型に沿って動いている丈、挨拶をしたら笑うロボットに感情があるなんて言わないでしょ?」
「な、成程・・・。」
何だろう、凄い論理的に話してくれるな・・・。
賢くないって聞いていたけど、多分知力は相当あるぞ。
「兎に角今は大丈夫って事だな。只セレが出て来れないのは痛いな・・・。」
「呪いは少しずつ弱っているからもう少ししたら返してあげるよ。其迄部屋でも見てたら?」
「え、あ、そ、然うなのか?」
「生命力は高い訳だし、抵抗位出来るでしょ。だからまぁ・・・然うだね。良かったら彼の化物、少し大人しくさせるよ?」
「そんな事も出来るのか⁉」
と言うより都合が良過ぎる。今回の彼女は何て頼もしいんだ。
何時も然うなら良いのに、こんな性格なら大歓迎だ。
あ・・・でもそっか、最初言ってたっけ、死ぬつもりだったって。只セレが危ないから出て来てくれたって。
若しかしたら彼女の様な性格は生まれる迄もなく、死に続けているのかも知れないな。
「出来る・・・かもね。私が此の子から出て行く時に向こうに憑いてみるよ。でも死に掛けだから余り期待はしないでね。」
化物の躯を使って何かするんじゃあ、と一瞬思ったけれども。
何だか彼女を・・・疑いたくなかった。
あんな淋しそうな絳眼を、其以上曇らせたくは無かったんだ。
「・・・そんな役で良いのかよ。」
「使い捨ての私なんだから好きにして良いって。」
「・・・・・。」
此には警戒していたドレミも罰が悪そうだった。
前自分を襲ったアティスレイと違い過ぎる事に気付いたのだろう。
「そんな目しないでよー。でも良かったよ、プレス機で潰される直前だったし、私が出ちゃったから此の子とは直接話せないのが残念だけども・・・役に立てたのなら只死ぬのよりはずっと良い。」
「然う・・・かも知れないけどさ。」
話をすればする程、出会えば出会う程彼女が分からなくなる。
プレス機って言ってた・・・何かの例えなんだろうけれど、そんな終わりを彼女は迎える所だったのか。
「ギャオォオオォオオオオッ、がガガガガッ‼」
「うーん、煩いね彼の化物。此の子に傷を付けた奴だし、一寸痛い目見せてやろうかなー。じゃ後宜しくね。」
「あ、あの、」
もう消える丈と許りに彼女は手を振って離れようとしたので思わず声を掛けた。
此の儘左様ならは一寸・・・納得出来ないだろ。
「あれ、未だ私に用事でも?」
「あの・・・御前はもう今回で消えちゃうんだよな。だったらさ、又出来る確率って言うか、然う言うのは増やせないのか?御前とだったら手も組めるだろうし、セレも・・・喜ぶとは思うけど。」
少なくとも悪夢を見せる奴よりはずっと。
「ふーん、気に入ってくれるのは嬉しいけど其は厳しいかなー。私みたいなタイプって大抵直ぐ自殺しちゃうんだよ。碌な命令されないからせめてね。其に自分で言うのもなんだけど、私は私の中でも賢い方なんだよねー。そんな存在は、本来赦されないんだよ。私みたいに勝手な事する奴が出て来るからさ。」
「・・・そっか。御免な、引き止めちゃって。えっと・・・セレを助けてくれて有難な。」
アティスレイは直後はっと瞳を精一杯広げてガルダを見遣った。
でも直ぐ其の目は細められて隠されてしまう。
「礼を言うのは此方だよ。だから今後も此の子の事、宜しくねー。」
軽く手を振るとアティスレイは部屋を出て行った。
直ぐ其処に居るであろう化物と対峙するのだろう。
あっさり・・・本当にあっさりし過ぎている。
付いて行く事も、何も出来なくて、只俺は見ている事しか出来なかった。
今のも、一つのアティスレイの形なんだ。
あんな風にセレを懐ってくれていたなんて。
何と言うか・・・何が悪いって訳でもないんだけれど、複雑な気持だ。
「・・・取り敢えず部屋を見るか。」
「う、うん然うだね。其の為に此処迄来たし。」
歯切れが悪かったがドレミも頷いた。
大丈夫だ。セレの呪いが引いたら帰って来る筈。こんな形でアティスレイと会うなんて思ってもいなかったから慌てたけど。
「っ・・・此処も中々だな。」
ちらと部屋を見渡してガルダは溜息を付いた。
セレが覚悟をしろと言っていたんだ、大体は分かっていた。
部屋の造りは確かに礼拝堂の様だった。
木造の古びた椅子がずらりと並び、正面には何やら不穏な絵が飾られている。
全体的に黔く、鹿の角が生えた様な悪魔だろうか、怪物が描かれている。
他の悪魔でも引き連れているのか右側を指差す様な構図だった。
そして其の右側には・・・又死体があったのだ。
死体は今迄見たのと同じくミイラ化している。
壁を背にして座っており、皓衣を着ていた。
只死体を中心に異様な染みが飛び散ったかの様に広がっており、皓衣も他のと比べると可也ぼろぼろだ。
余り死体には近付きたくないけれども・・・名札をしている様だ。
動く筈も無いんだけれどそっと慎重に近付いてみる。名札の名は・・・、
フリア=ジョーダン・・・間違いない、例の四人の内一人、絳の日記の持ち主だ。
ぱっと見じゃあ分からないけど、酷く苦しそうな顔をしている気がする。他二人とは明らかに違う様だ。
「ね、ねぇガルダ君、此って文字・・・だよね?」
ドレミが指差したのは床、確かに、ミイラの周りに広がっていた不気味な染みの一部は規則性があった。
此は・・・恐らく血文字だ・・・彼が死ぬ間際、最後の力で書いたのだろう。
でも書かれていたのは・・・、
狂信者め、狂信者め、狂信者め・・・狂信者め、
頓そんな言葉が延々と描かれている。何かのヒント、ダイイングメッセージ等ではなく、此は怨みの文字だ・・・。
日記の流れだと・・・屹度此処で彼はアーナスに殺されたんだ。
死体から得られる情報はそんな物かな・・・調べ慣れていないから何とも、触ると俺迄呪われそうだ。
「絵は・・・不気味な丈で案外普通そうだね。何の力も無いみたい。」
―あ、でもほら、此処に何かあるよ。此の穴、なのかな?何だろ此。―
「ん・・・何だか鍵穴みたいだな・・・。」
死体の隣、丁度絵の怪物が指を差した先の壁に小さな細長い穴があった。
傷とかじゃあない、明らかに人工的に作られている。
試しに押してみるとくすんだ軋む音が中からした。・・・空間がありそうだな。
「又鍵探しかな・・・、」
其の先が出口とは限らないけれど確かめはしないとな。
何となく、日記の内容を思い出す。予感でしかないけど、多分隣で死んでる此奴に関する事だよな。
俺の聖地だ、と書いていた。其に鹿みたいな神って多分・・・此の絵の事だよな?
