35次元 治める魂亡き塔ト崩壊の足音Ⅲ
※今回はR18に相当する非常にグロテスクな表現が含まれております。苦手な方は呉々も御注意ください。
来てしまいましたラストです。全ての戦いに決着を付けましょう!
今回此の話を書いた上での反省点は、思い付きでバトルを書かない、と言う事でした。
ちゃんと戦いの流れを決めないと駄目ですね、当たり前ですが。
其の御蔭か所為か、今迄で一番長いバトルになりました。バトルが拮抗するなんて胸熱です。
そして上の注意の通り、今回は中々にえぐい話が盛り込まれています。
見た瞬間直ぐ分かります、あ、此はぐろい。
書くのは非常に楽しいですが、読んだら自分でもドン引きました。まぁ其位の方が良いよね、御話って!
と言う事でラストダンス、派手に行きましょう!
「ま、まさかベール貴方、」
真意が読めず一同がぽかんとする中、気付いたダイヤ一柱が慌ててベールの肩を持った。
ま、間違いない。此の間の抜けた顔、殺意の欠片もないぽやんとした能天気そうな目、殺気ではなく何処か負のオーラを纏っている、此の様子だと彼は・・・、
「・・・もう治っちゃったみたいね。」
「治ったって・・・あ、若しかして僕又暴そ、」
言い終わるか如何かの所で鋭いビンタが飛んで来て思い切りベールは其を喰らった。
そして余りの衝撃に尻餅を付き、目を白黒させていた。
痛みより何より、何が起きたのか理解出来ていないと言う顔だ。
「え、ダイヤ・・・?え・・・え?」
「何っで貴方は何時も然う言う所で、後一寸だったじゃない!何しれっと治っちゃったのよ!」
「治ったってぇ、そんなあっさり治るんですかぁ。」
「まぁ発作だから・・・でも如何してくれるのよ此の中途半端な状態!」
「え、ええっと・・・御免ダイヤ。」
何一つ状況が分からない中、何とかベールは其の言葉丈絞り出した。
目の前に怒り狂う鬼女が居れば誰でも咄嗟に謝ってしまう物だろう。
「・・・っ、何か痛、っ⁉え、えぇ!あれ、僕腕がっ⁉ダ、ダイヤ如何して僕の腕が、」
気付けば片腕が無くなっているのだから驚いて当然だ。
急に青ざめて意味もなくじたばたする彼に又ダイヤは一発ビンタを咬ました。
「煩い、此の愚か者。貴方の腕なんて何の興味も無いわ。ギャーギャー騒ぐんじゃないの。」
「そ、そんなぁ・・・。」
悲しい程に突き放されてベールは陰霖に濡れた子狗の様にプルプル震え始め、其の目は潤んでいたが、ダイヤは一切無視を決め込んだ。
「おやおや此は何とも、何やら制限時間があった様ですねぇ、もう終わりですか。」
「然うよベール、彼の下種を見なさい。特に手よ。傷だらけでしょう。」
「う、うん然うだね・・・?」
流石に連続発症はしない様だ。
「本当使えないわね。先のは何?冷やかしかしら。私戦いたい気分じゃあないし、瀕死になる位苛めればもう一回位発症しないかしら。」
「ひっ、ダ、ダイヤま、又するの・・・?」
彼からしたら先殺され掛けたのに又同じ目に遭わされるのだから怯えるのは当然である。
けれどもダイヤは大きな溜息一つで返事をした。
「ダイヤ、其は流石に酷いですよぅ。」
「酷いのは何方よ。裏切られたのは此方なのよ。」
随分御怒りの様である・・・。
何より純粋に戦力が減ったのは痛い。敗色濃厚になってしまった。
「・・・もう十分遊んだじゃあないですか。此で仕舞いですよ。」
ソルドが片手を挙げ、一同は固唾を呑んだ。
次の一撃が放たれれば、誰かが・・・終わってしまう。
其の瞬間、突如としてソルドの背後の壁が爆発でもしたかの様に吹き飛んだ。
完全に虚を突かれて思わずソルドは振り返ってしまう。
一体何だ。術を放った様子はなかった。此は自分を狙った物か?其とも・・・。
壁は物理的に外から破壊された様で欠片と爆炎が舞い、視界が悪い。
其でも待っていると三つの影が其処に立っているのが見えた。
「何処かに繋がったみたいだねローちゃん。」
「えぇ然うね。此の調子で行きましょう。」
聞き覚えのある声についソルドの耳が動く。
「・・・本当虫螻の様にわらわらと出て来ますねぇ。」
―其の声、まさか・・・ドレミ、一寸不味いかも。―
壁の向こう側は道が続いていた。
隠し通路と言う物だろうか。如何やら其の仕掛けを破壊して進んで来た様だが。
「よ、良かったぁ~!合流ですよぅ皆さん!」
リーシャンが翼を広げて歓迎する。
現れたのはドレミ、ローズ、ロードの三柱だったのだ。
「あっ!ダイちゃん達だ!良かった、先ずは三柱見付けたね。」
「余計なのが一柱居るわよ。彼方を如何にかしないとそんな笑ってられないわよ。・・・後其の渾名は止めて。」
「然うね・・・まさかこんな所でも会ってしまうなんて。」
そっとロードがソルドに向けて構える。彼女の頬の輝石が警戒の為か淡く黄色に瞬いた。
前一方的にやられてしまった相手だ。加えて彼から対策も見付けられていない。
・・・勝てるのか、自分達に。
「如何して虚器惟神の楼閣のボスがこんな所に。応援で来る様な間柄でもない筈よ。」
「えぇ然うですねぇ。私も此処の餓鬼共は嫌いですよ。只時々顔を見せてやらないと此処の駄犬は本当に、何時飼い主に咬み付くか分かった物じゃないんですよ。今日が偶其の日だった訳ですが、いやぁ来て良かったと思ったのは今回が初めてですねぇ。」
「つまり監視ね・・・。塔の関係はややこしいと聞くし、間が悪いわね。」
「貴方達知り合いなら其方で遣り合ってちょうだい。此方は休憩よ。」
「ダイヤァ、其処は素直に助けを求めた方が良いですよぅ。」
「へ、ヘルプミー!えっと、ドレミさん達、僕達を助けてくださいぃ!」
涕き出しそうな顔でベールが何度も頭を下げる。
如何やら彼等も不利だったらしい、タイミングが良かったとも言えるけれども果たして自分達が助けになるか如何か。
でも良く見るとソルドも多少なりとも傷を負っている様に見える。とすると可也善戦したのでは、と思うが。
「ってベール貴方腕がっ⁉一寸待ちなさい私が診るわ!」
必死に頭を下げていたから中々気付けなかったけれども片腕が無い事に今更気付いた。
血が出ていないのはもう止血が済んだと言う事か。
慌ててロードが駆け出し、さっさと術を彼に掛けてやる。
勿論ソルドが邪魔を入れるだろうと警戒していたが意外にも彼は何もして来なかった。
来て良かった、とは言いつつも少々面倒になって来たのも事実だ。
全員相手をしても問題なく勝てるだろうが余り事を荒立てすると・・・。
・・・彼の化物が来ないとも限らない。
殺してはやりたい、チャンスなのも確かだ。でも彼の化物と遣り合うならばせめて万全の状態でいないと。
未だ、彼の時何をされたのか分かっていない。
自分の此の消滅魔術其の物を消された。上書きされたのだ。
あんな事は初めてだ、聞いた事もない。此の力に対抗出来る術なんて。
若し既に彼の力を使い熟せていたら・・・?可也面倒な事になる。
もう傷も負いたくないし、さて如何しようか。
手ぶらで帰るのも・・・面白くない。
「あ、う、腕が生えて来た⁉あ、有難う御座いますロードさん、僕なんか治して貰って、何だか気が付いたら腕が無くて、」
「そんな畏まらないで。此の位何でも無いわ。でも・・・腕って知らずになくなる物かしら。」
一体何があったのだろう。ソルドに消されたと思ったが火傷もしている。
完治はしたけれども・・・気を付けないと。相手の勁さは知っている。
「ベールもっとしっかり頭を下げなさい。貴方を治してくれるなんて正に聖女よ。ロード様とせめて呼びなさい。」
「あ、あ此はとんだ御無礼をっ!ロ、ロード様、本当にっ有難う御座いました!」
「い、いえ良いのよ本当に。頭を上げて頂戴ね?」
此がマインドコントロールだろうか。脊髄反射で謝って来るなんて。
土下座って言うスタイルだったかしら・・・何だか見ていて憐れに思えて来るし、まるで自分が悪役の様だ。
―でも如何戦う?前、結構やられちゃったけど、彼の見えない攻撃だよね?―
―然うね・・・。私の力じゃあ役に立たないわ。近付く事も出来ないし。―
―若し良かったら先分かったんですが如何やら彼の攻撃、一方向の攻撃に特に反応してて、全方向もカバーは出来るらしいですけど、若しかしたら複数で攻めれば隙が出来るかも知れません。―
リーシャンは先迄の顛末をロード達に話した。
折角ベールが頑張って掴んだ情報だ。少しでも役立てば彼も多少は浮かばれるかも知れない。
―成程・・・ね。凄いわ良く分かったわね。少し私に考えがあるわ。皆は出来る丈注意を逸らしてくれないかしら。―
―分かったよローちゃん!御願いするね。―
「照らし出せ、散眩電!」
ドレミが唱えると彼女の周りに曦の瓊が幾つも現れた。
ソルドへ向かう瓊に向け、ドレミはローブに隠していた小瓶を幾つも投げ付けた。
「我武者羅!」
曦の瓊が弾けて一同の視界が皓一色に包まれる。
眩し過ぎて何も見えない、皓い闇に閉じ込められたかの様だ。
だが次の瞬間其処へ驚霆を集めたかの様な爆音が響き渡った。
曦が落ち着いたかと思えば眩しく明滅し、全ての情報が閉ざされてしまう。
「何とも賑やかな技ですねぇ。」
自分の声すら碌に聞き取れない程の轟音。相変わらず彼の小娘は小賢しい芸が得意な様だ。
とは言え此の技は中々出来ている。正面から戦えないなら裏から攻める訳だ。
其でも此の程度の連中が出来る技なんて知れているが。
一時足元に出来た不審な陰にソルドは大きく後退した。
すると驚霆の束でも落ちて来たかの様に先迄自分が居た所は焼け焦げてしまう。
ちらと見上げると何時の間にか雷の鎧を纏ったローズが背にドレミを乗せて跳び上がっていた。
目が合った瞬間ローズは口から驚霆を吐き、姿を眩ませた。
驚霆の中に紛れて走っている様で、走る傍から驚霆が発生する。
ソルドを中心にローズは円を描く様にジグザグに走り始め、驚霆を踏み締めては散らして行った。
其の状態から更に彼は口から驚霆を吐き続け、正確にソルドを狙って来ていた。
だが幾ら姿を眩ませた所で大体の位置はばれているらしく、驚霆が届く前に消されてしまう。
―矢っ張り勁いね。隙が無いや。―
―でも良いよロー君!此の儘だったら向こうも動けないし、向こうの攻撃丈気を付けてね。―
ローズは一つ頷くと更に多くの驚霆を纏った。
此処で魔力を使い切ってでも止めないと。油断や手加減なんてしたら直ぐやられてしまう。
ドレミのトラップの効果も切れて来たので視界が段々と元の色合いを帯びて行く。
好い加減走り回るローズ達に嫌気が差したらしくそっとソルドは片手を挙げた。
だが其処で妙な冷たさを覚えて良く見遣ると何時の間にか手は氷に覆われていた。
其丈じゃあない、自分を包む繭の様に氷の檻が急速に成長して行く。
此はまさかずっと静観して文句許り言っていた彼の女の術か。
随分と魔力が高い・・・いや、まさか先から女が纏っていた靄は此の術の為の魔力の層だったのかも知れない。
「・・・先の腕の礼、未だだったわね。」
何処かで女の呟く声と嘲笑を聞いた気がした。
其に気を取られた瞬間一気に氷が砕ける。
如何やら氷の檻に向けてローズが驚霆を放った様だ。
砕け散った氷は鋭い刃となって四方からソルドを襲う。
「っぐぁ・・・っ、」
流石に一度にこんな全方向から攻められては堪った物ではない。
加えて氷の檻は自分に近過ぎた。片手迄凍らされていたので全て消す訳には行かなかったのだ。
氷の刃は特に挙げた腕に集中し、血が溢れ出る。
機能しなくなる程でもないにしてもずきずきと痛みが残る。
「フフ、全身宝石で飾られた様で綺麗じゃない。」
「本当面倒な奴等ですねぇ。」
一柱悠長に嗤っていたダイヤへ意識を集中させる。
そんな消されたいなら消してやる。跡形も無くなれば、
だが其の瞬間に又激しい轟音が背後からし、振り返った。ソルドは背後に迫る其を正しく認識出来なかった。
こんな突飛な物、理解出来ないのも当然だろう。まさか自分目掛けて大岩が飛んで来るなんて。
幾つもの壁を壊し乍ら飛んで来たのであろう其の岩は真直ぐソルドを押し潰した。
「え・・・へ?な、何此、ど、何処から持って来たんです・・・か?」
嵒属性の者が仲間に居るとは聞いていない。抑一体何処から攻撃を仕掛けたのだろう。
でも良く見るとロードが居ない事に気付いた。
「成程、ローちゃんの作戦って然う言う事だったんだね。」
ローズから降りたドレミは一応構えた儘大岩を見遣った。
動く気配はない・・・いや普通は動かせないか。
でも此・・・死んじゃってないかな・・・?ロードも加減を知らないから一寸不安だ。
「先見付けたトラップの大岩だね。多分又トラップを発動させて出て来た岩を此方へ投げたんだよ。」
―彼、魔力への反応は特に早かったからね。力技だったら裏を掻けるって訳か。―
背に驚霆を背負い、羽根耳の毛が鋭く束になって刺々しい姿に成っていたローズも一旦元の姿に戻った。
雷の鎧はドレミと相性は良いのだが驚霆は気紛れに飛び散ってしまうので余り長く纏っていたくはないのだ。
「ト、トラップですかぁ。でも危ないですねぇ、こんなの塔が直ぐ壊れちゃうじゃあないですかぁ。」
リーシャンは呆然とした儘穴の開いた壁を見遣った。
一体何丈の壁を壊したのか。少し離れているにしても危険過ぎる。
見詰めている遠くの穴からロードがひょこっと顔を出した。
「上手く行ったかしら・・・其にしても頑丈ね。私の拳でも壊れないなんて。」
「え、拳?」
「うん、でも此処迄投げ飛ばすローちゃんもローちゃんだけれどね。」
「投げ・・・飛ばす?」
ベールの頭の中で点と点が繋がる。そしてある恐ろしい結論へ至ると慌てて頭を下げ始めた。
「ま、まさかロード様がそんな超神だなんてっ!も、もう顔向け出来ないぃ・・・。」
「ヒェ、す、凄い御方ですねぇ。何て言うんですっけぇ、マッチョ?」
「いや流石に冗談でしょ。間に受けないのよリー。」
矢っ張りマッチョと言うのは畏怖の象徴の様だ。何故か魔術師より恐がられている節がある。
ダイヤの技も中々効いていたと思うけれども・・・全て大岩のインパクトで隠された気がする。
「・・・良く出来たと言ってやりたい出来栄えですねぇ。」
突然大岩が瓦解し、其処にはソルドが立っていた。
何故か傷が完治している。痛がる様子もなく彼は気味悪く嗤っていた。
「虫螻の分際で私に此処迄傷を負わせられるなんて。其処は素直に褒めてやっても良いかも知れませんねぇ。」
「え、如何して・・当たったんじゃあ、」
「恐らく光か聖の術者だったのね。まさかそんな奥の手があったなんて。」
何の道あんな短時間で治せるなら大した力だ。並みの術者ではない。
もう同じ手は使えない。あんな連携然う然う出来ないだろう。一体、如何すれば・・・、
「ギャオォオォオォオオォオォォオオォオオッ‼」
構えていると何処からか不気味な吼え声が響き渡った。
余りの轟音に小さく揺れが起こり、思わず一同は背を低くしてしまう。
今のは此の場ではない、何処か、恐らく上階から聞こえて来た。
耳を劈かん許りの声に躯の芯から冷えて来る様で。
ローズが怯えた目でドレミを見遣ると彼女も又、すっかり青ざめてしまっていた。
「今の・・・若しかしてセレちゃん?」
待っていても其以外にもう音はせず、其の一声丈だった。
「私も、そんな気がするわ。」
前アティスレイと対峙した時に似た声を聞いた気がする。
何より今の声には怒りが含まれていた。其が分かってしまったからこんなに恐ろしく感じたのだ。
目の前に強敵が居るのに、其以上に上に居るのであろう仲間にこんな恐怖してしまうなんて。
ロードは歯噛みしたが、戦意喪失したのは彼女丈ではなかった。
ソルドも又、二の足を出せずにいたのである。
皆が呆然としている今がチャンスなのに、躯の震えが止まらない。
フラッシュバックしたのは此の顔を傷付けられた彼の時だ。
自分を苦しめて苦しめてから殺そうとした化物の絶対的力を痛感した彼の時。
其を嫌でも懐い出してしまう、恐ろしい。忌々しい記憶を。
又会えたなら如何殺してやろうかと散々考えていたのに。
今は・・・近付くのが恐い。
見付かりはしないか自然と息を潜めてしまう。
フォード、彼の餓鬼が何かしたのだろうか。一体何をして彼処迄怒らせた。何て命知らずな奴なんだ。
彼の声を向けられた相手はもう直死ぬのだろう。一体どんな殺され方なのか考えたくもない。
殺したい、殺してやりたい・・・けれども、
今、ではない。今行けば自分も屹度殺されてしまう。容易に想像に難くなかった。
仮に戦うにしてもせめて万全の状態にしないと・・・こんな中途半端に力を使った今は分が悪い。
何とか然う己に言訳をし、ソルドは一つ息を付いた。
そしてさっさと一同に背を向ける。こんな所に一秒だって居たくなかったのだ。
「・・・興が削がれました。今回は引いてあげますよ。でも次は・・・命が無いと思ってくださいねぇ。」
其丈言い残すと後はもう振り返りもせずにソルドは通路の先の闇へと消えてしまった。
誰も追撃も深追いもしなかった。其程迄戦意が削がれてしまっていたのだ。
「た、助かった・・・。」
「何情けない事言ってるのよ。次はちゃんと自分の力でやりなさいよ。逃がしたのよ、見す見す獲物を!」
苛立つダイヤの周辺に靄が立ち込める。
其に包まれると一気に寒気がし、ベールは盛大に嚏をした。
「でもぅ、誰も怪我が無くて良かったですぅ。ロードの御蔭ですぅ有難う御座いましたぁ。」
「結局向こうもダメージは残らなかったから何とも言えないわね。でも然うね、無事なのは良かったわ。」
そっと微笑を返すロードをじっとリーシャンは見遣っていた。
彼の細腕で先彼の大岩を投げたなんて俄に信じがたいけれども。
ダイヤは魔術が得意だったから昔から何て才能があるのだろうと頼りにして来たけれども、然う言うタイプの才能も存在する物なのか。
自分はこんな翼だからあんなタイプの筋力は付かないけれども鍛えたら今より大風を吹かせたり出来るのだろうか。
然う言えば同族のハリーは幻で彼の人型になっていたし自分もして貰えるのかも・・・?然うなれば別の形でダイヤの支えになれるかも知れない。
そっと自身のマッチョに対するファンを獲得した事は露とも知らず、ロードは一応他にも怪我神がいないか見渡していた。
「あの、早く先進んだ方が良いよね?セレちゃんの助太刀した方が良いかも。」
「え、あ、先のって・・・本当に店長の声、だったんですか?」
すっかり腰が引けてしまったらしいベールが恐る恐る訊ねて来る。
如何やら自分より幼い外見のドレミにすら畏怖している様で上目遣いに彼女を見遣った。
―僕も然う思うよ。怒らせたら恐い神だから・・・。手助けは要らないかも知れないけど、合流した方が良いかもね。―
其を聞いてさっさとドレミはローズの背に跨った。
其の様を少し羨ましそうにダイヤは見ていたが、対するリーシャンは又小鳥サイズに戻ってちょこんとダイヤの肩に留まった。
如何やら自分の足を動かさないといけないらしい。ずっと神殿に引き籠っていた身としては此の塔はきつかった。
「ってリー、貴方自分の力で小さくなれる様になってたのね。」
「ハリーが力を分けてくれたんですぅ。小さくなる事しか出来ないけれども、何時でも幻を自分で掛けたり解いたり出来るんですぅ。便利な力ですよぅ。」
何処か自慢気に彼は胸毛を膨らませた。
其の態度が気に入らないらしく、そっとダイヤはリーシャンを指で突いて毛を逆立てた。
そんな姿じゃあ自分を乗せられないじゃないか。此じゃあ只の愛玩動物だ。
・・・まさか肩に留まると移動出来るって楽を覚えたんじゃあないだろうか。そんな権利は自分にしか無いのだから止めて欲しい。
「皆準備は良いかしら?折角私達合流出来たのだから此の儘上を目指しましょう。」
―又トラップとかあってもいけないしね。―
何処迄続くのか分からない通路を、一同は固まって行進を開始した。
・・・・・
訓練場を巨大な曦が包み込む。
床から放たれた其の曦は柱となって天井迄伸び、軈て収束して行く。
曦が消えた後に訓練場の上空には蒼い焔と水の瓊のみが浮かんでいた。
其の二つの瓊が同時に弾ける。
「・・・未だくたばっていなかったか。」
「でも一寸危なかったわよ。一瞬膜を張るのが遅れたら・・・。」
