71次元 水鏡よ永久に飛燕の影を映す次元
体感的に久し振りな気がします!お元気にされとってでしょうか!
今回内容が短い割に投稿が遅れてしまいましたが、其は又次元龍屋の全体の更新をしていたからです。
全体と言っても、前回アップデートした以降の部分ですね。結構溜まって来たので、流石にそろそろ取り掛かろうと思い、一段落付いたので此方も投稿に漕ぎ着けられました。
いや、今迄のを読み返すと何だか長い事来たなぁと思ってしまって、其の懐い出補正も相俟って、久し振りな投稿の気がしちゃいます。時を駆ける筆者ですね!
(多分何時もより訳分からない事言ってますが、彼です。春の所為です。)
沢山誤字を見付けてしまったので、各話ちょこちょこ更新が入っていると思います。あぁ面目ない…。(特に某吟遊詩神さん御免なさい。)
然も未だある自信ありますからね。誤字とは雑草の如く生える物と感じてはいます。
でも読む許りではなく、書く方もずっと続けていたので実は結構書き溜があります。此の感覚久し振りだ…っ!
まぁ短い話が続いているって丈ですけれどね。でも中々書きたい話が積もるっているのは良い事ですね…。
そんな今回は若しかしたらサブタイで内容が分かるかも知れない様な話です。
ずっと書きたいなぁと思いつつ、良い機会が持てないしなぁと思っていたのですが、丁度良いイベントもあったので何とか形に出来ました。
今回は静かな静かな滄溟の話、けれども世界は其の限りじゃあないみたいです。どうぞ御楽しみに!
水鏡は何処迄も冴え渡る
まるで生は一つも無いかの様に
眠る瀛海は廻瀾すら立たず
廻瀾も泡も育たぬ其は只腐敗する
どうか眠りを妨げる昊の漣を
護ると誓いを刻んだ彼の釼が朽ちる前に、如何か
・・・・・
「良し、一番乗りだ。」
「やったねセレ。」
「ってわ、わわ、あ、危なっ⁉」
「ん、っとま、待て押すな!」
一つ伸びをしたセレの背後に長身の影が降りる。
現れたのはガルダで、目の前にセレが居る事に気付き少し足を下げた所で大きくふら付いたのだ。
其も其の筈、二柱が降り立ったのは小さな岩場だった。其の儘ならセレの髪に鼻先が当たりそうな程二柱は近かった。
だからと下がろうとしても、良く見れば辺りは瀛海、と言う可きか一面水平に水を湛えている。
そんな中の小さな足場だ。ふら付き乍らもなんとかガルダは落ちずには済んだ。
でも堪えるのは厳しい。と言うのも此以上だと彼女に抱き付かないと留まれない。ふらふらと弥次郎兵衛みたいに揺れてしまう。此では落ちるのも時間の問題だろう。
「ガ、ガルダ、一寸待っててくれ。動くな、私が、私が飛ぶから。」
セレも何とか彼に足場を譲りたいが、自分の足元だって覚束ない。
取り敢えず波紋に不審な影は写らなかったので大丈夫だろう。緊急回避だ。
セレは慎重に翼を出すと、飛び立った。其の衝撃で彼が落ちない様気を付けて。
軽く飛んで何とか安定させる。潮風を受けて留まる様に。
「・・・と、此で大丈夫か。ふぅ、一時は如何なる事かと。」
「本当だよ。もう、危なっかしいんだから。」
セレの肩に乗っていたケルディが顔を出す。
瀛海になんて落ちてみろ、彼は一気に不機嫌になって咬まれてしまったかも知れない。
ケルディは大の水嫌いなので、先の事丈でもう毛羽立ってしまっていた。落ちるのが恐かったのか、小さな四肢でギュッとセレの肩を掴んでいる。
余にも其の姿が愛らしいので、庇護欲を掻き立てられたセレはそっと両手で彼を包む様に捕まえた。
・・・あ、此だ。此のモフモフだ。良かった、本当に落とさなくて良かった。
此を瀛海に入れよう物なら潮の所為でカピカピのパサパサになってしまっていただろう。何とか無事で良かった。
ガルダの方も、一柱でなら立てる様で何とか岩場に留まり、一つ息を付いた。
「・・・何のコントしてるの其処。」
そんな一同を冷めた声が出迎える。
其はセレと同じ高さで、枴に乗って飛んでいた飃の物だった。
彼は最初から枴に乗っていたので無事だった様だ。何とはなしにじっと一同の事を観察していたらしい。
「因みに本当の一番は僕だったから。其処の所宜しく。」
「中々やるな飃、じゃあガルダがビリか。」
「あの、正直其は如何でも良いんだけど・・・。」
少し苦い顔をしてガルダは頭を掻く。
抑今回はセレと飃、二柱丈で次元へ行こうとしている様だった。
其を目撃したガルダが、急遽加わったのである。因みにケルディは気付いたら肩に居た。
例の心配性の所為である。前セレは飃に随分な痛手を喰らったのもあって、ガルダは気が気じゃなかったのだ。
別に次元で死んでも然う然う問題はないんだけれども、と思ったがそんな事を言えば初めからそんな心持で次元に行くなと怒られそうなので黙っていよう。
中々此は此で面白いパーティになりそうだしな。
「其にしても・・・本当に瀛海しかないな。」
行き成り着水を免れたのは未だ僥倖だろう。波紋を飛ばして見ているが、何とも澄んだ瀛海が続いている。
まるで鏡の様に真っ平で旻を写した瀛海が何処迄も続いているのだ。
一応所々他にも小さな岩場が幾らかある様だが、其でも心許ない。
「まさか此の中に行け、とかじゃないよな?」
「だったらボクは帰っちゃうよ。」
瀛海を覗き込むガルダにぴしゃりとケルディは言い放った。梃子でも入る気はないだろう。
「んん・・・一見何もなさそうだが。」
少し波紋を強めれば何とか水の中は見える。
そんなはっきりとは分からないが・・・魚影がある位で目ぼしい物は無い。
「所で、今は御前の時間なのか?」
割と旻は明るいが、今の飃は霄の彼である。
昼の彼であれば、最近は多少使える様になったが、こんな優雅に枴に乗る事は出来ない。
「ん・・・みたいだね。でも一寸怪しいかも。変わろうと思ったら変われそうな感じなんだよね。」
「然うか、其は中々面白いじゃないか。試しに今変わってみたら如何だ?」
「嫌だよ。絶対僕落ちるじゃん。」
ばれたか・・・、一寸した悪戯のつもりだったが。
若しかしたら咄嗟の危機とかで彼の魔術が上達するかも知れないのに。
まぁでも確かに、旻は明るいが陽はある様に感じられない。自分も翼を大きく広げられるし。
此処は昼夜の概念が又違った所なのかも知れないな。
「然うだなぁ・・・次元の主導者も一寸遠そうだし、取り敢えず其方行ってみないか?」
何となく次元の主導者は海上に居る様な感覚もあるし。
僅かではあるが、離れた所から気配がするのだ。其にしてもこんな離れた所に出るとは思わなったけど。
「然うだな。何かはあるだろうし、飃も其で良いか?」
「うん、異論はないよ。」
「ボクも。早く地面がある所行こうよ。」
然う言ってケルディはパタパタと両手をばたつかせた。
相変わらずのあざと可愛さに胸が苦しくなる。
何て愛らしいんだ。暫くモフモフを堪能させて貰おう。
「じゃあ早速・・・ん、いや何か来てるか?」
波紋の端に掛かる物がある。水中だ、瀛海の中から何かが近付いて来る。
「何かって・・・、」
ガルダは何となく水面を見遣った。澄んでいた筈の其の水面が揺れているのだ。
覗き込んでも真蒼なので、相当此処は深い様だ。此の岩場が槍の鋒みたいに海上へ突き出た形になっているんだろう。
幾らか魚影だろうか。影が過ったと思った刹那、
「今日はー!」
「っわわっ!何か出た!」
覗き込んでいた彼の目前で水面が跳ね、小さな影が躍る。
其は既の所でガルダと正面衝突は免れて再び水中へ没した。
あ、危なかった・・・もっと身を乗り出していたら頭をぶつけていただろう。
其でなくても慌てて身を引いた所為で足元が覚束なくなる。何とか、何とか堪えないと。
そして水中から現れた其は、カラカラと小さな笑い声を上げていた。
其丈じゃなく、セレや飃の周りの水面も揺れ、小さな影が幾つも現れる。
「此は・・・甲飛魚と波浮魚だな。」
「へぇ、魚も詳しいんだ。」
「此でも龍族だからな。」
一見二種共少し似ている躯付きだが、全く違う種だ。
甲飛魚は正にガルダの前に現れた奴で、全長20㎝程の丸く沿った朏の様な形をした魚だった。
頭部が大きな蒼く滑らかな甲に覆われ、正に頭突きに特化してそうではある。
そして其の甲から旻に向けてピンと張った、黄の紋が入った鰭があった。其をまるで翼の様に上下に動かして水面を叩いている。
何処か懐こそうな顔で、口端が上がり、じっとガルダを見遣っていた。
もう一種其に紛れ込む波浮魚は、形状は甲飛魚に似ているものの、頭に甲は無く、代わりに背鰭と大きく開いた鰓があった。
鰓はV字形になっており、其処から水を含んだ衝撃波が断続的に出ている。
其に因って彼等は僅かに海面から浮く事が出来、器用にもクルクルと其の場で回転を繰り返していた。
何だか歓迎されている様な雰囲気である。敵意は無い様だ。
「今日は!」
「神、珍しい。」
「ようこそ、良く来た!」
甲飛魚達が海面へ顔を出す度に少しずつ言葉を紡ぐ。
何とも友好的だ。警戒も解いているみたいで、どんどん集まり近付いて来る。
飛んでいるので難しいが、何とか彼等の頭に少し丈触れてみた。軽く撫でるとにっこりと笑って鰭をばたつかせている。
ツルツルとした手触りだが、何とも愛らしい子達だ。見ていて癒されるな。
海面をクルクルと忙しなく泳ぎ回る姿も何だか可愛らしい。
「此で龍なのか・・・へぇ、多分悪い奴とかじゃあないんだよな?」
ガルダも最初驚きはしたものの、そっと目の前の甲飛魚の鼻先を突いてみる。
すると御返しと許りに向こうも頭を押し付けて来た。
「警戒心の欠片もないね。其の気になったら一瞬で皆刺身に出来るよ。」
「然う言ってやるな。友好的なのは良い事じゃないか。」
彼なら水面に沿って疾風でも創ってしまえば、言葉通りの惨状が出来てしまうだろう。
「でも然うだ。彼等は比較的温厚で、斯うして好奇心も強いから集まり易いな。今回来たのは私達が神だからってのもあるだろうが。」
実際彼等は其々別の種なのに斯うして混群になって移動している。
其丈寛容と言うか、群や種に執着しないのだ。
因みに割と生態は魚に近い。泳ぎ方とかに特徴がある位で、世界中の瀛海に分布しているのだ。
実際飃の言う様に刺身として食用になっているのも居たりする・・・割と身近な龍族なんだな。
「何しに来た?」
「噫、一寸次元の主導者に用があってな。其処迄行く所だ。」
「ホー、態々御苦労様。」
「次元の主導者知ってる、彼の島だ。」
「良かったら、案内、するよ!」
くるくると回り乍ら甲飛魚達は次々と声を発する。
「ん、じゃあ折角だし御願いしようか。」
一応次元の主導者の位置は分かるが、現地の案内龍は貴重だ。
道中何かあっても行けないし、甘えて置きたい所はある。
「良くほいほい頼めるね。後から何か要求されても知らないよ。」
「そんな事、しない!散歩、だもん。」
「一緒、行きたい。」
「矢っ張セレが好きなのかな・・・。すっかり懐かれてるし。」
「まぁ甲位ならあげても構わないけどな。」
割と最近本格的に龍族の間で通貨レベルで使える様になった甲である。
此を使えば龍族の秘宝と交換出来るとか、眉唾物の話も聞く。
・・・其の果てで全ての龍族の宝が其々自分の甲になってても嫌だけどな。正直マジックアイテムとしては怪しい物だし。
「御礼、要らないけど、甲は、一寸、欲しいかも。」
あ、火が点いてしまった。・・・後で何個か、喧嘩にならない程度にあげようか。
「ね、早く行こうよ。島って言ってたよ。陸地があるんだよ!」
ケルディがセレの耳に甘噛みをする。
駄目っ!其駄目!あざとさがカンストしてるからっ‼
突然走った衝撃に軽くショートを起こしつつも、何とかセレは翼を伸ばした。
