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ゆきのまちシリーズ

幻雪の惑星

作者: 謎村ノン
掲載日:2026/01/09

 恒星ダウンズの光は、第三惑星の赤茶けた大地を血のように染めていた。

 アーマッド・L・ラッシードは、ウォーカーマシンの操縦席で深く息を吐いた。

 八本脚の機体が、火山の斜面を慎重に登っていく。外界は、窒素とアルゴンの薄い大気に満ち、生命の気配はない。

「雪どころか……雨も降りそうもないな」

 アーマッドは、モニターに映る気象データを見つめた。暗く赤い空は、晴れ渡っていた。

 この第三惑星の軌道周期は、火星と、ほぼ同じだが、恒星ダウンズの光量が多いので、平均気温は地球並みだ。しかし、現在では、水は、極地かもっと高い山にしか存在しない。雪が降るなど、ありえないはずだった。

 だが、軌道上の母船が捉えた微弱な反射光は、赤道直下に近い、この仮称オリンポス山に、雪原か氷床があると示していた。しかも、それは通常の水の氷ではない──未知の結晶構造を持つ、何か、だった。

 そう、おそらく、それは〈先住者〉と呼ばれる異星人の遺跡の一部に違いなかった。

「ようやく、見つけられそうだ、な」

 アーマッドは、唇を湿らせた。

 〈先住者〉は、事象の記憶を物質に刻み込む、という未知の技術を持っていた。雪が降るという現象は、その技術の残滓なのかもしれない。

 アーマッドは、探検家兼研究者として、〈先住者〉の研究をしていた。ようやく、その謎の技術の手がかりになりそうな遺跡に行き当たったのだ。

 しかし、ウォーカーマシンが急斜面を越えた瞬間、センサーが警告音を発した。

「接近物体、距離三百メートル──有人、識別コード不明」

「……何だと?」

 アーマッドは、視線を上げた。

 赤い地平線の向こうに、もう一台のウォーカーマシンが姿を現した。白銀の装甲が、夕陽にきらめく。その機体は、彼がよく知るものだった。

 音声通信回線が、開いた。

「アーマッド、お久しぶりね。あなたなら、来てくれると思っていたわ」

 その声を聞いた瞬間、アーマッドの胸の奥に痛みが走ったように思った。

「……ナルディア」

 彼は、呟いた。彼女は、かつて同じ未来を夢見た女だった──。


***


 赤い大地に、二台のウォーカーマシンが向かい合った。

 恒星ダウンズの光が、二人の影を長く引き伸ばしていた。

「……あれは、君からのデータだったのか?」

「そうよ、あなたも、この星を探しているのを知っていたわ」

 この星の座標と、特殊な重力異常のデータだけが記載された星間ショートメッセージが、アーマッドに何故か送られて来たので、彼は、この惑星を訪問したのだ。

「顔を見せてはくれないのか?」

「今は、音声以外の回線を開くつもりはないわ」

 ナルディアのウォーカーマシンは、ゆっくりと斜面を降りてきた。白銀の装甲は、赤い砂の風景を反射して、まるで鏡のように輝いていた。

 ──五年前、二人は、同じ惑星調査の専門会社にいた。彼女は、〈先住者〉の痕跡を求めて、遠い星々を渡り歩いた仲間だった。

 だが、ある事件をキッカケとして、彼女は、会社を去った。

「……まだ、理想を追いかけているのか?」

 アーマッドは、問いかけた。

「理想じゃないわ、使命よ! アーマッド、〈先住者〉の遺跡は、あんたのものじゃないし、人類のものでもないわ!」

 ナルディアの声が、鋭くなった。

「〈先住者〉は、惑星の再生を願って、記憶を雪に刻んだの。未来を託したのよ。あんたたち企業連合の連中みたいに、遺跡を切り売りするためじゃない!」

 その声に宿る熱は、かつてと変わらないと思った。

 アーマッドは、歯を食いしばった。確かに、彼のスポンサーは、企業連合だ。しかし、彼自身の目的は違う──人類の未来を守るために、〈先住者〉の技術を手に入れるのが、彼の信念だった。

