17次元 業ノ皓焔と黔翼ノ調べに憂いノ碧玉交わる歩み
はいどうも。何か前回『実はもう次話は書き終わってる~』的な事を言ったんですが、まぁ色々あって、滅茶苦茶伸びました。然も短編!そして次話はちーっとも書けてない!
まぁ・・・ね、モチベーションの問題もあるんですが、体調が思わしくなくて・・・医者からも其々が一寸ずつ悪い感じで、もう此は体質だから治せないと思った方が良い。と実に絶望的な事を言われてしまい、軽く落ち込んでいます。
今より体調が良くなる事はないのかも知れないそうです。此以上更新を遅らせたくないんですけれども・・・。
まぁ暗いのはこんな所で、言い訳も程々に。モチベーションを上げるとしたら八、九、十月つまりは秋ですね。ずっと待ち望んだアニメ、ゲーム、漫画数種、が盛り沢山な事でしょうか。
もう何万使ったか分かりません。反動が出てるんでしょうがもうやけくそです。上がる所迄上がって行こう。だから更に更新、遅れるかも知れ・・・あ、何でもないです。言訳、言ってないです。次も頑張ります。
さてと、そんな話はさよならして、今回。もう嫌って位サブタイトルが長くなっちゃいましたが、今回も次元の迫間の話です。一応完全書下ろし。割と調子良く書けました。
色々~と血腥い話になりますが、どうぞ楽しんで下さいな。
神の焔は朋友の血に
古の瓊はくすんで耄碌の内に
堕ちた先には手は無くて
幻影の靄に影りし時
彼等を攫うは零星を導く宵闇か
宵闇は問う
曦を捨てるか、奪われるか
絡まる定めの鎖に彼等は抗う事すら何時しか忘れるだろう
・・・・・
「あーもう!本当しつこい!」
「一寸ドレミ、静かにしないとばれるわよ。」
半壊した煉瓦造りの建物の中で、ドレミとロードは壁に背を預けて並んでいた。少し疲れが出ているのか二柱の顔には陰があった。
「いや、もうばれてるよローちゃん。其の上で彼奴はドレミ達を遊ばせてるんだよ。」
ちらとドレミが壁の隙間から奥を見遣る。
其の先には悠然と此方に向けて歩く青年の姿があった。
目深に被った蒼の大きな鳥の羽根を差した尖り帽子が特徴的で、零れる金髪の下で嫌な笑みを浮かべている。
着ている黔皓混じりのオーバーコートに手を収めてしまっており、戦闘中だと言うのに余裕然うだ。
其の明らかに遊んでいる態度にドレミは先から苛立って仕方なかった。
「えっとそのじょーさん達、オレ達の事、護ってくれるのは嬉しいけどさ、もう逃げた方が良いゼ。彼奴、勁過ぎるよ。此の儘じゃあ全員・・・。」
ドレミ達の前で同じ様に待機していた少年が口を開く。
其の少年は両手の甲が絳と黔の棘の付いた鱗に覆われており、肘辺り迄一列の鱗の筋があった。
釣り目勝ちの紫根の瞳とぼさぼさのまるで燃え盛る焔の様な短髪で、パーカーに半ズボンと言うラフな服装だった。
背はドレミより頭一つ分は高い位の様だ。
其の少年の隣には同じ様に一柱の正女が立っており、少し前屈み気味に頷いた。
正女は濃い翠の鳥の羽根混じりの髪で、二枚の取り分け長い飾り羽根の様な髪が両肩に乗っていた。瞳はカットした翠玉の様に輝き、クリクリと動く様は快活そうな印象を与えた。・・・とは言っても彼女がドレミ達と会ってから未だ一言も話してはいないのだが。
黔のカチューシャをし、良く見ると耳は兎の様な毛に覆われた細長い形をしてピンと立てられていた。濃い翠のカーディガンを羽織り、薫風が良く通りそうな薄いシャツとスカートを穿いていた。
―って言われても今更ほっとけないし・・・ね、ドレミ。―
嵒の鎧を纏っていたローズが岩を固めて玉にした様な物が付いた尾をパタリと落とした。
耳や彼の長く柔らかい背の髯も一枚岩の様になっており、動きは鈍そうだが堅牢然うではある。
「そ、もう一寸頑張って、隙を見て逃げようよ。」
―来たよ!―
耳を立てたローズは尾を振り上げると其の儘地面に叩き付けた。
すると未だ緩りとした歩みを進めて近付いていた青年の行く手の地面が隆起し、釼山の様になって青年に突き出された。
しかし青年は顔色一つ変えず只足を止めた。だが其丈で岩の先端が唐突に消え、瓦解する。
「独楽回し!」
するとドレミが物陰から姿を現し、ローブから出した金属製の円盤を青年に向けて投げた。
「フフッ、まさか自分から姿を現すなんて。そんなの私に通用しませんよ。」
青年が嫌な笑みを浮かべて肩を揺らして嗤う。
でもドレミは気にせず魔力を彼の円盤に送った。
すると円盤の中心にあったビー玉が震えて光り、回り始めた。そして円盤の通った後に電気の線の様な物が煌々と輝き、円盤は青年に触れる事なく其の周りを何重にも回る。
「ロー君!」
ドレミが声を掛けると先瓦解した岩が崩れて砂になり、宙を舞う。大粒の砂煙が青年を包み、其の姿が一切見えなくなった。
「二柱共、御願い!」
「っ!然う言う事か。」
少年と正女も物影から姿を現し、少年は両手に灯った焔を、正女は召還した棘だらけの蔦を其々砂煙の中でも輝く彼の独楽の道に沿って放った。
放たれた焔が一気に膨れ上がり、砂煙が舞い上がってドレミ達をも包む。
「こんな即席の連係プレーで私に敵うとでも思ったんですかねぇ。」
砂埃が落ち着き、目元を拭ってドレミが顔を上げると彼の青年は何時の間にかドレミの後方、正女の頸を掴んで立っていた。
無傷だ。彼の砂煙の中、視界だって利かなかっただろうに、彼の爆炎を如何やって。
「まぁ彼の砂煙は良かったですよ。二柱丈のつもりだったんですが、此処は皆さん連れて行きましょうかねぇ。多少は役に立つでしょうし。」
青年が手に力を込め、正女の顔が苦痛で歪む。振り解こうにも力が入らないらしく、腕を掴んでも引き剥がせそうになかった。
「おっと、余り抵抗しないで下さいね。其の綺麗な指、何本か消えちゃいますよ。」
「其の子を放しなさい!!」
突然青年の隣の煉瓦の壁が崩壊し、ロードが躍り掛かった。
でも青年は僅かに肩を竦めた丈で手を離さない。
するとロードは見えない壁の様な物に叩き付けられ、煉瓦の破片諸共吹き飛ばされた。
別の煉瓦塀にぶち当たったロードは右手辺りに血が滲んでいるのに気付いた。
まるで右手の表面が薄く削り取られたかの様だ。一体どんな術を掛けたら斯うなるんだろう。
「フフッ、ハハハッ、本当に脆くて不甲斐無くて、こんなに束になって・・・っぐ、あ゛っ!!」
哄笑を上げていた青年の背後、倒壊していた建物の屋上から翼を大きく広げて音も無くセレが急降下していた。そして青年を後ろから抱く様に肩を両手で掴み、青年の頸筋に牙を突き立てた。
「ぐ・・・あっ、う、くっ、は、放せっ!!」
青年が手を振り払ったので大人しくセレは牙を引き抜いて其を掻い潜り、力の緩んだ青年の手から正女を奪い取るとドレミ達の所迄跳躍した。
何か彼の手、不味い感じがしたな。彼の儘触れると首を踠がれていたかも・・・。
ちらと掻く冷汗に薄くセレは笑って小さく舌舐りをした。
正女が怯えた目で此方を見ていたので解放してやるとそそくさと少年の方へ行ってしまった。まぁ形が形だからな。
「くっそ、っ・・・巫山戯た真似を、っく、」
牙の逆刺が皮膚を裂いて青年の頸元から血が止め処なく溢れる。青年は必死に頸元を押さえると貧血の為か少しふらついた。
「セレちゃん!?き、奇遇だね。こんな所で会うなんて。」
「噫波紋で見えたから文字通り飛んで来たんだが、まさか又此奴と会えるなんてな。」
「又?・・・何かセレちゃん若しかして御機嫌なの?」
僅かにセレの頬が上気している事に気付いてドレミは首を傾げた。でも笑っている筈の目が何処か薄ら寒くて・・・少し恐い。
「御機嫌?いや、折角先モフモフランドへ行って来て迚も良い気分だったのに其の直後に私の所の者に手を上げている奴が居て、今非常に・・・不愉快だ。」
セレは口元を拭うと付いていた血を舐め取った。真黔の牙が口端から覗く。
「っと、折角殺さない様手加減したんだ。幾つか答えて欲しい事があるんだが。」
「殺さない様に・・・だと、っ、く、舐められた物ですね。高がフォードの狗風情が。」
