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次元龍屋  作者: -Sare-
忘れられた世界の追憶
114/140

82次元 奥秘ノ呪いと宝珠ノ清輝

 今日は、何とも御早い再会ですね!

 今回は割と短編です。サクサクと書けたシリーズですね。年明けには丁度良いのでは?

(内容は年明け全く関係ないけれど!)

 内容的にも補完に近い御話かも・・・意外な子達の物語ですね。

 前回が結構盛大だったのでマイルドに行きたい所ですが・・・如何な物なのか。

 さぁがっつりタイトルに呪いのあるほんわかストーリーの始まり始まり~!

泉に眠る化物の鼓動をしかと聞き留めよ

揺れる揺籃歌、(サザナミ)に合わせて

沿う手の導きは何処を指すか

求め応え、其の祈りは何と純粋で(オゾマ)しい(ヒカリ)を持つか

禁忌から漏れる薫の何と芳しく艶やかか

   ・・・・・

 瞼の上で明かりが幾つも跳ねていた。

 何処か楽しそうで温かくて、思わず見惚れてしまう様な(ヒカリ)

 其に誘われる様に私は・・・目を開けた。

 そして同時に世界を知覚する。色を、景色を、頬に流れる感触を。

 然うして自分は慣れない感覚に包まれている事に気付いた。

 温かい、けれども此は・・・、

 段々と波紋は輪郭を捉えて、自分の頭は覚醒する。

 まるで永い夢から醒めたみたいに。自分は目を瞬いた。

 ガルダ・・・?

 思わず口を動かしたが、音にならない。如何して・・・?

 兎に角自分は今を、現状を理解しようとした。

 今自分の目の前にはガルダが居た。ガルダに優しく抱き締められる様にして自分は眠っていたらしい。

 其の温かさに又眠りそうになる。酷く安心してしまって瞼が重い。

 でも・・・未だ、寝る訳には行かない。自分は・・・何か大切な事を忘れている気がする。

 ガルダは、如何も寝ている様だった。僅かに背が上下する。其の様をぼうっと見詰めた。

 此処は・・・何処だろうか。何だか妙な感じだ。

 不思議な浮遊感、まるで(ソラ)に浮いている様な。如何もベッドで寝ていた訳ではないらしい。

 少しずつ波紋の感覚を広げるが、如何も反応が悪い。何時もより力を使う気がする。

 若しかして此処は・・・水の中、とか。

 息は出来る。でも空気の中を妙な揺らぎが掠めるのだ。此処が水中なら納得出来るが。

 溺れている、訳ではないな。何だか凄く心地良い。

 何だかガルダを見ていると如何仕様もない気に駆られて、そっと彼の胸元に顔を(ウズ)めた。

―・・・ん・・・セレ、起きたのか?―

途端上体が傾いで、彼の目も開いた。じっと自分の目と()ち合う。

―あ、噫御早うガルダ。―

然うか、テレパシーを忘れていた。

 其丈返すと彼は顔をぐしゃぐしゃに破顔した。そしてギュッと力強く抱き締められてしまう。

 安心するから嬉しいけれども、如何したんだろう。何だか、何か抜けてる感が否めないが。

―良かった。セレ起きたんだな。―

―ガルダ・・・?何か、あったか?済まない何も思い出せなくて。―

―一応何回かセレ起きたりしたんだけど、矢っ張り覚えてないか。―

然う言う彼の目は深い六花(ユキ)の様で、何かを隠して埋められた様な、そんな奥深さがあった。

 つい、見入ってしまう。屹度色々あったんだろうけど。

 けれども途端、其の目は泳ぎ始めた。

―あ・・・と、その、色々話す前にその、セレ・・・服、着てくれるか?俺、御前に合う服は持ってないからさ。―

―服?・・・ん・・・ん?―

然う言えば・・・何も着てないな。

 一応一枚上着を羽織ってはいるけれども、自分の知らない奴だ。サイズも大きいし、若しかしてガルダの服だろうか。

 取り敢えずは時空の穴(バニティー)から出そうか。替えの位はあるし・・・。

―じゃあ先ずは此処を出るか。一寸(チョット)掴まってくれよ。―

然う言うとガルダは上丈を見て泳ぎ始めた。

 彼の手が沿われて、自分も水面へと浮上する。

 水面へ出る直前、そっとガルダが上着のフードを被せてくれた。

 ・・・然うだった、危ない。うっかり彼に普通に付いて来ていた。

 何だか懐かしい気がして、何も考えず求めていたみたいだ。

 然うして上着をしっかりと掴み、泳ぎ切る。

 顔を上げて、思い切り息を吸った。肺を冷たい空気が満たして行く。

 何だか久し振りな感じだ。胸一杯に息を吸う。

 ・・・うん、呼吸が美味しい。良い気分だ。

「さ、セレ。岸に上がろう。其から一杯話をしないとな。」

「・・・噫、然うだな。」

此処は・・・泉、なのか?

 一気に波紋が広がるが、見慣れない景色だ。

 店ではない様だが、次元の迫間(ディローデン)・・・なのか?

 妙な感じだ。閉塞感、と言う程ではないけれども、囲まれた、閉ざされた感じがする。

 泉の周りはぐるりと樹に囲まれていたが、其の先が今一はっきり見えないのだ。

 加えて泉の上辺を見慣れない奴が泳いでいる。巨大な蜥蜴の様な、一体彼は何だろうか。

 龍でもないし、神とも違う気配・・・まさかガイ、とか?

