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002 Contaminated World

赤司波剛毅(アカシバゴウキ)は、両親を生まれてから直ぐに失うことになった孤児の一人だった。


隕石漂着のために父と母が多量に放射能を被ばくし、そのせいで患った癌のために剛毅が3歳の誕生日を迎える直前に死を迎えることとなった。

両親は幼い剛毅を残して死ぬことに涙を流しながら悔み、剛毅のその後の成長を親戚に託した。


しかし、その親戚は最初こそ普通に育てていたものの、自分の子供でもない剛毅を育てていくことに次第にストレスを覚え始め、剛毅が11歳になった時に剛毅を連れて海外旅行に行き、僅かなお金と食料を持たせてそのままおきざりにして帰った。


当時は隕石漂着の影響があとを引く食料不足や、失職による貧困で、子供を捨てるということは珍しくなく、一応国が禁止をしてはいるものの後が絶たなかった。

経済の結びつきが強かった国との交通は比較的早く安定し、渡航料金も国家間の経済復興のために震災特別料金で通常よりも安めに設定されていたのもその一因だったのかもしれない。

国内にそのまま捨てられることも多かったが、国が負担する養育費用削減のため震災孤児の親を見つける方針がとられており、捨てたとしても親のもとに帰ってくることが多かったのも海外に捨てられる要因になった一部だろうと考えられる。


かくして11歳という幼さで海外に一人捨てられた剛毅は、容赦のない厳しい環境の中で砂と埃にまみれて育っていくことになった。


そして見知らぬ土地に捨てられてから1年が経ち、当初持っていたお金もとっくに全て使い果たした剛毅は子供なので当然働くことも出来ず、空腹も限界に近付いていたこともあってホテルの裏手で自分と同じような子供が、廃棄された食べ物の袋を漁っているのを見てふらふらと近づいていった。


「どっかいけ!これは俺のだ!それ以上近づくならブッ殺してやる!」


相手の少年は、自分と同じような子供が近づいてきたのを見て、自分の貴重な食料が奪われると思ったのか、刃が錆びついたカッターを取り出して剛毅に威嚇してくる。


その少年の剣幕を見て気圧された剛毅はそのまま後ずさり、背を向けて歩いてきた通路を走って引き返した。

しかし、その走りも空腹のために次第に力を無くしていき、剛毅は薄汚れた裏路地の壁に手をついて力なく息を吐き出す。


このまま何も食べられずに飢えて死ぬのだろうか…と考えた剛毅の背後から細長く伸びた影が差した。

いきなり差した影に何だろうと思いながらもそちらへゆっくりと目を向けると、路地の入口で片手に缶づめが入った袋を持った少年が立っていた。

その少年は、剛毅の痩せた体とやつれた表情を見るとおもむろに剛毅の方へと近づいていき、袋の中から缶詰めを取り出すと缶のふたをあけて剛毅に手渡した。


「腹へってんだろ、お前。コレ食えよ」


剛毅はもらった缶詰めと少年の顔を交互に見たあと、空腹に耐えかねて缶詰めにがっついた。

SPAM缶の油っこくて濃い味が口の中に広がると、空腹だった剛毅はそれだけで幸福をかみしめているように思え、もっと食べたいと思って缶の中に残っていた残りの肉を直ぐにペロリと平らげた。


「良い食いっぷりだな、お前。それにお前…。ん、いや…まぁいいか。……よし、気にいった。こんなところにいたってことは、どうせ一人で行くところもないんだろ?ついてこいよ、ここよりは多少はマシなところにつれてってやる」


