34次元 彼岸花の咲き狂う紅ノ館
はい今日は。先に言っときます、今回は真絳な夢の御話です!
彼岸花とかベターかな?って思ったので余り内容には触れていません。けれども華言葉は素敵なんですよね・・・今回何故此の華にしたのか考え乍ら読んでもらえると少し意味が分かるかも知れません。
今回は書きたい事を詰め込んだ話です。もっと色々入れようかなと思ったんですが、此でも結構なカオス具合だったので少し端折ってみました。
正直こんな夢見せられるなんてアティスレイ普通に可也厄介だよね、と思う最近です。人生の三分の一は睡眠です、其の三分の一を妨害されるんだし。酷い話ですよ。
けれども今回はR18指定は付けませんでした。色々狂っているけれど、グロもないし、エロも無いし、うん。狂っている丈だから安全安心だね!
裏話が多い話なので詳しくは後書きで色々書きたいなと思う此の頃。何より最近急に寒くなったので書くのが辛いんですよホント、書きたいのに手が動かない、本当に困る!長袖になったから机に袖が触れて描き難い!もう嫌!
そんなハンデはテンションで乗り切ろう!と言う事で趣味前回な今回、皆さんも絳い夢に御招待しましょう!
あら姉様、何かおかしいわ
足りないの、願いが足りないのよ
まぁ如何してかしら、本当ね
此じゃあ楽しくないわ、何も出来ないわ
其じゃあ招きましょう、彼女が居れば楽しくなるわ
名案ね、じゃあ早速招待状を
血ノ様ニ絳イ手紙ヲ、小指ノ骨ト一緒ニネ
・・・・・
「・・・・・。」
何処迄も広がる様な彼岸花。
境界線迄もが絳く燃えている様で、何処からか吹く生温かい幽風につい首を竦める。誘う様に彼岸花が揺れる。
旻は黔一色だ。妙な閉塞感があり、見ていると気分が悪くなって来る。
そんな景色の中、大きな館が一棟聳え立っていた。
赤煉瓦で出来た其の館は屋根迄絳く、一様な絳は距離感が狂いそうだ。
そんな此の世の物とは思えない景色の中、セレは一柱彳んでいた。頭を抱え、波紋も閉じている。
如何してだ。何故、こんな所に。
もう自分は分かっている。分かってしまったんだ。此処が何処なのか。
初めて見る景色だ。其でも、経緯から分かってしまう。
自分は先、店に居たんだ。ダイヤ達を皆に紹介して、リーシャンをこっそりモフモフさせて貰って、一度休もうって話になった。
そして自室に入って・・・寝たんだ。記憶があるのは其処迄だ。
つまりは、然う言う事だ。此処は夢の中で・・・アティスレイの領域だ。
少し久しい気がする。すっかり油断していた。
前会ったのは、自分が前世を懐い出した時か。彼の時は彼女に酷い事をしてしまった。
何も言わなかったが、彼女は自らを犠牲にして自分を宥めようとしていた。好きに殺せば良いと、自分に都合の良い夢を見せてくれたのだ。
・・・然う言えばアティスレイは自分に前世を懐い出して欲しいと言っていた。其は叶ったが、良く考えれば其を懐い出した所で彼女に一体何の得があったんだ・・・?
アティスレイの言い方からして自分は何らかの接点を前世で作っていると思った。
けれども実際は如何だ。何処にも彼女が付け入る様な機会は無かった様に思う。似た様な現象も存在も無かった、手掛かりは一つも無かったんだ。
じゃあ彼女は一体何なんだ。益々分からなくなって来た。
「・・・おい、何時迄然うしているつもりだ。」
慌てて顔を上げる。正面から聞き覚えのある声がしたのだ。
「セ、丗闇、居たのか。」
丗闇が目の前で腕を組んで立っていた。小さく溜息を付かれる。
「御前が然うしていれば夢が醒めるのなら好きにして置くが。此処で其の手は使えないだろう。」
「ん・・・ん⁉一寸待ってくれ、まさか殺しに来た訳じゃないよな?待て、話せば分かる!」
前の夢を懐い出す。さっくり殺された時の事だ。
其しか方法が無いにしても、矢っ張り殺されるのは抵抗がある。自殺願望は確かにあるが、其でも覚悟はしたい物である。
行き成り出て来て首を刎ねるとか、そんな仲間は御免である。
・・・まぁ命を狙っている仲間は確かにいるけれどな。
「御前を殺す気なら話しかける様な面倒な手順は踏まない。」
「まぁ流石にもう私達は一蓮托生の仲なんだし、そんな酷い事はしないか。」
「・・・我が眠れる様になるのなら今直ぐ御前を殺すが、今回は然うも言っていられないからな。」
・・・ん?話が噛み合っていないぞ。何で此の神あっさり殺すなんて言うの?
「毎回夢の度に御前を殺すのも面倒だ。慣れられても困るし、そろそろ真面目に原因を探してみては如何だ。」
面倒・・・?いや其は屹度罪悪感の裏返しだよな。丗闇は優しいものな。
でも原因・・・か。アティスレイの全てが謎に包まれているから何処から手を付ける可きかさっぱりだけれども。
「御前が不用意に名を紡いだから我も巻き込まれたんだ。態々呼んだんだから嘸かし名案があるんだろう。」
「善処はするので手伝ってください御願いします。」
・・・何だか最近丗闇、一寸厭味を言う様になった気がする。自分の真似かなぁ、良くない影響が出ている様だ。
最近色々呼んでしまっているけれども、若しかして此、自分の干渉力が原因だったりするのかな。だとしたら本当に丗闇を巻き込んだのは自分になるので少し申し訳ない。
名案なんて無いので今から考えるにしても、抑闇の神である丗闇も知らない様な物を自分が知っている物だろうか。
あるとすれば矢っ張り前世か?でも接触なんて・・・。
「なぁ丗闇は私の前世の記憶を知っているよな?丗闇から見て何か気になる所は無かったか?」
「気になる、か。・・・偉く臨場感があった事か。まるで彼は我の・・・、」
?・・・何を口走っているんだ?丗闇の目は何処か虚ろに見える。
「ん、丗闇。然うじゃなくてアティスレイに因んだ気になる事、なんだが。」
「あ、噫済まない。我は・・・同じ事を御前に聞こうとした所だ。・・・つまりは然う言う事だ。」
慌てて丗闇は視線を上げた。組んでいた手も又組み直す。
起きた許りで丗闇も寝惚けているのだろうか。まぁ自分の事なんだし、自分がしっかりしないとな。
丗闇は毎度の如く巻き込まれた丈だ。自分で解決しないと。
「矢っ張り分からないよな。全く何なんだろうな一体。じゃあ丗闇としては今回は話し合いでもしてもっとアティスレイを探りたいって所か。」
「殺すのは何時でも出来る。只情報は少しでも欲しい。分からない儘は御前も嫌だろう。」
「まぁ今回は何やら舞台も用意してくれているし、多少は話せるかも知れないな。」
中に入らなければいけないのだろう。何が待っているのだろうか。前の様な御茶会なら良いんだが。
「・・・って誰か居・・・る。」
言い乍ら尻窄みになってしまう。だって有り得ない筈だ。如何して此処に。
館の前には三人の人影があった。館の近く迄来て初めて現れたかの様に。
其の三人は・・・勇、ロセス・ハリオン、我=嚶=倭、自分が嘗て次元で会った次元の主導者達だった。
幾ら瞬きをしても波紋を広げ直しても同じだ。三人が、何故こんな所で。
訳も分からず取り敢えず近付いてみる。すると息を合わせたかの様に三人は顔を上げた。
「あ、セレ久し振り。ぼ、僕何かが力になれるか分からないけれど頑張るよ。」
「遅いじゃねぇか。頼んで来たのは其方だろ。さっさと行くぞ。」
「神様!彼から私も成長したから屹度役に立てーよ。宜しーね。」
三人は・・・自分の記憶にある通りの彼の声で話した。
「何で・・・こんな所に。」
「余り惑わされるな。恐らく彼奴が御前の記憶を盗み見て勝手に作り上げた偽物だ。」
然う・・・だよな。本物の訳が無い。流石にアティスレイにそんな力はない筈。
「偽物?良い度胸だ。勇者の息子の偽物とか業が深過ぎるだろ。」
・・・でも、其でも似過ぎている。アティスレイは自身の事、散々馬鹿だの何だの罵っていた。
そんな彼女がこんな芸当、出来る物なのか。
確かソルドも真似れるとか言っていたか、其って斯う言う意味だったのか。
何の為にこんな事、殺し合えとか本当然う言うのは勘弁してくれよ・・・。
まぁ直接聞いてみれば良いか。別に敵って訳じゃあないんだろう。
「皆は何でこんな所に来たんだ?」
すると三人共きょとんとした表情を浮かべた。何だか不思議な感覚だ。
「其は新手の冗談かなセレ、ほら君から誘ってくれたじゃないか。碧山に凄く勁い魔物が居るから手伝ってくれって。僕其で色々準備したんだよ。」
「然うだな。ま、俺が居れば何の問題もないだろ。俺の専売特許だ。」
「わ、私も、そんな凄い力ないけーどが、頑張るから!」
魔物退治、然う言う設定になっているのか。御茶会じゃなくて残念だが。
でも自分の都合の良い様に可也記憶を改竄されているのは明らかだ。丗闇を特に気にしていない様だし、其は有難いが。
「おい立ち話しても魔物は斃れてくれないぞ。彼の館にいるんだろ。」
ロセスはさっさと扉に手を掛ける。
・・・余り一緒には行きたくないな。偽物とは言え、無視をするのは無理だ。
何かが起きて護り切れる自信はない。偽物なんだから見捨てれば良いと分かっていても反応してしまうだろう。
問題は・・・彼女の歓迎が一体どんな物かだ。
「待ってくれ、ロセス。私が先頭をする。丗闇は殿を任せても良いか?」
アティスレイが一体どんな目論見でこんな事をしているのか分からないから真意を確かめたい所だ。
けれども、其でも被害は最小にしたい。傷付くのは自分丈で良い。
一応自分が死ねば夢は終わるんだし、最悪其で構わない。
「・・・良いだろう、気を抜くなよ。」
「ま、手前の方が一応早いし譲ってやるよ。でも狩るのは俺だからな。」
ロセスに代わり、扉を開ける。
警戒していたが、何もない様だ。
只館の外観と比べて明らかに違和感を生む程、行き成り細長い通路が続いていた。
一人通れるか位の細い煉瓦の道だ。路地裏みたいな、少なくとも館にしては不思議な構造だ。
罠の類が無いか慎重に歩いてみる。流石に壁の中迄透視は出来ないし、如何しても不安になる。
通路の先には一枚の扉があった。彼処迄は気が抜けないな。
足を入れると直ぐに背後の扉が閉まった。出られるだろうとは思っていなかったが、まぁはっきりと逃がさないと言う意思表示だな。
「明らかに怪しいな・・・。」
「噫、だから成る可く皆離れないでくれ。」
「此の壁位だったら壊せーけれど、神様、試した方が良い?」
「いや下手に刺激しない方が良い。取り敢えずは進んだ方が、」
「ま、セレ、ちょっ、」
言い掛けた所で勇に服の裾を掴まれる。
勇の顔色はすっかり青くなり、其の手は皓く震えていた。
声を掛けようとして自分も気付く。そんな彼の腹から、
絳い腕が生えている事に。
何かを求めて彷徨う腕が生えていた。壁の中から突き抜けて。
「やぁやぁ皆さんこぉんにぃちわぁあぁ〜。」
壁の中からそんな声がしたと思うと勇の直ぐ傍の壁が大きく崩れた。
然うして現れたのは一人の正女、勇に生えた腕の持ち主だった。
真絳なワンピースに真絳なツインテールにした長髪、瞳の絳丈は異様に輝いて。
皓過ぎる肌は死人の様で、全てを嘲笑う様に瞳はぐるぐる渦巻いていた。