「ガ、ガルダ、彼奴は一体、」

そっと指差すと向こうも気付いた様で、軽く片手を挙げた。

 友好的然うだが、知らないな・・・。こんな所で何をしているんだろう。

「噫、彼奴は助けてくれたんだ。話をしたら挨拶しとかないとな。」

「助けて・・・然うなのか。」

何だか頭がはっきりしない。・・・兎に角言われた通り服でも着ようか。

 岸に上がったので軽く身震いして水を飛ばす。

 さっと術を掛けて水気を飛ばすと、少しさっぱりして来た。

「術、使えるんだな。大丈夫か?」

「ん?噫、此位は何ともないが。」

確かに少し躯は重いけれども、此位なら如何って事は無い。

 其にしても偉くガルダが心配している気がするな・・・。絶対何かあったんだろうけれど。

 取り敢えず時空の穴(バニティー)から替えの服は出した。オーバーコートは無いので仕方なく昔愛用していたのを取り出した。

 ()うして見るとぼろぼろだな。ガルダが(ホツ)れとか直してくれたけれども、久し振りに出すと如何も気になる。

 ・・・其丈、良い思いをさせて貰ってるんだな。大分昔と感覚は変わって来ている様だ。

 其でも袖を通すと懐かしさを覚えた。

「あ、其何だか懐かしいな。そっか、未だ持ってたのか。」

「噫、矢っ張り捨てられないからな。・・・此、ガルダのか?」

着せて貰っていた上着を軽く畳んだ。一応、乾いてはいるな。

「噫其の(ママ)で良いよ。時空の穴(バニティー)に入れるからさ。」

上着を受け取ると、彼は直ぐに時空の穴(バニティー)へ突っ込んだ。

 洗濯もしていないんだが・・・まぁ彼が然う言うなら良いか。

 そしてガルダは改めて自分を見遣って一つ頷いた。自然、目元が緩んでいる様だ。

「・・・良かった、セレ。取り敢えず躯は大丈夫か?痛い所とか、違和感とか無いか?」

「ん・・・少し怠い丈、だな。・・・いや、少し違和感か?変な感じはあるけれど・・・。」

何となく胸元を押さえる。・・・奥と言う可きか、何か妙な物があるんだよな・・・。

 一寸(チョット)気持悪いけれども、変な感じだ。躯の不調とは別の様な。

 只途端ガルダは目を剥いて肩を掴んで来た。思わず背が伸びて固まってしまう。

「え、其大丈夫なのか⁉ど、如何しよう。もう一回此処に入った方が、」

「い、いやそんな大事になる事じゃないと思うから。大丈夫だから・・・な?」

び、吃驚した・・・何だかガルダの過保護が増している気がする・・・。

「本当か・・・?変だったら直ぐ言ってくれよ。未だ油断ならないだろうし。」

「ガルダ、済まないが話してくれるか?その・・・今一未だ私はピンと来ていなくてな。」

随分ガルダを心配させたみたいだ・・・。じっと彼は見詰めてくれるけれども、彼自身可能な限り確認している様に思えた。

 でも怒っている様子は無いし・・・自分が何か仕出かしたって事じゃあ屹度無い筈。

 だとしたら何か・・・っ、懐い出そうとすると少し頭が重くて痛む。酷く嫌な予感がする。

 本能的に恐れている様な・・・何なんだ一体。

「然う、だよな。多分、忘れているなら其の方が良いだろうけど、然う言う訳にも行かないよな。」

一つ息を付き、ガルダは何処か心配する様に自分を見遣った。

「じゃあ話すよ。只若し途中で嫌になったりしたら言ってくれ。直ぐ止めるから。」

「・・・わ、分かった。じゃあ頼んだぞ。」

其の前置きは少し不安になりつつも。

 ガルダは(ユック)りと話してくれた。En078△▽(レイオン)大聖堂で起きた、(オゾマ)しき()の一幕を。

   ・・・・・

「・・・ふぅ、如何だセレ。大体は分かったか?」

「・・・あ、噫、正直未だ信じられないが。」

「うん、多分其の方が良いよな。忘れてる方が。」

「でも・・・っ、」

自分が祝の呪いに因って囚われた時、無理矢理穢れを喰わされた事。

 其の穢れの中に、ボスが、彼奴が居た。そして自分の姿が・・・あんなにも(オゾマ)しくなって。

 少しずつ、其の感覚が甦って来た。忘れていたんじゃない。忘れた振りをしていたのだと理解する。

 其程迄に(アレ)は・・・恐ろしくって。

「セレ、大丈夫か?無理に思い出さなくて良いからな。もう終わったんだから。」

すっかりセレは顔色が悪くなり、其の肩は小さく震えていた。

 其の姿が()の弱り切った彼女と重なって、堪らず肩を寄せる。

 冷たくなった肩にじんわりと熱が伝わって、僅かにセレは息を付いた。

「でも・・・お、懐い出して来た。否、あんな事、忘れる筈がない。忘れられる筈が・・・、凄く(クラ)くて寒くて恐くて、ずっと痛くて、永遠に終わらないかと。」

息が荒くなるが、何とか呑み込む。

 余り、呑まれてはいけない。懐い出し過ぎると又あんな姿に成りそうで。

 一度成ってしまったからだろう。気を抜けば又あんな樹に成りそうで・・・恐い。

「セレ、大丈夫だから。もう彼奴も死んだ。セレをあんな目には二度と遭わせない。」

「ガルダ・・・。」

震える手を出して、違和感に気付いた。

 何となく合わせ難いと思ったら・・・棘が幾つか逆刺(カエシ)の様に生えていたのだ。

 此は・・・まるで()の樹の枝の様だ。此は紛れもない証、()の姿に成り果てたのは夢ではないと、訴えて来る。

 自分が腕を見詰めている事に気付き、そっとガルダが撫でてくれた。

 触れる丈で怪我をしそうな棘が幾つも生えて、慎重に彼は其を避けて行く。

「此、痛くないか?変な感じとかさ。」

「・・・痛くは無い、けど。・・・本当に私は変わってしまったんだな・・・。」

此が其の名残と言うなら理解出来る。完全に戻る事は出来なかったんだろう。

「セレ、御免。ちゃんと戻してやれたら良かったけど。」

「っ何を言うんだガルダ。ガルダが居なければ私は(ソモソモ)・・・。だから此は助けて貰った証だ。(アレ)を私が生き残った。」

・・・けれど、

「セレ、無理はしなくて良いからな。()の時は本当に・・・セレ、」

矢っ張り・・・隠せないな。

 自然に震えてしまう。手を重ねても止まらなくて。

「でも本当に恐かった・・・。もうあんなのは二度と御免だ。本当に良かった・・・、ガルダが助けてくれて。」

震えを止めたくてそっと彼に寄り掛かった。

 寒い。芯の方から凍らされたみたいに悪寒が止まない。

 此を受け入れたら呑まれてしまう。影がこびり付いているみたいで。

 せめて、とガルダに触れると温かくて少し安心出来た。

 彼はずっと、こんな自分の傍に居てくれたんだ。

 此の温かさにずっと包まれていた。ずっと眠っていたけれども分かるよ。

「うん、俺も・・・良かった、間に合って。俺も凄く恐かった。セレがあんな奴に捕まって、あんな・・・事に、」

彼の顔色も何処か悪くなって、そっと両手で抱き締められた。

 ・・・何だか目醒めてから良く彼は()うして抱き締めてくれるけれども。屹度自分が眠っている間も()うしてくれたから癖になったんだろう。

 まるで縫い包みになった様な心地だが、悪くはない。まるで夢の中みたいで。

 ()うして一緒に眠る夢をガルダに与えようかとしたけれども、まさかこんな形で半ば叶うなんてな。

 でも彼を随分心配させたし、然う良い眠りではなかったかも知れないが。

「本当に大丈夫か?ずっとセレ、傷が塞がらなくって、淀み、だったか。其が出続けたんだけど。」

「ん・・・今は塞がってるな。大丈夫だ。然うか、此の泉の御蔭なんだな。」

大きな裂傷が傷跡となって残っているが、しっかり塞がっている。

 そっと傷跡を撫でるが、随分大きな傷だ。此処から淀みが出ていたのか・・・。

 ちらと泉を見遣る。自分の波紋では良く見えないが、泉自体は大丈夫だろうか。

 あんな樹に成った訳だし、可也穢れてしまっていただろう。其を受け止めてくれたのか。

 樹・・・少しずつ実感が湧いて来る。()の感覚を、忘れる筈ないのだから。

 自分がばらばらになって、只(ヒタスラ)食べろと命じられて。

「・・・随分、被害を出しただろうな。私は其の気が無かったとしても、如何しても私が絡むと大勢死ぬな・・・。」

此じゃあ死神だの言われたって仕方がない。自分一柱から引き起こされてしまっているのだから。

「セレ、セレは利用された丈だ。セレが気に病む事ないだろ。彼奴が・・・全部起こしたんだ。セレも被害者なんだから。」

「けれども、今も私の中に残っているよ。あんな手当たり次第喰らった為だろうけど、魂とかが私の中に在るんだ。」

「其って大丈夫なのか?魂って、俺は詳しくないから(アレ)だけど。」

「ん、取り敢えずは問題無いと思うぞ。只巻き込まれた奴は多かっただろうと思ってな。」

ちらとガルダを見遣った。ずっと変わらず傍に居てくれている彼を。

「其にガルダも、大怪我させてしまったな・・・。何となく、憶えているよ。ガルダが自分の中に入って、一所懸命頑張ってくれていた事は。」

「あ・・・あ、えぇっと・・・其は俺も申し訳ないと言うか、その・・・、」

何故か彼は口籠ってしまって頬を染める。

「ん?如何したガルダ。何でそんな、大怪我させたのは事実だろう?ガルダが謝る要素は何処にあるんだ?」

「ええっと、正直其は如何でも良いんだけど・・・其より、セレ御免な。その、俺、セレにその・・・()の時は必死だったから仕方なかったのかも知れないけど。」

何だか偉くまごついている。・・・うーん、気になる。

 何だ、何で彼は大怪我をしたのにまるでそんな照れているんだ?

 まさか喰われるのが好きなんて訳じゃないだろう。

 でも照れる理由が見付からない。何か・・・あっただろうか。

 余りにもまごついて見ていられなかったので助け舟位は出したいのだが・・・うーん、思い当たらない。

「う・・・その、セレに食べさせる為にその、キ、キスをしたから・・・。口移しだったとは言え、強引だったなって。其に裸迄見ちゃって俺、」

・・・ん?

 何度も喉を詰まらせ乍ら言ったのはそんな事で。

 思わず自分は口を開けて固まってしまった。

「まさか、そんな事で悩んだり引け目を感じていたのか?」

「そんな事って、だ、大事な事だろ。」

「いや、若しガルダが同じ事に成っていたら躊躇わず私だって然うする。其位の事じゃないか。」

「う・・・セレ、やってくれるのか?」

「⁉見縊(ミクビ)るな!やらなきゃ死ぬんだぞ、当然だ!」

そんな薄情じゃない。其は余りにも失礼だ。

 (ムシ)ろそんな風に思われていたら・・・ショックだ。自分はガルダに創られた精霊なのに。

 然うか、ガルダは前世とかで死に掛けた事が無いから余り実感は沸かないのかも知れない。(ソモソモ)天秤に掛ける程の事じゃないのに。

 ・・・いや、まぁガルダも死んではいるのか・・・じゃあ高過ぎる再生力の所為か。死に掛けた経験が少ないからそんな事が言えるのか。

 自分が不満そうに腕を組むと、ガルダは含み笑いを返した。

「そっか。・・・分かったよセレ、其なら俺も気にしない様にするから。」

「噫、そんな事で引け目を感じられたら私も辛い。私は感謝しているんだから。」

此方としては喜び勇んで踊りたい位だ。ガルダの御蔭で自分は此処に居るんだから。

 (オゾマ)しい記憶だけれども、其を懐い出せたからこそ、今の重みが違う。

 其をそんな無粋な物で水を差さないで欲しい。

「うん、有難うセレ。然う言ってくれたら安心するけど。」

「ククッ、感謝しているのは私の方なのにな。まぁ良いだろう。又()うしてガルダと逢えて嬉しいよ。」

「・・・うん、然うだな。良かったよ本当に。」

然う言って彼は破顔した。・・・うん、ガルダは其の顔の方が良い。

「又命を助けて貰ったし、如何だガルダ。何か願いとかあったら私は叶えるぞ。私にも恩返しさせてくれ。」

「え?・・・んー・・・。」

面食らった様に彼は目を瞬いたが、此の様子は望み薄か・・・?

「無いのか?本当に。今の私ならそれなりに叶えらえれると思うが。」

「えっと・・・今は特に無いかな。もう叶った様な物だし。」

「相変わらず無欲だな・・・。此だとガルダの精霊として叶え甲斐が無いぞ。」

「然う言われても・・・。あ、じゃあ今度セレの育ててるウメーの実を分けてくれるか?新しい料理に挑戦したいからさ。」

「全く、そんなの私じゃなくても叶えられるじゃないか。」

(シカ)も彼の事だから其のウメー料理は自分にも振舞われるんじゃないだろうか。御裾分けで帰って来そうだ。

 其にガルダは基本自分の為丈に料理はしない。誰かに食べて貰いたくて作るタイプだ。

 前のガルダ料理(シカ)り、だな・・・うん。

「んー因みに()の位の規模の事ならセレはしてくれるつもりなんだ?」

「然うだな。例えば世界が欲しいって言ったら其位は、」

「待ってセレ、其は御礼で貰う様な物じゃないって!世界貰っても俺の手に余るし、嬉しくないよ。」

あっさり否定されてしまった。願われたら一寸(チョット)頑張ろうかと思ったが、彼は望まないらしい。

「あ、其ならセレにしか出来ない事は一応あるかな、一つ。」

「お、何だ?矢っ張り世界か?」

「いや、世界は良いよ・・・。何でそんなに世界あげたいんだよ。然うじゃなくて、勝手に居なくならない事。そして出来れば、傍に居てくれたら嬉しいかな・・・なんて。」

「ん・・・んん・・・。」

其か・・・確かにある意味自分にしか出来ないか。

 何て言うか・・・うーん、要は無茶とかするなって言いたいんだよな・・・。

「・・・分かった。努力しよう。」

ある意味一番難しい願いかも知れない。

 再々言われて来た事だが、まるで手綱を握られた気分だ。其を願いだとはっきり指定されると・・・。

 自分が苦い顔になっているからだろう。彼はつい吹き出してそんな自分を見ていた。

 ・・・何か悔しい。

「勿論セレが頑張ってる事は知ってるから絶対駄目とは言わないけど、若し今みたいにさ。セレに何かあったら俺が()うして助けに行くんだって分かったら一寸(チョット)大人しくしてくれたりとかって。」

「うぐ・・・まさか自分を神質(ヒトジチ)にするつもりかガルダ。」

「一緒に居るってのは然う言う事だって丈だよ。」

然う言って苦笑する彼を意地が悪いと思ってしまう。

 いや、此は自分の所為か、若しくは影響してしまっているな。自分がこんなだから彼も()う行動せざるを得なくなっている。

「・・・分かった。言う通りにするから。」

元より逆らう気だとかは一切ないが、成る可く意に沿う様にしなければならないだろう。

 其で少しでも彼が納得してくれるなら良いが。

 只善処する丈で、絶対とは言えないが・・・未だ、やる可き事はあるからな。

「うん、分かってくれたら嬉しいよ。其ならセレも頑張って叶えようとしてくれるだろうし、願いは其丈で良いかな。」

「ぐ・・・う・・・うぅ。」

駄目だ。精霊として逆らえない。取り敢えず呑むしかなさそうだ。

 悔しさに顔を歪ませる自分を見て又彼は笑った。随分、彼も性格が悪くなってしまったらしい。

「・・・うん、何時も通りのセレだな。本当良かった。」

「う、ま、まぁ然う、だな。もう大丈夫だ。」

ちらと波紋の先を見遣る。・・・湖を泳いでたガイの視線を少し感じたのだ。

 (アンマリ)ほったらかしも悪いな。ガルダから話を聞いたし、彼には随分と世話にはなっていた様だから。

「さ、ガルダ。そろそろ彼奴にも挨拶しないとな。私はもう大丈夫だから。」

「あ、然うだった。じゃあ彼方に行こうか。」

芝生から立ち上がり、軽く払う。

 此処は本当に心地良いな。不思議な所だ。()うして二柱腰を落ち着かせて話すなんて然うないし。

 二柱が立ち上がったので察したのか、ガイは少し岸へ近付いた。自分から来てくれるらしい。

 自分達も岸に近付いたので一気に彼は泳いで岸辺迄やって来た。そして繁々(シゲシゲ)とセレを見遣る。

―よぅ嬢ちゃん。すっかり元気になったみてぇだな、良かったぜ。―

「噫、御蔭様で。本当に有難う、御前の御蔭で私達は助かったんだ。」

―ヘヘッ、俺は只連れてった丈だよ。礼なら其方の兄ちゃんに言いな。ずっと嬢ちゃんを護って一緒に居たんだぜ。御熱いねぇ。―

「ちょっ、そんな言わなくて良いから!」

ついガルダが声を上げるとガイは片手を挙げて笑った様だった。

「勿論だ。ガルダには感謝してもし切れない。でも御前は外から来たガイなんだな。初めまして、私はセレ・ハクリュ―だ。御前は何て名なんだ?」

―おっと、名を聞かれるのは久し振りだな・・・。あー俺は一応、ルフって言うんだ。本当の名は忘れたけどな。―

「ルフ・・・か。良い名だな。御前にも何か御礼しないとな。」

―御礼なんて良いって。俺は此処に来れて満足だし、良い世界に来れたからな、暫く此処で(ユック)りさせて貰うぜ。―

「然うか。まぁ今は少し力が落ちているからな・・・。分かった、又落ち着いたら訪ねるよ。」

―律儀な奴だな。ま、俺は御喋りなんだ。話に来てくれるのは大歓迎だぜ、宜しくな。―

中々友好的なガイの様だ。ルフ、と名乗ったガイは水面を叩いた。

「噫宜しく。此の世界には他にもガイが居るし、仲良くは出来ると思うぞ。」

―おう、銀騎獅の事だろ?御前の事も俺知ってたんだぜ。ガイの間じゃあ一寸(チョット)した話題になってたからな。―

「・・・ん、然うなのか?ガイの間で?」

「そんなコミュニティあるんだな・・・。でも何で又セレが。」

龍とかガイとか、彼女は一部で不思議な話題を作っている。

 ガイだなんて異界の存在だろうに、凄いな。

―何でもガイに育てられたんだろ?そんな珍しい奴は然う居ないって。普通は俺達と会っちまったら赤子なんて死ぬ迄泣くだろうし、上手く育てられる自信もねぇよ。―

「噫然うか。世界に・・・避けられているんだったか。」

「其ってセレは如何なんだ?(アンマリ)感じないのか?」

「然うだな。矢っ張り慣れているって事かも知れないが、特に何とも思わないな。」

実を言うとガルダもガイの気配に圧されつつあった。

 傍に居る丈で嫌な悪寒に近い物がするのだ。だから臆せず話しに行けるセレは凄いと思っていたけれども。

 セレの育ての親もガイって事なら、俺ももう少しは慣れたいんだけど、別に悪い奴って訳でもないんだし。

―ふーん、矢っ張り変わってるなぁ面白い。ガイと知り合おうとする奴なんて普通居ねぇけど、本当に居たなんて、俺も会えて嬉しいよ。―

「所で御前は暫く此処に居るって言ったが、此処が気に入ったのか?銀騎獅が居る所だとか案内出来るが。」

―いや、一先ずは良いよ。俺、面倒臭ぇ躯しててさ。下は水に浸かっとかないと渇いて痛くなるし、背中の焔も消えたら痛むんだよ。だから()うして泳いでいる方が楽なんだ。―

