16次元 御茶会ハ夕凪ニ絳茶ト魅惑ノ菓子ヲ添エテ
※今回はR18に相当する反社会的な表現が含まれております。苦手な方は呉々も御注意下さい。
何か御久し振りな気がしますね、今日は。何か此処最近色々あり過ぎて御蔭で設定以上に話が黔くなってきました。先ず上の注意書きと、カタカナ交じりのタイトル・・・。
誰の話か分かりますか?はい、真絳な夢の話です!!と言ってもそんな長くありません。長いのはタイトル丈です。長くなり過ぎですね。前書いたかもしれませんが、筆者としては最近良く見る長ーいタイトルを付ける本、何だかなーと思ったりするんです。だから大抵タイトル自体は四字熟語レベルで短いのが好みです。
だのに、だのに!サブタイトルが長い長い!結局一緒だよ!サブタイトルが熟語の本も良く見ますが、凄いなーと感服する許りです。話が短くなりつつある反動でサブタイトルが長くなる何かの法則、ありませんかね。
・・・話が逸れましたが、つまり今回、上でWarning!!してる割にはグロ表現は粗ありません。只反社会的な表現がある為規制している丈です。(其も其で如何なのか。)
あっさり言ってしまえば御茶会×2です。ほら、楽しそうでしょ?御茶会って話書くの凄く憧れてたんですよ。エレガントな感じと言うか、穏やかな空気が良いですね。ずーっと殺伐としてましたから。
と言う訳で此処もすっかり長くなっちゃいましたけどまぁ息抜き程度に読んで下さいな。
あ、とっても大事な事を一つ!前言っていた大型アップデート、無事終わりました!登場者と龍の紹介ページを見て頂ければと思うんですが、粗皆さん、絵が付きました。
筆者の画力が出て色々orzとかなっていますが、無いより増しだろと言う事で、羞恥心Maxで投稿しました。如何か温かい目で見てやって下さい。
ポケ●ンやデジ●ン、●ンペットっぽくなっちゃってるけれどオリジナルです!(何て大物達を引き合いにしているんだ・・・。)
此からも少しずつ足せたらと思うので宜しく御願いします!
噫退屈だ退屈だ
如何にも斯うにも上手く行かないわ
御茶にしましょう、気分を変える為に
然う、客を御招きして
じゃあ御菓子を作らないと
門を開けて、キャンドルに火を灯しましょう
噫待ち遠しいわ、楽しみ過ぎて狂ッテシマイソウ
・・・・・
「・・・ん、んん?」
気付くと自分は開かれた門の前で突っ立っていた。
其の門は大きく、青銅で出来ている様でアンティーク調の彫り物がされていた。
門の両側は剪定された木立が続いており、蔦が門に絡まっている。
其の先は煉瓦が敷かれた道が蛇行し乍ら伸びており、人や動物を象った石像が幾つも置かれていた。如何やら其等は噴水の様で頸や手首、足首から絳い水を流している。視線を感じて眺めると髪の長い女性の石像が両目から絳の水を垂らして微笑して見詰めていた。其等の何もに蔦が絡まり、真絳の華を咲かせていた。露を其の儘結晶化させたかの様な貴石をあしらわれた何とも綺麗な華だ。其のアンバランス差が不気味さを加速させる気がする。
そんな彼の華には嫌な事に見憶えがあった。
そして旻。真絳に染まって雲華一つも無い。少し仄暗く感じるのは自分の不安感の表れの所為かも知れない。
然う、此処は屹度夢の中。然も只の夢じゃない。・・・絳の悪夢だ。
奥から何とも言えない甘い匂が漂っている。思わず鼻がひくつくが、既に波紋で何があるのかは理解している。正直、行きたくない。
だが突っ立っていても夢は終わらない。何より門の蔦がわさわさと不自然に揺れている。
・・・此はさっさと行かないと此に縛られて強制連行されるかも知れない。
覚悟を決めて足を踏み出す。
何歩か其の儘進むと背後で蔦が門を閉めてしまった。
一つ丈溜息を付き、さっさとセレは目的の場所へ向かう事にしたのだった。
・・・・・
「あ、やっと来てくれたのね。ずっと待ってたのよ!さ、どうぞ御掛けになって。」
自分を歓迎してくれたのは他でもない、アティスレイだった。
自分と瓜二つの姿。でも髪は真絳で、彼の例の華を差している。目も絳く爛々と輝き、絳と黔混じりのワンピースを着ていた。袖が長く、先が華の様な形になっているのだが、其処から覗く手は意外にも常人の其だった。
・・・何か成長している感がある。完璧に自分って物、持ってるじゃないか。
初めの彼の蛇だとか何やらの姿とも、前自分を操った時化けた化物とも違う。同じ奴だって信じられない位の変化だ。
でも斯う思うのは未だ軽率だろうが、彼女の性格すらも変化がある様に思える。
少なくとも前はこんな穏やかに咲う奴ではなかった。彼の狂気を孕んだ笑みとも違う。本当に嬉しそうだ。
そんなアティスレイの前には如何も御茶会の準備が整えられていた。
絳のテーブルクロスを掛けた丸テーブル。向かい合う二脚の椅子。机の上には例の甘い匂を漂わせているクッキーやプティングの盛り合わせと、ティーセットが置かれていた。
・・・此奴と御茶をしろってか。何て恐ろしい事を要求するんだ。
自分がたじろいでいると少し困った様にアティスレイは笑った。そしてじっと自分の目を見詰める。
「私の事、信じられないのは私が一番良く分かっているわ。でも、其でも言わせて。今の私は只貴方と御茶をしたい丈。御話をしたかったの、ずっと。だから頑張って御茶も作ったし、御菓子も、初めてだけど作ってみたの。上手に焼けてると思うわ。私、やっと少しは上手に話せるようになったから、良い機会かなって。貴方が無事、全快したって分かって居ても立っても居られなくて、御祝いしたかったの。其と、其と、」
思ってもいなかった事を怒涛の様に話し始めるアティスレイ。如何取る可きか難しかった。
裏切るのは、疑うのは簡単だ。でも信じるのは迚も難しい。
「・・・若しかして怒ってる?前の私が、否ずっと私、貴方を傷付けて来た事。・・・御免なさい。でも私そんなつもりなかったの。貴方を傷付けたいだなんてこれっぽっちも。本当に貴方の事丈を考えて、其で空回りして・・・御免なさい。」
一変彼女は今にも涕き出しそうな顔で頭を何度も下げた。
勿論其丈で赦せる訳でもない事を此奴は為出かした。でも自分は何処となく、分かっていた気がしたんだ。
アティスレイは悪意を持って彼等の事をしたんじゃない。自分にも責任の一端がある、と。
其に恐らく彼女はそんな器用な奴じゃない。其の涕き顔も演技とは思えなかった。
「じゃあ斯うしましょう。私は私の話をする。貴方に知って貰う為に。私の事を話す。貴方からの質問も答える。・・・全て、は無理だけど。話したい丈、話したい丈なの。私は今迄の私とは別なの。聞く丈で良いから。だったら貴方にデメリットは無いでしょう?」
「其なら・・・良い。話してくれるのなら勿論其は聞く。」
席に着くと彼女はぱっと表情を明るくさせた。目元を擦ると直ぐ様彼女も席に着く。
「有難う。でも帰りたくなったら何時でも言って。直ぐに此の夢は醒めるから。」
「・・・本当に変わったな、御前。」
「私は私であって私でないから・・・。あ、絳茶は如何?御菓子もあるわ。」
然う言って彼女はポットから二つのカップへ絳茶を注いでくれた。絳の薔薇の挿絵がある何とも可愛らしいカップだ。ほんのり湯気が立っている。本当に絳い紅茶だ。
テーブルの中央に飾られた様に盛られたクッキーは中心に絳いジャムが添えてある物だった。プティングも苺か何かの果実が入っているのか薄紅色で果肉の粒が見て取れる。
其の何もが甘い香りを漂わせ、非常に美味しそうではあった。でも流石に直ぐ手は出せない。
「警戒しないで。若し私が貴方を傷付けようとしたら其の手は直ぐ斬り落とすわ。貴方に甘言を吐く位なら顔を斬り落とすわ。若し絳茶や御菓子に毒が入っていたら私は自分の心臓を握り潰す。嘘じゃないわ。私に嘘を付ける程の能も無いし。絳茶が少し微温いのも、貴方が熱いの、苦手だって知ってるからよ。・・・如何したら良い?私は何をしたら信じて貰えるの?」
さらっと迚も過激な事を言って除ける彼女だった。でも目は真剣其の物で、じっと此方を見据えている。
「・・・じゃあ先に食べてくれるか?茶も私のを飲んでくれ。」
仮に毒が入っていても死ぬのなら結局夢から醒める筈。あ、いやでもアティスレイに殺されると意味合いが変わるのだろうか。死ぬ程の毒じゃなくても、分かった途端其の場で自殺すれば大丈夫な筈。
未だ一回しかしていないから実の所確信は持てないけれど、自分が死ねば醒めるんだろう、こんな夢。
・・・絳茶を飲むのに自殺の可能性があるって、なんて御茶会だ。でも此処での話は屹度可也有益な情報になる筈だ。逃げる事丈は避けたい。
「其なら勿論。じゃあ御菓子からね。」
彼女はクッキーを手に取ると躊躇なく食べた。そしてプティングもスプーンで掬ってさっさと食べてしまう。
「うん。上手に出来てる。後は貴方の口に合うかね。・・・絳茶は、貴方のを飲んでも良いの?」
「噫、カップに何か細工があっても困るしな。」
「カップに・・・?あ、成程。然う言えば然うね。そんな所に気付くなんて。私もそんな風に賢くなりたいわ。」
彼女は遠慮勝ちにカップを手に取ると一口丈飲んだ。
「大丈夫。此方も上々ね。でも此、間接キスになっちゃうわね。」
少し頬を赤らめて笑う彼女から確かに悪意は感じられなかった。
食べている反応からしても変な味ではないらしい。
実の所クッキーは自分が選んだのを五枚程。プティングも形が崩れても良いから中心部分を。絳茶はポットから改めて注いだのを飲んで欲しい。でもまぁ其処迄させるのは失礼だろう。別に其をさせる権利が自分にあるにしても彼女の気を悪くさせれば話せる事も話せなくなる。
其に其丈やっても完全に不安が払拭される訳でもないし。だって彼女は自分とは違う存在だ。毒が同じ様に効くとも限らないし、夢の中なのだから如何とでも出来る可能性がある。つまりは限がないと言う事だ。
此処は腹を括って御相伴に預ろう。相手の情報を引き出す為に。
「然うか。疑って済まなかった。じゃあ戴くとしよう。」
返して貰ったカップに口を付けて一口。
そしてクッキーを一枚頬張った。
そんな自分の様子をずっとニコニコし乍らアティスレイは見詰めていた。
一言で言ってしまえば其等は迚も美味しかった。
絳茶は砂糖とは別のフルーティな甘さがって、クッキーも甘さと生地のパサパサ感が良いアクセントになっていた。迚も甘い様なのにしつこくない。がっつくつもりはなかったのについ手を伸ばしてしまう。
「・・・美味しい、凄く。」
「ほ、本当に!?良かった。頑張った甲斐があって。さ、遠慮せずに食べて。貴方はもう少し食べて置く可きだわ。私、其が心配だったから。」
「ん、別にそんな小食のつもりはないが・・・。ガルダが良く料理作ってくれるし。」
・・・此が自分ではしないからな。いけないのは分かっているけれど、料理なんてからきし駄目なんだ。其をする時間があったら生食をする。
「其でも、よ。貴方の飢える姿は見たくないの。其の証拠に幾らでも食べられるでしょ?」
「まぁ・・・食べられるけれども。」
もう絳茶を空にしてしまった。其に気付いたアティスレイが直ぐ様注いでくれる。
「さ、そろそろ御喋りしましょうよ。どうぞ聞きたい事、あるんでしょ。」
「じゃあ・・・直球に。御前は一体何なんだ?」
アティスレイは少し丈目を細めた。でも目元の笑みは消えない。
「其は残念だけれども言えないわ。貴方が懐い出さないと。けれども今の私についてなら話せるわ。上手に伝わるか不安だけど。」
絳茶を口元丈湿らせる程度に含んでアティスレイは続けた。
「私は虚構の存在なの。アティスレイと言う一つの事象がいて、其が色んな私を創って、貴方の前に現れるの。色んなアプローチを試す為に色んな自我や、性格を持たせて。・・・分かるかしら。」
「済まない。良く分からない。」
「んんん・・・あ、然うよ!カメレオン。カメレオンみたいな物なのよ。其なら貴方も知ってるわよね。」
「噫、見た事はないが。」
「私もよ。兎に角アティスレイって言うカメレオンがいるの。カメレオンって周りの景色に合わせて自分の色を変えるでしょう?其のアティスレイのカメレオンも、ある目的の為に貴方に良い影響を与えられる様試行錯誤してるのよ。色んな色を纏って貴方に逢いに行くの。色が性格だと思って頂戴。貴方を殺そうとした私や、貴方を操って酷い事をした私、そして今回の私。・・・ね、皆全く違う私でしょう?蛇になったり翼になったり、釼になったりもしたわね。だから今目の前にいる私は其の一色に過ぎないの。次逢う時にはもう私はいない。」
「なんとなくは分かった気がするけれども・・・。然う言う生き物って事か?」
「其は微妙なラインね・・・。でも勘違いして欲しくないのは、今の私は別に貴方を騙そうとか、丸め込もうとか、そんな事は思ってないの。私は前の攻撃的な私とは全く違う形で創られたの。話し合って、理解する事、其を求められて創られたの。だから私は純粋に貴方と御茶をしたかったの。・・・次の私はどんな風か分からないけど。」
