18次元 斜陽に夢幻の死覇の都泡沫に鎮む次元
皆さん御久し振りです。前回も一寸書いたんですが今回、全然モチベーションが上がらなくてこんなに遅くなってしまいました・・・済みません。
ふわぁ~とした前作のリメイクだし、リアルもリアルで色々とあり過ぎて(此毎回言ってますね)正直、此の話より信じられない様な事が今現に起きてたりします。+最早嗤えるレベルで体調が悪かったり、ハハ・・・ハァ、何時も吐きそうで躯中痛いですけど此、何の呪いですか?怨まれる覚えは・・・悲しい事に幾らでもあるんですけど、誰か丗闇みたいに魔力を分けてくれる方は居ませんか、と一寸危ない思考を持ちつつ最新話です。
でも今回(正確には二週間位前から)目標を立てました。今迄は一日一回何らかの形で小説に触れる、だったのですが、此だと本を読んでも、設定集を見る丈でもカウントしてた訳です。其だとですね、筆者がニヤニヤし乍ら設定集を見るのも、文学に触れていると取られていた訳です。キモい丈ですね、はい。
だから其を、平日は絶対一日一頁書く!にしました。此でも年二百頁しか書けないんですけどね。ま、続く限りは頑張りたいと思います。
只リメイク前と比べれば、格段に良くなりました、明らかに。其丈は良かったかな、と。
まぁ小五から成長無かったらホント酷いですよね、うん。
と言う訳で、今回は遠足の様に賑やかなパーティとなりました。せめて話丈でも少しは明るくね。(其の実真暗な話だけど)行けたらと思います。
あ、後又風霧さんから戴き物の挿絵を貰いました!登場者紹介にセレの挿絵が追加されています。風霧さんの画力UPに驚愕するしかない・・・。
丁度其の時の様子をすこーし丈。テンションが高く見えるのは気の所為です。リアルの八割増しです。
「久し振りにセレかいたよ!前のダサかったから!ほい!」(風霧)
「滅茶良い!格好良い!流石主神公!ヒュー!・・・でも御免、後一話でセレの服はver.2に移行するんだ・・・。」(-Sare-)
「え、一寸何言ってるか分からないんだけど。」(風霧)
あれ、驚愕してたのは風霧さんでしたね。御免ね、でもセレは本当に格好良かったです。龍にモテモテなのも又然り!
・・・と、例の如く長くなっちゃいましたが、暇潰しにどうぞ御楽しみ下さい。
零星の無い霄の中、声は飛ばずに儚く消える
標の無い闇の中、想いは低く彳んで眠る丈
時の止まった袋小路の黔の世界
消えない様に、涕かない様に
私の背中を押す濡れた黔の薫風
其の先で私に向ける彼の憂いた瞳は誰の物か
・・・・・
ドレミ達が着いたのは漆黔の次元だった。
驕陽も零星も氷鏡も無い真暗闇で。
正に一寸先は闇と言った有様だった。
「・・・・・。」
余りの暗さに目が慣れているのか如何かも分からず一同は背中合わせに円になっていた。物音も殆どしない。
何が潜んでいるか分からず息を詰めるが、一向に変化は来ない。
「・・・別の所にしよっか。」
「え、いや切り捨てんの早いだろ。ってか如何すんだ。何すれば良いんだよ先輩方。」
「然うね。ドレミ、一寸早過ぎるわ。もう少し様子を見る可きよ。」
「んーでもこんな冥いと危ないよ。ドレミの雷だとバチバチして其は其で恐いし、こんな時こそセレちゃんが居れば超音波で斯うぱーって見えるのに。」
「え、彼奴ってそんな事も出来んのか?あ、だからオレ達が隠れてても分かったのか。」
―彼奴って言っちゃ駄目やでカーディ。うち等の雇い主やで。リーダーなんよ?―
「超音波と言うよりは波紋ね。セレは盲目なのよ。だから代りに魔力を放って色々見てるのよ。」
「すげぇな其、結構疲れるんじゃないのか?五分でも無理だわオレ。」
―カーディは集中力が無さ過ぎるんよ。―
「う、うっせぇ。焔なんて大きいのをボンって出せりゃあ良いんだよ。一撃必殺でガツンと。此が格好良いんだよ。」
「まぁドレミの雷も似た物だし、分からなくはないけどね。でもセレちゃんも一撃必殺持ってるよ。ビームとか出せるし。」
「ビーム!?何だ其最高に格好良いじゃねぇか!い、言ったら今度やってくれるのかな。」
「そんなにも格好良いセレは何と3km位波紋で見える然うよ。」
其を聞いてグリスは一寸カーディを見遣り、含み笑いを漏らす。
途端に其迄羨望からの興奮に頬を染めていたカーディは別の意味で真赤になった。
確かに集中力は無さ然うである。
「何だよ。抑オレ、彼奴に勝てるって思ってねぇし!!張り合うつもりもねぇし!・・・あ、でもあん時は危ないと思ったから離れてたけど、見とけば良かったなぁ、彼奴のバトル。彼のストーカー野郎打ちのめすの、見物だったろうになぁ。」
「んん、其は如何だろう・・・。余りその、見て良い物じゃなかったよ。・・・血みどろの、血を血で洗う様な戦いだったから。」
―然うだったんやね・・・。うち等の為にそんな一所懸命になってくれたんや。帰ったら御礼、言わんとね。―
グリスが視線を上げると何かが視界の先で掠めた気がした。
翠玉の瞳が闇の中で光る。
―・・・何か居る様やね?―
「え、と、取り敢えず明かり付けないと。」
「あーじゃあオレがやるよ。ほら、」
一同を中心に円形に地面から焔が沸き、揺らめいた。
黔い焔が出て来た彼の次元を思い出すのでドレミは少し足が竦んでしまう。一つ頭を振って息を付いた。
「有難カー君。此で見えるね。えっとグリちゃん何の辺りに見えたの?」
―えっと彼方の・・・。―
グリスが指を差そうとした時丁度其の方向から小柄な何かが突進して来た。
そして其の儘ロードに体当たりしたが、威力は無かったのか少し上体が傾いだ程度だった。
一体何だろうと皆が目をぱちくりとさせていると、
「っ!!キャー可愛い!!滅茶苦茶可愛い!!天使みたいに可愛いわ!!」
突然奇声を上げてロードは屈んで思いっ切り其に抱き付いた。
「ロ、ローちゃん!如何したの!何が・・・あれ、女の子?」
ドレミがロードの肩に手を置いて覗き込むとドレミよりも幾分小柄な少女がロードに抱き締められてジタバタしていた。
只其のジタバタが尋常じゃない。顔を真赤にして滅茶苦茶に暴れている。
突進したりと乱暴な子だなぁと思うのも束の間、ドレミはある事を思い出した。
ロードは見た目こそ清楚な正女だけれども、其の肉体には途轍もない力を秘めている事を。
そんなロードがあんな抱き締めたら、其こそ締め続けたらあんな子供の肋なんてあっさりと・・・、
「ローちゃん!!今直ぐ!今直ぐ其の子を放して!!」
「え、でもこんな可愛いのに・・・。大丈夫よ、ね、もう可愛いんだから!」
「ーっ!!ーっ!?」
不味い、絶対苦しいんだ。何となく次元の主導者の気配もする。此の儘だと始まる前に此の次元が終わる。いや、一般人でも勿論駄目だけど、兎に角、ロードを殺人犯にはさせない。
ドレミが猶も肩を揺すっているとローズも加勢して少女を引っ張ってくれた御蔭で流石にロードも少女を開放した。
「もう何で邪魔をするの二柱共。」
「ローちゃん、女の子は見た目より繊細なんだよ。だから抱き締める時はもっと気を付けないと。だってほらローちゃんその・・・マッチョでしょ?ね、だから特に気を付けないと。」
「マッチョだなんてそんな。毎日一寸ずつ鍛えた丈よ。護身術程度よ。」
「は?マッチョって此のネーサンがか?其、アンタが単に非力な丈なんじゃねぇのか?」
「違うよ!然う言うならカー君一寸ローちゃんと手繋いでみてよ、ほら。」
前ローちゃん煉瓦の壁、拳丈で打っ壊してたけどね・・・。場面が場面だったから印象薄いかも知れないけど。
「え、まぁ良いけど。オレ、グローブした儘で良いよな?」
「えぇ、でもそんな期待しないでね。自衛出来る様に、本当に其の程度だから。」
カーディは店を出る前に両手に皮のグローブをしていたのだ。因みにグリスも大き目のベレー帽を被っている。
神になってそれなりに長い二柱は自分の種族を隠す事が自然と身に付いていたのだ。
特異な部分は目に留まり易い物だ。厄介事を避ける為にも、其は迚も大事な事だった。
そんなカーディのグローブの下は蜥蜴の様な絳と黔の鱗にびっしりと覆われた物である。
見た目通りの硬質さの為、カーディは腕力云々より其の皓くて滑らかなロードの手に傷を付けないかの方が心配だった。
早速二柱が手を繋ぐと変に意識をしてしまったのか僅かにカーディの頬が染まり、軽く咳払いした。そんなカーディを見て又ロードは可愛いと声を漏らす。
「じゃあ御互い軽く握って・・・、」
「だだだだだっ!!ちょっ!離せ!マジでいてぇんだって!!」
ドレミの合図を待たずして突然カーディは大きく仰け反ると目を見開いて彼の少女宜しくジタバタと暴れ始めた。
対してロードは涼しい顔をして只少し小首を傾げていた。
「中々迫真の演技だけれども、流石に其はオーバーリアクションよ。」
ロードが空いた手で口元を押さえて笑うのを見てカーディはより一層暴れ出した。必死の余りか口から焔が漏れている。
「いやいやいや!此素だって!マジの反応だって!離せって!いやホント離して下さい!!」
「あ、若しかして女性と手を繋いで照れてるとか、フフ、もー本当に可愛いわねカーディは。似たシーンが『恋愛&変態 二十六巻〜純度100%の此の想い、届けMy情婦!〜』にもあったわね。」
「だーっ!!何でそーなるんだよ!何で選りに選ってそんな長いタイトルの奴を今此処で・・・だだだだっ!!あ゛ーもう可愛いでも何でも良いから赦してくれ!!」
仕方ないと言わん許りにロードは苦笑を漏らすとあっさりと手を離した。
カーディは大仰に尻餅を付くと急いでグローブを取って手を軽く振って息を吹き掛けた。
―カ、カーディ大丈夫なん?うわ、罅入っとぅよ。―