「然うなのか・・・。難儀な躯だな。」

ガイは不死の存在だが、痛みは変わらず受け付ける。

 然うして泳いでいるのは楽しいとかではなく、然うしないと痛いからだなんて。

 其にガイと言う事なら他の皆からは避けられるだろう。然うして独り孤独に泳ぎ続けるのだろうか。

―ま、ガイは然う言う奴等だ。何処か矛盾を抱えてる物だからな。気にする事はねぇよ。―

「分かった。じゃあ又折を見て会いに来よう。」

一先ずは此で良いだろう。後は・・・皆の事も聞かないとな。

 途中から気付いたが、今自分の中に丗闇は居ないらしい。変な穴が開いてしまっている。

「ガルダ、皆は如何だ?私は何位(ドレクライ)眠っていたんだ?」

「えっと、セレは結構長く寝ていたな・・・下手したら数ヶ月位寝てたかも。」

「え、そ、そんなにか⁉」

想像以上に長い!すっかり彼に迷惑を掛けてしまったな。

「うん、だから丗闇や丗曦は店に戻ってるよ。一応此方は大丈夫だって連絡は入れてるから。」

「え、丗曦と丗闇、一緒に居るのか?」

「然う・・・みたいだけど、今の所大丈夫っぽいな。多分其々の部屋に籠ってるんだと思うけど。何だか此処が特殊な所らしくて、来難いみたいなんだよ。」

「然うだったのか。()の二柱が店に・・・。」

大丈夫、だろうか。流石に一寸(チョット)心配になる。

 まぁ如何も話に因ると丗曦が自分を助ける為に手伝ってくれた然うだし、話もちゃんとしたんだから大丈夫だと思うけど。

 数日なら未だしも数ヶ月か。うーん、()うなったら(ムシ)ろ仲良く成ってくれたら良いな。

 二柱が仲良く食事をしてくれているなら、此以上の事はない。うん、其を願おう。

「はは、矢っ張セレも気になるよな。まぁ店はドレミ達も居るからさ。向こうが大丈夫って言うなら問題ないんじゃないかな。」

「然うか。うん、いや、まさかそんな事になってたとは。じゃあ直ぐ戻ってやらないとな。」

何ヶ月も空けていたのかと思うと、何だか無性に帰りたくなって来た。

 淀みが抜けるのってそんな大変だったんだな・・・。まぁあんな大事になってしまったんだし当然か。

 其丈彼奴にも喰わされたって事か・・・噫、懐い出したら気分悪くなって来た。

 うん、皆の顔も見たいし、良し、成る可く早く戻る様にしよう。

「其なら、然うだな。身支度して・・・ん。」

言い掛けてより綿密に波紋を広げる。

 先からちらちらと引っ掛かる物があるな。此方を伺っている様な。

「ガルダ、私が眠っている間に誰か来たか?」

「え、誰か?・・・あ、然う言えば、又来てんのかな・・・。」

ガルダが頭を掻くが、如何も彼も知ってるらしい。

 複数の影が波紋に写りつつあるのだ。此の気配、神や龍とは違うな・・・。

「何か近くには来るけど、特に何もしないんだよな。一応警戒はしたけど、害のある奴でもなさそうだし、ほっといてるんだ。」

「此処の原住民的な何かか・・・ん、此の気配は。」

何となく知っている奴に近い気がする。気配を伺っていると、向こうも動きがあったのか此方へと寄って来た。

 初めは樹の後ろに隠れていたりしていたのだが、少しずつ慎重に出て来る。随分警戒している様だ。

「あ、ノロノロ・・・あ、あれ、何か違う?」

姿を現した其にガルダはつい声を上げたが、首を傾げてしまう。

 然う、出て来た何かはノロノロに似た姿をしていた。だが似ているのは顔丈で、大きな膜の様な、丁度傘を上向きに広げた様なのが頭に生えている。

 其の幕が閉じたり開いたりする事で飛んでいるらしく、少しずつ此方へ近付いているのだ。

挿絵(By みてみん)

 他にも矢張りノロノロと良く似た顔をしているが別の者もおり、其方は双葉の様な大きな羽根を頭にし、蜻蛉の様な腹をして、顔の下部にはスカートの様に布に似た膜が広げられ、其処から腕が生えていた。

挿絵(By みてみん)

 何方も飛び乍ら近づいているが、ノロノロとは違うらしい。

「若しかして・・・大妖精とか?」

「え、大妖精って皆()の顔になるのか?」

思わず困惑するガルダだが、勿論そんな事は無い。

 只気配は何処となく似ている。・・・近縁種なのだろうか。

「・・・御前達、誰ハロ?知らない精霊、居るハロ。」

近付いて来た一匹が声を掛けて来た。

 コミュニケーションが取れるなら助かる。何とか敵じゃないと伝えよう。未だ本調子ではないから揉め事は起こしたくない。

 まぁ此方にはガイも居るし、自分も特異な何かだから然う警戒されるのは当然だろうし。

「私はセレ・ハクリューだ。御前達は何だ?ノロノロさんの仲間か?」

「ノロノロサン、知ってるコロ!ノロノロサン、仲間コロ。」

「セレ、新しい精霊、ノロノロサンの契約者だハロ。」

「あ・・・成程、如何もセレの方に興味があったんだな。だから眠っている間は此処迄近付いて来なかったのか。」

「然うらしいな。若しかしたら今の私と同族かも知れないが。」

「ど、同族・・・ま、まぁ然うなのか。」

何とも複雑そうな顔を彼は浮かべた。でも姿が違う丈で本質的には同じだからな。

「ノロノロさんを知ってるなら、彼奴と近しい大妖精達か。こんな所で会えるとはな。」

「僕コロコロ!大妖精コロ!」

「私はハロハロ、同じ大妖精ハロ!」

大妖精がこんなに居るのは珍しい。

 其にノロノロの仲間か・・・。彼奴は分身と言うか、同じ存在なら沢山居たが、()う言う別の大妖精の知り合いに会えたのは初めてだ。

 同じ大妖精と言う事なら彼等も凄まじい力を持っているんだろう、失礼の無い様にしないとな。

 頭に傘の様な膜が付いたのをコロコロ、蜻蛉に似た方がハロハロと言うらしい。彼等もさん付けが良いのだろうか。

「コロコロさんとハロハロさん、で良いのか?」

「良いコロヨ!宜しくねセレ神コロ。」

ハロハロ丈手があるので何とか握手は出来た。代わりなのかコロコロは軽く体当たりをして来る。

 ・・・うん、此の分なら大丈夫そうだな。

「大妖精がこんな居るなんて、若しかして此処って然う言う所だったのかな・・・。」

取り敢えずルフに連れて来て貰った所だからな。・・・今にして思えばライネス国とかに出なくて本当良かった。

「確かにな。此処は御前達の住処なのか?」

話せる相手と分かってくれたからか、物陰から他にも何匹か姿を現す。

 歓迎はして貰えるらしい。

「然う、此処は精霊の泉ハロ、普通は、妖精しか来られないハロ。」

「でもガイ来たコロ。だから吃驚したコロ。」

ハロハロ達が交互に話してくれる。矢継ぎ早に言われるが、可也気になっていた様だ。

 まぁ其も然うか。素性も知れない奴等が泉を独占しては、良い気もしないだろうな。

 でもルフも此処は気に入っているみたいだし、何とか折り合いを付けてあげたい所だけれど。

 恩のある彼をガイだからって理由で厄介払いはしたくない。

 今の会話が彼に聞かれていなかったのは僥倖だが、ルフはのんびりと泉の中心を泳いでいる様だ。此方に干渉しない様気を遣っているのかも知れない。

「悪いが()のガイはもう少し居させてやってくれないか?悪い奴じゃないんだ。私を助けてくれた恩もある。」

「精霊の招いた客なら良いコロヨ。悪さしないなら良いコロ。」

「噫、然う言って貰えたら助かる。何か私に出来る事があれば手伝うし。」

「セレ、病み上がりなのにそんな。」

「彼等にも迷惑を掛けたからな。少しでも返したいんだ。大丈夫、無理はしないよ。」

流石に今の今約束したんだ。其位は弁えている。

 其でも動ける迄は回復したし、早く感覚を取り戻したのが本音だ。

「セレ神、負い目、あるハロ?」

「お、負い目か・・・まぁあるのはあるけど、ノロノロさんにも大分迷惑を掛けたしな。」

負い目って言い方には少し戸惑ってしまったが、実際彼は自分の為に何体か犠牲になったと聞く。

 自分を助けようと頑張ってくれたんだ。彼がガルダを呼び、導いてくれなかったら()の道自分は助からなかった。

 然う言う意味では負い目があると言えるか。伝えたいのは感謝だが。

「其なら良い所、あるハロ。ノロノロサンも屹度喜ぶハロ。」

「僕等の秘密の場所、案内してあげるコロ。」

「ん、御前達に付いて行ったら何処か案内してくれるのか?」

其は願ってもない事だが、大妖精の秘密の場所か・・・何だろう。

 其でノロノロへ恩を少しでも返せるなら良いが。

「其、危険な事じゃないよな?俺も一緒に行くよ。」

「駄目、連れて行けるのセレ神丈ハロ。秘密の場所だからハロハロ。」

「大丈夫コロ、セレ神なら、問題ないコロ。」

ガルダの前で何匹かのコロコロが飛んで行く手を阻もうとする。中々厳しい様だ。

一寸(チョット)言い方は気になるが・・・まぁガルダ、其なら行って来るよ。危なそうだったら直ぐ戻る。」

此以上彼には心配を掛けさせたくないし、程々で戻って来たい。

「・・・まぁ妖精の住処なら大丈夫だとは思うけど、うん分かった。じゃあ気を付けてくれよ。」

渋々ガルダが頷いて腰を下ろすと、コロコロ達も安心した様で彼から離れた。

「噫、戻ったら店へ戻ろう。其じゃあ一寸(チョット)行って来る。」

「じゃあ此方ハロ、直ぐ着くからハロ。」

ハロハロ達に付き添われ乍ら、セレは泉から離れて歩き出すのだった。

 ・・・・・

 一方其の頃次元龍屋のセレの部屋にて、丗闇は何度目とも付かない溜息を漏らしていた。

 椅子に腰掛けていた彼女はじっと机上に浮かぶ文字とも模様とも付かぬ(ヒカリ)を睨む様に眺めていた。

 ()の一件の後店へと引き上げたが、()の男のテレパシーから何とか奴は無事だと連絡が入った。

 今回も悪運が働いたらしい。又しても死に損なった訳だ。

 只回復には可也時間が掛かる然うなので()うして我は店に戻る事にした。・・・一応隣室に居る彼奴をほっとく訳にも行かないからだ。

 今の所奴も大人しくしている様だが、何を考えているのか定かではない。

 只折角彼奴が居ないならと我は一つ確かめたい事を試していた。

 其が此の占だ。一時クリエーターに戻り、一つの可能性を見詰め、見定めていたのだ。

 然うして出た結果を()うして丗闇に成り、改めて見直している。若しかしたら新たな知見を得られるかもと思って。

 余りクリエーターの力は使いたくないんだがな・・・もう失われた筈の神の力だ。

 只其でも、そんな意地を張って大事な時に使えなければ其こそ愚かだ。()の力でしか出来ない事は多々ある。だから適宜使いたいが。

 世界の未来の見通しなんてのは丗の神の啓示(アポカリエスト)を創ったクリエーターにしか出来ない。丗の全ての事象を知っているからこその絶対の未来を予見する力。

 其で見たのは勿論、()の破壊神の未来だ。

 出来れば矢っ張り見たくはない。傍に居て直接今を見定めたいのが本音だが。

 然うも言ってられない現実がある。此でも丗の神としての責任を放棄するつもりは無いのだから。

 若し奴が今後世界を滅ぼす存在に成ると言うなら、矢張り我は・・・。

 其を判じる為にも今回は力を使った。まさか此の世界の外へ行っても生きて戻って来たのだ。

 程度を知らないと言うか、何をしても奴は甦って来る。・・・流石に無視出来なくなって来た。

 現にもう二国の塔は半数以上が壊れてしまった。・・・奴一柱の手に因って。

 正直()の神一柱に此処迄出来るとは思っていなかった。精々黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)を起こすが為丈の存在だと思いきや。

 複雑な気持だ。こんなの、クリエーターの時は持ち合わせていなかったが、奴の努力は認める。結果も十二分に出ているだろう。だからこそ困るのだ。

 そして占じた結果を何度も何度も精査したが・・・、

「・・・彼奴の所為で世界が滅ぶ。」

再び重い息を付く。

 駄目だ。何度やっても同じだ。様々な可能性を考慮してもう一度占っても、何度やっても奴の影がちらつく。そして世界が滅んでしまう。

 こんなの・・・クリエーターだった時は見えなかった未来なのに、何時の間に変わり果てたと言うんだ。

 別に今の彼奴に王を危める力なんて無い。残る塔も壊せる力とは思えない。

 其に世界はそんな脆弱ではない。神の国が変わった程度で世界其の物は存続する筈だ。

 其なのに・・・何故、如何して世界は滅ぶ・・・?