でも現に此処と隣接している部屋は無い。と言う事は此の鍵穴の向こうは・・・。
ちらと又ガルダはミイラを見遣った。
・・・先、死体が鍵を持っていたけど、流石に此の死体には触れたくないな・・・。
血が出捲くっているし、他殺だ。何か本当、呪われそうだ。
呪いと言えばセレは・・・、
「皆、待たせたな。」
慣れた声に思わず振り返ると軽く手を振ってセレが戻って来た。
噫斯うして見るとアティスレイとの違いは一目瞭然だ。気配が全く違う。
只、何時もより顔色が悪いけれども、未だ呪いの影響はあるのだろうか。
「セレ、もう大丈夫なのか?」
「あ、セレちゃんに戻ってる!・・・良かったー。」
「噫、大丈夫だ。まさか斬られた丈であんな事になるなんてな・・・。」
一つ溜息を付いて肩口の傷を見遣る。
毒みたいな物か。一発でも喰らうとアウトだなんて。
「セレ、あの、もう熱くはないんだろ?早く上着、来た方が良いぜ。」
「ん、然うだったな。噫然うか私は・・・全く、こんな寒い中良く先は脱いだ物だな。」
急いでオーバーコートを時空の穴から回収する。
序でに外してあった晒も巻かないと。
吐く息だって皓く冷たいし、少し丈指先が震えている。明らかに寒い。
―寒いなら僕に掴まる?―
返事の代わりにひしっと彼に抱き付いた。
噫・・・灯の鎧の彼はモフモフ度が減った分こんなにも温かくなるのか・・・此も又良い!
「・・・うん、間違いなくセレだな。」
「セレちゃんだね、えへへ。」
こんな事で本物か如何か判断されるのは少し癪だが仕方ない。自分が悪いので甘んじて受けよう。
「セレ、因みに現状は分かってるのか?その・・・アティスレイの事。」
「噫、大体はな。朧気だけれども記憶はある。・・・今回は彼奴が出て来てくれて良かったよ。」
丗闇は終始無言だけれども、多分此寝てるな・・・当分外に出ていたんだし仕方ない。
其にしても驚いた。乗っ取られた時は不味いと思ったけれども・・・あんな純粋に助けてくれるなんて。
話をしたかったけれどももう此処に彼女が居ないのが本当残念だ。
「一寸呪われたけれどももう大丈夫だ。呪いでも薄まるらしいな。先はその・・・何も考えられなかったと言うか、其が当たり前だと思ってしまってたからな。彼の儘だと奴に喰われていただろうな。」
「怖いね・・・引っ掻かれた丈で然うなっちゃうんだ・・・。」
「然うだな。・・・でも自分も使える様になったら可也便利じゃないか?一撃与えた相手を操れるなんて・・・。」
呪いって神でも出来そうだし、毒で上手い事応用出来ないだろうか。
うん・・・うん、考え出したら止まらないな。夢溢れると言うか、新たな進化の道を見付けた気がする。
確かに前迄の自分は殲滅が一番勁くてリスクも少ないと思っていたけれども、他者を利用するのは一種の手段としてありじゃないだろうか。
ありだな・・・呪いか、何だか自分の性質と合っている気もするし、習得はしてみたいな。
・・・ノロノロにでも聞いたら教えてくれるだろうか。
「セレ、呪いの力が欲しいのか?・・・うーん、何て言うか俺としては複雑な気持だけど・・・。彼の医者に頼んだらくれるんじゃないのか?」
「っ!彼処は嫌だが呪いは欲しいから自力で頑張るよ。」
恐ろし過ぎる・・・確かに彼なら凄いのくれそうだけど。
でも結局は自分の干渉力に因る進化なんだし、願っていれば何時か屹度成れるだろう。
然う言う物があると、知る事が大切だな。
「えっと、アティスレイはもう消えちゃったのか?」
「噫其なんだが・・・今彼奴は化物に憑いてるぞ。先の一柱丈が私から離れて。本体は私の中に残っている様だ。」
「だから先から彼奴は大人しいのか?」
先迄していた吼え声が一切聞こえて来ない。
本当に操る事なんて出来るのか。何て言うか・・・新しい力、可能性を見せられた気がする。
「然うだな。呪って来たから呪い返してやったみたいな物だな。」
まさかそんな手段を取るなんて思ってなかったけれども。
彼女はある目的が為、自分に居るのだと言っていた。だのに、只善意の行動と言うのは珍しい。
好感度向上キャンペーン中だとか・・・?何の道違和感しかないか。
「只、様子を見るにそんな持たない。彼女自体がそんな長生き出来るタイプじゃあないんだろうな。今の内に此方を調べて置こう。」
「・・・本当は直ぐ死ぬつもりだったって言ってたよ。だから・・・なのかな。」
怖ず怖ずとドレミは声を掛けた。
同じ姿の儘中身丈入れ替わると接し難いよな。
「然うか、元々表に出る予定の奴じゃなかったんだな。ドレミ、良かったら後で彼奴の事を話してくれ。私には朧気にしか記憶が無いからな・・・。多分、色々と大事な事を話してくれている気がするんだ。」
マザー、大本だったか?其が居るから普段は大事な事を言えないんだと、前言っていた。
若しかしたら其の垣根を越えて来た奴なのかも知れない。
さてと、先ずは脱出だな。此の儘彼女と終わるのは向こうも不本意だろう。
「うん分かったよセレちゃん。兎に角今は時間を無駄に出来ないね。」
―一応もう部屋は調べたけど如何かな。何か気になる事ある?―
「然うだな。まぁ此処は死体と絵位しかないが、」
そっと絵に近付く。