あ、危ない・・・下手したら痺れて其の儘瀛海へ落ちる所だった・・・。
過剰なスキンシップは嬉しいが、時と場合をしっかり吟味しないと大変な事になってしまう。
「そ、然うだな。島、島へ行こう。」
「へぇ、耳が弱点なんだ・・・。」
・・・っ⁉え、何、何考えてるの此の死神。
彼の朏の様な笑みを完全に無視し、仕切り直した。
早くも何匹かの甲飛魚達が先陣を切って泳ぎ始めている。
方向はあってそうだし、此の儘付いて行けば問題なさそうだ。
「じゃあ俺も飛んで行くか。」
「噫、暫くは問題なさそうだからな。」
一つ頷くとガルダの背にも美しい純皓の翼が生え揃った。
其を大きく広げて彼も飛び立つ。
「ね、折角だし競争しない?」
「其、又俺がビリになる丈だから御遠慮したいな。」
「何だ彼だ言って順位気にしてんじゃん。」
渋面を浮かべる彼に笑みを返すと、悠々と飃は枴を滑らせるのだった。
・・・・・
「あ、ほら見えて来たよ、彼の島!」
「噫然うだな、有難う。御蔭で真直ぐ着いたな。」
甲飛魚達が交互に水面から飛び出して先を行く。波浮魚達も後を追う様に付いて来て幾らか。
瀛海許りだった景色の先で、目当てと思われる島が見えて来た。
島、と言っても割合小さいが、平らな海岸丈が僅かに瀛海から頭を出した位の山も無い島である。
けれども手の中でケルディは大喜びだ。早く行きたいらしく前足を踏み鳴らした。
其の島には幾つか人工物らしき物があった。家の様な・・・。
一応波紋に掛かる影はあるが・・・少し違和感があるな。
取り敢えず表に出ている者は居ない様だ。早い所上陸して翼だとかは隠したい所だが。
「ハイ!今回はボクが一番ね。」
セレの手から飛び降りたケルディは胸を反らした。
「ふーん、先ず先ずな島だね。」
「一応住人が居るから気を付けてくれ。」
未だ出て来てはいないからばれていないと思うが、如何も波紋に妙な揺らぎがある。
取り敢えず甲飛魚達とは御別れになるだろうし、御礼の甲位渡して置こうか。
肘の辺りから覗いている甲を引き抜いて行く。正確には生えている訳じゃないから、意識すれば簡単に取れる。
形とかは疎らだが、正直何が良いか分からない。取り敢えず渡して置こうか。
「セレ、その何か御免な。」
「ん、別に私が好きで渡してる丈だから何でもないぞ?」
「でも一応其、セレの血だし。」
何だか引け目を感じているのか偉くガルダが消極的だ。
別に本当にこんなのは大した事ない。其を言ったら自分はガルダを食べている身だし、寧ろ自分の方が申し訳なくなって来る。
「血って言っても、もうどんどん取れる分だから私には不要だよ。こんなので喜んで貰えるなら、折角だからプレゼントしてる丈だ。」
「でも其があったら僕でも龍とコミュニケーションが取れる訳だ。」
「ん・・・まぁ然うだな。」
然う言う意味では渡して置いても良いんだけど、何となく彼に渡すのは一寸躊躇ってしまう自分がいる。
悪用はしないだろうがな。でも彼なら自分の思い付かない使い道を見付けそうで。
「ワー、本当に、良いの?」
「有難、大切にする!」
「エヘヘ、如何?此。」
「わ、オッシャレー!」
甲を受け取った甲飛魚達が、牙の代わりか歯の間に甲を挟んでいた。
お、御洒落か・・・龍の感性って相変わらず独特だなぁ。
付いて来てくれていた波浮魚達にも御裾分けだ。本当にこんなので喜んでくれるなんて、一寸複雑な心地だけれども。
其でも此処へ来る道中、彼等は中々有益そうな情報をくれたのだ。
切っ掛けは、自分が何となく気になった、其丈だったのだが、最初彼等は水中から現れた。
でも御覧の通り、本来は斯うして海上に出て移動する様な種族だ。余り深い所には行かない筈だ。
其が何となく気になって尋ねてみたが、如何やら彼等曰く、瀛海が静か過ぎるのだと言う。
廻瀾一つなく、瀛海が静まり返ってしまった。其が何だか不気味で、自分達が来る迄水中に身を潜めていたそうなのだ。
確かに此処の瀛海は穏やかだ。鏡の様に写る程澄んで、凪いでいる。
でも廻瀾一つ立たないのは妙である。最初は然う言う次元かと思ったが、如何やら違うらしいし・・・。
其が黔日夢の次元に因る物なのかも知れない。・・・と言っても、廻瀾の止まった瀛海なんて如何すれば良いか良く分からないが。
「じゃあ皆、頑張ってね。」
「うん、皆バイバーイ!」
ケルディが尾を振ると、其に応える様に彼等も尾を振り、海中へと戻って行く。
後は此の島か。次元の主導者の気配は可也近いが。
「ん、あれ、何だか懐かしい匂がする気がするよ!」
突如ピンとケルディの耳が立ち、頻りに匂を嗅ぐ。
揺れる尾を見ると捕まえたくなるが・・・此処はグッと我慢だ。
「若しかして来た事ある次元なのか?」
「いや違うよ、全然。でも、凄く懐かしい気がする!」
其の懐かしいは、悪い感じではないらしく、彼は嬉しそうに尾を振っていた。
懐かしい・・・んん、何だろうか。一体何に反応しているんだろう。
「・・・何か、俺もそんな気がするかも。」
「ん、ガルダもなのか?」
とは言いつつも、彼も首を傾げていた。確信とかは無いらしい。
自分は然う言うの感じないが・・・何だろうか。
「・・・其処の者、何処から来なすった。」
気付けば少し離れた海岸に一人の老人が居た。
背が曲がり、小柄なのが更に小さくなってしまった老人は、何歩か此方へ歩み寄る。
何時から、いや、先迄は確実に其処に居なかった筈。
瀛海の中に居た割に老人は濡れてはいない。其に海上に居たならば波紋で見えない訳がない。
其じゃあ一体彼は何処から・・・何となく、瀛海と陸の境と言うか、其の水面から現れた様に見えたが。
まるで瞬間移動の類みたいな・・・でも、そんな魔術の気配も無かったし。
何にしても、自分達の事を見られていたら少し不味いかも知れない。翼は仕舞ったが、見られていたなら同じだ。
只の声なのについ内心吃驚してしまったので、少し反応が遅れてしまう。落ち着け、自分、相手は只の一人の人間だ。
人間一人に怯えるなんて、そんなのもう呑み込んで欲しいのに。如何しても残った癖が抜けない。
「俺達はその、一寸色んな所旅して回ってるんだ。」
そっとガルダが一歩前に出る。老人はちらとそんな彼を一瞥した。
「旅人と・・・ほぅ、だからそんな珍妙な術を持ってなさるのか。」
「噫然うなんだ。急に飛んで来ちゃったから、驚かせてしまったなら悪いな。」
「いや、珍しかったのでついな・・・。旅の者なら緩りして行くと良い。良かったら少し、案内しようか。」
「良いのか?だったら助かるけど。」
ちらとガルダは眴せすると老人に尋ねた。
老人は何度か頷き、ぐるりと瀛海を見遣る。
「皆の者、怪しい者ではない。安心するが良い。」
「え、皆って・・・わわ、」
ついガルダは一歩下がったが、其は自分も同じだった。
ぞろぞろと、人が海上に姿を現したのだ。
十人程だが、でもこんな人数、水中に居れば気付かない筈がない。
何となく波紋に写っていた妙な気配は彼等だったのか、でも一体如何して。
急な対面につい少し背が竦んでしまって、そんな自分の前にガルダは立った。
・・・気を、遣わせてしまったか。自分が怯えてしまったのがばれていたらしい。
隠したいけれども、如何も不意打ちは苦手だ。波紋を持つ様になってから顕著な気がする。
けれども、一応安心は得られたと言う事なら未だ良い方か。向けられているのは好奇のみ、敵意では無いのだから。
・・・此処は申し訳ないが、ガルダに任せよう。自分だと・・・如何しても対等に話すと言うのは難しい。
虐げられて来た醜い化物か、彼等を食料として見る悍しい怪物か、其の存在を奪わんとする破壊神か。
如何も・・・苦手だ。頭が痛くなる程に、如何仕様もない。
少し抑えつつも、波紋はせめて見ていないと、自分も只隠れている訳には行かない。
集まって来た人々は皆、老人と同じく小柄だった。一見、男女、子や老人と、仲間、家族か村とか然う言った集まりに見える。
常人の様ではあるが、如何して自分は彼等に気付けなかったんだろうか・・・。
「・・・驚かせてしまったかな。此処は我々の村でして。」
「村・・・ふーん、其なのに皆水の中に居た訳?見えなかった気がしたけど。」
然う言うと村人は集まって何か小声で話し合っているみたいだった。
・・・うぅ、如何も此の空気が自分は苦手だ。
「如何やら、本当に随分と遠い所を旅された方達みたいだ。見た所私達の事を御存知ないと御見受けする。」
「何、其の普通の人間じゃないみたいな口振り。」
そっと軽く飃の肘を小突く。
其の言い方は余だ。此の世界では自分達の方が異端だと言うのに。
だが飃は軽く肩を竦める丈だった。
「ふむ、実際見て貰う方が早そうだな。」
老人は一つ頷くと、見て置きなされ、と一言残し、瀛海の方へ足を向ける。
そして海岸を離れ、水の中へと足を踏み入れた時だった。
「・・・あ、」
思わず、一同の声が漏れる。
此は・・・何か起きているのだろうか。
悲しいかな波紋で見ているセレは特に大きな違和感を覚えなかった。
彼女からしたら、水中は未知の領域、其の為其の中の様子をしっかり見る事は出来ない。
だがガルダ達は僅かに息を呑んでいる。と言う事は・・・。
「此・・・アーリーと同じか。」
「っ御主、アーリーの事を知っているのか⁉」
突然がばりと老人は振り返り、慌てて岸へと戻って来た。
「え、えと・・・、」
老人に詰め寄られてガルダは目を白黒させて固まってしまう。
「一寸待ってくれないか。少し此方で話をさせて貰っても?」
「お、おぉ然うだな、済まない。つい驚いてしまって・・・。」
我に返ったらしい老人は数歩下がる。其処でやっとガルダも一息付いた。
少し話を整理しないと、何かに巻き込まれそうな空気が漂っている気がする。
「・・・済まないガルダ、私は良く見えないんだが、先何が起きたんだ?」
「あ、そっか。然うだよなセレ。その、水に溶けたんだよ。入った傍から見えなくなって。」
「彼が出来たら僕前あんな苦労しなかったのにね。」
飃が小さく鼻を鳴らす。・・・確かに、自分の波紋で捉えられていないしな。
「成程、何時も私が見えるのと同じ風になったのか。」
波紋だと水中に入るのは謂わば、壁に入って行くのと同じ風に見えるのだ。
でも其を実際目にすれば、驚くのも仕方ないだろう。
だが此で急に現れた彼等にも説明が付く。皆水の中に居たと言うよりは、水に溶けていた様な状態だったのだろう。
だから斯うして姿を現す迄何処に居たか見えなかったんだ。となると・・・自分達が此の島へ来た時から見られていた可能性は高いな。
其でも斯うして接触してくれたと言う事は、割と此処の者達は寛容と言うか、翼だとかの異端も、受け入れ易いのかも知れない。
「所でアーリーって確か、聞いた事はあるが。」
「噫俺の・・・釼の師匠だよ。ほら鎮魂の卒塔婆でさ。」
釼の師匠、と聞いて僅かに村人達が騒つき出す。此は・・・確実に何かあるな。
「若しかして彼?彼の水のトラップを作った、」
「然うだよ!皆すっかり騙されたよね。」
「ん、私も殆ど彼女に会った事は無いからな。彼女も然う言えば水に溶けるんだったか。」
話丈は何となく聞いていたが・・・噫懐い出して来た。
軽く刃を交えた事はあるが、次元での仕事中の事だし、話は大して出来なかったんだよな。
其の彼女と同じ性質を持った村人と・・・成程な。
「あの・・・アーリーに、釼を教わったと。」
「え、あ、そ、然う・・・だけど、え、まさか此処って、」
未だ目を白黒させてガルダは少し頭を振る。
気付いてしまったのだ。まさか此の次元は・・・アーリーの、師匠の故郷?
