14次元 歪んだ静寂にイサメの蒙雨を
はーい皆さん今日は。フフフ。やれば出来るもんですね。自分でも吃驚な更新速度です。
まぁ前回のと足してとんとんって位なんですけれどね・・・。え、文字化けしている所があった?・・・?何の事でしょうか。
其より今回、今回は筆者的に割と好きな所です。だからさっさと書いたんですけれどね。
タイトルの法則より、今回は次元に行きません!行ける訳ないですよね、主神公、危篤な訳ですし。
どうせ助かるんでしょ?いや、流石にね。如何助かるかが重要ですからね。此の儘主神公御役御免。そんな話も面白そうですけれど(偶に小説とかにある、思い出の中でのみ出続ける方みたいな感じ)流石にそんな斜め上過ぎる話は書けませんから、ハハッ。
でも何らかの大逆転はあるかも知れませんよ?さて、予想通り然う世界は回るでしょうか。どうぞ御楽しみに。
歪な欠片は砕かれて、何時かは天へ還る然う
次は正しく創って貰える様に
細かく細かく砕かれて
創造の神の手により正しく紡がれる
でも壊れた欠片は壊れるしかなくて
何処にも収まらない其は神も見て見ぬ振り
一体其は何処へ行くのか
何処へ還る可きなのか、誰かが拾ってくれるのか
何時迄経っても此の虚しさは消えやしない
・・・・・
次元龍屋に戻って来た一同は取り敢えず各自休みとなった。
皆部屋に籠った中、ドレミとガルダ丈がリビングのソファーで向かい合い、御茶をしていた。
因みにロードの部屋は少し前巧に来て貰って造らせた。多分ずっとセレを見ていたらしいから造り方は知ってたんだろう。中々手早かった。
多分、ドレミは自分に話がある。
何か思案する様に機械的に紅茶を飲むドレミを眺めて、ガルダは然う踏んでいた。
「未だセレちゃん寝てるんだよね。」
何の気なしにガルダが一口紅茶に口を付けると唐突にそんな確認が入った。
「噫ぐっすりだ。色々あったし、疲れたんだろ。」
次元の迫間に帰ってからセレは眠り続けている。身動ぎしない位深い眠りの様だけど、余りにも呼吸が浅く、早い。状況は悪い儘だ。帰って来ても回復しないだなんて。正直茶を飲んでる暇もないけど、下手に動くと何だかセレに勘付かれそうで難しい。
「そっか。あの、ガルダ君、一つ話して置こうと思った事があるんだけど。」
セレに聞かれたくない事。大体想像は出来る。
黙って促すと少し丈声を小さくしてドレミは続けた。
「若しかしたらセレちゃんから聞いてるかも知れないけど、実はドレミ、黔日夢の次元の前に彼の塔、えっと鎮魂の卒塔婆って言うんだっけ。彼所に行った事があるの。其でセレちゃんに初めて会ったんだけど。」
其は・・・セレから聞いてる。ドレミの生い立ちを話してくれた時に。フォードが何故か見逃してくれた侵入者。気になる所ではあった。
「彼の時セレちゃん、何か色々言ってて・・・。セレちゃんって捜し物、してたんだよね。だから若しかしたら其に関する事かもって思ったの。手掛かりになればと思って。」
「然うなのか?一体何を言ってたんだ?」
黔日夢の次元の直前。確かに其の時ならセレは憶えていた筈だ、捜し物を。此は大きなヒントかも知れない。
「うん。流石に全部は憶えてないんだけど、確か世界が嫌ってるから消される、と闇と彼の人は何処へ行ったか、と如何して私を創ったのか。そして最後にドレミを見て、又全て奪う気か、壊してやるって、然う言ったの。・・・セレちゃん、凄く辛そうだった。多分ずっと哭いていたと思うの。そして怒ってた。」
「・・・世界に嫌われてるって、確かに然う言ったのか?」
「え?う、うん。・・・何か知ってるの?抑如何言う意味かドレミ、良く分かんなかったけど。」
「知ってると言うか・・・んーいや、セレとは関係が無い話だからさ、何でもない。」
そんな呪われた言葉、久し振りに聞いた。
・・・そんな物に未だ囚われているのか?
「後は闇と彼の人・・・か。特定迄は難しそうだな。」
「んん、御免ね。余情報とは言えないレベルだけど。」
「いや、何も無かったよりましだろ。其に又奪うってのが引っ掛かるな。若しかしたら捜し物って誰かがセレから奪ったって事か?」
若しかしたら人・・・だったりして。だからあんなに殺したと思えば。然も奪うと言うのが例えば殺されたり、壊されたりした事も含まれる可能性がある。若し然うなら・・・納得が出来る。
でも其だともうセレの捜し物は見付からないと言う事だ。捜した結果が其なら余りにも惨い。如何にか未だ何処かにあって欲しいけど。
「有難な、ドレミ。俺一寸此の後用事があるからさ、其より先に聞けて良かったよ。」
「然う・・・かな。うん、じゃあ話は其丈だからドレミは戻るね。」
ソファーを立ち、すっきりした面持ちでドレミは部屋に戻って行った。
「奪った・・・か。」
誰が奪ったか聞いてみる価値はあるだろう。
・・・でも斯う思うのは場違いで筋違いなんだろうけど。
彼のセレをそんな必死にさせた捜し物って本当に何なんだろう。そしてそんな風に思って貰えるなんて。
・・・羨ましい、然う思ってしまう。
結局は俺も、自分勝手な神なんだよな。
顔を伏せるとガルダはそっと目を閉じるのだった。
・・・・・
「・・・っ。」
嫌な・・・夢を見た。
波紋が一気に広がる。
此処は、自分の部屋か。
良かった。矢っ張り彼は夢だったんだ。
そっと自分の右腕を掴む。・・・堅い、甲殻の様な黔い腕。逆刺や棘がある。
大丈夫、ちゃんとある。
見た夢は別にアティスレイに関する物ではなかった。
只、緩りと自分の躯が溶けて、ドロドロになって、真黔の、ぐちゃぐちゃな何かになる。そんな夢。
原形なんか留めていない、真黔の何か。
目も歯も髪も爪も骨も内臓も脳も羽根も甲も全て全てぐちゃぐちゃになって溶けて。
・・・誰も、自分が誰か分からなくなる夢。
嫌な夢、本当に嫌な。
悪意も何もない其は只事実を突き付けられる様で、逸らし様のない現実の様で、苦しかった。
死ぬのは良い。でもあんな姿には、なりたくない。況してや忘れられるのは・・・辛い。
じんわりと嫌な汗と目眩に近い浮遊感。二度寝なんて到底する気も無いのに、凄く眠たい。
次寝たら、本当に不味いかも知れない。彼の夢が正夢とも逆夢とも、今は、言い切れない。
そんな可能性が否定出来ないのが嫌だ。其に然う思う丈で、少しでも肯定してしまった様で、少し自分が曖昧になる様な気がして、気持悪い。
・・・起きよう。考えても気が滅入る丈だ。
尾を支えにして先ずは何とか上体を起こした。
腕が痺れて震えてしまう。一つ二つ、息を吸って両足を床へ下ろす。
「・・・・・。」
起きた所で、如何しようか。
別段する事も無い。次元に行けば良いのだろうが、誰と行っても迷惑を掛けるだろう。
・・・一柱で、行こう。今は誰かと行きたい気分でもない。
一柱で居たい。若し・・・今日消えるとしても、独りで。
痛い。胸が痛い。決意した途端に痛むのは体調の所為じゃないのは分かっている。