此は悪魔なのだろうか、向こうのとは又違った化物だな。
うーん・・・龍でもこんなの見た事無いし、此の次元特有の神なんだろうか。
悪魔・・・ね、自分と相性は良いかも知れないけれど、手助けは望めないだろうな。
まぁ元よりそんなの頼る気なんて無いし、自力で勿論出ようじゃないか。
「此の死体は・・・殺されてるな。若しかして銃でやれたか?」
血の散り方、服の破れ具合を見ると然うだろうな。
「そ、然うなのか・・・多分日記の主だよな。えっと絳の日記の。」
「だろうな。あんなセンスある日記を書いていたのにこんな所で終わるとはな。・・・ん、何か持ってるな。死者にはもう要らないだろう、貰ってくぞ。」
セレは床の血文字も気にせず踏み付けてより死体に近付いた。
そして名札の付いているポケットを探る。
・・・良くあんな簡単に触れられる物だ。寧ろ彼女は死体になった方が人間に触れられるのかも知れない。
慣れている、の一言で済ますんだろうけれど、其の一言を得る迄が大変だ。
迚も俺には真似出来ない。此処でさっと其の役を代われたら良いんだけど、難しいな。
「此は・・・又鍵か。」
セレの手には絳の鍵が握られていた。
血でも付いて錆びてしまったのか、可也劣化している様だ・・・。
「其、若しかして、此処のか?」
ガルダが壁の穴を指差す。
確かに大きさは一致しているな。
別に開けたら即死するなんて事は無いだろう、波紋で中が見えないのは何か仕掛けられているのかも知れないが、開けてみるか。
刺した鍵はすんなり回り、軽く壁が軋む。
―へぇ!隠し部屋みたいだね!―
見遣っていたローズが歓声を上げる。
鍵がドアノブの役割を果たして、壁にぴったりと同化していた扉が開いたのだ。
「随分と質素な隠し部屋だな。」
隠し部屋は本当に狭かった。
全員が一緒に入る事は出来ないだろう。其位の狭さだ。
壁も舗装等がされておらず、木の板が張り巡らされた丈の物で、此処は最早部屋と言うより、部屋と部屋の隙間みたいな空間だったのだ。
可也埃っぽいが部屋の隅に木製の箱が置かれていた。
此の部屋で唯一入手出来たアイテムだ。さて中は一体何だろうか。
箱は鍵等掛かっておらず、すんなりと開いた。
そして中には・・・一枚の玻璃板が入っていた。
「此丈・・・なのか?」
―ね、ねぇ僕も見せて!―
ローズ丈入れず御預けを喰らっていたので逸る気持ちが前足に出てしまっている様だ。
小さくステップを踏んで尾を振る様は何とも愛らしい。
「噫、待ってくれ、此だ。」
箱毎そっと持ち上げて部屋を出る。
見え易い様に少し屈んで見せてやると、ローズは何度も鼻をひくつかせた。
―此、先の机の上にあったのと似てるね。―
埃っぽかった所為だろう、何度か嚏をする。
「ん?然うなのか?机って言うと化物の所だよな?」
正直其の辺りから記憶が曖昧だ。自分の波紋では箱の中迄見えなかったが、透けていたのだろうか。
玻璃板は魔法陣の様な幾何学的模様が彫られた物だ。可也軽く、本の少し丈魔力を感じる。
只何と言うか少々荒っぽい陣だな。ナイフ等で傷付けたのか陣は少し歪だ。
「確かに似てるね。こんな感じのが多分向こうにも描かれていたよ!」
―其以外は・・・わ、本当に何も無いね。―
鼻先を突っ込んで少し残念そうな様子のローズである。
折角見付けた隠し部屋に宝の一つも無ければ、トレジャーハンターの血が泣くだろう。
只其でも、此はとんでもないキーアイテムの可能性が高いぞ。
「其、多分・・・彼奴の封印を解く奴だよな・・・。」
「だろうな。割ったら封印が解けるんだったか。」
「先の所にもあったから、二枚あるって事だよね?予備なのかな?」
自分のこんな手で触れては割れてしまう恐れがあるので箱から出せない。
割ったりしたら・・・又丗闇の説教コースだろう。
「予備じゃなくて、多分此奴が創ったんだよな?だったら日記の辻褄も通るし。」
「然うか。うん、其なら絳の日記の内容も分かって来るな。彼の隠し部屋が奴にとっての聖域なのだろう。其処に此が置いてあった。」
「瞬間記憶、とかも書いてたよね?向こうのは魔法陣迄見えなかったけれど、若しかしたら箱に入れられる時に見ていたのかもね。」
向こうの部屋で見た資料も、此奴、ジョーダンが直前に見ていたのなら、見付かり易い位置にあったのも頷ける。
「良し、話は分かったな。只、此を如何使う気だったんだろうな。奴は助かりたかった筈だろう?化物を開放した所で出られないぞ。」
別に出してくれた奴に懐いたりもしないだろう。喰われて終わりだ。
他の日記にも彼は破滅だ、だとか背信行為だとかとあった。
・・・本当、何がしたかったんだろうな。
「うーん・・・閉じ込められて一寸おかしくなっちゃったのかな・・・?」
―日記では狂ってる感じしなかったけれどね。何だろうね。―
ローズが小箱にちょっかいを出すが、変化はない。
突然割ったりはしないだろうし、渡して置くか。
「・・・ん、」
箱を床に置いて違和感に気付く。
何だ此の魔力の反応、然う言えば魔力達と話していなかったな。
―何カ呼ンダー?―
応えた。近くに居てくれて良かったな。
―何だか魔力の変な流れが見えてな。近くに何かないか?―
