74次元 明けない霄ニ皓月の羽根をⅡ
さぁ嬉し悲しの後半戦です!此処から語られるは残された者達の足掻き!
勿論化物を殺されて黙っていられない奴は居ます。彼が一体どんな姿を晒すのか、今更足掻いた所で全て遅いのに、復讐劇に何を見出すのか・・・どうぞ御楽しみに!
「さて、休憩もそろそろ仕舞いにしようか。」
クレイストは小さく息を付き、薄く閉じていた目を開けた。
未だ仕事は終わっていない。彼女に言った通り、次は店を潰さないと。
彼女の居た店、次元龍屋だったか。
彼女を裁くと判断した以上、彼処は消さなくては。不穏の種は全て潰さなければいけない。
「少し天冠が欠けてしまったけれども、又祝(ハフリ)に頼めば直して貰えるかな・・・。」
あんな大技、使う事は想定していなかったので幾らか犠牲を出してしまった。
直ぐ直したい所だけれども、今は時間が惜しい。
紅鏡は昇ったんだ。直ぐ発とう。こんな仕事は直ぐに終わらせたい。
「ん・・・彼は、」
見上げた視線の先に一つの影があった。
一柱の青年が、真直ぐ此方へ飛んで来ていたのだ。
彼の輝く程陽を受ける純皓の翼と棚引く長い優美な尾。
ついほぅと息を付いてしまう様な美しさだけれども・・・。
肌を刺す様な殺気が、私の胸を貫いた。
咄嗟にクレイストは片翼を全力で羽搏かせて大きく飛び退いた。
すると彼の居た所へ、まるで釼の様に伸びた青年の爪が突き刺さる。
其を無造作に引き抜きつつも、青年の目はじっと自分を捉えていた。
「御前がっ、」
まるで獣の唸り声の様な低い音につい背が震える。
そんなクレイストの心を見透かす様に、青年の目は苛烈に輝いた。
「御前が、御前が御前が御前が御前がっ‼」
噫、やっと彼の正体が分かった。
天使と見紛う程の美しい獣。此の神の名を、私は知っている。
「御前がっ、セレを殺したのかっ!」
「噫君が、ガルダリューか。」
返事の代わりに直ぐ様爪を向けられ、飛び掛かられる。
凄まじい殺気だ。神がこんな誰かを恨むなんて、
加えて其の対象が天使である自分に向けられるなんて、然うなかった事なのに。
「君は確か、彼女の守護神だったか。其なら何か彼女の死を感じ取れても不思議ではないね。」
使命であれば予感の様な物もあっただろうし、其を手繰り寄せて誰よりも先に辿り着けるかも知れない。
そして選んだのが・・・復讐か。
「私を殺した所で、もう彼女は帰って来ないぞ。」
「煩い!何の道御前は生かして置かないだろ!」
怒りに、完全に我を忘れているな。
神が此処迄荒れるなんて、でも此の神は・・・危険だ。
王が言っていた。セレ神を裁くと判断したのなら、必ず彼の神も始末しろと。
でないと、彼の神も又、厄災の種となってしまう。
如何して王が此の神に固執していたのか分からなかったが、斯うして相対していて分かる。
其程迄に君は彼女の事を・・・懐っていたのか。
であれば、彼も直ぐ眠らせてあげた方が良い。辛い丈の復讐に意味は無い。
彼にも救いを与えないと。
ガルダの姿は正に皓の化生其の物だった。
曦を集めて創った様な、紅鏡が其の儘具現化した様な姿。
其の全身は皓銀の毛に覆われ、背には八翼の翼がはためいている。
其の内最も大きな翼は最早形を保てておらず、まるで後光の様に彼の背から曦を降り注いでいた。
そして金に編まれた帯が緩く彼の腰回りを一巡し、長く伸びた毛が翼の様になった彼の両腕へと繋がる。
其等がベールの様に重なり、棚引いて、極光の様に曦の形を、色を変えていく。
鳥の様に細く節榑立った手足は荒々しく地を掻き、長く伸びた尾羽が棚引く様は、何本もの尾を有している様だ。
そして苛烈に輝き睨め付ける瞳、美しい姿と対照で、其処丈どす黔い殺意が滲む、凍える程の曦。
そんな彼の面自体はまるで仮面の様な大きな甲に覆われた風になっており、絶えず透明な雫が伝って行っているのが見て取れた。
「御前は、殺すっ!絶対に赦しはしない。俺は、御前を赦さないっ‼」
「いけないよ。そんなに怒りに呑まれては。虚しくなる丈だ。」
「殺した奴が言えた事かよ!」
彼が爪を振るう度に羽根が散り、其がナイフの様に地に突き刺さった。
何本か頬や手を斬り、血が流れる。彼の吼え声に合わせて刃となって駆け巡る。
彼に私の声は最早届かないか。幾ら大義の為と言っても。
兎に角彼を鎮めて、其からか。
ガルダを取り囲む様に四方から曦の鎖が伸びた。
其は真直ぐ彼へ伸び、其の手足に巻き付き錠を掛ける。
そして強引に引っ張り、彼の四肢を地に付けた。
「っ此の、程度で・・・、」
暴れるも四肢はピクリとも動かない。羽根が舞い散り、周りの地面を砕くも鎖が解ける様子なない。
此は・・・精霊を使っているのか、見えない丈で鎖の先を彼等が持っているのだろう。
でもこんな拘束なんて、俺には無意味だ。
「キャオォオオオオォオ‼」
吼え声を上げ、生命力を解き放つ。手首、足首に其を集中させると、不自然に伸び過ぎた骨が皮膚を、毛皮を、甲を突き破って飛び出して来た。
其の衝撃で手首、足首は吹き飛び、血を撒き散らして鎖に降り掛かる。
捕らえる物を失った鎖が地に落ちる頃には、彼の手足は再生していた。
再び自由を得た彼は奴へと飛び掛かった。
此の四肢で裂かないと、此の胸の内を巣食う衝動は収まらない、熱は消えない。
只御前を殺せと叫ぶ。
噫、一刻も早く此の熱を吐き出したい。胸の奥はこんなにも燃える様に熱いのに、指先が凍える程冷たいんだ。
寒い、此の世界が急に余所余所しくなった様だ。
独りは嫌だ、然う足掻いて伸ばして、
だからせめて御前の血を、其を浴びれば少しは温かくなれるだろうから。
其の血で此の内臓を溶かしそうな焔を鎮めてくれ。そして凍えた手足に血の温もりを。
熱いのに寒くて、何処も怪我をしていないのに痛くて苦しくて。
淋しくて・・・嫌だ。何処へ行っても辛いんだ。
噫然うだ。だからせめて此奴丈は殺さないと。
俺の全てを奪った奴を殺さないと、俺の気が済まない。
俺を独りにして、此奴丈幸せに在ろうだとか、そんな事はあってはいけないんだ。
不意にガルダを取り囲む様に格子が編まれ、檻を形成する。
でも、こんな物で止まる訳がない。俺は無理矢理格子に爪を掛けた。
全体重を掛けて格子を引き裂く。爪が折れても即座に再生する。肉が裂けても構わない。
強引に檻から脱出する。幾ら血が噴き出て四肢が千斬れようが、瞬きの後にはもう毛皮は元通りだ。
「っ此でも止められないかっ、」
クレイストは又下がり、何度も術を重ね掛けする。
同じ光属性なのもあってか効果が薄い。無理矢理彼の再生力で突破されてしまう。
縛ろうが、閉じ込めようが、爆発させようが斬り刻もうが。
瞬きの後にはもう彼の皓は輝きを取り戻し、私の元へ猛進して来るのだ。
鈍らない殺意、狂気。此が彼の神を殺した代償と言わん許りに。
彼の力は一体何処から湧いて来ると言うのか。常に再生する様術を掛けているのか?其の割には動きが俊敏だ。
抑再生する丈で痛くない筈がない。其なのに如何して突き進める。
慣れているのか、其とも怒り故か。・・・彼の事が分からない。
彼も又、気高い魂を授かった存在だったのか。こんなに曦に溢れて、如何して彼は堕ちたと言うのか。
天使である筈の私ですら畏れる曦。此が・・・本物の曦なのか。
彼も一介の神の範疇を超えているのだろう。でないと此の力は説明出来ない。
・・・王よ、貴方は一体、彼の何を知っていたのですか。
術を多用し過ぎた所為か躯が重い。此の儘じゃあ、
意識が沈み掛けた瞬間、眼前にガルダが飛び掛かって来ていた。反応するより先に彼の爪が掛かる。
「っ・・・ぐぅ、」
思い切り腕を裂かれ、血が溢れ出た。
腕を落とされなかった丈、未だましか。咄嗟に放った術が辛うじて衝撃を和らげた。
でも、去なす丈じゃあ駄目だ。反撃しないと奴は・・・止まらない。
又天冠を使ってしまうが、仕方ないか。
ガルダの胸目掛け、巨大な鑓が突き刺さった。
心臓は逸れてしまったみたいだが、胸にしっかり突き刺さった其に因り、彼は宙吊りになる。
「っ此・・・普通の力じゃないな。」
鑓を掴むも、壊れる気配はない。明らかに先迄の術と違う。
ガルダの動きが止まっている間にクレイストは大きく下がり、息を整えた。
こんなに連続して力を行使する事なんて殆ど無かった。可也躯に堪えてしまう。
何より天冠が・・・此以上みすぼらしい姿に成りたくないと言うのに。
「キャオォオオォオオ‼」
目を離した隙に、ガルダは滅茶苦茶に暴れ回っていた。
もう胸に刺さった鑓等気にせずに、血を翼の様に吹き出させた儘、其でも私目掛けて掛かって来たのだ。
先程感じた彼の恐怖に似た感情が這い上る。
君も又、私に其を植え付けようと言うのか。彼女とは違う形で。
彼女は私の内側を暴き、彼は躯其の物に其を刻もうとする。
・・・其の果てで、君達は一体何を見ようと言うんだ。
初めはあんなに美しく見えていた皓が、今は只空寒い。
変わらず羽根は散り続けるが、其は柔らかく包む物ではなく、此の身を裂く物だ。
何とか精霊達に頼んで退けて貰っているけれども、彼等も無事では済まない。既に何柱か犠牲になってしまっている。
そんな私を逃さないと言いた気に、極光の壁が時折走る。
彼は彼を包んでいる帯から発されているのだろう。
彼に触れた丈で何柱もの精霊が溶かされてしまった。悍しい力を感じる。
「殺す殺す!御前丈は、御前丈はっ!」
「此は・・・困ったね。」
セレ神は未だ精霊としての性質が強く出ていたし、予め陣もあったので幾分対処がし易かった。
自分の専門が精霊術なのもあって、可也相性は良かったのだ。
でも彼の場合は違う。純然たる曦、圧倒的な曦。
私の持つ天使としての曦、此の天冠よりもずっと悍い力を宿している。
自分は此の天冠の力が失われれば其迄だ。でも彼の其はまるで無尽蔵の様に溢れて来る。
一体彼は何なんだ。只の神が、こんなに曦を宿せる物なのか。
せめてもの救いは、彼が曦である事だ。私が最も忌み嫌う穢れを有してはいない。だから其の心配は不要だろうけれども。
先より躯が重く感じるのは、彼に怯んでいる所為だろうか。
彼の纏う曦が増している気がする。彼の怒りに応えて未だ沸き起こると言うのか。
危険・・・だ。彼も間違いなく。
此処迄曦に呑まれては、其の暴走に果てが無いかも知れない。
だったら、矢張り私が彼を止めなければ、私が彼を斯うさせたのだから。
「っ殺す殺す!逃げるな!御前は俺が殺さないとっ!」
「済まない。そんなに君を苦しめてしまって。」
私の声なんてもう聞こえないと思っていたが、より苛烈に皓く其の双眸は輝き、私を捉えた。
「謝罪なんて要らないっ!只御前の首丈寄越せ!」
彼が吼えた丈で精霊達は吹き飛ばされ、私を護る者は居なくなった。