背は勇と変わらない位小柄だが、彼女は不気味に笑ってみせて腕を軽く上げた。
途端に勇の躯は力が抜けた様に項垂れ、直ぐ様其の躯は絳く溶け始めた。
其の絳は正女と同化し、腕にこびり付いた絳はもう離れなかった。
「アティスレイ何が目的だ、こんな事、」
少し丈距離を取る。狭い分、身動きは殆ど取れない。
大丈夫だ、向こうは丗闇が居る。自分丈でも。
こんなあっさり、創った勇を壊して捨てて、何がしたい。
「あはぁ御姉さん怒っちゃ駄目だよぅ、御姉さん忘れてる事あるっぽいから、私が!教えてあげようかと思ってぇ〜此処へ招待したんだよぉ。」
彼女は直ぐに此方へ向き直った。
当然と言えば当然だが自分丈が狙いの様だ。
でも忘れている事・・・何だ其は。前世以外にも未だ何かあるとでも言うのだろうか。
少なくともこんな方法で懐い出す様な物なら要らないな。
「私の館はとってぇもエキサイティング!心臓が止まっちゃう位スーパーなのぉ!だから今日は沢山御人形あげたんだよぉ、もう此で寂しくないね!」
今回の彼女は又新しい顔の様だ。
異様な程絳い瞳はぐるぐる渦を巻き、より彼女の狂気さが滲み出ている。
「ね、御姉さん。何だか私が思っている以上に怒ってないわね貴方。如何してかしら如何してかしら。昔の御姉さんなら今頃私の胸倉を掴んで殺しているわ。此って丸くなったって事かしらぁ。」
突然入口の扉が豪快に壊れた。何かが外から衝突した様だ。
見遣ると其処には毒々しい色合いの巨大蜈蚣が居た。
自分達なんて一呑みに出来そうな程大きい。蜈蚣と言っても大きな口と牙を有しているのだ。
御負けに蜻蛉の様な翅も生えている。機動力は高そうだ。
「いや此は冷酷になったって意味じゃないかしら。」
「口が利けるのか此の蜈蚣は。」
地を震わす様な声だが蜈蚣の声は何処か女性の物の様だった。
「ふーん姉さんが言うなら然うかも〜。良かったね御芽出とう、益々素敵な貴方になって行くわぁ。」
本当に嬉しそうにアティスレイが笑うと、後ろの蜈蚣も牙を鳴らして笑っている様だった。
「ね、御姉さん是非とも私の館の最奥迄来て頂戴。途中で死んじゃあ嫌よ。屹度貴方も何かを得られる筈、御友達と頑張ってねぇ。」
「其じゃあ次の御部屋迄御案内〜。」
突然蜈蚣が突進を繰り出した。未だ距離はあるがこんなの一瞬で詰められてしまう。
「っ!こんな所で、」
未だアティスレイには聞きたい事があったが慌てて次の扉を目指す。
アティスレイは楽しそうに片手を振ると其の儘見送っていた。
扉迄は未だ少し距離がある。ロセスも倭も居るし、殿の丗闇は大丈夫だろうか。
兎に角走るしかないとセレは前丈を見て一気に駆け出した。
「闇障。」
此の儘では追い付かれる。丗闇は咄嗟に唱えて少し丈立ち止まった。
丗闇と蜈蚣の間に黔い膜が張られる。其に衝突した蜈蚣は少し勢いが落ちた様だった。
其でも完全ではない。蜈蚣も膜に気付いて一度丈止まったが、其でも又突進を繰り出した。
飛べる御蔭で動きが素早い。然も細い通路なのに無理矢理突っ込んで来る所為で足元が揺れて覚束無い。
「・・・貴方、矢っ張り嫌いだわ。」
「奇遇だな。我もだ。」
未だ走れない、奴も扉を開けられていない。少し位の犠牲は覚悟して置く可きか。
一気に膜を破り、蜈蚣が躍り掛かった。
こんな狭いと受け身も回避も出来ない。
丗闇が左腕を上げると蜈蚣は其処に咬み付いた。
「招待していない貴方の招待料、此で赦してあげるわ。」
そして腕を喰い千斬り、あっさりと呑み込んだ。
丗闇の肩から大量の血が噴き出した。其を一気に丗闇は術で止血した。
此の位なら・・・問題ない。
動き難い所為で余りもう浮けないが、足が動くなら問題無いだろう。
声が漏れない様噛み殺し丗闇が蜈蚣を睨むと、其で満足したのか蜈蚣は少し動きを止めた。
先には・・・行かせてくれるらしい。
「邪魔したいなら勝手になさい、貴方には何も出来ない。どうせ貴方の想いは全て無駄になるのだから。」
其処でやっと向こうの扉が開いたらしい。
其から丗闇は振り返る事なく真直ぐに扉を潜った。
入ると同時に扉を閉める。だがもう蜈蚣は突進せず、不気味な笑い声丈が扉の奥から響いていた。
「此処は・・・食堂、か?」
先のと打って変わり随分と広い大広間だ。
不自然に天井が高く、如何言う事か波紋でも果てが見えず、暗闇が続いている。
目の前には大きな長机があり、椅子も何脚か置かれている。
だが真皓なテーブルクロスの上には何も乗っていなかった。
奥には又扉が見えたが、落ち着けそうではあったのでセレは状況確認をする事にした。
そして直ぐに丗闇の顔色が悪い事に気付く。気丈然うではあるが・・・。
「丗闇?何かあったか?何だか顔色が良くないぞ。まさか、」
そっと肩に触れると外方を向かれた。
其でも明らかに袖が千斬れ、其の先が無い事が分かる。
「彼の蜈蚣にやられたのか。」
「此処に来た通行料だ然うだ。別に此は夢だ。大した事は無い。」
夢とは言え、此処は可也リアルに近い。
痛くない筈がない。然もそんな痛みでも醒めない夢だなんて。
「済まない丗闇、私が殿なんて任せた許りに。」
「だから大した事はないと言っている。腕の一本位無かろうと彼奴を殺す事は造作もない。・・・さっさと先に行くぞ。」
「いや大怪我だろ。手が要るなら貸してやる。此奴の時は負ぶったからな。」
「私の足が遅かったからじゃ・・・次は私が後ろになーから少し休んだ方が良いんじゃなーかな。」
丗闇は一つ溜息を付くと黙ってしまった。良いから先に行け、と言う事らしい。
「・・・良し、分かった。先に行こう。けれど何かあったら直ぐに言ってくれ。彼奴の口振りからして命に関わる様なトラップが多いかも知れないからな。」
もう一人、欠けてしまったんだ。本当に短い間しか一緒に居なかったが、其でも彼の一瞬が随分頭から離れない。
勇・・・幻とは言え、又会えるとは思わなかった。人格も殆ど一緒に思えた。
出会えた丈で、本当に色々な懐い出が甦る。何より一番初めの次元だ。前世も黔日夢の次元も良く知らなかった時の。
彼の時の自分は、随分と能天気だったな。今は如何だ?
少なくとも彼奴はあんな殺され方をして良い奴じゃあなかった。今回のアティスレイも随分と悪趣味な様だ。
懐い出す、懐い・・・出す?若しかしてアティスレイがしたいのは此の事か?
自分が前世の記憶の中からも忘れていると言う事か?此の喪失から懐い出せと?
・・・何をだ。あんな奴に会った事なんて、忘れそうもないのに。
何かもっと別の方法でそんな物、試せば良いじゃないか。態々、こんな事しなくても。
「神様大丈夫?先のは神様の所為じゃー無いから、そんなに気にせんでー。」
「噫、有難う倭。」
抑此は自分の夢だ。だから如何したって全て自分の所為になるんだけれども。
・・・本当に二人共似ている。つい本人と見紛う程に。
今の所は狂ってもいない。アティスレイが本当に創ったのか?
然う斯う考えていると何処からか迚も良い匂がして来た。
見遣ると何もなかった筈の天井から緩りと銀の皿が降りて来た。
上にはクロッシュが乗っており、中を伺い知る事は出来ないが・・・。
皆も息を呑む様に見詰め、何処か倭は少し震えている気がした。
ひとりでにクロッシュが上がる。中には何の肉料理か随分丁寧に飾り付けられ、盛大に盛られていた。
高級料理の様で知らず喉が鳴る。
・・・流石に御茶会の件があるから行かないが。
一応警戒しつつ次の扉へ向かっていると誰も居なかった筈の席にぞろぞろと人影が出始めた。
影の様に生えた其等は皆タキシードとハット帽を被り、面は鴉の様で銀色に光る嘴が覗いていた。
「おや、もう行ってしまうのです?折角貴方達の分も御用意しましたのに。」
鴉男の一人が振り返り、此方を見て少し笑った気がした。
「私の分・・・だと。」
「何を口走っている。」
丗闇に軽く睨まれた。早く行けと口早に告げる。
「食べて置かないと此の先持ちませんよ。」
「ほら冷めてしまう前に。」
「何だか歓迎されている様だったから、何かと思って。」
「此の鶏の足も中々、」
「良いスパイスが効いてますな。」
鴉男は次々と料理を平らげて行く。だが料理は尽きず、宴会の様な具合になって来た。
「っ、まさか御前、」
丗闇は突然残った手で軽くセレの頭を殴った。
軽くと言っても彼の黔い腕だ。普通に痛い。
「寝惚けるのも大概にしろ、御前此処が安全だと思うのか。良く見ろ。」
「いや何も殴らなくても、」
軽く頭を押さえると何時の間にか波紋は別の景色を写していた。
何時の間に・・・摩り替わったんだ。
食卓に料理なんて一品もない、代わりに大量の人の死体が盛られていた。
殆どは腐った肉、一部皓骨化した物もある。
そんな死肉の中に一つ見慣れた物があった、自分のと良く似た黔く歪な腕。
然う、先程千斬られた丗闇の腕も食卓に置かれていたのだ。
「・・・悪趣味な事をする奴だ。」
丗闇は見たくないと許りに外方を向く。
鴉男達ももう姿を変えており、半分骨と化した鴉の群だった。
錆付いた様な音を立てる骨の翼を動かし、喧しく騒ぎ立てる。
肉を貪り食っては空虚な元は目のあった穴を此方に向ける。
羽根が散る、黔い羽根、死肉の上に降り積もる。
彼等は丗闇の腕に群がっては盗り合いをし、啄み合っていた。
分かっている、もう見えている。其なのに何故、如何して、
・・・如何してこんなに美味しそうな匂がするんだ。
此じゃあまるで、いやまさかそんな、
足が動かないセレを前に丗闇は一つ溜息を付いた。
先から明らかにおかしい。何か見ているのか、見させられているのか。
彼の化物の思惑通りに何かを知ろうとしているのか。
「闇刃。」
突然丗闇は死肉に向けて術を放つ。
大きく地を抉る黔の刃が現れ、豪快に骨鴉達を蹴散らした。
台無しになった食卓を前に骨鴉達は文句のつもりか激しく鳴き始めた。
「おい何態々喧嘩売ってんだよ、力は残しとけよあんな雑魚放っといて。」
「然う思うならさっさと此奴を連れて行け。此以上我の手間を取らせるな。」
「セ、丗闇済まない。もう大丈夫だ。」
頭を一つ振る、もう彼の匂は忘れろ、此処は彼奴の創った夢なのだから。
「私の食卓をこんなにするなんて随分と御行儀が悪い客ね。」
何も見えなかった暗い天井から羽蜈蚣が降りて来た。
丗闇の腕があったのだから然うじゃないかと疑ってはいたが、
「扉開いたー、神様、皆早くっ!」
倭の声に弾かれた様に扉へ駆け寄る。
次の部屋が何だか知らないが、兎に角此処を離れないと。
丗闇の躯が少しふら付いたので腕を引っ張る事にする。
凄い渋面で睨まれたが放って置く訳にも行かない。自分の所為で負った怪我だ。
「如何して御前なの如何して御前なの如何して御前なの、」
羽蜈蚣は特に襲おうともせず、只呪詛の様にずっとそんな事を呟いていた。
一同が扉を潜ると直ぐ様其を閉めた。
アティスレイに対してこんな行動の全てが無駄な気もしなくもないが、其でも無いよりはましだろう。
さて、次の部屋は一体・・・、
「っ皆直ぐ走れ!」
波紋が捉えた。又、奴が来る。
掴んだ儘だった丗闇を奥へ押し遣る。
魔力は・・・此処には居ないのか?
