36次元 原色の羽根に創造されし次元Ⅱ
後半戦!さぁバトルの最中にセレさんが御臨終してしまいましたが如何なる事やら。
前編と間違えて此方をクリックしてしまった方、行き成り壮絶なネタバレをして済みません。
誰が死んだって時間は進んで行きます、今回も割と重要な話になって来ましたので書いていてウッキウキでした。
今回も相手はやばそうですが、如何切り抜けるのでしょうか。
「・・・ん、あれ、此処は一体・・・何処だ?」
唐突に意識が醒め、忙しなくセレは辺りを見渡した。
何だ・・・此の変な空間は。
まるで世界から切り取られ、宙に浮いている様な感覚。
世界に自分は居て、確かに其は感じられるけれども、同時に世界から離れて俯瞰しているみたいな。
闇に包まれた様に何も見えないのに、周りに何かの気配は感じる。
全てが曖昧で、でも記号の様に確かで。
良く・・・分からない。此の感覚を自分は如何表現すれば良いんだろうか。
波紋をどんなに放っても全貌が掴めない。自分は何処に迷い込んでしまったんだろう。
波紋?・・・噫然うだ。然う言えば使える様になっている。
首輪が無くなっているのだ。彼の魔封じの首輪が。
あれ・・・ん、矢っ張り前後が繋がらない。
自分は彼のロボと戦っていた筈。其なのに如何してこんな所に?
「此の・・・大馬鹿者‼」
突然の叱責に思わずびくついてしまう。
気付けば目の前に丗闇が居た。
酷く疲弊している様で額に汗を掻いている。
けれども形相は・・・鬼の其だ。もう滅茶苦茶恐い。
過去最高に不機嫌な丗闇様、一体自分はどんな不敬を働いたんだろう。
冷汗が止まらない・・・恐い恐い。
「あんな酷い終わりがあるか!我の力を借りて居乍ら彼の為体、本当に情けない。」
酷い終わり・・・?待ってくれ、話が追い付かない。一体何があったのかを教えてくれ。
自分が余りにも惚けた顔をしていたからだろう、丗闇の目の険がどんどん鋭くなる。
「まさか未だ惚けているのか?全く・・・時間はないぞ。」
「い、いや流石に一寸待ってくれ、えっと・・・、」
ロボと戦っていて、そして・・・確かリーシャンの悲鳴が聞こえて、
撃たれたのかと思って急いで駆け付けたんだ。
然うしたら・・・其が罠で、最初から狙われていたのは自分で。
頭を・・・撃たれたんだ。思い切り脳天を。
奇しくも其はガルダの死因と同じで・・・だから自分は直感的に思ったんだ。
噫、此は死んだな、と。
あれ、でも良く考えたら死んだと思う猶予があったなら即死じゃあなかったのか?
思ったから・・・本当に死んじゃった?
脳天なんて撃たれたの初めてだし、自分は人間なんかじゃないんだから、本来は死なないのかも?
「然うか。若しかしたら頭位平気って思えば死ななかったのかもな。然うだろう丗闇?」
「御前は!何で然う言う思考に今至れるんだ!噫もう数時間説教をしたい気分だが其所じゃない。時間が無いんだぞ!」
うわぁ凄い怒ってるよ・・・説教って恐過ぎる。
でも時間が無いって今は戦闘中でもない様だし、如何言う状況なんだ?
死んで・・・自分は如何なった?
「丗闇は現状が分かっているのか?此処は何処なんだ。狭間・・・とは違うみたいだし。」
「狭間じゃあないなら一つしかないだろう!鏡界だ・・・不味い事になったぞ。」
「鏡界って・・・確か入ったらもう戻れない所じゃあ・・・。」
流石に自分も危機感が伝わって来た。
鏡界は確か前丗闇が教えてくれたな。
次元と、次元の迫間の隙間にある境目の事。
神や龍が次元を行き来する時に一応通っているが、知覚する前に通り抜けている所だ。
そして此処の一番の特徴は・・・入ったら二度と出られない所。
「ま、まさか中途半端に私が死んだから死に切れずこんな所で止まっちゃった・・・とか。」
やばい・・・段々と不安感が募って来た。
丗闇が怒るのも納得だ。
又しても自分は彼女を巻き込んでこんな所迄連れて来てしまった。
何気に今迄で一番の危機じゃないか?危機と言うか下手したら終わってる・・・?此の状況。
未だ目隠しでロボと戦っていた方がずっと危険度は低かったじゃないか。
・・・まぁ其で負けたから斯うなっているんだけれど。
えぇ、こんな所で自分の物語は終わるのか?流石に其は余だ。
「・・・っ、今更御前を叱っても無意味か。少し、感情的になり過ぎた、済まない。」
小さく息を付いて丗闇は外方を向いた。
少し冷静になって来た様だ。慌てても無駄だと言う事に思い至ったのかも知れない。
「いや丗闇は怒って当然だけれども、謝らないでくれ。済まない、こんな事になるなんて・・・、」
「・・・流石に今回は如何しようもないな・・・。」
うぅ、丗闇が早くも諦めムード全開だ。
闇の神である彼女は世界を知る一環で此処の事も良く知っているのだろう。
だからこそ・・・諦めも早く付く。
現状を理解してすっかり丗闇は悄気てしまった・・・そんな彼女は見たくなかった。
「丗闇そんな落ち込まないでくれ。何処かに出口があるかも知れないし、私は一寸探してみるから。・・・離れてもいけないし、中に戻ってくれるか?」
「別にそんな御前が責任を負う事はない。全ては丗の神の啓示で決まっていた事なのだから。」
「・・・分かった。期待はしなくて良いから、私が探したい丈だから、其なら良いか?」
諦めない事で傷付く丈だと言う事を丗闇は言いたいのだろう。
もう何をしようが無意味なのだから疲れる事はしなくて良いと。
でも自分は諦めが悪いんだ。そんな簡単に諦め切れない。
ガルダの使命が変わった様に、黔日夢の次元を起こせた様に、丗の神の啓示は屹度変えられる。
何時迄も昔の神の呪いに縛られて堪る物か。
「・・・然うだな。我が指図する事も無いだろう。御前の好きにすると良い。」
然う言い残すとあっさりと丗闇の姿は掻き消えた。
・・・さて、然うは言った物の、何処から探そうか。
取り敢えず歩くしかないかな。此処なら翼とか出しても大丈夫だろうし、飛び回ってみるか。
一応神が次元へ行く時通るんだし、其処に掴まれば一緒に出られるんじゃないだろうか。
・・・此処へ引き込んだら最悪だけどな。でもやらない手はない。
翼と尾を思い切り広げる。
凱風はない。魔力達の声も此処迄届かない。
確かにこんな訳分からない所に行き成り放り込まれたら心が折れるかも知れないな。
自分には良いも悪いも丗闇が一緒に居る。話せる誰かが居る丈で少しは冷静になれる物だ。
けれども何だか不思議だった。
現状を正しく理解出来れば、紛れもなく此は絶体絶命の、と言うよりもう如何しようもない終わりなのだろう。
此処で只朽ちるのを待つ丈の絶望しかないのだろう。
其の筈なのに、此処には妙な安心感があった。
抱かれて眠る様な、温かい安らぎを、自分は感じていた。
一体此は何なのだろう。
若しかして自分は此処を・・・知っている?
いや考えるのは後だ。先ずは行動をしないと。
然う思い至って翼を羽搏かせた時だった。
―待って、君が行く可きなのは其方じゃないよ。―
ちぐはぐな声が背後でした。
少年と老いた声を混ぜた様な、女性とも男性とも付かない。
声なのか音なのか電子音なのか、自然の物か。
兎に角全てが絡まって、一つの意思を伝えて来た。
飛んでいた自分の背後から、背に何か触れる。
其の感触に思わずビクッと背を震わせてしまう。恐らく手だろうが、此も又色々混ざり過ぎて判別出来ない。
何だ、今、自分の後ろには何が居るんだ?
―噫御免、驚かせちゃったかな。何とか君を止めたかったから。―
「御前は誰だ。」
波紋を放っている筈なのに、直ぐ背後にいる其の正体が掴めない。
塊の様ではあるが、刻一刻と姿を変えている。消えたり現れたりと存在すら怪しい。
―・・・自分は、私は、僕は、我は、俺は、吾輩は、某は、儂は、小生は、余は、妾は、―
其からは怒涛の音が流れ込んだ。
意思が統一されていないかの様な。一音として聞き取れなかった。
先迄と同じ音の集まりなのに。屹度先は伝えたい言葉が一つだから分かったのだろう。
でも其がてんでばらばらな事を言い始めたら全く聞き取れない。
―・・・御免ね。自分の事を伝えるのは苦手なんだ。だから君も振り返らないで。此の姿を捉えようとしてはいけない。其より君は見ないといけないのだから、前を。―
背中を押される。
姿を見てはいけない。
自分は抑波紋だから目は関係無いけれども、其でも彼の姿を捉える事は出来なかった。
彼が其を拒んだから、なのだろうか。
其にしても前を見なければいけないって如何言う事だろう。
―ほら、良く見て御覧。君には見えている筈だ。魔力の道が、君と繋がっている。―
魔力・・・魔力の道。
何となくイメージをしてみる。此処なら一応波紋を使えるんだ。対象を絞れば見えるだろうか。
緩り呼吸を数え、落ち着くと何となく見えて来た気がする。
少し朧げな道・・・線が。
宙を漂う様に揺れて何処かへと伸びている。
―見えたみたいだね、じゃあ其を辿りなさい。然うすれば君は未だ帰れる。先君の居た次元へ帰れるよ。大丈夫、未だ此処には囚われていないから。―
「戻れる・・・のか、次元に。」
―然うだよ。だからほら、飛んで御行き。―
声に誘われる儘に翼を広げる。
少しずつ力を籠めて羽搏く。道を見失わない様に。
分かる・・・見える。此処鏡界の出口が。
此の空間の曖昧さが離れて行く。
「・・・有難う、助けてくれて。」
見ず知らずの者に助けられるなんて殆ど無い経験だった。
だから素直に最初は受け入れられなかったけれども、今は確信を持てる。
彼は自分を助けようとしていると、只其の為に声を掛けたのだ。
―良いんだよ、礼なんて。君と会えて良かった。元気そうで。・・・左様なら、セレ。もう戻って来ちゃあ駄目だよ。―
「っ待ってくれ!如何して私の名をっ!」
最後に紡いだ音は明らかに自分を示す名で。
少しずつ遠退く気配に声を掛けたが、返事よりも先に自分は此の空間を脱出してしまっていた。
―今、今、彼の子の気配がしたわ・・・。―
鏡界をじわじわと黔い闇が覆う。
姿が掴めない、見えない触れられない闇から声丈が漏れた。
―えぇ、先程此処に。・・・御免なさい、早く戻る可きだと思い帰しました。―
―あ・・・噫然う。良いの、良いのよ。元気なら、其で。―
―こんな所に来てしまうなら元気か如何か怪しいけれど・・・生きてはいるみたいだね、未だ。―
―十分よ、其を知られた丈で・・・噫、良かった本当に。―
闇は嗚咽を漏らし乍ら只々蠢いた。
―噫、私の愛しい子・・・セレ・ハクリュー。―
・・・・・
「っ・・・っ!も、戻った、のか、」
突然視界が開ける。
見覚えのある景色・・・此は先迄居た地下遺跡だ!
