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003 A dangerous world

「離せ!離せっつってんだろ!このくそったれがァ!!」


「ギル!くそがッ!なんだってんだよ、こいつら!離せ!はなせよ!このクソ野郎!」


剛毅を含むギルバート達5人は現在、工場跡にガスマスクを装着して乗り込んできた特殊部隊風の男たちによって、コンクリートがむき出しの冷たくて固い床に頬を押しつけられていた。


「悪いな、坊主。これも仕事なんだ」


それだけ言葉を発すると、男たちはそれぞれが懐から銃の形を模した注射器を取り出し、剛毅達それぞれの首筋に密着させると引き金をひいた。

プシュッと軽い音を立てて発射された針は、すぐに血中に薬を流し込み、剛毅達の意識を暗闇の底へと引きずり込んだ。

剛毅達が完全に眠りに落ちたのを確認した男たちはボストンバッグにいれて持ってきていた手錠や縄、轡、目隠しを取り出して剛毅達にかけていった。

完全に体を拘束された剛毅達は男たちに肩に担がれるようにして建物の外へと運ばれ、いつのまにか正面に来ていた黒塗りの護送車に放り込まれた。

護送車の頑丈な扉を2重のカギで厳重にロックしたあとは、男たちも護送車の運転席側へと乗り込んで車を動かし始める。

低いエンジン音を響かせる護送車は工場跡にその音を大きく響かせ、すぐに工場跡から去っていった。




剛毅達が見ず知らずの特殊部隊風の男たちに連れ去られる少し前、ギルバート達との出会いから3年弱が過ぎた剛毅は皆とすっかり打ち解けるようになり、同年代ではあるが自分を拾ってくれたギルバートを兄貴分として慕い、時には親友として笑い合い、口調もどことなく似るほどになっていた。

そんな剛毅とギルバートは工場跡の中でギルバートとポーカーに興じている最中だった。


「よし!きたきた!ストレートフラッシュ!これならギルも敵わないだろ!」


「ふっふっふっ…。甘いな剛毅…!見よ!我が必殺のロイヤルストレートフラッシュ!」


「ちょ…!えぇ…!?」


「甘いな、剛毅。まだまだ修行が足りないな。それじゃ今晩のおかずはもらったぞ!」


「ちっくしょぉぉおおおお」と悶える剛毅をしり目に、トイレへ行くと言って席を立ったギルバートは、部屋のソファーに座って聖書を読んでいるティーダのそばを通る時にその腕を掴まれた。


「ど、どうした、ティーダ?用でもあるのか?」


「お前こそどうした?ギルバート、声が裏返っているぞ」


「そ、そんなことねぇよ。悪いけどトイレに行きたいから離してくれ」


「…ふっ、そうか。引きとめて悪かったな。いってくるといい」


そういったティーダにギルバートは一安心し、次の瞬間にまさに目にもとまらぬ速さで動いたティーダの手によって、ギルバートの袖口が叩かれた。

バササッと音を立てて袖口から滑り落ちたのはトランプのカードで、そのどれもが役にも立たないようなカードばかりだった。


「おっと、すまないギルバート。たまたま手が当たったようだ」


「うそつけぇ!能力使ってたまたまって言い張るなんて白々しいぞ!」


「あー!ギルバート!いかさましやがったな!」


「グッ…ばれたか…!…えぇい!騙されるお前が悪い!男ならそんなちっちぇこときにすんな!」


「それとこれとは話が別だろうがーー!」


自身の能力である身体能力強化系の中の一つ『高速で行動出来る』という力を使ってギルバートの袖口を素早く叩いたティーダは、白々しく言葉を発した。

自分のいかさまをばらされたギルバートは思わず声を大きくしてティーダに突っ込むが、その声を聞いて、ギルバートの足元に散らばる数枚のカードを見た剛毅がギルバートに喰ってかかる。

