ヤンデレなんてろくなもんじゃない2
続き。長い文章書くのって難しいですね
俺は獅子山泰希。
瀬戸柚高校に通う高校二年の男子で趣味もこれといってなく、強いていえばゲームと料理ぐらいのどこにでもいそうな男子高校生だ。
「はいじゃあここの問題をえーと・・・・・・白露! 分かるか?」
指名された生徒――白露麻里は黒板にすらすらと答えを書いていく。
「・・・・・・はい正解! 流石は白露だなぁ」
教師の称賛を受けてもなお白露は謙虚な態度ですたすたと席に座った。その動き一つ一つがまるで彼女の謙虚さを表しているかのようだった。
――白露麻里。
見た目はロングの黒髪に白色のカチューシャが可愛らしい、俺と同じ2-Cの生徒だ。容姿端麗かつ成績は優秀、運動も得意と文武両道を地で行くうちの高校の中でもトップクラスの生徒である。クラス内外での人気も高く異性からの告白もしょっちゅう見られる(告白される度に「ごめんなさい・・・・・・私そういうの疎くて」と断られるまでがテンプレである)。性格は気品のある物腰で誰彼と隔てなく接する・・・・・・言わば女神だ。
ここまで話した時点で恐らく大半の読者は
「はいはい量産型ヒロイン乙w」
と思ったに違いない。
だが、しかし、俺は知っている。彼女のそれがただの表面に過ぎないことを。
彼女の本質―――それは、ヤンデレなのだ。
――ヤンデレ
言うまでもなく病みとデレの要素が合わさった造語で、好きな異性に対して病的なまでに重い愛を持ち、場合によってはパラフィリアにまで陥ってることもある。その愛の障壁になるものは徹底的に排除しようとし、殺人をも厭わない。
これらの要素を俯瞰してみると一見ただのキ○ガイのようにしか見えないかもしれないが、その重すぎる愛が一部の人間には好意的に受け入れられ、近年アニメやゲームのキャラなどに登場する機会が増えている。かく言う俺も彼女と出会うまではヤンデレが好きな人間の一人だった。そう、彼女と出会うまでは。
薄っぺらい頭を総動員してでも俺は考えてみるべきだった。一体ヤンデレの何が良かったのだろうか。毎朝毎朝布団の中に侵入され、何度家の鍵を変えてもヤンデレ特有の超技術により破られ、挙げ句の果てには家の中に大量の盗聴機まで仕掛けられる(今月だけでもすでに複数個発見されている)。今だって俺の席の真後ろからじーっとこちらを凝視している(何故か知らないが彼女、席替えのくじ引きの時に必ず俺の席の真後ろを引き当てる)。こんな生活を続けていたらそりゃ相手がクレオパトラだろうと小野小町だろうと3日で見るのも嫌になるだろう。とにかく俺は彼女の行動にうんざりしていた。
鬱屈な気分で数学の授業を終えて昼食の時間となり、俺は売店近くの自販機の前まで来ていた。なけなしの所持金を投入し、迷わずカフェラテのボタンを押す。別に微糖やブラックが飲めない訳ではないのだが、今はどんよりした気分を振り払おうととにかく甘いものに逃げたかった。自販機はガシャコンッと無愛想に商品を吐き出す。自販機からカフェラテを取り出すと、
「あ、泰希も自販来てたんだ」
横から見知った茶っ毛の髪をした人物に話しかけられた。彼女は氷島巴。俺と同じ2-Cの生徒で、高校入学以来の友達だ。容姿は肩ほどまで伸びた髪になぜだか校内にも関わらずいつもハンチング帽を被っている。
「校内なんだから外せよ、その帽子」
「やーだよ。それより何買ったの?」
「ん、カフェオレ」
巴はそう聞くと財布から硬貨を投入して、ブラックコーヒーのボタンを押す。
「ふふ、僕の方が大人だね」
「変なとこで意地張るなお前・・・・・・」
そう言うと巴はブラックコーヒーの缶のプルタブを開けて軽く口にする。だが、態度とは別にその表情は苦々しげであった。いや、飲めないなら無理して買うなよ。
「それよりお昼まだでしょ? 一緒にどうかな?」
「あぁいいぞ。ちょうど一人で寂しくしてたところだしな」
そう言って俺らは教室に戻って弁当をとりに行き、ランチルームへと向かった。この学校には昼食をとれる場所がいくつかある。このランチルームはそのなかでも回りくどい場所にあるせいか、利用する生徒はあまり多くない。当然、俺がここを選んだのにも理由がある。
「・・・・・・よし! いないな」
無論、あのヤンデレを避けるためである。彼女は生徒会に所属していて、確か今日この時間は打ち合わせで会議室にいる筈だ。俺は念のため入り口の横の壁に張り付き、そっと中の様子を見渡したが、彼女の姿は見当たらない。
「そんな恐い形相してどうしたの泰希?」
俺の一連の動作を見ていた巴は変質者を見るかのような目をしていた。
「え、あ、いやぁえーと・・・・・・あれだよ、メタルギアのスネークの真似! この間一緒にゲームでやっただろ?」
「あぁあれか。泰希はホントにゲーム馬鹿だね」
「お前だってよくウチにやりにくる癖に」
「まぁね。今日やりに行っていい? 続き気になるし」
「いいけど勉強大丈夫か? もうすぐ期末試験だし」
「・・・・・・せめて赤点取らないように頑張るよ」
そんな雑談をしながら俺達は椅子に座り弁当の小包を開く。高校が実家から遠いため、俺は近くのアパートを借りて登校している。そのせいで弁当は前日の夜に前もって作らなければならなかった。生憎料理人を目指しているため、毎夜弁当を作るのにそこまで苦心することはない。丹精込めた弁当に今日も向き合おうと、俺は弁当の蓋を開けた。そして気づく。
――これ、中身違くね?