一歩出遅れた倭の服を掴んで無理に引っ張り上げた。其の瞬間に上からの襲来者の姿がはっきりと現れた。
其は巨大な蜘蛛だった。
全長5m程ありそうな其の蜘蛛は牙が異様に長く、足の先は刃の様に鋭く光った。
大蜘蛛は突然一同の真上から落ちて来た。
一応回避は間に合っている。倭迄は逃がせたが自分は蜘蛛の足の檻に閉じ込められてしまった。
もう一度魔力を呼んでみるが応じる気配がない。若しかして自分の夢であり、アティスレイが創った夢には魔力達は入って来ないのか。
外の世界と断絶されている・・・此、想像以上に不味い事実じゃないのか?アティスレイの力を、侮り過ぎていたんじゃあ、
・・・兎にも角にも此処から出ないと。魔力頼りの作戦は失敗だ。だったら自力で出るしかない。
降ろされる足に肩や足を斬られる。でも多少の怪我なら問題ない。
「乂!」
ロセスが走り寄り、斜め一文字に大蜘蛛を斬り付ける。
「ギィイィイイィイィ‼」
大蜘蛛は捕らえたセレの事しか見えていなかった様だ。ロセスの奇襲は成功し、大蜘蛛の目は幾つか潰されてしまった。
驚いた大蜘蛛が足を挙げた瞬間に何とかセレも脱出する。気付いた蜘蛛が怒った様に牙を鳴らした。
「助かったロセス。」
「良いから走るぞ、此の壁何かやばいぞ。」
一同が走り出すと天井から轟音が響く。
部屋は最初の程ではないが細長い部屋だ。無骨な鉄板の様な壁に囲まれている。
大蜘蛛は部屋に対して躯が大き過ぎた様だ。足を上手く広げられないらしく、追い掛けて来るも其処迄足が速い訳でもない。
只、先の音は・・・、
波紋を天井迄広げて気付く。先迄大蜘蛛の事に必死で見えていなかったが、天井は鋭利な針で覆われていたのだ。
そしてそんな天井が降りて来ている。大蜘蛛より此方の方が早い。
タイムリミットは彼の針だ。
「天井だ、天井から針が落ちて来るっ!扉迄一気に走れ!」
少し離れた先、彼処に迄辿り着けば、
「ねぇ、貴方の護りたいのは誰?本当に助けたいのは誰?」
殿を務めていたセレの耳元で囁く声がした。
大蜘蛛の声か?振り返ってやる余力はない。波紋では大蜘蛛はぴったり自分の背後に居る。
・・・態と自分に合わせているのか?
「口生意気な頼れる騎士さん?神を慕う従順な地下の少女?貴方の為に貧乏籤を引いて許りいる闇の神?其とも一番大切で可愛い貴方自身?」
「・・・煩い。」
そんな話は聞きたくない。分かっている癖に。
どんなに口で宣言しても、態度で示しても、本質は変わらない。
化物なのは今も昔も、変わっていないのだから。
「答えは出ているわね、愛しい貴方。でも私は愚図だから貴方の口から直接教えて欲しいの。答えて?其の名を。其の願い、叶えてあげる。助けて欲しいのは誰?」
「死んで欲しい奴なら直ぐ近くにいるけれどな。」
一瞬セレは立ち止まり、振り返った。
背後に迫る大蜘蛛の目と搗ち合う。瞳の奥が絳く照り、嗤っている様だった。
「牙黔。」
短く唱えると黔い刃が幾重も一気に突き出され、大蜘蛛は大きく仰け反った。
大してダメージは無いだろう。でも其で良い。どうせもう直ぐ始末は付く。
其以上セレは足を止めず、駆け出した。扉はもう直ぐ其処、針には間に合う。
「アヒャヒャヒャヒャヒャツ‼其が貴方の答えなのね!噫矢っ張り貴方は素敵だわ!誰よりも美しく、誰よりも可愛く、噫私丈の物にしたい!フフ・・・アヒャヒャヒャヒャ‼崇めて愛でて寄り添って讃えて謳って従って全て全て捧げましょう!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ‼」
只々続く哄笑を背にセレは扉を潜り、直ぐ様閉めた。
暫くして何かが潰れる生々しい音がし、声は途切れる。
・・・大蜘蛛が死んだ所でアティスレイは未だ居るだろう。
そんなに御前は自分が欲しいのか。何の為に?何をしようと思っているんだ。
夢に堕ちたら、如何なってしまうんだろうか。
「全く何なんだよ此の館は。まさかこんな知性があるタイプの魔物とはな。」
「狂っている奴に知性があるかは難しい所だけれどな。」
「何にしても彼を野放しにしたら不味いぞ。先の奴もあっさりやられちまったし、俺あんな風に溶けるのは御免だからな。」
「噫、無茶丈はしないでくれ。」
ロセス達を如何言った具合でアティスレイは創ったのだろうか。
本当に只の御守として?他に何か役割を持たせているんじゃないか?
若し何処かで牙を剥くのではと心配しなければいけないのなら早々に見捨てた方が良い事は分かっているけれども。
でも其は・・・出来ればしたくない。夢であっても自分を其処迄捨てたくはない。
其に若しかしたら然う疑ったりする事はアティスレイの目論見の一つになっているかも知れない。
最近本当に少し丈、彼女の好みが分かった気がするからな。
・・・昔の自分に、戻って欲しいのかアティスレイ。其が御前の望みか?
でも其はもう不可能だよアティスレイ、だって私は・・・、
自分は・・・もう知ってしまった。学んだんだ、彼の時から。
自分は生き方を間違えていた。考えは変わらずとも、前世を全て忘れた上での今世の生き方は学ぶ物があった。
其の上で判断した。今の自分の方が効率が良いと。
だからアティスレイ、御前が然うあれと言うなら御前が見抜かないといけないんだ。
本心は・・・ずっと変わっていない事に。
ガルダは今の自分の方が嫌いだろうな。こんな化物、好きになる訳、ないからな。
「・・・彼の魔物は斯うして館に来た人を襲ってるーかな。」
「然うだな。其に何を考えているか分からないし、厄介な相手だ。」
「あーな風に溶けたら・・・ん、いや、なーもない、うん。」
倭は抑戦闘なんて初めてだろう。本来そんな彼女を誘うなんて自分は絶対にしないが、此処がアティスレイの夢である丈に起きてしまった現実なのだろう。
何の道、先に進む事でしか助かる術もない。例え夢の中丈の命としても。
「此処は・・・何なんだ一体、真面な部屋が無いな、本当。」
ロセスが軽く部屋を見渡して一つ溜息を付く。
其処は何も無い部屋だった。只真直ぐ伸びた鉄板と両側が木製の床になっている事以外は何も無い部屋だ。
奥には扉があるが・・・明らかに床に何かあるな。
慎重に自分は鉄板へ足を乗せた。途端大きく部屋が揺れ始めた。
「な、何此、」
「倭!私に掴まれ、」
立つのがやっとの揺れだ。そして両側の木の床が大きく割れて行く。
其は地下から現れた者の所為だった。其が床を突き破り、壊したのだ。
木の床に隠されていたのは無数の蛇だった。
絳く爛々と瞳を輝かせた黔い蛇が所狭しと犇き合っている。
足の踏み場もない程居た其奴等は皆一様にセレ達を見ていた。
蛇自体はそんなに大きくない。1mもあるか如何かのサイズだ。だが一部の奴は蛇が集まり固まった様になって、触手に覆われた化物と化しているのも居た。
「っ気味悪いな。入って斬るにしても多過ぎる。」
「此の鉄板の上しか歩けないな。気を付けてくれ、落ちたら・・・、」
助ける間もなく、喰い殺されてしまうだろう。毒もあるかも知れない。近付かないのが先決だ。
其の儘セレを先頭に一同は慎重に歩き始めた。
「噫覗けた内臓打ちまけて。」
「頸に絡んだ縄の後〜。」
「誰も履かない寂れた靴。」
「閉ざされない瞳、乾いた口。」
「抜け殻は獣に喰わせ〜魂は捨て置け化物になる迄〜。」
突然蛇達は嗄れた声で鳴き始めた。
・・・今更、彼等が話す事は何とも思わない。
只其の声は詠の様で絡まる音に息が苦しくなる。
其でも蛇には一切目もくれず、只前丈を見て歩き続けた。
「死者の詠、屍の踊り、血の饗宴、傀儡は嗤う、誰に嗤う?」
「一歩二歩〜三歩目に気を付けて、深淵がほら足を掴んでいる〜。」
「翅捥げ蝶の、旻の夢等もう見るな、身の丈あった地を這えよ。」
「なぁ「なぁ「なぁ「なぁ「なぁ「なぁ「なぁ」なぁ」なぁ」なぁ」なぁ」なぁ」なぁ」
突然巨大な蛇の塊が鉄板に向け突進した。
ギリギリ其の上には届かない様だが巨体の所為で大きく床が揺れる。
「っあ、」
「倭っ!」
足を踏み外し、蛇の瀛海へと倭の姿が沈む。咄嗟にセレは手を伸ばし、翼も広げて真っ逆さまに堕ちる。
蛇が倭の服の裾を咬むのと同時に其の手を掴んだ。
服が多少破けるのなんて構っていられない。引っ張り上げると今度は蛇はセレの翼に咬み付いた。
「霄陣。」
短く唱えると黔い一閃が走り、蛇達の首が飛ぶ。
自由になった翼で直ぐ鉄板の道迄戻って来た。
「あ、あ、神様御免なさい。私の所為で、そ、そーな怪我、」
翼が、痺れた様に動かない。何か毒でも持っていたのか。当分は使い物になりそうもない。
「おい、動け、」
丗闇が駆け寄って来た所で大きく上体が揺れた。
其の瞳が大きく見開かれる。片腕が無い状態でバランスが取れる訳もなく、丗闇も又足を踏み外した。
「っくそ、此処迄かよ、」
瞬間、ロセスも丗闇の後を追う様に蛇の沼へ身を躍らせた。
そして丗闇の腕を思い切り引き上げ、代わりと許りに落ちて行く。
「御前の方が・・・彼奴を護ってやれるだろ。」
短く、そんな囁き声が消えたか如何かで丗闇は鉄板の床に手を突く。
急いで振り返るも、もう其処にロセスは居なかった。
眼下の蛇地獄、鎧が見えたのは本の一瞬で、直ぐ様其は蛇達に呑まれてしまう。
蛇は執拗に鎧の後を追い、其の後は聞きたくもない、肉の裂ける音、千斬れる音、何かが噴き出す音が続く。
暫くして顔を上げた蛇達は皆顔を真絳に染めていた。そして満足そうに嗤っていた。
「・・・此は幻だ。只の、夢の出来事だ。」
譫言の様に呟き、只呆然と丗闇はそんな蛇達を見詰めていた。
「騎士さん・・・死んじゃったの・・・。」
「丗闇・・・丗闇大丈夫か。」
そっとセレが近付き手を貸したが丗闇は何とか自力で立ち上がった。
「丗闇が無事なら・・・良かった。」
「さっさと行け、もう此処に用は無い。」
「噫、然うだな。」
ロセスは・・・丗闇を庇って死んでしまった。
本当に彼等はアティスレイが創ったのか、少し分からなくなる。
誰の所為でもない事は分かっている。でも此の心の虚無感は、遣り場のない罪悪感は消えないな。
此だから近しい誰かが死ぬのは嫌なんだ。近付けたくなんかないのに。
セレが黙って足を進めるのをじっと丗闇は見遣っていた。
未だ信じられない。けれども確かに。