「ふむ、矢っ張り私の事は知っているか。まぁ其よりも、如何だ?目眩はするか?血が止まり難いとか、痺れるだとか、リンパ腺が痒くなるだとかないか?抑私に頸を咬まれたのに咬み千斬られなかった丈ましだろう。生きている実感を其の儘伝えてくれたら良いから。」
青年は頸元を押さえた儘黙だ。少し呻く丈で此方を睨み付けて来る。まぁ言わなくても見ていれば大体分かるけれども。
「んん・・・軽い眩暈と出血毒・・・か?中々血が止まらない様だな。でも大した効果はないか。」
「セ、セレちゃん何の話をしてるの?行き成り彼奴に咬み付いちゃったし。」
「いや、何か最近口の中が少し甘くて、牙から染み出ているみたいだったから若しかしたら毒が出せる様になったんじゃないかと思ってな。でも試そうにも試せる奴が居ないし、流石に咬み付くのはガルダでも不味いかと思って、だったら丁度良い奴が居たから。」
最近と言ってもつい今晁なんだが、アティスレイが仕組んだのかと思ったけれども、毒を与えるなら兎も角、毒を扱える様にする菓子だなんて訳が分からないし、屹度此は自分の成長の一環なんだろう。
カチッと牙を鳴らすとドレミは物珍しそうにセレの顔を見た。
毒って何か気付いたら出せる様になる物かな、まぁ其は置いといて、
咬み付くって何て言うか・・・然う取らない攻撃手段と言うか、斯う言っちゃ悪いけど、魔物っぽい。
でも然う言えば彼女は引っ掻いたり斬り裂いたり、尻尾を振り回したりするんだからまぁ当たり前か。
確かに其はガルダにしちゃあ・・・って抑ガルダに攻撃しちゃ駄目だと思うけど。
でも反対に若し其の毒が凄く強かったら如何するつもりだったんだろう。死んじゃったら取り返しが付かないのに。幾ら向こうから襲って来たにしても行き成り殺すのは私は良くないと思う。
・・・セレは、然う思っていないのかな。
「・・・あれ?然う言えばセレちゃん一寸見た目変わった?目が銀色になってるよ?其に上にある其の黔いのって何?」
「噫、まぁ色々あって、其は又後で話そう。先ずは彼奴だ。」
青年は思ったより重傷らしく大人しくしている。まぁ此の牙、逆刺が付いているからどんなに丁寧に抜いても可也皮膚を裂いてしまう。血が中々止まらないんだろう。
でもまさか此処でバトルになるとはなぁ・・・。帰ったらガルダと丗闇に大目玉食らい然うで気が滅入る。オーバーコートが無いから術で頭上に影を創ったけれども維持するのに結構気を遣っているから余り激しい動きが出来ない。此方が不利な事を悟られない様にしないと。
「おい、御前とは前会ったよな。彼の時は随分と世話になったから何時か礼をしたいと思っていたんだ。殺す前に教えろ。御前は一体誰だ。」
彼の帽子と気持の悪い笑み。忘れもしない、勇の次元の倉庫で襲って来た奴だ。一先ず不意を突けたので彼の時の失態の一部は返せただろうか。勿論此の程度では済まさないけれど。
「っ、然うですよ。私も・・・っ、貴方をずっと殺したいと思っていたんですよ。本当邪魔しかしないんですね。貴方の所為で彼の次元は散々ですよ。戦争が終わってしまったんですから。だから教えてあげますよ。貴方が一体誰に楯突こうとしているのか。私は闇の王へ導く四本柱の一つ、虚器惟神の楼閣の長、ソルドです。」
虚器惟神の楼閣・・・初めて聞いた。でも四本柱と言うのは聞き覚えがある。つまりは鎮魂の卒塔婆と似た様な組織なのだろう。其処の長だなんて思ったより大物だったけれども、でも反対にそんな大物がこんな所をぶらつくなんて不用心にも程がある。こんな奴の下に就かないといけない部下達が本当に可哀相だ。
其と、聞き流せない所があったな。戦争が終わってしまった?然う言えば前ガルダが言っていたっけ、自分が死んだ後、彼の次元の戦争は驚く位あっさり終わったって。彼は御世辞と許り思っていたが若し本当だったなら?此奴か、或いは此奴が所属している組織が戦争を嗾けていたのだとしたら・・・。一体何の得があるのか分からないが、黔日夢の次元に因って利益が生じるなんて、一寸意外だな。
「然うか、じゃあ結局フォードと同じ階級か。未だ彼奴の方が形が子供だとしても品が良い感じがしたが。少なくとも御前みたいに意地は悪くなかったな。」
「私が彼の餓鬼に劣るとでも?巫山戯るのも大概にして下さい。」
おーおー凄い睨んで来る。結構挑発に弱いんだな。本当に長か?
向こうが怒れば怒る程自分も内心笑いが止まらなくなって来るのだから性格の悪さはどっこいだな。
「然う言うならさっさと掛かって来い。先程はドレミ達相手に余裕然うだったが、御前が全力を出せるのは弱い者苛めの時丈だろう。証拠として後五回程咬み付いてやろうか。」
「良いですよ。先に貴方から打っ殺してあげましょう。」
「っ、皆散れ!」
ソルドの周りの空気が歪む。彼に触れてはいけない。波紋が其処で消されて全貌が掴めなくなる。此の感覚、彼の時と同じだ。
セレが一気にソルドに駆け寄るのと同時に全員散り散りになって行く。
ソルドの脇を潜り抜けて左手を伸ばした。
「玄幕!」
ソルドを包む様に玄い幕が広がる。
「小賢しいですね。」
其はソルドが片手を払うとあっさりと掻き消えた。後から空間が歪む様に僅かに震えた。
だがもう既にセレの姿は無く、舌打ちをしたソルドは当てもなく歩き始めた。
・・・・・
「う、上手く逃げ切れたか?」
煉瓦の壁を背にして少年と正女は周りを見渡した。如何やら誰も居ないらしい。
二柱は人知れず息を付いて座り込んだ。
「ったく何なんだよ一体・・・。」
愚痴る少年に正女も何度か頷く。
「一寸邪魔するぞ。」
頭上から声がして二柱が見上げるとセレが翼を広げて煉瓦の壁を降りて来た。
「う、うわ!付いて来たのか!?」
「付けた訳でもないが、まぁ何処に居ようとも此の位の範囲なら全員何処に隠れているか分かるからな。」
然う言いセレは其の儘壁に背を預けて突っ立っている。何とも涼しい顔だった。
「所で私は飛び入り参加だったから今一事の成行きを知らないんだ。御前達は誰だ?何があったんだ。」
「い、いや今其話してる暇ないだろ。彼奴にばれちまう。」
「其は問題ない。彼奴が何処に居るか常に見張っているし、少なくとも今は声が聞こえる程度の距離には居ない。ダミーも沢山置いて来ているし、カンカンに怒って血眼で捜しているぞ。ククッ。」
逃げる途中に零星を幾らか置いて来た。彼奴が近付けば刀やナイフになって斬り掛かる具合だ。流石長と言う可きか一応対処は出来ているみたいで次々と消されているけれども、此のペースなら後数分は稼げる。
「・・・然うなら良いけどさ。一応助けてくれたから礼を言うゼ。有難う。・・・オレはカーディナル=皐牙(コウガ)。此方がソルナート・霸皇(ハコウ)・イルヴァレン=グリアレスだ。偶街でぶらついていたら行き成り彼奴が声掛けて来てさ、魔力が高いから来ないかって勧誘されてさ、そんなん直ぐ決められないだろ。だから考えさせてくれって言ったら無理矢理連れて行くって行き成り襲って来てさ。本当迷惑な奴だゼ。」
色々あって参っていたのだろうカーディナルは一気に話すと長く溜息を付いた。
「成程、其処をドレミ達が通り掛かったと。」
「ん、ドレミって言うのか?彼奴。あー然う言えば自分の事然う言ってたな・・・。然うだよ。オレ達路地裏に隠れてたんだけど彼奴等が来て、一緒に此処迄、神気の無い所迄逃げて来たんだ。此処なら他の奴に迷惑掛けないだろうって。彼奴見境なかったから。でも彼奴本当しつこくて未だ付いて来やがるんだ。」
「然うか。良く分かった。じゃあ次は私か。私はセレ・ハクリュー。ドレミ達と店をしているんだ。其処の店主をしている。次元龍屋って言うんだが、黔日夢の次元知ってるか?彼の修復を色んな次元でしているんだ。」
「店?何かボランティアみたいだな。一寸胡散臭いけど・・・。」
「まぁ此の文句だとな。でもちゃんと理由はあるんだ。実は私は、黔日夢の次元を起こした張本神だ。だから今其の償いをしている所なんだ。」
「幾ら子供って言われても其の位の嘘は分かるぞ。」
半目になってカーディナルは此方を見る。先から大人しいグリアレスは少し悩んでいる様だ。まぁ正面切って言って信じられる訳ないか。酷いブラックジョークとしか思われないだろう。