そういった少年はくるりと剛毅に背を向けて路地の奥の方へと歩き出す。

ここよりも多少はマシな場所があると聞いた剛毅は、自分に背を向けてさっさと歩いていく少年の後を追うようにふらふらとついていった。





「帰ったぞ、皆。今日は一人新人を拾ってきたんだ。皆仲良くしてやってくれ」


路地の奥へと進んでいった少年は、工場跡地のようなところへ破れた金網の隙間を通って入っていき、錆びついたドアを音を立てながら開いた。

ドアの向こうから剛毅の目に飛び込んできたのは自分と同じぐらいの年に見える少年や少女3人ほどが室内で遊んでいる光景だった。


「ギルバート今日はちょっと遅かったねー。また寄り道してたのー?」


「いや、話きいてたか?ユリア。今日は新人を一人連れ帰ったんだって今言っただろ」


「そっかそっかー。あれ?そっちの子は誰?」


「だから!俺が連れ帰ったんだよ!」


「あははー、ごめんねー」


「ぐぅ…いつもどおりマイペースな奴め…」


剛毅の前でたった今起こった寸劇によると、剛毅を連れてきた少年がギルバートというらしく、ギルバートの姿を見て駆け寄ってきて話をしていた天然がはいった少女がユリアという名前の持ち主だということが分かる。

ユリアはこの工場跡地にいることが場違いな様な、キレイに整えられた明るいブラウンヘアーの少女で、顔は可愛らしく、万人に愛されるような笑顔を持つ子だった。


「遅いわよ、ギルバート!あんたが寄り道する癖があるのは分かるけど、最近はアビリター狩りが行われてるって噂なんだから……。ただでさえあの事件の子と同じ年の子は怪しいって思われてるのに…」


「わかってる、シェイラ。わざわざ心配かけて悪かったな」


遅れてやってきたのは磨けば光るだろうが、汚れなどでくすんだブロンドヘアーをポニーテールにしている活発そうな少女だったが、今は少しだけ心配だという雰囲気がにじみ出ていた。


「!心配なんかしてないわよ!あんたが連れていかれたら食料が無くなるから言っただけよ!」


照れ隠しにガッと見事なボディブローを決めたシェイラという少女はちょっと離れた位置にあった壊れかけのソファにムスッとした雰囲気で腰掛けた。


「グッ……。いいボディブロー……だッ……!」


「いい加減学習したらどうだ。お前もシェイラの気持ちには気づいているんだろうに……」


「お、ティーダか。いやいや、ああいう反応をするのがまたアイツの可愛いとこであってだな…」


「俺としてはいちいちサンドバックになるまでの意味が見出せないな…」


シェイラの綺麗に決まったボディブローを受けて膝をついたギルバートの横では、いつのまにか来ていたティーダという少年があきれた感じでギルバートと話をしていた。

ティーダは黒髪で端正な顔の中に切れ長の目を持った少年で、どことなく近づきがたいような雰囲気を発している節があった。

ティーダは、やれやれ…といった感じで肩をすくめて壁の方へ歩いていくと、壁に背中を預けて寄りかかると腕を組んで目を瞑った。


自分のことを置いてきぼりで次々と進んでいく展開に、さすがの剛毅も口を開こうとするとそれを察したのかギルバートが先に声を上げた。


「おっと、悪い悪い。さてさて話の本題だが、今日は面白そうな子を一人見つけたので連れてきた。たぶん今日からここに住むから皆よろしくな~」


パンパンと2回手をたたいたギルバートは注目を集めたのを周りを見わたして確認してから口を開き、とても軽い口調でさらりと剛毅の今後にもかかわることを発表した。


「えぇ!?ちょっと!いくらなんでもイキナリすぎるでしょ!なんとなく想像はできてたけど……!」


「……。ギルバートが面白そう……か。なるほどな……」


「わぁ~よろしくね~。新しい能力者さんだね~」


「お!ユリアがそういうってことはやっぱりアビリターだったかー!連れてきて正解だったな!」


「えぇ!?ちょっとアビリターってどういうことよ!?」


一人状況を理解していないシェイラが驚きの声をあげるが、他の3人はと言えばやっぱりそうだったかーという反応であり、シェイラだけが理解が追い付いていない状況だ。


「あ、あの……。僕がアビリターってどういうことなんですか…?」


突然過ぎる展開についていけなくなったのかやっと口を開いた剛毅はギルバートへとおずおずと尋ねる。


「おぉ?そうかそうか……。まだ発症前か。それなら知らなくても仕方ないわな、うん。お前な。能力者なんだよ。お前も知らなかったんだろうけどな。俺は勘でお前が能力者っぽいって思ったから連れてきただけだったんだけど、ユリアが言うなら間違いない。お前は能力者だ」