「っやったぞ!なぁ丗闇!私達戻って来られたぞ!」
―馬鹿な・・・本当に信じられない。―
おぉ丗闇の声が震えている。本当に諦めていた様だ。
出し抜けた様で一寸嬉しい。然も良い意味でだ。
此処で丗闇が出てくれれば二柱で踊り出してしまうかも知れない。其位嬉しかった。
何気に自分も絶望し掛けてはいたのだろう。心の何処かで分かっていた筈だ。
だから猶の事嬉しい、自分も信じられない位に。
噫有難う彼の謎の存在。御前の御蔭で助かったんだ。神生の恩神だ!
わーいやったぁ嬉しなぁ。
少し位浮かれても良いだろう。今凄く生を実感している。
―如何して出て来られたんだ・・・魔力に触れていたからか?其とも・・・、―
丗闇がぶつぶつと何か考えている。理由がないと安心出来ない質なのだろう。
まぁでも確かに今回のは知りたいな。一体何が起きたんだろうか。偶然なんて事はあるまい。
助けて貰った訳だけれども、あんなあっさり出られると疑いたくもなる。
「丗闇、丗闇なら鏡界から出られた訳って分かるか?」
―一応幾つか理由は考え付くが・・・其でも信じられん。其に予想外の事が起き過ぎた。御前は本当に変な奴だな。常に何か和を搔き乱す。―
「御褒めに預かり光栄な事だな。理由って何だと思う?出来れば教えて欲しいんだが。」
―・・・今其を考える余裕が御前にはあるのか?何の為に態々甦って来たんだ。―
「え、そんな崇高な目的とかあったっけ、」
「ひぇ・・・え・・・う、嘘、ゆ、・・・幽霊・・・⁉」
背後からの声に思わず振り返る。
ベールだ。顔面蒼白になって英霊は幽霊ごときにビビっていた。
然うか。一回死んだから首輪も無くなったのか。素晴らしい!やっと自由だ!
「・・・あ、然うか。私はロボにやられて、うーん、もう一回脳天撃ってくれれば耐える自信はあるけれど・・・。」
「あ・・・あぁ、ぼ、僕達が、見殺しにしたから・・・連れに来、たんだ。う、うわぁ、ご、御免なさいセレさんっ‼僕は良いけどダイヤは見逃してくださぃぃ~御願いですぅ~・・・。」
立っている丈で何時の間にか土下座が生成されていた。
「噫ベール、一寸現状を教えてくれるか?色々あって私は生き返る事が出来たんだ。」
「・・・え、えと多分其、霊になって化けて出た丈で・・・あ、あぁ生意気言って済みません、だからもう成仏してくださいぃ~。」
何だかスーみたいにビビってる・・・。
其の言葉、ブーメランに見えるけれど大丈夫?ショックで成仏しないでね。
「いやほらちゃんと生きてるから。ほらちゃんと触れられるだろう?」
一寸近付いて肩を叩いてやる。
流石に何回か生きたり死んだりしているんだから今か何方か位分かる。
「僕だって幽霊なのだから触れられて当然ですよ。」
あ、然う言う物なんだ・・・。
何だか埒が明かないので此方も勝手に波紋で調べちゃおう。
・・・て、え?思いっ切り戦闘中じゃないか?
例のロボとダイヤ、リーシャンが戦ってる・・・仇を取ろうとしてくれているのか、嬉しいなぁ。
プーニーも含めて皆少し離れた所に居るな。早く加戦しないと。
ん、あれ、じゃあ何故ベールはこんな所に居るんだ?敵前逃亡?
「・・・ベール、ダイヤ達は如何したんだ?」
「うぅ・・・僕は役に立たないので離れる様言われてしまました。」
自分で言って悲しくなったのかしゅんとベールは悄気てしまった。
其は可哀相に、捨てられてしまったのなら仕方ないな。
「あっ、で、でもセレさんなら幽霊でも彼と戦えますよね!お、御願いですダイヤを助けてください!」
慣れた手付きで土下座をされてしまう。多分其の体勢で居る時間の方が長い気がする。
そんな頻繁にされると大分価値が下がるぞ、其の行為。
まぁ其丈彼は常に精一杯って事かな、うん。
「勿論生き返ったからには戦闘に参加する。・・・奴にも未だばれてないしな。」
「やったぁー!助かります、有難うセレさん!」
「・・・今、セレと言ったか?」
両手を挙げて喜んだベールの背後にロボが居た。
そしてビームで象った釼の様な物を一薙ぎに払う。
「噫もう・・・隠れて置きたかったのに。」
咄嗟にしゃがむと、伸びた釼が頭上を掠めて行った。
危ないな、一分の命なんて短過ぎるだろう。
「う、うわっ、で、出たー!」
御前が呼んだんだけどな。
土下座していた御蔭でベールも無事遣り過ごす事が出来た。
先の釼は中々強力らしく、斬られた壁が崩れている。貫通力が高いのだ。
折角奇襲を掛けようと思ったのに台無しだ。
「何故・・・生きている。」
「さぁ如何してだろうな。」
流石ロボと言う可きか余り驚いてくれないな。
悲しい、一度死んで生き返るなんてどんなマジックショーよりも盛り上がる事請け合いなのに。
「・・・何の道、好都合。」
銃を構えた所で慌てて壁に隠れる事にした。
相変わらず狙いは自分か。でも好都合って一体如何言う事だろうか。
何か自分にして欲しい事でもあるのだろうか。
そんな出会い頭に撃つ様な奴の願いを聞く程、自分は寛容じゃあないぞ。
「!ボスさんーっ!」
突然何処からかリーシャンが飛んで来て自ら胸に飛び込んで来た。
思わずぎゅっと抱き締める。何て愛らしい生物なんだ。
余りにも可愛いので抱いた儘避ける事にする。
然う言えば鏡界から其の儘出た為か翼や尾が出しっ放しだった。
まぁ態に仕舞う事もないかな。多分プーニーはそんな驚かない気がする。
其より生き返った方が色々聞かれそうだ。撃たれて吃驚して気絶したんだよ~位で誤魔化せるかな?
似た様な物だし、うん。吃驚し過ぎて一回死んじゃった丈だよ、うん。
「ボスさん~、良かったですぅ、私の所為でぇ~。」
「いやいやリーシャンの御蔭で彼処迄やれたんだから気にしないでくれ。」
あ、仕舞った。御詫びにモフらせて貰う権利を貰えば良かった。
いや、龍にそんな酷い取引は出来ない。良いのだ此で。
リーシャンが小さな嘴をぐりぐりと押し付けて来るので本当に可愛い。
噫、此、ぼーっとしてたら又死ぬ奴だ・・・何て愛らしい。
ずっと撫でていたいけれども銃声がしたので慌てて其の場を離れて、リーシャンも放してやった。
ベールを置いて来てしまったが・・・まぁ大丈夫だろう。狙いは自分だ。
「でもぅ、如何やって帰って来れたんですぅ?一回次元の迫間に戻ったならこんな直ぐ来れない筈ですぅ。」
「噫一寸した冒険をして来たからな。追い追い其は話そう。・・・私も未だ現状良く分かっていないし。」
「あら・・・何よ生きてるんじゃない。じゃあさっさと彼壊しなさいよ。」
角を曲がるとダイヤと鉢合わせした。
一応、元気そうだ。けれども早速神遣いが荒い。
「別に皆が彼を壊してくれていても良かったんだけどな。」
余りロボは傷付いている様子がなかったし。
「何よ。仇取らなくて良いならもう私は動かないわよ。一番最初にあっさりやられた神に兎や角言われる筋合いはないわ。」
むぅ・・・手厳しい。まぁ良い、自分で蹴りを付けるのは構わない。
実際彼のロボ、普通に勁いしな・・・頑張るか。
「じゃあダイヤ達はプーニーの事頼めるか?其の間に彼を片付けるから。」
「当然よ。余り私を待たせないで欲しい物だわ。」
「気を付けてくださいねぇ~。」
そっと離れるリーシャンを名残惜しそうに見送って、さぁ先の続きと行こうか。
もう波紋だって使えるんだ。あんなへまはもうしないさ。
振り向き際に発砲される。
一気に身を屈めて躱す。今は只生きないと。二度目は御免だ。
続け様に釼も振られる。壁を貫通して曦が漏れて来た。
四足で転がって何とか其を躱す。
一寸反則技じゃないか・・・?技術力に物を言わせて武器が強力過ぎる。
狙いも正確だ。少しでも油断すると即撃ち抜かれてしまう。
避けていると何時の間にかロボは可也接近していた。
そして振り下ろされた釼を化物の腕で受け止める。
ぶつかり合った途端火花が散りそうな程の鋭く硬質な音が響く。
「っわっと、力もあるのか。面倒な奴だな。」
正面からぶつかり合うと腕力で負けてしまう様だ。
何とか刃を逸らして退ける。
一応此の腕で受け止められる様だが、少し腕に痺れが残る・・・一撃が強力なのだ。
「黔刃。」
爪に術を掛けて斬り掛かる。爪を引っ掻け、無理矢理装甲を剥がしてみた。
うぐ・・・硬い、此の爪でも斬れないのか。
少しもたついていると銃を向けられたので慌てて離れる。
うーん・・・本当面倒な奴だな。厄介だぞ、此は。
少し丈離れて適当な壁に背を預ける。
さて如何しようか。ロボって如何すれば壊れるんだろう。
零星でも斬れなさそうだったな・・・。無でも放って呑み込んで貰った方が良いか?
突然壁から曦が漏れた。
身を屈めると曦は一直線に壁を貫き、横薙ぎに払われて壁は一気に崩壊してしまう。
そしてそんな瓦礫を飛び越えてロボが飛び掛かって来た。
・・・機動力も高い。此の距離をもう詰めて来たか。
逃げる気も無いので正面から腕を組んで構える。其処へ曦の釼が振り下ろされた。
っ、ロボの体重も掛かって可也の威力だ・・・重い。
釼と重なっている所へ尾を突き出した。
目元を狙っていたのだが応酬として銃弾を浴びせられる。
甲に覆われた尾なのでダメージは無いが簡単に押し負かされてしまった。
「本当隙が無いな。」
「未だ喋る余裕あるか。」
返事があったと思ったらロボの脇から新たに二本の腕が生えて来た。
そして腕には何方も例の曦の釼が握られている。
ま、まさか此奴蛇型ロボかと思っていたけれど蜈蚣ロボだったのか?
「此で、無駄口叩けまい。」
一呼吸後には全ての釼が一気に襲って来た。
避けようかと思ったが銃を向けられる。
何とか腕の甲で刃を去なし、内一本は蹴り飛ばした。
でも一度では止まらない、続け様にロボは斬り掛かって来たのだ。
純粋に早い上に隙が少ない。
応戦しようにも向こうは銃もある。潜り抜けようとしても狙われてしまう。
零星を出して置けば良かったか・・・唱える余裕は殆ど無い。
折角再び与えられた命だ。散らすには未だ惜しい。
―皆は・・・皆は居るか?―
―ハーイ!何カ用?―
―先隠レン坊シテタ?居ナカッタノニ。―
―何カ楽シイ事スル?―
魔力達は変わらず居てくれた様だ。此で少しは手が出せるか?
