35次元 治める魂亡き塔ト崩壊の足音Ⅱ
こんにちは、バトルの続き回でございます。
今回も誰かが・・・嫌だなぁキャラロスト。
うっかりネタバレをしてもいけないのでさっさと本題は入りましょう(手遅れ)。
過去の清算と言うのは如何しても避けられないからね、仕方ないね。
色々と引っ掛かりを覚える回になると思いますが、少しでも考察等をして貰えると、より楽しめるかも知れません。
(恐らく現状訳わかめですが・・・。)
其でも昔からの伏線の一部に王手が掛かりますので御楽しみに!
「お、おいおい俺達が相手してるのは何だ軍隊か、戦争でもしてんのかっ⁉」
「神一柱だろ・・・応援が居るって、こんなんじゃ呼べないだろ・・・。」
「何言ってんだもう半数以上殺されてんだぞ!」
鎮魂の卒塔婆の入口に兵が殺到する。現場は混乱の極みだった。
塔の兵は粗出払っている。外部にも応援を出しているが情報が行き届かない所為か中々来てくれない。
其も然うか、誰も信じられないのだ。たった一柱の神に塔が圧倒されているだなんて。
抑襲撃なんて然うない事だし、実際に現状を見ている自分達だって未だ信じられない。
やっと掴んだ情報は、相手がフォード様が作った例の化物と言う事。
黔日夢の次元なんて神話みたいな大災害を起こしたとんでもない化物だ。
其が相手なら此の状況も納得出来ると言えば然うだが、其でも例の事件は何処か別の世界の話位に兵達は思っていたのだ。
そんな存在がまさか目の前に現れるなんて、誰も夢にも思っていなかったのだ。
勝てる訳がない、対処出来る訳がないと分かっていても向かわない訳には行かない。
群がる兵を事も無げにセレは始末して行く。実にあっさりと。
「っく、何でこんな所に来たんだ・・・フォード様が対応していたんじゃないのか。」
「矢っ張り復讐とか・・・か?自分を作った存在だからって、」
「暴れている丈だろう?入って来ないなんて暴走している丈じゃないのか?」
相手が到底敵わないと言うのも大きな問題だったが、其よりも不味かったのが何より相手の目的が分からない事だった。
先からセレは只兵を殺す丈で進もうともしない。塔が目的じゃないのか?其とも皆殺しが目的か?
そんな情報が行き交う所為で中々統率が取れず、徒に兵が殺されて行く丈だった。
兵達の混乱も酷くなって行く。
進んでも殺される丈だ。でも逃げた所で・・・。
突然散っていた蒼い零星が爆発する。
其に巻き込まれて兵達の悲鳴と爆炎が飛び交う。
其の渦中を得物を持ってセレが駆け、適当な者の首を狩って行く。
知らない魔術、見えない武器、術の不調、目にも止まらぬ速さで駆ける爪や牙。
迚も同じ神とは思えない。
何より只淡々と同族を狩る化物の姿に、皆気圧されていたのだ。
臆してしまったのだ、適う訳がないと。
其の恐怖が、化物の糧になるとも知らずに。
「・・・さて皆は順調かな。」
手を止めず、小さくセレは独り言ちた。
テレパシーを先から送っているが中々返事が来ない。不思議なノイズも掛かっている気がする。
波紋も塔に向けた途端少し曖昧になってしまうし・・・若しかしてジャミングでもされているのか?
―丗闇、神のテレパシーって阻害する事は可能なのか?―
―一応出来なくはない。特別な装置でバリアを張れば可能だ。若しくは専門の術者がいるかも知れないが。―
―然うか、有難う。やっと納得が行った。―
丗闇とのテレパシーは問題ない。・・・と言う事は距離だとかも関わって来るのか。鎮魂の卒塔婆を中心に働いているのかも知れない。
其の類があるのかな、程度は思っていたが・・・此なら念押しで通信機でも持たせる可きだったか。其が動くか如何かは別として保険は欲しかったな。
一気に駆けて取り敢えず三柱程の首を刎ねる。
未だ未だ出て来るな。別に劣勢でもないし、続けるか。
一応術を放った者から集中的に狙ってはいるが、放たれてからでも十分躱す事が出来る。
余り統率が取れていないな・・・。リーダー格が今不在なのかも知れない。
此方は問題無いとして、向こうか。
まぁ一応自分の加護と、魔力達にも護衛を任せている。何かあったら教えてくれる筈だ。
魔力は存在が然うだからなのか距離や時間の概念が曖昧だ。
瞬時に移動出来たり、情報が伝わったりする。
本当に素晴らしい性質だ。自分も是非とも会得したい物だ。
だからせめて今は、自分が正しく使わなくては。折角の協力を無駄にしたくはない。
けれどもジャミングが張られていると言う事は・・・恐らく侵入もばれているな。自分に向けてではないと思うし。
・・・此は少し早目に切り上げた方が良いか?行方を眩ませてそっと侵入す可きだろうか。
矢張り斯う言う時情報が欲しいな、決め手に欠けてしまう。
魔力に頼むのも手だけれども、斯う言う御遣いは余り上手く行かないんだよな。
結局信じられるのは自分の目だし、仕方がないか。
―・・・?何ダカ皆ヤル気ナイネ。―
―やる気?兵の事か?―
魔力の声にハッとし、少し周りに気を配ってみる。
本当だ・・・何だ此は。
明らかに周りの兵の士気が落ちている?
首を狩る事に必死で中々気付けなかった。確かにやり易くなったとは思っていたが。
如何言う訳か一部の兵が無気力なのか立った儘になっていた。
武器を上げもせず、術も放たない。
只惚けた様に此方を見ている。
試しに数神斬ってみるが・・・只、死ぬ丈だ。
罠でも何でもない。何だ此は。
此が使命だとか?其とも勝機を失ったか?でも其ならせめて逃げたり、怯えたりしないだろうか。
こんな・・・死への恐怖も何も感じてない様な状態になるか?
「っ⁉な、何だ此、は。お、おい如何したんだ!」
兵達も気付き始めて俄に騒がしくなる。
他の兵を揺すったりもしている様だが・・・矢張り反応が無い様だ。
「おい、皆様子が変だぞ。」
「毒・・・か?でも何もないぞ!」
「何か仕掛けたのか?一度下がって、」
―エー何シタノ?不思議、皆人形ミタイ!―
―動カナイノ、ツマラナイノ。―
―いや、私は何もしていないぞ。―
本当に、心当たりもない。
術の様にも見えないし、一体何が起きているのだろうか。
とは言え、見す見す逃がす気も無いので追い掛けるけれども。
余り塔から離れたくないし、適当に兵を間引いて行く。
第三者の介入か?・・・余り考えられないが。でも自分も心当たりがない以上喰らってしまう可能性はある。
気を付け・・・様が無いんだが、まぁ何かあったら魔力達に起こして貰おう。流石に爆発でもして貰ったら起きるだろう。
こんな所であんな屍みたいにはなりたくない。ああなる位なら未だBDE‐01が暴走した時みたいになった方がましだ。
―御所望でしたら今直ぐやりマスヨマスター。野郎だらけなので存分に甘えて下サイ。―
―あ、良く考えたら全くましじゃあないし、此処でなったら殺される丈だから御遠慮いただこう。―
本当に暴走して如何する、一応此は演技なのだから止めてくれ。
自分丈塔にすら入れず死ぬなんて余だ。流石に其は不味い。
暫く下がる兵を追い掛けて狩っていると塔の入口付近が騒がしくなって来た。
・・・誰か来たか?一悶着起きている様だが。
流石に誰か間違って出て来た訳じゃあないだろう。皆上を目指している筈。
「フォード様は何処ですか!」
・・・何か聞こえた。
波紋を広げつつそっと自分も其方へ向かう事にする。
兵も可也始末出来た。そろそろ自分も中へ入りたいが・・・。
近付いてみて分かった。如何やら一柱の正女が出て来て何事か話しているらしい。
何やら機械が付いている正女だ。明らかに周りの兵と違う。
「フォード様は!一体何処へ向かわれたんですか!」
「お、恐らく研究室なのだとはお、思いますが、」
「こんな非常時に如何してそんな事も分からないんですか!襲撃されているんですよ!」
恐らく誰も彼女には言われたくないであろう台詞だった。
「も、若しかして加勢に来てくれたのですか?」
「いえ、私はフォード様を護る為に来たのです!此処は研究室ですか⁉」
徒広い曠野を前に彼女の声が谺する。
「えっと・・・いえ、此処はその・・・外、です。」
「外ですか。如何して私はこんな所に居るのでしょうか。」
さも不思議そうに彼女は首を傾げる。
何と塔から出て来たのは仲間ではなく敵だった様だ。
・・・何だか一寸邪魔をするのも野暮だな。見て置こうかな。
「あ、あの・・・聞かれましても、一体何があったんですか?」
対する兵も可也混乱して来た様だ。襲撃中にも拘らず、何とか彼女の問いに応えようと必死だ。
「確か、通路を物凄い水流が流れて来て、流されてしまいました。まさかあんな奇襲を仕掛けるとは、中々やりますね。・・・っ!分かりました。流されてしまったから今私は外に居るんですね!」
「水・・・?若しかしてアーリー様の、あの、警報は聞こえませんでしたか?」
「噫然うです!何とも騒々しい騒音に因る襲撃もありました!何とか無事でしたが・・・、まさかアーリー様が?敵襲ってまさかアーリー様が裏切ったんですか⁉」
・・・何かずれている。
詰め寄られた兵は何とも困った顔をしていた。
答えれば答える程、事態が泥沼化している様だ。
若しかして例の神はポンコツと名高いBDE‐00だろうか・・・何だかメカメカしているし。
―あんなのとアイが同類だなんて嘆かわしいデスネ。彼の出来損ないを見ているとマスターが少し真面に見えて来マス。―
―噫然うかい、有難う。―
もう流石に慣れたぞ。此の位なら未だ可愛い方だ。
「あの!済みませんが戦ってくれませんか⁉何の道此処が破られると敵を中に入れる事になってしまいます。其はフォード様も望んでいないでしょう。」
二柱のやり取りにじれったくなって来たのかつい別の兵が口を挟んだ。
其処ではっと彼女も顔を上げる。
「フォード様の望み!分かりました。私も戦います!敵は何処ですか!」
「直ぐ其処です!先から見えない攻撃許りで全く太刀打ち出来ないんです。」
ばれてしまっては仕方ない。此方も攻撃に転じるとしよう。
BDE‐00が此方を向くより先にセレは駆け出し、幾つもの零星を放った。
ガルダはポンコツだから出会ったらラッキーだなんて言っていたけれども、御手並み拝見だな。
「此は・・・流れ星ですか?綺麗ですね。」
「っ、ま、又来たっ!」
気付いた兵が逃げようとするが今更間に合わない。
十分に零星を近付けて爆発させてしまえば流石に逃げられはしないだろう。
だが突然BDE‐00のスカウターが光り、絳い光線を零星にぶつけた。
命中した零星は次第に曦と勢いを失い、終に消えてしまった。
「魔力を凝縮させた塊でしたか・・・。折角フォード様へ捕獲して持って行こうと思ってましたが、壊れてしまっては仕方ないですね。」
途端兵達が騒めき、歓声が上がった。
「ま、まさかBDE‐00様が止めたのか?」
「戦えるなんて、聞いた事ないぞ!」
「ってっきり・・・フォード様の御守だと、」
・・・矢っ張り例のポンコツは彼女だったのか。でも今のは紛れか?判断し兼ねる。
けれども零星を壊されたのは初めてだ。其の点丈でも自分からしたらポンコツと言う評価は撤回したいけれども。
一体何をされた?魔力の分解か?
「BDE‐00様!其の調子で御願いします!」
「・・・?私何かしましたか?」
「相手は例の化物なんです、私達じゃあ迚も、」
其処で初めてBDE‐00はセレに気付いたらしく、大きく目が見開かれる。
「ま、まさか貴方は、」
「若しかして知ってるか?」
フォードの所にいる間会っているかも知れないが。まぁ勿論自分に其の時の記憶はないがな。
「忘れもしない、BDE‐01ですね。良いでしょう、私が相手します。」
「BDE‐00様が名前を覚えているなんて、」
「まさか対化物用だったのか?其でフォード様も・・・、」
何だか随分と皆から馬鹿にされている事は分かった。
本神は別段気にしている風でもないが普段は一体如何なのか気になって来る。
「相手して貰うのは良いが、先ずは邪魔なギャラリーには帰って貰おうか。」
一応彼女は上役なんだし、出来れば一対一が良い。
「分かりました、では皆さん帰ってください。」
「・・・え、帰る?」
「いえ私達も共に戦います!」
「ですから帰ってください。でないと私と戦ってくれないんです。」
「別に言う通りにしなくても、一斉に掛かれば、」
軽口のつもりだったのだが、信じてくれたらしい。
其は其で楽だから放って置こう。何時も斯う言う対応をする兵達は大変だな。
「良いから帰ってください!でないと私と戦う事になりますよ!」
いや何故然うなる。
別に正々堂々戦いたいタイプじゃあないだろうに。
恐らく彼女は猪突猛進に突き進んでしまうタイプの神なんだろうな。
兵達も流石にもう引き留める事は止め、すごすごと去って行ってしまった。
全滅は叶わなかったが、此で塔は丸裸と言う事か、攻略し易くなったな。
「有難う、此で戦い易くなったな。」
一応礼は言おう。手間が省けたのは事実だ。
殺し過ぎて又魔力が上がって来ているし、今回は此の位で良いだろう。上げ過ぎて本当に暴走してもいけない。
「えぇ、私は此の日を待っていました。やっと其の時が・・・、」
「・・・と言いたいんだが実は私の暴走が治まったらしくてな。出来ればフォードと話をしたいんだが。やっと正気に戻ったから戻りたいんだ、其方に。」
凄い出鱈目な事を言っちゃった。さて、如何出るかな。
まぁ昔自分は堂々とフォードと対峙しちゃった訳だし、難しいかな。
とは言いつつ、自分としては気付けば鎮魂の卒塔婆に居たのだから、入った覚えも無ければ裏切った記憶も無いんだけれども。
言って実験動物の分際だろうか。前世も今世も扱いは一緒だな。
「戻りたい、ですか。・・・ですよね!フォード様程素晴しい方もいません!然う思っても仕方ないと思います。外の世界を知って、恋しくなったのですね!」
何かスイッチが入った様でBDE‐00は目を輝かせて何度か首を振っていた。
全力で肯定してくれる・・・彼女は偏見等を持たないタイプなのだろうか。
「最近フォード様の魅力を分かっていない輩が多くて困っていたんです。はい、はい大丈夫です!彼の方は偉大で寛容な方です。私も一言添えますので問題ありません!・・・所で、其は然うと何方なのでしょう?」
・・・あれ、気付いてなかったのか?いや先はっきり名前言ったよね?
まさかBDE‐01とセレが結び付いていないとか・・・何だかありそうだな。恐らく彼女の思考回路は一周廻って特殊な作りをしている可能性はある。
其にしても何だかすんなり入れそうだけれども、確かにラッキーと言えば然うかも知れない。
恐らく彼女も色々と苦労して来たのだろう。
名乗っても大丈夫・・・かなぁ、まぁ兵にはばれているだろうし、良いか。変に記録と結び付かなきゃあ良いんだけれども。
「セレ・ハクリューだ。聞き覚えはあるか?黔日夢の次元の、」
「ま、まさか貴方は、」
いや其の反応先もした。
噫そんな驚かないで驚かないで、まるで殺神現場でも見たかの様な具合じゃないか。
若しかしたらやっと彼女の中で先の二つの名前が結び付いたのかも知れない。忘れられないとか言って秒で忘れていたからな。
「まさか・・・フォード様の素晴しさが分かる同志だと思っていたのに、其が貴方だったなんて・・・。」
うーん、流石に此は無理そうだ。
一応事の発端は自分なんだし、当然か。
「確かBDE‐01、私の完成品が作られている筈・・・何て事ですか、私より優秀な仲間が帰って来るなんて・・・、」
・・・ん?
何だか思っていたのと風向きが変わったぞ。
「私に出来るのはブレンド珈琲丈・・・。でも貴方は戦う事も、世界を壊す事も出来る。明らかな私の劣勢、私の力不足・・・。」
何事かぶつぶつ呟いている。
如何しよう、難しそうならもう攻撃しても良いんだが。余り此処で時間を使いたくない。
未だ体力も魔力も余裕だし、寧ろ何かしていないと周りの魔力達が退屈してしまう。
如何しても気紛れな連中だからな・・・。飽きられても困る。
今は他の奴の魔術の邪魔をする様頼んである。好きに悪戯をすれば良いと。
楽しんでくれれば良い。其の間に此方は此方の仕事を済ます丈だ。
けれども何だかBDE‐00とは距離を取ってる様な・・・?
