22次元 黔鍵の奏で巨皓の城と眠れる次元
如何も何だ彼だで良い具合に書けました。-Sare-です。最近色々とリアルが充実してまして、仕事も寝ても覚めても積まれていると言う好きな丈出来るボーナスタイムに突入していますし、新たな趣味?が増えまして、夢を見ると言う無防備な姿を晒す時間が劇的に減りました。・・・はい、私は元気ですよ。
まぁ其の趣味の関係で、若しかしたら別の形で皆さんの御目に掛かる事があるかも知れません。其の時は宜しく御願いします。
で、今回ですよ、一寸考えたんですけどね、又黔と皓なんですよ。モノクロ大好きですね。わーいって感じで書いたんですが、良い具合に書けたかなぁと思ったり。
後ちょくちょくしていた誤字校正も大分終わりました。本当に酷かった。此の事は皆さんに謝らないといけないです。取り分け、カーディ君の扱いが酷い。
口調と言うか、語尾を片仮名にするのをよーく忘れるんですよ。リメイク前の彼に引き摺られてしまうんですね、申し訳ない。
大した事ではないのかも知れませんが、「~だゼ」とか、平仮名と片仮名で感じ方が変わると思うんですよ。元気な子供っぽい彼は断然片仮名が似合うと思うんです。
大事なキャラ設定の所なので特に注意したいですね。此から気を付けます。
今日はそんなカーディ君がまま活躍します。新神の活躍に御期待を!
噫、如何か安らかに
祈りと共に眠りに着いた魂、彼女に龍は問い掛ける
祈り丈が、貴女の意味だったのかと
噫こんな魂に語りし優しき龍よ
私にはもう何も無い、此以上望むは欲と言う物
本当に然うだろうか、其で貴女は良いのか
龍は只呼び続ける、憐れな魂を巨皓の城へ導かんと
・・・・・
「おい、昨日女王の所へ行った奴が居るらしいぜ。首都の方からだと。」
「又かい?其はまぁ随分物好きな。こんな所迄良く来るなぁ。」
二人の青年が壁に背を預けて話し込んでいる。其処へ一人の正女が通り掛かった。
「・・・其の話、少し詳しく教えてくれないか。」
「な、何だい見た事のない顔だが・・・、」
青年はちらと彼女を見遣り、晒が巻かれてしまって見えない筈の目が見えた気がして思わず後退った。
其の目は睨んでいる様で・・・・知らず足が竦んだのだ。
「噫挨拶が遅れて済まない。私は此の辺りを旅している者だ。何か目ぼしい物があればと思ったんだが。」
そんな寒くもないのにフードを深く被り、苦笑を漏らして手を振る正女に男は怪訝そうに眉根を寄せた。
其の手にすら晒が巻かれているのだ。怪しい以外に何者でもない。
「余所者か?こんな田舎町迄来たのか?」
「まぁま、良いじゃないか一つ彼の城の御話してやろうよ。」
先程から動じていない風の男が陽気そうに笑って正女を見遣った。
「此処から先にある女王の城があるんだよ。もう随分古いけど、未だ綺麗でさ。」
「・・・先程田舎と言っていたが女王が居るのか?」
「御姉さんまさか城も知らずに此処迄来たのかい?ま、運が良いと言うか何と言うか、彼は見る可きだよ。然うさ、こんな何も無い田舎を気に入って別荘を建てた変わった女王だよ。」
「・・・素晴しい方だったと聞く。優しくて御綺麗で、聖女の様な方だったと。何時も其の別荘で神に祈りを捧げてたんだ。」
警戒しつつも男も口を開く。こんな田舎には話のタネが然う無い。彼の城は唯一の名物だったのだ。
「然うそ、で、昔々世界を黔に変える神が降りて来た時には祈りで天に帰したんだとさ。此の村に伝わる伝説だよ。其で国中の人々は心から感謝して、女王にある物を捧げたんだよ。・・・何か分かるかい?」
「ん、御礼なら食べ物とかか?いや、女王ならそんな物は要らないか・・・。」
正女が悩んでいると意地悪そうに男は笑った。
「骨だよ骨。死んでも女王を護れる様にってさ。人々は骨を次々女王に捧げて、女王は其の骨で城を造っちまったんだ。どんな優しいって言っても此処迄来ると狂気だよなぁ。」
「骨・・・人骨の城と言う事か。」
「然う脅かしてやるな。城自体は本当に綺麗だよ。其丈女王様を慕っていた人がいるって証だからな。」
確かに美談と言うか狂気と言うか。当人の懐いは誰にも分からないのだから何とも言えないな。
「面白いのは此処からだし、な。」
猶も意地悪く青年は笑って身を乗り出して来る。余っ程御話が好きな様だ。
此の辺りではすっかり語り草となっていた物語を一から話せる機会は然う無いと、何とも楽しそうだ。
「何と女王は数年前に甦ったらしいんだ。其程神に愛されていたのさ。そして今も其の城に居る然うだ。」
「らしい?見に行った訳では無いのか?」
「行ったら歓迎してくれる然うだぜ。でも・・・帰って来た奴はいないんだ。」
「余程凄い持て成しなんだろうが、まぁ見る丈なら問題ない。入らなければ良いんだ。女王様は何時でも歓迎してくれているらしいが。」
「成程・・・。面白い話を聞いた、早速行ってみよう。邪魔したな。」
「城丈で良いのか?良かったら近くの村とか教えるけど。」
「親切に如何も。まぁ其の辺りは女王に聞いてみるとしよう。」
「そりゃあ良い。じゃあ道中御気を付けて。」
青年は可笑しそうに笑って正女を見送った。
「・・・さてと、今の所は順調かな。」
上がり掛けていたフードを下げ、セレは一つ溜息を付いた。
一人、警戒させてしまったな。姿に関しては如何しようもないが、彼の怯えにも似た様子、如何も自分は知らない内に睨んでしまっていた様だ。
・・・如何しても、前世を懐い出した所為で、人間を見た丈で身構えてしまう。
獲物を狩る獣の様に、睨め付けて、怯ませて、其の首を・・・、
早く慣れないと。もっと、上手に隠さないと。店主が一番仕事が出来ないなんてそんな真似晒せるか。
「ぬ、セレよ。如何だったのだ?」
ハリーが角から顔を出して寄って来る。
微笑してセレは其の肩をそっと叩いた。
「重畳だ。早速皆を集めて作戦会議だ。」
「ほぅ、其方の事だから嘸素晴しい作戦を既に練っておるのだな。」
「多分私でなくても皆同じ物しか思い付かないと思うけれど。」
「否、皆セレに付いて行くのが作戦なのだ。だからもう既に我とセレで作戦は違うのだ。」
「成程、其の手があったか。」
一寸盲点だった。ハリーの自分贔屓は健在だが、此の程度なら可愛い物だ。
じゃあ早く其の素晴しき作戦会議を始めようじゃないか。
二柱並んで歩き乍ら、早速セレはテレパシーを皐牙達に送るのだった。
・・・・・
「絶対其の女王が次元の主導者じゃねぇか。」
セレ、ハリー、皐牙、ソル、四柱が集まり、村外れの畠しか見えない曠野で話し合いが始まっていた。
大体村で集めていた情報は聞いてみたが、矢張り皆が皆聞いたのは例の女王の話許りだった。
突如甦った女王、怪しいのは此処しかない。
―うちも然う思う。もう其処に行きたいって感覚がずっとしてて。―
「噫、此処は一度皆で女王に持て成して貰ったら話が早いんだろうな。」
神の勘は信じる可きだ。前ガルダが教えてくれた、神の勘は所謂世界の流れと同調している。
次元のある可き姿へと自然導かれる物だ。
「でも皆で行って良いのか?外で何柱か待機した方が・・・、」
―何行く前からびびっとるん。カーディに待機なんてさせたら其の儘さぼって見殺しにされるやろ。―
「・・・もう我等は死ぬ事前提なのか?」
「びびってねーっつうの!オレなりに結構真面目に考えたんだって。ま、確かにこんな畠だらけなら寝るかも知れねぇけど。」
不満そうに皐牙は呟いて此方を見遣る。如何やら決定権はくれるらしい。
やぁ、寝ている間に随分と頼もしくなった物だ。全く新神っぽくないじゃないか。安心は出来るけれども少し寂しいな。
「然うだな。皐牙のも一理あるが、まぁ何かあったらドレミに助けを呼ぼう。優しい女王だって噂なんだ。取って喰われはしないだろう。」
今回可哀相だがドレミとローズには御留守番を御願いした。
今更乍ら矢っ張り無神は良くないからな。敵襲があってもいけないし、目は多いに越した事はない。
「其の自信はどっから来るんだ・・・?今から行くのって人骨の城だろ。其のコレクションの一つにされそうなのに。ま、店主は最強の大罪神だし、女王に先手を取られる事もないか。」
「ほぅ、然う言えば皐牙、前特訓をする約束だったな。此処なら誰も居ないし、一つやろうじゃないか。先眠そうにしていたしな。」
「え、あれ、約束したっけ。あーいやオレ一寸・・・ん、いや、此って店主のビーム見るチャンスじゃねぇか?っよっしゃ!じゃあ受けてやるゼ。」
一度後退し掛けたが、能天気が働いて一転元気一杯に拳を突き付けて来た。
―殺さない程度ならボコって良いから、うちは観戦しとくわ。―
「我も久し振りにセレの魔術を見たいのだ。」
セレから仄かに立ち上る殺気を感じてか、そそくさと二柱は隅の方へ腰を下ろす。
「私も未だ未だ鍛錬中の身だからな。シンプルに普通の試合と行こう。何をしても構わない。只余り大事をして騒ぎを起こすなよ。」
「分かり易くて気に入ったゼ。じゃあオレからだっ!」
皐牙は両の拳を突くと、大きく息を吸った。
紫根の睛が苛烈に輝き、口端から焔が漏れる。
「初速が遅い。」
皐牙が焔を吐こうとした所で音も無く跳び上がっていたセレの回し蹴りが迫る。
「っだ!!」
気付いた時には遅く、頭を蹴られた皐牙は明後日の方向へ焔を吐いてしまった。
「ちょっ、其は反則だろ。オレからって、」
「何でもありって言っただろう。」
意地悪く笑ってセレは次に膝蹴りを繰り出した。
未だ頭が痛む皐牙は何とか片手でガードをする。
既の所でセレも足を下ろして一歩大きく飛び退いた。
グローブ越しとは言え、彼の甲は堅そうだ。多分此方の膝がやられる。
「やってやるゼ。もう手加減しねぇからな!」
一気に皐牙が詰め寄り、拳を振るう。其の拳は焔を纏っていたが、些か真直ぐ過ぎる。動きの全てを波紋で同時に見ている自分にとって其のスピードは遅過ぎた。
難なく躱すが直ぐ次のがやって来た。
取り敢えず去なし続けて彼の出方を見て見るか。
彼は殴る事丈に集中しているのか、頓拳を振っている。
何度か躱すと僅かに頬を焔が掠った。
・・・如何やら彼の魔術は、可也感情に反応する様だ。
詠唱も無く焔を纏ったり吹いたりしている。抑の身体機能の一つとして持っているのかも知れない。