「ナルディア、俺は……」

 それを説明しようとした瞬間、またセンサーが警告を発した。

『気象変動検知──温度低下、微粒子濃度上昇』

 アーマッドはモニターを見て、息を呑んだ。

 赤い空に、白い光が舞っていた。最初は砂嵐の反射かと思ったが、それは確かに「雪」だった──だが、地球の雪とは違う、と思った。

「本当に……雪が? 分析してみてくれ」

 彼は、コンピュータに向かって告げた。

『はい、分かりました。拡大します』

 ウォーカーマシンの外部カメラが、最大倍率に切り替えられた。

 結晶の一片が、モニターの画面に映った。結晶は、六角形ではなく、複雑なフラクタル構造を持ち、淡い青い光を放っていた。

 そして、一つ一つに微細な回路のような模様が走っていた。

「なんだ、これは?」

 アーマッドが言葉を続けようとした瞬間、コンピュータが、警告音を発した。

『重力異常検知──局所的な時空歪曲』

 彼は、モニターを見て息を呑んだ。斜面が、わずかに波打っていた。

 岩が、液体のように揺れ、遠くの地平線が歪んでいた。

 雪が降り積もる場所を中心に、現実が揺らいでいるようだった。

 すると、回線からナルディアの声が聞こえた。

「伝説の『幻雪の領域』にある純粋な情報粒子の雪を、〈先住者〉が模倣した──不完全に再現したものよ」

 アーマッドは、息を呑んだ。

「……情報粒子?」

 アーマッドは、眉をひそめた。『幻雪の領域』──それは、既に知られた古代異星人の神話のような長編(サーガ)に記された場所だった。そこでは、時空の因果律が揺らぎ、意志により情報そのものが物質化し、死者を甦らせることさえできる、と書かれていた。

「本当の情報粒子じゃないわ。ナノマシンにエキゾチック物質の塊を付加して、擬似的に再現しようとしたものよ」

 回線越しに伝わってくるナルディアの声が、少し震えていた。

 アーマッドは、低く呟いた。

「……不完全な模倣……それは、危険すぎる」

「そうね」

「ナルディア、君は、先に、これを分析していたのか?」

「……」

 その問いに、回線は沈黙した。つまり、そうだということだろう。

「不完全だとしても、情報粒子と同じ働きがあるなら、現実の事象を改変する力があるはずだ。触れれば、局所的な因果律が崩壊するな?」

「でも、それが〈先住者〉の目的だったのよ!」

 ナルディアの声に、熱がこもった。

「この惑星は、どうやら〈先住者〉の聖地の一つだったらしいわ。彼らは、この惑星を再生させるために、因果を揺らげようとしたの。この雪は、記憶と未来を繋ぐ鍵よ。実際に、この雪を製造する装置――遺跡は、この山の先の雪原にあることが分かっているわ」

 ナルディアは、一瞬、沈黙してから、告げた。

「お願い、アーマッド、協力して。もう、この惑星は、保たないかもしれない……」


***


 幻の雪が、平らな山の頂を覆い尽くしていた。

 青白い光を放つ結晶が、赤い台地に降り積もり、時空の歪みが強まっていた。

 ウォーカーマシンの計器は、異常値を示し続けていた──重力の揺らぎ、局所的な時間遅延、そして因果律の不安定化の兆候があった。

 アーマッドは、遺跡の(ゲート)の前に立っていた。高さ十数メートルの黒い石柱が、雪に埋もれながらも不気味な光を放っていた。

 表面には、複雑な幾何学模様が刻まれていた。ナルディアによると、それは、ただの装飾ではない──不完全な疑似情報粒子の共鳴パターンだとのことだった。

「……これが、〈先住者〉の鍵か」

 アーマッドは、低く呟いた。

 門の中央には、二つの円形の凹部があり、そこに手を置くよう指示する古代の記号が浮かんでいた。

 ナルディアは、隣に立ち、ヘルメット越しに彼を見た。

「遺跡の門を開けるには、二人分の記憶が必要なの。〈先住者〉は、知的生物の絆を鍵にしたのよ」

 アーマッドは、一瞬、言葉を失った。二人の記憶──過去を共にした者だけが、門を開けられるということか?

