35次元 治める魂亡き塔ト崩壊の足音Ⅰ
長らく御待たせしました!
やっとストーリーが大きく動き出す、
次元龍屋VS鎮魂の卒塔婆です!
とにかくバトルバトルバトルの回、小説なのにこんな戦って良い物か。
表現を模索している内に凄い頁数となりました。予定していた内容の通りを粗々書けましたが、分かり難い伏線だとかを直しているとどんどん増えて結局自分の中の締め切りにに間に合いませんでした・・・。
でも其の甲斐あって今回は3部作!やった、長い!
さぁ誰が勝ち、誰が死ぬのか!死者数では過去最多です!(不謹慎過ぎる)
さぁ行ってみましょう!
・・・一応警告で、三部目に非常にえぐい内容の話が盛り込まれています。気分を害されても責任は取り兼ねますので御了承ください。
噫、鎮まれよ偉大なる魂よ
彼の者の御御足からなる雷動を聞け
さぁさぁさぁ時が来た
門戸を開け街の者、呪いを嘆きを迎え入れよ
笛を吹け、北風の様に徒に亡霊の足を進ませるな
さぁ招く千の魂よ、詠って示しておくれ
我等を導け、見えざる者の所迄
・・・・・
「今日は・・・客が多いな。」
又一柱の神の首を刎ね、セレは一つ息を付いた。
そんな彼女の足元では屍が積み上がっている。
神が消える以上に殺す数の方が上なのだ。
正直限がない。数が単純に多過ぎるのだ。殺しても殺してもやって来る。
・・・若しかしたら軍を一つ潰したかも知れない。其位多い。
一寸殺し飽きて来たな・・・。引っ切り無しだし、加えて同じ様なレベルの奴許りだ。変化も何もない。
強いて言えば時間稼ぎか・・・?でもそんなに稼げていないし、稼ぐ理由も今はない。
徒に兵を殺させて、一体何が目的だ。
店の位置が完全にばれているのも気になる。今迄術で隠せていたのに如何して。
大きくセレは跳躍し、旻高くから零星のナイフを投げた。
眼下で幾つもの命が散る。実に呆気ない物だ。
其でも奴等は来る。・・・如何してだ?
店がばれている、と言うのは正しい表現ではないな。正しくは店に来る輩が増えた、単純に其丈だ。
店を目的に近付いて、丗闇の術で迷わされている。其処へ自分が一部術を解いて奴等を招き入れる。
すると如何だ、幾らでも誘われる様に来るじゃないか。明らかにおかしい。良く、考えろ。
波紋に写る影を又追い掛ける。先から此の繰り返しだ。
其処等中から殺意や敵意を感じるから敵で間違いないだろうが、殺してみれば皆釼やサイレンサーすら付いていない銃等を持っている。別に暗殺をしよう等とは思っていない様だ。
だったら益々分からない。軍なら散らばせて戦わせる事に何の意味がある?各個撃破されて全滅するのが目に見えているじゃあないか。
寧ろ軍をばらすのが此方の仕事なのに・・・目的が見えない作戦は何と言うか・・・恐ろしい。
別に前世でこんな大規模な戦いをした事がないから経験は乏しいが・・・其でも此は明らかな異常だ。
・・・考える丈無駄なのだろうか。堂々巡りを繰り返して変になりそうだ。何も考えず殺し続けた方がいっそ良いのか?
傍の碧樹に隠れた気になっていた奴の首をそっと掻っ切る。死んだか如何か確定する迄は波紋からは絶対に離さない。
「っ何故此処に、」
反応が鈍い。
其以上無駄口を叩く前に頭を落とす。
―・・・なぁ丗闇、何かおかしくないか?―
―・・・あ、何か・・・言ったか?―
―ん、寝てたなら別に良い、困っている程じゃあないから。―
―いや、何でもない。何だ。―
絶対何かあるんだよなぁ・・・。
先からこんな様子だな。何だか抜けていると言うか、惚けている。
アティスレイの事、引っ張っているのだろうか、何かずっと考えている様に見える。
意地になっているのか何にも教えてくれないのでもうそんな突っ込まないけれど。
―何か此の状況、変じゃないかって聞いてみたんだけれど。―
―変・・・其で済めば良いが。御前が殺し続ける事が誰かの罠に填らないと良いがな。―
―呪いとか其の類か?其にしても使い捨てにされ過ぎている気がするが。―
呪い・・・呪いかぁ、其は別段感じないんだが、先から感じる痛みがある。
大した事はない、大した事はないが少しずつ大きくなっている、殺す度に膨らむ胸の痛み。
原因も分かっている。此は例の焔、漆黔の焔の所為だ。
彼の焔は元々自分と合わなかった。自分から離れて久しく、色々な物を呑み込み、混ざり過ぎていたのだ。
彼の中には一つの世界が呑まれている、其程の規模だ。
そんな化物を自分が受け入れ切れる訳がなかったんだ。暴れる程じゃないにしても喰い破ろうとする気配は感じる。
恐らく此の焔は自分が誰かを殺す度に其の懐いや存在を焼べて燃え上がっている。
自分が殺す事で自分の存在証明に充てる様に、焔も其を材料に燃え上がる。
然う言う意味では相性は良いんだが、只焔が勁過ぎる。
此の焔が目当てで襲って来ているとか・・?でも此で自爆するには未だ未だ時間が掛かるぞ。
御せない丈で、対処は出来るのだから。
駆け乍らも道中出会う者の首を狩る。首が特定出来ない者に関しては細斬れにして様子を見る。
刃を振るう度に見えない筈の燐火が舞う。
もう、此処迄大きくなっていたのか。此が自身すら燃やしてしまうから痛みが走る。
けれどもまあ無視出来る程度だ。まさか此が目的じゃああるまい。
・・・じゃあ一体、何だと言うのだろう。
―矢っ張り分からないな。此の儘じゃあ皆起きてしまうし。―
今は仕事で出払っている者が多いから良かったけれども、こんなに殺意が囲っているなんて良い気はしないな。
其でも終わりは見えて来た。後数十柱、其以上の増援は見えない。
・・・取り敢えずは殺すか。
―目的・・・御前に神を殺させる意図か。―
又一柱、繰り返しだ。何も変わらない。
戦闘訓練を受けている者も居るだろうが、状況が悪過ぎる。
飃みたいに戦闘の勘が凄まじい者や、対暗殺者向けの者を連れて来れば苦戦も強いられただろう。
相性が、攻めて来た癖に悪過ぎるのだ。此じゃあ只の殺戮だ。
御前達の上司は誰だ。誰がこんな酷い命を出したんだ。
数柱集まっている中心へ降り立ち、二本に分かれた尾を振るう。
逆刺に頸を掛け、無理矢理引っ張る。捥ぎ取られた首が弾け飛んだ。
本当に、手応えがない。術も、魔力達の手がなくても此の様か。
「後・・・六柱か。」
何とか晁迄には終わりそうだ。如何しても晁は行動制限が掛かる。
―此の儘終わらせるのか。―
「いや、此の数なら話は出来るだろう。」
店からも離れて来た。もうテレパシーも不要だ。
残る六柱も固まって行動している。少し離れた碧樹に降り立ち、そっと様子を見る。
軍隊の出っぽいな、動きは。恐らく彼のチームが最後に来た筈。
若しかしたら上役が居るかも知れないな。一寸揺らしてみるか。
「え・・・あの、他の部隊と連絡が取れません・・・。」
「電波障害か。テレパシーも同じか?」
「いや此は障害と言うより、」
言い掛けた所で男の上体が力が抜けた様に頽れる。
並んで居た鳥頭の男が不審に見遣った所でもう相方の首が無くなっていた。
道理で話せなかった訳だ。そして次は恐らく、
其処で彼の思考も止まる。セレの鋭利な尾が脳天に突き刺さっており、其の躯は軽々と投げ飛ばされた。
代わりに堂々とセレが姿を現した。
別に神質は取らない。神に其の手は殆ど通じない。
挨拶として二柱殺したんだ。其が先制として効けば良いが。
「っな、何でこんな所に、」
突然の旻からの襲撃者に四柱の動きは止まる。
人鳥に似た皓い神、サイボーグなのか機会塗れの者、猫の様にしなやかに四足で歩く者、大きな蟷螂擬き。
神は本当に個性豊かだ。其でもこんな個性を潰す戦い方をさせては目立つ丈だ。
こんな群の中じゃあ少し位自分は普通に見えるだろうか。
「お、おい流石に此処で会うのは早過ぎるだろ、」
「落ち着け、此の位は未だ、」
先から不安気に口を開くのは蟷螂擬きだ。一番図体が大きいのに何とも弱気だ。
其を宥めたのは人鳥の神だが、彼の言葉を無駄にしてしまった。
余りにも蟷螂擬きが話すので即座に首を零星で落としてしまったのだ。
首が無くなり、緩りと倒れて消えてしまった蟷螂擬きを見遣り、人鳥神は一つ息を付いた。
「報告以上の大物だな。」
「御前が今回の首謀者だったりするのか?」
随分と冷静な神だ。明らかに動揺している周りの者と違う。
実際他の奴等も彼の指示を待っている風がある。彼が少なくとも此のチームのリーダー格である事は間違いないだろう。
外見は可愛らしい人鳥だが、彼も又神なのだ。何らかの後悔をし、世界に絶望した一柱。
・・・若しかしたら神だからこそ、死が救いの彼等だからこそ、此の状態でも冷静なのかも知れないが。
「首謀者とは違うが今回の作戦の意図は知っている。」
「た、隊長そんな話をしてる暇なんて、」
「君達は黙る様に。殺す気なら疾っくに殺されている。話をする為に生かされている丈だ。」
「話が分かって助かる。まぁ然う言う事だ。私にこんな部下を殺させて何の得がある。」
隊長なのか。其ならまぁ色々知って然うだな。等身が低いから最初のターゲットから外していたが、功を奏した様だ。
魔力達の伺う気配がする。一体何をしているのか興味がある様だ。最近斯う言う会話にも関心を示し始めている。
少し前なら早く遊ぼうよ、何て急かしていただろうに。成長が早いのは果たして良い事だろうか。
「作戦は一応成功、と見る可きか。御前を私達は過小評価していた様だ。危うく本当に只の無駄死にになる所だった。」
言葉とは裏腹隊長である彼の声も又随分と可愛らしい物だ。
・・・若しかしたら彼女、が正しいのかも知れない。其でも漂う風格は本物だ。斯うして対峙しているからこそ分かる。恐らく其の容姿も含めて彼の武器なのだろう。
「一体フォード様は何を考えて御前なんて者を作ったのか。」
「鎮魂の卒塔婆からだったのか。こんな戦力を持っていたのか。」
最近良く来る何処ぞの光の国側の使者と踏んでいたから何だか拍子抜けだ。分かっている所なら未だ理解は出来る。
「・・・粗全勢力だが・・・君の戦力を計って調べる。私が受けた命は其だ。其処迄は果たせたが、此の結果を持ち帰る事は出来そうも無いな。」
「成程、然う言う事か。」
でも本当に其が目的か?何かおかしい。計る丈なら今迄も散々送り付けていただろう。
其に彼のフォードがこんな大掛かりな手を使うか?賢いのだから此迄でもう十分勁さは分かっていただろう。其なのに今更・・・?
此を元にもっと大掛かりな戦いを仕掛けるのなら分かる。其でも先粗全勢力だと此の隊長は言った。
露骨な戦力削り・・・此に一体何の意味が?
若しかして此は・・・誘っているのか?
自分に来い、と。もう一度彼処迄。
互いに邪魔だと思っていたのだろう、準備はしてやったのだから招かれろ、と。
然う、言われた気がした。其の方が自分のイメージする彼にぴったりな台詞だったのだ。
「確かに其の命は果たせないだろうが、無駄死にではなくなったのも確かだ。次、私がする可き事が決まったのだからな。」
そっと背後に向けて零星を放つ。
小規模な爆発と共にナイフが肉を放つ音が幾重にも掛かる。
数瞬もしない内に一柱の神が斃れ、静かに息を引き取った。
彼の少し猫に似た神だ。隠密は得意そうだと踏んでいたが、目を盗めたつもりだったのだろうか。
背後から奇襲を掛けようとも、最初から自分の目は見えていない。無駄な努力と言う物だ。
「徒に兵を殺さないでくれるか。其でも可愛い部下なんだ。」
「其じゃあ不出来な兵に言ってくれ、私を殺そうとするなら殺し返すと。もう後一柱なんだし、しっかりと言い聞かせとけ。」
人鳥神は静かに嘴を上げた。驚いたと許りに瞬きを繰り返す。
「一柱・・・本当に全滅してしまったのか。まさかこんなあっさり終わってしまうとはな。」
残るサイボーグの神をちらと見遣って人鳥神は重い溜息を付いた。
別に先に襲って来たのは其方なんだし、自分をそんな責める謂れはないと思うが。
まぁ鎮魂の卒塔婆の兵なら何の道然う長くはなかったがな。
残った最後の兵は言い付けを守って黙って構えている。少しは長生き出来そうだな。
「一体何の為にフォード様はこんな恐ろしい存在を作り上げてしまったのか、本当に理解出来ないな。改めて考えても分からない。世界を壊す存在なんて。・・・さぁもう此の老兵に聞く事等無いだろう。さっさと始末したまえ。」
「噫、話が早くて助かるよ。」
鎮魂の卒塔婆の軍が攻めて来た、其の事実を作る為丈に此奴等は命を捨てる。
神だってそんな事をするのだから世界は何処迄も終わっていると見える。
唯一の救いは死は一応神にとっての救いになる事か。こんな終わり方は不本意だろうが、其でも終わる事が出来るのだから。
そっと尾を持ち上げ、横薙ぎに払う。人鳥神の頸を狙っての一撃だった。
だが其が払われる迄の間に控えていたサイボーグ神が前に出た。そして見事に胸元を一刀両断され、頽れる。
破片が散り、刹那電気が走る。
受け身も何も取れていない。単純に前に出た丈か。
サイボーグ神のモニターが点滅し、不自然に腕が上げ下げする。
サイボーグ類の機械的な存在の命が如何言った物になるのか自分は知らないが、恐らく此奴の命はもう尽きる筈。
「・・・如何して、こんな馬鹿な事を。」
「別に何をしようが全ての物事に意味はない。然う言う事だろう。」
そっと人鳥神はサイボーグ神の破片に手を伸ばした。
此方を見遣る其の目は薄ら潤んでいる気がした。
「けれども、其の行為の御蔭で御前が如何言った奴なのかは・・・少し分かった。」
「・・・御前は、ずっと・・・こんな事を、」
「・・・・・。」
セレはもう一度尾を払った。其は今度こそ人鳥神の頸に命中する。
何て事はない。結局何方も死ぬ丈。少し早いか遅いか丈で。
転がる首を一度丈見遣る。もう此処で生きているのは自分丈だ。やっと、終わった。
「・・・っ、」
戻ろうとしたが少し足が重い、明らかに焔が・・・勁くなっている。
ある意味、此の作戦は生きるかも知れないな。殺せば殺す程自分の力は増すが、其の分此の焔も・・・。
此の小さな痛みの所為で反応が鈍くなるかも知れない。
「・・・丗闇、少し頼み事をして良いか?」
―御前からされる頼み事は大抵碌な物じゃあないが・・・一応聞いてやる。―
「ククッ、まぁ然う言わないでくれ。丗闇にしか出来ない事なんだ。もう一度、丗闇の封印を解いて欲しいんだ。」
―何・・・?随分と面倒なやり方で自殺を図ろうとするんだな。―
「いやいやそんな全部じゃなくって、前みたいに一部丈。其を又私の存在証明に充てて欲しいんだ。」
―出来なくはないが、そんなにか。余り此の力に頼るのは得策だとは思えないぞ。―
「其でも此の儘だと恐らく私は・・・燃え尽きる。此の焔を少しでも抑えたいんだ。でないと此から起きる大戦に万全で挑めない。」
―焔・・・?成程、御前が前の次元で無計画に喰った奴か。だから程々にしろと彼程言っただろうに。―
うぅ・・・早速怒られた。でも仕方なかったんだよ。結構彼の状況不味かったんだよ。
今直ぐ死ぬか延命かと言われたら、延命を選ぶだろう?
