ロリコンクエスト レジェンド・オブ・ロリコン オメガ!
勇者青木と、その一行はコスモ荘の二階、207号室の前にいた。
「ここが悪魔巣窟かああああああああああああ!!」
勇者青木は扉の横にある、ネームプレートを見上げた。――村田。どうやらここで間違いないようだ。
賢者大西はいった。「オメガオメガ!」
「しゃああああああああああああああああああ!! でもよ、なんか寂しいぜ」
そう言って、青木は仲間たちの顔をゆっくりと見回す。
賢者大西、本年九歳を迎えるこの少年は、あどけない容姿とは裏腹に、数々の知略をもって勇者を支えてきた。
戦士大石、勇者一行の年長者でパーティの精神的支柱となって働いてくれた。名前の通り魔法の使えない戦士だったが、つい最近三十を迎え、魔法を使えるようになった。彼の魔法は怨念のこもった闇魔法で、とても強力だ。
ネット忍者大竹、わずか五歳にして天才ハッカーと呼ばれた少女。某サイトで多数のロリコンを釣り上げ、逮捕に至った。彼女の助力なしでは、レジェンド・オブ・ロリコン村田の居場所を突き止められなかっただろう。
ああ、トイレに行きたくなってきた。
ふいに目頭が熱くなった。目には涙が溜まっている。勇者青木はそれを悟られぬよう仲間たちに背を向けていい放った。
「しゃああああああああああああああ!! 乗り込むぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「おいーす!」
三人の声が重なる。
勇者青木は207号室の扉を開ける。
「邪魔するぜ!」
四人は口々に告げて、部屋の中に進み入る。やがてドアに突き当たった。勇者青木は、それを恐る恐る開ける。
「――だ、誰!! 君たちは!?」
部屋の奥の安楽椅子に座っている男が叫んだ。でっぷりと肥え太っており、脂っけのある髪は黒くてかっていた。鼻は赤く、異様に大きい。鬼の鼻を盗んで、顔の真ん中に据えたのではないかと思うほどだった。
「おれの名前は青木だああああああああああああ!」
勇者青木は部屋を見渡す。
うずたかく積まれた雑誌類、多数のペットボトルにカップ麺の容器、灰皿に山盛りになったタバコ、ゴミ箱からは溢れかえった多数のゴミが散らばっている。とにかく臭い部屋だった。
青木は顔をしかめた。「汚ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
戦士大石がわざとらしく咳払いをした。「俺の部屋もこんなもんだけどな」
「見損なったぞ」
勇者青木は村田を見据えた。村田はわなわなと震えながら、勇者青木を指差す。
「オメガ!」
「そんなの知らない」勇者青木は村田に飛びかかった。「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええええええ村田!」
次の瞬間、勇者青木の視界に火花が散った。腹部に鈍い痛みがある。村田の拳が腹にめり込んでいた。
「ロリコン界のカブトガニと呼ばれたこの俺を、そう簡単に倒せるとでも思ったか」
村田はそのまま、勇者青木を突き飛ばした。勇者青木は壁に強く叩きつけられる。そしてそのまま意識を失った。
「村田ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
賢者大西は術の詠唱を開始する。しかしそれは背後からの強い力によって中断させられた。床に押し付けられるかたちになった賢者大西は、その相手を見て慄然とした。
「オメガ。オメガ」
「ネット忍者大竹はオネンネしている。悪いな」
「オメガ!」吐き気にも似た怒りを、賢者大西は吐き出した。「オメガ!?」
「おまえには一生わからないさ」
戦士大石は賢者大西の右手にナイフを突き刺した。
「のわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
賢者大西は部屋中に響く凄まじい悲鳴をあげた。血が床を赤く染めていく。賢者大西はあまりの痛みと恐怖に意識を手放した。
「ふん。案外脆いもんだな」
「ブラボー!」村田は戦士大石に拍手を送った。「君もこちら側の人間だったのだな」
戦士大石は黙って村田に歩み寄った。村田は手を右手差し出す。どうやら握手をしてほしいらしい。
村田が邪悪な笑みを浮かべた。「今日からおまえも俺のブラザーだ」
「だがおまえも許さない」
「え?」
戦士大石の闇魔法、悪者菌時砲が村田の心臓を貫いた。
「どうして……? なぜ……だ……?」
村田の声は掠れている。もう長くはないだろう。
「今日の夕食は神飯だ」
戦士大石は村田家を後にした。