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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
59/140

39次元 黔の瀛海に偽りの紅鏡が架かる次元

 はい今日は!最近1ヶ月ペースが続いていますね、非常に良い事です。

 今回はちょっぴり短編?余裕で七万文字以内に収める事が出来ました!

 と言うのも今回もバトルのみなんですよね・・・。只ずっと書きたかった話なので書けて嬉しいですね、あぁ、やっと此の話ちゃんと進んでいるんだ、と実感出来て感無量です。

 他の趣味諸々の所為と言うか御蔭で時間的余裕は余りありませんが、何とか書き上げました。割とバッドイベントが多い月だったので此処から巻き返したいですね。

 然う言えば昔書いたっきりですっかり忘れていましたが、趣味の時間を獲得する為に色々リアルで頑張ってると言う声明?を出した気がするのですが、一応其は成功を収めたみたいです。

 多分特に心配している方はいないと思うけれども、今は軌道に乗っていますよ、と言う事丈伝えて置きますね。

 さて、此方の話は置いて置いて、今回は血みどろぶっしゃーな御話です。

 其でも言う程グロくはないので大丈夫!ほら、内臓が出てるぅ!はやばいけれども血が噴き出てるぅ!はそんな精神的ダメージが無いじゃないですか、そんな具合です。

 と言う事で一体血塗れに染め上げられるのは誰なのか、どうぞ御楽しみに!

(ヒカリ)

其は求める物

其は包んでくれる物

其は愛してくれる物

其は願う物

其は神と等しい物

・・・・・

 陰霖(アメ)が降っている。

 今日も昨日も同じ。

 冷たい・・・、自分が未だ生きているのか分からなくなる位。

 いや、考えたらもう一週間近く何も口にしていない。此じゃあ死んでいてもおかしくないんじゃないか。

 自分が生きているのか死んでいるのか。そんな答えの出ない事を悶々と考えていると雨音が乱れた。

 誰かが自分の目の前を歩いているのだろう。自分は(クラガリ)に居るから見えない筈。

 足音が近付くに合わせて自分の呼吸音が小さくなる。

 噫、此の(ママ)本当に止まってくれたら、然う目を閉じ掛けた時だった。

「あぁー、脂ばっかりでもう食えた物じゃねぇな。」

そんな低い男の呟きと共に何かが落ちる軽い音。

「・・・あ、」

じゃあください。

 声にならない声が漏れて、自分の上体が傾いだ。

 如何やら自分は未だ生きていたらしい、其の証拠に躯は生を求めて自然と動く。

 男が捨てた物、食料を、其の一切れ丈でも求めて、

 でも意思の無い行動に自分は付いて行ける筈もなく、傾いだ丈で立つ事もなく倒れてしまう。

 前のめりに倒れて盛大に泥水を散らす。

 顔から思い切り雨水を浴びて幾らか飲んでしまう。

「っあ・・・っ、・・・っ、」

息がし辛い、何とか顔を横に向けて短く息をする。

 其処で、目が合ってしまった。

 ある筈ない、合ってはいけない、死神と目を。

「何とも大きい鼠が掛かったな。」

噫、如何か其は私の事ではありません様に。

 心から願った、今こそ意識なんて手放したかった。

 現実が変わらないのなら、もう見たくはなかった。要らない、こんな物。

 けれども変わらず躯は言う事を聞かなくて、只じっと目を合わせていた。

 合わせている丈で次第に躯は震え、歯が鳴り、翼は毛羽立って尾は小さく引っ込む。

 逃げる、なんて言葉は頭の片隅にも無かった。

 彼奴と目が合った状態でそんな事、出来る筈もない。

 指一本動かせず震える丈の自分を見て、其奴は嗤っていた。

 嗤って、(ユック)りと近付いて来た。手が伸ばされる、痛みしか生まない手が。

 嫌だ、触れないで、触らないで。

 恐いんです、寒いんです。只隠れていたいんです。

 どんなに願った所で変わらず、其奴は私の首根っこを掴んで軽々と持ち上げた。

 心臓が痛い程脈打つ。其でも躯はどんどん冷えて行く。

 何とか其奴と目を此以上合わせない様に、只々其丈を考えていた。

 少し丈身を捩り強く目を(ツブ)る。

「っギャアッ⁉」

然うしていると突然首筋に痛みが走った。

 鋭い、刺されたかの様な痛み。思わず目を開けると、其奴の手には注射器が握られていた。

 まさか其の中身を注射されたのだろうか、若しかして・・・毒?

「さぁ此で大人しくなるだろ。」

耳元で声がし、思わず身震いする。

 矢っ張り目を合わせられない、今一体どんな顔で嗤っているのか想像したくもない。

 注射、打たれた。私は一体、如何なってしまうんだろう。

 考える間もなく意識が早くも混濁して来る。

 手足が痺れて動けなくなり、だらんと力なく下ろされる。

 私が動かなくなったのを確認してか其奴は私を掴んだ(ママ)歩き出した。

 噫、一体何処へ連れて行かれるのだろう。

 やっと見付けた隠れ場所からどんどん離れてしまう。

 こんなあっさり見付かったら意味ないじゃないか。

 全身が怠くなり、目を開けて置く事も難しくなる。

 今更、目を閉じた所で現実は変わらないと言うのに。

 此処数日の寝不足も祟ってか、抗う事も出来ずに私は意識を手放してしまった。

   ・・・・・

「・・・っ、う、」

ゆるゆると目を開ける。

 未だ、躯は重い。寝ていた筈なのに頭がすっきりしない。

 頭の中に石を詰め込まれた様に・・・重い。

 薄暗い・・・何だろう此処は。

 私は何かに・・・寝かされている?

 少しずつ頭が回るに連れ、重力を感じて行く。

 床、冷たい床に仰向けで寝ている・・・?

 何があったか全く思い出せない。

 冷たい、嗅いだ事のない薬の様な臭がする。

 其にずっと降り続いていた陰霖(アメ)が此処には無い。

 如何して、此処は外じゃないのか。

 ぐるぐると怠惰に思考は巡る。

 ・・・考えても仕方ない、兎に角動かないと。

 上体を起こそうと手を上げた時だった。

 腕が、上がらない・・・?

 右手も、いや、足もだ。何かで床に固定されてる?

 気付いた途端、心臓は信じられない位早鐘を打ち始めた。

 何で、如何して、何故こんな状況で自分はこんなにのんびり構えていたんだ。

 明らかな異常事態だ、私は今から何をされるんだ。

 其処迄思考が追い付いた所で突然視界が(シロ)一色に染まる。

 電気、照明が付いたんだ。

 其は自分の目の前にあり、余りの眩しさについ目を細める。

「おや、もう目が覚めたのか。まぁ別に今更構わないか。」

声、此は、悪魔の、

 全身が強張る。一つの逆光になった影が見下す様に視界を覆った。

「んっ、うぅ、うっ!」

声を出そうとして違和感、口に布を当てられていたのだ。

 此は自分を黙らせる為?叫べないと助けなんて呼べない。自分は此処で、

 い、嫌だ嫌だっ!恐い、助けて、何もしないでっ、

 此の()に及んで私は必死に命乞いをしていた。

 だって其しか術を知らなかったから、弱者である自分は()いて助けを求める事しか出来ない。

「っと、急に元気になったな。早く縛っていて良かった。」

「おいサッサとするぞ。活きが悪くなる。」

別の声に慌てて視線を滑らせる。

 気付けば自分の両脇に二人の悪魔が立っていた。

 自分なんかよりずっと大きな悪魔達の手が鋭く銀に光った。

 噫、其は知っている、其は傷付ける物、痛い物だ。

 自分みたいな爪の無い悪魔は屡々(シバシバ)そんな道具を使う。

 使う、使うなんて誰に、嫌だ其以上はっ、

 無機質に光る刃が自分の胸元へと伸びて来る。

「う゛うっ、んーっ‼んんっっ、」

「今更()かれてもなぁ、一寸(チョット)内臓貰う丈なんだから大人しくしろって。」

「如何する、心臓から行くか。再生が早いだろうし、何個か取れるだろ。」

どんなに声を上げたって、奴等に届く事はなかった。

 所かそんな恐ろしい話を、目の前で続けるなんて。

「心臓は・・・残した方が良い、万が一があるだろ。時間はある、丁寧に周りのから取った方が無難だろ。」

「じゃあ(ウルサ)いし、肺からにするか。」

内臓、はっきり聞こえた。

 じゃあ其の刃で腹を開ける気なのか、い、生きた(ママ)、そんな事をするのか。

 噫悪魔だ、御前達は本物の悪魔じゃないか。

 絶対に痛いに決まっている。再生するかは知らないけれど、死ぬ可能性は十分にある。

 嫌だ嫌だ、未だ死にたくない。

 こんな所で、こんな何も分からずに。

 只消費されて消えるなんて、絶対嫌だ。

 どんなに訴えた所で声は、懐いは矢っ張り届かない。

 刃は止まる事無く、真直ぐ私の胸元へと下ろされた。

「っん゛ん゛ん゛ん゛っ‼っっ、う゛う゛っ、っ」

(クロ)の血が、溢れて、濡れて・・・視界一面を覆う。

 痛いなんて物じゃなかった。刺された所丈熱くて、奥は冷たくて。

 噫、屹度私は此処で、

 涙と血が混ざってどす(グロ)くなって行く。

 其でも悪魔は止まらなかった。だって未だ、内臓迄届いていないのだから。

 そして刃を握る手に力が籠もって、(ユック)り下へと・・・、

   ・・・・・

「ッッガァアアァアァアア‼」

大きな吼え声を上げて慌ててセレは飛び起きた。

 寒い、只寒い、此処は何処だ。何故陰霖(アメ)が無い。

 手で何度も胸元を叩く。大丈夫、メスなんて入ってない、無傷だ。

 嫌な汗をどっと掻いて、何とか呼吸を整えた。

 大丈夫、(アレ)は夢だ。遠い昔の・・・然う、只の嫌な懐い出だ。

―・・・御前も、夢を見ていたのか。―

「ん、御早う丗闇。何とも酷い目覚まし時計だったな。」

外から少し丈(ヒカリ)が漏れている。狭間だから何とも言えないが、昼前位だろうか。

 目を(コス)る。六つの目を一つつずつ順番に開いたり閉じたりを繰り返す。

 うん、少しずつ何時もの調子を取り戻そう。

―・・・御前の前世の物であろう夢を見た。封印されているとは言え、同じ夢を見る位繋がっているとは思っていなかったが。―

丗闇の声は何時もより更に(クラ)く感じた。

 まぁ寝覚めの良い夢では全く無かった物な。特に丗闇は優しいし、色々考えて然うだ。

「嫌な物を見せて悪かったな。まさか未だにあんな夢を見るなんてな。」

出していた尾が毛羽立ってしまっている。

 本調子とは言えない、落ち付く迄大人しくしていよう。

―別に不可抗力だろう(アレ)は。詫びられる事も無い。(ムシ)ろ勝手に覗いてしまったのは・・・その、済まなかった。―

「ん・・・んん⁉何で丗闇が謝る流れになるんだ。不可抗力なのは同じだろう。・・・まぁそんな事はもう良いか。」

誰かと話していると、独りじゃないと分かると可也冷静になれる。

 若しかしたら丗闇が幾らか返事してくれるのも同じ様に落ち着きたいのかも知れない。

「其にしてもこんな化物になってもあんな夢を見るなんて。ん、矢っ張り当分は人間の居る次元は遠慮したいな。」

―別に人間の居ない次元なんて五万とある。好きにすれば良い。―

「あれ、仲良くしろとかって注意するか軽蔑されるかと思ったのに。」

一寸(チョット)肯定的とも取れなくもない答えだ。少し意外だな。

―別に全く御前を軽蔑していないかと言えばそんな事はない。―

「おぉ、此は手厳しい。」

酷い言われ様だが心当たりはあるのでまぁ妥当だな。

―我は別に御前の親でも何でも無い。態々(ワザワザ)正したり、説く必要も無いだろう。其が御前の意志ならば、我は見ている丈だ。―

「親じゃない・・・かぁ。」

何だろう、此の胸の奥を素手で撫でられた様な感覚。

 ざわっとした、ささくれの様な・・・気持。

―ダカラ御前ハ、世界ニ嫌ワレテイルンダ。―

「っ、・・・。」

何か声が聞こえた気がして顔を上げたが、誰も居なかった。

 丗闇も、自分の中に居る。然う、此処は自分丈だ。

 私しか、居ないんだ。

「んー・・・丗闇は親って言うよりは姉、の方が合ってる気がするな。」

―姉・・・だと?勝手に御前の肉親にするな。―

「ククッ、そんな怒らなくても良いじゃないか。だって今は・・・ガルダよりも一緒に居る時間が丗闇の方がずっと多いんだし。」

―ずっと一緒に居れば肉親認定なのか御前は。一体如何言う判断なんだ其は。―

「まぁ今のは可也飛躍した話だけれども、私と丗闇って言う丈の関係よりは面白いかなって思った丈だよ。」

―っ、御前の妙な趣味に付き合う気は更々ないからな。―

おや、如何やら怒らせてしまった様だ。

 此の話が嫌と言うなら少し丈話題を戻そうか。

 軌道修正だ。今は只、話したい気分なんだ。

「なぁ丗闇、丗闇は先の夢、何処迄憶えているんだ?」

―何処迄、だと?其は一体何方(ドチラ)を差すのだ。夢の事か、其とも記憶の方か。―

「記憶の方だよ。まぁ()の夢は其の(ママ)記憶の焼き直しみたいだったけれど。」

―だったら紛らわしい言い方をするな。我は御前の記憶を見た丈なのだから憶えているかと問うのは間違いだろう。―

「ん?噫然うか。然うだな。何言ってるんだろ私、未だ寝惚けているのかな。」

一寸(チョット)丈頭を押さえる。

 何だか・・・上手く考えられない。(マト)まらない(ママ)話すのは危険なんだけれど。

 丗闇もそんな取り留めのないと言うか、要領の得ない話は嫌いだろうし。

 でも今は・・・雑談でも何でも良いから、したい気分なんだよ、うん。

 誰かが傍に居るって安心出来る様な。

 昔は独りの方が安心出来たのに、一体何処で自分は変わったんだろう。

 私をこんなに不安にさせたのは、夢の所為か、其とも・・・。

 目を(スガ)め、膝を抱えた。

 小さくなると・・・落ち付く。

「じゃあ丗闇、言い直させてくれ。丗闇は先の夢を、()()()()()?」

―・・・噫、見ている。我は其を。陰霖(アメ)の匂いを懐い出せる位。自分の血の冷たさを懐い出せる位。彼奴等の笑みを懐い出す丈で・・・少し、震えてしまう位。―

「そっか。・・・嫌な物をあげてしまったな。」

()の記憶は、自分の可也初まりに近い記憶。

 未だ人間を恐ろしい物と丈捉えていた頃。逃げるしか手段を持っていなかった時の。

 生き延びる術を(ホトン)ど持たなかった自分はああやって何度も死に掛けた。

 痛かったよ、痛い記憶だ。

()の後如何したっけ、腹を斬られて・・・滅茶苦茶痛かったのは憶えているんだけれど。」

態々(ワザワザ)懐い出したいのか。―

「いや何だか中途半端に懐い出したからもやもやしちゃって。其に観客も居る事だし。」

―観客?そんなの何処に。―

そっとセレが何も無い筈の空間を撫でる様な仕草をした。

 其で丗闇も納得し、口を噤む。

 奴等が居るのか。此奴が起きたから寄って来たみたいだな。

()の後は・・・奴等を例の力で殺して逃げた筈だ。可也気が動転していたから曖昧になるのも仕方ないが。―

思った以上に丗闇は此の話題に食い付いた。

 矢っ張り記憶はなぞりたい物なのだろうか。其が例え忌み嫌う物でも。

「・・・噫懐い出して来たよ。確か偶発的に()の無みたいな、(ヒビ)が沢山彼奴等を覆って・・・完全に開きにされる前に助かったんだったな。手足の拘束も、何とか千斬って・・・逃げた気がする。」