「其の事はもう仕方なかったと開き直る事にした。だから反省するより先に未来に向けて為可き事をしたい。」
―御前が未来なんて言うと何とも嘘臭いが、其の結果、我の力を借りる方が楽と踏んだのか。―
「其以外の手段だと頓契約をし続けないといけなくなる。其は現実的でないし、多分もっと別の問題が生まれそうだから。得策ではないと思うんだ。」
―・・・一応御前なりに考えて其の結論に行き着いたと言う事か。確かに御前の力は前より随分増している。・・・可能ではあるだろうな。―
暫くすると丗闇が顕現した。
何時も通り少し浮いているので自分より頭身が高く見える。
・・・腕もちゃんとある。彼が夢だとはっきり分かって良かった。
「封印を解くのは構わない。只前と同じで勿論リスクもある。調整を間違えれば即座に御前は死ぬが、良いんだな。」
「大丈夫分かっている。其に多少のずれは大丈夫だと思う。前ので私も学んだ。私の方からも調整はある程度出来る筈だ。だから頼む、丗闇。」
「リスクを承知の上なら我も・・・構わない。」
途端丗闇の姿が巨大な壁に阻まれて見えなくなってしまう。
此の壁は・・・封印だ。未だ此丈の封印で丗闇は縛られている。
自分と彼女を繋ぐのに本当にこんなに必要だったのだろうか。こんな雁字搦めに。まるで此は・・・丗闇を自分から離さない様にしているみたいだ。何処にも行けない様に、封印で出来た鳥籠の様に。
今回も恐らく必要分丈丗闇が可視化させたのだろうが、若し全ての封印が解けたら、自由になった丗闇は如何するのだろうか。
自分から離れて・・・店も、去ってしまうのだろうか。
「覚悟は良いか。今から此を解くぞ。」
「噫、大丈夫だ。丗闇。」
・・・此の関係は、条件付きの関係なのかも知れないな。
丗闇が息を詰めて手を払うと壁に罅が入った。
そして壁の上部から解れる様に崩れ、散って行く。
曦の欠片が、六花の様にはらはらと。積もる訳でもなく、薫風に乗る訳でもなく。
其の光景は矢張り何処か美しく、儚かった。前は死に掛けの状態だったから良く見えていなかったけれども、今改めて斯うして見ると、言葉も忘れそうで。
如何して物が壊れる時は何時も斯うも、美しいのだろう。
―スゴーイ!トッテモ綺麗!―
―綺麗ダネ、一寸遊ンデ良イ?―
思い思いに魔力達が曦の欠片を持って遊んでいた。
見えない丗闇は何とも不審そうに曦を見ていたが、幾らか合点が行ったらしく、其以上は見るのを止めた。
「・・・如何だ。おかしな所はないか。」
「っ、噫大丈夫だ。今回も成功だ。変化も無いし、単に魔力が上がった丈で、凄く楽だよ。」
何処か惚けて熱を持った儘に彼女の目元が赤くなっているのを見て丗闇は眉を顰めた。
「熱でもあるんじゃないのか。間抜けな顔してるぞ。」
「え、え?其は一寸酷くないか?いや単に見惚れていた丈だよ。何だか封印が解けるのは、凄く綺麗だったから。」
「綺麗・・・?まぁこんな数は然う見られないだろうが、そんなにか。」
「噫、本当に。魔力達だって喜んでいるし、息を忘れる程だったよ。如何してか凄く綺麗だったよ。おかしいな、目は見えないのに綺麗だなんて。」
「・・・変な奴だな、相変わらず。」
「褒めている丈なのに酷い言われ様だな・・・。でも有難う丗闇、今回も助かった。斯うして貰わないと私はそんなに長くないからな。・・・あ、待ってくれないか丗闇、」
早くも丗闇が背を向けて帰ろうとしたので呼び止める。
「な、何だ。礼ならもう良いぞ。」
顔の火照りが治まらない様で丗闇は背を向けた儘だ。けれども彼女は何時も立ち止まってくれる。
良くもまぁ彼の一言でそんなに赤くなれるな、とは思うが口に出した途端帰ってしまいそうなのでぐっと堪える事にした。
「なぁ丗闇、私は今も・・・おかしいか?」
「・・・?何の事だ。」
思わず丗闇は振り返った。何とも怪訝そうにセレを見遣る。
別に茶化された風でもない。何とも真面目そうに。
「いやほらアティスレイの、先の夢で、私は私じゃあなくなっていたから。変な事・・・言わなかったかなって。」
「・・・変な事は言っていたが彼は彼奴の所為だろう。彼奴が勝手な事を言わせたんだ。」
「丗闇は本当、優しいな。其の通り、なんだけれど何だか自分でも自信がなくて。言葉も行動も、信じられなかったから。」
其を聞いて丗闇は少し考え込んでいる様だ。思う所があるのかも知れない。
「一寸、記憶の整理もしたい。なぁ丗闇、丗闇が見た夢の私で具体的におかしい所は何処だったか教えてくれないか?何処迄私の意識が残っていたか気になるんだ。」
「其は・・・、」
自分を突き飛ばした事、と言い掛けて結局丗闇は止めてしまった。
確認したいのはそんな所じゃない。彼は、我が勝手に気にしてしまった事だ。
・・・其に彼は毒に侵されたからだと彼奴は言っていた。なら、其で良い。
「・・・然う・・・だな。本当に彼の女を喰らったのか、そんな所か。」
「女って・・・倭、か?」
虚を突かれた様にセレは瞬きを繰り返す。
もう其の時は意識が無かったのだろうか。
「私が・・・?そんな事をしたのか?倭を・・・食べた?」
「・・・記憶にないなら無理に懐い出さなくても良い。其の直ぐ後御前は彼奴に操られていたからな。」
気付けばセレの顔色はすっかり白くなってしまっていた。
ショックだったのだろうが、此は此で又発狂なんてされたら堪った物じゃない。
彼は夢だと割り切ったのだから、もう揺さ振りは掛けないで欲しい。
「・・・少し丈、憶えているな。確かに、私がやったんだろうな。」
「さっさと忘れろ、碌な物じゃないだろう。」
「まぁ・・・然うだな。夢で済まさないといけない事だ。・・・あんな悍しい事。」
「別に其処迄気に病む事も無いだろう。殺すも喰らうも、同じ様な物だ。」
「ククッ、如何した丗闇、本当今日はやけに優しいな。そんなに夢の私はおかしかったのか?流石に其はおかしいだろう、殺すのと喰らうのは全く別物だ。私が人を喰らう様になったら・・・終わりだな。其だと殺しが必須になってしまうだろう。私は飽く迄、殺す事自体は消極派なんだよ。何言ってるんだって思うだろうけれど、其でも好きな訳じゃない。やらないといけないからしている丈だ。やらないといけないから楽しんでいる振りをする丈だ。」
然うだ、本心は違う。楽しんでなんていない。
本能は如何か知らないが、こんなにも殺す事に特化した躯だが。
其でも自分は本当に平和主義者なんだよ。フォードが言った通り、平和の為に周り全てを片付けてしまう、然う言うタイプなんだ、自分は。
・・・まぁでも殺さないと自分の存在意義が保てなくなって来ている時点で、殺しも喰らう事も確かに一緒かも知れないけれどな。気持の問題、繋ぎ止める物の問題なのかも知れない。
「・・・其丈話せれば大丈夫だろう。我は戻るぞ。」
「あ、噫、うん、大丈夫。済まない、変な事で呼び止めて。」
丗闇の姿が霞み、消えてしまう。
自分の中へ戻って来るのを感じる。
・・・うん、もう大丈夫だ。もう正常だ。
・・・もうあんな事、口走って堪るか。
さて、焔も無事治まってくれた。此の分なら何時か御せる様になるかも知れないな。
まぁ其には又屍が必要なんだけれど、結局、自分に付き纏うのは死なんだろうな。
殺しの精霊、正に其の通りになってしまったな。
一度、店に戻ろう。ガルダや皆と、良く話さないと。
「噫然う言えば皆に相談する前に一つ丗闇にも聞いてみたいんだけれど。」
自分の中に戻った丈で話す分には問題無いだろう。煙たがられる前に済ませてしまおう。
―別に御前の決定に我の意見を一々聞くな。我を判断材料にするなと言った筈だ。―
御堅い。然う言う線引きはちゃんとしているのが彼女だ。
然う言う意味では彼女は仲間と言うには少し違うのかも知れない。其こそ、契約の関係とか、利害の関係とか。
まぁもう自分としては其以上の物として計算するけれどな。
「然う言う訳じゃなくって、闇の神の丗闇さんとして一つ聞いてみたいんだけれども。ほら私やる時は暴走してでもやってしまうからな。」
―ブレーキ役は我でなく彼の男に頼む可きだと思うが。一応聞いてやる。―
「聞いてくれる丈でも十分だ。若し、私が鎮魂の卒塔婆を壊したら、世界は滅茶苦茶になってしまうのか?私は余り次元の迫間の事詳しくないから其の辺の事情に疎くてな。」
―・・・前は夢物語だと一蹴したが、今は・・・可能性があるな。・・・塔の一つであれば、未だ影響は少ないだろうが、―
ぶつぶつと独り言が混ざる。丗闇なりに真剣に考えてくれている様だ。
此から、何が起きてしまうのか、自分は何に関わってしまうのか。
じっと彼女は考え込んでいた。言葉に責任を持つ様に慎重に。
―次元の迫間の秩序の基盤は二国の王だ。御前の言う世界が神の秩序を指すのなら、塔の一つ丈なら問題ない。だが、問題は其の後だ。―
何言か喋ると又少し黙ってしまう。しっかりと整理して話したい様だ。
―塔が壊れるなんて、我が聞いた限りでは一度もない。前代未聞の事が起こるとすれば、塔の崩壊自体に影響がないとしても国は次に何が起こるか考えるだろう。―
「然も壊したのが私なんだから余計か。国の不穏分子じゃあな。」
―・・・如何転んでも酷い世になり然うだ。だから我としては余り賛同はしない。今迄形丈でも平和だった世を徒に壊す可きではないと我は考えている。でも先言った通り決めるのは御前の勝手だ。我は邪魔も手助けもしない。傍観を務めさせて貰う。―
「ふーん平和、かぁ。余り然う思った事は無いんだが。うん、でも丗闇の事情は分かった。けれども私は私の事情もあるから攻めない訳には行かない。然うしないと此方が遠からず終わってしまう。向こうを壊して世界がおかしくなってしまうなら、まぁ其もあり・・・かな。」
予想はしていたが、矢張り其は狂いが無いらしい。まぁ好転はしないだろうな。
「何の道終わるのなら足掻いてみたいし。私としては終わるのなら皆で一緒に終わってみるのも乙な気がするな。散々化物だの言って来た世界だ。一寸目に物見せてやろうか。」
―・・・そんな思想だから不穏分子だと扱われる自覚はあるのか。―
「ククッ、私が然うだった所為なのか、世界が先に然う扱ったからなのか。今となってはもう分からないな。けれども終わり丈は、せめて私が決めるよ。」
―又、悪イ事考エテル?―
―悪巧ミノ時丈君ハ笑ウノネ。―
魔力が集う。丗闇の封印の欠片はもう消えてなくなっていた。
代わりに、自分の魔力がはっきりと増して行くのが分かる。
欠けた所を補う様に。完全体になったとは言え、未だ不完全な所もある様だ。
未だ成長し切っていないと言う可きか。丗闇が自分の存在を肯定した丈で、勁くなる。
世界に嫌われている所為で、常に欠けて行く所を補って貰わないといけないのかも知れない。
ガルダ・・・私はずっと此の事を負い目に感じてしまっている。
御前が彼の日言ってくれた様に、御前の肯定丈で生きられれば良かったけれども。
其丈では足りない、私が・・・我儘な許りに。
全てを喰らい尽くさないと止まれないのだろう、何も持っていなかったからこそ全てが欲しくなって際限なく強欲になって行く。
其が私なのだと、認めざるを得ないのだ。特に最近は。
「・・・噫、今から一段と酷い悪巧みをするぞ。生きるか死ぬかのデスゲームは皆好きだろう。」
―何其⁉ネェ教エテ!―
―何ダカ凄ク恐イ事考エテルデショ。―
―悪巧ミ、イケナイ事ナノニ楽シソウ?―
―・・・覚悟は決まったんだな。―
魔力達の声の中でも丗闇の声は何時もはっきり聞こえる。
其は屹度、真直ぐ自分に向けた言葉だから。
「噫、どうせ初めから此の道しかないからな。」
もう、晁になる。皆を集めないと。
