38次元 影に沈む瞳は玻璃の次元Ⅱ
やって来ましたラストスパート!今回も又シンプルストーリーなので大して考えずに読んで貰えたらと思います。
034ちゃんの目的は何なのか、とかとかね。はい。
今更ですが、数字の名前も割と好きです。番号じゃないんですよ、個性なんです。
彼等は外見が違う丈で、中身は自分達と同じ只の女子高生です。(正しくは作者は女子高生だった者です。)
何と言うか、外見に囚われたくない話を書きたかったんですね、本当はもっと彼等の文化とか色々考えていたのですが、披露し難かったので登場者紹介等でちょこっと載せるかも知れません。
其では衝撃?のラスト迄どうぞ御進みください!
「御早う御座います、ドレミさん。」
「・・・相変わらず晁は早いんだね飃君。」
寝起きのドレミを出迎えたのはデジャビュの様な晴れやかな笑顔だった。
昨日も結局ドレミ達が寝た後に飃は戻って来た様だった。
寝る姿を一切見せないのは一種のプロ意識だろうか。無防備な姿を晒さないと言うか。
徹底しているのは流石だけど、矢っ張り疲れないか心配だ。
一応昼の飃は一般神なんだし・・・ね。
「目が覚めてしまうんですよ。齢だからかも知れませんね。」
「うーん、其の見た目で齢って言われてもピンと来ないけどね。」
「う・・・あぁああ~。」
話していると何とも憐れな声が聞こえた。
晁は繰り返すと言うか、声の主はベールだった。何だか苦しそうな顔をしている。
又酷い夢だろうか、彼こそ早く起きる可きなのかも知れない。
「ダ、ダイヤ・・・混凝土は一寸無、あ、口答えして済みませ・・・おぅ、」
又変な物食べさせられてる・・・。
今度は混凝土か、完全に食べ物から離れて行っている。
と言うよりそんなに夢で食べさせられるのって、御中空いてるのかな・・・?
「硬くて無理・・・あ、そっか。硫酸掛けたら溶けるね。あ、う、で、でも硫酸は・・・。」
「た、食べちゃ駄目ーっ‼」
思わず起こしてしまった。思いっ切りドレミが揺らすとノロノロと彼は目を開けた。
「え、あ・・・ド、ドレミさん?お、御早う御座います。」
「うん御早うベール君。あの、晁一で悪いんだけど、混凝土硫酸掛けは食べちゃ駄目だからね。」
「は、はいわ、分かりました・・・?」
如何やら夢はすっかり忘れたらしい。
良かった、屹度もう少し起こすのが遅かったら彼は絶叫と共に目覚めていただろう。
二日連続でそんな目覚めじゃあ余だ。
「・・・起こして正解だったみたいですね。流石ですドレミさん。」
「う、うん良かったよ。」
―・・・僕はもう一寸丈見ていたかったんだけど。―
何時の間にか起きていたローズがちろっと舌を出した。
「あ、あの何だか助けて貰った様で有難う御座います?」
「皆さん御早う御座います!あら、今日は皆さん早起きですね、良い事ですよ!」
良く分からない儘に礼をベールが言った瞬間、勢い良く677先生が扉を開けてやって来た。
「あ、677先生御早う!」
「えぇ、今日も一日宜しく御願いしますね。実は今日一寸珍しい御飯を御持ちしたんですよ。」
ニコニコと嬉しそうに677先生は一同に丼を渡して行く。
そっと蓋を開けると出汁に浸かった蒟蒻が入っていた。
香は良いけれども変わった料理だ。何だろう此。
「フフ、初めてでしょう?此処の名物でもあるんですけど、5282(コニヤニ)って言うんです。素朴ですが美味しいですよ、どうぞ。」
「へぇ、初めてだよ。でもとっても美味しそう!頂きます!」
早速一口。蒟蒻は大小様々な切り方をされているので一口毎に食感が変わる。
其に噛めば噛む程味が染み出る。病み付きになりそうだ。
―うん美味しい!初めて食べたけど、良い味するね。―
長い口の先で蒟蒻を銜えてローズは食感を楽しんでいる様だった。
「はい、とっても美味しいですね、初めて頂きました。」
「皆さん気に入ってくれた様で良かったですわ。・・・あれ、ベールさん、食が進んでいない様ですが。」
ニコニコしていた677先生だが、少し首を傾げてベールを見遣った。
寝起きだから食欲無いのかな、と思ったけど何だか様子が変だ。
「あ・・・あ、混凝土・・・い、いや此は蒟蒻、うん、蒟蒻だ。硫酸じゃなくて、出汁、」
「そ、然うだよベール君!其蒟蒻だよ!味の染みた蒟蒻だから美味しいよ!」
不味い、夢がフラッシュバックしちゃってる。
此で彼が蒟蒻嫌いになってもいけない。何とか目を覚まさせないと。
「若しかして蒟蒻苦手でしたかしら・・・?」
「いや!そんな事ない筈だよ!ほら食べてベール君!あーんして!」
フォークで蒟蒻を刺し、無理矢理彼の口へ運ぶ。
虚を突かれた彼は悩む間もなく食べてくれた。途端表情が和らぐ。
「あ、美味しいっ!混凝土って美味しいんだ。」
「蒟蒻だよベール君!目覚まして!」
「ド、ドレミさん、もう少し優しくしないと、」
「フフ、皆さん仲が良いんですね。」
何とも賑やかな儘、一同は朝食を終えたのだった。
・・・・・
彼から一同は適当に時間を潰し、夕方になるのを頓待った。
今日は学校が休みなので生徒も少なく静かだ。
授業が無い分一寸退屈だけど、其の分じっくり学校を見る事が出来る。
「然う言えば飃君、昨日の霄は何をしてたの?只の散歩・・・じゃなかったんでしょ?」
釘は刺したけど絶対何かしてる気がする。
「然うですね・・・してると言えばしてますが、うーん・・・此許りは彼から直接聞いた方が良い気がします。」
「其を教えてくれたりは出来ないのかな。」
「御免なさい、話したいのは山々なんですが、彼も同じ位言いたくないと思います。其を僕が勝手に話すのは・・・。」
「そっか、然うだね。無理強いみたいにしちゃって御免ね。」
晁の飃は保護者であると同時に代弁者なのだろう。言いたくないのは仕方ないね。
「いえ、僕こそ。只彼は別に悪い事はしていませんよ。ちゃんと仕事を熟しました。霄、きちっと皆さんに説明すると思いますよ。」
「うん然うだね。もう直ぐ時間だし、ちゃんと聞いてみるよ。」
飃は困った様に笑うと一つ頷いてくれた。
もう直ぐ霄だ、彼に直接聞いてみよう。
371が先に待っているかも知れないと一同は屋上への階段を上り始めた。
そっと扉を開けてみたが、期待は空振りだった様だ。屋上には旻しかなく、誰も居無かった。
「今日は・・・何も居ないみたいですね。」
677先生が恐々辺りを見たが、彼の風鳴りもしない。
「お、今日も綺麗な夕暉じゃん。」
急に駆け出した飃は柵に手を掛け、凱風を一杯に受けた。
如何やら霄の彼に変わった様だ。
こんな急にスイッチが切り替わると少し戸惑ってしまう。飃自身余り自覚も無いらしく、予感も無いから猶の事だ。
夕暉が緩りと沈もうとしている。霄は直ぐ其処だ。
「ね、飃君一寸聞きたい事があるんだけど良いかな?」
「勿論、御姉さんの頼みとあらば聞いてあげるよ。」
何を聞かれるか分かっているだろうに飃は何とも涼しい顔だ。
いや、分かっているからだろうか。ニヤニヤと意地悪く笑っていた。
371は未だみたいだし、今の内に聞いてしまおう。
「昨日の霄、何処か行ってたんでしょ?何か分かったら教えて欲しいなって。」
「其、教えたら僕が怒られる奴じゃん。」
―・・・余ドレミを怒らせない方が良いよ。・・・恐いから。―
「然う言われてもそんな大した事は分からなかったんだけどね。」
「分かった丈でも良いよ、飃君。」
ドレミが飃と並んで柵に手を掛けた。
そんな彼女の行動一つ一つを見逃さない様に彼は見詰めていた。
ドレミの黄玉の瞳と搗ち合い、飃は少し頭を掻く。
「仕方ないなぁ。じゃ、教えてあげる。彼の霊が自殺した原因?みたいな奴。」
「え、其って034ちゃんの事?」
「い、一体何だったんですかっ!」
ガバッと677先生が駆け寄って来たので思わず飃は枴を握り直した。
杞憂と分かってそっと枴を軽く握る。
「かもだよかも。本当の所は本人しか分からないし。でも、無関係じゃないかもって事。ま、彼の子が来る前にさっさと話しちゃおっか。」
「で、でも昨日一体何処へ?」
「私、昨日飃さんをパソコンルームへ案内したんです。其処で調べたいからと別れましたが若しかして其で・・・?」