此の気迫に、皆呑まれたのだ。精霊すらも畏れる曦。
其の一瞬に彼は私へ飛び掛かった。そして肉薄し、大きく爪が振るわれる。
「御前の、所為でっ!」
無慈悲にも彼の刃は私の顔を引き裂いた。額から頬に掛けて斬り裂かれ、血が溢れ出る。
左目が潰され、右目にも血が掛かって一気に視界が狭まった。其でも、彼の皓から目を離せない。
余りの気迫と痛みに声すら出せず、私の背は震えた。
神ではない、獣だ。正に今の彼は曦其の物が怒れる獣と化した様。
蹌踉めく私に猶も彼は迫る。其の身を八つ裂きにしない限り彼は止まれないのだろう。
「御前の所為で、俺は又独りだ・・・っ、」
只々怒りに震える声。でも良く見れば彼の瞳は濡れていた。
絶えず涙を流して、彼も抗っていた。彼女を失った喪失感と。
辛いのは、苦しいのは彼も同じだ。其なら天使である私が導かないと。
彼も、救いたい。私は心から然う思っているんだ。
「独りは・・・辛いね。」
「知った様な口を利くなよ!御前が奪った癖にっ!」
「其でも、彼女は此の世界に存在してはならなかった。世界が、壊れてしまうから。其は君も理解してくれるんじゃあないのかい。」
せめて対話を。彼が未だ私と話してくれるなら。
先より、怒りは増していると思ったけれども、同時に私の声も聞き留めてくれるらしい。
無意味だとしても、平行線の儘だとしても、私は君と話したい。
「世界が壊れるなんて、そんな悲惨な事は無いだろう?彼女だって其を望んでいなかった筈だ。あんなに龍や精霊に愛されていた彼女なら。滅び行く世界で共に在る事が何程残酷な事か、分からない君じゃあないだろう?」
「もう・・・そんな言訳、聞き飽きたんだよ。」
吐き捨てる様に彼は私を睨んだ儘言った。
「其なら、如何しろって言うんだ。セレみたいに、壊さなければ存在出来ない奴は、如何しろって言うんだよ。殺せってか、存在しちゃあいけないって又御前達は否定するのか!世界を愛する筈の天使がそんな事を言うのか!」
「っ・・・、」
一瞬、言葉に詰まった。
彼の目は、願いは、切実其の物で。
そんな彼を見ていると、私も・・・辛い。彼の抱える物が大き過ぎて。
「・・・然うだね。美しくも残酷なのが此の世界だ。だから矢張り、世界の為ならば、斬り捨てられなければならない存在は出て来てしまうと思うよ。だからせめて私は然うした者達も愛したいんだ。」
「愛なんて要らない!只、生きたかった丈、認められたかった丈なんだよ!」
彼の涙が渇く事はない。
爪を振るい、尾を鞭の様に振らして吼えるも、彼は哭き続けていた。
「御前達は然うやって又俺を責めるんだ。俺が彼女を愛したからいけないんだと。彼女を美しいと思ったのがいけないんだと。皆して、世界世界って・・・そんなに、そんなに世界が大事なのかよっ!」
「君は・・・何を言っているんだ。」
「俺には、些とも分らない!こんな世界と彼女を天秤に掛ける事自体おかしい。彼女が咲えるなら、俺はこんな世界なんて要らない!」
「何て・・・事を、」
世界が要らないなんて、そんな事は言ってはいけない。
大義の為、使命の為、私達が然う在るのは延いては世界の為だ。
其を否定するなんて、そんな悲しい事はあってはいけない。
「駄目だよ。世界を否定しては、私も君も、そして彼女も此の世界に生まれ、育まれただろう!」
「でも其の彼女を奪ったのも又、世界じゃないか!」
彼の曦が、又一段と強くなった。
噫分かる。本来であれば全てを優しく包む筈の曦が、彼のは只拒絶の其と化している。
其が、畏れに繋がってしまっているのだ。其なら辛くなる一方だ。
「・・・御前達には、何丈言ったって、何丈時間が経ったって伝わりっこないんだ。分かり合う事なんて、出来はしない。」
「そんな事はない、少なくとも私は君の事をっ!」
「然う言う所が本当に、うぜぇんだよ‼」
詰め寄ろうとした所で思い切り彼に蹴られ、倒れてしまう。
直ぐに上体を起こしたが、そんな私を見下す様に彼は見ていた。
「本の少ししか話していない御前に何が分かる。言葉なんて非効率で役に立たない物に頼った所為で、伝わる事はない。其で分かった気になってる御前は、只の傲慢だ。」
「傲慢・・・か。」
「噫でも、御前が其をそんなに悲観する事はないだろ。御前丈の話じゃないんだ。彼奴等も、然うだったんだから。」
「・・・君が先程から語っている彼等って、誰の事なんだい。」
明らかに私を誰かと重ねてしまっている。せめて其さえ分かればもう少し、分かり合えるかも知れない。
「・・・強いて言えば、三賢神、だったか。彼の頭の固い連中だよ。」
何処か自虐気味に然う、彼は言った。
まるで重大な秘密を打ち明けるかの様に。
「如何して、君の口から彼の方達の名が出るんだい。いや、ま・・・まさか、」
私ですら会うなんて烏滸がましい、そんな曦の象徴とされた彼等。
でもそんな気高き彼等は最近・・・暗殺された。
嘆かわしい事に、塔内に居乍ら、殺されてしまった。私も未だに信じられなかったが。
そんな彼等と・・・君が、会っただと。
「噫・・・然うだ。彼奴等は何も変わっていなかった。俺がこんなにも堕ちて、歪になったって言うのに未だ盲目的にあんな曦なんて信じていた。だから、殺してやったんだ。どうせ分かり合えはしないんだから!」
「君は・・・何て事を、まさか、君が犯神だったなんて。」
彼の事件は、事が事丈に余り公にはされていない。
だから私も断片的にしか知らなかった。其でももう犯神は処罰されたのだと許り。
まさか・・・彼だったなんて、こんな美しく皓い曦を宿した彼が。
「こんな俺でも、御前は愛せるって言うのか!世界を愛するだなんて、大層な口利いて、其全てを否定する俺も、御前は愛せるのか!」
彼に詰め寄られ、つい足が下がった。其でも目は離さない。
「愛せる訳・・・ないだろ!俺を捨てた彼奴等みたいに!そんな御前が世界なんて語るな!俺達から目を背けて、美しい物しか見ていない癖に世界を知った気になるな!」
彼が吼える度に、曦の帯が煌めく。
荒ぶる彼を鎮める様に羽根は降り注ぎ、地を満たして行く。
美しい丈の箱庭で、皓の獣は慟哭していた。
「如何した、もう声も出せないのかよ。・・・でも、愚かなのは俺も一緒だ。傲慢なのは、俺も同じ。俺だって彼奴の事、何も分かっていなかった。」
薄く口端が上がる。笑っているつもりなのだろうか。震える両肩を彼は抱いた。
「俺は本当に如何仕様もない奴なんだ。ずっと彼是考えて、考え過ぎて動けなくなって、後悔許りしているのに繰り返している。・・・っ、何度も何度も、何千年、何万年、何億年繰り返せば気が済むんだ。」
「・・・?君は、一体、」
彼の言葉が、如何も引っ掛かる。
抑彼は一体何なんだ。随分とライネス国を知っている風なのに。
只の離反者とも違う様だ。彼に抱く此の違和感は何だ。
「あぁあ゛ぁ゛・・・なぁ天使なら、俺も救ってくれるんだろっ!罰ばっか押し付けんなよ!違う違う、俺は、俺は只彼女と・・・其丈で、如何してこんなに苦しまないといけない!噫、又前みたいに俺を導いてくれよ、声を聞かせてくれよ。なぁ、なぁなぁなぁなぁ‼」
彼の毛が逆立ち、吐く息が皓銀に染まる。
彼の彼の姿は何だろうか。真の姿とは違う様だが。
彼の様な存在を、私は知らない。あんなに神々しく、荒々しくて、
まるで・・・原初の神の様な・・・、
「キャオォオオオオオッ‼」
彼の咆哮が耳朶を打つ。
まるで遠吠え、其の涕き声は遠く誰か呼んでいるみたいで。
でも応える声は無く、虚しく谺する。
其の声を聞く丈で私の胸は苦しくなるのだ。
此の焼け付く様に痛む顏よりずっと、痛みを持つ。
目が見えずとも分かる。君の心の痛みが。
其は私が引き起こした物だと責め立てる様に鋭利に、私の脳裏に焼き付く。
でも、仕方が無かったんだ。誰かが終わらせないといけなかった。
此は全て世界の為、君が愛せなくても、愛されなくとも私は・・・此の世界を護らないと。
君の訴えも、私の胸を悍く打つよ。其でも、私は此の世界を、君達を愛している。
否定されても、愛し続ける。だから、
だから私が・・・終わらせないと。
下がった私に追い打ちを掛けようとか、彼は真直ぐに飛び掛かって来た。
未だ其の胸元には私の鑓が刺さっている。其処へ意識を集中させる。
天冠が・・・又、少し欠けた澄んだ音が響く。
同時に彼を貫いていた鑓がひとりでに動き出し、回転して彼の胴を両断した。
大きく傾ぎ、彼の躯が二分される。でも彼の再生力なら、こんなのは只の時間稼ぎにもならないだろう。
だが回転した鑓は熱を持ち、中心が赤熱したかと思うと、曦を放って爆発した。
四散する槍と共に彼の躯もバラバラに散ってしまって、血肉が吹き飛ぶ。
自らしたとは言え、堪らず喉の奥がひくついて吐き気を催す。其程迄に生々しい惨状で。
彼の飛び散った内臓が私の服にも掛かっていた。千斬れても猶生きているらしく、蠢いている。
上半身は、もう見るも無残に吹き飛び、残った下半身は血が足りなくなったか焼け焦げて倒れていた。
けれども、呼吸が付けたのはたった一回丈。
「っぐぅ、」
途端鋭い痛みが胸を突いた。
見る迄もなく、其は私の胸を貫く此の釼が齎した物だと分かる。
彼の吹き飛んだ爪が運悪く刺さったのか、否違う。
「噫此が、命の温かさか。」
彼が、私の腹から、生えて来たのだ。
「噫でも寒い、未だ寒い。此じゃあ足りない。」
譫言の様に呟き乍ら血塗れになった彼は遠慮なく腕を突き刺す。
まるで私の心臓を抉り取ろうとせん許りに血が溢れ、息が、詰まる。
瞬く度に、彼の躯は肉を付け、血を巡らし、生えて来たのだ。
初まりは屹度、私に掛かっていた彼の内臓の一部。
でも其処から腹が、胸が、肩が、腕が、翼が、頸が、頭が順に生えて来て、そして、
目の前の私に、其の刃を突き立てたのだ。
未だ再生している途中なので彼は血塗れだ。でも直ぐ私の血と混ざって分からなくなる。
私の血を浴びて彼は薄く咲っていた。でも其の瞳は潤んで、曦は無い様に思う。
其でも愛おしむ様に私の中に、腕を突っ込んで。
堪らなくなって血を吐いた。こ、此の儘では・・・、
「噫、聞こえる。霄の詠が、まるでオカリナみたいな淋しい声。」
彼は、何を見ているのだろうか。
目の前で咲う皓に、私の背は震えた。
彼の曦を悍しいと思ったのだ。呑まれてはいけない、染められてはいけないと。
「折角詠ってるんだ。踊ろうか。流星が踊り方を教えてくれるから。」
彼は・・・何を言っているのだろう。
まるで祝詞の様に、譫言の様に口を開く。
若しかして、もう私の事は見えていないのか。じゃあ此の伸ばされた手は一体。
私には、聞こえない。詠なんてそんなの、
只血が・・・此以上は、