ケルディも気付いた様で、いそいそとガルダの肩へ飛び乗ると何度も頷いた。
若しかしたら何処か懐かしい感じがしたのも、此の次元の雰囲気に彼女を感じたからかも知れない。
其にしても彼女を知る人が未だ居るなんて・・・確か結構師匠は長生きした神だったけれども。
まぁ時間の流れ方や感覚は違うので、良くある事と言えば然うだけれども・・・何だか複雑な心地だった。
だってまさか・・・又此処で彼女と縁が出来るなんて。
彼女の次元については軽くしか聞いていない。彼女は余り過去の自分について話したがらなかったのだ。
其こそ最期の・・・彼の時にはっきり語った位で。
迷うガルダに老人は食い入る様に近寄る。如何しても気になる様だ。
此処で黙っているのも悪いだろうし・・・多少ぼかす必要はあるだろうけど、話しても大丈夫かな。
「・・・噫然うなんだ。俺と此奴、ケルディはアーリーに色々戦い方とか教わってて、師匠、だったんだけど。」
「何と!彼の子がまさか弟子なんて取るとは・・・っ!」
「何年も帰って来ないと思ったらそんな・・・。」
「本当なの?だってあんな・・・明らかに外の者に、」
村人達は集まって銘々に声を上げる。
信じられないと何度も其の言葉が飛び交った。
一応、証拠の品もあるので、其も出した方が良いだろうか・・・。
少し悩みつつもガルダは時空の穴から一本の釼を取り出した。
其は正に彼女が使っていた釼、如何しても置いて行けなくて手元に残していたけれども。
「其はっ・・・噫紛れもない彼の子の得物か・・・。」
老人は大きく目を見開いてつい手を伸ばす。
そっと釼を手渡すと、彼は何度も刀身を覗き込んでいた。
「間違いない・・・噫懐かしい。でも如何して此を・・・?彼の子は、彼の子は如何したのだ?」
「其は・・・形見です。俺が譲り受けて持っていたんです。」
「・・・然うか。結局もう彼の子は去んでいたか・・・。」
老人は肩を落としつつも、釼をガルダに返した。そして重く息を付く。
「まさか、こんな日が来るとはなぁ・・・。兎も角旅の者よ、歓迎しよう。彼の子の弟子となれば猶更だ。」
「あ、有難う御座います。然うして貰えると助かるけど。」
ちらとガルダが眴せを送るが、問題はない。
まさかこんな繋がりが生まれるとは思っていなかったが、其でも好機であるのは間違いないだろう。
「良し良し、先ずは・・・良かったら食事でも如何か。村の話でもするし、良かったら彼の子の事、教えて欲しいのだ。」
「うん良いよ!ボク御中空いたし。」
ケルディが片手を挙げると、老人は初めてにっこりと笑い、先導する様に一つの家屋へ足を向けるのだった。
・・・・・
其から一同は老人に案内され、一つの家屋に入った。
其処で幾らか、焼き魚やスープを御馳走になった。
・・・一応、魚は先会った甲飛魚達ではなかったので少し安心して。
其の合間にガルダとケルディはアーリーについて幾つか村人達に話して聞かせたのだ。
スープを食べ乍ら聞いていたが、随分とガルダは言葉選びに気を遣っていた。
飽く迄も自分達の正体がばれない様に。又鎮魂の卒塔婆の名前も何とか伏せて話したのだ。
記憶を無くして彷徨っていた彼を、アーリーが面倒見てくれた、そんな具合だ。
其の様が一寸挙動不審に見えなくもなかったが、其処はまぁ上手い事ケルディが取り繕ってくれた。
自分も、余り鎮魂の卒塔婆に居た時のガルダの話は聞いていない。だから何処か新鮮だった。
自分が眠っている間、彼は色々な経験をしたんだと噛み締める。
如何も彼は此の話を自分にするのは躊躇っていたからな。折角なのでしっかり聞いて置こう。
別に今更、鎮魂の卒塔婆の一件で彼が気に病む事なんか一つも無いのだから。
ガルダが勁くなった事は自分もしっかり実感している。其は紛れもなく、其のアーリーと言う師匠の御蔭だ。
其は素直に凄い事だし、其の経験は今も活きている。敵だったからと然う非難はしない。
其に、話を聞いていれば分かる。其の神はガルダの事をちゃんと見てくれていたんだと。
適当なんかじゃなく、ちゃんと師として見てくれていた。神となって右も左も分からなかった彼を導いてくれたんだ。
・・・うん、矢っ張り思い返した所で、責める謂われも何も無いだろう。
一度ちゃんと会ってはみたかったが、相手も相手だし仕方が無いな。
只如何もガルダは釼の師匠と言いつつも、彼女から教わったのは護りの術のみらしい。
軽く其の辺りは聞いていたが、少し意外ではあった。
だってガルダには並外れた再生力がある。こんな考え方はしたくはないが、其は言い換えれば防御力にもなるだろう。
仮に自分がガルダと同じ力を持っていたなら、攻めにのみ特化した戦い方をしそうだ。
相手に一撃入れられようと、カバーは十分出来るのだから。寧ろ何をされても怯まず突っ込む、然う言う力で相手を圧倒し、威圧する。
然う言う力の使い方をするだろう。・・・勿論ガルダにそんな事はして欲しくないんだが・・・。
んん、こんな風に思えば同じ言葉を返されそうで、だから苦手な面もある。
でも、然う言う意味では、アーリーがガルダに護りの術を与えたのは、自分としては嬉しくは思うのだ。
そんな捨て身な戦い方を、彼女は好まなかったと言う事なのだから。傷付く事自体を避け、自身を案じて欲しいと。そんな風に彼女は懐ったんじゃないだろうか。
自分の勝手な想像だがな・・・。でも自分も戦い方、相手の殺し方は知っていても、護り方は知らない、教わった事なんて無い。
だから、彼の教えて貰った事は、迚も貴重な事なのではないか、そんな風に自分は懐う。
でも彼の話を意外だと思ったのは如何やら自分丈ではないらしい、目の前の老人も少し考え込む様に目線が落ちた。
「・・・ううむ、彼の子がそんな・・・。済まないな、君の話を疑う訳じゃないが、彼の子は全く護らず戦う子だったからな、何だか別人の話を聞いている気分だな。」
「あ、でも其アーリーも言ってたよ。昔は攻めてばっかりだったんだけど、其で・・・うん、大怪我しちゃったから、やり方を変えたんだって。」
魚の小骨を何とか取り出してケルディは口元を舐めた。
因みに、一応アーリーに弟子が沢山居た事だとかは伏せている。
此の次元の時間間隔がはっきりしなかったからだ。何となくアーリーが亡くなってからそんな経っていない気配がする。
其なのに何百と弟子が居たなんて言ったら、其こそ混乱させてしまうだろう。
其でもケルディ達の話は老人には中々ショッキングな物だったらしい。頻りにまさか、彼の子がそんな、と譫言の様に繰り返していた。
只でも死んだから考えを改めたなんて言えないし、弟子を全て失って何百年もして考え方が変わって行ったなんて・・・そんな事は言えない。
其こそ疑われてしまうだろう。ぼかして言うのにも限界があるし、うーん・・・。
「然うか、あんなに口酸っぱく儂から言っても聞かなかったのになぁ。」
「若しかして師匠の、アーリーの更に師匠だった・・・とか、」
何かと懐かしんで話すので此方も気になって来る。彼女に身内が居たとか、そんな話は聞かなかったけれども。
「一応、と言って置こうかの。彼の子の才能は凄まじくてのぅ、儂なんてあっと言う間に超えよった。其で護るより攻める方が勁いと我流に走っての・・・。」
「僕も攻める方が好きだけどね。持久戦って苦手だし。」
隣の飃にそっと心の中で同意してしまう。
自分も似た様な物だ。如何も暗殺系許りして来た所為で其の癖が残っている。
長引く程集中力は切れるし、援軍を呼ばれる可能性が出るからな。証拠を消す為にも短期決戦をやり勝ちだ。
「・・・如何やら向こうでも彼の子は色々あった様だな。」
老人は何度も頷いて息を付いた。
懐い出に胸が詰まってか、すっかり手が止まってしまう。
其はガルダも似た様な物だった。
屹度彼にも話せない丈で沢山の懐いが込み上げているのだろうか。
鎮魂の卒塔婆なんてもう随分前の事の様に思うが、其でも置いて行くには重過ぎる懐い出なのだろう。
「その・・・無理を承知で頼んでみるのだが、一つ模擬戦でも見せてくれないかの。」
「えと・・・模擬戦?」
「うむ、彼の子が一体どんな風に教えたのか気になっての。少し丈で良いんじゃが。」
「其ならまぁ、俺は構わないけど、ちゃんと出来るかな。」
「大丈夫だよガルダなら。」
根拠もなくケルディが彼の足元を叩いた。
「ん、じゃあ其の相手、僕がしてあげようか?」
思ってもいなかった声に思わずがばりとガルダは顔を上げた。
「僕別に其の人、と言うか戦った事ないし、素直に気になるんだよね、君の実力。」
彼の目が・・・まるで獲物を狙う様に苛烈に光った。
其の曦に竦みそうになるが、何とか堪える。此の程度で怯んじゃったらな。
「其だと身内同士の模擬戦になっちゃうけど・・・。良いの、御爺ちゃん。」
「ふむ、外の者の戦い方も気になるし、儂は構わんぞ。」
「だって!じゃあ二柱でやる?」
「ん・・・怪我とかに気を付けてくれたら良いが。」
何となく飃から殺気が漂っている気がする。
彼が其を向ける相手は自分丈だと思っていたが、何やら様子が違う気がするのだ。
ガルダ相手に、何かあったか?まぁ一応自分の守護神ではあるけれども。
「え、でも彼って何度も再生しちゃうんでしょ?」
「再生しても痛い物は痛いって・。」
途端ガルダも苦い顏になる。・・・うん、怪我させる気満々だな。
「こんな所で血みどろは駄目だぞ。皆どん引くだろう。」
「其君に言われたくないけど。」
「皐牙にしていたみたいにやってくれ。別に御前なら怪我させずに戦う事だって出来るだろう?」
飽く迄模擬戦なんだから。折角こんな静かな平和な瀛海で止して欲しい。
彼から乗る気なのは一寸意外だと思ったが、其処迄乗られると困る所もある。
自分に戦い方を見られたくないんじゃあ、と思いはしたからな。未だ彼の刀については教えて貰っていないし。
「嫌な信頼のされ方だけど、まぁ其の通りだよ。じゃあ其方でするか。」
あっさりと彼の殺意は引っ込むが、此の辺りの塩梅は流石と言う可きか。
中々喰えない奴だ。然う言う所が大きな強みでもあるんだが。
でも然う話している間にも不思議とガルダからも殺気に近い物を感じた気がした。
・・・流石に、気の所為だよな?自分が一寸敏感になり過ぎているんだろう。
老人も何となく二柱の様子に気付いたらしい。何度か目線を彷徨わせた。
「う、うむ、大丈夫かの。そんな一寸見せてくれたら十分だからな。」
「問題ないよ。じゃ、食べ終わったら腹熟しに一寸付き合ってね。」
薄く笑うと飃はスープを一気に煽るのだった。
・・・・・
彼から程なくして食べ終わった一同は家を出て、程良い広場に集まっていた。
何やら色々聞き付けたらしい村人達も集まって遠巻きに見ている。模擬戦が気になる様だ。
広場は其処其処広い所を宛がって貰った。
何となく二柱のやる気が高いからだ。食べ乍らも少しずつ其の気配は感じていた。
一体何があったと言うのか、一寸心配にはなるけれども。
只の模擬戦の筈なのに何となく気になってしまい、結局自分も此処に留まっている。
本当は次元の主導者を探しに行ったりする可きなんだろうが・・・ううん。
まぁ一応其方は波紋で見えているから良いだろう、うん。
「如何したのセレ、何か浮かない顔だね。」
「あ、噫、何だろうな・・・。何となく嫌な予感がしてな。」
つい手の中で御座りをするケルディの背を撫でる。
モフモフに触れているのに落ち着けない、一体自分は如何してしまったんだろう。
飃は時空の穴から我宮魄殲滅剣璽を取り出していた。
そしてガルダはアーリーの刀を借りている。其の刃の先から水が滴っていた。
ガルダが刀を使う所なんて、殆ど見た事が無い。
一体彼がどんな戦い方をするのかは素直に気になる所ではあるが・・・。
でも其は飃も同じだ。彼の刀、彼が一体何なのかは自分は知らない。
何時からか持つ様になっていたが、彼は水を斬り、此の手足ですら斬り裂いた。
只の刀でないのは明白だが、何とも変わった武器だ。彼の事も良く知りたいが・・・。
「君と斯うして戦うのって彼の日以来だっけ?」
「・・・初めて会った時だろ。」
「しっかり憶えてんじゃん。」
少し目線を下げるガルダに、飃は口端を釣り上げた。
如何も其の顔を見ると、何とも言えない心地になってしまうのだろう。ガルダの顔色は猶曇る。
「忘れもしないだろ。行き成りあんな事なって。」
「僕だって、まさか下にあんな化物匿っているなんて思ってもいなかったし。」
其の一言丈でぱっと彼は顔を上げた。分かり易いと喉の奥で飃は笑う。
「じゃあ彼の時の続きって事で一寸頑張ってみてよ。」
「・・・っ、」
一つ息を付くと地を蹴り、一気に飃はガルダに肉薄した。
そして躊躇わずに刀を振り回す。
慌ててガルダも刀を構え、何とか其を去なした。二振りの刀が重なり、鍔迫り合いに火花が散る。
「っ行き成りかよ。」
「ほらほら、ギャラリーも居るんだし頑張ってよ。」
未だ、踏み込みは甘い。軽い一撃で様子見なんだろう。
何とか踏ん張って押し返すと大きく飃は下がった。
