27次元 久遠に瞑る諧和な次元
はい、どうも。ブラックな現実からようこそファンタジーの世界へ!
と言う事でトントンとやって来ました。又短編ですね。たったの二万文字です。たった2万文字で世界が一つ救えるのだから安い話です。
今回はズバリ散歩回、平和だね!一応リメイク話なんですが、リメイク前では炭話と銘打っていました。さて如何言う事なのかは本編を御覧下さいね。
一応近状報告をすると、自分は可也大きな、一生に置いて間違いなく大きな分岐点に立っています。道と挑戦の世界へ足を出す訳です、其の先の未来を信じて。
でも実際斯う言う局面に来ると自分で選んだ道なのに少し不安になるんですね。矢っ張り人は安定を求める物なのか。斯うして見ると常に挑戦し続けるセレさんは余っ程タフで別次元の存在だなぁと熟思います。
でも此の挑戦に、意味はある筈。意味と言うよりも、やる意義が、やらなければいけない義務感と一緒で。
皆さんも何か挑戦する際はくれぐれも慎重に、でも時には大胆に、一緒に頑張れたら良いですね。
今回はそんな、平凡で変化のない、欠の出る程平和な次元への挑戦と脱却の物語です。
永い永い時が流れる
世界は平和だった、何時迄も
そして屹度・・・此からも
此の世界は平和だ
でもだったら、自分は如何なる?
役目を終えた者に平和は余りにも退屈で
此の世界は停滞してしまった、平和が故に
だから自分は目を・・・閉じた。
・・・・・
「さて、到着っと。」
大きくガルダが一つ伸びをする。
旻は高く晴れやかだ。心做し空気も美味しい。何だか良い次元に着いた気がする。
降り立ったのは何処ぞの路地だった。路地ですら芥もなく、暗くじめじめした様な雰囲気もない。穏やかで温かい薫風も吹いているし、此は中々重畳そうだ。
「うむ、中々綺麗な街なのだ。此処は楽しめそうな予感がするのだ。」
「精々煉瓦で転けて怪我丈はするなよ先輩。」
カーディが悪戯っぽく笑ってハリーの背を叩いた。
怒ったハリーが振り返るも、其の際早速床に敷き詰められた煉瓦に蹴躓いてしまったのでカーディは腹を抱えて嗤っていた。
―あのー皆、楽しんでる所悪いんやけど・・・。―
一柱グリスのみ冷や汗を掻き、ある所を指差す。皆も釣られて其の先を見遣ると・・・、
其の先は路地の出口だった。
そして其処には一人の青年が、ガッツリ此方を見て固まっていた。
青年は先を軽く結わえた長い瑠璃色の髪をし、山吹色に光る瞳だった。
至極色の眼鏡を掛けており、着崩れた、何処か古めかしい麻布の様な服を纏っていた。
其の目は何処か宙を見ている様で、正しくぼーっとしていた、と言う体なのだが、其でも眼鏡を掛けているのだから目は見えているのだろう。
此の路地は恐らく本当に只の路地だと思われる。別に面白みも何もない。
では何故彼の青年は立ち止まってしまっているのだろうか。此だとまるで自分達を見ている様ではないか。
服装は多少変わっているだろうが、立ち止まる程でもないだろう。
だとしたら・・・見ていたのは、
緩りと生唾を呑み込む。
俺は正直見た事がないから如何見えるのかは知らないけど、まさか、此の次元に来た瞬間を見られたんじゃないだろうか。
俺の予想では何もない所からぱっと現れる具合だ。若し然うなら彼からすると突然目の前に謎の衣装に身を包んだ異国の人が四人現れた事になる。固まるのも最もだ。
そして困った事に何だか、次元の主導者の気配を彼からする気がする。未だ確信は持てないけれども、斯う事前情報も無く接触するのは不味い。
抑出会いが最悪だ。此は・・・如何出る?
「え、えっとあの、初めまして。」
取り敢えず全次元共通の挨拶をしてみる。此が無いと始まらない。
だが青年は相変わらずぼうっと此方を見る丈で、黙って其の儘路地を進んでしまった。
まるで何も見ていないかの様に、彼の瞬間は正しく時が止まっていたみたいに、無視された。
「ちょ、一寸待てよ!」
無視されたショックは間々あるが、其よりもこんな御別れが良くない事は分かる。
慌ててガルダは足を出し、急いで後を追う。足には自信がそれなりにあるのだ。
・・・まぁセレに駆けっこで勝った事は終ぞなかったけど。
「って・・・あれ?」
角を曲がった所で足が止まってしまう。だって追う対象が居ないから。
然う、何故か彼の青年の姿は何処にも無かった。路地の先は行き止まりになっていたのに。
彼の青年は歩いていたし、抑乗り越えられる様な塀でもない。家々の隙間という具合で、びっちり煉瓦の塀に囲まれている。隠れられる所も無さそうなのに、一体何処へ消えたんだろう。
「ぷはっ、本当に居ないね。匂もしないよ。」
ケルディがガルダのポッケから顔を出した。
「御前の鼻も効かないとなると不味いな。」
「ん、あれ、居ねぇじゃねーか。」
―ま、まさか幽霊とかやったりしないよね。―
追い付いた二柱もきょろきょろ辺りを見るが矢張り見付からない。
ハリーは・・・もう少し掛かりそうだ。
「ま、一般市民だったんだし、通報とかされていなけりゃ良いんじゃねぇか?」
「あれ、次元の主導者だって俺は思ったけど、違ったかな。」
―でも前うち、本当に一般人みたいな次元の主導者に会ったし、彼の人が然うなんやない?うちも変な気がしたし、だから不味いって思ったんやけど。―
「そっか。・・・んー紛らわしいなぁホントメンドクセー。」
「や、やっと追い付いたのだ。ぬ!居ないではないか。何処へ行ったのだ?」
ハリーの嗅覚でも捜せないらしい。此は本格的に何処かへ逃げたな。
「然うだな。じゃあ手分けして捜そうか。何か情報を掴んで置きたいし、然うしないと又見付けてもやる事分からないと意味ないからな。」
―賛成やね。神海戦術、数の利で行きたいね。―
神が滄溟みたく沢山居ると世界大戦争とか終末論みたいだけど、たった三柱と二匹なんだよなぁ・・・。
「行き成り疲れ然うな予感だな。オイ先輩付いてってやろうか?御爺ちゃんの足じゃあきついだろ。」
「ぬ、小童め、我は未だ高が千歳なのだ。龍族では若蔵に入るのだぞ。年寄り扱いは不要なのだ。」
―然うやで。ハリー先輩はほんとは物凄くかっこいいドラゴンなんやで。そんなん言って意地悪してたらカーディは乗っけて貰えんからね。―
「え、何だよ其の話。何時の間にそんな仲良くなったんだよ御前等。ってかドラゴンってマジなのか?其はちゃんと恐竜みたいな奴なんだよな。虫とか魚は勘弁だゼ。」
―おっきい蒼紫の透明な蜥蜴みたいやったで。斯う焔が灯っていて、凄く綺麗なんやで。カーディの只燃える丈の焔と違って触っても熱くないし。―
其を聞いてハリーは胸を反らし得意気だ。其のポーズが上手く取れていないのは御愛嬌だが、斯うも煽てに弱いと騙されないか心配になる。既にセレ神教だとか言う明らかな悪徳宗教に入ってしまっているのだから。
「マ、マジかよ。オイオレも見せてくれよ!そんなの一言も言ってなかったじゃねぇか。」
「うむ、では我に肉を振舞えば考えなくもないのだ。」
案外安かった。ハリーは何とも心の広い龍だったのだ。欲を知らないのだ。
「わ、分かった。次は肉やるから一寸待っててくれよ。」
「其じゃあ早速行こうよ。ボクが一番に見付けるから!」
「然うだな。あ、でも若し出来ればその、金を少し稼げたらと思ったんだけど。」
―金?何に使うん?―
「ほら情報掴むのも頼るのも金は要り様だと思ってさ。折角良い街なんだし、宿とか泊まりたいし。」
「なんだ人嫌いだから泊まってないのかと思ったゼ。あんな店主とつるんでるし。」
「抑宿があるのかも未だ分からないのだ。」
―野宿が好きなんかと思っとったわ。―
ぽんぽんと的外れな答えが返って来て頭を抱えるガルダを他所にケルディは可笑しそうに笑ってポケットに潜った。
「いやあの・・・一体何処から突っ込めば良いんだよ俺。そんな素振り一切なかっただろ?俺はセレと違って可也真面なタイプの神なんだからな。」
「其の発言、店主にチクるとして、ま、良いゼ。オレも宿が良いし、一寸稼いで来る。任せとけ。」
頼もしいと同時に不穏な一言を残してカーディは勢い込んだ儘足早に路地を去ってしまった。
「元気なのは何よりだけど、何だ?大道芸でもするつもりなのか?」
正直セレへの告げ口が今一番気になる所だけど、屹度大丈夫だよな・・・。流石に言ったら俺、只じゃあ済まないぞ。
―肉の為とは言え頑張るんやね。金稼ぐんならうちも多分一緒に居た方が良いから行ってくるわ。―
グリスも軽く手を振ってさっさと駆けて行った。何か当てでもあるのだろうか?