幸い彼は未だ上半身しか再生していなかった。だから片翼を思い切り羽搏かせて無理矢理立ち上がり、彼を叩き落とした。
震える手で、何とか止血する。術を編み、再生を促す。
大丈夫、未だ、未だ立てる。此位なら立て直せる。
地に落ちた彼は両手で這って、何とか上体を上げていた。
然うしている間にも血溜まりから足が生え、離れた胴と癒着して行く。
何事も無かった様に彼は再生した。でも若しかしたら、
「噫、血が、まるで祝福みたいだ。あ・・・添えられた華みたいに綺麗だ。」
血に塗れた両手を見て、頬を上気させて咲う彼は、
壊れている様に、見えた。
躯が再生しても、心は・・・然うではないのだろう。
もう耐えられなくなったのかも知れない。彼女を失った穴は余りにも大き過ぎた。
そして抱いた怒りは屹度彼の身を滅ぼした。
今では、あんなに刺さっていた殺意も綯い交ぜになって良く分からない。
其でも先迄あんなに涕き叫んでいた彼が、今では無邪気な子供みたいな笑みを浮かべていて、其の異常さが際立った。
今彼が何を懐っているのか分からない。先迄只殺そうと向けられた腕が何を掴もうとしているのか。
只彼のまるで詠う様な声を聞いている所為か、先より躯が重く感じる。
此は血を失い過ぎた所為だろうか、薄ら寒くも感じて。
冥い、昊なのにまるで闇の中に居るみたいだ。
でも其の闇の中で、彼は独り咲っていた。
彼の羽根が降り積もり、極光が包む美しい世界なのに。
何故か私は其の中で果ての無い闇を見た気がする。
皓く美しい筈の世界、其の中で私丈が異端であると突き付ける様で。
曦に溢れた此の空間が・・・恐ろしい。
「・・・此処は、世界から隠された所。」
彼の口が、緩りと曦をなぞる様に響く。
目は虚ろだが、何処か愛おしむ様に両手を挙げて。
「唯一君が赦される所、然う彼の日、彼の記念日に俺が渡せなかったプレゼント。」
そっとガルダは懐から一つの御守りを取り出した。
其は、どんなに此の身が砕けても千斬られても頑なに護り続けた物。
セレから貰った、サンストーンの御守りだ。
俺の曦に照らされて、優しく温かく返してくれる其を俺は一度胸に抱いた。
・・・噫温かい、此の温もりだ。俺が求めていたのは。
ずっと傍に居た。ずっと前に託されていたんだ。
「俺の祈り、血肉、魂、時間、懐い、全部全部捧げるから。」
そっと御守りを旻に向けて放る。願いを込めて。
「だから、彼の日から又初めよう、セレ。」
不意に、光陰に照らされた気がした。
今は昊の筈なのに、水鏡なんて出ている訳がないのに。
思わず蹌踉めいたクレイストは旻を見上げた。
途端自分達を包んでいた皓の世界は壊れ、砕け散る。
玻璃の様に欠片が散り降り注ぐ中、クレイストは仰ぎ見た。
霄、を。
視界一杯に広がるのは漆黔の旻、満天の零星。
闇を湛えた霄が、其処にはあったのだ。
何時の間に、霄なんて、
そして自分を照らす水鏡を見ようとした矢先、不意に背後から優しく抱き締められた。
「・・・今晩は。」
耳元で囁く声、其は何処迄も甘く、優しくて。
同時に何処からか華の様に甘い薫が漂い、鼻孔を擽った。
噫、此の声は、
ある筈がない。もう二度と聞こえる訳がない筈なのに。
まるで其の疑問に答える様に首筋に痛みが走った。
力が、抜ける。膝が折れそうになり、急ぎ片翼を広げて抱き止める手を振り解いた。
「・・・流石天使か。此は喰えた物じゃないな。」
「っき、君はっ、」
振り返り、水鏡を仰いだ。変わらず私を照らす光陰を仰ぎ見る。
其処には・・・ある筈のない影が彳んでいて。
「っ・・・セレッ、」
何処か痛みを孕んだガルダの声に、水鏡は優しく咲った。
「帰って来たぞ、ガルダ。さぁ、今から此処は霄だ。」
優しい笑みは直ぐ様嘲笑に染まる。
まるで飛べずに這い蹲って見上げる事しか出来ない片翼の天使を見下す様に。
噫、其の水鏡の形を、私は知っている。
光陰と同じ銀色の長髪、闇より猶冥い漆黔と交錯する銀の瞳。
霄をなぞる二又の尾、流星を纏う水精、闇に染まる獣の刃。
そして背にはためく八翼の翼、鴉の様に翻る翼、星座の様に刺青を施された翼、蝙蝠の様に霄を包む翼、そして此の霄を創る黔の翼。
其の水鏡の名は、霄と水鏡と殺しの破壊神、セレ・ハクリュー。
如何して君が、間違いなく私の手で屠ったと言うのに。
何重にも此の地に浄化の術を施した。私自身も穢れてはいない。
一片も、彼女が存在する証を残していなかったと言うのに。
完全に、消滅していた。間違いなく、神として彼女は終わった筈なのに。
今目の前に居るのは幻でも見間違いでもなく現実だ。
如何して、存在する。如何して今又私の前に現れたのか。
彼女の存在を証明するとすれば・・・まさか、
ちらとある考えが胸を掠めた。
そしてガルダの方を見遣ると、彼は地面に突っ伏して倒れ込んでいた。
もう先程迄の猛々しい曦は一切鳴りを潜め、皓く輝いていた全身もくすんで、変わり果てている。
普通の、神の姿と言う可きか。毛皮は抜け落ち、翼も羽根を可也無くしてぼさぼさになっていた。
先迄あんなに生命力に溢れていたのに、今ではすっかり疲れ果ててしまったみたいで。
息も絶え絶えに苦しそうに彼は胸を掻き、最早立つ事も間々ならない様子だった。
其でも、まるで曦を見付けたかの様に其の表情は華やいで、嬉し涙か頬が濡れていた。
「まさか・・・君を依代に彼女を召喚したのか。」
闇が私の中に蟠る。何処迄も広がる明けない霄の中で、彼女は静かに咲っていた。
・・・・・
「ん・・・う・・・っ、」
薄く目を開ける。未だ昊は早い気がするけど、頭を叩く曦を感じて。
けれども不思議と目を開けても頭は働かないと言うか、変わらず掛かっていて。
此処は、何処だろう。右も左も分からない。上下も無い、中旻を漂っている様な。
少し此の感覚、初めて彼奴、丗曦と会った時の空間に似ている様な。
でもあんなに曦に溢れている訳じゃなくて、仄冥い闇を飼っているみたいで。
何だか、変な心地だ。自分が自分でない様な・・・。
いや、其よりは全て自分みたいな、此の空間自体が俺の・・・中、と言うか、何とも言えないけれど。
俺の内側を全て、曝け出したみたいなそんな。
魔術とも違う此の感じ。・・・うーん、意識も未だはっきりしないから何とも言えない。
感覚も曖昧ではっきりしない。表現すら出来ないそんな妙な心地がして。
でも、焦りとかは別段感じなかった。此の儘でも特に変わらない様な、そんな不変さが此処にはある。
でも其処で不図、俺は一つの影を目にした。
寧ろ、如何して今迄気付かなかったのかと不思議に思う位、俺の目の前、手を伸ばせばギリギリ届くか如何かの中旻に、一つの影が彳んでいた。
「・・・セレ?」
譫言の様に呟く。躯は・・・動くみたいだ。
すると俺の声で彼女も初めて気付いたみたいに其の目は開かれた。
そして信じられないと許りに六つの目全て見開いて、俺の事をじっと凝視していた。
如何して此処に彼女が?いや、抑何だ此の状況。
途端、頭が急激に動き出す。此の儘でも良いかなんて考えた先程の自分をかなぐり捨てて考える。
俺は・・・何をしていたっけ。
「セ、セレ、」
考えても大して纏まらなくて、堪らず俺はもう一度彼女の名を呼んだ。
すると彼女も薄く口を開く。
「・・・ガルダ?」
互いに名丈呼んで・・・又暫し固まった。
何方も、現状が何も理解出来ていないんだと思う。だからこんなに落ち着けない。
其にしても、セレがこんなに固まる程驚くなんて珍しい事だけれども。
・・・・・。
其の儘、時間丈流れて行く。
えっと此は、如何すれば良い?取り敢えず彼女の手を取ってそして、
そんな風に考えを巡らせていた所で不意に。
彼女が、セレが俺に倒れ込む様に落ちて来た。
慌てて手を伸ばすも、彼女の手も又伸ばされていて、其の儘俺の胸へと跳び込む。
大丈夫、だと思うけど、
良かった、と思ってほっと息を付こうとした所で、彼女の髪に触れる。
息を吸うと揺れて、俺の視界を覆って行って。
じんわりと彼女特有の体温の冷たさを感じて、そして、
・・・って何俺惚けてんだ!早く、早く離れてあげないと。
未だ頭は寝惚けているみたいで、慌てて俺は彼女の肩を持った。
でも・・・引き離せなかった。其は、彼女がしっかりと俺を抱き締めていたから。
背中に手を回して、顔を胸に埋めて。
固くしっかりと、俺は彼女に抱き締められていた。
え・・・え?
若しかしてセレも寝惚けてるのか?抱き枕の感覚で斯うなってるとか。
其か若しかして食べたいとか?御中が空いていて其で。
でも幾ら待ってても頸筋に走る彼の痛みは無くて、只彼女は俺を抱き締めている丈だった。
時が止まっているんじゃないかと思う程、じっくり俺は其の感覚を数えて。
「ガルダ・・・有難う。」
そっと胸元で呟く声を、俺は聞いた。
そして理解する。此は夢だと。
多分此は、俺の夢だ。其が余リアルで吃驚している丈。
でも夢って、願望の表れなんだっけ・・・此が俺の願望なのか?
うぅ、其は一寸セレに申し訳ないと言うか、此は良くない気がする。
今の俺は、彼女に礼を言われる理由も何も分からない。だから若しかしたら、
俺はセレの助けになりたいとか、何か大きな物から彼女を護って、斯うして感謝されたいとかそんな考えを・・・抱いていたんじゃあ。
・・・否定は出来ない。
でも此は、正直良くないよな、うん。まるでヒーローみたいに助けたいとか、そりゃあ其が出来たら嬉しいけれど、抑俺は、彼女がそんな危険な目に遭って欲しくないんだ。
其に、斯うして彼女に感謝されたいとか、まるで見返りを求めているみたいで嫌だ。
俺が好きで彼女を助けたいと思っている筈なのに、結局は自分の為じゃないか。
駄目だ。こんなの、邪な考えは捨てないと。
こんな夢を見た所で、素直に喜べはしないんだから。
「有難うガルダ、こんなに私を愛して、くれていて。」
・・・え、
えぇ、一寸待ってくれ、何か変じゃないか⁉
いや、此は本当に俺の願望か?何と言うか、直接的過ぎると言うか、こんなはっきり其の儘夢に出る物なのか⁉
う、嬉しいのは嬉しいけれど、夢だって思うと切なくなるし、煮え切らない変な心地だ・・・。
抑俺は何がしたいんだ。如何したいんだよ、何だよ此の夢!
こんな事言われて喜ぶとか・・・、何だか彼女に申し訳なくなって来た・・・。
俺こんな風に思ってたのか?良くない、其は良くないって。
明日からどんな顔して彼女に会えば良い、変に意識しないと良いけど。
もう忘れろ忘れろ、そして醒めろ!こんな夢は見てちゃ駄目だっ!
「セ、セレ、その、ちょっ一寸離れて・・・貰っても・・・?」
自分でも気持悪く思う程しどろもどろになってしまう。
兎に角少しでも距離を置きたい。こんな寝惚けた儘なのは非常に宜しくない。
無自覚な俺の中の夢が何をするのか恐い、考えたくない!
