21次元 雨駆ける水よ逆巻く水と移ろう次元
はい如何も御久し・・・ぅええ!!此の度は大変長らく・・・はいぃ~!?な、何と言う事でしょう、凡そ一ヶ月で更新です。早い、早過ぎる、如何して斯うなった。まさか此の私が真面目に書いただと!?
・・・えへへ~褒めて褒めて~(只単純に短い話だったからです。)。
と、そんな茶番は仕舞にして、今回は割かし良い具合で投稿出来ました。最近調子良いですね。此の一年前には彼の大作に取り掛かっていたもんね。短編って良いね。
後最近、前も書いたんですが、過去作の誤字修正を積極的にしています。もう酷かった。校正丈で何時間取らせるのって言うのが山程あった。誰か雇って代りにして貰いたいって心から思う程もどかしい作業でした。
・・・うん、何かね。更新が早過ぎて余書く事が無いね。もう吃驚だね。
まぁストーリーとしても加速して行く所なので此の位のペースを維持したいけれどもモチベーション次第ですね。新作ゲーム、アニメ、漫画、大量に現れる、何とも誘惑の多い時期です。
如何に此等を断ち切れるか、物書きって修行も出来て本当に素晴らしい物だなぁと痛感しました。え?はい、今日は筆者徹夜でゲームします。新作、開けてないんです。
皆さんも何か始める際には是非御気を付けを。魅力的な誘惑程、時間を多く消費する物です。然も此の事に関しては中々人間は反省は出来ても活かす事が出来ないのです。何と恐ろしい子。
そんな誘惑に耐えた今回は何とも平和な世界。最近の投稿と比べて迚も平和です。兎と御玉杓子が戯れる話です。さてさてどんな世界が待っているのか、どうぞ歩みを進めて下さい。
地の底より出でし水よ、遥かの旻を恋しがり、詠う
詠声は野を越え、木々を掻き分け、丗を撫でて雲華を震わせる
呼び水よ、地を憐れんで雫を垂らそう
忘れる事なかれ、水の盟約
姿は違えど、記憶は違えど、我ら同じ水の申し子と
・・・・・
「良し、到着っと!」
一つ伸びをしてガルダは旻を仰いだが、見えるのは遥か高く聳える木々で、鬱蒼とした其により、驕陽の曦は一滴も零れていなかった。
其の為だろう地面に莽蒼は殆ど生えておらず、ふかふかとする迚も深い腐葉土が一面に広がっている。
「又蕭森かぁ・・・。何かもっと斯う代わり映えのある所が良かったな。」
「何を言うんですか。蕭森、と一言で言っても次元に因って全く姿が変わるんですよ?新たな出会いも待っているんですし、もっと元気良く行きましょう!」
嬉しそうに両手を広げて回る様に少しロードは躍ってみせた。
裸足に腐葉土は擽ったいのかおかしそうに笑っている。
ケルディも特等席であるポケットから顔を出して一生懸命辺りの匂を嗅いでいた。
まぁ此方が久し振りの散歩過ぎてテンションが高くなるのは分かるけど、彼の巫女のも何か良い事でもあったのか元気一杯だ。
「眩しい位テンション高いなー。何がそんなに掻き立ててくれるんだよ。」
「えぇ!私聞いた事があるんですよ。蕭森に行けば可愛い少女の一人二人は見付かる物だって。此って定石とかセオリーとか御約束って言うんでしょう?早速探しましょう!」
初めて聞いた。恐ろしい魔物や動物なら居そうだけど、少女が如何して蕭森を彷徨うんだろう。
屹度見付けても其奴、妖怪の類じゃないのかなぁ。余計迷わされて取って食われそうだ。
「因みに其の情報のソースは?」
ま、実際の所俺は蕭森らしい蕭森に行ったのは此の仕事を始めてからだ。前世ではセレが良く銃と屍しかない恐ろしい所だと脅して来たし、俺の常識が間違っているって事があるかも知れない。
でも彼の時のセレが嘘なんて吐くかなぁ。冗談も大して言わなかった頃だ。確か、蕭森は入る迄も大変だけど、入ったら入ったで熊は碧樹に上ったり、滄江を泳いででも人間を襲う程獰猛だし、獅子は叢に隠れるのが得意、猪は突進するし、狼は群れる。豹なんて目じゃあ追えない程速く走るし、旻からは隼や鷹が飛び掛かる・・・。初めて聞いた時は其の見た事もない未知の化物に怯えて霄も眠れなかったっけ。
・・・思い出したら又恐くなって来たな。一寸忘れとこう。
「『恋愛&変態 五十参巻〜美女を求めて何処迄も、意中の彼の子とランデブー〜』です!御一つ如何ですか?」
其は何時か見せてくれた彼の石竹色の本のタイトルだっけ・・・。
んー其よりはセレの話の方が信じられるなぁ。
何でそんな自信満々なんだろう。俺が読むとでも思ってるんだろうか。
後其の御一つって何?其はサプリ的な何かなの?
「・・・遠慮しとくよ。み、見付かると良いな。そんな少女。」
適当に話を合わせて、落ち着かせた方が良い。
彼の怪力を侮ってはいけない。下手に逆らえば彼の本を口に捩じ込まれてジ・エンドの可能性だってあり得る。
然も俺は無駄に生命力が高い。玩具にされれば先に精神が死んでしまう。
彼は、触れてはいけない禁断の扉だと、俺の本能が告げていた。
「然うですか・・・。其は残念です。では又何時か。」
あ、諦めないんだ。
彼の本が何時の間にか枕元に置かれない様気を付けないと。
「さーて、今回の次元の主導者は何処かなー。」
早く彼の石竹色を忘れたくて適当に辺りを見遣る。
蕭森だし、今回の次元の主導者は鳥とか栗鼠かなぁ。若しくは又碧樹かも・・・?
「・・・・・。」
しまった、見付けてしまった。
意味も無く辺りを見渡していると足元から声がした気がして、
そっと窺うと碧樹の影に隠れて一人の少女が丸まって眠っていた。
本当だ。少女居た。こんな近くに転がっていた。
多分次元の主導者・・・だよな。取り敢えずロード呼ぶか。
狂喜乱舞しそうだけど、仕事はまぁちゃんとしてくれるからな。
ちらと今一度少女を見遣る。黔のマフラーを枕代わりにしているか其に顔を埋めているので顔立ちは良く分からない。
服は・・・余り見た事のないタイプだ。皓くて細長い嫩草を編んで、綿を詰めたり、襟口を覆う事で丈夫そうには見える。
其にしてもこんな所で如何して行き倒れているんだろう。何も持ってなさそうだし、旅をしている風でもない。
目立つ汚れもないし、近くに村でもあって、遊び疲れて寝てしまったのだろうか。
其の小さな背が緩り上下している様を見る限り、怪我や病気も無さ然うだ。
「おーいロード、御所望の品が見付かったぞ。」
少女を起こさない様そっとロードに声を掛ける。
途端目と躯中の輝石を輝かせて駆け出しそうになったので慌てて静かにする様ジェスチャーを送った。
其でも溢れる嬉しさを隠せないのか小さく鼻唄を歌い乍ら急ぎ足でロードはやって来た。
・・・良かった。あんな所でクラウチングスタートなんてされたら彼の筋肉、恐らく其処等中に地鳴りを響かせ、其の踵で地を割り乍らやって来ていた事だろう。何て恐ろしいんだ、筋肉って奴は。
「は、はわわぁ〜。な、何でこんな所に天使ちゃんが、」
声を潜めつつも荒い息でうっとり少女を見詰めるロードは何だか犯罪の臭がした。
良し、今後彼女の事は筋肉天使と呼ぼう。
「此の子が次元の主導者ですよね。」
「多分然うだろうな。」
「次元の主導者って何で斯うも可愛いんですかね。」
「いや知らないけど。」
「取り敢えず起こしちゃって良いですよね?風邪引いてもいけないですし。」
「然うだな。他にする事ないし。」
「じゃあ私が、私が起こしても良いですよね。」
「どうぞどうぞ。」
ぐいぐい来るなぁ・・・すっごい食い気味だし。
暫く少女の様子を見ていたケルディもついと顔を上げるとロードを見遣った。
不思議そうに其の鼻はひくついている。蕭森よりも少女よりも隣の筋肉の方が気になる様だ。其の野性の勘は屹度正しい。
「何でそんな嬉しそうなの?若しかして大好物なの?女の子。」
「然うね。食べちゃいたくなる位大好きよ。」
「お、おいおい誤解を誤解で返すなよ。大丈夫だってケルディ、マジで食べる訳じゃないからさ。」
ケルディはすっかり驚いてポケットの中にすっぽり入ってしまったので、上から軽く叩いてやる。
ケルディも可愛いから屹度自分も食われると思ったんだよな。あんな筋肉天使に狙われたら勝目ないもんな。分かるよ其の恐怖。
「其じゃあ・・・あの、大丈夫ですか?起きて下さい。」
「っ・・・ん、・・・う?」
「近くで見ると益々可愛いですよガルダ。」
「・・・そりゃあ良かったな。」
少女は目を擦り乍ら緩り起き上がった。
其処で俺は大きな勘違いをしていた事に気付く。
マフラーだと思っていた物は如何やら彼女の長い耳だったのだ。髪の代わりに黔くて兎の様に長く大きい耳が肩に掛かっている。
耳の生え際には丸っこい角が左右に二本づつ生えており、深いグレーの大きな丸い目に、鼻はピンクだった。
目元を拭う手も掌以外は茶の毛皮に覆われている。
変わった形のブーツをしているな、と思っていたが、両足も兎の様な大きくて毛に覆われた物だった。
兎族とか、兎の亜人って呼ばれるタイプの人種かな。
すっかり人間だと思っていたガルダは些か面食らってついまじまじと少女を見てしまう。
慣れないといけないんだよなぁ、此は中々難しい。
でも彼女の姿は此の次元での人間の様な物で、俺の方が異端に映るんだよなぁ。
少女は完全に目を覚ましたが、目の前でにこにこと出迎えてくれたロードに驚いて小さく跳び上がった。
「驚かせて御免なさい。でも元気そうで良かったわ。こんな所で如何したのかしら。其の儘寝たら風邪を引いてしまうわ。」
緩りと静かに話すロードに少女も多少落ち着いたみたいだ。
そわそわと揺れる髪を押さえ付け、何度か瞬きをした。
「あの・・・私、近くの村で・・・えっと、その・・・。」
歯切れ悪くも何度か言い掛けては止めてを繰り返す。
其の様をロードは頬杖を付いてじっと待った。
「・・・迷子になっちゃったのかしら。」
「じゃなくて・・・その、何処か遠くに、」
「散歩中だった・・・とか?」
「ううん、もっとその・・・遠い所、に、」
暫しロードは考え込んだが、一つ手を叩いた。名案でも思い付いたのか幾分か明るい声で言う。
「若し良かったら、私達色んな所旅してるの。立ち話も何だし、暫く一緒に行ってみるかしら?」
「おいロード、幾ら可愛いからって、そんな誘拐擬いな事は駄目だろ。」
―いえ、一寸事情がありそうですし、如何にか話を聞いてみませんか?―
ロードからのテレパシーに思わずガルダは身構えた。
おちゃらけている様で、其の実矢張り大神の巫、古い神の一柱である。
真面目に仕事をしようとしている事に気付き、少しガルダは反省した。
斯う言う対人スキルや情報収集は抜け目なくするタイプなんだ。
「・・・良いの?じゃあ一緒に行く。」
驚く程に安請け合いし、少女は躯に付いた華葉を払い落して立ち上がった。
「フフ、貴方みたいな可愛い御仲間が出来て嬉しいわ。私はロード、彼はガルダよ。後彼のポケットにいる狐がケルディよ、宜しくね。」
「私はチーファ、その・・・宜しく、御願いします。」
急いで頭を下げたチーファは早速何処かへ行きたそうだった。
・・・いや、行きたいと言うより急いている様な、そんな気がした。
落ち着きなくそわそわしているし・・・別に魔物とかいそうにないけどな。
「チーファね、可愛い御名前ね。じゃあ・・・別に当てもないですし、彼方に行きましょうか。」
ロードが適当な方角を指差すと、慌ててチーファが彼女の服の裾を掴んだ。
「ま、待って其方は・・・えと、私、其方から・・・来たの。だから別の所に行きたい。」
「然うなの?じゃあ反対方向に行きましょう。」
ロードが回れ右をするとチーファも大人しく付いて行った。
彼方に村か何かがあるんだろうけど・・・。
振り返ってある程度の方角をガルダは見当付けた。