「では我も行って来るのだ。人捜し等然う難しくもないのだ。龍族の活躍が見込めるのだ。」
見付けられても追い付けないだろうし、彼が建物だとかに入るともう詰みなんだけど、其の辺りは黙って置こう。
「オー!」
元気良くケルディが片手を挙げ、一つ尾を振るのだった。
・・・・・
「ぬをーっ‼」
盛大に叫び声を上げてハリーは路地を転がった。
如何やら敷き詰められた煉瓦に足を取られたらしい。
大通りで転けた為に道行く人達は心配そうに彼を見るのだが、ハリーは一、二度頭を振ると元気良く起き上がった。
「むむ、先と似た匂がするのだから近くに居る筈、こんな所で止まっている暇はないのだ。」
威勢良く宣言し、大きく足を出すが、二歩目で足を挫き、又激しく転んでしまう。
傍から見ると大道芸かパントマイムの様に見える。ハリーにとって煉瓦は相当過酷な環境だったのだ。
ハリーは恨めし然うに地面を睨み、緩りと起き上がった。
先から転び捲って埃塗れの土だらけである。ハリーからすれば服も含めて自分の躯なので少し気持悪い。
泥浴びは別に趣味ではないので早くも店の風呂が恋しくなる。
斯う言う時に入る可きなんだろうが、抑セレは入る許可をくれるだろうか。其ともこんなにも汚れた理由を聞いて、未だ許して貰えないのだろうか。
「血、出てる。此使って。」
何処か不自然な片言が降り、眼前に軽く刺繍があしらわれたハンカチが差し出された。
「うむ?有難うなのだ。」
反射的に受け取ろうとするが、中々其はハリーにとって難しい事だった。
薄くて柔らかい物は掴み難い。ハリーが苦戦しているのを見兼ねて声の主は手を出し、血が滲んでいたハリーの膝にハンカチを巻いてくれた。
「助かったのだ。此からはもう少し気を付けて歩くの・・・だ。」
ハリーの鼻が動き、ハンカチの主を見遣る。
彼は正にハリー達が捜していた彼の青年だった。相変わらず眼鏡の奥の瞳は何処か宙を見ている様である。
匂が変わっている所為で直ぐには気付けなかったのだ。何て言うか次元の主導者の様な、けれども断定するのは難しい、そんな具合で上手く勘も働かない。
「ぬぬ、其方を捜していたのだ、少し話をしたいのだ。」
やおら立ち上がったハリーは少しふらついてしまい、青年は何処か見守る様にハリーをじっと見ていた。
そして何か合点が行ったのか僅かに其の目の焦点が合った気がした。
「若し、先仲間と居た者?」
「う、うむ?そ、然うなのだ。」
何とも分かり難い話し方をする。龍族も次元に感応し易いので言葉が分からないと言う事はない筈なのに、何処か異国の言葉を聞いている様だ。
別に此処に来る迄に他の街人の話は普通に理解出来たんだ。矢張り彼に違和感を覚える。
「早く、帰る、良い。他の仲間伝えて。」
「む、其は如何言う事なのだ?」
早く・・・帰った方が良いと言ったのだろうか。帰るって、でも何処に?
まさか、何か知っているのだろうか。自分達の事を。
然う言えばあんな出会いをしたのに彼は余り憶えてくれていない様だったし、印象に残っていないと言う事は、慣れていると言う事だろうか。
青年は用件が済んだと許りにハリーに背を向け、大通りか脇道へ逸れてしまう。
曲がり切る直前青年は小さく手を振った。ハリーの耳にはっきりと別れの言葉が届く。
慌ててハリーは走り、後を追った。今度は慎重に、転けずに角を曲がる事に成功する。
「ぬぅ・・・ま、又やられたのだ。」
だが努力も空しく青年の姿は其処には無かった。
隠れられそうな所もなく、家々が立ち並び、越えられそうもない塀が続く。
匂も分からなくなってしまった。振出しに戻ってしまったとハリーは溜息を付き、踵を返す際に転けるのを忘れず、又大通りへ戻るのだった。
・・・・・
一方ガルダは一柱大きな公園内をぶら付いていた。
別に手掛かり一つないのだ。只歩き回って捜すしかないのだが。
少し休憩でもしようかと手頃なベンチに座り、何の気なしに公園を見遣る。
様々な遊具があり、子供達の歓声が少し離れた此方迄聞こえて来た。
見た事のない遊具が多くて、子供達が遊ぶ様を見るのも中々面白い。意外な遊び方をするのもあったのでつい見入ってしまう。
若し前世にもこんな公園があったらセレも少しは外に出る様になったかなぁ・・・。霄型と言うのは如何しても不健康な気がしてならないんだ。
少し考えたけれども如何しても今目の前にいる子供達と同じ顔を彼女が浮かべる様が想像出来ず、諦めた。
あんな齢のセレは本当に笑わなかったからなぁ・・・。寧ろ何時も人がいるからセレにとって鬼門になっていたかも知れない。
一回位、遊ばせてやりたいんだけどな。
・・・あれ、何か今の俺の図、結構不味くないか?
昼間っから独り身の青年が公園のベンチに座って子供達を見てるって・・・。
何か不味い気がする。兎に角、セレに見られたら何か言われそうだ。
とは言っても此の次元、本当に何もないのだ。
話を聞いたり、図書館や其らしい所へ行ったりしたんだが、本当に只の平和な次元だ。
黔日夢の次元の歪も見られない。若しかしたら、と思う記事はあったんだが、其は数千年前の、旻が黔く光ったという異常気象のみだった。
然も本当に旻が光った丈だ。其以外は何もない。
抑其の程度の事が斯う歴史に遺されている程、此の次元は平和過ぎたのだ。
良い事なんだけど・・・うん。全く悪くはないんだけど、御蔭で手詰まりだ。
彼の次元の主導者が特にリアクションしなかったのも、慣れていると言うより、何も危険な事のない次元だから、変わった事もあるなぁ位で特に警戒もされずに行ってしまったのかも知れない。
まぁもう少し丈休憩したら行こうかと適当に目を走らせた時だった。
「・・・・・。」
居た。彼の次元の主導者に間違いない。彼の眼鏡と何処かぼーっとした目は間違えようがない。
何故か彼は鞦韆を漕いでいた。
子供達に紛れる様に自然と居るけど、気付くと矢っ張り違和感しかない。
声・・・掛け難いなぁ。別に知り合いでも何でもないんだし。
と言っても無視する訳にも行かないし、仕方ないか。
彼も彼で良く一人で公園に入れるなぁ、見ている丈の俺もダメージを食らっているのに、一緒に遊ぶとかレベルが高過ぎる。
若しかして誰かと待ち合わせとかしているのかな。だったら未だ分かるけど。
一応辺りを見渡して、ガルダはそっと青年に近付き、隣の鞦韆に腰掛けた。
別にそんな揺らすつもりもなく適当にしているが、隣の青年は結構元気一杯に蹴っている。
軽く結わえている丈なので長髪が結構揺れて乱れてしまっているが、気にしてないのだろうか。
「よ、良い天気だな。」
今回は無視等出来まい。取り敢えず無難な挨拶を。
未だ此の青年とは零なんだ。完全な初対面だ。
こんな平和な次元の所為で次元の主導者である彼が何をするのか、何をすれば良いのかがさっぱりだった。此から探って行かないと。
「是、天気良好。」
「・・・・・。」
何て・・・言ったんだ?不味いな、完全に聞き逃した。最初の挨拶が肝心なのに。
・・・まぁ多分然うだね、位の事を言ってくれたんだろう。行き成り話し掛けんなオッサン、とか言われたら死ねる。
ほらでも良い人然うだし、屹度大丈夫だよ、な。
「良く公園って来るのか?一寸暇しててさ。良かったら話し相手になってくれると良いなぁ、なんて。」
「又其・・・。」
青年は其処で初めてガルダを見遣った。眼鏡が陽光を受けて光るが、其の奥の瞳は焦点が合っていない気がした。
そして・・・何だろう、其の目で見られると何処か悪寒を感じた。
悪寒と言うか、何だ此の違和感、畏怖・・・みたいな。
「此方関わる、良くない。早く帰る、良い。残るの、良くない。」
「残るのが・・・良くないってか?何だ?何かあるのか?」
聞き間違いじゃない。此の青年が態と分からない言葉を使っているんだ。
片言の様な、埃を被った様な言葉。
神は次元の言葉の意味を感じる事で言葉を理解し、話す事が出来る。
其が出来ないのは、相手が拒んだ時丈だ。
でも如何して、関わって欲しくないのか?でも其だと此の次元厳しいな、手の打ち様が無くなってしまう。
「・・・一緒、なる。一緒、なってしまう。」
其の瞬間、青年は迚も悲しそうな色を瞳の奥に隠した、そんな気がした。
氷雨の様に冷たくて、突き放す様な言葉。
でも其は如何言う意味なんだろう。
一緒になる?何が一体一緒になるんだ?