てっきり玻璃板から微弱な魔力が出ているんだと思ったが違うらしい。
何処からか、可也弱い魔力を感じる。自分の力丈じゃあ此を辿るのは無理だ。
「?セレ、何か見付けたのか?」
波紋がある筈なのにうろうろと部屋を歩き回る彼女につい声を掛ける。
先呪われていた手前、如何しても心配してしまうのだ。
「いや、魔力達と一寸探している物があってな・・・。」
―一緒ニ探ス?―
―ホラ此方カラダヨ。―
「あ、ほんとだ。えーっと・・・彼処からか?」
そっとガルダは隠し部屋の方へ向かう。
魔力の声が聞こえないドレミ達はきょとんとしていた。・・・もう少し待って欲しい。
「成程な・・・セレ、多分此の部屋其の物だ。何か術が掛かってるっぽいぜ。」
「此処だったか。相当魔力が弱いがもう古いからかも知れないな。」
―見付ケタ見付ケタ。―
―何カ壁ニ掛ケテアルヨ。―
壁か・・・うーん、賭けになってしまうがやってみるか?
―有難う、御蔭で見付かった。・・・今から一寸大きく出るぞ。―
そっと壁に触れるが何の術かは分からない。
でも考えてみれば此の部屋は波紋でも初め中が見えなかった。隙間はあった筈なのに、だ。
・・・だとしたら、予測でしかないが奴が聖域と称した理由は、
「皆、若しかしたら此処から出る方法が分かったかも知れない。只一寸荒っぽいから皆の意見も聞きたいんだが。」
「え、もう分かったのセレちゃん!うん、教えてくれるかな?」
「噫、恐らくだが、此の隠し部屋に掛かってる術は・・・、」
・・・・・
「良し、アティスレイにも話は付けて来た。始めるぞ。」
化物と同化してしまったアティスレイだったが、何とか意思の疎通は取れた。
“貴方の為に出来る事が未だあるなんて嬉しい。”と素直に喜んでくれた。
・・・もっと話せたら良かったんだが、もう彼女も限界と言っていた。仕方ないな。
先ずは此処を出るんだ。次元の主導者に会わないと話にならない。
元はと言えば彼奴の所為で自分は呪われたり大変な目に遭ったんだから其位の礼はしないと。
「ほ、本当にするんだよねセレちゃん。」
勾玉をしっかり握ってドレミは少し心配そうだ。
彼の勾玉はローズが変化した物だ。最近はずっと出ていたので少し久しいな。
「噫、此しか方法が見付からなかったしな。本当だったら自分がやっても良いのだが、」
何の道彼奴は放って置けないし、今はアティスレイも居る。しっかり彼女にも動いて貰おう。
「じゃあ二柱共入ってくれよ。・・・もう何年も経ってるし、上手く行くかは結局運だしな。」
ガルダに誘われてドレミとセレは例の隠し部屋へと入って行った。
可也狭いが、何とかガルダも入る事が出来る。
三柱で閉じ籠り、そっと彼の玻璃板を取り出した。
「・・・行くぞ。」
最後にもう一度丈二柱の顔を見遣ると、思い切りセレは玻璃板に力を籠めた。
キィイイィイイィイイイッ・・・
高く澄んだ音を立て、あっさりと玻璃板は割れてしまった。
「ギャウゥウウウゥウウウゥウウ‼グギャァアアァアアァアア‼」
其と同時に化物は咆哮し、檻に体当たりを繰り出した。
すると今度はあっさりと格子が折れ、勢いの儘に化物は玻璃板を置いてあった小部屋を押し潰した。
自由になったのを喜ぶかの様に化物は吼え乍ら壁にも体当たりを繰り出していた。
もう此の施設は彼を閉じ込める力等無かった様で、どんどん壁は崩落して行ってしまう。
其の所為で礼拝堂も、ミイラ達が寝かされていた彼の部屋も、どんどん崩れて行った。
「グギャグォオオォオ‼」
然うして終に・・・化物は自由を得た。
紅鏡の曦に思わず目を細めて身震いする。
然う、化物は脱出を果たしたのだ。
如何やら彼の施設自体は地下に作られていた様だ。
化物が出て来た穴はぽっかりと開き、格子等が散乱しているのが見て取れる。
「す・・・凄い、今回こそ、成功だ・・・。」
化物が緩り首を巡らせると次元の主導者であるガイドの青年が、うっとりと化物を見詰めていた。
化物の百の瞳に貫かれようとも青年は引く気が無いらしい。
触れれば呪われてしまう恐ろしい爪を有しているのに。いや、抑其の気になれば丸呑み出来そうな程巨大な口を、引き裂けそうな四肢を、有しているのに。
「グルルルルルル・・・。」
化物は唸り声を上げ乍ら緩りと後退りした。
其でもめげずに青年が一歩近付く。
「彼の旅行者達、絶対何か違うと思ったんですよ。其がまさかこんな上手く行くなんて、」
「其なら感謝の言葉が聞きたいな。」
化物が出て来た穴からセレ達が顔を出した。
相当崩落しているので少し手間取ってしまう。部屋の中じゃあ分からなかったが、まさかこんな事になっているとは・・・。
出て来た一同の姿を見て青年は固まってしまう・・・信じられないのだろう、まるで幽霊でも見たかの様だ。
「ど・・・して、貴方達・・・が?」
「さぁツアーも途中だったし、最後迄案内して貰おうじゃないか。此の化物は何なんだ。」
セレの問いに青年は黙ってしまう。
斯うやって意表を突くのは楽しいな。
然うだろう、確かに普通だったら自分達は化物が暴れた所為で倒壊した建物に生き埋めにされていただろう。
まぁ術を使えば・・・其でも護れただろうが、念の為先の施設を調べて置いて良かったな。