胸元にずっとメスが刺さって、血が止まらなかったからはっきり死ぬんだって思っていた。

 (ヒビ)と、手の甲や棘で何とか拘束具を削り取ったんだ。

 慎重にメスを抜いたけれども、刃物すら扱った事の無かった自分は随分危なっかしい持ち方だっただろう。

 抜いた時に又血が溢れて、陰霖(アメ)も無いのに随分冷たく感じた物だ。

 何度も意識を失いそうになり乍らも何とか這って手術台から降りて、外を目指して(ヒタスラ)進んだんだ。

 目を閉じると又()の無慈悲な(ヒカリ)に全身を照らされて目覚めそうで、少しでも逃げたかったんだ。

 そして逃げて逃げて、外に出て、路地を抜けて、

 芥山(ゴミヤマ)の中でやっと目を閉じた。

 最後迄陰霖(アメ)は冷たかったけれども、此処へ戻った自分を歓迎してくれている気がしたんだ。

 (ユック)り懐い出す間、丗闇はずっと黙った(ママ)だった。

 彼女も懐い出しているのだろうか、仮初の記憶を。

 懐い出した所で何の意味も無いのに。

 ・・・いや其は、私の台詞だよ。

「然うだな。(アレ)は懐い出せる限り、割と死に掛けた時の気がするな。片手とは言わなくても、両手の中に入ってそうだ。」

()の時胸に受けた傷、自分には無いけれども、丗闇には残っているのだろうか。

 若しかしたら彼女がそんなリアルに懐い出すのは躯の記憶の所為かも知れないな。

 心は忘れていても、躯が憶えている事もある、みたいな。

 ・・・厄介だな、全く。呪いだこんなの。

―・・・懐い出した所で何か御前は得たのか。―

「得た、と言うよりは確認だな。私が人間を嫌う訳を嫌って程確かめてみた丈だ。・・・自分の醜さと一緒に。」

逃げる丈逃げて、安全な所に隠れて、初めて自分は後悔したのだ。

 自分の所為で何人も殺してしまった。もっとやり方があったんじゃないのか。

 死んだんじゃない、殺したんだ。

 自分は、自分が生き残る為に別の者を殺したんだ。

 ・・・()の時の自分は面白い程偽善者で、命の重さに涙なんて流したのだ。

 今じゃあ考えられない。()く位なら殺さなきゃ良かったんだ。然うして、自分が死ねば良い。惨めに殺されれば良い。

 今なら、自分は然う言って嘲るのだろう。未だ幼い化物を。

 でも、()の時の自分はしっかり学んだのだ。

 殺さなきゃ生き残れない。命乞いだってさせて貰えなかったじゃないか。

 今にして思えば、彼奴等は自分の内臓が欲しかったのだろう。

 喰うのか加工するのか知らないが、化物の内臓である。金を出す奴位いるのだろう。

 噫、今みたいに血が結晶化すれば内臓なんて触れようとした奴全員、例の黔水精(クロスイショウ)で喰い殺してやれたのに。

 結局奴等にとって自分は金だったのだろう。だから金に対する扱いしかしない。

 じゃあ自分も同じで良いじゃないか。其を返せば良い。

 自分と言う存在を見てくれないのなら、自分だって御前達を只の肉塊としか思わない。

 然う、()の日はそんな意味では有意義な日だったんだ。

 自分の生き方を決めた日。

 ・・・忘れて居た訳じゃあないけれども、懐い出せたのは然う悪い事じゃない気がするな。

―今ノ、貴方ノ話ナノ?―

四つの水精(スイショウ)の目が自然と丸くなる。

 じっくりと、魔力の形を確かめる様に。

「噫然うだよ。昔の事だけれど、もっと聞きたいか?」

―貴方、今凄ク悪イ顔シテルヨ。知ラナクテモ、懐イハ見エルヨ、十分過ギル位。其ガ貴方ナノネ。―

「・・・幻滅したか?」

悪い顔、しているだろうなぁ。

 波紋でも良く見えるよ。自分が化物の仮面を付ける所を。

 もう()けないんだよ。だから隠さなきゃ。

 化物には悪役が御似合いだ。

 私みたいな飛び切り性格の悪い奴は特にな。

 仮面の下ですらこんな醜い化物なら、誰も私に同情なんてしないだろう。

 其で良い、其を自ら招いたのだから。

―・・・世界ガ君ノ事ヲ嫌ッテモ、私達ハ君ヲ愛スルヨ。一緒ニ居ルヨ。―

「っ・・・然うか、まぁ有難う。」

無理矢理笑ってベッドから起き上がった。

 最近分かって来た。魔力達は少し、龍族と似ているんだ。

 何方(ドチラ)も原始的な、自然に近しい存在だからだろうか。

 如何したって彼等は全てを愛してしまう。自分が何丈(ドレダケ)破壊しても、受け入れてしまうのだ。

 別に遠ざけたい訳じゃあないけれども、難しい物だな。

 だったら自分は同じ様に其を返さないといけない。

 愛なんて知らない癖に、見様見真似の愛を返そうと足掻(アガ)く。

 噫、まるで生きているみたいだ。此の感覚丈は如何にも苦手なんだけど。

―懐い出話はもう十分か。―

「噫、魔力達も満足してくれたみたいだ。丗闇は?続けたかったらもう一寸(チョット)話すけれど。」

―・・・いや、我も良い。どうせ、やり直せない過去の事だ。―

「然うだな。只の傷の舐め合いだこんなの。付き合ってくれて有難う丗闇。」

―別に。その・・・我も・・・いや、何でもない。―

随分小さな声で、テレパシーですら途切れ勝ちだったが、其限彼女は黙ってしまった。

 まぁ良いだろう。調子も戻ったし、もう昼だ。流石に寝過ぎた、そろそろ活動しないと。

「・・・あ、セレ起きたか?」

軽やかなノックの音がして顔を覗かせたのはガルダだった。

「噫御早うガルダ、済まないな。寝過ぎてしまったみたいだ。」

部屋に来て貰ったのは申し訳ない。又候(マタゾロ)心配させてしまっただろうか。

「御早うセレ、良いよ此の位。御前がちゃんと寝てるって分かって安心したよ。」

目が合うとふっと優しく彼は(ワラ)った。此方迄釣られそうな良い笑顔だ。

「何か凄い声したけど、寝言だったのかな。ま、元気そうで何よりだよ。」

「噫其は中々酷い夢見だったからな。つい声が出てしまったな。」

御恥ずかしい、ガルダに迄聞かれていたとは。

 随分な大声を上げてしまったな。

「其は災難だったな。えっと・・・寝起きで悪いんだけどさ、一寸(チョット)良いかな、セレ。」

「寝過ごしたのは自分だし、構う事はないぞ。」

一応波紋で大方の事情は分かっているつもりだ。

 来客が来ても起きなかったなんて・・・一寸(チョット)勘が鈍ったのだろうか。

「あの、御前に会いたいって客が来ててさ。寝てるって伝えたら起きる迄待つって言われちゃって。」

態々(ワザワザ)私にか?中々奇特な御客様も居た物だな。でも悪い事をしたな、分かった。直ぐ行こう。」

寝起きに余り準備をしたり、時間を掛けないのは前世の名残だ。

 ベッドから起きて一つ伸びをすると直ぐ様自分はドアを開けた。

「う、うわぁ!本物のセレ神様だぁ!」

リビングに出るとそんな歓迎の声が出迎えてくれた。

 其の客は忙しなく羽搏(ハバタ)いてセレの目線に合わせて滞空する。

「随分待たせてしまって悪かったな。私が此の次元龍屋の店主、セレ・ハクリューだ。」

「す、凄い!本物だ、動いてる!あ、此処に居たら邪魔ですね、直ぐ下がりますね!」

何とも低姿勢の客はいそいそとテーブル迄戻り、其の中心で留まった。

「あ、僕龍族の一匹で、サマナスって言います!初めまして!」

然う、客とは小さな一匹の龍族だったのだ。

 全長20cm程の蝙蝠に似た姿をした龍だ。全身淡い藍色で、二本の紐の様に細長い足と、平たく丸い大きな尾が特徴だ。

 口が蝦蟇口みたいに大きく、好物の華を丸呑みして残った華弁を吹雪みたいに吹き出す事で知られている。

挿絵(By みてみん)

 友好的で懐こいと龍古来見聞録(カリグローズ)にあったが、彼の其は又別の物の様な気がした。

「初めまして、御丁寧に有難う。どうぞ掛けてくれ。」

椅子を勧めると大人しく彼は椅子の背凭れの上へ留まった。

 細長い足を背凭れへぐるぐるに巻き付けている。成程、ああやって普段は木の枝とかに留まるのか。

「えっと、もう顔合わせは済んだかな。」

「はい!有難う御座いますガルダ神さん!」

ピッと尾を振ってサマナスは応えた。

 ほぅ、ガルダにはさん付けで、自分は様なのか。成程、如何言う子なのかは分かって来たな。

 ガルダが席に座ったので自分も倣う。

 さて、一体何の用なのだろうか。

「ま、まさかこんな簡単に会わせて貰えるなんて光栄です。あ、せめて見てください!歓迎の華吹雪です!」

突然彼は上を向くと何やら口をもごもごさせ始めた。

 そして色取り取りの華弁を吹き出し始めた。

 一寸(チョット)丸っこい躯だなと思っていたが、()の中にこんなに華が詰まっていたとは。

 何百もの色取り取りの華弁が散り、自分達に降り掛かった。

 まるでクラッカーみたいである。然う見られる物ではないし、中々美しかった。

 ・・・でも隣のガルダも最初は驚いてたが、今は少し(バカ)り目が死んでいた・・・。

 然うだよな、え、誰が片付けるの、とか考えて然うだ。何だか申し訳ない。

 サマナスに悪意は一切無かったのだろう。手荷物も無いから如何しようと必死に考えた末が此の華吹雪だったのだ。

「凄く綺麗だな、初めて見たよ、有難う。」

床がうっすら華弁が積もって埋め尽くす頃に、やっと吹雪は止んだ。

 余裕でジャムが作れそうな量だ。頑張って二柱で片付けよう。

 そんな心配を他所に礼を言われたサマナスは何とも嬉しそうに胸を反らしていた。

「はい!喜んで貰えて何よりです!次は仲間も連れて来ますね!」

「あ、噫、其の時は広い外でやってくれるかな。」

サマナスは大体二十から四十匹もの群を作る龍だ。

 此処でそんな事されたら華弁で窒息してしまうだろう。

「はい!其の時は又御願いします!」

何とも小気味良い返事をしてくれる子だ。

 ・・・こんなに優遇されると勘繰ってしまいそうだが、恐らく龍特有の()だろうな。

「然うだな、話の前に一つ聞いても良いか?随分私に良くしてくれるみたいだが、一体何処で私の事を聞いたんだ?」

「はい!仲間の龍のフリューレンスからです!」

はい!と返事をする度に彼の尾が上下するのは何とも愛らしいのだが、其所じゃない。

 成程な、此処に来て又彼奴の名を聞くとは。此処最近余り接触していなかったのに。

「フリュー、レンス、だっけ。何か聞いた気がするな、誰だっけ、セレ。」

「噫、時々会っては私に熱烈なプロポーズをしてくれる龍だよ。」

前会ったのは水鏡ノ鯨(ルフノーム・イスルム)の所かな、うん、懐かしい。

「プ、プロポーズ⁉な、何て大胆な奴なんだよ。」

「いや気持悪い位ガンガンに君が欲しいとか言ってくれるよ。まぁ・・・前は余りにも毛嫌いしていたから最近はもう少し丈、優しく接したいとは思ってるが。」

「ま、まま、まさかう、受けたのか・・・⁉」

顔面蒼白になってガルダが噛み付いて来た。

 何だか冷汗も掻いているし、目が本気だ。吃驚する位本気で来たので思わず少し身を引いてしまった。

 そんな身を乗り出さなくても・・・高々一頭の龍の戯言に付き合った丈じゃないか。

「いやいや受けるも何も私と彼奴は全く反りが合わないし、当然御断りだよ。」

「そ、そっか。あ・・・えっと、御免何か焦ったと言うか・・・はは、」

急に顔を赤らめると外方を向いて彼は座り直した。

 今一要領を得ないが頭を掻いて苦笑を浮かべる彼は余り話したそうには見えなかった。

 ・・・まぁ良いか。そんな事もあるのだろう。

「話が脱線して悪かったな。でも然うか、彼奴から聞いたのか。」

「流石セレ神様です!あんな高貴な龍からプロポーズされるなんて、」

高貴・・・うーん、只の変龍(ヘンジン)だけれどな。

 まぁでも彼奴から聞いたなら、此の子が自分に変な幻想を抱いているのも納得出来る。

 一寸(チョット)ハリーみたいに信者と化しているし、何とか洗脳を解かないとな。

「そんな持ち上げても何も出ないからな。で、用件は一体何なんだ?まさか只会いに来た訳じゃあないんだろう。」

「そんな謙遜を。本音は一目御会いする事が一番の目的だったんですけど、一つ御願いをしたくて来たんです!」

御願い・・・龍からは珍しいな、一体何だろう。

 其より彼の手触りも気になる・・・モフモフじゃあなさそうだが、一寸(チョット)撫でさせては貰えないだろうか。

「然うか、分かった。一寸(チョット)話してくれ。」

(ワザ)と手持無沙汰そうに手を揺らすと目聡く彼は飛んで来てくれたので其の(ママ)両の掌でホールドした。

 噫、ジャストフィット感が素晴しいな。表面はツルツルしているが柔らかいし、何より温かくって手触りが良い。

 ガルダ一柱が困惑した面持ちでじっと自分達を凝視したが気にしない事にした。

 此は通過儀礼なのだ。先ずは()うして触れ合わないと。

「あー良いです!もう何でも話しちゃいます!」

サマナスも気持良いみたいで手の中で小さな声を何度も漏らしていた。何とも可愛い奴である。

「あ、然うです。御願いは・・・僕前迄、別の次元に居たんです。でも其処で困った事が起こっちゃって。セレ神さんなら助けてくれるのではないかと思ったんです!」

「噫仕事の依頼だったのか。其なら受けない訳には行かないな。」

ちらとガルダを見遣ると彼も頷いてくれた。一緒に来てくれるなら心強いな。

「僕はリンクがあったから狭間に来られたんです。でも()の次元に残っている他の龍達は此の(ママ)じゃあ死んでしまいます。だから、」

「いや結構な死活問題だな!」

吃驚して思わず撫でる手を止めてしまった。

 他の仲間が死ぬかもって時に何暢気に君は撫でられているんだ!

 一寸(チョット)恐い位だよ!何してんの本当に!