詠唱が無いのは其の分早く行動出来るだろう。だが彼の戦い方は真直ぐ過ぎる。野性に近いと言うか、騙し討ちが無いのだ。
息を大きく吸えば焔を吐く位想像に難くないし、拳に焔を纏うのは単純な威力上昇にしかならない。
加えて感情に反応して火力を上げていたら・・・分かり易過ぎてつい嗤いそうだ。
現に彼は顔を赤くしている。こんなに躱されて嘸悔しいんだろう。
其の気持は分かる。前自分も丗闇にやられたからな。
せめて其の焔をジェットみたいに使って拳のスピードを上げたりすれば良いのに。まぁ良い、そろそろ自分も攻めに入るとしよう。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
僅かに皐牙の耳が動き、聞き漏らさない様に此方を見遣る。
「慈紲星座。」
自分を中心に彼の零星が散る。
忽ち二柱を零星の集まりが包んだ。
・・・実は此の段階で勝負が決まっているのだが、まぁそんな直ぐ終わっちゃあ面白くないだろう。
何が起きたのか分からず皐牙は注意深く零星を見ている。其処は直ぐ逃げないと串刺しになるぞ。
「ehtycs」
唱えて振りかぶった手には零星で編んだ首切り鎌が握られる。
「余所見している暇は無いぞ。」
皐牙の目がちらと此方へ向けられた所で其を振るう。
だが何かを察してか皐牙は少し後退った。
虚しく鎌は一房の髪丈を刈り取り、凱風を裂く。
「は?な、何だ、今何か、」
「reipar」
手を突き出すと咄嗟に彼は横へ逸れる。
中々如何して野性の勘が働く様だ。零星の骨組みしか見えていない筈なのに既の所で躱している。
まぁ誤っても打っ刺したりはしないが。流石に先の発言丈で打っ殺したりなんてしない。精々脅して揶揄う程度だ。
「っ此の変な曦がやばいのか。」
皐牙は一気に後退り、距離を稼ぐつもりの様だった。
未だ終わらせるには少し早い。もう少し丈遊ぼうじゃないか。
「eromyalc」
片手を振り下ろすと巨大な大釼を象った零星が地面を真直ぐ斬り裂く。
何とか其を躱して皐牙は口から巨大な火焔を放った。
良い判断だ。只逃げるより余っ程良い。此の大きさなら目眩ましにもなるだろう。
だが残念乍ら自分には波紋がある。加えて未だ此処は零星の檻の中だ。
「dleihe」
歩みを止めず唱える。
目前の零星が巨大な盾を形成した。其は火焔を正面から受け止め、掻き消した。
「っおいおい一瞬かよ。」
「efink」
余った片手に大量のナイフを持ち、一気に放る。
其等は全て彼の足元に刺さり、地面が抉れて彼は仰向けに転んでしまった。
そんな彼に馬乗りになる。両手両足を押さえ、彼の目と真正面に搗ち合った。
一体何が起きたのか彼には良く分かっていない様だった。驚いた様に目を見開いて固まってしまっている。
セレが口を開けると其の中心で黔の球体が激しく曦を散らし乍ら回転しつつ大きくなって行く。
最早皐牙は抵抗も忘れて只其の曦を見詰めていた。
其の曦が緩り収束して・・・、
「さて、仕舞だ。」
パクンと其の曦を呑み込んでセレは立って一つ伸びをした。辺りで瞬いていた零星達も散って跡形もなくなる。
皐牙は相変わらず固まった儘だ。其の焦点が緩りと自分へ向けられる。
「え?・・・は?な、何だって?」
「もう十分勝負が着いただろう。私の勝ちだ。」
得意気に鼻を鳴らして何とも涼しい顔だ。
やおら皐牙は起き上がると実に不満そうに声を荒げた。
「こんな一方的なの特訓でも何でもねーよ!後ビーム見せてくれる約束だろ!」
「約束をした覚えはないけれど、其が必要になる様な事態も無かったし、良いかなって。」
「流石セレなのだ。何とも華麗で、全てが一撃必殺だったのだ。」
―やーいやーいカーディの雑喉ー。―
「うるっせぇ外野は黙ってろ!絶対態とだろ!だって最後の最後ビームする気満々だっただろ!揶揄うのも好い加減にしろ!」
元気だなぁ。何とも揶揄い甲斐のある奴だ。
確かに特訓にはなっていないし、自分は只遊んだ程度の戯れ合いだ。彼が怒ってきゃんきゃん吼えるのは無理もない。
でも自分からしたら元々此は彼に対する説教だ。怪獣だの何だの言うから一寸痛い目見せてやろうとしたのに。先殺され掛けた癖にもう元気に歯向かって来る。此は大した才能じゃないだろうか。
ま、自分は十分に楽しめたから満足だけれどな。
「でも其の儘続けていたら御前首無し死体になっていたし。」
「っぐぐ・・・、わーったよ。オレがもっと勁くなれば良いんだろ!オイ店主、何か文句あったら言えよ、次迄に絶対勁くなってやる!」
燃える様に髪が揺れ、力強く拳を突き付ける。
何だ彼だ言いつつもちゃんと自分の弱点を見ようとしているんだ。其の心意気は汲まないと。
「然うだな・・・。全体的に言える事ならまぁ動きが読み易過ぎると言った所か?あんな思いっ切り息を吸えば焔を吹くだろうし、元々当たれば怪我する拳に焔を纏っても殴ろうとする動作を認めた時点で相手は全力で其を躱すだろう。だから先ずは隙をなくすことが大事なんじゃないのか?スピードで補えれば文句はないが、そんな急に速くは成れないだろう?」
「お、おう割と真面に教えてくれるんだな。」
「皐牙も素直に聞いているじゃないか。純粋に勁くなろうと思うのは良い事だと思うぞ。」
「・・・ま、まぁな。でも実際如何すれば良いんだ?隙とかそんなの、只全力で攻撃したら良いって訳には行かないのかよ。」
「まぁロード並みの火力があれば可能かも知れないが、高度な戦術も又勁さの一つだぞ。然う易々と身に付けられる物ではないからな。」
アティスレイの目を通して存分に味わったんだ。彼奴の筋肉は洒落にならない。当たれば良いと言うレベルではないのだ。
威力が高じ過ぎて拳以上に攻撃範囲を有している。パンチ一つが範囲攻撃と言う出鱈目な性能だ。
上限の分からない力は未知の領域に達しているだろう。油断ならない力だ。
「う゛、確かに彼のネーちゃんはマジでやばいからな。」
理解はしてくれたらしい。でも口丈じゃあ難しいだろう。一つ位実践するか。
「例えば私のブレスは予備動作が殆ど無いから不意を突き易い。口さえ開ければ放てるから詠唱と勘違いさせていれば此方の物だ。」
旻に向かって少し丈口を開け、小さくて細いブレスを吐き、即閉じる。
黔い線は旻の彼方へ消えて行った。
「お、おぉ今のがレーザーか?すげぇな!あんな簡単に吐けるなんて、怪獣みたいじゃねぇか。良いなぁオレ溜めないと全く火力ねぇから其の芸当は出来ねぇんだよなぁ。」
然うぼやいて彼は頭を掻いたが、即座に教えるの、止めようかなって感情がむくむくと沸いて来る。
だって此奴、凝りもせずに又怪獣とか言いやがったんだ。どんな教育受けて来たんだ。
「じゃあ相手の視界から溜めている時は隠せば良い。背後迄は取れなくても組んだ手の下とかで隠れて溜められるだろう。其を放つ一瞬丈顔を出せば良いんだ。其丈でも十分に意表を突ける。」
体術程度の事なら前世で培った物がある。其位ならまぁ教えてやらん事もない。
「成程・・・どんな大技も避けられちゃ意味ねぇもんな。不意を突くのは少し頑張ってみる・・・。」
案外素直で良い子じゃないか。皐牙は如何やら見た目通りの齢の気がする。教えた事をちゃんと守る子だ。
「応用するとすれば・・・然うだな。先は火力が無いって言っていたが小さな火でも相手の注意を引ける物だ。不意を突かれた相手は大抵本能的に避けたり、身構えたりする。其を利用して小さなブレスで誘導し、見計らった時で大技を出すのもありだと思うぞ。」
「然うか!其何か良いな。かっけぇじゃん!分かった。次迄に其を習得してやる!」
勢い込む所悪いけれど其宣言しちゃったら自分次其の対策をしてしまうと思うけれど、其の辺りの戦術は未だ未だだな。
まぁ今後の彼に期待しよう。屹度今迄我流で、然も命の遣り取りをする様な戦いなんて然う無かったんだろう。
意気込み丈はあるんだ。屹度彼は未だ勁くなる。
「・・・でもホント、店主って勁いんだな。彼のストーカー野郎と引き分けたのも分かるゼ。」
「私としては暗殺がメインだったから正面切って戦うのは正直苦手なんだがな。まぁ認めて貰えた様で良かった。」
―うちももっと特訓とかしないといけんね。護られて許りじゃいけんし。―
「いやーほんとすっげぇつええなぁ。かっこ良かったぜ。」
「うむ、皆セレの凄さがより一層分かった様で良か・・・む?」
気の所為だろうか、観客より一つ声が多い気がするが。
ハリーがちらと見渡すとソルの隣で一頭の龍が嬉しそうに手を叩いていた。
「な、何なのだ其方は。許可なく彼の麗靡な技の数々を見ていたのか!」
「っきゃぁああ!!な、い、何時の間に居たんや!」
驚いた余りソルはつい貴重な声を惜しげもなく上げて咬み付くハリーの後ろに隠れた。
先反省した許りなのに又隠れてしまって少し申し訳なさそうに長い耳羽が揺れていた。
「ん、あれ、何か楽しそーな事してんなって思って見に来たけれど、見ちゃ不味かったのか?」
然う言って其の龍は頭を掻いてきょとんとしている。
龍は全長6m程の灰蒼色の体躯をし、全身硬い甲に包まれた蜥蜴の様だった。
頭には大きな角が一本あり、腕は四本あった。
尾はなく、ずんぐりとした胴には鉤爪の様な物が生え、地を引き摺っている。
背には二本のスカーフの様に棚引く鰭があり、何処か嬉しそうに口端を上げている辺り友好的然うではある。
「アンレイナーか。別に一寸した戯れ合いだ。こんなので良いなら幾ら見て貰っても構わない。」
別に龍族なら兎や角言わない。自分の戦術を密告したりはしないだろうし。
「戯れてねーよ。ちゃんとした手合わせだ。・・・負けちまったけど、見せもんじゃねぇからな。」
皐牙は何処か不満そうに外方を向く。
アンレイナーは不思議そうに首を傾けて、セレの所迄寄って来た。
「にしてもあんたつえぇなぁ。良かったぜ先の。気に入ったぜ。何か邪魔しちまったみてぇで悪いけど、せめて名前丈でも教えてくれねぇか。」
「別に構わない。私はセレ、次元龍屋と言う店をしているんだ。御前も手合わせするか?」
「じょーだん。御仲間みーんな連れて来ても負けそうだ。此で次元の迫間の巣に帰れるし、ほんと助かったぜ。」
