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005 World started to move

ギルバートは一人で夜の黒に塗りつぶされた裏路地の闇の中を歩いていた。


「……いい加減出てこいよ。下手な尾行なんかしやがって……バレバレだっつーの」


くるっとギルバートが背後を振り返ると、建物の影の中から2人組の男がでてきた。

片方は腕に巻きつけるようにして水を流しながら自分の能力を見せつけてくる長身の男で、もう片方は獣のような体毛に鋭い爪、牙を持つ獣男だった。


「ハハッ。いつからきづいてたんだい?これでも僕らは結構尾行がうまい方だと自負していたんだけどね」


「最初からだ、バカが。大方スーパーから出てきた俺が金を持っていると踏んだんだろうが…。生憎だな、俺は金なんてもっちゃいねぇ。丁度いいからかかってこいよ、今の俺は気分が悪いんだ。ぶちのめしてやらぁ」


拳から炎をまき散らしながらギルバートは相手に手を向けてクイクイッとかかってくるように手の掌を自分の方に数度折り曲げて挑発する。


「へぇ…。いい度胸だね。でも相手が悪いよ、君。僕の能力は水。火ごときが僕に勝てるわけ無いじゃないか。痛い目をみないうちに膝をついて謝ったらどうだい?」


「ヘヘヘッ。そうだ、わりぃこたぁいわねぇから俺たちに許しをこいな。今ならその生意気な面に拳をブチ込むだけでゆるしてやるぜぇ?」


「ハッ、バカが。ワン公はそこらの電柱にでも小便しとけ。そっちのキザったらしいお前もかかってきたらどうなんだ?いくら賢そうな言葉使いをしてもそのバカ面はかくせねぇぞ」


「てめぇ!野郎ちょうしにのりやがってぇ!」


獣男のニヤニヤとした顔が怒気で一気に茹であがるように真っ赤に染まり、水使いの男が目をむきだして怒鳴る。

獣男が強靭な脚力を使ってすぐに肉薄してきたが、ギルバートは下から救いあげるような見事なアッパーを獣男に返し、のけ反って無防備になった胴体に真っ赤な炎をまき散らす拳を叩きこんだ。

炎を纏った拳はやすやすと獣男を吹き飛ばし、拳が当たった獣男の胴体には拳の跡が焦げとなって焼きついていた。


「っけ、雑魚が…。……おい、どうしたよ。てめぇのペットのわんちゃんはおねんねしたぜ。お前も一緒にあそこでおねんねするか?ん?」


一瞬で倒された味方に唖然としている水使いだったが、ギルバートの言葉で直ぐに頭に血が上り、自分の能力を使い始めた。

腕に巻きつくようにして流れていた水は腕から離れ、まるで鞭のようにしなったあと、鋭い先端をつくりギルバートめがけて飛んでくる。

無限に伸び、思い通りにしなり、蛇のように素早く動く自分の必殺技が決まったとおもった水使いは口元にニヤァッとした笑みを浮かべ、ギルバートをみるが、ギルバートもまたニヤッと笑みをうかべていた。

一瞬怪訝に思った水使いだったが、ギルバートに避ける気配が無いことに気付き、勝ったと確信した。

しなる水の槍がギルバートの頭に当たると思った瞬間、その水の槍はギルバートによって掴まれて一瞬で蒸発した。


「な!なぜだ!貴様は火だろう!なぜ水がおまえにきかない!」


「ハッ。お前勘違いしてるぜ。俺は『炎』使いだ。ちんけな水鉄砲なんかじゃ俺の炎はけせねぇよ」


そういうギルバートは拳の炎を一際大きくし、拳を覆い尽くすほどの炎のグローブをつくり、一瞬で接近してうろたえる水使いの腹の中心に拳をブチ込んだ。

全体重を乗せた炎のパンチの威力に体をくの字におれさせて吹っ飛んだ水使いは、そのまま裏路地の壁に叩きつけられてズルズルと汚水や埃で汚れた地面に横たわる。


「ケッ。バカが。もうちょっと成長してから出直せ、雑魚」


最後に一瞥したギルバートは、2人の男の懐から財布を抜き取り、中の金を抜き取ると空になった財布をぞんざいに投げて返してその場から立ち去ったのだった。




「ただいま」


新しい住居となった場所に帰ってきたギルバートはソファにどっかりと腰を下ろした。


「おそかったじゃない。先に帰ったはずなのにどこにいってたの?」


「ん、あぁ。なんかゴチャゴチャうるせぇ奴が絡んできたからぶっ飛ばしてきた。はい、お小遣い」


「ん、そう。お疲れさま。今までの分はなくなっちゃったし、貯めておくわね」


そういう世界で生きてきたシェイラは綺麗事だけで生きていけないことはとっくに分かっているのでそのお金を当然のように受け取り、家の中に残っていたのだろう黒い財布にそれをしまった。