独りが楽な時もある。でも其が強がりな時もある。でも仕方ないんだ。自分は素直じゃない。弱い自分を護るには強がりしかなかったんだ。
弱いから、臆病だから、誰かと居たいと思う時も・・・ある。若し最期の時に隣に誰かが居れば、手を握ってくれればと願う時もある。
でも・・・出来ないんだ。自分に其は重過ぎて、口を突く事も、見詰める事も。
自分の前世も屹度然う。嫌って程後悔をして、こんな黔く醜い化物に育つ迄絶望し切って、何も出来ずに死んだんだ。
繰り返す、何度でも。反省をしないから永久に。本当、自分は駄目だな。
沢山の言い訳と諦めで痛みを遣り過ごす。
もう行こう。感傷も何も、抱くには遅過ぎた。
「・・・っ。」
何の気なしに手の甲を触っていると・・・鱗の様な甲が剥がれ落ちた。
其の下も甲があるから黔い腕の儘だが、でも。
さっと腕を撫でるとパラパラと甲が剥がれ落ちる。
気付けばベッドには沢山の羽根が散らばっていた。御蔭ですっかり翼は毳立っている。
う・・・嘘だ、こんなの。
此じゃあまるで、本当に自分が、
消・・・いや、違う。此は只、は、生え変わりの時期なんだ。
余り見ないで置こう。正視すると・・・気持悪い。
すっかり甲が抜けてボロボロになっていた尾をオーバーコートの下に隠す。
晒でも巻こうか。いや、彼の晒は魔力を抑える物だ。今抑えたら具合が悪化してしまう。
こんな翼や尾だけれど、此を消すのも疲れる。・・・此の儘にしよう。正直、晒とかも上手く巻ける自信がない。引っ掛ける為の逆刺も剥がれそうだし。
関節が錆びてしまったかの様に軋むが、何とか立てた。歩く事も、一応出来る。
視界はノイズだらけだ。此の体だとまるで仕事をすると言うより死に場所を探しに行く様だ。此は流石に笑えないか。
部屋を出ると最早定位置と言うか、ガルダがソファーに掛けていた。
伏せっていたみたいだが、扉の音にぱっと顔を上げる。
「あ、セレ良かった。起きたんだな。もう動いても大丈夫なのか?」
「噫世話掛けたなガルダ。・・・一寸出掛けて来る。」
「もう次元に行くつもりなのか?」
「・・・其のつもりだ。」
「晒は?其の儘で行くのか?倭の時の二の舞になるぞ。」
「今日は・・・一寸、人の居無い所にしようかと思ったんだ。」
此処にガルダが居た時点で、少し不味いなとは思っていた。即座に反対されそうだから。
丗闇が大人しい内に行きたいと思ったんだけれど。
「そっか。気を付けて行けよ。」
「あ、噫有難う。」
あれ・・・案外すんなり行けそうだ。其は其で裏がありそうで恐いが。
「・・・セレ、」
「何だ?」
ドアノブに手を掛けた所で呼び止められてしまう。
此処での呼び掛けは嫌な予感しかしない。
「えっと・・・その、あーっと、」
呼び止めた割にガルダは中々続きを言わない。
首を傾けてじっと待っているとやっと視線を合わせてくれた。
「えっと、気を付けろよ。」
「其、先言ったぞ?」
「重ねてって事だよ。」
「然うか。うん、然うする。じゃあ行ってくる。」
其の儘扉を開けて、外へ。セレは出て行ってしまった。
「ふー・・・。」
一つ長く息を付いて立ち上がる。
不図見るとセレの歩いた跡に幾つか黔い欠片が落ちているのが目に付いた。
一部は羽根っぽいけど、此の欠片は何だろう。
屈んで拾ってみると、迚も堅い金属の様な、でも軽くて薄い甲みたいだ。
・・・若しかして此、セレの手足の甲か?
嫌な予感がしてそっとセレの部屋に入ってみる。
悪い事だって分かってるけど、無視なんて出来ない。
「・・・っ。」
ベッドにも沢山散らばっている。
甲が剥けるなんて聞いた事が無い。羽根もこんな一度に抜けない筈。
・・・不味いんじゃないのか、此は。非常に良くない何かが起きてるんじゃないのか。
直ぐ追い掛けるか。でも追い掛けた所で何になるんだ。俺は治す事も出来ないのに。
・・・いや、丗闇を信じよう。
俺には俺に出来る事、其をする丈だ。
俺も行こう。何か方法を見付けるんだ。絶対に。
続けてガルダも店を出る。勿論セレを追う訳ではない。
自分にしか出来ない事、其を成す為に。
・・・・・
「よっ・・・と。」
窓枠に手を掛け、そっと中へ入る。
黔塗りの黔曜石で出来たかの様な廊下。時折蒼い曦が走るのを見ると何とも懐かしい気がした。
此処は鎮魂の卒塔婆。ガルダは其処に単身で侵入したのだ。
裏切って直ぐ戻って来るとか、馬鹿と思われても仕方ないレベルの行為だ。
嫌な汗が流れる。静寂が只々痛い。
侵入は思ったよりすんなり出来た。外も中も、兵を全く見なかったのだ。
罠の可能性も考えたけど、メリットなんて無さ然うだし、多分大丈夫。
此処は凡そ中間より少し上辺り。フォードの部屋が近い筈だ。
・・・考えた俺なりの方法。セレを救う方法。
フォードに直接、問い質す。脅してでも情報を吐いて貰って、帰るんだ。
やれる。俺は、今更引き返せない。引き返したらセレが死んでしまう。セレに頼まれたんだ。俺は、約束を護りたい。今度こそ、彼女を助けるんだ。
今警備が手薄なのはついている。仮に本当に罠だとしても何らかの情報は掴んでやる。
未だ此処の地図は覚えている。フォードの部屋は此の先の筈。
そろそろと慎重に足を出し、廊下を進んで行く。
「・・・げ。」
暫く進むと目当ての扉が見付かった。間違いない、此処がフォードの部屋の筈。
だが一つ問題があった。
フォードの部屋の前に一人の正女が突っ立っていたのだ。
肩に掛からない程度の黔髪に凛々しい亜麻色の瞳とスカウターと化した左目。半身が金属で覆われ、背からはコードが伸びている。そして近くを浮遊する謎の機械。
特徴しかない。もう誰か一目で分かる。
BDE‐00。セレのBDE‐01のプロトタイプであり、フォード絶対主義者、自称フォードの秘書であり、召使いであり、信者であり、狗であると言う。
何時も何処に居るのかなと思ってたけど、然うか。フォードの部屋の見張りをしていた訳だ。
まさか其処迄奉仕していたとは。・・・まぁ殆どロボットなんだし、彼女としては大した事ないんだろうけど。
只、苦手なんだよなぁ・・・。普通の兵なら圧倒出来る自信はあったけど、彼奴、良く分かんないし、話し合いで通じるとも思い難い。
けれども今更彼是考えても遅い。向こうも此方に気付いた様だし、成る様にしかならないんだ。
「や、やぁ久し振りBDE‐00。ちょーっとフォードと話したんだけど良いかなーなんて。」
「・・・排除します。」
大股で一気に近付くと彼女の声と共に浮遊していた機械達がガルダに絳の照準を向ける。
・・・やばい。全部脳天だ。幾ら再生能力が高くても、即死してしまえば意味がない。
「いやいやストップ!一寸聞いてくれ。ほら俺、見覚えあるだろ、な?出会い頭にそんな物騒な事するなよ。」
咄嗟に適当な言い訳が口を突いたけど、結局裏切り者の身である。意味があるとは思えない。
「アジトで敵に合う率は98%。例え見覚えがあっても信じられません。」
・・・ん?彼女も裏切り者かな?ってか若しかして俺の事知らない?記憶にない?