「悪役は悪役らしく殺し合ってやろうじゃないか。」
全ての屍が無くなった事を確認するとセレは店に戻るのだった。
・・・・・
「んー今日も良い天気だなぁ。」
窓を開けてガルダは一つ伸びをした。
晁陽が眩しい位だ。皓い陽が此でもかと輝いている。
眩しくてずっと見詰めていたら目が潰れてしまうかも知れない。
・・・いやこんな長い事見詰めている時点で若しかしたら自分は潰れて、再生、潰れてを知らずに繰り返しているのかも知れないけれど。
うーん、普通にするのって矢っ張り難しいなぁ。
「ガルダ、一寸良いか?」
のんびりそんな事を考えているとノックの音と一緒にセレの声が背後でした。
慌ててガルダは窓を閉め、窓掛をした。他に曦が漏れていないか良く良く確認する。
「噫良いけど如何したんだ?何かあったか?」
セレから俺の部屋に来るなんて一寸珍しい。そっと扉を開けると苦笑した彼女が立っていた。
最近、良く見る顔だ。
何か後ろめたい事があるのに諦めた様に其をしないといけないと言った様な、何処か危うさのある笑み。
「少し、話がある。教えて欲しい事があるんだ。」
セレは後ろ手で扉を閉めるとベッドに腰掛けた。
椅子は俺にって事なんだろうけれど、其処に座られるのは何だか一寸気恥ずかしい様な・・・。
まぁ屹度セレの事だし、此方の方が一寸モフモフしているとか其位しか思ってないんだろう。
「鎮魂の卒塔婆について改めて。知っている事を全て教えてくれ。」
てっきり、何かの聞き間違いだと思い、そっと彼女を見遣った。
彼女は変わらず笑っていた。けれども其の笑みの違いを俺は知っていた。
蛇が人を勾引かす様な、そんな危険で、怪しくて、何処か惹かれる様な、そんな笑みだった。
・・・・・
「う、うぅ・・・全然見付からない、こ、此の儘だとセ、セセ、セレしゃんにっヒィ‼」
徒広い草原を掻き分け乍ら歩いているのはスーだ。
何かに怯えた様にこそこそ歩いては辺りを見渡している。
「あ、あんな所に小屋が・・・彼処、かも。」
草原の中に小屋を見付け、スーは慌てて走り出した。半壊している様にも見えるが人工物だ。屹度彼処に。
走ると言っても彼は其が苦手らしく、ついもたついてしまう。
小屋に着く頃にはすっかり息も上がっており、恐る恐るスーは扉を開けた。
中は・・・無神の様だ。申し訳程度に家具がある丈で、他には何もない。
「あ、うあ・・・こ、此処にも居ない、なんて、」
困った様にスーはうろうろと小屋の中を見渡した。気許り急いでしまう様だ。
「う、うっ・・・もう時間、結構経っちゃったんじゃ・・・あ、あっ怒られるっ!セ、セレさんにっ‼ヒィィ・・・こ、恐い・・・、」
「ぬ、セレが如何かしたのか?」
一柱蹲るスーの上旻から声が掛かる。
慌てて見上げると龍の姿に戻ったハリーが開けた屋根に手を掛けてスーを見遣っていた。
「っ⁉ヒ、ヒィイいぃい‼か、怪獣がこ、こんな所に、も、もう終わりだぁあ!た、助けて、た、食べないでー‼美味しくないからぁ‼」
「・・・真正の恐がりなのだな、其方は。」
小屋の隅でぶるぶる震えるスーを見遣り、ハリーは一つ溜息を付いた。
セレが良く恐がられるのはうんざりすると言っていたが、成程こんな気持なのか。
確かに此は面白くないし、何だか癪だ。
震えた拍子にスーの頭の触角が出て来て一緒に揺れている所は未だ見ていて楽しいが、其を笑う気は失せてしまった。
「落ち着くのだ、我の部屋に来たと言う事は何か用があったのであろう?セレが如何したのだ。」
そっと小屋へ降りて来てハリーは腰を下ろした。
別に此の姿を見せるのは今回が初めてではない。けれども彼は何時も驚いて怯えてしまうのだ。
かっこいいとは言われるが、恐がられるのは心外である。
「あ、あ、ハリーしゃん・・・よ、良かった見付かって、あ、あの、セ、セレさんが呼んで・・・皆集まる様に、って、」
「そんな大事な事を何故最初に言わなかったのだ⁉急ぎ向かうのだ、セレを待たせる事等言語道断なのだ!」
「ヒ、ヒィイイ‼ご、御免なさい‼あ、あぁ、あ、」
ハリーの声に驚くスーを一瞥し、早く背に乗れとハリーは促した。
だがスーは先の事ですっかり腰が引けたらしく、動けない。
仕方ないのでハリーはスーの服の裾を銜えると其の儘飛び立った。
草原にスーの悲鳴が谺するのだった。
・・・・・
「セレよ!一体如何したと言うのだっ!」
暖簾を勢いよく潜り抜けて人身となったハリーが現れた。
「セ、セレしゃん、す、済みませ、お、遅くなり、っました。」
「あ、噫御疲れ様スー、助かった。」
一体何があったのだろうか、後から来たスーはすっかり腰が抜けている様で何とか壁に手を付いて立っているのがやっとの様だった。
・・・生まれ立ての小鹿の様だ。今にも涕き出し然うな目をしているし、そんな震えて。ハリーを呼んで貰った丈なのに何があったのだろう。
「取り敢えず席に着いてくれるか?大事な話があるんだ。」
「む?おぉ、随分と勢揃いなのだ・・・。」
「然うなんだよ、気付けばこんな増えてたんだね。へへ、何だか古参の気分。」
「ケッ、自分より子供が先輩とか、何だかなぁ。」
―もうカーディ、前ドレミ先輩に威勢張って驚霆落とされて脅されとったやんか。―
「いやでも実際平均年齢低い気がするけど・・・若しかして精霊さんは子供好きなの?」
「・・・皆、炭、食べる?」
リビングには一同が集められていた。
セレ、ガルダ、ケルディ、ドレミ、ローズ、ロード、ソル、皐牙、鏡、飃、ダイヤ、リーシャン、ベール、そして今来たハリーとスー。
勢揃いである。最近ガルダが家具を新調していたので良かった。店を改築していたのも功を奏した。
今見ても何とも数奇な縁である。まさかこんなに仲間が増えるなんて。
ガルダとたった二柱しかいなかった初めが、何だか懐かしい。
そして又同じ所へ向かうのだから、来る可くして運命は繋がる様に出来ているのかも知れないな。
・・・いや、抑此迄が決められた道なんだから当然か。
何とか頑張ってハリーが席に着くのを見守って、セレは一つ咳払いした。
とは言え、此の神数だ。其にこんな事は初めてなので中々静かになってくれない。
そっと魔力に耳打ちすると突然突風が一同が囲っていたテーブルを駆け巡った。
視線が集まる。・・・良し、始めるか。
「今回急に集まって貰って済まないな。全員仕事も無事に終わって良かった。今から一つ、作戦会議をしたいと思ってな。」
「作戦会議?・・・何だか一寸わくわくするな。」
「ふーん、精霊の癖に中々忠実な事するねぇ、まぁ良いけど。」
興味はある様だ。と言っても作戦なんて只の神々の殺し合いなんだがな。
「先ず、状況の確認をしたいんだが、私とガルダ、ケルディが元々鎮魂の卒塔婆の出と言う事は知ってるな?一応私が彼処で作られて、ガルダは彼処の構成員、ケルディはそんなガルダのパートナーだった訳だけれども。」
「・・・然うだね。何だか随分昔の事みたいだけれど、ドレミも憶えてるよ。」
「へぇ、精霊を創るなんて業の深い所だね。そんな簡単に創れる物なんだ。」
「いや誤解があっちゃあ嫌だけど作ったってもセレの背中に隠してあるマイクロチップって機械丈だからな。其を作るのも百年位掛かったってフォードは言っていたし、量産はしてないぜ。」
あ、ガルダ其の事は言っちゃうのか。弱点だから一応飃には伏せていたんだが・・・。まぁ良いか、変な誤解を生むより益しか。
「鎮魂の卒塔婆って彼のストーカー野郎が居たのと似た所だろ。御前等そんな所に居たのか?」
「其処を離反して私達は店を作ったんだ。鎮魂の卒塔婆のボスであるフォードの目的が、恐らく私に世界を壊させる事だった。其を止める為に。」
矢張り認識に齟齬があるな・・・此処である程度は正さないと。向こうに着いて問題が出ても困る。
・・・多少自分の説明も事実と違うが其処迄言っていると皆の集中力も切れてしまうだろう。
正直本当のフォードの目的と言うのも此と言ってはっきりしていないのは気掛かりなんだが、ガルダも其処には補足説明しなかったし、良く分からない様だ。
「うぅ、ドレミ其で勘違いしてセレちゃん達と戦っちゃったんだよね・・・。黔日夢の次元の事しか考えてなかったから。」
「其は仕方ない事だと思うわドレミ。けれども其の後仲直りしたんだし、今は一緒に仕事が出来ているんだからそんな落ち込まなくても良いのよ。」
「噫、然うだな。皆も私がしてしまった事なのに良く仕事に精を出してくれて、本当に感謝している。けれども最近其の鎮魂の卒塔婆から良くない噂を聞いている。」
「噂?と言うと例の真黔い精霊さんから仕入れたのかな、ちゃんと仕事してるんだ。」
「黔い精霊って・・・若しかしてノロノロかしら。正しくは大妖精だけれども。」
「其の通りだ。如何やら鎮魂の卒塔婆が近々軍を動かすらしい。目的は未だ分かっていないが恐らくは、」
正確には其の軍はもう居無いし、ノロノロから此処迄の情報は貰えていないんだが・・・。
其でも迚も言えないだろう、皆が寝ている内に軍一つ潰しましたって。
霄の事がばれてしまうし、何だか・・・ガルダに怒られてしまう気がする、そんな予感が。
具体的に何が如何してかは分からないけれど、叱られるのが嫌で嘘を吐く子供みたいだ。
然うだとしても成る可く事実は伝えないと。自分の所為で誰か欠けるなんて、あってはならない事だ。
「軍・・・ふーん、姉さんが勁過ぎて業を煮やしたのかな。遣り甲斐はありそうだけど。」
「店主が理不尽に勁いんだろ。でもそんなのが来たら流石に不味いゼ?」
「噫、だから其の前に大本を・・・叩く。」
「フォードと・・・戦うの?」
机の上に居たケルディが尾を下げて振る。
近寄って来た彼の首元を慎重にセレは撫でた。
「噫、鎮魂の卒塔婆と決着を付ける。」
水を打った様に場が静まり返る。
けれども、皆も分かっていた事だろう。此の儘ではいられないと。
「皆黙りこくって如何したのよ。そんなにやばい所なのかしら。」
新神であるダイヤ達丈きょとんとしていた。
彼女達には不味いタイミングで申し訳ないと思う。未だ次元には一、二回位しか行けていないのだ。
いや、寧ろ二回も行けて良かったと言う可きか。此処に居た自分の時間感覚だと数日過ぎた程度だったからな。
でも何の道次元の迫間に関して等は全くと言って良い程知らないだろう。実力は申し分ないが果たして・・・。
「闇の国、オンルイオ国の王へ続く道の内の一つ、国を支える礎なのだから一筋縄には行かないわ。救いは、彼処が研究施設だから大した戦力が無いと言った所かしら。」
「国を相手取ろうって言うの?貴方余っ程呪われたいのね。まぁ私は構わないわ。私の呪いが何処迄通用するのか少し気になるし。」
「彼のストーカー野郎のとは別の所だよな。まぁ良いゼ、乗り掛かった船だし。」
「・・・セレ、一応丗闇様には話をしたんですか?」
「噫、勝てる可能性はあると言っていた。其の後の事も色々話してくれたけれど、何の道やらないとやられる立場だからな。行くしかないとは思っている。」
「然うですか。・・・徒に世を乱す可きではないという教えが一応大神様からあるんですが、店が無くなる事が正しい事とも私は思えません。一緒に行きます。」
思ったより賛同者が多い。大神に育てられたロードは断るだろうと思っていたのに。
矢張り丗闇と意見は似通うんだな、永く生きると然う言う思考になるのだろうか。
手を貸してくれるのは勿論嬉しい。皆しっかりと考えてくれている事も、店を大切にしてくれる事も。
けれども其が伝わると同時に自分は一つずつ罪悪感を植え付けられる。
矢張り自分が・・・皆を巻き込む。自分が何時も元凶だと。
若し、此の作戦で誰かが死んだら?自分は其の責を負えるのか?