つい数カ月前開花したばかりの自分の能力である異能系の『炎』を拳に纏った剛毅の一撃が、ギルバートの顔面に迫る。

剛毅と似た能力の持ち主のギルバートが、同じように手の平に炎を纏うとその一撃を危なげなく受け止めた。


「フッまだまだ青いな剛毅!いくら不意打ちとはいえこんな一撃では俺を倒すことはできないぞッ!?いてぇ!?」


そのまま不敵な笑みを浮かべたギルバートだったが、ふいに後ろから飛んできて後頭部に来た衝撃によって体ごと前のめりになってこけそうになる。


「部屋の中で!あんたらの能力使うなっていってるでしょうがぁ!」


同じく続けて飛んできた物体に剛毅も見事にクリーンヒットして、前景になったギルバートの背後が見れたのも一瞬で、すぐにやってきた痛みに顔を抑える。


「燃えたらどうすんのよ!このバカ共!」


片手に氷塊を浮かべたシェイラがこめかみに青筋を浮かべて剛毅とギルバートの方を睨んでいる。

以前2人がふざけて室内で能力を使ったときにあやうく火事になるところだったのを、自分の能力の氷で防いだシェイラとしては、2人がまた室内で能力を使ったことに対して怒っていた。


「いてて…。いや、シェイラこれにはわけがあってだな…」


「男なら言い訳するんじゃないわよ!あんたの足元にトランプが散らばってるってことはいかさまか何かしたんでしょ!それに剛毅も!部屋の中で無暗に能力使うんじゃないの!」


毛を逆立てて相手を威嚇する猫のような状態のシェイラに2人はそろって正座をさせられ、その太ももの上には即席で作られた氷が重石としてドシッと乗っている。

シェイラは怒ってもすぐに何事もなかったのように振る舞うサバサバとした性格の持ち主だが、唯一の安眠できる場所を失いかねなかった前回のボヤ騒ぎで本気で怒り、3日3晩口を利かなくなったことを思い出したギルバートと剛毅はしまったなぁと思いながら黙って説教を受ける。


「だいたいあんた達はいつもいつも……!」


途中で普段の生活の中のことなどに脱線しかけて約20分以上の長さになった説教は、今日は来るのが遅れると言っていたユリアの到着でようやく終わりをつげることになった。


「あれ?どうしたのー?二人とも氷を脚に乗っけて我慢大会?」


ドアを開けてふわふわとした空気とともに現れて天然ボケをかましたユリアに、怒っていたシェイラも毒気を抜かれたのか、「気をつけてよね!」と2人に言い切ったシェイラは自室へと戻っていった。

来たばかりで何も分からないユリアはそれに?マークを浮かべていたが、まぁいっかーと思いなおすと来ていたコートを脱いで、ポールハンガーにかけた。

今日は寒いなーと言いつつユリアは、そのままとてとてと部屋の中央部に置かれていたドラム缶を利用した簡易暖炉の前でしゃがみこんで暖を取り始めた。


燃料に使われるのは灯油や炭などといった上等なものではなく、全世界規模で人間の数が減少したことで廃業に追い込まれたホテルなどの残りものだった。

管理する者がいなくなった建物はそのまま放置され、中にあった家具類も全てそのまま残されているため、それらをギルバートがありがたく拝借してきたのだ。

かつては綺麗に磨かれていた家具たちは、今では剛毅やギルバート達が暖を得るために解体されて燃料として部屋の片隅に置かれていた。


ちなみに工場跡にある全ての家具や遊具は、そうやって運び込まれたが解体されずに済んだ生き残りで、今では大事に使われている。

そんな生き残りの中の一つである座り心地のとてもいいソファにドカッと腰をかけたギルバートは、慣れない正座によってしびれた足に力をかけないようにだら~と脱力していた。