「いやーアジトで会うのは普通仲間丈だろ?」
突っ込まずにはいられなかった。でも意外に彼女は話してくれるようだ。こんな人間味と言うか、生物らしさがあるとは思っていなかった。
「いえ、折角フォード様が集中しておられるのに其を報告だの連絡だので邪魔する者は全て敵です!」
えぇー狂信者って恐い。フォード、良くこんなポンコツ傍に置いとけるな。
「えーっと多分其の報告や連絡はフォードが集中するのに必要だと思うから通してあげた方が良いと思うけど。」
若しかして今迄来た奴みーんな然うやって追っ払ったのかな・・・。恐ろしいガーディアンだ。
「何と、然う言う事ですか。良い事を聞きました。所で貴方は何方をしに来たのですか。向こうの窓から入って来ましたよね。此の子達が教えてくれました。」
う゛・・・ば、ばれてる。
照準は消えたものの、機械達はじっとガルダを見ている。誰も居ないと思っていたが、監視カメラはあったと言う訳だ。
ど、如何だろう。もう少し茶番を続ける可きなのか。
「いやーアポを取ったりとか大変だろ。態々下から入る事もないから飛んで来たんだよ。ショートカットな、無駄を省いたんだ。」
「ほう効率化ですか。良いですね。良い事だと思います。・・・御喋りが過ぎました。ではどうぞ。」
「お、サンキュー。」
馬鹿で良かったー。意外に障害にならずに済んだ。
BDE‐00が避けてくれたので足を一歩踏み出した時だった。
「・・・あれ貴方、何処かで会ってますか?」
・・・今更其聞く?
「いや、ある気がするなーって思った丈だから。俺の勘違いかも知れないし、忘れてくれよ。」
「いえ、然う言う訳には行きません。屹度横顔しか見ていなかったので思い出せなかったんです。今からデータ照合しますので少し待って下さい。」
「い、いーよ良いよ本当に。な、俺もう行くから。」
ポンコツがポンコツな事を言っている内にさっさと行きたいのに。
流石に此は不味い気がする。
彼女のスカウターからブザーの様な低い機械音が発せられた。
「・・・っ!該当一件。ガルダリュー。・・・裏切り者じゃないですか。抹殺します!」
「お、落ち着け!一寸待てって、な!」
矢っ張りアウトだった。も、もう言い訳も思い付かない。如何しよう。
最後の悪足掻きと言うか、最早ジタバタするしかなかったのだが、然うしていると扉が開いてフォードが現れた。
「え、あ、フ、フォード・・・。」
終わった。一寸騒ぎ過ぎた。二対一で如何斯うなる訳がない。初めから相当危険な賭けなのは分かってたけど、でも、
「BDE‐00、止めろ。」
「?フォード様?・・・分かりました。」
首を傾けつつも大人しくBDE‐00は照準を収めた。
・・・フォードが俺を助けた?な、何でだ?
「ガルダ、取り敢えず中に入れ。僕に用があって来たんだろう。」
「えと、じゃ、じゃあ御邪魔します。」
そそくさと部屋に入る事にする。
フォードは一つ溜息を付くとBDE‐00を見遣った。
「後BDE‐00、窓から入った奴は侵入者だから次そんな奴が来たら排除しろ、良いな?其と此処にガルダが居る事は内緒だ。御前も直ぐ忘れる様に。」
「侵入者・・・分かりました!忘れます!」
ピシッと敬礼をするBDE‐00を少し丈見詰めて、フォードも部屋に戻った。
フォードの部屋は割と乱雑していた。
何やら大量に書かれている書類やら本が所々で積まれ、何十台ものパソコンと何らかの結晶体もある。
多分何の空山を触っても崩れそうだけど、そんな事したら問答無用で首を飛ばされそうだ。
「如何した。其処に座れ。・・・妙な事はしないでくれよ。」
突っ立っているガルダに声を掛け、フォードは部屋の真中の机を指差す。
言われるが儘其処の椅子に掛けると、フォードも向かいの席に着いた。
其の机の上もフロッピーやUSBの様な何らかの細々とした機械に埋め尽くされている。
もう何が何だか分からないけど、彼は矢張り何時も通り何かと忙しそうだ。
「勘違いはしないでくれ。未だ別に話し合うつもりはない。判じ中だ。君が敵の本部のボスである僕の所に丸腰で単身で来た。其の状況は変わっていない。君が其の状況を理解出来ていない程の大馬鹿者だったなら即首を刎ねる。でも、然うでもしないといけない事があるなら一応聞いて置こう。そんな所だ。」
「・・・セレが、死に掛けてるんだ。」
僅かにフォードが目を見開いた。そして何かを考える様に顎に右手を添える。
「具体的に、聞こうか。」
「前から体調はずっと悪かったんだ。突然魔力が扱えなくなって、術も使えなくて、波紋も放てない。其と躯がバラバラになりそうな位痛むって。只直ぐにケロッと治る程度だったんだけど。」
緩り整理する様に息を付く。言い漏らしが無い様に。
「其の頻度が段々増えて行って、つい先行った次元で、急に眠くなるようになったんだ。然も寝たらもう二度と起きれなくなるんじゃないかって感じで。で、最終的に大量の血を吐いたんだ。多分、内臓もボロボロだ。血に・・・混ざってたから。羽根も、手足の甲も沢山抜け始めたし。」
「君は無事なのか?」
「?は?如何言う意味だ?」
今はセレの話、してる筈なのに。
「・・・暴れられたりだとか、咬み付かれたりしなかったか?」
「いや、そんな元気もない訳だし。」
俺の心配?フォードが?そんな訳ないか。
「・・・おかしい。自己防衛本能が働いていない。まさか自分で如何すれば良いか分かっていないのか?否、本能的に分かってはいる筈。もう其すらも出来ない程なのか・・・。」
一通り話し終えると机の一点を見詰め、フォードは黙りこくった。そして机の紙束を掴んで斜め読みをし出した。
「僕は医者じゃないから其が病気か何かなのかは判断出来ない。でもそんな症状、前世でも見受けられなかった筈だ。つまり原因は最近にある。でも其は確かに極めて不味い状況だ。放って置けば死ぬ。間違いなく。」
死ぬ。然うフォードに言われた時、分かってはいたのに心臓が跳ねた気がした。
視界が一気に狭くなる。
最近。最近に原因が・・・ある。其って如何考えても、御前の怪しげな実験の所為じゃないのか。
ドレミが言っていた。黔日夢の次元の前のセレは、不安定だったって。
セレが前の次元で言っていた。欠陥だらけの躯だって。
セレから彼の人と闇を奪ったのは誰だ。奪われたからあんな風になったんじゃないのか。
「・・・御前の実験の所為なんじゃないのかよ。」
資料を眺めていたフォードの手が止まり、じっとガルダに其の視線が向けられた。
「抑セレは何処から連れて来たんだ。御前が捕まえる前は何処に居たんだよ。セレは全てを奪われたって言ったんだ。其を捜す為に黔日夢の次元を起こしたんだ。御前ならセレの捜し物、分かるだろ。前世を見てるんだから。で、御前が奪ったんじゃないのか。セレに黔日夢の次元を起こさせる為に。」
「・・・もどかしさから来る苛立ちを僕に向けられるのは非常に迷惑なんだけど。君は可也誤解をしている風でもある。僕が直々に説明してあげよう。面倒だけど其が一番手っ取り早い。」
フォードは持っていた資料を机に戻して手を組んだ。