「休ませないよ。一気に行くから。」
目丈は常にガルダを捉え、ぶれずに彼は一歩踏み出した。
其を正面から受ける必要もない。ガルダが右足を少し下げた時だった。
彼の足元に、亀裂が走ったのだ。
此は、彼の刃が届いたんじゃない。彼の見えない刃の方だ。
彼自身、刀と枴、両方携えての構えだ。一見扱い難そうには見えるけれども。
下げている様に見えて、彼の枴だって十分凶器だ。刀に丈目を奪われてはいけない。
屹度此以上下がれば嵐の中へ突っ込む様に術が展開されているのだろう。だったら目指すは、
足に力を込め、ガルダも又飃に向け突っ込んだ。
少し跳ぶ様に、正に飃の目元に向け刃を振るう。
でも其をあっさり飃は弾き返した。大して刃は動かしていないが、恐らく刀に凱風の力を乗せていたのだろう。
猶も迫る刃を、ガルダは目を逸らさず見詰めていた。そんな彼の上体が一気に上がる。
一瞬飃は視界が冥くなったのを感じた。影に入ったのだと。
凱風が頬を打つ。上から叩き付ける様な此の凱風は。
ガルダは大きく翼を広げ、軽々と飃の頭上を飛び越えていた。其の儘彼の背後へと降り立つ。
「噫そっか。別に翼出しても良いんだっけ。」
急ぎ飃は枴を掲げて嵐を鎮める。
自分の術で自滅だなんて三流の真似はしない。
着地と同時に彼を中心に突風が吹き荒れる。
鎮めた嵐を自身へ纏わせて行くのだ。自身が颱風の目になる様に凱風を集めて行く。
其の魔力の流れる様に、セレはすっかり魅入られていた。
前よりはっきり見える様になった今なら良く分かる。複数の術が一つに束ねられ、変化する美しさを。
別々の色だった其が混ざって黔になるのではなく、互いが寄り添い淡く導く様な。
まるで魔力の詠の様だ。調和の取れた様は見ている丈で自分にも流れ込む様。
飃の術のセンスはずば抜けて高いと思っていたが、成程斯うして形になるとより良く分かる。
一つ一つの術を独立させるのではなく、融合させる。其の調整が彼は得意なのだ。
少し、見ていてハラハラする模擬戦だが、自分も大きく学べる事はありそうだ。
振り返る飃に合わせて嵐は踊る。舞い上げられた砂塵の中にガルダの羽根が散っていた。
皓く輝く其はまるで祝福するかの様に旻へと飛び立つ。
「・・・受けて許りじゃあ埒が明かないよ。」
背中ががら空きだった筈なのに一撃も来ない。こんな余裕を与えられたら一息付くには十分だ。
ガルダは何も言わず只刀を構えていた。
何か術を展開している様子も無い。トラップも無い、誘われている訳でも無い。
若しかしてそんな温い戦いで終わらせる気なのだろうか。戦う気はある様なのに。
折角煽ったのだから其の分の反応は見せて欲しい物だけれども。
僕の勘違いでなければ、彼も彼で相当な化物の気がするんだよ。
無害そうな顔をして、裏で何考えているのか分からない様な奴、否、其の表現は正確じゃないか。
絶対に自分の奥を、内側を見せない奴だ。相手を騙したりとか然うではなく。
無関心と言うか、其を表に出さないのは只々必要が無いから、興味を持っていないから。
飄々と受けていると言うか、そんな空気を彼から感じる事があったのだ。
そして其の中で彼の興味を引く対象は間違いなく、
ちらと丈視線を巡らせ、ギャラリーを眺める。
彼の化物がじっと、自分達の一挙一動を見詰めていた。
・・・何となく視線を感じたけれど、今の一瞬の余所見もばれたか。
うん、彼の化物以外あり得ない。だけれども何か、別の俤が滲む様で。
中々其の実体迄は掴めない。何か隠れている気はするんだけれども・・・。
こんな頭を巡らせている間も彼は攻める気はないらしい。
若しかして本当に護る事しかないのか。然う言う教えを乞うたとは聞いたけど。
でも其じゃあ何にもならないでしょ。元々彼は耐久には優れている筈なのに。
こんな嵐の中へ突っ込んだってダメージは残らないと思うけど。
護られて許りじゃあ此方としては攻め続ける丈だ。怪我させるな、なんて言われたけれど此の状況で其の加減は厳しいよ。
大丈夫、痛いのは一瞬なんだしさ。
嵐を纏って一気に跳ぶ。
一応首をやられたら即死するんだっけ。なんて直ぐ考えちゃうけど。
だって然うでしょ。正直彼が彼の化物の守護神だなんて笑わせる。
余りにも脆い。再生力が高いだが何だか知らないけれど、覚悟の差があり過ぎる。
だから化物は何度も死んでいるじゃないか。まぁ死んでいるのに死なないなんて変な話だけれども。
向こうは此も受ける気なのか構えた儘だ。だったら嵐毎突っ込んでやる。
二本の刃が正面からぶつかり合い、澄んだ音を立てる。
ガルダの刀から水滴が落ち、小さく煌めいた。
未だ、刀には大して魔力を送っていないけれど、何位で折れるかな。
形見だそうだけど、僕には関係ない。そんなので護れるなら見せて欲しいよ。
嵐が我先にとガルダの元迄駆ける。
刃を交えた儘では裂かれてしまうだろう。
僅かにガルダの足が下がったのを見逃さない。笑みを零してより飃は力を込める。
同時に刀にも魔力を送って行く。少しずつ其の刀身が黔へと染まって行く。
そんな逃げ腰で如何護るつもりなのさ。
更に力を乗せた所で不意にガルダは身を屈めて押し返して来た。
長身の影が一気に沈み、刃の下を潜る様に迫る。
如何やら刀に乗っていた水滴に滑ったのか、其で刀が逸れてしまったらしい。
成程、只の水だろうけど、そんな使い方も出来る訳だ。
其の儘潜る様にガルダは下から一気に飃を斬り上げた。
刀で受け止められてはいる。だが持ち手の部分を突かれ、彼の躯は浮き上がってしまう。
其処でちらつく影があった。其は四方を舞っていたガルダの羽根だ。
其等の舞い方が何だか不自然で、まるで自分へ向けられる様に、
此は・・・まずい。
瞬時に纏う嵐を強めると、狙い澄ませた様に羽根は光の矢となって四方から飃目掛けて飛んで来た。
其を何とか嵐で退けるが、問題は其丈じゃない。
今自分の足元、眼下には、
頭を切り替え、刀を下へ向けると衝撃が走った。
でも防ぎ切れている訳じゃない、何かが頬を駆け、僅かに斬れてしまう。
此は一体・・・見えない斬撃だったけれども。
奴は下で刀を振るっていた。其の刃自体は僕迄届いてはいないのに。
何かは確かに刀に届いたんだけど・・・何だろう、此。
「っ矢っ張り付け焼刃じゃ此が限界か。」
「十分面白い事してるじゃん。もっと、見せてよ!」
護って許りだと思ったのに、やっと少し抵抗して来たか。
刀の下で彼の目と搗ち合う。
其の瞬間に・・・僕は、理解してしまったのだ。
静かに僕を見据えていた瞳の奥で荒れ狂う獣を。
何だ其は、飼い慣らせてもいない其の猛獣は。
僕の首を只静かに狙って牙を剥く其奴は。
違う、此奴は護っている訳ではなくて、
「・・・見せて良いんだな。」
僅かに彼の口が動いたかと思えば、翼を広げて飛び立った。
其の儘中旻に居る僕に向け刀を構える。
動けない内に仕留めてしまおうって魂胆かな。でも別に僕だって飛べない訳じゃないよ。
背に嵐を纏わせて加速する。此の暴れ馬を乗り熟せるのは僕丈だ。
正面から来るなら僕自身が嵐になろう。そんな刃なんて届かない様に。
抑、僕に近接戦を挑むのは可也のハンデだ。此方には嵐があるのだから。
嵐は膨れ上がり、飛び掛かるガルダをも包み込んだ。
・・・本来なら、突っ込んだ段階で彼はバラバラになっている筈だけれど、其の再生力は流石だよ。
傷を傷と認識する前に完治して行っている。
傍から見たら、一瞬彼が全身斬り刻まれているとは思えないだろう。其こそ冗談の様な一瞬だ。
でも入った所で嵐は止まらないよ。例え君が其の目に獣を飼おうとも、僕には此の嵐の獣が居る。
其を説き伏せる刀だってある。其を慎重に構え直した。
狙うは一点、心臓でも貫いてやろうかな。
案外無事かも知れないし、良い勉強になるでしょ。
息を詰めて飃は真直ぐに突きを繰り出した。
こんな吹き荒れる様な嵐の中だ。其の只中で正確無比な突きが出せるなんて、並の集中力じゃない。
此には飛び掛かったガルダも目を剥いた。嵐を無理矢理突破する事は彼にとって折り込み済みの事象だったらしい。
斯うなっては避ける間もない。吸い込まれる様に刃は俺の胸元を、
流石に此を赦せば俺は終わる。其丈は避けないとっ!
咄嗟に俺は左手を掲げると其の甲に思い切り刀が突き立てられた。
其の儘易々と手を貫通してしまう。でも此なら、
痛みに呻いている暇なんて無い。無理矢理貫かれた手を動かす。
すると僅かに刀の軌跡はずれたらしい。心臓より少し上へ刀は刺さったのだ。
「っやるね。一寸魔力が足りなかったか。」
「・・・此の距離なら外さないだろ。」
急所を外した所で無傷ではない。胸を刺されたので肺に血が溜まって眩暈がした。
でも刀は刺さった儘だ。奴は、敵は目の前に居る。
向こうが其の気だったら俺だって、俺だって御前に思う事はあるよ。
赦していない、忘れていない。初めて会った時から御前の事は、
何時も何時もセレの事を化物だと定義して罵って、殺そうと何度も手を伸ばして、
セレが認めなかったら御前なんて、
此は御前が売った喧嘩だ。だったら・・・覚悟位しているだろ。
セレを殺そうとか、そんな赦されざる思想を抱けない様に俺が・・・壊してやろうか。
姿は変わらない迄もぎらついて行く彼の目を前にして、僅かに飃は息を呑んだ。
此の感じ・・・良くない。対峙してはいけないと本能が告げる。
噫、じゃあ此が君の本性って訳だ。其の一端が滲み出ているんだろう。
じゃあ御前も同じ化物だよ。君達は何処か釣り合わないと思っていたけれど、今なら合点が行く。
君は隠し過ぎている丈だ。良く此処迄上手に閉じ込められるね。
其の獣は・・・ずっと君の中に。
思考が巡る中、緩りとガルダの手が振られる。
嵐なんて此の距離じゃあ関係ない。其の手が下ろされれば僕は、
だったら此方だって、此の刀をもっと奥ヘ、君の急所に届けば・・・。
「・・・二柱共其処迄だ。」
トン、と飃とガルダ、二柱は肩を叩かれた。
其は本当の不意で、思わず二柱は目を瞬いてしまう。
そんな二柱の横にはセレが居た。翼を出し、二柱の間に割って入る。
「此は模擬戦だと言った筈だが。」
気付けば嵐も解かれ、無風になっている。静寂が耳に痛い。
まるで時が止まった様だ。其の静かな世界の中でセレは一つ溜息を付いた。
「取り敢えず周りの奴等には目眩ましを掛けた。だから此の儘此の試合は終わりだ。良いな。」
「あ・・・噫。」
「ま、君に止められちゃあ如何しようもないか。」
小さく息を付き、飃は刀をガルダから抜いた。
其の瞬間、セレは苦々しそうに首を振る。如何しても彼女には堪えてしまう様だ。
其の儘翼を畳む様にして二柱と一緒に降りて来る。
でも妙に静かで、ちらとガルダは辺りを見渡した。
途中から観客が居た事をすっかり忘れてしまっていたけれども・・・今見渡すと何だか異様だ。
皆惚けている様な、立ち止まって固まっている様で、本当に時が止まった様に見えてしまう。
「此、何したの。」
「私の毒だ。軽く意識を奪った丈だから直ぐ治る。」
「本当にえげつない事するね君。」
「御前のした事に比べたら大分甘いと思うかな。」
思っていた以上にセレは如何やら怒っていたらしい。飃は肩を竦めて大人しくする事にした。
確かに今回は一寸暴れ過ぎたしね。化物の前なのに随分派手にやってしまった。
余り彼を傷付けると制裁がきつそうだ。正直何方が守護神か分からなくなるよ。
「ガルダも、先のはやり過ぎだ。」
「う・・・その、ご、御免、頭に血昇っちゃって・・・。」
思わず頭を掻いて目を伏せる彼に小さくセレは息を付いた。
正直、意外だったんだ。先感じた殺気は紛れもなくガルダの物だった。
まさかと思ったんだ。だって彼がそんな・・・殺気なんて、向ける事は無かったから。
だから、半ば無意識に自分も彼等の事を止めてしまった・・・今も、自分がした事を何とか理解しようと努めている。
正に躯が勝手に動いたと言うか・・・駄目だ。自分がしっかりしないと。
「ガルダ、怪我は大丈夫か?服は破けてしまったが。」
穴は空いてしまったが、傷は塞がっているか。一見なら問題なさそうだが。
「噫大丈夫、此位なら。」
其は・・・良かった。一瞬本当に心臓を貫かれたんじゃないかと一気に苦しくなったから。
無い筈の心臓が痛んだと言うか・・・もうあんな懐いはしたくない。
一寸吐きそうだ。如何してもこんな焦燥感は苦手だ。
只でもガルダの無事も最もだが、飃も何事もなさそうで良かった。
先の殺気は、可也不味い感じがしたのだ。若し止めるのが少しでも遅れたら、
「何だか君に止められるのは複雑な気持だね。」
「其位やり過ぎだったって事だ。本当に・・・大事ないなら良いが。」
一気に気疲れしてしまったじゃないか。未だ此の次元で何もしていないと言うのに。
「二柱共大丈夫なの?」
「噫、さてと、そろそろ毒は抜けるか。」
待っていたケルディを肩に乗せる。出掛かっていた牙も引っ込めた。
効果時間、影響が何処迄続くかはっきりしないのが不便な所だが、咄嗟の時に使えて良かった。