 具体的に内容迄は読めない。けれども此の未来丈は確実にやって来る。

 ・・・我がクリエーターとしてもっと完璧であれば、もっとはっきり見通せるだろうに。如何して上手く行かないのか。

 悔しがっても仕方ないか。今出来る精一杯をするしかないのだから。

 其でも此の結果は・・・(アンマリ)だ。()うはっきり出てしまえば我は、

 然う考えを巡らせていると、不意に扉が開いた。そして顔を覗かせたのは()の自称未来から来たとか抜かす狂狗いかれ神だった。

「・・・おい、客に向ける目じゃねぇだろうが。」

「然うか。御前には似合いの歓迎だと思うが。」

態々(ワザワザ)我に会いに来る等、一体何を考えているんだか。

 今の所暴れる気はないみたいだが、せめて彼奴等が戻る迄は大人しくして欲しい物だ。

 ガルダであれば悲鳴一つ残して部屋を飛び出すであろう凍えた眼差しを向けるが何のその、丗曦は部屋に入ると何食わぬ顔で机の上を見た。

「・・・何やってんだ、此。」

「御前に応える義理は無い。」

(ウルセ)ぇ、先から隣でやばい力使いやがって。バレバレなんだよ。()の神の力使ってたんだろ。」

占じた結果はクリエーターしか読む事は出来ない。だから奴には只の(ヒカリ)の図形にしか見えないだろうが、力でばれてしまったらしい。

 別に此奴みたいに私利私欲に力を使わないのだからほっとけば良いのに。面倒な奴だ。

「だから何だ。我は御前と違って忙しい身だ。世界を見ている途中なのだから邪魔するな。」

一応此奴にも連絡は入っている様なので、帰ってからは部屋に閉じ籠っていたが、今来たのは如何も暇を持て余したからだろう。全く此奴も悩みの種の一つだと言うのに。

「ハッ、吾の事も読めなかった御前に何が見通せんだよ。あ?一体何の未来を見てるってんだ。」

此奴・・・しつこいな。

 正直此処で事を荒立てたくはない。彼奴等が戻る迄は大人しく留守番位して欲しい。

 だから()うして手が出そうになるのを堪えている。其なのに奴はづかづかと踏み込んで来た。

 そしてあろう事か我の向かいの椅子に腰掛けたのだ。直ぐ戻るつもりはないらしい。

「・・・帰れ。」

「吾が居る丈でそんな顔を拝めるなら悪かねぇな。」

心底意地が悪い笑みを浮かべる丗曦に遠慮なく丗闇は溜息を付いた。

 本当此奴は・・・何がしたいのかさっぱりだ。

態々(ワザワザ)引き籠もりの手前が表出てこんな事してんだ。見てるのは彼奴の未来なんじゃねぇのか。」

「だとしたら何だ。御前に話す理由もない。気安く声を掛けるな。」

「御高い振りして(ロク)な未来見てねぇんじゃねぇのか?どうせ手前一柱じゃ何も分かりゃしねぇだろ。」

「野次を飛ばしに来た丈なら帰れ。暇なら寝てろ。我に構うな。」

「・・・然うも行かねぇだろうが。吾が何処から来たか忘れたのか。」

「噫、未来から来たとか言う設定だったな。」

「設定言うな。ぶちかますぞ。」

睨まれたと所で何のその、丗闇は気にせず机上を眺めた。

「あ?如何やって見るんだよ此。適当占ってんじゃねぇか?」

「御前の様な下等生物には分からんだろう。暴力しか知らん奴だからな。」

「何強情垂れてんだよ。忘れたか?吾は未来から来たんだ。()の未来には吾しか居なかった。其の理由が其で分かるんじゃねぇのかよ。」

成程、其で態々(ワザワザ)我の所へ来たのか。

 此奴が一番知りたかった事、其に近付けるのではないかと。一応此奴なりに行動しようとしている訳か。

 ・・・若しかしたら若しもの若しもで此奴の話が役に立つかも知れない。少し丈考慮してやるか。

「確かに我が見たのは彼奴の未来だ。だが御前の望む様な形の結果は出ないぞ。」

「勿体振るんじゃねぇ。最初から手前の力には期待してねぇよ。吾は手掛かりが欲しいんだよ。何処の未来で彼奴は死ぬんだろ?恐らくは。でも今回じゃあなかった。・・・じゃあ次があるのか如何か、其が知りてぇんだよ。」

「然うか。では今回は御前なりに奴を助けたと。前は慣れ合う気は無いだの吼えていた御前が。」

「・・・チッ、然うだよ!態々(ワザワザ)吾が出向いてやったんだ。正直吾が居なきゃあ今回はやばかった筈だぜ。」

「・・・確かに、其は認めるが。」

でも其の所為でライネス国は大打撃を受け、大きく神の世界は変わりつつある。・・・本当、余計な事をしてくれた物だ。

 只でさえ干渉したくないのに未来なんて言う不確定要素を加えるなんて、巫山戯(フザケ)るのも大概にしろと言いたい。

 此奴の所為で占いが乱れるのも事実だ。御蔭で先から苛付いて仕方がない。

 此奴が(アレ)で助けた気になっていると言うなら、矢張り此奴は粗暴で未熟な神だ。

 其の所為で何丈(ドレダケ)犠牲を増やしたか、(ナマ)じ力がある癖に独り()がりに動けば如何なるかも分からない内は信用ならない。

「御前が暴れた所為で占いに影響が出ている。余計な事をせずに大人しくすれば良い物を。」

「余計ってか?何もしなかった奴が大口叩くんじゃねぇ。じゃあ手前は其の(ママ)彼奴が死ねば良かったって言うのか?」

「・・・其が運命なら、我は受け入れる丈だ。」

「手前こそ良い性格してんな。手前の事情なんか知るか。吾の御蔭で彼奴は助かり、()のむかつく国もぶっ壊してやったんだ。此処の奴等に感謝されるのは吾の方だろうぜ。」

(ムシ)ろ其の所為で益々彼奴が危険な奴だと認識されるとは考えなかったのか。」

「本当面倒臭ぇ奴だな。世界の味方のつもりか知らねぇが、じゃあ()(ママ)死ぬのと何方がマシだったんだよ。昔の吾丈じゃあ不甲斐ないから吾が動いたんだろうが。」

如何も此奴とは話にならない。(ソモソモ)の考え方が違うのだろう。

 此奴にすれば、只助けると約束したから其に従う迄、他の事情等一切目もくれず。

 こんな様で、一体何を護った気になっているんだ。

 丗曦が睨んだ所で丗闇は半ば無視を決め込んだので、丗曦は溜息を付いて再び机上を見遣った。

「・・・で、其で何を見たってんだよ。態々(ワザワザ)此の吾が聞いてやってんだから、そろそろ答えろ。」

此奴は本当に、礼儀と言うのを知らないのか。

 相手にしているとどんどんげんなりして来る。・・・如何も此奴に何か出来るとは思えん。

 厄介払いする為にも言った方が早いだろうか。

「・・・彼奴が世界を滅ぼすと出た丈だ。」

「は?世界をか?其って如何言う意味だよ。今度こそ()の国をぶっ壊すのか?」

「そんな程度の話ではない。此の世界其の物が、壊れてしまうと言ったんだ。」

此奴に一々説明するのも面倒だが、(コト)(ホカ)奴は目を見開いてじっと聞き入っていた。

 ・・・やっと事の重大さが理解出来たのだろうか。

「世界だぁ?何だよ其、じゃあ次元も此処も神も全て彼奴が壊しちまうってか。」

「然う言っているだろう。だから我は()うして見定めているのだ。御前は彼奴を助けて良い気になってるか知らないが、其の所為で世界が滅んだら如何するつもりだ。」

「ハッ、つまり其は彼奴の大勝利って訳か。丗の神も様ぁねぇな。」

「御前、何を言っている。」

丗闇の眼光がより鋭くなり、先より明らかな拒絶の色が見て取れた。

丗曦はそんな彼女に向け、一つ口笛を吹く。

「別に、只の吾の感想だよ。大方、御前なんかに管理されるのが嫌になって全部ぶっ壊したんじゃあねぇのか?何でも一柱で出来る気になってる神によ。」

「・・・其なら、我の取る手段は決まってしまう。其を分かった上で言っているのか。」

「さてな。でも何だよ。吾には暴れるなだの、大人しくしろだの言いつつ、自分は殺すのかよ。彼奴を殺せば全てハッピーエンドか?独裁ってのは分かり易くて便利だな、おい。」

「独裁・・・だと。違う、我は支配したい訳ではない。此の世界の為に考えている丈だ。分かっていて只滅びを待つ等、そんな無責任な事は出来ない。」

「別に責任を放棄しろとは言わねぇよ。(ムシ)ろ其位はやれってんだ。只、やり方は其の限りじゃねぇんじゃねぇのか。」

「・・・何が言いたい。」

勿体振ってるのは何方なんだか。丗曦はじっと丗闇の瞳を見詰め返して答えた。

「どうせ手前の事だ。今先の吾の言葉に触れたのは、図星だからだろ。彼奴を殺すのが正解って決め付けてやがる。」

「・・・・・。」

胡乱気にじっと見詰める闇の瞳を鼻で嗤い、丗曦は口端を釣り上げた。

「若しかしたら彼奴が直接世界を壊す訳じゃねぇかも知れねぇだろ。確かに原因は彼奴かも知れねぇが、今回の件みたいに彼奴の力を利用した誰かの仕業かも知れねぇ。其なのに手前は彼奴を殺すのか。」

「其が言いたくて我の所へ来たのか。」

此奴からしたら彼奴を殺させないのが一番の目的になるだろう。過去の自分があんな必死に助けようとしていたのだから。

 今回は護れた。でも此丈で未来が全て変わるとは言えないだろう。

 では次に何が起こるか・・・一番ありそうな線は矢張り我、なのだろう。

「吾がこんな手を貸したのにあっさり終わったら無駄になるだろうが。だから釘を刺してんだ。手前が偉い神だっつうんなら、其位考えろ。彼奴を殺す以外の方法を。」

「・・・彼奴を、殺す以外の。」

然う具体的な未来が見通せれば良いのだが、其が出来ないから悩んでいるのに。

 ・・・我だって、出来れば然うしたい。我だって・・・好きで未来を見ていないのだから。

 我が常に求められて来たのは絶対の安寧だ。其を与えられる方法があるのか。

 我は結局、時を超え、姿を変えても、同じ所で悩んでいるのだな。

 ふつりと黙ってしまった丗闇をじっと丗曦は見詰めていた。・・・何だか少し落ち込んでいる風に見えなくもない。

 苛めたつもりは無かったが、此奴、こんなにメンタル弱かったか?

「・・・御前、何時も寝ている癖にそんな事を考えていたのか。」

「何時も寝ているは余計だっての。吾を(アナド)るんじゃねぇ。」

「フン、随分と甘い考えを持っている様だから、未だ寝惚けているのかと思った迄だ。」

「甘い・・・だと。直ぐ殺せば良いって短絡的に考えてる手前よりマシだろうが!」

相変わらず沸点は低いらしく、彼は怒鳴り乍ら軽く机を叩いた。

「短絡的ではない。確実な方法を選んだ丈だ。だが・・・、」

クリエーターの出した答えに我が、見出せる物があるとするならば、

「彼奴以外にも不穏分子が無いとは限らない。彼奴は傍に居るから異変に気付き易く、いざと言う時は対処し易い、だからもう少し・・・外的要因が無いか探る所から始めても遅くは無いと思っている。」