正しく負えるのか、其が少し・・・恐い。
「皆は如何だ?厳しい戦いになるだろうし、元々此は私の問題で、戦うのも私のエゴだ。だから希望があれば此処に残るなり、店を去っても構わない。無事勝てても事後処理もあるからな。」
―そんなん、店主は命の恩神や、一緒に行くに決まってるやろ。―
「うむ、彼処は我も借りがあるのだ。今回こそ一緒に戦うのだ。」
「ベール、ああ言っているけれども貴方に拒否権は無いわよ。私は行くんだから全力で護りなさい。」
「は、はい全力で護るから捨てないでダイヤ!」
「・・・一応神権は保障しているんだから嫌だったらちゃんと言うんだぞ。」
「ボクも行くよ!皆に元気だよって言わなきゃ。」
「・・・話し合い、もう無理?」
鏡が上目遣いに見遣る。彼の性格上戦いは好まないのだろう。
只でさえ戦うのに不向きな飛属性なんだし、付いて来るのは躊躇してしまうのだろう。
「殺され掛けた所を何とか逃げて来た状態だからな。黔日夢の次元の事もある。向こうとしても私を殺さないと示しが付かないだろう。かと言ってもう一度彼を起こせと言われても困るし、何方かが潰れる迄は戦うしかないだろうな。」
「然うだな、フォードは妥協とかも嫌うし、一応鎮魂の卒塔婆丈で此方を対処するって明言している以上、恐らくオンルイオ国からの信頼や地位も下がってしまっているだろうし、本当だったら他の部隊が来たっておかしくない筈だしな。」
「確かに静かな今なら叩くチャンスはありますね、抑次元の迫間では国同士の小競り合いはありますが、こんな・・・塔を潰すなんて大規模な事は然うないから、虚を突く事も出来るかも知れないわ。」
ガルダとロード、次元の迫間の内情に詳しい二柱が居てくれるのは本当に有難い。
大規模、か。此で神の世界を叩き起こさないと良いんだが。
平和惚けした神々の頭を叩くのは中々痛快だとは思うがな。
「鏡、此の通り戦う事自体は済まないが避けられない。だからスーと一緒に店に残っても良いし、まぁ如何するかは御前に任せる。無理矢理皆を私の勝手に巻き込みたくは無いんだ。」
「セレ丈の問題じゃないだろ。俺達は初めから仕組まれて、計画的に巻き込まれちゃったんだ。其の因果に、終止符を打ちに行く丈、其をずっと・・・先延ばしにして来た丈なんだ。」
思わずガルダを見遣ったが、彼は静かに頷く丈だった。
もう覚悟を決めた彼の瞳は六花の様に澄んでいて、見ている丈で不思議と大きな安堵に包まれた。
「・・・分かった、一緒行く。此処、好きで来た。間違っていない、其、伝えないと。」
何だか随分と肯定的な意見許り出るな・・・。
皆ちゃんと分っているのだろうか。自分達は今から、此の平和な世界を壊す。
こんな化物を先頭にして、戦うのだと言う事が、分かっているのだろうか。
「・・・最終確認だ。私と一緒に、戦ってくれる者は残ってくれ。此処を出ても部屋に戻っても構わない。何の選択も私は尊重する。本当に自分のしたい事を選んでくれ。」
だが、誰も動かない。
其の儘、誰一柱席を立たなかった。
「み、皆行くんです、か?す、凄い、僕戦えない、から、此処にい、居ます、済みません。でも、み、皆しゃん頑張って下さい!」
おどおどとスーが口を開くと床下の自室へと潜り込んでしまった。
「・・・驚いた、まさか全員、付いて来てくれるのか?」
「うん、良かったねセレちゃん。此が皆の気持なんだよ。」
「抑誰が残るって思ってたんだ?戦いの一つ位、如何って事ないだろ。」
「セレ、俺も今回は戦える。あんなへまはしない。だから・・・大丈夫だ。」
「噫、皆有難う。本当に・・・その、何て言ったら良いか。」
セレは軽く目を閉じて息を吐いた。
此の気持は初めてだ。だから処理に少し丈困る。
此が・・・やっと手に入れた仲間か。
「良し、分かった。じゃあ具体的な作戦に入りたいと思う。今からイメージをテレパシーで送るから待ってくれ。」
「其何か懐かしいな。って・・・え?此の神数に一度に送れるのか?そんなに極めたのか其の技。」
言い乍らガルダの脳内にあるイメージが流れ込んだ。
セレも何処か得意そうだ。其の顔を見る限り未だ余裕すらありそうだ。
「最近魔力達と話した御蔭で、並列思考と言うか、一度に色んな事を考えるのに慣れて来たんだ。此は其の応用だな。」
「・・・へ?オ、オイ、オレ何か黔い箱みたいなのが来たんだけど、何だよ此、」
「箱・・・と言うより豆腐ね。」
―え、皆豆腐なん?な、何なの此、ねぇセレ店主、此って一体・・・。―
「鎮魂の卒塔婆だ。」
黔い豆腐と言う謎のワードに一同が混乱する中、セレは神妙に頷いた。
―此・・・が?如何見ても豆腐やけど。―
「いやこんなのが敵の本拠地な訳ねぇだろ!呆けるならもっとちゃんと呆けてくれよ店主!」
「・・・なぁガルダ、ガルダの言ったイメージ通りの物を送ったのに黔い豆腐呼ばわりなんだが。」
畳み掛ける不満の声にセレは一寸剥れた様にガルダを見遣った。
そんな彼女にガルダも苦笑を返す事しか出来ない。
「で、でも実際こんなんだし、あってるって。只豆腐なんて言われちゃったから皆然う見える丈で。」
「然うだね。鎮魂の卒塔婆って言われたら鎮魂の卒塔婆だし、黔い豆腐って言われたら黔い豆腐だね。」
「大丈夫だよセレちゃん、ドレミのイメージも全く一緒だから!実際こんなのだったよ、うん。」
「然うか、なら良いが・・・てっきり私は中しか知らなかったからガルダが法螺を吹いたんじゃないかと疑ってしまったじゃないか。」
「何でドレミの言う事は信じて俺は冗談だって取られるんだ?」
「寧ろ此は付き合いが長くなったからであって・・・もう良い。早く話を進めるぞ。」
折角皆に一度にイメージを送る大技をしてやったのに、何だか拍子抜けだ。
まぁ此で、肩の力を抜いたと思おう、リラックスだ。
「鎮魂の卒塔婆は下の方が訓練場で、中階層は実験施設、上部は居住区だったり、祭壇や倉庫、まぁ雑多に使われていると思って欲しい。」
適当な情報をイメージに書き込んで行く。
もう此で黔い豆腐なんて言わせないぞ。
「トップであるフォードを斃せば作戦は止められる筈だ。其のフォードは主に実験区間に居るそうなんだが、」
「はっきりとは難しいけどな。何だか自室に籠もる事も増えたし、上か中だとは思うんだけど。」
確かに彼のスケジュールの把握は難しかった。
攻めて来た奴等を何丈脅しても知らないの一点張りで、終に其は事実だと分かった。
誰も、彼の目的、研究内容、其を知らなったのだ。
徹底した秘密主義とでも言うのか、兎に角一柱で研究したかったらしく、他の者はデータの収集だとか言った体で、其の中には誰も踏み込ませなかったのだ。
良く良く話を聞いてみても、自分が何処から何の目的で連れて来たのか、其すらも部下は知らなかった然うだ。
只、言われる儘に調べ、数値を計り、彼に伝える、其丈だった。
だから実は黔日夢の次元が起きた時一番動揺したのは他でもない鎮魂の卒塔婆だったとか。
そんな扱いをされているのに如何して未だ彼なんかに付いて行くんだって問い質してもみたんだが、皆答えは同じだった。
昔の彼は、こんな風ではなかった。
だから未だ彼を信じている者丈が付いて来ているのだと。
昔は逸れ者を拾い、無理のない計画を立て、無駄なく塔を動かしていたのに。
其が段々何に焦り始めたのか、追われる様に、憑かれた様に、正に狂った調子で研究し続けて、ああなってしまった。
・・・一体、何が彼を然うさせてしまったのか、其も確かめないと。
「一つ、簡単にだが作戦を考えた。」
「へぇ、其っぽくて良いじゃねぇか。俺は何処のポジションなんだ?」
「いや、本当に可也大雑把だぞ。出来ればフォードには全力で挑みたいから残っているであろう兵を何とか動かそうと思ってな。建物の様子からして暗殺は厳し然うだからな。其をする程の時間も情報も足りていない。」
「まぁこんな豆腐じゃあな・・・。」
其処、煩い。
「だから今回は無理矢理引き摺り出す方法を取ろうと思ってな。騒ぎを起こして敵を集中させ、一気に其処を叩きたい。」
「・・・其、作戦って言えるの?つまりは正面突破みたいな物でしょ?」
其処も煩い。折角自分が真面目に話していると言うのに。
「別に皆で正面へ行く必要はない。ガルダの話だと一応上層の窓から侵入可能らしい。何ともざるなシステムだが、其で正面と上からで攻めたいんだ。」
「窓って・・・何か原始的ね。」
「でも一応俺成功してるし、出来なくはないと思うぜ。」
前入った時も兵は居無かったし、案外侵入は出来ると思う。
「其処で考えたんだが、私一柱で正面から攻める。皆は上を担当して欲しいんだ。」
「ぬ⁉セレ一柱ですると言うのか⁉其は危険なのだ。」
「別に大技出して暴れる丈だ。寧ろ一柱の方が気兼ねなく出来る。BDE‐01が暴走したとでも思わせられれば注目を集められるだろう。」
―まさかアイの所為にされるとは思ってもいませんデシタ・・・酷いマスターデス。―
もう先から何なんだ。皆でケチばっかり付けて。
「セ、セレちゃん其は幾ら何でも・・・危な過ぎるよ。まさか暴れる為の口実とかじゃないんでしょ?」
「・・・何だか否定的な意見許りだな。一応ガルダにはOKを貰ったんだが。」
「いやOKと言うか・・・。ありかな、とは一応思ったけどさ。俺の見立てで言えば彼処の兵なんてセレの敵じゃあないと思うし。何方かと言うと、フォードの部下が如何動くかに因ると思ったんだよ。全員で動かれちゃあ厳しいからな。」
「アーリーとかに当たると最悪だもんね。」
「して、其の可能性は?」
「・・・無いと思う。フォードの御蔭で動いていた訳だし、一枚岩じゃあないから。恐らくバラバラに動く筈。」
「じゃあ問題無いな。」
セレは満足そうに頷いていたが、ガルダは納得し切れていない様だった。
如何しても彼女を一柱にすると言うのが肯定出来ない様だ。
「其の部下ってどんな奴なの?裏切者って事なら知ってるんでしょ?」
「うぐ・・・ま、まぁ然うなんだけど・・・。えっと先ず釼の達神のアーリー師匠と、吟叫 韻と、ポンコツのBDE‐00と、フォードの友神の圷と・・・えっと後一柱居たんだけど其奴は顔も知らなんだよな、何か嫌われているのか全然会ってなくて。」
「吟叫は彼のギターを持っていた奴だろう。其なら私が片付けたぞ。」
「あ、然うか。じゃあ後は四柱だな。矢っ張アーリー師匠が一番勁いかなぁ。」
「まぁ御兄さん足とろいしね。で、具体的にどんな奴なの?」
グイグイ来る・・・流石仕事神丈あってちゃんと情報が欲しい様だ。
「アーリー師匠は俺に釼を教えてくれた神だ。浪属性で、躯の殆どが水で出来ているから其の方向で攻めて来ると思う。一応止血が苦手だから一撃入れられれば勝機はあるけど・・・速いからなぁ。」
「御負けに零玄って言う燕みたいな友達がいるよ。凄く飛ぶのが速いの。」
「ふーん、でも速い丈なら大した事ないね。ウンディーネみたいな物でしょ。でもそっか、其処で教えて貰ったから御兄さん戦えたんだ・・・へぇ。」
何だか獲物を見る目な気が・・・慌ててガルダは一つ咳払いをして話を変える事にした。
「えっとガルダ君、後其のポンコツって・・・?」
「あ、えーっと、BDE‐00の事だよな。彼奴はセレに付いてるBDE‐01の前の型なんだけど、本当ポンコツなんだよ。一応戦えるとは思うけど、多分フォードの友神って言えば通してくれると思う。」
「・・・は?何だよ其奴、餓鬼なのか?流石に敵襲中に会ったら戦うだろ。」
「いや其もサプライズパーティだって言えば恐らく丸め込める筈、其に困ったら走って逃げれば彼奴途中で何で追い掛けていたか忘れるから・・・大丈夫だと思う。」
冗談みたいな話だが、ガルダの目は真剣だ。
そ、然うか、前任者がそんなんだから・・・。
―一寸何考えているんですかマスター、今絶対アイを馬鹿にしましたヨネ⁉―
―してないしてない。此方の方が賢くて良かったって思った丈だよ。―
―馬鹿に褒められても嬉しくないデスネ。―
相変わらず可愛くない・・・。
「・・・そんな阿呆の子が入れる様な所なの?」
不味い、BDE‐00の所為で鎮魂の卒塔婆全体の品質が下がった様に見える。
彼処はそんな生半可な所じゃない、騙されてはいけない。
「違う、彼奴が特別製のポンコツな丈だから、会えたらラッキー位に思って良い敵って丈でさ。」
此がBDE‐00の作戦とか・・・いや、流石に其はないか。
「後俺が知ってるのは圷だけど、うーん・・・話した事余無いんだよな。」
「家主ってコミュニケーション能力低かったんだな。」
「いやいや俺研究区間とか些とも入れて貰えなかったから限られてるんだって。頑にフォードが見せてくれなかったんだよなぁ。」
「・・・現に裏切ってるし其の判断は正しかったんじゃねぇか?」
「何か皆俺に当たり強くないか?」
別にスパイ経験とか無いんだから程々にして欲しい。彼処じゃあ自由は無かったんだよ。
「でも確かに考えたら変な話だよね。ガルダ丈行けない所許りだったし、若しかしたらセレと会って前世を懐い出されちゃあ困るって思ったんじゃないかな?」
「其にしても其の記憶を態々ケルディに持たせて封印していた理由が分かんないんだよな・・・。んー矢っ張りフォードの考える事は分かんないなぁ。」
ガルダはケルディを両手で抱く様に持ち上げた。
彼も尾を一つ振る丈で返事をする。
「然う言えば少し話は逸れるが如何してケルディは封印されていたんだ。ガルダより先に裏切者認定されていたのか?其とも龍質のつもりか?」
「ん―此はね、一寸前から話さないと分からないと思うよ。抑一回ガルダは幽閉されちゃったの。研究区間を覗き見したからって。」
「然うだな、フォードに一寸聞きたい事があって探してたら入っちゃいけない所だったみたいで・・・。そっか、然う言えば其の部屋にセレが居たのかも知れないな。」
「然うなのか?・・・済まない、憶えはないが。」
「うんうん、其でフォードが怒っちゃってガルダを閉じ込めたから、ボクがやり過ぎだよって怒ったらボクも封印されちゃった。」
「まぁ其の後は龍質みたいな物かな・・・。もうあんなのは勘弁だな本当。」
「そんな事があったのか。てっきりガルダは向こうで信頼されていると思っていたが一寸違ったんだな。」
「だから言ったろ。信頼は別にってさ。」
ガルダの浮かべた苦笑は、見ていて辛かった。
神になってから自分と彼は別々の記憶を重ねて来たのだと知らされる。
其の辛さも悲しさも自分は理解してやる事が出来ない。そんな決定的な違いがある事が、切ない。
―そんな鎮魂の卒塔婆って権力使ってるん?幽閉とか封印って普通やない気がするけど。―
「違うよーガルダとボク以外聞いた事も無いし、オンルイオ国の塔の中だと一番マシって聞いた事あるよ!」
「確かに虚器惟神の楼閣とかは黒い話を聞くけれども、鎮魂の卒塔婆では無かったわ。黔日夢の次元が起こる迄は王の信頼も厚かった筈よ。」
「矢っ張り俺とセレが会っちゃあ不味いって思ってたのかな・・・。一体何処からフォードが繋がっているのかも聞かないとな。」
「前世から知られていたのなら確かに、何か知っているかも知れないわね。目的が分からないのは矢張り不気味だわ。」
「・・・ねぇ結局最後の一柱の情報が無いんだけど。会ってない方のはもう聞かないからさ。」
不満そうな飃の声に少し記憶を遡る。
・・・あれ、何処で逸れちゃったんだっけ。
「悪い悪い然うだった。えっと圷は確か・・・砂を操る釼を持ってる筈だ。砂を固めたり、立たせて壁にするみたいな。」
「然う言えば私も会ってるな。確かに砂を操っていたが、水に弱いし、強度もない。本神も別に訓練を受けた訳じゃあないから戦い易いとは思うが。」
「砂は嫌いだけど・・・ふーん、分かったよ。」
「あ、あれセレ、圷と会った事あったのか?余外に行くイメージ彼奴に無かったけど。」
「いっつもフォードと一緒にいたもんね。」
「結構前に次元でな。フォードへのプレゼントを探してるって言ってたな。」
「・・・何でみすみす行かせるの?御姉さんらしくないね。」
「然も何だか友達・・・みたいだね。」
「まぁタイミングと言うか機会が悪かったからな。私の感覚だとドレミやロード達の方が余っ程勁くて怖かったな。」
「う゛、セレちゃん其の評価は喜んで良いのかな。」
「本当に此の先輩勁いのか?全然見えねぇけど。」
・・・ん、何だか又話が逸れている気がするな。そろそろちゃんと作戦会議しないと。
此で士気なんて下がったら笑えない。
「構成員はそんな具合だな。如何だ?大体は掴めたか?後は具体的に侵入方法なんだが。」
一度集中する。イメージを崩さない様に。
「自分は正面から行くとして、皆は先の通り上から御願いしたいんだ。飛べるのは確かガルダ、ハリー、ローズ、リーシャン、飃と鏡、で大丈夫だよな?」
「飛ぶ、得意、大丈夫。」
「私も疑似的に飛べはするけれども騒がせてもいけないし、御願いした方が良さそうね。」
絶対地面を殴って打っ飛ぶつもりなんだろうな。
彼女の事情を知っている者は然う胸中に思う丈で留めたのだった。
「となると、ハリー、リーシャン、二柱は元の姿だと二柱乗せられるか?其が出来れば話は早いんだが。」
「うむ、前も乗せた事があるから問題ないのだ。」
―あ、然うか、若しかしたら又乗せて貰えるかも知れんのんか。―
「えぇ、大丈夫ですよぅ、二柱位なら背に乗せられますぅ。三柱目は足で良ければ掴んで行けますぅ。」
「リーの足は・・・一寸痛いと思うから、ベールに其方は譲るわ。」
「一応此で全員飛べるか。成る可く固まって行動はした方が良いだろうな。いや、罠の可能性も考えて二つに分ける方が無難か。」
脳内イメージに皆の名前を書き込んで行く。
「罠、んー侵入者用の罠ってあるのかな、俺聞いた事ないんだけど。」
「ボクもー。鎮魂の卒塔婆はウェルカムだよ。」
「い、いやそんな所の訳が、銀行の金庫レベルの警戒はして置かないと。」
「え、セレ・・・銀行強盗した事あるのか?」
「でも確かに警戒レベルが低い可能性はあると思うわ。ライネス国は厳しいけれども、オンルイオ国は割と・・・自由、と言う可きかしら。襲撃だとかしている暇も無いし、特に考えていない可能性はあるわ。」
「まぁ然うだよな、泥棒もいねぇし、神になって迄したくもないよな。」
「・・・本当に次元の迫間ってそんな所なのか?」
ガルダにちゃんと確認をするのを忘れていたと思ったが、こんな事・・・ある物か?