「うわ、マジかよ。まぁ生え変わるから良いけど。ってか此何て言うんだっけ。パワハラって言うんじゃねぇの。ガッツリ暴力じゃん。」
「え、えぇ!!ほ、本当だ!御免ね。そんなつもりは全然無かったの。えっと如何しよう、痛む?」
ドレミが心配そうに彼の手に触れる。するとロードが覗き込んだ。
「あら、御免なさい。私加減が下手で。グローブ越しだからつい。でも貴方の鱗堅牢然うだけれども玻璃の様に繊細なのね。次からは気を付けるわ。」
「いや、玻璃はバキッ、ボキッって割れねぇよ。砥石代わりにもなる鱗なのに素手で割るとか、マジで怪力かよ。恐れ入ったよ。華奢で清楚な御姉さんってイメージも打っ壊れたし。」
「うぅ、此でも巫女なんだから其のイメージは取って置いて欲しい物ね。ほら、一応斯う言う事も出来るんだから。」
然う言うとロードはさっとカーディの手を撫でた。
術を掛けたのだろう。カーディの手の甲はすっかり元に戻っていた。
―凄い、手品みたいや。聖遣いなん?初めて見たけど。良かったね、カーディ。―
「成程斯うやってパワハラの証拠隠滅を図るって訳か。」
―もぉカーディ、そんな捻くれんの。巫女さんなんよ?凄い神様なんよ?―
「巫女って彼だろ。天使みたいなもんだろ。神の遣いの。もう次から筋肉天使って呼ぶからもう勘弁してくれよ。」
「天使は全然違うけれども良いわね、天使って可愛くて。良いわよ。宜しくね。」
「あ、良いんだローちゃん・・・本当全然違うけど、良いんだね。」
恐らくカーディとしては悪口のつもりだったんだろうけれど流石ロード、心も悍かった。
「然うよ!そんな事より彼の子は?随分乱暴に引き離してくれたけど、何処に行ったの?」
―此処に居るよ。―
ローズが片耳を上げて合図した。確かに彼の右後ろ脚に彼の子が掴まっており、ローズの尾がそっと寄せられていた。
少女は戸惑った様にうろうろと視線を彷徨わせる許りで中々話そうとはしなかった。
只々ぎゅっとローズの足にしがみ付く許りである。
―皆良い神許りだよ。大丈夫だから出て御出で。―
尾で少女の背を押すが少女は首を左右に振る許りだ。
「彼の御姉ちゃん・・・恐い。」
そして指を差されたのはロードだった。
途端電気が走った様にロードは膝を付いてがっくり項垂れた。
「あわわローちゃん!気をしっかり!大丈夫、謝れば屹度赦してくれるよ。次から気を付けようね、ね?」
「そ、然うね、ドレミ。分かった。私頑張るわ。」
一つ息を付いてロードは立ち上がると少し屈んで少女に近付いた。
「先は御免なさい。つい貴方が可愛過ぎて抱き付いちゃったのよ。私はロード。貴方は?」
「・・・晴天 霙(セイテン ミゾレ)、だけど。」
か細くはあるが少女が答えてくれたのでロードはほっと一息付いた。
「然う、霙ね。可愛い御名前ね。声も鈴みたいで。うんうん。・・・矢っ張りもう一回抱き締めさせて!」
「キャー!!」
頷いていたかと思いきや突然ロードが跳び掛かったので直ぐ様霙はローズの脚の後ろに隠れた。
「一寸ローちゃん如何したの!何か変な茸でも食べちゃったの?」
又ドレミが其の肩を掴むが振り返った彼女の目は爛々と輝いて生き生きしていた。
セレのモファンターだっけ?彼が覚醒した時みたい。何なの此。何かの症候群なの?
「あ、噫私ったらつい抑え切れずに・・・。でも霙が可愛いのは事実よ。私が斯うなるのも致し方ないわ。彼の曙の少し眠そうな垂れ目にふわふわの黔のセミロング、礼服みたいな皓と黔で統一された衣装がアクセントになってより可愛さを際立ててるもの。」
「えっと詳細な情報有難ねローちゃん・・・。こんな冥いのに直ぐ其丈の情報を集めたよね。其丈の目があるなら今の霙ちゃんの気持、分かるんじゃないかな。」
ほぅと溜息を付くロードにドレミは苦笑を漏らさずには居られなかった。
「えぇ、でも結果あんなに燥いでいるんだから大丈夫よ。」
「燥いでるんじゃないよ!其悲鳴だよローちゃん!全然分かってないよ!」
如何しよう、ロードが壊れちゃった。
電気ショックで直せるか試しても良いけど、次の怪力の餌食にされるかも知れないし此処はさっさと話を進めた方が良いよね。
夢か幻を見ているロードは放って置いて次はドレミが霙の傍に来た。
「友達が恐がらせちゃって御免ね。ドレミって言うの。宜しく、ミッちゃん。」
「・・・よ、宜しく、ドレミ・・・御姉ちゃん。」
「御姉ちゃん!?良いわね其!凄く、良いわ!私の事も然う呼んで・・・、」
「もうローちゃんは黙ってて、ややこしくなっちゃうでしょ。」
「でも、先は恐がられ乍らの御姉ちゃんだったから、次は友達記念って事で・・・、」
―未だ友達にすらなっていないと思うよ。―
「つーか只の不審者だろ。現時点じゃあ。」
ピタッと固まったロードは二柱の猛攻に大きくダメージを負い、又膝を付いて項垂れた。
やっと静かになったとドレミはもうロードを顧みずに話を続ける事にした。
「ね、ミッちゃんはロー君の事、好きなの?あ、ロー君は此のえっと・・・大きな狐さんだよ。ローズって言うの。」
「うん!喋れる狐さんは初めて見たけど、昔飼ってた狗の音憂(ネウ)に似てるの。良く背中に乗って走ってたのよ。」
―じゃあ乗る?乗り心地は割と良い方だよ。―
ローズが前足を下り、屈むと霙は嬉しそうに駆け寄って直ぐに跨った。
―然う然う。肩の所に手を置いて。疲れたら頸に抱き付いてね。―
「凄ーい!高くて大きいし、温かくて気持良い!」
「へへっ、其処は特等席だもんね。確かに此処、一寸肌寒い気もするし。」
「然うなの。急に冥くなったと思ったらホントに真黔になっちゃって、皆急に冷たくなっちゃったの。」
「お、おいおい急に冷たくなったって其死んだって・・・、」
―カーディ!そんな不謹慎な事言ったら駄目やって!―
「でもさぁ、こんな冥くって然も此の先一杯人が転がってると思ったらさ・・・。」
言い乍らどんどんカーディは青褪めてしまう。そんな彼を霙はきょとんとした顔で見詰めていた。
「?別に冷たくなった丈だよ?皆街に居るよ。でも何か変な感じがして此処迄歩いて来たの。でもずっと真暗だから恐くなって、そしたら皆が居て、つい抱き付いちゃったの。」
「抱き付いた先が筋肉天使じゃあ報われねぇな。」
「だ、大丈夫よ。ほら私が温めてあげるから御出で霙。」
「えっと・・・ローズが温かいから良いよ。大丈夫だよ。」
「如何して目を逸らしてそんな小声に言うの!?ほら今度は優しくギューってしてあげるわ!」
「御前が恐いからだろ。」
此が止めだったらしく、ロードは今度こそ大人しくなった。
―あれ、何か又来よったよ?―
グリスが耳に両手を当て、敧てると微かに鳥の羽搏く音がした。
―多分鴉、かな。此の凱風斬り音、鵲だと思うけど。―
「凄い!グリちゃん鳥詳しいんだね。」
―凄いなんて。先祖が鵄と翡翠って鳥の魔物やから感覚で分かるって丈やで。―
「若しかして鳥と人の間の子って事?ドレミの故郷も大昔に居たって聞いた事あるよ。躍るの、凄く綺麗なんだって。」
―あー躍るんは下手やわぁ。ようさぼったから兄やんに怒られてたっけ。―
「え、兄さん居るの?」
―ま、まぁね、うん。―
二柱が話していると果たして、グリスの読み通り闇から一羽の鴉、鵲が姿を現した。
首元に皓の輪の模様があり、闇とは異なる艶のある黔と翠の翼を大きく広げて其の鵲は飛んで来た。
そして一同を見渡す様に大きく輪を描いて飛び、其の儘霙の肩に留まった。
「本当だ!グリちゃん大当たりだよ。初めて見る鳥だけど此の子が鵲って言うの?真黔じゃないんだね。凄く綺麗な色だね。」
「うん。私達を導いてくれる有難い鳥なんだよ。真暗になってから何時の間にか付いて来てたの。」
「導くっつうか付いて来てる丈かよ。」
―でも鳥目の筈なのにこんなに暗くても付いて来るなんて健気やね。―
「あれ、然う言えばグリちゃんも先祖が鳥なのに良く見えてるね。」
―鵄の血が入っとるからやね。目も耳も良いんよ。昼間一寸眩しいのが欠点やけど。―
「鵲は特別な鳥なんだよ。私達には見えない零星が見えるから飛べるんだって。慈鴉神様の加護の御蔭だよ。」
「慈鴉神様・・・ね。偉いわね霙は。良く御勉強してるのね。」
「え、えへ。だって私、巫女だもん。此位当然だよ。」
素直にロードに褒められて霙は僅かに頬を染める。
「天使みたいに可愛いのに巫女だなんて!私と一緒よ霙!噫何て運命!」
大きく一歩を踏み出し、ロードが霙に近付いたので毛を逆立てた猫の様に霙は跳び上がった。
「ヒィ!だ、駄目、彼方、向こう、ね!」
「御前何時迄嫌われてんだよ。」
「っ、で、でも諦めないわよ・・・。」
すごすごと距離を取るロード。ダメージの高さに吐血しそうだった。
「・・・?」
だが数歩進んでロードは立ち止まると辺りをきょろきょろと見渡した。
「如何したのローちゃん。」
「今何か見られていた様な気がして・・・グリス、如何かしら。何か見えないかしら。」
―全然やね。音もしない様やし。―
「然う・・・分かったわ、有難う。」
少し丈考え込むとロードは視線を闇から外した。
「ね、グリちゃん、そんなに耳が良いならドッキリとか引っ掛からないんだよね、屹度。セレちゃんみたいに全方向カバーされてる訳でしょ?」
―いやーそんな便利な物でもないんよ。うち、よぅボーっとしちゃって聞き逃すけんね。―
「然うなの?あ、若しかして何時もテレパシーなのも其の所為なのかな?ドレミの声、煩かったよね?」
―然うでもないよ。気にせんで。耳が良いって言っても常に良い訳やないんよ。注意すれば何処迄も聞こえる様になるって丈やから。余聞こえ過ぎても疲れる丈やしね。―
「へぇ不思議な感じだね、自由自在に聞けるなんて。」