「然うか。言いたい事はまぁ分かった。でも、ある目的って何なんだ?」
「其は・・・御免なさい。言いたくないの。私の勝手な感情で申し訳ないけど。」
「其処が分からないと私も御前と如何接する可きか悩むんだが。」
「・・・別に悪い事をしようって訳じゃないの。只・・・何処迄言って良いのかな。例えば誕生日、プレゼントとして現金を貰ったら貴方は如何思うかしら?」
「え、普通に嬉しいが。」
「えーっと・・・でも物の方が嬉しいでしょ?何をあげたら喜ぶか、其丈考えてくれていた証なんだから。」
「でも換金する手間が掛かるだろう。」
「売る事前提なの!?プレゼントなのに!」
「ククッ、冗談だ。然うだな、物の方が嬉しいよ。懐い出になるしな。」
つい揶揄ってしまった。彼女は然うでなくても、アティスレイ自身は酷い事をした奴なのに。正確には前の彼女は、か。
「そ、然うよね。其と一緒。私、貴方に現金をあげたくないの。だから色んなアプローチをして、貴方の事、色々知ろうとしているの。其とサプライズパーティみたいな所かしら。」
御茶会、プレゼント、パーティと確かに彼女は今迄の彼女と大分違う様だ。何か幸せ然うな奴である。
「事前にやるよって言われるのと、何も知らずに行き成り祝われるの、感じ方変わるでしょ?」
「然うだな。心構えが違う。言って置いてくれた方が、敵襲だとかと勘違いせずに済むな。準備中もテロかと思って警戒せずに済む。」
でも抑其、サプライズパーティじゃないよな?知られていたら只のパーティだろう。
「な、何で如何して上手く伝わらないの。私の説明が悪いの?其とも貴方が捻くれているの?」
「世界感が違い過ぎるんだろう。私と御前の。」
「然う言えば・・・然うね。貴方が然う言う神だって事、失念していたわ。私も新しく創られた私だし。でも私、諦めないから、絶対に貴方の事、理解してみせるわ。」
「然うか。まぁ頑張ってくれ。私は気長に待つよ。」
他者を理解する為に頑張る。・・・本当変わったなぁ彼女も。
良い事だとは思うよ。其の心構えは。でも自分を理解した所で、つまりは同じ経験と、絶望をしないといけない。其が良い事とは思えない。何で自分なんだ。もっと幸せ然うな奴にした方が良いぞ。
「・・・話を戻すわ。サプライズの方が予想外だった分、嬉しく思う物よ。少なくとも私は然う思っているわ。だから私の目的は話せないの。達成した時に貴方に理解して欲しくて。だから此は私のエゴ。私は貴方に害を及ぼそうって思ってるんじゃないわ。逆よ逆。今迄の私の行為も、愛の裏返しなの。」
「然う言われても御前が仲間に手を上げようとしたら私は矢っ張り御前を殺すぞ。」
「其で良い。私は別に殺されても良いわ。貴方が手を掛けてくれるなら寧ろ私は喜ぶわ。フフッ、考えた丈で、ぞくぞくする。貴方は貴方の思う儘に動いて頂戴。私は其を止めるつもりも、縛るつもりもない。殺したかったら殺して頂戴。」
・・・何処迄が本当なんだろうか。今迄の彼女の言葉を信じるとすれば彼女は自分に絶対的忠誠を誓う事になる。扱い切れるとは思えないけれども。
「其とも若し貴方が望むのなら毎霄貴方の夢に私が出て来て、殺されてあげる。何度でも何度でも。悲鳴も血も貴方が望む丈与えるわ。拷問道具が欲しいなら幾らでも創ってあげる。・・・如何かしら。」
・・・忠誠心が高過ぎると言うか、最早此は何なんだ。新天地か。
変な宗教みたいだな。って自分そんな殺しが好きな様に思われているのか?全然理解出来てないじゃん。
「良くない。却下だ。出来れば今回の様な御茶会が良いな。殺伐としていない。」
「フフ有難う。気に入って貰えて。でも其は御免なさい。私は屹度アティスレイの中でも珍しい方なのよ。今回得た情報に因って又アティスレイは方針を変える。貴方との接し方を。だから毎回御茶会は無理だと思うわ。私に其の決定権は無いもの。私達で考えないと。」
「殺されるのは良いのにか?其についての決定権はあるのか?」
「えぇ、其なら直ぐに。然う言う風に出来てるのよ。・・・此じゃあ話が見えて来ないわね。もう少し丈、私の事、話しましょうか。」
アティスレイは又一口絳茶を飲むと少し困った様に笑った。
「でも実は私自身も良く私が分かってないんだけれどね。先貴方は私が生物か如何か聞いたでしょう。其なんだけれども、抑生物の定義って如何なってるのかしら。私、余り賢くなくて・・・良く分からないの。例えば命があれば良いの?其とも魂?肉体が要るのかしら。存在している丈では如何捉える可きかしら。」
「其は・・・確かに私も難しいな・・・。でも少なくとも意思はあるんだろう。姿も・・・夢の中丈なのかも知れないが、今私の目の前にあるじゃないか。其とも其とは別なのか?」
クッキーを又啄む。ジャムの甘さがじんわり広がって行く。
「私の姿?あ、此は貴方が初めて会った時、私を陰と言ってくれたでしょう?だから其の儘其を借りている丈なの。気に入ってるから。だから私自身、姿なんて無いわ。どんな物にでも成れてしまうもの。スライムみたいに変化自在よ。私が知ってる物ならね。然うね、例えば私に性別なんてのもないし、あ、其は貴方もよね。だから例えば・・・例えばの話よ?私は貴方にキスをしてと言われれば喜んでするし、恋人になってと言われれば男でも動物でも何でも、好きに姿を変えてあげる。」
とんでもない事をケロッと言って来た。カメレオン所じゃない。スライムだと?
否其よりキスとか恋人って、本当に彼女はメルヘンに生きている様だった。ってキスって変化じゃないじゃん。只の願望じゃん。
何方も頼む事一生ないぞ、絶対に。過剰な好意は寧ろ恐い。
「姿が変わるか・・・。若しかして其が御前の力なのか?」
「力・・・然うかもね。然うね。私の力は貴方達神の干渉力と少し似ているわ。其よりもっと不安定で曖昧なの。夢を・・・操るのよ。差し当たっては今の様に貴方に好きな夢を見せてあげられる。何でも創れるし、其の味覚や感覚、痛覚も全て迚もリアルな夢に出来るの。其と其の夢を実現させる事も出来るわ。此は力を凄く使うから余り出来ないけれども。丁度貴方に前憑り付いた様な具合ね。後は・・・ん、此は秘密。此も私のエゴで。御免なさい。隠し事だらけで。」
夢を現にする力。然も其の夢も自在に操れる。・・・其、本物の神じゃないか。加えて未だ他にも能力があるっぽいし、恐ろしい奴だ。でもそんな強大な力の者、一体何なんだろう。神とか龍とかでいるなら自分か丗闇が知って然うな物だけど。
でも好きな夢ならもっと良い夢、見せて欲しいなぁ。
又一つクッキーを手に取る。
頬張っていると其の様を手に顎を乗せて彼女は幸せそうに見詰めていた。
そんな彼女は余り食べていない様だ。付き合い程度で食べている様で、もう元より全て自分にあげるつもりらしい。
「今更確認するが、御前は私に好意を寄せていると、然う言う事だな。」
「えぇ!勿論よ!好き好き大好き超愛してる!私の全てを掛けて誓えるわ!」
・・・愛が重い。
立たないで立たないで。そしてリアルに両目をハートにしないで。冗談じゃなくて引きそうだ。
「・・・私は何もしてないのにそんな好意を寄せられても困るんだが。」
嘘っぽくないな・・・。まぁ確かに最初から好意はある様だったけれど、基本彼女は狂っているからなぁ。
「うぅ・・・其の経緯を話してあげられないのが残念だわ。此もね、一寸話せないの。でも私は貴方に迚も感謝しているの。私の全ては貴方の御蔭だから。母よりも重いわよ、此の気持は。私にとって世界は、神は、母は、父は、師は、恋神は、宝物は、最早愛其の物は貴方なの。私の全てが貴方なの。」
緩りと瞬いて、少し熱を帯びた声でアティスレイは続ける。
「だから・・・ね。悲しいけれども前の私が貴方を殺そうとしたのも分かるのよ。だって愛してるから。私の手で終わらせてあげたいの。でないと気が済まないの。貴方が誰かと話している丈で嫉妬してしまう。貴方が何かを見ている時は私を見て欲しい。私丈を見て欲しい。常に私の事、想って欲しい。其と同時に私は尽くしたい。貴方に全てを。私に出来る事なら命を掛けて。出来ない事でも全力で。貴方以外は全て無価値だから。」
「・・・・・。」
やばい。重い所じゃない。ブラックホールみたいな超重力か。え、恐い恐い。引く所じゃない。命の危機を感じる。此処は状況を良く見て、考えて応えないと。
「・・・愛してくれているのは分かったけれども、未だ終わらせないでくれ。私にはやる事があるんだ。愛し過ぎて殺したいってのも良く分からないし。」
「あら如何して?食べちゃいたい位可愛いって言うじゃない。其と一緒よ。あ、でも食べるのも良いわね。貴方が私が創った物を食べて、其の貴方を私が食べるの。・・・フフ、然うしたら私と貴方は一つになれるわ。目的と違う着地になっちゃったけれど、其、良いと思わないかしら?私の中で何もかも忘れて只穏やかに眠らせてあげる。」
寒気がして来た。此はもう帰った方が良いかも知れない。矢っ張り彼女は彼女だ。サイコパスな所は変わっていない。自分が御菓子にされる前に逃げようか。
思案しているとテーブルの端を蜈蚣が歩いているのが目に付いた。
アティスレイも気付いた様で追い払うのかと思いきや脇に置いていたフォークを掴んで蜈蚣の頭に突き刺した。
突然の行動についビクッと反応してしまう。
彼女の瞳が絳く灯り、蜈蚣が刺さったフォークを緩り振る。
「ねぇ此の子を入れたクッキー、焼いて来ましょうか。」
「・・・いや、遠慮する。」
もうクッキーは良いよ。先ので食欲失せたし。
「然う?殻がパリパリしてるし、足とか触角も変わった食感で美味しいと思うけど。甘いの許りだし、胡椒とか振ってスパイス効かせたのも・・・、」
「良い、遠慮する。もう御中一杯だし。」
食物に偏見は無いけれど、気分じゃないのは確かだ。
「ふーん・・・。勿体無いし、じゃあ私が此の子食べるわ。」
然う言うや否やアティスレイは蜈蚣を口に含むとバリバリと食べ始めた。
う・・・動いている。口から食み出している尾の周りや足が蠢いているが、見ていて良い物じゃない。
「ねぇ此の子は辞退したけれど、抑今回の御茶会の御菓子の材料、貴方は分かってるの?」
「此のクッキーか?作った事はないから知識でしかないが、バターと牛乳、バニラエッセンス、小麦粉とベーキングパウダー、砂糖・・・其の位だったか。」
「生地じゃなくてジャムの部分よ。良い絳が出てるでしょう?」
「・・・野苺じゃあなかったな。木苺か?其ともクランベリーかラズベリー・・・いや、ブルーベリーを混ぜるのも手か。」
「取り敢えずベリー系ではないわね。」
んん・・・何か分からないし、何となく嫌な聞き方だったから敢えて触れなかったのに。でも其だと一体何なんだろうか。
「分からないな。御手上げだ。」
然う言うとアティスレイは笑みを深くした。そして口元をペロッと舐める。
「其ね、人肉で出来てるの。」
「人に・・・っ!?」
思わず噎せ然うになって絳茶に手を伸ばすが直ぐ引っ込める。だって恐らく此の絳茶がこんなにも絳いのは・・・。
「プティングは内臓を潰した物を、絳茶は血を、クッキーのジャムは余った所を煮詰めて作ったの。ちゃんと皮を剥いだし、毛も入ってない筈よ。下処理、大変だったんだから。」
「そ、そんな筈・・・。だって人肉なんて、こんな美味しい物じゃない筈だ。」
口元を押さえる。未だ甘い後味が残っている。鉄臭さもしない。
自分の顔色が青くなっているのを見てアティスレイは一つ手を叩いた。
そして又にっこりと微笑む。
「フフ、冗談よ冗談。真に受け過ぎよ。」
然う言われても直ぐ鵜呑みには出来ない。
完全に手が止まってしまった。毒味はして貰ったけれど、まさかそんな物が入っているなんて。
嘘か真か、否九割は嘘で、其を自分の希望的観測で無理矢理半々にしている丈だ。非常に判断し難いと思って保留にしている丈。認めたくない丈だ。結果は出ている。
「でも人間の味、憶えているのね。食べた事。」
満面の笑みの彼女。本題は如何やら其処らしい。
「あ、噫、前世で。飢えで如何しようもなくて・・・。でも本当に不味くって硬いし、抑捨てられていた死体だ。だから腐っていたり、変な病気に掛かっていたりするだろう?だから良く体調を崩して、マイナス面が多過ぎたから直ぐ止めたんだ。」
何となく憶えている。幼い時、本当に食べ物も水も無くて、一週間近くも彷徨っていたから、路地で見付けた死体に・・・。
人間の振りをして生きている分、勿論抵抗はあった。でも皆自分が化物だと罵って石を投げるんだ。じゃあもう良いじゃないか。化物らしく、意地汚く生きても。
初めは血だった。喉が渇いて渇いて仕方なかったから。錆びた様な色をした血を舐めて、苦くて酸っぱい味に顔を顰めて。
でも其丈じゃあ全然満足出来なくて、右腕に緩りと牙を突き立てた。逆刺の御蔭ですんなり牙は皮膚を裂き、遠慮勝ちに肉を食い千斬った。
血だって変な味がしたんだ。肉は其より酷くて、血の味が凝縮された様で、吐きそうになり乍らも何とか飲み込んだのを憶えている。
“化物!!”