―此奴の魔力を探ってくれるか?何でも良い、糸口さえあ・・・っわっと!―
少し躱し損ねて釼に髪を一房持って行かれる。
・・・本当、容赦がない。気を付けないと次は頭を持って行かれるな。
頭丸毎は・・・如何だろう、流石に死ぬかな?奴も銃丈じゃあ殺せない事、学んじゃってるしな。
―ンー・・・魔力ハ無イヨ?仲間居ナイ。―
―科学ノ結晶ダ!凄イ!―
―げ・・・然う言うのも矢っ張居るのか。―
魔力と関係無いとなると、面倒だなぁ。
其に腕許りで防いでいる所為で・・・段々、痺れて来た。
動かなくなったら其こそアウトだ。何処かで引かないと。
・・・え、
一際高らかな金属音をさせ、セレの腕とロボの釼が搗ち合う。
其の時、はっきりとセレの波紋に写る物があった。
腕の甲が・・・欠けたのだ。
加えて、大きな罅が其処から広がって来ている。
此は不味くないか・・・?まさか此の腕が、押し負けている?
流石に本気で下がらないと、此は明らかに不味い。
搗ち合った瞬間に尾を滑り込ませ、一気に釼を弾く。
其の儘尾の遠心力で方向転換、背後の壁迄駆け寄る。
銃弾には翼をくれてやった。別に此処なら飛べなくても支障はない。
三翼程撃ち抜かれたが何とか痛みを堪える。其より問題は腕だ。
壁に隠れて恐る恐る両手を見遣る。
今でははっきりと痛みを感じていた。腕が痛いなんて、殆ど無かった感覚だ。
そして両腕は何時の間にか罅だらけになっていた。
まるで前世で扱っていた罅の様だ。流石にあんな風に全身が砕ける事は無いだろうけれど。
まさかこんなダメージを負うなんて・・・やるな彼のロボ。
此以上腕で止めるのは無理だ。少し曲げる丈で砕けた甲が剥がれて行く。
こんなぼろぼろ壊れて行くと前死に掛けて躯が酷い事になった彼の時を嫌でも懐い出してしまう。
・・・何だか、ずっとぼろぼろだな、自分は。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
―戦ウノ?頑張ッテ!―
―アンナロボットナンテ壊シチャエ!―
魔力達の声に一つ頷いて最後に集中する。
壊す・・・彼奴を破壊出来る丈の力を持った武器が欲しい。
「慈紲星座。」
幾つもの零星が自分を包む。
此で、破壊し尽くしてやろう。此方には無だってあるんだ。
「pihw」
掲げた手に零星が集って蒼い鞭が撓る。
零星がロボの曦の釼に絡まり、一時動きを止めた。
「・・・術、使ったか。なら、」
ロボの釼の一本が長く伸びて巨大化する。
其を思い切り縦一文字に振り下ろす。
「eromalc!」
既で大釼を創り出す。成る可く零星を集めて固める。
真っ二つなんて御免だからな。絶対此の手より痛い。
「っぐ・・・う、」
何とか零星で釼を受け止める。
鋭く重い音が響き渡り、斬られて割れた天井が落ちて来た。
良かった・・・魔力迄は斬れない様だ。
其でも零星を使っても壊れない所を見ると本当恐ろしい釼だな。
天井迄壊してくれたので陽が入って来ている。
厄介だ、狙っているのかも知れないな。斬られるのも嫌だが、焼かれるのはもっと嫌だ。
其に受け止めた衝撃丈で腕の罅が酷くなっている・・・。もう少し持ってくれないと不味いな・・・。
気付けばロボには又新たな腕が二本生えていた。六本腕って・・・対処出来るか?
加えて其の二本の腕は銃器と化している。
其等が一斉に火を噴いた。弾丸の雨が一気に襲い掛かる。
三本もあるので敢えて少し狙いを外している・・・満遍なく狙う事で逃げ道を断つ気か。
「dleihs!」
零星の楯を作るが・・・余り自信はない。
星座が武器化すると言う性質上、楯みたいに平たい物は零星を何時もより多く使わないといけないのだ。
持たずに付いて来てくれるのは利点だが、矢張りサイズが心許ない、全てを防ぐのは無理だ。
オーバーコートに当たり、幾つか穴が開いてしまう。
此の儘は不味い、じり貧で焼かれてしまうな。
「ガァアアァア‼」
ブレスを吐いて弾を焼き払う。
尽きる前に別の壁を背に隠れ、息を殺した。
「・・・っ、く、」
又腕が痛んだので見遣ると罅が可也細かい所迄入っていた。
少し弾が掠ったか、甲が又剥がれてしまっている。
然も見ている内から罅が更に広がって行っている。
まさか此・・・自分の甲の硬度に耐えられなくなっている・・・?此の儘じゃあ、
思うのも束の間、罅は終に限界を迎えたらしく、指先から腕迄一気に甲が砕け散った。
そして其迄とは比べ物にならない激痛が両腕を襲い、軽く膝を着いた。
手が・・・自分の腕が、甲が無くなってしまえば只の肉塊だ。使い物にならない。
「・・・え、何だ、此は、」
然う・・・思っていたのに。甲の下の手元を見て、自分は信じられなかった。
酷くグロテスクな状態になっていると思っていたのに、何だ此は。
黔く歪な甲の下の手は・・・人間の様な手だった。
皓く、傷の殆どない、普通の・・・自分の良く知っている、嫌いな其だったのだ。
如何して・・・本当に此が自分の・・・腕?
目を疑いつつも、痛みは引かない所か強くなっている。
痛むのは指先で、割れてしまった爪からは黔い血が噴き出していた。
良く見ると・・・指にも細かな罅が入ってしまっている。まるで前世で親しかった罅に良く似ている。
其処から血が出ている様だった。其の血が少しずつ手を黔に染めて行く。
・・・ロボの音が微かにする、近付いて来たか。少しでも離れないと。
手に気を取られて蜂の巣にされてもいけない。そっとセレは其の場を動きつつ、腕が気になって仕方がなかった。
逃げている内にも手は少しずつ変わっていたのだ。
流れた血が・・・少しずつ固まり、腕の表面を覆って行く。
固まった血の先は鋭利で、段々と増え、揃って行く。
・・・まさか、そんな信じられない。
又別の壁に隠れた事には、腕の痛みが引いていた。
そして腕は元の通り、又甲に覆われていた。もう罅一つ無い様だった。
見慣れた・・・何時もの手、化物の腕だ。
けれども此の腕の下は・・・人間と変わらない腕。
急に眩暈を覚えてふら付くが、何とか壁に手を掛けて堪える。
もう壊れない、罅も入らないから全快したと見て良いだろう。
此の眩暈、ショックを受けたからじゃない、恐らく急な大量出血に因る物。
然うだ、先見た物が真実なら、此の腕を覆う甲は血で、出来ている。
血が固まって、強固で鋭利な爪や甲を作る。此の腕はずっと血塗れだったのだ。
若しかしたら足も同じなのかも知れない。指先から血が出て斯うなっているのなら。
血が甲になるなら、彼も似た物じゃないのか?
先も鮫男を殺した彼の黔水精、BDE‐00の腕を破壊した黔水精。
何方も、良く考えれば此の甲と似ている気がする。此が大きく育った丈だ。
血が関わっているのも同じだし、自分の血は体外に出ると固まるのか?
・・・けれども前々や前世でも嫌と言う程血を流したのに、一度もこんな事は起きなかったぞ。
自分の血が返り血として相手に掛かった事なんて幾らも、でも其は只の血だったのに。
手を開いたり閉じたりしていると突然銃弾が頬を掠めた。
っ、緩り考えている暇もないか。
色んな事が起き過ぎて頭の整理が追い付かないが、今は彼奴を如何にかしないと。
自分の事に付いて考えるのは、其の後だ。
うーん、まぁ血が固まる条件って物が分かれば使えるけれども、結論迄は遠そうだし、仕方ない。
彼奴との戦い方は大方思い付いた。零星も出せたのだ。此処迄来れば粗勝ちだろう。
密になった攻撃をされたから反撃出来なかった丈で、準備さえ整えば此方の物。
「闇瓊」「光瓊」
星座を崩して二本の鞭へと持ち替える。
そして其の先へ先の術を掛けて纏わせた。
―皆、未だ近くに居るか?―
―居ルヨー、何カ御手伝イ?―
魔力が応えた。借りられるのなら其に越した事は無いな。
―噫、今から此を振るうから軌道を操って欲しいんだ。零星を動かせば良いから。―
―分カッタ!彼奴ニブツケルンダネ!―
其の通り、話が早くて助かる。
早速近く迄詰めていたロボに向けて鞭を振るう。
ロボも突然出て来た自分を警戒していたのだろう、だが零星相手に手は出せまい。
曦の釼を振るった所で鞭は斬れず、其の儘釼に絡み付いた。
「先と同じ手・・・?」
「然う思うなら一度喰らってみれば良いさ。」
もう一方の鞭が不自然に動いてロボに飛び掛かる。
然うして二つの鞭が合わさった次の瞬間、ロボの半身が吹き飛んだ。
無に触れたのだ。出力を抑えていても直に触れてしまったらまぁ壊れるだろうな。
一瞬だったんだ。何が起きたのか分からなかっただろう。
たった一瞬で躯の半分が抉り取られる経験なんてしたくもない。
魔力達が居ないとこんな鞭の扱い方は出来ない、本当彼等には頭が上がらないな。
「う・・・あ・・・何、が、」
「まぁ理解は直ぐ出来ないだろうが、御前のボスと同じ力だな。」
同じ、だなんて反吐が出るけれども、其を差し引いても十分魅力的な力だからな。
「・・・で、少し話す気はないか?私に用があるんだろう?態々其の為に生き返って来てやったんだぞ。」
ロボは半身を壊された事で浮力も失い、地に座り込んでいる。
ぱっと見、捨てられた廃品の様な有り様だ。外殻が壊れて取り除かれた事で内部が覗けてしまっている。
コードや基盤が焼かれてしまったのか焦げてショートしている様だ。動くか如何かより、壊れないかの心配をするレベルだな。
「・・・首輪がない。一対一は矢張り無理・・・か。」
「無理とは何がだ?一応殺す事には成功したじゃないか。」
うーん、ロボは口が堅い物なのかなぁ、話すか如何かって所じゃない物な。
「・・・御前も、斯うしてやる予定だったんだ。」
然う呟いた途端、ロボの躯が大きく震えて爆発的に大きくなる。
大きくなると言うよりは内部から一気にコードが伸びてロボの躯を包んだのだ。
ロボの大きさからして到底入り切らない筈の量のコードが次々溢れて行く。
コードは集まったり絡まったりしてロボの姿を其迄と大きく変貌させた。
ロボの装甲毎に長いコードで繋ぐ事でどんどん彼の躯は伸び、無数のコードが足の様に地へ伸ばされる。
何とか其の姿を例えるとしたら、頭が複数ある蜈蚣の様だった。大きくなり過ぎた為に壁や天井を這って自分を四方から見詰めていた。
まさか第二形態だとか言う奴か?
