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雑貨店と、北へ向かう理由

中央都市の正門をくぐった瞬間、空気が変わった。


 人の声。

 金属の音。

 荷車の軋む音に、呼び込みの声が重なり合う。


「……すごい」


 思わず、そう呟いていた。


「だろ?」


 隣を歩くロジャーが、満足そうに胸を張る。


「ここがこの公国の中心だ。雪国でも、商いは止まらん」


 石畳の道は広く、建物は高い。

 商店が立ち並び、食料、布、工具、見たこともない道具が所狭しと並んでいる。


 ――物流の結節点。

 ――人口密度が高く、需要も供給も集中する。


 分析しているうちに、ふと現実に引き戻された。


「……あの」


「ん?」


「私、所持金……ないんですけど」


 できるだけ事務的に言ったつもりだった。

 でも、ロジャーはすぐに察したらしい。


「だろうな」


「即答しないでください」


「はは、顔に書いてある」


「書いてません」


「書いてある書いてある。

 “どうやって生きていけばいいか分からないけど、助けてとは言いたくない”ってな」


「……っ」


 図星だった。


「別に、困ってるわけじゃ……」


「はいはい」


 ロジャーは軽く手を振った。


「レイちゃん、ここで野垂れ死にされたら寝覚めが悪い。

 ひとまず、俺の店に来い」


「……店?」


「雑貨屋だ。西端のほうにな」


 そう言って歩き出すロジャーの背中を、私は少し遅れて追った。


 ――助けられてる。

 ――でも、甘えすぎるのは嫌。


 その二つが、頭の中でせめぎ合っていた。


 ロジャーの店は、中央都市の西端にあった。

 派手さはないけれど、扉を開けた瞬間、きちんと管理されている空間だと分かる。


「いらっしゃ――お、俺だ俺」


 ロジャーは奥に声を投げると、私を中に招き入れた。


「ここが、俺の城だ」


「……雑貨店ですね」


「おい、もうちょい感想あるだろ」


 棚には生活用品、簡単な工具、保存食、ロープやランタン。

 寒さに厳しいこの国で生きるために必要なものが、過不足なく揃っている。


「……合理的です」


「お、それは褒め言葉だな」


 ロジャーは満足そうにうなずいた。


 本当は聞きたいことが山ほどあった。

 魔法の仕組み、この世界の常識、氷魔法の扱われ方。


 でも――


「……まずは、生活ですよね」


 私がそう言うと、ロジャーは少しだけ真面目な顔になった。


「そうだな。レイちゃん、当面の目標は三つだ」


 指を一本ずつ立てる。


「寝る場所。食うもの。あと、金」


「……分かりやすい」


「だろ?」


 私は小さくうなずいた。


「働く、しかないですよね」


「お、言うねえ」


「……当然です」


 ロジャーは一瞬だけ驚いた顔をして、それから笑った。


「その割に、“紹介してくれませんか”とは言わないんだな」


「……それは」


「ほら、ツンだ」


「ツンじゃありません」


「はいはい、デレは後でいい」


「だから違います」


 からかわれているのは分かっているけど、反論すると余計に乗ってくるタイプだ。


「ちょうどいい話がある」


 ロジャーは、カウンターの奥から紙切れを取り出した。


「知り合いの商人でな。名前はカレン。

 今、働き手を探してる」


「……どんな仕事ですか?」


「店の手伝いだ。荷運び、整理、接客補助。

 力仕事もあるが、無理はさせない」


 悪くない。

 むしろ、今の私にはありがたい。


「……条件は?」


「住み込み相談可。日銭も出る」


「……十分です」


 即答してから、私は少し視線を逸らした。


「……ありがとうございます」


「ん?」


「……その、紹介、してくれて」


 声が小さくなったのは、自覚している。


 ロジャーは、にやっと笑った。


「ほら、デレた」


「……言わないでください」


「安心しろ。カレンの店はこの都市の西端、俺たちのいるここも都市の西部だから歩きでもすぐ着くさ」

 

 そう言って、ロジャーはメモを差し出した。


「場所と名前を書いておいた。

 俺はこれから仕事の荷を届けに行かないといけない」


「……一緒には?」


「後で合流だ。

 レイちゃん、道は分かるか?」


 私は地図を頭の中で組み立てる。


「……大通りを北へ、ですね」


「正解」


 ロジャーは満足そうにうなずいた。


「気をつけて行けよ」


「……ロジャーさんも」


 店を出て、北へ向かう。


 都市の端から端へ。

 この街を、自分の足で知る最初の一歩。


 私はまだ、何者でもない。

 でも――働く場所は、もうすぐ見つかる。


 そう思うと、不思議と足取りは軽かった。

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