4:”魔王”との対戦を終えて
都のはずれにある、タウンハウスへ向かう馬車の中。私と父は何となく会話をしないまま、それぞれ違う方角の窓から外の景色を眺めていた。
ジュリアンは、今世でもやっぱりジュリアンでしかなかった。そんな風に再認識する時間だったと、今日のことを振り返る。
王室さながらのもてなしをしたり、伯爵の位では貢献するチャンスすら回ってこないような事柄についての功績をひけらかしたり。私のことも、暗に”おてんば娘”と揶揄する場面もあった。
ジュリアンの凶悪なところは、そういった自慢だの皮肉だのを、そうと感じさせずに表現してしまうことだ。絶対に悪役には回らず、あくまでも相手を尊重しながら貶める。さんざんひどい目に遭わされてきた”未来”を知っているからこそ、そこに潜む悪意に気付けはしたけれど、何の前情報もない状態でジュリアンと向き合ってしまったら、きっとあっさり陥落されてしまうのだろう。
「非常に良い方だった」
窓の外を見つめたまま、父がポツリと言った。
「賢く博識だが、嫌味がない。ご婦人方が騒いでいるのは見た目がいいからだと思っていたが、あのスマートな身のこなしや気遣いを目の当りにしたら、そりゃあ夢中にもなるだろうな」
ジュリアンは、顔立ちは言うまでもなく、その立ち姿さえまるで彫刻かと見まごうほど美しい。そんな体躯から繰り出される、洗練された所作を見てしまえばエスコートされたいと思うだろうし、優越感に浸りたいという腹づもりがあることを知らなければ、豊富な知識を持ち合わせている方だと尊敬したくもなるに違いない。
今となっては一挙手一投足が嫌悪感を覚えるものになってしまっているけれど、その気持ちは痛いほど分かる。だって、私もジュリアンをそう評価し、寵愛を受けたいと願っていた人間の内の一人だったから。
「そう、ですね。私も良い方だと」
「何が気に入らなかった?」
思ってもみない質問が飛び、私は驚いて父の方を振り返った。
今ここで心の内を晒け出すこともない、そう思って軽く流すつもりだったのに、どうやら私の本音はとうに見透かされていたらしい。父は窓の外に投げていた視線をこちらに向けて小さく息をつくと、姿勢を正して私の方に向き直った。
「言わずとも分かっていただろうが、今日はただの懇親会というわけではない。公爵家に輿入れする前の顔合わせのつもりで、お前にはあの席に着かせた」
「……ええ、承知しておりました」
「ではあの公爵閣下への態度は、今後の関係は良いように進展しないと分かっていながら取った、というわけだな」
「はい」
寸分の間もあけずに即答した私を、父はまっすぐ見つめている。そこに非難の色はなく、ただこちらの意図を確認しようとしているのだということが読みとれた私は、真意を伝えるために口を開いた。
「まずあの饗応からして受け入れられませんでした。ビジュー・ド・ソレイユにアルテュール・マティスのお茶請けなんて……。自分は王家の権威を笠に着て伯爵家に相対するような器の小さい人間だ、という本性をさらけ出しているようなものですから」
「……えっ」
内容如何では厳しい叱責を受けるかもしれない、それを覚悟で返した答えに対し、父は私が思っていたよりもずいぶん呆けた声を上げた。