自分の作った品だ。当然それぞれ何を作ったのかは覚えている。確か昨日はキャベツとさんまの春巻きに味噌きんぴら、マカロニサラダ、メインに豆腐ハンバーグのヘルシー路線で作った筈だ。だが、しかし、弁当の中身は明らかにそれとは異なっていた。唐揚げ、マカロニサラダ、卵焼きなどの弁当の定番の品を中心に彩られ、インパクトは無くとも素朴な華やかさが弁当の中に散りばめられていた。俺はもしかしたら誤って別の人の弁当を持ってきたのかもしれない。よく見ると弁当の箱もフォルムや色は似ていたが、俺が愛用してるのとは微妙に違う。途端に焦燥感が体を襲い始めた。
(どうする・・・・・・ 教室に戻って元の弁当の持ち主を探すか? いや、そうなるとその後俺の弁当を探す時間もあるわけだから確実に昼食の時間が終わって腹ペコのまま午後の部を過ごすことになる・・・・・・! というかそれ以前に教室で「この弁当誰のーーーーー?」とか恥ずかしすぎるだろ!)
どうにかこうにか思考を回転させて解決案を探し出す。ある筈だ・・・・・・超速で弁当の持ち主を探しだして且つ超速で俺の弁当を見つけ出す方法・・・・・・!
『該当する候補がありません』
無慈悲な脳内検索の結果、俺は考えることをやめた。謝ろう。後で弁当の持ち主に全力で土下座しよう。そうして持ち主不明の弁当に手をかけようとすると
ピロリンッ
携帯からメールの着信が鳴った。昼食中に携帯が鳴るなんて珍しいなと思いつつ、俺は持っていた箸を置いて携帯を確認した。えーと、差出人は白露麻・・・・・・え?
俺は思わず携帯をぶん投げたい衝動に駆られたがどうにか踏みとどまった。というかなんでこいつ俺のメアド知ってるんだよ・・・・・・。恐る恐るメールを開き、その内容を確認すると
『ヤッホーヤス君! ちょうど今生徒会の会議が終わったよ(^-^) これからお昼なんだけど一緒にどうかな?』
――パタンッ
俺は携帯を閉じた。うん、俺は何も見ていないしメールなんか来てない。こんなの後で『ごめん寝てた』って返信しておけば取り敢えず済む話だ。昼食中に寝てたとか嘘でもなんか悲しいな。
俺は今度こそ弁当のオカズに手をかけようと再び箸を握ると
ピロリンッ
またもやメールの着信音が鳴った。無視だ無視。
ピロリンッ
ピロリンッ
ピロリンッ
「だああああああッ!!!」
「えっ、ちょ、泰希いきなりどうしたの?」
「フーッ・・・・・・ふふ・・・・・・・・・大丈夫だ、問題ない。ちょっと唐突に携帯破壊しちゃいたい症候群を患っちゃっただけさ」
「そんな病気初めて聞いたよ!?」
「お前も患ったことあるだろ? 友達からメール来たと思ったらAmazonからだった時とかさ」
「例が悲しすぎるよ・・・・・・それよりさっきから着信鳴ってるけど大丈夫なの?」
巴に言われて渋々携帯を開く。メールは複数個(当然同一人物から)来ており一番最新のやつを開く。メールには
『ねぇ どうして返事してくれないの? 酷いよヤス君
本当は気付いてるんでしょ?