はっきりと姿が見えないので断言は出来ないが、何だか避けている気がする。
科学と魔術は相容れないみたいな、そんな問題だろうか。
うーん・・・ポンコツとは言え、自分としては遣り難い相手の気がしてならないんだが。
「う・・・うぐ、だ、駄目です!貴方を戻す訳には行きません!然うなれば私が捨てられてしまいます。其丈は阻止しないと。」
何だか可愛い理由で断られた。
自分が思っているより彼女は人間味と言うか、らしさがある様だ。
でも確かに其だとポンコツと言わざるを得ないな、可愛いとは思うけれども。
本当に何でフォードはこんな奴を傍に置いているんだ?合理主義の彼と合わない気がするが。
「良いのか?フォードの為を想うならフォードが困っている時より手助け出来る状態にした方が良いだろう?其に私を評価してくれるのは嬉しいが、だったら一緒に頑張れば良いじゃないか。」
―裏切る気満々なのに随分流暢に話すな。―
―然う言う性分な物で。此で目の前でフォードを殺したらどんな顔をするんだろうな。―
―悪趣味に磨きが掛かったな。―
いやーそんな褒められても。
まぁ逆上されても恐いから念の為に先に彼女から壊すだろうけれどな。
「う・・・むむ、確かに・・・然うですが、其の方が、フォード様も御喜びに・・・っ、分かりました。貴方の助言に感謝します。では共にフォード様の所へ行きましょう。」
「噫だったら早くした方が良いな。何か大変そうだし、此の儘直ぐ行こう。アポも取らずに行こう。」
にっこにこと笑顔なセレにBDE‐00は力強く頷いた。
説得に応じるなんて良い子じゃないか。態々敵をボス迄案内してくれるなんて。
適当に付いて行って壊すとしよう。上手く行けば非常に楽な仕事だ。
セレが大人しく付いて来るのを見てBDE‐00はセレを塔へ招き入れた。
鎮魂の卒塔婆の内部・・・久し振りの様で殆ど憶えてないな。
黔い壁に蒼く光る模様、前世では見られなかった物故に物珍しさを覚える。
兵を片付けた御蔭で道中に会う危険も無いな。
下手に話して勘繰られても嫌だし、黙って付いて行く事にする。
BDE‐00は何でもないかの様に塔内を進んで行く。
今仲間達が中で暴れている筈なんだが・・・若しかして此の子、同時に一つの事しか出来ないタイプなのかも知れない。
自分の事を知っていた筈だったのに速攻で忘れたし、鳥頭って奴なのかもな。
然う言えば先フォードが何処に居るのか探してなかったっけ。付いて行って大丈夫かな・・・。
まぁ研究室だって言っていたし、流石に其処へ案内してくれるんだろう。
・・・いや、こんな時に研究室に寧ろ居るのか?何だ其の死ぬ迄研究精神は。
道中のエレベーターに乗り、幾らか上階へ向かう。
終始BDE‐00は無言だ。
正直彼女が神寄りの存在なのか、アンドロイド側なのか判別がし難い。背中に自分のと似た様な黔曜石の装置が付いているが、若し彼方を自分が付けられていたらこんな風にポンコツになっていたのだろうか。其は避けられて本当良かった。
一応彼女は他にも腕や肩、頭等、色んな所に幾つか装置が付いている。恐らく皆フォードが作ったんだろうし、何も一級品なのだろう。自分の零星を壊せたのもそんなスカウターの御蔭だ。
どんな道具も扱う者次第と言う事か。・・・さて、其の辺りは一体如何なのだろうか。
大体中層より少し上の階へ降りた。其の儘ツカツカとBDE‐00は歩き出す。
研究室っぽくなって来たと言うか、廊下の彼方此方に何らかの部品が散乱している。
作り掛け、若しくは壊れた機械の様だ。作り過ぎて此処へ放置されているのだろうか。
そんな廊下を何とか進み、ある部屋に辿り着いた。
先に波紋で中を見たかったのだが、塔に入ってからよりジャミングが厳しくなっている。
殆ど視界と同じレベルだ。此処で使えなくなるのは痛いな。
・・・まさかフォードが自分対策でジャミングを作ったとか・・・ありそうで嫌だな。
部屋に入ると中は薄暗く、一応それなりの広さがある事が伺えた。
所々に天井に届き然うな程高く積まれた瓦礫の山がある。
殆どは廊下にあった機械類と同じ様だ。うっすらと埃が積もっている物もある。
研究室、と言えば然うなのだろうか。けれども誰も居ない様だ。
「・・・此処は、誰も居ない様だな。フォードは別の所か?」
「此処は、私が作られた所です。」
緩りと振り返り、BDE‐00は周りの瓦礫を見遣った。
「・・・そして、貴方のBDE‐01も此処で作られました。」
「然う・・・なのか。」
別に懐い出は一つもない。自分にとって只此は延命装置に過ぎないのだ。
然う言う意味ではBDE‐00も似た物だと思うけれども。まぁ彼女の場合は作り方から違うかも知れない。
BDE‐01は如何思っているんだろう・・・抑思ったりするのかな、ホログラムだけれど。
―・・・別に何も思いマセン。アイが目醒めたのは可也後になりマス。少なくともマスターより先デスガ。―
成程、彼女にとって故郷みたいな所だと思っていたけれども、まぁ然う言う物なのかな。
・・・って感傷に浸っている場合じゃあない。如何やら此処にフォードは居ないのだし、早く次の所を探さないと。
「BDE‐00、紹介してくれるのは嬉しいけれども早くフォードを見付けた方が良いんじゃないか?」
「・・・いいえ、其には同意し兼ねます。」
う・・・きっぱり断られてしまった。
彼女は相変わらず無表情だが何を思っているのだろうか。
「BDE‐01、貴方は何の為に此処へ来たのですか?」
「其は先も言った通り、フォードの所に戻る為だ。然うだろう?」
何の確認だ。今其のポンコツと付き合っている暇はないのに。
と言うより自分は別にBDE‐01じゃないんだけれどな。其は背中の彼女の名称だ。
―デハ、アイが代わりに応えまショウカ。―
突然セレの背にあるBDE‐01が光り始めた。
そして幾つかの部品が外れ、袖等を通って外へ出る。
其等が光線を放ち、回り始めると自分と良く似た薄蒼の皓髪の正女が顕現した。
「お・・・おぉ、何だか久し振りだな。」
背中を弄られた過去が頭を過り、咄嗟にセレは背中を隠す。
でも何で急に、そんな好き勝手されても困るんだけれども。
・・・頼むから余計な事はしないでくれよ。同じBDEの好とか止めてくれよ。
BDE‐01が突然現れた形となったが、別段BDE‐00は驚いた風ではなかった。
彼女はポーカーフェイスが中々得意な様だ。
―アイ達は其のフォードとか言ういかれたマッドサイエンティストを殺す為に此処に来マシタ。・・・此で、満足デスカ?―
「お、おいおい何言ってんだ!私はそんな事一度も、」
―もう何処迄愚鈍なんデスカマスター。もうアイ達の事はばれてマスヨ。もう其の下手な芝居は止めてクダサイ。・・・来マスヨ。―
途端殺気を感じて思わずセレは飛び退いた。
見ればBDE‐00が睨んでいる・・・。此は良くない。
「・・・何時も然うです。私は任務を遂行出来ない。必ず何処か綻んで失敗してしまう。けれども今回は然うは行きません。」
BDE‐00のスカウターが絳く光る。・・・不味い、戦闘準備だ。
「フォード様から事前に言い付かっていました。仲間になると言った者は例え誰であっても、此の部屋に連れて行き、滅する様に、と。」
突然積まれていた瓦礫の山が動き出す。
大事を取って大きくセレは身を引いた。
「特にセレと呼ばれる神は、神を良く唆すからと。全て、フォード様の言う通りになりました。」
―流石マスターデス。其の下劣さは敵にも知れ渡っていたんデスネ。其の上であんな演技をしていたなんて嘆かわしいデス。―
「あーぁ、折角楽して上に行けるかと思ったのに騙されたのは私の方が。此はやられたな。フォードの入れ知恵なら仕方ない。」
其にしてもこんな指示を熟せるなら全くBDE‐00は無能じゃあ無いんだが。誰だポンコツだって言ったのは。
―マスターの方がより無能だったって丈じゃないんデスカ?―
煩い。然う言う事を言うんじゃない。
いや、一応自分だって途中から一寸怪しいな、とは感じていたよ?でもすっかり敵の懐に入っちゃったし、先みたいに急に暴れる訳には行かないよな、位は考えていたんだ。
まぁ何の道入る事には成功したし、良いとしよう。
―敵の管理する豚箱に入れられて侵入成功と言っているのと似た状況デスケレド。―
其の一言が余計なんだよ、全く。
兎にも角にも戦闘ならちゃんと戦わないと。別に先迄のは戦いに入らない、疲れている事もない。
只先零星を壊されたのもある、慎重に戦って損は無いだろう。
「じゃあ先ずは・・・先手必勝って事で。」
セレはオーバーコートの下に隠していた零星を瓦礫の山に放った。
先から動いているし、彼処から何か出るだろう事は見ていて明白だ。此の部屋に誘った意味を潰してやる。
零星が爆発し、瓦礫が飛散し、埃が舞う。
長年使われていなかったのか結構な量の埃だ。其に紛れて一気にセレはBDE‐00に近付いた。
「efink」
一対のナイフを零星で作り、構える。其の儘彼女の首元迄駆け寄る。
息を詰めてがら明きのBDE‐00にナイフを向けたが、見えない壁でもあるかの様に首に届く直前で固まってしまう。
反対の手のナイフも掲げるが同様だ。玻璃の様な堅い何かに当たる感覚がする。
防御壁みたいな物か?只攻撃する丈じゃあ破れそうも無いな。
BDE‐00のスカウターが絳く光る。
其が脳天に当たる前にセレは大きく後退した。
―流石マスターデス。本当に卑怯な手段が御好きデスネ。―
「いや先に喧嘩売ったのは御前だからな・・・。」
ちらと見遣ったけれども当の本神は何とも涼しい顔である。
「・・・と言うより何もしないのか?」
先の攻防で一歩たりとも動いていない気がするけれど。
折角出て来たのに傍観者って事はないよな・・・?
―何を言っているんデスマスター。アイは戦いマセンヨ。弱いデスシ、アイが戦ったらBDE‐01がキャパオーバーを起こして本当に暴走する可能性も出て来マスシ。―
「え、あ、じゃ、じゃあ何で出て来たんだ?」
余此の子と話している暇は無いんだけれども、正直良く知りもしない子と共闘はやりたくない。
其に戦ったらキャパオーバーするって・・・じゃあ若しかして自分、此の子の事も護り乍ら戦わないと暴走するのか?弱点増えた丈なんだけれど。
―一応アイの同族なので挨拶して置こうかと思った丈デス。―
いや挨拶と言うより喧嘩売った丈だけれどな。
然も戦えないなら向こうの方が優秀じゃないか?全てに勝てている訳ではないのか。
―おやまさかマスターはアイの方が劣っていると言うのデスカ?心外デスネ。アイの方がコンパクトで機能が多く優れてイマス。何だって01デスヨ?0と1は全く違いマス!―
「然うか。じゃあ分かったからそろそろ戦ってくれるか?優秀なら暴走しない加減で戦えるよな。」
御前の所為で攻撃のチャンスを一つ失ったのだから其の位の責任は取って欲しい。
埃も段々に沈み、景色が晴れて行く。
其処に立っていたBDE‐00の周りには見慣れぬ機器が浮いていた。
BDE‐00を中心に四つ浮いているが、其々の機器の間を薄い膜が張っている様に見える。
恐らく瓦礫の山の中に居たのだろうが、彼がバリアなんだろうな。
気付けば其以外にも色んな機器が集まっている気がする。皆何かの能力があるのかも知れない。
「・・・其じゃあ貴方は其の自分より劣っていると言った旧式に斃されるんですね。私はフォード様に作られたんです。負ける筈がありません!」
―何を言っているのでショウ。制作者は同じデスヨ。全く此だからおつむが弱い方と話したくないんデス。頭が痛くなりマス。あんなのが良いんデスカマスター。まぁ同じ頭が可愛い者同士御似合いかも知れまセンガ。―
・・・もう君達丈で喧嘩してくれないかな。聞いている此方の方が疲れて来た。
兎にも角にも二柱の仲が悪い事は分かった。もう修復出来ない事も分かった。
せめて素直に戦わせてくれ。まさかこんな言い合い如きでオーバーヒートするなよ・・・。
「先から私の侮辱許り・・・其はフォード様を汚されたのと同じです。もう赦せません。」
まぁ自分も存分に馬鹿にされた所なんだけれども、怒って当然だな、仕方ない。
―良いでショウ。少しアイが相手をしてあげまショウ。―
「あ、戦ってくれるのか。じゃあ任せるぞ。」
正直もう自分は関わりたくないので自由にやって欲しい。
「では行きます!後悔しても遅いですよ!」
BDE‐00が駆け出すと同時にスカウターからレーザーが出る。
自分は難なく躱して様子を見る事にした。
残った瓦礫の上へ降り立ち、そっとBDE‐01の様子を見る。
一応優秀と自分で豪語したのだから流石に見栄ではない筈。一撃で焼き殺されたらもう絶対に赦さない。
念の為零星を近くに待機されていると、BDE‐01は目聡く其の内の一つを見付け、咄嗟に握り潰した。
途端BDE‐01の瞳が輝く。瞳の中にある器具が忙しなく動き、魔力の跡を辿っている様だった。
そして次に右腕を真っ直ぐに伸ばすと其処に玻璃で出来たかの様な透明の壁が張られた。
其処へBDE‐00のレーザーが刺さるが、壁に反射したのかレーザーは屈折し、BDE‐00の周りに居た機器の一つにぶち当たった。
「っ此は、魔力の壁ですか。」
―流石マスターデス。魔力が馬鹿みたいに高いのは唯一の取り柄デスネ。まさか彼の零星一つで此処迄強力な防御壁を作れマスカ。―
「・・・一応そんな事出来るのか。」
勝手に自分の魔力使われているから正直複雑な気持だけれど。
―ですがもう限界デス。此も恐らく次の一撃で壊れマス。だからアイを試す様な真似はさっさと止めてアイを護ってクダサイ。又雌狗みたいになりたいんデスカ。―
「如何して御前が脅す側になるんだ・・・?」
本当奇っ怪な機械だ。一体何処迄自由なんだ。
「と言うよりもう帰って良いぞ。普段の仕事に戻ってくれないか?」
―・・・まぁマスターに戦える事が証明出来たので良しとしまショウ。ではアイは高みの見物とさせて貰いマス。―
然う言い残すとBDE‐01を構成していたホログラムが崩れてあっさりと消えてしまう。
周りの機器も全て自分の背に戻り、元に戻る。
「・・・・・。」
残された二柱は何とも言えない顔の儘見詰め合う事となった。
・・・一体彼奴は何の為に出て来たんだ。
二柱の心丈は一つになった様だ。
別に相手のレーザー一つ反射させた丈だから戦えるって程の働きじゃあなかったし、抑自分の零星が無いとあんな芸当も出来ないんじゃあ役に立ってないぞ。
確かに前殆ど戦えないとは言っていたけれども・・・。此の様なら全く戦えないと言ってくれた方が変な期待もしなかったのに。
「・・・何だか同情します。可哀相な方ですね。」
「有難う。私からしたら御前の方が優秀に思えて来たよ。」
現に同情だなんて、彼奴には無いオプションを持っているし。
「っ!ですよね!私の方が優れていますよね!分かって貰えて嬉しいです。」
「・・・けれども、御前を斃さないと此処から出して貰えないんだな。」
「私も理解者が出来て嬉しいですが、フォード様は至上です。申し訳ありませんがやらせて貰います。」
集まっていた機器が次々とBDE‐00に装着されて行く。
零星で幾つか壊していたんだが、其でも結構あるな。
腕や足が随分とごつくなって来たが、装着中にも関わらずBDE‐00は突然セレに躍り掛かった。
大きく掲げた拳の甲には機器に因るジェットエンジンが付いていた。其処から勢い良く焔が噴き出し、目にも止まらぬ速さで拳が振るわれる。
何とか躱すが、次は足のジェットエンジンが点火し、物凄い速さで自分に追い付いてくる。
「っ闇眩」
あんなスピードで突っ込まれたら堪った物じゃない。
咄嗟に零星の一つを放ち、術で真黔な空間を作り出した。
右も左も分からない様な暗闇の空間だ。其処に突っ込んだBDE‐00は其の儘突進し、瓦礫の山に激突した。
拉げた機器が飛び散り、轟音が響く。
BDE‐00の顔にはマスクの様な機器が取り付けられており、無傷の様だった。
いやいや何だ此のパワーバトル、此の子全くポンコツじゃないじゃないか。
こんなに力に物を言わせる様な豪快な戦い方を見ていると如何してもロードの事を懐い出して臆してしまう。
良くアティスレイはあんな怪物と戦ったよ。粉砕するんじゃないかって自分は冷や冷やしていたのに。
一瞬立ち止まったのかと思ったがBDE‐00はレーザーを放ち乍ら駆け寄って来た。
翼で一気に天井へ逃れ、彼女の背後に降り立つ。
「raeps」
鑓を一つ作り、がら明きの彼女の背へ投擲した。
だが振り向き様に彼女のレーザーを喰らい、零星に戻されて行く。
如何やら彼のレーザーに魔力分解の力がある様だな。
魔術が効かないタイプ・・・余り考えていなかったな。まさか彼女が然うだとも思っていなかったし。
フォードなら何かするかもと思っていたけれども・・・いや、したからこそのBDE‐00なのか?本当に対自分用なのかも知れない。
魔力との連携は難しいかな・・・。魔力達自体が分解されちゃあ困るし。
―彼苦手、近付クノ恐イ。―
―矢っ張り然うか。彼のレーザーに当たったら消えてしまうのか?―
―消エナイケレド、考エラレナクナル?―
―話セナクナル、嫌ダ。―
魔力の意思を奪う、と言う事だろうか。
彼等の存在は未だ良く分かっていないから全てが憶測になってしまうが、恐らく魔力としての結び付きが弱くなってしまうのかも知れない。
術が無理やり分解されてしまうのだから彼等にも影響があってもおかしくない。
此処で彼等を削られるのは痛い。戦力はもっと温存したい所だし。
昔みたいに肉弾戦、かな。向こうも得意そうだけれど。
―分かった。私も話せなくなったら困るし、皆下がってくれ。後で又一緒に戦おう。―
―ウン、頑張ッテ!―
―見タイカラ、見テル丈ニスル。―
魔力が薄まって行くのが分かる。皆下がってくれた様だ。
でも嫌だ・・・か、矢っ張り感情が段々と強くなっている気はするな、聞き分けが良くて良い子だけれども。
さてと、然うと決まったら如何戦おうかな。
又BDE‐00が突進を繰り出したので、ぎりぎりの所で彼女の肩に手を置き、宙返りする様に回避する。
そして離れ際に尾を薙ぎ払い、彼女の胴を斬り付けた。
反射的に手を出したが当たった・・・?