・・・噫、嫌な事迄懐い出した。余計な所なんて忘れれば良いのに。
彼の時確か余りにも必死だったから、孤児が通り掛かっても気付かなかった。
彼の餓鬼が大声なんて出すから、こんな姿を知られれば此の街からも追い出されるって分かっていたから。
つい手に掛けたんだ。頸に咬み付いて、無理矢理声帯を潰して、引き裂いた。
其の時の見開かれた儘になった少年の目の渇いていた事、其の刺さる様な冷たさを憶えている。
・・・そして其の少年も又、大して美味しくなかったのを・・・憶えているんだ。
色々と懐い出してしまって自分の視線が下がるも、アティスレイは変わらず微笑んでいた。
「前世の事、何処迄憶えているの?其とももう全て懐い出した?」
「全てじゃない。本当に断片丈。然うだった気がする程度だ。・・・御前は私の過去を知っているのか?」
「えぇ、粗全て。私と出逢って・・・出逢ってって言うか然うね。貴方に憑り付いてからは全て知ってるわ。」
矢っ張り。此奴は前世の自分と接点があるんだ。自分の過去がこんな近くにある。
「前世でも斯うして御茶をしたりしたのか?御前と。」
「私が生まれたのは最近よ。貴方が陰をくれた時だからしていないわ。話す事も出来なかったから。いや、逆に今話せるのが奇跡なんだけど、私としては懐い出して欲しいけれども、でも無理強いはしないわ。私は貴方の意見を尊重したい。」
「然うか。で、恐らく其の前世の事も話せないんだよな。」
「えぇ。御免なさい。抑私、話すの下手だから、私の主観が入ってもいけないし、上手く伝えられる自信が無いの。此の口調だって貴方の友達のを真似してる丈だから。寧ろ話さない方が良いと思うわ。」
「然うだな。分かった。・・・話は其の位、かな。」
もう十分な頃合いだろう。寧ろ長居し過ぎた感もある。
此以上茶も菓子も食べる余裕がないし、情報収集も十分だろう。
「然うね。病み上がりなのに邪魔して御免なさい。しっかり休んで頂戴。無理はしないでね。私此でも心配してるのよ。貴方は昔から無茶を仕勝ちだから。其を誰にも言わないで抱え込んじゃうし。・・・元気になって本当良かった。貴方の未来に祝福を願うわ。」
「えと・・・まぁ有難う。気に掛けてくれて。じゃあ・・・又、な。」
何て優しく甘い事を言ってくれるのか。此の彼女が途轍もないサディストでサイコパスだなんて考えられない。
本当に此の彼女と彼の彼女は同じアティスレイでも全く別の存在なのだろう。
自分が席を立つとアティスレイも直ぐ立って胸元で手を控え目に振った。
途端に其の姿が、景色がぼやける。
「噫然う言えば前の貴方、冥くて美しくて素敵だったわ。若し又如何しようもなく殺したくなったり、壊したくなったりしたらあんな黔い影より、私を呼んで頂戴。迚も素敵な事が起こるから。」
反響する様に其の声丈が耳に残り、意識が薄れて行く。
素敵な事が何なのか何となく想像出来たので絶対に呼ぶまいと誓って、絳い夢はやっと終わりを告げた。
・・・・・
・・・緩りと目を開ける。
上体を少し起こして伸びと共に波紋を広げてピタリと固まってしまう。
ガルダが居た。ベッドの直ぐ横に座ってじっと此方を見詰めていた。
ち、近い近い、敵襲かと思った。
目が醒める迄隣に居てくれたのだろうか。
「っセレ、」
詰まる様な声がか細く漏れ、耳を傾けると見てはいけない物が目に入った。
其は迚も明るくて温かくて。
然う。部屋の窓掛が開け放たれて燦々と陽が入っていたのだ。
律儀に晁に起きてしまったらしい。ガルダが陰になってくれていた御蔭で腐らずに済んだ様だ。
だがガルダが上体を動かした事で一気に陽光が近付く。
恐怖が一瞬で這い登って来て思わずセレは毛布を手繰り寄せて被って丸まってしまった。
「えぇ!?ちょっ、セレ、そんな拒絶しないでくれよ!勝手に部屋に入ったのは悪かったけど、此には理由があって・・・、」
言い乍らガルダが毛布を引っ張って来る。
―ま、待ってくれガルダ!窓を、窓掛を閉めてくれ!直ぐに!―
早くしないと毛布が自分の爪で裂けるか剥がされてしまう。然うならば即死だ。然も永久の死だ。
声が籠っては困るので珍しくテレパシーを使ったが、如何にかガルダには届いた様だった。良かった。下手したら良く聞こえないって事で無理矢理引き剥がされるかと心配だったんだ。
「え、窓掛?一寸待ってろよ。直ぐ閉めるから。」
怪訝そうな声が漏れた後、窓掛が閉まった音がする。
波紋を十分に放った後にそろそろと毛布から顔を出すときっちり窓掛は閉められていたので安心してセレは毛布から這い出た。
身震いをして翼を伸ばす。如何やら自分は彼の紫水精の次元から帰った直後にアティスレイの夢に入ったらしい。多分部屋にはガルダが運んでくれたんだろう。
「此で良いか・・・?セレ、大丈夫、だったんだよな。もう何処も痛くないか?ちゃんと元気になったのか?」
ガルダが詰め寄る様近付いて来た。思わず下がりそうになるが何とか堪える。
其丈彼を心配させてしまったと言う事なのだから、ちゃんと安心させないと。彼にこんな顔、させちゃ駄目だ。
「うん、御早うガルダ。もうすっかり大丈夫だ。あの・・・一寸形が変わってしまったが、元気だよ、私は。」
もう姿を晒してしまっているから、ある程度の変化にガルダも気付いたのだろう。
ガルダは僅かに口を歪ませて、少し潤った目で自分を見詰めていた。
そっと手が伸びて漆黔に覆われた左の頬に触れる。鱗が刺さらない様気を遣って、其の儘髪を撫でた。
僅かに目を伏せると突然ガルダが自分に抱き付いて来た。
完全に攻撃かと思い込んでしまって尾が持ち上げられるが、直ぐ宥めて床へ下ろす。
背中に手が回っているけれども恐くはなくて、胸元に顔を埋める形になったけれども、ガルダは迚も温かいから少し微睡んでしまう。
ガルダは良く自分に躊躇なく触れるけれども、其は自分にとって少なからず新鮮だった。
温かくて、柔らかくて、不思議と迚も安心してしまって、つい甘えそうになる。
ゴロゴロと喉が鳴ってしまうけれども別に止めようとも思わなかった。代わりに頬を擦り寄せた。
こんな触れた丈で傷付く様な化物に、彼丈は素手で触れてくれた。
ガルダの手が緩りと銀髪を撫でるが、されるが儘にする事にした。抵抗する理由なんてある筈ない。
「良かった、本当に。御前が元気になって。ずっと心配だったんだ。でも俺、何にも出来なくて。御免、御免なセレ。俺が如何にかするって言ったのに、俺只待ってる丈で、」
「反対だガルダ。ガルダが待っていてくれたから私は帰って来られたんだ。待っている丈なんて事はない。もう十分過ぎる事を御前はしてくれているよ。想ってくれる相手がいる丈で、私には過ぎた事なんだ。」
少し反省。こんなに彼を心配させていたのなら、治り次第帰る可きだった。
何と言うか・・・むず痒い。こんな気持、初めてかも知れない。温かくて、ふわふわして、息苦しい。
「俺も然う言って貰えたら救われるよ、有難うセレ。」
「ん、んん、然うか。どう致しまして、か?」
「ハハッ、いや、其は一寸おかしいだろ。・・・っと悪い悪い!行き成り抱き付いちゃって。」
慌ててガルダが身を引いてベッドの端に座る。自分は身震いをして畳んでいた翼を広げた。
「いや、気にしていない、丁度暖かかったし。」
「そ、然う言う物か?・・・でも然う言えば何をしたんだ?形が変わるなんて、然う無いだろ。」
「掻い摘んで言えば、丗闇の印を少し解いて、其の分増えた力を私の存在を残すのに使ったんだ。其に因って私の欠けていた所が補われて、成長したと言うか、形が変わったんだ。・・・若しかしたら少しずつ此からも変わるかも知れないんだが。」
「ふーん・・・?そんな事、出来るのか丗闇。一体どんな術を掛けたのか想像も出来ないけど、変わったのは其の顔と手足・・・位か?」
「後翼もだな。此処に爪が生えたんだ。」
翼を翻して見え易くする。此処に感覚があるのが未だ慣れないが、其の爪を動かす事は出来る。
「へぇーでも其の顔、良いな。仮面みたいで又綺麗になったし、オッドアイで然も銀なんて。良く似合ってると思うぜ。」
「っ!?な、何を言い出すんだガルダ!ま、まぁ有難う・・・。然う言って貰えたら・・・うん。」
不意打ちについ頬が赤く染まってしまう。いっその事右頬も黔くなっていれば照れていても分からなかったのに。
「あ・・・っ!え、ええっと、い、今の無し!あ、いや、あって良いけど、あ、えと・・・んんん・・・。」
ガルダが唸ったっきり思考停止しそうだったので話を振る事にする。何も報告するのは外見丈じゃあない。
「然うだ。あの、後レーザーが吐ける様になったんだ。」
「え。レーザーって彼の?御前性懲りもなく又吐いたのかよ。似合わないって其。そりゃあ命の危機だったりもあるだろうから必要に迫られれば、とは思うけどさ。」
「ん、自重しようとは・・・思っているけれど。でも然う言う体質になったんだ。其処は否定されると悲しいかな。もう術じゃなくて、自分の体内でレーザーが作られるんだ。」
「体質?神話のドラゴンが焔やブレスを吐ける様な物か?」
もう吃驚人間所じゃない。新種だ。此処迄特徴的な種なら居れば知って然うな物だけどなぁ・・・。
「ブレス・・・良いな、其。次から然う言おう。ビームだのレーザーだの、抑一寸違うし、餓鬼っぽいと思っていたんだ。未だブレスの方が恰好が付く。応用も効きそうだし。」
「然う言う問題なのか?で、結局ブレスが吐ける様になったと、然う言う事か?」
セレが無言で大口を開ける。すると黔い球体が精製され、激しく渦巻いて大きくなって行く。
「分かった!吐けるんだな!実演はしなくて良いから其仕舞えよ!」
家を吹っ飛ばす気か。流石にそんなの喰らったら俺の干渉力でも直せる気がしない。巧の出番だ。
セレは其の球体を弾けさせる事なく口を閉じて呑み込んだ。・・・リバースも出来るらしい。
「別に疲れる様な事じゃないからガルダが見たかったら見せるぞ?前の零星だって綺麗だと言ってくれたし、ブレスも屹度綺麗だぞ。」