自分の認識と偉く違うな。然うなのか。で、でも神なんだし寧ろそう言う事は厳しい気もするが。
―神は此処で存在するのであって、基本は集合しない物だ。塔やT&Tが特異な物と見る可きだろう。―
―意外だな・・・。じゃあ気を付けるのは個々の戦闘力って事か。んん、一寸考え直さないと。情報有難う丗闇。―
「ってか何かあったら店主が助けてくれるんだろ?あっても一寸牢屋に入れられる位だろ。」
「いやだから私は一階から行くんだが。一階から上迄助けに行かないといけないのか?」
「大丈夫ですよ!私に掛かれば牢屋なんて何て事ないです。一度鉄格子と言う物を手で引き千斬ってみたかったんですよ。」
「ま、まぁ確かに筋肉天使なら余裕だろうな・・・。」
「牢屋も殆ど無かった気はするけどな。多分入れるより斬り捨てられそうだし。出来れば俺が師匠と当たれば未だ良いんだけど。」
「何?強者は独り占めって事?御兄さん其はないんじゃない?」
「いやー強者はまぁ然うだけど、彼の神容赦がないからさ。出会い頭に真っ二つにされたら俺位しか助からないだろ。」
「寧ろ、助かる。凄い。」
「私の聖の術でも無理ね、其の怪我は恐らく・・・。向き不向きがあると言う事ね。」
「然うだな。じゃあ基本は固まって、臨機応変に動いて欲しい。無理丈は絶対しないで、いざとなったら撤退しても良い。今後の戦力が減る方が問題だからな。」
気持としては二、三個位作戦を考えないと不安な質なんだが・・・。
まぁでも情報がない分下手に考えられないか。前世の・・・ボスの所に居た時は情報が命だったからな。
彼の時の事を何とか掘り起こして考えるも、如何も勘が鈍ったとしか思えない。
仕方ないか、もう何年も前の事だ。其に自分は人間扱いなんてされていなかったのだから作戦会議自体には入れて貰えなかったし、やれと言われた事をやった丈だ。
だから本音を言うと斯う言うのは慣れていない、苦手だ。小規模とは言えチームを動かすのは自分も初めてなんだ。
でも、必ず成功しないと。恐らく此の一回しかチャンスはない。
「良いと思うぜ其で。実際何が起こるか分からないし、全部計画通りにも行かないだろうしさ。」
「よし、じゃ明日の霄に決行するぞ。皆其迄に準備を整えてくれ。」
「応よ!任せとけっ!」
「しっかり僕を楽しませてよね。」
「頑張ろうね!セレちゃん、皆。」
各々挨拶を交わし、解散する。
自分が・・・しっかりしないと。
胸の奥で焔が揺れる。もう熱くも痛くもない。
此の選択を絶対後悔しない様に、出来る事を只、全力で。
・・・・・
「交代の時間だ。」
「ん、噫然うか。何かぼーっとしてたから直ぐだったなぁ。」
鎮魂の卒塔婆の入口付近で数柱の神が話していた。
水鏡がもう随分と高い。薫風も静かで空気が美味しい。
こんな日の警備は好きだ。自分が誰で、何故こんな所にいるのか考えずに済むから。
「おいおいしっかりしてくれ。仲間も随分減っちまったし、其の分しっかりしねぇと。」
「・・・部隊やられたってマジなのか?俺其の日は非番だったからさ。」
「本当らしいよ。おっかないねぇ、神身御供にされちゃって。ソラヤ、良い神だったのに先に逝くとはねぇ。」
「容赦ないな、本当。まぁ緩り休んどけよ。後は俺が・・・って、ん、来客か?」
神の一柱がそっと入口を出て少し背伸びをした。
今霄は特に来客の予定は無い筈。若しかしたら急なフォード様への物資か?良く分からない物を買う姿は度々見掛けるが。
「若し、其処の・・・え?」
片手を挙げた所で上体がぐらつく。不自然に、倒れ込む様に。
如何して、足の・・・感覚が、
其の儘憐れにも其の神の意識は途絶えた。
当然だろう、彼は上半身と下半身で真二つに斬られ、分けられてしまっていたんだから。
「え、な・・・お、おい、御前如何し、」
「こ、殺されてる⁉な、何だおい此は、」
言い掛けて其の兵の首も落ちる。
余りに突然の事に一部の兵は腰が抜けた様だった。
「お、御前の所為か⁉何者だ一体っ、」
勇ましくも釼を構えて一柱の兵が外へ出る。
水鏡明りは弱々しく、はっきりと外の様子は分からない。
誰か居るのははっきり分かるんだが、其の相手も黔い外套をしている所為で良く見えないのだ。
「噫然うだった。騒ぎを起こさないといけないんだった。」
「女・・・か?」
凱風に乗って幽かに声が聞こえた気がした。
連絡は奥の奴に任せよう。只、此の相手は一体、
影の様にも見える其が片手を挙げると零星が集い、蒼く光った。
零星、いや、然う思っていた物は奴の放つ曦だったらしい。其が流星の様に一気に飛び掛かる。
そんな曦が触れるか如何かの所で、
大きく爆ぜ、複数の爆発を起こしたのだった。
・・・・・
「・・・此処が良さそうだな。」
純皓の翼をはためかせ、上階の窓からちらとガルダは中を窺った。
誰も居ないし、随分と静かだ。本当に兵は居ないのか。
此処は只の廊下の一角だし、恐らく重要視されていない筈。
「皆、此方から行くぞ。」
一声掛けてそっと中に足を踏み入れる。
二度目の侵入だ。今回BDE‐00は居ないみたいだけれど。
「・・・何だか久し振りだね。今回は、しっかりしないと。」
―大丈夫だよドレミ。何時も通り、ね。―
「本当に黔い豆腐とは恐れ入ったゼ。こんなん入ってくれって言ってるみてぇなもんじゃねぇか。」
続々と一同が中に入り、待機する。
程無くして大きな轟音と断続的な揺れが起き始めた。
「彼の精霊、やってるみたいだね。」
「本当に派手にやってるのね。其の儘此処を壊す気じゃないでしょうね。私倒壊する建物から走って脱出とか疲れる事、したくないんだけど。」
「此で皆入口に集中するだろうし、慎重に行くぞ。」
そっと足を出し、慎重に上階への階段を探す。
後は研究所でも見付けてフォードを探す丈なんだけど。
「・・・ねぇ御兄さん、何かに掴まっていた方が良いかも。」
ぼそっと飃の声が聞こえたか如何かの所で又大きく床が揺れた。
「っ、セレ偉く暴れてるな、倒壊しないよな。」
「本当に此、彼の御姉さんの仕業なの?」
何処か彼の表情が晴れない。何か引っ掛かっている様だ。
「何か力の余波と言うか、床から来る魔力が違う様な気がするけど。」
「ま、まさか敵襲かよ、こんな直ぐに、」
皐牙が言い終わるか如何かの所で、まるで其を肯定する様に又大きく揺れた。
そして一同の直ぐ近くで壁が競り上がって来る。
「こ、此砂じゃない⁉じゃあえっと、確か、圷君の、」
壁は乱雑にどんどん競り上がっている。見た所、狙っている訳ではなさそうだが、
「こんなの何時の間に用意してたの⁉」
気付けば迷路みたいな形になってしまっている。ある程度変化が済んだのか砂の壁は静かになった。
「ちょっ、砂煙が、っでもこんなの簡単に壊れるだろ。」
舞い上がる砂煙に耐え兼ねて皐牙が軽く砂の壁を小突いた。
すると一気に壁は崩れ、砂煙が酷くなった。
「ケホッ、一寸カー君!もう服が砂塗れだよ。そんな壊して良い物なのかな。」
「此、筋肉天使なら拳圧で此の階の全部壊せるんじゃねぇか?一寸爽快かもな。」
「一体何が目的何だ此、圷、だろうけど。」
「・・・何か嫌な予感がするな。」
飃は突いていた枴の背に乗り、少し丈飛び上がった。
砂の壁は天井迄は届いておらず、一応階を簡単に見渡す事が出来る。
気付くと何時の間にか鏡も飛んでいた。何か惚けている様にも見える。
「・・・何か、来る?」
其の瞬間又床が揺れた。此迄のとは違う。
音は上階からした様な・・・、
音の出所をそっとガルダが窺った瞬間だった。
・・・瀧の様な水が一気に流れ始めたのだ。
気付いた時は声を出す暇もなく一同は水流に流されてしまった。
「鉄砲水?噫水の流れを変える為に砂の壁を創ったのか。」
無事だった飛行中の二柱は見ている事しか出来なかった。
砂はどんどん崩れて行くが、御蔭で水の流れはどんどん複雑になっている。強制的に全員を分けるつもりなんだろう。
「計画されてんじゃん。油断したね。」
「み、皆流された。水、止めないと、」
青くなった鏡は慌てて上階へと飛んで行った様だ。
飃も続こうと思ったが、一部の水の流れに違和感を持ち、じっと見詰めた。
明らかに流れの早い物がある。若しかして術者が引き寄せている?
「・・・水の遣い手が一番勁いんだっけ。」
飃は其の水流を見失わない様に一気に枴を飛ばすのだった。
・・・・・
「ガ、ガルダ溺れちゃうよっ!」
咄嗟にガルダのポケットに移動したケルディがしっかりとポケットの布を掴んで声を上げた。
「いや、此位なら大丈夫だって。俺達を分けようとしている丈みたいだし。」
鉄砲水に流され乍らもガルダは平然としていた。
何か既視感があったのだ。
其に此の水、溺れさせるのが目的じゃないからか可也水量自体は少ない。
勢いがあるから足を取られたが、息も十分に吸う事が出来た。
こんな芸当が出来るのは一柱丈。そして此の水流に混ざる魔力も段々濃くなっているから恐らく此の儘行けば、
念の為流されない様にケルディの居るポケットを手で押さえ、じっとガルダは流れに身を任せた。
然うして・・・段々水も、勢いも減って行き・・・、
「水、無くなったね。でも此処は・・・、」
ポケットから出たケルディは周りを見渡して頻りに匂を嗅いでいた。
随分と広い所だ。天井も高く、物が無くて殺風景だ。
可也下の階迄下ろされてしまった様だ。此処は・・・訓練場だ。
「懐かしいね、此処。良く此処で訓練頑張ったよ。」
「然うだな。矢っ張り此処に来ちゃうか。・・・ね、師匠。」
「・・・誰か釣れるとは思っていたけれども其が貴方達だったとはね。」
上からした声にケルディが顔を上げると一頭の燕の様な魔物に革帯を掛けてぶら下がっていたアーリーが居た。
魔物は彼女の相棒の零玄だ。
全長2m程の全身が透き通る蒼の玻璃で出来たかの様な姿をしている。
幾何学的模様で象られた翼に二本の瓊を結わえた尾。
目は無く、棚引く鰭はまるで陽に照らされた水流の様に常に色を変えて美しかった。
前セレと情報交換をした時に、其はソラノノ精と呼ばれる龍族じゃないのかとセレに言われてやっと正体が分かったのだ。
飛と浪属性の龍で、水を飛ばし、宙に滄江を作る事が出来るのだ然うだ。其に乗って素早く飛び回る事も出来る。
本来神に懐く様な龍族ではないので使役出来ているのは相当珍しい。
屹度其は、師匠の物語だ。彼女と零玄の。
「其の様子だと、態と貴方は私の所へ来た様ね。」
緩りと下降し、彼から革帯を外して降りるとアーリーはそっと刀を構えた。
刀から静かに雫が零れる。
「はい、こんな事が出来るのは師匠丈だと分かっていたので。」
「ふーん然う、其なのに来たと言う事は勝算があると言う事かしら。私も舐められた物ね。未だ一本も取れない弟子に然う思われるなんて。」
何処かアーリーは楽しそうで、けれども其以上近付けなかった。
此は・・・殺気?