「信じる信じないは結構。で、一つ提案なんだが、良いか?取り敢えず私は彼のソルドとか言う奴が大っ嫌いだから殺すか追い払うかはする。でも其の後御前達は如何する?あんな奴が又来ないとも限らないぞ。一度目を付けられたんだから殺せれば未だ良いが、若し逃げられたら面倒だぞ。」
「・・・何が言いたいんだよ。」
「私達の仲間にならないか?少なくとも彼奴より良い職場だって断言出来る。入ってくれれば勿論私は御前達を護る為に全力で戦おう。嫌になったら辞めてくれて構わない。正直此方は神手不足だからな。職場体験でも結構なんだ。」
自分が護る?ブラックジョークだったのは此方か。敵を殺す事=護る事にはならないのに。自分が傷付きたくないから傷付ける事しか出来ない癖に。
「ぎゃ、逆勧誘かよ!?助けた見返りってか!?」
「いやいや只の縁だ。先も言った通り神手不足だから見込みがありそうな奴は手当たり次第声を掛けた迄だ。」
目を剥くカーディナルの隣でグリアレスが小さくなる。
まぁ初めから此の反応は分かっていた。ドレミみたいなのがレアケースなんだ。
彼奴が欲しがる程なんだから勁さだとかは申し分ないだろうし、彼奴から横取りするのは気分が良いと思ったんだが然う上手くは行かないな。
彼等の為ではなく飽く迄自分の為。本当性格悪いな、笑えて来る。矢っ張り自分は斯うでないと。
「まぁこんな形だと自分と彼奴。何方が悪者なのかって所なんだろうけれど、まぁ先のは気が向いたらで良いからな。御前達は御前達の使命があるだろうし。」
「ま、待って!!」
突然の声にびくついてしまう。誰からだろうと思っていたが、如何やらグリアレスの物らしい。
「グ、グリスが・・・喋った。」
カーディナルも目を剥いて口を開けている。そんな驚く程レアな事なのか。
グリアレスは顔を真赤にして、じりじりとセレに近付いた。
―あの、うち、先は恐がって御免なさい!助けてくれてほんと有難う。少なくともうちは彼の神よりも貴方を信じるっ!―
「へ、あ、ど、どう致しまして。」
喋ったと思ったら突然のテレパシーだった。余りの流れに目をぱちくりさせる事しか出来ない。
グリアレスは言い切れたのが嬉しかったのかほっと胸を撫で下ろして宝石の様な目をキラキラさせていた。
何て言うんだっけ此。え、羨望の眼差しって奴か?凄い勇気を出したなぁ。
其の様を見て何を思ったのかカーディナルは少し吹き出すと吹っ切れたのか一寸丈笑った。
「なぁセレ、あんた店主って事は勁いんだよな。黔日夢の次元を起こしたなんて法螺吹く位だし。」
「店主が勁い奴か如何かは兎も角、それなりには。万全ではないけれども彼奴となら渡り合えると思うぞ。」
一寸盛った。正直余り自信は無い。奴の攻撃が未だ良く分からないし、今日は良い天気だし、でも殺してはやりたいな。
「ふーん。じゃあ良いゼ。入ってやる。御前の所。オレもグリスと同意見だ。あんたの方が彼奴より信じられる。」
「ク、ククッ、然うか、其は良かった。じゃあもう一寸頑張らないとな。御前達の言葉を無駄にはしない。」
まさかOKサインだとは。思ってもいなかった流れに笑みが止まらない。
セレは煉瓦の壁に翼の爪を掛けると一気に駆け上り、天辺から飛び立った。
さっさとけりを付けよう。暗殺タイプの自分は長期戦が苦手だ。悪天候なら猶の事。
奴の位置は分かっている。未だ自分のダミーに苦戦している様だ。
「憖うは武、振るうは狂、応え・・・破壊の時だ。」
二度目の零星の召還。流石に楽とは言えない。
「慈紲星座。」
取り敢えず追加で数十もの零星は呼べた。此でやるしかない。
「ehtycs」
左手に2m程の大きな頸斬り鎌を握る。
早速目標のソルドの近く迄来れた。そっと背後の半壊した煉瓦の建物の天辺に降り立つ。
次の角、彼奴が歩けばダミーの零星が弾けてナイフが飛び出す筈。其の隙に背後から急襲する。
ドレミとローズも反撃を考えていたのか割と近い所で待機している。気を付けないと。
ソルドが足を一歩踏み出す。其の瞬間隠していた零星が弾けた。同時に自分も屋上から飛び降りる。
見えないナイフの鋒がソルドに向けられる。だが彼は難なく其を右手を翳した丈で消し去った。
其の瞬間に背後で鎌を振るう。頸は捉えている。後は刈り取る丈。
「いやぁそろそろ来る頃だと思ってましたよ。」
ちらとソルドが振り返って笑う。
読まれていたと分かった刹那、鎌を構成していた零星は掻き消え、自分は見えない壁に吹き飛ばされた。
咄嗟に手を組んだが、軽く3m程飛ばされてしまう。
片手を付いて難なく着地出来たが、良かった。頭上の影もちゃんと付いて来られていた。
「御仲間の近くに居れば来てくれると思いましたよ。友達が居ると大変ですねぇ、フフッ、其の上貴方は私と同じ位卑怯者ですから手口も読み易かったですよ。」
「成程、寧ろ正面切って行った方が良かったか。御前の事だから正々堂々と戦うなんて事なさそうだしな。」
矢張り一筋縄には行かないか。ドレミ達にも気付いているとは。
まぁ手を出されなかった丈ましか。
違和感に気付いて両腕を見ると少し甲が欠けている気がした。此の黔い手足は感覚が鈍いから分かり難かったが。
・・・少し丈分かった。此奴の技、属性だとかは不明だが一定範囲内の物を消滅させられるらしい。だから零星や術が消えたり手が欠けたりするんだ。
問題は彼が見えない事か。波紋すら消してしまうから正確な規模が分からない。下手に近付くと自分から彼に突っ込む事になる。
消滅・・・か。中々厄介と言うか本当に卑怯な技じゃないか。
「enac「efink」
零星が連なって鞭とナイフを形成する。取り敢えず此で様子見するしかない。
ナイフを投下し、地を蹴って一気にソルドに近付く。
彼の側面へと逸れ、鞭を振るった。此で鞭が消されなければ追撃出来るが。
「中々面白い術を使いますねぇ。貴方らしくて実に小賢しい。」
あっさりナイフと鞭の先を消される。波紋が大きく欠けたので急いで方向転換する。
見えないが、彼の技が自分を追い掛けている気がする。此処迄来ると信じられるのは己の勘か。
「enac「enac」
未だ零星は残っている。今度は二又の鞭だ。両側から攻める。
だが其が撓るより先に鞭の持ち手迄一気に消された。
此は・・・不味い。目前の空間が歪んでいる。
咄嗟に大きく後退し、何とか難を逃れた。
彼の技に近距離戦は不利か。思った以上に広範囲をカバー出来ている。丗闇が使っていた彼の闇の空間みたいな物か。若し本当に彼と同じ様に360度上下左右全てカバーされたら対処の仕様がないが。
如何する。一旦ダミーの零星を全て集めて目眩ましに使うか。避ける丈なら対処出来るが。
「そろそろ鬱陶しいですねぇ。消えて下さい。」
ソルドが此方に右手を差し出す。途端に波紋が掻き消えた。
一気に冷汗が噴き出す。後退する間が無かった。消される。此の儘じゃあ、
咄嗟に地面に伏せって遣り過ごす。髪を一房持って行かれたが仕方ない。
早く後退しないと。次が来る前に、逃げない・・・と、
「っ!?ガアァアァア!!」
途端に全身に激痛が走り、セレの喉から化物の絶叫が零れた。
あ、噫然うか。初めから此奴の目的は彼の影を消す事だったのか。
自分が躱す事で失念していた。然うだ、彼に消されずとも自分は驕陽に因って消されてしまうんだ。
「おや?何かあるとは思っていたんですが此処迄の効果だとは。先迄の大口が何処へやらですねぇ。」
膝を付いて大量の血を吐くセレに彼の哄笑が降り注がれる。
足が動かない。波紋が見えない。全身焼ける様だ。一気に腐ってしまう。感覚の鈍い手足でさえミンチにされて行く様に痛む。
「くっ、そ、アア゛ア゛アアァアァ!!」
痛い、痛イ痛イ痛イ、こ、此の儘じゃあ、死、死ンで、っ、
突然ソルドが飛び掛かり、セレを押し倒して馬乗りになった。
彼が影になって一部の腐敗は止まるが今度は顔が陽に当たって急激に腐り始める。手足は多分・・・骨が覗けているかも知れない。足が、沸騰した様に熱い。肉が、崩れて、裂けて、ア、あ、ああ゛あ゛ぁァア゛ああ゛っ!!