快活に笑うアンレイナーは随分と御機嫌の様だった。
「御仲間って、他にも何処か居るのか?一体どんな龍族なんだよ。」
外方を向いたものの、皐牙はちらちらと視線をアンレイナーへ寄越した。
結構気にしているけれども多分アンレイナーの見た目が気に入ってるんじゃないだろうか。
ドラゴンっぽくてごつごつして勁そうだし、然う言うのをかっこいいって憧れる年頃なのかも知れない。
「アンレイナーは大きな群れを作る龍族だ。巣を次元の迫間に作って、何千何万頭と色んな次元へ食料等を探しに行くんだ。其の内の一頭と言う訳だな。」
「何か蟻みたいな龍族なんだな。」
感心した様に頷いている。如何やら機嫌は良くなったらしい。
「此の次元はあんま食い物無くてさぁ困ってたんだよ。他の皆も此で帰れるようになっただろうし、何時か巣に遊びに来いよ、歓迎するぜ。」
「其の儘武闘会に巻き込まれそうだな。」
確かアンレイナーは可也好戦的な龍族だ。
如何やら好意を持って貰えた様だが、其が行き過ぎて1VS10000みたいな事をされ兼ねない。別にやれなくはないかも知れないけれど確実に彼等の巣は崩壊するだろう。客としてそんな出しゃばりは出来ない。
「ハハッ!!そりゃあ良いや。じゃあ必ず来いよ、待ってるぜセレ神さんよぉ!」
一方的に空気を掻き乱す丈掻き乱すと、其の実あっさりとアンレイナーは去って行った。
―吃驚した・・・。あんな龍族もいるんやね。若しかしてセレが此処で時間潰してたのって彼の龍に会う為やったん?―
「まぁ其は序でみたいな物かな。」
途中から何か大きいのが観戦しているなぁとは思ったけれど、まぁ此処は一つ、少し得意振ってみよう。
「時間潰したんじゃなくて特訓だっつうの。ま、でも然う言う意味も含めちゃ無駄じゃあなかったって事になるのかな。」
「噫他にも色々いるかも知れないし、そろそろ女王の所へ行くか。余待たせても悪い。」
「だな、ちゃっちゃと行こうゼ。店主の勁さも再確認出来たし、もう十分だろ。」
「城の場所ならもう我が聞いているのだ。」
得意気にハリーは胸を反ら・・・そうとして失敗し、さっさと歩き始める。
彼にとって急ぎ足のつもりなのだろうがもう既に転び然うだ。
此なら歩いて付いて行っても追い抜いてしまうかも知れない。
実は城の位置も波紋で見えているのだが、まぁ然う急かす事もない。
セレは可也足を遅めて、そっとハリーに付いて行ったのだった。
・・・・・
一刻は数えただろうか、巨大な城を前に一同は立ち止まっていた。
何処迄も続く荒野の中、突如現れた巨塔、只々皓い其の城は何処か現実離れして見えた。
遠目から見れば確かに美しい趣のある城だろう。だが斯うも近付けば・・・、
城壁は大きな大腿骨や脛骨、上腕骨や橈骨を綺麗に並べた物で、窓は肋骨、装飾は指の骨、吊るされた明かりは頭蓋骨の中に蝋燭を灯した物だった。
見事な、紛う事無き骨の城。確かに造りは丈夫然うで昔から此処にある事は窺えた。
「むぅ、本当に全て骨の様なのだ。伝説は美しくても其を知らなければ少し恐ろしく見えそうなのだ。」
「いや明らかに悪趣味だろ。若し此処が地獄だったら間違いなく魔王の棲む城だろ。」
「でも此の次元の奴は随分と丈夫な骨をしているんだな。余り風化していないし、確かに此丈強度があれば建築に使えるな。」
「いや店主の其の感想はおかしいだろ・・・。店を骨にリニューアルするなよ。マジで誰も来ねぇ店になるから。」
―確かに不気味やね。でも・・・ピアノの音、みたいなのが聞こえるけど。―
ソルは耳を少し震わせ、不思議そうに首を傾げた。
「ピアノか?ソルは随分耳が良いな。然う言えば女王はピアノが弾けるんだったか?」
「うむ。我が聞いた話では然うだったぞ。其の音色は聞く丈で天上へ昇る様だと言う。」
「オ、オイ何だよ其。もうオレ達招待されてるって事かよ。」
そろと皐牙は後退り、耳を澄ましたが彼には何も聞こえない様だった。
程無くして城の扉が音も無く開いた。ひとりでに開いた様に見える其の扉を凝視し、皐牙は唾を呑み込んだ。
「さて、女王も御待ち兼ねだ。如何だ皐牙、外が斯うなのだから中も気になるだろう。一寸遊びに行って来い。」
意地悪くセレが笑って其の背を叩くと思わず皐牙の背が伸びた。
「ばっ何でオレなんだよ、店主の方が勁いんだから店主が先頭だろっ!」
「先ずはボスを護るのが部下の務めじゃないのか?行くのは吝かじゃあないが、行き成り私が首丈になっても知らないぞ。」
「オレだって嫌だよ。ってか何だ彼だ言って店主も結構女王警戒してんじゃねぇか!」
本当元気だなぁ、揶揄われている自覚ないんだろうな。
人様の家の前で随分失礼な話をしているけれども面白いからもう一寸続けようかな。
「セレは女王なんぞに負けたりしないのだ!でも危ないのかも知れぬのなら我が行くのだ。後ろは安心して任せられるので問題ないのだ。」
「噫有難うハリー、別に一寸言ってみた丈だから大丈夫だ。ハリーは私の後ろを任せたぞ。御前の幻術をしっかりと見せ付けてやれ。」
「うむ!任されよ。」
矢っ張りハリーは可愛いなぁ。本当にハリーが突撃しては申し訳ないのでそっと其の頭を撫でて宥めてやる。
何だか尾を振る狗みたいで疑い一つない瞳は澄んでキラキラしている。
本当に何処迄も付いて来てくれそうだ。忠狗ってこんな可愛いんだな。
「まぁ大丈夫だとは思うが、一応皆一緒に行くぞ。私の後ろに付いてくれ。」
一応声を掛け、招かれる儘に扉を潜る。
中はある程度波紋で見ていたので特に入ってから思う事もないのだが、中も基本の造りは骨だった。
だが削ったりして床はちゃんと真直ぐになっており、所々覗く骨の断面が独特の模様の様に見えなくもない。
其の上を真蒼なカーペットが奥の左右へ分かれる階段へ続く様に伸びている。
正面奥に見える大きな扉は恐らく大広間へと繋がっているのだろう。其の他も幾つかの部屋は一階二階にある様だが何も閉め切られてしまっている。
大きな窓からは優し気な驕陽が入り、明かりと相俟って外よりもずっと明るく見えた。
こんな身でなければ綺麗の一言で済むのだが、何処の部屋もこんな具合の採光なら気を付けないと。何時血塗れになってもおかしくない。良く良く気を付けないと。何時ぞやみたいに“噫、なんて良い天気なんぎゃあぁあぁあ゛あ゛あ゛!!”と不可思議な断末魔を上げる事になる。嗤うに嗤えない滑稽で御粗末な最期だ。
然う、此の城は骨で出来ている事を除けば、極普通の城だったのだ。
抑城なんて前世でも行った事はないが、城と聞いて直ぐ思い付く様な、塔が何本も合わさって出来た様な城。
そんな広間の中心に一台のピアノがあった。
皓い床、皓い壁の中で一点黔いピアノは良く目立った。全ての色を呑み込んだ様に。
そしてソルが聞いたのであろう音色は今も未だ其処から流れており、一人の正女が弾いているのが窺えた。
「・・・あら、ようこそいらっしゃいました。久し振りの御客様だわ。」
突然ピアノの音が止み、其の正女は立ち上がって此方へと足を進める。
正女も又此の城に染められた様に一様に皓かった。
真皓で華の様に広がるドレスを纏い、ティアラのダイアモンドが眩しく輝く。
肌も長く伸ばした髪も皓く、唯一其の双眸が紺碧に染まっていた。
正女は優しく咲うと一同に深く御辞儀をした。
「どうぞ初めまして。此の辺りでは見掛けない御顔ですが、若しかして旅の御方でしょうか?」
「噫然うだ。近くの村の者から聞いてな、迚も美しい城があると。開いていたのでつい入ってしまったが。」
其を聞くと正女は心から嬉しそうに笑みを深くし、両手を合わせた。
「なんて素晴しい事なの。どうぞ遠慮せず見て行って下さい。皆さんも屹度喜びますわ。」
皆、とは骨の事だろうか。見た所使用人が居る気配もない。然う思うと正女の言葉は少し狂気を孕む様にも聞こえたが。
其でも咲う正女を見ていると彼女にとって生きている人か、死んでいる骨かは余り関係無い様に見えた。
何方も等しく彼女にとっての客人なのだ。
「あんたが女王様?何て言うか、静かな城だな。」
流石皐牙、女王に対しても態度は変えない様だ。思ったより彼女が友好的だから安心したのかも知れない。
「えぇ、自分で出来る事は自分でしたかったので使用人は雇っていないんです。只斯うも静かだと寂しいですよね。だから御客様が来てくれて本当に嬉しいですわ。御名前を伺っても?」
矢張りと言うか何と言うか、彼女が女王の様だ。
でもこんな軽く気さくで、然も家事を熟す女王なんて聞いた事が無い。
でも使用人が居ないのは如何言う意味だろうか。元から居ないのか、彼女が甦った事で一人限になってしまったのか。
然う、彼女は既に只の人ではないのだ。甦っている。理由が、訳が何であれ。
心底自分達を歓迎している節はあるが果たして・・・。
「噫名乗りもせずに失礼したな。私はセレ、此方からハリー、ソル、皐牙だ。一緒に色んな所を旅している。」
「まぁ、賑やかで迚も楽しそうですね。どうぞしっかりと観光して、此処が懐い出の一つになれれば幸いですわ。」
猶もにこにこと咲う正女に悪意は見られなかった。
本当に只単純に楽しそうだ。
「若し良ければ泊まって行かれては如何ですか?料理の腕には自信があるんです。どうぞ好きな部屋を見て来て構いませんから。御案内出来れば良いんですが、人手が足りなくて。では失礼しますね。」
良い事を思い付いたと許りに口早に然う告げると慌ただしくも女王は一階のとある扉を潜って行ってしまう。
有無を言わさず強制御泊りになってしまった。他にも聞きたい事があったのだが、まぁ後にして置こうか。
「自由行動って事は結構付いてるんじゃねぇか、店主。女王も居ない今調べ放題だゼ。・・・ま、あんな風なら付いて来ても何ら問題なさそうだけどさ。」
すっかり余裕が出て来た様だ。確かに思ったより優しそうで呆気に取られる所はあっただろうが、其の思い込みは禁物だぞ。
自分も初めて会ったアティスレイに不意打ちを喰らわされた物だ。
記憶も戻った今なら如何してあんな笑顔に騙されたんだろうって殆不思議だけれども。
笑顔は相手を安心させる効果がある。利用しない手はないのだから。
・・・まぁ然う言っても先の遣り取りの間では不信感は抱かなかった。だから疑っているのは自分丈で良い。其の役目は自分丈で十分だ。
