ラジカリスト
『ブーン、ブーン、ブーン』
どこかで籠もった羽音を出す生物は、俺自身の危機を曖昧に伝える。
聞き覚えがある。おそらく蜂。テレビの裏からだ。
俺はスズメバチに刺されたことがあり、アナフィラキシーの危険性がある。
提案は一つ。
蜂を再起不能にする。
殺られる前に、殺れ。
だから、俺は蜂を殺した。
『ザー、またまた盗、ザー、失敗。ザー、ことご、ザー、ンスを潰されます』
ノイズ混じりの映り損ないを見せてくるテレビは、応援しているチームの危機を曖昧に伝えた。
現在は野球のナイター中継を観戦している。
相手チームのキャッチャーが堅守を誇り、ランナーが盗塁ができない。
刺されて、殺られてしまう。
俺は考えた。どうしたら、応援しているチームが勝てるのか。
方法は二つある。
打席に入ったキャッチャーへのデッドボール。
殺られる前に、殺れ。
ホームベースを守るキャッチャーに体当たり。
殺られる前に、殺れ。
実に効果的だと、俺は思う。だから、俺はチームの監督宛てに、そのことを伝えた。
その次の日。
やはりランナーは刺された。
『昨夜未明、ザー、国……から、ザー、ミサイル……が、ザー……』
ノイズ混じりの映り損ないを見せてくるテレビは、自国の危機を曖昧に伝えた。これは未曾有の事態だ。冗談では済まない。国の存亡に関わる。
俺は平和ボケの能天気な、この国の人種とは違う。
メディアや専門家が報じる有りがちな批判や分析なんかよりも、ずっと危惧している。
国に何ができる?
中途半端な制裁や、嘗められっぱなしで終わるであろう話合いに意味があるのか?
はっきり言って愚鈍な行為だ。身なりだけは立派な警察よりも質が悪い。
だから自分の身は自分で守るのだ。
具体的な案を出すと次の選択肢が浮かぶ。
独裁者の暗殺。
殺られる前に、殺れ。
武力による制裁。
殺られる前に、殺れ。
しかし、そんな愚策が実現するはずがない。
結果として、駆け巡る不安や激情を止められない。
追い払うことのできない恐怖。
だが、ふとした瞬間に俺は気付いた。もう一つだけ方法があると。
それで全てが解決するのだ。俺の中では。
だから、飛び降りた。
――殺られる前に、殺れ。
文学なのかは分かりませんが、一応そうしました。