焼け爛れて行くセレを見てソルドは心から嬉しそうに笑みを浮かべた。
「こんな弱点を持って置き乍ら私に勝とうだなんて。フフッ、本当面白い神ですねぇ貴方。見直しましたよ。どうせもう動けないでしょう。消してやろうかと思ってましたけど、此方の方が面白そうですね。さぁ教えて下さいよ生き乍ら腐る感想は!右手から順番に味わわせてあげますよ。其の醜い姿こそ実に貴方らしいじゃないですか!」
「う゛・・・煩い゛っ!!」
セレの頬が焼け落ちて大きく裂かれた口を開ける。すると黔い球体が形成され、ブレスとなって放たれた。
突然の反撃に然しものソルドも上体を反らして躱してしまう。
すると彼の右肩に激痛が走った。
痛みは背から突き抜け、前、其の儘前方へと突き抜ける。
視線を下ろすとソルドの肩を黔い鑓の様な物が貫通していた。
錆びてぼろぼろになった様に見える其は棘や逆刺が幾つも付いている。
其が肩に刺さる物だから傷口が寸々にされてこんなにも痛んだんだ。
正直、左腕の感覚が殆どない。
暫し痛みに思考が停止し、やっと其が彼女の尾の先だと理解した。
其の途端尾は大きく撓り、ソルドを後方へとぶん投げた。
完全に不意を突かれたソルドは其の儘背中から地面に叩き付けられ、尾は其の衝撃で外れたが今度は背に走る痛みに暫し呻いていた。
叩き付けられた所為で肺から全ての空気が出された様で酷く息苦しい。胸元に手を当てていると先に立ち上がったのはセレだった。
立ち上がったと言うより獣の様に四肢である。焼けた皮膚が爛れてずるりと垂れ下がった。
どろりと濁った黔の瞳は刹那透明に翳り、鋭い眼光をソルドに向けていた。
そして裂けた口からは正に獣の様な唸り声が漏れ、左脚が可也腐って折れ曲がるのを無理矢理支えていた。
「こ、殺してヤル、殺ジデやル殺しデヤ゛る殺しデヤル、殺ジデやる殺しデやル゛、御前ナんかガ、御前如キガ、赦サナい、絶対赦ザない゛、ガァ゛あぁ゛ァ゛あ゛ぁ、壊しでやル壊ジテやる壊してヤ゛ル壊シテヤル壊してヤ゛ル゛、壊シテやる、御前ノ全てヲ寸々ニ゛しデ消シてヤるっ!!」
喉が腐った所為で喉を通る息がヒュウと音を立てたのが其の壊れた声音に混ざる。呪いの言葉に混濁した低音と獣の様な声が混ざり、恐ろしさと不気味さが増す。
そんな声と眼光にソルドは完全に身動きが取れなくなった。臆してしまって、瞬きも出来ない。
セレはソルドに飛び掛かると馬乗りになった。そして其の儘我武者羅に爪を振るい、ソルドの顔面と胸元に大きな爪痕を残した。
「っあぁああ゛ああ゛!!あ、熱い!顔が、っあぁあ!!」
余りの痛みに両手で顔を覆うが血が溢れて来て口中血の味になる。目も血が入った所為で濁り、視界が歪む。
如何して、彼奴、腐っているのにこんな事、
其処でソルドははたと気付いた。彼女は只ソルドを引き離す為にぶん投げたと思ったが、此処は崩れ掛けの家屋の中。・・・日蔭なのだ。
此では此奴の爪が腐るのを待つ訳には行かない。本当に殺されてしまう。
でも自分には此の力がある。先は控えたがもう其の必要はない。こんな至近距離、然も大怪我を負っている。避けられはしまい。
「くそっくそが!!御前こそ消えろ!!」
ソルドとセレの間の空間が歪んで行く。
此に呑まれれば流石に此奴も助からない。加減なんかしない。髪の毛一本も残さずに消え去れば良い。
だが其の刹那、彼女が笑った気がした。爛れて裂けた口の所為で然う思えたのかも知れないが。
そして今度は空間に罅が入り、一気に砕け散った。
「な、何だ、此・・・は、」
術が、上書きされている?否、壊されている?
消滅魔術を消滅させるなんて馬鹿げている!
幾ら術を掛け直しても空間に罅が入る丈で一向に彼奴は消えない。砕け散った空間は真暗闇の不自然な空間が広がっている。まるで空気が凍らされ、其の氷を砕いて押し広げたかの様だ。
其の余りの違和感にソルドは吐き気を覚えた。
セレはそんなソルドの頸に左手を掛け、一気に締め上げた。右手で先胸元に付けた傷に爪を差し込み、抉って行く。
「っ、あ゛、あ゛ぁ゛、ぐ、う・・・っは、」
余りの痛みと呼吸困難にソルドの意識が飛びそうになる。
だがセレの右手の爪が一本折れ、其が深く刺さると其の鋭い痛みに目が覚める。腐って折れたのだろうが、其でも鋒は鋭い儘だったのだろう。
両手が逆刺で傷付く事も構わず、頸に掛けられた手をどかそうとしたがびくともしない。
「っセレちゃん!!」
突然其迄ずっと隠れていたドレミが煉瓦塀から上体を出した。震えて、僅かに濡れている黄玉の瞳でじっとセレを見詰める。
途端セレははっとした様にドレミに気付き、両手をソルドから放した。セレも又ドレミを見遣り、見開かれた瞳は憑物が落ちた様に呆然としていた。
だがソルドが咳き込むと即座に左手でソルドの服を掴み、壁に向けてぶん投げた。
「っぐ、う、く・・・そ、ゲホッ、ガッ、次は、次は殺してやる!!」
血を吐き、胸元に刺さっていた爪を引き抜いて然う叫ぶとさっさとソルドは路地の方へと逃げ去った。
其の様を見送るセレだったが、一気に血が込み上げて来て大量の血を又吐いた。
手で口元を押さえるも止められる筈がなく、苦しそうに胸元に手を置く。
「っぐ、っ・・・つつ。如何に・・・げほっ、・・・。なっだか。」
ちゃんと喋れない。喉と口が腐っている所為か。
全身痛くて気持悪い。溶けた内臓を吐いている気分だ。
・・・全裸じゃなかったのが勝敗を分けたか。特にダメージを食らったのが顔や手足、尾と翼で済んで良かった。彼奴が馬乗りになった時服を破かれるんじゃないかと可也心配していたんだ。
でも重傷に変わりはない。顔が本当に酷い。波紋が滅茶苦茶で良く分からないけれど鼻が無い気がする・・・。頬も肉が無いし。・・・治るのか、此。
「セ、セレちゃん、っ、ど、如何しよう。酷い怪我だよ!近くに御医者さん居るかも知れないし、探しに行かないと、」
ドレミとローズが慌てて駆け寄り、如何手を貸せば良いのかおろおろしていた。
「ド、ドレミ・・・か。み゛な、っ、見ないで、くれ゛。今、私、本、と、酷く・・・デ、っ、ぐ、ア、来、ナい、で、ぐれ。」
左手で顔を覆って右手でドレミの手を払った。
見ないでくれ、こんな自分を。
今自分は如何しようもない化物なんだ。
近付かれたら、壊してしまいそうで、恐い。
「でも、其普通じゃないよ!何があったの?何か彼奴にされたの?其にドレミ、ついセレちゃんを止めちゃった・・・。本当は斃した方が屹度良いんだろうけど、でもドレミ、何か見ていられなくて、あの、御免なさい。」
目元がじわりと滲んで行き、又其の肩が震えているのが分かった。
「そんな事・・・。寧ロ礼ヲ゛・・・言わ゛せテくれ゛。有難う・・・ドレミ。御蔭デ、・・・っ、踏み、留マれだっ、彼の儘じゃあ私ば本当ノ化物っ、に、なってだ・・・。彼奴を逃ガしだのは私の゛失態だ。怪我ノ事バ・・・あ、後にして、ぐれっ、話スから。」
そんなに恐い思いをしたのにドレミは止めてくれたんだ。謝る必要なんてない。
「う、セレちゃん・・・。分かった、分かったよ。だから其の怪我、如何にかしないと、」
「噫、分ガっデる。・・・だから、先ニ一柱で、帰っ、らせ、てくれ、ちゃんど、帰る、からっ。」
「帰って本当に治るのセレちゃん・・・。」
―・・・帰るなら僕が乗せて行くよ。―