「そ、丁度僕は然う言うの一寸齧ってたしね。人並み程度には調べられたよ。」
「でもネットにあったって、此の事件は可也隠されていましたがそんな簡単に出て来たんですか?」
「いや、事件自体は出て来なかったよ。でもほら、昨日の昼頃皆見てたんでしょ。学園の裏サイトとか言う奴。」
「あ、然うだね。此処の生徒が見てたんだよ。」
余り良い物じゃないって677先生は言っていたけど、其処に情報があったのだろうか。
矢っ張り677先生はちょっぴり苦い顔をしていた。然う言うのが好きじゃないのだろう。
「で、其のサイトを見てたらあったよ。ある生徒を中傷する書き込み。」
「如何言う事?034ちゃんが何かしたとかあったの?」
「苛め・・・と言う事ですか。」
目を伏せて677先生は何とも苦しそうだ。
「だね。声が気持悪いとか、勉強は出来てむかつくとか。ま、そんな良くある妬みとか書かれていたよ。最初誰について書いてあるか分からなかったけど、最近の書き込みで死んだってあったし、間違いないでしょ。」
「そんな・・・酷い、如何してそんな目に遭わなきゃいけなかったんですか・・・。」
「僕は其の子の事知らないから何とも言えないけどね。どうせ理由は単純な物だろうし、仕方ないんじゃないの。」
「あ、若しかして最近其の子がポータブルフォンを使ってたのって、」
「気付いていたのかも知れませんね。そして気になって見てしまっていた。此の学園の誰かが自分の事を然う思っているって・・・知っていたんですね。何て事、表では何ともなかったのに裏でそんな目に遭っていたなんて。」
「677先生、自分を責めちゃ駄目だよ。悪いのは苛めていた子なんだから。」
今にも涕きそうな目をして何度も677先生は頷いた。余り自己嫌悪に陥ると悪霊になってしまいそうだ。
「うんでも飃君、調べてくれて有難ね。今日はじゃあ若しかしたら其について話すのかもね、034ちゃんは。」
「んー其でも僕は腑に落ちない所もあるんだけどね。学校で自殺したのは分かるよ、御前達の所為だって見せ付ける為でしょ。でも死に方が何だかね。」
―包丁で刺したんだっけ。可也痛い方法だよね。―
「そ、別にサイトにも其を示唆する物も無かった。学校で死のうとした頭はあったのに行動が何だか突発的過ぎる気がして合わないんだよ。」
確かに、随分とショッキングな死に方だ。
彼が言い渋ったのは此処が問題だったからかも知れない。確証の無い証拠を伝たくなかったのだ。
「・・・記憶に残ろうとしたんですかね、包丁なんて・・・うっ、」
「あ、ベール君緩り深呼吸してね。考えちゃ駄目だよ。」
「其も否定出来ないね。ま、死人に口無しだし分かり様も無いんだけど。いや、今回はまぁ例外だけどね。」
「・・・此は思ったよりきつい話を聞く事になりそうですね。」
「だね、先生は特にきついかもだし、覚悟は要るかもよ。」
034の死の謎、苛めが自殺の原因って言うのは理解出来る気がした。
人は集団になると仲間外れを探したくなる物だもんね。其が行き過ぎて今回は大事になったけど、大なり小なり何処にでもあると思う。
あれ、でも其でも一つおかしい所がある気がする・・・行動が一貫していない?
「でも、じゃあ如何して034ちゃんは371ちゃんを護ってるのかな。若しかして371ちゃんも苛められているとか?」
「うん、流石御姉さんだ。でも良い事か悪い事か、彼の子に関する物っぽい書き込みは無かったんだよ。」
「うーん・・・確かに其は一寸おかしな話だよね。」
何だか辻褄が合わないと言うか、何かが欠けている気がする。
一番肝心な、371が護られる理由があるとすれば・・・。
「まぁ其も若しかしたら分かるかも知れないんだけどね。」
「あっ、皆さん御早いですね。」
扉を開け、371が屋上にやって来た。
一寸元気が無い気がする。今から起こる事を考えると心配になっちゃうもんね。
「随分緩り来たね。待ち草臥れちゃったよ。」
「済みません、只昨日襲われたので矢っ張り来るのは一寸恐くて・・・。」
「何の道今から水鏡が出るんだし、良いんじゃないかな。」
紅鏡が完全に沈む。・・・もう霄だ。
「一体話って何なんでしょう・・・。」
「・・・・・。」
371はじっと俯いた儘だった。静かに時を待つ。
―あ、出たよ水鏡!―
ローズが前足を上げて少し丈立ち上がる。
其は初めて見る水鏡だった。
透明な、玻璃で出来たかの様な球体。一つリングが掛かっていて其が皓く淡く輝いている。
「へぇ、良い水鏡だね。悪くない曦だよ。」
一同が水鏡を見上げる中、少しずつ371の影は伸びて行った。
其は本来有り得ない筈の、水鏡に向かって伸びて行く。
そしてむくりと起き上がった影が371の前へ立ち塞がる。もう371に水鏡は見えない。
「え・・・あ・・・あ、」
371の瞳が大きく見開かれた。影、034は前と全く違う姿をしていたのだ。
前よりずっと大きくて二倍以上はある。全身禍々しく角や刺が生え、手足は節榑立って細長くなる。
そんな手には不自然な程大きな刃物が握られていた。・・・まるで包丁の様な。
「え、待って、此の子が・・・034ちゃん?」
影は無言で腕を上げる。
―っ危ないよ!―
其の隙にローズが駆け出して371に突撃した。
そして其の儘無理矢理彼女を背に乗せて走り去る。
其と入れ替わりで影は刃物を思い切り前へと突き出していた。
―・・・っ、後一瞬遅れてたら、―
ローズの声に思わず371はぎゅっとローズの背を掴んだ。
影はもう独立して立っていた。そして緩り振り返って371を見詰める。
「な、何⁉何で急に襲って来たの⁉」
「分からないねぇ。本人に直接聞いたら如何かな。」
「そ、然うだね。ねぇ034ちゃん!一体如何したの!昨日みたいに話してくれないかな!」
ドレミの声に緩りと影は長い首を伸ばした。
そして口を開けると・・・其処には一つの目があった。
大きな眼球、血走った其が喉の奥に収まっていたのだ。
其の目がじっとドレミを見詰め、其の儘ざわざわと影の姿が変化して行った。
尾が二つに分かれ、腹に虚の様な穴が開く。
全身に黔い鱗が疎らに生え、水鏡に照らされて輝いた。
頸と尾の先に其々金の輪が掛かり、頸のには371達がしている様な布が翼の様に生えていた。
「ち、違うよ。此の姿・・・全然371ちゃん達と違う!」
―・・・サナイ。サ、ナイ、―
影からそんな声が漏れた。昨日と同じ幽風の様な声。
「う、あ・・・よ、呼んでる・・・の?」
影の目丈が371を捉えた。感情の読めない目で。
―サナイ・・・サ・・・、ユ、赦サナイ、赦サナイ、ユル、赦サ、赦サナイッ、赦サナ、赦、赦赦、赦サナイッ赦サナイ赦サナイ赦サナィイィイ赦サナイ赦サナイッ‼―
突然声を荒げて影は371に向けて突進を繰り出した。
―う、うわっ此方来たっ!―
「此は一寸痛めつけないと話にならないよ。」
駆け出すローズの隣で飃が枴を構えた。
そして影が通る際で横薙ぎに払う。
朏の凱風が影の足を斬り付けた。
途端影の上体がぐらついて倒れ込む。
影の足は靄の様に斬っても手応えが無かった。
だが飃の一撃であっさりと両足は斬られ、足首丈が床に縫い付けられていたのだ。
其でも影は371丈を見て長い腕を伸ばして踠いていた。
―うぅ、此以上逃げられないよ・・・。―
屋上に対して影は大き過ぎたのだ。
ローズがぎりぎり屋上の柵に身を寄せ、何とか腕から遠ざける。
飛の鎧になれば逃げられるけれども、余り騒ぎを大きくしたくはない。
然うしている内に影の足は元通りくっ付き、又影は立ち上がった。
「斬り応え無かったし、矢っ張り治っちゃうか。如何する?細切れにする?」
「う、うーんそんな事して大丈夫かな。そ、然うだベール君!宙で閉じ込めてみてよ!」
「え、えぇ宙ってそんな力じゃあ・・・い、いややってみますっ!」
腰が引けて転けていたベールだが、何とか集中して術を掛けてみる。
影全体を包む様に、イメージを持って一気に。
又影はローズに向け、突進を繰り出した。
だが其の巨体は不自然な状態で止まってしまう。
もう一歩踏み出せば届くのに、何かに弾かれた様に止まってしまったのだ。
然う、まるで見えない壁でもあるかの様に。
「も、若しかして此、」