「……お前、本当にそんな伝説を信じているのか?」

「信じるしかないわ」

 ヘルメット越しでも、ナルディアの強い視線を感じた。

「この雪は、ただの物質じゃない。ちゃんと制御できなければ、因果が崩れ、この星が完全に、死ぬわ」

 アーマッドは、深く息を吐いた。

 見ると、雪が、ウォーカーマシンの装甲に降り積もっていた。

 チェレンコフ光のような青い光が、金属を透過し、奇妙な映像を映し出した──幼い頃の記憶、地球の青い海、そして、ナルディアの笑顔が見えた。

「……記憶を、投影しているのか?」

「そうよ、それが、この疑似情報粒子の力だわ」

 ナルディアは、頭を振った。

「でも、これはまだ不完全なものよ。長く浴びれ続ければ、現実が壊れるわ」

 アーマッドは、決断した。

「……協力するしかないな」

「〈先住者〉は、因果を共有する者だけに道を開いた。二人の記憶を同期させる必要があるわ。脳波を情報粒子に変換し、門の共鳴場に流し込むの」

「そこまで分析し終えていたのか――相変わらず、お前は、優秀だな……」

 ナルディアは、同僚として、群を抜いて優秀なパートナーだった。その様子に、思いを寄せていたものの、彼女は、同じく同僚の兄とばかりつるんでいて、入り込む隙間がなかった。