もう限界だ。躯が持ちそうにない。
二柱の言葉を遮って背を向けるとセレは羽根が殆どなくなり、軋んで骨が剥き出しの翼を動かした。
千斬れそうな程痛んで痺れるが、飛べない事はない。店迄は、帰れる。
地を蹴って地擦れ擦れに何とか飛び上がると其の儘セレは日陰を選んで路地の角を曲がって飛び去った。
「・・・セレちゃん。」
「ドレミ、良く動けたわね。」
近くの家の影からロードが顔を出した。
其の顔は青く、少し疲れている様だった。足が動かないのか其の場に頽おれ、煉瓦塀を背に一息付いた。
「ローちゃん大丈夫!?」
ドレミが近付くと僅かにロードは震えている様だった。
ローズがそっと擦り寄って温めてやる。
「大丈夫。・・・ビビった丈よ。・・・、セレに。」
ドレミがはっとして口を引き結ぶ。
自分も、恐かったから。
セレが恐かった。黔日夢の次元の時の彼女よりずっと。彼は殺しの目だった。死の声だった。
本気でセレは彼奴を殺す気だった。然も只殺すんじゃない。苦しめて苦しめて、確実に殺すつもりだった。慣れた様に、躊躇なく。
黔日夢の次元の時は、殺意を向けられなかった。其に彼女は涕いていた。悲しんでいたんだ。
前彼女に襲われた時、操られているって直ぐ分かったから戦えた。
でも今回は、セレが、殺そうとしていた。本気で怒っていたんだ。
彼が彼女の本性の様な気がして、恐くなって、自分が出たら今度は自分に其が向けられるんじゃないかって、全然出られなかったんだ。
「はぁ・・・。仲間を恐がるなんて最悪ね。私が気に入って付いて行った癖に。・・・もう、大丈夫よ。」
足に力を入れ、ロードは何とか立ち上がるとローズの背をそっと撫でた。
「な、なぁ終わったのか?」
気付けば先程の少年と正女、カーディナルとグリアレスが路地から顔を出していた。セレと別れてから少しずつ此方に向かっていた様だ。
「うん、もう大丈夫だよ。御免ね、何か色々と大事にしちゃって。」
「いや、御蔭で助かったんだ。本当に有難う。・・・あれ、彼の店主は?」
カーディナルは辺りを見渡すが姿が見えない。所々血痕が飛び散っていて顔が引き攣りそうになる。
「店主さんってセレちゃんの事?その、怪我しちゃって先に帰っちゃった。あ、でも心配しないでね。大丈夫だから。」
セレの血や肉片だとかは全て腐り切って無くなっていた。何が彼女に起きているのかは良く分からないけど、早く帰って診せないと。
「え、もう帰ったのかよ。早っ、ってか何が起きたんだ?何か凄い声がしたから離れてたんだけどさ。」
「う゛、多分其セレちゃんが切れちゃった時の声だよね。・・・うぅ、思い出して来ちゃった。」
「うぇ!?彼奴の声!?え、恐・・・っくない!ビビッてねぇし!え、でもじゃあ彼奴マジで勁いのかよ。何かグロい事なってるし、黔日夢の次元起こしたとか法螺吹いた丈あったのかよ。」
隣のグリアレスがぎゅっと目を瞑って首をぶんぶん左右に振っていた。
「あ、そんな話したの?って其、法螺じゃないよ。」
―・・・あのドレミ、其処は言わない方が良い気がするけど。―
一度身震いしてローズが尾を振り上げた。
「マ、マジだったのか・・・?い、いや、でもそんな奴がこんな所ぶらつくもんか?なぁ。」
「んー・・・。ぶらつくって言うかドレミ達を助ける為に駆け付けてくれたんだと思うけどね。」
「ドレミ、ローズ、そろそろ帰りましょう。一応危機は去ったんだし、今日はもう早く帰った方が良いわ。貴方達もね。次も助けて貰えるとも限らないわよ。」
「え、あ、あそっか。う、んー・・・。」
然う言えば仲間になるって約束、勢いでしちゃったけど、話したの彼奴丈なんだよな。
ブラックジョークかと思ったらマジで彼奴やばそうだし、余り関わらない方が良いのかも。此の儘帰った方が賢明かなぁ。
思案する様にカーディナルがグリアレスを見遣ると彼女に軽く肩を小突かれてしまった。
一寸怒っているのか少し頬を膨らませている。
「え、約束は約束ってか?いやでもさぁ、然う思うなら御前が自分で言ってみろよ。」
グリスは極度の神見知りだし、そんな勇気ある筈も・・・。
「う、うちも行く!仲間になるって約束したし!」
―・・・っ!?しゃ、喋った!―
「いや、オレからしたら御前が喋る方が結構吃驚なんだけど。」
「へぇ?い、今のほ、本当なの?いやでもそんな・・・ね、多分其セレちゃんの悪巫山戯だよ。そんな気にしなくて良いよ。」
苦笑いしてドレミは手を振るが本気なのか彼女は首を左右に振るばっかりだ。
「本気・・・なの?ど、如何なんだろ此。」
「良いんじゃないかしらドレミ。此の展開知ってるわ。『恋愛&変態 八十九巻〜軟派野郎を撃退して俺が軟派王になる!〜』であったもの。人助けをしたら其の人が奴隷になって付いて来るのよ!可愛い子程!」
―其の本、もう読まない方が良いよ。―
「お、おいグリス照れんなって!褒められてないぞ!奴隷になるって此奴はっきり言ったぞ!」
カーディナルが声を荒げてもグリアレスは上の空でほんのり頬を染めていた。駄目だ、此奴聞いてねぇ。
「わーったわーった。オレも行くって。な、連れてってくれよ。良いだろ、彼のストーカー野郎が目を付ける位だし、一応オレ達、それなりに役立つと思うゼ。」
「う・・・ん、然うだね。うん、もう止めないよ。じゃあ一緒に行こ。屹度セレちゃんとっても喜ぶよ。ドレミもすっごく嬉しい!」
「フフッ、又一段と賑やかになり然うね。」
陽が少し翳りつつある中、一同は急ぎ足で帰路に付くのだった。
・・・・・
「っく、はっ、・・・っ、ガァ・・・っ、」
ドレミ達と別れて数分後、未だセレはオンルイオ国に居た。芥捨場の様な暗い路地を壁に手を付いて歩いて行く。
息が、上手く出来ない。血が溜まって気持悪い。
何度吐いても沸いて来る様な吐き気が浪の様に押し寄せる。
「・・・あ、あの、だ、大丈夫、ですか?」
一柱の青年が遠慮勝ちに尋ねて来た。
此の路地に居着いているのか、薄汚れた毛布に包まって地面に胡坐を掻いている。
震え乍らではあるが、まさか声を掛けられるとは思っていなかった。翼や尾が出しっ放しだし、こんなに腐っているのに。未だ肉片が少しずつ落ちているのに。
神だから偏見が少ないのか?・・・否、逆に声を掛けざるを得ない程自分が酷いのか。此奴にとっての庭か家をこんな形で歩き回られたら嫌だもんな。
「か・・・っ、構、ヴな。」
片手で自分の頸を絞める。斯うでもしないと穴が空いてしまって声が出せないんだ。
いや、こんな正に歩く屍の様な姿になっても生きるなんて、化物染みてるな。
「っ、でも、血がこんな、何があったんですか、そんな無理したら、」
「・・・・・。」
しつこいな・・・。
悪気はないんだろうけれど。
さっさと飛び去ってしまおうか。もう一寸は、行けるだろう。
・・・?飛べるなら何で自分はこんな所を蹌踉めき乍ら歩いているんだ。
ふらつく足が落ちていた空缶を蹴る。左脚が取れ掛かっている所為で上手く歩けない。
・・・噫然うか。此処を通れば・・・。
・・・・・
ふらつく足で何とか店迄帰って来られた。止血が出来ない許りに道中ですっかり血塗れの血みどろになってしまったけれども仕方ない。
多分ドレミ達よりは先に帰っているよな。波紋が良く見えないけれど、静かだし。