「其は早く行かないと。一体何処の次元なんだ?」

「そ、そんな御手を取らなくても、時間がある時で大丈夫です!」

「あ、噫時間的猶予はあると言う事か。其でも次元に因って違うし、少しでも急いだ方が、」

「滅ぶのは一族諸共なので皆悔いは無いので大丈夫です!」

「いやせめてもう一寸(チョット)生きようとしてくれ!」

諦めるのが早過ぎる。助かる術があるなら縋りたい物じゃあないのか。

 一族、となると可也の数だろう。仮に失敗してもリンクが出来れば次元から出られるのだから行く価値はある。

「おぉ・・・殺しの神様でも然う言うのを説いてくれるんですね!」

「まぁほら、其の方が遣り甲斐があるだろう?生と死は紙一重なんだ。」

別に死を司っているとかそんな事は一切無いんだけれども、一応其っぽくは言わないと。

 力の源でもある大事な信者を増やすチャンスでもある。

「そ、然うだな。龍達の感覚って分からないけど、そんな簡単に滅んじゃ駄目だろ。俺も手伝えるなら行くぜ。」

「ううっ、二柱共有難う御座います!僕先迄其の次元に居たんです!だから、」

「成程、じゃあ其の魔力の跡を辿らせて貰おう。じゃあサマナス、出来れば、」

「じゃあ僕直ぐに皆に言って置きますね!何て御礼を言ったら良いのか・・・本当に有難う御座いました!」

食い入る様に礼を言うと其の(ママ)サマナスは羽搏(ハバタ)いてセレの手から飛び立ってしまう。

 そして空いている窓から外へと一直線に出て行ってしまった・・・。

 まるで流星である。呼び止める間もなかった。

 屹度仲間に自慢したくて仕方が無かったのだろう。如何しよう、直ぐに仲間を集めて花弁をたっぷり集めて戻って来たら。

「何て言うか・・・本当一瞬だったな。」

「噫、一体何が困っているのか位聞きたかったんだが。」

準備が出来ないが仕方ない、取り敢えずは此の(ママ)行ってみるか。

 サマナスの遺した魔力の跡が消えてもいけないしな。

「じゃあさっさと行くか。ガルダも来てくれるなら二柱でも良いかな。」

「噫俺は構わないぜ。」

「うん、えと・・・ん、然う言えばスーは何処なんだ?」

リビングに姿が見えない。客が居たのに彼が居ないのは不味いんじゃあないだろうか。

「あ・・・えーっと、一寸(チョット)先の龍にビビっちゃったらしくてさ。」

ちらとガルダが視線を寄越したのは床の一角、彼の部屋へ通ずる床である。

「・・・・・。」

いや駄目じゃん。

 喉元迄出掛かったが何とか(コラ)えた。

 でもあんな御手玉みたいな子にびびってはやって行けないぞ。

 一寸(チョット)、色々教えないといけないのかも知れないな。様子を又見て置こう。

「其じゃあ此の(ママ)行こう。スーには帰ってから話をしよう。」

ガタン、と激しい音が床下からした。

 別に恐がらせたいとかそんな気は一切ないが、けじめは付けないといけないのだ。

「まぁその、御手柔らかにな。」

「噫、私は叱るなんて苦手だし、何とか声を掛ける丈だ。」

「あ、そっか。確かにした事ないもんな。」

はっきり苦手と言う彼女は一寸(チョット)珍しかったけれども、確かに然うなのだろう。

 然う言う深い繋がりと言うか、他者の中に入る事を彼女は避けるから。

「然うだな・・・じゃあ帰る迄に床が華(マミ)れだから片付けてくれないか?大切な御客様が過ごし易い部屋にするのも御前の仕事だ。」

ガタンッ、と又床下から大きな音がした。

 肯定と見て良いだろう、此位御願いしたって罰は当たらない。

「・・・うん、見えるな。良し、開けたら直ぐ次元だぞ。良いな?」

ドアノブを握る彼女に一つ頷く。

 大丈夫、此方は準備万端だ。

 (ユック)り開かれた扉の先へと、二柱は一緒に足を踏み出した。

 其の先が余りにも(クラ)い事に違和感を覚えつつも。

   ・・・・・

「良し、無事着いたな。」

一つ伸びをする。うん、何だか自然と落ち着く次元だ。

「え、え⁉ちょっ、セレ、何処だ?」

直ぐ後ろから声がする。

 わたわたと必死にまごつくガルダの姿は何処か不思議で面白かった。

「噫ガルダは見えないのか。」

波紋で見えていたから全く気付いてやれなかった。

 然う、此の次元は漆黔(シッコク)の闇に覆われていたのだ。

 一寸先は闇みたいな、ヒカリ一つない暗闇だ。

「ガルダ、大丈夫か?一寸(チョット)触わるぞ。」

そっと肩を叩くとやっとガルダは此方を向いてくれた。

「噫セレ、良かった。其処に居たのか。にしても本当(クラ)いな。全然セレの事見えないんだけど。」

「みたいだな。其に何も無いし・・・。」

真っ平な地平線だ。(クラ)い土の地面が何処迄も広がっている。

 あるとすれば地面の所々に小さな丸い穴が幾つか開いている事位だろうか。

 穴の先に何か・・・居るみたいだが。

「あ、そっか。セレには波紋があるもんな。いやでも此処迄(クラ)いと俺何も出来ないぞ。」

足を一歩踏み出す事も躊躇してしまっている様だ。

「術で光源とかは創れないのか?周りを照らす位の。」

「いや、創っても良いけど、ほら光属性だから・・・。」

一寸(チョット)ガルダが視線を彷徨(サマヨ)わせた。

 一体何に気を使っているんだろう。

「セレ、光駄目だろ。若し当たっちゃったりしたら・・・。」

ごにょり乍らそんな事を言われてしまった。

 予想外だったと言うか、むず痒いと言うか。

「ククッ!そんな事かっ、其位大丈夫だ。私はそんな(ヤワ)じゃないぞ。」

思わず吹き出してしまった。過保護な嫌いが最近ガルダにはあるな。

 確かに光は苦手だけれどもそんなの、触れなきゃ良い丈の話だ。

「う、ま、まぁ然うかも知れないけど。」

「早く創らないと今回の次元は私がガルダの手を引いて行く事になるぞ。」

試しに手を出してみたが反応が悪い。

 ・・・噫然うか、此の手が(ソモソモ)見えていないのか。

 自分が(クロ)いから猶の事なんだろうけれど、此は一寸(チョット)面白く無いな。

「わ、分かった、じゃあ小さいの丈な、一寸(チョット)丈。」

小さく唱えると二柱の頭上に零星(ホシ)の様な小さな(ヒカリ)が現れた。

 変わる事無く停滞している。可也安定面があるな。

 一寸(チョット)光源が小さ過ぎる気もするけれど・・・まぁ良いか。

「っと、セレこんな近かったのか・・・本当全然見えなかったぜ。」

ぱっと周りが見える様になって一瞬彼の身が跳ねた。

「足元も気を付けてくれ。穴だらけだからな。」

「わっ本当だ。畑・・・とかじゃなさそうだな。」

不規則に無数にある穴。拳一つ位の幅だけれど・・・。

「あ、セレ、姿はその、大丈夫か?晒とかしてないけど。」

尾も翼も惜しみなく出している。

 何方(ドチラ)も大きいのに周りの闇の所為で直ぐ溶け込んでしまうな。

「噫問題無い。此の次元には人間が居ないみたいだからな。代わりに、彼等が居るけれども。」

六つの目が細められ、小さく彼女は笑った。

 まぁ確かに、彼女が窮屈な思いをしないなら出した方が良い。

 でも彼等って・・・。

 セレの笑顔に安堵しつつも、首を傾げていると小さな地響きがした。

 其を不審に思うのも束の間。

(ヒカリ)(ヒカリ)!―

―わーい小さな紅鏡()だ!―

(ヒカリ)を!もっと頂戴!―

―此方だ此方、―

―早くっ、早く行かないと!―

「なっ、何だ此の声⁉」

怒涛のテレパシーの波が二柱に流れ込んだ。

「っガルダ、足元に気を付けてくれ、多分穴の所に、」

「あ、穴・・・?」

一、二歩ガルダが下がった時だった。

(ヒカリ)ある?―

挿絵(By みてみん)

すると突然、二柱の間の穴から一匹の生物が飛び出して来た。

 其は膝位迄の大きさの蛇の様な、いやチンアナゴに近い生物だった。

 全身薄翠色で首の下から腹に掛けて、まるで鈴蘭の様に(シロ)い小さな華の様な物が付いている。

 其の生物は二本の長い耳を上げ下げして二柱を見上げていた。

 いや、正しくは二柱の間の上旻(ジョウクウ)にある(ヒカリ)を。

(ヒカリ)(ヒカリ)だ!凄い凄い!―

(ツブ)らな瞳をキラキラと輝かせて不思議なダンスを踊り始める。

「何だ此・・・攻撃はして来ないっぽいけど。」

「恐らくサマナスが言っていた奴だな。」

―本当⁉本当なの!―

―凄い!御手柄!―

―急がなきゃ!此のビッグウェーブに!―

其の間も次々とテレパシーは続き、周りの穴からひょこひょこと例の生物が出始めた。

そして皆(ヒカリ)を見ては嬉しそうに踊っている様である。

 見渡す限り()の生物で一杯だ。百、二百なんて物じゃない。

「な、何なんだ一体⁉」

「ガルダ、下丈じゃあないみたいだぞ。」

セレがちらと頭上を見上げるので真似たが、変わらずの暗闇だった。

「見えないけど・・・若しかしているのか?」

「噫、沢山集まって来ている。魚みたいなのが沢山な。」

(ヒレ)が大きくてドレスの様な小魚や、木の葉の様な群、葉と根をくっ付けたかの様な三つ目のマンタに、口が華の様に咲いている海豚・・・。

 まるで瀛海(ウミ)の中に居るかの様に色取り取りの魚に似た生物が、気付けば自分達を取り囲んでいた。

「こ、こんなに居るって聞いてないぞ!」

「噫、本当に、凄い数だ。」

矢っ張り一族って相当な数だったんじゃないか!

 ()のサマナス・・・全然大した事無さ然うに言っていたが、此丈死滅するのは相当だぞ。

 普通に大事件だし、此も全て黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の所為なら矢っ張り動かない訳には行かないな。

 其に彼等の言葉から大体の事情は分かった。

 放って置けば、彼等は数日で死んでしまう。そんな瀬戸際だ。

「な、なぁセレ、矢っ張り此奴等って・・・龍、なのか?」

「だな。群緑(グンリョク)と言う龍だ。一寸(チョット)思い出すのに時間は掛かったが。」

「へぇ。初めて聞いたな。じゃあ上に居るのは何なんだ?」

自分の目には見えないけれども、沢山飛び交っているんだろう。

 ・・・(ヒカリ)毎食べようと襲って来なければ良いけど。

「ん、噫説明不足だったな。上の奴も足元に居るのも、全て同じ群緑と言う龍なんだ。彼等は中々独特な生態をしているからな。」

「え、全然違う姿してるぞ・・・。」

暫くすると何匹かの群緑が(ソラ)から降りて(ヒカリ)に集まって来た。

 ぱっと見熱帯魚に似ているだろうか、足元のチンアナゴ擬きと似ても似付かないけど。

 此が同じ生物とは一寸(チョット)思えない。

 然う()うしていると次は蟹に似た個体も現れた。

 共通点が最早碧っぽいって事位だ。

「群緑は・・・何て言ったら良いんだろうな。見えない瀛海(ウミ)の様な空間、現象みたいな物なんだ。其の空間の中で様々な形の生物が生まれるが、其を全て(マト)めて一頭の群緑とする然うだ。」

「う、ううん、何だかややこしいな・・・。」

「一応群緑の中の生物の比率は絶対に一定になるらしい。そして弱肉強食ではなく、皆(ヒカリ)で光合成をして生きている。魚と植物が融合した様な生物なんだ。」

「へぇ本当に変わってるな。じゃあ動く時は皆一緒に動くんだな。(ヒカリ)丈で動く水族館って事か。」

群緑は自分達に目も呉れず、(ヒタスラ)(ヒカリ)に集まっている。

 愛おしそうに只(ヒカリ)を見ている丈で、大人し然うだ。

「水族館・・・成程良いな。そんな具合なんじゃないか?でも今此の次元は見ての通り、真黔(マックロ)だ。だから・・・。」

「分かったぜ。(ヒカリ)が欲しいって事か。うーん、()の依頼龍、ちゃんと其処迄言って欲しかったな。」

「全くだ。私一柱じゃあ不可能だったからな。紅鏡()は壊せても創る事は出来ない。」

「え・・・壊せるのか?」

「ん、頑張れば出来るんじゃないか?自分の力は自分が一番信じないと。干渉力ってそんな物だろう。」

「まぁ・・・御前なら出来そうだな。」

出来るって言い切れる所も又、彼女の(ツヨ)さなんだろうなぁ。

 諦めない力と言うか・・・屹度前世とかで生き抜いて来た事実こそが大きな力になって返って来ているみたいな。

 其で言えば紅鏡()を創る事は出来ないとはっきり彼女が言う事は、破壊に全力を注ぐと言う意思表示なんだろう。

 全てが曖昧に出来るとは言わず、本当にやりたい事丈は徹底的に信じて。

 屹度彼女が此処最近一気に力を付けて来たのは然う言った懐いも、あるんだと思う。

「・・・って然う言えば俺も別に紅鏡()が創れるとかそんな事無いぞ。」

「でもガルダの光魔術は凄いじゃないか。此を其の(ママ)大きくしたのを創れば良いんじゃないか?」

「魔術初心者みたいな事をあっさり言わないでくれよ。そりゃあ魔力を籠めたらそれなりに大きくはなるだろうけど、維持するのが大変だし、ずっとは持たないぞ。」

「然うなのか?ガルダは魔術も(ツヨ)いし、ガルダみたいに紅鏡()が再生する様になれば持つんじゃないかって思ったんだ。」

まさか、本気で出来るだろうと持ち掛けられると思っていなかった。

 そっか、セレにとって紅鏡()ってそんな感覚なのか。頑張ったら手が届く範囲の物なのか。

「んー・・・其でも矢っ張り俺には厳しいかな。」

―若しかして此創ったの貴方?―

考えていると突然足元のチンアナゴみたいな群緑が声を掛けて来た。

 其を皮切りに周りに居た者も此方に注目する。

 屹度先迄(ヒカリ)が欲しくて仕方なかったんだろう。

 興味津々に、そして期待の籠った目で静かに見守っていた。

 ゔ・・・言い難い、言い難いけど、でもはっきり言わないと。

「創ったのは一応俺だけど、此そんなに持たないし、そんな量産出来ないから、あの、」

―凄い!美味しい(ヒカリ)有難う!―

―助かったぁ、先動くのも辛かったから。―

―明るいの、良いね!―

群緑達がガルダを取り囲み、囃し立てる。

 一気に近付いて来たので思わずガルダは数歩下がって手を上げた。

 然うか、リュウの家に行った時の自分はあんな具合だったのか。

 戸惑うガルダを見遣り、思わずセレは苦笑を漏らす。

「う、あ、あの、喜んでくれている所悪いけど、」

言い掛けた所で鮫に似た群緑が近付いて来たので思わず彼は口を噤んだ。

 だが鮫の群緑は二ッと口角を上げると片鰭(カタヒレ)を上げた丈だった。

 ・・・弱肉強食な生物では無い事は本当みたいだ。

「えっと俺、そんな大した事出来なくてさ。そんな此一杯創ってやれないんだ。だから別の次元に早く皆で行った方が良いぜ。」

(ヒカリ)が無いと彼等は生きて行けない。

 次元の主導者(コマンダー)の気配も探れないし、多分此の次元はもう・・・。

 だったら助けられる奴丈でも何とかしないと。

 ・・・セレの所為で死んだ、とかそんなの嫌なんだ。

 まぁでもそっか。彼等が此処に居たと言う事は、此の次元には紅鏡()なのかは知らないけれど、(ヒカリ)があったと言う事なんだろう。

 其を恐らく・・・セレが壊してしまった。

 其丈の力を、セレは持っていたんだ。

―ん、何だ此処、騒がしいな。―

もう全て出て来たと思ったのに、チンアナゴに似た群緑達が出て来なかった穴からヒョコヒョコと此又小さな生き物が這い出て来た。

 掌サイズより一寸(チョット)小さい位の鼠に似た生物である。其が何十匹と色んな穴から出て来て集まった。

 鼠は躯が焔に包まれていた。小さな火の玉に手足が生えた様な姿をしていたのだ。

 尾が独特の鉤状になっており、集まってはチーチーと鳴き交わしている。

挿絵(By みてみん)

「おぉ、此は一寸(チョット)珍しいな。」

「セレ、流石に此奴等は群緑じゃあないんだろ?」

「噫、彼等は別種の火鼠と言う龍族だな。まさかこんな所に棲んでいるなんてな。」

「火鼠?其って(アレ)か?物語とかに出て来る火鼠の皮衣とかって言う・・・、」

―やい兄ちゃん!恐ろしい事を言わないでおくれよ!―

「え、あ、ご、御免な。」

「まぁでも一応其で合ってるぞガルダ。彼等は最初から燃えているんだ。燃えない衣ではなくな。」

―おう、ずっと燃えている衣なんか要らないだろ、普通。―

「然うだな。其の(ママ)の方がずっと可愛いし・・・。」

セレがしゃがんで見ていると一匹の火鼠が不思議そうに近付いて来たのでそっとセレは捕まえてみた。

 両手で掬ってみる・・・温かい、火傷する事も無いが、此は彼等が加減してくれているのだろうか。

 そして手触りは・・・極上だ!

 何だろう、焔の躯の所為か撫でても余り感触が残らない。

 只するりと絹の様な手触りがあったかと思うと温かさ丈が残るのだ。

「す、凄いっ!ガルダ凄いぞ!新しい感覚だ・・・何だ此のモフモフは!」

火鼠は大人しくしてくれているので存分に撫で回す事が出来る。

―姉さん私の事好きなの?―

手の隙間から火鼠が顔を出して鼻先を向ける。

 噫もう、其の仕草も全て完璧だっ!

「大好きだっ!連れて帰りたい位だっ!」

「セレ・・・すっごい率直だな。」

随分興奮している様子である。

 実はモフモフに出会う迄、ガルダはそんな彼女を見た事が無かった。

 まぁ前世の次元に動物なんて(ホトン)ど居なかったし、機会が単純に無かった丈なんだろうけれども。

 あ、でも然う言えば昔セレは猫を飼っていたんだっけ。

 飼っていたって言うと怒るけど、まぁ一緒に居たんだ。

 うん、彼女があんな嬉しそうにしてくれるなら、良い事だ。本当に。

―あーずるい、僕もナデナデされたい!―

―物好きな神だなぁ。俺達みたいなのを好むとは。―

気付けばセレの周りには火鼠達が集まっていた。

 彼女に燃え移らないか一寸(チョット)心配だけど・・・まぁ其位(ワキマ)えてるよな。

「然うか、嫌われ者同士大変だな。」

火鼠は大概害獣として扱われる。

 性質は普通の鼠と同じなので、家だとかを燃やしてしまう事があるのだ。

 毛皮は基本ずっと燃えるので乱獲もされるし、彼等も屹度人間が嫌いなのだろう。

 因みに好物は甘い物で、金平糖だとかを齧るらしい・・・絶対可愛い奴だ。

 群で暮らしているが、怒らせると集まって大きな焔の獣に変化するらしい。然う言った力を持つ龍族だ。

「セレ、あの御楽しみ中悪いけど、先に此奴等を如何にかしないと。」

大丈夫だとは思うけど一応軌道修正しないと。

 彼女はモフモフの事になると見境が無くなってしまう。

「確かに然うだな、済まない。火鼠達も又後でな。」

―おう、何か分からんが頑張ってくれよ。―

火鼠達はセレから離れると近くの群緑から話を聞いている様だった。

 気付けば期待の籠った目で群緑達が自分達を見ている気がした。

 多分大体の事情を察したのだろう。

 ・・・けれども悪いが自分は救世主ではなく、破壊神なのだ。

「済まないな。此処が棲み易かったんだろうけれども、移住をさせてしまって。」

伏し目勝ちにセレが言うとチンアナゴに似た群緑は首を傾げた。

「私が此処の(ヒカリ)を壊してしまったんだ。私が創れれば一番良かったんだけれど。」

―然うなの。まぁ壊しちゃった物は仕様が無いよ。次は気を付けてね。―

「ん・・・ん⁉其の程度か⁉え、今困ってるんじゃないのか、死ぬ程、」

―うん、此の(ママ)だったら死んじゃう所だったよ。―

あっけからんと言う群緑にセレは大きな溜息を付いた。

 何だか遣り難そうだ。彼女には屹度理解出来ない考えなのだろう。

 矢っ張り龍達の感性って独特だな、俺達と全然違うと言うか。

 責められたいと言う訳じゃあないけれども、何も無いのは気持悪い、みたいな。

「・・・ガルダ、出来れば一寸(チョット)大きな光を創ってくれないか?魔力が必要なら幾らでも出せるから。」

「え、う、うーん・・・。まぁ・・・其でセレの気が済むなら。」

只の術なのだから何時かは消えてしまう事も、セレは承知の上なのだろう。

 其でも屹度彼女は放っとけないんだ。

 自分に害を為さない彼等に、自分と同じ受身な存在の彼等に何かを返したいと。

 自分が一方的に奪う丈で終わるなんて、彼女のプライドが(ユル)さないのだろう。

「有難うガルダ。あ、でも無理はしないでくれ、程々にな。」

「其は此方の台詞だって。セレも、ぶっ倒れるの丈は勘弁してくれよ。」

一つ息を付いてガルダは片手を高く掲げた。

 集中して・・・一気に放つ!