いや、此の変化は本来ロボに組み込まれていたのと別な気がする。全く別の何かに変わった様な。
・・・然うだ、神の真の姿だ。ロボだって神だったのならなれてもおかしくはない。
成程、此奴の目的は自分を真の姿にして此の次元に閉じ込める気だったのか。
殺すのではなく、瀕死、か。考えた物だな。
複数に分かれてしまった頭が一斉に此方を向き、小さな駆動音を立てる。
レーザーか銃か知らないが、無で一気に沈めないと何の道此の地下が破壊されそうだ。
少し彼が動いた丈で壁や天井に罅が広がっている。生き埋め丈は避けたい。
―壊シタノニ大キクナッタ!―
―又壊スノ?―
「噫、一気に行くぞ。」
星座の鞭を集めて束ねる。大きくなった分的は大きい。此方も派手に行くとしよう。
「yrettab」
鞭が渦を巻いて大きな筒の様になる。
無を打ち出す砲台だ。
―・・・危ないから一寸離れてくれるか?―
―大丈夫?一柱デ調整出来ル?―
―壊レナイデネ、気ヲ付ケテ!―
魔力達の声が少しずつ離れて行く。
さぁ、後は彼奴を吹き飛ばす丈だ。
「黔翔弩」「皓翔弩」
気持光魔術の方に重心を置いて、一気に放つ。
二つの術は混ざり合って見えない砲弾となった。
「っエラーエラーエラー!損傷大!損傷大!」
無の一撃を又諸に喰らったロボの頭が何個か消し飛ぶ。
少し狙いが逸れたか・・・魔力達の手が無いと一寸精度が甘いな。
ロボのレーザーは止められたが、さっさと自分を始末しようと決めたのか此方へ無数のコードを伸ばして来る。
仲良く此処で真の姿になるのは御免だ。もう一発同じ物を放てば此奴も沈黙するだろう。
零星を構えていると邪魔する為かコードが零星の砲に絡まって来た。
無駄な足掻きを・・・此で無を放ったら此方迄巻き込むつもりか。
振り解こうにも力が勁い、中々離れてくれない。
・・・一度星座を壊して作り直す可きか?
考えていると突然コードが次々に凍り出した。
先端から次々氷漬けにされて動かなくなる。
ロボも理解が出来ない様で動かなくなってしまったコードを何とか引き寄せようとしていた。
ロボの視線が自分から離れた瞬間、
「此で・・・終わりだっ!」
もう一発無を叩き込む。
正面のロボの胴に命中し、大穴が開いて一気に瓦解する。
「・・・深刻なエラー、深刻なエラー発、生・・・深・・・コ、」
ブザーの様な音を立てていたロボは次第に静かになり、其限動かなくなった。
其の途端彼の全身が錆び付き、完全に崩れ去る。彼の命が潰えたのだ。
「良し、と。如何にかなったな。・・・手を貸してくれて有難うダイヤ。」
「・・・別に、来るのが遅いから来てみれば未だ鉄屑と戯れていたから壊した丈よ。」
壁の脇からそっとダイヤが顔を出した。
矢っ張り彼女の冰の術は強力だ。あんな風に瞬時に対象丈を凍らせるとは。
実力はある、実力はあるんだけれども其を出し惜しみする癖が彼女にはある様だ。
まぁ大事な時丈披露すると言うのは一種のやり方としてはありだろうが。
「あら、額の銃創は如何したのよ。貴方が間抜けだった証が消えているじゃない。」
「まぁ其は一回死んで戻って来るなんて大技を極めたら消えたな。」
掻い摘んでダイヤに簡単に事の顛末を話してみた。
自分でも未だ整理出来ていない、話す事で少しは考えが纏まるだろう。
「・・・然う、貴方の死後の冒険なんて全く興味ないけれど事情は分かったわ。其で駆け付けるのが遅れたから赦して欲しいと言う事ね。」
ん・・・ん?何だか変な話になっているぞ?
自分の中では結構頑張ったつもりなのに、労ってくれとは言わないけれど、謝らないといけないの?
あ・・・でも丗闇からも説教を喰らう事になっているんだった。生き返っちゃったから然うだよね?うぅ、恐いなぁ。
まぁ自分がもっとしっかりしていれば抑死ぬ事も無かったんだから然う言われたら然うなんだけれど・・・むぅ。
けれども何だか理不尽さを覚えるぞ、何故なんだ。
「何きょとんとしてるのよ。貴方が一柱出しゃばった所為で皆が迷惑したのよ。無事で良かったなんて喜んで貰えるなんて思っていたら大間違いよ!此の私の手を煩わせるなんて。」
「え、えっと・・・其は御免なさい。」
迷惑だったのは事実なので其は素直に謝る事にした。
まぁもっと上手い手があったのであろう事は事実だ。
「フン、二度目は無いわよ。其の時は私が殺してやるわ。ほらさっさと行くわよ。」
え・・・え~、次生き返ったら今度はダイヤに殺されるのか?
制裁が痛過ぎる・・・ベールは良く耐えられるなぁ。
―・・・次元の迫間に戻ったら少し話がある。忘れるな。―
・・・殺された方がましかも知れないな、と思ったり思わなかったり。
未来に多大な不安を残しつつも、進むしかないのでセレは一つ息を付いてダイヤの後に続くのだった。
「うぅ、ボスさん~。」
リーシャンが又出会い頭に胸に飛び込んで来てくれた。
噫何て可愛いんだ。君丈だよ本当。
「まさか、まさか私達を助ける為にぃ幽霊になってくれたなんてぇ、申し訳ないですぅ。」
ん?何か此方でも変な話になってないか?
「フシュゥウ~、セレ、今迄の御勤め御苦労様でしたシュ、自ら囚われの身になるなんて、尊敬するでシュ。」
「え、えっと私は生きてるぞ?ほらちゃんと触れるだろう。」
死んだのは死んだけれど、ちゃんと生き返ったので幽霊扱いは止めて欲しい。
と言うより誰も変に思わないのか?メンバーに幽霊が居るって大分変な状況だぞ?
何なら五柱中三柱は霊のパーティなんだぞ、半分以上死んでるって如何なんだ其。
「セレさん、大丈夫ですよ!僕がちゃんと先に事情を話したので、此で安心して成仏出来ますね!」
うわぁああ!余計な御世話過ぎる。誰もやってくれなんて言ってない!
一体如何皆には説明したのだろうか。如何して受け入れているのかも謎だ。
皆の守護霊になりました的扱いなのだろうか・・・。霊の守護霊とかもう訳分からないぞ。
と言うより其の役何か面倒そうだから辞退したいな・・・。
影乍らずっと誰かを見護り続けるって、性に合わないし、大変然うだ。
―・・・・・。―
―・・・だから何時も丗闇には感謝しているよ?―
―我は何も言ってないぞ。―
無言の圧を感じたのでつい声を掛けてしまった。
だって矢っ張り説教をしなきゃあいけない側の立場なんて面倒極まりないだろう?
「一応無事終わったんだからさっさと行くわよ。」
暗くてじめじめする丈でなく、敵にも遭った為さっさとダイヤは此処を出たい様だった。
彼女に至っては極度の面倒臭がりなので御守りなんてやってられないのだろう。
「無事ってねぇダイヤ、セレさんは命を投げ打ってくれたんだし、もう少し労ってあげたら如何かと思うけど・・・。」
労いは嬉しいが命を投げ打ってはいない。
「もう貴方は又変な所で空回りするんだから・・・。何時何処で誰が死んだって言うのよ。皆ピンピンしてるじゃない。勝手な事言わないで頂戴。」
「え・・・うぇ?い、生きてる・・・?セレさんが?」
「然うよ。頭に一発貰うなんて良くある事じゃない。其位掠り傷よ。其の程度でギャーギャー騒がないで。」
掠り傷じゃあないです。
然う心の底から思いつつも、如何やらダイヤが良い具合に話を進めてくれている様なので黙る事にした。
「・・・そ、そっか。掠り傷、然うだね。僕一寸勘違いしていたみたいで、御免ねダイヤ。セレさんも、騒いじゃって済みません。」
・・・信じるんだ。ダイヤの言う事は、如何やら何でも信じてしまうらしい。
此で彼が脳天撃ち抜かれても掠り傷を信じて無茶しなきゃ良いけれど・・・まぁ拗れるのも嫌だし、取り敢えず其の儘にしよう。
「・・・何だか悪いなダイヤ、助かった。」
「当然よ。此で次襲撃された時、霊だから戦えないなんて言われたら面倒じゃない。精々其の化物並みの生命力を私の為に活かす事ね。」
「あ、噫、仰せの儘に、」
まぁ然うだろうな。そんな事だとは一応思っていたよ。
「えぇ⁉彼で無事だったんですかぁ!しっかり頭の真ん中でしたよぅ!」
「噫其はほら・・・彼だ。私は額に鉄板を入れる手術をしたから、胸ポケットに手帳入れたら無事だったとか、良く聞く話だろう?」
「成程ぉ!用意周到ですねぇ!」
「フシュシュ!凄いでシュ!何だかかっこいいでシュねぇ!」
あっさり信じた。
もう何だか訳分からなくなって適当な事言っちゃったけれど、まぁ良っか。
頭に鉄板って、普通に考えて色々問題ありそうだけどな。銃弾を防ぐ前に熱やら金属やらで死にそうだ。
じーっとダイヤが何処か責める様な目で見詰めていたけれど気にしない事にした。彼が侮蔑の目だって、気付いてはいけない。
「フシュウ・・・其でも驚いたでシュ。又誰かと会えたと思ったら何だか恐ろし気な者達で・・・。」
プーニーは未だ動揺が収まらない様で手を何度も組んだり解いたりしていた。
「皆が護ってくれた御蔭で私は無事だったでシュけど、皆さんは大丈夫でシュか?少し休んだ方が、」
「休憩なんか要らないわ。其よりさっさと此処を出るわよ。歩き乍らでも話せるでしょ。」
「ダイヤ様が然う仰るなら、分かったでシュ。」
一つ頷くとプーニーは少し警戒し乍ら先を進む事にした。
彼を先頭にするのは流石に心配なのでそっと並ぶ事にする。
「私は大丈夫だが・・・三柱は如何だ?私が離れている間に何かあったか?」
「何も無いわよ。其処迄和じゃあないわ。」
「ボスさんの御蔭で無事ですぅ!」
「僕も、特には・・・一寸溺れた丈で。」
「貴方何もしなかった物ね。」
「うぅ・・・そ、其の通りです・・・。」
良し、其なら良かった。
「フシュ・・・皆さん御勁いんでシュねぇ。一寸かっこいいでシュ。」
「所でプーニーは何か懐い出せたりしたか?先の可也の刺激だったけれども。」