ちらと周りの機器を見遣ると一つ不自然に明滅している物がある。
若しかして先BDE‐01がレーザーを反射させて当てたからか?思ってもみない成果があった様だ。
まさか計算して・・・いや、流石に其は無いだろう。うん、まぐれだ。ラッキーだったんだ。
BDE‐00に気付いた様子はない、此は好機だな。
けれども、此奴、思ったより重いな・・・。斬ると同時に弾き飛ばそうとしたけれども其処迄は行かなかったか。
斬ったと言っても胴のプレート丈だから全くダメージにはならないだろう。此方も中々堅そうだ。
大きく距離を取って降り立つ。
未だ一応波紋が使えたのが幸いしたな。
レーザーで一部は消されているけれども十分カバー出来るレベルだ。
波紋の御蔭で彼女の動きがギリギリ見える。
只見えるのと追い付けるかは別だ。回避は何とか間に合っても次の動作に入れない、何の道其だとやり難い事に変わりない。
後は本神の戦闘経験次第か・・・。スピードを取られているのは痛いな。
けれども見た所只突っ込んでいる丈にも見える。相手自身、其のスピードに付いて行けないのなら此方の物なのだが。
又突っ込んで来た彼女を去なして直後に尾で斬り付けてみる。
二股の尾で彼女の右腕を掴む様にして逆刺で斬り付ける。
本来常人の腕等であれば易々と引き千斬る鋭さを持った尾だ。逆刺をしっかりとBDE‐00の腕の機器に引っ掛けると幾つかの部品が取れ、散らばった。
コードが伸び、小さな火花が散る。
「っちょこまかと良く逃げますね!」
途端BDE‐00は振り向き際に左手を振るい、叩き付ける様に殴り掛かって来た。
反撃は想定出来ていたので又下がって避ける事にする。
床に叩き込められた拳は凄まじい轟音を立てて大きく床を陥没させてしまう。
「っ危ないな、」
距離を見誤っていたら巻き添えを喰らう所だった・・・。
何だか先より威力が増していないか?此の儘暴れたら部屋が無くなりそうな勢いだけれども。
良く見ればBDE‐00の左腕の機器が増え、可也ごつい腕と化している。
若しかして未だ準備段階なのだろうか。
突進をする度に近くの部品を集めていたのか。此の儘巨大ロボにでもなったら困るな。
此は冗談抜きで部屋を壊させた方が良いか?他の仲間が来ても困るけれども。
意を決してセレはBDE‐00に近付き、がら空きだった足を斬り付ける。
装甲を多少剥がした丈だが、まぁ問題無い。
其にしても近付けば良く分かる。随分彼女、大きくなっている。
先ず背が伸びているので自分を常に見下ろしている具合だ。恐らく質量差で叩き潰されたら一発で終わるな・・・。
でも未だ歪にも見える、つまりは未だ大きくなると言う事だ。
叩き付ける腕を既の所で躱す。又床が陥没し、其に足を取られない様気を付けて隙を見ては斬り付ける。
「其の程度じゃあ殆ど効果はないですよ!」
持ち上げた足の隙間を潜って背中側へと回る。
又ロードと戦った時の事が過ぎ、冷汗が出る。
彼の計り知れないエネルギーに戦慄していたのは自分丈なのか。
長期戦になる事よりも、一撃で終わる可能性のある方がずっと恐い。
自分と似たタイプな訳だし、一瞬の判断ミスでやられてしまう。
何が劣っているだ、普通に強敵と対峙しているじゃないか。聞いてないぞ。
背後に回ったセレを掴もうと拳が振り下ろされる。
混乱する僅かな可能性に賭けてもいたが、狙いはずっと正確な様だ。
正確な分、躱し易いのはあるが、つまりは未だ此の程度の動き、許容範囲と言う事か。
攪乱も出来ないのは厄介だな・・・如何しようか、普通に隙が無い。
掠める様に拳を躱す事で又床へと衝撃が加わる。
・・・揺れが酷くなって来た、そろそろか。
誰も此の下で戦っていない事を願おう。頼むから早目に避難してくれ。
もう一度BDE‐00の拳を誘う為、尾で態と足元の装甲を剥がした。
伸びて出たコードを咬んで引っ張る。小さな火花が散った内部へ尾を差し込んだ。
「っ⁉何、を、」
やっとBDE‐00も防御壁が効いていない事に気付いた様だ。
足が一時的に使い物にならなくなったのかBDE‐00の上体は傾ぎ、慌てて手を突く。
手を突く丈でも結構な衝撃だ。
床はもう其の重量に耐え切れず、終に罅で一杯になってしまう。
そして一気に床は割れて崩落を始めた。
逸早く気付いたセレは翼を広げて難なく脱出した。一方体勢を崩していたBDE‐00は其の儘瓦礫と共に階下へ落ちて行く。
床へ叩き付けられたBDE‐00に容赦なく瓦礫の山が乗っかる。
身動きも取れない儘に其の姿はすっかり埋もれてしまった。
下は・・・随分と広かった様だ。余り物が無いが、若しかしたら訓練場の一つかも知れない。
誰も居ないのは幸いだったが、此の騒ぎで来てしまうだろうし、急がないと。
突然瓦礫の山が大きく震え、BDE‐00が飛び出して来た。
如何やら背や足裏にジェットエンジンでも付いているらしく、蒼い焔を噴出して宙に留まっていた。
「矢張り此の程度じゃあダメージは期待出来ないか。」
寧ろ瓦礫の中から新たなパーツでも見付けたのか可也ごつくなっている。
まさか・・・完全体になってしまったのか?
飛べる様になっているし、と言うより普通に大型ロボットになってしまっている。
彼女自身が中へと取り込まれてしまったのだろう。完全にロボと化している。
此は下に来たのは間違いだっただろうか。戦い易い所へ案内してしまった様だ。
「さぁ此処からが本番ですよ!」
大きくBDE‐00は仰け反り、口からレーザーを吐き出した。
咄嗟に急降下し、難を逃れるがこんなに離れても熱を感じる。
何だ此のロボ、高圧力レーザー迄吐けるのか。自分のブレスより上じゃないのか?
レーザーのぶち当たった壁は大きく抉れているし、溶けている様にも見える。
彼こそ当たったら自分は此の堅い手足しか残らないかも知れない。そんな遺体にはなりたくないな。
さて、如何戦おうか。
巨大ロボットなんて初めてだ。何だかSF映画の中にでも入った気分だ。
抑一対一で勝てる相手か・・・?魔物を相手にするのとは訳が違う。
生物は生きる為に躯が作られているが、ロボットは任務を遂行する為だ。つまり余分な所はなく、本当に戦う事丈を考え、戦いこそが目的と化している。
何より、フォードの作ったロボットだ。慎重に挑まないと。
もうBDE‐00だとか、ポンコツだったとか一切抜きで戦うしかない。
自分のBDE‐01は背中のみ、壊れたら自分も死ぬ様な大きな弱点だ。
其が相手も同じだったら良いが・・・一応似た物が背にあったのは見ている。
けれども巨大化した事でしっかり隠れているな。狙いはするけれども一撃じゃあ落とせそうもない。
自分が知っている情報なんて其のレベルだが、如何だろうか。例えばBDE‐01とか何か知らないかな。
BDE‐00がレーザーを吐き終えた瞬間、今度は自分が彼女に向けてブレスを放った。
レーザーを吐いた直後の開いた儘の口を狙って。
機器が幾つも付いた影響で顔はもう人の面ではなく、狗の様になっている。
長く伸びた口に逆流させる様黔いブレスが流れ込んだ。
「っく、此は、熱エネルギー感知、レーザー砲高温注意!」
多少は喰らったのかBDE‐00は慌てて口を閉じ、何度か首を振ると蒸気を出していた。
其の隙に背後へ回り、尾で背甲を一つ剥がして置く。
黔曜石は・・・未だ見えないか。此は時間が掛かりそうだ。
―BDE‐01、何か情報を持っていないのか?相手のでも、何か、―
―別に言える程の情報は含まれてイマセン。抑BDE‐00とBDE‐01は連番な丈で可也構造が違いマス。向こうは戦闘用、自分は生存用、と言った所でショウカ。―
成程、BDE‐01は先で言う生物的な方の機器なのか。其じゃあ戦えないな、機能として入っていない訳だ。
―加えて色々付き過ぎて元のとも変わってイマス。只此は寧ろ付属し過ぎて接合が甘い可能性もアリマス。試すか如何かは任せマス。―
―分かった。今の所手も無いし、其で攻めるか。―
―呉々も負けるなんて生き恥曝さないでクダサイ。然うすれば先話にも出たフォードの所迄行って思いっ切りオーバーヒートさせますので。・・・少しはやる気が出マシタカ?―
―・・・絶対勝つので止めてください。―
何でそんな辱めを自分が受けないといけないんだ。
果たしてBDE‐01が本当にフォードの所迄行けるのか不明だがオーバーヒート出来るのは事実なので本気で頑張ろう。
正直何処でもあんな姿曝したら社会的に死ぬ。どんな様子かすら想像出来ないのが恐い。
・・・いや寧ろフォードが死ぬんじゃないのか?手塩に掛けて作った筈の傑作が態々自分の所迄来てしたのが其って。失神して自害する可能性が無いか?
―マスターにしては名案デスネ、やりまショウ。―
やらねぇよ。
さて、ちゃんとそろそろ戦わないと。現実逃避はもう十分だろう。
狙うとしたら、先と同じ足が良いか。彼のジェットエンジンが壊れれば落とせる可能性がある。
BDE‐00の真下へ滑り込むと爪を先コードを引っ張った中へと突っ込んだ。
此の刃に掛かれば中を寸々にする事位簡単だ。大きくなった分、上半身を足の内部へ滑り込ませる事も出来る。
火花や油が掛かる事も気にせず、滅茶苦茶にセレはBDE‐00の足の内部を破壊した。
耳障りな金属音を存分にさせ、仕上げに内側から装甲を蹴り飛ばして脱出する。
去り際に尾を巻き付け、無理矢理足の先を引き千斬る。
中がボロボロになった分、あっさりと足は接合部分から外れた。
ジェットエンジン毎引っ張り出した其を投げ捨てる。
此で重心が狂う筈、傾いた矢先に背のエンジンも、
其処迄思考を巡らせていると突然尾の一本をBDE‐00に掴まれ、引っ張られる。
「っぐ‼」
尾なんて引っ張られたら尋常じゃない位痛い、背骨を伝って背中迄激痛が走る。
然うか、本来逆刺だらけで迚も触れない尾だが、彼の装甲で出来た手なら掴めてしまうのか。
前世の、取り分け幼少期でしか味わわなかった痛みだ。少し丈恐怖が背を走る。
力の差は歴然なので簡単に引っ張られてしまう。透かさずBDE‐00に引っ張り上げられ、無防備になった自分の胴を掴まれた。
「ガァアァアアァアアアッ‼」
そして一気に握り潰される。
彼の万力で一息に、胸下から腰迄激痛が襲う。
肋骨が折れ、内臓に刺さる。其の刺さった内臓が圧迫で潰されそうになる中必死で蠢くのを感じる。
そんな抵抗も空しく、あっさりと内臓は次々と破裂し、骨と混ざる。
血が、満たされて行く。腹の底で蟠る。
噫、粘着く此の感覚は、久し振りだ。
本当に此の塔は、不思議と自分の前世と結び付く。
此処自体に思い入れはなくとも、刷り込まれて行く。
其は屹度、自分の前世が痛みに因る記憶で出来ているからだ。
・・・何処迄巫山戯た塔だ。自分の傷を嫌と言う程見せ付ける。
だから自分は嫌いなんだ。壊したくて堪らないんだ。
叫ぶと同時に力が抜け、血の気が一気に下がる。
内側から聞きたくもない骨の砕ける音がする。
息も出来ずに大量の血を吐いた。
塊を含んだ様なドス黔い血だ。
血を見ていると牙が疼く。喉の奥から唸る声が上がる。
未だだ、未だ、死なない。
致命傷だろうが、此じゃあ死ねない。動ける筈だ。
幸いにも腕は折れていない、胴丈だったのは助かった。
背骨も何とか無事だ。翼も、指の隙間から出ていたから助かった。
内側で骨と内臓と魔力が混ざって渦巻くのを感じる。
不思議と吐き気は其の一回で治まった。
・・・?何か、躯の感覚が違う?随分軽い様な。
いや、其丈じゃない。
噫、只自分は、私は、壊したい殺したい終わらせたい滅したい破壊し尽くしたい滅ぼしたい消したい、全て全て全て壊して捨てて踏み躙りたい。
赦さない、絶対に赦さないから。
そんな懐いが、次から次へと湧き起こる。
願いが、自分を終わらせない。どんな痛みも闇も全て呑み込んで自分を立たせる。
さぁ刈れ、首を刈れ、御前を終わらせない為に。犠牲の首を用意しろ。
そんな声が頭の奥から聞こえた気がした。
「・・・っ、は、放せ!」
セレが声を荒げるとBDE‐00の手を幾つもの黔い結晶が氷柱の様に貫いた。
セレを中心に現れた其は黔曜石の様に光り、鋭い輝きを放つ。
「こ、此は一体っ、」
手の機能は完全に損なわれてしまった様で、力の抜けた彼女の手から何とかセレは脱出した。
BDE‐00の手は壊れてしまった様で火花を散らし、震えている様だった。
今のは・・・自分が?
一瞬意識が呑まれた間に知らず術を放ったのだろうか。
・・・覚えはないが、随分強力な術だった様だ。あんな苦労した装甲をあっさり貫くだなんて。
別に魔力を消費した風でもない。まぐれだったろうが、ラッキーと考える可きか。
一度BDE‐00から離れてやっと合点が行った。
如何して足のジェットエンジンを壊したのに飛べるのか気になっていたが、何時の間にやら彼女の背には翼の様な装甲が生え、其処からも焔が噴き出していた。
彼がメインの飛行能力か・・・。足のは単に戦闘用なのかも知れない。
痛い一撃を喰らったが、思いの外大丈夫だ。何はともあれ動けるのなら問題はない。
畳み掛けるなら今か。
セレはBDE‐00の視界一杯にブレスを吐いた。
そしてブレスに突っ込む様に一気にBDE‐00に接近し、未だ生きている腕の装甲を外しに掛かった。
爪で一枚剥ぐ序でに反対の腕に刺さっていた黔の結晶も一つ尾で抜き取る。
此の結晶、何で出来ているのか分からないが、可也の強度を持っている。
尾で少々強引に取ったのに殆ど傷が付いていない。自分の顔が反射する程黔く透き通っているが、一体何なのだろう。
まぁ良い、零星と違って此方なら分解されないだろうし、此の儘武器として使わせて貰おう。
ブレスでBDE‐00が眩んでいる内にセレは黔の結晶を手に取り、装甲の隙間に差し込んだ。
少し力を籠めれば耳障りな音を立てて隙間は広がって行く。
仕上げに其の中へ零星を幾つか忍ばせ、再びセレはBDE‐00から離れた。
其の隙に視界の隅でBDE‐00も彼女に気付いたのだろう、残った手を伸ばして捕まえようとしたが、其の腕の内側が突然爆発した。
「っぐぅ、何が、此はっ、」
装甲と共に腕が吹き飛ぶ。
確かに周りの機器は古いのもあってか案外簡単に取れて行くな。分解は存外し易そうだ。
目眩ましを喰らっている隙に腕を両方失ったのだから気が動転するのも無理はない。
「・・・確かに握り潰したのに案外元気ですね。」
「其は御互い様じゃないか?」
一応BDE‐00の五体の内三つは失っている訳だが、其でも壊したのは巨大ロボに於いての手足であり、中の本体は無傷の筈。
外を全て外して其処から本番って、先が長いなぁ。
自分はダメージを負っている訳だし、今は動けているが限界が来てもいけない。慎重に動かないと。
とは言え流石に四肢を外せばBDE‐00も装甲を外す筈。他の部品は落下の衝撃で壊れているし、後一息だ。
体勢を崩す為BDE‐00の背に飛び付き、ジェットエンジンに手を掛ける。
此の翼みたいなの、捥げないか。蹴り付けると先が折れ、エンジンの向きが変わったので大きくBDE‐00の体勢が傾いだ。
良し、此を壊せば落とせる筈、其で、
ジェットエンジンを爪で引っ掻いていると突然BDE‐00の首がぐるりと180度回転した。
え・・・其の首ってそんな可動域広いのか?
気を取られた一瞬の隙にBDE‐00の両目からレーザーが放たれる。
そんな直ぐには対処出来ない、爪もエンジンに引っ掛かってしまっていたので慌ててセレは上体を低くした。
何とか直撃は避けたが翼の先が当たってしまう。
翼の先が欠け、羽根がごっそり持って行かれる。けれども此の位なら未だ飛べる。問題無い。
無い・・・筈なのに、
「・・・っ、ぐ、が、」
突然胸元が苦しくなり、息が出来なくなる。
視界が回り、上体が傾いてセレはBDE‐00の背から擦り落ちてしまった。
四肢に力が入らない。今自分は・・・落ちている?
鈍る頭を何とか振って受身の体勢を取る。
「・・・っ、いった。・・・何だ、一体、」
どんなに受身を取られていても結構な高さだ。躯の彼方此方が痛い。
其に何だか翼が痺れている。直ぐ飛べそうにはない。
何が・・・一体何が起きたんだ。
考えるより先に吐き気が込み上げ、堪らず吐いてしまう。
血・・・だ。又、こんなに。叩き付けられた所為でより内臓を潰してしまったか。
いや、でも其以上に何か、酷く気持悪い・・・何だ此、
―大丈夫?彼ノレーザー当タッチャッタ?―
―噫、でも一寸丈だ。今一寸気分悪くて、―
魔力が戻って来たのか。何とも心配そうな声音だが、見兼ねて来てくれたらしい。
―一寸デモ危ナイ!壊レチャウ、気ヲ付ケナイト、―
―いや私は別に壊れ・・・、―
言い掛けて気付いた。まさか、然う言う事か?
彼のレーザーは魔力を分解する物の筈。そして自分は精霊になり掛けの中途半端な存在だ。
そして精霊は・・・魔力で出来ている。
自分の躯が然う作り替わっていても何らおかしくはない。丗闇に魔力と存在を与えて貰った手前もある。
若しかして先潰されても平気だったのは即座に魔力で置換したからかも知れない。
でも其の魔力を壊されたら・・・元に戻る訳で。
吐き気が中々引かない。血が溜まり続けているんだ。
息も満足に吸えないので何度か咳き込んでしまう。
―・・・私ガ助ケテアゲル。―
―何、を、―
吐き気を押さえる為、強く胸元を押さえていると、はっきり何かが自分の中へ入るのを感じた。
温かい様な、不思議な感覚が・・・広がって行く。
「っ、来る。」
波紋を広げると上空から何か巨体が迫って来ていた。
BDE‐00だ。自分を踏み潰そうとジェットエンジンを切り、落ちて来たのだ。
速い、速いが此の位なら予想で躱せられる。
訓練場の壁ぎりぎり迄一気にセレは飛び退くと数瞬遅れてBDE‐00が地面へ到達した。
激しい轟音が響き渡り、大きく地面が陥没している。
・・・避けられて本当良かった、あんなのが直撃したら確実に煎餅になっていた。
―如何?動ケル様ニナッタ?―
―御前の御蔭なのか?本当に助かった。―
確かに吐き気は嘘の様に引いている。変な咳も出ないし、吐かずに済みそうだ。
―魔力の供給を確認シマシタ。アイも此で通常通り動けそうデス。―
―私ガ貴方ノ内臓ノ代ワリニナッテアゲル!魔力ガ戻ル迄一緒ダヨ。―
成程、欠けた魔力の代わりに此の子が自分の中に入ってくれたのか。
内臓の代わりって、あっさりと凄い事をやって退けるなぁ。
―有難う。助かる、此で又戦えそうだ。―
―コンナ事シタ事ナイカラ変ナ感ジダケレド、頑張ッテミルネ。―
本当に助かった、まさか魔力にこんな力と使い方があったとは。
もう本格的に彼等と離れられない関係になりそうだ。
壁に追い詰めようとかBDE‐00の拳が飛んで来た。
何時の間に再生したんだ。いや、再生と言うより近くの部品を適当に繋げた丈にも見える。
難なく躱すと壁にぶち当たった腕は簡単に潰れてしまった。
元々歪だった腕だ。自身の重みに耐えられなかった様だ。
腕を壊している内に又自分は彼女の手から黔い結晶を引き抜いた。
零星は駄目でも此なら刺さる筈。此で、決められる筈だ。
足元を滑る様に走るセレに嫌気が差したか、BDE‐00はジェットエンジンで軽く飛んだ。
そして又踏み付け様としてか落ちて来る。
其の間に自分は彼の結晶を地面へ斜めに差した。
BDE‐00が迫る。成る可く自分は体勢を低くして結晶の陰に隠れた。
BDE‐00が地面を盛大に踏み付け、大きく地が揺れる。
「っぐ、う・・・。」
何処からか落ちて来た装甲に背を打たれ、小さく呻いてセレは結晶の陰から出て来た。
BDE‐01は・・・壊れてない、な。良かった、流石に其処迄脆くはなかった。
落ちて来た装甲は随分大きい、追撃が来ない内にとセレは直ぐ体勢を整えた。
「・・・此は、やられ、ました・・・ね。」
でも追撃の代わりに来たのはそんな呟きだった。
見ると黔い結晶は見事に彼女の胴を貫いていた。
背迄一気に突き抜け、胸元の装甲が剥がれ落ちている。其が先落ちて来ていたのだろう。
「でも・・・未だ、此は、防ぎ切れますか⁉」
装甲が落ち、コードが覗く内側が激しく光る。
自爆か?いや、此の曦は恐らく・・・光魔術?
