学園は、そんなものの育成を、促進しておりません
手慰み、第数弾でございます。
異性相手でも同性相手でも、過度な絡みは気持ち悪いですよね。
そんな話なのですが、何か違う話になりましたかね?
王城に帰宅した第六王子は、国王陛下に呼び出された。
自由恋愛を許可されていた王子は前々から、好ましい女生徒の事を報告していたから、その経過の報告だろうと、内心うきうきとしながら国王の執務室へと向かう。
執務室の扉をノックし、返事とともに開けられたそこに入ると、いつものように仕事に忙殺された国王の姿があった。
正面の席に座る国王の前に立ち、王子は神妙に挨拶をする。
一通りの挨拶を済ませた後、国王は要件を告げた。
「第六王子」
「はい」
「明日から無制限で、自室謹慎を申し渡す」
「……は?」
突然の王命に、間抜けな声が出た王子に、国王は資料から顔も上げずに続ける。
「学園より、一月後の退学を通告された。理由は校則違反、だ」
「? お待ちくださいっ? わたくしは、極めて真面目に勉学に励んでおりました。何をもって、校則違反などとっ」
「執拗な付きまとい行為は、暴力を含む犯罪行為の源であるが故、だ」
ようやく顔を上げた国王を見た王子は、言葉を詰まらせた。
心当たりがあった事より、その父親の冷ややかな怒気を滲ませる顔を、直視してしまったがためだ。
「お主は最近、一つ年下の伯爵家の令嬢を、側近たちと共に追い回しているそうだな? 恐怖を覚えたその令嬢が家を通じて、学園に訴えたそうだ」
「なっ」
「退学して領地に帰りたいとの申し出だが、その令嬢には微塵も落ち度がない。学園より、その旨を報告された後より本日まで、お主たちの様子を改めて監視していたのだが……」
弁解の余地が、皆無だったと国王は無情にも言い切った。
「もう少し幼少の頃ならば、少し窘めることを続け、それでも辞めなかったら、荒治療をして矯正する余地もあるが、もうすぐ成人の年を迎えるというのに、この体たらくでは……更生させる必要は、ないと判断した」
そして本日、学園より通達が来たのだ。
「これは、決定事項だ。一月の猶予が設けられるのが通例だが、お主の場合は度が過ぎる。このまま通学させては、令嬢にどんな被害が出るか分からん。よって、病欠の体でこれより一月は、通学を禁じる」
反論する余地は、欠片もなかった。
言いつくろう暇もなく、話を終えた国王は再び書類へと目を落とし、短く側近に一言告げた。
「連れていけ」
「は」
「っ、お待ちください、陛下っ」
やんわりと体を押され、我に返った王子は、遅ればせながら呼びかけたが、既に他の仕事に没頭した国王の耳には、届かなかった。
第六王子は、竜国の王女への婿入りが決まり、急遽学園を退学したらしい。
遠い地でそれを伝え聞いた辺境伯は、最愛の妻の淹れるお茶を飲みながら、安堵していた。
「お話に聞いていたお嬢さんと、会えないのは寂しいですが、これでそのお嬢さんが幸せになれるのならば、良かったのでしょう」
妻も微笑みながら、自分が淹れた茶をたしなむ。
そう、これで良かったのだろうと思う。
前の人生で妻が急死した後、後妻として輿入れしてきた伯爵令嬢の幸せが、この時点で確約されたのだから、良しとしなければ。
あのままあの王子が学園にいては、当の伯爵令嬢だけでなく、その家族や周囲にまで害が及んでいた。
前の人生で、伯爵令嬢は学園卒業後、最愛の妻を亡くした辺境伯爵に嫁いできた。
元々、同じ力関係の家柄の令息との縁談が進んでいたが、伯爵夫婦が事故で他界してしまったため、白紙に戻されたのだそうだ。
国が打算して、この辺境伯爵家を次の縁談相手に選んだと知ったのは、随分後になってからだ。
形だけは妻とされるが、いつでも養子縁組に切り替えて、他の縁談を探せるよう手配できると言われ、令嬢は嫁いできた。
「他にも、力のある爵位の方との縁談を、提示していただいたのですが、私が、こちらを指名いたしましたっ」
伯爵令嬢だったその娘は、決意を込めた目でそう言った。
「辺境伯爵の愛妻家ぶりと、子煩悩なお話は、読んでいた時からずっと推しておりました」
「?」
よく分からない事を言われたが、そんなことを言った後で、娘は続けた。
「だからこそ、許せなかったんですっ。あの作者がどうしてっ、息子と殆ど変わらない小娘に、篭絡される話にしたのかっ。私だったら、ご子息とは兄弟のように、辺境伯爵とは親子のように、幸せに暮らしたいと思いますわっ」
本当に意味不明だったが、令嬢はその言葉の通り、妻というより娘のように、辺境伯爵に寄り添ってくれていた。
寄り添われる方も、一回り以上年が離れた便宜上の妻を、娘のように大事にし、いずれはそれ相応の家に嫁がせて上げられればと、考えていた。
その前準備として、辺境からでは分からない情報を、王都の方からかき集めた。
そして、国王陛下への質疑への回答も、頂けた。
どうやら幼い頃から、伯爵令嬢を学園で付け回して追い詰めた挙句、嫌味や暴力で叩きのめすことを繰り返していた、第六王子から身を守らせるため、伯爵家が縁談を進めたのだが、事故でそれが白紙になってしまったらしい。
「学園を卒業するまではと、わたくしも我慢していたのですけど……日に日に、ウザさが増してきてしまいまして」
元伯爵令嬢も、そう裏付けしてくれた。