今は仕方ないか。取り敢えずはロードの手に乗ってみよう。寧ろ俺達が彼女を惑わして取って食うなんて事はないだろう、流石にロードもな。
不図何か視界を揺らぐ物があったので注視して見るとチーファの尻尾が左右に振られていた。
棒の先に丸いボンボンを付けた様な尾だ。
本当、世界って広いなぁ、こんな種族がいるだなんて昔の俺は些とも知らなかったのにな。
人間以外にもこんなに一杯いるのなら、如何して俺達はこんなにも自分達の姿を恐れて忌避するんだろう。
若し本当に彼奴の仲間が何処かの世界にでもひっそりと生きていれば、屹度彼奴はあんなに心も全て隠す事もなかったんだろうにな。
寂しそうに笑うとガルダは一つ息を付いたのだった。
・・・・
「うーん、村とかは彼方此方あるけど、特に面白い物って言われても・・・。」
「然うなの。でも長閑で良い所ね。気候も穏やかで。」
「うん。抑私、村から余り出た・・・えと、遠くに行った事が無くて。他の所の話が聞きたいな。」
暫く当てもなく歩いていたが、少しずつ着実にロードは情報を仕入れていた。
此の辺りは初めてだから、と言う事でチーファに観光案内の様な具合で地理を聞いてみたのだ。
其の点で言えば此処は本当に徒広い蕭森って丈で、観光出来る様な所は然う言う意味では残念乍ら無い様なのだが、幾つか分かった事もある。
先ず矢張りと言うか何と言うか、チーファは近くの村、恐らく出会った所の本の直ぐ近くにあったであろう村の村人だった。
そして如何もチーファは其を俺達に知られたくないらしい。飽く迄も自分も旅人だと言って譲らない。
其の辺りを責めてもっと話を聞いても良いのではと思ったけど、ロードは何処迄も優しい御姉さん風で、素直に其の設定を呑んだ。
御蔭で会話が盛り上がって先からチーファは墓穴を掘り捲っている。そろそろ隠すのも厳しくなって来たんじゃないかな・・・。元々嘘が吐けない性格なんだろう。
其の自滅をロードは狙っているのかも知れないけど、ま、勝手な事して殴られて死にたくないし、彼女の扱いは任せている。
でも村人である事を隠すと言う事は、村には帰りたくないんだろうな。初めも如何にか村から離れようと必死だったし。
両親と喧嘩しているとか・・・?でも彼の様子、何方かと言うと怯えていた様な気もするんだよな。
でも別に何処か怪我したりしてる訳でもないし、村で酷い目に遭っているって事はなさそうだ。
何はともあれ、村に帰すのが一番なんだろうけど。本当に此の儘旅して回る訳にも行かないし。
屹度こんな蕭森を女の子一人で歩くは危険だから、其から護るってのが今回の仕事だろう。
・・・ま、未だ情報が乏しい今、彼此考えても仕方ない。取り敢えずは歩くしかないな。
「あ、此処に泉があるわ。少し休憩しましょう。」
ロードが声を掛けるとチーファはぱっと表情を綻ばせて足早に向かう。
其の泉は地下水が沸き出て自然に出来た泉の様だった。
水は迚も澄んでおり、それなりに大きくて深さもある。
「冷たくて・・・気持良い。」
早速両手を水に晒してチーファは一つ溜息を付いた。
「あー此の水なら大丈夫かな。飲んでも平気だぜ。」
毒味も兼ねて一口水を掬って飲んだけど、別に違和感はない。
「ね、ね、御姉ちゃん、如何して此の水はあるの?此の水溜り丈残っているの?」
「然うねぇ、此は泉って言って地下から水が出て来るのよ。だからなくならないのね。」
御姉ちゃんと言われる度にでれでれっと溶けた笑顔で応じるロードは迚も幸せ然うだ。
「そんな水があるんだ・・・。此、村の近くに出来ないかな。」
「んー地下水だからなぁ、井戸を作れば出来るかも知れないけど難しいよな。」
「・・・若しかして水不足の村なのかしら。」
「皆喉渇いてて、困ってたから・・・あ、いや、昔居た所ね。」
言い繕ってももうバレバレなんだよなぁ・・・。
村の事を考えてるなんて随分と優しい子なんだな。
「・・・ん、」
もう一口掬おうとした所で視線を感じた。
良く良く見ると水面から何かが覗いている。
其は10㎝位の大きな御玉杓子の様な生き物だった。
真黔でシャボン玉の様な艶やかな体躯。俺の知る彼奴と違う所と言えば大きな背鰭が生えている事位だろうか。
大きな両鰭を手の様に広げて水面から浮かんでいたが、只々見詰める丈で何をする訳でもなさそうだ。
此の次元特有の生き物だろうか。如何見ても御玉杓子だし、流石に龍族ではないだろう。
何となく出来心でそっとガルダは両手で御玉杓子を押さえて沈めてしまった。
思った通り滑る様な柔らかい感触が掌から伝わって来たが、何か違和感を覚え、思わず手を上げてしまう。
すると其処には二匹の御玉杓子が水面から顔を出してガルダを見ていた。
「増え・・・た?」
いやいやまさかそんな筈は、多分水底の泥にでも潜っていたんだろう。
「ガルダ、何か見付けたんですか?」
「あ、御魚さんだ。」
二人が覗き込むように割り込み、御玉杓子を前に声が弾む。
「私、御魚さんって初めて見た。お、御話出来るのかな。」
「先から黙だから御話は難しいだろうけど。」
「ボクは御話出来るんだけどね。」
ポケットからケルディが跳び出し、チロチロと小さな舌で水を飲み始めた。
御行儀良く座っているけど、若し此処にセレが居たら即行で強奪されるんだろうなぁ。
「・・・なぁ、何か此奴等、先斯うしたら増えた気がしたんだけど、流石に気の所為だよな?」
「幾ら御玉杓子でも卵から生まれると思いま・・・す、よ。」
又ガルダが其の二匹を沈めると今度は四匹になってガルダを見詰めた。
さしものロードも言葉を失って只見る事しか出来なかった。喜んでいるのはチーファ位である。
「凄い御兄さん手品出来るの?可愛い。ね、もっと増やして。」
「か、可愛いのか。・・・よ、よーし見てろよ。」
斯うなれば自棄だ。
ガルダは両手を構え、高速で的確に次々と御玉杓子を優しく沈めて行った。
すると案の定一度沈めれば二匹が、二匹沈めば四匹が、次々と御玉杓子が生まれては増えて行く。
気付けば一面を御玉杓子に覆い尽されていた。そして揃いも揃ってじっとガルダを見ている。
此、擦り込みか何かで俺の事、親だと思わなきゃ良いけど。
「す、凄い!御魚さんが一杯いる。でもこんなに居ると今度は窮屈然うだね。」
「然うだな。一寸腹減ったし、此食うか?」
言った途端に後頭部を鈍器で殴られたのか一瞬意識が飛んだ。
「もうガルダ、言って良い事と悪い事があるわ。チーファの教育に悪いでしょ。」
あ、俺殴られたんだ。多分一瞬頭蓋やられたな。
チーファの前で撲殺の方が教育に良くないと思うけど。
俺が今軽く死んだ事、多分気付いてすらいないんだろうけど。
・・・恐いな、此。戯れとかでチーファを小突いてみろ、戯れ合いのつもりが虐待に早変わりだ。
「じょ、冗談だって。流石に俺も御玉杓子の捌き方なんて知らないし、あ、ほら彼の水の湧いている所から潜ったりして自然と丁度良い数になるんじゃないか?」
「此の大量発生の所為で蕭森が枯れて次元が滅んだらガルダの所為ですね。」
「だ、大丈夫だろ、な。」
御玉杓子達を見遣ると相変わらず俺丈を見詰めて浮かんだ儘だった。
そっとケルディが岸に近い御玉杓子を突いたが、変わらず御玉杓子はガルダを見詰めて浮かんでいた。此の子達に意思の様な物はあるのだろうか。
ま、彼の惚けた様な平和惚けした顔の奴等なら大丈夫だろう。触ってもこんなに大人しいなら。
そんな世界を滅ぼすなんて酷い事しないって。
「もう私は大丈夫だよ。ね、今度は何方に行くの?」
すっかりロードに懐いた様でチーファは彼女を見遣った。
大分緊張が解けて来た様だ。此で村人に出会してしまっても人攫いと言われずには済むかな。いや此の場合は神隠しか?
途端にロードも纏う空気がふわりと優しくなり、チーファに笑みを返す。
咲い合う二人の様子は宛ら華が咲く様な、だろうか。まさか先一柱殴り殺したとは思えない優しい景色だった。
「然うね、先は私が選んだし、今度はチーファが行きたい所にしましょう。」
「じゃあ向こう・・・かな。じゃあね、御魚さん達。」
小さく手を振るとチーファは適当な方角に向け、真直ぐ歩き始めた。蕭森に住んでいるんだし、方向感覚とかが優れているのかも知れない。そんな迷いのない足取りだった。
「じゃ、じゃあな。」
一応ガルダも手を振ってそっと其の場を後にした。
そんな姿を名残惜しそうに御玉杓子達はずっと見送っていた。
・・・・・
陽も暮れ、足元が見難くなった為、一同は野宿をする事にした。
未だそんなに歩き回った訳ではない筈だが、旻が見えない分早く暮れてしまうのかも知れない。
結局先の御玉杓子以外に目ぼしい物も見付からず、適当な碧樹の下で一同は座り込んでいた。
特に魔物の気配もないし、碧樹許りの平坦な野原なので見晴らしもまま効くだろう。此処は比較的平和な次元だった。
近くの碧樹に果物らしき物が成っているのが見えた為、其を夕餉にしようと言う事で落ち付いたのだ。
実際にチーファも歩き慣れていないのか可也疲れた様子だった。
此の位が限界だろう。余り村から離れたくないし。
嬉しい事に薪になる枝は其処等中に落ちている。適当に集めると灯の術で小さな焚火を作った。
余り使い慣れない属性なので火が安定する様に適度に薪を焼べてやる。
「何だか焚火ってわくわくするよね。でも火事に丈は気を付けてね。」
尻尾を揺らして何処か楽しそうにケルディは火を見ている。
矢張り灯属性だと暖かいのを見るとテンション上がるのかな。
「ど・・・如何やったの?」
「へ?」
信じられない物を見たと許りにチーファは目を見開いてじっと焚火を見ている。
皆火が好きだなぁ・・・別に山火事になんてしないぜ?
「火、如何やって点けたの?手で起こすのとっても大変な筈なのに、一瞬で点いたよね。」
「え、別に灯の魔・・・、」
待てよ、まさか魔術が存在しない次元なんじゃないか?
噫忘れてた。そんな次元もあるんだっけ、もっと慎重にしなきゃ駄目だったか、失敗した。
然う言えばセレも昔似た様な次元で偉い目に遭ってたよな・・・。
不味いな、変な御兄さんの印象を早く払拭しないと。
「先も見せただろ、手品だよ手品。凄いだろ。」
「うんうん凄い!若しそんな簡単に火を付けられるんなら火種屋、直ぐ廃業しちゃうね。一体如何やるの?」
「其は教えられないなぁ・・・。手品って種が秘密だから起こせるんだ。楽しんでくれたなら良いけどさ。」
「そっかぁ、残念。でも凄かったよ!私手品なんて見た事なかったから。」
「然う言って貰えたら良かっ・・・、」
言い掛けて地面が大きく揺れる。
地震かと思ったけど、もう一度同じ揺れが続く。
瞬時にポケットに潜り込んだケルディも顔を出してきょろきょろ辺りを見渡した。
確かに何か変だ。振り返って見遣ると直ぐ後ろの碧樹に対し、ロードが片手を当てて突っ立っていた。
・・・若しかして張り手をしてた?
ロードは長く息を吐いて重心を後ろ脚に掛け、腰を捻り、最小の動きで最大の遠心力を付けて碧樹をど突いた。
又地面が揺れる。でも其は一時的な物で直ぐに治まった。大きく撓っていた碧樹も静かになる。
「・・・・・。」
こ、此の筋肉天使、たった一突きで地震を起こせるのか!
・・・じゃなくて、一体何をしているんだろう。トレーニングならせめて此処が揺れない位離れた所でして欲しいなぁ・・・。
そんな馬鹿力で殴ったらそりゃあ人一人位は殺せるよ。
「って、あ、危ない!」
何かが落ちて来るのが見え、急いでチーファの前へ。
真直ぐに落ちて来たので何とか其を掴んで止める事が出来た。
此は・・・何だ?橙色の、一寸柔らかくて。
あ、若しかして木の実か?
