29次元 独の沼と数多の絳眼絡める次元
短編良いね!と言う事で今日はです。何だかサクサクっと書けた今回、可也挿絵が多目です。挿絵が多い時は決まって、動物だとかの人間以外の生き物が多い時です。そんな今回は日本昔話みたいなストーリーになりました。つい最近家族と如何して蛇や狼って何時も悪者にされるんだろうね、と言う話が上りました。神様クラスのだったら良い奴として出るけれど、大抵魔女の手下だとか、人を唆してみたりしています。道を尋ねたら親切に教えてくれる奴も屹度いると思うんだけどな、と思わずにはいられませんでした。優しい蛇の話ってもっと増えても良いと思う。
“人間殺せばハッピーになる話は優しい話じゃあないからね。”何故かその時そんな事を言われたんですが、全く思い当たる節がありませんな・・・。
今回はそんな蛇の話、優しいと思うか、人間臭いと思うか、自分勝手と思うかは貴方次第です。
紫根の重ねに何懐う
九つの願いに魂はあるのか
瀛海よりも深く、沼よりも冥く、地を腐らせる願いよ
何にも混ざらず流れぬ其に我は何を願うだろうか
自分でも覗けぬ其は本当に我が吐いた願いなのか
・・・・・
「又新しい所、来れた。」
「うーん、此の景色を見て喜べるなんて、何だか良いね、鏡君。」
鏡は表情の変化が乏しい乍らも両手を挙げて喜んでいる風ではあった。心做し浮いている気もする。
「然うですか?僕も知らない所に来れて楽しいですよ。まさか未だ僕が居る事が信じられない位ですから。」
「う、うーん何か其も其で・・・まぁでもじゃあ此からもっと楽しくなるって事だね。うん、其なら良いのかな。」
旻は曇っているが如何やら昼間ではある様だ。飃は枴を突くと大きく深呼吸した。
霄の彼は全て呑み込んだ上で次元龍屋の敷居を跨いだ訳だが、彼からすると何時の間にか次元も変わり、職に就き、仲間も出来てと可也目まぐるしい変化だった。
一応霄の出来事は知っているとは言え、あんな事になるとは彼は些とも予想だにしていなかったのだ。
彼の計画としてはセレ達と飃が闘い、自分諸共斃されるシナリオが出来上がっていたのだ。
其が如何転んでまさかこんな、有り触れた世界に帰って来るだなんて。
一応セレ達は店に帰ると晁になる迄待機し、彼にも一通り説明をした。
其の結果彼は二つ返事で店に入る事を了承したのだ。其の申し出自体彼としては喜ばしい事であったらしいのだ。
仕事ともなれば霄の彼が然うおいそれと人を危める事も無くなるだろうし、自分にも出来る事があればやってみたい。
ずっと鏡界に居た事もあって彼はもっと自分としての感覚や記憶を楽しみたい様だった。
其の為二柱の新神の先輩としてドレミとローズ、ハリーが付いて来たのだ。
―でも此処は早目に離れた方が良いと思うよ。底なし沼だと恐いし。―
然う、彼等が辿り着いた次元は沼地が広がっていた。
毒々しく黔く紫に揺らめく沼は何処か不気味で、時々沸く泡がより怪しさを引き立ててしまう。
草木も少なく荒れた土地が目立つのでドレミとしても余り良いスタートとは言えなかった。
ハリーも底なし沼と聞いてうっかり滑り落ちない様慎重に沼を避けた。
「其も然うですね。怪我をしてもいけませんし、先を急ぎましょうか。」
飃が優しく笑うのでついドレミも返してしまう。
一応セレ達から彼の特異体質の事は聞いている。まぁ霄の彼を見た事はないが、迚もセレを目の敵にしている様には見えなかった。
勿論殺人鬼にも全く見えない。普通に優しそうな街人と言った様子だった。
「うむ・・・奥に何か居る様なのだ。此の匂は恐らく、」
少し鼻をひくつかせ、ハリーが近くの岩陰を見遣る。
ローズも尾を上げて足を向けたのでドレミはそっと其の背を撫でた。
「ねぇ君も仲間でしょ?僕一寸迷っててさぁ、」
果たして岩陰に居たのは二頭の魔物だった。
何処か懐こい声で話していたのは全長1m程の四足の魔物で、上半身は色皓で短い毛に覆われ、対する下半身は黔っぽく柔らかで滑る様な肌質だった。
爬虫類を思わせる目に髭を生やし、特徴的な形の大きな耳の先は大きく揺れる尾と繋がっていた。
もう一頭は巨大な大蛇で、黔く鱗は濡れ、其の瞳は絳く輝いていた。だが普通の蛇と違い頭が九つもあり、其々が意思を持っている様だった。
―ソ、然ウ言われてマシテも・・・ワ、私は只のシガナイ蛇でしテ・・・、―
図体はずっと大きいのに随分と蛇は引っ込み思案だった。其の気になれば相手の魔物等丸呑みに出来そうな位大きな口を有しているのに。其の口からは小さな舌が申し訳程度に出されていた。
「いやー其の姿で只の蛇はないでしょ。うーん、困ったなぁ。」
―うぅ、イ、苛メないで下サイ、ナ、何も知ラナいで御免ナサイ。―
然う言って蛇は何とか頭を下げて相手より小さくなろうとしている様だった。だが良く見ると謝っているのは喋る一つの頭のみで、其以外の頭は威嚇をしている風ではある。
何方が彼の本心なのかは分かり兼ねる様子だった。
―あ、あの大丈夫?何かあったの?―
堪らずローズが間に入ると四足の魔物が嬉しそうに顔を上げた。
「おや君も同族かい?いやー中々此の次元から出られなくて困ってたんだよ。」
「あ、じゃあ君はえっと龍族って事?早速見付かって良かったよ。」
釣られて出て来たドレミを見遣って其の魔物は少し丈立ち上がった。
「噫助かるよ嬢ちゃん、此で僕も狭間に帰れるわ。僕はニフレイってんだ。」
―僕達は次元龍屋って所で働いてるんだ。リュウさんが捜してたから帰ってあげてね。―
「然うかい、僕達を助けに来てくれたんだねぇ。助かるよ本当に。有難う。」
然う言ってニフレイはローズの背に頭を擦り付けていた。
「うん、えっと君は・・・、」
ドレミは静かにしていた大蛇に向き直ると大蛇は目に見えて大きく震えて後退った。
―ヒ、ヒィひ、人ダァ、イ、苛めないで下サイ。―
「と、先から彼の様子でさ。仲間だと思ったんだけど、良く匂嗅いだら一寸違う気がするし、此の次元の蛇なのかなって。」