「ん・・・然うか?私はもう少し此の儘で居たいけれども。」
「う、あ・・・その、」
止めろ、何を言わせてんだ。しつこいぞ俺の願望。
違う、俺は違うぞ。俺は負けないぞこんな欲望に。
「まぁでも、時間が無いのは確かだし、仕方ないか。」
然う言うと彼女は案外あっさりと離れてくれた。
数歩下がり、上目遣いに俺の事を見遣る。
え、えっと・・・。
今、時間が無いって言ったか?と言うよりセレの言動と言うか、受け答えがしっかりしている様な・・・。
・・・此って、本当に夢なのか?
「済まないな。余りに嬉しくてつい抱き付いてしまったが。」
「う、嬉しくて、いや、その、良い・・・けど・・・。」
何だか変な汗が出る。嫌にリアルじゃないか此の夢。
若し此が現在だったら・・・?そんな考えが頭を埋め尽くし始める。
だったら如何しよう・・・如何しよう?
「・・・未だ、現状が理解出来ていないみたいだな。其は私も似た様な物だけれども。」
苦笑気味に彼女は俺を見詰めていた。
其の瞳に吸い込まれそうで、俺は安心してしまう。
「セレ・・・セレ、なんだよな?此処は何処なんだ?一体何が起きてるんだ?」
「ん、恐らくは・・・ガルダの夢の中じゃないか?」
「俺の・・・夢?」
矢っ張り夢なのか?でも夢の中で夢って言われるのは変な感じだ。
其にセレも居るし・・・抑何で彼女が居るんだ?如何して彼女と二柱限なんだろう。
駄目だ、どんどん頭がこんがらがってしまう・・・。
「私も先目醒めた許りだから確信はないが、夢、と言うよりは心に近いかも知れないな。」
「俺の心・・・?え、其処にセレが居るのか?」
心が斯うして形と言うか、場所として在るのも変な感じだけど、其処に俺が居るのは、まぁ俺の心なのだから未だ分かる。
でも、如何してセレが?先目醒めたって言ったけれど。
「然うだな、順を追って説明しようか。私も・・・確認したいから一緒にな。」
知らず頷く。彼女の言葉丈を頼りに。
「先ず確認だが、ガルダは如何だ?此処に来る直前と言うか、前は如何していたんだ?店で寝ていたのか?」
「う、ん。然うだと思うけど、普段通り寝て、其で。」
「然うか。じゃあ普段通りなんだな。」
然う言って彼女は薄く咲った。何処か儚い笑みで。
「ガルダの心の中は・・・居心地が良いな。凄く、穏やかで良い所だな。」
「え、えと有難う。」
何だかむず痒いけれども、居心地が良いか・・・うーん、俺の中にセレが居るって事か?変な感じだけど。
彼女は少し丈目を伏せた。そんな彼女の髪が幽風も無いのに大きく揺れて。
一瞬、彼女の顔が見えなくなる。
「私は・・・死んだよ、ガルダ。」
「え・・・、」
今、何て・・・?
音は、言葉は聞き取れた。でも其の意味を理解する事を脳が、俺が拒んでいる。
其こそ、質の悪い夢だって訴える様に。
セレが・・・死んだ?如何して、何時、
じゃあ今俺の目の前に居るのは誰だ?其こそ夢、なんじゃあ・・・。
「私は死んだんだ。つい先、此処次元の迫間で、徹底的に殺された。敵乍ら見事だったよ。」
「セ、セレ・・・何を、何を言ってるんだ。」
声が震える。膝も笑ってしまう。
胸の奥が冷たくて痛い。先とは別の気持悪い汗がどっと溢れて。
噫、俺は理解してしまったんだ。今の言葉に嘘は無いと。
セレは死んだ。其を本能で、全身で感じ取る。
此は使命が為?分かってしまう、此の世界の何処にも彼女が居ないと。
広く淋しく此の世界を感じてしまうのは、俺の孤独を突き付けて来るからか?
冷たい、寒い。でも何処にも行けなくて。
つい目の前の彼女に縋る様な目を向けてしまう。こんな俺を繋ぎ留められるのは。
「誰だ。・・・誰が、セレを殺したんだっ。」
苦しい、痛みで胸が張り裂けそうだ。
たった一言、其丈で、俺の全てが狂いそうだ。
手放してはいけない、壊れてしまってはいけない物だったのに。
知らず頬が濡れて、涙が止まらなくなる。
セレはそんな俺を見て一度目を伏せたかと思うと、又そっと手を伸ばして来た。
そして俺を優しく抱き締めてくれた。頬を寄せ、あやす様に。
口が戦慄く。俺の目の前には彼女が居る。
此の喪失感と目の前の事実、其の二つの矛盾が綯い交ぜになって苦しくなる。
「哭かないでくれガルダ。私が、其の悲しみを食べるから。」
そっと流れる涙を掬われる。そして撓垂れる様に彼女の翼が俺達を包んだ。
そして足元から・・・水、だろうか。不思議な液体が満ちて行く様で。
セレの翼は形を変えてまるで球の様に俺達を包み込んでいた。そして其の中を満たす様に黔い水が湧き出したのだ。
黔い水は溢れ出し、翼で出来た器を満たして行く。
二柱を包んだ水球は、セレの尾が支えとなって掲げられた。
其の中で俺は中旻を漂う様に浮かんでいる。
不思議と息は出来る。何処か温かい様な、心地に満たされて行く。
彼女に抱かれた儘漂っていると、酷く安心した。
暫くすると其の水の中を漂う蒼い線が走った。
此は・・・零星?まるで俺達を包む様に駆け廻っている。
でも良く見ると其は小さな魚の様にも見えた。目が輝石の様に光り、泳いで回る。
不思議な世界、まるで霄に包まれたみたいで。
つい惚ける俺に、そっと彼女は頬を寄せていた。
「・・・うん、然うだな。此が私に与えられた形かな。」
「与えられた・・・形?」
ちらと彼女は顔を上げ、優しく咲った。
「然うだ。ほら、今ガルダの中の悲しみが此の様に溶け出しているんだ。其を私の零星が一つ残らず食べるから、もう、大丈夫だよ。」
あやす様に優しい声、つい俺はほうと息を付いた。
確かに涙は止まって胸を巣食っていた痛みは一気に引いて行った。
すっかり涕き明かした後みたいに穏やかな心地に包まれる。
「如何だ?もう苦しくないか?」
「・・・う、うん、もう、大丈夫。」
「だったら良かった。」
何処迄も優しい彼女の笑み。何だろう・・・凄く惹き込まれる様で。
ずっと斯うして居たい様な、そんな温かくて安心出来る様な。
「こんなに辛い懐いをさせて済まない。何とか抗って真の姿にも成って頑張ったけれど・・・結局、駄目だった。其の儘、殺されてしまった。」
彼女の言葉を聞くと安心出来るのに、其の内容は酷く俺を傷付ける。
直ぐ又胸が苦しくなるけれども、其の気持丈は不思議と流れる様にすっと消えて行った。
湧き上がる傍から、クリアになって行く。
「・・・ガルダの気持、沢山流れ込んで来るよ。こんなに一杯苦しい懐いをさせて、御免なさい。」
然う謝る彼女の顔も冥くなる。苦しそうに目を伏せて、まるで俺の鏡みたいに。
「セレが謝る事ないだろ。セレだって凄く辛かった筈だから。本当は・・・死にたくなかったんだろ?一柱で戦わせて御免、俺こそ、傍に居てやれなくて・・・一柱にさせて、御免なさい。」
「噫、私も凄く辛かった。もう二度とガルダに逢えないのかと思って、でも今は、」
然う言って不図セレは俺の目線と合わせた。確かめる様に暫し見詰め合って。
「・・・私を殺したのはクレイスト、6890:鐘楼の長で、フォードの兄の天使だ。」
「彼奴の・・・っ、」
でも確かフォードの兄は死んだって・・・墓があるって彼奴は言ってたけど。
其でも其の名は俺も知っている。6890:鐘楼の長、けれども詳しい事は殆ど分かっていなくて。
何故だか執拗に其の存在を隠されていたと言うか、表に出ない奴だったんだよな。
でもまさか其奴が・・・セレを、殺したのか。
「ガルダ、大丈夫だよ。今は私が傍に居るから。・・・な?」
まるで俺の心を見透かす様に少し声を強めて彼女は言ってくれた。
そして猶の事強く俺を抱いてくれて、まるで離れない様に。
いや、若しかしたら本当に俺の心が見えているのかも知れない。
こんな空間だって創れちゃうし、でもセレになら良い気がした。
俺の内側を見せたって、斯うして彼女は寄り添ってくれる、そんな予感がしたから。
「彼奴に一柱で来る様に呼び出されていてな。少し話をしたんだが、如何も彼奴の逆鱗に触れたらしくてな。凄く強力な精霊術を掛けられて成す術がなかったんだ。」
「天使って確か、精霊とかと仲良いんだっけ・・・。其に光属性だろうし、セレと相性は良くないよな・・・。」
「ん、良く知ってるな、ガルダ。其の通りだが。」
「うん、昔一寸聞いた事がある丈だよ。実際見たのはフォードが初めてだったし、その、彼奴は俺の思ってた天使像と全然違ったから吃驚したけど。」
「ククッ、確かに。でも彼奴の兄は、分かり易い位天使だったぞ。片翼しかなかったし、嫌な・・・力を感じたがな。」
「嫌な・・・?其ってどんな力だ?」
正直、セレを殺した奴の事なんて聞きたくない。
でも聞いて置かないと困るだろう。俺が、其奴を殺す為には情報が必要だ。
絶対に赦さない。彼女を苦しめた奴を、何をしてでも殺さないと。
「偽りの曦、私は然う感じたんだ。其の時一緒に居てくれた龍のイリスも同意してくれたが、何だか作られた曦の様な、近くに居る丈でも不快な感じがして、良くない気配だった。」
「天使なのに・・・?おかしくないか?だって天使は確か、世界を愛する存在で、だから傍に居る丈で癒されると言うか、そんな曦みたいな存在だって聞いたけど。」
「然う、然うなんだよガルダ。だから私も妙だと思ってな。彼奴自身も、然うやって避けられているのが悩みだったらしいから、聞いてみたんだ。・・・其が、良くなかったんだろうが。」
暫し目を閉じ、彼女は口を開く。
一つ一つなぞる様に、彼女にとっての最期の記憶を。
「彼奴も、本当は堕天使なんじゃないかって聞いたんだ。然うしたら、私の此の感覚と言うか、其を読み取る力は危険だと判断されてな。結界に閉じ込められたんだ。」
そして猶の事強く彼女は俺を抱き締めた。
・・・其の手が少し、震えているのを知覚して。
「彼は本当に辛くて・・・苦しかったな。今懐い出す丈でもぞっとする。私の魔力と存在が絶えず奪われて行ったんだ。出る事も出来なくて、術も、零星も毒も何も使えなくて、少しずつ躯が腐って朽ちて行くんだ。記憶も無くなって、自分が自分じゃあ無くなる様な。誰だか、分からなくなって。噫、又死ぬのかって彼の冷たい感覚丈どんどん強くなって・・・。」
堪らず俺は強く目を閉じ、彼女を抱く手に集中した。
然うしないと彼女が、此の腕を擦り抜けて消えてしまいそうで。
存在を奪われるって、どんな心地だろうか。
俺達が当たり前に享受している物を、彼女は持っていなかった。
でもやっと最近少しずつ其を得る様になって、少しずつ彼女も存在出来る様になって。
あんなに喜んでいたのに、其なのに・・・其も、全て奪われるなんて。
生き乍らに腐って行くのはどんなに辛かっただろう。
もう味わわなくて良い死の経験を、緩り焦らす様に刻まれるのはどんなに。
想像丈で又苦しくなって、でも同時に其の気持は流れて行く様に静かになる。
此が・・・悲しみを食べると言う事なのだろうか。
こんな恐ろしい話を聞いても未だ冷静で居られるのは、此の御蔭なんだろう。
「・・・噫いけないな、ガルダに迄こんな辛い懐いさせちゃあ。こんな物は、何度も味わう可きじゃないだろう。」
「セレ、俺は、」
「ガルダ、済まないな。でも徒にガルダをこんな気持にさせたかった訳じゃないんだ。実は一つ、御前に頼みたい事があるんだ。」
頼み事・・・?