「大丈夫かチーファ。」
「う、うん有難う、っ、あ、其」
「あ、食べるか?毒が入ってないと良いけど。」
「うん大丈夫だよ、有難う。」
ガルダから木の実を受け取り、早速チーファは齧り付いた。
余程美味しいのか声が漏れている。
ま、無事なら良かった。
他にも木の実が落ちてるし、拾っとくか。
「・・・良い所取りとは流石ガルダですね。」
「っあ、噫ロード、いや、良い所取りって何やってんだよ御前。」
突然背後に立つから吃驚した・・・。次は首が飛ぶかと思った。
「流石彼の悪名高く轟くセレの幼馴染、矢張り同じ穴の狢だったんですね。でもセレは私の邪魔するなんて酷い事はしませんでしたよ。」
何か・・・怒ってる?
距離を取りたくて一、二歩下がったけど、同じ分じりじりとロードは近寄って来る。
何だ此の、獲物を追い詰めて行く感じ・・・。
でもセレの悪名って、俺其処迄酷い事したか?ってか抑何かしたか?
寧ろさり気なく殺されているのに文句一つ言わない俺の寛大さを褒めて欲しい位なのに。
「折角私がチーファの為に木の実を取ってあげようと一肌脱いだのに、まさか其を先に拾って渡してしまうだなんて・・・。」
「あ、然う言う事?いやでも彼は御前も悪いだろ。下手したらチーファに木の実が直撃してたし、ほら一個じゃあ物足りないだろうから此もあげて来たら良いだろ。」
何となく意味は分かったけれど、何もそんなに怒らなくても。
何個か木の実を渡したけれどもロードは不満そうに頬を少し膨らませた儘だ。頬の輝石も絳く灯っている。
「多分二番目の笑顔じゃあ意味がないんだよ。笑顔は御褒美だからね。」
「流石ケルディ、正に其の通りです。」
う、うーん、分かった様な、只の理不尽の様な・・・。
其にしても今回のロード、俺に当たり強過ぎないか?チーファを独り占めにしたいとか然う言うのかなぁ・・。
「さ、先のも手品、なの?突然地震が起きたり、彼の実が降って来たのも。」
怖ず怖ずと木の実を食べ終えたチーファが寄って来た。
天変地異が起こせるって、其もう手品所の話じゃあないんだけど。まぁ手を使って起こしている点は合ってるけどさ。
「然うよチーファ、私にだって出来るんだから。はい、此もどうぞ。一杯歩いたわね。今日は御疲れ様。」
「有難う。でも此処迄来れたのは御姉ちゃん達の御蔭だよ。」
然う言ってはにかむとチーファは焚火の前に座り込んで又木の実を食べ始めた。
ロードも其で満足したらしい。チーファの隣に座ると一緒に木の実を食べ始めた。
頬の輝石も黄色に淡く染まっている。・・・斯う言う意味では表情が分かり易いよな。
「所で・・・ずっと気になっていたんだけど、御姉ちゃん達は何の一族なの?耳も毛も無いし、でも手品は一杯出来て、・・・私他の種族に会った事が無かったから。」
「んー遠い所から来たからなぁ。其に色々混ざってるから正確なのは分からないんだけど・・・。」
此ははぐらかすしかない。具体的な名前とか分からないし。
強いて言えば猿族・・・かな。でも翼を出せば鳥だろうし、手足を出せば狼とか獅子みたいになれるしなぁ。ケルディはまんま狐で決定だけど。
「混血って事?何だか凄いなぁ、勁そう。ケルディ君もなの?ネーニア族みたいだけど。」
「違うよ、ボクだって沢山手品出来るんだからね。」
ケルディは片手を挙げて何処か得意気に胸を張った。
「チーファの村ではいないの?混血は。」
「うん皆タウファル族だよ。」
ネーニア族もタウファル族も聞いた事ないけど、其々狐族と兎族って事なのかな。
「じゃあチーファの御父様も御母様も屹度艶のある綺麗な耳をしているのね。迚も綺麗な毛並みで羨ましいわ。」
「有難う、御母さんがね、茶色くて長くて、凄く綺麗な耳なの。色が黔いのは御父さんの色なの。でもシャナマは反対の耳なんだよ。」
「シャナマって・・・家族?弟さんとかかしら。」
「うん。未だ尻尾が小さいから余御家から出ちゃ駄目だって。だから何時も家の中で遊んでるの。一緒に来れたら良かったのにな。」
さらっと村の事をロードは聞いて行くなぁ。疲れもあるし、まんま喋っちゃうよな。
でも聞いた限りだと家族とは仲が良さそうだよな。何でそんな家を出てこんな所に居るんだろう。
「然う、じゃあ一度行ってみたいわね、穏やかそうな村だし、私もチーファの家族に御会いしたいわ。」
「皆優しいから歓迎してくれるよ。でも・・・最近濛雨が少ないから、」
チーファは少し項垂れたが、慌てて顔を上げた。
「あ、今のは故郷の事で、ずっと前に出たんだけどね、皆今頃如何してるんだろう。」
何か・・・今、引っ掛かりがあった様な。
少し考え込んでいるとチーファはもう限界だったみたいで、木の実を持った儘眠ってしまった。
そっとロードはチーファを莽蒼を集めた所に寝かせる。軽々と御姫様抱っこをしたのは言う迄もない。
「なーんか護衛丈じゃないかもって気がして来たな。」
「然うですね。矢張り此処は一度村に行ってみる必要がありそうです。」
チーファが良く寝ている事を確認して、ロードは木の実を一口齧った。
「然うだよなぁ。矢っ張り何とかして御話して貰わないといけないな。俺達に如何にか出来る内容だったら良いけどさ。」
「神と言えども私達は非力ですからね。ちゃんと情報収集をして、出来る事を確実にしましょう。」
御前は非力じゃないけどな。
途端突っ込みそうになったが何とか堪えた。
言えるか、何が火種になるのか分からないのに。
「ま、取り敢えず今日は御疲れ様。何か悪いな。連れ回してばっかで。未だ外慣れてないのに。」
「む、私別に引きこもりとかじゃあないですよ。ちゃんと鍛えたんですから此の位大丈夫です。」
「た、頼もしい限りだなぁ。」
半日歩いたのに疲れないのか。流石マッチョ、熟神離れしている・・・。
若しかして聖で疲労回復とかしてるのかな。
「色んな次元を見て、イメージトレーニングはばっちりなんです。だから・・・教えてくれませんか、前世の事。」
静かに苦笑を浮かべていた頬が引き攣る。焚火を見ていた視線を上げた。
ロードはじっと俺を見ていた。輝石が蒼く煌めく。
曇りも翳りも嘲笑も無い、真剣な目だった。
「別に興味本位と言う訳ではありません。神の過去はおいそれと暴いてはいけない物です。でも私は如何しても確認したい所があるんです。」
「・・・俺に答えられる所だったら。」
別に隠す事なんて無い。余り其の辺りを聞けてはいないけど、屹度ロードは古い神の一柱だ。だから必要があって聞いてくれるんだ、皆の為にも。
「セレと、何かありましたか?」
心臓が、跳ねた気がした。
其は一体、何処迄答えて良いんだろう。彼の最期の霄は永遠に二柱丈の秘密にして置きたいのに。
「私見なんですが、私が初めてセレと会った時には、確かに何処か翳がある方だと思いました。中でも彼女の翳が冥く見えるのは、屹度姿に対するジレンマだとか、然う言う問題だと。でも彼女は其でも、生き生きとしていました。神と思えない程に。其の秘密が知りたくて、私は付いて来たんです。」
ロードの声は静まり返った蕭森の中で良く響いた。蕭森すらも耳を傾げているかの様に静かな霄だった。
「でも、今のセレは変わってしまった。翳が、見えないんですよ、私には。まるで彼女自身が翳になってしまった様な。・・・言葉にするのは難しいですが、何だか私、嫌な予感がするんです。」
「嫌な予感・・・かぁ。ロードってセレの前世自体は見た事があるのか?彼の宮処って所で。」
「いえ、だから如何して彼の方が神になったのかは知らないんです。」
何処迄話して良いのかな。屹度彼奴は全て話してしまっても、然うかの一言で片付けそうだけど。
もう傷付ける事すら出来ない位、遠くへ行ってしまった気がするんだ。
「彼奴は昔、人間に苛められていたんだ。死にそうな怪我を何度も負う位。其で人間の事が嫌いになって、段々と憎しみ丈が増えて行った。だから屹度、俺の想像以上に人間を沢山、小さい頃から殺している。然う言う仕事をしていたって、言ってたからな。」
「・・・其処迄は何となく想像出来ますけど。」
「多分、問題なのは・・・俺が死んだ事だと思う。セレを狙っていた奴等の前に無防備で出ちゃってさ、・・・丸腰で護れる訳も無かったのに、あっさり殺されちゃって、」
「其を・・・自分の所為にしてセレはずっと責めているんですか。」
中途半端に言うのは・・・矢っ張り良くないよな。掻い摘んで話そう。懐いは別に減ったりしないから。
「其丈じゃないと、思う。実はセレは其の後、俺を蘇生してくれたんだ。其で・・・終われば良かったんだけど。」
「蘇生魔術?・・・本当にそんな物が?」
「噫俺は間違いなく死んだんだ。一回しか使えない術だって、セレも言ってたし。」
「然うですか。・・・済みません、話の腰を折って。どうぞ続けて下さい。」
暫く何事かロードは考え込んでいたが、ついと視線を又上げる。
今は話を優先してくれる様だ。
「・・・其の後、俺は、其の術の呪いと言うか、影響でセレを、殺しちまった。結局其の罪悪感に耐えられなくて俺は自殺したんだ。俺が奇しくも俺とセレの、えっと記念日って言って、御祝いをする日だったんだ。プレゼントを渡す直前だったんだよ。」
「何だか、仕組まれてしまった悲劇の様ですね。只々悲しみを与える丈の。・・・その、何て声を掛ければ良いか分かりませんが。・・・大切な事、話してくれて有難う御座いました。」
「無理に言う事ないぜ。俺も未だ頭の中ぐちゃぐちゃでさ。」
「だからセレとは別々だったんですね。てっきり一緒に行くのだと思っていたので。考える時間を作る為に。」
然う、だから俺はロードとケルディと一緒に此の次元に居る。セレも又誰かと一緒に別の次元に行ってるだろう。彼奴も分かっているんだ。少し丈距離が欲しいって。
視線を焚火へ移す。
行き成りこんな話されたら如何返して良いか俺も分からないし。
でもロードは古い神だし、其の位・・・と言いたくはないけど、此の程度の不幸は沢山見て来ているのかも知れない。
現に黔日夢の次元を見て来た神だ。此以上の不幸をセレが生み出して行く様も見ていたのかも知れないよな。
「でも、少し丈分かった気がします。屹度セレは絶望を懐い出してしまったんですね。そして、恐らくもう同じ事が繰り返されない様に、前以上に私達を護ろうとしているのかも知れません。前世なんて知らなかったからあんな生き生き出来たのに、結局私達が彼女を縛ってしまっている。」
「然う・・・かも知れないな。一応、他言無用で頼むぜ。」
「ええ、言われなくても。」
短い遣り取りが続いて、終には二柱共黙り込む。
何とはなしに二柱して焚火を見ていたが、不図ガルダが顔を上げるとロードの輝石は紫に明滅していた。
「・・・仕事、辞めるか?」
「如何してセレも貴方も私を辞めさせたがるんですか。」