トリックは非常にシンプルだ。彼の隠し部屋に護りの術が掛けられていた丈の事。
屹度此がジョーダンのしたかった事に違いない。隠し部屋で例の玻璃板を割ったのだ。
彼処は出口の無い施設だった。だから化物の様に強力な力でないと破壊して脱出すると言う、自ら出口を作ると言う手段が取れないと彼は考えたのだろう。
何とも強引な方法だ。だから他の仲間に受け入れられなかったに違いない。
出た後のプランは何も無い訳だし、化物を如何するかの問題も出て来る。
だから只出たいと言う願い丈を叶える手段だったのだ。
彼の隠し部屋を造ったのがジョーダン本人なのかは知らないが、ちゃんと使ってやれたな。
・・・でもまさか施設自体が地下にあるとは。出た場所も先の遺跡と似ているし、そんなに離れてはいなさそうだな。
「・・・別に貴方達に話す必要性は無いですねぇ。」
一つ溜息を付くと青年は大きく両手を広げた。
「さぁ我等が悪魔様よ!信仰心無き者に裁きを!」
「・・・・・。」
だがまるで其処で時が止まったかの様に誰も、何も動かなかった。
薫風が吹く事で辛うじて時間を知る事が出来る。
化物も、只緩りと瞬きをしていた。
「・・・信仰心無き者に裁きをっ!」
「いやもう良いから。」
何だか見ていられなかったので止めてしまった。
何と言うか・・・憐れだ。
信じた者に斯うもあっさり裏切られると可哀相でもある。まぁ其の期待も身勝手な物だけれどな。
ちらっと化物はセレの方を見遣った。
・・・未だ何とかアティスレイが抑えてくれている様だ。
「・・・と言うより此奴、御前の事を食料としてしか見ていない様だぞ。」
「そ、そんな馬鹿なっ!僕の祈りは、ちゃんと毎日届いていた筈だっ!」
「祈りを届けたかったのなら自分で行けば良かったのにな。如何して見ず知らずの私達を送ったんだ?信頼してくれた訳でも無いんだろう?」
フードを何時もより目深に被る。
感情が出過ぎて、目に現れたらいけないからな。
「そ・・・其は、だって、悪魔様を開放するには彼の方法しかない筈だっ、」
一応鎌掛けだったんだが・・・あっさり喋ったな。
成程な、ジョーダンの手段は飽く迄も秘密裏だった。だから此奴も知らなかったのだろう。
化物の目の前にあった玻璃板を割らない限り化物は出せないと、思い込んでいるのだ。
だったら其の裏は使えるな、だって此奴からしたら自分達は喰われた筈の観光客だろう。
だのに・・・化物と一緒に出て来た。其の事実を、彼は如何解釈するのだろうか。
「ま、まさか貴方達は悪魔様から認められたのですかっ⁉其の知恵と勇気を、噫‼だとしたら何て事か!わ、私は如何すれば、」
「抑御前は化物を如何する気だったんだ。たった一人で如何にかなると思ったのか?」
語気が強まるのを何とか抑える。
堪えろ・・・どんなに愚かだと思っても、相手が人間でも、次元の主導者なんだ。
仕事に私情を挟む可きではない、今も昔も。
「あ、悪魔様は・・・何も語らなかったのですか・・・?」
ちらと又眴せをやる。
・・・特に化物は次元の主導者の事等何とも思っていない様だ。
そして、少し丈アティスレイが不味い様だ。もう然う長くないのかも知れない。
「特に思う事は無さそうだぞ。」
「其は・・・噫、私に話す機会を与えてくれているのですね。其でしたら・・・分かりました。私の事も御話ししましょう。」
此奴・・・化物の前だと別人かって位に態度が一気に変わったな。
次元の主導者だから助けないといけない訳だけれども、何だか腑に落ちない。
化物に喰われて勝手に死んでくれないかなぁ、とついそんな事を考えてしまう。
・・・自分も、可也性格が悪くなった自覚位はあるよ。
さぁ其の信仰心も何時迄持つかな。
「実は私の先祖様は化物を封印した信者の一人でして、まぁその、悪魔様の召還の時に色々やらかしてしまったので仲間は可也減ってしまいましたが、其でも私丈は諦めずに斯うして悪魔様を待っていたんですよ!」
「あー成程な。然う言う家絡みの奴かぁ。」
ガルダが一寸面倒そうな顔をする。
此は言っても無駄だと察したのかも知れない。
「仲間は減ったって言っても一人じゃあないんだろう?他の奴は如何したんだ。其とも御前一人で如何にかなると思ったのか?」
折角御先祖様が命を賭けて封じたのに、こんなあっさり解かれたんじゃあ落ち落ち眠れないだろう。
・・・恐らく、此の次元の終わり方は彼だな。今回みたいに彼が観光客を罠に嵌めて化物の封印を解かせ、出て来た奴にあっさりと喰われたのだろう、安易に想像出来る。
だったら何としてでも化物から遠ざけないと。其の命は自分が思っているよりも貴重なのだ。
話し合いで、すんなり理解して貰えると良いんだが。
「今何丈文明が進んだと思っているんですか!封印なんて此の石一つで出来ますよ。若し私の祈りが足りないと言われても、従わせる事は出来ます!」
然う言って彼はペンダントを服の下から引っ張り出した。
首に掛かっていた其は彼の玻璃板と何処か似ていて、紅鏡に照らされて輝いていた。
「あ、中に彼と同じ印が彫ってあるよ。」
成程、あんな持ち歩ける程に文明技術は進んだと言う事だな。
「ギャォオオォオオオ‼」
すると突然化物が吼え猛った。
如何したのか見遣ると其の背はぶるぶると震えていた。