「んじゃーさっさと見ようゼ。此方から行くか?」
「うむ早く扉を開けるのだ。」
好奇心旺盛な二柱がさっさと扉に手を掛ける。
ハリーはずっと気にしていた様だが扉が開けられずに間誤付いていた様だ。便乗して皐牙の背を押している。
―セレ、女王はほんとに料理作ってるみたいやから今は未だ気にせんと良いと思よ。―
ソルに突かれて慌てて視線を戻す。
然うか。彼女は本当に可也耳が良い様だ。ああも閉め切られていると波紋でも中々覗くのは難しい。直ぐ自分の意図を読み取ってサポートするなんて本当優秀だ。
「助かる。又何か聞こえたら教えてくれ。」
―りょーかい。その、どんどん頼ってええから、うちも役に立ちたいんや。―
然う勢い込む彼女に笑みを返す。
此は自分も頑張らないと、少し位見栄を張りたいじゃないか。
何の因果か出会ってしまった物だけれど、とんだ拾い物をした物だ。
皐牙達の後を追い扉を潜ると長い廊下に出た。
勿論其の壁、窓の一つ一つ迄全て骨で出来ている。
窓は大きく、燦々と陽が入っている。今一度フードを深く被り直した。
「何つーか長閑な所だよな。何でこんな所に建てたんだか。」
皐牙は窓枠に腕を乗せ、何処迄も続く何の変哲もない荒野を見遣った。
―ん・・・待ってセレ、何か聞こえる。―
セレの服の裾を引っ張り、ソルの耳が少し上がった。
「ん、女王か?何をしようとしているか分かるか?」
―いや、外からやと思う。何か大きい獣みたいなんが此方来てる。―
外、か。自分の波紋では窓の外の景色は見えない。髪飾りの御蔭で多少見易くはなったが・・・直接見た方が良いな。
急いで一つ窓を開けると一気に外の情報が自分の中へ流れ込んで来た。
確かに何か大きい者が此方へ駆けっている。
僅かに地響ききもする。可也大きいな・・・、
でも恐らく彼は・・・、
「むむ、何か匂がすると思えば同族なのだ。」
隣にハリーが来て指差しをし掛けて諦める。
屹度窓も開けられずに仕方なく此方へ来たのだろうが、其すら出来ないとなると最早憐れで可哀相に思えて仕方ない。食指丈伸ばして他の指を曲げると言うのは彼にとって高等技術なのだろう。気長に待とう。
「おやぁ、城の主と違う様だが神なら丁度良いな。」
頭上からする大きく野太い声に少し丈首を竦めた。
やって来たのは一頭の龍で、一同の姿を認めて近寄り、鼻先を向けた。
其の龍は全長20m程の狼の様な姿をしていた。
全身真皓で鋭い牙の並ぶ大顎は左右に二つあった。
硬質化した毛が棚引き、特徴的に酷く大きく曲がった巨大な爪が両前足に一本ずつ生えている。
鬚が凱風も無く揺れ、金の瞳が火花を散らす様に輝いた。
「おおっと又龍なのか?一寸かっこいいじゃねぇか、大きい狼みたいで。彼の小っさい狐より此方雇った方が良いんじゃねぇか?」
「彼は皓亜の城(フィリアーナ)だ。確かに彼もモフモフして然うだが、ケルディも立派なモフモフだ。其処は否定させないぞ。」
「いやモフモフを否定した訳じゃねぇけどさ。」
「でも一体何の用で来たのだ?む、若しや其方もセレの姿を拝みに来たのだな!感心なのだ。」
ハリー一柱謎の解釈をし、何度も頷いて皓亜の城を見遣る。
「んん、何だおめーは。俺が用があるのは神丈だぜ。てっきり彼の女王が神になったのかと思ったけどさ。」
「女王がか?如何して然う思ったんだ?」
「俺結構昔から此の次元に居るからさ。女王が生きてる時も居たけれど、ま、人間は百年も生きれねぇだろ。其から城も無人なったなぁと思って見てる丈にしてたんだけど、何か城から気配がするなと思ってさ。」
其は如何言う事だ?皓亜の城は生前の女王を知っていると言う。そして女王が死んで、神になったと思って会いに来た訳だ。
其は屹度次元の迫間へ帰るリンクを作る為だったんだろう。
問題は其の女王の方だ。
―多分女王は次元の主導者で間違いないんやと思うけど・・・。そんな気配したし。―
「然うだな。でも神ではなかった。今更だけれども一体如何やって甦ったんだろうな。」
ちらと皓亜の城を見遣ると緩り彼は首を左右に振った。
「俺は知らねぇぞ。此処何百年かは近寄らなかったからな。抑前此処に立ち寄ったのも、此の城が見えて同族が居るかも知れねぇと思った丈だったしな。女王とも面識はねぇし。」
「同族ってえっとファミリーナだっけ。其奴が他にも居るってか?」
「皓亜の城、だ皐牙。骨を集めて巨大な棲処を造る龍族だからな。だから皓亜の城なんだ。正に此の城と同じだ。」
「ま、此の城は些と綺麗過ぎるがな。もっと自然にした方が趣が出るってもんだ。其に久し振りに来たけれど、こりゃあ駄目だ。火の骨だなんて使っちゃあ臭くて敵わんぜ。彼の灰の臭が如何してもな。」
「いや骨の講義されてもさ、不気味な城は一緒だろ。」
少し引き掛けた皐牙と裏腹、一歩セレは足を出した。
「一寸待ってくれ、火の骨とは何だ?前はそんな臭しなかったんだな。」
「火の骨っつったら火の骨だろ。そりゃあ燃やしたら綺麗な骨が直ぐ手に入るかも知れねぇけど、彼の匂いが俺は苦手なんだよ。腐り掛けて乾いた肉が残っている位のがベストだな。」
「然うか・・・。分かった。有難う色々教えてくれて。良ければ次元の迫間に寄った際でも御前の城を見せてくれるか?」
モフモフさせて、とは言えない。元々皓亜の城は懐かない龍だ。もっと御近付きになって、次のステップで御願いしよう。
「ヘッ、物好きだな。良いぜ、見せてやるよ。然うと決まりゃ早速骨を探さねぇと。ずっと帰ってねぇから門とか直さねぇといけねぇし。じゃあな、俺も助かったぜ。」
皓亜の城は口端を上げて喉の奥で笑うと、地を蹴って次元を去ってしまった。
途端に戻る静寂、一応開いていた窓は閉めて置いた。
次こそは、次こそは必ず、彼のモフモフを堪能してやるんだ。
「店主、職務怠慢だゼ。モフモフも良いけどちゃんと仕事しろよ。」
「ほぅ、私程情報収集に貢献した者はいないだろうに随分と頭が高いな皐牙。」
何て奴だ。自分がこんなにも、こんなにもモフモフするのを我慢したのに。寧ろ自分がこんなにも徹底して仕事をしたなんて褒められても良いじゃないか。
「情報って、最後は完全に・・・、」
「はいハリー、一つ質問だ。先の皓亜の城の話、一番大事なのは何処だと思った?」
突然当てられてついハリーの耳が上がる。
「む、むうぅ・・・然うだ。火の骨なのだ。彼所が怪しいのだ。」
セレの台詞なら聞き逃していない。其の中で唯一繰り返された単語を上げてみた。
途端にやりとセレが口端を上げる。・・・良かった、如何やら彼女の手助けが出来たらしい。
「然うだ。流石ハリーだ。全く可愛い奴だな御前は。此方に御出で、撫でてあげよう。」
大人しくハリーが寄って来たので龍にする様に其の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
ハリーも満更ではない様で目を細めていた。
もう本当可愛いなぁ。モフモフしていなくても御前は立派なモフモフだ。
「・・・で、其の火の骨が何だってんだよ。」
っは!!しまった、ついモファンターとしての性が。
最近モフモフに飢えていたし、止むを得ない。だが其を有ろう事か皐牙の前で晒すなんて。
全く、罪なモフモフだな。
未練が残らない様さっと手を引き、一つ咳払いをして皐牙に向き直る。
彼は腕組をして心底呆れている様な酷い目をしていた。
其、雇い主に向ける目じゃないぞ。
「前しなかった火の骨の臭、如何して最近し始めたんだろうな。」
「そんなの、火葬したからじゃないのか?良くあるだろ、火葬なんて。」
―然うやね。彼の口振り、火の骨って火葬した骨って事みたいやったね。―
「じゃあ誰を火葬したんだ?村人の話だと別に今時骨を女王に贈らないだろうし、此の城は女王しかいないんだろう?」
「お、おいおいじゃあ燃やされてるのって、」
「まぁ其はもう少し此処を見て判断しよう。確か他にも此の城に来た奴もいるんだし、其奴を探してみようか。・・・未だ居れば、な。」
少しきな臭くなって来た。悪戯っぽく締め括ると少し皐牙が青褪めた。
フフン、此でもう自分を馬鹿には出来まい。其位自分だって出来るさ。
只余りビビらせて新神の働きを奪うのは良くない。少し丸くなっていた彼の背を叩いて、自分は次の部屋を目指したのだった。
・・・・・
幾つか部屋も回り、最後に屋上のテラスへ出た。
多少翳りはしたが、未だ驕陽は高いので何時も以上にフードを深く被る。
テラスと言っても骨で出来た格子の様な物が張り巡らされて天井を覆っている。
何処迄も続く荒野を見遣り、誰ともなく溜息を付いた。
―綺麗やけど・・・特に何も無いんやね。―
「誰とも会わなかったしな。」
未だ皐牙は少し顔色が悪い様で、只ぼーっと荒野を見詰めていた。
「まぁ其処は追々聞かないとな。只今は此の景色を楽しめば良いだろう。」
「何でそんなポジティブなんだよ店主は・・・。言い出したのも店主の癖に。」
「何かあったら全力でやり合えば良いだろう。別に今更心配した所で無意味だぞ。此処は彼の有名な、入ったら出られない骨の城だからな。」
「う゛、其を思い出させるかよ。まぁ・・・然うなんだけどさ。」
「うむ、セレがいれば大丈夫なのだ。セレと一緒に我も頑張るのだ。」
相変わらず可愛いハリーはそんな事を言って何故か得意そうである。
―あのセレ、又何か音がする。鳥みたいやけど聞いた事のない羽音やわ。―
「噫其なら私も見えている。龍族だから大丈夫だ。」
今の所女王に変化はなし・・・か。まぁ先の通りなる様にしかならないし、丁度此方へやって来てくれる龍が何か情報を持っている事を祈ろう。
「え、又龍が居るのか?何処に居るんだ?」
「ほら彼の空山の所、もっと格子に近付けば見えるんじゃないか?」
指差すと皐牙が必死になって格子に顔を付け、唸り乍ら探し始めた。
―・・・えと、セレ?―
首を傾けるソルに向け、静かにする様ジェスチャーを送り、一歩セレは下がった。其の面には嫌な笑みが張り付いている。
「なー店主見えないんだけど。」
「いや諦めるのが早過ぎるぞ皐牙。ほらもう少し向こうで・・・、」
言い掛けた所で格子の真下から一頭の龍が躍り上がった。