一体其は何だろう。そんなの、直ぐ引き受けるのに。
「けれど、其の前に今の私の事について話そうか。」
「そ、然うだよな。セレは今その・・・如何、なってるんだ?」
死んだのは・・・屹度間違いじゃあない。紛れもない事実なんだ。
でも、今目の前に居る彼女は本物だ。夢なんかじゃない。
「私は死んだ、彼の時間違いなく。其の記憶もしっかりと残っている。でも今の私は、ガルダ、御前が精霊として呼んでくれた姿なんだ。」
「俺が・・・呼んだ?えっと。」
覚えは・・・ない筈だけど、俺は先迄寝ていた訳だし。
「聞いた事があったんだ。精霊は死んでも再び甦る事があるんだ。願いがあれば魔力が其に応えて、再び此の世界に舞い降りる。と言っても、言葉通り簡単な物じゃあないだろうが。」
「其は俺も何となく知ってるけど・・・え、でも其って確か召還、と言うか斯う儀式とか犠牲とかが必要な奴だろ?何処ぞの宗教が堕ちた神を再臨させて事故が起きたりなんて話は枚挙に暇がないし。」
「おぉ、本当に良く知ってるなガルダは。然うか召還、確かに私も前次元に呼ばれた事はあるが。」
彼女は少し考え込む様に俺から離れて手を組んだ。
・・・少し、安心する。気が急いでいたとは言え、ずっと彼女と抱き合っていたし。
今更乍ら気恥ずかしくなって来た。ば、ばれてないよな・・・?
セレも未だ現状を考え中なのだろう。整理しようと唸って考えているけれども。
先の言い振りって・・・え、でも其の儘の意味なのか?
「えっと・・・若しかしてセレは其で生き返ったって事、なのか?」
「今の私の状況から考えると、だがな。本来甦ったと言っても精霊の存在が同じと言う丈で、記憶だとかは引き継がないんだが。」
「・・・今のセレはしっかりと其、有るよな。」
死ぬ直前の記憶迄ある位だし。
「噫、そして恐らく此は、アティスレイとガルダ、二柱の御蔭でもあるな。」
「アティスレイって・・・えっと、セレの何て言うか夢に出る奴と言うか、」
夢、と自分で口に出して理解する。若しかして今俺が見てる此の夢って、
「然う、アティスレイが私とガルダの夢を繋いでくれたんだ。其を渡って今私は此処に居る。ほら、今も私の傍に居るぞ。」
そっと彼女が手を伸ばすと、辺りを泳いでいた魚達が集まった。
其の蒼い瞳の一つが絳く染まっている事に気付く。
前会った時と全然違う姿だけど・・・此も、アティスレイなのだろうか。
「た、助けてくれたのか・・・。」
何と言うか、良く分からない存在だから何とも言えないけれども、そっか彼が彼女を此処迄連れて来てくれたんだ。
そんな事が出来るなんて、其に、此がセレの言っていた絳の夢なのか。
こんなにリアルな夢を見せるなんて、でも夢でもセレは居るんだよな。
「噫、本当にあんな状況で良く動いてくれたよ。でも其はガルダも同じだ。ガルダはずっと私の事を懐ってくれていたんだな。御蔭で又私が私の儘で存在するに足る願いが集まったんだ。」
「っお、俺の懐いって、そんな・・・。」
「本当だよガルダ。本来精霊の甦りは簡単な事じゃあない。其こそガルダが先言ったみたいに、一つの宗教を丸毎巻き込んでも成功するか如何か。其位多くの願いや祈りが必要なんだ。懐い丈で此の世界に存在を残さないといけないから。」
然う言って彼女は其迄より優しく咲った。
本当に穏やかに。死んだ許りだと言うのに晴れやかに。
「其でも私が今此処に在ると言う事は、ガルダの願いが其の宗教や一国なんかより勝ったと言う事だ。だから、本当に嬉しいよ。今私が存在するのは紛れもなくガルダの御蔭だから。」
臆面もなく然う咲う彼女の顔を正視する丈でも俺は少しドキドキしてしまって。
初めてだった。屹度今迄見た中で一番の笑顔で。
愛らしいと思った。美しくて、ずっと傍に居たいと心から。
彼女は俺の手を取り、薄く目を閉じていた。まるで全て分かっていると言う様に。
「死んだ時は迚も、迚も苦しかったけれども御蔭で此の懐いを斯うして実感出来た事は本当に良かったと思っているよ。今の私はガルダの願いで出来ている。だから良く分かるんだ。一体何丈御前が私の事を懐ってくれていたのか・・・痛い程、伝わって来る。」
俺の願いで・・・生まれた存在。
其は確かに元来の精霊の在り方だった。然うやって精霊達は魔力や自然現象から切り離されて生まれたんだ。
俺の願いが、セレが存在するに足る程の物と言うなら屹度・・・。
・・・彼の時から今に至る迄懐い続けた事が全て意味があったんだと彼女が証明してくれる。
然う懐うと途端、先迄とは又違って胸が苦しくなった。
噫、俺は・・・俺は嬉しいんだよな。報われたんだって分かって。
ずっとずっと、然う。俺も懐い続けて苦しんで来たから。でも其の全てに意味があったと彼女が肯定してくれるのなら。
・・・此程、嬉しい事は無いのだと。
「・・・其の涙は私は喰べられないな。」
俺の目の端に浮かぶ其を見て、彼女は儚く咲った。
「今の私はガルダ、御前丈の精霊だ。御前の願いを叶える為丈に生まれた神なんだ。だから、ガルダが求めてくれれば私は応えるよ。」
俺丈の・・・精霊、俺丈の神。
其はむず痒い程嬉しくて、でも同時に少し切なかった。
其はもうつまり、如何仕様もなく俺がセレを縛っているって事で。
結局は俺の為丈に彼女を生かしたと、然う言う事なんだろう?
俺が無自覚な内にこんなにセレを縛っていたなんて。
けれどこんなにも俺に縛られている状態なのに彼女は咲っていた。
何処迄も自由に飛んで行きそうな、そんな晴れやかで深い笑み。
「ガルダの懐いを受け取ったから分かるよ。こんなに永い間祈り続けてくれたんだ。其なら一つ位、叶っても良いじゃないか。」
彼女が微笑むと水が流れ、魚が躍る。
まるで流星が華に戯れる蝶の様に舞い踊る。
「私は霄の神でもあるんだ。霄は願いを集める。最も祈りを受け止め、聞き入れる存在だ。だから私が受け取った此の願いも返すよ。」
「俺の・・・願い。」
「然う、其が今の私、セレ・ハクリュ―の存在理由だ。でも今の私では御前に何もしてやれない。斯うして心の中に存在するのがやっとだからな。」
其でも、其でも良い。十分だ。
俺はそんなに多くを求めないよ。願っているのは何時も一つ丈。
良いんだよセレ、心の中だとしても傍に居てくれるなら。
俺は、其丈で十分、否、十分過ぎる程に、
「・・・うん、ガルダが願うのなら、此の儘一生此処で二柱で眠っても良いけれども。」
つい彼女の顔を見遣る。俺の願いをそっくり其の儘映す彼女を。
「此処は、本当に居心地が良いよ。不思議だ。私はずっと果たす可き事があると、願いがあると踠いていたけれども御前の懐いに満たされた今、求めてくれるなら然う在りたいと、心から懐っているんだ。迚も、開放的な心地だよ。屹度此が生まれ変わった私としての形、在り方なんだ。」
俺が願って、形を与えて。
其で良いのだと、俺の夢の中で彼女は儚く咲っていた。
「だからずっと、御前が望むなら私は傍に居る。斯うして一緒に居て、色んな他愛ない話をして、そして眠りに就けたらどんなに安らかか。今の私なら其の夢を叶えられるよ。」
噫、どんなに其の夢は・・・救いなんだろう。
其は正に俺の願い其の物じゃないか。美しい夢だ。
「・・・けれど、此の儘じゃあそんな願いも叶えられなくなる。」
途端目を伏せ、上目遣いにセレは俺を見遣った。
其の瞳の奥に俺は煌めく黔を見た。
「だからガルダ、一つ頼まれて欲しいんだ。何も出来ない私の代わりに、御願いだ。」
「何だセレ、俺何でもするよ。だから頼ってくれよ。」
俺の言葉に、彼女は優しく頷いた。そして手に取っていた俺の手を自身の頬に添える。
撫でて欲しいのだろうか、然う思ってそっと手で包む様に撫でる。
此処に在る彼女の形を確かめる様に。
「私を、召還してくれないか。」
「召還?其って今のとは別にか?」
薄く目を開けた彼女の笑みは何処か冥くて。
まるで世界に隠れて行う秘密の企みの様に、怪しい色を秘めている。
「今の私は、辛うじてガルダの心の中丈に存在するちっぽけな精霊だ。だから此の私に如何か魄を、存在を証を与えて貰えないだろうか。」
「つまりは夢の外へ出たいのか?又今迄みたいに。」
俺に其が与えられるのなら、勿論手を貸すよ。
「噫然うだ。彼奴は私にはっきり言ったんだ、私の仲間を殺すと。彼奴は・・・店を壊す気だ。そんな事はさせない。彼奴を殺さないと、皆を殺させない為に。」
思わず、小さく喉が引くついた。
彼女の四つの瞳が細められる。まるで世界を嘲笑う様に、睨め付ける様に。
其の目を見て分かった。未だ彼女は諦めていないと。生きようと足掻いているのだと。
俺の手から飛び立って、俺の願いを、全てを、叶える為に。
・・・でも、彼奴を殺したいのは俺も一緒だった。
あんなに先迄穏やかだった心が少しずつささくれ立つ。
屹度今俺とセレが抱える物は同じだ。同じ痛みを照らし合わせて。
「彼奴を殺す為に躯が欲しいって事なんだな。」
「噫、願って許りで済まないな。でも赦されるなら。」
「・・・良いよ、セレ。其位御安い御用だよ。」
俺も彼女に笑みを返した。すると一瞬彼女は目を見開いたが、直ぐに頷いた。
「良かった。じゃあ早速ガルダに手解きしようか。私と言う神の召還方法を。」
然う咲う彼女の笑みは矢っ張り何処か怪しくて、吸い込まれ然うで。
でも今更其を手放せる俺なんかじゃあなかったんだ。
・・・・・
「噫然うだ。私はガルダの御蔭で再び此の世界に召還されたんだ。」
不敵な笑みを浮かべて、彼女のオーバーコートが翻る。
すると其の中から数多の零星が溢れ出し、辺りを包む様に駆け廻る。
闇が、霄が自分から生み出されて行く。
此処は自分の統べる世界、自分が赦される霄の世界だ。
噫、心地良い。分かる、今の自分は赦されている。存在しているんだ。
前とは・・・違う感覚をはっきり自覚するな。自分は生まれ変わっていると。
同じ記憶と願いを受け継いだ、全く別の存在に。
「精霊の召還・・・っ⁉そんな、そんな事が出来る筈が、」
目を剥き、クレイストは信じられないと許りにセレを見詰めていた。
でも信じるしかない。此処に居るのは紛れもなく彼女だ。
・・・甘い薫が、漂っている。
気を抜けば、惚けてしまいそうな。こんな事態なのに気を取られそうになる。
違う、此は、此の気配は先迄の彼女と違う。
生まれ変わった・・・?いや、そんな事ある筈ないのに。
「私は願いから生まれた存在だ。噫、私の滅びを願う懐いも沢山世界から伝わって来るが、其等を上回る存在の証が此処に在る。」
然う、ガルダと言う存在、其の物が私の証になる。
彼と言う絶対の存在、其の中に抱かれた私との記憶。
そして変わらず掛け続けた祈りと願い。其の全てが此の身を満たし、構成する。
一度失われた、でも同じ器で魔力で真似て、魂を吹き込む。
「ある意味、御前の存在も鍵になってくれたよ。御蔭で儀式は完成した。」
「儀式、だと。ま、まさか先の、」
流石天使、と言った所か。察しが良い。
