6:言えない事実、つづる真実(2)
「異論は認めない。どのルートで、どういった経緯でグラス・ノワールを入手したのか、あなたが展開しようとした新事業の詳細についても調査してもらいます」
「お嬢様は、私が意図的に熱病を流行らせるために新種を取り入れたとお考えなのですか」
「……いいえ」
「ではなぜグラス・ノワールが原因であると決めつけるのです! まずは水質や気候、土の状態、病を持ち込むような害虫や害獣の発生はないかなどの調査を優先すべきでしょう!」
バリーの主張は、間違っていない。公爵家を追い出され、ルシウスと2人で住むようになったあの農村で学んだことだけれど、流行り病が発生した時はまず、居住環境に問題がないかを調べることから始めていた。
そもそも新種が原因で死病が流行ったという知識は、私が死に戻りという規格外の体験をしたおかげで得られたものだ。そんな事情を知る由もないバリーからすれば、私の行動はさぞ滑稽で横暴なものとしてその目に映っていることだろう。
「サブル・グリゼ地方が以前と比べて明らかに変わったところは、グラス・ノワールを取り入れたことだわ。異変がないか調べる、というのなら、明白に違いが分かっているところから手を付けるのが筋でしょう?」
「しかし、物事には順序というものが」
「それじゃ間に合わないのよ!」
バリーの言葉を遮る私の声が、厨房に響き渡る。それは思いのほか悲痛な色合いを載せていて、瞠目してこちらを見つめるバリーよりも私の方が動揺してしまい、私は口元を手で覆い隠した。
「……ごめんなさい、大きな声を出してしまって」
「……」
「あなたが理解できないのは分かるわ。でも、調査結果が出る前にあなたやサブル・グリゼ地方の住民に蔓延る”呪い”はきっと、命を食いつぶしてしまう。そんなことにならないよう、早く手を打たなくてはならないの」
「呪い、などと……何をバカなことを」
「そうよね、バカげているわよね。私があなたの立場なら、きっと同じことを思うでしょう。ちゃんと分かっているの、分かっているのだけれど……」
熱病に侵された者は皆壮絶な最期を遂げた、というジュリアンの声が、頭の中をこだまする。
ただ泣くしかできなかったあの時と、いまの私との違いなんて、グラス・ノワールに生える魔女の爪によって病が引き起こされた、という中途半端な知識があるところくらいだ。
それを基にしてバカな騒ぎを起こすことしか、私にはできない。
でも、わずかでも救うチャンスがあるのなら、それに縋りたい。みっともなくてもいい、気が触れたと揶揄されても構わない。
私はどうしても、いま生きているこの人を救いたいのだ。
「……分かりました」
何か言わなきゃ、そう思って開いた口から声が出る前に、バリーがため息交じりにそう言った。