―へ、へへ、や、ややわぁ。そんな褒められても何も出んよ。其とテレパシーなんは・・・一寸ね。昔色々あったからなんよ。―
苦笑を漏らすグリスの顔がドレミは何だか見てはいけない物を見ている様な気がしてつい目を逸らした。
「おーい其処の二柱、駄弁るんなら歩き乍らにしろよ。」
何時の間にかグリスとドレミ、二柱を残し、ローズを先頭に一同は移動を開始していた。
「え、待って、皆何処行くの?何か目的でもあったの?」
「何も無いけど取り敢えず此処の街、行ってみるしかねぇだろ。俺火付けてくの大儀だから早く移動したいんだよ。こんなとこ、照らしても意味ねぇし。」
「道案内は霙がしてくれるから仲良く御散歩と言う訳よ。」
―そんな暖気な物じゃないけどね。―
「へぇ意外だね。死者の街っぽいけど恐くないの?」
「はぁ!?オレ、恐いとか一回も言ってねぇし!ヨユーで行けるし!ほら行くぞ!」
「はいはーい。」
含み笑いも其処其処についつい笑ってしまうドレミにぶっきらぼうに返すとカーディは大きく一歩を踏み出した。
・・・・・
暫く一同は霙が指差す方へローズが乗せて行き、其の後を皆が付けると言った体だった。
真暗な地平だと思われていた闇だったが、足元は案外凸凹していたり石や瓦礫が埋もれていたりと割と危ない物だった。
「いや此処マジでどんな所なんだよ・・・。死者の世界なのか?地獄なのか?」
術の火加減を見て置く為に最後尾に居たカーディがそっと漏らす。
「然うね。私も然う思うわ。でも霙からは生者の気しか感じられないから難しいわね。何方かと言うと此の次元其の物が死者の世界へと変えられたんじゃないかしら。彼の頃のセレなら遣り兼ねないわ。」
同じく彼に並んでいたロードも小声で返す。
霙から完全に恐がられ、距離を取られてしまったのだ。
「うわ、マジかよ。矢っ張規模が違うゼ。でも其の勘、頼りになるんだろうな。可愛い=生者じゃねぇぞ。」
「勿論。巫女なんだから其の辺りは得意分野よ。安心して。」
「あ、ほら見えて来たよ。此処の下、煉瓦になってるでしょ?此処からが街だよ。・・・本当なら此の辺り蕭森だった筈なのに何にもなくなってて。」
「あー着いたんかよ。・・・でも意外とホントに街其の儘なんだな。」
地から湧く焔に照らされた街は煉瓦造りの建物許りで、別に何処かが欠けたり、崩れたりした訳でもない。
並ぶ街頭にも灯は灯っていないし、建物の窓に明かりが写っている訳でもないから真暗闇な丈で。
暗闇に包まれている丈で、只の街だった。
「・・・然うね。でも矢っ張り普通じゃないわ。暗い丈じゃなくて、もっと大きな違和感があるわ。」
一同が見渡していると闇から何人もの街人と思われる人々が姿を現した。
現れたと言うよりは暗闇の中を曦も無しに歩いていた彼等を此方が見付けたと言った具合だ。
当て所もなく歩いている・・・訳ではない様で其処等の家や店に入ったり、ベンチに腰掛けたり、迚も普通そうに何でも無いかの様に当たり前の日常が其処にはあった。
「確かに此は・・・一寸恐いね。ドレミ達丈変になった感じ。独り法師で、然も行き成り斯うなったら恐くなって当たり前だよ。」
「一体如何なってるんだ。ま、抑斯うなる前の次元ってオレ達知らないから具体的に如何変わったかって良く分かんねぇよな。幻術とかそんな類か?」
「あ、ハリー君が使ってるし、あるかもね。」
―え、ハリーって彼の怪しい人?幻の所為で怪しく見えたんかな?―
「いや幻を使わないと人の姿になれないんだよ。店にも入れないし、大きな龍さんだからね。」
ってセレから聞いた丈だから私も見た事ないんだけど。
「は!?龍ってドラゴンって事か!?え、すげぇ!オレ見てみたいんだけど、未だ見た事ねぇんだよ実物。」
急に声のトーンが変わり、釣られて周りの焔も盛んに燃え上がった。非常に分かり易い。
「店はカー君にとって吃驚箱みたいだね。へへっ、凄い所でしょ。」
「あ、噫、恐れ入ったゼ。黔日夢の次元の犯神に、ドラゴン、喋る狐、筋肉天使・・・あ、若しかして御前も何か然う言うのあるのか?」
ガルダには無いんだ・・・。彼も結構色々凄かったけど、主に再生能力が。
初めて会った次元で一寸見ちゃったんだよね・・・。彼のツインテールの子、アーちゃんと対等所か圧倒しちゃってるガルダ君を。
彼の時も私、結局出られなかったんだよね・・・。ま、今敢えて言う事も無いよね。
「フフーン。然うなんだよね。実はドレミも取って置きの秘密があったり無かったり・・・。」
「おぉマジかよ・・・。で、一体何なんだよ、なぁ。」
「其はね・・・未だ秘密!正直言いたい事じゃないしね。」
「あー此絶対一番しょぼいタイプだろ、言い難くて有耶無耶にして忘れ去られようって考えが見え見えだゼ。」
「そ、そんな事ないよ!確かにセレちゃんとかみたいに凄くはないよ。流石にドレミ、其処迄打っ飛んではないよ!でも一応あるからね!」
「ふーん。」
「あ!急に興味無くした!もう良いよ。実力で見せてあげるんだから!」
―ま、まぁま、ドレミ先輩落ち着いて、カーディももっと斯うね。愚痴ってばっかじゃ駄目やで。―
「良い事言うねグリちゃん。えへへ、然うだよ。ドレミ、先輩だからね。」
「霙、少し聞いて良いかしら。此処の人達は御話とか出来るのかしら。」
「え、う、で、出来るよ。でも直ぐぼーっとしちゃうの。」
近付くロードに警戒しつつも霙は質問の意図が今一理解出来ずに小首を傾けて応える。
僅かにローズを掴む手にぎゅっと力が籠ったので思わずローズは振り返った。
「話が出来る・・・珍しいわね。じゃあ考えられるとしたら・・・。」
―何か思い当たる物でもあるのかな?他の次元とか?―
「一応ね。でも情報が少な過ぎるわ。」
然う言いロードが霙の肩に留まっている鵲に目を向けた。
鵲はまるで其処が特等席かの様にずっと留まり、ピクリともしない。
随分と大人しい様で鳴き声一つ上げないので置物と見紛う程だ。
だが流石にロードに見詰められると気になった様でちらと嘴をロードの方へ向けた。
澄んだ黔の瞳は零星の様で心の内を見透かす様に揺らぎの一つも無い。
―余り妙な真似はせん事だ。異界の神よ。―
「っ!?」
今のは・・・鵲のテレパシー?
いやでも気配が違った。此の鵲の物ではない。
彼の凛と冷たい声は恐らく・・・。
テレパシーが届いたのはロード丈の様で、例の忠告をロードは何度も反芻した。
妙な真似、其は恐らく霙を連れ回している事だろう。
其を疎ましく思っている?其は霙が生者、又は次元の主導者である事と関係があるのだろうか。
でも正直、実の所霙が次元の主導者である確証はない。
然う思われる気配はあるが、何か斯う・・・弱々しい気がする。
彼の言い回し、テレパシーの主は此の次元の現状を良しとしているのか、其とも変える為に何か自分達とは別の行動をしている者なのか。
如何であれ真意が分からない以上はい然うですかと止める訳にも行かない。
今は気に留める程度にして置こう。
「えっとその・・・ロード御姉ちゃん、何か気になるの?此の子の事。」
ロードにじっと見詰められて、加えて其の儘目の前で考え込んでしまった為、霙は気になって動けなかった様だ。
そっと霙が鵲の左翼に触れると鵲が少し羽毛を膨らませた。
「然うね。・・・ん、如何かしら。ね、貴方は何か知らないかしら。」
問い掛けてはみたが鵲は少し首を傾けた丈で又正面を向いてしまった。
「オイ此から如何するんだ?そろそろ休憩とか入れてくんねぇとオレ、きついんだけど。」
確かに辺りを包んでくれていた焔は不規則に燃え盛ったり衰えたりしている。集中力が切れて来たのだろう。
「あ、然うだよね。御免ねカー君。如何しよう。一寸眩しいけどドレミが術を使おっか。」
「私も多少なら照らせると思うわ。だからドレミのと合わせて・・・、」
「ま、又真暗になっちゃうの?今度は皆の顔も見えなくなるよ。」
視線を彷徨わせる霙を鵲はちらっと見遣り、突然羽搏いた。
「わっ、え!ど、何処行くの!?」
霙が手を伸ばすが其を擦り抜け、鵲は一同の頭上で輪を描いた。
然うして暫くすると鵲の胸元の皓の毛が仄かに光り始め、次第に其は強くなって辺りを照らすのに十分になった。
「御前光れんのかよー!!」
焔が消えるのと同時にカーディが膝を付く。
そんな彼を労う様にグリスがそっと肩に手を置いた。
「は、はは、お、御疲れ様カー君。良く頑張ったね。」
「割と真面目にやったのに骨折り損じゃねぇか。あーもう気紛れに光るなよな本当。」
カーディのブーイング等何処へやら。鵲は又一つ輪を描くと今度はローズの頭に留まった。
霙が眩しがると思っての配慮だろうか。其の顔は何処となく誇っている様でもある。
辺りを優しく照らす其の明かりは存外遠く迄届く様で随分明るくなった。
「さて、明かりは如何にかなったけれども目的地を如何するかよね。」
―じゃあ取り敢えず霙の家に行くのは如何やろ?街がこんななら送ってもあんま意味無いやも知れんけど。―
「ミッちゃんの家?んー然うだね。ミッちゃん、家は何の辺りなの?御邪魔じゃなきゃ行ってみたいんだけど。」
霙はちらっとロードを見遣ると彼方此方見渡した。
「彼方、碧山の方なの。神社があるから。」
「待って、何で一瞬私の顔を見たの?勿論見てくれるのは構わないけど。」
「御前を家に招待して良いか悩んだんだろ。」
「正直!傷付くわ!で、でも大丈夫よ霙、私は貴方を助けたい丈。御両親には挨拶しかしないわ。」
「其が恐いんだろーが。」
「・・・御父さんと御母さんは・・・今、会いたくない。街の皆みたいになっていたら、嫌だもん。恐かったから家には行かないで街に来てたのに。」