「何か居まし・・・わぁ、大きな蛇ですね。ドレミさん大丈夫ですか?」
「凄い、初めて見た、頭一杯。」
―ヒ、ヒィイ‼何デこんなに人がぁ!―
蛇はすっかり怯えて小さくなってしまった。
「あ、飃君、鏡君、丁度良かった。ほら此の子が龍族の一頭だよ。此の子達を色んな次元で捜すのも仕事の一つだね。」
「了、次見付けてみる。」
「成程、此なら僕も出来そうで良かったです。」
「噫他の仲間達も宜しく頼むよ。さて後は彼奴なんだけど、」
ニフレイがそっと見遣るが大蛇は完全に怯えてしまっている。
自分から声を掛けてしまった分、如何にかしたいけれども。
考え込んでいると近くの茂みが振れ、一頭の縹色の大蛇が現れた。
大きさは黔蛇と然う変わらないが、此の蛇は頭が一つで所謂普通の大蛇だった。
只其の美しい鱗に何処か上品な薄ら瞳に、つい目線が釘付けになる。
黔蛇も驚いたのか震えるのも忘れ、ほぅと息を付いた。
「如何かしたのかしら、そんな声を上げて。」
―あ、噫えっと私ハ只通り掛った丈デ、アノ、―
「そんなに頭数が多いなんて素敵じゃない。一体如何されたのかしら。」
縹蛇の声は何処か大人びていて次第に黔蛇も安心した様だ。
首を伸ばして気になるのかまじまじと縹蛇を見ていた。
此の次元の蛇達は喋るのが当たり前なのだろうか。でも此の黔蛇はたどたどしいテレパシーで、縹の蛇は流暢に話している。全くの別種の様だけれども敵意は無さそうだ。
―噫此の頭ハ後カら生えて来タノです。人に襲わレテ、斬らレタと思ったら生えて来テ今デハこんなに増えテしまったノデス。―
「まぁ其は大変な、そんな大きくては大変でしょうに。」
―然うナンです、いやハヤ、ダカら今人の居ない、静カナ住処ヲ探してル所だったんデス。―
「・・・何だか良い感じだね。じゃあ僕は帰ろうか。本当に助かったよ、頑張ってな。」
ニフレイは耳の後ろを掻くと茂みを掻き分け次元を去ってしまった。
後には大蛇丈が残される。
「・・・若しかしてハリー君?」
一柱居ない事に気付き、そっと縹の蛇へドレミは耳打ちした。
確かに彼の足には問題があるが、一番乗りしていた彼が此処に居ないのは流石に変だ。此の蛇の色に何処か既視感があるし、若しかして。
其を聞いて器用にも蛇はウィンクを返す。
「然う、此が私の幻術の本の一部、児戯にも等しい。」
「す、凄い、綺麗な蛇さんにも変身出来ちゃうなんて。」
何だか性格も変わっている。流石幻術の使い手だ。
然う言えば何時もの人の姿も幻術なんだっけ、其にしてもこんな簡単に変われるなんて。
彼の姿は蛇を安心させる為の物だろうけど、此はハリーに任せた方が良さそうだ。
「まさか彼の蛇が先迄居たハリーさんなんですか?」
「うん、今のハリー君なら蛇さんと話せそうだね。一緒に行った方が良いかな?」
住処を探すとか言ってるけど、確かに先ニフレイが言った様に彼の蛇は何処か気になる。
次元の主導者ではないけど、只の蛇でもなさ然うだ。
ハリーは小さく頷いて蛇に向き直った。
「彼の人間達は仲間よ、だから大丈夫。其と若し良ければ一緒に貴方の住処を探しましょう。丁度暇してた所なのよ。」
―其ハ・・・良いんデスか?私モ助かりマス、あノ・・・貴方ミタいに話セル蛇も居なくて、色もとても素敵デ、ダからアノ、宜しく御願イシます。―
黔蛇はたどたどしくも何度もハリーに御願いし、反応を窺っている様だった。
ハリーがそっと蕭森へ向けて這うと付いて来る様だ。
ドレミ達を警戒する分ハリーには関心がある様なら後からそっと付いて行く方が良いかも知れない。
縹の蛇に導かれる様に一同は薄暗い蕭森の中へ足を踏み入れるのだった。
・・・・・
暫く進んで行くと道中蛇は色んな話をしてくれた。
自分は水蛇である事、だから澄んだ滄江か沼地に行きたいのだと。
でも人が居るのは恐い、其に自分は可也図体が大きいから隠れるのも難しい。加えて話せる頭以外の八つの首は攻撃的で、一緒に隠れるのを手伝ってくれない然うだ。
だから出来れば人の手の届かない秘境で静かに暮らしたい、と。
蛇は仲間が出来た事が余っ程嬉しかった様で次々とハリーに話題を見付けては振っていた。
如何やら他の蛇達は皆今のハリーの様に頭は一つらしい。だから此の姿は恐がられてしまう。
話せるようになったのも最近で、他の頭は話す事も出来ないので淋しかった様だ。
ハリーはずっと頷いたり相槌を返したりしていたが、不思議な事に蛇になったハリーは移動がスムーズだった。
形が元の龍と似ているからかも知れないが、躓いたりする事もなく、寧ろ何処か優雅に這っている。
斯うなって来ると益々人間に変化した彼が不憫だ。如何して彼の姿丈上手く行かないのだろう。
そんな話をしていた道すがら、突然開けた所に出た。
其処丈陽の曦が燦々と降り注ぎ、良く見ると中央当たりの岩の上に一人の人影が見えた。
其の人物は長い黔や濃い翠の布を何枚も合わせた物を羽織り、ペストマスクの様な者を被っていた。
零れる金の髪に銀のサークレットを掛け、迚も澄んだ蒼い瞳を有しており、其の風貌は異様だが調和が取れている様でもあった。
其の人物はドレミ達に気付いた様で春の薫風の様に優しく咲った。
―っヒ、人ダ、逃げナイと、隠レナいと。―
だが蛇には其の笑顔も恐怖の対象らしく、慌てて茂みの中へ隠れてしまった。
見失ってはいけないとハリーも後を追う。
ドレミも追おうとしたが如何しても其の青年から目を逸らす事が出来ず、そっと近付いた。
「良い日和ですね。でも珍しいですね、こんな蕭森の中で誰かに会うなんて。」
「あ、えと蛇さんの後を付いて来ちゃって、此の辺りは人里もないのかな。」
「蛇、ですか。フフ、蛇に導かれるなんて何だか素敵な旅ですね。良い物語が語れそうです。でも気を付けて下さいね。確かに此処の辺りは人里なんてありませんから。」