瓊からはケルディと零玄に乗ったアーリーが現れた。何方も傷を負った様子はない。
そっとアーリーは天井を見遣った。
・・・可也大きく抉れている。まるで曦に喰い破られたかの様に滅茶苦茶に。
直撃していたら・・・一撃で死んでいたかも。
自分は攻撃が出来る丈で耐久力なんて少しも無いし。
どんな攻撃であれ、傷が付けば水が流れて死んでしまう。
「ピィイイイィ・・・。」
「大丈夫よ、助かったわ零玄。」
水の足場も、陰霖も散らされて無くなっている。陰霖位なら又零玄に降らして貰えば良いが。
彼が来ていなかったらやられていた可能性が高い。
「・・・あら、やっと本気になってくれたようね。」
地から撃ち上がった曦に対し、アーリーは目を細めた。
背には輝く八翼の翼、伸ばされた両腕は鳥の足の様に節榑立ち、爪は刀の様に異様に長く鋭い。
そんな腕にも皓い羽根が生え、伸ばされた尾も長く皓い尾羽が絡み、棚引いていた。
ガルダが生命力のリミッターを一つ解除した姿が其処にはあった。
そんなガルダもじっとアーリーを見詰めていた。恐らく理性を保とうと必死な筈。
彼は幾つものリミッターを掛けて己の生命力を押さえている。
解き放てば放つ程、其の姿は皓の化生へと変化し、理性を失って本能で動く獣となってしまう。
只生きる為に存在する化物となって。殺されても死なない、皓き不死鳥として何度も甦る。
そんな己の姿を、彼は酷く嫌っていた。まるで何かに怯える様に隠し続けた本性。
其を自ら破る、つまりは其丈本気なのだろう。今の仲間達を其丈想っているのだろう。
彼の姿の生命力を削るのは中々厄介だ。恐らく即死でなければ殺し切れない。其の前に自分の体力が尽きてしまう。
先の曦は彼がリミッターを外した事に因る余波なのだろう。勁過ぎる力は例え生命力であろうとも周りの全てを破壊してしまうのだ。
此以上生命力を削り過ぎて完全に理性を失っても恐い。此処で暴れられたら其こそ塔が崩壊する。
そんな結果で終わるなんて・・・其は互いに望まない結果だろう。
さて、自分の元を去ってそれなりに経った事だし、何丈成長したのか見せて貰おう。
「ガルダ、俺は下から援護する、頼むぞ。」
「噫、有りっ丈の焔を頼むぜ。」
ケルディは一つ頷くと焔を吐いて足場を作り乍ら下降して行った。
そして床に到達するや否や全身に蒼い焔を纏い、駆け回り始めた。
其の走り方はジグザグに見えて何処か規則正しく、走った後には焔の筋が残り、まるで何かの陣を描いている様だった。
「此は良くないわね・・・。零玄、貴方も道を作って頂戴。」
「ピィイ‼」
短く鳴くと零玄は小さな滄江を宙に創った。
其の上へアーリーを下ろし、さっさと天井近く迄飛んで行ってしまう。
滄江を創り乍ら陰霖も降らせるつもりなのだろう。長期戦になればなる程厄介な力だ。
だが其処で下方から物凄い熱風が立ち昇った。
激しく水蒸気が舞い、視界が皓く煙る。
如何やらケルディの焔の陣が完成した様だ。
魔術は魔力に形を与える物、只の魔力を如何変えるのか、指示を与える為の物。
只魔力で焔を出すのとは違い、陣を敷く事で焔はより其の力を増して燃え上がったのだ。
其に因り先程迄の陰霖で溜まっていた水が一気に蒸発したのだろう。
熱気はどんどん上がり、宙の滄江でさえ蒸発させ始めた。
「大した威力だわ。一頭でこんな大掛かりな術を作るなんて。」
未だ余裕があるのかアーリーが微笑すると陰霖が降り始めた。
零玄が滄江を創り終えたのだ。陰霖と焔は混ざり合い、激しくぶつかり合う。
力は拮抗している様で、先に魔力が尽きた方が負けてしまうだろう。
滄江に因る足場を作っては蒸発されて行くのでアーリーは常に滄江の上を移動し続けた。
舞う様に軽やかに動き続けるので中々ガルダは追い付けず、滄江の周辺を飛んで牽制する事しか出来なかった。
「っ、未だ速いのか、此でも。」
「自慢の翼が十枚あっても追い付けないかしら。じゃあそんなに要らないわね。」
隙を見て振り返ったアーリーは例の突きを繰り出した。
咄嗟にガルダは両腕を組んで防ごうとしたが彼の見えない追撃の所為で両腕の羽根は一気に散らされた。
腕自体も骨が見えそうな程抉れ、血が溢れて羽根を染める。
辛うじて爪はボロボロになった丈で折れずに済んだ。
刀の様に伸びた爪は刃毀れしたかの様に何処か不自然にボロボロになっていた。
「・・・此、は、」
「ぼーっとしている暇はないと思うけど。」
じっと爪を見遣る彼に又突きを繰り出す。
一気に左側の四翼を全て突き破った。
「・・・流石に前みたいに一瞬では治らないでしょ。」
前刃を交えた時は殆ど暴走していたし、生命力のリミッターが壊れてしまっていた。
理性のある今なら数秒は保つし、痛覚も働く筈。
案の定ガルダは大きく傾いで翼を失った事に因り失速し、落下し始めた。
幾ら片翼を羽搏かせてもバランスを崩す丈だ。
此の身動きが取れない今ならじっくり首を狙える。
「っ不味い!」
落ちるガルダと目が合う。そして向けられる刀。
アーリーの剣技であれば外す筈がない、確実に首が飛ぶ。
「何ぼさっとしてんだ!」
ガルダの様子がおかしい事に気付いたケルディが咆哮と共に焔を空へ放つ。
蒼い焔は直ぐ様ガルダを包み、ガルダも手を組んで顔を護った。
其処へアーリーの見えない剣撃が叩き込まれる。
見事に技は命中し、ガルダの頸から血が噴き出す。だが切断された訳ではなかった様で首迄もが飛んで行く事は無かった。
「あ、危な・・・助かったのか。」
「フフ、運が良いわね。」
爪は折れてしまったが此の分なら十秒も掛からない。
でも焔すら消し去る技なのに案外軽傷で済んだ。外したのか?アーリーがそんな事を?
兎にも角にも早く体勢を整えないと。ケルディの焔の御蔭で足場は出来ている。
狐火の吐く焔は実に汎用性が高い。
今回放ったのは触れられる焔だ。此を利用してケルディは旻中戦でも対応出来るのだ。
「・・・?何か此の火・・・っちち‼」
だが今回足場になってくれた焔は余りにも熱かった。此の儘だと焼き鳥になってしまう。
慌ててガルダは生えた許りの新しい翼で飛び立った。
幸いか不幸か余りのスピードに二度目のアーリーの突きは躱されてしまう。
其でもガルダの尾羽や翼の先は黔く焦げてしまっており、可也の高温の焔だった事が伺えた。
「おいケルディ俺を焼き殺す気かよ!」
「仕方ないだろ、俺は先からずっと熱い焔ばっか吐いてんだから咄嗟に切り替え出来ないって。」
折角助けてやったのに怒られてしまったのでケルディは不満そうに蒼い焔を吐いて威嚇した。
此の姿の時の彼はあざとさも可愛さも欠片もない。
狐火は元の狐の性格に寄ってしまう物らしいから変わってしまうのは致し方ないにしても此は余りにも変わり過ぎだ。
「文句言う暇あるなら師匠をちゃっちゃと斃してくれよ。此方だって頑張ってるんだから。」
「然うね、ケルディの言う通りよ。私も逃げ回る憐れな元弟子なんて見たくないわ。」
「別に此方だって手はありますよ。」
何か考え付いたらしく、旻中でガルダは構えを取った。
そんな彼の姿勢にアーリーは嬉しそうに口笛を吹いた。
「中々守護神らしくなって来たんじゃないかしら。じゃあ遠慮なく行かせて貰うわよ。」
ガルダの元へとアーリーが駆け出した瞬間、蒼い火球が突然下方から放たれた。
勿論ケルディの焔だろう。未だ多少離れているとは言え可也熱い。
陣に因って燃えている焔よりずっと熱いかも知れない。そんなに大きくないとは言え、彼に当たってしまえば一瞬で焼き尽くされて蒸発してしまうかも知れない。
何個か火球は放たれたが難なくアーリーは躱す事が出来た。
別に目で追える早さだ。単にガルダを護る為であろうが然う連発は出来ない筈。
念の為少なくなってから畳み掛けようか。
未だ無事だった滄江に降り立つとアーリーはそっと刀を構えた。静かに刀の先から雫が零れる。
火球は無事遣り過ごせた筈、後は隙を、
然う考えていた矢先、一つの火球が真直ぐガルダにぶち当たった。
元々彼女を遠避ける為の物だったのだからガルダにも近かったのは当然だが、せめてもう一寸避ける努力はしない物だろうか。
「っお、俺燃えてる⁉っ熱い熱い熱いっ‼」
数俊遅れて状況に気付いたガルダは少し混乱している様に見えた。
焔は激しく燃え盛り、少しずつ彼の躯を灰にして行く。
彼の場合灰になった傍から再生して行くのでとんだ生き地獄と化しているのだろう。
此の陰霖でも消える様子もなく、次々と陰霖は水蒸気に変えられ、彼が助かる様子はない。
「一寸もう・・・何味方の攻撃に当たってるのよ・・・。」
少し・・・拍子抜けだ。折角何か見せてくれるかもと思ったのに此じゃあ。
流石にもう少し位は成長していると思ったのに、おかしな生命力故の危険察知能力の低さか。
何だか見苦しいし、さっさと楽にさせた方が良いかも知れない。少なくとも永遠に燃やされ続けるよりはましだ。
未だ彼は焼かれる痛みに慌てている様だし、軽く頭でも狙ってみようかしら。
そっとアーリーは刀を構え直し、例の見えない突きを隙だらけなガルダに御見舞いした。
其の瞬間を待っていたかの様にガルダは直ぐ爪で顔を護った。
狙われている事は分かっていたのだろう。でも其の程度じゃあ防ぐ事は出来ないのは分かっている筈。
だが見えない剣撃はガルダの首を落とす事は出来なかった。本の少し、爪に罅を入れた丈だ。
「っ、矢っ張り、」
「・・・褒めてあげるわ。私の技を見破ったわね。」
「師匠は陰霖を・・・斬っていたんですね。」
「ん?おい如何言う事か俺にも教えろガルダ!」
焔を吐いていたケルディの耳が動き、小さく飛び跳ねる度に焔が舞った。
「圧力が加われば水だって刃になるだろ?つまり師匠は陰霖、若しくは彼の刀から出ている水を斬って飛ばしていたんだ。だから離れていても届くし、穿った様な跡が残る。」
「えぇ、正解よ。此の技は前世で培ったの。結構習得は苦労したのよ。」
「水の感覚が鋭い師匠だからこそ出来る技ですね。」
「成程・・・正に神業って事か。だから俺の焔を利用したんだな。陰霖を瞬時に蒸発させる特別な高温の焔を。」
此でアーリーの技は見切った。
ケルディの焔が燃え続けている限り、ガルダに彼の技は殆ど効かない。
ケルディの焔自体のダメージはあるだろうが、全身少しずつダメージを負う位なら、今の彼にとって何の障害にもならなかった。
一番恐れていたのは即死丈だ。其の脅威が減ったのは大きい。
「未だ勝った気になるには早いわよ。結局貴方が私を攻撃出来なきゃあ意味無いわ。其とも私の時間稼ぎに付き合ってくれるかしら。」
「そんな事言えるの、今丈ですよ師匠。」
ガルダは大きく羽搏いて一気にアーリーへ肉薄した。
そして爪を刃の様に構えてアーリーの刀と対峙する。
鋭い音を響かせ弾かれた瞬間に反対の手の爪を伸ばす。
手数はガルダの方が多いにしても、アーリーの剣技は其以上の物だった。
押されそうになり乍らも何とかアーリーの癖を思い出し、ガルダも応戦した。
斯うして彼女と刃を交えていると如何しても彼の日々が目に浮かぶ。
前世で死に、意味も目的も分からない儘に稽古を付けて貰った日々。
セレが同じ此の塔に囚われている事も知らず、いや、彼女をセレと知らずに過ごしていた。
此処での日々は一体、何だったんだろう。
嫌いな奴がいる訳じゃあない。
フォードは変な奴だけど、何だ彼だで付き合ってくれたし、アーリーはずっと俺の境遇を気に掛けてくれた。
他にも、他にも・・・。
少なからず此処には懐い出と呼べる物はあった。セレとの時程温かくて切ない物ではなくても、壊したい物なんかじゃない。
其なら如何して俺達は・・・殺し合っているのだろう。
其が、セレを、彼女を選んだと言う事なのだろうか。
世界の全てを嫌って憎んで、嫌われて捨てられた彼女の、業なのだろうか。
もう一度普通に話せたら、こんな血腥い事にならない方法はあったんじゃないか。
如何してもそんな声が耳奥から聞こえて来る。其が俺を鈍らせる。
体格差があっても中々踏み込めない。一瞬気が抜けた所でアーリーに重心を反らされて躱されてしまう。
屹度アーリーも俺の迷いに気付いているのだろう。でも何も言わずに斯うして刃を交えて正面から受け止めている。
俺の躯が燃えている所為で彼女も然う踏み込めないのだろう。拮抗した状態が続いて行く。
心の何処かで決着が着くのを・・・望んでいないのかも知れない。
でも俺が斯うしている間も時は立つ、何もしなくても、意味があっても無くても。
俺丈ずっと・・・取り残される。
皆は、先に行けているだろうか。誰と戦っているのだろう。
セレも・・・今此処で戦っている。
何だか、最近の彼女は生き急いでいる気がする。
生きようとしてくれた事は勿論嬉しい。良かったと心底思っている。
其の為には鎮魂の卒塔婆は邪魔になる。何れは決着を付けなければいけない。其も分かっていた。
でも、其でも矢っ張り早計だったんじゃあないだろうか。
普段のセレなら、執念も用心も深いから十分な下調べをする。
何処ぞの精霊と契約している然うだから最低限の調査はしているだろうけれども、其でも急いだ様に思えてならない。
何か絶対に攻められる確証があったのか。セレの都合なのかは分からないけれども。
・・・矢っ張りフォードだったら其の辺分かったりするのかな。
彼奴は何時も先を見据えている。だから話が噛み合わなかったりするけれども。
丗闇の事も何だか知って然うだし、俺の知らない何かを掴んでいるのは間違いないと思う。
其を知る為にも、矢っ張り俺は此処で止まってちゃあいけないんだ。
だから・・・師匠を斃してでも進まないと。
大丈夫、死は神にとって一つの救いだから。屹度師匠も其を望んでいる筈。
「何だか斯うしていると昔を懐い出すわね。」
「・・・昔と、変わらないですか。」
稽古で俺は一度も師匠に勝った事は無かった。
護る術しか教えて貰えなかったから、と言訳は出来るけれども。俺に教える事と反対で彼女は攻める事しかしないのだ。
攻撃が最大の防御を正に体現していた。彼女が本気になればなる程、攻める事のみに集中するのだ。
「・・・然うね・・・釼が少し重くなったわ。少し彼の子の戦い方に似ている気もするわね。」
彼の子・・・其はセレの事だろうか。
ずっと見て来た、彼女の戦う所を、前世から。
手や足を使う俺のやり方じゃあなくて、彼女は尾も翼も、全身を使って戦っていた。
己の嫌がっている姿でも最大限に。其は少なからず俺に影響を与えた。
嫌った所で変えられないのなら、利用してしまった方が良い。
そんなあり方の彼女を、確かに俺は真似たいと思った。
普段は尾なんて使わないけれども、でも全て知っているアーリーの前だ。出し惜しむ事はない。
今の俺の全てを、ぶつけられる。
両腕の爪を交差して振るい、隙間に尾に因る突きを繰り出す。
躱すと同時に尾を斬り付けられるが切断された所で如何と言う事はない。
瞬時に生え変わって尾羽で視界を覆う様に振るう。
突きを繰り出され、尾羽に穴が開くがもう可也威力は弱まっている様だ。
ケルディの焔が効いている。今迄だったら胴に迄穴が開いていただろうに斬り傷が残る位だ。
一瞬羽搏くのを止めて急降下する。アーリーの真下へ潜った所で空中一回転を決める。
手の爪が斯うなっているんだ。勿論足の爪なんて疾っくに靴を貫通している。
確かに斯う言うアクロバティックな飛行はセレの真似だ。
こんな姿での飛び方なんて心得ていなかったし、速く飛ぶ方法も知らなかったから彼女を参考にしていた。
セレなら如何するか、彼女の跡をなぞる様に、一緒に舞う様に。
俺は彼女程上手に舞えない、見様見真似のぎこちない戦い方しか出来ない。
だから彼女の技術力に至らない分、俺は生命力を活かそう。其が俺にしか出来ない戦い方だ。
爪が宙の滄江を裂き、アーリーの死角から突き出る。
一瞬反応が遅れたアーリーが足元に突きを繰り出すが控えめに出された其では爪を破壊する事は出来なかった。
足元の滄江を残そうと思っての配慮だったのだろう。でも自分だってもう逃がさない。
しっかりとアーリーの足首を掴み、一気に引っ張り出す。
状態を崩したアーリーの片足が滄江を突き破る。
其の瞬間に全てを重力に任せて只俺は落ちた。
アーリー毎燃え盛る焔の地上へ真っ逆様に。
勿論アーリー丈で支え切れる筈もなく、俺の手を斬り落とす間もなくアーリーは転落した。
真直ぐ二柱一緒に。アーリーは何とか俺を遠避けようと執拗に突きを繰り出した。
此処が正念場だ。此の落ちている間に決着を付ける。
近距離な事もあり、突きは未だ俺の躯を貫く丈の力はあった。
何度も躯がバラバラになる。腕の感覚が消え、肺が潰れて息が出来なくなる。眼を斬られて見えなくなり、足と尾の先が一緒に弾け千斬れる。
治っては壊れを繰り返しつつも俺は絶対に彼女を放さなかった。
焔が少しずつ彼女を焼き尽くす。血が蒸発して水蒸気に包まれて行く。
焔の地面はもう直ぐ其処だ。アーリーは意を決して思い切り刀をガルダの頸に突き刺した。
其の儘抑え込んで地面へと突き刺さる。
「・・・っぐ、は、」
頸を床に縫い付けられ、血が一気に噴き出す。
其でも彼は死ななかった。息が出来なくても、血が無くなっても、未だ其の瞳に曦があった。
「・・・及第点、と言った所ね。」
然う咲うアーリーの胸元にはガルダの爪が突き刺さっていた。
其が全てを物語っていた。此の悲しい丈の戦いはもう終わりだと。
気付いたケルディも、もう焔を吐くのを止め、そっと陣を消した。
アーリーが刀を抜くのと同時にガルダも集中して生命力を抑えようとした。
此以上は、俺の理性も飛びそうだ。自分が自分で分からなくなる前に律しないと。
頸の傷が治るのと同時にガルダの爪も刀の様に伸びていた部分が折れて朽ちて行く。
アーリーに刺さっていた爪も抜けて、彼女は蹌踉き乍ら尻餅を付いた。
そんな彼女の胸元に穿った傷からは血の代わりに水が溢れ出ていた。
もう止血は出来ない。彼女も其を望まないらしく、只流れる水を見詰めていた。
「やれば出来るじゃない。此でやっと貴方も一神前ね。未だ甘い所はあるけれど、其処は彼女に教えて貰いなさい。」
「師匠・・・あの、」
「ストップ。弁解等は受け付けないわよ。やっと私も安心して眠れるんだから。」
ケルディが何時もの小型サイズに戻り、ちょこんとアーリーの傍に座った。
そっとアーリーはそんな彼の背を撫でた。
もう敵意は無く、流れる水に気付かなければ穏やかな時にも見えた。
「然うね。もう神として永いんだし、分かっていた事だから別に悔いも何もないけれど、一つ話を聞いてくれないかしら。大した事ないわ、私の昔話よ。」
零玄がそっと舞い降り、少し離れた所からじっと彼女を見遣っていた。
もう別れは済ましていたのかも知れない。只静かに其処に居た。
「・・・はい、教えてください、師匠の話。」
初めてだ。彼女が自身の過去を話すなんて。
何時もはぐらかされたりする丈で、話したくはないんだろうと察してはいた。
只でさえ神の過去だ。愉快な話なんかではない。
「私が居た次元はね。瀛海許りで何も無い所だったのよ。只本の少し島があって、其の島を廻って部族間の争いが絶えなかったの。外の次元はこんなに陸地があったのに。」
そっと目を細めてアーリーは仰向けに倒れた。
もう起きているのも辛いのだろう。でも相変わらず微笑を湛えていて、懐かしむ様に息を付いた。
「水の中だったら私達も満足に戦えるわ。でも陸上ではこんなにもか弱い。だから私達の一族は護りの力に特化していたの。護れて初めて戦えたって言われていたわ。」
「え、でも師匠の技って・・・、」
彼の技は如何見ても攻撃特化だ。抑師匠は護ったりなんてしない。
だから俺に護る技しか教えないのは何か裏があるのかと思った。あんなに勁いのに如何して其を教えてくれないのか。
「えぇ、私はね。其の教えを護らなかった。攻めれば良いじゃないかって我流で力を得たの。そして一族の為にどんどん攻めて領地を広げていたわ。誰も私を止められなかったのよ。」
「流石アーリー!昔から勁かったんだね。」
ケルディの純粋な言葉にアーリーは少し悲し気に咲った。