ドレミがちらとベールを見遣ると、腰が引けてはいるもののベールは手を前にしてじっと影を見詰めていた。
「す、凄いよベール君!完璧な術だよ!見えない檻で包んでくれたんだね!」
「や、やった、で、出来たんだ。あ、有難う御座いますドレミさんっ!」
此処からでも明らかな位ベールの瞳が輝いている。彼が術を正しく使えたのは初めてなのかも知れない。
「うん、良いんじゃないの。此の儘縮小出来てプチッと潰せたら最高だけどね。」
飃が宙を叩くと確かに見えない壁の様な物があった。
目の前に獲物が居るのに襲えない、見えない強固な玻璃の檻か。
影は何とか其処から出ようと執拗に壁を殴ったが、宙が壊れる様子は無かった。
「あ、あれ、此方迄来ない・・・?」
―うん、仲間の力で閉じ込められたみたいだね。―
範囲内の物が出られなくなると言うのは宙でも割と起き易い現象だが、此のタイミングで来て本当良かった。
何時も何時もタイミングが悪いと言う訳では無いみたいで安心だ。
此で話・・・位は出来るだろうか。
「ね、ベール君、暫く其の儘で大丈夫かな?」
「大丈夫です!大して魔力は使わないので。」
噫、彼の笑顔が眩しい。
誰かの役に立てて喜んでいるんだ。何て純粋で良い子なんだろう。
「まさか御喋りでもする気?一寸無理そうだけど。」
「でも昨日とかちゃんと御礼してたんだよ。興奮していたのが治まれば大丈夫かも。」
影は出られないと悟ったのかうろうろと宙の中を歩き回っていた。
其の目はじっと変わらず371を見ていたが、ドレミが近付く事で視線が移った。
出ては来られないみたいだが、近付くのは矢っ張り一寸恐い。
可也大きくなっているので丸呑みにされそうだ。
「ね、ねぇ034ちゃん・・・だよね?」
努めて冷静に、そっと声を掛けてみる。
大きな目がギョロっと、ドレミを見詰めていた。
―答エタラ・・・出シテ、クレル?―
「うーん、答える丈じゃあ一寸難しいけど、話してくれたら考えるよ。」
―・・・・・。―
影は黙ってドレミを見詰める丈だった。
意外に理性はあるらしい。大人しいのは肯定なのだろうか。
「じゃあもう一回聞くね。034ちゃんで、合ってるんだよね?」
―・・・一応、合ッテルワ。―
答えた。此で一つ前進だ。
「有難ね。じゃあ034ちゃん、如何して371ちゃんを襲うの?昨日迄護ってくれたのに。」
―其ハ、本人ガ・・・モウ全部分カッテル、筈。他人ニ、話ス気無イ。―
ぎゅっと371は掛けてあった布を掴んだ。
相変わらず目は合わせられない様だ。
「本人って371ちゃん?然うなの371ちゃん、何か心当たりってあるかな。」
前ははっきり分からないと言っていたけれども、如何なのだろう。
昨日迄助けてくれていた034ちゃんが急に襲う理由が、ドレミには如何しても分からなかった。
「良く・・・分からないわ。そんなロコロコ態度を変えられても、」
―ヘェ、コンナ状況デモ貴方ハ猫、被ルノネ。―
幽風の様な冷ややかな声。034は目を細める様に口を閉じた。
「ちょ、一寸二人共!ちゃんと話し合いなさい。其じゃあ何も解決しないわっ!」
声を上げてドレミに並んだのは677先生だった。
流石霊になっても先生と言う可きか、影がはっきりと034と分かった所でもう彼女は怯えるのを止めていた。
そして034と371、二人を交互に見遣って、しっかりと目を合わせる。
其処で初めて371は677先生を見た。
初めて其処に居た事に気付いた様に。
彼女が見えたのだ。・・・677先生の悍い懐いが伝わったからなのか、水鏡の所為なのだろうか。
「折角会えたのよ。しっかりと話しなさい。逃げちゃ駄目よ。私達がちゃんと聞いてあげるから。」
―・・・美味シソウ。―
一瞬034の瞳がぼうっと絳く灯ったが、瞬きの代わりに口が閉じられると、元の色へ戻っていた。
―マルデ先生ミタイ。・・・然ウネ、皆サンハ、彼ノ子ヲ助ケテ、クレタ。一緒、居タ。デモ彼ノ子ハ隠スノ、好キダカラ、知ラナイノ、無理、無イワ。―
「何よ。知った風に、・・・霊の癖に。」
「・・・若しかして、学校の裏サイトが関係してるとか?」
飃の横槍にハッとした様に034は首を曲げた。
柵に寄り掛かり、飃は変わらず嫌な笑みを彼女に向けた。
「図星っぽいね。成程ね、僕一寸丈分かったかもね。」
―・・・未ダ、残ッテルノネ、ソンナ物。―
「そ、残念乍ら。」
吐き捨てる様に言う034に一つ飃は頷いた。
「飃さん。い、一体何が分かったんです・・・?」
宙を解かない様に注意しつつ、そろそろとベールは彼に近付いた。
「多分さ。其の子も書いてたんじゃない?其処の化物の悪口をさ。」
「そんな・・・其は本当ですか371さん!」
「別に・・・皆書いてるし、私丈じゃないわ。」
プイと先生の視線を避ける様に彼女は外方を向いてしまった。
「でも書いたのは書いたんでしょ。」
「クラスで流行ってたのよ。書いてない子の方が居ないわっ!」
苛々した様に投げ遣りになった彼女の態度にドレミは驚かずにはいられなかった。
「え・・・でも友達、だったんでしょ?」
「別に友達の一人って丈よ。時々一緒に遊ぶ位の。何で私なのよ。此が復讐だって言うのならクラスの皆殺しちゃえば良いじゃないっ!」
「お、落ち付いて371ちゃん、ドレミ達は本当の事を確かめたい丈だよ。」
友達だった筈なのに、そんな裏切り行為をしていたなんて。
ドレミには俄に信じ難い話だった。
其でも彼女を責めるのは後だ。未だ全部が分かった訳じゃない。
―然ウ・・・デモ私ニトッテ、友人ト呼ベルノハ、貴方丈ダッタ。―
其の呟きにハッとした様に371は顔を上げ、緩りとローズから降りた。
―クラスノ皆カラ、嫌ワレテタノハ、分カッテイタ。私ハ、鈍クテ、トロクテ、無愛想デ、無口デ、ツマンナイ子ダカラ。デモ、貴方丈ハ、私ニ優シクシテクレタ。唯一、悪意ヲ向ケラレナイ、優シイ人ッテ、思ッテタノニ。―
話す内に034の背の鱗がざわざわと揺れた。彼女の感情に合わせているかの様に逆立つ。
―結局、私ニ向ケラレタノハ、悪意丈ダッタ。噫赦サナイ、赦セナイワ。貴方ニハ分カラナイデショ、美味シク弁当ヲ食ベテ御喋リシタ後ニ、食ベ方ガ汚イッテ書カレタ気持。一緒ニ映画ヲ見テパンフレットモ買ッタノニ、映画選ブセンスガ無イッテ書カレタ気持ッ!モウ、モウ沢山ヨ!―
「・・・独りでずっと辛かったのね。気付いてあげられなくて御免なさい。」
そっと宙の壁に触れて677先生は思わず俯いてしまった。
霊になり、こんな悍ましい姿になってしまう迄彼女は傷付き過ぎてしまったのだ。
生徒の事、見れているつもりだったのに。
そんな677先生の様子を見て少し丈034は落ち着いた様だった。
先自分で言った様に本来は大人しい子なのだろう、声を荒げたのも初めてなのかも知れない。
「ふーん。じゃあ其の子の事、殺したい程憎んでたんだ。じゃあ何で自殺したのさ。其とも死んでから其の子を殺してない事を後悔して化けて出て来ちゃった訳?」
殺したい、其の言葉に大きく371の背は震えた。
そんな事に飃は一切気付かない振りをする。
―自殺?違ウ、違ウワ!誰ヨソンナ出鱈目吹イタノ・・・噫、然ウ言ウ事ネ。―
目を細め、034が鼻を鳴らすと幽風が冷たく鳴いた気がした。
―死人ニ口無シネ。ソンナ事ニナッテタンダ。信ジラレナイ、本当ニ。―
「・・・じゃあ本当は何があったか、話してくれるかな?」
―私、嘘ガ大嫌イナノ。ダカラ、話スワ。―
034は頭を低くして一同を見遣った。
「・・・彼の日、貴方は此の屋上に来ていたのよね。」
―エェ、デモ、私丈ジャナイワ。―
首を伸ばして034はじっと371を見詰めていた。
其の目をやっと371は真っ向から見詰める。
「若しかして・・・371さんと一緒だったのかしら。」
034が亡くなった時、傍には371が居たと言うのか。
でもそんな・・・彼女は一言だってそんな事は言わなかった。
いや、彼女は一言丈、言っていた。
“・・・034ちゃんは・・・その、自殺、です。霄、屋上で・・・刺されて・・・其で、”
然うだ。嘘は吐いていない。自分達が勝手に勘違いした丈だ。
其が噂だと、伝聞なんだって思い込んでいたんだ。