そっと店に入るとリビングには誰も居なかった。・・・良かった。今日はガルダ、自分の部屋に居るのか。取り敢えず面倒事は避けられた。
足を止めず自分の部屋へ。ドアに体重を掛ける様にして開け、後ろ手でさっさとドアを閉めると其の儘ベッドへ。
ベッドは忽ち血塗れになるし、肌寒くて段々感覚が薄れているけれども、毛布に包まる気力もない。此の儘、寝てしまいたい。
「・・・御前、其の怪我は如何した。」
静かな声。
重たい首を何とか動かして右に向ける。
緩り波紋を広げると椅子に座った儘の丗闇が写った。
・・・駄目だ。力がもう本当に限界だ。丗闇の顔がちゃんと見えない。
然う言えば今日は別行動だったっけ、噫失念していた。
誰にも会わずにいようとしたのに。最後の最後で丗闇に会うなんて。
「服に血が付いている。御前以外のも。戦闘があったのか。」
「・・・一寸、ま、マ゛、不味い、奴、・・・に゛、遭っちゃ゛って・・・。ドジ踏んダ、丈、・・・っ。」
椅子がずれる音。丗闇が立ったのか。多分、見下ろされているな・・・。もう全然見えないけれど。
「寝れ゛ば、・・・治る、か、ら。放って・・・ク、くれ。大丈夫、だ、からっ、ガ、ゲホッ。」
一つ息を何とか吸って目を閉じる。
感覚が可也薄れて、今自分が寝ているのか立っているのかも一寸分からない。
此、若しかして結構不味いか・・・?此の儘死んだりして。・・・全然笑えないから。
「・・・我が下らん意地を張ったからか。」
最後、何か丗闇が言った気がしたけれども多分小言だろう。だから言っただろうって、そんな所か。
でも自分は素直じゃあないから瞬時に色んな言い訳を考えてしまう。
こんなの、無意味な言い争いになって丗闇に負けるのが落ちなのに今はそんな遣り取りも何だか愛おしい気がする。
薄れて行く意識の中で本の少し丈、淡く微笑を漏らすとセレは深い眠りに付いたのだった。
・・・・・
「只今ー!」
「今帰りました。」
「・・・御邪魔します。」
元気な声と共にぞろぞろとドレミ達が店に帰って来た。
蛍ノ鈴が軽やかに鳴って出迎えるが其丈で、リビングには誰も居なかった。
「あれ、ガルダ君居ないや。部屋に居るのかな・・・。一寸待っててね、其処、適当に座っててね。」
「・・・オイ、無神だけど此処大丈夫かよ。」
ドレミの指示通りグリアレスとカーディナルはちょこんとソファーに腰掛けた。
・・・如何やら緊張しているらしい。心做し、ガタガタ震えている気がする。特にカーディが。色々文句とか言ってるけど其の顔と台詞が一致していない。
「カーディ君、そんな緊張しなくても大丈夫だよ。」
「バッ!き、緊張なんてしてねぇし!えーっと、ば、晩御飯の事考えてた丈だし!」
一気に顔が真赤になって元気になったカーディに思わずドレミは吹き出してしまい、彼に睨まれてしまう。
「何だよ、何か悪いかよ。」
―カーディ、其は不謹慎やと思ーよ。ちゃんと面接の事、考えなーと。就職ゆーって然う言うなんあるんでしょ?聞いた事あるよ。テスト・・・とか言うんて。―
「え!?マジかよ!テストって何すんだよ、オレ聞いてねぇし!」
突然カーディが声を上げるのでドレミは少し首を傾けた。
如何やらグリスと話してるのかな、テレパシーを彼に丈飛ばしてるのかも。此処に来る迄も無口だったし、此からの事を考えると皆にも其のテレパシー飛ばしてくれるようにして貰わないと。カーディの反応からして多分割と喋ってるよね?
「フフ、大丈夫よ。セレの推薦付きだし、二柱共可愛いし、若し駄目でも私が養うわ!」
―可愛いやなんて・・・照れてまう。―
「いやオレ嫌だよ!何でオレも可愛いんだよ!納得行かねぇ!」
怒りの余りソファーを立つカーディに、頬に両手を添えて嬉しそうにするグリスを見て又ロードは笑ってしまう。
「ローちゃんいやに積極的だね。」
こんな笑い上戸だったっけ、楽しい分は良いけど。
「フフフ、勿論よ。だって此の状況!もう楽しくなるしかないわ!『恋愛&変態 四巻〜母で繋がった僕達は愛で再び繋がる〜』にあったのよ似たシチュエーション!主人公のメタモーフィックとある人との間に子供が出来ちゃって、色々あって其の子と、養子として其のある人の育てていた子、二人を彼が引き取るの。そして次第に二人の子供は似た境遇に互いの絆を確かめて遂に・・・恋に落ちるのよ。」
「へ、へぇー・・・何と言うか、色々と激しい内容だね。」
―其の恋って大丈夫だっけ・・・。多分アウトだよね。―
―でも恋に落ちるだなんて素敵やね。―
「え、いやいやサイテーだろ。四巻で何でそんなぐちゃぐちゃしてんだよ。・・・って!オレ達と其がダブるってのか!嘘だろ!」
「フフフ、此からが楽しみね、宜しくね。」
―えい、宜しく御願いします!―
「宜しくじゃねえ!そんな勘違いされた儘宜しくされて堪るかぁ!」
「・・・えっとドレミそろそろ行くね。」
此の儘だと終わりが見えないと判断したドレミはドアをノックしてガルダの部屋へ入った。
「あれ、如何したんだよドレミ。何か賑やかだけど・・・若しかして客とか?」
ガルダは机に向かっていた様で、何をしていたかは分からないが何やら黔い瓊が机に置かれていた。
魔力は感じるから魔法具なのかも知れないけど良く分からない。取り敢えず関係は無さ然うだし、良っか。
「若しかしてって聞かれるのと、然も御客さんじゃないって言うのが悲しい所だけど、二柱ね、店に入りたいって子が居るの。」
「え、二柱も?一体何処から・・・あ、若しかして前セレが宣伝したって言うの、大嘘じゃなくて事実だったのか?」
「いや、其の御蔭じゃあないんだけど、セレちゃんが其の二柱を助けてくれて、其で店に来ないかって話したみたいなの。」
「結局彼奴か。何と言うか良くもまぁこんな店とも言えない所にホイホイと神呼べるなぁ。社交性が高いと言うか・・・。」
でも矢っ張態々こんな悪天候にする可き事じゃあなかったと思うけどな。
「あれ、セレちゃん言ってなかったかな。先に帰るって言ってたけど。あ、怪我しちゃったから直ぐ寝ちゃったかな。」
「え、怪我?何も聞いてなかったけど、一寸見てみようか。・・・あ、いや、二柱来てるんだよな。先話しないと。」
ガルダは席を立つとリビングへ向かった。確かに一柱の少年と正女がソファーに座っている。
「ホントだ、二柱来てる・・・。待ってろよ、今茶入れるから。」
直ぐキッチンに向かって湯を沸かす。一応店だからと茶の準備はしていたけど、本当は何時でも出せないといけないんだよなぁ。茶葉がある丈じゃあ準備とは言えないよなぁ。
セレの事、気になるけど一柱で帰って来たんなら多分大事じゃないよな・・・。話が終わったら一応様子を見ないと。
「御待たせ。と、えーっと自己紹介からだな。俺は此処の家主のガルダリューって言うんだ。ガルダって呼んでくれたら良いからさ。二柱は?」
茶を配り乍ら聞いてみると少年がピッと背筋を伸ばした。
「オ、オレはカーディナル=皐牙。カーディナルでも皐牙でも好きに呼んでくれ。」
「へぇ、氏とか名って無いのか?ま、俺も其で分かれてる訳じゃないけど、冠名とかミドルネームとかさ。」
「・・・別に。此って渾名は無いし、オレって分かれば良いだろ。」
―うちはソルナート・霸皇・イルヴァレン=グリアレス。グリスって言ーてくれると嬉しい。―
「カー君とグリちゃんだよね!」
「だから其止めろって!カー君って何かダサいんだよ!」