「貴方も旅をしているんですか?此処は静かで良いですね。」
飃は少し歩き疲れた様で少し息が上がっていた。休憩がてら話をしたい様だ。
ドレミが茂みを見遣るとひょんとハリーの尾が上がっていた。向こうは大丈夫そうだ。
「えぇ私も御気に入りの所でして。然うだ、若し良ければ一曲聞いて頂けませんか?私吟遊詩人を生業にしてまして、丁度近くの村で一つ蛇の話を聞いたんです。少し恐い話ですが旅の助けになればと思いまして。」
然う言って青年は竪琴をそっと持ち上げた。
「え、凄い!ドレミ吟遊詩人なんて久し振りに見たよ。一つ御願いしてみたいけど、」
ドレミの居た次元だと時々村に来ていたのだ。
今は自分が旅をする側だから会っていなかったけれど、懐かしい。
「噫御代は気にしないで下さい。私は誰かに物語を聞かせたい丈なんです。物語が消えない様に。だから私の為にもと思って聞いて貰えれば。丁度語りたい時分だったんです。」
「聞きたい、吟なんて余り聞いてない。」
興味津々と言った体で鏡が詰め寄る。
・・・ハリーには悪いけれど一寸聞いて行こうかな。蛇の事は彼に任せよう。
吟遊詩人は微笑むと竪琴を緩り弾き始めた。
・・・・・
ある沼地にて貧しい男が居ました
物らしい物は殆ど持っておらず、男は常に苛立っていました
そしてせめての気晴らしと近くに居た黔い蛇を捕まえて小刀で頸を裂いてしまいました
―噫痛イ痛い、止メテ下さい。御願いでス。―
たどたどしくも喋る蛇に驚いて男は蛇を投げてしまいました
蛇は首を落とさない限り生きる物です
頸の皮一枚で猶動く蛇に恐れをなして男は逃げ出してしまいました
蛇も又男に脅えて草葉の影で震えていましたが、男が去ったと分かると大儀然うに頸を伸ばしました
すると斬り裂かれた頸から新たな頭が二つ生えて来ました
―噫長生きをすると不思議な事もある物だ。話せる丈でなく、首も生えるとは。―
蛇が少し不自由然うに地を這っていると浮浪者がやって来ました
彼は三つ首の蛇なんて珍しい、頭を落として剥製にしよう、と企みました
蛇は逃げようとしましたが二つの頭が男を威嚇する為に簡単に捕まってしまいました
男は早速ナイフで其の二つの頭を落としました
でも残った頭が中斬れません
男が梃摺っていると斬られた二つの頭から新たに四つの首が生えました
そして頭は男に咬み付こうと牙を剥いたので急いで男は蛇を捨てて逃げて行きました
碧山道を行く黔い蛇、此の頃にはすっかり躯も大きくなり、大蛇となっていました
其処へ刀を携えた男が通りました
蛇は直ぐ逃げ出そうとしましたが、他の四つの頭が赦しません
男に威嚇すると彼も刀を抜きました
「化生の類か。生かして置くには危険だろう。其の頭落としてみせよう。」
男は即座に四つの頭を落としました
しかし、矢張り最後の頭が斬れません
暫くすると八つの首が生えて来たので男は敵わないと退きました
蛇は他の八つの頭を疎ましく思いました
自分が幾ら逃げようとしても他が其を赦さないのです
もう人には会いたくないと蛇は碧山奥へ向かいました
黔い蕭森を進んでいると蛇は一人の魔女に出会いました
相変わらず威嚇する頭を無視し、蛇は直ぐに逃げようとしました
しかし彼女は其を呼び止めました
「如何して逃げようとするんだい。君は此処の主ではないのか。」
―主なんてとんでもナイ。私ハ人が恐いノです。だから逃げルノです。―
「他の頭は然うは思ってないみたいだけれども。其の形では逃げるのも大変だろう。君なら人等簡単に追い払えるよ。其の力を分けてあげようか。」
―噫、其が出来たら何程嬉シイか。私ハ水蛇なんです。何処かノ沼デ静かに暮らしたいノデス。―
「良し良し、じゃあ此方へ御出で。君にぴったりな術があるから。」
魔女は実は此の蛇を懐柔し、自分の遣い魔にしようと密かに思っていたのでした
斯くして蛇は魔女の術により毒霧を吐ける様になりました
其の黔い鱗も牙も猛毒で濡れて怪しく揺らめいていました
「こんな恐ろしい化物は他に居ないさ。君の事を羅魔蛇(ヒュドラ)と呼ぼう。」
―噫有難う御座いマス。此でヤット人に脅えぬ平穏ナ日々が送レます。―
でも力を手にした羅魔蛇の心にある感情が芽生えていました
其に応える様に八つの頭も静かな声を上げます
羅魔蛇は魔女に毒霧を吐きました
すっかり不意を突かれた魔女は痺れて動けなくなり、其の間に羅魔蛇は九つの頭を巧みに使って魔女をバラバラに引き裂いてしまいました
自分が今迄受けた苦しみを人に還す
初めて羅魔蛇の心は一つになりました
羅魔蛇は次なる獲物を探しに沼へ向け、毒の道を這うのでした
・・・・・
「・・・如何だったでしょうか。最後が一寸恐い話ではあるんですが。」
「面白かった、曲迚も綺麗。」
「フフ、然う言って貰えると。有難う御座います。」
吟遊詩人の吟は本当に綺麗だった。
恐ろしい物語だったのに其の声音にすっかり聞き入ってしまった。何時迄も聞いていたいと思える程の素晴しい演奏だった。
「確かに恐ろしい話ですが何か教訓染みていますね。因果応報、と言った所ですかね。」
「えぇ、私も然う思います。弱者がずっと弱者とは限らない、相手に因って態度を変えてはいけないと、そんな教えが込められている気がするんです。・・・おや、此は炭ですか。丁度臭い消しとして持って置くのに良いサイズですね、有難く頂きます。」
何処からか取り出した炭を鏡はぐいぐいと吟遊詩人に差し出した。
此は彼にとっての最大級の感謝の印らしいのだが、喜んで貰えた様だ。
「では私は此で。皆さんにも良き御縁があります様に。其では。」
最後迄優しく儚そうに咲って吟遊詩人は去ってしまった。
其の背を見送る一同だが、ドレミは少し考え込んでいた。
今の物語、如何考えても今の自分達の状況と酷似している。其の儘過ぎるのだ。
今自分達と一緒に居る蛇も頭が九つある。先の話だと此の後魔女に会って、羅魔蛇になってしまう、と言う事・・・?