しゅんと視線を落とす霙に一同は口を噤んだ。
然うだ、霙だって薄々は気付いているんだ。両親、友達、街の皆、全員が普通ではないって。そしてもう元には恐らく、戻らないと言う事に。
「御免なさい、霙。じゃあ神社には行かない様にしましょうか。」
「・・・いや、神社迄なら大丈夫だよ。中に入らなければ・・・御父さんと御母さん、祭事とかがあって余家から出ないから。其に若しかしたら、神社に行ったら何か分かるかも知れないんだよね?だったら、行く。」
「然う、有難う霙。じゃあ一緒に行きましょうね。」
淡く微笑んでロードが小首を傾けると霙も一つ丈頷いた。
「皆は如何かしら、神社で良いかしら。」
「ま、良いんじゃねーの?オレは特に意見無し。」
―僕も良いと思うよ。―
一同は頷き合うと又霙の案内の元神社へ進路を変えたのだった。
・・・・・
「着いたね。此処だよ。此の階段を上ったら直ぐだよ。」
「直ぐ・・・う、うん。然うだね。」
甃の階段の前で一同は立ち止まった。見上げる位は十分あると思われる。端が闇に溶けて正確には分からないが。
「上から大きな魔力を感じるわね。丁度神社だし、恐らくビンゴよ。」
早速ロードが足を踏み出したのでばらばらと皆続いて行く。
闇に溶ける上り階段なんて不吉に思えて仕方がないが、行かない訳にも行かない。
ローズがちらと霙を見遣ったので、霙はそっとローズの背を優しく撫でた。小さくローズは頷き、甃の階段へと足を伸ばす。
―皆足元気を付けてね。速かったら言って。―
曦の源である鵲を乗せているローズは窺う様に顔を上げた。
「然うだね。此処で転けたら本当に大変だよ。緩りで良いから気を付けて行こうね。」
疎らに声を掛け合うと後は黙々と一同は歩き続けた。
・・・・・
「あーやーっと着いたゼ。結構あったな。」
上り切って平らな足元にカーディはほっと息を付いた。
辺りは相変わらず闇だけれども近くに屹度其の神社とやらがあるのだろう。
「にしても如何して斯う神聖な所って言うか、然う言うのって大抵高い所にあるんだろうな、全く。馬鹿と何とかは高い所が好きって言うけどさ。」
―カーディ、隠せてないけど。まぁ其は仕方ないんじゃない?天の彼方に神様は住んどるって思われ勝ちなんよ屹度。―
「然うだね。・・・ドレミの次元は海底神殿ってのもあったけど。」
―あーうちにもあったわ其、懐かしぃわぁ。―
「・・・例外の方が多いいんじゃねぇか。」
「でも海底に行くのはもっと大変だよ?今は着いたんだから喜ぼ?ね、霙ちゃん。神社って何処かな?」
「え、未だ半分だよ。此処は踊り場、中庭みたいな物だから何も無いよ。」
「え゛、其本当?じゃ、一寸ね、一寸、休憩しない?倍は流石にきついよ。」
驚愕と落胆の入り混じった顔で互いに見合っている中、ロードは又少し険しい顔付きをしていた。
「いや、何もない訳ではないわ。先客よ。」
ロードが闇の奥を見詰めていると突然鵲が霙の肩から飛び立った。
そしてロードの視線の先、鵲の明かりで顕になった一人の青年の肩に留まった。
―何時の間に、全然気付かんかったわ。―
「待ってたと言った所ね。私達を。」
青年は薄く瞼を震わせ、緩りと目を開いた。
其の青年は長い黔髪に潤んだ暗翠の瞳、絹を何枚も重ねた様な寛とした服を羽織る様に着ていた。そして袖から食み出す組まれた両腕は黔い羽根が生えており、素足は鳥の様に節榑立った足だった。
加えて黔くて長い尾羽が垂れており、艶やかな曦を返す。
―あ、あれ、鵲?ん、人じゃない?何や此の感じ。―
「然うね。彼は慈鴉神様よ。私も初めて御会いしたけれども、此の魔力、間違いないわ。」
「如何にも其の通り。私は慈鴉神。此の世界の神の一柱だ。」
凛と澄んだ声で青年は静かに応えた。
「え、え、嘘!彼の慈鴉神様なの!?何でこんな所に!」
霙は慌ててローズから降りるとすっと背筋を伸ばした。
「噫、何時も君の御祈りは届いていたよ。直接御礼を言いたいと思っていたんだ。其がこんな機会になるなんて不謹慎に取られるかも知れないが、何時も父と母と一緒に私を想ってくれて有難う。君に斯うして会えた事、心より嬉しく思うよ。」
頭を下げ、儚く微笑む様は優しさを帯びている様で。
悪い神ではない事は一目で伝わった。
「そ、そんな、私こそ、何時も笑っていられるのは慈鴉神様の御蔭だって御父さんが言ってたから、有難う御座います。」
「いや、肝心な時に護れなかったのだ。私は非力な駄目な神だよ。」
視線を落とす慈鴉神に一歩、ロードが足を踏み出した。
「御初に御目に掛かります慈鴉神様。私達は此の次元を正す為に次元の迫間から来ました。次元龍屋のロードです。今回は同僚であるドレミ、ローズ、カーディ、グリスと共に此の次元へ来たのですが、此の次元の事、教えて下さいませんか。」
「お、おい如何したんだ筋肉天使は。」
「ローちゃんは凄い所の巫女さんなんだよ。斯う言うの屹度慣れてるんだよ。」
こそっとドレミと耳打ち合い、思わずカーディは渋面を作った。
一方霙は話の内容がさっぱりで加えて緊張しているのもあり、殆ど聞いてはいない様だった。
一先ず話を続けても大丈夫そうだ。
「迫間からか・・・。話す前に一つ良いか。ロードと申したな。君からは懐かしい気を感じるが、本当に初めてか?」
「其は・・・若しかしたら私は元大神様の巫女なので、其の気を感じ取られたのかも知れません。」
「っ!大神の、・・・成程、良く分かった。何の道此処迄来てしまったのだ。話をしない訳にも行かないだろう・・・だが、」
ちらと慈鴉神は霙を見遣った。少しの間逡巡し、小さく息を付く。
「霙、少し此方に来てくれないか。」
「え、わ、私・・・ですか?」
慣れない敬語をたどたどしく使い乍らも直ぐ霙は慈鴉神の前迄駆けて行った。
すると慈鴉神はさっと右手の羽根で霙を払った。途端に霙の膝が砕け、前のめりに倒れたので慈鴉神はそっと霙を支え、抱き抱えた。如何やら眠っているらしい。
「・・・其奴に聞かせたくねぇ話って事か。」
「噫、此の幼き身に全てを受け止めろと言うのは余りにも酷だろう。」
「・・・黔日夢の次元の時、霙は突然世界が真暗になって、皆冷たくなってしまったと言っていましたが、間違いはありませんか?」
「霙からしたら然うだろうな。」
意味あり気に慈鴉神は答え、眠る霙の髪をそっと撫でた。
「本当は、世界が闇に包まれた後、粗全人類が死滅したのだ。突然躯が黔い霧の様に蒸発し、跡形もなく居なくなってしまったのだ。」
「全人類!?じゃ、じゃあ蕭森とか瀛海は、動物とかは生きてるの?」
「噫、だから此処には人しか居ないだろう。此処は霊界なのだから。元の世界は既に闇も晴れて一応平穏にはなっている。」
「霊界!?矢っ張ヤベェ所だったんじゃねぇか!は、早く出た方が良いんじゃねぇか!?」
―カーディ落ち着いてー。うちら粗皆もう死んどるねん。―
「あ・・・そっか・・・ってもさぁ、」
―粗って事は多少は生き残りが居るんだよね、人類にも。―
「本当に少し丈・・・だが、私の力が及ぶ霙を含む四宇の神社の跡取り丈、助けられたのだ。此の子達の親さえも助けてやれなかった。」
沈痛な面持ちで肩を落とす慈鴉神を、肩に留まっていた鵲が慰める様に嘴を擦り寄せた。
「四人・・・たったの四人丈、なの?あ、若しかして霙は生きてるのに霊界に居るのって慈鴉神さんが連れて来たからなの?寂しく、ない様に。」
其を聞いて慈鴉神は苦笑を漏らし、緩りと首を左右に振った。
「いや、私にそんな力はない。此処で半端に人の振りをするのがやっとの只の鴉なのだ。私は、私は何もしなかったのだ。此の子達に現実を伝えるなんて出来なくて。だから、彼の二頭の龍にも干渉しなかった。」
―龍?僕の同族が此の次元に居るの?―
「ん、然うか。形は随分と違うが、君も龍族なのか。然うだ。此処には二種の龍が、霊を操る龍と、霊界を創る龍が居る。不甲斐無いが何方も私よりずっと勁い力を持っている。霊界なんて無い世界だったのにたった一頭で創り上げるとは。」
「ドラゴンに会えるのか?流石に放っとけないだろ。すんげー勁そうだけど。」
―あ、珍しいねカーディ恐くないん?退治する気なん?―
「あったり前だろ。抑珍しくねぇって。だってドラゴンだゼ?格好良いじゃねぇか。」
キラキラした目で拳を握り締めるカーディにローズは苦笑を漏らした。
―抑ドラゴンと龍って別物なんだけどね。だから屹度カーディの想像しているのと全く別の姿をしてると思うよ。期待も程々にね。期待され過ぎても僕達も困っちゃうよ。―
「・・・あ、そっか。御前も大きな狐だもんな。火を吐く翼の生えた大蜥蜴って訳にも行かないか。」
「はは、随分大物を想像してたんだね。然う言うのは遺跡の壁画に描かれる位じゃないかな。海豚みたいなのとか、鹿も居たしね。」
「な、何だよ夢壊すなよ・・・。」
「でも幅広いって丈で勿論フェニックスやワイバーンだとか有名で王道のも居るわ。決め付けるのも早いわよ。」
「成程・・・良し分かった。一寸楽しみにしとく。」
―何事も程々やね。―
「待ってくれ。矢張り君達は彼の龍を退治するつもりなのか。」
迚も寛容な神である慈鴉神は皆の雑談を咎めもせず聞き流していたが、引っ掛かりはあった様だ。少し丈声を張って其の澄んだ目でじっと見詰めて来た。
「いえ、退治なんて物騒な事はしません。只会って話をする丈です。若しかしたら其に因って彼等が別次元や次元の迫間に行くかも知れませんが。」
「・・・然うか。」
今の言い方、若しかして彼が現れたのは此の為か。
屹度此の先、神社に其の龍が居るんじゃないだろうか。
そして退治されたら困る訳が。