彼女は本気で俺を斬ろうとしている。
本音は・・・戦いなんて嫌いだ。彼女と只話す丈で済めば良かったのに。
だって彼女がどんな神か知っている。其の実優しくて、此の塔で俺は彼女に支えられていた所はある。
でも其じゃあセレに置いて行かれる、もう独りにはなりたくない。
捨てられたくないから俺は剱を取るんだ。
「・・・はい、今日は勝たないといけないので。貴方をフォードの所へ行かせる訳には行かないんです。」
「然う。彼は私より勁いから大丈夫だとは思うけれども。ケルディも無事帰って来たのなら昔みたいな模擬戦が出来そうね。今回は・・・本気だけれども。」
「然うだね。ボクも頑張るよ!」
「・・・私に其のあざとさは効かないから覚悟しなさい。」
アーリーはそっと刀を構えた。刀の先から又雫が零れる。
其の瞬間、目にも止まらぬ速さで突きが繰り出され、慌ててガルダとケルディは別々の方向へ避けた。
分かる。今のは避けないと死んでいた奴だ。
背を撫でた突風、当たれば確実に首が飛んでいた。
避けている丈では始まらない、ちゃんと迎撃しないと。
向き合ったガルダにアーリーは笑みを返す丈だ。
彼は師匠の得意技。一突きに見えるのに謎の衝撃波で寸々に裂かれてしまう。
当たり所が悪ければ此の躯でも一撃だ。彼丈は注意しないと。
ケルディが其の幼い躯からは想像も出来ない程の巨大な蒼い焔を吐いた。
アーリーなんて一呑みに出来そうな程の焔だ。だが彼女の前に零玄が舞い飛び、即座に水のベールを作って焔を相殺した。
「私の事は大丈夫よ零玄、其より陰霖を頂戴。」
一つ頷いて零玄は天井擦れ擦れ迄急上昇した。
そして何度も円を描き、彼の後に出来た水のベールから陰霖が降る。
忽ち訓練場は土砂降りの陰霖に包まれ、水嵩が増して行く。
本物の陰霖と見紛う程だ。水のベールは見た事あったけれどもこんな大技を彼の龍族は出せたのか。
「一寸!溺れちゃうよ!もう焼き鳥にしてやるー!」
ケルディが怒って焔を吐くが直ぐ陰霖に消される様だ。
水位が上がって行く所為でケルディはもう半分浸かってしまっていた。動くには飛び跳ねる様にジャンプし続けないといけないし、風呂嫌いな彼としては不快で仕方ないのだろう。
「フフ、今回は彼の可愛らしい御嬢さんは居ないのね。驚霆なんて出されたら私も如何しようか悩んでいたんだけれども。」
「う゛、そ、然うだった。」
普段驚霆なんて使わないから完全に失念していた・・・。
然うだ、師匠は水で出来ているんだから驚霆を一つ降らせさえすれば、簡単に勝てたのか。
今更気付いても遅いだろう。敢えて師匠が然う言うと言う事は・・・、
・・・矢っ張りテレパシーが使えない。変なノイズが走ってる。此の塔、こんなジャミング機能あったんだ。
一寸と言うか色々抜けているな、後でセレに凄く怒られそうだ・・・。
せめて攻撃を浴びせられれば勝てると思っていたけれども、こんな陰霖のフィールドだと水が無限に沸いて限が無い。
其に師匠は水の感覚に鋭い、此の場は余りにも不利過ぎるのだ。
普通に・・・不味いよな、此の状況。
セレの波紋と同じ具合になってしまっている。
「其にしてもフォードの言った通りになったわね。何か起きたら水を流せば貴方が流れて来る筈って言っていたけれども其の通りになったわ。」
「えぇ~そんな事も計算されてたの?何だかまんまで嫌だね。」
「ガルダならどうせ又性懲りもなく窓から来るって言ってたわよ。何でばれてる作戦をもう一回しちゃったのよ。」
「うぅ・・・何も言い返せないな。」
「ボク達の作戦、一寸稚拙過ぎたね。」
読まれていたとなると本当不味いよな、まさかそんな計算出来る物なのか。
若しかして皆ばらけさせられたのか、其、思ってよりずっと酷い話だぞ。本当にセレに助けに来て貰わないといけなくなるじゃないか。
「皓漣」
駆け出すと同時に唱える。
少しでも水の感覚を乱さないとアーリーに隙は出来ない。
ガルダを中心に立つ漣が皓く弾ける。眩しく漣と漣がぶつかって大きくうねる。
「光牙」
地から複数の刃が突き出る。
ランダムに出現するもアーリーは其を足場に変えて此方へ飛び掛かって来た。
矢張り陰も不味い、全ての水がアーリーを味方して術の構成を教えているのだ。
其に此の身の熟し、義手義足とは思えない此の軽やかさが彼女の武器だ。
「此の程度じゃあ話にならないわよ。」
目前迄一気に迫ったアーリーを咄嗟に爪を生やした手で応戦する。
別に彼女に姿を隠す必要はない。翼や尾を曝しても引け目なんてない。
瞬時に皓い獣の腕となり、アーリーの刀と交差する。
一瞬火花が散り、そんな彼女の背後で大きくケルディが飛び上がった。そして有りっ丈の蒼い焔を口から吐き出す。
其でもアーリーは薄く微笑む丈で一気に踏み込んでガルダを押し遣った。
其の勢いの儘振り返って横薙ぎに刀を払う。
たった其丈で蒼い焔は消え去り、ケルディは慌ててアーリーの頭を踏み台にして飛び退いた。
「わー!真っ二つにされるかと思ったよ!」
「一寸的が小さ過ぎたわね。」
「むー、ボク別に小さくないよ!」
途端ケルディは自身を蒼い焔で包んだ。
そして目に見えて躯が大きく膨れ上がる。
全長2m程の大きな黔狐。全身に蒼く光る刺青が走り、六本に増えた尾が揺らめく。
額の藍の輝石を包む焔が激しく燃え上がった。
其はケルディの持つ別の姿。
狐火は火が本体であり、狐は彼等の容れ物でしかない。
あんな子狐の物ではなく、本来の狐火の能力が活かせる成体の姿なのだ。
「あら、随分久し振りに其の姿を見たわね。」
「・・・覚悟しろよ。」
本体が火とは言え、狐火は其の躯の持ち主に引き摺られる所は幾つかある。
其の一つが性格だ。行動は制限出来ても意思迄は縛る事が出来ないのだ。
其迄とは打って変わったどすの利いた声で、唸る様にケルディは呟いた。
蒼い焔が彼を包む。口からも煌く焔が零れ出た。
彼の吐く焔が大きく弧を描き、アーリーを包む様に灯る。
少しでも触れれば焼き尽くさんとする焔、アーリーよりもずっと其は背が高く、壁の様に聳え立つ。
静かに刀を構えていたアーリーの元へ爪を交差したガルダが飛び掛かった。
背後からの奇襲だったにも拘らずアーリーは顔色一つ変えず振り返り、ガルダの胴を斬り付ける。
交差した爪の隙間、其の一点を的確に見抜いて、脇腹から血が溢れ、上体を崩した彼は其の儘焔の檻から脱出した。
ケルディの本質は焔だ。だから燃やす物を選別する事位は出来るのだろう。
其に彼は稀有な再生能力の持ち主。此位の戦術なら選びそうな物だ。多少焼けた所で、斬られた所で、直接的なダメージにはならないのだから。
零玄の陰霖でも此の強化された焔は然う鎮火出来ない様だ。
其でも未だ手は幾らでもある。
アーリーは焔の壁のある一点を見詰めた。そして慎重に刀を構え直す。
次の瞬間其処からガルダが現れた。
完璧に、狙い通りに。
見えてなかった筈なのにぶれの無いアーリーの狙いにガルダは僅かに目を見開いた。
其の隙を見逃さず、アーリーは彼の足を斬り裂いた。
容赦のない一撃、ガルダの左足は膝から下が弾け飛んだ。
足を失って倒れ込む彼の首を狙う。
自分より上体が倒れ切った其の時に、
だが其の刃の軌道は弾かれてしまう。
咄嗟に伸ばされた彼の尾が刀と首の間に差し込まれたのだ。
でもこんなチャンスを逃す訳には行かない。
一度刀を下げ、一気に突きを繰り出す。
例の衝撃波で尾の半分程を寸々にして千斬り、吹き飛ばした。
「・・・っ、」
一瞬声を殺した呻きが漏れる。だがガルダは倒れる事なく其の勢いの儘アーリーに体当たりをした。
もう足は完治していたのだ。尾は只の時間稼ぎで。体制を整えていた彼は全力で彼女にぶつかった。
流石に此の体格差をアーリーは埋める事が出来ない。
大きく蹌踉いて焔に突っ込みそうになる。
「っ零玄!」
叫ぶと同時にアーリーは旻に向け腰にあった革帯を放った。
「ピィイィイイィイイ‼」
其の瞬間天井で待機していた零玄が一気に急降下し、革帯で出来た輪に頭を潜らせる。
革帯は引っ掛かり、楽々アーリーは飛び上がって難を逃れたのだった。
「逃がすかっ!」
背後でケルディが吼え声と共に焔を吐く。
其は旻中に火の玉の様に幾つも残って燃え続けた。
其の儘ケルディは火の玉へ向け跳び上がり、其を足場の様に踏み付けて零玄を追い始めた。
如何やら彼の焔は物質として存在する様だ。
火の玉を乗り移り乍らケルディは幾つも火焔を放った。
蒼い焔は中々陰霖丈だと威力が落ちず、大きく燃え上がる。
「ピィイィッ、ピッ!」
火焔の一つが零玄の尾に当たり、焼け焦げる。
慌てて零玄は水のベールを張る為に旻中に滄江を創り始めた。
宙に掛かる蒼い焔と滄江は何とも幻想的な光景だった。蒼と透明に全てが包まれて行くのだ。
「中々、落ちないな。」
訓練場は広いと言っても限界がある。零玄に逃げ場は其程残されていなかったが、既の所で彼は焔を掻い潜って避けていた。
暫くして十分な滄江が宙に出来上がるとアーリーは革帯を放し、零玄を自由にした。
途端に彼は又急上昇し、アーリーは滄江の上に立っていた。
躯の殆どが水で出来ている彼女である。斯う言う芸当も出来てしまう様だ。
「随分と友達を苛めてくれるじゃない。躾のし直しね。」
アーリーが釼を構え、突きを繰り出す。
距離が離れている筈なのに、其は的確にケルディの足場の焔を少しずつ消して行った。
「こんなに離れても届くのか・・・。」
此では幾ら足場を作っても限が無い。
躯を移し替えた御蔭で様々な性質の焔を扱える様になったのは良いが、
彼の見えない攻撃は如何すれば良いのだろうか。彼を可視化させる様な焔は残念乍ら思い付かない。
「ほらほら今度は貴方が逃げる番よ。」
滄江で移動しつつアーリーが突きを放つので満遍なく焔が消されて行く。
然も陰霖が全くの無駄と言う事もない。少しずつではあるが確実に鎮火されつつあった。
かと言って下手に近付けば斬られるし、出来れば離れた所から焔を吐いて応戦したいのだが。
ケルディが逃げ回っていると不意に足元が光り始めた。
気付けば天井近く迄逃げ回っていたのだが、光っているのは如何やら地面の様だ。
「・・・やっとか。」
ケルディは自身を包む様に焔を吐き出した。
其は彼の姿を完全に隠し、飛び火が水のベールに触れて激しく皓煙を上げる。
「焔に隠れた所で私の刀からは逃げられないわよ。」
滄江に乗って駆け出した彼女の刀が光る。
其の曦が不自然な事に彼女は気付いた。
「此の曦、は、」
ちらと眼下を見遣る。先程から見えなくなっていた彼の姿を探す。
「ッ、ピィイィイィイ‼」
異常に気付いた零玄が急降下する。
其の瞬間、目が潰れる程の曦が訓練場全体を包みこんだ。
・・・・・
「うーん、此は見失った臭いな。」
枴に乗った儘塔を飛び回っていた飃は一つ溜息を付いた。
大分水も減っている。折角大きな水流を見付けて可也階下迄来たのに。
此だともう此方は諦めて上を目指した方が良いかな、強敵は上なんだし。
そんな事を考え乍らふらふら飛んでいたが、彼は一つの魔力を見付けていた。
小さい乍らも流れがある。術者が居る様だけれども此は・・・、
「錦地一握、地流!」
何処からか声がし、砂が意思を持ったかの様にうねり、伸び上がった。
水と一緒に此処迄流れて来たのだろうか。何処からか未だ集まって来ている様で巨大な怪物の様に固まって動き出す。
「噫、此方が当たっちゃったか。」
一つ息を付いて飃は枴の先を軽く動かす。
砂の怪物はそんな飃を捕らえようと思ったのか砂煙を上げ乍ら彼を追い掛け始めた。
分裂して何本もの手を伸ばすが楽々彼に避けられてしまう。
其の間もどんどん砂は集まり、至る所に壁を作り始めた。
大きな砂の瀧も通路の先に現れる。閉じ込めるつもりなのだろう。
元々、逃げる気もない。此の儘ボスの所へ行ってもつまらないと思っていた所だ。
さっさと術者を探そうと枴を動かすが、何処も彼処も砂だらけで良く見えない。
どうせ砂の壁にでも隠れているんだろうけれど、さて、
考えていると砂の怪物は大きく伸び上がり、すっぽりと飃を包み込もうとする。
特に飃は速度も上げず、砂煙に丈気を付けて緩り飛び続けていた。
砂の壁にすっかり視界を奪われる。
さて、今から一体何が起こるのか、薄ら飃が笑った時だった。
「錦地二握、地堅!」
又何処からか声がし、砂が固まって嵒の様になる。
ドーム状の嵒に飃は閉じ込められてしまった。
隙間も殆ど無い、抜け出す事は出来そうもない。
「錦地三握、地崩!」
声と同時に嵒は崩れ、激しく音を立てて一気に崩壊した。
轟音と落石に因る地震が続く。
だが暫くして突然嵒は四方へと吹っ飛んで行った。
砂煙が一気に巻き起こり、激しく吹き荒れる。
「っな、何此っ、」
「やーっと尻尾が出たね。」
砂煙は突風に全て吹き飛ばされ、一気に視界が晴れる。
其処には無傷で枴に乗った儘の飃が居た。
嬉しそうな彼の視界の先には少年が一柱転けてしまっている。
・・・然う、圷である。
彼は如何やら砂の壁に隠れていた様だが、嵒を崩落させたので状況を見ようと顔を出していた様だ。其処を彼の突風にやられたのである。
飃はと言うと凱風の幕を自身に纏わせて落石を堪えた様だ。
嵒をも穿つ凱風を創れる彼の事である。其位造作も無い事だった。
彼は只、獲物が掛かるのを待っていた丈なのだ。
飃は枴から降りるとつかつかと圷に近付いた。
圷も慌ててぼろぼろの釼を取る、彼が魔法具なのだろう。
確かに動きが素人臭い、此だと外れみたいな物だ。
少し勁い武器を持った丈の子供なんて相手にしても些とも楽しめない。
「一応聞いて置こうかな。君が先の砂の壁を作ったんだよね?何で僕達が来たのが分かったの?」
「え、あ・・・と、外が騒がしくなったら壁を作れって、言われていた丈だから僕は別に、」
圷は突然の質問に目を白黒させ乍らも随分素直に答えた。
時間稼ぎ、とでも言うのだろうか、実の所彼は既に可也勝機を失っていた。
彼に出来る事は先程ので粗全てである。
武術も魔力もない彼にとって此の魔法具、釼こそが全てだったのだ。