「でも其は間違いだったの。或る日私は攻める余り本の少し丈傷を負ったの。でも其処で敵の一族に島に磔にされて・・・瀛海へ戻れば助かったのに。其の瀛海を見乍ら私は少しずつ水を流して死んで行ったわ。・・・其が私の前世。」
懐かしむには余りに悲しい過去。でも彼女は別に傷付いている訳でもなく、苦笑を漏らした丈だった。
もう遥か彼方の話なのだろう。今更悔やむ事も何もない。
「私の一族が護れって言い続けた意味が少し丈分かったわ。でも神に成っても最初の私は未だ頑固で、認めたくなかったの。自分が死んだのは本の偶然。其の代わりあんな輝かしい栄光を作ったのだから間違っていないって。・・・私も青かったのよ。」
「ピィイ・・・。」
零玄が静かに一声丈鳴いた。
若しかしたら彼がアーリーと出会ったのも其の位の時だったのかも知れない。
「此処に拾われて、部隊長になってからは戦う術許り教えていたわ。皆良くやってくれたわ。アーリー部隊って、昔は其処其処有名だったのよ。作戦は何があっても成功させていたから。」
「でも師匠、俺以外に稽古付けていたんですか?見た事、無いですけど。」
部隊って・・・覚えがない。恐らくライネス国との戦争に出ていたんだろうけれど。
「昔って言ったでしょ。・・・結局、今生きている私の弟子って貴方丈なのよガルダ。皆・・・死んでしまった。私はね、忘れていた訳じゃない、でも見ようとしていなかったのでしょうね。死は、神にとっての救いの様な物って言うでしょ。だから私は気付いたの、噫皆、死にに行ったんだって・・・ね。」
アーリーはそっと胸元に手を当てた。
其の声音はどんどん小さくなって行く。もう少し丈伝えたい事があるのだと何とか足掻いていた。
「私は、おかしな話だろうけれども誰も死んで欲しくなんてないわ。皆楽しく笑って生きていたら良いじゃない。折角神になって会えたのよ。世界の為とか、そんな事背負う必要なんてない。死にたい気持を忘れる位今を幸せにしなさいよ。・・・私を、置いて逝かないでよ。」
「キュー・・・。」
小さくケルディが鳴くを見遣り、アーリーは思い出した様に苦笑してそっと彼の耳に触れた。
義手から錆びた様な音が漏れる。屹度彼女がそんな物をしているのは生きたいと願った故なのだろう。
アーリーの体質からして腕や足を無くす事は死と直結する筈。其でも斯うして現在迄生き延びたのは・・・つまりは然う言う事。
彼女は神として、生き続ける道を選んで来たのだ。誰も死に手を伸ばして欲しくないから、自分自身で其を体現した。
一体何程の別れを見たのだろう、絶望したのだろう。其でも彼女は咲って生きていた、自分の為に。
・・・でもそんな日々も終わる。俺が、終わらせてしまった。
「・・・こんな事言うの、らしくないわね。でももう分ったでしょうガルダ。如何して私が貴方に護る術しか教えなかったのか。せめて貴方は生き延びなさい。安易に死んだら赦さないわよ。誰かに仕組まれていても、決まった未来でも捨てちゃあ駄目よ。私を斃せた貴方なら大丈夫よ。今の仲間が其丈大切なんでしょう?貴方なら・・・護れるわ。」
「・・・はい、迚も大切な仲間です。でも・・・師匠だって、俺の大切な、・・・っ、死んで欲しくなんてないです。何も知らなかった俺を一番気に掛けて助けてくれたのは貴方丈だったから。」
堪え切れずっとガルダは目元を拭った。
陰霖はもう止んでいるのに・・・頬を濡らす物は止まらなくて。
こんな顔、見せたくないのに、こんなぐしゃぐしゃな、子供みたいに感情を其の儘引っ繰り返した様な顔は。
もう分かっていた事だ。目を逸らさず考えていた事だ。
師匠の勁さは自分が良く知っていた。だから自分が戦うのが一番良いと分かっていた。
全て、願った通りだ。此以上ない位順調だって言うのに。
胸が苦しい、噫、こんな懐いをする位なら来なければ良かったって心から思う程に。
何故か俺は・・・後悔していた。今になって心の底から彼の決意全てを否定する様に。
矢っ張り師匠、貴方は・・・死ぬ可き神じゃなったんだ。俺に殺されて良い様な神じゃあなかったんだ。
「フフッ、何て顔なのよ。でも然う懐ってくれて・・・有難う。私、水は好きだけれども斯う言う湿っぽいの苦手なの。でも・・・最期の時としては案外悪くない物ね。看取ってくれる誰かが居るって素敵な事ね。こんな安らかに逝けるなんて。」
「・・・俺の所為なのにそんな風に・・・言ってくれるんですか。」
「貴方だから・・・よ。私の最期の弟子が貴方で本当良かった。私の教えが間違っていなかったって最後に信じられて良かったわ。私は先に逝くけれども、頑張るのよ。」
然う言ってアーリーは最期に静かに咲っていた。
迚も安らかで、殺されたとも思えない程晴れやかに。
「ピィイィイイッ‼」
アーリーが目を閉じるのと同時に零玄が鋭く一声上げた。
そして一度丈ガルダ達を見遣ると訓練場から飛び立って行った。
もう別れは全て済ましていたのだろうが、今後彼は何処へと行くのだろうか。
目を閉じたアーリーの躯は直ぐ様水となって溶けて行った。
残ったのは義手と義足、そして彼女の刀丈。
そっとガルダは遺品を手に取ると時空の穴へ収めた。家の近くに奥つ城を作ろうと静かに決意して。
「・・・ガルダ、行こう。」
其の間ずっと静かにしていたケルディが一つ尾を振った。
ガルダが涕き止むのをじっと待っていてくれていたのだ。
自分は涕いてはいけないと。アーリーとガルダと初めて会った時の事、彼女との特訓の日々、そんな懐い出に無理矢理蓋をしていた。
三柱で過ごした懐い出許りだけれども、もう其が増える事は無いと、気付いてはいけない。
「噫、悪いケルディ。先に・・・行かないとな。」
涕き腫らした目は如何しようもなかったが、もう濡れてはいなかった。
そっと出された彼の手にケルディは乗り、肩迄移動した。
師匠を殺さなければいけない訳なんて俺には無かった。
俺は彼の神に恩があった、救われた、助けて貰った。
好いていた。彼の神の優しさに気付いていたから。
其なのに・・・殺さなければいけなかったのは。
俺がセレを選んだから。そして師匠がフォードを選んだから。
でも俺は彼女が護ろうとしたフォードすら殺してしまう。
セレは、彼女は全てを破壊する迄止まれないから。邪魔する者は赦さないから。
此が、俺の罪なのだろう。己の心を殺してでも彼女と同じ道を歩むと決めたから。
最後にもう一度丈訓練場を見遣り、ガルダは先に進む事にした。
師匠、貴方が教えてくれた事を活かして俺はフォードを殺します。
赦してとも赦さないでとも言わない。
貴方を殺したのは俺なのだから、貴方を否定したのは自分なのだから。
もう何も願わない。只俺は忘れない、此の胸に貴方の存在を写す丈。
其が俺と言う神の在り方だ。
・・・・・
一柱、セレは黙々と塔を上っていた。
BDE‐00の御蔭で兵なんて居ない。只仲間にも会えないから其は少し心配だったが。
皆から散々黔い豆腐だと言われてしまった鎮魂の卒塔婆だが、中は案外複雑な様だ。
然う言えば前巧が部屋を作った訳だが空間を切ったり繋いだりして造っていたんだし、此処もそんな技術が使われている可能性はあるのか。
自分が知らない間に全部終わってなきゃあ良いが・・・。何か情報が欲しいな。
波紋も此処じゃあ余り使えないし、只進むしかないのもな。
・・・いや、何か写っている?少し先に反応がある様だ。
誰か此方に向けて走っている。一柱・・・敵か味方か分からないな。
何方にしてもこんな混沌状態の塔で神目も気にせず走るなんて目立つ行動を取る事は感心しないな。
念の為構えて待ち伏せして見る。こんな通路じゃあ隠れる事も出来ないし。
余り得意とは言えないが、正面から受けてみよう。
だが現れた神物を見て自分は一瞬全ての情報をシャットダウンしてしまう。
嘘だ。信じられない。一体如何して・・・こんな所に、
「ギャオォオォオォオオォオォォオオォオオッ‼」
気付けば自分は其奴に向けて吼えていた。怒りも殺意も混ぜて。
地が揺れる。此が本物の化物の声だ。
―っ、何だ一体如何した。―
―噫丗闇起こしちゃったか・・・。不味い奴が来た。全力で殺さないと。邪魔なんてしないよな?―
丗闇が僅かに息を呑む。彼女も誰が相手なのか分かった様だ。
もう目が離せない。見詰めている丈で其奴を殺そうと自分の躯が作り替えられて行くのが分かる。
手足の甲が逆立ち、逆鱗で覆われた様に曦を反射してぎらつく。
尾の先の甲が針の様に鋭く尖り、苛立たし気に空気を裂く。
爬虫類を思わせる四つの目は鋭く相手を睨め付け、顔の半面を覆う黔い甲に血管の様な絳い罅が入った。
牙が伸びて口を裂き、爪の先の刃が不自然に伸びて金属音を立てる。
噫、自分の干渉力は此処迄勁くなってしまっていたのか。
彼奴を殺したいと思う丈で、願う丈でこんな化物になるなんて。
自分で、自分の願いを叶える。そんな我儘な神へと。
彼奴は自分の威嚇にすっかりびびってしまっている様だった。
自分の変化を又目撃した物だから彼の時のトラウマでも懐い出しているのだろう。
然うだ、御前が此の姿を見るのは決して初めての事ではないだろう。
私だって御前の其の面を忘れた事は一度もない。
「ライバスッ‼」
忘れもしない其の名を叫ぶ。
嘗てガルダの命を奪った屑だ。自分達の未来を大きく狂わせた元凶。
「な、何で選りに選って俺の前に来やがったんだ化物め、」
すっかり腰が引けてしまい声は弱々しかったが聞き覚えのある物だった。
・・・予感はあった。昔確かに自分が殺した筈なのに如何して又姿を現したのか。
彼は神に成って甦っていたのだ。そして自分に復讐をする為にあんなタイミングを狙って。
でもまさか此処に居るとは思っていなかった・・・。フォードが招き入れたのかは知らないが、まぁ此処に居たのなら自分の情報を掴むのも容易だっただろう。
まぁ・・・良いだろう、絶好の機会だ。又殺してやれば良い。もう甦るなんて馬鹿な事を考えられなくなる位徹底的に殺せば良い。
御前みたいな奴でも自分の糧としてやるんだ。御前には勿体無い話だろう?
―おい、干渉力が暴走し掛けている。少しは加減しろ、戻れなくなる可能性があるぞ。―
―分かっている。でも抑えて戦える様な奴じゃないんだ。分かってくれ、丗闇、今は此奴を殺したくて仕方ないんだ。―
丗闇は少し丈、迷っている様だった。
其は彼女の中にも怒りが沸き起こっていたからだった。
如何してか我も・・・彼奴に途轍もない怒りを覚えている・・・。
其は此奴の過去を見てしまったからなのか、此奴の感情に呑まれ掛けている丈なのかは分からないが。
別に彼の男に我は懐い入れは無い。だから仇だなんて思っていないし、こんな奴、別に放って置けば良いと思っているのに。
其でも殺せと、只其の声が耳の奥からする。・・・こんな感情は初めてだ。
闇の神である我が、特定の個神を意識するなんて、ある筈ないと思っていたが。
・・・此奴と居る事で我も何か変わって行っていると言う事か、彼の精霊の様に。
此の変化は喜ばしい事か?其ともあってはならない事か?
・・・未だ、我は判じられない。受け入れるにしては此の感情は冥過ぎる。
御前は、こんな懐いをした儘生きていたのか、殺し続けて来たのか。
如何して今も然う・・・嗤っていられる?
黔い霧がセレの口から漏れ、自身を包む事で禍々しさが増して行く。
まるで真の姿の様だ。高じ過ぎた干渉力はこんな変化も齎す物なのか。
・・・アティスレイに乗っ取られていなくても、十分化物に成れるじゃあないか。
「ど、如何して御前が、化物が此処に居る。未だ、外に居たんじゃあなかったのか。」
「兵なんてもう残ってないぞ。でもまさかこんな所で御前に会えるなんてなぁ。」
姿が変わり切り、セレは少し丈冷静になったらしい。
殺意が減らない儘薄く嗤うセレを、丗闇は何処か気になって見ていた。
・・・其にこんな怒りを持った儘じゃあ眠れない。
一体此奴は如何やって殺すつもりなのか。何を考えているのか、気になって仕方がない。
姿が変わった事で四肢の方が楽になったのだろう、そっとセレは両手を床に付け、カツカツと爪の音を立て乍らライバスに近付いた。
噫、噫まさかこんな、殺す事に悍く心が揺さ振られる事が未だあるとは。
前世や黔日夢の次元で飽きる位繰り返した行為なのに、今回は意味が違う。
誰かの仇だなんて偽善的な行為を此の私が取るなんてな。
「御前が言った通り、神は本当に居た様だな。今回は私の願いを叶えてくれる然うだ。もう一度御前を殺すチャンスをくれるなんて粋な事をしてくれるじゃあないか。」
「く・・・そ、っ⁉まさかフォードの奴俺を嵌めやがったのか⁉此方からなら裏から出られるって言ってた癖に、畜生っ、」
「ん、フォードの差し金だったのか。じゃあ只殺すのも勿体無いし、聞く丈聞いて置こうかな。」
一体如何言うつもりなのだろうか。此奴を差し出すから見逃してくれとか・・・?そんな事考える奴じゃあないか。
でもまぁ警戒して置く事に越した事はないか。何か仕組まれていてもいけない。
如何にも困った風に此奴は喚いているが・・・昔から油断ならない奴だからな。
「ハッ 何だよ。御前も神になって王者気取りか?此処は何処も彼処も化物だらけだからな。御仲間に会えて嬉しいかよ、え?」
・・・如何やら向こうも多少は落ち着いたらしい。
もう覚悟も決めているのか随分生意気だ。其は少し面白くない。
此奴は、恐怖で震えていた彼の時の顔が一番似合っている。
「仲間・・・噫然う言えば昔そんなの探していたな。成程、御前からしたら皆化物か。じゃあ御前が異物だな、此の世界では。」
少し丈距離を取ってじっと六つの瞳で見詰めてやる。
ライバスは小さく息を呑むが、未だ余裕然うだ。
・・・自棄になったか?其とも神に成って如何でも良くなったのか?
不快な奴だ。面倒で嫌いな人間の其だ。殺意丈が募って行く。
「其は手前も一緒だろうが。心迄化物な奴は手前しかいねぇ。手前丈が黔くて醜い化物だ。其が俺達を殺しに来たんだから滑稽で仕方ないぜ。」
「・・・遺言は其丈か。」
面白い言葉の一つ位言えば良いのにセンスの欠片も無い様な奴だ。
此奴の声を聞いていると嫌でも前世を懐い出す。
最底辺の掃き溜めみたいな世界の記憶だ。そんな物懐い出させて惨めな気持にでもさせたつもりか?
もうそんな物時代遅れなんだよ。そんな物疾っくに飲み干したんだよ。
噫、此奴と此処で会ったのが自分で良かった。
久々のショーだ。誰にも邪魔なんてさせない。
化物らしくライバスへ飛び掛かった。其の喉笛を咬み切る様に、獣が肉に喰らい付く様に。
口を開け、黔く塗れた牙を見せ付ける。御前の全身に刻まれる刃だ。
だが其の瞬間其の口に銃を突き付けられる。
引き金を引かれる前に腕を裂いてやった。銃の狙いは大きく逸れ、明後日の方向を打ち抜く。
銃身の長い其はショットガンか。まぁ確かに此の距離で喰らったら不味かっただろうが。
別に何か手がある事は分かっていた。挑発に乗った訳じゃあない。
時空の穴から出したんだろうが其位の芸当神なら誰でも出来る。
裂かれた腕から血が溢れ出て、怨めしそうにライバスは此方を睨んだ。
「矢張り未だ生きた目をしていたか。御前と初めて会った時の事を懐い出すな。彼の時と立場は逆だが・・・っ、」
突然背後から痛みが走り、そっと波紋を広げる。
自然と此奴丈に集中し過ぎていたな・・・気を付けないと。
当たったのは此奴の散弾銃の弾か。
随分散っていたから威力も殆ど無いし、当たったのが尾や翼の一部なので特に支障はない。
然う、此の程度の力しかない奴なんだ。其なのにあんな大それた罪を犯すとはな。
化物の恨みを買ったら如何なるか其の身に、魂に教えてやる。
只如何して奴の攻撃が当たったか其丈は気を付けないとな。
油断なんてしないさ。御前が教えてくれた事だ。
「っ、益々化物になりやがって。大人しく死んどけよ。」
「然うしたいならちゃんと頭を狙えよ下手糞が。其とも此の儘大人しく喰われるか?」
さて一体、如何してやろうかな。
じっくり遊びたい気分だけれども此処は敵の腹の中だ。
皆と出遅れてもいけないし、程々にしないといけない訳だが・・・。
やりたい事が多過ぎて中々絞れないな。たった一つの命の使い方だ。大いに悩む必要がある。
・・・然うだ。前アティスレイが口走っていた奴を実行しようかな。恐ろしくもドレミに実行しようとした事だ。
此奴にする分は全く問題が無い。案としてはベターだが手っ取り早くてやり易い。
一応近距離での銃丈気を付けて尾を伸ばして奴の手を打った。
逆刺だらけの尾だ。加えて其の先端の甲は剥がれ易い。
「っぐ・・・あああ゛っ!」
そんな物で打たれてしまっては常人の手等無事な筈もなく、鋭い甲が幾つも刺さっては其の儘尾から抜けてしまったので釼山の様に甲に塗れていた。
爪も砕けて関節に迄刺さってしまったのでもう機能はしないだろう。血が溢れ、一気に手は青白くなって行く。
指の骨も砕けた様で殆ど肉塊と変わらない様にも見える。
さぁて、一体何丈痛いんだろうか。自分はこんな手足だから分からないが、見た目は何とも痛々しい。
「痛ぇっ・・・くそっ、化物が何しやがるっ!っ・・・あぁ゛、俺の腕がっ‼」
痛みを訴える事に必死な様でライバスはまるで腫物を扱う様に手を見遣っていた。
まぁ一思いに斬り落とされるより痛いだろうな。安心しろ、後々斬り落としてやる。そんな痛みと別の新鮮な物と取り換えてやる。
何も言わずに近付くセレに恐れをなしたかライバスは転がる様に奥へと逃げてしまう。
下手に動かれても面倒なので足も同様に尾で殴り付ける。
そしてそっと尾で巻き付いて力を籠めた。
「っ‼あぁああ゛っ‼」
大した力も必要なく、あっさりと骨が折れた。
解放してやると、甲もより深く足に刺さってしまった様で空しく痙攣して震えている丈だった。
噫、何て呆気ない、此が人間か。
片足が完全に使い物にならなくなったのでライバスは何とか這って逃げようとしていた。
敢えて両手両足、全ては奪わない。ぎりぎり迄足掻く様を見てやる。
少しでも希望が残されている状態の方が、より絶望は深くなるのだから。
今更逃げられる訳もないのにライバスは未だ自分から逃げようとしていた。
何て無様な、此が自分が恐れていた人間か。自分が嫌いな人間の末路か。
次は何をするんだったっけ。余彼の時の事は懐い出したくないんだけれども。
流石に腹裂いたら直ぐ死んでしまうな・・・其は最後だ。
じゃあ次は・・・顔だな。
ライバスの上に飛び乗り、顎を持って無理矢理顔を此方に向けた。
もう先迄の威勢は可也削がれた様だ。次は何をされるのか分からず恐怖が張り付いている。
悪くない顔だ。もう少し、歪ませてやろうか。
戦慄かせている口に無理矢理爪を差し込む。
そして緩りと口端から裂いて行く。歪んだ笑みになる様、口角が上がる様に。
「あ゛ぁ゛っあ゛ぁ゛あ゛ぁあ‼っぐぁあ、おぐぅ、あ゛ぁ゛あぁ゛あっ‼」
情けない悲鳴が漏れる口を更に裂いて行く。
何本も爪を入れていたので不自然に複数裂けて、まるで化物の顔だ。
邪魔な頬骨を削り、肉を掻き分ける様に寸々に裂く。
気持悪い感触だ。悲鳴も何て不快な。
けれども此の男が上げている物だと思うと不思議と笑みが零れる。
其の儘左目に爪を添える。
奴が其の意図に気付いた瞬間、左目を潰してやった。
声にならない叫びが断続的に続く。途切れない様に執拗に目の中を弄る。
骨を削る位荒っぽく念入りに潰しては掻き混ぜて行く。
懐かしいじゃないか、昔御前がしてくれた挨拶だぞ。
安心しろ、反対の目は残してやる。自分の壊れる様を最期の瞬間迄焼き付けないといけないからな。
「おいおい声が小さくなってるぞ。折角口を大きくしてやったんだからもっと息を吸って精一杯叫べ。どうせ誰も御前なんか助けに来ないんだからな。」
少し丈首を絞めてやると踠き出したので解放してたっぷり息を吸わせてやる。
最早御前にとっての呼吸は生きる為じゃない。其の悲鳴を一声でも大きく上げる為の物だ。
残った目は完全に怯えていて、自分が少し動いた丈でびくつき乍ら凝視していた。
然うか。昔の自分はこんな風に人間共に写っていたのだろうか。
だったらまぁ彼処迄苛めたくなるのも少し丈分かる気がするな。
圧倒的弱者を苛めるのは楽しい、然うだろう?