何だろう此の違和感、若しかして先の吟遊詩人って此の蕭森の神だったりしないのかな、前の鴉の神が付いてくれた次元みたいに。
「何か、引っ掛吟遊詩人かる所があると言った顔ですね、ドレミさん。」
「うん、先の吟遊詩人さん・・・若しかして此の蕭森の神様とかだったりしないかなって思って。何だか導こうとしているみたいだったから。」
「成程、確かにすっかり聞き惚れてしまいましたが流石先輩ですね。僕ももう少し気を付けないと。」
「え?いや飃君そんな、ドレミ何も気付けていないし、全然だよ。そんな気がした丈だから。」
話に因ると飃、特に今の彼は凄い長生きの神と聞いている。そんなに畏まられても困ってしまう。
でも実際如何言う意味だったんだろう、一応留めて置いた方が良いかな・・・。
「もう大丈夫・・・然う?如何かしら。」
ハリー事縹の蛇が茂みから出て来た。彼の黔蛇は未だ隠れている様だ。
彼の図体で隠れるのが本当に上手い。ずっと隠れ乍ら生きて来たのかな。如何しても他の頭が動いちゃうから不自然に揺れてるけれど、其でも彼処にあんな大蛇が居るなんて思えない。
「ハリー君彼の人、吟遊詩人だったみたい。一つ吟ってくれたんだけど、」
簡単に先の話を纏めてしてみた。ハリーも何か思う所があるみたいで少し唸った。
少し見慣れて来たけれど矢っ張り其の姿は少し恐いかも。随分と大きな大蛇なので丸呑みにされそうなんだ。ハリーがそんな事しないとは分かってるけど。
「吟遊詩人・・・前行った次元にも居たけれどもそんなに居る物なのかしら。分かった、覚えて置きましょう。」
ハリーは何度か頷いて茂みに戻った。蛇を呼びに行ったのだろう。
あんな話を聞いても自分達がする事は変わらない。彼の蛇の住処を探すのを手伝ってあげよう。
・・・・・
「ドレミさんはもうセレさんとは長いんですか?」
「え、うーん店の中では割と最初の方かなぁ。ハリー君の方が先だけど、セレちゃんとガルダ君は幼馴染なんだよ。」
山道を歩く最中、暇な事もあって一同は話に花を咲かせていた。
飃は新神丈あって皆の事が気になるらしく、色々と話を振って来る。
若しかして情報収集の為なんじゃあ、と少し疑っちゃったけれども、其の辺りは初めに彼から話してくれたのだ。
確かに霄の彼からは皆から話を聞いて欲しい旨の言伝があった然うだ。只其はセレの弱みを握ろうとかそんなんじゃなくて、半日毎しか彼等は出て来られないので仕事中に入れ替わって仕事に支障を来してはいけないからと然う言った配慮らしい。
彼は元ギルドの人丈あって責任感は強かったのだ。私情丈で動くなんてのは彼にとってスマートなやり方ではないらしい。
ギルドと言うのは自分も親近感を持てた。だからそれなりの事は答える様にしたのだ。
「幼馴染、良いですね然う言うの。僕も昔居たのかも知れませんが、こんなに姿も何もかも変わったらもう分りませんね。」
自虐気味に咲う彼は儚く消えそうで、そんな笑顔を見てしまうとつい気に掛けてしまうのだった。
「新しいスタート、別に悪い事じゃない。今から作るの良い。」
勢い良く鏡が入り込む。彼は早々に歩くのに疲れ、もう自由に旻を飛んでいた。
飃も何時も突いている其の枴で飛べるらしいけれども如何も昼の彼には乗り熟せないらしく、足も悪くないのに枴を突いていた。
「然う・・・ですね。はい、有難う御座います。僕も頑張らないとですね。」
「うん其の意気だよ。取り敢えず住処探しだね。」
「フフ、こんな仕事初めて聞きましたよ。只少し急いだ方が良いかも知れませんね。霄の僕は斯う言う仕事、得意ではないので。」
「うーんドレミ未だ会った事ないんだけど霄の飃君って全然違うの?」
「フフ、似ている所が無い位全く違いますよ。元々他神ですし、でも彼は本当に勁いので頼りにはなると思いますよ。」
「成程、セレちゃんも其処を買った訳だね。最近セレちゃん勁くなる事に余念がないし、ドレミも頑張らないと。」
片手を挙げて普段は隠れている手枷を見遣る。
自分を護る丈の力があれば良いって思っていたけど、彼女の傍にいるには其以上が必要になる。
戦うのはそんなに好きじゃないけど、必要なら、其しかないなら自分も戦える。
「何か、居る。」
鏡が高度を下げ、近場を飛び始めた。
確かに近くの樹々が揺れている様だ。
―噫良かった来てくれたんだ。―
然う声を掛けて一頭の魔物がドレミ達の元へやって来た。
全長5cm程度で鳥の様だが異様に翼は小さく、全体的に薄い石竹色をしていた。
垂れた尾の先は丸く、双葉の様に二本の角の様な物が生え、胸元から腹に掛けて目の様な模様があり、其の瞳孔部分が開いたり閉じたりしていた。
其の魔物は小さな翼を一所懸命に羽搏いてドレミの前でホバリングをしていた。そして其の魔物を皮切りに次々と樹々から同じ魔物が飛び立って来る。
若しやと思いドレミは慌てて時空の穴からスカウターを出して掛けてみた。
すると一件直ぐに該当があったみたいで名や説明が宙に記されて行く。
「えっと・・・キサキレイ、って言うのかな。あの初めまして。」
―初めまして、小さな冒険者さん!―
―ようこそ、良く来てくれました!―
自分達の方が小さい癖に。
ドレミは口を尖らせたが直ぐ機嫌を直した。仕事は順調なんだ、喜ばないと。
「成程、然うやって使うんですね。と言う事は此の子達も龍族なんですか。」
「初めて見る、一杯。」
―私達も知ってるよ、龍達を助けてくれる店、其処から来たんでしょ。―
―次元龍屋って店知ってるわ。―
―ナ、何でこんな、今迄見た事モない者が集マルの。―
相変わらず茂みに隠れた儘で大蛇が首丈出した。
其を宥める様にハリーがそっと傍に寄る。
「皆仲間よ、だからそんなに恐がらないで。」
―あ、なりかけだ。―
―珍しいね久し振りに見た。―
「なりかけって・・・何の事?」
キサキレイは今度は大蛇の周りを飛び始めた。
怯えた大蛇はどんどん茂みの中へ隠れてしまう。
―なりかけは、私達の仲間になりかけって事。―
―時々いるの、他の者から龍族へ変る者、条件とか色々あるけど。―
「其って矢っ張り先程の詠って事ですね。」
「うん然うだね、羅魔蛇っていう龍族もいるし。」
―フン、確かに此奴は半端者だな。―
―え・・・ヒィ!碧樹が喋ったァ!―
―御主も蛇の癖に喋っとるであろうが。―
隠れ切れないと悟り蛇はハリーの傍へやって来た。
良く見ると確かに碧樹の瘤だと思っていた物に目があり、皓い華が咲いている。
「・・・彼も龍族なんですか?」
―うん然うだね。同じ仲間の匂がするね。―