「・・・つまりは吾の意見を取り入れてくれるのか?」

「別に御前に言われなくても其のつもりだった。・・・否定は敢えてしないが。」

然う言うと奴は分かり易く鼻を鳴らした。

「何だよ御前も大概捻くれてんなぁ。最初から然う言えよ。彼奴を殺したくないから、後回しにするんだって。」

・・・うざったい。()う大きく出るのが分かっていたから此奴に言いたくなかったのに。

「御前が占じた結果しか聞かなかったから言わなかった丈だ。自惚れるな。」

「ケッ、ま、手前も命拾いしたな。未だ彼奴を殺すとかほざいていたら吾が手前を始末しなきゃならなくなる所だったぜ。死にたくなきゃ手前も頑張るんだな。」

「・・・御前にやられる程柔じゃない。其に若し其の気ならそんな未来毎否定する為に御前から消すからな。」

「本当口丈は達者だな。ま、言いたい事は言えたし、吾は戻るぜ。じゃあな、次は良い未来を占えよ。」

嫌な笑みを零して丗曦は部屋から出て行った。

 其の背をじっと丗闇は見詰め、扉が閉まると同時に重く息を付く。

「そんな良い未来があるのなら、知りたいのは我の方だ・・・。」

まるで不幸の暗示の様な机上の(ヒカリ)を、そっと丗闇は掻き消すのだった。

   ・・・・・

 ハロハロ達に連れられ、セレはずっと蕭森(モリ)の中を進んでいた。

 不思議な所だ。流石妖精の住処、中々波紋が広がらず先が見えない。

 自分達が歩いている此の蕭森(モリ)の先すら見えないのだ。次元の迫間(ディローデン)の筈なのに不思議な隔たりを感じる。

 既にガルダの居る泉も見えない。一体何処迄行くんだろう。

 コロコロが飛んで行くと道を塞いでいた樹々が左右へ避けてくれる。御蔭で歩き易い、導かれている様だ。

「一体、秘密の場所ってどんな所なんだ?」

「遺跡、僕達のコロ。」

近くを飛び回っていたコロコロが答えてくれる。

 遺跡か・・・妖精の遺跡って言うと何だか凄そうだが、自分が入っても良いのだろうか。

 まぁ一応自分も精霊の端くれだが・・・ノロノロ達とは大分種類が違うしな。

 でもノロノロが喜ぶって何だろう、何かすれば良いんだろうけれども。

「ん・・・お、おぉ、此なのか。」

突然視界が開けたかと思えば目の前に石造りの大きな建物が現れた。

 本当に不意に、形を持ったかの様に現れたのだ。

 灰色の其の建物は大きく口を開け、長い廊下が見える。

 けれども矢っ張り奥迄波紋では見えない。厳重に護られているのかも知れない。

 此が遺跡なのだろうか。可也古い物らしく、彼方此方苔むしている。

 良く見ると・・・ノロノロに良く似た石造もある。()の特徴的な丸い顔が彫られているのだ。

 此処が・・・ノロノロの神殿、凄い、こんな所があったのか。

 と言う事は中にノロノロが沢山棲んでいるのだろうか。一体全体何体居るのか知らないが、少し気になる。

 下手したらノロノロの実家になる訳だ。・・・大妖精の家か・・・。

「ようこそハロ!中入るハロ。」

「頑張る、大丈夫コロ!」

「・・・何だか言い方が一寸(チョット)不穏なんだよな・・・。」

頑張らないといけない家って何だろう。まさか対侵入者トラップでもあるのだろうか。

 でも自分はノロノロの契約者だし、然う言うのは顔パスとかで許されたりしないのだろうか。

 少し警戒する自分を他所にハロハロ達はずんずん奥へ行ってしまう。

 ・・・まぁ、()の様子なら大丈夫かな。先に行ってくれるみたいだし。

 波紋が余り役に立たないのが不安だが、苔むした通路を進んで行く。

 古惚けてはいるが、劣化は(ホトン)どしていない様だ。此の遺跡自体が加護に似た力で護られているらしい。

 不図肌に幽風(カゼ)を感じた。そして視界が一気に開ける。

「お、おぉ・・・っ、危ないな。」

薄い膜を裂いた様に空間が切り替わったと思えば、床の其の先は無くなり、何処迄も深い闇が広がっていた。

 如何も深過ぎる様で覗き込むと霧だろうか、其が立ち込めて見通す事は出来ない。

 又天井も吹き抜けで、陽が差していた。

 此の空間丈大きな広間として広がっていたのだ。只上下迄広がる必要は無かったが。

 一応陽が入っているので天冠位は出して置こうか。此ならある程度はカバー出来る。

 そして先を見るとまるで鑓の様に所々岩が突き出し、辛うじて足場と言えなくは無かった。

 ま、まさか此が対侵入者トラップとか・・・。然う思いハロハロ達を見遣ったが、彼等は飛べるので其の(ママ)先へ行ってしまう。自分も翼を出せれば・・・。

 特に気にせず行ってしまったので、此は此処の造りの一つなのかも知れない。・・・もう少し優しくしてくれても良いのに。

 此のオーバーコートじゃあ翼や尾は隠し切れない。此の区間丈(ヨル)に変えても良いが、其をするとガルダに何かばれそうだな。

 一寸(チョット)頑張って跳んでみるか。一応行けなくはないと思う。

 本の少し丈畳む様に翼を出し、幽風(カゼ)を受ける。下からの幽風(カゼ)を受け、思い切って地を蹴った。

 そして一番近くの岩の先に齧り付く様四肢で掴まる。でも休んではいられない。此の勢いの(ママ)跳ばないと。

 バランスを崩したら御仕舞だからな・・・下を見るな、行け、行ってやる!

 少し岩場を崩し乍らも大きくセレは跳んで次々と岩を渡って行った。

 幽かに出てしまった翼が焼けてしまうが構ってはいられない。其の(ママ)出口を目指す。

「っと・・・はぁ、何とかなったな・・・。」

向かいの通路に降り立つ事が出来たので安心して四肢で踏ん張る。・・・うん、地面があるのは素晴しいな。

 一寸(チョット)躯が鈍っていないか心配だったが、此の分なら大丈夫そうだ。

 尾も出せたらもっと安定して跳び易かっただろうが、陽は如何仕様もないからな・・・。

「今の面白いハロ!もう一回やってハロ!」

「いや、流石に其は御遠慮願いたいかな。」

流石に何度もしたくない。割と四肢を幽風(カゼ)が吹き抜ける感覚は恐ろしかったし、慣れた頃が(ムシ)ろ危ない。足を滑らせたら最後だ。

 こんな所で怪我をすればガルダをどんなに悲しませるか、容易に想像出来るので控えたい所だ。

「そっかコロ。じゃあ帰りの時に見よっとコロ。」

「あ、噫然うだな。」

忘れてた・・・然うか。行きはよいよい帰りは恐いだ。

 ちらと波紋で見るが、少し崩れてしまっているからな・・・大丈夫だろうか。

 まぁ最悪少し術を使って影でも創ろう。其位は許されるだろう。

 ・・・ガルダの過保護センサーに掛からない事を祈って。

 さて、降り立ちはしたが、未だ通路は進んでいるな。

 思ったより此の遺跡は広いのかも知れない。気を抜かない様にしないと。

 然う思った矢先、何かが波紋に引っ掛かる。

 其はまるで(イト)の様な、細い線が通路の中心から一本伸びていた。

 此は・・・(イト)じゃないか。(ヒカリ)、レーザーに近いか?

 (アカ)いので自然の陽とは違う様だが、一体此は・・・、

 気にはなったが変わらずハロハロ達は突っ切る丈だ。模様みたいな物だろうか。

 然う思って自分も歩き始めた時だった。

「・・・っ!」

指先に痛みが走り、思わず跳び退く。

 甲で覆われた指なので痛みは滅多にない。だから猶の事驚いてしまった。

 急ぎ指を見ると、左の中指の先が・・・欠けていた。

 い、痛くて当然だ。第一関節からすっぱりなくなっているじゃないか。

 血がぼたぼたと流れ、直ぐ先を形成して固まったが、甲の下の指は欠損した(ママ)だ。

 一寸(チョット)違和感があるし、奥が痛む。・・・うぅ、こんながっつりやられるとは。

 自分が立ち止まってしまったのでコロコロ達が気になってか寄って来た。

 此、十中八九先のレーザーの所為だよな・・・。

 怪我した位置から間違いない。其にしても此の甲を貫くなんて。

 若しかしたら陽を元に作られているのかも知れない。お、恐ろしいトラップだ。

 寄って来たハロハロ達に当たり前の顔してレーザーが刺さるが、何でもない様だ。

「大丈夫ハロ?疲れたハロ?」

「いや、()(ヒカリ)が痛くてな・・・。」

「じゃあ頑張って避けようコロ!」

一瞬コロコロを壁にやってレーザー避けにしてやろうかと思ったが、如何も良く見るとレーザーは彼等の躯を透過している様だ。

 何だかこんなのを見ると、銃で狙われているみたいでハラハラするんだよな・・・。

 くそぅ、頑張れって此の事かよ・・・こんな困難な道だって思わなかったぞ。

 まぁ此処迄来たら引き返せないし、行くしかないか。

 分かっていれば避けるのは容易い。身を屈めてそっと通り抜けた。

 だが矢張りと言う可きか、其の先も同じ様なレーザーが何本も通っている。

 (シカ)一寸(チョット)ずつ隙間が狭くなっているな、こんな段階踏まなくても良いじゃないか。

 嘆いた所で如何仕様もないので一つずつ潜って行く。一応、翼は仕舞い、より波紋を濃くする。

 波紋の御蔭で距離感も狂わないし、何とか進めそうだ。

 でも()うしていると前世ギルドの仕事で金庫破りをした時を懐い出すな。

 ()の時は幼かったから案外潜り易かったんだが、(アレ)も大変だったな・・・。

 いや、こんな事で懐い出に浸りたくない。今は只此を潜り抜けよう。

「何だか見てたら面白いコロネ。」

「凄ーいハロー!頑張れハロー!」

「・・・・・。」

何だろう、応援されている丈で何か嫌な気持になる。

 此は自分の心が穢れているからか?意地が悪い所為だろうか。

 ノロノロの為に頑張りたいけれども、こんな過酷な道とは聞いていなかった。知っていたら万全の状態で来たのに。

 間違ってもこんな、病み上がりに近い形で行くなんて。元気になったとは言ったが、それなりに未だリハビリは要るぞ・・・。

 変な感じと言うか・・・多分一度変化した所為か、妙な感覚は残っているしな・・・迚も無茶出来る躯じゃあない。

 何とか気を付けてレーザーを潜り抜けた。すると次は待ってましたと(バカ)りに動くレーザーが出迎えた。

 通路の奥から真直ぐレーザーが走って来るのだ。そして高さや向きを変えて戻って行くのを繰り返す。

 噫・・・此、見た事がある。前世で御偉いさんの屋敷が何かに入った時に此のバージョンも見たな・・・。

 (アレ)もギルドの依頼だったか。難しくって当時の自分は尾をちょん斬られてしまったのを憶えている。そして別で動いていたナレーに酷く心配されて・・・。

 ・・・忘れよう、今は関係の無い事だ。

 もうハロハロ達は面白い物が見られると思ってか先で待機している。・・・何か癪だ。

 大丈夫、タイミングをしっかりと見極めて。

 一つ二つ息を整えて一気に駆け出す。

 そして軽く地を蹴り、天井擦れ擦れに獣の様に跳び上がり、隙間を潜り抜ける。

 難なく着地出来た。でも戻りの分が直ぐ来る、走らないと。

 地を蹴り、其の(ママ)ハロハロ達に向け突っ込む!

「此で・・・如何だっ!」

「え、ハ、ハロハロ~⁉」

一匹のハロハロに跳び掛かるとあっさり捕まった。

 押し倒して上に乗っかったが、如何言う訳か両手を上げて叩いた。

「凄ーいハロ!頑張ったハロ!」

「御疲れ様コロ、上出来コロ。」

うーん、一寸(チョット)襲う振りをしたが、全然怯んでいないらしい。平和惚けなのか何なのか。

 此の(ママ)食ってやる事も出来るが・・・まぁ今は止めて置こう。

 そっとハロハロの上から退くと、労いの為か肩を叩かれた。

 完全に見世物にされてしまっている。悔しい様な複雑な気持だ。

「もう、レーザーは無いな・・・。」

波紋には掛からない。(アレ)で終わりの様だ。

「ハロ、此なら最後の試練も屹度大丈夫ハロ。」

「え、最後の試練・・・?」

ってか此試練だったのか。何しれっと試されてるんだ。

 道理でトラップが多いと思ったよ。何か嵌められた形になってるじゃないか!

 何の怨みがあってこんな事を・・・若しかして泉を占領した事を実は根に持っていたのだろうか。

 まぁ試練と言うからにはゴールに何かあるんだろう。あってくれなきゃ困る。

 此で最奥迄頑張って、“命が一番の宝って気付けたのが褒美”なんて教えを説こう物なら此の遺跡を滅ぼしてやる。

 でも然う言えばもう大分昔にはなるが、ハリーが居た塔なんて小石が置かれている丈だったしな・・・過度な期待はしないで置こう。

 其にしてもノロノロ達の試練だなんて、一体何だろう。何の意味があってこんな事を・・・?

 悩みつつ歩いていると又視界が開けた。でも今回はしっかりと地面、天井がある。

 大きな広間に通されたみたいだった・・・まるで暴れられる様に。

「さぁ、此処が最後の間コロ!」

「彼はナロナロサン!頑張って倒してハロネ!」

げんなりした顔を浮かべるセレの目の前を立ち塞がる様に巨大な影が動き出す。

 其は顔丈見れば何処か愛嬌のあるノロノロ達と似た丸い頭で。

 でも躯は可也大きく、見上げる程大きい。まるで巌の様な巨体だった。

 実際巌の様な躯は一見ゴリラに近い様な、立派な物である。

挿絵(By みてみん)

「ナロナロー‼」

其の躯を見せ付ける様に両拳を叩き付け、ナロナロは雄叫びを上げた。

 う、うわー・・・。

 正直戦いたくない。何で?何でこんな目に遭うんだ?