「あぁそうそう。ご飯だけどさきにたべちゃったわよ。まだ残ってるから後で食べておいてね」


「りょーかい」


そう答えたギルバートはよいしょとソファから腰を上げ、テーブルの上に置かれている缶詰めからスパム缶を一つ選び、それをあけてペロリと平らげた。

余分な油は特に使い道もないので排水溝にそのまま流し、来た時には通って無かった水道が使えるようになっていたので、シンクに残ったカスを流す。

空き缶をゴミ箱に投げ入れたギルバートは、対して膨れなかった腹をさすりながらまたソファに座りなおす。

それを見ていた剛毅は、特にやることも無いのであることを思い出して、自分の首筋に手を当てた。

手を首筋にあてると、皮膚の下からは多少ゴツゴツとした違和感がある。

その違和感の正体はアビリターの体に埋め込むタイプの追跡装置だった。

連れてこられた眠っている時に埋め込まれていたのか、施設で見た映像で説明をうけてようやく気付けたぐらいだった。

アビリターの行動を把握するという名目で付けられているだけで、激しく動きまわっても問題なく、人体に何らかの悪影響を及ぼすものではないのだが、ふとした拍子に違和感をかすかに感じるので剛毅はどうも気に入らない。

それに、まるで自分が政府に管理されているペットの様な気もしてきて剛毅は余計にこの機械のことが気に食わなかった。

とはいえ、壊したり、とり出したらすぐさまこの機械を管理している施設に報告が行くようになっているらしいのでおいそれと手を出すわけにはいかない。

全くもって忌々しい法律を作ってくれたなぁと思う剛毅は、首筋からようやく手を離した。


「そういえば明日市街地郊外の元陸上競技場までいかないといけないんだっけか?」


ソファに座ってゆっくりとしていたギルバートがふと思い出したように声を発すると、ユリアがそれにこたえる。


「そういえばいってたね~。色々なことがありすぎて忘れてたよー。」


「まぁたしかに色々あったしね…」


ユリアの言葉に、シェイラは苦笑いを浮かべつつも、ユリアはこんなときでもマイペースなのね等と思っていた。


「で、どうするの?いくの?」


「あー。別に絶対こいと言われたわけじゃなかったしなぁ。俺はめんどうくさいんだが…」


「…いや、俺はいった方がいいと思う」


シェイラの呼びかけにギルバートは面倒くさそうに頭をポリポリとかきながら答えたが、そこにいつのまにやら部屋のドア付近の壁に寄り掛かっていたティーダが口を挟んできた。


「お、ティーダか。いつのまにそこにいたんだ?」


「ついさっきだ。それはさておき、俺たちはどうせ何も予定が無いし、この街についての情報はほとんどといっていいほどないんだ。わざわざこんな街を作ってまで俺たちを『保護』しているんだ。いきなり射殺ということはないだろう」