少しむっとした様に又ロードも視線を上げる。
「如何してってそりゃあ心配だからだろ。無理強いもしないし、俺は最期迄セレといるつもりだよ。もう絶対に違えないって決めたんだ。神って然う言う物だろ。でも御前達は違う。態々袋小路の底迄付いて来る必要はないんだ。」
「何だか貴方も翳が付く様になりましたね。」
「セレのが移ったのかもな。でも屹度此が本来の姿だろ。神らしいって奴さ。」
「然うかも知れません。でも、やりたい事があるなら何でも利用す可きです。もう私達には後が無いんですよ?其処を間違えてはいけません。」
「・・・厳しい事言うなぁ。」
全て利用する、か。そんな生き方、した事なんて無い。今も昔も只与えられて、俺は欲する丈、願っている丈なんだ。
「兎に角、私は未だ辞めるつもりはありませんよ。余侮って欲しくはないですね。私の力、必要なんでしょう?」
「ハハッ、本当に頼もしいよな、ロードって。」
本当に、俺は迷って許りなのに、彼女は一心に信じてくれている。
位が高い神って然う言う物なのかな。此の位、包容力で賄えたりするのかな。
「若しかして馬鹿にしてませんか?信じてないですよね。私此でも実力は大神様へ御墨付きを貰っているんです。いやその・・・戦闘は経験が乏しいですけど、全力で戦いますから。」
「いや実力も十二分に見せて貰ったけどさ、ほら俺、情けない話だけど直ぐ自信、失くしちまうんだよなぁ・・・。もう好い加減克服しないといけないんだけど、でもセレとか皆は凄く悍くてさ、御構い無く俺は置いて行かれて、御荷物になり然うで如何しても恐くなっちまうんだよ。」
弱音なんて言うつもりなかったのに、つい口が軽くなる。
過去を話しちゃったから其の延長でつい要らない事迄言ってしまう。
ケルディはじっと静かにポケットの中で丸くなっていたが、今は少し丈鼻先を出して俺を見ている様だった。
其が何だか心配してくれているみたいで、そっと其の鼻を撫でた。
「昔、何かありましたか?・・・いや、無理に話さなくても良いですけど、もう少し位自信は持って貰わないと。折角のセレの騎士ですよ?実際貴方には貴方にしかない力がある。焦る事はないですよ。」
何処迄もロードは優しくて、頬の輝石を淡く黄に煌めかせ乍ら静かに笑みを浮かべた。
「然う・・・かな。ん・・・、俺に出来る事ってタンクになる丈だけどな。回復薬貯蔵庫の。」
「大切な時にちゃんとする可き事をすれば良いんですよ。嫌な使命を授かった訳じゃないんですからもっと胸を張らないと。素敵で大切な使命でしょう?」
「うん。噫然うだな、有難う。一寸楽になったぜ。悪いな、こんな話聞かせちゃって。」
「いえ、私は聞く事しか出来ませんから。でももう見ている丈の神も止めました。此からは御手伝い出来ますから、どうぞ又何かあったら頼って下さいね。」
ロードはちらとチーファを見遣ったが、相変わらずぐっすり眠っている様で、身動ぎ一つしていなかった。
明日も沢山歩かないといけないだろうし、自分達も早く休まないと。
「では明日に備えてそろそろ休みましょうか。私が結界を張って置くので見張りも大丈夫ですよ。」
「噫頼むぜ。じゃあ御休み、ロード。」
焚火に砂を掛け、一同は闇の中で深い眠りに付いて行った。
・・・・・
翌日、と言っても深い蕭森の所為で朝陽は殆ど見えないが、薄闇の中で皆目を覚ました。
取り敢えず昨日の残りの木の実を食べていると、急にロードがそわそわし始めた。
「・・・?何かあったかロード、若しかして魔物とか?」
「何でしょう此・・・、結界が何かに触れています。其も複数。恐らく此の反応は・・・人間、の様ですけど。」
「ね、何か聞こえるよ。其の人達なのかも。」
ちらと顔を出してケルディは一点を見遣る。
確かに声が聞こえる気がする。
「チーファー、何処ですかー。」
「一緒に帰りましょうチーファ!」
チーファの耳が大きく傾ぎ、困った風に俯く。
「彼、御迎えじゃないのかチーファ。」
「・・・うん、うーもう来ちゃったの。」
観念したの様に苦笑を浮かべ、チーファは顔を上げた。
「実は・・・ね。私一寸家出してたの。丁度其の時御姉ちゃん達に会っちゃったから連れて行って貰おうとしたけど、えへへ、私の旅は此処迄みたい。」
「そっか。其は残念だったなぁ。ま、俺達も楽しかったよ。今度はちゃんと旅人として出て来いよ。だったら又一緒に行こうな。」
「うん、六花とか火山とか、私見た事なかったから一寸興味あったんだけどなぁ。でも・・・仕方ないよね。」
まぁ大方然うだろうなと思ってたけど、だから敢えて村の周りを歩く様にしていたんだ。
御蔭ですんなり見付かって良かった。
「おーい此方だー!此方に来てくれー!」
ガルダが声を出すと二人の村人が直ぐに駆けて来た。
其の間にロードはそっとチーファに声を掛けた。余り彼女は喜んでいない様だ。余程可愛い子と別れるのが惜しいのだろうか。
「噫良かったチーファ、こんな遠く迄、何をしていたんです?」
「あ、あの三人にね、一寸連れて行って貰ってたの。旅人なんだって。私初めて会ったから。」
「然うですか。旅人ごっこをしていたんですね。でも急にいなくなったので皆心配していたんですよ。さ、帰りましょう。父様も母様もずっと捜しておられてです。」
「・・・うん、然うだね。あの、御免なさい。」
チーファが村人の手を取ると、村人はガルダ達に頭を下げた。
「チーファを見てくれて有難う御座いました。御礼を申し上げる事しか出来ず恐縮ですが、本当に助かりました。」
「いやいや俺達も楽しかったし、気にする様な事じゃないぜ。」
「はい、恐れ入ります。では、」
「ばいばい御姉ちゃん御兄さん。ケルディ君も。」
チーファが手を振り、村人に連れられて歩き出す。
「じゃあなチーファ!」
何時迄も手を振ってくれるので大きな声で返してやった。
でもロードは意外にも胸元で手を振る丈で、終始黙だった。
寂しがっているのかもと思ったけど、何だか少し様子が違う気もする。
「如何したんだロード、偉く悄気てるけど。」
「あのガルダ、少し待ってくれませんか。チーファの村に寄ってみたいんです。」
「え、まぁ良いけど。チーファも未だ其処に居るし、声を掛ければ、」
「いえ、こっそり付いて行きたいんです。未だ帰るには早い気がして。」
小さく溜息を付いたロードの輝石は冥い藍色を照らす。
可也落ち込んでいるみたいだ。巫女の勘って言う奴かな。此を揶揄うのはセレ位だろう。俺はそんな意地悪はしない。
「そっか、じゃあ行ってみようぜ。俺も大方の方角は見てたからさ、屹度チーファと会った彼の場所の近くなんだ。」
「えぇ、チーファが行きたがらなかった方ですよね。有難う御座います、早速行きましょう。」
小さく手を握り、ロードはじっとチーファ達が去った方を見詰めていた。
・・・・・
別に村人達は警戒をしていた訳では無いので後を付けるのは簡単だった。
何刻かしてやっと目当ての村らしき所には到着したが、別に村も特別な物ではない。
村自体はそこそこ広く、嫩草の屋根や窓を付けた木の家と、服装も相俟って原始的な様子である。
何人か出歩いている村人は皆チーファと同じ様に長い耳をしており、同族、確かタウファル族だったっけ、彼と一緒だと直ぐ分かる。
でも此の閑散とした感じ、何と言うか活気が無くて重い空気に包まれている様だ。
「入るには入れたけど、如何するロード、一寸・・・話し掛け難いと言うか。」
「然うですね、チーファの家も分からないですし・・・。」
何の気なしに少し歩いたが、其処で不図違和感に気付いた。
まるで幾重にも張った蜘蛛の巣に掛かった様な、絡み付く視線。
村人のじゃない、幸い向こうは俺達に興味すらないのか各々で適当に歩いている丈だ。
でもずっと、離れない様な・・・纏わり付く様な。
ケルディが顔を出し、少し緊張した様子で鼻を動かす。
今一度辺りを見渡した。すると黔い縷の様な物が俺達から伸びているのが見えた。
此は・・・陰の縷、闇魔術だ。意識しないとはっきり見る事は出来ない。
確か、離れた奴の情報を探るんだっけ。何をし、何を話したか、其の程度の情報しか取れないけれども。
防魔の術で簡単に防げるし、何より術者と対象者が近くないと使えないから使い勝手の悪い原始的な呪いの一種だ。
久し振りにアーリー師匠の教えが活きたなぁ、斯う言う偵察の仕方もあるって言ってたな。
「え、あ、ガルダ、何処に行くんですか?」
テレパシー迄探られたら意味がない。兎に角盗み聞きの犯人を探す為、俺はそっと縷を辿って行く。
此の次元に魔術は存在しない可能性が高い。だったら外からの奴かも知れない。
勘繰られる前に、一気に駆け出した。
魔力が強くなってる、屹度此の角の先に、
でも角を曲がった所で縷はふつりと切れていた。
誰も居ない。・・・筈なのに、矢張り魔力は感じる。
「隠れてないで出て来い。もう此方にばれてるんだぞ。」
身を隠す術なんてそんなにない。
魔術だと力を可也使う部類だ。使った儘逃げようとすれば魔力に揺らぎが出る筈。
「大丈夫。ガルダ、未だ此処に居るよ。」
「な、何の事ですか二柱共。」
訳が分からず付いて来たロードも辺りを見遣るが何も見えない。
「ノロノロ〜、まさか見付かってしまうなんて吃驚ノロネ〜。」
何処からか声がし、何も見えない筈の空間に二枚の帯の様な物がはためいた。
そして其が翻ると何とも言えない奇妙な生き物が彳んでいた。
大きな黔い照る照る坊主の様な風貌で、紫の頭は落書の様なぐるぐる目、ギザギザの口が描かれており、絳い鬣が背中に掛けて生えていた。
先程の帯は彼を包んでいるマントから伸びており、革のブーツ丈がちょこんとマントから食み出して見えている。
「まさかこんな所に隠れていたなんて。」
ロードも見た事が無いのか手を口元に当てて、目を見開く丈だった。
「監視なんて良い度胸だぜ。何が目的なんだ。」
「ま、待つノロヨ〜。ノロノロは戦闘なんてからきし、全く出来ないノロ〜。情報をあげるから赦して欲しいノロ。」
「情報って、一体何を教えてくれるのかしら。」
「やや御姉さん聞いてくれるノロカ〜。じゃあ自己紹介からノロネ〜。ノロノロは虚器惟神の楼閣のノロノロ、ノロノロさんと呼んで欲しいノロ〜。」
「虚器惟神の楼閣か・・・じゃあ信用出来ないな。」
ガルダが構えるとノロノロはフードから両手を出して慌てて顔の前で振った。
其の両手は本体の数倍はある程長く、大きい。黔くてごつごつした碧樹の幹の様な手だった。
「む、無理ノロヨゥ〜。ノロノロは戦えないノロノロノロ〜。でも聞いた事ないノロ〜?ノロノロさんに影を食べられちゃうとノロノロになるノロヨ〜。」
脅すつもりなのかノロノロは両手を挙げて声のトーンを落とし、ガバッと大きく口を開けた。