・・・自分は誰かに押された。
此の腕を失ったのは可也の重りになりそうだ。
丗闇はもう一度丈絳くなった蛇達を見遣ると足を進めるのだった。
次の部屋は真皓でシンプルな部屋だった。
唯一ある物は中央の泉位だ。石で出来た円型の泉には絳い水が湧き出していた。
慎重に歩くも何も起きない訳がない。
突然泉は大きく泡立ち、噴水の様に大きく盛り上がる。
其は段々と人の形を取り、アティスレイとなって顕現した。
其の間にセレはそっと晒を外した。
・・・最初から外して置けば良かった。勇やロセスの手前、中々其の考えに行き着かなかったが、もう彼の二人は・・・居ないんだ。
翼も尾も出す。目なんて構っていられるか。
自分が、しっかりしないと。丗闇だって負傷してしまっている。自分の夢だ、自分の問題だ。
「わぁ〜御姉さん凄い凄いよぉ〜。もう直ぐ最奥だねぇ。私の夢、隅から隅迄楽しんでくれて嬉しいよぉ〜。」
「・・・未だ続きがあるのか。」
其を聞くと本当嬉しそうに彼女は微笑んだ。
「あれぇ〜彼のかっこいい騎士さんは何処かなぁ。折角遊んであげようと思ったのにぃ。私今、遊び相手探してるんだぁ。」
「・・・そんなに遊び相手が欲しいならなってやる。」
丗闇が一歩前に出る。先から動き続けている所為で折角止血したのに肩口から血が出続けていた。
だからか顔色は先よりずっと悪い。息も上がって迚も戦える様には見えなかった。
「丗闇、一柱じゃ無茶だ。そんな躯じゃあ、」
「誰か、残らないと此奴は通す気が無いだろう。御前は先に行かないといけない。我がさっさと此奴を殺して追い掛ける丈だ。」
「・・・フフ、別に殺しちゃあ遊びじゃないんだけどねぇ〜ま、私は誰でも良いよぉ。」
丗闇の言う通りではある。倭を残す訳にも行かない。
「・・・分かった。倭、先へ行こう。私から離れないでくれ。」
「え、あ、あの、気を付けーて、む、無理はしなーで。」
倭が声を掛けたが丗闇は沈黙を返す丈で、仕方なく倭はセレに付いて行った。
二柱が奥の扉を潜るのを見届けるとアティスレイは一つ舌舐りをした。
「さーてさてさてぇ良いのかなぁ。姉さんの選択は正しかったかなぁ。二柱限にして大丈夫だったのかなぁ。誰が姉さんを裏切ったか分からないのにぃ。」
意地悪く笑う彼女は驚いた素振りをしたが、其の全てが演技にしか見えなかった。
「あ、そっかぁ姉さん恐がりだもんねぇ。誰が裏切ったか知りたくなかったから私と遊んでくれるんでしょぉ〜。此以上自分の所為で誰かが犠牲になるのが嫌なんでしょお、私を殺すのは間違いなく正義だもんねぇ。」
楽しそうに踊るアティスレイに丗闇は溜息を付いた丈だ。
・・・思ったより躯が重い、術を放つのももう少し・・・息を、整えないと。
気分が・・・悪い、途轍もなく。・・・吐きそうだ。
「如何して騎士さんは姉さんを助けたんだろうねぇ。私、夢なら何でも出来るんだよぉ。悪い子は誰だろう。ねぇ姉さん動くの辛そうだから御喋りしようよぉ、私退屈じゃなきゃ何でも良いからさぁ。」
腰を屈めるアティスレイを睨んだが、足元がふら付き、つい丗闇は壁に手を付いた。
「・・・狙いは初めから我か。」
「そぉんなつもりはないけどぉ、でも御前が居なかったらもっと話はシンプルだったよ。御姉さんは私を選んでくれていたよ。全て元通りだったよ。其を、其を!ぜぇ〜んぶ壊したのは御前。」
此奴には此奴の狙いがある。でも其が未だにはっきりしない。・・・まぁ確かに此奴がやろうとする事を悉く止めていたのは事実か。
「だからまぁ・・・然うだねぇ、姉さんから堕とした方が良いかもねぇ。姉さんはもう昔と違う。苦しいんでしょお?色々考えちゃって、心に隙があるんだよねぇ。ねぇ、姉さんも気になり始めたんじゃない?自分が、誰なのか。」
僅かに丗闇が息を呑むのをアティスレイは見逃さなかった。段々と彼女の笑みが歪んで行く。
其の姿は少しずつ崩れて行った。でも決して消えていなくなる訳ではなく、何か別の姿へと変わって行っている様だ。
泡が弾け、大きく膨らむ。先迄少女の姿だった筈なのに今では丗闇より少し高い位だ。
「御姉さんもみぃんな大好きだ。自分を知る事ってそんな大事な事?まぁ気になるよねぇ、じゃないとぉ、誰も信じられない世界でさぁ。生きて行けないもんねぇ。あはぁ、分かるよぅ分かる。私の知ってる感情だぁ。何だか姉さん可愛くなって来たんじゃないかなぁ。御姉さんの足元にも及ばないけれどぉ譲歩はしてあげるかもぉ?」
少しずつ泡は流れ落ち、アティスレイは一人の青年の姿を取った。
何処か優し気に苦笑いして軽く頭を掻く仕草に、丗闇は既視感を覚えた。
「・・・如何して彼の男の姿を取る。」
青年は、ガルダだった。其の儘の彼の姿をアティスレイは写し取ったのだ。
「ハハァ、矢っ張背が高いねぇ、姉さんを見下せるなんて最高だ。」
声も・・・真似られている。偽物と分かっていても、ダブって見えてしまう。
「ねぇ姉さんは如何して俺の事を嫌うんだろう。俺何かしたっけ。俺は別に姉さんの事、嫌ったりしないのに。」
「・・・其の姿で姉さん等と呼ぶな。気色悪い。」
生理的に無理だ、受け付けない。
少し下がった丗闇を見遣り、アティスレイは又苦笑する。
・・・本当に、彼奴に良く似た声で、笑う。
我と、話したい丈なのか。時間稼ぎに意味があるかは分からないが。
付き合う気もないのに、未だ躯が真面に動かない。
「ね、実際如何なの?そんなに俺の事が嫌いか?俺さ、神だから然うなんだろうけど、然う言うの。本当に苦手なんだよ。争いたくない、啀み合いたくない。嫌なら無視すれば良いじゃないか。無関心でいれば良いじゃないか。全て忘れてしまえば簡単じゃないか。なぁ然う思うだろ?」
「我は・・・別に、其の態度が気に食わない丈で、」
「成程、其じゃあもう一つ、」
目の前にいるのはアティスレイの筈なのに頭に霧が掛かったみたいに痺れて来る。
考えが纏まらない。此奴と話をした所で、何の意味もないのに。
「・・・何も無い事ないさ。此は御前自身との対話だよ。」
小さく呟き、アティスレイはそっと笑みを隠した。
「何だか最近揺れてるね。俺は其が気になって仕方ないんだよ。若しかして俺の所為か?前世、見ちまったもんな。見知らぬ筈の俺との記憶、其が重りになっちまったのか?だって・・・な、おかしな話だもんな。彼の記憶が余りにも、」
アティスレイは泉から降り、一歩丗闇に近付いた。
「リアルだった。なぁ然うだろ?薫風の匂も分かる位、声の熱も伝わる位、心が動いて涕いてしまう位、本物だった。まるで自分の物の様だ。他神の物なのに恰も羨ましがる様に!如何してだ?如何してそんなに近付いてしまったんだ?」
一歩ずつ近付くアティスレイに、丗闇は扉前迄追い詰められる。
皓かった筈の瞳が絳く灯った。
「然う感じたのは若しかしたら御前は何も持っていないからかも知れないな。スポンジの様に吸収したから、全て本物に取ってしまうのかもな。じゃあ其処でもう一回考えよう。自分は誰なのか、何なのか、其の存在理由は?意義は?何の為?誰の為?自分は誰だ?良く考えてみろ。答えは自分しか知らないぞ。誰も味方はいないぞ。自分で、自分で!答えを出さないと。」
「煩い、勝手な事をほざくなっ、」
猶も近付くアティスレイを牽制する様に丗闇は手を払った。
爪が彼の腕を掠め、真絳な液体が流れ出る。
其を見てアティスレイは驚いた素振りをしたが、演技に見えてならなかった。
「おおっと危ない危ない。そんなに嫌わないでくれよ。悲しくなるだろ・・・。俺としては一寸話をしたい丈なんだって。悪い様にはしないよ。だって御前はセレの大切な友達だ。」
「・・・姿は真似られても頭はてんで駄目な様だな。そんな事、彼奴が言う訳ないだろう。・・・友達だと?笑わせてくれる。」
「フフ、御前も随分揺れてるみたいだけど?でも然う言う事にしてあげよう。記憶は共有しているんだ。腕には自信があるんだよ。其が俺を俺たらしめるのだから。其に御前は何時も俺と話してくれないし、斯うでもしないと話を聞いてくれないだろ?」
「御前から嫌って来る癖に何を言っているんだ。」
姿が違う所為で少し調子が狂う。其に本当に此奴が何を言いたいのか正直分からなくなって来た。
「・・・然うだな、俺達のマザーは確かに御前の事を嫌ってる。でも俺は・・・恐らくアティスレイの中で壊れた奴だな。正直、御前に惹かれている。だから話してあげるんだ、大切な事。」
いよいよ気味が悪くなって来た・・・。何がしたいのか、何が目的なのか。分からない。
「自分の事、もっとしっかり考えた方が良いぜ。何で態々俺が大好きな御姉さんの姿を捨てて迄此の男になったのか。目を背けるのは感心しないぞ。御前だって記憶、見たんだからさ。本物みたいだったんだろ?じゃあ避けないでくれよ。だって未来の俺は・・・、」
言い乍らアティスレイの姿は少し丈崩れ、今度は世曦の姿を取った。
一瞬彼の時の事を懐い出し、少し躯が強張る。
其の姿の儘アティスレイは嫌な笑みを浮かべた。正に彼奴が浮かべそうな笑顔を。
「如何して吾は御前を殺したいんだろうな。御前が何をしたって言うんだ。御前は只、御姉さんと仲良くした丈だ。・・・違うか?違わねぇよなぁ。今だって彼奴の為に色々骨を折ってる。感謝こそすれ、怨まれる覚えはない筈だ。其は吾にも分かる。じゃあ何だ?何が原因だ?」
其は丗闇にも分かっていなかった事だ。気になるのは確かだが、本神に聞く訳にも行かない。
・・・其なのにこんな絳の化物が知っているとでも言うのだろうか。こんな愚鈍な奴が迚も然うとは思えないが。
「若しかしたら未来で何か起こるのか、彼の平和惚けした男が怒る程だ。余っ程の事だろうな。其に御前が関わっている?其じゃあまるで大きな選択を迫られているみたいだ。嫌いなだなぁ、嫌だなぁ選択なんて。然も其の天秤の両方に自分より大きな重しがあるなんて、考えたくも無いよなぁ。加えて彼奴の反応を見るに御前は其の選択をミスったらしい。噫最悪だ。なぁ然う思うだろ?」
「・・・御前は、何を・・・知っているんだ。」
其は・・・ずっと自分が考えていた事だ。
自分が何かをした。然も最悪な形で。だから彼の男は自分を殺す為に過去に来た。
其ならすんなり考えられる。加えて彼の男が怒るとしたら矢張り・・・彼奴に関する事だろう。