剛毅の方は日本にいたころに正座などには既に慣れていたのでそのまま平気そうに立っている。


そして剛毅は一人で暖をとっているユリアのそばにしゃがみこむと、外の寒さで冷えたユリアの頬に手を添えた。


「あったかいねぇ。剛毅もギルバートも燃料いらずの人間ホッカイロでうらやましいなぁ~」


能力で掌の温度を上げていた剛毅の手がユリアの頬を挟むと、ふにゃっとユリアが笑って気持ちよさそうにする。


「私の能力なんて剛毅達の能力がなんなのか~っていうことぐらいしか分からないから全然実用的じゃないもーん」


「いやいや、そんなことないよ。ユリアが能力者だって言ってくれなきゃ俺は信じられなかったよ」


「おい剛毅!俺があの時言ったのは信じてなかったのかよ!」


「あ、あ~…。ギルバートだからちょっとね~。いてっ!」


口を尖らせて拗ねたような口調で言ったユリアのフォローをしていると、ソファで脱力していたはずのギルバートがいつの間にか傍にいて剛毅の頭をパシンと叩いた。

その様子を見ていたユリアが「あははー」と笑ったので、剛毅は苦笑しながら再度口を開く。


「ところで今日はちょっと来るのが遅かったけど何かあったの?」


「あ、う~ん。それなんだけどね…。実は前から言われていたんだけど、お父さんがもうここに来るなって…。それで言い合いになっちゃって遅くなっちゃった…」


「う~ん、そうかぁ…。やっぱり親からしたら心配だよなぁ…」


「でも!剛毅やギル達が優しいのは私知ってるし、それを何度も説明したんだけど話も聞いてくれなくて…。それで喧嘩別れみたいな感じで飛び出してきたの…。」


「ユリア。そりゃお父さんの方が正しいぞ。お父さんから見たら俺たちはこんな工場跡にいるんだから、そこらのゴロツキなんかと一緒だと考えるのも仕方ないだろう」


目じりにちょっと涙を浮かべながらユリアはそう言うが、ギルバートが横に首を振りながら少し悲しそうに言う。


「ごめんね。皆…」


「別に…。ユリアが謝る必要はない。ユリアは俺たちがそういう奴らじゃないってことを知っている。それだけで十分だ。それに俺たちはそういう扱いを受けたとしても何ら変わりはしないんだ。それに……ユリアにはそんな悲しそうな顔は似合わない。だからユリアは笑っていてくれ」


ユリアがしゅんとした様子でぽつりとこぼすように言った言葉に対し、今まで部屋の一人掛けのソファに座って聖書を読んでいたティーダがそれをぱたんと閉じると、ユリアのところまでやってきて頭に手を置いた。


「っか~。あいかわらずキザだねぇ、ティーダは。この色男!」


「今まで何人口説いてきたんだよ!」


その様子を見ていたギルバートはなんとなく変になった空気を払拭しようとしてそれを茶化し、そして剛毅がそれに乗っかる。


「分からないな。それに出会いは俺からではなく向こうからやってくるものだしな」


それを綺麗にかわしたティーダは、カウンターとばかりにちょっとした皮肉を返してくる。


「っけ!あぁあぁイケメンっていうのは本当に羨ましい限りでございますよーだ。なぁ剛毅!」


「え?俺に同意を求められても…。そうか、ギルは自分がイケメンじゃないのを気にしていたのか。かわいそうに…」


「んだとゴルァ!やんのか剛毅!」


「へぇ!次こそ決着付けてやる!」


「望むところだコラ!かかってきやがれ!」


「うっさい!!アンタら静かにしろー!!!!!!!!!!」


またも殴り合いに発展しそうになった時、ドガンッと部屋のドアが開いて、再びのシェイラの怒声とともに氷の塊が剛毅とギルバートに叩きつけられて、2人は床に倒れることになった。

そんないつも通りの光景を見て安心したのか、ユリアの口元には少し笑みが戻っていた。




それから数時間後、ユリアが今日は家の方に戻りたくはないと言ったので4人はユリアを泊まらせていくことにして、一緒に食事をとっていた。

食事といっても、テーブルの上には缶詰めや賞味期限ぎりぎりの保存食品といったものがならんでいるだけで、手作りの料理というものはほとんどない。

手作りの料理があるといったら、ギルがどこかから持ってきた肉を串に刺して、それをドラム缶の炎で焼いたものぐらいだろう。


人類の大部分が消え去った今では、以前のようにお店にいけば惣菜コーナーに料理が並んでいて、お金さえ払えばおいしい料理が食べれるということはなくなった。

物資も乏しい今では飲食店と言えば個人経営の貧相な食堂ぐらいで、味は単調、量も少ない、しかし料金は高いという状態だ。

とうていお金などの持ちあわせがない者は街に残っているものを漁るか、なんとか野菜を自家栽培するぐらいしかない。

剛毅達は栽培をしようにも、店などに肝心の種がないためどうすることも出来ず、街を歩き回って食料を得る日々を送っている。

まさにジャングルでの一日が食料探しに追われるだけで終わるように、この廃れたコンクリートジャングルでの一日も食料探しに追われるだけで終わる。


そんな中でユリアを除く4人が日々の生活に苦しみを覚えて自殺をしないのは、幼少よりそんな厳しい日常が当たり前だったことと、仲間がいて笑あうことができるからだろう。

基本的に食料調達は男子である剛毅、ギルバート、ティーダが行い、やることは限られているが家事をするのは基本的に女子であるシェイラの担当で、ユリアは来た時にその手伝いをするぐらいだ。