「煌輝瓊!」

ガルダの手から小さく輝く球体が放たれた。

 其は一気に旻高(ソラタカ)く上り、段々と(ヒカリ)が激しくなって行く。

 そして其の(タマ)とガルダを繋ぐ一本の(イト)が結ばれた。

 此で離れても魔力を送る事が出来る。

 万が一、セレに当たってもいけないし、此の位離れている方が良いだろう。

「ガルダ、私の魔力も頼む。魔力達を経由して送ってみるから。」

「あ、噫・・・っ⁉」

途端其迄の比じゃない重圧が()し掛かって来た。

 魔力のうねりがはっきりと、息が出来ない位濃密な魔力。

 まさか、此がセレの魔力なのか、こんな渡したら本当にぶっ倒れるんじゃあ、

 心配になってちらと振り返ったが、別段彼女に変化はなかった。

 大丈夫・・・然うだ。でも何だ此の魔力。

 勁過(ツヨス)ぎる、ポイッと他神(タニン)に渡す力なんかじゃないぞ。

 下手したら此の魔力の所為で暴走し兼ねない程だ。しっかり制御しないと。

 (ソモソモ)こんな魔力の渡し方なんて初めてだ。

 しれっとしてくれたけれども然うか、魔力達が俺とセレの魔力を変えやすい様に繋いでくれているんだ。

 セレの魔力も加わった事で一気に(ヒカリ)は大きくなった。

 もう正視出来ない程に、大きく膨らんで行く。

―す、凄い、紅鏡()だ!―

―こんな物、創れちゃうなんて。―

―頑張れー!―

(ヒカリ)が大きくなるに連れ、群緑達の掛け声も大きくなる。

 そして闇も少しずつ晴れて来た。

「っ・・・こんな風になってたのか。」

「ん、やっとガルダにも見えて来たか。凄いな、何て言うか・・・綺麗だ。」

セレの声に知らず頷く。

 闇が無くなって来た事で飛び交う群緑達の姿も少しずつ顕になって来たのだ。

 まるで、瀛海(ウミ)の中に居るのかと錯覚してしまう程の、群緑の群がうねり、泳いで行く。

 噫、本物の紅鏡()があった時は何程(ドレホド)幻想的だったのだろう。

挿絵(By みてみん)

「良し、セレ、もう大丈夫だ。」

でも此を本物の紅鏡()にしてはいけない。制御出来なくなってしまうし、此の辺りで止めないと。

 そっとセレが離れたので自分も術を結びに掛かる。

 ・・・あれ、

 術が、止まらない?否、(ムシ)ろ加速している様な、

 自分はもう魔力を止めている。其なのに(ヒカリ)はどんどん大きくなって行った。

「・・・ガルダ、余り無理はしないでくれ。もう十分だろう。」

「あ、噫分かってるんだけど、」

止まらない、止められないんだ。

 力が、勝手に、俺の生命力みたいに。

 焦りが顔に出ていたんだろう、怪訝そうな顔を彼女は浮かべた。

―何創ッテルノ?―

―貴方モ何カ創ル事アルンダ!―

魔力達か。

 付いて来ている事は分かっていたけれども、彼等も何か感じ取ったみたいだ。

 然うだ、彼等なら術を如何にか出来るかも知れない。

―済まない、一寸(チョット)ガルダに声を掛けてくれるか?何か此の術・・・不味い気がする。―

本能だろうか。目の前で大きくなりつつある紅鏡()に嫌悪感を抱いてしまう。

 少しでも離れたい、此は危険だ。

―モシモーシ、オーイモシモシー?―

―ネェ聞コエテルー?無視シナイデヨー。―

―・・・何ダカ反応ガ無イヨ?ト言ウヨリ何カ・・・、―

違和感、然う。自分も似た物を彼に抱いたんだ。

 ガルダは只紅鏡()を見詰めていた。焦った様な、何処か達観した目で。

 魔力の声が聞こえない、其が原因で考えられる事は何だ。

 (ソモソモ)ガルダに魔力の声が届いたのは自分の魔力と彼の魔力を調べて合わせたから。

 其が今は出来なくなっている。つまりガルダの魔力が・・・変わっていると言う事。

 魔力なんて然う変わらないだろう、個性みたいな物だ。

 じゃあ今自分の目の前に居るのは誰だ、本当に・・・ガルダなのか?

 セレの懐疑な六つ目に見詰められ乍ら、ガルダの意識は朦朧として来ていた。

 輪郭しかない(ヒカリ)の様に曖昧に、一体自分に何が起きているんだろう。

―ヒャハッ、随分と楽しそうな事してるよなぁ。―

―っ何で御前が、―

自分の中に響く声、自分のと良く似た声。

―何で、呼ばれる迄寝てるんじゃなかったのかよ。―

セレを傷付けたこんな奴と話す事なんて無い、其もこんなタイミングで。

 いや・・・まさか、

―そりゃあこんな魔力だだ漏れすりゃあ嫌でも起きるだろ。なぁ、面白ぇ事してんじゃねぇか。手伝ってやろうか?―

―い、要らない御前の助けなんて、―

―ヒャハハッ素直じゃねぇなぁ。良いか、今吾が引いたら此の光は暴走して全て壊すぜ?其で良いのかよ。―

―何が手を貸すだよ、自分で仕組んだ癖に。―

奴の声が、甘言を吐く蛇みたいに絡み付いてくる。

 もっと早く気付けば良かった。術がこんな巨大化したのは此奴の所為だっんだ。

 勝手に魔力を暴走させて、俺から奪ったんだ。

 彼奴とは・・・セレを傷付けられてから一切話していなかった。

 絶対に(ユル)さないって、未来から来たとか知らないけど勝手な事するなって。

 こんなのが未来の自分だなんて、本気で信じたくなかったんだ。

 でも、力は本物だ。俺なんかよりずっと(ツヨ)い。

 其でもこんな事をして来るなんて、只の邪魔者でしかないじゃないか。

―仕組んだ?神聞(ヒトギ)きが悪いぜ。吾は一寸(チョット)景気付けした丈だぜ。こんな力も扱えない程御前が弱いのがいけないんだろうが。―

「っ・・・。」

其は・・・反論出来ない。

 俺に力が無いから、セレは何度も一柱で行ってしまう。

 頼って欲しいって幾ら言っても、(ソモソモ)俺に頼られる丈の力が無かったら、

 ・・・助けてって、言ってくれないよな。

―ほらほら如何したんだよ。早く決めねぇと手前の後ろで助けてくれている奴の全身、穴だらけになるぞ。―

思わず背がびくついてちらと丈彼女を見遣った。

 不安そうな目を・・・悟られてしまっただろうか。

 彼女は一瞬丈目を見開いたが、直ぐ目を閉じて小さく頷いた。

 俺が彼女を殺す様な事なんて、あってはいけない。

―・・・、分かったから、じゃあ一寸(チョット)丈で良い。でも其丈だぞ、御前の勝手な復讐だとかに付き合う気は無いからな。―

―ハッ巡り巡って手前の為になるってのに強情な奴だな。まぁ良いぜ、今は気分が良いんだ。手伝ってやるよ。だから、―

一瞬、ガルダの背が震えた。

 何か・・・何か途轍もなく嫌な予感がするっ、

―其の躯、吾に寄越せ。―

ガルダが口を挟むより先に彼の躯が(ヒカリ)に包まれる。

 其の一瞬に一気にセレはガルダから遠退いた。

 六つの目がじっと、彼の姿を追う。

「確かに、御前達の言う通りだ。」

―矢ッ張リ!何カ変ダヨ!―

―気ヲ付ケテネ。―

「群緑達も出来れば少し離れてくれるか?此処は一寸(チョット)危ないかも知れないからな。」

―分かったよ。(ヒカリ)も可也届くし大丈夫!有難ね!―

―な、何だか分からないけど頑張って!―

群緑達も只ならぬ気配を感じたらしく、直ぐ様皆離れてくれた。

 さてと、如何しようか。可也不味い気配をガルダから感じる。

 嫌だなぁ。ガルダに敵意なんか向けたくはないんだけれど。

―っ、奴の気配を感じる。御前は下がれ、奴は我が、―

―其こそ血みどろになるから却下だな。―

丗闇も叩き起こされた様だ。まぁ前殺し合って以来だもんな。

 そして丗闇迄出て来る事で自分は確信した。

 今、自分達の目の前に居るのが、一体誰なのかを。

 前殺され掛けて以来か。

 (アレ)からずっと寝ていたのかは知らないけれど、まぁ偶には外にも出たくなるのだろう。

 相手をするのは(ヤブサ)かじゃあない。(ムシ)ろ聞きたい事が沢山あるからな。

 後は向こうが素直に話してくれれば良いんだが。

 セレが一つ溜息を付いているとガルダの姿が次第に変化して行った。

 茶色だった髪は(シロ)一色に染まり、少し丈長くなる。

 手足に純皓(ジュンパク)の毛が生え、少し服が裂けて行く。

 爪が伸び、尾や翼がぞろりと姿を現した。

 ()うして見ると彼は少し(バカ)りガルダより躯が大きいんだな。

 其は姿の変化に因る物なんだろうけれども。

 体格的には矢っ張り二柱は似ている。彼は、ガルダの未来の姿で間違いは無いんだと改めて思った。

―まさか一柱で相手する気か。危険過ぎる。前の仕打ちを忘れたのか。―

―忘れた訳ではないけれども彼奴も頭と口はあるんだし、そんな出会い頭に血塗れにはならないだろう。此処は一先ず私に任せてくれ。不味くなったら狭間にでも逃げれば良いんだから。―

―如何して一番の被害者がそんな楽観視出来るんだ。未だ死にたがり病は治っていなかったのか。―

―大丈夫だって丗闇、前のはほら・・・挨拶みたいな物だよ。―

―一刀両断されるのが挨拶等そんな巫山戯(フザケ)た話があるか!―

おぉ、丗闇様は御立腹だ。

 何だか随分過保護になっているけれども、余っ程前のが響いたみたいだ。

 (アレ)は自分の油断が招いた丈なのに。

 まぁ此以上彼女を怒らせてもいけないし、程々に真面目にやろう。

 ・・・一応自分だって緊張はしているんだよ。一体どんな一手を向こうは打つのか。分かっていないんだから。

―ほらほら、もう始まっちゃうから。丗闇は只見ていれば良いよ。―

―・・・もう鏡界に行くのは御免だからな。―

―じゃあ死なない程度に頑張るよ。―

釘を刺されちゃあ仕様がない。此処はしっかりしないと又説教コースだな。

 其にしても何で急に彼が出て来たんだろう。

 先迄ガルダは何処か焦っていた。

 ()の間に一寸(チョット)ずつ彼に乗っ取られていたのかも知れない・・・。

 別に彼に取って喰われたって訳じゃあないだろう。一時的な憑依位と見て良いと思う。

 前自分がアティスレイに乗っ取られたのと同じ位だろう。うん、嫌な懐い出だ。

 完全に乗っ取られる前に気付いてあげられれば良かったけれども・・・今更後悔した所で遅いな。

「よぉ、一直線野郎。」

目を合わせて来た彼は、もう自分の知る()の優しい瞳をしてはなかった。

 敵意と蔑みと・・・諦め、其等が混ざった様な複雑な(シロ)だった。

 そんな目をしているんだ。只暴れたいとかそんな理由で出て来た訳じゃあないと思うんだが。

 其にしても・・・、

「随分変わった渾名を付けてくれたな。」

と言うか初めてだ。由来も今一分からない。

 化物とか人殺しとかは良く呼ばれていたけれども、不思議な感覚だ。

 其にまさか憶えていたとは。(ホトン)ど一瞬しか接触していなかったから彼にとって自分はモブだと思っていた。

 若しかして・・・知らなかった丈で彼も自分達の事を見ていたりするのだろうか。

「然うか?ピッタリだろ。吾に単身で真っ向から真っ直ぐ考え無しに攻めて来たのは手前位の物だぜ。今も懲りずに吾の前に立ってるしな。」

「其方が勝手に出て来たんだぞ。其にもう光は十分だろう。そろそろ止めてくれるか?」

「言うじゃねぇか。御楽しみは此処からだろ。」

歪んだ笑みを向けられる。

 完全に馬鹿にされている。そんな風な嗤いだ。

 其の間も光はどんどん大きくなって行く。視界が何とも眩しい、波紋でも分かる程だ。

 大きくなるに連れ、自分の中で忌避と言う大きな本能が警鐘を鳴り響かせていた。

 光がガルダの手を離れてしまったからだろうか、(アレ)は敵だと、知らず四つの目が細くなる。

 噫、潰さないと。()(ヒカリ)を。

「今其の手を止めてくれたら御前と友達になれる気がするんだがな。」

「友達ぃ?ヒャハッ嗤わせてくれるぜ。手前みてぇな鈍間、此方から願い下げだぜ。」

「・・・本当に鈍間か、確かめてやろうか?」

同じ笑みを、セレが返した瞬間だった。

「っ、おいおい随分な挨拶じゃねぇか。」

丗曦が一瞬丈背後を見遣ると直ぐ様翼を広げた。

 大きく広げられた翼の影がセレに伸びる刹那。

 丗曦の右側の翼が一瞬で大きく欠けてなくなった。

 まるで何かに喰い千斬られたかの様に(エグ)られる。

 普通だったら飛べなくなる程の大怪我だ。だが血が数滴垂れた丈で見る見る彼の翼は再生して行った。

 瞬きの後に、もうすっかり完治していた。

 彼にとって即死以外は無意味なのかも知れない。

 治癒力がガルダの比じゃないと聞いていたけれども、確かに其の通りだな。

 傷付くと同時に、再生したみたいだったし。

―おい何をしている。―

―話に応じてくれそうも無かったからそっと無を投げて()の光を壊そうかなって思ったんだけれど、流石だな。翼で防がれたみたいだ。―

成る可くばれない様に静かに魔力達にアシストも御願いしたんだけれども。

 凄い、遥か未来のガルダは見えない筈の無でも対処出来てしまうのか。

―そんな挑発なんかして、御前は何を考えてるんだ。―

うーん、丗闇の目が厳しい・・・別に自棄になったとかそんな事は無いんだからもう少し信用して欲しいな。

―ククッ、然うだな。先の渾名が気に入ったから其の御返しでもしようかな、なんて。―

―だから御前が敵う様な奴じゃないと言っただろう!―

―あーぁ、そんな事言われちゃあ俄然やる気が出るじゃないか。―

丗闇に無理だなんて言われちゃあもうやるしかない。

 (クツガエ)したくなるんだよ、そんな事実。

―其に前彼奴は丗闇においたをしたみたいだし、其の御仕置き位はしないとな。―

―っ・・・。―

何か詰まった様で其限丗闇は黙ってしまった。

 一応、認めてくれたのかな。

「・・・何か先の奴、見た事ある・・・いや、喰らった覚えがあるな。」

「無って言うんだ。何か懐い出せたか?」

「ハッ、相変わらず手前の事なんて1mmも懐い出せねぇがな。」

「うーん、其は何か淋しいな。」

自分の事は憶えていないのに殺したい丗闇の事は憶えているのか。

 何だか、複雑な気持だ。

「じゃあ心置きなく御前をぶっ殺せるな。」

私の事を憶えていないなら、私が御前に返す物は無いよ。

 其に私は可也、根に持つタイプだ。

 あんな悪口言われたの久し振りだし、随分舐められているみたいだから、一寸(チョット)痛い目、遭わせてやりたいんだよ。

―可也本気を出すぞ。御願いだ皆、サポートを頼む。―

―任セテヨ!―

―彼奴ニ目ニ物見セテヤロウヨ!―

噫、其の意気だ。

 此処は次元だ。死ぬ気で行った所で未だ取り返しは付く。

 ・・・丗闇の説教覚悟で行こうか。

「ハッ、前一撃で()されたへなちょこが()の口ほざくんだか。」

丗曦が口を歪めて嗤った瞬間にセレは大きく跳躍した。

(ネガ)うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」

魔力の流れを逃すな。彼等と一緒に唱えろ。

慈紲星座(リキラツノマイ)!」

刹那、(ソラ)一面に蒼い零星(ホシ)が瞬いた。

「っ・・・。」

此の数は矢張り厳しいか。百以上一度に(チリバ)めたからな。

 加えて此からする事は繊細な魔力操作が必要だ。しっかりと此の目で見ないと。

“ほら、星旻(ホシゾラ)の完成だ。”