「ほら、もう試合は終わったぞ。」
惚けた様に老人も固まってしまうので、軽く手を叩く。
其の音で皆はっとした様に顔を上げ、不思議そうに目を瞬いた。
「如何した。すっかり見入っていたみたいだな。」
「え、あ・・・ぬ、お、終わったのか。」
「噫一寸熱が入り過ぎたから止めたんだが。」
流石にガルダが刺されたのは不味いと思ったが、此の様子だとしっかり記憶には残らなかった様だ。
だったら良かった、模擬戦で死人なんて出したら仕事所ではなくなってしまう。
老人以外にも村人も皆不思議そうに話し合っていた。
一寸記憶に穴があるだろうが、其処は御容赦願いたい。此方だって必死だったんだ。
「そ、然うか・・・。いや、見事だった。すっかり、見入ってしまった様だな。」
「噫、此で満足頂けたか?」
二柱は少し罰が悪そうに広場に立っている。自分の言葉に老人は何度も頷いた。
「勿論だとも・・・っ!噫、良い物を見せて貰った。最後は早過ぎたかのぅ、一寸惚けてしまったわ。」
「然うか。確かに凄い気迫だったからな。」
「セレも口が上手いね。」
そっとケルディの頭を押さえると、甘える様に鳴き声を上げた。・・・全く、此方は一所懸命なんだぞ。
只でさえ牙が出ない様、目付きが鋭くならない様気を付けて話しているって言うのに。人間と言うのは如何も苦手なんだから。
「噫でも確かに君は彼女の弟子らしいな。同じ技を使っていたが。」
「え、噫彼は・・・その、教えて貰った訳じゃないから見様見真似だけど。」
折角此の刀を使ったんだからと一度試してみたんだ。アーリーと同じ様に水を斬れるか如何か。
でも矢っ張り難しい・・・近距離に衝撃を届かせるのがやっとだった。
「彼の見えない攻撃の事?ね、彼って結局なんだったの?」
「・・・まぁその、水を斬ったんだよ。其を飛ばしてたんだ。」
余教えたくは無かったけど、でもやり過ぎた事は反省している。
セレの前だってのに、自分を忘れ掛けるなんて。
「へぇ、面白い事するね。そんな芸当出来ちゃうんだ。」
「でもアーリーのはもっと凄かったよ!岩とかも斬れちゃうんだから。」
「うむ、然うじゃの。でも見様見真似と言えど、出来たなんて大した物じゃ。儂等も習得には至らなかったからのぅ。」
他の村人からも歓声が上がって来た。結果としては上々だろうか。
ほっと小さく息を付く。何とか誤魔化せたのなら、良かった。
全く、二柱共後の事を考えて戦ってくれなきゃ止める方の身にもなって欲しい。
―・・・全く御前が言えた事ではないと思うが。―
まぁまぁ、此は此、其は其だ。まぁでも・・・自分も一寸は反省しないとな。
見護る側、止めるのは本当に苦手だから。後悔しか残らないのだから。
今回は止められた。でももっと早く止められたんじゃないか。
予兆はあった筈だ。其処のサインを見逃したのは誰か。
折角力を手に入れても・・・此じゃあ意味が無いじゃないか。
ほら、こんな苦い気持丈残るんだ。だから嫌いだ、本当に。
何度目か分からない溜息を付くと、ケルディがそっと頬を寄せてくれた。
其に少し丈安心する・・・うん、大丈夫だ。
「本当に良い物を見せて貰った。うむ、まさか又彼の技を見られるとは、君は彼女の弟子なのは疑い様も無いな。」
老人は何度か頷き、息を付いた。声が弾む半面、目線は下がってしまう。
「然うか。では本当にもう彼の子は・・・。致し方ないな、随分前に諦めた事だが、彼の子は余りにも生き急いでいたからな。直ぐ、奥つ城を建ててやらねば。」
「御願いします。此の刀も供えてあげたいので。」
せめて彼女の居た証を残せるなら、其の方が良いだろう。
アーリーは最期言っていた。独りで惨めに死んだ淋しさを。
屹度彼女は此の村に帰りたかった筈だから・・・せめて、其の願いは叶えたい。
「良いのか?其は形見だろうに。」
「俺、普段は別の得物使ってるんですよ。だから大丈夫です。」
「然うか、分かった。では其の準備でもしようか。少し儂は離れても良いかの。」
「噫問題ない。一寸私達は休んでいようか。」
老人は頷くと直ぐ様他の村人達の所へ去って行った。
彼が戻る迄に色々話さないといけないしな。たっぷり時間を使って貰って構わない。
「さてと、村を見たい所だけれども、二柱共良いか。」
向き直ると其丈でガルダが背を伸ばした。そんな身構えないで欲しいのだが。
「僕は構わないけど、あ、でも御説教は嫌だなぁ。」
にやにやと神の悪い笑みを浮かべているが、随分余裕な奴だ。
「う・・・いや、言い訳も何も出来ないよな。悪いセレ。」
「何時もガルダが止めてくれているって言うのにな。ククッ、此じゃあ私の事は何も言えないな。」
「でも御蔭で止めるのってこんな大変なんだって分かったんじゃないの。」
「まぁあ其は然うだけれども。何にしても先のはやり過ぎだ。傍から見たら殺し合いだったぞ。」
「でも先に仕掛けたのは飃でしょ。駄目だよあんな挑発したら。」
「其に乗ったガルダもだがな。」
何時ものガルダだったら、こんな簡単な挑発なんて気にしなかっただろうに。
本当に一瞬の事だったんだ。まさか彼があんな殺気を出すなんて思わなかった。
信じたくなかったからなのか・・・厳しい所だな。
恐らく自分が無意識に目を逸らそうとしてしまうのは、屹度彼の時が過るからだ。
もう随分前になるが、黔日夢の次元の後、自分が全ての記憶を失って何も知らない神として在った時。
鎮魂の卒塔婆に連れて行かれて、ガルダに会った彼の時。
彼は・・・今迄に見た事が無い位冷たい目を自分に向けていたんだ。
今懐い出す丈でも苦しい。寧ろ、前世も全て懐い出した今だからこそ猶苦しく思う。
下手すれば黔日夢の次元、彼の記憶以上に私を縛っている。
彼が殺意なんて抱く訳ないと、勝手に信じ切っている自分が居るんだ。
あんなに世界に裏切られて来たのに。まるで其が最後の砦の様に頓に信じている。
自分の・・・分かり易い脆さと弱点だ。
今の彼からは微塵も彼の気配はないが、だからこそ心配にもなる。
彼を・・・何時も彼は抱いているんじゃないかと。其の原因って矢っ張り、
・・・此以上考えるのは止そうか。余り良い事じゃないし。
ガルダは十分反省してくれているみたいだし、本当に申し訳なさそうに自分を見ている。
・・・うん、何時もの彼と変わりないから、今は其を素直に受け入れよう。
「ふーん、ま、やり過ぎたのは認めるけど、でも模擬戦としては中々だったでしょ。」
「噫そりゃあ勿論、模擬じゃあなかったからな。」
「何て言って、君の実力も一寸見られたし、そんな文句言わないでよ。素直に良い戦いだったでしょ。」
「うん、二柱共勁かったね。見た事ない武器使ってたし。」
ケルディの言葉に、僅かに飃の目が下がったのは見逃さない。
「然うだな。枴以外にも良い物を持ってるじゃないか飃。」
彼は忘れもしない、自分を斬った刀だ。其の能力等は全くの未知数だったが。
今回のと前回の戦いから何となく彼の性質は分かった気がする。
彼は・・・恐らく話す気は無いだろうが、魔力が大きく関わっている事に間違いは無いだろう。
若しくは何らかのトリガーか。見た所、与えた魔力の量に因って彼の刀の斬れ味は変わるのではないだろうか。
前は此の甲ですら斬った刀なのに、今回はガルダの刀を折る事は無かった。随分前だが、彼の刀で自分の甲を斬れない事は身を以て知っている。
彼が手入れを怠るとも思えないし、明らかに流れている魔力の量と術が異なっているのだ。彼が纏う嵐以外に力が注がれていたとしたら、間違いなく其は彼の刀だろう。
絡繰が分かってしまえばシンプルな物だが、其でも面白い刀だ。其に何より扱い切れている飃も流石と言わざるを得ない。
つまりは常に二つの術を展開し続けた様な具合になるのだから。右手と左手、枴と刀其々に別の意図で魔力を流せるなんて中々器用な事をしてくれる。
彼をもっと極めれば、其こそ本当の脅威となり兼ねない。そんな力を秘めていた。
水だって斬っていたんだし、下手すれば魔術ですら斬ってしまうかも知れない。一体何処迄行けるか分からない所が彼の強みになっているんだろう。
「気に入っている所悪いけど、僕此貸す気とか全く無いから。」
「噫、もっと精進して新しい使い方とか見付けて行ったら良いじゃないか。」
「ちょ、一寸セレ、」
「ガルダ、前も言ったと思うが、然う邪険にしないでくれ。私は此は此で楽しんでいるんだから。」
何とも彼は不満そうだが、此位は呑んでくれないと自分としても心配だ。
まぁ彼の使命が使命だから相容れないのは当然だとしても。
何とか折り合いは付けてくれないと。然うでないと何処かで又、先の続きでもされたら堪らない。
先のは・・・正直ガルダには悪いが、自分は飃の圧勝だと思っていたんだ。
勿論ガルダの魔力も凄まじい。鍛錬も受けてはいる。でも実戦経験が飃とは段違いだ。
生き残る、と言う事に掛けては如何しても飃に劣ると思っていた。でも、
先のガルダの気迫、殺意は・・・そんな物ではなくて、彼に呑まれていたら勝負の行方は・・・。
自分の経験と照らしても正確な一つの答えが出てしまう。でも其を受け入れられるかは難しい所だ。
「僕としては別に構わないけど。流石に其位の心情を察せない僕じゃあないよ。」
「然うだとしても此はけじめの問題だからな。私にだって御前を店へ招いた責任がある。」
「相変わらず固いね、然う言う所は。」
「噫、私は強情で通っているからな。だからガルダも、分かってくれるだろう?」
「うぅ・・・まぁセレの強情は今に始まった訳じゃあないけど。」
「諦めなよガルダ。ガルダじゃセレに勝てないんだから。」
ケルディの残酷な一言に彼は項垂れてしまった。
流石に此は・・・一寸可哀相でもある。
別に勝ち負けの話じゃないんだから、其処を全てみたいに語ってはいけない。
「まぁケルディ、ガルダだって先の太刀筋は良かったぞ。御前が刀を使うのは初めて見たからな。」
「あ、そっか。然うなんだよな。」
基本魔術しか使わないし、確かに然うだろう。
ちゃんと習って来たんだと分かる。しっかりとした構えだった。自分は教わった事なんて無いのでああは出来ない。
「でもガルダね。最初全然駄目だったんだよ。持ち方も分からなかったもん。」
「ちょっケルディ、其は言うなって。」
「其なら猶更、此処迄扱える様になったのは凄い事じゃないか。」
素直に然う思うぞ。神に成っても一芸身に付けたなんて凄い事じゃないか。
例え仕組まれていた事だったとしても、其は間違いなくガルダの力になっているんだから。
「まぁまぁじゃないの。もっと刀に力が乗る様になってからだね。」
此方は此方で手厳しい。まぁ彼は皐牙の事も見てくれているしな。
「まぁ二柱共大事なかった様で良かったから、今回はもう此以上は言わないけれども。」
反省してくれているなら未だ良い。余言い過ぎると墓穴になり兼ねないしな・・・。
自分が心配したんだって事が伝われば、未だ良いだろう。
「其じゃあ仕事に戻ろうか。其方の話をしても?」
「うん、良いんじゃないかな。」
セレの手の中でコロコロ遊ばれ乍らもケルディが手を挙げる。
噫癒される・・・彼が付いて来てくれて本当良かった。次元には矢っ張りモフモフだな。
「然うだね。本題は其方だし。」
本当に自分には見せる気も無いらしく、早くも飃は彼の刀を時空の穴へ仕舞っていた。
「然うだった。えっと如何言う話だったっけ・・・。」
すっかり模擬戦に集中してしまっていた様である。ガルダは何度か頭を振って気持を切り替えた。
「取り敢えず次元の主導者の所へ行こうか。直ぐ近くなんだし。」
一応先程御馳走になっていた際に村の話だとかは聞いている。
此処でも困り事はあるらしい。其は甲飛魚達がしたのと同じ物だった。
瀛海が静か過ぎるのだ。廻瀾一つ立たなくなった瀛海が何処か不気味で恐ろしいと。
其で何か起こるのではないかと思い、皆水中に隠れていた然うだ。村が粗無人になっていたのは其が理由らしい。
其処へ自分達が飛んで来た物だから可也驚かせてしまった然うだが・・・。
其にしても廻瀾が無い、か。瀛海と共に生きる彼等にとって其の変化は相当気味悪く写るのだろう。
広場から足を動かし、村の中心を目指す。
「確か瀛海が静かって奴でしょ。君憶えないの?」
「・・・何となくはあるな。多分廻瀾を止めたのは自分なんだろうな。」
「え、黔日夢の次元でそんな事もしてたっけ・・・。」
余印象に残っていない、如何しても殺戮の方の記憶が勝ってしまっているのだろう。
「噫、私は飽く迄も人捜しをしていた訳だし・・・廻瀾が邪魔だったから止めてしまった気はする。」
此処の奴等は水に溶けてしまうから、探し易い様に然うしたのだろう。・・・うん、懐い出して来た。
一応此の話は聞かれない様に声は潜めていたが、でも申し訳ないな。結局自分が原因だ。
「あ、矢っ張りやってるんだ。」
「廻瀾なんて止められちゃう物なんだね。」
「彼の時は何も考えずやっていたからな・・・。」
「其だったら又廻瀾を起こしてやったら解決と言うか、皆安心するのかな。其だと一寸簡単と言うか、平和そうだけどな。」