「えーじゃあコー君?」
「子音変わった丈じゃねぇか!先みたいにカーディにしろって!」
「んー・・・長いから言ったのに。じゃあ一応善処しとくね。」
「いや一応じゃなくてさぁ!」
緊張して固くなっていたのは何処へやら。わしゃわしゃ頭を掻いた所為でカーディの髪はぼさぼさになった。
「まぁまぁ、カーディとグリスだな。宜しく。えーっと話だけど、少しは皆から聞いてるか?」
「一応。店の仕事とかは。」
「お、じゃあ話は早い。いや、其も知らずに来る訳ないか。まぁ説明が省けたし、早速行ってみるか?実戦経験が一番・・・あ、ハリー丁度良かった。一寸頼んで良いか?」
「む?何かあったか?おぉ、客が居るのだ。」
暖簾を潜って現れたハリーは一つ首を振って珍しそうに二柱の来訪者を見遣った。
「あ、怪しい部屋から怪しい奴が出て来た・・・。」
靄が掛かった暖簾の部屋が気になっていたのだろう。カーディが目を丸くしてじっとハリーを見詰めていた。
見慣れない出で立ちなのも相俟って怪訝そうな面を前面に出してしまう。
「む、怪しいとは失礼な。我は三大伝説龍の幻霧龍、ハルスリー・ションだぞ!小童に如何斯う言われたくないわ。」
リュウに自分の事を色々教わってからは実は此の言い回しが気に入っていたりする。抑余り他人に会った事のないハリーとしては一寸浮かれ気味なのも自惚れ気味なのも自覚が無く、又其の自覚が無いのも仕方がない事だった。
「自分から伝説って言う辺りさぁ・・・、何か龍とか言ってるし、そんな奴に小童呼ばわりされたくないゼ。」
「むぅ・・・幻覚を解けば此の様な奴等・・・。」
「おーいハリー、此方此方。」
ズンズンとカーディの前へ行って睨んでいるハリーの肩を叩く。
此以上後輩を苛めて貰っては困る。店の印象が悪くなる。
「む、済まなかったのだガルダ。して、何の用なのだ。」
「俺今から一寸此の二柱に就職説明会をするからさ。ハリーはセレの様子、見て来てくれないか?帰って来てるらしいけど静かだからさ。怪我してるらしいし。」
セレの狂信者なら勿論Yesだろう。だからまぁハリーを選んだんだけど。
「就職?む、何処かで聞いたぞ。確か・・・働く事、だな。」
「うん然うだよハリー君。勉強頑張ってるんだね。」
「フン、其位・・・む、就職!?ま、まさか又こんな生意気然うな餓鬼が入るのか!・・・ぬぅう、むぅ・・・分かったのだ。行って来るのだ。」
酷い渋面だったけれどもセレへの愛が勝ったらしい。
「又って若しかしてドレミの事?」
ドレミも又渋って口を尖らせる。
ハリー曰く生意気な餓鬼の二柱以外如何にか斯うにか落ち着いたので、ガルダは代わりにドアをノックして開けてやった。
「セレよ、邪魔するのだ。」
部屋に入るが返事はない。
不思議に思ってベッドを見遣ると俯せになって眠るセレの姿が目に入った。
居る事にほっとしたのも束の間、そっと近付いて其の顔を覗き込んでぎょっとしてしまう。
毛布に深々と潜り込んでいた為顔なんて見えていなかったが、如何見ても晒に覆われている・・・。
濡れてくすんだ銀髪とベッドから食み出している尾の先で何とか誰か分かったものの、何をしたら斯うなるのだろう。でも大した技術だ。こんな隙間もない位晒で綺麗に巻けるなんて。自分がすれば一年、否二年・・・出来ないだろう。此は素直に認める次元だ。
微かに聞こえる寝息から息は出来ているみたいだけれども、此だと怪我の具合も良く分からない。顔中傷を負っていると言うのは少々考え難いが、毛布を捲るしかない様だ。
起こさない様に慎重に慎重に。
何度も手を滑らせ乍らもセレに触れない様気を付けて、ハリーは毛布を半分程捲った。
普段のセレなら触れていなくても、抑部屋に入られた所で気付いて目を覚ますのだろうが、今回は本当に良く寝ている様でピクリとも其の背は動かない。
其は其で心配になる。でも晒は取らない方が良い気がするし、抑取れない気がする。
「お、何だセレ居るじゃん。」
悩んでいるとガルダが入って来た。扉の縁からちらりとドレミも困った様な顔をして覗いていた。
「む、ガルダよ。もう説明会とやらは終わったのか。」
「噫、後から彼の二柱、グリスとカーディの仕事の練習に付き合うつもりだけど。ってうわ、ど、如何なってんだセレ。」
まさか毛布を捲るのにそんな時間が経っていたとは。
ハリーが唸る横でいそいそとガルダはセレの隣に来ると其の晒塗れで肌の一片も見えなくなってしまっている腕に触れた。
本当に全身晒だ。態と・・・じゃないよな。重傷なのか?でも凄く丁寧に巻けているし、ベッドも床も汚れていないし、大丈夫、なのかな。
「セ、セレちゃん生きてる・・・?大丈夫なの?」
「え、ドレミ、其如何言う意味だ?見た所大丈夫然うだけど。」
ドレミはそっとドアから離れるとベッドの縁に来て中腰になった。
「セレちゃん、すっごい大怪我してたの。何か躯が腐ったみたいで、血も凄い出てて・・・。一柱で帰りたいって言って帰っちゃったの。だから心配で・・・。」
セレの顔を見ても未だ安心出来ないみたいでドレミは小さく溜息を付く。
「そんなにか?でもちゃんと自分で治療してるし、大丈夫然うだけどな。」
―否、大丈夫ではない。―
「ん、んん!?だ、誰だ・・・って、若しかして丗闇?」
突如ガルダの脳内にハスキーな、でも凛とした声が響いた。
吃驚した・・・。彼奴から俺へって全然無かったし。
急にガルダが声を上げたのでハリーとドレミは静かに見護る許りだ。
―煩い、黙って聞け。取り敢えず其奴は重傷だ。帰って直ぐ寝てしまったし、意識も可也希薄だ。だから当分目覚めないだろう。―
―そ、そんなにか・・・。てっきりちゃんと治療しているみたいだから無事だと思ったけど。―
一応テレパシーで返す。ドレミ達を徒に不安にさせちゃいけないし。
・・・黙れって言われたけど、流石に聞き流せないだろ、此は。
―消毒しかしていない。仮の治療にしかならないだろう。―
―消毒・・・したのか。―
・・・あれ、おかしいな。気の所為かな。セレは自分で此、した訳じゃない気がするんだけど。ドレミが重傷って言う位だからベッドも血塗れになってもおかしくないのに。
消毒をして、晒を巻いて、床掃除をして、毛布を整えて・・・。
・・・誰がしたんだろ、何てな。
―有難う丗闇、セレを看てくれて。―
―・・・・・。―
あれ、黙だ。本当素直じゃない奴だなぁ。
でも可也意外だった。まさかそんな事迄してくれたなんて。・・・面倒見、結構良いのかも。
―・・・抑我が此奴から離れなければこんな無様な姿を晒さずに済んだかも知れない。我が迂闊だった。―
―其は・・・丗闇が責任感じる事無いだろ。後は俺が看るからさ。―
此奴、セレには甘いな・・・。本当に二柱仲良しかよ。一体何時も二柱で何話してんだ。
―・・・晒を換える時、吐くなよ。御前は免疫が無さ然うだ。―
―え゛、そんなグロい事なってるのか?―
―鼻が無くなっている。右目が飛び出掛かっている。歯茎が溶けている。右手の爪が全部腐って剥がれ掛けている。左腕の腱が膿んで・・・、―
―分かった、もう良い。止めてくれ。善処するからもう赦してくれよ。―
「・・・ガルダ君大丈夫?何か顔色悪いけど。」
「え、あ、あ、大丈夫。只彼の二柱の訓練って言うか体験、如何しようかなって。俺セレを看とかないと。」