「聞いた事ないな。」
「然うですね。」
「無いね。」
「ノロ〜!?無いノロカ?悲しい話ノロ。」
「随分怖い話だけど、其丈はする力があるって言いたいのか?」
涕き真似をしたかと思いきや、ノロノロは冥い笑顔を浮かべた様な・・・そんな気がした。顔が顔だから表情の変化が乏しいのだ。口を開ける事しか出来ない気がする。
「まぁ噂は噂ノロ。でも、其以外の方法で皆をノロノロにする事は出来るノロヨ〜。ノロノロはそんな恐ろしい大妖精の一体ノロ。」
「あら、大妖精様だったのね。ガルダ、此は話を聞く価値がありますよ。」
「いやでも妖精って、此、妖精なのか?」
レインコートを着た子供にしか見えないけど、確かに落書の様に見える目は動くし、口も開いたり閉じたりしている。着包みと言う訳ではなさそうだ。
でも、何か俺の知る妖精と余りにも違い過ぎて俄に信じ難い。
「えぇ、私もずっと違和感がありまして、でも妖精と聞いて合点が行きました。此の随分無理なキャラ作り、此がノロノロと言う妖精に与えられた姿なら何らおかしくはないわ。」
「グサッ、ノロ〜。」
「此の一見巫山戯た様な容姿も元々妖精は無垢や純粋な存在が多いからよ。原始的故に最も効率の良い魔力とイデアの構成に因って世界に形を持った姿なの。」
「グサグサッ、ノロ〜。」
「そして妖精は神とは別物だわ。使命に縛られたりはしないから有りの儘の世界を調整するのが大抵の役割なの。其が虚器惟神の楼閣だなんて神の組織に所属していると言う事は恐らく無理矢理契約か何かを結ばされて使われているって事よ。」
「然うノロ〜。流石大神様の巫女は良く勉強しているノロ、感心ノロ〜。」
一転ノロノロは嬉しそうに大きく口を開けた。笑っている・・・つもりなのだろうか。
「大神の巫女って、何でそんな事、」
感心をした風にガルダもロードの話に聞き入っていたが、一転ノロノロを牽制する。
ノロノロは一歩丈下がったが、何が嬉しいのか左右にスキップを踏んでいる。
「先ずはノロノロの話、聞いて欲しいノロ〜。先の御姉さんの言う通り、ノロノロは虚器惟神の楼閣に繋がれた、憐れな奴隷妖精ノロ、情報収集が得意だから偵察で色んな次元に行ってるノロ。」
「常人には然う見えないし、御呪いも沢山知っているから、と言う事ですね。」
「成程な。でも偵察って、一体こんな村で何を見るんだ?」
「ノロノロ〜。ノロノロが命じられた事は、死に溢れた次元を探す事ノロ。戦争や飢饉、病気とかが広まった次元を斯うして探しているノロ〜。」
「・・・何だか死神みたいな妖精だね。」
怖ず怖ずとケルディが鼻を出すとノロノロは跳び上がった。
「ち、違うノロ〜!ノロノロだってこんな事したくないノロ〜。でも虚器惟神の楼閣のボスは其の情報が必要ノロ。皆は虚器惟神の楼閣のボスの能力って知ってるノロカ?」
「ボスって確か、セレが嫌いだって言ってた彼の神ですよね。引き分けてしまいましたが。」
「然うノロ!凄い神ノロ!まさかボスを彼所迄追い詰めたとは、ノロノロは迚も感動したノロ〜。だから次元龍屋の皆の事、迚も感謝しているし、期待もしているノロヨ〜。」
「う、全部ばれてるのか。でもそんな明らかに懐いてない妖精なんて使役しても意味あるのか?御前も御前で其の影口、聞かれても知らないぞ。」
「勿論リスクはあるノロ。でもノロノロは他のノロノロが助かれば殺されても良いノロ。だから折り入って頼みがあるノロ。抑皆が此の村に来たと知っていればノロノロから声を掛けるつもりだったノロケドモ、でも見付かるなんてノロノロの想像以上の実力も見れてノロノロは満足ノロ〜。」
思ったより危ない橋を向こうも渡っているみたいだ。
余っ程酷い扱いを受けて来ているのかも知れない。
「大妖精様がそんな決意をする程だなんて、可也虚器惟神の楼閣は不味い所の様ですね。」
「然うノロ、何よりボスがいけないノロ。だから如何か虚器惟神の楼閣を崩壊させて欲しいノロ。ノロノロ達を解放して欲しいノロ〜。」
「其処はまぁセレ次第・・・かな。」
「王の道を示す四本柱なのにですか?あんな大きな機関なのに。・・・なんて、彼の方は臆さないでしょうね。其の位のリスクなら呑みそうです。」
土台無理な話の筈なのに、彼女なら出来る様な、必然の様な気もするのだから不思議だ。
「ノロノロ。勿論ノロノロも協力するノロ。だから出来れば一度、其のセレ神と御話をしたいノロ。情報をあげるノロケド、確認したい事もあるノロ。闇雲に皆を危険な目に遭わせたくはないノロ。其に屹度、其の神とノロノロは、話が合いそうな気がするノロ〜。セレ神となら契約をしても良いと思っているノロ〜。ノロノロ〜。」
「あら、大妖精様に然う言わせるなんて流石セレですね・・・。えぇ、出来れば一度御会いした方が宜しいかと思いますよ。」
「いやロード、然う安請け合いもなぁ。一応此奴、虚器惟神の楼閣の奴だし・・・。」
「大丈夫ですよガルダ。私が保証します。妖精は其の様な小賢しい手は使いませんし、仮に罠でもセレを嵌められる様な物にはならないでしょう。何より彼の方には丗闇様も付いてますから。」
「まぁ確かに丗闇がいるけどさ。」
抑セレ丈を危ない目に遭わせる危険を持ちたくないんだよな。
どんなに勁いって知っていても、其が最善なんだとしても。
「頼もしいノロネ、まぁ都合が良かったらテレパシーで呼んで欲しいノロ。ノロノロが直ぐ駆け付けるノロ!」
胸を反らしてノロノロは得意気だ。本当に何時呼んでも大丈夫なんだろうか。
「えぇ、必ず本神に伝えて置くわ。」
「ノロノロ〜有難うノロ〜。じゃあ御礼に皆にも情報をあげるノロ〜。」
此方としては情報を貰って許りなんだけれども。
ノロノロは機嫌良さ然うにスキップを踏んだ。
「次元を正す御仕事をしているノロヨネ〜。ノロノロは此の村をずっと見てたから良く分かるノロ〜。」
「も、若しかして彼の陰の縷を皆に付けているのか?」
てっきり俺達丈の監視をしていたと思っていたのに、先からの口振りが如何しても村全体を指している風に見える。
でもああ言った追跡の術だとかは複雑な術の類だ。一つの術に複数の効果を持たせないといけないので維持も管理も大変なのに。
「ノロノロは大妖精ノロヨ〜?村の一つ二つなら余裕ノロ〜。」
大きく口を開けてノロノロは楽しそうだ。
でも其のギザギザの口が恐いのかケルディは少し及び腰だ。
「凄いな。いや、恐れ入ったぜ。本当に妖精なんだなぁ。」
「ノロノロ〜ン、もっと褒めても良いノロヨ〜。とは言っても今回はノロノロの仕事としては収穫無しなんだノロ〜。だから其の分の情報をあげるノロ。」
「仕事って彼の死神の仕事?」
「もう死神じゃあないノロヨ〜。でも其の事ノロ。此の次元は黔日夢の次元以降、大きな乾季が屡々起こる様になっているノロ〜。原因は分かってないノロケドネ。だから此の次元はある雨乞いの儀式がある様ノロ。」
「雨乞い・・・祝詞を捧げたり、舞を披露したり、祈祷する類ですか?」
「然うノロ、中でも此の村は犠牲を捧げている様ノロネ。」
犠牲・・・嫌な言葉だ。
実際先から嫌な予感がする。
ロードも察してか口を閉ざしてしまった。
「良くある儀式ノロ〜。少女を枯れた瀧壺へ落として、龍神様に御祈りするノロネ〜。でも此の程度の死ではボスは満足しないノロ〜。でも皆には必要な情報じゃないノロ〜?儀式は諸事情で延期になっていたノロ。でも此の様子だと今宵中にあると思うノロ。」
「ノロノロ様、どうも有難う御座います。其の情報が欲しかったんです。」
ロードが頭を下げるとノロノロは何度か頷いた。
「ノロノロさんで良いノロヨ〜。其方が愛称ノロ〜。ノロノロも只少女が死ぬのは居た堪れないノロ。若し出来る事なら彼女も助けてやって欲しいノロ。居もしない神の為に死ぬなんて理不尽ノロヨ〜。瀧壺は彼方ノロ、最近良く明かりを付けているから直ぐ分かると思うノロ。」
ノロノロはマントの下から長い手を出してある方角を指差し、直ぐ引っ込めた。
一体彼のマントの下で如何やってあんな大きな腕を仕舞っているんだろう。
「優しい死神だったんだね。」
「そんなにノロノロになりたいなら呪ってあげるノロヨ?」
ガバッと口を開け、ケルディを呑み込む振りをするとさっとケルディはポケットの中へ逃げてしまった。
止めてくれよ、俺迄ノロノロにされてしまう。
「ノロノロを信じる者は呪われる〜ま、冗談ノロ。」
カラカラ笑って短く詠うと、ノロノロは随分機嫌が良さそうだ。
大妖精と言っても取っ付き易いこんな子供っぽいのもいるんだな。
「いや、本当何から何迄助かったぜ。手間が省けたな。でも、何か悪いな、俺等丈情報貰って許りでさ。」
「御礼なんて良いノロヨ〜。あ、でも若し良ければ他のノロノロに会ったら少し優しくしてくれたら嬉しいノロ。」
「えぇ有難う御座いました。他のノロノロさんにも宜しく言って置いて下さい。」
「ノロノロ〜。じゃあノロノロは帰るノロ〜。又会えたら良いノロネ〜。」
ポケットから出たケルディが手を振ると、ノロノロも小さくマントの下から手を出して振り返した。
そして地を蹴り、宙を漂う二枚の帯がノロノロを包んで、気付けばノロノロの姿はなくなっていた。
まるで現れた時の逆再生の様な、呆気なく、何も残さずに消え去ってしまった。
「此で、此から如何すれば良いか分かったね。」
ケルディが鼻先を出してガルダを見遣った。
「噫屹度其の儀式が延期になった諸事情って言うのがチーファの家出と言うか、脱走だったんだな。」
彼の儘連れ出していた方が良かったって事か。いや、でも其は一時的な解決にしかならない。
チーファも別に村が嫌いって訳じゃないんだ。家族だっているんなら矢張り村には帰る可きだ。
だったら、其の儀式の方を如何にかすれば良い。
「問題は如何チーファを助けるか、ですよね。儀式を止めるにしても平和的解決をしないと。」
ロードが言うと洒落にならないなぁ・・・勿論言わないけど。
如何しても究極的暴力で無理矢理捩じ伏せる方法しか思い付かない・・・。
「要は濛雨が降って皆が幸せになれば良いんだよな。でも一回位なら皆で頑張れば降らせられるかも知れないけど、ずっと此の村に居る訳にも行かないしな。」
セレの術なら出来たりして・・・いや、闇魔術なら厳しいか。恵の濛雨とは対照的なのが降って来そうだ。
彼の世界を燃やした黔い焔みたいに、全てを溶かす黔い陰霖、みたいな。
ま、勿論最初から自力でするつもりだけどさ。
「龍神様に会ってみるのは如何でしょうか。濛雨が降らないのは彼に何かあったからかも知れませんし。」
「でも如何やって会うんだ?先の瀧壺に行ってみるとか?」
「先の死神さん居もしない神って言ってたよ。抑神様が人間の妄想なのかもね。」
中々辛辣な事を言うケルディである。でも其の可能性も捨て切れない。