答えあぐねてガルダが少し黙ると青年は少し丈首を傾げた。
そして鞦韆を降りてしまい、軽く手を振って何処へともなく歩いて行く。
「あ、一寸待てよ。」
強引だけど、引き留めるしかない。少しでも時間が欲しいんだ。
ガルダが追い掛けて来る事等気にも留めず、青年は公園を去って適当な路地に入る。
嫌な予感がし、間髪入れずにガルダも路地に入る。だが案の定と言うか何て言うか、矢張り其処に青年の姿はなかった。
魔術では・・・恐らくない。此の次元、魔力を感じないんだ。屹度魔力のない次元。
だとしたら移動手段は足しかない筈なのに・・・。
「ま、又やられたのか。」
此は、避けられてるんじゃないのか?こんな直ぐに消えるなんて、
一応他の街人も見ていたが、彼の様な奇怪な現象は起きなかった。
此の次元の主導者には何か秘密がある。でも其は一体・・・。
もう少し近付かないと流石に分からないな。でも此以上は何だかうざがられそうだよな。現に面倒そうな様子だったし。
仕方ない、今回は情報収集に徹しよう。無理に探してももう無駄な気がする。
頭を一つ掻いてガルダは路地を去ったのだった。
・・・・・
陽も可也暮れ、一同は適当な路地に集まった。
今回の其々の成果を報告する為なのだが、報告する迄もなく、大きな成果が出ていた。
ガルダはカーディから集合場所の変更を御願いされていた。
如何言う事か良く分からずも了承したのだが、現場に着いて彼は何となく察する事が出来た。
集合場所、とある路地である筈の其処には一軒の店が出来ていた。
大きく掲げられた木製の看板を見遣ると『炭屋』と書いてある様に見える。
見上げた店はこじんまりとした樹の家だが、何処か真新しい碧樹の匂がした。
不審に思ってガルダが店の中へ入ると、金の瀛海を泳ぐカーディの姿があったのだ。
・・・いや、矢っ張り分かんねぇよ。何だよ此の状況。
緩り時間を掛け、近状の出来事を辿っていたガルダだが、結論は出なかった。
ハリーが帰って来る迄然うしていたのだが、何故か満身創痍のハリーが帰って来ても状況は一向に進んでいなかった。
そしてハリーも同じ様に目を白くする丈で、混乱が増す許りである。矢張り此処は当事者の御二柱に是非とも話を聞かないと進まなそうだ。
店の一室を覆い尽くす札束の瀛海を泳ぐカーディは高らかに笑って煩い丈だし、多分色々壊れてしまっている。
仕方なく何処か寠れた様子のグリスに的を絞る事にした。
疲れている所申し訳ないけれど、もう自分は御手上げだ。
「えっとグリス、俺達と別れた後、何があったんだ?」
―然う・・・やね。カーディが何か金稼ぎに燃えちゃって、稼ぎに稼いだ結果が此の店と其処の金なんよ。―
苦笑いを浮かべてグリスは手を振る。彼女の話を要約すると、此の様な具合だった。
矢張りと言うか何と言うか、最初に飛び出したカーディに特に算段は無く、如何金を稼ぐか頭を悩ませていたそうだ。
其処にグリスも加わったが、別に手に職がある訳でもなく、取り敢えず何か出来ないかを模索し始めた。
別に芸が出来る訳でもなく、素上の知れない者としては短期と言えども働くのも儘ならないし、となると現実的なのは物売りだった。
では何が売れるのかと言えば、カーディの焔は燃やす事しか出来ないので、グリスの翠の術、植物を何とかして売る事にした。
其で二柱で出来る事と言えば・・・と考え、出来たのが炭だった。
グリスが頓竹を生やし、カーディが良い具合に火を調節して燃やし、炭へ変えて行く。
此を適当に歩き売りしてみると、如何言う訳か飛ぶ様に売れたのだと言う。
然う、飛ぶ様に売れてしまったのだ。
別に二柱は炭職神ではないので一応炭になったレベルの物しか作れていない。
本神達ですら全く期待していなかった。小遣い稼ぎが出来れば良いなぁ位だった。
次元の主導者を捜す序でに売ろう、其の位だったのだ。
だが売れに売れた結果、噂が噂を呼び、人集りに遭って思う様に聞き込みが出来なくなった。そして終にメインが炭売りに交代し、グリスが即席で樹の店を作って、一日此処で売っていたのだと言う。
其にしても一体如何してそんなに売れたんだろう。炭って確かに色々と優れているけれども、安いから直ぐ買いに行く程の物ではない気がする。
生活必需品ではない訳だ。だのに此処の人達は嬉しそうに炭を大量に買い込み、ほくほくと満面笑顔で去って行く。そして其の道中で他の人々へ“其処で炭が大安売りしている”と伝え、其の人も駆け込まん許りに来店する。然う言った状態になっていたのだ。
此の次元では自分達が知らない新しい炭の使い方があるのだろうか・・・謎だ。
そしてガルダ達が帰る少し前に無理矢理閉店にし、現在である。
二柱は張り切って炭を作り過ぎたが為に魔力を相当消費し、可也疲弊している様だった。
「そ、然うなんだ。其は御疲れだったな。」
―んーでも張り切りはしたけど次元の主導者の情報は零なんよ。一日無駄にして御免ね。―
「まぁ其は俺も似たり寄ったりだし、別に良いけどさ。でも・・・カーディの彼は大丈夫なのか?」
そっとグリスに耳打ちをする。何処から如何見ても壊れている。
金の瀛海をああも楽し気に泳ぐなんて、夢見る事はあるかも知れないけど、彼の何処か虚ろな目は危険な気がする。何だか御華畠に旅立っている様な目だ。
「でも何だか楽しそうだけどね。彼をボクの焔で燃やしたら正気に戻るかもね。」
可愛い顔をして何とも酷い事を言う。ポケットの住獣、ケルディは悪戯っぽく尾を振って鼻先を向けた。
―まぁカーディにしては本当今日は頑張ったんよ。多分・・・大丈夫なんやないかな。明日もああなってたら殴って起こしても良いから。―
頑張ったと労う割には中々酷い扱いだ。取り敢えずそっとして置こう。
「宿は如何しようか。一応見付けたんだけど皆行くか?金は時空の穴にでも入れて置けば大丈夫だろ。まさか本当に泊まれる程稼ぐなんてな。」
物価が今一未だ分かっていないけれど、街での遣り取りを見ている限り、此丈あれば間違いなく泊まれる丈はある。十日位は泊まれるんじゃないかな。
取り敢えず時空の穴を大き目に出し、せっせと金を詰めて行く。
こんな大金を目にしてしまうとまるで銀行強盗でもしている気分だ。
札束が減って来ると我に返ったのかカーディも起き上がった。御金の魔力って恐い。
一通り状況説明をしつつ手伝って貰おう。
ハリーも一所懸命手伝ってくれているけれども・・・中々厳しい様だ。破いたりしないようハラハラして見守らないといけない。
彼からしたら如何して此の紙切れで宿に泊まったり食べ物が買えるのか謎なのだが、適当に人間は綺麗な紙が好きなのだと解釈した様だ。出来ないと知りつつも一所懸命に頑張る姿は微笑ましくもあった。
別に盗られても困る物も無いので一同は金を詰め終えると樹の店を後にし、其の儘近所の宿へ入った。
中々上品で雰囲気の良い、少し高そうな店だったが、ガルダが適当に金を出すとあっさりチェックインが済み、慌てて部屋へ案内された。
矢っ張り大金の様だ。炭って凄い。まさか此処迄豪遊させてくれるなんて。
前世では此の札一枚に何丈苦労したか、本当セレには頭が上がらない。あんな幼かったのに俺迄養ってくれていたんだからな。