「っ、大丈夫かアティスレイ、」
―だ・・・大丈夫じゃないかも・・・。私もう消えちゃうし・・・此奴自由にしたら多分皆喰われるよ、―
先よりずっとか細いアティスレイの声。・・・不味いな、彼女の支配が解け掛かっているのか。
こんな所でバトルになったら・・・次元の主導者を護り切れる自信が無いぞ。
「も、若しかして其の石、効いてないんじゃないか?」
「おい、そんなの出しても無駄だ。今何とか私達の方で奴を抑えているが、もう直此奴は暴れるぞ。向こうの世界なりなんなりに帰す術は無いのか!」
「そ、そんなの伝聞に無いし些とも・・・、」
青年は戸惑った様におろおろする許りで役に立ちそうになかった。
・・・仕方ない、斯うなったら今の内に化物を仕留めるか。
―・・・困ってる、みたいだね。―
化物は何度も目を開いたり閉じたりを繰り返していた。
不思議と其の瞳はそんなに恐怖を感じない。
―分かった。じゃあ私が何処か遠くへ、化物を連れて行くよ。・・・貴方を傷付ける様な奴だ。何処か適当な次元でくたばらせてやるさ。―
「待て、勝手に話を進めるなっ!」
そんなのは解決とは言わない、只の逃げだ。
でも、
「ギュルルルルルッ、ガァアアァアアアア‼」
化物は全てを遠ざける様に一声大きく叫ぶと振り返り、其の巨体を揺らして駆け出した。
其の体躯からは考え付かない様なスピードで駆け、不図其の姿は掻き消える。
次元を、渡ってしまったのだ。此ではもう後を追えない、アティスレイと化物は共に遠い所へ行ってしまったのだ。
開いた口が塞がらなかった。伸ばし掛けていた手を、そっと下ろす。
使える物は何でも使う、其は大いに結構だ。
でも其を判断するのは私だ。そして然う決めるのは、もう縁を持たない相手に対してだ。
使い捨てにしても良いと思った関係から断つ。
屹度、先のアティスレイも、私の然う言う一面を理解していたのだろう。
だからこそ、こんな手段を取った。自ら使い捨てになる事を選んだ。
でも違う。違うんだよアティスレイ、私は、そんな事がしたかったんじゃない。
でないと、私は如何なるんだ。然うなる可きなのは、私の筈だろう。
然う思ったって、もう此の声は届かなかった。
・・・矢っ張り、斯うなる前に。もっと御前と話す可きだったんだろうな。
「・・・あ、悪魔様が、自分でお、御戻りになった・・・のか、」
青年の声につい大きな溜息を付く。
頭を動かせ、現状は未だ続いている。終わってないんだ。
「然うだな。御前が何を考えていたのかは知らないが、此で全てゲームセットだ。御前の信じる神も祈りも、もう此処には無いぞ。まぁ・・・又召喚出来るとしたら話は別だが。」
「召喚なんて・・・其こそ禁術だ。もう、現代に残ってはないですよ・・・。」
明らかに青年は肩を落とし、落ち込んでいた。
もう打つ手が無いのだろう。もうあんな化物を呼べないとなれば、一応彼の身の安全は護れただろうか。
別に其の後のケアだとかは必要ないだろう、してやる義理も無い。
・・・いや、もっと冷静になれ私。先の事と此奴を無理に繋げるな。
彼は私の勝手、此は此奴の勝手だ。巻き込むな、投げ遣りになって良い訳がない。
「じゃあもうあんな恐い化物は呼べないんだね?」
「えぇ・・・折角少しずつ適当な人を送り込んで機会を窺っていたのに・・・こんな事になるなんて。」
やけに手馴れているなとは思っていたが、矢張り最初の彼は彼の罠だった様だ。
何度もああやって人を地下の施設に送り込んでは、化物を出してくれる時を待っていたのだろう。
だから化物の檻の中には四人以外の死体があった訳だ。彼を暇潰しに化物は少しずつ喰らって、次の餌が来るのを待っていた訳だな。
人間らしい汚いやり方だ・・・と言いたい所だけれども案外自分好みでもあったりする。
只他人任せなのは好かないな。其も初対面の相手だ。其を己の計画に組み込むのは色々と狂いそうで自分はパスだな。
何より時間が掛かり過ぎている。もっと効率的な方法は無かったのだろうか。
「・・・と言うより信者なら彼の化物の正しい出し方だとかを教わっているんじゃないのか?中の日記を見る限り、呼んだ化物を封印したのは化物の力が勁過ぎるからだとあったが・・・流石に永遠閉じ込める気は無かったんだろう?」
其だと化物が余りにも不憫過ぎる。只の偶像崇拝の礎で閉じ込められるとか冗談じゃない。
今回失敗はしたが此奴が封印のペンダントをして来た様に、未来で技術が発達するのを願って、封印の安全な解き方位遺す物だろう。
でないと、化物を開放する為に必ず犠牲が出るだなんて・・・一寸賢くないやり方の気がする。まぁ命を軽んじる教えなら其の限りじゃあ無いだろうが、信者が此奴丈になってしまったのなら其の手段すら取れないじゃないか。
こんな方法じゃあ下手したら永遠に化物は檻の中だった可能性もある。
自分達は出来こそしたが、普通の、只の観光客が封印していた玻璃板を割る所迄辿り着けるとは思えない。
抑化物の目の前に召喚されたし、殆どは其の儘化物に喰われて終わっただろう。
ミイラ達が荒らされた様子も無かったし・・・だとすると皆無駄死にだな。