「確かに然うですね。大妖精様が神の気配を探れないとも思えません。本当に此の次元には不在なのかも知れませんね。」
「んーでもこんな蕭森の中でも水不足なんだよな。彼方に泉もあったし、案外掘れば水位出るんじゃないのか?」
抑黔日夢の次元って何時起きたんだろう。此処最近なのか、でも儀式化してるなら可也昔の気もする。
「なくはないけどね。降らすのが無理ならありだよね。其の時は皆で頑張らないと。」
「神が掘った井戸だって濛雨より有難がってくれないかなぁ・・・。」
「銘水だと言われて高値で売れそうですね。」
ロードが苦笑を浮かべるが、確かに其は醜い話だ。
さて、如何した物か。
中々名案が浮かばず、話は拗れる許りだった。
然うしている内にも驕陽はどんどん傾いて行く。
「ーっ、あーもう浮かばない!如何する、もう時間ないぞ。斯うなるんだったらチーファを村に帰すんじゃなかったな。皆優しいからてっきり大丈夫だと思ったのにまさか儀式の為だったなんて。」
「ガルダ、怒っても仕方ないですよ。村の為なら少女を一人捧げるのも致し方ありません。村人だって好きでしている訳ないんですよ。」
「然う・・・なんだけどさ。何で気付けなかったかと思ってさ。ロードは気付いてたんだろ?だから余り行かせたがらなかったんだろ。俺なんて呼んじゃったし・・・。」
頭を掻く。此じゃあ駄目だ。集中すら出来ない。
「然うですね。彼女は最後、我儘言って御免なさいって私に謝って来たのですよ。生きたいなんて別に我儘の内に入らないのに。」
「ね、ね、もう時間も無いし、取り敢えず足止め丈でもした方が良いよ。此の儘儀式をすれば、屹度此の次元が滅んじゃうんでしょ?」
二柱共項垂れてしまったのでケルディは両手をばたつかせて何とか元気付けようとした。
暫くロードは考え込んでいたが、静かに顔を上げて一つ頷いた。
頬の輝石が蒼く灯る。何か思い付いた様だ。
「然うですね。此の儘では埒が明きません。・・・斯うしましょう。私が神になれば良いのです。」
「・・・は?」
何か今良く分からない事を言われた気がする。神・・・とか何とか。気の所為かな。
こんな大事な時に名案を聞き逃すだなんて、俺相当焦ってるよな。
いけないいけない、ちゃんと聞かないと。
「悪いロード、良く聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」
「だから、私が神になれば良いんですよ。」
「・・・・・。」
終にロードが壊れた。
屹度チーファを心配する余り、そして時間も無く、頼りの自慢の筋肉が役に立たない無力さを嘆いて、ノイローゼになってしまったんだろう。可哀相に。
ガルダが悲嘆に暮れて何処か寂しそうな目でロードを見遣っていると、ケルディがポケットから上体を乗り出した。
「其って若しかして・・・龍神様になるって事?」
「然うです。根本的解決が無理なら、神が降臨して、犠牲を捧げない様神託を直接すれば良いんですよ。濛雨を如何降らすかは又考えないといけませんが、時間稼ぎにはなります。」
「な、成程・・・、然う言う意味か。其ならまぁありなのかも。」
「正直成り代わるのは気が引けますし、失敗した場合のリスクも高いです。でも今は何よりチーファを助けないといけないと思うんです。」
熱の籠った目でロードは訴えて来る。輝石が橙に染まり、時々苛烈に煌めく。
「噫、俺も其が良いと思うぜ。何の道チーファが死んだら次元も終わるんだ。其の位のリスク、如何って事ないだろ。」
「じゃあ直ぐ瀧壺に行こうよ。余り時間が無いよ。」
「然うですね。具体的な方法は行き乍ら考えましょう。さぁガルダ行きますよ!」
「おぅケルディ、落ちんなよ。」
そっとケルディの頭を撫で、ポケットの奥へ入って貰う。
一同は陰る驕陽を追い掛ける様に駆け出した。
・・・・・
驕陽もすっかり暮れ、村の外であるにも拘らず瀧壺の近くの広場には明かりが灯り、眩い程だった。
広場と言っても瀧壺に迫り出す様にあり、甃には何らかの民族的模様が彫られているが、風化が目立ち、殆ど判読出来ない。
嫩草も所々に生え、辺りの石柱も罅が入っている辺り、長い間放置されている様である。
だが今広場には香が焚かれ、篝火を幾つも灯して暗闇に包まれる瀧壺の傍で煌々と輝いていた。
そして多くの村人と思われる人集りも出来ていた。
何人か底なんて見えない瀧壺を見遣っては何やら忙しそうである。
そんな大人達の中心で一人、チーファは其の時が来る事を待っていた。
今から龍神様への儀式が始まる。其の最後に自分は彼の崖から落とされる。
・・・いや、落ちないといけない。龍神様に選ばれるのは迚も凄い事だから、喜んで犠牲にならないといけない。
然うすれば村は、タウファル族は助かる。父さんも母さんもシャナマも、村の皆も。
私一人の命で皆を助けられる。
其なのに私は一度、恐くなって逃げ出してしまった。偉大な使命なのに、私の我儘で。
でももう反省した。こんな私を皆は責めなかった。だから私も、ちゃんとしないといけないんだ。
然う、決意したのに。
でも、如何しても・・・手が震えてしまう。
真新しい服に着替えられ、髪も整えて飾りを施されたチーファは乱れてはいけないと先刻からじっとしていた。
でも其の震え丈は止まる事が無かった。
「そろそろ儀を執り行いますが、大丈夫ですかチーファさん。」
「は、はい。」
突然声を掛けられてついびくついてしまう。
如何やら緊張の所為で長い間固まっていたらしい。準備は整った様で皆膝を着いて項垂れている。
「では、始めましょうか。」
顔を上げたチーファの前に立っていたのは神官だった。
チーファと似た丈の長い上着を羽織り、優し気な其の声は聞く丈で少し安心出来た。
屹度御姉ちゃんの声に少し丈、似ているからだ。
懐い出すと胸の奥が締め付けられる様なので無理矢理考えない様にしていた。
でも矢っ張り、一日丈だったと言えども、彼は間違いなくチーファにとって一つの大冒険だったのだ。
ずっと村の皆からは犠牲だからって優しくして貰って・・・優しい丈で、何処か距離を置かれていて。
だから私もずっと前から御別れは出来ていた、其なのに。
今更、出会う筈なかった人達に会い、其の人達は私の事、何も知らなくて、だからちゃんと・・・別れられなくて。
全てが初めてだった。手品も見た事なかったし、あんな種族も聞いた事が無い。魚があんな黔くて丸いのも知らなかった。
其に・・・何より、弟しかいなかった私は、姉と言う存在に少なからず憧れを持っていた。年の近い子は弟みたいに皆私より年下で、年上はもう皆大人だったのだ。
だから若し自分に姉がいたら、屹度彼の御姉ちゃんみたいな人だったのかな、と考えずにはいられなかった。
其の全てが、心躍る物だったのだ。
でも、私は村の一員だ。其に父さんや母さんが悲しむ所は見たくない。困っている皆を助けられるのなら・・・。
神官が祝詞を捧げる。
滔々と響く其の声に静かに耳を傾けていた時だった。
「こ・・・此は一体、何ですか・・・?」
祝詞が途切れ、動揺が広場を包む。
そろそろとチーファも神官の背後から様子を窺った。
見ると確かに其処には見た事もない物があった。
広場から伸びる曦の階段、板の様な形状に淡く光る其は旻に向けて何処迄も続いている。
先程こんな物は無かった筈、抑此は一体何なのだろう。
側で控えていた村人達も目を擦ったり見開いたりと信じられない様子だった。
「お、おい彼を見ろ!」
一人の村人が階段の先を指差す。
釣られて全員が顔を上げると、確かに人影の様なのが見える。
良く凝らして見ると如何も一人の正女が緩りと曦の階段を下りて来ている様だった。
勿論其の正女が一体何処から来たのか誰にも分からない。
「あ、彼は・・・人、なのか?」
「でも一体何の種族から?タウファル族でもカステナ族でもないわ。あんな金の鬣だなんて、」
すっかり村人は其の人陰に釘付けになっていた。
見た事のない種族、何処の地域とも知れない衣服を纏い、不思議と神々しさを感じる。
「一体、誰なんだ。」
「若しかして神様なんじゃ・・・、」
人々の声に熱が籠って行く。其の目は次第に畏怖と敬意に染まって行った。
「彼って・・・まさか御姉ちゃん?」
だが一人、チーファ丈は正しく彼女を見ていた。
気配や雰囲気が前と違っても、間違える筈もない。如何言う事かロードが旻からやって来たのだ。
あんな蕭森の中で別れた筈なのに、一体如何して、何の為に、何故旻から、色んな疑問が頭の中で渦巻いたが、
此は・・・御姉ちゃん御得意の手品なのかも知れない。
一つの答えに行き着いて、チーファは尊敬の眼差しを御姉ちゃん元いロードに向ける。
人は理解出来ない事に直面したら兎に角理由を付けて安心しようとする生き物なのだ。
―チーファ、今丈は私達初めましてで御願いね。―
「・・・え、え?」
声を掛けようとした所でそんな聞こえる筈の無い彼の優しい声が頭の中へ直接響いた。
矢っ張り御姉ちゃんなんだ・・・でも本当に如何して?
一同が混乱の最中で頭が一杯になった儘、ロードは終に広場に降り立った。
「あ、貴方は一体・・・、」
怖ず怖ずと村人が近付くとロードの肩で丸まっていたケルディが肩から降りて村人の前へ飛び出した。
其の躯は蒼い焔に包まれ、瞬き程で全長3m以上はあろうかと言う黔狐へ変化した。
「気安く話し掛けるでない。我々は龍神様の遣いである。」
蒼く灯る六つの尾を揺らし、額の輝石を彩る焔は苛烈に輝いた。
胸を張り、何時もの子供っぽい声から大人びた其へと変わったケルディは何処か頼もしかった。
「な、りゅ、龍神様の遣い!?」
「み、皆頭を下げよ!不敬は赦されない。」
神官の指示で慌てて皆膝を着き、固唾を呑んで見詰めていた。
「ふん、此だから人間は。言わぬと分からぬ物か。」
「其処迄にしなさい。私達は神託を告げる為に今宵天より来たのだから。」
そっとロードがケルディの背を撫でると、鼻息荒くケルディは外方を向いた。
「し、神託とは・・・一体、」
「貴方は村長ですか?」
「いえ、神官です。必要とあらば直ぐにでも村長を、」
「構いません。村の者に伝えてくれれば良いので。」
優しく咲うロードは何処か儚気で、其の目を直視する事は出来ない。
神官は頭を下げた儘、何とか口を開いた。
「は、はい、伝えます、必ず。」
ケルディが凄む様に低い唸り声を上げたので神官はより深く頭を下げる。
「雨乞いの儀式に犠牲を捧げないで下さい。犠牲を捧げた所で別に神の機嫌を取れる訳ではありません。濛雨を降らすのは飽く迄、神の、龍神様の気紛れです。」
驚いた様にチーファが顔を上げ、まじまじと二柱を見遣った。
若しかして・・・御姉ちゃん達は、儀式を止めようとしている?其で私を助けようとしているの?