「慈鴉神様、何か提案だとかがあれば仰って下さい。私達は飽く迄も次元の主導者である霙を助ける為に来たんです。此の次元に関して、貴方以上に知っている者は居ません。」
「・・・私は、ずっと迷っているのだ。霙達に真実を伝える可きなのかを。」
視線を落として又慈鴉神はそっと霙の髪を撫でた。
「本当は伝える可きだとは思っているのだ。此処は仮初の世界なのだから。でもたった四人で此の世界を生きるのは何程孤独か。此の次元の人類は滅びるだろう。ならばせめて、父も母も、家族や街の人がいる此処に留まった方が良いのではと思うのだ。彼等の魂其の物は本物なのだから。」
「そっか。然う言う事だったんだね。・・・難しい選択だよね。」
「だから鵲を遣わしていたのですか?怪我しない様に、危なくない様に。」
「御前の手で縊り掛けたけどな。」
「然うだ。見る事位しか出来ないが。」
「矢っ張り其の鳥知ってたんじゃねぇかよ!オレをおちょくりやがって!」
―まぁま、カーディ、相手は鳥さんやで。堪忍しぃよ。―
「然うだよ。少なくとも其の鵲さんが初めから光らなかった御蔭で、カー君大活躍だったでしょ?丁度良かったんだよ。」
「彼がオレの実力だって思われるのも一寸納得行かねぇけど・・・ま、其は今度頑張るゼ。もっと熱くなれる場面でだ。」
「えと・・・話、続けても良いかしら。」
「あ、ご、御免ねローちゃん、慈鴉神さん!うん、もう大丈夫だよ。」
大神数で行くのは楽しいけれども斯う言う弊害も出てしまうのは一寸考え物かも。神の御前で斯うだと問題になり兼ねない。慈鴉神が寛容だから未だ赦されてるけれども。
「霙は此処に来てから一度も両親に会ってはいませんよね。」
「然うなのだ。私も気にはなっていたのだが。」
「霙が言っていました、両親に会うのが恐くて行かなかったと。此の真暗な世界で訳も分からず独りで居るより恐いと。屹度巫女だから何か感じ取ったのかも知れないですね。本当の両親はもう生きてはいないって。」
其を聞き、慈鴉神は大きく目を見開いた。
そして又項垂れて一つ息を付いた。
「矢張り、駄目だな私は。子が親を思う気持、分かっているつもりだったのだが、恐がらせてしまったなんて。私の迷いがより辛い思いをさせてしまったか。」
首を一つ回して身震いをすると慈鴉神は真直ぐロードを見詰めた。もう其の瞳に揺らぎはない様だ。
「良し、ではもう迷う事も無いな。真実を話して現実世界に帰らないと。屹度後の三人も同じだろう。後は彼の龍達を如何するかだが。」
「其なら御任せを!其処はドレミ達次元龍屋の御仕事!ちゃんと話をして無事霙ちゃん達を元の世界に帰してあげるよ。」
「うわ、此奴良い所丈取って行きやがったぞ。折角筋肉天使が頑張ってたのに。」
―えぇやんか。自信満々に言える事、一つでもあったら格好良いと思うよ?あぁやってカーディも胸張らんと。―
「しかし・・・私は非力な神故何も返す事も出来ない。矢張り此処は私が如何にかしないといけない問題だ。気持丈受け取って置こう。私の迷いを断ち切ってくれた、其丈でもう十分過ぎる助けを貰ったのだから。」
「でも其で慈鴉神様が如何にかなってしまったら一体誰が此の世界を見るのですか。其に貴方は非力な神なんかじゃないですよ。私、聞いた事があるんです。昔大神様に貴方の事、沢山の神の伝承の一つとして。」
「大神からか?でも私の伝承等・・・。」
「昔、親を敬愛する一羽の鵲が居ました。何時も父母の分の御飯迄取っていた鵲は生命の繋がりに感謝する事を覚えます。そして全ての生き物を好きになり、愛する余り神になったと。だから貴方にしか出来ないのです。霙や他の子達も見てくれる。一人一人を慈しんでくれる貴方でないと、此の世界は護れません。」
「・・・・・。」
一度目元を拭い、慈鴉神は息を付いた。其の双眸は潤んでいた。
「有難うロード、然う言って貰えたのは君が初めてだ。流石大神の巫女だな。私は幸せ者だ。皆が願ってくれて、想ってくれて、此の世界の温かさを知れる事が。鮮やか過ぎて己の翼を恥じる事もあったが、もう一度羽搏ける。」
慈鴉神を中心に微風が吹き遊ぶ。其は少しずつ集まって突風へと変わって行く。
「では君達に御願いしよう。如何か此の世界を元の姿に戻して頂きたい。龍は此の先の神社に居る。只龍は如何やら其処へ至る道を閉ざしてしまっている様なのだ。だから私の遣いの鵲達に橋を創らせよう。彼等の上を歩くと良い。」
薫風が鵲を乗せ、四方八方から無数の鵲が集まって来た。何も頸元を光らせ、零星が舞っている様だ。
そして皆翼を並べ、慈鴉神の後方、地擦れ擦れに整列し、暗闇の中に曦の道が出来た。
「有難う御座います慈鴉神様。では此処で霙と待って居て下さい。直ぐ戻りますので。」
「噫、待って居る間に霙達に話をして置こう。如何か御気を付けて。危なければ直ぐに戻って来るんだよ。」
「よーし、じゃあカー君御待ちかね、龍さんに会えるよ。準備は良い?」
「お、おう、早く行こうゼ。オレの武勇伝が始まるかも知れねぇし。」
―飽く迄話し合いだからね?何も無い方が良いんだよ?―
―はは、カーディ直ぐ手が出るから難しいねぇ。よぉ見とかんとね。―
闇へ消える鵲の橋に臆する事無く一同は歩き出す。
其の背を霙の背を撫で乍ら何時迄も慈鴉神は見送っていた。
・・・・・
鵲の橋を渡り切ると其処には堂々とした佇まいの神社が聳えていた。
妻入の高床で、紅木と漆の廂は質朴さが漂い、シンプル乍らも洗練された雰囲気だった。
「へー此が神社か。何か面白い建物だな。高い所なのに更に床を高くするのかよ。」
「うーん、ドレミも初めてかも。斯う言う家もあるんだね。」
―家・・・は一寸違う気がするけど。―
―鵲の皆よぅ頑張ったね。ホント有難うな。帰りも又頼むけんね。―
「噫帰り又其処渡んないといけないんか・・・。抜けそうで安心出来ないんだよなぁ。」
カーディが然う漏らすと橋になった儘で鵲達が一つ二つ鳴き交わした。若干不満そうに聞こえる。
―あーぁ、カーディ怒らせちゃったから帰りは虫食いの橋にするって言いよるよ。此処から落ちたら如何なるかは鵲も知らん言ぅてよ。―
「う・・・お、御前の似非鳥語翻訳なんか信じないからな!若しそうなっても焔の翼創るなりして飛んでやるし!」
―出来ん事は言わん方がえぇでカーディ、見栄張っても飛べんやろ。―
「だー!もうじゃあやってやるからな!フェニックスみたいにやってやる!」
一同が話し込んでいると急に霧が立ち込め始めた。何処からともなく吹く霧は迚も濃く、闇と相俟って視界を覆う。
橋になっていた鵲達は直ぐ列を崩し、辺りを囲う様に飛び回り始めた。
御蔭で闇は幾らか晴れたが、霧は中々退く気配はない。
―此処には迷いの陣があった筈、だが如何様にして来たのか。―
突如響くテレパシーに続き、霧が後退する。
「ふぅむ、神の匂がするなぁ、彼の神が手を貸したのだろう。」
背後から嗄れた声がし、振り返ると何時の間にか二頭の龍が待ち構えていた。
一頭は霄色の魚の様な龍で、特徴的な鰭や角をし、其の躯は薄いベールの様な鰭が躯を一巡する様に垂らされ、中心からは細長い角なのか装飾が施された物が伸ばされていた。
全長10m程で重力等無いかの様に旻中に留まっていた。
もう一頭は全長4m程の人型の蜥蜴の様で、三つに重なった頤をし、目は無く、布の様に棚引く鬣には翡翠の瓊が結われていた。尾も布の様に翻り、手足に巻き付いている。
其の龍が一同を一瞥し、少し丈笑って口を開いた。
「初めましてと行こうか御嬢さん達、一体こんな次元に何の用で?俺はアイカムロエア、此方が>XIR<(ザリア)って言うんだ。一先ず宜しく。」
酷く嗄れた声で一つ手を叩いてアイカムロエアは挨拶した。
「此方こそ初めまして!ドレミだよ、宜しくね。順番にローズ、ロード、カーディ、グリスって言うの。ドレミ達、次元の迫間から来たんだけど、此の次元の神様がね、霊界を消してくれないかって御願いしてたの。生きてる子も迷い込んじゃってるから。」
「あー成程なぁ。でも移動するのはなぁ一寸難しいな。抑俺達望んで此処に残ってる訳じゃないんでさ、ま、色々ある訳だ。」
罰が悪そうに後頭部を掻き乍らアイカムロエアは然う言った。
「私達に会ったのだからリンクは取れていますよね?其とももっと別の訳ですか?」
―其は私から話そう。―
>XIR<が少し体位を傾けて此方に向き合った。
―此の次元を抑訪れていた私達は見てしまったのだ。黔の死神を。凍える程に美しい彼女は直ぐ経ってしまったが。―
「若しかして此処に隠れていたとか、然う言う事?」
だが>XIR<は緩りと首を左右に振る。
―ある意味隠れていたと言えようが、少し違うのだ。私は初めて彼女に会った時・・・迚も勁く彼女に惹かれたのだ。―
「へ?え、あれ、此若しかして恋バナか?」
―カーディしぃーやで。素敵な話かも知れんやろ。―
「いやドラゴンと死神の話が恋バナって・・・何かなぁ。」
―其はもう美しくて、付いて行こうとさえ思ったのだが同時に酷い殺意と言うか破壊衝動か、其が流れ込んだのだ。恐ろしかったよ。彼女に付いて行っても良いのなら其の感情に身を支配されても良いと思った。だが僅かに残っていた理性が其はいけないと何とか咎めた。―
>XIR<は少し上を向いて何度か緩りと瞬きをした。
アイカムロエアも腕を組んで何度か頷いている。
―二つの懐いに揺れた時、私は迚も、迚も苦しかったのだ。此以上悩む位なら死んだ方が良いと本気で思える程に。彼女は屹度未だ何処かに居るのだろう。此の次元の外に。だからもう二度と会わない様此処に留まったのだ。もうあんな風に迷わない様に。次又然うなれば私は自殺してしまうだろうから。―
―・・・其の気持、僕良く分かるよ。―