一同の姿を認め、其の龍は翼を広げて其の場に留まる。如何やら低空飛行をして一気に上昇して来たらしい。
「っあぁ!!な、何だ此奴!き、急に出て来んなよビビるだろ!」
思い切り尻餅を付いた皐牙が拳を上げる。
其の様が余りにもおかしくてついセレは吹き出してしまった。
「ーっおい店主!オレを騙したな!真下に居たんじゃねぇか!」
「いやー私も齢を取ったなぁ、まさか目がこんな見えなくなるなんて。」
「盲目の癖に雑な嘘吐きやがって!」
噛み付く皐牙は最早只の酒の肴で、もう可笑しくって仕方なかった。
ソルも忍び笑いを堪えようと何とか口元を押さえていた。
「さてと、勝手に盛り上がって済まないな。初めまして、カンゴー=グレン、私はセレだ。」
―何とも賑やかなパーティだな。しつこく厭味の無い其の思いは嫌いじゃないぞ。此方こそ、初めて見る顔だ。―
カンゴー=グレン、其の龍は全長3m程の巨鳥だった。羊の様な立派な巻き角を有した面、鋭い金の眼光、鋼で出来たかの様な蒼銀の翼、頸の下には水精で出来た様な甲があり、両足の裏には目の様な模様が描かれていた。
カンゴー=グレンは其の足の目を此方に向ける様にして羽搏いた。
そして尾は柔らかそうな純皓のカールした長毛を束ねた様で、至高のモフモフだった。
・・・何としても、モフモフさせて貰わなければ。
生唾を呑み込み、一つセレは咳払いした。
下心を悟られてはいけない。カンゴー=グレンは懐いを読む龍なのだ。
心を読むフリューレンスと少し似ているかも知れない。
足裏の目は只の模様ではなく、彼等の餌である思念を見る事が出来る。
飛ぶ事を止めれば開かれない眼なので、生まれてから死ぬ迄、一生飛び続け、世界を見続ける宿命を宿した龍だ。
縄張り意識が強い、と龍古来見聞録にあったが果たして・・・。
「こんな所で会うなんて。若しかして此の城の思念を喰らいに来たのか?此処には沢山・・・籠って然うだよな。」
―左様、此処の思念は優しい懐いが強い。護りたいと、一緒に居たいと、此の城も中々良い景色だし、吾は気に入っている。―
―思念って・・・若しかして骨の声、なんやろうな。―
「其って美味しいのか?そんなんより普通に肉とかの方が、っぐふっ!?」
皐牙が余計な事を言う前に其の襟首を掴んで無理矢理下がらせた。
御前なんぞに自分のモフモフ権を奪われて堪るか。
「思念を読むなんてカンゴー=グレン意外に出来る者なんていない。是非此の城について教えて欲しい事があるんだが少し良いか?其以外の思念が何かないか教えて欲しいんだ。」
「うむ、我等は此の次元を元に戻したいのだ。同族なら其の力を一つ借りたいのだ。」
―フゥム・・・其の位なら別に構わない。元に戻してくれるのであれば若しかしたら彼の懐いも、如何にかしてくれるかも知れないしな。―
カンゴー=グレンは一つ頭を振って金に苛烈に輝く瞳に一同を写す。
―最近僅かに帰りたいと言う思念も混ざっておる。そして何より、寂しいと言う懐いが此の城を包み込もうとしている。其の所為で折角の思念に苦みが加わってしまってな・・・。―
「成程有難う、良く分かった。然うだな。若しかしたら其の思念は此方で如何にか出来るかも知れない。やれる事をやってみよう。他に何か、要望とかあれば聞くぞ。」
だから如何かモフモフさせて下さい。二連続でモフモフ出来ないとか本当に地獄なんです。
何か察してか皐牙が半目になって自分を見遣るが、此は正当な取引だ。必要不可欠なコミュニケーションだ。
―然うだな。実は吾からも一つ、其方の思念を見せて貰えないか。中々魅力的な匂がするのだ。―
「・・・思念って匂するのか?」
―焔が燃やす物で色が変わるのと同じ感じなんやない?―
「ふーん・・・でもオレ別に焔の色が変わるから如何違うのか迄は分からねぇゼ?」
―其は・・・カーディの勉強不足なんやない?うちも華の勉強したし。―
「べ、勉強位其の気になったらオレ出来るし・・・。」
―つまりしとらんかったゆー事やね。―
「・・・・・。」
半目の儘皐牙は次にソルを睨むが、彼女は何処か楽しそうに口元を押さえている。
・・・此奴、店に入って性格、確実に悪くなったよな、前こんなにオレを苛めたりしなかったのに。
絶対彼の店主の所為だ。彼で本当に勁いんだから質が悪い。
「じゃあカンゴー=グレン、もっと近くに寄ったら如何だ?幾ら見て貰っても構わないぞ。ほらもっと、私も其方に行くから。」
―ふむ、では御言葉に甘えて。―
カンゴー=グレンは格子ぎりぎりに近付き、セレも又格子を掴む。
そしてじっとカンゴー=グレンが自分を見詰めている内に薫風で揺れる尻尾の先を掴んだ。
そっとそっと・・・慎重に。彼が自分の思念なんぞに見惚れている内に。
抱き締めそうになるのを堪えてカールした長毛をそっと撫でてみた。
・・・あぁ!!モフモフだ!もうモフモフでモフモフであるモフモフのモフモフ以上のモフモフだ!
此の流れる様にカールした所が又、柔らかで滑らか過ぎて、薫風を撫でている様だ。其でいて確かに温もりがあって、汚れ一つない尾が波打って純皓が又輝く。
良い、此、凄く良い。うっかり理性を手放してしまいそうだ。
―ふむ・・・初めて見た思念だ。味も気になるが、此は・・・凭れそうだな。私には重過ぎる。全てを呑み込んだ涙の様な懐いだ。・・・ん、何をしているのだ。―
「あ、いや見事な尾だからつい、もう少し触らせて貰っても良いか?」
ばれた。折角なら少し位思念を喰わせて等価交換出来ればと思ったのに。
凭れると言う事は・・・喰らう気は無いんだよな。
―尾は苦手だ。撫でるならせめて頭にしろ。―
カンゴー=グレンが少し羽搏きを小さくし、そっと頭を下げる。
此は・・・公認!?カンゴー=グレン公認の御触りタイム!
全ての理性が吹き飛んだセレは即座に彼の頭に手を伸ばした。
そして随分大人しくしてくれているカンゴー=グレンの頭を此でもかと撫で捲った。
此が幸せか。今自分は真理を見ようとしているのか。
セレが猶も撫で続けていると皐牙がそっと傍に寄って来た。
「此でホントに勁いんだよなぁ・・・。」
「・・・何か言ったか皐牙。」
腑抜けた顔で未だ撫でるセレに皐牙は一つ溜息を付く。
「もう十分だろ店主。好い加減仕事しろよ。」
「むぅ、今セレは至福の時を味わっているのだ。何時もの激務の疲れを癒しておるのだから其の儘見護っていれば良いのだ。」
然うだ、ハリーの言う通りだ。良いぞハリー。
我が意を得たと許りにセレは其の儘撫で続けていたが、カンゴー=グレンが頭を上げてしまった。
噫そんな、もう手が届かない。飛べば良いだろうか。
―仕事・・・何かの用事の最中だったのか。―
「そ、先言った此の次元を元に戻すっつー奴だよ。」
―噫其は是非ともして貰わねばな。邪魔してもいけない。御前達に此の縄張を出歩く許可をやろう。吾は少し離れるぞ。―
「え、カ、カンゴー=グレン待つんだ。せめて後一時間!然うしたら仕事の能率も上がるからっ、」
セレの悲鳴は虚しく旻に残り、カンゴー=グレンは其の身を翻して何処かへ飛び去ってしまった。
名残惜しそうに、宛ら届かぬ自由を前にした囚人の様に彼を見送ったセレだが、其の姿も見えなくなるとキッと皐牙を睨んだ。
「何て仕打ちだ。まさか先のを根に持って・・・。」
「根に持ってねぇし、オレ程仕事熱心な奴に良く言うゼ。」
―まぁ確かにカーディ、店に来てからは一寸真面目になったよね。―
「へ?あ、そ、抑オレは真面目だし。」
まさか褒められるとは思わなかった皐牙は僅かに頬を紅潮させた。
強がりも何時もより声が上擦っている。
オレ、彼奴の事性格悪くなったって馬鹿にしたのに、何か調子狂うな・・・。
「・・・はぁ、分かった分かった。じゃあ仕事をちゃっちゃとしよう。もう結構な時間が経ったし、一度女王の所へ戻ろう。」
諦めた様に手を振ってセレは階段を降り始めた。
あと少し、情報が欲しいな。でも先ずは休憩だ。
陰りつつある驕陽を見遣り、一同も後に続くのだった。
・・・・・
「あ、御疲れ様です。御食事丁度出来上がっていますよ。さぁどうぞ此方へ。」
一階迄降りると女王が広間への扉を開けてくれた。
「噫、何から何迄済まないな。」
「いえ、好きでしているので、さ、どうぞ。」
相変わらずにこにこ笑って本当に嬉しそうだ。何処となく御茶会の際のアティスレイを思い出す。
促される儘広間へ行くと、其処には既に配膳され、綺麗に整えられたテーブルが鎮座していた。
何も未だ出来た許りの様で仄かに煙っている。
此程の手際を一人でしたのなら料理が得意と自慢しても良いレベルだろう。
鳥を丸々焼いた物、華を添えたサラダや、胡桃入りのパンなど、中々豪勢な物が並んでいる。
「スゲー、こんなん御馳走になって良いのか?オレ達寄った丈なのに。」
「御客様を御持て成しするのは当然ですよ。其に私、賑やかなのが好きなんです。だからしっかり御持て成ししたくて、足りない物とかあればどんどん仰って下さいね。」
一同が席に着くと女王も向かいに腰掛けた。
怪しまれない程度に匂を嗅いでおく。
・・・特に不審な感じはしないな。まぁ仮に何か入っていたとしても神に其は効かないから楽で良いけど。
一応ハリー丈は気を付けないといけないかな。
取り敢えず毒味も兼ねて自分から食べよう。彼の手先なら未だ十分猶予はある。
「じゃあ・・・戴きます。」
スープを一口飲んでみる。・・・うん、普通に美味しい。ゴロゴロした野菜が入っていてとろみもあって、ハリーの好物の肉も入っているし。
ちらと眴せすると一同も其に倣って食べ始めた。
まぁ此処で仮に仕掛けるにしても此の頭数相手なら厳しいだろう。今は情報収集の場として捉える可きだろう。
「因みに他の客はいないのか?ほら、昨日も一人此処に来たと聞いていたんだが。」
「昨日・・・ですか?いえ、誰もいらしていないですわ。此処最近誰も訪ねて来られなかったので・・・。だから、皆さんが来てくれて本当に嬉しいです。」
覚えていない、のか?白を切っているのか、其とも此の城に何か仕掛けでもあるのだろうか。誰も来ていないって事はないだろう。皆も似た話を聞いていたしな。
・・・確か帰って来ないんだったか、村人の話だと。
じゃあ入った人間は本当に何処に消えたんだ?
