6:最期の願い
こぼれた言葉に、ジュリアンが表情を変えた。
「ねえ。ルシウスを、私の息子を返してよ」
「……返すも何も、あの子は火事に巻き込まれて死んだんだ。僕は何も」
「殺したんでしょう、あなたが」
「え……」
「村を焼けば、私が戻ると思った? 怖い思いをさせれば助けを求めてあなたの元へ帰るって、本気でそう思っていたの?」
僥倖だと言った。偶然にも幸いを得たと。それはルシウスが死に、私が怪我を負いながらもここに帰ったことを指しているに違いない。
それが決して勘や被害妄想の類でないことを、ジュリアンの怯えたような表情で確信した私は、大きくため息をついた。
「違うんだ。僕はただ、」
「いい、何も聞きたくない」
「頼むよ。ねえ、クレム。僕の話を」
「ひとごろし」
私の乾いた声がその言葉をかたどった瞬間、ジュリアンは再び私に馬乗りになると、首に両手をあてがって強く押した。
「口を慎め。僕にこんなことをさせるほどに追い詰めたのは他でもない、君の方なんだぞ」
「……!」
「ちょっと脅してやろうと思ったんだ。ここを追い出されたっていうのに、君はいつまでたっても僕に縋りついてこないから!」
顔があつい。息ができない。もがきたいけれど、体が動かない。
私は痙攣するまぶたを必死で押し上げて、ジュリアンの顔を見つめた。
「よその男に体を許した過去を証明する存在はなくなり、触れれば汚れるんじゃないかと恐れるほどに美しかった君は完璧さを失って帰ってきた。こんなに嬉しい誤算はないと思っていたのに、どうして……どうして今になって心を閉ざすんだよ」
ジュリアンの指が、私の喉に食い込んでいく。意図せず漏れる、濁った声。明滅する光が眩しくて、もう目を開けていられない。
「許しを請えよ、クレマンス。これまで通り愛するから、どうか殺さないでって!」
その言葉を受け、私は最後の力を振り絞って口を開いた。
「ひとごろし」
声は出なかった。それでも私の口の動きは間違いなく、ジュリアンに意図を伝えることができたらしい。ジュリアンはこれまで見たことがないほど恐ろしい形相で私を睨みつけ、更に喉元を強く締めた。
助かるつもりはなかったから、これでいい。あの時の火事では一緒に行けなかったけれど、いよいよこれでルシウスの元に向かうことができる、薄れゆく意識の中でそう思った瞬間。
「願いをかなえてあげようか」
そんな言葉が、どこからともなく響いた。