「ロー君?」
ドレミの脇を通ってローズが一歩踏み出した。そしてちらとドレミを振り返って見遣った。
―ドレミは憶えてる?僕と鎮魂の卒塔婆に忍び込んだ時。セレに会った時僕言ったよね。見たらいけない。求めてしまうって。然う言う事なんだ。彼の時の彼女は僕達にとって非常に魅力的な媚薬で、劇薬だったんだ。―
「媚薬で劇薬、然うだなぁ、然うだ。正にそんな所だなぁ。彼の時は・・・ん?んん、・・・?お、おい、此の匂は、」
アイカムロエアは少し屈めていた頭を上げ、鼻周りの鰭を震わせて首を廻らせた。
「間違いない。彼の方の匂じゃないか。微かだけれども、間違いない。」
―何とアイカムロエア、其は真か?―
>XIR<はアイカムロエアに擦り寄り、心配そうにドレミを見遣った。
「然うだよ!セレちゃんはドレミ達の所属している次元龍屋の店主だもん。でも確かに一緒には住んでるけど、良く匂なんて分かったね。凄く鼻良いんだね。」
「ちょっドレミ!何で言っちゃうの!其処はもう一寸・・・、」
―何時も言ってるけど其の条件反射で答えちゃうのは如何かと思うよドレミ。皆が皆ドレミみたいにすっきり切り替えられる訳じゃないんだから。―
「え、え、何でこんな集中砲火なの?え、セレちゃんの話、タブーなの?だって好きなら知ってても・・・、」
「冗談・・・じゃないよな。然うか。彼の方はセレと言うのか。然も一緒に住んでいるだと。此の次元の神が手を貸したから何かあるとは思ったが。おい、一体何が目的だ。」
警戒の表れかアイカムロエアの鰭がピンと立てられ、先が震える。>XIR<も一挙一動を見逃すまいとじっとドレミ達を見詰めていた。
「何でこんな面倒臭い事になるんだよ。彼の店主とかは今如何でも良いだろ。オレ達は一つ御願いをしに来た丈だろ。霊界とか創られると困るから止めて欲しいってそん丈だろ。」
カーディが苛立たし気に前に出た。>XIR<の大きな瞳がすっと細められた。
「先迄は・・・然うだったが。・・・う、ウヴヴ。」
アイカムロエアは唸り声を上げ、軽く頭を押さえた。
「ウ、ガ、ま、不味い。皆気付いちまって、あ、ぐ、アァアァ!!」
アイカムロエアを紫の靄の様な物が包み、軈て靄が何かの形を象って行く。
人、鳥、獣、魚、虫、其の他種々様々な物へと靄は変貌し、辺りを薄ら寒い冷気が漂う。
「まさか此が霊だってか?ど、如何すんだよこんな数。」
「ま、不味い・・・よね。でも一体急に如何して?」
―うぅ・・・私達は霊を司る龍族だ。だから・・・彼等の声に、・・・引き摺られてしまい易い。・・・っ、赦さない、殺せと、霊達が彼女を怨んでいるのだ。・・・まさか、間接的な物丈でこんな、勁くなるなんて。・・・私も、もう・・・、―
>XIR<は暫く首を振っていたが、固く閉ざしていた瞳を開けると見た者を凍えさせる程凍て付いた瞳になってしまっていた。
―何方も霊に支配され返された言ぅ事なん?―
「オイオイ何やられてんだよ。然も店主の仲間って丈で此の対応かよ。」
霊達は分裂して数を一気に増やし、一斉に飛び掛かって来た。
旻を覆い尽くす程の霊を前に肌を差す冷気が迫る。
―応え御出で、茨鬘!―
グリスが地に手を付くと蔓草が大量に生え伸び、大きな壁を築く。
―此で少しは持つと良いんやけど。―
「ばっかグリス!霊に物理は無意味だろ!彼奴等壁とか擦り抜けんだから・・・ってじゃあ別に襲われても寒い丈で済むんじゃねぇか?」
―いや、多分躯を乗っ取られちゃうよ。憑依とかって言うし。其か死にたい程鬱になるかも。―
「マジかよ!もう死んでんのにもう一回とかないだろ!オ、オイ頼むから持ってくれよ蔓!」
だがカーディの応援も空しく、矢張りと言うか霊達は蔓の壁を擦り抜けてしまう。
でもグリスは慌てず蔓を見詰めていた。
―来たれ、鬼灯―
蔓の合間から鬼灯の実が顔を出す。すると壁を擦り抜けていた霊達は其の真絳な実の中に吸い込まれて行った。
―うちも只馬鹿じゃないんやからね。鬼灯は霊を呼び寄せて導く力があるんよ。壁を擦り抜けるやなんて流石にうちも知っとぅわ。―
「さっすがグリス!本当オレは良い相棒を持ったゼ。」
―然うそ、もう一寸は然う良い子にしたらえぇんよ。でも幾ら鬼灯でも全部の霊を留めるんは無理やで。一寸ずつは逃げてしまうわ。―
「ローちゃん如何しよう、霊って何が効くのかな?ドレミ、塩位しか知らなくて・・・。」
「然うね、大体聖で清めるから私の出番ではあるけれども・・・。取り敢えず霊を減らして、彼の二頭を霊の支配から解放しないと無限に湧いてしまうわ。幸い彼の二頭自体は襲って来ないみたいだし、一気に行くわよ。」
ロードは時空の穴からある物を取り出した。
其は皓く金文字の装飾を施されたガベルと玻璃の様な歯車が掛けられたタクトだった。
ロードは其々左右の手に持ち、ガベルを霊達に向ける。
「罪状其の一。無抵抗の私達に手を上げた事。」
するとガベルは震え、頭部が一気に巨大化した。掌サイズだったガベルはドレミの背と余り変わらなくなった。
「罪状其の二。主である龍達を無理矢理操った事。」
次にガベルは4m程になった。でもロードは其の重さに手を下ろす事なく持ち上げている。
「罪状其の三。罪の無い此の次元の人々の霊を永遠に彷徨わせている事。」
今度は10m程になり、其でもロードは片手でガベルを持っていた。
「罪状其の四、霙を恐がらせた事。」
もう目視では測り切れない。一つの大きな建築物程の大きさ迄ガベルは成長した。
そして其のガベルの柄にタクトを二、三回交わらせた。ロードの手の甲の輝石が翠に煌く。
するとガベルは眩い許りに皓く柔らかい曦を放ち始めた。
「其じゃあ覚悟は良いかしら。」
ロードはガベルを大きく振り上げた。
もう可也の数の霊が鬼灯の藪を抜けてしまっている。
其の儘ロードはガベルを振り下ろし、霊達を一気に叩き潰した。
地面が大きく揺れ、一同は思わず膝を付く。見た目通りの重量だった様だ。
其の中ロードは軽々と又ガベルを持ち上げたのだが、其の下にはもう何も残っていない。全ての霊が下敷きになって消えてしまったらしい。
「・・・な、何なんだよ今の一体!?」
「え、噫此ね。此は『黔皓盤の覇道槌』って言うの。扱い難いから余り使わないんだけれども。」
「おぉお、そ、其でどんな武器なんだ?」
熱の籠った瞳でカーディは大槌となってしまったガベルを見詰める。
矢っ張りと言うか何と言うか、然う言うのが好みであり、格好良いだとか憧れだとかを抱いているのだろう。
「フフ、若しかして興味があるの?じゃあ今は戦闘中だから後で教えてあげるわ。てっきり出した時反応なかったから興味はないと思ってたけど。」
「いやいやそんな行き成り大技出されたから呆気に取られて何も言えなかったんだって。・・・ってか言う言葉も無いだろマジな筋肉天使見せられて。」
「然うだね。流石ローちゃん、戦い方も豪快だね!」
「えっと豪快は一寸、私別に其を売りにするつもりじゃあないんだけど。」
―あの、えっとロード、も、もう一回やってくれる?うち、もう魔力そんな続かんかも。―
「あ、然うよね、何時でも大丈夫よ。可愛い子にこんなに無理させてしまって御免なさいね。」
―か、わわ!?そ、そんな嬉しいけど。・・・分かったわ。―
グリスは一心に魔力を送って鬼灯を増やしていたのだが少し顔色が悪そうだった。照れて多少赤みが差したが、其でも隠せてはいない。
もう蔦の壁は鬼灯に囲まれて真絳に変わっていた。だが未だ未だ霊は沸いて来る様で、其でも続々と壁を擦り抜けて行く。
「グリちゃん御免ね任せっきりにしちゃって。待っててね、ドレミもやるよ!・・・霊に驚霆って効くのか分からないんだけど。」
ドレミはグリスの傍に行くと片手を挙げた。
「劈いて斬電裂!」
突如何処からともなく光り、走った雷光が枝分かれし、霊達を斬り裂く様に駆け巡る。
激しい轟音と共に驚霆は刃になって霊を何度も斬り付けた。だが残念乍ら霊達は其でも臆する事無く寄って来る。
「うー、矢っ張り驚霆じゃあ効かないみたい・・・。光ってるから浄化出来ないかなって思ったんだけど。」
―仕方ないやろ。相性の問題やし、威力はばっちりなのに残念やったね。―
「うん・・・。じゃあもうローちゃん丈だよ。御願いローちゃん頑張って!」
「えぇ勿論よ。でも・・・。」
ロードは表情を曇らせ、ガベルを薙ぎ払う様に振るった。
又あっさりと霊は消えるが、表情は晴れない。
「蹴散らすのは簡単だけれども此じゃあ鼬ごっこだわ。」
未だ未だ霊は沸いて来る。減っている気配はない。
「龍を霊の支配から解放するには霊を減らさないといけないわ。だけど>XIR<さんは霊界を強化させてしまうし、アイカムロエアさんは霊を召還し続ける。限が無いわね。」
「じゃあ如何するんだよ。もう霊を全部片付けるしかねぇのか?」
「全部・・・然うね。アイカムロエアさんが一体何丈の霊を司っているかよね。此の世界全ての霊だとしたら、加えて若し過去の霊迄呼べるのなら兵力が分からないから厳しいわね。私も何時迄も此、振り回したくはないし。」
「問題なのは霊界の方なんだから其方を如何にかすれば良いんだろ。彼の飛んでる奴を攻撃するとか。」
「操られてる丈の子を攻撃したくはないんだけど、矢っ張り無理かな・・・。」
―然うやね。極力は然うしてあげたいんやけど・・・。―
「・・・確証は無いけれども一つ丈あるかも知れないわ。でも此はカーディとローズ、二柱の協力が必要だわ。」
「ま、オレはやれなくもないゼ。頭はねぇから指揮は任せるけど。」
―早く解放しないと不味いかも知れないし、やってみよう。―
カーディとローズがロードの傍に控える。