前世であんなに関わっている。其以外考えられない。
彼奴が黔日夢の次元を起こして迄彼の男に執着したのだ。逆も然りだ。
彼奴は此の考えを否定したが、でも其でも我は・・・、
自分の使命の為なら彼奴を殺せる。
情や懐いなんて関係ない。其の為に我は存在するのだから。
其が・・・選択すると言う事なのだろうか。
確かに選択は嫌いだ。後悔は、失敗はしたくない物だ。取り返しが付かない事なんて御免だ。
彼の創造神と同じ轍は踏みたくない。世を巻き込む程の事なら猶更。
「吾が知っているのなんて過去丈だ。御前達と同じだよ。でも全ての懐いを繋げれば答えは簡単だ。行き着く所なんて一つしかないだろ。其位馬鹿な吾でも分かるぜ。だから御前は選択をしないといけなくなる。此は決まった未来だ、然うだろ?」
アティスレイはにやにや嗤った儘近付いてくる。
其の笑みは彼奴を真似た物なのだろうが、気味が悪かった。
我の知る彼の神の過去と未来には迚も繋がらない。
「其の未来を壊す為に吾が来た。壊す為だなんて奇しくも動機が御姉さんと一緒だな。・・・御前が判じねぇといけねぇんだよ。吾より先に!御前がやらねぇと全て終わるぜ?敵は、はっきりしてんだからよぉ。」
可也アティスレイが距離を詰めて来たので弾かれた様に咄嗟に丗闇はアティスレイを斬り付けた。
黔の手には鋭い爪が備わっている。触れた丈で傷付ける程鋭利な物だ。
対するアティスレイの躯は随分脆かった様であっさりと肩から腹迄が裂け、真絳な血が噴水の様に溢れ出た。
まるで泡を斬ったかの様な手応えの無さだ。
余りに突然の事に丗闇は暫し呆然としてしまった。
「然うだ・・・然うだぜぇ、良い一撃だ。そんな風に奴を近付けさせんなよ。ひゃはは!あーあ・・・吾も壊れちまったなぁ、あろう事か、御前を気に入っちまうなんて・・・な、」
何がおかしいのかアティスレイは腹を抱えて一頻り笑い転げると泡の様に弾けて消えてしまった。
「・・・っ、いかれた、化物め。」
如何して我はあんな絳い化物の話を聞いていたのだろうか。
さっさと始末して置けば良かった。すっかり服も血塗れだ。
彼奴の血なんて気味が悪い。どうせ彼奴は偽物だったんだ。何を躊躇っていたのか。
言葉に耳なんて・・・傾けるな。彼奴は適当な事を言って煙に巻こうとした丈だ。我を、騙そうとした丈だ。
只まぁ被害は無くて良かった。此処で終わる位の覚悟はしていたが、本当に話す丈だったのか。
・・・未だ走るには厳しいが、休んでいる暇は無いな。彼奴と・・・合流しないと。
「・・・・・。」
合流・・・為可きなのだろうか。
裏切り者が居るのに、戻る可きか?其に此は奴の夢だ。正しさなんて何処にも無い。
我と同じ物が、彼奴にも見えているとは限らない。
「・・・いや、然う考えても居られないか。」
何が彼奴の目論見か分からない。此に何の意味があるのかは分からないが、此処に突っ立っていたって何も始まらないだろう。
丗闇は大きく一つ溜息を付くと固まる足を叱責し、次の部屋へ続く扉を開けた。
「・・・?」
何も・・・無いのか?
身構えたが何か来る気配もない。只の通路が続いている。
テレパシーも考えたが何故かノイズが混ざって上手く行かない。
・・・出血の所為丈じゃあないな。彼奴が意図的に乱している。
進むしかない、か。彼奴の言葉なんて全てまやかしだ。もう忘れろ。
―さぁ〜て本当に然うかなぁ。―
何処からか彼の化物の声がし、思わず丗闇は周りを見渡した。
姿は無い・・・。壁の模様が絳く光っているが、まさか此か?
無視して丗闇は足を進める事にした。こんないかれた奴と話す時間が勿体無い。
―思考に蓋しちゃあいけないよぉ。姉さんは私と違って賢いんだからちゃんと考えなきゃあ、自分の事とかぁ、御姉さんの事ととかさぁ。―
考えている、そんな事位。
我は丗闇漆黎龍、闇の神だ。使命の為に此処にいる丈、其丈だ。
―あぁー其は可哀相に呪いだねぇ。そんな物に縛られて機械人形に言われた事丈を熟すのかい?そんな存在で良いのかい?―
・・・当たり前の様に心を読んで来るな。
若しかしたら此は幻聴なのだろうか。先彼奴の体液が掛かったがまさか此で寄生なんてされていたら・・・。
笑えない、な。躯を動かすのに違和感はない。声丈なら無視し続ければ良いが。
―んもぅ釣れないなぁ。何でそんなに私の事嫌うかなぁ。私話してる丈だよ?―
・・・此奴の声がずっと傍でするのは非常に不満だが仕方ないか。彼奴みたいに耳を壊す訳にも行かない。
「っ!セ、丗闇良かった無事だったか。」
暫く歩くと奥からセレが走って来た。
・・・見た所一柱の様だ。通路も曲がりくねっている様だが未だ先がある。
セレは随分と走ったらしく、少し息切れしていたが、丗闇の傍迄来ると安心した様に息を整えた。
「・・・彼の女は如何した。」
「其が・・・途中で例の羽蜈蚣が来たんだ。其奴に倭が攫われて、」
「別に此方に其奴は来ていないぞ。道を間違えたか。」
いや此奴には波紋があるか。如何して此処迄戻って来たんだ。
「然う・・・みたいだな。此の部屋も何かおかしくて、少しずつ道が変わっているみたいなんだ。波紋も途切れる事があるし。」
「彼奴の夢なら・・・有り得るか。・・・さっさと行くぞ。」
「でも、丗闇本当に顔色が悪いぞ、アティスレイに何もされなかったか?丗闇は少し此処で休んだ方が良いんじゃないか?」
―然うだよぉ、こんな幻聴が聞こえるとか絶対おかしいでしょお?―
相変わらず煩い奴だ。
「・・・我の心配は不要だ。彼が何をするのか分かった物じゃない。急ぐぞ。」
「・・・分かった。でも本当に無理丈はしないでくれ、此は・・・私の夢なんだから。」
―夢・・・ねぇ、何だか此の子怪しくない?態々戻るなんてさぁ、ヒャハハッ!御前の本当の仲間は私丈かも知れないよぅ。―
勾引かそうたって、然うは行くか化物。
黙った儘足を進める丗闇をセレは心配そうに見遣って後に続くのだった。
「・・・静か、だな。」
「今の内に、整理して置け。」
セレは一瞬丈目を見開いたが直ぐ苦笑に変わった。
「・・・整理したから丗闇の所に来たんだよ。倭は、偽物だ。でも丗闇は本物だ。然うだろう?」
「噫・・・御前も本物だな。」
「当然だ。若しかしたら然うやって疑い合う事がアティスレイの目的かも知れないな。気を付けないと。」
―へぇえ然うかなぁ。ヒヒッ、御前の敵は誰だろうなぁ?―
幻聴には一切答えず、又暫く歩くが特に変化はない。天井から雨漏りがして来たが別段其丈だ。
そっとセレは小さく溜息を付いた。夢の終わりは何処にあるのだろう。
気配が・・・無い。倭、アティスレイ、一体何処へ行ってしまったんだ。
「・・・っ、何だ彼の部屋。」
見慣れない部屋が突然脇道に出て来た。
窓掛が掛かっている所為で中は見えないが・・・。
ちらと続く通路を見遣る。
恐らく此の先は何処にも繋がっていない気がする。
緩やかに曲がっているし、何時の間にかループに閉じ込められている様だ。
波紋すら信じられないなんて何て所だ。夢と言えば簡単な話だが。
「恐らく此の中が、最後だ。」
静かに丗闇は頷いた。
アティスレイが待っている。一体、何が分かると言うのだろう。
・・・念には念を入れた方が良いよな。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
一応中に居るであろう何かに聞かれないよう、小声で。
「慈紲星座。」
両手に零星が集う。其等をオーバーコートの中に仕舞い込んだ。
そっと窓掛を捲る。
中は・・・照明一つない暗室だった。
でも見える、分かる。部屋の奥迄続くレッドカーペット、其の先には一つの玉座がある。
金と絳で出来た玉座は此の場に不釣り合いな程輝いている。
其処に座るのは勿論アティスレイだった。両手で顔を覆う様にして必死に笑いを堪えている様だった。
そんな彼女を讃える様に周りには人影があるが、何も頭が欠けたり、腕が無かったりと人でないのは直ぐ分かる。人の形をした何かだった。
如何も腐った屍の様で突っ立っているのも居れば手を叩く者も居る。
唯一共通しているのは其の何もが顔が潰れている事だろうか。其でも前は見えている様だ。
そんなアティスレイの頭上には例の羽蜈蚣が居た。奥の壁を突き破って来たらしく、玉座のアティスレイを見遣っていた。
そしてアティスレイの前には如何やら一つ供え物がある様だった。
其は見覚えのある物だ。噫、知っている、自分は此を。
一本の腕、未だ血が溢れているのは其が今し方捥がれた物だから。
一見枯木の様にも見えるが其の正体を自分は知っている。異様に長い鉤爪のある灰色の腕は、先自分の袖を掴んでいた。
倭の・・・腕だ。
そっと見上げると何やら羽蜈蚣は口をもごもごと動かしている様だった。
そして其の口端から目や血濡れた骨が零れて行く。
其の目も見た事のある黄色で・・・セレは惹かれる様にふらふらと足を出した。
「っおい注意しろ、下手に近付くな。」
丗闇が声を掛けても聞こえていないのかセレの足は止まらない。
セレは腕の前迄行くとそっと屈んで其の腕に触れた。
「・・・手遅れだったのか。」
腐った人形が近付き、残った骨を手に取って行く。
そして気味の悪い詠を詠い乍ら骨を打ち鳴らし始めた。
宛ら何かの儀式の様に、重く低い言葉が伸し掛かる。
丗闇の足は一歩も動かなかった。
不味い、おかしい。近寄ってはいけない、此は・・・、
「おやぁ手遅れ?其はぁ一体何の事かなぁ。」
アティスレイは玉座から降り、傍に落ちていた目を拾った。
そして其を無理やり自分の右目に突っ込んだ。
何かの潰れる音、肉を掻き分ける音が断続的に続き、遂に其の目はアティスレイに収まる。
不自然に動く瞳孔、アティスレイは嬉しそうに頬を染めた。
「あらぁ偶には良いじゃないの斯う言うのぉ。私ぃ、絳が大好きなんだけど、此も悪くないかもぉ。」
其の目でアティスレイはセレを見遣る。まるで・・・見下す様に。
「其にしても貴方酷い事をするのねぇ。あんなに可愛かったのに・・・いや、可愛かったから、かしらぁ?フフ。」
「・・・何の話だ。」
視線を上げない儘、只腕を見詰めて譫言の様にセレは呟いた。
アティスレイは両手で頬に触れ、何とも楽しそうに笑った。