先迄繰り広げられていたガルダとの死闘、其が其の儘自分を呼ぶ為の儀式になった。
ノロノロも言っていた。精霊との契約等は、大切なのは順序等ではない。
懐い・・・只其の一点だ。
どんな形であれ、其の行為に願いがあり、自分を想起させる物であれば、儀式成り得る。
儀式を実行したのはガルダ、犠牲は差し詰め其処の天使、捧げてくれたのは彼の有り余る生命力、存在、今迄掛けてくれた願い、祈り、自分を繋ぐ記憶、懐いだ。
そして捧げてくれた祝詞は果てしない憎悪と殺意。殺しの精霊足る自分に此程迄相応しい証明は無いだろう。
ガルダには只頓に殺意を向けて貰った。・・・こんな事は、させたくなかったが、自分が頼む迄もなく彼は心の底から此奴を憎んでいた。
いっそ、怨み丈で殺せそうな程、こんな懐いを彼が抱いた事には少し驚いてしまっている自分がいるけれども。
絶対に赦さない、殺してやると。皓い曦である彼に言わせたくはなった。けれども此も又、純粋な彼の中の懐い。
だから其を私は受け取った。全て喰らって呑み干した。
悲しみを喰らった所で満たされないどす黔い懐い。
・・・ガルダの其は、酷く美味しくて。
如何して彼に纏わる全ての物は、こんなにも自分の渇きを癒すのだろう。其は一重に彼の秘めたる懐い故なのか。
うっかり彼の全てを求めて喰らい尽くさない様に注意しなければいけない程、彼の懐いは自分を惹き付けた。
ガルダも次第に気付いた事だろう。心の内から溢れて来た自分の力を。
だから段々と彼も自然と躯が動く様になった。自分の力の流れを感じ、如何導けば良いかはっきり示されたから。
然うして彼は望んだ。前世の彼の日の続きを。
絶望しかなかった永遠に失われた筈の記念日を。
自分の存在する可き時間を世界に刻んだ。
そして贈り物として皓の世界を。
私と言う存在を唯一赦してくれる場所。
前世から続いていた後悔の一つ、私に贈ろうと秘め続けた懐い。
其が、世界に刻まれた。私が召喚される儀式の場として。
全ての準備が整った地で、最後に彼が放った御守り。
自分がガルダに送った前世との楔。私の力のみで創られた純粋な物。
彼を核として、私は生み落とされた。
舞い散る羽根を華に、地に描かれた血を陣に、殺そうと振るわれた爪を刃を舞いに、慟哭を叫びを祝詞に。
私、霄と水鏡と殺しの破壊神、セレ・ハクリューは召還された。
「噫、此は・・・、」
敵わない、なぁ・・・。
思わず乾いた笑みがクレイストの口から洩れた。
認めざるを得ない。此の神は、本物だと。
私如き偽りの天使が適う相手ではない。
其に・・・恐らく、
ちらと自分の頭上に輝く天冠を見遣った。
可也欠けつつあったが、未だ柔らかな曦を放つ其を。
だが今は・・・僅かにくすんでいる気がする。
天冠丈じゃない。皓かった筈の翼も、瞳も、次第に蝕まれる様な感覚。
此の霄に触れているからなのか、私が・・・溶かされて行く。
天冠が欠けた今、守護の力は失われている。其でも退魔の力は此の曦に込められているんだ。
其を掻い潜り、否、押し返す程の穢れなのか。此を放っている等、
噫、私が穢されて行く。やっと手にしたと言うのに。噫、全て喰い尽くされて行く。
「私は随分と君達を見縊っていた様だね。」
ちらと離れた所で座り込んでいる彼を見遣った。
荒く息を付いて、でも其の目はじっと彼女に注がれている。
彼丈は、信じ続けていたんだ。あんな殺意の中で只彼女の再来を。
弱ってはいる。けれども走る零星が護っているのだろう、彼の周りを渦を描き、巡っている。
私があんなにも何重にも施した浄化の術を嘲笑う様に、闇が満ちている。
・・・私に連れ添っていた精霊達も、此の様子だと一柱残さず喰われた様だ。
此の霄に抗えず、喰い尽くされる。今、私は一柱になってしまっている。
此の状況ではもう結界は張れない。・・・打つ手はないか。
「噫君達に完敗だ。矢張り君は気高く、美しかった。私なんかが手を出してはいけなかった様だ。」
私を見下す水鏡に向け、微笑む。
其でも私は君達を愛しているよ。
其の力は、確かに危険だ。けれども屹度私が其を判ずる可きではない。
其の大役は屹度もっと大いなる者が、見通してくれる筈だ。
私は私の、やる可き事を成した。然う、受け入れよう。
手早く術を編み、小さなナイフを手に持つ。
得物は小さくても構わない。私の此の懐いを刃に重ねる丈だ。
此の儘朽ちて穢れて終わる位なら、私は潔く此の舞台を降りよう。だから、
左様なら、愛した世界。如何か幸あらん事を。
「おい、天使様ともあろう奴が何勝手に自害しようとしているんだ。」
頸元に当てた其の手を、握られた。
そして光陰が強まったかと思えば、彼女が私の目の前に居た。
噫、いけない。此以上近付かれては、
はっきりと分かる。彼女に握られている手首から穢れが広がって行くのを。
「御願いだ。放しておくれ。私はもう終わりだ。私の使命は此処で終わるのだから。」
「何自分丈綺麗に終わろうとしているんだ。私を一度殺した怨みは此の程度じゃあ晴れないぞ。」
まるで蛇の様に、睨ね付けて離さない。視線が絡まる。
息を吸う丈で凍える様な其の目に射抜かれる。
「では一体、如何すれば君達の気が済むんだい。」
拷問か。死ぬ迄甚振られるのだろうか。
私はもう抵抗する気はない。其でも、赦しては貰えないだろうか。
・・・其も然うか。あんな結界で君の命を奪ったのだから。使命の為とは言え、残酷な仕打ちをした。
でも、叶うならば一思いに。
「私の此の躯は、此でも結構ギリギリなんだよ。力は増したが、前より不安定になってしまった。其を繋ぎ止める為に贄が必要なんだ。」
贄・・・だと。
クレイストの目が見開かれ、口が戦慄く。嫌な予感に汗が伝う。
「だから御前を食べようと思ったんだが、如何せん天使の力は厄介だな。今の儘御前を食べても腹を壊しそうだ。」
「わ、私を・・・食べる気、なのか。」
向けられる目につい背筋が凍える。
心臓を凍えさせて貫こうとせん目、此が・・・獲物を狙う目なのか。
「噫、只食べるにしても感謝して私は食べるよ。残さず食べなきゃ失礼だろう?不味いからと食べ残すのは礼儀に欠けている。だから、私が全て食べられる様に。」
水鏡の曦が冷たい。凍えそうなのに目を離せなくて。
「御前を骨の髄迄穢してから食べるとしよう。」
「・・・あ、や、止めてくれ、其丈はっ、」
嫌だ、又堕天するのはっ、
穢れる位なら私は、殺してくれっ、頼む、
「良い目だ。私が怖いか?恐ろしいか?こんな私でも御前は愛せるのか?確かめてみようじゃないか天使様。」
彼女の笑みが深くなったと思った瞬間、彼女は私に飛び掛かって来た。
すっかり足が竦んでしまっていた私は格好の獲物だっただろう。あっさり彼女に押し倒され、馬乗りになる。
翼が、無理矢理押さえ付けられて軋む。でもそんな痛みに呻いている暇はない。
彼女は徐に手を伸ばした。まさか目でも抉られるのかと目を瞑るが、其の手が少し逸れて私の頭上の其を掴んだ。
噫、こんな現実を見る位なら、目を抉ってくれた方がずっとましだっただろう。
彼女の手には私の天冠が握られていた。幾らか欠けてしまってはいるが、紛れもなく私の、
そして彼女が持った傍から黔ずみ、曦を失って行く。あっと言う間に只の黔い輪になって、
傍に居る丈で、触れる丈で穢されてしまう。曦は朽ちて淀みになる。
「・・・戴きます。」
私に見せ付ける様に笑みを零して、彼女は天冠だった其に喰らい付いた。
まるでドーナツみたいに齧っては砕かれて行く。私は只、其の様を見ている事しか出来なくて。
「煩わしい曦だったが、味はいけるな。堅い丈だと思っていたが、まるで中が蜂蜜みたいだ。」
チロリと舌を出し、中身を啜っては齧って行く。
丁寧に味わって、私の、私の天使の証が、
「さてと、次は何処にしようか。天使なんて然う食べられない代物だからな。しっかり味わわないと。」
「・・・っ、嫌だ。殺してくれ、頼むっ、」
「そんな勿体無い事は出来ないな。魂迄しっかり穢さないといけないんだ。殺したら逃げてしまうだろう?今御前が抱いている恐怖も全て、私にとって御馳走なんだから。」
残酷な宣告を、彼女は私に告げた。
此から行われる事、私の末路、其がこんなにも悍しい物だと。
私を逃さない為か、彼女は私の両手を掴んで押さえ付けていた。
でも、最早抵抗する力も何も無い。
其の手から伝わって来るのだ。黔が、穢れが、私の内側を骨迄犯し尽くして広がって行くのが。
其の所為で力が抜ける。術の一つも放てはしない。
噫斯うして、斯うして私は又堕とされるのか。
其をこんなまざまざと見せ付けて来るのか。
嫌だ、助けてくれ。誰か、私はこんな終わり丈はっ、
どんなに懇願の目を向けても、其は全て目の前の水鏡に注がれるのみで。
心底楽しそうな笑みを浮かべて、彼女は嘲笑っていた。
「噫段々そそられる色に染まって来たじゃないか。生まれ変わって最初の食事としては上出来だ。素敵なディナーじゃないか。」
「・・・っあ・・・ぐ、う、お、御願い、します。私を早くっ、」
「噫まるで先の逆だな。今の御前は迚も憐れだ。命乞いした時の私なんて、もっと惨めだっただろうな。」
彼女の喉の奥から笑いが込み上げ、目を細める。
闇が、霄が、私の全てを奪い去ろうと。
「さぁ随分と苦しそうだが如何だ?此でも未だ世界を愛しているのか?今の御前となら、話してみたい気分なんだ。答えてくれないか?」
「其は、変わらない。私は、世界を愛している。全て、此の世界にある者は。」
「・・・殊勝な事だな。」
何処か自虐めいた笑みを浮かべて、彼女は猶手に力を込める。
・・・もう、腕の感覚は残っていない。途端冷えて背から凍えそうになる。
「今こんなにも御前を苦しませている私もか?此の世界の一部だからと御前は愛すのか?」
「噫勿論愛しているっ!君の気高さは失われていない。只私と、対極の力である丈だ。愛さない理由にはならない。」
「私はこんなにも世界が嫌いなのにか。・・・ククッ、流石天使だな。こんな最期を与えて来る世界でも、御前は愛せるのか?」
「愛している。世界が私に与えたのが痛み丈だとしても、其の痛み毎、私は愛している。」
穢れが、此の胸の内に染み込み始めている。
息を吸う丈で肺が穢れ、内臓が痛み始める。
私が、変わって行く。最早天使ではいられなくなってしまう。
其でも、訴える。彼女に、私の誠意を伝えられればと。
「・・・噫本当に辛そうだな。痛みが私にも返って来るんだ。こんなに痛め付けているのに未だ私を真直ぐ見られるなんて流石だな。御前は本当に立派な天使だったんだろう。精霊や龍に避けられても、手を差し伸べて来たんだろう。屹度私が多くの命を奪った様に、多くの者を助けて来たんだろう。けれど、其の御前の最期には誰一柱助けに来ない。薄情だな此の世界は。其でも御前は愛せるのか?愛の一つも返してくれない世界を。」
途端彼女の目の奥に、悲哀の色が見て取れた気がした。
冷たくて冥い、見ている丈で胸が締め付けられる様な。
まるで私の中の、心迄もを見透かしたかの様に、其の内を映す鏡の様に。