「…そうね。私も行ってみた方がいいと思うわ。何も知らないよりは何か少しでも情報がある方がこんな街だと安心できるからね」


「私も行ってみたいなー。同じ境遇の人たちとならちょっとは仲良くなれそうだしー」


いや、それはないだろうとユリアを除く全員は思ったが、ユリアは笑顔を浮かべていて素で言っていそうなので言葉に出すことは無かった。


「剛毅はどうおもうの?なんだかさっきから黙りっぱなしだけど」


ずっと黙ったままだった剛毅に気付いたのか、シェイラが話を剛毅にふる。


「ん~…。そうだなぁ。まぁなんだか怪しい気はするけど、流石に命がかかるということは無いだろうし、別にいいんじゃない?」


剛毅は少しだけ、なんだか面倒くさそうなことになりそうな予感がしたが、とくに気にしないことにして、賛成の方に回った。


「なんだよー。俺一人だけ仲間はずれかよー。まぁいいわ。どうせ俺も家にいたって暇だろうしついていくことにする」


一人だけ反対の方に回っていたギルバートも他の全員が賛成側に回ったので、一人だけのお留守番を嫌って賛成側へと旗色を変えた。

翌日、全員で元陸上競技場に行くことにした剛毅達は、それぞれが掛け布団などが無いマットレスがむき出しのベッドに横になって眠った。




翌日、広場までわいわいと雑談をしながら徒歩で向かっていた一行は、広場についてから驚いた。

それもそのはずで、体格も人種も雑多な人々が広場に集まっていて、しかもそのすべてがアビリターというのだから驚くのも無理は無い。

呼ばれているのが自分たちだけではないだろうと思っていた剛毅達も流石にこの人数には驚いた。

ざっと見渡して約2000人OVER。

到着してから見た競技場案内看板によると、まだ第二・第三競技場があるのでもしかしたら6000人は超えているのかも知れなかった。

これほどの人数を集めてどうするのだろうと思う剛毅達だったが、周りの人々は適当にそこらへんに座っていたりするので、とりあえず腰を下ろそうということにした。


「それにしても多いな。さすがにこの人数は予想外だった」


「そうだねー。こんなに人集めてどうするんだろ?」


「さぁな…。なんにしろ、奴らがこんな街に俺たちを閉じ込めている時点で、手放しで喜べるようなことが起きるとは思えん」


ティーダの一言にそれもそうだと全員がうなずくと、ちょうど競技場のスピーカーから音声が流れ始めた。


と、同時に競技場のスタンド付近に作られている台の上に立ってマイクを軽く叩いている男性の姿が見えた。


「あ、あー、テステス…。ん、…皆さんおはようございます。私はアビリター特別保護区域『特区』の責任者のマイク・ダグラスです。今日皆さんに集まってもらったのは、お願いがあるからです。それは、皆さんに軍に入ってもらいたいというものです。もちろん、軍に属していただけば、任務内容に見合った給料や様々なサービスを提供しますし、安全な住居も個人に贈与いたします。ですが、それと引き換えに色々と制約も課せられます。犯罪を犯せば軽犯罪以外は全て死刑、出動時には危険な任務が与えられますし、国家には忠誠をつくすことを誓ってもらいます。入隊してしばらくの間は、訓練期間として軍の施設にしばらく入ってもらうことになりますが、そこでもこの制約は課せられます。もちろん訓練機関でも給料はうけとることができます。ですがもし、軍に入りたくないという方がいても問題はありません。ただし、その場合は当然給料も出ませんし、安全で快適な環境というのも提供できません。」


「皆さん方アビリターは、今非常に微妙な位置にいます。」


剛毅は微妙どころか今は最悪な位置にいるじゃないかと心の中で思っていた。


「アビリターの皆さんには、一般の人が持つことが出来ない特殊な能力が備わっています。その力は個人個人によって性質も影響の大きさも様々ですが、悪用をすれば危険なものであることに変わりはありません。今現在、アビリターの能力の使用に関して適正な法というものが整備されていません。だからこそ、私を含む一般の方々はその能力に畏怖し、自分達と違うものということで排除しようとしてしまいます。私もアビリターの全員が危険だとは思っていませんが、そういう風に考える人たちが大勢おり、世論がそういう風に動いてしまうことをお許しください。今はまだ大規模な犯罪が起きていないので大きな動きはありませんが、もしひとたび間違いが起きてしまうと一気に人々の感情の堤防は決壊し、中世ヨーロッパで起きた魔女狩りが再び行われかねません。だからこそ、アビリターの皆さんには軍に所属し活躍をすることで、今にも崩れかねない危うい立ち位置を確固たるものとして欲しいのです。重ねて言いますが、これは強制ではありません。あくまで自由意思によるものです。……それでは、最後になりましたが、皆さんが良いご決断をなされることを私は心から祈っています。今日は集まっていただき本当にありがとうございました。」


そういってマイク・ダグラスが深々と頭を下げてから台を降りた後、入れ替わるようにして黒いスーツに黒いサングラスをかけた男がマイクを握った。


「さきほどの話を聞いて、軍に属してみたい方、詳細を聞きたいという方はここから数分歩いた先の第三競技場奥の広場にテントが複数あるので、そこで話や手続きを受けてください。それでは、皆様本日はお集まりいただきありがとうございました。これにて解散とさせていただきます。」