 何と言うか(ツヨ)そうだ。明らかにパワータイプ、名前は似ているが、まさか此奴も大妖精なのだろうか。

 呼び出してこんなマッチョが来たら嫌だけどな、妖術ではなく力で解決しそうで。兎に角圧が凄い。

 マッチョと聞くとロードが(ヨギ)るので空恐ろしく写るが・・・自分に此の化物を御せるだろうか。

「えぇい、()うなったらやってやる!」

気合を無理矢理入れると、セレはナロナロに向け、跳び掛かるのだった。

   ・・・・・

 コンコン、と軽いノック音が響き渡り、胡乱気に丗闇は目を開けた。

 占いも終わり軽く休んでいたんだが、今日は客が多いな・・・。彼奴は居ないんだから用事なんて無いだろうに。

「丗闇様、今御時間宜しいですか?」

「・・・()(カンナギ)か。」

だったら未だ応じようか。何か相談事かも知れない。

「あ、セオちゃん御邪魔します!」

・・・何故、彼奴も居る。

 声を出した事を少し後悔する。扉を開け、顔を覗かせたのはドレミとローズだった。

 そして三柱連れ立ってぞろぞろと部屋に入って来る。我の部屋と言う訳ではないが、少し手狭に感じる。此奴等に遠慮は無いのか。

「丗闇様、良ければ少し御話させてください。気になる事があって・・・、」

「其の相談に三柱も居るのか。」

「うん、ドレミも同じ相談だから。」

・・・だったら仕方ないか。面倒だが断る理由も無い。

「・・・分かった。手短に済ませろ。」

「有難う御座います。じゃあ折角なので御茶の用意をしますね。」

手短にと言った傍から三柱は皿や菓子を持って来た。そしてテーブルに並べて行く。

 そしてあっと言う間に御茶会のセットが整った。茶と甘い菓子を添えられ、部屋を漂う薫に包まれる。

「・・・・・。」

じっとテーブルを見詰める丗闇の傍にはローズが腹這いになり、更にミルクとスコーンが置かれていた。

「さ、ドレミの自信作だよ。どうぞ!」

「・・・我は喰わんぞ。」

「フフ、気持ですから御任せします。」

此奴等・・・前我がうっかり食べた(バカ)りに事ある事に貢ぐ様になったが・・・。

 別に我に食事は必要無い。クリエーターの時だって(ホトン)どして来なかった。

 嫌いと言う訳ではないが・・・如何も此の背景に奴が絡んでいる気がしてならない。我と話す時は茶菓子を持って行く様口添えされているのではないか。

 然う思うと素直に食べるのも抵抗してしまう。奴に借りではないが、()う言う施しはされたくない。

「話とは何だ。さっさとしろ。」

此方としては頼んでも無いのに茶が出され、待たされている身の上だ。此位言う資格はあるだろう。

「はい、話と言うのは・・・コロシの一族についてです。」

其迄の何処かのほほんとした空気が一変し、少し部屋が寒くなった気がした。

 其程迄に(オゾマ)しい名。呼ぶのすら憚られる様な。

「クリエーター様の意見としても御聞きしたいのです。彼等は一体何なのか、教えて貰えませんか。」

「成程な。丗闇漆黎龍としては知らなくても丗の神ならと。・・・だが其の期待には応えられん。」

「若しかして御菓子が足りないのかな。」

「然う言う話では無い。」

荒く息を付き、丗闇は目を眇めた。

 今はクリエーターとしての記憶は戻っている。だが、

「・・・()の存在は我も()()していない。(アレ)は我が創った物ではない。」

「っそんな存在が居るのですか。だって此の世界は。」

「然う、我が創った物だ。其なのに我が、クリエーターが隠れていた間に世界はすっかり変わってしまったらしい。」

「其じゃあコロシの一族はまさか、丗の神の啓示(アポカリエスト)にも載っていないと・・・?」

「然うだ。我が創った当初から相当捻じ曲げられている。」

其を聞いてロードは目を見開いて固まってしまった。

 永く生きた神程、信じられない話だろう。丗の神の絶対の丗の神の啓示(アポカリエスト)が実は狂い始めているなんて。

 でも実際此の世界は可也昔の段階から擦れてしまっていた。我が居なくても回っていたのだから。

 ・・・勿論我も、信じられない。あんなに丁寧に創った筈なのに、綻んでいるなんて。

「えっと・・・丗の神の啓示(アポカリエスト)って確かクリエーター様が創った未来だっけ?セオちゃんは其が見えるの?」

「クリエーターとして力を使えば可能だ。余り見過ぎては支配に繋がるから詳細迄は難しいが。」

・・・彼奴は其を独裁と言ったが、我はそんな事、望んではいない。

 だって見なければ我は導けないのだから。其の程度の神なのだから。

「す、凄い・・・流石神様だね!」

別にそんな凄い事ではない。我が元から与えられた力と言う丈だ。

 正しく扱えてこそ、否、使えて当然なのだから矢張り褒められる事ではない。

「ではコロシの一族は其の丗の神の啓示(アポカリエスト)で見えない・・・先が分からない、と。」

「然うだ。我の創っていない物だから読めない。扱いとしてはガイと似た様な物だ。」

「え、じゃあコロシの一族ってガイさんだったりするの?」

「・・・其にしては可也異質な気がするわ。ガイとも違う気配だったけれども。」

「其の通り、彼奴等はガイとは違う。だから猶の事読めない。」

「其は・・・不味いわね。若しクリエーター様が創られたら、何かしらの意図を持った存在と思ったけれども、違うと言う事なら何を仕出かすか分からないわ。」

「多分、今もずっと暴れてるんだよね・・・。」

しゅんとドレミは項垂れてしまった。如何してもトキコロシやミナゴロシの件が頭から離れないのだ。

「御前達は(アレ)と相対しているんだったか。」

「はい、何度か会ったけれども・・・(ドレ)も強力で、恐ろしい相手だった。(アレ)を野放しにしていたら(イズ)れ世界を滅ぼし兼ねないかと。」

「うん、ドレミも然う思うよ。龍さんでも人でも関係なく殺してた・・・どんな理由があっても(ユル)される事じゃないよ。」

「確かにクリエーターとして世界を観測した時、可也の数の次元が滅んでしまっていた。黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)の影響もあるだろうが、奴等の手に因って滅ぼされた可能性も高いな。」

「然う言えばセオちゃんは直接会ってないの?」

「直接相対した事は一度もない。」

「・・・矢っ張り少し引っ掛かるわ。丗闇様、若しかしたら意図的にコロシの一族が貴方様やセレを避けている可能性ってないでしょうか。」

「意図的にか。何の為にだ。」

「例えば・・・クリエーター様に消されない為、は考えられませんか。クリエーター様の意に沿わない存在だから隠れているとか。」

「なくはないだろうな。元来であれば我が世界に直接干渉して正すのだから会う、会わないは関係ないが、今回は其の限りではない。直接我が奴等を認識し、破壊しなければ壊せないだろう。」

―へぇ、じゃあ本当だったらあっさり消されちゃうんだ・・・凄いなぁ。―

「正に神罰みたいな感じなのかな。」

「・・・別に、然う言う力の使い方自体はした事はない。そんな事をする前に(ソモソモ)そんな存在を創らなければ良い丈の事なのだから。」

「其じゃあ今回の事は例外と言う事ですか。」

何口か紅茶を口に含み、丗闇は息を付いた。

 例外・・・嫌な言葉だ。

 然う言う事が起こらない様、あんなに手を掛けたと言うのに。

 原因は・・・矢張り我なのだろうか。正しく世界を創れなかった付けなのか。

「・・・認めたくないが、然うだ。奴等丈に例外は留まらないがな。」

「如何して、何が目的なんだろう。ドレミが前トキコロシってのと話してみた時も今一要領を得ない事言っていたし。」

「一応何者かに創られた存在って風には語ってたのよね。」

「うん、然う。主の為に頑張るってそんな感じで、ドレミ達とは全く違う存在って言うか、常識すらゴチャゴチャな感じだったの。」

「御前は奴等から直接聞き出しているのか。」

其で此の席へ来た訳か。其にしても話せるのなら我も確認をしてみたい事はあるが・・・。

「うん、何て言うか、殺す事が悪くないみたいな、そんな感じだったの。其で主の事が大切そうで、でも主について聞いても何も知らないと言うか、未だ居ないみたいな妙な言い方をしたの。」

「・・・まさか未来から来た訳じゃあないだろうな。」

先から奴の影がちらつく所為で気になる・・・全く、要らん迷惑(バカ)り掛けてくれる。

―み、未来・・・?わぁ、何だか其面白そう。―

「面白くないよロー君、あんなのが居る未来なんて(チッ)ともドレミ望まないよ。」

「其で丗闇様、私も一つ思う所があったのです。其の主については分かりませんが、セレが避けられている理由の一つではないかと思って。」

「・・・もう少し話してみろ。」

何となく、此奴が言わんとしている事は理解出来るが。

 出来れば考えたくない理由にはなって来る。

「コロシの一族は分からない事が多過ぎる。つまり其は言い換えれば条件に当て嵌まれば誰でもコロシの一族に成り得ると言う事でもある。だったらセレがコロシの一族だと思われる可能性は決して低くないと思うんです。下手したらコロシの一族の主だなんて思われたり。」

「タイミング的にも、黔日夢の次元(ゼロ・ディメンション)すら起こしているし、可能性は大いにあるだろうな。」

「っ矢っ張り、そんな・・・じゃあセレがコロシの一族なんて世界で認知されてしまったら。」

「待って、其じゃあセレちゃんがコロシの一族に成っちゃうの?セレちゃん、干渉力とかで変わっちゃうんだよね?」

「其の可能性は否定出来ないな。」

其の一言で分かり易く皆表情を強張らせた。其程の存在力を()の名は持っているのだ。

「彼奴は余りにも変化を受け入れ易い体質だ。嫌な意味で寄せられた期待、懐い、干渉力を引き継ぎ易い。」

「例え本神(ホンニン)が望んでいなくても、と言う事ですね。」

「然うだ。現に先日の件が其だ。奴は淀みを喰わされた事で淀みを生み出す()()に成り掛けていた。」

幾ら意志があった所で限度があるだろう、変化し易い体質と言うのは其程厄介だ。

 況してや神とも精霊とも付かない奴だ。存在が希薄な分、変化の幅が大き過ぎる。

「セレちゃんが嫌がっても変えられちゃったんだよね・・・可哀相だよ。」

しゅんとドレミは又項垂れてしまったが、果たして周りの評価は如何だろうか。

 又奴が混乱を(モタラ)したと、然う言う風に取られるのが関の山だろうな。

 一度根付いたイメージは然う変えられない物だ。そして其の懐いがより奴を歪ませる。

 ・・・だから我は迷ってしまうのだ。彼奴は本神(ホンニン)が力を持っている丈で消そうとするのは誤りだと言ったが。

 誰かの意志一つで然う成り得る可能性を持つ丈でも十分排除される理由に成り得ると我は思う。

 其こそ、本神(ホンニン)の意志と関係なく事を起こしてしまうのなら、然うなる前に止めるのが正しいのではないかと。

 何時迄も見護っている訳には行かないのだから。

「セレはコロシの一族には成らないと言ってくれたわ。でも・・・世界にさせられてしまうかも知れない。其が如何しても私は気掛かりだわ。」

「世界に・・・か。」

そんな風に世界を創ろうとは思っていなかったのにな。

 生じた歪に対処する力なんて我は想定していなかったから創れていない。

 其が、嫌な意味を持ち始めてしまうのかも知れないと言うのか。

「丗闇様、私の考えですが、コロシの一族の主が一体誰なのか。そして其の真の目的も分かりません。でも若しかしたら其の足掛かりとして、セレを其に連なる者にしようとしている様な気がしてならないのです。」

「直接対峙はせずに噂丈を広め、干渉力で奴を仲間に引き入れようとしている、か。」

「うん、ドレミもそんな気がする。其に若しかしたら、未だ主が居ないって言い方をしたけど、其はセレちゃんに此から成って貰うから、然う言う意味で言ったのなら辻褄が合う気がするの。」