「然うですか・・・本当に幅が広いんですね。」
ハリー、ローズ、キサキレイ、そして目の前の瘤と順番に見遣って飃は小さく溜息を付いた。
此は此で難しい仕事なんじゃないかと思い始めた様だ。
「老儡(ロウライ)って言うんだね。碧樹に付いて瘤に擬態するの。二本の根みたいな足で引っ付いてると思うけど・・・。」
スカウターで見る限り老儡は数10㎝程の大きさで、二本の根の様な足を有し、枝の様な口を器用に使って清浄な気を吸うらしい。
付く碧樹に因って頭に咲く華の色や形が変わって行く様だ。
「あ、然うだ。あの老儡さん、若し知っていたら教えて欲しいんだけど、近くで静かな沼とか滄江ってないかな。人間さんが居ない様な。此の子の住処を探してる所なの。」
―フン、そんなのさっさと龍になってそんな次元へ行けば良かろう。生憎儂は此処から動かないのでな。―
「う、そ、然うだね。」
中々厳しい指摘だった。
でも吟の中で蛇は羅魔蛇に成っていた。物語も恐かったし、其で良いのかなぁ。
―其じゃあバイバイ、頑張ってね。私達は狭間に帰るわ。―
「あ、うんバイバイ、って鏡君付いてっちゃ駄目だよ!」
旻へ飛び去って行くキサキレイの群の中に鏡が居たので慌てて呼び止める。
「一緒に飛ぶ、楽しかった。」
「然うですか、僕も枴で飛べたら良いんですけどね。」
何だか綿毛みたいな子だ。自分一人で全員見るのは厳しいぞ。
頭を抱えていると何やら鏡とローズが楽しそうに話をしていた。
「・・・まさか飛の鎧で飛んだりしないでね。若し飛んで行ったら雷落とすから。」
―え、う、うん大丈夫だよ。じゃあ行こうか。―
絶対其のつもりだったのだろう、旻も見乍ら歩くのは危険だ。
彼を牽制する為にもドレミはローズの背に跨るのだった。
・・・・・
何丈歩いただろうか、中々蕭森は開けず頓足を動かして行く丈だ。
人気から遠ざかって行く様に気になる所にも出会さず歩き続けた。
「おやおやこんな所に珍しいじゃないか、遠足でもしに来たのかい。」
突然の声についドレミは顔を上げる。
此の声は、此の胸に触れる声は。
蕭森の茂みが不自然に揺れて道を作る。
其の先から現れたのは一人の正女だった。
深翠に包まれたローブに鍔のある大きな三角帽子、肌は陶器みたいに余りにも皓く、其の瞳と唇丈が異様に絳く灯った。
帽子から垂れる栗毛の髪はカールして陽に光り、不自然に曲がった珠樹の枴を突いている。
然う、如何見ても何処から見ても物語の中で見た様な魔女が其処に居た。
まるで自分達が物語の世界に迷い込んでしまったみたいに。
此の物語は先聞いた、彼の吟遊詩人の吟の世界と余りに似過ぎていて。
そして直感でドレミは気付いた、彼女が次元の主導者だと。
「此の蛇、住む所一緒探してる。良い所知らない?」
鏡がそっと地面に降り立って正女に近付いた。
正女は可笑しそうに口端で笑って彼を見遣った。
「蛇って彼の頭が沢山ある子かい?確かに其丈大きけりゃあ大変だろうけど。」
―う、うぅ此の蕭森何デコンナ人間が居るノ・・・。―
黔蛇はすっかり弱ってハリーの後ろに隠れてしまった。
だが頭が多い分全く隠れられていない。
ドレミ達と一緒に居た事で多少は慣れた様だが其でも矢張り恐い様だ。
「何をそんなに怯えてるんだか。私は只のしがない魔女だよ。君なら私位簡単に丸呑みに出来るでしょうに。恐いのは私の方だよ。」
矢っ張り魔女なんだ。
予想通りの答えにドレミは少し気まずくなった、嫌な予感しかしないのだ。
―デ、デも人間って恐い事バッカリ、私は静かに暮らシタイんです。―
怖ず怖ず蛇は答えてハリーを見遣る。
彼が何度か頷いたのを見て少し安心した様だ。
「其は其は、面白い事を言うねぇ。君だったら自分の力で人間を追い払って住処を勝ち取れば良いじゃないか。静かにさせれば良いだろう。」
―自分の・・・力?―
「そ、其処迄は思ってないよ。ね、只静かに暮らせれば良いんだから。」
やんわりと魔女の言葉を遮る。
蛇の甘言の様に、蛇を誘惑する其の言葉は危険だ。彼の物語と同じになる。
「然うですね。変に戦うと不要な争いしか起きません、其は良い事ではないでしょう。」
飃も察してそっと制止に入る。余りにも此の物語は不吉だ。
「然うかい?若し良ければ其丈の力を貸してやろうと思ったんだけどねぇ。其こそそんな争いすら潰せちゃう位の力ならね。」
―其・・・頼ンでも良いデスか。―
「む、余り然う急く事もないわ。別に力を手にする事が目的じゃあないでしょう?」
―でも皆さんニズット手伝っテ貰う訳ニも行キマせん。逃ゲテ許リモ良くないと思ウンデス、矢っ張り少し位ハ戦えナイと。―
「決まりだね。」
そっと魔女の元へ黔蛇は進み出た。
魔女はそんな彼に枴を掲げる。
忽ち其の枴から黔い煙が立ち上り、蛇を包み込んだ。
もう止める事は出来ない。彼の決断を止められる丈の材料と責任が足りなかったのだ。
蛇の鱗と言う鱗から粘液が溢れ始めた。其はより黔く鱗を染めて模様を彼に刻む。
燃え上がる様な髭が生え揃い、尾の先の鱗が針の様に鋭く尖る。
煙は晴れる。だが蛇の口端からは常に霧が吐き出され、彼の姿は薄暗く隠される。
其の闇の中で十八の絳い瞳丈が輝いていた。
噫知っている此の姿を。
龍族、羅魔蛇の誕生だった。
「・・・此の姿が先程吟で聞いた羅魔蛇ですか。」
「おや良く知ってるねぇ、然うだよ。毒の王、人なんか目じゃないよ。言わなくても力の使い方はもう分るだろう。」
―エェ、有難う御座いマス。此で静かニ暮ラセるんデスネ。此の力がアレバ。―
「御芽出とう、後は沼地を見付けないと。さぁもう少し頑張りましょう。」
魔女の物欲しそうな眼を見て慌ててハリーは二柱の間に入った。
―皆さんモ有難う御座いマス、でもモウ大丈夫デス。私の毒は沼地を作り出す事が出来ル。他ノ誰モ住メない毒の沼ヲ。―
他の頭の蛇が毒液を吐き出す。
忽ち草木は枯れ、黔い水溜りが生まれた。
「此は・・・皆離れてっ!」
少し臭を嗅ぎ、ハリーは近くに居たドレミを押し退けた。
ローズも気付いた様で飃のコートを噛んで引っ張る。
「待って次元の主導者が、」
ドレミがハリーの背に乗って見遣ると魔女は旻高くを舞っていた。
舞っていると言うより振り回されていると言う可きか。
魔女は必死に枴にしがみ付いていた。其の枴を持って鏡が飛んでいたのだ。
「此、炭かと思った。けど違った。」
「す、炭なんかで枴を作る訳ないでしょ!早く放しなさい!」
「・・・流石に人、無理。」