如何して、何も言わなかった筈なのに。
チーファの目に僅かに曦が灯るのを見、ロードは笑みを深くする。
何丈使命だと偽っても、理性で押さえ付けても、幼い本心は隠せない様だ。只、もっと生きたいと言う懐い丈は。
「そ、そんな、では如何すれば良いのです。濛雨が降らないと本当に困るのです。ですから斯うして祈りを捧げているのです。」
思わず神官は顔を上げて明らかに狼狽えた。
辺りで事の成行きを見遣っていた村人も小声で話し始める。
「只待ちなさい。神は気紛れです。降るも降らないのも世界の均衡を見定め、龍神様が決める事。其処に人間の事情が組み入る資格はありません。」
ロードは神の使者と偽る事にした。だが矢張りはっきりと濛雨を降らせると言うのはリスクが高過ぎた。
嘘を吐いた所で時間稼ぎにしかならず、結局根本的な解決にはならない。
加えて龍神の存在が如何しても引っ掛かった。
実在するのか、其とも人々の信仰心が作り上げた偶像か。
でも若しかしたら荒魂の線もある。犠牲を求めたのは龍神自身かも知れないのだ。
正確な情報はない。だからこそ迂闊な事は言えないのだ。
正直犠牲を止めさせるのも可也厳しい物がある。後の妥協点を探さなければいけないからだ。
其でもチーファ丈が特別だと悟られない様にするには此しかなかった。
「・・・では如何して態々儀式を止めに来られたのですか。濛雨が龍神様の気紛れであれば、我々が如何しようと無関心でしょう。」
「口答えをするつもりか、人間の分際で。」
ケルディが神官に近寄り、蒼い焔を口から吐いて睨め付ける。
だがもう神官は怯まず、真直ぐ其の目と向かい合った。
不味い・・・此の神官、思った以上に使命感が強い。此処は引いて貰わないと話が進まないのに。
「どうぞ私は喰い殺されても構いません。其の覚悟の上で御聞きしたいのです。何故態々使いの方を送って迄其の神託を伝えに来たのか、龍神様の真意を。若し犠牲に対して慈悲の心を御持ちであれば、どうぞ其の御心で村を救って下さい。濛雨が降らなければ何の道皆死んでしまうのです。」
「其と此は話が別なのです。神と言えども、祈られれば濛雨を降らせられる訳では・・・、」
「では私の妹の死は、無駄だったと言うのですかっ!!」
不味い、此の流れは良くない。其の一言で全て悟ってしまった。
屹度前の犠牲になったのは・・・。
「神官様、其の事は今は押さえて下さい。」
「いえ、納得出来ません。不敬の罪は私が一人で全て背負います。けれども先程の通りであれば、私の妹は、クレアは、無駄死にだったと言う事になります。私が・・・殺してしまったと。」
村人の制止の声を振り切り、神官はしっかりとロードを見遣った。
其の目は微かに潤んでいた。
彼女の言っている事は屹度、全て正義だ。彼女も又、被害者だったのだ。
使命の為に全てを投げ打ったのに其の末路が此では余りに報われない。
祈るのは、願うのは人の勝手、神は頼られて許りの存在。
分かっている。でも、私は、そんな人の営みも沢山見て来た。
愚かしくも面白く、見捨てるのは余りにも惨い。
・・・然う、私に屹度神として足りないのは此の未熟な情だ。丗の為なら一つの心等壊せる様な、そんな悍い懐いが、私には足りない。
屹度同じ状況なら大神様はきっぱり断るだろう。
実際黔日夢の次元を起こしたセレも、問答無用で切り捨てるだろう。
其は迚も大切な事、丗の為なら、其の方が良い。正しい事だ。
矛盾しているのは分かっている。黔日夢の次元に因って朋友は何人も彼女の手に掛かった。其は受け入れられたのに、丗の定められていた真実だって分かっていたのに。
でも、私は此の小さな正しさを、見捨てる事が出来なくて。
「・・・如何して答えてくれないのですか。若し答えられないと言うのなら、貴方達は龍神様の遣いなんかじゃあありません。・・・偽物だ。」
「何の口がほざくか。其の口食い千斬るぞ。」
ケルディが凄んで見せたが、動揺が広がってしまっている。
村人達はもう腰を浮かし、おろおろと神官とロード達を見遣った。
神官も最早迷いはないのか一歩も引かず此方と真向向かい合っている。
流石に本当に喰い殺す訳にも行かないのでケルディは困った様にちらとロードを見遣った。
チーファも何と声を掛けたら良いか分からず、おろおろと視線を彷徨わせる許りだ。
いけない。此はもう、修復不可能だ。
一人の人間である彼女の方が、私なんかより意志が悍い。
斯うなったら・・・最終手段だ。
―ガルダ、作戦Tよ!―
ロードが旻高くへテレパシーを送る。
其の遥か上旻ではガルダが翼を出し、半分獣と化した姿で待機していた。
ロードからのテレパシーを聞き、ガルダは一つ溜息を付く。
抑今回の作戦はロードが曦の階段を作り、俺が旻迄ロードとケルディを運んで、何かあったらいけないからと俺は其の儘待機する、というシンプルな物だった。
そして其の作戦Tとは、
「突撃のTなんだよなぁ・・・。」
つまり神作戦は失敗と言う事だった。
付け焼き刃にしても神っぽさは出ていると思ったのに、一体何が駄目だったんだろう。後で一寸聞いてみないと。
何はともあれ、作戦を決行しないと、此方はシンプル過ぎて考える必要が無い。チーファを連れて逃走する丈だ。
兎にも角にもチーファ丈でも救出して次元を生き永らえさせると言う作戦と言うか、実際具体性が無いのだ。別に次元の主導者が生きてるって丈で次元が助かる訳では無いけど。飽く迄一つの可能性だ。
ガルダは翼を畳む様にして一気に広場へ降りて行った。
―おーい二柱共助けに来たぜ。―
一応テレパシーを送ったが、何やら広場が騒がしい。
まさか思った以上に不味い事になっているのだろうか。
そっと様子を見遣ると・・・うん、確かに不味い事になっていた。
何が如何して然うなっているのかは分からない。でも見た儘を説明するならば、先ず広場の中心にロードが居た。
そして彼女を取り巻く様に、只可也の距離を取って村人達が構えている。チーファやケルディも其方に居る様だ。
其も其の筈、ロードの手には其処等にあったのであろう石柱がしっかりと掴まれ、其を自身が独楽の中心の様になって振り回していたのだから近付ける筈もない。
一体何があったんだろう。彼だと完全に荒魂だ。神が自ら神殿を壊すだなんて。
然もあんな筋骨隆々な肉弾戦をする女神なんて・・・神の威厳が台無しだ。こんな女神、見たくなかった。
折角ケルディも大きくなってやる気満々だったのに。寧ろ荒魂はケルディの役であって、其を宥めるロード、と言う設定だったのに。
人間を心底馬鹿にすれば良いんだね!ボク頑張るよ!と、あんなに楽しそうにしていたのに、此の様子だと其は空振りしたらしい。
広場の隅で蒼い焔を吐いて村人を追い詰めてはいるが、皆明らかにロードに怯えていた。
―チーファ、俺だ、ガルダだ。此方に来れるか?―
幸い皆の目が彼方に向いている御蔭で未だ俺の登場はばれていない。
テレパシーを使ってでもチーファを呼んで一緒に逃げよう。彼の荒魂は後回しだ。此の様子だと誰にも手が付けられないし。
屹度今此の場も可愛いチーファは大道芸の一つだと思ってくれている筈。・・・屹度然うだ、大丈夫。
チーファの背が大きく震え、少し見渡しているとガルダの目と合った。
途端チーファは破顔して此方へ駆けて来てくれた。
広場の縁迄来て、そっと隠れる様に目立たない様に少ししゃがんだ。
「御兄さんも来てくれたんだ!皆屹度私の為に来てくれたんだよね。・・・有難う。」
少し丈目を伏せて、声も顰めてチーファは続けた。
「御姉ちゃんも凄い手品一杯見せてくれて其で・・・っえ!お、御兄さんそ、其の背中の何!?飛んでる・・・の?」
今更ガルダの背にはためく翼を見遣ってチーファは驚きの声を投げる。
折角隠れていたと言うのに、其を聞き付け村人も何人かガルダに気付いた様だった。
「な、何だ御前は!」
「若しかしてカクル族・・・?此奴も仲間なのか?」
「じゃあ矢っ張り偽物だったのか!神官様が正しかったんだ!」
「あー俺は神様認定すらされないのか・・・。」
矢っ張り神役はロードに任せて良かったな。其ですら失敗してるし、俺だったら出た瞬間に曲者ーって相手にすらされなかったかも知れない。
「ほら俺混血って言っただろ。斯う言う羽も生えてたんだぜ?其よりチーファ、一緒に此処を出ようぜ。可也予定が早まったけど、冒険行ってみようぜ。」
ガルダが手を出すとチーファは可也迷っている様だった。何度か手を出そうとして引っ込める。
「あ、あの、でも如何して急に?御姉ちゃんもケルディ君も来てくれて・・・あんな事になってるし。」
うん。彼は俺も良く分からない。何で女神の振りしてたら筋肉自慢になったのかはさっぱりだ。
「いやチーファが帰っちゃった後一寸考えてさ。若し彼の旅を気に入ってくれているんならもう一寸位続けても良いと俺は思うぜ。・・・別に村とか、家族が嫌いだって事ないんだろ?若しやりたい事なら続ければ良い。飽きたら帰れば良いじゃないか。嫌いじゃないのに帰れないのは、何か訳があるからだろ?じゃあ其が終わる迄位は、付き合ってやるって。」
心配させない様笑って手を振る。
気付いたケルディがやって来てそっとチーファの脇に座った。
頭を擦り付けるので怖ず怖ずとチーファも耳元を撫でた。
一部の村人達は気付きつつもケルディを恐れて近付けない様だった。
「でも、でも・・・屹度御兄さん達は分かってて来ているんだよね?此は、大切な儀式なの。濛雨が降らないと皆困るの。だから、」
「でもチーファは全然、納得してないんだろ?」
チーファの目が泳ぐ。
決まってる。こんな小さな子が使命なんて背負える訳がない。いや、背負わせる可きではない。
然うでないといけないと詠う世界の訳も、外の世界の姿も知らない内は、只受け入れる事しか出来ないんだから。
他の選択肢なんて初めからあれば、こんな道、選ぶ訳ないんだから。
俺は、ずっとそう思ってる。だから少し丈、今のチーファの気持が分かる。
自分を抑える事が正しいだなんて、愚かな世界に閉じ込められた虚しさを。
「若し他に濛雨を降らせる方法があったら如何する?犠牲にならなくて済むならどんなに難しくても其方を選ぶだろ?」
「な、何か知ってるの御兄さん!?」
「いや、残念だけど俺は濛雨を降らせられない。だから今から一緒に其の方法、探してみる気は無いか?」
「他の・・・方法。」
虚を突かれた様にチーファは目を見開いた。
こんな言葉の檻に閉じ込められたら簡単な、先延ばしって言う解答も見えなくなるもんな。寧ろ俺は其を選び勝ちだからいけないんだけど。
「あるのかな、そんな方法。」
「さぁ其は探してみないと分からないね。」
鼻先を向けたケルディの頭をチーファは触って、緩り撫でた。
「あ、あの私も、」
「矢張り、チーファさんが目的だったんですね。」
言い掛けたチーファが慌てて振り返る。
すると村人達の先頭に神官が立っていた。如何も此の流れは読まれていたらしい。
雰囲気からしてロード達の作戦が失敗したのは彼女の所為かな。
「チーファさん、行ってはいけません。そんな得体の知れない者に付いて行ってはいけない。皆で此処迄頑張って来たじゃないですか。」
チーファの肩が大きく震える。折角の決意が揺らいでしまっているんだ。
神官が近付こうとした所で石柱が倒れて来た。
・・・いや、倒れたんじゃない。彼の筋肉天使が此処迄ぶん投げたんだ。
其の証拠に今ロードは手ぶらで此方を見遣っていたが、村人達は恐怖で顔を真青にして取り押さえる気も失せていた。
「其は汚い大人の言訳です。では何を頑張ったんですか。チーファを殺す為ですか。」
躯中の輝石が絳く煌々と輝く。
怒っている・・・よな。分かり易く。でないとこんな暴力的な止め方しないか。
神官ですら頬に冷汗を掻いている。寧ろ軽々と彼女に吹き飛ばされた石柱を目の当たりにしても逃げないのは凄い勇気だ。
「では如何すれば良いと言うのですか!村人全員共に滅びる可きなのか、僅かな口伝、伝承に縋る事すら赦されないのですか!」
ロードは目を伏せ、胸元で手を組んだ。
然うだ。分かっているんだ。彼等は彼等なりの最善を尽くして今に至る。
濛雨が本当に気紛れな、其こそ人間の心等組み入り様の無いものだとしても、人は其処に祈ってしまうんだ。
其は時に美しくもあり、今回の様な惨酷な結果を生む物でもある。
所詮私達は余所者だ。突然来て犠牲が可哀相だから儀式を止めろと言うのは、偽善と追い返されても仕方がない。
「でも・・・其でも、矢張り犠牲なんて捧げる可きじゃないんですよ。例え本当に神が然う命じたとしても、其しか助かる術がないんだとしても。だって、一人の・・・人間なんですよ?一人の命を犠牲にするんですよ?」
こんなのは理屈じゃない。私は、永い間世界を見て来た。世界は命と心で溢れていた。クリエーターの創った心は皆の中にちゃんと受け継がれている。
そんな世界が理屈丈で回る訳ないじゃないか。
屹度こんな懐いじゃあ、言葉じゃあ彼の神、セレは動じない。だから如何したと鼻で嗤われるだろう。今の彼女なら猶の事。
其でも、私は・・・此の懐いをぶつけるしかないんだ。誰かの心に届く様祈るしか。
神官は少し落ち着きを取り戻した様だった。
視線を下げ、肩でしていた息を抑えて、一つ溜息を付いた。
「そんな事・・・今更言われたって、せめて貴方が前の儀式の時迄に来ていてくれていれば、誰も・・・止めてなんてくれなかったのに。」