彼女は見ていたのだ。でも、じゃあ刺されてって・・・一体、
「私は・・・呼び出されたから、来た丈よ。」
小さな肯定の声、彼の日、二人で此処に居たのだ。
「こっそり寮を抜け出して来てみたら・・・急に、其奴が、」
何を懐い出したのか371の声は震え、息が荒くなる。
一つ息を付く。大丈夫、今彼奴は檻の中だ。
「其奴が・・・包丁を、っ、」
「成程、此処で殺す気だったんだ。態々呼び出してね。」
飃の声にびくりと彼女の背が震える。
「然う、然うよ。行き成り、今みたいに襲い掛かって来て、わ、私必死に抵抗したわ、そしたら・・・、」
―然ウ、アロウ事カ手ヲ滑ラセテ、気付イタラ私ニ刺サッテイタノ。彼ノ時ハ、痛カッタナァ。―
「何が痛いよ、自業自得の癖にっ!」
「まさか・・・そんな事が起こっていたなんて・・・。」
刺された、とは然う言う事だったんだ。
屋上で包丁一本対峙する二人、其が何の切っ掛けか034に刺さったのだ。
―ソシテ貴方ハ逃ゲタ・・・苦シム私ヲ置イテ。冷タカッタワ、床モ凱風モ。私モ、冷タクナッタ。―
「確かに其は自殺じゃないね。」
「じゃあ私が殺したって言うの⁉私だって被害者よ!」
「然うだね。一種の不幸の事故と言うか・・・。」
でも其の時、371が先生を呼んだりしていれば、034は助かっていたのかも知れない。
こんな事には、ならなかったのかも知れないね。
―ダカラッテ自分ガ全ク悪クナイトデモ?笑ワセナイデ、ソンナツマンナイ冗談デ。―
「じゃ君が霊になって此の子の影に居たのってもう一度、次こそはちゃんと殺す為って事?今みたいにさ。」
―概然ウネ。―
あっさりと034は認め、頷いた。
嘗て一番の友人だった筈なのに、何時しか殺したい程憎んでしまった。
・・・悲しい話だね。
「で、でも今日迄034ちゃんは371ちゃんを助けてくれたんでしょ?危ない目に遭っても何時も助けてくれたって。」
―ソリャア助ケルワ。・・・自殺ナンテ、堪ッタ物ジャナイモノ。―
「自、自殺?え、371さんが・・・ですか?」
話が繋がらない、彼女が自殺を?一体何処からそんな話が。
「・・・高い所から落ちそうになったり、階段から転けたって、然う言う事?」
ちらと371を見遣ったが、彼女はもう目を合わせてくれなかった。
―ジャア柵ノ向コウニ立ッタリ、階段前デ目ヲ閉ジテ歩クノヲ自殺ト言ワズ何テ言ウノ?寮デモ私ハ散々護ッテ来タノヨ。―
「何が護ったよ。余計な邪魔許りして・・・。」
―ハッ、高々ソンナ罪悪感デ死ニタクナルノナラ、初メカラシナキャ良カッタノヨ!私ガズットドンナ気持デ居タカ知ッテイタ癖ニッ‼其トモ頭ガ悪イカラ想像モ出来ナカッタカシラ。―
二人丈で話が進もうとしている。自分達は随分と隠し事をされていたみたいだ。
今の話を要約すると、034が亡くなった後、371は自殺未遂を繰り返していたと言う事だろうか。
だから371は034の影を止めて欲しくて、自分達に話したんだ。
ちゃんと自殺が・・・出来る様に。
そして・・・034が其を止めて彼女を助けて来た理由は、
―私ガ殺ス迄死ナセル物デスカ。絶対ニ赦サナイ。楽ニナンテサセナイ。此処デ終ワラセテヤルワ!―
金切り声を上げて034は何度も宙の壁に激突を繰り出した。
話し合いは終わりと言う事か。全て吐き出した所為か先より幾分力が勁い。
ビリビリと、宙の壁が震える様な音がして来た。
でも、理由が分かったからって矢っ張り371を殺させる訳には行かない。
彼女が死を望んでいるとしても、こんな終わりは駄目だ。
―ウ・・・ア・・・ハ、早ク、早ク早クシナイト・・・チ、力ガ、溢レルノ、ハ、早クッ!―
猶も彼女は節榑立った手を振り上げては壁を殴る。
「な、何とか止めないと。でも・・・何か034ちゃん勁くなってない?」
「だね。元気になってる気がすると言うか・・・。」
何だか嫌な予感がする。宙の中にいる内に、可哀相だけど攻撃するしかないだろうか。
「ま、待ちなさいっ!未だ話し合いは終わっていませんわ!暴力は駄目よ!」
一同が手を出しあぐねていると677先生がきっぱりと034の前に立ち塞がった。
何の力も無いのに勇気を振り絞ったのだ。
すると・・・ピタリと034の手が止まった。
そして677先生を食い入る様に見詰めていた。
両手を宙の壁に付け、じっと。
・・・まるで獲物を見る様に。
「わ・・・分かってくれたかしら。」
677先生が呟いた途端、034はもう一度丈宙を殴った。
すると何と言う事か、あっさりと宙の檻は砕け散ってしまった。
見えないが魔力が四散するのを感じる。
突然の事に動けなくなった一同の前で、034は其の長い腕で677先生を捕らえていた。
「え、キ、キャァアアアァ⁉」
「な、何で突然・・・ってベール君⁉」
気付けばベールが大の字になって伸びていた。
い、何時の間に⁉何があったの⁉何で無言で気絶しちゃったの⁉
術者が倒れたから術が解けちゃったんだ。
一体彼の身に何が起きたのか気になるけれども先ずは677先生を助けないと。
―モウ此方難シソウダシ、此デモ良イヤ。ネ、姉サン何カ心残リハ無イノカイ?―
「い、いやぁあぁ⁉た、食べないで!ぼ、暴力は駄目なのよ!お、お願いだから、」
034の声音が少し変わった気がしたが、彼女の声は677先生の悲鳴に掻き消されてしまった。
677先生は必死に暴れて手足をばたつかせたがしっかりと034の手に胴を掴まれて、抜け出す事は出来そうも無かった。
―チョ、一寸、シーッテ。ネ、何カ後悔トカ夢トカナイノ?―
「・・・え?ゆ、夢、ですか?」
予想外の言葉に677先生の動きが止まった一瞬、大きく枴を振り被って飃が朏の凱風を034に御見舞いした。
凱風は意図も容易く034の両手を斬り、千斬れてしまう。
「うん、間に合ったね。」
落ちる677先生を駆け乍ら飛の鎧を纏ったローズが背でキャッチする。
無意識だろうが677先生はきゅっとローズの背に手を回したので急いでローズは其の場を離れた。
「ナイスプレイだよ!二柱共有難ね。」
「こんなの御安い御用だよ。どうせこんな怪我じゃあ治っちゃうんだろうし。」
見る間に034の腕が修復されて行く。ダメージは残っていない様だ。
斬る事しか能の無い自分とは相性悪いのかもねぇ。
「あ・・・あ、ロ、ローズさん、有難う御座いましたっ、」
―うん、如何致しまして。二人共此方に居てね。―
そっとローズは371の近くで677先生を下ろした。
行き成りターゲットが変わって焦ったが、何とか護れて良かった。
―流石にもう話すのは無理だよドレミ、無理にでも止めなきゃ。―
「ま、待ってください。何か、何か様子が変なんです。」
677先生はそっとローズの尾を持った。
ピンと引っ張られた尾に思わずローズはびくついてしまう。
―ちょ、一寸そんな所持たないでっ⁉―
「あ、ご、御免なさい。でも変な事を言っていたんです。彼は一体、」
―変な事って?―
「こ、心残りが無いかとか、後悔が無いかって・・・。」
本当に然う言われたか怪しい位だ。
―確かに、何だか先迄と話繋がらないね。―
―ウゥ、大分面倒ニナッタナァ。―
「・・・ね、君は誰なの。034ちゃんじゃないよね。」
何処となくドレミも其は勘付いていた。
おかしい、声も姿も一緒だけど、気配が明らかに変わった。
ドレミの声に034は目線を動かしてじっと彼女を見遣った。
―マ、バレテモ支障ナイカラ良イヨネ?―
独り言だろうか、034は首を傾げて一寸背伸びをした。
―オーケー話シ合オウ。然ウシタラ君達モ協力シテクレルカモ知レナイ。君達ハ勁ソウダ、出来レバ互イニ怪我シタクナイデショ?―
「然うだけど、ね、ねぇ君は誰なの?」
もう明らかだ。先迄声を荒げて371を怒っていた彼の子じゃない。
034だった影は両手を挙げて笑った様だった。まるで敵意が無いとでも言う様に。
―自己紹介、大事ダネ。契約者以外ニ話スノハ初メテダ。私ハドニム・ザナネイオス、龍ノ一頭ダ。神様ノ皆々様。―
「龍?龍族って事?」
然うと決まれば話は早い。
ドレミは急いで時空の穴を創ると中からスカウターを取り出し、掛けてみた。
・・・本当だ、何か出て来た。でも不思議と今迄のと比べて何だか読み難い?