鏡は少し眉を寄せてそっと近くの碧樹の上に魔女を降ろした。
「運が良かった様ね。恐らく彼の霧は毒よ。鼻が少し痺れてしまったわ。」
「っハリー君御免ね有難う、護ってくれて。大丈夫?へ、変な病気になってない?」
「フン此位何ともないわ。只此は如何した物かしら・・・。」
そっとドレミを頭に乗せてハリーは首を伸ばした。
此の毒は空気より重い。一気に広がってしまったが斯うしてそれなりの高さを保てば問題ない。
ドレミも察したのか必死にハリーの頭にしがみ付いた。蛇になってしまった故に鱗がツルツルで掴まり難いのだ。
噛り付く様にしがみ付く彼女にハリーは一つ溜息を付いた。
「然うですね。貴方は一体彼を如何するつもりだったんですか?」
ローズが飛の鎧を纏ってくれた事により、彼の背に跨っていた飃も難を逃れた。
そっと魔女が掴まっている碧樹の傍に寄ると彼女は目を白黒させて明らかに狼狽えていた。
「い、いや何でこんな、羅魔蛇は羅魔蛇でも此処迄毒が勁い個体になるなんて、こんなの如何やって手懐けたら良いのよ。」
―此は酷い、典型的な自滅するパターンだよ魔女さん。―
呆れた様に息を付くローズに魔女は真っ赤になってしまった。
如何やら彼女は今迄失敗らしい失敗をして来なかったらしい。
「うぐぅ・・・け、けれど如何すれば良いのよ。私の術は基本的に毒と翠なのよ。相性が悪過ぎるわ。」
「慢心駄目絶対。先ず話す事大切。」
「然うね・・・。ほらもう十分力は分かったわ。危ないからもう止めなさい。」
少し首を伸ばしてハリーが声を掛けると羅魔蛇は複数の頭でハリーを見遣った。
相変わらず幾つかの頭からは毒液や毒霧を吐き、少しずつ其の範囲は広がっていた。
彼が動く丈で鱗から染み出た毒が飛び散ってしまう様だ。
―私、決めマした。此処ヲ私ニ住み良イ沼地に変えてみセマしョウ。もウ誰ニモ奪わセマせん。貴方達ハ私に随分親切ニシテ下さった。だから御逃げ下サイ。只其処の人間丈は置イテ下サい。―
然う言って十八の瞳で魔女を見遣る。
濃い霧の中とは言え其の瞳は爛々と輝いて見えた。
魔女はやっと自分が狙われている事に気付き、より強く碧樹に掴まった。枴に乗る余裕はない様だ。
「ちょっ、如何して私丈なのよ。そんな、其の力を与えたのは私なのよ!」
―エェ、だから其の事ニは感謝シタじゃあありマセンカ。デモ私ハ人が嫌いデス。特に貴方の様ナ他者ヲ利用する様ナ奴ハ。―
羅魔蛇はじりじりと魔女に躙り寄って行く。獲物を狩る様にそっと。
毒を吐き乍らも威嚇の声を上げて。
―私モ利用され続ケタ、金ノ為、名誉ノ為、でもそんなのハモウウンザリなんでス。ダカラ次ハ私の番デス。―
「応えて来雷瞬!」
近付く羅魔蛇と魔女の間に雨雲もないのに驚霆が落ちる。
余りの眩しさに羅魔蛇は一気に仰け反って頭を絡めて目元を擦った。
然うして目が慣れた頃には目の前にハリーと彼の頭に乗ったドレミが立ち塞がっていた。
「間に合って良かったよ。もう暴れたら駄目だよ危ないでしょ。」
―何でスカ邪魔ヲして、私ハモウ止まレマセンヨ。遠慮ナンてしまセン、私ハモウ自由なんデス。―
「自由だから何をしても良い訳ではないわ。其は貴方も良く知ってるでしょう。」
―モウソンな事、忘レましタヨ。私ハモウ変わったんでス!―
羅魔蛇が旻へ向けて吼えるのでついハリーは後退りしてしまう。
其の隙に魔女もハリーの背に飛び乗った為少しハリーは首を下げた。
「う・・・一寸流石に重いんだけど。」
「そ、そんな事言われても元はと言えば貴方達が連れていた蛇なんだし如何にかしなさいよ!」
―じゃあドレミは僕に乗りなよ。―
「ロー君有難う。あれ、でも飃君は?先迄確か乗っていたよね?」
ドレミが近くに寄ったローズの背に飛び乗り辺りを見遣る。
一見何処にも居ない。碧樹より低いと毒霧の餌食になってしまうのに。
―うん何かもう大丈夫だって言われて降りちゃったんだけど。―
「だ、大丈夫って危ないよ‼捜さなきゃ!」
ドレミが身を乗り出して蕭森を見遣ると突風が吹き荒れた。
其に煽られてか鏡が並走する様に上昇して来た。
如何やら凱風は蕭森から旻へ向いている様だ。
―邪魔ヲするナラ仕方アリまセン。私モ戦エル様になったノデス。一つ相手ヲして貰イマしょうカ。―
「其は其は随分と楽しそうな御誘いだねぇ。」
突風と共に飃が蕭森の中から現れた。
彼は枴に跨り、凱風を纏う事で低旻飛行でも毒霧を飛ばして行く事が出来たのだ。
羅魔蛇の背後から現れた彼は蛇の頭と頭の隙間を縫って飛び回った。
既の所で捕まえる事が出来なかったので其の頭から低い唸り声が漏れて来る。
「あんな貧弱そうな御姉さんじゃなくって僕にしなって。魔物退治とか楽しそうじゃん。」
―エェ良いデスヨ、ちょこまかと丁度邪魔ダト思ってイタノデ・・・。―
羅魔蛇は向きを変え、一斉に飃に躍り掛かった。
先に向かって来た頭を突風で飛ばしつつ飃は又上昇して行く。
「此が僕の初仕事だって?良いじゃん楽しませてくれるじゃん。」
「え、あ、飃君若しかして、」
横顔は何処か涼しく、其の浮かべる笑顔も先程迄のと意味が違う気がした。
朏の様な薄く冷たい笑み。
「噫初めましてっと、んー・・・然うだね、御姉さん昼は親切にしてくれて有難う。僕達良い友達になれそうだね。」
枴を傾けてローズに近付く。
羅魔蛇は彼等の高度が余りにも高い為如何しようか考えあぐねている様だった。
「う、うん然うだね。でもその、何で先一寸言い淀んだの・・・?」
一瞬何か言い掛けて直ぐ訂正したよね、然う言う間が如何しようもなく気になっちゃう。
「え、そんな所気にするの?じゃあ御姉さんで良いみたいだね。」
―ドレミは其処の所厳しいからね。―
ローズが苦笑して見上げたのでドレミはそっと彼の頭を押さえた。
「御嬢ちゃんって齢じゃないでしょ。目を見れば分かるよ。仮にも一緒に頑張る仲間なんだし、其処の所敬意は払うよ。失礼しちゃうなぁ。」
「そ、然うなんだ・・・御免ね、有難う。」
何だか・・・イメージと違う。
ずっと曇だったから気付かなかったけど、今の彼は屹度霄の飃なんだろう。
セレを殺す為に来たって、正直全然意味が分からなかったけれど、でも屹度野蛮な神なのかなって思ってた。
昔の私がずっと彼女を恨んでいた様に。彼の頃の私は本当に酷い目をしていたから。
だから彼の気持も分かる気がしていた。でもじゃあ当時の私が店に入るかと言えば、そんな事は絶対ない。
誘われたって、馬鹿にされたと思って絶対に相容れなかっただろう。
其なのに彼は来た。宿敵の仲間になりに。