「え・・・、」

(ソラ)を見て一瞬、丗曦の顔が固まった。

 まるで、有り得ない物を見ているかの様に。

 ・・・?確かに可也魔力を使っているけれども、彼がそんな驚く物だろうか。

 其方が持ってる光の方が魔力が高い位なのに。

 まぁ、先みたいに馬鹿にされるよりはずっと良い。

 見た事が無いと言うのなら、対処も遅れるだろう。

「さぁ堕ちろ、舞え、踊れ。」

言い聞かせる様に零星(ホシ)に唱えると、一気に星々は流星群の様に振り注がれた。

―ワーイ特攻ダァ!―

―綺麗、一緒ニ行ク!―

魔力達が幾つかの零星(ホシ)を持って堕ちて行く。其の零星(ホシ)丈丗曦を狙って角度を変えた。

 敢えて武器化しない事で無数の小さな刃とする。

 操る為に使う魔力は膨大だが、自分にしか出来ない大技だ。

 さて、此の天変地異を、彼は如何乗り切るだろうか。

「・・・こんな安らげない星旻(ホシゾラ)なんて、初めてだ・・・だっけか。」

ぼそりと呟いて丗曦は一気に身を屈めた。

 流星は地面擦れ擦れ迄堕ちると急に角度を変え、地を這う様に縦横無尽に駆け出した。

 其の間を魔力達が通ると、反応して零星(ホシ)零星(ホシ)の間に魔力の(イト)が張られる。

 術者の自分ですら全てを把握し切れない程の無数の連鎖反応だ。

 目で見て反応出来る様な物でも無い筈。此で一気に追い詰める。

 零星(ホシ)同士がぶつかって小さな魔力の欠片が辺りに飛び散る。

 其等が小さく瞬いて複雑に絡み合う。

 丗曦は直撃は免れていたが、小さな斬り傷を幾つも全身に入れていた。

 此位、(カワ)してくれるんだろうなと思ったのに、所か何処か見惚れた様な様子で零星(ホシ)達を見ていたのだ。

 反撃する訳でもなく、一体彼に何が見えていると言うのだろう。

 ・・・やる気がないなら、此方から一気に攻める迄だ。

 魔力の全体の流れを損なわない様にそっと向きを変える。

 本の小さな変化で、零星(ホシ)達は丗曦を狙う様に一様に方向転換をして突っ込んだ。

 途端其迄飾りの様に一切動かなかった翼を羽搏(ハバタ)かせて彼は(ソラ)へと逃れた。

 其の後をジグザグに走り乍ら零星(ホシ)達が切り刻まんと追って行く。

 ・・・魔力を操っていると時折小さな眩暈に襲われる。

 最近得た新しい技丈あって未だ精度が取れないのだ。

 未だ、扱い切れていない。消費する魔力が異常に大きいのだ。

 噫やって逃げられ続けたら先に魔力切れで此方がダウンしてしまうな。

 だったら此処で撃ち堕とすしかないな。

 幾つかの零星(ホシ)(マト)って丗曦の元迄飛び掛かる。

「ヒャハッ見掛け倒し丈の大技しか使えねぇのかよ。」

「全部(カワ)してから其の台詞は言って欲しいな。」

無防備な奴に向け、尾を振り回してぶつけてやる。

 二股の尾が丗曦の翼に絡み付き、締め上げる。

 甲が刺さり、自分を廻る零星(ホシ)に因って翼が千斬れてバラバラに羽根が散る。

 其の(ママ)尾を振るって左翼も斬り裂いた。

 丗曦の上体が傾いだ瞬間に、奴の胸元に手を突いた。

 翼を畳み、一気に急降下する。

 零星(ホシ)瀛海(ウミ)へ此処から突き堕としてやる。

 此で・・・終いだ。

 蒼い零星(ホシ)達の中へと其の(ママ)ダイブする。

 無数の見えない刃、其等は自分を避けてはくれるけれども敵は別だ。

 張り巡らされたワイヤートラップの様に、容赦なく零星(ホシ)が丗曦の全身を斬り刻んだ。

 頭も、腹も、手足も全て関係ない。

 再生するのなら破壊し続けてやる。痛みで再生する気も失せれば良い。

「ハァ・・・大人しく喰らってやったのに此の様かよ。」

突然丗曦に掛けていた腕を掴まれる。

 其の腕だって零星(ホシ)に因って何度も骨毎貫かれたり肉を喰い千斬られているのに力は全く衰えない。

 そして上体をぐいっと一気に起こして来た。

 零星(ホシ)に喰われ乍らも奴は歪んだ笑みで嗤っていた。

 幾ら目を潰しても、脳を引き千斬っても、頬骨を砕いても、奴は・・・嗤っていたんだ。

「矢っ張り見掛け倒しじゃねぇかよオイ。」

「っ・・・、」

想像以上の再生能力だ。

 未だ其丈話せると言う事はダメージが残る前に回復していると言う事だ。

 押し切られている、自分の力が、こんな出鱈目(デタラメ)な再生能力に押されているっ、

「なぁ、折角なんだからもう一寸(チョット)ド派手に行こうぜ。」

途端奴の全身が(シロ)く輝く。

 掴まれていた腕が焼ける様に痛い。

 不味い、此はっ!

 セレが飛び退こうとした瞬間、丗曦の躯が(ヒカリ)と共に爆散した。

 セレの躯は大きく吹っ飛び、受身も取れずに背中から地面へ叩き付けられた。

 叩き付けられた衝撃で肺の空気が空になる。

 息が出来ずに彼女は小さく呻いた。

 軽い分、あっさり吹き飛ばされてしまった。

 ()う言う時、体重が無いのは不便だな、全く踏ん張れなかった。

 まぁ(ヒカリ)が届く前に吹き飛んだ御蔭で全身が蒸発したと言う事態は防げたけれども。

「うぐ・・・けほっ、全く、とんだ暴れ馬だ。」

―だから言っただろう、御前一柱じゃあ無理だ。―

「そんなはっきり言わないでくれよ丗闇、未だ手はあるんだからさ。」

―っ・・・、そんな(タチ)の悪い冗談は止めろ。―

(タシナ)められてしまった。別に冗談のつもりじゃあなかったんだけれど。

 一つ息を付いて(ユック)り立ち上がる。

 良くないな、此は歩くのも難しそうだ。

 丗曦の自爆とも取れる爆発の所為で全身焼けてしまっている。

 光は矢っ張り自分にとって猛毒だ。此の甲ですら防げないと言うのなら全く自分は光に対する抵抗を持っていないと言う事なのだろう。

「へぇ、未だやる気みてぇだなぁ。」

何事も無かったかの様に丗曦は嗤っていた。

 先の爆発で四肢が吹き飛んだだろうに、全くダメージになっていない。

 成程な、直ぐ再生しちゃうのだからあんな風に自分の躯を資本として術を使う事も出来るのか。

 何て荒業だ。彼にしか出来ない芸当か。

 一寸(チョット)想定外だったな、ガルダと違って随分アクロバティックな戦い方をする。

「ほら忘れ物だぞ。」

厭らしく嗤って丗曦は手に持っていた()を投げて寄越した。

 (クロ)い液体を散らし乍ら其が自分の足元へ落ちる。

 全く、もう少し丁寧に扱って欲しい物だ。

 此は自分の、左腕なのだから。

 先丗曦に掴まれた(ママ)爆発に巻き込まれたので真っ先に此方が千斬れてしまったのだ。

 こんなに甲が生えているのに・・・千斬れるなんて、初めてだ。

 一番光の影響を受けて其の甲ももう(ホトン)ど無いし、何なら指が何本か欠けているんだけれども。

 多分此、本来は形すら残っていないダメージだった筈。辛うじて残っていると言う事は若しかしたら丗曦が(ワザ)と腕の形丈残したのかも知れない。

 酷い嫌がらせだ。無くなるより、ぐちゃぐちゃにされている方が酷く写るからな。

 正直滅茶苦茶痛くて叫びそうなのを堪えているんだ。

 だって何か・・・此奴の前でそんな姿を晒したくない・・・。

 別に腕は返してくれなくても良かったけれどな、其は其で使い道あったし。

 でも返してくれるのなら戻そうか。

 心臓が無くても血は巡っているから出続けてしまう。

 失血死なんてつまらないし、程度は見極めないと。

「神から取って置いて忘れ物とは良く言ったな。」

「へぇ、未だ元気そうじゃねぇか。じゃあ次は首を盗ってやろうか?」

其は自分を黙らせたいと言う意味なのだろうか。

 さて如何だろうな。前は不覚にも頭を撃ち抜かれたらあっさり死んじゃったけれども。

 今は自覚もしているし、Aの所で自分の躯の性質も分かった。

 頭が無くなったからって、個々の細胞の頭迄無くなった訳ではない。

 だったら無くても多少なりとも動ける筈。

 只確証は無いし、不利になるのは事実なので(ワザ)とやらせはしないけれども。

 相手の意表を突けるかも、其位の認識で良いだろう。

 そっと腕を拾って千斬れた所に付けてみる。

 前丗闇達がしてくれたのと同じ方法なら大丈夫な筈。切断面が光の所為で寸々(ズタズタ)だけれども此で、

 まぁ光にやられて此の様じゃあ盗られた頭が喋った瞬間蒸発させられそうだけれどな。

 今は此方に集中しているからか紅鏡()はもう大きくなっていないけれども、(アレ)が若し命中すれば自分は跡形もなく消え去るだろう。

 幾ら細胞で動けたって、血に意思があったって消されたら其迄だ。

 暫く然うしていると腕の感覚が戻って来た。

 (ユック)り意識すると指も動く・・・良かった、ちゃんとくっ付いたんだ。

 斬られた所も前みたいに(クロ)い膜みたいな物で繋がっている。

 恐らく此は血が結晶化する要領と同じなのだろう。うん、便利な躯だな。

 要らない激痛も御負け付きだけれども、此(バカ)りは仕方ない。

「お、何だ未だ楽しめそうじゃねぇか。じゃあ次は十五分割だな。」

十五って・・・頭と腕と足と翼と尾?

 酷いな、何とも運び易くて死体遺棄が簡単だ。

 いや(ソモソモ)遺棄なんて其の光の(タマ)に投げ込んだら終わりじゃないか。(ムゴ)い話だ。

 其に痛いのは初めから御断りだ。自分丈がやられるのは楽しくない。

 と言うより丗曦って本当にガルダなのかなぁと疑い始める此の頃である。

 いやぁ割と自分は信じてる派だったけれども、こんな普通に襲われちゃあ何だかなぁと言う気もしてしまう。

 二柱が必死に違うと自分に言って来た理由が一寸(チョット)分かって来た。

 普段の彼が優し過ぎるからと言うのもあるけれど、認めちゃうとつまり今の自分はガルダと戦っている事になる。

 矢っ張り其は一寸(チョット)悲しい。然う思う程度の情は流石に自分だって持ち合わせている。

 ガルダがこんな狂暴な訳ないよとか、腕千斬って嗤う奴じゃないよとか、然う言った燻った気持。

 だから今丈でも、彼奴を単にむかつく敵って思って戦いたいな。幸いそんなそっくりって程じゃないんだし。

 二柱をしっかり分けて・・・しっかり自分を持って。

 屹度ガルダ自身もこんなの不服なんだろうし・・・うん、彼の為にも頑張ろう、然う心の整理を付けた方が良い。

「一つ聞くが、御前を殺したら今のガルダに影響が行かないよな?」

「ハッ随分大きく出るじゃねぇか。其も散々やった後によぉ。安心しろよ、そんな事考える必要もねぇ。そんな事、実現しねぇんだからな。」

「御託は良いから答えろ。」

六つの目が細められて獲物を狙う様に(クラ)く光る。

 鼻を鳴らして彼は真っ向から其の眼光を受けた。

「何だよ生意気な目ぇしやがって。此丈痛め付けても分からねぇって事は・・・手前本物の馬鹿か?全くこんな・・・、」

言い掛けた所で突然丗曦の頭が消し飛んだ。

 だが瞬きの後にもうすっかり再生してしまっている。

 折角なので一寸(チョット)無を投げてみたけれども・・・成程な、只頭を飛ばす丈じゃあ回復するのか。

 ガルダは即死したら死ぬと言っていたし、喰らうかと思ったけれども。

 本気で完全に消滅させないと彼は死なないのかも知れないな。

「オイオイ本当に影響があったら如何する気なんだよ。」

「じゃあ無いんだな。」

其の言い振りだと恐らく同じ(タマシイ)を使っているって丈で丗曦とガルダは別みたいだ。

「こんな強引なやり方する奴がいるかよ。ま、然うだぜ。此の躯は吾の光で無理矢理存在を創った物。御前のだーい好きな彼奴は無傷だよ。」

「然うか、其が聞けて良かったよ。」

万が一があるからな。苛立(イラダ)ちに任せて全部壊しちゃったら大変だし。

 此で心置きなくやれるな。

「・・・何かやる気十分って顔してるけどよ。御前何か勘違いしてねぇか?若しかして昔の吾が甘っちょろいから吾も若しかしたら優しいんじゃないかって思ってるなら見当違いも良い所だぜ。」

「ん?違うのか?」

むかつきはするけれども・・・本質は然う変えられない。

 (ムシ)ろ時間丈で変われたら、大したものだと思うよ。

「オイオイ当たり前みてぇに随分あっさり信じてくれるじゃねぇか。若しかして前やられたショックで忘れたんじゃあねぇだろうな。」

何とも呆れた風に彼は溜息を付いた。

 其でも・・・先自分がした様な不意打ちはして来ない。

 話してくれるなら其で十分、自分にとっては誠実だと思うんだがな。

「忘れていないから今やり返しているんじゃないか。其でも十分御前は甘いし、邪魔者だなんて私は思ってないぞ。」

いよいよ丗曦は気味の悪い物を見る目付きになった。

 ・・・そんなに理解出来ない話だろうか。其とも気付いていない丈なのか。

「だって過去を変える為に、御前は来てくれたんだろう?私だったら御断りだな。そんな過去に行ける力なんて手に入ったなら世界を盗りに行くよ。初まりの時に遡って全てを手に入れるよ。」

「・・・其は手前が屑って丈じゃねぇのかよ。」

「心外だな。私は生き残るのに全力になっている丈だよ。」

―・・・いや、奴の意見も(アナガ)ち間違いではないと我も思うが。―

―えぇ・・・私なんて未だ可愛い方だよ。もっと見習いたい位酷くて悪い奴は一杯居るよ。―

御仲間に迄信用されていないんじゃあ終わりじゃないか。

 と言うよりそんな自分を軸にして二柱で仲良くならないで欲しい。

―・・・世界を盗るなんて言ってケロッとしてる奴は然ういない。―

そんなの別に言葉の綾じゃあないか。もう全く、丗闇は御堅いなぁ。

 別に懐うの位は自由だろう?