「如何御姉さん。何か分かった?」
「えっと・・・ドニム・ザナネイオス・・・うん。聖と光の龍だって。ん、霊と契約をして願いを叶えてくれる・・・?」
ドニム・ザナネイオスは珍しい龍らしく、彷徨う霊を見掛けると、後悔はないか問い掛けるらしい。
そして自分に出来そうな事なら其を叶えてくれるのだと言う。只対価は・・・霊の全ての存在証明。
先ずドニム・ザナネイオスは霊に取り憑き、願いに叶った力や姿を授けるらしい。
そして願いが叶えば、其の儘霊を取り込んでしまうのだ。然うして存在する龍なのだ。
本来の姿は見えず、心に憑くと言われている。只、彼に憑かれた霊は外見的特徴が一致すると言う。
其は、目が生える、黔い鱗が全身に生える、尾が二本に分かれ、金の輪が掛かる。そして腹に穴が開くのだと言う。
其はドニム・ザナネイオスに霊が取り込まれているからこその変化らしいが、未だ良く分かってはいないらしい。
「願いを叶える・・・ふーん、何だか精霊みたいで嫌だねぇ。」
「あれ、精霊さん嫌いなの?可愛いからドレミは好きだよ。」
「だって願いを叶えるとかさ。厭らしいじゃんやり方が。都合が良いと言うか。」
「ま、待ってください。じゃあ若しかして034さんは、」
「然うだね。余もたもたすると食べられちゃうかも。願いってのは分かり切ってるしさ。」
目を伏せる371の背をそっと677先生は撫でた。
「其じゃあ龍さんには悪いけど、止めなきゃね。二人の為に。」
まさか又霊を喰らう龍が来るとは。
魂凱漂えばも言っていたけれど、其丈034が美味しそうに見えるのかな。
スカウターで良く見えないのも、もう034の魂を取り込みつつあるのかも知れない。
―マァ昨日モ助ケテクレマシタシ、友達位ニハナレソウダナンテ。―
ドニム・ザナネイオスが口端を上げると目が細まり、嫌な笑みへと変わる。
争わないのは良い事だけれど、敵わないと思ったから直ぐ手段を変えたとなっては少し心配になってしまう。
少し、裏がある様な気がするのだ。
「友達になってくれるのは嬉しいけど、ドレミ達ね、034ちゃんも371ちゃんも死んで欲しくないの。だから止めてくれたら良いんだけど。」
―フゥム、其ハ其ハ。―
何事か考え込む様に器用にドニム・ザナネイオスは腕組をした。
彼の口調がころころ変わるのは今迄喰らった霊の影響なのだろうか。
矢っ張り何の道即決は出来ないよね。未練もある様だし。
「ね、先から化物の方ばっか喋ってるけど、彼の子は未だ中に居るの?」
―ンン、依頼主ノ事カナ。休ンデル丈ダヨ。未ダ願イハ叶エテナイカラ。―
たった一つの瞳が、気付けばじっと371を見詰めている。
此以上近付けば手が届いてしまうので気を付けないと。
「未だ食べては無いんだね。じゃあさっさと離れて欲しいんだけど。」
―成程成程ジャ自由ニ話シタリシテ良インデ、後デ此ノ子食ベテモ良イ?―
ドニム・ザナネイオスが自身を指差す。
「うーん、約束は出来ないかな。本人が望んだら・・・その、無理には止めないけど。」
―ジャアサッサト願イヲ叶エタラ帰ルンデ其デ良イデショ?―
「そ、其は難しいの。先ずはもう一寸二人で話して貰って・・・、」
―ジャッ交渉決裂デスネ。―
細められていたドニム・ザナネイオスの瞳がかっと開かれる。
そして刃の腕を大きく振り上げて一番近かったドレミへと振り下ろした。
「っ駆けて瞬来雷!」
咄嗟にドレミは自身の足へと術を走らせた。
途端に彼女の足が激しく発光し、火花が飛び散る。
其の儘ドレミが足を滑らせると目にも止まらぬ速さでスライディングし、間一髪で刃を躱した。
ドニム・ザナネイオスの刃が屋上に突き刺さり、深々と刃が入り込む。
可也斬れ味が鋭い様だ。あっさりと彼は腕を引き抜いたが深い斬れ込みが残ってしまっている。
「っ良く今の避けたね、僕より速いじゃん。」
「でも危なかったよ。警戒していて良かったよ。」
飃がポンと背を叩くと身を屈めていたドレミはそっと立ち上がった。
ドレミの足は粗驚霆と化していた。
多少落ち着いたものの、未だ激しく火花を散らし、輝いている。
―大丈夫?怪我は無い?―
「うん、大丈夫だよ。只此の技緊急脱出用だから一寸足が痛くて嫌いなんだけど。」
小さな火傷が幾つか出来てしまうのだ。
―ナァンダ。躱シチャア面白クナイヨ。―
「其方だって急に襲って来たら面白くないでしょ。」
「ま、話す丈無駄って事でしょ。もう此はやっちゃうしかないんじゃない?」
―然ウ言ウ事。利害ガ一致シナイナラ仕方ナイネ!―
ドニム・ザナネイオスの目が光り、突然光線が発射される。
光線は熱を持っている様で照らされた床が一気に焦げ臭くなる。
上げて行く視線の先には371達が居た。狙いはぶれない様だ。
顔を上げる前に飃が枴に跨って一気に飛び上がった。
そして一瞬枴から降り、凱風を纏った儘枴で思い切りドニム・ザナネイオスの横顔を殴り付けた。
朏の凱風が一気に顔を抉る。
頭がボロボロになった事で大きくドニム・ザナネイオスの首が逸れ、あらぬ方向へ光線は飛んで行った。
―先カラチョコチョコウザッタイナァ。―
ドニム・ザナネイオスの節榑立った腕で払われ、弾き飛ばされた飃は柵に思い切り激突した。
枴で受身を取ってはいたが、爪が鋭過ぎて腕に幾らか絳い筋が入った。
少し背を丸めて呻く。流石に今のは可也痛い。
「もう・・・だから護るの大っ嫌いなんだって。」
「ひ、飃さん怪我はっ、」
「こんなの大した事無いって。向こうは化物だよ?」
凱風の檻で包んで護ろうかと思ったけど、あんな遠距離攻撃があったら意味がない。
面倒だなぁ・・・嵐をぶつけて細斬れにしてやりたいよ。
「っ飃君大丈夫⁉」
「大丈夫だけど面倒だよ。もう見切り付けても良いんじゃない?」
「もう⁉ま、未だ早いよ!」
でもこんな風に皆怪我しちゃったら大変だ。
何処かで見切りを付けなきゃいけない・・・其は分かってるけど。
「うーん、御姉さん甘いねぇ。責任持てない癖に。」
多分相手は想像以上に手に負えない怪物だ。
互いに傷付けずに且つ勝利を収めるなんて粗無理だよ?