「黔日夢の次元は僕がさせたんじゃない。飽く迄も彼女の意思だ。僕は彼女に君が怒る様な何かをしてなんていない。攫ってもいない。此処へは彼女の意思で来たんだ。」
「自分の意思って、前世のセレに何かしたんじゃあ・・・。」
「してない。・・・いや、多少手助けに近い事はしたかも知れないけど。見てた丈だ。まさか自分が踏ん反り返っている丈で何もしない見護る丈の神に成るとは思っていなかったけど。・・・まぁでも僕も少しは悪かったと思ってるんだよ。邪魔が入ったんだ。其の所為で彼女は大切な物を失った。」
「失ったって、何をなんだ?其が分かれば、」
「・・・其は僕からは言えないな。彼女から直接聞く可きだ。問題ない。直ぐ分かる。良くある物だ。神になった者には有り勝ちな。」
「有り勝ち・・・そんな物で。」
黔日夢の次元を起こせるのか?セレが何かに其処迄固執するイメージ、持てないけど。
「僕は飽く迄延命をした丈だ。彼女は神としては成り損ないだった。此処に来た時からもう消え掛かっていたんだ。自分で自分を肯定出来ないから、僕が肯定するしかなかったんだ。」
「自分を肯定って、具体的に如何言う事なんだ?抽象的過ぎて分からないんだけど。」
途端にフォードの目が据わる。話の腰を折られて不機嫌そうだ。こんな事も分からないのかって言外で言われてる気がする。
「神には本来の姿がある。其は流石に君も知ってるだろう。じゃあ皆如何して前世の姿の儘でいられるか。其は今此の姿が自分の姿だと、化物染みた本来の姿の自分を想像出来ないからだ。其と一緒だ。彼女は抑前世の姿すら想像出来ない。つまり、重度の死にたがりと言う事だ。」
セレが・・・死にたがり。
其は何となく分かっていた。今生きてくれるのは、俺が然う縛っているからだ。一緒に居て欲しいと願った其が彼女を縛っている。彼女の本当の願いはずっと叶わない儘。
「大抵の神は死にたがりだけど、彼女程じゃない。自分を赦せない余り、世界に絶望し、生きる意味も、命の価値も忘れた。だから黔日夢の次元が起きたんだ。彼女は自分にすら価値を見出していない。他者なんて見えている筈無いだろう。普段の彼女の振る舞いは前世の処世術だろう。じゃないと彼所迄上手に繕えない。」
「・・・フォードは何でセレが其処迄死にたがっているのか訳を知ってるんだよな。」
「詳しくは言えない。僕は見た丈だからね。でも最期の彼女は悟ってしまったんだ。世界の事、自分の在り方を。そして失望し切った儘死んだんだ。でも僕は一つ腑に落ちない所があるんだ。彼女は確かに失望の内に死んだ。でも後悔はしていなかった様だったんだ。其に不幸だなんて、彼女は自分を思う様な質かな。今の彼女も多少、少しずつ前世を懐い出して来ているんだろうね。冥い陰が見える様になって来たけど、今の彼女は此の一言で済ますんじゃないかな。全て、自分の所為だ、と。」
「・・・言い然うだな、凄く。」
自分に降り掛かる理不尽は全て自分の所為。自業自得。だから不幸じゃない。自分で選んだ道。
でも後悔も無い。だって其が彼女にとって最適手だったから。他の選択肢を選べなかった自分自身を嫌いになって、御仕舞い。
「彼女は神に成る要素なんて欠片もなかったんだ。其が何の因果か不安定乍らも神になった。そりゃあ消えもするよ。抑存在しようのない存在なんだから。」
フォードは少し丈視線を上げた。此の部屋の外、未だ突っ立っているのであろうBDE‐00の姿が目に浮かぶ。
「だから僕はBDE‐01を造った。彼女を肯定する為に。でも其でも十分じゃない。足りないんだ、肯定が。もっと彼女を認めて、受け入れてあげないといけないんだ。」
「だから其の肯定って如何すれば良いんだよ。俺なんかの干渉力じゃあ役に立たないんだろ。」
「・・・多分其処は余り気にしなくて良い。どうせもう動いている奴が居るだろう。」
「え、若しかして丗闇・・・か?」
矢っ張り鍵は丗闇か。俺は又、何も出来ない。
「彼の神は賢い。自分で見極めて如何するか決めるだろう。正しく判じれる筈だ。」
「一杯教えて貰ったけどさ、そんだけ色々知ってるのにさ、殺すんだよな、セレの事。言う事聞かない奴は要らないって事かよ。」
「彼女は世界の全てを殺すつもりだそうじゃないか。向かう奴は皆殺しだろう?そんな誇大発言して置いて僕等に殺されるのか。」
「・・・?」
「鎮魂の卒塔婆は飽く迄も研究施設。戦闘部門ではない。戦争でも決して矢面になんか出ない所だ。アーリーだってオンルイオ国の本隊と比べれば自警団レベルだ。そんな僕等如きに殺される位なら、其の程度の話だった訳だ。何の道、此処で止まる様なら他の塔や況してや王に敵う訳がない。」
全てを殺すと言ったセレの決意は屹度そんな軽い物じゃない。俺には分からない物だから。
例え其が世界を滅ぼす結果を招いたとしても、俺は其でも彼女の守護神としてありたい。
「僕としてはBDE‐01は天才的な研究結果と言える。自信を持って言える。僕が百年以上もの時を費やしたんだ。彼女の存在を肯定する為に。魔力安定と調整、電力供給、イデアの干渉、術の強化、水圧維持、熱量保持、空気浄化、モフモフ愛護、耐魔干渉、原魔貯蓄、干渉力制御、破魔耐性・・・挙げたら限がない。其の全てが彼に詰まっているんだ。・・・其の為其が弱点になってしまったのは詮無い事だけど。だから其を証明して見せろ、僕の天才的発明を。間違っていなかった事を。」
あれ・・・一部変なのが・・・いや、屹度聞き間違いだ。今大事な話してるんだ。ちゃんと聞かないと。
「でも証明なんてする前に今セレは・・・。」
「・・・ん、然うか。矢っ張り然うなったか。・・・もう彼女の事は気にしなくて良い。もう彼の神は判じたんだろう。今ある次元から途轍もない闇の魔力が溢れている然うだ。彼の神が何かしたとしか思えないな。」
テレパシーが届いたらしい。少し丈目を伏せてフォードは軽く耳に触れた。
「彼の神って矢っ張丗闇の事なんだよな。」
「其以外に誰がいるんだ。彼の神は愚かじゃない。屹度僕の目的も見当が付いているだろう。希望も絶望も、世界にとって紙一重でしかない。自分にとって其が何方なのか判じて、賭けるしかないんだ。僕等は所詮盤上の駒だ。プレイヤーにも審判にも、盤にすら抗う事は出来ない。でも、彼等も背く事が出来ない物があるんだ。何か分かるか?」
「え?えっとゲームだから・・・時間、とか?」
唐突過ぎて反応に困る。正直もう殆ど話に付いて行けない。何で急にそんな話なんて。
俺は只、セレを助ける方法丈聞きたいのに。丗闇が一体何をしたのかも気になるし。
「成程悪くない答えだ。只、僕なりに答えはルール、だと思っているんだ。ルールに則ってプレイヤーも審判も行動を封じられ、ルールが変われば時間も無意味になるし、勝敗すらも入れ替わる。ゲーム自体を崩壊させ兼ねない。」
「ん、んん・・・まぁそっか。」
「僕等がしているのは其の賭けだ。ルールを変える可きか、変えざる可きか。より良くなるか悪くなるか、僕達は判じなければいけないんだ。」