「・・・・・。」

此奴等の危惧している事は良く分かった。そして其は我の考えている事と変わらない。

 矢張り、奴は危険か。其の結果で丗が滅ぶ可能性は可也高い気がする。

 見ていた未来の具体的な形が此なのだとしたら・・・。

「然うだな。我も同じ事を考えていた。彼奴の力を利用しようとする輩は居るかも知れない。」

此が此奴等のしたかった相談事か。

 であるならば次は其の解決策を導かなければならないだろう。

 だとしたら矢張り取れる手段は限られて来る。丗の為にも我は選ばなければ。

「其じゃあ猶の事早く其の首謀者を見付けないと、だね。」

「えぇ然うね。幸いと言う可きか、私達とコロシの一族は接触出来るみたいだし、其処から探りを入れる可きね。」

「自ら危険に首を突っ込むか。我は推奨しないが。」

「だってドレミ、セレちゃんにコロシの一族なんて成って欲しくないもん。其の為なら頑張るよ。」

「然うね。そんな風にセレを利用しようとしている奴が居るなら(ユル)せないわ。私も出来る限りの事をするわ。」

「・・・然うか。」

此奴等は初めから彼奴を如何()うしようと言う気は無いのか。

 てっきり其の気があるから奴の居ない時分に()うして我へ相談を持ち掛けて来たと思ったが。

「如何ですか丗闇様、若し何か妙案があれば御聞きしたいのです。現時点でも私達に出来る事があれば。」

「・・・奴の方を如何にかしようとは思わないのか。利用されそうならば、利用出来ない様にするのが手っ取り早いが。」

「え、其って如何するの?セレちゃんに何かするって事?」

「店に閉じ込めてしまう、とかですか?」

二柱は同じ様に首を傾げて我の方を見ていた。

 そんな二柱と我を交互に足元の獣も見遣っている。

「・・・初めから奴自体を断てば、其で済む話だと思った迄だ。」

其ならもう悩む事も無い。時間切れも気にしなくて済むのだから。

 だが二柱は僅かに目を見開いて、一度口を噤んだ。

「そんな酷い事、ドレミ出来ないよ。セレちゃんは頑張ってる丈、皆の為に店をしたりして、今一所懸命なのに、ドレミはセレちゃんを助けたい丈だよ。」

「御言葉ですが丗闇様、私は・・・セレを助けたくて相談しています。其に仮にセレが居なくなってもコロシの一族は消えないし、何も現状は変わらないと思います。」

然う言う事か。我と此奴等が見ている物は違う。

 ・・・彼奴も似た様な事を言っていたが、我は世界を、此奴等は彼奴を助けたいと思って同じ問題と向き合っていた訳だ。

 まぁ確かに最初から別に世界を救いたいだとかは言っていなかったか。我の早とちりらしい。

 ・・・彼奴を助けたい、か。

 此奴等の相談の意を履き違えていたのは良くないな。であるなら其に対する解決策を提案する可きか。

「分かった。然う言うのであれば、手段は自ずと限られるだろう。今言った通り、大本、コロシの一族を断てば良い。」

「っ然うですね。セレに何かされてしまうより前に私達が止めれば、」

「うん、分かった・・・。じゃあ後は探す丈だね。」

―手掛かりは無いから頑張らないといけないけどね。―

ほっと安心したのかローズはスコーンを一口で平らげると顔を上げた。

「そんなの、どんどん仕事をしてれば又会えるよ。今度こそちゃんと(タオ)すんだから。」

「然うね。私も次元に行ってみるわ。丗闇様、相談に乗って頂き有難う御座いました。若し丗闇様の方でも何か分かったら是非教えてください。皆にも共有して置きます。」

「・・・分かった。」

正直我は大した事を言っていない。可能性を示唆した丈に過ぎないのに。

 二柱は何処か吹っ切れた様な顔をしていた。やる事を見付け、前に進む者の目だ。

 ・・・若しかしたら我に足りないのは此なのだろうか。

 此の身だから分かるのかも知れない。何故か我は此奴等を少し眩しく、羨ましく思ったのだ。

 同じ様に我も、考えて立ち止まらずに動けたらと。

 ・・・我は臆病だ。其はもう見透かされてしまっている。

 選択に怯え、何時も静観して選ばず、だから()(アカ)の化物も未来から来た化物も我を(ソシ)る。

 彼奴等が言いたかったのは此の事、だったのだろうか。

「じゃあ片付けよっか。あ、セオちゃんドレミのクッキー如何だった?甘さを控えてみたんだけど。」

皿を下げられた所ではたと気付いた。

 何時の間に・・・完食してしまっているではないか。

 自分でも信じられずに皿を二度見したが、矢張り無い。綺麗に無くなっている。

 言われて考えてみれば幽かに口の中も甘いな・・・抜かった、又悪い癖か。

 何時も考え過ぎると手が出てしまう。別に求めていないと言うのに・・・っ。

 じっと彼女に見詰められる・・・如何やら言わなければ解放する気はないらしい。

 出された物は食べてしまっているし・・・ぐ、策士が。

「・・・美味だった。」

「そっか、良かった!じゃあ又作るね!」

「っいや、もう我は、」

にっと笑い返すとさっさとドレミは部屋を出てしまった。

 有無も言わさず奴は・・・全く、何て自分勝手なんだ。

「フフ、じゃあ此からも宜しく御願いしますね丗闇様。」

苦々しい顔を浮かべる彼女に一礼すると、そっとロードとローズは部屋を出て行った。

 残るは丗闇一柱だ。思わず浮かしてしまった腰を下ろし、椅子に深く腰掛ける。

 ・・・何だか、一気に疲れた。

 本当に此処の連中は面倒事(バカ)り運んで来る。少しは我の身にも成って欲しい。

 只其でも・・・もう彼奴等は動くと言うのか。

 手掛かりも、具体的プランも無いと言うのに我武者羅に。彼奴を助ける為に。

 其は愚かにも思うが、でも果たして()うして悩んで座り続ける我と比べると如何だろうか。

 ・・・我武者羅でも、直ぐに先の答えは出た。其に従うのは果たして悪か。

「・・・やれる事をやる、か。」

一つ息を付くと丗闇は取り戻した静けさを味わう様に目を閉じるのだった。

   ・・・・・

「案外弱かったな。」

「ナ、ナロナロ~・・・。」

セレに踏み付けられる形でナロナロは倒れていた。

 四肢を投げ出して完全に伸びている。此の分ならもう暴れないだろう、降りてやるか。

「凄いハロ!圧勝だったハロ!」

(ムシ)ろ一番簡単な試練だったな。」

「ガーン!ナロ・・・。」

一瞬顔を上げるも、又伏せてしまう。完全服従らしい。

 流石に体術丈で相手出来る奴ではなかったので術は使ったが、巨大過ぎる故に良く当たったのだ。

 向こうの攻撃は全部大振りだから(カワ)し易いし、一撃も貰わなければ如何と言う事はない。

 所々の床が丸く陥没しているので威力は可也の物だったろうが、まぁ当たらなければ問題ない。

 寝起きのウォーミングアップには丁度良かった相手かも知れない。

 術を(マト)わせた爪で背中や頭を殴っているとあっさり倒せてしまった。

「此でノロノロサンの秘宝はセレの物ハロ!」

「え、秘宝?」

何其、全然聞いてないけど。

 何時の間にか話が変わっている気が・・・まぁ良いか。

 でも大妖精の秘宝って何か凄いな。一体何だろう。

 其を貰えるなんて思ってもいない褒章だが、あれ、ノロノロの為になるのか?其喜ぶのか?

 (ムシ)ろノロノロから貰っちゃう様な形になる気がするが、うーん。

「ナロナロ~。」

むくりと起き上がったナロナロは背を向けると歩き始めた。

 そして奥でぴったりと閉じられていた扉に手を掛けると、力技で()じ開けた。

「ん、通って良いのか。」

「ナロナロ~。」

道を開けると大きくナロナロは頷いた。敵対していたって訳じゃあないんだな。本当の試練だったらしい。

「じゃあ遠慮なく。」

気になる事は幾つもあるが、秘宝は気になる。

 此処迄、其処其処頑張ったので少し位は期待を寄せても良いだろう。

 通路を進むと又直ぐに広い部屋に着いた。そして其処には一本の樹が(ソビ)え立っていた。

 如何やら此処が最後らしく、中心に立派な樹が生えている丈だ。

 樹か・・・自分の姿がこんな風に変わってしまったから少し臆してしまうが。

 其の樹は真黔(マックロ)で、大きく枝を広げていた。

 葉は一枚も付けておらず、枝の先はくるりと丸まっている。余り見慣れない樹だ。

 そして其の樹の枝には何個か実を付けていた。

 其の実は・・・掌サイズ位で丸く、何処か見慣れた模様をしている。

「此が・・・ノロノロさんの秘宝なのか?」

樹に近付き、繁々(シゲシゲ)と見遣る。

 (ホボ)、間違いないだろう。何故なら其の実はノロノロ達の頭にそっくりだったのだ。

 紫や黄、翠と色んな色を付けているが、此の落書きみたいな顔は間違いなくノロノロだ。

 こんな自己主張の激しい秘宝は初めて見たが、当たりと見て良い。

「然う!其が秘宝、通称ノロノロの実!ハロ!」

「此、貰っても良いのか?」

「勿論!君は試練を踏破したのだからコロ。」

遠慮勝ちに一つ実に触れるとあっさりと取れた。

 匂は・・・しないな。手にすると益々彼奴の顔そっくりだ。

 何と言うか首を持ってるみたいで一寸(チョット)嫌な気持になるな・・・。

 でも此の樹や実から不思議な力は感じる。一体此は何なんだろう。

「此、如何したら良いんだ?ノロノロさんにあげるのか?」

今一(ドレ)が熟しているかとか分からない。味も不明だが。

「食べるコロ。」

「其はもうセレの物ハロ、だから食べて良いハロ。」

「え、食べるのか?私が?」

正直食べたくないんだが・・・得体が知れないし。

「でも私が食べるのは変じゃないか?ノロノロさんの為になるならと此処迄来たのに。」

「其、食べたら凄いコロ。(ツヨ)くなる、そしたらノロノロサンも喜ぶコロ。」

「え、あ、然う言う事なのか?」

食べたら(ツヨ)くなる?魔力でも詰まっているのだろうか。

 其で自分が(ツヨ)くなればノロノロが喜ぶと・・・う、うーん、良いのか其で。

 何か申し訳ないと言うか、自分の為になるのか。

 まぁ大妖精の秘宝ともなれば凄い力は秘めて然うだな。・・・食べるのに抵抗のある実だけど。

 多分不味いだろうし・・・まぁ選り好みはしないが。

「其じゃあ・・・食べてみるか。」

見た目が(アレ)な丈で、もっとえげつない物なら食べて来ているし。

 穢れを喰ったのと比べたら、何でも食べられる気がする・・・良し。

「セレ神ぃい‼其食べちゃ駄目ノロー‼」

そんな叫び声と同時にノロノロが部屋へ飛び込んで来た。そして勢い余ってつんのめり、セレの前で盛大に転んでしまう。

「っわっと、だ、大丈夫かノロノロさん。」

「ノロノロサンドジ、ハロー。」

コロコロ達が彼の上を飛び回るが、気にせずノロノロは起き上がってセレに詰め寄って来た。

「まさか食べたノロ?食べてないノロヨネ?」

「・・・一寸(チョット)丈。」

一寸(チョット)⁉」

「ククッ、済まない冗談だ。半分丈だ。」

「ノロー‼真面に答えるノロー!」

ガバッと口を開けた様は一寸(チョット)恐ろしく写る。

 良い反応をするのでつい揶揄(カラカ)ってしまった。

「食べてない食べてない。ほら此だろう?」

自然後ろ手に隠してしまっていたが、実を彼に見せてやった。

 途端ノロノロは目にも止まらぬスピードでフードの下から手を出し、実を掻っ攫ってしまった。

 む・・・中々やるな。見す見す渡してしまうとは。

「よ、良かったノロ・・・。何とか間に合って。」

「ノロノロサン、邪魔するなハロ。」

「後一寸(チョット)だったコロ。」

コロコロ達が声を上げると、ノロノロは両手を広げて威嚇する様に声を出した。

「駄目ノロ!セレ神は渡さないノロ!」

「その・・・此は如何言う状況なんだ?」

渡す渡さないって何だろう。何故か知らない間に自分の利権問題が起こっているが。

「ノロ・・・此の実は食べたらノロノロに成ってしまう実なんだノロ。」

「お、おぉう・・・其は中々恐ろしい実だな・・・。」

確かにノロノロ達の顔は付いていたけれども、そんな恐ろしい事が・・・。

 うっかり彼等の口車に乗せられて食べていたら・・・ガルダ所か皆に怒られる所だった。

 特に丗闇からどんな小言を言われるか、折角ガルダが治してくれた直後だってのに。

 此処迄の道程からも何かあるのかな、位は思っていたが、其でもまさかノロノロにされてしまうとは思っても居なかった。

 ・・・此、普通に怒っても良い案件だよな?