そして、不穏なことも付け足す。
「わたくし、両親の事故も当初、疑っておりましたの。あの方が、誰かを使って事故に見せかけたのではって。わたくしへの嫌がらせに、全力を注ぐ方ですから、あり得ると」
被害妄想が過ぎますよね、と笑った元令嬢の言葉に、笑い返すことが出来なかった。
王城からの報告書でも、それを指摘されており、ほぼクロと断定されていたのだ。
初恋を拗らせた挙句の、度を過ぎた執着行為で、邪魔する者はどんな手を使ってでも消す、そんな気概が伺えると、報告書は事務的なものだったが、筆跡は随分と荒れていた。
これは、遠く離れた辺境の地にかくまっているだけでは、安全の確保ができたとは言えないと、辺境伯爵家は総出で、守護の強化を始めた。
が、結局、無駄となった。
外からの攻撃には有益だったそれは、噂の前では無力だったのだ。
辺境伯爵の前妻の死は、病死として公表されていたが、実際は違う。
国には報告したが、それを世間に知らしめるのは、家族のためにも良しとしていなかったので、曖昧にしておいたのだ。
だが、邪推した者により噂は広められ、それが第六王子の元にも届いてしまった。
噂とは言え、家を窮地に落とした責を負い、後見人を立てて実子に爵位を譲り、辺境伯爵は隠居して領地の隅に引っ込んだが、その時で既に高齢だった彼は、実の息子と娘同然だった後妻がどういう人生を送ったのか、知る術がなかった。
知ったのは、その後病を得て息を引き取り、すぐに若い時分に巻き戻った後だった。
妻が二人目を身ごもり、それを自分に知らせるか悩んでいた時期、だ。
当時の辺境は、竜国との攻防に疲弊していた。
だから辺境伯爵も、妻の心境を思いやるいとまがなく、それを知った時は深く悔やんだ。
外で忙しい夫に代わり、家庭内で忙しく立ち働いていた妻は、疲労と心労で倒れ、子も流してしまったのだ。
「……その後、妻が無事ならば、謝ることもできたが、妻は倒れた後意識を戻さぬまま、逝ってしまったのだ」
「そ、そうか」
「だから、和解してはくれないか?」
「……」
真顔の辺境伯爵の申し出に、呆れた顔をしたのは、竜国の王女だ。
そんな王女に、辺境伯爵は続ける。
「何も、こちらだけの都合を押し付けるつもりはない。そちらの言い分も聞いて、国王に報告し、最大限の要求を呑むと約束する」
「……その交換条件が、和解だけで、本当にいいのか?」
勿論だと言い切った相手に、竜国の王女は、まあいいかと頷いた。
「その御夫人の、健勝を祈っておこう」
「有難い」
最速で交渉にまで持ち込み、それを国に報告しに王都に向かった辺境伯爵は、同じように巻き戻ったと思われる国王に面会を申し出、自分が死んだ後の領地の様子を聞いた。
「……若い辺境伯が、あの王子の腹黒さを、跳ね返せるはずが、なかったのだ」
重々しく告げた言葉は、最悪な結末を語っていた。
「……内輪もめしている間に、竜国が攻めて来てな、辺境の砦は崩壊、すぐに我が国は滅亡した」
「……自業自得、ですな」
「ああ。何であんな、怪物が育ってしまったのか」
その怪物を作り出さないためには、第六王子の実母を側室にしないことが一番の良策だが、もう遅い。
「生まれておる」
「……病弱という事で、さっさと闇に葬っては?」
「……一応、王族なんだが」
しれっと提言すると、苦い顔で国王が窘める。
前の人生の二の舞になるのだけは、阻止しなければと考え、ふと、伯爵令嬢の言葉を思い出した。
「幼少期から、第六王子と伯爵令嬢は、同じクラスだったのですか?」
「うむ。当時はな、好いた女子をにちょっかいかける息子を、微笑ましく見守っていたのだ。希望通りに同じクラスにしておった」
「阿保ですか」
つい、本音が漏れた。
「……失礼。つい、本音が。しかし、それは根深いですな。後に、学園では問題視される状況にまで、達したわけですから、学園の校則も変えてしまいましょう」
「う、うむ。苦労を掛ける」
「本当に。ああ、それから、竜国との和解に際し、条件を提示されましたので、報告させていただきます」
ついでに報告して、辺境伯爵は王都を去ったのだった。
そして、現在。
あの後妻は元気な女の子を出産し、現在は美しく育った娘の縁談相手を選別を、楽し気に行っている。
その合間の、老齢夫婦水入らずの時間だ。
国王は今回、結構うまくやった。
学園にも根回しし、幼少時代の伯爵令嬢と第六王子との接触は、殆どないように取り計らい、双方の縁談が調った後に、その根回しをやめた。
だが、根深い王子の信念は、それでは絶やせなかったようだ。
それでも、竜国に連れていかれては、もう伯爵令嬢との接触はできない。
あの国の民は、元々は川の中で泳ぐ鯉が、滝登りを得て変化する類の竜だ。
様々な種族との血を求め、領地を拡大している国で、殆どがメスの種族なのだが……子作りが、少々変わっていることでも知られる。
受精の仕方が、魚と一緒なのだ。
頭大の卵に、大量の種を振りかける作業はオスには重労働で、そのせいで精魂尽きて寿命が尽きるのが早いそうだ。
あの第六王子は、何年もつんだろうな。
兎が頭を抱えております。
ちょっと、トラウマを刺激しちゃったようです。
考えたのは、兎の養い子であって、投稿者は投稿してるだけですよと、宥めております。