果たして其は如何だろうか。確かに平和そうな解決だが、方法が分からないぞ。
「実際其ってでも如何するつもりなの。瀛海の中に嵐を創るとか?」
「其は渦潮になっちゃいそうだね。」
「でも巡り巡って廻瀾には成るでしょ。だって瀛海なんて広いでしょ。可也の廻瀾を起こさなきゃ元に戻らないんじゃないの。」
「抑廻瀾って如何言う原理なのかもあるな。果たして一度起こした程度で其って残るのか?」
一度起こせば波及し合って続くのかも知れないが、打ち消し合って又静かになるかも知れない。
抑の原理が分からないので難しい所だ。下手な事はしたくないと日和ってしまう。
まぁ此の次元の原理と其の知識も異なる可能性はあるが。
話に因ると、本当に突然廻瀾が全て消えたらしい。何の前触れもなく行き成りだ。
其から此の世界は時が止まった様に皆静かになってしまった。瀛海を恐れる様になってしまったのだ。
此迄と変わり、一切動かなくなってしまった瀛海を。
恐らく此が黔日夢の次元に因る物で間違いはない。でも次元の主導者は・・・。
「ん、此って言う可きなの?何か妙な感じだけど。」
皆の足が止まったのはある小さな、水溜りの様な窪地だった。
土を幾らか掻いて作った様な其の小さな穴に澄んだ水を湛えている。
膝位の深さしかない一見只の水溜りだが、此こそが今回の次元の主導者だ。
数m程の大きさなのでうっかり見逃しそうだが、でも間違いない。
「ん、皆如何したの。あ、何か居るよ!」
セレの肩から飛び降り、ケルディはトコトコと水溜りの傍へ寄る。
然う、水溜りの上には三匹程、小さな何かが浮かんでいたのだ。
「見た事の無い生き物だけど・・・あ、若しかして此が次元の主導者?」
「いや、彼等はレイ=ソウラ、龍族の一種だ。此処に棲んでいるんだろうな。」
「あ、龍だったのか、何か・・・凄い所に棲んでるな。何処でも居るんだな、本当。」
ガルダ達も水溜りを覗き見るが、そんな事等御構いなしにレイ=ソウラ達は只浮かんでいた。
彼等は全長5㎝程、鼠に似た面持ちと躯をしているが手足は無く、代わりに二股の尾があった。
丁度腹這いになる様に浮かんでいるが、腹にはまるで水面を叩いた時に出来る水の冠の様な膜が張られ、其で水面に浮かんでいる様だった。
二又の尾の先は金で出来た扇の様な形をしており、其で時折水面を叩いている。
何だか彼等が斯うして当てもなく只浮かんでいるのを見ると少し癒されそうだけれども・・・。
「ね、其が龍ってんなら、矢っ張り此の水が次元の主導者な訳?」
「噫、然う言う事になるな。」
「えぇ、只の水だよ?此が次元の主導者なの?」
ケルディが疑問に思うのも当然だろう。如何見たって只の水溜りなのだから。
強いて言えば水が澄んでいるなと思う位、でも其以外別段感じる事も何も無い。
喉が渇いていればうっかり飲んでしまいそうな・・・其位、本当に只の水溜りだ。
水なんて捉え所のない物だと混乱しそうではあるかな。只今回は有り難い事に指標もあるのだ。
先程老人も此の水溜りの事は話していた。何でも原初の水なんだとか。
此処から我々一族は生まれたのだ、等と話していたが、真偽の程は不明だ。
そんな事で大切に護られて来た水らしいが・・・案外其の儘と言うか特に何か祀られたりはしていないんだな。
まぁ有りの儘にする、下手に手を加えないと言うのも護り方の一種か。
此の水を護るなりするのが今回の自分達の仕事と言う訳だが、果たして此は如何判断す可きだろうか。
「ボクが此飲んじゃったら此の次元終わっちゃうの?」
「冗談でもするなよケルディ・・・。何が起こるか分からないからな。」
「でも此、如何するのが正解な訳?飲むのは駄目にしても、護り様ってあるの?」
「海水とか陰霖に混ぜないとか・・・?」
「然うだな。私もぱっと浮かぶのは其の位だが。」
取り敢えずは様子見になるのだろうか。老人の話だと此自体に困った事は無いそうだし。
レイ=ソウラ達も何も気にせず泳いでいるんだ。一見問題はなさそうだ。
「セレ、一応聞くけど、此の龍達は大丈夫なんだよな?」
「噫、彼等は澄んだ水を好む龍だが、ああやって水面を泳いで其の境界と言うか、其処に生じる魔力を吸収している然うなんだ。水自体には干渉しないし、元から居たんだろうから此の儘にした方が良いと思うぞ。」
一寸触りたくはあるが、彼等は可也繊細な龍と聞く。魔力等に敏感でもあるから、自分が触れて刺激になったら可哀相だろう。残念だが此の儘彼等を見護ろう。
言い換えれば、そんな龍達が村の中心に居るなんて可也珍しいケースなのだ。変わらず居られていると言う事は、本当に村人は此の水溜りへ干渉していないと言う事なのだろう。
全くの手付かずで見護り続けた、其の証でもあるのだ。
自分達神と接触した事には此でなったと思うが、此処から動く様子もないし、元から棲み続けているタイプの龍だろう。
「おぉ、此処に居られましたか。」
暫くすると先程の老人が一同の元へ戻って来た。
そして水溜りから少し距離を取り、手招く様な仕草をする。
「待たせてしまったが、彼の子の、アーリーの奥つ城が出来たのでな。早速連れて行こうかと思ったが。」
「え、あ、もう出来たんですか。じゃあ一寸参って来ようか。」
「うん、其位良いだろう。時間はあるだろうからな。」
ちらとガルダは眴せを送るが、其位は許されて然る可きだろう。
彼が神に成って世話になった相手だ。自分だって礼を尽くしたい。
「ん、皆行くなら僕は此処に残ろうか。一応見て置いた方が良いでしょ。」
「おぉ、原初の水の事ですかな。出来れば触れずに置いて欲しいのだが。」
「大丈夫だって。只僕其の人とは面識ないしさ。此方の事も心配でしょ。」
確かに飃の言う事も最もだ。小さな島なので何かあっても直ぐ駆け付けられるだろうが。
老人や村人からしたら一寸心配になってしまうかと思うが、他意が無いのは本当だ。
「・・・分かった。じゃあ此処で待っていてくれ。一応私も見て置くから。」
「じゃあ大丈夫だね。行ってらっしゃい。」
軽く飃が手を振ったんで老人に連れられ、一同は足を向けた。
ガルダも一寸怪訝そうな面持ちだが、彼は仕事はしっかりするタイプだからもっと信じてあげて欲しい。
念の為、自分の波紋だってあるんだ。間違っても事は起こらないだろう。
「可愛い住龍も居るから見て置きたい丈だそうだ。だから大丈夫だろう。」
「然うか、うむ。疑う様な事を言って済まないな。じゃあ此方じゃ、付いて参れ。」
老人が足を向けたのは島の端、海岸だった。
其処には既に他の村人達も集まっている。彼等の視線の先には小さな岩があった。
良く見ると同じ様な位の岩が所々瀛海から突き出ているのが分かる。如何やら彼が奥つ城なのだろう。
岩丈なんてシンプルな様だが、彼等は水に溶ける性質があるし、此の様に瀛海に墓を残すと言うのは意味があるのかも知れない。
「彼が師匠の・・・。」
小さく呟くも、ギュッとガルダは手にした儘だった刀を強く握る。
「今から一つ儀を執り行うからの。其を如何か見届けて貰えると有難いんじゃが。」
「見ていれば良いの?」
老人が頷き返したのでケルディは海岸にぺたりと坐り込んだ。
墓参りはしたいが、瀛海に入りたくは無いのだろう。廻瀾も無いので濡れる心配もない。
村人達は皆瀛海の中へ入って行った。忽ち其の下半身は瀛海に溶け、上半身丈の姿となる。
其の儘岩を囲う様に立ち、祝詞の様な言葉を唱え始めた。
其を静かに、一同は見護る事にする。
瀛海さえも静かな中で、村人達の声丈が滔々と響き渡った。
はっきりと其と言葉が聞き取れないのは、恐らく古い言葉だからだろう。干渉力の及ばない言葉が掲げられる。
次第に言葉は詠の様に抑揚を付け、村人達は小刻みに躯を揺すったり、手を動かし始めた。
其は段々と激しくなり、小さな廻瀾が生まれて岩を包む様に揺れる。
彼は踊りだろうか。見ていると不思議な物で、次第に墓を中心に渦の様な流れが出来始めたのだ。
水しぶきも上がり、パッと旻に散ると曦を浴びて煌めいて行く。
何処か其の光景に魅入られる様で、一同は微動だにせず只見ていた。
まるで其処丈時が動いているかの様に・・・でも、静かに時は収束する。
詠が次第に小さくなるのに合わせて、渦も収まって行ったのだ。
そして終には廻瀾一つ立たない静かな瀛海に帰ってしまった。
「・・・終わったみたいだな。」
「噫、刀、持って行こうか。」
ガルダが一歩瀛海に踏み込んだ時だった。セレの耳が立ち、僅かに顔を上げる。
「何だ・・・何か変な感じがするな。」
「一寸止めてよセレ、そんな風に言われたらボクだって嫌な気がして来たもん。」
「・・・いや、此、本当に何か来てないか・・・?」
皆が警戒を強める中、瀛海の中心、先の所で僅かに異変が起きた。
海面が揺れているのだ。其処から廻瀾が生まれ、広がって行く。
「な、何じゃ、何が起きてるのだ。」
村人達も気付いた様で少しずつ下がって行く。
・・・途轍もなく嫌な感じがする。具体的には彼処から尋常じゃない魔力が漏れ出ている様な。
「一寸、此絶対やばい奴でしょ。」
村人の間から飃も顔を覗かせた。流石に彼の所迄届いてしまったのだろう、苦々しそうに瀛海を見遣る。
波紋に意識を集中させ、より深く、精度を上げて行く。
晒の下で六つの目を此でもかと大きく開けると・・・うねりが見えて来た。
目で見るのではなく感じる漣、此は・・・此の膨大な魔力は何処から、
「・・・っ、彼は、」
波紋の先、遥か滄溟の底で応える物があった。
其の姿を確かめる為にもセレは其の場で一気に飛び立つ。
集中しろ・・・姿なんて気にしている暇はない。彼は、彼の巨大な影は何だ⁉
其の姿を捉えたか如何かの所で、大きく海面は波打ち、激しく渦を巻く。
其の中心から遂に其は姿を現したのだ。
「な、なな・・・何だよ彼!」
「わぁあ!皆下がって!濡れちゃうよぅ!」
其迄何も無かった瀛海を巨大な廻瀾が駆け巡り、占領する。慌てて一同は島へ上陸し、瀛海から遠ざかった。
伸び上がった廻瀾は岸に打ち付け、地を抉って攫って行く。時折一際激しく打ち寄せた廻瀾は家に迄届き、大きく揺らした。
突如荒れ狂う瀛海の中、突き出た巨大な影は岩の様に彳んでいる。
眼前の廻瀾に許り気を取られそうになるが、より大きな脅威が其処にはあった。
「・・・ソウハロウ。」
「セレ、若しかして彼って、」
「龍だ。此は・・・とんでもない大物が出て来たな・・・。」
海上に現れたのは一頭の龍だった。
其の龍は全長100m以上、魚に似た体躯をし、背には水精の鬣、尾は蟹の鋏の様な形状をしていた。
大きな前鰭で水面を叩くと其丈で大波が起こり、大きな目を開いてじっとソウハロウは此方を見ている様だった。
背にまるで突き立てられた釼の様に生えた甲が立ち、廻瀾に散る曦を反射させる。
彼を中心に渦巻き、荒れ狂う瀛海は一つの神話を切り取った様だ。
「とんでもない魔力の塊だけど、彼、龍なの?」
「噫・・・浪属性の高位の龍だ。廻瀾を司る、神と同一視される程の力を持った龍だ。」
「オォオォオオォルルルルルー・・・。」
まるで応える様に長く長くソウハロウは空気を震わせる程の鳴き声を上げた。
其と同時に霧が立ち込め、彼の姿を包んで行く。
然うなるとまるで昊霧に隠れた島の様で、其処から声が響くのだ。
「う、海神様が・・・海神様が、応えてくれたのかっ。」
思わず後退りしていた老人がぽつりと呟く。そっとガルダは彼を介抱して陸に上がらせた。
「海神様って・・・彼の事か?」
「然うじゃ。儂も此の目で見たのは初めてじゃが、間違いない。」
「完全に神扱いだね。応えてくれたんなら良い神じゃないの?」
「う・・・うむ、海神様は廻瀾を御創りになる。屹度屹度、儂等の詠に応えてくれたんじゃ。此の瀛海を護る為に、姿を現された。」
すっかり腰を抜かした儘目を見開いて、老人は震え乍ら口を開く。
近くに避難していた他の村人達も同意なのか一言も発さず、見詰めていた。
廻瀾を創る神・・・確かに、間違ってはいないか。
「ねぇセレ、どんな龍なの?良い龍だと良いけど。」
ガルダの肩へ跳び乗ったケルディが声を上げると、セレは高度を下げた。
最早あんな巨大な姿であれば、飛ぼうが飛ぶまいが景色は同じだ。
「然うだな。廻瀾を創る龍、で認識は合っている。世界中の瀛海を巡り、大波を創り、瀛海の秩序を護る龍だ。」
「然うなの。じゃあ瀛海は彼に任せたら良い訳?」
「然うしたいが、だが彼処は近過ぎる。此奴は次元一つの瀛海全てを掌握出来る様な奴だぞ。」
其がこんな、目の前で数㎞離れた位じゃあ意味が無い。
今彼奴が廻瀾を創れば・・・其の影響は如何程か。
廻瀾を幾つか凌げれば問題は無いかも知れない。だが此の島には、
ついちらと視線を背後へ向けてしまう。此の島には、次元の主導者がある。
こんな小さな島だ。彼奴の廻瀾にあっさり呑まれてしまうのは明白だ。
然うなれば・・・あんな水溜りなんて立ち処に。
思考が勝手に進んでしまい、どっと冷汗が出る。
不味い、此は非常に不味い事になったぞ・・・っ!
