6:言えない事実、つづる真実(3)
「バカバカしいとは思いますし、お嬢様の主張はどこまでも破綻しています。しかし……」
二度目の深いため息。そこに混じっていたのは憐れみや嘲けりではなく、小さな子どものわがままに付き合うような、諦めに似た苦笑だった。
「そこまで一生懸命に縋られたら、折れるしかありません」
「え……」
「新種の回収と流通の停止については、旦那さまには私から進言することにします。家令である私の提案であれば、きっとすんなり通して下さるでしょうから」
「ほ、本当!? ああ、ありがとう! バリー、本当に――」
「代金の返還、もしくは代品の提供に準備が必要ですね。購入履歴の確認から各戸への通達、回収方法についても急ぎ考えなくてはなりませんが……まあ、どうにかしましょう」
「……」
私が安直に出した提案に対して、バリーはすぐにやるべき必要事項を次々に挙げていき、なおかつどうにかしてくれると言う。父が常々、我が領地はバリーのお陰で成り立っている、と呟いていたのも分かるような気がしたけれど、すぐさま実務に思考展開し始めるのは頂けないと思った。そのせいで私の感動的な喜びはいま着地点を見失い、宙に浮いてしまっているのだ。
「バリー、あの……あのね、私、あなたがやましい二心をもって新種を取り入れただなんて、これっぽっちも思っていないのよ」
「ええ、言われずとも理解しております」
「誓って本当よ! 純粋にヴェルレー伯領のさらなる発展を求めただけだと信じているわ。だからこそ、それを証明するために徹底的に精査して、誰にも文句を言わせないようにする必要があるって」
「お嬢様」
バリーの厳しい声が凛と響き、私の必死の弁明を遮る。
「私の面目など、この際どうでもよろしい。それよりも考えるべきは、ヴェルレー伯領産ライ麦の信用失墜における対策です」
冷静に突きつけられた現実的な問題。ふわふわと浮わついていた私の心が、一気に重力を帯びて地上に引き戻された。
「公爵家との婚約破談のお陰ですでに威信を落としつつある中で、これはかなりの痛手と言っていいでしょう。そもそも熱病の原因がグラス・ノワールであるという決定的な根拠は全くない状態です。問題の早期認知と透明性の確保、暫定的な補償策の提示まではスムーズに実施できそうですが、当面の安全確保とその後の信頼回復については、具体的にどのように進めればよいか……」
「あ、のぅ……」
腕を組み、深く思考する体勢に入ろうとしたバリーに、私は小さく挙手しながら遠慮がちに声を掛けた。
「グラス・ノワール自体に問題がないことは分かっているの。黒い魔女の爪みたいな形のものが毒であるというだけで」
「……つまり、その黒い粒を取り除けば食しても発病しないと?」
「ええ、そう。その、どうして知っているのかとか、詳細は聞かないでほしいのだけれど」
「問い詰めたい気持ちでいっぱいですが、いまのところは目をつぶって差し上げます。まあ何にしろ、すべて回収する前提で動きつつ、黒い部分を取り除けば安全だというアナウンスを行うのが最善でしょう」
「それで、その後の信頼回復についてだけれど」
咳払いののちに、私が続けた提案。バリーの三度目のため息が先のどれよりも深かったのは、その提案があまりにも非現実的だったからかもしれない、そんな風に思った。