復讐って、偽善って気持良い物なんだろう?
ほら、ほらほらほらほらこんなに楽しいじゃないか。
人間は此が大好きなんだろう?病み付きになる位大好物なんだろう?
御前達の事は大っ嫌いだけれども其の気持は共感出来るよ。
だから自分に壊されろっ!御前達には其位しかもう価値が無いのだから。
未だ殺すには惜しいので蹴り飛ばしては軽く殴って新たな痛みを足してやる。
痛みに慣れない様に、満遍なく。
耳を引き千切っては足を骨毎貫通する穴を開け、脇腹を裂き、頸を絞め付ける。
胸元を蹴って無理矢理呼吸を止め、頬を殴って血を喉奥迄流し込ませてやる。
ごぼごぼと血泡を吐く音が聞こえて来る。窒息しては困るので尾を躯に巻き付け、思い切り床に叩き付けて吐かせた。
・・・肋骨が何本か折れた感触、少しやり過ぎたか。まぁ良い、何の道もう直ぐ折る気だったし。
折角なので尾で其の儘一気に締め付けた。
折れた肋骨が肉に刺さり、喰い込む様に念入りに。
さぁ思い付く儘に遊んでやっているが如何だろうか。楽しんでくれているだろうか。
此処迄嬲ったのは御前が初めてだよ。何時も其処迄する気力が無いし、大体直ぐ飽きて殺していたから。
でも御前の声丈は、其の反応は中々飽きない物だな。
いっそ店の地下で飼ってやろうかと思う位だ。勿論そんなリスクは背負わないが、然う思ったのは初めてだ。
・・・人間が自分なんぞを飼おうとした気持が少し丈分かった気がする。
自分より圧倒的弱者を傍に置きたいのか。自分の下らないプライドを守る為に。心丈でも優位に立てる様に。
だって他者の懐いを踏み躙るのはこんなに楽しいものなぁ。
「不思議な物だな。御前と遊んでいると大っ嫌いな人間の気持が少しずつ分かる様になった気がするな。」
「っ、手前みてぇな化物がっ、っ、人間様の、何がっ!分かるってんだよ!」
未だ吼えるか。随分と元気だなぁ。
若しかして挑発のつもりか?早く殺して欲しいからって。
恐らく其は逆効果だぞ。御前の心が折れる迄、自分は止める気なんてないからな。
尾を鞭の様に振るって残っていた耳を削ぎ落とした。
別に耳がなくとも鼓膜はちゃんとあるのだから聞こえるだろう。まぁ自分の叫び声を主に聞く羽目になるのだが。
早速ライバスはのたうち回って叫び出したので暫し観察してやる。
・・・治まった頃に別の痛みを与えてやる、飽きない様にちゃんとプログラムは組んでやるんだから。
「然うなのか?私を軽蔑していた人間達はこんな気持だったのかなぁ、と御前を参考に懐い耽っていたのだが。今の御前の憐れさは本当昔の私に似ているな。」
「っべらべらと良く喋る、化物、だなぁっ!」
「御前が退屈しない様に話し相手になってあげているんじゃないか。元人間様だった御前が教えてくれよ。今の気分は?どんな気持だ?此から如何なるか、何をされるのか分からないのはどんな心地なんだ?」
自分は屹度、前世の人間全てに対する腹癒せを此奴にしていた。
自分より弱者に堕ちた人間が如何なるのか、もっと良く見てみたいと思った。
自分を蹴った時、あんなに御前は楽しそうだったじゃないか。ガルダを殺した時、御前は嗤っていたじゃないか。
なぁ今其の笑みを、自分に見せてみろよ。
尾を適当に振るって甲を飛ばし、奴に突き刺して行く。
一枚二枚、丁寧にじっくりと、忘れられない様に。
こんな事が、御前達は楽しかったんだろう?
化物の自分に分からないのなら、教えてくれよ。どうせ其が遺言になるのだから。
気付けばライバスは気絶し掛けていたので尾で頬を殴って無理矢理起こしてやる。
口が裂けていたので口内迄尾が当たったらしく、折れたらしい歯が零れていた。
「っガッ、ゴボッ・・・っ、な・・・っあ、」
「御話し中に寝るとは行儀の悪い奴だな。折角前世からの縁なのに、もう少し話そうじゃないか。」
尾の甲を一つ取り、そっと奴の口内へ忍ばせる。
そして無理矢理口を塞いで咀嚼させる。呑み込まれたら死んでしまうかも知れないから少し大き目の甲にしているし、其の辺は大丈夫だろう。
・・・まぁ仮に呑んでしまったら少し手順は早まるが腹を裂いて取り出せば良いし、大した問題ではない。
「其とも私みたいな化物と話す事はないのか?だったらそんな口、要らないだろう?」
くぐもった声が手の下から響く。
情けない悲鳴だ。温かい息と共に血が溢れて手を濡らす。
牙が疼く。何てそそる絳なんだろう。
皮肉だな。こんな痛みをずっと与えているのに御前の躯は生きようと踠いている。
神に成っても生きるとか、人間の最も残酷な所は其の躯の意思なのかもな。
口内の怪我は刺激が強い。あんな鋭い甲が口内中で絶えず刺されば流石にもう気絶はしないだろう。
まさか其で舌を斬るなんて器用な真似はしないよな?噫でも血位は吐かせてやらないと窒息死してしまうかも知れないな、そろそろ解放するか。
「・・・ってくれ、」
開放すると同時に背を蹴って無理矢理血を吐かせる。
其の際に小さな懇願が漏れた。
「?何か言ったか?済まない、聞き逃したからもう一回言ってくれないか?」
ずいっと顔を近付けると彼奴は目に見えて震えた。
・・・やっと其の躯に恐怖を植え付けられた様だな。
「・・・っ、殺してくれよ。もう・・・っ十、分だろ・・・が、」
「頑張ったじゃないか。其の口で良く人間らしく話せたな。でも、まさか御前が殺してくれなんて・・・なぁ、クククッ。」
堪らずセレはそっと口元を隠した。
でも感情迄は抑えられない。おかしくって仕方がない。
噫、其の言葉が聞きたかったんだよ、御前の口からなぁ。
・・・っ、駄目だ。嗤いが止まらない。こんなに楽しいと感じたのは何時以来だ。
「ククッ・・・ギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ‼」
奴に見せ付ける様に思い切り嗤ってやる。
奴の生き様を馬鹿にする様に、奴の最期を楽しむ様に、奴の存在全てを否定する様に。
「バ・・・化物・・・っが。」
「噫然うだよ。御前を殺してやるのは私だ。其の願いを叶えてやる。・・・此は契約だ。」
然う呟いた瞬間、黔い鎖が自分とライバスに繋がれたのを感じた。
魂の鎖・・・もう逃げられない、逃がさない。
「っ⁉ま、まさか俺のっ・・・魂、を、」
「此で、ずっと一緒だな。だって死んだら御別れだなんて寂しいじゃないか。私は御前みたいな最低で最悪の、私の大っ嫌いな人間である御前なんかの願いを叶えてやろうとしているんだ。だったら其の魂位貰っても良いじゃないか。其の位の代償、何でもないだろう?」
契約の御蔭で自分の魔力が高まって行くのが分かる。
加えて其の契約の内容が自分を精霊たらしめる殺しだ。こんな素敵な契約はない。
御前は永遠に私の存在を残す為の糧となるが良い。そして永遠に悔やみ続けろ、私に殺してくれと願った事を。
「其の為に、お・・・っ、俺を、っ、此が手前の復讐かっ、手前の、・・・っ、か、飼い主を、殺した・・・っ、」
驚きの余り口が回る様になったか。
まぁ確かに御前と契約をする為に此処迄追い詰めたよ。此の方法が一番御前に屈辱を味わわせる物だと思ったから。
でも復讐は・・・如何だろう。最初は然う信じて疑わなかったけれども、良く考えると違う気もして来た。
ガルダを殺した奴だから復讐している。其は勿論ある。
でも其とは別で、例えば自分を傷付けた彼の時の事迄考えたら、矢っ張り殺したいとも思う。
他にも今此処での此奴とのやり取り。生かす意味が無いな、と思わずには居られない。
然う考えて行くと如何だろう。此奴を斯うも苦しめている一番の理由は、単に復讐じゃない気がした。
自分が・・・楽しいのだ。誰かの為にするなんて偽善を掲げられている事がこんなにも、楽しい。
自分は何時も悪者だったから、こんな風に正義を振り翳したのは初めてだったのだ。
此奴はガルダを殺した醜い奴だ。だから自分が殺しても良い。
苦しめて、苦しめて、散々後悔させた後に殺すのは、間違っていない。
そんな空っぽの正義が妙な安心感を自分に与える。そして自分を駆り立てる。
好きに動けば良い。今なら何をされても赦されるぞ。
其が、迚も心地良い。自分は只其の感覚に酔っている丈だ。
「・・・然うだな。私は只の化物だから、御前を斯うして遊んでいるのが楽しい丈だよ。其以上でも其以下でもない。掲げる理想も大義名分もない。只御前を壊したい丈だ。」
「っ、や、止めろぉっ‼」
咄嗟にライバスは時空の穴から又ショットガンを取り出した。
そして残った手で何とか構えて撃つ。
だが倒れた儘で出鱈目な発砲だ。躱すの自体は容易い。
其でも波紋で見ていると弾は不可思議な軌道を描いていた。
壁にぶつかっては跳弾し、此方へ跳ね返って来ていたのだ。
・・・成程、先自分に当たったのは此の弾か。
特殊な銃なのか中々面白い動きをする。こんな狭い通路でショットガンなんて撃ったら滅茶苦茶に飛び散ってしまう。
でも分かっていれば大した事はない。返って来た弾を避けようと慎重に構えていた。
だがある事に気付いて慌ててライバスの元へ向かう。彼の元に迄弾が届いていたのだ。
其の儘彼の上に被さって弾を代わりに受けてやる。
少し痛い丈で大した事はない。彼奴にも特に命中した様子はなかった。
「こんな堂々と自殺なんてしないでくれよ。そんな呆気ない幕切れで良いのか御前は。」
大きく屈んで見遣ると其は見慣れた顔だった。
如何だ、六つ目の化物に見詰められる恐怖は。
絶対忘れられない様に全ての記憶を化物で上書きしてやる。
然うなれば・・・生まれた事を後悔するだろう、最期がこんな所に行き着く生命だったなら、と。
其で初めて自分の復讐は完成するんだ。
さぁ自分の此の偽善を満たしてくれよ、未だ渇いているんだよ。
「う・・・あ、ゆ・・・赦して、っください、ごめ、っ御免なさっ、御免っな、・・・っさい、もう、赦っして・・・っぐぁ、」
「上出来だ。じゃあそろそろメインに移ろうか。」
化物が歪んだ様に嗤い、ライバスの背は大きく震えた。
其処で彼は悟ったのだ。
此の化物は自分の声なんて聞いていない。懐いなんて、願いすら届かず、只独りで遊んでいる丈だ。
俺を壊す遊びを、心から楽しんでいる丈だ。
此の銃で撃った所で全身に纏う甲を少し削る程度だ。時間稼ぎにすらならず、化物が嗤う丈。
絶望で震える俺の胸元に化物は手を置いた。
そして爪を揃えて、緩りと、
「っあ゛ぁ゛あぁ゛あぁ゛あ゛ぁ゛っ‼っぎぃ、‼あぁ゛あ゛ぁっ・・・っぐぅうぅううっ!い、あぁ゛あ゛ぁ゛ぁあ゛っっ‼」
「ククッ、随分と化物らしい悲鳴を上げてくれるじゃないか。御前の方がセンスあるんじゃないか?」
此の世の物とは思えない声を聞きつつも化物は嗤っていた。腹を抱えて転げる位。
血が噴き出して滑って跳ねる。
生々しい内臓が溢れ出て瑞々しく光る。
生きていると震える内臓を無情にも化物は無造作に掴んで引っ張り上げた。
乱暴に扱う所為であっさり千斬れてしまった。そしてさっさと血の海へ放ると別の内臓に手を掛ける。
生きた儘腹の中を弄られる感覚。
気持悪いなんて物じゃない、痛くて辛くて苦しくて、只々深い虚の様な絶望。
「叫ぶのも良いけれども良く見とけよ。自分の躯の中なんて然う然う見られないぞ。こんな貴重な経験、一生に一回出来るか如何かだぞ。自分の醜い内臓をしっかりと焼き付けて置け。」
無理矢理頭を掴まれて、しっかりと血濡れた内臓を見せ付けられる。
そして徐に千斬れてしまった内臓の一部を口へと押し込まれる。
「ほら味は?食感は?自分は美味しいか?生温かくて安心するだろう?元々自分の物なんだから安心して食べられるだろう?ほら折角私が食べさせてやってるんだから良く味わうんだな。」
―・・・もう、十分だろう。―
暫くして丗闇の静止の声が入った。
其処で始めてセレは二柱以外にも世界には居たのだと懐い出す。
―其奴は・・・もう死んでいる。其以上は無駄だ。―
「なぁんだもう死んだのか。」
小さく息を吐く。確かにもう此奴の目に曦は無いし、息をしている様子はない。
もう少し位遊びたかったのに、随分と呆気なく死んでしまったな。
「未だ手足は千斬っていないし、腸で頸を絞めたりもしていなのに。中々、全部やるのは骨が折れるな。こんな拷問今迄やった事が無かったけれども、案外難しい物だな。」
途中で死なせてしまったのが本当残念だ。
ショック死だろうが、もう少し位耐性があると思っていたのに。不完全燃焼だ。
「拷問する側って結構色々と考えないといけないんだな。相手の体調をこんなに気遣ってやらないといけないなんて。只嬲る丈じゃあいけないんだな。・・・良い勉強になった、次は気を付けよう。」
ぱっと何時もの調子に戻ったセレに、丗闇は少し罰が悪そうだった。
此奴が他者を殺してもケロッとしているのは前から知っている。最近はもう隠そうともしないし。
けれども今回は、何時もと事情が違う。あんなに憎んでいた相手を、即席の拷問に掛け、
そして・・・笑っている。何事もなかった様に。
確かに彼奴には言い知れぬ怒りが如何してか我にもあった。
でも此奴に拷問されているのを見ている内に、怒りはすっかり消え失せていた。寧ろ同情していた位だ。
決して気持の良い物でもないし、全く気が晴れなかったのだ。
まぁ其は我が単に記憶を共有した程度の感情だから、かも知れないが。
其でも我は先迄の光景を、当たり前で片付けられはしなかった・・・恐らく、もう忘れられない。
骸は直ぐに消え去り、セレの姿もすっかり元に戻っていた。
取り敢えず彼女の気は晴れたと、然う言う事なのだろう。
―・・・随分と楽しそうにしていたな。―
「ん?噫其も勉強になった事の一つだな。誰かの為にするって偽善がこんなに心地良い物だとは知らなかったよ。まぁ前世であんなに怨んでいた奴はもう居ないが、今世で活かすとしたら・・・矢っ張りソルドだな。」
―・・・然うか。―
話せば話す程、矢張り此奴は何時も通りで。
彼奴を殺した事について、何にも感じていない風だった。其位空っぽの復讐だったのだろうか。
「何だか元気が無いな丗闇。一緒に楽しめとは流石に私も言わないが、別に拷問位丗闇は何とも思わないだろう。勿論私が正しいとも言わないが、こんなの今に始まった事でもないだろう?」
噫、其の通りだ。此奴の言う通り。
けれども理屈と感情が違う様に、其の一言で全てに納得出来る物でもない。
・・・彼の男が此奴に手を焼いていたのを良く見掛けていたが、恐らく斯う言う所の事だろう。
とは言え、別に我が此奴を矯正したいだとか、そんな気は更々ないので其以上は言わないが。我が関わる可き問題ではない。
―別に御前に如何斯う言う気はない。只、見ていて気持の良い物ではなかったから・・・歯切れが悪いと思うならそんな所だ。―
「ん、然うだったのか。てっきり丗闇は闇の神だから拷問は気にしないのかと思ったけれど。じゃあ悪い事したな、行き成りあんなの見せて。次からは気を付けよう。」
尾を一つ振り、甲の調子を整えてセレは通路の先へと足を伸ばした。
―其で、御前の気は晴れたのか。―
次があるのか、と少々げんなりしつつも、聞かない訳には行かなかった。
此奴と自分に、一体何丈のずれがあるのか。近くに居る様で、見えていなかったのではないか。
其の差を、確かめる様に。
現に例の男に関してのずれは大きいと思われる。此奴の処罰は少々やり過ぎに思えてならなかった。
然う言う事をする奴とは思わなかったの方が・・・正しいかも知れないが。
別に罪と罰を正しく測れなんて言わない。我が言えた義理でもない。
其でも、意外だったのは確かなのだ。
御前は彼の男を其処迄憎んでいた。彼奴の復讐だと託けて。
でも心の中でずっと御前は嗤っていた。心底楽しそうに。
「・・・いや、それなりに、位かな。未だ納得していない所が多い位だ。」
セレは苦笑して一つ息を付いた。そっと手の甲を揃えて行く。
「結局復讐したって彼奴が一柱で勝手に死ぬ丈でガルダが死んでしまった事実は変えられない。別にガルダもこんなの望んでいないだろうし。全部私の自己満足だ。其が分かった上でも十分に出来なかったし、何だか不完全燃焼って感じだな。」
分かっているよ、自分がした事については。
只私は欲が深いから。其以上を求めてしまう。
正しさなんて要らない。自分の中の答えを示す丈。
「でも丗闇、止めないでくれて有難う。御蔭で一応過去に一つ区切りが付いたよ。彼奴が神に成っていたんじゃないかって薄々は勘付いていたから見付けられて良かった。」
―・・・・・。―
余り然う褒められた所で嬉しくない。止めなかったんじゃあなくて、止められなかった可能性を、我は否定出来なかったから。
・・・此の件に関して我は色々と、おかしい。間違え過ぎている気もする。
さっさと手を引いた方が良い。何事も無い様に此奴が接しているのと同じく。
「さて、と、私怨を挟むのは此処迄だ。思わぬイベントが来たけれども急いで巻き返さないとな。まぁ変に消耗もしなかったし、良かった所かな。」
寧ろ契約により魔力が可也増している。予め丗闇の封印を解いていて良かった。
翼を少し広げると、セレは一気に駆け抜けて行った。
もう拷問の痕跡は一つとして残ってはいなかった。
・・・・・
「・・・ん、誰か来たみたいだよ!」
広間に蹲っていたケルディが尾を一つ振り起き上がった。
そして広間から複数伸びている通路の一つ迄駆けて行く。
そんな彼の背には不安も緊張もなく、如何やら彼はもう此から会う相手に確信を持っている様だった。
通路の先は薄暗く、見通しは良くない。
「早くー待ってたんだよー。」
ケルディが闇へ声を掛けた瞬間、黔い凱風が一陣吹き、彼を攫ってしまう。
「モフモフモフモフモフ・・・、」
「はーい合流、」
「・・・モフモフでトラップを作ったら簡単に掛かっちまうな、セレ。」
黔い凱風の正体はセレだった。
彼女はケルディをしっかりと抱え、嬉し気に頬擦りを繰り返している。
広間の中心迄一気に駆け抜けた訳だが、随分と幸せそうである。
「噫ガルダ、無事そうで何よりだ。」
壁を背に立っていたガルダに気付いてセレは笑みを返す。向こうも順調だった様だ。
未だケルディを放す気はない様だったのでケルディは大人しくモフモフされる事にした。
「合流出来たのは良いが、こんな所で待っていたのかガルダ。」