 アーマッドは、眉をひそめた。

「しかし、脳波同期なんて、危険すぎる。疑似情報粒子でも、現実を改変する力を持っているんだよな? 失敗すれば、記憶が崩壊するんじゃないか?」

「そのリスクは、確かにあるわ。でも、やるしかない」

 ナルディアは、一歩前に出た。

「この雪嵐が続けば、遺跡ごと因果の渦に飲まれるわ。私たちの存在だって保証されないでしょう」

 アーマッドは、深く息を吐き、ヘルメットのHUDに表示されたインターフェースを起動した。

「分かった。やろう」

 アーマッドは、宇宙服の手を、凹部に置いた。同時に、ナルディアも、手を置く。

 すると、脳波同期モジュールが展開し、二人のニューロンパターンを解析し始めた。

 画面に、複雑な波形が重なり合う。

『同期率:12%──不安定』

「……記憶の断片が干渉している」

 アーマッドは、歯を食いしばった。

「過去の因縁が、ノイズになっているんだろうな」

「なら、思い出すのよ」

 ナルディアの声が鋭くなる。

「私たちが、なぜここにいるのか。なぜ、同じ未来を見ていたのか……」

 アーマッドは、目を閉じた。ヘルメットの外側で、雪が青い光を放っている。その光が、彼の脳に直接流れ込むような錯覚を覚えた。

 記憶が、雪片のように舞い上がった──地球の青い海、初めての外星系への遠征、ナルディアとの笑顔の会話――

『同期率:45%──共鳴開始』

 門の石柱が、低い振動音を発した。目を開くと、幾何学模様が青白く輝き、雪の結晶がその光に吸い寄せられているようだった。

「……見えるか?」

 アーマッドは呟いた。

「ええ」

 ナルディアの声が震えていた。

「私たちの記憶が、疑似情報粒子に変換されている……」

 HUDに、二人の記憶がデータ化された映像が映った。

「……脳波パターンが量子化され、疑似情報粒子の共鳴場に流し込まれるのよ」

 HUDの過去の映像が、数値の海に溶けていった──しかし、脳波動機モジュールが、アラートを発した。

『警告:因果干渉検出──未来予測データ流入』

 アーマッドは息を呑んだ。映像の中に、見たことのない風景が現れた──崩壊する遺跡、雪に包まれた二人の影、そして、何者かが叫んでいた。

「……これは、未来なのか?」

「それが、幻雪の力よ。因果を揺らげ、選択を迫るの」

「なんだって?」

「わたしは、ここで、あなたが来る未来を、選択したわ。扉を開けるために」

 ナルディアの声は、なぜか静かだった。

『同期率:92%──門の共鳴場、解放準備完了』

 門の中央が、青白い光に満ちた。

 雪嵐が一瞬、静止した。時空の歪みが、門を中心に収束していくように見えた。

「……行くぞ、ナルディア」

「ええ、アーマッド」

 光が爆ぜ、雪が舞い上がり、塔が門のように左右に開いていった。


***


 門を抜けた瞬間、アーマッドとナルディアは、異質な空間に足を踏み入れた。

 外の赤茶けた大地とは対照的に、遺跡内部は青白い光に満ちていた。

 壁面には、雪の結晶を思わせる幾何学模様が脈動し、疑似情報粒子が空中に漂っていた。まるで、記憶そのものが物質化した世界だった。

「……ここが、〈先住者〉の記憶領域か」

 アーマッドは、低く呟いた。

 しかし、ナルディアは応えず、ただ前を見つめていた。

 二人が進むと、中央に巨大な結晶体が現れた。高さは五メートルくらいはあるだろうか、雪のように白く輝くその結晶は、脈動する光を放ち、周囲の疑似情報粒子を吸い寄せていた。

「これが……記憶結晶ね。〈先住者〉が因果を刻んだ核よ。兄さんが探していた……」

 アーマッドは、息を呑んだ。

 ナルディアは、震える声で言った。

「この中に……兄がいる」

 アーマッドは彼女を見た。

「どういう意味だ?」

 ナルディアは、ヘルメットのバイザーを上げて、素顔を晒した。

 雪の光が彼女の頬を照らし、その瞳に涙が浮かんでいた。

「あなたも知っている通り、私達兄妹も、〈先住者〉の研究をしていたわ。あの長編(サーガ)に暗号化されて記録されていた、この惑星を予備チームで調べていたの」

 彼女の声は、震えていた。

「五年前、兄は、この遺跡の前で、幻雪の領域を模倣する実験に参加して……疑似情報粒子に取り込まれたの」

「そうだったのか……」

 彼女の兄は、会社の公式発表では、探索中の事故で亡くなったことになっていた。その対応に不満があって、ナルディアは会社を辞めたと聞いていた。

「……兄は、因果の渦に呑まれ、存在を失ったの。でも、記憶は、きっと、ここにあると思っている。私は、それを取り戻すためにきたの」

 アーマッドは、言葉を失った。

 そのとき、突然、結晶が強く輝き、雪が舞い上がった。

 疑似情報粒子が二人を包み込み、脳に直接映像を流し込んだ。アーマッドの視界に、知らない記憶が溢れた──若い男の笑顔、門の外に建てられていた研究施設、それらが蜃気楼のように崩壊する様子――