食事も運ばれ、一同は早速報告会を始めた。肉を食べさせて貰えた事でハリーの機嫌を取り、無事カーディは彼の本性を見せて貰える権利をちゃっかり入手する。
店に戻ったら見せてくれるという約束をしたので、未だ仕事は終わっていないのにもう彼は満足気だった。
・・・彼の次元の主導者を捜す事、すっかり忘れてそうである。
「えーっと、一応俺一回彼奴を見付けたんだけど、今一言葉が通じなくてさ。取り敢えず、早く帰った方が良いって警告丈されて逃げられちゃったんだ。」
「匂も辿れなかったね。変なの。」
「む、我もなのだ。怪我した足にハンカチを巻いてくれたのだが、直ぐ消えてしまったのだ。」
「ハンカチって、一枚じゃ全然足りないじゃん。金あるんだから百枚位買ったら良いのに。」
ハリーの足に捲かれたハンカチを見てカーディは嫌な笑みを浮かべる。
因みにハリーの怪我はもう既にガルダが治している。其でもハリーは嬉しかったのかハンカチを巻いた儘にしていたのだ。彼なりの御洒落のつもりなのかも知れない。
暫くハリーはきょとんとしていたが、其の意図に気付くや否や噛み付かん許りにカーディを睨んだ。
「違うのだ。彼の時は此処にしか怪我をしていなかったのだ。一日も歩いたら彼の位になって当然なのだ。」
「いや流石にドラゴンと戦った勇者並みの傷を負うのは御前丈だろ。」
「ドラゴンは我なのだ!」
―もぅカーディ然うやって直ぐ揶揄うんやから。うち等は成果零なんやから何も言えんのんやで。―
「っぐ、ま、まぁ然うだけどさ・・・。彼だよ、運が無かったんだろ。ま、彼の人気振りなら明日も売り続けりゃあフラッと彼奴が買いに来るかもな。どうせ此の辺りに住んでんだろうし、街人全員が一回は足を運ぶ様な超有名店になれば良いんだろ。」
―其歩き回るより疲れる思うけどカーディは良いんやね。―
カーディが其のつもりなら間違い無く自分も一緒に店を任されてしまう。正直そんな奇跡を願う位なら歩いた方が楽な気がするけど。現に歩いていた二柱は出会ってるんだし。
仮に来てくれても客と店の関係なんだから発展しそうにないし・・・。
―・・・あれ、然う言えば二柱は全く違う所捜したんだよね?なのに二柱共出会えるもんなん?次元の主導者は余っ程の散歩好きなんやね。―
「・・・んん、あれ、然う言えば然うだな。俺は昼前位に会ったんだけど、結構離れの公園だったから最初俺達と会った後真っ直ぐ行ったのかなって思ってたんだけど。」
「うむ?我が会ったのも昼前なのだ。」
「若しかして何方か勘違いなんじゃねぇのか?一瞬しか見てないんだしさ。」
「んーでも次元の主導者の気を間違える筈ないんだけどなぁ。此の次元、魔力も無いしさ。」
―矢っ張り然うなんやね。うち等が炭売ってる時、如何やって作ってるのか聞かれたんよ。如何も此の次元、火がないみたいで、其で希少価値が付いたんかも。―
「其でも炭を買おうとはしないと思うけどさ。あんなの、只でも要らねぇだろ。」
―其は本物の炭職人に失礼やと思うけど。まぁうち等の適当な作り方の炭は然うやね。出来が良いとは思えんわ。―
「・・・火が無いんなら煉瓦とか如何してるのか反対に聞いてみたいけど、まぁ良いか。術もないんなら何か俺達の知らない資源があるのかも知れないしな。」
現に運ばれて来た料理は何も温かい。スープや鳥の肉を焼いた風なのもあるから代替品はある筈だ。若しかしたら電気だとかが発達しているとか・・・?
「術が無いのなら我の幻術でも見世物として金が稼げたのかも知れないのだ。こんな次元もあるのだな。」
「パントマイムの方が見てて面白いけどな。」
呑気にスープを飲むカーディをハリーは又睨んだ。此だと先やっと手に入れた真の姿を拝めるチケットを取り消されるのも然う遠くない気がする。
「手品なら幻術遣いの右に出る者は居ないだろうけどさ。其にしても、じゃあ彼の次元の主導者一体如何やってあんな遠距離を移動したんだろう・・・。走った訳じゃあないだろうし。」
「ボクの虚焔みたいな物かもね。マークか何かあるのかも。」
焼き鳥を頬張って其の脂で口元をベタベタにしたケルディが顔を上げた。
口に合って良かった。彼は少々偏食気味なのだ。
「噫彼か・・・。御前は無駄遣いしてばっかりだもんな。魔術は無くても呪式は存在するとか、其の類の可能性もあるよな。其か・・・若しかして転送装置とか持ってるのかな、小型の。」
「へぇ良いじゃん其。SFの醍醐味じゃねぇか。魔術の代わりに科学が発達したかもって事だろ。」
ロマンだ夢だと繰り返し、カーディは大き目に切った肉に齧り付いた。
其の様を見てケルディは小さく舌舐りをしている。次のターゲットは彼の様だ。
―小型転送装置って・・・凄い先進技術の結晶みたいやね。因みに先言った虚焔ってどんな技なん?―
グリスが少し身を乗り出し、テーブルの上のケルディを見遣る。
彼はペロッと口元を舐めると少し胸を反らした。胸元の皓い毛が一気に広がった様に膨らんだ。
―二つの焔を召還して、片方の焔に飛び込むともう片方の焔から出る技だよ。余り遠いと出来ないけど、ボクの得意技だよ。―
聞いた限りでは迚も便利そうな力なのだが、彼は主に其をポケット間の移動に使っている。だからケルディは俺のポケットの左右、好きな方から飛び出して来るんだけど。
完璧な無駄遣いだが、グリスが余りにもキラキラした羨望の眼差しで彼を見ていたのでガルダは余計な茶々を入れない事にした。
―凄い、もう殆どテレポートやん。彼って高等魔術やと思ったのに。―
グリスの視線を受けた儘ケルディは又肉を食べ始めた。其の味は先より美味しく感じた事だろう。
狐火は抑焔が本体なので其の様な技も使えるのだ。
「其にしても此、そんなに欲しがる物なの?」
ケルディは残った炭の端切れを玩具として貰っていた。叩くと軽い音がし、彼は尾でそっと表面を払った。
「若しかして術式を書くのに役立つからだとか・・・か?んー此は明日もう少し探すしかなさそうだな。何か変わった次元っぽいし、見落としがあるかも知れないし。」
大きな問題が無い分難航しそうだ。
今ある情報丈を繋げて然う結論付けたけど、未だ情報不足感がある。様子見が必要だ。
後は雑談も交えつつ報告会は終了し、一同は温かな夕食に舌鼓を打つのだった。
・・・・・
翌日、旻は高く、鳥は謳い、何とも清々しい晁だった。
取り敢えず昨日の話の中でも此の次元は偉く平和だと言う事が分かった。
激安の炭を疑いもせず買う様子からも窺える。別に騙したりすると言う訳ではないが、疑うと言う事を此処の人々は知らなかったのだ。
昨霄も喧噪もなく、旻を飛び交う飛行機の重低音や、騒々しい車の音も無かった。熟平和と言う二文字が似合う次元だ。
本当前世とは偉く違う次元だ。街並みは一寸似ているのに彼の街を掃除しても斯うはならないだろう。空気から何迄違うのだ。
如何しても然う思う度セレの俤がちらつく。彼女の捻くれている所が嫌って訳じゃあないけれど、こんな街だったらもっと素直な性格になったのかな。
彼女は酷く臆病だったから、恐い事全部無くなったら、屹度もっと・・・、
・・・何て、今更考えても遅いか。神になっても過去には行けないもんな。
一同が宿を後にすると、何やら通りが騒がしい。