「・・・自分の事しか考えてねぇ奴を屑って言うの知らねぇのか?」

心底呆れたと言う顔をされてしまった。

 此の(ママ)戦闘意欲を削いでも良いけれど、別にそんなつもりで言ったんじゃあない。

 話す気がある内に話そうじゃないか。私達は互いをもっと知る可きだ。

 利用をするにしても、されるにしてもな。

「じゃあ反対に聞くけれども、御前は世界が欲しいとは思わないのか?手に入ったら何でも出来るぞ。(ムシ)ろ叶えたい願いを探す羽目になるかもな。」

―今貴方凄ク悪イ顔シテルヨ。―

―勇者トカニ退治サレル奴ダ!―

―此処に勇者は居ないから其なら私は無敵だな。其より・・・御願いした事は進んでるか?―

―ウン、モウ一寸(チョット)ダヨ!―

素晴しい、其の(ママ)皆には頑張って貰おう。

 悪い顔の方がずっと疲れないし、やり易いんだよ。

 意外にも丗曦は苦々し気な目を此方に向けていた。

 彼の先迄の言動からして乗ってくれると思ったのに。

 まぁ然う言う事なら話は早い。彼にも然う思う心があると分かった丈でも収穫だ。

「思わねぇよそんなつまんねぇ願い。吾が欲しいのは只、奴の首丈だぜ。」

「其は困るな。丗闇は私の世界征服に貢献してくれる大切な仲間で、」

―貢献はしていない!―

おぉ、即駄目出しが入った。

 一応もう片棒は担いでいると思うんだけれど。

「言い直そう。丗闇が死ぬと私も死ぬんだ。だから其は御遠慮願いたい。」

「ハッ、嫌な奴が二柱(マト)めて死ぬんなら願ったり叶ったりだな。」

うーん、全く躊躇してくれない。

「そんな風に言われると悲しいな。だったら矢っ張り私は御前をぶっ殺さないといけなくなるからな。」

「出来もしねぇはったりばっか吐くんじゃねぇよ。」

「はったりじゃない、本気だ。」

突然丗曦の背後で煌々と輝いていた紅鏡()(ヒビ)が入った。

「オイオイ、何してくれてんだよ。」

「さて、生き残るのは何方かな。」

途端紅鏡()が弾け飛んだ。

 まるで卵の殻を割る様に中から輝く液体が洪水の様に流れ出る。

 二柱を呑み込まん(バカ)りに其は勢いを増して行く。

 (ヒカリ)の粒が飛び散って六花(ユキ)の様に舞う様は美しかった。

 でも其に見惚れている場合じゃあない。

 紅鏡()に近かった丗曦はあっと言う間に呑まれてしまった。

 自分も同じ様に()の光に呑まれたら・・・御終いだ。

 見ている丈で寒気がする。

 噫、矢っ張り自分は光が苦手だ。迚も恐ろしい物に思える。

 闇が濃くなる程、一点の(ヒカリ)は輝く物だ。

 未だ、其の(ヒカリ)を塗り潰すには闇が足りない。

 散っていた自分の零星(ホシ)を一気に集める。

 其を自分に(マト)わせて一気に(ソラ)へと飛び立った。

―皆付いて来てるな?―

―ウン大丈夫ダヨ!―

―消エタラ大変ダモンネ。―

噫然うだ。どうせ奴の事だから同じ光なら喰らってもダメージが無いと踏んで残ったんだろうが。

 其の選択は・・・大きな間違いだ。

 別に自分は只無駄に彼と話し合ったんじゃない。其の間に魔力達に丗曦の魔力を調べさせたのだ。

 如何やら丗曦の魔力自体は可也光に染まっていた為完全には調べられなかったけれども、奴の後ろで(タタズ)んでいた紅鏡()は別だった。

 だから先其処へ自分の闇を投じた。

 本の一握り、魔力達に運んで貰って・・・()の光に落として貰ったのだ。

 光と闇が合わさって起こるのは虚無だ。本の小さな綻びから生まれた無は、瞬く間に全てを消し去る。

 群緑達の事も考慮して、無は自分側へ向かう様仕向けた。

 自分で生み出した物とは言え、自分が一番危険な賭けだ。

 見る間に光は無へと呑まれて行く。

 そして自分をも呑もうと手を伸ばす。代わりに零星(ホシ)を呑ませてより自分は高く飛んだ。

 丗曦はもう呑まれてしまったのだろう。幾ら再生するからって全て消滅してしまえば何て事はない。

 後は相打ちにならない様自分が生き残る丈だ。

「っぐうっ‼」

逃げ切れずに尾を一本持って行かれてしまう。

 其でも無は止まらない、相変わらずの暴れ馬だ。

 ・・・未だ欲しいならくれてやる。

 周りの零星(ホシ)を這わせて、尾の付け根を一気に走らせる。

 激痛に背が伸びる、でも翼を止める訳には行かない。

 眼下へ落ちる尾は一瞬で呑まれた。其の隙にもっと(ソラ)へ。

 蜥蜴の尻尾切り、なんて言葉があるけれども、自分のはそんな便利な物じゃない。

 飛び難くなるし、血も止まらない。

 其でも、奴みたいに全身持って行かれるよりは遥かにましだ。

 無は上下へ動いていた様で、可也高度を上げて(ヨウヤ)く勢いを無くした。

 消えるのは早い物で、弾け飛ぶ様に無は一気に小さくなって行く。

 ・・・勢いで()紅鏡()諸共壊したけれども大丈夫かな。

 ガルダ迄消えてしまったら、何て詫びたら良いか分からない。

 そっと無に合わせて高度を下げて行く。大技過ぎたので次元の事が心配だ。

 魔力も可也使ったし、此以上無茶は出来ないが。

「っガァアアッ‼」

完全な不意打ちだった。

 可也高度を下げた所で突然無を突き破って光の弾が二発、自分を狙って飛んで来たのだ。

 波紋で見えない無の中からだ、対応出来ずに直に受けてしまう。

 そっと手で触れてみる。

 撃たれたのは・・・目だ、四つある()の爬虫類に似た目をやられた。

 弾丸の所為で二つの目が(ヒビ)割れてしまっている。

 幸い、此方の目で良かった。痛覚は(ホトン)ど無いし、魔力の減っていた今なら()()()()

「あークソ、あん丈の威力しか残らなかったのかよ。」

無が消え去った所には、変わらず丗曦が立っていた。

 先から一歩も動かず、傷を負っている様子は無い。

 彼の手には一丁の拳銃が握られていた。

 恐らく光の術で創ったんだろうが・・・何故無事なんだ。そんな涼しい顔で立っていられる。

「再生力丈尋常じゃなく優れていると言うのは伊達じゃあない様だな。」

「丈所か、御前に負けてる点は一つも無ぇだろ。」

・・・疲れている様子もない。自分丈こんな消耗したのは楽しくないな。

「ま、元々吾のだったとは言え、先の術位は褒めてやるぜ。吾も手首丈になったのは久し振りだ。治っちまえば何て事はないがな。」

無の中に居たのに、其でも其の再生力は削り切れなかったのか。

 そんな出鱈目(デタラメ)な事があるのか、先の弾も恐らく、無で消え去る前に、無を突き破ったと言う離れ業をしたのだろう。

 戦術、と言うよりも圧倒的な力の差でやれている。

 こんなの、想像以上だ。自分の干渉力の比じゃあないじゃないか。

 其でも、先の一撃でやり切れなくても未だ手はある。向こうだって力は使っているんだ。諦めるには早い。

「早く死んだ方が此以上痛がらなくて済むのに物好きな奴だな。」

「手前もそろそろ、無理だって自覚為可きだと思うぜ。」

そっと自分は割れてしまった目に触れた。

 割れてしまえばもう見る事は出来ない。此方の目は魔力を探るのに使えるのに。

 まぁ良い。割れてしまったなら最後の最後迄せめて使い捨てとして使ってあげよう。

 そっと手を目の中へと突っ込む。

 大丈夫、此方の目に痛覚は無い、慎重にすれば、

 (ヒビ)に気を付けて(ユック)りと、

 一気に手を引き抜く、考えたら吐いてしまい然うだ。()う言う時はスマートな方が良い。

 手には抜き取られた(ヒビ)だらけの目が握られていた。

 何時も睨んで(バカ)りの目だが取り出してみれば何て事はない。

 噫、()の魔術具の爺さんに渡したら全財産くれそうな代物だな。

 自分の此の行動が、奴の目には奇怪に写ったらしい。先迄ヘラヘラ嗤っていた癖に今は(ダンマリ)だ。

 先の無の事で少し警戒されているのかも知れない。奴が手を抜いてくれている内に勝機があるのに。

 今の所、奴の行動は全て後手に回っている。自分が攻めに転じていられるからこそ此処迄やれているのだ。

 だから今の内に・・・決めないと。

 手に力を籠める。其丈であっさりと目は潰れて玻璃(ハリ)の割れる様な音と共に弾け飛ぶ。

 瞬間に目は欠片諸共蒸発して消えて行った。

―アレ?貴方何カ変ワッタ?―

一寸(チョット)私達ニ似テ来タ!―

―御前達に仲間認定されるのは光栄な事だな。―

魔力達に似て来たと言う事は、自分の(マト)う魔力の質が上がったと言う事。

 自分も、実感している。契約をした時の比じゃない位魔力が増している。

 成功か、此なら目を一つ潰した甲斐があると言う物。

 ・・・医者の所へ行った時にちゃんと話を聞いていて良かった。

 地下で怯え乍らも身体検査を受けていた時に彼が呟いたのだ。

“此の目は魔力の塊ですねぇ。扱い切れなかった余剰分を()うして利用出来る物に変換しているんですなぁ。脆いので割れたら直ぐ魔力に戻りそうですがねぇ。”

噫、目を逸らさずちゃんと聞いていて良かったよ。

 出来る事なら四つ共目を潰したいけれども、其だと躯の負担が大き過ぎる。

 慎重に見極めないとな。

「何だぁ痛め付けた方がやる気が出るなんて随分な特殊性癖だな。」

「ずっと痛め付けられているのに嗤っている御前も大概だけれどな。」

僅かに地が揺れる。

 そして瞬きの後に地面から無数の零星(ホシ)が立ち上った。

 無から隠す為に地中に潜ませていた分だ。

「おっと未だこんなのがあったのかよ。」

だが零星(ホシ)は丗曦を素通りして(ソラ)へと昇って行く。

 其に合わせて自分も零星(ホシ)の中へと飛び込んだ。

 凄い、此丈魔力があれば全ての零星(ホシ)が手に取る様に見える。

 手の動きに合わせて魔力が流れ、零星(ホシ)達が自然と動く。

 其の(ママ)零星(ホシ)達は自分の望む形へと変化して行った。

 自分を中心に天の滄江(カワ)の様に、流星の滄江(カワ)の様に、其処から更に流れて大きなうねりになって行く。

 目一つ分の魔力を使い切ったって構わない。幸い壊れてしまった目はもう一つある。

 其以上の目を使うと魔力を視認し難くなるので二つで控えたい所だ。

 躯が焼け爛れて動き難い自分の代わりに、零星(ホシ)達に動いて貰おう。

 まるで不死の様な再生力であっても、魔力が尽きれば其迄なのだから。

 自分の干渉力とも混ざり合い、気付けば零星(ホシ)は巨大な長身の龍の姿を象っていた。

 吼え声の代わりに零星(ホシ)達が(ソラ)を斬る音が重なる。

 魔力達も手伝ってくれているんだ。まるで生きているかの様に空っぽな龍は身をうねらせた。

「ハッ、こりゃ又とんだ化物を創りやがったな。」

零星(ホシ)の龍が顎門(アギト)を開けて丗曦に飛び掛かる。

 魔力を流すと龍の全身にスペルの様な文字が刻まれ、透ける様に龍の全身が輝いた。

 噫、此丈の魔力を自分は溜め込んでいたのか、自覚が無かったな。

 此の龍其の物が自分の武器と化している。あんな(ツルギ)や槍の比じゃない。

 触れれば斬り刻まれる、刃の龍だ。

 襲い来る龍を相変わらず何処か他神事(タニンゴト)の様な目で丗曦は見ていた。

 未だ余裕だと踏んでいるのだろう、一度は受けてくれるみたいだ。

 其の油断毎、呑み込んでやる。

 龍は突っ立っている丗曦に其の(ママ)咬み付き、(ソラ)へと飛び上がった。

 (クワ)える訳ではなく、直ぐ様彼を呑み込む。

 呑まれた事で待っているのは刃の内臓だ。落下する丗曦の全身を零星(ホシ)の刃が斬り付け、裂き、原形も留めない様バラバラにする。

 血や肉片を飛び散らせ乍ら、其でも彼は再生を繰り返して終に自分の所迄落ちて来た。

 矢張り只の刃丈じゃあ削り切れないか・・・其でも、

 丗曦の目とち合う。

 其でも彼は嗤っていた、痛み等感じていないかの様に。

 自分にもう逃げ場はないと分かっているのだろう、此の龍の腹の中で仕留めようと。

 骨丈になった腕を、丗曦が此方へ伸ばした時だった。

 彼と自分の間に、一枚の玻璃(ハリ)の様なスペルの壁が現れたのだ。

「私と言う餌にまんまと掛かってくれて有難い事だな。」

壁が彼の手を押し退()け、六方から彼に迫る。

 一瞬彼の顔が曇った。

 ・・・噫、良い顔だ。其の(ママ)大事に匣に仕舞ってやろう。

 スペルの壁と言えども今の魔力の御蔭で隙間も無い程に緻密だ。

 (ムシ)ろ緻密過ぎて触れた丈で見えない小さな無数の零星(ホシ)の武器に細斬れにされてしまうだろう。

 丗曦も壁に手が磨り潰されて此のスペルの壁の意図を察したのだろう。

 だが気付いた所で遅い。

 龍の腹の所為で奴は常に全身を幾重も裂かれている状態だった。

 そして龍は絶えず身をくねらせて刃を動かしている。身動きなんて取れる筈もない。

 さぁ此の(ママ)壁に囲まれたら御前は如何なると思う?

 壁は無慈悲にも押し返そうとした丗曦の手足や尾、翼を細斬れにし、磨り潰し乍ら中へ中へと押し込めた。

 奴と目が合ったのも本の一瞬で、

 壁と壁は重なり合い、終にはスペルの壁で出来た六面体へと彼を閉じ込めた。

 ()うなってしまっては再生力があろうと、腕力が(ツヨ)かろうと脱出する事は不可能だ。

 絶えず全身を感覚が痛み丈になる迄永遠と刻まれる事になる。

 不死に近い再生力と言うのは魅力的に思う反面、()う言う拷問に掛けられた時は本当に悲惨だな。

 只此でも奴が先みたいに自爆だとかをしてスペルの壁を破壊しないとも限らない。

 だからこんな生き地獄なんかで終わらせず、最後迄閉じてしまおう。

 閉じ込める丈では飽き足らず、スペルの壁は其の(ママ)進攻を開始する。

 壁と言っても物理的な壁ではない。触れ合ったスペル同士で癒着して隙間を無くす丈だ。

 そして壁は閉じられた。

 完全にスペルの壁は一つになり、中に何も残っていない事を証明する。

 やっと・・・完全に消滅させられた様だ。

 自分の破壊が、奴の再生を上回ったのだ。

 一つ息を付くのと同時に少し心配になる。

 然う言えばガルダは?丗曦が消滅したのなら出て来るんじゃないのか?

 いや、良く考えたらガルダに丗曦が憑依した様な形だったのだからあんな殺し方をしちゃあ丗曦が死ぬのと同時にガルダも死んだんじゃあ・・・。

 恐ろしい答えに行き着いて顔が真っ青になる。

 ど、如何しよう。何て酷い事を。

 確かに丗曦を殺す事に一寸(チョット)躍起になっていたけれども、ガルダを傷付けたいとか、犠牲にして迄しようとは思っていなかった。

 う・・・あ、で、でも大丈夫だ。狭間に帰れば良いんだ。然うすればガルダは居る筈、噫でも何て詫びたら良いのか・・・、

―しっかり暴れて置いて今更そんな事に怯えているのか。―

「だ、だって丗闇そんな事って、わ、私には重大事項なんだっ!」

自分の理性を繋ぎ止めている物と言うか。

 ガルダすら躊躇なく殺せる様になってしまったら、其こそ私は御終いなんだよっ!

―分かったからそんな偸閑(アカラサマ)に動揺するな、みっともない。―

「う・・・うぐっ、」

みっともないのは嫌だ。何とか落ち着こう。

「ッハハハハハハッ!ヒャハッ!ハハハハハッハハハハハハハッハハハハハハ‼」

「え・・・、」

其の時、聞こえない筈の幻聴が確かに自分の耳に届いた。

 其の声が、未だ終わっていないと告げる。

 慌てて波紋を広げた瞬間、左肩に激痛が走った。

 続けて翼に数度、激しい痛みが襲い、硬直する。

 噫、翼が動かない・・・奴に撃たれたんだ。

 零星(ホシ)の龍に乗っていた所で緩やかに上体は下る。

 落ちる間際に波紋を飛ばすと、丗曦は何とも涼しい顔をして眼下で立っていた。

 一体何時の間に、()のスペルの檻から抜け出したんだ。

 如何して未だ、嗤っていられる。

 いや、其よりも生きているのなら・・・今度こそ、殺さないと。

 翼を()の銃で撃たれた事でもう飛べない。

 堕ちてしまう、奴の所迄、其の間に最後の一撃を。

 躊躇う事無くもう一つの割れてしまった目を取り出す。

 そして一気に握り潰し、魔力を劇的に高める。

 全魔力を龍へ注ぐ。スペルを枝分かれさせて煌々と龍を輝かせる。

「ガァアァアアァアアッ‼」

吼え声と共に丗曦へと飛び掛かった。

 龍の全身を構成していた零星(ホシ)とスペルが崩れ、一気に丗曦の躯を引き裂く。

 千斬ると同時に爆発し、激しく(ヒカリ)を残して零星(ホシ)が消えて行く。

 そして・・・、

 零星(ホシ)の龍は砕け散り、又世界は闇に覆われた。

 其の闇の中で、其でも丗曦は変わらず無傷で立っていた。

 そんな彼の手はしっかりとセレの頸を掴み、彼女を宙吊りにしていたのだ。

「・・・ヒャハッ、やっと諦めが付いたのかよ鈍間。」

「っぐぁ・・・、」

丗曦の腕に力が籠もり、頸を締め上げられて息が出来なくなる。

 手を掛けた所で振り解く事なんて出来ない。力の差がはっきりとしているんだ。

「此処迄頑張ったんだし、一つ良いアドバイスをしてやるよ。再生力の高い奴を相手する時は血や肉片を残さねぇ事だぜ。あんな派手にぶちまけちゃあもう一柱位吾が出来ちまうだろうが。」

然う言う・・・事か。

 先のスペルの匣に閉じ込められた丗曦は始末出来ていたんだ。

 でも、彼を斬り刻む事に夢中になり過ぎて飛び散った血や肉片迄注意出来ていなかった。

 自分がしたくても出来なかったクローン・・・其をあっさりと彼は成してみせた。

 先のスペルの匣の上から無を覆っていれば・・・未だ勝機はあったのかも知れない。

「もう魔力も(ホトン)ど残ってねぇだろ。ま、念の為残りの目も潰すけどよ。」

二枚の羽根を引き抜き、放ると其は真直ぐ自分の(クロ)と銀、二つの目を目掛けて突き刺さった。

 もう声も上げられない、其の(ママ)目は潰され、光に呑まれてしまう。

 然うか、光に呑まれてしまうと自分の魔力と言えども帰って来ないのか。

 周りの魔力丈濃くなるのを感じる、折角の魔力が無駄になってしまった。

「さてと、此処迄じっくり相手してやったんだぜ。流石に完全敗北だろ。何なら此の(ママ)死ぬか?然うすれば吾に挑むだなんて馬鹿な考えだったって一寸(チョット)は学べるかも知れねぇぜ。」