「噫、此の先は最上階へのエレベーターしかないんだ。ケルディの鼻だと、先フォードが此処を通ったらしいからな。皆が来るのを待ってから攻めようと思ったんだ。」
「フォード以外は誰の匂もしなかったから大丈夫だと思うよ。で、セレが一番乗りなの!」
「成程、其の賞品としてモフモフ権が与えられたのか。」
此の先にフォードが。
前会ったのが随分昔に感じられる。
彼の時は圧倒的力量差に成す術もなかったが・・・今回あんな姿は晒さない。
BDE‐00との戦闘だとかで傷は負ったが、大分躯に馴染んで来た。今なら問題なく戦える筈だ。
「然うだな。ガルダ、良ければフォードとは二柱で戦わないか?私は余り連携が得意ではないからな。多神数で戦うのには慣れていないんだ。相手が一柱で、室内での戦闘となれば此方も少神数の方がやり易い。」
「何か・・・意外だな。御前の事だから一柱で戦わせてくれって言われるかと思ったのに。」
「・・・言うつもりだったけれど止めた。ガルダが此処で待っていたのはそんな私を止める為だろう。だったら私は従うよ。ガルダの判断を信じる。一番彼奴を知っているのは御前だ。」
苦笑するセレに罰が悪そうにガルダは頭を掻いた。
「まぁ・・・然う何だけど、俺何かが何処迄頑張れるか分からないけど、御前の騎士として精一杯頑張るからさ。一緒に行こうぜ、セレ。」
「大丈夫だよ。先のガルダかっこ良かったもん。ガルダも其処其処勁くなって来てるよ。」
「其処其処だと困るんだけど・・・。」
「もう慣れらしてあるなら十分だ。今言うのも何だが戦ってくれて有難うガルダ。嘗ての仲間なのに一緒に戦ってくれて。ケルディも、辛いと思うが。」
「別に、俺はもっと前から御前の仲間だし、抑俺が此処に入っていたのが御前への裏切りになってたんだよ。当然の事だって。」
「ボクも、ガルダと一緒なら大丈夫だよ。皆の事好きだから頑張って戦うよ。」
「・・・然う言って貰えたら。・・・選ばれた者として私も頑張らないとな。後一息だ。此で決着を付ける。」
セレは名残惜しそにケルディをそっと放した。
「じゃあボクは?一体何をしたら良いの?」
尾を一つ振って二柱を交互に見遣る。あざとさは相変わらずだ。
「勿論ケルディにも頼みたい事がある。此処は私の波紋が殆ど使えないからな。」
未だ調子は良くない。慣れる物でもないし、恐らく此の様子だと目視の方が見えているレベルだろう。
「然うだな。魔力の妨害策は張ってあると思うぜ。でも鎮魂の卒塔婆にこんな仕掛けがあったなんてなぁ。」
「此が結構私には辛くてな・・・。魔力達も呼べないし、見え難いし、力も使えない。けれどもケルディの鼻はそんな事関係ないだろう?だから自慢の其の鼻で皆を見付けて合流して欲しいんだ。」
「合流ね。うん分かった!任せて、自信あるから!」
「そして、集まったら此の妨害を何とか止めて欲しいんだ。恐らく・・・何らかの装置だとは思うんだが。」
「だろうな。部下にこんな芸当出来る奴も居なかったと思うし、特別な部屋とかがあると思うぜ。」
「あー然うだね。怪しい部屋あったもん。じゃあ其処に行って、壊したら良いんだね。」
「然う言う事だ。私も一緒に行きたいが、多分余りフォードを待たせ過ぎても良くないだろう。時間が勝負だからな、変な劇薬を作られても恐いし。」
「・・・確かに。此の上もフォードの研究室だし、其処に籠もってるって何だか不気味だよな。戦い中にセレの力が戻るのを期待したいな。」
一つセレは頷いたが何処か納得はしていない様だった。
提案はしたが余り此の策は良いとは言えない。
仲間に託すと言えば聞こえは良いが、具体的に何を如何するか決まっていないのは余り良い状態とは言えない。
若しケルディ達が間に合わなければ自分とガルダが負けてしまうだろうし、抑其の妨害装置を止める時に問題が起こるかも知れない。
既に仲間が何柱か・・・脱落していないとも限らないのだ。考えたくないけれども然う言う現実は有り得る。フォード自身も決して手を抜いて良い相手でもない。前殺され掛けたし、全力が何の位か分かっていないのだ。
相手も準備中だと願って戦うしかないのだが・・・。
一応策はある、と言っても不安は残る。
・・・嫌だなぁ然う言う行き当たりばったりな作戦。嫌いなタイプだ。色々考えないといけないから頭が痛くなる。
きっちり作戦を考えたいタイプなんだけれども・・・まぁ今回許りは仕方ないか。
タイミングが・・・今しかないのだから。
此処で落として置かないと此処は後々牙を剥く。非常に面倒な組織となってしまう。
「うんうん分かったよ!じゃあボク行って来るね!二柱共頑張ってね!」
ケルディは一つ飛び跳ねると見当を付けてかある通路を進んで行き、直ぐ其の姿は見えなくなった。
「良し、じゃあ行こうかガルダ。一応此、何も罠は無いな?」
「噫、多分此のボタンを押す丈だから大丈夫だと思うけど。」
エレベーターに入り、ガルダが壁にあるボタンを押して行く。
直ぐ扉は閉まり、緩りとエレベーターは上昇し始めた。
緊急時でもちゃんと動作する様だ・・・良かった。
「ガルダは此の上、行った事があるのか?」
「んー・・・余無いな。来たのも割と最初の頃だし、此の上自体行く奴なんて殆どいなかったし。」
何とか記憶を探るも、内装迄は如何も思い出せない。
「フォードの離れの研究室って扱いだったとは思うけどさ。多分昔使っていたけど今は殆ど使われてないんじゃないかな。・・・凄い変な事してるって噂だったし。」
「然うか。其でも恐らく私の実験の一つだったんだろうな。とは言っても私も此の上は行った事が無いかな。」
「多分・・・然うだとは思うけどさ。其でもあの・・・BDE‐00を作ったよりもっと前とかのじゃないかな。此のエレベーター自体埃被ってるレベルだし。だからフォードが此処へ逃げ込んだ理由も今一分からなくてさ。」
「一体彼奴は何の研究をしていたんだろうな。私を使って、黔日夢の次元を起こして・・・目的がさっぱりだ。私が居て一体誰が得なんてするんだ。」
「いやそんな悲しい事言うなよ・・・。少なくとも俺は得してるし、皆も然うだから付いて来てるだろ?けど、正直俺もフォードの研究は本当分からないな・・・。世界を只壊したいとか、滅茶苦茶にしたいとか、何か其だとしてもやり方が変わってるよな。」
抑世界を壊す為にセレを作ったってのも嫌な話だな。然うであって欲しくはない。けれども其ではフォードの目的とは一体、
別に前世でも面識とか無い訳だし、本当謎なんだよな。
セレは調整のつもりなのか翼を広げたり伸ばしたりし、爪の甲を揃えたりと色々細かく動いていた。
何て言うか・・・落ち着きがない。まぁ俺も今からフォードと戦うなんて実感ないしな。
「矢っ張り魔力が無いのって変な感じか?」
「然うだな。無くなって初めて気付くと言うか、何かと不便を感じるな。確実に前より躯が重いし。」
「其、体調は大丈夫か?気分悪いとかあったら流石に一寸休まないと。」
然うだ、セレは存在を保つのが如何とかで抑が結構危うい状態なんだった。
最近調子が良いみたいだから忘れ掛けていたけれども、前可也やばい所迄行っていたんだし気を付けないと。
詳しい方法は結局分からず仕舞いだったけれど、丗闇の魔力を使うとか言っていたし、セレにとっては魔力は死活問題の筈だ。
こんな所で行き成り血でも吐かれたら俺は恐らくパニックに陥る。そんな事態は避けないと。
「ん、噫大丈夫だ。其処迄は問題ない。おかしいのは外の魔力丈で、自分の元々の魔力は無事だ。術も問題なく放てるし、万全ではないって丈だ。」
丗闇に力を一部開放して貰ったのが幸いした。
御蔭で蓄えは可也ある。零星も使える。
只最近練習していた魔力達との協力プレイは出来ないって丈だ。まぁ他に考えている作戦が作戦だから寧ろ彼等は居ない方が良いかも知れない。
BDE‐00との戦いで負った傷も可也慣れたし、問題なく動けると言う事は自分の魔力は正常と言う事なのだろう。
「なら・・・良いけどさ。何かあったら直ぐ言えよ。無理丈はしないで欲しいんだよ。」
「其、そっくり其の儘ガルダに返そうか?ククッ、想っている事は一緒だな。」
「う゛、こんな時にそんな事言うなよ。・・・もう、」
小さく溜息を付く彼を見遣り、セレは忍び笑いを上げた。
・・・如何やら彼女は変わらず絶好調らしい。
「・・・さてと、そろそろかな。」
そっと扉を見遣って彼女は体勢を低くする。
何をするのか聞く前に、セレは薄く開いた扉を抉じ開けて颯爽と出て行ってしまった。
本の一瞬だ。瞬きをしたらあるのは凱風のみで、俺はエレベーターに取り残されていた。
「・・・え、ってセレ⁉」
いや然う言う作戦なら言ってくれよ。何フライングしているんだ!
事態を理解したガルダも慌ててエレベーターから出る。
出て直ぐ感じたのは埃っぽさと空気が沈んでいる様な静けさ。
・・・矢っ張り、此処は当分使われていない様だ。
壁一面に謎の薬品やら部品が置かれており、一部屋が丸々倉庫の様だった。
そんな部屋の中心でセレとフォードは対峙していた。
特攻を仕掛けた彼女は爪をフォードに向けており、彼は光の術で作ったらしい盾を纏っている。
其の盾にセレの爪が掛かり、二柱は拮抗した状態の儘固まっていた。
「・・・ガルダ、もう少し彼女を躾ける事は出来なかったのか。」
遅れて出て来たガルダに気付き、フォードは短く溜息を付いた。
余裕然うだ、如何やらセレの特攻は失敗してしまったらしい。
「喉笛を咬み千斬る程意地汚いのが私のモットーだからな。」
フォードが盾を振るったので大きくセレは後退し、ガルダに並んだ。
「おい一寸セレ、先走るなって。俺と一緒に戦ってくれるんじゃなかったのかよ。」
「済まない、何分私は先の手が一番得意だからな。」
全く悪びれる様子はない。元気が良過ぎるのも考え物だ。
「・・・せめて挨拶位はさせてくれ。君は殺す事に全力になり過ぎだ。モルモットらしく大人しくしたら如何なんだ。」
「前殺され掛けてしまったからつい、な。」
冗談っぽく言うが彼女の四つの目は笑ってなんていなかった。
只じっと彼の出方を窺っている様だ。
そんな彼女の前に一歩俺は立つ。
セレも、多少なりとも緊張しているのだろう。フォードは一体何をするのか・・・全く分からないから。
セレ以上にセレの事を知っている可能性もある。・・・慎重に行かないと。
「然うか。確かに斯うして言葉を交わしたのはもうそんなに前になるのか。・・・ガルダは余り久しく感じないがな。」
「な、何でだろうな。不思議だな。」
何だよ其の振り・・・前セレが死に掛けちゃった時に頼った事を言ってるんだろうけど。
・・・思えばセレが死に掛ける度に此奴の影がちらつくな。フォードってセレの死神なのかな。
「先ず、此処迄来た事は素直に褒めて置こう。出来損ないの神が仲間を集めて、まさか王の塔である此処を攻めに来るとはな。こんな形で不穏分子が増えるとは思っていなかった。」
確かに・・・長い道程だったとは思う。
期間で言えば順調過ぎる位トントン拍子だった訳だけれども、其でも此処迄来たのは奇跡なんじゃないかと思える位不安な足取りだった筈。
まるで見えない神の手に導かれる様に。俺達は此処迄来た。
隣のセレは如何思っているだろうか。此処迄彼女が思い描いた道なのだろうか、一体何を見詰めているのだろうか。
「僕の仲間も随分片付けてくれたね。もう君達を片付けた所で僕は王から捨てられるだろうな。まぁ形丈の忠誠だったから別に構わないけれども。」
如何やらドレミや皆も順調らしい・・・連絡も取れなかったから其は良い情報だ。
其に如何やらフォードが其処迄戦意が無いのも助かる。何れは遣り合うだろうが、時間稼ぎが出来れば此方も助かるのだ。
只一応フォードが何か仕掛けていないか慎重に見ていないといけない訳だが。
今の所は変な動きも無いな・・・。何か作っていた風でもない。
「・・・御前は其処迄神生を台無しにして一体何を研究していたんだ。」
「台無しにしたのは君達だけれどね。其に抑未だ台無しと迄は行っていない。少なくとも僕の実験は未だ終わっていないしね。」
「未だ終わっていないって・・・黔日夢の次元で終わったんじゃないのかよ。其じゃないって、でも、」
「其で終わりだったら疾っくに君達を消しているよ。其に、此以上は話す気もない。モルモットに実験内容を話したら其こそ台無しになってしまう。」
溜息を付いてフォードは面倒そうに肩を落とした。
彼は話の腰を折られたり、的外れな答えを本当に嫌う。直ぐ機嫌を損ねてしまうのだ。
「其の結果、御前が此処で消されても御前は話す気が無いんだな。全て謎に包んだ儘退場するんだな。」
フォードの視線がセレと搗ち合う。
そして本の少し丈・・・笑った気がした。
「其なら問題はない。僕の意思を継ぐ者は居るんでね。僕を斃した所で君達は自由になんてならないさ。モルモットらしく神生全て捧げてしまえば良い。」
「仲間なんて居たのかよ。道理で余裕然うだったんだな・・・。」
もう保険を掛けていたのか。でも一体誰なんだろう。心当たりがない・・・。
フォードと親しい奴なんて然ういないと思っていたけれども。
「其でもやる事に変わりはない。・・・然うだろう?」
セレがオーバーコートを翻すと零星が瞬いた。
未だ力が戻った訳ではないが、そろそろ限界だろう。
仕掛けられる前に・・・攻める。
「ehtycs」efink」
鎌の形へと星座を紡ぎ、残りはナイフに変えて待機させて置く。
取り敢えずは相手の出方を見よう、行き成り首は狙わなくても良い。
「黔旋刃」
星座の先の魔力を使い、鎌の刃を少し変形させる。
そして一気にフォードの元迄飛び掛かると思い切り鎌を振るった。
「光楯」
短く唱えるフォードの前に純皓の大楯が現れた。
矢張り詠唱が早く、魔術の扱いに長けている。此方の攻撃より先に防いだか。
見えない鎌を警戒してか楯が十分に大きかった為に鎌の星座が刺さり、止められてしまう。
魔力が火花の様に散って光る。・・・闇と光は相性が悪い。
膠着状態になった隙に零星のナイフを放つが、先にフォードは大きく後退して難を逃れた。
止まっていた鎌が振るわれ、机上の物々や壁にあった部品が薙ぎ払われて盛大な音を立てる。
変化した鎌に因って刃先から黔い凱風が吹き荒れ、次々と暴れ始めたのだ。
幾つもの物品が壊れ、割られて酷い散らかり様だ。
余りの音についガルダは耳を塞いでいたが、目の前の惨状に愕然とし、さっと顔色が悪くなった。
「お、おいセレ!流石にこんな壊したら、」
つい脊髄反射で注意してしまう。
今からフォードと本気で戦うのだからそんな事気にしている暇は無い訳だけれども。
フォードは研究の邪魔をされるのを心底嫌う。こんな事したら腕の一本二本じゃあ済まない。
そんなガルダの心配は的中し、フォードは目を見開いて寧ろすっきりしてしまった机を見詰めていた。
「別にもう直ぐ此の塔自体壊れるんだし、此位良いだろう。」
「・・・大した暴れ神だな。躾所じゃない、調教が必要か。」
明らかに空気が変わった・・・先迄話位聞いてくれそうな様子だったのに。今はやる気に溢れている様な・・・。
「散光瀛」
フォードの声に呼応して光が波の様に散っては渦を巻き、此方へ押し寄せて来た。
床に散らばっていた物々を押し流し、紙片が宙を舞う。
「お・・・おぉ、」
部屋を瞬時に包む規模の術に流石にセレも少し驚いて身を引いている様だった。
「皓嵒!」
何とかセレの前に立ち、ガルダが手を掲げる。
生命力を解放して翼も尾も解き放つ。
光魔術はセレにとって猛毒だ。俺が全力で止めないとっ!
防ぐ事丈を考えて自身の前に大岩を落とす。
皓い結晶の様に光る岩に因って浪は砕け散り、二柱を避けて流れて行く。
「助かった、ガルダ。」
耳元で声がしたかと思うと黔い翼が翻る。
一気に飛び上がったセレは光の岩に足の爪を掛け、フォードに向けて飛び降りた。
そして駆け抜ける様に零星のナイフを投入する。
曦と反射して輝きを放つ、流星の様にナイフは煌めいた。
「pihw」
短く唱えてナイフを変化させる。
魔術の形を壊し過ぎない様に、先を少し変えて常に変化させて対応出来ない様に。
ナイフの星座が壊れ、全てが一つの星座として繋がる様にラインが引かれる。
鞭へと変化したナイフをセレが手繰り寄せる事で散らばっていた零星が束ねられて行く。
フォードが気付いた時には彼は既に零星に囲まれており、一気に蛇の様に彼へと伸び上がった。
「・・・何とも珍妙な術だな。」
瞬きの後にはフォードは星座の鞭に縛られており、もう身動きが取れない様子だった。
其でも別段彼は自身の窮地を気にしている風はなく、不思議そうに星座を見詰めていた。
「此は・・・純粋な魔力の結晶体か?一体如何やってこんな高純度で其の儘術として使ったんだ。・・・成程、一部の魔力同士の繋がりを緩める事でライン状に分解出来るのか。其でも其の分解された同士が又結合して性質を変えないのは如何して・・・、」
変なスイッチが彼の中で入ったらしい。ぶつくさと独り言が続き、完全に彼の世界へと旅立っている。
・・・此の儘首を刎ねてしまった方が彼も幸せな儘逝けるんじゃないだろうか。
「刃輝!」
構えているとそんな声が響いて先程の大岩を打ち破って衝撃波が放たれた。
何て威力だ・・・如何やら依代としてガルダの獣の様に変化した爪を含ませている様だ。
衝撃波の中央に一際輝く欠片がある。先程のフォードの大技より威力が高そうだ。
成程、ガルダの躯は再生が早い・・・あんな風に一部を斬り落とした所で粗無限に魔力の底上げが出来るのか。
床を抉り乍ら迫る皓い衝撃波に短くフォードは溜息を付いた。
「・・・もう少し観察したかったんだがな。」
其の瞬間、何事もなかった様に衝撃波は掻き消されてしまう。
突風丈が残り、一瞬時が止まった様だった。
何だ・・・一体何をされた。
取り敢えず星座を引こうとして気付いた。
星座が・・・斬られている?何時の間に、否如何やって。
繋がりを失った零星は散らばり、フォードを自由にしてしまう。
明らかに其の零星自体も減っている。彼の一瞬に何かされたんだ。
此の手応えの無い感じ、既視感があるな。前も自分は此を経験している?