BDE‐00が術を使うなんて聞いた事が無い。けれども此の背を撫でる感覚、悪寒は直感で分かる。
化物は曦を嫌うか、益々顕著になったな。
殆ど装甲が落ちて腕としての役割を最早果たせていないが、BDE‐00が掲げた腕だった物に曦が集まる。
「黔障」
詠唱の無い術は厄介だ。一体どんな効果がある術なのかさっぱり掴めない。
抑此処は躱す丈の猶予も場所もない。
となれば、術には術を、だ。
セレの手にも黔い曦が集まり、靄でも立ち込めたかの様に視界が暗くなる。
躯の事もあるので余り強力な術を掛けてはいない。只彼の光魔術の進行を遅らせられれば対処出来ると踏んだ。
本神はもう碌に動けないから魔術に頼ったんだろうし、相殺出来れば十分だ。
然う思った刹那、BDE‐00が嗤った気がした。
面なんて装甲で見えない筈、だとしたら此の予感は・・・自分の直感が告げた物?
何か来る、光魔術なんて目じゃない物が・・・来る⁉
二柱の魔術がぶつかり合う瞬間、セレは翼を精一杯広げて一気に急上昇した。
呼吸も付かぬ程の全力だ。最初戦った部屋の高さ迄上り詰める。
其の時、確かに感じた。波紋の違和感。
常にBDE‐00を探っていた筈なのに其が一気に遮断される。
加えて波紋の距離が一気に狭まった。
魔力は十分放っている、そして此の感覚は久しい丈で決して初めての物ではない。
冷汗が溢れ、セレは天井擦れ擦れ迄飛び上がり、下を見遣った。
実際BDE‐00が放った光魔術はそんなに大規模な物ではなかった。
でも、此丈離れてやっと安心出来た。一時見えなくなっていた波紋も元に戻り、視界が広がる。
然うして目に映ったのは戦車でも暴れたのか荒れ果てた訓練場とスクラップと化したBDE‐00だった。
間違いなく先迄は此処迄荒れてはいなかった、先の魔術の所為だ。
其の魔術でも、二柱の魔術の所為と言う丈ではない、矢張り此は・・・、
―吃驚シタ、危ナカッタネ。彼ニ当タッタラ流石ニ助カラナカッタヨ。―
―・・・彼が何か知ってるのか?―
―良クハ知ラナイケレド、偶ニ起コルヨ。私達スラ消シ去ル良クナイ物ダヨ。―
今自分を支えてくれている魔力の声が内側からする。
魔力すら消し去る物、そして此の久しい感覚は・・・然う、一番最初の次元、勇の所で体験した物だ。
彼の次元での自分の死因は結局良く分かっていなかった。
気付けば見えない謎の空間に喰い殺された感覚だった。其と同じ物が今先現れた。
・・・いや、然う言えば他にも経験したか。彼のソルドと対峙した時だ。嫌な懐い出だから大分奥底に眠らせていたけれど。
彼の謎の空間が現象ならば、其の発生方法は共通している筈。
其が分かればやっと彼の不可思議な現象の絡繰りが分かり然うな物だが。
・・・いや、今は其処迄考え込んでいる暇はないな。可也BDE‐00にダメージを負わせられたが未だ止めは刺せていない。
「流石にフォード様の猿真似程度では勝てませんか・・・。」
BDE‐00の全身から火花が散り、耳障りな音を立てて部品が一つずつ落ちて行く。
セレが床迄降り立った頃にはBDE‐00の本体が現れ、機器の全てを残して落ちて来た。
先貫いた結晶の影響もあり、胸元から脇迄を貫かれている。動く事は出来なそうで、既に彼女の顔色は随分と悪かった。
落ちて来た彼女は其の儘、先迄自分が操っていた機器に背を預けて座り込んだ。
立つ気もないらしく、何処か虚ろな目でセレを見ていた。
衝撃でスカウターも壊れてしまったらしく、彼女は只眼を閉じていた。
「流石、です。流石フォード様の最高傑作。」
もう戦う気も無いのだろう。BDE‐00は呟く様に然う告げた。
血が、溢れ出ている。絳黔く温かそうな血が。
喉が鳴り然うで牙が疼いたのでそっと口元を押さえた。
彼女にも血は流れていたのだ。BDE‐00としてではなく、一柱の神として。
BDE‐00は何度か咳き込み、少し背を丸めた。其の口端には血の筋が出来てしまっている。
「若し、貴方の時間をくれるなら、最期の戯言を・・・聞いて、くれますか?」
「噫、私も少し・・・疲れたからな。」
そっと自分も床に腰を下ろす。
今は未だ魔力が自分の中に居るから動けるんだ。彼が居なくても一柱で動ける様になる迄、休む位は良いだろう。
恐らくないとは思うが反撃されても零星がある。手は出せないだろう。
「・・・貴方は聞いていたより優しい方ですね。BDE‐01とは偉い違いです。」
「本当に優しかったら即首を刈るよ。何の道殺すんだから。」
つい漏れた苦笑を見遣ってBDE‐00は少し首を傾げた。
「そんな物、なんですか。・・・結局、私は貴方には成れなかった。フォード様は貴方を求めていた。でも傍に居られない事は分かっていたから私を作ったんです。でも私は、代わりにも成れない位酷い出来でした。」
「御前が敬愛するフォードを私が殺しに行くけれども、其でも良いのか?」
「・・・えぇ、待っています。彼の方はずっと、百年も待ち続けた。貴方の殺意が、彼には必要だったんです。でも私は持てなかった。愛してしまった、助けになりたいと思った、傍に居たいと思った。其が間違いだって分かっていたのに。」
彼女の独白は誰に向けられた物だったのだろう。
自分の知らない、フォードにでも手向けられているのだろうか。
自分からすれば彼は自分なんて化物を作ったマッドサイエンティストだ。
たった其丈、其以外の彼の事なんて知らない。
・・・邪魔だから殺す。たった其丈。
「貴方にとってはつまらない話ですね。では・・・少し、縁のある話でも、私が・・・壊れる前に。」
彼女から垂れたコードが血溜まりに触れ、小さく火花を散らした。
「実は・・・私も含めて、此の子達は全て失敗作です。皆何かしらの欠陥があって捨てられた。私は、そんな失敗作達を集めて、フォード様が作ったんです。初めから失敗する様に、期待なんてしない様に。」
そっとBDE‐00は自分を支えてくれている後ろの機器に触れた。
彼の巨大ロボも、部屋中にあった機器も、道中に転がった部品も全て、失敗作。
「そんな私がポンコツだって事は自分でも知っています。だから求められる儘に演じていました。だから最後位本当の自分で居ようと思いましたが・・・此の様だなんて本当滑稽です。何処迄も中途半端。」
嗤おうにも上手く嗤えないらしく、何度か彼女は咳を繰り返した。
「でも、フォード様は凄いんですよ、本当。実は私、本当は・・・手足なんて無いんです。心臓も肺も目も脳も声も魔力も息も彼が与えてくれた物なんです。私は、出来損ないの神、自殺して、でも如何してか神になって、又直ぐ自殺しようとしたんです。そんな時に出会ったのが彼の方です。」
嗤い声のつもりなのだろう、彼女は何度か息を吐く。
「死ぬ位なら其の躯を使わせてくれって、もう如何でも良かった私は何も考えずに彼に同意しました。でもまさか魂を使うなんて、えぇ、然うでしょう。彼はマッドサイエンティストですね。何を考えているんだって私も最初は思っていました。」
彼女は魂以外が作り物。
つまりBDE‐00とは、魂を生かす為の装置と言う事になる。
疾うに死んで消える筈の魂を生かし、神として永らえる為の。
では、BDE‐01は、自分は一体何を生かされているのだろうか。
「結局私は新しい躯を貰いました。全く新しい自分へ生まれ変わりました。そんな私に、只彼の方は好きにしろって言ったんです。もう、なんて勝手な神なんだろうと思って、何か言ってやらなきゃと思って、ずっと私は彼に迷惑許り掛けていたんです。」
懐かしんでか彼女の目元は随分と穏やかだった。
段々と話す声に熱が籠もり、最早話す事しか出来ない彼女はすっかり其に夢中になっている様だった。
「実験を態と失敗させたり邪魔したり、そしたら彼の方は、君が生き延びて迄したかった事は此かと笑ったんです。・・・噫、今思っても彼が最初で最後のフォード様の笑顔でしたね。本当、子供みたいに笑って・・・。」
自分には全く想像出来ない話だった。
彼の日々なんて自分は知らない。二柱に起きた物語を自分は聞く事しか出来ない。
其の話を自分なりに組み上げる事しか出来ないのだ。
「そして彼は私に教えてくれました。彼の見たかった世界を、彼の知っていた真実を、其は本当に素晴らしくて美しくて、君はポンコツだから話してあげても良い、僕丈の秘密を教えてあげるって。噫、彼の時は本当に・・・嬉しかった。」
僕の抱える秘密・・・か。
其は若しかしたら自分に繋がるのかも知れない。
誰も知らないと言っていた。彼の実験の真の意味。
けれども彼女は、彼女丈は教えられていた。
然うして演じていたのだろう、ポンコツな憐れなロボットを。
「彼はずっと先を見ていました。私は彼を尊敬していたんです。如何して狂わずにそんな事を続けられるのか、いや、狂っても猶続けられるのか。目指す物が違い過ぎると、同じ物を私も夢見て良いのかと、赦されるなら彼がどんな道を歩むのか、見届けたかった。」
「こんな所で死ぬって言うのに御前は其でも良かったのか。」
「えぇ、私は役目を終えましたから。所詮私は死に切れなかった神です。もう十分過ぎる物を貰いました。此以上は潰れてしまいます、だから終わらせるには丁度良いタイミングだったんです。私じゃあ貴方を止められなかった、全力でも不可能だった。其が分かれば十分です。」
負けたと言うのに穏やかな彼女の顔、死を前にして如何して然う笑っているのか。
自分はそんな彼女を少し丈、羨んでいた。必死に殺す事のみに執着する自分より何て自由なんだろうと。
全て終わらせて、何も憑き物も無く終われるのって何丈幸せなのだろうか。
もう持ち過ぎた自分には出来ない。選べない選択肢、我儘な自分には、恐がってしまう程の。
「・・・今更、貴方に其の話は不要でしたね。分かっているのでしょう、フォード様の目的も全て。貴方達は何処か似ているから。同じ深淵を見た者の目をしています。」
同じ深淵・・・適当に弄繰り回されて作られた化物が、一体何を見ると言うのだろう。
目的、目的なんて、誰とも相容れないであろう其が、自分に分かる物だろうか。
「私は只、其に茶々を入れたかった丈に過ぎません。知れば知る程私の入る余地はないと分かっていたから。だから抗ってみた丈、でももう其も十分です。私は三度死んだけれども、三度目にやっと意味を見付けられた、其で。」
セレが黙って片手を挙げるのを見てBDE‐00は小さく微笑んだ。
「もう一度笑って欲しいなんて、出過ぎた事を思った私は、矢張り何処迄行っても彼にとってポンコツだったのでしょうね。」
刃が振られ、あっさりBDE‐00の首を刎ねる。
首が落ち、溢れた血が勢い良く掛かる。
―矢張り0は1に敵いませんデシタカ。―
「其は向こうの方がはっきり分かっていたみたいだな。」
最期に色々と語ってくれたが恐らく殆どは彼女の独白で、自己完結する為の物だったのだろう。
彼女とフォードの記憶が無ければ全てを理解する事は出来ない。
転がる首の目は閉じられ、薄く笑っている様だった。
自分で納得出来ればどんな最期でも幸せなのだろうか。
神が終わった後の事は分からない。消えた後に、続きがあるのか如何かさえ。
けれども仮にあったとしてそんな続きを彼女は屹度拒むだろう。眠る事を選ぶのだろう。
噫、其は本当に幸せな事の様に思えた。何をしても生きようとしている今の自分よりずっと。
其でも羨むのは終わり。そんな彼女を終わらせたのは自分なのだから。
周りの機器も次第に曦や音を失い、静かになる。
小さな奥つ城の群の様に静けさ丈が其処にあった。
失敗作達の成れの果て、か。
自分も屹度彼女より少し優れていた丈で同じ失敗作なのだろう。
自分は自分を作った者を殺しに行く。自分の為に、全て全てちっぽけな自分の為に。
そんな奴が失敗作じゃなかったら何て言うのだろう。
・・・中々彼女の遺体は消えないな。
一応消えてくれないと完全に死んだか確認が取れないんだが。
作られた躯だって言っていたし、若しかして此の躯は周りの機器と同じ様な扱いなのだろうか。
―・・・大丈夫?動ケル?私モウ少シ此処ニ居タ方ガ良イ?―
「済まない、もう一仕事あるから其の儘居てくれるか?」
まぁ何の道、壊してしまえば問題無いだろう。
跡形もなく消し去って、其処で初めて本当の意味で彼女は死ぬのだから。
・・・・・
「一応此って順調って言うのかな。」
廊下を歩きつつドレミはローズの背に手を翳している。
灯の鎧を纏った彼は今、盛大に燃え盛っているので迚も温かいのだ。
突然の洪水にすっかりずぶ濡れになっていたのだが、御蔭で大分乾いて来た。
「何も来ない内は順調だと思うわ。初めはトラップだったんでしょうけれど、無事出られて良かったわね。」
―まさか壁壊して脱出するって誰も思っていないだろうし、盲点だったんじゃないかな。―
ドレミ、ロード、ローズの三柱は黔い廊下を歩き続けていた。
アーリーに因る水の罠の際、ロードは近くに居たドレミを掴み、取り敢えず外へ繋がる壁を壊して水を外へ出した。
すると拳圧で別の壁も壊れており、隠し通路らしき物が見付かったので其処を進む事にしたのだ。
彼以降何も起きず、すっかり濡れた服も乾く程時間も経った。
緩やかに道は上へと続いているので此の儘進んでも問題無さそうではある。其にしても此処迄順調だと些か拍子抜けするのは確かだった。
前に此処へ来た事のあるドレミからすれば、セレを作れる様な所なんだし、未知の仕掛けの一つ位あるだろうと気を引き締めていたのだ。
けれども現状何もなく、加えて隣にはロードが居る。彼女が居れば大抵の事が起きても大丈夫なんじゃないかと安心してしまうドレミであった。
「・・・っくしゅん。」
―ドレミ大丈夫?僕の背に乗った方が温かいよ?―
「うーん、じゃあ一寸甘えようかな。」
「⁉若しかして風邪を引いたのドレミ⁉無理をしちゃあいけないわ、此処は大丈夫然うだし、少し休憩しましょう。」
いそいそとローズの背に乗る彼女を見遣り、ロードは進ませないと許りにローズの前へ立ち塞がった。
「聖帯」
唱えると石の様に固く冷たい床の上を靄の様な物が包み込んだ。
―え、何此すっごくふかふかする?―
「聖は安らぎを与える力もあるのよ。さ、此で安心して休めるわ。」
ロードは壁に背を預け、廊下に座り込んだ。
ローズはちらと背のドレミを見遣り、其に倣った。
何とも不思議な靄だ。まるで実体がある様に触れられるのに何処迄も沈み込む。
心地良さを覚えてローズは腹這いになり、緩り毛繕いを始めた。
「何だかセレちゃんがすっごく喜びそうな魔法だね。」
―喜ぶ所か捕獲出来ちゃうかも。―
セレも勁いけれども、此の姉さんには敵わないかも知れない。
此の靄ですっかり癒されている内に一発殴られたら、其で決着が着いてしまう。
「さて、只休んでいても勿体無いわ。時間を有意義に使う為にも此を読みましょう。」
ロードは時空の穴から何やら薄い石竹色の本を取り出した。
表紙は見ていないが、何となく何の本かは想像出来る。
「ローちゃん其の本本当に好きなんだね。此処迄持って来ちゃったんだ。」
―で、でも時間を有意義に使うなら此処は読書じゃなくて、作戦会議とかした方が良いんじゃないかな。―
「フフフ、其は貴方達が此の聖書の事を知らないから然う思う丈であって、全て此一冊があれば解決するのよ。此の聖書は読む丈で精神を落ち着かせ、集中力を高めた所で全力で鼓舞してくれるのよ。正に戦う前に打って付けね。」
―鼓舞・・・?え、其恋愛物だよね?そんな熱い物なの?―
失恋した時とかに励まされるなら分かるけれども、戦う前に鼓舞って、
ローズは気付いていなかった、龍生最大の過ちを犯した事に。
興味を一片でも持ってしまうと、もう彼の聖書から逃れられなくなってしまうと言う事に。
「ローズ、何て良い所に目を付けてくれたのかしら。然うよ!此の本は神生の糧!生きる為に必要な事全てが詰め込まれているわ!此の新刊発売が待ち遠しくて生きる事にした神も沢山居るの!」
「えっと・・・其は確かに凄い事だね。ローちゃん何時も其の本に関しては自信満々だもんね。」
「えぇ勿論よ。実際私も此の本の御蔭で数々の神を救えたわ。彼は未だ大神様の宮処に居た時、死にたがっている神を何柱も私は見たの。だから如何にかしたくて、私そっと其の神の前に此の本を置いて行ったの。皆初めは困惑していたけれども最終的には薔薇色の神生へと生まれ変わったのよ。」
何だかとんでもない事実がさらっと明かされてしまった。
え、ロードはずっと遥か天の彼方からそんな事をしていたの?
迷える憐れな神々に此の本を届けて回っていたの?