「うん・・・分かってるよ。だからドレミも出来る限り頑張るから!」
意気込んでいるとドニム・ザナネイオスは少し背を伸ばして一同を見渡した。
「っ然うだよベール君助けなきゃっ!ど、何処行ったの⁉」
伸びてしまってからすっかり忘れていた。
未だ倒れているのならあっさりドニム・ザナネイオスにやられてしまう。あんなに大きいのだ、踏まれでもしたら。
そっと辺りを見渡したけれども何故か彼は見付からない。
「捜してる暇ないんじゃない?次が来るよ。」
飃を包む凱風が大きくなる。もう、抑えて相手出来る奴じゃない。
こんな事で仕事が失敗したら本当情けないよ。
ドニム・ザナネイオスの瞳が光る。
又彼の光線か・・・止められない曦の攻撃は如何しようか。
「グログロgrotesque中毒発作症候群・・・発症。」
何処からかそんな声がし、ドニム・ザナネイオスの上旻から、何とベールが落ちて来たのだ。
そしてドニム・ザナネイオスの頭に掴まり、手にしていた繃帯で手早く彼の口を縛ってしまう。
―ナ、何シヤガルンダ此奴!―
口を閉じられてしまうと目も隠れてしまって何も見えなくなる。
ドニム・ザナネイオスは何とか繃帯を千斬ろうとしたが、雁字搦めに固く結ばれた其は簡単に解けそうも無かった。
嫌になって彼が首を振ると其の反動でベールは彼の頭から降り、一同の近くへ着地した。
無口でベールは一同を一瞥する。
目は冷たく、何を考えているのか分からない。
「・・・誰?」
こそっと飃はドレミに耳打ちをした。
流石の彼も判断出来兼ねている様だ。同一神物に思えないのだろう。
「ベール君だよベール君。取り敢えず無事そうで良かったね。」
「・・・嘘でしょ?」
困惑している彼を見られるのは中々珍しいのではないだろうか。
自分も一寸前に見た限りだから未だ慣れてはないけど、でも知ってる分有利だね。
―ざっくり言うと何だか勁くなる時がある病気に罹ってるんだって。―
「ほー其は中々面白いね。」
一歩飃が近付くと突然振り返ってベールはまさかの蹴りを彼に御見舞いした。
「っ⁉一寸急に何してくれんのさ。」
顔面を捉えた躊躇の無い一撃に思わず飃は大きく飛び退る。
反射的に彼の纏う凱風も一気に勁くなり、周りの床や柵を手当たり次第に斬り付けた。
「えぇ⁉だ、大丈夫飃君⁉」
「若しかして勁くなる代わり敵味方の区別が付かなくなったりする訳?」
「そ、そんな事はないと思うけど。」
前だってダイヤに扱き使われていたし、叱られて反省している様だった。
無口にはなっちゃうけれど、其の位の分別はしっかりしている印象だ。
「じゃあ如何して僕が襲われるんだよ。」
飃が枴を構え直すと一気にベールは彼に向け駆け出した。
「如何やら向こうはやる気十分だね。」
「ふ、二柱共喧嘩は駄目だよ!」
ドレミが止めるもベールは止まらず其の儘突っ切る。
「っ・・・え、」
枴を構えていた飃の脇をベールは駆け抜けて行く。
其の儘通り過ぎてベールはパイプを何本か拾い上げた。
飃の凱風に因って何時の間にか柵が壊れてしまっていた様だ。
「成程、其が君の得物って訳か。」
飃が朏の笑みを浮かべたのも束の間、ベールは又しても飃の脇を通り抜けて行った。
そして勢いの儘ドニム・ザナネイオスの足や腕を殴り付ける。
「・・・?」
ドレミと飃は良く分からない儘に彼を見守る事になる。
あれ、普通に戦ってる・・・?
と言うよりまさか此って、
「若しかして武器欲しさに態と僕を襲った訳⁉」
「あ、えっと然う言う事かも・・・?」
結構彼も無茶するんだね。
―口で言えば良かったのにね。言えない呪いでも掛かってるか知らないけど。―
「流石に此は一寸赦せないよ。」
一柱で慌てて結果良い様に利用されていたと気付き、飃の目が坐った。
怒りの儘に枴を振るい、朏の刃を叩き付ける。
今のベールには後ろに目でもあるのか、ドニム・ザナネイオスの体中の棘を利用して彼は咄嗟に上へと逃れてしまった。
避けられてしまった分、彼の攻撃はドニム・ザナネイオスに命中してしまう。
―ッ⁉何ダヨ、見エナイ所カラチクチクシテサァ‼―
刃を振り下ろすが凱風を掴む許りで手応えはない。
「・・・若しかして又僕利用されてる?」
「う、うーん、協力しているんだよ、屹度。」
「協力・・・協力ねぇ。何だよ彼奴、弱かった癖に急に熱りやがってさぁ。」
騙された事が可也御立腹だったらしい。彼の纏う凱風が激しさを増す。
―ンン、其方ダナッ、今度コソ捕マエテヤル!―
「此方もう興が削がれたからやる気ないんだよ。さっさと終わらせてやる。」
飃の声に反応してドニム・ザナネイオスが駆けて来る。
其の隙にベールは彼の頭迄移動した。
「っ飃君!殺しちゃったら駄目だからね!」
「分かってるって。細斬れにしてやるから。」
其全然分かってないよー!
ドレミの心の声も何のその、随分と冷めた目で飃はドニム・ザナネイオスを見詰めていた。
何時もの飄々とした目ではない、仕事の目だ。
ドニム・ザナネイオスの刃が正確に飃の元へと振り下ろされる。
其の瞬間、吹き飛ばされん程の突風が一気に吹き荒れた。
只の凱風と思いきやドニム・ザナネイオスの腕が吹き飛び、躯も大きく欠けてバランスを崩して倒れてしまう。
―ウゥ・・・影ダカラッテ、余ダ。コンナバラバラニシヤガッテ。―
ドニム・ザナネイオスが呻くのも無理はない。飃を覆う様に倒れてしまったのでドニム・ザナネイオスの腹から胸元迄がごっそり凱風に千斬られてしまったのだ。
両手で何とか上体を起こすとドニム・ザナネイオスの首が背を見詰める様に曲げられる。
本来実体の無い存在なので関節だとかは飾りでしかないのだろう。
千斬られた所で血も出ない。彼が痛がる様子もない。
只勁過ぎる凱風の所為だろう、彼の口を縛っていた繃帯は千斬れてなくなっていた。
口が開かれ、瞳が一つじっと飃を見詰める。
瞳が刹那絳く血走り、瞼も無いのに瞬く。
来る、彼の熱線が。
応じる様に飃が枴を構えた瞬間だった。
ドニム・ザナネイオスの頸元から何かが跳ね上がる。
其の小さな神影、ベールは思い切り柵から千斬ったパイプを振り被った。
そして全体重を掛けてドニム・ザナネイオスの頭へと棒を突き立てたのだ。
正確には長く伸びた嘴の様な先。
ベールの一撃を諸に受け、ドニム・ザナネイオスの口は閉じられる。
然うしてベールの持つ棒が一気に彼の口を貫き、地へ縫い付けたのだ。
―本当チョコマカト、邪魔バッカリスルナァ。―
口を開けられないので光線はもう出せない。棒を抜こうと手を伸ばしたが、朏の凱風が腕を何度も斬り落として行く。
「もう好い加減諦めてくれないかな。斯う迄されちゃもう無理でしょ。」
―アーモウ、コンナン居ルッテ契約時ニ聞イテナインダケド。―
苛立たし気にドニム・ザナネイオスは床を引っ掻いた。
此以上腕を上げると又斬られてしまう。
ドニム・ザナネイオスの目が閉じられた事で少し丈皆の緊張が解けて来た。
彼の、内側全てを暴く様な目は如何しても竦んでしまう。
もう動けないと踏んだのかベールもドニム・ザナネイオスの背から降りてそっと一同の傍で控えた。
「此以上は攻撃したくないよ。ね、今回は諦めてくれないかな。」
―ウゥ・・・ドウセコンナ力ヲ使ッタラ喰エテモ実入リガナァ。―
少し考えてくれている様である。ドニム・ザナネイオスは困った様に尾を揺らしていた。
―デモ此方ダッテモウ食ベナイトソロソロ・・・ン、アレ⁉然ウ言エバ、―
独り言つ中何に気付いてか突然ドニム・ザナネイオスは少し丈顔を上げた。
途端飃の手が少し上がったのでびくりと彼の背も震える。見えてはいないのだろうが、殺気を感じ取ったのかも知れない。
―何デ戦ウ前ヨリ勁クナッテルノ・・・?影ヲ立タセル位シカ、体力無カッタノニ。僕何時ノ間ニカ勁クナッテル!―
「何言ってんの?変な事言って気を逸らそうだなんて無駄だからね。」
―出鱈目違ウヨ!本当、ホント!―
「不意打ちしようとした奴に言われてもねぇ。」
「・・・?如何言う事なの?未だ034ちゃん食べてないよね?」
「御姉さん程々にね。そんな近付かなくても話位出来るんだから。」
飃がそっと枴の先を向けてドレミを阻んだので一つ頷いて通して貰った。
―食ベテナイ、未ダ願イ叶エテナイ、何デ?―
「え、えっと何でって言われても、」
急に勁くなったんだと言われても此方はピンと来ない。
あ、でも若しかしたら勁くなったからベールの宙も破る事が出来たのかな。でも本当何でだろう。
「・・・え、う、うわぁぁあああぁあ⁉で、出て来てる!何でっ、ひ、飃さん助けてくださいぃっ!」
突然何とも情けない声を上げてベールが飃に抱き付いた。
「っ⁉はぁ⁉ちょ、気色悪いから抱き付かないでよ!」
目を剥いて必死になって飃はベールを剥がしに掛かる。
突然の事に攻撃と勘違いして斬り刻まなくて良かった。
いや抱き付かれる位なら一回死んで反省させた方がましだっ!