其を使った大技も楽に突破されてしまった。
更に此の漂って来る様な殺気・・・、間違いなく彼は自分より上手の存在だ。
前そんな存在に会ったのはフォードへのプレゼントを探していた時だ。
セレに会って、彼の時は何て勁い神なんだって浮かれていたけれども。
・・・後に彼女が宿敵だと聞いて、
勝てる勝てないの話ではなく、良く生きて帰れたと思ってしまった自分はつまり、其の程度の存在なのだ。
流石に、今回は・・・無理そうだけど。
特に策も思い付かず、圷は転けた儘飃の一挙一動を見詰めていた。
「ふーん・・・じゃあ敵の親玉にばれちゃってた訳だ。へぇ、此は中々面白い物が見られ然うだねぇ。セレも馬鹿するんだ。穴だらけじゃん。対して此方のボスは其処迄馬鹿じゃあなかったんだねぇ。」
「ふ、二柱とも馬鹿じゃありません!」
「んー。」
飃は圷の首元に枴を添えた。
良く見ると此の枴、刃が付いている・・・。
枴なんて突いているからてっきり足が悪いか御爺さんだと思っていたのに全くそんな事はない。
何より口ではそんな飄々然うに言って、口元迄嗤っていて、其の実目は全く嗤っていない。
彼の目は・・・誰かを殺す目だ。
気付いた途端情けなくも自分の喉から小さな悲鳴が漏れ、其の目から離せなくなった。
何だ彼の目は、こんな神が彼処に居るなんて聞いていない。
セレよりも、ずっと恐い神だと僕は思った。少なくとも彼の神は噂と余りにも違っていたから。
其が・・・裏の顔だとしても僕は、
「如何やら君は随分と御馬鹿さんみたいだねぇ。敵なのに僕に色々話しちゃって。此方のボスも護ろうとするなんて変わってる。言って置くけど僕は彼の神の事、大っ嫌いだから其は見逃せられないなぁ。」
「き、嫌いって、じゃあ如何して一緒に居るんですか?」
「フフッ、君は本当に愚かだねぇ、如何しようかな。余話してる時間はないけど、殺しちゃうのも一寸勿体無いな。僕も僕で御喋りは好きだし、答えてあげようかな。」
飃は枴を下ろして気味の悪い笑い声を立てている。
・・・正直、こんな手加減をする神に馬鹿にされるのは悔しいけれども反撃をすれば即首を刎ねられそうなので大人しくしている事にした。
「彼の神を殺す為に一緒に居るんだよ。然う言う目的に置いては君達と一緒だね。けれども殺すのは僕じゃないと気が済まないから、邪魔をする奴は先に消しちゃうけどね。」
「・・・彼女を殺すなんて出来もしないのにそんな余裕振っていて大丈夫なんですか。」
「君、殺されたいの、生きたいの何方なのさ。」
別に顔色は変えていないけれども其の一言は触れたみたいだ。
殺気が刺さる。恐い、本当は逃げ出したい。
でも此処で逃げるの丈は、神になって迄したのがそんな事だなんて、嫌だ。
何より僕は、此の神の態度が気に入らなかった。
こんな、勁いからって見下して、僕の嫌いな神の其だ。
例え敵であっても、僕は今でも彼の神を尊敬している。
今思えば本神に何て事を言ったんだろうと思わずには居られないけれど。
其でも彼の神は誰かを馬鹿にしたりなんかはしなかった。
龍を尊び、神を認める、そんな神で。
屹度彼女と世界の意思がずれたが為にこんな未来になった、然う僕は結論付けた。
「・・・正直、僕じゃあ未だ力不足だ。其は認めるよ。でも諦め切れる訳ないでしょ。僕は彼の化物に僕の大切な人を汚された、壊されて永遠に手の届かない所へ連れて行かれた。だから此は僕の問題、僕が赦す迄終われないんだよ。」
「其が、貴方の覚悟ですか。」
圷は何処か悲しそうな、諦め切った目で只飃を見詰めていた。
決して圷は齢若い神ではない。永い間見て来たのだ、子供の目で世界を。
又だ。如何して世界は何時も斯うなのだろう。
彼が言っているのは黔日夢の次元の事だろう。セレが起こした事件。
正直、今も信じられない。彼の神が本当にしたのかと、疑問を持たずには居られない。
事件は最悪だ。絶対的な悪だと自分は思う。
でも彼の神自身を、僕は・・・悪と、断定出来なかった。
僕が騙されていた丈かも知れない。彼女は僕に嘘を吐いたかも知れない。
其でも、僕が生かされたのは事実だ。敵の顔も知らず、簡単に信じた、浅はかな僕が。
其に、何も黔日夢の次元は彼女丈の所為じゃない。其の先はフォードに、そして僕達に繋がってしまう。
フォードは・・・何がしたかったの、此が君のしたかった事?
・・・もう分からない。世界の意思も、正しさも、過ちも、嘘も過去も。
如何して世界に正義は幾つもあるのだろう。如何して正義と正義が戦わないといけないのだろう。
勝った方が正しくて、負けた方は間違っていて。
彼は、大切な人の為に此処に居る、僕は未だ信じてるフォードの為に此処に居る。
其なのに戦わないといけないのは如何してだ。
・・・もう考えるのも疲れたよ。
彼は、何だかつまらなそうな目で自分を見ていた。
そして再び枴を構える。恐らく彼で僕の首を・・・。
けれども、只じゃあやられない。諦めていても、疲れていても、僕は最後迄せめて僕の意思を繋ぎたい。
話している間に自分も体勢を整えた。
せめて、一突きでも、
「・・・もう良いかな。君もう死んで良いよ。僕も喋り過ぎちゃったし、もう助かるなんて思わないでね。」
途端彼は大きく目を見開いた。
構えていたけれども何かおかしい。攻撃・・・じゃない?
「う・・・そ、な、・・・こんな時、っ、」
苦しそうに彼は呻き、キッと圷を睨んだ。
いや、僕は何もしていない、でも一体、
兎に角、此は・・・チャンス、と言う事なのだろうか。
「錦地一握、地流。」
急いで釼を地に付ける。
別に、死にたがり志望ではない。抗える時は全力で掴まないと。
砂が渦巻き、四方から取り囲む様に迫って来る。
其でも中々彼は動かない。油断している様には見えないけれども。
何かに・・・抗っている様な?
其の儘砂は彼を包んで舞い上がる。
一度にこんな力を使う事は無いので気を付けないと、集中が切れたら只の砂に戻ってしまう。
「錦地二握、地堅!」
唱えると同時に砂は嵒と化し、飃を巻き込んだ儘固まってしまった。
枴も手から離れて嵒に巻き込まれる。身動きももう取れない筈。
彼も、自分と同じ魔法具に頼っているタイプだと良いんだけれど。
「・・・ん、・・・え、あ、何でこんな、」
突然彼は顔を上げると慌てた様に周りを見渡した。
何だか、先迄の彼と違う様な。
声のトーンもだし、本気でパニックになり掛けている。先迄見ていた技の筈なのに。
「ま、まさか今は・・・僕の時間と言う事ですか?」
途端顔色が一気に悪くなる。冷汗迄浮かべてしまっている。
「あ、あの・・・如何かしましたか?」
敵・・・なんだけれども余りの態度の変わり様についつい圷は声を掛けた。
本当はさっさと斃す可きなんだろうけれど、見ていて如何しても、明らかに困っている神を見ると放って置けなくなってしまう。
「済みません、あの・・・若しかして今は晁、ですか?」
「え、えと次元の迫間だから時間間隔が滅茶苦茶になってるし、断言は、その、」
「では晁、と言う可能性もあるんですね。教えていただいて有難う御座います。」
互いがおどおどした様子で、ついしどろもどろになってしまう。
飃は其でも何とか状況を理解したらしく、困った様に一つ息を付いた。
仕方ない、自分は武器も何もない、誠実さで話をするしかない。
「あの、突然の事で済みません。実は僕此の魄に取り憑いている魂みたいな物で、時間帯に因って先の彼と入れ替わってしまうんです。如何やら其がこんなタイミングで来てしまった様で、」
「そ、其は大変ですね・・・。」
本当に神って色々いるんだなぁ、と思う許りだ。
恐らく本当だろう、明らかに先迄の彼と違う。
二重神格みたいな物かな・・・本当に世界は広い。
此方の彼と先の彼は全く違う性格みたいだし、大変だと思う。
「済みません勝負の最中に水を差してしまって、驚かせてしまいましたね。でもあの・・・如何しましょうか、僕、戦闘はからきしで、一応先迄の事は記憶を共有しているので分かるんですが。」
「ど、如何しようと言われても、」
此方も困る、こんな一般神みたいな方が急に来られても。
此じゃあ決意が揺らいでしまう。元々戦いは好きではないし、彼を此処で殺すのも気が引ける。
かと言って逃がす訳にも行かない。・・・本当如何しよう。
「・・・と言われても戦うしかないですよね。えっと枴、あ・・・、」
飃が手足をばたつかせるが、全く動かない。
枴も見えている限りでは近くに無い、嵒の中にあるのか。
別に飃に腕力がある訳ではない。技術でカバーしていた丈だ。
だから其の技術を取ってしまった彼は・・・只の凡神な訳で。
当然嵒なんて砕けもしない。彼は手足ががっちりと固められていたのだ。
・・・あれ、此詰みなのでは?
僕若しかして、首を刈られる役目として出て来たのかな。
流石に其は一寸、嫌だな。寝て起きたらギロチン台だなんて。
此で死ぬと自分は一体何度目の死になるのだろう。
此の躯の持ち主である彼は殺されても仕方ない程の事をしている。だから此の結末も受け入れはする。
其でも、少し丈其を惜しんでしまう僕は毒されてしまったのだろうか。
もう少し丈、生きてみたい、世界を見てみたいだなんて、思ってしまうなんて。
でももう手が無いのも事実だ。
術なんて使えない、自分は飽く迄も此の躯を使っている丈だ。然う言った細かい所作は出来ない。
落ち込んでいる彼の様子を見て圷も次の一手が決められずに居た。
如何しよう、本当に只の一般神だ此の神。
何だか少し諦めた目もしているし、見ている丈で此方も悲しくなる。
か、帰っても良いよって言おうかな・・・、噫もう、斯う言う所があるからアーリーさんに根性無しって言われちゃうんだ。
でも、でもでもこんな神を殺すなんて、其じゃあ僕は只の神殺しになっちゃうし、
「・・・?彼、飃、こんな所、居る?」
妙な膠着状態が続く中、一柱の来訪者が現れた。
飛び乍ら来たのは鏡である。彼はそっと飃の居る嵒に近付き、上に乗った。
「え、まさか増援⁉一体何処から、」
「迷ってた、通路あった。」
鏡が指差した先には確かにパイプがあった。
けれども神一柱入れるか如何か位だし、恐らく彼の先は下水だし、かと言って出入口は嵒で塞いだ筈だし、
・・・まぁ良いかな。何だか緩そうな神だし。
「あ、鏡さん上の階へ行っていたんじゃあないんですか?如何して此処に、」
「上、何も無かった、降りて来た。」
「た、多分何も無い事はないと思いますが・・・でも無事で良かったです。一柱だと危ないですから、心配したんですよ。」
「・・・?飃、何か変、若しかして晁?」
「・・・はい、其の若しかしてです。面目ないです。」
少し悄気た彼を慰める為か鏡はポンポンとそんな彼の頭を撫でた。
そしてちらっと、未だ如何しようか悩んで立ち尽くしている圷を見遣った。
「若しかして、飃今危険?」
「・・・はい、其の若しかしてです。完敗です。えっと鏡さんは戦えるんでしたっけ。」
「戦う、無理、出来ない。」
「如何して貴方達の所は戦えない神許り来るんですか!此方の身にもなってくださいよ!」
「す、済みません・・・。」
「・・・?御免?」
如何して此処は今も猶変な空気なんだ。
向こうの増援が来たから事態は変わると思ったのに如何してこんな事に。
何より一般神だから手が出せないって言う弱い自分が一番巫山戯ているじゃないか。
歯痒い思いに圷は意味もなくイライラしてしまう、斯うなる予定では決してなかったのだ。
彼のセレの仲間なのだから精鋭揃いかと思ったら、
如何して一般神なんて入れちゃったんですかセレ・・・。
「・・・えと、じゃあ鏡さん丈でも逃げてくださ・・・あれ、此の音・・・は、」
飃はそっと耳を敧てた。何か近付いて来る様な。
途端壁のパイプ達から大量の水が溢れ出た。
其の勢いは凄まじく、忽ち廊下が水浸しになってしまう。
「な、なな何で急に⁉」
「・・・あ、先扉、間違えて、蓋開けた。」
「成程、貯水庫の扉でも開けてしまったんですかね・・・。」
何はともあれ此は運が良い。水の御蔭で嵒はボロボロと崩れ始めていたのだ。
枴さえ取れれば、彼は武器になる。此で少しは、
突然の事態に動揺する圷を尻目に飃は何とか嵒から脱出し、枴を見付け出した。
凱風を操る事も、飛ぶ事も出来ない自分だけど、此には刃が付いている。其で戦える筈。
「良し、此で、」
勝算があるなら自分も戦う。
死にたい訳じゃない、受け入れはしても、抗えるのなら抗ってみせる。
彼自身、此処で死ぬ事は望んでいないのだから、少しでも其の意に沿えないと。
例え行き着く先が復讐でも、其でも僕は、其が生きる理由になるのなら否定はしない。
僕を受け入れた様に、僕も其の考えを受け入れる。
「っ行きます!」
飃が駆け出すと圷もやっと気が付いて釼を握り直した。
大振りに飃が枴を振るが軽々彼に避けられてしまう。
其の所為で飃は大きく前へつんのめったが何とか耐えた。
更に続けて枴を振るう。出鱈目な軌道を描く其は矢張り躱されてしまう。
こんな素神の攻撃なんて当たらないか。其に此は枴だ、振り回すのに適している訳ではない。
持ち難いし、如何しても大振りになってしまう。其にたった数回で少し息切れがして来た。
けれども其は向こうも同じ様だ。躱すのも危な気で、絶対に当たらないと言う訳じゃあない。
服に掠りもするし、もう一息と言う所迄来ているのだろう。
反撃はして来ないけれども如何やら向こうの釼は本来の役目は果たせない様だ。
此処からでも随分刃毀れが目立つし、若しかしたら彼を壊した方が得策なのだろうか。
とは言っても的は小さいし、そんな狙える物でもないけれども。
・・・噫、今迄で一番疲れる気がする。一番考えていると言うか。
戦うのなんて初めてだし、こんな死が近くに感じられたのも、背筋を撫でる恐怖も、何処か懐かしい気がした。
此が、生きると言う事なのだろうか。今迄で一番、其を痛い位感じる。
勝たなきゃ、自分が・・・しないと。もう死にたくなんてない。
彼は・・・何時も如何戦っていたっけ。何時も自分は何を見ていた?