シェイラ達が食料調達に出向かないのは、廃れた今の街では荒事に対する力がどうしても必要になるというのもあるが、最も大きい理由は単純に『女性』として襲われるからだ。

以前実際に襲われかけたシェイラは普段こそ強気なキャラを演じているが、実際は心の中で3人に対してとても感謝していたりする。


そして今日も一日が無事におわることに安心しつつ、5人は工場跡の中にあるそれぞれの部屋に向かう。

剛毅は5人の中で仲間になるのが最も遅かったため、工場の出口近くに設けられていた部屋をもらって寝ているのだが、たまたまその日は寝つきが悪く、浅い睡眠を繰り返していた。


そんなときに外からかすかにザッと地面を踏む音が聞こえてきて目が覚めた。


野良犬か何かが通ったのかなと寝惚ける頭で考えつつ、ふと外を見ようと思って窓に近づこうとした瞬間にガラスが砕け、部屋の中に何かが転がり込んできた。

いくつかの穴が空いた黒い筒状の物体が転がり込んできたのに気付いたが、それが何かを思い出す前にそれは目が眩むほどの光と、耳が聞こえなくなるほどの音を放って爆発した。

まだ頭が微妙に寝惚けている上に、平衡感覚まで失った剛毅の体はグラリと部屋の壁にぶつかり、そのままずるずると床に転がった。


すぐにガラスを破って入ってきた男は剛毅が逃げられないように動きを拘束しつつ、部屋の外の廊下に引きずり出した。

剛毅はようやく戻ってきた視界であたりを見回すと、そこに同じように拘束されつつ廊下に引きずり出されてくる仲間たちの姿をとらえた。

一瞬何が何だか分からなかった剛毅だが、男たちに再度組み伏せられてコンクリートの床に頬を抑えつけられた剛毅は周りの男たちを見てようやく理解した。


こいつらが噂のアビリター狩りの奴らなんだろうと。


逃げようと動いてみるがしっかりと関節を抑えられていて身動きがとれず、炎を出そうとすると関節を折られるかと思うほど締め上げてくるので集中力が続かずに能力が使えない。

まわりを見ても、同じような状況なのか苦悶めいた声が聞こえるだけで能力が使われる様子は無い。


「FUCK!なんだってんだテメーら!あぁん!?離せよこのクソ野郎どもがァ!」


そんな中でギルバートは唯一動かせる口を動かして相手を罵るが、相手もプロらしくガスマスクの下にある表情を一切変えることなく再度締め上げる。


「ギル!」


苦痛の叫びを上げるギルバートに剛毅が声をかけるとギルバートは剛毅に気がついたのか、剛毅の方へと顔を向ける。


「剛毅!あぁクソ!なんだってんだよこいつらはよぉ!離せこのクソったれどもがァ!」


しかし、いくらギルバートが叫ぼうと男はギルの関節を締め上げるだけだ。


「ギル!くそ!なんだってんだよ!離せ!はなせっつってんだろ!クソ野郎!」


剛毅がそうやって叫んでいると、工場の出入り口から悠々と入ってきた隊長らしき男が銃の形をした注射器を構える。


「悪いな、坊主。これも仕事だ。怨むなら自分の運命を怨め。」


剛毅は首筋に薬を打ちこまれてすぐにやってきた眠気に必死に抗おうとしたが、やはり薬の力には敵わずガクリと全身の力を抜いて眠りに落ちたのだった。


さてさて、今回もストックのおかげで早めの投稿でござる。

熱い展開を書きたいけど、それはまだ先の展開なのです。残念…。

もうしばらくお待ちください。

ところで何か感想などがあれば自由に書き込んで下さいね。

ただし、私はメンタルが弱い人です(キリッ

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