「・・・何の道、悪魔様を降ろした段階で教団は殆ど壊滅していたんですよ。封印する迄に多大な犠牲を出してしまいました。だから、解き方なんて考える暇も、無かったんですよ。」
「随分と過ぎた力に手を出した物だな。」
遺跡が斯うも壊れていたのも、其の時の化物の仕業っぽいな・・・。
何て事は無い、只のカルト教団が勝手に自滅した丈と言う事だ。
でも其の所為で其の教団の生き残りでもある彼が喰われて次元が滅びました、となっては嗤えないな。
・・・まぁ自分の黔日夢の次元の所為で斯うなってしまった訳だし・・・と言っても余り此の次元の記憶は無いんだが。
自分の力の影響で化物が召喚された、とかはあったのかも知れないな。
「まさかあんな苦労して封印した悪魔様に、只の観光客だと思っていた貴方達が選ばれたのも、計算外なんですよ・・・。はぁ、悪魔様が居ないとなると、もう終わりですね・・・。」
選ばれた、彼の目には然う映ったのか。
まぁ大人しくしてくれていた物な。アティスレイの事とか説明する必要も無いだろうし、此の儘諦めて貰おう。
「あの、屹度此はもう此処に縛られなくても良いよって事なんじゃないのかな。もっと楽しい事とか色々あるよ?ほら、えっと・・・世界征服とかよりも。」
「えぇ・・・えぇ分かってますよ。古の存在ってのに憧れていたんですけど、夢を見るのは如何やら終わりそうです。」
大きく溜息を付いて青年は顔を上げた。
一応、心の整理は出来た様だ。
「えーまぁ一応騙す事になってしまったので其処は謝りますね。今後は・・・、先ずは崩れちゃった遺跡でも見て置いて、修復もしないと、問題は山積みです。」
死ぬ程の目に遭っているのでそんな謝罪一つで終わらせて欲しくないのだが、此奴を警察へ突き出すのも面倒だろう。
化物に襲われたなんて信じて貰えないだろうし、下手したら素性の知れない自分達が疑われる。
此の儘、何も無い儘で去るのが一番だろう。
遺跡は・・・もう好きにさせても良いだろう、殆ど読めない書物しかないし、此で奴の心が少しでも満たされるなら其で良い。
「・・・俺達を如何にかするって気は無いんだな。」
「一人じゃあ流石に無理と分かっているんだろう。今其処迄考えが至っていないのかも知れないし、去るなら今だな。」
そっとガルダに耳打ちする。
直ぐ帰る事で互いの意見は一致した。
「では左様ならです不思議な御客さん達。此に懲りたらもう変なツアーに来ちゃ駄目ですよ。」
冗談めかして言うと青年は準備でもする為かさっさと其の場を後にしたのだった。
随分あっさりとした別れだ。でも自分達には此位が良いのかも知れない。
別に無理に連む事は無い。こんな形でも次元を護れたら十分だ。
「あ・・・ええっと、終わった、のかな?」
そっとドレミが勾玉を放るとローズに変化した。
出て来た彼は一度全身を震わせる。
毛が紅鏡に照って先が金色に光る・・・飛び付きたくなるが、今は我慢だ。
「だな。何と言うか、まぁ御疲れ様。」
苦笑するとガルダはセレの肩を叩いた。
「セレ、大丈夫か?その・・・アティスレイがどっか行っちゃったけど。」
「噫、彼奴が選んだ事だ。今更私が如何斯う出来ないよ。追う事も儘ならないしな。」
一体何処に行ってしまったんだろうか。
適当な次元って言っていたけれども、其で化物が暴れて次元が一つ無くなったら何も言えないぞ。
其にしても化物が次元移動出来るとは思わなかった。
彼の化物が本当に神様だったのか、アティスレイの力なのかは、分からないけれども。
こんな事にならなかったら色々話してみたかったのに、其許りが悔やまれる。
「でもあんな性格だったりするんだね。ドレミ吃驚しちゃった。・・・悪い事、しちゃたかな。」
「いや、ドレミは悪くないよ。今回の彼女は特に珍しかったんだ。次も然うとは限らないからな。警戒はしていて良いと思うぞ。」
自分では余り、注意出来ないからな。アティスレイの支配は然う簡単に逃れられる物じゃない。
「一応、次元の脅威は去ったって所かな。皆寒くて疲れただろうし、帰ろうぜ。」
「噫然うだな。御疲れ様、早く戻ろうか。」
「うん、行こうロー君。」
少し丈セレは話し掛け難い雰囲気があった。
怒っていると言うか・・・納得していない感じ。
正直自分も一寸納得は出来ていない。次元の主導者の事も、化物の事も色々と。
でも全部が全部丸く収まる事も無い、仕事だって事は忘れちゃあいけないんだ。
感謝されたくてしている訳でもないし、こんな時もある。
今は只・・・無事脱出出来た事に安心して、考える時間が必要だろう。
・・・帰ったらセレに、アティスレイだっけ、彼女の事を話さないと。
考えている内に一同の姿が霞に消える。
神も悪魔も居なくなった遺跡は、其迄以上に草臥れている様に映るのだった。
・・・・・
見る、見ている、見続けている
ずっと・・・ずうっと見ている、只見ている
見ています、見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています見ています
其に理由も意義も求めてはいけない。あるのは事実丈
私が御前を見ていた、其丈で全て完結する
如何だったでしょうか!然う!今回は何とクトゥルフ神話に手を出した御話だったんですねぇ!