昨日一日平和だった為に迚も気に掛かる。一体何があったんだろう。
不思議がって見遣っていると街人の一人がカーディ達に気付き、遠慮勝ちに寄って来た。
「あの、若しかして昨日炭を売ってくれていた方よね?今日は何時から開店なのかしら。」
「え?あ、まさか、」
街人の女性が目を輝かせて尋ねるが、嫌な予感が過り、カーディは即座に駆け出して路地を曲がって行った。
其の先には昨日やっつけで造った炭屋がある。
カーディが店の前迄行くと既に可也の人集りになっていた。
「な、なんじゃこりゃあぁ‼」
―う、うわー此は、可也期待されちゃったみたいやね・・・。―
追い付いたグリスが既に少し疲れた顔をする。
カーディの叫びを聞き、店に集まっていた街人達はさっと視線を寄越した。
「あ、ほら昨日の方よ。此処の炭本当に良くて、又来ちゃったわ。」
「何時開けてくれるんだい?待ち遠しくて早くから来ちゃったよ。」
「噫まさかこんな所で炭が買えるなんて、何て幸せなの。」
期待の籠った眼差しが四方八方から寄せられる。
宛らスターの様だ。此の街の人々は小さな炭職神に一心の期待を寄せていたのだ。
「よ、良し、早速やるぞグリス!斯うなったらやってやる!」
―ま、然うやね。こんなに持ち上げられたら仕方ないわ。―
斯うなる事は少し想像出来ていた。矢っ張り今日も歩いて捜すのは無理そうだ。
―御免先輩達、うち等余計な事しちゃったみたい、此の儘やと可哀相やし、落ち着いたらうち等も捜すから。―
「此って落ち着く物なのか?」
昨日の金の瀛海から余っ程の人気振りだとは察したが、矢張り目にすると全然違う。
まさかこんな大事になってるなんて、最早祭りの域だ。
文字通り人でごった返しになっているし、未だ増えている気がする。
加えて誰もがキラキラと宛らスターを迎える様な目で自分達を見ているのだ。
此を断るのは一寸・・・心苦しい物がある。
「よし、じゃあ俺も一寸手伝うよ。売るの位なら出来るから二柱は炭作りに専念したら良いんじゃないかな。」
「我も手伝うのだ。皆でやれば早く終わるのだ。」
「え、あ、そ、然うだな。頼むぜハリー。」
ハリーは一体何が出来るんだろう。・・・うーん、注文を取る位は出来そうか?
「ボクも大きくなったら炭位運べるかな・・・。良いよ、皆で頑張ろうね。」
「大きく・・・?ま、良いや。じゃあ早速やろうゼ。」
一同はいそいそと店に入ると、早速開店準備に取り掛かるのだった。
・・・・・
斯くして、戦場の火蓋は切って落とされた。
迫り来る善良なる街人の群は減る事も恐れる事もなく果敢に此の小さな商店へ雪崩の様に押し寄せて来る。
加えて人々の響動めきや歓声は呼び声となり、新たな街人を此の路地へ誘い込んでは其の列に加えて行った。
対する此方の手駒はたった五名。選りすぐりの精鋭であり、又神であり、龍である彼等と言えども状況は宜しくなかった。
明らかな敗色、だが彼等は諦める事なく勇敢にも其の街人の群へと猛進する。
気高き勇気、そして適正なる采配により、其でも彼等は果敢に挑み続けた。
翠の申し子グリス神が蒼くも鋭い竹を次々に召還し、焔の使いの手カーディ神は其の竹を瞬時に紅蓮の焔で包んでしまう。
然うして暫く絳の焔と翠の竹の演舞を重ね、次第に互いの身は漆黔へ染まり、幾本もの炭が出来上がった。
正に神業、人智を超えた力である。
そして狐火事ケルディが其の炭を適当な大きさへ噛み切り、受付と言う戦場の最前線にいる幻霧龍ハルスリー・ションと皓き不死鳥ガルダ神へ届けられる。
ケルディは大きな狐の姿へなる事で容易に猛々しくも鋭い牙で炭を分断する。
対してハリーは御し難い人の身であれど気合丈は十二分であり、何とか期待に応えようと全力で努めた。
斯くして此の完全なる布陣に因って一同は戦いに臨んだのである。
勇猛果敢とは正に此の通り、敗色濃厚だった炭屋も負けじと街人の客足に食らい付き、少しずつではあるが確実に通りは平穏を取り戻して行った。
一同が心の中でそっと息を付いていると一人の少女が炭屋にやって来た。
「あの、炭十個下さい。」
店のカウンターは少女には少し高過ぎた様で、何とか少女は背伸びをして何枚かの札をカウンターに置いた。
「お、御遣いか?偉いな。じゃあ一個御負けな。」
心に余裕が出て来たのでついサービスもしてしまう。別に稼ぐ為に店をしている訳ではないのだ。
・・・正直サービスで炭一本増やした所で嬉しいのか如何かは微妙な所だけど。
「ほ、本当?あ、有難う御兄さん!」
だが予想に反して少女の声は弾み、嬉しそうに紙包みを受け取る。
そして中から一本を取り出し、徐に口に銜えた。
「っ?お、おい其食っちゃ駄目だぞ。美味しくな・・・、」
慌ててガルダが取り上げようとしたが、其処で不図異音が其処彼処でしている事に気付いた。
まるで何かを削る様な、ガリガリと、スナック菓子でも食べている様なくぐもった咀嚼音。
そっとガルダが視線丈を辺りにやると、あろう事か周りで談笑していた街人達は皆、手に手に炭を持ち、バリバリとまるでパンでも頬張るかの様に炭を食べていたのだ。
彼は・・・本当に炭か?いや、炭以外の何物にも見えない。紛れもなく先此処で買って、自分が手渡した物だ。
目の前の少女も嬉しそうに目を細めて味わっている。別に無理に食べているとかではなく、主食並みにガッツリ食べていた。
「うん、すっごく美味しい!御兄さん達、炭作るの上手なんだね!」
然う笑う少女の口内は真黔である。
口元に付いた食べ滓は大抵愛嬌を誘う物だが、如何せん其が真黔の塊なので何とも言い難い。
「そ、然うか。有難う・・・。」
余感謝された感が無い。然うか、思いが食い違うと同じ言葉でも斯うも違うんだ。
然うか、今迄忙しかったから余り周りを見ていなかったし、仮に見てもあり得ない、見間違いだろうと、脳が拒否していたのかも知れない。
まぁ・・・大丈夫、だよな。変な病気とかにならないなら、本人達は幸せそうだし。
火が存在しない分、炭を大量生産出来ないから需要が高いのでは、迄は考え付いていたけれども、まさか食用だったとは・・・。
然も人目も憚らず皆一緒に食べている。主食より主になってる。家へ持って帰る迄待てないのなら、炭はもう彼等にとって空気に等しいのだろう。
然うか、俺ずっと気付かなかったけど、此処飲食店だったんだな。・・・多分従業員の誰も知らないけど。
色んな次元もあるなぁとガルダは一つ息を付いた。
「炭二十個、頂戴。」
「あ、はい、いらっしゃいませ、はい二十・・・、」
突然の声に慌てて慣れた手付きで炭を袋に詰めて手渡す。
最早こんな大量注文にも慣れてしまった。飛ぶ様に売れて行くんだなぁ此が。
感慨深くも思い乍ら初めて其の客と顔を合わせたのだが、
あろう事か相手は彼の次元の主導者だった。
相変わらず何処かぼーっとした目で、でも炭を受け取ると嬉しそうな顔を浮かべた。
ほ、本当に来た。まさかこんなのに引っ掛かるなんて。
だが青年はガルダの事を覚えていない様で特に意に介した風もなく歩き出してしまう。
不味い、見送ったら最後だ。此処で捕まえないと。
途端ガルダは青年に大きく飛び掛かった。何も考えず、只彼を確保したい一心で。
だが其の甲斐も空しく青年が少し早く先に一歩出してしまったので呆気なく煉瓦に俯せになってしまう。