ドレミは少しローズの背を攀じ登って其の石竹色をした聖書を見遣った。
タイトルは『恋愛&変態 六巻~Shall we love?~』。
・・・うん、ドレミ達の所に此が降って来なくて本当良かった。
セレが変なのに乗っ取られた時に来てくれたのがロード本神で本当に良かった。
多分彼の時のセレだったら嗤い乍ら本破いていたもん。然うしたら屹度ロードに殺されちゃってたよ・・・。
「然うね、ドレミ達は未だ初心者だから此の巻が御勧めだと思うわ。」
―そんな中途半端な巻で良いの?―
「えぇ、聖書は何処からでも歓迎してくれるのよ。」
ロードは早速パラパラと頁を捲り始めた。
何だか嫌な予感がして来たドレミは離れようか考えていたが、ローズに動く気配はない。
随分興味深そうに見ている。多分もう手遅れだ。
まぁ見るにしても高が数頁だ。だったら理性で断ち切れる筈。
別に興味がある訳ではない、関心もない、只の暇潰しだ。
然う何重にもドレミが自身に言い聞かせた所で、目当ての頁を見付けたのか緩りとロードは音読を始めた。
・・・・・
ズガガガガガガガ、と機関銃が高らかに鳴り響く。
其処は貴族の庭であり、一人の男を狙った物だった。
男は軽やかに銃弾を躱しつつ、茂みの一つに入り込んだ。
男はスーツを着こなし、目立つ絳のネクタイと薔薇をあしらったネクタイピンをしていた。
何とも気障ったい様子の彼だが、此の貴族の館では不届き物であり、命からがら逃げ回って来ていた。
此の館にある瞳よりも大きなブラックダイヤモンドを盗みに来た怪盗、と言う訳ではない。
では此の館で何不自由なく大切に育てられた姫とも呼ぶ可き娘を攫いに来たのか、当たらずとも遠からずである。
彼は、余りにも愚かなある罪を犯したが為に此の館から命を狙われていたのだ。
「はぁ全く。一人娘を軟派した丈で殺そうとするかね普通、可愛くなきゃ抑手を出されないのだから其処は喜ぶ可き所じゃないか。」
然う此の男、メタモーフォーズは女と言う女を見掛けたからには軟派せずにはいられないそんな変質者だったのだ。
だが地位も名誉もない此の男、口丈は立派なのである。そんな男がうっかり貴族の娘を誘惑した物だから館の主、娘の父より死と言う禊を行う羽目となったのだ。
「其の普通じゃない御嬢様に貴様が手を出したのがいけないのだろう!」
怒れる執事の一人が機関銃を持って茂みへ突進して来たので慌ててメタモーフォーズは茂みから出て走り始めた。
美女を振り向かせる為に日々の肉体作りは欠かしていない、足には自信があったのだ。
とは言え其は一般人相手の話であり、執事達も又十分鍛え抜かれていたので彼との差は然う開かなかった。
「御前の様な虫螻が御嬢様に付いた所為で、薔薇の華であった御嬢様は枯れてしまったのだぞ!」
「噫其なら大丈夫さ。ほら御覧、此の胸に咲く銀の薔薇は何があっても枯れない二人の象徴だからさ。」
「大丈夫さ、じゃねーぞ此の野郎!」
「しまった、つい何時も女性を口説く癖で、」
「御嬢様をそんな下手な台詞で口説いたのか⁉益々赦せん!」
「いや、もっと酷い台詞だった筈だ。鱈子が何だと・・・、」
「君、駄目じゃないか大事な台詞を忘れちゃあ。正しくは君の唇は何て小さくて愛らしいのだろう。まるで薔薇の花弁の様だね。其の小さな愛らしい鱈子の様な唇をもっとよく見ていたいから一緒にランチでも如何だい?サンドイッチを奢るよ、って言ったじゃあないか。」
「ま・・・まさかそんな身の毛も弥立つ事をぺらぺらと・・・?」
「あ、彼は正真正銘の変態だ。」
執事達はすっかり青ざめて固まってしまった。
彼等の人生に於てそんな台詞、聞いた事もなかったのだろう。
「噫、又何時もの癖で口説いてしまったね。男に興味はないけれども、僕ってば本当罪な男だなぁ。でも其の言葉は誉め言葉として受け取って置くよ。」
調子でも乗って来たのかメタモーフォーズはノリノリだ。
何処に隠し持っていたのか石竹色の薔薇を一本口に銜えている。
其で話せるのはまぁ器用なのだが・・・。
「な、なんだ彼奴、本当に同じ人間なのか?」
「一体どんな教育をしたら斯うなってしまうんだ。」
「御嬢様が面白い人と言っていたがそんなレベルでは、」
執事達の動揺が広がって行く。余りにも彼等と住む世界が違い過ぎたのだ。
目の前の男が宇宙人か何か、同じ言葉を使う丈の未確認生物の様に執事達には写った事だろう。
「おやおや、白けるねぇ、もう君達は降参かい?仕方ないな、此が出来る男の魅力ってね。じゃあ話も済んだし、レティ嬢を・・・、」
「気軽に御嬢様のファーストネームを呼ぶなぁ!」
「何が降参だ、何処に其の要素があったんだ。」
「取り合えず殺せば死ぬんだ、行くぞぉ!」
流石一流の執事であり、落ち着くのが早かった。
男を只の汚物として処理する事で一致団結した様だ。
「な、何だね君達急に。私はレティ嬢の大切な御客様だぞ?」
又機関銃が叫び声を上げて弾を乱発する。
何とかメタモーフォーズは其を掻い潜り、煉瓦塀に身を潜めた。
「又此奴御嬢様の名前をっ!」
「何が客だ此の社会の芥め!」
「芥が偉そうにしやがって!」
「然うだ、口説く暇あったら働け芥!」
「芥に就職は無理だろうがな!」
「溝掃除でもしとけ!そして其の儘溺れて死ね芥め!」
「其の前に俺が此の銃で芥屑にしてやる!」
「其で未だ息があったら引っ捕らえて拷問だー!」
「蜚蠊みたいな奴だし生命力には自信があるだろ。」
「ヒャッハァー!死に曝せぇぇ‼」
言葉の弾丸と共に実弾が煉瓦塀に浴びせられる。
「な、何て酷い言葉だ。私じゃなかったら下手したら死んでいたぞ。全く野蛮人共め。」
強がりつつももう煉瓦の壁じゃあ然う持たない。
一部の執事は回り込もうとしているし、何の道撃たれるのは時間の問題だ。
「っく、私も此処迄か・・・せめてレティ嬢とサンドイッチあーんごっこをしてサンドイッチを喉に詰まらせて死にたかったな・・・。」
諦めの末メタモーフォーズが悔し涙を一滴流した時だった。
「メタモーフォーズ‼」
何処からか彼を呼ぶ声がし、はっとメタモーフォーズは顔を上げた。
其の瞳は何処か希望で輝いている。
「其の声は・・・まさか兄さん⁉」
「弟よ!涙を見せるのは女と結ばれた時だと教えた筈だぞ!」
「然うだぜ、涙は女の武器だ。男の御前が使っちゃあ御鍋になっちまうだろ?」
「兄さん‼弟も、来てくれたのか、私の為にっ、」
普通に柵を開けて現れたのはメタモーフォーズの弟メタモーフィックと、そんな二人の兄、メタモーフォシスだった。
「⁉ま、待て別の一般人が入って来たか、少し下がって、」
「此の度は弟が御迷惑を御掛けしました。」
「え、あ・・・親族の方、ですか?」
取り囲む執事達に向け、メタモーフォシスは一つ頭を下げた。
突然の参入者に執事達は二の足を出せず、一体何が起きているのか状況把握に努めている様だった。
「はい、兄のメタモーフォシスと申します。只私一つ皆様に申し上げたい事が御座います。弟は不出来乍らも正々堂々軟派をしたのです。其を部外者である貴方達に止める権利はありません!二人の愛を阻むなんて事は、人類として恥ず可き行為であり、決して赦されざる事なのです!」
「・・・此奴等も変態だ。やってしまえー‼」
メタモーフォシスの一喝に一同は目を丸くしたが、先に正気に戻った執事達は一斉射撃を始めた。
慌てたメタモーフォシスは二人に合図を送ると急いで別の煉瓦塀へ逃げ込んだ。
「ヒュー!かっくいー‼流石兄ちゃん!」
「いや、しかし彼等は怒りで我を忘れている様だ。此は中々厄介だな・・・。」
「でも兄さん三人揃ったんだ。私達なら屹度、」
「っ然うだなメタモーフォーズ、私達メタフォー隊が揃えば、どんな困難も乗り越えられる筈だ!」
「ヒュー!矢っ張り兄ちゃんは違ぇな!」
メタフォー隊、其は彼等三兄弟の呼び名であった。
そして彼らが集まった所で特に効果はない。
「しかし此の事態は一体・・・。メタモーフォーズよ、一体何が起きたのだ。」
「此処のレティ嬢に何時も通り声を掛けた丈だよ。然うしたら執事達が嫉妬しちゃって、何とか逃げ回った所だよ。」
「レティ嬢なんて随分と高貴な女性に手を出したんだな兄ちゃん。流石兄ちゃんは次元が違う!格の違いを見せ付けられたぜ!」
「でも斯うなってしまっては様無いさ。只他でもない兄さん達が来てくれたんだ。三人力を合わせれば脱出出来るかも知れないっ!」
「此の馬鹿野郎‼」
突然兄であるメタモーフォシスは目の色を変え、メタモーフォーズを殴った。
拳が振られて凱風が唸る完璧なパンチである。不意を突かれたメタモーフォーズは大きく吹き飛んでしまった。
「ん、一人出て来たぞ彼奴を狙え!」
「ってて・・・って、危ねぇえ‼」
機関銃が鳴り響き、慌ててメタモーフォーズは何とか這って煉瓦塀へ戻る。
本当に危なかった・・・這った所を綺麗に銃弾が沿っている。
「な、何をするんだよ兄さん!」
「馬鹿な事を口走った貴様の目を醒まさせた迄だ。如何だ、目が醒めたか?」
「危うく永眠し掛けたよ!」
「全くメタモーフォーズよ、貴様迄我を忘れて如何する。貴様は今、とんでもない過ちを犯す所だったのだぞ。逃げろなんて私は一度も教えていないぞ。」
「逃げるなんて、私はそんな事は、」
「否逃げている。・・・変態からな。」
其の一言でメタモーフォーズは目を大きく見開き、口を戦慄かせた。
「変態!其は俺達の希望、個性、アイデンティティー!恋愛の為なら世間から後ろ指を差されても其を誇りに愛した人を護り抜け!俺も兄ちゃん達に教えられたんだぜ。」
「そんな・・・まさかそんな大切な事を、私は忘れていたなんて。くっ、メタフォー隊として失格だな。でも兄さん達に言われて目が醒めたよ。」
メタモーフォーズの瞳にもう迷いはない。ちゃんと自分を見付けられたのだ。
「私の口説いた人は今、彼の館に居る。だから私は彼女に会う為に行かないといけない。けれど兄さん、彼の執事達は一体如何するんだ?」
メタモーフォシスはじっと館を見詰めた。
彼の館の最上階の一室、窓掛の向こう側で屹度彼女は、
レティ嬢は、私達を待っているっ‼
然う強く確信し、拳を握り締めた。
「愛の前に彼奴等なんて何の障害にもならない。路傍の石と変わらないさ。」
「まさか兄さん、突っ込む気じゃあ、」
「さぁしかと見届けろ弟達よ!此こそが真の変態だぁあ‼」
メタモーフォシスは軽々と煉瓦塀を乗り越え、無防備にも執事達の前へ身を曝した。
「行くぞレティ嬢!私の勇気を証明してみせる!」
「っ⁉馬鹿がのこのこ出て来たぞ!」
「愚かな奴だ、此で終わらせてやるっ。」
「うおぉおぉおおお‼」
雄叫びを上げるメタモーフォシスに容赦なく弾丸が浴びせられる。
其は易々と彼の躯を貫き、あっけなく彼は土を舐める事となった。
「馬鹿な奴だな、でも其の蛮勇に免じて他の兄弟は放ってやろう。」
「全く、御嬢様に手を出したら如何なるかやっと思い知ったか。」
「引き上げよう、こんなのと関わっている時間が人生の無駄になっちまう。」
ぞろぞろと執事達は引き上げ、虚しくもメタモーフォシス丈が其の場に残された。
「兄さーん‼」
二人が駆け寄ると未だメタモーフォシスは僅かに息がある様だった。
だがもうスーツは見るも無残に穴だらけとなり、血も出ている。
曦を失いつつあったメタモーフォシスの瞳は其でも二人の志を共にした兄弟を見詰めていた。
「・・・アメリカ人と金持ちには気を付けろ・・・ガクッ。」
・・・・・
「噫、矢っ張り素晴らしいわ!愛の為なら命も惜しまない。其が彼等メタフォー隊なのよ。」
「え、あれ、何か想像と違う熱い話だったけど、兄さん・・・死んじゃったよ?割と序盤の巻だし・・・此からは兄弟二人が主人公なの?」
気付けばすっかり魅入ってしまっていた。
恋愛物なんだろうなぁ、とずっと思っていたけれども何だろう此、情熱系?青春、とも違うし・・・ギャグ?
けれども思っていたよりずっと読み易かった。何よりロードの音読技術が凄過ぎて映画一本見た気分だ。
余っ程此の本が好きなんだろうなって位の読み込みだったし、感情が入り込んでいてロード自身ワクワクし乍ら読んでいるであろう事が良く伝わった。
「いえ、基本は此の三人がメインよ。三人じゃなきゃメタフォー隊とは言えないわ。」
―・・・し、死んでるけれど?―
ローズはすっかり入り込んでしまった様で鼻先で次の頁を捲ってしまっている。
噫、斯うやって信者は増えて行くんだなぁ、と何処か遠い目をしてドレミは友の姿を見ていた。
でも読んで分かったけれども此の本は普通じゃない。健全、とも一寸言い難い。
自分丈は呑まれないようしっかり自分と言う物を持っていよう、ドレミは一柱然う心に決めていた。
「えぇ、確かにメタモーフォシスは残念乍ら一度死んでしまうけれども、霊として二人の兄弟を見守るのよ。其処へ変態の神が現れて百人軟派に成功すれば願いを一つ叶えてやろうと告げるのよ。でも最初に軟派した子が霊媒師で・・・此以上は言ってはいけないわね、兎に角其処から又新たな三人の物語が始まるの。」
うん、矢っ張り普通じゃないね。変態の神なんて初めて聞いたよ。
―ふーん、何だか面白そうだね。―
「勿論よ。けれども此以上読んだら流石にセレ達に怒られてしまうわ。今回は此処迄にして、続きは帰ってからね。」
然う言ってロードは例の石竹色の本をそっと時空の穴へと戻した。
何処か名残惜しそうにローズが見詰めている・・・もう手遅れの様だ。
彼読み始めたのって元気が出るから・・・とかじゃなかったっけ。
元気・・・出たのかなぁ。何だろう此の不思議な気持。
まぁローズが気に入ったっぽいし、早く続きが見たいから頑張ろうと思ってくれたのなら、まぁ良かったのかも知れない。
「ロー君有難ね。もうすっかり温まったからもう元に戻っても良いよ。」
―然う?じゃあ乗りたくなったりしたら言ってね。―
灯の鎧を解く事でローズは何時ものふさふさの毛並みへと戻って行った。
「・・・あら?何かしら此、」
暫く歩いているとロードの髪に何か触れた様だ。
ピアノ線の様に見える透明な縷の様だが・・・。
「そ、其ってまさか・・・、」
ドレミの昔取った杵柄であるトレジャーハンターとしての勘が告げる。
「御免ロー君背中乗るから全力で走って!ローちゃんも早く走って‼」
ドレミがローズの背に乗るや否や背後から轟音が響き出した。
そして現れたのは巨大な丸岩で、一同を押し潰さんと許りに転がって来たのだ。
「矢っ張りトラップだったんだ。取り敢えず逃げて如何にかしないと、」
「こんな危機、メタフォー隊だったらあっさり乗り越えるわ!見ていなさい!」
―え、見てって・・・あ、そっか。―
走り出していたローズは少し足を遅めてロードを見遣った。
何とも期待の籠った眼差しである。ロードが如何にかしてくれると信じて疑わない目だ。
「ちょっ、一寸ロー君!危ないよ。」
―大丈夫じゃないかな。若し本当に危なかったら嵒の鎧で防ぐから。―
何とも気楽そうにローズが構える傍でロードは大きく腕を振り被った。
そして全身全霊を込めた拳が唸りを上げて炸裂する。丸岩の何百分の一しか満たないサイズの拳が叩き込まれる。
狙った通り、丸岩はぴたりと動きを止めた。だがロードの額にうっすら汗が浮かぶ。
「ロ、ローちゃん無茶しちゃ駄目だよ!ほら早くロー君も手伝って!」
「いっ・・・たいじゃないのっ‼」
一瞬の沈黙の後、ロードはそんな叫びと共に腕を押し出した。
其の衝撃は凄まじく、轟音を響かせ乍ら丸岩は吹き飛び、壁に激突した。
だが其丈では威力を殺せなかった様で終には壁を罅だらけにし、破壊して旻の彼方へと丸岩は飛んで行った。
突風が一気に吹き荒れ、穴に吸い込まれて行く。
ローズは何とか四肢で踏ん張り、事無きを得た。
大耳を振って乱れた毛を整える。一瞬何が起きたのか分からず敵襲かとも思ったが、違う様だ。
―本当凄いね!まさか流れ星を作っちゃうなんて。―
「な、何か規模が違い過ぎて・・・腰、抜けそう。」
「フフ、メタフォー隊に不可能は無いのよ。本当素晴しい教えだわ。」
絶対彼の本関係ないけれど、自分も流れ星にはされたくないのでドレミはそっと黙る事にした。
―・・・彼の本読んだら僕も出来る様になるかな。―
「ロー君憧れるのは良いけど本じゃあ筋肉は付かないからね?ちゃんと筋トレとかしてね?」
行けない。何だか悪影響が出ている。ローズには素敵な鎧の能力が既にあるのだから筋肉なんて要らないだろうに。
矢っ張り圧倒的な力って憧れちゃう物なのかなぁ。
「まさか壊れないとは思っていなかったから少し焦ったけれどね。中に鋼鉄が仕込んであるとは思ってもいなかったわ。」
―でも無事だったから結果オーライだよ。―
「あ、でもローちゃん大丈夫?鋼鉄なんて殴っちゃって。」
普通は大丈夫じゃあない事態なんだけれどもロードは何とも涼しい顔だった。
「大丈夫よドレミ、少し手の皮が剥けた丈よ。如何しても皮膚は鍛えられないのよね・・・。」
此で全身鋼鉄にでもなったら嫌なので、鍛えられなくて良かったと心底思うドレミであった。
「絆創膏ならあるよ!御免ねローちゃん、一柱でさせちゃって。」
「良いのよ。良いトレーニングになったし、傷ももう大丈夫よ。此の位聖魔術で直ぐ直るわ。」
確かにもう血の一滴も出ていない。彼女の纏うワンピースは皓の儘だった。
「ローちゃんの属性って何だか凄く相性良いよね。もう治っちゃったんだ・・・。」
―然うだね。本来肉体が耐えられない程の攻撃をしても聖で治せるから大丈夫って、然う出来る芸当じゃあないと思うよ。あ、じゃあ僕も聖の鎧なら若しかして・・・、―
「でもロー君は怪我を治す時しか使ってないでしょ?聖ってイメージが術者だから屹度ローちゃんのパターンは盲点だったんだよ。」
「そんな褒められると何だか照れるわね。でもトレーニングは裏切らないわ。皆も頑張れば誰でも身に付く筈よ。」
―分かった!頑張ってみるね。―
何だかローズが羨望の眼差しを彼女に向けている気がする。
彼にも新しい友達が沢山出来たのは良い事だけれども、影響を受け過ぎて恋愛物を読み耽るマッチョになっちゃったら一寸嫌だな・・・。
「さぁ調子も出て来たし行きましょう。今の騒ぎで誰か来るかも知れないわ。」
「然うだね。突然ビルに穴が開いたら流石に誰か来ると思うよ。」
三柱は何とも平和な様子で黔い廊下を進むのだった。
ドレミは一つ確信を持っていた。
恐らく此の先どんなトラップがあってもロードが居れば心配ないな、と。
気が緩むのは良くないが、相手が彼女なのだから仕方ない。
割とトラウマの棲み付いている所だったんだけれど、三柱なら大丈夫そうだ。
余り認めたくはないけれども、彼の本を読んだ時間は全くの無駄ではなかったらしい。
決意を新たにドレミは一歩踏み出すのだった。
・・・・・
所変わってグリス、カーディ、ハリーの三柱も又進攻をしていた。
只彼等は如何道を間違えたのかダクトの様な少々狭い道を一列になって進んでいた。
屈んで行かなければいけないので少々腰が痛い。頓進んでいる丈なので変わり映えもしない。
流石に此処で戦闘なんて起きないだろう。一番潜入らしい潜入をしているのだ。
「だーっ‼もう一体何時迄続くんだよ此処!オレ達は戦いに来たんだゼ?洞窟探検じゃねえっての。」
一番前を歩いていたカーディは遂に愚痴を零した。
彼としては不謹慎かも知れないが、輝かしい戦いを望んでいたのだ。
作戦なんてワクワクするし、一体何が起こるんだろうと胸に期待を膨らませていたのに。
―もうカーディ!怒ったら火力上がるんやから静かにせんと!眩しくて目が駄目になるやろ。―
殆どダクトと変わらない道は余りにも冥かったので彼に灯を放って貰う事で何とか前が見えていたのだ。
だが彼は此の手の術を安定させる事は大の苦手である。まるで爆発でも起こしたかの様に焔は激しく燃え上がっていた。
感情と直結する術は扱い易い分繊細だ。グリスに怒られた事で少し丈彼は落ち着きを取り戻したが、でも内心の燻りが焔に出て相変わらず不規則に燃えていた。
「全く此の道を選んだのは蜥蜴先輩だろ?黙ってないで何か言えよ、オレ達を引っ張り込んだのは先輩だゼ?」
蜥蜴先輩、とはハリーの事らしい。
勿論蜥蜴ではないハリーは眉間に皺を作る事となった。
「ぬ、我が助けたから溺れずに済んだのだぞ。我が居なかったら下水行きだったのだ。」
「おーい先輩声が小っさいぞー、ちゃんと付いて来てんのか?」
「うぬぬ・・・何故我がこんな小童の面倒を見なければならないのだ。」
「面倒って、付いて来るのが精一杯なのに良く言うゼ。」
―一寸カーディ、助けて貰ったのは本当なんやから口答えせんの!えと・・・先輩も又龍の姿になった方が良いんやないかな?―
確かに殿に居るハリーが随分遠い。少しずつ離れている気がする。
洪水が起きた時咄嗟にハリーは龍身となり、一番近くにいたグリスを銜えて上の横穴へ避難したのだ。
そんな彼の尾にカーディもしがみ付き、何とか事無きを得たのである。
ハリーは穴に入って直ぐ人身になったが、不器用さが祟って殆ど進めない様だ。
何とか真ん中のグリスが二柱の距離を保っていたが、其もそろそろ限界である。
「ぬぅ・・・少しでも此の姿の練習をしたいのだが、致し方ないのだ。」
小さく一つ溜息を付くとハリーの姿は又龍身へと戻った。
だが普段の姿より随分小さく見える。狭いので幻覚でサイズを変えたのだろう。
龍身であれば寧ろ人型よりずっと効率的に此の通路を進む事が出来る。
グリスが待つ迄もなく直ぐハリーは二柱に追い付いた。
―へ?せ、先輩何だか何時もより小っちゃい様な気がするんやけど、―
「我は幻覚遣いだと言ったであろう。其の幻覚を本物にする事も出来るからこんな芸当も可能なのだ。」
―さ、流石先輩や、翠や灯なんかより余っ程凄い属性なんやね。―
「ふむ、褒めても何も出ぬが良かったら今度でも何か好きな物を幻覚で創ってみせるのだ。幻覚の一つ二つ位我には造作もないのだ。」
何とも軽いハリーだった。
少し顔が赤く染まっているが誇らしそうに首を伸ばしていた。
そんな真っ直ぐ正直褒めてくれるのは彼女位の物なのでつい得意になってしまうのも仕方ないだろう。
「蜥蜴先輩そんな安くて良いのかよ。」
「む、別に小童には何も創ってやらないのだ。」
「いや別に幻なんだから要らないけ・・・っわっ‼」
前を進んでいたカーディが大声を上げて大きく後退った。
「っちち・・・何だ此、何かやけに熱くなったぞ・・・?」
―如何したんカーディ急に止まって、又変な発作なん?―
「又って何だよ。いやマジで此処熱くなってるから少し下がった方が良いゼ。」
空気もだが床が兎に角熱い。金属製の床だし、焼け付きそうだ。
「ぬぬっ、敵襲なのか?では少し前に横への別の道もあったのだ。其処迄戻るのだ。」
「あー其の方が良いか・・・ををーっ⁉」
少し先の床が絳くなったと思ったら溶け、レーザーの様な物が床を突き破って放たれた。
天井も溶かされたのか大穴が空き、ぼたぼたと液体と化した金属が降って来る。
不味い此の熱量、オレの火力の比じゃねぇ!