「愛しているよ。私は何も見返りが欲しくて愛しているんじゃない。愛しているからこそ助けるんだ。だから、薄情だなんて思っていないよ。」
「・・・成程、御前の愛とやらは本物だな。私にはそんな真似・・・出来やしなかったのに。」
ついちらと彼女を見詰めた。
彼女の笑みは崩れていない。でも、其の奥で、
「・・・若しかして、涕いているのかい?」
「まさか、私は楽しくって仕方がない丈だよ。こんなに穢しても堕とせない御前の心だ。其の愛とやらは一体どんな味がするんだろうな。」
彼女の笑顔が歪む。でも其は別に私の言葉を肯定する訳じゃあなくって。
私の目が・・・腐り始めているのだ。
もう、此処迄穢されたのか。
噫、あんなにも美しく見えていた世界が冥い。淀んで静かで、醜くて。
もう私は永遠に彼の美しい世界を見る事は叶わないのだろう。其でも私は、
「・・・な、何故、君、がっ、」
もう世界を閉じようと瞼を震わせた所で私は、
居る筈のない、此の世界に在る筈のない堕天使の影を見た。
「フォ、フォード・・・。」
如何して君が、君は彼女に殺された筈じゃあ・・・。
如何して私を見る。何も言わずに只、
噫、私が、穢されて行く。君の穢れが、私に。
然う・・・か。元々此は私の穢れ、君に押し付けた私の。
噫怒っているのか、嘲笑っているのか。君を見捨てた愚かな兄を。
偽りでも、曦を求めてしまった私を。
「ん、フォード・・・?此処に居るのは私丈だが。」
首を傾げるも、奴は目を見開き、口を戦慄かせて固まる丈だ。
穢れが頭に迄行ったのだろうか。彼奴の魂も食べていないし、居る筈がないのだが。
まぁ良い。そろそろ御中が空いて来た。もう十分食べ頃だろうし、戴くとしようか。
話し中に食べるなんて行儀が悪いだろうが、食べ頃を逃すのも又失礼だろう。
一番美味しい時に、しっかり味わって食べてやらないと。
「う・・・あ・・・わ、私を、怨んでいるのか。」
何処を食べようか牙で狙いを付けていると、不意に奴の口が震えた。
如何やら、居もしない幻と話しているらしい。虚空を見詰める目に最早自分は写っていない。
・・・未だ話したいのなら、無難に四肢からにしてやろうか。
まぁ幾ら壊れた所で、あっさり殺すなんて真似はしない。焦ってはいけない、じっくり料理しないと。
腕はもう十分穢れ切っただろう。醜い痣に覆われて肉が腫瘍の様に所々歪に膨れている。
私が触れた所で斯うはならないと思ったが、此は彼が天使だからなのだろうか。
こんな形に生まれ変わった所為か、寧ろ奴の天敵となってしまったらしい。
一番厄介だった天冠の護りも消えたし、斯うなれば天使も神も変わらないか。
遠慮する事なく其の腕に牙を突き立てる。一瞬奴が呻いたが、恐らく痛みは殆ど無いだろう。
毒もしっかり効いているみたいだしな。・・・まぁ穢されて行く痛みからは逃れられないだろうが。
腱を噛み千斬り、只の肉の塊となった其を引き裂く。
皮一枚下は存外普通だな。只味の方は・・・、
暫く筋を噛み千斬る様に咀嚼する。噛む程に味が血と共に染み出して、口中を埋め尽くす。
・・・悪くない。ガルダの程ではないにしても、其処等の神より余っ程美味しいじゃないか。
先は喰えた物じゃないと思ったが、穢れてしまえば其の限りではないらしい。
血や肉に光の魔力でも流れていたのか先は咬んだ丈で口の中が斬れてしまった。
まるで茨を呑んだ様な心地だった其が、こんなにもとろける様に。
加えて此奴から滲み出る絶望、悲しみ、苦しみ等の負の感情が流れて来て、心地良い。
まるでソースの様に、血肉の味を彩り、一味変えてしまう。
矢張り此の感情は旨い。じっくりと甚振る程深みを増して、自分の内を満たしてくれる。
つい病み付きになりそうで急いで喰らい付いてしまうが、味わわなければ勿体無い。もっと緩り食べないと。
未だ此奴は穢れ切っていない。じっくりと、其の心を溶かしてやる。
肉も皮も取り除かれ、皓い骨が覗く。
其の骨すらも歪に曲がっていた。此が穢れに因る物なのだろうか。
内側が勝手に変わって行く痛みは知っている。辛いよな。
自分も前世で良く味わったよ。化物に成る苦しみを。
一体御前はどんな化物に成り果てるんだろうな。
骨に齧り付くも、顎門に力を籠めればあっさりと其は砕けた。
穢れた所為か大分脆くなっているみたいだな。御蔭で食べ易い。
「・・・あ、う・・・フ、フォード、ど、如何したら君は私を赦してくれるんだ。」
呟く様な声につい耳が動く。
彼は自分の事を凝視しつつも全く違う景色を見ている様だった。
声も震え、凍えた様に躯は強張っている。
此は恐怖?後悔か?少し漂う感情の味が変わったな。
何の道美味しく戴くが、偉大な天使様の最期が後悔か。
別に自分はフォードと御前の確執なんて知らないが、まぁ好きにさせてやろうか。
「ご、御免なさい。君を見捨てて、私は一柱逃げた。ずっとずっと、君の事が気掛かりだったんだ、本当だ。でも、又穢れるのが、君に何て罵られるか、私は恐くて・・・。」
・・・?此奴から新たに溢れ出た色を見遣る。
少し、気になるな。此は自分が先引き出せなかった物ではないのか。
懺悔したいのならどうぞ。私は邪魔にならない程度に御前を食べ尽くそうか。
「噫、そんな目で私を見ないでくれ。御願いだ私はっ、嫌だ。あ、ご、御免なさい。私の、私の罪を数えます。だから如何か。」
全てに怯え切った手負いの獣みたいに彼は震え始めた。
此の霄に全て包まれ乍ら、見えない闇の底に震える。
あんなに気高く応えてくれていたと言うのに。御前の中に何が触れた?
「私は何時も、外で食べ物を分け与えて貰っていました。でも、其を独り占めしたくて、私は君を連れ出さなかった。冥いマンホールに閉じ込めた。」
此奴が祈る神なんて此処には居ない。こんな化物しか御前の話を聞く奴は居ないと言うのに。
誰にも届かない懺悔を、奴は一柱口走っていた。
聞き逃がさない様に咬み付いていた手から牙を剥す。
骨を砕くのは小気味良いが、此奴の声が聞えないのは失礼だ。最期の言葉位聞いてやらないと。
「君の頭の良さなら、例え堕天していても通える学校がある事を私は知っていた。でも、君が一柱私を置いて行くが口惜しくて言えなかった。」
・・・まさか此は、此奴が謝っているのは。
如何しても、前世の自分が最後に祈った教会での事を懐い出す。
重ねてしまって、噫何と憐れか。
今更其の懺悔に何の意味もないのに。只自分が赦されたい丈の自己満足な願いだ。
でも、其でも、
「彼の日、彼の最後の日。寝ている君を私は置いて逃げた。上手く行けば私は一柱になって自由に生きられるじゃないかと我先に逃げ出した。」
・・・噫、終に心が、溶け出した。
甘い、此のねっとりと流れる感覚。自分の内を満たして行く此の懐い。
うっかり胸焼けしてしまいそうな程濃密な色。
噫、此が御前の後悔か。御前が神に成った謂れか。
若しかしたら御前が堕天した原因も、其の心に秘められているのではないか。
あんなに気高くあろうとした天使とは思えない。せこい小さくて矮小な一柱の男の姿が、浮き彫りになって行く。
此の胸の内を見せたくないから御前は堕天を拒んだのか。此を曝け出す位なら、綺麗な儘で死にたいと。
噫醜い、本当の本当に、如何仕様もなく醜くて冥い心だ。
「天使に成れると聞いて、私はもう居ても立っても居られなかった。君の事を、本の一欠けも気付いてやれなくて、只私の為丈に穢れを削ぎ落として君に全て押し付けた。」
穢れた口から零れる懺悔は止まらない。
もうすっかりセレは牙を抜いて、じっくりと彼の言葉に耳を傾けていた。
然うして喰らって行った。奴の心を。
自責に塗れた卑しくも醜く踠く心の内。
其を丁寧に噛み締めて味わう。骨の髄迄、一滴残さず味わう様に。
「私は只君を助けた気になって、優越感に浸りたかったんだ。可哀相な君を助ける、良き兄になりたかった。私が美しくあるには、君は醜くなくてはならなかった。見せ掛けの名声を欲しがった。だから君を失った後は我武者羅に私は天使として務めを果たしたんだ。」
堕ちろ、堕ちろ堕ちろ堕ちろ堕ちろ。
染まれ、黔に染まり切って霄に溶けろ。
堕天所じゃない。地の底へ御前を叩き付けてやろう。
御前は、極上の贄だ。今、然う成ったのだ。
噫絶望に染まった心は何て甘美か。何年も何百年も直隠し続けた秘密が、後悔が放つ薫は何て芳しいか。
まさか此処迄御前が美味しいとは思わなかったぞ天使。
此処迄堕ちるのか、零落れるのか。こんなに心が美味しい物だなんて知らなかった。
其の懺悔一つ一つがより御前と言う餌の味わい方を変えて行く。
「其でも・・・君は、君は赦してくれないか。然う、だよな。然うだとも。私は君自身に何もしなかったんだから。ずっと君の影に怯えて、曦に逃げ続けたんだから。」
もう屹度、躯も満足に動かせないのだろう。
あんなにも整っていた端麗な顔付きだった彼は一転、爛れた肉が皮膚を突き破り、血と涙が混ざった生々しい肉塊と化して行っていた。
腐っては膨張し、破裂しては捩じれて行く。
まるで此の穢れ切った姿こそ、彼の真の姿と言わん許りに。
・・・もう、頃合いだろう。
喋るのもやっとだろう。奴は只懇願の声を漏らす丈の肉塊となりつつある。
御預けを貰うには十分待った。完全に息絶える前に喰らい尽くしてやろう。
未だ腕位しか味わっていないんだ。其の腹の内の熱く濁った内臓を暴きたくって仕方が無い。
「赦して・・・ください。」
血泡を吐き乍ら訴える肉の内に牙を突き立てる。
其処から無遠慮に引っ張ると皮と一緒にこびり付いた内臓が溢れ出た。
噫、すっかり溶けてしまって原型も分からなくなって仕舞っているが、スープだと思えば悪くない。
顔を埋める様にして飲み干す。手当たり次第に千斬っては呑み込んで。
未だ生きようと蠢く内臓に齧り付くと、口端から溢れ出る。
行儀は悪いだろうが、構う物か。身形なんて気にしていられない程の御馳走だ。
もう如何仕様もなく自分は渇いているんだ。だから、其の全てを。
零星が連れ添い、御零れに肖ろうとか飛び散った血や肉片に群がる。
此の霄が丸毎御前を喰らい尽くすだろう。
「御免・・・な、さい・・・。」
もう其の音に意味はあるのだろうか。
すっかり黔ずみ、羽根を散らした翼に喰らい付く。腐っていたのか其丈であっさりと背中の肉毎千斬れた。
羽根が少し邪魔だが、其は零星達が食べてくれる。一枚だって無駄にはしないさ。
顎を鳴らして骨を噛み砕く。中の髄を啜り乍らちらと奴を見遣る。
虫の息だが、未だ辛うじて生きている様だ。醜く膨れた肉に包まれた隙間から息が漏れる。
もう音にすらならないが、未だ懇願しているのだろうか。
最後の最後で、御前は知るんだろう。此の世界の意味を。
噫残酷で醜い、此の世界には何も無いと。
不意に光る物を其の肉塊の中に見付けて手を伸ばす。
まるで輝石の様な丸い石、血に塗れているが此は・・・、
噫彼奴の目玉か。大分くすんでいるが、何処か意志が宿っているみたいで。