「フシュウゥ、特には何も無いでシュねぇ。所かその・・・最近の記憶も怪しい様で・・・えっと、」
そんな簡単には行かないかと思うのと同時に、少し不安な話が出て来た。
最近の記憶って、一体何の辺りだ?其は何か良からぬ事の合図じゃあないと良いが。
何か言い難そうにちらちらと自分の顔色を窺っているので少し待ってみる事にした。
軈て意を決したのかじっと此方を見た儘プーニーは続けた。
「その・・・セレって前からそんな立派な翼、ありまシュたっけ・・・なんて、」
危うく全力で転ける所だった。
え⁉其処?其処なの?今更其処なのか⁉
いやぁ・・・偉く普通にしているなぁと思っていたけれど、気付いていなかったのか。
随分立派な翼と尾だって自負していたのに。まぁ其丈じゃなくて手足も目も出しちゃっているけれど。
彼・・・かな。色々な事が起き過ぎてやっと其処迄処理が追い付いたって具合なのかな。
争いとか初めてだったんだろうし・・・うん、屹度然うだ。
一応受け入れてくれた所はクリアしたな。まぁ皆が普通に接していたから逆に反応し難かったのもあったかも知れないけれど。
「先迄隠していたんだ。如何しても目立ってしまうからな。けれども先みたいな時は出していないと色々不便だからな。」
「然うだったんでシュね!凄く立派で羨ましいでシュ!旻を飛べるなんてどんな心地なのか・・・フシュウ~、考えた丈で溜息が出るシュウ。」
何だか随分気に入ってくれている様である。不思議そうに翼を見ては遠慮勝ちに触れてみる。
まぁ羽根を集めている位だし、鳥に憧れでもあるのかも知れない。
石を投げないのなら別に何も言わない。
「・・・鳥が好きなのか?」
言いつつもきゅっとリーシャンを抱く手は緩めない。
どんなに好きでも此の子は渡せない。残念だがモフモフしていない鳥を見付けて欲しい。
「鳥、と言うより翼自体でシュねぇ。旻が好きなんでシュ、翼があれば此の世界の外迄行けるじゃないでシュか。だから・・・。」
其は矢張り次元の主導者としての懐い、なのだろうか。
彼が言うと少し意味が違う気がした。
外、次元の外へ行きたい、か。其は如何言う意味なのだろう。
次元の主導者が居なくなったら矢っ張り世界は・・・終わるのだろうか。
「若し良かったら掴んで飛びましょうかぁ?少しは飛んだ気分になれるかも知れませんよぉ。」
「フシュシュ、有難うシュ。けれど大丈夫でシュよ。自分の力で飛んでみたいんでシュ。多分昔から・・・然う懐っていた気がしまシュ。」
プーニーはそっと肩掛けを開いて羽根を見遣った。
様々な色に輝く羽根、こんな所に閉じ込めても輝きは変わらない。
何か考え込んでしまった様で其限プーニーは静かになった。
集中している様だし、邪魔しちゃ悪いな。
自分も考えたい事があるし、丁度良い。色々あって流され掛けたけれど、考えなきゃいけない事があるんだ。
―丗闇、一寸良いか?―
―何だ、今から説教を受けるのか?―
いや説教は良いです。其は忘れたい事だ。
―其方じゃなくて鏡界に付いて少し、流石に助かった、良かった良かったじゃあ済まされないだろう?―
―・・・其の事に付いて一度も相談しなかったらもう一時間説教を増やす予定だったが、杞憂だった様だな。―
恐過ぎる。トータル何時間使う気なの丗闇さん・・・。
―彼処って普通は出られない所、だったよな?けれども斯うして無事に脱出出来た。其の理由を如何しても知りたいけれど、丗闇は何か見当が一応付いているのか?―
―一応・・・な。結果から考えた推測に過ぎないが。二つの要素の御蔭で助かったのではないかと考えられる。御前の破壊の力と、魔力探知能力だ。―
―破壊・・・?もう少し詳しく頼めるか?―
―前世で、御前は謎の破壊の力を使っていただろう。今は使えない様だが、其の残滓か余波が残っていて、彼の時偶然鏡界の壁を破壊した。然う考えると無理矢理ではあるが多少は理解出来る。―
成程、彼の便利だった力か。無とは又別物だったしな。
然う言えば手の甲が壊れた時、指も罅が入っていた気がする・・・残滓ってまさかそんな所か?
今となっては・・・正直謎の力だった訳だし、使い続けるには少し抵抗があるな。
一体彼は何だったんだろうか、今更乍ら気になって来た。
―もう一つは御前の異常な魔力探知能力だ。御前は前から魔力が話すだの、変な事許り言っていただろう。其丈魔力に敏感とも言える。だから可也か細かった魔力の道を見付けて、其の歪から出る事が出来た、とも考えられる。―
―成程、確かに然う説明されると分かる様な気がするな。―
―気がする、丈で確証は無い。何の道、聞いた事の無い話だからな。―
―まぁ其でも、私の元々の其の能力と、彼が助けてくれた御蔭で出て来られたのかも知れないんだ。若しかしたら聞かなかった丈で他にも助かった奴は何柱かいるかも知れないな。―
―・・・然うとは迚も思えないが、鏡界から出られるなんて現実的な話じゃない。―
闇の神としての勘なのか納得が行かない様だ。けれども自分では答えが出ない。
―其にしても私なんかを助けてくれる奴がいるなんて・・・意外だったな。丗闇は誰か知っているのか?―
―彼は恐らく、神だった者の成れの果てだろう。長い間彼処に留まる事で消える事も出来ず、只存在が曖昧になって神だった者同士が融合した。然う言った存在に見えた。―
―神の成れの果て、かぁ。あんな姿になって迄神助けだなんて、余っ程御神好しな神も居たもんだな。―
其なのにあんな所で永遠彷徨うなんて、矢っ張り世界は理不尽だなぁ。
―他に知的生命体が居る等、聞いた事もない。恐らくは然うだろう。我も・・・初めて行ったな。・・・何故だか彼処は少し丈・・・懐かしい気がした。―
―ふーん。然うか。―
丗闇は何か未練がまし気にゴニョゴニョ話していたが、少し落ち着いたのか口を噤んだ。
考える事が本業の彼女としては今回、色々あり過ぎたのだろう。
・・・出口迄もう少し先か。もう刺客も居ないし、もう少し位話せるかな。
―然うだ丗闇見てたか?私の腕、まさか甲の下があんな風だったなんて・・・思ってもいなかった。―
人間の腕、と言うよりは少なからずショックを受ける物だった。
此の甲は、自分の血が固まった物。何とも不思議な代物だが、然う言う事らしい。
一体如何言う生態なのか、自分でもどんどん分からなくなる・・・。
常にあんな手だったら前世であんなに苛められる事もなかっただろうに。
もっと、上手に隠せた筈だ。翼と尾に丈、気を付ければ良かったのだから。
そんな大事な事はもっと早くに知りたかった。正にそんな気持だ。
まぁ今回初めて此の手の甲より硬い物があったから分かった事実なんだけれども。
其にしても何か・・・痛い許りだったけれど不思議な物だった。
人間に近付いたと聞いて喜ぶ質ではないので、複雑な気持だ。
―・・・然うだな。前世でも其の兆候は一切無かったのだろう?―
―無かった。多分足も然う、なんだろうな。―
甲を剥がすと言うのは抵抗があるし、手丈でも滅茶苦茶痛かったので試したりはしないけれど。
尾は如何なんだろう・・・?尾の方が甲が堅いし、血とは別物なのかな。
何の道此って大量出血に他ならないよな。此以上の激しい運動は控えた方が良いかも知れない。
次は貧血で倒れたなんてなったら、其こそダイヤに殺されそうだ。
―血・・・血かぁ。然う言えば彼奴も私の血で死んだっぽかったな。・・・一体如何なってるんだか。―
色々あって本当にどんどん忘れそうだ。一番初めにあった珍事件こそ大事なのに。
自分の血を飲んで直ぐ結晶となって死んでしまった彼の鮫男、話丈聞くと少々滑稽だが、あんな事で死ぬなんて誰も、思いもしなかっただろう。
飲んだ血が、結晶化した・・・つまりは甲になった、と言う事だろうか。
形は違えど、良く似ていた。成分が同じなら然うなのだろう。
体内であんな硬い甲が生えれば、躯を突き破るのも分かる。此の腕で彼奴を貫通した様な物なのだから。
―身体的変異が起きてもおかしくはない。御前は未だ完全体になれていない様だからな。―
―噫そっか。丗闇に力を貰った許りだし、見た目の変化が少なかった分、中は変わっているかも知れないな。―
今迄腕や足だとかの部位でしか結晶化しなかった血が、別の何かに反応して結晶化する様になったのかも知れない。
此、気を付けないと・・・いや、気を付け様がないけれど、何かの弾みで体内で結晶化したら流石に自分は即死するな・・・恐過ぎる要素が増えた。
兎に角腕は恐らく、昔から斯うだったのだろう。歪になる事は今迄もあったが、其の逆は無かったからな。
・・・いやまぁ別に人間が歪じゃないなんて、そんな訳じゃないけれど。
―一度、何処かで診て貰った方が良いかも知れないな。―
―そんな物好きな神、然う居ないだろうが。―
―でも丗闇も良かったら診て貰いたいだろう?私丈がおかしいとも限らないぞ?一応似た姿しているんだし。―
―我は構わない。別に御前を模した丈なのだから変化も何もない。・・・まぁ御前許りが変わって行くから大分我ともずれては来たがな。―
―確かに、昔はあんなにシンプルだったのになぁ。―
そっとオーバーコートのフード等を確かめる。
多少穴は空いているが、躯を焼かれる程じゃない。
恐いので翼や尾を仕舞って置く。もう直ぐ出口なんだ。気を付けないと。
次なる襲撃は見た所無さそうだ。第二弾が来るかと構えていたが、挨拶丈で済んだらしい。
まぁあんなレベルの敵がぼんぼん出て来ても困るしな・・・大量生産されていない事を願おう。
―有難う丗闇、良く分かったよ。又一寸考えてみる。―
―・・・帰ったら説教なのは変わらないからな。―
―う・・・あ・・・は、はい。―
嫌だなぁ・・・忘れてくれたと思ったのに、余っ程御怒りだったんだ。
絶対ねちねち言われる、戦い方がなってないとか怒られる。