「・・・・・。」
流石に青年も足を止め、振り返ってガルダを見遣った。
そして炭を一つ取り、其の場でバリバリと食べ始めてしまう。
頭上から降り注がれる其の咀嚼音は何だか嘲笑っている様な気がした。
「よ、こんな所で会うとは奇遇だな。」
其でもめげずに彼は起き上がって膝の埃を払った。
随分大きく飛んでしまった。まさかカウンターから出るなんて、うっかり捕まえた方が変な誤解を生む所だったかも知れない。
挨拶の代わりに手を出すが、青年は少し丈首を傾げると、其の儘ガルダに背を向けてスタスタと歩いて行ってしまう。
周りで炭を頬張っていた街人達も何事かとひそひそ話をする。
「み、皆早く追い掛けるぞ!やっと見付けたんだぞ!」
其の噂の渦中に自分がいるのが耐え切れずやおらガルダは声を上げる。
「え、マジでオレの作戦大当たりかよ!一寸待ってろよ!」
―う、うちも。あーもう炭全部只やって置いとったらええやろカーディ。―
「ぷはっ、ボクが付いてるよ。今度こそ匂をしっかり辿るから行こうガルダ!」
行こうか如何か焦るガルダのポケットから小さくなったケルディが出て来た。
珍しく能力を有効活用した様だ。
「然うだな。頼むぜケルディ!」
ハリーも出てくれているけど、彼の足じゃあ無理だ。悪いけど置いて行こう。
取り敢えず足を出す。次元の主導者はもう角を曲がってしまっている。
追い掛けたが矢張り曲がる角の先には居なかった。只此処は大通りだ。他の街人に紛れているのかも知れない。ガルダは其の儘駆け出した。
「・・・うん、良いよ、合ってる。此方の方が匂が濃いいよ。真直ぐ走って。」
「よし、今回こそ逃げられて堪るか!」
もう無視は懲り懲りだ。今回はケルディの鼻も効いている。
・・・若しかしたら人通りが多いのが幸いしているのかも知れない。前迄は角を曲がるとふつりと途切れていたけれども今回は辿り易い。
若し次元の主導者が何らかの力やらで逃げているのだとしたら、人の目を集めた彼の炭屋で待つ作戦は案外大当たりだったのかも知れない。
とは言え此処で逃げられたら旧の木阿弥だ。加えて二度目のチャンスはないだろう。
此処迄来れば流石に避けれれているって分かってるから。
ガルダは一つ息を吸うとより足に力を入れて駆けるのだった。
・・・・・
暫く走ったが中々次元の主導者に追い付けない。カーディ達も未だ追い付かない様で、ガルダはポケットのケルディと二柱で捜し続けた。
可也走ったけどそろそろ不味い。人は疎らになり、路地も見えて来た。
若し未だ追われている事に向こうが気付けば逃げられる可能性もある。
ジグザグには逃げている様だけど、未だ匂は辿れている。只逃げられるのはもう時間の問題かも知れない。
「っ待って!匂が・・・、」
ケルディの声にやっとガルダの足が止まる。熱くなった胸で息を吸い、伝う汗を拭った。
此処迄・・・か。
沈んだ目でケルディの言葉の続きを待つ。
だがケルディはポケットから鼻先を上げ、ガルダを見遣った。
否、其の上の旻を、
彼の頭の輝石の焔が弾ける。
「居たよ、上!」
ケルディの予想外の言葉に一瞬ガルダは硬直し、慌てて背後を見上げる。
其処には確かに彼の青年が居た。
だが、普通は有り得ない。其処に居る筈がない。
だって、其処は・・・旻中だ。
翼も無しに青年は旻を踏んで立っていた。まるで見えない玻璃の道が旻に架かっている様に。
只、青年は浮いていたのだ。
青年はじっと其処でガルダを見ていた様で、其の眼光は今迄見た中で最も冴え冴えとしており、つい目を逸らしそうになる程痛い物だった。
「・・・何時迄付いて来るつもり?」
そっと呟く其の言葉も冷たくて、突き放す様だった。
青年は緩りと地面に近付き、そっと地に降り立った。
そして只じっとガルダを見詰めている。もう彼の虚空を見る様な目ではなく、此方をじっと見ていた。
「やっと見付けた・・・。」
一先ず大きく息を付く。
でも先のは一体・・・、事ある事に逃げられていたのは今みたいに彼が途中から飛んで逃げてしまったからなのだろう。
飛べば建物も道も関係なく、走るより早く移動出来るだろうし、其の所為で匂が途切れてしまうのも頷ける。
でも今迄別に街人が飛んだ所なんて見た事が無い。小型転送装置ならぬ、小型浮遊装置でも持っているのだろうか。
「・・・帰れって言った筈、如何して残った。」
詰問・・・されている。如何やら可也彼を怒らせてしまったらしい。
もう一つ息を付いて、緩りとガルダは言葉を探した。
見付けるのが目的なんじゃない。此処からが本番だ。
「其の帰れって事なんだけど、具体的に如何言う事なんだ?何か俺達の事・・・知ってるのか?」
質問に質問で返す様だけど仕方ない。此の話、何か食い違いがある気がする。
然う言うと青年は目を丸くした。・・・矢っ張り何かずれがある様だ。
「知ってるって・・・神、違う?」
「ワォ、凄い事知ってるね。本当に知ってるんだ、ボク達の事。」
ケルディがポケットから顔を出し、鼻をひくつかせた。
「・・・?誰、君。」
青年は先より目を丸くした。何だろう此の反応、ずっと今迄無関心だったのに、何が彼に触れたんだろう。
「ボク?ボクはケルディだよ!龍族の狐火、ケルディだよ。君は?」
少し背伸びしてケルディが片手を挙げる。あざとさは天下一品だ。
でも然り気無く相手へ聞き返してくれたりと斯う見えて結構狡賢いんだよな・・・狐丈に?
「・・・鏡(キョウ)。」
ぽつりと一言呟いて、何処か淋しそうに苦笑した。
「名、名乗ったの、何千年振り。」
「え、今何て言ったんだ?」
何か変な事言わなかったか?
青年事鏡は首を傾げてガルダを見遣る。噫然う言えば俺も名乗らないと。只の失礼な奴になってしまう。
「えっと俺はガルダ、ガルダリューだ。まぁ確かに神、ではあるけど、何でそんな事知ってんだ?」
次元の主導者と言えども其の次元の核と言う丈だ。次元の外の事について基本的に知らない筈、だって其等は彼等に不必要な情報だ。
鏡は少し考える素振りをした。其の瞳は濃い山吹色を照らす。
そしてある答えに行き着いた様で、少し口を開いた。
・・・如何やら彼の中で何かが繋がったらしい。
「若し、此方の事、知らない?」
「ん?然うだよ。ボク達は君が次元の主導者って事しか知らないよ。初めましてなんだよ。」
「龍族、此方知らない。つまり皆外の者・・・?」
何か呟くが聞き取れても矢張り意味は分かり難い。会話をしてくれているのに如何して未だ言葉が分かり難いんだろう。
無意識に遠避けられてるのかな・・・。
「此方、次元の主導者、否。此の次元の神、幸せの象徴。」
「は?次元の主導者じゃないのか?えっと神・・・なのか?自分も?」
ガルダの問い掛けに彼は首を縦に振る。
・・・え?本当に?何其の突然の告白・・・。
黙ってケルディを見遣るが彼も大きな瞳を丸くして見上げる丈だった。
「次元の主導者、此の世界其の物。此方、此の次元見護る神、ずっと此処、居る。」
世界が次元の主導者?いや、其が全く無い訳でもないか。次元と世界は厳密には別の物だ。だから然う言ったズレが起こる事もある。
じゃあ俺達は鏡の神の気配に惹かれて来たのか?でもそんな間違える物か?