徐に口に運び、まるで飴玉の様に口内で転がした。
うん、美味しい。少し牙を立てると弾力があって食感が楽しい。
もう、意識も残っていないのだろう。剥き出しの魂が其処にはあった。
其を丁寧に牙を立てて食べる。一片も残さない様慎重に。
残りの肉は零星にくれてやる。只此の魂丈は自分の物だ。
彼奴の全てを楔にして、自分は生きる。不安定になってしまった存在を繋ぐ鎖にする。
「・・・御馳走様。」
最後に残った血を舐め取って、小さく息を付く。
全て全て、平らげた。彼奴の肉も骨も血も感情も魂も全て取り込んだ。
自分が克て然うされた様に、其の存在の全てを奪い去った。
・・・少し丈、違和感と言うか。味に濁りはあった気がするが、構わず呑み込む。
想像以上に美味しかったので、頬が火照っている。少し冷まそうか。
だが不意に頸、肩回りが痛み始めた気がした。
此の痛みは・・・天使なんて食べた悪食の所為だろうか、いや、其とも。
暫し目を瞑って痛みをやり過ごしていると、はっきりと其と分かる変化が出て来た。
まるで肩から裂ける様な、内側から突き抜ける様な感覚が走ったかと思えば、
音を立て、鎖骨が飛び出したのだ。
血を滴らせた其は黔く光り、形を変えて行く。
鎖骨が丸毎取れたのかと焦ったが、如何やら此は一部丈らしい。先の痛みは骨が分離する物だったのか・・・。
痛みは続くが、止血は直ぐに済んだ。後は此の取れた部分だが。
不自然に浮いていると思ったが、其の儘自分の頭上へ飛び、浮かんでいた。
下から見上げるとまるで黔い朏みたいだ。地と水平に漂う水鏡。
そして其処から零れた血がまるで窓掛の様に幕を張って翻った。
其がまるでレースの様に顔に降り掛かり、思わず顔を振る。
此は、若しかして・・・、
そっと手で触れるが、もう在る可き形になったのか其以上変わる事は無かった。
此は又、中々特異な変化をしたな。
見上げていると周りを包んでいた闇、霄が全て此の水鏡に吸収されて行った。
明けた霄の先にはすっかり昇ってしまった紅鏡が掛かり、優しく陽を投げ掛ける。
「・・・もう大丈夫そうだな。じゃあガルダを迎えに行こうか。」
足を向ける。少し離れた所で彼は地面に座り込んでいた。
そして惚けた様にぼーっと此方を見ている。少し、窶れてしまっているな。
そんな彼を見ている丈で口が歪む。感情が溢れ出ようとする。
急ぎ、彼の傍へ。彼を包んでくれていた零星はもう無い。自分の手で導かないと。
「ガルダ、済まない待たせたな。・・・やっと終わったよ。」
咲い掛けるとはっとした様に彼は目を上げた。
まるでずっと意識が無かった様だ。目を瞬いて大人しくしている。
そして慌てて立ち上がると埃を払って小さく頷いた。
「あ、噫、御疲れ様・・・良かった本当に。セレは大丈夫か?怪我とかしてないか?」
「噫私は大丈夫だよ。ガルダの御蔭だ。頗る快調だ、完璧な召還だったな。」
「そっか、うん。其なら良かったけど・・・ってセレ!ほら直ぐフードしないと!昊なんだ・・・し、」
ガルダが手を伸ばした所で、はたと彼も気付いたらしく呆然と口を開けて見詰めてしまっている。
然う、今の自分は、オーバーコートを着てはいるがフードは外していた。
其でも・・・焼けていない。昼間だと言うのに。
下がり掛けていたガルダの手だが、そっとセレの顔を包む様翻るベールに触れた。
「此・・・は、」
「ん、天使を食べた所為か、天冠が生えたみたいだな。」
「ま、まじか。じゃあセレ、天使に成っちゃったのか?」
「ククッ、其の肩書は流石に辞退したいな。私程似合わない奴も居ないだろうし。」
自分が笑うと、少し釣られた様に彼も笑った。
・・・うん、ガルダは、然う咲っている顔が良い。
「一応、天冠と似た様な力は有しているみたいでな。此の中に居ると陽に焼けないみたいなんだ。」
「へぇ、天冠の加護の力はあるのか。面白いな。」
「其でもオーバーコート自体は欠かせないがな。一寸した貰い物だ。」
オーバーコートを上から叩くと、一つ堅い感触が伝わって来た。然うだ、此を返さないと。
「ほらガルダ、此を返さないとな。有難う、御蔭で私は又此処に居られるんだ。」
ポケットに入っていたのはサンストーンの御守りだ。変わらず柔らかい曦を返してくれる。
此を核に、私は呼び出されたのだ。此の世界に在る事を認められた。
迚も大切な証。唯一無二の、自分と彼を繋ぐ。
「噫うん、良かったよ・・・本当に。」
ぎゅっと、ガルダは御守りを握ると自分のポケットへと入れた。
常に然うして肌身離さず持っていてくれていたんだろう。だから特に懐いが詰まった導と成り得たんだ。
噫見える、全て見えるんだ。
生まれ変わった所為か全ての感情が見え、伝わり、流れ込んで来る。
其の何もが、ガルダから流れる物が特に悍くて、温かいのだ。
つい其に抱かれて眠りそうな程、まるで暖かな毛布の様に自分を包む。
「さ、ガルダ。御蔭で私達に仇成す天使は滅んだよ。次はガルダの願いだな。」
「え、俺の・・・願い?」
彼はぱちくりと目を瞬かせる。そんな仕草一つ一つについ笑ってしまう。
分かる、其の度に自分の中の棘、殺意が削がれて行くのを。
「噫、夢の中でも言ったと思うが、私はガルダの願いで生まれた精霊だ。今迄の在り方とは変わってしまったよ。だから、ガルダに願いがあるなら、其に応えるよ。其丈の力は取り戻せたからな。」
「俺丈の精霊って・・・そんな、変わったのか?只元通りになったんじゃあ、」
「・・・変わったよ。今の私は、使命に近いのかな。ガルダの助けになりたいとか、然う言う風に悍く懐うんだ。此は一時的な感謝の気持とかじゃなくて、もっと深い物だ。」
自分の中にあったやる可き事や意志よりも、ガルダの方が比重が重い。
明らかな変化だ。似た姿を模した丈で中身はまるで違う。
同じ記憶を受け取っているからこそ分かる。明らかな此の胸の内の差を。
残念乍ら、今迄此処で生きた私は・・・死んだのだろう、滅び去った。
けれども斯うして、又新たな形を与えられて私は生まれた。だからせめて彼の為に尽くしたい。
・・・彼女の代わりを埋める様に。
其に心持、然う思うと凄く楽に感じられるのだ。
穏やかと言うか、ずっと斯うしていたい様な・・・。
「う、うーん。然う言われても、願いって、」
如何もガルダは煮え切らないらしく、ずっと考え込んでしまっている。
今の今迄必死に頑張って来たんだし、まぁ当然か。彼は儀式を成す為に只頑張ってくれていたのだろう。
「例えば、先の夢を続ける事も安易だぞ。存在が変わったからな。何時でもガルダの心に戻る事は出来ると思うが。」
「っ、そっか。ずっと彼の夢を見せる事も出来るって、言ってたもんな。」
「噫、望むなら終わらない夢位なら創れるよ。まぁ只彼の夢は、私がガルダの中の居心地が良くて提案したのもあるが。」
「・・・其、凄く良い夢だけど、でも居心地って、本当にそんな良かったのか?」
僅かに顔を赤らめて聞くが、然う気を遣う所はガルダらしいと思ってしまう。
今の自分の言葉に嘘は一つも無いのだが。
「噫、私がずっと育てて貰っていた彼のヲルの、母さんの闇に似ているな。ずっと居たいと思える所だったよ。」
「然う、なんだ・・・。うーん。」
何か彼は言いあぐねている様子だった。困らせたい訳じゃあないんだが。
苦笑を漏らすと、彼も其に倣う。懐いは屹度同じなんだろう。
「本当に其は、素敵な願いだと思うよ。俺も凄く嬉しい。でも俺の本当の願いは、セレの願いが叶う事だよ。」
「ん、私の・・・か?」
思わず鸚鵡返しに聞くと、彼は緩り頷いた。
「然う。セレはずっと頑張ってる事、目指している事があるだろ。俺は知ってるよ。だから俺は其を叶えたい。」
「其は・・・困ったな。其方を求められるか。」
「うん、セレはセレなんだろ?俺が願って生まれたのなら、セレの其の願いも変わってない筈だろ?」
「・・・うん、其の通りだ。私の中には今、二つの願いがあるな。」
自分が然う言うと、にっこりと彼は咲ってくれた。
まるで私の願いを知っているみたいに、優しく。
見透かされているみたいだ。彼の言う通り、自分の中には二つ、願いがある。
ガルダの願いを叶えたいと言う精霊としての性、そしてもう一つは、
・・・ずっと、自分が捨て切れていない願いだ。
「じゃあ決まりだな。俺はセレの願いを叶えたいよ。だから、今迄通りが良いな。今迄通り、店をしてさ。変わらない日々を願うよ。」
「・・・良いんだな。折角のチャンスなのに。今の私なら屹度、ガルダのどんな願いでも叶えるのに。」
其の自信はある。彼の為ならと思う丈で力は溢れて来るのだから。
でも、この問いに意味が無い事も、自分は分かっている。ガルダは斯う言う所で強情だ。昔からずっと。
「ははっ、俺、何時もセレに夢見せて貰ってるからさ。何も変わらないよ。只、傍で其が見られたら良い。其丈だからさ。」
「分かった。其がガルダの望みなら、私は其の儘応えるよ。只、忘れないでくれ。私は、ガルダの精霊であり、神でもある。契約なんかより深い所で繋がっているんだ。」
「うん、然うだな。大丈夫、忘れないよ。其が俺達二柱の願いの形なんだから。」
咲う彼の手を取り、私達は帰路に着く。
確かに変わった物はあるけれども、此の手の温かさは同じだから。
明けない霄に願いを託して、二つの翼は旻を翔けて行くのだった。
・・・・・
昊が世界を染めると言うのなら、霄が喰らい尽くそうか
零星よ、極光よ、旻を包め、曦を潰せ
もう此の霄が明ける事はない、永遠の夢を見て微睡めば良いじゃないか
真実の世界を夢で隠して、さぁ永遠の霄の始まりだ
・・・帰って来るんかい!其ありなんかい!
大丈夫です、筆者である自分が一番問い詰めたい。
自分は相当捻くれている奴だと自覚しているので、死んだ奴が生き返ると言うのは結構懐疑的なタイプです。
(勿論其あり気で作品に深みが出たりするのもあるので、好きな事もあります。)
主人公補正が苦手と言いますか(ん?)、俺ツエーに抵抗があると言いますか(んん?)、然うじゃなくて、普通の奴が努力で強くなったりするのが好きなんですが、あら不思議、自分で書くと真逆の物が精製されているではありませんか。
結局、此が自分の願望だったのか・・・?と、自問自答し乍ら書いている日々ですが、まぁ此も悪くないかなと思ったり、結局謎のプライドも其の程度なのかも知れません。
そんな訳で生き返ってしまいました、破壊神。まぁ一応前々からフラグはビンビンに立てていたから良いか、と留飲を下らせ?自分への言訳にしました。
まぁ勿論、只勁くなった訳じゃないので、不都合は起きています。矢張り此の儘無事助かると言うのも納得が行かないので(?)試練はどんどん与えたいと思います。
生き返った事、後悔させてやるよ!と言う事で、何と戦っているのか自分でも分かりませんが、次回もサクサク書いて行こうと思います!
何はともあれ、自分が楽しく書けている、其が全てですね。と言う事で又御縁がありましたら御会いしましょう!