「ねぇ、戦いなら僕に任せなよ。唯一の取り柄なんだし、時間は残酷にも有限だし。僕ならあんな蛇訳ないよ。」
「勁そう、頑張って。」
寄って来た鏡に微笑すると飃は突風を纏って急降下した。
其処へ向けて羅魔蛇は毒弾を吐き出した。
だが其をいとも容易に飃は躱し、接近する。
近付くにつれ彼の周りを不自然な凱風が回り始めた。
其は朏の様な、死神の鎌の様な形に象られて回る。
「毒の流星の御返しに蛇の首なんて御洒落じゃない?」
羅魔蛇の傍を掻い潜る際に不敵に彼は笑う。
「ジャァァアァアァアア‼」
鳴かない筈の蛇の喉から怒りの咆哮が迸る。
其と同時に五つ程の蛇の首が落ちた。
「ほぅら一丁上がり。」
「だ、駄目だよ飃君!そんな事したら死んじゃうよ!」
「えぇ?駄目なの?別に良いじゃん危険な魔物なんだよ?」
得意気に彼は軽く口笛を吹くがドレミに窘められて少し其の枴の高度が下がってしまう。
「其の蛇、助けに来た、殺しちゃ駄目。」
「其なら然うと先に言ってよもう。」
「一寸話してる場合⁉彼は羅魔蛇よ、此の程度じゃあ、」
魔女が言う間もなく羅魔蛇は頭を失った頸を伸ばした。
其処から血の代わりに黔い毒液が一気に溢れて泡立つ。
其は徐々に盛んになり盛り上がって一斉に泡は弾け飛んだ。
毒液を撒き散らし乍ら首を伸ばしたのは新たに生まれた蛇の頭だった。
其は先程迄あった物と寸分違わず、苛立たし気に毒を吐いた。
そして落ちた首も溶けて毒の沼へと姿を変えた。
「へぇ丁度良かったよ。初めての仕事を台無しにする所だった。君も再生するタイプなんだぁ。御兄さんみたいだね。」
「羅魔蛇は何度でも再生する毒蛇よ。そんなんじゃあ効果はないわ。」
「うーん・・・ドレミの驚霆じゃあ丸焦げにしちゃうし、」
「此方抑攻撃手段ない。」
「私も幻術を解いて良い物か・・・。」
再生し続ける者を弱らせるなんて中々難しい仕事だ。
「問題ないでしょ。ね、もう少し僕に任せてよ。再生する化物、丁度相手したかったんだよ。良い練習になるし。」
又飃は枴を傾けて一気に羅魔蛇へ近付く。
羅魔蛇はもう捕まえる事を諦め、代わりに毒弾を一斉に吐き出した。
「ま、然うするよね。」
此の羅魔蛇って化物は今々先生まれた様だし、戦い方なんて然う知らないか。
折角の機会なのにこんなんじゃあ直ぐ終わりそうだ。
彼の化物には全然、恐らく其の守護神だとかいう彼奴にも、こんな牙じゃあ届かない。
彼の守護神も全く本気なんて出してなかったもんなぁ、僕の事なんて其の頭に一片も無かったんだ。
凱風を回す、朏の凱風を回して籠の様に閉じ込める様に。
然うしてまんまとやって来た毒弾を閉じ込めた。
毒弾はもう其以上飛んで行く事もなく自分の傍へ大人しく付いて来た。
毒弾を一つ二つ集めて何時しか飃の周りには数十の毒弾が漂っていた。
「はい、じゃあ此はプレゼントね。」
其の儘飃は羅魔蛇へ突っ込む。
反射的に蛇は飃へ牙を向けた。其処へ向けて飃は毒弾をぶち込んだ。
毒弾を思い切り呑み込んだ蛇の頭は震えて動かなくなる。
矢っ張り然うか、自分の毒と言えどあんなに呑んじゃあ効いてしまうのか。
だったらもう勝負は着いた様な物だ。彼奴に首は九つあれど、自分は其の倍の毒弾を持っている。首の数で言えば勝った様な物だ。
動きが鈍くなった首に目もくれず目の前に敵が居れば、自分に十分な戦力があれば襲ってしまう物だ。
手に入れた許りの毒が自分に何丈効くなんて分かり様もない。
其に頭の使い方も未だ分かっちゃあいない。折角九つもあるんだから逃げ場を断つ様に囲めば良いのに一直線じゃあ旻中で逃げ回るのに御釣りが来る。
此は寧ろ教えてあげたくなる物だ。今迄逃げ続けて来たから戦い方の勝手が分からないのなら凱風の瓊でも作って獲物の捕まえ方を伝授したい。
なんて、冗談は頭の中丈にして置こうか。
芸もなく繰り出される突進を躱し際に毒弾を口内へ押し込む。
然うしてあっと言う間に残る頭は喋る事の出来る彼の一つの首丈となった。
加えて他の首も絡み付く様に飃が飛び回ったが為に不自然に絡まり、残る其の首を押し潰す形になってしまった。
―うぅ・・・コ、こんな人一人捕まエラレないナンテ・・・。―
羅魔蛇は首を伸ばそうと身を捩るがのろのろと動く事しか出来ない他の首にがっちりと捕まってしまい、目の前に居る飃を悔しそうに見詰めていた。
飃も飃で未だ複数の毒弾を持っている。完全に御手上げだった。
「経験の差って奴だねぇ。もう面倒だから抵抗しないでよね。折角此の僕が殺さないであげてるんだから。若し変な事したら其の首落として此の毒を入れるからね。」
「う、嘘まさか羅魔蛇をこんなあっさり倒しちゃうなんて。」
魔女が感嘆の声を上げる。もう大丈夫然うだと判断し、恐る恐るハリーの背から降りた。
「然も枴をそんなに乗り熟すなんて貴方一体、」
「上には上がいるって事だよ。良い勉強になったね御姉さん。」
飃が軽く手を振り然う答えたので魔女は悔しそうに唇を噛んでいた。
「御疲れ様飃君、まさか此処迄上手くやるなんて。本当に勁いんだね。」
身動きを取れなくするのは斃すより難しい物だ。
其を斯うもあっさりやり遂げるなんて。此の戦闘センスの高さ、手放しで喜ぶのは一寸恐いな・・・。
セレもこんな風にされたら・・・いや、今は彼女を信じよう。彼を信じたのは他ならない彼女なんだから。
「呑んでもこんなに直ぐ効く毒だから助かったのもあるけどね。念の為毒を入れる際に口内を傷つけて血管にも突っ込んでたんだけど、とんでもない猛毒みたいだね。当たらなきゃ問題無いし、こんなのは朝飯前だよ。ま、十分な働きが出来たみたいで良かったけど、斯う言うのはどんどん任せてくれたら良いよ。」
彼も戦えた事が楽しかった様で機嫌が良さそうだ。
抑魔物退治なんて久し振りだったので少し懐かしかったのだ。
まるで・・・楓夏と一緒に居た彼の時みたいで。
「で、此処からは如何するの?御姉さんに御任せするけど。」
「然うだね、一寸待ってて、飃君は良く休んでね。」
毒沼に気を付けてローズはそっと地面に降り立った。
彼の背から降りてドレミはそっと羅魔蛇を見遣った。
大人しく・・・してくれてるみたい。毒が思ったより効いて来たのかも知れない。
ローズやハリーが見てくれている様だから先ずは魔女から話をしようかな。
「魔女さん、多分魔女さんの目的ってえっと羅魔蛇君をパートナーにしたかったんだよね?」
「ま、まぁ然うだけど。・・・諦めるわ。私に彼は扱えない。まさかあんな力量差があるなんて。」