其で特訓とかしてくれるなら嬉しいけれど、只怒られるのは斯う・・・慣れていないし、単純に嫌だ。
丗闇怒ったら恐いし・・・今迄で一番、鏡界に行った時切れていたからな、うん。
今の内に、しっかり覚悟を決めよう。もう何度も反復して耐え抜くぞ。
「・・・あ、ほらダイヤ、出口が見えたよ。やっと出られるね。」
何とか機嫌を取ろうとしてかベールがパタパタと忙しなく歩き回る。
確かにもう出口は目の前だ。
波紋で見ている限り脅威は感じられない。今度こそ平和其の物だ。
恐らく地下遺跡の中で少し波紋が効き難かったのは何らかの魔術に対する妨害をしていたのだろう。無を使ったとか言っていたし、慣れてはいなかっただろうが、其でも自分の邪魔は出来た訳だ。
うーん、斯う思うと自分の特性が知られて行って対策されるのは大分面倒だな。
ノロノロ達の事もあるから元より其の予定だったけれど、先に虚器惟神の楼閣から潰した方が確実だな。
此以上変な弱みを握られても嫌だし、今回は其で一回死んじゃった訳だし。
熱が冷めた頃に、と思っていたが少し早めた方が良さそうだ。
「分かるわよ其の位。一々そんな事で燥がないで頂戴。見ていて疲れるわ。」
相変わらず冷たい・・・其の一言でベールはしゅんと静かになってしまった。
斯うも行動全てが空回りするとは。如何見ても相性が悪いんだろうけれど其でも彼は止めないんだろうな。
此処迄見て来てもう分かった。まぁ其が彼のしたい事なら止めたりはしない。
「やっと、出られたフシュね!」
嬉しそうにプーニーが外へ出て大きく伸びをする。
そっと自分も続く。此の一瞬、何処か躯が焼けはしないか何時も緊張してしまう。
・・・大丈夫、然うだな。出来ればもう痛い思いなんてせずに終わりたい。
洞穴の出口の先は河原の様になっていた。
なだらかな丸石許りが転がる河原で、浅い滄江が何本も流れているが、見ていて何だか落ち着く。
水も澄んで綺麗だし、石の一部を覆っている苔は柔らかそうで若々しい翠に輝いている。
何て美しい所だろうか。荒れていた心が安らぐ様な景色だ。
「もう、服が濡れちゃうじゃない。足場も悪いし・・・。」
うーん、一柱は納得していない様だけれど、まぁ良いか。
さて、問題は羽根探しか。現地の者に聞くのが一番だよな。
「フシュシュ!セレ、何か居るでシュ。彼は大丈夫でシュか?」
プーニーが心配そうにセレの服の裾を引っ張った。
先の事があって彼は警戒する事を覚えた様だ。
良い事だが、其は恐れと言う感情が付いて来るので少し淋しいな。
「んん、若しかして彼はぁ、」
リーシャンも気付いたのかパタパタ翼を動かし始めたのでそっと自由にしてやる。
リーシャンが近付いて行った事で向こうも此方の存在に気付き、ピギュ、ピギュルルと独特な声で鳴き始めた。
別に敵意がある様子はない。自分達を歓迎してくれている節もある。
「リーが行ったって事は彼は龍族なのかしら。」
「噫、シュルシュナと言う龍族だ。飛属性で基本は飛んで許りいる穏やかな種の筈だ。」
飛び回っていた龍族は全長1m程の蛇に四翼の翼が付いた様な姿をしていた。
群なのか六頭で飛び回っていて、水でも飲んでのんびりしていた風に見える。
陽に因って皓や淡い旻色に染まる体毛に覆われ、鳥の嘴に似た口をしている。
翼と胴を繋ぐ様に碧の瓊が光り、尾は巨大な羽根の様でひらひらと重力を忘れてしまう様に棚引いていた。
彼の翼と尾は中々触り心地の良さそうなモフモフなので是非触れ合いたいのが、
「フシュウ・・・見た所、羽根の持ち主、と言う訳ではない様フシュね。」
「だな、もっと大きい鳥なんだろう。話が出来れば聞いてみたいんだが、」
「あのー今日はぁ!」
近付いたリーシャンが声を掛けると何頭かのシュルシュナが寄って来た。
「今日は。珍しい、客なんて。」
「此処の水は美味しいから御勧めだよ。」
「歓迎してくれて有難うですぅ~!皆さんはぁ此処に棲んでいるんですかぁ?」
友好的なシュルシュナに安心してリーシャンは彼等の近くの丸く大きな石に留まった。
確かに喉が渇いて来たので水を少し頂こう。
「棲んでいる・・・と言うよりは。」
「乗せて貰ってる・・・のかも知れない。」
「フゥム・・・?・・・っ!御水冷たくて美味しいですねぇ!」
「一寸、余りがっ付かないのよリー、みっともないわ。」
一口飲むとすっかり気に入ったらしく、ゴクゴク水を飲み始めたリーシャンをダイヤがそっと諫めた。
然うして水をがぶ飲みする姿は如何見ても只の小鳥である。
「色んな種が居るけれど、何の一団?」
集まって来た一同にシュルシュナも興味津々の様だ。
セレやプーニーの周りを彼等はひらひらと飛び回り始めた。
「色々あって旅をしているんだ。途中で会ったから一緒に行こうって具合で。」
そっと近くの一頭の背を撫でると気持良かったのかもっと擦り寄って来た。
何て愛らしい子なんだ。此の機会に余す事無くしっかり触れ合って置こう。
「旅・・・成程ね。其で此の次元に来たんだ。此処は適任だね。」
如何やらシュルシュナは自分達が神だと気付いている様だ。
只余りプーニーに知られて良い話ではないので少し声を顰める事にする。
―悪いが一柱次元の主導者が居るんだ。神と言う事は伏せているから少し丈気を付けて欲しいんだが。―
―噫其は済まない、分かったよ。―
何とも物分かりの良い子だ。セレの手の隙間からちらと顔を覗かせて頷いた。
でも先の物言いが気になるな・・・旅だから此の次元に来た。其は分かるが適任・・・?景色が良いとか然う言う事だろうか。
「此処は偉く龍族に会うが、何かあったりするのか?」
龍や神に会って許りなのでまるで次元の迫間みたいだ。
「其は・・・此の次元だからだよ。」
少し声を顰めてシュルシュナは上目遣いに此方を見遣った。
「私達は色んな次元に行くから、どうせだったら色んな次元へ連れて行ってくれる此処に、運んで貰ってる。」
「・・・?此の次元は動いているのか?」
「然うだよ。けれど今迄止まっていたから僕達も動けなかった。だから・・・来てくれて有難う。此でやっと移動出来る。」
今一要領を得ない。移動する次元なんて、そんな物があるのか?
だから色んな龍族が乗せて貰っているって具合だろうか。バス感覚の次元とは、初めて知った。
でも其が今は動いて居ないかの様な口振りだ。
だから自分達神族に会えてリンクが出来たから動ける。先の言葉はそんな風に聞こえたが。
「あの、此の持ち主を知ってるフシュか?」
もう少し聞こうかと思ったがプーニーが例の羽根を肩掛けから出すと皆の目が釘付けになった。
「なぁに?其、とっても綺麗な羽根。」
「然うでシュ、色んな所に落ちているから拾ってるんでシュ。」
「うーん・・・羽根丈で然うなら随分大きい鳥だ。」
不思議そうにシュルシュナ達が羽根を見遣り、匂を嗅ぐ。
其の仕草からして持ち主は知らない様だ。
折角なのでそっとシュルシュナの尾に触れてみる・・・うはぁ、何ってモフモフなんだ。陽に当たってポカポカ温かい・・・。
「初めて見たから悪いけど力になれないね。・・・あ、でも他の龍が居るから聞いてみるよ。」
「有難うでシュ!屹度凄く綺麗な鳥でシュから・・・会ってみたいでシュ。」
プーニーの言葉に何度か頷いてシュルシュナ達は河原の上流へ向けて飛び始めた。
他にも龍族が居るのか・・・皆此の次元に囚われていたのだろうか。
其にしてもプーニーは随分簡単に龍達を受け入れてくれている様だ。
彼等が友好的なのもあるだろうし、記憶が無いのも、要らぬ先入観が無くなって良い具合に働いているのかも知れない。
危機感は相変わらず無いが、友好的なのは良い事だ。
シュルシュナ達の行き先を波紋で見ると、確かに新たな龍族が居る様だ。
こんなに一度に見付かればリュウも大喜びだろう。仕事が捗って重畳だ。
「・・・又変なのが居るわね。」
「こらダイヤ、龍族を捜すのも立派な仕事だから然う邪険にしてはいけないぞ。」
「然うですよぅ、大きく見れば私の仲間なんですからぁ。」
「分かってるわよ。でも変なのには変わりないでしょ。私初めて見たんだし。」
「ダ、ダイヤは変なんかじゃないぞ!」
何処を如何聞き間違えたのか突然ベールが突進して来た。
ダイヤの事で一途になるのは良いが、見境が無くなるのは問題だ。
只でさえ不幸を拾い易い子なのに・・・。
「・・・誰が変だって、言ったのよ。」
ギロリとダイヤに睨まれてしまう。其丈で察したのだろうベールの背がすっと伸びる。
「え・・・あ、あれ・・・、若しかして僕の聞き間違い・・・とか?」
悲しい苦笑いだ。もう彼の辿る道は一つである。
「成程、そんな幻聴が貴方には聞こえた訳ね。然う・・・其ってつまり、貴方は私の事を然う思っていたって事よね。へぇ然うだったの。」
ズカズカとダイヤが後戻りをし、ベールに喰って掛かる。
もう駄目だ。彼は彼女の餌食となってしまった。
自分は何も出来ないのでそっと見守る事にしよう。手を上げたら流石に止めるが、言葉は何とか受け止めて欲しい。
其より此方は新たな龍達とコミュニケーションを取らないといけない。悪く思わないでくれ。
「・・・? 如何した シュルシュナ 見ない顔も」
上流に居たのは全長20cm程の小型な龍族の群だった。
金属で出来た針鼠の様な面持ちで、あるのは上半身のみの様な姿をしていた。
胴が筒の様な形をしているので其処から凱風が出る事で宙に浮いている様だ。
鰓がリボンの様に棚引き、長く先が巻かれた尾が忙しなく動いている。
「ウルドナか・・・此処は本当に龍族が多いな。」
「彼方も初めて御会いしましたよぅ、どんな御仲間なんですぅ?」
「然うだな。谺属性の龍で、少し丈気難しくて縄張意識の強い龍だ。胴が筒の様になっているから、其処から凱風を出して高さを調整したり、外敵を退けたりするな。下手に刺激しなきゃ大丈夫だと思うが。」