「離れろっつってんだろうがっ‼」
結局ぶち切れた飃が枴でベールを吹き飛ばした。
「あでっ⁉う、あ、ご、御免なさい飃さん、でも助けてくださいっ!」
―何ダァ此ノ情ケナイ生物ハ。―
「君にパイプぶっ刺した奴の声だよ。」
憎々し気に飃は枴を振り回す。
理解出来ない事が続いて可也彼の気が立っている様だ。
「其に助けるも何も君が彼の化物をこんな風にしたんだけど。」
「ひぇえぇえ‼知らないので助けてください!」
駄目だ、話にならない。
「あ、多分ベール君の病気治ったんだね。相変わらず急だけど。」
―だね、御蔭で助かったから良かったよ。―
「・・・若しかして此奴が勁いのって先の状態の事?僕と同じ二重神格みたいな感じなの?」
「うーん、病気だってドレミは聞いたよ。恐い物とか色々見ると一寸の間、勁いベール君になるんだよ。」
「何其、限定的過ぎて使えないんだけど。」
未だ足元で腰を抜かして蹲るベールを見遣り、大きな溜息を飃は付く。
此じゃあ御荷物だ。むかつく位戦闘センスを持っているのに。
僕の出番を奪って迄暴れた結果が此かよ。
彼の冷ややかな視線を受けて猶の事小さくなるベールだった。
―ア、若シカシタラ、変ナ所、閉ジ込メラレテカラ力ガ勁クナッタ気ガスル。―
「・・・御前の所為って事?」
いよいよ飃の声迄冷気を孕む。
此処迄来てベールも、彼は自分を助けてくれるのではなく、斬ろうとしているのではと気付き、慌てて下がり始めた。
―う、うーん。一応可能性はあるね。補助として宙を使う事もあるし。あの・・・今回の宙は閉じ込める兼、魔力を与える物だったのかも・・・。―
「じゃあ結局全部此奴の所為かよ!」
「ちょ、一寸飃君落ち着いて。そんな責めちゃ駄目だよ。ベール君に御願いしたのはドレミなんだから、ドレミの責任だよ。」
「もう、抱き付くのが御姉さんなら文句なんて出なかったんだよ。本当気色悪い。」
吐き捨てる様に呟いて飃は首を振った。
一応、落ち付きはしたらしい。
―ホゥホゥ、ジャア君達ガ勁クシテクレタンダ。何カ分カラナイケド感謝シトクネ。―
ドニム・ザナネイオスもやっと合点が行ったらしい。幾らか其の声は弾んでいた。
―デ、何時ニナッタラ此ノ棒外シテクレルノ?―
「君が其の子の願いを放棄したら考えても良いよ。ね、御姉さん。」
「う、うん。取り敢えずドレミ達は御話ししたいの。だから、」
―良イヨ。―
「・・・え?」
一同の声が見事にハモる。
如何言う風の吹き回しだろう。先迄あんなに渋っていたのに。
―僕ノ力、戻ッタ。此デ当分大丈夫。無理ニ戦ウ事無イシ、僕モウ満足。―
―え、えぇ、然う言う物なの?―
―僕ハ仕事ヲシタ丈。唯デ報酬貰エチャッタカラ寧ロラッキーダヨ。―
随分あっけからんと彼は然う言って退けたのだった。
ドニム・ザナネイオスには契約のプライドと言うか、然う言うのは無いのだろうか。
今034が此を聞いているのかは知らないけれど、結構ショックじゃあないだろうか。
―ネ、ネ、此ノ子モ返スシ、モウ良イデショ?先ハ悪カッタカラサ。―
「・・・もう行き成り襲ったりしたら駄目だよ?」
―襲ワナイ襲ワナイ!僕ハ此ノ子ノ願イ叶エヨウトシタ丈ダシ!―
嘘ではなさそうである。
一つ溜息を付くと飃はそっとドニム・ザナネイオスに刺さっている棒を手に取った。
そして引き抜くと、途端にドニム・ザナネイオスの姿が変化した。
又候化物にでもなるのかと身構えていたが、其の身はどんどん小さくなり、一頭の塊と小さな蛇の様な生物に分かれた。
―マ、如何ヤラモウ僕ハ要ラナイミタイダシ、サッサト帰ルヨ。僕ハ戦イトカ、本当ハ苦手ダカラネ。―
然う呟くと蛇に似たドニム・ザナネイオスは二ッと笑って其の姿を眩ませた。
後に残るのは・・・371達に良く似た一つの影丈だった。
―随分とあっさり、やる丈やって帰ってくれたわね・・・。―
むくりと影は起き上がり、順に一同を見遣った。
「034・・・034、よね?」
其迄一切口を閉ざしていた371がそっと窺う様に影を見遣った。
影も又、じっと371を見詰めていた。形はすっかり元に戻り、371と瓜二つに見える。
文字通り憑き物が落ちた様に、先迄放っていた殺気はなくなっていた。
少し前迄371と喧嘩腰だった彼女とも違う気がする。
―気安く名前を呼ばないで、もう私達、赤の他人なんだから。―
其でも034の突き放す様な態度自体は変わらなかった。
ドニム・ザナネイオスと契約していたとは言え、根本は同じと言う事なのだろう。
彼女の強い否定に371は口を噤んでしまった。
「あの・・・もう034ちゃんの願いを叶えさせる事は出来ないよ。如何したいかは二人に任せるけど、あんな恐ろしい事はさせないからね。」
「然う・・・ね、えぇ、何があったのかは大体分かったわ。でも生徒同士の殺し合い丈は駄目よ。」
―分かってるわよ。其に私、そんな簡単な願いなんて止めたわ。私だって考えたんだから。―
「へーじゃあ今は何を願ってる訳?」
何も言わず、034は371の元迄歩き出した。
別に何か手を出す様には見えない。何か別の決意の様な物を彼女から感じていたのだ。
「な、何よ。」
思わず一歩371は下がったが背が柵に当たり、其以上は動けない。
追い詰められた。でも高々こんな霊一体が、一体何をすると言うのだろう。
034は暫く黙って居たが、371を睨め付けた儘緩りと口を開いた。
―私に殺されたかったんでしょうけど、然うは行く物ですか。生かしてやるわよ最後迄。そして一生後悔すれば良いわ。―
「え、そ、其って034ちゃん?」
まるで先迄と真逆じゃないか。
371を殺したいからドニム・ザナネイオスと契約をしたのではなかったのか。
―・・・何か勘違いをさせたみたいね。―
034の大きな目が緩りと動く。
変わらず冷たい目、ドニム・ザナネイオスとは別の、冥い色を映している。
―確かに先の妙な怪物と契約だとかをした時は・・・私も自殺して直ぐだったから殺したかった。もう一度機会が与えられたら、と願ったわ。―
“何カ後悔ガアルミタイダネ・・・?”