「其って俺達の相手はフォードって事か?御前と言うプレイヤーを倒す方法って事か?」
「・・・はぁ、もう一寸良く話を聞いてくれ。僕は駒だと言った筈だが?其に僕達と君達が向かい合っているとも限らない。」
「え、其って如何言う意味なんだ?」
「・・・君と話すのは疲れるな。今回は見なかった事にするからさっさと帰るんだ。此以上話す事も無い。」
「い、いやそんな急に切り上げられても、結局セレを助けるには何が正解なんだ?丗闇が何かしてくれたにしても其って一体、」
「僕は君の先生でも親でもない。何でも聞いたら答えてくれるだなんて思って欲しくないな。其に答えは言ったよ。存在を肯定する事。方法は彼の神にでも聞け。同じ事は二回も言いたくないんだ。時間の無駄だし。でも強いて言えば、其の方法は君の言う彼女を救う方法だ。でも其を彼女が望んでいるのかは知らないよ。元々死にたがりなんだし、今の儘死にたくはないかも知れないけど、楽に死なせて欲しいとは思っているかも知れないし、助かりはしても彼女の心は其によって殺されてしまうかも知れない。如何するかは君が自分で決める事だ。」
「俺にそんなの決められないだろ。セレは俺なんかいなくても歩ける。俺は如何すれば釣り合えるか分からず悩んでばっかりだ。」
「ある。君には彼女の道を決める権利がある。忘れるな。誰の言葉の御蔭で今彼女は生きているか。如何して全てを殺してでも歩くと決めたか。君は自分の価値にもう少し気付いた方が良い。彼女と対等に話せるのは君しかいないんだから。」
「俺しか・・・いない。」
其の言葉に洗脳され然うだった。救いの様な、呪いの様な言葉。
俺の守護が彼女の心を護る事なら、其丈で俺は救われる。
「・・・もう良いだろう。何で僕がこんな事迄言わないといけないんだ。カウンセラーなら他を当たってくれ。遊びを其処其処に。為す可き事をしろ。何時迄も僕等が泳がせてくれると思わないでくれ。けじめは付けないといけないんだ。軍を動かせばあんな店、簡単に潰せるんだ。後は時を待つ丈なんだから。」
「其は・・・脅しか?戦えって事なのか?」
「如何取ろうが好きにしろ。」
散々喋繰っていたフォードはだが其の一言で口を閉ざした。
まぁ敵のアジトのど真中で悠長にしたら流石にシャキッとしろと怒られる。
「こんな事言うの、変かも知れないけど、有難うフォード、助かった。」
席を立ったけど相変わらずフォードは黙った儘だ。
目も据わっている。良いからさっさと出ろって事らしい。
其の儘そっと退出する。何とか五体満足で返してくれた。でも益々彼奴の事、良く分かんなくなった気がする。丗闇は目的が分かってるとか言ってたけど、俺はさっぱりだ。何より何で碌に話した事のない丗闇の方が分かってるんだ。そんなに俺って馬鹿なのかなあ。
「!?誰ですか貴方は!何故フォード様の部屋から出て来たんですか!」
未だ見張りをしていたBDE‐00が突如戦闘モードに入る。
「マジで忘れたのか御前!」
本当ポンコツだな。なんて扱い難いんだ。
「・・・BDE‐00、今は黙って彼を帰すんだ。そして今の事は忘れろ。」
「はい、分かりましたフォード様。」
即座に戦闘態勢を解除し、BDE‐00は直立不動となった。
扱い難いんだか易いんだか分かり難い。
「じゃあな、フォード。」
俺には俺の出来る事をする。
セレに頼まれていたのに。情けない話だけど。
今は信じて、彼女の帰りを待とう。
軽く手を振るとガルダは窓から身を乗り出した。
一応誰も居ない事を確認し、純皓の翼を広げてガルダは帰路に着いたのだった。
「BDE‐00、一応言って置くが窓から出入りした奴は侵入者だ。次からは排除してくれ。」
「・・・?分かりました。でもフォード様次からって前は何時あったんですか?報告が入ったのですか?」
「居れば、の話だ。気を付けてくれたら良い。」
「分かりました。見付け次第排除します。」
彼女のスカウターが軽快な電子音を立てる。
フォードはそんな忠実過ぎる部下に気付かれない様そっと溜息を付くのだった。
・・・・・
「此処・・・は、」
一歩二歩と歩みを進める。
きょろきょろとセレは辺りを見渡した。
波紋は相変わらず余り宜しくない。だが濛雨が降ってくれている御蔭で少し丈前より見易い。
其でも俄には信じ難い景色だった。
着いた次元は街だった。
灰色の甃が続き、煉瓦や木で出来た家々が道の両側に立ち並ぶ。
大きいのや小さいの。路地も幾つかあり、捨てられた芥が幾らか目に入って美観としては良くない。
路地を流れる用水路も芥や油が浮いたり、泡立ったりと綺麗とは言えなかった。
窓掛がされ、一切何の家も中の様子は分からない。でも外も儘薄暗いのに灯りの一つ付いていない。
此の灰色の様な重い空気、透明な濛雨の何処か懐かしい匂。
此処は、自分が断片的に憶えている前世の街と良く似ていた。
人っ子一人も居ないが、つい何度も路地を確認してしまう。
恐怖が、癖が染み付いているんだ。
人が居れば何をされるか。石をぶつけられるか、暴言を吐かれるか。
然う思うとざわざわと翼の羽根が逆立つ様で、何かが居れば問答無用で先手を仕掛けてしまいそうだった。
牙が首を刈ろうと疼く。爪が引き裂こうと打ち鳴らされる。尾が串刺しにしようと甲を揃える。
「おい、何て目をしているんだ。」
突然声を掛けられ、慌てて視線を前へ戻す。
其処にはフードを被って同じ様に濛雨に濡れている丗闇が居た。
「セ、オ・・・っ。」
足を出そうとして蹴躓いてしまう。
其の儘体制も直せずに丗闇に抱き止められた。
「ご、ごめ・・・んっ。」
直ぐ離れようとしたけれども力が一気に抜けてしまった様に足が動かない。
呼吸も苦しくなって口呼吸せずにはいられない。粗い息を繰り返して身動きが出来なくなってしまった。
丗闇の手が自分の腕を掠める。其丈で自分の手の甲はパラパラと剥がれ落ちてしまう。羽根も濛雨の重みで散って行く。
「・・・こんな状態なのに次元に行こうとしたのか。」
「一寸、気を・・・っ、は、張り過ぎた・・・丈、だから。・・・っ、だって此処は、前世と良く・・・似てっ、」
「今此処は我と御前しか居ない。警戒はしなくても良い。」
「っ、わ、分かった。」
緩りと息を整えて、何とか足に血が通うのを感じる。大丈夫。今なら、立てる。
そろそろ足を下げ、何とか丗闇の支え無しで立てた。
胸元に重い石を置かれた様に苦しいのでつい手を当ててしまうが、でも一応は立てる。
丗闇はそんな自分を只じっと見詰めていた。軟弱者だとか言われるかと思ったけど、口を引き詰んで見ている丈だった。
「此処は我が創った空間だ。前世の記憶の情景を元にしたから其の儘の街が出来上がったが、此処は彼の次元ではない。只、御前と二柱丈で話したい事があったから御前を招いた迄だ。」
「え・・・丗闇、空間なんて、創れる・・・のか。」
「我は闇の神だぞ。十二法の一角を握っているのだ。世界の基盤は十二法なのだから。印されて随分と力は衰えたが、闇の魔力があれば空間等創れる。」
す・・・凄い。え、自分なんかより干渉力、高いんじゃないのか?