スーツにサングラスの男はそれだけいうと台の上で一礼し、それからマイクとスタンドを持って台の上から下りて行った。


「はぁ…。また面倒なことになったなぁ。軍に入れってか。どする?」


ギルバートがあからさまにため息をつき、首だけをくるりと回して後ろを振り返ると、そこにいる剛毅達に尋ねる。


「ふむ……俺は反対だな……。邪魔な俺たちをわざわざ起用するだなど、俺たちを兵器として前線で酷使するためとしか考えられんな。国に捕らえられた俺達がその国のために命を賭す……俺はゴメンだ。…とはいえ、先立つものが無いし、この街での稼ぎ方も分からないのは事実だ。俺としては中立。お前たちの意見に従うとしよう。」


ティーダはそれだけ言ったあと、木陰に移動すると木に背を預けて座り込んだ。


「ふーん、ティーダは中立…ね。私もどっちでもいいんだけど…。やっぱりお金とかこれからのことを考えると、軍に入った方がいいのかなぁ…。私は一応賛成ってことにしとくわ」


「シェイラちゃんは賛成かー。私はせっかく綺麗にしたここを離れるのはイヤかなー。それに軍に入っちゃうと制約とかで自由が無くなりそうだし…。まだまだ色々と大変だとは思うけど、皆で力を合わせたらなんとかなるよー」


「ふむふむ、ティーダが中立、シェイラが賛成、ユリアが反対か。こりゃまた綺麗に分かれたもんだな。んで?剛毅はどうするよ?」


シェイラが金銭面の問題で軍属賛成派。ユリアが生活面で反対派といった具合に別れるのを聞いたギルバートが残った剛毅の意見を求める。


「あー。俺は賛成かな。やっぱりどうしても金は必要になるだろうからなぁ。…でも、軍にシェイラとユリアを入れるのには反対だな。俺のイメージでしかないけど、男の比率が高いところに2人を入れて、襲われないとは言えないからな。2人はこの街にとどまるべきだと俺は思う。」


「なるほどな。たしかにそりゃあるだろうな。たまに軍がレイプやらなんやらで問題になることがあるしな。剛毅の言うとおりにした方がいいかもしれん。ちなみに俺個人の意見を言わせてもらうと、賛成だ。ただ、俺も剛毅の意見に賛成で2人は絶対に残す。でも、それだとこの街で暮らすことになる2人が心配だから、ティーダに残ってもらいたいんだが、ティーダはそれでいいか?」


「かまわん。もとより俺は軍属反対派だ。金銭面でどうにかなるなら問題はない。2人のことは俺が責任を持ってまもろう。」


「すまんな、ティーダ。まぁ訓練施設に入るったって休日でもどってくるぐらいできんだろ。」


「ちょ、ちょっと!じゃぁギルと剛毅の2人だけで軍に行くっていうの!?」


「それしかないのは分かってるだろ?それにお前たちはもう一度未遂とはいえ、襲われかけてるだろうが。俺としては目の届かなくなる可能性のある場所にお前たちを入れるわけにはいかねぇ。」


ギルバートの断固とした意思が込められた視線を向けられたシェイラは、なにも反論することが出来なくなって口を閉ざす。


「じゃぁ休日になったらちゃんと帰ってきなさいよ!そっちで遊び呆けていたら絶対に許さないわよ!」


「ハハハ。そりゃ絶対に帰ってこなきゃだめだな。シェイラを怒らすと後が怖いからなぁ。」


「剛毅!あんたもよ!あんたも遊び呆けて戻ってこなかったらヒドイ目にあわすからね」


他人ごとだと思ってギルバートとシェイラの会話に笑っていた剛毅は、シェイラの言葉にその場でビシッと固まり、その様子を見られた皆に笑われることになったのだった。


さて、ということで5話が終了したところで、これからの進め方について説明いたします。

第二章は基本的に剛毅とギルバートとこれから出てくる人達で織りなす軍務編という感じになります。

なるべく軍っぽくしたいとは思いますが、私が軍の内部を把握していない&あまりきつくしすぎたら進めにくいということで自分なりに適当に設定作りながら進めていきます。

なので分かりづらいとこがあったら質問してください。なるべく早くお答えします。

そして、街に残ることになる3人ですが、こっちは第二章番外編といった感じで、第二章本編が済んだあとにお送りするつもりです。

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