「っ矢っ張一筋縄じゃあ行かないか、」
ガルダが頭を掻き乍らそっとセレに並んだ。
其の間に自分は適当に零星を繋ぎ直した。
上書きした闇の術は残っている。でも零星自体を削られるのは痛いな・・・。
「セレがやっても簡単に逃げられちゃったか・・・うーん、此の方法が行けるとは思ったんだけどなぁ。」
「先の不可思議な力の謎を解かないと攻略は無理そうだな。」
一応先の連携はガルダが教えてくれた物だった。
フォードは目の前の空間を破壊する謎の力を持っている。
だからフォード自身を拘束してしまえば、其の破壊する空間の中に自分が含まれるから解けないんじゃないかと言う考えだったのだが。
まぁ彼の話に因ると前も然う思って攻めたら簡単に抜けられたと言っていたから恐らく彼の読みは少し外れていたのだろう。
でも御蔭で分かった事がある。言われた丈だと今一フォードの力と言うのがどんな物なのか分かっていなかったが、今はっきりと視認出来た。
鞭が消えたのは外の要因か、彼が彼の力を使い熟しているから鞭みたいに細い物でも斬れるのかも知れないが。
昔自分が戦った時自分の術の盾が消されたのも同じ力だろう。
そして実際対面して感じたのは、フォードとソルドの力が何処となく似ている気がした。
消滅魔術・・・とでも言うのだろうか。目の前の存在を消す所はそっくりだ。
更にもう一つ、自分が使えた彼の罅・・・少し彼にも似ている気がする。
今は不思議と使えなくなってしまった訳だけれども・・・若しかしてフォードが似た力を使えているのと何か関係あるのだろうか。
其でも全て此方が後手と言う訳ではない。自分にも一つ対策を考えていたのだ。
奇しくも彼の部下であるBDE‐00が教えてくれたやり方だ。
彼女は最後にフォードの猿真似と自分で揶揄したある技を放っていた。其の御蔭で一つの予測が立てられたのだ。
一つは恐らく彼の力は発動法さえ知っていれば誰でも出来る可能性がある事。
そして其の発動法は・・・、
―・・・セレ、やってみるんだな。―
少し考え込んでいた彼女に気付き、そっとガルダは彼女を援護する形を取る。
―噫、ガルダも気を付けてくれ。私も扱えるか分からない。―
「瓊皓」
随分久し振りに光魔術を使う。自分の苦手な力な丈あって唱える声が少し丈震えた。
光は・・・苦手だ。心も躯も避けてしまう。どんなに闇を深くしても一点の曦は恐れる物だ。
セレの前に小さな紅鏡の様な術が現れる。
そして其は放物線を描いてフォードの元へと、
「っまさか、」
何に気付いてかフォードが目を見開き固まる。
如何も・・・勘付かれてしまうな。
自分が光魔術を使うなんて冗談にしか見えないだろう。
噫だから今迄此の絡繰りに気付けなかったんだ。こんな事、普通はしないから。
フォードに逃げられる前に零星のナイフを投擲する。
残ったナイフはもう僅か。でも其でも良い、もう彼は壊れてしまうのだから。
既の所でフォードは目にも止まらぬ速さで大きく後退した。
そしてナイフが光の瓊に触れた瞬間、
まるで空間が切り取られたかの様だった。
瓊やナイフは一瞬で消え去る。そして代わりに何かが現れた。
見えない何かは確かに其処に居て、周りの空間が呑まれて行っている様に感じる。
壊れて散っていた部品もどんどん呑まれて自然と片付けられていく。
―・・・セレ、見えるか?―
―微妙だな・・・。矢張りもう一寸波紋が治ってくれないと。―
「・・・まさか君達が此処迄気付いていたとは。其処は素直に評価出来る。」
気付けば見えない何かは跡形も無くなっていた。
まるで初めから何もなかった様に。でも確かに空間に傷跡は残っている。
然う・・・今のが消滅魔術の発動条件、絡繰りだ。
「ん・・・おや、そんな立派な物を持っていたのか。道理で逃げられる訳だ。」
何時の間にかフォードの背には美しい銀色の翼が備わっていた。
鳥の様な二翼の翼は彼を包み込める程大きく、星屑でも散らしているかの様に煌めいた。
「っ⁉な、何だよフォード、其の姿って、」
隠していたにしても其の翼は大き過ぎる。突然現れた様な具合だ。
「此は僕の種の本当の姿だ。何時もは人間の振りをしているけれども、有事の際は此の姿を曝す事もある。」
「種・・・?神の真の姿とは又別って事だよな。じゃあフォードの種って一体、」
今迄只の頭の良い子供だとしか思っていなかったのに、そんな彼の正体とは、
「僕は・・・天使だ。と言っても堕天使だが。堕天した際に天冠は剥奪されたからな。」
「て、天使ぃ⁉」
ま、まぁ居てもおかしくないか、俺が初めて見た丈で。まさか天使がこんな年中不機嫌そうな顔してるって思わないし。
「何だか懐かしい響きだな。昔ガルダも然う呼ばれていたな。」
「いやでも俺は又別だし・・・そ、然うなのか。」
堕天使・・・屹度彼にも色々あったのだろう。天使が神に成るなんて、何だか不思議だ。
「堕天したなんて。じゃあ彼か。人間が嫌いになったから堕天して滅ぼしてやろうとかそんな感じか。」
「僕は君とは違うからね。そんな動機じゃない。僕には・・・壊したい物がある丈だ。」
何だか嫌な言い方だな・・・。別に人間を滅ぼしたいと思う事は悪とは限らないと思うんだが。
其でも彼の言い方はそんな小さな事じゃなく、もっと大きな・・・其こそ世界を見ている様な気がした。
一体彼は自分に何を見たのだろうか。目的が既に違えていると言うのに、彼の続ける実験の意味とは。
「僕は溺死なんて随分滑稽な死に方をした元天使だ。別に大した力もないし、そんな驚く事も無いだろう。」
「で、でも初めて見たし、居るんだなぁって・・・、」
ちらとそんな風に間誤付くガルダの八翼の翼を見遣る。
前世を含めてすっかり彼の翼を見続けた自分だ。だからフォードの翼を見ても、ついガルダの方が綺麗で数も多いなぁ、位しか思わなかった。
此方としては見慣れている訳だけれども、ガルダからしたら相対的に見た事なんてなかっただろうし、確かに珍しく映るかも知れない。
「・・・確かに天使は基本後悔なんてしないからね。神に成るのは少ないかも知れない。とは言っても・・・もう一体、僕は知っているけれども。でも僕からしたら何度も再生する君の方が希少種だと思うけど。」
「お、俺は別に・・・そんな、」
少し罰が悪そうだ。余り触れたくない話なのだろうか。
自分も・・・良く分かっていない。ガルダの事、此処で過ごした日々の事。
だからこんなにも壊したいのだろうか、彼の居場所を壊して行って・・・自分丈を残せる様に。
・・・噫、熟自分は化物だな。
でももう一体の天使・・・何か、引っ掛かりがある・・・様な、何処で聞いたんだ?
「・・・そんな僕なんかの話より、今は先に気になる事があるだろう。一体、何処で其の力を身に付けたんだ。まさか君達が既に此の現象の答えに行き着いているとは思わなかったな。」
本当に余り戦う気はないらしい。
フォードの灰の瞳は何処か煌めいていて好奇心で一杯と言った体だった。
何より彼は研究を優先する。其の生き方にぶれは無い様だ。
・・・まぁ此方も整理したいし、多少は話しても良いか。
フォードの言っている力、現象は例の消滅する物だろう。
今の結果で、もう自分も確証を得た。発動の鍵は分かっている。
「今迄其が起こった条件が何だったのか確かめた丈だ。・・・私は最初の次元で其に因って自滅しているしな。」
彼の時が最大のヒントだったのだ。自分で引き起こしたのだから。
「確かに僕も其の報告を聞いた時は耳を疑ったよ。まさか意図的に本能的に気付いて行ったのではないかと。」
「後は・・・まぁ御前もソルドも良く使っていたし、先BDE‐00も見せてくれたよ。御前の猿真似だと言ってな。」
「・・・彼奴には扱えないと、釘を刺した筈だったんだがな。」
本の一瞬彼は目を伏せた気がした。・・・気の所為か如何かは分からない。
「彼の現象は光と闇、二つの魔術を合わせた時に発生する物だ。只同じ魔力を元にしないと上手く発動しない様だが。」
原理は非常にシンプルだ。だが其をしようと言う発想に至らない丈。
同じ魔力と言う事は、一柱の術者が二つの術を発動させないといけない。
別の属性同士を扱う事なんて少ないだろうし、況してや粗対極の属性だ。
再生と破壊の力、其の二つを同時に使うなんて。
然も其の結果生まれたのが彼なら、何て残酷な物だろう。
「・・・本当だったんだな。俺も、初めてだ。こんな事って・・・、」
ガルダも今見た物が忘れられないと許りに目を見開く。
一応事前に仮説は話し合っていたのだが、其でも半信半疑だったのだ。
まるで自分の扱っていた罅みたいに全てを消し去る力。
見えない筈なのに、見ている丈で悪寒がする良くない物。
「其の通りだ。僕達は彼を無と呼んでいる。十二法には入れないが、然う言う現象として扱っている。見付かったのも割と近年だから其処迄知られていないが。」
「無・・・虚無、か。確かに然う言った方が分かり易いな。」
近年見付かったのか。だったら調べる価値はあるな。未だ未知な所が数多くあるかも知れない。
「・・・ソルドが随分と君の事を嫌っていたけれども其の理由が分かった気がするな。」
本の少し丈、フォードが笑った気がした。然うは言いつつも別段彼自身は自分を其処迄嫌ってはいない様だ。
研究資料を壊されて嘸御立腹だろうと思っていたのに、もう機嫌を直した風にも見える。
「彼はプライドが高いからな・・・君に追い付かれるのが気に入らないんだ。けれども其が分かった所で、次は如何する?分かった所で止められる物じゃないぞ。」
其の通りだ。扱いだって向こうの方がずっと慣れている。
恐らくフォードやソルドは詠唱しない位の小さな術を二つ同時に放つ事で無を引き起こしていたのだろう。
恰も然う言う術であるかの様に見せ掛けていたのだ。
其でも未だ、手はある。
突然セレは大きく飛び上がり、フォードの元へと駆け寄った。
「・・・自滅を狙っているって言うなら、其は浅はかと言わざるを得ないよ。」
只真直ぐ向かうセレに一瞬警戒したフォードだが、無手だと分かると一つ溜息を付いた。
そしてそっと手を向けられる・・・彼が来る。
無は術者にだって見えない。範囲も分かり難いから只でさえ扱い難い。
発動させる所が近ければ近い程自分も巻き添えを喰らう可能性がある。そんな危険な力。
翼を巧みに動かして、右や左に避ける。直ぐ近くで無が暴れているのが分かる。一気に波紋が砕かれる。
・・・分かっていても空恐ろしい物だな。少しでもずれていたら簡単に消されるからな。
扱いに慣れているとは言え、こんなちょこまか動く的迄は当てられない様だ。其でも先みたく大魔術を使われても恐いので一定距離以上は近付かないが。
「光弾衝!」
避け続けるセレとは別でガルダが術を放ち続ける。
態々此方迄無を使う事もない。リスクが大き過ぎるからな。
何とか対処しようとフォードの放つ無も大きくなり、活動的になる。
辺り構わず破壊し続ける無に因って部屋は殺風景になって行く。
遂には壁に迄無は広がり、大穴が幾つも開いて薫風が流れた。
其の薫風を受け、更に速度は増して行く。
「まさか魔力切れを待っている訳でもないんだろう?」
埒が明かないと判断したのかフォードも翼をはためかせ、一気にセレに近付いて来た。
ガルダの方からも狙い難い。万が一セレに当たりでもしたらとんでもない事になる。
加えてフォードの飛行能力は思っていた以上に高かった。
若しかしたらセレと同じ位上手いと思われる。
セレも可也接近した彼に焦った様で高度を変えたりして何とか遠ざけようとしていた。
こんな近いと・・・流石に全て避けられる気がしない。
多少の反動も気にせず全力で無を放たれたら一撃で呑まれる可能性もある。
セレは壁の瓦礫に爪を掛けると一気に方向転換した。
出遅れたフォードを光の術が追うが、無で消されてしまう。
「・・・序でだ。」
其の儘伸び上がった無はセレの進行方向を塞いだ。
今の彼女は波紋も満足に扱えない、一瞬反応が遅れる翼の先を呑まれてしまった。
「っ私より速いのか此奴は、」
「光爪」
其の間に一気に迫ったフォードの手に光の刃が握られる。
「ガァアアァッ‼」
セレの短い吼え声が上がった。脇腹を其の刃で裂かれたのだ。
一気に血が溢れてオーバーコートを濡らす。
押さえていた所で止まる様子もない。
「・・・動きが悪いな。既に誰かにやられたか。」
御名答、BDE‐00と同じ所を狙うなんて。
元から簡易的な止血しかしていなかった所だ。少し刺激がある丈で簡単にぶり返してしまう。
此以上逃げ回った所で少しずつ削られる丈だ。何とか体勢を立て直さないと。
壁を蹴り、転がる様にセレは床へと着地した。
其処へ直ぐ様ガルダも向かう。
「セレッ!余動くなよ、其の怪我はっ、」
「っ未だ一撃、貰った丈だ。」
強がっても血の気が引いて行くのが分かる。・・・内臓をやられているダメージが響いている。
「セレ、逃げ乍らじゃあ彼のやり方は無理だ。俺が止めるから其処から動かないでくれよ。」
「でも其じゃあガルダが、」
「何の為の守護神なんだよ。」
少し丈笑ってセレとフォードを遮る様に立つ。
そんな彼の背にフォードが放った光の陰霖が突き刺さる。
彼の時、セレを一気に致命傷へ持って行った彼の技だ。
陰霖が俺の全身をバラバラに貫く。
腕や脚や翼や尾を、一本であれば刺さる丈だが複数重なれば千斬れてしまう。
頸丈は気を付けて、千斬れては再生を頓俺は繰り返す。
噫、全身をぐちゃぐちゃにされる感覚、屹度此は俺しか知らないだろう。
何丈壊れても直ぐ治る、痛み丈を残して又新たな傷を付ける。
でも俺が此を受けなきゃ御前が斯うなっていたんだろ?御前が受ける筈だった傷なら、せめて俺が肩代わりしたい、此以上背負わせたくない。
・・・まぁ俺が傷付く方が彼女は傷付いた顔をするんだけど、其でも俺は、
何度でも言う、何度でも伝える。此が俺の誠意だって、此が俺なんだって。
此は俺のせめてもの我儘、此の力を以って証明する。
セレは大きく目を見開いて苦しそうに俺を見詰めていた。
自身の怪我にも気付いていないんじゃないかって程、苦しそうに。顔色一つ変えなかった彼女が、今は震えていた。
そんな顔をしないで欲しい、然う心から想っている半面、俺は何処か嬉しく思ってしまう。
有難う、そんなに俺の事を想ってくれて、御前丈なんだよ。俺を真っ直ぐ然う見詰めてくれるのは。
・・・彼の時から変わらず、只御前一柱だ。
だから俺は一緒に行きたい。置いて行かないで欲しい。
そっと俺は片腕を伸ばしてセレの頬に触れた。
本の少し丈、彼女が身を預ける。其の儘緩りと撫でる。
彼女はじっと目を閉じた。そして集中する。彼女にしか出来ない事を。
「・・・分かった。」
ぼそっと聞こえた其の声を合図に俺は一気にセレを抱き抱えて駆け出した。
狙いが逸れてフォードの術が無駄打ちになる。
其の間にすっかり俺の背は完治した。
「っ⁉い、いやガルダ此はっ、」
「・・・怪我してたのを黙っていた罰。」
セレは気不味そうに外方を向いた。
まぁ彼女の性格からして絶対言わないだろうな。
避けているとフォードの術が解けた様で光の陰霖が止む。
其の際にそっとセレを放すと何か言いた気な様子で此方を見ていた。
一寸頬は赤いが此方を睨んでいる・・・いやでも斯うでもしないと逃げられなかったじゃないか。
「・・・確かに魔力を見てみたいから触れさせてくれとは頼んだけれど、こんな方法じゃなくても、」
何だかごにょられた・・・可也不服そうだ。
然う、元々俺がこんな大胆な行動を取ったのはセレに頼まれていたからだ。
何をする気なのかは、正直未だ分かっていない。只セレには何か策がある筈。
無の存在は勘付いていたんだ、まぁ・・・俺の魔力を調べた所で一体何が分かるんだろうって所だけれど。
・・・って言うより触れる丈で分かる物なのか?言われた通りにしたけれども一体何をしたんだ?
若しかして俺の中の魔力と話したり・・・とか?ん、其は一寸恥ずかしい・・・。
「と、兎に角此で何か分かったか?」
二柱して気不味くなって来た所で追い打ちを掛ける。
何の道余裕なんて無い訳だし・・・。
セレは頭を掻いていたが一つ小さく頷いた。
―噫、此からは立ち回りを変えて行くつもりだ。少しフォードの出方を見たい。只ガルダは好きに攻撃を加えてくれ。今度は私が御前に合わせる。―
「お、俺にか⁉」
つい声に出してしまった。セレが俺に合わせる?一体如何して然うなったんだ?
そんなの初めてだ・・・好きにって如何すれば良いんだろう。
「そ、其は良いけどセレ、怪我は大丈夫なのかよ、血が、」
満足に止血出来ていない筈、未だ血が滴っている。
表情には出ていないけれどもダメージは可也負っている筈。
「動けないなんて言ってられないだろう。此処で畳み掛けるしかない。」
うぅ、其を言われたら何も言えない。此処で逃げる訳にも行かないし。
「・・・休憩は終わったか?」
「っ避けろガルダ!」
セレが尾をピシリと打ち、慌ててガルダとセレは反対の方向へと飛び退いた。
其処へ光の槍が刺さる。下手したら二柱仲良く串刺しになる所だった・・・。
俺は大丈夫かも知れないけれど完全にセレは致命傷だ。一撃一撃が矢っ張り重いな・・・。
「光華咲!」
ガルダを中心に純皓に輝く華で溢れる。
「咲皓散」
術の基本、繋げて発動する事で威力の底上げを計る。
フォードの魔力は桁違いだ。あんな大技を幾つも放って置いて息も上がっていない。
天使、と言う種族の差なんだろうか。まぁ確かに天使って言うと其処等の人間よりはずっと勁そうだし。
其に彼は其処其処永く生きた神だ。知識も半端ないだろう、だからこそ無なんて扱っているんだし。
俺は只、フォードを攻めよう。セレの事は本神に任せて、俺は俺の全力を。
何処からか凱風が吹き抜け、華片が一気に散らされて行く。
其の華片一枚一枚が小さなナイフだ。何もしなければ全身細斬れになる程の威力がある筈。
無数の華片が舞ってまるで皓い嵐だ。
其を真っ直ぐフォードへぶつける。
「efink」efink」efink」efink」
セレの詠唱が低く無数に繋がれる。
彼女が握り締めていた零星を放つと全てナイフの星座を作り出し、華の嵐へと巻き込まれて行く。
嵐に舞い上がった零星は大きく弧を描き、前後左右フォードを取り囲む様に襲い掛かる。
本来なら絶対絶命の状態、逃れたいならば力を使うしかない。
全てを破壊する力を、此方にぶつけてしまえば良い。
一瞬フォードの手に曦が集う。
彼が合図、今から二つの術を合わせて放ち、無を作り出す筈。
連撃を加える訳でもなく、じっとセレは彼を見守った。
まるで何かを待っているかの様に、不敵に笑って。
「っ、何だ此の反応は、」
一瞬手に違和感を覚え、怪我も厭わずにフォードは大きく後退した。
羽搏いた事で翼に何本もナイフが刺さる。其でもフォードは何かから逃れる様に下がって行った。
其の刹那、膨らんだ無が大きく弾ける。
無は一気に華の嵐と残りのナイフを呑み込んだ。
爆発的に広がった無はあっさりと其迄フォードが居た所も呑み込み、一頻り暴れて消えて行った。
「嫌になる程勘が鋭いな。」
「・・・一体何をしたんだ。」
直ぐ様フォードは治癒魔術を掛けてさっさと翼を治してしまう。
其でも彼に初めて与えたダメージだ。此の手は・・・使える。
「さて未だ教える気はないぞ。知りたかったらもっと無を放ってみては如何だ。」
「別に無に頼らなくても君を消す事は可能だ。」
フォードが手を挙げるのと同時に無数の光の陰霖が降り注がれる。
「流石に此の数じゃあ厳しいな・・・。」
「皓雫!」
下がるセレを庇う様にガルダの術が割り込む。
フォードのと似た術だ。二つの陰霖は合わさり、相殺されて行く。
だが僅かにフォードの術の方が手数が多い様だ。
セレが逃げるには十分とは言え、次第にガルダの陰霖は勢いを無くして行く。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
其の間にセレは零星を追加で束ねて行く。
「慈紲星座。」
ナイフを全て解き、全ての星座を一本へ繋ぐ。
力のうねりを感じる・・・星座の先迄神経を這わせろ。
ガルダの陰霖がもう切れる。其の隙間へと零星を携えて飛び込む。
「enac」
念の為より星座の結び付きを上げ、鞭の様に其を振るう。
大きく鞭は振るわれて陰霖の隙間を縫って行く。
そして一際大きく伸び上がり、フォードの前迄躍り掛かった。
「本当に面白い術だ。でも未だ僕の術は切れていないぞ。」
「いや、其で良いんだ。」
星座の鞭に光の陰霖が刺さる。
其の瞬間、光の陰霖は止んだ。ガルダの術も同様に。
一切消えてまるで時間が切り取られたかの様に静かになる。
「何が起き・・・っ、」
小さくフォードは呻き、背を丸める。
気付けば翼が大きく欠けていた。血が溢れ出て銀の翼を斑に染めて行く。
「・・・一寸狙いが逸れたか。」
もう一度鞭を撓らせてフォードに狙いを付けて放つ。
「光斧」
迫る鞭に向けフォードが光の斧を編み、ぶつける。
だが斧は鞭に吸収でもされたかの様に触れた途端掻き消えてしまった。
加えて勢いも殺せなかったらしく星座の鞭はフォードの肩を打った。
「っぐぅう、」
鞭は思い切りフォードの肩を斬り裂いた。
斬られたと言うより穴が開いたと言う可きか。ぽっかりと肩回りの肉が無くなり、一瞬遅れて血が溢れ出て止まらなくなる。
「まさか其の術・・・無を纏っているのかっ!」
治癒魔術を掛けてじっとフォードは撓る鞭を見遣る。
・・・流石頭の回転が速いな。気付かれなきゃ此の儘消え去る迄打とうと思っていたのに。
下手な抵抗をされない様にと又鞭を振るったが、咄嗟にフォードは鞭に向けて無を放った。
無と無がぶつかり、爆発的に広がる。直ぐ様自分は鞭の星座を千切って放った。
「っ何だ此は、操ってる・・・のか?」
ぎりぎり治癒した翼を広げてフォードは大きく後退する。
其の後を追う様に無は暴れて消えてしまう。
・・・結果は上々と言う所か。でも余り此の手、使わない方が良いな。代償も大きい、と。
フォードは今し方起きた事を必死に理解しようとしていた。
研究者としては狂喜する程の未知の体験だったのかも知れない。
恐らく見た事なんてない筈だ。此は、自分にしか出来ない事なのだから。
「無を操っている・・・?如何してあんなルート構築が出来る。若しかして僕達以上に君は何か気付いたのか?無がこんな動きをするなんて僕は聞いた事もない。抑如何して今の無は生まれた。君は其の妙な術しか扱っていない筈、でも彼は魔力の結晶体で・・・、」
「そんなに気になるならもう一回試せば良い。」
フォードが考え込んでいる間に此方も準備は出来ている。
散らばせた零星を戻している。問題は此が何時迄持つかだな。
―・・・上手くは行ったみたいだけど大丈夫か?―
―噫、もう少し確かめたらガルダも協力してくれ。―
―俺に出来る事なら・・・そりゃあ手伝うけど。―
正直俺としては何が起きたのかすら分かっていないから余り高度な事は出来ないけれど。
でもフォードのあんな驚いた顔初めて見たな・・・。と言う事は余っ程の事が起きている・・・筈なんだけど。
見様に因ってはフォードの光の術が突然無になった様に見えた。
其を若しかしてセレが引き起こしたって事か?そして其の無が星座の鞭に合わさってる?