いや、干渉力が足りないから前世の街を其の儘空間にしたのか。いやでも此を魔力で創る方が規格外なんだけれど。
出来る、と言っても屹度魔力は大量に消費する筈だ。斯うして顕現する丈でも疲れるって言ってたし。
じゃあ如何して丗闇が其処迄手間を掛けたのか。此からされるのはどんな話なんだろう。
大事な、本当に大事な話なんだろう。
「じゃあ・・・話って、言うのは。」
濛雨が、濛雨が降っている。でも丗闇の声は其の雨音等関係なく、響いて染み渡る。
「今の儘では、御前は己の存在を保てず、死ぬ。だが若しかしたら一つ丈、其を阻止出来るかも知れない方法がある。でも其を御前が望むか如何か、と言う話だ。」
死ぬ。
冗談でも誇張でもない。自分でも分かっている。もう・・・時間が無い。
「御前が生きたいと思わない限り、此の方法も無意味だ。若し御前が死にたいと思っているなら、今直ぐ其の首を刈り取って楽にしてやる事も出来る。余りの痛みに生きるのが辛いなんてもう聞き飽きた。此以上其を重ねる位なら我が殺してやる。」
然うか・・・聞こえていたのか。
思いの一部は丗闇に届いてしまうんだっけ。ずっと言わなかったけど、丗闇にはばれていたのか。
痛い・・・痛いよ。ずっと痛い。寝ても覚めても、躯がバラバラになりそうな位痛む。痛みで自分が象れる位全部痛いんだ。
でも丗闇は其を終わらせてくれると言う。屹度丗闇なら前アティスレイの夢に囚われた時みたいに躊躇なく殺してくれるだろう。痛みも無く、一瞬で。
噫其は何て甘い夢だろう。ずっと願っていた事だ。
今直ぐ然うして欲しいと言いたい。でも、其でも彼の一言丈が自分を縛っている。
でもそんなの、理由になんてならないな。生きたい理由には。
つい縋る様な目をしてしまったからだろう。僅かに丗闇が目を細めた。
其の眼差しと濛雨が迚も冷たい。
「今迄の御前を見ていたが何時も揺れていた所為ではっきりと我は其を判じる事が出来なかった。彼の巫女が言った様に御前の主張や思いは矛盾が多い。建前と本音が混ざり過ぎて肝心な所が見えて来ない。でももうそんなのは通用しない。御前は選ばなければいけない。死にたければ死ねば良い。生きたければ抗えば良い。運命に託けて死に場所を選ぶな。」
「ククッ・・・本当、丗闇は何でも知ってるな。そんな所も・・・御見通しか・・・。」
覚悟も決意もした。其の為に全力で生きる努力はする。でも死んでしまったら其は其で仕方ないよ。そんな考えが漏れていた。
「死にたい理由は沢山あるんだ・・・。根本は一つだけれど。もう・・・さ、辛いんだよ。此の世界に居るのが、何時も世界は惨酷で、綺麗で、私は嫌われている。前世でも、今でも変わらない。やっと終わったと思ったのに、優しい夢の中で終われると思ったのに気付いたら又神として生きろなんて。私は神になんて成りたくなかった。不幸でもなかったし、後悔も無かったんだ。幸も不幸も無かった丈。何も・・・無かった丈。黔日夢の次元だって起こしたのに、誰も私を殺してくれない。皆優しい。居る事を赦してくれる。でも、違う、違う。私が欲しいのはそんなんじゃない。赦して欲しくなんかない。抑もう何も関わりたくない。終わらせて欲しいんだ、私を。もう見たくもない。何も聞きたくない、知りたくない。感じたくないんだ。もう優しい言葉も、笑顔も、温かさも全てが鬱陶しいんだ。私なんて、見て欲しくなかった。声を掛けて欲しくなかった。そっとして欲しかった。誰も見てくれなければ私は・・・消えられたのに。」
堰き止めていた本音が一気に溢れた。もう限界だった。此以上隠せない。欺いていられない。
「其が死にたい訳か。」
静かな丗闇の声。今は頷くしかない。
「・・・でもこんな話、丗闇に何のメリットがあるんだ。私が死んだら丗闇は解放されるのか、自由になれるのか?」
「話を逸らすな。我じゃない。今は御前の話をしているんだ。」
直ぐ突き放された。・・・言い逃れなんて無理か。
「御前の判断の一つに我を入れるな。聞いても意味等無い。我は別に御前が死のうが生きようが関係ない。偽っているのが気に食わない丈だ。我の事情は其の程度だ。そして我の勝手な事情でもある。強いて言えば、責任がある。然う思って斯うして場を設けたんだ。」
「責任・・・?」
丗闇が目を眇め、先を続ける。
「我にも要因はあるだろう。我の存在が強過ぎて、御前の魄を喰ってしまっている可能性も考えられた。我がした事なら、我が始末をしなければいけないだろう。」
律儀にも丗闇はそんな事を気負っていたらしい。・・・だから最近、何かと気に留めてくれていたのだろう。
「そんな事・・・仮に丗闇に原因の一端があったとしても、丗闇は只其処に居た丈だ。其に望んでなんかじゃない。無理矢理縛られたのに、丗闇が責任を感じる事なんて一つも、無いよ。」
本当に、優しいな、彼女は。誰かを想うって迚も難しい事なのに。
「・・・我が如何思おうが我の勝手だろう。御前の気にする所ではない。迷惑だ、其の負い目なんて。」
然う言っても黙った儘でいるセレに溜息を付き、丗闇は続けた。
「確かに御前が死ねば自由になる。我の使命を果たせる様になるだろう。だが別に御前に印された儘でも別段困る訳ではない。今の所、店のしている事は我にとって都合が良い。黔日夢の次元の実行者として身動きが取り難い世界なのだから熱が冷める迄御前に封じられた儘でも構わない。・・・如何だ。聞いた所で問題ないだろう。結局は御前の問題だ。」
「私の・・・問題。でも丗闇、其を選ぶのは迚も、難しいよ。だって私は・・・もう狂ってるんだ。化物なんだよ。自分が自分で分からない。卑怯で、醜くて、でも今更其を正したいとも思わない。だってもう私は何も要らないんだ。優しさも好意も全て、き、嫌いなんだ。触って欲しくなんかないんだ。」
絞り出す様な声を上げると、突然セレは膝を付いた。苦しそうに胸元を強く押さえる。
爪が刺さり、服に黔い染みが広がって行く。其と同時に尾や翼に線の様に罅が入り始めて広がって行く。
そして急に口元を押さえると大量に吐血した。又目からも血が溢れる。罅割れた尾や翼からも血が滴り、直ぐ様血溜りを作って行く。
濛雨に溶けても消えない黔は少しずつ其の輪を大きくして行く。
「ア・・・ガッ、・・・ゲホッ、そ、其に、私・・・最近は特に、へ、変なんだ。建前も本音も分からない。でも、何だか、黔い、黔イ・・・ア・・・感情、ガ、溢れる様で、抑えられない。」
壊セ壊セ壊セ壊セ・・・。
耳を塞いでも彼の声が反響する丈。だって中から溢れて来るから。彼の呪いの言葉が全身の血管に入り込んでナイフを其の血汐に潜ませる様。
血を吐き乍らもセレは続ける。顔を上げた彼女の目はどろりと濁って何も映さない。
「殺せって、殺したいって。人も龍も神も次元の主導者も次元も世界すらも、もう殺したくて、壊したくて仕方ないんだ。ドレミやハリーも、ロード、ローズ、私を助けてくれたガルダも、今私の為に居てくれている丗闇も殺したいんだ。おかしいんだ。好きなのに、殺したくなんて、ある訳ない。で、でも、逆らえない。止められない。ああ゛ぁ゛あ゛ぁあぁ゛あ、殺したくて仕方ないんだ。赦せないんだ存在が。分からない、何で然う思うのか。セ、丗闇が目の前に居ると思う丈で、あぁあ゛ぁ゛、喉笛を咬み千斬ろうかと、心臓を引き裂こうかと、も、もう駄目なんだ。だから丗闇、に、逃げて。其か私を直ぐに、殺してくれ!!」
血と共に涙を流し始めて、吼え声にも似た声でセレは叫ぶ。
流石に丗闇も眉を顰めたが、未だ足は動かなかった。
・・・全て、手遅れだったんだ。
既に此奴は壊れていた。終わっていたんだ。
前世でもう何もかも。
本当に半神前。神になんて成る可きじゃなかった。
今更何を得ようとも受け止める手がもう断たれていた。