―な、何なん彼、ちょっ大丈夫なん?―
「良いから早く下がれよ!彼が此方来たら洒落になんねぇぞ!」
突然の命の危機にカーディは冷汗が止まらず、慌てて下がった。
若しもう少し先に進んでいたら・・・考えた丈でもぞっとする。
いやこんなダクトみたいな所で誰にも知られず死ぬとか悲し過ぎるだろ。
一同が下がっていると思ったより早くレーザーは消えて行った。
取り敢えず彼の曦の束が見えなくなったのでカーディは大仰に溜息を付いた。
ハリーの言っていた別ルートも見付かったので今度はハリーを先頭に進む事にする。
「ったく何だったんだよ彼、流石にビビったゼ・・・。」
―トラップやったん?何か変なスイッチでもあったんやない?―
「でも別に狙っている様子はなかったのだ。其にトラップなら此の道を真っ直ぐにレーザーを放った方が早いのだ。」
「確かに・・・若しかして下で誰か戦ってたって事か?」
レーザーと聞くと店長を連想するけれども如何なんだろうか。
兎に角あんな規格外の攻撃をするような奴なんて御免だゼ。
オレとしてはポンコツだって言われたロボとやりたいな。だったらオレの焔を存分に発揮出来るのに。
―やったら加勢した方が良かったんやない?此処に三柱で居るよりは、―
「うむ、其が良いか・・・ぬをっ‼」
今度はハリーが大声を上げて思わず立ち上がった。
其の拍子にしこたま頭を天井にぶつけたらしく、小さく呻く声も続く。
―?ハリー先輩どした・・・っひゃっ‼―
近付いたグリスも異変に気付き、思わず飛び退く。
又床が光っている。今度は所々あった床の隙間からだ。
皓い曦が幾つも漏れ、然も段々大きく、明るくなって行く。
―こ、此、光魔術やない?な、何か来そうやで。―
「ぬ、ぬぬ・・・は、早く通り抜けるのだ!」
元の龍身に戻った御蔭で今のハリーは可也素早かった。
「お、おい一寸待てってそんな早く、」
「だったら又尾でも何でも掴めば良いのだっ!」
見兼ねたハリーが尾を伸ばして来たので急いで二柱は其に掴まった。
「ぬぬ、うぬぉおおぉお‼」
一気に冷汗を掻き乍らハリーは全力で通路を駆け抜けた。
―っひ、道が、どんどんなくなってる!―
術が発動したらしく、通路が次々と曦に包まれる。
ハリーは尾が千切れるんじゃないかと思う程全力で走り続け、何とか魔術の範囲より外へ出られた。
―せ、先輩ご、御免なさい。尻尾大丈夫なん?―
「此位・・・何ともないのだ。」
振り返ったハリーは何とか胸を反らして強がった。
内心少し尾の先の感覚が無いので焦ってはいるのだが、まぁ一応全員助かったのだから良しとしよう。
「・・・案外頑丈なんだな、蜥蜴先輩。いっつも変な部屋に引き籠っているのに。」
「ぬぅう、本当此の小童はっ!もうさっさと尾を放すのだ!」
触り心地でも良かったのかカーディが尾を放す気配が全くなかったのでハリーは無理矢理尾を引っ張り上げた。
そして早々に自身の鼻の先迄持って来るとちょいちょいと心配そうに尾を突いてみた。
・・・何だか心做し元気がない様な、霧の部分が可也減った気が、
―先輩、本当に大丈夫なん?―
「な、何でもないのだ。只仕方ないとは言え小童に触られたのが嫌だった丈なのだ。」
さっと尾の先を放るとハリーはのしのしと通路を進み始めた。
又誰かの戦いに巻き込まれた気もするが、本当に此の道を進み続けても良いのだろうか。
思いも寄らないトラップが多いが、こんな所で死んでしまっては本当に情けない。
矢っ張り何かしら貢献してセレに褒められたい所である。胸を張って彼女と会いたい。
となると取り敢えずは此の後ろの二柱を護る事が先だろうか。
此は思っていたより大変な任務になりそうだ。
決意も新たに、其以上のトラブルに遭わない様にハリーは足を速めるのだった。
・・・・・
鎮魂の卒塔婆中階辺り。
「思ったより早かったな・・・。未だ一つ実験中の物があったが、」
ぶつぶつと独り言を呟き乍らフォードは廊下を小走りで駆けていた。
両手には多くの良く分からない部品や瓶を持っている。
時々瓶の中身を確認し乍らフォードは頓先を急いでいた。
一応予め指示はしていたので上手く足止めは出来ている様だ。
此方の戦力が多くないとは言え、出来る事は未だある。
出来ればこんな大切な戦いが始まる前にもう一度丈逢いたい奴がいたんだが。
まぁ然う上手くは行かないか、人生も神生も何事も。
小さくフォードは溜息を付いたが、唐突に其の足が止まる。
目の前の光景に心底驚いたフォードは思わず瓶を一つ取り落としたが、もう気にしていない様だった。
「・・・まさか、思った丈で偶然逢えるとは。僕に何か用か?」
薄暗い通路の先、音もなく現れた者へフォードは語り掛けた。
其の声は何処か優しく、まるで旧知の友に会ったかの様な、彼にしては珍しい反応だったのだ。
「いや、偶然なんて言葉君は嫌うか。其に全て君に仕組まれていたと思った方が此方も納得出来る。僕は如何も操るより操られる方が好きみたいだからな。」
「買い被り過ぎよ。私は只チャンスをふいにしなかった丈。得られる物丈で納得せず、自分から奪いに行ったから手に入れられた丈よ。」
「君は本当に・・・神にしては随分と貪欲で積極的だね。何だか、羨ましい様な寂しい様な変な気持だ。」
「まるで丗を知らない子供を見ている様な気持かしら?フフッ、抑私は神じゃないんだから違うのは当り前よ。」
可笑しそうに彼女は笑い続けるが、其の面は陰に隠れて良く見えない。
話はしてくれるが、自分の事は信用していないから距離を取られているのだろう。
でもそんな事、彼は構わなかった。逢えた丈で、十分だったのだ。
今の侵入者達の相手をするよりずっと有意義だ。
「神じゃないのに神の世界を変えようとするのは今更乍ら烏滸がましいとは思わなかったのか?」
聞きたい事は・・・沢山ある。
雑談でも何でも良い。其の声に触れていたかった。
今日、どうせ自分は終わってしまう。其なら最後位、此位の戯れ、赦されても良いだろう。
「あら、心外ね。貴方も私と同じ神に虐げられて来た者でしょう?此は革命よ、進化なの。丗は変わらなければいけない。いえ、変わってしまう物なのよ。変化を楽しみましょう?」
「本当に君は昔から悍いな。僕としては出来れば君の実験をしたかったよ。分からない事が多過ぎる。君は自分の理想の為に僕も此の塔も、今此処に居る彼等も利用するんだろう。其を平気な顔で出来るなんて、屹度僕達と心の構造から違ってしまったんだろうね。」
「若しかして私何か気に障る事でも言ったかしら。怒らないで頂戴、私此でも貴方に迚も感謝しているのよ。貴方の御蔭で全て動き出した。百年以上も前の約束を良く憶えていてくれたわ。」
「全く君は・・・然うやって全ての責任を僕に押し付けるのかな。感謝しているのなら僕の命位救ってくれよ。其位君なら簡単だろう?其とも役立たずはもう要らないと言う事かな。」
「フフッ、フフフッ、貴方冗談も言えるのね。助かりたいだなんて微塵も思っていない癖に。寧ろ私から解放されるって喜んでいる癖に。もう時間も余り無いでしょうし、はっきり言った方が良いわよ。本当は私に何をして欲しいのかしら。」
まるで神の様に彼女は然う告げた。
神の真似事だなんて、まるで此の世界に対する壮大な皮肉じゃないか。
「じゃあ単刀直入に。僕に教えて欲しいんだ。此処迄君を信じて踊って来た。そんな君が知っている真実を。・・・丗の真実を教えて欲しい。君がこんな事をするに至った其の経緯を。」
其処で初めて彼女は笑うのを止めた。
何もかも見透かしたかの様な透明の瞳で彼を見詰める。
「・・・自ら禁忌に触れると言うのかしら。碌でもない此の丗の真実を、貴方も知りたいのかしら。」
「僕は此でも研究者なんだ。今迄神を続けられたのも探求心故だ。其が無かったら此処迄やって来れなかったさ。」
審判の様に只彼女は見ていた。
此の儘去られても其は致し方ない。此処で逢えた事自体がとんでもないボーナスだ。
又逢いたいと、何丈本当に願っていた事か。
「・・・良いわ。其が貴方への礼になるのなら、私にとっても悪くない話よ。けれども私が本当に全てを知っているとは限らないわ。私の知っている真実丈を教えてあげる。フフ、誰かに此の事を話すのなんて初めてよ。」
「・・・っ!本当に良いのか?」
緩りと彼女は頷き、口を開いた。
まるで御伽噺でも語る様に、淡々と彼女は話し始めたのだった。
・・・・・
「まさかそんな・・・いや、君が嘘や冗談を言う訳ないか。」
随分ショックが大きかったらしく、少し蹌踉いたフォードは壁を背にして一息付いた。
息も荒く、そっと彼は手を額にやる。
彼女はそんな彼を微笑を湛えた儘見詰めていた。
「貴方って案外人間らしい仕草をするのね。」
「僕だって元々は次元の者だからね。君みたいにそんな簡単に受け入れられないよ。まさか・・・だってそんな、」
「然うかしら。生まれた時からこんな世界だもの。何も驚く事は無いわ。」
「矢張り君は、僕達とは大分違う存在だな。」
少し整理出来ては来たらしい。フォードは一つ息を付き自分が抱える実験道具を見遣った。
「・・・何だかそんな話を聞くと、もう実験なんて如何でも良く思えて来るな。無知も罪だけれど、知り過ぎるのも厄介だ。」
「じゃあ最期と言う此のタイミングで話せたのは良い事だったかしら。」
「噫、然うだろうな。彼の時若しこんな話を聞いていたら・・・ぞっとするな。間違いなく此処に僕は居ない。王も含めてね。寧ろそんな真実を抱え乍ら此処迄来た君の方が異常だ。」
「あら、貴方も同類だと思っていたのに残念ね。同じ志を持った狂神仲間だと思っていたわ。」
「まぁ真実を求めて此処迄来たのだから僕も異常と言われれば其迄だ。でも此が・・・知りたかったんだ。」
「然う、良かったのかしら。こんな事で御礼になったかしら。」
「十分過ぎる程だ。もう・・・大丈夫だ。」
「矢張り其の切り替えの早さは一目置く所があるわね。然う言って貰えて良かったわ。」
「・・・噫いけないな、自分の事許り頼んでしまって。時間を使わせてしまったな、君も早く行った方が良い。彼等と鉢合わせする前に。」
「えぇ然うね。此方こそ本当に此処迄協力してくれて有難う。貴方の最期がせめて望んだ結果になる様願っているわ。」
「僕の事なんかより君自身の願いを優先した方が良い。君が成功すれば僕は其で満足だ。」
彼女は最後に含み笑いを返した。其の眼差しを見た丈で何処かフォードは安心していた。
言われる迄もない、其の為に此処迄来たのだから、と其の瞳が語っていたから。
彼女は足を進め、そっとフォードの傍を通り抜けた。
其の姿をじっとフォードは見守っていた。
もう最後になる彼女の後姿を、目に焼き付かせようと。
僕にとって唯一の希望が彼女だなんて、丗に嫌われてしまうだろうが、其でも此の選択に悔いなんて一つもない。
・・・・・
「全く一体此処は何処なのよ。こんな事になるって一言も説明を貰ってないわ。」
「トラップなんですからぁ~仕方ないですよぅ。」
愚痴り乍らも歩くダイヤの肩に居たリーシャンが小さく囀る。
只冥い丈の寂しい廊下に彼の歌声丈が響いていた。
「随分流されたけれど、本当何処なんだろう。」
ベールは恐る恐ると言った体でそそくさとダイヤの後を付けている。
黔い廊下にすっかりビビっているらしく、足取りは重い。
「もうベール、其を考えるのが貴方の仕事でしょ。何無様に流されているのよ!身を呈してでも私を助ける位の事はしなさいよ。まさか私が助ける羽目になるなんて。」
「あ、あぁ御免なさい!で、でも僕が力を使うと何が起こるか分からないし、その、でも助けてくれて有難うダイヤ、下水に流されなくて済んだよ。」
「まぁ宙ですものねぇ、使い所が難しいですねぇ。」
「止めなさい、貴方の礼なんて何の価値も無いし寧ろ耳が腐るわ。いっそ流されれば良かったのよ。汚い溝鼠と友達にはなれたかも知れないわよ。」
アーリーに因る水のトラップが発動した際、ダイヤは直ぐに水を凍らせて足場を作ったので濡れる事も無かった。
だがベールは成す術もなく流されてしまい、随分と遠くに行ってしまっていた。
其の為ダイヤが氷の足場を進みつつ、何とか壁に掴まって下水行きを逃れていたベールを見付けて連れ出したのである。
すっかり濡れてしまった上に彼女の氷が冷た過ぎて如何やら彼は風邪を引いてしまった様だ。
小さく嚏をしては鼻を啜る音が後方から聞こえて来る。
其を聞く度にダイヤは何処か苛ついてしまい、ついダイヤはベールに当たってしまう様だった。
「鼠って、でもダイヤは鼠確か嫌いだよね?」
「何で私が一緒に居る事前提なのよ。一柱で行って鼠の餌にでもなって来なさいよ。」
「でも本当に此処大丈夫なんでしょーか。皆と逸れてしまってぇ・・・。」
何処か心細そうにリーシャンは翼を震わせた。
戦いは正直苦手だ。でも自分が戦わないと、二柱を護れるのは自分丈だ。
「然うよ、新神にさせる仕事じゃあないわ。皆で私を放って置くなんて言語道断よ。」
「み、皆も大変だから・・・ね?」
「まぁ大変な時期に入ったって事ですねぇ。」
「・・・何で貴方達はそんな能天気なのよ。」
ダイヤが溜息を付きつつ前方を見遣ると一柱の影が入る。
「・・・おや、まさか此処で誰か会うとは。今日は客が多い様ですね。」
現れたのは蒼い鳥の羽根が刺さった尖り帽子を被った男だった。
黔皓交じりのオーバーを着ており、裾で顔を隠しているのか其の面は良く見えない。
「え、えと・・・今日は。」
敵・・・だろうが向こうは気付いていない様だ。
何もしなければ、遣り過ごせるかも知れない。
ダイヤは随分と機嫌が悪い様で最初から無視を決め込んでいる様だった。
リーシャンも完璧な鳥に化けている・・・話す気は無さ然うだ。
怪しまれない様何とか自然にベールは努力の末声を掛けたのだが、若干其の声は震えている様だった。
「随分と貧相な身形ですねぇ。こんな非常時に貴方達みたいな神が一体此処へ何の用ですか。」
「え、あと、警護、です。兵が足りないみたいで、」
通り過ぎようとしたのに男がじっとベールを見詰め、足を進ませ様とはしなかった。
手が少しずれている様だが、如何やら顔に大きな引っ掻き傷の様な跡がある様に見える。
「警護?まぁ確かに此の道が一番上へは近いですが。・・・一体何処の塔からです?」
青年の目が、放さない。行くな、と言外に言われている気がする。
「噫もう面倒ね。私達は急いでいるのよ。無駄口叩いてないでさっさと行くわよ。貴方だって緊急時なの分かってるんだから早くしなさい。」
耐え切れずに終にダイヤが口を開いた。
おどおどしたベールを見ていると余計苛付いてしまったのだろう。
「あ、噫御免ダイヤ、然うだね!」
助け船に思わずベールの瞳が光る。まるで神を見る様な目で悪霊を見ていた。
「別に私はこんな塔、崩れようが関係ありませんがね。只、一体何処の誰が来たのか、其が気になる丈ですよ。」
「関係ない癖に良く喋るわね。」
ダイヤが睨むが男は全く気にしていない様で肩を竦めるのみだった。
「では私が名乗れば教えてくれますか?虚器惟神の楼閣の長、ソルドです。以後御見知り置きを。さぁ教えてください。別に怪しむ事はないですよ。私は此の塔とは無関係。寧ろ彼の小憎たらしいフォードが慌てる姿が見られるなんて愉快な物なんですから。」
「もう分かった。言えば良いんでしょ!次元龍屋のダイヤよ、もう通して頂戴。」
「ちょっダイヤ⁉何言ってるんですかぁ!」
「どうせ侵入者ってばれてるわよ。良いでしょ、別に。」
つい驚いてリーシャンも口を出してしまったが彼女は何処吹く風である。
只男、ソルドは少し眉を顰めた。
「次元・・・龍屋?・・・噫彼処の関係者でしたか。」
「え、あれ、知ってるんですか・・・?」
「話は終わりよベール。さっさと行きましょ。」
「いやぁ然うと聞いてしまっては行かせるのも惜しくなりましたねぇ。」
構わず先に行こうとしたダイヤの手をソルドは掴んだ。
無口でダイヤが睨み付けるが、矢張り彼は気にしていない様で寧ろ何処か楽しそうだった。
「其方の店主には随分世話になっているんですよ。こんな素敵な顔にしてくれた御返しを、貴方達にするのも悪くないかも知れませんね。」
手を放した彼の顔は確かに酷い物だった。
熊か何か大きな獣に思いっ切り引っ掻かれたらしく生々しい傷が残ってしまっている。
此は・・・致命傷とは行かない迄も可也痛かった筈。
確かに店主・・・セレ、だっけ。彼女の晒の下の手は獣の様に鋭い爪が付いていた。
神と言うよりは性格も含めて悪魔だと思った物である。
其にしても傷が不自然だ。こんな接近出来たなら頸を狙えた筈。
其をしなかったのは若しかして・・・苦しめたかったから?