魔女は額に手をやり小さく溜息を付いた。
「一応、貴方達の御蔭で助かったわ、有難う。後、その、御免なさい、勝手な茶々を入れて。」
―反省したなら良いんじゃないかな。過信は禁物だよ。被害は自分丈じゃあ済まなくなる所だったし。―
「う、わ、分かってるわ、気を付ける。抑貴方みたいな話せる狐や蛇を遣い魔にしている時点で私より格上だったわね。失念していたわ、すっかり羅魔蛇に目が眩んだの。私には私に合った遣い魔を探すわ。只、」
魔女はちらと羅魔蛇を見遣った。
彼は大分体調が戻ったのか首を持ち上げていた。
だがもう戦意は無い様でハリーを見遣っては項垂れていた。
―皆サン、本当ニ御免なサイ。ど、如何しテダカ興奮シテたみタイデ、大変失礼ヲしました。御怪我ハないデスカ?―
「えぇ大丈夫よ。落ち着いたなら良かったわ。」
ハリーの言葉に羅魔蛇は何度も頭を下げて小さくなる許りだ。彼の気の弱い黔蛇に戻ってくれたらしい。
気付けば毒霧ももう殆ど吐いておらず、絶えず鱗から漏れていた粘液も乾いた様だ。随分毒を制御しているのだろう。
「羅魔蛇は怒りだとかの感情で毒性や量、質が変わるってあったし、今迄人間さんに苛められてたのが噴き出したんだよ、屹度。」
―然ウ、デスネ。本当に申シ訳ナイデス・・・。―
「皆無事、大丈夫。だから気にしないで。」
「あ、あの私も御免なさい。如何したら良いかしら。貴方を羅魔蛇に変えてしまったけど、元の蛇に戻す方法は知らないの。」
怖ず怖ずとやって来た魔女に羅魔蛇は少し丈後退りしてしまう。未だ人が恐い儘の様だ。
「其の儘、問題ない気する。人嫌いなら飛んで行けば良い。」
「うーんでも蛇さんは別に鏡君みたいに飛べ・・・あ、然うだ。有難う鏡君其の通りだね。」
老儡にも言われた事を思い出し、一つドレミが手を打つのを羅魔蛇は首を傾げて見ていた。
「然うだよ、もう羅魔蛇君は龍なんだから他次元へ行けば良いんだよ。」
―龍?アノ、私ハ只の蛇なんデスガ・・・。―
「噫然うね。龍と言っても恐らく貴方が思っているのと別の種の事なの。先キサキレイに会った事は覚えているかしら。」
―あ、えと彼の鳥ミタイな方デしょうか・・・。―
「然う然う、彼等が最後消えたのは此処とは別の世界へ行ったからなの。其と同じ事が貴方は出来る様になったのよ。」
―ほ、他ノ世界、デすか?―
恐らくとんと考えた事もない位彼にとって突飛もない話なのだろう。目を白黒とさせつつも羅魔蛇はハリーの話に聞き入っている様だった。
「あー最近の僕みたいなもんか。じゃあ簡単じゃん。人の居ない静かな滄江とかに行きたいって思えば自由に行けるって事でしょ?」
―ソ、ソンナ事が。何か変ワった気がシタと思ったらソ、そんな事迄。デモ確かに出来る様ナ気がシマス。あ、アノ、有難う御座イマシた、こんな素敵な力貰ってシマって・・・。―
「え、あの・・・まぁ喜んで貰えたなら良いけど。」
突然御礼を言われて魔女も大分困惑している様だ。
でも悪い事にはならなかった様なので救いと言えようか。
彼女にとっても龍やら次元やらは未知の話なのだろうが何より無事で助かった事の安堵で胸が一杯の様だ。
―噫デハ皆さん本当に有難ウ御座イマシた。此なら私一柱デモもう大丈夫でス。人は赦セナクても、私は別に争イタイ訳じゃあありまセン。争えば私も彼等ト同じになってシマウデショウ。でアレバ私は一柱静かに暮ラシます。―
「ええ其が良いと思うわ。頑張って頂戴。」
ハリーに励まして貰って羅魔蛇は初めて少し嬉しそうに舌を出した。
「何だか、上手い事行ったみたいで良かったわ。私も身の丈に合った子を探すわ。世話になったわね。」
然う言い残すと魔女は適当に手を振って去って行った。もう次元の主導者としても大丈夫だろう。
「彼の吟よりずっと良い話になって良かったよ。じゃあドレミ達も帰ろっか。もう大丈夫だよ。」
「然う?なら良かった。勝手は分かったし、此の様子なら出来そうだね。」
「うん飃君も皆も御疲れ様。本当に良く出来たと思うよ。其じゃあね、羅魔蛇君バイバイ。」
「悍くなった、もう恐がる事ない。」
―毒も薄くなったし、此処ももう問題ないね。じゃあ気を付けて。―
各々が声を掛けてそっと去って行く。
もう羅魔蛇の頭は何も怒っておらず、穏やかな目をしていた。
―あ、アノ一寸待って下サイ。―
だが慌てた様に、去って行くハリーの尾を軽く銜えた。
振り返るハリーに羅魔蛇は何処か困った顔を浮かべていた。
「如何かしたのかしら。」
―ア、あの、その・・・若し良かったら、又会えタラ散歩にデモ付き合って貰えレバ、その・・・、―
「えぇ然うね。其の時又御一緒しましょう。」
其を聞いて羅魔蛇は嬉しそうに何度も頷いた。
ハリーも其の様子を見て優しく咲い、去って行く。
一同の姿が見えなくなる迄ずっと、羅魔蛇は見送るのだった。
十八の瞳で只ずっと、滴る毒はもう止まっていた。
・・・・・
此の毒が私の吐いた願いだろうか
他者を腐らし、引き摺りこむ様な願いが黔い沼となるならば
噫此は願いじゃない、私の欲望なのだろう
私自身が沼なら出なければ
伸ばした数多の首を絡めて、私は初めて曦を見た
随分あっさりと仕上がってしまいました。今回はかーるく描こうと思ったのでこんな感じになりましたね。もう思い付く儘書きました。小説はやっぱしっかり練らないと膨らまないよね。次回もこんな感じだけれどね。
然う言えば最近と言うか此処何回か話を書いていて思ったんですが、パソコンが変わったのかWordの仕様が変わったのか何だか少し不便になってしまいました。其が筆の遅さに拍車を掛けていますね。大抵斯う言う仕様変更は、自分が特殊な小説を書くタイプなので自分にとっては改悪でも、皆さんにとっては改良だったりするんですが、其でも何だか難しい・・・。Wordが賢くなった許りに造語だとかを誤字と判断して勝手に直しちゃったりするんですよね。何時まで経っても鏡君と飃君が名前として認識されないし、少しと言うか可也手間取っています。とは言え報告をしてくれとWordから言われても造語が認識されないって言うのは何と言うか・・・ねぇ?仕様ですって言われそうだし、変こちって言われるのがオチな気がする。中々斯う言うのって難しいですよね。その所為か変な話が前回上がっているみたいだし・・・。
っと斯う愚痴っても仕方がないです。毒を吐き続けて羅魔蛇になってもいけませんし、今回は此の位で。次回は結構早いかも?割とトントン書けています。
又近々御会い出来る御縁がある事を願って。