もう此奴は自身に生きる意味を見出せない。
だったらもう・・・楽にしてやる可きだ。
此奴が首を差し出している内に。其が世界の為、そして此奴の為にもなる。
でないと本当に此奴はもう少しで世界を壊すかも知れない。
自分を壊している彼の罅で。彼の絳い影が扱っていた時よりずっと危険なのは間違いない。
此奴の言っていた彼の大きな覚悟が、こんな形で達成されるのは、我も解せない。
我は、正しく判じないといけない。過ちは犯せない。でないと彼の創造神と同じ道を辿る。
其丈は・・・避けないといけない。
「・・・そんなに辛いなら、如何して自殺しなかったんだ。何故こんな風に成る迄丗に留まり続けた。」
罅が広がって行く。背に、髪に、手足に、そして彼女の姿が変貌して行く。
彼女が化物と称した己の心を具現化させた様に。黔い角だか枝の様な物が幾本も躯中から生える。溢れる血が染み込んだ様に皓かった肌も黔く変色して行く。
鼻が伸び、牙が捩じれて大きくなり、口を裂く。長い銀髪は黔水精の様に硬質化し、右目からも枝が生えて、目が嫌な音を立てて潰れてしまう。
・・・真の姿に成ろうとしているのか。
黔い雫を幾つも垂らし、溶け乍らも新たな歪を生む彼女を、其でも黙った儘丗闇は見詰めていた。
もう、言葉も分からないか。
「願ッテ・・・クれた、カら。」
頸に狙いを付けていると、そんな声が漏れた。
「ガルダが、言ッテクれたンだ。生きて欲シイって。こんな私ヲ願ってくれルカラ、捨テないでイル内ハ、叶エタかった。何モ要らない。デも、ガルダの中ノ願いは、壊シタクなカッた。信ジタかった。」
ちぐはぐな、無機質な音を重ねた様な声。
頸が伸び、龍か狼に似た面でセレは独り言の様に続けた。
「望まれた事ナンテ無カったかラ。初メてだっタカら。少シ、本当ニ少し、夢を見タンだ。優シクて、甘い死ト別ノ。・・・デモ、其を生きたい理由ニナンて出来ナい。誰かガ為に生きるナンて、汚いジャなイか。」
地を這う様に頸が伸びて丗闇を上目遣いに見詰める。瞳孔なんて無かった筈なのに、銀色の筋が縦に刻まれていた。
「今更、綺麗だの汚いだの、そんな話を御前はするのか。」
丗闇の中で警鐘が響く。もう殺さないといけない。でも、未だ判じられない。
「あんなに忠告したのに御前は何時も聞かずに無茶をした。其の上態と我をおちょくって楽しんだだろう。他者の気も知らず一柱で戦って、殺され掛けて、そんなに性格の悪い御前が、今更綺麗事なんて滑稽だ。」
「ウ゛ゥ゛・・・グ・・・アァ。」
呻く様な声が漏れる。聞き取れているかもう分からない。でも此丈は言わないと。判じる最後の砦だ。
「誰かの所為にして生きる。自分勝手な御前らしい話だと思うが。御前の本音等知らないが、単純な話だ。生きたいか死にたいか。早く決めろ。生きたい言い訳も、死にたい気持もある。何方の声の方が大きいんだ。」
「・・・ア、ア゛・・・わ、・・・私・・・は、自分ノ為っ、ナ、ら。何デも・・・する。殺しだって・・・罪ダッ・・・テ、幾ラ、で、も、ウ゛、アァ゛、でも、其デモ、思っテも良イのか、言イ訳ヲして、自分も、皆モ、偽ッテ良イノカ。」
「知るか。御前の話と何回言えば良い。御前が決めた事なら我は口を挟まない。」
「・・・・・。」
涙が零れて絳の染みが広がる。
自分の懐い。掛けられた願い。
何方を・・・選ぶ可きか。
ざわざわと、セレから生えた無数の枝が伸び、丗闇に伸ばされる。
僅かに丗闇は目を眇め、足を引き掛けたが何とか堪えた。
噫駄目。矢っ張り、此の儘じゃあ丗闇を殺してしまう。もう、直ぐ其処迄手が伸びている。
目の前に壊せる物があるんだ。
壊さないと。壊さないと。
壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ壊セ・・・。
彼の声が、濛雨が止まない。
完全に異形の姿と成り果てたセレは只静かに絳の雫を零していた。
そして裂けてしまった不揃いの牙が並ぶ口を開いた。
「・・・殺してくれ。」
「然うか。じゃあ死ね。」
丗闇が一歩踏み出し、手刀を振るう。伸ばされていた頸に深々と其は突き刺さり、其の儘骨を断って肉を切り離し、セレだった異形の首が落ちる。
裂かれた頸元から大量の黔血が溢れ、血を濡らす。
雨音が強くなる。
丗闇の腕に掛かった血は直ぐに洗い流された。
じっと丗闇は血が出続ける首を見詰めていた。開かれた瞳も瞬きもせず、動かない。
すると彼の丗闇に向けられていた枝が伸び、落ちた首に伸ばされた。そして幾重も絡まり、首を持ち上げて断たれてしまった頸元と繋ぎ合わせた。
「・・・其が御前の答えだ。こんな状況で嘘を吐くなんて本当に性格が悪いな。」
「っ、丗闇、丗闇丗闇丗闇、セ、オ、っ、丗闇、」
不自然に折れ曲がる首を枝が頸を突き刺して無理矢理支える。
死なない。死ねない。
此処で殺さないと何時か必ず後悔する時が来る。
煩い警鐘を丗闇は無理矢理呑み込んだ。
もう十分だろう。此奴は一度死んだんだ。
「わ、ワわ、私・・・は、丗闇、私・・・ハ。」
銀の瞳孔が不自然に明滅し、丗闇に向けられる。
矛盾だらけで、大っ嫌いな自分。
自分が死ねば、こんな自分と左様なら出来る。世界が喜ぶ。もう痛みも感じなくなる。
でも・・・でも、
“御前には生きて居て欲しいんだよ。”
・・・縋る物があるとすれば、其の一つ丈。
何も無かった自分を掬い上げた彼の憖い。
「生き・・・タい。」
「・・・分かった。では今から其の方法を試す。必ず成功する見込みはない。御前の其の言葉が無駄になるかも知れない。其でも良いな?」
「・・・うん、御願イ、丗闇。」
異形の形が少し小さくなる。枝が収縮し、龍の頸が縮んで黔い染みが濛雨に流される。
「先より大分ましな目になった。」
今の変化は、高過ぎる干渉力に因って姿が歪んでいたらしい。落ち着きを取り戻したのか形は憑物が落ちた様にある程度は元に戻った。
でも依然危ない状態である事は勿論変わりない。殺したい衝動が治まり、生きたいと思っても、干渉力のみでは如何しようもない所なのだ。
「直ぐにでも始めたい所だが、御前もちゃんと状況を理解した上で行いたい。又少し話すが良いな?」
「うん、良いよ丗闇。」
座った儘ではあるが、何とか顔を上げてセレは頷いた。
「先ず、我は御前の魂に印と呪と封をされた者と言ったな。だが其は実の所、我の力で解除する事が出来る。厳重な印ではあるが、何も我は知識として知っている術式だ。」
「え、と、解けるのか?じゃあ如何して今迄。」
「解けば、我の力が戻る。だが然うすれば余りの魔力に御前の魂が我を封じ切れなくなり、負荷に負けて、結局御前は死ぬ。行き着く先は同じと言う訳だ。」
「・・・お、おぉう。」
つまり何時でも丗闇は其の気になったら自分を殺せると言う訳だ。
こっわ、もう不敬なんて出来ない。
「でも其は今迄の話だ。今の御前は初めよりは勁くはなった。魔力の扱いに慣れた事で魄も安定したのだろう。だから我の封印を多少解いても問題は無いと思う。其処で、我は封印を解く事により取り戻した力を御前の存在証明に当てる。其が我の考えた御前を生かす方法だ。」
「丗闇の力で?私の存在を肯定出来るのか?」
「此の空間を作ったのと同じ原理だ。其位出来る。だが幾つか問題がある。此には可也のバランスが問われるだろう。我が封印を解き過ぎれば御前は負荷に耐え切れず死ぬ。反対に少な過ぎるか、御前の魂の許容範囲が狭ければ我の力が及ばず、御前は其の儘死ぬ。何より、此は成功した際の話だが、」
死ぬ死ぬと連呼され、正直御先真暗なんだが、未だあるらしい。丗闇が一所懸命であろうとする誠意は良く分かるけれど、こんな怖い話を今されると不安で一杯になる。
だ、大丈夫。丗闇を信じよう。先だって踏み留まらせてくれたんだ。次も屹度。