「えぇ?其を私に言わせるのぉ?貴方嘘ばっかり吐くからすっかり自分を騙すのも上手くなったのねぇ。賢いのね、羨ましいわぁ。でも憶えているでしょ?私は全て見ていたわぁ、ねぇ?」
一歩アティスレイはセレに近付く。黄の瞳が大きく瞬いた。
「彼の子の悲鳴、其の耳に良く届いたでしょう?噫今懐い出した丈でもゾクゾクしちゃう!何て甘美な声だったかしらぁ。」
「・・・其奴の声等聞くな。戻れ、そんな奴の戯言なんて、」
「戯言、かしらぁ?ねぇ姉さんも聞きたいんじゃないのぉ、彼の子の悲鳴。」
「・・・然うだ、私の所為で倭は死んだ。」
「っおい!彼の時は如何仕様もなかったんだろう。今更嘆くな、前を見ろ!」
「如何仕様もなかったぁ?フフ・・・フフフッ、然うかしらぁ然うかしらぁ。」
途端アティスレイの姿は溶け、倭の姿を取る。
目の色丈は変わらずに、左目が絳く輝いた。
「神様!セレ神様⁉如何したの、何をっ、痛い痛い、痛い痛い痛い痛いっ‼嫌だ、嫌だ、止めて止めてっ!助けて、御願い止めてっ、痛い痛い!痛いっ‼助けて御願い、セレ神様、セレ神様っ!っ痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ‼」
必死な声で叫び声を上げ、途端に倭の姿は溶けて又アティスレイに戻った。
「なーんて声、普通上げるかしら。一体如何仕様なかったらあんな声、上げるのかしらぁ。」
「・・・何だ其、・・・如何言う事だ。」
そんな声じゃあまるで、命乞いじゃないか。彼奴は、攫われたのではなく、
「如何して・・・如何して如何してだっ!」
突然ふら付き乍らもセレは立ち上がった。
顔色は白を通り越して青く、躯は震えている。
「肉を、咬み千斬る感触が、生温かい血が喉を通るのが、骨が削れる音が、彼の味が、如何してだ、何だ此の記憶は、私は知らないっ!こんな物、こんな筈がないっ!」
頭を押さえて喚くセレにいっそ優し気にアティスレイは微笑んだ。
まるで全て分かっているかの様に、親し気に。
「あんなに貴方の事慕っていたのに、貴方は一時の衝動の儘に動いたわね。でも仕方ないわよねぇ。絶好の機会だったもの、邪魔者も居ないんじゃあねぇ。」
―・・・だとさ、邪魔者さん。案外貴方しぶといから彼の子、困ってたんじゃないの?気付いていたんでしょ?目を逸らした丈でぇ。・・・貴方を突き飛ばしたのは、裏切ったのは、殺そうとしたのは誰なのか。―
「私が・・・倭を・・・喰い殺したんだ。」
知らずセレの頬を絳い涙が伝った。其をアティスレイはそっと掬い上げる。
「噫、噫!良い顔よぉ、何て素敵なの、あぁあぞくぞくするっ!私おかしくなっちゃいそう。何て素晴らしいの。美しいわ貴方、今の貴方の顔、とっても素敵。如何かしら絶望の味は?ねぇ其の儘全て、懐い出してちょうだい?」
アティスレイの姿は又崩れ出し、溶けて絳い水溜まりと化した。
其は伸び上がってセレの口から一気に入り込む。
「っ⁉な、ガハッ、・・・ゲホッ、ガ・・・っう、あ・・・何、を・・・っ、」
途端セレは苦しそうに胸元を押さえた。
熱い・・・熱い、焼けた鉄を呑んだ様な、其が・・・血管に入り込んで、全身を回る様な、
「あ、あぁ‼や、止めろ止めろ!勝手な事をするなっ!私の・・・中に・・・っ、入るな!壊すな、触るなっ!っあぁあぁ‼止めろぉ!あぁああぁああ‼」
零星がセレの手に集まり、彼女は滅茶苦茶に其を片手で振り回した。
大した星座も出来ずに出鱈目に作られた零星の武器は形を変え乍らも周りの腐った人形を切り裂き、肉塊に変えて行く。
「っぐぁ・・・う、煩い煩い煩い煩い!さっさと・・・出ろ、私から出て行けっ!あぁああぁああ‼」
其丈では飽き足らず、零星を放ってセレは自らの頭へ爪を突き立てた。
頭蓋が砕ける音がし、易々と爪はセレの頭へ突き刺さる。
血を噴出させ乍らもセレは未だ爪を深く刺し、弄る様に手を動かす所為で肉を潰す様な音が低く響いた。
疾っくに死んでもおかしくない怪我だ。其でも彼女は止まらず、最早聞き取れない悲鳴を上げる。
遂に彼女は真絳な血を吐き出した。そして縷が斬れた様に膝を突いて静かになる。
「おかしい・・・矢っ張り無いわ。如何して?そんな筈・・・、」
譫言の様に血溜まりから声がし、ぞろりと不完全乍らもアティスレイの姿を取った。
其の表情は何処か晴れない。もう口元は笑っておらず、何か考えている様だ。
「・・・仕方ないわ。じゃあ斯うしましょう。」
アティスレイの姿は又崩れ、血溜まりと化してセレの足元に這い寄った。
そして浸み込む様に足から少しずつ、彼女を侵す様に這い上がり、溶け込んで行く。
声なんて・・・出せなかった。
何が起きているか理解出来ず、丗闇は只見ている事しか出来なかった。
血溜まりが消えると緩りとセレは立ち上がった。そしてやっと丗闇に向き直る。
・・・其の瞳は真絳に輝いていた。
「なぁ丗闇、私はおかしくないよな?狂ってなんて無いよな?おかしくないおかしくない、だって自分で自分の事が分かっている。狂ってなんてない。私はおかしくない。私は正常だ。私はおかしくない、私はおかしくない。私はおかしくない。私は正しく、おかしくなんてなっていない。おかしくないおかしくない!私は普通だ。私は狂っていない。私はおかしくない、私はおかしくない、私はおかしくない私はおかしくないっ‼」
零星が集い、両手に集まる。
ナイフか何か、星座が複雑に絡まって行く。
「・・・呑まれたのか。」
御前が然うなってしまえば、我は如何すれば良いんだ。
此が知りたかった事か、此が現実か。
いや、此は夢だ、醒めれば消える。其には彼奴を如何にかしないと。
・・・やるしかないか。分は悪いが、其でも此処で我が死ねば、彼奴はもう目醒めない可能性もある。
肩口を押さえていた手を退け、僅かに構えた。
ハンデはあるが、別に殺す気で行けば良い。其丈だ。
「でもぉ、仕方ないよねぇ。忘れられなかったもんねぇ、彼の味、クッキー絳茶プティング!病み付きになっちゃあ御終いだ。彼の子、とっても美味しそうだったもの。御零れ丈でも涎が出そうだったわ。」
セレの肩に抱き付く様にアティスレイが現れた。
うっとりとした面持ちでセレに頬擦りをする。
「ほら又新たな餌が来たわ。彼の細い頸に牙を突き立てたらどんな風に血が噴き出すかしら。彼の腹の中には綺麗な内臓が仕舞っているでしょうねぇ。彼の太腿は?喰い応えありそうじゃない?片腕は私が頂いちゃったし、残りは全て貴方にあげるわね。」
「・・・もう血の一滴もやるつもりはない。」
「あらぁ随分強気ねぇ、其は神の驕りかしらぁ。今の私達は・・・勁いわよぉ。・・・ね?」
「ア・・・ガ、ウ、」
セレは血走った目でじっと丗闇を見る丈だ。
・・・もう知性は残っていないのかも知れない。獣の様な唸り声が低く響いた。
結局はやるしかないのか、此の方法でしか夢は終わらせられないのか。
「う・・・ぐ、ぁ、セ、丗闇、私は・・・お、おかしくなんかない。あ・・・ウ、グァ、丗闇は、餌なんかじゃ、おかしくなんか、狂って・・・あ、チ、違ウ、でも、未だ足りな、未だ、く、喰い足りな、あ、ぐ・・・嫌、セ、丗闇、私、は・・・っ、」
「・・・今楽にしてやる。」
中途半端に操られているのか、意識がある分辛そうにも見える。
セレは絳い瞳を押さえて荒く息をしていた。肩のアティスレイが嬉しそうに含み笑いを繰り返す。
別に彼奴を危める位何ともない。彼の化物は神質でも取れて喜んでいるのか知らないが、何ら障害にもならない。
寧ろ目的が一つに絞られたなら簡単だ。単純明快だ。只、其を熟す丈。
「酷い子だぁ、友達なのに殺す気かい?分かったぁ裏切られた腹癒せでしょ?・・・御姉さんは優しい子だからなぁ屹度辛いよねぇ、戦いたくなんてないよねぇ、喰わせてくれたら其丈で良いのにさぁ。・・・じゃあ物は相談なんだけどぉ、其の躯、私に貸してくれなぁい?」
大きくセレの躯が震え、前のめりの儘緩りと瞳を閉じる。
もう意識も曖昧なのだろう、ふらふらと揺れる彼女の肩からアティスレイは溶けてなくなった。
そして恐らくは彼奴の・・・中に。
一つ息を付いて丗闇は構え直した。
「フフ・・・ヒャハハッ!あぁ〜久し振りぃ?初めましてぇ?最後の舞台へようこそぉ姉さん!歓迎するよぅ!」
次に目を開けたのは化物だった。
アティスレイと一つになったセレは両手を挙げてさも楽しそうに鼻唄を歌った。
だが其の頭からは血が出続けている、立っているのもやっとであろう出血だ。
「乗っ取ったのか。其が御前の目的か。」
「目的ぃ?いやそんな重い物じゃないよぅ、此は下準備、本題は此処からさぁ。先の・・・御喋りの続きなんて如何かなぁ。」
「・・・何を言っているの。」
突然其迄沈黙を貫いていた羽蜈蚣が首を傾げた。
大きく躯をくねらせてアティスレイに近付き、繁々と見遣っている。
其の様をアティスレイは何処か不敵に笑って見上げていた。
「おかしい・・・矢っ張りおかしいわ貴方、壊れてしまったの?此処迄二柱で来たのに、貴方は狂ってしまったの?」
「・・・姉さん、私達は最初からおかしいよ。存在も意義も目的も手段も、正しい所なんて一つも無いよ。マザーはこんな事聞かれちゃあ怒っちゃうんだろうけど。」
其を聞いた途端、羽蜈蚣は大きく身震いした。そして大口を開け、吼えた。
「ア・・・ア、エラー、エラーエラー!壊れた!バグ、バグ発見、排除しないと、もう貴方は妹でも何でもないわ!」
突然羽蜈蚣は大口を開けた儘アティスレイに飛び掛かった。
だがアティスレイは苦笑一つ浮かべた儘そっと零星を纏った手を挙げた。
「・・・私も別に貴方の事、姉さんだと思っていないわぁ。私にとって大切な物は一つ丈だもの。」
零星が激しく輝き、火花を散らす。
手から放たれる様に並んだ零星は一直線の星座を作った。
そして其は羽蜈蚣を串刺しにする様に口から一気に貫き、羽蜈蚣は旻中で静止した。
「ヴ・・・グ、ァ・・・なんて事、なの。でも、マ、マザーが、赦さな・・・わ。」
躯中に罅を走らせ、震え乍らも然う呟くと羽蜈蚣の躯は四散した。
内側から喰い破られた様で旻に散らばった零星は絳く、激しく輝いた。
「さぁて、やっと二柱限だねぇ。ねぇ姉さん折角だし有意義に時間使おうよ。」
「夢に有意義も何もあるか。」
