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クレマンスの告白~公爵夫人に”成り下がった”人生をやり直して、最愛の子を取り戻します  作者: 四ツ橋ツミキ
【第3章】女帝ー愛を注ぐ人

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4:こなすべき課題



 夕食の席で、ショコラ・グラッセが本当にワインに合うのか試すから付き合え、という母からのお誘い、もとい命令に、父は大喜びでうなずいていた。


 今回はスムーズに仲直りができたことを喜びつつも、一緒にどうか、という私への気遣いを丁重にお断りしたのは、自分のことに向き合う時間を持ちたかったからだ。


 母の提案通り、バスルームで洗い清めた体をマッサージしてもらった後、私は自室のベランダに出てハーブティーを飲みながら、夜空に浮かぶ満月を眺めていた。


 今夜はいいお天気だ。月を遮る雲は一つもなくて、最近母から聞いた美容法、月光浴をするならうってつけの日だと思った。まあ、月の光がどんな美容効果をもたらすのか、ということまでは分からないのだけれど。


 一日の疲れが誘う眠気に逆らわず、このままベッドに思い切り飛び込むのが、一番美容に効果的なのではないだろうか。そんなことを頭の中で巡らせながら、ぼんやりと月を眺める。


「ルシウス……」


 自分なりの美容法を実行するつもりで腰を上げかけた私を引き留めたのは、何気なく呟いた名前だった。


 ルシウス。唯一無二の、私の息子。私がこの時間軸に戻った、たった一つの理由。


 死の間際、ルシウスが手にする未来を取り戻せるなら私の命を差し出していい、そう強く思った。その思いを拾うかのように、願いをかなえようか、という声が頭に響いて、その後のことは……よく覚えていない。


 ただ、私がいま分かっているのは、あの声は願いを叶えてくれたわけではない、ということだ。私が願ったのは、ルシウスが生き返ることだけ。こうしてジュリアンと結婚する前の時間軸にまで戻って自分の人生をやり直す、なんてことはこれっぽっちも望んでいなかった。そもそもいまの時点ではルシウスは存在すらしておらず、私が宿願を果たすにはもう一度ルシウスを生まなくてはいけない。つまり、そのためにはまたあの人と――


「あの人……?」


 そこまで考えた時に、不意によみがえった感覚。その感覚が呼び起こした衝動に任せるように、額、頬、鼻先へと順に指先を当てていく。最後に唇に触れた瞬間、曖昧だった記憶がはっきりと輪郭を見せた。


「……お前さぁ、ホントに俺としたいって思ってんの?」

「おっ、思っています! 本当に、思っているんですけれど……」

「まさか、経験なしとかじゃねーだろうな」

「……」

「おーいマジかよ。俺さ、今夜の退屈を一緒にしのいでくれる相手が欲しかっただけなの。『えいえんのはんりょ』とか『いっしょうをちかうこいびと』とかは、今んとこ受け付けてねーんだよなぁ」

「わ、分かってます。私もそんなものは望んでいませんし、その……こ、こっちだって暇つぶしのつもりだから」

「ガッチガチに緊張しながら言うセリフじゃないですよ、おじょーちゃん」

「……この緊張感も含めて楽しんでいただけたらと」

「無茶言うな。勃つモンも勃たんわ」


 まずは楽しめるようになるための練習だと言って、私の額にキスをしたあの人。下町のブラッスリー(居酒屋)で出会った彼の容姿は、強いお酒のせいでぼやけた視界の中では、すごくジュリアンに似ているように見えた。だから”使おう”と思ったのだ。この人なら、ジュリアンの特徴をもった子供を生むために使える、と。


「私、あの人を見つけ出さなきゃ」


 目下(もっか)の課題をそっと呟く。初めて出会ったあのブラッスリーが下町のどこにあるのか、何という店名だったかは思い出せないけれど、きっと今みたいに何かの拍子に記憶がよみがえることもあるはず。


「見つけて、それで……え、それで私、またあの人と……?」


 その先に続く、次の課題。私は急激に温度を上げた頬を両手で挟むようにして押さえながら、テーブルに突っ伏した。








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