部屋を回っている時に荷物とかが残っていないか見たが、見事に空振りで骨しかなかったからな。
此は・・・もう少し聞く可きか?いや、もっと情報を集める可きか。
たった一日で消される事はないだろう。何の因果か良く見極めないと。
真実は、然う突く可きじゃない。其が一体何に変容するか分からないのだから。
後は、当たり障りのない話を続ける事にした。
只の旅人を演じて。
此の城には何かある。其に喰われない様に。
六つの目を開け、決して見逃さない様に。
騙されないさ。でも其の油断で足を掬われちゃあつまらないだろう。
口端が僅かに釣り上げるのを隠す様にセレは又一口スープを啜るのだった。
・・・・・
霄、水精の様な氷鏡が昇り、零星が環状に瞬いて中々優雅な霄旻だ。
そんな旻を見て一柱セレはベッドに腰掛けていた。
部屋は一柱一室と全員に割り当てられており、皆各々の個室に居る。
若し何か仕掛けるとしたら絶好のチャンスだろう。流石に只皆バラバラにするのは不味いと思い、テレパシーで全員扉を少し開けるよう言って置いた。
客室は全て同じ階層に並んでいるので、斯うして置けば自分の波紋で常にチェック出来るのだ。
只怪しまれてもいけないと思い、皆には特に警戒せず、寝て貰うよう伝えた。
・・・こんな時でも仲間を餌に使う自分の狡猾さに乾いた嗤いが止まらない。
誰も自分の言葉を疑わない。だから今此の城で起きているのは自分丈だった。女王は・・・さて、如何なのだろうか。
結局霄も大分深くなったが、目立った動きは見られなかった。
薫風が吹く丈で、特段皆に変化も無い。
今日は・・・特に仕掛けないのだろうか。
何とはなく窓に手を掛けて見ていると不図視界を翳る物があった。
「彼・・・は、何だ。」
旻へと昇り、氷鏡を呑み込む黔い影。
詠が・・・聞こえる。
悲し気な、でも何処か優しさを含む、誘う詠声が。
其は、とある龍だった。
宵闇色に実体も儚く揺れる龍は氷鏡に哭く。
其の姿は一頭の大蛇の頸や胴から別の蛇が生えている様で、揺らめき混ざる為に正確な数や姿は分からない。其の龍は大きく広がる喉を震わせ、各々の首から詠っていた。
そして其の龍を渦の様に取り囲む木の葉の様な龍は其々色取り取りの涙を流していた。
彼は、ナゲキリュウとナキリュウだ。
幽風の様な声で高く遠く詠うのはナゲキリュウ。憑り付く者の代わりに嘆き、悲しみを和らげる。
確か悲しみを知った龍が似た悲しみを見付け、寄り添う内に成る事がある龍だった筈。
同じ懐いを食べたナゲキリュウは融合し易い。彼の姿は其のナゲキリュウが此処に集まってしまった結果なのだろう。
そして其の周りを渦巻いているのがナキリュウ。
深い悲しみに包まれた者に寄り、共に涕いていた龍が変化する事があると言う、憑り付いた者の代わりに涕き、悲しみを減らしてくれる龍だ。
余りにも巨大な龍が黔い渦を巻いて旻へ詠う様は恐ろしく映るかも知れない。
だが彼等は決して傷付けたりはせず、相手を懐い遣る余り自分の姿すら捨てた、そんな心優しい龍達の成れの果てなのだ。
今一体誰の悲しみに憑り付いているのか、其を探らないと。
波紋を飛ばすと如何やら彼等は城の一室の窓から現れた様だ。
うねり、ぼやける躯は波紋でも中々実体を掴めない。
動作自体に然う意味はないが、もっと良く見ようと背伸びした時だった。
―君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。―
何時の間にか寄って来ていた一頭のナゲキリュウが顔を出す。
悲しみに暮れる瞳はしっかりとセレを捉え、大きく顎門を開いた。
窓枠に手を掛け、セレは無理矢理窓から飛び出す。
屋根に着地すると他のナゲキリュウも気付いた様で四方から寄って来た。
―君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。―
部屋から頭を出し、先のナゲキリュウも寄って来る。
危害は加えないのだろうが、悲しみを食べられたい訳でもないので飛び退いて去なす。
―君ノ悲シミヲ詠ッテアゲル。―
旻高くナゲキリュウは詠い、ナキリュウもセレの周りを飛び始めた。
―君ノ代ワリニ涕イテアゲル。―
―君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。―
―ダカラ御願イ、モウ・・・悲シマナイデ。―
「・・・私は別に其を望んでいないんだがな。」
口を開けてナゲキリュウが迫るので又大きく飛び退いた。
未だ彼の窓からナキリュウが現れている。一体こんな数、何処に居たんだ。
彼所に居るのは・・・矢張り、
「うむ!?セレ、此奴は一体何なのだ?」
見遣ると人身を解いたハリーが四足で屋根の上に居た。
尾は未だ部屋の中の様だ。如何やら気付いて取り敢えず上がってくれたらしい。彼の姿だと窓開けられないしな。
「攻撃は極力しないでくれ。彼はナゲキリュウとナキリュウ、龍族だ。今誰かの悲しみに憑り付いている。女王か骨のかは分からないが、手掛かりにはなる筈だ。」
「然うなのか。だが・・・話が通じそうにないが如何するのだ?」
「詠を聞くしかないな。悲しみの詠の原因に思い当たれば此方の物だ。時間を稼ぐぞ。此方が喰われる訳には行かないからな。」
「流石セレなのだ!斯様な者達も斯く見事に利用してしまうとは。其なら任されよ。我は唯一の幻術の遣い手だぞ。」
「然うだな。御前も起きてくれて助かった。」
そっと擦り寄せられた頭を軽く叩く。
此の姿のハリーを見たの、何だか久し振りな気がする。
多分ハリーが起きたのは所謂野性の勘が働いたからだろう。
早速ハリーが幻の霧を辺りに立ち籠め、深く深く城を包んで行く。
そして次に自分達の幻を沢山量産し、其々てんでバラバラの所へ行かせる。
「手際が良いな。然もあんな精巧に創れるなんて。」
波紋に沢山自分が写って正直気持悪い。あんな一度に別々の動きを指定出来る物なのか。特に不自然さもないし、完成度は高い。
幻に紛れる様に自分達も移動する。ハリーは誇らし気に胸を反らしていた。
此の姿なら思った様に動けるのだから実に都合が良いのだ。
「セレの幻なら御茶の子さいさいなのだ。良く我の部屋に創って置いているのだ。」
「え・・・嘘、彼部屋の中走り回ってるのか?」
一寸恐い。何て遊びを考案しているんだ。
・・・ペットが寂しさの余り主人の臭が染みた服とかから離れないのと同じ様な具合だろうか。昔彼の黔猫も良くしていた。
でも部屋を分けた丈でそんな事してたなんて、其処迄寂しい思いさせているつもりはなかったんだけど・・・。
「色々な動作をさせて、我も練習したり、一緒に走ったりはしたぞ。でも本物に勝る物はないのだ。今の方がずっと楽しいのだ。」
ハリーの部屋で空恐ろしい事に自分のドッペルゲンゲルが大量発生している事は確定してしまったが、中々可愛い事を言ってくれるので其の頭をぎゅっと抱き締めた。
親馬鹿みたいだけど矢っ張りハリーが一番可愛いな。
そんな事で戯れていると突如目の前の霧が晴れて一頭のナゲキリュウが口を開いた。
―君ノ悲シミヲ食ベテアゲル。―
―君ノ代ワリニ涕イテアゲル。―
―君ノ悲シミヲ詠ッテアゲル。―
いや、一頭じゃない。粗全てのナゲキリュウとナキリュウが此方に来ていた。
其々の首が各々詠い、渦が激しく荒ぶる。
「むぅ、何じゃ此奴等、まさか幻術が効かぬのか。」
「噫然うか。悲しみが見える龍なら若しかして自分達と全く違う世界が見えているのかも知れないな。心の無い幻は物と一緒なのかもな。」
「何と、心迄幻覚で作るのは難しいぞ。其だとこんなに創れぬし・・・。」
「あ、一応出来るんだ。」
其は凄い。一体如何言う感覚なんだろう。幻がハリーの意思とは別で自由勝手に動き回ったりするのだろうか。
ナゲキリュウが突っ込んで来たので咄嗟にセレはハリーの背に跨る。
ハリーが急上昇し、ナゲキリュウ達より上旻で旋回する。
悲し気な声が眼下からし、ナゲキリュウ達は只首を伸ばしていた。
見た所本能に従って、心に近付こうとしている。自我や意思の類は殆ど見られないな。
彼等は執拗に自分を食べようとしているが、喰われたら一体如何なるのだろうか。
物理的に喰う訳では無い。悲しみ丈を食べて行くのだから痛みも何も無いかも知れない。
悲しみ丈失えば、確かに少しは楽になれるかも知れない。でも自分は其を背負い過ぎた。其を食べられちゃあ自分には何が残る?何に成る?
復讐や怒りで足を進める自分を象る原動力、其を奪われちゃあ世話ないな。
其でもナゲキリュウ達は又集まって一頭の巨大な龍となる。そして何とか頸を伸ばして近寄って来た。
「・・・私の悲しみはあげられないよ。空っぽにはなりたくないからな。」
頸を伸ばしていたナゲキリュウは一つ小さく鳴いた。
そしてやっと諦めてくれたのか、又分裂して詠を詠い始めた。
―悲シミガー君ノ悲シミガ聞コエテ来ルヨー。―
―寂シイ、寂シイ、寂シイッテ声ガ。―
―デモ私達ハ一緒ニ居ラレナイ。友達ニモ家族ニモナレナイ。―
―一緒ニ涕ク丈、一緒ニ詠ウ丈。―
―ダカラ友達ガ欲シイノ、誰カ一緒ニ居ラレル人・・・。―
―僕達ジャ出来ナイ代ワリヲ如何カ如何カ。―
―モウ独リニシナイデ、独リハ嫌ナノ。―
―如何カ如何カ。―
何処からか聞こえて来るのはピアノの伴奏。
ナキリュウ達は其のメロディを口遊み、リズムを取って渦を巻く。
氷鏡へと響く、悲しみの詠。
悲し気に旻に詠って徐々に悲しみを吐き出したナゲキリュウとナキリュウは小さくなって窓へ戻って行ってしまった。
「今のが詠だったのかのぅ・・・。」
「然うだな。一応、大まかな目処は立った。只、」
「うむうむ、流石セレなのだ!ではそろそろ部屋に戻るかのう。」
一日に十回は“流石セレなのだ!”って聞いている気がする。新手の宗教みたいだ。
「明日寝坊しちゃあいけないし、もう大丈夫だろう。降ろしてくれるか、ハリー。」
大きく一つ頷いてハリーは弧を描き乍らセレの部屋の前迄下りて行った。
さっと彼の背から部屋の中へ飛び移る。
鼻先を向けていたので其の頭をもう一回ぎゅっと抱き締めた。
「御休みなのだセレ。」
「噫、ハリーも良い夢を。」
顔を一度ペロッと舐め、ハリーは自分の部屋へ戻って行った。
其の様を見送った儘セレは窓辺から離れなかった。
もうナゲキリュウ達の気配はない。悲しみを吐き出し切れたのだ。
明日。明日だ。其処で全て終わらせる。
呪われているのは、女王か、城か。
解決策も、ある程度は予測が付いている。
独りが嫌なら、一緒になれば良いんだ。
只・・・覚悟を決めないとな。
変わらず美しく天を泳ぐ氷鏡を見上げ、セレは一つ息を付いたのだった。
・・・・・
翌日、女王が一同に声を掛け、食堂にて朝餉が振舞われた。
今日も女王は嬉しそうで、一同が食事を平らげて行くのを見て幸せ然うだった。
「今日は皆さん如何されますか?若し良ければ昼迄の時間なら城の事、御案内出来ると思いますけど、もう一泊されても構いませんし。」