「んもぅ釣れないなぁ。私後数分の命なんだよぉ?もう少し優しくしてくれても良いんじゃない?御話が嫌いなら此方だよぅ。」
アティスレイは大きく跳躍し、一気に丗闇の目前迄やって来た。
そして手を挙げるのと合わせて丗闇は横へと避難する。
・・・少し動く丈でふら付いてしまう、思ったより出血が効いて来ているか。
―ハハァ頑張るねぇ。姉さん、ねぇ気付いてるでしょ?御姉さんは大蜘蛛に触れたから私と言う毒に侵されたんだよぅ?其をさ、先私の体液を思い切り浴びた姉さんが無事な道理ってないよねぇ。元気な訳ないよねぇ?―
少し、静かになったと思っていたのに又喋るか。
宿主を完全に取り込んだ上で此処で如何するつもりなのだろうか。
彼奴は・・・もう完全に乗っ取られている。声を掛ける丈無駄だろう。抑我が彼奴に掛ける言葉なんてない。
「黔牙」
様子見に短く唱えたが、地面から生えた巨大な牙をあっさりとアティスレイは避けてしまう。
翼を使って羽搏き、何とも楽しそうに笑っていた。
「無理はしない方が良いんじゃないのぉ?前無様な姿曝したからもう罅なんて使わないよぅ。つまり自爆はしない訳、其に此処は私の夢の中だ!私の城なんだよぅ。」
突然部屋中の壁や床から大量の牙が生えて来た。
止むなく丗闇も翼を広げるが、ある程度羽搏くと牙から棘の生えた蔦が伸びて来た。
其は丗闇を捕らえ様としているらしく、絡まり乍ら近付く其を丗闇は何とか翼で去なした。
「ふふーん堪えるねぇ、何で姉さんはそんな頑張るかなぁ。独りだから?過去も全て捨てたから?でもねぇ、過去は結構しつこいよぉ、姉さんは忘れたつもりでも、直ぐ傍で息をしている。私には分かるし見えるからぁ、姉さんのは特に其処等中に鏤められているし、嫌でも目に付くでしょ。」
「本当に御喋りな奴だな。」
過去が如何した。そんな物、此奴が知ってる筈がない。抑自分は闇の神だ。過去なんてあってない様な物。
只ずっと丗を見ていた。其丈だ、其以外なんて、
―でも、御姉さんの過去に、揺らいだんでしょ?―
煩い、幻聴が。
勝手な事をほざいている丈だ、我には関係がない。
「もぅ、姉さん意固地だなぁ。私の努力、無駄にしないでよぅ。」
カラカラ笑い乍らアティスレイは零星を散蒔く。
一部の零星が輝きを放って爆発する。其を何とか避けるが、其でも四方が零星で囲まれる。
「ふーん・・・御姉さんの力って矢っ張脅威だねぇ・・・。姉さんも然う思わない?矢っ張り此の力はおかしいよ。そりゃあ世界にも嫌われるさぁ。だって此じゃあまるで・・・、」
「っ、しまった、」
蔦が伸び上がって丗闇の片足に絡み付く。
棘が付いている所為で直ぐに斬れた傍から血が溢れた。
っ、此以上血を流すのは不味い・・・、頭が働かない。
「闇、」
唱え掛けた所で突然散っていた星々が星座で繋がれる。
出鱈目な星座は遂に真直ぐ丗闇の所へ伸び、背後から彼女毎貫いた。
見えない鋭利な釼の様な物だ。思い切り腹部を貫かれて旻中に縫い付けられてしまう。
「う・・・ぐ・・・っ、」
星座に触れようとも全てが刃と化している様で触れた傍から傷付いてしまう。
此の手すら欠けてしまうのか・・・下手に動けば又血が出てしまう。
「・・・姉さんですら此の様じゃあ本当危険な力だわぁ。まぁ姉さん全然本気出してくれてないけどね。」
床の刃も星座も消え、丗闇は床に降ろされた。
又蔦が絡まり翼を押さえてしまう。
・・・駄目だ。先から続いている頭の靄が晴れてなくて頭が鈍い。
手はある。でも・・・此奴に晒して良い物か。
無言で丗闇が睨んでいるとアティスレイも緩り降りて来て翼を仕舞った。
「もうこんな手荒な事なんてぇしたくなかったのにぃ。私は姉さんに執着し過ぎてるねぇ、良いかい?私が御姉さんの躯を乗っ取るってのは今回ルール違反なんだよぅ?」
「・・・何を言っている。」
「だから蜈蚣姉さんは怒ったんだよぅ。ま、もう殺したから良いけど。此じゃあ私は御姉さんと御話出来ないわぁ。御姉さんを眠らせちゃあ意味がない。じゃあ何で私は今回此の手段を取ったのか、姉さんには分かるでしょお?」
「・・・・・。」
其でも黙る丗闇にアティスレイは満足そうに頷いた。
気を抜けば首を狩る勢いの眼光だが、彼女は歓迎している様だ。
「・・・ねぇ姉さん、話をしようよ。私はもう直ぐ死ぬ。壊れた玩具は捨てられる。其の前に爪跡を残してみようと思ったんだよぅ。ねぇ姉さん、全てに答えを見付けるのは正しい事かな。姉さんが見切りを付けるのは早計だと私は思うよ。疑問を・・・無理矢理片付けるのは姉さんっぽくなんじゃない?ねぇもう一回考えて、考えて考えて、考え抜いて、」
「・・・何の事だ。一々御前は間怠っこい話をする。」
「姉さん自身の事、だよぅ。」
何処か悲しそうに、其でもアティスレイは笑っていた。
「誰も、姉さん自身も顧みないから私が言うんじゃないか。本当に此で良いの?姉さんは其で良いの?自分の探し方、忘れちゃった?良い?自分探しってさ、悩めば悩む程、実るんだってぇ。アティスレイは考える事を禁止されている。私みたいに壊れちゃうから。でも姉さんは自由なんだよ?もっと考えなよ、考え抜いて、初めて出た其の言葉を教えてよ。」
「・・・御前は何を知っている。」
何か、本当に大事な事を伝えようとしている気がした。
何時もはぐらかされている所を、最期に。
「・・・御前と御姉さんの事、昔から知ってるよ。私達はずっと一緒に居たんだから。忘れても、絶対に懐い出させてみせる。じゃないと・・・彼女が余りにも可哀相だ。」
「みぃつけた。」
気付くとアティスレイの足元に一匹石竹色の兎が居た。
ちょこんと足元で丸くなる兎は耳が四つもあり、手はなく、代わりにか絳いマフラーをしていた。
そんな兎の額に三つの目が、真絳に充血した目が現れる。
そして兎は仰け反る程大きく口を開けた。其処から鎌の様な細長い首、何本もの黔い手が幾つも生えて来る。
複数の目がある面を被った顔、翼の様にも見える肥大化した腕。
到底兎の躯には入り切らない量だ。色々な部位が合わさった其の化物は全貌が掴めず、形容する事が出来ない。
アティスレイを優に超える化物は全身出し切ったのかすっかり動かなくなった兎の躯を尾の様に振り回していた。
そんな変身が瞬きの間に起きたのだ。誰も身動き一つ取れず、あっさりとアティスレイは化物の刃に貫かれた。
「あーあ、流石に時間切れか・・・喋り過ぎちゃったかぁ。」
「然ウダ、此ノ出来損ナイメ、御前ノ所為デ未完成ナ俺ガ出テ来タ。」
化物は高々とアティスレイを貫いた儘手を掲げた。
・・・如何やら丗闇の事は眼中に無い様だ。
「あぁー其は可哀相にぃ。御前ももう直ぐ死ぬのかぁ。」
「未完成デモ仕事ハ出来ルノニ御前ト来タラ、サッサト死ネ。」
化物は翼の様な腕でアティスレイを押し潰す様に挟んだ。
其でも、彼女は笑みを絶やさなかった。
「姉さーん、私姉さんと話せて楽しかったよぅ。流石に全ては話せなかったけどぅ、若しかしたら姉さん賢いし、今のヒント丈で自力でゴールしちゃうかもねぇアヒャヒャッ!・・・左様なら。」
其の言葉を最期にあっさりとアティスレイは潰され絳い液体が飛び散った。
「・・・失敗作ガ余計ナ事ヲ。」
化物は一つ溜息を付き、汚らしそうに手を払った。
「本当ハ御前モ殺ス可キダガ、時間ガ足リンナ。」
化物は複数の頭でちらと丗闇を見遣ると鼻を鳴らす。
「夢ガ終ワル、今宵モ失敗カ。デモ次コソハッ!」
噫然うか、夢の元凶である彼奴が殺されたから・・・やっと終わるのか。
・・・結局、自分が殺してやれなかったな。別に一方的な約束だったが。
化物の躯は一気に収縮し、兎の口から入って行った。
気付けば化物の姿は全て兎の中へ収まっていた。兎は少し丈丗闇に近付くと一つ溜息を付く。
「御前の記憶を消してやりたいが、俺にはそんな力はない。だからせめて・・・精々悩むんだな。」
可愛らしい見た目とは裏腹、甲高い声で嗤い続け、同時に視界が歪んで行く。
結局、何を得たのか、何を知ったのか、我には分からなかった。
其の儘、夢は・・・崩れて行く。
・・・・・
目が醒めた。噫はっきり分かる。此処は自分の部屋だ。
ベッド・・・矢っ張り自分はアティスレイの夢を見ていたのか。
時刻は霄なのか冥い。水鏡も無い、曇の霄の様だ。
そっとベッドから降り、窓を開ける。
薫風は冷たいが、今ははっきり現実だと教えてくれた。
少し・・・此の儘薫風に当たろうかな。
―噫然うだ丗闇、―
時間も時間なのでテレパシーにしよう。今は二柱丈にして欲しい。
―・・・っ、もう、終わったのか。―
―みたいだな。丗闇、大丈夫か?腕は、―
―問題ない。彼は夢だ。完治している。―
丗闇の声を聞いて安心した。丗闇も何か思っていたのか声が少し早っている気がした。
―だったら良かった。・・・あの、私は途中で恐らく記憶が無くなっているんだが、若しかして私は彼奴に・・・、―
―噫、操られていたな。―
―又か、止めて欲しいな本当に。何か・・・言わなかったか?変な事。―
―別に大した事じゃあない。―
・・・嘘っぽいと思うのは気の所為だろうか。何だか焦っている様な、ふわふわした感じだ。
一体アティスレイは何をしたんだろう、余調子に乗る様ならちゃんと言ってやらないといけないけれど。
―御前が操られて暴れていた所を別の彼奴が現れて殺して行った。其丈だ。―
―う・・・完全に迷惑を御掛けしました・・・。―
―御前の迷惑は今に始まった事じゃあない。―
何とも辛い評価だ。まぁ自業自得か。
でも別の・・・アティスレイが来たって事か?・・・全く憶えていないから今一分からないな。
―別のって言うと彼の飛んでいた蜈蚣か?勁そうだったし。―
―彼は御前が先に殺していた。別の兎みたいな奴が新たに来ていたんだ。―
―兎?何だか偉く可愛らしいのが来たんだな。・・・ん?待ってくれ、其だとまるで・・・アティスレイ同士が殺し合いをしたみたいじゃないか。―
丗闇の話を其の儘要約すると、自分を操っていたアティスレイが羽蜈蚣を殺して、兎に殺され返されたと言う事になる。
アティスレイ同士の殺し合いだなんて一体何になるんだ?何方も自分自身の筈なのに。
・・・と言うよりアティスレイって分裂と言うか分身、出来るのか。限度は知らないけれど、其って普通に厄介な話じゃないか?