ロードはもう一度丈ガベルを振るい、霊を減らすとガベルを元のサイズに戻した。
「作戦、と言えるかは難しいけれども、霊界其の物を攻撃してみようと思うの。けれど私の聖丈じゃあ威力も低いし、直ぐ修復されるわ。だからカーディの灯と聖を合わせて聖火にし、加えてローズが光の術を掛けて欲しいの。灯なら威力は十分だし、光は浄化を保つ力があるわ。如何かしら。」
―良いと思うよ。じゃあ僕早速準備するね。―
一つ身震いしてローズは息を整えた。
―WS=10A―
唱えるとローズの躯が純皓へと転じ、胸元に玻璃の様な瓊と其を囲う金の驕陽の様な装飾、脚には金の爪が生え、後脚にも玻璃の瓊が光る。そして長く棚引く鬣にも所々玻璃の欠片が混ざり、戦ぐ度に煌めいた。
「よーし乗ったゼ。然う言う大技を待ってたんだ。加減が効かねぇから気を付けろよ。」
―カーディ若しかして彼の焔を使うん?余り好きやない言うてたけど。―
「仕方ねぇだろ。借りもんの力だし、反吐が出る程むかつく力だけど、オレ自身の魔力は先ので大分使っちまったからな。」
突如カーディの髪が皓く燃え上がった。そしてカーディがグローブを外すと手の甲の黔く鬣の様に走っていた甲も皓い焔が灯り、肩回り迄燃え上がる。
加えてカーディの両頬にも甲が生え、絳の瞳の中が燃えている様にギラつく。
「カーディ貴方若しかして其の力は・・・いや、今は関係ないわね。じゃあ此の辺り一帯に有りっ丈の焔を注いで頂戴。後は私が導くわ。」
「おぅ任せろ!」
口端から皓い焔を零し乍ら然う意気込むとカーディは地の一点を見詰め、思いっ切り息を吸った。
そして真皓く揺れる焔のブレスを一気に吐き出した。
余りの高温の為か焔の上旻が揺らめき、吸い寄せられる様に凱風が流れる。
鬼灯の壁は忽ち燃え尽き、焔が爆ぜて火の粉を散らす。
まるで皓い獣が躍っているかの様に猛り、唸り声にも似た音を立てる。
「す、凄い!初めて見たよこんな焔、あんなに魔力使ったのにこんなの出せるなんて。」
威力は凄い。・・・でも何だか焔が怒っている気がする。
カーディが渋っていたのって此の所為?確かに一寸恐いけど、一体此の焔は何なのだろう。
「十分よカーディ!じゃあ私も行くわよ。浄境界!」
タクトを振い、焔を差して唱える。躯中の輝石が皓く輝いた。
猛る焔を柔らかい曦が仄かに包む。そして僅かに地が揺れた。
「届いたわ!ローズ、御願い!」
ローズは一つ頷くと旻に向かって遠吠えをした。
するとローズを中心に曦の柱が降り注がれ、真黔だった地に皓い波紋が何度も広がって行く。
「あ、やった!皆成功だよ!」
近付いていた霊達の姿が次第に霞み、終には掻き消えてしまう。
辺りの闇も薄らと晴れて来た様だった。
余りのダメージに霊界が弱まり、霊の実体化が維持出来なくなったのだろう。
「じゃあ最後に。」
ドレミがちらと二頭の龍を見遣る。
すると二頭の目の前に激しく曦を散らせ乍ら碧樹を裂く様な音を立てて小さな驚霆が落ちた。
「っわっと!!な、何だ今のは!」
―・・・私は、一体・・・?―
はっと目を覚ました様に二頭は顔を上げ、きょろきょろと辺りを見渡す。
「や、やーっと終わったぁ!」
尻餅を付いてへたり込むカーディ。忽ち彼を包んでいた皓の焔と放たれていた焔は鎮火し、頬の甲も後退して行く。
「皆御疲れ様。カーディ、先の焔、迚も良かったわよ。御蔭で助かったわ。」
「止せよ。褒められる様な力じゃないし、御前が居なきゃ斯うはならなかったんだし。」
手を振るカーディは少し丈迷惑そうな顔をしていた。別に疲労の為でない様だ。
「でもそんな力でも皆の為に使ってくれたのは貴方よ。新神研修、大成功なんだからもう少し喜びなさい。」
「・・・んじゃ御言葉に甘えて。ってか後でちゃんと其の武器の事、教えてくれよな。」
一つ息を付いてカーディは伸びをした。もう大丈夫そうだ。
「勿論よ。最後の一仕事が終わったらね。」
「ロー君、皆も御疲れ様ー!んー久し振りに光の鎧見たけど矢っ張格好良いね。一寸大人になった感じ。」
―然う?装飾品が増えてジャラジャラしちゃうから背中に乗せれなくなるけどね。―
「然うだね。折角皓くて綺麗な鬣になったのに此だと怪我しちゃうもんね。セレちゃんとか引っ掛かり然うだもん。」
「わっ、本当だ何だよ其の姿!前の毬栗を尻尾に付けてたのより余っ程いかすゼ!」
跳び起きたカーディが直ぐ様駆け寄って来た。
余りの勢いに思わずローズは片耳を下げる。
―毬栗は酷くない?でも有難う。其でもいかすんなら闇の鎧も僕好きだけどね。―
「あ、ドレミも好きだよ。イケメンロー君バージョンだもんね!」
「マジか。なぁじゃあ一寸見せてくれよ、な。」
―何時か気が向いたらね。―
然う言いローズは光の鎧を解いてしまった。もう別に変身する気も無いらしい。
「っぐぅ!何だよ勿体振るなよ。飼主に似たのか?」
―一応言うけど僕飼われてる訳じゃないからね。―
「然うだよ。ロー君は家族だよ。って抑似てるって何処の事言ったの?」
「わ、悪かったよ。でも家族なら似てて当然だろ?・・・な?」
「むー何か逸らそうとしてるでしょ。」
一角が賑わっている頃、グリスは戸惑っている二頭の龍の所へ駆けて行った。
二頭共すっかり落ち着いた様でグリスを見遣って少し丈首を傾ける。
―二頭共霊に操られよったんよ。つい先何とか其から解放出来たんやけど。皆其ですっかり安心して喜んじゃって彼方で騒いどるんやけどね。・・・先の事、覚えとる?―
「あぁー思い出した思い出した。其で何か力が入らないのか。大分派手に暴れたみたいだな。済まない、恩に着るぜ。」
―成程。突然襲ってしまうとは情けない。助かったぞグリス。―
―いや元はと言えばうち等の所為やし、気にせんといてな。でも二頭共大丈夫なん?結構此方も大技とかしちゃったけぇ躯は大丈夫なん?―
「おう、もうそんなに力は残って無いが御蔭でもう霊に操られる事も無いさ。大丈夫だ。」
アイカムロエアは大きく一つ頷くと口端を上げた。
ロード達も気付いた様で直ぐ様グリスに並ぶ。
「良かった。もう大丈夫然うね。あの早速だけれども少し丈話良いかしら。」
―勿論だとも。彼女の話なのだな。―
「えぇ、私達、一緒に住んでるって言ったけれども、次元龍屋って言う何でも屋をしているのよ。主に今回みたいに黔日夢の次元此の次元の人々が滅んだ様に壊れてしまった次元を直しているわ。」
「・・・ふぅむ。罪滅ぼしみたいな物か?一寸意外だなぁ。」
アイカムロエアは腕を組むと長い唸り声を上げた。
「うん。だから今のセレちゃん、前とは全然違うよ。龍さん達に好かれているのは今もだけどね。一寸前も龍さんが沢山居る所に遊びに行ってたらしいし。」
「噫其は屹度龍の番神のリュウさんの所ね。」
―何と、他の同族達ももう会っているのか。―
「月ノ猫さんとか月冠龍さんとか・・・結構もう会ってるわね。」
―うん、今の彼女はもう大丈夫だよ。僕だって一緒に居るんだし。―
「然うかぁ、じゃあもう一度会いたいなぁ。直接店へ行くもの悪いし、リュウの所居たら来てくれるかな?」
「セレちゃん龍さんが大好きだから行ってくれるよ。・・・今は難しいけど。―
ぐったりしていたセレを思い出してしまう。何位で治るのか、分からないけど。
「そっか。リュウとも久しく会ってなかったし、行ってやるとするか。な、>XIR<。」
―然うだな、然うしよう。―
「いやーでも御前等のタッグ、結構きつかったゼ。共生って言うのか?相性良いもん同士だとやり難いゼ本当。」
「お、然うか。でも本来俺達って然う出会わない者同士だったから今回は一寸新鮮だったぜ。」
「え、然うなの?霊界を創るのと霊を操るのってぴったり然うだけど。」
「だって俺は霊界のある次元を廻るだろ。でも>XIR<は無い世界を探すもんだ。本来出会わねぇし、出会っても擦れ違い程度だったんだが。」
―閉じ込められた故に互いを初めて知ったからな。言ってしまえば此も彼女の御蔭と言えなくないかも知れないな。―
「ハハッ!違ぇない!」
「・・・御前等、彼の店主の事、好き過ぎだろ。」
つい半目でカーディが茶々を入れるが、二頭は全く気にしていない様だった。
「ま、そんな引き籠り生活ももう仕舞だ。俺達は御暇するぜ。」
―彼女に宜しく頼む。後迷惑を掛けたな。私が去る事で此の霊界は次第に崩壊する。其の間は一応余り動くでないぞ。―
「うん分かったよ。ちゃんとセレちゃんに言っとくからね。」
―元気でやりぃよ。―
手を振る一同に僅かに笑い掛けるとアイカムロエアと>XIR<は一緒に去って行った。
途端に地が少しずつ揺れ、真黔だった世界に罅が入って砕け、距離感の掴めない皓い壁が現れ始めた。
「お、お、結構早いな・・・。」
「此は元の次元に戻ってから慈鴉神様の所へ戻った方が良いわね。・・・霙はもう大丈夫かしら。」
ロードが物思いに耽っているとカーディがきょろきょろし乍ら近付いて来た。
「なぁおい、じゃあ突っ立ってる位なら先の武器の事教えてくれよ。其のハンマーと棒の事をさ。」
「え、其処迄聞きたかったの?・・・じゃあ仕方ないわね。特別に教えてあげるわ。」
「よっしゃあ!」
―・・・カーディ又彼の鵲の橋を渡らんで済んだから本当嬉しそうやね。―
「う、いや気になってたのは事実だし、もう其良いだろ。」
―残念やわぁ、折角鵲達と彼是考えとったのに。―
「御前オレに何させるつもりだったんだ・・・。」
「じゃあ先中断しちゃった此のガベルの方から話しましょうか。此は相手の犯した罪の大きさに因って巨大化するガベルなの。」
「結構適当な罪状もあったのに其大きくなったよな・・・。」