「御前の存在が肯定される事により、此迄欠けていたのが完全体となる訳だから御前自身に何らかの変化が現れる可能性がある。御前の今の姿は何処か不安定さを感じる。我も斯様な姿の者を他に知らない。だから飽く迄も一例だが、先の様な異形になる可能性もある。其も了承して貰えなければ此の方法は使わない。」
「・・・・・。」
今より化物になれってか。
でも其は詮無い事だ。其の姿が自分に適した姿なのだから。
其に然うしないと夢の様に溶けるかも知れないし。
・・・反対に異形になった姿が夢の姿かも知れないけれど。・・・誰にも分からなくなる程変わるのは恐いな。
・・・ガルダがあろう事か綺麗と言ってくれた此の姿を失うかも知れない。でも、屹度、其でも願ってくれていると信じている。
「・・・まぁ其の兆候は既に出ている気がしなくもないが。」
「ん?何の事だ丗闇。」
「・・・いや、今は・・・良い。其より如何するんだ。」
「うん、分かった丗闇。其でも一向に構わない。頼む。」
「良いだろう。では始めるぞ。」
一度丗闇が緩り瞬くと自分と丗闇の間に透明な帯の様な仕切りが現れた。
否、仕切りじゃない。其の帯は良く分からない文字の様な物が浮いて、形を作っていたのだ。
そして其の帯は丗闇を中心に輪を作る。
其丈じゃない。今や丗闇の躯は数多のごちゃごちゃとした不思議な曦に包まれていた。
蒼の鎖、地面と宙に浮かぶ魔法陣。流れる文字、漂う図形、大きな瞳の様な式、纏う幾重もの幾何学模様。他にも他にも、沢山の文字や記号が丗闇を取り囲む。
御蔭で丗闇の姿はすっかり見えなくなった。只不思議な曦が浮かんでいる丈だ。
「今、我に施されている印を可視化させた。今から此を解除する。」
曦の中心から声がする。こんな状態でも声は雨音にも霞まず、籠らず聞こえた。
「此全部か・・・?身動き出来ないじゃないか。此処迄雁字搦めにされてるなんて。・・・痛かったり、苦しかったりはしないのか?」
「此でも今回解く一部分丈の印なのだが。我の事は良い。もう慣れた。其より今は御前だ。こんな時でも逸らそうとするんじゃない。」
別に逸らそうと思って言ったんじゃないんだけれど、こんなに縛られていると見ている丈で息苦しそうだ。
「・・・では始めるぞ。」
一拍置いた後、其の曦は一気に弾けた。細かな粒になり、濛雨と共に散る。
淡くも消えつつも舞う様な其の曦は濛雨に反射して幻想的だった。
其の曦の濛雨の中心に居た丗闇は少し楽になったのか一つ息を付いて目を閉じた。
其と同時に急に体が軽くなった。痛みも無くなったし、ずっとしていた血の味も遠退く。
波紋が一気に広がり、尾や手の甲は綺麗に生え揃って、翼も羽根が整って行く。
もう眠くもないし、痺れも無い。足に力を入れるとすんなりと立つ事が出来た。
「丗闇、上手く行・・・っ。」
言い掛けて気付いた。躯の変化に。鳥の翼と蝙蝠の翼には細い鉤爪が付いている。ごつごつしていた両足も鳥の物の様な甲に変わっているし、両腕の肘に刃が突き出た様な角が生えている。そして顔、左半面が真黔になっている。手の甲と同じ様に、黔くて堅い。小さな鱗が頬に掛けて生えている。何より左目が銀色に変わっていた。
緩りと目を開けた丗闇は自分の姿を認め、僅かに眉を寄せた。
「・・・矢張り形が変わったか。」
「然うだな。でも此の程度ならなんて事はない。凄く楽になったんだ。目醒めて以来初だ。こんなに調子が良いの。」
「然うか。其ならまぁ良かったが。」
「本当に有難う。丗闇の御蔭だ。私は未だ・・・生きている。此処に居られる。」
「そ、然うか。いや、別に御前にか、感謝される覚えは・・・。延いては我の為になるし、御前が死にたいと許り言うから余り聞いているのも気が滅入るからで、我も一部とは言え封印が解けたし、楽になったのは御互い様と言うか、」
「ククッ、噫然うだな。」
今回は丗闇、沢山話してくれている。
未だごにょごにょと口籠る彼女を見ていると自然と笑えて来た。
丗闇の声が聞ける事、其の照れた顔を見れる事、彼女を殺さずに済んだ事。・・・全てが愛しい。温かい。失わなくて本当に良かったと実感する。
「・・・何が可笑しい。」
「いや、嬉しい丈だよ。もう・・・諦めていたから。」
此の儘次元へ行きたいけれど、果たして何丈消せるだろうか。
試してみると尾や翼は何時も通り消せた。顔も目も何時ものに戻る。
・・・良かった。顔が戻せるなら問題ない。後は晒を上手く巻けるか、か。
時空の穴から晒を取り出し、直ぐ様巻いてみる。
んん・・・矢っ張り形が少し変わっている。巻けるのは巻けるけれど、今迄より歪さが増したな・・・。
「此はもう両手両足義手義足ってちゃんと言わないといけないな。」
此の新たに生えた肘や膝の裏の角。此処で着脱出来る、みたいな。
何とか巻き終わると丗闇は静かに頷いた。
「もう用は済んだだろう。さっさと行け。もう直此処は崩壊する。」
濛雨が小雨になっている。此が止む頃には崩壊する筈だ。
丗闇の姿が掻き消える。自分の中に闇が広がるのを感じる。
「良し、じゃあ行こうか。」
偽物だとしても此の風景はもう見たくもない嫌な懐い出だ。
セレの姿も濛雨の中直ぐに掻き消えた。
虚構の街は何も言わず、静かに見送ったのだった。
・・・・・
壊れた欠片は奈落へ転がった自らの欠片を捜す
同じ奈落に堕ちて
もう二度と詠えはしないのに
忘れた旋律をなぞって紡ぐは継ぎ接ぎの音
戻れない戻れない
神の手すらも裏切った欠片は
其でも何処か鮮やかに咲いていた
いやーハハ、いやーハッピーエンドでしたね!今回は本当、思い入れが多い所なんで書き切れて迚もスッキリしています。・・・延命した丈ですけれどね。自殺未遂した丈ですけれどね。
セレの本音、如何でしたか。何か共感(したら不味い?)出来たり、恐怖を感じて貰えれば嬉しいです。筆者の頭が犯罪者予備軍なのはもう周知の事実ですしね。
因みにセレの甲が取れて行った所や、溶けてしまった夢、躯から枝が生える所は、実際筆者が小学生の時見た夢です。滅茶苦茶気持悪かったのを覚えています。何より自分が然うなっているのを見て父が「あー良くある事良くある事。」って良い笑顔で笑っていたのを自分は迚も絶望して見ていたのが印象に残っています。
個人的に何か斯う変身する時って、曦に包まれてぱっと変わるより、にょきにょきと徐々に変わって行く方が好きです。進化の早回しみたいな。其の分描写が気持悪くなりますが、其がリアルさかな、と思います。甲とか羽根が抜けるなら髪も抜けても良いんじゃない?って思ったんですが、色々描写がきついので止めました。はい、御都合主義みたくなりましたが、セレの毛根は凄く強いんでしょう。然う言う事にして下さい。
後セレが死にたいって言って首カットされた所。・・・うん、流れとしては生きたいって言いそうな感、出てたんですけれど、いや、こんな簡単に考え変わらないでしょ。ってか変わったら死んで行った奴マジ浮かばれねぇ、と思って言わせませんでした。言うイメージも無いですしね。
君の為に~したんだ、みたいな誰かの所為にする事は最低だ、ととある本で読んだんですが、では最低なら如何すれば良いんですか、死ねば良いんですか?他の選択肢があれば選んでいるに決まってるじゃないですか、とつい思ってしまった筆者です。出たよ極端な事言う奴、程々を知らないのかよってね。捻くれてますかね、自覚はあります。
さーて、何だかんだで生きる事を選んでしまったセレさん。何の道世界に嫌われる選択でしょう。何か一寸洒落た感じに(中二臭くなった)オッドアイなんかしちゃって、自分の事しか考えていなくて、どんどんゲスい主神公になって行きますね。ま、其も個性だし、ありだと思ってます。
フフ、次もこんな調子で行けたらと思うので、又縁があれば宜しく御願いします。