考え込むガルダに鏡は一歩近寄った。
「・・・少し分かった。少し、話をしよう。知りたい、皆の事。」
其の時鏡はそっと眼鏡を外してじっと二柱を見遣った。
其の瞳は透き通る様に漣しか見当たらない澄んだ泉の様に、静かな曦を湛えて煌めいては凪いで行く。
吸い込まれそうな其の瞳に一つ息を呑む。噫、本当に彼は神なんだ、然う信じるには十分な瞳。
次元で死んで、次元の迫間で神になった様な輩と違う。古からの神話を生きた神。
「・・・一個、食べる?」
唐突にズイッと炭を近付けられた。
然う言えば渡した袋が無くなっている。如何やらポケットに何個か入れていた様だ。
残りの十数個は・・・もう食べてしまったのだろうか。
逃げている間に?いや若しかして其を食べ乍ら逃げたから追い易かったのだろうか。
苦笑を一つ浮かべ、やんわりと其をガルダは断った。
同族だと分かっても、矢っ張り彼は少し変わっているのかも・・・な。
其でも話が通じるなら十分だ。ガルダは一つ一つ垣根を越える様に緩りと話し始めた。
・・・・・
其から可也話し込み、やっと状況が掴めて来た。
其の間にグリス達も無事合流し、やっと全体像が分かった。
先ず此の次元の状態、其は彼、鏡に因ると黔日夢の次元は起きたが、其の被害は無いとの事だった。
然も其の黔日夢の次元と言うのが俺が見付けた彼の事件、旻が光ったと言う物だ。
只、矢張り実害其の物は無かったものの、何も起きなかった訳では無かった。此処で鏡が登場するのである。
鏡は元々此の次元にある神の世界に居たのだという。だが良くない気配を感じ、単身で下界、此の街へやって来たのだという。
彼に出来る事は精々飛ぶ事丈だ。でも魔術等無い此の次元にとって其は正に神業だ。飛ぶ事しか出来なくても、魔力も、況してや飛属性も存在しない此の世界の人々にとって其は現状の科学や技術では到底説明出来ない技なのだ。
鏡は此の次元の数ある神の中でも、幸せの象徴の神だった。
そんな鏡が遥か上旻で見えたのは・・・セレだった。
真黔の翼や触手、角や鉤爪を生やし、尖った鋭い鱗を逆立てた其を、鏡は同族だとは信じられなかった。
意思のある者だと、形のある者だと、生ある者だと認識出来なかった。
強いて言えば現象の様な、そんな存在すら危ぶまれる物。
でも其は確かに目前へ現れた鏡を見遣った。
其の眼差しに寒さを覚えて鏡が一歩引いた時、其は漆黔のブレスを吐いた。
既の所で其を鏡は躱し、ブレスは旻の彼方へ消え去った。
そして其の姿は崩れ、次元から消え去った。
其が此の次元の黔日夢の次元の顛末。
セレは此の街を滅ぼそうとしたのかも知れない。其を突然現れた鏡に気を取られ、放たれたブレスは運良く地を抉る事は無かった。
鏡の幸運は確かだったと言う訳だ。力のない神でも黔日夢の次元を退けられたのだ。
其処迄は良かった。だが問題は其処から数千年後だ。
鏡も初め、次元が助かって良かったと安堵した。
だが其処で彼は気付いてしまう。
もう、神の世界に帰れなくなってしまった事に。
如何やら此の次元、神の世界と下界は神の世界からの一方通行のみらしい。其の為一度神の世界を出、現人神として下界へ降りた鏡は、下界に取り残される事になった。
其でも良い。だったら世界を旅して、神の世界では見られなかった物を見よう。
鏡は然う楽観視し、着の身着の儘世界を旅した。
初めは只楽しかった。
今迄知っていると思ってた世界とは全く違う、上から見るのと、実際に触れるのは全く違っていた。
行きたい所は全て行った。季節が変わったら、年月が経てば、其の変化と時間を楽しんだ。
其でも、何時かは限界が来る。
何時しか鏡は見飽きてしまったのだ。
良く先の景色が予見出来てしまう。予想通りの世界に成り変わる。
其の事実に気付いてしまってからの日々は彼にとって地獄だった。
終わる事のない神の命、平和過ぎる故に変わらない世界。
でも此の世界に生まれた彼にとって、此の世界以外の存在は知る由もなかった。
そんな世界から少しでも離れたくて、彼は何時しか人と関わる事を止めた。
そしてもう何処にも使われていない太古の言葉を使い、近付く人を遠ざけた。
加えて全く度の合っていない眼鏡を掛けて、自ら世界を歪めた。
然うして只息を吸う丈の日々を彼は作り上げた。
関わらなければ、世界をもう見ずに済むから。
然うやって彼は今日迄遣り過ごして来たのだ。
そして現在に至る。何の変化もなく、彼は只生き続けた。其の先でガルダ達に会ったのである。
彼は直ぐに分かったのだ、同族だと。でも関わる可きではないと無視すれば追って来るじゃないか。
だから突き放す様に逃げ回ったし、言葉も碌に交わさなかった。其でも捜すから帰る様に警告したのだ。
此の儘だと自分と同じ道を辿ると、若し帰れるのなら神の世界に帰る可きだ。
彼の世界からしたら此処は眩し過ぎる。神の世界しか知らなかった頃は退屈だなんて思う事もなかったのに。
沢山の物を知った今となっては、結局彼方も退屈に感じてしまう。
然うなって欲しくは無かったんだ。
其が、此の長きに渡った鬼ごっこの顛末だ。
だがガルダの話を聞き、鏡も己の勘違いに行き当たる。
此の次元の外と言う物がある事、同族とは言っても生まれも全く違う事。然う、未だ未だ彼の知らない世界が外にはあるのだ。
其の話に鏡はすっかり釘付けになっていた。そして感慨深そうに何度も頷く。
ガルダ達からしても、鏡の話を聞いた時点で仕事は完了してしまった。
詰まる所、此の次元に仕事が抑無い事が分かったからである。
黔日夢の次元の脅威は疾うの昔に去っている、こんな平和な次元に留まる意味もないのだ。
だが気になるとしたら如何して此の次元に呼ばれたのか、だけれども。
抑自分達が次元を正す為に此方に来ているのだから、此の次元に行き着く筈がないのだが・・・。
「えーじゃあオレ頑張り損じゃねぇか。あんなに頑張ったのに・・・。」
―まぁハリー先輩のドラゴン姿見られるんやから良いやろ。其に皆喜んでくれたし。―
「・・・皆一緒、神?」
「噫、まぁケルディとハリーは龍族なんだけどさ。」
此処迄話す内に大分ガルダは彼の言葉を理解出来る様になって来た。
如何やら鏡の方も此方の話し方に慣れてしまった為、中々元の言葉に戻せない様だ。
今し方やって来たハリーが完全に置いてきぼりを食らっているので掻い摘んで説明してやった。
此処迄一柱で来れた丈でも凄い進歩だ。彼の成長は見ていて応援したくなる微笑ましさがある。
何時か彼が一柱で真直ぐ歩ける様になったら、其の姿を見た丈で涕いてしまうかも知れない。
「龍族・・・他の次元・・・面白い。」
一柱何事か呟いていた彼が顔を上げる。其の目は何処か曦を放っている気がした。
「一緒、行きたい。此処、次元の外、行ってみたい。」
「え、ま、然うだよなぁ。あんな話聞いちゃあな。」
恐らく彼も神なんだし、次元移動は出来る筈。初めてになるから最初は一緒に次元の迫間へ行った方が良いかも知れないけど。
「行くって、行った後如何する訳?又どっか旅でもすんのか?」
ぶっきらぼうなカーディの質問に彼は少々考え込んだ。
「・・・炭神、一緒行く。・・・駄目?」
「炭神・・・?ってぇ!オレの事か?いやオレ灯の魔術が得意な丈でそんな燃え滓みてぇな神じゃねぇよ!」
「んー付いて来るのは良いけど、俺達仕事してるぜ。其方がなぁ・・・。」
「仕事、一緒する。やる事有、猶良。」
「うむ、良い心掛けなのだ。其方もセレの為に働くのだ。」
「あー・・・然うなんだよなぁ。」
何だか雇う流れになってるけど、如何だろう。
前セレとスーの事について話した許りだし・・・でもセレ、自分の事で悩むなって言ってたし、だったら寧ろ連れて行く可きかなぁ。仕事は出来そうだし、可也長生きの神だから見聞も広そうだし。
・・・とは言っても後は鏡次第の話もあるよな。師匠に言われたからって言う訳でもないけど、ちゃんと話しとかないと。
「・・・?セレって誰?」
矢っ張り其処に食い付いた様で鏡が僅かに首を傾げる。
黔日夢の次元の話をしない訳には・・・行かないよな。
付いて行きたいって言ってるけど、でも店主はセレだ。
鏡を、此処に留めた張本神なんだ。
・・・本神に其の意思はなかったとしても、事実は然う。
「実は、其のセレが店主なんだけど・・・黔日夢の次元を起こした本神でもあるんだよ。何て言うんだろ、今其の償いと言うか、壊れた次元を戻すのが主な仕事なんだよ。」
矢っ張り一寸言い難い。でも後で其の事を知って去る位なら、此処で諦めて欲しい。然う言う意味でも俺は、彼奴を護りたいんだ。心も躯も全て。
・・・なんて、言い訳めいているよな。単に俺が彼女に縋っている丈だ。
だって此以上彼女を縛る物、煩わしい物が増えたら、屹度彼女は去ってしまう。
俺の手の届かない所へ行ってしまう。然うしたら俺は如何すれば良いんだ。
要らないんだって捨てられるのは・・・嫌だ。嫌だ絶対に。捨てられたくない、御願いだから傍に居させて欲しいんだ。
彼女の為じゃなくて全て俺の為・・・。守護神がこんな様じゃあさ、
「良い事してる。良い仕事。」
「へ?ま、まぁ悪い事してる訳じゃあないけどさ。」
何か・・・論点がずれている気がする。驚く可き所の筈なんだけど、何か納得した様に彼は頷く丈だ。
・・・あれ、然う言えば此方の言葉ってちゃんと鏡に伝わってるんだよな?え、ちゃんと意味、分かってるよな?
