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クレマンスの告白~公爵夫人に”成り下がった”人生をやり直して、最愛の子を取り戻します  作者: 四ツ橋ツミキ
【第4章】皇帝ー権謀術数を弄するは何者ぞ

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3:2つの打開策(1)




 父が提示したのは2つの案だった。


「ヴェルレー家にはお前しか子供がいない。だから、私の跡目を継ぐ者を養子に迎え入れなければならないのは、承知しているね?」

「ええ、もちろん」

「この件については、ずいぶん前からユーリに相談していたんだ」


 ユーリ、というのは、ユーリ・デュ・ロッシュ辺境伯のことだ。父の姉であるベアトリーチェ伯母様が嫁いだことにより義理の兄となった、親友もとい悪友、とは父の言。そんなユーリ伯父様の名前が出たことで、私の頭の中に嫌な記憶がよみがえり、そして次に父が放った言葉によってその記憶は鮮明なものとなった。


「実は、アルベールを養子にしようかと考えていてね」


 アルベール・デュ・ロッシュ。


 ロッシュ家の次男、つまり私の従兄に当たる。この男が私にとって”嫌な記憶”として脳裏にこびりついているのは、その為人(ひととなり)が原因でヴェルレー家を破綻に導いたことが根底にある。


 特筆すべき能力はないのに、自分が優れた人間であると大きく誤認している節があるせいか、舌だけは良く回る。周囲の人間をうっすらと見下しており、大好きなベアトリーチェ伯母様の息子でなければ、きっと一切の関わり合いを持たないだろうと思うような人物だ。


 死に戻り前の人生では、彼は父の跡継ぎとしてヴェルレー家に養子に入った。にも関わらず、伯爵家当主、領主としての何某を学ぼうとせず、それどころか独自の領地経営理論を展開、実行までしていた。はっきり言って、やる気だけご立派な勘違い無能男だ。


 ヴェルレー家が衰退した一因として、この男がただ父の足を引っ張り続けるという無能っぷりを、惜しみなく発揮したことが挙げられるのだけれど。


「やあねぇ、シィったら。不安と不満がお顔にはっきりと浮かび上がっているわよ」


 おかしいのをかみ殺すようにしながらの母の指摘に、はたと我に返る。いつの間にか私の眉間には、尋常ではない程の力がこめられていたらしい。


「どうやらあなたも私と同じ思いを抱いているようだけれど、安心なさい。アルベールを養子にする話は白紙に戻したわ」

「え」

「本人は我が家に入る気満々だったようだけれど、あの子に領主やら伯爵家当主やらが務まるとは到底思えないんですもの。エルネストは、もう少し人を見る目を養った方がよろしいのではなくて?」


 父の方に目だけをチラリと向けると、父は大変恐縮した様子を見せつつ額の汗をぬぐっていた。


「うん、まあ……私には人の本質を見抜く才覚はないようだから、そういったことはマリーにまず相談するとして」

「ええ、それがいいわね」

「……ユーリにも手筈を整えてもらうことにした。アルベールを我が家に入れない口実として、ロッシュ伯領お抱えの騎士団に入れることにしたようだ」

「あの人、騎士にも向いていないと思うのですけれど」

「マリーと同じことを言うんだな……。とりあえず、事務官というかたちでの入団だそうだが、ゆくゆくは運営を一手に任せるつもりらしい。あそこの騎士団は国内でも有数の巨大組織だからな。次期当主である長男のオスカーがいくら優秀だと言っても、領地経営との両立は難しい、という(てい)を取ってくれるそうだ」


 どうやら、アルベールのポンコツっぷりが原因でヴェルレー家が凋落する、という未来は避けられたようだ。でもそうなると、アルベールの代わりとなる人を探す必要があるけれど……


「今のところ、ヴェルレー家の血統を色濃く受け継いでいる男系親族のうち、跡取りとして養子縁組ができそうな者はアルベール以外にはいない。そこで、だ」


 私が心の中で展開していた懸念事項に答えるかのようにそう言ったあと、父は一呼吸を置いてから私をまっすぐに見つめた。


「能力のある男を、婿入りさせようと思う」

「婿入り……って、それじゃ」

「お前は他家に嫁ぐのではなく、ヴェルレー家に残って婿を()()んだ」


 一瞬、視界がぱっと明るくひらけた気がした。


 正統な血脈による家の存続、これが貴族にとって何にも代えがたい悲願であることは、説明するまでもないことだ。サントクロワ家からの婚姻申し込みを拒否した理由がこれなら、きっと王家すらもヴェルレー家を咎めることはできないだろう。


 祖先が築き上げてきた栄光と”ヴェルレー”の家名を守り、尚且つ我が家の血脈をも途絶えさせない。そしてこの方法なら、うまくすればルシウスの父親を私の結婚相手にすることだって可能になる。


 ジュリアンとの結婚回避、ヴェルレー伯爵家の安泰、ルシウスとの再会を一挙に叶えられるかもしれないこの提案。一見すれば完璧な筋書きだけれど、ひとつ大きな穴があることに気付いた私は、すぐに表情を緩めることはできなかった。





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