「・・・我も、セレの傍に居たいのだ。」
セレの顔に近付いてくんくんと匂を嗅ぎ乍らハリーは言った。
若しかしたら血の臭でもしたのかも知れない。少し悄気た様な面持ちだ。
「じゃあドレミにまっかせて!ロー君とローちゃん、ダブルローコンビも居るし、サクッと終わらせて来るよ。だから御願い、二柱共セレちゃんの傍に居てあげて。帰って来た時に元気になって会える様に。」
心配の色を隠す様に大袈裟にドレミは勢い込んだ。
「有難な、ドレミ。然うさせて貰おうか。ハリーも宜しくな。」
「うむ!我も頑張るのだ。」
「じゃあ早速準備しないと。皆の先輩としてバリバリ行くからね!」
パタパタと慌ただしくドレミはリビングへ向かう。
其の背を見送ってガルダはそっとセレの髪を撫でた。
彼の銀に輝く髪はするりと其の手を滑り落ちる。
「皆頑張るってさ、だから御前も頑張ってくれよ。」
頬に触れた所でピクリとも動かない。其の冷たさに歯噛みしそうになるけど、何とかガルダは堪えた。
「目が覚めたら御中空くだろうし、何時でも食べられる様に作っとかないとな。ハリーは味見してくれよ。」
「勿論なのだ。其の位幾らでもするのだ。」
「良し、じゃあドレミ達の見送りだな。準備って多分そんなないよな。」
ガルダはセレの毛布を掛け直すとさっさとリビングへ向かった。
すると丁度ドレミがある程度話していたみたいで何だか盛り上がっていた。
ま、こんな大勢で行くなら大丈夫だよな。
「あ、ガルダ君、そろそろドレミ達行くからセレちゃんの事、宜しくね。」
「し、試験とかヨユーだし。さっさと終わらせて戻って来るゼ。」
「もう、緊張しなくて大丈夫ですよ。カーディは可愛いわね。」
「バッ、何で枕詞みたいに可愛いばっか言うんだよ!」
―ははは、緩り深呼吸すれば大丈夫ですよ。誰でも最初は初めてですし。―
「あーもーだから違うって!もうさっさと行こうゼ。オレから行ってやるからな。」
「なーんか想像以上に盛り上がってるなぁ。ま、気を付けて行って来いよ。」
「うん、じゃあ行って来まーす!」
ドレミを筆頭に銘々挨拶すると店を出て行った。
嵐の様な其の賑やかさが去ったので店は一気に静まり返った。
俺も、しっかりしないと。
「おーいハリー又一つ頼まれても良いかー?」
一度頭を振ってガルダが声を上げると直ぐハリーは顔を出した。
「うむ。早速何をするのだ?」
「一寸雑草抜きして欲しくてさ。外に籠があるから其一杯にして欲しいんだけど。」
途端にハリーが半目で此方を見る。少し丈口を尖らせていた。
「・・・我はセレの看病がしたいのだ。雑草抜きはその、雑用であって関係ないと思うのだが。」
「ん?何でだ?先料理手伝ってくれるって言っただろ。材料が無いと料理は出来ないぜ。」
「!?まさか彼の野菜は雑草なのか!然も自家栽培だと言うのか!?」
「何だよ。ウィードっつったろ。雑草って最初から言ったって。後態々雑草を買って来たりしないから。普通自家栽培だろ。」
「むうぅ・・・其ならまぁ良いが、でも我、雑草の種類は分からんぞ。」
「俺も分かってないけど大丈夫だろ。今迄腹壊した事も無いし。」
「・・・然う言う物なのか。分かったのだ。行って来るのだ。」
多少心配そうな色を見せつつもハリーは外へ向かった。
勿論扉は開けてやった。残る問題は雑草が抜けるか如何かだけど、案外簡単に出来たと言う返事を期待しよう。
俺は掃除でもして置こうか。
只待つのは・・・恐い。何時終わるか分からないのを待つのは特に。
いや其よりも怪我の具合、一度見とく可きか?でも丗闇が簡易的とは言え一度処置してるのを突くのはなぁ。彼奴何気に繃帯巻くの滅茶苦茶上手かったし。
・・・取り敢えずは傍に居よう。直ぐ動ける様に。斯う只立ち尽くして悩んでる時間が一番無駄だ。
頑張れ、セレ。皆待ってるんだ、御前の事。
俺も、言いたい事沢山ある。何気ない事も、小言も。
只、今は・・・御前と話したい。其丈なんだ。
一つ丈溜息を付くとガルダは引き寄せられる様に又セレの部屋へと消えたのだった。
・・・・・
黔い凱風を背に受けて、翠玉はゆるりと廻る
業の焔は爆ぜて黔の火華を散らす
もう解けない鎖に定めの針が縛られても
折られた針が砕けて灰に還ろうとも
彼の世界に於ける彼の刹那を砕く哦は二度と舞い降りはしないだろう
さぁてバトル回。正に然うだったと思います。書いてて思いましたけれど、セレって絶対勝てると確信したバトル以外急襲か奇襲しかしないですよね。其で良いのか主神公。いや、アサシンとは然う言う物!
こんなに黒いけれど大丈夫か、ダークヒーロー。否ダークヒールと言えばモーマンタイ!
何か色々あって又二柱程来ましたが、此の話、当初全く違いました。フォードが実験で弄繰り回して彼の二柱をBDE-02とかにして店に仕向けて、其を撃退してメンバーに入れると言った物だったのです。
はい、ソルドのソの字もありません。抑結構勁そうに出ているソルドさんは当初、一回しか名前が出ていません。一回です、一回。多分何処かで名前を間違えたみたいで、キャラも間違えちゃったみたいで、謎の男Xみたいな立ち位置でした。噂しかない人みたいな。
其がまさかこんなゲス野郎になろうとは。然も誇らし気に言ってましたけれど、塔の名前、ちょーダサいですよ。もうソルドの塔なんて適当で良いやって其の儘当初のを引っ張りましたが、中二にも程がある。
一応自分のスタンスとして、世界には粗心底悪い奴は居ない、としています。
別にどんな奴にも良心が・・・とか言う訳ではないのですが、例えば敵が居れば色々悪く言ったりするけれども、其奴にだって良い所はあって、其奴なりの正義があって、其奴からしたら悪なのは自分で、でも自分にも正しさがあって、其の正義同士がぶつかって善悪が生まれるんだと思います。仮に自分が悪いと自覚していても、然う変われないのです。だって変わると言う事は其迄培った事が覆るから、否定する事にも成り兼ねないから。
生き物は生きているから生き物なんです。生きる為に生きているんです。自分を否定すると言う事は、自分を殺すのと同義です。其は生き物として反した行為、悪、となってしまうのです。
100%純粋な悪者ってのは、然う居ないし、若し居たら寧ろ讃えたいです。其の心の悍さを、其の目の聡明さを。
だから今回は其の例外、一方的な悪者としてセレとソルドをぶつけたのですが、まぁ想像通り醜い争いでした。相手の良い所を一切見ない者同士です。分かり合える訳がありません。其の気もありません。
でも良いね!(良いんかい)在りだと思います。(在るんかい)もっと深みに填まればいいのです。(綺麗なのを書く気はナッシング)
なんて、次回はころっと変わります。セレが居ない丈で明るくなりました。主神公の立場って何でしょう。いや別に主神公はムードメーカーではありません、良いんです。彼女は彼女で。
あ、後時々、と言うより此から真面目にして行こうと思ってるんですが、さり気無く過去話が修正されていると思います。只、内容的には全く変化は無く、誤字の修正です。只でさえ読み難い話なのに誤字って、と言う訳でちょくちょく見直して行きたいと思っています。もし仮に本文に関わる大きな修正がある際はちゃんと報告をするので御了承下さい。
では長くなりましたが又御縁があらん事を。