「オイオイ確かに良い事してるけどさ、店主がこわーい奴なんだぞ。前オレの頭ビームで消し飛ばそうとしたし。」
カーディがまるで威嚇する怪獣みたいに鏡ににじり寄る。
言い方は彼だけど、まぁ俺の言いたい事を代弁してるから目は瞑って置くか。
「・・・って、カーディそんなセレ怒らせたのか?其、余っ程の事だと思うけど。」
―まぁ自業自得やね。玩ばれてた感じやったし、本気やなかったよ。―
「そ、然うか。其ならまぁ良いかな。」
けど俺以外に其のレベルの高い戯れ付きは止めた方が良い気もするけど。ま、彼奴が誤っても傷付ける様な事しないか。
「・・・事実なっていない。皆見たら分かる。セレ神、彼の時と違う。だったら、恐くない。」
「う、うぐ、な、何か良い事言われたぞ。」
「うむ、正しい判断だと思うのだ。」
確かに、流石神様、何とも思慮が深い。
そっか、何か其の答えは・・・嬉しいな。然う言って貰えるのは一つの救いだ。
「でも、恨んでないの?ずっと此処に閉じ込められてたんでしょ?」
ケルディが上体を乗り出して尻尾を振る。
此奴もずっと彼の黔水精に閉じ込められていたんだし、思う所があるのかな。
「否、御蔭で世界見れた。其、悪い事否。」
・・・若しかしたら彼が幸せの象徴の神だと言うのは斯う言う所かも知れない。
全ての事象に善悪は無い。受け取る者の心次第だ。
そんな風に受け入れられる彼だからこそ、幸せが付いて来るのかも知れない。
他者にとっての不幸から、彼は幸せを見付けるのがすこぶる得意なのかも。
でも其の生き方は迚も良いと思った。凄い事だ。迚も、難しい事だ。
「・・・然う言ってくれるなら、俺は歓迎するよ、鏡。一緒に店に行こう。セレに後で話さないとな。」
其の生き方は屹度セレにも必要だ。彼女にも教えてあげたい。何かの、切っ掛けになれれば、然う願わずにはいられない。
全ての悪意を自分の所為にする彼女を少しでも救えるなら。
彼女が学んだ生き方は、独りで生きる生き方だ。でももう其を選んで欲しくない。
俺は、彼女から貰った物を返したい丈なんだ。一緒に居られる様に、赦される為にも。
「ふーん、然うやって増やして行くって訳か、成程なぁ。」
「其処は巡り合わせが良かったって言って欲しいんだけどな。」
「有難う、一緒、此方も同意。若し・・・世界が会わせてくれたのかも。」
「然う言えば世界が次元の主導者なんだっけ。・・・然うかもな。御前を連れ出して貰う様俺達は導かれたのかもな。」
此の世界に呼ばれたのなら、一応全て説明が付く。世界に然う言う意思みたいな物があるのか分からないけれど、若し然うであったらとっても幸せな話だと思った。
「んじゃさっさと帰ろうゼ。店ももう壊しちまったし。」
―結局残り全部只にしちゃったしね。―
「あーぁ、彼の儘続けたら億万長者になれたのにさぁ。只だって言った時神だって崇められたんだゼ?教祖って道もあったよな。本当良く出来た次元だゼ。」
「まぁでも結局の所彼の炭屋の御蔭で俺は鏡に追い付けたんだし、本当に助かったよ。御手柄だって。」
不満そうに口笛を吹いていたカーディだが、其の一言を聞いて口端を釣り上げて嫌な笑みを浮かべた。
「フフン、まーな。次も此の調子で華麗に極めてやるゼ。」
―華麗にって言う割には結構泥臭い方法やったけどね。ま、うちも楽しかったし、良かったわ。―
「ハリー小父さんは一杯走ったね。」
「むむ、小父さんではないのだ。その・・・まぁ然うなのだ。」
悪戯っぽく笑うケルディだが、言い返す言葉も見付からず、ハリーは閉口してしまう。
実際本当に自分は走った丈なので何も言えないのだ。今回は完全に終始鬼ごっこな仕事だったので足が弱い自分には抑向いていなかったのだ。
少しは上手くなったと思ったのに、もっと歩く練習をしないといけない様だ。
「其じゃあ鏡、一緒に俺達の店に来てくれ。多分一回行けば感覚は分かると思うし。・・・あ、然うだ。何か準備して来るか?」
「否、問題無い。・・・あ、」
ポケットを弄って鏡は何とも間の抜けた声を発する。
・・・何か落としてしまったのだろうか。
だが鏡はじっとカーディを見詰める。其の視線に耐え兼ねてカーディはつい見返した。
「・・・炭下さい。」
「え、は?・・・あーじゃあオレの弟子になったら後でくれてやる。」
「分かった師匠。」
・・・何だか変な取引が成立したけど良いか。
炭で餌付け出来る神様ってのも何か淋しいけど、まぁ先話していた間もずーっと食べてたもんな。
鏡は主人に尻尾を振る仔狗の様に嬉し気だ。
如何やら一応纏まったみたいなので此の儘行くとしよう。
一同の姿が霞んで行く。
其の中鏡は一度丈振り返った。そして大きく息を吸う。
「・・・今迄、有難う。元気で。」
然う一言丈呟き、彼の姿も薫風に吹かれて消えて行ったのだった。
・・・・・
目を閉じた
永い永い時が流れる
其でも世界は平和だった
目を閉じても、薫風は吹く
其でも、世界は進んでいたのだ
だったら自分も其の流れに乗ろう
一緒に移ろって、世界を見れば
ほら、知らない薫風が吹いて行く
New player get!と言う事で、遂に来ました鏡君。別名幸せのジャストミートです。此の渾名は色々と思い入れがあるんです。其はまぁ何処かで。
本当は此の子、もっとずっと後に登場予定だったのですが、とある旧友からの要望でサクッと出て貰いました。自分も相当好きな子で、自由で動かし易いので活躍に期待出来る子です。
何かとんでもない事があっても、ま、鏡ならね。みたいな大らかさを彼は持ってるんですよ。此ぞ神の貫禄。
さて次回も・・・リメイク話です。此は少し間が開いてしまうかも。まぁ何時も通りの二ヶ月程になる・・・のかな?
前書きの通り、今自分は一生の正に節目に立っているので、全く約束は出来ないんですが、其でも打ち切りは有り得ないので其処丈は安心して下さい。
寧ろもっと此方に時間を回せる様にする為の挑戦ですからね。さて如何なる事やら。
其では又次回、皆様と御縁があります様に。