終には顔を伏せ、其限黙ってしまう。
屹度色んな感情が綯い交ぜになってもう言葉が出て来ないのだろう。
此の儘話をすれば神官は、或いは折れてくれるかも知れない。彼女も好きでこんな事していないのだ。
村の為、たった一つの其の正義の為に尽くした迄なのだから。
でも、本当に其で良いのだろうか。
遣る瀬無さに一つガルダは息を付いた。其の瞬間、其は起こった。
突然巨大な水の柱がガルダの背後、瀧壺から立ち上ったのだ。
其の水の柱は水しぶきを散らし乍らうねり、大きくなって行く。
「な、ど、如何して、水なんて、」
冀っていた水だが、如何言う事か其が降る訳でもなく、枯れた筈の瀧壺から沸き上がったのだ。
誰も身動きが出来ず、只見護っていると不図ガルダは視線が合った気がした。
あろう事か水の柱から、である。
途端水の柱は弾けて四散し、其の中心に巨大な龍が彳んでいた。
全長は此処からははっきりと分からない。だが瀧壺に触れるか如何かと言う所で複雑な形の突起が付いた尾が振られていた。
全身を透ける様な蒼の鱗で覆われ、細く尖る口端からは牙が覗く。
瞳は穏やかで後頭部で漂う鰭は藍の瓊で留められ、棚引いて何とも優雅である。
背からも複数の鰭が生え、緩りと揺れる様はまるで此処が水中と思わせる様だ。
櫂の様になった六つもある鰭を揺らめかし、龍は緩りと瞬く。
此の龍が龍神様と言う事で間違いはないだろう。村人は皆直ぐ伏せってしまった。
―終に見付けたぞ。未だ此の次元に残られて良かった。―
「え、は?え、まさか俺?俺に何か用・・・か?」
頭に清流を彷彿させるテレパシーが届き、思わずガルダは目を瞬かせて頭を掻く。
間違いなく此の龍からだったよな・・・?な、何だろう、まさか俺を犠牲にしろとか言わないよな。鳥っぽくて美味しそうとかさ。
龍は大きく一つ頷いた。
―其方が我が同胞が成長する手助けをあんなにもしてくれた御蔭でこんなにも早く私も成体に成れたのだ。―
「え、えーっと悪いけど俺、何したかさっぱりなんだけど・・・。」
龍なんて一度も会っていない。夢ですら見ていない。神違いじゃないかな。
龍は不思議そうに首を傾げた。
―ふむ?つい先日の事だが、彼の泉で私を沈めてくれただろう。私はもう中半諦めていたのだ。此の水も枯れ、私は乾涸びるだろうと。そんな折に其方が助けてくれたのだ。正に救いの神として・・・な。―
「沈めたって・・・ま、まさか彼の・・・御玉杓子、とかじゃないよな?」
え、御玉杓子って龍になるの?鯉が龍になる話は聞いた事があるけど、いや、龍神ってまさか、
ガルダは急いで時空の穴からスカウターを取り出して掛けた。
すると一件該当があるとスカウターが解析を始める。
「若しかして・・・涛漾浹龍(トウヨウショウリュウ)か?」
―ほう、其の名は久しいな。然うだな。彼の姿と今は見間違える様であろうな。―
如何やら合っている様だ。ガルダはそっとスカウターに浮かぶ文字を目で追った。
涛漾浹龍、天上と地下の水を司る龍。成体は濛雨の化身として様々な次元で伝承が伝えられている。全長80mもの巨大な水龍の姿を取るが、其の幼体の生態は余りにも特異である。
幼体は御玉杓子の様な躯の99.9%以上を水で構成する、正に水に膜が張った丈の姿だが、一度全身が水に浸かると分裂する能力を有している。然うして分裂する事で水の魔力を蓄え、終には其の魔力を幼体の一体へ集中させる事で成体へと成長するのだ。
其の為一体の成体に成る迄数多の幼体が必要になり、又幼体は膜の性質上水に浮かんでしまって己の力では分裂出来ない。結果成体に成るには環境に因る偶然が重なって初めて可能性が見える物であり、其の姿を目にする事は稀である。水の流れを漂い、流されて終には水を司る龍となる、其が彼等の在り方である。
・・・そ、然うだったのか。まさか俺のあんな戯れ合いで龍神様が一体出来上がってしまうなんて。
御玉杓子が次元を滅ぼす訳がないって前は笑ったけど、まさか其の御玉杓子が救ってくれるなんて。
―私は其方に助けられた。彼の時は斯うして話す事も出来ず、只見送る事しか出来なかったが、今は此の恩を返したい。何か出来る事はないだろうか。―
「い、良いのか?じゃあ、」
此は願ってもいない好機だ。正に此奴に適した御願い事がある。
「濛雨を此の辺り一帯に降らせてくれ。出来れば定期的に降らしてくれると助かるんだけど。」
―然うだな。確かに、此の次元には悪い事をした。黔日夢の次元に因り私の同族達は此の次元へ帰れなくなったのだ。其の為長い乾季に見舞われただろう。今の私なら濛雨等容易い物だ。此の次元の水は迚も澄んでいて心地良い。永久に、私が此の地に濛雨を降らせよう。―
「そ、其は真ですか龍神様!?」
つい神官が顔を上げて詰め寄る。村人達も何か小声で話していたが、其の声は幾分弾んでいる様だった。
そんな神官をちらと見遣り、涛漾浹龍は目を細めた。
―其方は確か前の儀式の犠牲の親族か。同じ匂いがする。遅くなって済まなかった。彼の頃の私は幼く、見ている事しか出来なかったのだ。彼の子の分も私は濛雨を降らすと約束しよう。―
「其の言葉丈で、もう十分過ぎます。屹度、クレアも・・・救われるかと。」
顔を伏せた神官はそっと目元を擦った。
―然うか。では神よ、本当に有難う。心から礼を言う。濛雨は此の次元への贖罪だ。若し其方の手助けが出来る事があれば是非とも私を呼んで欲しい。・・・さて、長話もいけないな。早速濛雨を降らせよう。では皆の者、然らばだ。―
涛漾浹龍は一同に大きく頭を下げた。そして旻を見遣ると又彼を何処からか沸き上がった水の渦が包む。
其の儘そろそろと涛漾浹龍は浮上し、旻の彼方へと消えていく。
忽ち水の渦は砕けて雲華へと姿を変える。
然うして一同が見上げている内にぽつりぽつりと濛雨が降り始めた。
何事も無かったかの様に。段々と勢いを増して、何処か心地良さを覚える濛雨だった。
「や、やった、本当に降って来た!」
「龍神様、有難う御座います。」
「噫、此でやっと・・・、」
もう村人達は飛び上がらん許りに喜んで濛雨の中で踊り始めた。
チーファも未だ信じられないらしく、腰が砕けてしまったのかすっかり座り込んでしまって呆然と濛雨に降られていた。
「いやーまさか斯うなるとはなぁ・・・。ってチーファ、大丈夫か?」
「えっ、あ・・・一体何が起きたの?先のが龍神様、だったんだよね?」
全く話が頭に入らない様だ。無理もないか、折角飛び降りる覚悟を決めた矢先だったんだし。
もう村に帰って、何時も通り過ごせるだなんて、思ってもいなかったんだろうな。
「本当にまさかまさかの御登場でしたね。ガルダ、御手柄ですよ。」
ロードも此方にやって来た。石柱を持っていなければ女神其の物である。
「んんー完っ全に偶然だから何か褒められても・・・ま、一件落着か。」
「でも良かったねガルダ。てっきり彼の時の御玉杓子、余にも増え過ぎて窮屈になってたからガルダを怨んでいたのかと思ったよ。ずっとガルダ丈を見ていたし。」
何時もの口調に戻り、ケルディは一つ伸びをした。姿とのギャップについ苦笑してしまう。
「えぇ!?彼の御魚さんが龍神様・・・?一日であんなに大きくなったの・・・?」
未だチーファは混乱状態にあり、おろおろと其の目が揺れるので、そっとロードは彼女の両肩に手を置いた。
「・・・あれ、神官が来たよ。何の用かな。」
ケルディが背後を見遣り鼻をひくつかせるとさっさとガルダの隣へ並んだ。
もう争う事もないんだろうけれど、つい身構えてしまう。
結果が如何であれ、俺達は彼女を騙していたんだ。其処は責められても仕方ないんだから。
だが神官は一つ頭を下げた。そして視線を下げた儘、何処か後ろめたそうに話し始める。
「・・・先程の非礼を詫びたい。龍神様の話からして恐らく貴方達が龍神様を御助けし、此の地迄導いてくれたのでしょう。儀式の邪魔をしたのも、龍神様の本心を知った上であったのですね。見えていなかったのは、私達の方だった・・・。」
「いえ、其は仕方のない事です。でも古い伝承を忘れずに今も伝えていた事、龍神様も嬉しかったと思いますよ。懐う心が無ければ、濛雨は降らなかったのですし、其にチーファの為とはいえ、私もその・・・随分乱暴な手段を取ってしまいました。皆さん御怪我はないですか?」
輝石丈でなく、頬も仄かに赤く染め、ロードも頭を下げる。
少し遣り過ぎたと言う御茶目な具合で済まそうとしているが、やっていた事は明らかに殺人レベルの暴力だった。
・・・正直彼の石柱に当たっていたら本当に死人が出ていたと思う。
チーファの為とか謳って、他人を犠牲にする所だった。
でも俺が見た限り怪我人はいなかった。・・・何か其も其で恐いよな、加減をして彼のレベルだって言うのならロードも立派な破壊神だ。
「其は・・・大丈夫かと。でも・・・では一体貴方達は何者なんですか?龍神様の遣い、と言う訳では無かったんですよね・・・?」
偽物だと言いつつも、矢張り同じ人とは思い難い。抑彼女は旻から来たのだ。
すると其迄自身の頭の整理に勤しんでいたチーファがぱっと顔を上げた。
「神官様!御姉ちゃん達は混血なんです。色んな所を旅してて、あんな手品が沢山出来るんです!」
如何やら其を教えたくて仕方なかった様だ。
神官は突然元気になったチーファを目を丸くして見詰め、少し唸った。
「・・・若しかして、チーファさんを保護してくれた旅の方・・・ですか?」
「あ、噫然うだな。其の途中で龍神様・・・に会ったみたい、だし。」
此は言っても良い事だったのかな。ま、隠す事もないか。
「然うですか。・・・チーファさんは余程の幸運の持ち主みたいですね。貴方方の様な人に会えて。」
如何やら龍神様の遣いを騙った事に対して責められる訳では無い様だ。・・・一応、赦してくれたのかな。
「あ・・・然う、然うなの。皆本当に有難う。私の為に、皆此処迄来てくれて。」
「当然よ。こんな可愛い子を放って何処かに行く訳ないわ。困った時は何時でも呼ぶのよ。絶対に助けるから。」
「う、うん然うだね。御姉ちゃんの手品ほんとに凄いもんね。」
先の筋肉天使、彼を思い出したんだろう。あんな強力なボディーガードは然ういない。
「じゃあチーファは村に帰っちゃうんだね。旅は・・・又会えた時かな。」
顔を上げるケルディの鼻先を撫でてチーファも一つ頷いた。
「然う・・・だね。もっと大きくなって、今度はちゃんと皆に言って出て来るよ。其迄元気でね。」
如何やらケルディが大きくなったのは手品の一つとでも見たらしい。
子供に接する様にチーファの声が優しくなった。
「そっか。じゃあ俺達用も済んだし、もう行くな。」
「あ、若し良ければ歓迎します。一緒に村迄如何ですか?」
「御気持ち丈で。その・・・手品の後始末をしないといけないので。」
「・・・因みに先の彼の階段のタネ丈でも教えては、」
「申し訳ないけれども其は教えちゃいけない事になってるの。手品の命とも言えるから。」
流石に魔術を此処で披露する訳には行かない。先とは別の混乱を呼んでしまう。
「然う・・・ですか。余り引き留めてもいけませんね、済みません。」
一応・・・誤魔化せた様だ。神官は村人達に聞かれない様に極小声で言っていたのだが、諦めた様で一歩下がった。
「あ、もう行くんだね・・・。御姉ちゃん御兄さん、ケルディ君、皆本当に有難う。本当に・・・有難う。」
チーファが大きく頭を下げた。もう頃合だろう。
ガルダがそっと眴せを送るとケルディもロードも広場の端に移動する。
「じゃあね、又会えたら良いね。」
「龍神様に会えたら宜しく言っといてくれよ!」
「チーファ、左様なら。貴方との旅、とっても楽しかったわ。」
「私も・・・皆の事忘れないから、又、」
チーファと神官、村人達に見送られ、一同は次元を去った。
其の後も何処か懐かしく、優しい濛雨が其の村では降り続けていた。
・・・・・
地と天を繋ぐは水龍の橋
久しく見えた彼等に祝福を
もう我等を妨げる物無しと、水の申し子として丗を移ろおう
地を天を廻れ廻れ
永遠に我等共にあろうと
はい、とっても平和でしたね。予定調和の様な話でした。実際前作のリメイクなので迚も書き易かったです。
御玉杓子が、良かったですね。今回はストーリーと言うより、キャラが好きな話でした。御玉杓子可愛い。
何と言うか不思議な生き物ですよね。田んぼに居るのを見付けると直ぐ捕まえてしまいます。何時も苛めて御免ね、でも此は愛の裏返しなんだよ。
後は結構ノロノロさんも気に入っています。本来は次元の主導者として出す予定だったのですが、昇格しました。病原菌と言う設定だったので、ノロノロ言っていたのはノロウィルスの事だったんです。(結構恐ろしい。)でも勿論今は其の意味でノロノロ言っている訳ではなく、「鈍い」とも「呪い」とも違います。彼が彼の個性なんです。
迚も書き易くて何か愛着があるので此からもちょくちょく出て来ると思います。彼にもちゃんとした物語があるので御楽しみに。
所が次話は未だ書けていないんですよね・・・。短編にしたいのですが、如何なる事やら。
では私も早速ゲームをしたいので此の辺で。次はもっとちゃんと此処考えてから書きます。(今回前書と後書きの存在、完っ全に忘れてました。何てこったい。)
皆さんとの御縁が又あります様に。




