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クレマンスの告白~公爵夫人に”成り下がった”人生をやり直して、最愛の子を取り戻します  作者: 四ツ橋ツミキ
【第6章】恋人たち ―二律背反の選択

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2:おうじょ様がゆうしゃを激励するロジック




 新しく取り入れた新種のライ麦が引き起こそうとしている悲劇。その影はバリーの体をも侵食しており、このまま放っておけばヴェルレー家にとって大きな損失になること。そして、さっき厨房でバリーに話した”エッセンス”の内容についてなど、私はできる限り理路整然さを目指して伝えようとした。


「熱病の件については把握しているよ。だが……」


 いったん言葉を切り、少し考え込むように視線を下げてから、父は再び私の方に向き直った。


「その、”魔女の爪”とやらを原因とする根拠はなんだ?」

「……ごめんなさい、それについては、まだ」


 私のあいまいすぎる返答を受け、小さく首を傾げて眉間にかすかなしわを刻む。


「まだ、か。現在調査中だというなら、その結果が出るのを待つべきだと思うのだが」

「いえ、そうではなく。……魔女の爪を調査すること自体、おそらく行われていない状態かと」

「まるで雲をつかむような話だな。まだ調査段階にも入っていない情報をどうやって手に入れた?」

「……」

「せめて誰からの報告かとか、研究資料や書籍で読んだならその出典だけでも教えてくれないと、領主としては動くに動けない。私には、正しい情報を民に伝える責任があるんだよ」


 気が触れたと思われることを覚悟で、実は一度死んでこの時間軸に戻ったので未来を知っているんです、と言えたら楽になれるだろうか。そう思ってしまうほどの、重い重い空気感。それを払しょくできるような決めの一言、押しの一手なんて、当然持ち合わせているはずもなく。


「……言えません」

「なぜ”言えない”になるのか、その理由も教えられないか?」

「はい……」

「つまり、調査もなく過去の資料もない状態だが、お前は病を引き起こす原因を知っている、というわけか。そもそも、魔女の爪というのは一体なんなんだ」

「ごめんなさい。私もあれが何であるのか、どういう仕組みで熱病を起こすのか、ということまでは……」

「ふむ。いよいよ神がかり的な話としか思えなくなってきたな」


 私の話を総合して判断すると、私が神からの啓示を受けたように見える、ということらしい。


 父は腕を組み、難しい顔をしたままで天井を見上げた。組んだ腕から顔を出す指先が、トントンと二の腕を叩くようにリズムを刻んでおり、父が熟考しているのだということはよく分かった。


 答えを待つしかない状態なのは理解している。でも、この果てしなく続きそうないやな沈黙は、澄ました顔で耐えられるものじゃない。私は唇を噛み、膝の上で強く握りしめた自分の手をじっと睨みつけた。


「バリーには話したか」


 静寂を破っての第一声に、慌てて顔を上げる。


「バリーには、いまと同じ話を伝えたのかい?」

「あっ、ええと、はい」

「なんと言っていた?」

「あの……バカバカしい、と」

「……」

「私の主張はどこまでも破綻しているし、いろいろと問い詰めたいと……そう言っていました」

「まあ……うん。そうだろうねぇ」


 父は苦笑いを浮かべて呟くと、大きく息を吐き出した。


 それが、煩わしさから漏れ出たため息なのだと感じられていたら、私は天に掲げようとした剣をさやに収めていたかもしれない。


 だけど父の表情はまるで憑き物が落ちたかのように溌剌(はつらつ)としており、清々しいとさえ思えるほどにすっきりしていた。


「シィ、うまく立ち回ったなぁ」

「えっ」

「私にその提案を持ち掛けたということは、バリーからまず応諾をもらったということだろう。どういう理論でその見解に至ったのかはまったく不明だが、あいつがゴーサインを出したなら、もうその賭けに乗るしか他に手はあるまい」

「……! そ、それじゃ」

「すべて領主である私が責任を取るから、お前は好きに動きなさい」


 私は涙腺のゆるみを脅かす情動をごまかすために、小さくうなずいて答えた。


 まるで社会のことを分かっていない私の支離滅裂で稚拙なプレゼンは、父にとって耳ざわりのいいものではなかったと思う。もしかしたら傲慢さすら感じさせてしまっていたかもしれない。


 それでも、受け入れてくれた。バリーの後ろ盾があってこその賜物(たまもの)だけれど、父は私を共に戦う者として認めてくれたのだ。


「お父様、あのっ、私……!」


 必ず良い結果を持ち帰る、そんな約束の言葉を口にしようとした、その時だった。


「エルネスト! ちょっとこれは一体どういうことなんですか!」


 乱暴に開け放たれたドアから、母の怒号が響き渡った。


 さっきまで余裕のある領主の顔を見せていた父は、一瞬にして生まれたての小鹿よろしく震えあがり、まるで助けを求めるかのように私に抱き着いている。穏やかに締めるはずだった空気は、母の怒りに満ちた咆哮によって一気にカオス状態へと陥った。






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