確かにそんな怪我を負わされちゃあ復讐したい気持も分かる。
けれども自分とは無関係である。触れて良い理由にならない。
「さっさと放しなさい此の下種、じゃないと後悔するわよ。」
「さぁて後悔するのは何方ですかねぇ。」
「っダイヤを放せっ!」
気付いたベールが駆け出した瞬間、ダイヤの掴まれていた腕が光る。
ソルドが嗤うのと同時にダイヤの片腕は跡形もなく無くなっていた。
瞬きの間にすっぽりと腕丈が消えてなくなっていたのだ。
「っ⁉ダ、ダイヤ‼」
何が起きたのか分からずリーシャンが羽搏くと其丈でダイヤはふら付いた。
片腕が無い分、バランスが取り難い様だ。
「ククッ、どんな気分です?虫の足を捥ぐ様にあっさりと腕が無くなった感想は。マジックでも何でもないですよ、神と言えども何て脆い物か。」
一頻り嗤うソルドを他所にダイヤは只無くなってしまった腕を見ていた。
だが其の表情はソルドが思い描いていた物とは少し違う様だ。
恐怖と驚愕の入り混じった顔かと思いきや、驚いたのは本の一瞬で、見る見る其の表情は怒りへと変わって行った。
「もう貴方達!二柱も居乍ら私一柱護れないって如何言う事なの‼こんな下種に簡単に触れさせて。良い?私は高貴な存在なの。貴方達の命位消し飛ぶ位の存在なのよ!掴まれてから来ても鬱陶しい丈なの!分かった⁉」
高貴な存在は鬼の形相で怒り狂った。
「あ、噫御免なさいダイヤ!僕の腕を引き千斬って良いから赦してくださいぃ・・・。」
慌てて土下座モードに入ったベールの頭をダイヤは溜息一つで蹴り付けた。
「貴方が然うなって如何するのよ。責任取って私の左腕となって一生を捧げる位の考えは浮かばないのかしら。芥の腕を貰うなんて只の迷惑よ。本当呆れるわ。」
「え、えっとぉ御免ダイヤ、」
確かに自分の不注意である事は自覚している。
でも当の本神が斯うも怒っていると何だか反対に如何して自分が怒られるのだろうと少し理不尽さを覚えるリーシャンであった。
ソルドですら此の反応は予想外だったらしく、ぽかんと口を開けてしまっている。
そんな事をされて、普通なら驚くか怯えるのに。怒るなんて二の次だ。状況を理解しないと出来ない反応だ。
切り替えが早いと言うか・・・ショックは無いのだろうか。
其に最初に怒られたのが身内って・・・彼女は女王様か何かなのだろうか。
「ほらさっさと、私が大変な身になったのよ!此の可憐で尊い私がっ!責任を感じているのなら彼奴の首の一つや二つ持って来なさい!」
いや流石に首は一つです。
此の珍妙な一団を如何しようか考えているとベールが此方に向けて構えを取った。
やる気はあるらしい。別に此の謎な御遊戯を見せたかった訳ではない様だ。
「おや、敵討ですか。貴方如きに出来ますかねぇ。」
「僕は出来る、僕は大丈夫、僕なら出来る筈だ。屹度大丈夫。」
自己暗示を十分に掛けてベールは集中する。
魔力で満ちた謎の空間が一同を包み込んだ。
「此は・・・宙属性ですか。中々珍しいですねぇ。」
「はああぁああ・・・っ!行くぞぁあぁあああ⁉」
奇声を上げ、突然ベールの躯は爆発した。
「な、何がっ・・・ピィイィイイイ‼」
「一寸ベール其の力はっキャァアアア‼」
同じ空間に閉じ込められていたダイヤとリーシャンも挙って爆発し、吹き飛ばされて空間から弾き出された。
中々強力な爆発だったらしく、二柱の服や羽根は焼け焦げてしまっていた。
「ちょっ、ダイヤ大丈、わあぁああ‼一寸待っ、ギャァアアア‼」
空間の中心に残ってしまったベールは爆発で吹き飛んでは別の爆発で投げ出されて御手玉状態になってしまっていた。
・・・見ていて中々悲惨な光景である。何かの処刑法の様だ。
「良いからさっさと術を解きなさい此のポンコツ!」
ダイヤに一喝され、ベールは条件反射で術を解いた。
すると爆発も止んだらしく、全身焼け焦げてしまったベールはがっくりと地面に倒れ伏した。
「な、何が、如何して私の躯が爆発したんですかぁ⁉」
状況が理解出来ていないリーシャンは羽根を震わせて毛繕いをしていた。
自分が爆発するなんて経験、初めてだったのだろう。ダイヤは一つ溜息を付くとそっとリーシャンの背を撫でて落ち着かせた。
「宙属性は何が起こるか分からない空間を作る属性。恐らく今のは中に入った者が爆発するって効果ね。」
「えと・・・意味の分からない効果ですぅ。」
「私だって知らないわよ。加えてベールは世界の一日分の不幸を背負っちゃってるから真面な効果が出ないのよ。今のは未だましな方よ。一応相手にもダメージを・・・、」
言い乍らちらとダイヤがソルドの方を見遣ると彼は何食わぬ顔で突っ立っていた。
一歩も動いていないし無傷である。随分呆気にとられた様子だ。
やっと戦えると思ったら、まさか御遊戯会第二幕が始まるとは思っていなかったのだろう。
恐らく彼からすれば、一体此奴等は何をしに此の塔へ来たのか疑問で一杯になった頃合いだろう。
「何で貴方丈無傷なのよ!納得が行かないわ。っ!まさかベール、私達丈を選んで爆発する様にしたんじゃ、」
「ぼ、僕そんな器用な事出来ないよ!御願い信じてダイヤ、僕は只君を護りたくて、」
「・・・まぁ其の低能っぷりは信じてあげるわ。」
「敵の攻撃を素直に喰らう馬鹿が何処に居ますか。其方は自爆してますがねぇ。」
「同じ空間に居乍ら効果が無いなんて事あるもんなんですかぁ?」
「普通は有り得ない筈よ・・・何か術を使っているわね。」
面倒な事になったとダイヤは又溜息を付いた。一つ付く度にベールの背がビクッと震える。
「其では誰から片付けましょうか。其方の彼は勝手に死んでくれそうですし、口の悪い姫からにしましょうか。」
一気にソルドがダイヤへと近付き、片手を挙げる。
「今度は片腕丈じゃあ済みませんよ?今以上に苦しんで死なせてあげましょう。」
反応が遅れたダイヤへ自然と笑みが零れる。
如何にか止めようとリーシャンが翼を広げた時だった。
ダイヤの手が真直ぐソルドへ向けられた。
まるで手を取るかの様に誘う皓い手。其の手は失われた筈の左手だった。
ソルドが目を見開くと其の掌から瞬きの後に氷の華が咲き誇った。
見る間に成長した其はソルドに向けて爆発的に伸び、彼の躯の彼方此方を斬り付けた。
氷の華の花弁、葉の一枚一枚が鋭く尖っているのだ。触れた丈で怪我をするであろう其の華は返り血に因って更に色付いた。
「っ小癪な、」
彼を捕まえようと伸びた蔦を彼は消し去り、少し丈後退した。
おかしい・・・腕が再生している。まさか聖の遣い手でもあるのだろうか。
ダイヤの周りには濃い靄が立ち込めていた。彼女を包む様に現れた其は怪しく光る。
「・・・捕まえ損ねたわね。一気に切り刻んで殺してやろうと思ったのに。」
「ダ、ダイヤ⁉腕治ったの?一体如何やって、」
「抑私があんな下種に手を出す訳ないでしょ。初めに出していたのは氷で創った手よ。氷と変わらない位私の躯も心も冷たいからね。」
「す、凄いよダイヤ、君なら勝てるよ!」
「貴方が真面目に戦わないから私が出る羽目になったんでしょ!分かったらさっさとやりなさい!」
又彼女に蹴られてベールは盛大に転けてしまう。
何と言うか悲しい光景である。
「一応、一柱は戦えると言う事ですか。」
「えぇまさか足手纏いが二柱も居るなんて思っていなかったけど。」
「わ、私だって戦えますよぅ!」
ダイヤに睨まれ、慌ててリーシャンは幻覚を解いて元のサイズに戻った。
胸元の水精が光り始め、リーシャンは翼を広げた。
「此なら如何ですかぁ‼」
突然地面から釼山が生え始め、何処からともなく落石が起こった。
「此は中々珍しい術ですねぇ、手駒としては欲しい所ですが。」
「ぼ、僕も、此ならっ!」
未だ余裕そうな笑みの彼に向け、ベールも術を放つ。
瞬間にソルドとベールは宙の空間に閉じ込められた。
途端落ちて来ていた筈の岩が重力に逆らって滅茶苦茶に暴れ回った。
中の空間をバウンドしている様で、見えない壁に当たっては跳ね返っている。
「え、な、なな・・・っぐぇ⁉」
そしてベールは呆気なくも岩に押し潰されてしまう。
ソルドに迫る岩も勿論あったが、彼の何らかの術に因ってか岩は全て消えて行っていた。
加えて跳ねる岩の所為で釼山も折られてしまい、一気に更地と化してしまう。
「あーっ‼何やってくれてるんですかぁ⁉」
「此だからベールは・・・もう術を使うなって言っているでしょ。」
「でも僕も何かしたくて・・・他の術なんて使えないし、」
何とか岩から這い出たベールは申し訳なさそうにダイヤに頭を下げた。
「全く、最初から貴方に期待している事なんて一つも無いわ。正直足手纏いだから此以上邪魔にならない様其処で立ってて頂戴。」
「ひぇ、そ、そんな・・・御免よダイヤ、」
何とも悲しい話だが、何もフォローする事が出来なかったのでリーシャンは見守る丈にした。
正直言い合いでダイヤに勝てた事も然うない。一応正論も、真実も言っているから猶の事だ。
「其にしても相手も厄介だわ・・・何だか見えない術に邪魔されているわね。」
―色んな攻め方をする事で何か糸口が見えれば良いですけど。―
小声で話すダイヤにリーシャンは一つ頷く。
見た事もない術だ。何気に先から悉く技が消されている。
ダイヤの不意を突いた技丈喰らったと言う事はシールドの様に常に展開している訳ではなく、何らかの術と判断は出来るが。
「然うですねぇ、其処の彼は要りませんが、二柱は連れ帰りたい位ですねぇ。私の力も薄々分かっている筈です。貴方達に勝ち目はありませんよ。如何ですか?」
前二柱セレに盗られた事を根に持っている様だ。彼の提案にダイヤは眉を顰めた。
「三柱、なら一応考えなくもないけれど。」
「ダ、ダイヤ・・・有難う。」
「でないと裏切者って事直ぐばれちゃうじゃない。どうせ貴方の事だから直ぐ密告するわ。私から離れたら此の駄犬は直ぐそんな浅知恵が働くのよ。」
「然う言われても私も足手纏いは要らないですねぇ。じゃあ密告出来ない様殺してしまうのは如何ですか?神なので証拠は殆ど残りませんよ。場所が場所ですしねぇ。」
「あら貴方、中々良い性格をしているのね。面白い考えだわ。嫌いじゃないわよ然う言う男。」
「ダ、ダイヤぁ・・・流石に冗談ですよねぇ・・・?」
リーシャンが心配そうに嘴を彼女に寄せた。
ベールもはらはらと御祈りポーズの儘ダイヤを見詰めている。
二柱は心の奥で理解していたのだ。彼女の性格を鑑みて其が冗談である可能性が低いと。
彼女は・・・やる時はやる神だ。気紛れで、気分で実行してしまう事もざらだ。
其に彼女はある意味自由な神だ。自分で決めた事は基本絶対だ。自分達が反対意見を言えば益々意固地になる事だってある。
リーシャンは大抵彼女の自由にさせてやって、自分が補ったり出来ればと思っていた。
だが此の状況は・・・宜しくない。非常に宜しくない気がする。
「あら、如何したのリー。悪くない話かも知れないわよ。私は別に好き好んで彼処へ行った訳じゃあないわ。脅しよ脅し。」
「で、でも皆良い方許りでしたよぉ。悪くない環境ですぅ。ボスだって良くしてくれますしぃ、」
「そんなの私達を逃がさない為の策かも知れないわよ。私聞いた事あるわ。酷い状況の所程全員の団結力が高まって生き残ろうと関係が円滑になり易い然うよ。世界中から命を狙われる様な組織だから斯うなっているって考えられないかしら。」
「だとしても必ずしも向こうの方が良いとも限りませんよぉ。せめてもう一寸考えて後からでもぅ、」
「本当リーって心配性ね。斯う言う時は勢いが大事なのよ。抑今居る所だって即決で決めたじゃない。其よりは斯うして招かれている方が少なくとも好待遇だと私は思うわ。」
だ、駄目だ。全然説得に応じる気配がない。
然も段々正論な気もして来た。斯う言う押しに弱い所と言うか、彼女に甘いのが自分の駄目な所って分かってはいるけれども。
けれども本能が告げている。彼の男に付いて行ってはいけないと。彼の目は生命を軽んじる者の目だ。
恐らく行ってしまえば自分と彼女はもう一緒に居られないかも知れない。そんな予感がする・・・。
今のボスはボスで恐い所があるかも知れないけれども、でも此の男よりましな、否、悪くない気が不思議とするのだ。
此は龍族としての直感なんだろうけれど、大昔から受け継いだ本能でもある。信じるには十分値する本能だ。
「・・・もう良いかしらリー。余待たせると彼に悪いわ。勿論私が行くなら一緒に行くわよね?」
「うぐぅ・・・行きたい、行きたいですけどもぅ・・・。」
すっかり困ってしまったリーシャンは嘴をもごもごと動かし、何かないかと思案している様だった。
でももう此で終わりと許りに彼女はソルドに向き直った。
「・・・如何やら決まった様ですねぇ。貴方みたいに賢い神は私も好きですよ。其じゃあ邪魔な彼の男をちゃっちゃと消してしまいましょうか。」
嬉しくて堪らないと言った様子でソルドは口端を上げて彼女に手を出した。
ダイヤの目がベールに向けられる。其丈で彼の口から情けない声が漏れた。
「う・・・嘘だよねダイヤ、僕達此処迄やって来たんだよ、ね?」
「でも貴方が無能なのは確かだし其の所為で私迄殺されるのは流石に不本意だわ。喜びなさい、貴方が今迄無駄に生き永らえて来た其の命が役に立つ時が来たのよ。」
「そ、そんな・・・ダイヤ・・・うぅ、わ、分かった。ダイヤが然う言うなら僕せめて頑張って死ぬよ。」
あ、了承するんだ・・・。
其の場に居合わせた全員の心が一致した瞬間だった。
「其じゃあ折角だし少し貴方で遊んであげるわ。」
心底嬉しそうにダイヤの顔が歪む。
じりじりと近付く彼女に観念してかベールは正座をして項垂れていた。
「ちょっ、ちょちょっ‼本気ですかぁダイヤ!お、御友達だったんじゃなかったんですかぁ⁉」
「リーは友達の為だったら死ねるのかしら?其は素晴しい心掛けね。人って貴方が思っている以上に簡単に裏切るし嘘も吐くのよ?そんな奴を助ける位なら可愛い自分を私は助けるわ。」
ニッコリと彼女が微笑んだ瞬間、ベールの傍で幾つもの氷の華が咲いた。
其は大きく咲き誇り、彼の手足を徒に斬り付けた。
「えぇ⁉そ、そんな、だ、駄目ですってぇ!仲間は攻撃しちゃ駄目ですぅ!」
リーシャンは慌てて氷の華を啄み、砕いて行ったが、ダイヤは本気なのか其以上に華が生える方が早かった。
「あ、有難う、でも僕なら大丈夫だから・・・その、げ、元気でね。」
苦笑いする彼を見てリーシャンは居た堪れなくなり、如何にかしないと、と更に華を突いた。
「邪魔しないで頂戴リー。悪いのはベールなんだから放って置けば良いでしょう。」
「中々、貴方良い性格してますねぇ。気に入りましたよ。」
「さ、流石に悪ふざけが過ぎますよぅダイヤ!私怒りますよぅ!ベールも、私に掴まってくださいっ!」
終にリーシャンの我慢が切れたらしい。一瞬何処か悲しそうな目でダイヤを見たが、直ぐ嘴をベールへ寄せた。
早くしないと、彼が氷の華に閉じ込められてしまう。只でさえ既に足が捕まっているのに。
ベールも困った風にリーシャンを見詰め、如何しようか少し迷っている様だった。
其の間にも氷の華は彼を傷付け、血が流れて行く。
「さぁほら早くぅ!」
もう一声リーシャンが上げるとベールは俯きつつも手を出した。
でも其の手はリーシャンの方ではなく、氷の華へ伸ばされていた。
「っ!リー今直ぐ離れて!」
ダイヤの鋭い声が入った瞬間、ベールを包んでいた氷の華が一気に弾けた。
「っ⁉な、何です此ぇ、」
「もう言わんこっちゃないわねっ!」
ダイヤが手を掲げるとリーシャンとベールの間に氷の膜が張られた。
だがベールが其の膜を一瞥した瞬間、膜に罅が入り砕け散ってしまう。
其でもリーシャンはちゃんとダイヤの声を聞き留めていた。
慌てて羽搏いて大きく後退する。そんな彼の元へダイヤも駆け寄った。
「始まったわね、全く。何時もとろいのよ。・・・あー其方の下種、交渉は決裂よ。私未だ死にたくないのよ。」