「ほほぅ、今も何だか遊んでいるみたいですしぃ、然うですねぇ。」
確かに四匹程のウルドナが輪になって浮いているので遊んでいる様にも見える。
・・・と言うより彼はまさか、
「っ!フシュウ!凄いでシュ、又見付けたでシュ!」
ウルドナ達の中心で例の羽根が浮いていたのだ。
羽根は陽と滄江の反射に因って色鮮やかに輝いていた。
旻の蒼さと水の透明さを孕んで、まるで水で羽根の形を象った様である。
其がウルドナ達の凱風に因って舞い上がっているので猶の事様々な色に輝いていた。
「あ、本当だ。ウルドナが持っていたのか・・・素直にくれるかな。」
彼等の気難しさはシュルシュナも知っていた様で少し心配そうだ。
其でも交渉の為そっと彼等に近付いて行った。
「やぁウルドナ、彼等はある物を探している様なんだ。其の羽根なんだけど、見せて貰えるか?」
「羽根 私達 見付けた 玩具 代わりに 何か 寄越せ」
交換条件か。然うだな、別に彼の羽根がプーニーの物と言う訳じゃあないんだ。妥当だな。
けれど玩具か・・・そんな都合の良い物は持ち合わせていないな。
でもあんな羽根でも遊んでくれるなら自分の羽根を一気に毟ってあげたら代わりになってくれるだろうか。其位なら御安い御用だけれど。
「玩具が欲しいのかしら。そんなの簡単だわ。ほらベール。」
・・・何となく何をする気なのか分かるけれど、少し黙って居ようか。
「え、如何したのダイヤ。」
何も知らない憐れな子羊は疑う事なく彼女に近付いた。
「貴方居ても邪魔なんだから彼と遊んで来なさい。ほら行って。」
「えぇ・・・ダ、ダイヤ其は無いよ。僕せめてダイヤと一緒に、」
「其の台詞、もっと自分に価値を見出してから言いなさいよ身の程知らず。私が有効活用してあげるんだから感謝しなさい。」
「うぅ、分かったよ。僕行って来るよ。何時か屹度、ダイヤの役に立てる位立派になって帰って来るから。」
決意を固めたベールの目は薄ら潤んでいる気がした。
いやそんな、一生を捧げなくて良いからな?適度に飽きが来たら返すだろうし。
「・・・別に 遊び相手 欲しい訳 じゃない」
「遊び相手だなんて、別に一柱とカウントする価値も此には無いわよ。玩具として遊びなさい。」
トボトボ歩くベールは河原の石に躓いて盛大に転けてしまった。
立とうとしたが又転んでしまう、其の次も・・・。
見えない手に掴まれたかの様にコロンコロンとベールは何度も転がり始めた。
恐らくウルドナの一寸した悪戯のつもりだったのだろう。彼が転けた様を見て何匹かが含み笑いを零した。
本の少し引っ掛けた丈なのに彼が大仰に反応してくれるのが面白い様だ。
確かに彼では遊ばれている。完全に玩具である。
「ね、玩具位の価値はあるでしょう?」
「悪くない 彼方の方 面白い」
ウルドナの御気に召した様だ。早速例の羽根をダイヤに手渡すとウルドナ達はベールを取り囲んだ。
ひ、酷い、四匹も居てはベールは一生立てないんじゃあないだろうか。まさかウルドナにあんな悪戯好きな面があるとは知らなかった。
あぁ・・・見ている内に転ばせる丈では飽き足らず、ウルドナ達はベールを胴上げの様に持ち上げ始めた。
凱風に因って無重力体験でもさせられている様である。旻中でベールはクルクルと転がされていた。
・・・一体彼で彼は如何立派になって戻って来るつもりなのだろうか。
ウルドナ達の事だし、怪我させる様な真似はしないだろうから大丈夫だけれど。
「はい、此が欲しかったんでしょ。」
ダイヤはそんなベールに一瞥くれる事なくプーニーに羽根を手渡した。
心底可哀相なベール・・・犠牲になってくれたのに彼女はにこりと笑ってもくれないとは。
「あ、有難うでシュ・・・で、でもベールの事は良いんでシュか?」
「あんな芥の事、気に掛ける事ないわ。役に立てて彼も喜んでるわよ。」
「一応・・・解決はしたのかな。」
「噫、シュルシュナ、案内してくれて有難う。助かった。」
「此の程度で礼になるなら、じゃあ又ね。」
シュルシュナ達は下流へと戻って行った。リンクも出来た事だし、別の次元へ行くのかも知れない。
「もう六枚も集まったでシュ。」
鞄を開けてプーニーは何とも嬉しそうだ。
「・・・もう鞄も限界だな。」
「然うでシュね、折れても嫌でシュし、少し出してみるでシュ。」
凱風に気を付けてそっとプーニーは鞄から羽根を取り出した。
陽を受けて羽根は其々七色に輝いている。まるで宝石の様で、何とも美しかった。
「本当に、綺麗ですねぇ~。」
「今度は一体何が起きるのか、楽しみでシュ。」
「ベールと交換で手に入れたから又変な事起きなきゃ良いけど。」
「いやダイヤ、呼び水になってもいけない。其は忘れよう。」
未だ彼はウルドナ達に玩ばれている。随分と気に入られてしまった様だ。
「・・・ひぇ?何だか向こうの碧山、動きませんでしたかぁ?」
「や、碧山がか?」
リーシャンが不思議そうに首を傾げる。
いやいやまさかそんな天変地異だなんて・・・。
「・・・動いている、と言うより震えているな。」
見ていると段々と其の震えは大きくなって行った。
そして震えている範囲も広がりを見せ、終には地全体が細かく震え始めたのだ。
「・・・っ、な、何だ此の地震は、」
「若しかしてベールの所為で火山が噴火するのかしら。フフッ、然うなったら地獄絵図ね。」
「ダイヤァ!其笑えないですぅ!私焼き鳥にはなりたくないですよぅ!」
「然うでシュ!こんな出遭いは嫌でシュ!」
パニックになる一柱と一羽を見守り、一つセレは溜息を付いた。
本当に然うなったら・・・一体如何して止めれば良い。龍も沢山居るし、皆を護るなんて不可能だ。
やるとしたら・・・火山其の物を破壊するしかない。けれども其も出来る物だろうか。
抑火山の仕組みだとかに詳しくも無いので下手に刺激をするのも・・・一体、如何動くのが正解なんだ。
身構える中、突然震えは止まった。
だがほっとするのも束の間、今度は一気に旻が暗くなったのだ。
まるで此の旻に巨大な何かが現れたかの様に、一気に影が広がって陽を隠してしまう。
「こ、此が天変地異ですかぁ・・・。」
「何か・・・来る?」
波紋が巨大な影を上旻で見付けていた。
此方へ迫る巨大な塊、此は一体、
「何かって隕石ですぅ?」
「其は一寸笑えないな。」
あんなサイズの隕石って、壊せるのか?自分の力が及ぶのだろうか。
只壊せば良いと言う訳じゃあないだろう。余波だって起こる。其を留めないと。
「兎にも角にも飛ばないとな。行って来る。」
特にプランが思い付かない。
慌てた所で何も出来ないし、身を護るにしても隕石相手じゃあ矢っ張り何も出来ないんだ。
此が此の次元の終わりだと言うなら・・・如何すれば良い?
けれども隕石なんて、自分は落とした記憶は無いんだが、
「わ、私も行きますよぅ!」
翼を広げたセレにリーシャンも並ぶ。
「リーシャン、御前は死んだらアウトだから程々に気を付けてくれ。」
「分かってますよぅ、でも此の儘じゃあ皆アウトになっちゃいますぅ!手伝いますぅ!」
「リー!一寸!・・・もう、又私が頑張らないといけないじゃない。」
一気に飛び立った二柱を見上げ、ダイヤは大きな溜息を付いた。
「が、頑張るって、ダイヤ様隕石を如何にか出来るんでシュか?」
パニックになっていないと思ったらプーニーは腰が抜けて立てなくなっていた。此の場から動くのは無理然うだ。
「さぁ私も相手した事は無いわ。其に一応隕石とは決まってないわよ。」
「・・・飽きた」
「あでっ、」
突然ウルドナ達に捨てられ、ベールは数分振りに地面に落とされた。
少し目が回っている様でふら付き乍ら何とか立ち上がった。
「や、やっと・・・助かった。・・・ふぅ、ダイヤ帰って来たよ。」
「然う、じゃあ次隕石と遊んで頂戴。」
「隕石・・・?え、あれ⁉旻が冥い?な、何此、う、嘘、」
如何やらベールも腰が抜けた様で座り込んでしまった。
全く本当使えないんだから。
「・・・私も死にたくないし、適当に頑張ってあげるわよ。」
溜息を付くダイヤを激しい冷気が包み始めていた。
・・・・・
「ボスさん~速いですぅ~!」
飛び去って行くセレを何とかリーシャンは追い掛けていた。
幻術を解いて元のサイズに戻ったのに其でも追い付けない。何て速さなんだ。
「・・・ん、いや此は、」
突然セレが旻中に留まったので急停止する。
「きゅ、急に如何したんですぅ?ひ、ひぇこんな大きいなんてぇ。」
影になっていた物、其は余りにも大きな隕石だった。
果てが見えない、先端が尖っており、巨大な皓い岩が動いていたのだ。
「ボスさん~。此は如何したら良いでしょう・・・。私には迚もぉ、」
「大丈夫、大丈夫だ。此は隕石なんかじゃない。」
抑隕石だったらこんな距離迄接近されていたらもう不可能だ。
破壊したとして、爆発した欠片なんかが落ちて来るし、余波で地形に大きなダメージを与えてしまう。
「へ?隕石じゃない?じゃあ此は一体?」
「成程な。だから此の次元は動いていたんだ。」
一柱納得したセレは緩りと戻って行ってしまう。
其の間もどんどん隕石らしき物は地上へ近付いて行く。
「ボスさん、如何言う事なんですぅ?」
「噫、此は・・・龍族だ。」
「ひぇ⁉お、御仲間だって言うんですかぁ!」
まさかこんな大きい種がいるなんて、一体全体ではどんな形をしていると言うのだろう。
隕石、元い龍に先を越されてしまったが、未だ未だ果ては長い。
まるで世界を包むヨルムンガルドの様だが、一体どんな龍なのだろう。
龍に付いて行く形でセレ達も降下して行った。やっと地表に近付く。
何時の間にか可也立派な冰の城が出来ている・・・まさかダイヤか?