「もう其散々見たし、綺麗って其、真っ更地になって綺麗って事だろ。懐い出を打っ壊すなよ。」
悪戯っぽく瞬くが、ちらっと出された二又の舌が機会を窺っている様で心做し恐怖を感じる。
いや、幾ら此奴でもそんな暴力的な事はしない筈・・・。DVと言うか家への暴力なんて只の暴れん坊だ。
「然うだ。後一つ大事な事があるんだった。陽光を浴びれなくなった。浴びたら其処が腐ってしまうんだ。一瞬でも酷い目に遭ったから気を付けないと。」
「ヴァンパイアやあやかしの類みたいな奴か?其って不味くないか?フードが取れたら死んじまうって事だろ。」
「然うだな。本当に、良く気を付けないと。」
そっか、其で先窓掛閉めてって言ったのか。危ない危ない。下手したら俺が止めを差す所だったのか。・・・笑えねぇ。
「じゃあ服を変えた方が良いよな。ってか然う言えば御前他の服は?」
「私が神に成ってから此迄、買物をした事があると思うか?」
「そりゃあ然うだな。んーじゃあせめて其のオーバーコート丈でも貸してくれよ。次迄にはちゃんと洗って解れが無いか見とくからさ。」
此奴、寝る時もずーっと其着てるもんなぁ。前世の習慣だろうし、御気に入りかも知れないけど。其に気が回らなかった俺も俺だけど、服位欲しいって言ってくれれば良かったのに。幾ら神だから風呂も洗濯も要らないって言われてもさ、嫌だろ其。
「いや、其位私でも出来る。まるで面倒臭がって其等をしなかった奴みたく扱わないでくれ。必要が無かった丈だ。」
「御前のやり方どうせ其の儘泉とかに飛び込むんだろ。俺がちゃんと洗濯してやるから貸せって。」
「泉じゃないぞ。洗濯なら滝でする。どうせ其処等にあるだろう。」
「はぁーもう。意地っ張りなのは変わんなかったのかよ。頼むから今回位は任せてくれよ。全快したって言われても未だ一応心配なんだよ。御前はもう一寸のんびりしてくれ。どうせ直ぐ仕事行くつもりだっただろ。」
「・・・・・。」
先と一変半目になって睨まれた。如何やら図星らしい。渋々セレはオーバーコートを脱ぐとそっとガルダに差し出した。
よし、此で此奴の脱走は防げた。流石に命綱無しじゃあ次元に行かないだろう。
「良ーし良い子だ。撫でてあげるから此方御出で。」
「グルル・・・。」
オーバーコートを受け取って手招きすると唸り声が帰って来た。結構恐い声だ。今にも咬み付きそう。
でも何だかそんな彼女を見ていると安心する。ちゃんと俺と話してくれて、反応してくれて、此処に居るんだって、実感出来るから。
だから来ないのも分かっていたし、此方から近付いてわしゃわしゃと撫でてやる事にした。
咬み付かれる事を覚悟の上でしたけれども意外と嫌ではなかったのか耳を下げて大人しくしている。
髪がぼさぼさになっても気にしていない様だったので最後に軽く整えた。
「じゃ早速洗って来るか。じゃあな、セレ。起きて直ぐ邪魔して悪かってな。」
「別に。私もその・・・心配掛けて悪かった。」
「そんな事、でも良かったよ。今回は本当に。其で良いだろ。」
扉を開けて名残惜しそうにガルダが振り返る。
本の少し丈セレが微笑し、頷いたのを認めると其の儘ガルダは部屋を出て行った。
「じゃあ散歩にでも行こうかな。」
―清々しい自殺だな。―
即駄目出しが入った。今回の夢には出て来なかったけれども丗闇もぐっすり眠っていたのだろう。色々と、疲れただろうし。
「いや、オーバーコートが無いから次元には行かない様気を付けたんだぞ。自殺は冗談でもしない。」
―冗談でする物でも抑ないが、こんな散歩日和に何処へ行くつもりだ。―
「リュウの所だ。御無沙汰していたし、龍達とも会って置こうかと思って。つまりは休暇だ。」
モフモフの楽園だ。道は分からないけれども干渉力で如何にか上手い事行くだろう。今迄の龍達が帰る所も見ているし、大体見当は付いている。何より自分はモファンター。モフモフへの愛があれば行けない筈がない。
「日傘でも作って行くつもりだ。私の魔力なら簡単だろう?」
―然うか。・・・では我は残る。―
「ん?丗闇、其は一体・・・、」
突然闇が立ち籠めて丗闇を象る。
珍しく顕現した丗闇は其の儘椅子に腰掛けた。
今一行動が読めなくて困惑してしまう。
「丗闇、私の部屋に居るのか?私は別に構わないけれども、距離が空くのに大丈夫なのか?」
確か丗闇は余り自分から離れられない筈。顕現しているのだって力を使うって言っていたのに如何言う風の吹き回しだろう。留守番って訳じゃないだろうし。
「次元の迫間は距離の概念も曖昧な所だ。御前が何処に行こうが問題ない。」
「然うなのか。・・・分かった。じゃあ行ってくる。」
如何も訳は教えてくれないらしい。まぁ偶には別行動をしたいとか、一柱になりたいとか言った所なのだろう。胸に変な穴が空いた様で自分はむず痒いけれど仕方ない。
セレは軽く手を振ると其の儘いそいそと外へ出て行った。
・・・・・
「矢っ張り・・・か。おーい、久し振りだな。」
真黔の大き目な日傘をクルクルと回し、鼻唄を詠い乍ら宛所もなくセレが歩いていると、見覚えのある大きな背中が目に付いた。
―噫貴殿カ。本当ニ又会エルトハ。ヨモヤ私ヲ追ッタ訳デハナイダロウナ。―
首を廻らせたのは彼の銀の鎧を纏った獅子だった。半身が傷だらけで、もう半身は鋭く光る鎧に覆われている。
彼は別段何かをしていた訳ではないらしく、吹き曝しの荒野に寝そべっていた。其の視線の先には蒼と皓の小さな華が集って出来た華畠があった。
「まさか。本当に偶然だ。私こそこんな好都合なタイミングで会えるなんて。運命なんて物を信じてしまいそうだ。私は散歩の途中だけれども、何をしていたんだ?華でも見ていたのか?」
そっと隣に座ると見降ろしていた彼の隻眼が穏やかになり、微笑を湛えていた。
話し易い様彼はもっと首を下ろしてセレを見遣った。
―然ウダ。可憐ナ華ダッタノデツイ見惚レテイタノダ。―
「じゃあもう少し近付けば良いのに。そんな遠慮する事ないだろう。」
―其ガ・・・出来ナイノダ。私ハ丗ニ退ケラレタ者ダカラ私ガ近付ケバ彼ノ華達ハ立チ所ニ枯レテシマウ。華ハ逃ゲラレナイカラナ。―
少し諦めの混ざった声音に思わずセレは彼の顔を見詰めた。寂しそうな瞳が金色に暮れる。
「約束、していたよな。三回会えば名前を教えてくれるって。御前は一体誰なんだ。」
―然ウダナ。約束ダ。約束ヲ果タシタノモ、名ヲ名乗ルノモ何テ久方振リナ事カ・・・。躊躇ッタ割ニハ大シタ名デハナイノダガナ。忌避為可キ名ダッタカラ。―
彼は一度目を閉じ、緩りと口を開いた。
―私ハ・・・銀騎獅(ギンキシ)。然ウ同族カラ呼バレテイル。元ノ名ハモウ忘レテシマッタカラナ。―
「銀騎獅か。綺麗な名だな。私は次元龍屋の店主、セレ・ハクリューだ。今更だけれども宜しく。」
セレが左手を出すと銀騎獅もそろそろと左前脚を上げた。其の足をセレは両手でそっと掴んで離した。鎧の足なら自分だって触れられる。
―綴ル者カ、良キ名ダナ。貴殿ノ事ハセレト呼ンデモ?―
「勿論。其の為に名乗ったんだ。でも綴る者って如何言う意味だ?何か知ってるのか?」
思ってもいなかった返答に思わずセレは銀騎獅に詰め寄った。
―意味モ何モ然ウ言ウ言葉ガアル事ヲ私ガ知ッテイル丈ダ。遥カ遠イ地ノ古語トシテ。只此ハ飽ク迄モ偶然ダロウ。屹度貴殿ハ又別ノ意味ガアルノダカラ。―
「別の・・・。あるのかな、そんな物。」
此の名前はガルダがくれた物だ。迚もしっくりしたから余り気にしていなかったけれども。・・・意味なんて、あるのかな。
響きが良いからだとか、そんな所だと思っていたけれども。
「まぁ其は今は良いな。其より同族って言うのは?御前の仲間なんだよな。」
―私達ハガイ、ト呼バレテイル。―
「ガイ、初めて聞いたな。次元の者と神と龍、其以外にも居たのか。」
―初メテデモ無理ハナイ。其ハ忌ミ名ダカラナ。抑此ノ世界ノ存在デハナイノダ。―
「世界・・・?次元とかじゃなくてか?」
―次元ヨリモモット大キナ物ダ。此ノ世界ハクリエーターダッタカ。彼女ガ創ッタソウダナ。ツマリ私ハ更ニ其ノ外側カラ来タンダ。―
「外、そんな物が。じゃあ本当の世界はもっとずっと大きいのか。此の世界がちっぽけに思える程に。」
―噫本当ニ世界ハ広イゾ。私モ本当ニ色ンナ世界ヲ見テ来タカラナ。―
「然うか・・・。でもじゃあ何で此の世界に?元の世界から如何して出て来たんだ?」
抑如何やって出るかも不明だけれども。何か途轍もない話になって来た。
―其ハ私達一族ノ事ヲモウ少シ話サナイトイケナイナ。ガイトハ抑、一定ノ者達ヲ指スノデアッテ、血族デハナイノダ。此ノ世界ハ割ト安定シテイルガ、外ノ世界ハ皆ガ皆ソウデモナイ。不安定ナ世界モアルノダ。然ウ言ウ所ハ時ニ世界ニ穴ガ空ク。ソシテ穴カラ落チテシマッタ者ハ其ノ世界ヲ出テシマウノダ。―
世界から落ちる。其は如何言う意味だろう。どんな感じなのだろう。想像も出来ない話に黙って聞く事しか出来ない。・・・彼が必死に隠していた理由も少し分かる気がした。
俄に信じ難い話、理解されない話。そして世界に関わる話は、真理に近付く話は何時だって禁忌とされている。・・・知らない方が良い事もある。そんな所か。
私にとっては一概に然うとも言えないけれども。
―世界カラ零レ落チタ者ハ其ノ儘元ノ世界ニ戻レズ、彷徨ウ者ガ多イ。ソシテ其ノ状態ガ長引イタリ、死ンデシマッタリ、破壊サレタリスルト、ツマリ己ノ存在ガ希薄ニナッテシマウト、其処ニ歪ミガ生ジル。スルト姿ガ変貌シテ・・・ガイニナッテシマウノダ。―
「成程・・・少し整理させてくれ。因みに世界の外って如何なっているんだ?何か名称があるのか?」
―カナタ・・・ト呼ブ者ハイルナ。何トモ形容出来ナイ所ダカラナ。行ッタ者ニ因ッテ景色ガ変ワルノダ。玻璃ノ塔ダッタリ、零星旻ダッタリ、水精ノ檻ダッタリ、私モ何度モ行ッテイルガ説明ガ難シイナ・・・。―
「何だか此処、次元の迫間と少し似てるな。でも御前は此の世界で良く会うが、若しかして色んな世界を旅しているのか?元の世界を捜しているとか。」
