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新たな出会い、雪に消えゆく村

  中央都市の西端は、思っていたよりも静かだった。


 人の往来はあるが、正門付近の華やかさとは違う。

 商売はしているが、必要なものだけが淡々と流れている印象だ。


 ロジャーから渡されたメモを見比べながら歩いていると、

 木箱が積まれた店が目に入った。


「……ここ、かな」


 看板には、少し擦れた文字で店名が書かれている。


「いらっしゃ――」


 奥から出てきたのは、がっしりとした体格の女性だった。

 年は四十代後半くらい。腰に手を当てた立ち姿に、妙な安心感がある。


「……あら?」


 私を見るなり、目を細める。


「子ども? それとも、使い走り?」


「い、いえ。仕事の件で……」


 メモを差し出すと、彼女は一目見てため息をついた。


「ああ、ロジャーね。

 勝手に話を持ってくるんだから」


 文句を言いながらも、声は優しい。


「私はカレン。

 あんたは?」


「水瀬レイです」


「レイ」


 カレンは私を一度だけ観察するように見て、うなずいた。


「細いけど、目が死んでない。

 悪くないわ」


「……それ、褒めてます?」


「もちろん」


 即答だった。


「立ち話も何だし、中へ」


 店内は、きちんと整理されている。

 でも在庫は少なく、失礼かもしれないが、余裕がないのが一目で分かる。


「で、ロジャーは?」


「後で合流するそうです」


「でしょうね」


 カレンは椅子を引き、私を座らせた。


「先に言っておくけど、楽な仕事じゃないわよ」


「……はい」


「うちの主な仕事は、交易」


 そう言って、カレンは地図を広げた。


「この辺りの村と、中央都市をつないでる」


 指が、地図の端を示す。


「ベルノ村っていう、小さな村よ」


「……ベルノ村、ですか」


 この世界のことを何も知らない私にとっては、当然聞き覚えのない名前だった。


「雪積もる森の中にあるのだけれど、そんなところに村があると知っている人は少ないわ」


 その言葉に、思わず息が止まる。


「……森の、中?」


「ええ」


 カレンは気づかないまま続ける。


「私の生まれ育った村なの」


 胸の奥が、かすかにざわついた。


 ――あの森に。

 ――人が、住んでいる?


「昔はね、ものづくりも農業もやってた。

 小さいけど、ちゃんとした村だった」


 カレンの声は、少しだけ遠くなる。


「でも、中央都市が大きくなってから、人が減った。

 若いのは皆、街に出る」


「……人手不足、ですか」


「そう」


 苦笑する。


「作る人がいなきゃ、物は減る。

 物が減れば、金も回らない」


 私は、無意識に指先を握りしめていた。


「私は交易で支えようとしてるけど……」


 カレンは足を少しだけ引きずる。


「この足じゃ、頻繁に村へ行くのはきつい」


「……」


「でも、雇う余裕もない。

 だから、人を探してる」


 話を聞きながら、頭の中で考えが渦を巻く。


 ――森の中に、村。

 ――衰退する雪国の集落。


 それは、さっきまで“他人事”だったはずなのに。


「……」


 気づけば、口が動いていた。


「……つかぬ事をお聞きしますが、その村、立て直したいって、思いますか?」


 カレンは一瞬驚いて、それから静かにうなずいた。


「思わなきゃ、続けられないわ」


 その言葉が、胸に刺さる。


 でも、私はまだ何も知らない。

 この世界の常識も、魔法も、生活の仕方も。


「……今は」


 私は一度、言葉を切った。


「今は、ここで働きたいです」


 その先に続けようとした言葉が飲み込んだ。


 カレンは私をじっと見つめ、数秒後にうなずいた。


「いいわ。

 逃げないなら、歓迎する」


 そのとき。


「おーい、話ついたか?」


 聞き慣れた陽気な声が、店に響いた。


「ロジャー」


 カレンは腕を組む。


「この子、預かるわよ」


「お、早いな」


 ロジャーは私を見て、にやりと笑った。


「レイちゃん、決めたか」


「……別に」


「はいはい」


「ツンです」


「違います」


 でも、否定はもう形だけだった。


 こうして私は、

 都市の端の小さな店で、働くことになった。


 まだ知らない村と、

 まだ分からない自分の力。


 それでも、私の中で目標のようなものが生まれた気がした。

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