「・・・あら、随分遅い御帰りね。・・・で、何なのよ此。」
城、と言うよりは氷の空山だろうか。鋭い氷柱が大量に生え、傘の様な形をしていたが、其の頂上にダイヤが居た。
「龍族だったみたいだな。此は・・・ダイヤが創ったのか?」
巨大な龍は地面に可也接近した所で固まっていた。
其の隙にリーシャンはダイヤを背に乗せ、一気に降下し、プーニー達の所へ戻った。
「何よ。無駄な労力だって馬鹿にする訳ね。全く意地が悪いわ。」
「いや純粋に凄いと思った丈だけれど。」
彼の間にこんな大技をしていたとは。
此で少しでも隕石を止めるつもりだったのだろう。皆を護ろうとした其の心意気が嬉しかった。
「フシュウ!戻って来たフシュね。な、何だか気付けば彼が落ちて来たシュけど、彼が隕石でシュか?」
恐らく落ちると思っていたのだろう、プーニーは完全に腰が抜けてしまっていた。
・・・ベールに至っては気絶している。又怒られてしまうぞ。
「隕石じゃなくて彼は生物なんだ。『樊籠ノ龍(カゴノリュウ)』と呼ばれている。」
「何と大きな!でも如何して急に・・・。フシュ!も、若しかして、此方・・・見てるシュ?」
確かに。大きな瓊の様な蒼い物は樊籠ノ龍の瞳なのだろう。
其の両の瞳をじっと自分達に向けている気がした。
見られている・・・でも一体何が如何して、こんな所に来たんだ。
「一寸、彼が一体どんな奴なのかさっさと教えなさいよ。」
隕石ではないと知って皆は一気に力が抜けて安心した様だ。
でもあんな労力を使った彼女としては、徒労なんかで赦せないのだろう、随分噛み付いて来た。
「と、と言うより敵意は無い、んですよねぇ。」
リーシャンが心配そうに樊籠ノ龍とダイヤの顔を交互に見遣る。
うん然うだな、何方も恐いよな。
プーニーなんて今更リーシャンが大きくなった事に気付いて不思議そうに一寸彼に触れてみていた。
「大丈夫な筈だ。彼を害する事はしていない。樊籠ノ龍は、次元、世界を創る事が出来る龍なんだ。次元を抱く様に持って思い通りの世界を創ってはじっと見護る。そんな龍だな。」
「そ、創造主じゃないでシュか!そ、そんな方と会えるとは、ほ、ほほ本当に大丈夫でシュか?」
創造主、確かに然うだ。次元を創るなんて非常に稀有な能力を持った龍だからな。
でも希少と言う訳ではない。彼等は気に入った次元があれば其を見護る事も多いので、次元を作る事其の物がレアなのだ。
此の次元が創られた物か、彼が気に入った丈なのか定かではないが。
樊籠ノ龍は余りにも巨大な為、自分達からは口先の尖った顔の部分しか見えないが、本来だったら巨大な翼を持った蜥蜴の様な姿をしている筈。
長い胴で次元を包み、六翼もの翼でそっと次元を抱くのだ。尾は弦が張られたハーブの様で、次元に向けて様々な音を送ると言われている。
性格は至って温厚、と言うより不干渉を好み、傍観する事に大体は徹している。
次元に異変が起きた際は姿を見せる事もある然うだが、今回は一体、如何言うつもりなのだろう。
―・・・初めまして、良くぞ此の世界に来られました。―
突如頭の中に竪琴の様なテレパシーが流れ込んで来た。
此が、樊籠ノ龍の声なのだろう。
―貴方達の御蔭で私は又旅が出来る。そしてもう一つ祝わなければいけない実に喜ばしい日だ。―
旅、屹度此がシュルシュナ達の言っていた事なのだろう。
樊籠ノ龍もリンクが切られていた所為で此処から動けなかったのだ。
其の戒めが解かれ、自由に動ける様になったのだろう。
でももう一つの祝う可き事とは一体何なのだろうか。
「フシュシュ⁉、あ、待つでシュよ!て・・・え、・・・?」
突然プーニーの手にあった羽根が舞い上がり、一際輝いた。
そして緩りと下降した羽根達はプーニーの背に付き、其の儘美しい翼へと生まれ変わったのだ。
「ひぇ、は、羽根が翼になるなんてぇ一体何が起こってるんですぅ。」
「・・・フシュ。何か、懐い出せそうな気がするでシュ。」
自身の変化に戸惑い乍らもプーニーは必死に頭を押さえていた。
「樊籠ノ龍、何か知っているなら教えてくれ。一体何が起きているんだ。」
恐らく無関係では無いだろう。其に、然うだ。プーニーの集めていた羽根は、彼の翼の羽根と良く似ていたのだ。
―特別な事はありません。只の代替わりです。―
「代替わりって何のだ?」
其の何かをプーニーにさせると言うのだろうか。でも一体、
樊籠ノ龍は緩りと瞬きを繰り返した。
表情は読めないが、瞳の奥に優しさの様な物は見えた気がした。
―然うですね。貴方達は知らず此の世界に迷い込んだのでしょう。私達は永い間世界を見た後、自分の好む世界を創るのです。其迄見た美しい景色や懐い出を織り交ぜ乍ら。此処は、そんな私が創った世界なのです。―
「成程ぉ、確かに迚も素敵で綺麗な世界ですねぇ。」
「此の世界を創ったのか・・・。じゃあプーニーは、」
彼等の創る世界に生物が居るのか如何かは自分も知らない。龍古来見聞録にも此処迄詳細は載っていなかったのだ。
然うか、彼等は永く世界を見て来た個体丈が次元を創るのか。自分の好きな物丈を詰めた次元を。
―えぇ、私はもう此の世界以外、何処にも行きません。共に朽ちる迄、見護り続けます。だから私の代わりに又世界を見て廻る樊籠ノ龍を産み出したのです。―
「っ!然うでシュ!懐い出したでシュ!」
一つ飛び跳ねてプーニーは手足をばたつかせた。
只跳ねたつもりだっただろうが其丈で軽く飛んでしまったので慌てて着地する。
「フシュシュ、私は、樊籠ノ龍の子供なんでシュ!此の世界で生まれて、そして・・・、」
―其の通りです。貴方を成長させる為に、私は此の世界を旅させました。私の一番好きな世界を見て貰いたかった。だから羽根を集めさせ、記憶を少し封印させたのです。―
「な、何だか随分大きな話ですねぇ。」
「まさか樊籠ノ龍にそんな生態があったなんてな。」
龍古来見聞録には無かった気がするが、リュウに言ったらどんな反応をするのだろうか。
自分も知識丈で対処するのは良くないな。斯う言うパターンも存在するのか。
「え、えっと・・・フシュ、私は翼が生えたシュけど、此から如何したら良いでシュ?」
―簡単です。貴方の夢を叶えれば良いのですよ。私の世界から旅立って、今度は自分の目で世界を見るのです。―
「フン、やっと巣立ちって事ね。随分大きな巣を歩かされたわね。」
此の次元其の物が樊籠ノ龍の巣・・・確かに然うとも言える。
何ともスケールの大きい、そして特異な生態を持つ龍なんだ。
「フシュウ・・・然う、なんでシュね。有難うでシュ、こんな素敵な世界を見せてくれて。」
「然うだな。確かに綺麗な次元だった。御前が創ってくれたんだな。」
最初の蕭森が何処か不自然に整然していたのも然う言う訳だったのか。
屹度彼も、彼が長い旅の中で見た忘れられない次元の景色だったのだろう。
「旅していてとっても楽しい所でしたぁ!水も美味しかったですしぃ。」
―然う喜んで貰えたら私も嬉しいです。只此から旅立つ私の子に一つ丈忠告をします。良く御聞きなさい。―
樊籠ノ龍は変わらず優しい瞳でじっと一同を見詰めていた。
彼は一体、何丈の次元を見て来たのだろうか。其の殆どは自分の所為でもう変わってしまった次元なのだろう。
自分は・・・憎しみしか持たなかった世界なのに。如何して彼はそんな優しい目をした儘でいられるのか不思議だった。
自分には絶対、こんな次元を創れないから。
・・・・・。
―世界は、美しい丈ではありません。醜い物も、汚い物も、恐い所や酷い所も沢山あります。残酷で美しいのが此の世界です。でも其丈に目を向けないで、惑わされないで。私達がどんなに見詰めていても、世界の全てを見る事は叶いません。貴方が見るのはそんな世界の只の一面なのですから。―
「・・・分かったでシュ、私も、しっかり世界を見るでシュよ!そしてこんな美しい世界を創ってみるでシュ!」
―えぇ、其の意気です。―
嬉しそうに樊籠ノ龍は大きく頷いた。そして少し丈鼻先を上げる。
―皆さんも、私の子と一緒に旅をしてくれて有難う御座いました。貴方達との一時は迚も楽しそうに私の目に映りました。素敵な懐い出を・・・有難う。―
「此方こそ、楽しませて貰ったよ。此の次元に招いてくれて有難う。」
「フシュシュ、私からも、本当に有難う御座いました!御蔭で此処迄来れたでシュ。屹度私は・・・色んな生き物の居る世界を創ると思いまシュ、出会いが迚も楽しいって感じたシュから。」
「一寸、余騒々しい次元は勘弁よ。私静かなのが好きなんだから。」
「シュシュ!ダイヤ様は変わらないでシュね。分かったでシュ、然う言う静かな所も創るでシュ。」
プーニーは照れた様に笑って軽く目元を擦った。
もう彼も分かっているのだ。もう、行かないといけない。
「っわぁああああああ‼」
少ししんみりして来た所で突然絶叫が響いた。
驚いた・・・思わず首を竦めてしまった。リーシャンも頭をダイヤに押し付けている。
「一寸ベール!煩いわね、もういっその事寝てなさいよ。」
飛び起きたベールの頭をペシッとダイヤは叩いた。
然う言えば・・・忘れていた。
彼は樊籠ノ龍に驚いて気絶していたのか。御免、すっかり放置していた。
「え、あ、な、何、何なの此・・・。」
目を白黒させているが無理もない。気付けば巨大な龍と、プーニーに翼が生えているのだ。驚きもする。
只何とまぁ間が悪いと言うか・・・ううん。
あぁ・・・ダイヤが物凄い失望の眼差しを向けてる・・・ムードは分かるけれども少し控えてあげて欲しい。
「えっとベール、大雑把な説明になるが、彼は此の次元を創った龍族なんだ。で、プーニーはそんな彼の子供で、羽根を集めて無事成長したから今から巣立とうって所だったんだ。」
「隕石だと思っていたのはぁ、龍だったんですよぅ。」
「・・・へ?え、えっと、・・・うん?」
多分言葉も意味もちゃんと分かっているんだろうけれど、理解が追い付けないのだろう。
でも御免、本当に其がたった数分の内に展開されていたんだ。一番大事な瞬間に君は気絶してしまっていたんだ。
「もう良いわよそんな腰抜けに関わらなくても、時間の無駄よ。ほら、蜥蜴が巣立つんだからさっさと御別れしなさい。貴方が邪魔したのよ。」
「シュシュウ~ダイヤ様そんな言わないであげてくださいシュ。最後に起きてくれて良かったでシュよ。御世話になりました、有難うでシュ。大変だと思うけど強く生きて欲しいでシュ。」
「そ、そんな、僕こそ、その・・・有難う御座いました。え、えっと、頑張ります。」
何故か旅立つ側から心配されるベールだった。
でも然うだな、彼には強く生きて欲しい。踏まれても華咲く雑草の様に。
「其じゃあ私は行くでシュ!皆本当に有難うでシュ、とっても楽しかったでシュよ。何時かは・・・私の創った世界にも来て欲しいでシュ!」
「噫、又な。良い旅を。」
「御元気でぇ~。」
プーニーははにかみ咲うと大きく翼を羽搏かせた。
もう飛び方は心得ている様だ。龍の遺伝子に組み込まれているのだろう。
力強い羽搏きに因って見る見るプーニーの姿は旻の彼方へと消えてしまった。
今から、彼一柱の旅が初まるのだ。親の忠告を良く聞いて、しっかり世界を見て来て欲しい。
―其では私も此で、役目を終えてやっと安心出来ました。皆さんの旅に幸多からん事を。―
然う一言呟いて樊籠ノ龍も頭をそろそろと上げて行った。
少しの間又揺れが起きたが、其も静かになる。
「と・・・取り敢えず此の次元はクリアって事・・・ですか?」
「まぁ然うだな。皆御疲れ様。何とも平和的に解決して良かったな。」
「ベールは今回も何もしなかったけどね。」
「ヒゥ⁉ダ、ダイヤ御免よ。次頑張るから。」
「一応羽根の代わりに遊ばれるという大仕事は熟していたんですけどねぇ。」
何処か優しい薫風に見送られ乍ら一同は次元を後にした。
龍の愛した此の次元は、屹度此からも平和な儘なのだろう。
・・・・・
色を手に入れた少年は己が翼に其の色を宿す
新たな世界を見る為に、羽根の示した其の先へ
全ての色を知った少年は世界を一つ産み落とすだろう
永い旅の果てに新たな色を世界へ加える為に
懐い出を、情景を、色へ落し込む様に
終結!ヤッタゼ!
今回の反省点、『翼好きだからって無闇に生やすの止めよう?』
最後の龍、描くの本当に面倒臭かったです。何だよ六枚の翼って!主人公(人ではない)とか八枚だぞ好い加減にしろ!
多ければ多い程良いってもんじゃないじゃん、飛ぶ時絶対邪魔になるじゃん!と何時も心の奥で叫んでいる筆者です。
と言う事は置いて置いて、終に鏡界の話が書けて満足です!そろそろ入れたかったエピソードだったので。丗闇さんが怒るのもとってもキュートでしたね。
只此の話を入れるのは少し抵抗があったのも確かです。だって余りにも主人公(人ではない)がチート過ぎるから。
斯う言う俺つぇええええ‼‼みたいなのは余り好みでは本当は無いんです。けれど斯うでもしないと絶対勝てないのは確かなので仕方がないのかも・・・と言うより鏡界あってのセレだしなぁ。
狭間の次は境目って如何言う事だよ!と言う突っ込みは一先ず置いて置いて、可也重要そうな子も出て来ました。此の調子で此の世界をもっと賑わして貰いたいものです。
次回はセレとガルダのデートです。行先は・・・秘密!
絶賛書いていてとっても楽しませて貰っていますので、然う言う話だと察して貰えると有難いです。其では又次回、縁がありましたら!