怒りで震えていた私に彼の怪物は声を掛けた。
然うしてあっさり私の願いを呑み込んだのだ。
―彼の怪物と一つになってずっと貴方を見ていた。中々面白かったわ。私を殺してでも生きようとした貴方が、たった一日で何度も死のうとするんだもの。―
「そ、其は・・・、」
口を噤み、目を泳がせる371をじっと034は見ていた。
目丈がありありと影の中に浮かび、其の瞳丈が異様に彼女の懐いを暴いていた。
―フフ、今更罪悪感?遅い、遅いわ。御両親に教わらなかったかしら、人の嫌がる事をしちゃいけません。目を上げられない様な事、しちゃいけませんって。―
「034さん!少し、言い過ぎですっ。」
急に割って入った677先生に少し丈目を丸くしたが、直ぐに何時もの目付きに戻ってしまう。
―然う。貴方には随分味方がいるのね。まぁ良いわ。兎に角私思ったのよ。貴方がそんなに後悔しているなら、偽善振っている自分が可愛いなら、しっかり生きて、永遠に蔑まれる人生を歩めば良いわ。今殺しても、私に同情して死んだみたいですもの。其の方がずっと面白いわ。―
「じゃあもう・・・371ちゃんを襲わないって事?」
―えぇ、彼は彼の怪物が勝手にやった事よ。だから此からは只見ているわ。影として。・・・其が私の復讐よ。―
キッと睨まれて思わず371の背が伸びる。
残酷な言い方だ。でも其で371を見逃してくれるなら、
受け入れるしかない、其の話を。
「ふーん、ま、妥当な所なんじゃないの。僕は別に其で良いけど。」
「うん・・・371ちゃんも、其で良いかな?」
赦してやって欲しいなんて言えなかった。
もう此は自分達他神の入れる話じゃあない。
そしてもう取り返しの付かない話だ。如何やったって034は帰って来ないし、371のやった事も消えないのだ。
「う・・・あ、で、でも、」
「もう言訳なんて止めなよ。其丈の事をやったんだからさ。」
―忘れない、繰り返さない。其が出来る事だろうね。―
「・・・・・。」
371は俯いてしまい、黙った儘だった。
一応、話は纏まったのだろうか。結局悲しい話の儘だけれども、終わらせる事は出来ただろうか。
ちらとドレミが677先生を見遣ると、先生は優しく頷いた。
「371さん丈じゃあないわ。034さんも、やり方を間違えてしまった。もっと取る可き手段はあった。其の事は分かってるわよね。」
厳しい言い方だけれども、371丈が責められる状態は堪えられなかったのだろう。
霊と言えども一人の生徒として677先生は二人の生徒を見遣った。
―・・・えぇ、分かってるわよ。でも死んでしまったらもう後悔しか出来ないもの。―
034の呟く様な子に思わず371は顔を上げた。
もう、全て終わってしまった後だけれども、又斯うして会えた、其の意味を。
屹度自分は、考えなきゃいけないんだ。
「・・・分かったわ。其を貴方が望むのなら。」
一陣の薫風が371のリボンを揺らした。
「私は・・・何も出来ない。サイトの事だって、書かない丈で、先生に言ったりは一寸。でも、何もしないで良いなら、屹度出来るわ。」
―其で十分よ。其以外貴方に期待なんてしていないわ。―
変わらず吐き捨てる様に言うと034はちらと首を巡らし、一同を見遣った。
―・・・何て言えば良いかしら。貴方達には巻き込まれもしたけれども、結果私の望みは叶ったわ。一応、礼は言うわ。世話焼きな妖怪さん達。―
少し丈首を伸ばすと、話は終わりと許りに034の姿は掻き消えてしまった。
まるで初めから何も無かったかの様に。何も残りはしなかった。
もう彼女に力はない。只の霊として見守る丈の存在に戻ったのだろう。
「あ・・・えっとその、御見苦しい所を、あの、御見せしました。」
暫く惚けていた371だが、慌てた様に首を振って一同を見遣った。
「ううん、全然そんな事、あの、良かったなんて言えないけど、えっと、」
何て言ったら良いか分からない。
幾ら神だからって、全てをハッピーエンドにする事なんて出来ないんだ。
妥協点を見付けてあげる事、其しか自分達には出来なかった。
「いえ・・・私も言い難いですが、此で良かったんだと思います。少なくとも私は納得はしましたので。」
困った様に笑い、彼女は一つ頷いた。
「ずっと責められるのが恐くて、彼の日みたいになるんじゃないかって。まぁ実際、恐かったんですけど。でも今は終わって・・・ほっとしています。」
「うん、此から一杯考えたりしなきゃいけないと思うけど、此からスタートなのかもね。」
「・・・皆さん本当に助けてくれてどうも有難う御座いました。皆さんが居なかった私は・・・。」
「だね。僕達は命の恩神って訳だ。ま、君丈を助けても仕方ないし、僕達は別の所に行くけどね。」
「えっ⁉学園から出て行っちゃうんですか⁉」
十分大きかった目が更に大きく丸く広がる。
―うん、然うなんだ。もう危ない事も無さそうだしね。其に僕達が居なくても、677先生は居てくれるよね?―
ローズが鼻を向けると677先生は勢い込んで前へ出た。
「えぇ、私に大した力も無いし、話す位しか出来ませんけど、其で良かったら・・・私はずっと此処に居ますね。」
「良かった・・・独りじゃ矢っ張り恐くて、じゃあ又御話聞いてくれると嬉しいです。」
其処で初めて371は少し丈笑った気がした。
影が足元にあっても、笑えたのだ。
「其じゃあもうすっかり霄ですし、私は帰ります。本当に皆さん有難う御座いました!」
最後に一度丈首を伸ばして上を向くと、彼女は後も見ずに屋上を後にした。
足音が十分遠ざかった所で誰ともなく息を付く。
「此で・・・終わったんですよね?」
「本当、君にはがっかりだけどね。」
「ひ、ひぇ、ご、御免なさいぃ・・・。」
「一寸飃君!其の言い方は無いよ、ベール君の御蔭で大事にならなかったのに。」
「だからだよ。其丈の力があるんだからもっと堂々としていれば良いのに。うじうじしてるのを見たら苛々するんだよ。」
何だか随分飃は機嫌が悪い様だ。
中途半端にしか暴れられなかったのもあるんだろうけど、何て言うか責めてる訳じゃないのに怒り乍ら言ってしまっている。
―認めてるんなら素直に然う言えば良いのに。―
「フン、別に認めてないよ。寧ろ苛付いてる丈だし。」
「まぁまぁ皆さん。本当に皆さんの御蔭で助かったんです。何て御礼を言ったら良いか。」
「うん・・・完全に丸っと解決にはならなかったけどね。此位しか出来なくて御免ね。」
「そんな事!後は彼の子達の問題です。其に幸いな事に、話す事なら・・・私にも出来ます。此からは私がサポートしますわ。」
然う言い、677先生は何度も頷くのだった。
うん、彼女なら安心だ。今からは只時間の掛かる、根気強いケアが必要だ。其は彼女に任せよう。
「然うだね。後の事は677先生に御願いするね。じゃあドレミ達はそろそろ御暇しようかな。」
確かに371の言った通りもう真暗だ。
緊張も解けて少し眠くなって来ちゃった・・・そろそろ帰らないとね。
「う・・・ぅ、又何も出来なかったって聞いたらダイヤが何て言うか・・・。」
「落ち込まないでベール君!ベール君が頑張ってるのドレミちゃんと見てたよ!大丈夫だよ、ダイちゃん怒らないよ。」
抑怒られるのが前提と言うのも不思議な話である。
「でも僕の所為で相手が勁くなっちゃったし、その、」
「ま、大人しくさせるのは大変だったけどね。」
「もう飃君!」
―でもベールの宙で元気になったから彼の龍も帰ってくれたんだし、其で良いんじゃないかな。じゃないと本当、退治する所迄行っていたかも知れないし。―
「そ、然うでしょうか・・・。」
すっかり気落ちしている様なので励ます様にローズは尾をひゅんと立てた。
―うん、僕からダイヤに言って置くよ。ベールが居ないと困った事になってたんだって。御借りしましたーって言えば御機嫌治してくれるよ。―
「ロ、ローズざん、あ゛、有難う、御座い゛ま゛ずっ‼」
一気に涙腺でも緩んだのか半泣きでローズにしがみ付くベールだった。
必死である、彼の今迄の扱いが垣間見える様だ。
「うんうん、じゃあ677先生、ドレミ達帰るね。もう大丈夫だと思うから。」
「えぇ、本当に有難う御座いました!又何時でもいらしてください。歓迎しますわ。」
「そ、じゃあ次は又彼の料理食べたいな。美味しそうだったし。」
「若しかして5282の事かしら・・・噫然うだわ!晁召し上がって貰ったから・・・分かりましたわ。次は霄も御出ししますわ。」
―僕も本有難うね。大切に読ませて貰うよ。―
677先生は嬉しそうに首を伸ばして上を見上げた。
水鏡丈が静かに話を聞いてくれている様だった。
其の内に一同の姿が霞んで消えて行く。677先生が首を戻した時にはもう誰も居なかった。
「さぁ、此から忙しくなりますわね。」
蒼い薫風に誘われて、彼女は半透明な全身を曦の下で晒すのだった。
・・・・・
もう見えない
此の大きな瞳でも私達の先は見えない
其でも私達は一緒なのだろう
友達なんて呪いに掛かって
影からも、水鏡からも
只貴方を見ているのだろう、永遠に
一回は書きたかった学校編、遂に終わりましたね。
余学校感が無かったですが、まぁ良かったかな、と。もう遥か昔の記憶なのです、間取りとか覚えてないんだよ!
実際今でも学校裏サイトがあるのかは知りません、取り敢えず自分の母校にはありましたけれどね。
只学校の話を書くと可也の確率で苛め系の話になり易いと思うのです、此が現代社会の闇と言うか、一セットになっていると言うのが悲しい話ですね。
未だ別の学校のストーリーは考えているんですが、それはまぁまぁ明るい物です。其でも可也長い話だったので若しかしたら自分の胸の内丈で終わるかも知れません。
取り敢えずは未だ出る時ではないと言う事ですね、時が来る迄待ちましょう。さぁ腐るのと何方が先かな?
次回は打って変わって相当スケールの大きい御話しです。予定ではバトルバトルバトルです。ぐっちゃぐちゃです、もう出血大サービス!
此の紹介丈で誰が出るのか分かるんだから酷い話ですね、其では主人公(正し人ではない)者達の活躍を願って、又次回御縁があります様に!