丗曦の空いた手に(シロ)の銃が握られる。

 其をそっと脳天へと当てる。

「此方も力が余ってるし、何なら此処で彼奴と遣り合っても良いかもな・・・。おい手前、今彼奴を呼んでみろ。だったら手前位は見逃してやるぜ。」

ま、彼奴がやられたら手前も死ぬけどよ、然う丗曦は歪んだ笑みを自分に向けていた。

 見逃してやる・・・か、一体何時振りの言葉だろう。

 幼い頃・・・前世で言われたっけな。噫、こんな圧倒的強者に成す術もなくやられるなんて。

 非常に不愉快だ。けれども奴の言う通り、もう自分に戦う力なんて(ホトン)ど残っていない。

 魔力を使い過ぎた所為か頭がぼーっとするし、躯が重くて眩暈がする。

 全身痛くて動くのも億劫だ。(カエ)って殺してくれた方が楽かも知れないな。

―おい、もう十分だろう。未だ意地を張るつもりか。此の(ママ)だと本当に死ぬぞ。―

()し焦った声が脳内で響く。

 噫、二柱共望んでいるのか、光と闇の対峙を。

 自分なんかの、出る幕じゃないと。

 ・・・っ、テレパシーで応えるのも厳しいな、でも言わないと、

「おっと、頸絞めてたら言いてぇ事も言えねぇか。ほらさっさと吐けよ。」

丗曦が腕の力を緩めると少し丈息が吸えた。

 躯が軽い分、勝手に締まらないのは良い事だな。

「だ・・・じょ、ぶ、」

「あぁ?何言ってんだよもっとはっきり喋れっ!」

「又・・・あ、会える、だ・・・から、大丈夫だ、」

刹那、丗曦は大きく目を見開いて硬直した。

 そして細められた目は・・・何故か潤んでいる気がした。

「・・・逢えなかったじゃあねぇか。」

ぽつりと呟く声が聞こえたが、自分はもう聞こえない振りをした。

 其の隙を、見逃す手は無かったのだから。

 咄嗟に自分は左腕を強く掴み、思い切り引っ張った。

 (クロ)い膜丈で繋がれていた腕は其であっさりと千斬れてしまう。

 痛みに呻く暇もない、一気に血が噴き出し二柱共血塗(チマミ)れになる。

「っ何しやがるんだっ!」

顔に降り掛かったのか丗曦が慌てて顔を背けた。

 其処で一気に自分は左腕を丗曦へと投げ付けた。

 血の出過ぎで眩暈が酷くなる、でもそんな事構っていられない。

 無理に丗曦の手を振り払うと自分は丗曦に躍り掛かった。

「クソッ!出しゃばるんじゃねぇぞ!」

自分が未だ諦めていない事に彼も気付いていたのだろう、血が入った事で僅かに濁った眼を此方に向けられた。

 そして・・・彼の手がトリガーを思い切り引く。

 乾いた発砲音がして大きくセレの上体が()け反った。

 (モロ)に弾丸を脳天に受けたのだ、受身も何も取れず一瞬痙攣したかと思うと崩れ落ちる。

 だが上体が完全に落ち切る前に、漆黔(シッコク)の瞳が丗曦を捉えた。

「ギャギャギャッ‼・・・高が脳天一発でくたばると思ったか。」

ぞろりと牙の生えた口が不吉に歪む。

 化物の哄笑に、()め付ける闇に刹那丗曦の手が止まる。

 自分が化物だと言う事を知らないのか。

 御前は光の神なのだろうが、自分は其をも喰らい、破壊し尽くす闇の化物だ。

 そんな立派な爪があるのに振るう事もせずにちゃちな銃を頼るなんて。

 もうそんな物を恐れない、過去を諦めた自分に効く訳が無いだろうが。

 四肢を裂き、欠片も残さず消さない限り私は止まらないぞ。

 一瞬邪魔をされたが構わない、自分は血塗(チマミ)れになった右腕を奴の口に押し付けて・・・塞いだ。

 丗曦の目が大きく見開かれて自分のと()ち合う。

 奴の喉が鳴った・・・自分の血を、飲んだのだ。

「御前は・・・敵だ。」

言い聞かせる様に、暗示の様に。

「御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、」

自分の声に・・・血が応えた。

 震えたと思った瞬間、次々と血が隆起し、水精(スイショウ)と化す。

 然うして又もや丗曦の全身は斬り刻まれる事になる。

 内側からも外側からも(クロ)水精(スイショウ)が突き立てられる。

 水精(スイショウ)はどんどん大きく複雑になり、彼の肉を余す事無く刻み付ける。

 未だ、未だだ。奴の生命力を上回るにはもっと力が。

 此の一撃に賭けるしか、本当に自分には後がない。此処で決めないと。

「御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ、御前は敵だ。・・・でも若し、私の敵じゃないと言うなら、御願いだから私にガルダを返してくれ。」

そっと祈る様に、彼に告げる。

 丗曦は何度も再生し乍ら、見開いた目で自分を只見ていた。

「吾は・・・違う、」

応えにそっと目を合わせる。

「吾は・・・御前の敵じゃない。違う、只・・・只吾は・・・っ、」

急に頭を押さえて呻いた。

 まるで水精(スイショウ)の痛みよりも、頭痛の方が酷いと(バカ)りに。

 まさか、何か懐い出せたのだろうか。

 聞く可きか如何か、一瞬、躊躇してしまう。

 話せば、黔水精(クロスイショウ)が消えてしまう気がして、

 そして瞬きの後に丗曦の姿は大きく変化した。

 血に(マミ)れた純皓(ジュンパク)の体躯は一回り小さくなり、腕や脚が常人の其へと変わる。

 翼や尾は消え去り、髪も見慣れた茶髪へと変わる。

 息をするのも忘れて只自分は丗曦の変化を見詰めていた。

 彼が変わるのに合わせて、黔水精(クロスイショウ)も溶けて行った。

 然う、彼はもう敵ではない、刃を向ける必要はないのだ。

「う・・・あ・・・、えっとセ、セレ?」

頭を押さえ乍ら掛けられた声は迚も優しくて。

 力が抜けた自分はぺたりと床に座り込んでしまった。

「噫、ガルダ・・・御帰り。」

戻ってくれて・・・本当に良かった。

 もう彼を殺さなくて済むと分かり、一気に肩の力が抜ける。

 ・・・此は暫く立てそうもないな。

「セ、セレ⁉ど、如何してそんな怪我・・・っ、」

一瞬で青ざめた彼は手を伸ばそうとして固まってしまう。

 伸ばされた手が、(クロ)く血濡れていたのだ。手丈じゃない、全身に浴びてしまっている。

「噫其は・・・自分でしたから大丈夫だよガルダ。」

彼自身に怪我は無い、其なら十分だ。

「自分でしたって・・・え、あ、ま・・・、まさか彼奴か⁉彼奴がっ、こ、こんな事をっ!」

慌ててガルダは膝を着き、血を急いで服で拭った。

 綺麗になった手で、確かめる様に自分の顔や髪に触れる。

「目も・・・っ尾も、腕も無いじゃないかっ、こんな躯も・・・焼けて、」

声が震えてしまっている。気丈に振舞いたいけれども、自分も先から何だか躯が重くて余り動けそうになかった。

 今は只、彼の自由にさせよう。事実は変わらないのだから。

「然うだな・・・。一寸(チョット)丗曦と遣り合っていたんだ。私から挑んだ様な物だし、こんなのは自業自得だ。だからガルダが気にする事なんて一つも無いよ。」

「然う言う問題じゃないだろ・・・はぁ、本当に御免、セレ。俺が軽率だったんだ。」

「そんな悄気(ショゲ)ないでくれ、ガルダ。彼奴の実力も分かったし、中々凄い対決だったんだぞ。見て貰いたい位の激戦だったんだ。」

せめて声丈でもと、自信満々に出した。

 本音を言うと歯が立たなかったのは非常に悔しかったのだが・・・まぁ奴を帰せたのならOKだ。

―信じられん、まさか御前一柱で追い払う等。―

「ククッ、丗闇だって称賛してくれているし、戦って無駄ではなかったと言う事だな。」

「・・・分かったよセレ。でも有難うな、止めてくれて・・・本当に。早く狭間に帰ろうな、怪我、治さないと。」

「噫でも先に群緑達の・・・っ、」

手を上げ掛けて急に胸が痛んだ。

 息が出来なくなり、脂汗が浮かぶ。

 何だ、急に・・・躯が、

 胸元を押さえたが変わらず息が出来ずに苦しい。

「ど、如何したセレ、其処が痛いのか?」

何とか応えたいのに声が出ない。

 おかしい、別に最後に丗曦に何かされた訳でもないと思ったが。

―魔力使イ過ギ?苦シイ?―

―消エナイデ、中入ッタラ、一寸(チョット)ハ持ツ?―

魔力の・・・使い過ぎ・・・?確かに過去一で使ったけれども。

 噫然うか、医者も言っていたな、魔力で出来た精霊に近いと。

 じゃあ・・・そんな自分から魔力を取ったら何が残るんだ。

「しっかりしろ、相打ちだったら元も子もないぞ。」

瞬きの後に丗闇が目の前に顕現していた。

 多分、自分の中に居た時に可也の危険信号をキャッチしたのかも知れない。

 其位、今の自分に余裕はなかった。

「ゲホッ、ガ・・・ッ、うぅ、」

背を丸めたセレの肩にガルダは両手を置いた。

 明らかに様子がおかしい、此は一刻も早く狭間に帰った方が良いんじゃないか。

 でも何が起きているのか今一分からない、隠したがりの彼女がこんな苦しんでいるんだ、普通じゃない。

「セレ、なぁセレ、俺の声聞こえてるか?な・・・っ、」

声を掛けていると突然背が震えて彼女の姿が変化を始めた。

 全身(クロ)尽くめの毛に覆われ、四肢を着いた四足の形になる。

 鼻が伸びて全体的に顔付が変わり、翼から羽根が抜け落ちて小さくなる。

 無くなった筈の尾も生え、翼も少しずつ黔色(クロイロ)に染まった。

「な、何が起きてるんだ・・・。」

如何すれば良いか分からず、只見ている事しか出来ない。隣の丗闇も僅かに目を見開いてじっとしていた。

 其の間も、見る間にセレは骨格から大きく変形して行ってしまう。

 そして完全に変化し終わったのか彼女は大人しく座り込んでいた。

 其の姿は完全に人型を捨て、魔獣と呼ぶに相応しかった。

 全体的に狗の様で、大きな翼の様になった耳に、(クロ)い二つの瞳、背には小さな翼が生えている。

 尾の先には菱形の刃が生え、(アカ)、蒼、翠の(タマ)が浮いて首周りを漂っていた。

 そして何よりそんな風貌をした魔獣事セレは、何と掌サイズ迄縮こまっていたのだ。

挿絵(By みてみん)

「・・・・・。」

丗闇とガルダは(ユック)り互いの目を合わせた。

 ・・・如何やら幻覚では無いらしい。

「キャウ!」

其を肯定するかの様に元気良く魔獣は鳴いた。

 何とも愛らしい声である。目も(ツブ)らで澄んでおり、可愛さが爆発している。

 媚びっ媚びの、セレには悪いけれども、普段の彼女の真逆の存在と言えた。

 兎に角可愛いに全振りの此の生物を放って置く事は出来ず、ガルダは少し距離を詰めた。

 彼が近くなった事で向こうも理解出来たらしく、嬉しそうに尾を振って近寄って来た。

 ガルダの靴に両足を乗せて立ち上がり、甘え声を上げている。

 堪らなくなってガルダは両手で魔獣を拾い上げた。

 掌の中で大人しくしてくれている。手が温かいのか変わらず魔獣は頭を擦り付けて甘え声を上げていた。

 此の子がセレと同じだなんて一寸(チョット)信じられない。

 何て言うか此の甘え方、BDE‐01がおかしくなった時の彼女と似ているけれども、自覚はあるのだろうか。

 記憶とか其の辺りも。俺に懐いてくれているみたいだけど、其は憶えているからなのか、其とも。

 と言うより本当にセレ・・・なんだよな。変化したのはしっかり見たけれど、でも、

「も、若しかして此がセレの真の姿だったり・・・?」

こんな変身、其しか考えられない。で、でも切り札が此だと、

「いや、其は無い。・・・無い筈だ、魔力が圧倒的に小さい。」

じゃあ何なのかと言われても困るが。

 セレも丗闇に気付いたのか、ガルダの手の端ギリギリ迄行って尾を振っている。

 そんな彼女を見て丗闇は眉間に皺を寄せた。

 今のセレの可愛さも、丗闇には通じない様だ。

 反対にガルダにはぶっ刺さった様でそっと撫でてみた。

 毛がふわふわだ。一寸(チョット)冷たいので此の(ママ)温めてあげよう。

 両手で包む様に持つと気持良いのかセレも大人しくしてくれた。

 噫、癒される・・・ずっと()うしていたくなる。

―魔力無クナッタ、話セナクナッチャッタ。―

「え、あ、魔力の声、だっけ。」

突然響いた無機質な声・・・セレの近くに居た魔力達なのだろう。

 若しかしたら彼等ならセレの事、分かるのかも。

「な、なぁ皆はセレが()うなった理由って分かるのか?」

丗闇が怪訝そうに目を細めたが、直ぐ合点が行ったらしい。

其の(ママ)黙ったので彼等の手を借りてみよう。

―精霊ガ休ム時ト似テル。―

―動キ過ギタラ疲レルデショ?ソンナノ。―

「えっと・・・精霊が休む時って何の事なんだ?」

「成程、然う言う事か。」

先に悟ったらしい丗闇は大きな溜息を付いた。

「要は魔力の使い過ぎか。全く、意地になって随分とやらかしたか。本当救い様のない阿呆だな。」

「え、魔力って使い過ぎたらこんなのになっちゃうのか?」

「何の為に前調べたんだ。我等は具合が悪くなる程度だろうが、此奴は魔力をふんだんに使った精霊に近い躯だっただろう。躯の大部分を魔力が占めていると言うのなら、其を失えば如何なるかは明白だ。」