―然ウダナ、色ンナ世界ニ行ッテイル。最近此処ガ居心地良イカラ長居シテイルガ。元ノ世界モ捜シテハイルノダガ、其ヨリ私達ハ逃ゲ続ケナイトイケナイノダ。ガイハ世界ヲ歪マセル。其ノ為何ノ世界ニ居テモ避ケラレル。追イ払ワレルカ下手スレバ其ノ世界ノ者ニ殺サレテシマウノダ。デモ世界ノ外ニ居続ケルノハ苦痛ナノダ。変化ノナイ永遠ハ耐エ難イ苦痛ダ。―
世界に避けられる者。つまりは然う言う事か。でも何だか不憫だな。好きでガイなんかになった訳じゃないだろうに。避けられる辛さは・・・分かる。向けられた殺意の冷たさも、向けられる冥い瞳も、大っ嫌いだ。
―大概ノガイハ自分ノ本来ノ姿ヲ忘レテシマウ。ダカラ元ノ世界モ中々見付ケラレナイ。・・・見付ケタトシテモモウ戻レナイガ。ソシテ大抵ノ奴ガ不老トナル。消エル可キ所ガナイ故ニ。其ノ為常ニ世界ヲ移動シ続ケテ生キ永ラエテイルノダ。私ハズット捜シテイル・・・。私ハ、一人ノ女性ト一緒ニ世界ノ外、カナタヘ行ッテシマッタノダ。彼女ヲ捜サナイトイケナイノダ。―
「聞けば聞く程、まるで此の世界だな。私達神と少し、似ているな。」
項垂れる銀騎獅の足にそっと触れた。
本当に似ている。所々が。
まるで神の真の姿が彼等ガイみたいじゃないか。世界に縛られ、永遠に廻る奴隷として。
虚しい。何て悲しい話だろう。
屹度彼自身、分かっているのだろう。彼は永く生きていると言っていた。ずっと彼女を捜していると。
・・・屹度彼女も、ガイになってしまっているのだろうに。若し運が良ければ元の世界に帰っているかも知れないが、彼女が彼を見てちゃんと彼と分かるだろうか。避けられてしまうのではないだろうか。世界と同じ様に。又若し彼女もガイとなっていれば互いが互いを分からず彷徨い続けるのだろう。然も此は全て今も彼女が生きていればの話なのだ。
―然ウダナ。私モ此ノ世界ニ来テカラ思ッテイタノダ。此ノ世界ノ仕組ミハ実ニカナタト似テイル。若シカシタラ此ノ世界ノクリエーターハカナタカラ来タノカモ知レナイナ。私達ノ事モ知ッテイタノカモ知レナイ。其ノ上デコンナニモ安定シタ世界ヲ創ッタノダ。此処ハ・・・穴ガ非常ニ少ナイ。ソシテ今ハクリエーターハ不在ナノダロウナ。世界ノ意思モ働イテイナイ。御蔭デ追イ出サレル事モ無クテ、御負ケニ貴殿モ居ル。私ニトッテ此処ハ楽園ノ様ナノダ。―
「クリエーターは・・・もうずっと昔に死んでいる。だから此の世界にずっと居ても追い出される事はないだろう。」
―然ウナノカ。其ハ・・・残念ダッタナ。嘸聡明ナ方ダッタノダロウ。此ノ世界ハ何トナク、柔ラカクテ温カイ。クリエーターノ愛ニ満チ溢レテイル気ガスルノダ。―
「愛に?吐き気がするな。私はずっと此の世界に居るけれどもそんなの、些とも感じた事が無い。ずっと息苦しいよ。苛々して耳鳴りが止まないんだ。だって私は此の世界に嫌われているんだから。」
銀騎獅が静かにセレを見詰めた。澄んだ金の瞳が淡く揺れる。
―ガイトハ、死骸カラトモ、外ノ者、害ヲ与エル者カラ然ウ名付ケラレタトモ言ワレテイル。貴殿ハ世界ニ嫌ワレタ者ナノカ。私ト貴殿ハ少シ似テイル気ガスルノダ。私モ、貴殿ノ事ガ知リタイ。聞カセテハ貰エナイカ。―
「聞いたら、後悔するかも知れないぞ。こんな世界の事に首を突っ込む必要はないんだ。」
―世界ジャナイ。貴殿ダカラ首ヲ突ッ込ムノダ。貴殿ト話ヲシタイ。―
「・・・分かった。じゃあ話をしようか。」
見上げたセレの瞳が透明に揺れ、黔く苛烈に煌めいた。
・・・・・
「おーいセレ、一寸良いかー。」
言い乍らガルダが扉を開けると当の本神はおらず、代りと言うか何と言うか丗闇が居た。
椅子に腰掛けて、何か食べている途中だった。
彼の絳い実、どっかで見た事がある気がする。・・・うーん、如何だったっけ。
丗闇はもう半分程其を食べていた所だったのだが、扉の前で固まったガルダに胡乱気な目を向けた。
本の一瞬、俺が入って来た直後は幸せそうな顔をしていた気がするけれども、俺の錯覚らしい。
「・・・御前はノックと言う礼儀すら弁えないのか。」
「ご、御免なさい。」
やばい。滅茶苦茶怒ってる・・・。丗闇の背後にゴゴゴゴゴ、と言う効果音が付きそうな程御立腹だ。
行き成り部屋に入ったのは悪かったけど、でも抑此処はセレの部屋で・・・否、其処じゃないのかな。
然う言えば女性の食事中は見ない事がマナーとか聞いた事がある。どっかの次元のマナーの一つなんだし、其の位、と思ったんだけどもなぁ。
ってか抑丗闇って女か?多分違うよな。見た目がセレそっくりな丈で。あ、セレも女じゃないのか。
・・・何か複雑だなぁ。
取り敢えず今は丗闇の虫の居所が悪いらしい。セレも居ない様だし、別に此処に用事は・・・。
「って何でセレ居ないんだ!?」
「煩い黙れ。」
静かに怒られた。
大人しく黙ると一つ嘆息して意外にも丗闇は答えてくれた。
「・・・彼奴は散歩に行った。龍族に会いに行ったらしい。」
「散歩?こんな天気なのにか?」
オーバーコート剥ぎ取った意味無いじゃん・・・。
「彼の馬鹿の考えは分からん。只少なくとも次元には行っていない。日傘を創って行ったのだから然う気にする事も無いだろう。」
「あ、然うなんだ。ふーん・・・。」
此奴、セレの事馬鹿呼ばわりしやがった。
諫めたいけどでも言いたい事も分かるから大人しくするしかない。
「じゃあまぁ良いかな。御免な丗闇。邪魔したな、俺戻るわ。」
「いや、待て、我も丁度御前に話がある。其処で待ってろ。」
「え?俺にか?・・・分かった。」
じゃあ何で先あんなに怒ったんだよ。丁度良かったんじゃん。俺怒られ損だよ。
仕方がないのでベッドに腰掛けると丗闇は手に残っていた果実をさっさと食べ終え、又半目でガルダを見た。
「・・・後奴には言うな。我が食べていた事は。」
「え?何で・・・あ、いや、分かった。」
聞いた途端キッと睨まれたので大人しく従う事にした。
彼奴って多分セレだよな。・・・何でなんだ本当に。
ってか其の木の実何処で貰ったんだろう。拾ったって事はないだろうし、盗んでもないよな。
だが丗闇は未だ思う事があったらしく暫く視線を彷徨わせていた。
俺は又何か言われない様小さくなる丈だ。
「・・・いや、其は良くないな。黙るのは止めだ。彼奴に・・・その、美味しかったと丈伝えてくれ。」
「?何でそんなん俺が言うんだよ。丗闇の方がセレと居るんだから直接言うか今でもレテパシーを使えば・・・。」
又丗闇に睨まれた。何で此奴こんなに不機嫌なんだよ。美味しかったんなら機嫌直せよ。
何か此奴も此奴で面倒臭い性格してるなぁ・・・。セレの場合は手が掛かるんだけど。
だって普通外出るか?先窓掛閉めてって滅茶怯えていたじゃん。何で自ら其が燦々と降り頻る所へ行ったんだよ。彼奴はじっとするって事を知らないのか。
「はぁ、分かった分かった。言って置くからさ。俺に話って何だよ。」
「御前には話す可きだと思ったからだ。我が先刻彼奴に何をしたか、御前は我の命令通り彼奴を一柱で次元へ行かせてくれた。其ならば我もちゃんと報告をする義務があると思った迄だ。」
「あ、話してくれるのか?其は助かるけど。」
セレから凡そな概要は聞いてるけど、まぁ其でも何かふわふわした話だったし、丗闇から改めて話してくれるなら聞かない手はない。
意外と律義な奴なんだな。只の気難しい神かと思ってたけど。
ガルダが居住まいを正して丗闇に向き直ると丗闇も一度首を振って髪を直し、話し始めてくれた。
・・・・・
「・・・んー成程な。一応話は分かった。セレが助かった訳も、彼奴の変化も。」
足を組んで一つガルダは息を付いた。
セレを救う方法、其は其の存在を肯定する事。其が分かっていても具体的な方法迄は分からなかった。でも其こそが具体的方法だったらしく、事実丗闇は其を遣って除けた。
「でも存在の肯定って本当如何するんだ?俺でも出来る物なのか?若し又セレがあんな事になったら俺・・・。」
「出来なくもないが、御前では殆ど望みは薄い。言ってしまえば御前が彼奴を想う時点で其は肯定になる。だが其丈では全く足りなかったのだろう。」
「俺じゃあ最初から役不足って事かよ。・・・はぁ、あんな大見得切って此の様なんてな。」
「・・・我は抑闇だ。世界に蔓延る闇が具現化したのが我、丗闇漆黎龍と言う神だ。つまり闇こそが我の存在。我が彼奴に己の一部を分け与える事で肯定した。つまりは然う言う事だ。見えない想いよりも魔力として存在する闇の方が存在感があるのは当然だ。此が出来るのは我の様な自然の化身でなければ難しいだろう。」
「若しかして慰めてくれているのか?」
話してくれている時も思っていたけど、こんな喋る奴だったなんて。其に何より先の言葉、俺を気遣って言ってくれた様な気がしてならない。
「思い上がるな。つまりは御前の精進が足りなかったと言う事だ。二柱して腑抜けにも程がある。彼奴の盾になりたいなら其の無駄な生命力を分け与えられる位力を付けろ。」
「うぐぅ・・・全く以って其の通り、だな。」
すんげー駄目出しされた・・・一寸凹む。正論って言われると斯う、来るよなぁ。良くセレ、ずっと一緒に居られるよなぁ・・・。
「ん、あ、然う言う事か。俺がセレに血を又飲ませたら良いって事か?然うしたら俺の生命力、其の儘彼奴に行くよな。」
「其は却下だ。デメリットが多過ぎる。其は控えろと前も言った筈だ。」
「何だよ・・・。じゃあ若しかして俺自身が光に成れる位干渉力上げろって事か?其は無理だぜ。そんなのなれっこない。其に出来たとしてもセレはもう光が駄目なんだろ。俺がセレに光を分けたらセレ死んじゃうじゃないか。」
「む・・・然うだな。・・・済まない。先の発言を一部取り消す。軽率な事を言った。若し又次同じ様な事になれば止事無いが我がしても致し方ないだろう。」
まさか揚げ足を取れるなんて思ってなかった。珍しい・・・よな。何か俺の言った事、気に障ったから急いで反撃して来たのか?