だからセレが操ってるってフォードは驚いたのかも知れないけれど・・・んー良く分からない。
抑二柱とも当たり前の様に話しているけれども、二つの属性の術を一緒に使うって丈でもう話のレベルが違うんだけど。
そんな器用な真似皆出来る物なのか?魔力だって使うし、干渉力で変になりそうだけど、ちゃんと使い分けが出来る物なのか?
・・・だったらまぁフォードが驚くのも頷けるのか。闇の術を放つ前に消されてしまったから反応が遅れたのか。
だとしたら猶の事変だ。先セレは無を作るには同じ魔力に因る闇と光の術が合わさらないといけないと言った。其が既に覆えされていると言う事か?
セレが零星以外を使った風には見えなかったし、じゃあ一体何をしたんだ?
・・・っ、若しかして、
理屈は分からなくても一つの可能性をガルダは導き出した。
其の上での協力なら・・・俺も出来るかも知れない。恐らく調整はセレ側でやってくれると言う事だ。
「・・・是非とも其のトリックを知りたい物だな。」
「冥途の土産としてなら教えるかも知れないな。」
「・・・変わらないな、君は。」
フォードが笑った気がしたが其も一瞬で、飛び退く代わりに光の術を放ち始める。
詠唱も無いから余り威力は無いだろうが、効果が分からないな。
真直ぐセレに向けて曦の弾が迫り来る。
誘っているのだろうか。もう一度彼を見たいと。
確かに無にしてしまえば直前の術の効果なんて関係なくなるからな。・・・然う言う使い方もありか。
とは言え余り近付かれた上で無が起きれば此方も無事ではない。
自分は決して無を効率良く創れる様になった丈で操れる訳ではないからな。
弾の隙間を縫う様に飛び立ち、今一度フォードに接近する。
擦れ違うタイミングで鞭を振るった。追い掛けていた弾を全て無に変えて行く。
「黔影」
そろそろ零星の鞭も限界か・・・魔力を使い切る前にそっと術を添えてやる。
途端に無は爆発的に増えた。
呑まれない様に避けた自分と別方向へフォードが飛び退る。
見えている・・・訳では無い筈だ。自分の様子から何の位の規模が計っている様だ。
此でもう少し無を操れたら完璧だったんだが、流石に其処迄は現状無理だな。精度が足りない。
ダメージ覚悟で特攻しても良いけれども・・・後で凄いガルダに怒られるのは目に見えている。出来れば怒られる事はしたくないな。
安全に攻めて、果たして勝てる相手なのかは分からないけれども。
フォードを追う形で自分は方向転換をした。
ブレーキを掛け、一気に飛び掛かる。
未だ無は発生し続けている。此の儘囲んで退路を塞ぎたい。
「・・・矢っ張り戦いは嫌いだな。」
ぽつりと呟いてフォードはセレに向けて又光弾を放つ。
可也の量だ。視界が皓一色で染まってしまう。
咄嗟の事につい自分は鞭を振るって光弾を接触させて無数の無を生み出した。
でも此だとフォードは自ら無の檻に閉じ込められる形となる。
そんなに・・・消されたいのか?其とも本当にもっと良く見たい丈か?
更に鞭を振るい、一歩踏み出す。
此で一気に無で押し潰す。
だが鞭が撓った瞬間、先が消えた気がした。
―ッ危ナイ!―
突然の制止の声に慌てて大きく飛び退く。
だが波紋が一気に狭まり、尾の大部分が見えない何かに吞まれた。
「っぐぅうっ、」
何とか声を殺して床を転がり離れる。
急いで体勢を立て直したがもう無は何処にも無い。
・・・此処で尾を取られたのは不味い、バランスがより取り難くなる。
只でさえ出血も酷いし、随分と短くなってしまった尾はオーバーコートの尻尾袋の先で押し当てて止血を図った。
「っセレ、大丈夫か⁉」
「一寸やられたな・・・。未だ反撃が出来るなんて思わなかったな。」
傍に来たガルダの視界からそっと尾を隠す。
ささやかな抵抗だ。故意ではないのだから赦して欲しい。
「未だ理屈が分かっていないのに消さないといけない。戦い程非生産的な愚かな行為は他にないと僕は思うよ。」
此方から追い打ちが出来なかったので当然フォードにダメージは無い。
最初から反撃するつもりで自ら袋小路に入ったな・・・してやられたか。
「でも対策出来たと言う事は大抵起こった事に理解が追い付いたんだろう?随分早く落ち着きを取り戻したな。」
彼の一番厄介な点は其の冷静さだ。
折角此方が怒らせようとか驚かせようとか色々策を用意していても精が無い。
「別に対策と言う程の事じゃあない。妙な方法で無を創ると言うなら其の無を操れなくしてしまえば良い丈だ。其の様子だと別に君も無を完全に制御は出来てはいない様だね。」
図られていたのか・・・全く其の通りだ。制御出来ている訳じゃない。少し誘導させている丈だ。
抑魔力で生き永らえている様な自分が扱える訳ないじゃないか。魔力を消すなんて対極も良い所だ。
もう少し・・・もう少し丈行けるか?
「僕は複数の魔力を籠めた術を放った丈だ。君が生み出した無が制御出来ない様に、様々な無が生まれる様に。実に単純な方法だ。・・・ほら、僕は正直に話したんだから君の方は話してくれないのか?」
「いや何丈研究大好きなんだよ。そんな直ぐ考え付く物なのか?」
研究熱心・・・其は然うだろうがフォードが話してくれたのは別に彼にそんなデメリットが無いからだ。
色んなタイプの術を放ったと。魔力が其々違うから自分の鞭と反応して色々な無が生まれてしまった。
其の所為で自分の波紋でも捉え切れず、滅茶苦茶に暴走してしまう・・・。
良い手だ。味方にならないのなら両者の敵にしてしまおうと言う訳だ。
でもそんな真似、自分は然う直ぐ出来ない。奴が話したのは其の為だ。話した所で自分達には真似が出来ないのだから。
フォードは随分と繊細な術が得意なんだな・・・然う言う意味でも魔術センスはあったんだ。
自分が真似した所で押し負けそうだし・・・。
矢っ張り自分にしか出来ない方法で押し負かすしかないか。でないとより上位の技で返されてしまう。
「此方は未だ秘密だ。どうせ御前の事なら直ぐ正体がばれそうだしな・・・。」
結局は小手先のやり方だ。でも此で攻めないともう後がない。
―ガルダ、適当に攻めて時間を作ってくれないか?そして・・・、―
其の後のセレの一言に一瞬ぎょっとした顔を彼は浮かべた。
途端に苦笑に変わる。彼女の無茶な注文は今に始まった物でもない。
―俺、御前程器用に出来ないぜ?そんなので良いのか?―
―言っただろう?今回は私が御前に合わせる。どんな物でも上手に踊ってみせる。だから大丈夫だ。―
然う言われたら・・・やるしかないだろ。
其に此以上セレにダメージは負わせられない。セレは隠す癖がある。気丈に振舞っている丈で其以上の傷を負っている筈。
フォードに其処を突かれたら御仕舞だ。彼奴は加減する様な奴じゃない。
「散皓!」
翼を大仰に広げて羽根を一気に散らす。其の散らされた羽根一枚一枚に光が宿る。
輝き出した羽根は落ちずに宙に留まる。時が止まった様に、其を後押しする様により一層羽搏かせる。
「皓霖篠!」
羽根が向きを変え、一気にフォードに向けて放たれる。
十分な手数で圧倒させてやる。再生力を上げれば羽根なんて幾らでも生えて来る。
後は俺の集中力次第、根気比べと行こうじゃないかフォード。
「・・・ベターではあるが悪くない術だな。」
無を早速作られたらしく、一歩も動かないフォードに届く前に羽根は消されてしまう。
でも其で十分。無を作り続けなきゃいけないのならフォードだって動けない筈だ。
一応理屈だと無の方が作るのが大変なんだし、先に向こうが魔力切れを起こす可能性だってある。
俺が斯うしている間にセレが十分動けるなら重畳だ。
フォードだってセレを野放しにしちゃあいけない事位察している筈。
でも分かった所で動けなくさせてしまえば良い。此の術は俺位しか扱えない。こんな生命力を、躯を芥の様に使う奴なんていないだろう。
・・・まぁ俺がこんな戦い方をしちゃあセレに何も言えなくなるから其が一寸気にはなるんだけど。
加えてフォードが俺を見逃している可能性もあるんだよな・・・。
フォードは何て言うか、セレに甘い所があると言うか、セレに丈一寸対応が違う気がする。
俺の思い過ごしかも知れないけれど、次は一体何をするのか、見たがっている様な・・・?
フォードにとってセレは研究のし甲斐がある珍獣みたいな物だから、たった其位でしか彼女の事を見ていないのかも知れないけれど。
セレはじっと俺の術を見ている。
凱風を待つ鳥の様に、彼女を中心に魔力が渦を巻く。
噫、セレみたいに魔力が見えない俺でも分かる。彼の魔力は、彼の力は、
高じ過ぎた魔力の所為かセレの全身を包む甲がざわざわと揺れ、鋒がより鋭くなって行く。
パキパキと音を立て、手足の甲が割れて不揃いに大きくなって行く。
此が彼女の干渉力の果てか。拒絶されればされる程、遠くへ行ってしまう様な、手を擦り抜けて行く水の様な。
―ガルダ、此方は大丈夫だ。―
―分かった、行くぞっ!―
「光弩皓綫!」
一度大きく息を吸い、一気に唱える。
籠められる丈の魔力を籠めて、伸ばされたガルダの手から眩い程の光線が放たれる。
散っていた皓い羽根も集まり、更に輝きを増す。
「闇弩黔綫」
数瞬遅れてセレも詠唱を真似て俺のと対照的な黔の光線を放つ。
羽根の代わりに彼女は自らの甲を依代にしたらしく、黔い曦の中で流星の様に輝く物があった。
俺に合わせるって然う言う事だったのか。でも如何して俺と同じ詠唱を?
セレの術は俺のと沿う様に飛び、フォードの目前で一つに合わさった。
本来なら只の相殺となるかの様な術と術のぶつかり合い。
でも其の瞬間、確実に何かが起きた。
時が止まったかの様に、凱風が止んだ刹那、
―っガルダ、下がれ、やられるぞ!―
セレの声が脳内で響き、反射的に俺は大きく飛び退いた。
―未だだガルダ、此の儘じゃあ呑まれるぞっ!―
未だって此より下がれば、塔から、
足に力を籠め、一気に飛び上がる。
凱風を掴んで更に旻へ、気付けばセレもより高く飛び上がっており、急いで俺に並んだ。
「此は・・・凄いな。」
「いや凄い所じゃないと思うけど・・・何が起きたんだ?」
「私も見えている訳ではないからはっきり言えないが、恐らく塔の上階が消し飛んだ。」
「・・・へ?」
言われて改めて鎮魂の卒塔婆を見遣る。
・・・確かに綺麗さっぱり無くなってる。室内がすっきりしたと分かるって事は視界を遮る屋根も無くなっていると言う訳で。
此が無の力なのか?全く分からなかった。彼の儘彼処に居たら俺は今頃、
考えたくもない結論に行き着き、彼の顔が一気に青くなる。
どんなに生命力が、再生能力が優れていても、一瞬で消されたら意味がない。
階下は・・・大丈夫みたいだ。無は上へ向けて暴れたらしく、罅が入っている丈だ。
良かった。俺達の技で仲間が死んでいたりしたら悲劇だ。全く勝利じゃない。
俺達だってこんな避難したんだ。粗直撃したフォードは若しかしたら・・・。
慎重に、開放的になってしまった研究室を見遣るが神影はない。
まさか本当に・・・?確かに今迄のと規模が違うとは言え、こんな・・・。
だが隣のセレは未だ表情を引き締めていた。そして徐にある地点に指を差す。
「先より小規模で良い。似た物を彼処へ放てるか?」
「あ、噫分かった。」
先の術の余波もある。俺はさっさと言われた通りに又光線を放った。
差された地点は搭の端、此方と反対側だ。
直ぐ様セレも似た術を放ち、俺のと重なる。
今回は分かり易かった。無が生まれた瞬間、凱風が吸い込まれたのを感じたからだ。
何もかも無くなってしまうから周りの物が引き寄せられるのかも知れない。先より小さいとは言え、其処其処の大きさだ。
「・・・何だ逃がしたか。思ったより回復が早かったな。」
「え、逃げたって何処にっ、」
「上だ。来るぞ。」
慌てて上旻を見遣ると紅鏡を背にフォードが羽搏いていた。
何時の間に・・・セレの言い方からして先迄は恐らく鎮魂の卒塔婆の壁に掴まっていたんだろう。
翼をやられて飛べなくなっていたのかも知れない。セレの波紋なら反対側とか関係なく見えるんだし。
けれども其の翼も一瞬で回復されてしまった様だ。まさか飛び上がる所も見えなかったって何丈高速だったんだ。
其でもフォードの肩は大きく上下していた。・・・可也消耗している様だ。
「闇波!」
咄嗟にセレがフォードへ術を放つ。
衝撃波の様な物が放たれたが直ぐ様掻き消えてしまう。
つまり、今俺達の目の前には、
事態を察して俺は直ぐに急降下をした。
セレが闇を放ち続けてくれるので見えない筈の無の位置が大体分かる。
飛ぶのが下手な俺の為に見える様にしてくれているんだ。
下降して塔の上階付近へと戻って来る。未だフォードは力を残している、如何すれば。
―ガルダ、一瞬で良い、フォードの動きを止めっ、―
セレのテレパシーが一瞬途切れる。
慌てて見上げると黔の血が掛かった。
「っセレ‼」
右側の翼一切が無い、消されたのか。フォードの無が命中してしまったらしい。
フォードも最初からセレ丈を狙っていたんだ。然うだ、セレを潰されたら俺は脅威でも何でもないから。
セレの表情が一気に曇る。苦しそうに肩口を押さえていたが血は止まらず、もう飛ぶ事も出来ないので一気に降下する。
今は紅鏡も出ている。だから猶の事セレの動きも鈍かったんだ。其処を一気に叩かれた。
セレを受け止めようと走る俺をキッと彼女は睨んだ。
来るな、と言う事か。自然と俺の足は止まる。
頼まれた事を果たせと言う事か。俺には俺の出来る事を。
セレが求めているのは助けなんかじゃない、全てを滅す力だ。
「目障りな方から消せば如何って事は無いだろう。」
ガルダが塔へ降り立ったのを見てフォードも舞い降りる。
息が上がっている。飛ぶのも少々辛かったのだろう。
遅れて散っていた俺の羽根も舞い降りる。無も消えて何事も無かった様に時は戻る。
今更セレの後を追えない。落ちてしまった彼女が無事なのか確かめる術はない。
「皓縷!」
蛇の様に皓い線が伸びてフォードを拘束する。
一瞬彼は目を見開いたが一つ溜息を付いた。
「だから此の程度の力じゃあ意味が無いと言っただろう。せめて君も無を使えれば多少は変わっただろうけど。」
「・・・俺は使えなくて良いさ。セレが、上手に使ってくれるからさ。」
途端塔の四方八方から黔い電撃の様な物が駆け巡った。
地を走る其はジグザグに走り、中央が蒼く光る。
「っ此はまさか、」
フォードを縛る縷に罅が入った瞬間、其等の黔い電撃は彼へと飛び掛かった。
其と同時に舞っていたガルダの羽根も後を追う。
そして其の二つが合わさった瞬間、
「っ此はやばいな。」
冷汗を掻く程の嫌な予感に襲われ、慌ててガルダは搭から飛び退いた。
同時に無が複数一気に生まれて広がって行く。
先のと又違うパターンだ。ランダムに無がどんどん生まれるので全体像も規模も分からない。
見えない何かが化物の様に猛り狂い、滅茶苦茶に塔の上階を破壊して行く。
「如何にか・・・上手く行ったか。」
振り返ると翼を羽搏かせてセレが居た。
右翼がない筈なのに飛べている?一体何をしているんだろう。
飛べているとは言え顔色は悪いし、羽搏く度に右の肩から血が出ている。此はもう休ませないと。
とは言っても塔には戻れない。セレの傍迄飛んでそっと肩を貸すと素直に彼女は掴まった。
「落ちた時は如何なるかと思ったけど、」
「勝ったと思った瞬間が一番危険だって言うだろう?」
冗談っぽく笑う所を見ると、一応元気そうだ。・・・良かった。
「って如何やって飛んでんだセレ、大丈夫だとは思ってたけど自力で上がって来るとは思わなかったぜ。」
「ん、噫零星で翼を作って飛んでいる丈だよ。背中に零星を埋め込んだらちゃんと動かせる様になったし、別に武器しか作れないって事も無いしな。」
言われて良く見ると確かに彼女の右肩に零星が不自然に集まっていた。
規則的に瞬いて動いている辺り、彼が今の彼女の翼なのだろう。
でも零星を背中に埋め込むって・・・其絶対痛い奴だ。良く考えたなって思ったけど全く良い策ではない。
だから今も血が出ているのか。猶の事早く休ませないと、そんな無理して飛ぶ事は無いんだ。
「セレ、じゃあもう俺に乗っとけよ。其以上怪我が酷くなったら、」
「噫有難う・・・大丈夫だよ。もう無も無いし、向こうへ降りよう。」
そっとセレはガルダの肩を叩くと穴だらけになった塔の頂上、研究室へと降り立った。
少しふら付いている辺り、矢っ張り体調は宜しくない様だ。
確実に無理をしている。先の作戦は可也行き当たりばったりだったからな。
彼女の前に自分も降り立ってちらと辺りを見遣る。
静かだ。確かに無はもう居ない。跡形もなく消えてしまった。
そしてそんな部屋の中央でフォードは座り込んでいた。
消されていない丈十分凄い事だ。あんな無の嵐に残されて生き残ったなんて。
でも生き残るのが精一杯だったらしく、彼は随分とみすぼらしい姿になっていた。
右腕は無くなり、両足も虫喰いの様に千斬れている。
輝かん許りだった銀の翼も大部分が欠け、血で絳黔く染まって撓垂れていた。
避けている最中に負傷したのか閉じられた左目から血も出ている。恐らくもう見えてはいない。
回復する様子もなく只座り込んでいるのはもう魔力切れ、と言う事なのだろうか。
ちらとセレが視線を寄越して来る。近付き難いのは分かる。如何しても罠の可能性を考えてしまうから。
「・・・遺言位聞いてくれても良いんじゃないか?話してくれる約束だろう。」
別に約束した覚えはないが、遺言は本当かも知れない。
そっとガルダが足を進めたので自分も続く。
もう此方もそんなに余力を残していない・・・大きな一撃でも隠されていたら十分不味いが。
一応ある程度距離を取って近寄るとフォードは何がおかしいのか含み笑いをしていた。
「こんな死に損ないにそんな警戒する必要があるか?半端な術で先の大技から逃げられる訳ないだろう。全力を出してやっと助かったんだ。・・・此の儘消えるのは惜しかったからね。」
「・・・そんなに秘密が知りたいのか。」
「勿論だ。君の実験を可能な限り最後迄見るのが僕の義務だ。痛みでおかしくなる前に・・・其位良いだろう?」
本当に良く食い付くな・・・根からの研究者と言う事か。
「分かった。じゃあネタばらしだ。トリック自体大した事はない。私とガルダ意外に此処には協力者が居たと言う丈だ。」
「其って・・・魔力の事か?」
控えめにガルダが口を開くとセレは嬉しそうに一つ頷いた。
「其の通りだ。流石ガルダだな。ケルディ達は上手くやってくれたみたいだ。途中から参戦してくれていたんだ。」
矢っ張り・・・。セレの動きが変わった所があったんだ。時間稼ぎを止めて仕掛けていたのは然う言う事だよな。
途中から波紋も復活していたみたいだし、出し惜しみせずに戦える様になったんだ。
「魔力についてはどうせ御前ももう知っているんだろう?私の相知達だ。」
「報告は受けている。如何言う物か見てみたいとは思っていたけど、見た所で無以上に信じられない物だね。只の魔力があんな事を引き起こせるとも思えない。」
―只ノ魔力ナンテ失礼シチャウワネ!―
―其ノ只ノ魔力ニヤラレタ癖ニ!―
フォードは大きく目を見開いた。不思議そうに周りを見ている。
此の反応・・・まさか、
「若しかして・・・フォードも聞こえる質なのか?魔力の声、聞こえているのか?」
飃だって聞こえていたし、魔術の扱いが自分達より上手な彼が聞こえても不思議ではない。
「此が・・・でも確かに普通のテレパシーとは違う?何なんだ此の感覚は。初めてだ。本当に魔力に感情が・・・?若し然うなら今迄一体、」
あ、研究者スイッチが入ったらしい。こんな時でも彼は考える事を止められないらしい。
「セ、セレ、何か・・・俺も聞こえるかも知れない。若しかして俺の事、その、褒めてる、か?」
―然ウダヨー。僕達ノ代ワリニチャント彼女ヲ護レテ偉イ!―
―天使ニ勝ッタ、凄イ!―
「っ凄いじゃないかガルダ!其の通りだ。皆御前を褒めているぞ。」
ガルダは少し顔を赤らめて頭を掻いた。
不思議な体験に二柱共目を白黒させている様だ。
でも如何して急にガルダ迄・・・若しかしてあんな事をしたからか?二柱の魔力と彼等が結び付いた?