目を四つ共潰していたが、(アレ)の全てが全て余剰分の魔力と言う訳ではなかったのだろう。

 存在を保つ為に、目から使っていた魔力もある筈だ。

 其を全てあんな一撃の為に使ったら()うなるのも当然だ。

 魔力不足で死ぬよりはマシだったのかも知れないが・・・何とも無様な姿だ。

―精霊ハ、冬眠スルノガイルノ。眠ッテ、魔力ヲ増ヤスノ。―

―今、魔力凄ク少ナイ、其処ニ居ルンダヨネ?見付ケ難イヤ。―

「じゃあ今のセレは魔力が足りないからこんな姿になって省エネしてるって所なのか?」

「然うだ。今の其奴が現状を何丈(ドレダケ)理解しているのかは不明だがな。説教の一つでもしたい気分だが、獣に理解出来るとも思えん。」

「うーん・・・然う、かも。」

可也丗闇に罵倒されていると言うのに今だって終始俺に甘えている丈だ。

 省エネって言っても此処迄知能を落とさなくても良かったんじゃないだろうか。まさか知らない間にこんな変身能力を身に付けていたなんて。

 セレ自身も・・・多分知らなかったんだろう。まさかモフモフになりたいって願いがこんな形で叶うなんて。

 でも其丈セレは頑張ってくれたと言う事なのだろう、彼奴を止めるのに、此処迄躯を張ってくれたんだ。

 見た所荒れてはいるけれども次元も龍達も無事だ。被害が此丈で済んだのは可也大きいと思う。

「有難な、セレ。こんな頑張ってくれて。」

「付け上がるから礼なんて言うな。」

丗闇に(イサ)められたがセレは嬉しそうに鳴き声を上げる丈だった。

 可愛い・・・滅茶苦茶可愛いけれども、ずっと此の(ママ)って訳にも行かないよな。

「な、丗闇、如何やったらセレって元に戻るんだ?」

「元に戻れば良いのだから其の(ママ)魔力が溜まれば良いだろう。」

「じゃあ御飯一杯食べたり、寝たりしたら元気になるかな・・・。」

何だかペットの飼い方を学んでいる気分だ。

 飼うのが幼馴染と言うのは何とも気が引ける。

「そんな事しなくても次元の迫間(ディローデン)に戻れば済む話だろう。」

「あ、そっか。魔力が戻って全快するもんな。」

じゃあ矢っ張り早く戻った方が良い。セレ自身此の姿は不服だろうし。

「・・・・・。」

ちらと丗闇を見遣る。

 何だか手持無沙汰な様子・・・帰らないのだろうか。

 セレが心配で出て来てくれたんだろうけれど、今急いでする事も無い。

 ガルダの視線の意図に気付いたのだろう、丗闇は小さく溜息を付いた。

「・・・戻れないのだ。」

「え、戻れないってセレの中にか?」

「そんな畜生の姿では我を封じられないのだろう。一応印はある様だが。」

まぁ確かにこんな可愛い生物の中に丗闇が封じられているだなんて考えれないだろう。

 姿も変わって魔力も減れば然う言う事もあるのかな。

「じゃあ此の次元の後始末丈してさっさと帰るかな。」

群緑達の事、セレも最後に気に掛けていたし。

 然う()う考えていると気付けば何匹かの群緑が様子を窺う様に近く迄来ていた。

 先の火鼠達も我先へと近寄って来た。

―もう終わっちまったのか?随分でけぇ花火だったけど。―

「噫うん、何か暴れちゃって御免な。」

あれ、然う言えば先創った光の(タマ)が無い。

 (アレ)が無いと彼等は困るだろう。

(アレ)なら先奴等が争っている時に派手にぶっ壊したぞ。」

「・・・あ、噫壊しちゃったのか。」

じゃあもう一個創るか?魔力の残りからしてあんなのはもう創れないけれど。

―あ、兄さん紅鏡()本当に有難ね!―

地面からにゅっとチンアナゴに似た群緑が顔を出した。

 穴が無くなってしまったので頑張って一から掘ったのだろう。

「え、えっと・・・でも其壊れちゃったんだよ、だから。」

何だか言い難くてついごにょってしまうと群緑は少し首を傾げて穴に戻ってしまった。

 そして瞬きの後に其の穴から輝かしい(ヒカリ)が放たれた。

 其が一つ丈ではなく、地面の彼方此方に点在する。

 何が起きているのか分からず戸惑っていると、穴から小さな(ヒカリ)(タマ)が出て来たのだ。

―壊れてなんか無いよ?此なら持ち易いし、グッドアイデアだね!―

気付けば沢山の群緑が同じ(ヒカリ)(タマ)を持って顔を出した。

 御蔭で世界は一気に輝きを取り戻し、闇が遠退いた。

 小さな(ヒカリ)が地を覆う、何百何千とある様だ。

 加えて上旻(ジョウクウ)に居た鯨に似た群緑が口を開くと大量の(ヒカリ)の粒が放たれた。

 多くの群緑が其に群がり、皆一つずつ(ヒカリ)(タマ)を受け取って行く。

「こ、此って一体・・・、」

(ヒカリ)からは微かに俺の魔力を感じる。でもこんな物、創った覚えはない。

「然うか。奴が先の光を壊した時に飛び散った物が其の(ママ)残ったのだろう。其丈・・・彼奴の光は(ツヨ)かったと言う事だ。」

「そんな事があったのか・・・。まぁ此、丗曦の光も混ざってるから可也持つだろうな。」

「我の見立てでは百年は優に持つ。此奴等には十分だろう。」

良かった・・・彼等も喜んでいるし、此の次元で出来る事は十分果たしただろう。

―おいおい()のネーちゃんは何処行ったんだ?―

火鼠が続々と集まり、二足で立ってきょろきょろと周りを見渡した。

 丗闇を見間違えたのか近寄ったのも居たが、軽く睨まれて直ぐ離れてしまった。

「えっとセレはその・・・こんなに成っちゃって、」

ガルダが腰を折ってそっと掌を開く。

 セレは一寸(チョット)丈鼻先を出すと火鼠達の匂を嗅ぎ始めた。

―へ?俺達そっくりになっちまったじゃないか。―

真黔(マックロ)だから煤だらけみたいだな。―

火鼠達が何事か話し合っている。一寸(チョット)困っている風にも見えるけれど。

「何かセレに用があったのか?悪いな、次元の迫間(ディローデン)に帰ったら治ると思うから、良かったら又店の方に来てくれるか?次元龍屋って言うんだけど。」

―分かったよ。御邪魔じゃなかったら行ってみるね。―

代わりに話を聞こうかと思ったけれども、彼等の気は済んだらしい。

 そそくさとチンアナゴ似の群緑の居ない穴から中へ入って行ってしまった。

「良し・・・と、じゃあもう帰ろうかな。丗闇も其で良いよな。」

「此処の奴等に次元の事を話しているのなら問題無いだろう。・・・我も早く寝たい、戻るぞ。」

―あ、もう帰るの?有難うね~大事にするよ。―

―僕達も店に遊びに行くよ。―

―御世話になりました!―

(ヒカリ)を持った群緑達が見送ろうと周りを漂う。

 (ヒカリ)が溢れ、魚影が照らされる様は何とも美しかった。

 ・・・出来ればセレと見たかったな、絶対喜んでくれたのに。

 そっと手の中を見ると小さくなった彼女が嬉しそうに尾を振って自分を見上げていた。

「じゃ、仕事完了って事で。」

一同の姿が霞み、消えて行く。

 彼等の姿が見えなくなると、群緑達は(ヒカリ)(タマ)を抱えて戯れるのだった。

   ・・・・・

「只今ー。」

蛍ノ鈴(クリスリング)が鳴り、ガルダ達を迎え入れる。

「あ、御帰りーって何其の子!すっごく可愛いっ!」

リビングに居たドレミがガバッと立ち上がりガルダに詰め寄る。

 其の衝撃に驚いたスーがソファーの裏に隠れてしまったが、彼女に悪意はないのだろう。

―え?新しい子?すっごく小さくてキュートだね。―

腹這いになっていたローズも近付き、鼻先を寄せた。

「然うなんだよすっごく可愛・・・え?」

言い掛けてそっと視線を手元に戻す。

 自然と差し出す様な形になっていた手に小さな(クロ)い魔獣がちょこんと乗っかっていた。

 誰も何もセレである。

 彼女は景色が変わった事に驚いているのか(シキ)りに鼻を動かしてきょろきょろと周りを見渡していた。

「え、あ、あれ⁉何で元に戻ってないんだ⁉」

俺の声に驚いたのだろう縮こまってしまったので慌ててそっと背中を撫でてやった。

 で、でも何で省エネの(ママ)なんだ?此処は狭間なんだから減った魔力も戻る筈なのに。

「・・・干渉力が高過ぎるのも考え物だな。」

「あ、えっとセオちゃんだ!出ているなんて珍しいね。」

後ろから声を掛けられてびくついてしまう。

 見ると渋面の丗闇が腕を組んで突っ立っていた。

 び、吃驚した・・・そっか、丗闇が出ていると言う事は矢っ張り此の小さな子はセレなんだ。

「妙な名で呼ぶなと言った筈だが。」

心臓を掴まれるかの様な視線なのにドレミは余り気にしていない様だった。

 彼女は本当に・・・()う言う所が(ツヨ)い。

「え、セ、セレしゃん何時もと一寸(チョット)・・・違う?」

「あんな間抜けと見間違えられる等腹立たしいな。」

「ヒィ‼ご、御免なさいっ‼」

スーは飛び上がった勢いの(ママ)に地下へと潜り込んでしまった・・・。

 ・・・彼女は店の者全員に何か恨みでもあるのだろうか。

「えっと丗闇、セレの此って・・・原因分かるのか?」

ローズは可也セレの事が気になるらしく、ペロペロと毛繕いを始めた。

 気持良さそうにしているから此の(ママ)にしてても良いかな。

「奴の干渉力が高過ぎて、本来無傷な筈の此方の肉体にもダメージを負ってしまったのだ。前も似た兆候はあったがまさか此処迄とはな。」

「そんな事があるのか・・・じゃあ結局魔力が戻る迄此の(ママ)って事か・・・?」

大きな溜息を付かれてしまう。如何やら然うらしい。

 ドレミ達は話に付いて行けそうも無かったのでさっさとセレと遊び始めていた。

 ツンツン(ツツ)かれているが、愛嬌たっぷりに尾を振って返すので効果覿面だ。

「ぬぬ、戻ったのか。」

暖簾(ノレン)を潜り抜けて人型になったハリーもやって来た。

 そして直ぐガルダの手の中で小さくなっているセレに気付き、慌てて近寄って来た。

 ・・・彼の場合慌てれば慌てる程手足が(モツ)れて大変な事になるのだが。

 さて、セレの信者第一号はセレの正体を見抜けるかな。

 ハリーはじっとセレを見遣ると一気に怪訝そうな顔をした。

 続いて何度も匂を嗅ぎ始める。可也執拗だ。

 其が(クスグ)ったい様でくぐもった声をセレは上げた。

「む・・・むぅ⁉何故此奴からこんなにも、セレの匂がするのだ⁉」

―だよね、僕も一寸(チョット)気になってて。―

おぉ、流石だ。こんな直ぐ気付いてくれるなんて、セレが溺愛する訳だ。

「うぬぅ、まさか此奴、先迄べったりセレと居たのではないか?小さくてモフモフしているからとは言え何て卑劣なっ!我だって幻覚を使えば斯様(カヨウ)な姿になれるのだ。何て卑怯な生物なのだ!」

前言撤回、全然分かってなかった。

 其の卑怯な生物が貴方の神ですよ、其でも信じられますか?

 ハリーの目が怒りで燃えている。此の(ママ)襲われちゃあいけないのでさっさと真実を告げよう。

「えっとあの、実は此の子がセレなんだ。何か魔力が無くなったらこんなに成っちゃって。」

「え、えぇ⁉セレちゃんなの⁉えぇ・・・良く姿が一寸(チョット)変わる事はあったけど此は変わり過ぎだよ・・・。」

古株丈あって其の発言は中々重みがあった。

 然うだな、確かに良く変わってる。

「ぬをっ⁉何と言う事なのだ!ち、違うのだセレよ!先のは・・・あの、一寸(チョット)魔が差した丈なのだ。セレの夢が叶ったのなら其は喜ばしい事なのだ。」

「今のセレは多分言葉(ホトン)ど通じてないから大丈夫だとは思うけど。」

必死に謝って土下座しようとしているけれど、ハリーには無理だろう。

 如何やらベールの真似っぽいけど、此が最上級の謝罪だって教えて貰ったのかな。

 確かにモフモフはセレの夢だろうけれど、本神(ホンニン)が堪能出来ていない・・・。

―凄い、こんな小っちゃく成れちゃうんだ。(クロ)いって事以外何もかも違うね。―

「プハッ!ねぇねぇボクも見たい!・・・わぁ!とっても可愛いね!」

「うわっ!ケルディ君何時から其処に居たの⁉」

突然ドレミのポケットからケルディが顔を出した。

 ドレミが驚いてくれたので彼も満足そうだ。

「・・・・・。」

少し賑やかになって来た所で背後から無言の圧力を感じる・・・。

 丗闇の事すっかり忘れていた。思わず条件反射でガルダの背が震える。

 賑やかな所を彼女は好まないだろう、別室に移って貰った方が良い。

「えっと・・・丗闇は如何する?セレの部屋、使うか?」

「・・・良いのか。」

「まぁ同居していた様な物だし、俺は良いと思うぜ。」

文句なんてセレは言わないだろう。元々私物も(ホトン)ど置いていないし。

「然うか。其の言葉に甘えるぞ。」

丗闇はさっさとセレの部屋に入って行った。セレの世話は完全に此方に任せるらしい。

 何時もセレの内側から基本俺達を見ていた丗闇からすると、一寸(チョット)居難い空間だったのかもな。

「セレちゃん・・・此は元に戻るんだよね?此の(ママ)じゃあ色々大変だろうし。」

「噫、魔力が少なくなっている丈らしいし、(ユック)り休ませたら大丈夫だとは思うぜ。」

既に一寸(チョット)寝たいのかペタンと座ってしまっている。一寸(チョット)惚けているみたいだし、多分もう直ぐ寝ちゃうな。

「然うなんだ、じゃあドレミもセレちゃんの御世話手伝うよ!ロー君が小っちゃい時と似てるだろうし。」

「あそっか、俺()う言うの初めてだから色々教えて貰えると助かるな。」

「ぬ、我も、我も手伝うのだ。日頃の恩を少しでも返すのだ。」

え、其の手で?

 つい彼の手元を見てしまう。心意気は十分なのだが・・・。

「えっと・・・じゃあ先ずは一寸(チョット)セレを頼めるか?」

「うむ!任されよ!」

自信たっぷりなので一寸(チョット)セレを渡してみようか。

 そっと両手を出すとハリーは不自然に震える手を差し出した。

 ・・・真ん中ががっつり空いている。此の(ママ)じゃあセレが真下迄落下してしまう。

「ハリー君、ね、もう一寸(チョット)丈閉じようよ。」

「ぬぅ、わ、分かってるのだ。」

見兼ねたドレミが軽く手を添えて何とか形になる。

 其の上に慎重にセレを置いてみた。

 一応、相手の認識は出来ているのだろうか。セレはガルダを見上げて名残惜しそうに尾を振ったが、直ぐハリーに気付いて小首を傾げた。

「おぉ・・・何とめんこいのだ。」

自然と彼の目は穏やかになり、迚も愛おしそうにセレを見詰めていた。

 龍の母性?でも刺激されたのだろうか。

 只見る事に夢中になってしまい、徐々に重ねた手の中心が空いてしまう。

「キュキュ⁉」

セレも其に気付いた様で慌てて手を()じ登り始めた。

 小さな翼が懸命に羽搏(ハバタ)いているが、多分浮力は(ホトン)ど無い。

「お、おい大丈夫か⁉」

「ぬ・・・うむぅ、む、難しいのだ。」

何とか椀の形に戻そうとすればする程手は崩れ、遂にセレが転がり落ちてしまった。

 慌てて落ちて行く彼女をキャッチする。羽搏(ハバタ)いていた御蔭か存外落下スピードは緩く、事無きを得た。

「よ、良かったぁ・・・。」

セレも安心したのかペロペロと手を舐めてくれる。御免な、一寸(チョット)恐い思いさせちまったな。

「す、済まぬのだ。まさか取り落としてしまうなんて・・・、」

「得手不得手があるから仕方ないね。」

すっかり悄気(ショゲ)てしまったらしくハリーは少し申し訳なさそうにセレを見るのだった。

 ドレミのポケットから這い出たケルディがそんな彼の頭の上に乗る。

「ま、他にもやって貰いたい事は一杯あるからさ、又頼むぜ。」

早速一つ思い付いているし、其を御願いしよう。

「まぁ暫くは俺の部屋で見て置こうかな。落ち着いたら又色々御願いな。」

「うん、皆にも言って置くね。セレちゃんだから大丈夫だと思うけど、小っちゃい子って色々大変だし、ドレミも当分店に居るね。」

然う言い残すとドレミは早速ロードの部屋に御邪魔して行った。

 一番手がロードかぁ・・・セレ見たさにドアとか破壊しなきゃ良いけど。

 セレも疲れちゃったのかうつらうつら舟を漕ぎ始めている。

 そっと起こさない様ガルダは自室へ入って行った。

 ドレミの言う通りセレはセレなんだけれども、如何も先からの仕草だとかで知性が可也削がれている気がする。

 魔獣の幼子を見ている気分だ。放って置いたらこてっと死んじゃいそうな・・・目が離せない。

 実際省エネ状態と言う事なら極力体力を使いたくないだろう。成る可く休ませてあげよう。

 椅子に腰掛けてそっと背を撫でてやる。

 今のセレにはBDE‐01が付いていないみたいだけれど、此って大丈夫なのかな。(アレ)も一緒に治ってくれないと困るけれど。

 撫でられて落ち着いたのか手の中でセレは丸くなって小さな寝息を立て始めた。

 如何やら今のセレは背に触れても嫌がらない様だ。

 手に乗せちゃっている間は何も出来ないけれど、別段其は構わない。

 今丈でも、(ユック)りと彼女と過ごしたい。

「大丈夫だセレ、俺が護るからな。」

言い聞かせる様に呟く。

 彼女の見せてくれた弱さを無駄にしない様に。

 彼女の呼吸に合わせて、そっとガルダも息を付くのだった。

・・・・・

(ヒカリ)よ、此の声を聞け

私が求めたのは御前ではない

私を温めてくれるのは御前ではない

私を慈しんでくれるのは御前ではない

私が願っていたのは御前ではない

私は御前を神とは認めない

噫だからどうか、其の鎖を焼き斬れ

御前を縛るは仮初の自由だ

此の楔を、忘却する事は決して(ユル)されないのだから

 ほい、一体誰が血塗れになるのか選手権、見事制したのは丗曦さんでしたね!御芽出とう御座います!

 いや―何時もみたいにどうせセレがなるんだろうなって私は思っていたんですけれどねぇ、焼け爛れたり目が潰れたりと健闘はしましたが、出血では負けてしまいましたか。

 と言う事で敗者のセレは畜生になってしまうと言う罰ゲームが下る話でした―!わーいパチパチ!

 実は自分結構、いや実はと言う程じゃあないけれども獣好きなんですよ。獣と言うか異形でしょうか。

 斯う異種族がわちゃわちゃするのだとか、文化や体格が違うから不慣れな事が多くて苦悩する姿とか見てるとキュンキュンしちゃうんですよ。

 何方かと言うと醜く巨大な化物×少女の構図が大好きなんですが、今回は真逆にしてみました。

 如何でしょうか、あんな媚びっ媚びの獣になる主人公って一寸珍しいのではないでしょうか。変身ってロマンがありますね。

 さてそんな今回も少なからず誤字が出てしまいましたので、誤字の奇跡のコラボレーションを一寸御披露目してみましょうか。


一瞬、ガルダの背が震えた。

 何か・・・何か途轍もなく嫌な予感がするうっ、


 ガルダが丗曦になっちゃうシーンです。

 本の一寸しか間違えていないのですが、其の一文字が決定的に意味を変えると言うか、然う言うのが良く出た文ですね。

 するうって、滅茶苦茶感じてるじゃないですか。ショボい間違いですが、個人的には結構好きだったりします。

 真面目なシーン丈に、入力中ついフフッと笑ってしまいました。



そして完全に変化し終わったのか彼女は大人しく座り込んでいた。

 其の姿は完全に人型を捨て、果汁と呼ぶに相応しかった。



 セレが獣になっちゃうシーンです。

 正しくは魔獣だったのですが、何とも瑞々しい女性になってしまいました。

 最早溶けていますね、流石に液体になってしまったらセレと言えども助からないと思います。



 今回はこんな所です。次回は・・・一寸先になるかも知れません、年内に出すのは厳しいかも・・・?

 久々の短編と本編二個セットなので、長くなってしまうんですね。

 と言う事で後悔が無いよう先に挨拶をして締めましょう!

 クリスマス!良い御年を!あけおめことよろ!(雑過ぎる)

 では又御縁があれば御会いしましょう!

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