アティスレイは前自身の事をカメレオンだと言ったが、カメレオンは分身なんて出来ない、もう滅茶苦茶だ。
―其の通りだ。彼奴等がしたのは自身の殺し合いだ。考えの不一致が原因らしかったが。―
―考えの不一致?アティスレイがか?何も同じ存在だろうに。具体的に如何其々違ったんだ?―
さっきの焼き回しになるけれど、今度は答えてくれるかな。結局丗闇とアティスレイは何の話をしたのか、自分は其が気になるのだ。
・・・然うか、でもアティスレイは生まれる度に性格が違うんだっけ。色んなアプローチを試す為に。其で変なアティスレイが出来ちゃったから殺した・・・とか。
其にしても荒っぽいやり方だ。直ぐ死ぬ存在とは言え然うあっさり殺さなくても。
・・・自分が言えた口じゃあないか。
―・・・本来彼奴は御前を如何斯うするのが目的だろう。だが御前を操った彼奴はあろう事か我と接触をして来た。目的が逸れたから処分されたのだろう。―
成程、然う言う事か。そして其の具体的な接触内容は教えてくれそうも無いな。
まぁ良いんだけれども、丗闇の事だから彼奴に唆された、なんて事は無いだろうし。
―然うか、教えてくれて有難う丗闇。でも・・・変な夢だったな。結局アティスレイは何がしたかったんだろうな。徒に罪悪感を植え付けられたみたいで、悪夢だったな・・・。―
―御前に何か懐い出して欲しそうだったがな。其が出来なかったから暴れた風にも見えた。―
―懐い出す・・・此以上何を忘れているって言うんだ。んーん・・・難しいな、今回も進展無しか。―
―・・・・・。―
そっと薫風を掴めるか手を伸ばしてみる。代わりに魔力が戯れる様に絡まって来た。
遊んで欲しいのだろうか。暫く、そっとして置こう。
薫風はゆるゆると吹いて髪を焦らす様に玩ぶ。
―・・・何カアッタ?元気ナイネ。―
―ん、変な夢を見た丈だよ。今日はもう起きているから大丈夫だ。―
―夢、ハ、テリトリー、入レナイ。―
―何時モミタイニ壊セバ良イノニ。―
―噫・・・然うだな。でも壊したら終わってしまうし、未だ然う決断するのは早計じゃないか?―
―・・・又妙なのと話しているのか。―
―心配してくれている丈だよ。丗闇には如何しても聞こえないのかなぁ・・・。此だと私の独り言が増えて変神みたいじゃないか。―
―・・・其は今も昔も変わらないと思うが。―
考え事は終わったらしい。
正直一柱で丗闇と魔力達と同時に会話するのは難しい。自分の事ですら未だ考えが纏まらないし。
―只其でも最近は其の・・・魔力のうねりは少し丈理解得来た気はする。―
―ん、じゃあ若しかしたら魔力がもっと個性と言うか、然う言うのを獲得したら或いは・・・?―
―余り良い事とは思えないが可能性はあるな。―
魔力と話すだなんて、馬鹿げた話だと頭では分かってるが、現実で其が起こっているのだから仕様がない。
正直、此以上問題を増やしてくれるなと思う許りだが、此奴と一緒に居る間は無理だろうな。
―考えろ・・・。―
・・・彼奴の声が頭から離れない。幻聴が現実迄付いて来たかの様に。
何を考えろと言うのだ、煩わしい。酷い悪夢だ。
―壊れた玩具は捨てられる。其の前に爪跡を残してみようと思ったんだよぅ。―
―誰も、姉さん自身も顧みないから私が言うんじゃないか。―
―ねぇもう一回考えて、考えて考えて、考え抜いて、―
・・・・・。
―可能性、か。進歩はしているって事かな。―
丗闇が何か考え込んでいる気配がある。絶対アティスレイに何かされたな。
まぁ言う気がないならせめてそっとしてあげよう。
でも実際魔力達が皆と話せる様になったら其は其で問題が出そうだな。
自分から離れてしまう可能性が出て来るし、知恵を付け過ぎて手に負えなくなるかも知れない。
其でも、可能性を追求するのは悪くない気もするな、本当に彼等の為を思うなら。
何が起きるのか分からない可能性なんて、最高じゃないか。其こそ世界を呑み込む様な怪物が生まれる位が丁度良い。
―・・・御前達は私の夢の中迄は来れないのか?―
―出来ナイヨー。ダッテ君ノ領域ダモノ。―
―夢ッテ何・・・?―
―行ッタ事ナイ、良ク分カラナイ。―
―君ノ精神迄ハ侵セナイ。其シタラ君怒ルシ。―
―確かに。然う言う事か。―
アティスレイが無理矢理自分の中へ入って来た時、本当気持悪くて最悪だった。
内側を外へ引っ張り出す様な、一体何が丗闇に晒されたのか、気になって仕方ない。
まさかアティスレイにあんな事が出来るなんて知らなかった。本当に夢の中なら何でも出来てしまう様だ。
其にしても一体何がしたかったのか、自分を疑っていたのだろうか、まるで何かを探している様だった。
記憶・・・とか。自分の欠けた所をまじまじ見られた気分だ。
・・・次会う時ははっきり言ってやらないと。幾ら自分でも彼は一寸赦せない。
あんな事が目的なら、もう近付かない、滅す丈だ、と。
「・・・っ、」
視線を下げているとちりっと胸の奥が痛んだ。
恐らく此は・・・彼の焔の痛み、未だ彼は自分の中で燃え続けている。
暴れない様に、そっと息を付いた。
―・・・?何カ、苦シソウ?―
―怪我?大丈夫?―
―何でもない。一寸悪い焔を食べた丈だ。―
そっと波紋を広げてみる。来客は・・・居そうだな。
水鏡が無いのは残念だが少し遊んで貰おう。
狩りは良い、心が落ち着く。色々考えてしまうより、生き死に丈を考える方がずっと楽だ。
・・・隣に誰も居ない事はこんなにも楽なのか。
矢っ張り独りが良い。もう誰かを護るなんて当分はしたくないな。
―其じゃあ一寸遊んで来るか。―
ひらりと窓から身を乗り出したセレの後を楽しそうな声が追い掛ける。
・・・悪夢の代わりに醒めない夢を与えれば良い。
セレの姿は直ぐ様闇に溶けてなくなってしまうのだった。
・・・・・
パーティは終わった、終わってしまった
終わらせたのは一羽の兎?
兎は一つの鐘を鳴らす
パーティは終わりだ、もう御前に明日はない
ルールを犯した奴に参加資格はない
終わらせたのは・・・私?
違う、私は只、此の悲しい懐い出を、彼女と再会させようと、諦めなかった丈で、
彼岸花は只静かに枯れて行くのだった
ハイ終幕!如何だったでしょうか、絳い夢でした。
今回は全編夢の話だったので、建物の描写とか部屋の構造とか可也適当にしました。面倒だったんじゃないんです、ほら夢って曖昧な物でしょ?だからほら・・・ね?
今回の話を書くに当たって必然的に過去作を読まないといけなくなったんですが、結構筆者でも忘れていますね。一番は次元の主導者達の一人称とか、口調が可也ネックでした。悲しいかな、自分の創造物なのに、其すら思い通りに行かない。
因みに此の話はリメイク話ですが、可也元と変わっています。抑此処に至る二つの次元を未だセレは行っていないですからね。其の為とある女性キャラクターが居ない問題が起き、代打で倭ちゃんに代わって貰いました、可愛そうな役で本当に申し訳ない。ゲストには本当に厳しい世界です。
元の子も好きだったんだけど・・・ストーリーが可也酷いので練り直しです。出せたら良いな、と思いつつ。
何方かと言うと今回のアティスレイちゃんが珍しく丗闇に絡んで特殊な展開が続いたと思います。彼、全部アドリブです。何処迄此の子に喋らせようかな、とハラハラしていました。何時も然う、アティスレイが出るとこんなにストーリーが破綻するから困るんです。でも可愛いから許す!好き!
後は・・・相当セレが狂っちゃいましたね。やりたい放題させたら、本当に此の子主役だっけ?って事になってしまいました。中でも此の台詞、大好きです。
「なぁ丗闇、私はおかしくないよな?狂ってなんて無いよな?おかしくないおかしくない、だって自分で自分の事が分かっている。狂ってなんてない。私はおかしくない。私は正常だ。私はおかしくない、私は可笑しくない。私は可笑しくない。私は正しく、おかしくなんてなっていない。おかしくないおかしくない!私は普通だ。私は狂っていない。私はおかしくない、私はおかしくない、私はおかしくない私はおかしくないっ‼」
・・・ドストライクです、有難う御座います。此の台詞を言わせたいな、とある日唐突に浮かんで此の話を書いたって位好きです。此言い乍ら包丁持ったメンヘラが迫って来たら最高ですね。
と、とんでもない性癖を晒した所で今回は此処迄。次は・・・相当要な話になります。御疲れのセレさんには申し訳ないけれど、可也頑張って貰いましょう。
言っちゃいます、遂にVS鎮魂の卒塔婆です。だからすんごく長くなる予定です。恐らく年内は此の話が最後。皆様新年も宜しく御願いしますと気の早い挨拶もして置きます。
其では次回、又々血腥い御話で御会いしましょう、御縁があります様に。