彼は隠れるのが得意だった。其処から一突きで良く終わらせていた。
此処で隠れるのは無理だ。気配を殺すなんて芸当は出来ない。
じゃあせめて構え丈でも、確か斯う脇を閉めて、
息を詰めて一息に枴で突きを放つ。
其迄の振り方と違い、圷は一瞬反応に遅れた。
そして脇腹を少し斬り裂かれる。血が溢れ、始めて枴に血が付いた。
「っ、ま、未だだっ!」
痛みに圷は呻きつつも軽く釼を振って飃を牽制した。
足元の水の所為で殆どの砂は使えない。扱えるのは後少し丈。
「錦地四握、地隆!」
途端天井付近にこびり付いていた砂が集まり、氷柱の様になる。
「錦地二握、地堅!」
一つ一つ命じないと使えないのが此の釼の弱点だ。
だから悟られる前に、決める。
「錦地三握、地崩!」
唱えると同時に壁を軽く釼で叩く。
途端氷柱の様に固まった嵒が一斉に崩落する。
「っ此は、」
「逃がさないよ!」
気付いて下がり掛けた飃に圷は飛び掛かった。
せめて相討ちにでも、此の一撃で終わらせないと。
圷の手が彼に触れるか如何かの所で、飃は突然横に吹き飛んだ。
彼自身に此の場を対処出来る様な反射神経は無かった。
先に危険を察知した鏡が彼に体当たりをしたのだ。
不意を突かれた飃の躯は軽々と吹き飛び、思い切り転けてしまった。
落石の位置とは大きくずれていた為、彼に怪我はなかった。
反対に落石に飛び込んだ形となってしまった圷は其の限りではなかった。
「っぐ、あぁ、」
小さく呻いて圷は緩り起き上がった。
嵒で躯の彼方此方を強打した様で所々血と擦り傷が出来、痛々しい姿だった。
立とうにも力が入らないらしく、何とか近くの嵒を退けるのが精一杯の様だ。
足を潰した嵒を退けたが、痺れた此の感覚、折れてしまっている可能性が高い。
全身が痛みでぼうっとする。考えが纏まらない。
・・・此じゃあ自殺と変わらないじゃないか。
「っ、鏡さん⁉あ、有難う御座います。た、助かりました。」
「怪我、無い、良かった。」
「あれ・・・、若しかして怪我されたんですか⁉」
良く見ると鏡の手に血が付いている。背中を丸めているが、若しかしたら嵒が当たったのかも知れない。
「此位、平気。戦えないから、せめて助けないと。」
「そんな・・・あの、本当に有難う御座いました。」
ちらと圷を見遣ったが動く気配はない。向こうは可也の深手を負ってしまった様だ。
鏡さんの手当をしたいけれども、流石に此処では不味い。相手が居る前では出来ないか。
其にしても彼は道連れにする気だったのだろうか。と言う事は向こうももう手はない筈。
其に何より・・・、
「もう・・・戦えないですよね?」
飃はそっと立ち上がり、刺激しない様少し丈圷に近付いた。
一応神は真の姿がある。怪物になってしまうから最後迄ならない者も多いけれども。
彼の表情は何処か暗い。戦意喪失した様に見える。
其でも飃が近付いたのを見て、慌てて釼を手繰り寄せた。
「あ・・・、」
そして何とも悲しげな、情けない声が漏れてしまう。
彼自身、手に取る迄気付いていなかったのだろう。釼は、ぽっきり折れてしまっていたのだ。
折れた先も嵒に潰されてバラバラに砕け散ってしまっている。
圷は悔しそうに歯噛みするとそっと釼を手元に置いた。
「はい、僕の・・・完敗です。」
廊下の出入り口にあった砂の瀧も無くなってしまっている。
もう釼は完全に力を失っている様だった。
「分かりました。じゃあ先へ行かせて貰います。貴方も早く病院へ行ってくださいね。一応敵同士なので救助は呼べないのですが・・・済みません。では鏡さん、一緒に行きましょうか。」
「是、一緒、良い。」
「ちょっ、一寸待ってください!」
其の儘つかつかと歩いて行く二柱を見遣って思わず圷は声を掛けた。
うっかり急に動いたので躯の彼方此方が痛む。
確かにもう戦えはしない、しないけれども、
「あ、あの、僕を生かすんですか?戦い方とか見られているのに。」
「僕は無闇に命を取りたくないんです。甘いと思われるかも知れませんが、出来る限り然うありたいんです。」
「同じ、やりたくない。」
ふらふらと飛び始めた鏡も頷く。
そんな二柱に圷は目を丸くしていた。
当然彼は知らない事なのだが、自分の存在は希薄な物だ。
魂丈、躯は無く、彼に憑り付いている丈に過ぎない。
消える事もなく、でも自分と言う物を全て失っても只生きる丈だった自分。
そんな存在に殺されるなんて、余りに不幸だ。
僕は只、もう少し丈生きてみたい、やっと然う思える様になった丈の存在だ。
未だ何かに干渉出来る様な、そんな事は恐れ多くて。
だからセレさんに付いて行く事を僕も肯定したのだろう。
寧ろ彼処迄生きる事に執着している彼女はいっそ清々しいと僕は思った。
誰を殺してでも生き延びる、自分一柱の為に。其は凄い覚悟だ。凄い決意だ。
自分なら其処で遠慮してしまう。其処迄自分を認められないから。
・・・実際可也重い事なのだろう。だから彼女は少し壊れている様に見えた。
壊れていると言うか、歪んでいると言うか、少なくとも自分とは違う存在。
生きたくて、殺したくて、死にたくて、殺されたくて、そんな鎖に絡まれている。
僕なら屹度直ぐに壊れてしまう。
だから其の初めの一歩、他者を殺す事に僕は躊躇ってしまう。
もう一柱の僕には悪いけれども、此が僕の答えだ。
「・・・然う、ですか。」
静かに圷は視線を下ろして考え込んでいる風だった。
別に、もう止められる事も無いだろう。
二柱が圷に背を向け、数歩歩いた時だった。
「っ⁉ま、待って如何してそんなっ!ぼ、僕は未だ諦めた訳じゃ、そんな、嫌だっ!」
急に圷が大声を上げる物だから驚いて二柱共振り返った。
圷は大きく目を見開き、震えている様だった。
まるで彼の目の前にとんでもない怪物が居るかの様に。恐怖の籠もった目で宙を見ていた。
其の躯は余りの恐怖の為か大きく震えている。
「ど、如何しましたか!」
放って置く訳にも行かず、飃が少し近付いたが、彼の目には映っていない様だった。
只震えて、信じられないと言った形相で虚空を見詰めている。
「此処で終わる筈が、僕は未だちゃんと、っ若しかしてフォードも、あぁああ駄目だ駄目だ!こんな所で終わらせたら、一体僕達が、」
譫言の様に呟き、声を荒げる彼の言葉は殆ど早口だったり震えていたりで聞き取る事が出来ない。
けれども彼は急に何かに気付いた様に折れた釼を持って立ち上がった。
本来なら迚も立てる状態じゃない。足から血が噴き出し、膝が震えている。
其でも何とか彼は自身を支え、ふら付き乍らも立って釼を構えた。
其の視線は真直ぐ、飃に向けられる。
「彼等の所為?だからこんな事に?あぁ止めないと、行かせちゃ駄目だ。フォードが死んじゃう、其丈は止めないと。僕の所為なんて、駄目、あっちゃいけないそんな事、せめて、少しでも、役立たずなんて駄目だっ!」
「む、無理をしないでください!そんな躯で動いたら、」
「飃、何か危ない、下がって。」
鏡も異変に気付いてそっと彼の傍に寄る。
如何やら圷の耳には何も届いていない様で、静止の声も聞かず、只釼を構えていた。
最早顔面蒼白で、でも次第に目付きはぎら付き、狂気染みている様にも見える。
「彼等の所為なら此処で僕が止めないと。フォードが、皆が同じ目に遭うかも・・・其丈は止めないと、僕だって出来る。未だ戦える、やらなきゃやらなきゃやらなきゃっ‼」
突然圷は駆け出し、飃に斬り掛かった。
其でも瀕死の躯と折れた釼である。
難なく飃に躱され、彼は大きく転けてしまった。
血が出続ける彼を見て何とか飃は止めようと思ったが、何て声を掛ければ良いのか、抑近付いて良いのか分からなかった。
「っ・・・っぐ、あ、ま、未だ、せめて、一柱丈でも、じゃ、じゃないと、あんなに頑張ってるのに、其を僕が台無しにしたら、合わせる顔が無いじゃないか。」
何度か呻きつつ圷は転けても猶釼を振るったが、当然当たる事は無かった。
釼を支えにもう一度立とうともしたが、途中で力尽きて倒れてしまう。
床が血以外の物で濡れて行く。
何時しか彼は大粒の涙を流し乍ら悔しそうに口を噤んでいた。
其の姿は見ていられない程痛々しい物だった。
そしてちらと飃と鏡を見遣った。
愚図っている子供の様で、去るに去れず、二柱は見守る事しか出来ない。
「あ・・・あ、使命が変わってしまった・・・。僕は未だ、フォードと、皆と、一緒に居られる筈だったのに。・・・こ、此処迄、みたいで・・・、未だ皆の役に立てて、いないのに、僕は、僕は、」
「使命、変わった?」
圷は只涕き噦る丈だ。けれども先程よりは少し落ち着いた様で声を荒げる様子はない。
・・・恐らくもうそんな元気もないのだろう。諦め切った目で涕く事しか出来ない様だった。
一応鏡の言葉は耳に届いた様で、小さく彼は頷くと、思う儘に口を開いた。
「如何してか急に・・・僕の使命が変わってしまった・・・。僕は、ずっと、フォードと、一緒に、皆と居られると・・・っ、僕が救われた様に、皆を・・・っ、あぁ、助けられたらってずっと、なのに・・・っ、」
何度か言葉を詰まらせ乍ら圷は其でも何かを伝えようとした。
涙が枯れる事なく彼の頬を伝う。
「僕は・・・此処で死ぬ、消えてしまう。っ如何して、こんな終わり方を、じゃ、じゃあ僕はっ、僕は一体、何の為にっ、若し僕が然うなら・・・っ、皆も、然うなってしまう、かも・・・知れない・・・。っ其丈は、嫌だっ、こんな懐いを、誰にもさせたくなんて、ない。又、後悔して死ぬなんて、っ変わってないじゃないかっ、・・・あぁ、あぁああっ、」
力なく話していた彼だが急に何かに気付いたのか顔を上げた。
驚きの余りか涙も止まってしまう。
「まさか・・・フォードの実験・・・って、」
けれども其の一言と共により激しく涕き噦る。
そして床を強く殴った。苛立ちの儘に、只、
「今更、気付くなんて、っ御免フォード、君は、君はっ!此がしたかったんだっ、気付いて、あげられなくて御免、御免なさいっ、」
最後の涙が緩りと落ちる。
「其でも僕は、君と・・・皆と出会えて、良かったよ。こんな僕を・・・救ってくれて有難う、・・・左様なら、」
其の一言を残して、圷の姿は立ち所に霞み、消えてしまう。
二柱は神の死に立ち会ったのは初めてだ。其でも直感的に今のが然うだと分かった。
「・・・使命を終えた、と言う事ですか。」
「急に変わった、言ってた。」
「一体、彼に何が起きたのでしょうか・・・。」
余りにも急だった。
神には終わりが予め見えていて、其を目指して存在する者と言う認識だったのに。
其が急に変わってしまったら・・・其は彼も納得出来ないだろう。
一度絶望して死んだのに又其を繰り返すなんて。
敵とは言え、同じ神として同情せざるを得ない。
あんな痛々しい終わり方は余りにも可哀相だった。
でも使命が本当に変わる事なんてあるのか、有り得るのだろうか。
確か使命は丗の神の啓示に因って決められる筈。
其は今は亡きクリエーターが創った物、だから本神が居ない今、変える事は出来ない筈なのに。
記憶は無くても知識は残っている。でも分からない事だらけだ。
若しかして此の世界には僕等が気付いていない事、隠された事、勘違いをしている事が・・・あるんじゃないか。
其処迄考えて彼は大きく首を振った。
駄目だ。其以上は考えてはいけない。本能が然う告げている。
世界の心理に触れる事は須く禁忌だ。近付いてはいけない。
「・・・行きましょう鏡さん。後で傷の手当てもしないと。」
「是、此処、良くない。」
二柱は足早に其の場を去った。
けれども飃の頭の中では先迄の圷の言葉が堂々巡りを繰り返すのだった。
・・・・・
・・・早速一柱死者が・・・およよ、
圷君、大好きだったんですが、仕方ありません。
彼はある意味今迄で一番無念の死を遂げています。もう化けて出るんじゃないかって位。
リメイク前と余り結末が変わっていませんが、前の方は・・・何とラストに初対面である筈の丗闇と会って少し口論になっています。
一体何が起きて然うなったのか、現状は考えられませんね。
けれども戦いは未だ始まったばかり・・・更なる悲しみに向けて進む丈です。