「一寸話変わるけど、思ったんだけどさ、御前は闇の化身なんだろ。俺創世記とか然う言うの、余り詳しくないから良く分かんないんだけどさ、然う言うのって、初めから神として生まれるもんじゃないのか?だって御前、セレに印される前の記憶、無いんだろ。其が単に記憶喪失なのか、セレと一緒に神となったのかは知らないけど、御前が現れる迄はじゃあ誰が闇の化身だったんだ?居なかったって事はないだろ多分。一杯居るってのも一寸考え難いし。」
「其は・・・我自身はっきりしない。確かに憶えているのは黔日夢の次元の辺りの頃からだ。古から世界を闇として見ていた様な・・・記憶もある。其の時は意識や自我なんて無かったかも知れないが。でも我にも前世があった筈だ。・・・屹度あった筈なのだ。懐い出せない丈で。」
でないと此の喪失感を説明出来ない。失ったんだ。否、奪われたんだ。大切な物を沢山。本当に沢山。其が前世でなければ何て言うんだ。
・・・時々掠める記憶はあるが、彼は彼奴の記憶が我にも流れ込んでいる丈だろう。
然う、我の元になった誰かが居た筈だ。でないと此の姿も良く分からないくなる。
彼奴を模した物と思いきや、彼奴には無い傷跡が幾つもあるし、髪の色だって違う。此こそが我の前世の証だったのではないか。唯一残っている・・・証。
分からない事が多過ぎる。推測する事すら憚れる状態だ。今の我には如何する事も出来ない。
「そっか・・・何も分かんないのって大変だよな。」
上手い言葉が見付からない。俺も鎮魂の卒塔婆で神として目醒めた時、何も分からなかった。
だから俺も其の気持が分かるのに。何て声を掛ければ良いか、想像も出来ない。
本当駄目だなぁ俺。聞く丈聞いて此の様かよ。こんな良くある一言しか、薄っぺらい言葉しか言えないのかよ。
俺は丗闇を一寸誤解していた。敵と迄は行かなくても味方とは思っていなかった。でも実際丗闇はセレを助けた。此奴が手を貸さなければ、セレは死んでいた。
分かってるんだけど、直ぐには納得出来なくて。・・・いじいじして嫌なのにさ。
「・・・御前には関係の無い話だったな。忘れろ。」
そんな言葉が丗闇に届く訳なくて、あっさり拒絶されてしまった。
・・・今のは俺が悪い。斯う言う所が気が利かないって言われるんだよなぁ・・・。
「そっか・・・。じゃあ俺、戻るよ。話してくれて有難な、丗闇。」
「当然の事をした迄だ。礼等言うな。」
又睨まれてしまった。・・・可愛くない奴。何で其処迄突慳貪なんだろ。如何したら素直に受け取ってくれるんだ。
ガルダはベッドから立ち上がり、一つ伸びをした。ちらと丗闇を見遣って、纏っているオーバーコートに目が行った。
「然う言えば御前の服って、セレと同じなのか?」
「藪から棒に何だ。此は我が初めから着ていた物だ。確かに彼奴と良く似ているが、其は奴の姿を我が模したからだろう。」
「ふーん。じゃあ着替えたり脱いだり出来るのか?」
「・・・其は如何言うつもりで御前は言っている。」
「え?あ、い、いや別に下心とか然う言うの無いからな!一寸した興味だって。」
「余り良い興味とは言えないな。」
噫不機嫌にさせてしまった。其の半目、眼光鋭くって苦手なのに。何で斯う考え無しに言っちゃったんだろう。
「着替えたりは出来る。・・・此で満足か。さっさと去ね。」
「ご、御免って。じゃ、じゃあな。」
一応情報は得られたのでいそいそとガルダは部屋を出たのだった。
・・・・・
「今日は本当に御前に会えて良かったよ。」
―私コソ。何と礼ヲ言エバ良イ物カ・・・。有難ウ、本当ニ。何カアッタ時ニハ必ズ貴殿ノ力ニナロウ。呼ンデクレレバ何時デモ貴殿ノ声ハ届クダロウ。―
「そんな大袈裟な。でも此方こそ宜しく。・・・さて、そろそろ私は行かないと。」
―噫名残惜シイガ仕方ナイナ。因ミニ何処ヘ行クツモリナンダ?―
「知ってるかな・・・?龍族が沢山居る所、龍の番神の家だ。一寸遊びに行こうと思ってな。多分此方を真直ぐ行けば着くと思うんだ。」
今は未だ何も見えないけれど、何となくそんな気がする。
セレが日傘をくるりと回すと銀騎獅は首を傾けた。
―本当ニ其デ大丈夫カ?案内ハ出来ナイガ・・・。―
「大丈夫大丈夫。いざとなったら飛べば良いんだ。御前はもう一寸華でも見ていると良い。折角なんだから。」
―然ウカ。有難ウ。デハ然ウサセテ貰ウゾ。又逢オウ、セレ。―
「噫、又な、銀騎獅。」
当て処もなく歩き出した彼女を、華畠の中心で銀騎獅は何時迄も見送るのだった。
・・・・・
「ん、誰だろう。」
机の上で転寝をしている月冠龍を突いて遊んでいたリュウは不図したノックの音に顔を上げた。
珍しい、僕の家に来客だなんて。
龍の誰かかな。大人しい子とか引っ込み思案の子、一杯居るし。
リュウが席を立つと月冠龍は目を覚ました。そして扉の方を見遣ってパタパタと尾を振る。
月冠龍が歓迎するなんてもっと珍しい。一体誰なんだろうと思いを馳せてリュウが扉を開けると其処にはセレが居た。
「今日は、リュウ。急な来訪で済まないな。一寸龍達の顔が見たくなって来たんだが。」
「あ、セレ!今日は!まさかこんな所に来て頂いて有難う御座います!あ、遠慮しないで。どうぞ入って下さい。」
「噫邪魔するぞ。でも龍達は如何したら良いんだ?皆で入る訳には行かないよな。」
セレが振り返ると如何やら沢山の龍が出迎えてくれていた様だ。一寸したパレードみたいに龍達が並んでいる。中々珍しい光景だ。
「わぁ凄い。皆来ちゃったんだ・・・。えーっと・・・入れる子は勿論入っても良いんだけど、一寸待って下さいね。」
取り敢えず中に入ったセレはちらと波紋を飛ばしてみる。
リュウの家は結構面白い造りだった。
取り敢えず此処迄は来られたのだが、此の家付近は同じ次元の迫間と言っても特に変化に富んでいた。
恐らく色んな龍が近くに棲んでいるからもあるのだろうが、火山や泉、瀧や切り立った崖等と、一寸した世界ツアーでもして来た気分だった。
そしてリュウの家自体は其の蕭森の中にあった。複数の碧樹が絡まり合い、一部煉瓦と合わさって一つの建物を形成していた。其の建物も何と言うか形が曖昧で、造り掛けと言った風だった。
迚も大きな教会の様で、中心に鐘楼の様な塔があるが穴だらけで、四階建ての様だが大きく壁が穿たれた所もある。
リュウ一柱で住むには余りにも大き過ぎる。今家に入れて貰って分かったが、矢張り家具等が集中しているのは今通して貰った此の居間の様だ。相当空き部屋があるのだろう。
「樹来。」
リュウが唱えると壁が大きく揺れ、碧樹が捩じれて大きな穴が開く。其処から続々と龍達が入って来た。他にも旻を飛べる者は窓や塔から、其でも大き過ぎる者は大きな穴から顔丈を覗かせたりした。
あっと言う間に龍達に埋め尽くされ、足の踏み場が無くなる。其の所為でセレは椅子に座る事を余儀なくされ、リュウも其の向かいに腰掛けた。
「皆出迎え有難う。でもこんな、来た丈で歓迎されると照れるな。」
少し罰が悪そうにセレが笑うと机で待機していた月冠龍が直ぐ様其の膝の上へ移動した。
「皆好きでやっているのだ。其方が然う気にする事でもなかろう。会いたかったのだセレ。」
「私もだよ。来て良かった。」
そっと撫でると月冠龍は静かに目を瞑った。
向かいの席でリュウも楽しそうに微笑んでいる。
何だ此の素敵空間。此処は天国か。其とも自分はもう直ぐ死ぬのだろうか。
良いなぁ、此処ずっと居たい。此処住みたい。
「じゃあ僕、御茶注いでくるのでどうぞセレは寛いで下さい。」
リュウは席を立つと犇き合っている龍達の間を縫う様にして何とか進んで行った。
今晁アティスレイとの素敵な御茶会の夢を見た許りなので多少複雑な気持なのだが・・・まぁ大丈夫だろう。
「フィヨョヨ!」
「ん、噫ヒョウか。久し振りだな。」
「まさか汝から来てくれるとは。歓迎するぞセレよ。」
上階の窓から顔丈を突っ込んでヒョウが此方を見る。留まっている碧樹が今にも折れそうだが大丈夫だろうか。何気に滅茶苦茶羽搏いている所を見るに、大丈夫ではなさそうだけれど。
「あふ・・・あ、貴方はセレさん。良くいらっしゃいました。」
リュウのベッドからのそりと這い出たのは月ノ猫だった。
「噫久しいな月ノ猫。只済まない。未だ御前が棲むのに良さそうな所は見付けられていないんだ。」
「そんな事。別に催促も何もしませんよ。ふぁあ・・・私からしたら寝て覚めたら又貴方が居た。そんな感覚なのですからのんびりして下さい。然う都合の良い所、あるとも思っていませんし。あふ、其より今回は翼、出さないんですか?」
「然う言ってくれると助かるな。翼は・・・然うだな、出しとくか。」
驕陽に焼けてちょん切れるのが恐くて出していなかったけれども、室内なら大丈夫だろう。
尾や翼を出すと甲がそり立つ様に生えて左面が覆われる。瞳の色が変わると月ノ猫が一つ喉を鳴らした。
「氷鏡色の瞳。私、好きですよ其。何だか又匂が変わった気もしますし。」
月ノ猫が行き成り翼に甘噛みして来たので思わずセレの背が伸びる。彼を撫でたいのだが膝に居る月冠龍も温かいし、周りに他の龍も居るしと、まさかモフモフに溢れて手が足りなくなる事があるなんて何て幸せなんだ。此の翼にある手で撫でられないかなぁ・・・。でも此爪が本当に長いから怪我しそうだな・・・。
「グーキュルキュル。」
思案していると一頭の龍が机に頭を乗せてセレを見遣っていた。
全長2m程の群青色の龍で、大蜥蜴の頭や肩に当て物が、背と尾に玻璃の様な物が備わっている。前足は細く棘が多い。肩の当て物は一枚の大きな金属板を折り曲げたかの様な作りで、背の玻璃はまるで棘か翼の様だ。
其の龍は淡水色の瞳で何か期待しているのか嬉しそうにじっと此方を見詰めていた。
「ザッキングルスか。初めて会うな。私はセレだ。御前達龍族を捜す依頼を受けているんだ。次元龍屋って所の所属なんだが。」
自分の名が呼ばれた途端、ザッキングルスが嬉しそうに尾を振って返した。相変わらずニコニコしているのが何とも言えず愛らしかったのでそっと左手を伸ばして長く尖る耳辺りを撫でた。
ザッキングルスは聖属性の龍で、余り人前には姿を現さないが、良く人に慣れると言われている。
「キュルキュルルル・・・。」
堅くてごつごつしているのが少し残念だが、でも幸せそうに目を瞑る彼を見ていると此方も癒される。後声が可愛い。
「・・・ん?」
自分の床に投げていた尾を突っ突く龍が居た。逆刺が刺さってもいけないので尾を引くが、其でものしのしと付いて来る。
其の龍は全長1m程で牛の頭を持った狗みたいな姿をしていた。紫と盧の体躯で、少し長い後ろ脚の所為で何時も前屈みになっている。尾は二本の短い角の様な物で、左脚丈大きな翼の様な形をした飾りがある。
目が無いが、代りに硬質化して二本の牙の様になった触角を地面に付けて辺りを見ている様だ。
此方も初対面だ。バラド龍。闇属性で、地獄の番兵とも言われ、真暗闇を好み、其処で此の様に触覚で辺りを探って獲物を探すのだ。
「おいパラド龍、私の尾は御飯じゃないんだ。触ると危ないから気を付けてくれ。」
声を掛けると驚いた様にパラド龍が顔を上げ、暫く其の二つの触角を揺らすとセレの隣に来て御座りの体勢を取った。・・・分かっては貰えたらしい。
然うしていると見知った顔が廊下の奥から現れた。
鋒鋩龍の・・・確かカットって呼ばれていたっけ。自分が殺し掛けた子だ。
カットは口に御盆を銜えていた。其の上にはカップ二つとポットが乗っている。
其の儘テクテクと此方迄来るとカットはそっと机に御盆を置いた。
緊張しているのか頸筋がプルプルと震えているけれども、何とか大事にならずに済んだのでほっとした様にカットは口を開けた。
多少ポットから茶が零れているが、御愛嬌と言う物だろう。
「やったー!出来た。僕でも御手伝い出来たよ。」
「噫有難うカット。態々持って来てくれて。」
「あ、うーん・・・えっと、此の前はその、御免ね。色々その、迷惑掛けちゃって。」