「其の事なんだが、実はもう行く所が決まっていてな。もう直ぐ発つつもりなんだ。」
―・・・そんな急で良いのか店主。―
―大丈夫だ。一応策はある。―
ちらと皐牙が此方を見遣ったが、直ぐ視線を食事へ戻す。
「そ、然うですか。其は仕方ないですね・・・。」
一瞬驚いた顔を浮かべたが、直ぐ其を苦笑に変え、女王は紅茶の入ったカップをそっと下ろした。
其の一挙一動をじっとセレは見詰めていた。
「済まないな。急に切り出して。」
「いえ、御食事も御一緒出来て私も楽しかったです。こんな風に大勢で席に着いたのは本当に久し振りでしたから。」
「うむ。此方こそ御馳走して貰って許りで申し訳ないのだが、」
「そんな気にしないで下さい。只出来れば又此の村に寄った際には是非いらして下さいね。私、何時でも御待ちしていますから。・・・さ、御手が止まっていますわ皆さん。折角の朝御飯ですからしっかり食べて、元気に旅を続けて下さいね。」
女王は只笑顔で、朝餉は終始そんな穏やかな空気の儘、幕を閉じたのだった。
・・・・・
「此処での一時は本当に楽しい物だった。良い土産話が出来たよ。」
「然うですか。えぇ、其なら本当に良かったですわ。」
城の広間へ集まった一同に手を組んで女王は笑顔を漏らす。
「・・・飯、旨かったゼ。彼なら又食いに来てやっても良いゼ。」
―もうカーディは。もっと言い方があるやろ。―
苦笑を漏らすソルに皐牙は外方を向いた。
「フフ、然う言って貰えれば。是非又、次も腕を振るいますから。」
背を向けた一同に女王は手を振る。
セレが扉に手を掛けた。緩りと扉が開き、薄い明かりが零れて来る。
其の時、セレははっきりと扉が軋むのと別の音を聞いた。
―嫌だ。―
手が・・・止まる。
―独りに、しないでっ!!―
「っセレ!!」
ソルがセレの服の裾を掴む。其の目は何かに怯え切っていた。
然う、誰よりも先に彼の音を聞いていたのだ。
勿論セレも波紋でしっかりと状況を見ていた。だから扉から手を離し、女王と向き直った。
女王は、先迄其処で笑顔で自分達を見送っていた彼女は、真絳に燃え盛る焔に包まれていたのだ。
薄いベールやドレスはあっと言う間に焔が燃え広がり、女王の半身はもう完全に焼け焦げて黔い骨が覗いていた。
そんな焔のドレスを纏った儘、唯一変わらないのは頭上のティアラ位の物で、焔の爆ぜる激しい轟音と共に女王の涕き叫ぶ声が混ざっていた。
―あ、ぁ、独りはもう嫌、何時迄此の城に居ないといけないの。もう見送るのは、置いて行かれるのは嫌なのに、独り法師は冥くて寂しくて冷たくて、御願い御願い御願い御願い御願い御願い御願い、私はもうっ・・・っ!!―
眼球も焼けて落ち、冥い瞳の頭蓋になってしまったが、其でも女王が涕いている事は容易に分かった。
そして両手を前へ伸ばし、緩りと一同に近付いて来る。
「っなぁこ、此って一体如何言う事だよ!」
すっかり腰が引けた皐牙達は後退る。何かの焼ける焦げ臭い臭が鼻を突いた。
「問題無い、私が行く。」
大きく足を出し、セレは女王へ両手を伸ばした。
受け止める様に、捧げる様に。
そして其の焔の中へ身を投じた。其の儘女王を抱く様手を回す。
緩りと女王が首を廻らせる。其の虚になった目を真向から見遣って。
「独りが嫌なら・・・私が一緒に居てやる。」
―・・・あ、あ゛・・・あっ・・・あ、・・・―
震えた女王はもう殆ど肉体が残っていない。
剥き出しの骨となった両手を伸ばし、同じ様にセレの背へ回した。
・・・此は、矢張り可也痛いな。
焔が、身を焼いて灰にして行く。
吸う息が全て焔になって喉が焼けて詰まり然うになる。
此じゃあ然う持たないな。あっと言う間に焼死体の完成だ。
自分の骨だって黔いし・・・ペアの様に見えるだろうか、なんて。
全身が痛い。生きた儘肉を焼かれ、焔の勢いは弱まる事もなく、何度も何度も新たな熱と痛みを残った躯に擦り込んで行く。
少しずつ少しずつ、芯へ向かって、自分が曖昧になって行く様な。
痛みには、可也自分は鈍くなっていた。寧ろ懐かしさを覚える位だ。此は唯一と言って良い程の前世からの喜ばしい贈り物だな。
・・・まぁ、前世も焼かれた事があるんだし、此位な。
だから此の手を取った。共に滅びる事を選べた。
龍達が教えてくれた此の城の真実、其は何の捻りも無い至極単純な物だ。
只、女王は独りが寂しかった丈なんだ。
聖女と呼ばれようと、黔日夢の次元の時の自分を退かせた英雄だろうと、彼女は一人の人間だった。
一人甦った彼女は、自分を置いて先に行ってしまった骨達では無い、一緒に居てくれる誰かを探していた丈なんだ。
だから旅人を燃やした。一緒になれる様。でも誰も彼女を受け入れたりなんてしなかっただろう。
当然だ。行き成り焼身自殺を、心中を迫られてもな。
そして旅人の魂は何処にも帰れない儘只漂うのだ。
こんな焔なら数秒も持たなかっただろう。
だから結局女王は独りになったんだ。
だったら簡単だ。一緒に心中してしまえば良い。
屹度此の次元が斯うも歪んだのは自分の所為だ。直ぐ立ち去ったのだとしても、其処に縁が生まれれば、歪みは、罅は次元を蝕む。
心中なんて訳ない。自分は神なのだから。
迫間に帰る丈、でも屹度一緒に死ねる者が居れば女王は満足してくれる筈。
生前の彼女は優しかったと皆口を揃えて言ってくれたんだ。其位は願っても良いだろう。
・・・唯一分からない所があれば、如何して彼女が生き返ったのか、だが。
其は自分の事とは別件の気がする。黔日夢の次元の所為とは・・・一寸思えない。
まぁでも、もう今はそんな事、大した問題じゃないだろう。此で此の次元が元に戻れば其で。
―・・・あ、有難う・・・。―
女王だった骨はそっと自分の胸元へ顔を埋めた。
そんな彼女に自分は笑みを返してやる。
こんな自分の命一つで救えるのなら、軽い物だ。
―凄い凄い、矢っ張り君は普通じゃない。まさか心中を選ぶなんてね。―
何処か聞き覚えのある声が頭の奥で響いたと思った瞬間、セレの其迄感じていた痛みと言う感覚の全てが唐突に断ち切られた。
・・・・・
ぼやけていた意識が集まり、少しずつ頭が働いて行く。
此処は・・・何処だろう。抑自分は一体如何なっているんだ・・・。
不思議だ。自分の躯が無いみたい。意識丈になって宙を漂う様だ。
浮遊感。でも夢と言うには余りにも意識がはっきりしている。
―気が付いた様だね。―
何処からかする声に意識を向ける。たった其丈で何も無かった筈の空間が色を持ち、景色を象る。
其処に居たのは・・・心の龍、フリューレンスだった。
如何も前会った姿とは違う。幾何学模様で象られた躯は更に複雑化し、根の様に此の空間の四方に伸びている。
フリューレンスは何処か嬉しそうで、其の大きな鏡の様な瞳を緩りと瞬いた。
―御久し振り、変わらず元気そうで良かったよ。―
―・・・然うだな。随分と久しいじゃないか。折角会えたと思ったら・・・一体私に何をした。―
―ハハッ、そんなに睨まないでよ。君、知らない間に又歪んだね?最早歪み過ぎて正しい形も分からないじゃないか。・・・おっと質問に答えなきゃ又睨まれちゃうかな。此処は彼の女王の心の中。其処へ君を招待した丈だよ。―
噫然うか、だからこんな現実感が無いのか。此処がまさか他人の心の中だなんて。
まるで時が止まってしまったかの様な感覚だ。本当に此の出会いの間は止まってしまっているのかも知れない。
―ずっと此処で君達の事見てたけれど・・・フフッ、矢っ張り君は素敵だなぁ。一体どんな心だったらこんな道を選ぶんだい?まるで天蓋花が咲き乱れる宵の道だ。如何して君の大嫌いな人間なんかの為に心中出来るのさ。分からないよ、そんな心。僕は知らないよ。―
何が可笑しいのかフリューレンスは先から笑いを堪えて許りだった。
そしてそっと自分に近寄り、喉の奥で鳴いた。
―御前がこんな所で何をしていたのか教えてくれたら私も教えるが。―
此処は此奴の独壇場だ。心なんて勝手が分からないし、下手な事をして閉じ込められたり、折角救った女王の心を壊されてもいけない。
何とか・・・対等でいろ。天秤を崩すな。
如何しても此の龍丈は油断ならない。心の龍なんだから心を読むのは彼にとって当たり前なのだろう。でも、其の当たり前が私には良くない。都合が悪いんだ。
如何してもささくれ立つ嫌悪感は此の所為なんだろうな。此奴自身が悪い訳じゃないって分かっているのに。
―寧ろ御喋りして良いんなら僕にとって都合が良いよ。君に・・・一寸褒めて貰いたいのかも。子供みたいにね。―
フリューレンスは棚引く曦の束で口元を隠したが、其でも歪む口端は隠し切れていない様だった。
―君の仕事の御手伝いをしようと思ったんだ。君の仕事は次元の主導者が必要でしょ?でも此の次元の次元の主導者はもう亡くなっていたからね。魂丈が此の城を漂っていたんだ。満たされていない、空っぽの心がね。―
―其が女王か。―
―そ。でも話す術の無い魂相手じゃあ君達困るでしょ?其に漠然と漂う魂は意思の疎通が難しい。だから僕が代わりに彼女に話を付けたのさ。何が欲しいのか聞いて、自意識を繋ぎ止めて。―
―成程。然う言う風に御前は心に入り込むのか。―
孤独だった魂にとって其は救いだろう。まんまと女王はフリューレンスに心を開いたのだ。
―慣れた物だからね。でも御蔭で彼女、実体が持てる位、はっきりとした自我を取り戻したでしょう?まるで生きていた頃と変わらない。人間らしい人間だ。―
じゃあずっと今迄自分達が見ていた女王は魂丈、霊的な物だったのか。彼の城に入った時から自分達は呪いに掛かっていた訳だ。余りにも生き生きとした魂が為に、霊と言う事も見抜けない程彼女は生者に近付いた。たった一つの願い丈で。
―其処へ丁度君達が来たんだよ。此って運命みたいだ。朝の露の様な小さな色。僕の君に逢いたいって言う願いが君を引き寄せたのかもね。―
可笑しそうにフリューレンスは笑って、でも終始其の目はじっと自分を捉えていた。
其は・・・何かを期待している様で。
確かに勝手な事をしてくれたとは言え、彼の御蔭で次元の主導者である女王の真意に気付いた。
女王が霊として彷徨っていたのは本当だろう。そんな面白くもない嘘を龍族は吐かないんだ。
善意こそあれ、悪意は無い。
龍族の性質が分かって来た以上、彼が自分に寄せているのは純粋な好意なのだと分かってはいた。
アティスレイと似ている。愛が裏返って、正しく伝わらない丈。
自分が彼を拒むから、其でも彼は何かしたくて、気付いて欲しくて、こんな事をしたんだ。
何も難しい事はないんだけれども。
・・・未だに此処迄彼等に好かれる理由が分からないから受け入れ難い。
そっと彼へ手を伸ばした。意識を向ければちゃんと手の感覚が甦る。
そしてじっと動かないフリューレンスの頬を撫でた。
―・・・有難うフリューレンス。―
―如何致しまして。―
目を細め、フリューレンスは大人しくしていた。