「・・・何だか怪しい雲行きですねぇ。取って置きって事ですか。」
明らかに男の様子がおかしい。先と別神の様な気配が漏れている。
只の雑魚だと思っていたが・・・一応彼の化物の仲間丈はあるか。
ベールは緩り立ち上がってちらとソルドを見遣った。
其の瞳は獣を狩る怪物の目で、慈悲はない。
「グログロgrotesque中毒発作症候群・・・発症。」
「グログロ・・・?ふぇ?」
「ベールはある病気に罹っているのよ。血や怪我を見たり、死や殺しと関わり過ぎると発症してしまう病気。神が変わった様に敵を殺す事しか考えられなくなって、まぁ平たく言えば暴走するのよ。」
「あ、あのぅそんな病気初めて聞いたんですけどぉ。」
でも其が本当なら恐らくダイヤは初めから其を狙ってあんな行動を取ったのだろう。
幾ら彼女でも其処迄自己中心的ではなかった筈だから何て脈絡が無い事をするんだろうと面喰ったけれど。
初めから裏切る気はなかったと分かりホッとする半面、然うなら然うでテレパシーで良いから教えて欲しかった物である。
まぁ神が悪い所は本物だった、と言う事だろうか。
「奇病ではあるし、殺人鬼の霊が一時的に乗り移った状態だとか言って眉唾物な病気なのは確かよ。でも罹った者は発症時にあんな風に自分で病名を言うし、元々ベールは殺人鬼の血が入っているからなくはない話だと思うわ。」
「世界は広いですねぇ、じゃあ先の華とかが壊れたのは、」
見るとベールの手には氷の欠片が握られている。彼をナイフ代わりに使っている様だ。
「然うね。私の華を勝手に折って武器にしたんでしょうね。一応センスはあるんだし、同じ氷でも一瞬で弱点を見抜いて破壊する事位は可能だと思うわ。」
「な、何とぉ・・・頼もしいですねぇ。」
其を聞いてダイヤは大仰に溜息を付いた。別に嬉しそうではない様だ。
「何時もが使えな過ぎるのよ。其の所為で私に見る目が無いって勝手に評価落とされたんだから本当迷惑だわ。」
出来ても褒められもしないなんて一寸可哀相な話だが、リーシャンは口を挟まない事にした。
「其じゃあベール、さっさと其の芥始末しなさい。」
一呼吸の後にベールは一気にソルドの元へ駆け寄り、氷のナイフを振るった。
首を狙っての迷いのない一撃。突然の攻撃に不意を突かれたソルドは術を放つ間もなくぎりぎりの所を何とか回避した。
慌てて頸元に手をやる。・・・血は出ていない。一応無事だった様だ。
更に一歩ベールが足を踏み出す。其と同時にナイフが迫る。
流石にニ撃目には反応したソルドは手を軽く伸ばし術を放つ。
本来なら直撃だった技だが、ナイフの先が少し欠けた瞬間にベールは大きく後退し、難を逃れた。
彼を振り切った事に安堵した瞬間何処からか飛んで来たナイフにソルドの手の甲が数ヶ所斬られる。
「只の木偶坊かと思いましたが案外出来る様ですねぇ。」
如何やら彼は死角を突くのが得意な様だ。今のは気付かない内に手に隠し持っていた別のナイフを離れ際に放っていたのだろう。
武器の扱いも慣れている、心得がある様だ。
自分専用の獲物は無いのだろうか。見た所軽装だが。
戦い方が少し丈、例の化物と被る気がした。
勝ち負けではなく、只相手を殺す事丈を考えたスタイル。
噫、懐い出す丈で本当吐き気がする。
此はもう連れ帰るなんて無理だ。殺してやる、彼の化物の分迄。
「す、凄い。先迄と別神みたいですねぇ・・・。」
「何感心してるのよリー。貴方もさっさと戦いなさい。」
「で、でもぉ私が行くと彼も巻き込んでしまいますよぉ。」
「良いのよ何方も芥なんだから。全力でやりなさい。」
「ふえぇ、ダイヤは容赦がないですねぇ。」
折角戦ってくれているのだからもう少し位彼に優しくしてやっても良いと思うのに、相変わらず評価は厳しい。
只戦わないといけないのは確かだ。彼一柱に任せるのも忍びない。
リーシャンは己の水精に集中した。未だ彼の力が何か分からないので先に其を掴まないと。
突然天井から鎖が生え始め、意思を持っているかの様に動き出した。
其は蛇の様に宙を這い、ソルドの手足に絡まろうとする。
「本当に妙な技ですねぇ。」
「其は御互い様ですよぅ。」
何とか鎖を掻い潜るソルドの足元から剱山が生える。
だが其処で彼も術を使う事にしたらしい。剱山が消えて行き、近付く鎖も消されてしまった。
一部腕に絡まったのも居たが、鎖の途中を消されて斬られてしまう。動きを封じる事は出来なさそうだ。
彼は面倒そうに腕に残った鎖を外し、放り投げた。
「さぁもう終わりですか!そんなちんけな攻撃じゃあ私に届かないですよ。」
言い終わるか如何かの所で彼の目前に突然ベールが現れた。
鎖にぶら下がって剱山を越えて来たらしい。手には何時の間に入手したのか剱山の釼を一本携えていた。
「貴方もねぇ、スキルはある様ですが武器が無いと戦えないんじゃあ私を攻撃出来ませんねぇ。」
飛び掛かって来たベールを難なく躱し、続けて来た追撃も釼を消す事で止められてしまう。
ベールは大きく欠けてしまった釼を地に打ち付けて別の釼を手折り、構えた。
戦闘スキルはある。切り替えも早く、実際攻撃に隙は少なく、迷いもない。
だが如何せん、武器しか使用出来ないとなると相性が悪過ぎた。
自分には此の力がある。其の前では近接攻撃なんて無意味だ。
いや、抑自分に気付かれている段階で、どんな攻撃も無意味だ。近付けば消せば良いのだから。
彼の化物にやられたのは只の油断だ。状況からして必ず自分が勝っていたのだ。
さて其の力を今一度、此奴等に見せ付けてやろう。
絶対に赦さない、此の私の顔に傷を残した事、必ず後悔させてやる。
ベールは見えるか如何かのぎりぎりの速度で突きを繰り出している。
実際だったら何回かに一度は当たっていただろう、其程鋭い正確な攻撃だ。
でもそんな物、釼を消してしまえば問題ない。実際此方は可也手加減をしてやっているのだ。
こんな近場で戦っている時点で、其の存在毎消してしまう事は可能だ。
消さないのは未だ、素材としては十分に使えると判断したからだ。
只消すのは味気ない。折角彼奴の仲間なら他に利用出来ないだろうか。
釼を消されてもベールは直ぐ釼山に手を伸ばし、別の釼を構えていた。
流れる様な動作、隙は全くない。無意味と分かっても猛攻するのは何故なのか。
「・・・もう十分分かったでしょう。こんな不毛な攻撃は止めて配下に下りませんか?今なら三柱共鄭重に持て成してあげても良いですよ?」
「・・・・・。」
只相も変わらずベールは黙って突きを繰り出す丈だ。
惜しい、が、其が彼等の意思なら仕方ないだろう。
抵抗出来なくなる迄弱らせて無理矢理連れ去っても良いが、三柱も居るし、何より面倒だ。全員御望み通り消してやろう。
「・・・然うですか。残念ですねぇ。」
ソルドの手が動いた瞬間、ベールは釼を投げ捨てて大きく後退した。
術の発動に勘付いたのか。空しくも釼山の一部を消し去る丈に終わった。
「っ、・・・此は此は。」
そして突然背後から釼山の破片が飛び散り、ソルドの手の甲に新たな傷を付けて行く。
先投げた釼で奥の釼山を壊したのか。随分と小癪な手を使う物だ。
何も先から掠り傷許りだが、此方許り傷を負うのも面白くない。
「いやぁ中々やりますねぇ。と言っても時間稼ぎにしかなりませんが。」
其にしても今の反応は良かった。勘だろうが呑まれる前に逃げたのは然う出来る事じゃあない。
只逃げた所で追えば良い丈の話だが。別に此の程度の魔力の消費なんて如何と言う事はない。
此処で逃がす訳には行かないので、ソルドは足を速めてベールを追った。
術は纏っている。近付く丈で消えてしまうのだから何て脆い物か。
でも別段ベールは困っている風ではなく、ちらとリーシャンを見遣った。
其の瞬間にベールとソルドの間に新たな釼山が生え始めた。
壁にも生え始め、曦が乱反射して眩しい。
ベールは脆そうな釼を一本見繕うと引き抜き、他の釼と刃を打ち鳴らす。
其の際に出て来た欠片を彼はそっと回収して服に忍ばせて行った。ナイフの代わりにするのだろう。
彼の目丈はじっとソルドを見詰め、未だ諦めている風には見えなかった。
「・・・そろそろ片付けてくれるかしら。私見ていても退屈なんだけど。」
―ダ、ダイヤ、もう少し丈待って下さい。二柱で頑張りますから、ね?―
二柱・・・何か策はあるのか。
ダイヤは一つ溜息を付くとそっと同郷である神を見遣るのだった。
そんな彼女の声に応じたのか否か、意を決したかの様に突然ベールは駆け出した。
ソルドに向け、又釼を構えている。
今度は床に生えている釼山の背を踏み付けて迫ると言う離れ業をやって退けてだ。
「全く、芸がないですねぇ。少し位変化があっても良いですよ?」
右へ左へとひらひら飛びつつも結局は正面である。
ソルドは今度こそ逃がすまいとしっかり狙いを付けていた。
一度で呑み込み、完全に存在を抹消出来る様に。一片も残す物か。
次に着地した瞬間を・・・狩ってやる。
ソルドはベールの軌道を読んで予め術を仕込む事にした。
後数瞬で。彼奴が一瞬で消えたら二柱はどんな顔をするだろうか、切り札として放った彼が跡形も無くなってしまったら。
「っ此は、っ、」
ベールが足を下ろす瞬間に背に激痛が走り、思わずソルドは振り向いた。
背には幾本もの氷柱が刺さっていた。何時の間に放たれていたのかしっかりと背に喰い込み、血が噴き出す。
まさか・・・術の特性を読まれている?
でももう術は放っている、せめて彼の男丈でも。
再び視線を戻した彼は目の前の光景を信じられなかった。
ベールは其の儘着地すると思いきや、携えていた釼を立て、釼山に差し込み、一気に捻る事で着地点を大きくずらしたのだ。
然うして安全に着地した彼は勢いの儘に釼を構えてソルドへ飛び掛かった。
「っく、早、過ぎる。」
瞬き程で一気に詰め寄られ、思わずソルドは上体を逸らして紙一重で釼を躱した。
此奴、死が恐くないのか、如何して見えない攻撃に然う突っ込める。
一撃でも当たれば死ぬ様な存在が、何故此処迄自分に楯突く。
術に集中しようにも彼の連撃がきつい。
一呼吸の間もなく釼が振られる。其の何もが心臓や頸を狙っていて迷いもない。
先に息が上がりそうでソルドは少し丈蹌踉いた。
其処へ彼の釼が伸び、頬を掠め、絳い筋を残した。
彼の化物に付けられた傷、其と重なって疼く。
噫、嫌でも彼の時の事がフラッシュバックされる。
彼奴の仲間だ。同じ穴の狢と見る可きだったのか。
似た目をしているじゃないか、自身の死には無頓着で、只相手を殺そうとする奴の目だ。
噫苛つく、本当に不快な奴等だ。何故私の前に立ちはだかる。
私は王に選ばれたんだぞ、御前達みたいな出来損ないの神なんかとは違う。
ソルドが睨んだ所でベールは其を真っ向から受けた。
そして又水精の氷柱が何本も空中に現れ、鋭い鋒を此方に向けていた。
・・・先から攻め方が似ている。矢張り此の力の特性が分かっている。
でも同じ策でしか来ないなんて、其の程度で私を斃せると本気で思っているのか。
本当に、嘗められたものだ。
「小賢しい虫螻共がっ!」
飛んで来た氷柱に向けて彼は声を荒げる。
ベールは後も見ずに氷柱を躱しつつ又飛び掛かった。
剱と氷柱が四方から迫る。
其の中で只ソルドはベールを睨め付けて居た。
正面から来るなら今度こそ思い知らせてやる、一体誰に手を出したのか。
瞬きの後、全ての氷柱が跡形もなく消え去った。
そして釼を構えていたベールも、其の片腕が消えてしまう。
一瞬丈彼は目を見開いたが直ぐ様大きく距離を取って下がった。
無くなった腕からは血が溢れ出ている。ダイヤの時とは違い、本当に腕を持って行かれた様だ。
「一寸ベール、何やられてるのよ!」
「だ、大丈夫ですかぁ⁉早く手当てしないと、」
心配そうにリーシャンはおろおろするがベールは余り気にしていない様で肩を押さえて何とか止血を試みていた。
「リー、早く火でも出してあげなさいよ。其が一番早いわ。」
「火ぃ?わ、分かりましたぁ。」
慌ててリーシャンが火を放つとベールは迷う事なく火に飛び込んで肩の傷を焼いて止血した。
「ふ、ふえぇ・・・そんな事出来るんですかぁ。」
「其でも此は面倒ね・・・傍観していたかったけれども私もそろそろ動かないといけないかしら。」
「如何やら私の力を見誤っていたみたいですねぇ。でも傷を与えられた事は評価しますよ。確かに私の力は基本部分的ですが、決して全方向を護る事が出来ない訳じゃあないですよ。」
「むうぅ、然うだったんですかぁ。折角ベールが部分攻撃だって気付いてくれたのに見誤ってしまいましたぁ。」
「あら然うだったのねリー。てっきり二柱で能無しみたいに闇雲に突っ込んでいたのかと思ったわ。」
「の、能無しは酷いですよぅ。彼が近付いて正確な彼の見えない術の間合いを計ってくれたんですよぅ。だから私にぃサポートする様テレパシーで頼んで来ていたんですぅ。全方向から自分の攻撃に合わせて攻撃してくれってぇ。」
「ベールの癖に頼むだなんて生意気ね。其で此の様なんだから笑い者よ。」
ダイヤがベールに向け、吐き捨てる様に呟いた。
相変わらずベールは黙った儘だ。此の状態だと神が変わった様に貝になってしまうのだ。
でもテレパシーをするのは初耳だ。一応コミュニケーションは取れるらしい。
作戦が失敗したとはいえ、彼の御蔭で攻撃の隙が出来たのは確かだ。
同情の籠った目でリーシャンがベールを見遣ると、何処か彼は悲しそうに目を伏せていた。
・・・彼の状態でもダイヤの罵倒は効いている様だ。
黙って耐えている彼を見ると何時もより彼が可哀相に見える・・・。
折角病気の御蔭で殺人鬼の血が目醒めたのなら少し位彼女に強く出ても良いと思うけれども、如何も覚醒したのはスキルの方丈の様だ。
其のスキルですら、病気さえも彼女の良い様に扱われているのだから何とも・・・。
いや、此処は殺人鬼と知りつつも何時も通り罵り巻くって接する彼女が凄いと言う可きなのか。
「全く、私にも一言位言いなさいよ。然うやって出来もしないのに格好付けようとするから碌な事にならないのよ。情報位渡しなさいよ。」
「・・・・・。」
相当堪えたらしくベールは黙って頭を下げていた。
恐らく別に彼にそんな魂胆はなかっただろうが言訳をした所で余計怒られてしまうだろう。耐えるのが最適法なのだ。
「然うですねぇ。今更知った所で遅いですしねぇ。もうあんなチャンスは無いですよ。知られてしまったとなっては私も力を惜しみません。死角が無い私に一体如何攻撃するつもりですかねぇ。」
両手を広げるソルドに、黙ってベールはダイヤの前に立って構えた。
「もう貴方に出来る事は無いわよ。確かに此は御手上げに近いわ。」
諦めた様に呟く彼女をちらとベールは見遣った。
其の目は未だ終わっていなかった。諦めは無く、未だ戦う意思を宿している。
「・・・何よ、未だ出来る事があるって言うなら私に見せてみなさい。」
「ほう、未だ折れていませんか。良いですよ、掛かって来なさい。」
「一体どんな方法があるって言うんですかぁ・・・。」
一同はベールの動きをじっと観察していた。
彼の動き次第で、戦況は変わる。
「・・・え、ダイヤ、見せるってな、何を?」
だがそんな彼が取った行動は何とも的外れな発言だった。
んーっ!中途半端!
七万の壁はきついですね、ソルド戦終わり迄此方に入れたかったのに。
文字数自体は大丈夫なのですが、ルビや『小説家になろう』の独特の記号?の様な物を入れているとギリ越えてしまいました・・・無念。
そして終にBDE-00さん迄もが、何て事だ!
彼女は本当にリメイク前との変化が可也激しいキャラだったのでバトルに可也変更が加えられました。
個人的には満足しています、スーパーロボット大戦ってやってみたかったんだよね!
何だか変な挿入があったみたいですが、私は知らないです。えぇ些とも。
と言う事で次回が嬉し悲しの第三部!塔の頂に手を掛けるのは誰なのでしょうか⁉