「別に気にする事もない。私こそ悪かったな。出会い頭に手を出してしまって。」
「ううん。僕も一緒だよ。僕こそ帰って来て良かったよ。矢っ張り此処が一番だから。」
「嬉しい事言ってくれるね、カットは。」
後から手に小箱を幾つか持ったリュウがやって来て席に着いた。
ニッと笑ってカットが首を廻らせる。
「ねー僕もちゃんと運べたよ!」
「うん上出来上出来。有難うカット。」
カットは嬉しそうに一つ尾を振ると少し狭かったので後退った。
リュウはポットから茶を注ぐと持って来た小箱を開け、中身をスプーンで掻き出してカップに加えて行った。如何やら木の実や華を乾燥させた物らしい。
「良しと。はい、セレ。御口に合うと良いんですけど。」
リュウからカップを手渡され、一口。
熱かったが浮かんでいる小さな華から薫が広がる様で、胸が其で一杯になる。如何やら此の茶は飲むと言うより薫を楽しむ物らしい。
「不思議な茶だな。凄く美味しいし、何だか華畠にいるみたいだ。」
「良かった。此等の華や木の実は皆がくれた御裾分けなんです。結構珍しいのとかも見付けて来てくれるんですよ。」
「然うなのか。皆も有難う。本当に美味しいよ。」
ちらとセレが振り返ると其のカップに伸ばされる触手があった。
否、其は触手じゃない。枝分かれした舌だ。
其の持ち主は将又初対面の龍で、ロロープニアと言う宙属性の龍だ。
全長1m程で二足で立ち、何処となく鳥類を思わせる顔付きをしていた。大きな一つ目で頭に大きく細長い鰭が垂れている。顎からは何十本もの触手が生え、尾は丸く大きい。
好奇心が強いと龍古来見聞録にはあったけれども、何方かと言うと其の不可思議な姿に反対に此方の好奇心がそそられる。其の触手はつるつるして然うだけれどもどんな手触りなんだろう・・・とか。
「此、結構熱いぞ。」
一応声は掛けたのだがロロープニアはそっと舌先をカップに付けた。だが矢張り熱かった様でさっさと其の舌は引っ込められた。
「ふーん・・・。前から思ってはいたんですけれど、セレって迚も龍族に好かれやすいんですね。初対面の子も居る筈なのに誰も臆していない所か寄って来てる。結構珍しい事ですよ。然う言う種族なんですか?何だか前御会いした時と少し変わったみたいですし。」
「ん、龍族にモテモテなのは私も嬉しい限りだが、種族は私も分かっていないんだ。何処かに仲間でも居るのかなとは思っているんだけれども、・・・例えば新種の龍族だとかないか?」
「無いですね。新種は本当に稀なんですよ。抑クリエーターが彼等の親なのでクリエーター亡き今、本来は増えようがないんです。生まれるのは新種と言うより近似種。精霊の類ですね。ミックスやハーフだとかは居ても全くの新種は生まれないんです。」
きっぱり否定されてしまった。一寸冗談のつもりだったけど、其は其で少し悲しい。本気にはしていないにしても、僅かな希望だったんだけれどな。
「でも稀って事は新種自体は居るんだよな。如何やって生まれるんだ?今迄未発見だったって事はないんだろう?」
「然うですね・・・生まれると言うよりは、龍族になるんです。数億年に一度位で。・・・その、詳しくは御免なさい。龍の番神の決まりで言えないんですけど。でもセレの変化は違います。如何言う可きか、貴方は龍族とは又別の何かになろうとしている気がします。僕も結構長生きなんですけど、龍族に好かれ易い一族なんて。其に其の姿、全く聞いた事が無いんです。」
「然うか。龍族になる・・・中々面白い話だけれどもまぁ然う簡単には分からないよな。自分の事なんだけれど、んん・・・。」
「良いじゃないですか。貴方は貴方なんですから。あふ、貴方が何処の誰だなんて関係ない。貴方だから傍に居るんです。」
「あ、有難う月ノ猫。その・・・凄く嬉しいよ。」
ずーっと翼をペロペロされている訳だけれど、何て良い子なんだ。連れて帰りたい。
「え、えぇ!?月ノ猫がしゃ、喋った!!然も起きてる!動いてる!何時の間に!」
驚愕の余りリュウがつい席を立った。
「そんな珍しい事か?初めて会った時もこんな風だったが。」
「珍しいなんて物じゃないですよ!黔日夢の次元の時だって寝る位のぐうたらっぷりなのに。んん、此処迄来ると僕、セレの種族、気になって来ました。僕が羨む程の素質を持ってるなんて。」
唸ったっ限リュウは席に着くと一口茶を飲んだ。
落ち着くのは良いけれども、事実とは言えぐうたらと面と向かって言われてしまった月ノ猫はむっとしている様だ。心做し翼を舐める力が強くなったと言うか乱暴になったから謝って欲しいんだが。
「あ、然うだ。思い出しました。大昔なんですけど、居たんですよ。迚も変わった種族。神龍の一族です。神であり乍ら龍となり、龍であり乍ら神に通ずる。要は神と龍のハーフの様な一族です。クリエーターが新たに神を創る際に其のプロトタイプの様な形で生まれた然うなんですが。」
「んん、つまりは龍の姿と神の姿を持つとか、そんな具合か?使命は無いけれども次元に魂のみになって行ける、みたいな。」
「近いですね。何方かと言うと、神の真の姿と神の仮初の姿、其の二つを自由に行き来出来るんですよ。神のプロトタイプなので後は普通の神と同じです。使命もあるし魂丈で次元に行けます。でも初めから神なのですから前世も無いですし、龍の様な世界の理の力を、魔力を扱えるので迚も勁かったそうですよ。其の属性の特徴が出易くて。」
「成程、神龍と言う呼び名は伊達ではないと言う事だな。」
二つの姿を自由に行き来出来るのは変身と言う意味では多少自分と似ているかも知れないが、でも此、別に真の姿って訳じゃないんだよなぁ。楽ではあるけれども。
「あ、でも矢っ張り違いますね。だって真の姿に成れると言っても一部分丈なるとか、然う言った変身は出来ないんですよ。スイッチみたいにON、OFFしかない筈です。其に一族は疾うの昔に滅んでますからね。」
「然うか・・・。でも絶滅したのか?そんな強力な力があった筈なのに。皆使命を終えたとかか?プロトタイプって事は増える事はなかったのか。」
「然うですね。増える事も無いですし、何より彼等は迚も忠誠心が強かったと言うか、執着心が強過ぎた然うですよ。皆生みの親であるクリエーターを心から慕って、慕い過ぎた余り、クリエーターが亡くなった時に彼等は生きる意味を失って自ら滅んだそうです。強過ぎる懐いは時に使命を変えると言うか、まぁ然うやって滅ぶ事こそが彼等の結末だったのかも知れませんね。創った者が居ない今、何かあっても困りますから。」
「ふーん・・・盲目的な愛、か。死んだ所で何かになる訳じゃあないのにな。空しい一族だな。確かに私は違うらしいな。そんな素晴らしい精神なんて持ち合わせていないし。」
「何を言うんですか。こんな龍達に、皆に好かれているのに。其丈で十分、良い方だって分かりますよ。」
「素晴しい精神の持ち主が良い奴とは限らないぞ。」
「はは、確かに然うですね。でも信頼は出来ます。」
一寸意地悪を言ったつもりがリュウはあっさりと笑顔で返して来た。
・・・む、中々やるな。此がガルダなら捻くれ者、と返されていただろうに。
永生きしていると言う丈はある、と言う事か。まぁ神に成り立ての自分が敵う訳がない。
―?、何ダ此奴ハ。―
塔の上部の窓から一頭の龍が入り込んだ。
全長40m程の其の龍は蛇の様に長身で、頭は楕円型の甲に覆われ、其処から鰓と黔い長毛がまるで髪の様に生えている。蒼の体躯の所々に黄色の刺青が彫られ、尾は針の様な物が不規則に生えている様な形だった。
彼は・・・箴鏤龍(トケイ)だ。飛属性で、彼が飛ぶ姿を見ると不吉な事が起こると言う。
其の体躯の刺青が不幸を暗示しており、其が見た者に刻まれてしまうからだとか。
箴鏤龍は其の身をくねらせて降下し、セレの上旻1m程の所で留まった。
「あ、箴鏤龍さん。えっと彼女は・・・、」
「私は次元龍屋の店主、神族のセレ・ハクリューだ。初めまして、箴鏤龍。」
立ち上がって少し丈声を張る。
確か箴鏤龍は迚も気難しい龍だと龍古来見聞録にあった。気に食わない事だとかがあると暴れてしまうのだ。良く出会った人々が騒ぐので人嫌いだとか、煩いのは好まない、とか。
―フゥム。―
少し目を細めて箴鏤龍はじっとセレを見遣った。
―・・・初メマシテ。緩リシテ行クト良イ。邪魔シタナ。―
其丈言い残すと箴鏤龍は身をくねらせて窓から出て行ってしまった。
如何にか認められたらしい。
「ま、まさか彼の箴鏤龍迄あんな態度を取るなんて・・・此はいよいよ只事じゃないですよ、セレ。貴方の其の体質、屹度特別な物です。貴方の種族や出生を良く調べた方が良さそうです。只性格が好かれ易いとかとは訳が違います。此は僕の勘ですけど、何かありますよ、屹度。世界の理に触れる様な何かが。龍族に好かれるのは其の延長に過ぎないのかも知れません。」
リュウが眉間に皺を寄せて少し唸る。彼にとって中々重たい事案らしい。
「そんな事を勝手に大きくされても困るが・・・。調べる分にはまぁどうぞ自由にやってくれ。私も知りたいし、じゃあ私も何か分かったら御前に伝えよう。其で良いか?」
「えぇ勿論です。宜しく御願いします。」
「ん、分かった。・・・あ、然うだ。然う言えば前フリューレンスに会ったんだが、彼奴が何か知って然うだったな。私が龍族に好かれる訳。確か龍はクリエーターと世界が好きだから、私を見て世界に触れるからだとか何とか。・・・良く分からなかったけれども。」
まるで謎々みたいだ。遠回し過ぎて言葉足らずで、分かる様に言ってくれなかったから苛々する様な話だったが。
彼の龍の名が出た途端、リュウは目を見開いて又立ち上がった。
吃驚したので思わず少し引いてしまう。
「フリューレンスさんにも会ったんですか!?でも其の様子を見ると何かされた訳ではないんですか?心を弄られたりとか、しなかったんですか?」
「あ、噫。大分おかしな事は言っていたが何もされなかったぞ。所か迚も熱いプロポーズをされたな。本当に物好きと言うか、変わった奴だったな。」
「・・・セレ、言って置きますが、其が本当なら迚も信じられない位凄い事ですよ。彼の龍はクリエーターのみを愛していました。其の他の者と話す時は必ず心を操る時丈なんです。彼にとって仕事の様な物なんですよ。僕だって口を利いては貰えなかったんです。其を話す所かプロポーズだなんて、・・・まさか其処迄凄かったなんて、皆は知らないんですか?セレが好きな訳を。」
「す、好きって言われると少し照れるんだが・・・。」
縮こまりそうだが周りをしっかり龍達に囲まれている為、隠れる事は出来ない。如何やっても誰かと目が合い、触れてしまう。もうモフモフだらけで幸せの余り死んでしまいそうだ。
「むぅ、好きに理由はないと思うぞ。気に入ったから傍に居るのだ。」
「良い匂いだってしますし。・・・あふっ。」
―友達!友達!―
「傍ニ居ルノ楽シイ、其デ良イ。」
方々からの声にセレの顔は真赤になり、両の手で顔を覆って丸くなった。
翼で躯を包むが、触れる龍達の温もりが伝わって来る。
もういっそ殺してくれ、此以上耐えられそうにない。絞殺でも圧死でも何でも良いから。
「んんー・・・龍達は神とかと違って迚も自然や原始に近い物なので勘が頼りなんですよね。理由を追及しないのはいっそ清々しくて良いですけど、何故って問う事も大切だと思うんですよね。何かが起きてからでは遅いですし・・・。」
「其は龍の番神としての使命か?」
何とか顔の熱りを抑えて翼を広げる。周りの龍達がキャッキャッと翼に集まるけれど、もう気にしない。大丈夫、我慢出来る。・・・数分は。
「ええ、僕は龍達を護り、共に居なければいけないので。・・・と、済みませんでしたセレ、一柱で熱くなっちゃって。詮索する様な真似しちゃって御免なさい。」
「いや気にしなくても良いけれども。其が皆の為になるなら全く構わない。」
一口茶を飲む。何時の間にか大分飲んでしまったみたいでもう後一口分位しかなかった。
・・・若しかして皆に一寸ずつ飲まれちゃった?