御存知の方だったら何となく察していたと思います。密室、粘液とか垂らしてる何か気持悪い化物、やばい宗教、死体。
此等が揃うとどうしてもクトゥルフかな?と思う自分です。
・・・もしクトゥルフ神話を御存じでない方は一度調べて貰えればと思います。俗に言うTRPGです。
自分は上手に此を説明出来る気がしないので、体感して貰う事を一番に御勧めします。
只書いていると色々と学ぶ事が今回多かったですね。と言うのも今回の話は、自分が初めて考えたクトゥルフ神話のプロット『瞳の化物~発狂カーニヴァルゥウウ‼~』を元にしてみました。
未だ未公開、未プレイの幼子です。けれども斯うしてセレ達に潜って貰うと話の粗さが色々目立って痛感した許りです。
何だか適当な宗教だし、絵も化物も正直そんなに恐くない。抑今回のクリア条件がちゃんと分かる資料が足りていない。
色んな問題が見えた訳ですね、いやぁ誰にもテストプレイしなくて良かった、もっと改良しないと。
加えて今回の話は敢えて提示しなかったストーリーもあります。此の世界で生きている訳ではないセレ達には不要と思ったので削除したんですね。
と言うのも個人的にはクトゥルフ神話は真理を見付けるのも大事ですが、当人達は生き残る事を重視すると思います。
だから行ったら死ぬだろうけれど、色々分かるよ!と言われると躊躇うでしょうし、拒否する方が多いんじゃないかと思ったんです。
其を踏まえて敢えて全て語らない事にしました。全部の謎が必ずしも解かれる可きではないでしょうし、クリアしたら何でも分かると言うのは違うんじゃないかな、と思ったので。
まぁセレ達は魔術とかありえない身体構造を持っているので色々実際想定されている探索者達とステータスが違い過ぎるのも問題ですね、混ぜると如何しても斯うなってしまいました。
一番の要因はアティスレイだったりします。手の付けようがない化物が大事な御話なのに手懐けちゃってますからね。そりゃあ話が破綻してしまいます。
だから今回のオチは完全なifストーリー、作者ですら想定されていなかった御話な訳です。
序でに此処で書くと如何なんだ、と言う問題なのですが、今回は敢えてつまらない話を書こうと思っていました。
いや別に本気出したら滅茶苦茶面白い話が書ける!と言う訳ではないけれども、其でも意図して書いた所はあります。
態と尻切れ蜻蛉にしたと言うか、此の『次元龍屋』は物語と言うより世界の事象を其の儘書き起こしている物と言うのがコンセプトなので、物語の様に全てが全て波乱万丈ではない、と言うのを書いて置きたかったんですよね。
然う言う意味では成功したんじゃないでしょうか。正にドレミが“え、もう終わり?”と言ったのは正解な訳です。
けれども此のつまらない話にもちゃんと意味があります。意味と言うより、今後に必要な要素ですね。つまらないからと飛ばしては、今後の物語で重要な要素が掛けてしまい、其方も楽しめなくなると言う寸法です。(最悪ですね。)
さぁ其の大事な言っては何時来るのか、少し丈でも楽しみにして貰えたらと思います!
そんな今回も無事に誤字が生まれました。早速チャチャッと紹介しちゃいましょう。
荒野に産卵する医師や違和。
正しくは『曠野に散乱する石や岩。』次元に着いた最初の感想な訳ですが、もう全て誤字。
一発変換で相当やらかしましたが、何だか俳句っぽくなりました。まぁ其でも意味不明ですけれどね。
「抑御前は化物を如何する気だったんだ。たった一人で如何にかなると思ったのか?」
語気が強まるのを何とかお猿。
個人的に好きな奴です。最後にセレがガイドの兄さんに怒ってるシーンですね。
抑える。が入力ミスでモンキーになりました。イライラシーンな丈に一寸勝手にほっこりした筆者です。
今回阿は其の位ですね!次回は話の候補が二つあるので何方から書こうかな、と悩み中です。
何方にしても可也ダークで、後味が悪くなりそうです。非常に筆の進みが早まりそうですね!
矢っ張り主役は斯うでなくちゃ!と言う事で又血を流すであろう次回、御縁がありましたら御会いしましょう!