「……兄さん!」

 ナルディアは、叫んだ。

 映像の中で、男が振り返った。その声が、雪の中から響いた。

『ナルディア……まだ、そこにいるのか……?』

 アーマッドは、息を呑んだ。

 これは、幻覚ではない──疑似情報粒子が、彼女の兄の記憶を再構築しているのだろう。しかし、その声は歪んでいた。どうも、何かが上手くいっていないようだ。

「兄さん、がんばって! 存在を、取り戻して!」

「待て、ナルディア!」

 アーマッドは、彼女の腕を掴む。

「疑似情報粒子に触れれば、お前も因果に呑まれる!」

「それでもいい!」

 彼女の声は炎のように熱かった。

「兄を、孤独にしない!」

 雪が嵐のように舞い、二人の影を呑み込む。結晶が砕け、青白い光が爆ぜた──。


***


 遺跡が崩れ始めていた。

 結晶の爆ぜる音が、雷鳴のように響いた。疑似情報粒子の雪が嵐となり、視界を奪った。

 アーマッドは必死にナルディアの腕を掴み、崩壊する床を飛び越えた。

「急げ!」

 彼の声は、雪に吸い込まれるようにかき消される。

「兄さんの記憶が……!」

 ナルディアは振り返った。結晶の残骸が、青白い光を放ちながら因果の渦に沈んでいく。その中に、兄の声が微かに響いた。

『ナルディア……未来を……選べ……』

 その声は、雪片に溶けて消えた。彼女の目に涙が浮かんだ。

 しかし、立ち止まることはできなかった。壁が液体のように歪んでいた。

 アーマッドのHUDには、恐ろしい警告が並んでいた。

『時空安定率:12%──臨界突破』

『因果改変予測:不確定領域拡大中』

「……この星は、もう元には戻らないぞ」

 アーマッドは、歯を食いしばった。

「俺たちが、生き残れる保証もない」

「それでも、進むしかないわ!」

 ナルディアの声は震えていたが、しっかりとした口調だった。

「兄が言ったでしょう──未来を選べって」

 二人は、門を抜け、外界へ飛び出した。しかし、そこに広がっていたのは、もはや赤茶けた大地ではなかった。

 雪が惑星全体を覆い、青白い光が空を満たしていた。

 幻雪の領域が、現実に侵食しているのだ、と思った。

「……事象が、書き換わった」

 アーマッドは、呟いた。彼の腕に、雪片が触れた。その瞬間、視界に未来の断片が流れ込む──崩壊した星、漂うウォーカーマシン、そして、ナルディアの兄の声が聞こえた。

『選択は終わっていない……』

「アーマッド……」

 ナルディアが、彼を見た。その瞳には、恐怖と希望が入り混じっていた。

「私たち、何を選んだの?」

 彼は、答えられなかった。ただ、雪の中で彼女の手を握り返した。

 冷たい結晶が、二人の指を覆った。因果は崩れ、未来は不確定になったのだろう。しかし、彼らはまだ生きている──それだけが、唯一の確かな事実だった。

 遠くで、恒星ダウンズの光が揺らいだ。第三惑星は、幻雪に包まれながら、新しい姿へと変わろうとしていた。

 アーマッドは、雪に覆われた空を見上げた。青白い光が、無数の記憶を降らせている。その中に、ナルディアの兄の声が微かに響いた。

『未来は……まだ、選べる……』

 彼は、静かに呟いた。

「……なら、進むしかないな」

 雪が舞い、因果が揺らぎ、二人の影が幻雪の中に溶けていった──。


***


 母船(アル・サファー)の隔壁が閉じられると、アーマッドは深く息を吐いた。

 ヘルメットを外し、冷たい汗を拭う。

 眼下に見える第三惑星は、もはや赤茶けた荒野ではなかった。幻雪に覆われ、事象の揺らぎに沈んだ星となった。

「……生きて帰れたな」

 彼は、呟いた。

 ナルディアは隣に座り、静かに目を閉じていた。彼女の頬には、涙の跡が残っていた。

 モニターには、惑星の映像が映っている。降り積もった雪の青白い光は、安定していなかった。時空の歪みが、まだ星を蝕んでいるのだ。

「……あれは、再生なのか?」

 アーマッドは、呟いた。

「終焉かもしれないわ」

 ナルディアの声は、静かだった。

「でも、兄が言ったでしょう──未来は選べるって」

 アーマッドは、彼女を見て、ゆっくりと頷いた。

「……なら、進むしかないな」

 彼は、ナルディアに、にっこりと微笑んでみせた。

 ――疑似情報粒子は、アーマッドとナルディアの神経に痕跡を残したはずだ。

 二人の脳波は、〈先住者〉の共鳴場で同期した。その影響が、どんな未来を呼ぶのか──誰にもわからないだろう、と思った。

 やがて、母船は軌道を離れ、幻雪に包まれた惑星が遠ざかっていった。


(了)

こちらも、『あらす』『追憶の少女』と同じ二十ン年前に、今はなき、ゆきのまち幻想文学賞に投稿し……そこねた一編を完成させたモノです(『宇宙の幻雪』の関連作)。書きかけたのは『宇宙の幻雪』の翌年ですが、時系列的には、こっちが前で、宇宙の探検家アーマッドとその妻ナルディアのストーリーですね。『追憶の少女』は、実は、こちらの遺跡の祖先的なシステムの話です(最終的に、地球人が、星間ネットを再開通させたという設定です)。

 まだ、旧劇場版○ヴァの余韻が残っていた頃に考えていたっぽい話ですね~。でも、この話、よく考えてみると、ちょっと、リメイクシリーズの方のコスモク……リバース・システムを不完全にしたような感じかも。……そういえば、○スカンダルがシャル○ートっぽくなって、実は『シャングリラ』っぽくなって、続編でどうするのかなーと思ったら、王族○ャルバートがでて、王家の谷っぽい戦艦がでてくるあたり、凄い辻褄合わせだなーと、やるねぇ、とニマニマしました(笑)。

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