・・・まぁ良い。彼の話でもするか。
「・・・関係があるかは分からないけれども、リュウは知っているのか?私が前、何をしたのか。」
前リュウと会ったのはハリーが店に来た時だったか。今思うと随分前の事に感じられる。
此の話は進んで為可き事ではないのは重々分かっている。でも言わずにいるのは卑怯だし、不可能だろう。今は未だ然うでなくても、何れは世界が自分を自覚する。
事が大き過ぎたんだ。何時かは当たり前になって、知らない者が居なくなるだろう。でも逃げない。逃げられない。殺す丈だ。
「黔日夢の次元の事・・・ですか?」
「矢っ張り知っていたか。」
何となくは分かっていた。龍の番神である彼が龍達から聞かない訳がない。多分龍達は敏感故に屹度自分を見た丈で黔日夢の次元の実行者だと感じるのだろう。其の上で此の接し方は矢っ張り異常な気がするけれども。
「えぇ、皆が話してくれましたから。貴方の事。」
「御前は何も言わないのか。その・・・騙していた訳ではないんだ。黔日夢の次元の後、自分は記憶喪失になってしまっていたから、懐い出したのは御前と会った後なんだ。私の所為で龍達は凄く困っている。償う為の依頼だとしても、償えば良いと言う話じゃないだろう。でも龍達も御前も、知っていたのに何も言わないなんて、私は其が理解出来ないんだ。」
「んん・・・然うですね。神である僕としては確かに思う所はありますよ。理由を捜すのが龍の番神ですから。何でしたのかとか、色々と。でも其よりも僕は龍の番神として皆の傍に居たい。だから皆の意見を尊重したいんです。セレ、貴方は皆にとって大切な朋友です。其丈で十分、僕にとっても大切な神なんです。只、如何して皆が黔日夢の次元の事を責めないのかは分かりますよ。永く一緒に居ましたからね。」
リュウは僅かに微笑し、隣に居たザッキングルスの頭をそっと撫でた。
「皆の考え方は、僕等神と根本的に違います。例えば何か起きた時、僕達は其を災害と呼びます。でも皆は自然現象と呼ぶのです。害があるか如何かは自分に対しての話で、世界の法則として嵐や津波、地震だとかは存在するのだから其に如何斯う言いはしないのです。例え先の嵐で住処が壊されてしまっても、タイミングが悪かったとか、場所が良くなかったとか、然う捉える丈なんですよ。其と一緒です。黔日夢の次元も自然現象だったからと、嵐を責めないのと同じですよ。」
「でもじゃあ黔日夢の次元は自然現象じゃないだろう。私が意図的に起こしているんだから。」
「はは、其位なら嵐だって其の次元の神が起こしたりしますよ。神の怒りとか言って驚霆や地震だって起きますよ。怒りだなんて明確に悪意が向けられているじゃないですか。一緒ですよ、其と。貴方は貴方の懐いで起こした。其も延いては一つの世界の事情です。」
「世界を壊すのも自然現象・・・か。私なら殺されたら理不尽だって声を上げるかな。本当に龍族は寛容だな。」
皆が然うだと言われても、例え平等でも、自分は其を許容出来ないだろう。そんな立派に育っていないんだ。
「噫其の事なら、セレは一寸勘違いをしているみたいですね。実は黔日夢の次元の被害、龍達の死亡率は零なんですよ。一頭だって死んでいません。リンクが切れても、其位なら僕でも分かるんです。まぁ確かに其の後の影響で死んでしまった子は居ますけど、でも直接貴方は手を下していません。次元の者は沢山死にましたけど、貴方は龍殺しなんてしていません。屹度次元を壊しはしても、世界其の物に罅は入れなかったのでしょう。世界の在り方其の物は何一つ傷付いていない。だから世界に近しい龍達は死ななかったんですよ。」
「世界は・・・傷付いていない?」
僅かにセレは目を見開き、口を開けた。でも其を直ぐ引き結んで一つ息を付く。
「然うか、分かった。龍達の事情は一応分かった。理解するのには時間が掛かりそうだけれど。後はリュウ、御前の事情だな。龍の番神として、私に聞く事があるんだろう?思う所があると言っていたし、黔日夢の次元の事だとは思うけれど、差し当たっては何故世界を壊したのかと、何故殺したのかか?」
皮肉を言うつもりは毛頭なかったけれども、つい口端が嫌な笑みを作ろうと釣り上がる。本当に捻くれた性格だ。
リュウは一口茶を飲むと少し困った様に笑った。何となく見透かされている様な気がして気になってしまう。
「確かに一柱の神として、龍の番神として其は聞いてみたい所ですけれど、でも貴方はそんな大それた事をした割には迚も生き生きしていると言うか、若い神だなって思うんですよ。反応が初々しい。僕は今迄色んな神と会って来ましたけれど、然うはっきりと龍が好きだと言ったのも、御茶をしに遊びに来るなんてのも貴方が初めてですよ。まぁそんなに世界の一つ一つに触れ合っているから大きく世界を変えようとした、然う言われても分からなくはないですけど、そんな貴方にこんな死が付き纏う話、したくないんですよ。似合わないと言うか、生き生きとしているのに其の陰に慣れて死を飼っている。そんな矛盾を引っ掻き回したくないんです。死にたがりとか然う言うの、もう飽きてるんで。」
一息で言うリュウの話は少々理解に苦しむ。
無意識に少し首を傾けて聞いているとリュウは一つ含み笑いをした。そんな彼の頭に何処から来たのか瞿玉鳥が留まった。
「ややこしい事言って済みません。一寸口にするのが気恥しくて理屈っぽくなってしまいました。つまりは・・・その、僕は龍の番神としての使命よりも、優先したい物があるんですよ。皆との繋がり、懐いや絆とか、其の為に寧ろ僕は龍の番神になったと言っても過言ではありません。・・・先の繰り返しになってしまいますけど、だからそんな僕の大切な朋友、龍達皆の御気に入りの朋友である貴方も、僕にとってはもう大切な神なんです。だから態々傷付けたりだとか、不快にさせたりなんてしないですよ。時が来れば何の道僕等は真実を知る事になるのですから。使命に因って。」
「・・・有難うリュウ。然う言って貰えると私も気が楽だ。今日は本当に此処迄来て良かった。色々と喋くって悪かったな。その、ちゃんと御前と話せて良かったよ。」
「えぇ、僕も。迚も楽しかったです。此処に他神が来るの、本当に久し振り何で。一寸僕も喋り過ぎちゃいましたね。」
はにかんでリュウは笑うとカップを下げた。
自分も残っていた一口分を飲んでカップを戻す。
「じゃあ私はそろそろ御遑するよ。又今度来ても良いか?皆にも会いたいし。」
「勿論!今度は御菓子も用意しますから。」
「ククッ、楽しみにして置くよ。」
一瞬アティスレイの絳いクッキーが頭を過ったが、いやまさかそんな事はないだろう。悪い夢の見過ぎだ。
クッキーと言っても屹度コナカトルの実とかをコンポートにした物だとかを使うんだろう。・・・想像したら結構美味しそうな物が出来た。次が楽しみだ。
自分が席を立つと周りの龍達が甘える様な声を出して来た。
「こらこら皆、そんな意地悪しないでよ。其だとセレ帰れないから。」
「えーでもー。」
「未だ来て直ぐだよ!」
「んん・・・じゃあ一寸遊んで帰るか。・・・良いか?リュウ。」
「え、いやセレ、そんな気を遣わないで。甘くしないで下さい。仕事の合間に来てくれたんでしょう?」
「いやいや私をそんな忙しくさせないでくれ。一寸丈だから。良し皆、外に行くぞ。」
調子に乗って声を掛けると一斉に龍達に集られて其の儘外へ連行されてしまう。
「うわっ!皆!セレは御客さんだからね!玩具じゃないよ!皆良い子にしてね!」
「っ影傘!」
外に出る直前、何とか唱えて左手に真黔の日傘を持つ。
遊ばれる前に腐る所だった。
「あふ・・・良い天気ですね。おや、其は日傘ですか?然う言えば初めて会ったのも地中ですし、驕陽に弱いんですか?」
「いや、弱いとか言うレベルじゃなくてな。」
月ノ猫が物珍し気に傘を見ているとコルトルが其の傘に留まった。
「あ、御洒落だ御洒落だ。」
「気取ってるぅ〜。」
「わぁ!ちょっ、ちょっ止めろ、其で遊ぶな!本当に止めろ!私は驕陽に当たると死んでしまうんだから其丈はそっとして置いてくれ!」
其を聞くとコルトル達は慌てて日傘から離れた。他の龍達も驚いて少し丈後退る。
「では此で大丈夫か?」
何処からか飛び降りて来たヒョウがセレの隣に着地し、片翼を広げて影を作ってくれた。
「噫有難うヒョウ、其なら安心だ。」
周りを見渡すと龍達だらけで見難いが、又少し周りの景色が変わっている様だった。
家を覆い尽くしていた蕭森は半分程になり、滄溟だろうか、細浪が打ち寄せる浜が出来上がっている。かと思えば其の滄溟の先は大きな崖になっており、滄溟は其の儘大きな瀧となって雲華の瀛海へと落ちて行く。
本当に此処は地形が滅茶苦茶だ。
「何か面白い物でもあったかの?」
肩に掴まっていた月冠龍が一寸セレの頬を舐めた。
「え、あ、噫。余り私は次元の迫間に居ないからな。こんな直ぐ景色が変わるとは思っていなかったんだ。」
「此の位の変化、良くある事だぞ。だが其方は気を付けないとな、陽を浴びられぬとは・・・。時に驕陽が旻を埋め尽くす位現れる事もあるからのう。」
え、何其恐い。然うなったら倭宜しく土の中で暮らさないといけなくなる。
「でも前は驕陽の高い内に雪山を歩いていただろう。汝の金髪が眩しかったから良く憶えているぞ。」
「噫最近色々あったからな。其の所為で変化と言うか進化しちゃって、沢山変わったんだよ。」
そっとヒョウの胸元のモフモフを撫でると彼は目を細めた。
「あ、然うだ。皆に聞きたい事があるんだが、次元の迫間の大まかな地理とか教えてくれないか。例えばオンルイオ国とかは何処にあるんだ?」
―其の位なら御安い御用だよー。ほら彼方ー。大体向こうに飛んで行けばオンルイオ着くよー。―
碧樹に留まっていたバーニラスが焔を強目に吐いてある方向を示す。
其は丁度瀧の向こう側だった。
―って言っても君の干渉力とっても高いから其となーく行けば着くと思うよー。―
「然うか。有難う、後は・・・、」
「皓の国は彼方ー!!」
「僕の寝床は此処ー!」
「彼所美味しい木の実が出来るの。」
「いや向こうの方が甘酸っぱくて良いよ!」
「んん、一寸待ってくれ。一頭ずつ、一頭ずつ言ってくれ。」
「じゃあ実際行った方が良いんじゃない?そんな遠くないよ。」
「・・・・・。」
次元の迫間の一日が一体何時間なのか、抑時間で動くのかは分からないが、
「よ、良ーしじゃあ行くぞ!皆案内してくれ。」
こんな優遇に慣れていない自分は断る理由もなくて、
其にこんな楽しい事、終ぞなかった気がする。スターになる経験なんて神生は疎か前世でもなかっただろう。
自分なんかがこんな思いをする権利なんて無いのにと言う考えが付き纏って離れないけれども。
今は、其を沈めて置こう。彼等の好意を無下にしたくない。
初めて少し丈、こんな素敵な朋友に好かれる自分が好きになれた気がした。
・・・・・
さぁ御茶会だ御茶会だ
此度の客は招かれざる客
でも心から御慕いする貴方、何時でも歓迎いたしましょう
御茶しか出せませんが御容赦を
さぁ奏でて、世界の終焉を
さぁ綴って、終わりの世界を
貴方と居られるのならば、世の終わりなんてちっぽけ過ぎてもう見えなくなるのだから
ね、幸せな話だったでしょう。羨ましい限りです。龍と言うか、動物に懐かれやすい体質ってのは筆者の願望でもあります。自分も懐かれやすい性格?らしいんですが、其は単に自分が彼等に臆していない丈だと思います。鳶とか啄木鳥とか蝙蝠とか狸、猫、鼠、雀、燕、蟹、蛇、蜥蜴、守宮、金魚、田螺、団子虫、蠼螋、鍬形・・・、色んな生き物に触れ合って来ましたけれど、皆可愛いと思うんですよ。少なくとも人間より好きです。
え?あ、勿論筆者も人間嫌いですよ~。とそんなのは如何でも良いんですよ。
まぁ今回、御喋り許りの回だったんですが、結構色々歯車が回り出したと言うか、前進があったかなと。只のサディストと思われていたスレイさんは狂ったヤンデレで、ガイと言う謎の一族、丗闇が見せつつあるデレ期?に龍達の出会いとかとか・・・。
ね、スレイさん可愛いでしょ!筆者ヤンデレ好き過ぎてテンションMaxですよ!彼女の所為でR指定が付いても致し方ない!
後今回怒涛の様に龍達がバンバンと出て来ましたけれど、此には訳があるのです・・・。
実は最初書いたアップデートの時全ての龍達の資料を持って来ました。描き直そうとしたんですが、中々目当ての子が見付からず、捜す序でに数を数えて見ると・・・六百種程いたんです・・・。
最早恐怖ですよね。獣の数字を数えた所でもう止めました。だから今後もどぱぱっと増えると思います。成る可く出してあげたいし、本来の龍族は六百所じゃないし。
後次回は・・・もう実は書けてたりするんですが、R指定が付くかどうか際どい話です。一応バトル回です、短いです。まーたタイトル長いですが、まぁ次回も会えたら嬉しいです。ではでは。
・・・如何でも良い事を最後に、如何しても書きたいので。此の話を書いて初めて気付いたけれども、
ガイってゲイっぽく見えて大草原不可避!
・・・済みませんでした、もう帰ります。はい、此処迄見てくれてどうも有り難う御座いました。