魔力をより具体的に見える様になった所為か、恐らく此の景色は自分しか見えていないのだろう。
全ての魔力が、此の次元に存在する力が、集結しつつある事を。
空気中は勿論海中も、其の底の地の奥から力が沸き上がって来る。
其等全てをソウハロウは廻瀾へ還元しているのだ。彼の龍は正に浪魔力の変換器。
本龍が持つ魔力も純度が高く凄まじいが、其の際たる力が此の魔力の変換力だ。
自分達が魔力から術を編み出す様に、彼奴は無尽蔵に魔力を取り込み、廻瀾へ変えてしまう。
然うして世界と瀛海を繋ぐ存在、世界に残る神話を幾つも創り上げた龍なのだ。
其の廻瀾は神の裁きとも恵みともされている。廻瀾の化身其の物だ。
自分が知っている丈でもノアの箱舟やら大陸移動、然う言った誰もが知る様な物を創り上げた存在。
此処に居ても伝わって来る。否見える。魔力が次々と集まり、廻瀾となって帰って行くのが。
見えない魔力の漣も中旻を漂っているのだ。其に当てられている丈で酔いそうになる。
飛んでいる筈なのに、瀛海の中に居る様な、そんな息苦しさを感じる。
今一度勁く羽搏く。然うでもしないと此の漣に押し流されそうだ。
「此、まさか・・・色々終わっちゃう奴か。」
「噫、確実に終わるな。」
此は、覚悟を決めないと。彼の荒波が届く前に。
ソウハロウ自身に悪意も何も無いのだろう。屹度彼奴は本当に先迄滄溟の底で眠っていたんじゃないだろうか。
黔日夢の次元が起き、瀛海が静かになって、其の中で眠り続けたのを一つの廻瀾が起こした。
強ち、村人の儀に応じたと言うのは間違いではない気がする。
本の切っ掛け、些細な其の一点が、彼奴を悠久の眠りから起こしたのだ。
後は、誘われる儘に廻瀾を起こす丈だ。世界が止まっているから進めようとした丈。
まさか其の結果、世界が滅ぶなんて思いもしないだろう。
「彼の龍って殺せる様な奴なの?」
「な、ま、まさか海神様に手を上げる御つもりか。」
「飃、其の軽率な判断は駄目だろう。彼奴は瀛海を元に戻そうとしている丈だ。龍じゃなく、廻瀾の方を如何にかしよう。」
其を聞いてほっと老人は胸を撫で下ろした。
全く、神だと崇める者の前で何て恐ろしい事を言うんだ。
殺したら其は其で問題が起こるのは明白だ。其こそ本当に瀛海は止まってしまうだろう。
只場所が悪い丈なんだ。最初の大波さえ凌げば恐らくは。
正直あんな大物をやれるか如何か考えるより、其の方が考え易いとは思うが。
屹度今の提案も態とだったんだろう。飃は其以上言及せず、瀛海を見ていた。
見る間に瀛海が膨れ上がり、大きくなって行くのが見えた。彼が届く前に如何にかしないと。
「取り敢えず避難しなきゃ!皆彼の水溜りの所に逃げたら良いでしょ?」
「然うだな。彼処迄廻瀾が来たら何の道終わりだ。其処迄下がってくれればやり易いか。」
「避難なんて・・・何か手立てはあるのですかな。」
「やってみないと何とも。だが、何とかして彼の廻瀾から島を護るぞ。」
「何と頼もしい。儂らは廻瀾には強いが、家や奥つ城は然うではないからのぅ。如何じゃ、儂等は儂等で何か出来る事はあるだろうか。」
村人達も何とか状況を呑み込んで考えてくれている様だった。
でも出来る事か。ぱっと考えてみるが難しいな。
「何もしないでじっとしてるのが正解じゃなくて?下手に動かれても困るでしょ。」
「ん、うーん・・・まぁじっとして貰えたら助かる、かな。」
言い方は彼だけれども、実際然うだろうか。でも廻瀾、廻瀾かぁ・・・。
「では皆さんに御任せしよう。如何か如何か頼みましたぞ・・・!」
老人は村人達を集めると、早速水溜りへ向かった。
・・・移動してくれるのは助かる。流石に此の姿の儘じゃああんな大波なんて太刀打ち出来ないからな。
「其じゃあ具体的に如何するの?」
「取り敢えず私は魔力達を集めて彼の廻瀾全体を操ってみよう。弱らせる事は出来る筈だ。」
「おぉ・・・何か大規模な事考えてるな・・・。俺は然うだな。此の刀、使おうか。」
未だ供えられていないアーリーの刀を持ち直す。
聞いた事がある、水を操る術を心得ていた師匠なのだ。其の刀も、同じ力が流れていると。
水を滴らせ、水を斬る。然う言う力を受け継いだ刀だ、屹度役に立つ。
「飃も彼の刀だったら廻瀾、斬れるんじゃないか?ガルダと協力して直接廻瀾を壊して欲しいんだが。」
「余り気乗りしないけど良いよ。序でに嵐もぶつければ幾らか落ち着くだろうし。」
其は刀の真価を悟らせない為か。でも出し惜しみなんてしている暇は無いからな。
「ボクは絶対に濡れたくないし、彼の力を使って島を護ろうかな。」
「彼の力・・・?噫彼の大きい方の、」
「あ、違うよガルダ。へへ、実はガルダにも見せた事ないけど、ボクもっと凄い焔操れるんだよ。」
胸毛を膨らませて自信満々にケルディは言っていた。
・・・モフるのは後だ、堪えろ。
「もっと凄い力・・・?」
「えと、アーリーと秘密の特訓だってしたんだ!でも一寸気難しいと言うか、扱い難いから使う気は無かったけど。」
「出し惜しみなんてしないでよ。僕だって頑張るんだから。」
「うん・・・じゃあ行くよ!」
片手を挙げるとケルディは自身を蒼い焔で包んだ。
暫く焔は散ったり渦巻いたりを繰り返し、次第に大きくなる。
そして一瞬其の揺らぎが落ち着いた時に、大きな影が其の焔から飛び出した。
「・・・え、まさか此がケルディなのか?」
思わずガルダは目を瞬く。彼の前には見た事の無い一匹の狐が居た。
否、其を狐と認識するのは難しい。何故なら彼に実体は無かったからだ。
只皓銀の薫風の様な、そんなぼんやりとした、でも確かな感覚丈が残っている。
質量を持った薫風とでも言う可きか、そんな捉え所のない姿だったのだ。
其の薫風は確かに何処となく狐の姿をしている様だった。だが尾は無く、淡く光る欠片が其の躯を駆け巡っている。
「まさか此は・・・天狐か⁉」
「え、狐火と違うのか?」
「噫、全く違う。可也高位の龍族だ。でも・・・凄いな、まさかケルディが然うだったなんて。」
思わずセレは唸り、六つの目でしっかりと彼の姿を捉えた。
天狐は、数多居る狐型の龍族の中で最高位に坐する存在だ。
妖精や将又神に近い存在、斯うして魄と言う縛りから解放された魂として在るのだ。
一見尾が無い、みすぼらしい様な姿に見えるだろうが違う。此の目であればはっきり見える。
見えていない丈で、尾は繋がっている。此の世界と、魔力で繋がっているのだ。
高じ過ぎた結果、世界其の物と同化し、其の力の一端を行使出来る様になった、そんな龍だ。
まさかそんな龍が、狐火であるケルディに喰われたとは・・・。然うして其の躯も使える様にはなっている筈。
余りにも序列が違うだろうに、とんでもない存在だ。只でさえ希少な天狐が狐火だなんて、下手したらそんな存在、ケルディ丈じゃあないだろうか。
だがケルディが此の姿を出し惜しみしていた理由も分かる。天狐は矢張り上位の龍だ。だからケルディ自身、完全に操れている訳ではないのだろう。
寧ろ食われる可能性もあるのかも知れない。だから本当に非常時にのみ使おうとしたのだろう。
其で今回は・・・天狐は打って付けだ。世界に通ずる力を有しているのだから、其の力を発揮すれば島位なら護れるだろう。
瀛海と言う、狐火である彼にとって不利なフィールドを、可也打ち消す事が出来る。
「・・・取り敢えず、神様レベルのとんでもない力を持った龍だ。彼なら此の島を護れるだろう。」
「じゃあ僕達は廻瀾に専念すれば良いんだね。」
ケルディは小さく頷くと瀛海から離れ、旻を見上げて伏せった。
天狐は、其の特異性からコミュニケーションは取り難い。最早世界に属する側だからな。
だがケルディの意志は残っている様で、彼を中心に温かな薫風が沸き起こる。
此が天狐の護りの力、島中を魔力が駆け巡っている、大した力だ。
「ケルディ、こんな事も出来たのか。全然知らなかったな。」
「噫、でも随分と心強いじゃないか。・・・じゃあ私もそろそろ取り掛かるぞ。二柱共此処は任せた。」
言うや否や、又大きく翼を広げてセレは飛び立った。
全体を見渡せる所で力を解放しようと思ったのだ。純粋な力のぶつかり合いなら、少しでも視界は確保したい。
「任せたなんて気軽に言われちゃったね。」
時空の穴から刀を取り出し、飃は一つ息を付いた。
あんな廻瀾を斬れなんて、相当力を使うよ。ぶっ倒れなきゃ良いけど。
「・・・師匠、俺に力を貸してください。」
折角奥つ城も建てて貰ったんだ。彼女の証を、遺してあげたい。
もう俺が彼女にしてやれるのは此位なのだから。悔いが無いよう全力を出さないと。
刀を構えていると不意に何処からか鋭い風斬り音が鳴り響いた。
其は遥か旻からか。慌ててガルダは目線を旻へ移す。
眼前で大きく膨れ上がりつつある廻瀾が否が応にも気になるけれども・・・。
見上げた旻には確かに一点、不審な物があった。
其は・・・蒼い燕、然う、一羽の燕が此方に向け勢い良く降りて来ていたのだ。
彼の影は、見覚えがあった。此処から見ているのだから彼は普通の燕ではない。もっとずっと大きくて、
・・・師匠の、相棒だ。
「ピィイイィイ‼」
「ん・・・ソラノノ精、か?」
セレの脇を抜け、其の蒼い影は真直ぐガルダの前へ降り立った。
突然の事に面食らってしまう。如何してこんな所に。
一度集中し掛けたのが途切れてしまう。でも間違いない、彼の龍はソラノノ精だ。
何も無い旻から来た様に見えたが、まさか次元を渡って来たのだろうか。
気になると事は山積みだが、如何やら彼は襲う気等は無いらしい。敵意もなく、ガルダの傍に留まっている。
・・・取り敢えずは大丈夫か?いや・・・気にしている余裕はない。此方に集中しないと。
「え・・・え、お、御前まさか零玄か?」
「ピィイィ!」
ガルダの目の前で彼は鋭い鳴き声を上げる。
ガルダが知っているソラノノ精は彼丈だ。でも如何して此処に。
若しかして本当に師匠が力を貸してくれたのだろうか・・・。其にしては余りにも直接的過ぎる。
零玄はちらとガルダの持つ刀を見ている様だった。・・・若しかしたら師匠の刀に呼ばれたのかも知れない。
ソラノノ精も水の龍だ。此の危機を感じ取ってくれたのかも知れない。
自分はアーリーを、零玄の相棒を殺しているのに、彼からは敵意は感じなかった。
只静かに、自分の指示を待っているみたいだ・・・。協力してくれるらしい。
「零玄、あの、此の島を護る為に彼の廻瀾を止めたいんだ。御前の力を借りても良いか?」
「ピィ、ピィイ!」
短く鳴くと零玄は飛び立ち、そっとガルダの背後に留まる。
すると彼の持つ刀から水が溢れ出たのだ。
「う、うわ何だ此・・・す、凄い魔力だな。えっと有難う零玄。」
刀を通して力が伝わって来る。今なら此の刀も届くかも知れない。
「へぇ、龍と協力ってのも有りなんだね。じゃあ頑張ろうか。」
「・・・噫。」
其々刀を構え、二柱は目前で旻をも呑み込む廻瀾を見詰めた。
臆する訳には行かない。彼を斬るイメージを強く持つんだ。
澄んだ魔力が二柱を包む。其はゆるゆると押し寄せていた魔力の漣をも打ち消すのだった。
「・・・良し、行くぞ。」
晒を全て外し、尾も手足も惜しみなく出す。
然うすると肩や肘、膝から透明の水精が生えて来た。
其に沿って刺青も刻まれ、宙を舞う。
途端に魔力が澄み、波紋により広く高く伝わって行った。
噫、手に取る様に全て見える。不思議だ、自分は此処に居るのに、世界の中に居る様な。
しぶきの上がる廻瀾の中にも、俄に騒ぎ出した滄溟の中にも、遥か見下ろす旻の果てにも、ガルダ達の傍にも、
自分は・・・居る。全ての隣に、其の息遣いすら感じ取れる程に。
何処にでも居て、全てを知覚する。此じゃあ自分は何処にも居ない様に思うのに。
屹度今迄なら然うだったのだろう。此処迄魔力を高めれば、其丈自分と言う個が薄れて行っていたのだが。
ソルニアの存在感が、其の儘自分を繋ぐ鎖となる。
全てに自分が居て、全てを受け取り、でも何とも染まらない個も其処には在って。
・・・凄い、ぶれない自己がこんな安心出来る物だなんて。
此が存在すると言う事。皆屹度此が当たり前に出来ているのだろうが、自分は改めて其を理解する。
確かに自分は此処に居ると、世界に刻み付ける。
此処迄波紋が届けば、世界を覆いそうな廻瀾の形も、構造から理解出来る。
彼を操るには何程の魔力が要るか・・・成程。
覚悟はしていたが、可也多いな。目を幾らか犠牲にしないと。
早速三つの目を抜き取る。そして一つずつ順番に砕く。
一つ割る毎に景色がより鮮明になる。見果てぬ力が沸き起こる。
四つは流石に控えよう。此丈の存在力は得たが、其でも扱い切れる自信はない。
前みたいに暴走する訳にも行かないしな。でも、大丈夫。
大丈夫だ。皆を、ガルダ達を信じろ。自分の足りない所は彼等が補ってくれるだろう。
魔力の凱風が駆け、其に乗って水精から生じたスペルが躍る。
其は魔力其の物の形を象っている様で・・・今なら届くかも知れない。
飛んでいる自分すら呑もうと膨れ上がった廻瀾に意識を向ける。
もう此処迄大きくなってしまっては、世界が垂直になったみたいだ。世界を満たすには此丈の廻瀾が必要なのか。
此では水溜り所か、島毎全て削り取られてしまうかも知れないな。
本当に神話の様な出鱈目な力だ。そんな物を正面から見据えて、逃げない自分が居る。
彼を・・・掌握しろ。己が力で呑み込め。
此丈魔力も干渉力も上がっているんだ。だから、応えてくれ。自分の此の詠を。
―・・・君ハ、誰?―
・・・応えた。
其はたった一つの音、でもはっきりと分かる。
世界全ての魔力がソウハロウへ傾いていた中、自分の元へとやって来た魔力が居るのだ。
自分の声が届き、意志を得たか。自分に応える為に魔力が形を変えて行く。
今じっくり話してはやれないが、でも此の儘魔力達へ声を届ける。
廻瀾を此以上大きくさせない為に、自分に集え、自分が、自分こそが、
・・・此の世界を動かす。
傲慢にも心の底から呼び掛ける。
すると他にもちらほらと魔力達の囁く声が聞えた。
・・・良し、自分の力は奴に届いている。此の儘彼の廻瀾にも干渉しよう。
自分の力で、否世界の力を借りて解体する。一部丈で良い、彼の島が廻瀾に呑まれなければ良いのだから。
廻瀾は一つ丈じゃない、其の後にも幾つか続いている。其の全てを知覚して。
己が手で、動かせ。黔日夢の次元とは違う形で世界を、動かせ。
翼を羽搏かせ、廻瀾の中心に向かって凱風を叩き込んだ。
自分の羽搏き程度じゃあ何も起こらないだろう。でも今此の時丈、自分の凱風は世界の凱風だ。
全てぶつけて壊し尽くすのではなく、只一点丈、自然に崩して一つになれば。
壊せば良い訳じゃないんだ。其じゃあ繰り返す丈だから、然うではなくて・・・一つに。