「一体如何言う料簡だったんだ?悪戯にしては度が過ぎるぞ。」

自分が無事辿り着けたから良かったものの、道中も危ない目に遭った訳だし、笑って済ませられはしない。

「ノロノロサンに負い目あるって言ってたハロ。」

「だから連れて来たハロ、セレ(ツヨ)いから、(ツヨ)いノロノロサンに成るノロ、然うしたらノロノロサン喜ぶハロ。」

「喜ばないノロ!ノロノロの契約者に何て事するノロ!」

すっかりノロノロも御立腹の様で、セレの前に立って威嚇を繰り返していた。

 一応自分も樹からは離れるか。流石に無理矢理食わされはしないだろうが、何か恐いし。

「えっと・・・如何言う事なんだ?」

「ノロ、セレ神は聞いた事ないノロカ?ノロノロと遊ぶとノロノロに成るノロ。ノロノロを怒らせたら呪われるノロ!」

「ん・・・何となく聞いた様な・・・。」

ロードが話していたな。大妖精について聞いたら、そんな話があるって。

「正に其ノロ。ノロノロの実を食べさせてノロノロに変えられてしまう、然う言う事だったんだノロ。正確には此処の実を食べたらノロノロ達の誰かに成るノロ。」

「成程、じゃあ()のマッチョに成る事もあるのか・・・。」

其にしても恐ろしい秘宝だ。一種の呪物だな。

「然うノロ。呪われてノロノロに成っちゃうんだノロ。だから食べちゃ駄目ノロ!」

「先(ツヨ)いノロノロさんに成るって言ってたし、其がノロノロさんの為になると思ったのか。」

負い目があるかと聞いたのも、ノロノロに悪さをしたか如何かの確認のつもりだったのかも知れない。

 其にしても強引な・・・要は其の身を全て捧げるって事になっていたんだから。

 あんな試練を終えての結末が其とは悲し過ぎる。・・・まぁ嫌だと言いつつも、食べれば大妖精に成れるのだから秘宝には変わりないか。

 喜んで成りたい奴もいるだろうし、一概に悪い事じゃないと思ったのか。

 まぁ(アンマリ)嫌だ嫌だと言うとノロノロに失礼かも知れないが、予告も無しにこんな事をされたら誰でも嫌がると思う。

「ノロ・・・セレ神が元気になったって聞いたから来てみたらこんな所に来てて吃驚したノロ・・・。同じ大妖精でも危ない奴はいるからほいほい付いてっちゃ駄目ノロヨ。」

「危ない奴じゃないハロ!」

「僕等なりの親切コロ。」

「駄目ノロ!其でもセレ神をノロノロにしちゃ駄目ノロ!」

「有難うノロノロさん。すっかり助けられてしまったな・・・。」

(ムシ)ろ助けられてしまうとは、面目ない。

「ノロ、其にしても何でこんな所に来たノロ?一体何て唆されたノロ。」

「唆してないコロ!」

コロコロ達がノロノロに体当たりを繰り返すが、全く彼は気にしていない様だった。

「えっと、私を助けてくれるのに随分力を使ってくれたって聞いたからな。だから何か御返しが出来るか相談したんだ。其で此処へ連れて来て貰ったんだが。」

其を聞くと、ノロノロは頭を左右に振った。何処か困った様に口を噤んでいる。

「そんなの、セレ神が気にする事ないノロ。又セレ神が居なくなるのかと思ってノロノロすっごく困ったんだノロ。だから・・・ちゃんと戻って来れて本当良かったノロ・・・。」

う、此は・・・本当に可也心配させてしまったらしい。嫌と言う程気持が流れ込んで来たのだ。

「・・・有難うノロノロさん。御蔭で私は此の通り無事だ。」

「危うく再会する前にノロノロに成っちゃう所だったノロケドネ・・・。」

ほっと息を付くと大口を開けて彼は頷いた。

(ムシ)ろセレ神はもっとノロノロを頼って欲しいノロ!折角契約したんだからノロノロだって役に立ちたいノロ。」

「奴隷根性、抜け切ってないぞノロノロさん。」

「そんな事ないノロ。だってセレ神全部自分でやっちゃうノロ。ノロノロの出番が無いノロ。」

然う言ってしゅんと彼は項垂れてしまう。

 そ、然うか・・・適材適所と言うし、別に今でも十分役に立ってくれていると思うのに。

 まぁでも()う思うのは若しかしたら自分がガルダに対して思うのと似た様な物かも知れない。其ならもう少し頼ってみようか。

 丁度、御願いしたい事はあるしな・・・うん。

「・・・其なら一寸(チョット)御願いしようか。あ、然うだ。因みに其の実、折角だから幾つかくれないか?大丈夫、私は食べないから。」

「何するんだノロ?」

「矢っ張り食べるハロ?」

食べないって・・・ってか未だ居たのか御前達。

 興味があるのかずっと見ているらしいが・・・うーん。

「其があったら嫌な奴に会っても、無理矢理食わせてノロノロさんにさせられるって事だろう?使い所に因っては・・・、」

「此処を出たらノロノロの実は腐っちゃうから持ち出し不可ノロ。」

「然うなのか・・・残念だな。」

結構便利かも知れないと思ったのに。せめて戦利品は欲しいと思ったんだが。

「其にそんな使い方しないで欲しいノロ。まるでノロノロに成るのがバッドステータスみたいノロ。」

「実際呪われてるコロネ。」

「秘宝を盗みに来た奴が僕達に成るコロ!」

「噫然うなのか。一種のトラップも兼ねているんだな。」

然うやってノロノロ達は増えていたのか。其だったら余り自分の考えたやり方と変わらない気がするが。

 まぁ持ち出せないのなら利用は難しそうだな。一々其奴を此処へ連れて行く訳にも行かないし。

「ノロ、まさか御願いしたい事って其じゃないノロヨネ?もうノロノロの実の事は忘れるノロ。」

「噫勿論他の事だ。試しになんだが、今の私を見てノロノロさんは如何思う?多分又前と変わってると思うんだが。」

両手を広げてみせると、ノロノロは改めて繁々(シゲシゲ)と自分を見遣った。

 そして僅かに其の表情が曇った気がした。

「後遺症、と言う可きノロカネ・・・。セレ神穢れちゃったノロ。もう純粋な精霊ではないノロネ。」

「矢っ張りか。一度全部抜け切ったと思ったが、又溜まり始めてるな。」

ずっと胸の内に残る様な感覚があると思ったが、此が穢れか。

 一度泉で全て落とした筈なのに又あると言う事は・・・、

「セレ神は()の時、沢山の神を食べていたノロ。其が恐らく悪い方向に呪いとなって働いているノロネ・・・。」

「呪いか。彼奴に何か術を掛けられていたかもな。どんなのか分かるか?」

「セレ神は精霊として、契約した相手の魂を取り込んでいたノロ。如何も()の時喰らった魂も取り込んでいるみたいノロケド、其を契約としてではなく、呪いとして取り込んでいるノロ。だから其の魂達が常に・・・穢れを出し続けているんだノロ。」

「穢れ・・・其が溜まり過ぎると又()の樹みたいに成ってしまうのか。」

()の姿は可也特異だったノロ。制御出来なければ恐らくは姿が変わる前に其の(ママ)・・・死んでしまうノロ。」

「病みたいな物か。其に常に削られているんだな。」

良い物ではないと思ったが、矢張り然うか。

 不意に、声に似た物が聞こえるのだ。まるで怨嗟の声の様な、冷たくて重い。

 最初の内は未だ()の時の事がフラッシュバックしてしまっているのだと思った。でも違う。

 残っているのだ。未だに此の身を蝕んでいる。

 自分が樹に成って大量に食い殺した神々、彼等の魂を取り込み、自分は穢れに変えてしまった。

 其の所為でずっと此の身の底に溜まり続けている。余り良い気はしないな。

「一応定期的に吐き出すなりしていれば大丈夫だとは思うが。」

「然うノロネ。少量の内なら未だ自分で対処出来ると思うノロ。だから呉々(クレグレ)も溜め込み過ぎない様にするノロヨ。」

「噫分かった。又あんな風には成りたくないからな。」

厄介な物を背負わされたが、此(バカ)りは仕方ないな。

 でも背負ったからには・・・利用する迄だ。

「其ならノロノロさん、穢れについて確認だが、其は私の様な精霊や妖精には毒なんだよな?」

天使だったクレイストも喰らってはいたが、平気な奴の方が少ないのかも知れない。

「然うノロ。恐ろしい物ノロ。天敵と言っても過言ではないノロ。」

「然うか。じゃあ・・・使えるかも知れないな。」

セレが嫌な笑みを浮かべている事に気付き、ノロノロは怪訝そうに彼女を見遣った。

「何する気ノロ?」

「ノロノロさん。私に御前の扱う呪いの力を授けてくれ。私は此の穢れで其の呪いを扱える様になろう。」

「っ其の穢れを力にするつもりノロカ⁉」

「噫、吐き出す丈じゃあ勿体無いからな。いっそ毒を振り撒く存在に成るよ。」

「ノロ・・・相変わらず末恐ろしい事考えるノロネ。術は教えられるノロケド。」

思わずノロノロはセレを見上げた。不意に、水鏡(ツキ)に照らされる様な不思議な(ヒカリ)を感じて。

「でも一体、誰に使う気ノロ?」

自分にとっても毒に成り兼ねない力を使って迄、一体何を彼女は為そうと言うのか。

「噫、相手はもう決まっている。・・・精霊神、セルフィカだ。」

「ノ、ノロ~⁉」

思わずがばりと大きく口を開けてノロノロは固まってしまう。

 其の様子がおかしかったのかセレは意地悪く笑い声を上げた。

「本気ノロカ⁉冗談じゃないノロ?って其、未だ諦めてなかったノロカ⁉」

「ん、一度も諦めるとは言ってないぞ。」

「ノ、ノロ~セレ神は本当、留まる所を知らないノロネ・・・。」

「正直、()う言う力でも使わないと敵わないだろう。(ムシ)ろ好機と取れないか?」

同じ手を奴は使えない筈、穢れを持った精霊としての戦い方は真似出来ない。

 例え精霊として格の差があれど、クレイストを堕とせた様に同じ目に遭わせてやれば。

 或いは()の一撃も入れられなかったクルスにだって・・・届くかも知れない。

 初めは苦い顔をしていたノロノロだが、次第に其の口角は上がって行った。

 そしてぴょんぴょんと飛び跳ねて大口を開けた。

「ノロ~!矢っ張りセレ神は面白いノロ!」

「楽しい話じゃなかった筈だが、御気に召した様で何よりだな。」

「こんな精霊、聞いた事も無いノロヨ~。世界を維持する役割を持つ筈なのに。セレ神は逆行しているみたいノロ。」

「其って・・・面白いで済まされるのか?」

其の言い振りだと反対にノロノロ達が自分の敵になりそうだが。

「もうノロノロはセレ神に付いて行くって決めたノロ。何と言うか・・・新しい世界を見せてくれる気がするんだノロ。」

「新しい世界・・・か。」

其は・・・何処か皮肉の様にも感じるが。

 私の中に世界を、御前は見出したとでも言うのだろうか。

「其じゃあノロノロさん。其の為の力を貸してくれるか?私に奴を殺せる丈の呪いを教えてくれ。」

「勿論協力するノロヨ!呪いはノロノロの専売特許ノロ!」

ノロノロはフードから樹の様な手を伸ばして来た。

 其をしっかり握る。此の手なら握手もし易い。

「其じゃあ大妖精ノロノロさん、共に世界を壊そうか。」

「何処迄も破壊神セレ神に付いて行くノロヨ。」

二柱の妖精と精霊は、世界に隠れた遺跡にて秘密の企みを交わすのだった。

   ・・・・・

泉から這い出た化物は(ヨル)を乞う

穢れも呪いも魂も平らげて、歪な詠を奏でようか

噫其の禁忌の箱に手を触れたなら

暴こうか、其すら魅せる供物として

 はい、まさかのノロノロストーリーでした!

 実は此の話、相当昔から構想自体はあったのですが、捻じ込むのは無理そうかなと思い凍結されていました。

 けれども良く良く考えたら、セレを連れて此処に突っ込んだら良くね?と言う安直な理由で実現しました。有難う!

 只遺跡に行く丈だとなぁと思っていたので丁度良かったです。呪われた一族、ノロノロファミリーを紹介出来て満足!

 そして裏で丗闇達の御話も進んでいたり・・・随分と彼女が丸くなったなぁと思う此の頃ですね。良いぞ!もっとやれ!

 そんな今回でしたが次回、次回も短編ですね。こちらももう書き終わっているので直ぐの公開になりますが、其の先は・・・何ともと言った所ですね。

 只書きたい話がどんどん湧くのは有り難い限りですね。と言う事で又御縁がありましたら御会いしましょう!

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