早く返事してよ』
ヒッ・・・・・・。思わず身の危険を感じた。というかさっきのメールと温度差ありすぎるだろ。
このままではBAD ENDまっしぐらだと思い、取り敢えず『ランチルームにいます』とだけ返しといた。
メールはすぐに返ってきて『すぐにいくね\(^∇^)/』とだけ書かれていた。取り敢えず包丁ENDだけは避けられたようだな・・・・・・。
数分後、ランチルームの扉がガラッと音を立てて開かれた。
「お待たせ。待たせちゃってごめんね泰希君」
周りからの視線をものともせずに白露は堂々とこちらに来て、俺の隣に座った。
彼女は学校内では決して優等生の仮面を外さない。ゆえに俺のこともヤス君ではなく泰希君と呼んでくる。
元々彼女には不可思議な点が多く存在する。まず何より彼女は何故俺にこんなにも靡いているのだろうか。俺と彼女に接点はあまり存在しない。彼女は二年に進級したと同時にこの学校に編入し、その後何度か会話を交わした程度だが、いつの間にか勝手に家に侵入する程度に靡いていた。
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!俺はクラスに編入してきた美少女に話し掛けられて薔薇色気分だったが、気付いたら彼女は家に侵入する程度にまでなっていた。
何を言ってるのかわからねーと思うが自分でも本当に分からない。
「あれ? 白露さんも泰希とお昼約束してたの?」
「ええ。私、泰希君と席が近くて仲良いからお昼もよく一緒に食べてるの」
「そっか〜、なんかごめんね。二人の仲邪魔しちゃってるみたいで」
「ふふ、そんな遠慮しないで大丈夫よ」
花も恥じらう女子二人の会話に混じることもなく、俺はせっせと箸を進めていた。というかこの弁当やたらと美味いな。出し汁のよくきいた卵焼きは、口に入れると優しくふんわりとした食感が広がり、甘味もほどほどに抑えられている。作ってから時間が経っている筈の唐揚げは、カリッとした衣と鶏肉の柔らかさが十分健在しており、咀嚼するごとに肉汁が溢れでる。何というか、作った人物の技量と愛を感じさせる料理だ。長年経験を積んだママさんでもここまでの味はなかなか出せないだろう。つか俺より全然上手だった。
ピロリンッ
メールの着信が鳴った。
制服のズボンから携帯を取りだしメールを確認すると
『私のお弁当
美味しい(^_^)?』
――白露からだった
。慌てて隣を振り向くと、白露と巴は相変わらず雑談に花を咲かせている――――が、よく見ると白露の机の下でこっそり携帯が操作されていた。巴との雑談をしつつ右手で弁当の箸を進め、左手で携帯の操作をするという、横から見ると大変シュールな状況だ。
『ヤス君返事〜ヽ(`□´)ノ』
催促されて俺もメールを打つ。
『この弁当、白露さんのなんですか?』
『そうだよーヽ(^∇^)ノ』
『えーと・・・・・・、因みに俺の弁当が何処にあるかご存知で?』
『今私が食べてるよ〜(^^) ヤス君は料理が上手だなぁ』
よく見ると白露の箸の先にあるのは、俺が作った料理の品々だった。
『いやいや何勝手に人の弁当と交換してるんですか!?』
『? 好きな人同士でおかず交換とかは定番じゃないかなー?』
弁当ごと交換するのは世界でアンタだけだよ・・・・・・。
怒っていいのか呆れるべきなのかも分からず、俺は携帯の画面に溜め息を吐いていた。
「どうしたの泰希? そんな疲れたような顔して携帯見つめてさ。また携帯破壊しちゃいたい病?」
そんな俺の表情を察してか、巴は心底不思議そうな声で話しかけてきた。
「今のは携帯破壊しちゃいたい病などではない・・・・・・携帯逆パカしちゃいたい病だ」
「違いが分からないよ・・・・・・。というかご飯食べてる時に携帯なんて行儀悪いよ?」
「何だよ。お前だってさっき飯食ってる時に話してただろ。それだって十分行儀悪いぞ」
ちなみに今俺も飯食いながら話してるから多分同罪。
「え・・・・・・あ、えーと・・・・・・それはそうだけどさ」
巴はバツの悪そうに戸惑いつつも必死に言葉を探している。
「あ、えーと・・・・・・それよりさ!今日っていつ頃泰希の家に行けばいいの? さっき聞いてなかったからさ」「そういや決めてなかったな。まぁいつでもいいぞ」
言い終わった途端に隣の白露からグイグイと制服の袖を引かれる。白露は妙に困ったような顔をして携帯を見せてきた。
『巴さんとお家で何するの?』
わざわざ携帯で見せてきたことからして、どうやら口頭では話したくないようだ。合わせるように俺も携帯に文字を打ち込み
『単に家でゲームするだけですよ』
見せると同時に白露も、か細い指から想像も出来ない速さで文字を打ち込む。
『浮気とかしちゃ駄目だよ?』
いやだから浮気ってなんだよ・・・・・・。