「まさか……?僕が…アビリター……?」


「そうだ。お前は能力者。まぁここにいる全員が能力者なんだが、ユリアは他人の能力が見える能力者なんだ。だから、お前が能力者だというのは間違いない。能力がないと思ってるかもしれないけど、まだ開花してないだけだ」


まさか自分が能力者だなんて思ってもみなかった剛毅は驚愕の事実を告げられて呆然と自分の両の手の平を見つめた。


しかし、当然それは何も変わっていない普通どおりの様子でとても能力という『異常』が体に起こっているとはとても考えられない。

通常、能力という『異常事態』が体に起こると体のどこかしらに影響が出るらしく、能力者といわれるアビリターの体の一部には、色素異常だったり、奇形だったりという部分が目に見える形として現れることが多い。

そのため、剛毅は自分がアビリターであるということはにわかには信じられなかった。


「ん~たしかに目に見える範囲には異常は見られないな、うん。まぁそのうち見つかるだろうし、その時でいいんじゃないか?」


剛毅の服をまくったりして足や背中とかも見たギルバートは、それらの場所に異常が見られなかったことを少し不思議に思ったが、そのうち分かるだろうと思い、気楽に考えた。

ちなみに俺はここにそれっぽいのがあるぞと言いつつ、下半身のどこかにあるのか、ズボンを脱ぎ始めたギルバートをシェイラが顔を赤くしてはたいた。


「ててて…。まぁそれよりもだ。お前もさっきシェイラの話を聞いてただろう?数年前の旧ニューヨークの事件が発端でアビリター狩りが行われてるって話だ。当時の少年と同年代だってだけでアビリターって思うやつもいるぐらいだ。たしかに当時の少年と同年代でアビリターの奴は年下の奴らに比べて多いけど、そいつらの中にはもちろん何の能力もない奴もいる。最近じゃ能力者かどうかも無差別で誘拐するようなこともあるらしい。実際アビリターの能力を悪用しようと思えば洗脳なんかして簡単に出来るからそれが狙いだったり、単なる武器として売買されたりって話もある。お前もたぶんそれぐらいの年だろう。そんな奴らに捕まるぐらいなら俺たちと一緒に楽しく自由に生きようぜ」


真面目な顔に切り替えたギルバートは剛毅の目をまっすぐに見て、アビリターであると自覚したばかりの剛毅に、アビリターを含む現在の12歳以下の子供たち全てが置かれている状況を詳しく説明した。


剛毅もアビリター狩りが行われているなどの噂は街に捨てられていた古新聞などを見て知っていたが、アビリターとして自覚した後で改めて聞いてみると背筋がゾッとした。

自分が見ず知らずの組織に捕まって、ただの武器として一切の自由もなくただただ苦痛を受け続ける人生を一瞬でも想像してしまった剛毅は、すぐに「よろしくお願いします」と言って頭を下げた。


そして、この日から剛毅はギルバート達との生活が始まったのだった。

はい、ということで早めの更新で第二話でございます。あと数話分は既に書きあげているので早めにUPすることができます。

とりあえず今回では物語の進行に必要不可欠なキャラクター達を登場させました。

私がこのあとがきを書いている段階で既に6人ほどが読んで下さったようで、ありがたいかぎりでございます。

ぜひ感想などを書き残して行って下さい。

作者である私の励みになります(笑)

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