「罪状って言っても結局は持主が何位相手を悪いと思っているか、罪があると思うかに左右されるのよ。だから別に罪状を言えば言う程大きくなる訳でもないし、反対に思いが強ければたった一つの罪状で先のより大きくもなるわ。」
「自分の感情って・・・ガベルとしては失格じゃねぇか?其って元々裁判とかの時使う奴だろ。公平じゃねぇじゃん。」
「だから黔皓盤の覇道槌なのよ。持主である私の、理不尽な絶対王政と言った所ね。」
「所でローちゃん、一寸気になってたけど、其って矢っ張り重いの?」
「勿論見た目通りの重さよ。でないと地震が起こせる程の威力にならないでしょ。」
「だよな。・・・そりゃ然うだよな。」
―残念やねカーディ、ちょーっとカーディには扱えん得物やったね。―
軽く肩を落とすカーディの背をそっと苦笑気味のグリスが叩いた。
心躍った武器が正に筋肉天使御用達だったので遣る瀬無い様だ。
「あ、じゃあもう一つの地味に使ってた棒は何だったんだよ。」
「もう此は棒じゃなくて指揮棒よ。『ΨΛΠΧΣΘ』って言うの。」
「いや棒は棒だろ・・・。然も何か難しい名前だな。」
「まぁ確かに使い所が難しいから余り私も使わないけれどもね。此は魔術を的確な所へ導く為の補助魔法具だったのよ。聖は特に広範囲に疎らに発動し易いから今回みたいに黔皓盤の覇道槌に聖の力を付与したり、貴方の焔を霊界其の物にぶつけたりとか、然う言うのに使うのよ。」
「ふーん・・・武器ってよりは補助なのか。」
「フフ、性能としては一寸がっかりさせちゃったかしら。まぁ私には一寸護身術もある訳だし、抑余り武器には頼らないのよね。」
少々釈然としない顔のカーディを見遣り、思わずロードは口元を押さえて笑ってしまう。
「カー君が見たい様なバトルとかは屹度セレちゃん担当じゃないかな。一撃必殺とか好きでしょ。」
大分闇が崩れ去った皓の空間が広がって行く。
平衡感覚が不安定になり然うだったのでドレミはローズの背に手を回した。
「そーだな、矢っ張然う言う無双的なのが良いゼ。ってか御前等彼の店主に丸投げ過ぎだろ、もう一寸粘ったりしろよ。」
「でもドレミは小技とか仕掛けて攻めるタイプだし、もう其処はカー君の趣味の問題でしょ。帰ったらセレちゃんに御指導して貰ったら如何かな。」
「其オレ生きて帰れるのか?なぁ大丈夫なのか?」
―あ、然うや。然う言えばドレミの詠唱って一寸うちと似とるね。何か不思議やわ。―
「あ、然う然う。其ドレミも思ったの。一寸珍しい詠唱だと思ったのに。」
―何か所々共通点もあるし、案外故郷の次元、近いんだったんかも知れんね。熟不思議やわぁ。―
雑談も其処其処に終に闇は完全に晴れ、そして皓の壁すらも崩れて蒼い旻に丈の短い草原、辺りを囲う翠の山々と急に鮮やかな世界が姿を現した。
―わぁ、霙が言うとった蕭森って此の事やったんやね。確かにこん丈変わったら困惑するわ。建物しか残らんかったら然うなるやろね。―
「神社も斯うして見れば普通に綺麗じゃん。彼の鴉の神社っぽくはなったな。」
―でも同じ次元なら此方の方を歩き回りたかったな。明るくなり過ぎて今度は眩しいよ。―
「っあ!良かった皆未だ此処に居たー!」
振り返ると霙が階段を駆け上がって来るのが見えた。
そして何とか上り切ると膝に手を付いて息を付く。
そんな彼女の肩には一羽の鵲が留まっていた。
「ミッちゃん!御疲れ様、御免ね。御迎えに来てくれて有難ね。」
「慈鴉神様が、皆は私を助ける為に来たんだよって、教えて・・・くれて。だからもう帰っちゃうかもって思って、急いでっ、来たの。」
「貴方みたいな可愛い子に挨拶の一言も無しに帰る訳ないじゃない!でも私の為に迎えに来てくれたなんて本当に嬉しいわ!」
「其の都合の良い解釈止めろよ。」
「はーいローちゃんストップね。」
もう構えていたドレミとローズは神目も憚らず霙に抱き付こうとしたロードを引き止めた。
「あの、慈鴉神様から全部、聞いたの。・・・御父さんと、御母さんの事。だから、その、凄く辛いけど、私、する事が出来たから。涕いたりとかは、後にするって決めたの。」
少し声が濁り、目は潤んではいたが、霙はしっかりとロード達を見据えていた。
「だから先ずは皆に御礼を言いたくて、有難う。元に戻してくれて。帰っちゃう前に此丈は言って置きたくて。私、今から他に残っている三人の子を探してみようと思うの。此からの事は、其の後考えるつもり。」
霙を含む後三人の子供達が、此の次元の次元の主導者なのだろう。もう彼女は自らの道を見付けている。もう、大丈夫だろう。
「うん!凄く良いと思うよ。でも一人じゃあ危なくない?皆が見付かる迄付いて行くよ?」
「ううん、大丈夫だよ。有難うドレミ御姉ちゃん。慈鴉神様が付いてるから大丈夫だよ。」
霙が肩に留まっている鵲を撫でると鵲は両翼を広げた。
まるで任せろと言わん許りで何だか心強かった。
―遣いの鵲やね。慈鴉神様は?他の子の所行ったん?―
「違うよ。あの、慈鴉神様はね、先の所じゃないと彼の姿になれないんだって。だから今はもう、」
肩の鵲が短く鳴き、頭を一つ下げた。
―あ、然うか。然う言えばそんな事言っとったね。うん、じゃあ大丈夫やね。神様が付いとるんやから。―
「うん!だからもう心配しないで。皆も気を付けて帰ってね。本当に有難う!」
勢い良く霙が頭を下げたので重心が傾いた鵲は少しふらついてしまう。でも直ぐ背筋を伸ばして毅然と振舞った。
「よーしじゃあ元気でやれよ。若し又何かヤバい事が起きたら彼のネーちゃんが来るからな。」
カーディが徒っぽくちらっと又ロードを見遣る。
「うん、分かったよ。気を付ける。」
「一寸!変な事吹き込まないでカーディ!じゃないと貴方に罪状を言い渡すわよ!」
「ヤベ、潰されて強制送還されちまう前に帰らねぇと。じゃあな!」
口早に言うとカーディはいそいそと階段を降り始めた。
―あ、カーディ待ってやー!あ、じゃあね、霙ちゃん!―
「二柱共走ったら危ないよ本当此処高いんだから!・・・もう、先輩って本当大変だよ。ミッちゃん、一緒に居られて楽しかったよ、バイバイ!」
「うん、皆も元気でね!」
手を振り合う霙の頬を少し丈ローズは舐めた。
「ローズ、こんな優しい狐さんに会ったのは初めてだったよ。有難ね。」
「キュー。」
一つ尾を振ってそっとローズは霙から離れた。
「ロード御姉ちゃんも有難、最初は恐かったけど、何だか本当の御姉ちゃんみたいだったよ。あの・・・先、あぁ言っちゃったけど、何時来ても良いからね。」
「霙・・・っ、えぇ、然うね。私こそ有難う。迚も楽しかったわ。又何処かで会いましょう。」
伸ばし掛けていた手をぐっと堪え、頬を赤らめる程度に留めてロードは笑みを返した。
そしてローズに促され、緩りと階段を下りて行く。
一同の姿は次第に霞んで消えて行った。
霙も又数刻、神社を見詰めて頷き、歩き出した。
鵲が先導するかの様に飛び立ち、陽光に照らされて其の翼は碧を翻す。
久し振りに感じた頬を撫でる薫風は蒼く、麗らかだった。
・・・・・
宵闇を駆けるは一羽の鵲
消えない零星を旻に放てば
一縷の曦は私を顧みる
小さな吾子よ、翼が無くとも
過去の旻の彼方へと導く瞳を
如何か忘れずに、共に行こう
はい、ハッピーエンドでしたね。こちらの話もリメイク前と随分変わりました。変わらなかったのは霙ちゃん位です。・・・名前、変えようとも思ったんですけどね。だって何か霙って・・・。いや、リアルで此の名前の方が居たら本当に申し訳ないんですが。別に霙の字が如何斯うと言う訳ではないのです。只、何故当時の自分は此の名前にしたのか、由来が分からないんですよ。一体どんな願いを込めたんだ・・・?だって霙って何か斯うイメージ湧きますか?何かストーリー、思い付きますか?
けどまぁ極力筆者としては名前って変えたくないんですよ。何だか其の子其の者が居なくなりそうで。・・・後実は他の三人の子も名前は決まっていました。でも同レベルのネーミングセンスだし、出す意味あるのか?と考え、プライバシーの件も考慮して(要らん世話だ)省きました。うん、何時か何かの形で出るかもね。神として。(最悪じゃねぇか)
後出てくる龍も変わりました。リメイク前の龍は害敵発見!迎撃準備!みたいで宛らフィールドでエンカウントした敵の如く行き成り理由もなくバトって来たのでね。セレにデレデレべったりの可愛い子を採用しました。
・・・いや、今見ると流れも急で短いストーリーですけれど、ホントリメイク前より増しになったんですよ。何の免罪符にもなりませんけれど。
リメイク前の此の話のコンセプトは『カーディ達が初めて行く次元は真暗闇!』其丈です。最早ギャグですね。其丈で此の話が生まれました。こんな思い付きの所為で死滅させられてしまった此の次元の全ての人々に陳謝します。本当御免ね。でも後悔はしてないよ。寧ろ今書き終えて清々しい気分なんだ。(反省しろ)
あ、後一つ迚も大事な事を。ずっとやりたかった次回予告と言う名のネタバレです。
次回、セレの前世が暴かれる!?
当神は危篤状態だと言うのに何を言っているのか。とかとか色々あると思いますが此が真実です。嘘でも誇張でもありません。マジです。
只此の話は筆者が本当に大好きな、書きたくて仕方のなかった長年温め続けて腐った話だったので、迚も長くなる見込みです。久し振りに分割するのも止む無し。
でもだからと言って更新はそんな遅らせないつもりです。意気込み丈毎回してますけれど、リアルが何程やばくなるのかにも因りますけれど、今回は割と本気で頑張ります。(今しないで何時本気になると言うのか)
御付き合い頂ければ本当に嬉しく思います。如何か又会える時迄御元気で。
縁が続く事、心より願っています。