世界を知覚しろ。己が感覚を広げて理解し、解読する。
如何すれば己が望む形に世界を変えられるか、其の答えを。
生み出された凱風は廻瀾にぶつかり、合わさって形を変えて行く。
廻瀾の中心が、不自然に凹んだのだ。そして膨らみ続けた廻瀾が少し丈小さくなる。
・・・良し、届いている。此の余りに不自然な廻瀾の形は、自分の意志が世界に届いた証だ。
此の儘落ち着かせられたら廻瀾は殆ど届かなくなる筈、其の後ろの廻瀾も含めて、
「オォオオォオオルルルルルー・・・。」
其の時、幽かにソウハロウの声が響いた。
霧の向こう、島の様に彳む蔭の声に合わせて廻瀾が震える。
此は・・・然うか。ソウハロウも知覚しているのか。自分の元へ集う魔力に変化が出ている事を。
異物が、混ざっている事を感じ取ってしまったか。先より魔力の漣が強くなっている気がする。
此は、やり過ぎたら逆効果か。彼に警戒されると本当に歯止めが効かなくなる。
全力を出して止めに掛かればソウハロウ自身を傷付け兼ねない。自然丸毎を己が力で捻じ曲げるのは良くない。
少し、抑えよう。自分が彼奴と適切な距離を取るには此の辺りが限界か。
もう少し圧を掛けたかったが、其で本当にソウハロウが暴れてしまったら大変だ。
此処迄・・・か。後はガルダ達に任せないといけないのは歯痒いが。
今は取り敢えず此以上奴を刺激しない様にしよう。・・・後は皆、頼んだぞ。
「凄い・・・廻瀾が大分変わって来たな。」
「可也小さくはなって来たね。って言っても大津波には変わらないけど。」
大きく廻瀾が広がりつつあるが、其のしぶきは此処迄掛からない。
其はもうケルディの護りに触れているからだろう。水滴すら赦さず、寄せ付けない。
セレとケルディ、二柱の力だけれども此は凄い、正に天変地異を目の当たりにしている様な。
セレのは・・・魔術じゃあないんだ。魔力其の物を流用して対抗している。
感じる、彼女の力が此の場に満ちているのを。先迄感じていた膨大な漣の魔力を遠ざけているんだ。
此が、ソルニアを喰らった事で得た力、存在力が明らかに違う。
そんな彼女の力が廻瀾を歪めるのと同時に、ケルディの気も此処を漂っている。
優しく吹く薫風は彼の物だろう。彼も又実体を失い、魔力として此の地を支配している。
此の二重の力を掻い潜って廻瀾は近付く。後は此を・・・斬る丈だ。
視界全てが廻瀾に覆われる。此の島なんてあっさり呑み込んでしまいそうな、そんな廻瀾が。
「・・・廻瀾は一つじゃないよ、何波か来ているから一回に全力出し切らないでよ。」
ちらと丈飃は此方を見遣った。タイミングを合わせる為、小さく頷く。
そして互いに短く息を吐いた瞬間・・・一閃が、旻を駆けた。
鋭い一閃は飃の物だ。漆黔に染まった刀から放たれた其は空気も斬り裂き、廻瀾の中心へ吸い込まれる様に叩き込まれた。
景色が歪んだかと思えば、廻瀾に・・・斬れ目が入る。横一文字に刻まれ、不自然に傾いたかと思えば二分される。
下側の廻瀾だった其は力を失った様に落ち、上部は激しく散ってしぶきを上げる。
まるで花火の様に水が砕け、廻瀾が弾けたのだ。勢いを殺された廻瀾は其の場で四散する。
散ったしぶきが激しく舞う中、数瞬遅れてガルダの放った一閃も届いた。
だが其の一閃は独特な動きを廻瀾だった物に与える。
散って四方へ飛散していた筈のしぶきが、全て押し戻されて行ったのだ。
一閃に押される様に後方へと散って行く。水全てを寄せ付けない様に吹き飛ばされて行ったのだ。
形を得た水は最早一滴として島には降り掛からない。後方に続いていた廻瀾も、一閃が届いていた様で幾らか勢いがなくなって行く。
続いて其の廻瀾も島へ届く前に斬撃に因って敢え無く散る。廻瀾は島には届かず、島を避ける様に左右へ分かれて広がって行った。
「・・・上手く行ったか。」
旻から全てを見届けたセレは一つ息を付いた。
廻瀾が三、四つと散る度に大人しくなり、後には小さな廻瀾が四方へと広がって行っている。
瀛海が、動き始めたのだ。元の姿を取り戻しつつある。
島以外へ逸れていた大波が世界の端々迄届きつつあるんだろう。其に因って各所で小さな廻瀾が断続的に起こり、瀛海全体にうねりが生じる。
波紋が伝えて来る瀛海は最早巨大な水鏡なんかではなく、有り触れた瀛海だった。
「・・・ルルルルォォオォオー・・・。」
其迄じっと島の様に動かなかったソウハロウは、一声鳴くと其の鼻先を瀛海へと向けた。
そして緩りと其の身を海中へ沈める。・・・海底へ戻るのだろう。
役目を終えたのだ。瀛海が元に戻ったから安心して眠りに就く為に。
・・・良かった。一回警戒され掛けた時は焦ったが、彼は其の事に関しては寛容だったらしい。もう気にはしていない様だ。
霧も晴れ、彼の激しく押し寄せていた漣の力も嘘の様に掻き消える。
もう魔力達の協力も不要だ。羽搏いた所で重さは感じない。
今一度波紋を可能な限り隅々に迄送ってみたが・・・問題はなさそうだ。
一つ息を付き、セレは自身の目元や手足に晒を巻いた。
特に目は隠さないと、三つも潰したなんて知ったらガルダが何と言うか。
解き放っていた魔力達も収めて行く。同時に生じていた水精も砕けて行った。
一気に波紋が狭くなった様に感じる。自分の身が重くなった様にも。
元に戻した丈の筈なのに、噫、先のは随分と開放感があったな。
彼の不思議な感覚は未だ残っている。自分が世界の一部として溶ける様な感覚。
でも溶けて消える訳じゃない、寧ろ其の分自分の存在感を得た様な、正に世界の一部が自分に成っていたのだ。
今は此の躯一つだが、先迄は瀛海であり、廻瀾であり、大気であり島でもあった。其の全てが自分の様で、
・・・戻ろうか、皆待っているだろうし、兎に角脅威は去ったのだから。
「皆御疲れ様、凄いな。大成功だ。」
「セレ!いや、凄かったな、彼の廻瀾が小さくなったのってセレの力なんだろ?」
「噫、けれども彼以上は出来なかった。彼奴を怒らせ掛けたからな。」
「あ、其で一寸弱まったんだ。てっきり手抜きしたのかと思ったじゃん。」
「いや、私は其処迄非情じゃないぞ。」
手抜きは余だ。自分だってそれなりに代償を払ったんだから。
緩り飃は首を回していた。相当の力を彼も使ったんだろう、僅かに手が震えている。
何時も彼は期待以上の成果を出すな。然う言う所は流石だ。
まさか此処迄廻瀾に対抗出来るとは思わなかったのだ。彼の刀は、廻瀾すらも斬るんだな。
後は・・・、
小さく息付く二柱の間を抜け、奥の小さくなった毛玉を回収する。
「ケルディも御疲れ様。天狐の力は凄いな、全く濡れていないじゃないか。」
すっかり疲れ果ててしまったのだろう。何時もの黔い子狐の姿に戻ってしまっていた。
地面に伏せってしまっていたので拾い上げて手の中で撫で回す事にする。
心做し尾の焔も小さくなっている気がするし、可也の力を使った様だ。
「うん、ボク頑張ったよ。帰ったら肉食べたい!」
「ははっ、此は御馳走、用意しないとな。」
ガルダも苦笑してそっと彼の鼻先を撫でた。
食欲はある様だが、眠たくもある様で手の中で大人しくしている。此の儘休ませてあげよう。
「ガルダも頑張ったな。でも・・・其のソラノノ精は、」
「あ、噫、此奴零玄って言うんだ。アーリーの、相棒だよ。」
「ピィィ、ピッ!」
零玄はガルダの持っていた刀にそっと嘴を寄せた。・・・成程な。
「然うだったのか、然う言えば一回其奴について聞いていたもんな。然うか・・・本当に手懐けていたとは凄いな。」
ソラノノ精は神に懐く様な龍じゃないのに、死しても猶応えるなんて余程好いていたんだろう。
こんなピンチに駆け付けるなんて、つい懐いの力を信じそうだ。
屹度ガルダの干渉力と其の刀に呼ばれたんだろう。彼の力は可也心強かった。
島が全く濡れていないのは彼の力もあってだろう。水を操る龍だから、重力等に逆らって動かしてくれた筈だ。
零玄は大人しい儘で、順繰りにセレ達を見ている様だった。
斯うして目にするのは初めてだ。・・・少し位は触れても大丈夫だろうか。
「零玄、だったな。有難う助かったぞ。」
「ピィ、ピピッ。」
「おぉ・・・、皆無事の様ですな。」
奥から村人達が此方へやって来るのが見えた。中でも老人は足早に此方へ来て息を付く。
「本当に助かりましたぞ。まさかあんな見事に廻瀾を消し去るとは・・・。」
流石に島の中心と言えど、彼の大波は見えた様だ。迫りつつあった廻瀾が次々と消えた光景は中々珍しい物だっただろう。
一応波紋を飛ばしてはみたが、次元の主導者も無事な様で良かった。
「海神様も無事帰られた様ですな。廻瀾も戻ってるなんて、噫何て良き日か。」
気付けば村人は瀛海へ入ったりと皆打ち付ける廻瀾に喜んでいる様だった。歓声が其処彼処で上がり、燥いでいるのが良く分かる。
甲飛魚や波浮魚達も、安心している事だろう。兎に角事なきを得たなら良かった。
「まさか彼の子の弟子が島を護ってくれるとは・・・。本当に有り難い、助かりましたぞ。」
老人も本当に嬉しそうに何度も頷いていた。顔も上気してか少し赤くなる。
「海神様が目醒めたのも彼の子へ儀を捧げた後だし・・・儂等を助けてくれたのかも知れんの。」
「・・・あ、然うだった刀、刀を供えないと。」
目を伏せ、静かに頷いていたガルダだが、パッと顔を上げて手元を見遣る。
然うだった、此を供えようとして事件が起きたんだった。
「おぉ、然うじゃの。奥つ城は皆の御蔭で無事じゃ。石の中心に刀を差せる様になっておる。彼処へ御願いしても良いかのぅ。」
「石の中心に・・・。分かりました。」
急ぎガルダは滄溟に入り、先程建てられた許りの奥つ城の傍へ寄った。
そしてまじまじと見詰めると、確かに積まれた石の中心に細長い切れ込みが入っている。
慎重に刀を持ち直すと、其の穴へガルダは刀を差し込んだ。
きっちり奥迄差し込み、数歩下がって様子を見るが・・・問題なさそうだ。
「・・・師匠、御蔭で此の次元を護る事が出来ました。有難う御座いました。」
「ボクも!彼の力、役に立ったよ、有難ね。」
気付けばガルダの肩にはケルディが乗っており、つい驚いてしまったが何とか堪える。
彼も滄溟の上と言うのは居心地が悪いらしく、しっかりとガルダの肩に掴まっていた。
そっと御辞儀をし、二柱は岸へと戻る。すると零玄が奥つ城の辺りを飛び始めた。
「然う言えば御仲間が増えている様じゃが彼は一体、」
「噫、師匠の相棒の零玄って言います。先助けに来てくれたんですよ。」
「然うだったのか・・・。彼の子は多くの友を持ったのだな。」
感慨深そうに老人は頷き、瀛海を見遣る。暫くすると零玄は岸の方へ戻って来た。
「ピィイィイ、ピィイッ。」
「ん・・・、何か言っているな。」
語り掛けている様な気がしてセレは零玄に向き直った。彼もセレに向けて何言か囀る。
其を聞いて暫くセレは少し悩んでいる風に見えた。
「セレ、何だ。零玄何て言ってるんだ?」
「其なんだが、御前、残る気なのか?此処に居たいのか?」
「ピィ、ピィイイ。」
零玄の返事とも取れる言葉を聞いてセレは考え込む。でも今残るって言ったか・・・?
「如何やら、此の島を護りたいそうだ。アーリーの、彼女の縁の地ならと。」
「え、えぇ、其って大丈夫なのか?」
「・・・ソラノノ精としては、問題なく生きられるだろうが、環境も問題なさそうだし、後は住人次第か。」
まさかそんな情が深いとは思っていなかった。そんなに好いていたなんて。
此は、可也珍しい事例だ。抑懐いたりしないとされる龍なのに。
自分の解釈と言うか、翻訳に問題は無いらしく、零玄は大人しくしている。
一番の危機は去っただろうから当分問題は無いだろうが。
「む、其の零玄と言ったか、其方は・・・残りたいと?」
「ピィイィ!」
「ん、此処迄来たら間違いないな。如何だ、特に何か手が掛かる事は無いだろうが。」
「儂等は構わんよ。彼の子の相棒とあっては、嬉しく思うぞ。宜しく頼みますぞ。」
「話は纏まった?何か面白い事になったみたいだけど。」
力を可也使っていたからだろう。何とか落ち着いたらしい飃も話に加わった。
頃合いとしては十分だろうか。目的は達成されたらしい。
「然うだな。じゃあ私達はそろそろ行こうか。ガルダ、ケルディも、もう大丈夫か?」
「うん、ボクも御墓参り出来て良かったよ。」
「やや、もう行ってしまわれるのか。もう少し休んで行かれても。」
「いや、十分歓迎して貰ったしさ。そんな気を遣わなくて大丈夫だから。」
「然うか・・・。では怪我に丈は気を付けるんじゃぞ。彼の子の弟子として実力は十分見させて貰ったが、如何しても心配する物だからな。」
「・・・噫、又何処かで寄らせて貰うよ。」
彼女は淋しがり屋だったから、偶には顔を見せないとな。
瀛海の民に見送られ乍ら、一同は島を飛び立った。
直ぐ様島は小さく遠くなる。廻瀾が押し寄せる瀛海は自分達の良く知る穏やかな其と何ら変わりなかった。
翼を押し上げ、柔らかく背を押す潮風を受ける。
「ピィイィイ‼」
そんな一同を見送る様に高く、燕の声は響くのだった。
・・・・・
無音の世界を脱却した瀛海は廻瀾を立てる
何時迄も語り継ぐ様に
穏やかな瀛海の揺籃に抱かれ、眠れ、永久に戦の記憶よ
蒼い零星が祝福の陰霖を連れ、旻を駆ける
廻瀾に合わせて滔々と
貴方の愛した瀛海は変わらず共に在ると
はい、懐かしのアーリーさんの御話でした。彼女の事を書くのは本当に久し振りなので色々と感慨深かったですねぇ~。
今更乍ら言いますが、いや、言わずもがなですが、鎮魂の卒塔婆の子達は相当優遇されています。もう吃驚する位。
でも一応其には理由があって、まぁ勿論ガルダ達が実際過ごしていたからもありますが、セレ達にとって彼処はある意味心に触れてくる場所なんですね。
前世とか、他にも因縁しかりと如何しても絡む物がある。だからじっくり進めたかった訳です。
けれど、他の塔は然うも行きません。セレなんて特に絶対殺すマンになりつつあるので、割とばっさばさ進行しています。
余個々の兵と戯れなくなったのも、彼女の心情が強く出ているからでしょう。最早構っている暇も無いのです。
でも彼等にも又今回みたいな物語が一柱ずつあります。見ていない丈で、終わってしまった話が幾つもあります。
其の重さに、彼女達が気付く日は来るのでしょうか。力ばっかり大きくなって足元が見えなくなって行ってるんじゃあ・・・?
そんな懐疑がほんのり滲む御話でした。彼女は終に世界なんて動かし始めましたが、そんな大いなる冒涜がどんな歪みを生むのかは今後に期待しましょう。
では前書きの通り、書き溜もあるので次話は直ぐ、一週間後に出るかと思います!
激動が続いていますが、又御縁がりましたら御会いしましょう!