だとしたら・・・うーん、何とも魔力って不思議だ。感情、理屈、現象、其等全てを結び付けちゃう物なのか。
本当に世界を如何にか出来てしまうかも、其丈の可能性を感じる。
「う゛、こ、こんな具合だったのか何時もセレが聞いてたのって、その、何か・・・変な感じだな。」
一寸混乱している様だ。まぁ無理もないか。
見えない何かから常に声を掛けられるって、誰も居ないと思っていたら実は傍に誰かが居続けていたなんて、多少ストレスを感じてしまうかも知れない。
―・・・初めて話せたから嬉しいかも知れないが、一寸ガルダと話すのは控えてくれるか?慣れる迄余り驚かせたくないからな。―
―然ウダネー、分カッタ!ジャア彼方ノ天使ニスル!―
―話セル神増エテ嬉シイ!有難ウ!―
ガルダに集っていた魔力達がフォードの方へと流れる。
噫、フォードが犠牲になってしまった。まぁ研究者なんだし、別に喜んでくれるかな。
流石に無で消し去ったりはしないだろう。先に消す可き化け物が目の前に居るのだから。
「何て言うか・・・不思議な体験だな。でも何時もセレは斯うなんだよな。やっと分かったって言うか・・・矢っ張凄いよ御前。」
「そんな正面から褒められると照れてしまうな。まぁ然う言う事だ。気の良い奴等だから少しずつでもガルダも相手してくれると嬉しいな。」
ガルダになら・・・別に構わない。
自分丈に彼等を縛りたい気持はあるが、其は飽く迄も彼等を利用しようと考えた場合だ。
彼等からしても交流がある方が屹度良い。其の相手がガルダなら猶の事だ。
「と言う事で如何だフォード、多少は分かったかな、私がした事は。」
「・・・現状で一気に色んな常識が引っ繰り返されて混乱しそうだけど・・・多少は。君は魔力を味方に付けていた。つまり多少は術を有利な形で発動出来る様にしていた訳だ。でも、其でも分からない、だからってあんな真似は、」
いや十分呑み込めているな、流石鎮魂の卒塔婆の長だ。
「然うだ。魔力達は私の術の手助けをしてくれていた。零星を並び替えたり、御前の術を感知したり、そんな風に私の術を手助け出来るなら、他者の術も同じ様に出来ると思った、其丈だ。」
「っ!待て、其処迄飛躍した事が出来たと言う事か!其は手助け所か真似ている。魔力が術者も無しに術を真似ているなんて、」
可也興奮した様にフォードの口調が荒くなる。
凄い、死に掛けなのにそんなに頭は回るのか。思考の工程を二段位素っ飛ばされている。
ぽかんとした面持ちのガルダと正反対だ・・・此処は彼の為にも一から話した方が良いか?
「真似た。と言うより結び付けたんだな、二つの術を。其でも口で言う程簡単な事じゃない。だから時間が掛かってしまったんだ。ガルダとフォード、二柱の術の特徴、魔力の型をしっかり見て置かないと出来ないからな。」
「噫其で俺にフォードの足止めとかを御願いしていたのか。」
じゃあ触れる様言っていたのも、俺の肌を通して魔力を探っていたって事か・・・うぅ、矢っ張りむず痒い。
「噫、しっかりと魔力達にも慣れさせて、後は頼む丈だ。私の術を二柱のに真似てくれと。」
「真似って其何の意味が・・・あ、然う言う事か。」
無を扱うフォードに対抗するには此方も無を操る必要があるとセレは踏んでいたのだろう。
そんな無の作り方は同じ魔力に因る光と闇魔術の衝突。
けれどもそんなのフォードに勝てる訳がない。経験も違うし、扱いも向こうの方が上だ。
だったら其を崩せば良い。フォードも自分達と同じレベルに落としてしまえば良い。
又は自分達二柱が合わされば超えられる筈だ。
だからフォードの術を、魔力を真似た。彼の術が暴走する様に。
俺の術を真似たのは、俺と二柱で合わせた無を作る為。
う、うーん、何となく話は分かったけど、矢っ張り理屈は分かってもじゃあ如何するんだって次元の話だよな。
俺に同じ事が出来るかと言われればはっきりNOと言えるし。
「良かった。ガルダも分かってくれたか、私のした事。蚊帳の外にはしたくなかったからな。流石に完璧に真似る事は出来ない。其で私の手を離れてもいけないしな。でも表面丈で良い。其丈で無は生まれる。」
此の作戦で唯一問題だったのは、協力してくれた魔力が消滅する可能性がある事だった。
二つの術を結び付け、無が生まれた瞬間に逃げる様言って置いたが、其でも一番危険な役である事に変わりない。
魔力達は如何やら消滅、死に対する概念や感情を獲得していない様だった。
だから思いの外こんな頼みも安請け合いしてくれた訳だが、此方としては余り良い気はしていない。
其は相知なんかではなく、一方的な利用だ。
別に利用する事が悪いだなんて言わない。利用出来る物は全て利用する。其は其で正解だ。
でもこんな所で彼等をそんな風に雑に扱えば何時か報いを受ける。
やっと彼等あっての戦い方を獲得したのにそんな終わりは余だ。
だから成る可く仲良くしようと言うのは本心だ。
幸い今回の戦いで消滅した魔力はないみたいだけれど、帰ったらしっかり彼等に付き合わないと。
正直今回彼等が居ないと勝てる見込みがなかったからな、其位のケアはしっかりしないと。
「信じられない。本当君は何処迄も狂ってるな。こんな出鱈目な事を平然として、・・・いや未だ君だから信じられる余地があると言うか・・・。」
何だか戦っていた時以上に彼の頭の回転が速くなっている気がする・・・。
多分其を止める時は彼が死ぬ時なのだろう。
「ハハッ、最期に面白い物が見られた。僕の百年は・・・無駄ではなかった様だな。実験の途中で退場するのは惜しいが・・・もう僕には結果が見えている。悪くない幕引きだ。」
「・・・じゃあもう死んでくれるか?私の為に殺されてくれるのか?」
痛みでもう意識なんて保てなくなっているだろうに、何とも楽しそうにフォードは笑っていた。
晴れやかに、神とは思えないそんな笑顔で。
「良いだろう、僕はもう用済みだ。あんな物を見せられたら大人しく白旗を上げる。只、」
何処にそんな力なんてあったのだろうか。もう使い物にならなくなっているだろうと思われていた翼をフォードは思い切り羽搏かせた。
そして覚束無い足で何とか立つ。
足は本当にもう支える丈と言った体で、歩く事も出来そうにない。
まさか未だそんな動ける力があったなんて、
身構える二柱に対し、フォードは何がおかしいのか未だ笑っていた。
・・・いや、若しかしたらもう頭が変になってしまっていたのかも知れない。立った所で彼に出来る事なんてもう無いのだから。
「然う身構えないでくれ。先も言った通り僕の負けだ。完敗だ。もう頼れる部下も居ないし、力も残っていない。只一つ丈、最期に用事を思い出した丈だ。」
「用事・・・だと、こんな時にか。」
気は抜けない。何て言ったって此処の主だ。
今の彼には全く敵意は無かった。本心なのだろう、だが、
「久しく行っていなかった・・・兄の墓だ。フフッ、無意味な行為だってずっと分かっていたが、最期に墓参りでもしたくなったんだ。・・・終わるなら彼処が良い。」
「兄って・・・然うだ、ライネス国に殺された兄がいたんだったか。」
「え、然うなのか。俺初耳なんだけど。」
随分前に刹嵐が話してくれた事を懐い出した。
二柱の天使で引っ掛かっていたのは、恐らく此の事だったのだろう。
「一応、然う言う事になってるな。初めから誰も入っていない空っぽの奥つ城だ。」
「・・・遠いのか?」
「いや、直ぐ近くだ。別に付いて来る事もないよ。こんな躯でもギリギリ・・・持つだろうし。まぁ途中で力尽きたって構わない。其でも、彼処から僕は初まったんだ。だったら終わるのも彼処が良いと思った迄だ。」
一柱で・・・行かせる可きだろうか。
斯う話している間にも彼は全身から血を流している。
長くは無いだろう。其の奥つ城に仲間が居なければ、もう彼は助からない。
此の儘此処で殺してしまうのが一番なのだろう。けれども彼の目は本当にこんな時なのに澄んでいて、迚も神のする目とは思えなかった。
だから信じられたのだろう。まるで何もかもから解放された憑き物の落ちた目だったから、死ぬ覚悟はもう出来ていると自然と分かったから。
「僕が死ねば、王との契約破棄として此の鎮魂の卒塔婆は崩れる。だから君達は早く仲間を連れて離れた方が良い。僕は奥つ城を一目見て死ねたら本望だ。僕の此のちんけな神の性が其で終わるなら・・・悪くない。」
ガルダはちらと自分の方を見遣った。判断は任せると言う事なのだろう。
別に拒む事も無いと思った。其位の我儘は聞いてやる余地位ある。
セレが一つ頷いたのを見遣り、フォードは一層翼を羽搏かせて飛び去った。
何とも危うい飛行で、気を抜けば直ぐ落ちてしまう程弱々しい後姿だった。
「・・・終わったな。」
「噫、御疲れさん。」
ポンとガルダに肩を叩かれ、一つセレは息を付いた。
勝てて良かった、本当に。
戦力が未知の相手だったから可也恐ろしかったのだが、如何にかなった様だ。
「其じゃあ言われた通り私達も帰ろう。塔の崩壊なんかで死んだら全く笑えないからな。」
―御疲レー皆頑張ッタノ!凄イ凄イ!―
―チャント見ラレテナカッタカラ後デ教エテネ。―
「う・・・又声がするな。えと然うだな、セレ。早く帰った方が良い、皆にも声掛けないとな。」
二柱しか居ない筈なのに声が聞こえるって本当変な感じだ。
早く慣れると良いんだけど・・・何時もセレはこんなんなんだよな。
「ん・・・皆、大丈夫そうだな。・・・恐い位順調だったな。じゃあ一回集まってから、」
テレパシーでも送っているのかそんな風に彼女は指示を出し乍ら部屋を出ようとする。
そんな後姿を見乍ら、俺は得も知れぬ安堵に胸を撫で下ろしていた。
良かった・・・本当に。
大怪我はしたけれども無事だ。生きている。
俺達はやっと此の呪われた塔から解放される。
失った物は確かにある。でも俺達は未だ前を見て歩いて行ける。
「ん、如何したんだガルダ、皆待ってる。早く行かないと。」
「噫然うだな。帰ろう・・・皆で。」
ガルダが並ぶと静かにセレは微笑を浮かべ、オーバーコートのフードを深く被った。
何処からか吹く温かい薫風に、俺はやっと戦いが終わったんだって実感が持てたのだった。
・・・・・
「・・・何だか久しいな、此処に来るのは。」
何とか翼を羽搏かせ、フォードは荒野へと降り立った。
血の跡がずっと続いて残ってしまっている。奥つ城にこんな跡を残しては何とも不気味で縁起が悪い。
いや抑此処で死のうとしている奴が居る時点で縁起も何もないか。
寂しい丈の荒野にポツンと一つの墓が立っていた。
粗末な石の十字架の様な墓だ。自分が忘れてしまえば其丈で此処は風化して消えてしまうだろう。
・・・本来は此処こそが『鎮魂の卒塔婆』だったのだ。
空っぽの魂なんて入っていない奥つ城、其が僕の全てだ。
あんな立派な塔じゃない、本当はこんなちっぽけな。
自分が来ていない間にすっかり荒れ果ててしまっている。雑草が生え放題で墓石も埃っぽい。
「・・・兄さん、」
自然と口を突いて呼んでみるも応える声なんてありはしない。幻聴も何も聞こえない。
当然だ。こんな所で兄は眠ってなんていない。・・・本当に、空っぽだ。
彼女達も何れは知るだろうか、彼の儘突き進む事が出来れば、僕の言っていた事の本当の意味を知るかも知れない。
「何時か其処迄届くかも知れないよ。」
僕をマンホールの底へ閉じ込めて嗤っていた奴等を笑い飛ばせる程高く遠くへ。
化物がこんな世界を呑み込んでしまえば良いんだ。
兎にも角にも僕の役目は此で終わり、やっと消えられるんだ。何て素敵な事だろうか。
「おやおやぁ、長が塔を見捨ててこんな所で何をしているんでしょうかねぇ。」
一つ溜息を付き、そっと振り返る。
噫、此の儘消えられたら良かったのに。
此処からは只の蛇足だ。
振り返った其処にはソルドが居た。
何とも楽しそうに、奴等と良く似た顔で嗤っている。
最期にこんな奴に会う位だったら、大人しく彼女に殺された方が良かったな・・・。
「まさか、自分で作った化物に仕返しでもされたなんて情けない事言わないですよねぇ?部下も見捨ててそんなみすぼらしい姿で逃げ延びて・・・此の負け狗が。」
「然うだ。僕は負けたよ。自分の実験に溺れたんだ。」
「ククッ、噫何て無様な。もう貴方は不要ですよ。生きた所でもう王は貴方に何も期待しない。じゃあ此処で私が消してあげましょう。王の手間を少しでも減らしてやらないと・・・ねぇ。」
「・・・王の傀儡とも気付かずに、憐れな男だな。王の代行者のつもりか。何処迄も救われないな。」
「煩い。貴方には何も言う資格は無いんですよ。敗者は黙って消えれば良いんですよ。」
彼がそっと片手を出す。
噫、僕はもう直跡形もなく消されてしまう。
其でも・・・少なくとも御前よりは救われたよ。そんな事にも気付けない御前が本当に憐れに僕には写るんだ。
「じゃあ近い未来、僕の作った化物に喰われる御前も又敗者だな。僕と同じだ。御前にだって資格は無い。底辺同士睨んだって何にもならないだろう。」
「私があんな醜い化物如きにやれると本気で思っているんですかねぇ。自惚れないでくださいよ。」
「・・・安心しろ、何れ王も・・・敗者になる。」
僕にはありありと見えるんだ。まるで預言者にでもなった気分だ。
だって彼女が然う言ったから・・・僕は盲目的に信じている丈だ。
「此奴・・・っ、最期に王を侮辱するかっ!」
瞬間ソルドは目を見開き、歯噛みする。
其がフォードが見た最期の景色となった。
「ククッ・・・ハハハハハッ!アハハッ、アハハハハハッ‼」
堰を切った様に笑い出した彼を、ソルドは恐れてしまったのだ。
其でも消えてしまえば何て事はない。只の静寂が戻る丈だ。
勢い余って後ろの墓石も消してしまった。
まぁあんな奴が参る様な墓だ。大した奴が入っていた訳でもないだろう。
「・・・気でも狂いましたか。マッドサイエンティストが。」
彼の化物を作る様な神だ。狂っていない筈がないか。
何はともあれ、此で鎮魂の卒塔婆は壊滅。偉大なる王の塔が一つ失われた事になる。
恥晒しも良い所だ。此の事が光の者に知られて馬鹿にされるのは我慢ならない。
然も壊滅理由が言わば自滅なのだ。自らの実験動物に殺されたのだから。
加えてあろう事か其の実験動物は自分をも咬もうとしている。
本当に面倒事許り増やしてくれた物だ。殺されて当然だったのだ。
別に彼の化物の性格からして光側に寝返った、何て事は無いだろうが、余計な手間が増えた事に変わりない。
今からの事を思うと溜息が止まらないソルドだったが、不図視線を下ろすと目に付く物があった。
石板の欠片の様だ。先の墓の物だろうか。
消えてしまったと思っていたのに。大きく欠けた事で割れて一部が残っていた様だ。
「・・・っ、如何して其の名が、」
其処に刻まれていた文字を見て思わずソルドは顔を顰めた。
クレイスト、其の名には覚えがある。選りに選って此処で其の名を見るなんて。まるで仕組まれていたかの様だ。
いや、奴は生きている。墓なんて必要ない筈だ。抑彼の餓鬼との接点も分からない。
他神の空似だろうと、彼は呑み込む事にした。
今は其よりもやらなければいけない事がある。王に早く知らせねば。
彼のうざったい餓鬼は死んだが事後処理が残っている。
「まぁ貴方の死は無駄にはしませんよ。・・・安らかに眠れるとは限りませんがねぇ。」
薄ら嫌な笑みを浮かべるとソルドはさっさと荒野を後にしたのだった。
・・・・・
「あっ、本当だ塔が!」
ドレミの声に驚いて一同が振り返る。
テレパシーで早々に合流していた彼等は、フォードの警告通り直ぐに塔を脱出していたのだ。
一応行きと同じ様にハリーやリーシャンの背に乗って、屋上となってしまった研究室から飛び立っていた。
そして未だ鎮魂の卒塔婆からそんなに離れていない内に、塔に変化が出ていたのだ。
突然塔の全身を大きな罅が覆い、あっさりと塔は瓦解した。
フォードの言っていた事が本当なら、彼はもう息絶えたと言う事なのだろう。
音も無く崩れて行く塔を、一同は声も上げられずに只見ていた。
「・・・終わったな。」
此で自分の実験だとかの研究の痕跡も可也処分出来た筈。
やっと今日迄続いていた彼の塔、鎮魂の卒塔婆との因縁に決着が着いたのだ。
「皆、御疲れ様だな。今回は私達の・・・完全勝利だ。」
「お、おう・・・オレ、何もしなかった気がするけど。」
「いや付いて来てくれた丈で十分だって。怪我がなかったから良かったって話だろ。」
―其にカーディ、ちゃんと仕事してたで。最後変な装置見付けたやろ。―
「皆無事だったんだよね、凄いよ!本当良かったね。」
「本当やり遂げるとはね。こんな予想外な未来が来るとは思ってなかったわ。」
皆緊張が解れて来たのか銘々口を開く。
然うして薫風に吹かれて飛んで行く。
此で終わった・・・本当に終わったんだ。
そっともう一度丈セレは振り返った。
もう跡形もない、全ては過去になってしまった。
「セレ、」
静かに名前を呼ばれてガルダに肩を叩かれる。
「・・・然うだな、行こう。」
零星となった翼を広げる。
未だ痛む。でも此の痛みは・・・今迄のと違う物だ。
陰りつつある紅鏡を背に、一同は店への帰路を辿るのだった。
・・・・・
静かに時は過ぎて行く
彼の者の詠を聞け、我等を導かん先導者の声よ
我等は共にあろう、望む丈、乞われる丈
さぁだからどうか見せてくれ
彼の壊れた塔に昇る黔い水鏡よ
其の明かりに我らはやっと平穏と未来を見出せるのだから
御疲れ様でした!やっと終わりましたね、此の話を如何に早く書けるかで自分のモチベーションに繋がるので一先ず良かったかな、と。
とは言え、鎮魂の卒塔婆は好きな子が多い所だったので惜しいですね。今後、噫、此の話書きたいっと思う事があるかも知れないので其の時はそっと番外編にしようと決めています。
感想としてはセレの拷問シーンが狂気に満ちていて楽しかったって事ですかね(酷い)。
割と気に入っています、もっと腕を磨きたいですね。
そしてラストのフォードが少しでも幸せそうに書けて一応ほっとしています。彼は秘密を沢山抱えた儘消えてしまったので・・・もう少しだけチラ見せするかも知れません。
別にどこぞのバトル漫画みたく、死んだと思っていたけれども生きていたよ~なんて事はありません。懐い出丈、残っているんです。
取り敢えず達成感も満たされたので又通常ペースで書いて行きます。今度攻めるのはソルドの塔だぞ~覚悟しろよ~。
と言う事で大きな区切りの御話で会えた事を祝して、
次なる縁に期待しましょう。それでは、