気持良いのか喉の奥で小さく鳴いてせがんで来る。
然う、こんな仕草の一つ一つは何ら他の龍達と変わらないんだ。
変わらない物を・・・私に求めている。
―・・・僕達は大好きな君が命じれば何でもするよ。君の為になりたいんだ。其の事を如何か忘れないで。―
囁く様にフリューレンスは告げ、猶頭を寄せて来る。
―・・・本当に、何でもやってくれるのか?―
フリューレンスは笑みを深くして、只じっと自分を見詰めていた。
不意に何処からかピアノの旋律が聞こえて来た。
此は・・・女王のピアノの音だ。
気付いた途端景色が黔一色に塗り変えられる。
其は無数のナキリュウとナゲキリュウの群だった。
皆心の底から沸き起こり、何処かへ飛び去って行く。
―噫もう、彼等はずっと僕に付いて来るから一寸鬱陶しいんだよね。―
フリューレンスはセレの前へ移動し、そっと彼等の群から遠ざけた。
―もう彼女の心は満たされた。役目を終えた僕等は又世界を移ろうよ。―
然うか、だからナゲキリュウ達は移動を始めたんだ。もう此の心に悲しみは残っていないから。
彼等も又フリューレンスと同じで満たされていない心を探しに行くのだろう。
―じゃあね、セレ、会えて良かったよ。又ね。藍の零星が君に降り注ぎます様に。―
段々と霞み乍らフリューレンスは曦の束を手の代わりに振っていた。
ナゲキリュウ達の渦に圧倒されて自分は声の一つも出せずにいたのに。
彼の言葉は、好意しかなかった。本当に、嬉しそうで、
もう少し位言う事があるんじゃないか、然う口を開けたのだが、其処で又自分の意識は薄れて行った。
ナゲキリュウ達の渦と共に外へと・・・、
・・・・・
一気に躯が重くなる。現実へ戻って来たんだ。
矢張り時間は止まっていた様で、未だ自分は焼け死んでおらず、女王も骨の儘自分の胸へ顔を埋めていた。
痛覚も急に戻って目眩がする。
もう、後数刻もしない内に・・・、
―オイ行き成り何やってんだよ店主!―
そんなテレパシーが届き、続いていた痛みが遠退いて行く。
別に火傷が治った訳では無い。だが其以上躯は燃えなかった。
だが焔の代わりに自分の躯からは植物が生えていた。
此の尖った厚い華葉は蘆薈?下方に長い花弁を持つ紫の小花は・・・雪ノ下・・・だっけ。
蘆薈は皮が焼けてなくなり、華葉の内側が顕になっていた。其の部分が自分の焼けた皮膚へ絡まって行く。
雪ノ下も毛の生えた華葉同士が擦れ合い、同じ様に皮膚へと貼り付いて行く。
其の華葉の冷たさに少し丈、痛みが和らいだ気がする。
如何して、未だ焔は自分に纏わり付いているのに、此、は。
然うだ、皐牙だ。先のテレパシーの意図を考える。
彼が術で女王の焔を操っているんだ。そして恐らくハリーの幻で此の焔を創っている。自分も一緒に燃えている様に。
そして周りに突然芽生えた草花は火傷を癒す為の物だ。ソルの術で生えて来たのだろう。
―行き成り心中とか見せ付けんなよ。此もオレを驚かす罠な訳か?些とも笑えねーし、取り敢えずハリーとオレで焔を偽造して置くから、グリスの草で応急処置位して、女王とはちゃんとケリ付けてくれよ。―
―噫その・・・有難う。まさか助かるとは思わなかったな。―
本当良く出来た新神だ。元より死ぬ気だったので何だか恥ずかしい様な。
後は・・・彼女が焼き尽くされるのを待つ丈だ。
―何だか・・・私達を見送っているみたいね。―
囁く女王の声。確かに焔にくべられた華は火葬の様で、何処か儀式めいて見える。
―・・・もう貴方の捜し物は見付かったんですか?ちゃんと・・・救われましたか?―
不図耳に届いた声。そろそろと視線を下げると女王の虚の瞳と搗ち合った。
―大切な人を捜しているって、もう其は宜しいのですか。―
「何・・・の。」
いや・・・懐い出した。
女王が言っているのは、其は・・・黔日夢の次元の記憶だ。
其の声にはっきりと懐い出す。彼の時の事だ。
自分が此の次元に来た時、此の城の中へ顕現したんだ。
其処にはピアノがあって・・・女王が弾いていて・・・。
自分に気付いた女王はピアノを弾く手を止め、自分の元へ駆けて来た。
此も、捜していた物じゃない。だったら分かり易い様に、と壊そうとした時だった。
“ようこそいらっしゃいました。旅の方ですか?・・・っ如何されましたか!?そんなに涕かれて、如何か涙を拭いて下さい。折角の御顔が台無しですわ。”
然う声を掛けられたんだ。
有ろう事かこんな真黔の化物を、話し相手にしてしまうなんて、何丈聖女を貫くつもりか。
・・・いや、其が出来てしまう程に既に女王は寂しかったんだ。独り切りに疲れていたんだ。
私は・・・本の少し丈、其に気を留めたんだと思う。
手を止めると透かさず女王はドレスが汚れるのも構わず私の涙を拭った。
“何があったんですか?若し何か私に出来る事があれば・・・、”
“・・・捜シ・・・者・・・ズットズッド・・・捜シデ、ル。大切・・・ナ、人、・・・ダッタノニ。”
“捜し者・・・ですか・・・。”
私が譫言の様に繰り返すのを聞いて女王は少し悩んだ風だった。
“貴方は屹度他の世界から来られたのですよね。済みませんが貴方と同じ様な存在は、私会った事が無くて、力になれなくて済みません。”
其の時の女王の声は不思議と耳に残った。
無い。居ない。此の次元には。・・・だったらもう用はない。
信じるとか、然うではなくて、其の言葉はすんなりと私の中に落ち着いた。
こんな私に声を掛ける者なんていなかった。だとしたら此処は前世と程遠いい次元なんだろう。
然う判断し、私は其の儘其の次元を去ったんだ。
懐かしい様な、何処か遠いい記憶を辿り、少し丈自分はふら付いた。
彼の時の事を言っているのなら。
自分は又女王へ微笑んだ。先より幾分穏やかに。素直に笑える気がする。
其の笑顔が例え翳っていても。
「噫見付かったよ。でも、」
―でも、未だ貴方は救われていないのね。―
下がり掛けていた顔を上げる。
骨丈となった女王も又、咲っている気がした。
―貴方は、一緒に居ると言ってくれた。私の願いを叶えてくれた。だから次は私の番。貴方の願いを叶える為に、私は一緒に居るわ。此は・・・契約よ。―
途端、躯の奥底に鎖が繋がれた気がした。其が重く、伸し掛かる様で、何処からともなく噎せ返る様な魔力が溢れた。
此は、何だ。自分の魔力に酔うだなんて、何とか抑えないと。
一つ息を付いて六つの瞳をそっと閉ざす。魔力の廻瀾を押さえて、緩り開くと彼の魔力のうねりはもう見えなかった。
女王だった骨は何時の間にか朽ちて崩れ去り、自分の手には何も残らなかった。
彼の女王に何かされた・・・?何処にももう彼女は居ない筈なのに、幽かに残る気配は何だ。
・・・けれども其以外特に問題なさそうだ。おかしいのは自分丈で、次元其の物に問題ないようには思える。
此の分ならもう帰っても大丈夫だろう。一応仕事は完了だ。
ハリーが幻を解き、セレの全身を包んでいた焔は消える。蘆薈や雪ノ下も朽ちてなくなってしまう。
途端足が縺れ乍らも何とかハリーが駆けて来た。
「セレよ。大丈夫なのか?昨霄策があるとは言ったが、よもや斯様な物とは。無事だったのは良いが、その・・・余り危険な事はして欲しくないのだ。」
「そーだゼ。ったく行き成り焼身自殺とか神っつっても笑えねぇから其。そんなノウハウならオレは遠慮するゼ。」
「噫、今回は本当に助かったよ。三柱が居ないと出来ない方法だったな。」
改めて波紋で自分の姿を見てみる。
思ったよりは軽傷で済んだみたいだ。オーバーコートも穴が空いたのは所々って丈だし、顔はまぁ多少焼かれたけれど。
「げ、矢っ張一寸焼けてんじゃねぇか。終わったんならさっさと店帰った方が良いゼ。どうせ店主の事だから何であんな事して女王が消えちまったか分かってるんだろ?後でちゃんと説明しろよな。」
不機嫌そうに皐牙は口を尖らせる。
確かに仲間の居る前で随分軽率な行動を取ってしまったな。
神だからと言っても自殺は可也消極的手段だったか。まぁ痛いもんな。
―ほんまに・・・大丈夫なんか?痛く・・・ない訳ないよね。う・・・もう、あんな事せんで、本当に。吃驚したし・・・心臓に悪いわこんなの。―
目を伏せてソルは口を引き詰んだ。
そんな顔は見たくない。如何やら又自分は間違えてしまったらしい。
・・・普通な振りをするのって、本当に難しいな。
「済まない。・・・取り敢えず仕事は完了だ。御疲れ様。早速帰って休暇だな。」
「ま、然うだな。もう次元は大丈夫だろうし、早めに切り上げようゼ。矢っ張此の城、何か・・・な。」
―相変わらずやねカーディは。・・・うん、じゃあ帰ろう。早く其の怪我、治さんとね。―
一同の姿が霞んで行き、崩れ去る。
直前にセレは一度丈広間を見遣った。
陽光丈が静かに降り注ぐ広間の中央、一台のピアノ丈が物悲し気に残されていた。
一同が消えた後、陽光は不自然に揺らいで曦の帯を束ねる。
然うして姿を現したのはフリューレンスだった。
フリューレンスは残されたピアノを其の鏡の瞳で見遣り、そっと出鱈目な音色を弾いた。
「・・・まさか、心中に失敗したから契約を結ぶなんて思わなかったなぁ。矢っ張り君は特別だよ。君なら、本当に僕達の願いを叶えてくれるかもね。・・・良いなぁ、彼女は契約出来て。僕も、付いて行きたかったな・・・。」
独り言つフリューレンスの姿も次第に霞んで完全に見えなくなる。
後は只、二度と奏でる事のないピアノが一台、彳む丈だった。
・・・・・
救われた魂は淡く咲う
纏う色を変え乍ら創世の龍へと
貴方は今更何を望むの、朽ち行く世界に
只々、秘めた憖いは変わらず一つなら・・・
時が撫でる巨皓の城、奏でた黔の音も永久に消え
割とすっきり終わった様な、如何だったでしょうか。
今回の話はたった一言から膨らんで生まれました。
「ボーンプリンセス」只骨女王、なんですけどね。けれど此の一文丈が書いてあるメモがありまして、如何言う事だろー何だろーと考えている内に此の話が出来上がりました。反省点は城の内装がちゃっちい事ですね。仕方ない、シンデレラ城とか行った事ないんです。
御気に入りの龍も出たのでほっとしています。カンゴー=グレン、彼の子、割とデザインが気に入ってたりします。迚も描き易いんですよね。ナゲキリュウ達も可愛いです。ああ言う影のある子、大好物です。
セレの黒さが如実に出て来ている様な話になりました。
未だ彼女は勁くなります。彼女に此以上武器を与えて良い物か、気になる所ですね。
次話も・・・まま早いと思います。只、年内投稿は此が最後になるかも知れませんが。
ハッピークリスマス!アーンド明けまして御芽出度御座います!・・・と、此で挨拶もばっちりですね。素晴しい年末が皆さんに訪れます様に。
・・・遅れて良い言訳にはならない?・・・い、いやーそんなつもりは、えぇ、些とも、誤魔化してなんて、えぇ本当に。全く思い当たる所があ、ありませんな。まぁ其は其、なる時はなりますよ。(此奴言いやがった)
では又御縁がありましたら。




